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第2回 擦り傷の治療(洗浄、異物除去、被覆材の選択)《解説》創傷には、急性創傷(外傷など)と慢性創傷(褥瘡など)がありますが、今回は急性創傷の中から、擦過傷(さっかしょう)をテーマに取り上げました。主な外傷は、ほかに切創(せっそう)、裂挫創(れつざそう)、刺創(しそう)、咬傷(こうしょう)などがあります。擦過傷とは、いわゆる擦り傷のことで、道路や塀などに擦り付けられ、皮膚が擦りむけた状態の創傷です。損傷自体は浅く、真皮層などに留まることが多いです(皮下組織まで達している場合は、擦過創になります)。通常、軽度の場合は自然治癒しますが、傷に土や砂などが入り込んだまま上皮化すると、外傷性刺青といって皮膚に異物の色が残ってしまうことがあるため、初期治療で異物を取り除くことが非常に大事です。それでは、実際の処置の流れを説明していきます。(1)洗浄擦過傷に限らず、外傷の処置はまず汚染を取り除くこと、つまり洗浄が第一です。創部の直接消毒は創傷治癒を邪魔してしまうので、現在ではほとんどの場合推奨されません。洗浄水は、基本的に水道水でよい1)ですが、深部組織の場合は生理食塩水のほうがよいです。汚染が強い場合には、せっけんも使用可。十分な水で洗浄し、創部に付着している細菌を減らすことが大事です。洗浄はスタッフにも手伝ってもらいましょう。剃毛は、はさみなどで処置の妨げになる部分を取り除く程度の最低限で構いません。疼痛が強い場合は、創部の麻酔を考慮します。《局所麻酔の方法》表面麻酔 患部に麻酔クリームを塗ってラップをのせ、10~30分置く。例)リドカイン・プロピトカイン配合クリーム(商品名:エムラクリーム)、リドカイン塩酸塩ゼリー(同:キシロカインゼリー)など局所浸潤麻酔患部付近の皮内に穿刺して丘疹を作り、そこから広げて麻酔薬を浸潤させる。27~30Gのできるだけ細い針を使用。注入後、3~5分待つ。例)1%エピネフリン含有リドカインなど(2)異物除去次に、異物を徹底的に取り除きます。病院ではガーゼ、滅菌した歯ブラシなどを使用します。取れないものは異物セッシなどを使用することもあります。ここで少しでも異物が残ってしまうと、外傷性刺青の要因となります。周辺組織が壊死している場合は、壊死組織を除去しますが、判断が難しい場合は形成外科にそのまま引き渡していいと思います(原則翌日の対応をお願いします!)。(3)創傷被覆洗浄・異物除去が終わったら、創傷が治る環境にしましょう!一概にどの方法がよいとは言えない部分もありますが、基本として、湿潤環境を整えて創傷治癒を促すことが大切です。湿潤環境とは:創面を乾燥させず、浸出液が適度に保たれた状態。浸出液には創傷治癒に必要な因子が含まれるため、それを保持することで上皮化が早くなります。昔の創傷処置は、感染を恐れて創部を乾燥させていました。以下に、漫画で紹介した被覆材のメリット・デメリットを示します。湿潤環境の形成を目的とした製品もあります。アルギン酸塩+フィルム◎浸出液・血液などの吸収力が高く、止血促進効果がある。△剥がす時に張り付いて取れにくい(貼付時に創面が乾いていたら生理食塩水で湿らせる)。白色ワセリン+ガーゼ◎どこの病院でも取り扱っており、安価。△乾燥し過ぎる傾向にあり、剥がす時に痛みが出ることも。ハイドロコロイド(材)など◎防水性が高く、湿潤環境を保持でき、痛みも少ないため小児に使いやすい。△感染徴候がある場合や浸出液が多い創には向かない。高価で交換時期の判断が難しい。(◎:メリット/△:デメリット)いずれにせよ、専門外で対応する場合は、後日専門医に創部をチェックしてもらう前提で選びましょう。できるだけ近日中(翌日か数日以内)に、形成外科を受診してもらうようにしてください!自宅処置については、交換時にしっかり流水で洗浄してもらうことを指導します。なお、交換時期については自己判断が難しい場合もあり、形成外科では基本的に通院してもらっています。傷が治ってきたら、傷跡をできるだけきれいに治すために、上皮化後の遮光、保湿など、上皮化後に行う後療法の指導も行います。参考1)Fernandez R, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Feb 15.2)波利井清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.3)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.