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動脈硬化リスクの早期発見、見過ごしがちな値とは/日本動脈硬化学会

 動脈硬化と悪玉コレステロール増加の結びつきをよく知っている患者でも、TG(トリグリセライド、中性脂肪)値の増加は肥満者だけのものと捉えてはいないだろうかー。2020年2月21日、日本動脈硬化学会はプレスセミナー「食後高脂血症と動脈硬化」を開催。増田 大作氏(りんくうウェルネスケア研究センター センター長)が「食後高脂血症」について、矢作 直也氏(筑波大学医学医療系 准教授)が「糖尿病と動脈硬化」について講演した。TG値の増加をリポ蛋白で知る 動脈硬化に影響を及ぼす脂質の値は、健康診断を受ける人にとって気になる項目だ。増田氏によると「企業健診受診者の3分の1になんらかの脂質異常症が存在している」という。この脂質異常症の有無が動脈硬化リスクの判定材料となるわけだが、近年はコレステロール値だけではなくTG値の上昇が心血管疾患の増加因子として問題視されている。実際、将来の冠動脈疾患や脳梗塞発症の死亡予測に重要なことが、日本動脈硬化学会が発表した2017年版動脈硬化性疾患予防ガイドライン1)にも記されている。 TG値は、通常食後3時間程でピークとなり、徐々に低下して6~8時間で空腹時の値へ戻る。しかし、冠動脈疾患患者や糖尿病患者などでは、食後TG値の上昇が緩やかに続きピークが後ろ倒しとなり、8時間経過してもまだ高いことから、空腹時のTG値上昇につながる。この非空腹時(食後)TGが高値な病態は“食後高脂血症”と呼ばれ、動脈硬化を惹起するリポ蛋白の増加にもつながる。これを踏まえ同氏は「食後TG値が高くなるのは、食後にTGの多いレムナントリポ蛋白(とくに小腸からのカイロミクロンレムナント)が残っている証拠」と、話した。また、空腹時のみならず食後TG値にも心血管疾患イベントリスクとの相関が存在し、「空腹時TG値がほぼ正常でも非空腹時TG値が高い人は、レムナントリポ蛋白が蓄積している」と述べた。 次に同氏は動脈硬化リスク評価に有力なレムナントリポ蛋白の測定方法として、1)non-HDL-C、2)レムナントコレステロール3)アポB-48濃度測定の3つを挙げた。同氏はこれらの測定法について、「Non-HDLコレステロール測定はもっとも簡易的な反面、LDLコレステロールの上昇も反映するのでレムナント単独の変動がわかりにくい。レムナントコレステロール測定(RemL-C法など)は直接的定量的な評価が可能だが3ヵ月に1回しか算定ができないなどのデメリットがあり、対象者や測定タイミングに悩む医師が多い。アポB-48濃度測定は空腹時のカイロミクロンレムナントを測定するので、食生活や食材の影響を評価できる可能性があるが、まだ保険収載されていない」とそれぞれの長短について説明した。 最後に食後高脂血症を防ぐ方法として「薬物治療も重要だが、まずはThe Japan Dietのような動脈硬化を抑える食事の導入や定期的な運動が極めて重要」とコメントした。脂質異常症治療は糖尿病患者の血管に恩恵与える 糖尿病は動脈硬化性疾患の重要な危険因子であり、前述のガイドライン1)で動脈硬化性疾患の高リスクに分類されている。さらに、糖尿病患者では発症早期から血糖値のみならず脂質値、血圧値の厳格な管理を包括的に行う必要がある、とも記載されている。これらを踏まえ、矢作氏は糖尿病と動脈硬化の関係について解説した。 代表的な脂質異常症治療薬であるスタチン系薬剤では投与後早期に糖尿病に伴う心血管イベントの抑制が報告されている。一方で、インスリンを含む血糖降下薬の場合、投薬期間が5~10年程度では大血管障害に対する治療効果は乏しい。これについて同氏は「血糖降下薬の場合は、10年以上の長期経過の中でlegacy effectがみられる」と指摘した。 このような糖尿病治療の現況を前提として、同氏は指先検査を活用した糖尿病疑い症例の早期発見に努めている。東京都足立区と徳島県で、2010年10月~2017年9月に総計4,865名(希望者;ただし糖尿病治療中の人は対象外)に対して薬局での指先HbA1c検査(検体測定室)を導入したところ、糖尿病予備群疑い:701名、糖尿病疑い:515名を発見した。同氏はこの検体測定室での検査実績や既知のエビデンスを通し、「糖尿病患者の動脈硬化リスクは耐糖能異常などの前糖尿病状態から既に上昇していることが示されている。動脈硬化を予防するためには、前糖尿病の段階から早期発見、早期介入が必要である」と、締めくくった。

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前糖尿病状態から糖尿病にならないために

 前糖尿病者において、肥満かどうかにかかわらず体重を増やさないことで糖尿病発症リスクを最小限にできることが、国立国際医療研究センターのHuan Hu氏らの研究で示唆された。体重を減らすことは肥満者が前糖尿病状態から正常血糖に戻るのに役立つ一方、体重を維持することは非肥満者が正常血糖に戻るのに役立つ可能性があるという。Clinical Nutrition誌オンライン版2019年12月25日号に掲載。 本研究では、最大8年間、毎年健康診断を受けた2万2,945人の前糖尿病者のデータを使用し、糖尿病に進行した人、前糖尿病のままの人、正常血糖に戻った人におけるBMIと腹囲の変化を調査した。糖尿病の発症は、米国糖尿病学会(ADA)の基準により定義した。観察期間中に糖尿病に進行しなかった人は、最後の健康診断データに基づいて、「前糖尿病のまま」または「正常血糖に戻った」と分類された。BMIと腹囲の変化は、広範囲の共変量を調整して、反復測定の線形混合モデルを使用して評価した。 主な結果は以下のとおり。・研究期間中、2,972人が糖尿病に進行し、4,706人が正常血糖に戻り、1万5,267人が前糖尿病のままであった。・糖尿病に進行した人の平均BMIは、糖尿病診断の7年前から1年前に大きく増加し(年間変化率:0.20 [95%信頼区間:0.15~0.24] kg/m2/年)、前糖尿病のままであった人(0.06 [0.04〜0.08] kg/m2/年)の約3倍(p<0.001)で、最初の健康診断時のBMIとは関係なかった。・正常血糖に戻った人における平均BMIの変化率は-0.04(-0.09〜0.002)kg/m2/年で、肥満者(-0.16 [-0.28〜-0.05] kg/m2/年)を除いてほぼ変化がなかった。・糖尿病を発症した人の腹囲の年間変化率は0.38(0.32〜0.45)cm/年で、前糖尿病者(0.05 [0.03〜0.08] cm/年)の約7倍だった(p<0.001)。・正常血糖に戻った人のうち、中枢性肥満ではない人は平均腹囲が変わらず(-0.02 [-0.06〜0.03]cm/年)、中心性肥満の人は減少がみられた(-0.40 [-0.47〜-0.32] cm/年)。

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血液1滴で13種のがん検出、2時間以内に99%の精度で―東芝

 東芝は11月25日、血液中のマイクロRNAを使ったがん検出技術を開発したと発表した。同社によると、独自のマイクロRNA検出技術を使った健康診断などの血液検査により、生存率の高いStage 0の段階でがんの有無を識別することが期待できるという。早期の社会実装に向け、来年から実証試験を進めていく。 リキッドバイオプシーの解析対象となるマイクロRNAを巡っては、2014年に「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」が始動。国立がん研究センターや国立長寿医療研究センターが保有するバイオバンクを活用し、膨大な患者血清などの検体を臨床情報と紐づけて解析。血中マイクロRNAをマーカーとした検査システムの開発が進んでいる。この研究成果をベースに、国内メーカー4社が、日本人に多い13種のがんについて、血液検体から全自動で検出するための機器や検査用試薬、測定器キットなどの開発に取り組んでいる最中だ。 東芝も本プロジェクトに当初より参画。東京医科大学と国立がん研究センターとの共同研究において、このほど膵臓がんや乳がんなど13種類のがん患者と健常者について、独自の電気化学的なマイクロRNA検出技術を活用し、2時間以内に99%の精度で網羅的に識別することに成功した。この中には、Stage 0の検体も含まれていたという。本研究により、13がん種いずれかのがんの有無について、簡便かつ高精度に検出するスクリーニング検査の実現が期待される。独自のマイクロRNAチップと専用の小型検査装置を用いることで、検査時間を2時間以内に短縮し、即日検査も可能になるという。 東芝は、本技術の詳細を12月3~8日に福岡で開催される日本分子生物学会で発表する。

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第33回 「異常Q波」アップデート~最近の考え方~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第33回:「異常Q波」アップデート~最近の考え方~ここ何回かのレクチャーで扱った「異常Q波」。これまでの右前胸部誘導(V1~V3)は「存在」確認で診断できましたが、そのほかの誘導ではどうでしょうか? ちまたの教科書などではさまざまな「定義」が述べられ、やや混沌としている印象です。「心筋梗塞」の反映という観点から、波形の特徴はもちろん、誘導同士の組み合わせや個数まで、Dr.ヒロが最新の考え方を解説します。さぁ、知識をアップデートしましょう!【問題】陳旧性心筋梗塞を反映する「異常Q波」に関する診断条件のうち正しいものを2つ選べ。1)深さ:2mm以上2)深さ:同一誘導のR波高の1/3以上3)隣接する誘導グループのうち、3つ以上で認める4)QS型5)幅:0.03秒以上解答はこちら4)、5)解説はこちら心筋梗塞の診断に役立つ「異常Q波」の定義に関する問題です。今回は症例問題がありませんが、次回に扱おうと思います。選択肢として挙げたものは、いずれも教科書などで取り上げられるものを題材としています。2000年代に入ってから、「Q波」を用いた心筋梗塞の診断法はいくつか改良がなされました。少し前までの“当たり前”が、今は“そうじゃない”ってこともあるんです。今後も微修正される可能性はありますが、目下、最新の診断基準を共有したいと思います。“「異常Q波」な人ってどれくらいいる?”労働衛生協会のデータによると、2017年に健康診断で心電図検査を受けた13万6,000人のうち、「有所見」(要経過観察・受診・精査)とされたのは8.5%、そのうち「異常Q波」は5.4%(男性6.3%、女性3.5%)に認められました。つまり、「心電図異常」を理由に二次健康診断として医療機関を紹介された人は、20人に1人の確率で「異常Q波」の所見が認められるわけです。残念ながら、受診しない方もいますから、受け手側のわれわれが抱くイメージと若干ズレている可能性はありますが、「異常Q波」は割とコモンな所見だってことです。健康診断でこんな状況なのですから、心血管疾患の患者さんが集まる病院では「異常Q波」の出現頻度がもっと高いでしょう。“時代とともに変わる異常Q波の定義”ところで、「異常Q波」を指摘する意味は何だったでしょうか? それは死んで機能しなくなった心筋の反映で、その“代表選手”は「心筋梗塞」です。冠動脈閉塞により心筋梗塞が起こり「異常Q波」が記録された様子のイメージを、図1からつかんでみましょう。(図1)異常Q波と心筋梗塞の関係画像を拡大するところで、心筋梗塞のすべての患者さんが「強い胸痛」を発症し、カテーテル治療を受けて、自身の病名をその後も忘れずに完全に把握しているとしたら…心電図でQ波を探すよりもご本人に問診すれば済むはずです。しかし、患者さんの多くはメディカル・プロフェッショナルではありませんし、記憶があいまいなケースも多々あります(第32回)。それよりもっと重要なのは、自分の知らないうちに心筋梗塞を起こしている人がいるということです。まったく症状がなかったり、心筋梗塞だと思わずにガマンしてしまったり…後者は別にして、「無症候性」(silent)心筋梗塞が全体の1/3を占めるなんていうショッキングな論文1)、2)もあります。こうした “いつの間にか心筋梗塞”を見抜く術として心電図検査があり、とくに「異常Q波」がその役割を果たすと言えます。このへんで少し昔話。心電図が苦手でキライだった “ダメ医学生”の時代(第24回、第25回)、当時のボクが習った「異常Q波」の定義は、A) R波高≦1mm(0.1mV)なら「Q波」とみなして良い、B) 幅≧0.04秒(40ミリ秒[ms])、C) 深さ≧同一誘導でのR波高の25%(1/4)、でした。A)は「1mmなかったら、陽性波が“ない”のと同じ」ってこと。ごくごく小さいR波がわずかにあり「Q波」かな?と悩む場合には、今でも時おり参考にしています。B)は心電図波形の方眼紙では、横1mmが「0.04秒(40ミリ秒[ms])」に相当するので、これも“1mmつながり”です。最後のC)については、問題の選択肢2)のように「1/3」と記載している本もありました。『1/3とか1/4って言うけど、いちいちR波が何ミリ、Q波が何ミリとかって測るのが面倒だなぁ…』と思った記憶があります。一つずつR波高と比べるのも確かに大変ですし、早期にPCIがなされてR波の減高が軽度にとどまる場合、相当な深さのQ波でないと“異常”とはならず、現実をうまく説明できません。そんな“現場の声”が届いたのか、2000年に心筋梗塞の定義が見直されました。その後、約20年間に何度か改訂がなされ、現在の異常Q波の定義は次のものです。一昔前の定義がまったくダメというわけではありませんが、目下“最新版”というものをお示しします。■過去の心筋梗塞を示唆する心電図所見3)(左室肥大、左脚ブロックを除く)■V2~V3誘導:幅>0.02秒のQ波あるいはQS型それ以外:幅≧0.03秒 かつ 深さ≧1mmのQ波あるいはQS型(I、II、aVL、aVF、V4~V6誘導*1)が隣接する誘導グループ*2のうち2つ以上で認められる。V1~V2誘導:R波幅>0.04秒 かつ そろってR/S>1で陽性T波*1:V2、V3は別に定義されており、その心は「III、aVR、V1を除く」ということ(正常でも「異常Q波」様の波形が出る代表的なIII誘導)。*2:(1)I、aVL、(2)V1~V6、(3)II、III、aVFの3つ。“「V1~V3」と「それ以外」で考えよ”一見して気づくのは「V2、V3」と「それ以外」で分けている点でしょう。前回までは「V1~V3」で扱ったのに? 個人的には、この定義のようにV1誘導だけを“のけ者”にするような定義は好みません。現在の定義でV1誘導が除かれているのは、V1誘導では健常者でも「Q波」が出ることがあるためで、単独ではもちろん、人によっては「V1、V2にQ波あり」でも、心エコーなどでは左室「前壁」含めて何にも異常がない方もいます。ただ、同じパターンでホンモノの心筋梗塞の既往がある人もいます。なので、たとえV1誘導単独でもQRS波が陰性波から始まっていたら「Q波」と指摘して欲しいですし、その「異常」基準はV2、V3誘導と同じで結構です。“例外・特殊”、“~だけ”という言葉は、漏れのない判読を推奨するDr.ヒロ流の教えに反します。ちなみに「0.02秒」の条件はあまり気にしないでOKですよ。横幅で言ったら0.5mmですし、それ以下なら正常と言えるわけでもなく(「q波」としての指摘はすべき)、ひとまず「V1」も含めて“あるだけで異常“のスタンスは崩さないほうが良いでしょう。ですから、本質的な理解としては「V1~V3」と「それ以外」で良いと思います。そして、定義ではQS型が「あるいは」で並列しています。これは陽性(r/R)波がまったくないため、「Q波」とも「S波」とも決めがたいという意味で、実質的には「(異常な)Q波」と同義として扱って良いのでした(第17回)。次に、深さの「1/4(ないし1/3)以上」が「1mm」になったのはいいとして、幅はどうでしょう? 「0.03秒(30ms)」って、横1mmが0.04秒(40ms)なのに…って思いませんか? 個人的には、人の目を引くくらい“幅広”なら、ほぼ1mmでアウト、厳密に1mm以上じゃなくていいよっていう解釈です。このように「V1~V3“以外”」では深さも幅も「1mm」がキーワードですから、これをDr.ヒロは“1mm基準”ないし“1ミリの法則”と呼んでいます。ほかにも冒頭で紹介した一昔前の基準も含めて、「異常Q波」の世界では「1mm」が頻発するのです。では、もう一つの「隣接する」(contiguous)ってどういうことでしょう? 一見“n”と“g”を打ち間違えたように見えますが、“g”でOKです。意味的には“continuous”と似ていますがね。この「contiguous」という単語って、あまり英語が得意でないボクにはここ以外ではあまり使われない気がしますが、皆さんはどうでしょうか?胸部誘導の場合、電極を貼る位置が“隣同士”あるいは“お隣さん”、たとえば「V2、V3、V4」とか「V5、V6」とか。いずれにせよ2つ以上が大事。Dr.ヒロ流では“お隣ルール”という名称で解説しています。胸部誘導は、電極位置がそのまま左室壁の「どこ」に対応していましたし(第17回)、心筋梗塞は同じ血管で灌流される一定のゾーンがやられるわけで、「単独」とか「飛び飛び」のような誘導にはならないんです。これはわかりやすいですね。“肢誘導での「隣」に注意すべし”一方の肢誘導では、“お隣ルール”の理解に注意が必要です。標準様式の心電図では、用紙の左半分の上からI、II、III、aVR、aVL、aVFと並んでいますが、見た目通りの“IはIIの隣”や“aVRとaVLは隣同士”というのは間違いです。ややこしいことに、肢誘導では波形の並び順ではなく、「空間的・位置的」に、お隣なんです。『へ…?この人、何言ってんの?どういうこと?』と、思われる方がいるかもしれませんが、大丈夫。全然難しいことではないんです。ボクはすでに何度もレクチャーで扱っています。肢誘導の空間的な位置を示すものと言えば…そう、「肢誘導界」の円座標の世界です(第5回)。ここでは、「IとaVL」、そして「II・aVF・III」の組み合わせが“隣接誘導”*3になります。*3:Dr.ヒロ流では“仲良し誘導”という言い方をすることもある。■“お隣ルール”での隣接誘導群の考え方■胸部誘導は電極の貼り位置そのまま肢誘導は“円座標”の世界での話であることに注意!そして最後。気をつけていないと見過ごしてしまいそうですが、「異常Q波」の定義のはずが、3つ目にV1、V2誘導の「R波」が述べられています。なぜ「R波」が心筋梗塞なのか、聞いたことがあるでしょうか? こちらは“裏”ないし“鏡”の世界と言える、左室「後壁」という「前壁」の真反対の話です。「Q波」の話題から少しズレるので、今回は扱うのをやめておきます(軽く目をやる程度で済ませてください)。以上が最近の「異常Q波」の考え方のトレンドですので、しっかり理解しておきましょう。次回は、具体的な症例でこれらの知識を用いてみようと思いますので、ご期待あれ!Take-home Message異常Q波の診断基準をアップデートしよう。V1~V3誘導では「存在」ないし「QS型」、それ以外の誘導では“1mm”がキーワード(幅・深さ)単独ではなく、“お隣ルール”で「2つ以上」が本当の「異常Q波」杉山裕章. 心電図のみかた・考え方(応用編). 中外医学社;2014.p.80-124.1)Kannel WB, et al. N Engl J Med. 1984;311:1144–1147.2)De Torbal A, et al. Eur Heart J. 2006;27:729–736.3)Thygesen K, et al. Circulation. 2018;138:618-651.【古都のこと~鈴虫寺(華厳寺)】人生の岐路に立ったり悩んだりしたとき、われわれは神や仏に願うでしょう。“鈴虫寺*1”として有名な西京区の華厳寺(山号:妙徳山)*2は、京都でも有名な“ご祈願スポット”で、嵐山エリアで松尾大社や西芳寺(苔寺)のすぐ近くです。長めの石段を上ると、山門の左手に“幸福のお地蔵さま”*3に並ぶ行列が…。受付で志納料を払い、大書院に通されると周囲に鈴虫が飼育された木枠のガラスケース*4が! そして部屋中に響く鈴虫の音! 録音かと疑ってしまうくらいの見事な“大合唱”でした。当寺オリジナルスイーツ茶菓“寿々むし”とおいしいお茶をいただきながら*5、僧侶の“鈴虫説法”に耳を傾けます。自らの来し方を振り返り、行く末を思案するー妙に説得感があり、随所にシャレを効かせた“プレゼン”の上手さに脱帽しました。鈴虫の音はオスの求愛行動によるもので、メスが一緒にいることで初めて鳴くそうです。鈴虫の寿命は約100日。成虫となり最後の1ヵ月に精一杯鳴き、産卵後ほどなくオス・メスとも亡くなっていく話は“無常”ともリンクしたなぁ。受験合格、婚活、出世、起業…利己的な願いを胸に寺を訪れたとしても涙がちょっと出てきましょう。30分ほど話を伺い、鈴虫ケースをもう一周眺め、本尊である大日如来に手を合わせました。そして、最後にちゃっかりお地蔵さまにもお願いをして帰るDr.ヒロなのでした(笑)*1:鈴虫の英語表記は「bell(-ringing) cricket」で、欧米ではコオロギの一種と扱われている。石碑には「鈴蟲の寺 華厳禅寺」と書かれている。*2:鳳潭上人が華厳宗の復興のため享保8年(1723年)に開山。その後、臨済宗に改宗(明治元年[1868年])され、現在に至る。*3:「幸福地蔵大菩薩」。わらじスタイルは日本で唯一。たった一つだけ願い事を聞いてくれる(一願成就)。黄色の幸福御守を両手に挟み、心の中でお願い事を言うのがお約束。住所、氏名を先に言うのを忘れずに(お地蔵さまが家まで歩いて来てくれる)。*4:当日は約4,000匹とのことだったが、多い時はケース数が2倍(7,000~8,000匹)になることも。*5:禅宗の教えの一つに「茶礼」がある。

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AIは洞調律の心電図から発作性心房細動を診断できるのか(解説:高月誠司氏)-1114

 本研究は、発作性心房細動患者の洞調律の心電図と心房細動ではない患者の洞調律の心電図を人工知能(AI)に学習させ、洞調律の心電図からその患者が発作性心房細動か否か認識できるかを検証した。畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network)という画像や動画認識に多く用いられる方法を使った、AIによる10秒間の標準12誘導心電図解析の研究である。 メイヨー・クリニックの45万4,789枚の心電図で自己学習させ、6万4,340枚の心電図で自己検証、そして13万802枚の心電図でテストが行われた。結果は感度82.3%(真陽性/[真陽性+偽陰性])、特異度83.4%(真陰性/[偽陽性+真陰性])、正確度83.3%([真陽性+真陰性]/全体)で、発作性心房細動を識別することに成功した。 これには驚きを隠さざるを得ない。人間の目には見えない何かをAIは見ていることになる。これが実用化されると、健康診断の洞調律の心電図から心房細動患者が検出できるようになるということである。実用化の前には外部データを使っての検証は必須である。また、本研究ではテスト用心電図の8.4%が心房細動患者のものであったが、実際の有病率は1%程度である。そうなると偽陽性の割合が増えることが予想され、心エコーやほかの指標と組み合わせて判断する必要が出てくるだろう。また、隠れ心房細動の検出にどのようなモダリティーを用いるべきか、議論になるであろう。

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2004年新潟県中越地震後の心理的苦痛と認知症リスクとの関連

 大地震は極度のストレスを引き起こし、認知機能に悪影響を及ぼす可能性がある。新潟大学の中村 和利氏らは、2004年新潟県中越地震後の心理的苦痛と認知症との関連について検討を行った。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2019年8月19日号の報告。 本研究は、10~12年フォローアップを行ったレトロスペクティブコホート研究である。対象者は、2004年新潟県中越地震後に年次健康診断を行った40歳以上の小千谷市民(2005年6,012人、2006年5,424人、2007年5,687人)。Kessler Psychological Distress Scale(K10)を用いて心理的苦痛を評価し、K10スコアが10以上を心理的苦痛ありと定義した。フォローアップ期間中の地方自治体からの介護保険データベースより、認知症発症を特定した。毎年の認知症発症に対する心理的苦痛のハザード比(HR)は、性別、年齢、職業、BMI、住居の物理的破損などの共変量について未調整および調整後に評価した。 主な結果は以下のとおり。・平均年齢は、2005年64.6歳、2006年64.6歳、2007年65.2歳であった。・心理的苦痛を有する人は、対照群と比較し、調整HRが有意に高かった(HR:1.20~1.66)。・とくに、2005~07年のすべての年において、心理的苦痛を有する人は、調整HRが高かった(HR:2.89)。 著者らは「心理的苦痛、とくに持続的な苦痛は、大災害の犠牲者において認知症発症のリスク因子である」としている。

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医療ベンチャーバブルが弾けたとき、本物だけが残る【Doctors' Picksインタビュー】第2回

自治医科大学から地域医療の現場を経て米国・スタンフォード大学に渡り、研究と教育に携わってきた池野 文昭氏。本拠地を米国に置きつつ、日本において医療アントレプレナー育成プログラムの普及、政府系研究開発機関の支援、医療ベンチャーキャピタルの経営など、八面六臂の活躍を見せる。さらに、業務の合間を縫って日本全国の医学部、工学部、文系学部に赴き、起業を志す学生を鼓舞する。精力的な活動の根底にあるのは「医療という切り口で日本をデザインしたい」との思い。米国から見た日本の起業家教育・医療ベンチャーの現状と問題点を鋭く語る。――日本の医療ベンチャーに多方面から関わっていらっしゃいますが、現状をどうご覧になりますか?日本の医療ベンチャー界隈は、完全に「バブル」の様相を呈しています。これまで、コンシューマ系、ソーシャル・ネットワーク系の企業に投資されていた資金が「医療系なら有望では」といった曖昧な基準で流れ込み、会社の価値に対して時価総額が上がり過ぎているベンチャーが多数あります。医療は、医師などの資格を持った人間が購入し使用する「医業領域」、健康人が購入し使用する「ウェルネス領域」、そして、その中間に位置する「患者が購入し、使用する領域」(介護、福祉関連など)に分けられます。このうち、「ウェルネス領域」は、当局の許可を得る必要がないため参入障壁は低いですが、その分、レッド・オーシャンかつ新しい市場なので、なかなか持続性のあるビジネスモデルをつくることができません。逆に「医業領域」は、その専門性により、参入障壁は非常に高いですが、一度壁を乗り越えれば国の制度にのっとり、それなりの市場獲得が期待できます。しかし、ここでも、昨今の医療費高騰のあおりを受けて保険償還価格は下がっており、決してバラ色の未来が待っているわけではありません。こうした状況にもかかわらず、医療ベンチャーに資金が集まる理由はいくつかあります。1つ目は、医療ベンチャーの目利きをするベンチャーキャピタル(VC)が、その役割を果たせていないこと。その原因は「人材」です。米国では医療VCにはM.D.やPh.D.保有者が一定の割合で在籍しています。医療・科学の専門家とビジネス・投資の専門家、ときにはその両方の専門性を持つ人材が判断するからこそ筋の良いものだけが残る。しかし、日本はまだそうなっていません。2つ目は、プレーヤーの変化です。これまでの医療機器開発は「医業領域から患者・健康人向け領域へ」という道筋をたどってきました。たとえば、かつて医療者しか使えなかった血圧計は、患者・健康人向けの製品として普及しました。つまり、専門家向け製品を作るプレーヤーしか市場にいなかったのです。それが、今はスマホアプリやゲームをはじめ、健康人向けを起点としたプロダクトが多数あります。プレーヤーが多様になったのと同時に、これらのIT企業への投資で利益を得てきたVCも一緒に市場に入ってきた。これは非常に良いことではあるのですが、市場規模を誤って判断し、本来の市場規模を無視した投資も行われるようになったと感じます。3つ目は、国策です。2018年に経済産業省が「世界で戦い、勝てるスタートアップ企業を生み出す」ことをうたって「J-Startup」プログラムを開始しました。ここでは「2023年までに企業価値または時価総額が10億ドル以上となる未上場・ベンチャー企業(ユニコーン)または上場ベンチャー企業を20社創出」という目標を検討しているそうです。官の後ろ盾を得てさらに資金が集まりやすくなっている、という構造です。ここで思い出すのが、2001年に小泉 純一郎内閣の「骨太の方針」の一環として掲げられた「大学発ベンチャー1000社計画」です。実際、2006年までに1,600近いベンチャーが立ち上がったのですが、その多くは立ち消えとなりました。国策としてのベンチャー支援は重要ですが、数だけを追っても意味がないことを学んでいないのです。「数」とともに「規模」目標も疑問です。ソーシャル・ネットワーク系、ゲーム系、シェアエコノミー、自動運転などの領域では、企業価値10億ドル超の「ユニコーン」輩出も十分ありうると思いますが、医療系でこの規模を目指せ、というのは無理があります。国内の医療市場を考えるとおかしな企業価値になってしまい、結局ベンチャー自身の首を絞めることを危惧しています。――こうした状況は続くのでしょうか?市場の実態に見合っていないバブルですから、いつかは弾けます。米国でもTheranos(セラノス)の例がありました。2003年、19歳の若手創業者による「指先から採取した一滴の血液で200種もの疾病を検査できる」という画期的なプロダクトアイデアを基に登場した同社は大きな注目を集め、一時は時価総額が90億ドル(約1兆円)にもなりました。しかし、2015年に検査技術に疑念を呈す報道が出て、過去の検査結果を偽造していたことがわかり、創業者は不正に市場から資金を調達した罪で有罪となる見込みです。上がり続ける期待と集まり過ぎた資金に、技術力が付いていかなかったがための悲劇です。日本でもこうした例が出て市場が一気に冷え込んでしまうのでは、と懸念しています。ただ、バブルは悪いことばかりではありません。大型の株式上場や資金調達は国内外の注目を集めますし、資金が集まることで研究開発の裾野も広がるでしょう。大切なのはバブルが弾けた後、きちんと「本物」が残ることです。そのために、本当に画期的なアイデアと技術力のあるベンチャーを見極め、適切な規模の資金を調達し、身の丈に合った成長を支援していかねばなりません。私自身が関わる会社は、そうした本当のVCの役割を果たしてきたつもりです。――残る「本物」とは、どういったベンチャーでしょうか?私自身は、高い研究開発力を基盤とし、資金も時間もかけてプロダクトを開発する、医業領域の「ディープテック」を応援したいと考えています。製薬などもここに含まれるでしょう。これらの事業は開発に時間もお金もかかり、投資的な妙味は薄いかもしれません。しかし、成功すれば治らなかった病気が治るなど本当に世界を変えることができます。加えて、これからはAI技術を使って開発精度やスピードが格段に向上する可能性があることも大きなプラス材料です。一方、ウェルネス領域のアプリなどのビジネスは初期投資が少なく、専門性や技術力もそこまでは要しない。米国でもダイエットアプリを手掛ける企業が数え切れないほど登場しています。同国ではBMIが30%超の人が3割もいて「痩せ」は巨大な市場です。でも、実際の効果はどうでしょう? 1つのアプリでは効果が出ないので、次々にアプリを乗り換え、結果的に複数の会社のビジネスが成り立っている、というのが現状ではないでしょうか。これでは、ビジネスとしては成り立っていても、何ら社会に変化を与えていません。医療分野でビジネスをするなら、人を健康にし、社会を良い方向に変えることに寄与すべきだと思うのです。――日本でも多くのベンチャー支援や起業家教育に関わっていらっしゃいますね。日本のベンチャーを巡る環境に変化は出ていますが、米国とはまだ比べものになりません。例えるならば、オリンピック金メダリストと中学生代表くらいのレベル差がまだある。教育は非常に重要ですが成果が出るまで時間がかかりますし、ビジネスにも選挙の票にもなりにくいので後回しにされがちですが、今踏ん張って取り組めば、後からじわじわと効果が出てくるはずです。今、日本の15大学で客員教授を務め、帰国のたびに各地を回ってイノベーションにまつわる講義をしています。私が学生の頃は「起業」という選択はまったく現実味がありませんでしたし、ましてや「医師の起業」は、正気の沙汰ではないとされた時代です。しかし、今の学生は違います。起業を現実的な選択肢として捉える人が増えたことを実感します。ただ、起業は「手段」であって「目的」ではない。そこを勘違いしている方も多いので、「何の社会問題を解決するために起業するのか」と絶えず問い掛けるようにしています。――現役の医師に伝えたいことは?起業に興味がある方がいれば、ぜひトライしてみてほしい。もちろん向き不向きがありますから、皆にやれとは言いません。でも、皆さんは国内のトップライセンス、医師免許を持っています。仮に起業に失敗したとしても、食べてはいけるでしょう。その恵まれた立場を活かさない手はないと思うのです。このインタビューに登場する医師は医師専用のニュース・SNSサイトDoctors’ PicksのExpertPickerです。Doctors’ Picksとは?著名医師が目利きした医療ニュースをチェックできる自分が薦めたい記事をPICK&コメントできる今すぐこの先生のPICKした記事をチェック!私のPICKした記事Apple, Microsoft and Google to test new standard for patient access to digital health data – TechCrunch7月末に発表された「Apple、Google、Microsoftがヘルスデータに関する新標準規格をテストする」というニュース。日本でも健康診断結果や検査データを医療機関が共有したり、患者本人に閲覧・管理権限を与えたり、という試みは多く行われているが、規格統一やセキュリティの問題から、広がりに欠けるのが実情。巨大IT企業と米政府の推進で実用化にどこまで近づくか。関連サービスの広がりも期待できる。医師から関心も高く、多くのコメントが付いた。

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高血圧スクリーニングの脳心血管病予防効果から学ぶべきこと(解説:有馬久富氏)-1107

 中国全土の高齢者を対象としたChinese Longitudinal Healthy Longevity Surveyの成績から、高血圧と診断されたことのない高齢者における血圧測定および発見された高血圧者に対する生活指導・受診勧奨が2~3年後の収縮期血圧を平均で8mmHgも低下させることが明らかとなり、BMJに報告された1)。一般住民における血圧がこれほど劇的に低下した場合、脳心血管病は20~30%減少するものと期待される2)。本研究で有効性の示された高血圧スクリーニングおよび指導は、健診が一般的に行われていない低・中所得国において、有効かつ費用対効果の高い脳心血管病予防戦略となると考えられる。 本研究の結果は、健康診断の普及しているわが国にそのまま当てはまらないかもしれない。しかし、わが国において4,300万人存在すると推計される高血圧者のうち1,400万人(33%)が自らの高血圧を認識しておらず、治療も受けていない3)。わが国の脳心血管病を最大限に予防してゆくために、健診受診率の向上による高血圧者の発見、保健指導実施率の向上、医療機関未受診者の減少のための対策を継続して進めてゆく必要がある。

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非糖尿病者でHbA1cとがん発症にU字型の関連

 HbA1cとがん発症との関連を経時的に評価するため、聖路加国際病院の小林 大輝氏らがHbA1cを複数回測定する縦断研究を実施した。その結果、非糖尿病者においてHbA1cレベルとがんリスクとの間にU字型の関連がみられたが、前糖尿病レベルで追加リスクは認められなかった。また、HbA1c低値が乳がんおよび女性性器がんの発症と関連することが示唆された。Acta Diabetologica誌オンライン版2019年8月9日号に掲載。 本研究は、聖路加国際病院で実施された後ろ向き縦断研究で、2005~16年に同病院で自主的に健康診断を受けたすべての参加者を含む。アウトカムはがん発症で、HbA1cレベルのカテゴリー間で比較した。HbA1cの変動を考慮するために、HbA1cの経時的な測定を適用した混合効果モデルを使用し縦断的に分析した。 主な結果は以下のとおり。・糖尿病ではない7万7,385人(平均年齢44.7歳、男性49.4%)が参加した。・追跡期間中央値の1,588日(四分位範囲:730~2,946)で、4,506人(5.8%)の参加者にがんが発症した。・HbA1cとがん発症の関係はU字型で、HbA1c 5.5~5.9%の群と比べたオッズ比(OR)は、HbA1c低値群(5.0%未満におけるOR:1.31、95%CI:1.17~1.46)、HbA1c高値群(7.5%以上におけるOR:1.87、95%CI:1.03~3.39)とも有意に高かった。・最も低いHbA1cでは、乳がん(OR:1.5、95%CI:1.21~1.86)と女性性器がん(OR:1.57、95%CI:1.04~2.37)のオッズがより高かった。

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第14回 その失神、あれが原因ではないですか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)失神は突然発症だ! 心血管性失神を見逃すな!2)発症時の痛みの有無を必ずチェック!3)検査前確率を正しく見積もり、必要な検査の提出を!【症例】60歳男性。工事現場で現場監督をしていた際に、気を失った。目撃した現場職員が呼び掛けたところ、数分で意識は改善した。倦怠感、37℃台の微熱も認め救急外来を独歩受診した。●来院時のバイタルサイン意識清明血圧158/98mmHg脈拍102回/分(整)呼吸18回/分SpO297%(RA)体温37.4℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧を健康診断で指摘されたことはあるが未受診内服薬定期内服薬なし意識障害vs.意識消失意識障害と意識消失の違いは理解できているでしょうか。できていない方は過去の本連載を振り返って読んでみてください。普段の意識状態と比較するのがポイントでした(普段から認知症によって3/JCSの方が見当識障害を認めても、それは意識障害とは言えませんよね)。今回の症例では、目撃した同僚の方の話では、初めは「ぼっー」としていたものの、数分で普段どおりになったようです。意識障害というよりは意識消失、そして明らかな痙攣の目撃がなく、速やかに意識が戻っているようであれば、まずは「失神」として対応するのがよいでしょう。失神のアプローチ失神の定義は前回述べたとおりですが、具体的に失神と認識したらどのようにアプローチするべきでしょうか。私は表1の事項を意識して対応しています。詳細はこちらの本(『あなたも名医! 意識障害』(日本医事新報社)1))でぜひご確認ください。表1 失神のアプローチ画像を拡大する本稿では、(4)「前駆症状(とくに痛み)を確認する」に関して取り上げましょう。前回の症例でもそうでしたが、失神? と思ったら必ず痛みの有無を確認し、頭頸部に痛みがあればクモ膜下出血を、胸背部痛など頸部以下の痛みを伴う場合には大動脈解離を一度は考え、意識して病歴や身体所見を評価することが大切です。目の前の患者は大動脈解離なのか?大動脈解離が失神の鑑別に上がっても、そこで立ち止まってしまうことはないでしょうか。大動脈解離の来院パターンはいくつかありますが、代表的なものは胸痛などの痛みを訴えて来院、意識障害、そして今回のような失神です。大動脈解離の10%程度は失神を認めるということを頭に入れておくとよいでしょう2)(表2)。表2 発症時の症状画像を拡大する医学生のときに誰もが習う、「突然発症の胸背部痛で痛みが移動し、血圧の左右差を認める」という症例は、残念ながら病院にたどり着けないことが多いものです。実臨床では、「何らかの痛みが突然始まる」と覚えておくとよいと思います。失神→心血管性失神の可能性→発症時の痛みをチェック→大動脈解離かも? クモ膜下出血かも? こんな感じです。大動脈解離らしいか否か、確定診断するために必要な造影CT検査をオーダーするか否か、これはどれほど疑っているかに依存します。すなわち検査前確率を正しく見積もり、必要な検査をオーダーすることが大切なのです。ADD risk score(表3)を意識して「らしさ」を見積もりましょう3)。(1)基礎疾患、(2)痛みの性状、(3)身体所見、これら3項目のうちいくつの項目に該当するのかを評価します。そして、それが1項目以下の場合には可能性は低く、2項目以上に該当する場合には精査をしなければなりません(図)。表3 ADD risk score -大動脈解離は否定できるか-画像を拡大する図 大動脈解離疑い症例 -実践的アプローチ-画像を拡大するD-dimerか、造影CT検査か大動脈解離を疑った際にベッドサイドで行う検査としてエコーは必須ですが、フラップや心嚢液貯留が明らかな症例は、決して多くはありません。もしあればその時点で強く疑い、専門科へコンサルト、または造影CT検査をオーダーすることに躊躇はありませんが、実際にははっきりせず採血や画像検査を行うことになるでしょう。検査が迅速に施行できない環境であれば、突然発症の痛みや痛みに伴う失神ということのみでコンサルト、転院の打診でもまったく問題ありません。D-dimerは有用な検査ですが、ルーティンに提出するものではありません。肺血栓塞栓症を疑った際にも同様ですが、可能性が低いと思っている症例にのみ提出し、陰性をもって否定するのです。具体的には先述の図にのっとればよいでしょう。ADD risk scoreを評価し、2項目以上に該当した場合には、施行すべき検査は造影CT検査です。D-dimerを出すなというわけではありません。必要な検査をきちんとやる必要があるということです。大動脈解離の典型例を見逃すことはあまりありません。一見、軽症に見える患者の中からいかにして拾い上げるのか、それがポイントとなります。繰り返しになりますが、失神は瞬間的な意識消失発作であり突然発症です。そこに痛みの関与があれば疑いたくなりますよね。本症例のように、痛みが入り口でない場合でも、転倒の背景に失神が、そして失神の原因が心血管性失神(HEARTS)ということが決して珍しくありません。バイタルサインが安定しており、重症感がない患者だからこそ、きちんと病歴を聴取し、身体所見を根こそぎ取りましょう。1)坂本壮ほか. あなたも名医! 意識障害. 日本医事新報社;2019.2)Hagan G, et al. JAMA. 2000;283:897-903.3)Adam M, et al. Circulation. 2011;123:2213-2218.4)Nazerian P, et al. Circulation. 2018;137:250-258.

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世の中を丁寧に眺めると病気に気付ける

 バイオジェン・ジャパン株式会社は、6月13日に都内において希少疾病である脊髄性筋萎縮症(以下「SMA」と略す)の啓発を目的に同社が製作した短編映画『Bon Voyage ボン・ボヤージ ~SMAの勇者、ここに誕生~』の完成記念メディアセミナーを開催した。 SMAは、運動神経に変化が起こり、次第に筋肉の力が弱くなり、生活に影響を及ぼす疾病である。そして、同社は、SMAの治療薬ヌシネルセンナトリウム(商品名:スピンラザ髄注)を製造・販売しているが、SMAの存在がまだ社会へ浸透していないことから、同社が短編映画を制作したものである。 作品は、SMAIII型の患者さんが抱える病識から診断に至るまでの課題をリアルに再現。そして、正確な診断をきっかけに自身と向き合い、夢に向かってさらに力強く生きていく姿を描いている。気付きにくい成人発症のSMAIII型 映画の試写のあと、疾患の概要について齋藤 加代子氏(東京女子医科大学附属遺伝子医療センター 所長・特任教授)が「脊髄性筋萎縮症(SMA)について」をテーマに講演を行った。 SMAは、SMN1遺伝子の欠失により、運動神経に変化が起こり、次第に筋力が低下し、生活に影響を及ぼす疾患であり、わが国では指定難病となっている。罹患率は、10万例に1~2例と考えられ、約1,400例の患者が推定されている。 本症では、発症年齢や運動機能によって、次のI~IVの4つの型に分類される。・I型:生後6ヵ月までに発症。成長後の最高到達運動機能では座位ができない。・II型:生後1歳6ヵ月までに発症。成長後の最高到達運動機能では立位ができない(座位はできる)。・III型:生後1歳6ヵ月以降で発症。成長後の最高到達運動機能は支えなしで歩ける。(a型:生後18ヵ月~3歳までに発症/b型:3歳以降に発症)・IV型(成人型):20歳以降で発症。運動発達は正常範囲。 とくにIII型のSMAについて、IIIa型では10歳までに患者の約半数が、IIIb型では30歳までに患者の約半数が歩行機能を失うこともあり、学校診断や健康診断でいかに早期に発見し、治療介入できるかが重要だという。 同氏は、成人のIII型の症例(52歳・女性)を示し、13歳で発症し、当初「神経原性筋萎縮症」と診断され、47歳の確定診断まで34年を要したという例を紹介した。なかなか社会に浸透していないIII型の特徴として、「運動機能障害がゆっくりと進行すること」「下肢から上肢に徐々に筋力の低下がみられること」「手の震え、筋肉のぴくつきがあること」がある。また、よく間違われる疾患として、「肢帯型筋ジストロフィー」「筋萎縮側索硬化症」「球脊髄性筋萎縮症」があり、確定診断には、血液による遺伝学的検査が必要になる。 最後に齋藤氏は、「治療薬の進歩もあり、治療の選択肢も多くなった。できる限り早期介入が求められる。医療者も患者もさまざまなWEBサイトをみて学び、本症を理解してもらいたい」と希望を語り、レクチャーを終えた。病気に周りが気付く、患者は自分から診療へ飛び込むことが大事 続いて、本作の完成にあたりトークセッションが行われ、三ッ橋 勇二監督、主演の中島 広稀氏、出演者でSMA患者の上田 菜々氏、演技指導で同じく患者の下島 直宏氏、そして、医学監修の齋藤氏が登壇し、作品の意図、制作の裏話や作品への思いなどが語られた。 中島氏は「患者の発症から診断まで1年分を15分に詰め込んだ作品で、演技ではSMAIII型特有の歩き方が難しかった。演じていて心の問題を感じた。患者さんはひとりで悩みを抱えないことが大事」と感想を述べた。 下島氏は、「完成した作品をみて『人生を走馬灯のように感じた』」と述べ、発症から診断確定までの自身の軌跡を振り返った。「診断では医師との出会いが大事で、自分で診療へ飛び込んでいかないと診断につながらない」と助言を寄せた。 上田氏は、「撮影は、仲良く、楽しくできた。小学生のときにSMAと診断され、引きこもるようになったが、美容に興味を持ち、すこしずつ社会に出られるようになった。作品では、患者さんの悩みや家族の葛藤も描かれていて、最後のシーンでは鳥肌が立った」と作品への賛辞を送った。 齋藤氏は、「SMAは社会に出て活躍できる疾患なので、患者さんは前向きに良い人生を送ることが重要。患者さんは自分を責めず、精神的に良い状態を保つことが大切。また、SMAの症状を見かけたら周りが気付いて、診療を勧めるなど声がけをすることが大事」と語った。 三ッ橋氏は、「作品を通じて、社会に気付きを与えることができたらと思う」と述べ、SMAについては「世の中を丁寧に眺めることで、周りの人の病気に気付くことが大事だと思う」と作品への思いを語った。 なお、本作は、国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」で上映されるほか、下記のサイトから視聴ができる。

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日本の高齢者、痩せと糖尿病が認知症リスクに

 わが国の高齢者において、痩せていること(BMI 18.5kg/m2未満)と糖尿病が認知症発症のリスク因子であり、BMIが低いほど認知症発症率が高いことが、JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study:日本老年学的評価研究)のコホートデータを用いた山梨大学の横道 洋司氏らの研究で示された。また、本研究において認知症発症率が最も高かったのは高血圧症を持つ痩せた高齢者で、次いで脂質異常症を持つ痩せた高齢者であった。Journal of Diabetes Investigation誌オンライン版2019年6月17日号に掲載。 本研究では、高齢者における糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満(BMI 25kg/m2以上)、痩せ(BMI 18.5kg/m2未満)に関連する認知症リスクを比較し、さらにこれらの代謝性疾患とBMIの組み合わせに関連する認知症リスクも調査した。対象は、2010年に健康診断を受けた高齢者(平均年齢73.4歳)で、平均5.8年間追跡した。認知症は介護保険登録を用いて調べ、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、肥満、痩せは、服薬もしくは健康診断結果で評価し、認知症発症率と調整ハザード比(HR)を計算した。 主な結果は以下のとおり。・参加した高齢者3,696人のうち、338人が認知症を発症した。・標準体重で該当する疾患がない人を基準とすると、男女それぞれの調整HR(95%信頼区間)は、糖尿病では2.22(1.26~3.90)および2.00(1.07~3.74)、高血圧症では0.56(0.29~1.10)および1.05(0.64~1.71)、脂質異常症では1.30(0.87~1.94)および0.73(0.49~1.08)、BMI 25~29.9kg/m2では0.73(0.42~1.28)および0.82(0.49~1.37)、痩せでは1.04(0.51~2.10)および1.72(1.05~2.81)であった。・脂質異常症を持たない標準体重の男性と比較して、脂質異常症を持つ痩せた男性のHRが4.15(1.79~9.63)、高血圧症を持たない標準体重の女性と比較して高血圧症を持つ痩せた女性のHRが3.79(1.55~9.28)と、認知症リスクが有意に高かった。・認知症発症率が最も高かったのは高血圧症を持つ痩せた高齢者で、次いで脂質異常症を持つ痩せた高齢者であった。

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日本人高齢者におけるアルコール摂取と認知症

 岡山大学のYangyang Liu氏らは、日本人高齢者におけるアルコール摂取の量や頻度と認知症発症との関連を評価するため、長期間のフォローアップを行った大規模サンプルデータを用いて検討を行った。Geriatrics & Gerontology International誌オンライン版2019年6月7日号の報告。 本研究は、日本で実施されたレトロスペクティブコホート研究。日本人高齢者5万3,311人を、2008~14年までフォローアップを行った。アルコール摂取の量や頻度は、健康診断質問票を用いて評価した。認知症発症は、介護保険の認知症尺度を用いて評価した。性別によるアルコール摂取のカテゴリー別の認知症発症率の調整ハザード比(aHR)、95%信頼区間(CI)を算出するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。アルコール摂取量によっては認知症発症リスクを減少させる可能性 アルコール摂取の量や頻度と認知症発症との関連を評価した主な結果は以下のとおり。・7年間のフォローアップ期間中に、認知症と診断された高齢者は、1万4,479例であった。・非飲酒者と比較し、アルコール摂取量が2ユニット(純アルコール換算:40g)/日以下の高齢者における多変量aHRは、時折の飲酒(男性、aHR:0.88、95%CI:0.81~0.96、女性、aHR:0.84、95%CI:0.79~0.90)および毎日の飲酒(男性、aHR:0.79、95%CI:0.73~0.85、女性、aHR:0.87、95%CI:0.78~0.97)において統計学的に有意な認知症発症リスク低下が認められ、男性では、時折の飲酒と毎日の飲酒において、有意な差が認められた。・しかし、アルコール摂取量が2ユニット/日超の高齢者では、時折の飲酒(男性、aHR:0.91、95%CI:0.71~1.16、女性、aHR:1.09、95%CI:0.72~1.67)および毎日の飲酒(男性、aHR:0.89、95%CI:0.81~1.00、女性、aHR:1.16、95%CI:0.84~1.81)において有意な差は認められなかった。 著者らは「高齢者において時折または毎日の2ユニット/日以下のアルコール摂取量では、認知症発症リスクを減少させる可能性があり、このような食生活をしている男性においては、より大きなメリットがもたらされると考えられる」としている。

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脳心血管病予防策は40歳からと心得るべき/脳心血管病協議会

 日本動脈硬化学会を含む16学会で作成した『脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート2019』が日本内科学会雑誌第108巻第5号において発表された。2015年に初版が発行されてから4年ぶりの改訂となる今回のリスク管理チャートには、日本動脈硬化学会を含む14学会における最新版のガイドラインが反映されている。この改訂にあたり、2019年5月26日、寺本 民生氏(帝京大学理事・臨床研究センター長)と神崎 恒一氏(杏林大学医学部高齢医学 教授)が主な改訂ポイントを講演した(脳心血管病協議会主催)。脳心血管病予防が今後はますます求められる  2018年12月、「健康寿命の延伸などを図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が成立した。2015年度国民医療費1)は42兆円を超え、内訳を見ると循環器疾患に対する医療費は全体の19.9%(5兆9,818億円)、次いで、悪性新生物が13.7%(4兆1,257億円)を占めていた。近年では医療の発展に伴い、病態の発症から死亡に至るまでの期間が伸びているものの、平均寿命と健康寿命の差はまだ大きい。死亡までに介護が必要となった主たる原因も、認知症を上回り、脳血管疾患が1位にランクインしている2)。このように、そのほか問題視されている肥満、糖尿病、喫煙などの現状を踏まえると、今後ますます、脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの活用が求められるようになる。脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの対象 厚生労働省による“人生100年時代構想”や高齢者のフレイル・介護問題を受け、今回の改訂でも高齢者の留意点が多く盛り込まれた。健康寿命を伸ばして要介護期間を短くする、つまり“不健康な期間”を短縮することがわれわれの使命、と考える両氏。神崎氏は、「65歳以上になってから努力するのではなく、中年期から努力することが健康寿命を延ばすためには必要。高齢者の場合は生活習慣病を管理しながら、多病に基づくポリファーマシーやサルコペニア/フレイルの発生にも注意する必要がある」とし、寺本氏は「高血圧などの危険因子を持たない段階での予防(0次予防)の患者に啓発することが重要」と、脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートの対象者について言及。また、寺本氏は「定期的にチェックするために誕生日月に実施するのが有用。その旨を事前に患者に伝えておくと、患者自身も覚えている」と活用時期やその方法についてコメントした。脳心血管病リスクの管理状態の評価ツールとして活用可能 脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートは、臨床現場で使用しやすいようにStep1~6までの順に従って診断・診療できるように設計されている。また、健康診断などで偶発的に脳心血管病リスクを指摘されて来院する患者を主な対象者とし、既に加療中の患者に対しても、管理状態の評価ツールとして活用可能になるようにも作成されている。 以下に脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート各Stepにおける留意点を示す。◆Step1:スクリーニングと専門医等への紹介の必要性の判断基準a~cに分類。aでは家族歴や脈拍について重視、bの場合は空腹時血糖の測定が必要になるため、空腹時での来院を求める必要がある。また、アルドステロン症の見落としが散見されるため、この段階でしっかりチェックする必要がある。cでは、各専門医への紹介の必要性がある対象者を明確にしている。また、慢性腎臓病(CKD)の記載方法が変更している。◆Step2:各リスク因子の診断と追加評価項目脳心血管病の各リスク因子の診断と追加評価項目は各学会のガイドラインに準拠。◆Step3:治療開始前に確認すべきリスク因子喫煙リスクがある患者での禁煙指導が重要で、1回/年の確認が鍵となる。また、個々の病態に応じた管理目標について高齢者について加味している点がポイント。◆Step4:リスクと個々の病態に応じた管理目標の設定改訂前はリスク層別にNIPPON DATA80を使用していたが、今回は「吹田スコア」の使用を推奨。脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートには危険因子を用いた簡易版が載っているので、それを基にリスクスコアを算出することが可能。◆Step5:生活習慣の改善食事摂取量は、日本人の食事摂取基準を参考にし、これまでのkcal重視からBMI重視に変更。身体活動を患者と共有できるよう詳細に記述。◆Step6:薬物療法の紹介と留意点実際の薬物療法については各疾患のガイドラインに従い、導入前には生活習慣の改善を基盤に患者とのコンセンサスを得ることが重要。 脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャートは、5年に1回のタイミングで更新を目指しており、大きな改訂はできなくとも各学会で改訂事項が発表された際には、それらを脳心血管病協議会で話し合い、対策を講じるという。最後に寺本氏は「このような類いの包括的な管理チャートは海外では作成されておらず、世界に一歩先立った活動である」と締めくくった。■「日本人の食事摂取基準」関連記事日本人の食事摂取基準2020年版、フレイルが追加/厚労省

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日本人高齢者における身体活動と認知症発症との関連

 岡山大学のYangyang Liu氏らは、高齢者における定期的な身体活動と認知症発症リスクとの関連について評価を行った。International Journal of Geriatric Psychiatry誌オンライン版2019年5月2日号の報告。 本検討は、岡山市で実施したレトロスペクティブコホート研究である。日本人高齢者5万1,477人を2008~14年にかけてフォローアップを行った。定期的な身体活動は、健康診断質問票を用いて評価を行った。認知症発症は、介護保険の認知症尺度を用いて評価した。身体活動のカテゴリ別の認知症発症率は、Cox比例ハザードモデル、95%信頼区間(CI)を用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・7年間のフォローアップ期間中に認知症を発症した高齢者は、1万3,816例であった。・認知症発症の多変量調整ハザード比は、身体活動の実施が1回以下/週であった高齢者と比較し、2回以上/週で0.79(95%CI:0.75~0.84)、毎日で0.94(95%CI:0.89~0.98)であった。・身体活動と性別との相互の関連性は有意であった(p<0.01)。・サブグループ解析における認知症発症の多変量調整ハザード比は、身体活動が2回以上/週の場合、男性で0.76(95%CI:0.70~0.84)、女性で0.81(0.76~0.87)と低いままであった。身体活動が毎日の場合、男性では0.82(95%CI:0.76~0.89)であったが、女性では1.01(0.95~1.07)であった。 著者らは「日本人高齢者における定期的な身体活動は、毎日行っている女性を除き、認知症発症リスクの低下に寄与すると考えられる」としている。

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女性化乳房のPPIによる発症リスクを調査

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)による女性化乳房の症例報告は多いが、大規模な疫学研究はなかった。今回、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のBonnie He氏らが大規模な後ろ向きコホート研究を実施し、男性患者におけるPPIによる女性化乳房リスクを調べた。その結果、PPI使用による女性化乳房発症リスクはアモキシシリン使用に比べ、50歳超で1.5倍であった。Pharmacotherapy誌オンライン版2019年3月13日号に掲載。女性化乳房は新規PPI使用患者22万791例のうち389例 著者らは、米国のPharMetrics Plus健康診断データベースを使用して、2006~16年の新規PPI使用患者および新規アモキシシリン使用患者の後ろ向きコホート研究を実施した。女性化乳房の診断は、国際疾病分類(ICD-9、ICD-10)のコードで同定した。90日以内に女性化乳房の2つのコードがあり、最初のコードがイベントコードである患者を女性化乳房症例とした。ハザード比(HR)は、アルコール性肝硬変、甲状腺機能亢進症、精巣がん、クラインフェルター症候群、肥満のほか、ケトコナゾール・リスペリドン・スピロノラクトン・アンドロゲン除去療法の使用を調整し算出した。また、2回のPPI処方の曝露での感度分析も行われた。 PPIによる女性化乳房リスクを調べた主な結果は以下のとおり。・新規PPI使用患者では、22万791例のうち389例が女性化乳房と診断され、新規アモキシシリン使用患者では、83万7,740人のうち996例が女性化乳房と診断された。・女性化乳房発症をアモキシシリン使用と比較したPPI使用の粗HR は1.70であった(95%信頼区間[CI]:1.461~1.976)。・感度分析における調整HRは1.299(95%CI:1.146~1.473)であった。・調整HRは、50歳以上の患者では1.4795(95%CI:1.2431~1.7609)、50歳以下の患者では1.324(95%CI:1.1133~1.5745)であった。

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高校進学時のうつ病に対する予防プログラム

 中学校から高校へ進学する青少年におけるうつ病および不安症状に対する学校ベースの適応予防プログラムの効果について、米国・ワシントン大学のHeather Makover氏らが、検討を行った。Prevention Science誌オンライン版2019年3月9日号の報告。 高校進学プログラム(The High School Transition Program:HSTP)は、青少年にとってとくに脆弱な時期における社会的および学術的な問題解決のスキルとエンゲージメントを構築するために設計されたプログラムである。太平洋沿岸北西部の6校の中学校の生徒2,664人を対象に、8年生の後半に普遍的な感情健康診断を実施し、うつ病スコアが高く、行動障害問題スコアの低かった生徒に対し研究参加を依頼した。対象生徒497人は、HSTP群(241例)または対照群(256例)にランダム化した。うつ病および不安症状は、自己報告法を用いて18ヵ月間にわたり5回の測定を行った。予防効果およびベースライン時の症状、人種、性別などの調整因子を評価するため、階層的線形モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・HSTP群は、対照群と比較し、経時的に抑うつ症状の減少率が上昇することが示唆された(d=0.23)。・HSTP群は、不安スコアの変化率が有意に速まった(d=0.25)。・ベースライン時の不安の重症度、人種、性別は、症状アウトカムの推移に影響を及ぼさなかった。 著者らは「ストレスの多い青少年の進学において、予防プログラムの意義を検討すべきである」としている。■関連記事青年期うつ病を予測する小児期の特徴思春期の少年少女における自殺念慮の予測日本人学生のスマートフォン使用とうつ病リスク

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第14回 “若さ”って心電図に表れる?【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第14回:“若さ”って心電図に表れる?本来は、基線にほぼ一致した水平な波形のST部分。ですが、虚血性心疾患をはじめ、さまざまな病態で偏位をきたし、時には健常者でも変化します。このST部分の基本的な見方から正常亜型と見なせるST偏位まで、Dr.ヒロが解説します。症例提示25歳、男性。雇入時の健康診断のため来院。特別な既往や自他覚所見はなし。心電図を以下に示す(図1)。(図1)健康診断時の心電図画像を拡大する【問題1】ST偏位の有無を確認する際、どこを計測するか?また、基準はどこか?解答はこちら[計測点]J点:QRS波の“おわり”(終末部)[基準線]T-Pライン(またはT-QRSライン、Q-Qラインでも可)解説はこちら今回はST部分にフォーカスを当てますよ。スパイク状のQRS波となだらかなT波の“架け橋”に相当するST部分に関して、多くの皆さんが虚血性心疾患との関係を頭に思い浮かべるでしょう。“上がり”も“下がり”も問題となる「ST偏位」ですが、ST変化のイロハの“イ”を理解しておきましょう(図2)。(図2)STレベルの計測法画像を拡大するこの図は、ST部分の「高さ」や「低さ」をどう測るかを示しています。基準はT-Pラインです。これはT波の“おわり”と次心拍のP波の“はじまり”を結ぶ線で、基線と呼ばれます。普通はフラット、横一文字で、心電図界での“海抜0m地点”と考えて下さい。この基線から、QRS波の“おわり”の部分の「高さ」「低さ」を調べます。QRS波の“おわり”はJ点(ST部分がはじまる部分。“Junction”または“Joint”の「J」で、“つなぎ目”みたいな意味)と呼ばれています。このJ点が基線から1mm以上ズレている場合、それは「ST偏位」です。上がっていたら「ST上昇」、下がっていたら「ST低下」というのが基本です。このJ点の「高さ」「低さ」を示す英語表記は“ST amplitude”ですが、これに対応する適切な日本語がないように思います(早く決まるといいな…)。時々「STレベル」という表現がなされるので、ボクもおおむねコレを使用しています。ちなみに、J点はともかく、『P波がなかったり、T波とP波の並び順がおかしい不整脈での基準はどうなの?』という方、いませんか?ナイスですねぇ、その質問。実に鋭い! そういう状況もあるので、T-Pラインではなく、P波のかわりに直後のQRS波の“はじまり”を結ぶT-QRSラインという、より一般的な言い方もあります。このほか「Q-Qライン」という表現も見たことがありますね。これはT波をすっ飛ばして、連続するQRS波の“はじまり”同士を結びます。ST偏位のチェックとして、QRS波の“はじまり”を基準に比べる作法はここに由来するのでしょう。多くの例では基線は「T-P」でも「T-QRS」でも「Q-Q」でも変わりませんが、いろいろな要素で変動があるため、当該QRS波の“はじまり”をベースラインとするやり方で良いと思います。なんだか“はじまり”とか“おわり”がややこしいですが、定義ですので、典型例を頭に思い浮かべて理解しておきましょう。【問題2】心電図(図1)のST部分は正常か議論せよ。解答はこちら「ST上昇」あり(V1~V4[5]誘導)解説はこちらST部分は、ボクの語呂合わせ(第1回)では、“スタ(ート)”の部分でチェックします。Dr.ヒロは、目を“ジグザグ運動”させてST部分を確認しているんです。その様子を別症例の心電図で示しましょう(図3)。(図3)“ジグザグ運動”でSTチェック!(別症例)画像を拡大する左手前の基線(T-Pライン)をにらみながら、肢誘導のJ点を上から下へ、続いて胸部誘導も順にチェックします(赤い網掛けの部分に着目!)。上昇も低下も漏れなく「ST偏位」を指摘するクセをつけるべしです(この場合、II、III、aVF、V4~V6誘導で「ST低下」、V1~V3誘導で「ST上昇」があるように見えますね)。今回の若年男性の健診心電図(図1)も同じく“ジグザグ運動”でチェックしてみると、V1~V4誘導でとても「ST上昇」しているように見えませんか? 次に図1のV1~V3誘導までを抜き出してみました(図4)。(図4)V1~V3誘導を抜粋画像を拡大するV1誘導でも2mm、V2・V3誘導にいたっては、実に2.5~3mmくらいJ点が基線より高位にあります。自動診断では“無視”されていますが、Dr.ヒロ的には、これは指摘すべき所見と考えます。一般的に心電図で「ST上昇」をきたす病態として、「心筋梗塞」や「心膜炎」などが知られています。ただ、さすがに健診で、なーんの自覚症状もない人で想定すべき疾患ではないように思いますよね(まれにそういうケースもいますが)。では、どう考えるべきでしょうか? 実は、右前胸部誘導(V1~V3)では、若年男性のJ点は基線より1mm以上高位に位置するほうが自然なのです。これは耳にしたことがある人も少なくないでしょう。次に、男性における年齢ごとのSTレベルを示した図を見て下さい。縦軸が見慣れない数値になっていますが、100=0.1mV。つまり、われわれの「1mm」に該当します。(図5)健常男性のSTレベル(Glasgowデータベース)画像を拡大するこのグラフより、健常な若年男性では、V1~V4誘導では、“J点・1mm以上”の「ST上昇」があるのが普通で、とくにV2、V3誘導で顕著(2.5~3mm上昇)であることがわかります。これに関係し、「ST上昇」で臨床的に最も重要な病態としては心筋梗塞でしょう。昨年改訂された「心筋梗塞の定義(第4版)1)」においても、V2・V3誘導だけ“特別視”されており、以下を有意なST上昇と見なす(「左室肥大」と「脚ブロック」は除く)と銘記されています。〔男性〕40歳未満:2.5mm 40歳以上:2.0mm〔女性〕年齢を問わず1.5mm*上記はカットオフ値ボクは「V2・V3誘導」に“兄さん”、「2.5mm」には“ニッコリ”の意味を込めて“ニッコリ兄さんは特別”と覚えています。そして“女性はイチゴ”。部位的には、前壁(中隔)のST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)を診断する時に問題となるんです。もちろん、急性冠症候群(ACS)、STEMIの診断の場合は、心電図だけで安易に否定せず、過去心電図との比較や胸部症状、心筋バイオマーカー(心筋トロポニンなど)や心エコーなど、ほかの所見も総合して考えて下さいね。この男性の場合、“ニッコリ兄さん”の厳しめ基準でも引っかかるわけですから、V1~V4、エイッ、もう一声でV5誘導までの「ST上昇」は所見として指摘したほうが良いでしょう。ただ、若年で何の症状もなく、V2~V4誘導のツンッととがったT波と一緒に見られる「ST上昇」の大半は非特異的変化で病的意義は少ないことが多いです。ST部分がピーンとT波に“引っ張られて”上昇した心電図を眺めると、『若いなぁ~』と愚痴にも似て叫んでしまいます(笑)。ただし、何度も繰り返しますが、皆さんには、“異常”と感じたらとにかく所見として“指摘”して、その“意義”は後から議論するというスタンスをとって欲しいと思います。さすればホンモノ(STEMI)を見逃すこともないでしょう。今回は、猛々しい“若さ”をそのまま波形にしたような、若年男性のST上昇について扱いました。基本的な確認法と共に、よく復習しましょう。少々年をとり、日々の疲れもたまった自分のSTレベルは、今どんなもんだろう…と、つい考えてしまうDr.ヒロなのでした。Take-home Message計測点と基準線を意識して漏れなくST偏位(上昇・低下)を指摘しよう中年までの男性で多く見られる“猛々しい”ST上昇(とくにV2・3誘導)は正常亜型なことも多いが、常にSTEMI(前壁)の可能性は否定するな!1):Thygesen K, et al. Circulation. 2018;138:e618-651.【古都のこと~吉田神社の節分祭~】京都で節分といえば吉田神社。2月2日の夜(前日祭)、京都大学にほど近い吉田山に足を運びました。本宮は859年(貞観元年)建立で、節分祭も室町時代からの伝統行事。そして、所狭しと軒を連ねる屋台のお酒でほろ酔い気分になりながら、厄除けのくちなし色*の御札(期間限定)と豆をいただけたら縁起良しかな。ただし、驚くほどの人に紛れて、けがをしないように気を配ることも大事でしょう。

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第19回 肺がん見落としの背景に制度全体の問題点~医療者と受診者の認識ギャップも【患者コミュニケーション塾】

 2018年12月13日、社会医療法人河北医療財団(以下、河北医療財団)の特別調査委員会の委員の一人として記者会見に出席しました。一部のニュースで報じられて、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。この記者会見では、社会に対する大きな問題提起をしました。そこで今回は、その内容についてご紹介したいと思います。特別調査委員会設置に至る経緯特別調査員会は、河北医療財団の施設である東京都杉並区の河北健診クリニックで健康診断・肺がん検診を受けていた女性の肺がんを見落としていたという発表を受け、その原因究明と再発防止策を検証するために設置されました。私は健診を受ける立場からの意見を求められ、委員に就任しました。特別調査委員会は5名の委員で、委員長は弁護士が務め、放射線科医師、健診制度に詳しい医師、安全工学の専門家と私で構成されました。そして、9月から12月まで7回の委員会を経て、12月11日に河北医療財団に調査報告書を提出し、13日の記者会見に至りました。肺がんを発症した女性は、2005年から2018年1月まで、河北健診クリニックで10回にわたり健診・検診を受けていました。30代の間は成人健診や区民健診、40代になってからは肺がん検診を受診しています。それら健診・検診のいずれの胸部X線検査においても、異常なしと判定されていました。ところが、2018年3月に足の張りや痛みの症状で他の医療機関を受診し、その際に受けた胸部単純CT検査で右肺に異常な影があると指摘されました。その後、河北総合病院の呼吸器内科を受診して精密検査を受け肺がんであることが判明し、転院先の病院で同年6月に死亡されています。河北総合病院では肺がんが判明した直後に緊急対策会議を開催し、2014年7月、2015年7月、2018年1月の胸部X線写真には肺がんを疑う陰影が写っていると判断し、2014年7月に肺がんを疑う徴候があったと結論付けました。その後、画像診断学の権威である医師を外部委員とした院内検証委員会を立ち上げ、遅くとも2014年以降には腫瘤影があるにもかかわらず、2014年7月以降の3回の健診・検診で「異常なし」との判定をしたと判断。その原因は胸部X線検査の精度管理が不十分であったことや、2名の医師による読影の方法に問題があったこと、読影医が2名とも放射線科、呼吸器内科でない組み合わせが発生していたなどの問題点を指摘しました。河北医療財団ではそれを受けて見落としを認め、2018年6月にご遺族に謝罪するとともに、7月には理事長が記者会見で公表しました。これらの健診・検診は杉並区の委託で行われていたため、杉並区は河北健診クリニックに2014年9月以降の区民肺がん検診受診者約9,400名の再読影の実施を要請するとともに、杉並区肺がん検診外部検証等委員会を設置しました。このような経緯を受け、河北医療財団では河北総合病院での院内検証委員会だけではなく、客観的かつ公正な調査の実施を行いたいと、外部の委員で構成する特別調査委員会の設置を決定したというのが大きな流れです。専門医でも判断に迷う陰影だった!?私はこの経緯について説明を受け、明確に2014年7月の見落としが認められていることから、当初は明らかな肺がんの見落としなのだろうと思っていました。そのため、特別調査委員会は客観的に原因究明と再発防止策の提言をする場になるのだろうと考えて委員会に臨みました。第1回の特別調査委員会で、後方視的に見ると2014年7月の胸部X線写真に陰影が写っていると説明を受けました。そして、それは健診の判定時にも指摘されていて、腫瘤ではなくニップル(乳頭)と判断していたことがわかりました。さらに、2014年7月と2015年7月の胸部X線写真は1方向から撮影された写真だけで、2018年1月になって初めて肺がん検診になったため、2方向から撮影されていることもわかりました。それらの説明を受けて、私が確認したかったことは、医師であれば誰の目にも明らかに2014年7月の陰影は肺がんを疑わないといけないものなのか、それとも放射線科の専門医でなければ疑うことができないものなのかということでした。というのも、これまでCOMLの活動を通して私が知り得た知識から、胸部X線検査だけで肺がんを早期に見つけることは難しいのではないかと思っていたからです。そして医師の間では、胸部X線検査の限界や、早期検出におけるCTの優位性が広く認識されているとも感じていました。そのため、私自身、肺がんの検診を受ける手段として胸部X線検査は選択肢に考えたことがありませんでした。そこで特別調査委員会の席で、放射線科専門医にそのことを質問したのです。すると、「2018年1月の胸部X線写真は2方向で撮影されているので、ニップルでないことは位置からも明らか。この時点で異常なしと判定したことは問題がある。しかし、2014年7月と2015年7月のものは私でも腫瘤だと判断する自信はない」という見解だったのです。そして、河北総合病院の放射線科医も同様の見解を持っているということが紹介されました。つまり、放射線科の読影の専門医ですら、判断に迷う陰影だということがわかったのです。「見落とし」だと指摘した院内検証委員会の専門医(外部委員)は、ニップルにしては位置が高いと判断されたようです。しかし、女性によっては乳房の大きさに差があり、検査台に強く胸を押し当てればニップルの位置はかなり大きく変化する可能性があるということ。そのような説明を専門医から聞くと、いかに判断が難しい問題かが理解できました。さらに、1方向の撮影だと骨や心臓の死角になって病変が見えないこともあること、どれだけ高性能のX線写真であっても、小さな病変は検出しづらいという分解能の限界があるという説明も受けました。 その後、特別調査委員の間では、「胸部X線検査が肺がんによる死亡率を減少させる科学的根拠がそもそも不十分であり、低線量CT検査が、胸部X線検査と比較して肺がん死亡率を約20%減少させたというデータもある。それにもかかわらず、そのような胸部X線検査の限界を知らされないまま、国民は胸部X線写真による肺がん検診を受け“異常なし”という判定を受けて安心していること自体に問題があるのではないか」という論点で話が進んでいきました。「知らされないこと」による被害件の女性が若くして肺がんで命を落とされる結果になったことは本当に残念なことです。30代のときから健診を受け、胸部X線検査で“異常なし”と判定されて、安心を重ねてこられたのだと思います。もし、「胸部X線検査だけで早期の肺がんを見つけることには限界がある」と知っていたら、果たして漫然とこの健診・検診を受けてきただろうかと考えると、まさしく「知らされていない」被害者だったのではないかと思います。実際に、杉並区の「がん検診のお知らせ」を見ると、「肺がん検診」の検査内容は「問診」「胸部X線検査」と記載されていますから、これらの検査さえ受けていれば肺がんが見つかると期待してしまうでしょう。特別調査委員会では、もちろん河北健診クリニックの検診体制の問題点も指摘し、再発防止策の提案もしました。しかし、最も問題視したのは、河北医療財団が肺がんの早期発見や死亡率を減少させる検診の方法として胸部X線検査に限界があると知りながら、漫然と杉並区の健診・検診を引き受けてきたことではないかということでした。これは河北医療財団だけでなく、健診事業を引き受けている多くの医療機関にも共通するのではないでしょうか。現時点でわかっている情報をもとに、ときには軌道修正していくことも求められると思います。今回の特別調査委員会の提言が、受診者に対する情報提供のあり方も含め、世の中で巨額の予算を投じて漫然と行われている胸部X線検査による肺がん検診制度全体の見直しにつながることを願って止みません。1)社会医療法人河北医療財団 特別調査委員会「調査報告書」

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