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久保 隆史 氏和歌山県立医科大学循環器内科Examination of the in vivo mechanisms of late drug-eluting stent thrombosis.Findings from optical coherence tomography and intravascular ultrasound imaging.Guagliumi G et al. J Am Coll Cardiol Intv. 2012; 5: 12-20.Summary薬物溶出性ステント(drug-eluting stent:DES)は冠動脈インターベンション後の再狭窄を劇的に減少させたが、ステント血栓症は今もなお解決できない重要な課題として残されている。これまでの病理学的研究によると、DES留置後の治癒遅延や炎症反応の誘導、内皮化の欠落が、遅発性ステント血栓症の原因となる可能性があるといわれてきた。本研究では、光干渉断層法(opticalcoherence tomography:OCT)と血管内超音波(intravascular ultrasound:IVUS)を用いて、DESの遅発性ステント血栓症に関わる因子について調査した。著者らは、DES留置後に遅発性ステント血栓症(DES植え込み後172~1,836日)をきたした18例と、DES植え込みから無症状に3年以上経過した症例でステントの種類やサイズを一致させた36例のコントロール群を対象に、OCTとIVUSの所見を比較した。OCTによると、新生内膜の厚さは両群間で差はなかったが、遅発性ステント血栓症をきたした症例では、コントロール群に比べて新生内膜により被覆されていないステントストラット(12% vs. 4%, p=0.001)やステントマルアポジション(5% vs. 2%, p=0.001)が高頻度に検出された。一方、IVUSによると、最小ステント断面積はそれぞれ5.7mm2と5.9mm2であり、ステントの拡張は両群間で差がなかった。しかし、ステント留置部の血管断面積は遅発性ステント血栓症をきたした症例で大きく、リモデリングインデックスは有意に高値であった(1.2 vs. 1.0, p<0.001)。多変量解析の結果、新生内膜により被覆されていないステントストラットの長軸方向への広がり(オッズ比2.45, 95%信頼区間 1.27-4.73, p=0.007)と、リモデリングインデックス(オッズ比1.05, 95%信頼区間 1.01-1.11, p=0.019)が遅発性ステント血栓症の独立した関連因子であった。DiscussionDES留置後の遅発性ステント血栓症は、単一の原因によるものではなく、いくつかの因子が複雑に絡み合って発症する。Virmaniらは、剖検例による病理学的検討により、ステントの新生内膜による被覆不全がDESの遅発性ステント血栓症に関連し、30%以上のステントストラットが新生内膜により被覆されていない場合、遅発性ステント血栓症の危険性が高まることを報告した。また、Katoらは、DESは留置後12か月まで新生内膜による被覆化が進むが、ステントが完全に被覆されるのはむしろ稀であるとしている。標的病変のプラーク性状も遅発性ステント血栓症の発症に関与する。Lüscherらは、壊死性コアに富んだアテローマ病変にDESを植え込んだ場合に、治癒遅延や内皮化不全が起こりやすいことを明らかにした。Cookらは、IVUSを用いた検討において、遅発性ステント血栓症ではステントマルアポジションや陽性リモデリングの頻度が高いことを報告した。DESでは、留置直後からのステントマルアポジションが修復されず持続するばかりでなく、継時的に血管が陽性リモデリングをきたし、2次的にステントマルアポジションが生じることも知られている。これには、DESによる炎症や血管毒性、過敏反応が関与しており、病変部では血管拡張を伴う中膜壊死や過剰なフィブリンの沈着が観察されることが多い。またHigoらは、血管内視鏡により、DESの新生内膜はアテローマと同様の黄色調を呈すことが多く、新生内膜に新たな動脈硬化性変化が生じていることを報告した。DESは、炎症や過敏反応を介して、このneoatherosclerosisを加速させる可能性がある。本研究においても、2症例でDES内の新生内膜もしくはDESに近接したプラークの破綻による遅発性ステント血栓症が観察されている。さらに、本研究では少なくとも1例で高度な再狭窄病変における遅発性ステント血栓症が観察されている。再狭窄もまたステント内血栓形成と関連するが、DESの新生内膜では抗血栓作用が減弱している可能性がある。このように、ステント血栓症の原因は多元的であるが、近年のOCTをはじめとした血管内画像診断技術の発展は目覚ましく、冠動脈の微細な病理組織学的所見を日常臨床の場で得ることを可能にした。今後さらなるエビデンスの積み重ねが必要ではあるが、OCTは冠動脈インターベンションの適正化やステント血栓症のリスク評価、抗血小板薬中止時期の決定において重要な情報を提供し得ると期待される。