342.
NEJM誌11月1日号に「CD47 Blockade by Hu5F9-G4 and Rituximab in Non-Hodgkin’s Lymphoma.」のタイトルで論文が掲載された1)。スタンフォード大学のWeissmanらのグループの長年にわたる基礎研究が実を結び治療薬として脚光を浴びることとなった。 CD47(インテグリン関連蛋白)はマクロファージ、樹状細胞などが介するphagocytosisの調節機能を担う蛋白で種々の細胞表面に発現している。CD47は免疫担当細胞の細胞表面膜の受容体の1つであるSIRPα(signal regulating protein α)のリガンドでもあり、双方の結合によりphagocytosisを抑制する“do not eat me”シグナルを伝達することが判明しており2)、腫瘍細胞は免疫担当細胞による捕食から身を守るシステムを有している。 この“do not eat me”シグナルをCD47に対する抗体で抑制することによりマクロファージを活性化し腫瘍細胞のphagocytosisを促進し、またT細胞を介した抗腫瘍効果が期待された。これまでリンパ腫を含む種々のがん細胞でCD47の高発現が観察されており、予後不良因子とされた。in vivoでCD47に対する抗体が急性骨髄性白血病(AML)細胞のphagocytosisを促進させることが判明 3)。さらに、AML、非ホジキンリンパ腫(NHL)や種々の固形がんの担がん免疫不全マウスモデルで、CD47抗体ががん細胞に対して殺細胞的に働くことが示された4)。また急性リンパ芽球性白血病細胞担がんマウスモデル5)、固形腫瘍担がんマウスモデル6)でも同様の抗腫瘍効果が示された。 今回の論文で用いられたヒト化抗CD47単クローン抗体はHu5F9-G4 (IgG4 isotype)と命名され、抗CD20抗体であるリツキシマブと相乗的に、リンパ腫担がんマウスモデルでリンパ腫細胞に対して殺細胞的に作用し、リンパ腫の治癒を可能にすることが示された7)。 本論文では再発または難治性B細胞性非ホジキンリンパ腫22症例を対象にHu5F9-G4とリツキシマブを投与し、全奏効率50%(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で40%、濾胞性リンパ腫で71%)、奏効例での91%が解析時点でも奏効を保ったという優れた成績が示された。有害事象としては、頭痛、疲労感、貧血、下痢、infusion reactionが多かった。とくに貧血はGrade3が半分を占めたが、これはCD47を発現している赤血球がマクロファージによって捕食されたことによる当然のon-target effectと考えられる8)。 現在NIH主導で米国内では、本論文に掲載されている再発・難治性B細胞非ホジキンリンパ腫に対するHu5F9-G4と抗CD20抗体リツキシマブとの併用療法、固形がん、進行大腸がんに対する抗EGFR抗体セツキシマブとの併用療法、再発・難治性AML、高リスクMDS(骨髄異形成症候群)に対するアザシチジンとの併用療法のトライアルが進行中である。日本では再発・難治性乳がんに対する抗HER2抗体トラスツズマブとの併用療法が臨床研究中である。 マクロファージを活性化する新たな免疫チェックポイント阻害薬の登場で、がん免疫療法はまた新たな段階を迎えることになる。今後の臨床試験の成果に注目していきたい。■参考文献1)Advani R, et al. N Engl J Med. 2018;379:1711-1721.2)Jaiswal S, et al. Cell. 2009;138:271-285.3)Majeti R, et al. Cell. 2009;138:286-299.4)Liu J, et al. PLoS One. 2015;10:e0137345.5)Chao MP, et al. Cancer Res. 2011;71:1374-1384.6)Willingham SB, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012;109;6662-66677)Chao MP, et al. Cell. 2010;142:699-713.8)Oldenborg PA, et al. Science. 2000;288:2051-2054.