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高血圧スクリーニングの脳心血管病予防効果から学ぶべきこと(解説:有馬久富氏)-1107

 中国全土の高齢者を対象としたChinese Longitudinal Healthy Longevity Surveyの成績から、高血圧と診断されたことのない高齢者における血圧測定および発見された高血圧者に対する生活指導・受診勧奨が2~3年後の収縮期血圧を平均で8mmHgも低下させることが明らかとなり、BMJに報告された1)。一般住民における血圧がこれほど劇的に低下した場合、脳心血管病は20~30%減少するものと期待される2)。本研究で有効性の示された高血圧スクリーニングおよび指導は、健診が一般的に行われていない低・中所得国において、有効かつ費用対効果の高い脳心血管病予防戦略となると考えられる。 本研究の結果は、健康診断の普及しているわが国にそのまま当てはまらないかもしれない。しかし、わが国において4,300万人存在すると推計される高血圧者のうち1,400万人(33%)が自らの高血圧を認識しておらず、治療も受けていない3)。わが国の脳心血管病を最大限に予防してゆくために、健診受診率の向上による高血圧者の発見、保健指導実施率の向上、医療機関未受診者の減少のための対策を継続して進めてゆく必要がある。

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非糖尿病者でHbA1cとがん発症にU字型の関連

 HbA1cとがん発症との関連を経時的に評価するため、聖路加国際病院の小林 大輝氏らがHbA1cを複数回測定する縦断研究を実施した。その結果、非糖尿病者においてHbA1cレベルとがんリスクとの間にU字型の関連がみられたが、前糖尿病レベルで追加リスクは認められなかった。また、HbA1c低値が乳がんおよび女性性器がんの発症と関連することが示唆された。Acta Diabetologica誌オンライン版2019年8月9日号に掲載。 本研究は、聖路加国際病院で実施された後ろ向き縦断研究で、2005~16年に同病院で自主的に健康診断を受けたすべての参加者を含む。アウトカムはがん発症で、HbA1cレベルのカテゴリー間で比較した。HbA1cの変動を考慮するために、HbA1cの経時的な測定を適用した混合効果モデルを使用し縦断的に分析した。 主な結果は以下のとおり。・糖尿病ではない7万7,385人(平均年齢44.7歳、男性49.4%)が参加した。・追跡期間中央値の1,588日(四分位範囲:730~2,946)で、4,506人(5.8%)の参加者にがんが発症した。・HbA1cとがん発症の関係はU字型で、HbA1c 5.5~5.9%の群と比べたオッズ比(OR)は、HbA1c低値群(5.0%未満におけるOR:1.31、95%CI:1.17~1.46)、HbA1c高値群(7.5%以上におけるOR:1.87、95%CI:1.03~3.39)とも有意に高かった。・最も低いHbA1cでは、乳がん(OR:1.5、95%CI:1.21~1.86)と女性性器がん(OR:1.57、95%CI:1.04~2.37)のオッズがより高かった。

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第14回 その失神、あれが原因ではないですか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)失神は突然発症だ! 心血管性失神を見逃すな!2)発症時の痛みの有無を必ずチェック!3)検査前確率を正しく見積もり、必要な検査の提出を!【症例】60歳男性。工事現場で現場監督をしていた際に、気を失った。目撃した現場職員が呼び掛けたところ、数分で意識は改善した。倦怠感、37℃台の微熱も認め救急外来を独歩受診した。●来院時のバイタルサイン意識清明血圧158/98mmHg脈拍102回/分(整)呼吸18回/分SpO297%(RA)体温37.4℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧を健康診断で指摘されたことはあるが未受診内服薬定期内服薬なし意識障害vs.意識消失意識障害と意識消失の違いは理解できているでしょうか。できていない方は過去の本連載を振り返って読んでみてください。普段の意識状態と比較するのがポイントでした(普段から認知症によって3/JCSの方が見当識障害を認めても、それは意識障害とは言えませんよね)。今回の症例では、目撃した同僚の方の話では、初めは「ぼっー」としていたものの、数分で普段どおりになったようです。意識障害というよりは意識消失、そして明らかな痙攣の目撃がなく、速やかに意識が戻っているようであれば、まずは「失神」として対応するのがよいでしょう。失神のアプローチ失神の定義は前回述べたとおりですが、具体的に失神と認識したらどのようにアプローチするべきでしょうか。私は表1の事項を意識して対応しています。詳細はこちらの本(『あなたも名医! 意識障害』(日本医事新報社)1))でぜひご確認ください。表1 失神のアプローチ画像を拡大する本稿では、(4)「前駆症状(とくに痛み)を確認する」に関して取り上げましょう。前回の症例でもそうでしたが、失神? と思ったら必ず痛みの有無を確認し、頭頸部に痛みがあればクモ膜下出血を、胸背部痛など頸部以下の痛みを伴う場合には大動脈解離を一度は考え、意識して病歴や身体所見を評価することが大切です。目の前の患者は大動脈解離なのか?大動脈解離が失神の鑑別に上がっても、そこで立ち止まってしまうことはないでしょうか。大動脈解離の来院パターンはいくつかありますが、代表的なものは胸痛などの痛みを訴えて来院、意識障害、そして今回のような失神です。大動脈解離の10%程度は失神を認めるということを頭に入れておくとよいでしょう2)(表2)。表2 発症時の症状画像を拡大する医学生のときに誰もが習う、「突然発症の胸背部痛で痛みが移動し、血圧の左右差を認める」という症例は、残念ながら病院にたどり着けないことが多いものです。実臨床では、「何らかの痛みが突然始まる」と覚えておくとよいと思います。失神→心血管性失神の可能性→発症時の痛みをチェック→大動脈解離かも? クモ膜下出血かも? こんな感じです。大動脈解離らしいか否か、確定診断するために必要な造影CT検査をオーダーするか否か、これはどれほど疑っているかに依存します。すなわち検査前確率を正しく見積もり、必要な検査をオーダーすることが大切なのです。ADD risk score(表3)を意識して「らしさ」を見積もりましょう3)。(1)基礎疾患、(2)痛みの性状、(3)身体所見、これら3項目のうちいくつの項目に該当するのかを評価します。そして、それが1項目以下の場合には可能性は低く、2項目以上に該当する場合には精査をしなければなりません(図)。表3 ADD risk score -大動脈解離は否定できるか-画像を拡大する図 大動脈解離疑い症例 -実践的アプローチ-画像を拡大するD-dimerか、造影CT検査か大動脈解離を疑った際にベッドサイドで行う検査としてエコーは必須ですが、フラップや心嚢液貯留が明らかな症例は、決して多くはありません。もしあればその時点で強く疑い、専門科へコンサルト、または造影CT検査をオーダーすることに躊躇はありませんが、実際にははっきりせず採血や画像検査を行うことになるでしょう。検査が迅速に施行できない環境であれば、突然発症の痛みや痛みに伴う失神ということのみでコンサルト、転院の打診でもまったく問題ありません。D-dimerは有用な検査ですが、ルーティンに提出するものではありません。肺血栓塞栓症を疑った際にも同様ですが、可能性が低いと思っている症例にのみ提出し、陰性をもって否定するのです。具体的には先述の図にのっとればよいでしょう。ADD risk scoreを評価し、2項目以上に該当した場合には、施行すべき検査は造影CT検査です。D-dimerを出すなというわけではありません。必要な検査をきちんとやる必要があるということです。大動脈解離の典型例を見逃すことはあまりありません。一見、軽症に見える患者の中からいかにして拾い上げるのか、それがポイントとなります。繰り返しになりますが、失神は瞬間的な意識消失発作であり突然発症です。そこに痛みの関与があれば疑いたくなりますよね。本症例のように、痛みが入り口でない場合でも、転倒の背景に失神が、そして失神の原因が心血管性失神(HEARTS)ということが決して珍しくありません。バイタルサインが安定しており、重症感がない患者だからこそ、きちんと病歴を聴取し、身体所見を根こそぎ取りましょう。1)坂本壮ほか. あなたも名医! 意識障害. 日本医事新報社;2019.2)Hagan G, et al. JAMA. 2000;283:897-903.3)Adam M, et al. Circulation. 2011;123:2213-2218.4)Nazerian P, et al. Circulation. 2018;137:250-258.

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世の中を丁寧に眺めると病気に気付ける

 バイオジェン・ジャパン株式会社は、6月13日に都内において希少疾病である脊髄性筋萎縮症(以下「SMA」と略す)の啓発を目的に同社が製作した短編映画『Bon Voyage ボン・ボヤージ ~SMAの勇者、ここに誕生~』の完成記念メディアセミナーを開催した。 SMAは、運動神経に変化が起こり、次第に筋肉の力が弱くなり、生活に影響を及ぼす疾病である。そして、同社は、SMAの治療薬ヌシネルセンナトリウム(商品名:スピンラザ髄注)を製造・販売しているが、SMAの存在がまだ社会へ浸透していないことから、同社が短編映画を制作したものである。 作品は、SMAIII型の患者さんが抱える病識から診断に至るまでの課題をリアルに再現。そして、正確な診断をきっかけに自身と向き合い、夢に向かってさらに力強く生きていく姿を描いている。気付きにくい成人発症のSMAIII型 映画の試写のあと、疾患の概要について齋藤 加代子氏(東京女子医科大学附属遺伝子医療センター 所長・特任教授)が「脊髄性筋萎縮症(SMA)について」をテーマに講演を行った。 SMAは、SMN1遺伝子の欠失により、運動神経に変化が起こり、次第に筋力が低下し、生活に影響を及ぼす疾患であり、わが国では指定難病となっている。罹患率は、10万例に1~2例と考えられ、約1,400例の患者が推定されている。 本症では、発症年齢や運動機能によって、次のI~IVの4つの型に分類される。・I型:生後6ヵ月までに発症。成長後の最高到達運動機能では座位ができない。・II型:生後1歳6ヵ月までに発症。成長後の最高到達運動機能では立位ができない(座位はできる)。・III型:生後1歳6ヵ月以降で発症。成長後の最高到達運動機能は支えなしで歩ける。(a型:生後18ヵ月~3歳までに発症/b型:3歳以降に発症)・IV型(成人型):20歳以降で発症。運動発達は正常範囲。 とくにIII型のSMAについて、IIIa型では10歳までに患者の約半数が、IIIb型では30歳までに患者の約半数が歩行機能を失うこともあり、学校診断や健康診断でいかに早期に発見し、治療介入できるかが重要だという。 同氏は、成人のIII型の症例(52歳・女性)を示し、13歳で発症し、当初「神経原性筋萎縮症」と診断され、47歳の確定診断まで34年を要したという例を紹介した。なかなか社会に浸透していないIII型の特徴として、「運動機能障害がゆっくりと進行すること」「下肢から上肢に徐々に筋力の低下がみられること」「手の震え、筋肉のぴくつきがあること」がある。また、よく間違われる疾患として、「肢帯型筋ジストロフィー」「筋萎縮側索硬化症」「球脊髄性筋萎縮症」があり、確定診断には、血液による遺伝学的検査が必要になる。 最後に齋藤氏は、「治療薬の進歩もあり、治療の選択肢も多くなった。できる限り早期介入が求められる。医療者も患者もさまざまなWEBサイトをみて学び、本症を理解してもらいたい」と希望を語り、レクチャーを終えた。病気に周りが気付く、患者は自分から診療へ飛び込むことが大事 続いて、本作の完成にあたりトークセッションが行われ、三ッ橋 勇二監督、主演の中島 広稀氏、出演者でSMA患者の上田 菜々氏、演技指導で同じく患者の下島 直宏氏、そして、医学監修の齋藤氏が登壇し、作品の意図、制作の裏話や作品への思いなどが語られた。 中島氏は「患者の発症から診断まで1年分を15分に詰め込んだ作品で、演技ではSMAIII型特有の歩き方が難しかった。演じていて心の問題を感じた。患者さんはひとりで悩みを抱えないことが大事」と感想を述べた。 下島氏は、「完成した作品をみて『人生を走馬灯のように感じた』」と述べ、発症から診断確定までの自身の軌跡を振り返った。「診断では医師との出会いが大事で、自分で診療へ飛び込んでいかないと診断につながらない」と助言を寄せた。 上田氏は、「撮影は、仲良く、楽しくできた。小学生のときにSMAと診断され、引きこもるようになったが、美容に興味を持ち、すこしずつ社会に出られるようになった。作品では、患者さんの悩みや家族の葛藤も描かれていて、最後のシーンでは鳥肌が立った」と作品への賛辞を送った。 齋藤氏は、「SMAは社会に出て活躍できる疾患なので、患者さんは前向きに良い人生を送ることが重要。患者さんは自分を責めず、精神的に良い状態を保つことが大切。また、SMAの症状を見かけたら周りが気付いて、診療を勧めるなど声がけをすることが大事」と語った。 三ッ橋氏は、「作品を通じて、社会に気付きを与えることができたらと思う」と述べ、SMAについては「世の中を丁寧に眺めることで、周りの人の病気に気付くことが大事だと思う」と作品への思いを語った。 なお、本作は、国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」で上映されるほか、下記のサイトから視聴ができる。

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日本の高齢者、痩せと糖尿病が認知症リスクに

 わが国の高齢者において、痩せていること(BMI 18.5kg/m2未満)と糖尿病が認知症発症のリスク因子であり、BMIが低いほど認知症発症率が高いことが、JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study:日本老年学的評価研究)のコホートデータを用いた山梨大学の横道 洋司氏らの研究で示された。また、本研究において認知症発症率が最も高かったのは高血圧症を持つ痩せた高齢者で、次いで脂質異常症を持つ痩せた高齢者であった。Journal of Diabetes Investigation誌オンライン版2019年6月17日号に掲載。 本研究では、高齢者における糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満(BMI 25kg/m2以上)、痩せ(BMI 18.5kg/m2未満)に関連する認知症リスクを比較し、さらにこれらの代謝性疾患とBMIの組み合わせに関連する認知症リスクも調査した。対象は、2010年に健康診断を受けた高齢者(平均年齢73.4歳)で、平均5.8年間追跡した。認知症は介護保険登録を用いて調べ、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、肥満、痩せは、服薬もしくは健康診断結果で評価し、認知症発症率と調整ハザード比(HR)を計算した。 主な結果は以下のとおり。・参加した高齢者3,696人のうち、338人が認知症を発症した。・標準体重で該当する疾患がない人を基準とすると、男女それぞれの調整HR(95%信頼区間)は、糖尿病では2.22(1.26~3.90)および2.00(1.07~3.74)、高血圧症では0.56(0.29~1.10)および1.05(0.64~1.71)、脂質異常症では1.30(0.87~1.94)および0.73(0.49~1.08)、BMI 25~29.9kg/m2では0.73(0.42~1.28)および0.82(0.49~1.37)、痩せでは1.04(0.51~2.10)および1.72(1.05~2.81)であった。・脂質異常症を持たない標準体重の男性と比較して、脂質異常症を持つ痩せた男性のHRが4.15(1.79~9.63)、高血圧症を持たない標準体重の女性と比較して高血圧症を持つ痩せた女性のHRが3.79(1.55~9.28)と、認知症リスクが有意に高かった。・認知症発症率が最も高かったのは高血圧症を持つ痩せた高齢者で、次いで脂質異常症を持つ痩せた高齢者であった。

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日本人高齢者におけるアルコール摂取と認知症

 岡山大学のYangyang Liu氏らは、日本人高齢者におけるアルコール摂取の量や頻度と認知症発症との関連を評価するため、長期間のフォローアップを行った大規模サンプルデータを用いて検討を行った。Geriatrics & Gerontology International誌オンライン版2019年6月7日号の報告。 本研究は、日本で実施されたレトロスペクティブコホート研究。日本人高齢者5万3,311人を、2008~14年までフォローアップを行った。アルコール摂取の量や頻度は、健康診断質問票を用いて評価した。認知症発症は、介護保険の認知症尺度を用いて評価した。性別によるアルコール摂取のカテゴリー別の認知症発症率の調整ハザード比(aHR)、95%信頼区間(CI)を算出するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。アルコール摂取量によっては認知症発症リスクを減少させる可能性 アルコール摂取の量や頻度と認知症発症との関連を評価した主な結果は以下のとおり。・7年間のフォローアップ期間中に、認知症と診断された高齢者は、1万4,479例であった。・非飲酒者と比較し、アルコール摂取量が2ユニット(純アルコール換算:40g)/日以下の高齢者における多変量aHRは、時折の飲酒(男性、aHR:0.88、95%CI:0.81~0.96、女性、aHR:0.84、95%CI:0.79~0.90)および毎日の飲酒(男性、aHR:0.79、95%CI:0.73~0.85、女性、aHR:0.87、95%CI:0.78~0.97)において統計学的に有意な認知症発症リスク低下が認められ、男性では、時折の飲酒と毎日の飲酒において、有意な差が認められた。・しかし、アルコール摂取量が2ユニット/日超の高齢者では、時折の飲酒(男性、aHR:0.91、95%CI:0.71~1.16、女性、aHR:1.09、95%CI:0.72~1.67)および毎日の飲酒(男性、aHR:0.89、95%CI:0.81~1.00、女性、aHR:1.16、95%CI:0.84~1.81)において有意な差は認められなかった。 著者らは「高齢者において時折または毎日の2ユニット/日以下のアルコール摂取量では、認知症発症リスクを減少させる可能性があり、このような食生活をしている男性においては、より大きなメリットがもたらされると考えられる」としている。

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脳心血管病予防策は40歳からと心得るべき/脳心血管病協議会

 日本動脈硬化学会を含む16学会で作成した『脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート2019』が日本内科学会雑誌第108巻第5号において発表された。2015年に初版が発行されてから4年ぶりの改訂となる今回のリスク管理チャートには、日本動脈硬化学会を含む14学会における最新版のガイドラインが反映されている。この改訂にあたり、2019年5月26日、寺本 民生氏(帝京大学理事・臨床研究センター長)と神崎 恒一氏(杏林大学医学部高齢医学 教授)が主な改訂ポイントを講演した(脳心血管病協議会主催)。脳心血管病予防が今後はますます求められる  2018年12月、「健康寿命の延伸などを図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が成立した。2015年度国民医療費1)は42兆円を超え、内訳を見ると循環器疾患に対する医療費は全体の19.9%(5兆9,818億円)、次いで、悪性新生物が13.7%(4兆1,257億円)を占めていた。近年では医療の発展に伴い、病態の発症から死亡に至るまでの期間が伸びているものの、平均寿命と健康寿命の差はまだ大きい。死亡までに介護が必要となった主たる原因も、認知症を上回り、脳血管疾患が1位にランクインしている2)。このように、そのほか問題視されている肥満、糖尿病、喫煙などの現状を踏まえると、今後ますます、脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの活用が求められるようになる。脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの対象 厚生労働省による“人生100年時代構想”や高齢者のフレイル・介護問題を受け、今回の改訂でも高齢者の留意点が多く盛り込まれた。健康寿命を伸ばして要介護期間を短くする、つまり“不健康な期間”を短縮することがわれわれの使命、と考える両氏。神崎氏は、「65歳以上になってから努力するのではなく、中年期から努力することが健康寿命を延ばすためには必要。高齢者の場合は生活習慣病を管理しながら、多病に基づくポリファーマシーやサルコペニア/フレイルの発生にも注意する必要がある」とし、寺本氏は「高血圧などの危険因子を持たない段階での予防(0次予防)の患者に啓発することが重要」と、脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの対象者について言及。また、寺本氏は「定期的にチェックするために誕生日月に実施するのが有用。その旨を事前に患者に伝えておくと、患者自身も覚えている」と活用時期やその方法についてコメントした。脳心血管病リスクの管理状態の評価ツールとして活用可能 脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートは、臨床現場で使用しやすいようにStep1~6までの順に従って診断・診療できるように設計されている。また、健康診断などで偶発的に脳心血管病リスクを指摘されて来院する患者を主な対象者とし、既に加療中の患者に対しても、管理状態の評価ツールとして活用可能になるようにも作成されている。 以下に脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート各Stepにおける留意点を示す。◆Step1:スクリーニングと専門医等への紹介の必要性の判断基準a~cに分類。aでは家族歴や脈拍について重視、bの場合は空腹時血糖の測定が必要になるため、空腹時での来院を求める必要がある。また、アルドステロン症の見落としが散見されるため、この段階でしっかりチェックする必要がある。cでは、各専門医への紹介の必要性がある対象者を明確にしている。また、慢性腎臓病(CKD)の記載方法が変更している。◆Step2:各リスク因子の診断と追加評価項目脳心血管病の各リスク因子の診断と追加評価項目は各学会のガイドラインに準拠。◆Step3:治療開始前に確認すべきリスク因子喫煙リスクがある患者での禁煙指導が重要で、1回/年の確認が鍵となる。また、個々の病態に応じた管理目標について高齢者について加味している点がポイント。◆Step4:リスクと個々の病態に応じた管理目標の設定改訂前はリスク層別にNIPPON DATA80を使用していたが、今回は「吹田スコア」の使用を推奨。脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートには危険因子を用いた簡易版が載っているので、それを基にリスクスコアを算出することが可能。◆Step5:生活習慣の改善食事摂取量は、日本人の食事摂取基準を参考にし、これまでのkcal重視からBMI重視に変更。身体活動を患者と共有できるよう詳細に記述。◆Step6:薬物療法の紹介と留意点実際の薬物療法については各疾患のガイドラインに従い、導入前には生活習慣の改善を基盤に患者とのコンセンサスを得ることが重要。 脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートは、5年に1回のタイミングで更新を目指しており、大きな改訂はできなくとも各学会で改訂事項が発表された際には、それらを脳心血管病協議会で話し合い、対策を講じるという。最後に寺本氏は「このような類いの包括的な管理チャートは海外では作成されておらず、世界に一歩先立った活動である」と締めくくった。■「日本人の食事摂取基準」関連記事日本人の食事摂取基準2020年版、フレイルが追加/厚労省

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日本人高齢者における身体活動と認知症発症との関連

 岡山大学のYangyang Liu氏らは、高齢者における定期的な身体活動と認知症発症リスクとの関連について評価を行った。International Journal of Geriatric Psychiatry誌オンライン版2019年5月2日号の報告。 本検討は、岡山市で実施したレトロスペクティブコホート研究である。日本人高齢者5万1,477人を2008~14年にかけてフォローアップを行った。定期的な身体活動は、健康診断質問票を用いて評価を行った。認知症発症は、介護保険の認知症尺度を用いて評価した。身体活動のカテゴリ別の認知症発症率は、Cox比例ハザードモデル、95%信頼区間(CI)を用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・7年間のフォローアップ期間中に認知症を発症した高齢者は、1万3,816例であった。・認知症発症の多変量調整ハザード比は、身体活動の実施が1回以下/週であった高齢者と比較し、2回以上/週で0.79(95%CI:0.75~0.84)、毎日で0.94(95%CI:0.89~0.98)であった。・身体活動と性別との相互の関連性は有意であった(p<0.01)。・サブグループ解析における認知症発症の多変量調整ハザード比は、身体活動が2回以上/週の場合、男性で0.76(95%CI:0.70~0.84)、女性で0.81(0.76~0.87)と低いままであった。身体活動が毎日の場合、男性では0.82(95%CI:0.76~0.89)であったが、女性では1.01(0.95~1.07)であった。 著者らは「日本人高齢者における定期的な身体活動は、毎日行っている女性を除き、認知症発症リスクの低下に寄与すると考えられる」としている。

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女性化乳房のPPIによる発症リスクを調査

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)による女性化乳房の症例報告は多いが、大規模な疫学研究はなかった。今回、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のBonnie He氏らが大規模な後ろ向きコホート研究を実施し、男性患者におけるPPIによる女性化乳房リスクを調べた。その結果、PPI使用による女性化乳房発症リスクはアモキシシリン使用に比べ、50歳超で1.5倍であった。Pharmacotherapy誌オンライン版2019年3月13日号に掲載。女性化乳房は新規PPI使用患者22万791例のうち389例 著者らは、米国のPharMetrics Plus健康診断データベースを使用して、2006~16年の新規PPI使用患者および新規アモキシシリン使用患者の後ろ向きコホート研究を実施した。女性化乳房の診断は、国際疾病分類(ICD-9、ICD-10)のコードで同定した。90日以内に女性化乳房の2つのコードがあり、最初のコードがイベントコードである患者を女性化乳房症例とした。ハザード比(HR)は、アルコール性肝硬変、甲状腺機能亢進症、精巣がん、クラインフェルター症候群、肥満のほか、ケトコナゾール・リスペリドン・スピロノラクトン・アンドロゲン除去療法の使用を調整し算出した。また、2回のPPI処方の曝露での感度分析も行われた。 PPIによる女性化乳房リスクを調べた主な結果は以下のとおり。・新規PPI使用患者では、22万791例のうち389例が女性化乳房と診断され、新規アモキシシリン使用患者では、83万7,740人のうち996例が女性化乳房と診断された。・女性化乳房発症をアモキシシリン使用と比較したPPI使用の粗HR は1.70であった(95%信頼区間[CI]:1.461~1.976)。・感度分析における調整HRは1.299(95%CI:1.146~1.473)であった。・調整HRは、50歳以上の患者では1.4795(95%CI:1.2431~1.7609)、50歳以下の患者では1.324(95%CI:1.1133~1.5745)であった。

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高校進学時のうつ病に対する予防プログラム

 中学校から高校へ進学する青少年におけるうつ病および不安症状に対する学校ベースの適応予防プログラムの効果について、米国・ワシントン大学のHeather Makover氏らが、検討を行った。Prevention Science誌オンライン版2019年3月9日号の報告。 高校進学プログラム(The High School Transition Program:HSTP)は、青少年にとってとくに脆弱な時期における社会的および学術的な問題解決のスキルとエンゲージメントを構築するために設計されたプログラムである。太平洋沿岸北西部の6校の中学校の生徒2,664人を対象に、8年生の後半に普遍的な感情健康診断を実施し、うつ病スコアが高く、行動障害問題スコアの低かった生徒に対し研究参加を依頼した。対象生徒497人は、HSTP群(241例)または対照群(256例)にランダム化した。うつ病および不安症状は、自己報告法を用いて18ヵ月間にわたり5回の測定を行った。予防効果およびベースライン時の症状、人種、性別などの調整因子を評価するため、階層的線形モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・HSTP群は、対照群と比較し、経時的に抑うつ症状の減少率が上昇することが示唆された(d=0.23)。・HSTP群は、不安スコアの変化率が有意に速まった(d=0.25)。・ベースライン時の不安の重症度、人種、性別は、症状アウトカムの推移に影響を及ぼさなかった。 著者らは「ストレスの多い青少年の進学において、予防プログラムの意義を検討すべきである」としている。■関連記事青年期うつ病を予測する小児期の特徴思春期の少年少女における自殺念慮の予測日本人学生のスマートフォン使用とうつ病リスク

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第14回 “若さ”って心電図に表れる?【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第14回:“若さ”って心電図に表れる?本来は、基線にほぼ一致した水平な波形のST部分。ですが、虚血性心疾患をはじめ、さまざまな病態で偏位をきたし、時には健常者でも変化します。このST部分の基本的な見方から正常亜型と見なせるST偏位まで、Dr.ヒロが解説します。症例提示25歳、男性。雇入時の健康診断のため来院。特別な既往や自他覚所見はなし。心電図を以下に示す(図1)。(図1)健康診断時の心電図画像を拡大する【問題1】ST偏位の有無を確認する際、どこを計測するか?また、基準はどこか?解答はこちら[計測点]J点:QRS波の“おわり”(終末部)[基準線]T-Pライン(またはT-QRSライン、Q-Qラインでも可)解説はこちら今回はST部分にフォーカスを当てますよ。スパイク状のQRS波となだらかなT波の“架け橋”に相当するST部分に関して、多くの皆さんが虚血性心疾患との関係を頭に思い浮かべるでしょう。“上がり”も“下がり”も問題となる「ST偏位」ですが、ST変化のイロハの“イ”を理解しておきましょう(図2)。(図2)STレベルの計測法画像を拡大するこの図は、ST部分の「高さ」や「低さ」をどう測るかを示しています。基準はT-Pラインです。これはT波の“おわり”と次心拍のP波の“はじまり”を結ぶ線で、基線と呼ばれます。普通はフラット、横一文字で、心電図界での“海抜0m地点”と考えて下さい。この基線から、QRS波の“おわり”の部分の「高さ」「低さ」を調べます。QRS波の“おわり”はJ点(ST部分がはじまる部分。“Junction”または“Joint”の「J」で、“つなぎ目”みたいな意味)と呼ばれています。このJ点が基線から1mm以上ズレている場合、それは「ST偏位」です。上がっていたら「ST上昇」、下がっていたら「ST低下」というのが基本です。このJ点の「高さ」「低さ」を示す英語表記は“ST amplitude”ですが、これに対応する適切な日本語がないように思います(早く決まるといいな…)。時々「STレベル」という表現がなされるので、ボクもおおむねコレを使用しています。ちなみに、J点はともかく、『P波がなかったり、T波とP波の並び順がおかしい不整脈での基準はどうなの?』という方、いませんか?ナイスですねぇ、その質問。実に鋭い! そういう状況もあるので、T-Pラインではなく、P波のかわりに直後のQRS波の“はじまり”を結ぶT-QRSラインという、より一般的な言い方もあります。このほか「Q-Qライン」という表現も見たことがありますね。これはT波をすっ飛ばして、連続するQRS波の“はじまり”同士を結びます。ST偏位のチェックとして、QRS波の“はじまり”を基準に比べる作法はここに由来するのでしょう。多くの例では基線は「T-P」でも「T-QRS」でも「Q-Q」でも変わりませんが、いろいろな要素で変動があるため、当該QRS波の“はじまり”をベースラインとするやり方で良いと思います。なんだか“はじまり”とか“おわり”がややこしいですが、定義ですので、典型例を頭に思い浮かべて理解しておきましょう。【問題2】心電図(図1)のST部分は正常か議論せよ。解答はこちら「ST上昇」あり(V1~V4[5]誘導)解説はこちらST部分は、ボクの語呂合わせ(第1回)では、“スタ(ート)”の部分でチェックします。Dr.ヒロは、目を“ジグザグ運動”させてST部分を確認しているんです。その様子を別症例の心電図で示しましょう(図3)。(図3)“ジグザグ運動”でSTチェック!(別症例)画像を拡大する左手前の基線(T-Pライン)をにらみながら、肢誘導のJ点を上から下へ、続いて胸部誘導も順にチェックします(赤い網掛けの部分に着目!)。上昇も低下も漏れなく「ST偏位」を指摘するクセをつけるべしです(この場合、II、III、aVF、V4~V6誘導で「ST低下」、V1~V3誘導で「ST上昇」があるように見えますね)。今回の若年男性の健診心電図(図1)も同じく“ジグザグ運動”でチェックしてみると、V1~V4誘導でとても「ST上昇」しているように見えませんか? 次に図1のV1~V3誘導までを抜き出してみました(図4)。(図4)V1~V3誘導を抜粋画像を拡大するV1誘導でも2mm、V2・V3誘導にいたっては、実に2.5~3mmくらいJ点が基線より高位にあります。自動診断では“無視”されていますが、Dr.ヒロ的には、これは指摘すべき所見と考えます。一般的に心電図で「ST上昇」をきたす病態として、「心筋梗塞」や「心膜炎」などが知られています。ただ、さすがに健診で、なーんの自覚症状もない人で想定すべき疾患ではないように思いますよね(まれにそういうケースもいますが)。では、どう考えるべきでしょうか? 実は、右前胸部誘導(V1~V3)では、若年男性のJ点は基線より1mm以上高位に位置するほうが自然なのです。これは耳にしたことがある人も少なくないでしょう。次に、男性における年齢ごとのSTレベルを示した図を見て下さい。縦軸が見慣れない数値になっていますが、100=0.1mV。つまり、われわれの「1mm」に該当します。(図5)健常男性のSTレベル(Glasgowデータベース)画像を拡大するこのグラフより、健常な若年男性では、V1~V4誘導では、“J点・1mm以上”の「ST上昇」があるのが普通で、とくにV2、V3誘導で顕著(2.5~3mm上昇)であることがわかります。これに関係し、「ST上昇」で臨床的に最も重要な病態としては心筋梗塞でしょう。昨年改訂された「心筋梗塞の定義(第4版)1)」においても、V2・V3誘導だけ“特別視”されており、以下を有意なST上昇と見なす(「左室肥大」と「脚ブロック」は除く)と銘記されています。〔男性〕40歳未満:2.5mm 40歳以上:2.0mm〔女性〕年齢を問わず1.5mm*上記はカットオフ値ボクは「V2・V3誘導」に“兄さん”、「2.5mm」には“ニッコリ”の意味を込めて“ニッコリ兄さんは特別”と覚えています。そして“女性はイチゴ”。部位的には、前壁(中隔)のST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)を診断する時に問題となるんです。もちろん、急性冠症候群(ACS)、STEMIの診断の場合は、心電図だけで安易に否定せず、過去心電図との比較や胸部症状、心筋バイオマーカー(心筋トロポニンなど)や心エコーなど、ほかの所見も総合して考えて下さいね。この男性の場合、“ニッコリ兄さん”の厳しめ基準でも引っかかるわけですから、V1~V4、エイッ、もう一声でV5誘導までの「ST上昇」は所見として指摘したほうが良いでしょう。ただ、若年で何の症状もなく、V2~V4誘導のツンッととがったT波と一緒に見られる「ST上昇」の大半は非特異的変化で病的意義は少ないことが多いです。ST部分がピーンとT波に“引っ張られて”上昇した心電図を眺めると、『若いなぁ~』と愚痴にも似て叫んでしまいます(笑)。ただし、何度も繰り返しますが、皆さんには、“異常”と感じたらとにかく所見として“指摘”して、その“意義”は後から議論するというスタンスをとって欲しいと思います。さすればホンモノ(STEMI)を見逃すこともないでしょう。今回は、猛々しい“若さ”をそのまま波形にしたような、若年男性のST上昇について扱いました。基本的な確認法と共に、よく復習しましょう。少々年をとり、日々の疲れもたまった自分のSTレベルは、今どんなもんだろう…と、つい考えてしまうDr.ヒロなのでした。Take-home Message計測点と基準線を意識して漏れなくST偏位(上昇・低下)を指摘しよう中年までの男性で多く見られる“猛々しい”ST上昇(とくにV2・3誘導)は正常亜型なことも多いが、常にSTEMI(前壁)の可能性は否定するな!1):Thygesen K, et al. Circulation. 2018;138:e618-651.【古都のこと~吉田神社の節分祭~】京都で節分といえば吉田神社。2月2日の夜(前日祭)、京都大学にほど近い吉田山に足を運びました。本宮は859年(貞観元年)建立で、節分祭も室町時代からの伝統行事。そして、所狭しと軒を連ねる屋台のお酒でほろ酔い気分になりながら、厄除けのくちなし色*の御札(期間限定)と豆をいただけたら縁起良しかな。ただし、驚くほどの人に紛れて、けがをしないように気を配ることも大事でしょう。

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第19回 肺がん見落としの背景に制度全体の問題点~医療者と受診者の認識ギャップも【患者コミュニケーション塾】

 2018年12月13日、社会医療法人河北医療財団(以下、河北医療財団)の特別調査委員会の委員の一人として記者会見に出席しました。一部のニュースで報じられて、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。この記者会見では、社会に対する大きな問題提起をしました。そこで今回は、その内容についてご紹介したいと思います。特別調査委員会設置に至る経緯特別調査員会は、河北医療財団の施設である東京都杉並区の河北健診クリニックで健康診断・肺がん検診を受けていた女性の肺がんを見落としていたという発表を受け、その原因究明と再発防止策を検証するために設置されました。私は健診を受ける立場からの意見を求められ、委員に就任しました。特別調査委員会は5名の委員で、委員長は弁護士が務め、放射線科医師、健診制度に詳しい医師、安全工学の専門家と私で構成されました。そして、9月から12月まで7回の委員会を経て、12月11日に河北医療財団に調査報告書を提出し、13日の記者会見に至りました。肺がんを発症した女性は、2005年から2018年1月まで、河北健診クリニックで10回にわたり健診・検診を受けていました。30代の間は成人健診や区民健診、40代になってからは肺がん検診を受診しています。それら健診・検診のいずれの胸部X線検査においても、異常なしと判定されていました。ところが、2018年3月に足の張りや痛みの症状で他の医療機関を受診し、その際に受けた胸部単純CT検査で右肺に異常な影があると指摘されました。その後、河北総合病院の呼吸器内科を受診して精密検査を受け肺がんであることが判明し、転院先の病院で同年6月に死亡されています。河北総合病院では肺がんが判明した直後に緊急対策会議を開催し、2014年7月、2015年7月、2018年1月の胸部X線写真には肺がんを疑う陰影が写っていると判断し、2014年7月に肺がんを疑う徴候があったと結論付けました。その後、画像診断学の権威である医師を外部委員とした院内検証委員会を立ち上げ、遅くとも2014年以降には腫瘤影があるにもかかわらず、2014年7月以降の3回の健診・検診で「異常なし」との判定をしたと判断。その原因は胸部X線検査の精度管理が不十分であったことや、2名の医師による読影の方法に問題があったこと、読影医が2名とも放射線科、呼吸器内科でない組み合わせが発生していたなどの問題点を指摘しました。河北医療財団ではそれを受けて見落としを認め、2018年6月にご遺族に謝罪するとともに、7月には理事長が記者会見で公表しました。これらの健診・検診は杉並区の委託で行われていたため、杉並区は河北健診クリニックに2014年9月以降の区民肺がん検診受診者約9,400名の再読影の実施を要請するとともに、杉並区肺がん検診外部検証等委員会を設置しました。このような経緯を受け、河北医療財団では河北総合病院での院内検証委員会だけではなく、客観的かつ公正な調査の実施を行いたいと、外部の委員で構成する特別調査委員会の設置を決定したというのが大きな流れです。専門医でも判断に迷う陰影だった!?私はこの経緯について説明を受け、明確に2014年7月の見落としが認められていることから、当初は明らかな肺がんの見落としなのだろうと思っていました。そのため、特別調査委員会は客観的に原因究明と再発防止策の提言をする場になるのだろうと考えて委員会に臨みました。第1回の特別調査委員会で、後方視的に見ると2014年7月の胸部X線写真に陰影が写っていると説明を受けました。そして、それは健診の判定時にも指摘されていて、腫瘤ではなくニップル(乳頭)と判断していたことがわかりました。さらに、2014年7月と2015年7月の胸部X線写真は1方向から撮影された写真だけで、2018年1月になって初めて肺がん検診になったため、2方向から撮影されていることもわかりました。それらの説明を受けて、私が確認したかったことは、医師であれば誰の目にも明らかに2014年7月の陰影は肺がんを疑わないといけないものなのか、それとも放射線科の専門医でなければ疑うことができないものなのかということでした。というのも、これまでCOMLの活動を通して私が知り得た知識から、胸部X線検査だけで肺がんを早期に見つけることは難しいのではないかと思っていたからです。そして医師の間では、胸部X線検査の限界や、早期検出におけるCTの優位性が広く認識されているとも感じていました。そのため、私自身、肺がんの検診を受ける手段として胸部X線検査は選択肢に考えたことがありませんでした。そこで特別調査委員会の席で、放射線科専門医にそのことを質問したのです。すると、「2018年1月の胸部X線写真は2方向で撮影されているので、ニップルでないことは位置からも明らか。この時点で異常なしと判定したことは問題がある。しかし、2014年7月と2015年7月のものは私でも腫瘤だと判断する自信はない」という見解だったのです。そして、河北総合病院の放射線科医も同様の見解を持っているということが紹介されました。つまり、放射線科の読影の専門医ですら、判断に迷う陰影だということがわかったのです。「見落とし」だと指摘した院内検証委員会の専門医(外部委員)は、ニップルにしては位置が高いと判断されたようです。しかし、女性によっては乳房の大きさに差があり、検査台に強く胸を押し当てればニップルの位置はかなり大きく変化する可能性があるということ。そのような説明を専門医から聞くと、いかに判断が難しい問題かが理解できました。さらに、1方向の撮影だと骨や心臓の死角になって病変が見えないこともあること、どれだけ高性能のX線写真であっても、小さな病変は検出しづらいという分解能の限界があるという説明も受けました。 その後、特別調査委員の間では、「胸部X線検査が肺がんによる死亡率を減少させる科学的根拠がそもそも不十分であり、低線量CT検査が、胸部X線検査と比較して肺がん死亡率を約20%減少させたというデータもある。それにもかかわらず、そのような胸部X線検査の限界を知らされないまま、国民は胸部X線写真による肺がん検診を受け“異常なし”という判定を受けて安心していること自体に問題があるのではないか」という論点で話が進んでいきました。「知らされないこと」による被害件の女性が若くして肺がんで命を落とされる結果になったことは本当に残念なことです。30代のときから健診を受け、胸部X線検査で“異常なし”と判定されて、安心を重ねてこられたのだと思います。もし、「胸部X線検査だけで早期の肺がんを見つけることには限界がある」と知っていたら、果たして漫然とこの健診・検診を受けてきただろうかと考えると、まさしく「知らされていない」被害者だったのではないかと思います。実際に、杉並区の「がん検診のお知らせ」を見ると、「肺がん検診」の検査内容は「問診」「胸部X線検査」と記載されていますから、これらの検査さえ受けていれば肺がんが見つかると期待してしまうでしょう。特別調査委員会では、もちろん河北健診クリニックの検診体制の問題点も指摘し、再発防止策の提案もしました。しかし、最も問題視したのは、河北医療財団が肺がんの早期発見や死亡率を減少させる検診の方法として胸部X線検査に限界があると知りながら、漫然と杉並区の健診・検診を引き受けてきたことではないかということでした。これは河北医療財団だけでなく、健診事業を引き受けている多くの医療機関にも共通するのではないでしょうか。現時点でわかっている情報をもとに、ときには軌道修正していくことも求められると思います。今回の特別調査委員会の提言が、受診者に対する情報提供のあり方も含め、世の中で巨額の予算を投じて漫然と行われている胸部X線検査による肺がん検診制度全体の見直しにつながることを願って止みません。1)社会医療法人河北医療財団 特別調査委員会「調査報告書」

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中年期以降の握力低下と認知症リスク~久山町研究

 九州大学の畑部 暢三氏らは、中年期から高齢期の握力低下と認知症リスクについて、検討を行った。Journal of Epidemiology誌オンライン版2018年12月8日号の報告。 60~79歳の認知症でない地域住民1,055例(平均年齢:68歳)を対象に24年間の追跡調査を行った。そのうち835例(平均年齢53歳)は、1973~74年に実施した健康診断のデータを中年期の分析に使用した。中年期から高齢期の15年間(1973~1988年)にわたる握力低下によってもたらされる認知症、アルツハイマー病(AD)、血管性認知症(VaD)のリスクをCox比例ハザードモデルで推定し、1988~2012年までフォローアップを行った。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に368例が認知症を発症した。・握力低下が大きくなると認知症発症率が有意に増加した(年齢、性別で調整)。 ●握力の上昇または変化なし(0%以上):25.1/1,000人年 ●握力のわずかな低下(-14~-1%):28.4/1,000人年 ●握力の著しい低下(-15%以下):38.9/1,000人年・潜在的な交絡因子で調整した後、握力の著しい低下は、認知症リスクの上昇と有意な関連が認められた。握力の著しい低下が認められた人は、握力が上昇または変化しなかった人と比較し、認知症リスクが1.51倍(95%信頼区間:1.14~1.99、p<0.01)高かった。・ADでは同様な所見が認められたが、VaDでは認められなかった。 著者らは「中年期から高齢期の著しい握力低下は、高齢期の認知症発症の重要な指標であることを示唆している」としている。■関連記事日本のアルツハイマー病、30年の推移:九州大「歯は大切に」認知症発症にも影響:久山町研究男女における握力とうつ病との関連

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高尿酸血症の治療失敗に肥満が関連か~日本人男性

 高尿酸血症または痛風の日本人男性の治療目標達成率と治療成功に影響する因子について、順天堂大学の片山 暁子氏らが検討した結果、肥満と治療失敗との関連が示唆された。また、血清尿酸(SUA)管理の一部として脂質プロファイルを維持する重要性が強調された。著者らは「肥満と脂質異常症の両方をうまく管理し、健康的なSUA値を得ることで、心血管疾患を予防できるかもしれない」としている。Internal Medicine(Japan)誌オンライン版2019年1月10日号に掲載。 本研究は、2012年1~12月に実施した横断研究で、職場の健康診断に参加した13万6,770人のうち高尿酸血症または痛風の男性2,103人のSUA値および臨床的特徴を調べた。成功(SUA≦6.0mg/dLと定義)率を算出し、多変量解析を用いて「治療失敗」(目標SUA値に到達しない)に関連する因子を調べた。 主な結果は以下のとおり。・目標SUA値の達成率は37.5%であった。・BMIは治療失敗と有意に関連していた(カテゴリ[C]1<25.0と比較し、25.0≦C2<27.5の調整オッズ比[AOR]=1.35、27.5≦C3<30.0のAOR=1.69、C4≧30.0のAOR=1.94)。・腹囲(WC)と治療失敗との間にも有意な正の相関が観察された(C1<85.0cmと比較し、85≦C2<90のOR=1.29、90≦C3<95のOR=1.41、95≦C4のOR=2.28)。 ・BMIまたはWCの値の大きい人は小さい人よりも有意にSUA値が高い傾向があった。・治療失敗に対する予防因子として、脂質異常症治療薬の継続的服用が特定された。

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第8回 QRS電気軸イロハのイ【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第8回:QRS電気軸イロハのイ心電図を漏れなく読む上で、「(QRS)電気軸」の確認は無視できません。でも、高校時代の数学の授業が思い出されてどうも苦手…。よく聞きますね、そんな声。でもね、Dr.ヒロのレクチャーを聞いたらば、電気軸も難しくないんだと思ってもらえるハズ。今回はそのイントロです。症例提示47歳、女性。健康診断での心電図を示す(図1)。(図1)健診での心電図画像を拡大する【問題1】心電図のQRS電気軸について、正しいのはどれか。1)正常軸2)右軸偏位3)左軸偏位4)高度軸偏位(北西軸)5)不定軸解答はこちら1)解説はこちら心室興奮・収縮が向かう方向を一つの矢印で表現しようというのが「QRS電気軸」の概念です。定性的な理解のみなら、I誘導とaVF誘導(ないしII誘導)のQRS波の向き(極性)だけで判定することができます。1)○:I誘導、aVF(II)誘導ともQRS波は上向き(陽性)であり、「正常軸」と判定できます。自動診断結果も「正常範囲」となっており、こういう場合“9分9厘”異常所見はありません。2)×:I誘導:下向き(陰性)、aVF(II)誘導:上向き(陽性)の場合を示す。3)×:I誘導:上向き、aVF(II)誘導:下向きの場合を示す。4)×:I誘導:下向き、aVF(II)誘導:下向きの場合を示し、日常出くわす頻度はかなり少ないと思います。5)×:I誘導かつ/またはaVF(II)誘導のQRS波で「R波の高さ≒S波の深さ」のためどっち向きともつかず、各領域の境界線上に来て“決められない(不定)”という意味。今回は該当しません。今回のテーマは、電気軸-入門編-です。『先生、私、電気軸がニガテです。数学の授業みたいで、何が言いたいのかイメージできません…(泣)』医学生・研修医やナースから多く聞こえる“悲鳴”です。心電図の勉強をはじめたての頃、久しく忘れていた座標平面の上に矢印なんかで説明されて…殺傷力抜群の授業や教科書を誰しもが体験したでしょう。この段階で心電図を諦める人、続出なんです。かくいうDr.ヒロも一度やられています(笑)正確には「QRS電気軸(QRS-axis)」といいますが、“QRS-”の部分を省略したシンプルな言い方も同義と考えてOKです。このQRS電気軸の異常は特定の疾患とリンクする重大所見ではないのですが、系統的な判読を推奨する立場の人間としては、“見なかったことにする”のはNGだと思っています。では、「電気軸」という用語が難しいと構える人に、どうしたら抵抗なく理解してもらえるか…ボクなりに考えた末、「QRS波の向き」と言い換えてはどうかとの結論に至りました。そこで、ボクの語呂合わせでは、電気軸をスパイク・チェックのR(QRS)波の「向き」を見る部分でチェックします(第1回)。R(QRS)波の「向き」チェックのポイント基本は洞性P波の“イチニエフの法則”と同じ「向き」(1)イチニエフ(I、II、aVF)で上向き(2)ブイシゴロ(V4~V6)も上向き(3)アール(aVR)で下向きで、出たっ、ここでも“イチニエフの法則”が! これは洞調律の“定義”ともいうべき「洞性P波」の向きを規定する、ありがたい“呪文”でしたね(第2回)。実は、正常なQRS波の「向き」というのは洞性P波のそれと同じなんです。このうち、ポイント(1)がQRS電気軸をチェックする過程に相当します。向きについては、(2)の部分も正常では上向きです。ここが下向きの場合、「時計回転」という異常と理解すると良いでしょう。補足ですが、この「回転」という概念は、心臓を輪切りにした断面(水平断)で心室興奮が進んでいく方向が変になっているということなのですが…電気軸よりも余計マニアックかな?(3)のaVR誘導は通常あまり注目されませんが、上向きだと肢誘導電極の左右間違いを疑うこともありましたが、これもaVR誘導のQRS波は「下向き」なのが正常と理解すれば特別難しいことではありません(第6回)。“肢誘導界での電気の流れ”心臓をおデコ(額)と平行な断面(前額断または冠状断)で切ると、そこには“肢誘導の世界”が広がっています。肢誘導は上下左右など「方向」に強い誘導ですが、この面上で心室における電気の流れを大胆に一本の“矢印”で表したものがQRS電気軸になります。言葉より図示した方が早いので、これで説明しましょう(図2)。これは手電極の左右つけ間違いを扱った時にも登場した図ですね。簡便にはI誘導とaVF誘導の2つの誘導それぞれでQRS波が上向き(陽性)か下向き(陰性)かを見ます。aVF誘導ではなく、方向的に近い場所から見るII誘導で説明される場合もありますが、ニサンエフ(II、III、aVF)は“ご近所さん”ですから、同様に扱って良いことも理解できますね。まず、両方とも上向きなのが「正常軸」[(図2)緑色エリア]。文字通り、これが正常で、心電図(図1)もこれに該当しますね。一方、これ以外の場合、QRS電気軸に偏位があると表現します。I誘導だけ下向きなら「右軸偏位」[(図2)赤色領域]、aVF(II)誘導だけ下向きなら「左軸偏位」といいます[(図2)青色領域]。両方下向きなら「高度(の)軸偏位」と呼びましょう。これには「北西軸」という別の言い方もあります[(図2)橙色領域]。(図2)肢誘導の世界とQRS電気軸画像を拡大するこの図さえわかれば、今回の問題は解答できます。なお、互いに直交するI誘導とaVF誘導で分ける場合には(図2)のように90°ずつきれいに分けられますが、右軸・左軸偏位ゾーンを30°ずつ削って「-30°~+120°」がQRS電気軸の正常範囲とされることもあります(つけ加えられた部分は“軽度の”右軸ないし左軸偏位という扱いです)。『っていうか、何度とかプラス・マイナスとか頭がついてかないよー』そんな人、手を挙げて。これはね、あくまでも説明のため。全部キッチリ覚えろなんていう気はボクにはありません。理解するためと考えましょう。ニサンエフ同様、「イチエルゴロク(I、aVL、V5、V6)」は心電図の世界で頻回に登場する“4兄弟”です。難しいコトバでは「左側胸部誘導」や「側壁誘導」と言ったりします。左側胸部に貼るV5、V6誘導の位置、またはaVLにL(left)がついていることからもわかるように、I誘導は心臓を左側から眺める誘導です。そして、ここが「±0°」で円座表のゼロ点になります。今でこそ12個となった誘導ですが、心電図黎明期にはI~IIIの3つしかありませんでした。その意味でも、一番はじめの「I」が0゚に設定されていると理解して下さい。ここから時計回りがプラス(+)、反時計回りがマイナス(-)の世界です。どっちがプラスかマイナスかわからなくても、普通は正常軸がプラスになるよう設定しますよね。“右・左、どちらか悩む人へ”心電図の講義時によく受ける質問として、『どっちが右軸でどっちが左軸かわからなくなるけれど、どうしたらいいですか?』というものがあります。そんな時、ボクのアンサーは「I誘導で下向き(陰性)」の意味を考えよ、です。心電図の基本ルールとして、興奮が自分の見ている“視点”(誘導)に向かってくる場合にプラス(陽性)の振れとして描かれます。I誘導は心臓の“真左”ですから、そこがマイナス(陰性)なら心室興奮は右方向にずれていっていますよね。それが右軸偏位の真意と理解するのです。これは、別に何かを“暗記”せずとも“理解”することで道が開ける典型例です。左軸偏位はといえば、逆にI誘導が上向き(aVF [II] 誘導が下向き)の方と考えたらオッケーでしょう。臨床的な頻度は圧倒的に左軸偏位が多いですよ。でも、頭の中は右軸偏位の意味するところで理解しておき、左軸偏位を右軸偏位“じゃない方”と考えれば、右軸か左軸か悩む人の“福音”になると信じています。どうだったでしょうか?今回は電気軸‐入門編‐として、QRS波の「向き」の観点で定性的な解説をしました。何度か読み直してもらうことで、理解が深まると思います。次回は、具体的な数値(角度)を用いたQRS電気軸の問題を扱います。今回の議論よりは一歩進んだ話ですが、とっておきの手法を用いて解説したいと思います。どうぞお楽しみに!Take-home Message1)QRS電気軸とは、“肢誘導界(前額断)”で心室興奮が向かう大まかな方向を示すもの。2)QRS電気軸チェックにも“イチニエフの法則”を応用できる!3)I誘導とaVF(またはII)誘導のQRS波の「向き」だけ見れば定性的チェックは十分!【古都のこと~光悦寺~】“紅葉スポット”として11月中~下旬には多くの人で賑わう光悦寺。多能な本阿弥光悦が江戸時代初期に芸術郷を築いたことで知られています。竹を菱形に組んだ光悦垣に囲まれた茶室(大虚庵:ほかも含め境内に計7つあります)、色づき始めた紅葉に独特の趣を感じた後、さらに歩を進めると鷹峰三山を望む景色に圧倒されました。個人的には、まだ人もまばらな初秋の方が、より魅力的に感じる場所ではないかと思いました。

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AIが3年後の糖尿病発症リスクを予測

 わが国では、糖尿病が強く疑われる人が約1,000万人、糖尿病の可能性を否定できない人が約1,000万人と推計されている。糖尿病は、網膜症、腎症、神経障害の3大合併症に加えて、心血管疾患、がん、認知症などのさまざまな疾患のリスクを高めることが知られており、健康寿命を延伸するため、糖尿病の予防対策は国民的な課題となっている。 こうした情勢をうけ、国立研究開発法人 国立国際医療研究センタ-(理事長:國土 典宏、以下「NCGM」と略す)は、自分の健康診断の結果を入力することで糖尿病発症のリスクを予測するツ-ル「糖尿病リスク予測ツ-ル」を、株式会社教育ソフトウェアと共同開発し、10月24日よりNCGMのホ-ムペ-ジで公開した。※26日10時現在、上記ページ(糖尿病情報センターの「糖尿病リスク予測ツール」)が閲覧できなくなっています。3万例のデータで予測する糖尿病発症のリスク 本予測ツ-ルは、利用者の3年後の糖尿病発症のリスクを予測するもので、職域多施設研究(J-ECOHスタディ)で収集した3万例の健康診断デ-タに基づき、機械学習手法(人工知能)により開発された。 対象者の体重、血圧、喫煙習慣などの基本項目(非侵襲的デ-タ)のみによる予測と、さらに空腹時血糖やHbA1cなどの血液デ-タを追加することで精度の高い予測の2通りから選択できる。また、デ-タを入力することで、3年後の糖尿病発症リスクとともに、同性・同年代の中での相対的な比較をグラフ上に示すこともできる。 なお、本ツ-ルは、糖尿病と診断されたことのない30~59歳の人が対象となる。■参考NCGM糖尿病情報センタ-■関連記事糖尿病診療コレクション

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日本の常識、世界の常識(解説:野間重孝氏)-931

 2015年にLancet誌(オンライン版)に発表されたSCOT-HEART試験は、安定胸痛患者の管理に冠動脈造影CT(CTA)を利用することにより、診断精度、診断頻度を上げることができることを示したが、フォローアップ期間が短かったこともあり、非致死性・致死性心筋梗塞の発症頻度の低下を証明することはできなかった(低下傾向はみられたが統計学的有意差が得られなかった)。このことから、CTAの利用が非致死性・致死性心筋梗塞の発症を低下させることを示すことを主な目的として、同研究グループが前研究の参加者を対象に5年間(中間値で4.8年)の長期フォローを行ったのが本研究である。結果: 1. 主要評価項目の5年発生率は、標準治療群3.9%(81例)に対し、CTA群2.3%(48例)と、CTA群が有意に低いことが示された(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.41~0.84、p=0.004)。 2. 侵襲的冠動脈造影と冠血行再建術の実施率は、追跡開始当初の数ヵ月間はCTA群で標準治療群より高率だったが、5年時点では両群で同程度に認められた。 3. 一方で、予防療法や抗狭心症療法を開始した患者の割合は、CTA群が標準治療群より多かった。 4. 心血管系の原因による死亡、心血管以外の原因による死亡、全死因死亡の発生率は、いずれも両群で有意差は認められなかった。彼らの結論を要約すれば: 1. 安定胸痛の患者に対し、標準治療に加えCT冠動脈造影(CTA)を行うことで、5年間の非致死性・致死性心筋梗塞の発生リスクを約4割低下させることができる。 2. 一方、侵襲的冠動脈造影や冠血行再建術の5年実施率は、両群で有意差が認められなかった。 結論の1と2の関係に戸惑う人もいるかもしれない。実際率直な疑問として、冠動脈造影・血行再建の実施率に差がないのに、どうして非致死性・致死性心筋梗塞の発症に差がなかったんだろう、と素朴な疑問をお持ちになる方も多いのではないかと思う。 致死性心筋梗塞の発症、非致死性心筋梗塞の発症ともに、時間を追うごとに差が開いていっている。この差が約4割に達したのである。 侵襲的CAGの施行、血行再建の割合は両者で差がついていない。 なぜ差がつかなかったかについては、CTA非活用群では診断がきちんとなされないまま、フォローされているうちに非致死性・致死性心筋梗塞がどんどん発症してしまい、その結果としてこういう集団がフォローアップから脱落し、結果CAGや血行再建の頻度に差がでなかったと解釈されるのである。さらに、早期の血行再建だけではなく、診断確定の有無により両群で至適内科療法の実施状況に差があったことも当然挙げられなくてはならないだろう。 そんなに差がでるものか? フォローアップの姿勢に問題があったんじゃないのか? と思われる方もいらっしゃると思う。ここであらためてご注意したいのは、彼らがフォローしたのは“stable chest pain”であって“stable angina”ではないことで、実際、論文中で著者らが「おそらく半数は実際には有意な動脈硬化を持っていない可能性がある」という記述をしていることである。英国全体における虚血性心疾患の取り扱いがどうなっているかまでは言及できないが、少なくとも彼らが扱った集団のフォローアップ体制はその程度だったのであり、それは世界的にみても決して珍しいことではないのである。 一方、以上の結果をみて「なんだ、当たり前じゃないか」と思われる方も多いのではないかと思う。わが国においては心電図・胸部レントゲン写真・経胸壁心エコー図等のスクリーニング項目を一通りこなして、少し怪しいと思った患者に対してCTAを撮るのは当たり前になっている。以前は運動負荷が行われたが、現在では運動耐容量の不明な狭心症患者に対していきなり運動負荷検査を行うことは危険であり、運動負荷検査は(決まりきった健康診断のスクリーニングを除けば)すでに診断の確定した狭心症患者の運動耐容量の決定に用いられるほうが普通になっている。 しかし、わが国において以上は常識とされているが、日本以外の国においては必ずしもそうではないことには注意が必要である。日本はCTの普及率がOECD加盟国の中でも群を抜いた1位であり(世界CTの10台に1台はわが国にある)、簡単に造影CTができる環境にある。また健康保険制度が整備されているため、収入の低い人であってもCTやシンチグラムなどの高価な検査を受けることができる。さらに、わが国では患者はどの医療機関にも原則自由にアクセス可能である。これらは世界ではまれなことであることを認識しておかなければ、現在の日本の医療に対する評価を誤ることになる。 本研究はCTAの、というよりも虚血性心疾患の治療において、速やかかつ正確な診断がいかに重要であるかを示した論文として、重要な研究であると考える。さらにいえば、医療と医療費の問題についてあらためて考えさせられた論文であったともいえる。

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FHの発掘は内科と皮膚科・小児科の連携がカギ

 わが国における家族性高コレステロール血症(FH)の患者総数は、25万人以上と推定され、意外にも、日常診療において高頻度に遭遇する疾患と言われている。2018年8月22日に日本動脈硬化学会主催のプレスセミナー「FH(家族性高コレステロール血症)について」において、斯波 真理子氏(国立循環器病研究センター研究所病態代謝部部長)が登壇した。FHが襲った悲劇 競泳男子平泳ぎ100m 北島康介選手の最大のライバル、ノルウェーのダーレ・オーウェン選手(享年26歳)が2012年4月に急死したのをご存じだろうか。死因が遺伝性の心疾患と判定された彼は、もともと冠動脈疾患を抱え、急死する1、2ヵ月前にも軽い心臓発作を起こしていたという。にもかかわらず、治療を行っていなかった可能性があり、さらに、この選手の祖父は42歳の時に心臓病で急死しているとの報告もある。斯波氏によると、「トップアスリートは、スタチン系がもたらす運動機能低下の副作用を懸念し1)、薬物治療を拒むことがある」という。 また、FH患者は、冠動脈疾患(CAD)を発症し、その後10~15年経過後に脳血管疾患に陥る場合が多いと言われている。この理由について同氏は、「コレステロールは力が加わる部分に溜まりやすい。そのため、アキレス腱、大動脈や心臓弁に溜まり、CADを発症しやすい」と解説した。FHの種類と診断意義 FHはLDL受容体、PCSK9遺伝子の変異が原因とされ、大きく2種類に分類される。ヘテロ接合体、ホモ接合体、それぞれの主な特徴(15歳以上の場合)を以下に示す。FHヘテロ接合体・LDL受容体関連遺伝子変異・罹患率:200~500人に1人(遺伝性代謝疾患中、頻度最大)・血清総コレステロール値:230~500mg/dL・所見:皮膚および腱黄色腫・若年性動脈硬化症やCADの早期罹患FHホモ接合体・LDL受容体遺伝子変異・罹患率:100万人に1人以上・血清総コレステロール値:500~1,000mg/dL・所見:著明な皮膚および腱黄色腫・確定診断:LDL受容体活性測定やLDL受容体遺伝子解析の利用 各分類別に累積LDL-CとCADの発症を調べた研究2)における、CAD発症に係る累積LDL-C閾値到達年数は、ヘテロ接合体患者は35年、ホモ接合体患者は12.5年と報告されており、非FH患者の53年と比較しても両者のCADリスクの高さがうかがえる。同氏は「この報告が示すように、いかに早期発見し、適切な治療を開始するかがFH診断の鍵となる」と、診断の意義を語った。早期発見にはレントゲン・超音波・家系図を FHの最も有効な診断は遺伝子検査だが、同氏は「まずは、アキレス腱などの肥厚や皮膚結節性黄色腫、FHあるいは早発性CADの家族歴(2親等以内)を発見することが望ましい」と述べ、「アキレス腱厚は超音波[カットオフ値(mm):男性6.0、女性5.5]、レントゲン[カットオフ値(mm):9.0]で診断できるため、通常の診察において腹部や胸部だけでなく、アキレス腱のチェックをしてほしい」と、画像診断の有用性を訴えた。 さらに、LDL-C値が高い患者にはFHや心筋梗塞の家族歴の確認が重要となる。FHは家族を1人診断するとほかの家族の診断にも繋がるため、同氏は「医師がフリーハンドで家系図を描き、患者に家族一人ひとりをイメージしてもらいながら答えてもらう。それをカルテに残しておく」など、家族歴を尋ねるコツも紹介した。小児の健康診断に導入される日を目指して 小児の場合、腱黄色腫などの臨床症状が乏しく(ホモ接合体を除く)、健康診断などによるLDL-C値の早期発見が難しい。現時点で、10歳前後の血液検査を実施している自治体は非常に少なく、香川県や富山県の一部などにとどまることから、家族のFHから診断することが重要となる。 日本動脈硬化学会と日本小児科学会が合同でガイドラインを作成したことを踏まえ、同氏は「合併症がある場合は管理目標値140mg/dL未満を維持し、リスクが高い患児にはスタチン系を第1選択薬として考慮する」など治療ポイントについても述べた。 最後に同氏は「患者にとって、がんや高血圧の認知度は高いが、この疾患はほとんど知られていない。この疾患や早期発見、小児での血液検査の重要性を理解してもらうために、9月24日に世界FH Dayを制定し、啓発活動を行っている」と取り組みへの思いを綴った。 なお、日本動脈硬化学会では、より多くの先生方にFH診療を理解していただくために、医薬教育倫理協会(AMEE)と共同でeラーニングプログラムを開発、公開している。ケアネット医師会員は、ケアネットのID/パスワードにてこちらから受講可能である。■参考1)Sinzinger H,et al.Br J Clin Pharmacol. 2004;57:525-528.2)Nordestgaard BG et al. Eur Heart J 2013;34:3478-3490

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小児期のストレスと将来の認知症発症との関連

 小児期の環境と晩年の慢性疾患との関連を分析するライフコース研究は、あまり行われていない。とくに、認知症の早期予測を可能とする研究はほとんど存在しない。東フィンランド大学のGwendolyn A. R. Donley氏らは、小児期のストレスと将来の認知症(とくにアルツハイマー病[AD])との関連について検討を行った。European Journal of Public Health誌オンライン版2018年7月17日号の報告。 1984~89年に実施された広範なベースライン健康診断およびインタビュー調査である、人口ベースのKuopio Ischemic Heart Disease Risk Factor Studyに参加した、当時42~61歳の男性2,682例のデータを使用した。これらの構造化されたインタビューには、小児期のイベントが記録されていた。保護施設や児童養護施設での生活、小児期の危機的な経験、教師による問題、戦争による移住など、複合的な小児ストレス変数を作成した。ADを含む認知症に関するデータは、2014年までの健康レジストリより取得した。認知症発症リスクは、ベースライン時の年齢、教育、所得、先天性疾患の既往で調整し、Cox回帰を用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。・小児期のストレスは、認知症リスクの増加と関連が認められた(HR:1.86、95%CI:1.12~3.10)。・年齢、教育、所得およびその他の共変量で調整した後でも、この関連は統計学的に有意であった(HR:1.93、95%CI:1.14~3.25)。・この関連は、ADにおいてもわずかに有意であり、同様なHRを有していた。 著者らは「小児期のストレスは、男性において、将来の認知症リスクに重要な影響を及ぼす。そのため、ストレス状態に苦しんでいる小児に対しての、支援システムの開発が求められる。多様な集団において、将来の罹患率に関わる小児期の社会的および環境的影響を検討するさらなる調査は、ライフコースの疾患による負荷を理解するために必要である」としている。■関連記事なぜ、フィンランドの認知症死亡率は世界一高いのかどのくらい前から認知症発症は予測可能か子供はよく遊ばせておいたほうがよい

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乳児期に被災した福島の子供は体重増加の傾向

 生後10ヵ月までに福島県で東日本大震災の被害を受けた子供は、過体重の傾向があることが福島県立医科大学の小野 敦史氏らの研究により明らかになった。この結果について小野氏は、福島第一原子力発電所に近く放射線量がより高い浜通りや中通りにおいて外出が制限されたことが関係しているという見解を示している。BMJ Paediatrics Open誌2018年2月7日号に掲載。 東日本大震災後の福島県における乳幼児期の身体発育を評価した報告はない。そのため著者らは、福島県内の31の市区町村で生まれた計2万600例の乳幼児(0~3歳)の健康診断データを、被災してから健康診断を受けるまでの期間で分類し、後ろ向きに検討した。身長とBMIのデータを用いて、健康状態を3歳児健診後に被災した子供と比較した。 主な結果は以下のとおり。・生まれてから3~4ヵ月および6~10ヵ月の健康診断の間に福島県で被災した子供では、18ヵ月健診から36~42ヵ月健診の間の有意な体重増加が観察された。・地域ごとに分けると、浜通りと中通りでは被災によってBMIが増加したが、会津ではBMIへの影響は認められなかった。

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