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第27回 見切り発車のオンライン診療には課題が山積み!恒久化の前にやるべきこと

菅 義偉首相は、オンライン診療の恒久化を目指している。現在、新型コロナ対応の特例措置により、初診も含め全面解禁している(2020年4月~)が、そこから見えてきた課題を解決してから、恒久化を進める必要があるのではないだろうか。ここ半年の厚生労働省の動きを改めて見てみる。厚労省は4月10日付の事務連絡において、電話・オンライン診療の初診を時限的に解禁した。ただし、以下の要件を付けている。濫用や横流しのリスクに対応するため、麻薬及び向精神薬の処方は不可。カルテや紹介状などで患者の基礎疾患を把握できない場合は、処方日数は7日間を上限とし、ハイリスク薬(抗がん剤や免疫抑制剤など安全管理のために専門による薬学的管理が必要な医薬品)の処方は不可。必要に応じて対面診療への移行を促す。その上で、初診で電話やオンラインによる診療を行った場合、都道府県に毎年届け、報告を受けた厚労省は3ヵ月ごとに改善のための検証を行うことになった。4~6月の実績がまとまり、8月6日に開かれた厚労省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(座長=山本 隆一・医療情報システム開発センター理事長)。厚労省側から示された資料によれば、初診・再診を含め時限的・特例的な電話やオンラインでの診療に対応していたのは、医療機関の約13%(4~6月の平均)で、初診に対応していたのは約5%にとどまった。初診を電話やオンラインで対応することに懐疑的な医療機関が多かったものと思われるが、それでも3ヵ月で1万7,000人超の患者がオンライン上で受診していた。問題は、初診の半数以上が電話対応だったことだ。しかも、主な症状や疾患は「発熱」が最多で、次いで「上気道炎」「気管支炎」」が続いた。これらは新型コロナウイルス感染も疑いうる症状だが、多くのケースで自宅待機が指示されており、検査を受けるために対面診療を勧める「受診勧奨」は少なかった。いったい電話だけでどうやって判断したのだろうか。もう一つの問題点は、「不可」とされている麻薬や向精神薬も処方されていたことだ。また、ハイリスク薬を処方したケースは電話で43件、オンライン診療で29件あり、8日分以上処方したケースは541件に上った。特例措置で、麻薬などを処方してはいけないという要件が十分に周知されていなかったこともあり、厚労省は特例措置に対応した研修コンテンツの作成を検討することにした。患者側の利用方法にも問題があり、遠方の医師に電話・オンライン診療を受けるケースが見られたこともわかった。医師が対面診療の必要性を感じた時、患者の居住地域の医療事情がわからないと適切な医療機関を紹介できない可能性がある。そこで、今後はおおむね2次医療圏内に住んでいる患者を対象にするのが望ましいということになった。厚労省は8月26日付で、「電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いに関する留意事項」の事務連絡を発出した。これは先の検討会で報告された問題点を踏まえたもので、要件の徹底を求め、守っていない医療機関について、厚労省が都道府県に情報提供し、都道府県は実態調査を行った上、必要な指導を行うことなどを示した。課題に対する対応策を打ち出すのはいいのだが、どうも後手後手感が否めない。コロナが予断を許さない状況で対策が急がれるのは確かだが、ここまでの国の対応を見るにつけ、医療現場の懸念や疑問を丁寧に拾い上げて検証しておけば、もう少し先回りでルールづくりができたのではないかと思われる。オンライン診療は、コロナ共存時代の今となっては進めていくしかないのかもしれないが、音声だけで患者の表情や動きがわからない電話での初診には、懸念しか思い浮かばない。

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新型コロナ治療薬の有力候補、「siRNA」への期待

2019年末に中国湖北省武漢で最初の症例が確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界各地への感染が急速に拡大しており、世界保険機関(WHO)はパンデミック(世界的大流行)と認定した。国内でも医療機関や行政の関連機関により懸命な対策が進められている。コロナウイルスの種類コロナウイルスは、ヒトに日常的に感染するウイルスと動物から感染する重症肺炎ウイルスの2つのタイプに分類される。ヒトに日常的に感染するコロナウイルスはこれまで4種知られており、風邪の原因の10~15%を占めている。そして、ほとんどの子供はこれらのウイルスに6歳までに感染するとされている。一方で、重症肺炎ウイルスには、2002年末に中国広東省から広まった重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)および2012年にサウジアラビアで発見された中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、さらに2019年の新型コロナウイルス(SARS-CoV遺伝子と80%程度の類似性があることからSARS-CoV-2と命名された)が含まれる。COVID-19の臨床的特徴COVID-19は2020年3月22日現在、世界で30万人以上が感染し、さらに感染が拡大しているという驚異的な勢いで蔓延しており、致死率は2%程度とされている。感染者数はSARSやMERSに比べるとはるかに多いが、致死率はSARSで10%、MERSは34%であることからCOVID-19は最も低いといえる。SARSの感染源はキクガシラコウモリ、MERSはヒトコブラクダとされており、COVID-19の感染源はまだ不明であるが、SARSとよく似ていることからおそらくコウモリと考えられている。このように動物の種を超えて感染するコロナウイルスは重症化しやすい。COVID-19やSARSの感染経路は、患者と濃厚に接触することによる飛沫感染、ウイルスに汚染された環境にふれることによる接触感染が考えられているが、MERSは限定的であるとされている。新型コロナウイルスの実体コロナウイルスはプラス鎖一本鎖のRNAをゲノムとして持つウイルスで、感染すると上気道炎や肺炎などの呼吸器症状を引き起こす。コロナウイルスはそのRNAゲノムがエンベロープに包まれた構造を持ち、感染にはウイルス表面に存在する突起状のタンパク質(スパイクタンパク質)が必要である。スパイクタンパク質は感染細胞表面の受容体に結合することで、ウイルスが細胞内に取り込まれ感染するが、SARS-CoV-2の受容体はアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体であり、SARS-CoVの受容体と同じである。スパイクタンパク質は王冠(crown)に似ていることから、ギリシャ語にちなみコロナcoronaと名付けられた。COVID-19治療の現状通常1つの薬を開発するには10年以上の年月と300億円以上の費用が必要とされており、SARSやMERSなどのこれまでの重症肺炎コロナウイルス感染症に対する特異的な治療法はいまだになく、ワクチンや抗ウイルス薬も開発されていない。そのため、COVID-19に対しても現状では熱や咳などの症状を緩和するという対症療法が中心である。しかし、エイズウイルスであるHIV感染症やエボラ出血熱に対して有効性の認められた薬やインターフェロン療法がSARSやMERSに対しても有効であったことから、COVID-19での利用も検討されている。治療薬・ワクチンの開発動向現在、COVID-19に対する治療薬の開発は大手製薬会社を中心に世界的に精力的に進めれられている。ワクチンの開発も急速に進められているが、従来の組換えタンパク質や不活化ウイルスを抗原とするワクチンは製造用のウイルス株や組換え株を樹立するのに時間がかかるうえに、安定的に製造できる工程を確立するのにさらに時間がかかる。一方で、近年の次世代シークエンサー技術の進歩によりウイルスのゲノム情報が簡単に解読されるようになった。およそ3万塩基長のSARS-CoV-2の全ゲノム情報も、2020年1月中旬に中国の研究チームが公表した。そのため、ゲノム情報を利用した新たな治療法の開発も進められている。最も早く臨床試験が始まりそうなのが、米国アレルギー・感染症研究所とModerna社が開発しているメッセンジャーRNA(mRNA)をベースにしたワクチンである。遺伝子発現の流れにおいては、ゲノムDNAからmRNAが転写され、mRNAからタンパク質が翻訳される。タンパク質ではなく、ウイルス表面のスパイクタンパク質をつくるmRNAを細胞に接種するとスパイクタンパク質が産生され、それを抗原とする免疫が誘導される。mRNAは化学合成できるため、ゲノム情報が公開されてから治験薬を製造するまでにわずか40日程度であったとされている。さらに、国内ではDNAワクチンというスパイクタンパク質を発現するDNAを接種するという特徴ある開発研究も、大阪大学とバイオベンチャーのアンジェス、さらにタカラバイオが加わって行われている。しかし、このような抗体を利用する手法では、抗体依存性感染増強という、初感染よりも再感染のほうが重篤な影響を及ぼす危険性があることも指摘されており、大規模な臨床試験が必要とされる。そこで、抗体を利用せずにゲノム情報を利用した治療法として、近年、siRNA(small interfering RNA)によるRNA干渉(RNA interference, RNAi)法による核酸医薬品開発が進められている。siRNAとはsiRNAは21塩基程度の小さな二本鎖RNAであり、化学合成できる。siRNAはヒト細胞内でRISC(RNA-induced silencing complex)と呼ばれる複合体に取り込まれて一本鎖化し、その片方のRNA鎖と相補的な配列を持つRNAを切断する。コロナウイルスのようにRNAをゲノムとして持つウイルスに対しては、ゲノムから産生されたタンパク質を標的とするよりもゲノムRNAを標的にするほうがより直接的な効果が期待できる。実際、RNA干渉は植物・菌類・昆虫などではRNAウイルス感染から自身を守る生体防御機構として働く。siRNA核酸医薬品開発の最前線米国Alnylam Pharmaceuticals社が開発した世界で最初のsiRNA核酸医薬品はアミロイドニューロパチーの原因遺伝子を抑制するものであり、2018年に米国・欧州で承認され、2019年には日本でも承認された。Alnylam Pharmaceuticals社は、Vir Biotechnology社と共同で、すでにSARS-CoV-2に対する350種類以上のsiRNA候補を設計・合成しその有効性のスクリーニングを開始し、肺への送達システムも開発しているようである。また、筆者らのグループは、siRNAの配列選択法はきわめて重要であることを明らかにしており、内在の遺伝子発現にはほとんど影響を及ぼさず、感染したコロナウイルスのみを特異的に抑制するsiRNA配列を選択できる方法論を開発している。そのような方法を用いれば、たくさんのsiRNAをスクリーニングする最初のステップを回避でき、開発の時間をさらに短縮することができる。siRNA核酸医薬品への期待感染症は、過ぎてしまえば忘れられてしまう疾患である一方で、SARS-CoV-2のように、SARS-CoVの改変型ともいえるウイルスが再燃してパンデミックをひき起こす場合もある。そのため、どこまで開発に時間と費用を使えるか、すなわち、いかに効率よく感染症治療薬を開発できるかは全人類にとってきわめて重要な課題といえる。siRNA核酸医薬品は、ゲノム情報に基づいて比較的短時間で、かつ副作用を回避して特異性の高い医薬品を開発できる可能性があり、新しい時代の医薬品として大きな期待を寄せている。講師紹介

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新型コロナウイルス、国内3症例の経過と得られた示唆

 2月7日、日本感染症学会・日本環境感染学会は「新型コロナウイルス2019-nCoVへの対応について」と題し、学会員に向けた緊急セミナーを開催した(司会は日本感染症学会理事長 館田 一博氏、日本環境感染学会理事長 吉田 正樹氏)。 この中で、大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター センター長)は、「新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症 臨床・感染防止対策」とのテーマで、これまで同センターが診療した3症例の紹介と、そこから得た知見を紹介した。1例目33歳女性・主訴:咽頭痛、倦怠感 1月19日に武漢のホテルに1泊し、20日に来日。23日に咽頭痛出現。24日に1回目の受診。インフルエンザ迅速検査は陰性。初診時の診断は上気道炎。発熱が改善せず、27日に2回目の受診。胸部レントゲンで肺野に浸潤影を確認できず、2019-nCoV感染は否定的と判断。30日に3回目の受診。胸部レントゲンでは両側下葉にスリガラス影と浸潤影の出現があり即日入院。その後2019-nCoV感染が確定。2例目54歳男性・主訴:咽頭痛、鼻汁 2018 年 5 月から武漢に滞在中の日本人。2020 年1月27日から咽頭痛と鼻汁が出現。帰国した29日の飛行機内で軽度の悪寒が出現し、37.1℃の発熱と上気道症状が見られた。30日に2019-nCoV感染が判明、胸部レントゲン検査および胸部CT検査を行うがいずれも肺炎を示唆するような陰影なし。急性上気道炎と診断し、入院継続と経過観察。第6病日まで37℃台の発熱と倦怠感は継続、呼吸状態の悪化はなし。3例目41歳男性・主訴:発熱、咳嗽 2019年12月20日から武漢に仕事で滞在中の日本人、以前も何度も滞在歴がある。帰国した2020年1月31日から38℃の発熱と軽微な咳嗽が出現。発熱と上気道症状あり。2月1日2019-nCoV感染が判明。胸部CT検査で左肺突部と左肺舌区に一部浸潤影を伴うスリガラス影があり肺炎と診断。3日時点で37℃台の発熱はあるが呼吸状態の悪化はなし。※3症例の詳細や胸部レントゲン・CT画像を日本感染症学会サイトに掲載。最初の1週間は風邪との区別は困難、その後の経過を観察 3症例の病状と現在までの経緯を紹介したのち、大曲氏は「現時点において、論文などで紹介される2019-nCoV感染症患者の症状は、中国国内の重症患者から得たものが大半。日本国内でヒト-ヒト感染が広まって受診者が増加した場合、その多くを占めるであろう軽症患者の症状として、今回の3例を参考にしてほしい」と述べた。 軽症患者の臨床的特性としては、「症例数がまだ限られ、現時点で断定的なことは述べるには早すぎる」と断ったうえで、「私たちが診療した例に限れば、最初の1週間は軽い感冒とほぼ同じ症状で、微熱と倦怠感が主訴となり、この時点で2019-nCoV感染の診断は困難。そのまま良くなるケースもあれば、1週間経過時に呼吸苦を訴え、肺炎と診断されたケースもあった」と説明。「感冒様症状が1週間ほど続き、かつ患者の倦怠感が強い点は、通常の感冒やインフルエンザと経過とは明らかに異なるため、臨床的に疑うカギとなるかもしれない」とした。 さらに、中国から報告される症例は重症例が多く、軽症例が報告から漏れている可能性がある点に注目。中国以外の報告例には軽症例が多く、中国国内でも実際には軽症から重症まで幅広く発症していると考えられるため、軽症患者の臨床的特徴を検証する必要性があること、軽症者を母数に加えることで現在報じられている2019-nCoVの致死率が下がる可能性があることを指摘した。 加えて、今回の3例の患者は30~50代であり、「国内で高齢者が罹患した場合のデータはまだない。中国の例を見る限り高齢者は重篤化する危険が高いため、その点も注視したい」とした。 本セミナーの動画は後日、日本感染症学会のYou Tubeチャンネルで公開予定。

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日本で広域抗菌薬が適正使用されていない領域は?

 抗菌薬の使用量は薬剤耐性と相関し、複数の細菌に作用する広域抗菌薬ほど薬剤耐性菌の発生に寄与する。日本の抗菌薬使用量は他国と比べ多くはないが、セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドといった経口の広域抗菌薬の使用量が多い。AMR臨床リファレンスセンターは9月24日、11月の「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」を前にメディアセミナーを開催。日馬 由貴氏(AMR臨床リファレンスセンター 薬剤疫学室室長)、具 芳明氏(同 情報・教育支援室室長)らにより、最新の使用量データや市民の意識調査結果が報告された。2020年までに“経口の広域抗菌薬半減”が目標 国主導の「AMR対策アクションプラン」は、2013年比で2020年までに(1)全体で抗菌薬を33%減少、(2)経口の広域抗菌薬を半減、(3)静注薬を20%減少、を目標として掲げている1)。実際の使用量データをみると、人口千人当たりの1日抗菌薬使用量は、2013年と比較して2018年で10.6%減少している。このうち、セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドはそれぞれ17~18%ほど減少がみられる。 一方で、内服用抗菌薬と静注用抗菌薬に分けてみると、この減少は内服用抗菌薬によるもので、静注用抗菌薬の使用量は全く減っていない。日馬氏は、「全体として目標達成にはさらなる努力が必要だが、とくに静注用抗菌薬の使用削減については今後の課題」とし、その多くが高齢者で使用されていることを含め、効果的な介入方法を探っていきたいと話した。本来不要なはずの処方にかかる費用の推計値は年10億円超 非細菌性急性上気道炎、いわゆるかぜには本来抗菌薬は不要なはずだが、徐々に減少しているものの、2017年のデータでまだ約3割の患者に処方されている。セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドがその大部分を占め、費用に換算すると年10億円を超えると推定される2)。非細菌性急性上気道炎への抗菌薬処方率を患者の年齢別にみると、19~29歳で43.26%と最も高く、次いで30~39歳が42.47%であった。日馬氏はまだ推測の域を出ないとしたうえで、「就労世代でとくに使われがちということは、仕事を休めないなどの事情から患者側からの求めがあるのかもしれない」と話した。 もう1領域、課題として挙げられたのが急性膀胱炎に対する抗菌薬使用だ。2016年のデータで、急性膀胱炎に対する抗菌薬処方はフルオロキノロンが52.4%と最も多く、第3世代セファロスポリンが38.9%と、広域抗菌薬がほとんどを占める2)。実際、日本のガイドラインではフルオロキノロンが第1選択になっている。しかし、欧米ではST合剤などが第1選択で、フルオロキノロンは耐性への懸念から第1選択薬としては推奨されていない。同氏は、「使用期間は長くないものの患者数が多いため、広域抗菌薬全体の使用量に対する寄与が大きい」とし、「必ずしも欧米との単純比較ができるものではないが、日本でも広域抗菌薬から狭域抗菌薬にスイッチしていく何らかの方策が必要ではないか」と話した。薬剤耐性=体質の変化? 患者との認識ギャップを埋めるために AMR臨床リファレンスセンターでは、毎年市民を対象とした抗菌薬に関する意識調査を行っている。2019年はEU諸国でのデータとの比較などが行われ、具氏が最新の調査結果を解説した。「抗菌薬・抗生物質はかぜに効果がある」という項目に対して「あてはまらない」と正しく回答した人は35.1%、「あてはまる」と誤った認識を持っている人が45.6%に上った。EU28ヵ国で同様の質問をした結果は正しい回答が66.0%となっており、日本では誤った認識を持つ人が多いことが明らかとなった。 「今後かぜで医療機関を受診した場合にどんな薬を処方してほしいですか?」という問いに対しては、31.7%の人が「抗菌薬・抗生物質」と回答。「だるくて鼻水、咳、のどの痛みがあり、熱は37℃、あなたは学校や職場を休みますか?」という問いには、24.4%が「休まない」、38.5%が「休みたいが休めない」と答えており、働き方改革が導入されたとはいえ、休みたくても休めない実情が明らかになっている。 また、薬剤耐性という言葉の認知度について聞いた質問では、50.4%が「薬剤耐性、薬剤耐性菌という言葉を聞いたことがない」と回答している。「薬剤耐性とは病気になる人の体質が変化して抗菌薬・抗生物質が効きにくくなることである」という誤った回答をした人も44.3%存在した。具氏は、AMR臨床リファレンスセンターのホームぺージ上で患者説明用リーフレットの公開がはじまったことを紹介。「抗菌薬は必要ないと判断した急性気道感染症の患者に、医師が診察室で説明に用いることを想定したリーフレットなどを公開しているので活用してほしい」と話して講演を締めくくった。

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(膿疱性)乾癬〔(pustular) psoriasis〕

1 疾患概要■ 概念・定義表皮角化細胞の増殖あるいは角質の剥離障害によって、角質肥厚を主な病態とする疾患群を角化症という。なかでも炎症所見の顕著な角化症、つまり潮紅(赤くなること)と角化の両者を併せ持つ角化症を炎症性角化症と称するが、乾癬はその代表的疾患である1)。乾癬は、遺伝的要因と環境要因を背景として免疫系が活性化され、その活性化された免疫系によって刺激された表皮角化細胞が、創傷治癒過程に起こるのと同様な過増殖(regenerative hyperplasia)を示すことによって引き起こされる慢性炎症性疾患である2)。■ 分類1)尋常性(局面型)乾癬最も一般的な病型で、単に「乾癬」といえば通常この尋常性(局面型)乾癬を意味する(本稿でも同様)。わが国では尋常性乾癬と呼称するのが一般的であるが、欧米では局面型乾癬と呼称されることが多い。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の75.9%を占める3)。2)関節症性乾癬尋常性(局面型)乾癬患者に乾癬特有の関節炎(乾癬性関節炎)が合併した場合、わが国では関節症性乾癬と呼称する。しかし、この病名はわかりにくいとの指摘があり、今後は皮疹としての病名と関節炎としての病名を別個に使い分けていく方向になると考えられるが、保険病名としては現在でも「関節症性乾癬」が使用されている。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の14.6%を占める3)。3)滴状乾癬溶連菌性上気道炎などをきっかけとして、急性の経過で全身に1cm程度までの角化性紅斑が播種状に生じる。このため、急性滴状乾癬と呼ぶこともある。小児や若年者に多く、数ヵ月程度で軽快する一過性の経過であることが多い。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の3.7%を占める3)。4)乾癬性紅皮症全身の皮膚(体表面積の90%以上)にわたり潮紅と鱗屑がみられる状態を紅皮症と呼称するが、乾癬の皮疹が全身に拡大し紅皮症を呈した状態である。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の1.7%を占める3)。5)膿疱性乾癬わが国では単に「膿疱性乾癬」といえば汎発性膿疱性乾癬(膿疱性乾癬[汎発型])を意味する(本稿でも同様)。希少疾患であり、厚生労働省が定める指定難病に含まれる。急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する重症型である。尋常性(局面型)乾癬患者が発症することもあれば、本病型のみの発症のこともある。妊娠時に発症する尋常性(局面型)乾癬を伴わない本症を、とくに疱疹状膿痂疹と呼ぶ。2016年の日本乾癬学会による調査では全体の2.2%を占める3)。■ 疫学世界的にみると乾癬の罹患率は人口の約3%で、世界全体で約1億2,500万人の患者がいると推計されている4)。人種別ではアジア・アフリカ系統よりも、ヨーロッパ系統に多い疾患であることが知られている4)。わが国での罹患率は、必ずしも明確ではないが、0.1%程度とされている5)。その一方で、健康保険のデータベースを用いた研究では0.34%と推計されている。よって、日本人ではヨーロッパ系統の10分の1程度の頻度であり、それゆえ、国内での一般的な疾患認知度が低くなっている。世界的にみると男女差はほとんどないとされるが、日本乾癬学会の調査ではわが国での男女比は2:16)、健康保険のデータベースを用いた研究では1.44:15)と報告されており、男性に多い傾向がある。わが国における平均発症年齢は38.5歳であり、男女別では男性39.5歳、女性36.4歳と報告されている6)。発症年齢のピークは男性が50歳代で、女性では20歳代と50歳代にピークがみられる6)。家族歴はわが国では5%程度みられる6,7)。乾癬は、心血管疾患、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、肥満、メタボリックシンドローム、非アルコール性脂肪肝、うつ病の合併が多いことが知られており、乾癬とこれらの併存疾患がお互いに影響を及ぼし合っていると考えられている。膿疱性乾癬に関しては、現在2,000人強の指定難病の登録患者が存在し、毎年約80人が新しく登録されている。尋常性(局面型)乾癬とは異なり男女差はなく、発症年齢のピークは男性では30~39歳と50~69歳の2つ、女性も25~34歳と50~64歳の2つのピークがある8)。■ 病因乾癬は基本的にはT細胞依存性の免疫疾患である。とくに、細胞外寄生菌や真菌に対する防御に重要な役割を果たすとされるTh17系反応の過剰な活性化が起こり、IL-17をはじめとするさまざまなサイトカインにより表皮角化細胞が活性化されて、特徴的な臨床像を形成すると考えられている。臓器特異的自己免疫疾患との考え方が根強くあるが、明確な証明はされておらず、遺伝的要因と環境要因の両者が関与して発症すると考えられている。遺伝的要因としてはHLA-C*06:02(HLA-Cw6)と尋常性(局面型)乾癬発症リスク上昇との関連が有名であるが、日本人では保有者が非常に少ないとされる。また、特定の薬剤(βブロッカー、リチウム、抗マラリア薬など)が、乾癬の誘発あるいは悪化因子となることが知られている。膿疱性乾癬に関しては長らく原因不明の疾患であったが、近年特定の遺伝子変異と本疾患発症の関係が注目されている。とくに尋常性(局面型)乾癬を伴わない膿疱性乾癬の多くはIL-36受容体拮抗因子をコードするIL36RN遺伝子の機能喪失変異によるIL-36の過剰な作用が原因であることがわかってきた9)。また、尋常性(局面型)乾癬を伴う膿疱性乾癬の一部では、ケラチノサイト特異的NF-κB促進因子であるCaspase recruitment domain family、member 14(CARD14)をコードするCARD14遺伝子の機能獲得変異が発症に関わっていることがわかってきた9)。その他、AP1S3、SERPINA3、MPOなどの遺伝子変異と膿疱性乾癬発症とのかかわりが報告されている。■ 症状乾癬では銀白色の厚い鱗屑を付着する境界明瞭な類円形の紅斑局面が四肢(とくに伸側)・体幹・頭部を中心に出現する(図1)。皮疹のない部分に物理的刺激を加えることで新たに皮疹が誘発されることをKoebner現象といい、乾癬でしばしばみられる。肘頭部、膝蓋部などが皮疹の好発部位であるのは、このためと考えられている。また、3分の1程度の頻度で爪病変を生じる。図1 尋常性乾癬の臨床像画像を拡大する乾癬性関節炎を合併すると、末梢関節炎(関節リウマチと異なりDIP関節が好発部位)、指趾炎(1つあるいは複数の指趾全体の腫脹)、体軸関節炎、付着部炎(アキレス腱付着部、足底筋膜部、膝蓋腱部、上腕骨外側上顆部)、腱滑膜炎などが起こる。放置すると不可逆的な関節破壊が生じる可能性がある。膿疱性乾癬では、急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する8)(図2)。膿疱が融合して環状・連環状配列をとり、時に膿海を形成する。爪病変、頬粘膜病変や地図状舌などの口腔内病変がみられる。しばしば全身の浮腫、関節痛を伴い、時に結膜炎、虹彩炎、ぶどう膜炎などの眼症状、まれに呼吸不全、循環不全や腎不全を併発することがある10)。図2 膿疱性乾癬の臨床像画像を拡大する■ 予後乾癬自体は、通常生命予後には影響を及ぼさないと考えられている。しかし、海外の研究では重症乾癬患者は寿命が約6年短いとの報告がある11)。これは、乾癬という皮膚疾患そのものではなく、前述の心血管疾患などの併存症が原因と考えられている。乾癬性関節炎を合併すると、前述のとおり不可逆的な関節変形を来すことがあり、患者QOLを大きく損なう。膿疱性乾癬は、前述のとおり呼吸不全、循環不全や腎不全を併発することがあり、生命の危険を伴うことのある病型である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)多くの場合、先に述べた臨床症状から診断可能である。症状が典型的でなかったり、下記の鑑別診断と迷う際は、生検による病理組織学的な検索や血液検査などが必要となる。乾癬の臨床的鑑別診断としては、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、亜鉛欠乏性皮膚炎、ジベルばら色粃糠疹、扁平苔癬、毛孔性紅色粃糠疹、類乾癬、菌状息肉症(皮膚T細胞リンパ腫)、ボーエン病、乳房外パジェット病、亜急性皮膚エリテマトーデス、皮膚サルコイド、白癬、梅毒、尋常性狼瘡、皮膚疣状結核が挙げられる。膿疱性乾癬に関しては、わが国では診断基準が定められており、それに従って診断を行う8)。病理組織学的にKogoj海綿状膿疱を特徴とする好中球性角層下膿疱を証明することが診断基準の1つにあり、診断上は生検が必須検査になる。また、とくに急性期に検査上、白血球増多、CRP上昇、低蛋白血症、低カルシウム血症などがしばしばみられるため、適宜血液検査や画像検査を行う。膿疱性乾癬の鑑別診断としては、掌蹠膿疱症、角層下膿疱症、膿疱型薬疹(acute generalized exanthematous pustulosisを含む)などがある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)外用療法副腎皮質ステロイド、活性型ビタミンD3製剤が主に使用される。両者を混合した配合剤も発売されている。2)光線療法(内服、外用、Bath)PUVA療法、311~312nmナローバンドUVB療法、ターゲット型308nmエキシマライトなどが使用される。3)内服療法エトレチナート(ビタミンA類似物質)、シクロスポリン、アプレミラスト(PDE4阻害薬)、メトトレキサート、ウパダシチニブ(JAK1阻害薬)、デュークラバシチニブ(TYK2阻害薬)が乾癬に対し保険適用を有する。ただし、ウパダシチニブは関節症性乾癬のみに承認されている。4)生物学的製剤抗TNF-α抗体(インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ ペゴル)、抗IL-12/23p40抗体(ウステキヌマブ)、抗IL-17A抗体(セクキヌマブ、イキセキズマブ)、抗IL-17A/F抗体(ビメキズマブ)、抗IL-17受容体A抗体(ブロダルマブ)、抗IL-23p19抗体(グセルクマブ、リサンキズマブ、チルドラキズマブ)、抗IL-36受容体抗体(スペソリマブ)が乾癬領域で保険適用を有する。中でも、スペソリマブは「膿疱性乾癬における急性症状の改善」のみを効能・効果としている膿疱性乾癬に特化した薬剤である。また、多数の生物学的製剤が承認されているが、小児適応(6歳以上)を有するのはセクキヌマブのみである。5)顆粒球単球吸着除去療法膿疱性乾癬および関節症性乾癬に対して保険適用を有する。4 今後の展望抗IL-17A/F抗体であるビメキズマブは、現時点では尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に承認されているが、関節症性乾癬に対する治験が進行中(2022年11月現在)である。将来的には関節症性乾癬にもビメキズマブが使用できるようになる可能性がある。膿疱性乾癬に特化した薬剤であるスペソリマブ(抗IL-36受容体抗体)は静注製剤であり、現時点では「膿疱性乾癬における急性症状の改善」のみを効能・効果としている。しかし、フレア(急性増悪)の予防を目的とした皮下注製剤の開発が行われており、その治験が進行中(2022年11月現在)である。将来的には急性期および維持期の治療をスペソリマブで一貫して行えるようになる可能性がある。乾癬は慢性炎症性疾患であり、近年は生物学的製剤を中心に非常に効果の高い薬剤が多数出てきたものの、治癒は難しいと考えられてきた。しかし、最近では生物学的製剤使用後にtreatment freeの状態で長期寛解が得られる例もあることが注目されており、単に皮疹を改善するだけでなく、疾患の長期寛解あるいは治癒について議論されるようになっている。将来的にはそれらが可能になることが期待される。5 主たる診療科皮膚科、膠原病・リウマチ内科、整形外科(基本的にはすべての病型を皮膚科で診療するが、関節症状がある場合は膠原病・リウマチ内科や整形外科との連携が必要になることがある)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 膿疱性乾癬(汎発型)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本皮膚科学会作成「膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版」(現在、日本皮膚科学会が新しい乾癬性関節炎の診療ガイドラインを作成中であり、近い将来に公表されるものと思われる。一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本乾癬患者連合会(疾患啓発活動、勉強会、交流会をはじめとしてさまざまな活動を行っている。都道府県単位の患者会も多数存在し、本会のwebサイトから検索できる。また、都道府県単位の患者会では、専門医師を招いての勉強会や相談会を実施しているところもある)1)藤田英樹. 日大医誌. 2017;76:31-35.2)Krueger JG, et al. Ann Rheum Dis. 2005;64:ii30-36.3)藤田英樹. 乾癬患者統計.第32回日本乾癬学会学術大会. 2017;東京.4)Gupta R, et al. Curr Dermatol Rep. 2014;3:61-78.5)Kubota K, et al. BMJ Open. 2015;5:e006450.6)Takahashi H, et al. J Dermatol. 2011;38:1125-1129.7)Kawada A, et al. J Dermatol Sci. 2003;31:59-64.8)照井正ほか. 日皮会誌. 2015;125:2211-2257.9)杉浦一充. Pharma Medica. 2015;33:19-22.10)難病情報センターwebサイト.11)Abuabara K, et al. Br J Dermatol. 2010;163:586-592.公開履歴初回2019年9月24日更新2022年12月22日

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IL-23p19阻害薬グセルクマブ、中等症~重症の乾癬に有効/Lancet

 中等症~重症の乾癬の治療において、インターロイキン(IL)-23p19阻害薬グセルクマブはIL-17A阻害薬セクキヌマブに比べ、約1年の長期的な症状の改善効果が良好であることが、ドイツ・ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのKristian Reich氏らが行ったECLIPSE試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年8月8日号に掲載された。乾癬治療薬の臨床試験では、最長でも12週または16週という短期的な有効性の評価に重点が置かれてきたが、乾癬は慢性疾患であるため、長期的なエンドポイントの評価が求められていた。2剤を直接比較する無作為化第III相試験 本研究は、グセルクマブとセクキヌマブを直接比較する二重盲検無作為化第III相試験であり、2017年4月27日~2018年9月20日の期間に、9ヵ国(オーストラリア、カナダ、チェコ、フランス、ドイツ、ハンガリー、ポーランド、スペイン、米国)の142施設で実施された(Janssen Research & Developmentの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、中等症~重症の局面型皮疹を有する乾癬と診断され、光線療法または全身療法の適応とされた患者であった。中等症~重症は、乾癬面積重症度指数(Psoriasis Area and Severity Index:PASI、0~72、点数が高いほど重症)≧12、医師による全般的評価(Investigator's Global Assessment:IGA)≧3、6ヵ月以上持続するbody surface area involvement(BSA)≧10%と定義された。 被験者は、グセルクマブ(100mg、0、4週、その後は8週ごと)またはセクキヌマブ(300mg、0、1、2、3、4週、その後は4週ごと)を皮下投与する群に無作為に割り付けられ、44週の治療が行われた。フォローアップは56週まで実施された。 主要エンドポイントは、intention-to-treat集団における48週時のベースラインから90%以上のPASIの改善(PASI 90)の達成割合とした。副次エンドポイントは、12週および48週時のPASI 75、12週時のPASI 90、12週時のPASI 75、48週時のPASI 100、48週時のIGAスコア0(皮膚病変なし)、48週時のIGAスコア0または1(軽度)の達成割合であった。安全性の評価は、0~56週に1回以上の投与を受けた患者で行った。48週時PASI 90達成割合 84% vs.70%、12/48週時PASI 75達成割合は非劣性 1,048例が登録され、グセルクマブ群に534例、セクキヌマブ群には514例が割り付けられた。全体の年齢中央値は46.0歳(IQR:36.0~55.0)、女性が33%含まれた。平均罹患期間は18.4(SD 12.4)年、平均BSAは24.1(13.7)%、IGAは3(中等度)が76%、4(重度)が24%、PASIは平均値20.0(7.5)、中央値18.0(15.1~22.3)であった。 48週時のPASI 90達成割合は、グセルクマブ群が84%(451例)と、セクキヌマブ群の70%(360例)に比べ有意に優れた(差:14.2ポイント、95%信頼区間[CI]:9.2~19.2、p<0.0001)。 主要な副次エンドポイントである12週および48週時のPASI 75の達成割合は、グセルクマブ群のセクキヌマブ群に対する非劣性(マージンは10ポイント)が確認された(85%[452例] vs.80%[412例]、p<0.0001)が、優越性は認めなかった(p=0.0616)。 そのため、他の副次エンドポイントの統計学的な検定は実施されなかった(12週時のPASI 90はグセルクマブ群69% vs.セクキヌマブ群76%、12週時のPASI 75は89% vs.92%、48週時のPASI 100は58% vs.48%、48週時のIGAスコア0は62% vs.50%、48週時のIGAスコア0または1は85% vs.75%)。 全Gradeの有害事象(グセルクマブ群78% vs.セクキヌマブ群82%)、重篤な有害事象(6% vs.7%)、感染症(59% vs.65%)の頻度は両群でほぼ同等であった。頻度の高い有害事象として、鼻咽頭炎(22% vs.24%)と上気道炎(16% vs.18%)がみられた。活動性の結核や日和見感染は認めなかった。セクキヌマブ群でクローン病が3例報告された。 著者は「これらの知見は、乾癬治療の生物学的製剤の選択において、医療従事者の意思決定に役立つ可能性がある」としている。

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第19回 小児科クリニックからのセフカペンピボキシルの処方(前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 患児の保護者に確認することは?熱の有無や熱性けいれんの既往など ふな3さん(薬局)発熱の有無は、アセトアミノフェン坐剤の処方意図(すぐに使用するか予備か)やペリアクチン®による熱性けいれん誘発リスクの推測にも利用できるため、必ず確認します。他に、熱性けいれんやてんかんの既往、副作用歴、併用薬、発疹の有無も確認したいです。検査したかどうか 清水直明さん(病院)アレルギー歴は必ず確認します。もしA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌、S.pyogenes )だったら抗菌薬が必要だと思うので、「何か検査はされましたか」と確認します。セフェム系抗菌薬のアレルギーや過去1カ月以内に抗菌薬を使用したか 奥村雪男さん(薬局)患児の性別や、特にセフェム系抗菌薬に対してアレルギーはないかを確認します。他にも過去1カ月以内に抗菌薬を使用したか、いつから症状があったか、全身状態はどうか、咳や鼻水などの症状、アデノウイルスなどの迅速検査や血液検査を行っているかも確認します。可能なら検査結果や白血球数やCRPなどの検査値、肺炎球菌、ヒブなどのワクチンを接種しているかも聞きます。Q2 疑義照会しますかする・・・7人フロモックス®の用量 キャンプ人さん(病院)フロモックス®細粒は1日9mg/kgですので、少し量が少ないのでは? と照会します。そのときに、抗菌薬の処方を望まれていないことを「母親が伝え忘れた」として医師へ伝えます。もちろん母親にそのように照会してよいか確認しておきます。普段から風邪に抗菌薬は不要と医師に示し続ける 荒川隆之さん(病院)保護者がなぜ抗菌薬の処方を望んでいないのか、よく聴き取りを行います。風邪に抗菌薬は不要ということで望んでいないのならば、疑義照会を行ってよいか、保護者と話をします。そして、フロモックス®の投与量がやや少ないことで疑義照会するついでに、風邪に抗菌薬は不要ではないか確認します。最初は、保護者がそのように希望していると言わず、医師から保護者の意志を聞かれた場合に回答します。ただし、この疑義照会は、医師と薬剤師のそれまでの関係も大きく関係すると思います。普段から風邪に抗菌薬は不要というスタンスを医師に示し続ける必要があります。抗菌薬は必要? 柏木紀久さん(薬局)患児の主症状が発熱と咽喉頭炎なので、あまり抗菌薬の必要性を感じません。3日後の再診時に抗菌薬の投与を考慮してもいいのではないかと思います。体重9kgでアセトアミノフェン坐剤が処方されており、発熱の期間が長い、または日内変動が強い状態でぐずったり、食欲がなかったりして状態がよくないことも考えられます。この場合、説明通り二次感染が考えられ抗菌薬処方の妥当性を感じますが、食欲や水分摂取が少なくなっている場合は、低カルニチン血症も気になります。保護者が医師に言えなかったことを薬剤師に打ち明けているので、照会してみると思います。溶連菌の可能性も 児玉暁人さん(病院)フロモックス®の投与量が少ないので確認します。ウイルス性の単なる風邪では抗菌薬は不要です。ただトランサミン®散の処方、のどの発赤から溶連菌の可能性も捨てきれず、その場合は抗菌薬が必要です。溶連菌の合併症予防を風邪の二次予防と受け取ってしまったなど、知識があるだけにややこしくしている可能性もありえます。保護者には、投与量と処方意図の再確認をしたい旨を伝え、納得と了承を頂いてから疑義照会します。あとは、疑義照会への返答内容にもよりますが、抗菌薬を服用する/しない場合のメリット・デメリットを伝えて、服用するかどうかを保護者に判断してもらうかと思います。ですので、疑義照会時に「服用を保護者の判断に任せてよいか」と確認しておきます。容態が悪化したら飲ませるつもりなら、疑義照会する ふな3さん(薬局)処方を望んでいないという意味では、疑義照会しません。医師との関係を気にしているなら、あえて蒸し返す必要はないと考えます。また、調剤の際に下記のように3種に分包して、フロモックス®だけ(もしくはラックビー®Rも)は服用しなくて済むようにできます。(1)フロモックス®(2)ラックビー®R(3)トランサミン® /ペリアクチン® /アスベリン® /ムコダイン® 混合この患者さんに限らず、普段から対症療法用の薬剤(症状改善したら中止)と、抗菌薬・整腸剤(処方日数飲みきり)は別包にしています。これらの対応をした上で、「望んではいない」と言いながらも、「容態が悪化したら飲ませるかも」と考えている場合、フロモックス®の添付文書上用量(3mg/kg)に満たないため、0.81g(~0.9g程度)/日への増量を提案するため疑義照会をします。保護者自身の風邪であれば「抗菌薬は飲まずに治せる」と簡単に割り切れると思いますが、発話できない乳児で急な発熱であれば、「この子のためにできることは?」「やっぱり抗菌薬を飲ませるべきかも」と頭をよぎるのが親心だと思います(だからこそ、小児科医も抗菌薬処方を簡単には止められないのでしょうが...)。その意味合いも含めて、抗菌薬は適切な量に修正した上で、「飲み始めたら飲みきる」の条件の下、お渡ししておきたいと思います。抗菌薬は感染が起きたと推定されるときに服用する JITHURYOUさん(病院)当然、医師の指示通りに調剤しなければならないのですが、その話をしてもなお服薬拒否ということになるのならば、医師に確認したいですね。連鎖球菌による咽頭炎でも、フロモックス®ではなくペニシリンが第一選択なので、この場合処方変更の必要性があるのではと考えます。二次感染予防目的の抗菌薬処方だとしても、臨床経過を勘案して疑義照会したいところです(遷延していたら細菌による二次感染の可能性=抗菌薬適応)。となると、症状の変化などで感染が起きたと推定されるときに服用する方がベストのような感じがします。フロモックス®はそういう場合に服用していただく方が耐性菌を増やさないという観点でも必要ではないかと考えます。よって、調剤は別包装にすべきではないでしょうか。母親の気持ちを聞き取った上で わらび餅さん(病院)フロモックス®が1日量9mg/kgではないので、疑義照会はします。また、母親からどうして抗菌薬を希望しないのかを聞きます。二次感染予防の必要性を感じてない、風邪という診断に納得してない、赤ちゃんだからあまり薬を飲ませたくないなど、理由によって対応も変わってきます。しない・・・4人処方医は不要なリスクを避けたいと考える 奥村雪男さん(薬局)抗菌薬以外の処方内容からは、典型的なウイルス性の上気道炎に見えます。全身状態が悪くないのであれば、抗菌薬なしで数日の経過観察後、悪化した場合に細菌性肺炎などの診断がついた時点で、それに応じた抗菌薬を選択するのが理想的だと思います。ただ、実際には疑義照会しないと思います。ウイルス性上気道炎に第三世代セフェムを処方するのは現在の日本の慣行であり、慣行と異なる行為はリスクを伴います。仮に抗菌薬なしの経過観察中に細菌性肺炎を発症すれば、最悪の場合、訴訟問題に発展するかもしれません。処方医は不要なリスクを負うことは避けたいと考えるはずです。遠回りのようですが、ウイルス性上気道炎に抗菌薬を処方した場合の治療必要数※などのエビデンスを国民に提示し、抗菌薬の二次感染予防は効率の悪い治療行為であることを一般常識とすることが、疑義照会に優る方法だと思います。※治療必要数NNT(number needed to treat)のこと。死亡や病気の発症などのイベント発生を1人減らすために、何人の患者を治療する必要があるか、という疫学の指標。例えばNNTが100なら、1人の患者のイベント発生を減らすためには100人に治療を行う、ということになる。フロモックス®は別包に 清水直明さん(病院)抗菌薬をどうしても持ち帰りたくないと言うのであれば、そのことを説明して取り消してもらうことも可能でしょうが、医師が必要としたものを不要と説得するだけの材料が弱いかなと思います。風邪との診断であるならば、それほど重症感はなさそうです。抗菌薬を服用させたくないのであれば、親の責任の範囲でそれでもいいと思います。フロモックス®は別包とします。そもそも、このぐらいの年齢から保育園・幼稚園ぐらいまでのお子さんは、よく風邪をひきます。これからも外界と接する機会が増えるにつれて、いろいろな感染症を拾ってくることでしょう。もし、本当に抗菌薬が必要な感染症に罹ったとき、ちゃんと効いてくれないと大変です。風邪をひくたびに予防的に抗菌薬を飲んでいたら、耐性菌のリスクは上がってしまうと思います。フロモックス®など多くの抗菌薬には二次感染予防という適応はないし、そのことがよく分かっている親御さんであるならば、飲ませるか飲ませないかの判断は任せていいと思います。ただし、薬剤師の指導としては微妙ですが・・・後編では、抗菌薬について患者さんに説明することは?その他気付いたことを聞きます。

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外来での高齢者に対する抗菌薬処方(解説:吉田敦氏)-907

 高齢者において、抗菌薬の処方が過剰となり、それが薬剤耐性(AMR)に結びついているという指摘は以前から存在した。米国においても、抗菌薬適正使用およびAMRへの取り組みから抗菌薬の総使用量は減少し始めていたが、高齢者における使用量の変化については不明な部分が多かった。今回、高齢者の98%が加入可能な公的保険である米国メディケアにおいて、高齢者の外来での抗菌薬処方と、各診断名に対して適切な抗菌薬が使用されていたかどうかを観察研究として調査した。 本研究では、2011~15年の65歳以上のメディケア加入者のうち、20%をランダムに選び、保険請求書を基に患者背景、外来での抗菌薬の処方数(経口・静注、ジェネリックを含む)、および感染症診断名の情報を得た。抗菌薬については、処方数上位10薬剤とそのトレンドを把握した。感染症診断名はICD-9に基づくものとし、20個のカテゴリーに分類した(たとえば、「肺炎」)。診断名と抗菌薬使用の妥当性から、使用を「適正使用」「不適切使用」「判定不能」の3群に分けた。 5年間のメディケア加入者450万人分の、1950万の請求書を解析した。抗菌薬に関する請求数は、加入者1,000人当たりでみると、2011年と14年の間では減少していたが、15年にはやや増加しており、2011年と15年では0.2%の減少にとどまった。この傾向は患者集団によってばらつきがあったが、75~84歳の年齢層、女性、白人、米国南部・北東部では増加が目立った。「不適切使用」は全体の約40%で、3.9%減少したが、「適正使用」はほぼ横ばい(約40%、0.2%減少)であった。 処方数上位10薬剤は、抗菌薬処方全体の87%を占めていたが、2011年と15年を比較すると、アジスロマイシン(処方数1位)、シプロフロキサシン(2位)、トリメトプリム・スルファメトキサゾール(5位)の3薬剤では減少したものの、他の7薬剤(アモキシシリン、セファレキシン、レボフロキサシン、アモキシシリン・クラブラン酸、ドキシサイクリン、nitrofurantoin、クリンダマイシン)は増加していた。最も変化の著しかったのは、アジスロマイシンの18.5%減少、レボフロキサシンの27.7%増加であった。 適応との相関をみると、呼吸器感染症におけるアジスロマイシンの使用は、「適正使用」例、「不適切使用」例ともに減少していた。一方、レボフロキサシンは「適正使用」、「不適切使用」ともに増加していた(つまり肺炎でも副鼻腔炎でも、ウイルス性上気道炎、気管支炎でも増加していた)。また腸管感染症では「適正使用」、「不適切使用」の両者でシプロフロキサシンが減少し、レボフロキサシンが増加していた。 全体を総括すると、各診断における抗菌薬使用の適応を考慮して処方が減ったというよりも、抗菌薬の種類を変えつつ処方が行われているという傾向が顕著であったという結論にたどり着く。本研究の手法や結果を解釈できる範囲にはいくつもの限界があり、かつ対象もメディケア加入者の一部に限定されているが、導き出された結論自体は、われわれが抗菌薬使用に関して日々実感している状況に驚くほど一致している。 本邦ではAMR対策アクションプランが策定・実行され(2016~20年)、後半に差し掛かるとともに、現状に関するデータが蓄積されつつある。米国は本研究の結果をどのように政策に反映させるであろうか。本邦での今後の抗菌薬適正使用、AMR対策に、本研究および関連研究の結果が寄与することに期待したい。

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2017年度認定内科医試験、直前対策ダイジェスト(前編)

【第1回 膠原病/アレルギー】 全13問膠原病/アレルギー領域は、アップデートが頻繁な分野でキャッチアップしていくのが大変だが、それだけに基本的なところで確実に得点することが重要となってくる。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)これらの疾患とCoombsとGell分類の組み合わせで正しいものはどれか?1つ選べ(a)血清病 ― I型(b)クリオグロブリン血症 ― II型(c)特発性血小板減少性紫斑病 ― III型(d)アレルギー性接触皮膚炎 ― IV型(e)過敏性肺臓炎 ― I+IV型例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第2回 感染症】 全9問感染症領域については、時事問題や感染対策、予防に関する問題がよく出題される傾向がある。代表的な感染症に加え、新興・再興感染症の感染対策についてもしっかり押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)感染症について正しいものは次のうちどれか?1つ選べ(a)中東呼吸器症候群(MERS)は2類感染症であり、致死率は50%を超えるとされている(b)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は4類感染症に指定されており、マダニを媒介としヒト-ヒト感染の報告はない(c)デング熱は4類感染症に指定されており、前回と異なる血清型のデングウイルスに感染した場合、交差免疫により不顕性感染となることが多いと報告されている(d)ジカ熱は4類感染症に指定されており、デングウイルス同様ネッタイシマカやヒトスジシマカを媒介とし、ギラン・バレー症候群のリスクとなる(e)カルバぺネム耐性腸内細菌科細菌は5類全数把握疾患に指定されており、保菌者も届出が必要とされる例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第3回 呼吸器】 全10問呼吸器の分野については、レントゲンやCTなどの画像から診断を回答させる問題が増えている。アトラス等で疾患別の画像所見をしっかりと確認しておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)次の記載で正しいものはどれか?1つ選べ(a)成人の急性上気道炎の原因として最も多いものはRSウイルスである(b)Centor criteriaは次の通りである1)38℃以上の発熱、2)基礎疾患なし、3)圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、4)白苔を伴う扁桃腫脹で行う溶連菌感染スコアリング(c)Ludwig’s anginaは菌血症による感染性血栓性頸静脈炎のことである(d)レミエール症候群は、Fusobacterium necrophorumなど嫌気性菌によるものが多い(e)初診外来で白苔を認める急性化膿性扁桃腺炎患者にアモキシシリンで治療した例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第4回 腎臓】 全7問腎臓領域については、ネフローゼ症候群に関する出題が多く、細部まで問われる傾向がある。とくにネフローゼ症候群に関してはしっかりと押さえておきたいところである。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)急性腎不全(ARF)と急性腎障害(AKI)について正しいものはどれか?1つ選べ(a)「急性腎障害のためのKDIGO診療ガイドライン」ではAKIの定義として、24時間以内に血清Cr値が0.3mg/dL以上上昇、尿量<0.5mL/kg/時の状態が12時間以上持続する、という項目がある(b)FENa(Na排泄率)2.0%は腎前性腎不全を考える(c)急性尿細管壊死では、多尿が1~2週間持続し、尿中Naは20mEq/L以下であることが多い(d)急性尿細管壊死は消化管出血を合併することが多く、貧血になりやすい(e)尿中好酸球は、薬剤性急性尿細管間質性腎炎で検出され、その診断に有用なバイオマーカーである例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第5回 内分泌】 全10問内分泌領域については、診断のための検査についての出題が多い。とくに甲状腺と副腎について問われることが多く、知識の整理が必要である。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)グレーブス病(バセドウ病)について正しいものはどれか?1つ選べ(a)バセドウ病に認めるMerseburg3徴は、甲状腺腫・眼球突出・限局性粘液水腫である(b)アミオダロン、インターフェロン製剤は、誘発因子として報告されている(c)甲状腺眼症を合併している患者の治療の第1選択は131I内用療法である(d)抗甲状腺薬にはチアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)があり、妊娠・授乳中の患者はMMIの使用が推奨されている(e)131I内用療法の効果は早く、開始後1週間以内に治療効果を認める例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第6回 代謝】 全10問代謝領域については、治療薬について細部まで聞かれる傾向がある。メタボリックシンドロームとアディポカインは毎年出題されるので、しっかり押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)1型糖尿病について正しいものはどれか?1つ選べ(a)家族歴は2型糖尿病より1型糖尿病に多く認める(b)1型糖尿病の死因で最多は感染症によるものである(c)緩徐進行1型糖尿病は、できるかぎり経口糖尿病薬で治療を行い、インスリン導入を遅らせるべきである(d)劇症1型糖尿病は、膵島関連自己抗体陽性の小児に発症することが多い(e)劇症1型糖尿病は、血中膵外分泌酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)の上昇を認めることが多い例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【例題の解答】第1回:(d)、第2回:(d)、第3回:(d)、第4回:(d)、第5回:(b)、第6回:(e)

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第36回

第36回:急性副鼻腔炎に対する抗菌薬投与は、発症7~10日以内で症状改善しない場合に考慮する監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 急性副鼻腔炎とは「急性に発症し、罹病期間が1カ月以内と短く、鼻閉、鼻漏、後鼻漏、咳嗽を認め、頭痛、頬部痛、顔面圧迫感などを伴う疾患」と定義されている1)。原因としてはウイルス性、細菌性が挙げられるが、最近はアレルギー性鼻副鼻腔炎も増加している2)。このため抗菌薬投与が効果を示す細菌性副鼻腔炎か否かを鑑別する必要があるが、実臨床で正確に判断することは難しい。日本鼻科学会からは、重症度スコアと、小児および成人の重症度別治療アルゴリズムが提唱されている3)。 これによると、軽症の場合は小児、成人いずれの場合においても抗菌薬は使用せず、5日間の経過観察を行い、症状が改善しない場合にはAMPCなどの抗菌薬を考慮することになっている。したがって、急性副鼻腔炎に対しては、ルーチンで抗菌薬を処方せず、適正な使用が求められる。 以下、American Family Physician 2016年7月15日号より4)急性副鼻腔炎は、外来診療におけるcommon diseaseの一つである。多くの場合は、ウイルス性上気道炎が原因である。臨床所見だけでは、抗菌薬が効く細菌性副鼻腔炎かどうかの判断は難しい。次の4項目の所見がある場合は、細菌性副鼻腔炎の可能性が高まる。症状の再燃膿性鼻汁血沈1時間値>10mm鼻腔内の膿汁貯留ガイドラインによって違いはあるものの、7~10日間以内に副鼻腔炎症状が改善しない場合や、症状が増悪する場合は抗菌薬療法を考慮する。抗菌薬療法の第1選択は、AMPC(商品名:サワシリン)500mg 8時間毎、またはAMPC/CVA(同:オーグメンチン)500mg/125mg 8時間毎の5~10日間投与である。レスピラトリーキノロン(LVFX、MFLX)は、βラクタム系抗菌薬と比較して有益性は示されておらず、さまざまな副作用リスクを伴っているため、第1選択として推奨されていない。マクロライド系、ST合剤、第2世代および第3世代セファロスポリン系は、S.pneumoniaeやH. influenzaeに効かないことが多いため、初期治療として推奨されていない。最近のガイドラインでは、上気道症状を認めてから7~10日間の経過観察を推奨している。鎮痛薬、鼻腔内ステロイド投与、生食による鼻腔内洗浄による治療効果のエビデンスは乏しい。また、合併症のない急性副鼻腔炎の診断に対する放射線画像検査は推奨されない。治療反応性が乏しい症例では、合併症や解剖学的異常の有無について単純CTが有用である。十分に内科的治療を行っているにもかかわらず、症状が遷延する場合や、まれな合併症が疑われる場合は、耳鼻科への紹介が必要。専門医にコンサルトすべき一覧閉塞を引き起こすような解剖学的異常眼窩蜂窩織炎や骨膜下膿瘍、眼窩膿瘍、意識障害、髄膜炎、静脈洞血栓症、頭蓋内膿瘍、Pottʼs puffy tumorなどの合併症状を呈している(Pottʼs puffy tumorは1768年にSir Percival Pottが提唱した疾患概念で、前頭骨骨髄炎が原因で骨外に1つ以上の膿瘍を形成した状態をいう)アレルギー性鼻炎に対する免疫療法の評価頻回再発例(年3~4回の再発)真菌性副鼻腔炎、肉芽腫性疾患、悪性新生物の疑い免疫不全患者院内感染39度以上の発熱が続く重症感染症抗菌薬療法を延長投与したにもかかわらず治療効果がみられない場合非典型的な起炎菌、抗菌薬抵抗性起炎菌が検出された場合※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 日本鼻科学会編:急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年版 2) Suzuki K, Baba S: Local use of antibiotics for paranasal sinusitis. In: Proceedings of the XII international symposium of infection and allergy of the nose. Am J Rhinol 1994; 8: 306-307 3) 日本鼻科学会編:急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年版(追補版). 4) Aring AM,et al. Am Fam Physician. 2016;94:97-105

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気道感染症に対する抗菌薬処方の減少と感染症合併リスクの関係(解説:小金丸 博 氏)-573

 プライマリケアでみられる気道感染症(上気道炎、咽頭炎、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎)の多くは自然寛解が期待できる疾患であるが、実際は多くの気道感染症例に対して抗菌薬の投与が行われている。臨床医は、気道感染症に対して抗菌薬を投与しないと細菌合併症が増加する懸念を抱いているが、抗菌薬処方の減少と細菌感染症合併リスクの関係を示すデータは不足していた。 本研究は、英国プライマリケアのデータベースを用いて、気道感染症に対して抗菌薬が処方された割合と、細菌感染症の合併リスクとの関連を調べたものである。英国では2005~14年にかけて、気道感染症の患者に対する抗菌薬の処方割合は低下傾向であった。診療所別に解析した場合、抗菌薬処方の少ない診療所群において肺炎と扁桃周囲膿瘍のわずかな増加を認めたものの、そもそもまれな疾患である乳様突起炎、膿胸、細菌性髄膜炎、脳膿瘍、レミエール症候群の増加は認めなかった。 本研究では、気道感染症に対して抗菌薬の処方を減らしても、細菌感染症を合併するリスクは低いことが示された。肺炎と扁桃周囲膿瘍のリスク増加を認めたが、登録患者7,000人の診療所において、気道感染症で抗菌薬を投与する割合が10%減少した場合に、肺炎発症が年間1人、扁桃周囲膿瘍発症が10年間で1人増加するとの結果であり、リスクはきわめて低いといえる。 本研究では、個々の症例ごとに検討されたわけではないので、気道感染症の患者にどのような背景や理学所見があると細菌感染を合併するリスクが高いのか、といったことは議論されていない。高齢者や免疫不全者の気道感染症では、比較的頻度の高い肺炎の合併には注意が必要と考える。 不必要な抗菌薬の投与は、薬剤耐性菌の増加や抗菌薬の副作用の増加をもたらすため、抗菌薬の投与を見直す動きが広がっている。本来self-limitedな気道感染症に対して抗菌薬を投与するかどうかは、患者ごとに適応を十分吟味する必要がある。

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その症状、夏風邪ではなく肺炎かもしれない

 「夏風邪は長引く」と慣用句的に言われるが、診察室に来た高齢の患者が長引く発熱や咳の症状を訴えた時、急性上気道炎と決めてかかるのは危険かもしれない。6月30日、都内でファイザー株式会社がプレスセミナー「夏風邪かと思っていたら肺炎に!? 高齢者が注意すべき夏の呼吸器疾患の最新対策」を開催した。講演に登壇した杉山 温人氏(国立国際医療研究センター病院 呼吸器内科診療科長)は、「肺炎はワクチンで予防できる呼吸器疾患だが、当事者である高齢患者たちはワクチン接種の必要性を感じておらず、接種を勧めたい医療者の認識との間に大きな乖離がある」と述べた。急性上気道炎(感冒)との鑑別が紛らわしい肺炎 いまや肺炎は、がん、心疾患に続く日本人の死因第3位となっている。また、肺炎はその死亡の96.9%を高齢者が占めている。高齢者の肺炎は、若年者や中高年者の肺炎と異なり、罹患がADLの低下や心身の機能低下へと連鎖し、寝たきりや、認知症の進行といった悪循環に陥りやすいという特徴がある。 杉山氏によると、夏風邪と紛らわしい肺炎の鑑別にはとくに注意が必要だという。問診時に聞き取るポイントとして、発熱期間(風邪が数日~1週間程度であるのに対し、肺炎は1週間以上続く)や痰の色(肺炎の場合は黄~緑色、鉄さび色)などが挙げられる。しかし、高齢者の場合には、無熱性の場合があることも鑑別を難しくしており、意識障害のみで搬送され、肺炎と診断されたケースもあるという。肺炎への危機感が希薄な高齢者 肺炎の主な原因菌は何なのか。65歳以上の市中肺炎で入院したケースをみると、インフルエンザ菌や黄色ブドウ球菌などと比べても、肺炎球菌が圧倒的に多い。大学病院における医療・介護関連肺炎(NHCAP)についても同様に、肺炎球菌が最も多いことが過去の調査から明らかになっている。 2014(平成26)年10月から、65歳以上の高齢者を対象に肺炎球菌ワクチンが定期接種化(65歳より5歳刻み)されたが、ファイザーが同年11月に行ったインターネット調査によると、65~70歳の男女600人のうち、肺炎球菌ワクチンを接種したことがある人は、70歳で14%、65歳ではわずか3%にとどまった。さらに、肺炎にかかる可能性を感じているかと尋ねたところ、「感じている」と答えた人は70歳では10%、65歳では5%にとどまり、危機感がきわめて希薄である実情も浮き彫りになった。複雑なワクチン接種フローが課題 国内で承認されている肺炎球菌ワクチンは、13価結合型ワクチン(商品名:プレベナー)と、23価多糖体ワクチン(同:ニューモバックス)の2種類があるが、65歳以上の肺炎球菌ワクチン接種で公費対象となっているのは23価ワクチンのみである。一方、13価ワクチンは小児(生後2ヵ月~6歳未満)の定期接種で使用されており、優れた免疫応答と長期的な免疫記憶の獲得が特徴である。 杉山氏は「作用機序が異なるプレベナーとニューモバックス、2種類をうまく組み合わせて肺炎球菌に対する抵抗力を維持することが肝要である」と強調。さらに、定期接種はニューモバックスのみでプレベナーは任意接種であるために、ワクチン接種のフローが複雑になっている課題を指摘し、「現場の運用はシンプルであるべき。ニューモバックスだけでなく、プレベナーについても定期接種化を望みたい」と述べた。

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電子カルテ時代に抗菌薬不適切使用を減らす手法はあるか?(解説:倉原 優 氏)-484

 当然ながら、上気道感染症のほとんどに抗菌薬の処方は不要とされている。しかしながら、多くの病院やクリニックでは、安易に抗菌薬が処方されている。これは、患者からの希望、クリニックの評判、何か処方しないと満足度が得られない、抗菌薬が不要であることのインフォームドコンセントの時間が十分取れない、など医学的な側面以外の問題が影響しているかもしれない。当院でも、上気道症状を有する患者の多くは、すでに近医でフルオロキノロンを処方された状態で来院してくる。 この研究は、抗菌薬の不適切使用を減らすにはどうしたらよいかという疑問に基づいて、アメリカの47のプライマリケア施設で実施された臨床試験である。試験デザインは、クラスターランダム化比較試験で、同施設に勤務する248人の臨床医が登録され、合計18ヵ月間で介入を受けた。 具体的な介入方法としては、代替治療の提案(電子カルテで上気道炎に対して抗菌薬を処方しようとすると不適切使用のアラートが表示)、抗菌薬使用の理由をフリーコメント欄に記載(コメントは電子カルテ上に表示される)、同僚との比較(全参加者の中で自分の抗菌薬不適切使用の頻度を表示し、順位も定期的に配信)の3経路である。これら介入を単独あるいは組み合わせて実施された。また、全群で抗菌薬処方の教育が介入前に実施された。プライマリアウトカムは、介入前後の抗菌薬不適切処方の変化率である。どうだろう、どの手法が1番効果的と思われるだろうか。 その結果、抗菌薬の不適切使用の割合は、とくに処方理由を電子カルテにコメントさせること、同僚との順位付け比較を行うことで有意に減少した。そりゃそうだろう、という結果だ。抗菌薬が不適切だと電子カルテでも非難されて、それでもなお処方できる医師などそう多くはないはずである。 これら介入による弊害はどうだろうか。抗菌薬を処方しなかった患者のうち、細菌感染のため再受診した割合は、代替治療提案+理由記載の群でのみ1.41%と有意な増加があったが、それ以外では有意差はなかった。 ふむふむ、不適切使用は確かに減るだろう。とくに理由を記載するというアイデアは良いと思う。しかし、順位付けというのが、どうしても過剰な介入に思えてならないのは私だけだろうか。おそらく、そうしたレベルを分けた介入を行うことも本研究の意図だったのだろう。 日本の場合、上気道炎や感冒という病名をつけて抗菌薬を処方する医師はいない。おそらく、細菌性肺炎、細菌性気管支炎など抗菌薬の処方が明らかに妥当と認識されるよう病名をつけることが多いだろう。保険診療の根幹に根付く こうした“しきたり”に介入できる試験は、いつの日か日本で実施可能だろうか。

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上気道炎での不適切な抗菌薬処方を減らすには?/JAMA

 プライマリケアにおける急性上気道炎の抗菌薬不適切処方を減らすには、処方理由を書かせること、不適切処方割合の順位付けを行いメールで知らせる(ピア比較)介入が効果的である可能性が、米国・南カリフォルニア大学のDaniella Meeker氏らが248人のプライマリケア医を対象に行ったクラスター無作為化試験の結果、示された。JAMA誌2016年2月9日号掲載の報告。電子カルテシステム上で3つの介入を行い効果を比較 研究グループは、急性上気道炎の外来患者に対する抗菌薬の不適切処方(ガイドラインと一致しない)の割合を調べ、行動科学に基づく介入の効果を調べる検討を行った。 ボストンとロサンゼルスの47のプライマリケア施設で248人の医師を登録し、全員に登録時に抗菌薬ガイドラインの教育を受けさせ、次の3つの介入のいずれかもしくは複数または未介入(すなわち介入数0~3)を18ヵ月間受ける群に割り付けた。3つの介入は電子カルテを活用したもので、(1)選択肢の提示:処方オーダーセットをサポートするシステムとして急性上気道炎を選択すると、抗菌薬不要の治療であることが表示され、代替治療が表示される、(2)根拠の書き込みを促す:患者の電子カルテに自由記載で抗菌薬を処方する理由を書き込むよう促す、(3)ピア比較:不適切処方割合について最も少ない医師をトップに順位付けを行い、高位の医師には毎月「トップパフォーマー」であることを知らせる一方、低位の医師には「トップパフォーマーではない」こと、および順位、不適切処方割合を知らせ、急性上気道炎に抗菌薬は不要であること、トップパフォーマーとの不適切処方割合の差を知らせる。 介入は2011年11月1日~12年10月1日に開始、最終フォローアップは14年4月1日に終了した。なお対象患者のうち、併存疾患および感染症がある成人患者は除外された。 主要評価項目は、抗菌薬が不要な患者(非特異的上気道炎、急性気管支炎、インフルエンザ)に対して行われた抗菌薬不適切処方割合で、介入前18ヵ月間(ベースライン)と介入後18ヵ月間について評価した。各介入効果について、同時介入、介入前の傾向を補正し、診療および医師に関するランダム効果も考慮した。処方理由の書き込み、不適切処方割合の順位付けを知らせた群で有意に低下 抗菌薬不要の急性上気道炎の外来患者は、ベースライン期間中1万4,753例(平均年齢47歳、女性69%)、介入期間中は1万6,959例(同48歳、67%)であった。 抗菌薬が処方された割合は、対照(ガイドライン教育のみ)群では、介入スタート時点では24.1%、介入18ヵ月時点で13.1%に低下していた(絶対差:-11.0%)。一方、選択肢の提示群では22.1%から6.1%に低下(絶対差:-16.0%、対照群の差と比較した差:-5.0%、95%信頼区間[CI]:-7.8~0.1%、経過曲線差のp=0.66)。根拠の提示を促す介入群では、23.2%から5.2%(絶対差:-18.1%)へと低下し、対照群との有意差が示された(差:-7.0%、95%CI:-9.1~-2.9%、p<0.001)。ピア比較の介入でも19.9%から3.7%へと有意な低下が認められた(絶対差:-16.3%、差:-5.2%、95%CI:-6.9~-1.6%、p<0.001)。 なお、介入間で統計的に有意な相互作用(相乗効果、相互干渉)はみられなかった。

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がん治療で気付いてほしい1型糖尿病

 1月29日、日本糖尿病学会(理事長:門脇 孝氏)は、日本臨床腫瘍学会(理事長:大江 裕一郎氏)とともにお知らせとして「免疫チェックポイント阻害薬に関連した1型糖尿病ことに劇症1型糖尿病の発症について」と題し、注意喚起を行った。 抗PD-1(programmed cell death-1)抗体をはじめとする免疫チェックポイント阻害薬は、抗がん剤として発売され、また現在も多くが開発されている。そのうち、ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体であるニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、従来の「根治切除不能な悪性黒色腫」に加え、2015年12月17日からは「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」にも承認され、2016年2月からは包括医療費支払制度の対象外となることもあり、使用患者の増加が予想されている。 そうしたなか、薬事承認以降に因果関係不明例を含め1型糖尿病(劇症1型糖尿病も含む)が7例(うち死亡例はなし)、副作用として報告されている(2015年11月に添付文書は改訂され、「1型糖尿病」が副作用として記載された)。(劇症)1型糖尿病の病態 1型糖尿病は、膵β細胞の破壊により絶対的インスリン欠乏に陥る疾患があり、とりわけ劇症1型糖尿病は、きわめて急激な発症経過をたどり、糖尿病症状出現から早ければ数日以内にインスリン分泌が完全に枯渇し、重篤なケトアシドーシスに陥る病態である。適切に診断し、ただちにインスリン治療を開始しなければ死亡する可能性が非常に高い。しかし、診断時に劇症1型糖尿病の可能性が念頭にないと、偶発的な高血糖として経過観察とされたり、通常の2型糖尿病として誤った対応がなされ、不幸な転帰をたどることも危惧される。 そこで、免疫チェックポイント阻害薬使用中に、急激な血糖値の上昇、もしくは口渇・多飲・多尿・全身倦怠感などの糖尿病症状の出現をみた際には、劇症1型糖尿病の可能性も考慮し、糖尿病専門医との緊密な連携のもと早急な対処が必要となる。また、患者に対しても、劇症1型糖尿病の可能性や、注意すべき症状について、あらかじめ十分に説明しておくことが求められるとしている。参考資料:劇症1型糖尿病診断基準(2012) 下記1~3のすべての項目を満たすものを劇症1型糖尿病と診断する。1. 糖尿病症状発現後1週間前後以内でケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る(初診時尿ケトン体陽性、血中ケトン体上昇のいずれかを認める)。2. 初診時の(随時)血糖値が288mg/dL(16.0 mmol/L)以上であり、かつHbA1c値(NGSP)<8.7%※である。3. 発症時の尿中Cペプチド<10μg/日、または、空腹時血清Cペプチド<0.3ng/mLかつグルカゴン負荷後(または食後2時間)血清Cペプチド<0.5ng/mLである。 ※劇症1型糖尿病発症前に耐糖能異常が存在した場合は、必ずしもこの数字は該当しない。〔参考所見〕 A)原則としてGAD抗体などの膵島関連自己抗体は陰性である。 B)ケトーシスと診断されるまで原則として1週間以内であるが、1~2週間の症例も存在する。 C)約98%の症例で発症時に何らかの血中膵外分泌酵素(アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1など)が上昇している。 D)約70%の症例で前駆症状として上気道炎症状(発熱、咽頭痛など)、消化器症状(上腹部痛、悪心・嘔吐など)を認める。 E)妊娠に関連して発症することがある。 F)HLA DRB1*04:05-DQB1*04:01との関連が明らかにされている。詳しくは、「日本糖尿病学会 重要なお知らせ」まで

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2015年、人気を集めた記事・スライド・動画は?【2015年コンテンツ閲覧ランキング TOP30】

2015年も、日常診療に役立つ情報を、記事やスライド、動画などで多数お届けしてまいりました。その中でもアクセスの高かった人気コンテンツは、何だったのでしょうか?トップ30をご紹介いたします。1位わかる統計教室第1回 カプランマイヤー法で生存率を評価するセクション1 生存率を算出する方法2位特集:アナフィラキシー 症例クイズ(1)3回目のセフェム系抗菌薬静注後に熱感を訴えた糖尿病の女性3位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(3)知っておくべき初期治療4位1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより~第16回 犬猫咬傷~傷は縫っていいの? 抗菌薬は必要なの?5位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(1)誘因と増悪因子を整理6位CLEAR!ジャーナル四天王高齢者では、NOACよりもワルファリンが適していることを証明した貴重なデータ(解説:桑島 巖 氏)7位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ9.急性腎盂腎炎の標準的治療期間、10~14日の根拠を教えてください。8位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(2)診断のカギ9位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ1.急性上気道炎での抗菌薬投与は本当に不要なのでしょうか?10位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ20.尿路感染症にアンピシリン・スルバクタム、正しいですか?11位臨床に役立つ法的ケーススタディ【ケース1】「入院拒否後、自宅で死亡。家族対応はどうすべき?」(後編)12位わかる統計教室第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション2 よくあるオッズ比の間違った解釈13位わかる統計教室第1回 カプランマイヤー法で生存率を評価するセクション2 カプランマイヤー法で累積生存率を計算してみる14位わかる統計教室第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション3 オッズ比の使い道15位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(4)再発予防と対応16位特集:アナフィラキシー 症例クイズ(2)海外出張中に救急搬送されたアレルギー体質の35歳・男性の例17位わかる統計教室第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション1 分割表とリスク比18位Dr.倉原の“おどろき”医学論文第45回 急性心筋梗塞に匹敵するほど血清トロポニンが上昇するスポーツ19位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ7.抗菌薬を投与する際、内服・点滴のどちらにするか悩むことがたびたびあります。20位診療よろず相談TV シーズンII第10回「脂質異常症」(回答者:寺本内科歯科クリニック / 帝京大学臨床研究センター長 寺本 民生氏)Q3.LDL、下げ過ぎによるリスクは?21位特集:成人市中肺炎 症例クイズ(2)「何にでも効く薬」は本当に「何にでも効く」のか?22位CLEAR!ジャーナル四天王LancetとNEJM、同じデータで割れる解釈; Door-to-Balloon はどこへ向かうか?(解説:香坂 俊 氏)23位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ5.インフルエンザ感染で、WBCやCRPはどのように変化するか?24位斬らレセプト ―査定されるレセプトはこれ!事例61 「初診料 休日加算」の査定25位Cardiologistへの道@Stanford第6回 会員からのリクエスト「米国医師の給与について」26位アリスミアのツボQ22. 発作性心房細動はやがてどうなるの?27位わかる統計教室第1回 カプランマイヤー法で生存率を評価するセクション4 カプランマイヤー法の生存曲線を比較する28位スキンヘッド脳外科医 Dr. 中島の 新・徒然草五十五の段 責任とってねテレビ局29位Dr.小田倉の心房細動な日々~ダイジェスト版~テレビなど健康番組を見る患者さんへの説明用資料30位患者向けスライド期外収縮の患者さんへの説明

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事例29 ツロブテロール(商品名: ホクナリン テープ)1mgの査定【斬らレセプト】

解説事例では、熱発にて初診を行なった7歳の患者に対して処方したツロブテロール(ホクナリン®)テープ1mgが、A事由(医学的に適応と認められないもの)を理由に査定となった。医師から、コメントで「咳が激しい」と訴えたが査定となった。その理由は何かと問い合わせがあり、調べてみた。レセプトを確認すると、傷病名欄には急性上気道炎のみの記載であった。他には急性上気道炎に対する薬剤が処方されているのみであった。急性上気道炎に対してホクナリン®テープの適応があるかどうか添付文書を精査した。添付文書の効能・効果には、「気管支喘息、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫の気道閉塞性障害に基づく呼吸困難など諸症状の緩解に適応する」とある。したがって、レセプトに記載された急性上気道炎のみでは医学的に適用が認められないとしてA事由にて査定となったものであろう。経験則では、インフルエンザなどの医学的に気管支炎を伴う疾病が記載されていれば、急性気管支炎などの適用病名を記載しなくても査定となっていない。しかし、査定が増えている薬剤であるので、留意して算定をお願いしたい。

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喘息様気管支炎と診断した乳児が自宅で急死したケース

小児科最終判決判例タイムズ 844号224-232頁概要1歳1ヵ月の乳児。37.5℃の発熱と喘鳴を主訴に休日当番医を受診し、喘息性気管支炎と診断され注射と投薬を受けて帰宅した。ところが、まもなく顔面蒼白となり、救急車で再び同医を受診したが、すでに心肺停止、瞳孔散大の状態であったため、救命蘇生措置は行われず死亡確認となった。司法解剖では、肺水腫による肺機能障害から心不全を起こして死亡したものと推定された。詳細な経過経過1983年12月31日この頃から風邪気味であった。1984年1月1日37.2℃の発熱あり。1月2日午後37.5℃に上がり、声がしわがれてぜいぜいし、下痢をしたので、16:20頃A医院を受診。待合室で非常にぜいぜいと肩で息をするようになったため、17:20頃順番を繰り上げて診察を受ける。強い呼吸困難、喘鳴、声がれ、顔面蒼白、腹壁緊張減弱、皮膚光沢なし、胸部ラ音、下痢などの症状を認め、喘息性気管支炎と診断。担当医師は経過観察、ないしは入院の必要があると判断したが、地域の救急患者の転送受け入れをする輪番制の病院がないものと考え、転院の措置をとらなかった。呼吸困難改善のため、スメルモンコーワの注射(適応は急性気管支炎や感冒・上気道炎に伴う咳嗽)と、アセチルロイコマイシンシロップなどの投薬をし、隣室ベッドで待つように指示した。18:00若干呼吸困難が楽になったように感じたため、容態急変した場合には夜間診療所を受診するように指示されて帰宅した。18:20帰宅時、顔面が蒼白になり唇が青くなっていたため、救急車を要請。その直後急に立ち上がり、目を上に向け、唇をかみしめ、まったく動かなくなった。18:54救急車でA医院に到着したが、すでに心肺停止、瞳孔散大の状態であり、心肺蘇生術を施さずに死亡が確認された。司法解剖の結果、「結果的には肺水種による肺機能障害により死亡したものと推定」し、その肺水腫の原因として、(1)間質性肺炎(2)乳幼児急死症候群(SIDS)(3)感染によるエンドトキシンショック(4)薬物注射による不整脈(5)薬物ショックとそれに続く循環障害などが考えられるが、結論的には不詳とされた。当事者の主張患者側(原告)の主張1.医師の過失1回目の診察時にすでに呼吸不全に陥っているのを認めたのであるから、ただちに入院させて、X線写真、血液検査などの精査を行うとともに、気道確保、酸素吸入、人工換気などの呼吸管理、呼吸不全、心不全などの多臓器障害の防止措置などを行うべき義務があったのに、これらを怠った2.経過観察義務違反・転医措置義務違反呼吸不全を認めかつ入院の必要を認めたのであるから、少なくとも症状の進行、急変に備え逐一観察すべき義務があったのに怠った。さらに、転医を勧告するなど、緊急治療措置ないし検査を受けさせ、あるいは入院する機会を与えるべき義務があったのに、転医措置を一切講じなかった3.救命蘇生措置義務違反心肺停止で救急搬送されたのは、心臓停止後わずか10分程度しか経過していない時点であり救命措置をとるべき義務があったのに、これを怠った4.死因喘息性気管支炎から肺炎を引き起こして肺水腫となり、肺機能障害から心不全となって死亡した。病院側が主張する乳幼児突然死症候群(SIDS)ではない病院側(被告)の主張1.医師の過失死因が不明である以上、医師がどのような治療方法を講じたならば救命し得たかということも不明であり、不作為の過失があったとしても死亡との因果関係はない。しかも最初の診察を受けたのが17:20頃であり、死亡が18:10ないし18:25とすると、診療を開始してから死亡するまでわずか50~60分の時間的余裕しかなかったため、死亡の結果を回避することは不可能であった。また、当日は休日当番医で患者が多く(130名の患者で混みあっており、診察時も20~30名の患者が待っていた)、原告らの主張する治療措置を講ずべきであったというのは甚だ酷にすぎる2.経過観察義務違反・転医措置義務違反同様に、診療開始から50~60分の時間的余裕しかなかったのであれば、大規模医療施設に転送したからといって、死亡の結果を免れさせる決め手にはならなかった3.死因肺水腫による肺機能障害から心不全を起こして死亡したと推定されていて、肺水腫の原因として間質性肺炎、乳幼児突然死症候群などが挙げられているものの特定できず、結局死因は不明というほかない裁判所の判断1. 死因強い呼吸困難、喘鳴、顔面蒼白、腹壁緊張減弱、胸部ラ音、下痢などの臨床症状があったこと、肺浮腫、肺うっ血が、乳幼児突然死症候群に伴うような微小なものではなく、著しいあるいは著明なものであったことなどからすると、肺炎から肺水腫を引き起こして肺機能障害を来し、直接には心不全により死亡したものと考えられる(筆者注:司法解剖の所見で「死因は不詳」と判断されているにもかかわらず、裁判所が独自に死因を特定している)。2. 医師の過失原告の主張をそのまま採用。加えて、もし大規模病院へ転送するとしたら、酸素そのほかの救急措置が何らとられないまま搬送されるとも考えられないので、診察から死亡までの50~60分の間に適切な措置をとるのは困難であり死亡は免れなかったとする主張は是認できない。当時休日診療で多忙をきわめていたとしても、人命にかかわる業務に従事する医師としては、通常の開業医としての医療水準による適切な治療措置を施すべき義務を負うものであり、もし自らの能力を超えていて、自院での治療措置が不可能であると考えれば、ほかの病院に転送するべきであった。3. 経過観察義務違反・転医措置義務違反失原告の主張をそのまま採用。4. 救命蘇生措置義務違反救急車で来院した18:54頃には、呼吸停止、心停止、瞳孔の散大の死の3徴候を認めていたので、心肺蘇生術を実施しても救命の可能性があったかどうか疑問であり、その効果がないと判断して心肺蘇生術を実施しなかったのは不当ではない。原告側合計2,339万円の請求どおり、2,339万円の判決考察この事例は医師にとってかなり厳しい判決となっていますが、厳粛に受け止めなければならない重要な点が多々含まれていると思います。まず、本件は非常に急激な経過で死亡に至っていますので、はたしてどうすれば救命できたかという点について検討してみます。担当医師が主張しているとおり、最初の診察から死亡までわずか60分程度ですので、確かにすぐに大規模病院に転送しても、死亡を免れるのは至難の業であったと思います。裁判所は、「酸素などを投与していれば救命できたかも知れない」という理由で、医師の過失を問題視していますが、酸素投与くらいで救命できるような状況ではなかったと推定されます。おそらく、すぐに気管内挿管を施し、人工呼吸器管理としなければならないほど重症であり、担当医師が診察後すぐに救急車で総合病院に運んだとしても、同じ結果に終わったという可能性も考えられます。ここで問題なのは、当初から重症であると認識しておきながら、その次のアクションを起こさなかった点にあると思います。もし最初から、「これは重症だからすぐに総合病院へ行った方がよい」と一言家族に話していれば、たとえ死亡したとしても責任は及ばなかった可能性があります。次にこのようなケースでは、たとえ当時の状況が患者さんがあふれていて多忙をきわめていたとしても、まったく弁解にはならないという点です。とくに「人命にかかわる業務に従事する医師としては、病者を保護すべきものとして通常の開業医としての医療水準による適切な治療措置を施すべき義務がある」とまで指摘されると、抗弁の余地はまったくありません。当然といえば当然なのですが、手に負えそうにない患者さんとわかれば、早めに後方病院へ転送する手配をするのが肝心だと思います。最後に、ここまでは触れませんでしたが、本件では裁判官の心証を著しく悪くした要因として、「カルテの改竄」がありました。1回目の診察でスメルモンコーワの注射に際し(通常成人には1回0.5ないし1.0mL使用)、病院側は「0.3mL皮下注射した」と主張しています。ところがカルテには「スメルモン1.0」と記載し、保険請求上1アンプル使用したという旨であると説明され、さらに1行隔てた行外に「0.3」と記載されており、どうやら1歳1ヵ月の乳児にとっては過量を注射した疑いがもたれました。この点につき裁判所は、「0.3」の記載の位置と体裁は、不自然で後に書き加えられたものであることが窺われ、当時真実の使用量を正確に記載したものであるかどうかは疑わしいと判断し、さらに「診療録にはそのほかにも数カ所、後に削除加入されたとみられる記載がある」とあえて指摘しています。実際のカルテをみていないので真実はどうであったのかはわかりませんが、このような行為は厳に慎むべきであり、このためもあってか裁判では患者側の要求がすべて通りました。日常診療でこまめにカルテを書くことは大変重要ですが、後から削除・加筆するというのは絶対してはならないことであり、もし事情があって書き換える場合には、その理由をきちんと記載しておく必要があると思います。小児科

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麻疹の流行、どう対応する

今年に入り患者数の増加が目立つ麻疹について、国立国際医療研究センター感染症内科/国際感染症センターの忽那賢志氏に、流行の現状と医療者の対応について聞いた。麻疹流行の現状本年第1~8週までの麻疹患者数は199例(2013年12月30日~2014年2月23日)と、すでに昨年1年間の麻疹患者数を超えている。昨年同期比では3.3倍と、季節性を考慮しても大きな増加である。この傾向は、昨年11月頃よりあらわれているという。麻疹は昨年からフィリピンで流行しているが、フィリピンから帰国感染者がわが国での流行の発端となっている。そこから拡大し、現在では海外渡航歴のない感染者も多い。参考:国立感染症研究所IDWRhttp://www.nih.go.jp/niid/ja/measles-m/measles-idwrc.html日本人における麻疹の問題日本人には麻疹の抗体がない方、あっても不十分な方は少なくないという。その原因のひとつは麻疹ワクチンの接種率である。麻疹ワクチンは、MMRワクチンの副作用の影響を受け、1990年代に接種率が減少している。また、ワクチン接種回数の問題もある。麻疹ワクチンは1976年に定期接種となったが、当初は1回接種であった。1回接種の場合、5%程度の方に抗体ができない、あるいは出来ても成人になって抗体が減衰することがある。2006年に麻疹ワクチンは2回接種となったものの接種率は高くなく、生涯ワクチン接種が1回で麻疹に罹患歴がないなど、麻疹ウイルスに対して免疫を持ってない成人が、わが国では7万人いるといわれる。麻疹はわが国における非常に重要な医療問題の一つだと忽那氏は訴える。麻疹の感染力は非常に強く、インフルエンザの約8倍、風疹の約2倍である(基本再生産数に基づく)。また、重症化することが多く、発展途上国では現在も年間50万人以上が死亡する。わが国でも、年間20~30人の麻疹関連死がある。さらに、肺炎、脳炎・脳症などの合併症を伴うこともあり予後も不良である。医療者の対応このような中、医療者はどう対応すべきであろうか。麻疹患者の受診に備え、忽那氏はいくつかの留意点を挙げた。医療者自身に麻疹の抗体があるか確認する麻疹(疑い)患者の診療は抗体のある医療者が行う当然のことではあるが、医療者自身が抗体価を測定し、基準値に達していなければワクチンを接種するべきである。ワクチン接種しても抗体価が上がらない方もいるが、これまでに1回しか接種していないのであれば、2回接種するべきであろう。疑い患者であっても陰圧個室で診察する麻疹は空気感染で伝播するため、周囲の患者さんや医療者に感染することも十分考えられる。疑い患者であっても隔離して陰圧個室で診療すべきである。東南アジア渡航歴があり発熱・上気道症状を呈している患者では麻疹を鑑別に加える麻疹は初期段階では診断が付けにくいケースもあるという。麻疹初期には発熱や上気道炎症状やといった症状(カタル症状)が出現するものの、皮疹が発現せず、数日後に皮疹が出てはじめて麻疹とわかることもある。このカタル症状の病期であっても感染力は強いため、皮疹が確認できなくとも、東南アジアなど麻疹が発生している国の渡航歴があり発熱がある場合は鑑別のひとつとして考えるべきである。また国内でも麻疹は増えており、渡航歴のない患者でも麻疹を疑う閾値を低くしておく必要がある。麻疹罹患歴があっても疑わしければ確認する幼少期の麻疹の診断は臨床症状のみに基いてで行っていることが多い。そのため、たとえ患者さんが麻疹の既往を訴えても、実際には麻疹ではなく風疹やその他の感染症であったということも考えられる。過去の罹患歴があるという場合も臨床的に麻疹が疑われる場合は、感染者との接触、ワクチン接種歴などを確認し、他の診断が確定するまでは麻疹として対応するのが望ましい。東南アジアでの麻疹は拡大し、現在はベトナムでも流行しているという。今後のわが国での大流行を防ぐためにも、流行の動向に留意しておくべきであろう。

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検査所見の確認が遅れて心筋炎を見落とし手遅れとなったケース

循環器最終判決判例時報 1698号98-107頁概要潰瘍性大腸炎に対しステロイドを投与されていた19歳男性。4日前から出現した頭痛、吐き気、血の混じった痰を主訴に近医受診、急性咽頭気管支炎と診断して抗菌薬、鎮咳薬などを処方した。この時胸部X線写真や血液検査を行ったが、結果は後日説明することにして帰宅を指示した。ところが翌日になっても容態は変わらず外来再診、担当医が前日の胸部X線写真を確認したところ肺水腫、心不全の状態であった。急性心筋炎と診断してただちに入院治療を開始したが、やがて急性腎不全を合併。翌日には大学病院へ転送し、人工透析を行うが、意識不明の状態が続き、初診から3日後に死亡した。詳細な経過患者情報19歳予備校生経過1992年4月10日潰瘍性大腸炎と診断されて近所の被告病院(77床、常勤内科医3名)に入院、サラゾスルファピリジン(商品名:サラゾピリン)が処方された。1993年1月上旬感冒症状に続き、発熱、皮膚の発赤、肝機能障害、リンパ球増多がみられたため、被告病院から大学病院に紹介。2月9日大学病院に入院、サラゾピリン®による中毒疹と診断されるとともに、ステロイドの内服治療が開始された。退院後も大学病院に通院し、ステロイドは7.5mg/日にまで減量されていた。7月10日頭痛を訴えて予備校を休む。次第に食欲が落ち、頭痛、吐き気が増強、血の混じった痰がでるようになった。7月14日10:00近所の被告病院を初診(以前担当した消化器内科医が診察)。咽頭発赤を認めたが、聴診では心音・肺音に異常はないと判断(カルテにはchest clearと記載)し、急性咽頭気管支炎の診断で、抗菌薬セフテラムピボキシル(同:トミロン)、制吐薬ドンペリドン(同:ナウゼリン)、鎮咳薬エプラジノン(同:レスプレン)、胃薬ジサイクロミン(同:コランチル)を処方。さらに胸部X線写真、血液検査、尿検査、喀痰培養(一般細菌・結核菌)を指示し、この日は検査結果を待つことなくそのまま帰宅させた(診察時間は約5分)。帰宅後嘔気・嘔吐は治まらず一段と症状は悪化。7月15日10:30被告病院に入院。11:00診察時顔面蒼白、軽度のチアノーゼあり。血圧70/50mmHg、湿性ラ音、奔馬調律(gallop rhythm)を聴取。ただちに前日に行った検査を取り寄せたところ、胸部X線写真:心臓の拡大(心胸郭比53%)、肺胞性浮腫、バタフライシャドウ、カーリーA・Bラインがみられた血液検査:CPK 162(20-100)、LDH 1,008(100-500)、白血球数15,300、尿アセトン体(4+)心電図検査:心筋梗塞様所見であり急性心不全、急性心筋炎(疑い)、上気道感染による肺炎と診断してただちに酸素投与、塩酸ドパミン(同:イノバン)、利尿薬フロセミド(同:ラシックス)、抗菌薬フロモキセフナトリウム(同:フルマリン)とトブラマイシン(同:トブラシン)の点滴、ニトログリセリン(同:ニトロダームTTS)貼付を行う。家族へは、ステロイドを服用していたため症状が隠されやすくなっていた可能性を説明した(この日主治医は定時に帰宅)。入院後も吐き気が続くとともに乏尿状態となったため、非常勤の当直医は制吐薬、昇圧剤および利尿薬を追加指示したが効果はなく、人工透析を含むより高度の治療が必要と判断した。7月16日主治医の出勤を待って転院の手配を行い、大学病院へ転送。11:00大学病院到着。腎不全、心不全、肺水腫の合併であると家族に説明。14:00人工透析開始。18:00容態急変し、意識不明となる。7月17日01:19死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張1.病因解明義務初診時に胸部X線写真を撮っておきながら、それを当日確認せず心筋炎、肺水腫を診断できなかったのは明らかな過失である。そして、胸部X線で肺水腫があれば湿性ラ音を聴取することができたはずなのに、異常なしとしたのは聞き漏らしたからである2.転院義務初診時の病態はただちに入院させたうえで集中治療を開始しなければならない重篤なものであり、しかも適切な治療設備がない被告病院であればただちに治療可能な施設へ転院させるべきなのに、病因解明義務を怠ったために転院措置をとることができなかった初診時はいまだ危機的状況とまではいえなかったので、適切な診断を行って転院措置をとっていれば救命することができた病院側(被告)の主張1.病因解明義務初診時には急性咽頭気管支炎以外の異常所見がみられなかったので、その場でX線写真を検討しなかったのはやむを得なかった。また、心筋炎があったからといって必ず異常音が聴取されるとはいえないし、患者個人の身体的原因から異常音が聴取されなかった可能性がある2.転院義務初診時の症状を急性咽頭気管支炎と診断した点に過失がない以上、設備の整った病院に転院させる義務はない。仮に当初から心筋炎と診断して転院させたとしても、その重篤度からみて救命の可能性は低かったさらに大学病院の医師から提案されたPCPS(循環補助システム)による治療を家族らが拒否したことも、死亡に寄与していることは疑いない裁判所の判断当時の状況から推定して、初診時から胸部の異常音を聴取できるはずであり、さらにその時実施した胸部X線写真をすぐに確認することによって、肺水腫や急性心筋炎を診断することは可能であった。この時点ではKillip分類class 3であったのでただちに入院として薬物療法を開始し、1時間程度で病態の改善がない時には機械的補助循環法を行うことができる高度機能病院に転院させる必要があり、そうしていれば高度の蓋然性をもって救命することができた。初診患者に上記のような判断を求めるのは、主治医にとって酷に過ぎるのではないかという感もあるが、いやしくも人の生命および健康を管理する医業に従事する医師に対しては、その業務の性質に照らし、危険防止のため必要とされる最善の注意義務を尽くすことが要求されることはやむを得ない。原告側合計7,998万円の請求に対し、7,655万円の判決考察「朝から混雑している外来に、『頭痛、吐き気、食欲がなく、痰に血が混じる』という若者が来院した。診察したところ喉が赤く腫れていて、肺音は悪くない。まず風邪だろう、ということでいつも良く出す風邪薬を処方。ただカルテをみると、半年前に潰瘍性大腸炎でうちの病院に入院し、その後大学病院に移ってしまった子だ。どんな治療をしているの?と聞くと、ステロイドを7.5mg内服しているという。それならば念のため胸部X線写真や採血、痰培をとっおけば安心だ。ハイ次の患者さんどうぞ・・・」初診時の診察時間は約5分間とのことですので、このようなやりとりがあったと思います。おそらくどこでも普通に行われているような治療であり、ほとんどの患者さんがこのような対処方法で大きな問題へと発展することはないと思います。ところが、本件では重篤な心筋炎という病態が背後に潜んでいて、それを早期に発見するチャンスはあったのに見逃してしまうことになりました。おそらく、プライマリケアを担当する医師すべてがこのような落とし穴にはまってしまうリスクを抱えていると思います。ではどのような対処方法を採ればリスク回避につながるかを考えてみると、次の2点が重要であると思います。1. 風邪と思っても基本的診察を慎重に行うこと今回の担当医は消化器内科が専門でした。もし循環器専門医が患者の心音を聴取していれば、裁判官のいうようにgallop rhythmや肺野の湿性ラ音をきちんと聴取できていたかも知れません。つまり、混雑している外来で、それもわずか5分間という限定された時間内に、循環器専門医ではない医師が、あとで判明した心筋炎・心不全に関する必要な情報を漏れなく入手することはかなり困難であったと思われます。ところが裁判では、「いやしくも人の生命および健康を管理する医業に従事する医師である以上、危険防止のため必要とされる最善の注意義務を尽くさなければいけない」と判定されますので、医学生の時に勉強した聴打診などの基本的診察はけっしておろそかにしてはいけないということだと思います。私自身も反省しなければいけませんが、たとえば外来で看護師に「先生、風邪の患者さんをみてください」などといわれると、最初から風邪という先入観に支配されてしまい、とりあえずは聴診器をあてるけれどもざっと肺野を聞くだけで、つい心音を聞き漏らしてしまうこともあるのではないでしょうか。今回の担当医はカルテに「chest clear」と記載し、「心音・肺音は確かに聞いたけれども異常はなかった」と主張しました。ところが、この時撮影した胸部X線写真にはひどい肺水腫がみられたので、「異常音が聴取されなければおかしいし、それを聞こえなかったなどというのはけしからん」と判断されています。多分、このような危険は外来患者のわずか数%程度の頻度とは思いますが、たとえ厳しい条件のなかでも背後に潜む重篤な病気を見落とさないように、慎重かつ冷静な診察を行うことが、われわれ医師に求められることではないかと思います。2. 異常所見のバックアップ体制もう一つ本件では、せっかく外来で胸部X線写真を撮影しておきながら「急現」扱いとせず、フィルムをその日のうちに読影しなかった点が咎められました。そして、そのフィルムには誰がみてもわかるほどの異常所見(バタフライシャドウ)があっただけに、ほんの少しの配慮によってリスクが回避できたことになります。多くの先生方は、ご自身がオーダーした検査はなるべく早く事後処理されていることと思いますが、本件のように異常所見の確認が遅れて医事紛争へと発展すると、「見落とし」あるいは「注意義務違反」と判断される可能性が高いと思います。一方で、多忙な外来では次々と外来患者をこなさなければならないというような事情もありますので、すべての情報を担当医師一人が把握するにはどうしても限界があると思います。そこで考えられることは、普段からX線技師や看護師、臨床検査技師などのコメデイカルと連携を密にしておき、検査担当者が「おかしい」と感じたら(たとえ結果的に異常所見ではなくても)すぐに医師へ報告するような体制を準備しておくことが重要ではないかと思います。本件でも、撮影を担当したX線技師が19歳男子の真っ白なX線写真をみて緊急性を認識し、担当医師の注意を少しでも喚起していれば、医事紛争とはならないばかりか救命することができた可能性すらあると思います。往々にして組織が大きくなると縦割りの考え方が主流となり、医師とX線技師、医師と看護師の間には目にみえない壁ができてセクショナリズムに陥りやすいと思います。しかし、現代の医療はチームで行わなければならない面が多々ありますので、普段から勉強会を開いたり、症例検討会を行うなどして医療職同士がコミュニケーションを深めておく必要があると思います。循環器

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