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免疫CP阻害薬の治療効果と便秘の関係

 近年、腸内細菌叢にある宿主免疫制御が報告され、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の治療効果との相関が注目されている。また、腸内細菌叢は排便習慣により変化することが報告されている。非小細胞肺がん(NSCLC)患者における便通異常と、ICIの治療効果の関連性について後ろ向きに検討した京都府立医科大学の研究結果が、片山 勇輝氏らにより第16回日本臨床腫瘍学会で報告された。 対象は京都府立医科大学附属病院でICI治療を行ったNSCLC40例。ICI投与前後1週間で3日以上の便秘もしくは緩下剤の内服歴を有する患者を便秘群と定義し、便秘群と非便秘群においてICIの治療効果を評価した。 主な結果は以下のとおり。・治療成功期間(TTF)中央値は便秘群で31.5日、非便秘群で204日と、便秘群で有意な短縮を示した(p=0.0032)。・病勢制御率(DCR)は便秘群で20.0%、非便秘群で78.8%と、便秘群で低い結果であった(p=0.00083)。・全生存期間(OS)は便秘群で79日、非便秘群で511日と、便秘群で有意な短縮を示した(p=0.0017)。 片山氏は、NSCLCのICIの治療効果や予後と患者の便通異常に有意な相関を認めた。このことは、ICI治療開始時の便通異常がICIの治療効果を予測しうる新たなバイオマーカーの1つである可能性を示した、としている。 以下、発表者 片山 勇輝氏(現在は京都鞍馬口医療センター)との一問一答この試験の実施背景として排便習慣に着目した理由はどのようなものですか? 2016~17年にかけて、悪性黒色腫において腸内細菌叢と免疫治療の効果についてのデータが発表されてきました。免疫チェックポイント阻害薬が奏効したメラノーマ患者では、腸内細菌叢が多様性に富んでいたという報告もあります。 一方、免疫チェックポイント阻害薬の使用機会が多いものの、肺がんでは、腸内細菌叢との関係は明らかではありません。ただ、腸内細菌叢の測定にコストがかかることもあり、まだ現実的ではありません。腸内細菌叢と排便習慣は関連性も示されていることから、簡便なマーカーとして排便習慣が使えないかと考え、このような研究を行いました。免疫チェックポイント阻害薬治療成功期間(TTF)全生存期間(OS)とも非便秘群で有意に長いという結果でしたが、これは臨床でどう考えるべきでしょうか。 従来、EGFR変異陽性例や、悪液質も含め全身状態の悪い例では免疫チェックポイント阻害薬が効きにくいといわれていましたが、便秘もそういったマーカーの1つなのではないかと考えられます。非便秘、つまり排便良好は腸内細菌叢が良好だということでしょうか。 排便習慣といっても、カルテで回数を追跡したにとどまりますので、単純に非便秘イコール良好な腸内細菌叢の形成とはいえないと思います。今後の研究はどのようにお考えですか? 今回の研究は後ろ向きですが、今後は、前向きに排便習慣を確認しながら腸内細菌叢の関連も一緒に調査したいと考えています。ただ、がんではオピオイド誘発性の便秘になりがちですし、殺細胞性抗がん剤により腸内細菌叢も乱れますので、こういった交絡因子を除外することが必要だと思います。この点を明らかにためにも、今後のさらなる検討が必要だと思います。※医師限定肺がん最新情報ピックアップDoctors’ Picksはこちら

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第9回 内科クリニックからのセファレキシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・10名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・6名Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・4名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・3名腸球菌・・・2名淋菌、クラミジアなど(性感染症)・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。ガイドラインも参考に 荒川隆之さん(病院)やはり一番頻度が高いのはE. coli です。性交渉を持つ年代の女性の単純性尿路感染としては、S.saprophyticus なども考えます。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015では、閉経前の急性単純性膀胱炎について推定される原因微生物について、下記のように記載されています。グラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち約90%はE. coli である。その他のグラム陰性桿菌としてP.mirabilis やKlebsiella 属が認められる。グラム陽性球菌は約20%に認められ、なかでもS. saprophyticus が最も多く、次いでその他のStaphylococcus 属、Streptococcus 属、Enterococcus 属などが分離される。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015急性単純性腎盂腎炎と膀胱炎の併発の場合 清水直明さん(病院)閉経前の若い女性、排尿痛、背部叩打痛があることから、急性単純性腎盂腎炎)※3に膀胱炎を併発している可能性が考えられます。その場合の原因菌は前述のJAID/JSC感染症治療ガイドライン2015の通りで、これらがほとんどを占めるといってもよいと思います。E. coliなどのグラム陰性桿菌(健常人にも常在している腸内細菌)には近年ESBL(extended spectrum β-lactamase)産生菌が増加しており、加えてこれらはキロノン系抗菌薬にも耐性を示すことが多く、セフェム系、キノロン系抗菌薬が効かない場合が多くなっているので注意が必要です。※3 尿道口から細菌が侵入し、腎盂まで達して炎症を起こす。20~40歳代の女性に多いとされる。グラム陰性桿菌が原因菌であることが多い。Q2 患者さんに確認することは?アレルギーや腎臓疾患など 柏木紀久さん(薬局)セフェム系抗菌薬やペニシリン系抗菌薬のアレルギー、気管支喘息や蕁麻疹などのアレルギー関連疾患、腎臓疾患の有無。妊娠の有無  わらび餅さん(病院)アレルギー歴や併用薬(相互作用の観点で必要時指導がいるので)に加え、妊娠の有無を確認します。Q3 疑義照会する?軟便や胃腸障害への対策 中堅薬剤師さん(薬局)処方内容自体に疑義はありませんが、抗菌薬で軟便になりやすい患者さんならば耐性乳酸菌製剤、胃腸障害が出やすい患者さんであれば胃薬の追加を提案します。1日2回への変更 柏木紀久さん(薬局)職業等生活状況によっては1日2回で成人適応もあるセファレキシン顆粒を提案します。フラボキサートの必要性 キャンプ人さん(病院)今回は急性症状でもあり、フラボキサートは過剰かなと思いました。今回の症例の経過や再受診時の状況にもよりますが、一度は「フラボキサートは不要では」と疑義照会します。症状の確認をしてから JITHURYOUさん(病院)フラボキサートについては、排尿時痛だけでは処方はされないと考えます。それ以外の排尿困難症、すなわち頻尿・ひょっとしたら尿漏れの可能性? それらがないとすれば、疑義照会して処方中止提案をします。下腹部の冷えを避け、排尿我慢や便秘などしないように、性交渉後、排尿をするなどの習慣についても指導できればいいと思います。疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)セファレキシンは6時間ごと1日4回ですが、今回の1 日3 回で1,500mgにした処方では疑義照会しません。なお、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 では閉経前の急性単純性膀胱炎のセカンドラインの推奨として、セファクロル250mgを1 日3 回、7 日間を挙げています。患者さんのアドヒアランスを考慮? わらび餅さん(病院)疑義照会はしません。投与量がJAID/JSCガイドラインと異なり多いと思いましたが、患者さんが若くアドヒアランスの低下の可能性を疑って、膀胱炎を繰り返さないためにも、あえて高用量で処方したのかとも考えました。ESBL産生菌を念頭に置く 清水直明さん(病院)セファレキシンは未変化体のまま尿中に排泄される腎排泄型の薬剤であり、尿路に高濃度移行すると考えられ、本症例のような尿路感染症には使用できると思います。しかし、地域のアンチバイオグラムにもよりますが、腸内細菌にESBL産生菌が増えており(平均して1~3割程度でしょうか)、単純なセフェム系抗菌薬の治療では3割失敗する可能性があるともいえます。ケフレックス®(セファレキシン)のインタビューフォームによると、E. coli、K. pneumoniae、P. mirabilisに対するMICはそれぞれ6.25、6.25、12.5μg/mLです。一方、JAID/JSCガイドラインで推奨されている1つであるフロモックス®(セフカペンピボキシル塩酸塩)のMICは、インタビューフォームによると、それぞれ3.13、0.013、0.20 μg/mLと、同じセフェム系抗菌薬でも2つの薬剤間で感受性がかなり異なることが分かります。やはり、セファレキシンは高用量で用いないと効果が出ない可能性があるので高用量処方となっているのだと思います。これらのことから、1つの選択肢としては疑義照会をして感受性のより高いセフカペンなどのセフェム系抗菌薬に変更してもらい、3日ほどたっても症状が変わらないか増悪するようであれば、薬が残っていても再度受診するように伝えることが挙げられます。もう1つの選択肢としては、初めからESBL産生菌を念頭に置いて、下痢発現の心配はあるものの、βラクタマーゼ配合ペニシリン系抗菌薬、ファロペネムなどを提案するかもしれません。私見ですが、キノロン系抗菌薬は温存の意味と、キノロン耐性菌を増やす可能性があり、あまり勧めたくありません。キノロン耐性菌の中にはESBL産生菌が含まれるので、ESBL産生菌を増やすことに繋がってしまいます。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?他科受診時や高熱に注意 柏木紀久さん(薬局)「セファレキシンは症状が治まっても服用を続けてください。服用途中でも高熱が出てきたら受診してください。水分をよく取って、排尿も我慢せず頻繁にしてください。セファレキシン服用中は尿検査で尿糖の偽陽性が出ることがあるので、他科を受診する際には申告してください」。腎盂腎炎に進行する可能性を懸念し、熱が上がってきたら再受診を勧めます。牛乳で飲まないように わらび餅さん(病院)飲み忘れなく、しっかりセファレキシンを飲むように指導します。牛乳と同時に摂取するのは避ける※4ように説明します。※4 セファレキシンやテトラサイクリン系抗菌薬は、牛乳の中のカルシウムにより吸収が低下する。キノロン系抗菌薬の服用歴 JITHURYOUさん(病院)性交渉頻度など(セックスワーカー・不特定多数との性交渉の可能性? )は気になるところですが、なかなか聞きにくい質問でもあります。レボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬は、開業医での処方が多いです。このため、これらの薬剤の服用歴や受診歴が重要であると思います。ESBL産生菌の可能性はないかもしれませんが、さまざまな抗菌薬にさらされている現状を考慮して、数日で症状改善しなければ、耐性菌や腎盂腎炎などの可能性もあるので再受診を促します。中止か継続かの判断 中西剛明さん(薬局)蕁麻疹や皮膚粘膜の剝落などのアレルギー症状が出た場合は中止を、下痢の場合はやがて改善するので水分をしっかり取った上で中止しないよう付け加えます。あまりに下痢がひどい場合は、耐性乳酸菌製剤が必要かもしれません。Q5 その他、気付いたことは?薬薬連携で情報を共有 荒川隆之さん(病院)閉経前の急性単純性膀胱炎から分離されるE. coliの薬剤感受性は比較的良好とされてはいるものの、地域のE. coliの薬剤感受性は把握しておくべきだと考えます。ESBL産生菌の頻度が高い地域においては、キノロン系抗菌薬の使用は控えた方がよいかもしれませんし、ファロペネムなどの選択も必要となるかもしれません。病院側もアンチバイオグラムなどの感受性情報は地域の医療機関で共有すべきだと考えますし、薬局側も必要だとアクションしていただきたいと思います。薬薬連携の中でこのような情報が共有できるとよいですね。余談ですが、ESBLを考える場合、ガイドライン上にはホスホマイシンも推奨されていますが、通常量経口投与しても血中濃度が低すぎるため、個人的にあまりお勧めしません。注射の場合は十分上がります。欧米のように高用量1回投与などができればよいのにと考えています。地域のアンチバイオグラムを参考に 児玉暁人さん(病院)ESBL産生菌の可能性は低いかもしれませんが、地域のアンチバイオグラムがあれば抗菌薬選択の参考になるかもしれません。背部叩打痛があるようですが、腎盂腎炎は否定されているのでしょうか。膀胱炎の原因 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎であることは確かだと思いますが、その原因が気になります。泌尿器科の処方箋が多い薬局で数年働き、若い女性の膀胱炎をよく見てきましたが、間質性膀胱炎のことが多く、そのような場合には、保険適用外でしたがスプラタスト(アイピーディ®)やシメチジンなどが投与されていました。背部叩打痛があることから、尿路結石の可能性もあります。また、若い女性であることから、ストレス性も考えられます。営業職で、トイレを我慢し過ぎて膀胱炎になるケースも少なくありません。最悪、敗血症になる可能性も ふな3さん(薬局)発熱・背部叩打痛があることから、腎盂腎炎への進行リスクが心配されます。最悪の場合、敗血症への進行の可能性も懸念されるため、高熱や腰痛などの症状発現や、2~3日で排尿痛等の改善がない場合には、早めに再受診または、泌尿器科専門医を受診するよう説明します。後日談この患者は1週間後、再受診、来局した。薬を飲み始めて数日したら排尿時の痛みがなくなったため、服薬をやめてしまい、再発したという。レボフロキサシン錠500mg/1錠、朝食後3日分の処方で治療することになった。医師の診断は急性単純性膀胱炎で、腎盂腎炎は否定的だったそうだ。担当した薬剤師から再治療がニューキノロン系抗菌薬になったのは、より短期間の治療で済むからでしょう。セファレキシンなどの第一世代セフェムを含むβラクタム系抗菌薬を使う場合、1週間は服用を続ける必要があるといわれています。この症例は、服薬中断に加え、フラボキサートで排尿痛を減らす方法では残尿をつくってしまう可能性があり、よくなかったのかもしれません。症状がよくなっても服薬を中断しないこと、加えて、水分摂取量を増やして尿量を増やすことも治療の一環であると説明しました。[PharmaTribune 2017年1月号掲載]

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続々と選択肢増、慢性便秘症治療の最新事情

 相次いで新薬が登場している慢性便秘症治療で、各治療薬はどのように使い分けていけばよいのか。9月11日、都内で慢性便秘症治療の最新事情をテーマとしたプレスセミナーが開催された(主催:アステラス製薬株式会社)。演者として登壇した三輪 洋人氏(兵庫医科大学 内科学消化管科 主任教授)は、「便秘は治療満足度に対する医師と患者側のギャップが大きい。単純に排便回数を改善するだけでなく、症状を改善していく治療が求められている」と話し、便秘治療の考え方や各治療薬の特徴について解説した。慢性便秘症の診断で医師は排便回数の減少を、患者は腹部の膨満感を重視 慢性便秘症の診療を行っている医師400人と、症状が6ヵ月以上あり通院あるいは市販薬を服用している患者700人を対象とした2017年の調査1)で、医師が慢性便秘症の診断にあたり重視する項目は多い順に、「排便回数の減少」「便の硬さ」「排便困難」であった。一方、患者側は「腹部の膨満感」「排便回数の減少」「便の硬さ」の順に回答が多く、特に腹部症状を改善したいと感じていることが明らかになった。 また、慢性便秘症治療の各薬剤(上皮機能変容薬は含まれていない)について満足度を尋ねたところ、浸透圧性下剤で80%以上など医師の満足度がおおむね高かったのに対し、患者側では全薬剤で50%以下となり、医師と比較すると圧倒的に低い傾向がみられた。 三輪氏は、「われわれはつい、“週2回だった排便が4回になりましたか、よかったですね”と排便回数を慢性便秘症治療の目安としてしまいがちだが、患者さん側は症状を改善したいと感じている。漫然と治療を続けるのではなく、どうしたら症状がとれるのかという観点からも治療を考えていかなければいけない」と話した。慢性便秘症の薬物療法、ガイドラインでの推奨は? 慢性便秘症の薬物療法について、まず前提として、骨盤底筋の機能障害に起因する便排出障害型の便秘には効果がなく、リハビリ療法の一種であるバイオフィードバック療法の有効性が確立されていることに三輪氏は言及。「2時間以上もトイレにこもる、手でかき出さないと出せないなど、排便の困難感が極度に強い患者さんは、便排出障害型の可能性がある」と話した。 2017年10月発行の「慢性便秘症診療ガイドライン2017」では、複数ある薬剤の中で、浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ラクツロース、ソルビトールなど)と上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチドなど)に、「強い推奨(1)」と「最も高いエビデンスレベル(A)」が示されている。 しかし、兵庫医科大学の関連病院で2017年10月~2018年2月にかけて薬剤の使用状況を調べたところ、酸化マグネシウムと刺激性下剤の使用が90%以上を占めており、上皮機能変容薬の使用は数%に留まっていた。「市販薬や一部の漢方薬(“大黄”が含まれるもの)を含む刺激性下剤は、一時的な効果はあるが習慣性や依存性があるため、短期間の投与とすることがガイドラインでも推奨されている」と三輪氏。酸化マグネシウムについては、慢性便秘症治療において「今後も第一選択であることは変わらないだろう」としたうえで、副作用(高マグネシウム血症)が報告されており高齢者や腎機能低下患者では定期的な血清マグネシウム濃度の測定が求められていることから2)、「とくに高齢者などでは、慢性便秘症治療に漫然と酸化マグネシウムを投与するのではなく、効果や症状の改善がみられない場合は上皮機能変容薬に切り替えていくという考え方がいいのではないか」と話した。新薬と既存薬をどのように使い分けるか 2018年に入り、4月に胆汁酸トランスポーター阻害薬エロビキシバットが発売、8月には便秘型過敏性腸症候群の治療薬として発売されていたリナクロチドが慢性便秘症に適応拡大された。リナクロチドは2012年発売のルビプロストンと同じく、腸管上皮に直接作用して管腔内への水分分泌を促進する上皮機能変容薬だが、作用機序は異なる。 リナクロチドは腸管上皮に存在するグアニル酸シクラーゼC(GC-C)を活性化させ、サイクリックGMP(cGMP)を増加させることで、水分分泌を増加させる。このcGMPには求心性神経の痛覚過敏を抑制するはたらきがあり、便秘治療薬の中で唯一、大腸痛覚過敏改善作用が示されている。三輪氏は「上皮機能変容薬の使い分けは非常に難しいが、それぞれ特徴はある」と話し、「リナクロチドは薬物相互作用が比較的少ないため、他剤を併用している高齢者などでも使いやすく、また腹痛などの症状が強い人に向いているのではないかと考えている」と期待感を示した。 今後も新薬ラッシュは続く見込みで、ポリエチレングリコール(PEG)製剤が近く発売予定となっている。PEGは酸化マグネシウムと同じ浸透圧性下剤で、欧米では慢性便秘症治療の第一選択薬として広く使われている。「直接比較したデータはないのでどちらがいいと明言するのは難しいが、PEGは水に溶かして飲む形状なので、その点が日本の患者さんたちにどの程度受け入れられるかという部分もある」と話した。

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DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤「スージャヌ配合錠」【下平博士のDIノート】第8回

DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤「スージャヌ配合錠」今回は、「シタグリプチンリン酸塩水和物/イプラグリフロジンL-プロリン配合錠(商品名:スージャヌ配合錠)」を紹介します。本剤は、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤であり、異なるアプローチにより血糖コントロールの継続・改善が期待されます。<効能・効果>2型糖尿病の適応で、2018年3月23日に承認され、2018年5月22日より販売されています。配合成分のシタグリプチンは、選択的にDPP-4を阻害し、活性型インクレチンを増加させることで、血糖依存的にインスリンの分泌を促進し、グルカゴンの分泌を抑制して血糖低下作用を示します。一方、イプラグリフロジンは選択的にSGLT2を阻害し、腎臓でのブドウ糖再取り込みを抑制することで、尿と共に糖を排出してインスリン非依存的な血糖低下作用を示します。なお、本剤を2型糖尿病治療の第1選択薬として用いることはできません。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(シタグリプチン/イプラグリフロジンとして50mg/50mg)を朝食前または朝食後に経口投与します。<副作用>国内臨床試験(シタグリプチン50mgおよびイプラグリフロジン50mgを1日1回併用投与)において、220例中28例(12.7%)に副作用が認められています。主なものは頻尿13例(5.9%)、口渇6例(2.7%)、便秘6例(2.7%)でした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.このお薬は、2種類の成分の配合剤で、体内のインスリン分泌を促す作用と、尿中に糖分を排泄させる作用により血糖値を下げます。2.低血糖症状(ふらつき、冷や汗、めまい、動悸、空腹感、手足のふるえ、意識が薄れるなど)が現れた場合は、十分量の糖分(砂糖、ブドウ糖、清涼飲料水など)を取るようにしてください。α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の場合は、ブドウ糖を取るようにしてください。3.過剰な糖が尿で排出されるため、尿路感染症(尿が近い、残尿感、排尿時の痛みなど)が生じることがあります。このような症状が現れた場合は、医師に相談してください。4.尿の量や排尿回数が増えることにより、脱水が生じることがあるので、多めに水分を補給してください。<Shimo's eyes>本剤の名称は、配合成分であるイプラグリフロジンの商品名「スーグラ」とシタグリプチンの商品名「ジャヌビア」が由来となっています。SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬という作用機序の異なる2つの薬剤を配合したことで、相補的な血糖降下作用が期待されます。それぞれの薬剤を単剤で服用した場合の薬価が、スーグラ錠50mg(200.20円/錠)とジャヌビア錠50mg(129.50円/錠)で合計329.70円なのに対し、スージャヌ配合錠は263.80円/錠なので、1日薬価を80%程度に抑えることができます※。本剤は、シタグリプチン50mgまたはイプラグリフロジン50mgの単剤治療で効果不十分な場合、あるいはすでにシタグリプチン50mgとイプラグリフロジン50mgを併用し、状態が安定している場合に切り替えて使用します。各単剤で効果不十分の場合は錠数を増やさず併用療法に移行でき、すでにそれぞれの薬剤を併用している場合は、薬剤数を削減できることから服薬アドヒアランスが向上し、長期にわたる安定した血糖コントロールが期待できます。なお、本剤はシタグリプチンおよびイプラグリフロジンと同様の効能・効果、用法・用量の組み合わせであり、実質的に既収載品によって1年以上の臨床使用経験があると認められました。そのため、新医薬品に係る通常14日間の処方日数制限は設けられていません。※2018年8月時点

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FDA、小細胞肺がんにニボルマブ承認。20年ぶり新薬/BMS

 Bristol-Myers Squibb社は、2018年8月17日、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)が、プラチナベース化学療法と1つ以上の他の治療ライン後に進行した、転移を有する小細胞肺がん(SCLC)の治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)から承認を受けたと発表した。この承認は、ニボルマブの第I/II相CheckMate-032試験の結果に基づくもの。 CheckMate-032試験は、プラチナベースの化学療法後に疾患進行したSCLC患者245例をニボルマブで治療した、進行中の多施設共同複数コホート非盲検試験。これらの患者は、PD-L1発現状態にかかわらず、ニボルマブ3mg/kgを2週間ごと、疾患進行または忍容できない毒性が発現するまで投与された。主要有効性評価項目は盲検化された独立中央評価委員会(BICR)評価による包括的奏効率(ORR)であった。ニボルマブ治療患者の治療期間中央値は1ヵ月(範囲:0〜44.2+ ヵ月)で、17%の患者が6ヵ月以上、9%の患者が1年以上ニボルマブの投与を受けた。 有効性は、プラチナベース化学療法と1つ以上の他の治療ラインの後に疾患進行した109例で評価された。この109例のBICR評価によるORRは12%(109例中13例)、部分奏効12例(11%)、完全奏効1例(0.9%)であった。奏効期間中央値は17.9ヵ月であった。安全性は245例全例で評価され、頻度の高い(20%以上)一般的な有害事象は、疲労(45%)、食欲減退(27%)、筋骨格痛(25%)、呼吸困難(22%)、悪心(22%)、下痢(21%)、便秘(20%)、咳嗽(20%)であった。頻度の高い(2%以上)重篤な有害事象は、肺炎、呼吸困難、胸水貯留および脱水であった。■参考Bristol-Myers Squibb社ニュースリリース■関連記事ニボルマブ、小細胞肺がんに単独およびイピリムマブ併用で有望な効果:CheckMate-032

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パーキンソン病の病因は腸か!?

 2018年7月24日、武田薬品工業株式会社は、都内においてパーキンソン病治療薬ラサギリン(商品名:アジレクト)の発売を期し、「~高齢化社会により患者数が増加している神経変性疾患~ パーキンソン病の病態・治療変遷」をテーマに本症に関するプレスセミナーを開催した。セミナーでは、本症の概要、最新の研究状況、「パーキンソン病診療ガイドライン2018」の内容が紹介された。パーキンソン病の推定患者数は約6万人 はじめに服部 信孝氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 教授)を演者に迎え、「パーキンソン病治療の変遷 過去・現在・未来 -新しいパーキンソン病診療ガイドラインの位置づけ-」をテーマに講演が行われた。 パーキンソン病(以下「PD」と略す)は、1,000人に1人の発症とされ、現在、患者数は約6万人と推定されている。リスク因子の中でも加齢が最も重要な因子であり、高齢になるほど発症頻度も上昇する。主な運動症状は、振戦、筋固縮、無動、姿勢反射障害などがある。また、非運動症状は、便秘、頻尿、睡眠障害、うつ傾向、認知機能障害などがある。とくに睡眠障害で「レム睡眠中の寝言などは、PDの前段階症状をうかがわせる所見であり、この段階で気付くことが大切だ」と同氏は指摘する。 Movement Disorder Society(MDS)の診断基準1)では、「寡動が存在し、静止時振戦か筋強剛のうち少なくとも1つを伴うパーキソニズムの存在」を絶対条件として掲げるとともに、「ドパミン補充療法が有効」「ドパ誘導性ジスキネジアがある」など4項目を支持基準(2項目以上で確定診断)として診断することとしている。また、絶対的除外基準として「小脳障害」「3年以上の下肢限局性のパーキソニズム」など9項目を掲げ、1項目でも該当するとPDと診断できないとし、同じく相対的除外基準として「5年以内の歩行障害」「3年以内の反復する転倒」など10項目を掲げ、3項目以上該当するとPDと診断できないとしている。診断で鑑別する場合、「とくに前期PDでは平衡感覚が保たれているため、転倒することは少ない」と同氏は診断ポイントを指摘する。 PD治療の中心としてL-ドパ含有製剤、ドパミン受容体刺激薬が使われているが、循環器障害、線維症、嘔気、過眠傾向、衝動調節障害などの副作用が問題となっている。また、治療薬の効果時間について作用している「オン」の時間を挟んで、作用していない「オフ」と過剰作用状態の「ジスキネジア」の3期の時間帯があるのがPD治療の特徴であり、病状の進行によりオンからどちらか一方に偏るという課題がある。パーキンソン病の治療薬ターゲットに「腸」の可能性 つぎに最新の研究状況について触れ、PDのリスク逓減因子であるカフェインには、PDの進行予防効果2)、運動症状改善効果があるとされている。そして、PD患者ではカフェイン代謝産物が吸収不全により低値であることが判明した。そのためカフェイン関連代謝産物をPDの診断マーカーとして利用する研究も進行しているという。また、PD発症と関係があるとされるαシヌクレインの伝播について、動物実験段階だが腸内細菌叢から神経炎症が脳に伝播し、脳全体に広がるというPD発症の仮説3)も説明され、今後の治療薬開発に腸がターゲットとなる可能性も示唆された。新しい「パーキンソン病診療ガイドライン」の特徴はCQとGRADEシステム 新しい「パーキンソン病診療ガイドライン」について触れ、その特徴は、「Clinical Question(CQ)」とともに推奨の強さ、エビデンスの確実性を示すために「GRADEシステム」を導入したことであるという。 早期PDの治療推奨としては、「特別の理由がない場合、診断後できるだけ早期に治療開始する方がよい」としながらも、「不利益に関する十分なエビデンスがないため、治療の開始に際しては、その効果と副作用、コストなどのバランスを十分考慮する必要がある」としている。また、「運動障害により生活に支障を来す場合はL-ドパで開始する方がよい」としながらも、「おおむね65歳以下発症など運動合併症のリスクが高いと推定される場合は、L-ドパ以外の薬物療法を考慮する。抗コリン薬やアマンタジンも治療薬の選択肢となり得るが、十分な根拠はない」としている。 進行期PDについては、「1日5回の服用回数、2時間のオフ時間、1時間の問題のあるジスキネジア」がみられる場合、脳深部刺激療法やレボドパ・カルビドパ配合経腸用液(LCIG)への治療法の変更を記述している。 最後に同氏は、「PDは、脳神経内科の専門医の診療により、さまざまなリスクが減り、治療成績や生命予後が良いことがジャーナル4)でも示されている。迷わずに脳神経内科医の診療を受けていただきたい」と語り、講演を終えた。

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ファブリー病に世界初の経口治療薬が登場

 2018年7月7日、アミカス・セラピューティスク株式会社は、同社が製造・販売する指定難病のファブリー病治療薬のミガーラスタット(商品名:ガラフォルド)が、5月に承認・発売されたことを期し、「ファブリー病治療:新たな選択肢~患者さんを取り巻く環境と最新情報~」と題するメディアラウンドテーブルを開催した。希少代謝性疾患の患者に治療を届けるのが使命 はじめに同社の会長兼CEOのジョン・F・クラウリー氏が挨拶し、「『希少代謝性疾患の患者に高品質の治療を届けるように目指す』ことが我々の使命」と述べた。また、企業責任は「患者、患者家族、社会に希少疾病を通じてコミットすることで『治療にとどまらない癒しをもたらすこと』」と企業概要を説明した。今後は、根治を目標に遺伝子治療薬の開発も行っていくと展望を語った。なお、クラウリー氏は、実子がポンぺ病を発症したことから製薬会社を起業し、治療薬を開発したことが映画化されるなど世界的に著名な人物である。治療選択肢が増えたファブリー病 つぎに衞藤 義勝氏(脳神経疾患研究所 先端医療研究センター長、東京慈恵会医科大学名誉教授)が、「日本におけるファブリー病と治療の現状」をテーマに、同疾患の概要を解説した。 ライソゾーム病の一種であるファブリー病は、ライソゾームのαガラクトシダーゼの欠損または活性低下から代謝されるべき糖脂質(GL-3)が細胞内に蓄積することで、全身にさまざまな症状を起こす希少疾病である。 ファブリー病は教科書的な疫学では4万例に1例とされているが、実際には人種、地域によってかなり異なり、わが国では新生児マススクリーニングで7,000例に1例と報告されている。臨床型ではファブリー病は、古典型(I型)、遅発型(II型)、ヘテロ女性型に分類され、古典型が半数以上を占めるとされる。 ファブリー病の主な臨床症状としては、脳血管障害、難聴、角膜混濁・白内障、左室肥大・冠攣縮性狭心症・心弁膜障害・不整脈、被角血管腫・低汗症、タンパク尿・腎不全、四肢疼痛・知覚異常、腹痛・下痢・便秘・嘔気・嘔吐など全身に症状がみられる。また、年代によってもファブリー病は症状の現れ方が異なり、小児・思春期では、慢性末梢神経痛、四肢疼痛、角膜混濁が多く、成人期(40歳以降)では心機能障害が多くなるという。 診断では、臨床症状のほか、臨床検査で酵素欠損の証明、尿中のGL-3蓄積、遺伝子診断などで確定診断が行われる。また、早期診断できれば、治療介入で症状改善も期待できることから、新生児スクリーニング、ハイリスク群のスクリーニングが重要だと同氏は指摘する。とくに女性患者は軽症で症状がでないこともあり、放置されている場合も多く、医療者の介入が必要だと強調した。 ファブリー病の治療では、疼痛、心・腎障害、脳梗塞などへの対症療法のほか、根治的治療として現在は酵素補充療法(以下「ERT」と略す)が主に行われ、腎臓などの臓器移植、造血幹細胞などの細胞治療が行われている。とくにERTでは、アガルシダーゼαなどを2週間に1回、1~4時間かけて点滴する治療が行われているが、患者への身体的負担は大きい。そこで登場したのが、シャペロン治療法と呼ばれている治療で、ミガーラスタットは、この治療法の薬に当たる。同薬の機序としては、体内の変異した酵素を安定化させ、リソソームへの適切な輸送を促進することで、蓄積した物質の分解を促す。また、経口治療薬であり、患者のアドヒアランス向上、QOL改善に期待が持たれている。将来的には、学童期の小児にも適用できるように欧州では臨床研究が進められている。 最後に同氏は、「ファブリー病では、治療の選択肢が拡大している一方で、個々の治療法の効果は不明なことも多い。現在、診療ガイドラインを作成しているが、エビデンスをきちんと積んでいくことが重要だと考える」と語り、講演を終えた。酵素補充保療法とスイッチできるミガーラスタット つぎにデリリン・A・ヒューズ氏(ロイヤルフリーロンドンNHS財団信託 血液学領域、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)が、「ファブリー病治療の新たな選択肢:ミガーラスタット塩酸塩」をテーマに講演を行った。 はじめに自院の状況について、ライソゾーム病の中ではファブリー病がもっとも多いこと、患者数が年15%程度増加していることを報告し、家族内で潜在性の患者も多いことも知られているため、早期スクリーニングの重要性などを強調した。 英国のガイドラインでは、診断後の治療でERTを行うとされているが、その限界も現在指摘されている。ERTの最大の課題は、治療を継続していくと抗体が形成されることであり、そのため酵素活性が中和され、薬の効果が出にくくなるという。また、細胞組織内の分泌が変化すると、末期では細胞壊死や線維化が起こり、この段階に至るとERTでは対応できなくなるほか、点滴静注という治療方法は患者の活動性を阻害することも挙げられている。実際、15年にわたるERTのフォローアップでは、心不全、腎不全、ペースメーカー、突然死のイベント発生が報告され、効果が限定的であることが判明しつつあるという1)。そして、ミガーラスタットは、こうした課題の解決に期待されている。 ミガーラスタットの使用に際しては、ファブリー病の確定診断と使用に際しての適格性チェック(たとえば分泌酵素量や遺伝子検査)が必要となる。ERTと異なる点は、使用年齢が16歳以上という点(ERTは8歳から治療可能)、GFRの検査が必要という点である。また、ERTとの併用はできず、ERT中止後2週間後から服用ができるとされ、妊娠を希望する女性に対しては、服用開始後数年は妊娠できないことを説明する必要がある。 最後に同氏は、シャペロン療法の可能性について触れ「病態生理、診療前段階、治療とその後の期間、実臨床でもデータの積み重ねが大切だ」と語り、講演を終えた。ミガーラスタットの概要一般名:ミガーラスタット製品名:ガラフォルド カプセル 123mg効能・効果:ミガーラスタットに反応性のあるGLA遺伝子変異を伴うファブリー病用法・用量:通常、16歳以上の患者に、1回123mgを隔日経口投与。なお、食事の前後2時間を避けて投与。薬価:14万2,662.10円/カプセル承認取得日:2018年3月23日発売日:2018年5月30日

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シオノギ、米国におけるオピオイド誘発性便秘症治療薬に関する全権利を再取得

 塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:手代木 功)は2018年7月6日、同社が創製したオピオイド誘発性便秘症治療薬Symproic(一般名:ナルデメジン)について、米国における戦略的提携先のPurdue Pharma社(以下、Purdue社)からすべての権利を再取得したと発表。  これはPurdue社の米国内のビジネスモデルの変革を受けたもの。塩野義製薬とPurdue社は、Symproicの米国における共同販売活動に関するアライアンス活動を終了することで合意している。

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オラパリブ・アビラテロン併用で去勢抵抗性前立腺がんのPFS改善/ASCO2018

 既治療の転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対して、抗アンドロゲン薬・アビラテロンにPARP阻害薬オラパリブを上乗せする効果を対プラセボで比較した無作為化第II相臨床試験の結果を、英国・The Christie and Salford Royal HospitalのNoel Clarke氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2018)で報告した。 同試験の対象はドセタキセルの前治療を受けたmCRPCで、化学療法施行は2ライン以内、第2世代抗アンドロゲン製剤での治療歴のない患者。登録患者はアビラテロン1日1回経口1,000mg服用をベースに、オラパリブを1日2回300mgを併用したオラパリブ群とプラセボを併用したプラセボ群に割り付けられた。主要評価項目は画像診断上の無増悪生存期間(rPFS)、副次評価項目は相同組み換え修復遺伝子変異(HRRm)別のrPFS、2次治療までの無増悪生存期間(PFS2)、全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、末梢血中循環腫瘍細胞陽性転化率、安全性。登録症例は142例で、両群に71例ずつ割り付けられた。 rPFS中央値はオラパリブ群が13.8ヵ月、プラセボ群で8.2ヵ月で、オラパリブ群で有意な延長が認められた(HR:0.65、95%CI:0.44~0.97、p=0.034)。 HRRmは21例(全体の15%)で認められた。HRRm症例でのrPFS中央値はオラパリブ群が17.8ヵ月、プラセボ群が6.5ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.26~2.12)、生殖細胞検査と血漿検査のいずれか、あるいは双方で変異がないと診断された野生型(HRRpc)のrPFS中央値はオラパリブ群が13.1ヵ月、プラセボ群が6.4ヵ月(HR:0.67、95%CI:0.40~1.13)、生検腫瘍組織で変異がないと診断された野生型(HRRwt)のrPFS中央値はオラパリブ群が15.0ヵ月、プラセボ群が9.7ヵ月(HR:0.52、95%CI:0.24~1.15)。HRRmの有無とrPFSに相関は認められなかった。 また、PFS2中央値はオラパリブ群が23.3ヵ月、プラセボ群で18.5ヵ月(HR:0.79、95%CI:0.51~1.21、p=0.28)、OS中央値はオラパリブ群が22.7ヵ月、プラセボ群で20.9ヵ月であった(HR:0.91、95%CI:0.60~1.38、p=0.66)。 ORRはオラパリブ群が27%、プラセボ群が32%、末梢血中循環腫瘍細胞陽性転化率はオラパリブ群が50%、プラセボ群が46%であった。 Grade3以上の有害事象発現頻度はオラパリブ群が54%、プラセボ群が28%。オラパリブ群で発現頻度が高かった主な有害事象は悪心、貧血、背部痛、便秘、無力症などで、Grade3以上としては貧血が最も多かった。 Clarke氏は「オラパリブとアビラテロンの併用は、アビラテロン単剤に比べ、有意なrPFS延長効果が得られた一方、有害事象の発現頻度は高まった。この結果を基に第III相試験を計画している」と説明した。※医師限定ASCO2018最新情報ピックアップDoctors’Picksはこちら

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肝臓移植ができない患者にも希望の光

 2018年6月6日、ファイザー株式会社は、「世界ATTR啓発デー(6月10日)」を前に都内においてATTRアミロイドーシスに関するプレスカンファレンスを開催した。カンファレンスでは、ATTRアミロイドーシスの診療の概要、とくに抗体治療の知見や患者からの切実な疾患への思いが語られた。1,000例以上の患者が推定されるATTR-FAP はじめに安東 由喜雄氏(熊本大学大学院 生命科学研究部 神経内科学分野 教授/国際アミロイドーシス学会 理事長)を講師に迎え、「進歩目覚ましい神経難病、ATTRアミロイドーシス診療最前線」をテーマに、ATTRアミロイドーシスの概要が説明された。 アミロイドーシスは、たんぱく質が遺伝子変異や加齢などにより線維化し、臓器などに沈着することで、さまざまな障害を起こすとされ、全身性と限局性に大きく分類される。全身性は、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)や老人性全身性アミロイドーシス(SSA)が知られており、限局性ではアルツハイマー病やパーキンソン病が知られている。今回は、全身性アミロイドーシスのFAPについて主に説明がなされた。 全身性アミロイドーシスのFAPやSSAは、トランスサイレチン型アミロイドーシスと呼ばれ、FAPは遺伝型ATTRで変異型TTRがアミロイドを形成し、20代から発症、末梢神経障害、浮腫・失神、消化管症候、腎障害、眼症状などを引き起こす。SSAは、主に70代から発症し、非遺伝型ATTRと呼ばれ、野生型TTRがアミロイドを形成し、心症候、手根管症状などを引き起こす。 そして、FAPでは、最近の研究より国内で40種以上の変異型が、全世界では140種以上の変異型の報告がされ、国内患者数は1,000例以上と推定されているという。また、従来は熊本県、長野県だけでみられた変異型が全国に広がっていることも確認されていると報告した。疑ったら熊本大学へ紹介を! FAPの診断では、患者病歴(とくに家族歴)、身体所見(FAPのRed-flag[四肢の疼痛、体重減少、排尿障害、下痢・便秘、浮腫、心室壁の肥厚など])、組織病理学的検査、遺伝学的検査(TTR遺伝子変異の同定)などにより確定診断がなされる。なかでも遺伝学的検査について安東氏は「熊本大学ではアミロイドーシス診療体制構築事業を行っており、全国から診断の受付をしている。専門医師不在の病院、開業の先生も本症を疑ったら当学に紹介をしていただきたい」と早期診断、早期発見の重要性を強調した。FAP治療の新次元を開いたタファミジス FAPの治療については、以前から肝移植が推奨されているが、肝移植をしてもなお眼症候の進行や心肥大など予後不良の例もあるという。また、肝移植では、発症後5年以内という期間制限の問題、移植ドナーの待機問題もあり、条件は厳しいと指摘する。 そんな中、わが国で2013年に承認・販売されたタファミジス(商品名:ビンダケル)は、こうした問題の解決の一助になると同氏は期待を寄せる。タファミジスは、肝臓産生のTTRを安定化させることで、アミロイドの線維化を防ぐ働きを持ち、安全に末梢神経障害の進行を抑制する効果を持つ。実際、タファミジスの発売後、肝移植手術数は減少しており、ある症例では、車いすの患者が肝移植と同薬を併用することで、症状が改善し、独歩になるまで回復したと紹介した。 最近では、肝臓に着目しTTRの発現を抑えるアンチセンス核酸(ASO)などの遺伝子抑制、沈着したアミロイドを除去する抗体治療も世界的に盛んに研究されている。 おわりに同氏は、「FAPをはじめとするアミロイドーシスでは、早期に症候から本症を疑い、組織からアミロイド沈着を検出することが重要である。早期治療介入のためには、早期診断が大切であり、今後も医療者をはじめ、社会への疾患の浸透を図るために、患者とともに疾患と戦っていく」とレクチャーを終えた。 次に患者・家族の会「道しるべの会」からFAP患者が登壇し、会の活動を説明。その後、「FAPは家系での発症が多く、患者家族は発症におびえていること」「肝移植後も予後が悪く、今後の疾患の進行に不安を覚えていること」「患者の経済的格差や受診格差もあること」など疾患への苦労や悩みを語るとともに、「移植に頼らない新薬や眼病変への新薬の開発」「肝移植でも使える免疫抑制剤の保険適用の拡大」「FAPへの医療者も含めた社会の理解」など期待を述べた。■参考TTRFAP.jp(ファイザー提供)熊本大学 医学部附属病院 アミロイドーシス診療センター■関連記事希少疾病ライブラリ 家族性アミロイドポリニューロパチー

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新たな抗PD-1抗体、進行皮膚扁平上皮がんに奏効/NEJM

 進行皮膚扁平上皮がん患者において、抗PD-1抗体cemiplimabは、約半数の患者に奏効し、有害事象は免疫チェックポイント阻害薬で一般的にみられるものと同じであった。米国・テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターのMichael R. Migden氏らが、cemiplimabの有効性および安全性を検討した第I/II相臨床試験の結果を報告した。進行皮膚扁平上皮がんは、腫瘍の遺伝子変異量が高く疾患リスクは免疫抑制と強い関連があることから、免疫療法が奏効する可能性があり、cemiplimabの第I相用量漸増試験では、転移を有する皮膚扁平上皮がんに対する持続的かつ深い奏効が観察されていた。NEJM誌オンライン版2018年6月4日号掲載の報告。第I相および第II相試験を実施し、奏効率を評価 研究グループは2016年3月~2017年1月に、局所進行/転移を有する皮膚扁平上皮がん患者26例を対象に第I相拡大コホート試験を、2016年5月~2017年4月に、転移を有する皮膚扁平上皮がん患者59例を対象に第II相ピボタル試験を行った。両試験とも対象患者にcemiplimab 3mg/kgを2週間ごとに静脈内投与し、8週ごとに評価した。 第II相の主要評価項目は、独立中央判定委員会の評価による奏効率(intention-to-treat解析)であった。奏効率は第I相試験で50%、第II相試験で47% 第I相拡大コホート試験では、追跡期間中央値11.0ヵ月において、26例中13例で奏効が確認された(奏効率50%、95%信頼区間[CI]:30~70)。 第II相ピボタル試験では、追跡期間中央値7.9ヵ月において、59例中28例で奏効が確認された(奏効率47%、95%CI:34~61)。奏効例28例のうち、57%で奏効期間が6ヵ月を超え、82%で奏効が持続し、データカットオフ日までcemiplimabの投与が継続されていた。 第II相ピボタル試験においてみられた主な有害事象(発現率15%以上)は、下痢、倦怠感、悪心、便秘、発疹であった。7%の患者が有害事象により投与を中止した。 なお、免疫不全状態の患者における有効性は検証できていない。現在、局所進行皮膚扁平上皮がん患者を対象にした第II相試験が進行中である。

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コレステロールの吸収と合成を阻害する初の配合錠「アトーゼット配合錠LD/HD」【下平博士のDIノート】第1回

コレステロールの吸収と合成を阻害する初の配合錠「アトーゼット配合錠LD/HD」今回は、高コレステロール血症治療薬「エゼチミブ/アトルバスタチンカルシウム水和物配合錠LD/HD(商品名:アトーゼット)」を紹介します。コレステロールの吸収と合成をともに阻害するため、単独投与よりもLDLコレステロール値を低下させる可能性、また、1剤の服用で済むのでアドヒアランス向上や患者負担の軽減が期待できます。<効能・効果>高コレステロール血症、家族性コレステロール血症の適応で、2017年9月27日に承認され、2018年4月23日より販売されています。本剤は、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬であるエゼチミブと、HMG-CoA還元酵素阻害薬であるアトルバスタチンの配合剤です。異なる作用機序の成分を配合することで、小腸でのコレステロールおよび植物ステロールの吸収阻害作用と、肝臓でのコレステロール合成阻害作用により、血液中のコレステロールを低下させることが期待されます。なお、本剤を高コレステロール血症、家族性コレステロール血症治療の第1選択薬として用いることはできません。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠を食後に経口投与します。エゼチミブ/アトルバスタチンの含量は、LD錠が10mg/10mg、HD錠が10mg/20mgとなっており、アトルバスタチンの用量は、年齢、症状により適宜増減可能です。高コレステロール血症の場合はアトルバスタチンとして最大20mg、家族性高コレステロール血症の場合は最大40mgまで増量できます。<臨床効果>日本人高コレステロール血症患者309例を対象とした国内第III相二重盲検比較試験において、ベースラインからのLDLコレステロール変化率は、エゼチミブ10mg+アトルバスタチン10mg併用群はエゼチミブ10mgおよびアトルバスタチン10mgの各単独群との間、エゼチミブ10mg+アトルバスタチン20mg併用群はエゼチミブ10mgおよびアトルバスタチン20mgの各単独群との間に有意差が認められました。<副作用>国内の臨床試験では、臨床検査値異常を含む副作用が272例中4例(1.5%)に認められています。主な副作用は、胃炎、腹部膨満感、便秘などの消化器症状と、ALT増加、AST増加、γ-GTP増加、Al-P増加などの臨床検査値異常でした。<患者さんへの指導例>1.コレステロール吸収を抑える成分と、コレステロール合成を抑える成分の2種類が配合され、心血管系疾患の危険性を少なくすることが期待できます。2.一緒に飲んではいけない薬や避けたほうがよい薬がありますので、ほかに服用している薬があれば、必ず医師・薬剤師に伝えてください。3.手足のしびれ、筋力低下、筋肉痛、赤褐色の尿など[横紋筋融解症の前駆症状]がみられた場合や、これまでと違うだるさ、食欲不振、吐き気、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる症状[肝機能低下]がみられた場合はすぐに連絡してください。<Shimo's eyes>本剤を高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症の第1選択薬として使用すること、またはアトルバスタチン以外の同効薬の単独投与(ゼチーア錠も該当)からの切り替えは、原則として認められていないので注意が必要です。切り替えが下記に該当しない場合は疑義照会をする必要があります。【LD錠の適用】(1)エゼチミブ10mg+アトルバスタチン10mg併用、(2)アトルバスタチン10mgで効果不十分な場合【HD錠の適用】(1)エゼチミブ10mg+アトルバスタチン20mg併用、(2)アトルバスタチン20mg、(3)エゼチミブ10mg+アトルバスタチン10mg併用またはエゼチミブ/アトルバスタチン配合錠LDで効果不十分な場合本剤の薬価はLD錠、HD錠ともにゼチーア錠と同額のため、ゼチーア錠とリピトール錠あるいは後発のアトルバスタチン錠をそれぞれ単剤で併用するよりも医療費が軽減されます。アドヒアランスの向上も期待できるので、両剤を必要とする患者さんにとってメリットを感じやすいでしょう。通常、新薬の発売から1年間は14日分しか投与できないという処方日数制限がありますが、本剤の場合、既存薬のゼチーア錠とリピトール錠の併用療法は実質的に1年以上の臨床使用経験があるため、処方日数制限の対象外となっています。

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身体能力低下の悪循環を断つ診療

 2018年4月19~21日の3日間、第104回 日本消化器病学会総会(会長 小池 和彦氏[東京大学医学部消化器内科 教授])が、「深化する多様性~消化器病学の未来を描く~」をテーマに、都内の京王プラザホテルにおいて開催された。期間中、消化器領域の最新の知見が、シンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップなどで講演された。 本稿では、その中で総会2日目に行われた招請講演の概要をお届けする。フレイル、サルコペニアに共通するのは「筋力と身体機能の低下」 招請講演は、肝疾患におけるサルコペニアとの関連から「フレイル・サルコペニアと慢性疾患管理」をテーマに、秋下 雅弘氏(東京大学大学院医学系研究科 加齢医学 教授)を講師に迎えて行われた。 はじめに高齢者の亡くなる状態を概括、いわゆるピンピンコロリは1割程度であり、残りの高齢者は運動機能の低下により、寝たきりなどの介護状態で亡くなっていると述べ、その運動機能の低下にフレイルと(主に一次性)サルコペニアが関係していると指摘した。 フレイルは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表し、要介護状態に至る前段階として位置付けられている(ただし、可逆性はあるとされる)。また、サルコペニアは「高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下」と定義される。両病態はお互いに包含するものであり、とくに筋力と身体機能の低下は重複する。フレイル、サルコペニアは世界初のガイドラインなどで診療 診療については、『フレイル診療ガイド 2018年版』と『サルコペニア診療ガイドライン 2017年版』が世界で初めて刊行され、詳しく解説されている(消化器領域では『肝疾患におけるサルコペニアの判定基準』により二次性サルコペニアの診療が行われている)。 フレイルの診断は、現在統一された基準はなく、一例として身体的フレイルの代表的な診断法と位置付けられている“Cardiovascular Health Study基準”(CHS基準)を修正した日本版CHS(J-CHS)基準が提唱され、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動の5項目のうち3つ以上の該当でフレイルと判定される。スクリーニングでは、質問形式で要介護認定ともシンクロする「簡易フレイルインデックス」など使いやすいものが開発されている。 一方、サルコペニアも同様に統一基準はないが、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によってアジア人向けの診断基準が作られ、年齢、握力、歩行速度、筋肉量により診断されるが、歩行速度など、わが国の実情に合わない点もあり注意が必要という(先の二次性サルコペニアの診断ではCT画像所見による筋肉量の測定がある)。 また、両病態とも筋肉量の測定など容易ではないが、外来で簡単にできる「指輪っかテスト」なども開発され、利用されている。 治療に関しては両病態ともに、レジスタンス運動を追加した運動療法や、十分な栄養を摂る栄養療法が行われる。詳細は先述のガイドラインなどに譲るが、「タンパク質」の摂取を例に一部を概略的に示すと、慢性腎不全の患者では腎臓機能維持の都合上、タンパク質の摂取が制限されるが、その制限が過ぎるとサルコペニアに進んでしまう。そのため、透析に進展させない程度のタンパク質の摂取を許すなど、患者のリスクとベネフィットを比較、検討して決めることが重要という。薬剤が6種類を超えるとハイリスク 続いて「ポリファーマシー」に触れ、ポリファーマシーはフレイルの危険因子であり、薬剤数が6種類を超えるとハイリスクになると指摘する(5種類以上で転倒のリスクが増す)。また、6種類以上の服用はサルコペニアの発症を1.6倍高めるというKashiwa studyの報告を示すとともに、広島県呉市のレセプト報告を例に85~89歳が一番多くの薬を服用している実態を紹介した。 消化器領域につき、「食欲低下」では非ステロイド性抗炎症薬、アスピリン、緩下薬などが、「便秘」では睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、三環系抗うつ薬などが、「ふらつき・転倒」では降圧薬、睡眠薬・抗不安薬、三環系抗うつ薬などが関係すると考えられ、「高齢者への処方時は、優先順位を決めて処方し、非専門領域についても注意してほしい」と語った。とくに「便秘」は抗コリン薬が原因になることが多いという。また、「GERD」についてはH2ブロッカーが認知機能を低下させる恐れがあるため注意が必要であり、第1選択薬のPPIでも漫然とした長期使用は避けるなど、必要に応じた使い方が望ましいという。 まとめとして、高齢者の生活改善では「規則正しい食事」「排泄機能の維持」「適切な睡眠習慣」が大切で、とくに「食事は服薬のアドヒアランス維持のためにも気を付けてもらいたい」とその重要性を指摘した。最後に秋下氏は「フレイル、サルコペニアは、身体的な負の悪循環を形成することを理解してもらいたい」と述べ、レクチャーを終えた。■参考第104回 日本消化器病学会総会■関連記事ニュース 初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊

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簡単な便秘対策は、トイレを我慢しない

 2018年3月27日、株式会社ツムラ後援による第4回Kampo Academiaプレスセミナーが都内において開催された。今回のテーマは「便秘における漢方薬の再認識」。セミナーでは、日常診療で見過ごされやすい便秘の機序、影響、治療での漢方薬の役割、対策についてレクチャーが行われた。思い当たる? 7~8人に1人は便秘症状 セミナーでは、中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授)を講師に迎え、「~腸内環境は気になるけれど、“たかが便秘”と自己流の対策で悪化させていませんか?~便秘における漢方薬の再認識」をテーマに講演が行われた。 便秘の中でも、慢性の便秘は日本人の7~8人に1人は症状があるとされている(厚生労働省「平成25年(2013年)国民生活基礎調査」)。 そして、便秘とは、「排便回数の減少」と「排便困難症」が相まった病態であるとされ、ホルモンの関係から患者は女性で圧倒的に多い(ただし高齢になるにつれ性差は縮小)。長期間にわたり罹患し、治癒することは難しいとされる。その原因として、一番問題となるのは「便意の我慢」であり、そのほか間違えたダイエットや加齢による大腸運動の低下、薬剤によるものなどがあるという。 便秘が日常生活に及ぼす影響として、放置により疾患の原因となる可能性があり、便秘が続くと腸内環境はどんどん悪化する。また、便秘はQOLを下げるので、日常活動性や労働生産性の低下を招き、職場の欠勤率を上昇させるという報告もある。 慢性便秘症の分類には、「便秘型IBS」「機能性便秘」「薬剤性便秘」「症候性便秘」「器質性便秘」の5つがあり、薬剤性では抗うつ薬や抗コリン薬など、症候性では糖尿病、パーキンソン病など、器質性では大腸がん、炎症性腸疾患などに、とくに注意が必要だという。患者が満足する便秘治療とは 便秘の治療としては、かかりつけ医、消化器内科、胃腸科、肛門科、内科が主診療科となるが、「医療者の意識改革も必要であり、便秘の治療では、単に排便ができるようになるだけでなく、患者満足度の高い治療を行うことが重要」と中島氏は指摘する。たとえば、刺激性下剤により排便がされたとしても、水様便で下痢のままでは、患者満足度は低いままである。そうならないためには、「完全排便を目指す」「便形状の正常化(ブリストルスケールで“4”)」「初診で刺激性下剤を出さない」の3点に加え、便形状の聞き取りなどの外来でのフォローが重要だという。 現在、便秘で処方される治療薬としては、緩下剤(便をやわらかくし、排便促進作用)、刺激性下剤(腸を刺激し、強制的に排便させる作用)、漢方薬(体質や症状に合わせて選択できる)の3種類がある。緩下剤では、酸化マグネシウムがわが国では広く処方されているが、高マグネシウム血症への注意や併用注意薬の多さが短所であり、刺激性下剤であるセンノシドなどでは、連用することで習慣性、依存性が生じ、効果が低下することが指摘されている(海外では頓用で使用される)。 その点、漢方薬は、患者の安心感が高く、作用の強弱が選択でき、便秘周辺症状(腹部膨満など)にも対応できることで最近見直されているという。 具体的には、「大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)」「麻子仁丸(マシニンガン)」「潤腸湯(ジュンチョウトウ)」「桂枝加芍薬大黄湯(ケイシカシャクヤクダイオウトウ)」「防風通聖散(ボウフウツウショウサン)」「大建中湯(ダイケンチュウトウ)」の6種類が、便秘の治療で使われる代表的な漢方薬である。 各漢方薬の特徴として、次の点が挙げられる。「大黄甘草湯」は、比較的作用が強くエビデンスもあるが、高齢者には注意が必要である。「麻子仁丸」は、高齢者に適している。「潤腸湯」は効果がマイルドで軽症から中等症の患者や高齢者に適している。「桂枝加芍薬大黄湯」は、腹部膨満感や腹痛、ガス排出など便秘周辺症状にも効果がある。「防風通聖散」は、作用が弱いもののゆっくりと効果を発揮し、中高年に適している。「大建中湯」は、作用が弱いものの、下腹部の重さ、痛みなどの便秘周辺症状にも適している。「このように多種の漢方薬をうまく使いこなすことで、患者のさまざまな訴えに対応することができる。ただし、妊婦、産婦、授乳婦への投与について安全性が確立されていないので処方には慎重な判断が必要」と、同氏は注意を促す。便秘対策は生活習慣の改善と排便姿勢から 便秘対策としては、食物繊維・運動・水分不足といった生活習慣の是正が重要であり、子供のころからトイレを我慢しない行動も大事だという。また、排便の姿勢について、和式トイレのしゃがんだ姿勢が理想だが、洋式トイレが主流の現代では、前かがみ35度の前傾姿勢で排便するのが望ましいとしている。 まとめとして同氏は、「患者の半分以上が便秘治療に不満足の今、満足度の向上が必要である。自己流ではなく自分に適した対策のため、便秘は放置せずに医師に相談する。漢方薬を服用する際は、正しく理解して服用し、自己判断せずに専門医に処方してもらうことが大切だ」と語り、レクチャーを終えた。■参考日本東洋医学会漢方のお医者さん探し

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TNF受容体関連周期性症候群〔TRAPS:Tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義TNF受容体関連周期性症候群(Tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome:TRAPS)は、常染色体優性形式をとる家族性の周期性発熱・炎症疾患である。本疾患は1982年にWilliamsonらが再発性の発熱、皮疹、筋痛、腹痛を呈するアイルランド/スコットランドの1家系を見いだし、“familial Hibernian fever”として報告したことに始まる。1999年にMcDermottらが1型TNF受容体の遺伝子変異が本疾患の原因であることを報告し“TRAPS”と命名した1)。その論文において、自己炎症という新しい疾患概念が提唱された。TRAPSは自己炎症疾患(autoinflammatory disease)の代表的疾患であり、自己抗体や自己反応性T細胞によって生じる自己免疫疾患(autoimmune disease)とは異なり、自然免疫系の異常によって発症すると考えられている。本症は2015年1月1日より医療費助成対象疾患(指定難病、小児慢性特定疾病)となった。■ 疫学欧米人、アジア人、アフリカ系アメリカ人などさまざまな人種において、まれな疾患として報告されている。「TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)の病態の解明と診断基準作成に関する研究」研究班(研究代表者:堀内孝彦[九州大学] 平成22-24年度 厚生労働省)が行った全国調査では、わが国には少なくとも33家系51例の患者がいることが明らかになった2)。■ 病因1型TNF受容体遺伝子(TNFRSF1A)の変異で生じる。1型TNF受容体は455個のアミノ酸より構成され、細胞外ドメインの4つのCRD(cysteine-rich domain)と細胞膜貫通部、細胞内ドメインと細胞内のDD(death domain)という特徴的な構造を持っている。TRAPSで報告されている変異のほとんどはCRD1とCRD2をコードしているエクソン2-4の単一塩基ミスセンス変異である。なかでもタンパクの高次構造に重要な働きをしているジスルフィド(S-S)結合を形成するシステイン残基の変異が多い。これらの変異がTRAPSの病態形成にいかに関与するかは、いくつかの仮説が提唱されてきた。現時点では次のように考えられている。高次構造の異常によるmisfolding(タンパク質の折り畳みの不良)のため、変異1型TNF受容体は細胞表面へ輸送されずに小胞体内に停滞する。小胞体内の変異1型TNF受容体は、ミトコンドリアからのROS産生を介して細胞内のMAPキナーゼ脱リン酸化酵素を阻害することにより、定常状態でのMAPキナーゼを活性化状態にする。これだけでは炎症性サイトカイン産生の誘導は起こらないが、細菌感染などでToll様受容体からのシグナルが加わることにより、IL-1、IL-6、TNFなどの炎症性サイトカイン産生誘導が起こると考えられる。また、マクロファージなどのTNF産生細胞では、片方の対立遺伝子由来の正常なTNF受容体からのシグナルにより、炎症がパラクライン的に増幅されると考えられる3)。■ 症状TRAPSは常染色体優性の遺伝形式をとり、典型的な変異を示すものでは浸透率は85%以上と高い。発症年齢は同一家族内でも一定ではなく、乳児期から成人期に至るまで幅広い。症状の種類については2002年にHullらが提案したTRAPS診断指針を参照いただきたい(表1)4)。発作時には、38℃以上の発熱はほぼ必発であり、それに加えて腹痛、筋痛、皮疹、結膜炎、眼窩周囲浮腫、胸痛、関節痛などの随伴症状をともなう。わが国のTRAPS患者での個々の症状の頻度を表2に示す2)。表1 TRAPS診断指針1. 6ヵ月を超えて反復する炎症症状によるエピソードの存在(いくつかは同時にみられることが一般的)(1)発熱(2)腹痛(3)筋痛(移動性)(4)皮疹(筋痛を伴う紅斑様皮疹)(5)結膜炎・眼窩周囲浮腫(6)胸痛(7)関節痛、あるいは単関節滑膜炎2. エピソードの持続期間が(エピソードごとにさまざまだが)平均して5日を超える3. ステロイドに反応するがコルヒチンには反応しない4. 家族歴あり(いつも認められるとは限らない)5. どの人種、民族でも起こりうる画像を拡大する1)発熱最も特徴的でありTRAPSを疑うきっかけになる。1ヵ月~数ヵ月の間隔で不規則に繰り返す。発熱の期間は通常1~4週間であることが多く、平均21日程度である。2)腹痛日本人の頻度は欧米人に比べて少ない。腹膜炎や腸炎、腹壁の筋膜炎によって生じる。嘔気や便秘を伴うこともある。3)筋痛原因は筋炎というよりも筋膜炎と考えられている。症状は通常1ヵ所に起こり、発作期間中に寛解と増悪を繰り返す。4)皮疹(図1A)遠心性に移動性の紅斑であり筋痛の位置に一致することも多い。熱感と圧痛を有し、自然消退する。5)結膜炎・眼窩周囲浮腫(図1B)片側性または両側性の結膜炎、眼窩周囲浮腫、眼窩周囲痛が発作期間中に出現する。6)胸痛胸膜炎や胸壁の筋膜炎による症状である。7)関節痛非破壊性、非対称性で下肢の大関節に起きることが多い。画像を拡大する■ 予後TRAPSの長期予後については不明な点が多いが、経過とともに症状が増悪していく症例も、軽症化していく症例もみられる。長期的な経過では、ステロイド治療の副作用や、アミロイドーシスの合併が問題となる。欧米ではアミロイドーシスは10%の合併頻度であるが、わが国の全国調査ではアミロイドーシス合併例の報告はない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)2002年、Hullらは症状、家族歴などから構成される「TRAPS診断指針」を発表したが、これは診断基準ではなく、遺伝子検査の適応を判断するための指針であった(表1)。TRAPS診断のgold standardは遺伝子検査である。疾患関連性が明確なTNFRSF1A遺伝子異常は、CDR1、CDR2のシステインの変異、T50M変異などである。これらが認められれば診断は確定する。その一方で、病的意義の明らかではない多型も存在する。その代表は、欧米ではP46LとR92Qである。これらは欧米の健常人の数%に認められるため、病的意義について議論がある。P46LとR92QのTRAPSは浸透率が低く、軽症で予後が良い。わが国ではT61Iが最も多くのTRAPS患者から報告されているが、健常人にも約1%の対立遺伝子頻度で認めるため病的意義については議論がある6)。TNFRSF1A遺伝子異常のリストは、INFEVER websiteで参照できる。「自己炎症疾患とその類縁疾患に対する新規診療基盤の確立」研究班(研究代表者:平家俊男[京都大学]平成24-26年度 厚生労働省)では、前述の厚生労働省堀内班の研究結果を踏まえてTRAPS診療フローチャートを作成した。この診断フローチャートは、指定難病、小児慢性特定疾病の診断基準として利用されている(図2)。6ヵ月以上の炎症兆候の反復を必須条件とし、家族歴などの補助項目を満たす場合に遺伝子検査を推奨している。最終的な診断は遺伝子検査による。遺伝子検査結果の解釈は専門家への相談が必要である。画像を拡大する2015年、ヨーロッパの小児リウマチ学会(Paediatric Rheumatology International Trials Organisation:PRINTO)は、ヨーロッパを中心とした自己炎症症候群患者のデータベース(Eurofever registry)のデータを元に、家族性地中海熱、メバロン酸キナーゼ欠損症、クリオピリン関連周期熱症候群、TRAPSの予備的臨床的診断基準を作成し発表した(表3)7)。作成にあたり遺伝子検査で診断が確定した患者がgold standardとされた。TRAPSのP46LとR92Qのような浸透率の低い遺伝子異常や疾患関連性が不明な遺伝子異常は除外された。陰性対照群としてPFAPA症候群を加えた5疾患の患者群の臨床所見について多変量解析が行われ、各疾患を区別する項目が抽出され、そして、各項目をスコア化して診断基準が作成された。診断基準の適用については、感染症や他のリウマチ性疾患などを除外していることが重要な前提条件である。この予備的臨床的診断基準は、遺伝子検査の適応の判断や、疾患関連性が不明な遺伝子異常を有する患者の診断において参考にできる。将来的には、検査値や遺伝子検査と組み合わせた診断基準の作成が期待される。画像を拡大する症状は典型的な有熱性エピソードに関連してなければならない(感染症などの併存疾患を除外する)。†:末梢側へ向かって移動する紅斑であり、最も典型的には筋痛の部位を覆い、通常四肢または体幹に生じる。‡:東地中海:トルコ人、アルメニア人、非アシュケナージ系ユダヤ人、アラブ人  北地中海:イタリア人、スペイン人、ギリシャ人略称FMF:家族性地中海熱 MKD:メバロン酸キナーゼ欠損症 CAPS:クリオピリン関連周期熱症候群 TRAPS:TNF受容体関連周期性症候群■ 検査本症に疾患特異的なバイオマーカーはない。発作時に血沈、CRP、フィブリノゲン、フェリチン、血清アミロイドA蛋白などの急性期反応物質の増加が認められる。好中球の増加、慢性炎症に伴う小球性低色素性貧血、血小板の増加なども認められる。これらの検査値は発作間欠期にも正常ではないことがある。筋症状があっても、CK、アルドラーゼの上昇は認められない。最も重篤な合併症であるアミロイドーシスでは腎病変の頻度が高く、蛋白尿が認められるため、早期発見のために定期的な尿検査が推奨される。血清中の可溶型1型TNF受容体濃度の低値が特徴的とされていたが、TRAPSに特異的な所見とはいえず診断的意義は乏しいと考えられる。■ 鑑別診断ほかの周期性発熱を呈する疾患が挙げられる。ただし、筋痛や腹痛などが前景に立ち高熱が認められない症例、炎症性エピソードが周期的(反復性)ではなく慢性的に持続する患者などでもTRAPSの可能性はある。具体的には、家族性地中海熱、メバロン酸キナーゼ欠損症、クリオピリン関連周期熱症候群などの自己炎症疾患や全身型若年性特発性関節炎、成人スティル病、ベーチェット病などが鑑別に挙がる。TRAPS様症状の家族歴は、遺伝子異常の存在を予測する最も重要な因子である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)前述したわが国のTRAPS診断フローチャートに、治療(TRAPS診療の推奨)についての記述がある(表4)。また、2015年にPRINTOからTRAPSを含む自己炎症疾患の診療に関するエビデンスに基づいたレコメンデーションが発表された(表5)。発作時の短期的なNSAIDsもしくはステロイド投与が基本治療である。発作が軽症で頻度も年1、2回などと少ない場合、NSAIDsによる症状緩和のみでも対応可能である。わが国の診断フローチャートにある、経口プレドニゾロン(PSL)1mg/kg/日で開始し7~10日で減量・中止する方法(表4)は、HullらがTRAPS診断指針を発表した論文で推奨した方法である。留意事項に記載されているとおり、必要なステロイドの投与量や期間は、症例毎に、また同一症例でも発作ごとに異なり、状況に応じて判断していく必要がある。ステロイドは、当初効果があった症例でも次第に効果が減弱し、増量や継続投与を強いられる場合がある。重度の発作が頻発する場合、追加治療としてTNF阻害薬のエタネルセプト(商品名:エンブレル)とIL-1阻害薬カナキヌマブ(同:イラリス)が推奨されている。エタネルセプトは受容体製剤であるが、同じTNF阻害薬でも抗体製剤であるインフリキシマブ(同:レミケード)とアダリムマブ(同:ヒュミラ)はTRAPSで著しい増悪を起こした報告があり使用が推奨されない。また、エタネルセプトもステロイドと同様に効果が減弱するとの報告がある。PRINTOのレコメンデーションは、IL-1阻害薬の推奨度をより高く設定し、欧州医薬品庁(European Medicines Agency:EMA)は、TRAPSに対するIL-1阻害薬のカナキヌマブの使用を認可している。わが国でも2016年12月にカナキヌマブがTRAPSに対して適応が追加された。画像を拡大する表5 TRAPS診療の推奨画像を拡大するL:エビデンスレベル1B(randomised controlled study)、2A(controlled study without randomisation)、2B(quasi-experimental study)、3(descriptive study)、4(expert opinion)S:推奨の強さA(based on level 1 evidence)、B(based on level 2 or extrapolated from level 1)、C(based on level 3 or extrapolated from level 1 or 2)、D(based on level 4 or extrapolated from level 3 or 4 evidence)略称TRAPS:TNF受容体関連周期性症候群 MKD:メバロン酸キナーゼ欠損症 CAPS:クリオピリン関連周期熱症候群4 今後の展望TRAPSは国内の推定患者数が数十例の極めてまれな疾患だが、不明熱の診療などで鑑別疾患に挙がることは少なくない。TRAPS様症状の家族歴があるときには遺伝子検査が診断に最も有用であるが、保険適用はなく施行できる施設も限られており、容易にできる検査とは言い難い。日本免疫不全・自己炎症学会では、TRAPSを含めた関連疾患の遺伝子検査の保険適用を将来的に目指した検討を進めている。5 主たる診療科小児科、膠原病内科、血液内科、感染症内科、総合診療科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療研究情報INFEVER website(医療従事者向けのまとまった情報)一般社団法人日本免疫不全・自己炎症学会(医療従事者向けのまとまった情報)1)McDermott MF, et al. Cell. 1999;97:133-144.2)Ueda N, et al. Arthritis Rheumatol. 2016;68:2760-2771.3)Simon A, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2010;107:9801-9806.4)Hull KM, et al. Medicine (Baltimore). 2002;81:349-368.5)Lachmann HJ, et al. Ann Rheum Dis. 2014;73:2160-2167.6)Horiuchi T. Intern Med. 2015;54:1957-1958.7)Federici S et al. Ann Rheum Dis. 2015;74:799-805.公開履歴初回2018年03月27日

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認知症と自動車運転~高齢ドライバー5万人の診断にどう対処するか

 2017年3月の道路交通法改正により、75歳以上の高齢者ドライバーが運転免許証を更新する際、「認知症のおそれがある」と判断された場合、すべて専門医または主治医の診断(臨時適性検査)を受け、診断書を提出しなければならなくなった。高齢者による交通事故防止のため、認知症対策がより強化されたこの新制度により、医師による臨時適性検査および診断書作成の対象者は、5万人にまで膨れ上がっている。 法改正から1年。本稿は、先日開かれた日本精神神経学会のプレスセミナーで、池田 学氏(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)が、医療現場の現状と今後の見通しについて述べた内容をまとめたものである。かかりつけ医にも求められる認知症診断 2017年3月12日に施行された改正道路交通法により、新たな制度がスタートした。すべての75歳以上のドライバーを対象に、3年に1度の免許証更新時に認知機能検査を実施し、第1~3分類に分ける。このうち、第1分類(認知症のおそれがある者)に該当する人は5万人程度。旧制度では、診断書を求められるのが一定期間内での違反者や事故を起こした人に限定されていたため、年間おおむね1,200~1,500人程度だったが、新制度では認知機能検査で第1分類に該当した時点で、違反や事故の履歴に関係なく、運転をやめるか、医師の診断書を提出するか、どちらかを選択しなければならない。つまり、全員が運転継続を望むとすれば、第1分類に該当する5万人が診断書作成の対象となる。現在、認知症関連学会員(認知症診療の専門医)の数は約2,000人である。当然のことながら、専門医のみで対応できる人数ではないため、かかりつけ医にも診断を求めざるを得ないのが現状である。運転継続か返納かを決める難しい判断と曖昧な境界 現場の医師が最も迷うのが、軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)か、初期段階の認知症かの見極めである。軽度認知障害であれば運転は続行できるが、認知症と診断された場合には、原則として運転免許証を返納しなければならない。したがって、両者いずれかの判断が重要となってくるが、きわめて流動的で、専門医であっても線引きは非常に難しいところである。 例えば「健忘型MCI」の場合、物忘れに関しては同年齢と比べても明らかで、本人も自覚しており、周囲の家族も気付いているケースが多い。しかし、それ以外の認知機能は正常範囲で、日常生活動作(ADL)は必ずしも障害されていないというのがポイントである。ただ、MCIが認知症に移行するリスクは確実に高く、1年で10~15%がアルツハイマー型認知症に移行することもこれまでの研究でわかっている。 老年期のうつ病との鑑別も重要である。壮年期のそれとは異なり、抑うつや悲哀などの訴えは主ではなく、心気的、身体的な訴え(肩こりや頑固な便秘、全身倦怠、睡眠障害など)が多いのが特徴で、悪化するとほぼ必発で認知機能の障害を伴う。しかしこれはあくまでも仮性認知症であり、免許更新時の診断には、こうした人を慎重に除外しなければ重大なミスにつながりかねないので注意が必要である。半数以上が「6ヵ月後の診断書」判断に 公安委員会に提出する診断書では、(1)アルツハイマー型認知症、(2)レビー小体型認知症、(3)血管性認知症、(4)前頭側頭型認知症、(5)その他の認知症(慢性硬膜下血腫など治療可能な疾患。6ヵ月後に要再検査)、(6)軽度認知障害、(7)認知症ではない、のいずれに該当するかを判断する。その際、ミニメンタルステート検査(MMSE)または改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)による認知機能検査を必ず実施し、検査が実施できなかった場合にはその理由を明記しなければならない。さらに、可能な限り画像検査を実施し、所見を記入することも求められている。つまり、限りなく専門医の診断書に近い様式となっており、専門外の医師にとってはかなりの負担であろう。 警察庁が取りまとめた改正法施行から半年時点でのデータによると、認知機能検査で第1分類に該当し、医師の診断を受けて免許取り消しや停止になった人は全体の9.3%、条件なしで免許証の所持を継続できた人が22.2%、そして6ヵ月後の診断書提出となった人は56.6%にも上った。この結果から、いかに多くの医師が診断に迷っているかがわかる。この中には治療可能な疾患の人もいるが、MCIか初期の認知症かの判断に迷うため、6ヵ月後に再検査となったケースが相当数あるとみられる。こうした「判断の先送り」が経年的に累積していけば、今後の大きな問題になる懸念があり、次善策を講ずる必要がある。 高齢者ドライバーの中には、免許更新の検査で初めて認知症疑いが指摘されるケースも少なくない。これを前向きに捉え、早期発見・治療の機会と考えられれば良いが、一方で患者は診断名を告げられる心の準備ができていない状況であるため、非常にセンシティブな問題をはらんでいる。かかりつけ医の場合には、これまで経験していない対応を迫られる機会が今後増えることも予測される。このため、日本医師会がかなり詳細な対応マニュアル(かかりつけ医向け認知症高齢者の運転免許更新に関する診断書作成の手引き)を作成しており、診断の際の参考にしてほしい。9割近くが新制度認識するも、ほとんどが臨時適性検査は未経験 ケアネットでは、昨年の道路交通法改正について、会員医師にアンケート調査を行った(内科医および精神科/心療内科医を対象に、2017年3月8~9日、インターネット上で実施。有効回答数500)。 このうち、「75歳以上の高齢者ドライバーが運転免許証を更新する際、認知機能検査において『認知症のおそれがある』と判断された場合、過去の違反・事故歴の有無を問わず、すべて専門医または主治医の診断(臨時適性検査)を受けなければならない」という新たな制度については、86%(430人)が認識していた。 また、「昨年3月の法改正以降、75歳以上のドライバーの免許更新に伴う臨時適性検査を実施した患者数」については、「0人」(76.8%)が最も多く、以下、「1~5人」(14.8%)、「6~10人」(3.2%)、「11~20人」(2.4%)、「31人以上」(1.6%)、「21~30人」(1.2%)となった。今回の調査では、大半の医師が臨時適性検査について未経験だった一方、この1年間で検査を実施した患者数が、すでに200人を超えているという人もわずかながらいた。

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抗うつ薬は効果があるのか?(解説:岡村毅氏)-822

 抗うつ薬に関するネットワークアナリシスである。臨床的には納得できる点が多い。 「良薬口に苦し」とはよく言ったもので、いわゆる三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンは効果が大きいが、抗コリン作用(口渇、眠気、便秘、不整脈等)が強く、高齢社会においてはますます使いにくい。SSRIの登場によりうつ病の薬物治療が新時代を迎えたころ、華々しく登場したfluoxetineやパロキセチンは、やはりスタディ数が圧倒的に多い。バランスが良いのはセルトラリンやエスシタロプラムであるが、従来いわれていた知見と合致する1)。 うつ病というのは複雑な現象であり、「抗うつ薬は効果があるのか?」は、「ライオンとシャチはどっちが強い?」みたいな答えにくい質問である。 たとえば会社で、毎日終電まで仕事が終わらないうえにほぼ最低賃金で、上司からは、ばかだ、能なしだとののしられ、部下は言うことを聞かない…そういう状況で徐々に不眠になり、考えがまとまらなくなり、興味を失い、体重が減って、という場合は、抗うつ薬では本質的にはよくならないだろう。まず休んで身の振り方を考えるべきである。この場合は環境調整が最も効果的なのである(並行して抗うつ薬による治療を行うことは十分に効果的であるので誤解なきよう)。 あるいは、このような状況にもかかわらず患者さんが「言われたことを断わってはいけない」「断ると自分の価値がなくなる」「求められることをこなすことが自分の価値である」と強く信じているような場合は、うまく断るやり方を考えたり、たとえ無理な依頼を断っても個人の価値は何ら棄損しないことを共有し、場合によっては頼まれたことをこなしてきた人生を振り返り、少し生き方を変えてもいいかもと語り合うことが良いかもしれない。つまり、精神療法が最も効果的なのである(並行して抗うつ薬による治療を行うことは十分に効果的であるので誤解なきよう)。 高齢者がちょっとした体の不調で元気がない場合、抗うつ薬も良いが、漢方薬程度にして、気晴らしができる場所や信頼できる人を見つけてもらうのが最良であろう。 しかし、若い人がストレッサーに曝露したことでみるみる元気をなくし、思考制止ともいうべき状況で活動量が低下して部屋で動かなくなっている場合は、個人的にはすぐに抗うつ薬による治療を勧める。 うつ病という現象はあまりにも変数が多く、また得られた情報が場合によっては歪んでいたりするので、意思決定は難しい。しかし、「こころの不調」や「子供の教育」は多くの人が経験するからだろうか、自分の経験のみを基にマスコミなどで発信している人が多いと感じるのは私だけだろうか。このコラムを「抗うつ薬は効果があるのか?」という挑戦的なタイトルにしたのも、その現象は本当にうつ病といえるのかということを考えないといけない、うつ病の治療では精神療法や環境調整も薬物治療と同じように重要である、年齢・既往歴・社会的状況によって抗うつ薬の適応は変化する、このように考えると「はい」「いいえ」で答えられない問題であるということを伝えたかったからである。冒頭の質問は「陸の上ならライオン、海の中はシャチ」というのが正解か。狭義のうつ病に対して抗うつ薬は効果があることは、(そして魔法ではないのでいわゆる「副作用」があることは)科学的事実であろう。そして、さまざまな判断に基づき抗うつ薬を使う場合には、効果と忍容性を勘案するべきであり、本論文の果たす役割はあまりにも大きい。

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エリブリン・ペムブロリズマブ併用、トリプルネガティブ乳がんで良好な結果/サンアントニオ乳がんシンポジウム

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、自社のエリブリン(商品名:ハラヴェン)と抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)との併用療法による転移性トリプルネガティブ乳がんを対象とした臨床第Ib/II相試験(ENHANCE1/ Study 218)のアップデート解析について、第40回サンアントニオ乳がんシンポジウムのスポットライトセッションで発表された旨を公表した。 ENHANCE1試験は、化学療法未治療あるいは前治療歴の2レジメン以下の転移性トリプルネガティブ乳がん患者を対象に、エリブリンとペムブロリズマブ併用の有効性と安全性を評価する、多施設共同単群非盲検第Ib/II相試験。主要評価項目として第Ib相パートにおいては安全性と忍容性を、第II相パートにおいては奏効率(ORR)を評価する。 本発表では、2017年5月31日時点の試験登録107例中106例の患者に対するアップデート解析について報告した。21日1サイクルとした、エリブリンおよびペムブロリズマブの併用療法において、ORRは26.4%(CR3例およびPR25例)であった(95%CI:18.3~35.9)。化学療法による前治療歴の有無、PD-L1発現によるORRの違いは認められなかった。副次評価項目の無増悪生存期間は4.2ヵ月(95%CI:4.1~5.6)、全生存期間は17.7ヵ月(95%CI:13.7~評価不能)と、良好な結果が示唆された。また、CRおよびPR患者28例における奏効期間は8.3ヵ月であった。 本試験において高頻度で確認された有害事象(上位5項目)は、疲労、末梢神経障害、悪心、脱毛、便秘であった。■参考ENHANCE1/ Study 218(Clinical Trials.gov)

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第41回

第41回:終末期を支える5つの薬剤監修:表題翻訳プロジェクト監訳チーム 終末期を過ごす形態は、大きく分けて4種類あると思います。入院医療では、一般病棟か緩和ケア病棟か。在宅医療では、自宅か施設か。緩和ケア病棟やDPC病棟は包括医療費なので、呼吸困難に対するオプソ内服や口腔内分泌に対するアトロピン点眼薬など、日本では保険外使用になっている下記に述べるような医薬品が比較的使いやすい環境です。一方、在宅の看取りに関しては、ケア提供者の経験や熱意が大きく影響します。家族にとっては初めての体験ばかりなので、現状に対する不安よりも、見えない今後に対する不安が大きいことが多いです。こうした点で、実際に身内を自宅で看取ったことのある家族は、大きな力になります。これからの時代は、政策的に施設看取りが求められている印象です。非DPC病棟や在宅医療でも、終末期医療に対する薬が「保険外使用だから」と使いにくい状況が改善されることを望みます。 以下、Am Fam Physician.3月15日号1)より終末期に関わる症状は、急性症状を治療するよりも予防するほうが容易であることが多いため、症状を予防する対策を立てるべきである。嚥下機能が低下してきたら、薬剤は舌下や皮下、直腸坐薬に切り替える。薬は少量から開始し、目的の効果が出るまで増量すべきである。適切な症状コントロールにより、終末期を安静にかつ尊厳を持って、快適に過ごすことができる。疼痛は、最期の1ヵ月頃に50%程度の人に現れる。身体的な痛みだけでなく、精神的、社会的、スピリチュアル面も考慮に入れるべきである。オピオイドは終末期の呼吸困難感や痛みを緩和に用いられる(Evidence rating B:オピオイドを呼吸困難に使用すべき)。せん妄は治療しうる病態により起こることもあり、その病態を特定して治療可能なら治療すべきである。せん妄に対しては、ハロペリドールやリスペリドンが効果的である(Evidence rating C)。嘔気・嘔吐に対しては、原因に即した薬物治療が行われるべきである。予期できる嘔気に対してはベンゾジアゼピンが効果的で、とくにオンダンセトロンは化学療法や放射線治療に伴う嘔気に対し効果的であり、消化管通過障害による嘔気にはデキサメサゾンやハロペリドールを使用すべき(Evidence rating B)であるが、オクトレオチド酢酸塩の効果は限定的である。便秘は痛みや吐き気、不安感、せん妄を引き起こすので、便秘の予防は終末期ケアのとても大切な部分であり、緩下剤を大腸刺激性下剤と併用して使うのが望ましい。熱を下げることは、患者の要望とケアの目標に基づいて行うべきである。口腔内の唾液分泌があると、呼吸する時に呼吸音が大きくなることがあり、死期喘鳴といわれる終末期によくみられる症状である。このことを事前に伝えておくと、家族や介護者の不安は軽減する。また、抗コリン薬は口腔内の分泌を緩やかにするといわれているが、質の高い研究はない。アトロピン点眼薬は、口腔気道分泌液を抑えることができる(Evidence rating C)。終末期を支える代表的な5つの薬剤を以下に挙げる。焦燥感や嘔気を抑えるハロペリドールの舌下熱を下げるアセトアミノフェンの坐薬不安を抑えるロラゼパムの舌下痛みや呼吸困難を抑えるモルヒネの舌下口腔内分泌を抑えるアトロピン点眼薬の舌下※Evidence rating B=inconsistent or limited quality patient-oriented evidence、Evidence rating C=consensus, disease-oriented evidence, usual practice, expert opinion, or case series.※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Albert RH. “End-of-Life Care: Managing Common Symptoms” Am Fam Physician. 2017 Mar 15;95:356-361.

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