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第257回 乳腺外科医わいせつ裁判、無罪確定。改めて考える冤罪回避のために医師、医療機関が心掛けるべきこととは

東京高裁、差し戻し控訴審の判決で検察側の控訴を棄却、東京高検は上告断念こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、関東は日曜だけは好天で、テレビで野球ばかり観ているのもなんなので、近所の公園に花見に出かけました。この連載もちょうど丸5年、今回から6年目に入ります。2020年4月1日掲載の、「第1回 医療関係者が医療関係者を『バイ菌』扱いしちゃダメだろ」では、コロナ禍真っ只中にもかかわらず、パンデミックを一瞬忘れたかのような東京・目黒川の花見客の浮かれ具合について、「1~2週間後、東京が危ないかも」と書いたものです。日曜のNHKニュースでは、その目黒川の花見の様子を報道していました。あれから5年、外国人の花見客だらけで大混雑の目黒川の様子を見て、5年の月日の長さと変化の大きさを実感した週末でした。さて今回は、本連載でも幾度か取り上げた、準強制わいせつ罪で逮捕・起訴され、一審無罪、二審有罪となった東京都足立区の医療法人財団健和会・柳原病院の医師・関根 進氏(49)に対する差し戻し控訴審について書いてみたいと思います。3月12日、東京高等裁判所(齊藤 啓昭裁判長)は差し戻し控訴審の判決で、一審の無罪判決について「事実の誤認は認められない」として、検察側の控訴を棄却しました。そして3月25日、東京高等検察庁は関根氏を無罪とした東京高裁判決に対し上告しないと発表しました。これによって、最高裁まで行ったこの事件において関根氏の無罪が確定しました。事件から実に9年、あまりにも長かった裁判がやっと終わりを迎えました。女性の術後せん妄の有無および程度、女性の体の付着物のDNA型の鑑定結果の信用性が争われるこの事件の経緯については、「第82回 わいせつ裁判で逆転有罪の医師、来年上告審弁論へ。性犯罪厳罰化の中、対応模索の医師・医療機関」、「第98回 まだまだ終わらない乳腺外科医わいせつ裁判、最高裁が高裁判決を破棄し差し戻し」でも詳しく書きましたが、改めておさらいしておきます。事件は2016年5月に起きました。乳腺外科が専門の関根氏は、働く柳原病院で、女性の右胸から乳腺腫瘍を摘出する手術を実施。術後に、病室で女性にわいせつな行為をしたとして起訴されました。関根氏は同年8月に逮捕、105日間勾留されました。起訴事実は、手術後で抗拒不能状態にあり、ベッドに横たわる女性患者に対して、診察の一環と誤信させ、着衣をめくり左乳房を露出させた上で、その左乳首を舐めるなどのわいせつ行為をした、というものです。公判では全身麻酔手術を終えた女性の被害証言の信用性、女性の術後せん妄の有無と程度、女性の体の付着物から被告のDNA型が検出されたとする鑑定結果の信用性が争われました。一審無罪、「術後せん妄」が主な争点となった二審は逆転有罪に2019年2月20日の一審・東京地裁判決は、被害を受けたと証言する女性が「(麻酔の影響で)性的幻想を体験していた可能性がある」と指摘。付着物の鑑定結果については「会話時の唾液の飛沫や触診で付着した可能性が排斥できない」として無罪(求刑懲役3年)と結論づけました。これに対し、2020年7月13日の二審・東京高裁判決は真逆の判決となりました。二審では「術後せん妄」が主な争点となり、弁護側、検察側双方が推薦する精神科医2人が証言。結果、高裁判決は女性の証言について、「具体的かつ詳細であり、特に、わいせつ被害を受けて不快感、屈辱感を感じる一方で、医師が患者に対してそのようなことをするはずがないとも思って、気持ちが揺れ動く様子を極めて生々しく述べている。上司に送ったLINEのメッセージの内容とも符合する。A(被害者)の証言は、本件犯行の直接証拠として強い証明力を有する」と判断。付着物を巡る一審の判断についても、手術室での位置関係などの実験結果などから不合理だったとして、一審判決を破棄し、「被害者の精神的、肉体的苦痛は大きい」として逆転有罪、関根氏に懲役2年を言い渡しました。日本医師会、日本医学会は「控訴審判決は学術的にも問題が多い」と強く非難この二審の逆転判決は、医療関係者に大きな衝撃を与え、日本医師会、日本医学会は「控訴審判決は学術的にも問題が多い」として関根氏を守る立場を鮮明に打ち出しました。日本医学会の門田 守人会長(当時)は、「行為に蓋然性がないこと」「せん妄の有無に関する科学的根拠」「検査結果の正確性」の3つの問題点を挙げ、とくに「せん妄」については、今回採用されたと思われる、せん妄状態に関する検察側の証人の意見に対し、その根拠が果たして科学的なものであるのかと指摘、「推測だとしたら許されるものではない」と強く批判しました。関根氏は上告、最高裁は2022年1月21日に上告審弁論を開き、2月18日、懲役2年を命じた二審・東京高裁判決を破棄し、同高裁に差し戻す判決を下しました。最高裁は、せん妄の可能性を否定する根拠とされた専門家の証言について「医学的に一般なものではない」と疑義を呈し、DNA定量検査の信頼性についても、証拠鑑定を行った科学捜査研究所がDNAの増幅曲線や検量図のデータを残していないこと、DNA抽出液を証拠鑑定後に破棄したことなどその手法に問題が多く、「信頼性に不明確な部分がある」と判断しました。それから約3年、東京高裁は3月12日の差し戻し控訴審の判決で、麻酔学や精神医学の知見を踏まえ、女性が麻酔から覚醒する際に術後せん妄に陥り幻覚を体験した可能性を排除できないとするとともに、DNA定量検査についても「結果自体が相当の変動幅を含む可能性を否定できない」と指摘、胸に多量の男性医師のDNAが付着していたとしてもわいせつ行為を証明するには不十分と結論付け、一審の無罪判決を支持、検察側の控訴を棄却しました。そして検察は上告を断念、無罪が確定したのです。「警察と検察は、片方の言い分を過剰に信じ、客観的な物の見方ができない、そして一度決めたら振り返りや修正することのない組織」3月12日付の日経メディカルなどの報道によれば、同日開かれた記者会見で関根氏は、「この裁判の結果については当然であり、何の疑いもないと考えています。警察と検察は、片方の言い分を過剰に信じ、客観的な物の見方ができない、そして一度決めたら振り返りや修正することのない組織だと思いました。まるで戦前の軍隊のようです。これらに私の生活や仕事そして家族を奪われたこと、警察と検察に対して強く憤りを感じます。警察による尾行・不法侵入によるゴミあさり、恫喝。長期間にわたる身柄拘束による日常からの断絶。こうした人権侵害について問題としない裁判所の態度も大きな問題だと感じます。マスコミに対しても疑問を感じます。逮捕後に警察署入り口で待ち構えていたテレビカメラ。中身をよく吟味せずに衝撃度の強い内容を、より視聴者受けするやり方で情報を垂れ流すやり方について、大きな問題であると考えます」と語ったとのことです。「『不当な有罪判決』や『遅すぎる無罪判決』が今後も形を変えて繰り返されることを強く危惧している」と弁護団一方、弁護団は、9年もの年月がかかった要因として、「最大の原因は二審。今日の判決は一審判決を全面的に是認したもの。差し戻し審での証言も多少は吟味されたが、基本的には2020年7月に言い渡すことができた判決だった」と指摘するとともに、「捜査機関は、せん妄の可能性を認識しながらも、再現性の乏しいDNA定量検査により、医師が患者の乳頭を『なめた』と強弁し続けた。DNA抽出液、定量データを破棄し、検査記録の原本まで書き換えた。捜査官は、証拠隠滅罪に問われることもなく、科捜研の閉ざされた検査室では今もあしき慣行が続いている。また、有罪を言い渡した高裁判事は、せん妄に関するでたらめな見解を正しいものとして採用した。DNA定量検査についても、科学の本質を理解せず、『えせ科学』を見分ける能力を欠いていた。差し戻し審も、弁護団の追加実験などの科学的証拠を多数却下し、改ざんされた検査記録の検証を拒んだ。裁判所は、虚心坦懐に真実と向き合う熱意や覚悟が欠けている。(中略)医師は職業上、人体との接触が避けられない。弁護団は、『不当な有罪判決』や『遅すぎる無罪判決』が今後も形を変えて繰り返されることを強く危惧している」と、捜査方法や裁判の問題点を強く批判しました。医師の診察には必ず医療職の同席者を、誤解を受けそうな診察に際しては説明を尽くし同意を取るでは、こうした冤罪の被害者とならないために、医師・医療機関側はどんな対策を取ればいいのでしょうか。そもそも性犯罪は、加害者と被害者の2人のときに起こることが多く、通常の事件と比べ目撃者や証拠が少ないと言われています。結果、裁判は加害者、被害者双方の証言や提出証拠に頼らざるを得ず、その信用性が争点となります。そんな中、近年、裁判所は被害を訴える側の証言を重く見る傾向が強くなっている、という声も聞きます。医師や医療機関は、あらぬ誤解を患者や家族などから受けないような対策を、今まで以上にしっかりと取る必要が出てきています。交通事故では、ドライブレコーダーの活用が一般的になってきましたが、診察室や病室に画像レコーダーを設置することはもちろんできません。ゆえに、現状では、医師の診察には必ず看護師など医療職を同席させる、わいせつ行為の誤解を受けそうな診察に際しては説明を尽くし同意を取る、といった対策がまず基本となるでしょう。医療機関は術中、術後だけでなく広く薬剤によるせん妄への対策をそしてこの事件で特に教訓として指摘されているのが、患者のせん妄対策です。この事件に関して、谷口医院院長の谷口 恭氏は毎日新聞の医療記事サイト、医療プレミアに3月24日「無罪判決まで8年半--「乳腺外科医冤罪事件」はなぜ生まれたか」と題する記事を寄稿、「女性が『ウソ』を言っているわけではないと私は考えています。では、なぜ女性はこのような証言をしたのでしょうか。それは、手術で使用された麻酔薬や鎮静剤のせいです。術後にはこれらが体内に残っているため、意識や記憶が曖昧になり、自分が言ったことや聞いたことを覚えていないことがよくあります。また、手術を受けていなくても、睡眠薬の服用だけで自身の行動や言動を覚えていないことは日常診療でもしばしば経験します」と書くとともに、「医師として私が言いたいことは、『術中や術後に使用される麻酔薬、鎮静剤、鎮痛剤のみならず、外来患者に処方される睡眠薬や抗不安薬、さらには薬局で簡単に買える風邪薬やせき止めでさえも、意識や記憶が曖昧になり、ときには錯乱が生じることもある』ということです」と、広く薬剤によるせん妄に対する注意喚起をしています。なお、3月12日付の日経メディカルなどの報道によれば、同日の記者会見で弁護団も「麻酔科や外科などにとって術後せん妄や覚醒時せん妄は珍しいことではない。しかし、今回のような症例は医師にとってのリスクでもあり、回避するための仕組みが十分だったとは言えない。本件の弁護側証人にも、医療の現場において術後せん妄などの存在を患者にきちんと説明すること、医療者側もリスクとして知っておき予防策を取ることが必要だと証言された先生が複数いた」と、患者がせん妄下における幻覚による被害の訴えをした場合の対策や予防策の必要性を訴えています。2020年度診療報酬改定では、「せん妄ハイリスク患者ケア加算(入院中1回、100点)」も新設されています。医療機関は、本事件のような冤罪を避けるためにも患者のせん妄対策に本腰を入れるべきだと言えるでしょう。

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手術中の強オピオイド鎮痛薬の使用は手術後の疼痛と関連

 手術中に強オピオイド鎮痛薬のレミフェンタニルとスフェンタニルを使用することは、手術後の望ましくない「疼痛経験」と独立して関連することが示された。「疼痛経験」とは、単なる痛みの強度だけでなく、感情的・精神的・認知的な側面を含めた包括的な概念である。ニース・パスツール病院大学病院センター(フランス)のAxel Maurice-Szamburski氏らによるこの研究は、「Regional Anesthesia & Pain Medicine」に2月25日掲載された。 Maurice-Szamburski氏は、「オピオイド鎮痛薬は手術後の疼痛軽減に役立つことがあるが、手術中の使用、特に、強オピオイド鎮痛薬のレミフェンタニルやスフェンタニルの使用は、逆に疼痛を増大させる可能性がある」と述べている。 この研究では、フランスの5カ所の総合教育病院で、全身麻酔下で選択的手術を受けた18〜70歳の成人患者971人(年齢中央値49.6歳、65歳以下88%、男性48%)のデータの二次解析が行われた。対象者の手術前の不安は、アムステルダム術前不安・情報尺度(APAIS)により、また、疼痛、睡眠の質、ウェルビーイングは、手術の前後に視覚アナログ尺度(VAS)を用いて測定されていた。主要評価項目は、手術後1日目にEvaluation du Vecu de l'Anesthesie Generale(EVAN-G)質問票で測定した患者の疼痛経験とし、EVAN-G疼痛次元の25パーセンタイル未満の場合を「不良な疼痛経験」と定義した。手術の種類としては、整形外科または脊椎(37%)、耳鼻咽喉(29%)、消化器(15%)が多かった。 271人(27.9%)が手術後の不良な疼痛経験を報告していた。多変量解析では、手術中のレミフェンタニルとスフェンタニルの使用が、手術後の不良な疼痛経験の独立した予測因子であることが示された。これらの薬剤の使用により不良な疼痛経験が生じるオッズ比は26.96(95%信頼区間2.17〜334.23、P=0.01)と推定された。この結果について研究グループは、「これは、『オピオイド誘発性痛覚過敏』と呼ばれる既知の現象と一致している。高用量のオピオイドにさらされた患者では、痛みの刺激に対する感受性が高まる可能性がある」との見方を示している。 また、米国麻酔科学会(ASA)による全身状態分類であるASA-PS(ASA physical status)分類でクラスIIIに分類される重篤な全身疾患を有すること(オッズ比5.09、95%信頼区間1.19〜21.81、P=0.028)、手術後の抗不安薬の使用(同8.20、2.67〜25.20、P<0.001)、手術後の健忘(同1.58、1.22〜2.06、P=0.001)も、不良な疼痛経験のリスクを高める要因であることが示された。一方、手術前に鎮痛薬を使わないこと(同0.49、0.25〜0.95、P=0.035)と整形外科の手術(同0.29、0.12〜0.69、P=0.005)は不良な疼痛経験のリスクを低下させる要因であった。 研究グループは、「痛みは強さ以外の側面が見落とされがちだが、手術後の急性疼痛が慢性疼痛へ移行するリスクを予測する上ではそれらが非常に重要だ。したがって、不良な疼痛経験の要因を理解することにより、痛みの強度の管理だけにとどまらない、周術期ケアの新たな選択的ターゲットが明らかになる可能性がある」と述べている。

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小児の急性単純性虫垂炎、抗菌薬は切除に非劣性示せず/Lancet

 小児の急性単純性虫垂炎に対する治療について、抗菌薬投与の虫垂切除術に対する非劣性は示されなかった。米国・Children's MercyのShawn D. St. Peter氏らが、カナダ、米国、フィンランド、スウェーデンおよびシンガポールの小児病院11施設で実施した無作為化非盲検並行群間比較試験の結果を報告した。合併症のない虫垂炎に対して、手術治療よりも非手術的治療を支持する文献が増加していることから、研究グループは抗菌薬投与の虫垂切除術に対する非劣性を検討する試験を行った。Lancet誌2025年1月18日号掲載の報告。抗菌薬群vs.虫垂切除術群、1年以内の治療失敗率を比較 研究グループは、X線検査の有無にかかわらず単純性虫垂炎と臨床診断された5~16歳の小児を、抗菌薬群と虫垂切除術群に、性別、試験施設、症状持続時間(48時間以上vs.48時間未満)で層別化し、1対1の割合で無作為に割り付けた。 抗菌薬群では、観察のため入院した患児に、各施設の虫垂炎に対する標準治療に基づき選択した抗菌薬を最低12時間点滴静注にて投与し、通常食を摂食でき疼痛コントロールが良好でバイタルサインが正常範囲内であれば退院可とした。入院翌日に改善がみられない場合は、抗菌薬をさらに1日投与するか虫垂切除術を予定した。退院後は経口のアモキシシリン・クラブラン酸またはシプロフロキサシンおよびメトロニダゾールを10日分処方し、患児がこれらを7日間以上服用した場合に試験完了とした。家族には、1年以内に虫垂炎が再発した場合、虫垂切除術を行うことが事前に説明された。 虫垂切除術群では、輸液と抗菌薬の点滴を開始した後、腹腔鏡下虫垂切除術を行った。穿孔が認められなければ術後の抗菌薬投与は行わず、当日を含み可能な時点で退院とした。 主要アウトカムは、無作為化後1年以内の治療失敗。抗菌薬群では1年以内の虫垂切除、虫垂切除術群では陰性虫垂切除または1年以内の全身麻酔を要する虫垂炎関連合併症と定義した。 非劣性マージンは、治療失敗率の両群間差の90%信頼区間(CI)の上限が20%とした。治療失敗率、抗菌薬群34% vs.虫垂切除術群7% 2016年1月20日~2021年12月3日に9,988例がスクリーニングを受け、978例が登録された。このうち936例が抗菌薬群(477例)または虫垂切除術群(459例)に無作為に割り付けられた。 12ヵ月時点で、主要アウトカムのデータが得られたのは846例(90%)であった。このうち、治療失敗率は抗菌薬群34%(153/452例)、虫垂切除術群7%(28/394例)、群間差は26.7%(90%CI:22.4~30.9)であり、90%CIの上限が20%を超えており、抗菌薬群の非劣性は検証されなかった。 虫垂切除術群の治療失敗例は、1例を除きすべて陰性虫垂切除の患児であった。抗菌薬群で虫垂切除術を受けた患児のうち、13例(8%)は病理所見が正常であった。 いずれの群でも死亡や重篤な有害事象は認められず、抗菌薬群の虫垂切除術群に対する、治療に関連した有害事象発現の相対リスクは4.3(95%CI:2.1~8.7、p<0.0001)であった。

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生きた○○が耳の中に侵入【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第274回

生きた○○が耳の中に侵入タイトルの時点でもう異物論文確定ですが、耳といえばマジかよという異物論文が多いです。耳異物論文史上もっとも衝撃的なのは、耳内ゴキブリの1例でしょう。異物論文専門医の皆さんはもうご存じかもしれませんが、オーストリアのグラーツ医科大学耳鼻咽喉科から、新たな異物論文が報告されました。ゴキブリを上回る衝撃ではないかもしれませんが、紹介させてください。Kiss P, et al.Unusual Foreign Body in the Middle Ear: Surgical Removal of a Live Ant Entering the Tympanic Cavity Through an Ear Drum Perforation.Diagnostics (Basel). 2024 Nov 12;14(22):2530.42歳の女性が、ある日突然のガリガリという耳鳴りと違和感があり、外来を受診したそうです。ずっとガサゴソ鳴っている…。この患者さん、実は以前から鼓膜穿孔があり、穴があいていたそうです。医師が耳鏡で確認したところ、確かに鼓膜の後方部分に楕円形の穴があいており、鼓膜の奥に黒い物体が動いていることが確認されました。もう、ホラーやん!よく観察すると、それは生きたアリでした。いやああああ!でもまぁ、ゴキブリよりマシか。ε-(´∀`*)ホッまずは局所麻酔を用いて異物の摘出が試みられましたが、うまくいきませんでした。そこで患者は入院し、全身麻酔下での内視鏡的手術が行われることとなりました。この手術では、鼓膜の一部を切開し、アリを慎重に摘出するという方法が取られました。幸いにも手術は無事に成功し、患者は翌日には退院しました。その後の経過観察でも症状やアリ侵入の再発はありませんでした。外耳道の虫というのはありがちなマイナーエマージェンシーですが、中耳にまで侵入するケースはまれです。今回のように鼓膜穿孔がある場合には、異物が中耳に到達するリスクが存在しますが、小さな子供の場合、鼓膜そのものを虫が食い破ることもあるため1)、耳鳴りや耳の詰まり感といった症状を軽視せず、早めに医療機関を受診することが重要です。ガサゴソと動く音がするという主訴をみた場合、外耳道や中耳に虫が入っている可能性を考慮ください。ゴキブリでないことを祈りましょう。1)Supiyaphun P, et al. Acute otalgia: a case report of mature termite in the middle ear. Auris Nasus Larynx. 2000 Jan;27(1):77-8.

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カルテの診療記録によく見る間違い【もったいない患者対応】第21回

カルテの診療記録によく見る間違いカルテを見ていると、間違った記載をよく発見します。医師は(あるいは他のコメディカルも含め)、カルテの書き方を体系的に学ぶ機会はありません。医学生時代は医学知識の吸収に学習の大部分を費やし、国家試験に合格して現場に出た途端、見よう見まねでカルテを書くことになるのです。ほとんどの医師が、先輩のカルテを見て、それを真似する形で自分のスタイルを築き上げていると思います。こうした事情もあって、間違った記載法が先輩から後輩へ、気付かれないまま引き継がれているケースがあります。カルテ記載は、医療者間のコミュニケーションを円滑にするうえで重要な情報源ですから、正確な記載を心がける必要があります。ここでは、カルテでよく見る間違い表現を3つ紹介します。番号のついていない「#(ナンバー)」カルテに「#」の記号を使うことがよくあります。これは「ナンバー」と読み、プロブレムリストを列記したいときに「#1、#2、#3……」と後ろに番号をつける形で使います。しかし、これを単なる印として番号をつけず、#. 蜂窩織炎のように書いてしまう例をよく見かけます。「ナンバー」ですから、番号がないとまったく意味が通りません。書いた本人は「・」や「●」のような記号として使っているつもりなのかもしれません。ちなみに、これを「シャープ」だと誤解している人もいますが、シャープは「♯」で、楽譜に使う記号です。五線紙に書いたとき線に重なって見にくくならないよう、横棒が水平ではなくやや斜め右上を向いており、縦棒は垂直になっているのが特徴です。手術で「PEG」?PEGは「Percutaneous Endoscopic Gastrostomy=経皮的内視鏡的胃ろう造設術」の略です。かつて、すべての胃ろうを外科医が開腹手術で造設していた時代がありました(私が医師になる前の話です)。しかし近年は、内視鏡(胃カメラ)の技術が進歩し、全身麻酔下の手術を行わずに、内科医が胃ろうを造設するのが一般的です。この手法を、従来の胃ろう造設術と対比させ、「PEG」」すなわち、“内視鏡的な”胃ろう造設術と呼んでいます(いまでも手術適応となる症例は一部あります)。ところが、近年ではほとんどの胃ろうが内視鏡的に造設されているせいで、胃ろうそのものを「ペグ」と便宜上呼ぶことが多いように思います。そうした影響か、ときどき手術でPEG造設予定というとんでもない誤りを見ることがあります。PEGは、手術ではなく「内視鏡を使った胃ろう造設」だとわざわざ表現している言葉ですから、「“手術”でPEG」は完全に矛盾した表現です。また、「PEG造設」「上腹部にPEGあり」「PEGより経腸栄養剤注入」もよく見ますが、厳密にはこれも正しくはないでしょう。PEG=胃ろう造設術という「術式名」だからです。現場で誤解なく伝われば問題ありませんが、カルテに記載をする以上は誤解を招くことのないよう注意しなければなりません。「do.」は「行う」?「処置do」や「do処方」のように、現状の治療方針を継続するときなどに「do」という言葉が使われます。これを英語の動詞「do(行う)」だと誤解している人がいます。正しくは、イタリア語が起源の英語“ditto”の略で、日本語に訳すと「同上」です。略語なので、「do.」とピリオドをつけるのが正確です。同一語句の省略に用いるときに使う言葉で、記号で表すときは「〃」ですね。発音は[dítou]です。こちらも、誰から教わったわけでもなく、他の医師の見よう見まねで深く考えずに使ってきた言葉ではないでしょうか。意味がわかればいいと言えばそれまでですが、やはり正確な知識はもっておくべきでしょう。

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「クリスマス咳嗽」の理由【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第271回

「クリスマス咳嗽」の理由クリスマスの時期になると、呼吸器内科では喘息や気管支炎の増悪で来院する人が多くなります。年末年始にかけて受診できないと困りますので、早めの軽症の状態で受診しようという理由もあるでしょうが。今日紹介するのは、まさにクリスマス咳嗽の典型ともいえる症例。Carsin A, et al.When Christmas decoration goes hand in hand with bronchial aspiration…Respir Med Case Rep. 2017 Sep 29;22:266-267.2歳2ヵ月の女児が、クリスマスの2日前に、急性の咳嗽と喘鳴を起こしました。かかりつけ医を受診したところ、両側に喘鳴があることを発見し、既往歴として喘息があったことも踏まえ、喘息の急性増悪として対応しました。吸入サルブタモールと経口プレドニゾロンで治療を行いました。しかし、治療開始3週間後も、臨床状態は変わらずの状態。ほかに何か原因があるのではないかと疑い、胸部単純X線検査が行われました。すると、なんと、左主気管支に異物が存在していました。「これは…アレだよね?」というのは誰しもわかるX線写真です。これは…LED電球です!両親によると、そういえばクリスマスツリーの装飾に使っていたLED電球が1つなくなっていたそうです。なんと、女児はLED電球を誤嚥していたのです。―――というわけで、全身麻酔のもと、気管支鏡によってLEDは無事除去されました。クリスマスの時期に誤嚥を起こすと、時期的にも喘息や気管支炎と誤診されやすいので注意が必要、と当該論文の著者は述べています。とくに今回は、喘息の既往があったため、初期治療として吸入β2刺激薬と経口ステロイドが処方されてしまいました。確かにLEDは小さいので、誤嚥しやすいと思います。中国でも右主気管支にLEDを誤嚥した事例が報告されています1)。皆さんも、お子さんのクリスマス咳嗽にはご注意を!1)Lau CT, et al. A light bulb moment: an unusual cause of foreign body aspiration in children. BMJ Case Rep. 2015:2015:bcr2015211452.

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第236回 麻酔薬を巡る2つのトピック(後編) プロポフォール使用の配信番組で麻酔科学会声明、芸人への検査は麻酔不要の「経鼻内視鏡」の不可解

石破首相の知見は要職を降りてから「アップデートされていない」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。自民党、衆院選で大敗しちゃいましたね。テレビに映る石破 茂首相の虚ろな目を見て、せっかくチャンスをもらったのに、総裁選前に自信満々で話していた自身の主張を次々反古にするなど、迷走するリーダーの姿を国民に見せてしまったことも大きな敗因ではないかと感じました。石破首相が誕生した直後、10月5日付の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」は「イシバノミクスはあるか」というタイトルで、今後の経済施策について予想するとともに、石破首相の欠点を鋭く突いていました。同記事は、石破首相が主導する経済政策「イシバノミクス」はないと断言、その理由を「党内非主流派に長く身を置」き、「首相の知見が要職を降りてから『アップデートされていない』ためだ、と霞が関の官僚はみている」と書いています。自ら得意と公言する安保政策(アジア版NATO構想など)ですら非現実的なのに、専門ではない経済・金融政策で新しい施策を打ち出せるわけがない、というわけです。実際、石破首相は、社会保障政策についても深く語ることはなく、やはり「アップデートされていない」感(言い換えれば勉強不足)を強く感じます。今回の総選挙で、紙の健康保険証存続を公約に挙げる立憲民主党が大躍進したことで、社会保障政策の最重要課題の一つである医療DX推進にも暗雲が垂れこめそうです。石破首相(あるいは新首相?)にはその点はぜひアップデートし、自らの頭の中身をDXしていただきたいと思います。配信されたバラエティ番組を麻酔科学会が強く非難さて今回も前回に引き続き、麻酔薬のトピックを取り上げます。日本麻酔科学会が「アナペイン注 7.5mg/mL」の製造所追加の承認取得をホームページで会員に伝えた同じ10月16日、同学会は別件で興味深い理事長声明を出しました。「静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について」1)と題されたその声明は、「10月14日配信開始の番組において、内視鏡クリニックを舞台にプロポフォールが使用され、何らかの外科的処置を必要としない人物を意図的に朦朧状態にするという内容が含まれていることを知り、深い憂慮を抱いております」と、配信されたバラエティ番組で芸能人に対して安易にプロポフォールが使われたことを強く非難しました。このトピックについては、ケアネットの「ニュース批評」、「現場から木曜日」でも倉原 優氏が「第119回 『エンタメ番組でプロポフォール静注』を観た感想」でプロポフォールの内視鏡時の使用の問題点について言及、「日本麻酔科学会が書いているように『麻酔薬をいたずらに使用する行為は、極めて不適切』の一言に尽きます」と書かれていますが、私も実際に配信番組を観て“あること”に気付いたので、若干の補足コメントをしてみたいと思います。「地上波では放送できない企画」をテーマに芸人らが過激な企画に出演まず、経緯を簡単におさらいしておきます。麻酔科学会が問題視したのは、Amazonプライム・ビデオで10月14日から配信が始まった「KILLAH KUTS(キラーカッツ)」という番組の中の1エピソード、「EPISODE2 麻酔ダイイングメッセージ」です。同番組は、「水曜日のダウンタウン」の演出担当として知られる藤井 健太郎氏が手掛け、「地上波では放送できない企画」をテーマに、芸人らが過激な企画に挑むのが売りだそうです。このエピソードでは、「死ぬ瞬間の薄れゆく意識を、麻酔を使えば再現できる」として、みなみかわ、お見送り芸人しんいち、ラランド、モグライダーといった人気芸人らが、被害者役と刑事役に分かれ、病院を訪れた被害者役が院内で事件に巻き込まれ、殺されてしまう、という設定のコントを演じます。被害者役が殺されると、その瞬間、医師が麻酔薬の投与を開始。意識が薄れるなか、被害者役はメモに犯人の情報を残し(いわゆるダイイングメッセージですね)、後から来た刑事役がそれを読んで推理するという設定です。番組を観てみると、被害者役の芸人たち(どちらかというとボケ役が担当)は麻酔薬の投与直後からメモを書き始めるのですが、ほとんどの芸人が犯人の情報を正確に記述することができず、ほどなくして眠りに落ちていました。「麻酔を行う」必然的な理由、エクスキューズを一応は用意制作側も、何らかの非難が起こること(あるいは炎上すること)を想定していたのでしょう。健常人に「麻酔を行う」必然的な理由、エクスキューズを一応は用意していました。番組冒頭でまず、「当番組における麻酔の投与は胃カメラ検査を目的とし、医師による監修のもと安全性に配慮した上で通常の検査で行われる方法と同様に実施しております」というテロップが流れます。さらに番組内では「今回使用するのは、人間ドッグなどで用いられ、注入開始からおよそ1分ほどで意識を失う麻酔。ちなみに、ダイイングメッセージのくだりを終えた後は、実際に胃カメラ検査を実施。あくまで今回のロケは、検査のついでにロケを行わせていただきました」というナレーションも入っています。さらに司会の伊集院 光には番組内で、「あくまで胃カメラ検査をするついでに、麻酔がかかるならこういうこともやってみよう(ということ)。麻酔を悪ふざけとか遊びに使うなんてありえない」とも言わせています。学会は「厳格なガイドラインに従って静脈麻酔薬を適切に管理し、いかなる場合にも不適切な使用を避けるよう強く要請」10月17日付「Smart FLASH」の報道によれば、このエピソードは当初は7日から配信予定でしたが、6日にはAmazonプライム・ビデオの公式Xにて「諸事情により配信日が延期となりました」と発表、ようやく14日に配信されたとのことです。しかし、冒頭で書いたように日本麻酔科学会は配信からわずか2日後の10月16日、理事長名で「静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について」と題する声明を出しました。麻酔科学会は、マイケル・ジャクソンの死亡事故も例に挙げながら、「プロポフォールをはじめとする静脈麻酔薬は、本来、手術や検査時の鎮静を目的に、医師の厳重な管理のもとで使用されるものです。特に、これらの薬剤は呼吸抑制のリスクを伴うため、必ず人工呼吸管理が可能な環境で使用される必要があります。(中略)適切な医療管理が行われない場合、生命に危険を及ぼす可能性があります。したがって、このような麻酔薬をいたずらに使用する行為は、極めて不適切であり、日本麻酔科学会として断じて容認できるものではありません」と強く非難、「麻酔科医ならびに関連する医療従事者には、厳格なガイドラインに従って静脈麻酔薬を適切に管理し、いかなる場合にも不適切な使用を避けるよう強く要請いたします」としています。内視鏡検査時のプロポフォール使用については安全性に疑問も配信番組では「麻酔薬」と言っているのみで「プロポフォール」という単語は出てこないので、番組内の麻酔薬がプロポフォールであると麻酔科学会がどう確定したかは不明です。ひょっとしたら、協力した埼玉市の医療機関(実名で出てきます)に問い合わせたのかもしれません。プロポフォールは、手術時の全身麻酔や術後管理時の鎮静効果が高いことなどメリットも多く、使いやすい麻酔薬との評価がある一方で、ベンゾジアゼピン系薬剤よりも舌が落ち込んだり、血圧が低下したりするような作用が強く、管理は比較的難しいとされています。また、ICUの小児への使用に関連して、2014年に東京女子医大で重大な事故も起こっています(「第30回 東京女子医大麻酔科医6人書類送検、特定機能病院の再承認にも影響か」参照)。そうしたことも、麻酔科学会が配信番組をあえて非難した理由の一つかもしれません。実際、倉原氏が指摘しているように、内視鏡検査時のプロポフォール使用はなかなか難しい問題もあるようです。日本麻酔科学会の「内視鏡治療における鎮静に関するガイドライン」ではその使用が認められている一方で、「プロポフォールによる鎮静が内視鏡室で非麻酔科医によって安全に行えるかどうかは、日本の医療現場や教育体制、現行の医療制度では明言できない」と記載されているとのことです。倉原氏は、「欧米と比較して非麻酔科医によるプロポフォール使用の教育システムが整っていないという指摘があります」と書かれています。使われていた内視鏡は経鼻内視鏡、プロポフォールによる静脈麻酔は必要だったのか?もう1点、この配信番組を観て驚いたのは、使われていた内視鏡が経鼻内視鏡だった点です。最初の“被害者”であるモグライダーのともしげに麻酔がかけられた後、経鼻内視鏡が挿入される場面があります(ほかの“被害者”ではその場面はなし)。咽頭反射が起こらないため通常の内視鏡検査よりも格段にラクな検査です。多くの医療機関で麻酔薬なしか、リドカインによる鼻腔麻酔などで行われている経鼻内視鏡の検査を行うのであれば、そもそもプロポフォールによる静脈麻酔は必要がなかったはずです。番組で伊集院 光は「麻酔を悪ふざけとか遊びに使うなんてありえない」と語っていますが、内視鏡検査が「経鼻」であったことだけでも、「悪ふざけとか遊び」であったと言えるのではないでしょうか。プロポフォールを打たれた芸人たちは、厳重な安全管理の下で麻酔をされたとは言え、不要、あるいは過剰とも言える医療を施されたわけで、その意味では本当の“被害者”だったわけです。それにしても、一番の問題は、この番組がコントとして全然面白くなかったことです。テレビ局のコンプライアンスが厳しくなり、地上波のバラエティ番組では作りたいものが作れない、と芸人がボヤいたりしています。「KILLAH KUTS」も「地上波では放送できない企画」がテーマだそうです。しかし、「コンプライアンスを守らない=過激=面白い」とはなりません。番組視聴のためにわざわざ入会したAmazonプライムの会費を返して欲しいとすら思った一件でした。参考1)静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について/日本麻酔科学会

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GLP-1受容体作動薬が消化管の内視鏡検査に影響か

 上部消化管内視鏡検査(以下、胃カメラ)や大腸内視鏡検査では、患者の胃の中に食べ物が残っていたり腸の中に便が残っていたりすると、医師が首尾よく検査を進められなくなる可能性がある。新たな研究で、患者がオゼンピックやウゴービといった人気の新規肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)を使用している場合、このような事態に陥る可能性の高くなることが明らかになった。米シダーズ・サイナイ病院の内分泌学者で消化器研究者のRuchi Mathur氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月1日掲載された。 GLP-1受容体作動薬には胃残留物の排出を遅延させる作用があり、便秘を引き起こすこともある。このため、この薬の使用者では、全身麻酔を必要とする処置を受ける際に食べ物を「誤嚥」するリスクが増加する可能性のあることが指摘されている。Mathur氏らは、GLP-1受容体作動薬使用者では消化管に残留物が見られることがあり、それが内視鏡検査で鮮明な画像を得る上で障害になる可能性があると考えた。 そこでMathur氏らは、2023年1月1日から6月28日の間に胃カメラか大腸内視鏡検査、またはその両方を受けた過体重または肥満の患者209人のデータを後ろ向きに解析した。209人中70人がGLP-1受容体作動薬使用者(GLP-1群、平均年齢62.7歳、女性36人)、残りの139人は非使用者(対照群、平均年齢62.7歳、女性36人)であった。胃カメラのみを受けたのはGLP-1群23人、対照群46人、大腸内視鏡検査のみを受けたのはGLP-1群23人、対照群45人、両方の検査を受けたのはGLP-1群24人、対照群48人だった。 胃カメラのみを受けた対象者のうち胃残留物が認められた者の割合は、GLP-1群で17.4%(4人)であった。これに対し、対照群と、胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者で、胃残留物が認められた対象者はいなかった。 また、大腸内視鏡検査または胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者のうち、「腸管の準備が不十分」(便が残存しているなど腸管洗浄が不十分な状態)であった者の割合は、GLP-1群で21.3%(10/47人)に上ったのに対し、対照群では6.5%(6/93人)であった。 ただし、研究グループは良い知らせとして、GLP-1受容体作動薬使用の有無に関係なく、対象患者において誤嚥、呼吸困難、誤嚥性肺炎は発生しなかったことを挙げている。 それでも研究グループは、「胃や腸に食物や便が残留するリスクの上昇は憂慮すべきことだ」と注意を促す。なぜなら、そのような状態での内視鏡検査は、「病変の見逃しや患者の不満、処置のキャンセル、医療資源の浪費といった重大なリスク」をもたらすからだという。 研究グループは、「本研究結果は、内視鏡検査前のGLP-1受容体作動薬の使用に関するガイドラインの更新が必要かどうかを判断するために、さらなる研究が必要であることを示唆するものだ」との見方を示している。

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患者負担を軽減する世界初の肺胞蛋白症治療薬/ノーベルファーマ

 ノーベルファーマは、世界初の肺胞蛋白症治療薬サルグラモスチム(商品名:サルグマリン吸入用250μg)について本社でプレスセミナーを開催した。 肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)は、酸素と二酸化炭素をガス交換する肺胞に蛋白様物質が貯留する希少疾患の総称。酸素と二酸化炭素の交換ができなくなり、うまく酸素が体に取り込めなくなるため、呼吸困難、咳や痰、発熱、体重減少などの症状がある。PAPのうち、免疫細胞の過剰産出に起因する自己免疫性PAPが90%を占め、国内に約730~770例の患者が推定されている。 従来の治療法では、全身麻酔下で老廃物を洗い出す区域肺洗浄か全肺洗浄のみであり、患者の身体的負担、治療時間、限定された専門施設など治療上の課題があった。 サルグラモスチムは、肺胞マクロファージに直接作用し、成熟を促すことで、老廃物の分解を促進する薬剤であり、患者にとって新たな治療の選択肢となる。自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)と先天性肺胞蛋白症(CPAP)は2015年に指定難病の指定を受けている。 セミナーでは、サルグラモスチムの特徴、効果の実際、治療を受けての患者の感想などが説明された。患者を全身麻酔下の治療から解放する画期的治療法 「世界初の自己免疫性肺胞蛋白症に対する薬物療法-サルグマリン吸入療法の何処が画期的なのか?-将来の展望」をテーマに中田 光氏(新潟大学医歯学総合病院高度医療開発センター先進医療開拓分野 特任教授)が、PAPの診療、サルグラモスチムの特性と従来の治療との違い、今後の展望などを説明した。 PAPとは、老廃物がゆっくりと肺胞を埋め尽くす疾患で、年間発症200例程度あるが、呼吸器の専門医ではよく知られている疾患。肺胞腔内に溜まるサーファクタント由来の老廃物は、血漿や肺由来のタンパク質、リン脂質、コレステロールなどであり、中でもタンパク質が多く溜まることから本症の名前が付いたとされる。 APAPの病因は、患者の肺にある抗GM-CSF自己抗体であり、肺胞マクロファージの成熟を阻害することで発生するとされている。 症状としては、相当呼吸が苦しくなるというものではなく、正常に呼吸できるときとそうでないときがまばらに生じ、病状が進行すると酸素の取り込みができず呼吸が重くなり、酸素の供給量を増やしても改善されない。 今回承認されたサルグラモスチム(GM-CSF)は、顆粒状マクロファージコロニー刺激因子の人工タンパク(分子量は15,000)で、吸入器を使用して細かい霧を口腔から吸う治療薬で、吸入器から出る粒子は3~5ミクロンの大きさとなる。 薬効機序として、肺胞に到達後、一部は自己抗体に結合するほか、肺胞マクロファージ受容体にたどり着き、機能を賦活化する仕組みで、細胞表面の受容体に結合することで、細胞増殖や成熟、機能維持に効果を発揮する。 また、サルグラモスチムが画期的な治療薬であることから、画期性加算の対象となった。その理由として、既存の治療では、全身麻酔下で10~20Lの生理食塩水で肺の洗浄をするしかなかった治療から吸入だけで肺の老廃物の処理、呼吸機能の改善が期待できること、APAPで肺胞機能が改善された世界初の治療薬であること、広い安全性を有し、通常の使用量を超える量でも安全性が確認されていることが挙げられている。 最後に中田氏は、「サルグラモスチムがマクロファージや好中球などの機能を高め、生体防御に貢献している働きから緑膿菌感染症、肺MAC症、ウイルス性肺炎、肺アスペルギルス症などにも適用拡大ができる可能性がある」と展望を語り、説明を終えた。肺活量が落ちる前に積極的にGM-CSF吸入療法の使用を 「自己免疫性肺胞蛋白症の克服に向けて-GM-CSF吸入療法の重要性」をテーマに石井 晴之氏(杏林大学医学部呼吸器内科 主任教授)が、サルグラモスチムの概要や効果について説明した。 初めに自験例のAPAPの症例を示し、酸素がうまく肺に取り入れないことで予後が悪いと窒息死することを説明。最近では新型コロナウイルス感染症との鑑別診断が難しいという。『肺胞蛋白症診療ガイドライン2022』では、3段階の重症度に合わせた治療指針が示されている。 重症度(DSS)と治療は以下のとおりである。・軽症:DSS1、2/動脈血酸素分圧はPaO2≧70→治療は慎重な経過観察・中等症:DSS3/動脈血酸素分圧は70>PaO2≧60→治療は対症療法(去痰薬、鎮咳薬など)またはサルグラモスチム吸入療法・重症:DSS4/動脈血酸素分圧は60>PaO2≧50DSS5/動脈血酸素分圧は50>PaO2→治療は区域洗浄、対症療法、長期酸素療法、サルグラモスチム吸入療法 今回発売されたサルグラモスチム吸入療法では、1日250μg(1バイアル)を12回(24週間)繰り返して治療を行う(吸入は3秒周期で吸気・息止・呼気を繰り返す)。そして、その効果については、プラセボと比較し、有意に肺の酸素化の改善を示し、肺CT所見以外でもLDH、KL-6、SP-Aも有意に改善していた1)。 また、先に講演した中田氏らが実施した特定臨床研究PAGEIIにも触れ、最重症例を含めた30例について、ベースラインから24週にわたる肺胞気動脈血酸素分圧較差の変化をみたところ、サルグラモスチム吸入療法により標準偏差で平均-12.8mmHg±10.7mmHg下がったという2)。 安全面については、副作用として赤血球・白血球の増多、咳嗽、発声障害、頭痛、尿中陽性などが報告されたが重篤なものはなかった。 最後に石井氏はまとめとして「世界初の承認された薬物療法であり、重症度3~5には積極的に導入すべきであること、肺活量が落ちると効果が下がるので%VCが80%未満の拘束性換気障害を呈する前に導入すべきであること、そして患者さんには禁煙の重要性を指導すべきである」と4項目を挙げ、説明を終えた。GM-CSF吸入療法をしてわかった患者目線の吸入時のポイント APAPの患者として小林 剛志氏(日本肺胞蛋白症患者会 代表)が、「GM-CSF製剤吸入療法の経験談 未来に向けての願い」をテーマに、現在進行形の実体験を語った。 小林氏は、医療機関に勤務する臨床工学技士であり、医学の知識がある。症状は2006年ごろに運動時の息切れ、運動パフォーマンスの低下から始まり、約4ヵ月後にPAPと確定診断されたという。 当初、治療では、全身麻酔下での肺洗浄が行われていたが、2008年からGM-CSF吸入療法を開始した。途中1回の両肺洗浄(2012年)を経て、継続している。吸入治療を経験し、小林氏が気付いたこととして、吸入に際しては「毎日30分吸入」、「臥位で吸入」、「腹式呼吸→胸式呼吸の順」という3点がしっかりと吸入できると提案した。 おわりに小林氏は、患者がもつ本症への不安として「患者ならば誰でも処方してもらえるのか、治療を受けられる施設(現在12程度施設)は今後広がるのか、GM-CSF吸入療法が有効でない場合の対応などがある」と示唆し、今後の患者の願いとして薬剤の冷蔵保管、調剤の煩雑さ、吸入器具の清潔、薬価などの課題解決への期待を寄せた。

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高齢の心臓手術患者、脳波ガイド下麻酔は術後せん妄を抑制せず/JAMA

 心臓手術を受ける高齢患者において、脳電図(EEG)ガイド下で脳波の抑制(suppression)を最小限にして行う麻酔投与は、通常ケアと比較して術後せん妄の発生を抑制しなかった。カナダ・モントリオール大学のAlain Deschamps氏らCanadian Perioperative Anesthesia Clinical Trials Groupが「Electroencephalographic Guidance of Anesthesia to Alleviate Geriatric Syndromes(ENGAGES)試験」の結果を報告した。術中の脳波の抑制は、全身麻酔の投与量が過剰であることを示唆するとともに、術後せん妄と関連することが先行研究で示されていた。JAMA誌2024年7月9日号掲載の報告。カナダの4病院で無作為化試験、通常ケアと比較 研究グループは、心臓手術を受ける高齢患者において、脳波の抑制を最小限にして行うEEGガイド下麻酔投与が、術後せん妄の発生を低減するかについて、多施設共同実臨床評価者患者盲検無作為化試験を行った。 2016年12月~2022年2月に、カナダの4病院で心臓手術を受ける60歳以上の高齢患者を募り、EEGガイド下麻酔投与群または通常ケア群に1対1の割合(病院で層別化)で割り付けた。追跡調査は2023年2月まで行った。 術中に麻酔薬濃度と脳波抑制時間を測定。主要アウトカムは、術後1~5日目のせん妄とし、副次アウトカムはICU入室期間、入院期間などとした。重篤な有害事象として、術中覚醒、合併症(大出血、脳卒中、胸骨創感染など)、30日死亡などを評価した。術後1~5日目のせん妄、EEGガイド下群18.15%、通常ケア群18.10% 患者1,140例(年齢中央値70歳[四分位範囲[IQR]:65~75]、女性282例[24.7%])が無作為化され(EEGガイド下群567例、通常ケア群573例)、1,131例(99.2%)が主要アウトカムの評価を受けた。 術後1~5日目のせん妄の発生は、EEGガイド下群102/562例(18.15%)、通常ケア群103/569例(18.10%)であった(群間差:0.05%、95%信頼区間[CI]:-4.57~4.67)。 EEGガイド下群は通常ケア群と比較して、揮発性麻酔薬の最小肺胞濃度中央値が0.14(95%CI:0.13~0.15)低く(0.66 vs.0.80)、EEGに基づく脳波抑制の総時間中央値が7.7分(95%CI:4.7~10.6)短かった。 ICU入室期間中央値に、有意な群間差はなかった(群間差:0日、95%CI:-0.31~0.31)。入院期間中央値についても有意な群間差はなかった(群間差:0日、95%CI:-0.94~0.94)。 術中に覚醒した患者はいなかった。合併症はEEGガイド下群64/567例(11.3%)、通常ケア群73/573例(12.7%)に、また30日死亡は8/567例(1.4%)、通常ケア群13/573例(2.3%)に発生した。

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【GET!ザ・トレンド】重症COPDの新治療「気管支バルブ治療」病診連携で普及を

重症COPDに気管支鏡的肺容量減量術(Bronchoscopic Lung Volume Reduction、BLVR)という新たな治療法が2023年12月に保険適用になった。重症COPD患者に希望をもたらす治療として注目される。市販後調査として実際にBLVRを施行しているNHO近畿中央呼吸器センターの田宮朗裕氏に聞いた。水面下に潜んでいる「症状緩和・機能改善が行えない重症COPD患者」COPDは世界の死因の第3位で年間323万人が死亡する1)。日本では40歳以上の8.6%、530万人以上がCOPDと推定されている2)。そのうち、きわめて高度な気流閉塞を有する患者(GOLD IV期)は11%、自覚症状が多く急性増悪のリスクが高い患者(GroupD)は10%との報告がある3)。重症COPDに対しては薬物療法、呼吸リハビリテーション、必要に応じた在宅酸素療法(HOT)、さらに肺容量減量手術、肺移植が治療選択肢となる。ただし、肺容量減量手術、肺移植については現在、日本ではほとんど行われていない。つまり、HOTなどの対症療法をしているものの、十分な症状緩和・機能改善が行えない重症COPD(根治的治療がCOPDにほぼないため)が水面下に潜んでいることになる。重症COPDの新治療BLVRとは?田宮氏によれば、重症COPDでは「家での軽い労作でも動けず買い物にも出られない方、ある程度呼吸機能はあっても非常に強い息切れによる生活への支障を訴える方」も少なくないという。さらに「肺機能が悪いとCOPDの急性増悪が非常に厳しくなる」と付け加える。そのような中、2023年12月に重症COPDに対する初のBLVRとして、Zephyr気管支バルブシステムが国内承認された。気管支バルブ治療は、気管支鏡を用いて一方弁の気管支バルブを治療対象の肺葉につながる気管支に留置して、肺葉を無気肺にさせ、肺の過膨張が原因で平坦化していた横隔膜運動を適正化させ呼吸機能を改善させる治療法だ。内科的治療では症状改善がみられない重症COPDに症状の改善をもたらす初の気管支内視鏡治療として注目されている。「体に傷を入れることなく、綺麗な部位を残すことで重症COPDの呼吸機能が改善している。非常に小さなサイズの中にシンプルな一方弁機能を実現した技術は素晴らしい」と田宮氏は評価する。Zephyr気管支バルブは25ヵ国以上で発売され、4万人超の治療患者に留置された実績を持つ。欧州では2003年に、米国ではブレークスルーデバイスに指定され2018年に発売されている。長年の海外での使用実績をもとに的確な患者選択や側副換気の評価によって、より効果を示す可能性のある患者を抽出できるようになった。また、気胸の発生に注意が置かれるようになり、発生時に迅速に対応できるよう準備が変わった。「全世界の開発者と医療者がさまざまな工夫を重ねた中の最終形で日本に来ている。美味しいところ取りしているようだ」と田宮氏は言う。多数のエビデンスが証明するZephyr気管支バルブの有効性Zephyr気管支バルブは重症COPDに対する複数の無作為化比較試験で標準治療単独と比べ、呼吸機能(FEV1)、運動機能(6分間歩行)、症状、QOL(St.George's Respiratory Questionnaire, SGRQ)、慢性COPDの生存期間予測指標であるBODE指数*について有意な改善を認めている。代表的な試験は不均一な肺気腫患者を対象としたLIBERATE試験4)と均一な肺気腫患者を対象としたIMPACT試験5)であり、両試験とも主要評価項目を有意に改善した。いずれも高度な気流閉塞(%FEV1 15~45%)を有するCOPD患者が対象である。「不均一な肺気腫でも均一な肺気腫でもしっかり結果が出た。これらの結果から肺容量を減量して残された肺がしっかり伸縮できるようになると、呼吸機能もQOLも改善することが確信できた。動いたあと“はあはあ”しているのに、息が吐けずに空気が溜まっていく一方という状態は非常に辛いもの。それが緩和されることはすばらしい」、さらに「片肺の過膨張を改善することで、もう一方の肺にも余裕ができる可能性もある」と評価する。また、LIBERATE試験の主要評価項目である「ベースラインからFEV1(L)が15%以上改善した患者」がZephyr気管支バルブ群で有意に多かった(群間差31%)という結果について「全体集団の差が30%を超えるのは素晴らしい。しかし、全ての患者に効くというわけではない。逆に考えれば、効く人には非常に高い効果が期待できるということ。患者の選定は重要なポイント」と述べた。Zephyr気管支バルブは日本での市販後調査による140例の症例収集が課せられている。現在は15施設だが、将来的には20施設まで増やす予定である。* BODE指数:Body mass index(BMI)、airflow Obstruction(気道閉塞度)、Dyspnea(呼吸困難)、Exercise capacity(運動能力)により算出され、慢性COPDの生存期間予測に用いられる指数。事前準備から術後フォローまで入念に設計された手技工程Zephyr気管支バルブによるBLVRを実施するには、外科治療を除く全ての治療法が実施されていることを確認し、術前にボディボックス、スパイロメーターによる呼吸機能精査を行い、6分間歩行距離、呼吸困難を評価する。さらに、CT解析システムによる気腫病変、肺葉間裂の確認、治療対象となる肺葉の選定を行う6)。施術当日も専用のChartis肺機能評価システムで留置部位の側副換気(肺葉間裂の完全性確認)を再確認する。そして、全身麻酔またはセデーション下で(NHO近畿中央呼吸器センターはセデーション)、専用のローディングシステムとデリバリーカテーテルで気管支鏡を用いてターゲットとなる気管支にバルブを留置する。「デバイスが精巧にできているので手技自体はシンプルだが、気管支の位置によって難易度が高くなる。研修による技術習得は欠かせない」と田宮氏は言う。合併症として気胸、COPDの増悪、感染症などのリスクがあるので、気管支バルブ留置後も呼吸器内科、呼吸器外科が協力して診療にあたる。気胸の8割が術後4日以内に起こることもあり、術後は手術日を含め4日入院し、術直後と24時間毎に退院まで検査する。退院後も45日、3、6、12ヵ月後の定期検査が設定されている。なお、Zephyr気管支バルブは抜去・交換が可能で、術後の位置ずれが起きた場合も修正できる。画像を拡大するZephyr気管支バルブの径は4.0mmと5.5mmの2種類。それぞれレギュラーとショートタイプがあり、計4種類のバルブで異なる気管支形状に対応画像提供:パルモニクスジャパン(株)画像を拡大する専用デリバリーカテーテルで気管支鏡を用いてターゲットとなる気管支にバルブを留置する画像提供:パルモニクスジャパン(株)画像を拡大する画像を拡大する病診連携で重症COPD患者をレスキュー薬物療法、呼吸リハビリテーション、HOTを行いながらも手の施しようがない重症COPDは相当数いるのではないかと田宮氏は言う。高度な呼吸機能検査ができない施設では、mMRC質問票のGrade2以上、スパイロメーターで1秒率45%以下がBLVR適用の目安である。「BLVRは酸素を吸ってもどうにもならないという状態になる前にレスキューできる治療法。この治療に適用があるかはスクリーニングしてみないとわからない。(mMRC2以上の)症状があってこの治療に興味を示す患者さんがいれば、どんどん紹介していただきたい。ボディボックスなど精密な検査、治療、術後定期検査は当方で行った上で、吸入薬、HOTの管理などはかかりつけの先生にお任せしたい」と田宮氏はいう。治療方法が見つからない重症COPD患者に希望をもたらす新たな治療BLVRが普及していくには、専門施設とかかりつけ医の協同が欠かせないようだ。参考1)日本WHO協会2)NICE study3)Oishi K et, al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2018:13:3901-3907.4)Criner GA et,al.Am J Respir Crit Care Med.2018;198:1151-1164.5)Valipour A et, al.Am J Respir Crit Care Med.2016;194:1073-1082.6)呼吸器学会 重症COPDに使用する気管支バルブの適正使用指針気管支バルブ治療情報サイト(pulmonx社)Zephyr気管支バルブ製品ページ(pulmonx社)(ケアネット 細田 雅之)

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手術前でもGLP-1受容体作動薬の使用は安全?

 オゼンピックやウゴービなどのGLP-1受容体作動薬を使用している患者が、全身麻酔や鎮静を伴う手術の前に同薬を使用すると、胃の中の残存物を手術中に誤嚥し、窒息する危険性があるとして、手術前に同薬を使用することの安全性に対する懸念が高まりつつある。こうした中、そのような危険性はないことを明らかにしたシステマティックレビューとメタアナリシスの結果が報告された。この研究では、GLP-1受容体作動薬使用患者における胃排出の遅延は36分程度であり、手術中に危険をもたらすほどではないことが示されたという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のWalter Chan氏らによるこの研究結果は、「The American Journal of Gastroenterology」6月号に掲載された。 Chan氏は、「GLP-1受容体作動薬は消化管の運動(胃の蠕動運動)に影響を及ぼすものの、その影響力は、これまで考えられていたほど大きくはない可能性がある」と述べ、「誤嚥の潜在的なリスクを最小化するために、麻酔や鎮静が必要な手術・処置の前の1日間は固形食を控えるなどの軽微な予防策を講じれば、GLP-1受容体作動薬の使用を続けても安全性に問題はないように思われる」と述べている。 研究グループは、手術前のGLP-1受容体作動薬の使用に関するガイドラインはまちまちだと指摘する。米国麻酔科学会(ASA)は、患者は選択的手術や処置の前には、最長で1週間、GLP-1受容体作動薬の使用を中止するよう推奨している。一方、米国消化器病学会(AGA)は、固形食の摂取を控えるなどの標準的な術前予防措置を講じた上で予定通りの手術を行うことを勧めている。このように、GLP-1受容体作動薬使用患者の周術期のケアについては統一見解が得られておらず、また確定的なデータも欠如しているのが現状である。 Chan氏らは今回、胃排出能を測定した15件のランダム化比較試験(RCT)のデータを解析した。これらのRCTのうち、胃排出シンチグラフィーにより胃排出能が評価されていた5件のRCT(解析対象者247人)を対象に解析した結果、胃内容物が半減するまでの時間(平均)は、GLP-1受容体作動薬群で138.4分であったのに対し、プラセボ群では95.0分であり、統合された平均差は36.0分であることが明らかになった。一方、残りの10件のRCT(解析対象者411人)ではアセトアミノフェン法を用いて胃排出能の評価を行っていた。これらのRCTを対象にした解析でも、アセトアミノフェンの薬物動態のパラメーター〔血中濃度が最大に達するまでの時間(Tmax)、4時間後および5時間後の薬物血中濃度時間曲線下面積(AUC)〕について、GLP-1受容体作動薬群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった。また、胃排出の遅延が原因で「肺誤嚥を経験した研究参加者はいなかった」と研究グループはブリガム・アンド・ウイメンズ病院のニュースリリースで説明している。 研究論文の筆頭著者である同病院のBrent Hiramoto氏は、「本研究結果に基づき、内視鏡的処置を受けるGLP-1受容体作動薬使用者に対しては、ガイドラインの内容を、『GLP-1受容体作動薬による治療を継続し、手術の前日には流動食のみを摂取し、麻酔を伴う手術前の絶食に関する標準的な指針に従うべきである』という内容に更新することを勧めたい。固形食の摂取に関するより多くのデータが得られるまでは、治療を継続しながら流動食を取るという保守的なアプローチが望ましい」と述べている。

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英語で「絶飲食」は?【1分★医療英語】第136回

第136回 英語で「絶飲食」は?《例文》患者 I am hungry, Can I eat something?(おなかがすいたのですが、何か食べてもいいですか?)看護師The doctor instructed you to be on NPO for the procedure this afternoon.(この午後の検査のために、医師から絶飲食の指示がありました)《解説》今回は“NPO”という表現の解説です。元々はラテン語で“nil per os”を指し、英語では“nothing by mouth”が同じ意味になります。直訳では「口から何も入れない」つまり「絶飲食」という意味です。米国の医療現場ではこれを略した“NPO”(エヌピーオー)という用語を頻繁に使います。手術、全身麻酔の前や経口摂取が困難で輸液のみで管理したいときに、「“NPO”にしましょう」というように使われます。「彼は絶飲食です」と伝えたいときには、“He is on NPO”というように“on”を用います。補足ですが、《例文》の“procedure”という単語は、医療の領域においては広く「手技を用いるもの」全般を指します。ですので、胃カメラ、生検、手術などは全部“procedure”で表すことが可能です。講師紹介

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超音波とMRIによる新治療法が前立腺がん治療に革命を起こす?

 従来の放射線療法と手術ではなく、MRIと超音波を用いた侵襲性の極めて低い新たな治療法(タルサ治療)が、前立腺がんを効果的に治療することを示した研究結果が報告された。この治療を受けた患者の76%は、1年後の追跡生検でがん細胞が見つからなかったという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デイビッド・ゲフィン医学部放射線科、泌尿器科、外科分野教授のSteven Raman氏らによるこの研究結果は、インターベンショナルラジオロジー学会(SIR 2024、3月23〜28日、米ソルトレークシティ)で発表された。 タルサ治療(transurethral ultrasound ablation;TULSA)は、尿道から細いカテーテルのような器具を挿入して、MRIガイド下で病変部の位置を正確に見極めながら超音波による加熱治療を行うもの。MRIで前立腺内部の温度を確認しながら、前立腺を取り囲む感覚神経への影響を抑える一方で治療が必要な組織にはがんが死滅する55度以上にまで超音波の出力を高めることができる。 この研究では、前立腺がんの男性115人が5カ国、13カ所の病院で募集され、タルサ治療が行われた。タルサ治療は、外来施設で全身麻酔または脊椎麻酔を用いて実施可能で、所要時間は2〜3時間だという。 その結果、タルサ治療によりがん細胞は減少するか消失し、前立腺が縮小し、前立腺特異抗原(PSA)値が低下したことが示された。治療から1年後の追跡調査時に、76%の対象者でがんが検出されず、1年以内に前立腺のサイズは92%縮小し、5年後にはPSA値が基準値レベルにまで低下した(6.3ng/mL→0.63ng/mL)。また、この治療法は前立腺がんの他の治療法に比べて副作用が少ないことも示された。治療から5年後に、男性の92%が膀胱の働きをコントロールでき、87%が良好な勃起機能を有していた。失禁と勃起不全は前立腺がんの手術後に生じる一般的な副作用である。 Raman氏は、「タルサ治療は、がん細胞を死滅させる能力を最大化する一方で前立腺への副次的なダメージを最小限に抑えながら、前立腺がん治療において最も重要な三要素である、局所的ながんの完全制御、尿失禁の回避、性機能の維持を達成することが可能だ」と述べ、この治療法が前立腺全体に対する治療における革命であると主張している。同氏は、「前立腺がんは男性に最も多いがんであり、生涯に8人に1人が罹患する。さらなる研究が必要ではあるが、今後、有効性と安全性が確認されれば、この治療法が何千人もの前立腺がん患者に対する標準治療を変える可能性がある」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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8人に1人の高齢者が手術後1カ月以内に再入院か

 全身麻酔を要する大手術を受けた高齢者のほぼ8人に1人(12%)が手術後30日以内に、また4分の1以上(28%)が半年以内に再入院していると推定されることが、新たな研究で明らかにされた。フレイル状態の人や認知症の人での再入院リスクはさらに高かったという。米イェール大学医学部外科分野准教授のRobert Becher氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に2月28日掲載された。 この研究では、National Health and Aging Trends Study(NHATS)に参加した65歳以上のメディケア受給者のデータを用いて、大手術後30日以内と180日以内の再入院率が推定された。大手術は、全身麻酔を用いて手術室で行われる、非経皮的かつ非内視鏡的な侵襲的手術と定義し、手術部位により6つのカテゴリー〔筋骨格系、腹部(消化器も含む)、血管、脳神経、心胸部、その他〕に分類した。NHATS参加者のうち、1,477人(平均年齢79.5歳、女性56%)が2011年から2018年の間に総計1,780件(全国レベルでは955万6,171件)の大手術を受けていた。 解析の結果、大手術を受けた65歳以上の高齢患者では、11.6%が手術後30日以内に、27.6%が手術後180日以内に再入院していると推定された。大手術後180日以内の再入院率は、90歳以上の患者(36.8%)、血管に関わる大手術を受けた患者(45.8%)、フレイル状態の患者(36.9%)、ほぼ確実に(probable)認知症である患者(39.0%)で顕著に高かった。同リスクは、フレイル状態の患者でフレイル状態でない患者の2.29倍、ほぼ確実に認知症である患者で認知症ではない患者の1.58倍と推定された。 Becher氏は、「このような高い再入院率は、手術が高齢者の自立を失わせるリスクを高めることを示している」と指摘する。同氏は、米国の高齢者人口が増加するにつれて、大手術を受ける高齢者の数も増加するとの見通しを示す。そして、「複数の疾患を抱えている高齢患者にとって最も重要な転帰は自立と機能の維持だが、大手術後の再入院はそれらに悪影響を及ぼすことが分かっている」と述べている。 一方、論文の共著者であるイェール大学老年医学分野教授のThomas Gill氏は、「これらの結果は、大手術前に高齢患者のフレイルや認知症の有無を考慮する重要性を示すものだ」と話す。そして、フレイルや認知症の存在が、手術後の高齢者の回復に対する「患者や家族の期待や手術の意思決定に影響を与える可能性がある」との見方を示している。 研究グループはさらに、再入院が高齢者の自立を脅かすだけでなく、米国の医療制度に大きな負担をかけていることにも言及し、再入院費は2018年だけで総額500億ドル(1ドル148円換算で7兆4000万円)以上に上り、その一因は退院後30日以内に発生した約380万件の再入院であると説明している。 研究者らは今後、なぜ米国ではフレイル状態の高齢者の再入院率がこれほど高いのかを調査し、再入院リスクを低減させる方法を模索する予定だと述べている。

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肥満症治療薬は手術前の胃残留量増加に関連

 ウゴービやオゼンピックのような肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)の使用者は、全身麻酔を要する手術前でも胃残留量の多いことが、新たな研究から明らかになった。研究グループは、GLP-1受容体作動薬の使用者の場合、現行のガイドラインで推奨されている手術前の絶食時間では不十分な可能性を示唆する結果だとの見方を示している。米テキサス大学健康科学センターヒューストン校のSudipta Sen氏らによるこの研究結果は、「JAMA Surgery」に3月6日掲載された。 全身麻酔を要する手術では通常、誤嚥性肺炎や窒息のリスクを防ぐために手術前の絶食が求められる。Sen氏らは、全身麻酔下にあったGLP-1受容体作動薬の使用者が、手術中に自分の吐物を誤嚥したとの報告を受けて、GLP-1受容体作動薬の使用と胃残留量の増加との関連を調べることを決めたと話す。 対象は、2023年6月から7月の間に全身麻酔下での待機的手術が予定されていた18歳以上の患者124人(平均年齢56歳、女性60%)で、このうちの62人(50%)はGLP-1受容体作動薬を週に1回使用していたが(曝露群)、残る半数は使用していなかった(対照群)。主要アウトカムは、胃超音波検査で評価した多量の胃残留物で、具体的には、固形物、濃度の高い液体、または1.5mL/kg以上の透明な液体がある場合と定義された。 その結果、多量の胃残留物が確認された対象者の割合は、曝露群で56%(35/62人)であるのに対し、対照群では19%(12/62人)であることが明らかになった。結果に影響を及ぼす因子を調整して解析した結果、GLP-1受容体作動薬の使用により多量の胃残留物が認められる可能性が30.5%上昇することが示された。 Sen氏は、「GLP-1受容体作動薬を使用している患者では、手術前に絶食していたにもかかわらず、その半数以上に手術前の胃超音波検査で多量の胃残留が認められた」と振り返る。研究グループは、「これらの結果は、米国麻酔科学会が2023年に発表した、手術前のGLP-1受容体作動薬の使用の有無をスクリーニングし、その使用に付随するリスクを患者に知らせることを求める推奨内容と一致する」と述べる。 ガイドラインではまた、医師が、手術前にはGLP-1受容体作動薬の使用を控えることを検討すべきことも推奨されている。Sen氏は、「患者は、外科医や麻酔科医にこの薬の使用の有無を正直に伝える必要がある。この情報は、選択的手術の前に薬物の投与を調整したり、長期絶食を勧めたり、必要であれば選択的手術を再スケジュールするなど、適切な推奨を提供するために極めて重要だからだ」と主張する。また同氏は、「GLP-1受容体作動薬使用者の手術前の絶食時間を延長する新たな治療ガイドラインが必要かもしれない」と話している。

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ビデオ喉頭鏡、手術室での気管内挿管の試行回数を改善/JAMA

 外科的処置時の全身麻酔で気管内挿管を要した成人患者において、直接喉頭鏡と比較してhyperangulatedブレードを用いたビデオ喉頭鏡は、気管内挿管の達成に必要な試行回数を減少させ、挿管失敗のリスクも低いことが、米国・クリーブランドクリニックのKurt Ruetzler氏らが実施した検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年3月18日号で報告された。米国の単一施設のクラスター無作為化多重クロスオーバー試験 本研究は、米国の単一施設(クリーブランドクリニック)で実施したクラスター無作為化多重クロスオーバー試験であり、2021年3月~2022年12月の期間に参加者を登録した(研究助成はクリーブランドクリニックの支援のみ)。 対象は、年齢18歳以上、心臓、胸部、血管の待機的または緊急の外科手術を受け、全身麻酔のためにシングルルーメンチューブによる気管内挿管を要する患者であった。手術室を2つのセットに分け、それぞれ1週間ごとにhyperangulatedブレードを用いたビデオ喉頭鏡または直接喉頭鏡を用いた挿管を行う群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、1回の手術での手術室挿管の試行回数とした。副次アウトカムは挿管の失敗(担当医が何らかの理由で別の喉頭鏡デバイスに切り換えた場合、または挿管を4回以上試みた場合と定義)と、気道または歯の損傷の複合であった。複数回の挿管試行が有意に少ない 7,736例に8,429件の手術を行った。患者の年齢中央値は66歳(四分位範囲[IQR]:56~73)、35%(2,950件)が女性で、85%(7,135件)が待機的手術であった。 2回以上の挿管試行が必要であった手術は、直接喉頭鏡群が4,016件中306件(7.6%)であったのに対し、ビデオ喉頭鏡群は4,413件中77件(1.7%)であり、挿管試行回数の推定比例オッズ比は0.20(95%信頼区間[CI]:0.14~0.28)と、ビデオ喉頭鏡群で有意に良好であった(p<0.001)。気道または歯の損傷には差がない 挿管失敗は、直接喉頭鏡群が4,016件中161件(4.0%)で発生したのに比べ、ビデオ喉頭鏡群は4,413件中12件(0.27%)と有意に少なく(相対リスク:0.06、95%CI:0.03~0.14、p<0.001)、補正前の絶対リスク群間差は-3.7%(95%CI:-4.4~-3.2)であった。 一方、気道または歯の損傷は、ビデオ喉頭鏡群(41件[0.93%])と直接喉頭鏡群(42件[1.1%])で有意差を認めなかった(相対リスク:0.87、95%CI:0.48~1.58、p=0.53)。 著者は、「挿管を何回も試みると、誤嚥、低酸素血症、気道損傷、死亡などの合併症を引き起こすことが、いくつかの大規模な観察研究や無作為化試験で報告されているため、今回のビデオ喉頭鏡による初回成功率の改善効果は臨床的に重要となる可能性がある」と述べ、「この結果は、外科的処置を受ける患者の挿管では、hyperangulatedブレードを用いたビデオ喉頭鏡が望ましいアプローチである可能性を示唆する」とまとめている。

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第74回 鼻咽頭スワブの「折損」、学会から啓発

日本小児科学会からのInjury Alert(傷害速報)Unsplashより使用日本小児科学会から定期的に更新される「Injury Alert(傷害速報)」で、気になる症例がありました1)。あるクリニックの午前外来に、発熱で受診した1歳2ヵ月の男児がいました。新型コロナ、インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルス…いろいろな病原微生物を疑う必要があります。となると、当然ながら鼻咽頭スワブによる検査が必要になるわけですが、多くの場合、母親が抱っこし、看護師が頭を固定した状態で、医師がすばやくスワブを鼻腔に挿入することになります。今回の症例では、患児が暴れることはなかったそうですが、綿棒が途中で折れ、引き抜いたときには先っぽが鼻腔に残ってしまったそうです。すぐに高次医療機関の耳鼻咽喉科へ紹介されました。折れた綿棒の先は中鼻道にあり、外来での摘出を試みたものの、摘出困難な状況でした。そのため、全身麻酔のもと、直視鏡で異物をカメラ越しに確認し、ニシハタ氏鋭匙鉗子によって摘出されました。とくに合併症なく、翌日退院となっています。綿棒の安全性と脆弱性はトレードオフ鼻咽頭スワブの先にある綿棒は、安全性と脆弱性がトレードオフの関係になっています。つまり、安全を重視するのであれば綿棒の脆弱性が増し、簡単に折れないようにカチコチにすれば安全性に懸念が生じるということです。そのため、グニャリと曲がってしまうと、力を入れる方向によっては折れ曲がってしまうことがあるわけです。成人でも同様の報告があり、「Dr. 倉原の“おどろき”医学論文」で過去に紹介しています。その症例は、協力が得られにくい基礎疾患がある患者だったため、「すみやかに拭い検査を実施しなければならない」という小児例と類似した状況でした。鼻腔にスワブを挿入する場合、上咽頭に到達させるため、迷入を避けるために口蓋と平行に鼻腔底に沿わせて挿入する必要がありますが、もしこれが頭側に迷入した場合、先端が折れて鼻腔異物になるリスクがあります。こういった鼻腔異物を回避するための策として、以下の4点がInjury Alertで啓発されています。(1)不測の動きに備えて児の頭部をしっかり固定する(2)綿棒の挿入は必ず鼻腔底に沿わせる(3)綿棒の挿入に少しでも抵抗がある時は反対側の鼻腔で行う(4)後咽頭に達する最低限の長さで綿棒を把持する参考文献・参考サイト1)日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会. Injury Alert(傷害速報). No. 133 新型コロナウイルス抗原検査キットによる鼻腔異物

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10月13日 麻酔の日【今日は何の日?】

【10月13日 麻酔の日】〔由来〕1804年の今日、江戸時代の医師・華岡青洲が、世界初の「全身麻酔」による乳がん摘出手術に成功。人類が手術の痛みから解放された歴史的な日として日本麻酔科学会が2000年に制定。関連コンテンツエキスパートが教える痛み診療のコツ創部の麻酔【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q20英語で「痛みはどれくらいですか」は?【1分★医療英語】手術中の麻酔ケア引き継ぎ、術後アウトカムに影響なし/JAMA歯の痛み、どのくらいの頻度で“虫歯リスク”なのか

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コルヒチン、心臓以外の胸部手術で心房細動を予防せず/Lancet

 主要な非心臓胸部手術を受けた患者において、コルヒチンは臨床的に重大な周術期心房細動(AF)および非心臓術後の心筋障害(MINS)の発生を有意に低下しないばかりか、ほとんどは良性だが非感染症性下痢のリスクを増大することが示された。カナダ・Population Health Research InstituteのDavid Conen氏らが、コルヒチンの周術期AF予防について検証した国際無作為化試験「COP-AF試験」の結果を報告した。炎症性バイオマーカー高値は、周術期AFおよびMINSリスク増大と関連することが知られている。これらの合併症の発生を抗炎症薬のコルヒチンが抑制する可能性が示唆されていた。Lancet誌オンライン版2023年8月25日号掲載の報告。11ヵ国45施設で無作為化プラセボ対照試験 COP-AF試験は、11ヵ国(オーストリア、ベルギー、カナダ、中国、コロンビア、イタリア、マレーシア、パキスタン、スペイン、スイス、米国)の45施設で行われた研究者主導の無作為化プラセボ対照試験。低用量コルヒチンが主要な非心臓胸部手術後の周術期AFおよびMINSの発生予防に有効であるかを評価した。 主要な非心臓胸部手術を受ける55歳以上の患者(全身麻酔で施術し術後少なくとも1泊の入院が予想される)を、無作為に1対1の割合で、経口コルヒチン0.5mgを1日2回またはマッチングプラセボを投与する群に割り付け、術後4時間以内に投与を開始し10日間継続した。 無作為化はコンピュータ・ウェブベースシステムを用いて行い、施設による層別化を行った。医療ケア提供者、患者、データ収集担当者、評価者は治療割り付けをマスクされた。 主要アウトカムは2つで、フォローアップ14日間の臨床的に重大な周術期AFおよびMINSの発生であった。主な安全性アウトカムは敗血症または感染症の複合、および非感染性下痢とした。すべての解析で、intention-to-treat解析を原則とした。周術期AFとMINSの発生は有意差なし、一方で非感染性下痢が3.64倍 2018年2月14日~2023年6月27日に、3,209例(平均年齢68歳[SD 7]、男性1,656例[51.6%])が登録された。 臨床的に重大な周術期AFの発生は、コルヒチン群103/1,608例(6.4%)、プラセボ群120/1,601例(7.5%)であった(ハザード比[HR]:0.85[95%信頼区間[CI]:0.65~1.10]、絶対リスク減少[ARR]:1.1%[95%CI:-0.7~2.8]、p=0.22)。 MINSの発生は、コルヒチン群295/1,608例(18.3%)、プラセボ群325/1,601例(20.3%)であった(HR:0.89[95%CI:0.76~1.05]、ARR:2.0%[95%CI:-0.8~4.7]、p=0.16)。 また、敗血症または感染症の複合の発生は、コルヒチン群103/1,608例(6.4%)、プラセボ群83/1,601例(5.2%)であった(HR:1.24[95%CI:0.93~1.66])が、非感染性下痢は、コルヒチン群(134/1,608件[8.3%])がプラセボ群(38/1,601件[2.4%])よりも多く認められた(HR:3.64[95%CI:2.54~5.22])。

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