サイト内検索|page:10

検索結果 合計:2139件 表示位置:181 - 200

181.

帝王切開で生まれた児は2回の麻疹ワクチン接種が必要

 帝王切開で生まれた児は、初回の麻疹ワクチン接種だけでは予防効果を得にくいようだ。新たな研究で、経膣分娩で生まれた児に比べて帝王切開で生まれた児では、初回の麻疹ワクチン接種後に免疫を獲得できないワクチン効果不全に陥る可能性が2.6倍も高いことが示された。英ケンブリッジ大学遺伝学分野のHenrik Salje氏らによるこの研究結果は、「Nature Microbiology」に5月13日掲載された。 研究グループは、「麻疹ウイルスは感染力が非常に強く、たとえワクチン効果不全率が低くてもアウトブレイク発生のリスクはかなり高くなる」と説明する。麻疹は、鼻水や発熱などの風邪に似た初期症状が生じた後に特徴的な発疹が現れる。重症化すると失明、発作などの重篤な合併症を引き起こしたり、死に至ることもある。1963年にワクチン接種が導入される以前は、麻疹により毎年推定260万人が死亡していた。 この研究では、中国の母親と新生児から成るコホートと小児コホートの2つのコホートから抽出された0歳から12歳の小児1,505人の血清学的データと実証モデルを用いて、出生後の抗体の推移を調べた。これらの試験対象者は、ベースライン時とその後6回の追跡調査時(新生児コホートでは生後2・4・6・12・24・36カ月時、小児コホートでは2013〜2016年の間にほぼ6カ月おき)に静脈血を採取されていた。 その結果、対象児ごとの差異はあるものの、出生時からワクチン接種後までの麻疹ウイルスに対する抗体レベルの変化を、かなり正確に予測できることが明らかになった。また、経膣分娩で生まれた児と比べて帝王切開で生まれた児では、初回の麻疹ワクチン接種がワクチン効果不全になるオッズが2.56倍であることも示された。初回接種後にワクチン効果不全が確認された児の割合は、帝王切開で生まれた児で12%(16/133人)であったのに対し、経膣分娩で生まれた児では5%(10/217人)であった。しかし、初回接種後にワクチン効果不全が確認された児でも、2回目の接種後には強固な免疫反応が認められた。 Salje氏は、「この研究により、帝王切開か経膣分娩かという分娩法の違いが、成長過程で遭遇する疾患に対する免疫力に長期的な影響を及ぼすことが明らかになった」と述べている。同氏は、「多くの児が麻疹ワクチンを2回接種していないことが分かっている。2022年に麻疹ワクチン接種を1回しか受けていなかった児の数は世界で83%に上り、これは2008年以降で最低の数字だ。そのような状態は、本人のみならず周囲の人にも危険をもたらしかねない」と危惧を示し、「帝王切開で生まれた児は、われわれが確実にフォローアップして、麻疹ワクチンの2回目接種を受けさせるようにするべきだ」と述べている。 帝王切開で生まれた児でワクチン効果不全に陥る可能性が高い理由について、研究グループは、腸内マイクロバイオームの違いによるものではないかと推測している。経膣分娩では、母親からより多様なマイクロバイオームが児に移行する傾向があり、それが免疫系に保護的に働く。Salje氏は、「帝王切開で生まれた児では、経膣分娩で生まれた児のように母親のマイクロバイオームにさらされることはないため、腸内細菌叢の発達に時間がかかる。このことが、ワクチン接種後のプライミング効果を低下させていると考えられる」との考えを示している。

182.

ウイルスと関連するがん【1分間で学べる感染症】第4回

画像を拡大するTake home messageウイルスと関連するがんを理解しよう。HBVとHPVはワクチンにより予防可能である。がんの原因にはさまざまな因子があることが知られていますが、その中でも近年とくに注目を浴びているのが、感染症によるがんです。人間に感染症を引き起こす病原微生物は、一般的には大きく細菌・ウイルス・真菌・寄生虫と分類されますが、その中でもとくにウイルスはがんと関連するものが多く報告されています。具体的には以下の8つです。EBウイルス(EBV)・バーキットリンパ腫 ・ホジキンリンパ腫 ・鼻咽頭がん などB型肝炎ウイルス(HBV)・肝細胞がんC型肝炎ウイルス(HCV)・肝細胞がん ・非ホジキンリンパ腫HIV・カポジ肉腫 ・非ホジキンリンパ腫 ・子宮頸がん ・非AIDS関連がんヒトヘルペス8型ウイルス(HHV-8)・カポジ肉腫 ・原発性胸水性リンパ腫 ・多中心性キャッスルマン病ヒトパピローマウイルス(HPV)・肛門・子宮頸・陰茎・咽頭・膣がんHTLV-1・成人T細胞性白血病/リンパ腫メッケル細胞ポリオーマウイルス(MCPyV)・メッケル細胞がんこれらのうち、HBVとHPVに関してはワクチンが普及しており、予防可能であるといわれています。がん全体の約12~20%がウイルスと関連すると推定されており、実に大きな割合を占めています。このことを念頭に置き、必要な患者へのスクリーニングや早期発見に役立てましょう。1)Jennifer Brubaker. “The 7 Viruses That Cause Human Cancers”. American Society for Microbiology. 2019-01-25., (参照2024-05-01)

183.

島根県の呼吸器診療の未来を支えるクラウドファンディングを開始/島根大学

 島根大学医学部 呼吸器内科が中心となり「島根県の呼吸器診療の未来を支えるクラウドファンディング」を開始した。進む高齢化、不足する呼吸器専門医 島根は全国的にも高齢化が進んでいる県であり、令和4年の高齢化率は34.7%で全国第7位である1)。高齢者は免疫機能が低下していることもあり、感染症やがんなど呼吸器疾患の発症率も高い。それに対して、島根では全県的に呼吸器専門医が不足しており、地域によっては専門医がいないという深刻な状況だ。このまま地域の呼吸器専門医が不在の状態が続くと呼吸器診療体制が形成できず、早期診断、疾患予防の輪が広がらないとされる。 そのような中、島根大学医学部の呼吸器内科教授である礒部 威氏をプロジェクトリーダーとして、「呼吸器専門医の育成」「非専門医師の呼吸器疾患の知識向上」「一般の方むけの啓発」をサポートするクラウドファンディングがスタートした。難易度高い呼吸器専門メディカルスタッフの育成 高齢者は複数の慢性疾患を抱えていることが多い。高齢者が多い島根では「内科全般の知識を有する」呼吸器専門医の育成が重要な課題だ。また、呼吸器専門医の診療範囲は、感染症、がん、気管支喘息、睡眠時無呼吸症候群など多岐に及ぶ。専門性の維持・向上には、多くの専門資格の取得を目指してキャリアを積んでいく必要がある。 そのため、呼吸器専門医を目指すには、研修や学会への参加、自己研鑽が必要となる。医師の金銭的、時間的な負担は大きい。クラウドファンディングの資金で、県内の呼吸器研修医がアクセス可能なITを活用した講習会セミナーを開く予定だ。非専門医への呼吸器疾患を啓発して診療連携 呼吸器疾患は早期発見が重要となる。そのためには呼吸器専門医と非専門医の連携が重要である。非専門医の最新の呼吸器疾患の知識の補充は欠かせない。とはいえ、多忙な診療の中、専門外の知識を学習するのは容易ではない。クラウドファンディングで、非専門医が呼吸器疾患の情報をキャッチアップできるHPを作成する。呼吸器疾患の予防にカギとなる一般大衆の知識向上 呼吸器疾患は禁煙、ワクチン、検診など予防が効果的であり、一般大衆の疾患知識は予防に重要である。しかし、実際は呼吸器疾患やその予防について学ぶ機会はほとんどない。 また、高齢化が進む島根県においては、適正な医療を提供しQOLを向上するため「高齢者機能評価」の普及が重要である。 一般大衆の呼吸器疾患の予防医学や高齢者機能評価の必要性について知識を得る機会を増やすため、市民公開講座などの啓発活動もクラウドファンディングで集まった資金を使って積極的に行っていきたいという。・目標金額:400万円・資金使途:生涯教育支援費用、広報用HP作成、Zoom使用料 、啓発活動、事務局人件費・運営費、クラウドファンディング手数料 など

184.

HPVワクチン接種プログラムの効果、社会経済的格差で異なるか?/BMJ

 以前の検討によってイングランドで観察されたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種プログラムの高い予防効果は、その後12ヵ月間の追跡調査においても継続しており、とくにワクチンの定期接種を受けた女性では、社会経済的剥奪の程度5つの段階のすべてで子宮頸がんとグレード3の子宮頸部上皮内腫瘍(CIN3)の発生率が大きく低下したが、剥奪の程度が最も高い地域の女性では低下の割合が最も低い状態にあることがわかった。一方で、子宮頸がんの罹患率は、ワクチン接種女性において、未接種の女性でみられる社会経済的剥奪の程度による勾配はみられなかったことが、英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のMilena Falcaro氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年5月15日号に掲載された。イングランド居住女性の観察研究 本研究は、2006年1月1日~2020年6月30日にイングランドに居住した20~64歳の女性を解析の対象とした住民ベースの観察研究である(Cancer Research UKの助成を受けた)。 イングランドでは、2008年にHPVワクチン接種が導入され、12~13歳の女児に定期接種が行われた。また、2008~10年には、より年長で19歳未満の集団を対象に接種の遅れを取り戻すためのキャッチアップ・キャンペーンが展開された。 2006年1月1日~2020年6月30日に、2万9,968例が子宮頸がんの診断を、33万5,228例がCIN3の診断を受けた。追加追跡期間の相対リスク減少率:子宮頸がん83.9%、CIN3は94.3% 12~13歳時にHPVワクチンの定期接種を受けた集団では、追加された12ヵ月間の追跡調査(2019年7月1日~2020年6月30日)における子宮頸がんおよびCIN3の補正後年齢調整罹患率に関して、ワクチン接種を受けなかった集団と比較した相対リスク減少率が、子宮頸がんで83.9%(95%信頼区間[CI]:63.8~92.8)、CIN3で94.3%(92.6~95.7)と大幅に低下していた。 また、2020年の半ばまでに、HPVワクチン接種により、687例(95%CI:556~819)の子宮頸がんと2万3,192例(2万2,163~2万4,220)のCIN3を予防したと推定された。 社会経済的剥奪の程度が最も強い地域に居住する女性では、ワクチン接種後の子宮頸がんおよびCIN3の割合は最も高いままであったが、剥奪の5段階すべてでこれらの割合は大幅に低下していた。健康格差の縮小をもたらす可能性も キャッチアップ・キャンペーンでワクチン接種を受けた女性のCIN3予防率は、社会経済的剥奪の程度が最も弱い地域に比べ最も強い地域で低く、16~18歳時に接種した女性では40.6%に対し29.6%、14~16歳時に接種した女性では72.8%に対し67.7%であった。 また、ワクチン接種を受けていない女性における子宮頸がんの罹患率には、社会経済的剥奪の程度が強い地域から弱い地域へと下方に向かう急峻な勾配を認めたのに対し、ワクチン接種を受けた女性では、もはやこのような勾配はみられなかった。 著者は、「本研究の知見は、十分に計画を立てて実行された公衆衛生介入は、健康状態を改善するだけでなく、健康格差の縮小ももたらす可能性があることを示している」としている。

185.

任意接種を中心に記載、COVID-19ワクチンに関する提言(第9版)/日本感染症学会

 日本感染症学会 ワクチン委員会、COVID-19ワクチン・タスクフォースは、5月21日付で、「COVID-19ワクチンに関する提言(第9版)-XBB.1.5対応mRNAワクチンの任意接種について-」1)を発表した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは4月1日から定期接種B類に位置付けられ、65歳以上を対象に、2024年秋冬に1回接種することとなったが、現時点でも任意接種として6ヵ月齢以上のすべての人は自費で接種を受けることができる。今回の提言では、COVID-19ワクチンの有効性と安全性に関する科学的な情報を解説し、接種を判断する際の参考にするために作成されており、XBB.1.5対応mRNAワクチンの任意接種を中心に記載している。 本提言の主な内容は以下のとおり。任意接種に使用できるCOVID-19ワクチン・2024年4月から定期接種が秋に開始されるまでの期間で、国内の任意接種に使用できるCOVID-19ワクチンは、ファイザーとモデルナの1価XBB.1.5対応mRNAワクチンのみとなっている。・2023年秋開始接種に用いられた第一三共のmRNAワクチン ダイチロナ筋注(XBB.1.5)、ファイザーの生後6ヵ月~12歳未満用のXBB.1.5対応mRNAワクチン、武田薬品工業の組換えタンパク質ワクチン ヌバキソビッド筋注(起源株)は供給が停止され使用できない。XBB.1.5ワクチン追加接種の意義 本提言では、国内の65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人は、2023年秋開始接種でXBB.1.5ワクチンを接種した人/していない人共に、現時点でXBB.1.5ワクチンを任意接種として1回接種する意義があるとしている。また、65歳未満の健康な人でもXBB.1.5ワクチンは任意接種として接種できることから、医療従事者や高齢者施設の職員など感染リスクが高い人や発症するとハイリスク者に伝播させる機会が多い人は、接種が望まれるとしている。その根拠として以下の要因が挙げられている。・COVID-19は、2023年7~9月の第9波、2024年1~2月の第10波と大きな流行がみられた。・2024年1月に行われたSARSCoV-2抗体保有状況調査では、感染既往を示す抗N抗体保有割合は平均55.1%。60代で45.4%、70代で30.5%、80歳以上で31.6%と高齢者で低くなっているため、今後も高齢者の感染リスクは高いことが予想される。・オミクロン株になって致命率は減少したものの、高齢者やハイリスク者では基礎疾患による悪化による死亡やウイルス性肺炎による重症化がみられている。・2023年5月8日以前の国内のCOVID-19による死亡者は、3年5ヵ月間で7万4,669人であったが、人口動態調査に基づく2023年5~11月のCOVID-19による死亡数は、7ヵ月間で1万6,043人と多い状況が続いている。・新規入院患者数も2024年4月下旬の第17週だけで1,308人みられており、疾病負担が大きいことが示唆される。・米国の研究では、2022~23年秋冬シーズンにおける発症30日以内の死亡リスクは、65歳を超える高齢者ではハザード比1.78で、COVID-19のほうがインフルエンザより高いことが報告されている。・日本では2024年5月現在もJN.1の流行が続いており、2022年と23年共に、夏に大きな流行がみられたため、今後夏にかけての再増加が予想される。米国や諸外国での接種推奨状況・米国のワクチン接種に関する諮問委員会(ACIP)は2024年2月28日に、XBB.1.5ワクチンを接種して4ヵ月経過した65歳以上の成人に、もう1回のXBB.1.5ワクチン接種を推奨した。・COVID-19mRNAワクチンの効果は数ヵ月で減衰すること、追加接種によって免疫がすみやかに回復すること、XBB.1.5ワクチンは流行中のJN.1にも一定の効果がみられることなどがその根拠となっている。また、中等度~重度の免疫不全者には最終接種2ヵ月からのXBB.1.5ワクチン接種を推奨し、その後の追加接種も可能としている。・英国、フランス、スウェーデン、アイルランド、カナダ、オーストラリア、韓国、台湾、シンガポールといった諸外国でも、高齢者、高齢者施設入所者、免疫不全者などを対象に、2024年春のXBB.1.5ワクチン2回目の接種が推奨されている。COVID-19ワクチンの開発状況と今後 日本での2024年秋から定期接種で使用されるCOVID-19ワクチンは、XBB.1.5ではなく新たなワクチン株を選定して作製される。WHO(世界保健機関)のTechnical Advisory Group on COVID-19 Vaccine Composition(TAG-CO-VAC)は、4月26日に新たなワクチン株としてJN.1系統を推奨することを発表した。日本では、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会「季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」でワクチン株の選定が検討される予定で、WHOの推奨株を用いることを基本とするとされていることから、JN.1対応のワクチンが使用される見込みとなっている。選定されたワクチン株をもとに秋に使用されるワクチンの製造が各社で検討される。そのほか、国内製薬会社で組換えタンパク質ワクチン、従来の方法による不活化ワクチン、mRNAワクチン(レプリコン)の臨床試験も進んでおり、実用化が期待されている。新たな変異株 米国では4月末~5月初旬にはJN.1に替わってKP.2が28.2%、東京都でも4月中旬にはXDQが31.6%と増加しており、新たな変異株の出現が頻繁に起きている。KP.2とXDQのスパイクタンパク質のアミノ酸配列は、いずれもBA.2.86に近く、受容体結合部位のアミノ酸はJN.1といずれも2個異なっており、今後増加する場合は抗原性の検討が必要と予想されている。2023年秋開始接種のXBB.1.5ワクチンの接種率 2023年秋開始接種のXBB.1.5ワクチンの接種率は、高齢者で53.7%、全体で22.7%と十分ではなかった。接種しても罹患することがあるが、接種後にかかっても未接種者に比べて家庭内感染率が46%低下する。個人の感染予防だけでなく、周りの人に感染を広げないためにも、多くの人への接種が望まれる。ワクチン接種後にCOVID-19にかかったとしても、罹患後症状(後遺症)の発現率が43%低下するというメタアナリシスの結果も報告されている。 本提言は、「ワクチン接種を受けることで安全が保証されるわけではない。今後ともマスク、換気、身体的距離を適切に保つ、手洗い等の基本的な感染対策は可能な範囲で維持しなければならない。今後も流行が続くと予想されるCOVID-19の予防のために、COVID-19ワクチンが正しく理解され、接種が適切に継続されることを願っている」と結んでいる。なお、本提言ではXBB.1.5対応mRNAワクチンのJN.1に対する有効性のデータなども掲載している。 なお、厚生労働省が5月24日付で発表した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況」によると、COVID-19定点当たり報告数(全国)推移、および入院患者数の推移において、ゴールデンウィーク以降の5月6日~12日の週より、COVID-19報告数とCOVID-19入院患者数が増加に転じている2)。

186.

腕に貼る麻疹・風疹ワクチンは乳幼児に安全かつ有効

 予防接種の注射を嫌がる子どもに、痛みのないパッチを腕に貼るという新たなワクチンの接種方法を選択できるようになる日はそう遠くないかもしれない。マイクロニードルと呼ばれる微細な短針を並べたパッチ(microneedle patch;MNP)を腕に貼って経皮ワクチンを投与する方法(マイクロアレイパッチ技術)で麻疹・風疹ワクチン(measles and rubella vaccine;MRV)を単回接種したガンビアの乳幼児の90%以上が麻疹から保護され、全員が風疹から保護されたことが、第1/2相臨床試験で示された。英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットで乳児免疫学の責任者を務めるEd Clarke氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」に4月29日掲載された。 Clarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術による麻疹・風疹ワクチン投与(MRV-MNP)はまだ開発の初期段階にあるが、今回の試験結果は非常に有望であり、多くの関心や期待を呼んでいる。本研究により、この方法で乳幼児にワクチンを安全かつ効果的に投与できることが初めて実証された」と語る。 この臨床試験では、18〜40歳の成人45人と、生後15〜18カ月の幼児と生後9〜10カ月の乳児120人ずつを対象に、MRV-MNPの安全性と有効性、忍容性が検討された。これらの3つのコホートは、MRV-MNPとプラセボの皮下注射を受ける群(MRV-MNP群)とプラセボのMNPとMRVの皮下注射(MRV皮下注群)を受ける群に、2対1(成人コホート)、または1対1(幼児・乳児コホート)の割合でランダムに割り付けられた。 その結果、ワクチン接種から14日後の時点で、MRV-MNP群に安全性の懸念は生じておらず、忍容性のあることが示された。MRV-MNPを受けた幼児の77%と乳児の65%に接種部位の硬化が認められたが、いずれも軽症で治療の必要はなかった。乳児コホートのうち、ベースライン時には抗体を保有していなかったが接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対する抗体の出現(セロコンバージョン)が確認された対象者の割合は、MRV-MNP群でそれぞれ93%(52/56人)と100%(58/58人)、MRV皮下注群では90%(52/58人)と100%(59/59人)であった。接種後180日時点でも、MRV-MNP群では91%(52/57人)と100%(57/57人)の対象者で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンを維持していた。 一方、幼児コホートで、ベースライン時には抗体を保有していなかったが、接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンが確認された割合は、MRV-MNP群で100%(5/5人)、MRV皮下注群で80%(4/5人)であった。風疹ウイルスに対しては、研究開始時から全ての対象児が抗体を保有していた。 こうした結果を受けてClarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種としては麻疹ワクチンが最優先事項だが、この技術を用いて他のワクチンを投与することも今や現実的になった。今後の展開に期待してほしい」と話す。 研究グループは、マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種が貧困国でのワクチン接種を容易にする可能性について述べている。この形のワクチンなら、輸送が容易になるとともに冷蔵保存が不要になる可能性もあり、医療従事者による投与も必要ではなくなるからだ。論文の筆頭著者であるロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットのIkechukwu Adigweme氏は、「この接種方法が、恵まれない人々の間でのワクチン接種の公平性を高めるための重要な一歩になることをわれわれは願っている」と話す。 研究グループは、今回の試験で得られた結果を確認し、さらに多くのデータを提供するために、より大規模な臨床試験を計画中であることを明かしている。

187.

ワクチン接種、50年間で約1億5,400万人の死亡を回避/Lancet

 1974年以降、小児期の生存率は世界のあらゆる地域で大幅に向上しており、2024年までの50年間における乳幼児の生存率の改善には、拡大予防接種計画(Expanded Programme on Immunization:EPI)に基づくワクチン接種が唯一で最大の貢献をしたと推定されることが、スイス熱帯公衆衛生研究所のAndrew J. Shattock氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年5月2日号に掲載された。14種の病原菌へのワクチン接種50年の影響を定量化 研究グループは、EPI発足50周年を期に、14種の病原菌に関して、ワクチン接種による世界的な公衆衛生への影響の定量化を試みた(世界保健機関[WHO]の助成を受けた)。 モデル化した病原菌について、1974年以降に接種されたすべての定期および追加ワクチンの接種状況を考慮して、ワクチン接種がなかったと仮定した場合の死亡率と罹患率を年齢別のコホートごとに推定した。 次いで、これらのアウトカムのデータを用いて、この期間に世界的に低下した小児の死亡率に対するワクチン接種の寄与の程度を評価した。救われた生命の6割は麻疹ワクチンによる 1974年6月1日~2024年5月31日に、14種の病原菌を対象としたワクチン接種計画により、1億5,400万人の死亡を回避したと推定された。このうち1億4,600万人は5歳未満の小児で、1億100万人は1歳未満であった。 これは、ワクチン接種が90億年の生存年数と、102億年の完全な健康状態の年数(回避された障害調整生存年数[DALY])をもたらし、世界で年間2億年を超える健康な生存年数を得たことを意味する。 また、1人の死亡の回避ごとに、平均58年の生存年数と平均66年の完全な健康が得られ、102億年の完全な健康状態のうち8億年(7.8%)はポリオの回避によってもたらされた。全体として、この50年間で救われた1億5,400万人のうち9,370万人(60.8%)は麻疹ワクチンによるものであった。生存可能性の増加は、成人後期にも 世界の乳幼児死亡率の減少の40%はワクチン接種によるもので、西太平洋地域の21%からアフリカ地域の52%までの幅を認めた。この減少への相対的な寄与の程度は、EPIワクチンの原型であるBCG、3種混合(DTP)、麻疹、ポリオワクチンの適応範囲が集中的に拡大された1980年代にとくに高かった。 また、1974年以降にワクチン接種がなかったと仮定した場合と比較して、ワクチン接種を受けた場合は、2024年に10歳未満の小児が次の誕生日まで生存する確率は44%高く、25歳では35%、50歳では16%高かった。このように、ワクチン接種による生存の可能性の増加は成人後期まで観察された。 著者は、「ワクチン接種によって小児期の生存率が大幅に改善したことは、プライマリ・ヘルスケアにおける予防接種の重要性を強調するものである」と述べるとともに、「とくに麻疹ワクチンについては、未接種および接種が遅れている小児や、見逃されがちな地域にも、ワクチンの恩恵が確実に行きわたるようにすることが、将来救われる生命を最大化するためにきわめて重要である」としている。

188.

クラミジアワクチン、初期臨床試験で好成績

 クラミジアワクチンに関する初期の臨床試験において、ワクチン接種者に免疫反応が誘導され、安全性も確認されたことが報告された。研究者の間では、将来、このワクチンが性感染症(STI)の蔓延を抑えるのに役立つことへの期待が高まっている。Statens Serum Institut(国立血清学研究所、デンマーク)のJes Dietrich氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Infectious Diseases」に4月11日掲載された。 米疾病対策センター(CDC)によると、クラミジアは米国で最も一般的な細菌性STIであるが、現時点では、クラミジアに対して有効なワクチンは存在しない。全米性感染症科長連合会(National Coalition of STD Directors;NCSD)の事務局長であるDavid Harvey氏は、NBCニュースに対し、「米国でのSTIの感染率は、1950年代以来、おそらくはそれ以前から、非常に高い」と指摘し、「クラミジアワクチンは切実に必要とされている」と話す。 また、米ワイル・コーネル・メディスン人口健康科学教授であるJay Varma氏は、「クラミジアは、依然として女性の不妊症の最も一般的な原因の一つである」とNBCニュースに語っている。クラミジアを治療しないまま放置すると、骨盤内炎症性疾患が引き起こされ、妊娠しにくくなる可能性がある。さらにクラミジアは眼感染症を引き起こすこともあり、世界中で190万人の失明や視力障害の原因となっている。 今回報告された第1相試験では、健康な男性および妊娠していない女性65人(18〜45歳)を、異なる用量のクラミジアワクチン(CTH522)を2種類のリポソームアジュバント製剤(CAF01、CAF09b)のいずれかと組み合わせて筋肉内投与する5つの群(A〜E群)とプラセボのみを投与する群(F群)にランダムに割り付けた。CTH522の用量は、A〜C群およびE群で85μg、D群で15μgであり、アジュバントとしてA〜D群はCAF01、E群はCAF09bを用いた。これらの6群は、28日目と112日目に筋肉内、皮下、または点眼の投与方法で2回の追加接種を受け、さらに140日目には、免疫応答のリコールのためにワクチンまたはプラセボの点眼投与を受けた。 最終的に60人(平均年齢26.8歳、女性52%、白人71%)が試験を完了した。有害作用は865件報告されたが、重症度がグレード3(重症)だったのは7件(1%)のみで、それ以外は全て軽度から中等度であった。A〜E群では42日目までに全ての参加者で抗体陽転(セロコンバージョン)率が4倍以上に達したのに対し、F群ではセロコンバージョンは確認されなかった。CTH522に対する血清IgG抗体価は、CTH522を85μg投与した群の方が15μgを投与した群よりも高かったが、有意差は認められなかった。また、85μgのCTH522-CAF01を3回投与した群と85μgのCTH522-CAF09bを3回投与した群との間にも、抗体価に有意な差は認められなかった。 以上のような有望な結果が得られたものの、解決すべき疑問はまだ多く残されている。例えば、本研究には関与していない、米ワシントン大学医学部教授のHilary Reno氏はNBCニュースに対し、「このワクチンに、クラミジア感染を食い止める力はあるのだろうか。それとも、感染しても無症候性である可能性が高いということなのか」と疑問を呈した上で、「こうしたことが、次の段階の試験で検討されることになるだろう」と話している。 研究グループは、すでにワクチンの有効性を評価する大規模な第2相試験の開始を予定している。Dietrich氏は、「将来的には、このワクチンにより生殖器と目の両方の感染を予防できるようにしたいものだ」との希望を語っている。

189.

多くの死亡患者が電子カルテに生存者として記載

 死亡患者の5人に1人近くが電子カルテに生存者と記載されており、80%が死亡後にプライマリケアのアウトリーチを受けていることを示した研究レターが、「JAMA Internal Medicine」に12月4日掲載された。 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のNeil S. Wenger氏らは、医療機関が死亡を認識していない患者の割合を調査した。1つの学術医療システムの41の診療所を対象に、継続的に受診していた18歳以上の重症プライマリケア患者(過去1年に2回以上受診していた患者)1万1,698人の電子カルテデータを解析した。 その結果、対象患者の25%が電子カルテで死亡と記録され、5.8%は州の死亡ファイルで死亡が確認されたが電子カルテでは生存と記録されていた。死亡が認識されていなかった676人の患者のうち80%は、死亡後に未受診または未予約であり、推定で221件の電話と338件のポータルメッセージを受け取っていた。さらに、これらの患者のうち221人は、予防ケアの満たされていないニーズ(例:インフルエンザ予防接種、がん検診)に関する920通の手紙を受け取り、166人の患者は226通のその他の郵便物を受け取り、158人の患者はワクチンやその他の臨床的ケアに関する184の指示が出され、88の薬剤について130のリフィルが許可された。 著者らは、「医療システムが責任あるケアを提供するためには、死亡に関する状況をより確実に認識する必要がある」と述べている。

190.

免疫不全患者のCOVID-19長期罹患がウイルス変異の温床に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に1年半にわたって罹患していた免疫不全の男性患者が、ウイルスの新たな変異の温床となっていたとする研究結果が報告された。さらに悪いことに、確認された変異のいくつかは、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に生じていた。これは、ウイルスが現行のワクチンを回避するために進化していることを意味する。アムステルダム大学医療センター(オランダ)のMagda Vergouwe氏らによるこの研究の詳細は、欧州臨床微生物・感染症学会議(ECCMID 2024、4月27〜30日、スペイン・バルセロナ)で発表された。 Vergouwe氏は、「この症例は、免疫不全患者が新型コロナウイルスに長期にわたって感染している場合の危険性を強調するものだ。なぜなら、そうした症例から新たな変異株が出現する可能性があるからだ」と話している。研究グループによると、例えばオミクロン株は、より初期の変異株に感染した免疫不全患者の中で変異を遂げて登場したものと考えられているという。 Vergouwe氏らが報告した症例は、新型コロナウイルスへの感染が原因で2022年2月にアムステルダム大学医療センターに入院した72歳の男性患者に関するもの。この男性患者は、骨髄から白血球が過剰に産生される骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)オーバーラップ症候群に罹患しており、その治療として行われた同種造血幹細胞移植により免疫不全状態にあった。患者はその後、移植後リンパ増殖性疾患を発症し、リツキシマブによる治療を受けた。これにより、患者の体内には、通常であれば新型コロナウイルスと闘う抗体を産生するB細胞が消失していた。 この患者は、COVID-19に罹患する前に新型コロナワクチンを複数回、接種していた。しかし、入院時の検査で新型コロナウイルスに対するIgG抗体は検出されなかった。定期的なゲノムサーベイランスから、この患者はBA.1系統のオミクロン株(BA.1.17)に感染していることが分かり、ソトロビマブ、抗IL-6抗体であるサリルマブ、およびデキサメタゾンによる治療が行われた。しかしシーケンス解析からは、ソトロビマブ投与後21日目には、患者の体内の新型コロナウイルスは同薬に耐性を持つように変異していたことが判明した。また、治療から1カ月が経過しても、新型コロナウイルスに特異的なT細胞の活性化や抗スパイク抗体の産生がほとんど認められず、患者の免疫システムにはウイルスを排除する能力がないことが示唆された。最終的に、患者は613日にわたって新型コロナウイルスと闘い、その後、血液疾患により死亡した。 この男性の入院中(2022年2月〜2023年9月)に採取された27点の鼻咽頭ぬぐい液の全ゲノムシーケンスからは、現時点で世界的に広まっているBA.1系統と比べると、ACE-2受容体と結合するスパイクタンパク質の部位にL452M/KやY453Fの変異が生じるなど、ヌクレオチドに50以上の新たな変異が生じていることが明らかになった。さらに、スパイクタンパク質のN末端ドメインにはいくつかのアミノ酸の欠失が生じており、免疫回避の兆候が示唆された。 こうした調査結果を踏まえて研究グループは、「この症例では、COVID-19の罹病期間が長引いた結果、宿主の中でウイルスが広範に進化し、新規の免疫を回避する変異体が出現したものと思われる」と述べている。そして、このような症例は、「エスケープ変異株を地域社会に持ち込むリスクをはらんでおり、公衆衛生上の脅威となり得る」と付け加えている。ただし、この男性患者から他の人への新型コロナウイルス変異株の伝播は記録されていないという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

191.

経口ワクチンが抗菌薬に代わる尿路感染症の治療法に?

 新たに開発された経口投与型のワクチンが、尿路感染症(UTI)を繰り返す「再発性UTI」の患者にとって抗菌薬に代わる治療法となる可能性のあることが、英ロイヤル・バークシャーNHS財団トラストの泌尿器科専門医であるBob Yang氏らの研究で示唆された。同氏らによると、スプレーを使って舌の下にワクチンを投与した再発性UTI患者の半数以上(54%)は、その後9年にわたってUTIを再発することがなく、また目立った副作用も認められなかったという。この研究結果は、欧州泌尿器科学会(EAU 2024、4月5~8日、フランス・パリ)で発表された。 UTIは最も一般的な細菌感染症で、女性の半数、男性の5人に1人が生涯に一度は経験するとされる。UTI症例の20~30%では、抗菌薬による治療を必要とするUTIが再発する。 Yang氏は、「ワクチン接種前は、全参加者が再発性UTIに苦しんでいた。また、多くの女性患者で再発性UTIは治療困難となり得る」とニュースリリースの中で述べている。そして、「この新たなUTIワクチンを初めて接種してから9年後の時点まで、参加者のほぼ半数は感染することはなかった」と説明。また、「全体として、このワクチンは長期にわたって安全であり、参加者はUTIの再発が減少したこと、再発した場合でも重症度が低く、多くは水をたくさん飲むだけで治ったと話していた」と振り返っている。 このMV140と呼ばれるワクチンは、4種類の細菌種を含んだパイナップル風味の懸濁液で、スペインの製薬会社であるImmunotek社によって開発された。ワクチンには、感染と闘う抗体の産生を促す細菌が含まれている。ワクチンは3カ月間、毎日舌の下に2回吹きかけて投与する。 今回の研究は、英国のロイヤルバークシャー病院でUTIの治療を受けた18歳以上の女性72人と男性17人を対象としたもの。これらの患者は、MV140の臨床試験への当初からの参加者で、ワクチン投与後1年間の追跡調査の結果は2017年に報告されていた。今回の報告は、その後の9年に及ぶ追跡調査の結果である。Yang氏らは、89人の医療記録データを分析するとともに聞き取り調査を実施した。 その結果、48人の参加者が、9年間の追跡期間中にUTIを再発しなかったことが明らかになった。再発が認められなかった期間は、女性で平均54.7カ月(4年半)、男性で平均44.3カ月(3年半)だった。なお、参加者の約40%は、1年後または2年後にMV140の再接種を受けたことを報告していた。 今回の研究には関与していない専門家であるアルタ・ウロ泌尿器医療センター(スイス)教授のGernot Bonkat氏は、「これらは有望な結果だ。再発性UTIによってもたらされる経済的な負担は大きく、また、抗菌薬の過剰使用は抗菌薬耐性感染症の要因にもなり得る」と研究結果に期待を寄せる。 Bonkat氏は、「今後は、より複雑なUTIについての研究や、異なる患者のグループを対象とした研究の実施が必要だ。そこから得られる研究成果を通じて、このワクチンの使用方法を最適化できる」と話す。また同氏は、「現実的な視点を持つ必要はあるが、このワクチンはUTI予防において画期的な手段となる可能性や、従来の治療法に代わる安全で有効な治療法となる可能性を秘めている」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

192.

コロナワクチンに不安のあるがん患者の相談相手は?

 外来で化学療法を受けるがん患者を対象に、新型コロナワクチンに関して不安を感じることの内容やその相談相手などが調査された。その結果、相談相手としてプライマリケア医が最も多いことが明らかとなった。研究グループは、薬剤師が介入できる可能性も示唆されたとしている。これは順天堂大学医学部附属順天堂医院薬剤部の畦地拓哉氏らによる研究であり、「Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences」に3月4日掲載された。 新型コロナワクチンは日本で2021年2月に承認され、がん患者において接種が推奨されている。しかし、がん患者のワクチン接種状況や副反応に焦点を当てた研究はほとんどない。患者はがん治療への影響も含めて多くの不安を抱えるため、医療職の関与が重要となる。 著者らは今回、順天堂大学医学部附属順天堂医院で外来化学療法を行い、2022年10月~2023年1月に薬剤師の服薬指導を受けたがん患者を対象としてオンライン横断調査を行った。無記名の質問紙を用いて、新型コロナワクチンの接種歴や副反応、ワクチン接種に関する不安の内容、相談相手や情報の入手源などを調べた。 調査の回答者は60人(男性16人、女性44人)であり、年齢層は40歳未満が3人、40~49歳が15人、50~59歳が21人、60~69歳が13人、70~79歳が8人。主ながんの種類は、乳がん(21人)、卵巣がん(9人)、肺がん(6人)、膵がん(5人)、子宮がん(5人)などだった。 不安の内容として、「がん治療がスケジュール通りにできないのではないか?」(29人)、「がんなので特別な副作用がでないか?」(24人)などの回答が多かった。一方、調査時点でワクチンを2回以上接種していた人の割合は96.7%(58人)であり、これは同時期の日本全体の接種率よりも高かった。副反応は注射部位の痛みが最も多く、全身症状は発熱と倦怠感が多かったが、がんの治療スケジュールに影響があった人はほとんどいなかった。 ワクチンについての相談相手・情報入手源としては、プライマリケア医(25人)、家族・親族(22人)、インターネット(15人)、テレビ・ラジオ(13人)、友人・知人(12人)の回答が多かった。その他、医療職に関する回答は、プライマリケア医以外の医師と看護師はどちらも4人、病院薬剤師は1人のみで、薬局薬剤師やケアマネジャーの回答はなかった。 さらに、各相談相手について、今後ワクチン接種に不安を感じたときにどの程度相談しやすいかが検討された。6段階の回答を点数化・平均し、医療職間で比較すると、最も相談しやすいのはプライマリケア医(3.55点)、次に看護師(3.20点)だったが、どちらも病院薬剤師(2.85点)との統計的な有意差はなかった。また、病院薬剤師とプライマリケア医以外の医師(2.50点)や薬局薬剤師(2.27点)との間にも有意差は認められなかった。 以上、病院薬剤師は相談相手としての回答自体は少なかったが、プライマリケア医、看護師の次に相談しやすいとされたことについて著者らは、「外来化学療法時の服薬指導や有害事象のモニタリングを通じて築かれた信頼関係による可能性がある」と説明。また、がん患者の多くはプライマリケア医に相談した場合にも、ワクチンに対して不安を抱いていることが示されたという。患者はワクチン接種後の発熱や治療薬との相互作用などを不安に感じるが、「一般集団との間で副反応に有意差がないことを経験として伝えることも不安を和らげる上で有益」とし、薬剤師が介入できる可能性を示す結果だったと総括している。

193.

第210回 GLP-1製剤の品薄状態、危惧する人と安堵する人

以前、こちらで取り上げたGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1製剤)のダイエット目的の濫用とそれが原因の1つであると思われる供給不安問題。品薄はダイエット目的で使いやすいであろう週1回製剤のセマグルチド(商品名:オゼンピックなど)、デュラグルチド(商品名:トリルシティ)、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)に集中していたが、今年1月15日にセマグルチド、4月22日にデュラグルチドが限定出荷から通常出荷に切り替わり、残すはチルゼパチドのみが品薄状態となっている。そして2023年のメガファーマ各社の決算内容が明らかになっているが、この3製剤の中で最も売上高が高いセマグルチドの2型糖尿病に適応をもつ注射薬「オゼンピック」の2023年売上高は138億ドル(日本円換算で2兆1,126億円、ノボ ノルディスク社の決算はデンマーク・クローネでの発表のため、ドル・円の売上高は現行レートで換算)となった。ちなみに同じセマグルチドを成分とし、同じく2型糖尿病の適応をもつ経口薬「リベルサス」は27億ドル(同4,204億円)、肥満症の適応をもつ注射薬「ウゴービ」は45億ドル(同7,025億円)。セマグルチド成分括りにした2023年総売上高は210億ドル(同3兆2,355億円)である。2023年の医療用医薬品の製品別売上高は、世界第1位が免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の250億ドル(同3兆8,911億円)、世界第2位が新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチン「コミナティ」の153億ドル(同2兆3,814億円)で、オゼンピックが世界第4位。だが、セマグルチド括りでの売上高は世界第2位となる。日本の製薬企業で考えると、国内第2位のアステラス製薬と第3位の第一三共の2024年3月期決算で発表された売上高の合算を1成分の売上高で超えてしまっているのだ。なんとも驚くべきことである。オゼンピックは2017年末のアメリカでの発売から1年強で、全世界売上高10億ドル以上のブロックバスター入りを果たし、過去4年ほどで全世界売上高は9倍以上に急伸長している。糖尿病治療薬は患者数の多さゆえにブロックバスター入りしやすいが、オゼンピックは糖尿病治療薬としては、ほぼ史上最高売上高を記録している。糖尿病治療薬の売上高を更新、“注射製剤”のなぜこの背景には、これまでブロックバスター入りした糖尿病治療薬がほぼ経口薬であり、それと比べて注射薬のオゼンピックは薬価が高いという事情はあるだろう。しかし、それだけではないはずだ。余計な一言を言えば、オゼンピックの売上高が2型糖尿病患者への処方のみで形成されていると思うウブな関係者はいないだろう。たぶんここには世界的に見ても、ダイエット・美容目的の適応外処方による売り上げが含まれていると考えられる。さて、供給不安はかなり解消されたとは言え、現場ではまださまざまな不都合が生じている模様だ。たとえば薬局薬剤師に話を聞くと、実際の週1回GLP-1製剤の処方箋は1ヵ月分、すなわち製剤としては注射キット4本の処方が多いという。しかし、市中の保険薬局では今でも入庫がスムーズではなく、処方箋受け取り時には2本のみを患者に渡し、残り2本は後日に再来局をお願いするか、配送するケースも目立つという。この背景には通常出荷になっても供給が綱渡りということもあれば、自由診療クリニックへの横流しを警戒して必要量を医薬品卸が適宜配送しているという事情もあるらしい。このようなケースで薬局側が患者宅に配送をする際は、人が直接届けるかクール便を使うという。ある薬剤師は「(薬局への)納入価に配送の人件費やクール便費用を上乗せしたら赤字になる」とため息をついていた。この現状は患者にとっても薬局にとっても迷惑千万な話だろう。この状況の解消まで考えると、完全な通常流通まではまだ時間がかかりそうだ。しかし、あまのじゃくな私は、危惧すべきは完全な通常流通が実現した後ではないか? と考えてしまう。少なくとも現状はGLP-1製剤を必要とする2型糖尿病や肥満症の患者に薬が届かないという最悪の状況は避けられている。ただ、前述のように受け取りに多少の手間暇がかかっている。その一方で、いわば「メディカルダイエット」と称したダイエット・美容目的の自由診療でのGLP-1製剤の適応外処方が極端に廃れたなどという話は、少なくとも私個人はまったく耳にしていない。ネット広告では今でもこの手の広告がじゃんじゃん表示される。余談になるが、どうやら年齢・性別の属性では中高年男性もGLP-1製剤のターゲットにされているらしく、最近は私に対してもこの種の広告と薄毛治療の広告が頻繁に表示される。そして、ご存じのように自由診療での適応外処方を法令で取り締まることはできない。つまるところGLP-1製剤で完全な通常流通が実現するということは、本当に必要な患者が困らないだけではなく、適応外処方の自由診療も栄えるということだ。通常流通を危惧する理由こんなことを考えてしまったのは、先日ある開業医と話をしていて、ため息が出るような事例を聞いてしまったからだ。この医師は都内の繁華街近くで内科クリニックを開業している。そのクリニックに昨春、強い吐き気で路上にうずくまっていたという若い女性が通行人に付き添われて来院したという。「場所柄もあり『昨夜、かなり飲みましたか?』と尋ねても本人は元々飲めないと答えるし、昼時だったので食中毒を疑って直近の食事状況を聞いたら、朝からお茶を飲んだのみで、とくに何かを食べたわけでもないと言うんですよ。そこでピンと来ました」結局、問診の結果、オンラインの自由診療でGLP-1製剤の処方を受けていたことがわかった。医師は女性にGLP-1製剤では悪心・嘔吐の副作用頻度が高いことなどを伝え、中止を促すとともに、最低限の対症療法の処方箋を発行。女性は「こんなに副作用がひどいとは思わなかった。すぐに止めます」と応じたという。ちなみに問診時に身長、体重を尋ねたところBMIは18にも満たなかったとのこと。その後、女性は来院していないため、本当に彼女がGLP-1製剤を止めたかどうかは定かではない。この医師は私に「自由診療の副作用で苦しんでいる患者でも助けなければならないとは考える。でもね、それを保険診療で対応しなければならないのはねえ…」とぼやいた。至極真っ当な指摘である。この話を聞いて私が反応してしまったのは、「朝から何も食べていない」という話だった。痩身願望のある人が我流の食事制限などを行っていることは少なくない。GLP-1製剤は、その性格上、低血糖になりにくいことがウリの一つである。しかし、それはごく普通の食生活を送っていることが前提で、その場合でもほかの血糖降下薬を併用している場合には低血糖は発生している。ということは、今後、自由診療が野放しのまま完全流通が実現すれば、この医師が経験した副作用の悪心・嘔吐レベルだけではなく、重大な低血糖発作の報告事例が増加してしまうのではないだろうか?そしてオンライン診療でかなりの適応外処方が行われている実態を考えれば、車社会である地方都市在住者でも適応外で使われることが増えるだろう。運転の最中に低血糖発作が起きたらどうなるのだろうと考えてしまった。これは私の妄想だろうか? それとも考え過ぎだろうか?

194.

2024年の医師のコロナワクチン、接種する/しないの二極化進む/医師1,000人アンケート

 新型コロナワクチンの全額公費による接種は2024年3月31日で終了した。令和6年度(2024年度)は、秋冬期に自治体による定期接種が開始される。定期接種の対象となるのは65歳以上、および60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人で、対象者の自己負担額は最大で7,000円となっている。なお、定期接種の対象者以外の希望者は、任意接種として全額自費で接種することとなり、2024年3月15日時点の厚生労働省の資料によると、接種費用はワクチン代1万1,600円程度と手技料3,740円で合計1万5,300円程度の見込みとなっている1)。この状況を踏まえ、医師のこれまでのコロナワクチン接種状況と、今後の接種意向を把握するため、主に内科系の会員医師1,011人を対象に『2024年度 医師のコロナワクチン接種に関するアンケート』を4月1日に実施した。 Q1では、コロナの診療に現在携わっているかについて聞いた。「診療している」が79%、「診療していない」が21%だった。年代別で「診療している」と答えた割合は、40代(86%)、60代(83%)、30代(81%)の順に多かった。診療科別では、血液内科(94%)、呼吸器内科(94%)、救急科(92%)、総合診療科(90%)、腎臓内科(88%)、神経内科(88%)、内科(85%)、小児科(83%)、消化器内科(81%)、糖尿病・代謝・内分泌内科(80%)、臨床研修医(80%)の順に多かった。年齢が低い医師ほど、コロナに感染した割合が高い Q2では、これまでの新型コロナの感染歴を聞いた。感染したことがある医師は全体の45%、感染したことがない/感染したかわからない医師は55%であった。感染したことがある医師は年齢が低いほど、感染した割合が高く、20代は60%、30代は55%、40代は51%、50代は44%、60代は35%、70代以上は24%だった。臨床数別では、病床数が多いほうが感染した医師の割合が高く、20床以上で感染したのは49%、0~19床では34%だった。また、コロナ診療状況別では、コロナを診療している医師では47%、診療していない医師では37%に感染歴があった。昨年は20~40代の接種率が50%弱 Q3では、2023年秋冬接種でのXBB.1.5対応ワクチンの接種状況を聞いた。全体では「接種した」が58%、「接種していない」が42%だった。年代別で「接種した」と答えた割合は、多い順に70代以上(77%)、60代(72%)、50代(61%)、20代(50%)となり、30代(45%)と40代(48%)は50%未満であった。コロナ診療状況別の接種率は、診療している医師は62%、診療していない医師は46%であった。前年の傾向を引き継ぎ、接種する人と接種しない人の二極化進む Q4では、2024年度にコロナワクチンを接種する予定かどうかを聞いた。全体では「接種する予定」が33%、「接種する予定はない」が41%、「わからない」が26%となった。年代別では、「接種する予定」と答えた割合が過半数となったのは70代以上(56%)のみで、ほかは多い順に60代(44%)、50代(31%)、40代(28%)、20代(28%)、30代(23%)であった。30代では「接種する予定はない」が54%となり過半数を占めた。2023年コロナワクチン接種状況別で、2023年に接種した人では「2024年度に接種する予定」が53%、「2024年度に接種する予定はない」が16%となった。対して、2023年に接種していない人では、「接種する予定」が6%、「接種する予定はない」が74%となり、今回のアンケートで最も顕著な差が認められ、医師のなかでもコロナワクチンを接種する人と接種しない人の二極化が進んでいることがわかった。 Q5では、自身が受ける2024年度のコロナワクチンの費用は、病院負担か自己負担のどちらになるか、これまでのインフルワクチンなどの対応を踏まえ推測を交えて聞いた。「おそらく全額病院負担」が22%、「おそらく一部自己負担」が22%、「おそらく全額自己負担」が23%、「わからない」が33%となり、全体的に均等な割合となった。2024年度にワクチンを接種する予定の人のうち「全額病院負担」35%、「一部自己負担」29%、「全額自己負担」16%だったのに対し、接種する予定はない人は「全額病院負担」12%、「一部自己負担」20%、「全額自己負担」30%であった。ワクチンの必要性や高額な治療薬について、患者にどう説明するか Q6の自由回答のコメントでは、新型コロナに関して現在困っていることや知りたい情報を聞いた。主な回答は以下のとおり。ワクチンについて・ワクチンで感染予防が成り立たないのは明白。ただし重症予防は十分成り立っていたと思うので、高齢者と持病多い人は無料で受けられるようにしてほしい(40代、循環器内科)・接種の必要性をよく質問されるが、正直な所、自分も勧めてよいのか迷っている(40代、小児科)・今後新たに使用可能となるワクチンの種類とその効果など(60代、内科)・公費負担が終了すると被接種者は減少すると思われるが、今後の流行予測は?(70代以上、内科)・医療従事者のワクチン接種費用について(50代、内科)治療薬について・抗ウイルス薬の値段が高い事の説明をどうするか(60代、内科)・コロナ治療薬の処方が減り、対症療法が増えると思う(70代以上、内科)・抗ウイルス薬の適応と思われる患者さんが、高額のため投薬拒否された時のことを考えると頭が痛い(50代、消化器内科)流行状況、院内対策などについて・現在の感染状況の情報発信が少なくなり、新型コロナ感染症に対する世間の認識が乏しくなり、感染増加を招いていること(40代、呼吸器内科)・感染対策の立場として、職場での接種をどうするか悩んでいる(40代、感染症内科)・発熱外来の体制に悩んでいる(30代、呼吸器内科)・後遺症に関する診断(40代、呼吸器内科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。2024年度 医師のコロナワクチン接種に関するアンケート

196.

第192回 マイナンバーカードはデータヘルス改革のキープレーヤー

社会保障制度改革にマイナンバーカードは必須新型コロナウイルス感染症が落ち着き、いよいよ団塊の世代のすべてが後期高齢者になる2025年がみえてきました。多くの医療機関にとって、今年の診療報酬改定は賃上げを求められるとともに、厚生労働省が打ち出したさまざまな政策により大きく影響を受けることになります。この中で1番注目すべきは、マイナ保険証の利用促進です。日本健康会議が4月25日に開いた、医療DX推進フォーラム「使ってイイナ!マイナ保険証」には武見 敬三厚労大臣、河野 太郎デジタル大臣、斉藤 健経済産業大臣が参加し、マイナ保険証利用促進集中取組月間のキャンペーンのキックオフを行いました。政府だけでなく、保険者団体、医療界、経済界も一丸となって国民にマイナンバーカード(マイナカード)の普及によって医療DXに取り組む宣言を行っています。マイナカードについては、当初からマイナンバーと健康保険証の紐付けミスが発生したことで批判も多く、国民の半数以上が所有しながらも、4割程度しか常時所持していないことが明らかになるなど、政府の取り組みについて実効性を疑問視する声も挙げられている一方、そのメリットは計り知れないことが国民にはまだ理解されていません。〔マイナンバー保険証によるメリット〕オンライン資格確認医療機関で保険証として直接利用でき、受診時の手続きが迅速化できるセキュリティの向上個人情報の保護が強化され、情報の漏洩リスクを低減できるデータ連携の効率化医療・介護情報がデジタル化され、異なる医療機関間での情報共有がスムーズに行えるこれらの実現によって、医療の質を高め効率的な医療介護連携が促進されることは間違いなく、患者さんが急病になって、意識がなくても救急車内で持病や内服などの情報も確認できるなど、救急医療現場でも利便性や信頼が高まっていくと考えられます。持続性可能な社会保障制度を求めた動きを強化わが国は、少子高齢化が急速に進展するため、2050年には高齢化率が36%に達する見込みであり、国民1人ひとりの健康寿命延伸が望まれる一方、医療・介護費の負担増大も見込まれています。毎年のように報道される過去最高を記録し続ける社会保障費の増大に対して、政府も伸び率の抑制を試みてはいるものの、医療アクセスを維持しながらの医療費抑制は困難です。さらに健康保険組合の財政も厳しく、「健保組合の9割が赤字見通し」「全体の赤字幅、過去2番目6,578億円」といったように社会保障制度の根幹である国民皆保険制度の維持にもかかわっています。このため、政府は後発品への置き換えによる薬剤費の抑制などを行ったものの、1人当たりの医療費や介護費が多く必要となる後期高齢者が増加し、そのスピードに追い付けていません。これに対して、厚労省は2017年1月からデータヘルス改革推進本部を設立し、レセプト(医療情報)、健診結果などのデータ分析に基づいて、PDCAサイクルで効果的、効率的に保健事業へ取り組む「データヘルス改革」に着手をしようとしていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって実際に動き出せたのが遅れたというのが真相です。データヘルス改革によって、データに基づく質の高い医療を実現させるとしていますが、患者個人の医療情報が、複数の医療機関にまたがって患者の健康情報や治療歴が保管され、医薬品の副作用やワクチンの接種歴などがアナログで参照できない状態では、効率性もさることながら、医療の質が高まらない上に医療安全でも好ましくない状態となっています。「厚生労働省が進めるデータヘルス改革」の今後のデータヘルス改革の進め方によるとゲノム医療・AI活用の推進自身のデータを日常生活改善などにつなげるPHRの推進医療・介護現場の情報利活用の推進データベースの効果的な利活用の推進とあり、この頃からAIの活用も盛り込みながら、医療・介護情報の利活用推進を行っていくことが明らかになっています。具体的には保健医療・介護分野の公的データベースに連結、解析することで、医薬品の安全性のさらなる向上、治療の質の向上や新たなサービスなどの開発など、保健医療介護分野におけるイノベーションを創出地域包括ケアの実現などに向けた保健医療介護分野の効果的な施策の推進などのメリットが得られるとしています。厚労省医政局は、健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループをこれまでに21回開催し、医療・介護情報の利活用についてAction Planをまとめ、実施に向けた準備を取り組んでいます。この中で、来年の4月から本格化する「電子カルテ情報共有サービス」については電子カルテ情報共有サービスの運用開始までのロードマップ(「電子カルテ情報共有サービスにおける運用について」30ページ目)によれば、令和7年度中に稼働が本格的に始まることになります。さらに、政府は介護保険証のマイナカードとの一体運用を2024年度中にデータ基盤が整った自治体から開始し、2026年度に全国規模で運用を目指すことを決定しており、介護保険の介護認定の申請や通知にも利用されるほか、ケアプランの作成や提出だけでなく、主治医意見書などもマイナ保険証を介する可能性があり、医療だけでなく介護現場にもマイナ保険証がますます活用されることになると予想されます。医療・介護情報の連結に必要なのは、実はマイナカードです。来年度には、電子カルテ情報共有サービスが本格的に稼働するなどさらに進むことになります。紙の保険証が、今年12月から発行停止になることで、国民に広がっていく不安を解消するために、医療機関や行政機関はさらに力を入れていく必要があります。医療DXで進む「効率化」と「医療費適正化」医療費適正化については、あまり広くは知られていませんが、厚労省は令和6年度から6年間の第四期医療費適正化計画(2024~2029年度)を開始しています。政府は第4期の計画策定にあたり、2023年7月20日に「医療費適正化に関する施策についての基本的な方針」を定めています。この中には特定健診などの実施率向上実施率目標につき特定健診を70%、特定保健指導を45%後発医薬品の使用促進後発医薬品の数量シェアを80%以上(2023年度末までに全都道府県で)生活習慣病(糖尿病)などの重症化予防重複・多剤投薬の是正のように従来から取り組んできた項目のほか、新たに抗菌薬の適正使用、リフィル処方箋など今年の診療報酬改定につながるような項目が加わっています。政府は、各都道府県に対して医療費適正化計画の策定を求め、PDCAサイクルで医療費の適正化に取り組むように求めていきます。これまでと異なるのは医療・介護データを連結することで解析を行い、目標に近付けるために、各都道府県がよりデータに基づいて、保険者と連携して、医療機関だけでなく国民に働きかけることが増えると思われます。多くの医療機関は、保険償還の範囲の中であれば自由に検査や治療が行っていますが、今後は医薬品の適正使用、医療資源の効果的・効率的な活用のために地域ごとに高額な医療機器の共有なども進められていくほか、新たな地域医療構想に基づいた病床機能の分化・連携の推進が進んでいくように働きかけも強くなっていくと考えられます。今回の診療報酬改定や介護報酬改定では、医療機関や介護サービス事業者に対して補助金を支給するなどマイナカードの普及への協力を求めており、今後のオンライン資格確認や電子処方箋など将来的にも重要な役割を果たすマイナカードに対して、患者さんへの利用の呼びかけなど積極的な協力が求められます。参考1)健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)2)第四期医療費適正化計画(2024~2029年度)について(同)3)医療費適正化に関する施策についての基本的な方針(同)4)第四期東京都医療費適正化計画(東京都)5)介護保険証もマイナカード一体化検討 24年度にも運用(日経新聞)6)健保組合の9割が赤字見通し 全体の赤字幅、過去最大6578億円に(朝日新聞)

197.

第209回 衆院補選、各党・各候補が掲げた医療政策を比較

先週末、全国3選挙区で同時に衆議院の補欠選挙(以下、補選)の投票が行われ、立憲民主党(以下、立憲)が3選挙区すべてで勝利したことがニュースを賑わしている。今回の補選は、東京15区と長崎3区が与党・自由民主党(以下、自民党)議員の不祥事による辞任、残る島根1区は自民党現職の死去に伴うものだ。このうち前者2選挙区は、自民党は候補を立てられずに不戦敗。唯一候補を立てた島根1区は与野党一騎打ちとなり、立憲が自民党に大差で勝利した。以前、政治記者として名高い毎日新聞社特別編集委員の故・岸井 成格氏は「自民党はどんなに凋落しても、北関東、北陸、中国、四国、南九州のローカル政党として生き残る」と評していたが、その一角を占める中国地方、中でも1994年の公職選挙法改正による小選挙区制導入以降、衆議院選で当選候補が自民党のみの牙城中の牙城である島根県で自民党が立憲に敗れたことは、自民党関係者にとって相当な衝撃だったに違いない。昨年末に明らかになった自民党の裏金問題はそれほどのインパクトがあったのだ。これで岸田 文雄首相が解散・総選挙に打って出る可能性は当面なくなったと言ってよい。9月には自民党総裁選が控えているが、今のところ岸田降ろしの動きはまったく見当たらない。それもこれも裏金問題で、かつて最大派閥だった安倍派内の次期総裁候補と目された面々が少なからず傷を負ったことが原因と言えるだろう。皮肉にも現状は低空飛行の岸田首相の独走状態で、9月の総裁選以降の続投すらささやかれている。となると、年内は大規模な国政選挙が行われることはないかもしれない。これまで本連載では国政選挙のたびに各党の政策比較などを行ってきたが、この状況を踏まえ、この補選を例に各候補・各党が掲げた医療・社会保障政策を概観してみたいと思う。もっとも3選挙区すべての話をすると、かなり話が多岐に渡るので、候補数最多だった東京15区の政党候補(推薦も含む)で、供託金没収ライン越え(得票率が有効投票数の10%以上)の候補を軸に見てみたい。ちなみに敢えて「各候補・各党」と記述したのは、政党候補は所属政党の政策を基本にしながらも各候補が独自の政策を唱えることもあるからである。各政策については、候補者個人に対する私自身の好き嫌いは可能な限り排除したうえで、時に独断と偏見の評価も加わることはあらかじめお断りしておきたい。なお取り上げる順番は確定得票数順とする。政策が具体的な当選の酒井氏、自身の経験に基づくまず、議席を獲得した立憲である。当選した酒井 菜摘氏は元江東区議。看護師・助産師としての勤務経験を持ち、手術・化学療法経験のある子宮頸がんサバイバー、かつ不妊治療経験者という略歴である。酒井氏のホームページ(HP)に記述されている医療関連政策は、▽健康診断・がん検診の受診率向上&質の向上▽ユースヘルスケアの向上(学校医制度の拡充やユースクリニックへの支援)▽医療型レスパイト施設の増設▽介護保険が使えず制度の狭間にいる若年がん患者へ終末期の在宅療養費助成の創設、の4点。前者2つについては立憲が党としての基本政策の「予防医療」の項目にある健診関連政策とかなり相似している。もっとも酒井氏自身が前述のように看護師・助産師の資格を有し、がんサバイバーであることもこれら政策を掲げる背景にあるだろうと想像できる。4つ目の若年がん患者の終末期在宅療養費助成もがんサバイバーらしい政策と言える。介護保険の場合、40歳以上65歳未満のいわゆる第2号被保険者の場合、がんを含む16種類の特定疾病を抱えている人は介護保険サービスを利用できるが、40歳以下では利用できないという制度の穴がある。しかも、おおむね若年者は相対的に経済弱者。その意味では弱者視点に立った政策としては一考に値する。一方、医療型レスパイト施設の増設は、政策として的外れではないが、レスパイトケアの一般認知度が高くない現状を考えれば、有権者への訴求力には欠けると言わざるを得ない。出馬したそのほかの議員が掲げた医療政策得票数2番手は元立憲の参議院議員の須藤 元気氏だが、前述した基準からここでは触れない。得票数3番手は日本維新の会(以下、維新)の金澤 結衣氏だが、同氏のHPでは、「社会保険料の負担軽減」を掲げている。とはいえ、HP上ではどのようにそれを実現するのかはまったく記述がない。数少ないヒントは金澤氏が「現役世代の負担軽減」を謳っていること。そうなると、これは維新が昨今掲げている「医療維新」と名付けた政策に行き着く。同政策の主な細目は、高齢者医療制度の原則3割負担化、70歳以上での高額療養費制度の負担上限額引き上げ、これらを補完するための新たな低所得者等医療費還付制度の創設など。端的に言えば、医療・介護のサービス提供者からも根強い抵抗がある高齢者の負担増により一定の財源を確保するとともに、高齢者の過度な受診を抑制し、全体として医療費増大と現役世代を中心とする社会保険料の増額抑制を意図した政策である。この提言自体は世論からは一定の賛同を得られるであろうし、いつどのように手を付けるかの差異はあるにせよ、関係各方面が将来的には避けて通れぬテーマと思っているだろう。とはいえ、先ごろのトリプル改定では介護保険での自己負担2割対象者の拡大ですら、サービス提供側の抵抗と与党自民党・公明党のポピュリズム的な姿勢により、棚上げにされた。さらに言えば、野党第1党の立憲も国民の負担増を伴う政策には一律反対の姿勢を取りがちである。こうした“四面楚歌”的な政策を実現するにはかなりの交渉力と時間を要する。この交渉力の核となるスキルの1つが「モノは言いよう」である。しかし、当の維新は今回の選挙で代表の馬場 伸幸氏が自民党の裏金問題を批判する傍ら、「立憲民主党を叩き潰す」「日本共産党は日本にいらない」と公言してしまうありさま。もちろん馬場氏や維新がいかなる考えを持とうと自由であり、野党がほかの野党を批判することも一向にかまわないが、少なくとも国政の場で求められる「モノは言いよう」のスキルは現時点では期待できない。得票数4番手は、昨年、作家の百田 尚樹氏が結党し、今回、国政初挑戦となった日本保守党の候補でイスラム思想研究者の飯山 陽氏である。ただ、同氏の場合、選挙用独自のHPが4月30日時点では存在しておらず、選挙公報にも医療・社会保障に関連する政策は記述されていない。党のHPに箇条書きされた政策で該当するのは、▽健康保険法改正(外国人の健康保険を別立てにする)▽出産育児一時金の引き上げ(国籍条項をつける)、くらいだ。徹底した日本・日本人第一主義とも言うべき理念を掲げている同党ならではと言えるかもしれないが、同党の支持層のボリュームゾーンが50~60代1)であることを考えると、より大枠の社会保障政策が欲しいものである。ここで紹介する最後の得票数5番手が著書「五体不満足」がベストセラーになって以後、メディアなどに多数登場している乙武 洋匡氏である。乙武氏は今回、国民民主党、都民ファーストの会、同会の国政バージョンのファーストの会が推薦を出している。乙武氏のHPを見ると、▽持続可能な年金・医療・介護制度の確立▽予防医療で健康寿命を伸ばし、「アクティブ長寿」を実現▽認知症患者のケアと社会参加を支援▽AIなど先端技術を活用した医療従事者の働き方改革を推進▽看護職・介護職の福利厚生・インセンティブを充実、さらなる待遇を改善▽不妊治療やAMH検査、卵子凍結に対する公費負担の創設・拡大▽子宮頸がんの撲滅に向けた検診啓発▽HPVワクチン接種の男性接種も公費助成▽感染症にも強い医療提供体制の確保、が挙げられている。乙武氏の出馬時の経緯を見る限り、都民ファーストの会・ファーストの会の影響が色濃いが、列挙された政策の中で両会の掲げる政策と類似性・相似性があるのは健康寿命延伸と看護職・介護職の福利厚生関係、感染症に関する医療体制ぐらいである。HPVワクチンの男子への接種推進は、都民ファーストの会の創設者で現在は特別顧問の小池 百合子氏が知事を務める東京都が検討し始めていることではあるが、両会の政策としては掲げられてはいない。対して国民民主党の政策とは類似性・相似性はほとんどないと言っても良い。その意味ではこれまで報じられているような自ら出馬に意欲を示した乙武氏に各党が乗っかった経緯も納得である。そのうえで概観すると、女性に向けた政策が多いことも目に付く。この辺は一部で報じられた自民党が推薦で相乗りしようとしたものの、公明党が過去の乙武氏の女性問題で難色を示したことなども意識したのかもしれないと、やや邪推してしまう。ただ、子宮頸がんの撲滅とそれに連動する男性も含めたHPVワクチン接種推進は、欧米先進国などでの方針とも一致するもので一定の評価はできるだろう。もっともこのようにしてみると、実は各党の政策の細部は一般の人がざっくりとらえているよりもかなり開きがあると言える。現在、低空飛行の岸田首相が政権運営を進めていく中では、時に野党の一部にすり寄る場面も十分に想定できる。そうした状況に機敏に反応してこれら政策をどのくらい丁々発止で与党案に刷り込めるかが、国民が野党各党を評価するメルクマールになると言えるかもしれない。参考1)第240回 選挙ドットコムちゃんねる

198.

世界中でがんによる死亡者数は増加傾向

 世界的な高齢化が拍車をかけ、がんの患者数は増加の一途をたどり、2050年までに3500万人に達するだろうとの予測が、米国がん協会(ACS)が「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に4月4日発表した「Global Cancer Statistics 2022」の中で示された。この報告書によると、2022年には世界で推定2000万人が新たにがんの診断を受け、970万人ががんにより死亡したという。報告書の共著者である、ACSがんサーベイランス上級主任科学者であるHyuna Sung氏は、「2050年までに予測されるこのがん患者数の増加は、現在の罹患率が変わらないと仮定した場合、人口の高齢化と増加のみに起因するものだ」と説明している。 Sung氏は、「不健康なライフスタイルの選択もまた、新たながん患者の発生に関与し続けるだろう。注目すべきは、不健康な食事、運動不足、多量のアルコール摂取、喫煙などのがんの主要なリスク因子を有する人が世界中で増加していることだ。大規模な介入を施さない限り、将来のがんによる負担を増大させる可能性が高い」とACSのニュースリリースの中で述べている。 2022年において世界中で最も診断数が多かったがんは肺がんの約250万人(全がん症例の12.4%)であり、次いで、女性での乳がん(11.6%)、大腸がん(9.6%)、前立腺がん(7.3%)、胃がん(4.9%)の順だった。肺がんは、がんによる死亡の原因としても最も多く、2022年には180万人(がんによる死亡者の18.7%)が肺がんにより死亡していた。肺がんの次には、大腸がん(9.3%)、肝臓がん(7.8%)、女性での乳がん(6.9%)、胃がん(6.8%)による死亡者が多かった。新規罹患者数と死亡者数が最も多かったがんは、男性では肺がん、女性では乳がんだった。 女性では、2022年には毎日約1,800人が子宮頸がんに罹患し、約1,000人が同がんにより死亡していた。研究グループは、子宮頸がんは予防可能ながんであり、事実上、全ての子宮頸がんはHPV(ヒトパピローマウイルス)によって引き起こされているにもかかわらず、世界でのHPVワクチンの接種率はわずか15%だと指摘している。接種率には中央・南アジアでの1%からオーストラリア・ニュージーランドでの86%までの幅がある。同様に、世界での子宮頸がんの検診受診率も36%と低い。子宮頸がんは、サハラ以南のアフリカとラテンアメリカの37カ国の女性のがんによる死因の第1位であり、エスワティニ、ザンビア、マラウイ、ジンバブエ、タンザニアでの罹患率(10万人当たり65〜96人)は米国の罹患率(10万人当たり6人)の10倍から16倍であるという。 さらに報告書では、低所得国においては早期発見・早期治療サービスが不十分なため、がんの罹患者数が少ないにもかかわらず、がんによる死亡率は高いことが指摘されている。例えば、エチオピアでは、乳がんの罹患率は米国と比べて60%も低い(10万人当たり40人対60人)一方で、乳がんによる死亡率は米国の2倍(10万人当たり24人対12人)である。 報告書の上席著者で、ACSのサーベイランスと健康の公平性に関する科学分野でバイスプレジデントを務めるAhmedin Jemal氏は、「世界のがんによる死亡の半分以上は予防可能だ。がん予防は最も費用対効果が高く、持続可能ながん対策である。例えば、禁煙だけで、がんによる死亡者の4人に1人、つまり年間約260万人の死亡を防ぐことができる」と話している。 一方、ACSの最高経営責任者(CEO)であるKaren Knudsen氏は、「世界のがん負担を理解することは、全ての人ががんを予防し、がんが発見され、がん治療を受け、生存する機会を確保するために極めて重要である」と述べている。

199.

小さな子どもとの接触は高齢者の肺炎リスクを高める?

 指がベタベタしていたり、鼻水が出ていたりといった小さな子どもにありがちな様子はかわいらしい。しかし、60歳以上の人にとって、未就学児との接触は、危険な肺炎を引き起こす可能性のある細菌である肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae、以下、肺炎球菌)の主要な感染経路となり得る可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米イェール大学公衆衛生大学院のAnne Wyllie氏らによるこの研究結果は、欧州臨床微生物・感染症学会議(ECCMID 2024、4月27〜30日、スペイン・バルセロナ)で発表予定。 肺炎球菌は耳や副鼻腔の感染症のほか、肺炎や敗血症、髄膜炎などのより重篤な感染症の主要な原因菌である。米疾病対策センター(CDC)によると、米国では毎年、肺炎球菌感染症により15万件の入院が発生しており、その多くは高齢者である。肺炎球菌は、子ども(特に5歳未満)における肺炎の主要な原因菌であり、また、成人の市中肺炎の10〜30%の原因菌でもある。さらにCDCは、肺炎球菌が定着した無症候性のキャリアーの割合は、成人では5〜10%であるのに対し、学齢期の子どもでは20〜60%に上ると推定している。 Wyllie氏らは、秋から冬にかけての肺炎球菌の流行期(2020/2021シーズンと2021/2022シーズン)に、若年者の同居者がいない93世帯から60歳以上の成人183人(平均年齢70歳、女性51%、白人85%)を試験に登録し、世帯内での肺炎球菌の伝播について検討した。対象者は、2週間ごとに6回にわたって唾液検体を提出し、社会的な行動や健康に関する質問票に回答していた。 1,088点の唾液検体を定量PCR検査で分析したところ、52点(4.8%)の検体で肺炎球菌の存在が確認され、183人中28人(15%)の対象者は、いずれかの時点で肺炎球菌を保有していたことが明らかになった。肺炎球菌保有の点有病率は、子どもと接触していない高齢者(1.6%)と比べて、子どもと毎日/数日おきに接触していた高齢者(10%)では6倍も高かった。また、唾液検体採取前2週間以内に子どもと接触したことを報告した対象者での肺炎球菌保有の点有病率は、5歳未満の子どもと接触した人(14.8%)と5〜9歳の子どもと接触した人(14.1%)で特に高く、10歳以上の子どもと接触した人では8.3%だった。 Wyllie氏は、「われわれの研究では、世帯によっては、複数の唾液検体で肺炎球菌陽性が確認されたケースや、夫婦そろって同時に肺炎球菌陽性であったケースも認められたが、成人から成人への感染を示す明確なエビデンスは見つからなかった」と述べている。そして、「この研究で示唆されたのは、肺炎球菌陽性者が最も多いのは、幼い子どもと接触する機会の多い高齢者だということだ」と付言している。 高齢者での細菌性肺炎罹患リスクを下げるには、ワクチン接種が有効だ。Wyllie氏らは、子どもが定期的に肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)を接種するようになって以降ほどなくして、子どもの肺炎罹患率が90%以上減少したことを指摘している。もちろん、ワクチンは高齢者に対しても保護作用を持つ。同氏は、「成人用肺炎球菌ワクチン接種の主な利点は、全国的な小児用ワクチン接種プログラムの成功にもかかわらず、ワクチンが標的とする肺炎球菌株の一部を今現在も保有し、他人に感染させる可能性のある子どもに曝露する高齢者を直接保護できることだ」とECCMIDのニュースリリースの中で述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

200.

免疫療法+個別化ワクチン、肝細胞がんの新治療法として有望

 標準的な免疫療法にオーダーメイドの抗腫瘍ワクチン(以下、個別化がんワクチン)を追加することで、肝細胞がんが縮小する患者の割合が、免疫療法のみを受けた場合の約2倍になることが、新たな研究で示された。米ジョンズ・ホプキンス・キンメルがんセンターの副所長であるElizabeth Jaffee氏らによるこの研究結果は、米国がん学会年次総会(AACR 2024、4月5〜10日、米サンディエゴ)で発表されるとともに、「Nature Medicine」に4月7日掲載された。研究グループは、肝細胞がんの診断後、5年間生存する患者の割合は10人に1人未満であるため、このワクチンは患者の生存の延長に役立つ可能性があると話している。 Jaffee氏らはこの研究に肝細胞がん患者36人を登録し、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)のペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)による通常の免疫療法に加え、個別化がんワクチンを投与して、その効果を調べた。個別化がんワクチンは、まず、生検で得た患者のがん細胞を分析し、コンピューターアルゴリズムにより変異が生じている遺伝子のうち、免疫系が認識できるタンパク質〔がん細胞で起こる遺伝子変異により新たに生じたがん抗原(ネオアンチゲン)〕を産生している遺伝子を特定した。この情報を基に、最大で40個のネオアンチゲンをコードするDNAを含む個別化がんワクチン(GNOS-PV02)を作成した。ワクチンが投与された患者では、免疫系がこれらのネオアンチゲンを認識し、それらを産生するがん細胞を攻撃するのを助ける。 個別化がんワクチンと抗PD-1抗体の組み合わせは、腫瘍に大きな打撃を与える。抗PD-1抗体は、腫瘍内で疲れ果て、がん細胞を破壊できなくなった免疫細胞のT細胞を再活性化する。このワクチンはまた、特定の変異タンパク質を標的とするT細胞を新たに呼び寄せて、この効果を補強する。 実際、抗PD-1抗体とともにこの個別化ワクチンを投与された患者の3分の1近く(30.6%)でがん細胞の縮小が認められた。この割合は、免疫療法のみを受けた場合の2倍に当たるという。さらに、8.3%の患者では、治療後の検査でがん細胞が見つからない完全奏効を達成した。 Jaffee氏は、「われわれは、開発中の個別化がんワクチンを使った治療で成果が得られて興奮している。この個別化がんワクチンは、治療の難しいがんに対する次世代の治療法として有望だ」と語っている。 一方、ジョンズ・ホプキンス大学医学部腫瘍学分野のMark Yarchoan氏は、「この研究は、個別化がんワクチンが抗PD-1抗体に対する臨床反応を高めることができるというエビデンスを提供するものだ」と話す。同氏は、「この知見を確認するためには、より大規模なランダム化比較試験が必要だ。それでも、今回の結果が非常に胸躍るものであることに変わりはない」と述べている。

検索結果 合計:2139件 表示位置:181 - 200