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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、起源株やアルファ株、デルタ株といったプレオミクロン株流行時期は、重症化率・死亡率の高さから、国内でも緊急事態宣言が出されるほど公衆衛生に多大な影響を与えていた。その後コロナワクチンや中和抗体治療薬により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化率や死亡率は低下したが、2021年ごろから後遺症の問題が注目されるようになった。 新型コロナウイルス感染症罹患後症状(以下、本文ではPASC:post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infectionとする)は、診断基準を提案する論文はあるが(Thaweethai T, et al. JAMA. 2023;329:1934-1946.)、世界的に統一された明確な定義や診断基準はなく、病態や治療法も判明しきってはいない。 PASCはオミクロン株では、過去のアルファ株やベータ株、デルタ株などより発症率が低下していること(Couzin-Frankel J. Science. 2023;379:1174-1175.)や、ワクチン接種者でPASC発症のリスクが軽減する可能性は指摘されていた(Mizrahi B, et al. BMJ. 2023;380:e072529. , Iversen A, et al. Front Public Health. 2024;12:1320059.)が、ウイルス変異の影響(罹患した株による違い)とワクチン接種の効果が、どの程度PASC発症のリスクに影響しているかははっきりしていなかった。 本研究では、新型コロナウイルス感染者のうち、感染時期がプレデルタ株、デルタ株、オミクロン株優勢期だったワクチン未接種者と、感染時期がデルタ株、オミクロン株優勢期だったワクチン接種者のSARS-CoV-2感染後1年間のPASC累積発生率を推定し、優勢株の時期に関連した影響(ウイルスの特性やそのほかの時間的影響)とワクチンによる効果を報告している。 結果は、「コロナ罹患後症状の累積発生率、変異株で異なるか/NEJM」に報告されたとおりで、ウイルスの特性(変異)による影響も罹患後症状リスク低下に関与していたが、罹患後症状が減少した主因(71.89%)はコロナワクチン接種による影響と考えられた。 本研究の特徴として、退役軍人省の大規模な健康記録を活用したため膨大なデータではあるものの、研究対象集団が主に高齢白人男性で構成されていることがある。PASCが問題となる患者層は、女性、高齢者、BMI高値、喫煙歴や基礎疾患がある患者など(Tsampasian V, et al. JAMA Intern Med. 2023;183:566-580.)であり、リスクファクター層と一部合致していない。しかし、本研究結果は過去の研究と同様の傾向を読み取ることができ、おそらくリスク集団を含めたほかの集団でも、同様の傾向となることは予測されるだろう。 ところで、本研究結果からはコロナワクチン接種がPASC発症のリスク軽減に役立つことはわかったが、ワクチンの種類や接種回数、接種時期については調査していないため、コロナワクチン接種後、どの程度の期間PASCのリスク軽減に役立つかはわからなかった。 COVID-19は、今夏も昨年と同様に増加傾向となっており、当院でも入院を要する中等症・重症患者が増加してきている。 今年も昨年同様に8月中旬ごろにピークを迎え、秋に患者数が減少し、冬季に再度ピークとなる可能性が考えられる。本研究から、新型コロナワクチンはPASC発症のリスク軽減に大きな役割を果たしたことが判明したが、新型コロナワクチンはリスクのある患者に接種することで、重症化率や死亡率の軽減にも役立つことも期待されている。今年度より、新型コロナワクチンは65歳以上や、60~64歳でリスクのある対象者で定期接種となっている(厚生労働省「新型コロナワクチンについて」)。 気道ウイルス感染症は冬季に流行しやすい性質があり、定期接種の対象者に対する秋から冬にかけてのコロナワクチン接種は、COVID-19による入院や死亡を減らすためにメリットが大きいと私は考えている。本研究結果からは、PASCリスク軽減にワクチン接種が大きく貢献したことも確認でき、ワクチン接種を推奨するさらなる1つの理由になるだろう。