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世界の総人口80億人到達1)とは裏腹に、その始まりの半分の出どころ、精子が心配なことに減り続けているようです2,3)。しかも悪いことにその傾向は21世紀に入ってどうやら加速すらしています。イスラエルのヘブライ大学公衆衛生学教授Hagai Levine氏が率いる研究チームが6年前の2017年に発表したメタ解析では北米、欧州、オーストラリアでの精子の紛れもない減少が確認されました4,5)。その3年後の2020年春にLevine氏等は2014年以降に出版された試験の同定に着手し、男性1万4,233人からの精液検体を扱った38試験報告を見出しました。新たに見つかったそれらの試験と2017年のメタ解析で扱った試験は合わせて233件あり、1973~2018年の46年間に6万人近い5万7,168人の男性から採取された精液検体の検討結果を含みます。世界6大陸53ヵ国からのそれらの結果を改めてメタ解析した結果、北米、欧州、オーストラリアでの精子が減り続けていることに加えて、南/中央アメリカ、アジア、アフリカでも精子が減っていることが確認されました。世界の男性の精子減少は驚くばかりで、1973年には1mL当たり1億個を超えていたのが2018年にはその半分未満の1mL当たり4,900万個に減っていました。しかもその減少は20世紀に入って拍車がかかっているらしく、1mL当たりの精子数の年間低下率は1972年過ぎ(post-1972)からは1.16%だったのが2000年以降は2.64%へとおよそ倍増しています。日本の男性の精子もどうやら同様かもしれません。4都市(川崎、大阪、金沢、長崎)の大学構内にポスターを出して被験者を募った1999~2003年の試験の結果、中央値およそ21歳の大学生被験者1,559人の精子数の平均は1mL当たり5,900万個でした6)。今回のメタ解析報告での世界の2000年頃の精子数は(同報告のFigure 2 によると)1mL当たり平均7,000万個ほどであり、日本の大学生被験者はそれに比べると少なめです。また、パートナーが妊娠した男性、すなわち不妊ではなく受精能力がある日本人男性のみ募った試験7)での792人の1mL当たりの精子数平均は1億を超えており(1億0500万個/mL)、大学生被験者を上回っていました。それに、大学生被験者の実に3人に1人(32%)は1mL当たりの精子数が4,000万個に届いておらず、よって受精能力が低いと示唆され、パートナーの妊娠はより困難かもしれません。もっというと大学生被験者のおよそ10人に1人(9%)の1mL当たりの精子数は世界保健機関(WHO)の基準下限1,500万個8)未満でした。最初のメタ解析発表の翌年2018年、Levine氏を筆頭とする医師や科学者等一堂は精子減少を公衆衛生の一大事として認識し、人類の存続のために男性の生殖機能を重視することを求める声明を発表しています9)。各国は男性の生殖機能の衰えの原因を調べることに資源や人手を割き、その調子を把握して害されないようにする最適な環境を整えることをその声明は求めています。Levine氏に言わせれば事態は急を要します。今回発表されたメタ解析結果は男性の精子に危機が迫っていることを知らせるいわば炭鉱のカナリア(canary in a coal mine)であり、このままでは人類の存亡にかかわります。人間を含むすべての生き物にとってより健康的な環境を整えることに世界は取り組み、生殖機能を害する振る舞いや要因を減らさねばなりません3)。Pfizer/BioNTech社の“T細胞”強化コロナワクチンの試験開始新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)へのT細胞反応強化を目指すPfizer/BioNTechのmRNAワクチンBNT162b4の第I相試験(NCT05541861)が始まりました10,11)。SARS-CoV-2感染症(COVID-19)予防 mRNAワクチンを少なくとも3回接種した健康なおよそ180人を募り、オミクロン株BA.4/BA.5対応ワクチン併用でのBNT162b4の3用量(5、10、15 μg)の免疫原性や安全性などがオミクロン株BA.4/BA.5対応ワクチンと比べてどうかが検討されます。BNT162b4はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質以外のタンパク質を作るT細胞抗原mRNAが成分であり、T細胞免疫をいっそう強化してより隈なく行き届くようにし、COVID-19予防をより持続させることを目指します。重症化や入院を少なくとも1年は予防する長持ちな抗体やT細胞免疫を引き出すCOVID-19ワクチンを世に出すことを目指していると今年中頃の決算の会見でPfizerの最高科学責任者Mikael Dolsten氏は述べています12)。今回臨床試験段階に進んだBNT162b4はそういう長持ちで手広い免疫反応を引き出す取り組みの一翼を担っています。参考1)11月15日「80億人の日」/ 国連人口基金2)Levine H, et al. Hum Reprod Update. 2022 Nov 15:dmac035 [Epub ahead of print].3)Follow-up study shows significant decline in sperm Ccounts globally, including Latin America, Asia and Africa / Eurekalert4)Levine H, et al. Hum Reprod Update. 2017;23:646-659.5)Comprehensive study shows a significant ongoing decline in sperm counts of Western men / Eurekalert6)Iwamoto T, et al.BMJ Open 2013;3:e002222.7)Iwamoto T, et al.BMJ Open. 2013;3:e002223.8)WHO laboratory manual for the Examination and processing of human semen / WHO9)Levine H, Basic Clin Androl. 2018;28:13.10)Pfizer and BioNTech Advance Next-Generation COVID-19 Vaccine Strategy with Study Start of Candidate Aimed at Enhancing Breadth of T cell Responses and Duration of Protection / GlobeNewswire11)Safety and Effects of an Investigational COVID-19 Vaccine as a Booster in Healthy People(ClinicalTrials.gov)12)Pfizer (PFE) Q2 2022 Earnings Call Transcript / Fool.com