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ブレークスルー感染、重症化因子に肥満や心疾患

 ブレークスルー感染で重症化する患者の特性は何か。米国で行われた研究結果がThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版9月7日号に掲載された。 イエール医科大学のPrerak V. Juthani氏らはイエール大学のヘルスケアシステムのデータを使い、SARS-CoV-2感染が確認された入院患者を対象としたシステマティックレビューを行った。2021年3月23日~7月1日にSARS-CoV-2で入院した患者(入院時にPCR検査で陽性)を対象とした。接種したワクチンはmRNA-1273(モデルナ製)、BNT162b2(ファイザー製)、Ad.26.COV2.S(Janssen製)で、ワクチンの完全接種は症状発現または検査陽性より少なくとも14日前にワクチン接種を完了(モデルナ製、ファイザー製は2回、Janssen製は1回)していること、とした。 主な結果は以下のとおり。・イエール大学の関連病院に入院した969例の陽性患者のうち 172 例(18%)が入院時に少なくとも 1 回ワクチンを接種していた。このうち103例は部分接種(モデルナ製またはファイザー製1回)、15例は完全接種ながら接種から14日が経過しておらず、54例が完全接種でブレークスルー感染と認定された。・ブレークスルー感染の54例の重症度を評価したところ、25例(46%)が無症状、4例(7%)が軽度、11例(20%)が中等度、14例(26%)が重症または重篤だった。・重症・重篤患者の年齢中央値は80.5(IQR:76.5~85.0)歳で、14例中4例が集中治療を必要とし、1例が人工呼吸を必要とし、3例が死亡した。・重症・重篤患者14例の既往症は、過体重(BMI25kg/m2以上、n=9)、心血管疾患(n=12)、肺疾患(n=7)、悪性腫瘍(n=4)、2型糖尿病(n=7)、免疫抑制剤の使用(n=4)などであった。14例中13例がファイザー製を接種していた。 著者らは、以下のようにまとめている。・入院患者の5分の1が少なくとも1回のワクチン接種を受けていたが、その多くは完全接種ではなく、ワクチンの高い感染予防や重症化予防効果が確認された。・ブレークスルー感染例の4分の1が重症化したことは、ワクチンの有効性を減じる変異株の出現や高齢、過体重、免疫抑制剤の使用などの合併症を持つ患者ではワクチンに対する免疫反応が効かないなど、さまざまな因子を反映していると考えられる。・ファイザー製接種者はモデルナ製やJanssen製に比べ、ブレークスルー感染後の重症化例が多かった(2021年5月17日までにコネチカット州で配布されたワクチンはファイザー製135万8,175、モデルナ製104万4,420、Janssen製26万7,000)。・今後の研究では、ブレークスルー感染者のワクチン応答が不十分である因子を特定し、緩和することが必要である。

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第80回 保険医協会が各党に要請した「現場・患者目線」のコロナ政策

19日に公示された衆議院選挙。続くコロナ禍の中で、各政党が掲げる医療政策などの主張が報道されているが、医療者側が発信する要望はあまり報じられていない。10万人の医師・歯科医師が加入する全国保険医団体連合会のうち、近畿ブロックに加盟する8つの医科・歯科の保険医協会は、衆議院解散(10月14日)前の10月8日、新型コロナウイルス感染症に対する医療提供体制と公衆衛生行政の拡充を求める要請書を、各政党に送付した。要望は6つの大項目からなっており、以下で詳しく紹介する。1.新興感染症から人々の生命・健康を守る国の「公的責任」をより発揮していただきたい新興感染症という生命と健康の危機に人々が見舞われる今日、人々を守るのは国の義務。「自助・共助」であってはならない。新型コロナウイルス感染症が生じさせるあらゆる危機(疾患自体によるものに止まらず、雇用・経営・保育・福祉等生活上の危機も含む)に対して、常に公的責任を発揮した政治の実現を望む。2.感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の謳う「良質かつ適切な医療」をすべての新型コロナウイルス感染症患者に保障していただきたい(1)1床でも多く、病床が確保できるように―日常から空床で準備しておく病床数を増やす。―感染拡大期には一般病床でも感染症患者を受け入れることになるため、一般病床の運営基準を見直す。―2次医療圏内の各医療機関の感染拡大時における役割分担をあらかじめ想定しておく。連携の中心は公立・公的病院が担えるようにする。―地域医療構想を活用した病床数コントロール策を抜本的に見直す。とりわけ、高度急性期・急性期を減らし、回復期へ移行させる方針はやめる。―医師数抑制策を転換し、医師数全体をOECD(経済協力開発機構)諸国並みに増員する。研修過程において、すべての医師に標準的な感染症対策の知見を身につけさせると共に、感染症専門医の育成を強化する。―第6波に向け、各都道府県における臨時医療施設の設置に対し、国として財政補助を行う。療養環境を可能な限り病院に近づける。(2)病床逼迫時の地域における医療・福祉・生活の保障が行えるように―診療所を含めたすべての医療機関が参加する感染症対策の体制を日常から構築しておく。構築する体制はせめて行政区単位、可能であれば日常生活圏域単位とする。―自宅療養の患者に対する医学管理は行政機関と地区医師会を窓口とした地域の医療機関が連携して担う。―宿泊療養施設は可能なまでに病院に近い療養環境と医療の提供を可能にし、すべての都道府県で中和抗体療法も行えるようにする。―自宅療養、宿泊療養を支える地域の医療機関に対し、休業補償も含めた十分な支援体制と、必要に応じた検査の実施を公費で保障する。3.保健所の危機を克服し、地域住民の生命を守る体制を再構築する(1)保健所と地域の医療者が連携して自宅療養者・入院待機者の生命を守る体制が確立できるよう、財政的・人的保障を行う。(2)自宅療養者への生活支援は、市町村が担えるよう財政的・人的保障を行う。(3)政令市保健所のうち、行政区保健所を統合した自治体において、当面、感染症対策機能を行政区単位で担えるようにする。4.PCR検査体制の拡充について(1)人々が自ら感染を拡げないために、主体的に気軽に無料で検査を行える仕組みを構築する。5.インフルエンザとの同時流行に備え、ワクチン接種の啓発と確保を(1)希望する人にワクチンが行き渡るように確保する(2)地域の医療機関において簡便に季節性インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の鑑別・診断が行えるよう、同時迅速診断キットの供給を推進する。6.新型コロナワクチンについて、第16クール以降の供給見通し、供給スケジュールの全体像を早急に示すこと(1)いつまでに供給が行われるのか全体の見通しを供給スケジュールとして提示するとともに、第16クール以降のワクチン供給量を早急に明示する。(2)ワクチンを接種できない人たちに対する差別的取り扱いがなされないようにする。とりわけワクチン接種証明を、社会福祉をはじめとした公共サービスの利用条件とすることがないようにする。要請はいずれも切実な医療者の声を反映した内容である。与野党に関係なく、コロナ政策においてはぜひとも医療現場の願いと声に真摯に耳を傾け、本当に求められている政策を実現してほしい。

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ファイザー製ワクチン後の心筋炎、発症率と重症度/NEJM

 イスラエルの大規模医療システムにおいて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)mRNAワクチン「BNT162b2」(Pfizer-BioNTech製)を1回以上接種した人の推定心筋炎罹患率は2.13/10万人で、16~29歳の男性の罹患率が最も高く、重症度は軽症~中等症だったという。イスラエル・Rabin Medical Center・Beilinson HospitalのGuy Witberg氏らが、1回以上接種者250万人超を調べた結果を報告した。心筋炎発症とCOVID-19のmRNAワクチン接種との関連を示唆する報告がされているが、これまで頻度や重症度について大規模な調査は行われていなかった。NEJM誌オンライン版2021年10月6日号掲載の報告。イスラエルで、初回ワクチン接種日から42日までの心筋炎罹患率を分析 研究グループは、イスラエル最大の医療組織(HCO)「Clalit Health Services」のデータベースから、mRNAワクチンBNT162b2を1回以上接種し、心筋炎の診断を受けた患者を抽出した。心筋炎の診断は、米国疾病管理予防センター(CDC)の定義に基づき、循環器専門医が判断した。 患者の電子健康記録から、症状、臨床経過、アウトカムを要約。Kaplan-Meier法で、初回ワクチン接種日から42日までの心筋炎罹患率を分析した。16~29歳・男性の推定罹患率が最も高く10.69/10万人 ワクチン接種をした16歳以上のHCO会員250万人超において、心筋炎の診断基準に適合した症例は54例だった。ワクチン1回以上接種者の推定罹患率は、2.13/10万人(95%信頼区間[CI]:1.56~2.70)だった。推定罹患率が最も高かったのは、16~29歳の男性で、10.69/10万人(6.93~14.46)だった。 心筋炎の重症度は、76%が軽症で、22%が中等症だった。心原性ショックとの関連が認められたのは1例だった。 心筋炎発症後、中央値83日の追跡期間中、病院再入院は1例で、退院後に原因不明の死亡が1例報告された。入院中に心エコー検査で左室機能不全が認められたのは14例で、そのうち退院時点で同機能不全を有していたのは10例、うち5例はその後の検査で正常な心機能が確認された。

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ファイザー製ワクチン後の心筋炎、非接種者と比較した発症率/NEJM

 mRNAワクチン「BNT162b2」(Pfizer-BioNTech製)接種後の心筋炎の罹患率は、低率だが、とくに若い男性の2回接種者で増大すること、また臨床症状は概して軽症であったことを、イスラエル・Hadassah Medical CenterのDror Mevorach氏らが同国保健省のモニタリングデータを分析して報告した。イスラエルでは2021年5月31日時点で、約510万人がmRNAワクチン・BNT162b2の完全接種を受けている。同国保健省は、有害事象のモニタリングにおいて心筋炎が報告された早期の段階から積極的なサーベイランスを行っていたという。NEJM誌オンライン版2021年10月6日号掲載の報告。初回接種・2回目接種後のリスク差などを評価 研究グループは2020年12月20日~2021年5月31日のイスラエル保健省のデータベースから、臨床・検査データや退院サマリー、電子カルテを後ろ向きにレビューし、全心筋炎について、Brighton Collaboration定義を用いて分類した。 心筋炎の罹患に関する分析では、ワクチン初回接種後と2回目(21日後)接種後の罹患率を、リスク差を算出して比較。診断確実性とは独立した、ワクチン初回接種後21日以内、2回接種後30日以内の、観察/予測罹患率の標準化罹患率比を算出して評価した。また、2回目接種後30日の率比を、ワクチン非接種者との比較によって求め評価した。2回目接種後の標準化罹患率比は全体では5.34 心筋炎症状が認められた304例のうち、21例は別の診断名が付いていた。それらを除く283例のうち、BNT162b2ワクチン接種後の発症例は142例で、うち136例がdefinitive/probableに分類された。 definitive/probable例のうち129例(95%)が軽症と判断されたが、劇症だった1例は死亡している。 ワクチン1回目と2回目接種後のリスク差は、全体では1.76/10万人(95%信頼区間[CI]:1.33~2.19)で、16~19歳男性で最も差が大きく13.73/10万人(8.11~19.46)だった。 過去のデータに基づく予測値と比較した2回目接種後の標準化罹患比は5.34(95%CI:4.48~6.40)で、16~19歳男性の2回目接種後が最も高く13.60だった(9.30~19.20)。 ワクチン完全接種者の2回目接種後30日の、ワクチン非接種者に対する心筋炎発症に関する率比は2.35(95%CI:1.10~5.02)で、16~19歳男性で8.96(4.50~17.83)と最も高く、6,637人中1人の割合で発症していた。

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第80回 「首相≒財務省」vs.「厚労省≒日本医師会」の対立構造下で進む岸田政権の医療政策

グイグイとは進められなかった菅政権こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末は、NHK BSでMLB中継を1日2試合ずつ観ていたらあっという間に終わってしまいました。MLBは今、リーグチャンピオンシップシリーズの真っ最中です。ナショナルリーグは昨年同様、ロサンゼルス・ドジャースとアトランタ・ブレーブスが戦っているのですが、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督の顔が自民党の甘利 明幹事長に瓜二つなのが気になって仕方ありません。ひょっとしたら、ドジャースの勝敗と自民党の衆院選での勝敗がリンクしてくるかも…と思いながら、私は1995年からワールドシリーズ優勝から遠ざかっているブレーブスを応援しています。さて、今回は岸田 文雄新総理大臣が取るであろう医療政策について、ちょっと考えてみたいと思います。この連載では、昨年秋、菅 義偉総理大臣が誕生したときに、その医療政策の行方を予想しました(「第23回 実は病院経営に詳しい菅氏。総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと(前編)」「第24回 オンライン診療めぐり日医と全面対決か?菅総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと(後編)」)。この時は、「公立・公的病院の再編・統合」と「オンライン診療の推進」に特に力を入れるのではないか、と書きました。概ね方向性は正しかったのですが、いかんせん菅氏は1年しか総理の座にいなかったので、その進捗状況は“グイグイ”とまではいかなかったようです。コロナ対策を担当する3閣僚が全員交代菅氏から政権を引き継いだ岸田首相ですが、9月4日の岸田内閣の組閣に当たっては、閣僚の配分が自民党内の派閥の駆け引きで決まったため、「派閥政治への先祖返り」(政治学者・原 彬久氏。朝日新聞10月5日朝刊)などと揶揄されました。私も岸田首相が自身で得意だと語る「人の話を聞くこと」とはこういうことだったのか、と得心した次第です。コロナ対策を含む医療政策を担当する3閣僚についても、派閥への配分を行ったこともあって、全員が交代しました。厚生労働大臣は田村 憲久氏から後藤 茂之氏に、緊急事態宣言に関する法律を所管する経済財政・再生担当大臣は西村 康稔氏から山際 志郎氏に、ワクチン接種推進担当大臣は河野 太郎氏から堀内 詔子氏に代わりました。重要ポストであるにも関わらず、新任の3人はいずれも初入閣です。「コロナ対応の司令塔機能が曖昧」との批判に応えた人事か初入閣の3人で大丈夫か、と心配の声も上がっているようです。しかし、菅政権でのコロナ対応については、検査や医療提供体制を担当する厚労大臣と、緊急事態宣言、ワクチン接種を担当する大臣が別で機能が分散し、司令塔機能が曖昧だったとの批判も強かったのも事実です。まだあまりキャラの立っていない初入閣3人で、仲良く結束して頑張って欲しい、という意図のようです。岸田首相は新内閣が発足した4日の記者会見で、「ワクチン、医療、検査の取り組みの強化もついて対応策の全体像を早急に国民の皆さんに示すよう、3閣僚に指示した」と語りました。そのコロナ対策ですが、政府は15日、第6波を想定した今後の新型コロナ対策の骨格を決めました。骨格は、感染力が今夏の第5波より2倍になっても対処できる医療提供体制の整備を基本とし、「幽霊病床」の実態把握と解消、国の権限で国立・公立・公的病院に専用病床確保、年内に3回目ワクチン接種開始などの施策を盛り込んでいます。11月には対策の全体像をまとめるとのことです。幸いなことに、菅前首相が辞任を表明した頃からコロナの患者数は減少傾向に入り、現在でも患者数は最低レベルで推移しています。そのため、新内閣のコロナ対策はまだドタバタを経験しないで済んでいます。岸田首相のコロナ対策については、衆院選における与野党の政策にも大きな差異はないことから、しばらくは様子見でいいと思います。岸田首相の医療政策の“ブレーン”は?むしろ、現時点で医療関係者が気にしておくべきは、岸田首相の医療政策を指南する“ブレーン”ではないでしょうか。10月5日の日本経済新聞朝刊は、「コロナ対策 初入閣3人で 『厚労省の壁』少ない3人で対処」と題した記事で、「自民党内では厚労省の新型コロナ対策に関し『従来の方針や法令の整合性を理由に、抜本的な改革に慎重だった』との見方がある」として、「菅政権でワクチン担当を別に置いたのも、官邸主導にするためだった。後藤氏は党側でコロナ対策を議論してきた。霞が関の論理を熟知する旧大蔵省出身で、厚労官僚の壁を打破させる狙いが透ける」と書いています。「厚労官僚の壁を打破」したいのは自民党だけではありません。財務省も方向性は若干異なるものの、同じスタンスと言えます。10月8日のMEDIFAX webは、「岸田政権発足、22年度改定への影響は」と題する記事で新任の鈴木 俊一財務大臣ついて、次のように書いています。「鈴木財務相は党の総務会長などを務め、厚労分野の政策を議論する党の社会保障制度調査会長なども歴任してきた。その鈴木氏は就任会見で、『社会保障の受益と負担のアンバランス』を構造的な問題として指摘。社会保障の持続可能性を担保するため、財政健全化の重要性を強調した」。財政健全化とは医療費を含む社会保障費の適正化に他なりません。こうした閣僚人事の他にも、医療関係者を驚かせた官僚人事がありました。財務省で長らく厚労予算を見てきた宇波 弘貴氏(前・財務省主計局次長)が首相秘書官になったのです。今回の首相秘書官人事では財務省から2人を起用した一方で、厚労省からはとっていません。宇波氏は、医療費を含む社会保障関係費の増大に主計局主計官(厚生労働第一担当)の頃から警鐘を鳴らし、病床の再編による効率化の必要性を強く訴えてきた人物です。地域医療構想についても「うまくいかない場合は、より強い方策を取るべき」と語ったこともありました。医療政策は財務省主導で進む可能性こう見てくると、岸田首相は医療政策を財務省主導で進めたいと考えているようです。これからの対立構造を単純化するとしたら、「首相≒財務省」 vs. 「厚労省≒日本医師会」でしょうか。では、どんな政策になるのでしょう。そのヒントになるのが、本連載の「第56回 コロナで“焼け太り”病院続出? 厚労省通知、財務省資料から見えてくるもの(後編)」「第59回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる? “家庭医構想”というパンドラの匣(後編)」でも紹介した、財務省主計局が4月15日、社会保障制度の見直しについて議論する財政制度等審議会・財政制度分科会(分科会長=榊原 定征・前経団連会長)において示した、「社会保障等」に関する資料1)です。この資料、医療については、「効率的で質の高い医療提供体制の整備」「新型コロナウイルス感染症への対応」「全世代型社会保障改革の残された課題」「薬剤費の適正化」の4項目について述べられており、中でも2022年度診療報酬改定に向けては、「医療提供体制の改革なくして診療報酬改定なし」との方向性を明示しています。2022年の診療報酬改定の議論が本格化してきましたが、なかなか進まない地域医療構想や地域における病院の役割分担、そして「かかりつけ医」の制度化などを、日本医師会の反対などを押しのけながら、どこまでグイグイと推し進めることができるかが、岸田政権下での医療政策の見どころだと思います。財務事務次官が「文藝春秋」にバラマキ批判の寄稿財務省ということでは、折しも、財務省の矢野康 治事務次官が今月発売の「文藝春秋(11月号)」に寄稿した「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政が破綻する』」が各方面に波紋を広げています。寄稿は最近の与野党の政策論争について、「数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ、一方では、財政収支黒字化の凍結が訴えられ、さらには消費税率の引き下げまでが提案されている。まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話が聞こえてきます」と批判、「バラマキ合戦は、これまで往々にして選挙のたびに繰り広げられてきました。でも、国民は本当にバラマキを求めているのでしょうか」と疑問を投げかけています。コロナ対策についても、「いま日本国内で真に強く求められているのは、『金を寄越せ、ばらまけ』というよりも、いざという時の病床確保であり、速やかなワクチン接種であり、早期の治療薬の提供であり、ワクチン・パスポートなどの経済活動をうまく再起動させるためのイグニション(点火装置)の方です。これらは、カネ以前の問題であったり、すでに財政措置は終わっているものであったり、民主導でやらざるを得ないものであったりなど、巨額の財政出動(公助)を必要とするものではありません」と言い切っています。この寄稿については、与野党から猛反発が沸き起こったようですが、鈴木財務大臣は12日、閣議後の会見で、矢野氏は「麻生太郎前財務相に了解を得ていた」と話し、読んだ印象は「財政健全化に向けた一般的政策論」であり「今までの政府の方針に基本の部分で反するようなものではない」と語ったそうです。官僚が与野党の政策を批判することは極めて異例のことで、問題視する向きもあるようですが、私自身は寄稿の内容は全くの正論だと思いました。いずれにせよ、こうした正論が財務省事務次官から一般人に対して発せられ、その発信を財務大臣も岸田首相(テレビ番組で「いろんな意見が出てくる。これは当然あっていい」とコメントしています)も一応“認めた”ということは、医療を含め、今後のさまざまな政策に少なからぬ影響を及ぼすかもしれません。まずは、次期診療報酬改定での「かかりつけ医」の制度化や、外来機能報告制度の議論に注目したいと思います。参考1)財政制度分科会(令和3年4月15日開催)資料一覧/財務省

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新型コロナの日本初のレプリコン(次世代mRNA)ワクチン、第I相試験開始/VLPセラピューティクス・ジャパン

 新型コロナウイルス感染症に対する日本初となるレプリコン(次世代mRNA)ワクチン(VLPCOV-01)の第I相試験を開始したことを、VLP Therapeutics Japan合同会社(以下、VLPセラピューティクス・ジャパン)が12日、発表した。レプリコンワクチンとは少量の接種で十分な抗体が作られる自己増殖型mRNAワクチン レプリコン(次世代mRNA)ワクチンとは、少量の接種で十分な抗体が作られる自己増殖型のmRNAワクチン。レプリコンワクチンは現行のmRNAワクチンの10~100分の1程度の接種量となることから、短期間で日本の全人口分の製造が可能となることや、副反応の低減が期待される。現行のワクチンは新型コロナウイルス表面にある突起状のSタンパク質全体を抗原とするが、レプリコンワクチンはSタンパク質のうちウイルスが人の細胞に結合して感染する受容体結合部位(RBD)のみを抗原にしている。そのため、レプリコンワクチンは不要な抗体を作らないことによる高い安全性、多様なRBDへの抗体産生による変異株への効果も期待されるという。 第I相試験では、20~65歳の健康成人男女45名を対象とし、自己増殖型のmRNAワクチンであるレプリコンワクチン(VLPCOV-01)を2回筋肉内接種した時の安全性と免疫原性(有効性)を検討する。被験者を用量が異なる3群(各15名)に分け、0.5mLを2回、4週間隔で接種する。本試験の中間解析結果を踏まえ、2022年春に第II/III相試験および65歳以上の高齢者も対象とする第I相試験の続きを開始する予定。 VLPセラピューティクス・ジャパンは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)および厚生労働省の支援のもと、国内6機関(医薬基盤・健康・栄養研究所、大分大学、大阪市立大学、国立国際医療研究センター、国立病院機構名古屋医療センター、北海道大学)と協力し、国産コロナワクチンの研究開発・臨床試験を進めている。なお、VLPCOV-01の治験薬は富士フイルム株式会社が製造している。■VLP Therapeutics Japan合同会社(代表職務執行者:赤畑 渉)2020年に米国VLP Therapeutics, Inc.の100%子会社として設立。■米国VLP Therapeutics, Inc.(CEO:赤畑 渉)2013年に世界の「満たされていないメディカル・ニーズ」に応え、従来のワクチン療法を一変する革新的な治療法を開発するために赤畑氏が設立。

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第82回 コロナ感染後の後遺症にワクチンが有効

今月はじめに世界保健機関(WHO)が定義した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症をワクチンが予防のみならずその発生後の投与で治療しうることもフランスでの試験で示されました。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に確かにまたは恐らく感染した患者のその発症か無症状感染の診断確定からたいてい3ヵ月間に、代替診断が不可能な疲労・息切れ・認知機能障害などの症状が生じて少なくとも2ヵ月間続くことをWHOはCOVID-19後遺症(post COVID-19 condition)と定義しました1)。症状はCOVID-19の発症初期からひと続きのこともあればCOVID-19がいったん収まってから新たに発生することもあり、たいてい日常生活に影響を及ぼします。また、症状は小康と悪化を繰り返すか再発するかもしれません。COVID-19患者のほとんどは感染発覚時の症状が済めば感染前の健康を取り戻します。しかしCOVID-19患者の10人に1人、ともすると5人に1人はWHOが定義したような数週間から数ヵ月にも及ぶ後遺症に陥ることがこれまでの試験で示唆されています1)。先月にLancet Infectious Diseases誌に発表された英国での試験によるとワクチンを接種済みであればたとえSARS-CoV-2に感染してもそういう後遺症を生じ難くなるようです。試験ではワクチン接種済みの97万1,504人のうち2,370人(0.2%)がSARS-CoV-2に感染し、ワクチン接種済みだと28日以上の後遺症の発現率が約半分で済んでいました2,3)。ワクチンの効果はその予防にとどまりません。COVID-19後遺症に陥ってからの接種でその症状がより改善することがLancet誌掲載予定の試験結果で示されました4)。試験には恐らくまたは確かにSARS-CoV-2感染して症状が3週間を超えて続くフランスの患者910人が参加しました。それらの半数の455人は試験の観察期間の開始から60日以内に最初のSARS-CoV-2ワクチンを接種し、残り455人は接種しないままでした。観察期間の開始から120日後時点のワクチン接種群の後遺症は非接種群に比べてより緩和しました。また、17%の患者の後遺症は解消に至っており、非接種群のその割合8%をおよそ2倍上回りました。受け入れがたい症状の患者の割合はワクチン非接種群では46.4%と半数近かったのに対してワクチン接種群では5人に2人ほど(38.9%)で済んでいまいた。ワクチン接種群で入院を要した深刻な有害事象の発生率はわずか0.4%であり、COVID-19後遺症患者へのワクチン接種の安全性も確認されました。結論としてワクチンがCOVID-19後遺症の症状を改善することを示したことに加え、COVID-19後遺症が体内のどこかに居続けるウイルスや体内をめぐるウイルス断片に起因しうるという仮説も支持されました4)。参考1)A clinical case definition of post COVID-19 condition by a Delphi consensus, 6 October 2021 / WHO 2)Antonelli M,et al. Lancet Infect Dis. 2021 Sep 1;S1473-3099.00460-6. [Epub ahead of print] 3)Double vaccination halves risk of Long COVID / King’s College London4)Efficacy of COVID-19 Vaccination on the Symptoms of Patients With Long COVID: A Target Trial Emulation Using Data From the ComPaRe e-Cohort in France. pre-prints with THE LANCET. 29 Sep 2021.

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第74回 年内承認となるか?コロナ経口治療薬と抗体カクテルの予防適応

<先週の動き>1.年内承認となるか?コロナ経口治療薬と抗体カクテルの予防適応2.3回目ワクチン、12月からファイザー製で開始/厚労省3.第6波に向け、入院患者受け入れ体制2割増を/厚労省4.コロナ受け入れ病床確保の補助金の検証を/財務省5.コロナ特例診療報酬の廃止で補助金を交付、日医も評価6.行き届かない交付金、医師の働き方改革にも活用を/厚労省1.年内承認となるか?コロナ経口治療薬と抗体カクテルの予防適応米国食品医薬品局(FDA)は14日、米・メルクが開発中のCOVID-19経口治療薬モルヌピラビルについて、11月末に諮問委員会の会合を開き、効果や安全性を検証すると発表した。この結果を踏まえて緊急使用許可の可否が判断され、承認されれば、世界初の新型コロナ経口治療薬となる。メルクは承認を前提に、米政府に170万回分を供給する契約を結んでおり、日本政府も年内の特例承認を見据え、在庫を調達する方向で同社側と協議している。また、中外製薬は11日に、「カシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)」を用いた抗体カクテル療法について、予防薬および無症状の感染者に対する治療薬として適応拡大申請を行ったことをプレスリリースで公表した。こちらも年内の特例承認を目指す。(参考)コロナ飲み薬、年内にも登場 ウイルス増殖防ぐ―米メルクや塩野義が開発(時事ドットコム)コロナ飲み薬、米FDAが11月末に安全性検証…日本政府は調達する方向で協議中(読売新聞)【速報】コロナ予防と「無症状」にも 抗体カクテルの適用拡大申請(FNNプライムオンライン)2.3回目ワクチン、12月からファイザー製で開始/厚労省堀内 詔子ワクチン担当相は15日、3回目接種に使用する分として来年1月までに412万回分のファイザー・ビオンテック社「コミナティ筋注」を全国に配分することを決定し、都道府県に割り当てる量や配送スケジュールなどを通知した。接種は年内に開始する見込み。岸田 文雄首相は12日の衆参両院代表質問で、3回目のブースター接種も全額公費で負担する方針を示した。(参考)3回目の接種に向け約412万回分の配分決定 堀内ワクチン相(NHK)3回目ワクチン412万回分、11月に自治体へ配送 ファイザー製(毎日新聞)ワクチン3回目接種も全額公費負担へ 感染者は減少、人出は増加(東京新聞)新型コロナワクチン追加接種(3回目接種)に使用するファイザー社ワクチンの配分(3回目第1クール)について(厚労省)3.第6波に向け、入院患者受け入れ体制2割増を/厚労省政府は15日に新型コロナウイルス感染症対策本部を開き、今冬に予想される第6波の感染拡大に向けた対策の骨子をまとめた。変異株の感染力が2倍となったことを想定し、今夏ピーク時の1.2倍の患者を受け入れられる入院医療体制の整備を行う。また、感染力が3倍になったときには国民に強い行動制限を求め、一般診療を制限して病床を確保する方針も明らかにした。病床確保に当たっては、現行法の下での国・都道府県知事に与えられた権限を最大限活用する。国立病院機構法・地域医療機能推進機構法に基づく「要求」を始め、大学病院や共済病院などへの要請も含め、国の権限を発動し、公的病院の専用病床をさらに確保する見込み。(参考)冬の感染対策、政府が骨格 入院受け入れ、第5波の1.2倍に(毎日新聞)第6波、感染力2倍想定 首相、「幽霊病床」の改善指示(日経新聞)資料 第79回 新型コロナウイルス感染症対策本部(内閣府)4.コロナ受け入れ病床確保の補助金の検証を/財務省11日、財務省は財政制度等審議会の財政制度分科会を開催し、COVID-19患者向け病床確保の補助金を受け取った医療機関の収支状況について検討した。感染拡大によって、2020年の医業収益は前年度に比べ平均で3.6億円減少していたが、新型コロナ関係の補助金によって、黒字幅は6.6億円と前年度の0.2億円より大きく改善した。これについて出席した委員からは、受け入れ実態を調べるために病床利用率のデータ公開を求める意見や、医療の提供体制の見直しを議論すべきといった意見が出された。(参考)コロナ病床確保の病院、補助金で黒字拡大…実際には受け入れ困難なケースも(読売新聞)“コロナ病床確保の医療機関への補助金 検証を” 財務省審議会(NHK)コロナ補助金で病院利益増 20年度平均6億円、財政審「検証必要」(毎日新聞)資料 医療機関に対する新型コロナ関連補助金の『見える化』(財務省)5.コロナ特例診療報酬の廃止で補助金を交付、日医も評価厚労省は、特例で認められていた医療機関における新型コロナウイルス感染防止に対する診療報酬の廃止に伴い、新たな補助金についての通知を都道府県に発出した。対象となる経費は、10月1日~12月末までに新型コロナ感染拡大防止対策に要した賃金、謝金、会議費、旅費や医療材料などの消耗品費、備品購入費など。以前から勤務している人や通常の医療提供に対する人件費は対象外となった。上限額は病院・有床診療所は10万円、無床診療所は8万円。11月1日から厚労省ホームページで電子申請を受け付ける。これについて、日本医師会は医療側の要望が受け入れられたとして評価している。(参考)「令和3年度新型コロナウイルス感染症感染拡大防止継続支援補助金」のご案内(厚労省)令和3年10月以降の政府の新型コロナウイルス感染症に関する医療機関への支援策に一定の評価(日本医師会)6.行き届かない交付金、医師の働き方改革にも活用を/厚労省厚労省は、11日に医療介護総合確保促進会議を開催し、2020年度における地域医療介護総合確保基金の交付状況を公表した。医療従事者の確保・養成に関する事業や地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設の整備に関する事業には759億円が交付されたが、2020年度にスタートした勤務医の労働時間短縮に向けた体制の整備に関する事業は28億円の交付で、中にはゼロ%の自治体があることが指摘された。医師の働き方改革が実行される2024年度に向けて勤務医の労働時間短縮を進めるために、一層の活用を求める意見が出された。(参考)勤務医の労働時間短縮にも医療介護総合確保基金の活用を、2024年度からの新医療計画等に向け総合確保方針を改正―医療介護総合確保促進会議(Gem Med)医師の労働時間短縮事業、29都道府県が未交付(日経メディカル)資料 第15回医療介護総合確保促進会議(厚労省)

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ファイザー製ワクチン、6ヵ月後の抗体価が著明に低下した人は?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のBNT162b2ワクチン(Pfizer-BioNTech製)は、2回目接種6ヵ月後時点で、とくに「男性」「65歳以上」「免疫抑制状態にある人」で中和抗体価が著しく低下していた。イスラエル・テルアビブ大学のEinav G. Levin氏らが、医療従事者を対象とした6ヵ月間の前向き横断研究の結果を報告した。イスラエルでは、ワクチン接種率と有効性が高いにもかかわらず、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の症候性感染の発生率が増加しており、この増加がBNT162b2ワクチン2回接種後の免疫低下に起因するかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2021年10月6日号掲載の報告。2回目接種後、6ヵ月間、毎月抗体価を測定 研究グループは、ワクチンを接種した医療従事者を対象に、抗スパイクIgG抗体および中和抗体の検査を毎月、6ヵ月間実施した。線形混合モデルを用いて抗体価の動態を評価し、6ヵ月後の抗体価の予測因子を検討した。 本研究には4,868例が参加し、解析対象集団は3,808例であった。中和抗体価は男性、65歳以上、免疫抑制状態にある人で著明に低下 IgG抗体価は一定の割合で減少した。一方、中和抗体価は、最初の3ヵ月間は急激に減少し、その後は比較的ゆっくり減少した、IgG抗体価は中和抗体価と高い相関性を示したが(スピアマン順位相関0.68~0.75)、IgG抗体値と中和抗体価の回帰関係は2回目のワクチン接種後の時間に依存していた。 2回目のワクチン接種から6ヵ月後の中和抗体価は、女性と比較して男性が低く(平均比:0.64、95%信頼区間[CI]:0.55~0.75)、18~44歳と比較して65歳以上が低く(0.58、0.48~0.70)、免疫抑制を伴わない参加者と比較して免疫抑制を伴う参加者で低かった(0.30、0.20~0.46)。 なお、著者は、健康な医療従事者を対象としており一般集団を反映していない可能性があることを、研究の限界として挙げている。

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医療クラウドファンディング、コロナ対応スタッフの苦境を救え

 新型コロナウイルスが猛威を振るい始めてから、クラウドファンディングを利用して医療材料などの資金調達を行う医療施設や大学が増加している。先月3日にREADYFOR主催の記者会見を行った医療法人社団 悠翔会もその1つだが、なぜこのような支援方法を選択したのだろうか。同施設は首都圏や沖縄に拠点を設け在宅診療にあたっている。新型コロナ患者対応においては、かかりつけ医を持たず、なおかつ自宅療養を余儀なくされる患者を保健所紹介のもとで積極的に対応しているが、その責任者である佐々木 淳氏(悠翔会理事長・診療部長)が語る、在宅におけるコロナ対応の現状や自施設スタッフのリスク管理とはー。新型コロナ×在宅医療、突きつけられる現実 在宅専門である同施設が在宅コロナ患者への往診を始めたのは東京都医師会と連携した2021年8月11日のこと。当初は通常の在宅チームのみで各地域の保健所からの依頼により対応していたが、徐々にその業務は逼迫、より多くの対応要請に迅速かつ確実に対応したいと考え8月24日より『コロナ専門往診チーム』が結成され、東京23区におけるコロナ患者の最終セーフティネットの役割を担い稼働した。 同施設の場合、通常診療は医師・看護師・ドライバーが3人1組で約10~13件/日(施設診療の場合は半日で30人ほどの診察が可能)の訪問診療を行っているが、コロナ診療の場合は、「同じ体制でも1日に多くて6件程度と、通常診療の半分しか対応することができない。この診療を支えるためのフォローアップチーム(毎日70~100人の患者に対し、1~3回/日の電話にて状況確認などを行う)や酸素濃縮器の集配チームなどを含め、約20名ものコメディカルを要する非常に負担の大きな仕事」と述べ、「にも関わらず、実際の診療報酬で評価されるのは“往診する医師の業務だけ”なので、施設経営は逼迫する一方だ」と話した。スタッフのリスク管理 また、コロナ診療と通常業務において大きく異なる点はやはり感染対策だが、悠翔会では以下の対策をスタッフのリスク管理として設けている。1)毎日の体調確認を確実に行う2)特定のスタッフを連続勤務させない3)余裕をもって診療ができるよう、十分な診療スタッフ数を確保する4)診療スタッフがコロナ診療に専念できるよう、診療外業務をバックアップチームが担う体制を作る5)感染防御具を毎度、きちんと使い捨てができるよう、潤沢に確保する6)感染防御が確実にできるスタッフだけでチームを組成する これは、往診を目的ではなく手段と捉えて患者に確かな安全・安心を提供し、助けを求めるすべての人に確実に医療が届けられるようにという『患者のニーズが最優先』の観点があっての対策なのだろう。通常業務にコロナ対応、賞与に報償を反映 上記のような対策が必要であればおのずと人員確保による人件費もかさむ。病院施設においては、コロナ禍による受診控えが影響しスタッフへの報酬を減額せざるを得ないところもあったが、本施設での影響を尋ねると、「日常診療における感染防御、クラスターへの対応(大規模PCR検査の実施など)、ワクチン接種、新型コロナ患者への往診対応など、通常の診療業務に多数の業務がアドオンされており、年末の賞与にてそれらへの報償を反映させる予定」と佐々木氏はコメント。このようなスタッフへの感謝の気持ちを添える対応をするためにも、クラウドファンディングの活用が欠かせなかったと言える。クラウドファンディング、地域限定から全国への呼びかけに 本施設のクラウドファンディングは開始1週間で早くも目標金額の1,200万円を達成。この支援費用は在宅中等症患者の命を繋ぐために必要な人件費として充てられるという。達成後も次の目標に向けて募集を行い、10月13日現在、支援者2,296人から約3,360万円の支援が集まっている。これに対し、佐々木氏は「目下のコロナ専門往診チーム体制、フォローアップ体制の更なる強化に加え、新たに計画されている新型コロナ療養施設での活動資金等に充当する」とコメントしている。 この取材時点では在宅診療での使用が認められていなかった抗体カクテル療法についても、9月17日に大阪府で解禁になったのを筆頭に東京都でも9月24日から始まった。もし、今後、第6波が到来して中等症II以上の自宅療養者が増えた場合、在宅診療の業務逼迫も今以上のものになることは想像に難くない。クラウドファンディング活用という先手の行動がきっと雨過天晴になるだろう。 クラウドファンディング(crowdfunding)とは、『群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、インターネットを通して自分の活動や夢を発信することで、想いに共感した人や活動を応援したいと思ってくれる人から資金を募るしくみ』1)のこと。今回のように寄付金を募るタイプのものは寄付型クラウドファンディングとも呼ばれている。そのほか、物を購入して作り手を応援する購入型、ふるさと納税を寄付金に充てるタイプなどがある。 これまでも地域住民、患者やその家族がお世話になっている病院に「寄付」するという行為は存在していたが、それが地域住民版だとしたら、クラウドファンディングは共感を得た全国各地の人から募るという意味で寄付の全国版とも言える。 本プロジェクト「緊急:新型コロナが“災害医療”となった今、第五波を乗り切るご支援を」は10月29日(金)午後11:00まで、支援を募集している。<医療法人社団 悠翔会>・2006年創設・首都圏:17拠点、沖縄:1拠点・医師数:96名(常勤:40名)・在宅患者数:6,400名

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第79回 与野党の政策を党別分析、ツッコミどころ満載なその政策とは?(後編)

ついに岸田 文雄首相は10月14日の衆議院で解散を行い、19日公示、31日投開票のスケジュールで4年ぶりの衆院選が行われることになった。前回から自民党以外の与野党各党の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)を含む医療・社会保障政策を紹介し、独断と偏見ながらその評価をしている。今回は前回紹介した公明党、立憲民主党、国民民主党以外の各政党についてである。野党二番目の議席数、日本共産党実は与党の自民党、公明党、野党第一党の立憲民主党に次いで衆議院で議席を有しているのが日本共産党(12議席)である。その共産党は11日に「総選挙政策 なにより、いのち。ぶれずに、つらぬく」を公表した。まず、新型コロナ対策として(1)ワクチンと一体で大規模検査、(2)医療・保健所への支援、(3)まともな補償、の3本柱を訴えている。ただ、このうちの(1)は「『いつでも、誰でも、無料で』という大規模・頻回・無料のPCR検査実施」、「職場、学校、保育所、幼稚園、家庭などでの自主検査を大規模かつ無料で行えるように国が思い切った補助」とのことで、ややため息が出てしまう。パンデミック当初の検査能力不足に起因した検査抑制は確かに問題だったが、今は検査が不足しているとは必ずしも言えない。また、どんなに検査の自動化やプール方式などの効率化を進めても検査に要するリソースが有限であることを考えれば、現状の検査能力の使い方こそが最重要である。その中で医療従事者や介護従事者、警察・消防などのエッセンシャルワーカーに比較的頻回な定期検査を行うならば、リソースの有効活用にはなるだろうが、いつでも誰でも無料は大衆受けするがかなり非科学的といえる。また、今回の教訓を踏まえた医療などのキャパシティ向上を謳って「感染症病床、救急・救命体制への国の予算を2倍にするとともに、ICU病床への支援を新設して2倍」「保健所予算を2倍にして、保健所数も、職員数も大きく増やす」「国立感染症研究所・地方衛生研究所の予算を拡充し、研究予算を10倍」などの定量目標を掲げているが、正直財源も含め、いずれも現実味を感じない。ボリューミィ政策、日本維新の会野党第3党の日本維新の会。同党は衆院選向けの公約は発表していないが政策提言「維新八策2021」という8領域339項目の政策を公表している。医療・社会保障に関してはこのうち「2.減税と規制改革、日本をダイナミックに飛躍させる成長戦略」「3.『チャレンジのためのセーフティネット』大胆な労働市場・社会保障制度改革」、「4.多様性を支える 教育・ 社会政策、将来世代への徹底投資」に集中的に登場する。まず、成長戦略項目で訴えていることは、(1)ITによる医療・介護の産業化・高度化、(2)診療報酬点数に需給バランスを通じた調整メカニズム導入、(3)混合診療解禁、(4)医療法人などの経営・資金調達方法の大幅に規制緩和、(5)OTC販売時の対面販売規制見直し、であり、端的に言えば医療での規制緩和・市場原理導入ということだ。社会保障制度の項目では、数多くの政策が並んでいるが根幹として医療費の自己負担割合について「年齢で負担割合に差を設けるのではなく、所得に応じて負担割合に差を設ける仕組みに変更」と訴えている。これについては一見すると合理的に見えるが、ここで考えるべきはまず低所得者と高所得者でどちらのほうが一般的に考えて健康不安があるかという点だ。答えはおおむね低所得者に行くはずだ。生活の基本である衣食住に対するものも含め可処分所得が低いため、健康維持に使えるお金も減るからである。つまり健康不安の少ない高所得者が高い自己負担割合になれば、結果として彼らは過少給付となるので不公平感が否めない。ちなみに後段の項目では「定期的な検診受診者や健康リスクの低い被保険者などの保険料を値引きする医療保険に保険料割引制度導入」と訴えているため、高所得者はこの点では得をして前述の過少給付分を補填できるかもしれない。しかし、逆に相対的に健康リスクが高いとみられる低所得者はこの制度では恩恵を受けがたくなり、一部の低所得者と高所得者との間で格差が広がる危険性もある。その一方で「国民健康保険でのスケールメリットを活かせる広域的運営の推進」や「レセプトチェックのルール統一を行い、国民皆保険制度の元で AIやビッグデータを活用することで、医療費の適正化と医療の質の向上を同時に実現」は個人的には一考に値すると感じている。とくに後者のレセプト審査基準が地域によって幅があることは、患者目線に立てばこれまでも内外から疑問視されていた点である。新型コロナ対策についても12本の提言を挙げているが、その多くに新味はない。さらに、「人員配置や設備面で急性期の受け入れ能力がない中小病院が過多になっている現状を精査し、医療提供体制の再編を強力に推進」という点については、やや「???」とも思う。そもそも高齢化が進む日本の将来を見据えた場合、急性期医療以外を担う病院の必要性は高い。もっとも医療機関数や病床数が多めであることは確かだが、ほぼ民間病院だらけの中小病院をどのようにして「再編を強力に推進」するのかと思ってしまう。後述する社民党の政策に出てくる国公立病院の統廃合も含めた機能点検ですらあれだけ揉めたのだから、こうした維新の提言が実現するとは思えないのだが…残る社民党、れいわ新選組、NHK党は…さて前編分も含め、ここまでが現状で衆議院に議席を持つ政党の政策についてだが、参議院に議席を有し、公職選挙法や政党助成法での政党要件を満たし、なおかつ今回の衆議院選に候補者を立てている政党がいくつかある。社民党、れいわ新選組、NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で(公職選挙法上の略称・NHK党)の3政党である。この各党についても触れておきたい。これは政治・選挙取材を得意とする私の友人で「黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い」で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した畠山 理仁(みちよし)氏が実践しているすべての候補の主張に耳を傾け、すべての候補を公平に扱うべきという主張に共鳴しているからだ。まずは社民党。かつては最大野党として衆参両院で最盛期に3分の1以上の議席を占めたこともある旧日本社会党を前身とする社民党は現在、衆参両院で議員各1人にまで凋落している。その社民党の「2021年重点政策」を見ると、社会保障・医療関連でまず触れられているのが、「1.新型コロナ感染症災害からの生活再建」の中の「医療機関、介護・医療従事者を支援。地域医療を守る」の項目。具体的には2019年に厚生労働省「医療計画の見直し等に関する検討会」の「地域医療構想に関するワーキンググループ」が急性期医療機能の観点から424(現在は436)の公立・公的等医療機関について統廃合も含めた機能再検証を求めた件をあげ、新型コロナの病床確保の観点からこの方針の撤回を求めるというもの。確かにこの一件はいきなり該当病院が名指しされたことで当該病院関係者や自治体に大混乱を与えたことは事実だ。しかし、従来から国内の医療機関が極端に急性期医療に軸足を置いてきた結果、超高齢化社会の進行に伴う将来的な慢性疾患対応の増加とミスマッチになっていたこともまた事実である。単純に将来の新興感染症を見越して現行のままの急性期病床配置を維持すれば良いものではない。この政策項目の中では「削減してきた保健所、保健師の数を増やし、公衆衛生の強化に取り組みます」とも訴えているが、それならば新興感染症対策の最前線である保健所の在り方も含めた急性期病床の配置までもう少し踏み込んだ提言があってほしいと思うのは要求のレベルが高すぎるだろうか?「2.格差・貧困の解消」では「75歳以上の高齢者医療費負担2倍化反対」として、今年6月に成立した健康保険法改正により、75歳以上の単身高齢者で年収200万円以上であれば医療費の自己負担額が2割に引き上げられる法改定が成立したが、その撤回を求めている。ただ、この高齢者の自己負担引き上げは長らく議論されてきたもので、実際の引き上げも慎重にかつ段階的に行われている。そもそも少子高齢化と経済低成長の時代に現役世代のみで現在の社会保障制度を支えることが困難なことは社民党も知らぬはずはない。その意味ではこの主張・政策は手垢まみれのポピュリズムとさえ言えるかもしれない。一方、代表である山本 太郎氏の出馬選挙区問題でドタバタが起きた、れいわ新選組(参議院2議席)だが、その新型コロナ対策は他党と比べ医療対策よりも経済対策が中心。その中で「PCR検査最大能力を100万回/日に向上へ」という政策を掲げている。正直、必要な検査数はその時々の流行状況などにもなど左右されるため、数値目標を掲げるのは必ずしも適切ではない。ただ、同党の主張は「医療者はもちろんのこと、バス・タクシードライバー、駅員、保育・介護職等のエッセンシャルワーカーやその家族、濃厚接触者、コロナウイルス感染の疑いのある者が、定期的に優先し、複数回検査できる体制の構築」と具体的に記述している。要は感染の疑いがある者や濃厚接触者といった日常診療でベーシックに必要とされる検査分を前提にエッセンシャルワーカー分を上乗せした数値目標らしい。その意味では一定程度ロジックは成立している。また、こうしたエッセンシャルワーカーに対して1日当たり2万4,000円の危険手当の給付を訴えている。2万4,000円というのは、アフリカの新興国・南スーダンに展開した国連南スーダン共和国ミッション (UNMISS) に、2012年1月から2017年5月まで自衛隊を派遣した際、非常時に小規模な戦闘が起こることも念頭に行う「駆け付け警護」まで実施した際の隊員の1日当たりの「国際平和協力手当」が原点だ。要は最も危険な公務員の任務での手当と同額ということだ。この背景として同党は、こうしたエッセンシャルワーカーが通常人口に比べて新型コロナでの死亡リスクが2倍以上にのぼることを例示している。考え方として悪くはないが、給付が実現しても死亡リスクそのものが低下するわけではないので、その点の対策がなければアンバランスである。さらに基本政策の中では、「障がい者福祉と介護保険の統合路線は見直し」を訴えている。これは障害者総合支援法の第7条の自立支援給付での「介護保険優先原則」の見直しである。同党はこの条文により障害者が充実した重度訪問介護などのサービスを利用できず、65歳以上では利用時の原則一割負担とサービスの幅も狭い介護保険の利用を求められる点を是正すべきとしている。これは障害者議員を擁する同党ならではと言えるかもしれない。で、最後はNHK党(衆参両院で各1議席:衆院の1議席は日本維新の会を除名された丸山穂高氏が入党したことによる)となるが、もともとNHKと対決するシングル・イシューの政党であり、新型コロナ対策や医療・社会保障に関する政策は同党の公式ホームページでは一切見当たらなかった。さて月末の衆議院選の結果はいかなるものになるだろう?

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ワクチンパスポート賛成は過半数を超える/アイスタット

 国民のワクチン対象成人の約6割超が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種を終え、これからCOVID-19との新しい日常が送られようとしている。ワクチン接種先進国では、接種を終えた人々にさまざまな証明書を発行することで、日常行動の制限解除にむけた動きも散見される。こうした「ワクチン接種証明書」について、社会はどのように考えているのだろう。 「ワクチンパスポート」をテーマに、株式会社アイスタットは10月4日にアンケートを行った。アンケートは、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員20~79 歳の300人が対象。調査概要 形式:WEBアンケート方式 期日:2021年10月4日 対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~79歳の会員)アンケート結果の概要・ワクチンパスポートの申請・発行に賛成の割合は54%で半数を超える・ワクチンパスポート所有・提示による規制緩和・特典に賛成の割合は51.3%・ワクチンパスポートの申請意向がある割合は46.3%で半数を下回る・ワクチンパスポート提示による特典の第1位は「旅行・移動」の45.3%・ワクチンパスポート活用により生じる問題の第1位は「ワクチン接種有無による差別問題」・ワクチンパスポートが経済活動再開につながると思う割合は54.3%・コロナワクチンを2回接種した割合は66.7%。接種予定を含めると約8割が接種意向ありワクチンパスポートは賛成だけど活用法は限定的 質問1として「ワクチンパスポート(新型コロナワクチン接種証明書)の申請・発行について、どう思うか」(単一回答)を聞いたところ、「やや賛成」が31.7%で最も多く、「どちらともいえない」が28.7%、「非常に賛成」が22.3%の順であった。大きく2つに分類したところ「賛成」は54%、「それ以外」は46%で、賛成が半数を超える結果だった。 質問2で「ワクチンパスポートの所有・提示による規制緩和・特典について、どう思うか」(単一回答)聞いたところ、「やや賛成」が31.7%、「どちらともいえない」が30.7%、「非常に賛成」が19.7%の順で多かった。大きく2つに分類したところ「賛成」は51.3%、「それ以外」は48.7%で質問1と同様の傾向が見受けられた。 質問3で「ワクチンパスポートを申請するか」(単一回答)を聞いたところ、「申請する予定」が43.0%、「現時点では、まだ決めていない」が31.3%、「ワクチン接種をしないので、申請できない」が11.7%の順で多かった。大きく2つに分類したところ「申請」は46.3%、「それ以外」は53.7%で、活用法の情報が少ない中で申請意欲が少ない結果だった。 質問4で「どのような場面でワクチンパスポート提示による入場規制緩和・特典があった方が良い」(複数回答)を聞いたところ、「旅行・移動」が45.3%、「宿泊施設」が41.3%、「飲食店」が40.3%の順で多かった。また、「特になし」の回答も28.3%あるなど、今後の活用法の拡大が望まれることが示唆された。 質問5で「ワクチンパスポートが導入・活用されることによって、どのような問題が生じるか」(複数回答)を聞いたところ、「ワクチン接種有無による差別問題」が55.3%、「ワクチン接種後のブレークスルー感染の増加」が27.7%、「無症状・軽症感染者による他人への感染リスク」が26.7%の順で多かった。 質問6で「ワクチンパスポートは経済活動再開につながるか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらかといえば、つながると思う」が38.7%、「かわらないと思う」が27.3%、「非常につながると思う」が15.7%の順で多かった。 質問7で「政府や自治体がお願いしているコロナ禍対策『外出・旅行・帰省・外食・酒禁止・時短営業の規制・制限』についてどう思うか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらでもない」が22.7%、「かなり限界」が22.0%、「やや限界」が14.7%の順で多かった。回答を大きく2つに分類すると「限界」が49%、「それ以外」は51%で約半分の人が「限界」を感じていた。 質問8で「コロナワクチン接種状況」(単一回答)について聞いたところ、「2回目接種完了」が66.7%、「意図的に接種しない」が11.3%、「これから1回目を接種する」が9.7%の順で多かった。大別すると「接種あり・予定」が82%、「接種しない」が18%という結果だった。今後のさらなる接種率の向上という課題がうかがえる結果となった。

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ファイザー製ワクチン、デルタ株への有効率の経時変化/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンBNT162b2(トジナメラン、Pfizer-BioNTech製)の、SARS-CoV-2デルタ変異株感染の入院に対する有効性は高く、完全投与後6ヵ月までの全年齢の有効性は93%だった。また、SARS-CoV-2感染への有効性については、時間とともに低下することが示され、デルタ変異株に対しては完全接種後1ヵ月は93%だったが、4ヵ月後は53%に低下していた。米国・カイザーパーマネンテ南カリフォルニアのSara Y. Tartof氏らが、343万例超を対象に行った後ろ向きコホート試験の結果で、感染への有効性が時間とともに低下することについて著者は、「デルタ変異株がワクチン保護効果を逃れるというよりは、おそらく時間とともに免疫力が低下したことが主な要因だろう」と述べている。Lancet誌オンライン版2021年10月4日号掲載の報告。12歳以上を対象に接種後6ヵ月までの予防効果を検証 研究グループは、カイザーパーマネンテ南カリフォルニアに、加入後1年以上経過した12歳以上の加入者を対象に試験を行い、BNT162b2のSARS-CoV-2感染や、COVID-19関連の入院に対する接種後6ヵ月までの予防効果を検証した。 アウトカムは、PCR検査結果によるSARS-CoV-2陽性とCOVID-19関連の入院で、ワクチン有効性は補正後Coxモデルによるハザード比に基づき算出した。感染予防効果は時間とともに低下、デルタ株感染予防効果は4ヵ月後には53%に 2020年12月14日~2021年8月8日に、適格性を評価した加入者492万549例のうち、343万6,957例を対象に試験を行った。被験者の年齢中央値は45歳(IQR:29~61)、女性の割合が52.4%だった。 BNT162b2ワクチン完全接種者の、SARS-CoV-2感染に対するワクチン有効性は73%(95%信頼区間[CI]:72~74)、COVID-19関連の入院に対する有効性は90%(同:89~92)だった。 一方で、SARS-CoV-2感染に対するワクチン有効性は、完全接種後1ヵ月は88%(95%CI:86~89)と高かったが、同5ヵ月後には47%(43~51)に低下した。SARS-CoV-2デルタ変異株への感染予防効果についても、完全接種後1ヵ月は93%(85~97)と高かったものの、4ヵ月後は53%(同:39~65)に低下した。 SARS-CoV-2非デルタ変異株に対する感染予防効果についても、完全接種後1ヵ月は97%(95%CI:95~99)と高かったのに対し、4~5ヵ月後には67%(45~80)に低下した。 BNT162b2ワクチン完全投与後6ヵ月までの、デルタ変異株によるCOVID-19関連の入院に対する予防効果は、全年齢で93%(95%CI:84~96)と高率だった。

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第79回 茨城・偽造医師免許事件で思い出した、鶴瓶主演の医療映画の佳作

老健施設の施設長になるため偽造医師免許を使用こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は用事があって、江東区・森下と世田谷区・三軒茶屋に出かけました。東京の東と西、どちらも飲み屋が多い街です。のぞいてみると、先週末と同じく、どちらの街の飲み屋も夕方から満員です。緊急事態宣言下、人々に胸の奥に溜まっていた“飲み”への渇望が、爆発したような感じです。この勢いで皆飲み狂い、仮に第6波が来ないとしたら、それはそれでコロナ収束の原因を再考しなければならないな、と思いました(まあ、来るとは思いますが)。ということで、今回はコロナからちょっと離れて、夏から気になっていたある事件を取り上げます。9月に入ってその背景が詳しく報道されたこの事件は、ある医療映画の佳作を思い出させるものでした。今年6月28日、愛知県警は、茨城県水戸市に住む70歳の女性を偽造有印公文書行使の疑いで逮捕しましました。中日新聞などの報道によれば、逮捕された女性は、茨城県笠間市の老人保健施設「オリーブ友部館」で施設長として働くため、管理者の条件である医師免許を保持していないにもかかわらず、偽造された医師免許の写しを同県の長寿福祉推進課に郵送で提出して使用したとのことです。さらに翌29日、愛知県警はこの女性が使った医師免許を偽造した疑いで、中国籍で大阪市中央区在住の30代男性を再逮捕しています。同県警は今年2月、大阪市中央区道頓堀にあった在留カードなどの「偽造工場」とみられる雑居ビルを家宅捜索、中国籍の男性はこの捜索をきっかけに逮捕されています。運転免許証や健康保険証などの偽造を依頼した顧客データの中にこの女性も含まれていたことから、今回の医師免許偽造が発覚したとのことです。なお、女性は医師免許を取得したことはなく、医学部入学の経験もないとのことです。ワクチン接種の際の医療行為で再逮捕この老健施設を経営者する医療法人 鳳香会側は、この女性が偽造医師免許を使用していたとは知らなかったとみられます。女性は老健施設の施設長、すなわち医師として働いていたわけですから、当然、簡単な医療行為も行っていたに違いありません。案の定、7月26日、愛知県警はこの女性を、医師免許がないのに新型コロナウイルスのワクチン接種の問診などを行ったとして、医師法違反の疑いで再逮捕しました。中日新聞等の報道によれば、再逮捕容疑では、5月26日~6月23日までの間、老健施設の施設長として、高齢の入所者83人に対して計108回にわたり、新型コロナウイルスのワクチン接種前の問診や接種の可否判断などをしていたとされます。女性は問診後、施設の看護師に接種を指示していたそうです。入所者83人が接種を受けましたが、健康被害は確認されていません。この女性が施設長として勤めていた間の老健施設での医療行為については、医師法違反の罪は問われていません。何も医療行為を行わなかったのか、あるいは軽微な医療行為のため罪は問わなかったのかは不明ですが、ニセ医者が施設長をしていた間、入所者の健康状態は大丈夫だったのか、心配になります。なお、元介護施設長の女性はその後、有印公文書偽造・同行使罪で起訴されています。精巧なつくりが評判となり日本人も上客になかなか興味深く、謎が多い事件です。9月に入ると続報が出て、事件の背景がわかってきました。9月18日、日本経済新聞(東京版)の夕刊に、「大阪で摘発『偽造工場』、精巧さ売り医師免許も」というタイトルの記事が掲載されました。今回のニセ医者事件で表沙汰になった大阪の偽造工場の実態に迫った記事です。記事によれば、逮捕された中国人の偽造工場は、「偽の在留カードを求める不法滞在の外国人が主な対象だったが、精巧なつくりが売りとなり、日本人も上客に」なっていたとのことです。笠間市の老人保健施設は新しい施設長を探しており、「医師免許を持ちながら、フリーの立場で働いている」と聞いていた女性に就任を依頼。この時、医師免許を持っていないこの女性が頼ったのが、大阪市内で偽造工場を営んでいた中国籍の男性だったとのことです。茨城在住の女性がどういうルートで大阪の偽造工場を知ったのかは不明です。記事には、愛知県警は「ベトナム人が手にしていた偽の在留カードの入手経路を捜査する中で、この拠点を突き止めた」と書かれています。この時の摘発で、「医師免許や約20ヵ国の外国人の在留カードに加え、英語検定試験TOEICの成績証明書の偽造品やその元データも押収」しています。依頼は「ブローカーを通じて受注し、専用の印刷機で作製」しており、偽造品はどれも目視では偽物だと分からないレベルだったそうです。どうやら、この業者には多くの外国人、日本人がさまざまな文書の偽造を依頼していたようです。世間的にインパクトが大きい医師免許の偽造が明るみに出たため、愛知県警はこのケースをとくにフィーチャーするかたちで、中国人男性と水戸の女性の逮捕に踏み切ったとみられます。愛知県警には偽造工場摘発のプロチーム茨城県に提出された偽造医師免許は様式や書体は本物とほぼ同じでしたが、取得時期が1970年代にもかかわらず、発行者が「厚生大臣」ではなく、今の「厚生労働大臣」となっていたそうです。ただ、このミスに茨城県の担当者は気づきませんでした。この事件を受け、茨城県は医籍番号を厚生労働省のデータで照会し、偽造が疑われる場合は電話で問い合わせるという運用を始めたそうです。なお、愛知県警は来日外国人犯罪の温床となっている不法滞在の取り締りとその支援組織の摘発に15年近く前から積極的で、これまでも外国人登録証明書や旅券、運転免許証等の偽造工場を摘発してきた実績があります。調べてみると、2005年度の『警察白書』の「警察活動の最前線」の項にも同県警による偽造工場摘発の事例が紹介されています。どうやら愛知県警には、この分野を得意とするプロチームが組織されているようです。ニセ医者と言えば『ディア・ドクター』ところで、70歳の女性は、なぜ老人保健施設の施設長になりたいと思ったのでしょうか。施設長の高報酬に目がくらんだのでしょうか。施設長は医師でなければならないので、当然医療行為をしなければなりません。看護師にバレる可能性はとても高いでしょう。ネット上では、「東大医学部卒」と偽っていたとの情報もありました。そのあたりの事件の背景も知りたかったのですが、新聞等では、女性の動機などについては詳しく報道されていません。勝手に想像を巡らす中、私が思い出したのは、2009 年に公開された日本映画『ディア・ドクター』です。西川 美和監督が原作、脚本も手掛けたこの映画は、笑福亭 鶴瓶演じる僻地の診療所院長がニセ医者であることから起こるドタバタを描いています。全編ユーモラスな雰囲気を漂わせながらも、僻地医療、医師不足、終末期医療など、現代のさまざまな医療問題を丁寧に描いています。映画の後半、永山 瑛太演じる若手研修医が鶴瓶のニセ医者に心酔し、「研修が終わったら、診療所に戻ってきたい」と語るシーンは、黒澤 明監督の名作映画『赤ひげ』で青年医師(加山 雄三)が赤ひげ(三船 敏郎)に「小石川療養所に骨を埋める」と決意を述べるシーンへのオマージュとも受け取れます。しかし、『ディア・ドクター』の主人公はニセ医者です。なかなか皮肉が効いていて、医師というプロフェッションのありようについても考えさせられます。もし観ていない方がおられましたら、秋の夜長、2009年のキネマ旬報ベスト・テンで日本映画1位を獲得した『ディア・ドクター』を鑑賞されることをお薦めします。テレビで放映されている昨今の医療ドラマよりも、観る価値はあると思います。ところで、『ディア・ドクター』の脚本の取材で得た材料を基に、西川監督が書き下ろした短編集『きのうの神さま』(ポブラ文庫)も出版されています。ここでは、映画の登場人物たちの過去が語られています。外科医の父にあこがれ、医学部を目指そうとしたニセ医者の屈折した人生を描いた短編『ディア・ドクター』が出色の出来で、こちらもお薦めです。

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ファイザー製ワクチン、リアルワールドでの効果持続は/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染または新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン効果の減衰が懸念されている。今回、PCR検査が大規模に実施されているカタールにおいて、Weill Cornell Medicine-QatarのHiam Chemaitelly氏らがBNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer/BioNTech製)の効果の持続性について検討した。その結果、感染に対する効果は2回目投与後のピークの後に急速な減衰がみられたが、入院や死亡抑制効果については、2回目投与後6ヵ月間は効果が持続していることが示唆された。NEJM誌オンライン版2021年10月6日号に掲載。 本研究は、ファイザー製ワクチンの初回および2回接種後のSARS-CoV-2感染およびCovid-19関連の入院と死亡に対するリアルワールドでの効果を評価した症例対照研究。2021年1月1日~9月5日にカタール居住者の全国的なデータベース(PCR検査、ワクチン接種、COVID-19関連の入院、流行開始以降の基本的な人口統計の情報などが含まれる)を用いて、症例(PCR陽性者)と対照(PCR陰性者)を性別、年齢層、国籍、PCR検査の理由、PCR検査実施暦週について、1対1でマッチさせた。ファイザー製ワクチンのSARS-CoV-2感染に対する効果と、COVID-19の重症(急性期入院)、重篤(集中治療室入院)、死亡の抑制効果を推定した。なお、カタールでは、2021年9月7日時点で12歳以上の9割以上が1回以上ワクチン接種を受け、8割以上が2回接種を受けていた。 主な結果は以下のとおり。・感染に対する効果は、初回投与後2週間は非常に低かったが、初回投与後3週間で36.8%(95%信頼区間[CI]:33.2〜40.2)に増加し、2回目投与後の最初の月に77.5%(95%CI:76.4〜78.6)とピークに達した。その後は徐々に低下し、4ヵ月後に急減し、2回目投与後5〜7ヵ月は約20%であった。・症候性感染および無症候性感染に対する効果の変化パターンは同様だったが、症候性感染のほうが無症候性感染より一貫して高かった。症候性感染に対する効果のピークは81.5%(95%CI:79.9〜83.0)、無症候性感染に対する効果のピークは73.1%(95%CI:70.3〜75.5)だった。・変異株別、年齢層別にみても、効果の変化パターンは同様だった。・COVID-19の重症、重篤、死亡の抑制効果は、初回投与後2週間は非常に低かったが、初回投与後3週間で66.1%(95%CI:56.8~73.5)に急激に上昇し、2回目投与後2ヵ月後には96%以上に達した。感染に対する効果とは異なり、ほぼ6ヵ月間持続した。

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第73回 薬局で承認済の抗原検査キット販売/オンライン初診は当面継続

<先週の動き>1.薬局で承認済の抗原検査キット販売、厚労省「未承認は使わないで」2.オンライン初診は当面継続、恒久化に医師会は慎重な姿勢/厚労省3.コロナワクチン3回目接種に向けファイザーと追加契約/厚労省4.感染症有事の医療体制強化に向けた法改正を/自民党5..病院建て替えをめぐり日大理事と病院経営者が逮捕/東京地検1.薬局で承認済の抗原検査キット販売、厚労省「未承認は使わないで」9月末、政府が新型コロナウイルス抗原定性検査キットの薬局販売を承認したことを受け、すでに調剤薬局などで販売が始まっている。PCR検査に比べると感度が低いといわれるが、検査は30分程で結果がわかる。対象となる検査キットは、厚労省が承認した「医療用」の中から15種類。政府が11月からの導入を目指す「ワクチン・検査パッケージ」において、ワクチン未接種者の陰性証明に活用することも検討されている。一方、横浜市で未承認の検査キットを用いて陰性が3回出たため、自己判断で受診しないままの30代男性が自宅で死亡しており、警察による検死で死後に陽性が判明したと報道された。未承認の検査キットについては性能等が十分に確認されていないため、厚労省は「消費者が新型コロナウイルス感染症の罹患の有無を調べる目的で使用すべきでない」としている。(参考)新型コロナ 抗原検査キット 薬局で販売始まる(NHK)コロナ検査キット、異例の薬局販売 政府肝いり 無症状でも使える?(朝日新聞)新型コロナウイルス感染症流行下における薬局での医療用抗原検査キットの取扱いについて(令和3年9月27日事務連絡)2.オンライン初診は当面継続、恒久化に医師会は慎重な姿勢/厚労省厚労省は7日に「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」を開催し、特例的に初診からオンライン診療の実施可となっている現状について、当面の間は継続する方針を確認した。閣議決定において、初回からオンライン診療の実施を認める特例措置を恒久化する方針により、厚労省側から「初診からのオンライン診療の取扱いについて」が提示されたが、かかりつけ医による初診を原則とする医師会側は、慎重に議論する姿勢を崩していない。また、オンライン診療で必要な費用負担に関する議論も出ており、今後、運用方法について検討が行われる見込み。(参考)完全初診患者へのオンライン診療、どういった仕組みで安全性など担保し、費用負担はどうすべきか―オンライン診療指針見直し検討会(Gem Med)オンライン初診特例を継続、厚労省 検討会で普及妨げ要因の検証求める声(CBnewsマネジメント)初診からのオンライン診療の取扱いについて(厚労省)第17回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会(同)3.コロナワクチン3回目接種に向けファイザーと追加契約/厚労省後藤 茂之厚生労働相は8日の閣議後の記者会見で、新型コロナウイルスワクチン「コミナティ(ファイザー・ビオンテック)」の追加接種分として、新たに1億2,000万回分を追加契約したことを発表した。2022年1月以降、日本に供給される予定。なお、ファイザーは7日に、新型コロナウイルスワクチンの3回目追加接種(ブースター接種)の臨床試験のデータを厚労省に提出し、承認申請を行なったことを明らかにしている。(参考)来年の新型コロナウイルスワクチンの供給に係るファイザー株式会社との契約締結について(厚労省)ファイザーとBioNTech、COVID-19ワクチン『コミナティ筋注』日本への2022年追加供給に関する最終合意書を締結(ファイザー株式会社)ファイザーのワクチン 来年1億2000万回分供給で追加契約(NHK)ファイザー日本法人、3回目接種へ治験データ提出(日経新聞)4.感染症有事の医療体制強化に向けた法改正を/自民党8日、自民党の総務会が開催され、次期衆議院議員総選挙における自民党の重点政策が了承された。今回、8つの分野が柱で、巻頭の最重要課題は「感染症から命と暮らしを守る」。希望者全員へのワクチン接種を一刻も早く完了させ、有事における病床・医療人材の確保、保健所・検査体制などの対応力の強化などを含み、医療機関などに対して「より強い権限を持てるための法改正を行う」と明記した。このほか、「新しい資本主義」では分厚い中間層の再構築や経済安全保障の強化などが含まれており、自民党はこれを総選挙の公約として国民の支持を求める方向。(参考)次期衆院選における自民党の重点政策が決定(自民党)感染対策で国の権限強化 「早期の改憲実現」…自民公約案(読売新聞)医療体制強化へ法改正 自民、衆院選に向け公約原案(日経新聞)5.病院建て替えをめぐり日大理事と病院経営者が逮捕/東京地検東京地検特捜部は7日、日本大学医学部付属板橋病院の建て替え工事の設計契約をめぐって、日本大学に2億2,000万円の損害を与えたとする背任の容疑で、日本大学理事と大阪の民間病院経営者を逮捕した。その後の取り調べで、設計を請け負う会社に対して上限金額を伝えるなどして水増し請求を行わせ、2億2,000万円の資金流出を計画、その一部は大学理事が着服して病院経営者側に提供などを行ったと見られる。東京地検特捜部は、国内最大規模の大学における資金流出のスキームや理事の関与など詳しい事情を捜査している。大学側は同日、理事が逮捕されたことについて「本学理事の逮捕は、誠に遺憾であります。本件につきましては、本学としても現在進められている東京地方検察庁の捜査に引き続き全面的に協力してまいります」とコメントを発表した。(参考)本学理事の逮捕について(日本大学)日大理事と医療法人前理事長を背任容疑で逮捕 東京地検特捜部(NHK)日大理事らを逮捕 病院建て替えめぐる背任容疑 東京地検特捜部(朝日新聞)

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第78回 与野党の政策を党別分析、ツッコミどころ満載なその政策とは?(前編)

10月4日、岸田 文雄自民党総裁が第100代内閣総理大臣に選出され、岸田内閣がスタートした。そしてこの日の夜、首相としての初の記者会見では、衆議院を14日に解散し19日公示、31日投開票の日程で衆議院選挙を行うと方針を明らかにした。見た目は温和な岸田首相の電光石火な行動ぶりにはさすがに驚いた。首相就任から最初の解散までの期間は戦後最短である。新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行が沈静化している中で、いわゆる新内閣発足のご祝儀相場と呼ばれる高めの支持率や野党側の候補者調整のもたつきを踏まえた判断とみられる。もっとも報道各社が行った世論調査での岸田内閣の支持率は高いものでも60%に達しない。その意味では電撃解散決定が支持率の足かせになったかもしれない。さてということで、国政最大の山場である衆議院選が間近となった。自民党の衆議院選に向けた政策はまさに前回紹介した岸田首相の政策がかなり反映されるとみられるが、それ以外の各党はどんな政策を掲げるのか? 政治話続きで申し訳ないが、この際各党が今回の選挙で掲げている社会保障・医療関連分野の政策・公約について「私見」を交えて見ていきたい。まずは与党の公明党はっきりいって私個人は国内の全政党の中でこの政党ほどある部分では政策が明確で、一方である部分は不明確な政党もないと思っている。「何言っているんだ?」と思われるかもしれない。端的に言うと、この政党の柱となる政策は従来から「お金を配る」か「無償化」の2つしかない。それ以外は言っちゃ悪いが、多少の流行に合わせて言葉を並べただけである。それでは見ていこう。まず「2021年衆院選・重点政策 『日本再生へ新たな挑戦』 I.子育て・教育を国家戦略に」。ここでは子供の成長に合わせて『結婚』『妊娠』『出産』『幼児教育・保育』『小中学校』『高校等』『大学等』のステージを設定し、各時期の政策が列記してある。少子化対策の一つとも言える「妊娠」「出産」関連では、「不妊治療の保険適用」とあるが、これは菅内閣で道筋が付きつつあり目新しさはない。さらに「不妊治療と仕事の両立支援」「カウンセリング体制の充実」とあるが、具体策の記述はない。また、「出産」に関しては、「出産育児一時金(現行42万円)の50万円への増額をめざす」とあり、十八番のお金配りが登場する。この件、現在では広く知られているように、一時金が上昇するたびに都市部の民間病院ではベーシックな出産費用も上昇するイタチごっこになり、出産予定者への支援として実効性が疑問視されている。「0~2歳児の産後ケアや家事・育児サービスを拡充」との記述もあるが、これは前述の「妊娠」項目での後者2つの政策同様、聞こえの良いメッセージを並べた程度にしか解釈できない。極めつけは「高校3年生まで無償化をめざし子どもの医療費助成を拡大」。過去の老人医療費無償化や現在各自治体で行われている小児医療費無償化を見ても、安易な受診というモラルハザードを招く側面が多いことが知られている。財源云々を抜きにして、手垢がつき過ぎたポピュリズム政策で、あまり感心できない。なお、最近よく報じられる健康状態が悪い家族のケアに時間を取られる子供、いわゆる「ヤングケアラー」問題については「ヤングケアラー等の家事・育児支援」を掲げている。流行りに乗ったとも言えるかもしれないが、むしろ単純なお金配りよりも、こうした点でより具体的な提案をしたほうが良いと思うのだが。一方、新型コロナ対策についても「2021年衆院選・重点政策 『日本再生へ新たな挑戦』 III.感染症に強い日本へ」で言及している。ここでの訴えを要約すると、▽国産ワクチン・治療薬の開発支援とその確保の強化▽非常時の病床確保▽PCR検査などの検査能力拡大となる。ちなみにこの中で「ワクチンの3回目ブースター接種の無料化」との記述もあるが、行政が重視する施策の連続性などを考慮すれば無料化は既定路線であって、わざわざ政策として記述する必要を感じない。言ってしまえば、十八番の無償化路線に沿って並べたに過ぎないとしか思えない。また、これは公明党に限らず各党が言いがちな国産ワクチン・治療薬の実現だが、言うほど簡単なことではなく、むしろ創薬を甘く見過ぎである。具体例として現在、経口治療薬で先行するメルクで解説しよう。メルクは今回の新型コロナパンデミック当初にワクチン、治療薬開発のために買収と業務提携を各1件、治療薬での業務提携1件を行っている。後者の成果として注目されているのが上市間近と言われる、経口薬のmolnupiravirである。これらの提携や買収の費用はすべて公表されているわけではないが、買収では日本円で400億円程度を要している。そのためこれらの提携に支払った総額は1,000億円程度と推定されている。しかし、このうち買収先でのワクチン開発はすでに中止を決定している。言ってしまえば1,000億円の身銭を切って、400億円はドブに捨てたようなもの。つまりそれだけ大胆なアライアンスを実行しなければならない。日本の製薬企業にこれだけの余裕があるはずもなく、国の支援だけでどうにかなる話ではない。危機に際してだけ数億円程度をつぎ込んでもなんともならないことを日本の政治家は知るべきである。一方、病床確保や検査関連では「後遺症の予防策や治療方法の開発促進のために、実態把握と原因究明の調査・研究に取り組む。また、地域で後遺症の相談ができる体制を整備」という点がほかの政党の公約にはない政策である。もっとも前述したように「お金配り」と「無償化」以外はほぼ実績のない政党であるため、どれだけ本気で取り組むかは未知数である。次いで最大野党の立憲民主党同党の前身である民主党は無償化政策など、やはり耳に聞こえの良い政策を盛り込んだ「マニフェスト」と呼ばれる政策集を掲げて2009年に政権を獲得したものの、それら政策の財政的裏付けが脆弱だったことが白日の下にさらされ、政権から滑り落ちたのは周知のこと。もっとも従来から前身の民主党、その後の立憲民主党は野党第一党ということもあってか、公明党よりは政策の記述内容は充実していることが多い。同党は「#政権取ってこれをやる」とのハッシュタグで9月7日以降、10月5日現在Vol.8まで政策を発表している。そのVol.1「政権発足後、初閣議で直ちに決定する事項」では、官邸に総理直轄で官房長官をトップとする新型コロナウイルス感染症対策の新たな指令塔「新型コロナウイルス対応調整室(仮称)」を設け、その下で権利と役割を整理するとともに、専門家チームを見直して強化するとしている。これについては記者会見で同党の枝野 幸男代表が次のような趣旨の説明をしている。「私自身の経験(東日本大震災時の官房長官)では、危機管理は日常業務を担っている各省庁がフル回転しないと担えない。医療に関連しては厚生労働省がフル回転をするわけで、その外側に大臣をつくっても結局屋上屋を重ねることに過ぎないことは、この1年間ワクチン対策などで明確にも結果が出ていると思っている。危機管理は省庁をまたがり、具体的実務は各地方自治体にお願いをしていることが多く、(新型コロナ対策では)厚生労働省と総務省との間で明確な調整が必要になる。この調整役割があるのは内閣官房であり、各省庁横並びではなく、調整機能を官邸に置くことが一番効果的であり効率的である」一見して筋は通っている。もっとも各省庁のセクショナリズムを過度に排しようとして、なんでも政治が主導を握ろうとし、事実上省庁を機能不全にしたのは旧民主党政権の「罪」の一つ。過去その渦中にいた枝野代表が「教訓」をベースに、どこまで踏み込めるかは興味のあるところだが。また、Vol.8「子ども・子育て政策への予算配分を強化」では、公明党と似たような「出産育児一時金を引き上げ、出産に関する費用を無償化」を掲げている。出産育児一時金増額の弊害は前述したとおり。「出産に関する費用の無償化」は妊婦検診部分のことだろうが、そもそも出産は医療行為が必要にもかかわらず「疾患ではないから公的医療保険の対象外」という従来の硬直した考え方こそ見直しが必要だと個人的には考えている。そうでなければ前述の一時金を巡るイタチごっこは永遠に解消されないだろう。この点、与野党通じて建設的な議論がないのが不思議なくらいである。現時点で衆院選公約として立憲民主党が公表しているのはこれくらいだが、同党が公表している最新の基本政策の社会保障関連を見ると、「介護職員の待遇改善」や「介護離職ゼロ」など介護関連の訴えが目立つ。待遇改善は岸田新首相が訴える「『成長』と『分配』の好循環」でも掲げられていること。これまたすべての政党に共通したことだが、介護については介護保険創設から20年が経過した中で、この間の人口構成の変化や新たな地域包括ケアの提唱などを踏まえた抜本的な見直しの検討について政治の側からの声が少ないのが気になるところだ。旧・民主党からのもう一方の枝分かれ政党国民民主党は「政策5本柱」を公表している。この中を見ると、コロナ禍収束まで「個人、事業者の社会保険料の猶予・減免措置を延長・拡充」や「中小企業の新規正規雇用の増加にかかる社会保険料事業主負担の半分相当の助成による正規雇用を促進」を提案している。ではその分の財政補填はどうなるのか? 明確な記述はないが、財政面で積極的な国債活用をさりげなく訴えていることからすると、国債発行で切り抜ける意向が透けて見える。こうした政策を実行した際の中長期的コストパフォーマンス推計でも示してくれれば、もう少し評価できるのだが。新型コロナ対策では「政策各論 4. 国民と国土を『危機から守る』」でさらりと触れているが、同党の政策パンフレットで「コロナ三策」としてより詳しい記述がある。このうち具体的に医療にかかわるのは「第一策 検査の拡充」と「第二策 感染拡大の防止」である。第一策では(1)「無料自宅検査」によるセルフケアで家庭内感染を抑制、(2)陰性証明を持ち歩ける 「デジタル健康証明書(仮称)」の活用、(3)国による検査精度管理で陰性に「お墨付き」、の3つを掲げている。(1)はたぶん迅速抗原検査を意味していると思われるが、家庭内から感染者が発生した時のことなのか、平時のことなのか不明である。後者ならばはっきり言って財源をどこから確保するかだけでなく、それをどの頻度で行うのかも問題である。そもそも感染の事前確率がまちまちな国民に一斉定期検査を行うなど不効率極まりない。この時期にまだこんなことを言っているのかとやや呆れてしまう。(3)は精度100%の検査がない以上、お墨付きを与えるのは科学的に間違いであり、もはや滑稽な提案と言わざるを得ない。第二策は10項目あるが、各方面でほぼ言い尽くされてきたことで目新しさはなく、どちらかというと「掛け声」程度のものが多い。その中で(3)の「国立病院・JCHOの患者受入れ拡大と民間病院の受入指示法制化」については、労災病院や日赤病院を入れずに、わざわざ「JCHO(独立行政法人地域医療機能推進機)」を入れたあたりにやや恣意的というか当てこすりを感じてしまう。ご存じのようにJCHOの理事長は、政府新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身 茂会長である。また昨今、JCHOについてはコロナ対応病床を設置して補助金を獲得しながら、患者受け入れが不十分との指摘が一部メディアで報じられている。そんなこんなを受けて、わざわざJCHOに言及したのではないかとの見方は穿ち過ぎだろうか?一方、(7)の「ワクチンを地域・年代に着目して 戦略的に重点配分」は一考の余地ありと考える。これまでの流行を見ても、概ね東京都をはじめとする首都圏や地域ブロックの首都的な位置づけの大都市圏で感染者が増加し、その周辺に波及するという経過をたどる。その意味ではワクチン接種で大都市部を優先したほうが感染制御には効率的だと考えられる。国がそうしないのは「地方軽視」との批判を回避したいからだろう。その意味では、これまでは多数の接種希望者を集められそうな「職域接種」が大都市部へのワクチン供給を厚くする調整弁になっていたとも言える。ただ、今後の3回目接種や将来的な新興感染症対策も見据えたうえで、地域的な優先順位は真剣に議論して良いと思う。取り敢えずかなり長くなってしまったので、今回はここまでにしてほかの政党の政策については次回に譲りたい。

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高齢者がCOVID-19に感染する場所と感染対策/感染研

 国立感染症研究所実地疫学研究センターは、9月29日に同研究所のウェブサイト上で「高齢者の会合等、人が集う場面での新型コロナウイルス感染症に関する感染事例の所見と公民館や体育館等を利用する際の感染対策についての提案」を発表した。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第5波はピークアウトし、全国的に緊急事態宣言も解除され、今後秋祭りなどの行事がCOVID-19に警戒しながら行われていくことが予想されている。「とくに多くの高齢者は、新型コロナワクチンの接種も進んでいるが、高齢者が集った場合に発生したCOVID-19のクラスター事例を再度振り返り、これまでに得られた知見や必要な対策について考えてみたい」と同研究所は提案の目的を示している。<これまでに得られた主な所見>・高齢者が日常生活で集合して楽しむ場での感染としては、昼カラオケ、フィットネスクラブ、サークル・クラブ活動など、が知られていた。・主に高齢者を対象とした催事場(ショッピングモールでの対面販売など)での数週間程度の比較的長期間のイベントにおいて、アルファ株流行下より、複数のクラスター事例の発生を認めた。・イベントでは、物品の無料体験会、説明会などの場面で、地域の高齢者が連日、時に繰り返し訪れている様子が観察された。・上記のようなイベントでは、地域の高齢者が集まり、参加者(利用者)同士での談笑、飲食を通した憩いの場になっていた。そのプラス面を考慮する必要がある一方で、調査により、感染した高齢者が、他の感染機会を認めなかった場合も多く、対策上の重要性が認められた・利用者のマスクについては、一般に着用が推奨されていたが、とくに飲食時やそれ以外のマスク着用の状況は詳細な情報が得られていない。・説明会などにおける講師や他の大会関係者のマスク着用に関する情報は乏しかった。・とくに扱う対象が食品の場合、試飲や試食などマスクを外す機会があった。・一部密な状態(狭い空間に多数の者がいた状態)があったことが観察され、換気についても不十分であった可能性が見受けられた(CO2センサーなどでの測定情報無し)。・感染者の店舗利用日が共通していない事例があり、利用者間ではなく、感染した従業員が感染伝播に寄与した事例があった可能性が考えられた。<これまでの所見に基づく主な提案:公民館ガイドラインを踏まえて> 高齢者を含む地域住民が集う場としての公民館における新型コロナウイルスへの対応に関しては、公益社団法人全国公民館連合会により作成された、「公民館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(2020年10月2日)が同会ホームページ上で公開されている。本ガイドラインは、「感染防止のための基本的な考え方」の中で、いわゆる3つの密(密閉、密集、密接)を徹底して避けることの重要性について触れ、リスク評価の項では、接触感染・飛まつ感染それぞれの対策、集客施設としてのリスク評価、地域における感染状況のリスク評価の重要性について言及している。具体的には、イベント・講座などの実施で講じるべき具体的対策、公民館における公演などの開催に際して、公演主催者が講じるべき具体的対策(対人距離を最低1m(出来れば2m)確保する、入館時に検温する、直接手で触れることができる展示物などは展示しない、トイレの管理などの注意点が分かりやすく列挙されている。 以上を踏まえ、同研究所は、「利用者自身が注意すべき事項」「従業員の感染予防が重要であることに関する注意事項」「施設の換気に関する注意点」の3つに大別して注意事項を説明している。◯利用者に対して・屋内で複数の者が集まる機会では密集・密接になる場面を避けることを徹底する。具体的には、良好な換気への対策が十分に行われているイベントに参加することを心がける。マスク着用は必須である。イベント終了後の談笑や長時間の利用を避けることが必要。また、対人距離は最低1m(できるだけ2m)を確保する。座席の配置についても同様。高齢者では耳が聞こえにくい、見にくいなどで距離を保てない状況からどうしても近い距離の接触となりがちではあるが、適切なマスク着用をさらに徹底し、参加は短時間に留めるなどの工夫を行う。・試飲や試食を伴う屋内のイベントへは、できる限り参加を控える。参加する場合、マスクを外す時間を短時間に留め、その間は会話しない。適切なアルコール消毒剤を用いた手指衛生を適切に行う。◯運営者(開催されているイベントがある場合の主催者を含む)・従業員に対して・従業員は施設内感染拡大の要因となり得ることから感染予防ができるように指導を徹底する。・具体的には従来通りの基本として、適切なマスク着用、手指衛生、換気を徹底する。・説明会や講演会の開催にあたっては、運営者・主催者は、屋内で、長時間に渡り、参加者が集まってしまうことを避け、屋外での開催やオンラインを組み入れたイベントとなるように工夫する。換気が十分に実施できる環境の整備を行う。◯換気を十分に実施する具体的方法(林 基哉氏[北海道大学]による補足)・機械換気設備がある場合には、施設使用時には常時運転する。・寒さや暑さに配慮しながら、窓とドアをなるべく常時開放して、部屋の空気がこもらないようにする(暖冷房の利用や着衣に配慮しながら、より換気を確保する)。・扇風機、サーキュレーターなどで、屋内の空気を動かして空気の淀みを少なくする。・とくに換気が十分ではない場合、滞在時間を最小限にすることが望ましい。・二酸化炭素濃度の測定機器(CO2センサー)を利用して、換気の確認を行うことができる。杜撰な感染対策下では再度感染する恐れも 本提案では、最後に2021年9月末現在、新型コロナワクチンの接種が進む中での医療機関や高齢者施設における、いわゆる「ブレークスルー感染事例」やワクチンの有効性について触れ、「『適切なマスクの着用をしない、手指衛生を怠る、換気をきちんと行わない』などの杜撰な感染対策下においては、デルタ株はたやすく人々に感染し、大きな脅威をもたらす」と警鐘を鳴らすとともに、「高齢者を中心とする年齢層の方が集う場をどのように安全に運営するか、は運営者のみならず、利用者である市民も一体となって取り組むべき課題」と問題を提起している。 また、「屋外においても3つのうち1つの密でも発生すると、感染リスクが増大することが観察されている。付設する広場などにおいても、常に警戒を怠らず、十分な間隔をおきながら交流を楽しむことが求められる」とさらなる注意を促している。

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AZ製ワクチン第III相試験主要解析結果/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンAZD1222(ChAdOx1 nCoV-19、AstraZeneca製)は、高齢者を含む多様な集団においてCOVID-19の発症・重症化を安全・有効に予防することが示された。米国・ロチェスター大学のAnn R. Falsey氏らが、米国、チリ、ペルーにおいて現在進行中の、高齢者を含む3万例超を対象とした第III相二重盲検無作為化プラセボ対照試験「AZD1222試験」の結果を報告した。同3ヵ国では、AZD1222の安全性および有効性が明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2021年9月29日号掲載の報告。米国、チリ、ペルーで3万2,451例を対象に試験 試験は、米国、チリ、ペルーで高齢者を含む成人集団を対象に、AZD1222の2回投与の安全性、有効性、免疫原性をプラセボと比較し、AZD1222の2回目投与後15日以降のCOVID-19発症および重症化の予防効果を調べた。 研究グループは被験者3万2,451例を2対1の2群に分け、一方にはAZD1222を(2万1,635例)、もう一方にはプラセボを(1万816例)投与した。完全接種者約1万8,000人中重症者はなし AZD1222群は重篤・医師の診察を要する有害事象や、特定の有害事象の発生率は低く、安全であることが確認された。事象はプラセボ群で観察されたものと類似しており、非自発的な局所および全身性反応は、両群において概して軽度または中等度だった。 ワクチンの推定有効率は、全体で74.0%(95%信頼区間[CI]:65.3~80.5、p<0.001)、65歳以上では83.5%(54.2~94.1)だった。ワクチンの高い有効性は、年齢や職業などの人口統計学的サブグループにおいても一貫して認められた。 完全接種者(AZD1222またはプラセボ2回接種後15日以降)を対象に行ったサブグループ解析では、重症または命に関わるCOVID-19の発症例は、AZD1222群1万7,662例では認められなかった。一方、プラセボ群8,550例では8例(<0.1%)報告された。 SARS-CoV-2感染予防(ヌクレオカプシド抗体セロコンバージョン)の推定有効率は64.3%(95%CI:56.1~71.0、p<0.001)だった。SARS-CoV-2スパイクタンパク質結合と中和抗体は初回投与後に増加し、2回目投与後28日の測定ではさらに増加が認められた。

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Data Driven Scienceの時代(解説:後藤信哉氏)

 医学の世界では、ランダム化比較試験による仮説検証はエビデンスレベルが高いとされた。世界からランダムに対象症例が抽出され、バイアスなく無作為に各治療に割り付けることができれば、仮説検証ランダム化比較試験の結果には科学的価値が高いといえる。しかし、現実的には世界の症例の一部がランダム化比較試験の対象例として選択され、世界から完全に無作為に抽出されているとは言い難い。 電子カルテの使用が一般的になり、医療データのデジタル化は進んでいる。クラウド上にて電子カルテの情報を共有できれば、現在のランダム化比較試験のように特定の症例を抽出するプロセスを排除できる。世界のすべての症例のデータが利用可能な世界では、真の意味でのdata driven scienceの世界ができると思う。英国は医療データベース化の進んだ国の一つである。本研究を見ると、database化が進んだ世界では、大規模データを用いて臨床的仮説を精度高く提案できることがわかる。 COVID-19の最初のワクチン接種を受けた2,912万1,633例(1,960万8,008例がいわゆるアストラゼネカのウイルスベクターワクチンで951万3,625例がいわゆるファイザーのmRNAワクチン)と、175万8,095のCOVID-19陽性症例が対象である。これらの症例の、ワクチン接種・COVID-19陽性以外の時期のイベントを対照としている。すなわち、本研究は大規模の自らを対象としたcase control studyである。さて、case control studyのエビデンスレベルはランダム化比較試験より一般に低いとされる。しかし、ランダム化比較試験では2万例、3万例などの症例の抽出にはバイアスがある。英国のデータベースのサイズは1,000倍あり、サンプリングにバイアスがない。大規模臨床データが利用できる時代になっても、ランダム化比較試験の価値は下がらないだろうか? ワクチンの副反応の議論はあり、実際英国のデータでも、ウイルスベクターワクチンでは血小板減少症のリスクは1.33(95%CI:1.19~1.47)倍に増えていた。しかし、COVID-19陽性の症例の血小板減少症のリスクは5.27(95%CI:4.34~6.40)であった。ワクチンの副反応は心配かもしれないが、疾病を発症した場合のほうがよほど怖い。ウイルスベクターワクチンでは静脈血栓症も1.10(95%CI:1.02~1.18)で、心配かもしれないがCOVID-19陽性者では13.86(95%CI:12.76~15.05)倍である。 ランダム化比較試験ではバイアスを排除して仮説の検証ができる。しかし、症例の登録には費用がかかり、バイアスも大きい。電子カルテの情報をクラウドに蓄積して、全症例における観察結果を数字として共有する世界の魅力が筆者には大きく思える。クラウド共有可能かつセキュリティの担保された電子カルテのプラットフォームを開発すれば、本当の意味でのdatabase drivenの医療ができる。Google、Appleなどと競合して日本企業に頑張ってほしいところである。

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