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冬季の高齢者の感染症対策はワクチン

 2018年9月6日、ファイザー株式会社は都内において、高齢者の冬場の感染症対策に関するプレスセミナーを開催した。セミナーでは、冬季の肺炎についてや同社が行った肺炎球菌ワクチンに関するアンケート結果が公表された。高齢者が陥る肺炎の「負のスパイラル」 セミナーでは、講師に長谷川 直樹氏(慶應義塾大学医学部 感染症制御センター 教授)を迎え、「今から取り組む冬場に向けての高齢者の感染症対策~65歳以上の肺炎球菌ワクチン接種についてのコミュニケーション実態調査を踏まえて~」をテーマにレクチャーが行われた。 高齢化の進行するわが国では、65歳以上の97.9%が肺炎で死亡するなど肺炎への対応は大きな課題となっている(厚生労働省 平成29年人口動態統計)。高齢者では、肺炎を発症し入院などするとADLが低下し、それにより退院後も心身機能が低下、寝たきりになったり、嚥下機能が弱ったりすることで、さらに肺炎を再発する「負のスパイラル」を引き起こすと危惧されている。 市中肺炎における原因微生物では、圧倒的に肺炎球菌が多く、医療・介護関連でも肺炎球菌が一番多い検出菌として報告されている。また、基礎疾患として、COPDなどの慢性肺疾患、喘息、慢性心疾患、糖尿病などがある65歳以上の高齢者では肺炎発症リスクが高く1)、さらには重症インフルエンザに罹患後、肺炎に感染するリスクも報告されている(日本呼吸器学会インフルエンザ・インターネットサーベイ)。肺炎、インフルエンザはワクチンの併用接種でリスクを縮小 こうした肺炎には予防ワクチンが有効であるが、現在わが国で成人に接種できる肺炎球菌ワクチンは2種類ある。 1つは23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックス)で、2歳以上から接種ができる多糖体ワクチンである。接種経路は筋肉内または皮下となっている。幅広い年代で使用できる反面、約5年で抗体価が低下するために再接種の必要があるとされている。もう1つは13価肺炎球菌結合型ワクチン(同:プレベナー)で、2ヵ月齢~6歳未満(接種経路は皮下)、65歳以上(接種経路は筋肉内)で接種できる。主に小児の肺炎予防ワクチンとして定期接種され、修正免疫を獲得するワクチンであるとされる。 両ワクチンの使い分けについては、長谷川氏は私見としながらも「高齢者や慢性疾患のある患者には両方接種が望ましい選択。外来などでは、日本呼吸器学会と日本感染症学会の合同委員会表明の『65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方』などに従って患者と相談し決めていくことになる」と考えを述べた。 また、インフルエンザワクチンとの併用接種については、「『成人肺炎診療ガイドライン』や日本内科医会の見解にもあるように併用接種が強く推奨されていることから、機会を捉えて高齢者や肺炎リスクの高い患者などには接種の必要性を説明・実施するなど、医療者側の対応が必要だ」と強調した。ワクチン接種について医師と患者で大きな溝 つぎに医師と患者のワクチンギャップに関するアンケート調査結果を報告した。この アンケートは、全国の呼吸器内科の医師150名および65歳以上の男女300名を対象に、「成人の肺炎球菌ワクチンについてのコミュニケーション実態調査」を行ったもの(2018年3月30日~31日・インターネット調査、ファイザー株式会社が実施)。 「肺炎球菌ワクチン接種の考え方」ついて、医師の80%が「定期接種に限らず任意接種制度も上手に利用すべき」と考えているのに対し、患者では17.7%しか同様の考えを持っておらず、53.7%の患者は「定期接種またはその予定で十分」と考えていること(医師の同じ考えは18.0%)が判明した。また、「ワクチン接種に関する患者との質問のやり取り」では、医師の72.7%(109/150)が「患者は疑問に思うことを医師に十分に伝えていない」と考えているのに対し、5分以上診療で話している患者の77.1%(54/70)が「気になることは医師に質問できている」と回答するなど、両者の意識の違いも明らかとなった。 こうしたアンケートを踏まえ同氏は、「ワクチンが肺炎罹患の減少と健康寿命延伸の1つとして活かされるには、患者が納得して接種できるように、両者でよりよいコミュニケーションがなされる必要があり、呼吸器内科だけでなく診療科を超えた取り組みがカギとなる」と期待を語り、講演を終えた。●文献1)Shea KM, et al. Open Forum Infect Dis. 2014;1:ofu024.■参考65歳以上の肺炎球菌ワクチン接種についてのコミュニケーション実態調査(ファイザー社調査結果)

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アトピー性皮膚炎治療薬デュピルマブ、ワクチン接種に影響なし

 IL-4/IL-13のシグナル伝達を阻害する、抗ヒトIL-4Rα抗体デュピルマブが、アトピー性皮膚炎(AD)患者のワクチン接種後の反応に、どう影響を及ぼすかは知られていない。米国・Oregon Medical Research CenterのAndrew Blauvelt氏らは、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験において、デュピルマブが、破傷風・ジフテリア・百日咳混合ワクチン(Tdap)および4価髄膜炎菌ワクチンの接種に影響を及ぼさないことを明らかにした。またデュピルマブは、血清総IgE値の有意な減少、プラセボと比較したADの重症度改善、良好な忍容性を示した。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2018年8月6日号掲載の報告。 研究グループは、破傷風および髄膜炎菌ワクチンによるT細胞の細胞性免疫反応および液性免疫反応、TdapによるIgE抗体の陽転化、およびデュピルマブの有効性と安全性について評価することを目的に、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験を実施した。中等度~重度ADの成人患者178例を対象とし、デュピルマブ(300mg)群またはプラセボ群に割り付け、週1回16週間皮下投与した。また、12週時に、Tdapおよび4価髄膜炎菌ワクチンを1回接種した。 主要評価項目は、16週時に破傷風トキソイドに対して十分なIgG反応を達成している患者の割合であった。 主な結果は以下のとおり。・デュピルマブ群とプラセボ群で類似の陽性反応が示された(破傷風菌:83.3%および83.7%、髄膜炎菌:86.7%および87.0%)・デュピルマブの皮下投与は、血清総IgE値を有意に減少させた。・デュピルマブ群の大部分は、32週時にTdap IgEが血清反応陰性となった(デュピルマブ群62.2%、プラセボ群34.8%)。・デュピルマブは、ADの鍵となる有効なエンドポイントを改善した(p<0.001)。・注射部位反応と結膜炎がデュピルマブ群で多くみられ、プラセボ群ではADの増悪が高頻度であった。

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新たな結核菌ワクチンの第II相試験(解説:小金丸博氏)-901

 新たに開発中の結核菌に対するワクチン「H4:IC31」の第II相試験の結果が発表された。「H4:IC31」は、Toll様受容体9(TLR9)を介してシグナル伝達する組み換え融合タンパク質(H4)とIC31アジュバントからなるサブユニットワクチンである。このワクチンはインターフェロンγ放出試験(QFT)と交差反応を示さないマイコバクテリア抗原(Ag85BとTB10.4)を含んでいる。 本試験は、結核感染のリスクが高い南アフリカで、幼児期にBCGワクチンを接種していた12~17歳の青年を対象に行われた。結核感染の既往歴や治療歴がある者、家族内に結核患者がいる者、薬物乱用者、妊婦は試験から除外された。被験者をH4:IC31ワクチン接種群、BCGワクチン再接種群、プラセボ接種群の3群にランダムに割り付けて、安全性、QFT陽転の割合、QFT持続陽転の割合などを評価した。その結果、2年以内のQFT陽転化の割合は、H4:IC31ワクチン接種群が14.3%、BCGワクチン再接種群が13.1%、プラセボ接種群が15.8%であり、いずれのワクチンもQFTの初回陽転化を防ぐことはできなかった。ただし、BCGワクチン再接種群ではQFTの持続陽転の割合が低く、有効性は45.4%だった(p=0.03)。一方、H4:IC31ワクチンの有効性は30.5%(p=0.16)であり、BCGワクチン再接種群と比べて低率だった。 本試験では、とくにBCGワクチン再接種群でQFTの持続陽転の割合が減少していた。QFTの持続陽転は、一時的なQFT陽転より持続的な結核感染を示唆し、疾患進行のリスクが高いと考えられている。アフリカのような結核感染のリスクが高い地域においては、BCGワクチンの再接種によって結核発病のリスクを減らす可能性が示された。 開発中の新たな結核菌ワクチン「H4:IC31」は、軽度から中等度の注射部位反応がBCGワクチンより少なく、劇的な有効性を示すことはできなかったものの一定の効果は示した。新たな結核菌ワクチンの候補として、今後の展望を注視したい。

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50歳以上の帯状疱疹はワクチンで予防

 2018年7月19日から3日間、都内で日本ペインクリニック学会 第52回大会「あなたの想いが未来のペインクリニックを創る-専門性と多様性への挑戦-」が開催された。本稿では、7月20日のシンポジウム「帯状疱疹関連痛の治療、予防の未来を考える」から、木村 嘉之氏(獨協医科大学 麻酔科学講座 准教授)が発表した「帯状疱疹関連痛の疫学と予防」について、概要を紹介する。PPHNは、痛みの期間が長いと発症リスクが上がる 帯状疱疹は、初感染を経て細胞に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスが何らかの原因により再燃することで発症し、これに起因した一連の痛みは、帯状疱疹関連痛と呼ばれている。帯状疱疹関連痛は、皮疹による痛み(侵害受容性疼痛)と、帯状疱疹後神経痛(神経障害性疼痛)に分けられ、病期に伴い痛みの性状は変化していく。 帯状疱疹の発症数は近年増加傾向にあり、わが国では、50歳以上で帯状疱疹の罹患率が上昇するという報告がある1)。とくに皮膚症状・疼痛が中等度~重症の患者では、痛みが遷延し、帯状疱疹後神経痛(PHN)に移行することがあり、海外では、50歳以上の帯状疱疹患者の18%がPHNを発症すると報告2)されている。 PHNのリスクは、重症度、年齢、ウイルスの感染部位などによって異なるが、痛み治療の遅れがPHN発症につながる可能性も指摘されている。PHNは、長期に続く痛み・かゆみが患者のQOLを大きく低下させるため、帯状疱疹の予防と適切な治療の早期導入が重要だ。PHNの予防には、帯状疱疹ワクチンが有効 PHNの予防として、木村氏は、まず水痘にならないこと、そして帯状疱疹を発症させないことを強調した。患者に水痘罹患歴がない場合は、水痘ワクチン接種で発症を予防できる。水痘に罹患しなければ、ウイルスの潜伏もなく、将来的な帯状疱疹の発症はないと考えられる。 水痘ワクチンは2014年から定期接種の対象になっているため、近年患者数は激減しているが、成人の90%以上は水痘・帯状疱疹ウイルスへの感染歴がある3)という。よって、この集団における将来的な帯状疱疹発症の予防が急務となる。同氏は、高齢者が水痘患者と接する機会が減ったことで、追加免疫効果を得られず、帯状疱疹ウイルスに対する抗体価が低下している可能性を指摘する。そこで推奨されるのが、帯状疱疹ワクチンだ。水痘の感染歴がある場合でも、ワクチン接種で抗体価をあげることによってウイルスの再活性化を予防できるという。 また、帯状疱疹の予防には、日常生活の中で、免疫力の低下(過度のストレスや体力低下など)を避けることも大切だ。同氏は、「50歳以上の患者さんには、帯状疱疹・PHNの予防策として、水痘・帯状疱疹ワクチンを推奨する必要がある」と強く訴えた。 なお、帯状疱疹が発症してしまった場合、PHNなど痛みの遷延化を防ぐためには、早期診断、抗ウイルス薬の投与とともに、痛みに対する適切な治療を開始することが重要となる。 海外では、ワクチン接種がPHNへの移行を予防する可能性が報告4)されている。わが国では、帯状疱疹ウイルスワクチン(生ワクチン)が発売されており、任意で接種を受けることができる。なお、2018年3月にはサブユニットワクチンが承認されており、発売が待たれる。〔8月13日 記事の一部を修正いたしました〕■参考1)国立感染症研究所 宮崎県の帯状疱疹の疫学(宮崎スタディ)2)Yawn BP, et al. Mayo Clin Proc. 2007;82:1341-1349.3)国立感染症研究所 感染症流行予測調査グラフ 抗体保有状況の年度比較「水痘」4)Izurieta HS, et al. Clin Infect Dis. 2017;64:785-793.日本ペインクリニック学会 第52回大会■関連記事こどもとおとなのワクチンサイトが完成

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開発進む、新たな結核菌ワクチン/NEJM

 結核を発症させやすく、世界的な感染症による死亡の主因となっている近年の結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に対する、開発中のワクチン「H4:IC31」の第II相試験の結果が発表された。南アフリカ共和国結核ワクチンイニシアチブ(SATVI)のElisa Nemes氏らによる検討で、伝播率の高い環境においてワクチン接種の効果を示す所見が得られたという。著者は「今回の結果は、新規ワクチン候補の臨床的開発を示すものといえるだろう」と述べている。H4:IC31はサブユニットワクチンの候補で、前臨床モデルでは結核発症への防御効果が示された。また観察研究において、カルメット-ゲラン菌(BCG)の初回ワクチン接種が、結核感染への部分的防御効果がある可能性が示唆されていた。NEJM誌2018年7月12日号掲載の報告。H4:IC31ワクチン vs.BCGワクチン再接種 vs.プラセボ 第II相試験は、新生児期にBCGワクチン接種を受けていた高リスク環境にある青少年990例を対象に行われた。被験者をH4:IC31ワクチン接種群、BCGワクチン再接種群、プラセボ接種群に無作為に割り付けて追跡評価した。なお被験者は全員、QuantiFERON-TB Gold In-tubeアッセイ(QFT)での結核菌感染検査、およびヒト免疫不全ウイルス検査の結果が陰性であった。 主要アウトカムは、ワクチン接種の安全性と、結核菌感染(6ヵ月ごと2年の間に行ったQFT検査での初回陽転で定義)とした。副次アウトカムは、免疫原性、QFT持続陽転(陰転を伴うことなく陽転後3、6ヵ月時の検査で陽転を確認)とした。ワクチンの有効性は、Cox回帰モデルからのハザード比(HR)に基づき推算し、各ワクチンについてプラセボと比較した。BCG、H4:IC31接種群はいずれも免疫原性を示す BCGワクチン再接種群、H4:IC31ワクチン接種群はいずれも免疫原性が認められた。QFT陽転は、H4:IC31群44/308例(14.3%)、BCG群41/312例(13.1%)、プラセボ群49/310例(15.8%)であった。陽転持続の割合は、それぞれ8.1%、6.7%、11.6%。 H4:IC31群、BCG群はいずれも初回陽転を防御できず、有効性推定値は、それぞれ9.4%(p=0.63)、20.1%(p=0.29)であった。BCGワクチンではQFT陽転持続率を低下したことが認められ、有効性は45.4%であった(p=0.03)。一方、H4:IC31の有効性は30.5%であった(p=0.16)。 重篤有害事象の発現頻度は、群間で臨床的有意差がみられなかったが、軽度~中等度の注射部位反応は、BCGワクチン再接種群で最も頻度が高かった。

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コンゴで新たにエボラが流行、疫学的特色は?/Lancet

 コンゴ民主共和国・保健省のOly Ilunga Kalenga氏らThe Ebola Outbreak Epidemiology Teamは、2018年5月8日に同国北西部のEquateur Province(赤道州)で発生が報告されたエボラウイルス性疾患のアウトブレイクについて疫学的調査を行った。その結果、「現在も継続中のコンゴ民主共和国におけるエボラウイルスアウトブレイクは、以前のアウトブレイクと疫学的特色が似ている。早期の検出、速やかな患者の隔離、接触者の追跡およびワクチンプログラムの継続で、アウトブレイクをきちんとコントロールすることが必要である。予想される症例数は、疫学的状況が変化しなければ現状の対応能力を上回ることはない」と報告し、「情報は予備的なものであるが、継続調査および今回のアウトブレイク対応への基本的ガイドである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年6月29日号掲載の報告。複雑でリスクの高いアウトブレイクが発生 今回のエボラアウトブレイクは、大規模な発生が遠隔地で起きていることや、首都および周辺国に近接の都市での発生関与といった点で、これまでに同国が経験した中で最も複雑でリスクの高いものとなっていた。 研究グループは、発生例について、同国保健省の症例定義を用いて、疑い・疑い濃厚・確定例に分類するとともに、すべての入手症例について、人口統計学的特性、可能性がある曝露の確認、徴候・症状の記録を調べ、21日間の接触者を特定した。また、2018年5月25日~6月21日の4週間の、再生産数(reproduction number)の推定および症例数を算出した。致命率は2014~16年の西アフリカでの発生と一致 2018年5月30日現在での発生報告例は、ザイール・エボラウイルス50例(確定37例、疑い濃厚13例)であった。21例(42%)はBikoro保健医療圏で、25例(50%)はIboko保健医療圏で、4例(8%)がWangata保健医療圏での発生であった。Wangata保健医療圏は、赤道州の中心都市であるMbandakaの一部であり、主要な国内および国際輸送道路にも通じている。 2018年5月30日までに、エボラウイルス性疾患による死亡は25例で、打ち切りによる補正後の致命率は56%(95%信頼区間[CI]:39~72)であった。この致命率は、2014~16年の西アフリカで流行したエボラウイルス性疾患の推定値と一致していた(p=0.427)。 確定/疑い濃厚例の患者の年齢中央値は40歳(範囲:8~80)で、男性は30例(60%)であった。 確定/疑い濃厚例の患者に最もよくみられた徴候・症状は、発熱(40/42例[95%])、強度の全身疲労(37/41例[90%])、食欲不振(37/41例[90%])であった。消化器系症状の報告頻度は高く、出血性症状の報告は14/43例(33%)であった。発症および入院から検体検査までの時間は、徐々に短縮していた。 2018年5月30日までに、特定された接触者は1,458例で、そのうち746例(51%)が、継続してフォローアップを受けていた。 伝播が不均一と想定(負の二項モデルを用いて検討)した場合の、2018年6月21日までのアウトブレイクに関する推定再生産数は1.03(95%確信区間[CrI]:0.83~1.37)、累積発生は確認症例で78例(37~281)と算出された。

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こどもとおとなのワクチンサイトが完成

 2018年6月17日に乳児から高齢者まで、全年齢向けのワクチン・予防接種の総合情報サイト「こどもとおとなのワクチンサイト」(http://vaccine4all.jp/)が公開された。このサイトは、日本プライマリ・ケア連合学会の内部組織であるワクチンプロジェクトチーム(リーダー:中山 久仁子氏[マイファミリークニック蒲郡 理事長・院長 ]、担当理事:岡田 唯男氏[亀田ファミリークリニック館山 院長])に所属するワクチン・予防接種に関心が深い家庭医・総合診療家庭医が中心となり、執筆・編集したもの。 同サイトの設置・公開については、6月16日より開催されていた同学会の第9回学術大会(三重県津市)内で正式に発表された。不足する全世代に渡るワクチン情報を網羅 ワクチンプロジェクトチーム(以下「PT」と略す)は、家庭医・総合診療医で構成され、ワクチンで予防できる病気(ワクチン予防可能疾患:vaccine preventable disease[VPD])を減らすことを目的に、ワクチンと予防接種の普及啓発を行っている。 今回、サイト設置の背景には、先進国並みに近付いたわが国のワクチンの認可数、定期接種数の増加に伴い、臨床現場の医療従事者のみならず保護者や一般市民にとっても深く広いワクチンの知識が求められる時代となったことを指摘。また、定期接種化される前の世代への追加予防接種(キャッチアップ)の必要性、海外渡航前のワクチン接種の重要性など定期接種以外の知識や技能も欠かせないと説明する。 こうした環境の中、全世代のワクチン・予防接種について包括的に網羅した情報源はいまだ乏しいとされ、PT活動の一環として同サイトが設置・公開された。小児のみならず成人のワクチンスケジュール情報も記載 同サイトは、「ワクチンと病気について」「ワクチンのおはなし」「こども、おとな、全年齢での接種スケジュール」「最近のトピックス」で構成され、たとえば「ワクチンと病気について」では、B型肝炎、ロタウイルスをはじめ24種が現在紹介されているほか、詳細なワクチン情報として医療従事者、妊娠可能女性・妊婦、渡航者、特別な状況(HIV感染者など)、年齢で見る・不足しているワクチンの5つに分類して記載されている。 また、同サイトは、次の方針で運営される。・一般市民と医療従事者の双方をターゲットユーザとする・乳児期から高齢世代まで、海外渡航前や妊娠・授乳中など、あらゆる世代や人口集団を対象とした、包括的なワクチン・予防接種の情報源となる・ワクチン・予防接種に関する良質な医学的エビデンスに基づき、科学的に妥当な情報発信を行う・一般市民と医療従事者の、ワクチン・予防接種についての心配や疑問などを軽減ないし解消すべく、ワクチンコミュニケーションに関する情報提供や普及啓発も行う PTでは、このサイトを通じて「一般市民と医療従事者の双方に、全世代向けワクチン・予防接種の的確な情報を幅広く伝え、VPDがさらに減少することを目指し、適切なサイト運営と情報発信を続けていく」とコメントしている。■参考「こどもとおとなのワクチンサイト」

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医療従事者へのインフル予防接種の効果は

 インフルエンザ予防接種は、医療従事者におけるインフルエンザ感染予防、スタッフや患者へ伝染防止のための一般的な介入である。長崎大学の今井 智里氏らは、医療従事者間の季節性インフルエンザ予防接種の疫学的および経済的な有効性の最新のエビデンスを統合するため、系統的レビューとプール解析を行った。その結果、インフルエンザワクチンが感染症発症減少と欠勤期間短縮に効果があることが示された。PLOS ONE誌2018年6月7日号に掲載。 著者らは、MEDLINE/PubMed、Scopus、Cochrane Central Register for Controlled Trialsにおける1980~2018年の論文を系統的に調査し、ワクチン接種群と非接種群(プラセボまたは非介入)を比較したすべての研究を抽出した。ただし、患者関連アウトカムのみ、インフルエンザA(H1N1)pdm09ワクチンにフォーカスした研究は除外した。2名のレビュアーが独立して論文を選択しデータを抽出し、検査で確定したインフルエンザ、インフルエンザ様疾患(ILI)、欠勤を含む罹患のアウトカムについて、プール解析を行った。また、経済学的研究は「方法」と「結果」の特性について要約した。 主な結果は以下のとおり。・13報の論文が適格基準を満たしていた(3報は無作為化比較研究、10報はコホート研究)。・プール解析では、検査で確定したインフルエンザの罹患率に有意な効果が認められたが、ILIでは有意ではなかった。・欠勤の発生率は予防接種によって変化しなかったが、ILIによる欠勤は有意に減少した。・欠勤期間も予防接種により短縮した。・公表された経済的評価はすべて、予防接種で回避された欠勤の粗推定値により、医療従事者の予防接種が費用節減となることを一貫して示した。しかしながら、健康アウトカムとワクチン接種プログラムの費用の両方を包括的に評価し費用対効果を調べた研究はなかった。

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デング熱ワクチンの有効性・リスクが明らかに/NEJM

 四価デング熱ワクチン(CYD-TDV)の有効性について、ワクチン接種前のウイルス曝露者には5年の間、重症型デング熱の発症(virologically confirmed dengue:VCD)やデング熱での入院に対する保護効果が認められたが、非曝露者では、反対に重症型VCDやデング熱による入院のリスクをより高めるとのエビデンスが確認されたという。フランス・サノフィ社サノフィパスツール(ワクチン部門)のSaranya Sridhar氏らが、有効性に関する3試験のデータを再解析し報告した。CYD-TDVの有効性試験では、ワクチン接種を受けた2~5歳児においてデング熱による過剰な入院が観察されていた。NEJM誌オンライン版2018年6月13日号掲載の報告。有効性に関する3試験のデータを再解析 研究グループは有効性に関する3試験のデータを用いて、ケースコホート研究を行った。ベースラインで収集した検体数に限りがあり、デング熱の血清状態を確認して正確なリスクを推定することができなかったため、デング熱NS1抗原IgG抗体ELISAを開発するとともに、月齢13ヵ月児の血清状態を確認した検体を用いて安全性と有効性の事後解析を行った。 主要解析では、50%プラーク減少中和検査(PRNT50)によるベースライン測定値(入手できた場合)と、13ヵ月齢の抗NS1アッセイの結果など共変量を用いて補完した力価(入手不可の場合)に基づき確認した、ベースライン血清状態を用いた。 加重Cox回帰法および標的最小損失ベースの推定による、VCD入院、重症型VCD、デング熱抗体有無別の症候性VCDのリスクを推算した。ウイルス血清陽性者には有効、陰性者にはリスク デング熱血清反応陰性であった2~16歳児において、VCD入院の5年累積発生率は、ワクチン接種群3.06%、非接種(対照)群1.87%で、データカットオフ時のハザード比(HR)は1.75(95%信頼区間[CI]:1.14~2.70)であった。血清反応陰性の9~16歳児において同発生率は、ワクチン接種群1.57%、対照群1.09%で、HRは1.41(95%CI:0.74~2.68)であった。また、重症型VCDについても同様に、血清反応陰性者では、ワクチン接種群のほうが対照群よりもハイリスクの傾向がみられた。 一方、血清反応陽性の2~16歳児においては、VCD入院の5年累積発生率は、ワクチン接種群0.75%、対照群2.47%で、HRは0.32(95%CI:0.23~0.45)であった。9~16歳児においても各群の同発生率は0.38%、1.88%で、HRは0.21(95%CI:0.14~0.31)であった。重症型VCDについても同様に、血清反応陽性者では、ワクチン接種群のほうが対照群よりも低率であった。

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メガファーマスポンサーの臨床試験は結果公表率が高い?/BMJ

 臨床試験のデザインと結果の公表は、疾患領域だけではなく資金提供組織のタイプや規模によっても大きく異なるという。英国・ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのMagdalena Zwierzyna氏らが、資金提供組織と専門領域別に臨床試験の実施状況、デザインの特性および公表(dissemination)について調査した記述分析の結果を報告した。登録された臨床試験であっても、試験デザインが最適でなかったり、結果の公開が遅れることはよくあり、全試験のほぼ半数が試験完遂後何年も公表されないままである。現在、さまざまな組織が臨床試験に資金提供を行っており、報告される割合やその他の研究の質は、資金提供組織のタイプによって異なる可能性が指摘されていた。BMJ誌2018年6月6日号掲載の報告。Clinicaltrials.govに登録された臨床試験計4万5,000件を検証 研究グループは、Clinicaltrials.govにおける試験のプロトコール情報、PubMedにおける試験結果に関する学術論文のメタデータ、Scimago Journal & Country Rankのデータベースにおける関連学術誌の品質測定法を用い、2006年1月以降2015年7月以前に完了した全臨床試験相にわたる無作為化試験および非無作為化試験で、分子標的治療、生物学的製剤、アジュバントおよびワクチンを評価した計4万5,620件について記述的分析を行った。大企業やNIHから資金提供を受けた臨床試験、結果の公表率は約6~7割 企業は非営利組織に比べ大規模な国際共同無作為化試験に資金提供しているようであったが、時間とともに資金提供する試験方法に差はみられなくなった。試験を完遂した有効性評価試験(第II~IV相試験)2万7,835件のうち、結果が公表されていたのは1万5,084件(54.2%)であった。 企業は非営利組織よりも試験結果を公表する可能性が高く(59.3%[1万444/1万7,627件]vs.45.3%[4,555/1万66件])、大規模製薬会社は小規模の製薬会社よりも公表率が高かった(66.7%[7,681/1万1,508件]vs.45.2%[2,763/6,119件])。また、米国国立衛生研究所(NIH)から資金提供を受けた試験は、他の非営利組織から資金提供を受けた試験よりも公表率が高かった(60.0%[1,451/2,417件]vs.40.6%[3,104/7,649件])。 大規模製薬会社ならびにNIHから資金提供を受けた試験の結果は、非営利組織から資金提供を受けた試験と比較して、Clinicaltrials.govに掲載されていることが多く、主に学術論文として公表されていた。無作為化試験は非無作為化試験に比べ学術雑誌で公表される可能性が高く(34.9%[6,985/19,711件])vs.18.2%[1,408/7,748件])、学術雑誌で発表される割合は腫瘍学で20%、自己免疫疾患では42%と、疾患領域によって差異があった。 なお著者は、Clinicaltrials.govに登録された臨床試験に限定していること、登録ミスや不適切な登録・不明確な用語といったデータの質に関する要因がある可能性を、研究の限界として挙げている。

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抗微生物薬適正使用の手引き改正へ向けて

 2018年5月14日、第4回の抗微生物薬適正使用(AMS)等に関する作業部会(座長:大曲 貴夫氏[国立国際医療研究センター病院国際感染症センター長])が、厚生労働省で開催され、「抗微生物薬適正使用の手引き」の改正の方向性の確認、改正内容の検討が行われた。今後、数度の部会での検討を経たうえで、薬剤耐性(AMR)に関する小委員会および厚生科学審議会感染症部会で審議、発表される。なお、発表時期は未定。「抗微生物薬適正使用の手引き」改正では学童期以下の小児に焦点 「抗微生物薬適正使用の手引き 第1版」は、抗微生物薬の適正使用を推進するために学童期以降の急性気道感染症と急性下痢症を対象に、2017年6月に発表・発行された。発行後、さらなる抗微生物薬の適正使用推進のため、扱うべき領域拡大の必要性が求められ、学童期未満の小児を対象とした「抗微生物薬適正使用の手引き」の改正が行われている。 今回示された改正案では、「1.小児における急性気道感染症の特徴と注意点」「2.小児の急性気道感染症各論」「3.小児の急性下痢症」の3点が示され、個別の検討が行われた。急性気道感染症と急性下痢症を詳細に記載 「抗微生物薬適正使用の手引き」改正案の「1.小児における急性気道感染症の特徴と注意点」では、小児の急性気道感染症で多くを占める感冒、咽頭炎、クループ、気管支炎などを取り上げるとともに、A群連鎖球菌による咽頭炎、細菌性副鼻腔炎などとの鑑別の重要性、リスクを加味した年齢ごとの診療の必要性、治療薬の小児特有の副作用について記載されている。 とくに小児特有の副作用については、10種類ほど治療薬が列挙され、たとえばST合剤では新生児に核黄疸のリスクがあること、マクロライド系抗菌薬では肥厚性幽門狭窄症のリスクが上がることなどが述べられている。 「2.小児の急性気道感染症各論」では、感冒・急性鼻副鼻腔炎、急性咽頭炎、クループ症候群、急性気管支炎、急性細気管支炎を取り上げ、個々の病態、疫学、診断と鑑別、抗菌薬治療、患児および保護者への説明などが記載されている。 「3.小児の急性下痢症」では、2.と同様に下痢症の病態、疫学、診断と鑑別、抗菌薬治療、患児および保護者への説明を述べるとともに、そのほとんどがウイルスが原因であるとし、とくに小児では原因診断よりも緊急度の判断が重要とされ、脱水への対応についても多く記述されている。 部会では「抗微生物薬適正使用の手引き」改正案に対し、「ワクチンの有効性の記載」「治療薬の商品名の記載」「中耳炎の追加」「記載方法の定式化」「非専門医ができる診療法の記載」「具体性のある表記」などの意見や提案がなされ、今後これらを踏まえて修正、議論を行っていく。

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適切なワクチン接種は母子手帳の確認から

 ファイザー株式会社は、2017年12月13~18日、ワクチン接種に対する実態調査アンケートを行い、その結果を示した。 調査の結果、保護者が母子健康手帳(母子手帳)をいつも携帯し、医師との適切なコミュニケーション(母子手帳を見せるなど)をとることで、小児のワクチン接種に適切な状況がもたらされる可能性が示唆された。母子手帳の活用により、小児の感染症予防につながることが期待される。 主な結果は以下のとおり。・Q1.小児の診察時に母子手帳を見せていますか? 対象:1~5歳の小児を持つ母親1万726人 いつも見せている:44.1%(4,733人) 予防接種の時のみ見せている:47.7%(5,118人)「いつも見せている」の回答者は、小児が1歳では60.2%(1,248/2,074人)だが、成長するにつれて減る傾向があり、5歳では37.0%(815/2,202人)まで下がった。・Q2.なぜ診察時に母子手帳を毎回見せていないのですか?(複数回答) 対象:Q1.で「いつも見せている」と回答した以外の母親5,993人 見せてほしいと言われないから:91.9%(5,509人) その他の各回答:10%以下・Q3.肺炎球菌ワクチンの追加接種を実施しましたか?(Yes回答を集計) 対象:ワクチン接種スケジュールを順守できた2~5歳の小児の母親8,467人 母子健康手帳を病院で提示している群(8,119人)のYes回答:94.0% 母子健康手帳を病院で提示していない群(348人)のYes回答:86.0%医療機関で母子健康手帳を見せていないと、ワクチンの追加接種実施率が低い傾向にある。■参考ファイザー株式会社 プレスリリース

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麻疹のワクチン免疫がうつ病で減弱?

 わが国では、うつ病あるいは双極性障害(BD)で治療を受けている患者が100万人を超えると言われているが、うつ病が幼児期のワクチン接種による免疫原性を損なう可能性については知られていない。今回、米国・Laureate Institute for Brain ResearchのBart N. Ford氏らの研究の結果、青年期または成人期に大うつ病性障害(MDD)を発症した場合、ワクチンによる麻疹免疫が損なわれ、麻疹の感染リスクと重症度を高める可能性が示唆された。Psychological Medicine誌オンライン版2018年3月19日号に掲載。 本研究では、麻疹に対するIgG抗体を、固相免疫測定法で定量した。対象は、BDの64例(発症年齢:16.6±5.6)、現在MDD(cMDD)の85例(同:17.9±7.0)、MDD歴があるが寛解した(rMDD)82例(同:19.2±8.6)、比較対照群の非うつ病(HC)202例で、全員、米国で麻疹ワクチンが導入された1963年以降に生まれている。 主な結果は以下のとおり。・HC群と比較して、cMDD群およびrMDD群は、麻疹血清が陽性である可能性が低かった。 cMDD群 p=0.021、調整オッズ比:0.47、信頼区間:0.24~0.90 rMDD群 p=0.038、調整オッズ比:0.50、信頼区間:0.26~0.97・現在治療を受けているMDD患者は、未治療のMDD患者と比較して、罹病期間がより長く、麻疹血清が陽性である可能性が低かった。

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2020までに万全な髄膜炎菌感染症対策を

 2018年4月18日、サノフィ株式会社は、4月25日の「世界髄膜炎デー」に先立って、髄膜炎菌感染症診療に関するメディアセミナーを都内で開催した。本セミナーでは、「日本に潜む10代の髄膜炎菌感染症 アウトブレイクのリスク~海外・国内の感染事例と関連学会による対策変更~」をテーマに、髄膜炎菌感染症のオーストラリアでの疫学的状況と公衆衛生当局による対応、日本の置かれた現状と今後求められる備えなどが語られた。IMD発症後、20時間以内の診断が予後の分かれ目 髄膜炎は、細菌性と無菌性(ウイルス性が主)に大別される。なかでも細菌性髄膜炎は、症状が重篤なことで知られている。今回クローズアップした髄膜炎菌は、2018年現在、わが国での発症率は低いが、ワクチンの定期接種が行われているインフルエンザ菌b型(Hib)、肺炎球菌などと比較して感染力が強く、また症状が急激に悪化するので、対応の遅れが致命的な結果を招く恐れがある。 髄膜炎菌は、飛沫感染により鼻や喉、気管の粘膜などに感染し、感染者は無症状の「保菌」状態となる。日本人の保菌率は0.4%ほどだが、世界では3%とも言われており、19歳前後の青年期がピークとなる1)。保菌者の免疫低下など、さまざまな要因で髄膜炎菌が血液や髄液中に侵入して起こるのが、侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)である。 IMDは、感染して2~10日(平均4日)後、突発的に発症する。初期症状は風邪症状と類似し、発症後13~20時間ごろに皮下出血、傾眠、呼吸困難など(プライマリ診療では、これらの症状が高度医療機関へ転送の目安となる)が見られ、それ以降、意識障害、痙攣発作など急速に進行する。IMDでは、発症から24~48時間以内に患者の5~10%が死亡するという報告があり2)、回復した場合でも約10~20%の割合で難聴、神経障害、四肢切断など重篤な後遺症が残るという報告もある3)。海外での事例を参考に、先取りしたIMD対策を 本セミナーでは、はじめにロドニー・ピアース氏(MEDICAL HQ Family Clinic)が、オーストラリアにおけるIMDの状況などについて説明した。オーストラリアでは過去に壊滅的なIMDの流行があり、2003年にワクチンが導入され、2013年までは減少傾向が続いていた。しかし、近年、致命率の高い血清型に変化した可能性があり、2014年から再び発症報告が増加している。新しい型(W型)の集団感染は、イギリスを経由してオーストラリアにやってきたと考えられている。イギリスでは2015年8月に、青少年を対象に4価ワクチンの単回接種が導入され、1年目の結果、接種率が36.6%と低かったにもかかわらず、W型の感染例が69%減少したとの報告がある4)。 「IMD予防のためには、適切なワクチンを正しい時期に接種する必要がある」とピアース氏は語る。オーストラリアでは、州ごとに集団感染予防の対応を行っていたが、昨年から国での対応が開始され、2018年7月からは、全国プログラムが導入される予定である。同氏は、「IMDは命を脅かす疾患だが、ワクチンで防ぐことができる。日本でも、関連学会の推奨に基づき、10代はワクチン接種を行う必要がある」と締めくくった。オリンピック前に、IMDの流行対策が必要 次に、川上 一恵氏(かずえキッズクリニック 院長、東京都医師会 理事)が、IMDへの備えを語った。わが国では、IMDは感染症法により5類感染症に指定されているが、学生寮などで集団生活を送る10代の感染リスクについては、注意喚起に留まっている。現在の発症状況は年間30人前後と落ち着いているが、戦後1945年頃は年間患者数が4,000人を超えていた時期もあり、2014年に国内で流行したデング熱のように、再来する可能性も否めないと川上氏は指摘する。 IMDの迅速検査は現在未開発で、インフルエンザ検査後、血液検査でCRPの上昇を見て鑑別される方法が行われている。早期に気付き治療を施せば、抗菌薬は効果があると同氏は語る。しかし、特効薬はなく、耐性菌の出現により抗菌薬は使いづらいのが現状だ。このため、世界的にワクチン頼りの対策となっている。 医療従事者を含めて、IMDの重篤性、ワクチン接種に対する認知度が低く、発症リスク(年齢、密集した集団生活、海外の流行地域など)は十分に知られていない。また、適切に対応できる医師が少ない問題点が指摘された。同氏は、「2020年に迎える東京オリンピックを機にIMDが流行する恐れがある」と警告し、「疾患の啓発を進め、感染リスクが高い環境にある者はワクチンを接種すべき」と締めくくった。同氏のクリニックでは、髄膜炎菌に暴露する危険性を考慮し、スタッフ全員がワクチン接種を済ませているという。 4価髄膜炎菌ワクチン(商品名:メナクトラ筋注)は、日本では2015年に発売され、任意接種が可能である。在庫確保の都合上、希望者は、事前に医療機関にその旨を伝えるよう併せて説明が必要となる。■参考1)Christensen H, et al. Lancet Infect Dis. 2010;12:853-861.2)World Health Organization. Meningococcal meningitis Fact sheet No.141. 2012.3)Nancy E. Rosenstein, et al. N Engl J Med. 2001;344:1378-1388.4)Campbell H, et al. Emerg Infect Dis. 2017;23:1184-1187.

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迷ったら接種したい肺炎球菌ワクチン

 2018年4月3日、MSD株式会社は、肺炎予防に関するメディアセミナーを都内で開催した。セミナーでは、高齢者の肺炎の概要、ワクチン接種の動向などが語られた。肺炎死亡者の97.3%が65歳以上 セミナーでは、内藤 俊夫氏(順天堂大学医学部 総合診療科 教授)を講師に迎え、「超高齢社会における[まさか]に備えた肺炎予防~インフルエンザパンデミック、東日本大震災との関連から考察する~」をテーマに解説が行われた。 わが国の死因は、悪性新生物、心疾患に次いで、2010年頃より肺炎が第3位となり推移している。とくに肺炎による死亡者の97.3%が65歳以上ということから、今後もこの傾向は変わっていかないと予想されている(厚生労働省 人口動態統計[確定数]2016年より)。 肺炎は、主に細菌やウイルスが肺に侵入し起こる肺の炎症だが、高齢者や糖尿病などのリスクのある患者では、免疫力が弱いことから、重症化すれば死に至る疾患である。 肺炎を起こす主要な細菌は肺炎球菌で、「ウイルスか細菌感染かの鑑別は、臨床医の腕の見せどころであり、丁寧に診療してほしい」と内藤氏は語る。また、肺炎予防では、一般的に「マスク着用、手洗い、うがい」が行われているが、「歯磨きや誤嚥の防止など、口腔ケアも高齢者には大事だ」と指摘。さらに、規則正しい生活や禁煙、基礎疾患の治療のほか、「肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンのダブル接種が、肺炎予防には重要」と提案する。その理由として、インフルエンザに罹患し抵抗力が落ちた肺に、肺炎球菌が侵入することで肺炎を起こしやすくなり、予後を悪化させる、と説明する。接種率は20%から65%へ上昇 65歳以上の高齢者での肺炎球菌ワクチン接種率は、以前は20%程度だった(米国では63.6%[2015年NHIS調査])。理由としては、ワクチンへの無関心や接種へのアクセスの悪さが指摘されていた。そこで、2014年10月から国の施策により、65歳以上の高齢者への肺炎球菌ワクチンの定期予防接種が始まった。「これら公費の助成とワクチン接種率には密接な関係があり、ワクチン接種の普及に公費助成は重要な役割を果たした」と、同氏は語る。公費助成導入後の23価肺炎球菌ワクチンの推定全国接種率は、2018年3月末時点で約65%に上昇し、接種率の向上は実現した1,2)(総務省統計局政府統計[2012年10月1日現在]およびMSD社社内データより推定)。 そして、本年度が、定期接種の経過措置(65歳、70歳、75歳…と5歳刻みの年齢が接種対象者)の最終年度となり、2019年4月からは、65歳のみが定期接種の対象となる予定である。現行の制度は対象者にわかりにくく、接種を受けていない高齢者も多い。また、最初の時期に接種を受けた人は、あと1年で5年が経とうとしている。23価肺炎球菌ワクチンの免疫原性の効果は5年経つと弱まるとされ、来年以降、再接種を受ける必要性も専門家の間で示唆されているという。外来での働きかけが再接種成功の秘訣 「肺炎球菌ワクチンは、65歳を過ぎたら(糖尿病などのリスクの高い患者も含め)接種歴の有無にかかわらず、なるべく受けることをお勧めする」と同氏は語る。そのため医療者側でも接種の有無を外来で必ず聞いたり、電子カルテに記録の項目を設置したりすることが重要だという。また、「(患者へは)1年を通じていつでも接種できることを伝え、(1)定期接種の案内が来た時、(2)初診時、(3)健康診断時、(4)退院時、(5)インフルエンザワクチン接種時など、5つのタイミングで医師などに相談するように指導することが必要」と提案する。 最後に同氏は、「肺炎球菌ワクチンは特別なものではなく、普段からの接種が大事。医療者には対象者を、早く接種するように促し、接種する気になるようにして指導してもらいたい」と要望を語り、レクチャーを終えた。■参考文献1)Naito T, et al. J Infect Chemother. 2014;20:450-453.2)Naito T, et al. J Infect Chemother. 2018 Feb 1. [Epub ahead of print]■参考厚生労働省 肺炎球菌感染症(高齢者):定期接種のお知らせ肺炎予防.JP

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市中肺炎の高齢者、再入院しやすい患者は?

 市中肺炎(CAP)で入院した患者では、複数の併存疾患を有する高齢者において再入院が多く、臨床的および経済的負担が生じる。スペインのProject FIS PI12/02079 Working Groupが横断研究を行ったところ、65歳以上のCAP患者の11.39%が退院後30日以内に再入院し、その関連因子として「15歳未満の同居者あり」「発症前90日に病院受診が3回以上」「慢性呼吸不全」「心不全」「慢性肝疾患」「退院先が在宅医療サービスのある自宅」が挙げられた。BMJ open誌2018年3月30日号に掲載。 本研究は、2回のインフルエンザシーズン(2013~14年および2014~15年)にスペインの7地域20病院の入院患者において実施した。対象は、CAPと診断され救急部から入院した65歳以上の患者で、初回入院時に死亡した患者と30日以上入院した患者は除外した。最終的に1,756例のCAP症例が含まれ、これらのうち200例(11.39%)が再入院した。主要アウトカムは退院後30日以内の再入院とした。 主な結果は以下のとおり。・退院後30日以内の再入院に関連した因子の調整オッズ比(95%信頼区間)  15歳未満の同居者あり:2.10(1.01~4.41)  発症前90日に病院受診が3回以上:1.53(1.01~2.34)  慢性呼吸不全:1.74(1.24~2.45)  心不全:1.69(1.21~2.35)  慢性肝疾患:2.27(1.20~4.31)  退院先が在宅医療サービスのある自宅:5.61(1.70~18.50)・年齢、性別、入院前5年間での肺炎球菌ワクチン接種、入院前3シーズンでの季節性インフルエンザワクチン接種との関連はみられなかった。

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ジカウイルスワクチン、初期結果は有望/Lancet

 ジカウイルス感染の予防では、安全かつ有効で、急速な感染拡大にも対応できるワクチンが求められている。米国・ウォルター・リード陸軍研究所(WRAIR)のKayvon Modjarrad氏らは、精製ホルマリン不活化ジカウイルスワクチン(ZPIV)候補の開発を進めており、今回、第I相試験の初期結果をLancet誌2018年2月10日号で報告した。健常成人で安全性を評価 研究グループは、ヒトを対象に、アジュバント(水酸化アルミニウム)添加ZPIVに関する二重盲検プラセボ対照第I相試験を3施設で実施し、統合解析を行った。本試験は米国陸軍省、国防総省、国立アレルギー・感染症研究所の助成を受け、これらの資金提供者は試験のデザインと運営、データの収集、解析、解釈および論文の執筆に関与した。 試験は、WRAIR、セントルイス大学(SLU)、ベス・イスラエル・ディコネス医療センター(BIDMC)で行われた。対象は18~49歳の健常成人で、ZPIV(5μg)またはプラセボ(生食)を投与する群に、WRAIRでは4対1、SLUとBIDMCでは5対1の割合でランダムに割り付けられ、試験1日目および29日目に接種(筋肉注射)された。 主要評価項目はZPIVの安全性および免疫原性とし、57日までに発現した有害事象およびジカウイルス・エンベロープのマイクロ中和抗体価を評価した。良好な忍容性と免疫原性を確認 2016年11月7日~2017年1月25日の期間に、3施設で68例が登録され、67例(ZPIV群:55例、対照群:12例)が実際に投与を受けた。年齢は平均31.5歳(SD 8.9)、中央値29歳(範囲:18~49)で、35例(52%)が男性であった。 ワクチン関連の有害事象のほとんどが軽度~中等度であった。とくに注目すべき神経学的または神経炎症性の有害事象や、ワクチン関連の重篤な有害事象、試験中止を誘導する他の有害事象は認めなかった。 56例(84%)で、1つ以上の有害事象が発現した。最も頻度の高い局所有害事象は接種部位の疼痛(40例、60%)および圧痛(32例、47%)であり、全身反応原性有害事象は疲労(29例、43%)、頭痛(26例、39%)、不快感(15例、22%)であった。 57日までに、ZPIV群の52例中48例(92%)で抗体価が陽転した(マイクロ中和抗体価≧1:10)。陽転の閾値をマイクロ中和抗体価≧1:100とすると、40例(77%)に陽転が認められた。幾何平均抗体価(GMT)のピーク値は43日目にみられた。 著者は、「ZPIVは、健常成人において良好な忍容性と免疫原性を示した」とまとめ、「これらの結果と既存の知見を合わせると、不活化というプラットフォームは、ワクチン開発の進展に寄与する候補であると示唆される」としている。

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イスラム圏の健康状態、国家間格差の要因は?/Lancet

 乳幼児と妊産婦の健康改善を目標とした、ミレニアム開発目標(MDG)の項目4および5の推進は、世界的には大きな成果をもたらした。しかし、南アジア・中東・アフリカの多くのイスラム国家では、遅れをとっていることも明らかになっている。カナダ・トロント小児病院のNadia Akseer氏らは、イスラム国家間における、生殖や妊産婦・新生児・小児・青少年の健康状態および、その進展状況を評価する検討を行った。その結果、国家間の格差が認められ、そうした格差に関して、地域性や慣習の影響は認められなかったという。Lancet誌オンライン版2018年1月30日号掲載の報告。47のイスラム国家について調査 検討でとくに目的としたのは、イスラム国家における生殖や妊産婦・新生児・小児・青少年の健康状態および、それらの進展の現状と、開発が進んでいる先進イスラム国家における小児生存の決定因子を明らかにすることであった。そのために、イスラム国家と非イスラム国家の健康におけるアウトカムの差とキー決定因子を探るとともに、MDG4/5の達成程度(最良/不良/中程度)が異なるイスラム国家間の公的医療サービスのカバー率および決定因子を調べた。 具体的には、1990~2015年の複数の公表データ・レポジトリを基に、47のイスラム国家について調査した。そのうち26ヵ国が、Countdown to 2015 countriesと呼ばれるMDG4/5介入の最優先対象国(計75ヵ国)であった。これら26ヵ国について、非イスラムのCountdown国家48ヵ国と比較した。また、MDG4を達成するなど、小児生存率が大きく改善した、最も達成度が高かった8ヵ国の特徴も調べた。 青少年、妊産婦、5歳未満児、新生児の死亡率、死産率、死因別死亡、基本的な医療サービスのカバー率、決定因子の推算は、標準的手法を用いて行われた。 また、低所得および中所得のイスラム国家における、5歳未満児の死亡率と新生児の死亡率の決定因子について、階層的多変量解析も行った。貧しい国でも健康アウトカムの進展がみられる 1990~2015年の死亡率は、世界的には顕著な減少がみられたにもかかわらず、イスラム国家では全世界の推計値と比較して高く、Countdown国家間(イスラム国家と非イスラム国家)の比較においても高かった。基本的な公共医療サービスのカバー率も平均以下で、とくにリプロダクティブ・ヘルス、妊婦管理、出産・分娩、小児ワクチンの指標が低かった。 イスラム国家間において、死亡率および、生殖、妊産婦、新生児、小児、青少年に関する多数の健康アウトカム指標で、かなりのばらつきがあることが認められた。Countdown国家間の比較においては、構造的因子およびコンテキスト因子のうち、とくにガバナンス、コンフリクト、女性・少女のエンパワメント指標が、非イスラム国家と比較してイスラム国家では有意に不良であった。また、それらと小児・新生児の死亡率には、低所得および中所得のイスラム国家では強い関連性が認められた。 調整後の階層的モデルにおいて、その他の因子に関しても有意な関連性が認められている。イスラム国家における5歳未満児の死亡率は、難民の発生状況が高い国では上昇しているが(β=23.67、p=0.0116)、政情が安定しテロのない国(β=-0.99、p=0.0285)、政治力が強く政府が機能している国(β=-1.17、p<0.0001)、1人当たりの国民総所得が改善している国(β=-4.44、p<0.0001)、成人のリテラシーが高い国(β=-1.69、p<0.0001)、成人女性のリテラシーが高い国(β=-0.97、p<0.0001)、中等教育への進学者が男子よりも女子が多い国(β=-16.1、p<0.0001)においては低かった。 最良のパフォーマンスを示したイスラム国家は、アゼルバイジャン、バングラデシュ、エジプト、インドネシア、キルギス、モロッコ、ニジェール、セネガルで、パフォーマンスが中程度または不良のイスラム国家と比べて、家族計画介入や新生児あるいは小児のワクチン接種のカバー率が高く、またコンテキスト因子の大半で優れていた。 結果について著者は、「ニジェールやバングラデシュのように、貧困国でも進展がみられた」と指摘し、「今回の検討から得られたキー所見を政策やプログラムに適用し、統治者や政策立案者、開発パートナー、資金提供者、イスラム協力機構(Organization of the Islamic Cooperation)が優先的な割り当てを行うことで、2015年以降のイスラム国家の健康アウトカムのスケールアップおよび改善が可能になるだろう」とまとめている。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第42回

第42回:水痘/帯状疱疹、50歳以上にワクチン接種勧めますか?監修:表題翻訳プロジェクト監訳チーム 今回のテーマは水痘/帯状疱疹です。日本では2014(平成26)年10月から水痘ワクチンが定期接種化(生後12~36ヵ月)されています。先日も6歳の子が水痘で受診されましたが、接種していなくて未発症の姉は予防接種すべきか、担がん患者の祖母は接種したほうがよいか、非常に迷いました(50歳以上の接種で帯状疱疹を予防するエビデンスあり)。身近な問題ながら、わからないことが多いのが、水痘/帯状疱疹です。 以下、Am Fam Physician.11月15日号1)より帯状疱疹は、水痘ウイルスの再活性化(reactivation)で発症する。米国では年間100万人発症し、その人が生涯発症するリスクは30%程度とされている。家庭医の診療ベースでは、人口1,500人当たりで年間2~3例が発症し、体液性免疫が低下している人に関しては、そのリスクが20~100倍まで跳ね上がる。発疹の2~3日前に、全身倦怠感、頭痛、発熱、腹部の皮膚の違和感があるが、前駆症状だけで診断するのはかなり困難である。発疹は片側性に、1つのデルマトームに限局することが多く、水疱は7~10日で痂皮化する。72時間以内の抗ウイルス薬投与が勧められるが、新しい病変が発生する場合や、眼病変、神経症状が出る場合はその限りではない。アシクロビルにするか、バラシクロビル(商品名:バルトレックス)にするか迷うところである。アシクロビルは安価だが生体利用率が低く、投与回数も多い(3回と5回)。また、6ヵ月後の皮膚病変については差がないが、神経痛の改善はバラシクロビルのほうが早いと言われている2)。帯状疱疹後神経痛は5人に1人の割合で発症し、治療法はリドカイン、カプサイシン、ガバペンチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬がある。50歳以上の人に水痘ワクチンを接種することは、帯状疱疹の減少につながる可能性がある(ちなみに抗体価を測って接種の可否を決める必要はない。年齢要件があれば、既往や抗体価の有無に関わらず適応がある)。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Saguil A, et al. Am Fam Physician. 2017;96:656-663. 2) Beutner KR, et al .Antimicrob Agents Chemother. 1995;39:1546-1553.

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魔法のパッチで子供の注射の怖さを軽減

 2017年12月5日、佐藤製薬株式会社は、外用局所麻酔剤のリドカイン・プロピトカイン配合貼付剤(商品名:エムラパッチ)の発売を前に、「注射の痛みに我慢は必要ですか?」をテーマとしたメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、「痛み」の概要と小児の痛みのケアについてディスカッションが行われた。なお、同貼付剤は12月13日に発売された(薬価251.60円/1枚)。子供のころの痛みは記憶として大きくなる はじめに同社代表取締役社長の佐藤 誠一氏があいさつし、医薬マーケティング部による製品説明の後、基調講演が行われた。 基調講演では、加藤 実氏(日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野 診療教授)が、「その『医療の痛み』は本当に必要ですか?~痛みが無くなっても痛みの影響は終わらない~」をテーマに、主に小児における「痛み」の診療について現状や課題を語った。 痛みとは、組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか、このような傷害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚、情動体験と定義される。それは主観的な体験であり、患者本人にしかわからない。しかし痛みは、たとえば手術前の麻酔のように、予防することもできる。それにもかかわらず、1980年代までは新生児や小児への痛みの対応はなおざりだったという。 それは、新生児は痛みを感じにくいと思われていたからであり、1980年代後半に報告された論文以降、大きく変化した。すなわち新生児は、痛みの抑制系が未発達ゆえに痛みを感じやすく、新生児の外科的処置時には、成人同様、局所麻酔薬や全身麻酔薬を使用し、減量および中止も成人と同じ基準で行うべきという考えに変化した1)。 さらに小児期での痛みの体験は、一時的なものではなく成長後にも影響を与え、中枢性感作、不安・恐怖など記憶を介した認知を獲得する。たとえば、小児期の機能的な腹痛は、成人後の慢性痛リスクを増加させるという報告もあるという2)。局所麻酔を行い、痛みを中枢神経に伝えないようにすることは、痛みや恐怖から脳を守ることにつながると同氏は説明する。小児の痛みをマネジメントする時代へ 小児の痛みの予防について、まず小児が怖がる痛みの代表に、予防接種、採血、点滴などの注射が挙げられる。現在わが国では、こうした痛みを医療者も患者も「仕方がない」「一時的」「我慢できる」などの理由で、まだ看過しているのが現状だと、加藤氏は問題を指摘する。一方、欧米では、先述の理由から積極的に痛みのマネジメントについて取り組みが行われ、たとえばカナダでは「小児のためのワクチン摂取の痛みのマネジメント(Pain Management During Immunizations for Children)」が作成され、ガイドラインによって痛みの軽減が図られている3)。また、世界保健機関(WHO)も「ワクチン接種時の痛みの軽減についての提言」を2015年に発表するなど、世界的な動きが示されている。 加藤氏は講演のまとめとして、「小児の医療における痛みへの対応が向上するには時間がかかるかもしれないが、防げる痛みを防ぎ、子供を痛みから守る医療を一緒に目指そう」と、小児医療に関わる人々へ向け抱負を述べた。痛みの軽減だけではない患児へのメリット 引き続き、「子どもたちが怖がらずに済む医療へ」をテーマに、先の演者の加藤氏に加え、富澤 大輔氏(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 血液腫瘍科 医長)、平田 美佳氏(聖路加国際病院 小児総合医療センター 小児看護専門看護師)によるディスカッションが行われた。 「小児期の疼痛対策の必要性」について、医療者だけでなく患児の親も持つ「痛みは仕方がない」という思い込みから、ケアがされていない現状であるという。わが国は我慢の文化であり、薬も使わない、痛みの弊害に目が向けられない状態が続いている。海外(英国)を例に平田氏は、「10年以上前から子供の痛みのケアが行われ、エムラクリームのような局所麻酔クリームを日常的に使用し、子供たちの間では『マジック・クリーム』の愛称で親しまれ、注射などの処置の前に塗布する習慣ができていた」と説明した。また、「病院での工夫」としては、「患児の疑問に答え、希望に沿うようにしているほか、事前におもちゃの注射器を見せて、準備をさせることも不安軽減に大事だと考えている。注射などの際は、患児の集中力を分散させる環境作りや処置後のフォローを行い、ケースによっては、エムラクリームなどの情報提供をしている」と同氏は付け加えた。 次に、「小児がんの治療の現場」を富澤氏が語った。「診療の中で、患児に痛みを伴う検査や治療が多いのが現状。痛みへのケアがないと、患児は診療に消極的になってしまうので、親を良いサポーターにする努力が医療者側には必要であり、同時に痛みに対する親の意識を変える必要性もある。注射への配慮としては、不必要な検査は避け、患児に痛みを除く方法もあることを説明しておく必要がある。急性リンパ性白血病(ALL)でのエムラクリームを使用したコントロール研究では、局所麻酔下だと患児の動きがなく、心拍数も変わらないという報告もある4)。これは大事な点で、ALL治療の予後にも影響することなので、治療時の患児の動きを抑えることは重要だと考える」と、同氏は実臨床をもとに説明した。患児の痛みのケアには医療者と社会の認知が必要 最後に、各演者が医療者へのメッセージを述べた。平田氏は「血友病の患児がエムラクリームのおかげで、治療を在宅で行えるようになり、表情が明るくなった。患児の感じる痛みを今後もマネジメントしていきたい」と事例を挙げて語り、富澤氏は「小児科は比較的患児の痛みケアが進んでいる分野だが、一般的に多くの医療者は患児の痛みのケアやこうした製剤を知らない。患児の親が医療者に適用を依頼するケースもあり、わが国も欧米並みに知識の普及と診療使用を考え、実践する必要がある」と見解を述べた。 最後に加藤氏は、「痛みをなくすには、体と心の両方の治療が必要で、エムラクリームのように痛みを軽減するツールがあるのに使われていないのが問題。医師への啓発だけではなく、いかに一般社会に広く浸透させるかが今後の課題」と問題を提起し、ディスカッションを終えた。■参考佐藤製薬株式会社 ニュースリリース「エムラパッチ」新発売のご案内(PDF)

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