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GLP-1受容体作動薬が消化管の内視鏡検査に影響か

 上部消化管内視鏡検査(以下、胃カメラ)や大腸内視鏡検査では、患者の胃の中に食べ物が残っていたり腸の中に便が残っていたりすると、医師が首尾よく検査を進められなくなる可能性がある。新たな研究で、患者がオゼンピックやウゴービといった人気の新規肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)を使用している場合、このような事態に陥る可能性の高くなることが明らかになった。米シダーズ・サイナイ病院の内分泌学者で消化器研究者のRuchi Mathur氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月1日掲載された。 GLP-1受容体作動薬には胃残留物の排出を遅延させる作用があり、便秘を引き起こすこともある。このため、この薬の使用者では、全身麻酔を必要とする処置を受ける際に食べ物を「誤嚥」するリスクが増加する可能性のあることが指摘されている。Mathur氏らは、GLP-1受容体作動薬使用者では消化管に残留物が見られることがあり、それが内視鏡検査で鮮明な画像を得る上で障害になる可能性があると考えた。 そこでMathur氏らは、2023年1月1日から6月28日の間に胃カメラか大腸内視鏡検査、またはその両方を受けた過体重または肥満の患者209人のデータを後ろ向きに解析した。209人中70人がGLP-1受容体作動薬使用者(GLP-1群、平均年齢62.7歳、女性36人)、残りの139人は非使用者(対照群、平均年齢62.7歳、女性36人)であった。胃カメラのみを受けたのはGLP-1群23人、対照群46人、大腸内視鏡検査のみを受けたのはGLP-1群23人、対照群45人、両方の検査を受けたのはGLP-1群24人、対照群48人だった。 胃カメラのみを受けた対象者のうち胃残留物が認められた者の割合は、GLP-1群で17.4%(4人)であった。これに対し、対照群と、胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者で、胃残留物が認められた対象者はいなかった。 また、大腸内視鏡検査または胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者のうち、「腸管の準備が不十分」(便が残存しているなど腸管洗浄が不十分な状態)であった者の割合は、GLP-1群で21.3%(10/47人)に上ったのに対し、対照群では6.5%(6/93人)であった。 ただし、研究グループは良い知らせとして、GLP-1受容体作動薬使用の有無に関係なく、対象患者において誤嚥、呼吸困難、誤嚥性肺炎は発生しなかったことを挙げている。 それでも研究グループは、「胃や腸に食物や便が残留するリスクの上昇は憂慮すべきことだ」と注意を促す。なぜなら、そのような状態での内視鏡検査は、「病変の見逃しや患者の不満、処置のキャンセル、医療資源の浪費といった重大なリスク」をもたらすからだという。 研究グループは、「本研究結果は、内視鏡検査前のGLP-1受容体作動薬の使用に関するガイドラインの更新が必要かどうかを判断するために、さらなる研究が必要であることを示唆するものだ」との見方を示している。

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患者負担を軽減する世界初の肺胞蛋白症治療薬/ノーベルファーマ

 ノーベルファーマは、世界初の肺胞蛋白症治療薬サルグラモスチム(商品名:サルグマリン吸入用250μg)について本社でプレスセミナーを開催した。 肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)は、酸素と二酸化炭素をガス交換する肺胞に蛋白様物質が貯留する希少疾患の総称。酸素と二酸化炭素の交換ができなくなり、うまく酸素が体に取り込めなくなるため、呼吸困難、咳や痰、発熱、体重減少などの症状がある。PAPのうち、免疫細胞の過剰産出に起因する自己免疫性PAPが90%を占め、国内に約730~770例の患者が推定されている。 従来の治療法では、全身麻酔下で老廃物を洗い出す区域肺洗浄か全肺洗浄のみであり、患者の身体的負担、治療時間、限定された専門施設など治療上の課題があった。 サルグラモスチムは、肺胞マクロファージに直接作用し、成熟を促すことで、老廃物の分解を促進する薬剤であり、患者にとって新たな治療の選択肢となる。自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)と先天性肺胞蛋白症(CPAP)は2015年に指定難病の指定を受けている。 セミナーでは、サルグラモスチムの特徴、効果の実際、治療を受けての患者の感想などが説明された。患者を全身麻酔下の治療から解放する画期的治療法 「世界初の自己免疫性肺胞蛋白症に対する薬物療法-サルグマリン吸入療法の何処が画期的なのか?-将来の展望」をテーマに中田 光氏(新潟大学医歯学総合病院高度医療開発センター先進医療開拓分野 特任教授)が、PAPの診療、サルグラモスチムの特性と従来の治療との違い、今後の展望などを説明した。 PAPとは、老廃物がゆっくりと肺胞を埋め尽くす疾患で、年間発症200例程度あるが、呼吸器の専門医ではよく知られている疾患。肺胞腔内に溜まるサーファクタント由来の老廃物は、血漿や肺由来のタンパク質、リン脂質、コレステロールなどであり、中でもタンパク質が多く溜まることから本症の名前が付いたとされる。 APAPの病因は、患者の肺にある抗GM-CSF自己抗体であり、肺胞マクロファージの成熟を阻害することで発生するとされている。 症状としては、相当呼吸が苦しくなるというものではなく、正常に呼吸できるときとそうでないときがまばらに生じ、病状が進行すると酸素の取り込みができず呼吸が重くなり、酸素の供給量を増やしても改善されない。 今回承認されたサルグラモスチム(GM-CSF)は、顆粒状マクロファージコロニー刺激因子の人工タンパク(分子量は15,000)で、吸入器を使用して細かい霧を口腔から吸う治療薬で、吸入器から出る粒子は3~5ミクロンの大きさとなる。 薬効機序として、肺胞に到達後、一部は自己抗体に結合するほか、肺胞マクロファージ受容体にたどり着き、機能を賦活化する仕組みで、細胞表面の受容体に結合することで、細胞増殖や成熟、機能維持に効果を発揮する。 また、サルグラモスチムが画期的な治療薬であることから、画期性加算の対象となった。その理由として、既存の治療では、全身麻酔下で10~20Lの生理食塩水で肺の洗浄をするしかなかった治療から吸入だけで肺の老廃物の処理、呼吸機能の改善が期待できること、APAPで肺胞機能が改善された世界初の治療薬であること、広い安全性を有し、通常の使用量を超える量でも安全性が確認されていることが挙げられている。 最後に中田氏は、「サルグラモスチムがマクロファージや好中球などの機能を高め、生体防御に貢献している働きから緑膿菌感染症、肺MAC症、ウイルス性肺炎、肺アスペルギルス症などにも適用拡大ができる可能性がある」と展望を語り、説明を終えた。肺活量が落ちる前に積極的にGM-CSF吸入療法の使用を 「自己免疫性肺胞蛋白症の克服に向けて-GM-CSF吸入療法の重要性」をテーマに石井 晴之氏(杏林大学医学部呼吸器内科 主任教授)が、サルグラモスチムの概要や効果について説明した。 初めに自験例のAPAPの症例を示し、酸素がうまく肺に取り入れないことで予後が悪いと窒息死することを説明。最近では新型コロナウイルス感染症との鑑別診断が難しいという。『肺胞蛋白症診療ガイドライン2022』では、3段階の重症度に合わせた治療指針が示されている。 重症度(DSS)と治療は以下のとおりである。・軽症:DSS1、2/動脈血酸素分圧はPaO2≧70→治療は慎重な経過観察・中等症:DSS3/動脈血酸素分圧は70>PaO2≧60→治療は対症療法(去痰薬、鎮咳薬など)またはサルグラモスチム吸入療法・重症:DSS4/動脈血酸素分圧は60>PaO2≧50DSS5/動脈血酸素分圧は50>PaO2→治療は区域洗浄、対症療法、長期酸素療法、サルグラモスチム吸入療法 今回発売されたサルグラモスチム吸入療法では、1日250μg(1バイアル)を12回(24週間)繰り返して治療を行う(吸入は3秒周期で吸気・息止・呼気を繰り返す)。そして、その効果については、プラセボと比較し、有意に肺の酸素化の改善を示し、肺CT所見以外でもLDH、KL-6、SP-Aも有意に改善していた1)。 また、先に講演した中田氏らが実施した特定臨床研究PAGEIIにも触れ、最重症例を含めた30例について、ベースラインから24週にわたる肺胞気動脈血酸素分圧較差の変化をみたところ、サルグラモスチム吸入療法により標準偏差で平均-12.8mmHg±10.7mmHg下がったという2)。 安全面については、副作用として赤血球・白血球の増多、咳嗽、発声障害、頭痛、尿中陽性などが報告されたが重篤なものはなかった。 最後に石井氏はまとめとして「世界初の承認された薬物療法であり、重症度3~5には積極的に導入すべきであること、肺活量が落ちると効果が下がるので%VCが80%未満の拘束性換気障害を呈する前に導入すべきであること、そして患者さんには禁煙の重要性を指導すべきである」と4項目を挙げ、説明を終えた。GM-CSF吸入療法をしてわかった患者目線の吸入時のポイント APAPの患者として小林 剛志氏(日本肺胞蛋白症患者会 代表)が、「GM-CSF製剤吸入療法の経験談 未来に向けての願い」をテーマに、現在進行形の実体験を語った。 小林氏は、医療機関に勤務する臨床工学技士であり、医学の知識がある。症状は2006年ごろに運動時の息切れ、運動パフォーマンスの低下から始まり、約4ヵ月後にPAPと確定診断されたという。 当初、治療では、全身麻酔下での肺洗浄が行われていたが、2008年からGM-CSF吸入療法を開始した。途中1回の両肺洗浄(2012年)を経て、継続している。吸入治療を経験し、小林氏が気付いたこととして、吸入に際しては「毎日30分吸入」、「臥位で吸入」、「腹式呼吸→胸式呼吸の順」という3点がしっかりと吸入できると提案した。 おわりに小林氏は、患者がもつ本症への不安として「患者ならば誰でも処方してもらえるのか、治療を受けられる施設(現在12程度施設)は今後広がるのか、GM-CSF吸入療法が有効でない場合の対応などがある」と示唆し、今後の患者の願いとして薬剤の冷蔵保管、調剤の煩雑さ、吸入器具の清潔、薬価などの課題解決への期待を寄せた。

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高齢の心臓手術患者、脳波ガイド下麻酔は術後せん妄を抑制せず/JAMA

 心臓手術を受ける高齢患者において、脳電図(EEG)ガイド下で脳波の抑制(suppression)を最小限にして行う麻酔投与は、通常ケアと比較して術後せん妄の発生を抑制しなかった。カナダ・モントリオール大学のAlain Deschamps氏らCanadian Perioperative Anesthesia Clinical Trials Groupが「Electroencephalographic Guidance of Anesthesia to Alleviate Geriatric Syndromes(ENGAGES)試験」の結果を報告した。術中の脳波の抑制は、全身麻酔の投与量が過剰であることを示唆するとともに、術後せん妄と関連することが先行研究で示されていた。JAMA誌2024年7月9日号掲載の報告。カナダの4病院で無作為化試験、通常ケアと比較 研究グループは、心臓手術を受ける高齢患者において、脳波の抑制を最小限にして行うEEGガイド下麻酔投与が、術後せん妄の発生を低減するかについて、多施設共同実臨床評価者患者盲検無作為化試験を行った。 2016年12月~2022年2月に、カナダの4病院で心臓手術を受ける60歳以上の高齢患者を募り、EEGガイド下麻酔投与群または通常ケア群に1対1の割合(病院で層別化)で割り付けた。追跡調査は2023年2月まで行った。 術中に麻酔薬濃度と脳波抑制時間を測定。主要アウトカムは、術後1~5日目のせん妄とし、副次アウトカムはICU入室期間、入院期間などとした。重篤な有害事象として、術中覚醒、合併症(大出血、脳卒中、胸骨創感染など)、30日死亡などを評価した。術後1~5日目のせん妄、EEGガイド下群18.15%、通常ケア群18.10% 患者1,140例(年齢中央値70歳[四分位範囲[IQR]:65~75]、女性282例[24.7%])が無作為化され(EEGガイド下群567例、通常ケア群573例)、1,131例(99.2%)が主要アウトカムの評価を受けた。 術後1~5日目のせん妄の発生は、EEGガイド下群102/562例(18.15%)、通常ケア群103/569例(18.10%)であった(群間差:0.05%、95%信頼区間[CI]:-4.57~4.67)。 EEGガイド下群は通常ケア群と比較して、揮発性麻酔薬の最小肺胞濃度中央値が0.14(95%CI:0.13~0.15)低く(0.66 vs.0.80)、EEGに基づく脳波抑制の総時間中央値が7.7分(95%CI:4.7~10.6)短かった。 ICU入室期間中央値に、有意な群間差はなかった(群間差:0日、95%CI:-0.31~0.31)。入院期間中央値についても有意な群間差はなかった(群間差:0日、95%CI:-0.94~0.94)。 術中に覚醒した患者はいなかった。合併症はEEGガイド下群64/567例(11.3%)、通常ケア群73/573例(12.7%)に、また30日死亡は8/567例(1.4%)、通常ケア群13/573例(2.3%)に発生した。

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【GET!ザ・トレンド】重症COPDの新治療「気管支バルブ治療」病診連携で普及を

重症COPDに気管支鏡的肺容量減量術(Bronchoscopic Lung Volume Reduction、BLVR)という新たな治療法が2023年12月に保険適用になった。重症COPD患者に希望をもたらす治療として注目される。市販後調査として実際にBLVRを施行しているNHO近畿中央呼吸器センターの田宮朗裕氏に聞いた。水面下に潜んでいる「症状緩和・機能改善が行えない重症COPD患者」COPDは世界の死因の第3位で年間323万人が死亡する1)。日本では40歳以上の8.6%、530万人以上がCOPDと推定されている2)。そのうち、きわめて高度な気流閉塞を有する患者(GOLD IV期)は11%、自覚症状が多く急性増悪のリスクが高い患者(GroupD)は10%との報告がある3)。重症COPDに対しては薬物療法、呼吸リハビリテーション、必要に応じた在宅酸素療法(HOT)、さらに肺容量減量手術、肺移植が治療選択肢となる。ただし、肺容量減量手術、肺移植については現在、日本ではほとんど行われていない。つまり、HOTなどの対症療法をしているものの、十分な症状緩和・機能改善が行えない重症COPD(根治的治療がCOPDにほぼないため)が水面下に潜んでいることになる。重症COPDの新治療BLVRとは?田宮氏によれば、重症COPDでは「家での軽い労作でも動けず買い物にも出られない方、ある程度呼吸機能はあっても非常に強い息切れによる生活への支障を訴える方」も少なくないという。さらに「肺機能が悪いとCOPDの急性増悪が非常に厳しくなる」と付け加える。そのような中、2023年12月に重症COPDに対する初のBLVRとして、Zephyr気管支バルブシステムが国内承認された。気管支バルブ治療は、気管支鏡を用いて一方弁の気管支バルブを治療対象の肺葉につながる気管支に留置して、肺葉を無気肺にさせ、肺の過膨張が原因で平坦化していた横隔膜運動を適正化させ呼吸機能を改善させる治療法だ。内科的治療では症状改善がみられない重症COPDに症状の改善をもたらす初の気管支内視鏡治療として注目されている。「体に傷を入れることなく、綺麗な部位を残すことで重症COPDの呼吸機能が改善している。非常に小さなサイズの中にシンプルな一方弁機能を実現した技術は素晴らしい」と田宮氏は評価する。Zephyr気管支バルブは25ヵ国以上で発売され、4万人超の治療患者に留置された実績を持つ。欧州では2003年に、米国ではブレークスルーデバイスに指定され2018年に発売されている。長年の海外での使用実績をもとに的確な患者選択や側副換気の評価によって、より効果を示す可能性のある患者を抽出できるようになった。また、気胸の発生に注意が置かれるようになり、発生時に迅速に対応できるよう準備が変わった。「全世界の開発者と医療者がさまざまな工夫を重ねた中の最終形で日本に来ている。美味しいところ取りしているようだ」と田宮氏は言う。多数のエビデンスが証明するZephyr気管支バルブの有効性Zephyr気管支バルブは重症COPDに対する複数の無作為化比較試験で標準治療単独と比べ、呼吸機能(FEV1)、運動機能(6分間歩行)、症状、QOL(St.George's Respiratory Questionnaire, SGRQ)、慢性COPDの生存期間予測指標であるBODE指数*について有意な改善を認めている。代表的な試験は不均一な肺気腫患者を対象としたLIBERATE試験4)と均一な肺気腫患者を対象としたIMPACT試験5)であり、両試験とも主要評価項目を有意に改善した。いずれも高度な気流閉塞(%FEV1 15~45%)を有するCOPD患者が対象である。「不均一な肺気腫でも均一な肺気腫でもしっかり結果が出た。これらの結果から肺容量を減量して残された肺がしっかり伸縮できるようになると、呼吸機能もQOLも改善することが確信できた。動いたあと“はあはあ”しているのに、息が吐けずに空気が溜まっていく一方という状態は非常に辛いもの。それが緩和されることはすばらしい」、さらに「片肺の過膨張を改善することで、もう一方の肺にも余裕ができる可能性もある」と評価する。また、LIBERATE試験の主要評価項目である「ベースラインからFEV1(L)が15%以上改善した患者」がZephyr気管支バルブ群で有意に多かった(群間差31%)という結果について「全体集団の差が30%を超えるのは素晴らしい。しかし、全ての患者に効くというわけではない。逆に考えれば、効く人には非常に高い効果が期待できるということ。患者の選定は重要なポイント」と述べた。Zephyr気管支バルブは日本での市販後調査による140例の症例収集が課せられている。現在は15施設だが、将来的には20施設まで増やす予定である。* BODE指数:Body mass index(BMI)、airflow Obstruction(気道閉塞度)、Dyspnea(呼吸困難)、Exercise capacity(運動能力)により算出され、慢性COPDの生存期間予測に用いられる指数。事前準備から術後フォローまで入念に設計された手技工程Zephyr気管支バルブによるBLVRを実施するには、外科治療を除く全ての治療法が実施されていることを確認し、術前にボディボックス、スパイロメーターによる呼吸機能精査を行い、6分間歩行距離、呼吸困難を評価する。さらに、CT解析システムによる気腫病変、肺葉間裂の確認、治療対象となる肺葉の選定を行う6)。施術当日も専用のChartis肺機能評価システムで留置部位の側副換気(肺葉間裂の完全性確認)を再確認する。そして、全身麻酔またはセデーション下で(NHO近畿中央呼吸器センターはセデーション)、専用のローディングシステムとデリバリーカテーテルで気管支鏡を用いてターゲットとなる気管支にバルブを留置する。「デバイスが精巧にできているので手技自体はシンプルだが、気管支の位置によって難易度が高くなる。研修による技術習得は欠かせない」と田宮氏は言う。合併症として気胸、COPDの増悪、感染症などのリスクがあるので、気管支バルブ留置後も呼吸器内科、呼吸器外科が協力して診療にあたる。気胸の8割が術後4日以内に起こることもあり、術後は手術日を含め4日入院し、術直後と24時間毎に退院まで検査する。退院後も45日、3、6、12ヵ月後の定期検査が設定されている。なお、Zephyr気管支バルブは抜去・交換が可能で、術後の位置ずれが起きた場合も修正できる。画像を拡大するZephyr気管支バルブの径は4.0mmと5.5mmの2種類。それぞれレギュラーとショートタイプがあり、計4種類のバルブで異なる気管支形状に対応画像提供:パルモニクスジャパン(株)画像を拡大する専用デリバリーカテーテルで気管支鏡を用いてターゲットとなる気管支にバルブを留置する画像提供:パルモニクスジャパン(株)画像を拡大する画像を拡大する病診連携で重症COPD患者をレスキュー薬物療法、呼吸リハビリテーション、HOTを行いながらも手の施しようがない重症COPDは相当数いるのではないかと田宮氏は言う。高度な呼吸機能検査ができない施設では、mMRC質問票のGrade2以上、スパイロメーターで1秒率45%以下がBLVR適用の目安である。「BLVRは酸素を吸ってもどうにもならないという状態になる前にレスキューできる治療法。この治療に適用があるかはスクリーニングしてみないとわからない。(mMRC2以上の)症状があってこの治療に興味を示す患者さんがいれば、どんどん紹介していただきたい。ボディボックスなど精密な検査、治療、術後定期検査は当方で行った上で、吸入薬、HOTの管理などはかかりつけの先生にお任せしたい」と田宮氏はいう。治療方法が見つからない重症COPD患者に希望をもたらす新たな治療BLVRが普及していくには、専門施設とかかりつけ医の協同が欠かせないようだ。参考1)日本WHO協会2)NICE study3)Oishi K et, al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2018:13:3901-3907.4)Criner GA et,al.Am J Respir Crit Care Med.2018;198:1151-1164.5)Valipour A et, al.Am J Respir Crit Care Med.2016;194:1073-1082.6)呼吸器学会 重症COPDに使用する気管支バルブの適正使用指針気管支バルブ治療情報サイト(pulmonx社)Zephyr気管支バルブ製品ページ(pulmonx社)(ケアネット 細田 雅之)

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手術前でもGLP-1受容体作動薬の使用は安全?

 オゼンピックやウゴービなどのGLP-1受容体作動薬を使用している患者が、全身麻酔や鎮静を伴う手術の前に同薬を使用すると、胃の中の残存物を手術中に誤嚥し、窒息する危険性があるとして、手術前に同薬を使用することの安全性に対する懸念が高まりつつある。こうした中、そのような危険性はないことを明らかにしたシステマティックレビューとメタアナリシスの結果が報告された。この研究では、GLP-1受容体作動薬使用患者における胃排出の遅延は36分程度であり、手術中に危険をもたらすほどではないことが示されたという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のWalter Chan氏らによるこの研究結果は、「The American Journal of Gastroenterology」6月号に掲載された。 Chan氏は、「GLP-1受容体作動薬は消化管の運動(胃の蠕動運動)に影響を及ぼすものの、その影響力は、これまで考えられていたほど大きくはない可能性がある」と述べ、「誤嚥の潜在的なリスクを最小化するために、麻酔や鎮静が必要な手術・処置の前の1日間は固形食を控えるなどの軽微な予防策を講じれば、GLP-1受容体作動薬の使用を続けても安全性に問題はないように思われる」と述べている。 研究グループは、手術前のGLP-1受容体作動薬の使用に関するガイドラインはまちまちだと指摘する。米国麻酔科学会(ASA)は、患者は選択的手術や処置の前には、最長で1週間、GLP-1受容体作動薬の使用を中止するよう推奨している。一方、米国消化器病学会(AGA)は、固形食の摂取を控えるなどの標準的な術前予防措置を講じた上で予定通りの手術を行うことを勧めている。このように、GLP-1受容体作動薬使用患者の周術期のケアについては統一見解が得られておらず、また確定的なデータも欠如しているのが現状である。 Chan氏らは今回、胃排出能を測定した15件のランダム化比較試験(RCT)のデータを解析した。これらのRCTのうち、胃排出シンチグラフィーにより胃排出能が評価されていた5件のRCT(解析対象者247人)を対象に解析した結果、胃内容物が半減するまでの時間(平均)は、GLP-1受容体作動薬群で138.4分であったのに対し、プラセボ群では95.0分であり、統合された平均差は36.0分であることが明らかになった。一方、残りの10件のRCT(解析対象者411人)ではアセトアミノフェン法を用いて胃排出能の評価を行っていた。これらのRCTを対象にした解析でも、アセトアミノフェンの薬物動態のパラメーター〔血中濃度が最大に達するまでの時間(Tmax)、4時間後および5時間後の薬物血中濃度時間曲線下面積(AUC)〕について、GLP-1受容体作動薬群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった。また、胃排出の遅延が原因で「肺誤嚥を経験した研究参加者はいなかった」と研究グループはブリガム・アンド・ウイメンズ病院のニュースリリースで説明している。 研究論文の筆頭著者である同病院のBrent Hiramoto氏は、「本研究結果に基づき、内視鏡的処置を受けるGLP-1受容体作動薬使用者に対しては、ガイドラインの内容を、『GLP-1受容体作動薬による治療を継続し、手術の前日には流動食のみを摂取し、麻酔を伴う手術前の絶食に関する標準的な指針に従うべきである』という内容に更新することを勧めたい。固形食の摂取に関するより多くのデータが得られるまでは、治療を継続しながら流動食を取るという保守的なアプローチが望ましい」と述べている。

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英語で「絶飲食」は?【1分★医療英語】第136回

第136回 英語で「絶飲食」は?《例文》患者 I am hungry, Can I eat something?(おなかがすいたのですが、何か食べてもいいですか?)看護師The doctor instructed you to be on NPO for the procedure this afternoon.(この午後の検査のために、医師から絶飲食の指示がありました)《解説》今回は“NPO”という表現の解説です。元々はラテン語で“nil per os”を指し、英語では“nothing by mouth”が同じ意味になります。直訳では「口から何も入れない」つまり「絶飲食」という意味です。米国の医療現場ではこれを略した“NPO”(エヌピーオー)という用語を頻繁に使います。手術、全身麻酔の前や経口摂取が困難で輸液のみで管理したいときに、「“NPO”にしましょう」というように使われます。「彼は絶飲食です」と伝えたいときには、“He is on NPO”というように“on”を用います。補足ですが、《例文》の“procedure”という単語は、医療の領域においては広く「手技を用いるもの」全般を指します。ですので、胃カメラ、生検、手術などは全部“procedure”で表すことが可能です。講師紹介

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超音波とMRIによる新治療法が前立腺がん治療に革命を起こす?

 従来の放射線療法と手術ではなく、MRIと超音波を用いた侵襲性の極めて低い新たな治療法(タルサ治療)が、前立腺がんを効果的に治療することを示した研究結果が報告された。この治療を受けた患者の76%は、1年後の追跡生検でがん細胞が見つからなかったという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デイビッド・ゲフィン医学部放射線科、泌尿器科、外科分野教授のSteven Raman氏らによるこの研究結果は、インターベンショナルラジオロジー学会(SIR 2024、3月23〜28日、米ソルトレークシティ)で発表された。 タルサ治療(transurethral ultrasound ablation;TULSA)は、尿道から細いカテーテルのような器具を挿入して、MRIガイド下で病変部の位置を正確に見極めながら超音波による加熱治療を行うもの。MRIで前立腺内部の温度を確認しながら、前立腺を取り囲む感覚神経への影響を抑える一方で治療が必要な組織にはがんが死滅する55度以上にまで超音波の出力を高めることができる。 この研究では、前立腺がんの男性115人が5カ国、13カ所の病院で募集され、タルサ治療が行われた。タルサ治療は、外来施設で全身麻酔または脊椎麻酔を用いて実施可能で、所要時間は2〜3時間だという。 その結果、タルサ治療によりがん細胞は減少するか消失し、前立腺が縮小し、前立腺特異抗原(PSA)値が低下したことが示された。治療から1年後の追跡調査時に、76%の対象者でがんが検出されず、1年以内に前立腺のサイズは92%縮小し、5年後にはPSA値が基準値レベルにまで低下した(6.3ng/mL→0.63ng/mL)。また、この治療法は前立腺がんの他の治療法に比べて副作用が少ないことも示された。治療から5年後に、男性の92%が膀胱の働きをコントロールでき、87%が良好な勃起機能を有していた。失禁と勃起不全は前立腺がんの手術後に生じる一般的な副作用である。 Raman氏は、「タルサ治療は、がん細胞を死滅させる能力を最大化する一方で前立腺への副次的なダメージを最小限に抑えながら、前立腺がん治療において最も重要な三要素である、局所的ながんの完全制御、尿失禁の回避、性機能の維持を達成することが可能だ」と述べ、この治療法が前立腺全体に対する治療における革命であると主張している。同氏は、「前立腺がんは男性に最も多いがんであり、生涯に8人に1人が罹患する。さらなる研究が必要ではあるが、今後、有効性と安全性が確認されれば、この治療法が何千人もの前立腺がん患者に対する標準治療を変える可能性がある」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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8人に1人の高齢者が手術後1カ月以内に再入院か

 全身麻酔を要する大手術を受けた高齢者のほぼ8人に1人(12%)が手術後30日以内に、また4分の1以上(28%)が半年以内に再入院していると推定されることが、新たな研究で明らかにされた。フレイル状態の人や認知症の人での再入院リスクはさらに高かったという。米イェール大学医学部外科分野准教授のRobert Becher氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に2月28日掲載された。 この研究では、National Health and Aging Trends Study(NHATS)に参加した65歳以上のメディケア受給者のデータを用いて、大手術後30日以内と180日以内の再入院率が推定された。大手術は、全身麻酔を用いて手術室で行われる、非経皮的かつ非内視鏡的な侵襲的手術と定義し、手術部位により6つのカテゴリー〔筋骨格系、腹部(消化器も含む)、血管、脳神経、心胸部、その他〕に分類した。NHATS参加者のうち、1,477人(平均年齢79.5歳、女性56%)が2011年から2018年の間に総計1,780件(全国レベルでは955万6,171件)の大手術を受けていた。 解析の結果、大手術を受けた65歳以上の高齢患者では、11.6%が手術後30日以内に、27.6%が手術後180日以内に再入院していると推定された。大手術後180日以内の再入院率は、90歳以上の患者(36.8%)、血管に関わる大手術を受けた患者(45.8%)、フレイル状態の患者(36.9%)、ほぼ確実に(probable)認知症である患者(39.0%)で顕著に高かった。同リスクは、フレイル状態の患者でフレイル状態でない患者の2.29倍、ほぼ確実に認知症である患者で認知症ではない患者の1.58倍と推定された。 Becher氏は、「このような高い再入院率は、手術が高齢者の自立を失わせるリスクを高めることを示している」と指摘する。同氏は、米国の高齢者人口が増加するにつれて、大手術を受ける高齢者の数も増加するとの見通しを示す。そして、「複数の疾患を抱えている高齢患者にとって最も重要な転帰は自立と機能の維持だが、大手術後の再入院はそれらに悪影響を及ぼすことが分かっている」と述べている。 一方、論文の共著者であるイェール大学老年医学分野教授のThomas Gill氏は、「これらの結果は、大手術前に高齢患者のフレイルや認知症の有無を考慮する重要性を示すものだ」と話す。そして、フレイルや認知症の存在が、手術後の高齢者の回復に対する「患者や家族の期待や手術の意思決定に影響を与える可能性がある」との見方を示している。 研究グループはさらに、再入院が高齢者の自立を脅かすだけでなく、米国の医療制度に大きな負担をかけていることにも言及し、再入院費は2018年だけで総額500億ドル(1ドル148円換算で7兆4000万円)以上に上り、その一因は退院後30日以内に発生した約380万件の再入院であると説明している。 研究者らは今後、なぜ米国ではフレイル状態の高齢者の再入院率がこれほど高いのかを調査し、再入院リスクを低減させる方法を模索する予定だと述べている。

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肥満症治療薬は手術前の胃残留量増加に関連

 ウゴービやオゼンピックのような肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)の使用者は、全身麻酔を要する手術前でも胃残留量の多いことが、新たな研究から明らかになった。研究グループは、GLP-1受容体作動薬の使用者の場合、現行のガイドラインで推奨されている手術前の絶食時間では不十分な可能性を示唆する結果だとの見方を示している。米テキサス大学健康科学センターヒューストン校のSudipta Sen氏らによるこの研究結果は、「JAMA Surgery」に3月6日掲載された。 全身麻酔を要する手術では通常、誤嚥性肺炎や窒息のリスクを防ぐために手術前の絶食が求められる。Sen氏らは、全身麻酔下にあったGLP-1受容体作動薬の使用者が、手術中に自分の吐物を誤嚥したとの報告を受けて、GLP-1受容体作動薬の使用と胃残留量の増加との関連を調べることを決めたと話す。 対象は、2023年6月から7月の間に全身麻酔下での待機的手術が予定されていた18歳以上の患者124人(平均年齢56歳、女性60%)で、このうちの62人(50%)はGLP-1受容体作動薬を週に1回使用していたが(曝露群)、残る半数は使用していなかった(対照群)。主要アウトカムは、胃超音波検査で評価した多量の胃残留物で、具体的には、固形物、濃度の高い液体、または1.5mL/kg以上の透明な液体がある場合と定義された。 その結果、多量の胃残留物が確認された対象者の割合は、曝露群で56%(35/62人)であるのに対し、対照群では19%(12/62人)であることが明らかになった。結果に影響を及ぼす因子を調整して解析した結果、GLP-1受容体作動薬の使用により多量の胃残留物が認められる可能性が30.5%上昇することが示された。 Sen氏は、「GLP-1受容体作動薬を使用している患者では、手術前に絶食していたにもかかわらず、その半数以上に手術前の胃超音波検査で多量の胃残留が認められた」と振り返る。研究グループは、「これらの結果は、米国麻酔科学会が2023年に発表した、手術前のGLP-1受容体作動薬の使用の有無をスクリーニングし、その使用に付随するリスクを患者に知らせることを求める推奨内容と一致する」と述べる。 ガイドラインではまた、医師が、手術前にはGLP-1受容体作動薬の使用を控えることを検討すべきことも推奨されている。Sen氏は、「患者は、外科医や麻酔科医にこの薬の使用の有無を正直に伝える必要がある。この情報は、選択的手術の前に薬物の投与を調整したり、長期絶食を勧めたり、必要であれば選択的手術を再スケジュールするなど、適切な推奨を提供するために極めて重要だからだ」と主張する。また同氏は、「GLP-1受容体作動薬使用者の手術前の絶食時間を延長する新たな治療ガイドラインが必要かもしれない」と話している。

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ビデオ喉頭鏡、手術室での気管内挿管の試行回数を改善/JAMA

 外科的処置時の全身麻酔で気管内挿管を要した成人患者において、直接喉頭鏡と比較してhyperangulatedブレードを用いたビデオ喉頭鏡は、気管内挿管の達成に必要な試行回数を減少させ、挿管失敗のリスクも低いことが、米国・クリーブランドクリニックのKurt Ruetzler氏らが実施した検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年3月18日号で報告された。米国の単一施設のクラスター無作為化多重クロスオーバー試験 本研究は、米国の単一施設(クリーブランドクリニック)で実施したクラスター無作為化多重クロスオーバー試験であり、2021年3月~2022年12月の期間に参加者を登録した(研究助成はクリーブランドクリニックの支援のみ)。 対象は、年齢18歳以上、心臓、胸部、血管の待機的または緊急の外科手術を受け、全身麻酔のためにシングルルーメンチューブによる気管内挿管を要する患者であった。手術室を2つのセットに分け、それぞれ1週間ごとにhyperangulatedブレードを用いたビデオ喉頭鏡または直接喉頭鏡を用いた挿管を行う群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、1回の手術での手術室挿管の試行回数とした。副次アウトカムは挿管の失敗(担当医が何らかの理由で別の喉頭鏡デバイスに切り換えた場合、または挿管を4回以上試みた場合と定義)と、気道または歯の損傷の複合であった。複数回の挿管試行が有意に少ない 7,736例に8,429件の手術を行った。患者の年齢中央値は66歳(四分位範囲[IQR]:56~73)、35%(2,950件)が女性で、85%(7,135件)が待機的手術であった。 2回以上の挿管試行が必要であった手術は、直接喉頭鏡群が4,016件中306件(7.6%)であったのに対し、ビデオ喉頭鏡群は4,413件中77件(1.7%)であり、挿管試行回数の推定比例オッズ比は0.20(95%信頼区間[CI]:0.14~0.28)と、ビデオ喉頭鏡群で有意に良好であった(p<0.001)。気道または歯の損傷には差がない 挿管失敗は、直接喉頭鏡群が4,016件中161件(4.0%)で発生したのに比べ、ビデオ喉頭鏡群は4,413件中12件(0.27%)と有意に少なく(相対リスク:0.06、95%CI:0.03~0.14、p<0.001)、補正前の絶対リスク群間差は-3.7%(95%CI:-4.4~-3.2)であった。 一方、気道または歯の損傷は、ビデオ喉頭鏡群(41件[0.93%])と直接喉頭鏡群(42件[1.1%])で有意差を認めなかった(相対リスク:0.87、95%CI:0.48~1.58、p=0.53)。 著者は、「挿管を何回も試みると、誤嚥、低酸素血症、気道損傷、死亡などの合併症を引き起こすことが、いくつかの大規模な観察研究や無作為化試験で報告されているため、今回のビデオ喉頭鏡による初回成功率の改善効果は臨床的に重要となる可能性がある」と述べ、「この結果は、外科的処置を受ける患者の挿管では、hyperangulatedブレードを用いたビデオ喉頭鏡が望ましいアプローチである可能性を示唆する」とまとめている。

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第74回 鼻咽頭スワブの「折損」、学会から啓発

日本小児科学会からのInjury Alert(傷害速報)Unsplashより使用日本小児科学会から定期的に更新される「Injury Alert(傷害速報)」で、気になる症例がありました1)。あるクリニックの午前外来に、発熱で受診した1歳2ヵ月の男児がいました。新型コロナ、インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルス…いろいろな病原微生物を疑う必要があります。となると、当然ながら鼻咽頭スワブによる検査が必要になるわけですが、多くの場合、母親が抱っこし、看護師が頭を固定した状態で、医師がすばやくスワブを鼻腔に挿入することになります。今回の症例では、患児が暴れることはなかったそうですが、綿棒が途中で折れ、引き抜いたときには先っぽが鼻腔に残ってしまったそうです。すぐに高次医療機関の耳鼻咽喉科へ紹介されました。折れた綿棒の先は中鼻道にあり、外来での摘出を試みたものの、摘出困難な状況でした。そのため、全身麻酔のもと、直視鏡で異物をカメラ越しに確認し、ニシハタ氏鋭匙鉗子によって摘出されました。とくに合併症なく、翌日退院となっています。綿棒の安全性と脆弱性はトレードオフ鼻咽頭スワブの先にある綿棒は、安全性と脆弱性がトレードオフの関係になっています。つまり、安全を重視するのであれば綿棒の脆弱性が増し、簡単に折れないようにカチコチにすれば安全性に懸念が生じるということです。そのため、グニャリと曲がってしまうと、力を入れる方向によっては折れ曲がってしまうことがあるわけです。成人でも同様の報告があり、「Dr. 倉原の“おどろき”医学論文」で過去に紹介しています。その症例は、協力が得られにくい基礎疾患がある患者だったため、「すみやかに拭い検査を実施しなければならない」という小児例と類似した状況でした。鼻腔にスワブを挿入する場合、上咽頭に到達させるため、迷入を避けるために口蓋と平行に鼻腔底に沿わせて挿入する必要がありますが、もしこれが頭側に迷入した場合、先端が折れて鼻腔異物になるリスクがあります。こういった鼻腔異物を回避するための策として、以下の4点がInjury Alertで啓発されています。(1)不測の動きに備えて児の頭部をしっかり固定する(2)綿棒の挿入は必ず鼻腔底に沿わせる(3)綿棒の挿入に少しでも抵抗がある時は反対側の鼻腔で行う(4)後咽頭に達する最低限の長さで綿棒を把持する参考文献・参考サイト1)日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会. Injury Alert(傷害速報). No. 133 新型コロナウイルス抗原検査キットによる鼻腔異物

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10月13日 麻酔の日【今日は何の日?】

【10月13日 麻酔の日】〔由来〕1804年の今日、江戸時代の医師・華岡青洲が、世界初の「全身麻酔」による乳がん摘出手術に成功。人類が手術の痛みから解放された歴史的な日として日本麻酔科学会が2000年に制定。関連コンテンツエキスパートが教える痛み診療のコツ創部の麻酔【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q20英語で「痛みはどれくらいですか」は?【1分★医療英語】手術中の麻酔ケア引き継ぎ、術後アウトカムに影響なし/JAMA歯の痛み、どのくらいの頻度で“虫歯リスク”なのか

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コルヒチン、心臓以外の胸部手術で心房細動を予防せず/Lancet

 主要な非心臓胸部手術を受けた患者において、コルヒチンは臨床的に重大な周術期心房細動(AF)および非心臓術後の心筋障害(MINS)の発生を有意に低下しないばかりか、ほとんどは良性だが非感染症性下痢のリスクを増大することが示された。カナダ・Population Health Research InstituteのDavid Conen氏らが、コルヒチンの周術期AF予防について検証した国際無作為化試験「COP-AF試験」の結果を報告した。炎症性バイオマーカー高値は、周術期AFおよびMINSリスク増大と関連することが知られている。これらの合併症の発生を抗炎症薬のコルヒチンが抑制する可能性が示唆されていた。Lancet誌オンライン版2023年8月25日号掲載の報告。11ヵ国45施設で無作為化プラセボ対照試験 COP-AF試験は、11ヵ国(オーストリア、ベルギー、カナダ、中国、コロンビア、イタリア、マレーシア、パキスタン、スペイン、スイス、米国)の45施設で行われた研究者主導の無作為化プラセボ対照試験。低用量コルヒチンが主要な非心臓胸部手術後の周術期AFおよびMINSの発生予防に有効であるかを評価した。 主要な非心臓胸部手術を受ける55歳以上の患者(全身麻酔で施術し術後少なくとも1泊の入院が予想される)を、無作為に1対1の割合で、経口コルヒチン0.5mgを1日2回またはマッチングプラセボを投与する群に割り付け、術後4時間以内に投与を開始し10日間継続した。 無作為化はコンピュータ・ウェブベースシステムを用いて行い、施設による層別化を行った。医療ケア提供者、患者、データ収集担当者、評価者は治療割り付けをマスクされた。 主要アウトカムは2つで、フォローアップ14日間の臨床的に重大な周術期AFおよびMINSの発生であった。主な安全性アウトカムは敗血症または感染症の複合、および非感染性下痢とした。すべての解析で、intention-to-treat解析を原則とした。周術期AFとMINSの発生は有意差なし、一方で非感染性下痢が3.64倍 2018年2月14日~2023年6月27日に、3,209例(平均年齢68歳[SD 7]、男性1,656例[51.6%])が登録された。 臨床的に重大な周術期AFの発生は、コルヒチン群103/1,608例(6.4%)、プラセボ群120/1,601例(7.5%)であった(ハザード比[HR]:0.85[95%信頼区間[CI]:0.65~1.10]、絶対リスク減少[ARR]:1.1%[95%CI:-0.7~2.8]、p=0.22)。 MINSの発生は、コルヒチン群295/1,608例(18.3%)、プラセボ群325/1,601例(20.3%)であった(HR:0.89[95%CI:0.76~1.05]、ARR:2.0%[95%CI:-0.8~4.7]、p=0.16)。 また、敗血症または感染症の複合の発生は、コルヒチン群103/1,608例(6.4%)、プラセボ群83/1,601例(5.2%)であった(HR:1.24[95%CI:0.93~1.66])が、非感染性下痢は、コルヒチン群(134/1,608件[8.3%])がプラセボ群(38/1,601件[2.4%])よりも多く認められた(HR:3.64[95%CI:2.54~5.22])。

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入院前のコロナスクリーニングPCR検査、変異株流行初期に有用か/感染症学会・化学療法学会

 入院時のスクリーニング検査としてのSARS-CoV-2 RT PCRは、院内感染予防や全身麻酔・手術などの侵襲による患者の重症化予防に有用とされる一方、陽性率の低さや所要時間、コストなどの問題が指摘されており、新型コロナの5類感染症移行に伴い、今後の検査の緩和について議論が行われている。京都府立医科大学附属病院の山本 千恵氏らの研究チームにより予定入院前スクリーニング検査としてのSARS-CoV-2 RT PCRについて検討が行われ、その結果、とくに各変異株の流行初期において院内感染の予防に効果的であった可能性が示唆された。4月28~30日に開催された第97回日本感染症学会総会・学術講演会/第71回日本化学療法学会学術集会合同学会にて山本氏が発表した。入院前コロナスクリーニングPCR検査陽性率は0.44% 本研究では、2020年10月12日~2022年6月23日に予定入院した患者のべ1万4,754例を対象に、予定入院前5日以内に鼻咽頭拭い液によるコロナスクリーニングPCR検査を施行し、結果について診療録を参照し、後ろ向き調査を行った。発熱などの有症状者、緊急入院例、転院症例、濃厚接触者となっている者は対象から除外した。 入院前コロナスクリーニングPCR検査について検討した主な結果は以下のとおり。・対象者の年齢中央値は65歳(範囲0~99歳)。全期間の入院前コロナスクリーニングPCR検査陽性率は0.44%(64/1万4,574例)であった。・PCR陽性者の年齢中央値は55歳、陰性者は65歳であり、陽性者のほうが有意に低値であった。・PCR陽性率の推移をみると、従来株流行期(2020年10月~2021年3月)では0.28%、アルファ株流行期(2021年3~7月)では0.16%、デルタ株流行期(2021年7~12月)では0.21%、オミクロン株流行期(2021年12月~2022年6月)では0.90%となり、オミクロン株流行期が最も高値であった。・PCR陽性者のCt値の分布をみると、いずれの株も流行の初期ではCt値が35未満(急性期感染を示唆)の比率が多く、流行後期になるとCt値が35以上の比率が増加した。・PCR陽性者のうち、入院時コロナPCR検査施行前にCOVID-19罹患歴がある既感染者が50%(32/64例)を占めた。既感染者の発症または診断から入院時のRT PCR検査を施行するまでの日数の中央値は29日(範囲10~105日)であった。・濃厚接触者はPCR検査の対象外としているが、罹患歴のない32例のうち、検査後に濃厚接触者であることが判明したPCR陽性者が21.9%(7/32例)存在した。 山本氏は本結果について、「流行状況によりPCR陽性率に変動が認められ、とくに各変異株の流行初期において、院内感染予防に寄与していた可能性が示唆された。さらにCOVID-19既感染者かつ再感染が否定的な患者において入院前コロナスクリーニングPCR検査は不要である可能性があり、接触歴の確認は引き続き重要であると考えられる」とまとめた。

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気管挿管時の誤嚥回避に、レミフェンタニルは有効か/JAMA

 手術室での迅速導入気管挿管時に、誤嚥のリスクがある成人患者において、即効性オピオイドであるレミフェンタニルは神経筋遮断薬と比較して、重度合併症を伴わない初回挿管の成功に関して非劣性を達成できず、むしろ統計学的に有意に劣ることが、フランス・ナント大学のNicolas Grillot氏らの検討で示された。研究の詳細は、JAMA誌2023年1月3日号に掲載された。フランス15施設の無作為化非劣性試験 本研究は、フランスの15施設が参加した非盲検無作為化非劣性試験であり、2019年10月~2021年4月の期間に、患者の登録が行われた(フランス保健省の助成を受けた)。 対象は、年齢18~80歳、手術室での全身麻酔時に経口気管挿管を要し、肺誤嚥のリスク因子(術前空腹期間が6時間未満、腸閉塞、麻酔前12時間以内の嘔吐、術前12時間以内の外傷、重度の症候性の胃食道逆流など)を1つ以上有する患者であった。 被験者は、催眠薬投与直後にレミフェンタニル(3~4μg/kg)または神経筋遮断薬(サクシニルコリン[スキサメトニウム]またはロクロニウム1mg/kg)の静脈内投与を受ける群に無作為に割り付けられた。両群とも投与終了から30~60秒後に気管挿管が開始された。 主要アウトカムは、重度合併症を伴わない初回挿管の成功であった。合併症は、消化物の肺への誤嚥、酸素飽和度の低下、血行動態の重度の不安定化、持続性不整脈、心停止、重度のアナフィラキシー反応と定義された。事前に規定された非劣性マージンは7.0%。非劣性の可能性は残る 1,150例(平均年齢50.7歳[SD 17.4]、女性573例[50%])が無作為化の対象となり、1,130例(98.3%)が試験を完遂した。両群に575例ずつが割り付けられた。腸管閉塞・イレウス・嘔吐が613例(54.1%)にみられ、気管挿管の理由として最も多かったのは消化管の手技であった。 as-randomized集団(無作為化の対象となったすべての患者)では、重度合併症を伴わない初回挿管の成功の割合は、レミフェンタニル群が66.1%(374/575例)、神経筋遮断薬群は71.6%(408/575例)であり(補正後群間差:-6.1%、95%信頼区間[CI]:-11.6~-0.5、非劣性のp=0.37)、レミフェンタニル群の劣性が示された。 per-protocol集団(割り付けられた薬剤の投与を受けた全適格例)では、レミフェンタニル群の66.2%(374/565例)、神経筋遮断薬群の71.3%(403/565例)で、重度合併症を伴わない初回挿管の成功が達成された(補正後群間差:-5.7%、両側95%CI:-11.3~-0.1、非劣性のp=0.32)。 試験薬投与から挿管成功までの平均時間は、レミフェンタニル群が2.5分(SD 1.0)、神経筋遮断薬群も2.5分(SD 1.2)であった(補正後平均群間差:0.0分、95%CI:-0.1~0.2)。術後7日の時点での肺炎の発生率は、それぞれ0.5%および0.4%だった(0.1%、-0.5~0.7)。 重度の有害事象は、レミフェンタニル群が2.1%、神経筋遮断薬群は0.5%で発現した(補正後群間差:1.8%、95%CI:0.4~3.2)。また、血行動態不安定が、それぞれ3.3%(19/575例)および0.5%(3/575例)で認められた(2.8%、1.2~4.4)。 著者は、「レミフェンタニルの効果は神経筋遮断薬よりも統計学的に有意に劣っていたが、効果推定値の信頼区間が広いため、非劣性の可能性が残されており、両群の差の臨床的妥当性について結論するには限界がある」と指摘している。

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術中の超生理的酸素投与、臓器損傷リスクを増大/BMJ

 手術中の超生理的な酸素投与の増量は、急性腎障害(AKI)、心筋傷害および肺損傷の発生増大と関連することが、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのDavid R. McIlroy氏らによる検討で明らかにされた。全身麻酔下で手術を受けるほとんどの患者は、十分な動脈血酸素飽和度維持のために必要量以上の酸素を投与される。超生理的酸素投与の有害な影響は分子レベルで確認されているが、手術中のこれらの影響の臨床的関連は明らかになっていなかった。なお今回の結果について著者は、「示された臓器損傷の発生増大との関連について残余交絡を排除することはできない」として、「手術中の酸素投与に関する指針を示すために、些少でも臨床的に重要な影響が検出できる大規模な臨床試験が必要である」とまとめている。BMJ誌2022年11月30日号掲載の報告。観察コホート試験で調査 研究グループは、手術中の超生理的酸素投与が術後の腎臓・心筋・肺損傷の発生減少または増加と関連するかどうかを観察コホート試験で調べた。 米国内42の医療センターが参加するMulticenter Perioperative Outcomes Groupデータレジストリを用いた。参加者は、2016年1月~2018年11月に、全身麻酔と気管内挿管による120分以上の手術を受けた入院成人患者であった。 超生理的酸素投与は、SpO2 >92%の間(分当たり)のFIO2 >21%の曲線下面積で定義(AUCFIO2)した。 主要エンドポイントは、AKI(Kidney Disease Improving Global Outcomes基準を用いて定義)、心筋傷害(術後72時間以内の血清トロポニン値が0.04ng/mL超と定義)、肺損傷(国際疾病分類の退院診断コードを使用して定義)であった。酸素曝露の増大と臓器損傷リスク増大との関連を確認 対象コホートは35万647例の患者で構成され、年齢中央値59歳(四分位範囲[IQR]:46~69)、女性18万546例(51.5%)、手術時間中央値205分(IQR:158~279)であった。 AKIは29万7,554例中1万9,207例(6.5%)、心筋傷害は32万527例中8,972例(2.8%)、肺損傷は31万2,161例中1万3,789例(4.4%)が診断された。 FIO2中央値は54.0%(IQR:47.5~60.0)であり、AUCFIO2は7,951%分(5,870~1万1,107)であった。これは、135分の手術中の80%のFIO2に相当するものであった。 ベースラインの共変量およびその他の潜在的な交絡変数を調整後、酸素曝露の増大は、AKI、心筋傷害、肺損傷のリスク増加と関連していた。AUCFIO2の75パーセンタイルに該当する患者は25パーセンタイルに該当する患者と比較して、AKIのオッズが26%(95%信頼区間[CI]:22~30)高く、心筋傷害のオッズは12%(7~17)高く、肺損傷のオッズは14%(12~16)高かった。これらの観察結果は、曝露の代替定義を評価し、コホートを制限、操作変数分析を行った感度解析で確認された。

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英語で発表、盛り上がる!【Dr. 中島の 新・徒然草】(447)

四百四十七の段 英語で発表、盛り上がる!ついこないだまで夏だと思っていたら、急に冬が来てしまいました。日本にはもう夏と冬しかないのでしょうか?同じ二季でも春と秋だったらいいのに、と私は思います。さて、私は先週、秋の熊本に行ってきました。国立病院総合医学会という学会に参加するためです。熊本市は、城と大学と病院が近くに集まっている街でした。天気も良かったので、のんびりと路面電車に乗ります。いつの間にか、熊本城ホールや熊本駅に着くのが便利でした。学会では、毎年行われる若手医師フォーラムに、今年もディスカッサントとして参加。若手医師フォーラムというのは、レジデントや研修医が英語で発表するセッションです。症例報告と研究とに分かれて発表します。しかし、単に発表するだけだと盛り上がらないので、点数を付けて表彰することになっていました。また、あらかじめ指名されたディスカッサントが質問したり、コメントしたりします。で、このディスカッサント役に指名されたわけです。最低2演題に対して質問するように、ということでザッと抄録を読んでいきました。本番では皆さんそれぞれに練習してきたのか、かなり上手な英語での発表です。もし、1つアドバイスするとすれば、ゆっくりしゃべることが重要かと思います。というのも、早口で不明瞭な発音だと、大変聞き取りにくくなるからです。英語の上手下手を競っているわけではなく、発表の内容を競っているわけです。発表を評価してもらうためには、まず聴く人に理解してもらわなくては話になりません。日本語アクセントでもいいので、ゆっくりとわかりやすくしゃべるべきですね。次にディスカッサントとしての心得です。読者の皆さまが今回の私のような立場になった時のために、アドバイスを1つ。その場で質問を考えて英語でしゃべるのは、なかなか難しいのが現実。なので、あらかじめ質問を準備していく必要があります。1つの抄録あたり5つぐらいは考えておいたほうがいいでしょう。というのも、抄録に書いてなくても、発表の中で回答が示されてしまうことがあるからです。たとえば今回の演題では、脳外科の脳深部刺激療法がありました。定位的に視床に電極を刺入するのですが、その手術を全身麻酔でやるのか、局所麻酔でやるのか?私はそれを知らなかったので、質問候補にあげていました。もし演者が発表の中で「電極刺入は局所麻酔で行います」などと言ったら、この質問はボツです。そう考えると、準備する質問は5つくらいあったほうが無難ですね。ちなみに電極刺入は局所麻酔、刺激装置の皮下埋め込みは全身麻酔でやるのだそうです。あと、質問は紙に書いておくべきです。スマホにメモしておくという方法もありますが、電子媒体は必ずしも信用できません。やはり、物理的な手段で残しておいたほうが確実です。さて、発表後の点数集計の間、座長の先生が場つなぎの話をされました。英語の大切さについてです。この先生はある時に、楽天の三木谷社長と直接に話をする機会があったそうです。その時に、社内公用語の英語化の功罪について尋ねたのだとか。三木谷社長の答えは、公用語を英語にしたことによって、世界中から人材を集めることができた英語のコミュニケーションといっても、中学レベルで十分だ他から転職してきた人でも、4ヵ月ほどで慣れるとのことでした。社内公用語の英語化は大成功だ、と三木谷社長は考えているようです。いよいよ集計が完了し、症例発表から1演題、研究から1演題が表彰されました。それぞれ豪華な副賞あり!会場には、それぞれ演者の応援団が来ていたので、大変な盛り上がりでした。というわけで、それぞれに頑張った若手医師フォーラム。久々にハッピーな気分になることができました。最後に1句秋深し 路面電車に 身を任せ

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新生児気管挿管、経鼻高流量酸素療法併用で成功率改善/NEJM

 新生児集中治療室(NICU)で気管挿管を行う際、手技実施中に経鼻高流量酸素療法を実施することで、新生児の生理学的不安定性を伴わない初回成功率は、3割強から5割に改善したことが示された。必要治療数(NTT)は6だった。オーストラリア・Royal Women's HospitalのKate A. Hodgson氏らが、新生児202例を対象に行った試験の結果を報告した。これまでに、全身麻酔下の小児や成人では、同処置が酸素飽和低下までの時間を延長することは知られていた。一方で、新生児気管挿管は、複数回施行されることが多く、酸素飽和度が低下する頻度が高く、研究グループは、新生児においても経鼻高流量酸素療法の併用で挿管の初回施行での成功率が改善するかを検討した。NEJM誌2022年4月28日号掲載の報告。末梢血酸素飽和度20%超低下・心拍数100回未満/分のない成功率を比較 研究グループは、オーストラリア2ヵ所の3次医療機関NICUで、経口気管挿管を行う新生児を対象に、手技中に経鼻高流量酸素療法を行う方法(高流量群)と経鼻高流量酸素療法、酸素投与のいずれも実施しない方法(標準療法群)を比較する無作為化比較試験を行った。 被験児を、試験センター、挿管前投薬の有無、最終月経後週齢(28週以下または28週超)で層別化し、高流量群または標準療法群に割り付けた。 主要アウトカムは、新生児の生理学的不安定性(末梢血酸素飽和度の挿管前ベースライン値から絶対値で20%超の低下、または心拍数100回未満/分の徐脈と定義)を伴わない、挿管初回試行での成功とした。生理学的不安定性の有無を問わない初回成功率、高流量群69%、標準療法群54% 主要ITT解析の対象は、202例に対する251件の挿管で、うち高流量群124件、標準療法群127件だった。被験児の挿管時最終月経後週齢中央値は27.9週、体重中央値は920gだった。 生理学的不安定性を伴わない挿管初回試行での成功は、標準療法群では127件中40件(31.5%)だったのに対し、高流量群では124件中62件(50.0%)と、より高率だった(補正後リスク差:17.6ポイント、95%信頼区間[CI]:6.0~29.2)。新生児1例が利益を得るための治療必要数は、6(95%CI:4~17)だった。 生理学的安定性の有無を問わない挿管初回試行での成功率は、標準療法群が54.3%だったのに対し、高流量群は68.5%と高率だった(補正後リスク差:15.8ポイント、95%CI:4.3~27.3)。

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第98回 まだまだ終わらない乳腺外科医わいせつ裁判、最高裁が高裁判決を破棄し差し戻し

欧米諸国で感染防止対策を緩める動き続々こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。気温も上がり、急に春めいて来ました。ヨーロッパでは大変なことが起こっていますが、新型コロナウイルス自体は欧米諸国を中心に収束に向かい始めたようです。2月22日付の日本経済新聞によれば、英国のジョンソン首相は21日、人口の大半を占めるイングランドで感染者の隔離を不要とし、法的な規制を全廃するという新型コロナウイルスとの共生策を発表したとのことです。具体的には、2月24日に感染者の隔離の法的な義務がなくなりました。定期的な接触者の追跡を終了するほか、感染者と接触した場合でも7日連続の検査や隔離をする必要もなくなりました。ヨーロッパ各国では規制撤廃の動きが相次いでおり、例えばスウェーデンでは2月9日から国内での規制がほぼ全廃されているとのことです。同じく2月24日付の日本経済新聞は米国の状況も伝えています。2月22日の新規感染者数は1月中旬のピーク時の10分の1になっており、ワクチンの追加接種やマスク着用の義務づけを取り下げるなど、地方政府で感染防止対策を緩める動きが加速していると報じています。さらに2月27日付の朝日新聞は「米疾病対策センター(CDC)は25日、新型コロナ対策のマスク着用の指針を大幅に緩和した」と報じています。CDCは各地域での感染状況を3段階で評価しており、そのうち低レベル、中間レベルにおいて屋内でのマスク着用が求められなくなったとのことです。対象は米国人口の約7割に上るそうです。翻って日本では、病床使用率の高止まりを背景に、一部都府県でまん延防止等重点措置のさらなる延長が検討されています。思い切った緩和、解除に向かえない理由は多々あると思いますが、3回目ワクチン接種の遅れが一つの大きな原因であることは確かでしょう。塩野義製薬に国産の経口抗ウイルス薬の製造販売承認申請を急がせ、条件付き早期承認制度で承認しようというのも、ワクチン接種の遅れのミスを少しでも挽回したい岸田政権のポーズにしか見えません。ポスト・コロナを見据えてのスピード感や決断力の鈍さは、菅政権から岸田政権に代わってもそうは変わっていないな、と感じる今日このごろです。さて、今回は「第82回 わいせつ裁判で逆転有罪の医師、来年上告審弁論へ。性犯罪厳罰化の中、対応模索の医師・医療機関」でも取り上げた、準強制わいせつ罪で逮捕・起訴され、一審無罪、二審有罪となった男性医師に対する上告審判決公判を取り上げます。2月18日、同公判が最高裁第二小法廷で開かれ、懲役2年を命じた二審・東京高裁判決を破棄し、同高裁に差し戻す判決が出ました。有罪判決の二審では「術後せん妄」と「DNA鑑定」が主な争点この事件の経緯は第82回で詳しく書きましたが、簡単におさらいしておきます。事件は2016年5月に起きました。乳腺外科が専門の男性医師(46)は、働いていた東京都足立区の医療法人財団健和会・柳原病院で、女性の右胸から乳腺腫瘍を摘出する手術を実施。術後に、病室で女性にわいせつな行為をしたとして起訴されました。男性は同年8月に逮捕、105日間勾留されました。起訴事実は、手術後で抗拒不能状態にあり、ベッドに横たわる女性患者に対して、診察の一環と誤信させ、着衣をめくり左乳房を露出させた上で、その左乳首を舐めるなどのわいせつ行為をした、というものです。公判では全身麻酔手術を終えた女性の被害証言の信用性、女性の術後せん妄の有無および程度、女性の体の付着物から被告のDNA型が検出されたとする鑑定結果の信用性が争われました。2019年2月20日の一審・東京地裁判決は、被害を受けたと証言する女性が「(麻酔の影響で)性的幻想を体験していた可能性がある」と指摘。付着物の鑑定結果については「会話時の唾液の飛沫や触診で付着した可能性が排斥できない」として無罪(求刑懲役3年)と結論づけました。これに対し、2020年7月13日の二審・東京高裁判決は真逆の判決となりました。二審では「術後せん妄」が主な争点となり、弁護側、検察側双方が推薦する精神科医2人が証言。結果、高裁判決は女性の証言について、「具体的かつ詳細であり、特に、わいせつ被害を受けて不快感、屈辱感を感じる一方で、医師が患者に対してそのようなことをするはずがないとも思って、気持ちが揺れ動く様子を極めて生々しく述べている。上司に送ったLINEのメッセージの内容とも符合する。A(被害者)の証言は、本件犯行の直接証拠として強い証明力を有する」と判断。付着物を巡る一審の判断についても、手術室での位置関係などの実験結果などから不合理だったとして、一審判決を破棄し、「被害者の精神的、肉体的苦痛は大きい」として逆転有罪、懲役2年を言い渡しました。この2審判決の逆転判決は、医療関係者に大きな衝撃を与え、日本医師会、日本医学会は「控訴審判決は学術的にも問題が多い」と強く非難しました。男性医師は上告、最高裁は2022年1月21日に上告審弁論を開き、2月18日の判決に至りました。最高裁、二審の「せん妄および幻覚があった」ことを否定した判断に疑義今回の判決では、問題となった「被害女性のせん妄および幻覚の有無」について、「検察側専門家の見解は医学的に一般的なものでないことが相当程度うかがわれるにもかかわらず、その見解に基づいて、せん妄に伴う幻覚を体験した可能性を否定した原判決の判断は、そのような可能性があり得るものとした第一審判決の判断の不合理性を適切に指摘しているものとは言えない」とし、二審の「せん妄に伴う幻覚を体験した可能性を否定」した判断に疑義を呈しました。さらに「DNA鑑定の妥当性」については、「高裁において検察官、弁護人から取り調べ請求があったにもかかわらず、高裁は全て却下し、取り調べを行わなかったため、疑問点が解消し尽くされておらず、検査結果の信頼性にはなお不明確な部分が残っていると言わざるを得ない」としました。その上で、「A(患者)の証言の信用性判断において重要となる本件定量検査の結果の信頼性については、これを肯定する方向に働く事情も存在するものの、なお未だ明確でない部分があり、それにもかかわらず、この点について審理を尽くすことなく、Aの証言に本件アミラーゼ鑑定及び本件定量検査の結果等の証拠を総合すれば被告人が公訴事実のとおりのわいせつ行為をしたと認められるとした原判決には、審理不尽の違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するというべきである」とし、東京高裁判決の破棄と差し戻しを裁判官4人全員一致で決定したのです(判決全文は裁判所ウェブサイトで公開されています1))。「一審無罪判決を是認し、検察官の控訴を棄却すべきであった」と弁護団最高裁判決を受け、男性医師の弁護団は2月18日に会見を開きました。弁護士ドットコムニュース等の報道によれば、主任弁護人の高野 隆氏は「最低限、冤罪が確定することを防げた。このことは素直に弁護団一同喜びたい」としつつ、破棄・差し戻しについて「ありえないと考えていた。あまりに微視的で抽象的な議論しかできないようなところを審理させようとしている。なぜこうなったのか理解できない」と疑問を呈したとのことです。この日、弁護団は声明も発表しました。その中で弁護団は「今日の判決は、東京高裁判決の逆転有罪の最大の根拠となった医師(注:検察側証人)の証言が信頼できないことを明確に指摘した。さらに高裁判決が有罪の根拠にしたDNA定量検査の検査結果の信頼性が不十分であることも指摘している。そうであるならば、検察官が有罪の立証に失敗したことはすでに明白であるから、最高裁は一審無罪判決を是認し、検察官の控訴を棄却すべきであった」と主張しています。なお、診療のため出廷できなかった男性医師について高野氏は、「電話で話したところでは、意気消沈している様子ではなく、無罪に向けてさらに裁判を戦うという意欲は十分にある。ご自身は前向きにとらえ、冤罪を晴らすための前進であるという理解をしている」と話したとのことです。DNA抽出液等を警視庁科学捜査研究所はすでに廃棄裁判の舞台は再び東京高裁に戻ることになります。二審における「せん妄に伴う幻覚を体験した可能性を否定」した判断は最高裁でほぼ覆ったわけで、男性医師の無罪がさらに近づいた、とは言えるでしょう。とはいえ、最高裁が「審理が尽くされていない」と指摘したDNA鑑定については、先行き不透明です。DNA抽出液自体や鑑定に用いた基礎データなどを警視庁科学捜査研究所はすでに廃棄してしまっているからです。最高裁が「無罪」判決ではなく「破棄・差し戻し」にせざるを得なかったのは、「DNA鑑定の妥当性」を判断する材料がなかったためと考えられますが、そもそも鑑定に使った試料等がないのでは、再審に向けて証拠を揃えようにもできません。事件が起きてまもなく6年、長期化の様相も呈してきました。差し戻し審が今後どのような展開をたどるのか、注視していきたいと思います。参考1)裁判例結果詳細

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痙攣性発声障害〔SD:Spasmodic dysphonia〕

1 疾患概要■ 概念・定義痙攣性発声障害は、発声器官に器質的異常や運動麻痺を認めない機能性発声障害の1つで、発声時に喉頭筋の不随意的、断続的な収縮により音声障害を来す疾患である。1871年にTraubeが“spastic dysphonia”として初めて報告した。1968年にAronsonらが内転型と外転型の2つの病型に分類して“spasmodic dysphonia”という名称を提唱し、それ以降その名称が用いられている。発声時の声帯筋の筋緊張に関わるフィードバック機構の異常による喉頭の局所性ジストニア(focal dystonia)と考えられている。■ 病因痙攣性発声障害では約12%の患者でジストニアの家族歴がみられ、少なくとも一部の例では遺伝的要因が関与すると考えられている1)。ジストニア関連遺伝子のうちGNAL遺伝子変異の関与が指摘され、GNAL遺伝子変異を認めた例ではfunctional MRIにより前頭頭頂葉皮質の活動が亢進し、小脳の活動が低下していることが示されている。本症の病因は十分には解明されていないが、大脳白質における神経細胞の解剖学的異常、発声に関わる感覚-運動ネットワーク障害、中枢の神経伝達物質であるドーパミンやGABAの代謝異常などの関与が推測されている1)。■ 病型および症状本症は大きく内転型と外転型に分けられる。内転型では発声時に声帯が内転して声門が過閉鎖されることで発声中の呼気流が遮断され、発声時に断続的な声の途切れ、声の詰まり、努力性発声などを呈する。一方、外転型は発声時に声帯が外転して声門が開大することで、断続的な気息性嗄声、声の抜けなどの症状を呈する。いずれの病型においても、スムーズな会話が障害され日常生活上、大きな支障が生じる。■ 疫学筆者らが2013年に行った全国疫学調査などによると、病型別では内転型が90~95%と大部分を占め、男女比は約1:4で女性に多く、年齢は20および30歳代が約60%を占める2)。また、有病率は3.5~7.0人/10万人で、いわゆる希少疾病である。海外と比較するとわが国では女性の比率が高く、発症年齢は低い傾向にある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)数年前まで、国内外を通じて本症の明確な診断基準はなかったが、厚生労働省研究班により2017年に診断基準と重症度分類が作成された。診断基準は必須条件、主要症状、参考となる所見、発声時の所見、治療反応性からなる(表1)3)。主な鑑別疾患は、音声振戦症、過緊張性発声、心因性発声障害、吃音がある。表1 痙攣性発声障害の診断基準(概要)画像を拡大する重症度分類はまず主観的重症度と客観的重症度に分けて評価する(表2)。主観的重症度は、音声障害の自覚度評価法であるVoice Handicap Indexと社会的・心理的支障度(声の障害により社会生活にどの程度の支障があるか)をそれぞれ点数化する。客観的重症度は規定文朗読や自由会話を検者が聞きとって、声の異常度を点数評価する。そして、両者の点数の組み合わせから、疾患の総合的重症度を決定する(表3)3)。表2 主観的および客観的重症度基準画像を拡大する表3 痙攣性発声障害の総合的重症度分類3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 保存的治療1)音声治療内転型痙攣性発声障害は発声時に声門が過閉鎖することによる音声障害であることから、発声時の喉頭筋の緊張を軽減させることで、症状を軽減できる場合がある。具体的な手技として、発声と呼吸のパターンを整えて楽な発声を誘導する腹式発声、喉頭筋の過緊張を軽減するための喉頭リラクゼーション法、高音での発声などがある。ただし、いずれも根本治療ではなく音声治療のみでの効果は限定的である。2)ボツリヌストキシン治療ボツリヌストキシンを喉頭筋に注入することで、筋の異常収縮を抑えて音声症状を改善させる治療法である。侵襲性が少なく奏効率が高いことから、米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会の「嗄声の診療ガイドライン」、わが国における「ジストニア診療ガイドライン」や「音声障害診療ガイドライン」において、本症に対する標準治療と位置付けられている。通常、内転型では輪状甲状間膜経由で甲状披裂筋に、外転型では輪状軟骨外側からのルートで後輪状披裂筋に、筋電図モニター下に投与する(図1)。治療効果は注入の1、2日後より現れ、平均15週間程度持続する。治療に伴う副作用としては、一過性の気息性嗄声や液体嚥下時のむせがある。国内では2018年にA型ボツリヌストキシン(商品名:ボトックス)の適用承認が得られた4)。先進国ではオーストラリアに次いで2ヵ国目である。図1 ボツリヌストキシン治療内転型では輪状甲状間膜経由で、外転型では輪状軟骨外側からのルートでそれぞれ標的筋に投与する。■ 外科的治療内転型痙攣性発声障害に対しては、以下に示す外科的治療があり、近年、適用症例が増えつつある。一方、外転型に対しては有効性が確立された外科的治療はない。1)甲状披裂筋切除術全身麻酔下に経口的に喉頭へアプローチし、声帯上面に切開を加えて責任筋である甲状披裂筋を両側性に鉗除する。手術手技が比較的簡単で皮膚切開を要しないという利点があるが、術後に気息性嗄声がみられる短所がある。2)選択的反回神経内転筋枝切断-再支配手術反回神経の内転筋枝を一旦切断したのちに再支配させる選択的反回神経内転筋枝切断-再支配手術(selective laryngeal adductor denervation-reinnervation surgery)が米国を中心に行われている。手技がやや煩雑でやはり術後に嗄声を来すことが多く、わが国ではあまり行われていない。3)甲状軟骨形成術2型局所麻酔下に甲状軟骨上に皮膚切開を置き、甲状軟骨を正中で縦切開して離断する。離断した軟骨を左右に開大することで、声帯前方を拡げて声帯の過閉鎖が起こらないようにする(図2)。術直後より音声が改善し、長期的にも安定した治療効果が得られることから5)、わが国を中心に手術例が増加しつつある。図2 内転型痙攣性発声障害に対する甲状軟骨形成術2型の模式図甲状軟骨を正中で切開し左右に開大してチタンブリッジにより固定することで、声帯内転による声門の過閉鎖を防止する。4 今後の展望近年の国内外における研究により、本症の病態は明らかになりつつある。また、治療においてもボツリヌストキシン治療や外科的治療の有効性が普及してきた。一方、本症に対する根治的治療法はまだない。発声に関わる中枢へのアプローチによる根治的治療法開発も進められており、今後のさらなる研究の発展が期待される。また、患者は耳鼻咽喉科のみならず、脳神経内科、脳神経外科、心療内科、精神科などさまざまな診療科を受診することが考えられる。本症の認知度はまだ十分とは言えず、早期診断や適切な治療に向けて、これらの診療科の医師や国民に対する啓発活動も望まれる。5 主たる診療科耳鼻咽喉科、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診断・治療に関する情報日本音声言語医学会ホームページ(痙攣性発声障害の診断基準および重症度分類、ボツリヌストキシン治療実施可能施設一覧を掲載)患者会情報SDCP発声障害患者会(痙攣性発声障害を含む発声障害患者さんの交流と情報交換)1)兵頭政光. Clinical Neuroscience. 2020;38:1122-1124.2)Hyodo M, et al. Auris Nasus Larynx. 2021;48:179-184.3)鈴木則宏ほか編. Annual Review 神経 2020. 中外医学社;2020:229-235.4)Hyodo M, et al. Eur J Neurol. 2021;28:1548-1556.5)Sanuki T, et al. Otolaryngol Head Neck Surg. 2017;157: 80-84.公開履歴初回2022年2月21日

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