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四肢軟部肉腫、周術期ペムブロリズマブ上乗せでDFS改善/Lancet

 四肢の高リスク限局性軟部肉腫患者の治療において、術前放射線療法+手術と比較して、これに術前および術後のペムブロリズマブ(抗PD-1モノクローナル抗体)を追加する方法は、無病生存期間(DFS)を有意に改善することから、これらの患者の新たな治療選択肢となる可能性があることが、米国・ピッツバーグ大学のYvonne M. Mowery氏らが実施したSU2C-SARC032試験で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年11月23日号で報告された。4ヵ国の無作為化試験 SU2C-SARC032は、4ヵ国(オーストラリア、カナダ、イタリア、米国)の20施設で実施した非盲検無作為化試験であり、2017年11月~2023年11月に参加者の無作為化を行った(Stand Up to Cancerなどの助成を受けた)。 年齢12歳以上、四肢・肢帯のGrade2または3のStageIII未分化多形肉腫、または脱分化型もしくは多形型の脂肪肉腫の患者を対象とした。 被験者を、術前放射線療法後に手術を受ける群(対照群)、または術前ペムブロリズマブ+放射線療法(ペムブロリズマブ200mgを3週ごとに静脈内投与、放射線療法前・中・後の3サイクル)後に手術を受け、さらに術後にペムブロリズマブ療法(14サイクル以内)を受ける群に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、担当医判定によるDFS(無作為化から再発または再発なしの死亡までの期間)とした。Grade3の患者でDFSが良好な傾向 127例を登録し、対照群に63例(平均年齢61[SD 12]歳、女性38%)、ペムブロリズマブ群に64例(60[12]歳、36%)を割り付けた。Grade2が対照群32%、ペムブロリズマブ群34%、Grade3がそれぞれ68%および66%で、未分化多形肉腫がそれぞれ76%および83%であり、腫瘍部位は下肢が60%および64%だった。 追跡期間中央値43ヵ月の時点で、修正ITT(mITT)集団における無病生存のイベントは56件(対照群32件、ペムブロリズマブ群24件)認めた。DFSは、対照群に比べペムブロリズマブ群で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.61、90%信頼区間[CI]:0.39~0.96、p=0.035)。 また、2年無病生存率は、対照群の52%(90%CI:42~64)に対しペムブロリズマブ群は67%(58~78)と良好であった。 Grade2のmITT集団では、DFSに両群間で意義のある差はなかった(HR:0.84、95%CI:0.26~2.76、p=0.78)が、Grade3ではペムブロリズマブ群で良好な傾向がみられた(0.57、0.31~1.03、p=0.064)。Grade3以上の有害事象が多かった mITT集団における全生存期間は、対照群に比べペムブロリズマブ群で良好であったが統計学的に有意な差はなく(HR:0.67、95%CI:0.33~1.39、p=0.28)、2年全生存率は対照群85%、ペムブロリズマブ群88%であった。 Grade3以上の有害事象は、対照群(31%)に比べペムブロリズマブ群(56%)で多かった。Grade5の有害事象は発現しなかった。22例(各群11例)に28件(対照群13件、ペムブロリズマブ群15件)のGrade3以上の手術関連合併症を認めた。 著者は、「ペムブロリズマブの追加投与が全生存期間に影響を及ぼすかを判断するには、より長期間の追跡調査が必要だが、毒性プロファイルはドキソルビシンベースの化学療法と比較してペムブロリズマブがより良好であることから、術前放射線療法と手術による治療を受ける高リスクで切除可能な四肢の未分化多形肉腫または脂肪肉腫の患者において、ペムブロリズマブは魅力的な選択肢となるだろう」としている。

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低リスク肺塞栓症がん患者のVTE再発、リバーロキサバン18ヵ月vs. 6ヵ月(ONCO PE)/AHA2024

 低リスク肺塞栓症(PE)を発症したがん患者を対象に、直接経口抗凝固薬(DOAC)であるリバーロキサバンの投与期間を検討したONCO PE試験の結果が、京都大学循環器内科の山下 侑吾氏らにより、11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のFeatured Scienceで発表され、Circulation誌2024年11月18日号に同時掲載された。 本研究より、リバーロキサバンの18ヵ月間の投与は6ヵ月間の投与に比べ、静脈血栓塞栓症(VTE)の再発リスクを有意に低下させ、一方で出血リスクは有意な上昇を認めず、「がん患者の低リスクPEに対するDOACを用いた抗凝固療法は、血栓症予防の観点から18ヵ月間のより長期的な投与が望ましい」との結果が得られた。 ONCO PE試験は、国内32施設による多施設非盲検判定者盲検ランダム化比較試験(RCT)である。対象は、低リスクPEとして肺血栓塞栓症の重症度評価の簡易版PESIスコアが1点(がんの因子のみ)のPEと、新しく診断されたがん患者で、2021年3月~2023年3月に登録された179例をリバーロキサバンの18ヵ月投与群または6ヵ月投与群に1対1の割合でランダムに割り付けた。同意を途中撤回した症例を除外し、18ヵ月投与群89例、6ヵ月投与群89例をITT集団とした。主要評価項目は18ヵ月後までのVTEの再発。副次評価項目は18ヵ月後までの国際血栓止血学会(ISTH)の基準による大出血などであった。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は平均年齢65.7歳、男性47%で、症候性のPEは12%だった。がんの罹患部位は、多い順に大腸がん12%、子宮がん12%、卵巣がん11%であった。・主要評価項目である18ヵ月後までのVTE再発は、18ヵ月投与群5.6%(89例中5例)、6ヵ月投与群19.1%(89例中17例)と有意に抑制された(オッズ比[OR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.09~0.72、p=0.01)。・大出血は、18ヵ月投与群7.8%(89例中7例)、6ヵ月投与群5.6%(89例中5例)に発生し、18ヵ月投与群で多い傾向にあったが、統計学的に有意な増加ではなかった(OR:1.43、95%CI:0.44~4.70)。・年齢、性別、体重、VTEの既往、腎機能、血小板数、貧血の有無、大出血の既往、がんの遠隔転移の有無、化学療法の有無などのサブグループ解析でも、18ヵ月投与群における主要評価項目のリスク抑制傾向は一貫して認められた。 これらの結果から研究グループは「簡易版PESIスコア1点の低リスクPEを発症したがん患者に対するVTE再発予防を目的としたリバーロキサバンの投与期間は、6ヵ月間よりも18ヵ月間のほうが優れていた」と結論付けた。低リスク肺塞栓症がん患者のVTE再発予防、国内での普及目指す がん患者の腫瘍の評価のためにCT検査が実施されることは多いが、その際に偶発的な軽症のPEを認めることも多い。国際的なガイドラインでは、このようながん患者に併発した比較的軽症のPEに対しても、通常のPEと同様に扱うことを弱く推奨している。しかしながら、このような低リスクPEを発症したがん患者を対象とした抗凝固療法の投与期間を検討したRCTは過去に報告されておらず、そのエビデンスレベルは低い状況であった。 この現況を踏まえて行われた本解析について、同氏は「本研究結果は、がん患者では低リスクPEでも血栓症リスクを軽視すべきではないという現行の国際ガイドラインの考え方を支持する結果であった。一方で、統計学的に有意ではないものの、大出血を起こした患者数が18ヵ月投与群で多かったことは注意を要する点である。RCTは確実性の高いエビデンスを提供する有用な研究デザインであるが、目の前の患者ごとの治療の最適解を提供することは困難である。臨床現場では、これらの研究結果も参考に、血栓リスクと出血リスクのバランスを患者ごとに慎重に検討することが重要である。また、今後RCTの弱点を克服するような新しい臨床研究の発展も望まれる」とコメントした。 最後に、「本研究は、数多くの共同研究者が日本全体で集結し、その献身的な姿勢による多大な尽力により成り立っている。日本の腫瘍循環器領域における重要な研究成果が、今回日本から世界に情報発信されたが、すべての共同研究者、事務局の関係者、および本研究に参加いただいた患者さんに何よりも大きな感謝を示したい」と締めくくった。

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TN乳がんへのサシツズマブ ゴビテカン、販売開始/ギリアド

 ギリアド・サイエンシズは2024年11月20日、化学療法歴のある手術不能または再発のホルモン受容体陰性/HER2陰性(トリプルネガティブ)乳がんの治療薬として、TROP-2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)であるサシツズマブ ゴビテカン(商品名:トロデルビ)の日本における販売開始を発表した。 サシツズマブ ゴビテカンは、2024年9月24日に国内製造販売承認を取得。この承認は、2つ以上の化学療法歴のある手術不能または再発のトリプルネガティブ乳がん患者を対象に、サシツズマブ ゴビテカンと医師が選択した治療の有効性と安全性を比較した海外での第III相臨床試験(ASCENT)と、2つ以上の化学療法歴のある手術不能または再発のトリプルネガティブ乳がん患者を対象にサシツズマブ ゴビテカンの有効性と安全性を評価した国内の第II相臨床試験(ASCENT-J02)の結果に基づくものである。<製品概要>商品名:トロデルビ点滴静注用200mg一般名:サシツズマブ ゴビテカン剤形:注射剤(バイアル)効能又は効果:化学療法歴のあるホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能または再発乳癌用法及び用量:通常、成人には、サシツズマブ ゴビテカン(遺伝子組換え)として1回10mg/kg(体重)を、21日間を1サイクルとし、各サイクルの1日目及び8日目に点滴静注する。投与時間は3時間とし、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降は1~2時間に短縮できる。なお、患者の状態により適宜減量する。製造販売承認日:2024年9月24日製造販売元:ギリアド・サイエンシズ株式会社

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日本人に対するニボルマブのNSCLC周術期治療(CheckMate 77T)/日本肺癌学会

 ニボルマブは、切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する術前補助療法として本邦で使用されているが、米国ではこれに加えて、2024年10月に術前・術後補助療法としての適応も取得している。その根拠となった第III相「CheckMate 77T試験」の日本人集団の結果について、産業医科大学の田中 文啓氏が第65回日本肺癌学会学術集会で発表した。CheckMate 77T試験 試験デザインと結果の概要試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:切除可能なStageIIA(>4cm)~IIIB(N2)のNSCLC患者(AJCC第8版に基づく)試験群:ニボルマブ(360mg、3週ごと)+プラチナダブレット化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→ニボルマブ(480mg、4週ごと)を最長1年(ニボルマブ群:229例)対照群:プラセボ+プラチナダブレット化学療法(3週ごと)を4サイクル→手術→プラセボを最長1年(プラセボ群:232例)評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定に基づく無イベント生存期間(EFS)[副次評価項目]盲検下独立病理判定に基づく病理学的完全奏効(pCR)・病理学的奏効(MPR)、安全性など 追跡期間中央値25.4ヵ月時点における全体集団のEFS中央値は、ニボルマブ群では未到達、プラセボ群では18.4ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.58、97.36%信頼区間[CI]:0.42~0.81)。pCR率はニボルマブ群25.3%、プラセボ群4.7%(オッズ比[OR]:6.64、95%CI:3.40~12.97)、MPR率はそれぞれ35.4%と12.1%であった(OR:4.01、95%CI:2.48~6.49)。 日本人集団における主な結果は以下のとおり。・全体集団461例中、日本人は68例(ニボルマブ群40例、プラセボ群28例)含まれており、全体集団と比較して、PS0の患者やプラチナ製剤としてシスプラチンを使用する患者の割合が高かった。また、日本人集団のニボルマブ群はプラセボ群と比較して、扁平上皮がん、喫煙歴あり、PD-L1発現1%未満の患者の割合が高かった。・4サイクルの術前補助療法を完遂した割合は、ニボルマブ群で65%、プラセボ群で82%、手術を実施した割合はそれぞれ90%と93%、術後補助療法を実施した割合は60%と71%、術後補助療法を完遂した割合は45%と36%であった。ニボルマブ群では、全体集団と比較して、術前補助療法完遂の割合は低いものの(日本人集団vs.全体集団:65% vs.85%)、手術実施の割合は高かった(同:90% vs.78%)。・追跡期間中央値24.9ヵ月時点におけるEFS中央値は、ニボルマブ群では未到達、プラセボ群では12.1ヵ月であった(HR:0.46、95%CI:0.22~0.95)。12ヵ月EFS率はニボルマブ群82%、プラセボ群50%、18ヵ月EFS率はそれぞれ77%と43%であった。・pCR率はニボルマブ群42.5%、プラセボ群0%(OR:NA)、MPR率はそれぞれ52.5%と7.1%であった(OR:14.37、95%CI:3.00~68.82)。・全期間におけるGrade3以上の治療関連有害事象(TRAE)はニボルマブ群55.0%(22/40例)、プラセボ群39.3%(11/28例)に認められ、全体集団よりも高い割合で発現していた(全体集団はそれぞれ32.5%、25.2%)。これを期間別にみると、術前期間ではニボルマブ群47.5%(19/40例)、プラセボ群39.3%(11/28例)、術後期間ではそれぞれ12.5%(3/24例)と0%(0/20例)と、術前期間における発現割合が高かった。・日本人集団でとくに発現割合が高かった免疫介在性有害事象は、皮膚障害や間質性肺疾患などであった。 講演後、全体集団と比較した場合の手術実施割合、pCR率、MPR率の高さの理由について質問があった。田中氏は、「(明確な理由は不明であるものの)無作為化により対照群に割り付けられる患者の不利益を踏まえ、切除可能性やPSなどを考慮して、厳格に患者選定を行った結果ではないか」と考察した。また、術前のみニボルマブを使用するCheckMate 816試験の結果も踏まえ、pCRが得られた場合の後治療の要否やnon-pCRであった場合の後治療など、今後のクリニカルクエスチョンについても議論があった。 田中氏は、今回の有効性と安全性プロファイルの結果はCheckMate 77T試験の全体集団の結果と一致しているとし、「切除可能NSCLC日本人患者に対するニボルマブの術前・術後補助療法としての使用可能性を支持するものである」とまとめた。

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「サンドイッチ療法」を肺がん周術期治療の主軸に考えよ(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 この数年で肺がんの周術期に関連するエビデンスが数多く発表され、治療ストラテジーも大きく変わってきている。従来はIIB~IIIA期の非小細胞肺がんで手術が検討される場合には、術前プラチナ併用化学療法が一般的であったのに対し、肺がんの状況によって免疫治療や標的治療を周術期に行う治療に置き換わりつつある。術前治療としては、ドライバー変異陰性/不明例のII~IIIA期非小細胞肺がんに対し、術前にニボルマブ+化学療法を3コース行う「CheckMate 816試験」がある。術前にニボルマブ+化学療法を行うことで無イベント生存期間(EFS:event free survival)を化学療法単独群に比べ有意に延長(31.6ヵ月vs.20.8ヵ月)し、病理学的完全奏効(pCR:pathological complete response)も有意に増加(24.0% vs.2.2%)させた(Forde PM, et al. N Engl J Med. 2022;386:1973-1985.)。また術後治療としては、病理病期IIB~IIIA期の完全切除例に対するアテゾリズマブの「IMpower010試験」が報告されている。PD-L1陽性(1%以上)の症例に対し、術後アテゾリズマブを16コース投与することで、無病生存期間(DFS:disease free survival)をプラセボに比べ有意に延長(未到達vs.35.3ヵ月)させた(Felip E, et al. Lancet. 2021;398:1344-1357.)。 ドライバー変異陽性例の手術に関しては、EGFR陽性非小細胞肺がんの完全切除後にオシメルチニブを3年間投与する「ADAURA試験」が報告されており、DFSの中央値はプラセボと比較して未到達vs.19.6ヵ月と有意に延長(Wu YL, et al. N Engl J Med. 2020;383:1711-1723.)が認められ、全生存期間(OS:overall survival)の評価でも5年生存率が85%とプラセボ群を引き離す生存曲線が示された(Tsuboi M, et al. N Engl J Med. 2023;389:137-147.)。ALK陽性肺がんでも、術後アレクチニブの内服でDFSの延長が「ALINA試験」で報告されている(Wu YL, et al. N Engl J Med. 2024;390:1265-1276.)。 今回紹介する「KEYNOTE-671試験」は手術前後にペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)を含む治療を行うレジメンであるが、免疫治療で手術を「はさむ」ということから、「サンドイッチ療法」と呼ばれている。術前に扁平上皮がんであればシスプラチン+ゲムシタビン+ペムブロリズマブを4コース、非扁平上皮がんであればシスプラチン+ペメトレキセド+ペムブロリズマブを4コース行い、術後は最大13コースのペムブロリズマブを維持するスケジュールとなる。EFSはプラセボ群と比較して未到達vs.17.0ヵ月と昨年報告されている(Wakelee H, et al. N Engl J Med. 2023;389:491-503.)。サブグループ解析でも年齢、人種差、組織型など、論文に挙げられている項目では、ほぼすべての点推定値がペムブロリズマブ追加群に寄っていることが示されている。今回、2回目の中間解析ということで、フォローアップ期間の中央値が36.6ヵ月と約3年での結果が報告された。3年生存率がペムブロリズマブ群で71%、プラセボ群で64%、OS中央値は未到達vs.52.4ヵ月(ハザード比:0.72、95%信頼区間:0.56~0.93)と有意に改善したことが報告され、周術期治療としては頑強なエビデンスが報告された。肺がん周術期治療においてOSの有意な改善を示した報告がなく、生存を改善した「サンドイッチ療法」は大変価値があると考える。 この「KEYNOTE-671試験」ではペムブロリズマブ群にIII期症例が70%含まれており、状態の良い症例がたくさん含まれていたとは考えにくい。どちらかというと手術が難しければ切除不能III期症例として化学放射線療法からのデュルバルマブか、あるいは手術や放射線が難しいとしてIV期治療に移行する可能性のある症例が多く含まれると考えるべきである。その中で、手術を含め有意差をもって高い効果を示したことは評価されうる。 術前治療を行うことで手術ができなくなる懸念がいわれている。とくに重篤な免疫関連有害事象を認めた場合にはその可能性が高くなる。ペムブロリズマブ群において免疫関連有害事象およびinfusion reaction(治療開始後24時間以内に起こる発熱や発疹などの過敏性反応)は26%に認められている。また、ネオアジュバント(術前治療)の期間に病勢が進行して手術不能となる症例を懸念する意見も頂くが、そのような症例であれば手術を早期に施行したとしても、早々に再発することが予想される。さまざまな不安があることは重々承知しているが、この「KEYNOTE-671試験」ではEFSの改善とOS延長まで示されている。手術が無事に行えるかどうかというのは大変重要なポイントではあるが、「サンドイッチ療法」を周術期においては主軸に考えていくことが妥当と考える。今後、手術を行う外科医でも免疫治療の管理が必須になるとともに、今まで以上に内科・外科の連携がより一層必要かつ重要となってくるのであろう。

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MRIで直腸がん手術の要否を判断可能か

 MRIによる直腸がん患者のがんステージの再評価により、手術を回避できる患者を特定できる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。手術を回避できた患者は、生涯にわたってストーマ装具を装着せずに済む可能性も期待できる。米バージニア大学(UVA)医療システム身体画像部門のArun Krishnaraj氏らによるこの研究の詳細は、「Radiology」に9月3日掲載された。 米国がん協会(ACS)によると、米国で直腸がんは比較的一般的な疾患で、毎年約4万6,220人(男性2万7,330人、女性1万8,890人)が新たに直腸がんの診断を受けているという。直腸がんによる死亡者数は、毎年5万4,000人以上に上る大腸がん死亡者数の統計に含まれている。 直腸がんの治療にあたる医師が理想とするのは、放射線療法と化学療法のみでがんを治療して患者の腸の機能を温存することだ。しかし、患者によっては経肛門的全直腸間膜切除術と呼ばれる処置が必要になる場合がある。この手術を受けた患者では、残念なことに、生涯にわたるストーマ装具の装着が必要となり、性機能障害などの他の問題を抱えることも多い。そのため、手術なしでも良好な状態を保つ可能性のある患者を特定することは非常に重要である。 今回の研究では、ステージIIまたはIIIの直腸がん患者277人(年齢中央値58歳、男性179人)を対象にしたランダム化比較試験(Organ Preservation in Rectal Adenocarcinoma〔OPRA〕試験)のデータの二次解析を行い、MRIでの再評価により手術を行わずに経過観察が可能な患者を特定できるかが検討された。対象者は、放射線療法後に化学療法を行う群と、化学療法後に放射線療法を行う群にランダムに割り付けられ、いずれの患者も再評価のためのMRI検査を受けた。これらのMRI画像は、放射線科医により、臨床的完全奏効(clinical complete response;cCR)、完全奏効に近い奏効(near-complete clinical response;nCR)、または不完全奏効(incomplete clinical response;iCR)に分類された。追跡期間の中央値は4.1年だった。 その結果、cCR達成患者では、nCR達成患者に比べて手術を回避できた患者の割合が高いことが明らかになった(65.3%対41.6%、ログランク検定によるP<0.001)。5年無病生存率は、cCR達成患者で81.8%、nCR達成患者で67.6%、iCR達成患者で49.6%だった。また、これらの再評価による分類は、全生存、遠隔再発なしの生存、および局所再発の予測因子としても機能することが示された。2年以上の追跡調査を受けた266人の対象者のうち、129人(48.5%)に再発が認められた。解析の結果、MRI画像所見での拡散制限(restricted diffusion;組織内で水分子が動きにくくなる状態)の存在と、リンパ節の形態的異常が再発に独立して関連していることが判明した。 研究グループは、腸の内視鏡検査の結果を加えると、MRIに基づく予測の精度がさらに高まる可能性があるとの見方を示している。Krishnaraj氏は、「MRIや内視鏡検査などの他のツールの継続的な進歩により、患者の将来の転帰に関してより詳細な情報が得られるようになることを私は楽観視している」とUVAのニュースリリースで述べている。同氏はさらに、「最終的には、治療後に患者に説明するがんの再発や転移のリスクについての予測精度を99%にまで上げたいと考えている。まだ道のりは遠いが、それがわれわれの目標だ」と語っている。

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腫瘍循環器学と不易流行【見落とさない!がんの心毒性】第30回(最終回)

連載終了にあたりある日、医療・医学情報サイトCareNet.comの編集者から腫瘍循環器学に関する連載をしませんかという企画をいただきました。そしてその内容はインターネット情報サイトを活用して、腫瘍循環器専門医のみならず一般の循環器医や腫瘍医の先生、メディカルスタッフの皆さんに腫瘍循環器学をわかりやすく理解していただくため、というものでした。この頃は、大阪府立成人病センター循環器内科において腫瘍循環器外来が開始して以来10年が経過した時点であり、日本腫瘍循環器学会が発足したばかりの時期でもありました。タイムリーな企画だなと考え、腫瘍循環器医として第一線で活躍されておられる大倉 裕二先生、草場 仁志先生、志賀 太郎先生をお誘いして本連載を開始することにいたしました。当初は2年間の予定でしたので、最初の1年は総論(第1回~第11回)、その後は症例中心に連載を行うことにいたしました(第12回~第28回)。途中CareNet.com読者の皆さまにアンケートを行う試みも行いました1,2)。症例報告については、当初の4名に加え多くのエキスパートの先生にご参加いただき、実際に先生方がご経験された症例などを元に原稿を作成していただきました。その結果、3年半、合計30回の連載企画になりました。今回は、最終回としてこれまでの3年間を振り返りながら腫瘍循環器学の現在と将来についてまとめさせていただきます。古くて新しいアントラサイクリン系抗がん剤まず取り上げたのは、最も古くから存在する抗がん剤の一つであるアントラサイクリン系抗がん剤でした。1970年代に報告されたアントラサイクリン心筋症こそが、腫瘍循環器領域で最初に報告された心血管合併症(心血管毒性)であり、大倉先生に第2回『見つかる時代から見つける時代へ』で執筆いただきました。それは「アントラサイクリン心不全は3回予防できる」と名言を残した素晴らしい内容でした。循環器医なら全員が知っているはずのアントラサイクリン心筋症ですが、その病態や管理については意外と知られておりません。第15回 化学療法中に心室期外収縮頻発!対応は?第17回 造血幹細胞移植後に心不全を発症した症例第21回 がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?さらにアントラサイクリン系抗がん剤と同様に、以前から投与されている殺細胞性抗がん剤について、以下の回で取り上げられました。第22回 フッ化ピリミジン系薬剤投与による胸痛発作症例第25回 膵がん治療中に造影CTで偶然肺塞栓を発見!適切な対応は第26回 増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー第28回 膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法この古くて新しい抗がん剤については、第17回で取り上げましたように、がん治療が終了した後もがんサバイバーにおける晩期合併症としても大変注目されています。そして、乳がん領域で最も予後が不良であったトリプルネガティブ症例に対する最も新しい治療の一つとしてその有効性が明らかとなっています3)。腫瘍循環器学の始まりは分子標的薬から腫瘍循環器学は2000年になり登場した分子標的薬とそれに伴い出現する心血管毒性が報告されてから急激な発展を遂げています。第3回『HER2阻害薬の心毒性、そのリスク因子や管理は?』で取り上げたHER2阻害薬は、米国・MDアンダーソンがんセンターにおいて世界最初に開設されたOnco-Cardiology Unitのきっかけになったがん治療薬です。当時は副作用が少なく有効性の高い夢のような薬として登場いたしましたが、アントラサイクリンとの併用により高頻度で心毒性が出現(HERA試験)4)したことで、腫瘍循環器領域に注目が集まりました。HER2阻害薬は第3回で解説があるように、その可逆性には二面性があり腫瘍循環器的にも注意が必要な薬剤です。そして、現在最も多く投与されている分子標的薬である血管新生阻害薬について、以下の回で触れています。第4回 VEGFR-TKIの心毒性、注意すべきは治療開始○ヵ月第14回 深掘りしてみよう!ベバシズマブ併用化学療法このほか、第12回、第19回 と本連載でも多く取り上げられています。血管新生阻害薬は高血圧、心不全、血栓症など多くの心血管毒性に注意が必要な薬剤であり、Onco-Hypertension領域におけるがん治療関連高血圧の原因薬剤としても注目されています5)。古くて新しいがん関連血栓症がんと血栓症は、1800年代にトルーソー(Trousseau)らにより「がんと血栓症」が報告されて以来、トルーソー症候群という概念で古くから存在しています。そして現在は血管新生阻害薬などのがん治療薬の進歩に伴い、がん治療に伴う血栓症の頻度が急速に増加してきたことで、がん関連血栓症(CAT:cancer associated thrombosis)という新しい概念が生まれてきました(図1)6)。(図1)画像を拡大する本企画では第8回 がんと血栓症、好発するがん種とリスク因子は?第20回 静脈血栓塞栓症治療中の肺動脈塞栓を伴う右室内腫瘤の治療方針第21回 がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?第23回 静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(前編)第24回 静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(後編)第25回 膵がん治療中に造影CTで偶然肺塞栓を発見!適切な対応は第28回 膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法で、症例クイズとして数多く取り上げています。また、本疾患概念などについては、第9回『不安に感じる心毒性とは?ー読者アンケートの結果から』や第26回『増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー』でも触れられています。そのほかのがん治療古くて新しいがん治療には、放射線療法そしてホルモン療法が挙げられます。第7回『進化する放射線治療に取り残されてる?new RTの心毒性対策とは』、そして第11回『免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療の心毒性、どう回避する?』に放射線関連心機能障害(RACD:Radiation Associated Cardiovascular diseases)が取り上げられました。さらに、ホルモン療法は第16回 がん患者に出現した呼吸困難、見落としがちな疾患は?第27回 アンドロゲン遮断療法後に狭心症を発症した症例にて症例提示がなされています。一方、最も新しいがん治療である免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場はがん診療にパラダイムシフトを起こしています。ICIに関連した連載は、第5回 免疫チェックポイント阻害薬:“予後に影響大”の心筋炎を防ぐには?第11回 免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療の心毒性、どう回避する?第18回 免疫チェックポイント阻害薬の開始後6日目に出現した全身倦怠感第29回 irAE心筋炎の原因の一つに新たな知見が!!と計4回に登場します。また、第6回『新治療が心臓にやさしいとは限らない~Onco-Cardiologyの一路平安~』には、副作用に関するコメントとして、心毒性と腫瘍循環器医が知っておかねばならない副作用情報の読み方がまとめられており、ぜひとも再読してみてください。今後の腫瘍循環器学ニッチな学際領域であった腫瘍循環器学はいまや世界的に多くの研究がなされるようになり、各学会でステートメントやガイドラインが作成されています。本邦では、本連載が始まった後Onco-Cardiologyガイドラインが作成され、現在もトランスレーショナルリサーチや臨床研究がなされており、多くのエビデンスが明らかとなってきています。このような背景の元で、2025年10月に大阪千里ライフサイエンスセンターにおいて第8回日本腫瘍循環器学会学術集会(大会長 向井 幹夫)が開催されます。テーマを「不易流行* がんと循環器:古くて新しい関係」としており、本連載をお読みになられた方にはぜひ学術集会にご参加いただき、一緒に討論いたしましょう。*精選版 日本国語大辞典 第二版より:蕉風俳諧の理念の一つ。新しみを求めてたえず変化する流行性にこそ永遠に変わることのない不易の本質があり、不易と流行とは根元において一つであるとし、それは風雅の誠に根ざすものだとする。芭蕉自身が説いた例は見られないが向井 去来、服部 土芳らの門人たちの俳論において展開された。今回、連載の編集にご協力いただきました3名の先生、そして連載をお願いした腫瘍循環器医の先生方に御礼申し上げます。そして、本連載を読んでいただきました読者の皆さまと共に更なるご発展を祈念いたします。最後にCareNet.com連載について最初から担当いただき、適切なアドバイスをいただきましたケアネット社ならびに担当された土井様に深謝いたします。監修向井 幹夫(大阪がん循環器病予防センター 副所長)編集大倉 裕二(新潟県立がんセンター腫瘍循環器科 部長)草場 仁志(国家公務員共済組合連合会 浜の町病院 腫瘍内科部長)志賀 太郎(がん研究会有明病院腫瘍循環器・循環器内科 部長)向井 幹夫著者大倉 裕二、加藤 浩、北原 康行、草場 仁志、塩山 渉、志賀 太郎、鈴木 崇仁、竹村 弘司、田尻 和子、田中 善宏、田辺 裕子、津端 由佳里、深田 光敬、藤野 晋、向井 幹夫、森山 祥平、吉野 真樹(50音順、敬称略)1)向井幹夫ほか. がん診療医が不安に感じる心毒性ーCareNet.comのアンケート調査よりー. 第5回日本腫瘍循環器学会学術集会.2)志賀太郎ほか. JOCS創設7年目の今、腫瘍医、循環器医、それぞれの意識は〜インターネットを用いた「余命期間と侵襲的循環器治療」に対するアンケート調査結果〜. 第7回日本腫瘍循環器学会学術集会.3)Schmid P, et al. N Engl J Med. 2022;386:556-567.4)Piccart-Gebhart MJ et al. N Engl J Med. 2005;353:1659-1672.5)Minegishi S et al. Hypertension 2023;80:e123-e124.6)Mukai M et al. J Cardiol. 2018;72:89-93.講師紹介

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改訂GLに追加のNSCLCへのニボルマブ+化学療法+ベバシズマブ、OS・PFS最終解析結果(TASUKI-52)/日本肺癌学会

 非扁平上皮非小細胞肺がん(Non-Sq NSCLC)の1次治療における、プラチナ製剤を含む化学療法+ベバシズマブへのニボルマブ上乗せの有用性を評価した国際共同第III相試験「TASUKI-52試験」の最終解析の結果が、第65回日本肺癌学会学術集会で中川 和彦氏(近畿大学病院 がんセンター長)により報告された。すでにニボルマブ上乗せにより無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が改善することが報告されており1)、この結果を基に『肺癌診療ガイドライン2024年版』のCQ64~66に本試験のレジメンが追加されていた2)。試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験(日本、韓国、台湾で実施)対象:EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子がいずれも陰性で、StageIIIB/IVの未治療Non-Sq NSCLC患者550例(日本人:371例)試験群(ニボルマブ群):ニボルマブ(360mg)+カルボプラチン(AUC 6)+パクリタキセル(200mg/m2)+ベバシズマブ(15mg/kg)を3週ごと最大6サイクル→ニボルマブ+ベバシズマブ 275例(日本人:188例)対照群(プラセボ群):プラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブを3週ごと最大6サイクル→プラセボ+ベバシズマブ 275例(日本人:183例)評価項目:[主要評価項目]独立画像判定委員会(IRRC)判定によるPFS[副次評価項目]OS、奏効割合(ORR)、治験担当医師評価によるPFS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・両群間の患者背景はバランスがとれており、年齢中央値は66歳、女性の割合は約25%であった。・OS中央値は、ニボルマブ群31.6ヵ月、プラセボ群24.7ヵ月であり、ニボルマブ群が有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.88、p=0.0013)。4年OS率は、それぞれ34.7%、22.1%であった。・OSのサブグループ解析において、骨転移を有する集団(HR:1.01)以外はニボルマブ群が良好な傾向にあった。・PD-L1発現状況別にみた各群のOS中央値(HR、95%CI)は以下のとおりであった。 -PD-L1<1%:28.5ヵ月vs.23.8ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.58~1.06) -PD-L1 1~49%:31.2ヵ月vs.22.7ヵ月(HR:0.63、95%CI:0.43~0.91) -PD-L1≧50%:33.4ヵ月vs.26.6ヵ月(HR:0.73、95%CI:0.48~1.10)・ベースライン時の脳転移の有無別にみた各群のOS中央値(HR、95%CI)は以下のとおりであった。 -脳転移あり:41.8ヵ月vs.25.3ヵ月(HR:0.77、95%CI:0.42~1.39) -脳転移なし:31.2ヵ月vs.24.7ヵ月(HR:0.71、95%CI:0.57~0.88)・4年追跡時の治験担当医師評価によるPFS中央値は、ニボルマブ群9.9ヵ月、プラセボ群8.2ヵ月であり、ニボルマブ群が有意に良好であった(HR:0.61、95%CI:0.50~0.74、p<0.0001)。4年PFS率は、それぞれ13.7%、3.3%であった。・4年生存の有無別に背景因子を比較すると、ニボルマブ群における4年生存の因子として、年齢65歳以下、骨転移なしが挙げられた。・ニボルマブ群の4年生存例におけるORRは87.3%、4年奏効持続割合は43.9%であった。・ニボルマブ群の4年生存例では、後治療を受けていない割合が41.8%であった。ニボルマブ群の後治療を受けた患者のうち、放射線療法を受けた割合は39.1%、手術を受けた割合は6.5%であった。・Grade3/4の治療関連有害事象はニボルマブ群76.2%、プラセボ群74.9%に発現した。安全性に関する新たなシグナルはみられなかった。

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早期TN乳がん、多遺伝子シグネチャー活用で予後改善/BMJ

 切除可能なトリプルネガティブ(TN)乳がんの予後は満足のいくものではなく、術後補助化学療法の最適化が必要とされている。中国・復旦大学上海がんセンターのMin He氏らは、開発した多遺伝子シグネチャーを用いてリスク層別化を行い、それに基づく高リスク患者に対してアントラサイクリン/タキサンベースの治療にゲムシタビン+シスプラチンを組み合わせた強化レジメンが、無病生存期間(DFS)を改善し毒性は管理可能であったことを示した。BMJ誌2024年10月23日号掲載の報告。統合mRNA-lncRNAシグネチャーを用いてリスク層別化、DFSを評価 研究グループは2016年1月3日~2023年7月17日に、中国の7つのがんセンターで、切除可能なTN乳がん患者に対して多遺伝子シグネチャーを用いることで、最適な個別化補助療法の提供が実現可能かを評価する多施設共同第III相無作為化試験を行った。 被験者は、早期TN乳がんで根治手術を受けた18~70歳の女性。研究グループが開発した、統合されたmRNA-lncRNAシグネチャー(3つのmRNA[FCGR1A、RSAD2、CHRDL1]、2つのlncRNA[HIF1A-AS2、AK124454])を用いてリスク層別化を行い、高リスク患者を強化補助化学療法(ドセタキセル+エピルビシン+シクロホスファミドを4サイクル後、ゲムシタビン+シスプラチンを4サイクル)を受ける群(A群)、または標準療法(エピルビシン+シクロホスファミドを4サイクル後、ドセタキセルを4サイクル)を受ける群(B群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。低リスクの患者はB群と同様の補助化学療法を受けた(C群)。 主要評価項目は、A群vs.B群についてITT解析で評価したDFS。副次評価項目は、B群vs.C群のDFS、無再発生存期間(RFS)、全生存期間(OS)および安全性などであった。強化補助化学療法vs.標準療法、3年DFS率のHRは0.51 504例が登録され(A群166例、B群170例、C群168例)、498例が試験の治療を受けた。追跡期間中央値45.1ヵ月の時点で、3年DFS率はA群90.9%、B群80.6%であった(ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.28~0.95、p=0.03)。 3年RFS率は、A群92.6%、B群83.2%(HR:0.50、95%CI:0.25~0.98、p=0.04)。3年OS率は、A群98.2%、B群91.3%(0.58、0.22~1.54、p=0.27)であった。 同様の化学補助療法を受けたB群vs.C群の評価では、C群のほうがDFS率が有意に高率であり(3年DFS率:C群90.1% vs.B群80.6%、HR:0.57[95%CI:0.33~0.98]、p=0.04)、RFS率(3年RFS率:94.5% vs.83.2%、0.42[0.22~0.81]、p=0.007)、OS率(3年OS率:100% vs.91.3%、0.14[0.03~0.61]、p=0.002)もC群が有意に高率であった。 Grade3/4の治療関連有害事象の発現率は、A群で64%(105/163例)、B群で51%(86/169例)、C群で54%(90/166例)であった。治療に関連した死亡は報告されなかった。

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尿路上皮がん1次治療の更新は30年ぶり、ペムブロリズマブ+EV併用療法とは/MSD

 2024年9月24日、根治切除不能な尿路上皮がんに対する1次治療として、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)とネクチン-4を標的とする抗体薬物複合体(ADC)エンホルツマブ ベドチン(商品名:パドセブ、以下EV)の併用療法および、ペムブロリズマブ単独療法(プラチナ製剤を含む化学療法が選択できない場合のみ)が、本邦で適応追加に関する承認を取得した。尿路上皮がんの標準1次治療の更新としては30年ぶりとなる。10月31日、MSD主催のメディアセミナーが開催され、菊地 栄次氏(聖マリアンナ医科大学腎泌尿器外科学)が「転移性尿路上皮癌治療“ペムブロリズマブ+エンホルツマブ ベドチンへの期待”」と題した講演を行った。ペムブロリズマブ+EV併用は化学療法と比較しPFS・OSを約2倍に延長 併用療法の承認根拠となったKEYNOTE-A39/EV-302試験は、未治療・根治切除不能な局所進行または転移を有する尿路上皮がん患者(886例、日本人40例)を対象に、ペムブロリズマブ(最大35サイクル)+EV(投与サイクル数上限なし)併用療法と化学療法(シスプラチンまたはカルボプラチン+ゲムシタビン、最大6サイクル)の有効性と安全性を評価した非盲検無作為化第III相試験。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)、副次評価項目は奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性などであった。 患者背景は年齢中央値が69.0歳、ECOG PSは0~1が96%以上を占めたがPS 2も2.5~3.4%含まれ、肝転移ありの患者は22.3~22.6%含まれた。追跡期間中央値17.2ヵ月におけるPFS中央値は化学療法群6.3ヵ月に対しペムブロリズマブ+EV群12.5ヵ月と有意に改善した(ハザード比[HR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.38~0.54、p<0.00001)。またOS中央値に関しても、化学療法群16.1ヵ月に対して、ペムブロリズマブ+EV群31.5ヵ月と、有意に良好であった(HR:0.47、95%CI:0.38~0.58、p<0.00001)。菊地氏は、ペムブロリズマブ+EV群の完全奏効(CR)が29.1%(化学療法群:12.5%)、進行(PD)は8.7%(同:13.6%)であったことに触れ、「10人に3人で完全奏効が達成され、進行は10%未満というデータは非常に魅力的」と話した。アンメットニーズであるシスプラチン不適格症例でも高い有効性 本試験では、シスプラチンの適格性が層別因子の1つとされ、以下の不適格基準に基づき判断された(1つ以上を満たす場合、シスプラチン不適格とみなす):腎機能(30≦GFR<60mL/分※GFR≧50mL/分でそのほかのシスプラチン不適格基準に該当しない患者は、治験担当医師の臨床的判断に基づき、シスプラチン適格とみなしてもよい)全身状態(ECOG PSまたはWHO PSが2)NCI CTCAE(NCI CTCAE Grade2以上の聴力低下、末梢神経障害)心不全クラス分類(NYHAクラスIIIの心不全) 上記の不適格基準に合致したシスプラチン不適格症例は両群で約46%ずつ含まれた。不適格症例におけるPFS中央値は化学療法群6.1ヵ月に対しペムブロリズマブ+EV群10.6ヵ月(HR:0.43、95%CI:0.33~0.55)、OS中央値はそれぞれ12.7ヵ月、未到達となり(HR:0.43、95%CI:0.31~0.59)、ペムブロリズマブ+EV併用療法の有効性が確認されている。とくに注意すべき有害事象とその発現時期 ペムブロリズマブ+EV群の曝露期間中央値は9.43ヵ月であり、薬剤別にみるとペムブロリズマブが8.51ヵ月、EVが7.01ヵ月であった。いずれかの薬剤の投与中止および休薬に至った副作用としては末梢性感覚ニューロパチーが最も多く(それぞれ10.7%、17.7%)、菊地氏はこのコントロールが重要と指摘した。 ペムブロリズマブ投与による有害事象としては、甲状腺機能低下症が10.7%と最も多く認められた。同氏は甲状腺機能低下症についてはホルモン補充により管理可能とした一方、肺臓炎が9.5%で発生していることに注意が必要と話した。 EV投与による有害事象としては、発疹などの皮膚反応が最も多く(69.1%)、末梢性ニューロパチー(66.6%)、悪心・嘔吐および下痢などの消化器症状(64.8%)が多く認められている。また肺臓炎は10.2%で発生しており、同氏は「定期的な肺臓炎のモニターが必要となる」とした。肺臓炎の発現時期中央値は3.94(0.3~14.5)ヵ月、高血糖(0.72ヵ月)や皮膚反応(0.49ヵ月)は比較的早く発現し、末梢性ニューロパチーの発現時期中央値は3.29(0.1~17.7)ヵ月であった。 欧州臨床腫瘍学会(ESMO)やNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインではペムブロリズマブ+EV併用療法がすでに1次治療の第一選択として位置付けられている。日本のガイドラインでの位置付けについて菊地氏は、ペムブロリズマブ+EV併用療法が使えない患者を定義していかなければならないとした。その際に参考になるのがKEYNOTE-A39/EV-302試験の除外基準で、重度の糖尿病、Grade2以上の末梢神経障害、抗PD-1/PD-L1抗体薬治療歴を有する患者であった。また、全身状態だけでなく社会・経済的状況も影響する可能性があるとし、まずは日本の実臨床での使用データを積み上げていく必要があると話した。

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急性白血病の発症時点でさまざまな眼科所見が観察される

 急性白血病の発症時点において、多彩な眼科所見が認められるとする、マンスーラ大学(エジプト)のDina N. Laimon氏らの論文が「Annals of Hematology」に7月10日掲載された。特に、網膜出血やロート斑が高頻度に認められるという。 白血病では、白血病細胞による眼組織の直接浸潤、血球減少や白血球増多などの血液学的異常、あるいは化学療法や免疫抑制療法により、眼球およびその付属器に多彩な所見が現れるが、そういった所見の出現率に関するデータは少ない。Laimon氏らは2022年1月~2023年2月に、急性骨髄性白血病(AML)または急性リンパ性白血病(ALL)と新規診断された患者の眼科所見の出現率を詳細に検討した。 解析対象患者数は222人で平均年齢が43.45±17.35歳、男性61.7%であり、AMLが144人(64.9%)、ALLが78人(35.1%)だった。研究登録以前から眼疾患のある患者は除外されている。 全体で96人(43.2%)に眼科所見が認められ、そのうち4人(1.8%)は視力を喪失していた。出現率の高い所見は網膜出血(19.8%)とロート斑(17.1%)であり、そのほかに、眼瞼腫脹(4.1%)、眼瞼の斑状出血(3.2%)、眼瞼下垂(1.8%)、兎眼(0.5%)、結膜下出血(5.9%)、結膜浮腫(0.9%)、網膜静脈のうっ血・蛇行(4.1%)、網膜前出血(3.2%)、硝子体出血(3.2%)、黄斑症(2.3%)、網膜浸潤(1.8%)、滲出性網膜剥離(1.8%)、軟性白斑(0.9%)、網膜静脈閉塞(0.5%)、乳頭浮腫(2.8%)、視神経乳頭浸潤(1.8%)、視神経乳頭蒼白(1.8%)、眼窩病変(3.2%)、眼球運動障害(1.4%)などが認められた。 AMLとALLを比較した場合、何らかの所見を有する割合はAMLの方が高く(50.0対30.8%〔P=0.028〕)、所見別に見ても、網膜出血(25.7対9.0%〔P=0.003〕)、ロート斑(20.8対10.3%〔P=0.046〕)の出現率に有意差があった。 眼科所見と血液学的パラメータとの関連を検討すると、網膜出血はヘモグロビン低値(P=0.021)や中枢神経浸潤発生率の低下(P=0.021)と関連しており、また予後リスクが中リスクまたは高リスクの患者が多かった(P=0.002)。眼瞼の斑状出血は中枢神経浸潤(P=0.045)と関連しており、網膜浸潤(P=0.006)や滲出性網膜剥離(P=0.001)は芽球割合が高いことと関連していた。その一方、眼瞼下垂は芽球割合の低さと関連していた(P=0.04)。 Laimon氏らは、「血液がん患者の眼病変の検出や管理において、眼科医と血液腫瘍医の協力が極めて重要である。また、これらの患者の予後、特に生命予後との関連を明らかにするため、より大規模なコホートでの研究が求められる」と述べている。

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第240回 ウイルス学者が自身の乳がんを手ずから精製したウイルスで治療

50歳の女性科学者が研究室で手ずから作ったウイルスで自身の乳がんを治療し、成功しました。クロアチアのザグレブ大学のBeata Halassy氏は2016年に乳がんと診断され、その2年後の2018年にトリプルネガティブ乳がん(TNBC)を再発します。さらに2020年にはかつて乳房切除したところの最初は小さかった漿液腫が直径2cmの固形腫瘍へと進展して、2回目の再発に直面しました1)。MRI/PET-CT検査で転移やリンパ節への移行は認められなかったものの、腫瘍は胸筋や皮膚に達していました。Halassy氏はその再発も手に余るTNBCであろうと覚悟し、がん細胞を死なせ、抗腫瘍免疫を促す腫瘍溶解性ウイルスに似たウイルスを腫瘍へ投与する治療をする、と彼女を診る腫瘍科医に告げました。腫瘍溶解性ウイルス治療(OVT)の経過を観察することを腫瘍科医は了承し、有害事象や腫瘍進展の際にOVTを止めて定番療法が始められるようにしました。OVTの臨床試験は進行した転移を有するがんをもっぱら対象としてきましが、転移前のがんを対象とする開発も始まっています。たとえば、転移前の乳がんのOVT込み術前治療を検討した第I/II相試験で奏効率向上効果が示唆されています2)。Halassy氏はOVTの専門家ではありませんが、ウイルスの培養や精製の経験はOVT治療の実行の自信となりました。Halassy氏はかつて研究で扱ったことがある2つのウイルスを順番に自身のがんに投与しました。その1つは小児ワクチン接種で安全なことが知られる麻疹ウイルス(MV)のエドモンストンザグレブ株です。もう1つは副作用といえばせいぜい軽いインフルエンザ様症状を引き起こすぐらいで、ヒトにほとんど無害な水疱性口内炎ウイルス(VSV)のインディアナ株です。MVは乳がんで豊富に発現する分子2つを足がかりにして細胞に侵入し、VSVはマウスでの検討で乳がん阻止効果が認められています。Halassy氏の共同研究者はHalassy氏が準備したそれらウイルスをHalassy氏の腫瘍に2ヵ月にわたって直接注射しました。幸いOVTはうまくいき、もとは2.47cm3だった腫瘍は0.91cm3へと大幅に縮小しました。硬すぎて注射針を刺すのが極めて困難だった腫瘍は、治療後にやわ(softer)になって容易に注射できるようになりました1)。また、侵襲していた胸筋や皮膚から離脱し、手術で取り除きやすくなりました。全身の副作用といえば発熱と寒気ぐらいで、深刻な副作用は認められませんでした。取り出した腫瘍を調べたところ、免疫細胞のリンパ球が腫瘍塊の45%を占めるほどにがっつり侵入しており、リンパ球と線維組織が豊富で腫瘍細胞が見当たらない部分もありました。そのような豊富な線維化は昔ながらの術前化学療法での完全寛解後にしばしば認められます。どうやらOVTは目当ての効果を発揮して免疫系の攻撃を導いたようです。取り出した腫瘍にHER2が認められたことからHalassy氏は手術後に抗HER2抗体トラスツズマブを1年間使用しました。そして手術後に再発なしで45ヵ月を過ごすことができています。数多のジャーナルが掲載拒否Halassy氏の手ずからのウイルス治療の報告は十数ものジャーナルに却下された後、今夏8月にようやくVaccines誌に掲載されました。Halassy氏の自己治療(self-experimentation)の掲載を拒否したジャーナルの倫理上の懸念は意外なことではないとの法と医学の専門家Jacob Sherkow氏の見解がNattureのニュースで紹介されています3)。掲載したら患者が定番の治療を拒んでHalassy氏のような治療を試すことを促してしまうかもしれないということが問題なのだとSherkow氏は言っています。一方、自己治療の経験が埋没しないようにする手立ても必要だとSherkow氏は考えています。Halassy氏もSherkow氏が指摘するような心配は心得ており、がんの最初の治療手段として腫瘍溶解性ウイルスを自己投与してはいけないと言っています1)。そもそも、実行には多大な科学的素養と技術を要する自身の治療を真似ようとする人はいないだろうとHalassy氏は踏んでいます。Halassy氏が望むのは、自身の経験ががんの術前治療でのOVTの使用を検討する正式な臨床試験が進展することです。いまやHalassy氏の経験から新たな道が生まれようとしています。この9月にHalassy氏は家畜のがんを腫瘍溶解性ウイルスで治療する取り組みへの資金を手に入れました3)。目指すものが自身の自己治療の経験によってまったく違うものになったとHalassy氏は言っています。参考1)Forcic D, et al. Vaccines (Basel). 2024;12:958. 2)Soliman H, et al. Clin Cancer Res. 2021;27:1012-1018.3)This scientist treated her own cancer with viruses she grew in the lab / Nature

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再発・転移子宮頸がんへのtisotumab vedotin、日本人でも有望な結果/日本癌治療学会

 再発・転移子宮頸がんに対する新規ADC・tisotumab vedotinは、担当医師の選択による化学療法と比較して全生存率を有意に改善したことが昨年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO2023)で報告された。この国際共同第III相ランダム化非盲検試験innovaTV 301の日本人のサブグループの解析結果を、第62回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)において久留米大学の西尾 真氏が発表した。・対象:再発・転移子宮頸がん患者(化学療法+ベバシズマブ、抗PD-(L)1療法後に病勢進行)・試験群:tisotumab vedotin(2.0mg/kg、3週ごと:TV群)対照群:医師選択の化学療法(トポテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ペメトレキセド:CT群)・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・全体集団502例中、日本人は101例(TV群50例、CT群51例)だった。日本人サブグループは年齢中央値50歳、92%が転移、63%がベバシズマブ、9%が抗PD-(L)1療法を受けていた。2023年7月24日のデータカットオフ時点における追跡期間の中央値は13.7ヵ月だった。【OS】(中央値)全体:TV群11.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.8~14.9)、CT群9.5ヵ月(95%CI:7.9~10.7)日本人:TV群15.0ヵ月(95%CI:9.7~NE)、CT群8.5ヵ月(95%CI:6.8~10.6)(ハザード比)全体:0.70(95%CI:0.54~0.89)日本人:0.45(95%CI:0.27~0.77)【PFS】(中央値)全体:TV群4.2ヵ月(95%CI:4.0~4.4)、CT群2.9ヵ月(95%CI:2.6~3.1)日本人:TV群4.0ヵ月(95%CI:3.0~4.4)、CT群2.0ヵ月(95%CI:1.5~3.0)(ハザード比)全体:0.67(95%CI:0.54~0.82)日本人:0.63(95%CI:0.42~0.95)【ORR】全体:TV群17.8%、CT群5.2%日本人:TV群24%、CT群2%・日本人サブグループにおける主な治療関連有害事象は、TV群では結膜炎(47%[Grade3以上0%])、悪心(39%[0%])、末梢感覚神経障害(37%[2%])、CT群では悪心(42%[6%])、貧血(42%[21%])、好中球減少症(24%[20%])、好中球数減少(24%[12%])であった。 西野氏は「innovaTV 301試験の日本人サブグループの解析結果は全体集団と一致しており、TVはCTと比較してすべての評価項目で有意な改善をもたらし、安全性プロファイルも同等だった。TVは再発転移子宮頸がんの日本人患者において、化学療法後の次療法として有望だろう」とまとめた。 この結果を受け、tisotumab vedotinは2次または3次治療の再発または転移を有する子宮頸がんを適応として、日本における承認申請が行われている。

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多発性骨髄腫におけるCAR-T細胞の製造不良の要因/京都大学

 CAR-T細胞療法は、再発難治多発性骨髄腫の管理を大幅に改善した。しかしCAR-T細胞には、製造過程で一部に発生する細胞増殖不良による「製造不良」という問題がある。製造不良は治療の大きな遅れや、その間の病勢進行につながるため、治療計画に重大な影響を与える。製造不良の実態把握とリスク因子の同定が急務とされていた。 そのようななか、骨髄腫患者におけるCAR-T細胞製造不良リスクを特定するため、日本でide-cel(商品名:アベクマ)治療を受けた患者の全国コホート研究が実施された。対象はide-cel投与のための白血球アフェレーシスを受けた患者である。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は154例で、そのうち13例(8.4%)で製造不良が発生した。・製造不良例では成功例に比べ、診断時の17p欠失率が高く(38.5% vs.14.9%)、アフェレーシス前6ヵ月以内のアルキル化剤治療が多く(53.8% vs.23.4%)、またアフェレーシス前の化学療法ライン数が多かった(中央値6 vs.5)。・製造不良例では成功例に比べ、ヘモグロビン値(8.6 vs.10.0g/dL)、血小板数(5.9 vs.13.8x104/μL)、CD4/CD8比(0.169 vs.0.474)が有意に低かった。・アフェレーシス前6ヵ月以内のアルキル化剤使用は、血小板数とCD4/CD8比低下に関連していた。

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ペムブロリズマブのNSCLC周術期治療(KEYNOTE-671)は日本人でも有効/日本肺癌学会

 ペムブロリズマブの非小細胞肺がん(NSCLC)周術期治療(KEYNOTE-671)は米国、欧州に続き、本邦でも2024年8月28日にNSCLCにおける術前・術後補助療法の適応を取得している。この根拠となった第III相「KEYNOTE-671試験」における日本人集団の結果について、聖マリアンナ医科大学 呼吸器外科主任教授の佐治 久氏が第65回日本肺癌学会学術集会で発表した。試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第III相試験対象:切除可能なStageII、IIIA、IIIB(N2)のNSCLC患者(AJCC第8版に基づく)試験群:ペムブロリズマブ200mg+化学療法(シスプラチン[75mg/m2]+ゲムシタビン[1,000mg/m2を各サイクル1、8日目]またはペメトレキセド[500mg/m2])を3週ごと最大4サイクル→手術→ペムブロリズマブ200mgを3週ごと最大13サイクル(ペムブロリズマブ群:397例)対照群:プラセボ+化学療法(同上)を3週ごと最大4サイクル→手術→プラセボを3週ごと最大13サイクル(プラセボ群:400例)評価項目:[主要評価項目]無イベント生存期間(EFS)および全生存期間(OS)[副次評価項目]病理学的奏効(mPR)、病理学的完全奏効(pCR)、有害事象など 追跡期間中央値36.6ヵ月の時点における全体集団のEFS中央値は、ペムブロリズマブ群では47.2ヵ月、プラセボ群では18.3ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.48~0.72)。OS中央値は、ペムブロリズマブ群では未到達、プラセボ群では52.4ヵ月であった(HR:0.72、95%CI:0.56~0.93、p=0.0052[片側])。 日本人集団における主な結果は以下のとおり。・全体集団797例中、日本人は82例(10.3%)(ペムブロリズマブ群39例、プラセボ群43例)であった。手術に至った割合はペムブロリズマブ群85%(33例)、プラセボ群91%(39例)であり、全体集団(ペムブロリズマブ群82%、プラセボ群79%)より良好であった。・データカットオフ時点(2023年7月10日)におけるEFS中央値は、ペムブロリズマブ群では未到達、プラセボ群では32.8ヵ月であった(HR:0.62、95%CI:0.33~1.19)。3年EFS率は、それぞれ66.1%、45.1%であった。・OS中央値は、両群ともに未到達であった(HR:0.87、95%CI:0.34~2.20)。3年OS率はペムブロリズマブ群では78.0%、プラセボ群では77.9%であった。・ペムブロリズマブ群のmPR率は28.2%(95%CI:15.0~44.9)、pCR率は12.8%(95%CI:4.3~27.4)、プラセボ群のmPR率は7.0%(95%CI:1.5~19.1)、pCR率は2.3%(95%CI:0.1~12.3)であり、ペムブロリズマブ群で良好であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)はペムブロリズマブ群59%(23例)、プラセボ群47%(20例)に認められ、Grade3以上の免疫関連有害事象(irAE)およびインフュージョンリアクション(IRR)は、ペムブロリズマブ群で18%(7例)に認められた。両群ともに死亡に至ったTRAE、irAE、IRRは認められなかった。 佐治氏は、今回の有効性、安全性の結果はKEYNOTE-671試験の全体集団の結果と同等であるとし、「日本人におけるペムブロリズマブの術前・術後補助療法の使用を支持するものである」とまとめた。

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PIK3CA変異進行乳がん1次治療、inavolisib追加でPFS改善/NEJM

 PIK3CA変異陽性、ホルモン受容体陽性、HER2陰性の局所進行または転移を有する乳がん患者の治療において、パルボシクリブ+フルベストラントにプラセボを加えた場合と比較して、パルボシクリブ+フルベストラントにPI3Kα阻害薬inavolisibを追加すると、無増悪生存期間(PFS)が有意に延長した一方で、一部の毒性作用の発生率が高いことが、英国・Royal Marsden Hospital and Institute of Cancer ResearchのNicholas C. Turner氏らが実施した「INAVO120試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年10月31日号に掲載された。国際的な無作為化プラセボ対照第III相試験 INAVO120試験は、進行乳がんにおけるinavolisib追加の有用性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2020年1月~2023年9月に28ヵ国で患者を登録した(F. Hoffmann-La Rocheの助成を受けた)。 対象は、PIK3CA変異陽性、ホルモン受容体陽性、HER2陰性の局所進行または転移を有する乳がんの女性(閉経の前/中/後かは問わない)または男性で、術後補助内分泌療法中または終了後12ヵ月以内に再発した患者であった。 被験者を、1次治療としてinavolisib(9mg、1日1回、経口投与)とパルボシクリブ+フルベストラントを併用投与する群(inavolisib群)、またはプラセボとパルボシクリブ+フルベストラントを併用投与する群(プラセボ群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、担当医の評価によるPFS(無作為化から病勢進行または全死因死亡までの期間)であった。全生存率は有意差がない 325例を登録し、inavolisib群に161例、プラセボ群に164例を割り付けた。全体の年齢中央値は54.0歳(範囲:27~79)、319例(98.2%)が女性、195例(60.0%)が閉経後女性であり、167例(51.4%)が3つ以上の臓器に転移を、260例(80.0%)が内臓(肺、肝、脳、胸膜、腹膜)転移を有し、269例(82.8%)が過去に術前または術後補助化学療法を受けていた。追跡期間中央値は、inavolisib群21.3ヵ月、プラセボ群21.5ヵ月だった。 PFS中央値は、プラセボ群が7.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.6~9.3)であったのに対し、inavolisib群は15.0ヵ月(11.3~20.5)と有意に延長した(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.43、95%CI:0.32~0.59、p<0.001)。また、感度分析として盲検下独立中央判定による無増悪生存期間の評価を行ったところ、結果は担当医判定と一致していた(0.50、0.36~0.68、p<0.001)。 一方、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月時の全生存率は、inavolisib群がそれぞれ97.3%、85.9%、73.7%、プラセボ群は89.9%、74.9%、67.5%であり、両群間に有意差を認めなかった。死亡のHR(inavolisib群vs.プラセボ群)は0.64(95%CI:0.43~0.97、p=0.03)であり、事前に規定された有意差の境界値(p<0.0098)を満たさなかった。 客観的奏効率はinavolisib群が58.4%、プラセボ群は25.0%(群間差:33.4%ポイント、95%CI:23.3~43.5)、奏効期間中央値はそれぞれ18.4ヵ月および9.6ヵ月(HR:0.57、95%CI:0.33~0.99)であった。重篤な有害事象inavolisib群24.1%、試験薬投与中止6.8% Grade3/4の有害事象は、inavolisib群が80.2%、プラセボ群は78.4%で発現した。このうちinavolisib群で多かったGrade3/4の有害事象として、高血糖(5.6% vs.0%)、口内炎/粘膜炎症(5.6% vs.0%)、下痢(3.7% vs.0%)を認め、Grade3/4の皮疹は両群とも観察されなかった。 重篤な有害事象はinavolisib群24.1%、プラセボ群10.5%、Grade5(致死性)の有害事象はそれぞれ3.7%および1.2%で発現し、有害事象による試験薬の投与中止は6.8%(inavolisib 6.2%、パルボシクリブ4.9%、フルベストラント3.1%)および0.6%(有害事象によるパルボシクリブ、フルベストラントの投与中止はない)で発現した。 著者は、「本研究では、これらの患者集団において、総投与量を用いたPI3Kα阻害薬(inavolisib)+CDK4/6阻害薬(パルボシクリブ)+内分泌療法(フルベストラント)の併用療法は、PFSを大幅に改善した。一部の有害事象の発現率が高いものの安全性プロファイルは良好であったことから、この治療法は新たな治療選択肢となる可能性がある」としている。

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乳がん薬物療法の最新トピックス/日本癌治療学会

 第62回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)で企画されたシンポジウム「明日からの乳癌診療に使える!最新の薬剤の使いどころ」において、がん研究会有明病院の尾崎 由記範氏が、乳がん薬物療法の最新トピックスとして、KEYNOTE-522レジメンの使いどころ、HER2ゼロ/低発現/超低発現の課題、新たなPI3K阻害薬inavolisibを取り上げ、講演した。高リスク早期TN乳がんへのKEYNOTE-522レジメンの使いどころ 切除可能トリプルネガティブ(TN)乳がんの標準治療としては、術前に化学療法を行い術後にカペシタビンやオラパリブを投与する治療があるが、KEYNOTE-522試験の結果から術前・術後にペムブロリズマブを使えるようになった。 KEYNOTE-522試験は、主にStageII/IIIのTN乳がんに対して、カルボプラチン+パクリタキセル → AC/ECの術前・術後にペムブロリズマブを併用し、予後改善を検討した第III相試験である。本試験で、病理学的完全奏効(pCR)割合、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間の改善が認められ、現在、ペムブロリズマブ併用レジメンが標準治療となっている。また、サブグループ解析において、StageやPD-L1の発現、pCR/non-pCRにかかわらず一貫した有効性が示され、StageII/IIIに広く使用できる。一方、免疫チェックポイント阻害薬は免疫関連有害事象(irAE)のリスクがある。術前治療においてGrade3以上のirAEが13%に認められており、5年EFSの9%のベネフィットとのバランスが議論になっているという。 今回、尾崎氏はKEYNOTE-522レジメンの日常診療におけるクリニカルクエスチョン(CQ)のうち4つを取り上げ、自施設(がん研究会有明病院)の方針や考えを紹介した。CQ:T2N0M0 cStageIIAのような比較的リスクの低い症例に対しても使用すべきか?T2N0症例における5年EFSは10%の差があり、TN乳がんは再発すると予後が約2年であることから、使用するようにしている。CQ:ホルモン受容体が弱陽性(ER 1~9%)の症例に使用すべきか?KEYNOTE-522試験にはER 1~9%は含まれていないが、ER 1~9%はTN乳がんとして治療すべきという考えがあり、最近の論文ではThe Lancet Regional Health-Europe誌にもそのように記載されている。ESMO2024でER 1~9%に対するリアルワールドデータが報告され、pCR割合は75%とTN乳がんと同程度だった。がん研究会有明病院ではER 1~9%もTN乳がんと診断して使用している(必ずしも保険が適用されるとは限らないため、各施設での判断が必要)。CQ:アントラサイクリンパートでG-CSF製剤の予防投与をするか?KEYNOTE-522試験での発熱性好中球減少症の発現割合は18%と報告されている。がん研究会有明病院の青山 陽亮氏の発表では22.9%と報告されており(JSMO2024)、多くはアントラサイクリンパートで発現しているため、G-CSF製剤の1次予防投与を推奨している。CQ:術後の最適な治療法は?pCR/non-pCRにかかわらずペムブロリズマブの使用が標準治療になっているが、non-pCRの場合のカペシタビン、生殖細胞系列BRCA病的バリアントを有する場合のオラパリブも世界的に標準治療と位置付けられている。pCRの場合にペムブロリズマブを省略可能かどうかが世界中で議論されており、それを検討するためのOptimICE-pCR試験が2,000例規模で進行中である。また、non-pCRではより有効な治療選択肢が必要とされており、その1つとしてdatopotamab deruxtecan+デュルバルマブが検討されている(TROPION-Breast03試験)。また、周術期ペムブロリズマブ投与後の再発症例は非常に予後不良であることから、再発症例に対してペムブロリズマブ+パクリタキセル±ベバシズマブで比較する医師主導治験(WJOG16522B、PRELUDE試験)を開始予定である(治験調整事務局:尾崎氏)。HER2ゼロ/低発現/超低発現の区別は喫緊の課題 次に尾崎氏は、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の適応に関連するHER2ゼロ/低発現/超低発現について取り上げた。 HR+HER2低発現/超低発現乳がんを対象としたDESTINY-Breast06試験において、T-DXdの有効性が示された。HER2超低発現の定義は、IHC0で10%以下の細胞に不完全な染色がある場合とされており、HER2-乳がんのうち20~25%とされている。この超低発現乳がんでも低発現乳がんと一貫した有効性が報告された。ESMO2024では、各施設でIHC0と判断された乳がんのうち、中央では24%がHER2低発現、40%が超低発現と判定されたとの報告があり、約6割がT-DXdのベネフィットが得られる可能性がある。T-DXdは今年8月、FDAからHER2低発現/超低発現の転移再発乳がん治療を対象として「画期的治療薬」として指定されており、日本でもすでに効能・効果追加の一部変更承認申請がなされていることから、尾崎氏は「HR+HER2ゼロとHER2低発現、超低発現の区別が喫緊の課題」と述べた。新規PI3K阻害薬inavolisibがFDA承認、日本における課題 尾崎氏は最後に、昨年末のサンアントニオ乳がんシンポジウム2023で初めて第III相INAVO120試験の主要評価項目である無増悪生存期間が発表され、そのわずか10ヵ月後の今年10月10日にFDAで承認されたPI3K阻害薬のinavolisibについて紹介した。 INAVO120試験は、術後内分泌療法中に再発もしくは終了後12ヵ月以内に再発し、PIK3CA変異があるHR+HER2-乳がんを対象とした試験で、inavolisib+パルボシクリブ+フルベストラントの3剤併用の有効性が示された。 現在、尾崎氏が考えるHR+HER2-乳がんに対する薬物療法は、アロマターゼ阻害薬+CDK4/6阻害薬を投与後、PIK3CA/AKT/PTEN変異の有無によって2次治療を選択、その後、ホルモン療法耐性、ホルモン感受性なし、visceral crisisの場合は抗体薬物複合体や化学療法、という流れである。inavolisibは再発診断時からPIK3CA変異を検出する必要があるため、尾崎氏は「米国では、再発1次治療としてinavolisib+パルボシクリブ+フルベストラントの併用がすでに承認され標準治療となるため、将来もしinavolisibが日本でも開発され承認されれば、日本でも同様に再発時点で遺伝子検査にてPIK3CA変異を確認する必要がある」と課題を提示した。

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「大腸癌治療ガイドライン」、主な改訂ポイントを紹介/日本癌治療学会

 第62回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)では「がん診療ガイドライン作成・改訂に関する問題点と対応について」と題したシンポジウムが開かれた。この中で今年7月に発行された「大腸癌治療ガイドライン2024年版」について、作成委員会委員長を務めた東京科学大学 消化管外科の絹笠 祐介氏が、本ガイドラインの狙いや主な改訂ポイントを紹介した。 「大腸癌治療ガイドライン」は2005年に初版を発行、その後7回の改訂を重ね、今回は第8版で2年ぶりの改訂となる。前回は薬物療法に関連した部分改訂だったが、今回は全領域を改訂し、クリニカル・クエスチョン(CQ)も刷新した。 本ガイドラインの特徴は、一般病院の医師が診療を行う際の指標になることを目的としていることだ。実臨床で使いやすいものとするため、多くのガイドラインが準拠する「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」は参考に留め、エビデンスと推奨の不一致を許容する方針としている。実務で使いやすいよう「できるだけ薄くする」ことも目指しており、今版のCQの数は28と旧版から変えず、本文や資料も凝縮することで157頁とほかのがん関連ガイドラインと比べてコンパクトになっている。 また、今版からの変更点としては、CQにおける推奨の合意度を記載して委員の意見の相違が見えるようにしたこと、集学的治療が進む大腸がん治療を鑑みて補助療法に関しては関連領域の委員が合同で原案作成、推奨度の決定を行う形式に変更したことがある。さらに作成期間中を通してパブリックコメントを募集し、内容に反映させる試みも行った。 今版で新設されたCQは以下のとおり。CQ3 大腸癌に対するロボット支援手術は推奨されるか?1)ロボット支援手術は、直腸癌手術の選択肢の1つとして行うことを強く推奨する(推奨度1・エビデンスレベルB、合意率:74%)。 2)また、結腸癌手術の選択肢の1つとして行うことを弱く推奨する(推奨度2・エビデンスレベルC、合意率96%)→ロボット手術が保険適用となったことを踏まえて新設。CQ9 周術期薬物療法の前にバイオマーカー検査は推奨されるか?1)RAS、BRAF、ミスマッチ修復機能欠損(MSIもしくはMMR-IHC)検査を行うことを弱く推奨する(推奨度2・エビデンスレベルB、合意率78%)2)Stage II/III大腸癌の術後についてはミスマッチ修復機能欠損検査を行うことを強く推奨する(推奨度1・エビデンスレベルA、合意率96%)→バイオマーカーによる予後予測の有用性に関する報告を踏まえ、初めて関連するCQを設定。CQ12 直腸癌に対するTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)は推奨されるか?直腸癌に対するTNTは行わないことを弱く推奨する。(推奨度2・エビデンスレベルC、合意率:70%)CQ13 直腸癌術前治療後cCR症例に対するNon-Operative Management (NOM)は推奨されるか?行わないことを弱く推奨する。(推奨度 2・エビデンスレベル C、合意率:39%)→欧米を中心に広がりを見せるTNT(=術前の集学的治療)、NOM(=非手術管理)についてのCQを新設。いずれも「行わないことを弱く推奨」となったが、NOMに関しては委員の意見の相違も見られた。CQ19 切除可能肝転移に対する術前化学療法は推奨されるか?切除可能な肝転移に対する術前化学療法は行わないことを弱く推奨する。(推奨度2・エビデンスレベルC、合意率:91%)CQ20 肝転移巣切除後に対する術後補助化学療法は推奨されるか? 肝転移巣切除後に対して術後補助化学療法を行うことを弱く推奨する。(推奨度2・エビデンスレベルB、合意率:87%)→これまで術前術後が一緒になっていたCQを分けて新設。CQ22 大腸癌の卵巣転移に対して卵巣切除は推奨されるか?1)根治切除可能な同時性および異時性卵巣転移に対しては、切除することを強く推奨する。(推奨度1・エビデンスレベルB、合意率74%)2)卵巣転移および卵巣転移以外の切除不能遠隔転移を同時に有する場合、薬物療法を選択するが、卵巣転移の増大による自覚症状がある場合は、卵巣転移の姑息切除を行うことを弱く推奨する。(推奨度2・エビデンスレベルC、合意率91%)CQ28 肛門管扁平上皮癌に対して化学放射線療法は推奨されるか?遠隔転移を認めない肛門管扁平上皮癌患者に対して、化学放射線療法を行うよう強く推奨する。(推奨度1・エビデンスレベルA、合意率100%)→大腸癌研究会のプロジェクト研究から得られた新たなエビデンスを踏まえ、卵巣転移、肛門管扁平上皮癌に関するCQを新設。CQ25 切除不能大腸癌に対する導入薬物療法後の維持療法は推奨されるか?オキサリプラチン併用導入薬物療法開始後に、患者のQOLなどを考慮して、維持療法に移行することを推奨する。1)FOLFOXIRI+BEV後のフッ化ピリミジン+BEV(推奨度1・エビデンスレベルA、合意率100%)2)FOLFOX/CAPOX/SOX+BEV後のフッ化ピリミジン+BEV(推奨度2・エビデンスレベルA、合意率65%)3)FOLFOX+CET/PANI後の5-FU+/-LV+CET/PANI(推奨度2・エビデンスレベルB、合意率91%) このほか、新たなエビデンスが集積した周術期薬物療法に関連した項目が大きく改訂され、「高齢者の術後補助療法」に関するCQ8では「高齢者」の定義が旧版の70歳から80歳に引き上げられるなど、各項目の見直しを行った。 完成後にはガイドライン評価委員会に外部評価を依頼した。この委員会はガイドラインの質担保のため専門委員、外部委員を含めた委員が専用のツールを使って評価をするもので、この評価の結果も掲載されている。 絹笠氏は「外部評価において指摘された患者参加、費用対効果の記載などは今後の課題だ。またガイドラインの実臨床への影響の評価、フューチャーリサーチクエスチョンへの対応、委員構成、発刊間隔なども今後の検討事項だと考えている。ガイドラインではCQが注目されるが、本ガイドラインは長年記載されていたCQを本文に落とし込むなど、1冊全体を充実させる工夫をした。ぜひ、全体に目を通していただきたい」とした。

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TN乳がんに対する初のADCサシツズマブ ゴビテカン、有効性と注意すべき有害事象/ギリアド

 2024年9月24日、全身療法歴のある手術不能または再発のホルモン受容体陰性/HER2陰性(トリプルネガティブ)乳がん(TNBC)の治療薬として、TROP-2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)サシツズマブ ゴビテカン(商品名:トロデルビ)が本邦で承認された。10月29日にギリアド・サイエンシズ主催のメディアセミナーが開催され、岩田 広治氏(名古屋市立大学大学院医学研究科臨床研究戦略部)が「トリプルネガティブ乳がんに新薬の登場」と題した講演を行った。ESMOガイドラインでは転移TNBCの2次治療として位置付け 欧米では同患者に対するサシツズマブ ゴビテカンは約3年前に承認・使用されており、2021年のESMO Clinical Practice Guideline1)ではPD-L1陽性患者に対する免疫療法、gBRCA陽性患者に対するPARP阻害薬、PD-L1およびgBRCA陰性患者に対する化学療法などの次治療として位置付けられている。 乳がん領域で承認されたADCとしてはトラスツズマブ エムタンシン(商品名:カドサイラ)、トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)に続き3剤目となるが標的となる抗体が異なり、TNBCに対しては初めて承認されたADCとなる。岩田氏は、「新しい作用機序の薬剤が使えるようになることは朗報。われわれはこの新しい武器を有効に使っていかなければならない」と話した。ASCENT試験とASCENT-J02試験のポイント 国際第III相ASCENT試験(日本不参加)では、2レジメン以上の化学療法歴のある(術前化学療法後12ヵ月以内に再発した場合は1レジメンで参加可能)転移TNBC患者(529例)を対象として、サシツズマブ ゴビテカンと主治医選択による化学療法の有効性が比較された。PD-L1陽性で免疫チェックポイント阻害薬治療歴のある患者が26~29%、gBRCA陽性でPARP阻害薬治療歴のある患者が7~8%含まれており、再発診断から登録までの中央値は約15ヵ月であった。 最終解析の結果、無増悪生存期間(PFS)中央値はサシツズマブ ゴビテカン群4.8ヵ月vs.化学療法群1.7ヵ月(ハザード比[HR]:0.413、95%信頼区間[CI]:0.33~0.517)、全生存期間(OS)中央値は11.8ヵ月vs.6.9ヵ月(HR:0.514、95%CI:0.422~0.625)となり、サシツズマブ ゴビテカン群における改善が示されている2)。奏効率(ORR)は35% vs.5%であり、岩田氏はこの結果について「2レジメン以上の治療歴のある患者さんに対し、大きな治療効果といえる」と話した。 日本で実施された第II相ASCENT-J02試験においても、サシツズマブ ゴビテカン投与患者(36例)におけるPFS中央値は5.6ヵ月、OS中央値はNR、ORRは25%で、ASCENT試験で報告された有効性との一貫性が示されている。注意を払うべき有害事象と今後の展望 岩田氏は、有害事象の中でとくに注意すべきものとして好中球減少症、下痢や悪心などの消化器症状、脱毛を挙げた。Grade3以上の好中球減少症はASCENT試験で34%、ASCENT-J02試験で58%、下痢はそれぞれ10%、8.3%に認められた。欧米では好中球減少症への対策として60~70%で予防的G-CSF投与が行われているといい、岩田氏は好中球減少症のマネジメントが課題となると指摘した。 現在、転移・再発TNBCの1次治療におけるサシツズマブ ゴビテカンの有効性を評価する臨床試験がすでに進行中であるほか、同様の機序の薬剤の開発も進んでいる。岩田氏は今後はそれらの薬剤との組み合わせや使い分けが重要になってくるとして、講演を締めくくった。

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NSCLCへのニボルマブ+イピリムマブ±化学療法、実臨床の有効性・安全性(LIGHT-NING第4回中間解析)/日本肺癌学会

 国際共同第III相試験CheckMate 9LA試験、CheckMate 227試験の結果に基づき、進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療として、ニボルマブ+イピリムマブ±化学療法が保険適用となり、実臨床でも使用されている。2試験の有効性の成績は、少数例ではあるものの日本人集団が全体集団よりも良好な傾向にあった一方、Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は、日本人集団が全体集団よりも高い傾向にあったことが報告されている。そこで、ニボルマブ+イピリムマブ+化学療法(CheckMate 9LAレジメン)、ニボルマブ+イピリムマブ(CheckMate 227レジメン)を使用した患者のリアルワールドデータを収集するLIGHT-NING試験が実施された。本試験の第4回中間解析の結果について、山口 哲平氏(愛知県がんセンター呼吸器内科部)が第65回日本肺癌学会学術集会で発表した。試験デザイン:後ろ向き観察研究対象:未治療の進行・再発NSCLC患者544例(有効性解析対象515例)試験群1:ニボルマブ(360mgを3週ごと)+イピリムマブ(1mg/kgを6週ごと)+化学療法(3週ごと、2サイクル)(CM 9LA群:318例)試験群2:ニボルマブ(240mgを隔週または360mgを3週ごと)+イピリムマブ(1mg/kgを6週ごと)(CM 227群:226例)評価項目:[主要評価項目]治療状況、全生存期間(OS)、Grade3以上の免疫関連有害事象(irAE)、治療中止に至ったTRAEなど[副次評価項目]irAEの発現時期とirAEに対する治療内容および症状改善までの期間、irAEの有効性への影響など 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は15.2ヵ月であった。・対象患者の年齢中央値は70歳、女性が18.8%、PS 0~1/2/3以上が89.1%/5.9%/1.3%、扁平上皮がんが27.6%、PD-L1発現状況が1%未満/1~49%/50%以上/不明は46.3%/34.9%/9.4%/9.4%であった。・治療別にみた年齢中央値はCM 9LA群が67歳、CM 227群が73歳、75歳以上の割合はそれぞれ12.3%、42.0%であり、高齢の患者では化学療法を含まないニボルマブ+イピリムマブが多く選択される傾向にあった。また、StageIV(一部切除不能StageIIIを含む)/再発の割合は、CM 9LA群が78.9%/21.1%、CM 227群が69.0%/31.0%であり、CM227群で再発の割合が高く、遠隔転移の割合が低かった。・解析時点において、イピリムマブのみを中止した患者の割合は2.6%、ニボルマブとイピリムマブの両剤を中止した患者の割合は91.9%で、イピリムマブ中止の内訳は病勢進行が43.2%、有害事象が42.8%であった。・OS中央値は、CM 9LA群が21.7ヵ月、CM 227群が18.8ヵ月であり、1年OS率はそれぞれ67.4%、61.8%、2年OS率はそれぞれ47.3%、44.0%であった。いずれの群でもPD-L1の発現状況による明らかな差はみられなかった。・PFS中央値は、CM 9LA群が6.8ヵ月、CM 227群が6.3ヵ月であり、1年PFS率はそれぞれ32.9%、36.1%、2年PFS率はそれぞれ21.0%、23.2%であった。いずれの群でもPD-L1の発現状況による明らかな差はみられなかった。・進行・再発別にみたOSの解析では、CM 9LA群におけるOS中央値はStageIV集団が17.6ヵ月、再発集団が29.2ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(ハザード比[HR]:0.50、95%信頼区間[CI]:0.39~0.89)。同様に、CM 227群ではそれぞれ13.9ヵ月、27.8ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(同:0.65、0.39~0.96)。・進行・再発別にみたPFSの解析でも、CM 9LA群におけるPFS中央値はStageIV集団が5.6ヵ月、再発集団が11.1ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(HR:0.70、95%CI:0.49~0.98)。同様に、CM 227群ではそれぞれ5.3ヵ月、10.0ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(同:0.71、0.50~0.99)。・医師判定に基づく奏効率は、40.1%(CM 9LA群:41.9%、CM 227群:37.4%)であった。・Grade3/4のTRAEは43.9%(CM 9LA群:53.5%、CM 227群:30.5%)に発現した。・治療関連死は3.7%(CM 9LA群:4.1%[13例]、CM 227群:3.1%[7例])に認められた。 本結果について、山口氏は「有効性に関して、CM 9LA群とCM 227群は同様の結果であり、いずれの群もPD-L1発現状況によっても治療効果に大きな差はみられなかったが、再発の集団で良好な傾向にあった。安全性に関する新たなシグナルは観察されず、安全性プロファイルはCheckMate 9LA、CheckMate 227試験と同様であった」とまとめた。

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