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ビタミンB3はCOPD患者の肺の炎症を軽減する?

 ビタミンB3を毎日摂取することで、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の肺の炎症が軽減する可能性のあることが、小規模な臨床試験で明らかになった。コペンハーゲン大学(デンマーク)のMorten Scheibye-Knudsen氏らによるこの研究結果は、「Nature Aging」に11月15日掲載された。Scheibye-Knudsen氏は、「炎症は、COPD患者の肺機能を低下させる可能性があるため、この結果が意味するところは大きい」と述べている。 COPD患者は、肺炎やインフルエンザ、その他の重篤な呼吸器感染症に罹患しやすく、罹患した場合には致命的となることもある。Scheibye-Knudsen氏らは、安定期COPD患者40人(平均年齢71.9歳)と、年齢や性別、BMIが類似した健康な対照20人(平均年齢70.9歳)を対象にランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施し、COPDに対するニコチンアミドリボシド(NR)の効果を評価した。NRはビタミンB3の一種である。COPD患者と対照は、それぞれの群内で、6週間にわたりNR(2g)またはプラセボを摂取する群に1対1の割合でランダムに割り付けられた。対象者は12週間後に追跡調査を受けた。主要評価項目は、炎症マーカーであるインターロイキン8(IL8)のベースラインから6週間目までの変化量とした。 その結果、COPD患者では、IL8の変化量の最小二乗平均値が、NR群で−46.2%、プラセボ群で13.4%であることが明らかになった。両群間の治療効果の差は−52.6%(95%信頼区間−75.7〜−7.6%、P=0.030)であり、NR群ではプラセボ群に比べてIL8の値が有意に低下していた。このようなNRの効果は12週間後も持続しており、治療効果の差は−63.7%(同−85.7〜−7.8%、P=0.034)と推定された。 次に、NR摂取により体内のNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)のレベルがどの程度変化するのかをCOPD患者と対照との間で比較・検討した。NAD+は、免疫機能や炎症などの加齢に関連した複数の経路に関与する中心的な分子として注目されており、ヒトや動物では加齢とともに減少することも知られている。ベースライン時のNAD+の最小二乗平均値は、COPD患者で31.9μM、対照で34.8μMであったが、6週間後には、COPD患者のNR群で71.1μM、対照のNR群で49.4μMに上昇していた。しかし、プラセボ群では、COPD患者でも対照でもNAD+に有意な変化が認められなかった。COPD患者では対照に比べて、NR摂取によるNAD+の増加量が多かったものの、この差は統計学的に有意ではなかった。 Scheibye-Knudsen氏は、「われわれの体内では、加齢に伴いNAD+の代謝も進むようだ。NAD+の減少は、喫煙により生じるようなDNA損傷後にも見られる」と話している。この研究で、ビタミンB3(NR)の摂取によりNAD+レベルが上昇し、細胞の老化の兆候が抑えられたことから、同氏は、「NAD+は、今後の研究と治療の対象となる可能性がある」と述べている。 Scheibye-Knudsen氏は、「この研究結果を確認し、NRのCOPD治療における長期的な効果を判断するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。研究グループは、そのために、より大規模な研究を計画しているところだという。Scheibye-Knudsen氏は、「この研究が、COPD患者に新たな治療選択肢への道を切り開くことを期待している」と話している。

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ダイナペニック肥満は心血管疾患のリスク因子―久山町24年間の縦断解析

 肥満でありながら筋力が低下した状態を指す「ダイナペニック肥満」が、心血管疾患(CVD)発症の独立したリスク因子であることが、久山町研究から明らかになった。九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の瀬戸山優氏、本田貴紀氏、二宮利治氏らの研究によるもので、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に論文が10月8日掲載された。 筋肉量の多寡にかかわらず筋力が低下した状態を「ダイナペニア」といい、筋肉量と筋力がともに低下した状態である「サルコペニア」と並び、死亡リスク上昇を含む予後不良のハイリスク状態とされている。さらに、その状態に肥満が加わったサルコペニア肥満やダイナペニック肥満では、CVDのリスクも高まる可能性が示されている。しかしダイナペニック肥満に関してはCVDとの関連の知見がまだ少なく、海外からの報告がわずかにあるのみであり、かつ結果に一貫性がない。これを背景として本研究グループは、1961年に国内疫学研究の嚆矢として福岡県糟屋郡久山町でスタートし、現在も住民の約7割が参加している「久山町研究」のデータを用いた検討を行った。 解析対象は、1988~2012年に毎年健康診断を受けていて、ベースライン時にCVD既往のなかった40~79歳の日本人2,490人(平均年齢57.7±10.6歳、男性42.5%)。握力が年齢・性別の第1三分位群(握力が弱い方から3分の1)に該当し、かつ肥満(BMI25以上)に該当する場合を「ダイナペニック肥満」と定義すると、全体の5.4%がこれに該当した。 中央値24年(四分位範囲15~24)の追跡で482人にCVDイベント(脳卒中324件、冠動脈性心疾患〔CHD〕209件)が発生した。交絡因子(年齢、性別、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心電図異常など)を調整後に、握力の最高三分位群かつ普通体重(BMI18.5~24.9)の群(全体の23.9%)を基準として、ほかの群のCVDリスクを比較した。 その結果、ダイナペニック肥満群でのみ、CVD(ハザード比〔HR〕1.49〔95%信頼区間1.03~2.17〕)および脳卒中(HR1.65〔同1.06~2.57〕)の有意なリスク上昇が認められた。肥満でも握力低下のない群(第2~3三分位群)のCVDリスクは基準群と有意差がなく、また、やせ(BMI18.5未満)や普通体重の場合は握力にかかわらずCVDリスクに有意差がなかった。なお、CHDについてはダイナペニック肥満群のリスクも、基準群と有意差がなかった(HR1.19〔0.65~2.20〕)。 65歳未満/以上で層別化した解析では、65歳未満でダイナペニック肥満によるCVDリスクがより高いことが示された(HR1.66〔1.04~2.65〕)。一方、65歳以上では有意な関連を認めなかった(HR1.18〔0.61~2.27〕)。 続いて行った媒介分析からは、ダイナペニック肥満とCVDリスク上昇との関連の14.6%を炎症(高感度C反応性蛋白〔hs-CRP〕)、9.7%をインスリン抵抗性(HOMA-IR)で説明可能であり、特に65歳未満ではhs-CRPが13.8%、HOMA-IRが12.2%を説明していて、インスリン抵抗性の関与が強いことが示唆された。 著者らは、「握力とBMIで定義したダイナペニック肥満は、日本の地域住民におけるCVD発症のリスク因子であることが明らかになった。この関連性は、65歳未満でより顕著であり、炎症とインスリン抵抗性の上昇がこの関連性を部分的に媒介している」と総括。また、「われわれの研究結果は、CVD予防における中年期の筋力の低下抑止と、適切な体重管理の重要性を示唆するものと言える」と付け加えている。

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EGFRエクソン20挿入変異陽性肺がんのアンメットニーズと新たな治療/J&J

 ジョンソン・エンド・ジョンソン(法人名:ヤンセンファーマ)は、「EGFR遺伝子エクソン20挿入変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)」の適応で2024年9月に本邦での製造販売承認を取得したアミバンタマブ(商品名:ライブリバント)を、同年11月20日に発売した。これを受け、11月29日にライブリバント発売記者発表会が開催され、後藤 功一氏(国立がん研究センター東病院 副院長・呼吸器内科長)が講演を行った。EGFRエクソン20挿入変異の特徴 アミバンタマブの対象となる「EGFRエクソン20挿入変異」はEGFR遺伝子変異の中で3番目に多いことが知られており1)、LC-SCRUM-Asiaの報告では、登録者のおよそ1.7%(189/11,397例)に検出されていた2)。また、同報告においては、エクソン19欠失変異やL858R変異と比較して、男性や喫煙者にも検出される割合がやや高かった。 EGFR遺伝子の変異は、リガンド非依存的なATP結合と細胞増殖シグナル伝達を引き起こすが、エクソン20挿入変異があると、ATP結合部位が狭くなり、ATPと競合拮抗するチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の結合が妨げられることが報告されている3,4)。従来のTKIへの感受性は乏しく、アンメット・メディカル・ニーズの高い領域とされている。そこに新たに登場したのが、EGFRとMETを標的とする二重特異性抗体のアミバンタマブである。2024年版ガイドラインにおけるアミバンタマブの位置付け アミバンタマブは、未治療のEGFRエクソン20挿入変異陽性のNSCLC患者を対象とした国際共同非盲検無作為化比較第III相試験「PAPILLON試験」の結果に基づいて承認された。本試験では、アミバンタマブと化学療法の併用群が、化学療法群と比較し、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある無増悪生存期間の改善を示したことが報告されている5)。 これを受けて、2024年10月に公開された『肺癌診療ガイドライン2024年版』6)では、EGFRエクソン20挿入変異の一次治療に関するCQが新設され、アミバンタマブと化学療法の併用療法の推奨が明記された。【肺癌診療ガイドライン2024年版 CQ50】CQ50. エクソン20の挿入変異に対して、一次治療で標的療法が勧められるか?a. エクソン20の挿入変異にはカルボプラチン+ペメトレキセド+アミバンタマブ併用療法を行うよう強く推奨する。(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:B)b. エクソン20の挿入変異にはEGFR-TKI単剤療法を行わないよう強く推奨する。(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:C)【製品概要】商品名:ライブリバント点滴静注350mg一般名:アミバンタマブ(遺伝子組換え)製造販売承認日:2024年9月24日薬価基準収載日:2024年11月20日発売日:2024年11月20日薬価:350mg 7mL 1瓶 160,014円製造販売元(輸入):ヤンセンファーマ株式会社■参考文献・参考サイト1)Arcila ME, et al. Mol Cancer Ther. 2013;12:220-229.2)Okahisa M, et al. Lung Cancer. 2024;191:107798.3)Yasuda H, et al. Sci Transl Med. 2013;5:216ra177.4)Robichaux JP, et al. Nat Med. 2018;24:638-646.5)Zhou C, et al. N Engl J Med. 2023;389:2039-2051.6)日本肺癌学会 編. 肺癌診療ガイドライン―悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む―2024年版【Web版】

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IL-6が新規診断2型糖尿病患者の肥満関連がんリスク予測に有用

 新たに2型糖尿病と診断された患者における肥満関連がんリスクの評価に、インターロイキン-6(IL-6)が有用だとする、ステノ糖尿病センター(デンマーク)のMathilde Dahlin Bennetsen氏らの研究結果が、欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表された。 2型糖尿病は、肥満関連がんのリスク増大と関連のあることが知られている。この関連には、2型糖尿病と肥満の双方に共通するリスク因子である、軽度の慢性炎症が関与している可能性が想定されている。脂肪組織はIL-6や腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などの炎症性サイトカインを放出しており、そのため肥満に伴い軽度の慢性炎症が生じ、これが発がんリスク上昇に寄与すると考えられている。IL-6とTNF-αはともに炎症の初期に産生が高まるサイトカインだが、これらとは別の炎症マーカーとして臨床では高感度C反応性タンパク質(hsCRP)が広く用いられている。hsCRPは直接的には発がんメカニズムに関与せずに、全身の炎症レベルを反映する。Bennetsen氏らは、これらの三つの異なる炎症マーカーが、新規診断2型糖尿病患者の肥満関連がんの予測バイオマーカーになり得るかを検討した。 デンマークで行われている2型糖尿病コホート研究の参加者のうち、診断から間もない患者9,010人を抽出し、がんの既往歴のある患者732人、および、共変量のデータが不足している1,809人などを除外し、6,466人(年齢中央値60.9歳〔四分位範囲52.0~68.0〕、女性40.5%)を解析対象とした。中央値8.8年の追跡期間中に327人が肥満関連がんを発症した。 年齢と性別を調整したモデル1では、IL-6のみが発がんと有意な関連が認められ(ハザード比〔HR〕1.19〔95%信頼区間1.07~1.31〕)、TNF-α(HR1.08〔同0.98~1.19〕)やhsCRP(HR1.08〔0.97~1.21〕)は有意な予測因子でなかった。IL-6は、モデル1の調整因子に糖尿病罹病期間、飲酒・運動習慣、ウエスト周囲長を追加したモデル2(HR1.18〔1.07~1.31〕)や、さらにモデル2にHbA1c、トリグリセライド、血糖降下薬・脂質低下薬の処方を追加して調整したモデル3でも(HR1.19〔1.07~1.32〕)、引き続き有意な予測因子として特定された。喫煙習慣が把握されていた4,335人での解析でも、IL-6が有意な予測因子であることが確認された。 モデル3の変数に基づく発がん予測において、IL-6を追加することによりC統計量は0.685から0.693へとわずかながら有意に上昇した。一方、TNF-αやhsCRPの追加では、予測能の有意な上昇が見られなかった。 以上の結果を基にBennetsen氏は、「新規診断2型糖尿病患者の中から、IL-6によって発がんリスクの高い個人を把握することで、より的を絞った効果的なモニタリングと早期発見が可能になり、早期介入と個別化治療を通してアウトカム改善につながるのではないか」と述べている。

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がん診断後の禁煙、6ヵ月内のスタートで予後改善

 喫煙・禁煙ががんの罹患や予後に関連するとの報告は多いが、がん診断後の禁煙治療の開始時期は予後にどの程度関連するのかについて検討した、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのPaul M. Cinciripini氏らによる研究がJAMA Oncology誌オンライン版2024年10月31日号に掲載された。 研究者らは、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターのたばこ研究・治療プログラムの参加者を対象とした前向きコホート研究を行った。参加者は、がん診断後に6~8回の個別カウンセリングと10~12週間の薬物療法からなる禁煙治療を受けた。禁煙治療開始から3ヵ月、6ヵ月、9ヵ月後に自己申告により禁煙の継続を報告した。がん診断から禁煙治療登録までの期間(6ヵ月以内、6ヵ月~5年、5年以上)に基づいて3つのサブグループに分けて解析を行った。治療は2006年1月1日~2022年3月3日、データ分析は2023年9月~24年5月に実施された。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、当時喫煙しており、がん診断後に禁煙治療を受けた患者4,526例(女性2,254例[49.8%]、年齢中央値55[SD 47~62]歳)で、がん種で多かったのは乳がん(17.5%)、肺がん(17.3%)、頭頸部がん(13.0%)、血液がん(8.3%)だった。追跡期間中央値は7.9(SD 3.3~11.8)年だった。・禁煙継続率は、3ヵ月時点で42%(1,900/4,526例)、6ヵ月時点で40%(1,811/4,526例)、9ヵ月時点で36%(1,635/4,526例)であった。・3ヵ月時点の禁煙者は喫煙者(=禁煙に失敗)と比較して、5年および10年時点での生存率が改善した(65%対61%、77%対73%)。・全コホートの生存率の最低百分位数は56%であったため、生存期間中央値は推定できなかった。75パーセンタイルでの生存期間を推定すると、死亡までの期間は、3ヵ月時点の喫煙者では4.4年だったのに対し、禁煙者では5.7年だった。・3ヵ月、6ヵ月、9ヵ月時点のいずれでも、禁煙者は15年間の生存率が上昇した(3ヵ月時点の調整ハザード比[aHR]:0.75[95%信頼区間[CI]:0.67~0.83]、6ヵ月時点のaHR:0.79[95%CI:0.71~0.88]、9ヵ月時点のaHR:0.85[95%CI:0.76~0.95])。・診断から禁煙治療開始までの期間と生存転帰との関連では、診断から6ヵ月以内に開始した患者では、3ヵ月後の禁煙の有無が5年および10年時点での生存率の改善と関連していた(それぞれ61%対71%、52%対58%)。この有益性は15年まで持続した。同様の関連性は診断から6ヵ月~5年内に開始した患者でも観察されたがその有益性は減少し、5年以上経過して開始した患者では有意な関連性は認められなかった。 著者らは、「治療開始から3ヵ月、6ヵ月、9ヵ月時点の禁煙継続が、生存率の改善と関連していた。がん診断後早期に禁煙治療を開始することも重要で、6ヵ月以内に治療を開始した患者では生存率が最も良好であった」とし、がん診断後早期にエビデンスに基づく禁煙治療を開始し、継続することの重要性を強調した。

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蒸留酒、ワイン、ビール、最も悪い生活習慣に関係するのはどれ?

 好きな酒の種類が、その人の生活習慣を知る手がかりになる可能性を示す研究結果が報告された。ビール好きの人は、ワインや蒸留酒などを好む人と比べて不健康な生活習慣を送っている人が多いことが明らかになったという。米テュレーン大学医学部研修医プログラムのMadeline Novack氏らによるこの研究結果は、米国肝臓学会議年次学術集会(AASLD 2024、11月15~19日、米サンディエゴ)で発表され、「Nutrients」に11月13日掲載された。 Novack氏は、「米国では、アルコールの過剰摂取が肝硬変の主な要因となっている。また、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)も急増している」と話す。同氏はまた、「これらの肝疾患は併存することも多く、管理や予防には生活習慣の改善が重要だ。そのためには、飲酒と栄養不良の関係について理解することから始める必要がある」とAASLDのニュースリリースの中で述べている。 Novack氏らは今回の研究で、飲酒習慣がある1,917人の米国成人(平均年齢46.8±0.8歳、男性56.5%)の全国調査データを分析した。調査の回答者は、食習慣に関する詳細な質問に答えていた。 調査では、回答者の38.9%がビールのみ、21.8%がワインのみ、18.2%が蒸留酒/カクテルのみ、21.0%が複数種類の酒を飲むと回答していた。また、飲んでいる酒の種類にかかわらず、飲酒習慣のある人で食事の質の評価指標である健康食指数(HEI、100点満点)で、十分に健康的な食生活と見なされる80点を達成している人はいなかった。 ビールのみを飲む人は、ワイン、または蒸留酒/カクテルのみを飲む人、複数種類の酒を飲む人と比べて、世帯収入と食事の質が低く、身体活動量が少なく、喫煙者が多い傾向が認められた。具体的には、ビールのみを飲む人では、貧困ラインの閾値を下回る人の割合が高く(12.7%、ワインのみ飲む人5.7%、蒸留酒/カクテルのみ飲む人9.6%、複数種類の酒を飲む人6.0%、以下、同順で記載)、HEIが低く(49.3点、55.1点、52.8点、52.6点)、喫煙者の割合が高く(27.8%、10.0%、19.9%、15.3%)、身体活動量が十分な人の割合が少なかった(42.2%、59.8%、46.1%、59.3%)。さらに、ビールのみを飲む人は、1日当たりの総カロリー摂取量が最も多かった。 Novack氏は、ビールのみを飲む人に多く認められた、食事の質の低さ、身体活動量の少なさ、喫煙といった生活習慣要因は、すでに過度の飲酒習慣があり、肝疾患の発症リスクがある人の健康に大きな影響を与える可能性があることを指摘している。 またNovack氏は、飲む酒の種類によってどんな食品を食べるかが決まる傾向があることも、食事の違いを生んでいる可能性があるとの見方を示している。その例として、ビールは食物繊維が少なく炭水化物が多い食品や、加工肉などとともに飲まれがちである一方で、ワインは肉や野菜、乳製品と一緒に飲む場合が多いことを同氏は指摘している。また、食品の種類によって特定のアルコール飲料を飲みたくなることも、要因の一つとして考えられると同氏は付け加えている。例えば、揚げ物や塩分の多い食べ物は、ワインや蒸留酒よりもビールを飲みたい気持ちにさせる可能性が高いとしている。

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第240回 消費者向け「遺伝子検査」を受けて思わず動揺!その分析結果とは

消費者向け(Direct-to-Consumer:DTC)遺伝子検査について目にしたことがある医療者も少なくないだろうと思う。私もこれまでネット上で目にはしていたが、眉唾モノとの印象が強く、完全無視を決め込んでいた。しかし、ある取材でこれを受けなければならなくなった。編集者が「早い・安い」で申し込んだ検査キットが届いたのは、今から約1ヵ月前。検査キットと言っても唾液採取のための容器とその補助装備、さらにID・パスワードが書かれた紙が入っていただけだ。まず、そのID・パスワードで検査会社のウェブサイトにアクセスし、個人情報や生活習慣、飲酒・喫煙歴、両親の出身地、自分と親の既往歴などについての簡単なアンケートに回答する。そのうえで同封されていた容器に自分の唾液を充填し、ポストに投函。翌日には検体が無事届いたとのメールが入り、それから1週間で自分のメールアドレスに検査結果終了の案内メールが届いた。体質分析の結果早速アクセスしてみた。200項目超の体質の項目を見る。大まかな項目は以下のとおり。基礎代謝量…高  肥満リスク…低  筋肉の発達能力…高短距離疾走能力…低  有酸素運動適合性…低  運動による減量効果…高アルコール代謝…普通  酒豪遺伝子(意味不明だが)…普通  二日酔い…低アルコール消費量…多  アルコール依存症リスク…中  ワインの好み…赤肌の光沢…低  肌のしわ…多  AGA発症リスク…低まあ、基礎代謝に関しては高いのかどうかわからないが、かつて幼少期の娘からは「お父さんと一緒に寝ていると、お布団の中がコタツを最強にした感じで、冬でも汗をかく」と言われたことがある。体質では「登山家遺伝子」なる項目もあり、そこは“高所登山家タイプ”となっていた。体質の食習慣に関する評価項目では、なぜか芽キャベツと甘いものは好まないとの評価だった(私は仕事場近くの焼き鳥・焼きとん屋に行き、野菜串焼きに芽キャベツがあると喜んで注文し、ムシャムシャ食べてしまうのだが…)。飲酒については、実生活と明確に異なるのは、私の好みのワインは「白」という点だ。肌については自覚がある。男性型脱毛症(AGA)の発症は確かに今のところその兆しはない。しかし、ここまで来ると、大きなお世話と言いたくもなる。いずれにせよ当たらずとも遠からずというか、当たっていると言えるものもあれば、明らかに違うと言えるものもある。ただ、自分の体のことはわかっているようで、わかっていない部分もあるので何とも言えない。性格分析の結果そして性格についても分析があり、同じ項目について事前アンケートの結果と検査結果が並列で記載がある。こちらもアンケート結果と検査結果がほぼ同一のものもあれば違うものもある。どちらかといえばほぼ同一のものがほとんどである。そして「総合性格タイプ」は、持ち前のタフな精神力で、自分の好奇心に従って未知の世界へどんどん飛び込んでいける“サバイバルYouTuber”タイプとの評価である。まあ、当たっていると言えなくもないが、同時にYouTuberと一緒にされるのもなんだかなという感じである。165疾患のリスク、その結果は…さてこの検査の本丸、というか受ける人の多くが気にするであろうと考えられるのが疾患リスクである。私の受けた検査では、「予防」なる大項目があり、さらに一般疾患と各種がんの合計165疾患についてリスクが表示されている。このリスク表示、疾患ごとにオッズ比のような数値と大、中、小の3段階の定性的表現で発症リスクが示してあった。がんの項目を見ていくと、ほとんど問題はなさそうである。が、後半にスクロールしている手が止まった。多発性骨髄腫の発症リスクが「大」とある。思わず「はあ?」と声が漏れてしまった。一瞬動揺してしまうと同時に、検査結果を見る当事者をそういう心理状況に置く結果通知をラーメン店の券売機にある「小」「並」「大」にも似たざっくりした表現で示された腹立たしさも入り混じった何とも言えない不快感である。さて当然のことながら多発性骨髄腫を知らぬわけはない。化学療法が奏功しやすい血液がんの中でも難治で知られるがんである。少なくとも数年前の5年相対生存率は50%未満だ。ちなみにこれ以外でも一般疾患では、痛風、狭心症、そしてなぜか慢性C型肝炎もリスク大と判定された(というか、C型肝炎に未感染であることはたまたま最近行ったある検査で判明している)。だが、やはり多発性骨髄腫のリスク大のインパクトが一番大きい。発症するとかなりの痛みを伴うことや激烈な化学療法が必要になること、そして治癒もコントロールも難しいことがわかっているからだ。もっともDTC遺伝子検査は、正確に言えば遺伝子そのものを調べているわけではなく、「一塩基多型(SNP、スニップ)」と疾患に関する相関を調べた研究を基にリスク判定しているため、各種固形がんや遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)のような発症や増悪に関与する遺伝子変異の検査に比べれば、当たるも八卦当たらぬも八卦の域であることは私自身も百も承知である。ただ、実はちょっとだけ安堵感もあった。血液内科専門医の皆さんならご存じのように、昨今、この疾患では新薬開発が活発で治療選択肢も増えているからだ。治療法によっては5年相対生存率も60%近くまで伸びている。そんなこんなで日本血液学会の「造血器腫瘍診療ガイドライン2023」に記載された多発性骨髄腫のパートを改めて通読してみた。私にとってこれはこれで改めて知識の整理ができる利点もあった。ただ、ガイドラインで示されている治療の実際は、やはり文字で読んでいるだけでもきつそうである。とはいえ、今後本当に多発性骨髄腫を発症したとしても「あの時、ああいう結果が出てたしな」という感じで受け止められると考えれば、この検査が自分にとって無意味だったとまでは言えない。神社でおみくじを引いて、「凶」と出た直後にケガをしたら、「おみくじは凶だったし」と自分を納得させようとすることとどこか似ている。一部の専門家がDTC遺伝子検査の持つ不確実性を踏まえ、「占い」と評してしまうのはそうしたところにも起因しているのかもしれない。ただし、私のように割り切れる人はどれだけいるだろうか? 気弱な人、生真面目な人ならばそうは簡単に割り切れない危険性は十分にある。そのように考えると、まったく科学的根拠がないわけではないとはいえ、ただ唾液を投函してこのような結果が示されるという今の在り方は、もう少し改善することも必要なのではないかとも考え始めている。

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脳卒中の重症度を高める3つのリスク因子とは?

 喫煙、高血圧、心房細動の3つのリスク因子は、脳卒中リスクだけでなく、脳卒中の重症度を高める可能性のあることが、新たな研究により明らかになった。ゴールウェイ大学(アイルランド)老年医学分野のCatriona Reddin氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に11月13日掲載された。 Reddin氏は、「脳卒中は、障害や死にさえつながる可能性があるが、生活習慣の是正や薬物療法により改善できるリスク因子は数多くある。われわれの研究結果は、障害を伴う重度の脳卒中を予防するためには、さまざまな脳卒中のリスク因子の中でも特に、高血圧、心房細動、喫煙の管理が重要であることを強調するものだ」と述べている。 今回の研究でReddin氏らは、世界32カ国で募集された患者を対象に、初発の急性脳卒中のリスク因子について検討した国際的な症例対照研究(INTERSTROKE)のデータを用いて、脳卒中のリスク因子が重症度にどのように影響するのかを検討した。対象は、急性脳卒中を発症した1万3,460人と発症していない1万3,488人の計2万6,948人(平均年齢61.74歳、男性59.58%)、検討した脳卒中のリスク因子は、高血圧(140/90mmHg以上)、心房細動、糖尿病、高コレステロール、喫煙、飲酒、食事の質、運動不足、心理的・社会的ストレス、ウエストヒップ比であった。対象者の脳卒中の重症度をmRS(修正ランキンスケール)で評価したところ、4,848人(36.0%)が重度の脳卒中(4〜6点)に該当し、残りの8,612人(64.0%)は非重度(軽度〜中等度)の脳卒中(0〜3点)であった。重度の脳卒中の発症者は、介助なしでは歩くことや身の回りのことができなくなり、生涯にわたって継続的な介護が必要になる場合が多いと研究グループは説明する。 年齢、性別、国籍、脳卒中のタイプで調整して解析した結果、高血圧に罹患していた人では正常血圧の人に比べて、重度の脳卒中の発症リスクが3.2倍(オッズ比3.21、95%信頼区間2.97〜3.47)、軽度から中等度の脳卒中の発症リスクが2.9倍(同2.87、2.69〜3.05)高いことが明らかになった。また、心房細動のある人ではない人に比べて、同リスクがそれぞれ4.7倍(同4.70、4.05〜5.45)と3.6倍(同3.61、3.16〜4.13)、喫煙者は非喫煙者に比べて同リスクがそれぞれ1.9倍(同1.87、1.72〜2.03)と1.7倍(同1.65、1.54〜1.77)高いことも示された。 こうした結果を受けてReddin氏は、「われわれの研究結果は、高血圧を管理することの重要性を明示している。高血圧は、世界的に見ても脳卒中の修正可能なリスク因子の中で最も重要だ」と述べている。同氏はさらに、「高血圧の管理は、特に、若年層での高血圧と脳卒中の発症率が急増している低・中所得国において重要だ」と付言している。

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CKDの早期からうつ病リスクが上昇する

 腎機能低下とうつ病リスクとの関連を解析した結果が報告された。推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2を下回る比較的軽度な慢性腎臓病(CKD)患者でも、うつ病リスクの有意な上昇が認められるという。東京大学医学部附属病院循環器内科の金子英弘氏、候聡志氏らの研究によるもので、詳細は「European Journal of Clinical Investigation」に9月27日掲載された。 末期のCKD患者はうつ病を併発しやすいことが知られており、近年ではサイコネフロロジー(精神腎臓学)と呼ばれる専門領域が確立されつつある。しかし、腎機能がどの程度まで低下するとうつ病リスクが高くなるのかは分かっていない。金子氏らは、医療費請求データおよび健診データの商用データベース(DeSCヘルスケア株式会社)を用いた後ろ向き観察研究により、この点の検討を行った。 2014年4月~2022年11月にデータベースに登録された患者から、うつ病や腎代替療法の既往者、データ欠落者を除外した151万8,885人を解析対象とした。対象者の年齢は中央値65歳(四分位範囲53~70)、男性が46.3%で、eGFRは中央値72.2mL/分/1.73m2(同62.9~82.2)であり、5.4%が尿タンパク陽性だった。 1,218±693日の追跡で4万5,878人(全体の3.0%、男性の2.6%、女性の3.3%)にうつ病の診断が記録されていた。ベースライン時のeGFR別に1,000人年当たりのうつ病罹患率を見ると、90mL/分/1.73m2以上の群は95.6、60~89の群は87.4、45~59の群は102.1、30~44の群は146.5、15~29の群は178.6、15未満の群は170.8だった。 交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症)を調整後に、eGFR60~89の群を基準として比較すると、他の群は全てうつ病リスクが有意に高いことが示された。ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。eGFR90以上の群は1.14(1.11~1.17)、45~59の群は1.11(1.08~1.14)、30~44の群は1.51(1.43~1.59)、15~29の群は1.77(1.57~1.99)、15未満の群は1.77(1.26~2.50)。また、尿タンパクの有無での比較では、陰性群を基準として陽性群は1.19(1.15~1.24)だった。 3次スプライン曲線での解析により、eGFRが65mL/分/1.73m2を下回るあたりからうつ病リスクが有意に上昇し始め、eGFRが低いほどうつ病リスクがより高くなるという関連が認められた。 これらの結果に基づき著者らは、「大規模なリアルワールドデータを用いた解析の結果、CKDの病期の進行とうつ病リスク上昇という関連性が明らかになった。また、早期のCKDであってもうつ病リスクが高いことが示された。これらは、CKDの臨床において患者の腎機能レベルにかかわりなく、メンタルヘルスの評価を日常的なケアに組み込む必要のあることを意味している」と総括。また、「今回の研究結果は、サイコネフロロジー(精神腎臓学)という新たな医学領域の前進に寄与すると考えられる」と付け加えている。 なお、eGFRが90以上の群でもうつ病リスクが高いという結果については、「本研究のみではこの理由を特定することは困難だが、CKD早期に見られる過剰濾過との関連が検出された可能性がある」と考察されている。

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禁煙後に体重が3kg以上増えると高血圧リスクが上昇

 禁煙後に体重が3kg以上増加すると、高血圧の発症リスクが有意に高くなることを示唆する研究結果が報告された。ただし、喫煙を継続していた場合は体重増加が3kg未満であっても、高血圧発症リスクが有意に高くなるという。日本医科大学衛生学公衆衛生学分野の大塚俊昭氏らの研究によるもので、詳細は「The American Journal of Medicine」に9月14日掲載された。 タバコは言うまでもなく体に悪く、高血圧発症リスク因子でもあり、全ての喫煙者に禁煙が推奨される。しかし、禁煙によってニコチンの持つ空腹感抑制作用がなくなることや、味覚・嗅覚および胃粘膜の血流改善によって、食欲が高まることがあり、体重増加を介して禁煙による健康へのプラス作用を弱めてしまう可能性がある。その悪影響の一つとして、血圧の上昇が挙げられる。ただ、禁煙後の体重変化と高血圧リスクとの関連については、不明点が少なくない。大塚氏らは、日本人労働者の健診データを用いた縦断的解析により、この点を検討した。 解析対象は、国内精密機器開発メーカーの従業員のうち、健診データと高血圧発症を判定可能な情報がそろっている男性1万354人(平均年齢38.4±8.8歳)。ベースライン時点(2008~2009年)における高血圧既往者、過去喫煙者(喫煙歴があるが既に禁煙していた人)、追跡期間中の新規喫煙者、およびサンプル数不足のため女性は除外されている。 全体の68.0%は喫煙歴がない「非喫煙群」であり、2.2%は2008~2009年の間に禁煙に成功した「新規禁煙群」で、残りの29.8%は喫煙を続けていた「喫煙継続群」だった。 平均2.9±0.4年の追跡期間中に、1,032人(10.0%)が高血圧を発症した。発症率を喫煙状態別に見ると、非喫煙群は8.3%、新規禁煙群は12.4%、喫煙継続群は13.6%だった。交絡因子(年齢、BMI、飲酒・運動習慣、高血糖、脂質異常症、高尿酸血症、血圧カテゴリー、高血圧家族歴)を調整後、非喫煙群を基準とする高血圧発症オッズ比は、喫煙継続群は有意に高いものの(調整オッズ比〔aOR〕1.39〔95%信頼区間1.18~1.63〕)、新規禁煙群は非有意だった(aOR1.21〔同0.76~1.91〕)。 次に、禁煙後の体重変化の影響を検討するため、追跡期間中の体重変化幅が+3kg以上/未満で分け、全体を6群に群分けした上で、非喫煙かつ体重変化が3kg未満の群(5,642人〔全体の54.5%〕)を基準とする解析を行った。前記同様の交絡因子を調整後、非喫煙群では体重が3kg以上増加した場合に高血圧発症率の上昇傾向を示したがわずかに非有意であり、新規禁煙群では体重が3kg以上増加していた場合のみ有意に上昇、喫煙継続群では体重の変化にかかわらず有意に上昇という結果が示された。 各群の高血圧発症の調整オッズ比は以下の通り。非喫煙群で3kg以上体重が増えた人(1,405人〔全体の13.6%〕)はaOR1.27(0.99~1.62)、新規禁煙群で体重変化が3kg未満の人(169人〔同1.6%〕)はaOR0.90(0.52~1.58)、新規禁煙群で3kg以上体重が増えた人(56人〔0.5%〕)はaOR2.95(1.37~6.35)、喫煙継続群で体重変化が3kg未満の人(2,431人〔23.5%〕)はaOR1.35(1.13~1.61)、喫煙継続群で3kg以上体重が増えた人(651人〔6.3%〕)はaOR1.90(1.43~2.52)。 著者らは、血圧に影響を及ぼし得る禁煙補助薬の処方状況が考慮されていないことなどを本研究の限界点として挙げた上で、「喫煙を継続した場合、および禁煙後に体重が3kg以上増加した場合に高血圧発症リスクが上昇すると考えられ、高血圧予防のため、現喫煙者に対する禁煙と禁煙後の体重管理が強く推奨される」と結論付けている。

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加齢性難聴予防に「聴こえ8030運動」を推進/耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

 加齢性難聴は、日常のQOLを低下させるだけでなく、近年の研究から認知症のリスクとなることも知られている。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、都内で日本医学会連合TEAM事業の一環として「多領域の専門家が挑む加齢性難聴とその社会的課題」をテーマに、セミナーを開催した。本事業では「加齢性難聴の啓発に基づく健康寿命延伸事業」に取り組んでおり、主催した日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では「聴こえ8030運動」を推進している。当日は、加齢性難聴対策の概要や認知症との関係、学会の取り組みなどが講演された。聴こえが悪いと感じたら耳鼻科で聴力検査を 「加齢性難聴対策を介した共生社会の実現への取り組み」をテーマに和佐野 浩一郎氏(東海大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 准教授)が、現在の難聴対策の現状と問題点などについて講演を行った。 わが国は世界一の高齢化社会であり、加齢性難聴の放置は認知症の最大のリスクとなることが知られている1)。2024年の研究報告でも「難聴治療は老年期の認知症の予防に寄与する」という報告も出されている2)。こうした研究結果を踏まえ、日本医学会連合では2023年度よりさまざまな学会と連携し、難聴・聴覚補償機器に関する啓発活動を実施し、難聴への取り組みを行っている。 年代別の聴力レベルの変化について、高齢になればなるほど言葉の聞き取り力は有意に低下し、80代では半数が中等度の難聴となる3)。こうした加齢性難聴対策として「予防、受診、介入」を柱とした「聴こえ8030運動」が始められた。 難聴の原因には、加齢を筆頭に感染症、環境、薬剤など多彩な要因があり、最近では若年者の聴力は悪化傾向にあるという。こうした原因を啓発し、防止することが難聴予防につながると語る。また、わが国の耳鼻科への受診について、「聞こえに不自由を感じている人の受診率」が4割程度と先進国の中でもかなり低い割合であり、若年・中年期の難聴は健康診断などで発見されにくく、後期高齢者保健事業でも聴力検査が採り入れられていない課題があると指摘する。 おわりに和佐野氏は、「今後は適切な聴覚管理での早期介入のためにも、聞こえにくさを感じたら気軽に耳鼻科で聴力検査を受診できるよう、検査のハードルを下げる啓発活動を行っていきたい」と抱負を述べた。宮城県における加齢性難聴対策の取り組み 「言語聴覚士による加齢性難聴対策」をテーマに佐藤 剛史氏(東北大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学/日本言語聴覚士協会)が、言語聴覚士(ST)の立場から高齢者や行政の支援者などへの難聴啓発事業について説明した。 佐藤氏の所属する東北大学と宮城県、仙台市では三者が連携し「高齢者の難聴および誤嚥性肺炎の理解と対応に関する普及啓発モデル事業」を行っている。 本事業は、高齢者の通いの場を中心とした啓発事業であること、行政・大学・地域が役割分担をして運営すること、啓発事業の対象は高齢者だけでなく地域の支援センターの福祉担当者や保健師、職員なども参加すること、自身の「聞こえ」状態が体感できる参加型講習であることを特徴としている。 市町村の職員など支援者向けの研修会は2022年から開催され、過去3回で248人が参加し、研修では耳の解剖や聴力の仕組みなどの講演会が行われている。また、高齢者向けの啓発活動では、加齢性難聴の病態と治療、体験プログラムが行われている。2022~23年の実施状況として、全41会場で合計1,395人が受講した。受講した高齢者へのアンケートでは、965人(平均年齢76歳)から回答を得た。対象者の聞こえの状態では、約7割弱の人が聞こえの不自由さを感じており、補聴器の装着は約2割に止まっていた。受講後に耳鼻科受診について聞いたところ約5割の受講者が「受診をしたい」と回答した。 佐藤氏は、今後の課題としては、「受診につながる長期のフォローアップや『通いの場』に参加できない人への啓発、『聞こえチェック方法』の検討などが必要であり、STの役割としては住民・行政などへの啓発活動や地域作り、高齢者への地域での難聴への支援、健診活動や補聴器装用の専門支援などが考えられる」と提言を行った。加齢性難聴への補聴器装用は認知症予防に寄与 「加齢性難聴と認知症」をテーマに下畑 享良氏(岐阜大学脳神経内科学 教授/日本神経学会 理事)が、難聴と認知症の関連について講演した。 わが国の認知症高齢者は2040年に約580万人(約15%)と推定されている。認知症では、アルツハイマー型認知症が1番多く、同症はアミロイドβが脳に沈着することで発症する。近年の研究では、この沈着に影響する因子に関し「高血圧」「喫煙」「睡眠」など多数の因子が関連していることが指摘されている。そして、先述の研究でも2)難聴が最大の修正可能因子であり、認知症の発症ないし遅延ができる可能性がある。 南デンマーク・57万例を対象とした約9年間の研究では、難聴があって補聴器をしていない人の認知症発症のハザード比は1.20であった一方で、補聴器を装用している人のハザード比は1.06だった結果から補聴器は認知症発症リスクを減少させる可能性があると指摘する4)。 アメリカからも同様の研究報告があり、認知症予防に難聴の人では、補聴器の装用が有効である可能性が示唆されることから、「認知症予防のために今後啓発していく必要がある」とその重要性を下畑氏は語った。加齢性難聴の社会的認知に「聴こえ8030運動」の取り組み 「日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が取り組む『聴こえ8030運動』」をテーマに羽藤 直人氏(愛媛大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 教授/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 理事)が「聴こえの8030運動」について説明した。 この運動は、80歳で30dB(聞こえの閾値)の聴力を保つ国民啓発運動であり、全年代に加齢性難聴の周知、聴力検査などの耳鼻科への受診啓発、補聴器装用率の向上を目指すものである。加齢性難聴者数は1,437万人と推定され、60歳以上の3人に1人、70歳以上の約半数が該当するとされている。その一方で耳鼻科受診率は低く、加齢性難聴が疾病であるという認識が不足しているとされる。また、先進国と比較して補聴器装用率もわが国は約1/3、人工内耳普及率も約1/2と低い数字に止まっている。 そこで、日本歯科医師会推進の「8020運動(80歳で20本以上の歯の維持を目標)」にならい、良い聞こえで高齢者の健康寿命をサポートする目的で「聴こえ8030運動」を実施した経緯を説明した。運動の目標数字として、80歳で30dBの聞こえを維持している割合が現状30%から20年後には50%への伸長を謳っている。 加齢性難聴対策としては、「大音量で音楽などを聴かない」、「騒音の場所を避ける」、「騒音下の仕事では耳栓」、「静かな場所で耳を休ませる」などがあり、聞こえが悪くなったら補聴器の装用などが勧められる。 おわりに羽藤氏は、「こうした情報を手軽に入手できるように専用のウェブサイトを開設した。加齢性難聴という疾患の周知から聴力検査での耳鼻科受診、そして難聴カウンセリング、補聴器の適合診断を経て、適切な補聴器、人工内耳の普及へとつなげていくことで、認知症の抑制につなげていきたい」と展望を述べた。 講演後に「聴こえ8030運動が拓く加齢性難聴の未来」をテーマに、内田 育恵氏(愛知医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 特任教授)の進行で総合討論が行われた。総合討論では、残置聴力と補聴器の相性や聴こえ8030運動での医師以外の医療従事者の役割と連携、補聴器装用とSTの役割、非専門医への啓発、耳鼻科への診断はいつ行うかなどを話題に活発な議論が行われた。

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オメガ3・6脂肪酸の摂取はがん予防に有効か

 多価不飽和脂肪酸(PUFA)のオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の血中濃度は、がんの発症リスクと関連していることが、新たな研究で示唆された。オメガ3脂肪酸の血中濃度が高いことは、結腸がん、胃がん、肺がん、肝胆道がんの4種類のがんリスクの低下と関連し、オメガ6脂肪酸の血中濃度が高いことは、結腸がん、脳、メラノーマ、膀胱がんなど13種類のがんリスクの低下と関連することが明らかになったという。米ジョージア大学公衆衛生学部のYuchen Zhang氏らによるこの研究の詳細は、「International Journal of Cancer」に10月17日掲載された。Zhang氏は、「これらの結果は、平均的な人が食事からこれらのPUFAの摂取量を増やすことに重点を置くべきことを示唆している」と述べている。 この研究でZhang氏らは、UKバイオバンク研究の参加者25万3,138人のデータを用いて、オメガ3脂肪酸およびオメガ6脂肪酸の血漿濃度とあらゆるがん(以下、全がん)、および部位特異的がんとの関連を検討した。ベースライン調査時(2007〜2010年)に得られた血漿サンプルを用いて、核磁気共鳴法(NMR)によりこれらのPUFAの絶対濃度と総脂肪酸に占める割合(以下、オメガ3脂肪酸の割合をオメガ3%、オメガ6脂肪酸の割合をオメガ6%とする)を評価した。対象としたがんは、頭頸部がん、食道がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、肝胆道がん、膵臓がん、肺がん、メラノーマ、軟部組織がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、脳腫瘍、甲状腺がん、リンパ系および造血組織がんの19種類だった。 平均12.9年の追跡期間中に、2万9,838人ががんの診断を受けていた。喫煙状況、BMI、飲酒状況、身体活動量などのがんのリスク因子も考慮して解析した結果、オメガ3脂肪酸およびオメガ6脂肪酸の血漿濃度が上昇すると全がんリスクが低下するという逆相関の関係が認められた。全がんリスクは、オメガ3%が1標準偏差(SD)上昇するごとに1%、オメガ6%が1SD上昇するごとに2%低下していた。がん種別に検討すると、オメガ6%は13種類のがん(食道がん、結腸がん、直腸がん、肝胆道がん、膵臓がん、肺がん、メラノーマ、軟部組織がん、卵巣がん、腎臓がん、膀胱がん、脳腫瘍、甲状腺がん)と負の相関を示した。一方、オメガ3%は4種類のがん(胃がん、結腸がん、肝胆道がん、肺がん)と負の相関を示す一方で、前立腺がんとは正の相関を示すことが明らかになった。 オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸は、脂肪分の多い魚やナッツ類、植物由来の食用油に含まれているが、十分な量を摂取するために魚油サプリメントに頼る人も多い。しかし研究グループは、これらのPUFAの効用が全ての人にとって同じように有益になるとは限らないとしている。実際に、本研究では、オメガ3脂肪酸の摂取量が多いと前立腺がんのリスクがわずかに高まる可能性のあることが示された。論文の上席著者であるジョージア大学Franklin College of Arts and SciencesのKaixiong Ye氏は、このことを踏まえ、「女性なら、オメガ3脂肪酸の摂取量を増やすという決断も容易だろう」と同大学のニュースリリースの中で話している。

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更年期にホットフラッシュの多い女性は糖尿病リスクが高い

 更年期にホットフラッシュや寝汗などの症状を頻繁に経験した女性は、その後、2型糖尿病を発症する可能性が高いことが報告された。米カイザー・パーマネンテのMonique Hedderson氏らの研究によるもので、「JAMA Network Open」に10月31日、レターとして掲載された。 更年期には、ホットフラッシュ(突然の体のほてり)や寝汗(睡眠中の発汗)など、血管運動神経症状(vasomotor symptoms;VMS)と呼ばれる症状が現れやすい。このVMSは肥満女性に多いことが知られており、また心血管代謝疾患のリスクと関連のあることが示唆されている。ただし、糖尿病との関連はまだよく分かっていない。Hedderson氏らは、米国の閉経前期または閉経後早期の女性を対象とする前向きコホート研究(Study of Women’s Health Across the Nation;SWAN)のデータを用いて、VMSと糖尿病リスクとの関連を検討した。 SWANの参加者は2,761人で、平均年齢は46±3歳。人種/民族は、白人が49%、黒人が27%を占め、日本人も9.6%含まれている。そのほかは中国人が8.5%、ヒスパニックが6.5%。全体の28%は2週間に1~5日のVMSを報告し、10%は同6日以上のVMSを報告していた。追跡期間中に2型糖尿病を発症したのは338人(12.2%)だった。 VMSの出現パターンに基づき全体を4群に分け、交絡因子(年齢、人種/民族、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、教育歴、閉経ステージ〔閉経前期/閉経後早期〕、研究参加地点など)を調整後に、一貫してVMSが現れなかった群を基準に2型糖尿病発症リスクを解析。すると、一貫してVMSが頻繁に(2週間に6日以上)現れていた群は、50%ハイリスクであることが分かった(ハザード比〔HR〕1.50〔95%信頼区間1.12~2.02〕)。VMSの出現頻度が閉経ステージの前半のみ高かった群や、後半のみ高かった群は、一貫してVMSが現れなかった群とのリスク差が非有意だった。 論文の筆頭著者であるHedderson氏は、「更年期にVMSが頻繁に現れる女性は、ほかの健康リスクも抱えているというエビデンスが増えている」と話す。ただし、その関連のメカニズムはよく分かっていないとのことだ。論文の上席著者である米ピッツバーグ大学のRebecca Thurston氏も、「われわれの研究結果は、女性の心血管代謝の健康に対するVMSの重要性、特にその症状が長期間続く女性での重要性を示しており、さらなる研究が求められる。ホットフラッシュは、単なる不快な症状にとどまるものではないのかもしれない」と述べている。 研究グループによると、VMSが糖尿病のリスクを高める理由はまだ明確に説明できないが、VMSが心臓病のリスク増加につながるというエビデンスはあるという。そして、心臓病と糖尿病は、慢性炎症や睡眠の質の低下、体重増加が併存することが多いなどの共通点があると指摘している。 なお、Hedderson氏は、「女性の70%は更年期のどこかの時点で何らかのVMSを経験するが、われわれの研究で明らかになった糖尿病リスクの上昇が認められるのは、そのような女性のごく一部だ」と付け加えている。

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結核が再び最も致命的な感染症のトップに

 世界保健機関(WHO)は10月29日に「Global Tuberculosis Report 2024」を公表し、2023年に世界中で820万人が新たに結核と診断されたことを報告した。この数は、1995年にWHOが結核の新規症例のモニタリングを開始して以来、最多だという。2022年の新規罹患者数(750万人)と比べても大幅な増加であり、2023年には、世界で最も多くの死者をもたらす感染症として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を抑えて再びトップに躍り出た。 WHOのテドロス事務局長(Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、「結核の予防・検出・治療に有効な手段があるにもかかわらず、結核が依然として多くの人を苦しめ、死に至らしめているという事実は憤慨すべきことだ」とWHOのニュースリリースで述べている。同氏は、「WHOは、各国が、これらの手段を積極的に活用し、結核の撲滅に向けて約束した取り組みを確実に実行するよう求めている」と付言している。 2023年の世界の結核患者数は1080万人に上り、男性の方が女性よりも多く(55%対33%)、12%は子どもと思春期の若者だった。また、HIV感染者が全罹患者の6.1%を占めていた。結核患者数には地域的な偏りが見られ、インド(26%)、インドネシア(10%)、中国(6.8%)、フィリピン(6.8%)、パキスタン(6.3%)の上位5カ国だけで56%に上り、これら5カ国にナイジェリア、バングラデシュ、コンゴ民主共和国を含めた8カ国が世界全体の感染者の3分の2を占めていた。 結核の新規罹患者の多くは、栄養不足、HIV感染、アルコール使用障害、喫煙(特に男性)、糖尿病の5つの主要なリスク因子が原因で結核を発症していた。WHOは、これらのリスク因子と貧困などの他の社会的決定要因に対処するには、協調的なアプローチが必要だと主張する。WHO世界結核プログラムディレクターのTereza Kasaeva氏は、「われわれは、資金不足、罹患者にのしかかる極めて大きな経済的負担、気候変動、紛争、移住と避難、COVID-19パンデミック、そして薬剤耐性結核など、数多くの困難な課題に直面している」と指摘。「全てのセクターと利害関係者が団結し、これらの差し迫った問題に立ち向かい、取り組みを強化することが不可欠だ」とWHOのニュースリリースで述べている。 一方、報告書には明るい兆しも見えた。結核による死亡者数は世界的に減少傾向にあり、新規罹患者数も安定し始めているという。それでもWHOは、「多剤耐性結核(MDR-TB)は依然として公衆衛生上の危機だ」と指摘し、「MDR-TBまたはリファンピシン耐性結核(RR-TB)の治療成功率は現在68%に達している。しかし、MDR/RR-TBを発症したと推定される40万人のうち、2023年に診断され治療を受けたのは44%に過ぎない」と懸念を示している。 結核は空気中の細菌によって引き起こされ、主に肺を侵す。WHOによると、世界人口の約4分の1が結核菌に感染していると推定されているが、そのうち症状が現れるのは5%から10%に過ぎないという。結核菌感染者は体調不良を感じないことも多く、感染力も低い。WHOは、「結核の症状は数カ月間、軽度のままで推移することがあるため、知らないうちに簡単に他人に病気を広めてしまう」と指摘している。主な結核の症状は、長引く咳(出血を伴うこともある)、胸痛、衰弱、倦怠感、体重減少、熱、寝汗などである。WHOは、「症状は感染部位により異なる。好発部位は肺だが、腎臓、脳、脊椎、皮膚にダメージを与える可能性もある」と付け加えている。

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ROS1陽性NSCLCへの新たな選択肢レポトレクチニブ、その特徴は?/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブは、ROS1阻害薬レポトレクチニブ(商品名:オータイロ)について、2024年9月24日に「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)」の適応で製造販売承認を取得し、同年11月20日に発売した。発売に先立ち、ブリストル・マイヤーズ スクイブは「ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺癌についてのメディアセミナー」を2024年11月14日に実施した。分子標的薬の登場で大幅に治療成績が改善 「ROS1融合遺伝子陽性肺癌に対する治療戦略」と題し、後藤 功一氏(国立がん研究センター東病院 副院長・呼吸器内科長)がROS1融合遺伝子陽性NSCLCの治療の変遷とレポトレクチニブの特徴について紹介した。 ROS1融合遺伝子は、NSCLCの約1%にみられる。また、65歳未満、女性、喫煙歴なし、腺がんの割合が高いという特徴を有する。ただし、後藤氏は「65歳以上も40%近くを占め、男性にもみられるため、対象を絞らずにNSCLC患者全体に対して遺伝子検査を実施し、ROS1融合遺伝子陽性NSCLCを見つけることが重要である」と強調した。 ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対する治療では、ROS1チロシンキナーゼ阻害薬(ROS1-TKI)として、2017年にクリゾチニブが承認を取得し、2020年にはエヌトレクチニブが承認を取得している。これらの薬剤は高い有効性を示し、奏効割合(ORR)はそれぞれ71.7%1)、67.9%2)、無増悪生存期間(PFS)中央値はそれぞれ15.9ヵ月1)、15.7ヵ月2)と、大幅な治療成績の改善が報告されている。レポトレクチニブは耐性変異や脳転移にも有効 ROS1融合遺伝子陽性NSCLCにおいて、ROS1-TKIは画期的な治療成績の改善をもたらしたが、耐性が生じることも明らかになっている。耐性機序の1つにROS1におけるG2032R変異が挙げられているが、レポトレクチニブはこの耐性変異を克服しうる薬剤として開発された。 レポトレクチニブは、国際共同第I/II相試験「TRIDENT-1試験」3)の結果を基に製造販売承認を取得した。本試験は、ROS1-TKI未治療の集団だけでなく、ROS1-TKI既治療の集団での治療成績も評価されている。今回、後藤氏は「ROS1-TKI未治療集団」「1種類のROS1-TKIのみの前治療歴を有する集団」の治療成績を紹介した。 ROS1-TKI未治療集団において、ORRは78.9%と高く、奏効期間(DOR)中央値は34.1ヵ月、PFS中央値は35.7ヵ月であった。このことから、レポトレクチニブは長期にわたって耐性が生じず、効果が持続することが示された。また、レポトレクチニブの特徴として、後藤氏は中枢移行性が高いことを挙げた。実際に、レポトレクチニブは、脳転移を有する患者9例中8例において奏効が認められた。 1種類のROS1-TKIのみの前治療歴を有する集団においても、レポトレクチニブは有効性を示し、耐性変異にも有効であることが示唆された。本集団において、ORRは37.5%、PFS中央値は9.0ヵ月であった。 安全性について、本試験における重篤な副作用の発現割合は7.4%、投与中止に至った副作用の発現割合は3.7%であった。中枢神経系の副作用としては浮動性めまいが56.5%、味覚不全が48.9%に発現した。これらの結果について、後藤氏は「レポトレクチニブは毒性が軽いという特徴がある。ただし中枢神経系へ移行することから、めまいが多く、味覚不全も起こる」と述べ、レポトレクチニブによる長期の有効性を得るためには、めまいなどの有害事象を減薬や休薬などによってコントロールすることが重要であると強調した。 レポトレクチニブの有効性に関する詳細は以下のとおり。【ROS1-TKI未治療例(71例)】ORR(主要評価項目):78.9%(CR:9.9%、PR:69.0%)奏効までの期間中央値:1.84ヵ月DOR中央値:34.1ヵ月(2年奏効率:73.2%)PFS中央値:35.7ヵ月(18ヵ月PFS率:70.0%)OS中央値:未到達(18ヵ月OS率:87.9%)頭蓋内ORR:88.9%(8/9例)【1種類のROS1-TKI既治療例(56例)】ORR(主要評価項目):37.5%(CR:5.4%、PR:32.1%)DOR中央値:14.8ヵ月(1年奏効率:55.7%)PFS中央値:9.0ヵ月(1年PFS率:41.2%)OS中央値:25.1ヵ月(1年OS率:69.2%)患者が抱える治療選択肢がなくなる不安 続いて、ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者の吉野 振一郎氏が登壇し、自身の治療経験について述べた。吉野氏は、ROS1-TKIによる治療を始める際には、「早く治療を始めることで、耐性も早く出てしまうのではないか」と考え、なかなか治療に踏み切れなかったという。 その後、ROS1-TKIによる治療を始めてから2年半ほど経過した現在も耐性は生じず、1剤目のROS1-TKIを使用しているとのことであるが、吉野氏は「2ヵ月に1回の検査は、耐性が出ているのではないかと非常に不安になる。入学試験の結果を聞きに行くような感じだ」と語った。また、「患者の願いは、使える薬剤や治療がたくさんあることである」と述べ、レポトレクチニブの登場について「耐性が出てしまっても、次の薬剤があると思えるのは安心できる」と期待を述べた。【レポトレクチニブの製品概要】商品名:オータイロカプセル40mg一般名:レポトレクチニブ製造販売承認取得日:2024年9月24日薬価基準収載日:2024年11月20日発売日:2024年11月20日薬価:3,468.30円(40mg 1カプセル)効能又は効果:ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌用法及び用量:通常、成人にはレポトレクチニブとして1回160mgを1日1回14日間経口投与する。その後、1回160mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社

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日本人に対するニボルマブのNSCLC周術期治療(CheckMate 77T)/日本肺癌学会

 ニボルマブは、切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する術前補助療法として本邦で使用されているが、米国ではこれに加えて、2024年10月に術前・術後補助療法としての適応も取得している。その根拠となった第III相「CheckMate 77T試験」の日本人集団の結果について、産業医科大学の田中 文啓氏が第65回日本肺癌学会学術集会で発表した。CheckMate 77T試験 試験デザインと結果の概要試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:切除可能なStageIIA(>4cm)~IIIB(N2)のNSCLC患者(AJCC第8版に基づく)試験群:ニボルマブ(360mg、3週ごと)+プラチナダブレット化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→ニボルマブ(480mg、4週ごと)を最長1年(ニボルマブ群:229例)対照群:プラセボ+プラチナダブレット化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→プラセボを最長1年(プラセボ群:232例)評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定に基づく無イベント生存期間(EFS)[副次評価項目]盲検下独立病理判定に基づく病理学的完全奏効(pCR)・病理学的奏効(MPR)、安全性など 追跡期間中央値25.4ヵ月時点における全体集団のEFS中央値は、ニボルマブ群では未到達、プラセボ群では18.4ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.58、97.36%信頼区間[CI]:0.42~0.81)。pCR率はニボルマブ群25.3%、プラセボ群4.7%(オッズ比[OR]:6.64、95%CI:3.40~12.97)、MPR率はそれぞれ35.4%と12.1%であった(OR:4.01、95%CI:2.48~6.49)。 日本人集団における主な結果は以下のとおり。・全体集団461例中、日本人は68例(ニボルマブ群40例、プラセボ群28例)含まれており、全体集団と比較して、PS0の患者やプラチナ製剤としてシスプラチンを使用する患者の割合が高かった。また、日本人集団のニボルマブ群はプラセボ群と比較して、扁平上皮がん、喫煙歴あり、PD-L1発現1%未満の患者の割合が高かった。・4サイクルの術前補助療法を完遂した割合は、ニボルマブ群で65%、プラセボ群で82%、手術を実施した割合はそれぞれ90%と93%、術後補助療法を実施した割合は60%と71%、術後補助療法を完遂した割合は45%と36%であった。ニボルマブ群では、全体集団と比較して、術前補助療法完遂の割合は低いものの(日本人集団vs.全体集団:65% vs.85%)、手術実施の割合は高かった(同:90% vs.78%)。・追跡期間中央値24.9ヵ月時点におけるEFS中央値は、ニボルマブ群では未到達、プラセボ群では12.1ヵ月であった(HR:0.46、95%CI:0.22~0.95)。12ヵ月EFS率はニボルマブ群82%、プラセボ群50%、18ヵ月EFS率はそれぞれ77%と43%であった。・pCR率はニボルマブ群42.5%、プラセボ群0%(OR:NA)、MPR率はそれぞれ52.5%と7.1%であった(OR:14.37、95%CI:3.00~68.82)。・全期間におけるGrade3以上の治療関連有害事象(TRAE)はニボルマブ群55.0%(22/40例)、プラセボ群39.3%(11/28例)に認められ、全体集団よりも高い割合で発現していた(全体集団はそれぞれ32.5%、25.2%)。これを期間別にみると、術前期間ではニボルマブ群47.5%(19/40例)、プラセボ群39.3%(11/28例)、術後期間ではそれぞれ12.5%(3/24例)と0%(0/20例)と、術前期間における発現割合が高かった。・日本人集団でとくに発現割合が高かった免疫介在性有害事象は、皮膚障害や間質性肺疾患などであった。 講演後、全体集団と比較した場合の手術実施割合、pCR率、MPR率の高さの理由について質問があった。田中氏は、「(明確な理由は不明であるものの)無作為化により対照群に割り付けられる患者の不利益を踏まえ、切除可能性やPSなどを考慮して、厳格に患者選定を行った結果ではないか」と考察した。また、術前のみニボルマブを使用するCheckMate 816試験の結果も踏まえ、pCRが得られた場合の後治療の要否やnon-pCRであった場合の後治療など、今後のクリニカルクエスチョンについても議論があった。 田中氏は、今回の有効性と安全性プロファイルの結果はCheckMate 77T試験の全体集団の結果と一致しているとし、「切除可能NSCLC日本人患者に対するニボルマブの術前・術後補助療法としての使用可能性を支持するものである」とまとめた。

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CAVI高値のCAD患者は発がんリスクが高い

 冠動脈疾患(CAD)の治療を受けた患者の中で、心臓足首血管指数(CAVI)が高く動脈硬化がより進行していると考えられる患者は、その後の発がんリスクが高いことを示すデータが報告された。福島県立医科大学循環器内科の清水竹史氏らによる研究の結果であり、詳細が「Circulation Reports」9月号に掲載された。 近年、がん患者は心血管疾患(CVD)リスクが高く、CVD患者はがんリスクが高いという相関の存在が明らかになり、両者に関与するメカニズムとして慢性炎症などを想定した研究も進められている。しかし、動脈硬化のマーカーと発がんリスクとの関連についてはまだ知見が少ない。清水氏らは、同大学附属病院の患者データを用いた前向き研究により、この点を検討した。 2010年1月~2022年3月に同院にてCADに対する経皮的冠動脈形成術を受け、CAVIが測定されていた入院患者から、未治療または病勢が制御されていないがん患者、維持透析患者などを除外した連続1,057人を解析対象とした。2023年2月まで追跡(平均2,223日)で、新たに141人ががんを診断されていた。ROC解析により、発がんの予測に最適なCAVIのカットオフ値は8.82と計算され(AUC0.633)、これを基準に2群に分けると、CAVI高値群(53.9%)は低値群(46.1%)に比べて高齢で、糖尿病、慢性腎臓病、貧血の有病率が高く、脳卒中既往者が多いという有意差が認められた。喫煙率やがん既往率には有意差がなかった。 カプランマイヤー法により、CAVI高値群は有意に発がんリスクが高いことが明らかになった(P=0.001)。多変量Cox比例ハザードモデルにて交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙歴、併存疾患、がんの既往など)の影響を調整後、CAVI高値は新規発がんの独立したリスク因子として特定された(ハザード比〔HR〕1.62〔95%信頼区間1.11~2.36〕)。CAVIを連続変数とする解析でも、CAVIが高いほど発がんリスクが高くなるという関連が示された(CAVIが1高いごとにHR1.16〔1.03~1.30〕)。 サブグループ解析の結果、年齢や性別、BMI、喫煙歴、併存疾患・既往症の有無では有意な交互作用は認められず、上記の関連は一貫していた。唯一、貧血の有無の交互作用が有意であり、貧血あり群ではCAVI高値による発がんリスクの上昇が見られなかった。 このほか、感度分析としてCAVIのカットオフ値を8または9とした解析も行ったが、結果は同様だった。なお、新たに診断されたがんの部位については、胃、前立腺、肺、大腸が多くを占め、日本の一般人口と同様であり、かつCAVIの高低で比較しても部位の分布に有意差はなかった。 著者らは、本研究が単一施設のデータに基づく解析結果であることなどを限界点として挙げた上で、「CAVIが高いことはその後の発がんリスクの高さと関連していた。CAD患者の中からCAVIによって、スクリーニングを強化すべき発がんハイリスク者を抽出可能なのではないか」と述べている。

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ChatGPTの活用法いろいろ【Dr. 中島の 新・徒然草】(555)

五百五十五の段 ChatGPTの活用法いろいろ日本の衆院選に続いて米国大統領選も終わり、4年ぶりに共和党のドナルド・トランプ前大統領が返り咲きました。次に何を言い出すやら予測不能なトランプ大統領のこと。果たして今後の4年間、日本はどんな影響を受けることになるのでしょうか?さて、先日オンライン講演会の演者をしました。「ChatGPTを使った英会話上達法」という演題です。主催者によれば、普段の聴衆とは少し違ったメンツが集まったとのこと。皆さん、それぞれに英語では苦労しているのでしょう。私はChatGPTのパソコン版とスマホ版を使っての上達法を紹介しました。とくにスマホを使った実演は、見ていた人たちには随分なインパクトを与えたようです。早速その場でアプリをダウンロードした人もおられました。さて、講演会の後は恒例のフリートークです。それぞれの人が自分のChatGPT活用法を紹介しており、いろいろと参考になりました。1つ目。某医療機関のリハビリ担当者。患者さん向けにポスターやパンフレットを作成しているのですが、そのタイトルをChatGPTに考えてもらうというもの。3つほど考えてもらって、その中から選ぶそうです。私もこの「新・徒然草」のタイトルをChatGPTに考えてもらうことがあります。ただ、私の場合は20個ほど考えてもらい、その候補をさらに組み合わせて作っています。2つ目は推薦状です。誰かの昇進や異動に伴う推薦状は、何をどう書いていいやらさっぱりわかりません。そこでChatGPTに下書きさせるという先生がおられました。氏名や簡単な経歴、被推薦者の長所などの情報を入れて「貴院の○○というポジションに相応しい人物だ」という形での推薦状作成です。すると「おいおい、ちょっと誉めすぎと違うか」としか思えないようなものが出来てきたのだとか。で、念のため推薦される本人に見せてみると頷きながら読み、「ありがとうございます。まあ、こんなものでしょうね」みたいな反応だったそうです。決して「先生、これは誉めすぎですよ!」という反応ではなかったとか。さすがにそのまま提出するのも憚られたので、現実的な方向に軌道修正したそうです。3つ目は患者さんの質問に対する回答。外来で診ている患者さんからは、思わぬ質問が来ることがあります。たとえば、検査結果をプリントしてお渡しした時に「○○が異常値なのですが、どうしてでしょうか?」など。「基準値の上限をちょっと超えているくらい気にしなくていいのに」と言っても、納得しない人が大勢おられます。そこでChatGPTに「病気がないのに○○の検査結果が基準値をわずかに上回っている場合、どのような原因が考えられますか?」と尋ねると、即座に10個ほどの原因らしきものを挙げてくれます。たとえば喫煙加齢炎症性疾患や慢性疾患良性疾患妊娠やその他の一時的状態食生活や一時的な要因薬剤の影響遺伝的要因女性のホルモンバランスの異常一過性の自己免疫反応などですね。「病気がないのに」とわざわざ断っているのに、炎症性疾患、慢性疾患、良性疾患などを挙げるのがChatGPTらしいところですが、そこは大目に見ておきましょう。また、「遺伝的要因」などと言うと、余計に患者さんを心配させてしまいます。ここは「体質」と言ったほうが無難でしょうね。4つ目は英文校正です。何か英語の論文や文書を作成した時の校正は、皆さんそれぞれに工夫しておられることと思います。ネイティブによる英文校正サービスを使っている先生も何人かおられましたが、人力ではいくら速くても数時間から数日のタイムラグができてしまいます。その点、ChatGPTは瞬時に校正してくれるので、役立つことこの上ないのが正直なところ。とくに、どういう理由でこの部分を直したのかも教えてくれるところが親切です。しかも、同じ部分を修正したとしても、そのたびに何度でも校正可能。これは大変ありがたい機能で、いわば親切で忍耐強いバイリンガルが、24時間そばにいてくれるみたいなものです。ただ、ChatGPTも使いようです。フリートークでのディスカッションでは、英会話におけるスピーキングは確かにChatGPTで鍛えてもらうことはできるけれども、リスニングはどうなのか、ということがありました。これについては誰からもいいアイデアが出ませんでした。私自身も現在は模索中です。ただChatGPT自身の進化、そしてユーザー側の使い方の工夫も相まって、近いうちに効果的なリスニングの向上法が見いだされるのではないかと期待しております。最後に1句立冬や もはや友達 AIは

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日本人の認知機能にはEPA/DHAに加えARAも重要―脳トレとの組合せでの縦断的検討

 パズルやクイズなどの“脳トレ”を行う頻度の高さと、アラキドン酸(ARA)やドコサヘキサエン酸(DHA)という長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)の摂取量の多さが、加齢に伴う認知機能低下抑制という点で、相加的に働く可能性を示唆するデータが報告された。また3種類のLCPUFAの中で最も強い関連が見られたのは、DHAやエイコサペンタエン酸(EPA)ではなくARAだという。サントリーウエルネス(株)生命科学研究所の得田久敬氏、国立長寿医療研究センター研究所の大塚礼氏らの研究結果であり、詳細は「Frontiers in Aging Neuroscience」に8月7日掲載された。 認知機能の維持には、食習慣や運動習慣、脳を使うトレーニング“脳トレ”などを組み合わせた、多面的なアプローチが効果的であると考えられている。ただ、それらを並行して行った場合の認知機能に対する影響を、縦断的に追跡した研究報告は少ない。得田氏らは、栄養関連で比較的エビデンスの多いLCPUFAと脳トレの組み合わせが、加齢に伴う認知機能低下を抑制するのではないかとの仮説の下、以下の検討を行った。 この研究は、国立長寿医療研究センターが行っている「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用いて行われた。2006~2008年に登録された認知症のない60歳以上の地域住民から、EPA製剤が処方されておらずデータ欠落のない906人を解析対象とした。対象者の主な特徴は、平均年齢70.2±6.7歳、男性50.8%で、認知機能を表すMMSEは30点満点中28.1±1.6点であり、3日間の食事記録(サプリメント摂取も含む)から推計したLCPUFAの1日当たり摂取量の中央値は、ARAが152mg、EPAが280mg、DHAが514mgだった。また、クロスワードパズルや数字パズルなどの脳トレを、週1回以上行っている割合は、35.8%だった。 2年間の追跡で、MMSEが2点以上低下した場合を「認知機能の低下」と定義すると、180人(19.9%)がこれに該当。認知機能が低下した群はそうでない群に比べて、高齢で教育歴が短く、ベースライン時点のMMSEが高いことのほかに、ARA摂取量が少ない(140対154mg/日、P=0.005)という有意差が認められた。EPAとDHAの摂取量は認知機能低下と有意な関連を認めなかった。また、性別の分布、喫煙、アルコール摂取量、身体活動量、BMI、基礎疾患有病率、および脳トレの頻度も有意差がなかった。 脳トレの頻度および3種類のLCPUFAの摂取量について、それぞれの三分位で3群に分け、交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙、アルコール摂取量、身体活動量、教育歴、収入、基礎疾患、抑うつ傾向、MMSEなど)を調整して、認知機能の低下との関連を検討すると、脳トレの頻度の高さ(傾向性P=0.025)と、ARA摂取量の多さ(傾向性P=0.006)が有意に関連していた。EPAやDHAの摂取量との関連は非有意だった。有意な関連の認められた脳トレ頻度の高低(週1回以上/未満)、および、ARA摂取量の多寡(中央値以上/未満)とで全体を4群に分けて、双方が少ない群を基準として認知機能の低下のオッズ比(OR)を算出した結果、他の3群は全てオッズ比が有意に低く、双方が多い群で最も低いオッズ比(OR0.415)が観察された(傾向性P=0.001)。 ところで、本研究ではEPAやDHAと認知機能低下との関連が非有意だったが、海外からはEPAやDHAも認知機能に対して保護的に働くことを示唆するデータが複数報告されている。この違いの理由として、日本人は魚の摂取量が多いため、EPAやDHAの平均摂取量が海外の報告より約3倍以上高いことの影響が考えられる。そこで、本研究の対象者のうち、EPA、DHAの摂取量が下位3分の1の人に絞り込んで、上記と同様のサブグループ解析を施行した。その結果、DHAについては摂取量が多いほど認知機能低下のオッズ比が低いという有意な関連が認められ(傾向性P=0.023)、かつ、脳トレ頻度と組み合わせた4群での比較でも、双方が多いことによる相加的な影響が認められた(傾向性P=0.025)。一方、EPAに関してはこの対象の解析でも、有意性が見られなかった。 著者らは、「脳トレ頻度の高さとARA摂取量が多いことの組み合わせは、高齢日本人の認知機能低下リスクを相加的に抑制する可能性がある。また、魚介類の摂取量が少ない高齢者では、DHAも同様に作用すると考えられる」と結論付けている。

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禁煙開始が「遅すぎる」ことはない

 喫煙習慣のある高齢者の中には、「今さら禁煙しても意味がない」と考えている人がいるかもしれない。しかし、実際はそんなことはなく、高齢期に入ってから禁煙したとしても、タバコを吸い続けた場合よりも長い寿命を期待できることが明らかになった。例えば75歳で禁煙した場合、喫煙を続けた人よりも1年以上長く生きられる確率が14.2%に上るという。米ミシガン大学のThuy Le氏らが、禁煙によるメリットを禁煙開始時の年齢別に解析した結果であり、詳細は「American Journal of Preventive Medicine」に6月25日掲載された。 この研究には、米国で行われている国民健康調査やがん予防研究、国勢調査、死亡統計などのデータが用いられた。35~75歳の間のさまざまな時点の喫煙状況で対象者を3種類(喫煙歴なし、喫煙継続、禁煙)に分類し、平均余命を割り出して比較した。その結果、若いうちに禁煙したほうがメリットは大きいものの、高齢になってから禁煙した場合にも、喫煙を続けた人より寿命が延びることが示された。詳細は以下のとおり。 まず、35歳の一般人口の平均余命は45.4年、喫煙歴のない人は47.8年、喫煙者は38.7年、35歳で禁煙した人は46.7年。35歳時点で禁煙することにより、喫煙を続けた場合に比べて平均余命が8.0年延長し、1年長く生きられる確率が52.8%、4年長く生きられる確率が45.4%、6年長く生きられる確率が40.6%、8年長く生きられる確率が36.0%であることが示された。 一方、65歳の一般人口の平均余命は19.5年、喫煙歴のない人は20.9年、喫煙者は15.1年、65歳で禁煙した人は16.8年。65歳時点で禁煙することにより、喫煙を続けた場合に比べて平均余命が1.7年延長し、1年長く生きられる確率が23.4%、4年長く生きられる確率が16.3%、6年長く生きられる確率が12.4%、8年長く生きられる確率が9.3%だった。 また、75歳の一般人口の平均余命は12.3年、喫煙歴のない人は13.4年、喫煙者は9.0年、75歳で禁煙した人は9.7年。75歳時点で禁煙することにより、喫煙を続けた場合に比べて平均余命が0.7年延長し、1年長く生きられる確率が14.2%、4年長く生きられる確率が7.9%、6年長く生きられる確率が5.1%、8年長く生きられる確率が3.1%だった。 論文の筆頭著者であるLe氏は、「過去10年間で、若者の喫煙率は著しく低下した。しかし、高齢者の喫煙率は変化が少ない」と述べるとともに、「われわれが知る限り、禁煙が高齢者にもメリットをもたらすことを立証した研究は過去にない。われわれは、喫煙をやめることがどの年齢でも有益であることを示し、喫煙習慣のある高齢者に禁煙の動機付けとしてほしかった」と研究背景を語っている。 論文の上席著者である同大学のKenneth Warner氏も、「高齢になってから禁煙することで得られるメリットは、絶対値としては低いように思えるかもしれないが、残されている寿命に大きな影響を与える」と述べている。

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