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胃癌治療ガイドライン 医師用 2025年3月改訂 第7版

CQが全41項目と大幅増、臨床現場で役立つ胃癌治療の決定版!臨床現場での使用を意識し、標準的な治療の教科書形式による解説と、臨床的に重要なクリニカルクエスチョン(CQ)の2部構成からなる胃癌治療ガイドライン。本改訂では、胃切除後長期障害への対応、切除不能・進行再発胃癌におけるバイオマーカー、悪液質や出血性進行胃癌に対する緩和的治療など新たな課題が加わったCQは全41項目となった。化学療法レジメン・アルゴリズムも更新。胃癌診療に携わる医療者必携の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する胃癌治療ガイドライン 医師用 2025年3月改訂 第7版定価2,530円(税込)判型B5判頁数224頁(図数:10枚、カラー図数:2枚)発行2025年3月編集日本胃癌学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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市中肺炎へのセフトリアキソン、1g1日2回vs.2g1日1回~日本の前向きコホート

 セフトリアキソンは、日本感染症学会/日本化学療法学会の感染症治療ガイドラインにおいて市中肺炎入院患者におけるエンピリック治療の第1選択薬の1つに挙げられている。投与方法は1g1日2回点滴静注または2g1日1回点滴静注が推奨されているが、これらを比較した前向き研究は限られている。今回、倉敷中央病院の中西 陽祐氏らが、これらの投与方法の有効性と安全性を前向きコホート研究で比較し、報告した。Journal of Infection and Chemotherapy誌2025年1月号に掲載。 本研究では、2010年10月~2018年12月に倉敷中央病院に入院した市中肺炎患者を前向きに登録し、セフトリアキソン1g1日2回(12時間ごと)または2g1日1回(24時間ごと)で初期治療を受けた患者を解析した。主要評価項目は初期治療失敗率、副次評価項目は30日死亡率と副作用で、バイアスを最小にするために逆確率重み付け(IPTW)解析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・合計457例のうち、186例が1g1日2回、271例が2g1日1回であった。・IPTW調整後、1g1日2回と2g1日1回の初回治療失敗率は2.43%と4.46%(p=0.27)、30日死亡率は2.95%と6.43%(p=0.13)でどちらも有意差はみられなかった。・IPTW調整後の副作用発現頻度は、1g1日2回が1.04%、2g1日1回が4.20%で、後者のほうが高かったものの有意差は認められなかった(p=0.08)。 本試験の結果から、著者らは「有効性・安全性とも有意差は認められなかったが、副作用の点では1g1日2回のほうが安全な選択肢である可能性がある」とし、「治療戦略として1日目に2gを1回、2日目以降は1gを2回投与することが考えられ、これにより副作用を最小限に抑えながら早期の臨床効果を得られるかもしれない」と考察している。

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兵庫医科大学 呼吸器・血液内科学(血液)【大学医局紹介~がん診療編】

吉原 哲 氏(教授)吉原 享子 氏(臨床講師)寺本 昌弘 氏(助教)熊本 友子 氏(レジデント)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴私たちの医局のモットーは、すべての血液疾患の患者さんに最良の治療を提供することです。血液疾患には、白血病、リンパ腫、骨髄腫といった造血器腫瘍のほか、血友病、凝固異常症といった出血性疾患があります。兵庫医大には、ハプロ移植やCAR-T療法のイメージが強いかもしれませんが、血友病やHIVの診療施設としても関西での重要な拠点となっています。地域のがん診療における医局の役割兵庫県の特徴は、大学の系列などに関係なく、各病院間の血液内科医の横のネットワークが非常に強いことです。その結果として、兵庫県内の多数の病院から移植やCAR-T症例のご紹介をいただいています。また、ハプロ移植やCAR-T療法については、県外からも多数の患者さんをご紹介いただいています。医師の育成方針まずは血液内科医として、どんな疾患でもひととおり診られるようになってもらいたいと考えています。実際、白血病から血友病まで非常に症例数が多いですので、化学療法だけでなく移植やCAR-T療法、そして血友病等の治療についても効率的に研修可能です。その後は専門性を高めていってもらうことになりますが、その際には医師それぞれのライフプランに合わせて無理のない働き方をして欲しいと考えています。子育てをしながら働く女性医師も多いため、女性医師にとって相談しやすい環境だと思います。同医局でのがん診療のやりがい、魅力私たちの医局でのがん診療チームは、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫といった疾患に対し、化学療法のみならず、同種造血幹細胞移植やCAR‐T療法など、最先端の治療法を幅広く実施しています。日々進歩していく血液内科診療の劇的な変化を肌で感じることができ、また大学病院ならではの高度な医療現場で、他院では診断が困難な症例や治療が難しいケースも積極的に受け入れており、その度に多くの発見とやりがいを感じる毎日です。医局の雰囲気少人数制のチーム体制で、アットホームな雰囲気です。タスクシフトを積極的に取り入れ、一人ひとりが豊富な症例経験を積み自らの専門性を高めていけるよう支援しています。さらに、当医局には出産後も現場で活躍している女性医師たちが多数在籍しています。私自身は2人の子育て中でもありますが、自身の経験より家庭と仕事の両立の困難さを誰よりも理解しているつもりです。そのような若手医師たちを支援するため、各医師のライフプランに合わせた柔軟なサポート体制を整えるよう尽力しています。医学部生/初期研修医へのメッセージ医学部生/初期研修医の皆さまが、当医局で最先端の医療技術と充実した臨床経験を学びながら、自身の成長と挑戦を続けていただけることを心より願っております。ぜひ一緒に働きましょう!力を入れている治療/研究テーマ兵庫医科大学病院 血液内科(当科)では血液疾患に対するさまざまな研究に取り組んでいますが、これまでとくに力を入れてきた研究テーマの1つに、血液がんに対する同種造血幹細胞移植(同種移植)があります。私自身はこれまで、同種移植後の副作用を抑えるための、免疫抑制剤の投与方法に関する研究や、同種移植を受けた患者さんの生存率に影響を与えるリスク因子の解析を行ってきました。また、白血病の治療ターゲットとなるような分子標的を見つけるための基礎研究にも取り組み、新しい治療薬の開発を目指しています。さらに、当科ではキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)に関する基礎研究も開始しており、より効果的な細胞療法を実現するために頑張っています。医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、同種移植やCAR-T療法を含めた細胞治療の分野はもちろん、血液学に関する臨床研究、基礎研究の両方に挑戦できる環境が整っています。研究に興味がある方は、ぜひ気軽にご相談ください。一緒に新しい治療法を探していきましょう。これまでの経歴もともと2008年に筑波大学を卒業しましたが、その後海外でスポーツ活動に取り組んでいました。海外にいる頃に医師になりたいと奮起、2013年に兵庫医科大学に入学し、2019年に卒業、同大学で初期研修を行い血液内科に入局しました。1年半、外病院で一般内科・一般血液を学び今は大学で血液内科医として日々勉強しています。同医局を選んだ理由学生の頃から血液内科に入局しようと思っていましたが、兵庫医科大学病院は西日本でも有数の移植施設で、今ではCAR-T療法なども含め、大学でしかできない治療がたくさんあることと、腫瘍とは別にHIVや血友病など専門の先生がいることも大きな理由です。また、どんなに忙しくても質問すると上級医の先生は優しく丁寧に教えて下さったことも理由の1つです。最初の頃は勿論、今でも分からないことは沢山ありますし、自分の行為が患者様の命にも関わる仕事ゆえ、どんな些細なことでも気がねなく何でも聞ける医局の雰囲気、指導体制は大事だと思います。現在学んでいることCAR-T療法、臍帯血移植、ハプロ移植など、市中病院ではなかなか経験できない症例をたくさん受け持っております。一方で、市中病院でも診ることの多いITPやリンパ腫の症例も多数あります。血液疾患は新規薬剤やガイドラインについても年々アップデートが必要ですが、症例が多数あるため知識だけではなく実症例として経験することができます。今後のキャリアプラン出産・育児を挟んだこともあり、目の前の目標は内科専門医の取得です。兵庫医科大学 呼吸器・血液内科学(血液)住所〒663-850 兵庫県西宮市武庫川町1-1問い合わせ先ketsueki@hyo-med.ac.jp医局ホームページ兵庫医科大学 血液内科教室専門医取得実績のある学会日本内科学会日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会(認定医)日本輸血・細胞治療学会(認定医)日本再生医療学会(認定医)研修プログラムの特徴(1)造血器腫瘍だけでなく血栓・止血やHIV診療も研修可能(2)子育てなどライフプランに合わせた柔軟なサポート体制を整えている(3)造血細胞移植やCAR-T療法など最新の治療を経験できる

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胃がんT-DXd、日本における販売後調査の最終解析/日本胃癌学会

 抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は「がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌」に対し2020年9月に承認された。現在では胃がん3次治療以降に広く使用されているが、間質性肺疾患(ILD)の発現が重要なリスクとして認識されており、ILDリスクを評価する観察期間12ヵ月の製造販売後調査(PMS)が実施された。2025年3月12~14日に行われた第97回日本胃癌学会総会では、愛知県がんセンターの室 圭氏が本調査の最終解析結果を発表した。 主な結果は以下のとおり。・2020年9月〜2021年12月にT-DXdが投与された全1,129例が登録され、そのうち1,070例が解析対象となった。患者の年齢中央値は70.0歳(65歳以上が71.6%)、77.4%が男性であった。ECOG 0~1が90%、2~4が10%、組織型はIntestinalタイプが46.2%、Diffuseタイプが19.0%であった。・治療期間中央値は3.94ヵ月だった。薬剤承認の根拠となったDESTINY-Gastric01試験では治療開始時のT-DXd投与量は6.4mg/kgであったが、本解析では5.4mg/kg以下での開始例が2割程度存在し、この割合は治療継続と共に増加した。・12ヵ月時点におけるT-DXdによる治療状況は治療中11.8%、中止88.2%であった。治療中止の理由は原疾患進行が65.9%、ILDによる中止が9.9%、ILD以外の有害事象による中止が9.3%であった。・薬剤関連ILDの発現割合は9.63%(103例)、Grade≧3が2.8%(30例)、Grade5は1.21%(13例)であり、DESTINY-Gastric01試験と同等の結果であった。ILDのタイプではOP(器質化肺炎)が64例と最多で、最も予後が悪いとされるDAD(びまん性肺胞損傷)は8例だった。・ILDの発症タイミングは治療開始後2~3ヵ月目が最も多かったが、1~12ヵ月目のどの時期でも生じた。ILD発症患者の転帰は、回復が46.6%(48例)、軽快が21.4%(22例)、回復したが後遺症ありが5.83%(6例)、未回復が10.68%(11例)、死亡が12.62%(13例)であった。・ILDのリスク因子は75歳以上、ILD・放射線肺臓炎・COPDそれぞれの既往だった。 室氏は「ILDの発症頻度は既報どおりであり、診療医はこれをしっかりと認知して治療に当たる必要がある。ILDはタイプによって重症度が異なり、早期発見や専門医につなげるため、こうした分類を消化器がん診療医であるわれわれもある程度知っておくことが重要だ」とした。

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EGFR陽性NSCLC、アミバンタマブ+ラゼルチニブがOS改善(MARIPOSA)/ELCC2025

 EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療として、EGFRおよびMETを標的とする二重特異性抗体アミバンタマブと第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬ラゼルチニブの併用療法は、国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA試験」において、オシメルチニブ単剤と比較して無増悪生存期間(PFS)を改善したことがすでに報告されている1)。また、世界肺がん学会(WCLC2024)で報告されたアップデート解析では、アミバンタマブ+ラゼルチニブが全生存期間(OS)を改善する傾向(ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.61~0.96、名目上のp値=0.019)にあったことが示され、OSの最終解析結果の報告が待たれていた。欧州肺がん学会(ELCC2025)において、OSの最終解析結果が国立台湾大学のJames Chih-Hsin Yang氏により発表され、アミバンタマブ+ラゼルチニブが有意にOSを改善したことが示された。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性の進行・転移NSCLC患者・試験群1(ami+laz群):アミバンタマブ(体重に応じ1,050mgまたは1,400mg、最初の1サイクル目は週1回、2サイクル目以降は隔週)+ラゼルチニブ(240mg、1日1回) 429例・試験群2(laz群)ラゼルチニブ(240mg、1日1回) 216例・対照群(osi群):オシメルチニブ(80mg、1日1回) 429例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定に基づくPFS[主要な副次評価項目]OS[副次評価項目]奏効率(ORR)、頭蓋内PFS、症状進行までの期間(TTSP)など 今回はami+laz群とosi群の比較結果が報告された。主な結果は以下のとおり。・治療中止はami+laz群62%(260/421例)、osi群72%(310/428例)に認められ、病勢進行による治療中止はそれぞれ33%(140/421例)、55%(234/428例)であった。・OS最終解析(追跡期間中央値37.8ヵ月)時点におけるOS中央値はami+laz群が未到達、osi群が36.7ヵ月であり、ami+laz群が有意に改善した(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p<0.005)。3年OS率はそれぞれ60%、51%であり、42ヵ月OS率はそれぞれ56%、44%であった。・OSのサブグループ解析では、ほとんどのサブグループでami+laz群が優位であった。65歳以上の集団のみosi群が優位な傾向にあった(HR:1.11、95%CI:0.84~1.48)。・頭蓋内PFS中央値はami+laz群が25.4ヵ月、osi群が22.2ヵ月であった(HR:0.79、95%CI:0.61~1.02、p=0.07)。3年頭蓋内PFS率はそれぞれ36%、18%であった。・頭蓋内ORRはami+laz群が78%、osi群が77%であり、頭蓋内奏効期間中央値はそれぞれ35.7ヵ月、29.6ヵ月であった。・TTSP中央値はami+laz群が43.6ヵ月、osi群が29.3ヵ月であり、ami+laz群が改善した(HR:0.69、95%CI:0.57~0.83、p<0.001)。・病勢進行後に2次治療を受けた患者の割合はami+laz群が74%、osi群が76%であり、2次治療の内訳は化学療法ベースの治療がそれぞれ56%、67%で、チロシンキナーゼ阻害薬ベースの治療がそれぞれ39%、28%であった。・割り付け治療継続期間中央値はami+laz群が27.0ヵ月、osi群が22.4ヵ月であった。・安全性プロファイルは主解析時と一貫しており、主解析時から5%以上増加した有害事象はなかった。有害事象の多くは治療開始から4ヵ月以内に発現した。・ベースライン時に抗凝固薬を使用していたのは5%であり、ami+laz群では40%に静脈血栓塞栓症が発現した(osi群は11%)。 なお、本試験の結果に基づき、Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2025年3月27日に、アミバンタマブとラゼルチニブの併用療法について「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」を適応として、厚生労働省より承認を取得したことを発表している。

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ベネトクラクス、再発・難治マントル細胞リンパ腫に追加承認/アッヴィ

 アッヴィは、2025年3月27日、BCL-2阻害薬ベネトクラクス(商品名:ベネクレクスタ)について、再発又は難治性のマントル細胞リンパ腫(MCL)に対する治療薬として国内における適応追加承認を取得した。 今回の承認は、再発難治MCLを対象としたベネトクラクスおよびイブルチニブの併用療法に関する海外第III相SYMPATICO試験1)および国内第II相M20-075試験2)の結果に基づいている。 MCLはリンパ節のマントル帯に由来するBリンパ球ががん化するB細胞リンパ腫の1つ。日本国内の患者数は約2,000例と報告されている。60歳代半で多く発症し、多くの場合、高齢者では2~3年、若齢者では約5年で、初回治療後の再発・再燃に至る。再発した場合、化学療法の効果は1次治療より劣り、急速な進行が認められることがある。

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局所進行頭頸部扁平上皮がんの維持療法、アテゾリズマブvs.プラセボ/JAMA

 高リスクの局所進行頭頸部扁平上皮がん(LA SCCHN)で集学的な根治的治療により病勢進行が認められない患者において、維持療法としてのアテゾリズマブはプラセボと比較して予後を改善しなかった。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のRobert Haddad氏らが、23ヵ国128施設で実施された第III相無作為化二重盲検比較試験「IMvoke010試験」の結果を報告した。LA SCCHNに対しては、手術、放射線療法、化学療法のいずれかを組み合わせた治療後、局所再発または遠隔転移のモニタリングが行われるが、予後不良であることから治療の改善に対する臨床的ニーズは依然として高かった。JAMA誌オンライン版2025年3月13日号掲載の報告。主要評価項目は医師評価による無イベント生存期間 研究グループは、複数種類の根治的治療後に病勢進行のないLA SCCHN(IVa/IVb期の口腔、喉頭、下咽頭を含む頭頸部扁平上皮がんまたはHPV陰性中咽頭がん、III期のHPV陽性中咽頭がん[AJCC Cancer Staging Manual第8版])で、18歳以上、ECOG PSが0~1の患者を、アテゾリズマブ群またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付け、1,200mgを3週間ごとに最長1年間、または再発、病勢進行、許容できない毒性の発現または同意撤回が認められるまで投与した。 主要評価項目は治験責任医師評価による無イベント生存期間(EFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)と安全性であった。無イベント生存期間中央値59.5ヵ月vs.52.7ヵ月で差はなし 2018年4月3日~2020年2月14日に計406例が無作為化された(アテゾリズマブ群203例、プラセボ群203例)。ベースラインの患者背景は両群で類似しており、アテゾリズマブ群vs.プラセボ群でそれぞれ65歳未満が142例(70.0%)vs.155例(76.4%)、男性168例(82.8%)vs.174例(85.7%)、アジア人68例(35.6%)vs.61例(31.0%)、黒人1例(0.5%)vs.1例(0.5%)、白人121例(63.4%)vs.135例(68.5%)であった。 最終解析のクリニカルカットオフ日2023年9月27日(追跡期間中央値46.5ヵ月)において、治験責任医師評価によるEFS中央値は、アテゾリズマブ群59.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:46.8~推定不能)、プラセボ群52.7ヵ月(41.4~推定不能)であり、両群で差はなかった(ハザード比:0.94、95%CI:0.70~1.26、p=0.68)。 OSも両群で差はなく、24ヵ月OS率はアテゾリズマブ群82.0%、プラセボ群79.2%であった。 安全性については、新たな事象または予期せぬ事象は認められなかった。

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臨床背景で違いが出る手技、過失を問われるポイントは?【医療訴訟の争点】第10回

症例前回、患者の病態により左右されることの少ない定型化された機械的所作の手技の過失の有無等が争われた事案を紹介した。今回は、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度など)に応じて手技内容が異なる手技の過失の有無が争われた東京地裁平成24年6月21日判決を紹介する。本件では、肝細胞がんに対するラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation:RFA)の手技の過失が争われている。RFAについては、本件判決において、以下のものと整理されている。〔ラジオ波焼灼療法(RFA)〕腫瘍に穿刺した電極針から発生する高周波電流(ラジオ波)によって生ずる熱によって腫瘍を凝固壊死させる治療法。RFA装置は超音波画像上、穿刺状況を確認できるようになっているとともに、焼灼が進むと水分が蒸発して、インピーダンス(抵抗)値が上昇する。インピーダンス値により、焼灼がどの程度進んでいるのかを把握し、ロール・オフ(熱凝固が進むことにより水分が蒸発し、ラジオ波通電性が失われ電気抵抗値が最大になった状態)を判断し、ロール・オフになると自動的に出力がゼロになるように設計されている。局所再発を減らすためには、焼灼範囲に腫瘍の周囲5mmのセーフティ・マージンを確保する必要があり、そのため症例によっては複数回穿刺を行う。<登場人物>患者59歳(本件手術時)・男性他の医療機関にて肝内に腫瘍があるとの診断を受け、紹介により被告病院を受診。原告患者配偶者被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成14年(2002年)8月7日他の医療機関にて肝内に腫瘍があるとの診断を受け、紹介により被告病院を受診。肝細胞がんと診断された。9月4日肝細胞がん治療のためRFAを実施。平成15年(2003年)12月12日肝動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)実施平成16年(2004年)12月13日TAE実施平成17年(2005年)10月17日TAE実施10月25日動注化学療法実施11月22日動注化学療法実施平成18年(2006年)3月22日被告病院に入院3月23日S6およびS8領域の肝細胞がん治療のため、RFA(本件手術)実施。3月27日腹部CT検査実施3月29日上記CT検査の結果につき、放射線科医師より、遊離ガスが認められ、大腸穿孔が起きていると考えられる旨が消化器内科医師に報告された。午後11時頃、本件患者より腹痛が続いているとの訴えがあり、診察した医師は、腹膜炎を起こした可能性が高いと診断。3月30日腹膜炎治療のため開腹手術。4月21日肝不全により死亡。〔本件手術中の経過〕~〔司法解剖の結果(解剖所見)〕〔本件手術中の経過〕本件手術当時、患者の肝臓に残存していた腫瘍(肝細胞がん)は、S6領域に長径30mm(30mm×18mm)程度、S8領域に長径23mm(23mm×13mm)程度のものであった。執刀医は、局所麻酔の後、S8領域の肝細胞がんを焼灼するため、超音波画像下で展開時4cmなるRTC針を皮膚から約7cm穿刺し、半展開してロール・オフするまで3分22秒間焼灼した。その後、同箇所にて針を全展開してロール・オフするまで6分2秒間焼灼した。そして、熱凝固範囲を広げるため、針を閉じて約1cm引き抜き、再度針を全展開してロール・オフするまで5分40秒間焼灼した。続いて、S6領域の肝細胞がんを焼灼するため、超音波画像下で皮膚から約7cm穿刺し、RTC針を半展開してロール・オフするまで4分8秒間焼灼した。その後、同箇所にて針を全展開してロール・オフするまで5分1秒間焼灼し、熱凝固範囲を広げるため、針を閉じて約1cm引き抜き、針を全展開してロール・オフするまで5分51秒間焼灼した。そして、針を閉じて皮膚から1度抜き、再びS6領域の肝細胞がんに対して、先ほどとは別の位置から穿刺し、全展開して焼灼を試みたものの、5分経過時にエラーとなって停止したため、同箇所で再度ロール・オフするまで4分31秒間焼灼した。〔本件手術4日後(3月27日)撮影CT画像〕総焼灼部の長径は約90mmに及び、焼灼部全体の形は円形ではなくいびつであった。〔司法解剖の結果(解剖所見)〕『主要所見』欄の内部所見欄に「肝臓は黄色硬化著明で、肝硬変末期を呈する。右葉外側に球形の壊死巣を2ヵ所認め、底面において横行結腸が壊死巣の一つに開放されている。」『考察』欄に「医療行為そのものが直接的に死亡に結びついたとは考えにくい。」「熱凝固法で問題となった結腸への同治療法の波及による穿孔形成も、解剖において確認できる。ただし、この穿孔部は肝臓底面に接する壊死巣にほぼ連続しており、誤ってラジオ波を結腸に当てたというよりは、肝臓のがん組織に照射したものが辺縁部において一部結腸を巻き込んだ様相を呈している」との記載。実際の裁判結果本件裁判では、穿刺箇所の過誤または穿刺経路の過焼灼の有無について争われたが、裁判所は、以下のとおり、いずれも過誤は認められないと判断した。1. 穿刺箇所の過誤について原告は、本件手術で使用された器具の構造上、焼灼範囲は4cm程度にしかならず、また、ほかに焼灼範囲が広範囲となる原因は見当たらないのであるから、焼灼範囲が広範囲となった原因は、穿刺箇所の過誤以外には考え難い旨主張した。しかし、裁判所は、RFA装置は手技者が超音波画像において腫瘍と針の位置を常に視認することが可能であることを指摘し、「手技者は、位置断面図を映し出す超音波画像上、腫瘍(目的部位)と針の両方を確認でき、手技者はその画像上でリアルタイムに針の肝臓への刺入から腫瘍までの到達を視認することが可能なのであるから、目的部位以外を穿刺することは通常は考え難い」とした。また、本件では、本件手術4日後(3月27日)撮影CT画像において、総焼灼部の長径は約90mmに及び、焼灼部全体の形は円形ではなくいびつであったという事情があり、本件手術に使用された器具の構造上、通常は、焼灼範囲は4cm程度にしかならないのに、焼灼範囲が広範囲に及んでいるという事情があった。原告はこの点を指摘し、穿刺箇所に過誤があったと主張した。しかし、裁判所は、焼灼範囲について球形に近い凝固形状を形成することからすると、本件のような広くいびつな焼灼範囲が生じたことは説明できないこと、長径30mmあるS6領域の腫瘍の最下辺部または腫瘍の存在しない箇所に穿刺しない限りは、焼灼部位が大腸(または肝臓の最下端)にまで広がることは考え難く、そのような極めて重大、明白な過誤を犯すことは、特段の事情がない限り想定し難いことを指摘し、過誤を否定した。2. 穿刺経路の過焼灼の有無について原告は、患部から針を抜く際に焼灼し過ぎれば、焼灼範囲が広範囲となるのであるから、本件において焼灼範囲が広範囲となったと主張した。これに対し、裁判所は、RFA装置は、超音波画像上、穿刺状況を確認できるようになっているとともに、インピーダンス値が表示され、この値により、焼灼がどの程度進んでいるのかを把握し、ロール・オフを判断し、ロール・オフになると自動的に出力がゼロになるように設計されているのであるから、その構造上、過焼灼が生ずる可能性は認め難いとした。注意ポイント解説本件は、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が異なる手技の過失の有無が争われた事案である。裁判所は、上記のとおり、治療対象の腫瘍の位置や大きさ、術後の画像所見、司法解剖の結果などから、原告の主張するとおりの手技の過誤が認められるかを判断している。そして、本件では、使用されたRFA装置が、RTC針が刺入される角度と同じ角度で超音波画像上にニードルマークを表示させることができ、実際にRTC針がニードルマークに沿って目的部位(腫瘍)に向かって進んでいるかどうか、針先が目的部位に到達しているかどうかといった穿刺状況を、超音波画像上で確認することができるものであったため、「目的部位以外を穿刺することは通常は考え難い」とされた。しかしながら現状では、このような装置を用いての手技や術中画像が存在するケースは多くなく、一般的には、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に照らして過誤を来たしやすい手技か、手術記録や術後の経過・検査結果等が過誤のあった場合のものと整合するか等の点から、過誤の有無が判断されることとなる。このため、本件では過誤は否定されているが、注意を怠れば過誤を来たしやすい手技である場合(注意を尽くしていても不可避の合併症と説明できない場合)や、術後の画像所見が手技に過誤があった場合に生じるものと整合する場合などには、過誤があるとの判断がなされることとなる。なお、本件では、術後CT画像等において焼灼範囲が広範囲に及んでいた原因を特定できないこととなるが、これに関し、裁判所は、以下の点を指摘し、「焼灼範囲が広範囲に及んだ原因が特定できないことを理由に、穿刺箇所の過誤があったものと推認することは、やはり許されないというべき」とした。焼灼対象となる肝臓の状況によって例外があり得ないものとまで考えることはできないこと。たとえば、RFAやTAEによる血流の低下や熱伝導の抵抗の低下が原因である可能性も否定はできないこと。本件の司法解剖の結果によっても、穿刺箇所の過誤を示唆するような点は見当たらず、むしろ、「誤ってラジオ波を結腸に当てたというよりは、肝臓のがん組織に照射したものが辺縁部において一部結腸を巻き込んだ様相を呈している」と指摘されていること。上記は、過誤以外の原因により、このような術後所見を来たしうることを、過誤の有無の判断における一つの考慮要素としているものといえる。医療者の視点本件のように、医療手技の適切性が問われるケースでは、手技の選択や実施において、医療者がどのような判断を行い、どのようにリスクを管理していたかが重要になります。手技には、標準的なプロトコルがあるものの、患者ごとの病態に応じて適応や実施方法を調整する必要があります。そのため、術前の計画立案、手技中の慎重な対応、術後の経過観察が不可欠となります。とくに、侵襲的な手技では、術者の経験や技術だけでなく、使用する機器の特性、術中のモニタリング、患者の解剖学的特徴など、多くの要因が結果に影響を与えます。たとえば、穿刺系の手技では、解剖学的な個人差や病態による組織の変化が予期しない合併症の要因となることがあり、慎重な画像評価とリアルタイムのフィードバックが求められます。また、医療機器を用いる治療では、隣接組織への影響を十分に考慮し、適切な出力設定やエネルギー制御を行うことが重要です。さらに、医療訴訟の観点からは、手技前のリスク説明と手技後のフォローアップも重要です。とくに、偶発的な合併症が発生しうる手技では、患者や家族に対し、そのリスクや対応策を明確に説明し、納得を得るプロセスが不可欠です。また、術後に異常所見が見られた場合、その原因を正確に特定し、適切な対応を迅速に行うことが求められます。本件の裁判では、手技自体の過誤は認められませんでしたが、医療者としては、手技の安全性を高めるための努力を継続することが重要です。事前の十分な準備、術中の精度の高い対応、術後の適切なフォローアップにより、医療の質を向上させ、患者の安全を確保することが、臨床医に求められる役割といえます。Take home message行われた手技が患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に照らして過誤を来たしやすいものか、術後の経過・検査結果等が過誤のあった場合のものと整合するか(過誤以外の原因による症状・経過であるか)等から、手技の過誤の有無が判断される。不可避の合併症であること、または、過誤以外の原因による術後経過であることを説明できるかがポイントとなる。キーワード病理解剖・AI(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)患者の死亡事案においては、司法解剖が行われるケース以外にも、家族の同意を得て、病理解剖やAIが行われることがある。それらが行われている場合、その結果は、死因の究明、病態進行の確認、他の原因疾患の有無などの確認で活用されるものであるが、医療紛争となった場合においては、過失や因果関係の判断でも用いられる。

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化学療法誘発性末梢神経障害の克服に向けた包括的マネジメントの最前線/日本臨床腫瘍学会

 2025年3月6~8日に第22回日本臨床腫瘍学会学術集会が開催され、8日の緩和ケアに関するシンポジウムでは、「化学療法誘発性末梢神経障害のマネジメント」をテーマに5つの講演が行われた。化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy:CIPN)は、抗がん剤投与中から投与終了後、長期にわたって患者のQOLに影響を及ぼすものの、いまだ有効な治療の確立に至っていない。そこで、司会の柳原 一広氏(関西電力病院 腫瘍内科)と乾 友浩氏(徳島大学病院 がん診療連携センター)の進行の下、患者のサバイバーシップ支援につなげることを目的としたトピックスが紹介された。CIPN予防戦略の現状と今後の研究開発への期待 まず、CIPNの予防に関する最新エビデンスが、華井 明子氏(千葉大学大学院 情報学研究院)より紹介された。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン2023年版』には、CIPNを誘起する化学療法薬の使用に際し、予防として推奨できるものはないと記載されている。また、抗がん剤の種類によっては投与しないことを推奨する薬剤もあり、状況に応じて運動や冷却の実施が推奨されるものの、強く推奨できる治療法はない。そのため、多くの患者が苦しんでいる現状が指摘された。 こうした中、手足を冷却または圧迫して局所の循環血流量を低下させることで、抗がん剤をがん細胞に到達させつつ、手足には到達させない戦略がCIPN予防に有効とのエビデンスが散見されており、冷却がやや優位との成績が最近示された。「ただし、冷却の効果は抗がん剤投与中に最大限発揮されるので、投与後数時間経過して出現する症状には効果がない」と、同氏は説明した。 なお、がん治療中の運動は、心肺機能や筋力、患者報告アウトカムなどを改善するとのエビデンスが確立しているため、有酸素運動や筋力トレーニングが推奨されている。一方、CIPN予防における運動の実施は、本ガイドラインでは推奨の強さ・エビデンスの確実性ともに弱い。同氏は、「それでも治療前のプレハビリテーションにより体力・予備力を高めておくことは有効」とした。また、予防ではなく、CIPN発現例に対する治療であるが、バランス運動、筋力トレーニングおよびストレッチは、いずれも長期的には実施のメリットが大きいとの研究成果が紹介された。 「CIPNの頻度は抗がん剤の種類はもちろん、評価の時期・指標によっても異なり、患者の生活状況や主観が大きく影響する。そのため、評価方法の標準化がCIPN予防/治療戦略の開発につながるだろう。また、運動プログラムのエビデンスは増え続けていることから、ガイドラインの次期改訂では推奨が変わる可能性もある」と、同氏は期待を示した。CIPN治療戦略と実臨床への橋渡しに向けた取り組み 次に、CIPNの治療に関する動向が吉田 陽一郎氏(福岡大学病院 医療情報・データサイエンスセンター 消化器外科)より解説された。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版』で薬物療法として推奨されている薬剤は1剤のみであり、予防ではなく治療のみでの使用が可能となっている。同氏はその根拠となった論文と共に、最新のシステマティックレビュー論文に触れ、「エビデンスが不十分で、本ガイドラインにおける推奨の強さは弱い。CIPNの予防や治療の領域では、プラセボが心理的な影響だけでなく、生理的な変化をもたらすことが知られているため、プラセボ効果を含めたデザインの下で臨床試験を実施することが望まれる」と述べた。 こうした中、わが国ではCIPN症状が出現した際に投与する薬剤のアンケート調査が、『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き 2017年版』の公表前後(2015年および2019年)に実施され、使用薬剤の変化が報告されている。近く再調査が行われる予定で、より現実的なマネジメントの理解につながるとのことである。さらに同氏は、わが国の臨床試験の状況や課題点などを説明するとともに、日本がんサポーティブケア学会 神経障害部会が取り組んでいるCIPNに関する教育動画について、「詳細は日本がんサポーティブケア学会のホームページに近日掲載予定で、2025年5月に開催される同学会の学術集会でも告知予定」と紹介した。がんサバイバーのCIPNに対する鍼灸治療の可能性 わが国では年間100万例ががんに罹患し、治療後も慢性疼痛、とくにCIPNを訴える患者が増えている。石木 寛人氏(国立がん研究センター中央病院 緩和医療科)は、「乳がんの場合、年間9万例の発症者のうち、5年生存率が90%で、その半数が痛みを抱えているとすれば、毎年約4万例の慢性疼痛患者が発生する。現状では各種鎮痛薬による薬物療法が推奨されているが、痛みの原因を根本的に解決する治療ではないため、非薬物療法のニーズは高まっている」と指摘。 このような背景もあり、同氏が所属する診療科では1980年代から鍼灸治療を緩和ケアの一環として提供してきた。治療は刺入鍼、非刺入鍼、台座灸、ホットパックを組み合わせ、標治法(症状部位の循環改善を促す局所治療)と本治法(体力賦活を図る全身調整)により、CIPNでは週1回30分、3ヵ月間の施術を基本とし、施術後に患者が自宅で行うセルフケア指導も治療に含まれる。 同院では、こうした鍼灸治療の乳がん患者における有用性を検証する前向き介入試験を2022年より実施しており、「結果は2025年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表予定」と、同氏は紹介した。さらに現在、多施設ランダム化比較試験を準備中で、乳がん診療科と鍼灸治療提供施設とのネットワーク作りとして、各施設や学会、企業などと月1回のオンラインミーティングを実施。「円滑な共同研究のためには、まずは互いの人となりや専門性を理解し、強固な連携体制を築いていくことが重要」と強調した。また、鍼灸師が医療機関に出向いて技術交流を行うなど、現場レベルでの連携も進んでいるという。 これに加え、学会やWebセミナーでの交流会、学術団体同士の相互理解を深める取り組みなど、さまざまな普及活動を進めており、「CIPNに苦しむ患者への新たな治療選択肢を提供できる日は近づいている」と、同氏は意欲を示した。CIPNマネジメントにおける医療機器の現状と課題 久保 絵美氏(国立がんセンター東病院 緩和医療科)によると、CIPNのマネジメントには医療機器の活用が重要になるという。ただし、「日・米・欧のガイドラインでCIPN予防/治療における冷却療法や圧迫療法、その他治療法の推奨の強さやエビデンスの質は異なる」と指摘。米国食品医薬品局(FDA)に承認されている機器が紹介されるも一定の評価は得られず、今後も引き続き検証が必要とされた。 一方、内因性疼痛抑制系の賦活や神経成長因子の調整、抗炎症作用などにより複合的に鎮痛をもたらす交番磁界治療器の有効性が、前臨床試験と共に、同氏が研究責任医師として担当した臨床試験で検討されている。それによると、CIPNの原因となる抗がん剤投与終了後1年以上経過した症状固定患者のtingling(ピリピリ・チクチク)やnumbness(感覚の低下)に関して、一定の効果が示唆され保険収載に至っている。 同氏は、「医療機器によるCIPNマネジメントは発展途上で、エビデンス不足が課題である。そのため、前臨床データの拡充と共に、治療効果のさらなる検証は必須」と強調した。脳の神経回路の変化に起因する“痛覚変調性疼痛”の理解と治療戦略 痛みには侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に加え、これまで心因性疼痛や非器質的疼痛と呼ばれていた痛覚変調性疼痛がある。川居 利有氏(がん研究会 有明病院 腫瘍精神科)は、「痛覚変調性疼痛はCIPNに付随するものである。たとえば、3ヵ月を超えるような抗がん剤投与後からの手足のしびれ、強い倦怠感、浅眠、めまい・耳鳴り、食欲低下や、抗がん剤投与終了後も症状が改善せずに遷延・悪化すること、また、不安が強くなり、症状に執着し訴えが執拗になることがある。このような患者に遭遇したことはないだろうか」と問い掛けた。 これは脳神経の可塑的変化により発症、維持される慢性痛で、痛み過敏、睡眠障害、疲労、集中困難、破局思考などを伴う。神経可塑性とは、脳の神経が外部刺激により伝達効率を変化させる能力で、学習や記憶に深く関わる一方、慢性痛では脳の感覚-識別系が抑制され、情動-報酬系、認知-制御系が活性化する。この状態が進むと痛みに対する不安や苦痛が増すばかりか、痛みを軽減する下行性制御系、いわゆるプラセボ回路の機能が低下し、痛みへの自己調節が困難となる。これが不安症や強迫症、治療への期待感の喪失、医療への不信感などにつながるという。 同氏は、「CIPNは長期間に持続し、そこに神経の可塑的変化による痛覚変調性疼痛が追加されることで、痛みはもとより、うつ病や不安症、自律神経症状も加わり、感情調節機能不全に陥る」と説明。また、「CIPNの慢性化では過敏症状の併発に注意し、急激な症状変化の有無についての詳細な問診が大切である。この状態は単なる“気のせい”ではなく、長期間の心理社会的問題などの蓄積による機能障害が原因」とし、「治療には患者との信頼関係の構築が不可欠で、とくに慢性化したケースでは患者の背景や過去の経験に配慮する必要がある。睡眠や心理的ケアは治療上重要なため、心療内科や精神科への適切な紹介が推奨される。CIPNそのものは治らないが、QOL改善には過敏症状のマネジメントが大切」と結んだ。

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局所進行上咽頭がん、化学放射線療法後のcamrelizumabが有効/JAMA

 局所進行上咽頭がん(NPC)の化学放射線療法後の補助療法として、camrelizumabの投与は無イベント生存(EFS)を有意に改善し毒性も管理可能であり、有用性が確認されたことを、中国・中山大学がんセンターのYe-Lin Liang氏らが中国の11施設で実施した第III相無作為化非盲検試験「DIPPER試験」の結果として報告した。NPC患者の約20~30%は、根治的化学放射線療法の施行にもかかわらず再発する。抗PD-1抗体のcamrelizumabは、再発または転移のあるNPCに対する有用性は示されているが、局所進行NPCにおける有用性は不明であった。JAMA誌オンライン版2025年3月13日号掲載の報告。化学放射線療法が完了した局所進行NPC患者が対象、camrelizumabと標準治療を比較 研究グループは、2018年8月~2021年11月に、ゲムシタビン+シスプラチンによる導入化学療法、続いてシスプラチン併用放射線療法を完了したT4/N1/M0またはT1~4/N2~3/M0の局所進行NPCで、18~65歳、ECOG PS 0~1の患者を対象とした。 被験者450例を、補助療法としてcamrelizumabを投与する群(200mg静脈内投与を3週ごと1回で12サイクル、226例)または経過観察群(標準治療群、224例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、EFS(遠隔転移、局所再発、または全死因死亡が発生するまでの期間)で、副次評価項目は無遠隔転移生存、無局所再発生存、全生存期間、安全性、および健康関連QOLなどとした。 追跡調査終了日は2024年3月20日であった。camrelizumab群で疾患再発または死亡リスクが44%減少 無作為化された450例の患者背景は、平均年齢45(SD 10)歳、女性24%、207例(46.0%)がT4期、142例(31.6%)がN3期、311例(69.1%)がIVA期などであった。 追跡期間中央値39ヵ月(四分位範囲:33~50)において、3年EFS率はcamrelizumab群86.9%に対し、標準治療群は77.3%であり、camrelizumab群で有意な延長が認められた(層別ハザード比:0.56、95%信頼区間:0.36~0.89、p=0.01)。 Grade3/4の有害事象は、camrelizumab群で23例(11.2%)、標準治療群で7例(3.2%)が報告された。camrelizumab群の主な有害事象は反応性毛細血管内皮増殖で、発現割合はGrade1/2が85.8%、Grade3/4が2%であった。camrelizumab群で治療に関連したQOLの有意な低下は認められなかった。

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細胞免疫療法~CAR T-cell・T-cell engager~の進歩と今後の展望/日本臨床腫瘍学会

 手術療法、抗がん剤療法、放射線療法に続くがん治療の第4の柱として、細胞免疫療法が国内外で徐々に広がりつつある。とくに、最近は通常の免疫機能などでは治癒が困難な難治性のがんに対する治療法として、キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法やT細胞誘導抗体(T-cell engager:TCE)が、一部の血液がんに対する効果的な治療法として期待されている。 2025年3月6~8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、日本血液学会と日本臨床腫瘍学会の合同シンポジウムが開催され、細胞免疫療法の現状や課題、今後の展望などについて議論が交わされた。CAR-T細胞療法に残された課題に挑む CAR-T細胞療法は細胞免疫療法の1つとして、とくに一部の血液がんに対して高い治療効果を発揮している。一方で、CAR-T細胞療法にはサイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性のような有害事象、再発率の高さ、固形がんに対する限定的な効果、さらには高額な製造コストなどが解決すべき課題として残されている。 このような背景の中で、玉田 耕治氏(山口大学大学院医学系研究科 免疫学講座)らの研究グループは、固形がんに対する高い効果が期待できる次世代(第4世代)のCAR-T細胞の開発に取り組んでいる。固形がんに対してCAR-T細胞療法が効果を発揮するためには、腫瘍部分でのCAR-T細胞の集積と増殖が必要となる。玉田氏らは、免疫機能を調整する能力をCAR-T細胞に追加することでこの問題が解決できると考え、T細胞の生存や増殖を刺激するサイトカインであるIL-7とT細胞や樹状細胞の遊走や集積を促進するケモカインであるCCL19を同時に産生する7×19 CAR-T細胞を開発し、これをPRIME(Proliferation-inducing and migration-enhancing)CAR-T細胞と名付けた。マウスモデルを用いた研究により、7×19 CAR-T細胞は、内因性腫瘍抗原に対するエピトープ拡散を誘導することで、強力な抗がん効果を発揮することが証明された。また、がん患者の末梢血単核球細胞(PBMC)由来の7×19 CAR-T細胞の抗腫瘍効果なども確認されている。これらのことから、「PRIME CAR-T細胞は固形がんに対する画期的ながん治療法となることが期待され、近い将来、固形がんに対するCAR-T細胞の臨床研究が日本で実施される可能性がある」と玉田氏は述べた。 一方で、CAR-T細胞療法には高い製造コストがかかり、1回の投与で数千万円という高額な治療費を要することが大きな課題となり、とくに開発途上国においては治療の実現を拒む主な要因となっている。そこで、高橋 義行氏(名古屋大学大学院医学系研究科 小児科学)らの研究グループは、製造コストを下げるために独自で安価なCAR-T細胞の製造法を開発した。従来、CAR-T細胞はウイルスベクターを用いた遺伝子を導入する方法で製造されてきたが、高橋氏らは非ウイルスベクターによるpiggyBacトランスポゾン法を用いてCAR-T細胞の培養を行うことに成功した。本法は酵素べクター法の1つで、ウイルスベクターを用いた方法に比べて製造方法が簡便かつ安価であり、ウイルスベクターを用いた従来の方法と同様の治療効果が期待できるという。 そして、高橋氏らは再発または難治性のCD19陽性急性リンパ性白血病患者を対象に、piggyBacトランスポゾン法にて製造したCD19標的CAR-T細胞療法の第I相試験を実施している。CD19標的CAR-T細胞1×105/kgを1回投与するコホート1(16~60歳、3例)とコホート2(1~15歳、3例)、3×105/kgの1回投与に増量するコホート3(1~60歳、3例)において、投与後28日時点で全例に完全奏効(CR)が認められ、2例が再発した。なお、本剤を投与した全例の末梢血で、piggyBac CAR-T細胞の増殖が観察されていた。 さらに、高橋氏らはタイのチュラロンコン大学からの要請を受けてCAR-T細胞療法の臨床研究を支援している。同氏らと同じ方法で製造されたCD19標的CAR-T細胞療法を受けたタイの悪性リンパ腫患者5例の全例で効果が確認され、その中の1人は投与後1ヵ月で多発していた腫瘍が消失し、1年後には寛解となっていた。 これまでの成果を踏まえ、高橋氏は、「安価な製造コストを実現することで、世界中でCAR-T細胞療法が普及することが期待される。また、日本の知的財産を活用した純日本製のCAR-T製剤が承認されれば、日本の医療費削減にもつながるのではないか」と結論した。iPS細胞技術を用いた若返りT細胞療法の開発 これまで、難治性のエプスタイン・バー(EB)ウイルス関連リンパ腫に対して、末梢血由来細胞傷害性T細胞(CTL)を体外で増殖して再び体内に戻すCTL療法が試みられてきたが、治療効果は十分ではなかった。これは、CTLが標的抗原に持続的に曝露されると疲弊してしまうためで、この問題を解決するために安藤 美樹氏(順天堂大学大学院医学研究科 血液内科学)らの研究グループは、iPS細胞技術を用いることで疲弊したT細胞を若返らせる技術を開発した。EBウイルス抗原特異的CTLからT細胞由来のiPS細胞を作製し、再びCTLに分化誘導することで若返ったCTL(rejT)となり、rejTはEBウイルス感染腫瘍を縮小することなどが確認された。さらに、EBウイルス抗原のLMP2に対するrejTをマウスに投与すると、EBウイルス関連リンパ腫に対する強い抗腫瘍効果を示しながら末梢血でセントラルメモリーT細胞として存在することが確認され、LMP2-rejTは生体内でメモリーT細胞として長期間生存することで難治性リンパ腫の再発抑制効果を維持することが示唆された。 また、安藤氏らはCARによる抗原認識とT細胞受容体(TCR)による抗原認識の両者を兼ね備え、2つの異なる受容体により効率よく腫瘍を攻撃するiPS細胞由来2抗原受容体T細胞(DRrejT)を作製した。マウスモデルによる検討では、DRrejTはEBウイルス関連リンパ腫に対して、単一標的のrejTやCARに比べて抗腫瘍効果は高く、効果が長期間持続することが示された。 加えて、小細胞肺がん(SCLC)にGD2が高発現していることに着目して、iPS細胞から分化誘導したCTL(rejT)にGD2標的CARを導入する方法でGD2-CARrejTを作製すると、SCLC対する強い抗腫瘍効果を示すとともに、末梢血由来のGD2-CAR-Tよりも有意に生存期間を延長した。 さらに、同様の方法でiPS細胞からヒトパピローマウイルス特異的rejT(HPV rejT)を誘導したところ、末梢血由来HPV CTLと比較して子宮頸がんをより強く抑制していた。しかし、患者由来のCTL作製は時間とコストがかかり実用化は難しく、他家iPS細胞を用いた場合は免疫拒絶反応などが問題となる。そこで、安藤氏らはCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いてHLAクラスIを編集した健常人由来のHPV rejTを作製したところ、免疫拒絶反応を抑えながら子宮頸がんを強力に抑制し、長期間の生存期間延長効果も認められた。このような結果を踏まえ、現在、HLAクラスIを編集したHPV rejTの安全性を評価する医師主導第I相試験が進行しているという。 安藤氏は、「iPS細胞技術を活用することで、迅速かつ何度でも十分量のDRrejTを作ることが可能で、“Off-the-shelf”療法として大いに期待できる」と締めくくった。固形がんに対する細胞免疫療法の臨床開発状況と展望 固形がんに対する細胞免疫療法としては、CAR-T細胞療法、CAR-NK細胞療法、CARマクロファージ(CAR-M)療法、TCR-T細胞療法など、数多くの臨床試験が実施されているが、日本で承認されている治療法はまだ存在しない。 CAR-T細胞療法は、CD3ζ単独のCARが第1世代、CD3ζに副刺激分子のCD28や4-1BBを1つ足したものが第2世代、2つ足したものが第3世代と呼ばれ、とくに2010年に登場した第2世代以降のCAR-T細胞療法は、B細胞性白血病/リンパ腫に高い有効性を示してきた。さらに、サイトカイン分子によりT細胞の活性化シグナルを増強させるように設計された第4世代のCAR-T細胞療法の開発が進んでいる。 固形がんに対するCAR-T細胞療法の開発の問題点として、北野 滋久氏(がん研究会 有明病院)は、免疫抑制性の環境が形成される腫瘍微小循環(TME)による有効性と持続性の低下、高いCRSのリスク、on-target/off-tumor 毒性(OTOT)、抗体薬物複合体(ADC)やTCEとの競合などを挙げる。現在、これらの問題を解決するためにさまざまな技術開発が進められており、その一例として、第4世代のCAR-T細胞療法によるTMEの調整、CRSを回避するための抗IL-6受容体抗体や免疫抑制薬の予防的投与の研究、主要組織適合性複合体(MHC)/ペプチド複合体の標的化や三重特異性抗体などによるOTOTへの対応のような研究が進行しているという。 また、CAR-T細胞療法に続く有望な細胞免疫療法として、北野氏はTCR-T細胞療法にも注目している。TCR-T細胞療法は、患者からリンパ球を採取し、がん抗原特異的なTCRをT細胞に導入して再び患者に輸注する治療法で、がん関連抗原であるNY-ESO-1を標的とした高親和性TCRを用いた滑膜肉腫患者を対象とした第I/II相試験では、有効な成績が示されていた。CAR-T細胞療法は細胞表面の抗原を標的とするのに対して、TCR-T細胞療法の標的は細胞内タンパク質と糖鎖であり、最近ではネオアンチゲンを対象としたTCR-T細胞療法の開発も進められている。リンパ系腫瘍に対する細胞免疫療法(CAR-T、BiTE)の現状と今後の展望 CAR-Tと二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)を用いた細胞免疫療法は、B細胞リンパ腫、B細胞急性リンパ芽球性白血病、多発性骨髄腫など、さまざまな種類のリンパ系悪性腫瘍の治療に用いられている。大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)を例にとると、CD19を標的としたCAR-T細胞療法やCD20とCD3を標的としたBiTE抗体療法が臨床使用されている。 LBCLに対するCAR-T細胞療法としては、tisa-cel、axi-cel、liso-celがそれぞれの臨床試験の結果を基に3rdライン以降の治療薬として最初に承認された。その後、初回治療に対する治療抵抗例や、初回治療による寛解後1年以内の再発例を対象にした臨床試験において、標準治療(化学療法+自家移植)を上回るCAR-T細胞療法の有効性が示されたことを受け、axi-celとliso-celは2ndラインでの使用も認められることとなった。このような現状を踏まえ、伊豆津 宏二氏(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)はCAR-T細胞療法について、「再発または難治性のLBCL患者の治療にパラダイムシフトをもたらした」と述べた。さらに、今後は高リスクなLBCL患者に対する1stラインでの使用や、ほかのサブタイプによるCAR-T細胞療法の開発などが期待されるという。 加えて、伊豆津氏はCD20とCD3を標的としたBiTE抗体療法について、LBCLに対する2ndラインの有用性について検討した臨床成績、さらには現在進行中の1stラインにおける有用性を評価する臨床試験の概要についても言及した。 最後に、CAR-T細胞療法やBiTE抗体療法のようなT細胞リダイレクト療法には、有効性の長期持続が困難、抗原回避や耐性、CRSなどの有害事象、長い製造時間、高額な製造コスト、最適な治療順序の決定など、解決すべき課題が多く残されていることを伊豆津氏は指摘し、講演を締めくくった。

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切除不能進行胃がんに対するPD-L1抗体sugemalimab+化学療法の有用性(解説:上村直実氏)

 食道胃接合部腺がんを含む手術不能な進行胃がんに対する第1選択の薬物療法とは、従来、5-FUを代表とするフッ化ピリミジン系薬剤とシスプラチンなどのプラチナ系薬剤の併用療法が標準化学治療となっていた。最近、細胞増殖に関わるHER2遺伝子の有無により、HER2陽性胃がんに対しては抗HER2抗体であるトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を追加した3剤併用レジメンが第1選択の標準治療として推奨されており、さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を追加した4剤併用療法の有用性も報告されている。一方、胃がんの80%を占めるHER2陰性胃がんに対しては、標準化学療法にICIであるPD-1(programmed cell death-1)抗体薬であるニボルマブ(同:オプジーボ)やペムブロリズマブ(同:キイトルーダ)を加えた3剤併用療法が第1選択の標準治療レジメンとして確立し、さらにHER2陰性かつClaudin(CLDN)18.2陽性胃がんに対してはCLDN18.2を標的とした抗体薬(ゾルベツキシマブ)も承認されている。このように、手術不能進行胃がんに対する薬物療法が劇的に変化している。 未治療の切除不能な局所進行または転移を有する胃・食道胃接合部腺がんの治療に対して、PD-L1の複合発現スコア(CPS)が5以上の高値を示すアジア人の患者を対象として、標準化学療法単独とPD-L1抗体薬であるsugemalimabの併用を比較した海外無作為化試験が施行された結果、sugemalimab併用の全生存率(OS)中央値15.6ヵ月がプラセボ群の12.6ヵ月に比べて有意に延長していた。とくにCPSが10以上の高値を示す症例のOSはさらに延長していた(2025年2月のJAMAオンライン)。 ICIに関しては、2018年にノーベル賞を受賞した京都大学の本庶 佑博士と米国テキサス大学のジェームズ・P・アリソン博士がそれぞれに発見したPD-1遺伝子とCTLA-4(細胞殺傷性Tリンパ球抗原4)に対する抗体に続いて今回報告されたPD-L1の抗体薬が開発されている。それぞれのICIは異なる機序を有しており、ほかにも新たなICIが次々と開発されつつあるのが現状である。 ICIに関する課題も判明しつつある。すなわちICIが有効性を示す患者もいる一方、効果のない患者もあり、さらに重篤な副作用の出現を認める症例も報告されていることから、今回使用された腫瘍細胞のPD-L1の発現量を示すCPSなど、実際の治療に対する反応性を予測するバイオマーカーの確立が急務であろう。なお、2024年に日本胃癌学会はバイオマーカーとしてHER2、PD-L1、MSI/MMR、CLDN18の4検査を同時に実施することを推奨している。 今後、切除不能胃がんに対する1次治療にICIを含むレジメンが一般的になるものと思われる。わが国において胃がんに対して使用されるICIはニボルマブやペムブロリズマブなどのPD-1抗体が主流であるが、今回の報告から近いうちにPD-L1抗体も臨床の現場に現れると思われる。

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高齢NSCLCへのICI、2次治療への移行率と治療成績(NEJ057)/日本臨床腫瘍学会

 高齢の非小細胞肺がん(NSCLC)患者における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療後の2次治療への移行率や、2次治療の有効性に関する報告は乏しい。そこで、75歳以上の進行・再発NSCLC患者を対象とした後ろ向きコホート研究(NEJ057)1)において、ICIによる治療後の2次治療への移行率および2次治療の治療成績が検討された。山口 央氏(埼玉医科大学国際医療センター)が、第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で本結果を報告した。・試験デザイン:多施設(58施設)後ろ向きコホート研究・対象:未治療の75歳以上の進行・再発NSCLC患者のうち、ICI+化学療法、ICI単剤、プラチナダブレット、単剤化学療法のいずれかで2018年12月~2021年3月に治療を開始した患者(初回治療に分子標的薬を使用した患者とEGFR遺伝子変異ALK融合遺伝子を有する患者は除外)・評価項目:全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、安全性など 今回は、ICI+化学療法またはICI単剤で治療を開始したNSCLC患者を対象として解析された。主な結果は以下のとおり。・解析対象患者(779例)の内訳は、ICI+化学療法群354例、ICI単剤群425例であった。・全身状態はICI+化学療法群のほうが良好な傾向にあった。ECOG PS0/1/2以上/不明の例数は、ICI+化学療法群が137/199/17/1例、ICI単剤群が100/223/102/0例であった。・PD-L1発現はICI単剤群のほうが高発現の傾向にあった。PD-L1 1%未満/1~49%/50%以上/不明の例数は、ICI+化学療法群が111/129/75/39例、ICI単剤群が12/111/297/5例であった。・データカットオフ時点(2021年12月31日)において、病勢進行はICI+化学療法群82%、ICI単剤群77%に認められ、Best Supportive Care(BSC)以外の2次治療への移行率はそれぞれ39.3%、23.8%であった。各群の2次治療の内訳は以下のとおり。-プラチナ併用化学療法:5%、13%-単剤化学療法:39%、16%-ICI単剤:3%、1%-その他:1%未満、1%未満-BSC:52%、69%・2次治療のレジメンは、ICI+化学療法群ではドセタキセル(52例)、S-1(32例)、ドセタキセル+ラムシルマブ(23例)が多く、ICI単剤群ではS-1(21例)、カルボプラチン+ペメトレキセド(18例)、カルボプラチン+nab-パクリタキセル(18例)が多かった。・2次治療のPFS中央値、奏効割合は以下のとおり。 <ICI+化学療法群> プラチナ併用化学療法:2.5ヵ月、13% 単剤化学療法:3.7ヵ月、11% <ICI単剤群> プラチナ併用化学療法:5.3ヵ月、26% 単剤化学療法:3.7ヵ月、13%

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リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療/日本臨床腫瘍学会

 キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法や二重特異性抗体など、最近の免疫治療の進歩は目覚ましく、とくに悪性リンパ腫と多発性骨髄腫に対しては生命予後を大幅に改善させている。今後もさらに治療成績が向上することが期待され、最適な治療法を選択していくためには、本邦における免疫治療の現状や課題、今後の治療法の開発状況などについてよく理解しておく必要がある。 2025年3月6~8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療についてのシンポジウムが開催され、国内外の4人の演者が最新の知見や今後の展望などについて講演した。B細胞リンパ腫治療の進歩に重要な役割を果たす二重特異性抗体 「とくに、最近のCD3とCD20を標的とする二重特異性抗体の出現は、B細胞リンパ腫治療に大きな進歩をもたらしている」とGrzegorz Stanislaw Nowakowski氏(Mayo Clinic)は強調する。T細胞の細胞膜上に発現するCD3とB細胞性がん細胞の膜上に発現するCD20の両者に結合し、T細胞の増殖および活性化を誘導することでCD20が発現しているがん細胞を攻撃する治療法で、最近はCD20とは異なる表面分子を標的とする、または複数の表面分子を同時に標的とする二重特異性抗体の研究開発も進行しているという。 CD3とCD20を標的とする二重特異性抗体に関する臨床試験は、CAR-T細胞療法後の再発を含む再発または難治性の進行性リンパ腫を対象に実施され、約50~60%の患者に奏効し、奏効した患者の約半数が完全奏効となっていた。加えて、完全奏効した患者は、その状態が長く持続し、患者の病態や前治療の数や内容などにかかわらず、効果は一貫してみられていた。 一方で、二重特異性抗体の有害事象については、Grade3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)のリスクは高くなく、用量漸増や予防薬の前投与によって軽減することが可能となる。Nowakowski氏は、「重要なのは、CRSは管理可能であると認識することである。加えて、治療に関連する神経毒性の発生リスクも高くなく、Grade3以上の神経毒性の発現頻度は非常に低い」と述べた。 さらに、二重特異性抗体による治療のメリットは、化学療法やCAR-T細胞療法などのほかの治療法と組み合わせたり、治療の順番を調整したりすることができる点にあるとNowakowski氏は指摘する。また、特定の二重特異性抗体をCAR-T細胞療法までの橋渡しの治療としても使うことができることを示唆する研究報告もあり、治療効果をより継続したり高めたりする臨床研究が進行中であるという。 最後に、「活動性の高い低悪性度リンパ腫に対しては、化学療法を併用しない二重特異性抗体による単独治療も可能となる。このように、二重特異性抗体はモノクローナル抗体と同様に、複数の治療法で使用できる可能性がある」とNowakowski氏は付け加えた。B細胞リンパ腫に対する早期治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性 本邦においても、CD19を標的としたCAR-T細胞療法は、再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)などのB細胞リンパ腫に適応となっている。CAR-T細胞療法の治療成績は、それまでの再発または難治性LBCLに対する標準治療に比べて群を抜いて高く、治療成績は劇的に改善された。今回、蒔田 真一氏(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)は、B細胞リンパ腫に対する早期の治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性について言及した。 LBCLに対するCAR-T細胞療法としては、第2世代のCAR-T細胞療法であるtisa-cel、axi-cel、liso-celがそれぞれの単群試験の結果を基に、3rdライン以降の治療薬として本邦では最初に承認された。その後、初回治療に対する治療抵抗例や、初回治療による寛解から12ヵ月以内の再発例を対象としたランダム化比較試験において、化学療法と自家幹細胞移植による標準治療を上回るCAR-T細胞療法の有効性が示されたことで、axi-celとliso-celが2ndラインとしても使用できるようになっている。 蒔田氏は、CAR-T細胞療法を早期ラインで使用することのメリットとして、まず、早期のラインではより多くのブリッジング(橋渡し)治療が可能となり、CAR-T細胞を製造している間の腫瘍進行を抑制することが可能となることを挙げる。さらに、早期ラインでは従来の細胞障害性抗がん薬への曝露が少ないことから、CAR-T細胞療法が効きやすい可能性もあるという。 このような背景の中で、未治療のLBCLに対する1stラインとしてのCAR-T細胞療法の有用性を評価するための臨床試験が現在進行している。「加えて、LBCLに対する二重特異性抗体の臨床試験なども複数進行しており、近い将来、未治療LBCLに対する治療戦略が劇的に変化する可能性がある」と蒔田氏は結んだ。CAR-T細胞療法の効果的な運用に向けて CAR-T細胞療法は、2012年に米国のフィラデルフィアで小児急性リンパ芽球性白血病への最初の使用が報告された免疫細胞療法であり、長期にわたる良好な治療成績が得られている。その後も、CD19を標的としたCAR-T細胞療法はとくに再発または難治性のLBCLの治療戦略を劇的に変化させ、その適応は広がっている。 LBCL患者の約60%は、初回のR-CHOP療法(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)で長期生存を達成するが、再発または難治性となった場合は、化学療法や自家幹細胞移植などの2ndラインの標準治療で治癒に至る患者はわずか10%にすぎない。そのため、再発または難治性のLBCLに対する治療戦略はきわめて重要であると福島 健太郎氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は述べる。 CAR-T細胞療法を効果的に運用していくためには、まずは適切なCAR-T細胞の製造が重要となる。CAR-T細胞の製造については、製造管理や品質管理の手法が「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準(GCTP)」に適合する必要があるが、開発企業や医療機関によってアフェレーシス(T細胞採取)の手順や採取されたアフェレーシス産物の製造所への輸送方法などが異なっている。大阪大学ではこれを未来医療センター細胞調製施設(MTR CPC)が担当し、アフェレーシス、CD3陽性細胞率の測定、生細胞率測定、採取産物の濃縮・調整・凍結保存、製品原料の発送などを主治医、輸血部門、中央研究所、MTR CPCなどが連携して実施しているという。 CAR-T細胞療法では、アフェレーシス、製造(遺伝子改変・培養)、輸送、投与前処置など、患者からT細胞を採取してから再び患者に戻すまでの過程があり、これに要する時間(Vein to Vein Time:V2VT)は治療効果や患者の状態管理に大きく影響を与えることになる。そのため、V2VTの短縮は、CAR-T細胞療法における重要な課題となっている。そして、V2VTによっては、アフェレーシス終了後にCAR-T細胞の輸注に先立ってリンパ腫に対する治療を行う橋渡し治療を行うこともある。このように、V2VTの短縮や橋渡し治療などを患者ごとに吟味しながら、CAR-T細胞療法の治療効果を高めていくことが重要と福島氏は指摘する。 さらに、福島氏はCAR-T細胞療法後における二次性のT細胞性悪性腫瘍の発生リスクについて言及した。2024年4月、米国食品医薬品局(FDA)は、CAR-T細胞療法製品の添付文書に新たなT細胞性悪性腫瘍が発生する可能性について警告を表示することを要求した。しかし、その後の新たな研究から、CAR-T細胞療法後の二次性悪性腫瘍の発生頻度は、標準治療後における発生頻度と同程度であることが示されているという。多発性骨髄腫に対する免疫療法の治療効果最大化への課題 これまで、プロテアソーム阻害薬(PI)、免疫調節薬(IMiDs)、抗CD38モノクローナル抗体製剤(抗CD38抗体)などの治療薬が登場し、多発性骨髄腫(MM)患者の生命予後はかなり改善されてきた。しかし、これらの治療を続けていても、多くの場合再発となり、予後不良の再発または難治性のMMとして、現在の重要なアンメットメディカルニーズとなっている。この問題に対処するために、最近はCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、抗体薬物複合体(ADC)などが登場し、大いに注目されている。 CAR-T細胞療法や二重特異性抗体、ADCの標的抗原として、とくにMM患者の骨髄腫細胞に高発現しているB細胞成熟抗原(BCMA)が重要であり、BCMAを標的とした免疫療法の現状と、効果を最大限に発揮するための課題などについて、原田 武志氏(徳島大学大学院 血液・内分泌代謝内科学分野)が言及した。現状では、PI、IMiDs、抗CD38抗体による治療の後に再発または難治性となったMMに対して、BCMAを標的としたCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、ADCによる治療が有効であることを示唆する結果が複数の臨床試験によって示されている。 このように、BCMAはMMの創薬ターゲットとして注目されているが、これらの薬剤の臨床効果はMM患者にとって普遍的ではなく、治療中に低下することがあり、これが治療効果を最大化するための1つの課題と原田氏は指摘する。現在、薬剤に対する治療抵抗性のメカニズムが精力的に研究されている中で、原田氏らはBCMAを標的とした免疫療法の後には、BCMA発現のダウンレギュレーションが関与していることを明らかにしてきた。また、BCMAとそのリガンドであるB細胞活性化因子(BAFF)とB細胞の発達や自己免疫応答に関与する関連タンパク質(APRIL)との相互作用も治療抵抗性に関与している可能性もあり、MM細胞と破骨細胞におけるBAFF/APRILのBCMAへの結合は、BCMAを標的とした免疫療法の有効性に影響を与える可能性が示唆されていた。さらに、原田氏らは、APRILがBCMAへのBCMAを標的とした二重特異性抗体製剤の結合を妨害し、破骨細胞由来のAPRILはBCMAを標的とした免疫療法の治療効果を減弱させる可能性もあると考えているという。 最近は、MMに対する新たな治療概念として、腫瘍細胞のみでなく腫瘍微小循環を標的とした治療も検討されはじめている。「今後、BCMAを標的とした免疫治療の効果を最大限に発揮するためには、腫瘍細胞と腫瘍微小循環の両者に対する治療戦略が重要となる」と原田氏は結論付けた。

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臨床に即した『MRSA感染症の診療ガイドライン2024』、主な改訂点は?

 2013年に『MRSA感染症の治療ガイドライン』第1版が公表され、前回の2019年版から4年ぶり、4回目の改訂となる2024年版では、『MRSA感染症の診療ガイドライン』に名称が変更された1)。国内の医療機関におけるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の検出率は以前より低下してきているが、依然としてMRSAは多剤耐性菌のなかで最も遭遇する頻度の高い菌種であり、近年では従来の院内感染型から市中感染型のMRSA感染症が優位となってきている。そのため、個々の病態把握や、検査や診断、抗MRSA薬の投与判断と最適な投与方法を含め、適切な診療を行うことの重要性が増している。本ガイドライン作成委員長の光武 耕太郎氏(埼玉医科大学国際医療センター感染症科・感染制御科 教授)が2024年の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会で発表した講演を基に、本記事はガイドラインの主な改訂点についてまとめた。 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の検査部門(入院検体)の2023年報では、MRSAの分離率は中央値として5.95%を示し、耐性菌の中で最も高い割合であった2)。がん患者や維持透析患者などのICU患者では、多剤耐性菌の血流感染症による死亡率が高く、MRSA感染症の死亡率は約20%とされる。 2024年版の改訂点の特徴として、臨床に即したガイドラインをめざし、従来の叙述的な内容に加えてクリニカル・クエスチョン(CQ)方式を採用し、13のCQを記載して、より臨床を意識した構成となっている。第V章の「疾患別抗MRSA薬の選択と使用」では、疾患別に11の各論で網羅的に扱い、とくに整形外科領域(骨・関節感染症)では、3つのCQで詳細に解説している。光武氏は、本ガイドラインではCQに対する推奨やエビデンスの度合いをサマリーで端的に示しているが、Literature reviewにて膨大な文献を検討したプロセスを詳細に記載しているので、各読者がとくに関心の高い項目についてはぜひ目を通してほしいと語った。 光武氏は本ガイドラインに記載されたCQのうち、以下の7項目について解説した。CQ1. MRSA感染症の迅速診断(含む核酸検査)は推奨されるか・推奨:MRSA菌血症が疑われる場合、迅速診断を行うことを提案する。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) 血液培養でグラム陽性ブドウ状球菌もしくは黄色ブドウ球菌が検出された患者において、MRSA迅速同定検査は従来の同定感受性検査と比較し、死亡率や入院期間を改善しないが、適切な治療(標的治療)までの期間を短縮する可能性がある。皮膚軟部組織感染症における死亡率に関しては、1件の観察研究において、疾患関連死亡率は迅速検査群が有意に低い(オッズ比[OR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.07~0.81)とする報告がある3)。CQ4. ダプトマイシンの高容量投与(>6mg/kg)は必要か・推奨:MRSAを含むブドウ球菌等により菌血症、感染性心内膜炎患者に対して、高用量投与(>6mg/kg)はCK上昇発生率を考慮したうえで、その投与を弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:B(中程度) 今回実施されたメタ解析により、複雑性菌血症および感染性心内膜症患者では、標準投与群(4~6mg/kg)のほうが、高容量投与群(>6mg/kg)よりも有意に治療成功率が低いとする結果が示された(複雑性菌血症のOR:0.48[95%CI:0.30~0.76]、感染性心内膜症のOR:0.50[95%CI:0.30~0.82])4)。そのため、病態によっては最初から高用量投与することが推奨される。CQ5. 肺炎症例の喀痰からMRSAが分離されたら抗MRSA薬を投与すべきか・推奨:一律には投与しないことを提案するが、MRSAのみが単独で検出された肺炎では抗MRSA薬投与の必要性を検討してもよい。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 肺炎症例に対して、かつてはバンコマイシンを投与することがあったが、抗MRSA薬を投与することによる死亡率改善効果は認められなかったため、一律に投与しないことが提案されている(死亡リスク比:1.67[95%CI:0.65~4.30、p=0.18、2=39%])。一方で、MRSAのみが単独検出された肺炎で、とくに人工呼吸器関連肺炎(VAP)はMSSA肺炎と比較して死亡率が高い可能性があるため、グラム染色を活用しながら抗MRSA薬投与を検討する余地がある。CQ7. 血流感染においてリネゾリドは第1選択となりうるか・推奨:MRSA菌血症において、リネゾリドやバンコマイシンやダプトマイシンと同等の第1選択とすることを弱く推奨する(提案する)。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) MRSA菌血症に対するリネゾリド投与例は、バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン投与例と比較し、全死因死亡率等の治療成功率において非劣性を示す結果であり、第1選択となりうる(エビデンスC)。ただし実臨床では、リネゾリド投与期間中の血小板減少発現によって投与中止や変更を余儀なくされる症例が少なくない。とくに維持透析患者を含む腎機能障害者では、血中リネゾリド濃度が高値となり、血小板減少が高率となるため、注意が必要だ。CQ8. 整形外科手術でバンコマイシンパウダーの局所散布は手術部位感染(SSI)予防に有効か・推奨:整形外科手術でSSI予防を目的としたルーチンの局所バンコマイシン散布を実施しないことを弱く推奨する。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 局所バンコマイシン散布は実臨床にて行われてきたものではあるが、今回実施されたメタ解析の結果、推奨しない理由として以下の項目が挙げられた。1. 全SSIの予防効果を認めない(エビデンスD)2. インプラントを用いる手術でも、SSI予防効果は認められない(エビデンスD)3. グラム陽性球菌に伴うSSIを予防する可能性はある(エビデンスC)4. SSI予防を目的とした局所バンコマイシン散布の、MRSA-SSI予防効果は明らかでない(エビデンスD)CQ11. 耐性グラム陽性菌感染症が疑われる新生児へのリネゾリドの投与は推奨されるか・推奨:バンコマイシン投与が困難な例に対してリネゾリドを投与することを弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:C(弱い) リネゾリドは新生児・早期乳児・NICUで管理中の小児におけるMRSAや耐性グラム陽性球菌感染症の治療薬として考慮される。バンコマイシンの使用が困難な状況では使用は現実的とされる。新生児へのリネゾリドの投与を弱く推奨する理由として以下の項目が挙げられた。1. リネゾリドの有効性は、バンコマイシン投与の有効性と比較して差を認めなかった(エビデンスC)2. リネゾリド投与後の有害事象発生率は、バンコマイシンと比較して差を認めなかった(エビデンスC)。リネゾリド投与例では血小板減少を認めることがあり注意が必要。出生時の在胎週数が低い児に、その傾向がより強いCQ13. 抗MRSA薬と他の抗菌薬(β-ラクタム系薬、ST合剤、リファンピシン)の併用は推奨されるか・推奨:心内膜炎を含む菌血症において、バンコマイシンもしくはダプトマイシンとβ-ラクタム系薬の併用を、症例に応じ弱く推奨する(提案する)。その他の併用はエビデンスが限定的であり、明確な推奨はできない。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性B(中程度) 基本は単剤治療を行い、感染巣/ソースコントロールが重要となるが、抗MRSA薬の効果がみられない場合がある。バンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)=2µg/mLを示すMRSAの菌血症に対し、高用量のダプトマイシン+ST合剤(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)併用により、臨床的改善および微生物学的改善が期待される(エビデンスB)。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+β-ラクタム系薬併用は、菌血症の持続時間や発生は減少させるものの死亡率に差はない。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+リファンピシン併用は、血流感染症で死亡者数、細菌学的失敗率、再発率に差はなかった。 光武氏は最後に、抗MRSA薬の現状ついて述べた。日本では未承認だが、第5世代セフェム系抗菌薬のceftaroline、ceftobiprole、oritavancin、dalbavancin、omadacycline、delafloxacinといったものが、海外ではすでに使用されているという。現時点では実臨床での使用は難しいが、モノクローナル抗体製剤、バクテリオファージ、Lysinsの研究も進められている。また、MRSA治療にAIを導入する試みも各国から数多く報告されており5)、アップデートが必要な状況となっているという。 本ガイドラインは、日本化学療法学会のウェブサイトから購入することができる。

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胸腺がんにおけるアテゾリズマブ+化学療法の有効性と安全性(MARBLE):多施設共同単群第II相試験/Lancet Oncol

 胸腺がん(TC)は、年間0.15例/10万人とされる胸腺上皮性腫瘍の15%と、非常にまれな疾患である。進行TCの1次治療は、カルボプラチン+パクリタキセルなどのプラチナ併用化学療法である。しかし、奏効割合(ORR)は30%、無増悪生存期間(PFS)の中央値は約5.0~7.6ヵ月である。既治療の進行TCに対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤の試験でもORRは0〜22.5%に留まる。一方、ICI+化学療法の有効性を検討した試験はない。そのような中、順天堂大学の宿谷 威仁氏らは未治療の進行TCに対するICI+化学療法の国内15施設によるオープンラベル単群第II相試験を行った。 ・対象:未治療の切除不能再発進行(III、IVA、IVB期)TC・介入:アテゾリズマブ(1,200mg)+カルボプラチン(AUC6)+パクリタキセル(200mg/m2)3週ごと4〜6サイクル→アテゾリズマブ(1,200mg)3週ごと忍容できない有害事象の発現または進行(PD)まで・評価項目[主要評価項目]独立中央判定(ICR)評価のORR[副次評価項目]試験担当医評価のORR、全生存期間(OS)、PFS、病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、安全性など 主な結果は以下のとおり・2022年6月14日〜2023年7月6日に48例が登録され、有効性および安全性の分析対象となった。・患者の年齢中央値は67.5歳で、全員アジア人であった。・追跡期間中央値15.3ヵ月でのORRは56%であった。・頻度の高いGrade3以上の有害事象は好中球減少症(56%)、白血球減少症(33%)、発熱性好中球減少症(23%)、斑状丘疹状発疹(13%)であった。治療関連死亡はなかった。 進行再発胸腺がんは予後不良であるにもかかわらず、希少性により、新たな薬物療法の開発と導入が遅れている。アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセルは、未治療の進行または再発胸腺がんに対する実施可能な治療選択肢となる可能性がある。

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進行食道がんへのニボルマブ+イピリムマブ、ニボルマブ+化学療法の日本人長期追跡データ(CheckMate 648)/日本臨床腫瘍学会

 CheckMate 648試験は、未治療の根治切除不能・進行再発食道扁平上皮がんを対象に、シスプラチン+5-FUの化学療法を対照として、ニボルマブ+化学療法、ニボルマブ+イピリムマブの優越性を報告した試験である。この試験の結果をもって両レジメンは「食道癌診療ガイドライン 2022年版」においてエビデンスレベルAで推奨されている。第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)のPresidential Sessionでは、虎の門病院の上野 正紀氏が、本試験の日本人サブグループにおける45ヵ月の長期フォローアップデータを報告した。・試験デザイン:国際共同ランダム化第III相試験・対象:未治療の進行再発または転移食道扁平上皮がん(ESCC)、ECOG PS 0~1・試験群:1)ニボ+イピ群:ニボルマブ(3mg/kg)+イピリムマブ(1mg/kg)2)ニボ+ケモ群:ニボルマブ(240mg)+化学療法(シスプラチン+5-FU)ニボルマブおよびイピリムマブは最長2年間投与3)ケモ群:化学療法単独(シスプラチン+5-FU)[主要評価項目]PD-L1(TPS)≧1%の患者における全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全体集団のOS・PFS、奏効率(ORR) 主な結果は以下のとおり。・ITT集団970例中日本人は394例で、ニボ+イピ群に131例、ニボ+ケモ群に126例、ケモ群に137例が割り当てられた。いずれの群でもTPS≧1の患者はほぼ半数だった。データカットオフ(2023年10月27日)時点における追跡期間中央値は45.1ヵ月だった。・日本人のTPS≧1集団におけるOS中央値は、ニボ+イピ群20.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.6~26.6)、ニボ+ケモ群17.9ヵ月(95%CI:12.1~26.6)と、ケモ群9.0ヵ月(95%CI:7.5~11.1)に対し、いずれも統計学的有意に上回った(ニボ+イピ群のケモ群に対するハザード比[HR]:0.46、ニボ+ケモ群のHR:0.58)。TPS≧1集団における48ヵ月時点の全生存率はニボ+イピ群30%、ニボ+ケモ群18%、ケモ群9%だった。・日本人の全集団におけるOS中央値は、ニボ+イピ群17.6ヵ月(95%CI:12.7~22.8)、ニボ+ケモ群15.5ヵ月(95%CI:12.1~19.3)と、ケモ群の11ヵ月(95%CI:9.1~14.0)に対し、いずれも有意に上回った(ニボ+イピ群のケモ群に対するHR:0.67、ニボ+ケモ群のHR:0.81)。・治療開始から18週時点におけるORRが高いレスポンダー群とそれ以外の群に分けた解析では、レスポンダー群はフォローアップ期間を通じて長期に予後が改善する傾向が示された。この傾向はニボ+イピ群、ニボ+ケモ群に共通していた。・Grade3~4の治療関連有害事象はニボ+イピ群37%、ニボ+ケモ群49%、ケモ群36%で発生した。 上野氏は「日本人集団はPD-L1発現にかかわらず、ニボ+イピ群・ニボ+ケモ群共に、ITT集団と同様、一部はそれを上回る改善を示した。有害事象も既報のものと一致していた。この解析結果は進行再発ESCCの1次治療としてニボ+イピ、ニボ+ケモの両レジメンが日本人においても標準治療であることを裏付けるものだ」とまとめた。 現在のガイドラインにおいては、進行再発ESCCの1次治療にはニボルマブ+イピリムマブ、ニボルマブ+化学療法に加え、ペムブロリズマブ+化学療法の3レジメンが同等の推奨とされている。これらの使い分けについて上野氏は「ニボ+ケモは腫瘍縮小効果が出るまでが速い一方で、ニボ+イピは奏効すれば長期に予後を改善できる可能性がある。患者さんの年齢や全身状態によって『少し待てる』場合であればニボ+イピ、そうでない場合はニボ+ケモを選択するのが1つの考え方だ。またニボ+ケモは入院加療となる一方、ニボ+イピは外来対応が可能だ。そうした点も踏まえ、患者さんごとに判断している」とした。

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獨協医科大学 血液・腫瘍内科【大学医局紹介~がん診療編】

今井 陽一 氏(主任教授)遠矢 嵩 氏(准教授)中村 文美 氏(講師)吉原 さつき 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴獨協医科大学病院は圧倒的症例数と最新鋭の設備で北関東の医療をリードする特定機能病院です。血液・腫瘍内科は広範囲の医療圏から多くの血液疾患の患者さんにご来院いただき、白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫を中心とした造血器腫瘍から再生不良性貧血などの造血障害まで幅広く血液疾患の診断と治療にあたっています。患者さんお一人おひとりに寄り添いながら、キメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T細胞療法)などの最先端治療を積極的に導入するなど最適な血液診療の提供を心掛けています。とくに多発性骨髄腫はCAR-T細胞療法、二重特異性抗体療法を取り入れ最先端の治療を推進しています。臨床研究では、16施設の多施設共同前向き臨床研究を主導して、多発性骨髄腫の維持療法における遺伝子変異・免疫状態の変化を世界に先駆けて解明すべく取り組んでいます。基礎研究は、ゲノム・フローサイトメトリー解析、分子生物学、疾患モデルマウスを駆使して造血器腫瘍の病態解明を目指し、新規治療法の開発を目指しています。このように、私たちの教室は目の前の患者さんの癒しを第一に考えることを礎に、さまざまな形で血液診療の推進に貢献できる医療人の育成を目指しています。日光・那須の素晴らしい景観に囲まれた充実した環境で共に切磋琢磨する仲間をお待ちしております。力を入れている治療/研究テーマ当科では、急性白血病などの造血器腫瘍のほか、再生不良性貧血などの特発性造血障害も含めた幅広い血液疾患に対する診療を行っています。通常の化学療法に加えHLA半合致移植(ハプロ移植)を含む造血幹細胞移植も行い、2025年にはCAR-T細胞療法も開始し、豊富かつ多彩な臨床経験を積むことができます。また、近年は血液疾患診療を行うにも遺伝子変異の理解が必要です。当科では次世代シーケンスを用いた遺伝子変異解析も行っており、経験知と理論的理解の双方に基づいた診療を行っています。研究についても、基礎研究から臨床研究まで幅広く行っています。私個人としては造血器腫瘍の遺伝子変異と病態の関連性や、日和見ウイルス感染症にとくに注目して研究を行っています。学会参加に対する補助もあり、学会発表や論文執筆の機会も多いです。医学生/初期研修医へのメッセージ血液内科に多忙、激務といったイメージをお持ちの方もいるかもしれません。当院ではチーム診療を行っており休日は交代制で十分確保できますし、残業も少なく、無理なく持続可能な形で経験や実績を積むことができると思います。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力北関東で高度な血液診療を提供できる施設は限られているため、遠方からも患者さんが来院されています。当院に対する期待と信頼を感じ、患者さんに希望を提供できるように、日々取り組んでいます。当科では症例報告や後方視的研究について学会発表をするだけではなく、多施設共同前向き研究の提案や参加をすることで、新たなエビデンスの確立にも貢献しています。基礎研究では、技術的なサポートが充実しているおかげで、診療と研究の両立が可能になっています。医局の雰囲気、魅力若手、ベテランを問わず、よりよい診療を提供するために、助け合っています。治療方針に悩む場合には、定時のカンファレンスだけでなく、随時、相談することが可能となっており、安心して診療ができます。週末・休日は当番制のため、プライベートとの両立が可能です。また、それぞれのキャリアプランに応じて、医局がサポートしてくれます。医学生/初期研修医へのメッセージ血液内科は新規薬剤や細胞療法の導入で、治療成績の向上を実感できるとてもやりがいのある科です。血液内科に興味のある先生方、一緒に頑張ってみませんか?これまでの経歴獨協医科大学病院で初期研修、国立病院機構栃木医療センターで内科専門医プログラムを修了し、2024年4月に獨協医科大学病院血液・腫瘍内科に入局しました。同医局を選んだ理由患者さんの診断から看取りまで伴走したいと思い、総合内科で学んでいましたが、より専門的な知識や技術があれば、治療や終末期といった患者さんの重要な意思決定により深く関われるのではないかと思いました。血液疾患は症状が多彩で診断の面白さがあり、急性期は集中治療の側面もあることから内科の醍醐味だと思いました。また、当医局では臨床医としてもきめ細やかな先生が研究にも従事しており、多面的に疾患や臨床を捉えている姿を見て、こういう医師になりたいと思いました。当院は県内外から多くの患者さんが集まるため血液疾患も多彩であり、他診療科との連携もしやすく、良い環境と考えました。現在学んでいること悪性リンパ腫や急性白血病の入院患者さんを担当し、化学療法について学んでいます。大学院進学予定であり、今は臨床研究の準備をしています。獨協医科大学 血液・腫瘍内科住所〒321-029 栃木県下都賀郡壬生町北小林880問い合わせ先ketsueki@dokkyomed.ac.jp医局ホームページ獨協医科大学 血液・腫瘍内科専門医取得実績のある学会日本内科学会(認定内科医・総合内科専門医)日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会日本輸血・細胞治療学会日本感染症学会日本臨床腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)幅広い症例と専門的な指導急性白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など多様な疾患を経験でき、造血幹細胞移植やCAR-T細胞・二重特異性抗体療法など最先端の治療にも携わることができます。専門医の手厚い指導のもと、診断から治療まで実践的に学べる環境です。 (2)充実した設備と豊富な実践機会無菌室を備えた移植ユニットや最新の検査・治療設備を活用し、骨髄穿刺や腰椎穿刺などの基本手技から移植管理まで幅広く経験できます。学会発表や研究のサポートも整い、学術的な成長も後押しします。 (3)働きやすい環境とキャリア支援都市部の利便性を持ちながら、地方ならではの温かい雰囲気の中で研修でき、研修医一人ひとりに合った指導を受けられます。計画的なローテーションで血液内科の基礎をしっかり固め、専門医取得や大学院進学、海外研修など多様なキャリアを支援します。詳細はこちら

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固形がん患者における初回治療時CGP検査実施の有用性(UPFRONT)/日本臨床腫瘍学会

 本邦における包括的ゲノムプロファイリング検査(CGP)は、「標準治療がない、または局所進行もしくは転移が認められ標準治療が終了となった(見込みを含む)」固形がん患者に対して生涯一度に限り保険適用となる。米国では、StageIII以上の固形がんでのFDA承認CGPに対し、治療ラインに制限なく全国的な保険償還がなされており、開発中の新薬や治験へのアクセスを考慮すると、早期に遺伝子情報を把握する意義は今後さらに増大すると考えられる。本邦の固形がん患者を対象に、コンパニオン診断薬(CDx)に加えて全身治療前にCGPを実施する実現性と有用性を評価することを目的に実施された、多施設共同単群非盲検医師主導臨床試験(NCCH1908、UPFRONT試験)の結果を、国立がん研究センター中央病院/慶應義塾大学の水野 孝昭氏が第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で発表した。・対象:16歳以上の治癒切除不能または再発病変を有する非小細胞肺がん(EGFR、ALK、ROS1、BRAFのドライバー遺伝子変異なし)、トリプルネガティブ乳がん、胃がん、大腸がん、膵がん、胆道がん患者(前治療歴なし[術前術後補助化学療法は許容]、ECOG PS 0/1、CGP検査に提出可能な腫瘍検体・末梢血検体を有する)・組み入れ患者の治療の流れ:CGP(医療保険の先進医療特約または自費)→標準治療±分子標的治療(→[保険適用のCGP]→分子標的治療)※1・評価項目:[主要評価項目]actionableな遺伝子異常※2に対応する分子標的薬による治療を受ける患者の割合[重要な副次評価項目]全生存期間(OS)、actionableな遺伝子異常を有する患者の割合、actionableな遺伝子異常に対する標的治療における無増悪生存期間(PFS)など・追跡期間:24ヵ月(データカットオフ:2024年3月)※1:保険適用のCGPを受けるかどうかは任意で、本研究では規定なし※2:actionableな遺伝子異常=厚生労働省「第2回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議(2019年3月8日)」で示された「資料3-4 治療効果に関するエビデンスレベル分類案」1)におけるエビデンスレベルD以上 主な結果は以下のとおり。・2020年6月~2022年3月に201例が登録され、192例がCGPを受けた。・201例の患者背景は、年齢中央値が62歳(範囲:19~83)、男性が54.2%、がん種は膵がん27.9%/大腸がん24.9%/非小細胞肺がん15.9%/胆道がん11.9%/胃がん8.5%/乳がん6.5%で、術後再発症例は32.8%であった。・最も多く検出された遺伝子異常はTP53(≧60%)で、KRAS(≧40%)、APC、SMAD4、ARID1A(いずれも≧10%)などが続いた。また、ERBB2、BRAF、EGFRなど薬剤に直結する遺伝子異常も、いずれも5%未満ではあるが検出された。・actionableな遺伝子異常(エビデンスレベルA~D)を有する患者は110例(57.3%)、治療候補薬の推奨あり(エビデンスレベルE以下も含む)の患者は142例(74.0%)であった。・actionableな遺伝子異常を有する患者の割合をがん種別にみると、膵がん67.9%/非小細胞肺がん65.6%/胆道がん62.5%/大腸がん48.0%/乳がん46.2%/胃がん35.3%であった。・actionableな遺伝子異常に対応する分子標的薬による治療を受けた患者は14例(7.3%)で、がん種ごとにみると非小細胞肺がん18.8%/膵がん8.9%/胆道がん4.2%/大腸がん4.0%、乳がんおよび大腸がんは0%であった。なお、14例中8例が治験的治療を受けた。・actionableな遺伝子異常に対する標的治療におけるPFS中央値は3.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:1.1~5.8)、奏効率(ORR)は28.6%であった。とくに非小細胞がん患者においてPFSが良好な傾向がみられ、6例中4例がPR(部分奏効)であった。・全体集団のOS中央値は24.3ヵ月(95%CI:20.2~30.9)であった。・治療候補薬の推奨があった患者における分子標的治療を受けなかった理由としては、標準治療中の状態悪化が57.0%を占め、32.8%が標準治療中であった。 水野氏は今回の結果について、初回全身治療時にCGPを受けた固形がん患者のうち、actionableな遺伝子異常に基づく分子標的治療を受けた患者の割合は7.3%であり、本研究実施期間中においては限定的であったが、ドライバー遺伝子陽性症例を除く非小細胞肺がん患者で比較的良好な結果が得られたことから、特定の背景を有する患者においてはCGP早期実施による利益が得られる可能性があるとまとめている。 講演後の質疑応答において、司会を務めた京都大学の武藤 学氏は、今回の7.3%という結果にはCGPをCDxとして使用したケースは含まれず、治験的治療やCDxがカバーできない治療に進んだ症例が該当するという点に注意が必要と指摘。そのうえで、今後は治験へのアクセスのしやすさの向上、継続した対象者への治験提案、治験の数を増やすなどの方策を練るべきではないかとした。 本試験に関しては、同時期に標準治療を受けた固形がん患者130例を登録した観察研究が並行して実施されており、今後対照群として比較解析を行うことが計画されている。また、本試験のサブスタディとして、CGPに対する十分な組織のない患者を対象としたUpfront Liquid study、費用対効果分析やQOL評価を行うためのアンケート調査も実施されている。

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高齢乳がん患者へのアベマシクリブ、リアルワールドでの治療実態/日本臨床腫瘍学会

 日本においてアベマシクリブによる治療を受けた、転移を有するHR+/HER2-乳がん患者の全体集団および高齢者集団(65歳以上)の患者特性、治療パターン、転帰をレトロスペクティブに解析した結果、両集団の治療開始から中止までの期間(TTD)や減量が必要となった割合は同等であり、高齢者でも適切な用量であればアベマシクリブによる治療は実施可能であることを、国立がん研究センター中央病院の下井 辰徳氏が第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で発表した。 本調査では、メディカル・データ・ビジョンのデータベースの非識別化データを解析した。2018年11月~2023年5月に最初のCDK4/6阻害薬としてアベマシクリブ(+内分泌療法)を投与された転移を有するHR+/HER2-乳がん患者を同定した。全体集団および高齢者集団のTTDなどを、カプランマイヤー法を用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。●最初のCDK4/6阻害薬としてアベマシクリブを投与された転移を有するHR+/HER2-乳がん患者3,669例のうち、1,681例(45.8%)が65歳以上であった。年齢中央値は全体集団63歳(範囲:21~97)、高齢者集団72歳(65~97)であった。骨・骨髄転移があったのは60.1%および56.3%、内臓転移があったのは54.9%および55.9%であった。高齢者集団では併存疾患を有している割合が高かった。●高齢者集団のアベマシクリブレジメンで最も多かったのはアベマシクリブ+フルベストラント(55.0%)で、アベマシクリブ+レトロゾール(31.9%)、アベマシクリブ+アナストロゾール(13.0%)と続き、全体集団と同等であった。●初回アベマシクリブ療法のTTD中央値は全体集団と高齢者集団で類似していた(以下、括弧内は95%信頼区間)。 ・全体集団 13.1ヵ月(12.5~14.0) ・高齢者集団 12.8ヵ月(11.4~13.6)●高齢者集団のうち、75歳以上の場合はTTDが短かった。 ・65~69歳 13.2ヵ月(11.4~15.3) ・70~74歳 13.2ヵ月(11.0~15.2) ・75歳以上 11.2ヵ月(9.8~13.0)●内臓転移がある場合もTTDが短かった。 ・内臓転移あり 11.5ヵ月(10.3~13.0) ・内臓転移なし 14.0ヵ月(12.2~15.4)●初回アベマシクリブ療法から最後の乳がん治療のTTDは、年齢にかかわらず同等であった。 ・全体集団 42.1ヵ月(40.5~45.7) ・高齢者集団 40.2ヵ月(37.0~44.0)●化学療法開始までの期間は、高齢者集団のほうが長かった。 ・全体集団 30.6ヵ月(28.8~33.1) ・高齢者集団 34.8ヵ月(30.2~39.5)●アベマシクリブの初回投与を承認用量(300mg/日)で実施していた割合は、全体集団79.3%、高齢者集団69.6%(65~69歳79.9%、70~74歳72.9%、75歳以上56.8%)であった。治療中に1段階以上減量したのは、全体集団55.7%、高齢者集団58.3%で、初回の減量までの期間は高齢者集団で短かった。

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