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Pfizer社のCOVID-19ワクチン候補、第I相試験結果/NEJM

 BioNTechとPfizerが共同で開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する2つのmRNAワクチン候補「BNT162b1」「BNT162b2」について、米国・ロチェスター大学のEdward E. Walsh氏らによる第I相プラセボ対照試験の結果が発表された。米国の若年成人(18~55歳)群と高齢者(65~85歳)群を対象とした評価者盲検用量漸増評価試験で、BNT162b2がBNT162b1に比べ安全性・免疫原性について優れる結果が得られたという。若年成人へのBNT162b1についてはすでに、ドイツと米国での試験結果が報告されており、同試験および今回の試験結果を踏まえて著者は、「BNT162b2を第IIおよび第III相の安全性・有効性評価試験を検討するワクチン候補として支持される結果が得られた」とまとめている。NEJM誌オンライン版2020年10月14日号掲載の報告。BNT162b1の100μgのみ1回投与、その他は21日間隔で2回投与 研究グループは、脂質ナノ粒子製剤・修飾ヌクレオシドmRNAワクチン候補「BNT162b1」「BNT162b2」について米国で行われている、第I相のプラセボ対照用量漸増評価者盲検試験において、健康な若年成人(18~55歳)と高齢者(65~85歳)を対象に評価を行った。BNT162b1は、分泌された三重体SARS-CoV-2受容体結合ドメインをエンコードし、BNT162b2は膜結合型のSARS-CoV-2のスパイク糖蛋白全長をエンコードする作用がある。 被験者は、BNT162b1群とBNT162b2群、年齢(若年成人と高齢者)、投与量(10μg、20μg、30μg、100μg)別に13のグループ(100μgはBNT162b1の若年成人のみ投与)に分けられ、BNT162b1の100μg群には1回投与、それ以外の群には21日間隔で2回の投与が行われた。 主要アウトカムは、局所または全身性反応や有害事象などの安全性だった。副次アウトカムは免疫原性だった。両ワクチン候補群ともに回復患者より同等以上の幾何平均抗体価を誘発 合計195例が無作為化を受けた。13グループに各15例が割り付けられ、15例中12例に実薬が投与、残り3例にプラセボを投与した。 BNT162b2はBNT162b1に比べ、全身性反応の発生率と重症度が低かった。その傾向は、とくに高齢者で顕著だった。 両年齢グループにおいて、BNT162b2およびBNT162b1ともに、投与量依存性のSARS-CoV-2中和抗体の幾何平均抗体価が誘発された。同値は、SARS-CoV-2感染回復期の患者の血清パネル幾何平均抗体価と、同等かより高かった。

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COVID-19、集団免疫への依存は「科学的根拠のない危険な誤り」/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡っては、いまだ世界規模で収束へのめどが立たないなか、Lancet誌オンライン版2020年10月14日号において欧米の専門家80人が連名でCORRESPONDENCEを発表。重症化しにくい若年者などの感染・伝播による集団免疫を期待する考えは「科学的根拠のない危険な誤り」であるとし、現段階ではCOVID-19の感染制御こそが社会や経済を守る最善策であると訴えている。集団免疫支持者の考えは科学的根拠による裏付けがないWHOの報告によると、SARS-CoV-2は世界中でこれまでに3,500万人以上が感染し、100万人超の死亡が確認されている。国や地域によっては、第2波の感染拡大を受けて再び非常事態宣言を出すなど、差し迫った事態に直面している。今回発表された書簡では、こうした状況下において、集団免疫への新たな関心が生まれていると指摘。集団免疫支持者は、若年者など低リスク集団における感染獲得によって集団免疫の発達につながり、最終的には基礎疾患を有する人や高齢者などを保護することになると示唆しているという。 しかし、専門家らは集団免疫支持者の考えは「科学的根拠による裏付けのない危険な誤り」であり、「COVID-19への自然感染による免疫に依存するパンデミック管理戦略には欠陥がある」と断じている。その理由として、若年者らへの感染拡大により、全人口に対する罹患・死亡リスクが生じること、労働力全体への影響、急性期およびかかりつけ医療機関をひっ迫させることなどを挙げている。さらに、現段階ではSARS-CoV-2自然感染後の抗体の持続期間は不明である点も指摘している。 一方で、日本をはじめ、ベトナムやニュージーランドを例に挙げ、「強力な公衆衛生対応により感染が制御され、生活をほぼ正常に戻すことができることを示している」とし、「安全で効果的なワクチンと治療法に今後数ヵ月以内に到達するまでは、COVID-19の感染制御が社会と経済を保護するための最良の方法である」と述べ、科学的根拠に基づいた行動を求めている。

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4価HPVワクチン、浸潤性子宮頸がんリスクを大幅に低減/NEJM

 スウェーデンの10~30歳の女児および女性は、4価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種により、浸潤性子宮頸がんのリスクが大幅に低く、同リスクは接種開始年齢が若いほど低いことが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のJiayao Lei氏らの調査で明らかとなった。研究の詳細は、NEJM誌2020年10月1日号に掲載された。これまでに、子宮頸部高度異形成(Grade2または3の子宮頸部上皮内腫瘍[CIN2+、CIN3+])の予防における4価HPVワクチンの効能と効果が確認されている。一方、4価HPVワクチン接種と接種後の浸潤性子宮頸がんリスクとの関連を示すデータはなかったという。全国的な登録データを用いたコホート研究 研究グループは、スウェーデンの全国的な登録データを用い、HPVワクチンと浸潤性子宮頸がんリスクの関連を評価するコホート研究を行った(スウェーデン戦略研究財団などの助成による)。 解析には、2006~17年に経時的に登録された10~30歳の女児および女性の集団(167万2,983人:4価HPVワクチンを少なくとも1回接種した群52万7,871人、非接種群114万5,112人)のデータが含まれた。 子宮頸がんの発生は、31歳の誕生日を迎えるまで評価が行われた。フォローアップ時の年齢、暦年、居住県、親の因子(学歴、世帯所得、母親の出生国、母親の病歴など)で調整したうえで、HPVワクチン接種と浸潤性子宮頸がんのリスクとの関連を評価した。83.2%が17歳以前に接種開始 ワクチン接種群のうち、43万8,939人(83.2%)が17歳になる前に初回の接種を受けていた。研究の期間中に、ワクチン接種群で19人、非接種群では538人が子宮頸がんの診断を受けた。 30歳までの子宮頸がんの累積発生率は、ワクチン接種群の女性では10万人当たり47件であり、非接種群では10万人当たり94件であった。17~30歳の間にワクチン接種を開始した女性では、30歳までの子宮頸がんの累積発生率は10万人当たり54件、17歳になる前に接種を開始した女性では、28歳までの子宮頸がんの累積発生率は10万人当たり4件であった。 フォローアップ時の年齢で補正すると、ワクチン接種群の非接種群に対する発生率比は0.51(95%信頼区間[CI]:0.32~0.82)であった。さらに暦年と居住県、親の因子を加えて補正すると、発生率比は0.37(0.21~0.57)となった。 すべての共変量で補正した場合の発生率比は、ワクチン接種を17歳になる前に受けた女性で0.12(95%CI:0.00~0.34)、17~30歳で受けた女性では0.47(0.27~0.75)であった。また、20歳になる前にワクチン接種を受けた女性は0.36(0.18~0.61)、20~30歳で受けた女性は0.38(0.12~0.72)だった。 著者は、「4価HPVワクチン接種は、HPVワクチン接種プログラムの最終的な目的である浸潤性子宮頸がんのリスク低減を達成した」とし、「これらの結果は、ワクチン接種は既存のHPV感染症に対する治療効果はないため、最大の効果を得るには、HPV感染症への曝露前における4価HPVワクチンの接種を推奨する見解を支持するものである」と指摘している。

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内科医も知っておきたい小児感染症の特殊性/日本感染症学会

 2020年8月に現地とオンラインのハイブリッド方式で開催された日本感染症学会学術講演会において、名古屋大学医学部附属病院の手塚 宜行氏(中央感染制御部)が「内科医も知っておきたい小児感染症の特殊性」とのテーマで発表を行った。 手塚氏によると、小児感染症が成人と異なる事項は、以下の4点に集約される。1)年齢(月齢)によってかかる病気が変わる2)ウイルス感染症が多い 3)検体採取が困難なケースが多い4)病勢の進行が速い さらに小児感染症を診るときのチェックリストとして使う「R(A)IMS」という概念を紹介。これは以下の4つの視点から診療するという考え方だ。・R(Risk):基礎疾患の有無・I(Infected organ):感染臓器・M(Microbiology):原因微生物・S(Severity):重症度年齢月齢による違いは非常に大きい 小児感染症のリスク判断基準において、基礎疾患の有無が重要となるのは成人と同様だが、小児特有なのが月齢年齢差による違いだ。例として1998~2007年の米国コホート研究による細菌性髄膜炎の起炎菌についての研究では、新生児ではGBS(B群溶血性連鎖球菌)が多いが、1~3カ月児では腸内細菌科細菌が増え、3カ月~3歳児では肺炎球菌の割合が高くなり、3歳~10歳児以上では大半が肺炎球菌になるなど、年齢に応じて起炎菌の発生頻度が劇的に変化することを紹介した。また、「1年に2回以上肺炎にかかる」「気管支拡張症を発症する」など10のワーニングサインにあてはまるときは、原発性免疫不全症が隠れている可能性があるため、注意して診察する必要がある。本人からの病歴聴取が困難なケースも 感染臓器については、病歴聴取と身体診察から推定する流れは成人と変わらないものの、本人から病歴聴取できないことが多い点、家族や保育園からの感染が多くSick contactの把握が非常に重要となる点が成人と異なり、母子手帳から予防接種歴や育児環境情報を把握することが肝要とした。身体診察においても本人が症状を訴えられないことが多いため、保護者の協力を得ることが大切となり、小児に特徴的な部位である大泉門・小泉門などから重要な所見が得られることも多いという。 さらに、小児で見つけにくい感染臓器としては、尿路感染症、固形臓器の膿瘍(急性巣状性細菌性腎炎など)、関節炎・骨髄炎(とくに乳児)、髄膜炎・脳膿瘍(とくに新生児・乳児)、副鼻腔炎、潜在性菌血症などがあり、こうした疾患は兆候から見つけることは難しく、「見つけに行く」姿勢で診察することが重要とした。中でも潜在性菌血症は成人ではほぼ見られないが、結合型ワクチン導入前は、生後3~36カ月の小児における局所的異常のない原因不明の39度以上の発熱がある症例の約3~5%に認められており、無治療の場合は髄膜炎に至る可能性もある。ワクチン導入後の症例数は減っているものの、可能性は頭に入れておくべきという。ウイルス由来が大半だが、注意すべき細菌も 小児疾患はウイルス由来が多いが、日本がほかの先進国に比べてワクチン導入が遅れるという、いわゆる「ワクチンギャップ」は解消されつつあり、多くの小児感染症がワクチンによって感染・重症化予防できることが実証されつつある。小児感染症で注意すべき細菌は多くはないが、肺炎球菌とインフルエンザ菌は成人と比べて想定頻度が極めて高く、百日咳菌は新生児・乳児において重症化し、致死的な場合もあるので注意が必要だという。一方、クロストリディオイデス・ディフィシル菌は、小児の場合には保菌しても発症しないことが多く、多くの場合検査も不要だ。重症化はバイタルサインよりも「見た目」重視で 重症度に関しては、小児のバイタルサインは月齢年齢での変化が大きく、正常値の幅も大きいため、外観や皮膚の色、呼吸といった「見た目」を重視すべきという。 手塚氏は「感染症診療の原則である『感染臓器・原因微生物・抗菌薬をセットで考える』ことは小児でも成人でも同じ。あとはここで紹介した小児特有の事項さえ抑えておけば、内科の先生でも問題なく診察できるはず」とまとめた。

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COVID-19は素早く見つけて包囲し対処/日本感染症学会

 第94回日本感染症学会総会・学術講演会(会長:館田 一博氏[東邦大学医学部 教授])が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下、8月19日~21日の期日でインターネット配信との併用で東京にて開催された。 今回のテーマは、「感染症学の新時代を切り拓く-“探求する心”を誇りとして-」。学術集会では、特別講演に大隅 良典氏(東京工業大学)、満屋 裕明氏(国立国際医療研究センター)などの講演のほか、招請講演として学会の国際化がさらに前進することを期待し欧米の著名な感染症、ワクチンの専門家が講演者に迎えられた。基調・教育講演でも学際的な交流の活性化を目的にさまざまな臨床領域の講師が登壇した。 本稿では、尾身 茂氏(独立行政法人地域医療機能推進機構 理事長)の基調講演の概要をお届けする。 尾身氏は、現在政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」のメンバーとして、わが国のCOVID-19対策の政策立案の一翼を担っており、講演では「withコロナの時代に私達がどう考え、どう行動すればよいか」をテーマに、第一波後の社会、生活の変遷と今後の展望について語った。感染拡大の要因は「3密、大声の会話、不十分な対策」 はじめに、「3月末~4月の爆発的感染拡大および医療崩壊を辛くも回避できたのは、緊急事態宣言前後の市民の協力、医療関係者および保健所関係者の多大な努力の成果」と述べ、これまでの総括を語った。 緊急事態宣言解除後の感染拡大の主な原因は、「東京の接待を伴う飲食店の利用者などから家庭、病院、職場などで広がったと考えられ、その共通する要因として『3密』、『大声の会話』、『不十分な感染対策』が指摘され、これらは3月の流行時にわかっていたことであり、あらためて確認された」と説明した。感染対策は「後の先(ごのせん)」で抑える 次にこれまでの経過でわかったことを振り返り、「クラスターが発生しても早急に対応できた場合は早く収束できること」、「マスクの着用など対策をすれば街歩きなどでの感染リスクは極めて低いと考えられること(ただしゼロではない)」、「高齢者やとくに基礎疾患のある人は感染すると重症化しやすいこと」、「治療の手順が確立されつつあること」の4点を挙げた。 そして、尾身氏は「COVID-19に対する不安にどう対処するか」という課題に対し、私案としつつ「COVID-19の感染リスクをゼロにすることが難しい以上、先述の感染リスクを避ける行動をした上で、もしクラスターがみつかっても、それを怖がるのではなく、『クラスターが制御できること=安心』と考える意識改革が必要」と提言した。また、感染者への「差別」についても触れ、「社会的に排除すれば、かえって感染症の実態を見え難くさせ、対策を後手に回らせてしまう可能性がある」と警鐘を鳴らした。そこで、COVID-19の拡大に先手を打つには、感染者を排除するのではなく、「感染が起こった事例を教訓として、その教訓を広く社会で共有し、次の感染に備えるということが求められる」と述べた。また、尾身氏は、剣道用語の「後の先」という言葉を使い、感染対策としては「相手をコントロールして、動かせて、抑えることが重要」と強調した。すなわち、常時緊張を強いられる100%の予防やリスクゼロの社会を目指すのではなく、「起こった事例から学び、次の発生やクラスターを抑えるような気構えや仕組みを社会で共有することで、安心感を醸成することができる」と説明した。国は医療機関、保健機関へ支援の充実を 緊急事態宣言発出前後、宣言解除から現在まで医療機関および保健所の負荷が、感染対策上の重要課題と尾身氏は指摘するとともに、今後も全国的に収束と新たなクラスター発生を繰り返すと予想を示した。 また、最後に私案として国へのお願いとして、(1)迅速な医療機関、保健所への効率的かつ効果的な人的、財政的支援(2)接待をともなう業種・地域に対して、都道府県などと協力し、検査体制を含めサポートする仕組みの早急な確立の2点を示し、講演を終えた。

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Moderna社のコロナワクチン、高齢者に安全・有効か/NEJM

 米国・国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)とModerna(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)が共同で開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)mRNAワクチン「mRNA-1273」について、56歳以上の高齢者を対象にした第I相臨床試験の結果が明らかにされた。米国・エモリー大学のEvan J. Anderson氏らによる検討で、主な有害事象は軽度~中等度であり、2回接種後全例で中和抗体が検出。抗体結合・中和抗体力価は100μg用量群が25μg用量群よりも高値であることが示された。mRNA-1273については、すでに18~55歳を対象にした第I相臨床試験で安全性と被験者全例で中和抗体が検出されたことが報告されている。今回の結果を踏まえて著者は、「第III相臨床試験では100μg用量を用いることが支持された」と述べている。NEJM誌オンライン版2020年9月29日号掲載の報告。25μgまたは100μgを28日間隔で2回投与 研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の疾患発症と死亡の増加が高齢者で多く認められることから、高齢者でウイルス感染を予防するワクチン候補の検討が重要であるとして本試験を行った。 試験は第I相の用量漸増非盲検試験。検討したmRNA-1273は、健康な成人の安定化融合前SARS-CoV-2スパイクタンパク質(S-2P)をエンコードする。 試験は高齢者40例を包含するよう拡大され、また被験者は年齢群(56~70歳または71歳以上)で層別化された。全被験者は28日間隔で、25μgまたは100μgの2つの用量のワクチンを順次接種されるよう割り付けられた。抗S-2P GMT、100μg群は25μg群よりも高値 試験期間中の有害事象は、主に軽度~中等度で、疲労感、寒気、頭痛、筋肉痛、注射部位の痛みなどの頻度が高かった。こうした有害事象は用量依存に認められ、2回目の接種後に発生率が高かった。 結合抗体反応は、初回接種後に急激に増大した。25μg群では、57日までの抗S-2P幾何平均抗体価(GMT)が、56~70歳群で32万3,945、71歳以上で112万8,391だった。また、100μg群のGMTはそれぞれ、118万3,066と363万8,522だった。 2回目を接種後、複数の方法によって全被験者で血清中和抗体が検出された。 結合抗体反応や中和抗体反応は、すでに公表された18~55歳を対象に行った試験結果と類似しており、また、回復患者の血清を用いた血清療法を受けた対照群の同中央値を上回っていた。なおワクチンは、1型ヘルパーT細胞が関与する強力なCD4サイトカイン反応を誘発したことが認められた。

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第27回 トランプ大統領に抗体カクテル投与 その意味と懸念

トランプ入院、世界の医療現場にも影響こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末は、高尾山にハイキングに行って来ました。599mの低山ですが、NHKの人気番組「ブラタモリ」でも紹介された東京有数の観光地です。たまたま先週の「ブラタモリ」は「日本の山スペシャル」で、2016年放送の高尾山の回のダイジェストを放送していたのですが、こうした番組を観ても実際に登っても、その魅力がよくわからない不思議な山です。いつもとても混んでいますが、先週も激混みで、登山道は夏の富士山並みに長い行列ができていました。印象的だったのは高齢者(60~70代)の登山者が目立っていたことです。コロナ禍で、北アルプスや南アルプス、あるいは八ヶ岳や奥秩父といった山は高齢者登山者が激減しています。勢い、日帰りで登れる高尾山などの低山の人気が高まっているようです。しかし、標高599mと言っても山は山。谷沿いの6号路などは足を踏み外すと危ない場所もあります。高齢者は山での事故率が高く、今後、高尾山での遭難や事故が増えそうで心配です。さて、今回は日本の医療現場から少し離れ、世界の医療現場にも影響を及ぼしかねない、米国のドナルド・トランプ大統領が新型コロナウイルス感染で受けたとされる治療法について、少し考えてみたいと思います。「コンパッショネート・ユース」で未承認の抗体医薬投与トランプ米大統領は2日未明(現地時間)にツイッターで、自分自身とメラニア夫人が新型ウイルス陽性となったことを発表。同日に、首都ワシントン郊外のウォルター・リード陸軍医療センターに入院しました。CNNなどの米メディアをはじめ、日本でも各紙がトランプ大統領の容態やホワイトハウスで発生したクラスターの状況を逐一伝え、5日の退院後も報道合戦は続いています。それらの報道を読んで気になったのは、トランプ大統領が投与されている治療薬です。10月3日付のCNNは、トランプ大統領が2日、米国のバイオテクノロジー企業リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Regeneron Pharmaceuticals)社が開発した未承認の抗体医薬8gの投与を受けたとホワイトハウスが公表した、と報じました。リジェネロン社も同治療薬を提供したことを確認。大統領の主治医から未承認薬の人道的使用を認める、いわゆる「コンパッショネート・ユース」の要請があったと明らかにした、とのことです。トランプ大統領の治療薬としては、その後、レムデシビル、デキサメタゾンの投与も明らかになっていますが、未承認の抗体医薬をまず使った、というところがなかなかに興味深い点です。また、大統領といえども「勝手に使わせろ」と薬の提供を求めたのではなく、米国のコンパッショネート・ユースの制度に則った点も面白いです。もっとも、米国において未承認薬のコンパッショネート・ユースが例外的に認められるのは、ほかの代替療法では効果が得られなかった場合とされており、トランプ大統領への投与を「ゴリ押しだ」との批判も上がっているようです。「血漿療法」よりも有望と判断かさて、トランプ大統領に使われたリジェネロンの抗体医薬は「REGN-COV2」という名称で開発中の薬です。2種のモノクローナル抗体を組み合わせた薬のため「Antibody Cocktail(抗体カクテル)」とも呼ばれています。ワクチンはヒトの体に抗体をつくらせて感染予防や重症化予防の効果をもたらすものですが、抗体医薬とは、抗体そのものを投与して疾患を治療するものです。同様の考え方に基づいて、新型コロナウイルス感染症から回復した患者から提供された血液から、血漿を調製して患者に投与する「回復期患者血漿療法」も、重篤な患者に対する緊急措置として米国などで行われてはいますが、現時点で明確な有効性は実証されていません。ちなみに米国では、2020年8月、新型コロナウイルス感染症の重症患者を対象に、血漿療法の緊急使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)が降りています。メイヨー・クリニックが主導した臨床試験(非盲検)が「有効性がある可能性がある」と米食品医薬品局(FDA)が判断した結果です。しかし、これをトランプ大統領が「FDAのお墨付きを得た」「死亡率を35%低下させる」などと絶賛、その後データ解釈の誤りなども発覚し、物議を醸したこともありました。そのトランプ大統領が自ら絶賛した血漿療法ではなく、未承認の抗体医薬を選んだのはご愛嬌とも言えます。主治医チームの「血漿療法より有望」との判断が働いたためでしょう。 2つのモノクローナル抗体をカクテルに「REGN-COV2」は、回復者由来の抗体や、遺伝子操作でヒトと同様の免疫系を持つようにしたマウスにウイルスを免役して得られた抗体から、実験で新型コロナウイルスの中和に最も効果があった2つの抗体を選出し、組み合わせた薬剤だと報道されています。なお、2つの抗体をカクテルにした理由としては、ウイルス変異への対応に効果的だからのようです。同薬についてリジェネロン社は6月に臨床試験を開始。9月29日には、非入院患者275人を対象に行った臨床試験の結果を発表し、「同治療薬の安全性が確認され、ウイルスレベルの低減や症状の改善に効果があったとみられる」としています。感染前に投与する予防薬としても期待「REGN-COV2」以外にも、新型コロナウイルスの中和抗体の抗体医薬の開発は全世界で進められています。感染初期に投与して発症や重症化を防ぐ治療薬としてのみならず、ワクチンのように感染前に投与する予防薬としても期待されているようです。実際、「REGN-COV2」に先駆けて研究が進む米国イーライリリー社の抗体医薬「LY-CoV555」は、NIHの主導でナーシングホームの入所者と医療従事者を対象にした二重盲検の第III相臨床試験が進んでいます 。同試験では、主要評価項目として、新型コロナウイルスに感染した割合が設定されており、高リスクの高齢者を対象に感染を減らせるかどうかを評価するとしています。なお、「LY-CoV555」は、米国で最初にCOVID-19から回復した回復期患者の血中から抗体遺伝子をクローニングし、わずか3カ月で作成にこぎ着けた中和抗体で、こちらはカクテルではありません。高価な抗体医薬は予防的に使えるか?トランプ大統領の容態については、「快方に向かっている」との報道があった一方で、「高齢で肥満なので依然楽観できない」との見立てもありましたが、10月5日に強行退院してしまいました。医療チームにはウォルター・リード陸軍医療センターだけではなく、ジョンズ・ホプキンス大学のなど複数の医療機関の医師も入っており(医師団の記者会見ではジョンズ・ホプキンス大学の医師も話していました)、世界最高レベルの治療が行われたことは確かです。ここで気になるのは、入院初期に投与された「REGN-COV2」の役割です。仮に、抗体医薬投与が 非常に効果的だった、ということになれば、感染初期や予防的に投与する薬として大きな脚光を浴びるでしょう。しかし、抗体医薬は非常に高価なため、予防的に多くの人に投与する場合には、財政的な問題が浮上してきます。また、保険適用にならず、富裕層だけが自費で使用するという形になれば、医療格差が指摘されるかもしれません。もっとも、抗体医薬の効果の持続期間によって何度も打ち続けることになりそうで、それはそれで大変そうです。70歳以上入院時重症例の死亡率は20.8%大統領選を気にしてか、トランプ大統領の入院はわずか3泊4日でした。今後、果たして、残り少ない大統領選の最前線に立ち、合併症なくあの独特の弁舌を復活させることができるでしょうか。ちなみに、日本の国立国際医療研究センター・国際感染症センターの研究グループは9月30日、新型コロナウイルス感染症で入院した患者の死亡率を、2020年6月5日までの第1波の入院症例と、治療法が固まってきた2020年6月6日以降の第2波の入院症例に分けて公表しました。それによると、トランプ大統領が当てはまる、6月6日以降の「70歳以上入院時重症例(入院時酸素投与、SpO2 94%以下に該当と仮定)」の死亡率は20.8%です。これはそこそこ高い数字です。高齢者登山と同様、タフなトランプ大統領といえども、楽観は禁物でしょう。

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10月からロタワクチン定期接種化、知っておくべきことは?

 10月1日より、ロタウイルス胃腸炎のワクチンが定期接種となった。これに先立ってMSDが主催したプレスセミナーにおいて、日本大学の森岡 一朗氏(小児科学系小児科学分野)が疾患の特性やワクチン接種時の注意点について解説した。 ロタウイルス胃腸炎は冬の終わりから春にかけて流行する急性疾患で、下痢、嘔吐、発熱などの症状を引き起こす。ロタウイルスワクチンが導入される前は、国内で毎年約80万人が罹患し、7~8万人が入院し1)、数名が死亡していた。感染するのは5歳までの乳幼児が中心だが、5歳までの入院を要する下痢症に占める割合は42~58%と推計される2)。最近では5歳以上の幼児の感染が増加しており、10~20代の感染報告もある。糞口感染し、感染力が非常に強いことが特徴で、先進国においても乳幼児下痢症の主要原因であり、院内感染や保育所等での集団感染の報告例も多い。感染した場合、抗ウイルス薬などの治療法はなく、経口補液や点滴などの対症療法が中心となる。 ほとんどの乳幼児が2歳までに1度は感染するが、1回の感染では完全な予防免疫は得られないため、ワクチンが有効な感染・重症化予防策となる。ロタウイルスワクチンは2011年から導入されているが、これまで任意接種だったため、計2~3万円の費用がかかっていた。今回の定期接種化の対象は2020年8月1日以降に生まれた子で、指定期間内に接種すれば全額が補助される。ロタウイルスワクチンには1価と5価の2種類があり、1価は2回、5価は3回接種となるが、効果に差はない。 ロタウイルスワクチンの副反応として腸重積症の増加が懸念されてきたが、厚生科学審議会がロタウイルスワクチン導入前後の国内における5歳未満の腸重積症入院例を調査し、ワクチン導入後の腸重積症の増加のリスクよりもロタウイルス胃腸炎の予防のベネフィットが上回るとして、今回の定期接種化に踏み切った。定期接種化によって接種率のさらなる向上が見込まれる。

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慣れない環境で仕事と臨床研究を並行することにした理由【臨床留学通信 from NY】第13回

第13回:慣れない環境で仕事と臨床研究を並行することにした理由1年目のインターン期間は、そもそも異国で医療をするということや、日本とは大きく異なる医療や教育の仕組みを学び、かつ英語力もある程度のレベルまでは自然と身に付くという点ではエキサイティングですが、日本ではアテンディング(指導医)だった立場からレジデントに逆戻りすることで、雑務も多く、仕事だけに充実感を求めるのは難しいことは当初からわかっていました。そのため、レジデントとしての仕事はきちんとしつつも、空き時間には積極的に臨床研究をしようと、渡米する段階から決めていました。それができることも、渡米の理由の1つでした。幸いにも、日本にいた間に多くの先生方に師事し、大学病院でなくとも臨床研究を学ぶ機会をいただいたので、まずはそれを継続しました。一方で、勤務先は大学病院ではなく大学関連病院のため、大きなデータベースがないことは事前に知っていたので、メタ解析の方法を勉強して臨床研究を続ける作戦としました。なかなか思い描くようにいかないこともありましたが、前回のコラムでご紹介した高木 寿人先生の指導で、何とか1つずつ論文化を進めていくうちに、だんだん軌道に乗ってきました。もちろんオリジナル研究には及ばない点が多くありますが、メタ解析による臨床研究は、コストが掛からず環境にも左右されない上、地道な論文作業からは確実に学びがあります。米国では、どんな環境でも、early careerであっても、論文を書いて発表する機会を得られるのが大きなメリットだと思います1)。もちろん、論文作成そのものが世の中のためになる、という漠然としたものだけではなく、ひいては自身のキャリア形成や、フェローシップのアプライなど含め、外国人として米国でいかにポジションを獲得し続けるかという点でも重要になります。また、リサーチをしつつ学会発表を数多くできるのも留学の利点です。現在はコロナの影響でなかなか難しくなりましたが、プログラム側も1つの学会につき800ドルを支給してくれるため、循環器の主要な学会であるAHA・ACC・TCTなどにも気軽に参加できるため、それを目標に研究を進めるのも楽しみでありました。地道な頑張りは、プログラムにおける日本人の評価の向上につながります。その積み重ねが、日本から留学してきた後進の採用にもつながると思います2)。そうした願いも込めて、気を引き締めて仕事と研究に一層取り組んでいきたいと思っています。 参考1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=toshiki+kuno+hiroki+ueyama&sort=date&size=1002)https://twitter.com/MSBI_IMColumnこちらニューヨークは日本と同様に秋や春がありますが、あっという間に寒くなります。今年もインフルエンザワクチンを接種する季節になってきました。我々のグループからは、インフルエンザのシーズンではなかった3~5月のCOVID-19パンデミック中のインフルエンザの共感染率は0.3%と極めて低かったのですが1)、逆にシーズン中だと共感染する割合が高いというデータもあり2)、冬に備える必要があります。もちろん最初にCOVID-19と対峙した頃は、類似症状もあったため、盲目的にインフルエンザのテストをせざるを得なかったのですが、陽性率が低いことが病院として、また経験として蓄積されていくにつれ、次第に検査をしなくなっていった経緯があります。1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32910466/2)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7250072/pdf/main.pdf

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第25回 公立病院事業934億円の赤字、前年度からさらに増加/総務省

<先週の動き>1.公立病院事業934億円の赤字、前年度からさらに増加/総務省2.医師の労働時間短縮、派遣医師の引き上げ防止など対策案が進む3.新型コロナワクチン接種、全国民に努力義務で無料実施へ4.2021年度予算編成、新型コロナ対策を含めた効率的な予算配分へ5.上手な医療のかかり方アワード、今年も開催/厚労省1.公立病院事業934億円の赤字、前年度からさらに増加/総務省総務省は、9月30日に発表した2019年度の地方公営企業決算の概要の中で、公立病院事業の赤字が934億円に上ることを明らかにした。地方公営企業など全体の総収支は7,472億円の黒字で、前年(2018年)度に比べ5,107億円(40.6%)減少しているものの、引き続き黒字であった。病院事業は、地方公営企業など全体の決算規模では5兆8,450億円と3割以上の規模を占めているが、赤字額は前年度840億円から934億円と増加が見られ、さらに累積欠損金の金額では1兆9,907億円と、過去5年にわたって増加していることが明らかとなり、経営の健全化が求められている。(参考)令和元年度地方公営企業決算の概要(総務省)2.医師の労働時間短縮、派遣医師の引き上げ防止など対策案が進む厚生労働省は、9月30日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」において、医師の労働時間短縮などに関する大臣指針を策定した。2035年度末を目途に(B)水準(年間1,860時間)を解消するために、「すべての(B)水準対象医師が到達することを目指すべき時間外労働(休日労働を含む)の上限時間数の目標値」を3年ごとに設定して、医師の時間外労働短縮に取り組むことが提案され、了承された。また医師の副業・兼業問題では、大学病院・地域医療支援病院について、地域医療提供体制の確保の観点から、大学医局からの要請で医師を派遣するなど、派遣元が(A)水準を適用した場合、時間外・休日労働時間を(B)水準まで可能とすることで、派遣医師の引き上げを防止する方向性が了承された。今後、関連する法改正を行い、告示される見込み。(参考)副業・兼業を行う医師に関する地域医療総合確保暫定特例水準の適用について(厚労省)医師の労働時間短縮等に関する大臣指針について(同)第9回医師の働き方改革の推進に関する検討会 資料(同)3.新型コロナワクチン接種、全国民に努力義務で無料実施へ厚労省は2日に開催された「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会」において、新型コロナウイルスワクチンについて、接種を原則として努力義務とし、全国民を対象に無料で実施する方針を決めた。すでに9月8日の閣議決定にて、ワクチン購入の費用は国費で賄うことが承認されており、米ファイザーや英アストラゼネカとの間でワクチン供給について合意している。今月下旬に招集予定の臨時国会において、関連法案を提出し法案成立後、承認後の接種実施体制構築に取り組む。(参考)第17回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料(厚労省)4.2021年度予算編成、新型コロナ対策を含めた効率的な予算配分へ財務大臣の諮問機関「財政制度等審議会・財政制度分科会」が1日に開催され、2021年度政府予算の編成を開始した。9月30日に締め切られた国の来年度予算案の概算要求では、新型コロナ対策のため、各省庁からは予算額が不明のまま項目のみの事項要求が相次いだことを考慮し、より効率的な予算配分に取り組む方針を明らかにした。また麻生 太郎財務相は、現役世代が減少して高齢者が増えても、社会保障制度を借金なしに維持できるように見直す必要性を指摘した。(参考)財政制度分科会(令和2年10月1日開催)資料一覧(財務省)5.上手な医療のかかり方アワード、今年も開催/厚労省厚労省は、2019年度から医師・医療従事者の負担軽減や突然の病気や怪我への対応などを目的に、「上手な医療のかかり方プロジェクト」を推進・啓発している。今年も「いのちをまもり、医療をまもる」有用な取り組みを表彰し、全国で共有するために『第2回 上手な医療のかかり方アワード』を開催することとなった。去年はブラザー工業のような企業や健康保険組合のほか、飯塚病院や横須賀市立うわまち病院などが行った地域住民に対する取り組みが表彰されている。第2回アワードの応募は今年の11月30日(金)まで。(参考)第2回「上手な医療のかかり方アワード」開催(厚労省)上手な医療のかかり方.jp

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第26回 「死の病」克服患者の訃報でよぎる、コロナ禍脱却の道しるべ

終わりの見えない新型コロナウイルス感染症の蔓延。現在、われわれができる対策は、3密の回避、手洗いの励行、マスクの着用という極めてプリミティブなものばかりだ。これまで本連載で書いてきたように治療薬もまだ決定打と言えるものがなく、ワクチンも開発が進んできたとはいえ、先行きはまだ不透明である。医療従事者の中にも、またそれを見守る周囲の中にまだまだ閉塞感が充満しているだろうと思う。そんな最中、私はあるニュースに接し、勝手ながら個人的に光明を感じている。そのニュースとは世界で初めてHIVを克服したとされ「ベルリンの患者」と称されたティモシー・レイ・ブラウン氏の訃報である。他人の訃報を喜んでいるわけではない。今回ブラウン氏の訃報に接することで、「あのHIVも一部は克服ができていた」という忘却の彼方にあった事実を改めて思い出したからである。そしてこの訃報をきっかけに思い出したHIV克服にやや興奮してしまうのは、私がこの病気を長らく取材してきたからかもしれない。私が専門紙記者となったのは1994年である。そしてこの年、駆け出しの記者としていきなり国際学会の取材という重荷を負わされた。それが横浜市で開催された第10回国際エイズ会議である。当時はHIV感染症の治療は逆転写酵素阻害薬が3製品しかなく、薬剤耐性により治療選択肢は早々に尽き、最終的にはエイズを発症して亡くなる「死の病」の時代だった。また今でもHIV感染者に対する差別が根強いことは、昨年判決が下されたHIV感染者内定取り消し訴訟でも明らかだが、当時はそれ以上の偏見・差別が蔓延しており、感染者のプライバシーに配慮するとの観点から国際エイズ会議では感染者向けのセッションは報道関係者立ち入り禁止。当該セッション中の部屋に一歩でも立ち入った場合は記者証没収という厳しい措置が敷かれていた。これに加え日本の場合、当時のHIV感染者の多くが非加熱血液製剤を介して感染した、いわゆる「薬害エイズ」の被害者である血友病患者だったことも、この病気の負のイメージを増幅させていた。その結果、国内のHIV専門医は、一部の感染症専門医を除くと、もともとの感染原因を作った血友病専門医が多くを占めた。当時話を聞いたHIV感染血友病患者が「自分の住む地域では、そもそも血友病の専門医が限られているので、感染させた主治医であっても離れることはできず、同時に彼がHIVの主治医。正直言うと、主治医の前で顔では笑っていても腹の底には押し込めた恨みが充満しているよ」と語ったことが忘れられない。そして横浜での国際エイズ会議の翌年である1995年に、アメリカで新たな抗HIV薬としてプロテアーゼ阻害薬のサキナビルが上市。そこから後続の治療薬が相次いで登場すると、現在のHAART療法と呼ばれる多剤併用療法につながっていく。ちょうどこの頃、HIVの逆転写酵素阻害薬の開発者でもあり、当時は米・国立がん研究所内科療法部門レトロウイルス感染症部長だった満屋 裕明氏(後に熊本大学医学部第二内科教授)が日本感染症学会の講演で、「今やHIV感染症はコントロール可能な慢性感染症になりつつある」と語った時は、個人的にはややフライング的な発言ではと思ったものの、実際に今ではそのようになった。そして今回訃報が報じられたブラウン氏のように、血液がんの治療で行われる造血幹細胞移植によってHIVを克服した2例目が、昨年3月に科学誌ネイチャーで報告されている。HIV発見から10年強、医学は敗北を続けたものの、そこからは徐々に巻き返し、現在ではほぼコントロール下に置いたと言ってもいい状態まで達成している。現在、新型コロナの治療薬が抗ウイルス薬のレムデシビル、抗炎症薬のデキサメタゾンのみで、ここに前回紹介したようなアビガン、アクテムラが今後加わっていくことになるだろうが、まだ「いずれも決定打」とは言えない。ただ、この状況は2割打者同士の切磋琢磨から3割打者が登場する前夜の状況、過去のHIV治療で見れば逆転写酵素阻害薬3製品時代と同じなのかもしれないと、ふと思ったりもする。どうしても記者という性分は物事を悲観的に捉えすぎるきらいがある。しかし、あのHIVに苦戦していた当時から考えれば、医学も創薬技術も大きく進歩している。やや感傷的過ぎるかもしれないが、COVID-19もある臨界点を超えれば、思ったよりも早く共存可能なレベルに制御されてくるかもしれないとも考え始めている。まあ、逆にそう考えてしまうほど、自分も閉塞感に満ち満ちた状態で事態を眺めているからかもしれないが。

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日本脳炎【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第4回

今回は、ワクチンで予防できる疾患、VPD(vaccine preventable disease)の第3回として、「日本脳炎」を取り上げる。日本脳炎とは1)日本脳炎とは日本脳炎は、宿主であるブタから蚊(主にコガタアカイエカ)が媒介する日本脳炎ウイルスによって引き起こされるウイルス感染症である。日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち、症候を来す日本脳炎の発症は100~1,000人に1人程度とまれである。しかし、重症化することが多く、致命率は20~40%であり、小児や高齢者ではその危険性がさらに高くなる。生存した場合でも45~70%に神経学的後遺症が残るとされている1)。日本脳炎は発症しても有効な治療方法がなく重症化のリスクも高いため、蚊に刺されないための対策とともにワクチン接種による予防が重要となる。2)疫学日本脳炎ウイルスはアジアの多くの国におけるウイルス性脳炎の主要な原因であり、毎年約68,000人が発症し、約13,600~20,400人が死亡していると推計されている。東南アジアから西太平洋地域にかけての流行地域では、30億人以上が感染リスクにさらされている(図1)2)。図1 日本脳炎感染リスク地域2)画像を拡大するわが国でも以前は小児や高齢者に多くみられていたが、定期接種化を含めたワクチン接種の推進や蚊に刺される機会が減少したことなどから、患者数が減少傾向となり近年では年間数例程度にとどまっている(図2)3)。しかし、日本脳炎ウイルスを保有するブタは西日本を中心に広い地域で確認されており(図3)4)、感染リスクは依然として無くなっていないことから、予防接種の徹底が重要である。図2 日本脳炎患者報告数の推移(報告年別)3)画像を拡大する図3 ブタの日本脳炎ウイルス感染状況(2018)4)画像を拡大するワクチンの概要日本脳炎ワクチンの概要を表に示す5)。日本脳炎ワクチンは、日本脳炎感染リスクを75~95%減少することができる非常に効果の高いワクチンである。わが国では1954年より接種が始まり、1995年より定期接種として実施されるようになった。従来、マウス脳由来のワクチンが用いられていたが、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)発症との因果関係が危惧されるとの理由から、2005年5月より定期接種の積極性勧奨差し控えという対応がなされることとなった。2009年6月より乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンが用いられるようになり、2010年4月より積極的勧奨が再開されている。また、2016年4月からは、それまで定期接種として実施されていなかった北海道においても、定期接種が行われるようになった。表 日本脳炎ワクチン5)画像を拡大する接種スケジュール1)定期接種日本脳炎ワクチンの定期接種として、標準的には第1期初回を3歳以上4歳未満、第1期追加を4歳以上5歳未満、第2期を9歳以上10歳未満に接種することとされている。定期接種1期としては、6ヵ月~90ヵ月未満の期間に接種が可能である。2015年には千葉県で10ヵ月児の日本脳炎患者発生も認められるなど、小児発症例も散見されることから、日本脳炎流行地域に渡航・滞在する小児、最近日本脳炎患者が発生した地域・ブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域に居住する小児に対しては、生後6ヵ月からの接種開始が推奨されている6)。なお、3歳未満ではワクチン接種量が0.25mLであり3歳以上の接種量と異なることから注意が必要である。2)特例対象者2005年5月~2009年度にかけて行われた日本脳炎ワクチンの積極的勧奨の差し控えにより、接種機会を逸した対象者には、特例対象者として公費での接種が可能となっている。◆1995年4月2日~2007年4月1日の間に生まれた方20歳未満であれば4回のうち不足回数分を定期接種として受けることが可能である。<4回の接種が完了していない場合>6日以上の間隔をおいて残り回数を接種する。<接種をまったく受けていない場合>6日以上の間隔をおいて2回、2回目接種から6ヵ月以上あけて(おおむね1年)3回目、3回目接種から6日以上の間隔をおいて4回目を接種する。◆2007年4月2日~2009年10月1日の間に生まれた方生後6ヵ月~90ヵ月未満、9~13歳未満の間に、第1期の不足分を定期接種として受けることが可能である。9~13歳未満に第1期不足分を接種した場合は、第2期との接種間隔は6日以上あけるようにする。3)任意接種特例対象者以外でも、日本脳炎流行地域に渡航・滞在する場合、ブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域に居住している場合には任意接種を検討する。添付文書の用法および用量に従い、初回免疫として0.5mLを1〜4週間隔で2回、追加免疫として初回免疫後おおむね1年を経過した時期に0.5mLを1回接種する。日常診療で役立つポイント1)誰に接種を勧めるか?定期接種対象者はもちろんであるが、特例対象者についても接種漏れがないように対応すべきである。特例対象者は受診機会が少ない年齢層であるため、パンフレットなどを掲示したり、感染症など他の理由で受診した際に接種状況について確認するなどの工夫をしたい。また、定期接種・特例対象者には含まれないが、30歳以降では抗体保有率が低いこと(図4)、ワクチン接種済でも20歳以上では抗体価が低い場合があること(図5)から、流行地域への渡航時や地域における流行状況によっては5~10年毎の追加接種を検討する7)。図4 年齢/年齢群別の日本脳炎抗体保有状況(2019)4)画像を拡大する図5 日本脳炎ワクチン接種歴別の年齢/年齢群別日本脳炎抗体保有状況(2018)4)画像を拡大する2)いつ接種すべきか?日本脳炎ウイルスは蚊が媒介するため、夏になる前に初回免疫(2回)を終了させておくことが望ましい。3)副作用の不安への対応は?患者・家族のなかにはワクチン接種によるADEM発症を心配して接種を控えているケースがある。乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンでは、マウス脳混入によるADEM発症の可能性は排除されており、他のワクチン接種と同程度の発症リスクにとどまる。まずは、患者・家族の気持ちを受け入れ、ワクチン接種によるメリットと副作用の可能性を十分説明したうえで接種を推奨すると良い。今後の課題・展望日本脳炎は、まれではあるが重症脳炎を起こし、有効な治療法がないという点からも、ワクチン接種による予防が重要なVPDの1つである。世界的にみても感染リスクが高いわが国においては、現在の定期接種、特例対象者へのワクチン接種を確実に行うことだけでなく、流行地域における6ヵ月からの定期接種開始、海外渡航時や定期接種未完遂者のキャッチアップなど、積極的な対応が求められる。参考となるサイト1)日本脳炎とは(国立感染症研究所)2)Japanese encephalitis. WHO fast sheets.3)日本脳炎Q&A第5版(国立感染症研究所)4)感染症流行予測調査「日本脳炎」(国立感染症研究所)5)こどもとおとなのワクチンサイト.6)日本脳炎罹患リスクの高い者に対する生後6か月からの日本脳炎ワクチンの推奨について(日本小児科学会)7)予防接種に関するQ&A集(日本ワクチン産業協会)講師紹介

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第27回 日本のCOVID-19死亡率が低いのはα1-アンチトリプシンのおかげ?

日本、中国、韓国、タイ、ベトナム、カンボジア、マレーシア等のアジアの国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡率が比較的低いことに関心が集まっていますが、理由はいまだ不明です。サハラ以南アフリカのいくつかの国でCOVID-19発症やその死亡率が低いことも注目に値します。おそらくその背景にはSARS-CoV-2の検査が広まっていないことや海外からの入国者が少ないことがあるでしょうが、それぞれの国に特有の遺伝的特徴も寄与しているかもしれません。SARS-CoV-2はヒト細胞のセリンプロテアーゼTMPRSS2の助けを借りて別の細胞表面タンパク質ACE2に結合して細胞に侵入します。セリンプロテアーゼ阻害薬・ナファモスタットやカモスタットはTMPRSS2を阻害することが分かっており、COVID-19患者へのそれら薬剤の臨床試験が進行中です。ヒトの血液中の主なセリンプロテアーゼ阻害タンパク質・α1-アンチトリプシン(AAT)もナファモスタットやカモスタットと同様にTMPRSS2を阻害することが最近の研究で確認されています1)。遺伝子変異のせいでAATが乏しい人が多いイタリアのロンバルディ地域ではCOVID-19感染率が高く2)、AAT欠乏の人の割合とCOVID-19感染率が関連するのではないかと考えられています。そこでイスラエルのテルアビブ大学の研究者3人は67ヵ国のデータを使い、AAT欠乏を招く一般的な遺伝子変異とCOVID-19流行の関連を世界規模で調べてみました。その結果イタリアでの疫学データと同様の傾向があり、AAT欠乏変異保有者が多い国ほどCOVID-19死亡率が高く、逆に少ない国ほどCOVID-19死亡率が低い事が示されました3,4)。たとえばスペインはCOVID-19死亡率が高く、100万人あたり640人がCOVID-19で死亡しており、1,000人あたり17人がPiZという主たるAAT欠乏変異を有していました。イタリアも同様で、100万人あたり620人がCOVID-19で死亡し、1,000人あたり13人に変異がありました。一方、COVID-19死亡率が世界で最も低い国々の一つ日本のPiZ変異保有は無視できるほど少なく、COVID-19死亡率はスペインの71分の1の100万人あたり9人です。興味深いことに、日本でCOVID-19が少ないことやCOVID-19重症化阻止との関連が示唆されているBCGワクチン接種は血中のAATを増やします5)。AATは抗ウイルス作用に加えて抗炎症作用もあります。副腎皮質ステロイド(コルチコステロイド)・デキサメタゾンはCOVID-19入院患者の死亡を防ぐことが示されていますが、AATの抗炎症作用はどうやら副腎皮質ステロイドの上を行きます6)。AATが生理濃度でヒト気道上皮へのSARS-CoV-2感染を阻害することも確認されており7)、COVID-19患者への吸入AAT投与の臨床試験(NCT04385836)8)がサウジアラビアで進行中です。参考1)Alpha 1 Antitrypsin is an Inhibitor of the SARS-CoV2-Priming Protease TMPRSS2. bioRxiv. May 05, 20202)Vianello A,et al. Arch Bronconeumol. 2020 Sep;56:609-610. 3)Shapira G, et al. FASEB J. 2020 Sep 22.4)Carriers of two genetic mutations at greater risk for illness and death from COVID-19 / Eurekalert 5)Cirovic B, et al. ell Host Microbe. 2020 Aug 12;28:322-334.e5. [Epub ahead of print]6)Schuster R,et al. Cell Immunol. 2020 Oct;356:104177.7)Alpha-1 antitrypsin inhibits SARS-CoV-2 infection. bioRxiv. July 02, 2020. 8)Trial of Alpha One Antitrypsin Inhalation in Treating Patient With Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2)(ClinicalTrials.gov)

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第24回 新型コロナワクチンの開発中断が他ワクチン推奨をも阻む?

世界が固唾を呑んで見守っている新型コロナウイス(SARS-CoV-2)に対するワクチン開発。その中で最も先行していると言われる英国・アストラゼネカ社とオックスフォード大学が共同開発中の「AZD1222」に関して副作用を疑われる症状を呈した患者が報告されたという不穏なニュースが飛び込んできてから1週間が経つ。各種報道によるとフェーズ3の参加者の1人で横断性脊髄炎(TM:transverse myelitis)を発症したことが報告されたという。正直、私個人は一般向けに正確に伝えることが非常に難しい問題だと感じている。まず、一般向けメディア各社の第一報を見てみよう。アストラゼネカのワクチン治験が中断 深刻な副反応疑い(朝日新聞)英製薬大手、新型コロナの臨床試験中断 副作用疑いの事例(産経新聞)被験者に神経障害か ワクチン治験中断 専門家「生命に関わる可能性」(毎日新聞)英アストラゼネカ、コロナワクチンの臨床試験を中断…参加者が原因不明の病気発症(読売新聞)今回のニュースに接した医療従事者の中には「とりあえず有害事象があったということで、そんなに騒ぐことじゃないんじゃない?」と思った人も少なくないはずだ。実は私もほぼ同じ感覚である。ところがまさにこの感覚が一般向けには伝えにくい点なのである。そもそも上記記事を見ればよく分かるが、今回の横断性脊髄炎に関する扱いに関して朝日は「副反応」、産経、毎日は「副作用」、読売は「安全性に関する問題」と表現している。たぶん医学的厳格さを重視すれば、産経、毎日のように「副作用」という表記をすることに違和感があるだろう。釈迦に説法だが、改めて整理すると、薬剤・ワクチンの臨床試験中に起こった好ましくない身体症状を「有害事象」と呼び、このうち薬剤・ワクチンとの因果関係が否定できないものが「副作用」と称されるが、ワクチンに関しては化学物質である薬剤と違い、その化学作用ではなく、ヒトの免疫機序に伴い有害な反応が起こることもあるため「副反応」と表記することになっている。一般市民にはとりあえずの「副作用」表記ところが、一般向けには「有害事象」と「副作用」「副反応」の違いを理解させるよう説明することはかなり困難な作業なのである。そもそもレガシー・メディアと呼ばれる新聞・テレビは1つのニュースに使える文字数・時間というリソースは限られている。「有害事象」と「副作用」「副反応」の違いのような、ややまどろっこしい説明をしている余裕がないのが現実だ。さらにいえば新聞・テレビと比べ、文字数・時間制約が少ないはずのネットメディアでもこのような丁寧な説明は難しい。現在、一般向けネットメディアでの記事1本当たりの文字量は3000~4000字くらいが相場だ。簡単に言えば、長いモノは読まれない、「丁寧な説明」はむしろ「回りくどい」と受け取られる可能性のほうが高いのである。だからメディアの多くは一番わかりやすい「副作用」という言葉に飛びついてしまう。ちなみにワクチン接種に伴う重篤な副反応の発現頻度については「〇万回接種当たり△人」という表現も一般向けにはやや分かりにくいことが多く、「それは〇万人当たり△人ですよね」と聞き返されることもしばしば。もっともこちらのほうは「ワクチンの場合、種類によっては1人で2回以上打つことで接種スケジュールが完了するものも少なくないので、回数で表すんです」と言えば分かってもらえることがほとんどである。しかも、ワクチンの場合、疾病に罹患している人への対応ではなく、あくまで健康な人が対象になる。そしてここで期待される効果は予防という証明がしにくいもので、なおかつ多くは注射という侵襲を伴うため、余計のこと副反応については敏感になりやすい。ワクチンと言えば、反ワクチン勢力が湧いて出てくるのはこうした特殊性ゆえである。つまるところ、ワクチンに関する情報発信というのは、ベースに一定の反対勢力を抱え、そこで使われる用語が込み入っているという二重苦を抱えている極めて不利な分野である。実際、Twitterで「アストラゼネカ」のキーワード検索で表示される「話題のツイート」などを見ると、この報道を機にワクチンに関するネガティブな情報の拡散が進んでいることをうかがわせる。副反応の横断性脊髄炎にビビるべき?とはいえ、とりあえず有害事象だとしても今回の横断性脊髄炎はやや気になるのも現実である。横断性脊髄炎は脊髄のある場所で横方向に炎症を起こす神経障害。主な症状は背部痛、足のしびれなどの感覚異常などで、そこから急速に下半身の麻痺や排せつ障害などに発展することもある。原因はいまだ不明だが、ウイルス感染症などに伴い発症するともいわれる自己免疫性疾患である。従来から既存のワクチンでも起こる副反応として知られているが、たとえばアメリカでの4価HPVワクチンでの発現頻度は10万接種当たり0.04であり、極めてまれな副反応である。一応、イギリスではいったん中断された臨床試験は再開されたようだが、日米ではまだ慎重に様子を見ている状況である。その意味では今回のAZD1222での報告が単なる有害事象の範疇なのか、それとも一歩進んで副反応と判定されるかは非常に気になるところではある。もし、副反応と判定されれば、まだ数万人程度の中での発生ということでかなり頻度としては高いという判断も成り立つ。そしてこれはアストラゼネカ社にもオックスフォード大学にも罪はないのだが、もしワクチン開発で先頭を走る今回のAZD1222の臨床試験が失敗に終わると、それは単なる現在の閉そく感を打破する希望の光を失うという意味を超えて、今後私たちは非常に複雑で入り組んだ問題を抱えることになる。それはワクチン全体への不信感とそれに伴う既存の有用なワクチンの接種勧奨が困難を増すという事態である。

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第24回 「戦略的PCR検査」でコロナ感染予防と経済活性化を両立、カギは…

元は24時間・365日体制で地域医療を支え、現在は新型コロナウイルスのPCR検査を24時間実施していることで注目される「ふじみの救急クリニック」(埼玉県・三芳町)。紹介状も電話予約も不要で、1日250~350人にPCR検査を行っている。検体を朝6時までに出せば昼に結果が出て、昼までに検体を出せば夕方には結果がわかる。これまでに実施した検査数は約2万件に及び、約600人の陽性者を見つけ出してきた。そこから何が見えてきたのか。話を伺った鹿野 晃・理事長兼院長によれば、対象を絞り込み、PCR検査を公費で定期的に行うことで、感染予防のみならず経済活性化にも寄与する「戦略的PCR検査」の必要性だ。新型コロナの特徴として、若い人は比較的軽症で済む一方、無自覚に高齢者や基礎疾患などを抱えた人を感染させ、そうした人たちが重症化してICUや病床を埋めてしまうということが挙げられる。したがって、「若い感染者を早く見つけることが何より重要」と鹿野氏は指摘する。同時に、これまでのクラスター発生事例の分析などから、感染リスクが高い業種・場所がある程度特定できており、「医療・介護施設、学校、飲食店、理・美容店、営業マンなど、不特定多数の人たちと接する業種や職種に関しては、週に1回、定期的なPCR検査を公費で行い、陰性が確認できれば営業してもいいというような、戦略的な検査体制が必要」と説く。一方で、都道府県をまたぐ移動や、Go Toトラベル対象施設でのコロナ感染が懸念される中、鹿野氏が提唱するのが「新しい旅の様式」だ。つまり、旅行や行楽の前日までにPCR検査を受け、陰性証明書を発行してもらい、堂々と旅行するのだ。受け入れる飲食店側も従業員にPCR検査を実施、全員陰性であると証明し、当然ながら換気などの感染予防策も徹底する。そうすれば、「新型コロナの感染拡大を防ぎつつ、全力で経済を回すことも両立できる」(鹿野氏)。問題は検査費用だ。ふじみの救急クリニックでは、9月1日から自費のPCR検査料金を3万円から1万円(税込み)に引き下げると共に、法人負担で全職員を対象に毎週PCR検査を実施することにした。それでも、家族4人が旅行前にPCR検査を受けるとなると、検査費用は計4万円にも上る(同クリニックの場合)。これだけの出費となると、そもそも旅行に行かないかもしれない。しかし、鹿野氏は「濃厚接触者ではない人のPCR検査の料金も公費で賄うようにして、感染防止を徹底した中で旅行者が増えれば、経済も回っていくのでは」と話す。PCR検査推進反対派の中には、ワクチン開発や集団免疫の獲得を待つべきという人もいるが、これは事実上の無策と言える。それならば、戦略的に感染の高リスク業種や出発前の旅行者などに対象を絞って公費でPCR検査を実施すれば国民の納得も得られるのではないだろうか。このたび決まった新首相は、どうやら厚生分野に意欲的であるようだし、ぜひこの案、前向きに検討していただきたいものだ。

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米国Novavax社の新型コロナワクチン、第I相試験で安全性確認/NEJM

 開発中の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のワクチン「NVX-CoV2373」は、接種後35日の時点で安全と考えられ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の回復期血清中のレベルを上回る免疫応答を誘導することが、米国・NovavaxのCheryl Keech氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年9月2日号に掲載された。NVX-CoV2373は、三量体完全長(すなわち膜貫通ドメインを含む)のスパイク糖蛋白から成る遺伝子組み換えSARS-CoV-2(rSARS-CoV-2)ナノ粒子ワクチンと、Matrix-M1アジュバントを含有する。動物モデルでは、SARS-CoV-2に対する防御効果が確認されている。なお、Novavaxは本ワクチンの日本国内での開発、製造、流通について、武田薬品と提携している。プラセボ対照無作為化第I/II相試験の第I相の結果 研究グループは、rSARS-CoV-2ワクチン(NVX-CoV2373、開発元:Novavax)の安全性と免疫原性を評価する目的で、プラセボ対照無作為化第I/II相試験を進めている(感染症流行対策イノベーション連合[CEPI]の助成による)。この試験は2020年5月26日に開始され、今回は、オーストラリアの2施設が参加した第I相試験の結果(接種後35日の解析)が報告された。 対象は、18~60歳未満の健康な成人131例であった。第I相では、21日の間隔を空けて2回、ワクチンが筋肉内注射された。ワクチン用量は5μgまたは25μg、Matrix-M1アジュバント(50μg)は添加と非添加に分けられ、7つの群が設定された。 主要アウトカムは、反応原性(接種部位:疼痛、圧痛、紅斑、腫脹、全身性:発熱、悪心・嘔吐、頭痛、疲労感、不快感、筋肉痛、関節痛)、米国食品医薬品局(FDA)の毒性スコアに基づく安全性評価の検査値(血液生化学、血液学)、抗スパイクタンパク質IgG抗体反応(酵素免疫測定法[ELISA]単位)とした。副次アウトカムには、自発的に報告された有害事象、野生型ウイルスの中和(マイクロ中和抗体測定)、T細胞反応(サイトカイン染色)などが含まれた。 免疫原性(IgG抗体およびマイクロ中和抗体)の結果は、多くが有症状のCOVID-19患者から採取した回復期血清サンプルと比較された。初回接種から35日の時点で、初回解析が行われた。反応原性はなし~軽度で、2回の接種とも2日以内に消退 131例の参加者のうち、83例がワクチン+アジュバント、25例がワクチンのみ、23例はプラセボを接種する群に割り付けられた。7つの群の平均年齢の範囲は23.7~35.6歳、女性の割合は32.0~65.4%であった。 全体で、重篤な有害事象は認められず、ワクチン接種中止規則は実行されなかった。反応原性は、ほとんどの参加者がなしあるいは軽度であり、アジュバント投与例で頻度が高い傾向がみられたが、反応原性が原因で2回目の接種が中止あるいは延期されることはなかった。 1例に、2回目の接種後1日のみの発熱(38.1度)が認められた。2回目の接種後に7日を超える有害事象はみられなかった。また、反応原性イベントの平均持続期間は、初回および2回目の接種後とも2日以内だった。 Grade2以上の検査値異常は13例(10%)で認められ、初回接種後が9例、2回目接種後は4例であった。検査値異常が臨床症状と関連することはなく、再接種による増悪もみられなかった。 自発的に報告された有害事象は、ほとんどが軽度で、アジュバント投与の有無で差はなく、重度の有害事象はみられなかった。 アジュバントを投与した場合、ワクチン用量5μgと25μgとで免疫応答はほぼ同等であり、アジュバント添加による用量節減効果が示された。また、アジュバント添加により1型ヘルパーT細胞(Th1)反応が誘導された。 2回のワクチン用量5μg+アジュバント添加レジメンの抗スパイクタンパク質IgG抗体の幾何平均値(63,160 ELISA単位)および中和抗体反応の幾何平均値(3,906)は、ほとんどが有症状のCOVID-19患者における回復期血清(抗スパイクタンパク質IgG抗体幾何平均値:8,344 ELISA単位、中和抗体反応幾何平均値:983)を上回っていた。 著者は、「これらの結果により、アジュバント添加遺伝子組み換え完全長スパイクタンパク質ナノ粒子ワクチンNVX-CoV2373は、有効性試験での評価を要する有望な候補であることが示された。35日目の安全性の初回解析の結果に基づき、第II相試験が開始されており、第III相試験も準備段階にある」としている。

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流行性耳下腺炎(ムンプス)【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第3回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ムンプスもしくは流行性耳下腺炎は、ワクチンで予防できる疾患Vaccine Preventable Diseaseの代表疾患である。1)ムンプスの概要感染経路:飛沫感染潜伏期:12~24日周囲に感染させうる期間:耳下腺腫脹の7日前から発症後9日頃まで感染力(R0:基本再生産数):11~14注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。感染症法:5類感染症(小児科指定医療機関による定点観測、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種感染症(耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで)2)ムンプスの臨床症状(表)ムンプスは、多彩な経過や合併症に特徴がある1)。ムンプスは主に唾液による飛沫によりヒト-ヒト感染を起こす。感染から発症までの潜伏期間は典型例で17~18日と非常に長いうえ、発症する6日前から唾液や尿中にウイルスが排泄され感染性がある。さらに、感染しても平均30%は不顕性感染で終わる。不顕性感染は低年齢者に多く,年齢があがるほど症状が現れやすく腫脹も長期化する傾向にある。ただし,無症状でも唾液中のウイルスには感染性がある。耳下腺の腫脹は最も有名かつ高頻度の症状で,発症者のうち90~95%に出現するとされる。しかし、前述の通り感染者全体では70%前後にすぎず、腫脹も両側とは限らない。ここで重要な点として,耳下腺や顎下腺の腫脹は他のウイルス感染症でも起こるため、発熱と耳下腺腫脹だけでムンプスとは確定診断できない。したがって「熱と耳下腺腫脹があった」だけではムンプス罹患といえず、ワクチン不要と判断すべきでない。耳下腺腫脹に続いて多い症状は、思春期以降の男性に起こる睾丸炎で、感染者の1/3に起こるほど多い。片側性の腫脹が多く、睾丸が萎縮し精子数も減少するが、完全な不妊に至ることはまれとされる。女性では感染者の5%に卵巣炎が起こるが,不妊との関連はいまだ証明されていない。このほか無菌性髄膜炎から脳炎、乳腺炎、膵炎といった症状も知られている。無症候の髄液細胞数増多は感染者の50%に認められるとの報告もある。このようにムンプスは潜伏期間が長く、無症候性感染が多いうえ、発症前からウイルスを排泄する。つまり、発症者や接触者を隔離しても伝搬は防げない。表 自然感染の症状とワクチンの合併症1)画像を拡大する3)ムンプスの疫学4~5年おきに大きな流行があり、年間報告数は4~17万例で推移している。ここ数年では、2016年に比較的大きな流行が確認されており、2020年の再流行が懸念されていた(図1)。合併症として問題になる難聴について日本耳鼻咽喉科学会が実施した調査によると2)、上記2年間の流行中に少なくとも335例がムンプス難聴と診断されていた。調査デザインの限界から考えると、症例はもっと多いことが推定される。図1 ムンプスウイルス診断名別分離・検出報告数の推移(2000年1月~2019年9月)画像を拡大するワクチン概要単味の生ワクチンであり、年齢を問わず0.5mLを皮下注する。正確には、ワクチンキットに付属している溶解液0.7mLをバイアル瓶に注入したうち0.5mLを吸い出して接種する。ワクチンで一般にみられるアレルギー反応、接種部位の腫脹、短時間の発熱、といった副反応のほかに特異的なものはない。弱毒化した病原性ウイルスそのものを接種する生ワクチンであり、妊娠中の女性には接種は禁忌である。また、接種後2ヵ月間は妊娠を避けるべきである。同様にステロイドを含む免疫抑制薬を投与中、もしくは免疫抑制状態にある患者も接種禁忌である。現時点では任意接種に位置付けられており、自治体などの補助がなければ接種費用は自己負担となる。なお、先進国の中で日本だけが定期接種化されていない(図2)。図2 世界のムンプスワクチンの接種状況画像を拡大する(From data reported to WHO by 193 WHO Member States as of February 2015より引用)国内では、鳥居株を用いたタケダと星野株を用いた第一三共の2製品が流通している。両者とも無菌性髄膜炎の発生頻度は同様(鳥居株が1/1,600、星野株が1/2,300)。国際的に広く流通しているJeryl-Lynn株は、国産品に比べて免疫獲得能がやや低い一方で無菌性髄膜炎の発症は少ない。接種スケジュール「1ヵ月以上の間隔で2回以上の接種」が原則となる。添付文書では生後24ヵ月~60ヵ月の間に接種することが望ましいとされているが、妊娠中などの禁忌がなければ成人でも接種可能である(図3)。画像を拡大するその他の注意事項は以下の通りである。他の生ワクチン接種:27日以上空ける(4週目の同じ曜日から接種可能)不活化ワクチン接種:6日以上空ける(翌週の同じ曜日から接種可能)輸血およびガンマグロブリン製剤の投与:投与3ヵ月以降に接種ガンマグロブリンを200mg/kg以上の大量投与:投与6ヵ月以降に接種ワクチン接種後14日以内にガンマグロブリン製剤投与:投与後3ヵ月以降に再接種ステロイドや免疫抑制剤:投与中止後6ヵ月以降に接種罹患歴については前述の通り、医療機関でムンプスウイルス感染を証明された場合のみ意義ありとして、臨床症状のみで罹患歴としないことが望ましい。ムンプス成分を3回以上接種しても医学的には問題はない。Jeryl-Lynn株ワクチンを採用している先進国によってはむしろ、10年程度で抗体価が低下することによる“Secondary vaccine failure”への対策として追加接種を検討している。また、ウイルス曝露の早期にワクチン接種することで発症を予防する曝露後緊急接種について、麻疹や水痘では有効性が確認されているが、ムンプスワクチンでは無効と考えられてきた。しかし、2017年に“The New England Journal of Medicine”で一定の効果が報告されるなど3)、近年ムンプスワクチンの接種戦略は世界的に見直しが検討されつつある。ただし、この研究で用いられたのはJeryl-Lynn株を含むMMRワクチンであり、日本製品とは素性が異なる。また、日本のムンプスワクチンには曝露後接種の適応はない。日常診療で役立つ接種ポイント(例.ワクチンの説明方法や、接種時の工夫)外来などでは、おおむね以下の点について説明することが望ましい。「いわゆる『おたふく風邪』を予防するワクチンです。1回接種の予防効果は75~80%で、確実な予防のために2回接種しましょう」「『おたふく風邪』で死亡することはまれですが、多様な合併症が起きます。特に難聴は、年間300人前後も発症している可能性があるうえ、もし発症すると回復不能です」「感染から発症まで2週間以上と長いことや、感染しても1/3は無症状のままウイルスを広げている、といった特性から発症者の隔離は意味がなく、確実な予防法はワクチンだけです」「接種間隔を伸ばすメリットはないので、幼稚園などの集団生活を始める前に2回接種を済ませましょう」「海外へ移住する方は、お子さんだけでなく大人も接種を検討しましょう。幼少時に耳下腺が腫れた、というだけではムンプスとは限りませんし、追加接種しても問題ありません」今後の課題・展望ワクチンギャップ解消の機運を受け、厚生労働省の厚生科学審議会は2012年に「広く接種を促進することが望ましい」と7つのワクチンを提示した4)。これら7つのうち、2020年現在いまだに定期接種化を果たしていないのはムンプスだけになった。これには、1989年のMMR統一株ワクチンによる無菌性髄膜炎が大きく影響している。それまで積極的だったワクチン行政を決定的に転回させ、日本にワクチンギャップが生まれる遠因ともなった渦中のムンプスワクチンが、その影響を最後まで受けているともいえる。しかし、そもそも自然感染に比べれば現行ワクチンでも無菌性髄膜炎の発症率は1/20以下であるし、さらに1歳前後で早期接種すると無菌性髄膜炎の発生率が減ることが明らかになってきた。そして、現在、無菌性髄膜炎の発生率は、MMR統一株ワクチン当時の1/10にまで減っている。ムンプスワクチン定期接種化のメリットは感覚的にも明らかだが、医療経済学的な試算でも有効性は示されており5)、学術団体からも繰り返し要望が出ている。しかしながら、無菌性髄膜炎が減ったことでワクチン接種の効果を自然感染と比較する調査のハードルは高くなっており、承認申請のために治験を通過する必要がある輸入ワクチンの導入やワクチン株の新規開発を一層難しくなっている。一方、諸外国では、Jeryl-Lynn株ワクチン2回接種後の感染が問題となっており、不活化ワクチンの新規開発や曝露後接種の検討なども始まっており、日本と世界の現状は乖離しつつある。2020年1月の厚生科学審議会の評価小委員会では、ムンプスワクチンについて審議が行われたが、明確な方針決定には至らなかった6)。 参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト1)おたふくかぜワクチンに関するファクトシート2)2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査3)Cardemil CV, et al. N Engl J Med. 2017;377:947-956.4)予防接種制度の見直しについて(第二次提言)5)大日康史、他. ムンプスの疾病負担と定期接種化の費用対効果分析.厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「水痘、流行性耳下腺炎、肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究(研究代表者:岡部信彦)」、平成15年度から平成17年度総合研究報告書.p144-154:2006.6)厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会)第37回講師紹介

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第23回 インフルエンザワクチン、来月1日から65歳以上の定期接種開始

<先週の動き>1.インフルエンザワクチン、来月1日から65歳以上の定期接種開始2.「厚労省では対応しきれない」菅官房長官が組織再編に言及3.中医協、2年後の診療報酬改定に向けた調査概要が定まる4.薬剤師の需給調査、2045年まで25年間の推計を実施5.医療・介護ビッグデータの外部提供について、ガイドライン整備が進む1.インフルエンザワクチン、来月1日から65歳以上の定期接種開始厚生労働省は、10日に「第40回 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会」「第46回厚生科学審議会感染症部会」を開催した。新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行に備えるため、65歳以上の方と定期接種の対象者については10月1日からインフルエンザワクチン接種を開始し、それ以外の人は10月26日から開始する方針とした。定期接種には、65才以上の高齢者のほか、60歳から65歳未満の慢性高度心・腎・呼吸器機能不全者なども含まれる。加藤 勝信厚生労働大臣は、閣議後の記者会見にて、今年は過去5年で最大量(最大約6,300万人分)のワクチンを供給予定だと明らかにした。10月26日以降、任意接種となっている医療従事者や基礎疾患を有する方、妊婦、生後6ヵ月〜小学校2年生なども接種可能となる。(参考)季節性インフルエンザワクチン接種時期ご協力のお願い(厚労省)次のインフルエンザ流行に備えた体制整備(同)2.「厚労省では対応しきれない」菅官房長官が組織再編に言及14日の自民党総裁選に出馬した菅義偉官房長官は、6日に新聞インタビューに答え、その中で厚労省の再編について言及した。「新型コロナウイルスは厚労省(だけ)ではとても対応できない大きな問題だ」と述べ、コロナが収束した後に、組織のあり方について検証を行いたいとした。これに対し、加藤厚生労働相も「政府の組織の形は、状況に応じ変わっていくべき」とし、2001年に発足した厚生省・労働省統合のメリットを活かしつつ、今後の課題とすることに否定はしなかった。(参考)菅氏、厚労省再編に意欲 デジタル庁創設検討…総裁選あす告示(読売新聞)3.中医協、2年後の診療報酬改定に向けた調査概要が定まる厚労省は、2年後の診療報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会による「第1回 入院医療等の調査・評価分科会」を10日にオンラインで開催した。中医協総会に今年提出された「令和2年度診療報酬改定に係る答申書附帯意見」に基づいて、診療報酬改定の効果を検証・調査し、適切な評価の在り方について引き続き検討する。(参考)第1回 入院医療等の調査・評価分科会「令和2年度入院医療等の調査について」(厚労省)4.薬剤師の需給調査、2045年まで25年間の推計を実施厚労省は、11日に「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」を開催した。今後数年間は、薬剤師の需要と供給が均衡の状況が続くが、長期的に見ると、供給が需要を上回ることが見込まれている。さらにAIの導入、IT化、機械化などによって薬剤師の業務も変わっていくこと、将来の医療需要などの変化を含めて、今後の薬剤師の需給を検討するため、全国の薬剤師総数のほか、地域別の薬剤師数などについて調査し、2045年まで25年間の推計を行う方針を固めた。(参考)第2回 薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 資料5.医療・介護ビッグデータの外部提供について、ガイドライン整備が進む11日、厚労省保険局「レセプト情報等の提供に関する有識者会議審査分科会」と、老健局「要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関する有識者会議」がそれぞれ開催された。今年10月1日に施行される改正介護保険法により、介護保険総合データベースシステムに格納されたデータについて、第三者提供が可能となる。これに先立ち、「匿名要介護認定情報・匿名介護レセプト等情報の提供に関するガイドライン(案)」が了承された。すでに、研究目的などでのDPCやレセプト情報の外部提供については、非公開・審査の上、承諾されている。情報の提供に際して、これまで設けられていなかった手数料のほか、研究成果の公表後、原則として3ヵ月以内に厚労省へ実績報告が求められることとなった。(参考)医療・介護データの連結等に関する今後のスケジュールについて(厚労省)要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関する有識者会議(第10回)資料(同)第25回 レセプト情報等の提供に関する有識者会議審査分科会 資料(同)

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ロシアの新型コロナワクチン、第I/II相試験で抗体陽転率100%/Lancet

 ロシアのGamaleya National Research Centre for Epidemiology and Microbiologyで開発されている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの第I/II相試験の結果が、Lancet誌オンライン版2020年9月4日号に掲載された。本ワクチンは、組換えアデノウイルス血清型26(rAd26)ベクターおよび組換えアデノウイルス血清型5(rAd5)ベクターに、SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質の遺伝子をそれぞれ組み込んだ2つの成分(rAd26-SおよびrAd5-S)から成り、凍結および凍結乾燥の2つの製剤が開発されている。著者のDenis Y. Logunov氏らは、本試験の結果から、2製剤とも安全性が高く、強い液性および細胞性免疫反応が誘導されたと結論している。 今回報告された試験は、2製剤の安全性と免疫原性を評価するためにロシアの2病院で実施された非盲検非無作為化第I/II相試験。対象は18〜60歳の健康成人ボランティアの男女。それぞれの第I相試験では、0日目にrAd26-SまたはrAd5-Sを筋肉内接種し、安全性を28日間評価した。第II相試験では、0日目にrAd26-S、21日目にrAd5-Sを筋肉内接種するというプライムブーストワクチン接種を行った。主要評価項目は、抗原特異的な液性免疫(0、14、21、28、42日目にSARS-CoV-2特異的抗体をELISAで測定)および安全性(試験中に有害事象が発現した人数)、副次評価項目は、抗原特異的な細胞性免疫(T細胞応答およびインターフェロン-γ濃度)と中和抗体の変化(SARS-CoV-2中和アッセイで検出)であった。 主な結果は以下のとおり。・2020年6月18日~8月3日に、2つの試験に76人の参加者を登録した(各試験38人)。各試験において、第I相試験で9人にrAd26-S、9人にrAd5-Sを接種し、第II相試験で20人にrAd26-SとrAd5-Sを接種した。・どちらのワクチン製剤も安全で忍容性も良好であった。・主な有害事象は、接種部位の痛み(44例、58%)、体温上昇(38例、50%)、頭痛(32例、42%)、無力症(21例、28%)、筋肉と関節の痛み(18人、24%)で、ほとんどの有害事象は軽度であり、重大な有害事象は認められなかった。・参加者全員にSARS-CoV-2糖タンパク質に対する抗体が産生された。・42日目において、受容体結合ドメイン特異的IgGの幾何平均抗体価(GMT)が凍結製剤14,703、凍結乾燥製剤11,143、また中和抗体のGMTが凍結製剤49.25、凍結乾燥製剤45.95で、どちらも抗体陽転率は100%であった。・細胞性免疫反応は28日目に参加者全員に認められた。

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