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腹部大手術を受ける術後合併症リスクが高い患者において、術前夜間平均動脈圧(MAP)に基づく個別周術期血圧管理は、MAP目標値65mmHg以上とする通常血圧管理と比較して、術後7日以内の急性腎障害、急性心筋障害、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムを減少させなかった。ドイツ・University Medical Center Hamburg-EppendorfのBernd Saugel氏らIMPROVE-multi Trial Groupが、同国15の大学病院で実施した無作為化単盲検試験「IMPROVE-multi試験」の結果を報告した。手術中の低血圧は臓器損傷と関連しているが、手術中の血圧管理が臨床アウトカムを改善可能かについては不明であった。JAMA誌オンライン版2025年10月12日号掲載の報告。術後7日以内の複合アウトカムを評価 研究グループは、2023年2月26日~2024年4月25日に、全身麻酔下にて90分以上の手術時間が予定される腹部大手術を受ける45歳以上の患者で、少なくとも1つの高リスク基準を満たす患者を登録し、個別血圧管理群と通常血圧管理群に1対1の割合で無作為に割り付けた(最終追跡調査日2024年7月25日)。 全例、24時間血圧モニターを用いて術前血圧を1晩にわたり30分間隔で測定し、深夜0時~午前6時に測定されたMAPに基づき、各患者の術前夜間MAPを算出した。 個別血圧管理群では、全身麻酔導入開始時から術後2時間まで、術前夜間MAP値以上の保持を目標とした。術前夜間MAPが65mmHg未満の患者では65mmHg以上、110mmHg超の患者では110mmHg以上を周術期MAPの目標値とした。一方、通常血圧管理群では、目標MAPを65mmHg以上とした。 主要アウトカムは、術後7日以内の急性腎障害、急性心筋障害、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムの発生率、副次アウトカムは、術後3~7日における主要アウトカムの構成項目の各発生率、術後7日以内の感染性合併症、術後30日および90日以内の腎代替療法、心筋梗塞、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムなど、22項目であった。複合アウトカムの発生に有意差なし 7,621例がスクリーニングを受け、1,272例が登録された。このうち1,142例が無作為化され(各群571例)、手術中止または同意撤回の8例を除く1,134例が主要アウトカムおよび副次アウトカムの解析対象集団となった(年齢中央値66歳[四分位範囲:59~73]、女性34.1%)。 主要複合アウトカムは、個別血圧管理群で33.5%(190/567例)、通常血圧管理群で30.5%(173/567例)に発現した(相対リスク:1.10、95%信頼区間:0.93~1.30、p=0.31)。 副次アウトカムについては、22項目のいずれも有意差は認められなかった。術後7日以内の感染性合併症は、個別血圧管理群15.9%、通常血圧管理群17.1%(p=0.63)であり、術後90日以内の腎代替療法、心筋梗塞、非致死的心停止または死亡の複合アウトカムはそれぞれ5.7%と3.5%(p=0.12)であった。