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日本人超高齢の心房細動、エドキサバン15mgは有益/NEJM

 標準用量の経口抗凝固薬投与が適切ではない、非弁膜症性心房細動(AF)の日本人超高齢患者において、1日1回15mg量のエドキサバンは、脳卒中または全身性塞栓症の予防効果がプラセボより優れており、大出血の発生頻度はプラセボよりも高率ではあるが有意差はなかったことが示された。済生会熊本病院循環器内科最高技術顧問の奥村 謙氏らが、超高齢AF患者に対する低用量エドキサバンの投与について検討した第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベントドリブン試験の結果で、NEJM誌オンライン版2020年8月30日号で発表された。超高齢AF患者の脳卒中予防のための経口抗凝固薬投与は、出血への懸念から困難と判断されることが少なくない。エドキサバン15mgを標準用量が懸念される超高齢AF患者で試験 試験は、非弁膜症性AFを有する日本人超高齢患者(80歳以上)で、いずれも脳卒中予防のために承認用量での経口抗凝固療法について適切ではないと見なされる患者であった。 被験者を1対1の割合で無作為に割り付け、エドキサバン15mgを1日1回またはプラセボを投与し追跡した。 主要有効性エンドポイントは、脳卒中・全身性塞栓症の複合とし、主要安全性エンドポイントは、国際血栓止血学会の定義に基づく大出血とした。エドキサバン15mgが脳卒中・全身性塞栓症を有意に抑制 2016年8月5日~2019年11月5日に984例の患者が無作為化を受け、エドキサバン1日1回15mg(492例)、またはプラセボ(492例)を投与された。被験者の平均年齢は86.6±4.2歳、低体重(平均50.6±11.0kg)、腎機能は低下(平均クレアチニンクリアランス36.3±14.4mL/分)、40.9%の被験者がフレイルに分類された。最終フォローアップは2019年12月27日。試験期間中央値は466.0日(IQR:293.5~708.0)であった。 681例が試験を完了し、303例は試験を中止した(158例が中止、135例が死亡、10例がその他の理由による)。試験を中止した患者数は2群で同等であった。 脳卒中または全身性塞栓症の年間発現頻度は、エドキサバン15mg群2.3%/年、プラセボ群6.7%/年(ハザード比[HR]:0.34、95%信頼区間[CI]:0.19~0.61、p<0.001)であった。また、大出血の年間発現頻度は、エドキサバン15mg群3.3%/年、プラセボ群1.8%/年(1.87、0.90~3.89、p=0.09)であった。 エドキサバン15mg群はプラセボ群に比べて、消化管出血イベントが有意に多かった。あらゆる原因による死亡については、両群間で実質的な違いはみられなかった(エドキサバン15mg群9.9%、プラセボ群10.2%、HR:0.97、95%CI:0.69~1.36)。

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非心臓手術後の新規AF、脳卒中リスクを増大/JAMA

 非心臓手術を受けた患者において、術後30日間に新規の心房細動(AF)を発症した患者は非発症患者と比較して、虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)のリスクが有意に増大することが、米国・メイヨー・クリニックのKonstantinos C. Siontis氏らによる550例を対象とした後ろ向きコホート試験で示された。非心臓手術後に発症したAFのアウトカムについて明らかになっていない中で今回の試験は行われたが、得られた所見について著者は「抗凝固療法の必要性など、今回の所見を術後AFの治療に適用するには、無作為化試験による検討が必要である」と述べている。JAMA誌2020年9月1日号掲載の報告。非心臓手術後の新規AF群vs.非発症対照群の非致死的・致死的アウトカムを評価 研究グループは、非心臓手術後のAF新規発症vs.非発症の、非致死的・致死的アウトカムリスクとの関連を調べるため、米国ミネソタ州オルムステッド郡で、2000~13年に、非心臓手術後30日以内に記録された新規AFを発症した550例を対象に、後ろ向きコホート試験を行った。 対象患者のうち452例について、年齢、性別、手術実施年、手術の種類でマッチングを行い、非心臓手術後30日以内に新規AFを診断されなかった患者(非AF群)452例を対照群と設定。両群のアウトカム発生を2018年12月31日まで追跡した。 主要アウトカムは、虚血性脳卒中またはTIAの発症だった。副次アウトカムは、術後30日超に発症し記録されたAF、全死因死亡、心血管死だった。非心臓手術後AF発症群、非発症群に比べ高CHA2DS2-VAScスコア 合計904例を対象にマッチング解析を行った。被験者の年齢中央値は75歳(IQR:67~82)、患者の51.8%は男性だった。また、非心臓手術後AF群は非AF群に比べ、CHA2DS2-VAScスコア中央値は有意に高かった(術後AF群4[IQR:2~5]、非AF群3[2~5]、p<0.001)。 中央値5.4年(IQR:1.4~9.2)の追跡期間中に、虚血性脳卒中またはTIAは71件、術後30日超のAFは266件、死亡は571件で、うち172件が心血管関連死だった。 非AF群の虚血性脳卒中・TIAの発症率は10.0/1,000患者年だったのに対し、非心臓手術後AF群は18.9/1,000患者年と統計学的に有意にリスクが高かった(5年時の絶対リスク差[RD]:4.7%[95%信頼区間[CI]:1.0~8.4]、ハザード比[HR]:2.69[95%CI:1.35~5.37])。 また、非心臓手術後30日超のAF発症率も、非AF群21.6/1,000患者年に対し、非心臓手術後AF群は136.4/1,000患者年(5年時絶対RD:39.3%[95%CI:33.6~45.0]、HR:7.94[95%CI:4.85~12.98])、全死因死亡率はそれぞれ86.8/1,000患者年と133.2/1,000患者年(5年時絶対RD:9.4%[4.9~13.7]、HR:1.66[1.32~2.09])とAF群のリスクが統計学的に有意に高かった。心血管死発症率は25.0/1,000患者年と42.5/1,000患者年(5年時絶対RD:6.2%[2.2~10.4]、HR:1.51[0.97~2.34])で有意差は認められなかった。

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抗凝固薬非適応TAVI例、アスピリン単独 vs.DAPT/NEJM

 経口抗凝固薬の適応がない経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)を受けた患者では、3ヵ月間のアスピリン投与はアスピリン+クロピドグレル併用に比べ、1年後の出血や出血・血栓塞栓症の複合の発生が有意に少ないことが、オランダ・St. Antonius病院のJorn Brouwer氏らが実施したPOPular TAVI試験のコホートBの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年8月30日号に掲載された。長期の抗凝固療法の適応のない患者におけるTAVI後の出血や血栓塞栓症イベントに及ぼす効果について、抗血小板薬2剤併用(DAPT)と比較した1剤の検討は十分に行われていないという。抗凝固薬非適応の患者のTAVI施行後3ヵ月間に抗血小板薬投与 本研究は、欧州の17施設が参加した医師主導の非盲検無作為化試験であり、2013年12月~2019年3月の期間に患者登録が行われた(オランダ保健研究開発機構の助成による)。 対象は、TAVIが予定されており、長期の経口抗凝固薬投与の適応のない患者であった。被験者は、TAVI施行後の3ヵ月間に、抗血小板薬アスピリン単独(80~100mg、1日1回)またはアスピリン(80~100mg、1日1回)+クロピドグレル(75mg、1日1回)の抗血小板薬2剤併用の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、12ヵ月以内の全出血(小出血、大出血、生命を脅かす/障害を伴う出血)、および非手技関連出血の2つであった。TAVI穿刺部位出血の多くは非手技関連出血とされた。副次アウトカムは、1年後の心血管死、非手技関連出血、脳卒中、心筋梗塞の複合(第1複合副次アウトカム)、および心血管死、脳梗塞、心筋梗塞の複合(第2複合副次アウトカム)の2つの非劣性(非劣性マージン7.5%ポイント)および優越性とした。抗凝固薬非適応TAVI例は抗血小板薬1剤で出血イベントが有意に少ない 抗凝固薬の適応のない患者のTAVI施行665例が登録され、アスピリン単独の抗血小板薬1剤群に331例、アスピリン+クロピドグレルの抗血小板薬2剤併用群には334例が割り付けられた。全体の平均年齢は80.0±6.3歳、女性が48.7%であった。 出血イベントは、アスピリン単独群では50例(15.1%)、併用群では89例(26.6%)に認められ、単独群で有意に少なかった(リスク比[RR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.42~0.77、p=0.001)。また、非手技関連出血は、それぞれ50例(15.1%)および83例(24.9%)にみられ、単独群で有意に少なかった(0.61、0.44~0.83、p=0.005)。 第1複合副次アウトカムは、単独群で76例(23.0%)、併用群では104例(31.1%)に発現し、単独群の併用群に対する非劣性(群間差:-8.2%、95%CI:-14.9~-1.5、非劣性のp<0.001)および優越性(RR:0.74、95%CI:0.57~0.95、優越性のp=0.04)が確認された。 第2複合副次アウトカムは、それぞれ32例(9.7%)および33例(9.9%)で発現し、単独群の併用群に対する非劣性(群間差:-0.2%、95%CI:-4.7~4.3、非劣性のp=0.004)は認められたが、優越性(RR:0.98、95%CI:0.62~1.55、p=0.93)は示されなかった。 試験期間中に、経口抗凝固薬の投与を開始したのは、アスピリン単独群が44例(13.3%)、アスピリン+クロピドグレル併用群は32例(9.6%)で、TAVI施行後の投与期間中央値はそれぞれ12日(IQR:4~59)および6日(3~66)だった。経口抗凝固薬開始の主な理由は、心房細動の新規発症であった。 著者は、「これらの結果は、大出血の発生(2.4% vs.7.5%、RR:0.32、95%CI:0.15~0.71)の差が、主な要因であった」としている。

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AFIRE試験が世界に投げかけたこと(解説:香坂俊氏)-1281

AFIRE試験がNEJM誌に発表された。そのデザインや主要な結果に関しては、さまざまな学会や研究会で議論がなされており、その解釈に関しても広く議論がなされている。AFIREのデザインと主要な結果・心房細動を持つ安定冠動脈疾患の患者さんを対象に「リバーロキサバン(経口抗凝固 薬)単独」と「リバーロキサバン+抗血小板薬併用」との比較を行ったわが国の多施 設共同のランダム化比較研究。・2017年9月末までに2,240例が登録され、2年以上の観察期間を予定していたが、データ 安全性モニタリング委員会の勧告に基づき2018年7月に研究を早期終了。・最終的に2,215例(1,107例の単独療法vs.1,108例の併用療法)が研究解析対象となり、 患者さんの平均年齢は74歳、男性79%、PCI施行70.6%[CABG施行11.4%]) であった。・有効性主要評価(脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を必要とする不安定 狭心症、総死亡の複合エンドポイント)では、リバーロキサバン単独療法群がsuperior (優越)であり、さらに安全性主要評価(重大な出血性合併症)においても、 リバーロキサバン単独療法群が優越であった。さまざまなメッセージを含んでいる試験であるが、自分としては日本独自の用量設定を行った試験で世界に向けて結果を出した、というところに注目したい。リバーロキサバンは薬効動態評価の結果を踏まえて15mgあるいは10mgという日本独自の用量設定で認可されている(国際的には20mgあるいは15mgという用量設定)。自分はこうした国別の独自の用量設定というのにかなり懐疑的な人間であったのだが(国際的なRCTの結果のほうを信用する傾向がある)、ただ抗凝固薬や抗血小板薬が日本人に効きすぎるというのは帰国してからの日常臨床でも経験し、また自分達で出したデータでも確かにそのような傾向がみられた(Numasawa Y, et al. J Clin Med. 2020;9:1963.)。AFIRE試験は、このような事情を踏まえてわが国独自の用量設定を用いて行われた試験であるが、その結果がNEJMという最高峰のジャーナルに取り上げられたことの意義は大きい。とくに抗凝固療法・抗血小板薬(抗血栓薬として総称される)に関してはGlobalにも個別の用量設定を考えていかなければならないということを語ってくれているように思われる。この試験は、いろいろな場面における抗凝固療法の使い方に指針を示してくれたことも事実であるが、自分としてはわが国独自の抗血栓薬のDosingについて「世界はどう思うのか?」というより幅広い側面での議論の活性化も期待したい。

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CABANA試験におけるカテーテルアブレーション/薬物療法のAF再発の割合【Dr.河田pick up】

 CABANA試験は、心房細動(AF)に対しカテーテルアブレーション(CA)治療もしくは薬物療法のQOL改善効果を比較する非盲検無作為化試験であり、2009年11月~2016年4月に10ヵ国126施設で2,204例の患者が登録された。Intention to treat分析では、非有意だったものの、CAが主要評価項目である死亡、後遺障害を伴う脳卒中、重大な出血、心停止などを14%減らすことが示された。今回、米国・ワシントン大学のJeanne Poole氏ら研究グループにより、CABANA試験のサブ解析ともいえる論文が発表された。この研究の目的はCABANA試験におけるAFの再発を評価することである。JACC誌2020年6月30日号に掲載。CABANAモニターを用いて、症候性/無症候性AFを検知 試験に参加した患者は、CA群もしくは薬物療法群にランダマイズ化し、専用のCABANAモニターでフォローされた。このモニター心電図は、患者自身が症状に応じて簡易心電図を記録でき、また24時間のAF自動検知も可能である。AFの再発は、90日間のブランキング(再発の評価に含めない期間)後、30秒以上続く心房頻拍と定義された。1日におけるAFの割合の評価には、6ヵ月ごとのホルター心電図が用いられた。  CABANAモニターを使用し、90日間のブランキング後に心電図記録を提出した患者は1,240例で、登録患者の56%に相当した。治療効果の比較は、修正intention-to-treatを用いて行われた。AFの割合はCA群で有意に減少 1,240例の年齢の平均中央値は68歳で、34.4%は女性であった。43.0%の患者が発作性AFを有していた。 60ヵ月のフォローアップ期間中、症状の有無にかかわらず、すべてのAF(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.45~0.60、p<0.001)および症候性AF(HR:0.49、95%CI:0.39~0.61、p<0.001)は、CA群で有意に減少していた。 また、試験開始前のホルター心電図におけるAFの割合は48%で、試験開始後12ヵ月の時点では、CA群6.3%、薬物療法群14.4%であった。5年間のフォローアップ期間におけるAFの割合は、CA群では、すべてのAF(有症候性/無症候性を含む)の再発を48%減少させ、症状を伴うAFを51%減少させた。さらに、AFの頻度は試験開始前のAFの種類に関わらず、有意に減少した。◆◇◆◇◆ 個人的には、CA後のAF再発率と頻度を評価したこの論文は、JAMAに掲載されたCABANAスタディと同じぐらい重要だと考えます。5年間で症候性/無症候性を含めたAFの再発はCA群で52.1%でした(薬物療法群は70.8%)。正確な数値はわかりませんが、症候性AFに限って見れば、再発率は20%近くまで減っています。これらの数字は、実臨床での印象と大きな相違はありません。結局、CAのスタディの結果は、AFの定義(この研究では30秒以上を心房頻拍と定義)やモニターの実施方法に大きく依存します。また、無症候AFがいかに多く、モニターを長時間、高頻度に行えば行うほど、CAの成績は悪くなるのは明らかです。そうした観点から、CA後においても、症状ではなく、リスク(CHADS2VASC2スコアなど)に応じて抗凝固剤を続けるということは理に適っていると思われます。 CAのスタディでは、心房性頻拍の再発率にのみ着目する傾向があります。今回の論文含めたCABANA試験の結果(約50%の再発率)を見て、CAを行わない循環器内科医や内科医は、その効果を疑問視するかもしれません。CAを行う不整脈医はCAによるAFの根治を目指してはいますが、現状における第一の目的は症状の改善もしくはQOLの改善です。だからこそ、CAを実施するケースの多くはAFによる症状、もしくはQOL低下に苦しんでいる患者さんであり、適切な症例の選択が必要です。薬物療法と比較してもCAは症状の強い患者にとっては非常に有効な治療法だと考えられます。逆に、症状のない高齢者などはCAの対象ではないと考えられます。 一方で、CA後の10年を超えた長期成績は不明な点もあります。無症候でも若年、心不全、薬物療法が使えない患者に対しては、CAによりQOLや予後を改善できる可能性があるため、AFの根治を目指したCAを行うことも妥当だと考えられます。この研究からもAFに対するCAの症例選択は、個々の症状や年齢に応じた十分な検討が必要だということが言えると思います。(Oregon Heart and Vascular Institute  河田 宏)■関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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DOAC服用心房細動患者のイベント発生予測因子/日本循環器学会

 心房細動患者の抗凝固薬治療と予後を調べた多施設共同前向き観察研究であるRAFFINE研究から、直接経口抗凝固薬(DOAC)服用患者における脳梗塞および全身塞栓症の独立した予測因子として年齢、糖尿病、脳梗塞の既往が、また重大な出血の独立した予測因子として年齢、脳梗塞の既往が示唆された。第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で宮崎 彩記子氏(順天堂大学医学部循環器内科)が発表した。 RAFFINE(Registry of Japanese Patients with Atrial Fibrillation Focused on anticoagulant therapy in New Era)研究は、心房細動治療の実態把握とDOAC服用者におけるイベント発生の予測因子の調査を目的とした前向き研究である。対象は、2013~15年に研究参加施設に外来通院していた20歳以上の非弁膜症性心房細動(発作性、持続性、永続性のすべて)患者で、入院患者、研究参加の同意が得られなかった患者、余命1年以下と判断された患者を除外した3,706例が解析対象となった。観察は1年ごとに3年(最大5年)まで、観察期間中央値は1,364日であった。 主な結果は以下のとおり。<ベースライン時の状況>・3,706例の非弁膜症性心房細動患者のうち、ワルファリン服用患者(ワルファリン群)1,576例、DOAC服用患者(DOAC群)1,656例、経口抗凝固薬(OAC)投与なしの患者(No-OAC群)474例であった。・年齢およびCHADS2スコアはワルファリン群で高く、No-OAC群では低かった。また、うっ血性心不全既往歴、高血圧、糖尿病、脳梗塞/TIA既往歴を有する患者の割合もワルファリン群で高く、No-OAC群で低かった。・発作性心房細動の割合は、ワルファリン群28.0%、DOAC群41.0%、No-OAC群64.6%とNo-OAC群で高かった。消化管出血はNo-OAC群が最も高く、HAS-BLEDスコアはワルファリン群で最も高かった。・抗血小板薬を投与されていた割合は、ワルファリン群28.6%、DOAC群17.9%、No-OAC群40.7%で、No-OAC群で高かった。<観察期間での調査>・DOAC服用患者の割合はベースライン44.7%から3年時の58.7%まで徐々に増加していた。・DOAC投与量については、適応内の通常用量が38%、適応内の減量が29%、適応外の低用量が27%、適応外の過量が6%で、適応外用量は33%であった。適応外用量の割合を薬剤別にみると、ダビガトラン(n=653)では35%、リバーロキサバン(n=569)では35%、アピキサバン(n=408)では27%、エドキサバン(n=26)では31%であった。・DOAC服用者における脳梗塞および全身塞栓症の独立した予測因子として、年齢(ハザード比[HR]:1.09、95%CI:1.04~1.13、p<0.0001)、糖尿病(HR:2.17、95%CI:1.23~3.82、p=0.007)、脳梗塞/TIAの既往(HR:2.65、95%CI:1.46~4.80、p=0.001)が示唆されたが、適応外用量は関連しなかった。また、重大な出血(ISTH基準)の独立した予測因子としては、年齢(HR:1.07、95%CI:1.03~1.10、p<0.0001)、脳梗塞/TIAの既往(HR:2.06、95%CI:1.17~3.61、p=0.011)が示唆され、抗血小板薬投与は関連しなかった 宮崎氏は、DOAC服用者における適応外用量が33%に認められたことから、イベント発生におけるDOACの適応外用量の影響を調べるためにさらなる研究が必要と述べた。

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VTEへのリバーロキサバン、日本の実臨床での有効性(J'xactly Study)/日本循環器学会

 日本における静脈血栓塞栓症(VTE)患者は欧米ほど多くないが、増加傾向にある。VTE治療および再発抑制に対して、直接作用型第Xa因子阻害薬リバーロキサバンが2015年に承認され使用されているが、その実臨床データは十分ではない。VTE治療における日本の実臨床でのリバーロキサバンの有効性と安全性を前向きに評価したJ'xactly Studyの結果を、日本大学の奥村 恭男氏が、第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で発表した。 J'xactly Studyは、深部静脈血栓症(DVT)および肺血栓塞栓症(PE)患者を対象に、リバーロキサバンの有効性と安全性を検討した多施設共同前向き観察コホート研究。国内の152施設が参加した。・対象:[登録基準]VTEの治療および再発抑制を目的に、リバーロキサバンが処方された症候性または無症候性のVTE(DVTおよびPE)患者[除外基準]リバーロキサバンの禁忌に該当する患者、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の患者、活動性出血を認める患者・評価項目:[主要有効性評価項目]ITT解析集団における症候性VTEの再発/増悪[主要安全性評価項目]on treatment解析集団におけるISTH大出血基準による重大な出血事象[副次評価項目]症候性DVTおよびPEの再発/増悪、全死因死亡、VTE関連死、心血管死、出血事象、致死的出血など 主な結果は以下のとおり。・2016年12月~2018年4月、全体で1,039例が組み入れられた(ITT解析集団:1,016例、on treatment解析集団:1,017例)。観察期間中央値は21.3ヵ月。・ITT解析集団におけるベースライン時の患者特性は、平均年齢68.0歳、女性が59.0%、平均体重60.3kg(<50kg:22.6%)、外来患者41.5%、担がん患者19.0%、腎機能低下(CrCl<50mL/min)症例22.4%、抗血小板薬服用10.2%であった。・DVTのみを有する患者が58.8%(597例)、(DVTの有無にかかわらず)PEを有する患者が41.2%(419例)であった。・DVTのみを有する患者では、66.0%(394例)が症候性、近位DVTが51.8%、遠位DVTが48.2%であった。21.9%(131例)に治療歴があり、抗凝固療法(15.6%)、下大静脈フィルター(7.9%)、血栓溶解療法(2.3%)、カテーテル法(1.3%)などを受けていた。・PEを有する患者では、53.0%(222例)が症候性、非広範型が59.2%、亜広範型が29.4%を占めた。48.4%(203例)に治療歴があり、抗凝固療法(40.8%)、下大静脈フィルター(9.5%)、血栓溶解療法(7.9%)、カテーテル法(1.0%)、PCPS(0.7%)などを受けていた。・DVTのみを有する患者では、初期用量30mg/日が54.6%、15mg/日が36.5%であった。20.9%は3週間以上30mg/日の投与を続けていた。30mg/日投与群と10~20mg/日投与群を比較すると、30mg/日投与群でより若く(75歳以上が35.3% vs. 50.9%)、体重が標準的で(<50kgが20.2% vs. 28.0%)、CrCl値が良好(<50mL/minが20.9% vs. 33.2%)、近位DVT(62.3% vs. 39.1%)および症候性(72.4% vs. 58.3%)が多い傾向がみられた。・PEを有する患者では、初期用量30mg/日が81.4%を占め、17.3%は3週間以上30mg/日の投与を続けていた。30mg/日投与群でより若く(75歳以上が30.8% vs. 41.0%)、体重が標準的で(<50kgが17.6% vs. 25.6%)、CrCl値が良好(<50mL/minが15.0% vs. 25.7%)、広範型(4.4% vs. 1.3%)および亜広範型(31.7% vs. 19.2%)が多い傾向がみられた。・主要有効性評価項目である症候性VTEの再発/増悪は、観察期間中に43例(4.2%)発生し、その発生率は2.6/100人年であった。・主要安全性評価項目である重大な出血事象は、観察期間中に29例(2.9%)発現し、その発現率は2.9/100人年であった。重大出血事象は、初期治療期間中の3週間で多く発現し、その後は段階的に増加した。・症候性DVTおよびPEの再発/増悪の発生率に差はなく(1.5/100人年 vs. 1.2/100人年)、全死因死亡の発生率は5.5/100人年。致死的出血は0.3/100人年と非常に少なかった。

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シランを知らんと知らんよ!新薬開発の潮流を薬剤名から知る!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第26回

第26回 シランを知らんと知らんよ!新薬開発の潮流を薬剤名から知る!「肉納豆」と聞いて、すぐに「ワルファリン」を思いつく方も多いと思います。ワルファリンはビタミンKに拮抗して作用する薬剤です。ビタミンK依存性凝固因子は医師国家試験の頻出課題です。これを記憶する呪文が「肉納豆」で、「2・9・7・10」の4つの番号の凝固因子が該当します。この語呂合わせは、納豆というワルファリン使用者には薦められない食品も記憶できることが長所です。小生が医学生であった30年以上も昔から、このような語呂合わせは沢山ありました。β遮断薬は交感神経を抑制しますから、脈拍が遅くなります。「プロプラノロール」という代表的なβ遮断薬を記憶するために、「プロプラノロール」は、プロプラノローくなると覚えなさいと、薬理学の講義で聞いたことが妙に頭に残っています。確かに、脈がノロくなるので、「~ノロール」を「~ノローく」と変換するとピッタリきます。現在も「カルベジロール」や「ビソプロロール」などのβ遮断薬をしばしば処方します。どのβ遮断薬も語尾に「~ロール」とあるのはなぜでしょうか。薬剤の名前に共通な部分が多いことには皆さんお気づきでしょう。このように薬剤名の根幹となるものを「ステム(共通語幹)」といい、「stem:幹・茎」に由来します。カルシウム拮抗薬のステムは「~ジピン」です。ニフェジピンやアムロジピンなどが思い浮かびます。プロトンポンプ阻害による抗潰瘍薬では「~プラゾール」です。分子標的薬として注目される、モノクローナル抗体薬は「~マブ」で、抗悪性腫瘍剤のリツキシマブなどがあります。ステムは、世界保健機関(WHO)によって、医薬品の化学構造や標的分子および作用メカニズムなどに基づいて定義されます。今、一番の話題は「~シラン(siran)」をステムに持つ薬剤です。シランはsiRNAからの造語でsmall interfering RNAを意味します。この薬剤は遺伝情報に関係するRNAがターゲットです。ゲノム(全遺伝情報)はDNAの塩基配列として記録されています。これがメッセンジャーRNA(mRNA)に転写され、タンパク質に翻訳されます。このDNA→mRNA→タンパク質の流れを、セントラルドグマといい分子生物学の根幹とされます。この過程のどこかを妨害すれば、遺伝子が機能しなくなるはずです。標的タンパク質のmRNAに対して相補的な塩基配列をもつ一本鎖RNA(アンチセンス鎖)と、その逆鎖である一本鎖RNA(センス鎖)からなる短い二本鎖RNAで、RNA干渉を誘発します。RNA干渉とは、RNAどうしが邪魔し合って働かなくなるようにする技術で、標的タンパク質の発現を抑制し、治療効果を発揮します。病気の原因となる遺伝子の発現を封じ、疾患の発現に関わるタンパク質の合成を抑制することができれば、医療は一変する可能性があることは理解できると思います。抗体医薬品がタンパク質をターゲットにするのに対し、siRNA医薬品は、その上流のRNAをターゲットにします。アミロイドーシス治療薬のパチシラン(patisiran)、脂質異常症へのインクリシラン(inclisiran)をはじめとして、「~シラン」という薬剤は目白押しで開発が進行しています。siRNA医薬品を含む核酸医薬品は、100種類以上の薬剤が開発の俎上にあり、この流れに日本の製薬企業が乗り遅れていることは懸念材料です。皆さん、「~シラン」を知らんのは残念です。語呂合わせから始めた話が、世界の新薬開発の潮流を紹介する方向にそれてきました。パソコンに向かって真面目に原稿を打っていると、猫がすり寄ってきて邪魔をします。膨大な記憶を要する医師国家試験対策では、語呂合わせがありがたいです。語呂合わせよりも、もっと素晴らしいのは、猫さまが発するゴロゴロ音です。摩訶不思議な音で、ゴロゴロと鳴らしている猫の首元に耳を寄せると振動しているのがよくわかります。これは猫と暮らす醍醐味で、まさに究極のゴロ合わせです。この至福を「~シラン」のは残念すぎます。

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忘れてはいけない日本の貢献(解説:後藤信哉氏)-1254

 欧米列強に追い付け追い越せの明治時代の日本の勢いはすさまじかった。国力の勝負としての戦争は歴史に残る。日露戦争はとても互角とは言えない相手に競り勝ち、大東亜戦争も常識的に勝てるはずのない相手と同じ土俵に乗った。医学の世界でも、北里 柴三郎による破傷風の抗毒素血清療法は画期的であった。細菌学における日本の貢献は、その時の経済力から考えると驚異的である。 近年はやりの抗凝固薬、抗血栓薬の開発にも日本は画期的役割を果たした。とくに、「止血のための抗線溶薬」となると世界における日本の貢献は突出している。線溶を担うプラスミンの選択的阻害薬トラネキサム酸を開発したのは日本である。「止血薬」となると世界の第1選択はトラネキサム酸である。消化管出血でも、まず安価なトラネキサム酸にて止血を図ろうとするのが世界の標準医療である。 Yes/Noの明確な英語の世界では「正しい」治療と「正しくない」治療が定義されている。「正しい」治療とはランダム化比較試験により検証された治療であり、検証されていない治療は「正しくない」かもしれないとされる。本研究では、世界で第一にひらめく線溶阻害薬トラネキサム酸に出血死亡予防効果があるか否かが、世界1万2,009例のランダム化比較試験により検証された。プラセボとトラネキサム酸では死亡率に差がないとされた。1万2,009例ものランダム化比較試験が世界にて施行できたことに驚く。また、十分に経済成長していない日本にて世界標準の出血阻害薬トラネキサム酸が開発された歴史的事実にも驚愕する。 少なくとも先人の世代まで日本は「すごい国」だったし、医学領域でも世界の誰からも尊敬される日本人がいた。さて、われらの世代から世界を驚嘆させる新薬の開発などが可能だろうか?

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COVID-19重症例、フサン+アビガンで臨床症状が改善/東大病院

 2020年7月6日、東京大学医学部附属病院は医師主導の多施設共同研究である『集中治療室(ICU)での治療を必要とした重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するナファモスタットメシル酸塩(以下、ナファモスタット[商品名:フサン])とファビピラビル(商品名:アビガン)による治療』の成績について発表した。それによると、治療対象者11例(男性:10例、女性:1例、年齢中央値:68歳)のうち10例で臨床症状の軽快が見られた。また、回復症例は人工呼吸器使用が7例、うち3例がECMOを要したが、16日(中央値)で人工呼吸器が不要となった」ことが明らかになった。本研究成果はCritical Care誌2020年オンライン版7月3日号に掲載報告された。 東京大学医学部附属病院救命救急センター・ER准教授の土井 研人氏らが5月8日に実施を発表した本研究(国内8施設で実施)では、ナファモスタットとファビピラビルをICU管理が必要なCOVID-19の重症患者11例(2020年4月6日〜21日に入院)に投与し、臨床経過について観察を行った。11例のうち8例は人工呼吸器を、うち3例でECMOを使用した。ナファモスタットの点滴静注を0.2mg/kg/時で14日間投与(中央値)、ファビピラビルの内服を初日3,600mg/日、2日目から1,600mg/日で14日間(中央値)投与した。 研究者らは今回の結果に対し、「新型コロナウイルス抑制に対するナファモスタットとファビピラビルの異なる作用機序、ナファモスタットの抗凝固作用の有効性が示唆された。ファビピラビル単独での効果について、現時点では国内臨床研究の結果が報告されていない。そのため、ナファモスタット単独の効果、ナファモスタットとファビピラビル併用効果の両方が考えられ、今後の臨床研究の必要性を示唆する結果」としている。

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第52回 転倒しそうなときは横向き・おへそを見るよう意識して頭を守る!【使える!服薬指導箋】

第52回 転倒しそうなときは横向き・おへそを見るよう意識して頭を守る!1)John Stephen Batchelor, et al. Br J Neurosurg. 2012 Aug;26:525-530.2)John Stephen Batchelor, et al. Br J Neurosurg. 2013 Feb;27:12-18.3)Ramesh Grandhi, et al. J Trauma Acute Care Surg. 2015 Mar;78:614-621.4)根來 信也, 他. 身体教育医学研究. 2005;6:39-47.

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COVID-19、医療者の心を支えるオンライン会議ツールと市民の励まし【臨床留学通信 from NY】番外編6

COVID-19、医療者の心を支えるオンライン会議ツールと市民の励ましCOVID-19治療は依然として模索が続いています。当初使用していたヒドロキシクロロキンについてはネガティブデータが続いており、現状使用していません1,2,3)。アジスロマイシンも同様です。レムデシビルに関しては、トライアルベースでの使用に留まり、RCTに参加する必要があります。また当院では、シングルアームで回復期患者の血漿を使用したトライアルベースの治療を行っています。このほか、トシリズマブをオフラベルで使用しています。当院の関連病院であるMount Sinai Hospital(大学病院)ではMesenchymal stem cell treatmentをやっているようです4)。また、当院のプロトコールにおいては入院患者の中等度~重症例(低酸素血症またはD-dimer、Creatinine、CRP上昇例など)に対しては、アピキサバンや(低分子)ヘパリンを投与しています。実際に、Mount Sinaiのデータベースを使用した抗凝固療法を支持する後ろ向き研究のデータが出ていますが、RCTの結果が待たれますし、あくまで患者さんの出血のリスクとの兼ね合いとなります5)。いずれにせよ、確固たる治療法がない現状が続いています6)。今回のCOVID-19に関連して、途方もない数の方々が病院で亡くなりました。ニューヨーク州においては、5月30日現在で、約37万人の感染者と2万3,000人の死亡者、ニューヨーク市においては、20万の感染者に対し1万5,000人の死亡者でした。当初は、感染の危険性から死ぬ間際であっても面会を禁止していました。自らが感染するリスクを抱えるだけでもストレスでありましたが、まったくの孤独で亡くなる患者さん達を目の当たりにし、患者さんの家族には電話でしか伝えることができず、医療従事者の心身には想像以上の負荷がかかっていました。そのようなつらい状況下の医療従事者を、多くのニューヨーカーが称え、鼓舞してくれました。マンハッタンの日本料理屋などからfood donationをいただいたり7)、毎晩7時になると、市内のあちらこちらから拍手が起こったりして、心が温まります8)。依然として家族の面会は禁止のままですが、病院ではiPadを使用してZoomなどのテレビ通話アプリを介して患者さんと家族が会話できるよう環境を整え、亡くなる間際もZoomを利用して最期を迎えられるように行なっています。実際に、米国では家族が離れて暮らすことはよくあり、国内であっても飛行機で簡単に移動もできない現状もあり、そういった手段は非常に有用であると考えます。1)https://www.carenet.com/news/journal/carenet/501362)https://www.carenet.com/news/journal/carenet/501113)https://www.carenet.com/news/journal/carenet/500954)https://www.mountsinai.org/about/newsroom/2020/mount-sinai-leading-the-way-in-innovative-stem-cell-therapy-for-covid19-patients-pr5)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32387623/?from_term=jacc+fuster+covid&from_sort=date&from_pos=26)https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMcp2009575?articleTools=true7)https://www.mifune-restaurant.com8)https://www.nytimes.com/interactive/2020/04/10/nyregion/nyc-7pm-cheer-thank-you-coronavirus.htmlColumn画像を拡大するこの写真は、文中でも触れたfood donationでいただいたものです。とくに右側に写っているマッシュルームスープは最高においしく、多くの治療や看取りに疲れ切った心身に染み入りました。予想もしなかった留学先でのCOVID-19は厳しい体験の連続ですが、人々の温かさを知る機会にもなりました。

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抗血栓療法受難の時代(解説:後藤信哉氏)-1246

 20世紀の後半からアスピリン、クロピドグレル、DOACsと抗血栓療法が世界の注目を集めた。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症などは致死的イベントの代表であった。抗血栓薬にて多少出血が増えても、「心血管死亡」が減るのであれば、メリットが大きいと考えられた。冠動脈ステントなど人工物では血栓性が高いとされ、アスピリン・クロピドグレルの抗血小板薬併用療法も推奨されてきた。血栓イベント予防のために抗凝固薬と抗血小板薬を併用している症例も実臨床では多数見掛けた。 21世紀になって体重コントロール、運動習慣、食事への配慮が普及した。世界的に見れば血栓イベントは重要な死因の1つであるが、教育の行き届いた先進諸国での血栓イベントが目に見えて減少した。体内に入れる医療材料の血栓性も制御されるようになった。抗血栓薬による血栓イベント低下効果よりも、抗血栓薬による出血イベントが注目されるようになった。 本研究では、すでに抗凝固薬を服用中のTAVIの症例が対象となった。本研究の対象症例は326例と多くない。80歳以上で、ほとんどの症例が心房細動を合併したリスクの高い症例である。しかし、心血管死亡・総死亡、虚血性脳卒中いずれもクロピドグレルの追加により減少のサインすらない。出血はクロピドグレル群で多い。重篤な出血には有意差はないが、傾向としてクロピドグレルの追加により増加する。心房細動にてDOACと強いマーケット活動が持続しているが、実臨床ではワルファリン使用が一般的である。本研究の対象も多くはワルファリン治療下である。TAVIでは一般に抗血小板薬併用療法が施行されているが、抗凝固療法施行中の症例に抗血小板薬を追加する必要はない。重篤な出血を惹起する抗血栓薬は使わずに済めば使わないほうがよい。抗血栓薬にとっては受難の時代になった。

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女性における脳心血管病対策は十分といえるのか?(解説:有馬久富氏)-1243

 世界のさまざまな所得水準の27ヵ国において20万人以上の一般住民を対象に疫学調査を継続しているPURE研究から、脳心血管病の男女差に関する成績がLancet誌に報告された1)。その結果、脳心血管病の既往のない女性の1次予防においては、男性と同等あるいはそれ以上に、高血圧に対する降圧療法、脂質異常症に対するスタチン、糖尿病に対する血糖降下療法が実施されていた。また、女性における初発脳心血管病のリスクは、男性の約4分の3と有意に低く、この結果は、すべての所得レベルおよびすべての地域に当てはまった。 一方、脳心血管病の既往がある女性の2次予防においては、男性に比べて十分な対策が行われていないことが明らかになった。たとえば、抗血小板薬やスタチンを処方されている女性の割合は、男性の3分の2程度であった。また、高血圧に対して降圧薬を処方されている女性の割合も、男性より有意に低かった。さらに、冠動脈疾患の既往がある女性をみると、男性に比べて心カテ等の検査やPCI等の治療が十分に行われていない可能性も示唆された。このような状況であっても、低・中所得国における彼女らの脳心血管病再発リスクは男性よりも低かった。しかし、高所得国における女性の脳心血管病再発リスクは男性と同等あるいはやや高い傾向にあった。1次予防の成績で示されたように元来女性の脳心血管病リスクは低いものと思われるが、2次予防においては、十分な予防対策や医療介入が行われていないために、女性の脳心血管病再発リスクが高まっている可能性がある。 東アジアからPURE研究に参加しているのは中国だけなので、本研究の結果をそのまま日本に当てはめてよいかはわからない。しかし、日本においても、脳心血管病リスクの低い印象を有する女性において、2次予防戦略が手薄になってしまうことはありうることなのかもしれない。女性であっても、脳心血管病の既往がある場合は高リスク者であることをきちんと認識し、2次予防対策(危険因子のコントロール、抗血栓療法、定期検査、早期の治療介入)を徹底することが大切と考えられる。

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COVID-19による静脈血栓症、入院前に発症か/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者では、Dダイマーと凝固系での凝固促進変化、この感染症に関連する静脈および動脈血栓症の上昇率が報告されている。現時点でのさまざまな論文報告によると、ICUに入室したCOVID-19患者の死亡率は50%と高い。とくに動脈・静脈での血栓イベント発症の報告は多く、末梢静脈血栓塞栓症は27~69%、肺塞栓症は最大23%も発生している。 フランス・CCN(centre cardiologique du nord saint denis)のJulien Nahum氏らが観察研究を行った結果、深部静脈血栓症の発症割合は79%と高く、早期発見と抗凝固療法を迅速に開始することで予後を改善する可能性が示唆された。また、抗凝固薬を予防投与したにもかかわらず、ICU入室後わずか2日で患者の15%が深部静脈血栓症を発症したことから、COVID-19のICU患者すべてにおいて系統的に抗凝固療法を評価する必要があるとしている。JAMA Network Open 2020年5月29日号のリサーチレターに報告した。 研究者らは、2020年3月中旬~4月初旬、フランス・パリ郊外にある病院の集中治療室(ICU)に入室したCOVID-19重症患者(急性呼吸窮迫症候群を起こし、人工呼吸を要した)を対象に深部静脈血栓症の系統的な評価を行う目的で観察研究を実施した。 研究者らは、ICU入室時、過去に炎症マーカー値の上昇を示したデータや入院時の静脈血栓症の発症率が高いことを考慮し、COVID-19患者全症例に対して下肢静脈エコーを実施。入院時の検査値が正常でも48時間後に下肢静脈エコーを行い、COVID-19の全入院患者に抗凝固療薬の予防投与を推奨した。統計分析はグラフパッドプリズム(ver.5.0)とExcel 365(Microsoft Corp)を用い、両側検定を有意水準5%として行った。 主な結果は以下のとおり。・計34例が組み込まれ、平均年齢±SDは62.2±8.6歳で、25例(78%)が男性だった。・COVID-19患者のうち26例(76%)がPCR法で診断された。 ・8例(24%)はPCR法で陰性だったが、CT画像でCOVID-19肺炎の典型的なパターンを示した。・主な併存疾患は、糖尿病(15例[44%])、高血圧症(13例[38%])、肥満(平均BMI±SD:31.4±9.0)で、深部静脈血栓症を最も発症していたのは、糖尿病(12例/15例)、次いで高血圧(9例/13例)だった。・ 26例(76%)は入院時にノルアドレナリンを、16例(47%)は腹臥位管理を、4例(12%)は体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とした。・入院前に抗凝固療法を受けていた患者はわずか1例(3%)だった。・深部静脈血栓症は、入院時に22例(65%)、ICU入室48時間後に下肢静脈エコーを行った際5例(15%)で見られ、入院から48時間経過時点で計27例(79%)に認められた。 ・血栓症の発症部位は、両側性が18例(53%)、遠位が23例(68%)で、近位が9例(26%)だった。 ・過去に報告されたデータと比較して、今回の集団ではDダイマー(平均±SD:5.1±5.4μg/mL)、フィブリノーゲン(同:760±170mg/dL)およびCRP(同:22.8±12.9mg/dL)の値が高かった。一方、プロトロンビン活性(同:85±11.4%)と血小板数(同:256×103±107×103/μL)は正常だった。

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ISCHEMIA試験の解釈は難しい、試験への私見!(解説:中川義久氏)-1236

 ついに待ちに待った論文が発表された。それは、ISCHEMIA試験の結果を記載したもので、NEJM誌2020年3月30日オンライン版に掲載された。ISCHEMIA試験は、2019年AHAのLate-Breaking Clinical Trialで発表されたものの、論文化がなされていなかったのである。この試験は、安定虚血性心疾患に対する侵襲的な血行再建治療戦略(PCIまたはCABG)と至適薬物療法を優先する保存的戦略を比較したもので、侵襲的戦略は保存的戦略に比べ、虚血性冠動脈イベントや全死因死亡のリスクを抑制しないことを示した。 このISCHEMIA試験の結果については、さまざまな切り口から議論が行われているが、今回は血行再建の適応と、今後の循環器内科医の在り方、といった観点から私見を述べたい。 今後は、安定狭心症に対する冠血行再建法としてのPCIの適応はいっそうの厳格化が行われ、施行する場合には理由を明確に説明できることが必要となろう。患者の症状の改善という具体的な目標の達成のために、そのためだけにPCIをするというのは理解を得やすい説明であろう。一方で、ISCHEMIA試験の結果は、PCIやCABGはまったく役に立たないということを意味するものではない。さらに、血行再建群と保存的治療群の差異は非常に小さい(ない)ともいえ、その分だけ患者自身の考えを尊重する必要も高くなる。つまり、「シェアード・ディシジョン・メイキング(shared decision making)」の比重も増してくる。 生命予後改善効果が血行再建群で認められないことにも言及したい。冠血行再建で改善が見込まれる虚血という因子以外のファクター、つまり、年齢・血圧・糖代謝・脂質・腎機能・喫煙・心不全などの要因、さらには結果としての動脈硬化の進行のスピードのほうが生命予後においてはより重要な規定因子なのである。冠動脈という全身からみれば一部の血流を治すくらいで、人は長生きするようにはならないのであろう。心臓という臓器に介入したのだから生命予後が改善するはずだ、というのは医療サイドの思い込みなのかもしれない。 循環器内科医だけでなく医師として、ISCHEMIA試験の登録基準に該当する患者が目の前にいた場合に何をどうすれば良いのか? まず何よりも生活習慣の修正を含めた至適薬物療法をすぐに開始することである。循環器内科医として患者に関与するうえで、「PCIのことしか知りません」は容認されない。心不全、不整脈、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、脂質低下療法、抗血栓療法などについての知識を習得し活用できることは、これまで以上に必須となる。 それにしても、ISCHEMIA試験の解釈は難しい。

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