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小声の患者さん、実は“ふるえ”が潜んでる!?【Dr.山中の攻める!問診3step】第11回

第11回 小声の患者さん、実は“ふるえ”が潜んでる!?―Key Point―安静時の振戦はパーキンソン病でみられる両上肢を前方に挙上するときに観察される姿勢時振戦は本態性振戦で起こる治療可能なふるえを見逃さない症例:75歳 男性主訴)右手がふるえる現病歴)3年前から両手のふるえを自覚するようになった。1年前から次第に手のふるえがひどくなっている。2週間前、役所で書類にサインを求められたが、手がふるえて字がうまく書けなかった。既往歴)高血圧症薬剤歴)アムロジピン生活歴)焼酎1合を週に2回、喫煙なし身体所見)体温:36.7℃ 血圧:128/62mmHg 脈拍:86回/分 呼吸回数:16回/分 SpO2:96%(室内気)安静時振戦なし。両上肢を前方に挙上させると両手に振戦を認める。自分の名前を書かせると、右手に振戦が出現し字が大きく乱れる。経過)パーキンソン症候群を疑う症状と身体所見なし。本体性振戦と診断しプロプラノロールを処方した。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!病的振戦では本態性振戦が最も多く、次にパーキンソン病が多い書字やコップを使用して飲水する時に起こる運動時振戦は、日常生活に支障をきたすリチウム、バルプロ酸Na、テオフィリン、カフェイン、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などは薬剤性振戦を起こす1)【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】振戦を分類する2)(1)安静時振戦安静時にみられる。左右差が見られることが多い。動作により振戦は消失する。姿勢保持後、10秒くらいして振戦が再出現することがある(re-emergent tremor)。暗算負荷などの精神的緊張で増悪する。パーキンソン病、パーキンソン症候群が代表疾患(2)動作時振戦(a)姿勢時振戦両上肢を前方に挙上するときに観察される。重力に抗した姿勢で出現しやすい。代表疾患は本態性振戦、生理的振戦、甲状腺機能亢進症で、薬剤性やアルコール離脱などが原因で生じることもある。(b)運動時振戦書字やコップで水を飲む時に起こる。日常生活に支障をきたす。本態性振戦、小脳疾患、脳血管障害で起こる(c)企図振戦 目標に近づくほど振戦が増大する。小脳障害、多発性硬化症、ウィルソン病でみられる*本態性振戦とパーキンソン病の患者ビデオ(Stanford Medicine 25)【STEP3-1】本態性振戦とパーキンソン病の特徴的症状があるかを確かめる2)病的な振戦では本態性振戦(有病率:2.5~10%)とパーキンソン病(有病率:0.1%)が多い。画像を拡大するパーキンソン病の安静時振戦は逆N字型(またはN字型)に進行する。たとえば、右手→右足→左手→左足(下図参照)(図)パーキンソン病では無動、固縮(歯車現象、鉛管様固縮)を認める。非運動症状(レム睡眠行動異常、うつ症状、嗅覚低下、倦怠感、起立性低血圧)がある3)本態性振戦は小脳失調を合併することがある本態性振戦からパーキンソン病に進展するケースもある【STEP3-2】ほかの鑑別診断を考える徐々に発症するときは生理的振戦、本態性振戦を考える●生理的振戦緊張すると姿勢時振戦を起こす。低振幅、高振動数。カフェイン、β刺激薬で悪化●ジストニア特定の姿勢や動作で誘発される。書痙●心因性振戦突然発症する。気をそらせると消失●二次性振戦甲状腺機能亢進症、低血糖、尿毒症、薬剤(リチウム、バルプロ酸Na、テオフィリン、カフェイン、SSRI)、中毒(マンガン、鉛、水銀)●アルコールやベンゾジアゼピンの離脱症状としても振戦が起こる【治療】ストレスを軽減させる生活指導振戦のため書字が困難なら、できるだけ太いペンを使用する本態性振戦にはアロチノロール、プロプラノロール(商品名:インデラル)、プリミドンを処方するパーキンソン病には抗コリン薬が有効なことがあるが、幻覚や認知機能障害が出現する場合があるMRガイド下集束超音波治療(FUS)<参考文献>1)Elias WJ, et al. JAMA. 2014;311:948-954. 2)望月秀樹. 日本内科学会雑誌. 2017;107: 464-468.3)Kalia LV, et al. Lancet. 2015;386:896-912.

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多疾患罹患、中年期の発症で認知症リスク増加 /BMJ

 多疾患罹患(multimorbidity)は、高年期よりも中年期の発症で認知症との関連が強く、併存する慢性疾患の数が多いほど認知症のリスクが高くなることが、フランス・パリ大学のCeline Ben Hassen氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年2月2日号で報告された。Whitehall II研究のデータを用いた前向きコホート研究 研究グループは、中年期および高年期の多疾患罹患と、認知症の新規発症との関連を評価する目的で、前向きコホート研究を実施した(米国国立老化研究所[NIA]などの助成を受けた)。 解析には、進行中のWhitehall II研究のデータが用いられた。Whitehall II研究には、ベースライン時(1985~88年)に35~55歳のロンドン市の公務員が登録され、約4~5年ごとにフォローアップの調査が行われている。 主要アウトカムは、1985~2019年におけるフォローアップ時の新規発症の認知症とされた。原因別Cox比例ハザード回帰を用い、死亡の競合リスクを考慮したうえで、全体、55歳、60歳、65歳、70歳の時点での多疾患罹患とその後の認知症との関連が評価された。55歳時の多疾患罹患で、認知症リスクが2.44倍に 1万95例が解析に含まれた。多疾患罹患(13の慢性疾患のうち2つ以上)の有病率は、55歳時が6.6%(655/9,937例)、70歳時は31.7%(2,464/7,783例)であった。フォローアップ期間中央値31.7年の時点で、639例(平均年齢49.9[SD 4.9]歳、男性58.5%)が新規の認知症に罹患した。 認知症罹患者で最も頻度の高い慢性疾患は高血圧症(77.9%)で、次いで冠動脈疾患(27.7%)、抑うつ(27.2%)、糖尿病(24.7%)の順であった。がんを除く12の慢性疾患は、認知症罹患と関連が認められた。 社会人口学的因子と健康行動(喫煙、身体活動、飲酒、果物/野菜摂取)で補正すると、慢性疾患がないまたは1つの集団と比較して、55歳時の多疾患罹患はその後の認知症のリスクと関連が認められた(1,000人年当たりの罹患率の差:1.56、95%信頼区間[CI]:0.62~2.77、ハザード比[HR]:2.44、95%CI:1.82~3.26)。 この関連性は、多疾患罹患の発症年齢が高くなるに従って徐々に弱くなった。たとえば、55歳以前に多疾患罹患を発症した場合は、65歳時の1,000人年当たりの認知症罹患率の、慢性疾患がないまたは1つの集団との差は3.86(95%CI:1.80~6.52)であった(HR:2.46、95%CI:1.80~3.36)のに対し、60~65歳時に発症した場合は、65歳時の1,000人年当たりの認知症罹患率の同差は1.85(95%CI:0.64~3.39)であった(HR:1.51、1.16~1.97)。 70歳時の多疾患罹患の状態の解析では、多疾患罹患の発症年齢が5歳若くなるごとに、認知症リスクは18%ずつ高くなった(HR:1.18、95%CI:1.04~1.34)。 また、55歳時に3つ以上の慢性疾患を有する多疾患罹患の場合は、1,000人年当たりの認知症罹患率の、慢性疾患がないまたは1つの集団との差は5.22(95%CI:1.14~11.95)であった(HR:4.96、95%CI:2.54~9.67)。一方で70歳時の同様の解析では、1,000人年当たりの認知症罹患率の同差は4.49(95%CI:2.33~7.19)であり(HR:1.65、95%CI:1.25~2.18)、多疾患罹患の発症年齢が高くなるに従って関連性が徐々に弱くなった。 著者は、「多疾患罹患は発症年齢の若年化が進んでいるため、初発の慢性疾患を有する集団における多疾患罹患の予防が重要である」としている。

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コロナ感染の抑制、政府・対人信頼度と関連/Lancet

 パンデミックの発生以来、各国の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染率や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)死亡率は大きく変動している。それらの変動の要因を検証したところ、パンデミックへの事前対策指標の高低とは関連が認められなかった一方で、政府への信頼度や対人信頼度が高いこと、また政府内の汚職が少ないことが、同感染率の低下と関連していたことを、米国・ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)のJoseph L. Dieleman氏らCOVID-19 National Preparedness Collaboratorsが、177の国と地域のデータを基に検証し明らかにした。本検討は、将来のパンデミックへのより効果的な準備と対応のために不可欠な取り組みを明らかにする目的で行われたものだが、著者は、「今回の結果は、主要な修正可能なリスクに関する健康増進は、個々人が公衆衛生ガイダンスに抱く信頼を高めるようなリスクコミュニーケションやコミュニティ戦略へ、より大きな投資をすることで、死亡抑制に結びつくことを示唆するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2022年2月1日号掲載の報告。12のパンデミック事前準備指標、7つの医療体制能力指標などとの関連を検証 研究グループは177の国と地域および181の行政区画について、IHMEモデリング・データベースを基に、SARS-CoV-2感染率とCOVID-19死亡率を抽出し、累積感染率や感染致死率(IFR)を予測し、環境要因、人口統計学的要因、生物学的要因、経済学的要因について標準化し検証した。 感染率については、季節環境(肺炎のリスク比で測定)、人口密度、1人当たり国内総生産(GDP)、標高100m未満の居住人口割合、その他のβコロナウイルス曝露の代理変数を因子として盛り込んだ。 IFRについては、人口年齢分布、平均BMI値、大気汚染曝露、喫煙率、他のβコロナウイルス曝露の代理変数、人口密度、慢性閉塞性肺疾患(COPD)・がんの年齢標準化罹患率、1人当たりGDPを因子とした。 これらを、間接年齢標準化および多変量線形モデルを用いて標準化。標準化全国累積感染率とIFRについて線形回帰を用いて、12のパンデミック事前対策指標、7つの医療提供体制能力指標、その他10項目の人口統計学的・社会的・政治的状況との関連を検証した。 さらに、SARS-CoV-2感染率に影響を与える可能性のある重要な要因の経路を調べるため、対人信頼度、政府への信頼度や汚職の状況、人々の移動パターンの変化やCOVID-19ワクチン接種率との関連性についても検証した。デンマークレベルの対人信頼度に改善されれば世界の感染率は40.3%減少 2020年1月1日~2021年9月30日の、SARS-CoV-2累積感染率の変動の主な要因は、標高100m未満の居住人口割合(変動の5.4%[95%不確定区間[UI]:4.0~7.9])、1人当たりGDP(4.2%[1.8~6.6])、季節変化に起因する感染の割合(2.1%[1.7~2.7])だった。国別の累積感染率の変動については、その大部分が説明不能だった。 同期間のCOVID-19のIFRの変動に関する主な要因は、国の年齢構成(変動の46.7%[95%UI:18.4~67.6])、1人当たりGDP(3.1%[0.3~8.6])、国平均BMI(1.1%[0.2~2.6])だった。国別のIFR変動の44.4%(29.2~61.7)は、説明不能だった。 国の医療保障の目安となるパンデミック事前対策指標については、標準化感染率やIFRとの関連は認められなかった。 一方、政府への信頼度や対人信頼度、政府の汚職が少ないことと、低い標準化感染率について、強い統計的に有意な関連が認められた。これらの因子は、COVID-19ワクチンが広く普及する中~高所得国において、高いワクチン接種率とも関連していた。また、汚職が少ないことは移動の減少とも関連していた。  こうしたモデルの関連性に因果関係があると仮定した場合、すべての国の政府への信頼度または対人信頼度が、デンマークのレベル(全体の75パーセンタイルに相当)に達すれば、世界の感染率は、政府への信頼度の改善により12.9%(95%UI:5.7~17.8)、対人信頼度の改善では40.3%(24.3~51.4)、それぞれ減少できると予測された。同様に、すべての国のBMIが全体の25パーセンタイルに該当するよう抑制されれば、世界の標準化IFRは11.1%減少するとも予測された。

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トファシチニブ、心血管リスクの高いRA患者での安全性を検討/NEJM

 心血管リスクの高い関節リウマチ患者において、トファシチニブ5mgまたは10mgの1日2回投与は腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬と比較し、主要有害心血管イベント(MACE)および悪性腫瘍の発現率が高く、非劣性基準を満たさなかった。米国・メイヨー・クリニックのSteven R. Ytterberg氏らが30ヵ国323施設で実施した、無作為化非盲検非劣性第IIIb-IV相安全性評価試験「ORAL Surveillance試験」の結果、明らかとなった。日和見感染症、帯状疱疹および非黒色腫皮膚がんの発現率もトファシチニブ群が高率であることが示された。NEJM誌2022年1月27日号掲載の報告。トファシチニブ2用量の安全性をTNF阻害薬と比較 研究グループは、2014年3月~2020年7月に、メトトレキサート治療を受けているにもかかわらず活動性の関節リウマチであり、心血管リスク因子(現喫煙者、高血圧、HDLコレステロール値40mg/dL未満、糖尿病、早発性冠動脈疾患の家族歴、関節リウマチの関節外病変、冠動脈疾患の既往歴)を1つ以上有する50歳以上の患者を、トファシチニブ5mgの1日2回投与群、同10mgの1日2回投与群、TNF阻害薬投与群に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。TNF阻害薬の投与は、米国、プエルトリコ、カナダを含む北米ではアダリムマブ40mgを2週間ごと、それ以外の地域ではエタネルセプト50mgを週1回とした。 主要評価項目は、外部委員会判定によるMACEおよび悪性腫瘍(非黒色腫皮膚がんを除く)。TNF阻害薬群と比較して、トファシチニブ2用量統合群のハザード比の両側95%信頼区間(CI)の上限が1.8未満の場合、トファシチニブの非劣性を示すものとした。MACE、悪性腫瘍のいずれもトファシチニブで発現リスクが高い 解析対象は、トファシチニブ5mg群1,455例、トファシチニブ10mg群1,456例、TNF阻害薬群1,451例であった。 追跡期間中央値4.0年において、MACEおよび悪性腫瘍の発現率は、トファシチニブ統合群でそれぞれ3.4%(98例)、4.2%(122例)、TNF阻害薬群で2.5%(37例)、2.9%(42例)であり、トファシチニブ統合群で高率だった。ハザード比は、MACEが1.33(95%CI:0.91~1.94)、悪性腫瘍が1.48(95%CI:1.04~2.09)で、いずれもトファシチニブの非劣性は示されなかった。 また、日和見感染症(帯状疱疹、結核を含む)、すべての帯状疱疹(非重篤および重篤)、および非黒色腫皮膚がんの発現率も、TNF阻害薬群よりトファシチニブ5mg群および10mg群で高かった。 有効性は3群で同等であり、2ヵ月目から認められた改善は試験終了まで持続した。

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新型コロナ、スーパースプレッダーとなりうる人の特徴/東京医科歯科大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、すべての患者が等しく感染を広げるのではなく、高いウイルスコピー数をもつ特定の患者がとくに感染を広げていくことが知られる。東京医科歯科大学の藤原 武男氏らによるRT-PCR検査によるウイルスコピー数を用いたCOVID-19入院患者の後ろ向き解析の結果、3つ以上の疾患の既往歴および、糖尿病、関節リウマチ、脳卒中の既往がスーパースプレッダーのリスク因子となることが示唆された。Journal of Infection誌オンライン版2021年12月30日号にレターとして掲載の報告より。 2020年3月~2021年6月に、中等症から重症のCOVID-19で東京医科歯科大学病院に入院し、少なくとも1回以上RT-PCR検査が行われた患者が解析対象とされた。入院患者の電子カルテの情報を基に、高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症・関節リウマチ・がん・慢性腎不全・脳卒中・心疾患・呼吸器疾患・アレルギーといった基礎疾患の有無とウイルスコピー数について関連が調査された。 主な結果は以下の通り。・計379例が適格となり、解析対象とされた。年齢中央値は59歳で、約33%が女性だった。・PCRテスト回数の中央値は2(1~26)回。複数回PCRテストを実施した患者の90%以上で、ウイルス量は1回目または2回目でその個人の最大値を示した。・約59%に基礎疾患があり、約21%に3つ以上の基礎疾患があった。・基礎疾患について詳細は、高血圧症が38.5%、糖尿病が21.6%、がんが18.7%、脂質異常症が18.5%、呼吸器疾患が10.8%、心疾患が9.0%、高尿酸血症が7.7%、慢性腎臓病が6.6%、脳卒中が5.0%、関節リウマチが2.1%だった。・1人を除きワクチンは未接種だった。・性別、年齢、喫煙状況について調整後の多変量回帰分析の結果、上記基礎疾患を3つ以上重複して有する患者では、基礎疾患のない患者と比較して、ウイルスコピー数が87.1倍(95%信頼区間[CI]:5.5~1380.1)高く、ウイルスコピー数の多さと有意に関連していた。・また、関節リウマチ患者では1659.6倍(95%CI:1.4~2041737.9)、脳卒中患者では234.4倍(95%CI:2.2~25704.0)倍、糖尿病患者では17.8倍(95%CI:1.4~ 223.9)ウイルスコピー数が高く、ウイルスコピー数の多さと有意に関連していた。・入院時の血液検査結果における血小板数とCRPレベルの低さも、ウイルスコピー数の多さと関連していた。 著者らは、軽症患者が解析に含まれていない点、変異株による影響が不明な点等の本研究の限界を挙げたうえで、基礎疾患の有無や検査値などの入院時に得られる情報に基づき、スーパースプレッダーとなる可能性の高い患者に対しては、とくに感染の初期において注意深い感染管理措置が必要なことが示されたとまとめている。

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コロナ疑似症患者の扱いは?感染状況に応じた外来診療の考え方/厚労省

 オミクロン株への急速な置き換わりが進み、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が急拡大する中、一部地域ではすでに発熱外来の電話がつながらない、予約が取れないといった状況が生じている。そのような状況を鑑み、厚生労働省では1月24日に事務連絡1)を発出。「診療・検査医療機関への受診に一定の時間を要する状況となっている等の場合」および「外来医療のひっ迫が想定される場合」に分けて、自治体(都道府県又は保健所設置市)の判断で行うことができる対応について示した。診療・検査医療機関への受診に一定の時間を要する状況となっている等の場合 上記に該当する場合には、自治体の判断で、以下(1)~(3)の対応を行うことが可能。(1)発熱等の症状がある場合でも、重症化リスクが低いと考えられる方(※1)については、医療機関の受診前に、抗原定性検査キット(※2)等で自ら検査していただいた上で受診することを呼びかけること。この場合に、医師の判断で、受診時に再度の検査を行うことなく、本人が提示する検査結果を用いて確定診断を行って差し支えない。 ただし、本人が希望する場合には検査前でも医療機関への受診は可能であることや、症状が重い場合や急変時等には速やかに医療機関を受診するよう、併せて呼びかけること。また、重症化リスクが高い方については、これまでどおり医療機関を受診していただき、適切な医療が受けられるようにすること。※1:たとえば、40歳未満で危険因子(基礎疾患・肥満等(注))を持たない、ワクチン2回接種済みの方を対象とすることが考えられる。臨床データ等を踏まえ、自治体において対象を変更することは差し支えない。(注)「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第6.1版」において、新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち重症化しやすいのは、基礎疾患等のある方として慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満のある方、喫煙、一部の妊娠後期の方があげられている。※2:抗原定性検査キットを用いる場合、検査結果が陰性であっても、症状が継続する場合等は医療機関を受診することや、検査結果が陽性の場合は、受診時に医師に提示できるよう、スマートフォン等を用いて画像として保存しておく等検査結果が分かるものを手元に残しておくことを併せて呼びかけるとともに、(2)の電話診療・オンライン診療をできるだけ活用すること。 抗原定性検査キットについては、有症状者が対象となりうることを踏まえ、下記を参考に自治体において対応をお願いする。なお、事業者等への委託を行う場合は、行政検査として、配布に当たって生じる委託料を感染症予防事業費負担金の対象とすることが可能である。・自治体等から有症状者に抗原定性検査キットを事前に配付する・医療機関で対象者に検査キットのみを配布する・事業者等に委託して「抗原定性検査キットセンター」等を設置して、当該センターで検査キットを配布する・自治体の庁舎等に検査キット配布窓口を設置して、検査キットを配布する この他、従前より、本人が薬局から購入し自宅に備え付けているものや自治体等から配布されたものがあれば、それを活用することが考えられるところ、地域の状況を踏まえた対応をしていただきたい。(2)地域の診療・検査医療機関以外の医療機関の協力も得て、電話診療・オンライン診療の遠隔診療を積極的に活用すること。 (3)同居家族などの感染者の濃厚接触者が有症状となった場合には、医師の判断により検査を行わなくとも、臨床症状で診断すること(※3)。 こうした場合でも、経口薬など治療薬の投与が必要となる場合等は、医師の判断で検査を行うことが可能であること。※3:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」)第12条第1項に基づく医師の届出に当たっては、疑似症患者として届け出ること。また、疑似症患者の場合には、入院を要すると認められる場合に限り当該届出を行うこととされているが、本対応を行う場合には、入院以外の場合であっても、届出をお願いすること。この場合、「B.1.1.529系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び濃厚接触者並びに公表等の取扱いについて」(令和3年11月30日付け(令和4年1月24日一部改正)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡2))Vの取扱いに従って届け出ること。外来医療のひっ迫が想定される場合 地域において外来医療のひっ迫が想定される場合には、自治体の判断で、以下の対応を行うことが可能。・症状が軽く重症化リスクが低いと考えられる方について、自らが検査した結果を、行政が設置し医師を配置する健康フォローアップセンターに連絡し、医療機関の受診を待つことなく健康観察(※)を受けること。※ITを活用した双方向による健康観察を行うことを想定(症状が悪化した場合、患者が入力した情報からその状況をシステム上で把握)。さらに、体調悪化時には必ず繋がる連絡先を伝えること。また、この場合、同センター等の医師が感染症法第12条第1項に基づく届出を行うこととなる。

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咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例【Dr.山中の攻める!問診3step】第10回

第10回 咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例―Key Point―咳は重大な疾患の一つの症状であることがある詳細な問診、咳の持続時間、胸部レントゲン所見から原因疾患を絞り込むことができる慢性咳に対するアプローチを習得しておくと、患者満足度があがる症例:45歳 男性主訴)発熱、咳、発疹現病歴)3週間前、タイのバンコクに出張した。2週間前から発熱あり。10日前に帰国した。1週間前から姿勢を変えると咳がでる。38℃以上の発熱が続くため紹介受診となった。既往歴)とくになし薬剤歴)なし身体所見)体温:38.9℃ 血圧:132/75mmHg 脈拍:88回/分 呼吸回数:18回/分 SpO2:94%(室内気)上背部/上胸部/顔面/頭部/手に皮疹あり(Gottron徴候、機械工の手、ショールサインあり)検査所見)CK:924 IU/L(基準値62~287)経過)胸部CT検査で両側の間質性肺炎ありCK上昇、筋電図所見、皮膚生検、Gottron徴候、機械工の手、ショールサインから皮膚筋炎1)と診断された筋力低下がほとんど見られなかったので、amyopathic dermatomyositis(筋無症候性皮膚筋炎)と考えられるこのタイプには、急性発症し間質性肺炎が急速に進行し予後が悪いことがある2)本症例ではステロイドと免疫抑制剤による治療を行ったが、呼吸症状が急速に悪化し救命することができなかった◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!急性の咳(<3週間)では致死的疾患を除外することが重要である亜急性期(3~8週間)の咳は気道感染後の気道過敏または後鼻漏が原因であることが多い慢性咳(>8週間)で最も頻度が高い原因は咳喘息である【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】緊急性のある疾患かどうか考えよう咳を伴う緊急性のある疾患心筋梗塞、肺塞栓、肺炎後の心不全悪化重症感染症(重症肺炎、敗血症)気管支喘息の重積肺塞栓症COPD (慢性閉塞性肺疾患)の増悪間質性肺炎咳が急性発症ならば、心血管系のイベントが起こったかをまず考える心筋梗塞や肺塞栓症、肺炎は心不全を悪化させる心筋梗塞や狭心症の既往、糖尿病、高血圧、喫煙、脂質異常症、男性、年齢が虚血性心疾患のリスクとなる3つのグループ(高齢、糖尿病、女性)に属する患者の心筋梗塞は非典型的な症状(息切れ、倦怠感、食欲低下、嘔気/嘔吐、不眠、顎痛)で来院する肺塞栓症のリスクは整形外科や外科手術後、ピル内服、長時間の座位である呼吸器疾患(気管支喘息、COPD、間質性肺炎、結核)の既往に注意するACE阻害薬は20%の患者で内服1~2週間後に咳を起こす【STEP3-1】鑑別診断:胸部レントゲン所見と咳の期間で行う胸部レントゲン写真で肺がん、結核、間質性肺炎を確認する亜急性咳嗽(3~8週間)の原因の多くはウイルスやマイコプラズマによる気道感染である細菌性副鼻腔炎では良くなった症状が再び悪化する(二峰性の経過)。顔面痛、後鼻漏、前かがみでの頭痛増悪を確認する百日咳:咳により誘発される嘔吐とスタッカートレプリーゼが特徴的である2)【STEP3-2】鑑別診断3):慢性咳か否か8週間以上続く慢性咳の原因は咳喘息、上気道咳症候群(後鼻漏症候群)、逆流性食道炎、ACE阻害薬、喫煙が多い上記のいくつかの疾患が合併していることもある咳喘息が慢性咳の原因として最も多い。冷気の吸入、運動、長時間の会話で咳が誘発される。ほかのアレルギー疾患、今までも風邪をひくと咳が長引くことがなかったかどうかを確認する非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB:non-asthmatic eosinophilic bronchitis)が慢性咳の原因として注目されている3)上気道咳症候群では鼻汁が刺激になって咳が起こる。鼻咽頭粘膜の敷石状所見や後鼻漏に注意する夜間に増悪する咳なら、上気道咳症候群、逆流性食道炎、心不全を考える【治療】咳に有効な薬は少ないハチミツが有効とのエビデンスがある4)咳喘息:吸入ステロイド+気管支拡張薬上気道咳症候群:アレルギー性鼻炎が原因なら点鼻ステロイド、アレルギー以外の原因なら第一世代抗ヒスタミン薬3)逆流性食道炎:プロトンポンプ阻害薬<参考文献・資料>1)Mukae H, et al. Chest. 2009;136:1341-1347.2)Rutledge RK, et al. N Engl J Med. 2012;366:e39.3)ACP. MKSAP19. General Internal Medicine. 2021. p19-21.4)Abuelgasim H, et al. BMJ Evid Based Med. 2021;26:57-64.

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日本におけるコミュニティレベルの学力と認知症リスク

 コミュニティレベルの学力と認知症リスクとの関連は、あまり知られていない。浜松医科大学の高杉 友氏らは、認知症発症リスクに対し、コミュニティレベルでの低学歴の割合が影響を及ぼすかについて、検討を行った。また、都市部と非都市部における潜在的な関連性の違いについても、併せて検討した。BMC Geriatrics誌2021年11月23日号の報告。 日本老年学的評価研究(JAGES)より、2010~12年にベースラインデータを収集し、6年間のプロスペクティブコホートを実施した研究のデータを分析した。対象は、7県16市町村のコニュニティ346ヵ所の身体的および認知機能的な問題を有していない65歳以上の高齢者5万1,186人(男性:2万3,785人、女性:2万7,401人)。認知症発症率は、日本の介護保険制度から入手したデータを用いて評価した。教育年数を9年以下と10年以上に分類し、個々の学力レベルをコミュニティレベルの独立変数として集計した。共変量は、まず年齢および性別を用い(モデル1)、次いで収入、居住年数、疾患、アルコール、喫煙、社会的孤立、人口密集度を追加した(モデル2)。欠落データに対する対処として、複数の代入を行った。コミュニティおよび個人における2つのレベルでの生存分析を実施し、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中の認知症の累積発症率は、10.6%であった。・教育年数が9年以下であった平均割合、40.8%(範囲:5.1~87.3%)であった。・コミュニティレベルでの低学力は、認知症発症率の上昇と有意な関連が認められた(HR:1.04、95%CI:1.01~1.07)。・個人の教育年数と共変量で調整した後、低学歴による認知症リスクの上昇は10ポイントと推定された。・非都市部では有意な関連性が認められたが(HR:1.07、95%CI:1.02~1.13)、都市部では認められなかった(HR:1.03、95%CI:0.99~1.06)。 著者らは「コミュニティレベルでの学歴の低さは、そうでない地域と比較し、高齢者の認知症発症リスクが高く、非都市部では有意な関連が認められた。そのため、認知症予防の観点から、とくに都市部以外の地域において青年期の教育を確保することは、極めて重要な課題であると考えられる」としている。

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第94回 喫煙者はより孤立して孤独になっていく

英国イングランドを代表する50歳以上の8,780人を12年間追跡したところ喫煙者は齢を重ねるほどに非喫煙者に比べてより社会的に孤立して孤独になっていました1,2)。孤立して孤独な人ほど喫煙することが先立つ試験で示されていますが、今回の試験は喫煙のせいで孤立や孤独の度合いがどうやら深まっていくことを初めて明らかにしました1)。喫煙は社交の助けになるとの主張を今回の結果は支持していません。むしろその逆で、非喫煙者に比べて喫煙者は家族や友人との交流をより失っていき、近所付き合いや趣味がより乏しくなり、一人で住むことが多くなります。そのような傾向は年齢、性別、貧困や社会的地位を考慮しても認められました。推移を追った今回の観察試験では喫煙と孤立や孤独の関連の原因を突き止めることはできていませんが、喫煙で身体が傷むことで出不精になってしまうことがその一因かもしれません。喫煙は息切れ、肺や心臓などの病気を生じやすくし、その結果社交が途絶えがちなる恐れがあります。または、喫煙で生じ易くなる不安やうつなどの精神の不調が人との関わりを減らしているとも考えられます。あるいは、喫煙者の友人もまた喫煙者であることが多く、ゆえに早く死んでしまって寂しくなっていくのかもしれません。社会が喫煙を相容れなくなりつつあること、とくに間接喫煙の害を減らすための禁煙の決まりが広がっているなどの環境要因の寄与もありそうです。今後の試験で喫煙が孤立/孤独を招く原因を調べる必要がありますが、ともあれ喫煙が社交を促すという考えはおよそ正しくないようです2)。すでに判明している身体への数々の悪影響に加えて喫煙が気の持ちようや社会生活も害しうることを示唆した今回の試験結果が新年に際して禁煙を誓う人のそのいっそうの動機づけとなることを研究者は望んでいます1)。参考1)New findings suggest smoking increases social isolation and loneliness / Imperial College London2)Philip KE, et al.Lancet Reg Health Eur. 2022 Jan 2. [Epub ahead of print]

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心血管疾患2次予防にインフルエンザワクチンは必要か

 急性冠症候群の治療期間中における早期のインフルエンザワクチン接種によって、12ヵ月後の心血管イベント転帰改善が示唆された。本研究は、スウェーデン・Orebro UniversityのOle Frobert氏らにより欧州心臓病学会(ESC 2021)にて報告された。Circulation誌2021年11月2日号に掲載。 実施された国際多施設共同二重盲検ランダム化比較試験(IAMI trial)は、2016年10月1日~20年3月1日の4シーズンに8ヵ国(スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、ラトビア、英国、チェコ、バングラデシュ、オーストラリア)30施設で参加者を登録。急性心筋梗塞(MI)または高リスクの冠動脈疾患患者を対象に、入院から72時間以内にインフルエンザワクチンまたはプラセボを接種する群に1:1でランダムに割り付けた。 なお、過去12ヵ月間にインフルエンザワクチン接種を受けた者、入院したシーズン中にワクチン接種を受ける意思がある者は除外された。 主な結果は以下のとおり。・試験には2,571例が参加し、ワクチン群1,272例、プラセボ群1,260例に割り付けられた。 ・登録患者の平均年齢は59.9±11.2歳で、女性18.2%、男性81.8%だった。また喫煙者が35.5%含まれ、21.1%が糖尿病を合併していた。両群に有意な差はなかった。・参加者のうち、1,348例(54.5%)がST上昇型心筋梗塞、1,119例(45.2%)が非ST上昇型心筋梗塞、8例(0.3%)が安定冠動脈疾患で入院していた。・主要評価項目である12ヵ月後の全死亡、MI、ステント血栓症の複合発生率は、プラセボ群7.2%(91例)に対し、ワクチン群では5.3%(67例)と有意にリスクが低下した。(ハザード比[HR]:0.72、95%CI:0.52~0.99、P=0.040)。・それぞれの発生率について、全死亡はワクチン群2.9%(37例)vs.プラセボ群4.9%(61例)、心血管死はそれぞれ2.7%(34例)vs. 4.5%(56例)で、いずれのリスクもワクチン群で有意に低下した(全死亡のHR:0.59、95%CI:0.39~0.89、p=0.010/心血管死のHR:0.59、95%CI:0.39~0.90、p=0.014)。・MIの発生率はワクチン群2.0%(25例)vs.プラセボ群2.4%(29例)で両群に有意な差はなかった(HR:0.86、95%CI:0.50~1.46、p=0.57)。 この結果により、研究者らは心血管疾患患者における毎年の季節性インフルエンザワクチン接種の重要性を強調している。 なお、本試験は登録患者4,400例を目標にしていたが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響で、目標の58%が登録された時点(2020年4月7日)でデータ安全監視委員会(DSMB)により早期中止された。

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統合失調症の死亡率と関連するリスク因子

 統合失調症患者の死亡率に関連する因子を調査するため、トルコ・コジャエリ大学のHilmi Yasar氏らは、10年間のフォローアップ調査を実施した。Turk Psikiyatri Dergisi誌2021年秋号の報告。 2004~08年に大学病院の精神科を受診し、外来および/または入院にて治療を受けた統合失調症患者の記録を検索し、2018年末までの生存率を算出した。その結果は、同一期間の一般集団におけるすべての原因による死亡率と比較した。また、統合失調症患者の死亡率に影響を及ぼすリスク因子についても調査した。 主な結果は以下のとおり。・登録された患者626例のうち506例を本検討に含めた。・10年間の死亡率は10.6%、死亡時の平均年齢は53.1歳であった。・全体的な平均寿命は73.4歳であり、男性66.6歳、女性77.6歳と差が認められた。また、喫煙者の平均寿命は64.7歳、非喫煙者は76.5歳であった。・全体的な標準化死亡比(SMR)は3.7、男性3.9、女性3.3であった。・死亡に関連するリスク因子は、高齢、男性、喫煙者、無職、早期発症であった。 著者らは「統合失調症患者の死亡リスクに対し、喫煙は重大なリスク因子である。禁煙プログラムを優先し、患者が参加できるリハビリテーションサービスを支援することにより、死亡リスク減少が期待できるであろう」としている。

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未診断のCOPDを放置しないで!早期診断・治療に質問票の活用も

 先日、アストラゼネカが「世界COPDデー(11月17日)」にセミナーを開催した。室 繁郎氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座 教授)が、要介護の前段階“フレイル”の予防という視点から、COPDの早期診断・治療の重要性についての講演を行った。つづいて、山村 吉由氏(奈良県広陵町町長)が自治体として2014年度から取り組んでいるCOPD対策事業について講演した。また、セミナーの後半では、3年前にTV番組でCOPDの診断を受けた経験のある松嶋 尚美氏をゲストとして、トークセッションが設けられた。COPDによる死亡者は気管支喘息の約14倍 室氏は、はじめに正常肺組織の電子顕微鏡写真を示し、長期の喫煙が正常な肺にどのように影響を及ぼすのかを図示。COPDに生じる肺気腫や慢性気管支炎・細気管支病変などの病態を説明した。正常肺では、肺胞隔壁は弾性繊維を豊富に含み、吸気において肺は横隔膜筋の収縮により主に頭尾方向に伸長し、呼気では肺自身の弾性収縮力により呼気位に戻る。しかし、COPDでは肺の弾力性が失われており、呼気の気道の虚脱も生じるため、「頑張るほど息が吐けない(胸郭内圧が上昇すると気道虚脱を招いて呼出に時間が掛かる)」状態になるという。 また、COPDに罹患すると肺がん、心不全、心筋梗塞・狭心症、高血圧症、骨粗しょう症、糖尿病、不整脈、消化性潰瘍、胃食道逆流症、うつ病などが併存するリスクが上昇することがガイドラインに記載されている。2020年の人口動態統計では、わが国のCOPDによる死亡者数は1万6,125例で、気管支喘息による死亡者の約14倍だった。とくに男性では死亡原因の第10位となっている。 NICE studyで調査された日本のCOPD有病率は、日本人の全人口あたりでは8.6%だが、喫煙歴(過去も含む)のある高齢者を対象としたデータでは、60歳で15~20%、70歳を超えると35~45%がCOPDという報告もある。高齢喫煙者の5人に1人以上がCOPDを発症する一方で、GOLD日本委員会が一般人を対象に実施したCOPD認知度把握調査によると、COPDを「知らない」と答える人は7割を超えている。室氏は「COPDは、主に喫煙によって引き起こされるありふれた疾患であるにも関わらず、(一般社会や患者さんに)あまり認知されていない」と警鐘を鳴らした。COPDもフレイルも進行させないことが重要 続いて、室氏は「COPDは早期診断・早期治療が重要で、放置しておくと“フレイル”に陥ることも考えられるため、社会課題として取り組まなければいけない疾患だ」と説明。COPD患者の呼吸機能(FEV1)の経年低下は、病早期に最も大きいことをグラフで示した。なお、軽症のうちであれば、禁煙することで呼吸機能が回復する余地があるという。COPDの発症年齢の中央値は現喫煙者で55歳、過去喫煙者で65歳という疫学調査データもあるので、日本が長寿社会であることを踏まえると、早めにやめるほど健康上のメリットが大きい。 COPDによる呼吸機能障害は、身体活動性の低下や疲れやすさにつながり、ゆくゆくは筋肉の質・量の低下、栄養障害による体重減少を引き起こすなど、フレイルとの親和性が非常に高く、その進展をくい止めなければならない。室氏は、COPDやフレイルの簡易的なスクリーニングに「COPD-Q」「COPD-PS」「簡易フレイル・インデックス」など、診察室でも使える質問票の活用を勧めた。 COPDの受診勧奨を自治体として行っている山村町長は、「ハイリスクの方と治療中断者を特定し、受診勧奨のはがきを対象者に送付することで、受診率を上げることができた」と、実際の対策事例を紹介。 講演を聞いた松嶋氏は、診断後も本数は減ったものの喫煙は続いており、治療も受けていないことを明かした。「フレイルという言葉を今回初めて知ったので、COPDの治療を早く行うことが大事だと思いました。子供もいて、将来寝たきりになると困るので、すぐに受診します」と語った。また、その場でセルフチェックを行い、COPD-PSで5点だったことを踏まえ、「喫煙経験のある方はぜひ自分でチェックして、COPDの可能性がある場合は受診しましょう!」と呼び掛けた。

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新型コロナ感染のがん患者の15%に後遺症、生存率にも影響

 がん患者がCOVID-19に感染した場合の後遺症の有病率、生存率への影響、回復後の治療再開と変更のパターンを調べた研究結果が、2021年11月3日のThe Lancet Oncology誌に掲載された。 本研究は、固形がんまたは血液がんの既往歴があり、PCR検査でSARS-CoV-2感染が確認された18歳以上の患者を登録する欧州のレトロスペクティブ試験で、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国の35施設で患者が登録された。2020年2月27日~2021年2月14日にSARS-CoV-2感染と診断され、2021年3月1日時点でレジストリに登録された患者を解析対象とした。 COVID-19による後遺症の有病率を記録し、それらの発症に関連する因子とCOVID-19後の生存率との関連を検討した。また、COVID-19診断後4週間以内に治療を受けた患者の全身性抗がん剤治療の再開についても評価した。 主な結果は以下のとおり。・2,795例が登録され、2,634例が解析対象となった。1,557例のCOVID-19生存者が、がん診断から中央値22.1ヵ月(IQR:8.4~57.8)、COVID-19診断から44(28~329)日後に再評価を受けた。なお、COVID-19ワクチンを少なくとも1回接種していたのは178例(7%)に過ぎず、そのすべてがCOVID-19回復後の接種であった。・234例(15.0%)がCOVID-19による後遺症を報告し、その中には呼吸器症状(116例[49.6%])と残存疲労感(96例[41.0%])が含まれていた。後遺症は、男性(対女性:p=0.041)、65歳以上(対その他の年齢層:p=0.048)、2つ以上の併存疾患(対1つまたはなし:p=0.0006)、喫煙歴あり(対喫煙歴なし:p=0.0004)に多く認められた。後遺症は、COVID-19による入院(p

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EGFR変異肺がん外科切除例の特徴と予後~肺癌登録合同委員会からの考察/日本肺癌学会

 外科手術の対象となるEGFR変異肺がんの特徴や予後について、肺がん治療例の全国集計を行う肺癌登録合同委員会による2010年手術例を対象とした第7次事業の報告(以下、合同員会報告)からの考察として、第62回日本肺癌学会学術集会において近畿大学の須田健一氏が発表した。 合同委員会報告のデータを用いて、EGFR変異陽性肺がん(2,410例)とEGFR変異陰性肺がん(3,370例)の臨床病理学的因子の比較や予後解析などを行った。 その結果、EGFR変異陽性肺がんは非喫煙者、女性、すりガラス陰影(GGO)、リンパ管や脈管への湿潤のない肺がんが多かった。また、多変量解析からEGFR変異陽性肺がんは変異陰性肺がんに比べて予後が良好であることが示されていた(無増悪生存期間[PFS]ハザード比[HR]:0.894、95%信頼区間:0.814~0.980、p=0.017)。 EGFR変異は主にexon19 deletion(Del 19)と L858R point mutation(L858R)の2種類が存在する。合同委員会報告ではDel 19(983例)はL858R(1,170例)に比べて若年齢(66.1歳 vs.69.0歳)で、腫瘍サイズが大きく(2.33cm vs.2.07cm)、GGO例が多く、また病期が進むほど増える傾向がみられた。L858Rに比べDel 19で予後が悪い傾向が示されたが、予後予測因子としてのインパクトは大きいものではなかった。 EGFR変異陽性肺がん(1,120例)とEGFR変異陰性肺がん(1,550例)の初再発部位を比較したデータからは、EGFR変異陽性肺がんは、脳での再発が15.9%と、陰性の12.2%に比べ高いことが明らかになった。 日本の肺癌診療ガイドライン(2020)では、病変全体径が2cm以上の病理病期IA/IB/IIA期の完全切除腺がんに対しては、デガフール・ウラシル配合剤療法が推奨されている。デガフール・ウラシル配合剤単剤療法は、EGFR変異陰性肺がんでより治療効果が高い可能性を示唆する報告があるが、現行の化学療法の有用性は、今後のより大規模な研究で評価していく必要がある。

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肺炎球菌ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第11回

ワクチンで予防できる疾患:肺炎球菌感染症肺炎球菌感染症とは肺炎球菌の感染による疾病の総称であり、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎、髄膜炎などが含まれる。肺炎球菌は主に鼻腔粘膜に保菌され、乳幼児では40〜60%と高頻度に、成人ではおよそ3〜5%に保菌されている1)。感染経路は飛沫感染であり、小児の細菌感染症の主な原因菌の1つである。また、成人の市中肺炎の起因菌では38%と最も多い2)。肺炎球菌が髄液や血液などの無菌部位に侵入すると、菌血症を伴う肺炎、髄膜炎、敗血症などの侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease:以下「IPD」)を引き起こす。治療は抗菌薬投与および全身管理であるが、近年は薬剤耐性菌の出現も問題となっている3)。わが国の成人IPDの好発年齢は60~80代で4,5)、基礎疾患があることは発症や重症化のリスクとなる3,6)。65歳以上の成人(以下「高齢者」)の罹患率はおよそ5/10万人・年であり、致命率は6%台と高い1)。成人の肺炎球菌感染症とりわけIPDの発症や重症化の予防には、日常診療における基礎疾患の管理とともに肺炎球菌ワクチンの接種が重要である3,6)。ワクチンの概要肺炎球菌の病原因子の中で最も重要なものは、菌の表層全体を覆う莢膜である。この莢膜は多糖体からなり、97種類の型が報告されている3)。ある莢膜型の肺炎球菌に感染するとその型に対する抗体が獲得され、同じ型には感染しなくなるが、別の型には抗体がないため感染が成立し、発症する7)。そのため肺炎球菌による発症や重症化を予防するには、さまざまな莢膜型の抗体をあらかじめ獲得しておく必要があり7)、肺炎球菌ワクチンは莢膜多糖体を抗原としている。国内では以下の2つのワクチンが承認されているが、それぞれカバーする莢膜型の数や種類、免疫応答の方法などが異なる(表)。以下に2つのワクチンの特徴を述べる。1)23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)〔商品名:ニューモバックスNP〕23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(以下「PPSV23」)は、莢膜多糖体からなる不活化ワクチンで、23種類の莢膜型を有する。PPSV23接種による免疫応答では、T細胞を介さないため免疫記憶は獲得されず、B細胞の活性化によりIgG抗体のみが獲得される。IgG抗体は経年的に減弱し、減弱するとワクチン血清型の菌に対して予防効果は期待できなくなる3)。PPSV23の予防効果としては、接種により高齢者のワクチン血清型のIPDを39%減少させ8)、すべての肺炎球菌による市中肺炎を27.4%、ワクチン血清型の肺炎球菌による市中肺炎を33.5%減少させたと国内より報告されている9)。PPSV23は2006年に販売開始となり、2014年から5年間限定で65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳になる人を対象に定期接種となった。2019年度以降はさらに5年間の期限で、同年齢を対象に定期接種が継続されている10)。初回接種後の予防効果は3〜5年で低下する11)。再接種による予防効果について明確なエビデンスは報告されていないが、再接種後の免疫原性は初回接種時と同等であり、初回接種時と同等の予防効果が期待されている12)。また、再接種時の局所および全身性の副反応の頻度は初回接種時より高いことに注意が必要だが、いずれも軽度で許容範囲と考えられている12)。以上より症例によっては追加接種を繰り返してもよいと考えられ、接種後5年以上の間隔をおいて再接種することができる12)。2)沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)〔同:プレベナー13水性懸濁注〕沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(以下「PCV13」)は、莢膜多糖体に無毒化したジフテリア蛋白を結合させた蛋白結合型の不活化ワクチンで、13種類の莢膜型を有する。PCV13接種による免疫応答は、T細胞とB細胞を介している。まず、樹状細胞に抗原が提示されてT細胞の活性化を誘導する(T細胞依存型)。ついで活性したT細胞とB細胞の相互作用によりB細胞が活性化する。その後、形質細胞によるIgG抗体の産生とメモリーB細胞による免疫記憶が獲得される。そのため記憶された莢膜型の菌が侵入すると速やかにIgG抗体産生能が誘導(ブースター効果)され免疫能が高まる3)。小児に対する7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は2010年より販売開始となり、同年に接種費用の公費助成が開始された。2013年4月より定期接種となり、同年11月よりPCV13に切り替えられた。予防効果として、PCV7・PCV13の導入により小児のIPD、とくに髄膜炎は87%も激減したと報告されている4)。一方、2014年より高齢者に対しても適応が拡大され、任意接種することが可能となった。PCV13接種により高齢者のワクチン血清型のIPDを47〜57%減少させ、ワクチン血清型の肺炎(非侵襲型)を38〜70%、すべての原因の肺炎を6〜11%減少させたとの予防効果が諸外国より報告されている13)。さらに2020年5月からは、高齢者のみならず全年齢に適応が拡大され、全年齢の「肺炎球菌感染症に罹患するリスクが高い人」に接種が可能となった。また、PCV13接種には集団免疫効果が認められており、小児へのPCV7およびPCV13接種の間接効果(集団免疫)により、成人IPD症例のPCV13血清型(莢膜型)は劇的に減少した3)。その一方で、PCV13に含まれない血清型が増加するなど血清型置換が報告されている3)がこの問題は後述する。表 肺炎球菌ワクチン(PPSV23とPCV13)の比較画像を拡大する接種のスケジュール1)23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)〔商品名:ニューモバックスNP〕【定期接種】これまでにPPSV23を1回も接種したことがなく、以下(1)(2)にあてはまる人は定期接種として1回接種できる。(1)2019年度から2023年度末までの5年間限定で65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳になる人。なお、2023年度以降は65歳になる年度に定期接種として1回接種できる見込みである。(2)60〜64歳で、心臓、腎臓、呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限されている人。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)で免疫機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人。【任意接種】2歳以上で上記以外の人。接種後5年以上の間隔をおいて再接種することができる12)。2)沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)〔同:プレベナー13水性懸濁注〕【定期接種】小児(2ヵ月以上5歳未満)以下のように接種開始時の月齢・年齢によって接種間隔・回数が異なることに注意する。(〔1〕1回目、〔2〕2回目、〔3〕3回目、〔4〕4回目)[接種開始が生後2ヵ月~7ヵ月に至るまでの場合(4回接種)]〔1〕〔2〕〔3〕の間は 27 日以上(27~56日)、〔3〕〔4〕の間は 60日以上の間隔をあけて(12~15ヵ月齢で)接種する 。[接種開始が生後7ヵ月~12ヵ月に至るまでの場合(3回接種)]〔1〕〔2〕の間は 27日以上(27~56日)、〔2〕〔3〕の間は 60日以上の間隔をあけて(12ヵ月齢以降で)接種する。[接種開始が12ヵ月~24ヵ月に至るまでの場合(2回接種)]〔1〕〔2〕の間は 60日以上の間隔をあけて接種する。[接種開始が24か月-5歳の誕生日に至るまでの場合(1回接種)]1回のみ接種する。【任意接種】5歳以上の罹患するリスクが高い者:1回1回のみ接種する。日常診療で役立つ接種ポイント1)PPSV23の推奨(1)2歳以上の脾臓を摘出した患者肺炎球菌感染症の発症予防として保険適用されるが、より確実な予防のためには摘出の14日以上前までに接種を済ませておくことが望ましい。(2)2歳以上の脾機能不全(鎌状赤血球など)の患者(3)高齢者(4)心臓や呼吸器の慢性疾患、腎不全、肝機能障害、糖尿病、慢性髄液漏などの基礎疾患がある患者(5)免疫抑制作用がある治療が予定されている患者。治療開始の14日以上前までに接種を済ませておくことが望ましい。2)PCV13の推奨(1)乳幼児(生後2ヵ月~5歳未満:定期接種)IPDは、とくに乳幼児でリスクが高く、5歳未満の致命率はおよそ1%と報告され14)、後遺症を残す危険性もある。そのため乳児であっても、接種が可能となる生後2ヵ月以上ではワクチン接種をされることを強く勧める。(2)基礎疾患がある5〜64歳の人2017年時点のIPDの致命率は、6〜44歳で6.2%、45〜64歳で19.5%と高く、基礎疾患を有することがリスクとなることが報告されている6)。基礎疾患(先天性心疾患、慢性心疾患、慢性肺疾患、慢性腎疾患、慢性肝疾患、糖尿病、自己免疫性疾患、神経疾患、血液・ 腫瘍性疾患、染色体異常、早産低出生体重児、無脾症・脾低形成、脾摘後、臓器移植後、髄液漏、人工内耳、原発性免疫不全症、造血幹細胞移植後など6,15)がある人には、本人・保護者と医師との話し合い(共有意思決定)に基づいてワクチン接種をされることを勧める。詳しくは「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日)を参照。(3)基礎疾患がある高齢者、高齢者施設の入所者 基礎疾患(慢性的な心疾患、肺疾患、肝疾患、糖尿病、アルコール依存症、喫煙者など)がある高齢者では、本人・家族と医師との話し合い(共有意思決定)に基づいてワクチン接種することを勧める11)。とくに、髄液漏、人工内耳、免疫不全(HIV、無脾症、骨髄腫、固形臓器移植など)の患者には接種を勧める11)。高齢者施設の入所者も医師と相談して接種することを勧める11)。3)高齢者に対するPPSV23とPCV13の接種に関する考え方これまで高齢者に対するPPSV23とPCV13の接種について国内外で議論されてきたが、現時点での日本呼吸器学会・日本感染症学会の合同委員会による「考え方」16)を紹介する。【PPSV23未接種者に対して】(1)まず定期接種としてPPSV23の接種を受けられるようにスケジュールを行う。(2)PPSV23とPCV13の両方の接種をする場合には(1)を考慮しつつPCV13→PPSV23の順番で接種し、PCV13接種後6ヵ月〜4年以内にPPSV23を接種することが適切と考えられている。この順番の利点は、成人ではPCV13接種後に、被接種者に13の血清型の莢膜抗原特異的なメモリーB細胞が誘導され、その後のPPSV23接種により両ワクチンに共通した12の血清型に対する特異抗体のブースター効果が期待されることである。ただし、この連続接種については海外のデータに基づいており、日本人を対象とした有効性、安全性の検討はなされていない。【PPSV23既接種者に対して】PPSV23接種から1年以上あけてからPCV13接種を行う。詳細は以下の図1と「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版)」を参照。図1 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方(2019年10月)(日本感染症学会/日本呼吸器学会 合同委員会)画像を拡大する今後の課題・展望小児へのPCV7およびPCV13接種の間接効果(集団免疫)により、成人IPD症例のPCV13血清型(莢膜型)は劇的に減少したが、一方でPCV13に含まれない血清型が増加し、血清型置換が報告されている3)(図2)。図2 小児へのPCVs導入後のIPD由来株の莢膜型変化画像を拡大する2018年の厚生労働省の予防接種基本方針部会では、国内のIPDや肺炎原因菌の血清型分布などを検討しPCV13を高齢者に対する定期接種に指定しないと結論された17)。また、米国予防接種諮問委員会(ACIP)において、PPSV23はこれまで同様に推奨されたが、小児へのPCV13定期接種の集団免疫効果により高齢者の同ワクチン血清型の感染が劇的に減少したことから費用対効果も考慮し、高齢者へのPCV13の定期接種や一律のPCV13-PPSV23の連続接種は推奨しない方針に変更され、患者背景を考慮してPCV13接種を推奨することとされた13)。PCV13は高齢者の定期接種には指定されていないものの、接種しないことが勧められているわけではなく、その効果や安全性は確認されており13)、患者背景を考慮して接種する必要があることに注意する。とくに基礎疾患がある高齢者、高齢者施設の入所者には積極的に接種を勧めたい。また、2016年時点の高齢者のPPSV23接種率は40%ほど1)に留まっており、接種率のさらなる向上が必要である。基礎疾患を有することはIPDの重症化のリスクであり、日常診療における基礎疾患の管理とともに、適切にPPSV23やPCV13の接種を勧め、被接種者と共有意思決定を行い(shared decision making)、接種を実施し患者や地域住民をIPDから守りたい。わが国では成人IPDの調査・研究に限界があるが、前述の通りIPD症例の莢膜型の変化が報告4)されており、将来的にはさらに多くの血清型をカバーするワクチンやすべての肺炎球菌に共通する抗原をターゲットとした次世代型ワクチンの開発が望まれ、今後の動向にも注目したい3,6,18)。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)1)23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライド ワクチン(肺炎球菌ワクチン) ファクトシート. 平成30(2018)年5月14日.国立感染症研究所.2)13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(成人用)に関するファクトシート. 平成27年7月28日.国立感染症研究所. 3)65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 2019-10-30)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会4)「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日).日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会.5)こどもとおとなのワクチンサイト1)国立感染症研究所. 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライド ワクチン(肺炎球菌ワクチン) ファクトシート. 平成30(2018)年5月14日. 2018.(2021年8月9日アクセス)2)Yoshii Y, et al. Infectious diseases. 2016;48:782-788.3)生方公子,ほか. 肺炎球菌感染症とワクチン. 2019.(2021年8月10日アクセス)4)Ubukata K, et al. Emerg Infect Dis. 2018;24:2010-2020.5)Ubukata K, et al. J Infect Chemother. 2021;27:211-217.6)Hanada S, et al. J Infect Chemother. 2021;27:1311-1318.7)生方公子, ほか. 肺炎球菌. 重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析、その診断・治療に関する研究.(2021年8月10日アクセス)8)新橋玲子, ほか.成人侵襲性肺炎球菌感染症に対する 23 価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンの有効性. 2018; IASR 39:115-6.(2021年8月10日アクセス) 9)Suzuki M, et al. Lancet Infect Dis. 2017;17:313-321.10)厚生労働省. 第27回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料. 2019.(2021年8月10日アクセス)11)World Health Organization. Releve epidemiologique hebdomadaire. 2008;83(42):373-384.12)肺炎球菌ワクチン再接種問題検討委員会. 肺炎球菌ワクチン再接種のガイダンス(改訂版). 感染症誌. 2017;9;:543-552.(2021年8月10日アクセス)13)Matanock A, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2019;68:1069-1075.14)国立感染症研究所. 資料3 13価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(成人用)に関するファクトシート. 平成27年7月28日. 第1回厚生科学審議会予防接種・ワクチン文科会予防接種基本方針部会ワクチンに関する小委員会資料. 2015.(2021年8月9日アクセス)15)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会. 「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(2021年3月17日). (2021年8月9日アクセス)16)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会. 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 2019-10-30). 2019.(2021年8月9日アクセス)17)厚生労働省. 第24回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料 2018.(2021年8月9日アクセス)18)菅 秀, 富樫武弘, 細矢光亮, ほか. 13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)導入後の小児侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の現状. IASR Vol. 39 p112-113. 2018.(2021年8月10日アクセス)講師紹介

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喫煙妊婦、報奨金の提供で禁煙が継続/BMJ

 妊娠中の喫煙者では、禁煙を継続するに従って増額される金銭的な報奨はこの報奨がない場合と比較して、禁煙継続率の向上をもたらし、不良な新生児アウトカムの割合が低く、喫煙妊婦への安全で効果的な禁煙介入であることが、フランス・ソルボンヌ大学ピティエ-サルペトリエール病院のIvan Berlin氏らが実施した「FISCP試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年12月1日号に掲載された。フランス18施設の無作為化対照比較試験 本研究は、妊娠中の喫煙者の禁煙状況および出産アウトカムに及ぼす、禁煙の継続に応じて金額が漸増する報奨金の有効性の評価を目的とする単盲検無作為化対照比較試験であり、フランスの18ヵ所の産婦人科病棟で参加者の登録が行われた(French National Cancer Institute[INCa]Recherche en Prevention Primaireの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、たばこ≧5本/日または手巻きたばこ≧3本/日の喫煙者で、妊娠期間<18週であり、禁煙の意思のある妊婦(0[まったく意思がない]~10[きわめて強い意思がある]点の視覚アナログ尺度で>5点)であった。被験者は、金銭的な報奨を受ける介入群またはこれを受けない対照群に無作為に割り付けられた。 すべての参加者は、6回の受診日に来院しただけで、その都度来院費として20ユーロ(17ポンド、23ドル)相当の引換券を受け取った。金銭的報奨群では、来院費とは別に、受診時に禁煙を継続していると、2回目の受診日は40ユーロ、3回目は60ユーロ、4回目は80ユーロ、5回目は100ユーロ、6回目は120ユーロの報奨金に相当する引換券が与えられた(最高額は520ユーロ)。対照群は、6回の受診日にすべて来院しても、禁煙継続の有無にかかわらず、合計120ユーロの来院費のみが与えられた。 主要アウトカムは、所定の禁煙開始日から、出産前の6回目受診日までの禁煙継続であった。禁煙は、参加者の自己申告による過去7日間の喫煙なし、かつ呼気中一酸化炭素(eCO)≦8ppmと定義された。喫煙再開までの期間、喫煙欲求、出生時体重も改善 460例の妊婦が登録され、金銭的報奨群に231例、対照群に229例が割り付けられた。全体の平均年齢は29歳で、受診回数中央値は4回であり、両群間に差はなかった。また、就業率は金銭的報奨群が59%(137例)、対照群は65%(148例)であり、婚姻率はそれぞれ18%(41例)および13%(31例)、交際中が71%(163例)および75%(171例)であった。全体の過去7日間の喫煙本数中央値は60本だった。 禁煙継続率は、金銭的報奨群が16%(38/231例)と、対照群の7%(17/229例)に比べ有意に高かった(オッズ比[OR]:2.45、95%信頼区間[CI]:1.34~4.49、p=0.004)。金銭的報奨群は対照群に比べ、禁煙の点有病率(point prevalence)(4.61、1.41~15.01、p=0.011)が高く、喫煙再開までの期間中央値(5回目[IQR:3~6]の受診日vs.4回目[3~6]の受診日、p<0.001)が長く、喫煙欲求(β=-1.81、95%CI:-3.55~-0.08、p=0.04)が弱かった。 一方、不良な新生児アウトカム(新生児集中治療室への移送、先天形成異常、けいれん、周産期死亡の複合)のリスクは、金銭的報奨群が2%(4例の新生児)と、対照群の9%(18例の新生児)よりも7%低く、有意な差が認められた(平均群間差:14例、95%CI:5~23、p=0.003)。 事後解析では、金銭的報奨群で、出生時体重≧2,500gの新生児が多い可能性が示唆された。補正前ORは1.95(95%CI:0.99~3.85、p=0.055)で有意差はなかったものの、性別で補正後のORは2.05(1.03~4.10、p=0.041)で有意な差がみられ、性別と早産で補正後は2.06(0.90~4.71、p=0.086)となった(事後解析であるためデータの解釈には注意を要する)。 重篤な有害事象の発現は両群で同程度であった。引換券の総費用は、金銭的報奨群が4万9,040ユーロ、対照群は1万9,520ユーロであり、2万9,520ユーロの差が認められた。 著者は、「今後の研究では、金銭的な報奨が出産後の禁煙に及ぼす長期的な効果を評価する必要がある」としている。

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そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】Part 1

今回のキーワード行動遺伝学厳格な子育て放任的な子育て自律的な子育てグッド・イナッフ・マザー能力(心理的・行動的形質)癖になりやすさ(嗜癖性)高い感情表出前回(続編・その1)では、映画「そして父になる」を通して、英才教育によってとくに高まるとされる認知能力とそれ以外の非認知能力の違いを考えました。そして、その違いから、英才教育で親がハマる「罠」を明らかにしました。それでは、逆に、厳しい英才教育などをせず、自由にさせて温かく見守るだけの放任的な子育てが良いのでしょうか? そのリスクはないでしょうか?これらの答えを探るために、今回(続編・その2)は、引き続きこの映画を通して、伝統や経験則ではない科学的根拠に基づく教育(EBE)を行動遺伝学からご紹介します。そして、子育ての正解、そしてその根拠を一緒に探っていきましょう。なお、科学的根拠に基づく教育(EBE)とは、科学的根拠に基づく医療(EBM)と同じように科学的な根拠に重きを置いており、昨今の学校教育や子育ての分野で注目されつつあります。放任的な家庭環境のリスクは?野々宮家は厳格な家庭環境。そこで育った慶多は、非認知能力が育まれないリスクを前回ご説明しました。対照的に、斉木家は放任的な家庭環境。非認知能力が育まれるベネフィットをご説明しました。それでは、皆さんだったら、野々宮家よりも斎木家に生まれたいと思いますか? 野々宮家よりも斎木家のような子育てをしたいと思いますか? ここから、斎木家を通して、逆に放任的な家庭環境のリスクを、行動遺伝学的に3つ挙げてみましょう。なお、行動遺伝学とは、一卵性双生児(遺伝子一致率100%)と二卵性双生児(遺伝子一致率50%)の行動(心理的・行動的形質)の一致率(相関係数)を比較する双生児法を主に用います。簡単に言うと、一卵性双生児の行動の一致率が100%にならない場合、その差し引かれた分(それだけ似させまいとする要素)が家庭外環境(非共有環境)の影響と言えます。また、一卵性双生児の行動の一致率に二卵性双生児の一致率が50%を超えて迫ってきている場合、その迫ってきている分(それだけ似させようとする要素)が家庭環境(共有環境)の影響と言えます。ここから、ある行動における遺伝、家庭環境、家庭外環境のそれぞれの影響度(寄与率)を算出することができます。(1)認知能力が高まらない斎木家には、子どもの古い本が何冊かあるだけで、庭には古い犬小屋が放置されており、家の中は散らかって雑然としています。子育ての文化資本としては、必要最低限で、少な過ぎる印象があります。対照的に、野々宮家では、ピアノ・ギターなどの楽器や最新の英語の音声教材が置かれ、壁に地図が貼られており、家の中はきれいに片付けられ整然としています。斎木家の父親(雄大)は、汗だくになるまで子どもたちと一緒に遊んでいるだけです。母親(ゆかり)は、普段は温かく見守り、兄弟げんかやいたずらが過ぎた時だけ感情に任せて怒鳴ります。2人とも子どもたちに世の中の仕組みやルールの説明をしていません。そもそも親自身が世の中の常識に無頓着な様子です。もちろん、習い事をさせていません。1つ目のリスクは、認知能力が高まらないことです。行動遺伝学の研究において、認知能力を代表する知能指数(IQ)は、家庭環境の影響が約30%あることが分かっています。その家庭環境の1つとして、家の中の片付けの程度が挙げられます。実際に、家の中が片付いていない家庭ほど、その子どもの認知能力が低いことが分かっています。この訳は、家庭内が混沌としている状況(無法地帯)では、ルールを教えられても、頭の中も混沌としてしまい、集中できずに頭に入って行かないからと考えられています。逆に言えば、定位置などの一定のルールがある環境で、認知能力は高まっていくと言えます。また、家の中の本の多さも挙げられます。実際に、家の中の本の数が多い家庭環境ほど、その子どもの読書行動が高まることが分かっています。(2)嗜好品にハマりやすい斎木家では、幼児の子どもたち全員が、コーラ(カフェイン)を飲んでいます。琉晴は、携帯式のゲームを制限なくやっています。母親は、みんなの目の前でタバコを吸っており、受動喫煙のリスクもあります。夕食では、両親の目の前のテーブルにビールジョッキが置かれています。対照的に、野々宮家では、コーラ禁止、ゲームは1日30分までの制限があります。母親(みどり)は、父親(良多)のコレステロール値を気にして、卵などの食事を制限する声かけをしょっちゅうしています。そして、父親はあまり酒を飲みません。2つ目のリスクは、嗜好品にハマりやすいことです。行動遺伝学の研究において、アルコール、タバコ、ドラッグなどの物質依存は、家庭環境の影響が約15~30%あることが分かっています。これは、その依存物質が幼少期から目に入り、慣れ親しんでしまうからと考えられています。これは、非認知能力と同じように癖になりやすさ(嗜癖)があるとも言えます。だからこそ、現在の社会では、とくにタバコのCMやメディアの喫煙シーンは厳しく規制されています。なお、物質依存(嗜癖)のメカニズムの詳細については、関連記事1をご覧ください。(3)素行が悪くなる斎木家では、夕食の食事がテーブルに運ばれる直前に、父親とおじいちゃんが手拍子をしてはしゃぎ、それを子どもたちが真似します。父親は、ストローの先をかみ潰す癖があり、琉晴は父親を真似ていたことが分かります。野々宮家ではありえない食事風景であり、テーブルマナーです。また、父親は、自営業であることもあり、普段から家でごろごろしており、子どもたちとは全力で遊ぶことはあっても、あまり仕事を熱心にしていません。左肩に入れ墨があり、もともと勤め人をしていたとも考えにくいです。対照的に、野々宮家の父親(良多)は、仕事人間でほとんど家を空けています。斎木家の母親は、「早くって言ってるのに!」と怒鳴り、下の子の頭を平手打ちしたり、琉晴が慶多の飲み残したジュースを勝手に飲むと「なんで慶多くんの取るの!ブツからね!」と手を上げておどかす様子が映画のノベライズ版で描かれています。取り違えが発覚した時、病院関係者との面会で、夫婦揃って、すぐに賠償金の話を持ち出します。良く言えばずる賢い、悪く言えばがめついです。このがめつさは、先ほどの琉晴がジュースを横取りする行動に重なります。対照的に野々宮家の父親は「大事なのはお金より、どうしてそうなったのかという真相をですね」と真面目に指摘しています。3つ目のリスクは、素行が悪くなることです。素行の悪さとは、規範意識の低さであり、好き勝手な言動をしてしまうことです。これは、この先を含む社会よりも今この瞬間の個人(家族も含む)に重きを置いています。自分ではない誰かや、今ではないこの先に思いを馳せて客観視する認知能力は低いとも言えます。行動遺伝学の研究においても、非行などの問題行動(反社会的行動)は、家庭環境の影響が約20%あることが分かっています。これも、その行動パターン(認知パターン)が幼少期から目に入り、すり込まれてしまうからでしょう(内在化)。これは、非認知能力と同じように癖になりやすさ(嗜癖)がある、つまり行動の依存とも言えます。だからこそ、現在は、学校だけでなく、家庭での体罰も法的に禁止されるようになりました。また、メディアの性的なシーンは言うまでもなく、暴力シーンも厳しく規制されています。最近では、お笑いにおける暴力的なツッコミも自粛が進んでいます。なお、反社会的行動のメカニズムの詳細については、関連記事2をご覧ください。次のページへ >>

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機械学習でアトピー性皮膚炎患者を層別化

 アトピー性皮膚炎(AD)の治療を巡って、近年の治療薬の開発に伴い、対象患者の層別化の重要性が指摘されている。そうした中、ドイツ・ボン大学病院のLaura Maintz氏らはAD重症度と関連する主要因子を明らかにするため、同病院入院・外来患者367例について機械学習ベースの表現型同定(deep phenotyping)解析を行い、アトピースティグマと重症ADとの関連性や、12~21歳と52歳以上で重症ADが多くなる可能性などを明らかにした。 ADは、ごくありふれた慢性の炎症性皮膚疾患であるが、表現型は非常に多様で起因の病態生理は複雑である。著者は、「今回の検討で判明した関連性は、疾患への理解を深め、特定の患者に注視したモニタリングを可能とし、個別予防・治療に寄与するものと思われる」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2021年11月10日号掲載の報告。 研究グループは、思春期および成人ADの重症度関連因子の表現型を深める検討として、2016年11月~2020年2月に前向き追跡試験に登録されたボン大学病院皮膚科の入院・外来患者を対象に断面データ解析を行った。 被験者を、Eczema Area and Severity Index(EASI)を用いて重症度別にグループに分け、AD重症度と関連する130の因子について、相互検証ベースの同調機能を有する機械学習勾配ブースティング法と多項ロジスティック回帰法で解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、367例(男性157例[42.8%]、平均年齢39歳[SD 17]、成人94%)。うち177例(48.2%)が軽症(EASI:≦7)、120例(32.7%)が中等症(EASI:>7~≦21)、70例(19.1%)が重症(EASI:>21)であった。・アトピースティグマは、重症ADと関連する可能性が高かった(口唇炎のオッズ比[OR]:8.10[95%信頼区間[CI]:3.35~10.59]、白色皮膚描画症:4.42[1.68~11.64]、ヘルトーゲ徴候:2.75[1.27~5.93]、乳頭湿疹:4.97[1.56~15.78])。・女性は、重症ADと関連する可能性が低かった(OR:0.30、95%CI:0.13~0.66)。・総血清免疫グロブリンE値1,708IU/mL超、好酸球値6.8%超は、重症ADと関連する可能性が高かった。・12~21歳または52歳以上の患者は、重症ADと関連する可能性が高く、22~51歳の患者は軽症ADと関連する可能性が高かった。・AD発症年齢が12歳超では30歳をピークに重症ADと関連する可能性が高く、AD発症年齢が33歳超では中等症~重症ADと関連する可能性が高く、小児期の発症では7歳をピークに軽症ADと関連する可能性が高かった。・重症ADと関連するライフスタイル要因は、身体活動が週に1回未満と、(元)喫煙者であった。・円形脱毛症は、中等症AD(OR:5.23、95%CI:1.53~17.88)、重症AD(4.67、1.01~21.56)と関連していた。・機械学習勾配ブースティング法と多項ロジスティック回帰法の予測能は僅差であった(それぞれの平均マルチクラスAUC値:0.71[95%CI:0.69~0.72]vs.0.68[0.66~0.70])。

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日本人低出生体重児におけるADHDリスク

 小児の注意欠如多動症(ADHD)特性には、出生時の体重を含む遺伝的要因および出生前、周産期の因子が関連している。浜松医科大学のMohammad Shafiur Rahman氏らは、日本人小児の出生時体重とADHD特性との関連に対するADHDの遺伝的リスクの影響について、調査を行った。BMC Medicine誌2021年9月24日号の報告。 日本人小児におけるADHDの遺伝的リスクや低出生体重とADHD特性との関連を調査するため、縦断的出生コホート研究(浜松母と子の出生コホート研究)を実施した。小児1,258人のうちフォローアップを完了した8~9歳児796人を対象に分析を行った。出生体重別に、2,000g未満、2,000~2,499g、2,500g以上の3群に分類した。ADHDのポリジーンリスクスコアは、大規模ゲノムワイド関連解析のサマリーデータを用いて生成した。ADHD評価尺度IV(ADHD-RS)は、親からの報告に基づきADHD特性(不注意および多動性/衝動性)を評価した。以前の研究と同様に、性別、子供の出生順位、出生時の在胎週数、出産時の母親の年齢、学歴、妊娠前のBMI、妊娠前または妊娠中の喫煙状況、妊娠中のアルコール摂取、父親の年齢、教育、年間世帯収入を共変量とした。出生時の体重とADHD特性との関連を評価するため、潜在的な共変量で調整した後、多変量負の二項分布を用いた。出生時の体重群とバイナリーポリジーンリスクとの相互作用をモデルに追加した。 主な結果は以下のとおり。・出生体重2,000~2,499g群では、ADHD特性との関連は認められなかった。・出生体重2,000g未満群では、不注意および多動性との有意な関連が認められた。・ADHDの遺伝的リスクとの関連については、遺伝的リスクが高く、出生体重2,000g未満群の場合のみ、不注意(RR:1.56、95%CI:1.07~2.27)および多動性(RR:1.87、95%CI:1.14~3.06)との関連が認められた。 著者らは「2,000g未満の低出生体重は、ADHDの遺伝的リスクとともに、8~9歳の日本人小児のADHD特性レベルを上昇させる因子であることが示唆された。この低出生体重とADHDとの関連は、ADHDに対する遺伝的感受性を有する小児に限定されており、病因における遺伝的環境の相互作用との関連が認められた」としている。

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