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1.

中リスクの急性肺血栓塞栓症に対する超音波補助カテーテル血栓溶解療法が有効で重篤な出血合併症を増加させなかった(HI-PEITHO試験)(解説:佐田政隆氏)

 急性肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)の死亡率は、診断されず未治療の場合は約30%と高いが、適切な治療を実施すれば2~8%まで低下することが知られている。致死的PTE患者の75%は発症から1時間以内に、残りの25%は発症48時間以内に死亡するとされており、遅れることなくPTEを診断して適切な治療を施すことがきわめて重要である。 心停止やショックといった高リスク例では、早急に機械的補助循環を導入し、抗凝固療法に加えて再灌流療法(血栓溶解療法、外科的血栓摘除術、カテーテル治療)の実施を検討することが国内外で推奨されている。 一方、中リスクのPTE患者に対する血栓溶解療法の有効性は確立していなかった。2014年に発表になったPEITHO試験では、血行動態が安定している中リスクのPTE患者約1,000例に対し、抗凝固療法(ヘパリン)に加えて血栓溶解薬としてのtPAを全身投与する治療が、抗凝固療法単独よりも死亡・血行動態悪化の発生率を低下させたものの、重大な出血リスクを高めた(Meyer G, et al. N Engl J Med. 2014;370:1402-1411.)。 日本循環器学会と日本肺高血圧・肺循環学会による2025年改訂版「肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」においては、重症度別に急性PTEに対する治療戦略をフローチャートで提示している。中リスクのうち、右心機能障害と心臓バイオマーカーの上昇のいずれも認める場合、抗凝固療法を開始するとともに慎重なモニタリングを行い、血行動態が悪化した場合には再灌流療法の実施を考慮することが推奨されている。 Boston Scientific社が開発したEKOSシステムでは、高周波・低出力の超音波エネルギーカテーテルを用いることで、血栓溶解薬の投与量、投与期間を減じても従来と同等の血栓溶解効果が期待できることが示され、欧米では販売されている。本HI-PEITHO試験は市販後非盲検無作為化試験である。中リスクの急性PTEに対するEKOSシステムを使用した血栓溶解と抗凝固の併用療法は、抗凝固療法のみと比較して、7日以内のPTE関連死、症候性のPTE再発、心肺機能の代償不全/虚脱の複合イベントの発生率を低下させたが、重篤な出血リスクは増加させなかった。 今まで、PTEに対するカテーテルを用いた血栓溶解療法については十分なエビデンスは示されておらず、わが国では、海外で使用されているカテーテルが承認されていない。そのため、もっぱらガイディングカテーテルを用いた用手的吸引術が用いられてきており、関連学会から未承認の血栓吸引あるいは血栓除去カテーテルについて早期承認申請が行われている。抗凝固療法としてDOACが主流となった現在、日本でもPTEに対する血栓除去カテーテル治療が本研究のようなRCTの結果に基づき承認されていき、患者の予後改善につながることを期待したい。

2.

静脈インターベンションの世界からの新しいエビデンスの登場―詰まった静脈もやはり広げればよいのか?(解説:山下侑吾氏)

 循環器医や放射線科医を中心とするインターベンション医は、これまで「動脈」を対象とした血管内治療の世界を大きく切り開いてきた。長年にわたる貢献により同領域は高度に発展し、現在では一定の成熟を得た領域となったともいえる。一方で、同じ血管である「静脈」を対象とした血管内治療は、未知な部分も多く、今後の発展が望まれる領域といえる。近年、静脈領域としては、肺塞栓症や深部静脈血栓症に対するさまざまな血栓吸引デバイスが世界中で普及しつつあり、これまで同領域では、ほとんど皆無であったランダム化比較介入試験も報告され、信頼性の高いエビデンスが現在進行形で蓄積しつつある。C-TRACT試験は、このような静脈インターベンションの世界での新しい歴史を切り開く重要なエビデンスと考えられる。筆者自身も、循環器内科のインターベンション医として、普段から冠動脈・末梢動脈・肺動脈などの全身の動脈の血管内治療に携わっているが、時として静脈の血管内治療が必要となることがある。しかしながら、カテーテル室の現場ではその適応や介入方法を含めて悩むことも多く、本試験の結果は、心より待ち望んでいたエビデンスであった。 深部静脈血栓症は、慢性期の後遺症として血栓後症候群(post-thrombotic syndrome:PTS)を呈することがある。大半は、軽度の浮腫や疼痛の残存といった軽症例と考えられるが、時として強い症状を呈することがあり、患者のQOLを著しく下げる可能性もある。これまでの治療法としては圧迫療法などの保存的治療であったが、高度の狭窄および閉塞した静脈がある場合には、当該血管を物理的に再疎通させる治療が有用と考えられ、そのコンセプトは「open vein hypothesis」という形で広く知られている。しかしながら、この意義を、大規模なランダム化比較介入試験で直接的に検証されたことはなかった。C-TRACT試験は、これまで主として保存的治療で対応されていたPTSに対して、病態の根幹である静脈閉塞に直接介入するという「open vein hypothesis」の妥当性を検証した意義深い試験といえる。多くの専門家がおそらく有用であろうと思いつつも意外に立証されていなかった治療介入は、心血管領域ではよくあるが、本試験は静脈インターベンションの世界でのそのような疑問に真正面から取り組んだものともいえる。 本試験の結果自体は、ステントによる血管内治療が、保存的治療と比較してPTS症状やQOLの改善に有用であることが示されたpositiveなものであった。医学的な価値として「open vein hypothesis」を臨床的に支持する結果を、大規模なランダム化比較介入試験にて初めて示した点が挙げられる。一方で、血管内治療は6ヵ月時点での重症度の評価スコアであるVenous Clinical Severity Score(VCSS)を有意に低下させたが、その低減は約2点と比較的控えめであった。この結果は、統計学的には有意であるが、臨床的なインパクトとしては限定的と解釈する余地もある。しかしながら、本病態のQOL指標であるVEINES-QOLおよび包括的健康指標であるSF-36においては、いずれも臨床的に意味のある改善幅であり、患者の日常生活機能や主観的健康状態に対する影響は十分な恩恵があることが示された。すなわち、本治療の本質的価値は単なるスコアの改善ではなく、患者が実際に感じる生活の質の向上にあると考えるべきであろう。この視点は、今後のPTS治療戦略を考えるうえできわめて重要である。 本試験を日常臨床に応用する際にはいくつかの注意点もある。本試験の対象患者は、腸骨静脈に閉塞もしくは高度狭窄を有する中等度から重度のPTS患者に限定されており、比較的選択された集団である。このため、軽症例や腸骨静脈に相応の病変を伴わない症例に対して本結果を一般化することは適切ではない。また、本試験は経験豊富な施設において実施されており、手技の再現性や外的妥当性についても慎重な評価が求められる。また、安全性の観点では、血管内治療群において出血イベントの増加が有意に認められた点は無視できない。多くは非大出血であったものの、抗血栓療法の強化に伴うと予想される出血リスクの増大は、臨床的に無視できないトレードオフである。この点は、適応判断の際には十分に考慮されるべきであり、すべての静脈をもれなくopenさせることが適切であるかは慎重であるべきである。 上記の注意点を有するものの、本試験はPTS患者への静脈インターベンションが有用であることを高いエビデンスとして示し、新しい歴史を切り開く価値あるものと考えられる。まったくの奇遇であるが、筆者自身が本稿を執筆している当日に、下大静脈の完全閉塞により高度の下肢浮腫に大変困っている患者に大静脈ステントを留置する静脈インターベンションを実施した。治療介入直後より下肢静脈圧の著明な改善とともに下肢浮腫の改善も認め、患者はQOLの改善に対して大変なご利益を感じられた。適切な症例への適切な静脈インターベンションによる介入は、患者QOLの視点より重要であることを改めて実感した。本試験は、筆者のそのような主観的な感覚を、ランダム化比較介入試験という客観的な形で示してくれたこの上ない朗報である。今後は、さらなる長期的な予後の検証や最適な抗血栓療法の確立、さらには実臨床でのさまざまな患者への適応を通して、本治療の真の臨床的価値がより明確になることが期待される。

3.

虚血性脳卒中の2次予防、asundexian追加が有効性示す/NEJM

 非心原塞栓性虚血性脳卒中または高リスク一過性脳虚血発作(TIA)発症後72時間以内の患者において、血液凝固第XI因子(FXI)阻害薬asundexianの1日1回50mg経口投与は、抗血小板療法との併用下でプラセボと比較し大出血のリスクを増加させることなく、虚血性脳卒中および主要心血管イベントのリスクを有意に低下させることが、カナダ・McMaster UniversityのMukul Sharma氏らOCEANIC-STROKE Investigatorsが実施した「OCEANIC-STROKE試験」で示された。NEJM誌2026年4月16日号掲載の報告。37ヵ国702施設で第III相試験を実施 OCEANIC-STROKE試験は、日本を含む37ヵ国702施設で実施された国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベント主導型第III相試験で、対象は非心原塞栓性虚血性脳卒中または高リスクTIA発症後72時間以内の2剤併用または単剤による抗血小板療法が予定されている18歳以上の患者であった。 虚血性脳卒中はNIHSSスコア(範囲0~42:高スコアほど重症)が15以下、高リスクTIAはABCD2スコア(範囲0~7:高スコアほど高リスク)が6または7と定義された。また、すべての患者は、急性非ラクナ梗塞の画像所見、冠動脈疾患・末梢血管疾患または50%以上の頸動脈狭窄の既往歴、脳血管アテローム性動脈硬化の画像所見のいずれか1つ以上を満たしていることとし、心房細動の既往歴または抗凝固療法の適応となる病態を有する患者などは除外した。 研究グループは、適格患者をasundexian(1日1回50mg経口投与、経管投与も可)群またはプラセボ群に無作為に割り付け、予定されていた抗血小板療法に加えて投与した。 有効性の主要アウトカムは虚血性脳卒中発症、副次アウトカムはすべての脳卒中(虚血性または出血性)、心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合、全死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合など、安全性の主要アウトカムは国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血であった。虚血性脳卒中およびすべての脳卒中が26%有意に減少、大出血は増加せず 2023年1月~2025年2月に1万2,578例がスクリーニングを受け、1万2,327例が無作為化された(asundexian群6,162例、プラセボ群6,165例)。 無作為化後の追跡期間中央値567日(四分位範囲:377~729)において、虚血性脳卒中はasundexian群で384例(6.2%)、プラセボ群で518例(8.4%)に発生した(原因別ハザード比[csHR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.65~0.84、層別log-rank検定のp<0.001)。 asundexian群およびプラセボ群で、すべての脳卒中はそれぞれ404例(6.6%)、545例(8.8%)(csHR:0.74、95%CI:0.65~0.84、層別log-rank検定のp<0.001)、心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合イベントは568例(9.2%)、685例(11.1%)(0.83、0.74~0.92、p<0.001)、全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合イベントは649例(10.5%)、757例(12.3%)(0.85、0.77~0.95、p=0.003)に発生した。 大出血は、asundexian群で1.9%(117/6,124例)、プラセボ群で1.7%(107/6,130例)に認められた(csHR:1.10、95%CI:0.85~1.44、層別log-rank検定のp=0.46)。有害事象の発現割合はasundexian群69.3%、プラセボ群70.1%であり、重篤な有害事象の発現割合はそれぞれ19.2%および19.5%であった。

4.

血栓後症候群、血管内治療が症状およびQOLを有意に改善/NEJM

 中等症または重症の血栓後症候群(PTS)および腸骨静脈閉塞を有する患者において、血管内治療は標準治療と比較し、6ヵ月後のPTS重症度を有意に軽減し健康関連QOLを改善した。ただし、出血リスクは高かった。米国・ワシントン大学のSuresh Vedantham氏らC-TRACT Trial Investigatorsが、同国29施設で実施した第III相無作為化非盲検評価者盲検比較試験「Chronic Venous Thrombosis: Relief with Adjunctive Catheter-Directed Therapy trial:C-TRACT試験」の結果を報告した。PTSは深部静脈血栓症(DVT)発症後によくみられ、下肢の重篤な症状により患者の活動性やQOLを著しく低下させることがある。血管内治療は、慢性静脈閉塞を除去でき、PTS重症度を軽減することが期待されていた。NEJM誌オンライン版2026年4月13日号掲載の報告。血栓後症候群に対する血管内治療の有効性を、6ヵ月後のPTS重症度で評価 研究グループは、中等症または重症のPTSを有し、画像診断により腸骨静脈閉塞(閉塞または50%以上の狭窄)が確認された患者を登録した。 PTSは、登録の3ヵ月以上前に発症したDVTの同側下肢における慢性静脈疾患と定義し、静脈症状により日常活動や作業能力に著しい制限が生じ、修正Venous Clinical Severity Score(VCSS)が8以上、Villalta PTSスコアが10以上、または開放性静脈性潰瘍を認める場合を中等症または重症とした。 適格患者を、血管内治療(腸骨静脈ステント留置および強化抗血栓療法)群または非血管内治療(標準治療のみ)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。両群とも標準的なPTS治療として、圧迫療法、抗凝固療法、生活指導を行い、開放性静脈性潰瘍を有する患者はエビデンスに基づくケアを行うため創傷/潰瘍ケアクリニックへ紹介された。 主要アウトカムは、無作為化後6ヵ月時のPTS重症度で、VCSS(スコア範囲:0~30、高スコアほど重症)を用いて盲検下で評価した。主要な副次アウトカムは、無作為化後6ヵ月時の患者報告によるQOLで、静脈疾患に特異的なVenous Insufficiency Epidemiological and Economic Study Quality of Life(VEINES-QOL)質問票(範囲:0~100、4~6ポイントの変化を臨床的に重要な変化と定義)、および包括的なMedical Outcomes Study 36-Item Short-Form Health Status Survey(SF-36)を用いて評価した。安全性アウトカムは、出血、静脈血栓塞栓症の再発、および死亡とした。PTS重症度は血管内治療群で有意に低下、生活の質も向上 2018年7月~2025年6月に225例が無作為化された。このうち画像検査で腸骨静脈閉塞がないことが判明した1例を除く224例(血管内治療群112例、非血管内治療群112例)が主要解析の対象集団となった。 無作為化後6ヵ月時のPTS重症度は、血管内治療群が非血管内治療群に比べて有意に低かった(平均[±SD]VCSSスコア:8.1±5.1 vs.10.0±4.9、補正後群間差:-2.0、95%信頼区間[CI]:-3.2~-0.8、p=0.001)。 VEINES-QOLスコア(平均値±標準偏差)は、6ヵ月時点で血管内治療群62.8±24.6、非血管内治療群48.6±26.7であり、血管内治療群が良好であった(補正後群間差:14.5ポイント、95%CI:9.5~19.4、p<0.001)。同様に、SF-36の身体機能スコアも血管内治療群のほうが良好であった(補正後群間差:6.1ポイント、95%CI:2.8~9.3、p<0.001)。 安全性については、出血(大出血+非大出血)は血管内治療群のほうが非血管内治療群より発現割合が有意に高く(11.6%vs.3.6%、p=0.03)、その主な要因は非大出血であった(9.8%vs.2.7%)。

5.

FXI阻害薬は有効かつ安全か?(解説:後藤信哉氏)

オリジナルニュースAsundexian for Secondary Stroke Prevention/NEJM 血液凝固第X因子の阻害薬FXa阻害薬はNOACs、DOACsなどと総称され、心房細動の脳卒中予防などに広く使用された。長らく続いた特許による独占も一部の薬剤については終了し、安価なジェネリック薬も使用可能となった。FXa阻害薬が十分に有効かつ安全であれば、特許切れにより安価となるところであった。しかし、実際はFXa阻害薬開発試験などを見直せば重篤な出血イベントリスクは年率2~3%あり、十分に安全とは言い難い。より出血イベントリスクの低い薬剤としてFXの、内因系の上流であるFXI阻害薬が開発された。各種疾病を対象としたランダム化比較試験が施行されている。本研究にて使用された経口FXI阻害薬であるasundexianは、心房細動の脳卒中予防ではFXa阻害薬アピキサバンに脳卒中予防効果が劣るとのことで開発中止されている。 本研究では脳卒中再発予防効果をプラセボと比較した。脳梗塞再発を中心とする有効性のエンドポイント発現リスクは、プラセボの8.4%に比較してasundexian群では6.2%と低かった(ハザード比:0.74、95%信頼区間:0.65~0.84、p<0.001)。重篤な出血イベントリスクには差がなかった。FXI阻害薬はプラセボとの比較において、脳梗塞再発予防の観点では重篤な出血イベントリスクを増加させない抗凝固薬であった。安価なジェネリック品が中心となるFXa阻害薬との総合的な比較において、FXI阻害薬が有効性、安全性、経済性の観点から広く使用される薬剤になるか否かを見守りたい。

6.

中等度リスク肺塞栓症、超音波補助カテーテル血栓溶解療法が有望/NEJM

 中等度リスクの肺塞栓症において、抗凝固療法への超音波補助カテーテル血栓溶解療法の併用により、抗凝固療法単独と比較して、7日以内の肺塞栓症関連死、心肺の非代償状態または虚脱、肺塞栓症の症候性再発の複合のリスクが有意に低下し、大出血のリスクには差がないことが、米国・マサチューセッツ総合病院のKenneth Rosenfield氏らHI-PEITHO Investigatorsが行った「HI-PEITHO試験」の結果で示された。中等度リスクの急性期肺塞栓症の治療では、静脈内血栓溶解療法は循環虚脱を予防するが、大出血や脳卒中のリスクを増加させることが、大規模無作為化試験で示されている。高周波・低出力の超音波エネルギーは血栓溶解作用を増強する可能性があり、tPA(アルテプラーゼ)によるカテーテル血栓溶解療法の補助として超音波を用いるデバイスは、有効性を保持しつつアルテプラーゼの投与量を減らし、注入時間を短縮する可能性が示されていた。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年3月28日号で報告された。米国と欧州の無作為化試験 HI-PEITHO試験は、米国と欧州の59施設で実施したアダプティブデザインを用いた市販後非盲検(主要アウトカムの評価は盲検下)無作為化試験であり、2021年8月~2025年7月に参加者を登録した(Boston Scientificの助成を受けた)。 対象は、年齢18~80歳、中等度リスク肺塞栓症(右室拡張末期径/左室拡張末期径の比が1.0以上、かつトロポニン値の上昇)と診断され、心肺機能の指標(収縮期血圧110mmHg以下、心拍数100回/分以上、呼吸数20回/分超)のうち2つ以上満たす患者であった。 被験者を、アルテプラーゼを用いた超音波補助カテーテル血栓溶解療法(EkoSonic血管内システム[Boston Scientific製])+抗凝固療法を受ける群(介入群)または抗凝固療法のみの通常治療を受ける群(対照群)に、1対1の比率で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、7日以内の肺塞栓症関連死、心肺の非代償状態または虚脱、肺塞栓症の症候性再発の複合とした。主に心肺非代償状態/虚脱のリスクが低下 ITT集団として544例(平均[±SD]年齢58.2[±13.5]歳、女性42.6%)を登録し、介入群に273例、対照群に271例を割り付けた。急性期肺塞栓症関連症状の平均持続期間は3.7(±3.4)日だった。 7日の時点での主要アウトカムのイベントは、対照群で28例(10.3%、95%信頼区間[CI]:7.2~14.5)に発現したのに対し、介入群では11例(4.0%、95%CI:2.3~7.1)と有意に少なかった(相対リスク:0.39、95%CI:0.20~0.77、p=0.005)。 主要アウトカムの構成要素別の解析では、主に心肺非代償状態/虚脱(介入群3.7%vs.対照群10.3%、相対リスク:0.4[95%CI:0.2~0.7])のリスクが介入群で大きく低下しており、肺塞栓症関連死(1.1%vs.0.4%、3.0[0.3~28.5])および肺塞栓症の症候性再発(0.4%vs.0.4%、1.0[0.1~15.8])については両群間に差を認めなかった。重篤な有害事象にも差はない 無作為化後7日以内の大出血は、介入群で11例(4.1%)、対照群で6例(2.2%)にみられた(p=0.32)。また、30日以内に大出血を認めたのは、それぞれ11例(4.1%)および8例(3.0%)であった(p=0.64)。 無作為化後30日までの重篤な有害事象(介入群14.8%vs.対照群16.2%、相対リスク:0.9[95%CI:0.6~1.3]、p=0.64)の発生率についても、両群間に有意な差を認めなかった。また、両群とも、頭蓋内出血は発生しなかった。長期アウトカムの追跡調査が進行中 著者は、「参加施設の試験プロトコルの順守状況がきわめて優れていたことを踏まえると、本試験の結果は、この介入法が中等度リスクの患者集団において良好な有効性と安全性プロファイルを有することを示唆する」「肺塞栓症後の長期アウトカムへの超音波補助カテーテル血栓溶解療法の潜在的な影響を評価するために、現在、12ヵ月間にわたる追跡調査が進行中である」としている。 また、「イベントの発生頻度が全体的に低かったため、本試験では、特定の患者サブグループにおいて治療効果を比較したり、2つの治療群間の出血性合併症の差異について確固たる結論を導き出すのに十分な統計学的検出力は得られなかった」と付言している。

7.

EGFR変異NSCLC、アミバンタマブ皮下注+ラゼルチニブの日本人解析結果(PALOMA-3)/日本臨床腫瘍学会

 EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)において、アミバンタマブ皮下注製剤(商品名:リブロファズ)+ラゼルチニブ(同:ラズクルーズ)の併用療法は、アミバンタマブ静脈内投与製剤(同:ライブリバント)+ラゼルチニブと一貫した有効性を示し、Infusion-Related Reaction(IRR)の発現率を低減させることが、国際共同第III相試験「PALOMA-3試験」で示されている1)。本試験の日本人集団の解析結果について、田宮 基裕氏(大阪国際がんセンター)が第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)で報告した。本解析において、アミバンタマブ皮下注製剤は日本人集団でも全体集団と一貫した臨床的有益性を示すことが示唆された。なお、アミバンタマブ皮下注製剤は2026年3月18日に薬価収載され、同日に発売されている。・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験・対象:EGFR変異陽性(exon19欠失またはL858R)で、オシメルチニブ+プラチナ製剤を含む化学療法後に進行したNSCLC患者・試験群(SC群、206例):アミバンタマブ皮下投与(体重に応じ1,600mgまたは2,240mg、最初の4週間は週1回、それ以降は隔週)+ラゼルチニブ経口投与(240mg、1日1回)・対照群(IV群、212例):アミバンタマブ静脈内投与(体重に応じ1,050mgまたは1,400mg、最初の4週間は週1回、それ以降は隔週)+ラゼルチニブ経口投与(240mg、1日1回)・評価項目:[主要評価項目]2サイクル目1日目もしくは4サイクル目1日目のトラフ濃度、1~15日目の血中濃度曲線下面積[副次評価項目]奏効割合(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、患者満足度、安全性など[探索的評価項目]全生存期間(OS)など 今回は、日本人集団56例(SC群26例、IV群30例)の解析結果が報告された。主な結果は以下のとおり。・年齢中央値はSC群70歳、IV群63歳であった。ECOG PS0の割合はそれぞれ62%、27%であり、SC群が高かった。脳転移歴を有する割合はそれぞれ46%、23%であり、こちらもSC群が高かった。・日本人集団の薬物動態パラメータは、全体集団と同様であった。・ORRはSC群39%、IV群30%であった。なお、データカットオフ時点において、奏効例では死亡および病勢進行イベントは認められていなかった。・PFS中央値はSC群未到達、IV群4.5ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.44、95%信頼区間[CI]:0.18~1.10)。・OS中央値はSC群未到達、IV群8.8ヵ月であった(HR:0.14、95%CI:0.02~1.17)。1年OS率はそれぞれ96%、48%であった。・Grade3以上の有害事象の発現割合はSC群42%、IV群70%であった。投与中止に至った有害事象の発現割合はそれぞれ15%、20%であった。・SC群におけるIRRの発現率は15%であり、IV群の60%と比較して低減した。・静脈血栓塞栓症(VTE)の発現割合はSC群12%、IV群17%であった。なお、SC群のVTEは、予防的抗凝固薬の投与を受けていない患者のみに発現した。 本結果について、田宮氏は「EGFR遺伝子変異陽性の進行NSCLC日本人患者において、アミバンタマブ皮下注製剤+ラゼルチニブが、より有望な治療選択肢となることを支持するものである」とまとめた。 また、SC群ではIRRの発現が低減した一方で、皮膚障害は低減しなかったことについて問われ、これに対して同氏は「皮下投与では薬剤の吸収が緩やかであり、ピーク濃度は低くなる。このことにより、SC群でIRRの発現が低減した可能性がある。一方で、皮膚障害には、組織における薬剤濃度が関係していると考えられる。体内の薬剤濃度はSC群のほうが安定して高い濃度を維持している可能性があり、このことから皮膚毒性や低アルブミン血症はSC群で多い傾向にあったのではないか」と見解を述べた。

8.

第314回 1人の女性の3つの自己免疫疾患が元凶のB細胞を駆除する自己T細胞投与で解消

ドイツの1人の女性を苛む3つの自己免疫疾患が、それらの元凶の悪辣なB細胞を駆除するように仕立てた自己T細胞で雲散霧消し、かつては10あまりの治療を受けたのが嘘のように、さらなる治療なしで1年超を無事で過ごせています1-3)。3つの自己免疫疾患はどれも免疫系の狼藉なB細胞が作る自己抗体に端を発します。その1つの自己免疫性溶血性貧血(AIHA)は、自己抗体が赤血球を破壊することを原因とします。あと2つの自己免疫疾患の症状はまるで正反対で、その1つは血小板への自己抗体を原因とする免疫性血小板減少症(ITP)で、出血を生じやすくします。もう1つの抗リン脂質症候群は、凝固を防ぐタンパク質への自己抗体を原因とし、ITPとは反対に血栓症を生じやすくします。診断の後に女性は抗体薬、ステロイド、免疫抑制薬を含む9種類の治療を試みました。長期の高用量ステロイド投与は唯一のめぼしい治療ですが、免疫系全般を抑制する故に感染症の危険と背中合わせです。そのステロイドでさえ歯が立たず、さらには最先端も免疫抑制薬の手にも負えず、女性は診断から10年超を経た2025年、47歳のときにドイツのエルランゲン大学病院の血液専門医Fabian Muller氏のチームの下へ救急搬送されました。Muller氏のチームは、自己免疫疾患のキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法の先駆けの試験で知られ、2022年には全身性エリテマトーデス(SLE)患者5例がその治療で寛解したことを報告しています4)。貧血の治療に毎日の輸血を要し、血栓症を防ぐための抗凝固薬を続けていた女性にMuller氏らは、同氏いわく最後の砦であったCAR-T細胞療法を施しました。投与したCAR-T細胞は女性から採取したT細胞を加工して作られ、B細胞のタンパク質のCD19を認識します。その働きによりB細胞を見つけ出し、除去することができます。体内で分裂でき、その効果は投与後に数年、なんなら10年も持続しうることが知られます。痛みや疲れで何週間も寝たきりで過ごすこともあった女性へのCAR-T細胞投与の効果は目覚ましく、その投与の1週間後を最後に輸血が不要になりました。2週間も経つと女性はより力がみなぎっていると感じ、日々の所作が可能になりました。3週間後には赤血球のタンパク質のヘモグロビン量が倍増して正常域となり、どうやら免疫系は赤血球を破壊しなくなっているようでした。血栓と関連する抗リン脂質抗体は徐々に減って見当たらなくなり、血小板数も安定に推移するようになりました。一回きりのCAR-T細胞投与から14ヵ月経つ今日、女性は薬を一切使うことなく無症状で過ごせています3)。がんのCAR-T細胞療法の先駆者の1人のCarl June氏によると、今や種々の自己免疫疾患のCAR-T細胞療法の200あまりの臨床試験が進行中です。これまではCAR-T細胞療法といえば主に白血病などの血液がんが相手でしたが、自己免疫疾患を治療するCAR-T細胞療法の承認がSLE、筋炎、強皮症用途を皮切りにして続くだろうとJune氏は予想しています3)。いくつかは向こう2~3年以内に米国で承認に漕ぎ着けそうです。参考1)Korte IK, et al. Med. 2026 Apr 9. [Epub ahead of print]2)CAR-T therapy drives remission in patient with three autoimmune diseases / Eurekalert3)One woman, three autoimmune diseases: CAR-T therapy vanquishes ultra-rare disease trio / Nature4)Mackensen A, et al. Nat Med. 2022;28:2124-2132.

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AFアブレーション後のDOAC、Apple Watchで服用日数を95%削減/日本循環器学会

 心房細動(AF)に対するカテーテルアブレーション術後において、ガイドラインでは脳梗塞・全身塞栓症リスク(CHA2DS2-VAScスコア)に基づいて長期的な抗凝固療法の継続が推奨されている1)。しかし、術後にAFが抑制されている患者においても一律に直接経口抗凝固薬(DOAC)を継続することは、出血リスクの増加や医療コストの増大を招く懸念がある。そこで、アブレーション術後の患者において、Apple Watchを用いてAFをリアルタイムで検出することで、必要な時だけDOACを服用する「イベント駆動型」戦略について、安全性と有効性を検証する多施設共同研究「Up to AF Trial」が実施された。その結果、DOACの服用日数を約95%削減しつつ、追跡期間中に脳梗塞や重大な出血イベントは発生しなかったことが示された。3月20〜22日に開催された第90回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 1にて、大阪大学の須永 晃弘氏が発表した。なお、本結果はCirculation Journal誌オンライン版2026年3月20日号に同時掲載された2)。 本研究は、2023年8月~2024年4月の期間に、関西9施設における前向き単群介入試験として実施された。アブレーション術後3ヵ月以上経過し、洞調律を維持しているCHA2DS2-VAScスコア3以下の患者50例(平均年齢63歳、女性10%)を対象とした。Apple Watchによる30日間の先行モニタリングでAFがないことを確認してDOACを休薬、その後はApple Watchの通知(高心拍または不規則な心拍)や患者自身による心電図(ECG)記録でAFが疑われた場合のみ服用を再開し、7日以内に医師を受診するという「イベント駆動型」プロトコルを採用した。受診の結果、AFが否定されれば再び休薬し、確認されれば試験終了まで服用を継続した。主要評価項目は、追跡期間31~360日目における、従来の継続服用と比較した「DOAC服用日数の削減率」とした。副次評価項目は、全死亡、脳梗塞、全身塞栓症、重大な出血イベント、およびデバイスの不具合とした。 主な結果は以下のとおり。・Apple Watchを用いた心調律モニタリングにより、合計1万5,865人日の観察において、DOAC服用日数は856人日分にとどまり、従来の継続服用群と比較して94.6%(95%信頼区間[CI]:89.8~98.4)削減された。・Apple Watch装着(wear-days)の順守率の中央値は100%(95%CI:99.7~100)に達した。・追跡期間中、死亡、脳梗塞、全身塞栓症、重大な出血イベントは、いずれも発生しなかった。デバイスの不具合によるECG記録不可が1件認められた。・医師の診断を基準としたApple Watch ECGの性能は、感度100%、特異度93.3%、正確度95.8%ときわめて高い値を示した。 本研究の結果、アブレーション術後の低〜中等度リスク患者において、Apple Watchを活用した個別化戦略は、DOACを安全に大幅に削減できる可能性が示された。須永氏は、今回の知見がリスクスコアに基づく静的な管理から、心調律に基づいた「動的な管理」へのパラダイムシフトを促進するものであると指摘した。本研究の限界として、サンプルサイズの少なさや、塞栓症リスクの比較的低い集団を対象としている点に触れ、今後より大規模な無作為化比較試験による検証が必要であると結論付けた。 日本循環器学会(JCS)学術集会まとめページはこちら

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EGFR変異NSCLC、アミバンタマブ+ラゼルチニブがアジア人でもOS良好(MARIPOSA)/日本臨床腫瘍学会

 EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療として、アミバンタマブ+ラゼルチニブは、国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA試験」において、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を改善することが示されている1)。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)において、本試験のアジア人集団におけるOSなどのアップデート解析結果が、林 秀敏氏(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 主任教授)により発表され、アミバンタマブ+ラゼルチニブは、アジア人集団においてもオシメルチニブ単剤と比較してOSが良好であることが示された。なお本演題は、欧州臨床腫瘍学会アジア大会(ESMO Asia2025)のアンコール演題であったが、日本人集団のpost-hoc解析結果が追加された。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のEGFR遺伝子変異(exon19欠失またはL858R)陽性の進行・転移NSCLC患者・試験群1(ami+laz群):アミバンタマブ(体重に応じ1,050mgまたは1,400mg、最初の1サイクル目は週1回、2サイクル目以降は隔週)+ラゼルチニブ(240mg、1日1回) 429例・試験群2(laz群):ラゼルチニブ(240mg、1日1回) 216例・対照群(osi群):オシメルチニブ(80mg、1日1回) 429例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定に基づくPFS[主要な副次評価項目]OS[その他の評価項目]PFS2(2次治療開始後のPFS)、治療中止までの期間、頭蓋内PFS(icPFS)、頭蓋内奏効率(icORR)、頭蓋内奏効期間(icDOR)、症状進行までの期間(TTSP)、安全性など 今回は、アジア人集団(ami+laz群250例、osi群251例)の比較結果が報告された。主な結果は以下のとおり。・ベースラインの患者背景は両群でバランスがとれており、年齢中央値は63歳であった。EGFR遺伝子変異の内訳はexon19欠失が55%、L858Rが45%であり、脳転移を有する割合は44%であった。・追跡期間中央値38.7ヵ月時点におけるOS中央値は、ami+laz群が未到達、osi群38.4ヵ月であり、ami+laz群で延長がみられた(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.56~0.97、名目上のp=0.026)。3年OS率はami+laz群61%、osi群53%で、42ヵ月OS率はそれぞれ59%、46%であった。・OSのサブグループ解析において、一貫したOSのベネフィットが示された。日本人を対象としたpost-hoc解析においても一貫した傾向がみられた(HR:0.77、95%CI:0.34~1.77)。・病勢進行後に後治療を受けた患者の割合はami+laz群71%、osi群75%であり、いずれも多くが化学療法またはチロシンキナーゼ阻害薬を含む治療を受けていた。・PFS2中央値はami+laz群が未到達、osi群34.2ヵ月であり、ami+laz群が良好であった(HR:0.70、95%CI:0.54~0.91、名目上のp=0.007)。・治療中止までの期間中央値はami+laz群27.9ヵ月、osi群23.2ヵ月であり、ami+laz群が長かった(HR:0.74、95%CI:0.59~0.93、名目上のp=0.008)。・icPFS中央値はami+laz群が23.5ヵ月、osi群が23.9ヵ月であった(HR:0.79、95%CI:0.57~1.09)。3年icPFS率はami+laz群が36%、osi群が18%であった。・icORRはami+laz群が78%、osi群が79%であった。icDOR中央値はそれぞれ未到達、27.4ヵ月であった。・TTSP中央値はami+laz群が未到達、osi群が30.8ヵ月であった(HR:0.65、95%CI:0.51~0.84、名目上のp<0.001)。・安全性プロファイルは既報および全体集団と一貫していた。静脈血栓塞栓症(VTE)はami+laz群の34%、osi群の7%で発現したが、追跡期間の延長による意義のある増加はみられなかった。なお、ベースライン時に抗凝固薬を使用していたのは3%であった。肺臓炎の発現割合はいずれの群も2%と低かった。・ami+laz群における注目すべき有害事象の多くは投与初期(0~4ヵ月)に発現しており、長期の観察において安全性に関する新たなシグナルはみられなかった。このことから、長期的な治療継続が実現可能であることが示唆された。 本結果について、林氏は「アミバンタマブ+ラゼルチニブはオシメルチニブ単剤と比較して、全体集団と同様にアジア人集団でも死亡リスクを有意に低下させ、アジア人集団における新たな標準治療としての位置付けがさらに強固なものとなった」とまとめた。なお、日本人集団のOS解析結果について、同氏は「日本人集団のOS解析結果はpost-hoc解析であり、サンプルサイズやイベント数が少なかった。アジア人は層別化因子であったことを考慮すると、アジア人集団の解析結果のほうがより重要なデータである」と述べた。

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「心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン」をフォーカスアップデート/日本循環器学会

 『2026年JCS/JSOGガイドラインフォーカスアップデート版 心血管疾患患者の妊娠・出産の適応と診療』1)が第90回日本循環器学会学術集会(2026年3月20~22日)会期中の3月20日に発刊された。本ガイドラインの研究班長を務めた神谷 千津子氏(国立循環器病研究センター循環器病周産期センター)と桂木 真司氏(宮崎大学産科・婦人科 主任教授)が本学術集会プログラム「ガイドラインを学ぶ2」において、妊娠を避けることを強く望まれる心疾患、妊産婦に注意が必要な循環器用薬を中心に解説した。 本書では、新規薬物治療をはじめとした循環器診療の進歩、思春期以降の男女を対象にしたプレコンセプションケアの取り組み、国内外からの心血管疾患合併妊娠を中心に、シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)を支えることも目標として作成され、今回のアップデート版では以下の7項目を主に取り扱う。そこで本稿では、とくに押さえておきたい項目として、「妊娠を避けることを強く推奨する疾患、病態」「妊娠中、授乳中の循環器薬物治療の安全性」にフォーカスする。―――――――――――――――――――・日本の疫学(周産期データベース、妊産婦死亡症例検討)・プレコンセプションケアと妊娠関連ハートチーム(PHT)・妊娠を避けることを強く推奨する疾患、病態・妊娠中、授乳中の循環器薬物治療の安全性・周産期管理:産科(分娩方法の選択、妊娠高血圧症候群)・周産期管理:麻酔科(麻酔方法の選択、硬膜外麻酔)・産後の注意点―――――――――――――――――――周産期の死亡原因として挙がる心大血管疾患とは 日本産婦人科学会の周産期データベースによると、2014~23年に登録された母体約220万人のうち、基礎疾患に何らかの心疾患を有したのは1.2%(2万6,894例)であった。神谷氏は「心疾患を有する母体は基礎内科疾患がない者と比較して、無痛分娩率、帝王切開率、帝王切開時の全身麻酔率、分娩時出血量、転科率、そして母体死亡率が高い傾向にある」と指摘。また、日本産婦人科医会による妊産婦死亡症例登録システムのデータでは、心大血管疾患は間接産科的死亡*1の第1位であり、大動脈解離、周産期心筋症、肺高血圧症などが原因であることが明らかになっている。同氏は「周産期に初めて診断され、産科と内科の連携が不十分な場合もある。これを解消するために循環器医ができることとして、コンサルテーションの閾値を低く、速やかな検査・治療が求められる」と強調した。*1 妊娠前から存在した疾患または妊娠中に発症した疾患により死亡したもの2)妊娠を避けることを強く望まれる心疾患 妊娠の際に厳重な注意を要する、あるいは妊娠を避けることが強く望まれる心疾患は、第2版までは6項目にとどまっていた。今回、大幅にアップデートがなされ、10項目が表13(p.25)に示された。・高度な体心室機能低下(LVEF<30%、体心室RVEF<40%)や心不全(NYHA心機能分類III~IV度)・重症閉塞性肥大型心筋症(HOCM)・周産期心筋症の既往と左心室機能低下の残存・中等度から重度のPAH(アイゼンメンジャー症候群含む)・重症僧帽弁狭窄(MS)・妊娠前から症状を伴う重度流出路狭窄(大動脈弁高度狭窄:平均圧較差≧40mmHg)・マルファン症候群(上行大動脈拡張期径>45mm、高リスク症例では≧40mm)や大動脈二尖弁を伴う大動脈疾患(大動脈径>50mm)・症状、有意な合併症のあるフォンタン術後・未修復の重症大動脈縮窄症・重症チアノーゼ性心疾患(SpO2<85%) 第3章では上記に対する推奨がCQ1~7とFRQ1で示されている*2。主な変更点について「妊娠を避けることを推奨する左室駆出率(LVEF)が以前は35~40%未満であったが、30%未満へと引き下げた(CQ1)。肺高血圧症患者では、血行動態の重症度が中等度~重度の場合は妊娠を避けることを強く推奨するが、状態の安定した軽症例であれば、妊娠を前向きに考えることが可能と、世界に先駆けてリスク分類した(CQ2)。また、機械弁置換後のリスクは抗凝固療法に起因するものであるため、強く妊娠を希望する場合は、周産期の抗凝固療法に習熟した専門施設での妊娠・分娩管理を強く推奨する(CQ3)。ただし、状態の安定した軽症の肺高血圧症患者や機械弁を有する患者が妊娠継続を希望する場合、各専門施設で周産期管理が求められるため、施設要件が合致した場合にのみ前向きに検討が可能である(p.25、表14)点には留意してほしい」と解説した。 続けて、「流出路狭窄がある場合には、妊娠前から症状を伴うような重症例では妊娠を避けることを強く推奨する一方で、平均圧較差が40~50mmHgで無症状の場合は主治医と相談しながら検討していくことが推奨される(CQ4)。さらに、有症状、有意な合併症をもつフォンタン術後の場合は妊娠リスクを避けることが推奨される(CQ6)。周産期心筋症の既往をもつ場合、LVEF50%未満が継続する患者では妊娠を避けることを強く推奨する(CQ7)」と説明した。*2 CQ:クリニカルクエスチョン、FRQ:フューチャーリサーチクエスチョン なお、これらは妊娠についての意思決定を支える推奨であり、医療的「介入」ではないため、推奨強度は付記しない方針とされている点には注意が必要である。妊娠中に選択できる循環器薬、アテノロールは実は危険! 心疾患合併妊娠のリスク因子のなかで、調整可能な因子の1つに薬剤選択が挙げられる。今回アップデートされた薬剤クラスには、抗凝固薬、降圧薬、利尿薬、抗不整脈薬、肺高血圧症や心不全、脂質異常症の治療薬がある。このなかで特筆すべきはβ遮断薬のアテノロールで、これまで妊娠中の禁忌記載がないβ遮断薬であったにもかかわらず、近年ではアテノロールが最も胎児へのリスクが高いと報告された3)ため、「使用可能だが、在胎不当過小児(SGA)のリスクが最も大きく、他剤への変更が推奨される」と変更した(p.58、表23)ことを強調した。 スタチンについては「添付文書上は禁忌であるが、家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)患者や2次予防目的について、FDAでは使用を勧告している。本フォーカスアップデートでもその旨を記載した」と述べ、DOACについては、「妊娠中の安全性は未確立だが、リバーロキサバンにおいては授乳安全性が確立されつつある」とコメント。降圧薬のうちCa拮抗薬については、前版よりニフェジピン、アムロジピン、カルベジロール、ビソプロロールが妊娠中禁忌から有益性投与に変更している。ACE阻害薬やARBは妊娠中に禁忌であるが授乳中の安全性は確立しているため、「出産後に速やかに再開処方することは可能」と話した。 続いて桂木氏は、薬剤選択・用量・投与速度が妊娠中や分娩前後で調節が可能であること、循環器・産科・麻酔科で情報共有・管理することが重要である点に触れ、「妊娠中の薬物は禁忌も多いが、一律に禁忌ではなく症例に応じた病態別評価が必要であり、妊娠は循環器治療を止める理由ではない。また、母体へのリスクは即時的で致死的なものが多いため、母体のベネフィットと胎児リスクを比較して代替薬の選択を検討してほしい」とコメントした。さらに、「薬剤管理は母体死亡を減らす鍵となる。そのためには、妊娠中の循環器薬剤は“中止”より“最適化”を目指してほしい。産科薬剤は循環動態に影響するため、投与を慎重に判断し、分娩前から循環器・産科・麻酔科による情報共有を行ってほしい」と強調した。これまでのガイドラインと改訂の経緯 これまで、心血管疾患患者の妊娠中の病態について取り扱ったガイドラインは、2005年に初版が発刊、2018年に第2版となる『心血管疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン』が日本産科婦人科学会と合同で作成されていた。それから8年が経過し、新たなエビデンスが集積したことから、今回は前版の内容に補足するかたちで作成・公表がなされた。日本循環器学会(JCS)学術集会まとめページはこちら

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脳卒中・出血リスクの高い心房細動患者、LAAC vs.最善薬物療法/NEJM

 脳卒中および出血リスクの高い心房細動患者において、左心耳閉鎖術(LAAC)は医師主導の最善薬物療法(physician-directed best medical care)に対して、複合エンドポイント(脳卒中、全身性塞栓症、大出血、心血管死または原因不明の死亡)に関して非劣性は示されなかった。ドイツ・Charite University Medicine BerlinのUlf Landmesser氏らCLOSURE-AF Trial Investigatorsが、同国で行ったプラグマティックな多施設共同前向き非盲検無作為化試験の結果で報告した。LAACは、心房細動患者の脳卒中予防において経口抗凝固薬に代わる選択肢であるが、脳卒中および出血リスクの高い患者において、医師主導の最善薬物療法と比較した有効性は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2026年3月18日号掲載の報告。ドイツの42施設で患者を登録して試験 試験は、ドイツの42施設で患者を登録して行われた。研究グループは、脳卒中および出血リスクの高い心房細動患者を、LAACを受ける群または医師主導の最善薬物療法(適格の場合経口抗凝固薬を含む)を受ける群に無作為に割り付け、追跡評価した。 主要エンドポイントは、脳卒中(虚血性または出血性)、全身性塞栓症、大出血または心血管死もしくは原因不明の死亡の複合でtime-to-event解析で評価し、非劣性を検証した。非劣性マージンはハザード比1.3であった。主要エンドポイントの発生、LAAC群155例vs.薬物療法群127例 計912例の成人患者が無作為化された。主要エンドポイントの解析は、LAAC群446例、医師主導の最善薬物療法群(薬物療法群)442例を対象に行われた。これら被験者の平均年齢は77.9±7.1歳、女性が38.6%、平均CHA2DS2-VAScスコア(範囲:0~9、高スコアほど脳卒中リスクが高いことを示す)は5.2±1.5であり、平均HAS-BLEDスコア(範囲:0~9、高スコアほど出血リスクが高いことを示す)は3.0±0.9であった。 追跡期間の中央値3年(四分位範囲:1.7~4.7)後、主要エンドポイントの初発が報告されたのは、LAAC群155例(100人年当たり16.8)、薬物療法群127例(100人年当たり13.3)であった(RMST[restricted mean survival time]群間差:-0.36年、95%信頼区間:-0.70~-0.01、非劣性のp=0.44)。 重篤な有害事象の発現は、LAAC群368例(82.5%)、薬物療法群342例(77.4%)で報告された。

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急性静脈血栓塞栓症の出血リスク、アピキサバンvs.リバーロキサバン/NEJM

 急性静脈血栓塞栓症の患者において、3ヵ月の治療期間における臨床的に重要な出血リスクは、アピキサバン投与群がリバーロキサバン投与群よりも有意に低下したことが、カナダ・オタワ大学のLana A. Castellucci氏らCOBRRA Trial Investigatorsによる検討で示された。アピキサバンおよびリバーロキサバンは、急性静脈血栓塞栓症の治療でよく用いられる経口抗凝固薬であるが、両薬の出血リスクの差については不明なままであった。NEJM誌2026年3月12日号掲載の報告。3ヵ月の投与中に発生した臨床的に重要な出血を評価 研究グループは、急性静脈血栓塞栓症の患者におけるアピキサバンとリバーロキサバンを比較するプラグマティックな多国間共同(カナダ、オーストラリア、アイルランドが参加)前向き無作為化非盲検エンドポイント盲検化試験を行った。 急性症候性肺塞栓症または近位深部静脈血栓症を有する患者を適格とし、アピキサバン群(10mgを1日2回7日間投与し、その後は5mgを1日2回投与)またはリバーロキサバン群(15mgを1日2回21日間投与し、その後は20mgを1日1回投与)に1対1の割合で無作為に割り付け、3ヵ月間投与した。 主要アウトカムは、3ヵ月の試験期間中に発生した臨床的に重要な出血で、大出血または臨床的に重要な非大出血の複合とした(出血の定義はInternational Society on Thrombosis and Haemostasisによる)。 副次アウトカムは、全死因死亡などであった。アピキサバン群、相対リスク0.46で有意に低下 2017年12月13日~2025年1月23日に3ヵ国の32施設で2,760例が無作為化された(アピキサバン群1,370例、リバーロキサバン群1,390例)。ITT集団はアピキサバン群1,345例、リバーロキサバン群1,355例であった。ベースラインの両群の特性は均衡が取れており、全体の平均年齢は58.3歳、女性が1,175例(43.5%)。多くの患者(2,087例、77.3%)が誘因のない静脈血栓塞栓症であった。 ITT解析において、主要アウトカムのイベント発生は、アピキサバン群44/1,345例(3.3%)、リバーロキサバン群96/1,355例(7.1%)であった(相対リスク[RR]:0.46、95%信頼区間[CI]:0.33~0.65、p<0.001)。 全死因死亡は、アピキサバン群1/1,345例(0.1%)、リバーロキサバン群4/1,355例(0.3%)で報告された(RR:0.25、95%CI:0.03~2.26)。 出血または静脈血栓塞栓症に関連しない重篤な有害事象は、アピキサバン群36/1,345例(2.7%)、リバーロキサバン群30/1,355例(2.2%)で報告された。

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日本の心房細動患者、1年後の死亡・脳卒中・血栓塞栓症の発生率は?

 日本の心房細動患者は、経口抗凝固薬の使用率が81%と高く、1年後の全死亡率は0.1%と低く、脳卒中/血栓塞栓症の発生率も0.1%と低いことが、APHRS-AFレジストリ(Asia-Pacific Heart Rhythm Society Atrial Fibrillation Registry)の日本人における1年時の解析で示された。日本医科大学の淀川 顕司氏らがJournal of Arrhythmia誌2026年2月8日号で発表した。 APHRS-AFレジストリはアジアの大都市圏における前向き研究で、心房細動患者のベースライン特性、治療、臨床アウトカムについて重要な情報を提供する。今回、本レジストリに登録された日本人患者の1年間の追跡調査データを解析した。 主な結果は以下のとおり。・登録された4,666例のうち、794例が2015~17年に日本の主な循環器センター28施設から登録された。平均年齢は65.7歳、男性が69.0%で、主な併存疾患は高血圧(37.5%)、脂質異常症(29.0%)、心不全(15.9%)、糖尿病(15.0%)であった。平均CHADS2スコアは1.0、CHA2DS2-VAScスコアは2.0、HAS-BLEDスコアは1.1であった。・登録時の経口抗凝固薬の使用率は81%で、そのうち7%がビタミンK拮抗薬、74%が直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を処方されていた。患者の57.8%がカテーテルアブレーション施行予定であった。・1年間の追跡調査を実施した743例において、1年全死亡率は0.1%(1例、心不全)で、脳卒中/血栓塞栓症発生率も0.1%(1例、肺塞栓症)であった。大出血イベントは0.7%(5例[頭蓋内出血3例、下部消化管出血1例、軟部組織出血1例])に認められた。

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PPIやNSAIDsの併用、ICIの有効性に影響せず

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療中、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの一般的な併用薬が治療効果に影響するとの報告があるが、その因果関係には議論がある。米国・ミシガン大学のDaria Brinzevich氏らは、米国退役軍人保健局(VHA)の全国データベースを用い、非小細胞肺がん(NSCLC)患者における一般的併用薬とICI治療成績の関連を検証した。Cancer誌オンライン版2025年12月15日号掲載の報告。 2005~23年に治療を受けたStageIVのNSCLC患者のうち、1次または2次治療でICI(n=3,739)または化学療法(n=6,585)を受けた患者を対象とした。20種類の薬剤クラス(PPI、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、抗菌薬、スタチン、β遮断薬、ACE阻害薬/ARB、NSAIDs、オピオイド、ステロイド、抗凝固薬など)について「治療開始前3ヵ月内の処方」を併用と定義した。主要評価項目は全生存期間(OS)とTTNT(次治療開始までの期間)と併用薬の関連で、傾向スコアに基づく重み付けを用いたCox比例ハザードモデルで解析した。ICI群で名目上有意(p<0.05)な関連が認められた薬剤については、化学療法群でも同様の解析を行い、非特異的な影響を検証した。 主な結果は以下のとおり。・ICI群は男性が97%、60~79歳が81%、ICI+化学療法併用が45%、1次治療が71%だった。対照群(化学療法群)は多くの背景因子でICI群と類似していたが、59歳以下が24%(ICI群9.4%)と若年者が多く、併存疾患もやや少なかった。・ICI群において、20の薬剤クラスの中で15はOSと、14はTTNTと有意な関連を示さなかった。一方で、ループ利尿薬、抗凝固薬、オピオイド、ペニシリン系およびフルオロキノロン系抗菌薬はOS不良と関連した。しかし、これらの関連は化学療法群でも同様に認められ、ICIの特異的な影響ではないことが示唆された。これらの薬剤はICI群においてTTNTの悪化とも関連したが、化学療法群でも同様の関連性が観察された。・抗菌薬(1点)、PPI(1点)、ステロイド(2点)から構成される「immunomodulatory drug score」もICI群でOSおよびTTNT不良と関連したが、化学療法群でも同様の関連が認められた。すなわち、同スコアはICI効果修飾因子ではなく、一般的な予後指標である可能性が高いと考えられた。 著者らは、「本研究では、一般的に処方される併用薬がStageIV NSCLCにおけるICIの有効性を変化させることは認められなかった。従来報告されてきた併用薬とICI効果の関連の多くは、疾患重症度や基礎疾患など、未測定の交絡因子による可能性が高い。ICI治療中であっても、併存疾患の治療を過度に制限する必要はない可能性が示唆される」としている。

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第302回 老父に認知症治療薬は必要か、医療ジャーナリストの葛藤

INDEX父のMCIが進行認知症治療薬、服用させるべき?抗凝固薬の副作用と思しき鼻出血医療知識を持っているがゆえの悩み父のMCIが進行「病にかかった患者とその家族は時に藁にもすがりたい思いを持つ」医療者ならば、こうしたことは数多く経験しているだろう。私自身は医療者ではないものの、医療者の傍らで何度か経験している。そのため、上記の思いを念頭に一般向けの記事執筆では患者と家族の期待値を過度に高めないよう気を配っている。むしろ、過度に期待値を下げるように記事を執筆していることがほとんどかもしれない。しかし、やはり当事者になると気持ちがざわざわする。何のことかと言えば、以前から本連載で触れている、認知機能低下と慢性心不全を抱える父親のことである。実は老老介護をしている母親の負荷軽減も考え、一昨年末から私は地元・仙台と東京の2拠点生活に移行した。私の主な役目は、父親の通院介助と娯楽のための外出に付き合うこと、母親の愚痴聞き役になることだ。昨年の真夏、私は母親とともに父親の通院に付き添った。2024年春に発症した脳梗塞の1年フォローアップ外来のためだった。脳神経内科医からは脳梗塞のほうは現時点で問題なしと言われたが、私だけが診察室に残り、ある相談をした。この時、父親はMRIを撮像していたため、今の父親の認知機能低下がどの水準にあるかを知りたかったのだ。父親が認知機能に関連した画像診断を受けたのは約7年前。この時にアルツハイマー型の軽度認知障害(MCI)と診断された。しかし、昨今の本人の症状を考えれば、もうその段階は過ぎているはず。私も含め家族はその後、半ば暗黙の了解のように検査を受けずに過ごしていた。むしろ診断を避けていたと言えるかもしれない。だが、今回MRIを撮像していたこともあり、この機しかないと思い、私はこれまでの事情を話したのだった。主治医はディスプレイ上でMRI画像をクリックしながら数分間眺めていた。そのうえでこう言った。「端的に言えば、そこ(MCI)からは一歩進んでいますね」「軽度アルツハイマー病という認識で良いですか?」「はい、そうなります」もともと覚悟していたため、「ああやっぱりか」という以上の感想はなかった。母親にも伝えたが、「まあ、そうだろうね」という反応だった。認知症治療薬、服用させるべき?この直後から私の頭に浮かび始めた命題が「コリンエステラーゼ阻害薬などの認知症治療薬の使用を検討すべきか」というもの。正直、これは悩ましい問題だった。もちろん私自身は、2004年のLancet誌に掲載されたドネペジル(商品名:アリセプト)のプラセボ対照無作為化二重盲検比較試験AD20001)のことなども一応は頭に入っている。ちなみに2年間のドネペジル投与の効果を評価した同試験の結果は、ドネペジル投与群でミニメンタルステート検査(MMSE)やブリストル日常生活動作スケール(BADLS)のスコアでプラセボ群に比べ有意差はあったものの、施設入所や障害進行では有意差は認められなかったというものだ。もっとも私個人からすると、施設入所はハードエンドポイントとは言い難いのだが…。父親が日常的に服用している抗凝固薬やSGLT2阻害薬はかかりつけの内科医から処方されており、その近傍には親戚の薬剤師が経営する保険薬局がある。私はまずこの薬剤師に相談してみた。身内だけに率直な意見が聞けると思ったからだ。彼は直截(ちょくせつ)にこう言った。「いやいや、飲まんほうが良いと思います。いつぞや聞いた、認知症は死への畏怖を和らげてくれる神のご慈悲だと」まあ、そういう考えもあるだろう。コリンエステラーゼ阻害薬では消化器症状の副作用で食が細ることがあるとも伝えられた。まあ、それも承知済みである。この時点でまだ腹落ちしてはいなかったので、かかりつけ医に相談してみることにした。かかりつけ医の法人は老人保健施設も運営しており、認知症治療薬の処方についても一定の経験があるのは間違いなかったからだ。親戚の薬剤師もこれに同意してくれた。抗凝固薬の副作用と思しき鼻出血ところが先月下旬、母親から「最近、父親の鼻血の頻度が多い」と連絡があった。すでに抗凝固薬の1日量は最低用量になっているとはいえ、その副作用を疑わねばならない。そこで私が何とか時間の都合をつけ、かかりつけ医へと連れて行った。かかりつけ医はやや耳が遠くなっている父親に対し、やや大きな声で「最近お加減はいかがですか?」と話しかける。父親は「まあまあです」と返した。そこでかかりつけ医と父親が軽く笑った後に、私から鼻血のことを伝えた。かかりつけ医から「両方の鼻の穴から? それとも片方の鼻の穴?」と尋ねられた。一瞬、何のことだろうと思いつつ、具体的な発症状況を母親に確認していなかったことに気付く。すると父親が「こっちから」と右の鼻の穴を指した。認知症になると、こうした本人の話が正しいのかどうか判別がしにくい(後に母親に確認したところ、これは正しかったらしい。しかも時折、鼻ほじりもしていたとのこと)。かかりつけ医からは「抗凝固薬の副作用が鼻血の主な原因ならば、両方の鼻の穴から出血していることも少なくないですね。片方からということは、鼻の粘膜が炎症を起こし、そこに抗凝固薬が影響している可能性があるので、一度、耳鼻科を受診してみる必要があるでしょう」と説明を受けた。そのうえで、服用中の抗凝固薬については、「一旦休薬する」「当面は現在のまま最低用量で服用を続け、早めに耳鼻科を受診する」の2つを提案された。今の認知機能レベルでこの選択ができない父親に代わり、私は後者を選択した。心房細動がある父親に対して、現状で抗凝固薬を休薬するほうがリスキーだと考えたからだ。これで鼻血の件はとりあえず決着。そのうえで私から相談があると切り出し、これまでの経緯を一通り説明し、「認知症治療薬の服用を検討すべきなのか?」を伝えた。かかりつけ医は「まあ、服用を始めて大きなデメリットが発生するとは考えにくい。本来ならばエーザイやリリーの…」と言いかけたので、私から「抗アミロイドβ抗体ですよね。でも父親はまさに脳梗塞をやっていますし」と返した。脳梗塞既往歴がある以上、当然、アミロイド関連画像異常(ARIA)の副作用リスクは高いと想定しなければならず、さらに本人は抗アミロイドβ抗体の慎重投与対象の高血圧症もある。そもそも90歳近い父親にあの高額な薬剤を使うことには、息子である私ですら相当な疑問を持つ。かかりつけ医は「そうなんだよね」と言うと、一呼吸置いてこう続けた。「最終的にはデメリットがないとしても、ご家族の期待値に応えられるほどなのかという話に尽きちゃうんだよね」まさに一番難しいところを突き付けられた。ちなみに母親はなるべく服用薬は最低限にしたいと常々言っている。私一人がこの場で決めることはできない。結局、まずは耳鼻科の受診を優先することで答えは先延ばしにした。医療知識を持っているがゆえの悩み診療所を出て父親の車いすを最寄り駅まで押しながら、ついつい「中途半端に医療のことを知らなかったほうが幸せだったかもしれない」「よく『正しく恐れよ』と言うが、今は『正しく迷っている』ということなのか?」などの思いがグルグル脳内を駆け巡る。当初耳にした時は何だか適当だなと思った、親類の薬剤師が言った「認知症は死への畏怖を和らげてくれる神のご慈悲」もまんざら外れていないのかも…と思ったりもする。そんなことを考えて目的地に着くと、SGLT2阻害薬を服用中でもある父親はトイレに行きたいと言い出した。もうこれには慣れっこになった。トイレの入り口まで連れて行き、父親を車いすから立たせて自力歩行でトイレに向かわせる。ふと時間を見ると、実家の最寄り駅までの電車の到着まであと5分。これを逃すと、次の電車まではしばし待たねばならなくなる。とはいえ、父親を急かすこともできない。「あー、早く戻ってこないかな」と思っていたところ、1分前にトイレから出てきた。幸い乗車ホームはトイレに面していた。慌てて左手に折りたたんだ車いすを持ち、右手で父親の体を支えながら目の前の乗車口へ無事に間に合った。が、実家に帰宅したら、父親がぶら下げていたはずのポシェットがない。「あれ?」と思い、とっさに「お父さん、カバンどこに置いてきた?」と尋ねると、脇にいた母親から肘で軽く小突かれた。ああ、もうそれを聞いても無駄なのだ。結局、四方八方に連絡を取り、最終的にかかりつけ医の最寄り駅の駅員がトイレで見つけて回収していたことがわかった。やれやれ。すっかりスローモーションになってしまった父親を自分の時間軸で行動させたことが失敗の最大の原因である。介護はかくも難しいものかと改めて思う。こう思ったのは何度目だろうか?しかし、私以上にそのことに直面している母親は、口頭やLINEメッセージで愚痴を言う一方で、その苦労を冗談交じりに笑い飛ばして話すこともかなり多い。父親の介護で私がため息をつきたくなる時、そんな母親がLINEで送ってきたメッセージを思い起こし、時には口ずさんでいる。「介護は続くよ。どーこまでも」参考1)Howe I, et al. Lancet. 2004;364:1214-1215.

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術後の状態管理(術後出血は大丈夫?)【医療訴訟の争点】第19回

症例PCI(経皮的冠動脈形成術)は虚血性心疾患に対する標準的治療として広く行われている一方、穿刺部合併症や後腹膜出血など、まれではあるが致命的となり得る合併症も知られている。本稿では、PCI後に循環動態の破綻を来し、最終的に死亡に至った症例について、出血性ショックの見落としが争われた東京地裁令和6年12月26日判決を紹介する。<登場人物>患者75歳・女性原告患者の夫および子2名(相続人)被告地方自治体(市立病院を開設)被告医師ら循環器内科医(PCI担当医)事案の概要は以下の通りである。平成30年10月24日胸部圧迫感を主訴として被告病院内科外来を受診。労作性狭心症が疑われ、循環器内科へ紹介。10月26日循環器内科の医師1が診察。11月6日冠動脈造影検査および左心室造影検査を実施。その結果、左前下行枝に99%の高度狭窄が認められ、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)によりアスピリンおよびプラスグレルの内服開始。薬物療法のみでは不十分と判断され、PCIが予定。11月13日12時19分本件PCIの開始13時19分本件PCIの終了11月14日5時15分死亡 【本件PCI施行中の経過】平成30年11月13日正午過ぎより、右大腿動脈アプローチによりPCIが開始された。穿刺が2~3回試みられた後、6Frのロングシースが挿入された。手技中、患者は急性冠閉塞を来し、意識レベル低下、血圧測定不能となるなど心原性ショックの状態に陥った。これに対し、被告医師らは酸素投与、輸液負荷、昇圧剤投与を行い、バルーン拡張により冠血流を再開させた。循環動態は一旦改善し、左前下行枝に薬剤溶出性ステントが留置された。最終造影では血流良好であり、穿刺部には止血デバイスが使用され、PCIは終了した。PCI施行中の詳細はこちら 12時19分本件PCIの開始12時25分医師2が本件患者の右鼠径部から右大腿動脈を2、3回穿刺したが血管内に挿入できなかったため、医師3に交代し、医師3が、本件患者の右大腿動脈内に太さ6Frのロングシースを挿入。ヘパリン5,000単位が投与。12時55分本件患者の意識レベルが低下し、声掛けや痛み刺激に反応がなく、血圧は測定不能、SpO2は90%、心拍数は68で、急性冠閉塞を発症し、心原性ショックとなる。12時56分酸素マスクによる4L/分の酸素投与および輸液全開投与を開始し、医師3は、本件患者の左前下行枝7番狭窄部位を2回バルーン拡張。12時59分5mL/時で昇圧剤(塩酸ドパミン注キット)の投与を開始。本件患者は、声掛けに対して反応して会話が成立し、全身に発汗が著明にみられる状態。13時頃心拍数112、血圧84/57mmHg、SpO2は100%。13時3分左前下行枝7番に薬剤溶出性ステントを挿入。13時9分冠動脈造影により左前下行枝7番の血流が良好であり、急性冠閉塞などの所見は認められないことを確認。13時12分大腿動脈穿刺部止血デバイスを挿入して穿刺部を止血。13時18分心拍数90、血圧141/63mmHg、SpO2は100%。13時19分本件PCIの終了【本件PCI後の経過】PCI終了後、患者はHCUへ移動したが、その後、再び頻脈と血圧低下を認めるようになった。心電図ではST低下や虚血性変化が出現し、被告医師らは、急性ステント血栓症やNo reflow(造影剤の流れが血液の代わりに冠動脈中を占拠することによって、実質的には血流がなくなる状態)など、再度の心原性イベントを疑った。この時点でのHb値は明らかな低下を示しておらず、穿刺部にも明らかな血腫や出血所見は確認されなかった。そこで、循環動態不安定の原因精査のため、再度冠動脈造影が行われたが、ステントは開存しており、急性冠閉塞は否定された。さらに、腹部大動脈から腸骨動脈、大腿動脈近位部にかけて血管造影が行われたものの、造影剤の血管外漏出など、明確な出血所見は認められなかった。また、心エコー検査では心嚢液貯留はなく、壁運動も保たれており、心タンポナーデは否定的と評価された。Hb値も午後4時49分時点で12.4g/dLと基準範囲内であった。これらの所見を踏まえ、被告医師らは、出血性ショックよりも、頻脈性不整脈を背景とした心原性ショックの可能性が高いと判断し、循環補助を目的としてIABPを導入した。しかし、IABP導入後も循環動態は安定せず、昇圧剤投与が継続された。夜間以降も頻脈と低血圧は遷延し、翌未明には意識障害が進行、心停止に至った。蘇生処置が行われたものの、平成30年11月14日午前5時15分、死亡が確認された。PCI後の詳細な経過はこちら 11月13日13時19分本件PCIの終了13時29分HCU(高度治療室)に移動し、昇圧剤(塩酸ドパミン注キット)は5mL/時で継続13時42分血圧98/56mmHgであり、13時43分の12誘導心電図検査(ECG)の結果、STの低下14時39分12誘導ECGの結果、心拍数125で洞性頻脈、ST変化、急性心筋梗塞波形および外側心筋障害。医師1は、医師2らと本件患者の血圧低下の原因について検討し、本件施術中に冠動脈に血流低下が生じたことおよびHCU入室後の12誘導ECGの結果ST低下が出現したことから、急性ステント血栓症の可能性があると判断し、同日中に再度、冠動脈造影検査(CAG)を実施し、血圧を調整するために大動脈内バルーンパンピング(IABP)を留置する方針とした。14時56分血圧55/40mmHgであったため、医師1は、昇圧剤を6mL/時に増量し、15時頃には7mL/時に、15時15分頃には8mL/時に増量するとともに、15時10分頃にヘパリンの投与を開始。15時29分12誘導ECGの結果、心拍数156で洞性頻脈、下壁心内膜障害疑い。医師1は、本件患者の心筋虚血が進行している可能性があると判断16時6分心拍数148、血圧69/48mmHg、呼吸数24であり、16時30分頃に3mL/時で昇圧剤(ノルアドレナリン)の投与が開始されたが、16時31分頃には、心拍数155、血圧65/36mmHg、呼吸数20、16時44分頃には、心拍数154、血圧70/49mmHg。16時45分簡易心エコー検査を実施。可視範囲内では心臓壁運動は良好であり、心嚢液の貯留はみられなかった。16時49分Hb値は12.4g/dL。17時30分血圧71/49mmHg、呼吸数24であり、12誘導ECGの結果、心拍数153で洞性頻脈、ST異常、下壁心内膜障害疑い、心筋虚血疑い。医師1は、心タンポナーデや後腹膜出血によるショックの可能性は低く、心エコー検査の結果からすると、ポンプ失調の可能性も低いところ、単に洞性頻脈に伴う血圧低下の可能性もあるが、本件施術後のno flowなどの可能性もあり再検すべきであると考えた。18時12分左冠動脈造影を実施したが、急性冠閉塞の所見は認めず。医師1らは、「本件患者がステント血栓症による心原性ショックを発症したものではない」と判断した。18時15分頃までに右冠動脈、腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影を行ったところ、活動性のある出血や出血点は確認されなかった。医師1らは、後腹膜出血による出血性ショックを生じているのではなく、頻脈性不整脈による心原性ショックを生じているものと考えた。18時26分IABPを挿入し、駆動を開始。18時40分脈拍152、血圧62/38mmHg、午後6時45分頃には、脈拍155、血圧68/24mmHg、午後6時50分頃には、脈拍153、血圧90/29mmHg。医師1は、頻拍の原因として心房粗動が疑われることから、夜間はrate controlで経過観察とし、頻拍が持続すれば除細動も考慮することとした。19時シース固定部位に少量の出血が認められたが、シース固定部および穿刺部に出血などの異常はみられなかった。19時49分12誘導ECGの結果、心拍数154、洞性頻脈であり、ST異常がみられた。20時Hb値10.921時57分腸骨大腿動脈造影を施行。その結果、造影剤の血管外漏出像は認めず、医師1は、有意なHb値の低下もないため、出血性ショックも否定的であることから、遷延するショックの原因は頻脈以外に挙げることはできないと考えた。22時30分オーグメンテーション圧(IABPバルーン拡張期圧)低下のアラームが鳴り、本件患者は胸部症状がみられ、嘔吐。22時40分心拍数126、血圧72/43mmHg(観血)11月14日3時07分オーグメンテーション圧低下アラームが鳴り、呼吸下顎様となり、意識レベルはJCS 2に低下、心拍数100台、血圧50/29mmHg(観血)へと低下3時16分意識レベルJCS 3(-300:痛み刺激に反応しない状態)3時31分心静止状態となったため心臓マッサージが開始5時15分死亡【病理解剖および医療事故調査・支援センターの評価】本件患者の死後実施された病理解剖では、両側大腿動脈周囲から後腹膜に連続する広範な出血が認められ、明確な血管損傷部位は特定できなかった。医療事故調査・支援センターは、病理検査の結果を踏まえ、微小血管からの持続的出血が抗血栓療法の影響で止血されず、出血性ショックに至ったと評価した。実際の裁判結果本件では、原告らは、本件患者が、本件施術中から穿刺部を中心とした微小出血が持続したことにより平成30年11月13日14時40分頃に出血性ショックを生じ、それ以降死亡に至るまで出血性ショックの状態が遷延していたことを前提とし、被告病院の医師らについて、〔1〕14時40分の時点、〔2〕16時49分の時点、〔3〕18時12分の時点、および〔4〕20時の時点において、本件患者の心原性ショックのみならず、出血性ショックを疑い、CT検査または腹部エコーによる検査で出血の有無を確認し、出血性ショックを診断の上、ヘパリンを中止し、輸液・輸血や出血点の治療を行う義務があったにもかかわらず、これを怠った旨を主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「本件患者が、午後2時40分頃に出血性ショックを生じ、以後、出血性ショックの状態が続いていたと認めることはできない」として原告らの主張はその前提を欠くと判断した。出血性ショックにおいて血圧低下が生じるのは、重度の循環血液量減少(血液量の40%超え)が起きている場合であるから、仮に、14時40分以降の低血圧が、14時40分頃に生じた出血性ショックによるものであるとすれば、本件施術の実施(大腿動脈穿刺を開始した12時25分頃)から14時40分頃までの約2時間前後の間に血液量の40%を超える出血があったことになる。しかし、18時15分頃に行われた腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影検査の結果、活動性のある出血や出血点は確認されておらず、病理解剖の結果からも、出血部位は同定できず、本件施術による穿刺部や周囲小血管からの微小出血が、施術に伴う抗血栓療法の影響で凝固せずに長時間持続したため、大量出血に至ったと考えられるとされていること本件患者のHb値は、16時49分頃には12.4g/dLとまだ基準値内にとどまっており、20時に至っても10.9と被告病院において設定されている下限値(11.6)をわずかに下回る程度で、急性出血に対する外科的適応として輸血を必要とする値にも達していなかったこと本件患者に約2時間前後の間に重度の循環血液量減少が生じるほどの急激かつ大量の出血が生じたのであれば、出血からHb値の低下までに時間差があるとしてもHb値は急激に低下するはずであるが、本件PCI以降、16時49分頃に12.4g/dL、20時頃に10.9と緩やかに低下しており、14時40分までに出血性ショックを惹起させる大量の出血があったことと整合しないことまた、裁判所は、原告らの主張する各時点における検査義務について、それぞれ以下の点を指摘し、いずれも「CT検査または腹部エコー検査を行うべき義務を負っていたとは認められない」と判断した。1)14時40分の時点について14時40分頃、ショック症状と矛盾しない低血圧および頻脈が出現していたものの、ほかに出血性ショックや後腹膜出血を疑わせる症状はみられていないこと本件PCI中の12時55分頃に急性冠閉塞を発症し、心原性ショックをきたしたことやHCU入室後の12誘導ECGの結果からすると、14時40分頃に生じたショック症状も心原性ショックである可能性は十分にあり得たこと上記のことから、被告医師らが、急性ステント血栓症の可能性があると考えたことが不合理とはいえないこと2)16時49分の時点について16時49分の時点においてもHb値は12.4g/dLと基準値の範囲内であったこと14時40分頃と同様に、低血圧と頻脈以外に出血性ショックや後腹膜出血を疑わせる症状はみられていないこと16時45分頃に簡易心臓エコー検査を行った結果、心タンポナーデの可能性は低いと判断しているものの、未だ急性ステント血栓症の可能性は否定されていないこと3)18時12分の時点について被告医師らは、18時12分の左冠動脈造影検査に引き続いて、18時15分頃までに右冠動脈、腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影を行っており、同検査で活動性のある出血や出血点は確認されていないこと本件PCIから14時40分頃までの約2時間前後で後腹膜出血により低血圧に陥るほどの重度の出血性ショックに陥ったのであれば、活動性のある出血や出血点が造影検査で確認できないほど微小であるとは考え難いことからすると、医師らが、この造影検査の結果を踏まえて、本件患者が後腹膜出血による出血性ショックを生じているのではないと判断したことは不合理とは言い難いこと4)20時の時点について本件患者のHb値は、20時頃には、基準値をやや下回る10.9となっているが、これ自体は輸血を要するような値ではないこと本件PCI以降、Hb値は16時49分頃に12.4g/dL、20時頃に10.9と緩やかに低下しているものの、低血圧が生じるとされる重度の循環血液量減少が生じていると疑わせるような著しい低下はみられていないこと。むしろ、この時点では、3回の観血的処置による出血や輸液の投与により血液が希釈されたことにより生じたHb値の低下である可能性も否定できないこと18時15分頃の右冠動脈、腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影検査において、後腹膜出血が生じていることを示す活動性のある出血や出血点は確認されなかったこと同時点までに穿刺部やその周辺に血腫を疑わせる腫脹等の異常がみられず、本件患者が後腹膜出血の症状である頑固な背部痛および腰部痛を訴えていなかったこと上記からすると、医師らが、Hb値の低下が出血性ショックによるものであると判断しなかったことが不合理であるとまでは言い難いこと注意ポイント解説本稿も、第17回と同様にショックが問題となったケースであるが、本判決の特徴は、結果として死因が出血性ショックであったにもかかわらず、診療過程での判断が過失とはされなかった点にある。本件で裁判所が過失と判断しなかったのは、以下の点による。診療当時のHb値が出血性ショックを惹起させる大量出血と整合しない推移であったことPCI後(PCI中の急性冠閉塞を含む)であったこと診療経過に鑑みて心原性のショックであることが十分に疑われる状況であったこと後腹膜出血を疑わせる所見がなかったことこのため、Hb値が出血性ショックを惹起させる大量出血と整合するものであったり、後腹膜出血を疑わせる所見があったりする場合には、異なる結論となり得たことに留意する必要がある。同様に、そもそも診療中に原因を探る検査がほとんど行われていない場合、原因探求のための検査を怠り漫然と対応したとして過失(注意義務違反)が認められる可能性があることにも留意する必要がある。なお、本件では、被告病院の院内調査委員会が詳細な検討を経て作成した報告書において、医師の過失を認める記述がなされており、原告らは、この報告書に基づく被告医師らの過失を主張していた。これについて裁判所は、以下のとおり判示し、この報告書に基づいて過失を認めることはできないとした。「本件報告書は、調査の目的が“医療安全の確保であり、個々の責任を追及するためのものではない”とされているとおり、患者の死亡の原因究明や将来における安全性の高い医療の提供確保の観点から作成されたものであって、被告病院の医師に法的に過失があるか否かという観点から作成されたものではない。本件報告書の内容からしても、後方視的にみて、本件患者の後腹膜出血を疑うべき積極的所見がなくても、Hb値が低下しているのであるからCT検査を行う必要があったとするにとどまるものであり、被告病院の医師らによる診療行為について、その当時の具体的な状況および医療水準に照らし、前方視的にみて注意義務違反があったと評価するものではない。そうである以上、本件報告書の記載をもって被告病院の医師に過失があると認めることはできないことは明らかである」過失については、後方視的に評価するものではなく、診療時点に認識できた事実に基づいて前方視的に評価すべきであるという原則を確認するものであるが、この点が確認されたことは、然るべき事故原因の調査報告がなされ安全性の高い医療提供に寄与する(責任逃れのための調査報告書が作成されることを回避できる)ものであり、意義がある。医療者の視点PCI後の循環動態不安定において、「心原性ショック」と「出血性ショック」の鑑別は実臨床でも常に悩ましい問題です。本件のように術中に急性冠閉塞の既往がある場合、術者はまずステント血栓症などの心原性要因を除外することに全力を注ぎます。抗血栓療法を中断すれば致死的な転帰に直結するため、出血源が特定できない段階での判断は極めて困難です。今回の判決で注目すべきは、裁判所が「急性出血におけるHb値低下のタイムラグ」という生理学的現象を正しく認定した点です。実臨床において、急激な出血であっても直後の採血データには反映されないことは常識ですが、これが司法の場でも認められた意義は大きいです。また、IABP駆動中の不安定な患者をCT室へ搬送するリスクとベネフィットの天秤についても、現場の判断が尊重されました。さらに、院内事故調査委員会が再発防止の観点から「過失」を認める記載をしていても、裁判所はこれを後方視的な評価として法的責任とは切り離しました。これは、医療安全文化の醸成と法的紛争を混同すべきではないという重要なメッセージであり、われわれが萎縮せずに検証を行うための支えとなる判断です。本判決は、結果のみにとらわれず、その時々の臨床判断のプロセスが正当に評価されることを示しており、日々の診療において、なぜその判断に至ったか、という思考過程を記録に残すことの重要性を再認識させてくれます。Take home messagePCI後の循環不全では、心原性ショックと出血性ショックの鑑別が常に問題となる急性出血ではHb低下が遅れることがあるが、その時点の数値と所見に基づく判断の合理性が評価される結果的に重篤な合併症が判明しても、当時の臨床判断が医学的に説明可能であれば、注意義務違反とはされない場合があるキーワードPCI、後腹膜出血、出血性ショック、心原性ショック、Hb値、IABP

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脳梗塞発症後24時間以内のtenecteplase、機能的アウトカムを改善/Lancet

 脳底動脈閉塞による虚血性脳卒中患者において、発症後24時間以内のtenecteplase投与は標準治療と比較し機能的アウトカムを改善し、症候性頭蓋内出血および死亡の発生は同程度であった。中国・首都医科大学のYunyun Xiong氏らTRACE-5 investigatorsが、同国の脳卒中センター66施設で実施した無作為化非盲検評価者盲検第III相優越性試験「TRACE-5試験」の結果を報告した。脳底動脈閉塞による脳梗塞発症後24時間以内にtenecteplaseを静脈内投与した場合の有効性と安全性は十分に研究されていなかった。Lancet誌オンライン版2026年2月5日号掲載の報告。発症後4.5時間以内のアルテプラーゼ投与を含む標準治療と比較 研究グループは、脳底動脈閉塞による脳卒中で、発症後24時間以内または最終健常確認から24時間以内、静脈内血栓溶解療法の適応があり、発症前の修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0~6、高スコアほど障害が重度であることを示す)が3以下の18歳以上の患者を、発症後24時間以内のtenecteplase単回静脈内投与群(0.25mg/kg、最大25mg)、または標準治療群(発症後4.5時間以内のアルテプラーゼ静脈内投与[0.9mg/kg、最大90mg]、抗凝固療法・抗血小板療法を含む)に無作為に割り付けた。両群とも、血管内血栓除去術の併用は可とされた。 主要アウトカムは、90日時点のmRSスコア0~1、またはベースラインのmRSスコアへの回復(脳卒中前のベースラインmRSスコアが2~3の場合)。安全性アウトカムは、症候性頭蓋内出血および死亡とした。 主要アウトカムおよび安全性アウトカムはいずれも、最初に割り付けられた群に含まれるすべての無作為化患者を対象に評価した。90日時点の機能的アウトカムの改善は38%vs.29%、tenecteplase群で有意に改善 2024年1月24日~2025年6月20日に、452例が登録され(平均年齢66.4歳[SD 11.2]、男性321例[71%]、女性131例[29%])、221例がtenecteplase群、231例が標準治療群に無作為化された。このうち222例(49%)は血栓除去術を受けた。また、標準治療群231例中80例(35%)でアルテプラーゼが使用された。 主要アウトカムを達成した患者は、tenecteplase群83例(38%)、標準治療群66例(29%)であった(補正後相対率:1.50、95%信頼区間[CI]:1.09~2.08、p=0.014)。 36時間以内に症候性頭蓋内出血が認められた患者は、tenecteplase群で4例(2%)、標準治療群で7例(3%)であった(補正後相対率:0.58、95%CI:0.17~1.99)。 90日時点の全死因死亡も両群で同程度であった(tenecteplase群65例[29%]、標準治療群71例[31%]、補正後相対率:0.87、95%CI:0.62~1.22)。90日時点でmRSスコア5~6であった患者の割合も両群で同程度であった(tenecteplase群82例[37%]、標準治療群89例[39%]、補正後相対率:0.87、95%CI:0.65~1.18)。

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隠れた心房細動の検出にスマートウォッチが有用

 気付かれにくく危険性の高い心臓リズム障害である心房細動(AF)を検出する医師の能力が、スマートウォッチによって大きく向上する可能性を示した臨床試験の結果が報告された。同試験でApple Watchを装着していた患者では、医師がAFを発見する頻度が4倍に増加したという。また、AFを抱えていたApple Watch装着者の半数以上には、診断前に明らかな症状はなかったことも分かった。アムステルダム大学医療センター(オランダ)の循環器専門医であるMichiel Winter氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」に1月22日掲載された。 ある世代以降のApple Watchには、心臓の健康状態の監視に役立てるために、心拍数を測定する光電式容積脈波記録法(PPG)と心臓のリズムを監視する単極誘導心電図(ECG)が搭載されている。Winter氏は、「PPGとECGの機能を備えたスマートウォッチの使用は、自分の不整脈に気が付いていない人の診断を助け、診断プロセスの迅速化につながる」と説明。また、「この研究結果は脳卒中リスクの低下につながる可能性を示唆するものであり、患者にとって有益であるだけでなく、医療システム全体にもコスト削減という形で良い影響をもたらし得る」とニュースリリースの中で述べている。 論文の研究背景によると、AFは最も高頻度に見られる不整脈の一つである。米国心臓協会(AHA)によると、AFを有する人では、AFにより血液が心臓内に滞留して血栓が形成されやすくなり、脳卒中のリスクが5倍に高まるという。しかし、AF症例のおよそ半数は発作性で自覚症状もないため、発見や診断が難しいという。この臨床試験の結果をレビューした米ノースウェル・ヘルス電気生理学部門でシステムディレクターを務めるLaurence Epstein氏は、「人々は多くの場合、診察室で心電図検査を受ける。しかし、それは断続的あるいは極めてまれにしか起こらない可能性がある異常を、3秒間だけ切り取られた人生の中で探そうとしているに過ぎない」と指摘している。 今回報告された臨床試験では、脳卒中リスクが高い65歳以上の男女219人にApple Watchを提供し(介入群)、218人に標準的なケアを受けてもらった(標準ケア群)。Apple Watchによるモニタリング期間は6カ月間で、介入群はApple Watchを1日12時間装着した。 その結果、6カ月後までに介入群では21人がAFと診断されたが、そのうち半数以上(57%)では自覚症状がなかった。一方、標準ケア群でAFと診断されたのは5人にとどまり、いずれの患者も診断につながる症状を経験していた。 臨床試験を主導したアムステルダム大学医療センターのNicole van Steijn氏は、脈拍と電気活動の両方を測定できるウェアラブル機器自体は以前から存在していたと話す。しかし、「AFのリスクが高い患者のスクリーニングにおいて、この技術がリアルワールドでどの程度有効に機能するのかについては、これまで検証されてこなかった」とニュースリリースの中で説明している。Epstein氏は、「特定の集団において、通常の方法では見逃されやすいAFの検出にスマートウォッチの使用が有効であることが示された」と述べている。さらに同氏は、大きな視点から見ると、この臨床試験から、症状が出たり消えたりする健康問題の検出にスマートウォッチのようなデバイスを活用できる可能性が示されたとも話している。 なお、Epstein氏によると、AF患者は脳卒中リスクを下げるため抗凝固薬の処方を受ける可能性があるが、最大で50%は抗凝固療法を受けていないという。同氏は、「患者のAFや心不全、冠動脈疾患などの発症リスクを高めるリスク因子の継続的なモニタリングでわれわれにできるあらゆることが、こうした長期的な転帰の一部を防ぐ可能性を高めることにつながる」と述べている。

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静脈血栓塞栓症における抗凝固薬の継続は出血リスクの増加はあるが、再発リスクの低下の効果が大きい(Target Trial Emulation:TTEによる検討)(解説:名郷直樹氏)

 誘因のない静脈血栓塞栓症に対する経口抗凝固療法の継続と中止についてのTarget Trial Emulationが、Kueiyu Joshua Linらにより報告された。Target Trial EmulationはTTEと略されるが、経胸壁心エコー(Transthoracic Echocardiography)のことではない。Target Trial Emulationとは、観察データを使って、仮想的なランダム化臨床試験を模倣する方法論である。 まず、『日本循環器学会/日本肺高血圧・肺循環学会合同ガイドライン2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン』ではどうなっているか。「誘因のない中枢型DVT(unprovoked 中枢型DVT)に対し,出血リスクが高くない場合には,中枢型DVTの治療および再発予防のための長期の抗凝固療法として,低用量DOACが使用できるなら可及的長期の抗凝固療法を行うことを考慮してもよい」とクラスIIbで推奨されている。しかし、その根拠となる文献の引用は記載されていない。 では、論文のPECO(Patient、Exposure、Comparison、Outcome)と結果を見てみる。誘因不明の静脈血栓塞栓症があり、初回治療後少なくとも90日間経過した患者において、治療継続群と中止群を比較し、主要アウトカムは、入院を要する再発性VTE、入院を要する大出血である。中止群は、初回90日間の治療後、30日以内に処方がないものと定義された。まず、結果である。治療継続群を治療中止群と比較して、再発性VTEの発生率が著しく低く信頼区間も狭い(調整ハザード比:0.19、95%信頼区間:0.13~0.29)。大出血発生率の上昇(ハザード比:1.75、95%信頼区間:1.52~2.02)、死亡率の低下(ハザード比:0.74、95%信頼区間:0.69~0.79)が認められた。転倒などの出血リスクが低ければ、継続が妥当かもしれない。 次に、TTEにおける批判的吟味を進める。TTEの想定されるランダム化比較試験を模倣する手順は次の7つである。対象患者抽出の適格基準、比較対照となる治療戦略、割付手順、追跡期間、アウトカム、解析方法(交絡因子の調整、ITT、PPS)、解析計画である。とくに、比較対照となる治療戦略、割付手順、解析方法が問題になる。それぞれ、Immortal time biasへの対応と交絡因子の調整などを確認する必要がある。TTEでは介入開始と追跡期間が不一致となる可能性があり、イベントが調査されない期間が含まれる。その期間が解析に含まれると、介入の効果を過大評価してしまう。それをImmortal time biasと呼ぶ。 この研究では、Immortal time biasを回避するため、治療戦略が割り当てられる時点と追跡開始時点(Time zero)を一致させるように設計されている。Time zeroを中止群は抗凝固薬中止日とし、対応する継続群は同じ暦日を割り当てたと記載がある。Time zeroが明確で、Immortal time biasを回避する対応がなされている。 交絡の調整であるが、プロペンシティスコア・マッチングを行い、背景をそろえているが、貧血や転倒の既往は調整されているものの、直前のHb低下傾向や転倒リスクなどの調整は行われていない。抗凝固薬導入後貧血の進行があれば、抗凝固薬を中止することもある。転倒リスクが高いなどの理由で抗凝固薬を中止することも多い。継続群のDOACの用量やワーファリン使用時の目標INRも不明である。TTEではデータベースにない因子を調整することができないという大きな問題がある。ただこうした未知の交絡因子のリスクはあるが、再発リスクをハザード比の95%信頼区間の上限でも0.29まで少なくするという大きな効果を覆すほどの大きな影響はないかもしれない。また現実の患者に利用する際には、アウトカムが入院を要する患者のみに絞られ、外来治療可能な肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症や軽症出血が除外されている。外来患者など再発リスクが低い対象には適用しにくい面がある。 またリスクとベネフィット、再発予防効果と出血リスクのバランスも重要である。この問題を検討するためにLHHという指標がある。Likelihood of Harm to the Patientといい、治療の「害が生じる可能性」を示す医療統計の用語である。計算式はLHH=(1/NNT)÷(1/NNH)である。LHH>1で治療が推奨される。NNT 39、NNH 209のため、LHHは5.36になり、1を大きく超える。一般的には治療推奨になる。しかし血栓症の再発と大出血では重みが異なる。その重みを考慮すると、LHH=(1/NNT)×S÷(1/NNH)(Sは有害事象の重み)になる。一般的に出血のほうが致死的になることが2倍と仮定すると、さらにLHHは小さくなるがそれでも1より大きい。上記のような批判的吟味のポイントはあったが、続けられない理由がない限り、基本的には抗凝固薬継続がいいのかもしれない。

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