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がんと共に生きる人々を支えるために、医師ができること/武田

 がん治療の進歩は目覚ましく、新たな治療法が続々と登場している。しかし、がん患者の精神・心理的苦痛に対する支援はどうだろうか。がん患者が抱える課題と、それに対する取り組みについての理解を深めることを目的に、武田薬品工業は「がんになっても“誰一人取り残されない社会”を作るために」をテーマとして、2023年1月27日にメディアセミナーを開催した。 セミナーの前半では、大西 秀樹氏(埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科 診療部長・教授)が「がん患者さん・ご家族の心理社会的支援の必要性」をテーマに、心理支援の重要性を語った。後半では、坂本 はと恵氏(国立がん研究センター東病院 サポーティブケアセンター 副サポーティブケアセンター長)が「がん相談支援センターの役割と現状」をテーマに、がん相談支援センターの具体的な業務内容を紹介し、医療者・患者への周知の重要性を述べた。セミナーの座長は、悪性リンパ腫の罹患経験を有する天野 慎介氏(一般社団法人全国がん患者団体連合会 理事長)が務めた。がん患者の約半数は精神科診断がつく 病気には固有のイメージがある。がんであれば「死」だという。大西氏は「がんの診断は患者の大きなストレスとなり、約5割に精神科診断がつく。このことを確実に知っておいていただきたい。それは、精神科疾患のうち、うつ病は薬物治療により改善することが多く、適応障害であれば、医療者が関わることで改善することが多いからである」と話した。精神症状は、治療にも影響を及ぼす。乳がん患者では、抑うつがない患者の92.2%が術後化学療法を受けたのに対し、抑うつがあるとその割合は51.3%にとどまったと報告されている1)。また、自殺も懸念される。本邦の調査では、がんと診断後1年以内の自殺のリスクが23.9倍と報告されているのである2)。 それでは、がん患者のうつ病はどのように見つけたらよいのだろうか。大西氏は「たとえば、がん患者が倦怠感や食欲不振を訴えたとき、副作用やがんの進行を疑うだろう。しかし、もう少し質問してみると、『眠れない』『気分が滅入る』『意欲が低下する』と訴えることがあり、うつ病が判明する場合もある」と具体例を示した。加えて、「うつ病が判明した患者にうつ病治療を行うと、副作用やがんの進行が原因と考えていた倦怠感や食欲不振などの身体症状も改善することがある」と述べた。 がん患者の家族のケアも忘れてはいけない。がん患者の家族にも抑うつが多くみられ、身体面(不眠、せん妄、心疾患など)や社会面(失業、貯蓄減少など)にも影響が出るという。したがって「腫瘍精神科やがん相談支援センターは、がん患者の家族も利用できることを周知してほしい」と述べた。がん相談支援センターの積極的な活用を がん相談支援センターは、全国453施設に設置され、がんの疑いから旅立ちまで、具体的には「治療場所の選択」「治療選択の迷い」「住居、食べ物、日常生活や移動手段などのニーズ」「子供の世話」「雇用や学校の問題」「医療費負担」「残される家族の生活の再設計」など、さまざまな相談に応じている。坂本氏は「がん相談支援センターは、一人ひとりの『希望』に橋をかけることのお手伝いをしたいという思いで支援を行っている」と話した。 しかし、がん相談支援センターの認知には課題があるという。平成30年度の患者体験調査3)では、がん相談支援センター自体の認知率は66.4%にのぼったものの、「がん相談支援センターを知っている」と回答した人のうち、「利用したことがある」と回答した割合は14.4%にとどまった。また、利用しなかった人のうち、15.9%が「何を相談する場所かわからなかった」「プライバシーの観点から利用しにくかった」という理由で利用しなかったという。したがって、「がん相談支援センターはどのような機能を持っている場所なのか、医療者に理解いただき、患者へ伝えていただくことが重要である」と強調した。 坂本氏は、“ひとりもとりこぼすことなく”の実現のためには、「がん患者がどのような困難に直面しているのかを聞いたうえで、日々の臨床に生かすことが重要」とまとめ、「オンラインも活用しながら、多施設連携、社会協働で“知らなかったが故の不利益”を減らしたい」と語った。

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ペムブロリズマブ+化学療法による胆道がん1次治療、生存期間を延長(KEYNOTE-966)/Merck

 2023年1月25日、Merck社は、第III相KEYNOTE-966試験の最終解析結果を公表。ペムブロリズマブと標準化学療法(ゲムシタビンおよびシスプラチン)の併用は、進行または切除不能な胆道がんの1次治療において全生存期間(OS)を統計学的に有意に改善した。また、同試験におけるペムブロリズマブの安全性プロファイルは、これまでの試験の結果と一貫していた。 この結果については、今後さまざまな腫瘍関連学会で発表するとともに、各国の規制当局へ承認申請する予定。 KEYNOTE-966試験は、進行または切除不能な胆道がんの1次治療としてペムブロリズマブ+ゲムシタビン・シスプラチン併用を、プラセボ+ゲムシタビン・シスプラチン併用と比較する無作為化二重盲検第III相試験である。主要評価項目はOSで、副次評価項目は無増悪生存期間、客観的奏効率、奏効期間、安全性などであった。 胆道がんは肝臓がんの15%を占め、毎年21万1,000例が世界で新たに胆道がんと診断され、17万4,000例が死亡すると推定されている。胆道がんの予後は非常に不良で、5年生存率は5〜15%と報告されている。

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toripalimabのNSCLC周術期治療が主要評価項目を達成/Junshi Biosciences

 Junshi Biosciences社は、2023年1月18日、抗PD-1抗体toripalimabによる非小細胞肺がん(NSCLC)の周術期治療が、第III相試験Neotorchの中間解析で主要評価項目を達成したと発表した。 Neotorch試験は、肺がんの術前・術後補助療法において、プラチナダブレット化学療法単独と、toripalimab+プラチナダブレット化学療法の有効性と安全性を比較する無作為化二重盲検プラセボ対照第III相研究。 中間解析の結果、NSCLCへのtoripalimab+化学療法の手術前後の補助療法とtoripalimab単剤の地固め療法の組み合わせは、化学療法単独と比較して無病生存期間(EFS)を有意に延長する可能性を示した。toripalimabの安全性データは既知のリスクと一致しており、新たな安全性シグナルは確認されていない。 世界保健機関の発表によると、2020年、中国における肺がんの新たな発症は 81万6,000例で、がん全体の17.9%を占める。また、肺がんによる死亡者は71万5,000例で、全がん死亡者の23.8%を占めた。

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がん診断後の急速な身体機能低下はいつまで続く?

 高齢がん患者の身体機能の推移をがん診断の前後10年にわたって調査したところ、がん患者の身体機能はがん診断後に加速度的に低下し、5年後であっても非がん患者のコントロール群と比べて低いままであることが、Elizabeth M. Cespedes Feliciano氏らによって明らかになった。JAMA Oncology誌オンライン版2023年1月19日号掲載の報告。 これまで、非がん患者と比較して、がん患者のがん部位や進行度、治療が身体機能へ与える長期的な影響を調べた研究はなかった。そこで研究グループは、がん診断の前後10年間の身体機能を調査するために前向きコホート研究を実施した。 研究には、一般閉経後女性を対象とした臨床試験である「The Women's Health Initiative」から9,203例のがん患者(乳がん5,989例、大腸がん1,352例、子宮体がん960例、肺がん902例)と年齢でマッチさせた非がん患者(コントロール群)4万5,358例が組み込まれた。参加者は1993~98年に登録され、2020年12月まで追跡された。がん診断時と1年後のRAND-36項目健康調査(0~100、点数が高いほど身体機能が良好)による身体機能を線形混合モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・がん患者群のがん診断時の平均年齢は73.0歳(±7.6歳)であった。・臨床進行度が限局のがん患者の身体機能の低下は、がん診断前はコントロール群と同程度であったが、がん診断後はコントロール群と比較して加速度的に低下し、RAND-36項目健康調査のスコアは年1~2ポイント低下した。・がん診断の翌年の身体機能の低下は、臨床進行度が領域浸潤のがん患者で最も顕著であった(限局の乳がん患者−2.8ポイント/年[95%信頼区間[CI]:−3.4~−2.3]vs.領域浸潤の乳がん患者−5.3ポイント/年[同:−6.4~−4.3])。・また、全身療法を受けている患者でも身体機能の低下が顕著であった(何らかの化学療法を受けている限局の子宮体がん患者−7.9ポイント[95%CI:−12.2~−3.6]vs.放射線療法単独の限局の子宮内膜がん患者−3.1ポイント[同:−6.0~−0.3])。・がん患者の身体機能の低下は診断後の追跡後期に緩徐になったが、5年後であってもコントロール群の身体機能を大幅に下回っていた。 これらの結果から、研究グループは「本前向きコホート研究において、がん患者群ではがん診断後に加速度的に身体機能が低下し、数年後であってもコントロール群よりも低かった。がん患者には身体機能を維持するための支持的介入が有用である可能性がある」とまとめた。

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tTMBがPD-L1陽性NSCLCに対するペムブロリズマブ単剤の治療効果を予測(KEYNOTE-042)/Ann Oncol

 ペムブロリズマブ単剤は、PD-L1陽性(TPS≧1%)の進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)に対する、1次治療に用いられている。中国・香港中文大学のT. S. K. Mok氏らは、ペムブロリズマブ単剤の化学療法に対する治療効果を予測するバイオマーカーの探索を行った。その結果、腫瘍組織の遺伝子変異量(tTMB)が1エクソームあたり175個以上(tTMB≧175mut/exome)の集団において、ペムブロリズマブ単剤は化学療法と比べて、全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を改善したが、tTMB<175mut/exomeではいずれも改善しなかった。Annals of Oncology誌オンライン版2023年1月25日掲載の報告。 EGFR遺伝子変異陰性、ALK融合遺伝子陰性かつPD-L1陽性(TPS≧1%)の進行・再発のNSCLC患者を対象に、1次治療としてペムブロリズマブ単剤または化学療法による治療を行ったKEYNOTE-042試験の後ろ向き解析。ペムブロリズマブ単剤による治療効果の予測における、tTMB、STK11、KEAP1、KRAS遺伝子変異の有用性を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者793例中、tTMB≧175mut/exomeが43.5%(345例)、tTMB<175mut/exomeが56.5%(448例)であった。・PD-L1の発現状況とtTMBには関連が認められなかった。・tTMBの値は、ペムブロリズマブ単剤群でOS、PFSの改善と関連していた(片側検定のp<0.001、Wald検定)。一方、化学療法群では、関連が認められなかった。・tTMB≧175mut/exomeの集団では、ペムブロリズマブ単剤群は化学療法群と比べて、OSとPFSが改善した(OSのハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.48~0.80、PFSのHR:0.75、95%CI:0.59~0.95)。・一方、tTMB<175mut/exomeの集団では、ペムブロリズマブ単剤群は化学療法群と比べて、OSとPFSが改善しなかった(OSのHR:1.09、95%CI:0.88~1.36、PFSのHR:1.27、95%CI:1.04~1.55)。・STK11、KEAP1、KRAS変異の有無にかかわらず、ペムブロリズマブ単剤群は化学療法群と比べて、OSを改善した。

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肺がんゲノム医療の実態を探る:REVEAL(WJOG15421L)試験【肺がんインタビュー】 第92回

肺がんは個別化医療が進んでいるが、実臨床ではまだ十分に普及しておらず、活用拡大の余地がありそうだ。西日本がん研究機構(WJOG)では、実臨床での遺伝子検査活用状況を調査するREVEAL(WJOG15421L)試験を行っている。2022年の日本肺癌学会で同試験の初回解析結果を報告した鳥取大学の阪本智宏氏と、ESMO-Asiaで追加解析を報告した北九州市立医療センターの松原太一氏、研究代表者である近畿大学の高濱隆幸氏に、試験実施の結果と臨床現場での評価を聞いた。左から、松原氏、高濱氏、阪本氏現場のゲノム検査はドライバー遺伝子の解明に追い付いているか肺がんでは、次々にドライバー遺伝子が解明され、ターゲット治療薬も続々と開発されている。最近では、初期診断から複数の遺伝子を測定できる、マルチプレックス検査(以下、マルチ検査)が可能となっている。一方、ドライバー遺伝子の解明に、遺伝子検査の普及が追い付いていないのではないか、疑問が浮上している。このような中、遺伝子検査と標的治療についての実地臨床での状況と課題を明らかにするためにREVEAL試験が開始された。「本来届けられるべき治療が患者に届けられていないのではないか、その原因は何かを明らかにしたい」と阪本氏は述べる。高濱氏は「今までも状態の良い症例を対象にした試験はあったが、REVEAL試験ではPS不良な患者も含め、リアルワールドでどこまで検査をしているのか明らかにできた」と振り返る。マルチプレックス検査は予想以上に少ないが、日本の肺がん治療を反映している可能性もREVEAL試験では、WJOG登録の29施設で進行非小細胞肺がんと診断された1,500例を登録し(登録期間:2020年1月1日〜2021年6月30日)、後ろ向きに解析している。遺伝子検査は、解析対象となった1,479例中86%の1,273例に行われた。内訳をみると、マルチ検査は47.7%(705例)に、シングルプレックス検査(以下、シングル検査)は57.3%(848例)に、シングル・マルチ併用は18.9%(280例)で実施されていた。マルチ検査の実施状況について阪本氏は「マルチ検査は、検査成功率や検体の量・質の確保といった問題があるが、この実施率は少ないと感じる」と述べる。松原氏も「この試験は、マルチ検査の保険償還から1年経過したときのもの。その時点でマルチ検査の割合が半分以下だとは予想しなかった」と言う。この試験はWJOG登録施設であり、遺伝子検査への意識は高いといえる。全国的な普及率はもっと下がる可能性もありそうだ。画像を拡大するマルチ検査が避けられる「PS不良」「合併症あり」「扁平上皮がん」多変量解析による、マルチ検査の非実施因子は、「PS不良」「合併症あり」「扁平上皮がん」の3つであった。PS不良例については、「確かに診断時すでに治療が適用できないほどPSが悪化しているケースはある。ただ、ターゲット治療薬であれば、PS不良例でも改善できるケースもある。検体を採取している症例なので、PS不良例だからといって一元的に調べなくてよい理由にはならないだろう」と阪本氏は言う。また、合併症については、ILDなどがベースにあるとターゲット治療薬が使えない場合もあるものの、「合併症があるときは調べても意味がない」という医師の意識が反映されている可能性もある、と指摘する。組織を採ってもゲノム検査に出さないケースもドライバー変異ごとの検査実施率を見ると、EGFRは84.2%、ALKは78.8%、ROS1は72.8%、BRAFは54.3%、METexon14スキッピング(以下、MET)は54.4%であった。この結果について高濱氏は「組織まで採って診断したのに、EGFRやALKでさえ出していないのは問題」と指摘する。阪本氏は「EGFRとALK以外は“レア”、まずはEGFRとALKだけ調べておけばよい、と考える医師が一部にはいる。しかし、医師にとっては“レア”だが、陽性患者にとっては100%」だと言う。BRAF、METについてはほかの3遺伝子と比べて、検査実施率が大きく下がる。また、この2つの変異は大部分マルチプレックスで検査されている点が、ほかの3遺伝子とは異なる。この点について阪本氏は「BRAFもMETもシングル検査はどちらもNGS。NGS用の検体量を採るのであれば、マルチ検査をしてしまう可能性もある」と推測する。画像を拡大する潜在患者がいるか? METexon14スキッピング前述のとおり、METはマルチ検査が多く、かつ検査実施率が低い。一方、組織型別の陽性率を見ると、ほかの4遺伝子と異なり、非腺がんでも腺がんと同等あるいはそれ以上に高い傾向にある(腺がん陽性率1.7%、非腺がん陽性率2.1%)。また、METはほとんどマルチ検査で行われているが、前出のとおり、扁平上皮がんではマルチ検査が行われない傾向にある。「マルチ検査が普及すると、METの陽性率は今以上に増えるかもしれない」と阪本氏は述べる。画像を拡大するドライバー変異が陽性でも治療薬が届いていない?松原氏はESMO-Asiaで同試験の追加解析を発表した。結果を見ると、陽性が判明していても、すべての症例にターゲット治療が提供されているわけではない。1次治療でターゲット治療薬を使用したのは、EGFR 94.6%、ALK 71.1%、ROS1 66.7%、BRAF 75.0%、MET 60.0%だった。ターゲット治療以外の治療法を見ると、ALKとROS1では、それ以外の標的治療(下図のOther therapyに相当)が、BRAFとMETではIO単剤およびIO+化学療法が目立つ。松原氏が、このOther therapyの内訳を調査したところ、2つの要因が明らかになった。1つは、IHCではALK陽性だがFISHでは陰性といったケース。こういった場合、臨床的にはALK陽性ととられない。もう1つは、ALK陽性かつEGFRも陽性といったケース。こういうケースでは、EGFRが最優先で評価され、EGFR-TKIが投与される。このようなケースでは「EGFR-TKIが有効であったか評価が必要」と松原氏は述べる。一方、BRAFとMETにおけるターゲット治療以外の手段はほとんどがIOである。バイオマーカー陽性が出たら対応するターゲット治療が最優先だが、この2つのドライバーでは、比較的高いICIの有効性を反映しているのではないか、と松原氏。今後は、ターゲット治療が入ったケースと入らなかったケースの治療効果を調べ、最適な治療シークエンスの発信につなげていきたいという。画像を拡大するプロファイリング検査も不足している肺がん肺がん領域はゲノム検査、分子標的薬のトップランナーといわれているが、実際は婦人科がんや消化器がんのほうが、網羅的遺伝子解析の実績は多くなっている、と高濱氏は指摘する。同氏はまた「肺がんでは、初期治療から遺伝子検査を行えるが、逆にこの限られた遺伝子の世界だけで治療している。つまり、初回検査の結果だけでPDになり、そのまま亡くなってしまう。“本当の遺伝子解析”を受けていない患者を増やしてしまっているのではないか」と警鐘を鳴らす。リキッドバイオプシー検査も精度が上がっているので、組織検体が採れなくても、積極的にプロファイリング検査を活用し、少しでも治療を届けられるよう検討することが重要であろう。高濱氏は最後に、「NGS検査は生涯1回しかできない。初回から網羅的遺伝子解析をすれば、貴重な検体を有効に活用できる」と訴えた。遺伝子検査の可能性を引き出し、より多くの肺がん患者を最適な治療に結び付ける肺がんでは、ドライバー遺伝子が次々に発見され、それに対応した標的治療薬も開発されている。近年では、初期診断からマルチ遺伝子検査が適用できるようになったものの、REVEAL試験の結果からは、実臨床ではまだ十分に普及しておらず、活用拡大の余地がありそうだ。このような研究から、遺伝子検査のさらなる可能性を引き出し、治療に結び付くことを期待したい。(ケアネット 細田 雅之)参考1)UMIN-CTR 臨床試験登録情報(UMIN000046079)

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HR+/HER2+進行乳がん1次治療、ペルツズマブ+トラスツズマブ+AIの長期解析結果(PERTAIN)

 ホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陽性(HER2+)の転移を有する/局所進行閉経後乳がん患者における1次治療として、トラスツズマブとアロマターゼ阻害薬(AI)に化学療法を併用/併用せずペルツズマブを追加することにより、無増悪生存期間(PFS)が大幅に改善されたことが第II相PERTAIN試験の主要解析(追跡期間中央値31ヵ月)で示されている。今回、同試験の最終解析結果(追跡期間中央値6年超)を、イタリア・フェデリコ2世ナポリ大学のGrazia Arpino氏らがClinical Cancer Research誌オンライン版2023年1月30日号に報告した。 PERTAIN試験では、258例が下記2群に1対1の割合で無作為に割り付けられた(導入化学療法は治験責任医師の判断で実施)。ペルツズマブ群:ペルツズマブ840mg(維持期:420mg)+トラスツズマブ8mg/kg(維持期:6mg/kg)3週間間隔で投与+AI(アナストロゾール1mgまたはレトロゾール2.5mg/日)対照群:トラスツズマブ+AI 主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、主な副次評価項目は全生存期間(OS)、安全性。 今回報告された主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値はペルツズマブ群73.2ヵ月vs.対照群71.1ヵ月。・PFS中央値は、20.6ヵ月vs.15.8ヵ月(層別ハザード比[HR]:0.67、p=0.006)。・OS中央値は、60.2ヵ月vs.57.2ヵ月(層別HR:1.05、p=0.78)。・導入化学療法を行わなかった患者において、ペルツズマブによる治療効果が高い傾向がみられた(PFS中央値:26.6ヵ月vs.12.5カ月)。・全Gradeの有害事象は各群122例で発生し(96.1% vs.98.4%)、Grade3以上の有害事象は72例(56.7%)vs.51例(41.1%)、重篤な有害事象は46例(36.2%)vs.28例(22.6%)で発生した。 著者らは、最終解析においてもペルツズマブ併用によるPFSベネフィットは維持され、OSは両群間で同等であったとし、化学療法の適応がない患者においてペルツズマブ併用により活性が高まる可能性があると結論付けている。安全性に関する新たな懸念は報告されていない。

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タモキシフェンが乳がん診断後の体重増加に関連していた

 乳がん診断後には体重が増加することが多い。体重増加の予測因子を同定するため、オーストラリア・Western Sydney UniversityのCarolyn Ee氏らは、オーストラリア人女性における乳がん診断後の体重増加に関連する因子を調査した。その結果、タモキシフェン投与、身体活動の減少、テレビ視聴時やコンピューター使用時の食事の自己効力感の低下が、臨床的に有意な体重増加に関連することがわかった。Breast誌オンライン版2023年1月25日号に掲載。タモキシフェン投与患者には体重増加抑制のための介入が必要 本研究では、2017年11月~2018年1月にオーストラリア在住の乳がんまたは非浸潤性乳管がん(DCIS)と診断された女性を対象に横断的オンライン調査した。絶対的な体重増加および臨床的に有意な(5%以上)体重増加の予測因子を、それぞれステップワイズ線形回帰モデルおよびロジスティック回帰モデルを用いて評価した。 乳がん診断後の体重増加に関連する因子を調査した主な結果は以下のとおり。・276例のデータを分析した。ほとんどが白人で、92%がStage0~IIIだった。・絶対的体重増加は、ホットフラッシュ、診断時に更年期への移行期であること、診断時よりも身体活動が少ないこと、テレビ視聴時やコンピューター使用時の食事の自己効力感(self-efficacy)が低いこと、不安や緊張時の自己効力感が高いことと関連していた(F比=3.26、調整R2=0.16、p<0.001)。・臨床的に有意な体重増加は、タモキシフェン投与(オッズ比[OR]:2.7)、診断時よりも身体活動が少ないこと(OR:3.1)、テレビ視聴時やコンピューター使用時の食事の自己効力感が低いこと(OR:0.82)と関連していた(χ2=64.94、自由度:16、p<0.001)。・体重増加は、化学療法、放射線療法、アロマターゼ阻害薬の使用、切除リンパ節数、診断時のBMIとは関連していなかった。 これらの結果から、著者らは「タモキシフェン投与患者には、乳がん診断後の体重増加抑制のための介入、とくに身体活動の維持を目的とした介入が必要である。乳がん診断後の体重管理における食事の自己効力感、とくに食物に注意を向けた食べ方(attentive eating)の役割について調べる必要がある」と考察している。

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胆道がん、S-1による術後化学療法でOS延長/Lancet

 胆道がんの術後補助療法において、経口フッ化ピリミジン系薬剤S-1(テガフール・ギメラシル・オテラシル カリウム)は、経過観察と比較して、全生存期間(OS)を延長し忍容性も良好であることが、栃木県立がんセンターの仲地 耕平氏ら日本臨床腫瘍研究グループの肝胆膵腫瘍グループ(JCOG-HBPOG)が実施した「ASCOT試験(JCOG1202試験)」で示された。研究の成果は、Lancet誌2023年1月21日号で報告された。日本の38施設の非盲検無作為化第III相試験 ASCOT試験は、日本の38施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2013年9月~2018年6月の期間に患者の登録が行われた(国立がん研究センターと厚生労働省の助成を受けた)。 対象は、年齢20~80歳、切除標本で組織学的に肝外胆管がん、胆嚢がん、乳頭部がん、あるいは肝内胆管がんと確定され、局所残存腫瘍切除または顕微鏡的残存腫瘍切除が行われていない患者であった。 被験者は、術後に経過観察を行う群またはS-1を投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。S-1は、体表面積により40、50または60mgを、1日2回、4週間経口投与後に2週休薬する6週を1サイクルとし、最大4サイクルが投与された。 主要評価項目はOSとされ、無作為割り付けされた全患者を対象とするintention-to-treat解析が行われた。アジア人の標準治療となる可能性 440例が登録され、経過観察群に222例(年齢中央値70歳[四分位範囲[IQR]:40~80]、女性32%)、S-1群に218例(68歳[33~80]、26%)が割り付けられた。データカットオフ日は2021年6月23日で、追跡期間中央値は45.4ヵ月だった。試験期間中に経過観察群の100例(45%)と、S-1群の79例(36%)が死亡した。 OSは、経過観察群よりもS-1群のほうが長かった(死亡のハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.51~0.94、層別log-rank検定の片側p=0.0080)。3年OS率は、経過観察群が67.6%(95%CI:61.0~73.3)、S-1群は77.1%(70.9~82.1)であった。また、OS中央値は、経過観察群が6.1年(95%CI:4.2~評価不能[NE])、S-1は評価不能(5.2~NE)だった。 経過観察群の115例(52%)、S-1群の96例(44%)で再発がみられた(再発または死亡のHR:0.80、95%CI:0.61~1.04、log-rank検定の両側p=0.088)。3年無再発生存率は、経過観察群が50.9%(95%CI:44.1~57.2)、S-1群は62.4%(55.6~68.4)であり、無再発生存期間中央値はそれぞれ3.5年(95%CI:2.0~NE)、5.3年(4.1~6.1)だった。 S-1群(207例)で頻度の高い(≧30%)全Gradeの有害事象として、白血球数減少、好中球数減少、貧血、血小板数減少、低アルブミン血症、アルカリホスファターゼ上昇、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ上昇、アラニン・アミノトランスフェラーゼ上昇などが認められた。また、S-1群で頻度の高いGrade3/4の有害事象は、好中球数減少(29例[14%])と胆道感染症(15例[7%])であった。 著者は、「確定的な結論を得るには、長期間の臨床的有用性が求められるが、S-1はアジア人の胆道がん切除例における標準治療と考えられる」としている。

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サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2022)レポート

レポーター紹介2022年12月6日から10日まで5日間にわたり、SABCS 2022がハイブリッド形式で実施された。海外の学会はかなりコロナ以前に戻っている感じで、日本からも多数の医療従事者が参加したようである。私は今回もオンライン参加であったが、日常臨床にインパクトを与える、あるいは今後の治療開発において重要な試験がいくつも発表された。多くの演題の中から、とくに臨床に影響を与えそうな演題ならびに日本からの参加のある演題を中心に5演題を紹介する。DESTINY-Breast03試験DB-03試験の結果はすでにみなさまご存じのとおりであるが、今回は全生存期間(OS)のアップデートが発表され、同時にLancetに論文が掲載された。DB-03試験は、HER2陽性乳がん2次治療におけるトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)とトラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)を直接比較した第III相試験である。524例のHER2陽性転移乳がん患者がリクルートされ、T-DXd群とT-DM1群に1:1に割り付けられた。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)であり、中央値は28.8 vs.6.8ヵ月 (ハザード比[HR]:0.33、95%信頼区間[CI]:0.26~0.43)とT-DXd群で圧倒的に良好であった。副次評価項目のOSはいずれの群も未到達であったが、HR:0.64(95%CI:0.47~0.87、p=0.0037)であり、統計学的有意にT-DXd群で良好であった(前回の解析時点では有意差が示されなかった)。サブグループ解析でもすべてのサブグループでT-DXd群で良好な傾向を示し、T-DXdがHER2陽性乳がん2次治療の標準治療として確立した。本試験はアジアを中心に患者のリクルートが行われた(約60%)。T-DM1、T-DXdが承認されていない国も参加しているため、T-DXd後のT-DM1は35%、T-DM1後のT-DXdは17%しか投与されておらず、クロスオーバー率は高くない。毒性においては一般にT-DXdで頻度が高く、とくに薬剤性肺障害(ILD)はその後の治療に影響することが懸念される。本発表でILDの発生はT-DXdで15%、T-DM1で3%であり、Grade4/5のILD発症は認めなかった。しかしながら、ILDの頻度は日本から治験に参加した人では2倍の頻度であることが報告されていることから、とくに私達が日常臨床で使用する場合はILDを早期発見し、ILDによって後治療に影響が出ないように、細心の注意が必要である。CAPItello-291試験capivasertibはAKT阻害薬である。CAPItello-291試験はホルモン受容体陽性HER2陰性転移乳がん(術後ホルモン療法終了後12ヵ月以内/術後ホルモン療法中再発を含む)の2次あるいは3次治療として、フルベストラント単剤に対するcapivasertibの上乗せ効果を見た第III相試験である。708例の患者がリクルートされ、capivasertib群とプラセボ群に1:1に割り付けられた。主要評価項目として、全体集団におけるPFS、AKT経路(PIK3CA、AKT1、PTENのいずれか1つ以上)に変化のある集団におけるPFSとされた。内分泌耐性として1次抵抗性が40%前後、2次抵抗性が60%であった。閉経後の患者が70~80%を占めた。転移乳がんに対する内分泌療法を受けた患者が85~90%、CDK4/6阻害薬は70%の患者で治療歴があった。AKT経路の変化はPIK3CAが30%、AKT1が5%、PTENは6%であった。全体として40%の患者が何らかのAKT経路変化を有していた。全体集団のPFSは7.2 vs.3.6ヵ月(HR:0.60、95%CI:0.51~0.71、p<0.001)とcapivasertib群で有意に良好であり、AKT経路変異を有する群では7.3 vs.3.1ヵ月(同:0.50、95%CI:0.38~0.65、p<0.001)とより差が顕著になる傾向にあった。探索的項目であるAKT経路に変化のない集団におけるPFSは7.2 vs.3.7ヵ月(同:0.70、95%CI:0.56~0.88)であり、ややハザード比は大きくなるもののAKT経路変化の有無にかかわらずcapivasertibの上乗せ効果があることが示された。サブグループ解析ではすべてのサブグループでcapivasertibの効果が期待され、肝転移有無やCDK4/6阻害薬治療歴有無にかかわらなかった。OSについては全体集団、AKT経路変化集団のいずれもcapivasertib群で良好な傾向を認めたが、統計学的有意差はなかった。有害事象としては下痢が72.4%と高頻度であり、Grade3も9.3%に認めた。下痢や皮疹のコントロールが重要である。capivasertibは現在トリプルネガティブ乳がんを対象に化学療法への上乗せが検証されており(CAPItello-290試験)、その結果が期待される。SERENA-2試験経口選択的エストロゲン受容体分解薬(oral SERD)は各社がしのぎを削っている開発領域である。最近ではamcenestrantが転移乳がんに対する試験でネガティブとなったことからすべての開発が中止となったことが記憶に新しい。camizestrantはoral SERDの1つであり、注射剤のフルベストラントに対する優越性が期待できるかを検討した第II相試験がSERENA-2試験である。SERENA-2試験では閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんでフルベストラント単剤療法が治療選択肢となる患者240例が、camizestrant 75mg、camizestrant 150mg、フルベストラント群に1:1:1に割り付けられた(当初camizestrant 300mg群が存在したが、20例がリクルートされた段階で中止となっている)。主要評価項目はPFSであった。患者背景は年齢中央値が60歳、白人が90%以上、肝転移が60%、ESR1変異のある患者が30~50% であった。転移乳がんに対する化学療法歴は10~25%であり、50%がCDK4/6阻害薬による治療を受けていた。主要評価項目のPFSは、camizestrant 75mg群で7.2ヵ月(フルベストラントに対するHR:0.58、95%CI :0.41~0.81、p=0.0124)、camizestrant 150mg群で7.7ヵ月(同:0.67、95%CI:0.48~0.91、p=0.01619)、フルベストラント群で3.7ヵ月と、camizestrant群で用量にかかわらず統計学的有意に良好であった。CDK4/6阻害薬治療歴がある集団においても同様の傾向であった。臓器転移別の探索的解析では、肺転移または肝転移を有する群ではcamizestrantが用量にかかわらず良好であったが、肺/肝転移のない群ではフルベストラントとの差を認めなかった。ESR1変異の有無でみた探索的解析ではベースラインESR1変異のある群でcamizestrantが容量にかかわらず良好であり、ない群ではフルベストラントとの差を認めなかった。有害事象はcamizestrant 150mgで最も多く、Grade3以上を21.9%で認めた。camizestrant 75mg、フルベストラントではそれぞれ12.2%、13.7%と大きな差は認めなかった。camizestrantに特徴的な有害事象として視力障害や徐脈に注意が必要であるが、これらはいずれもGrade3は認めていない。camizestrantは1次治療としてパルボシクリブ併用下でアロマターゼ阻害薬(AI)に対する優越性を評価するSERENA-4試験、AI+CDK4/6阻害薬治療中にESR1変異をモニタリングし、ESR1変異が検出された患者を対象にAI継続かcamizestrantにスイッチするかを評価するSERENA-6試験が行われており、SERENA-2試験の結果はこれらの第III相試験の期待が高まるものであった。POSITIVE試験ここからは少しユニークな試験を2つ紹介したい。1つ目が、ホルモン受容体陽性乳がん術後ホルモン療法中に、ホルモン療法を休薬して妊娠、出産を試みることが安全であるかどうかについて、無乳がん生存期間(BCFI)を主要評価項目として検討したPOSITIVE試験である。本試験では18~30ヵ月の術後ホルモン療法を受けた42歳以下の患者を対象として、3ヵ月のウォッシュアウト期間後に最大2年間ホルモン療法を休薬して妊娠、出産、授乳を試みた後、ホルモン療法を再開するという試験である。日本では国立国際医療研究センター病院の清水 千佳子先生を国内研究責任者としてJBCRGで試験が実施された。518例の患者が登録され、516例が解析に進んだ。年齢分布は35歳未満が34%、35~39歳が43%と最多、40~42歳が23%であった。出産歴のない患者が75%であり、病期はI期が47%、II期が47%であった。ホルモン療法としては選択的エストロゲン受容体調整薬(SERM)単剤が42%、SERM+卵巣機能抑制(OFS)が36%、AI+OFSが16%であった。62%の患者が周術期化学療法歴を有した。36ヵ月時点のBCFIイベントは8.9%であり、遠隔転移イベントは4.5%であった。これらのイベントをSOFT/TEXT試験のものと比較したところいずれも差を認めず、妊娠のためにホルモン療法を休薬することの安全性が示された。サブグループ解析でも、点推定値ではリンパ節転移の個数が多い、腫瘍径の大きい症例ではややリスクの高い傾向を認めたが、統計学的に有意に明確にリスクが高いと言える集団は指摘できなかった。妊娠歴の有無でもBCFIに有意差を認めなかった。全患者のうち74%が少なくとも1回以上妊娠し、全体の64%、1回以上妊娠したうちの86%が出産した。8%が低出生体重児で、2%に先天異常を認めた。これらは乳がん治療の影響との明らかな因果関係はないと考えられた。POSITIVE試験は妊娠出産年齢の罹患が多い乳がん患者にとって、非常に重要な試験である。長期フォローアップの結果を今後も注視していく必要はあるが、ホルモン療法を休薬して妊娠出産を試みることの安全性が示されたことは、妊娠を望む乳がん患者にとって重要な選択肢が増えたことになる。RESQ試験最後にCSPORで行われたRESQ試験を紹介する。RESQ試験はHER2陰性乳がんの1次/2次化学療法として、S-1に対するエリブリンの非劣性について健康関連QOL(HRQOL)を主要評価項目として評価した第III相試験である。302例がエリブリン群とS-1群に1:1に割り付けられた。HRQOLはEORTC QLQ-C30の全般的健康(GHS)を用いて評価された。ベースラインと比較して10ポイント以上のGHS変化をイベントとし、治療開始1年以内に最初にイベントが起きた割合の非劣性についてカプランマイヤー法を用いて評価した。ハザード比における非劣性マージンは10%と設定された。患者背景は、年齢中央値が60歳、ホルモン受容体陽性が80%、肝転移を47%に認めた。DFIは2年以上が50%、手術を受けていない患者が24~27%であった。GHSイベントフリー生存期間中央値はエリブリン群で5.64ヵ月、S-1群で5.28ヵ月(HR:1.07、95%CI:0.79~1.45、p=0.667)と95%信頼区間は非劣性マージンを超えており、非劣性は示されなかった。副次評価項目ではPFSでは両群間には有意差を認めず、OSでは有意差を認めた。これまでの乳がんや肉腫のエリブリンの試験と同様であり、PFSでは有意差を認めなくともOSでは有意差を認めるというエリブリンの特徴が再現された。本試験はQOLをエンドポイントとして行われた非常にユニークな試験である。日本からのエビデンスとしてポスターディスカッションに取り上げられた。残念ながら主要評価項目は達成されなかったが、薬剤の有効性としては過去の報告と同様の傾向が認められた。QOLをエンドポイントとした試験で良好な成績が得られた場合、有効性に乖離が見られた場合は解釈が困難になる場合が想定される(QOLはAという薬剤で良好であったが、有効性はBが有効であった場合など)。QOLをエンドポイントとした試験のデザインや解釈については今後も議論を深める必要があるだろう。

511.

FDA、ペムブロリズマブの非小細胞肺がん術後補助療法を承認

 米国食品医薬品局(FDA) は、2023年1月26日、ペムブロリズマブをStageIB(T2a≧4cm)〜IIIAの切除後非小細胞肺がん(NSCLC)に対する化学療法後の補助療法として承認した。 今回の承認は、多施設無作為化三重盲検プラセボ対照試験であるKEYNOTE-091に基づくもの。試験の主要評価項目は、治験担当医師の評価による無病生存率(DFS)であった。 試験の結果、ペムブロリズマブ群は全集団におけるDFSを統計学的有意に改善し、主要評価項目を達成している。 KEYNOTE-091では術後化学療法の投与は任意。無作為に割り付けた1,177例中1,010例(86%)が完全切除後にプラチナベースの補助化学療法を受けている。探索的解析では、補助化学療法を受けた患者のDFS中央値は、ペムブロリズマブ群58.7ヵ月、プラセボ群34.9ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.60〜0.89)。また、化学療法を受けなかった患者では、プラセボ群に対するペムブロリズマブ群のDFSのHRは1.25(95%CI:0.76~2.05)であった。

512.

futibatinib、既治療のFGFR2融合/再構成陽性肝内胆管がんに有望/NEJM

 既治療のFGFR2融合または再構成陽性の肝内胆管がん患者の治療において、次世代共有結合型FGFR1~4阻害薬であるfutibatinibは、測定可能な臨床的有用性をもたらし、奏効や生存が過去の化学療法のデータより優れ、QOLも良好であることが、米国・スタンフォード大学医学大学院のLipika Goyal氏らが実施した「FOENIX-CCA2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2023年1月19日号に掲載された。13ヵ国の多施設共同非盲検単群第II相試験 FOENIX-CCA2は、日本を含む13ヵ国47施設が参加した非盲検単群第II相試験であり、2018年4月~2019年11月の期間に患者登録が行われた(Taiho OncologyとTaiho Pharmaceuticalの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、切除不能または転移性のFGFR融合陽性またはFGFR再構成陽性の肝内胆管がんを有し、1ライン以上の全身療法(FGFR阻害薬を除く)を受けた後に病勢が進行し、全身状態が良好な患者(Eastern Cooperative Oncology Group[ECOG] performance-status[PS]スコア0~1)であった。 被験者は、21日を1サイクルとする継続投与レジメンで、futibatinib 20mg(4mg錠剤×5錠)を1日1回経口投与された。 主要評価項目は、独立の中央判定による客観的奏効(完全奏効、部分奏効)であった。奏効率42%、無増悪生存期間(PFS)9.0ヵ月、全生存期間(OS)21.7ヵ月 日本人14例を含む103例(年齢中央値58歳[範囲:22~79]、女性56%)が登録された。前治療として53%が2つ以上の全身療法を受けていた。追跡期間中央値は17.1ヵ月(範囲:10.1~29.6)、治療期間中央値は9.1ヵ月であった。画像上または臨床的な病勢進行で72例(70%)が投与中止となったが、有害事象による投与中止は5%と少なかった。 奏効は、43例(42%、95%信頼区間[CI]:32~52)で達成され、完全奏効が1例含まれた。病勢コントロールは85例(83%)で得られた。奏効期間中央値は9.7ヵ月(95%CI:7.6~17.0)で、奏効例43例のうち31例(72%)は6ヵ月以上、6例(14%)は12ヵ月以上奏効が持続した。奏効は、年齢65歳以上、前治療ライン数3以上、TP53変異が共存する患者を含むサブグループのすべてで認められた。 無増悪生存期間中央値は9.0ヵ月であり、6ヵ月無増悪生存率は66%、12ヵ月無増悪生存率は40%であった。また、全生存期間中央値は21.7ヵ月で、12ヵ月全生存率は72%だった。 最も頻度の高い全Gradeの治療関連有害事象は、高リン血症(85%)、脱毛(33%)、口腔乾燥(30%)、下痢(28%)、皮膚乾燥(27%)、倦怠感(25%)であった。また、最も頻度の高いGrade3の治療関連有害事象は、高リン血症(30%)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ上昇(7%)、口内炎(6%)、倦怠感(6%)だった。 futibatinibの恒久的な投与中止の原因となった治療関連有害事象は2例(2%)で認められた(Grade2の口内炎+Grade3の口腔異常感+Grade2の咽頭炎が1例、Grade3の食道炎が1例)。治療関連死はみられなかった。QOLについては、9ヵ月の治療期間を通じてEORTC QLQ-C30スコアが安定していた。 著者は、「これらのデータは、futibatinibが本症における測定可能な臨床的有用性を有することを確証し、FGFR2阻害に反応する可能性のある腫瘍の同定における分子プロファイリングの価値を示すものである」と指摘している。

513.

mobocertinib、EGFR exon20挿入NSCLCに中国で承認/武田

 武田薬品工業は、2023年1月13日、プラチナベース化学療法で進行したEGFR exon20挿入変異陽性(exon20 ins)の進行非小細胞肺がん(NSCLC)治療に対するmobocertinibの適応を、中国国家食品薬品監督管理局(NMPA)が承認したと発表。 mobocertinibは、exon20挿入変異を標的として設計された経口TKIで、NMPAのブレークスルーセラピーとして審査された。 この承認は、プラチナ化学療法既治療のEGFR exon20 ins NSCLCを対象にしたmobocertinibの第I/II相試験の結果に基づいたもの。同試験では、確定奏効率28%、奏効期間中央値15.8ヵ月、全生存期間中央値20.2ヵ月、無増悪生存期間中央値7.3ヵ月を示した。一般的な治療関連有害事象は、下痢(92%)、発疹(46%)、爪周囲炎(38%)、食欲減退(37%)であった。 肺がんは中国で最も多く診断されるがんである。また、exon20 insはEGFR変異NSCLCの10%とされている。

514.

TN乳がんへの術前CBDCA+PTXにアテゾリズマブ追加でpCR改善/第II相試験

 StageII/IIIのトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の術前療法として、アントラサイクリンを含まないカルボプラチン(CBDCA)+パクリタキセル(PTX)にアテゾリズマブの追加を評価する無作為化第II相試験において、病理学的完全奏効(pCR)率の有意な増加が示された。米国・ワシントン大学のFoluso O. Ademuyiwa氏らが、NPJ Breast Cancer誌2022年12月30日号に報告。 これまで、転移を有するPD-L1陽性TNBCを対象としたIMpassion130試験ではnab-PTXへのアテゾリズマブ追加による無増悪生存期間と全生存期間の改善、また早期TNBCを対象としたIMpassion031試験ではアテゾリズマブとアントラサイクリンおよびタキサンをベースとした術前化学療法によるpCR改善が報告されている。 本試験では、StageII/IIIのTNBC 67例(年齢中央値:52歳、範囲:25~78歳)をArm A(CBDCA+PTX)22例、Arm B(CBDCA+PTX+アテゾリズマブ)45例に無作為に割り付け、アテゾリズマブ追加でpCR率および腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の割合が増加するかどうかを、修正ITT集団(評価可能で1回以上併用療法を受けた全患者)で評価した。 主な結果は以下のとおり。・修正ITT集団において、pCR率はArm Aで18.8%(95%信頼区間[CI]:4.0~45.6)、Arm Bで55.6%(同:40.0~70.4)だった(群差の推定値:36.8%、95%CI:8.5~56.6、p=0.018)。・Grade3以上の治療関連有害事象は、Arm Aで62.5%、Arm Bで57.8%に発現した。・TILの割合は、ベースラインから第1サイクルまで、Arm A(平均±SD:0.6%±21.0%)およびArm B(同:5.7%±15.8%)ともわずかに増加した。・TILの割合の中央値は、pCR例(24.8%)で非pCR例(14.2%)より高かった(p=0.02)。 本試験において、術前化学療法のみよりアテゾリズマブ追加でpCR率が有意に高かった。著者らは「非アントラサイクリンベースの化学療法+免疫療法は、早期TNBC治療の代替オプションとなる可能性がある」としている。

515.

ペムブロリズマブ+化学療法の1次治療がHER2陰性胃/食道胃接合部腺がんの生存期間を改善(KEYNOTE-859)/MSD

 2022年11月22日、メルク社(米国とカナダ以外ではMSD)は、HER2陰性の局所進行切除不能または転移のある胃腺がんまたは食道胃接合部腺がん患者に対する1次治療としてペムブロリズマブと化学療法の併用療法を評価した第III相KEYNOTE-859試験で良好な結果が得られたことを報告した。 KEYNOTE-859試験は、上記集団の1次治療としてペムブロリズマブと化学療法の併用療法を化学療法と比較する無作為化二重盲検第III相試験である。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間、安全性などであった。 同試験の中間解析では、ペムブロリズマブと化学療法の併用療法は化学療法単独群と比較して、主要評価項目であるOSにおいて統計学的に有意な改善が認められた。副次評価項目であるPFSおよびORRについても、統計学的に有意かつ臨床的に意味のある改善が認められた。 この試験におけるペムブロリズマブの安全性プロファイルはこれまでに報告されている試験で認められているものと一貫しており、新たな安全性の懸念は特定されなかった。この結果については今後さまざまな腫瘍関連学会における演題発表および規制当局への申請を予定している。

516.

抗CTLA-4抗体トレメリムマブ+デュルバルマブ、非小細胞肺がん1次治療に承認/AZ

 アストラゼネカは、2022年12月23日、デュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)と、新たな抗CTLA-4抗体トレメリムマブ(同:イジュド)の併用療法が、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の適応症で承認されたと発表した。 今回の承認は、切除不能な進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)を対象に、1次治療として、デュルバルマブ+トレメリムマブ+化学療法、デュルバルマブ+化学療法化学療法を比較した第III相無作為化非盲検多施設共同国際試験POSEIDONの結果に基づくもの。 ESMO2022のPOSEIDON試験の発表では、長期追跡(36.5ヵ月)においても、トレメリムマブ+デュルバルマブ+化学療法の全生存期間(OS)延長のベネフィットが報告されている。

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デュルバルマブ+化学療法が胆道がんに、トレメリムマブ+デュルバルマブが肝がんに承認/AZ

 アストラゼネカは、2022年12月23日、デュルバルマブ(製品名:イミフィンジ)が「治癒切除不能な胆道癌」および「切除不能な肝細胞癌」を適応症として承認されたと発表。また、新たな抗CTLA-4抗体トレメリムマブ(同:イジュド)はデュルバルマブとの併用療法が、「切除不能な肝細胞癌」を適応症として承認されたと発表した。胆道がん(BTC)におけるデュルバルマブ 今回の承認は第III相TOPAZ-1試験の中間解析に基づいたもの。デュルバルマブと化学療法の併用療法が承認されたことにより、限られた治療法しかなかった治癒切除不能なBTCに免疫治療が可能となる。 TOPAZ-1試験は、切除不能な進行または転移のあるBTCを対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照国際多施設共同試験。BTCの1次療法として、デュルバルマブと化学療法の併用療法と、プラセボと化学療法の併用療法を比較している。肝細胞がん(HCC)におけるデュルバルマブとトレメリムマブ 今回の承認は第III相HIMALAYA試験の結果に基づくもの。デュルバルマブとトレメリムマブの併用療法が承認されたことにより、切除不能なHCCに対して2剤の免疫治療薬による治療が可能になる。 HIMALAYA試験は、未治療の切除不能進行HCCを対象とし、デュルバルマブ単剤療法群、デュルバルマブにトレメリムマブを初回単回追加投与し、その後デュルバルマブを投与する群と標準治療薬のソラフェニブを比較した第III相無作為化非盲検国際多施設共同試験である。

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褐色細胞腫・パラガングリオーマ〔PPGL:pheochro mocytoma/paraganglioma〕

1 疾患概要褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)は副腎髄質または傍神経節のクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生腫瘍で、前者を褐色細胞腫、後者をパラガングリオーマ、総称して「褐色細胞腫・パラガングリオーマ」と呼ぶ。カテコールアミン過剰分泌による症状と腫瘍性病変による症状がある。カテコラミン過剰により、動悸、頭痛などの症状、高血圧、糖代謝異常などの種々の代謝異常、心血管系合併症、さらには各種の緊急症(高血圧クリーゼ、たこつぼ型心筋症による心不全、腫瘍破裂によるショックなど)を呈することがある。すべてのPPGLは潜在的に悪性腫瘍の性格を有し、実際、約10〜15%は悪性・転移性を示す。それ故、早期の適切な診断と治療が極めて重要である。原則として日本内分泌学会「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018」1)(図)に基づき、診断と治療を行う。図 褐色細胞腫・パラガングリオーマの診療アルゴリズム画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ PPGLを疑う所見カテコラミン過剰による頭痛、動悸、発汗、顔面蒼白、体重減少、悪心・嘔吐、心筋梗塞類似の胸痛、不整脈などの多彩な症状を示す。肥満はまれである。高血圧を約85%に認め、持続型、発作型、混合型があるが、特に発作性高血圧が特徴的である。持続型では治療抵抗性高血圧の原因となる。発作型では各種刺激(運動、ストレス、過食、排便、飲酒、腹部触診、メトクロプラミド[商品名:プリンペラン]静注など)で高血圧発作が誘発される(高血圧クリーゼ)。さらに、急性心不全、肺水腫、ショックなどを合併することもある。発作型の非発作時には、まったくの「無症候性」であることも少なくない。また、高血圧をまったく呈さない無症候性や、逆に起立性低血圧を示すこともある。副腎や後腹膜の偶発腫瘍として発見される例も多い。■ スクリーニングの対象PPGLは二次性高血圧の中でも頻度が少なく、希少疾患に位置付けられるため、全高血圧でのスクリーニングは、費用対効果の観点から現実的ではない。PPGLガイドラインでは、特に疑いの強いPPGL高リスク群(表)での積極的なスクリーニングを推奨している。表 PPGL高リスク群1)PPGLの家族歴ないし既往歴(MEN、Von Hippel-Lindau病など)のある例2)特定の条件下の高血圧(発作性、治療抵抗性、糖尿病合併、高血圧クリーゼなど)3)多彩な臨床症状(動悸、発汗、頭痛、胸痛など)4)副腎偶発腫特に近年、副腎偶発腫瘍、無症候例の頻度が増加しているため、慎重な鑑別診断が必須である。スクリーニング方法カテコールアミン過剰の評価に際しては、運動、ストレス、体位、食品、薬剤などの測定値に影響する要因を考慮する必要がある。まず、外来でも実施可能な血中カテコールアミン(CA)分画(正常上限の3倍以上)、随時尿中メタネフリン分画(メタネフリン、ノルメタネフリン)(正常上限の3倍以上または500ng/mg・Cr以上)の増加を確認する。メタネフリン、ノルメタネフリンはカテコールアミンの代謝産物であり、随時尿でも安定であるため、スクリーニングや発作型の診断に有用である。近年、海外で第1選択である血中遊離メタネフリン分画も実施可能となったが、海外とは測定法が異なるため注意を要する。機能診断法上記のスクリーニングが陽性の場合、24時間尿中カテコールアミン分画(≧正常上限の2倍以上)、24時間尿中総メタネフリン分画(正常上限の3倍以上)の増加を確認する。従来実施された誘発試験は著明な高血圧を来すため推奨されない。アドレナリン優位の腫瘍は褐色細胞腫、ノルアドレナリン優位の腫瘍はパラガングリオーマが多い。画像診断臨床的にPPGLが疑われる場合は腫瘍の局在、広がり、転移の有無に関する画像診断(CT、MRI)を行う。約90%は副腎原発で局在診断が容易であり、副腎偶発腫瘍としての発見も多い。約10%はPGLで時に局在診断が困難なため、CT、 MRI、123I-MIBGシンチグラフィなどの複数のモダリティーを組み合わせる。(1)CT副腎腫瘍確認の第1選択。造影剤使用はクリーゼ誘発の可能性があるため、わが国では原則禁忌であり、実施時には患者への説明・同意とフェントラミンの準備が必須となる。(2)MRI副腎皮質腫瘍との鑑別診断、頭頸部病変、転移性病変の診断に有用である。(3)123I-MIBGシンチグラフィ疾患特異性が高いが偽陰性、偽陽性がある。PGLや転移巣の診断にも有用である。ヨウ化カリウムによる甲状腺ブロックを行う。(4)18F-FDG PET多発性病変や転移巣検索に有用である。病理学的診断(1)良・悪性を鑑別する病理組織マーカーは未確立である。組織所見とカテコールアミン分泌パターンを組み合わせたスコアリング(GAPP)が悪性度と予後判定に有用とされる。(2)コハク酸脱水素酵素サブユニットB(SDHB)の免疫染色の欠如はSDHx遺伝子変異の存在を示唆する。遺伝子解析(1)PPGLの30~40%が遺伝性で、19種類の原因遺伝子が報告されている2)。(2)若年発症(35歳未満)、PGL、多発性、両側性、悪性では生殖細胞系列の遺伝子変異が示唆される2)。(3)SDHB遺伝子変異は遠隔転移が多いため悪性度評価の指標となる。(4)全患者において遺伝子変異の頻度と臨床的意義、遺伝子解析の利益と不利益の説明を行うことが推奨されるが、必須ではなく、[1]遺伝カウンセリング、[2]患者の自由意思による判断、[3]質の担保された解析施設での実施が重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)過剰カテコールアミンを阻害する薬物治療と手術による腫瘍摘除が治療原則である。1)薬物治療α1遮断薬が第1選択で、効果不十分な場合、Ca拮抗薬を併用する。頻脈・頻脈性不整脈ではβ遮断薬を併用するが、α1遮断薬に先行しての単独投与は禁忌である。循環血漿量減少に対して、術前に高食塩食あるいは生理食塩水点滴を行う。α1遮断薬でのコントロール不十分な場合はカテコールアミン合成阻害薬メチロシン(商品名:デムサー)を使用する。2)外科的治療小さな褐色細胞腫では腹腔鏡下副腎摘除術、悪性度が高い例では開腹手術を施行する。潜在的に悪性であることを考慮して、腫瘍被膜の損傷に注意が必要である。家族性PPGLや対側副腎摘除後の症例では副腎部分切除術を検討する。悪性の可能性があるため、全例で少なくとも術後10年間、悪性度が高いと判断される高リスク群では生涯にわたる経過観察が推奨される。3)悪性PPGL131I-MIBG内照射、CVD化学療法、骨転移に対する外照射などの集学的治療を行う。治癒切除が困難でも、原発巣切除術による予後改善が期待される。■ 診断と治療のアルゴリズム上述の日本内分泌学会診療ガイドラインの診療アルゴリズム(図)を参照されたい。PPGL高リスク群で積極的にスクリーニングを行う。外来にて血中カテコラミン、随時尿中メタネフリン分画などを測定、疑いが強ければ、蓄尿でのCA分画と画像診断を行う。内分泌異常と画像所見が合理的に一致していれば、典型例での診断は容易である。無症候性、カテコールアミン産生能が低い例、腫瘍の局在を確認できない場合の診断は困難で、内分泌検査の反復、異なるモダリティーの画像診断の組み合わせが必要である。単発性病変であれば、α1ブロッカーによる適切な事前治療後、腫瘍摘出術を行う。術後、長期にわたり定期的に経過観察を要する。悪性・転移性の場合は、ガイドラインに準拠して集学的な治療を行う。診断と治療は専門医療施設での実施が推奨される。4 今後の展望今後解決すべき課題は以下の通りである。PPGL疾患概念の変遷:分類、神経内分泌腫瘍との関連診療アルゴリズムの改変診断基準の精緻化機能検査:遊離メタネフリン分画の位置付け画像検査:オクトレオチドスキャンの位置付け、68Ga-DOTATEシンチの応用遺伝子検査の臨床的適応頸部パラガングリオーマの診断と治療内科的治療:デムサの適応と治療効果核医学治療:123I-MIBG、ルテチウムオキソドトレオチド(商品名:ルタテラ)の適応と実態5 主たる診療科初回受診診療科は一般的に代謝・内分泌科、循環器内科、泌尿器科、腎臓内科など多岐にわたるが、以下の場合には専門医療施設への紹介が望ましい。(1)PPGLの家族歴・既往歴のある患者(2)高血圧クリーゼ、治療抵抗性高血圧、発作性高血圧などの患者(3)副腎偶発腫瘍で基礎疾患が不明な場合(4)PPGLの局所再発や遠隔転移のある悪性PPGL(5)遺伝子解析の実施を考慮する場合6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難治性副腎疾患プロジェクト(医療従事者向けのまとまった情報)1)成瀬光栄、他. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班 平成22年度報告書.2010.2)Lenders JW、 et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:1915-1942.3)日本内分泌学会「悪性褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」委員会(編).褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018.診断と治療社;2018.公開履歴初回2023年1月5日

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HR+/HER2+転移乳がん1次治療、ET有無の転帰への影響

 ホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陽性(ERBB2+)転移乳がん(MBC)患者における内分泌療法(ET)の位置付けは明確になっていない。フランス・Institut CurieのMarcela Carausu氏らは、HER2陽性患者におけるホルモン受容体の状態やETの1次治療での投与有無と転帰の関連を評価することを目的としてコホート研究を実施。JAMA Network Open誌2022年12月15日号に報告した。 本研究は、フランスの臨床疫学・医療経済(ESME)コホートの臨床データを解析したもので、2008~17年に治療を開始したMBC患者が含まれた。最終フォローアップ日は2020年6月18日。ETによる維持療法と転帰との関連を評価するために、対象患者にはHER2標的療法の第1選択薬に加え、化学療法(CT)±ETあるいはET単独療法が行われた。 Kaplan-Meier法による全生存期間(OS)と初回治療の無増悪生存期間(PFS)が主な評価項目とされ、予後因子を報告・調整するために、Cox比例ハザードモデルおよび傾向スコアが構築された。多変量解析では、転移・再発の年齢、転移・再発までの期間、転移部位数、転移の種類、PSが考慮された。 主な結果は以下のとおり。・HER2陽性のMBC女性患者4,145例のうち、2,696例がHR+(年齢中央値:58.0歳)、1,449例がHR-(56.0歳)の腫瘍を有していた。・HR+ vs.HR-患者のOS中央値は、55.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:53.7~59.4)vs.42.0ヵ月(95%CI:38.8~45.2)、ハザード比(HR):1.40(95%CI:1.26~1.56、p<0.001)だった。・HR+ vs.HR-患者のPFS中央値は、12.2ヵ月(95%CI:11.5~12.9)vs.9.8ヵ月(95%CI:9.2~11.0)、HR:1.15(95%CI:1.06~1.26、p<0.001)だった。・多変量解析の結果、HER2標的療法の種類(トラスツズマブまたはトラスツズマブ+ペルツズマブ)にかかわらず、HER2標的療法+CT(±ET)を受けた患者1,520例とHER2標的療法+ETを受けた患者203例のOSまたはPFSに有意差は認められなかった。・傾向スコアマッチングの結果、HER2標的療法+CTを受けた患者をET療法の有無により時間依存のCoxモデルで比較すると、ETを受けた患者は同時期にまだETを受けていない患者よりも有意にPFSが良好だった(調整HR:0.70、95%CI:0.60~0.82、p<0.001)。なお、ETをCT開始の3ヵ月前または24ヵ月後に開始した場合には、関連は認められなかった。・さらに、CT開始後6ヵ月以上経過してからETを開始した場合にのみ、ETを受けた患者はETを受けなかった患者よりもOSが有意に良好だった(調整HR:0.47、95%CI:0.39~0.57、p<0.001). 著者らは、本研究が後ろ向きのコホート研究であることに触れたうえで、ETを含む1次治療レジメンが、HR+/HER2+MBC患者において有益である可能性が示唆されたとまとめている。

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CDK4/6阻害薬+ETで増悪したHR+/HER2-転移乳がん、パルボシクリブ継続投与は有効か(PACE)/SABCS2022

 CDK4/6阻害薬+内分泌療法(ET)による治療で増悪した、ホルモン受容体陽性/HER2陰性(HR+/HER2-)転移乳がん(MBC)患者において、CDK4/6阻害薬を継続投与すべきかは明らかでない。増悪後、フルベストラントへの変更を伴うパルボシクリブの継続が、フルベストラント単独への変更よりも転帰を改善するかどうかを前向きに評価し、パルボシクリブ・フルベストラント・アベルマブの3剤投与の活性を探る第II相PACE試験の結果を、米国・ダナ・ファーバーがん研究所のErica L. Mayer氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2022)で発表した。・対象:CDK4/6阻害薬+ETで増悪したHR+/HER2-MBC患者(MBCに対するETが≦2ライン/化学療法が0~1ライン、フルベストラント治療歴なし)・試験群フルベストラント+パルボシクリブ群(F+P群):フルベストラント 500mg+パルボシクリブ 125mg 111例フルベストラント+パルボシクリブ+アベルマブ群(F+P+A群):フルベストラント 500mg+パルボシクリブ 125mg+アベルマブ 10mg/kg 54例・対照群(F群):フルベストラント 500mg 55例・評価項目:[主要評価項目]F+P群とF群のRECIST評価による無増悪生存期間(PFS)の比較[副次評価項目]F+P+A群とF群のPFSの比較、奏効に関するエンドポイント、安全性、ESR1/PIK3CA/Rbなどのあらかじめ定義された分子的サブグループにおける転帰※ctDNA解析のための血液は、ベースライン時、腫瘍評価時(8週ごと)、進行時に採取された。 主な結果は以下のとおり。・2017年9月~2022年2月に米国の13施設から220例が組み入れられ、F群:F+P群:F+P+A群に1:2:1の割合で無作為に割り付けられた。2022年7月のデータロック時点での追跡期間中央値は23.6ヵ月。・ベースライン特性は3群でバランスがとれており、全体の年齢中央値は57(25~83)歳、閉経後が81%、de novo症例が40%、内臓転移例が60%だった。前治療で使用されたCDK4/6阻害薬はパルボシクリブが91%を占め、前治療(CDK4/6+ET)からの期間は>12ヵ月が76%だった。16%がMBCに対する化学療法歴を有していた。・PFS中央値は、F群4.8ヵ月に対しF+P群4.6ヵ月(ハザード比[HR]:1.11、90%信頼区間[CI]:0.74~1.66、p=0.62)で改善はみられなかった。・F群と比較したF+P+A群のPFS中央値は、8.1ヵ月でHR:0.75、90%CI:0.47~1.20、p=0.23だった。・PFSのサブグループ解析の結果、最初のCDK4/6阻害薬による治療から本試験の治療までの間に化学療法などの他治療を受けていた患者および内分泌療法抵抗性の患者でパルボシクリブ継続のベネフィットがある傾向がみられた。・ベースライン時の分子的サブグループ別にPFSをみると、ESR1およびPIK3CA変異を有する患者でパルボシクリブ継続のベネフィットがある傾向がみられた。・奏効率(ORR)はF群10.8% vs.F+P群13.7% vs.F+P+A群17.9%、臨床的ベネフィット率(CBR)は29.1% vs.32.4% vs.35.2%だった。・Grade3以上の有害事象について、F+P群でみられたのは好中球減少症(32.7%)、貧血(4.5%)、疲労(1.8%)など。F+P+A群でみられたのは好中球減少症(49.1%)、疲労(5.7%)などだった。・免疫関連有害事象の発生率は低く、予期せぬ有害事象は報告されていない。 ctDNAおよび血中循環腫瘍細胞(CTC)の連続サンプルの評価が継続中で、変異や耐性と治療効果の関連、および免疫療法に感受性のあるマーカーが探索される予定となっている。

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