32.
Q5インフルエンザウイルス感染の有無のチェックには迅速検査がありますが、このとき血液検査ではWBC・CRPは一般的にはどのような変化をしているものでしょうか?肺炎などの合併症を伴わないインフルエンザウイルス感染症ではWBC、CRPはあまり上がらないことが多いようです。米国の1999〜2000年の研究では、WBC数のカットオフ値を8,000/μLにした場合、インフルエンザの診断について感度92%、特異度31%(陽性尤度比1.33、陰性尤度比0.26)と報告されています1)。また、WBC数が10,000/μLを超えたインフルエンザ患者は241人中6人(2.5%)でした。2009年のH1N1インフルエンザシーズンに市中肺炎の疑いで入院した患者を対象にした韓国の研究によると、RT-PCRでH1N1インフルエンザが陽性の肺炎と陰性の肺炎を比較した場合、白血球数、初回CRP値ともにH1N1陽性肺炎のほうが低かったという結果でした(表1)2)。ただし、H1N1陽性肺炎では59人中15人で細菌培養陽性だったので、細菌感染合併例も含まれます。表1:RT-PCRでH1N1インフルエンザが陽性の肺炎と陰性の肺炎の比較2)より※IQR: interquartile rangeまた、2008〜2011年に救急外来をインフルエンザ様症状で受診した患者を対象にした米国の研究によると、細菌感染症ではインフルエンザよりもWBC数、CRP値ともに高かったという結果でした(表2:平均値と95%信頼区間を呈示)3)。CRP値が2mg/dL未満であれば、細菌感染症の可能性は低く、8mg/dLを超えていると細菌感染症の可能性が高いと報告されています。表2:インフルエンザ様症状で救急外来を受診した患者のWBC数、CRP値3)よりどれも小規模な研究ですので、これらの結果のみで断言はできませんが、WBC数が10,000/μLを超えている場合やCRP値が8mg/dLを超えている場合は、細菌性肺炎の合併に注意する必要はありそうです。最後に、これらの情報の日本の医療現場での適用を考えてみたいと思います。インフルエンザを疑うような患者で血液検査を行おうと思った時点で、それなりに重症かもしれないと想定しているのではないでしょうか。そのような患者では血液検査と一緒に胸部画像検査もオーダーされていることが多いかもしれません。だとすれば、血液検査の結果によって胸部画像検査の適応が左右されることは実際上少ないかもしれません。役に立つシチュエーションを考えてみると、画像検査はすぐに施行できないけれども、血液検査のWBC数やCRP値の結果はすぐに得られるという施設で診療を行う場合や、胸部レントゲンでいったんは肺炎なしと判断したものの、血液検査の結果をみてもう一度画像を見直す、といった場合でしょうか。参考文献1)Hulson TD, et al. The Journal of family practice. 2001; 50: 1051-1056.2)Sohn CH, et al. Academic emergency medicine 2013; 20: 46-53.3)Haran JP, et al. The American journal of emergency medicine. 2013; 31: 137-144.