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《今回の症例》年齢・性別50代、男性主訴呼吸困難、血圧上昇、浮腫現病歴10年前、前医に急性骨髄性白血病(AML)と診断され寛解導入療法が施行された。地固め療法3コース、維持強化療法1コース(シタラビン+アントラサイクリン)により寛解状態となった。アントラサイクリンの総投与量はドキソルビシン換算で214mg/m2であった。その後、当センター血液内科において造血幹細胞移植(HSCT :hematopoietic stem cell transplantation)が施行された。移植前の心機能は心エコー上左室駆出率76%と正常範囲内であった。移植後の急性および慢性移植片対宿主病(GVHD :graft versus host disease)は出現せず寛解状態となり、血液内科外来ならびに近医で高血圧、軽度の腎機能低下についてフォローアップ中であった。造血幹細胞移植11年後、発熱、下痢、嘔吐が出現し浮腫ならびに腎機能悪化を認めたため精査加療目的で入院した。入院時には腎機能低下ならびに高血圧を呈しており、心陰影の拡大は認めないものの胸水貯留を認め循環器内科へ紹介された。飲酒歴(1合/日)、喫煙歴(-)――入院時現症血圧162/90mmHg、心拍数100/分。意識は清明、全身は浮腫状、眼瞼結膜に貧血所見を認めた。胸部聴診上、下肺野の呼吸音の減弱と軽度のラ音を認め心尖部に収縮期雑音を聴取した。腹部に異常は認めず、神経学的にも有意な所見は認めなかった。検査所見検尿…蛋白定性(2+)、潜血(3+)、生化学…AST 21U/L、ALT 17U/L、LDH 287U/L、CK 58U/L、BUN 58mg/dL、Cr 3.37mg /dL、 UA 17.1mg/dL、Na 136mEq/L、K 3.6mEq/L、Cl 100mEq/L、BS 106mg/dL、CRP 2.96mg/dL、BNP 905.8pg/mL。入院時の心電図所見…心拍数100/分、洞調律、ST-T変化、不整脈などの異常は認めず。胸部X線写真…CTR 44.7%、肺野のうっ血像、両側胸水を認めた。心エコー検査…左室壁運動は全周性に著明に低下し、左室駆出率34 %、左室拡張末期径/収縮末期径(LVDd/Ds)52mm/44mm、左房径(LAD)38mm、中隔厚/後壁厚 (IVST/PWT)8mm/9mm、僧帽弁閉鎖不全(MR)3度、三尖弁閉鎖不全(TR)3度 、三尖弁収縮期圧較差(TR-PG)71mmHg、肺動脈弁閉鎖不全2度。IVC 19mm(呼吸性変動低下)、echo free space (-)。【問題】本例の病状について下記の選択枝について、正しいものはどれか。当てはまるものすべてを選べ。a. アントラサイクリンの総投与量は比較的少ないことから、今回の心不全には関連性はない。b. 造血幹細胞移植後の合併症に対して投与される薬剤に加え、長期に投与された免疫抑制薬などの影響も疑われる。c. 晩期心毒性の発症には感染や生活習慣病(高血圧、糖尿病など)の増悪などが引き金になることがある。d. がんサバイバーの晩期合併症で生命予後に影響する疾患として、心血管毒性以外に二次発生がんが重要である。がん治療の進歩に伴い、今後急増するがんサバイバーにおいて出現する晩期合併症への対応が大きな問題となっています。がん治療がすでに終了(寛解)し病状が安定している慢性期から晩期にかけて、急性期がん治療を行なっている腫瘍医には対応は困難であり、数年から10年以上にわたる長期間のフォローアップを受け持つ医療リソースの不足が世界的に大きな問題となっています。そこで、がんと循環器にわたる学際領域に関する知識を有するプライマリケア医や外来かかりつけ薬剤師の養成、そしてがんサバイバーを対象とした人間ドック(がんサバイバードック)による疾病発症二次予防の開発など、新たな体制づくりが始まっています10)。※本症例は、文献11)を基に作成いたしました。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。1)Legha SS, et al. Ann Intern Med. 1982;96:133-139.2)Singal RK, et al. N Engl J Med. 1998;339:900-905.3)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;43:4229-4361.4)向井幹夫. 医学のあゆみ. 2020;273:483-488.5) Sakata-yanagimoto M et al, Bone Marrow Transplant. 2004;33:1043-1047. 6)Armenian SH, et al. Blood. 2012;120:4505-4512.7)Miller LW, et al. Am J Transplant. 2002;2:807-818.8)Suter TM, et al. Eur Heart J. 2013;34:1102-1111.9) Odani S, et al. Cancer Med. 2022;11:507-519.10)向井幹夫. AYA がんの医療と支援. 2022;2:16- 21.11)向井幹夫他ほか. Osaka Heart Club. 2019;43:6-10.講師紹介