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11月12日は患者さんと肺炎を話題に

 10月29日、ファイザー株式会社は、岩田 敏氏(慶應義塾大学医学部 感染症学教室 教授)を講師に迎え、「長寿社会ニッポンにおける感染症の潜在リスクと最新対策」をテーマにプレスセミナーを開催した。ワクチンで防ぐ感染症 男女ともに平均寿命が80歳を超えるなかで、今後いかに健康寿命を延伸させ、健康な期間を延ばしていくかが重要となる。その際、わが国の主な死亡原因が、悪性新生物、心疾患、肺炎、脳血管疾患と続くなかで、65歳以上の高齢者では、96.8%が肺炎で亡くなっていることから、肺炎をいかにワクチンなどで予防するかがカギとなる、と岩田氏は説明した。高齢者の半数以上がワクチン接種歴なし 実際、ワクチン接種がどのくらい浸透しているのかを調査した資料がある。同社が全国の60歳以上の男女、7,050人に実施した「全国47都道府県“大人の予防接種”意識調査」によれば、「成人になってワクチンを接種したことがあるか」との問いに、「ある」と回答した人が42.5%(n=2,998)、「ない」と回答した人が50.9%(n=3,585)と、高齢者の半数以上がワクチン接種を受けていない現実が明らかとなった。また、「ある」と回答した人が受けたワクチンの種類では、インフルエンザ(76.8%)が最も多く、次いで肺炎球菌感染症(50.1%)、次に風疹・麻疹(13.8%)となっていた。肺炎に一度かかると… 肺炎球菌の血清型は現在90種類以上が報告され、侵襲性肺炎球菌感染症では5歳未満の小児と65歳以上の高齢者に患者が多く分布している。そして、重要なことは、2013年4月~2014年8月まで肺炎での死亡例154例のうち112例が65歳以上の高齢者ということである(IASR資料より)。高齢者が肺炎にかかるとADLの低下を招き、心身機能の低下が起こる。その結果、廃用症候群が進み、嚥下機能が弱くなることで、さらに肺炎にかかるという負のスパイラルに入ると指摘する。高齢者にとっては、肺炎にかかること自体がリスクであり、これをいかに防ぐかが、長く健康に過ごすための課題となる。今できる対策はワクチンの早期接種 肺炎球菌に対し、わが国で接種できるワクチンは2種類ある。1つは、PCV13(商品名:プレベナー13)であり、もう1つはPPV23(同:ニューモバックスNP)である。 PCV13は、結合型ワクチンであり、適応年齢は2ヵ月以上6歳未満と65歳以上で、小児にも適応があるのが特徴。また、接種経路は小児であれば皮下に、成人であれば筋肉内となる。本ワクチンとプラセボを比較した市中肺炎の累積発症数の研究によれば、その効果は4年以上持続する1)。 PPV23は、多糖体ワクチンであり、適応年齢は2歳以上である。接種経路は筋肉内または皮下であり、昨年より施行されたわが国の65歳以上の高齢者への肺炎球菌ワクチンの定期接種の対象ワクチンである。インフルエンザワクチンとの両剤接種で軽症化の効果が報告されている2)。 前述の「“大人の予防接種”意識調査」によれば、「医師から肺炎球菌ワクチンの接種について詳しい説明を受けたいと思うか?」という問いに対し、「説明を受けたいと思う」と回答した人が66.6%(n=4,694)に上る一方、「受けたいと思わない」(18.1%/n=1,274)、「わからない」と回答した人も15.3%(n=1,082)おり、浸透度の足踏みが懸念されている。 肺炎のリスクは、5歳未満(とくに2歳未満)の小児と65歳以上の高齢者、そして、糖尿病、心疾患などの基礎疾患のある人、療養中で免疫力が低下している人、脾臓を摘出した人、喫煙をしている人などに高い。とくに高齢者は、前述の負のスパイラルにならないためにも、場合によっては定期接種を待たずに接種を受けさせることも大切だという。 最後に、「11月12日は『世界肺炎デー』である。こうした機会に、医療者と患者の間で肺炎やワクチンが話題になることで、さらに感染症予防が進むことが重要」とレクチャーを終えた。ファイザー株式会社の「“大人の予防接種”意識調査」はこちら。(ケアネット 稲川 進)関連コンテンツケアネット・ドットコム 特集「肺炎」はこちら。参考文献1)Bonten MJ, et al. N Engl J Med. 2015;372:1114-11252) Kawakami K, et al. Vaccine. 2010;28:7063-7069.

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妊婦への3種混合ワクチン再接種、2年以内でも安全/JAMA

 妊娠中に破傷風・ジフテリア・無菌体百日咳の3種混合ワクチン(Tdap)を再接種した際、前回のTdap接種が2年以内であっても、早産や在胎週数不当軽量児(SGA)といった有害事象の発生リスクは、前回接種から5年超経過している場合に比べ増大しないことが示された。米国疾病管理予防センター(CDC)のLakshmi Sukumaran氏らが、約3万人弱の妊婦について行った試験で明らかにした。これまで妊娠中のTdap再接種に関する安全性は明らかではなかった。JAMA誌2015年10月20日号掲載の報告。前回接種から2年未満、2~5年以内を5年超と比較 研究グループは、カリフォルニア州やコロラド州などの7つのワクチン接種に関するデータベースを基に、2007年1月1日~13年11月15日に妊娠中だった14~49歳の女性2万9,155例について、後ろ向きコホート試験を行った。 妊娠中にTdapを接種する2年未満、2~5年以内、および5年超前に前回のTdap接種を受けていた場合の、妊婦や出生児への有害事象との関連について分析を行った。 主要評価項目は、妊婦の発熱、アレルギー、局所反応と、早産やSGA、低体重児だった。いずれの有害事象も前回接種が5年超と同等 結果、前回Tdap接種を2年未満、2~5年以内に受けていた群では、5年超経過している群(対照群)に比べ、妊婦や出生児への有害事象発生リスクはいずれも増大しなかった。 早産の発生率は、2年群が6.6%、2~5年群が6.4%、対照群が6.8%だった。2年群の対照群に対する補正後オッズ比は1.15(95%信頼区間:0.98~1.34、p=0.08)で、2~5年群の同オッズ比は1.06(同:0.94~1.19、p=0.33)だった。 SGAの発生率は、2年群が9.0%、2~5年群が8.7%、対照群が9.1%だった。2年群の対照群に対する補正後オッズ比は0.99(同:0.87~1.13、p=0.88)、2~5年群は0.96(同:0.87~1.06、p=0.45)だった。 また、局所反応についても3群で同等だった。

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ダニ媒介性脳炎に気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第12回目となる今回は「ダニ媒介性脳炎」についてです。対岸の火事ではない! ダニ媒介性脳炎「ダニ媒介性脳炎」っていわれても、そんな病名聞いたことがないという方々も多いのではないでしょうか。ダニ媒介性脳炎はその名のとおり、マダニ属(Ixodes)のマダニに刺されることで脳炎症状を呈する感染症であり、原因となる微生物はデングウイルス、日本脳炎ウイルスなどと同じフラビウイルスに属する、ダニ媒介性脳炎ウイルスです。図はダニ媒介性脳炎の流行地図ですが、ロシアからヨーロッパにかけて広く流行しています。ダニ媒介性脳炎は、中部ヨーロッパ型とロシア春夏型に分かれ、それぞれ分布が異なります。この流行地図を見て「あっ、日本は流行してないのね…じゃあ読むのやめよう」と思ったあなたッ! そう思われるのはちょっと早いのではないでしょうか。何を隠そう、日本でもダニ媒介性脳炎の感染者が、1例だけ報告されているのですッ!2) この症例が診断されたのは1993年、そう今から20年以上も前のことです。北海道上磯町で酪農を営む女性が、突然の発熱、複視、けいれんを発症し、当初日本脳炎が疑われたのですが、精査の結果、ダニ媒介性脳炎であったことがわかりました。この患者さんの家の近くにいた犬10匹のうち5匹でダニ媒介性脳炎ウイルス抗体が上昇しており、この地域にウイルスが存在していることもわかっています。北海道ではヤマトマダニ(Ixodes ovatus)が媒介すると考えられています。もう一度言いましょう。日本でもダニ媒介性脳炎に感染する可能性があるのですッ!! しかし、その後20年間患者は1人も報告されていないことから、少なくとも感染するリスクは高くはないのだと思われます。また、日本脳炎のように不顕性感染も一定数いると考えられており、感染していても発症せずに診断に至らない事例もあるのではないかと推測されます。ダニ媒介性脳炎の特徴は2相性ダニ媒介性脳炎は、2相性の経過をたどるとされています。ダニ刺咬後7~14日の潜伏期を経て、発熱、頭痛、倦怠感、関節痛といった非特異的な症状で発症します(第1相)。これがだいたい1~8日くらい続いて、いったん症状が消失します。その後、第2相として発熱と神経学的症状が出現します。この神経学的症状は髄膜炎から脳炎までさまざまです。ヨーロッパでみられる中部ヨーロッパ型よりも、ロシア東部でみられるロシア春夏脳炎のほうが、より重篤で致死率も高い(20~30%)とされています。救命できても麻痺などの後遺症を残すこともあります。「春夏」などと牧歌的な名前のクセに実に凶悪なヤツです。こういう恐ろしいウイルスが、北海道にいるのかと思うと怖いですね…。日本での初症例で当初疑われていたように、日本脳炎との鑑別が問題になると思われますが、わが国での日本脳炎の流行が西高東低であることを考えると、北海道で起こった脳炎では、ダニ媒介性脳炎も鑑別として考慮すべきと考えられます。なお、ダニ脳炎には有効な治療薬はなく、支持療法が主体となります。ダニの予防にはDEET配合防虫剤最後に予防についてですが、ダニ脳炎にはワクチンがあります。流行地域を訪れる旅行者すべてがワクチン接種をする必要はありませんが、流行地域でキャンプをする、あるいは森林地域を行脚するといった予定がある場合には、ワクチン接種が推奨されます。残念ながらダニ脳炎ワクチンは国内で未承認ですので、未承認ワクチンを取り扱っているトラベルクリニックなどで接種をする必要があります。また、「第7回 チクングニア熱に気を付けろッ」で防蚊対策について述べましたが、DEETはマダニにも有効です。DEETを含む防虫剤を適切に使用することで、ダニ刺咬を防ぐことができます。今回は、ダニ媒介性脳炎というほぼ誰も診たことがない感染症を取り上げましたが、次回は今、日本で非常に問題になっている再興感染症の「梅毒」について取り上げたいと思いますッ!1)Richard L. Guerrant, et al. Tropical Infectious Diseases: Principles, Pathogens and Practice. 3rd ed. Amsterdam: Elsevier B.V.;2011.2)Takashima I, et al. J Clin Microbiol.1997;35:1943-1947.

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インフルエンザ関連肺炎患者に多いワクチン未接種/JAMA

 市中肺炎で入院した小児および成人を対象に、インフルエンザ関連肺炎患者群と非関連肺炎患者群のインフルエンザワクチン接種率を調べた結果、前者のほうが低く未接種者の割合が多かったことが示された。米国・ヴァンダービルト大学医学部のCarlos G. Grijalva氏らが、市中肺炎入院を評価する多施設共同前向き観察研究Etiology of Pneumonia in the Community(EPIC)のデータを分析し、報告した。これまで、インフルエンザワクチン接種と、インフルエンザの重篤合併症の肺炎との関連を評価した研究はほとんど行われていなかった。JAMA誌2015年10月13日号掲載の報告。全米4地域の市中肺炎入院患者を分析 EPICは、2010年1月~12年6月に全米4地域8病院で被験者を登録して行われた。研究グループは同患者のうち、検査でインフルエンザに感染していることが確認され、当該インフルエンザシーズン中のワクチン接種の有無が判明していた生後6ヵ月以上の患者のデータを用い、インフルエンザワクチン接種と市中で発生し入院となったインフルエンザ関連肺炎発生との関連を評価した。なお、直近の入院患者、慢性期ケア施設からの入院患者、重症免疫不全患者は除外した。 ロジスティック回帰分析法により、インフルエンザウイルス陽性(ケース)肺炎患者 vs. 陰性(対照)肺炎患者のワクチン接種オッズ比を比較した。人口統計学的変数、合併症、季節、研究登録地域、疾患発症の時期で補正を行った。 ワクチンの有効性について、(1-補正後オッズ比)×100%で推算。主要評価項目は、インフルエンザ関連肺炎で、鼻/口咽頭スワブによる検体をリアルタイムRT-PCR法で確認した。ワクチン接種率、インフルエンザ関連肺炎患者17%、非関連肺炎患者29% 試験期間中に肺炎で入院した適格患者は、全体で2,767例であった。 このうちRT-PCR法でインフルエンザウイルス陽性と認められた患者(症例群)は162例(5.9%)であった。62例(38%)がA(H1N1)pdm09型、51例(31%)がA(H3N2)型、43例(27%)がB型、4例(3%)がA型のサブタイプ不明、2例(1%)はA型とB型重複感染であった。なお、患者162例のうち小児患者は68例(42%)であった。年齢中央値は162例全体では31歳、成人患者52.5歳、小児患者3歳、女性は73例(45%)であった。 162例のうち、インフルエンザワクチン接種を受けていた人は28例(17%)であった。 一方、非インフルエンザワクチンウイルス陰性であった患者2,605例(対照群)において、インフルエンザワクチン接種を受けていた人は766例(29%)であった。 症例群と対照群の接種オッズ比を比較した補正後オッズ比は0.43(95%信頼区間[CI]:0.28~0.68)で、インフルエンザワクチンの有効性は56.7%(95%CI:31.9~72.5%)と推算された。

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発作性夜間血色素尿症〔PNH : paroxysmal nocturnal Hemoglobinuria〕

発作性夜間血色素尿症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 定義発作性夜間血色素尿症(発作性夜間ヘモグロビン尿症、paroxysmal nocturnal hemoglobinuria: PNH)は、血管内溶血を特徴とする後天性の血液疾患で、PIG-A遺伝子に変異を有する造血幹細胞がクローン性に増加するために発症する。■ 疫学欧米におけるPNHの発症頻度は100万人あたり15.9人とされているが、わが国では100万人あたり3.6人ときわめてまれである〔1998年(平成10年)度の厚生労働省の疫学調査研究班による〕。男女比はほぼ1:1で、わが国における診断時年齢は20~60代(平均年齢45.1歳)と、広く分布する。欧米例では血栓症の合併が多いのに対し、わが国では造血不全症状が主体になることが多い。■ 病因PIG-A遺伝子に変異があると、GPIアンカー型の膜蛋白の発現が低下する。補体制御蛋白CD55やCD59もGPIアンカー型膜蛋白であり、PIG-A遺伝子の変異があるとその発現が低下する。このように、PIG-A遺伝子変異のためにCD55やCD59の発現を欠失した血球をPNH型血球と呼ぶ。PNH型血球は補体に対する感受性が高まっており、血管内溶血を生じやすい。PNH型血球が選択されて増加する機序は完全には解明されていないが、まずPIG-A遺伝子変異の入った造血幹細胞が免疫学的な攻撃を免れて相対的に増加し、さらに何らかの別な遺伝子異常が加わってクローン性に増加するものと考えられている。■ 症状典型的には、血管内溶血による貧血と褐色尿(ヘモグロビン尿)が症状の主体となる。溶血性貧血に伴い、全身倦怠感、労作時の息切れ、黄疸がみられる。ウイルス感染などによって補体が活性化されると溶血発作が生じ、急激な貧血の進行をみる。溶血で生じたヘモグロビン尿は、腎障害を引き起こし、むくみなどが生じる。また、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの血栓症をしばしば合併する。わが国のPNH患者は造血不全を合併する頻度が高く、貧血に加えて白血球や血小板数の減少がみられることがある(汎血球減少)。汎血球減少がみられる患者においては、感染症や出血のリスクも増加している。■ 分類1)臨床的PNH:溶血所見がみられるもの古典的PNH:末梢血のPNH型血球の比率が高く、溶血症状あるいは血栓症状が顕著。骨髄不全型PNH:骨髄が低形成で汎血球減少を呈する型。再生不良性貧血―PNH症候群とも呼ばれる。混合型PNH2)PNH型血球を有する骨髄不全症:明らかな溶血所見を欠くが、末梢血に少数のPNH型血球が検出され、再生不良性貧血あるいは骨髄異形成症候群の診断基準を満たすもの。PNH型血球陽性の骨髄不全症では、抗胸腺免疫グロブリンやシクロスポリンなどによる免疫抑制療法に反応して血球が増加することが多い。■ 予後わが国におけるPNH患者の診断後の平均生存期間は32.1年、50%生存期間も25.0年と長く、慢性の疾患といえる。この間、溶血発作を反復したり、造血不全、腎障害などが徐々に進行したりするため、QOLは必ずしもよくない。死亡原因としては出血、感染、血栓症が多く、骨髄異形成症候群などの造血器腫瘍への移行、腎障害、および血栓症が予後を大きく左右する。近年、中等症以上の患者に対して、補体C5に対するヒト化モノクローナル抗体のエクリズマブ(商品名:ソリリス)が積極的に用いられるようになった。こういった治療法の進歩によって、患者のQOLと生命予後の改善が期待されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 主な検査と診断血液検査、尿検査によって血管内溶血の所見を確認する。貧血、網状赤血球数増加、血清LDH値上昇、血清間接ビリルビン値上昇、血清ハプトグロビン値低下、尿潜血(ヘモグロビン)反応陽性は、血管内溶血を疑う所見である。PNHの診断には、フローサイトメトリーを用いたPNH型血球(CD55、CD59を欠損する血球)の検出が不可欠である。古典的なHam試験と砂糖水試験は、最近ではフローサイトメトリーにとって代わられている。FLAER法を用いたフローサイトメトリーでは、非常に高感度にPNH型血球を定量できる(保険診療外)。さらに骨髄検査によって、PNH型血球陽性の造血不全症(再生不良性貧血や骨髄異形成症候群)との鑑別や、PNHの病型分類を行う。■ 重症度分類と指定難病特発性造血障害に関する調査研究班では、溶血所見に基づいた重症度分類を作成している。これによると、ヘモグロビン7g/dL未満または定期的な赤血球輸血を必要とする貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の8~10倍程度の高度な溶血を認める場合を「重症」、ヘモグロビン10g/dL未満の貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の4~5倍程度の中等度の溶血を認める場合を「中等症」とし、これに該当しない場合を「軽症」としている。ただし、血栓症の既往があれば、溶血の程度に関わらず「重症」とされる。平成27年1月から、PNHは「難病患者に対する医療等の法律」による指定難病となった。これにより、中等症以上の患者の医療費負担が大幅に軽減されるようになった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)PNHの根治を目指す治療法は同種造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)のみであるが、この治療法自体のリスクが大きいために、適応は若年で、かつ重症の骨髄不全症を伴う場合に限られる。さまざまな感染症が溶血発作の引き金になるため、日常生活では感染症の予防が重要である。溶血が長期にわたると、尿から鉄が失われるために鉄欠乏になったり、需要の増大のために葉酸欠乏になったりするので、血清フェリチン値や葉酸値をみながら鉄や葉酸の補充を検討する。溶血発作時には少量の副腎皮質ステロイドを用いることがあるが、糖尿病の発症や易感染性などの副作用のため、長期的な使用の有用性については意見が分かれる。貧血が高度の場合は赤血球輸血を行う。溶血により生じた遊離ヘモグロビンによる腎障害を防止するためには、輸液や利尿剤を用いるほか、高度の溶血発作時には人ハプトグロビン(商品名:ハプトグロビン)を投与することもある。血栓症の予防と治療には、ヘパリンやワーファリン製剤による抗血栓療法を行う。骨髄不全型PNHでは、蛋白同化ホルモンや免疫抑制剤が用いられる。最近、保険適用となったエクリズマブ(同:ソリリス)は、補体溶血を抑制することによって、貧血をはじめとするさまざまな臨床症状を劇的に改善する。この薬剤には血栓症の予防効果もみられる。重症例では積極的適応、中等症では相対的適応とされる。ただし、エクリズマブ治療導入の際には、点滴治療を定期的、継続的に行う必要があること、エクリズマブを中止する際には高度の溶血発作が生じうること、髄膜炎菌など一部の感染症に対する免疫能の低下が起こりうること、および高額な薬剤であることを十分に説明し、髄膜炎菌に対するワクチンの接種を行ってから開始する。エクリズマブ治療開始後に、LDHが低下したにもかかわらず貧血の改善が乏しい場合には、赤血球の膜上に蓄積した補体による血管外溶血あるいは骨髄不全の合併を考える。エクリズマブ治療には、PNHに合併した骨髄不全の改善効果は期待できない。PNH患者の妊娠に関しては、血栓症による流産のリスクが高く、また貧血もしばしば高度になる。平成26年度に、特発性造血障害調査に関する調査研究班および日本PNH研究会によって「妊娠ガイドライン」が作成された。このガイドラインでは、妊娠前の治療状況や血栓症の既往の有無によって、ヘパリンあるいはエクリズマブの使用が推奨されている。4 今後の展望病態面では、PNH型血球クローン増加の機序、血栓症がみられる機序などに関し、さらなる研究の進展が期待される。治療に関しては、エクリズマブの登場によってPNHの治療戦略が刷新された。今後、エクリズマブ不応例への対応や、血管外溶血が顕在化してくる症例に対する治療、妊娠管理などに関して、さらなる知見の集積と指針の充実が待たれる。現在、エクリズマブ以外にも補体系を標的とした新薬の開発が進んでおり、今後、PNH患者のQOLや予後のさらなる改善が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 発作性夜間ヘモグロビン尿症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特発性造血障害調査に関する調査研究班(診療の参照ガイドがダウンロードできる)日本血液学会(血液専門医研修施設マップで紹介先の候補を検索できる)日本PNH研究会(患者向けと医療者向けのかなり詳しい情報)患者会情報NPO法人PNH倶楽部(PNH患者と家族の会)公開履歴初回2013年02月28日更新2015年10月13日

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子宮頸がん、新規ワクチンに治療効果の可能性/Lancet

 HPV-16/18に関連する子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)に対し、HPV-16/18(E6/E7蛋白)を標的にする合成プラスミドVGX-3100を投与することで、病理組織学的な退縮がみられ、治療効果がある可能性が示された。米国・ジョンズホプキンス大学のCornelia L. Trimble氏らが、167例を対象に行った第IIb相のプラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果、報告した。CINの治療は切除とされているが、切除では生殖性の罹患状態が長期に続く可能性がある。そこで研究グループは、VGX-3100ワクチンに対宿効果があるかどうかを調べた。Lancet誌オンライン版2015年9月16日号で発表した。36週後のCIN1・正常病理への改善率を比較 試験は2011年10月19日~13年7月30日にかけて、7ヵ国36ヵ所の婦人科医療機関を通じて、HPV-16とHPV-18に関連するCIN2またはCIN3の認められる患者167例を対象に行われた。研究グループは被験者を、無作為に3対1の割合で2群に分け、一方の群(125例)にはVGX-3100(6mg)を、もう一方の群にはプラセボを、それぞれ0、4、12週目に筋注投与した。 主要有効性エンドポイントは、初回投与から36週後のCIN1または正常病理への退縮とした。 per-protocol解析と修正intention-to-treat(ITT)解析を、プロトコルの不備なく3回投与した患者を対象に、また少なくとも1回投与した患者を対象にそれぞれ行った。VGX-3100群のおよそ半数で退縮 試験実施計画適合集団のper-protocol解析では、病理組織学的な退縮が認められたのは、プラセボ群では36例中11例(30.6%)であったのに対し、VGX-3100群では107例中53例(49.5%)だった(絶対差:19.0ポイント、95%信頼区間[CI]:1.4~36.6、p=0.034)。 修正ITT解析では、同割合はプラセボ群40例中12例(30.0%)に対し、VGX-3100群114例中55例(48.2%)だった(同:18.2ポイント、1.3~34.4、p=0.034)。 なお、注射部位の紅斑発症が、プラセボ群42例中24例(57.1%)に対し、VGX-3100群は125例中98例(78.4%)と有意に高率だった(同:21.3ポイント、5.3~37.8、p=0.007)。 これらの結果を踏まえて著者は、「VGX-3100は、HPV-16/18に関連するCIN2/3に対し効果を示した初の治療的ワクチンである。VGX-3100は、CIN2/3の非外科的な治療オプションとして、同疾患治療の動向を変えうる可能性がある」と述べている。

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多発性硬化症〔MS : Multiple sclerosis〕、視神経脊髄炎〔NMO : Neuromyelitis optica〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系(脳・脊髄・視神経)に多巣性の限局性脱髄病巣が時間的・空間的に多発する疾患。脱髄病巣はグリオーシスにより固くなるため、硬化症と呼ばれる。白質にも皮質にも脱髄が生じるほか、進行とともに神経細胞も減少する。個々の症例での経過、画像所見、治療反応性などの臨床的特徴や、病理組織学的にも多様性があり、単一疾患とは考えにくい状況である。実際に2005年の抗AQP4抗体の発見以来、Neuromyelitis optica(NMO)がMultiple sclerosis(MS)から分離される方向にある。■ 疫学MSに関しては地域差があり、高緯度地域ほど有病率が高い。北欧では人口10万人に50~100人程度の有病率であるが、日本では人口10万人あたり7~9人程度と推定され、次第に増加している。平均発病年齢は30歳前後である。MSは女性に多く、男女比は1:2~3程度である。NMOは、日本ではおおむねMSの1/4程度の有病率で、圧倒的に女性に多く(1:10程度)、平均発病年齢はMSより約5歳高い。人種差や地域差に関しては、大きな違いはないと考えられている。■ 病因MS、NMOともに、病巣にはリンパ球やマクロファージの浸潤があり、副腎皮質ステロイドにより炎症の早期鎮静化が可能なことなどから、自己免疫機序を介した炎症により脱髄が起こると考えられる。しかし、MSでは副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できず、一般的には自己免疫疾患を悪化させるインターフェロンベータ(IFN-ß)がMSの再発抑制に有効である。また、いくつかの自己免疫疾患に著効する抗TNFα療法がMSには悪化因子であり、自己免疫機序としてもかなり特殊な病態である。一方、NMOでは、多くの例で抗AQP4抗体が存在し、IFN-ßに抵抗性で、時には悪化することもある。また、副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できるなど、他の多くの自己免疫性疾患と類似の病態と思われる。MSは白人に最も多く、アジア人種では比較的少ない。アフリカの原住民ではさらにまれである。さらに一卵性双生児での研究からも、遺伝子の関与は明らかである。これまでにHLA-DRB1*1501が最も強い感受性因子であり、ゲノムワイド関連解析(GWAS)ではIL-7R、 IL-2RAをはじめ、100以上の疾患感受性遺伝子が報告されている。また、NMOはMSとは異なったHLAが強い疾患感受性遺伝子 (日本人ではHLA-DPB1*0501) となっている。一方、日本人やアフリカ原住民でも、有病率の高い地域に移住した場合、その発病頻度が高くなることが知られており、環境因子の関与も大きいと推定される。その他、ビタミンD不足、喫煙、EBV感染が危険因子とされている。■ 症状中枢神経系に起因するあらゆる症状が生じる。多いものとしては視力障害、複視、感覚障害、排尿障害、運動失調などがある。進行すれば健忘、記銘力障害、理解力低下などの皮質下認知症も生じる。また多幸症、抑うつ状態も生じるほか、一般的に疲労感も強い。MSに特徴的な症状・症候としては両側MLF症候群があり、これがみられたときには強くMSを疑う。その他、Lhermitte徴候(頸髄の脱髄病変による。頸部前屈時に電撃痛が背部から下肢にかけて走る)、painful tonic seizure(有痛性強直性痙攣)、Uhthoff現象(入浴や発熱で軸索伝導の障害が強まり、症状が一過性に悪化する)、視神経乳頭耳側蒼白(視神経萎縮の他覚所見)がある。再発時には症状は数日で完成し、その際に発熱などの全身症状はない。また、無治療でも寛解することが大きな特徴である。慢性進行型になると症状は緩徐進行となる。NMOでは、高度の視力障害と脊髄障害が特徴的であるが、時に大脳障害も生じる。また、脊髄障害の後遺症として、明瞭なレベルを示す感覚障害と、その部位の帯状の締め付け感や疼痛がしばしばみられる。1)発症、進行様式による分類(1)再発寛解型MS(relapsing- remitting MS: RRMS):再発と寛解を繰り返す(2)二次性進行型MS(secondary progressive MS: SPMS):最初は再発があったが、次第に再発がなくても障害が進行する経過を取るようになったもの(3)一次性進行型MS(primary progressive MS: PPMS):最初から進行性の経過をたどるもの。MRIがなければ脊髄小脳変性症や痙性対麻痺との鑑別が難しい。2)症状による分類(1)視神経脊髄型MS(OSMS):臨床的に視神経と脊髄の障害による症状のみを呈し、大脳、小脳の症状のないもの。ただし眼振などの軽微な脳幹症状はあってもよい。MRI所見はこの分類には用いられていないことに注意。この病型には大部分のNMOと、視神経病変と脊髄病変しか臨床症状を呈していないMSの両方が含まれることになる。(2)通常型MS(CMS):大脳や小脳を含む中枢神経系のさまざまな部位の障害に基づく症候を呈するものをいう。3)その他、未分類のMS(1)tumefactive MS脱髄巣が大きく、周辺に強い浮腫性変化を伴うことが特徴。しばしば脳腫瘍との鑑別が困難であり、進行が速い場合には生検が必要となることも少なくない。(2)バロー病(同心円硬化症)大脳白質に脱髄層と髄鞘保存層とが交互に層状になって同心円状の病変を形成する。以前はフィリピンに多くみられていた。4)前MS状態と考えられるもの(1)clinically isolated syndrome(CIS)中枢神経の1ヵ所以上の炎症性脱髄性病変によって生じた初発の神経症候。CISの時点で1個以上のMS様脳病変があれば、80%以上の症例で再発し、MSに移行するが、まったく脳病変がない場合は20%程度がMSに移行するにとどまる。この時期に疾患修飾薬を開始した場合、臨床的にMSへの進行が確実に遅くなることが、欧米での研究で明らかにされている。(2)radiologically isolated syndrome(RIS)MRIにより偶然発見された。MSに矛盾しない病変はあるが、症状が生じたことがない症例。2010年のMcDonald基準では、時間的、空間的多発性が証明されても、症状がなければMSと診断するには至らないとしている。■ 予後欧米白人では80~90%はRRMSで、10~20%はPPMSとされる。日本ではPPMSが約5%程度である。RRMSの約半数は15~20年の経過でSPMSとなる。平均寿命は一般人と変わらないか、10年程度の短縮で、生命予後はあまり悪くない。機能予後としては、約10年ほどで歩行に障害が生じ、20年ほどで杖歩行、その後車椅子になるとされるが、個人差が非常に大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSでは「McDonald 2010年改訂MS診断基準」があり、臨床的な時間的、空間的多発性の証明を基本とし、MRIが補完する基準となっている。NMOでは、「Wingerchuk 2006年改訂NMO診断基準」が用いられる。また、MRIでの基準があり、BarkhofのMRI基準はMSらしい病変の基準、PatyのMRI基準はNMO診断基準で利用されている(図参照)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するNMOと同様の病態と考えられるが、臨床的には、NMO-IgG(抗AQP4抗体)陽性で、視神経炎のみ、あるいは脊髄炎のみの例や、抗AQP4抗体陽性で脳病変や脳幹、小脳のみで再発を繰り返す例などがあり、それらをNMO spectrum disorderと呼ぶこともある。■ 検査MSにおいては一般血液検査では炎症所見はなく、各種自己抗体も合併症がない限り異常はない。したがって、そのような検査は、各種疾患の除外、および自己免疫疾患を含めた再発抑制療法で悪化の可能性のある合併症のチェックと、再発抑制療法での副作用チェックの目的が大きい。髄液も多くは正常で、異常があっても軽微であることが特徴である。オリゴクローナルIgGバンド(OCB)の陽性率は欧米では90%を超えるが、日本人では約70%位である。MS特異的ではないが、IgG index高値は中枢神経系でのIgG産生、すなわち免疫反応が生じていることの指標となる。電気生理学的検査としては視覚誘発電位、体性感覚誘発電位、聴性脳幹反応、運動誘発電位があり、それぞれの検査対象神経伝導路の脱髄の程度に応じて異常を示す。MRIは最も鋭敏に病巣を検出できる方法である。MSの脱髄巣はMRIのT1強調で低または等信号、T2強調画像またはFLAIR画像で高信号域となる。急性期の病巣はガドリニウム(Gd)で増強される。脳室に接し、通常円形または楕円形で、楕円形の病巣の長軸は脳室に対し垂直である病変がMSの特徴であり、ovoid lesionと呼ばれる。このovoid lesionの検出には、矢状断FLAIRが最適であり、MSを疑った場合には必ず撮影するべきである。NMO病態では、CRP上昇や補体高値などの軽度の末梢血の全身性炎症反応を示すことがあるほか、大部分の症例で血清中に抗AQP-4抗体が検出される。抗体は治療により測定感度以下になることも多く、治療前の血清にて測定することが重要である。画像では、脊髄の中心灰白質を侵す3椎体以上の長大な連続性病変が特徴的とされる。また、他の自己免疫疾患の合併が多く、オリゴクローナルIgGバンドは陰性のことが多い。■ 鑑別疾患1)初発時あるいは再発の場合感染性疾患:ライム病、梅毒、硬膜外膿瘍、進行性多巣性白質脳症、単純ヘルペスウイルス性脊髄炎、HTLV-1関連脊髄炎炎症性疾患:神経サルコイドーシス、シェーグレン症候群、ベーチェット病、スイート病、全身性エリテマトーデス(SLE)、結節性動脈周囲炎、急性散在性脳脊髄炎、アトピー性脊髄炎血管障害:脳梗塞、脊髄硬膜外血腫、脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)代謝性:ミトコンドリア病(MELAS)、ウェルニッケ脳症、リー脳症脊椎疾患:変形性頸椎症、椎間板ヘルニア眼科疾患:中心動脈閉塞症などの血管障害2)慢性進行型の場合変性疾患:脊髄小脳変性症、 痙性対麻痺感染性疾患:HTLV-I関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺(HAM/TSP)代謝性疾患:副腎白質ジストロフィーなど脳外科疾患:脊髄空洞症、頭蓋底陥入症3 治療 (治験中・研究中のものも含む)急性増悪期、寛解期、進行期、それぞれに応じて治療法を選択する。■ 急性増悪期の治療迅速な炎症の鎮静化を行う。具体的には、MS、NMO両疾患とも、初発あるいは再発時の急性期には、できるだけ早くステロイド療法を行う。一般的にはメチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール/静注用)500mg~1,000mgを2~3時間かけ、点滴静注を3~5日間連続して行う。パルス療法後の経口ステロイドによる後療法を行う場合は、投与が長期にわたらないようにする。1回のパルス療法で症状の改善が乏しいときは、数日おいてパルス療法をさらに1~2クール追加したり、血液浄化療法を行うことを考慮する。■ 寛解期の治療再発の抑制を行う。再発の誘因としては、感染症、過労、ストレス、出産後などに比較的多くみられるため、できるだけ誘引を避けるように努める。ワクチン接種は再発の誘引とはならず、感染症の危険を減らすことができるため、とくに禁忌でない限り推奨される。その他、薬物療法による再発抑制が普及している。1)再発抑制法日本で使用できるものとしては、MSに関してはIFN-ß1a (同:アボネックス)、IFNß-1b (同:ベタフェロン)、フィンゴリモド(同:イムセラ、ジレニア)、ナタリズマブ(同:タイサブリ)がある。肝障害、自己免疫疾患の悪化、間質性肺炎、血球減少などに注意して使用する。また、NMOに使用した場合、悪化させる危険があり、慎重な病態の把握が重要である。(1)IFN-ß1a (アボネックス®) :1週間毎に筋注(2)IFN-ß1b (ベタフェロン®) :2日毎に皮下注どちらも再発率を約30%減少させ、MRIでの活動性病変を約60%抑制できる。(3)フィンゴリモド (イムセラ®、ジレニア®) :連日内服初期に徐脈性不整脈、突然死の危険があり、その他、感染症、黄斑浮腫、リンパ球の過度の減少などに注意して使用する。(4)ナタリズマブ(タイサブリ®) :4週毎に点滴静注約1,000例に1例で進行性多巣性白質脳症が生じるが、約7割の再発が抑制でき、有効性は高い。NMO病態ではIFN-ßやフィンゴリモドの効果については疑問があり、重篤な再発の誘引となる可能性も報告されている。したがって、ステロイド薬内服や免疫抑制薬(アザチオプリン 50~150mg/日 など)、もしくはその併用が勧められることが多い。この場合、できるだけ少量で維持したいが、抗AQP4抗体高値が必ずしも再発と結びつくわけでなく、治療効果と維持量決定の指標の開発が課題である。最近では、関節リウマチやキャッスルマン病に認可されているトシリズマブ(ヒト化抗IL-6受容体抗体/同:アクテムラ)が強い再発抑制効果を持つことが示され、期待されている。(5)その他の薬剤として以下のものがある。ミトキサントロン:用量依存性の不可逆的な心筋障害が必発であるため、投与可能期間が限定されるグラチラマー(同:コパキソン) :毎日皮下注射(欧米で認可され、わが国でも9月に製造販売承認取得)ONO-4641:フィンゴリモドに類似の薬剤(わが国で治験が進行中)ジメチルフマレート(BG12)(治験準備中)クラドリビン(治験準備中)アレムツズマブ(抗CD52抗体/同:マブキャンパス) (欧米で治験が進行中)リツキシマブ(抗CD20抗体/同:リツキサン) (欧米で治験が進行中)デシリズマブ(抗CD25抗体)(欧米で治験が進行中)テリフルノミド(同:オーバジオ)(欧米で治験が進行中)2)進行抑制一次進行型、二次進行型ともに、慢性進行性の経過を有意に抑制できる方法はない。骨髄移植でも再発は抑制できるが、進行は抑制できない。■ 慢性期の残存障害に対する対症療法疼痛はカルバマゼピン、ガバペンチン、プレガバリンその他抗うつ薬や抗てんかん薬が試されるが、しばしば難治性になる。そのような場合、ペインクリニックでの各種疼痛コントロール法の適用も考慮されるべきである。その他、痙性、不随意運動、排尿障害、疲労感、それぞれに対する薬物療法が挙げられる。4 今後の展望再発抑制に関しては、各種の疾患修飾療法の開発により、かなりの程度可能になっている。しかし、20~30%の患者では再発抑制効果が乏しいこともあり、さらに効果的な薬剤が求められる。慢性に進行するPPMS、SPMSでは、その病態に不明な点が多く、進行抑制方法がまったくないことが課題である。診断と分類に関して、抗AQP4抗体の発見以来、治療反応性や画像的特徴から、NMOがMSから分離される方向にあるが、今後も病態に特徴的なバイオマーカーによるMSの細分類が重要課題である。5 主たる診療科神経内科:診断確定、鑑別診断、急性期管理、寛解期の再発抑制療法、肢体不自由になった場合の障害者認定眼科:視力・視野などの病状評価、鑑別診断、治療の副作用のショック、視覚障害になった場合の障害者認定ペインクリニック:疼痛の対症療法泌尿器科:排尿障害の対症療法整形外科:肢体不自由になった場合の補助具などリハビリテーション科:リハビリテーション全般※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)公的助成情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療、研究に関する情報多発性硬化症治療ガイドライン2010(日本神経学会による医療従事者向けの治療ガイドライン)多発性硬化症治療ガイドライン2010追補版(上記の治療ガイドラインの追補版)患者会情報多発性硬化症友の会(MS患者ならびに患者家族の会)1)Polman CH, et al.Ann Neurol.2011;69:292-302.2)Wingerchuk DM, et al. Neurology.2006;66:1485-1489.3)日本神経学会/日本神経免疫学会/日本神経治療学会監修.「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会編.多発性硬化症治療ガイドライン2010. 医学書院; 2010.公開履歴初回2013年03月07日更新2015年10月06日

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2価HPVワクチン、流産リスク増大の根拠なし/BMJ

 2価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの、接種後90日未満の妊娠またはあらゆる時点の妊娠への流産リスクの増大は認められないとの報告が、米国立衛生研究所(NIH)のOrestis A Panagiotou氏らにより発表された。コスタリカ単施設で行われた無作為化二重盲検比較試験の長期フォローアップ観察試験の結果、示された。ただし妊娠13~20週時の流産リスク増大が観察され、著者はこの点を踏まえて、「関連を完全にルールアウトすることはできず、詳細な調査とさらなる検討をすべきであろう」とまとめている。BMJ誌オンライン版2015年9月7日号掲載の報告。ワクチン接種後妊娠3,394例と非接種妊娠3,227例の流産発生を比較 無作為化試験は2価HPVワクチンの有効性と安全性を評価することを目的に、2004年6月~2005年12月にコスタリカの女性18~25歳7,466例を登録して行われた。被験者は、2価HPVワクチン接種(3,727例)群と対照(A型肝炎ワクチン接種)(3,739例)群に無作為に割り付けられ、4年間の試験を完了。その後、長期観察試験(6年間)に組み込まれた(ワクチン接種群2,792例、対照群2,771例)。 長期観察試験では、対照群にさらにワクチン未接種群2,836例が加えられる一方、対照群の2価HPVワクチン接種のクロスオーバー被験者と非クロスオーバー被験者を分類し、最終的に、2価HPVワクチン接種後妊娠3,394例、同非接種妊娠3,227例(A型肝炎ワクチン接種後妊娠2,507例、ワクチン未接種群妊娠720例)について分析評価を行った。 主要エンドポイントは、2価HPVワクチン接種妊娠 vs.A型肝炎ワクチン接種/ワクチン未接種妊娠で比較した、ワクチン接種後90日未満およびあらゆる時点の妊娠における流産(米国CDC規定の妊娠20週以内の胎児喪失)リスクであった。接種後あらゆる時点の妊娠の流産発生との関連は認められず 2価HPVワクチン接種後妊娠3,394例のうち、90日未満妊娠は381例であった。 流産発生は、接種群451例(13.3%)であり、90日未満妊娠群は50例(13.1%)であった。また、非接種群は414例(12.8%)であった(A型肝炎ワクチン群12.6%、未接種群13.6%)。 非接種群と比較した90日未満妊娠群の流産発生の相対リスクは、1.02(95%信頼区間[CI]:0.78~1.34、片側検定p=0.436)であった。同様の結果は、ワクチン接種時の年齢で補正後(相対リスク:1.15、片側検定p=0.17)、妊娠時年齢で補正後(1.03、p=0.422)、また暦年で補正後(1.06、p=0.358)、および層別化解析において認められた。 2価HPVワクチン接種後あらゆる時点での妊娠では、接種とすべての流産またはサブグループの流産リスク増大との関連は、認められなかったが、妊娠13~20週時の流産リスクについて有意な増大がみられた(相対リスク1.35、95%CI:1.02~1.77、片側検定p=0.017)。 以上を踏まえて著者は、「2価HPVワクチンが、ワクチン接種後90日未満妊娠の流産リスクに影響を及ぼすとのエビデンスはない」とまとめたうえで、「ワクチン接種後あらゆる時点の妊娠群における流産リスク増大の推算は、感度分析の設定による可能性がある。しかし、関連の可能性について完全に除外はできず、さらに詳しく調査をすべきであり、さらなる検討が必要と思われる」と述べている。

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世界における慢性B型肝炎の有病率の評価 -西太平洋地域では、日本はオーストラリア・マレーシアに次いで3番目に低率-(解説:中村 郁夫 氏)-409

 本レビューは、1965年1月1日~2013年10月23日の間に発表された、一般集団におけるHBs抗原陽性率に関する、1万7,029件の文献中の1,800本の報告を用いた解析である。 161ヵ国のHBs抗原陽性率を95%信頼区間[CI]値と共に推算し、また、2010年の国連人口統計を用いて、患者数を算出した。 WHOは、世界を6地域(アフリカ、アメリカ、南東アジア、ヨーロッパ、東地中海、西太平洋)に分けている。その中で、HBs抗原陽性率が高いのは、アフリカ地域、次に、日本が含まれる西太平洋地域であった。しかし、各地域の中でも国により大きな差があることが報告された。 アフリカ地域の中で最も高率なのは、南スーダンの22.38%(95%CI:20.10~24.83%)、最も低率なのはセーシェル諸島の0.48%(95%CI:0.12~1.90%)であった。次に、アメリカ地域の中で最も高いのは、ハイチの13.55%(95%CI:9.00~19.89%)、最も低いのはメキシコの0.20%(95%CI:0.19~0.21%)であった。さらに、西太平洋地域の中で最も低率なのは、オーストラリアの0.37%(95%CI:0.36~0.38%)であり、日本はマレーシアに次いで3番目に低率(1.02%[95%CI:1.01~1.02%])であった。 本論文は、今後の本邦でのHBVのユニバーサルワクチンに関する検討において、有用なデータになると考えられる。

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小児へのデング熱ワクチン、効果あるも年齢差/NEJM

 2~16歳児を接種対象とした長期サーベイランス中のデング熱ワクチン(遺伝子組み換え型生減弱4価タイプ:CYD-TDV)について、3年時点の中間解析結果が発表された。同期間中の全被験者リスクは、ワクチン接種群が対照群よりも低下したが、9歳未満児で原因不明の入院リスクの上昇がみられたという。インドネシア大学のSri Rezeki Hadinegoro氏らCYD-TDVデング熱ワクチンワーキンググループが、アジア太平洋およびラテンアメリカでそれぞれ行われている3件の無作為化試験の結果を統合分析して報告した。NEJM誌オンライン版2015年7月27日号掲載の報告。2~16歳児3万5,000例超を対象にサーベイランス進行中 デング熱ワクチンは現在、両地域の2~16歳児3万5,000例超を対象とした3件の臨床試験が行われている。2件は第III相無作為化試験で、アジア太平洋地域で2~14歳児を(CYD14試験)、ラテンアメリカで9~16歳児を(CYD15試験)対象とし、計3万1,000例超が参加。ワクチンの接種は3回(0、6ヵ月、12ヵ月)で、25ヵ月間(接種完了後13ヵ月)の有効性サーベイランスフェーズの評価後、長期フォローアップフェーズ(接種後3~6年)に移行し、安全性の評価(ウイルス学的に確認されたデング熱による入院発生をエンドポイント)が行われている。 もう1件はタイ共和国の1施設で行われている第IIb相の試験で、方法は同様に4~11歳4,002例が参加し(CYD23試験)、その後4年間のフォローアップフェーズでの安全性評価が行われている(CYD57)。 研究グループは、25ヵ月時点のプールデータから、ワクチンの有効性について分析した。入院発生の相対リスク、9歳以上0.50に対して9歳未満は1.58、全年齢は0.84と低下 分析データは、CYD14試験の被験者1万275例中1万165例(99%)、CYD15試験は2万869例中1万9,898例(95%)、およびCYD23試験(4,002例)からCYD57試験に組み込まれた3,203例(80%)について入手できた。 統合解析の結果、ウイルス学的入院が確認できたデング熱症例は、ワクチン接種群2万2,177例中65例、対照群1万1,089例中39例であった。対照群との比較による接種群のプール相対リスクは、全被験者では0.84(95%信頼区間[CI]:0.56~1.24)だった。ただし9歳未満では1.58(同:0.83~3.02)、9歳以上では0.50(同:0.29~0.86)で9歳未満での発生が高率だった。 また、独立モニタリング委員会の定義による重症のデング熱入院例は、3年間でワクチン接種群2万2,177例中18例、対照群1万1,089例中6例であった。 25ヵ月間の症候性デング熱に対するワクチンのプール有効率は、全被験者60.3%(95%CI:55.7~64.5)、9歳以上では65.6%(同:60.7~69.9)、9歳未満は44.6%(同:31.6~55.0)であった。 著者は、「2~16歳児のリスクは、対照群よりも接種群で低下が認められた。しかし、原因は不明だが9歳未満において3年間のデング熱入院発生率が高く、長期フォローアップでの注意深い観察が必要である」とまとめている。

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H7N9インフルワクチン、最も力価が高まる製剤は?/JAMA

 不活化単価H7N9インフルエンザワクチンについて、AS03およびMF59アジュバント製剤の2回接種が免疫応答を高めること、最も高力価を示したのはAS03アジュバント製剤であったことが、米国・Group Health Research InstituteのLisa A. Jackson氏らによる第II相二重盲検無作為化試験の結果、報告された。JAMA誌2015年7月21日号掲載の報告より。2種のアジュバントありなしや混合接種などについて免疫原性と安全性を評価 研究グループは、不活化単価H7N9インフルエンザワクチンの免疫原性と安全性について、AS03アジュバントありなしならびに接種スケジュールを混合、またアジュバント製剤と非アジュバント製剤を比較する評価を行った。 試験は、米国5地点で2013年9月~2013年11月に、19~64歳の成人980例を登録して行われた。安全性については2015年1月まで追跡した。 被験者へのH7N9ワクチン接種は、回数は0、21日の2回、名目接種用量は3.75、7.5、15、45μgの各用量にて行われ、AS03またはMF59アジュバントのありなし、接種の混合(1回目と2回目で異なるアジュバント製剤を接種など)が行われた。 主要評価項目は、2回接種後21日時点で赤血球凝集抑制抗体(HIA)力価が40超に達した患者の割合とした。また、初回接種から12ヵ月間のワクチン関連の重大有害事象、7日間でみられた反応や症状を調べた。AS03アジュバント製剤2回接種が最も高力価 結果、2回接種により患者の大半で抗体価検出が可能となった。 40超のHIA力価達成割合は、いずれも15μg量2回接種の、アジュバントなし製剤で2%(95%信頼区間[CI]:0~7%、94例)に対し、AS03アジュバントあり製剤は84%(同:76~91%、96例)、MF59あり製剤は57%(同:47~68%、92例)であった(AS03およびMF59の比較のp<0.001)。 AS03およびMF59アジュバントを混合接種した場合は、幾何学平均力価(GMT)の低下が認められた。1回目にAS03アジュバントを接種し2回目にMF59アジュバントを接種した場合(92例)の接種後21日時点のGMTは41.5(95%CI:31.7~54.4)であった。また、1回目MF59アジュバント、2回目AS03アジュバントの場合(96例)は58.6(同:44.3~77.6)で、いずれも2回ともAS03アジュバントを接種した場合(96例、103.4、95%CI:78.7~135.9)よりも有意に低値であった(p<0.001)。しかし、2回ともMF59アジュバントを接種した場合(94例、29.0、22.4~37.6)と比べると有意に高値であった(p<0.001)。 結果を踏まえて著者は、「今回の試験結果は、接種で混合した場合を含む2つのアジュバントを用いたインフルエンザワクチン製剤について、インフルエンザパンデミック準備プログラムに有益な免疫原性情報を提供するものである」とまとめている。

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ピロリ菌に対する経口組み換え型ワクチンに関する第III相試験(解説:上村 直実 氏)-392

 胃潰瘍や十二指腸潰瘍および胃がんの最大要因であることが判明したピロリ菌に対する、経口組換え型ワクチンに関する大規模な第III相試験の結果が、中国から報告された。6~15歳の健康児童4,464例を対象とした、無作為化二重盲検プラセボ対照試験が行われた結果、接種後1年以内における新たなピロリ菌感染は、ワクチン摂取群2,199例中14例(0.63%)がプラセボ群2,204例中50例(2.24%)に比べて有意に低率であった。さらに、接種後3年間のワクチン摂取群の累積感染率(1.36%)もプラセボ群(3.86%)に比べて有意に低率であった。なお、獲得免疫評価に関する検討では、特異的な抗ウレアーゼBサブユニットの血清IgGと唾液中IgAの平均抗体価は、ベースラインでは両群で同等だったが、ワクチン接種後の3年時点までワクチン群が有意に高値であった。 日本人の多くは、免疫寛容状態である5歳未満にピロリ菌に感染して、ごく少数の例外を除き、学童期以降には感染しないものとされている。環境の異なる中国においては、6歳以上でも年間1%以上の感染が存在することが推測され、小児期におけるワクチンの有用性が高いことが示唆された。 わが国では若年者のピロリ菌感染率が激減しており、さらに2013年にはピロリ感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となり、感染予防を目的としたワクチン接種の有用性が低下していることは確かである。しかし、世界中の約半数が感染していると推測されているピロリ菌に対する有効性の高いワクチンの開発は、非常に重要な課題であり、とくに感染率が高率のまま推移している開発途上国においては、本研究に使用されたワクチンの臨床的有用性に関しては大きな期待が抱かれるであろう。

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新しいがん免疫療法、これまでと何が違う?~肺がん医療向上委員会

 7月27日(月)、都内で第8回肺がん医療向上委員会※が開催された。その中で、委員長である中西 洋一氏(九州大学大学院医学研究院臨床医学部門内科学講座呼吸器内科学 教授)が、注目を集める新しいがん免疫療法について、これまでの免疫療法との違い、抗PD-1抗体薬の試験成績と今後の課題について講演した。これまでの免疫療法との違い 免疫療法は、患者の免疫応答と関係なく、一定期間経過すると消失する「受動免疫療法」と、患者の免疫応答を誘導する「能動免疫療法」に分けられる。また、この分類とは別に、特定のがん抗原に対する免疫を強化する「特異的免疫療法」と、免疫機能全般を強化する「非特異的免疫療法」に分けられる。 中西氏によると、非特異的免疫療法の中には、免疫力全般を高め、ある程度の有効性が示されている免疫グロブリンやピシバニールのほか、プロポリスやアガリクス、丸山ワクチンなど有効性に関しては“怪しい”と言わざるを得ないものが含まれる。これらはまったく効果がないわけではなく、免疫力を若干高めるというもので、そのもの自体が怪しいわけではない。しかしながら、それらを「免疫を高めるから、がんに効く」と紹介したり、宣伝したりすることで“怪しい”ものになってしまっているという。 がんの免疫療法としては、受動免疫療法においては、がんを標的とした抗体や細胞療法、また、能動免疫療法には、がんワクチン、サイトカイン(IL、TNFα、GM-CSF)、T細胞活性化メディエーターがある。現在注目されている新たな免疫療法は、このT細胞活性化メディエーターである。これまで開発されてきた免疫療法の多くは特異的免疫療法であるが、T細胞活性化メディエーターは非特異的免疫療法である、と中西氏は強調した。また、T細胞活性化メディエーターには、アクセルである共刺激経路と、大きな注目を集めている、免疫のブレーキである免疫チェックポイント(免疫抑制経路)がある。 現在、肺がんにおける免疫チェックポイント阻害薬として期待されているものとして、抗PD-1抗体(ニボルマブやペムブロリズマブなど)と抗CTLA-4抗体(イピリムマブなど)がある(肺がんに対しては現在、国内未承認)。その違いについて中西氏は次のように説明した。CTLA-4はリンパ組織における抗原提示を制御し免疫系全体を抑制するのに対し、PD-1は不特定多数のがん特異的免疫を抑制する。よって、抗CTLA-4抗体のほうが、抗PD-1抗体より効果が強いが副作用も多い可能性がある。ニボルマブの肺がんにおける試験成績と今後の課題 ニボルマブの扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)に対するCheckMate017試験、非扁平上皮NSCLCに対するCheckMate057試験は、どちらも進行期肺がんのセカンドラインにおけるドセタキセルとの比較で、全生存期間(OS)を主要評価項目として実施された第III相試験である。これらの試験のOSのハザード比は、扁平上皮がんで0.59、非扁平上皮がんで0.73と、どちらも驚くべき結果が認められ、肺がんに対する免疫療法で初めて科学的に有効性を証明した。さらに、安全性にも期待が持てる結果であった。 一方、これらの試験では、ニボルマブ群とドセタキセル群の生存曲線の交差と、PD-L1発現とニボルマブの効果の相関という2つの点において、検討すべき結果が示されている。非扁平上皮がんではニボルマブ群とドセタキセル群の生存曲線が交差しており、ニボルマブにまったく効果のない例が存在する可能性があるという。また、非扁平上皮がんではPD-L1の発現割合の多い症例でニボルマブ群が優れており、PD-L1発現とニボルマブの効果に相関がみられたが、扁平上皮がんにおいてはPD-L1の発現の有無にかかわらず、ニボルマブ群が優れていた。 中西氏はこれらの結果をまとめ、抗PD-1抗体ニボルマブは既治療のNSCLC(扁平上皮がん、非扁平上皮がん)に対して、従来の抗がん剤に比べ、明らかに優れた結果が示されたと述べた。しかしながら、ニボルマブの効果を予測するバイオマーカーについて、PD-L1は関連がある場合とない場合があるため不十分であるとし、また、治療開始の早い段階で効果のない症例を見極めて次の治療を考えることが必要であると強調した。 最後に、中西氏は、肺がんに対する薬物療法において、これまでの化学療法と分子標的療法に加え、免疫療法というもう1つの武器が手に入ったが、今後、どのように使い分けていくか、どのように併用するかを、安全性の点を含めてしっかりと検討する必要がある、と結んだ。※肺がん医療向上委員会特定非営利活動法人日本肺癌学会が、肺がん患者とその家族に正しい情報を提供するとともに、正しい診断と治療がなされる環境を目指し、学術団体、がん領域に関わる患者支援団体、臨床試験グループ、製薬・臨床検査関連企業など、肺がん医療に関わるすべての関係者との連携の下、2013年11月に設置。

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成人市中肺炎の原因微生物(解説:小金丸 博 氏)-390

 肺炎は、今でも入院や死亡原因となる重要な感染症である。肺炎球菌ワクチンが普及し、微生物検査が進歩した現代において、市中肺炎の発生率と原因微生物を調査するためにCDC(米国疾病管理予防センター)がactive population-based studyを実施した。 本研究では、シカゴとナッシュビルの5病院に市中肺炎で入院した18歳以上の成人を対象とし、28日以内の入院歴のある患者や免疫不全患者(気管切開や胃瘻が造設されている患者、臓器移植後、嚢胞線維症、CD4数200/μl未満のHIV感染症患者など)は除外された。肺炎は、発熱などの急性感染症状があること、咳などの急性呼吸器症状があること、胸部X線で肺炎像があることと定義した。病原体診断は、細菌培養(血液、胸水、良質な喀痰、気管吸引物)、遺伝子検査(喀痰、胸水、鼻咽頭・口腔咽頭スワブ)、尿中抗原検査、ペア血清による抗体検査で行った。 2010年1月~2012年6月の調査期間で、2,320例が胸部X線で肺炎像を確認された。そのうち498例(21%)が集中治療を必要とし、52例(2%)が死亡した。入院が必要な肺炎の発生件数は、年間1万人当たり24.8(95%信頼区間:23.5~26.1)だった。年齢ごとにみると、18~49歳の発生率が6.7(同:6.1~7.3)、50~64歳が26.3(同:24.1~28.7)、65~79歳が63.0(同:56.4~70.3)、80歳以上が164.3(同:141.9~189.3)であり、高齢になるほど高い傾向がみられた。 2,259例で細菌検査とウイルス検査の両方が実施され、853例(38%)で病原体が検出された。ウイルスのみが530例(23%)、細菌のみが247例(11%)、ウイルスと細菌を同時検出したのが59例(3%)、真菌あるいは抗酸菌が17例(1%)だった。検出された病原体は、多い順にヒトライノウイルス(9%)、インフルエンザウイルス(6%)、肺炎球菌(5%)だった。 本研究では、過去の研究よりも検出感度の高い微生物検査を用いたにもかかわらず、肺炎患者から病原体を検出できたのは38%のみだった。その理由としては、下気道検体を採取できなかったこと、検体採取前の抗菌薬投与の影響、非感染性疾患の可能性などが挙げられる。肺炎の原因微生物を決定することは、現在の微生物検査のレベルをもってしても困難であることを知っておくべきだろう。 肺炎像を呈している患者から最も多く検出された病原体は、“かぜ”の原因微生物として知られるヒトライノウイルスだった。このウイルスが肺炎の原因微生物になっているのかは疑問の余地があるが、無症候コントロール群ではまれにしか検出されておらず、成人の市中肺炎発症に関与している可能性は十分考えられる。 原因微生物として、インフルエンザウイルスや肺炎球菌が多いことも示された。これらに対してはワクチンが存在するため、さらなるワクチンの普及、啓発が重要であると考える。

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チクングニア熱に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ(まあ誰も呼んでないんですけどね)」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。前回は緊急特番として「MERSに気を付けろッ!」をお送りしましたが、今回は前々回の続きとして「チクングニア熱に気を付けろッ! その2」をお届けしたいと思います。デング熱との鑑別診断は大事なポイント前々回の「その1」では、チクングニア熱を野球界で例えると本塁打を60本打ったときのバレンティン選手(ヤクルトスワローズ)であり、手の付けようがないので敬遠するしかないというお話でした。そこで、今回はチクングニア熱の特徴とその敬遠の仕方についてお話ししたいと思います。チクングニア熱の臨床症状は、デング熱と非常に良く似ています。ネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介されるところも同じですし、発熱、頭痛、関節痛といった非特異的な症状もそっくりです。おまけに皮疹までデング熱によく似ています。しかし、チクングニア熱がデング熱と異なる点もいくつかあります。チクングニア熱の潜伏期はおおむね2~4日とされており、デング熱(おおむね3~7日)よりやや短い期間で発症します1)。また、発熱は3~5日間くらい続くことが多く、これも5~7日間続くデング熱よりも短い傾向にあります。デング熱では少ない頻度ではありますが重症化し、出血症状が現れることがありますが、チクングニア熱では出血症状はまれです。また、チクングニア熱では関節痛だけでなく「関節炎」まで起こすことがあるのが特徴です。しかも、タチの悪いことに、この関節痛・関節炎は遷延化することがあり、長い人では3年経っても関節炎が残っていたという報告があります2)。図は熱が出た後から1ヵ月くらい両肩関節炎のため肩が上がらないという主訴で、国立国際医療研究センターを受診された患者さんです。チクングニア熱による慢性関節炎と診断しました。長期間QOLが低下してしまうという意味では、デング熱よりもやっかいな感染症です。また、左右対称性の慢性多関節炎ということで、関節リウマチが疑われてリウマチ膠原病科を受診する方もいらっしゃるようです。診断は、ウイルス血症を呈している急性期にPCR法でチクングニアウイルスを検出するか、亜急性期~慢性期にチクングニアに対するIgM抗体陽性、あるいはペア血清でのIgG抗体の陽転化または有意な上昇を確認することで診断されます(表1)。現在のところ、採算の面から気軽に行える検査ではありませんので、保健所に連絡をして地方衛生研究所または国立感染症研究所で検査をしてもらうことになるでしょう。チクングニア熱は感染症法で4類感染症に指定されていますので、確定診断後にただちに保健所に届け出る必要があります。忘れないようにしましょう!やっぱり蚊に刺されないことが1番の予防さて、肝心のチクングニア熱の治療ですが……ありませんッ! 残念ながら今のところ対症療法しかないのです。関節痛が強いので、ついNSAIDsを使いたくなるのですが、デング熱との鑑別ができていない時点では、NSAIDsの使用は避けたほうがいいでしょう。なぜなら、デング熱であった場合にNSAIDsが出血症状を助長してしまうからですッ! チクングニア熱と診断されれば、NSAIDsの使用は可能です。なお、チクングニア熱による慢性関節炎に対するステロイドの有効性は今のところ不明です。というわけで、チクングニア熱にかかってしまったら大変ですので、チクングニア熱は敬遠するのが一番です。チクングニア熱のワクチンはまだ実用化されておりませんので、現実的には「蚊に刺されないこと」が重要となってきます。具体的な防蚊対策として、(1)蚊が多い時間・時期・場所を避ける(2)肌の露出を最小限にするため長袖長ズボンを着用する(3)DEETを含む防虫剤を適正に使用する(4)蚊帳の使用などが挙げられますが、とくに重要なのはDEET(N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド)を含む防虫剤を適正に使用することであり、表2の持続有効時間ごとに塗り直す必要があります。わが国で販売されている防虫剤は、最大でも12%までしかDEETが含まれていません。そのため、基本的には2時間ごとにこまめに塗り直すことが推奨されます。海外のデング熱やチクングニア熱の流行地にいく場合には、より濃い濃度のDEETを含む防虫剤が販売されていますので、20~30%のDEETを含む製品を購入し、4~6時間ごとに塗り直すのがお勧めです。これでチクングニア熱をバッチリ予防しましょう!前回お話ししたようにチクングニア熱は毎年輸入例が報告されていますし、いつ日本で流行してもおかしくない感染症です。感染を広げないためには早期に診断し、感染者が蚊に刺されないよう指導することが重要になります。チクングニア熱の正しい知識を身に付け、症状を診察したときに正しく診断できるようにしておきましょう!さて、次回はクリプトコッカス界の新興感染症、Cryptococcus gattiiのガチな(シャレですう)気を付け方について、お話したいと思います!1)Borgherini G, et al. Clin Infect Dis.2007;44:1401-1407.2)Schilte C, et al. PLoS Negl Trop Dis.2013;7:e2137.3)Fradin MS, Day JF. N Engl J Med.2002;347:13-18.

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経口H.pyloriワクチン、未感染小児に高い効果/Lancet

 中国で開発中の経口組換え型H.pyloriワクチンについて、未感染小児に対する有効性、安全性、免疫原性が確認されたことを、中国食品医薬品検定研究所のMing Zeng氏らが4,464例を対象とした第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、報告した。投与後1年時点の有効性は71.8%であったという。著者は、「本ワクチンはH.pylori感染の発生を大幅に減少することができた。さらなる長期追跡によりその予防効果を確認する必要がある」と述べている。Lancet誌オンライン版2015年6月30日号掲載の報告より。H.pylori未感染の6~15歳4,464例を対象に無作為化二重盲検プラセボ対照試験 試験は、江蘇省カン楡区の1施設で行われ、H.pylori感染の既往歴または現病歴がない6~15歳の健康児を対象とした。コンピュータ無作為化にて1対1の割合で、H.pyloriワクチンを受ける群またはプラセボを受ける群に割り付けた。本ワクチン投与は3回(0、14日、28日)で計画された。 主要有効性エンドポイントは、ワクチン投与後1年以内のH.pylori感染の発生とした。被験児およびその保護者、また研究者に治療割り付けに関する情報はマスキングされ、解析は、事前プロトコル集団について行われた。 2004年12月2日~2005年3月19日の間に、被験者4,464例がワクチン群(2,232例)またはプラセボ群(2,232例)に無作為に割り付けられた。そのうち4,403例(99%)が、3回服用のワクチン投与予定を完了し事前プロトコルの有効性解析に組み込まれた。副反応、有害事象は両群で同等、免疫原性はワクチン群で有意に高値 結果、ワクチン投与後1年以内のH.pylori感染の記録は64例であり(ワクチン群2,074.3リスク人年当たり14例 vs.プラセボ群2,089.6リスク人年当たり50例)、ワクチンの有効性は71.8%(95%信頼区間[CI]:48.2~85.6)であった。 ワクチン群157例(7%)、プラセボ群161例(7%)で、1件以上の副反応の報告があった。重大有害事象は、ワクチン群5例(<1%)、プラセボ群7例(<1%)で報告されたが、いずれもワクチン投与とは無関係であると思われた。 本試験のフォローアップは3年時点まで延長され、2年目にH.pylori感染はさらに32例(ワクチン群10例 vs.プラセボ群22例)が、3年目は19例(6例 vs.13例)が記録された。これらのデータに基づくワクチンの有効性は、2年時点で55.0%(95%CI:0.9~81.0)、3年時点で55.8%(同:-24.7~86.2)であった。H.pylori感染の発生率は、プラセボ群は3年間で100人年当たり2.4から1.4へと変動がみられたが、ワクチン群はほぼ0.7で一定していた。 免疫原性についてみた、特定の抗ウレアーゼBサブユニットの血清IgGと唾液中IgAの幾何平均抗体価(GMT)は、ベースラインでは両群で同等だったが、投与(3回完了)後は3年時点までワクチン群が一貫して有意に高値であった(3年時点の血清IgG GMTはワクチン群が4.1倍高く、唾液中IgA GMTは1.6倍高いなど)。

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侮れない侵襲性髄膜炎菌感染症にワクチン普及願う

 サノフィ株式会社は2015年7月3日、侵襲性髄膜炎菌感染症(Invasive Meningococcal Disease、以下IMD)を予防する4価髄膜炎菌ワクチン(ジフテリアトキソイド結合体)(商品名:メナクトラ筋注)のプレスセミナーを開催。川崎医科大学小児科学主任教授 尾内 一信氏と、同大学小児科学教授 中野 貴司氏がIMDの疾患概要や予防ワクチンの必要性について講演した。  細菌性髄膜炎の起因菌にはHib(インフルエンザ菌b型)、肺炎球菌などがあるが、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)もその1つである。髄膜炎菌は髄膜炎以外にも菌血症、敗血症などを引き起こし、それらをIMDと呼ぶ。IMDの初期症状は風邪症状に類似しており、早期診断が難しい。だが、急速に進行し発症から24~48時間以内に患者の5~10%が死に至り、生存しても11~19%に難聴、神経障害、四肢切断など重篤な後遺症が残ると報告されている。また、髄膜炎菌は感染力が強く、飛沫感染で伝播するため集団感染を起こしやすい。そのため、各国の大学・高校、さらにスポーツイベントなどでの集団感染が多数報告されている。このような状況から、IMDは本邦でも2013年4月より第5類感染症に指定されている。 IMDは全世界で年間50万件発生し、うち約5万人が死亡に至っている。IMDの発生は髄膜炎ベルトといわれるアフリカ中部で多くみられるが、米国、オーストラリア、英国などの先進国でも流行を繰り返しており注意が必要だ。米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、米国では2005年~2011年に年間800~1,200人のIMDが報告されている。発症年齢は5歳未満と10歳代が多くを占める。本邦でも、2005年1月~2013年10月に報告されたIMD 115例の好発年齢は0~4歳と15~19歳であった。 IMDの治療にはペニシリンGまたは第3世代セフェム系抗菌薬などが用いられるが、急速に進行するため予防対策が重要となる。IMDの予防にはワクチン接種が有効であることが明らかになっている。本邦の第III相試験の結果をみても、4価髄膜炎菌ワクチン接種後、80%以上の接種者の抗体価が上昇しており、その有効性が示されている。このような高い有効性から、発症数は多くないものの、米国、オーストラリア、英国においてはすでに定期接種ワクチンとなっている。 本邦でも4価髄膜炎菌ワクチン「メナクトラ筋注」が本年(2015年)5月に発売され、IMDの予防が可能となった。しかしながら、本邦におけるIMDの認知度は医師および保護者の双方で低い。また、IMDワクチンの医師の認知率は49%と約半分である。IMDの罹患率は低いが、そのリスクは無視できない。今後の啓発活動が重要となるだろう。サノフィプレスリリース「侵襲性髄膜炎菌感染症」に関する意識調査(PDFがダウンロードされます)「メナクトラ筋注」新発売のお知らせ(PDFがダウンロードされます)

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「伝染性紅斑」と「手足口病」に気を付けろッ!

国立感染症研究所の『感染症週報』(2015年第21週)によると、「伝染性紅斑(リンゴ病)」と「手足口病」が、例年に比べ早いペースで感染が拡大している。小児だけでなく成人にも感染する疾患であることから、両疾患の概要とその対応策について、CareNet.comでお馴染みの忽那 賢志氏(国立国際医療研究センター 感染症内科/国際感染症センター)にお話を聞いた。伝染性紅斑(リンゴ病)の気を付け方約5年ごとに大流行を繰り返す伝染性紅斑は、ヒトパルボウイルスB19が原因となる感染症である。主に気道分泌物から飛沫する鼻水、咳・くしゃみで感染し、毎年、年始めから7月頃をピークに以降は減少していく。約5年ごとに大きな流行を繰り返す傾向があり、本年は、その大流行期に当たるのかもしれない。症候として、小児では、感染後10~20日の潜伏期間の後、頬に真っ赤な発疹が出現するのが特徴。また、先行する感冒症状として、頬に発疹が出る約7日前に発熱する患児もいるが、発熱がなく、急に発疹が出る患児もいる。そのほか、手足にレース様の紅斑の皮疹が出現する場合もある。成人では、頬に発疹が出ることはなく、四肢にレース様の紅斑が現れることがある。また関節炎の頻度が高く、時に歩行が困難になるくらいである。女性のほうが関節炎が起こりやすい。ウイルスの排出は、先行する感冒症状の時期に排出され、顕在症状期には感染は広がらないとされている。診断では、問診や視診などが中心となるが、患児では頬に紅斑が出るなど顕在症状があるので、診断はつきやすい。しかし、成人では関節炎や皮疹などにより、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)との鑑別診断も必要となるので、本来はパルボウイルスB19IgM抗体検査などで確定診断することが望まれる。現在パルボウイルスB19IgM抗体検査は妊婦以外では保険適用外のため、1日も早い保険適用を期待したい。治療については、抗ウイルス薬がないために、対症療法が行われる。本症は自然寛解する感染症であるが、発熱があれば水分補給をしっかりとし、関節炎などが強ければ非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの使用が必要となることもある。なおワクチンについては、現在有効なものはない。過去に1度罹患すると免疫獲得により再罹患はないとされている。成人の罹患はさまざまなリスクに注意注意すべきポイントとして、本症は小児と成人では症状が異なることである。成人では、妊婦が罹患した場合、胎児水腫などの発生が懸念され、自己免疫性溶血性貧血などの血液疾患の既往がある場合には一過性骨髄無形成クリーゼと呼ばれる合併症のリスクが、また免疫不全患者での慢性パルボウイルスB19感染では赤芽球癆による重症貧血などの合併症のリスクがあるので、外出時にマスクの着用や子供の多いところに出かけないなどの対策が必要となる。診療する医療側の対策としては、ウイルス排出時期にパルボウイルスB19感染症と診断することは難しいため、適切に感染対策を行うことは難しい。本症の流行期にはインフルエンザ流行期と同様に本症を疑う患者には、サージカルマスクや手袋を着用しての診療が望まれる。手足口病の気を付け方3種類のウイルスが交互に流行手足口病は、わが国では主にコクサッキーウイルスA6、同A16、エンテロウイルス71(EV71)などが原因となり、飛沫感染と接触感染(糞口感染も含む)などで感染する。毎夏にピークが来るが、秋から冬にかけても流行する。今季はコクサッキーウイルスA16が流行している模様である。重複することもあるが3種類のウイルスが交互に流行を繰り返すのが特徴で、年によって流行するウイルスは異なる。症候としては、3~5日間の潜伏期間の後、口腔内粘膜、手のひら、足の裏などに水疱性病変ができる。患児によってはひざ、ひじ、臀部などでも観察される。これは、成人もほぼ同様で、口腔内の水疱のため、嚥下がしづらくなるなどの主訴を経験する。水痘、単純ヘルペスと区別がつかないことがあり、鑑別診断で注意を要する。治療については、抗ウイルス薬がないために、対症療法が行われる。本症は自然寛解する感染症であるが、口腔内の水疱の痛みで水分補給が不足する場合など補液が必要となる。なおワクチンについては、現在有効なものはない。過去に1度罹患しても、原因ウイルスの違いにより、再度罹患することもあるので注意が必要である。インフルエンザと同様の対応で感染防止注意すべきポイントとしては、小児が罹患した場合、とくにエンテロウイルス71が脳炎、髄膜炎を引き起こすなど、重症化することもある。成人も同様に注意が必要だが、合併症の頻度は小児のほうが高いとされる。診療する医療側の対策としては、本症を疑う患者には、個室に入ってもらい、飛沫感染予防、接触感染予防を行う。また、インフルエンザ流行時のようにマスク、ガウン、手袋着用での診療が望ましい。トピックスとして、重症化した小児の脳症がとくに東南アジア、東アジアでは問題となっており、中国ではEV71ワクチンの開発が進められている(現在第III相試験)。流行を防ぐためにいずれの疾患も小児領域では、お馴染みの疾患であるが、どちらも成人にも感染し、重症化リスクを伴うものである。これからの流行拡大の注意喚起のために現在の状況を解説いただいた。両症ともにとくに家族内感染が多く、患者には、こまめな手指消毒や外出の注意などの指導で感染を防ぐ取り組みが必要とされる。関連リンク感染症週報(2015年第21週)

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HPVワクチン、男児にも接種するメリット/BMJ

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種を女児だけでなく男児へも接種をすることのメリットについて、オランダ・VU大学メディカルセンターのJohannes A Bogaards氏らが、ベイズ法によるエビデンス統合解析を行い報告した。女児への接種で男性は間接的な利益を得られるが、現状の接種率60%ではHPV関連がん、とくに肛門がんのリスクは残ったままで、女児への接種率が90%に高まり、男児への接種も行うことで肛門がんの予防がもたらされ、男性同性愛者へのHPV予防に寄与することが示唆されたという。BMJ誌オンライン版2015年5月12日号掲載の報告より。男性のがん負担が軽減するかを評価 研究グループは本検討で、HPVワクチンを女児とともに男児へも接種した場合、男性のがん予防の負担が軽減するかを調べた。 ベイズ法エビデンス統合解析を用いて、HPV16または18ワクチンの肛門がん、陰茎がん、口咽頭がんへの影響を、異性愛および同性愛の男性について評価した。 被験者はオランダの一般住民で、12歳男児をHPVワクチンプログラムに組み込み、質調整生存年(QALY)と予防に必要なワクチン接種数(NNV)を主要評価項目とした。女児への接種率90%超で、男性のHPV関連がん66%減少 オランダにおけるHPVワクチンプログラム実施前の、HPV関連がんによる男性1,000人当たりのQALY損失は14.9(95%信頼区間[CI]:12.2~18.1)だった。この負担は、女児へのワクチン接種が現状の60%で推移した場合は、37%(同:28~48%)の減少であると予測された。 この場合、男性のがんを1例予防するのに必要な男児へのNNVは795例(95%CI:660~987例)と予測された。がんの種別でみると、肛門がん予防に必要なNNVは2,162例、陰茎がん3,486例、口咽頭がん1,975例だった。 男性のHPV関連がんの負担は、女児へのワクチン接種率が90%を超えれば66%(同:53~80%)の減少につながると考えられた。その場合の男児へのNNVは1,735例(同:1,240~2,900例)で、がんの種別にみると、2,593例、2万9,107例、6,484例であった。

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エアロゾル麻疹ワクチンの有効性(解説:小金丸 博 氏)-360

 麻疹はワクチンで防ぐことができる疾患群(vaccine-preventable diseases)の1つである。皮下注射で行う麻疹ワクチンは安全で効果的であり、世界中で広く使用されている。米国、オーストラリア、韓国などの先進国は、WHOから「麻疹排除国」として認定されており、日本もやっと2015年3月に認定された。一方で、とくに医療資源の乏しい発展途上国ではワクチンの接種率が低く、いまだに麻疹の流行が起こっている。WHOはこの状況を改善する手段の1つとして、注射手技の不要な吸入タイプのワクチンの可能性を追求している。  本研究は、エアロゾル化した麻疹ワクチンの抗体誘導能を検討したランダム化比較試験である。麻疹ワクチンの初回接種年齢として適切な生後9.0ヵ月~11.9ヵ月の子供を対象に、インドで実施された。麻疹ワクチンを(1)エアロゾル吸入で行う群(1,001例)と、(2)皮下注射で行う群(1,003例)に無作為に割り付けた。主要エンドポイントは、ワクチン接種後91日時点の抗麻疹ウイルス抗体の陽性率と、有害事象とした。非劣性マージンを5パーセントポイントと設定した。  per-protocol解析では、2,004例中1,560例(77.8%)を評価しえた。91日時点での抗体陽性者は、エアロゾル吸入群で775例中662例(85.4%、95%信頼区間:82.5~88.0)、皮下注射群で785例中743例(94.6%、同:92.7~96.1)であり、両群間差は-9.2パーセントポイント(同:-12.2~-6.3)だった。麻疹ワクチンによる重篤な有害事象は発生しなかった。有害事象として、エアロゾルワクチン群では鼻風邪様の症状が多くみられた。 本研究は、麻疹の皮下注射ワクチンに対するエアロゾルワクチンの非劣性を証明するために計画された臨床試験であったが、両群間差は事前に設定された非劣性の上限である5パーセントポイントよりも大きく、非劣性を証明できなかった。本試験の結果からも、皮下注射ワクチンが普及している先進国では、今後も皮下注射が主流になると思われる。しかしながら、エアロゾル吸入ワクチンは手技的には非医療従事者でも使用可能であり、医療資源が限られている途上国などではワクチン接種率向上に貢献する可能性があると考える。 今後は、エアロゾルワクチンの投与量調節などによる抗体陽転化率の改善、エアロゾル化した麻疹・風疹混合ワクチンの開発に期待したい。

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