サイト内検索|page:13

検索結果 合計:2020件 表示位置:241 - 260

241.

成人肺炎診療ガイドラインを先取りした肺炎の予防戦略/日本呼吸器学会

 肺炎は日本人の死因の5位に位置する主要な疾患である。高齢になるにつれて発生率、死亡率が高くなり、65歳以上の高齢者が死亡者全体の95%以上を占めている。したがって、高齢者肺炎の予防が重要といえる。本邦において、医療関連肺炎(HCAP)では肺炎球菌に加えて口腔内連鎖球菌、嫌気性菌が多かったという報告もあり1)、高齢者肺炎の予防戦略は「肺炎球菌ワクチン」と「口腔ケア」が2本柱といえる。改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、これに対応して「肺炎の予防に口腔ケアを推奨するか」というCQ(クリニカルクエスチョン)が設定され、システマティックレビュー(SR)が実施された。ワクチンについては、すでに確立された予防戦略と判断されたことから、2017年版の内容が引用され、「インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用接種」が推奨された。そこで、第63回日本呼吸器学会学術講演会において丸山 貴也氏(三重県立一志病院 院長)は、肺炎診療ガイドラインの改訂にあたって実施した口腔ケアのSRの結果や、それに基づく委員会での推奨、ワクチンに関する最新の情報について紹介した。成人肺炎診療ガイドラインで口腔ケアのCQ設定 改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、「肺炎の予防に口腔ケアを推奨するか」というCQが設定され、人工呼吸器関連肺炎(VAP)/非VAP、クロルヘキシジン使用/不使用に分けてSRが実施された。その結果、非VAPについて、クロルヘキシジン不使用の口腔ケア実施群で、非実施群と比べて肺炎による死亡が有意に減少し、肺炎発症率も有意に低下した。以上の結果などから、推奨は「実施することを弱く推奨する」とする予定と報告された。今回、“弱く”推奨するとなっているのは、認知症や精神疾患などによって口腔ケアの実施が難しい場合が考えられるためであるという。したがって、丸山氏は「口腔ケアにはしっかりとしたエビデンスがあり、原因微生物とストラテジーもはっきりしている。侵襲性も少ないことから、ぜひ実践してほしい」と述べた。成人肺炎診療ガイドラインではワクチン併用接種を引き続き推奨 現行の成人肺炎診療ガイドライン2017では、「高齢者の肺炎予防において、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用接種は推奨されるか」というCQが設定され、併用接種が強く推奨されている2)。改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、すでに確立された予防方法として2017年版でのSRの結果を引用しながら、新たなワクチンについても解説するという。 インフルエンザウイルスに感染すると、気道や全身に変化が起こり、肺炎球菌などへの2次感染が生じやすくなる。実際に、本邦においてインフルエンザウイルス感染により入院した患者の合併症として肺炎が最も多く、36.4%を占めていた。また、インフルエンザ関連肺炎の原因微生物として、肺炎球菌が多く、死亡例の80%が肺炎を合併し、インフルエンザ関連肺炎の死亡率は9.5%であった。多変量解析によっても肺炎の発症がインフルエンザウイルス感染の予後規定因子として特定されており3)、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの併用接種が重要といえる。 肺炎球菌ワクチンについて、日本呼吸器学会と日本感染症学会の合同委員会は、2023年3月24日に「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第4版)」を公表している。そこでは、65歳以上の健康な高齢者については「定期接種の機会を利用してPPSV23(23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン)を接種」、ハイリスク者については「PCV13(沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン)またはPCV15接種後1年以内のPPSV23接種を検討(とくに免疫不全者には推奨)」としている4)。改訂中の成人肺炎診療ガイドラインでは、この内容を追随する予定と報告された。

242.

第148回 新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省2.国内で麻疹患者を複数確認、国内でも流行を懸念/厚労省3.GLP-1ダイエットの健康被害、日本医師会も問題視4.国立健康危機管理研究機構の設立へ、衆議院を通過/国会5.高度急性期偏重の診療報酬改定で、2次救急医療に悪影響か/中医協6.次世代医療基盤法改正案が成立、医療ビッグデータの利用促進へ/内閣府1.新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省厚生労働省は、5月19日に定点把握による新型コロナウイルス感染症の感染状況データを初めて公表した。全国の約5,000の医療機関から報告された1週間の感染者数は1万2,922人で、1医療機関当たりの平均患者数は2.63人だった。東京、神奈川、埼玉、千葉の推移をみると、都道府県ごとの感染者数は増加しており、特に沖縄県が最も多い6.07人だった。厚労省はこれまでの感染者数と比較して、緩やかな増加傾向が続いていると分析している。また、新たに始められた「新規入院者数」の発表では、1週間で2,330人の新規入院があり、前週と比べてほぼ横ばい。厚労省では、今後も定点把握を通じて感染状況を把握し、対策を進める方針。(参考)新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:発生動向の状況把握(国立感染症研究所)新型コロナ「緩やかな増加傾向」 厚労省が定点把握で初発表(東京新聞)コロナ定点把握 5類変更後初めて公表 新規患者数 8-14日の1週間分 厚労省(CB news)新型コロナ「定点把握」全国の感染状況データ 初の発表 厚労省(NHK)2.国内で麻疹患者を複数確認、国内でも流行を懸念/厚労省感染力が強い「麻疹」の感染者が国内で複数確認され、厚生労働省が注意喚起を行っている。今月に入って確認された感染者は、インドから帰国した30代男性と、東京都在住の男女2人で、同じ新幹線の車内にいたことで感染経路が特定されている。海外との往来の増加により、国内での感染例が増加する可能性が懸念されており、厚労省は海外渡航者へ注意喚起とワクチン接種を呼びかけている。麻疹は非常に感染力が強く、免疫力のない人が感染するとほぼ100%発症する。感染経路は空気感染のため、手洗いやマスクでは予防できない。麻疹の治療は対症療法であり、ワクチン接種が有効とされている。しかし、国内でのワクチン接種率は目標の95%を下回っており、国内での流行の懸念が高まっている。加藤厚生労働大臣は、5月16日の記者会見で麻疹の症状を有する場合は麻疹を疑い、医療機関を受診のための移動の際は公共交通機関の利用を控えるよう呼び掛けている。厚労省は、自治体や医療機関に対し、麻疹に対する注意喚起を行い、同省のホームページやSNSなどで国民に向けた情報の提供をしている。(参考)加藤大臣会見概要[令和5年5月16日](厚労省)国内での麻しん流行を懸念、発熱や発疹のある者は麻しんを疑った行動・診療を!医療従事者は2回の予防接種歴確認を-厚労省(Gem Med)「麻しん疑われる時は受診前に医療機関に連絡を」相次ぐ感染者の確認を受け 加藤厚労相(CB news)はしか、国内で複数の感染者確認 同じ新幹線車両に乗り合わせ(朝日新聞)はしか相次ぎ、厚労相「症状あれば交通機関の利用控えて」…感染者が不特定多数と接触か(読売新聞)3.GLP-1ダイエットの健康被害、日本医師会も問題視糖尿病治療薬のセマグルチド(商品名:リベルサス)が「飲むだけで痩せられる薬」として処方され、健康被害が相次いでいることが5月18日に一般報道された。ダイエット目的でのGLP-1受容体作動薬の処方は、美容クリニックやオンラインクリニックで行われている。しかし、吐き気やめまいなどの副作用が出現するほか、急性膵炎で入院する人も報告されている。本来、セマグルチドは糖尿病の治療薬であり、ダイエットの薬としての厚生労働省の承認はなく、適応外使用となる。オンライン診療での医師の診察は短時間で行われ、医師とは対面もなく検査もされないまま処方薬が自宅へ配送されており、TwitterなどのSNSでも副作用の訴えが多く寄せられている。現在、美容クリニックやオンライン診療での糖尿病の薬の処方は自由診療で行われているため、現状では規制が難しい状況であり、日本医師会もこれを問題視し、繰り返しこの行為の問題を表明している。同会では今後、処方を正しく行うための法整備が必要と訴えている。(参考)「飲むだけで痩せられる」糖尿病の薬を“痩せる薬”として処方 副作用で吐き気やめまいなど健康被害相次ぐ…入院する人も(TBS)自由診療における糖尿病治療薬の不適切使用に対する見解示す(日医)自由診療におけるオンライン診療の不適切事例について(医薬品の適応外使用)(同)4.国立健康危機管理研究機構の設立へ、衆議院を通過/国会次の感染症に備えるため、アメリカのCDC(疾病対策センター)をモデルとして、内閣感染症危機管理統括庁や厚生労働省に科学的知見を提供するため、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合して新たな専門家組織「国立健康危機管理研究機構」を設立する法案が国会に提出されていた。この5月18日に衆議院本会議で採決が行われ、自民、公明党などの賛成多数で可決された。今後、参議院に送付されて採決で成立すれば、法案に基づいて設立される。設立は令和7年度以降に予定されている。(参考)国立健康危機管理研究機構について(厚労省)国立健康危機管理研究機構(仮称)と地方衛生研究所等の連携強化(同)国立健康危機管理研究機構法案(衆議院)日本版CDC法、衆院通過 司令塔新設案、参院審議へ(東京新聞)5.高度急性期偏重の診療報酬改定で、2次救急医療に悪影響か/中医協厚生労働省は5月17日に中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を開催した。来年度から始まる第8次医療計画のうち新興感染症を除く5事業について、診療報酬の在り方の議論を始めた。診療側が問題提起したのは救急医療。去年の診療報酬の改定では、高度急性期医療を評価する「急性期充実体制加算」の新設によって、「総合入院体制加算」(診療科として精神科、小児科、産婦人科の標榜が施設基準)から急性期充実体制加算の算定に移行するため、医療機関側が精神科や産科を廃止するなど地域の2次救急の維持・運営に支障が生じていると指摘があった。本来は100万人に1つの3次救急施設を整備する方針だったが、すでに国内には300施設存在し、さらに増加傾向が続いており、診療側は医療計画がゆがんでいないか、診療報酬以外の財政措置も考慮すべきだと主張した。また、診療報酬の評価方法を見直し、2次救急の評価を充実させる必要があると訴えた。その他、高齢者の救急患者については、急性期以外の医療機関での対応を促す仕組みを強化すべきだと指摘があった。(参考)総合入院体制加算の届け出1年間で35%減 厚労省、周産期医療への影響を注視(CB news)二次救急医療機関への評価充実要望、中医協で診療側 支払側「高齢の救急患者は急性期以外で」(同)総合入院体制加算⇒急性期充実体制加算シフトで産科医療等に悪影響?僻地での訪問看護+オンライン診療を推進!-中医協総会(Gem Med)中央社会保険医療協議会 総会[第545回](厚労省)6.次世代医療基盤法改正案が成立、医療ビッグデータの利用促進へ/内閣府医療ビッグデータの利用を促進するため、今国会に内閣府が提出していた次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)の改正法案が、5月17日に開かれた参議院本会議で可決・成立した。この法律は、病院などから提供された医療情報を加工し、研究開発などに活用するために、個人情報保護法の特例法として平成29年に制定されていた。現行法では個人情報の保護のため制限があり、これまでの利用実績は20数件と少なく、新薬の研究開発などに活用しにくいという課題があった。このため経団連や日本製薬工業協会などからは改正を求める声が上がっていた。新たに成立した改正次世代医療基盤法では、匿名化したままでより精緻な医療データを新薬の開発などに利用に活用することが可能となる。具体的には、血圧や体重などの検査値の提供範囲を拡大し、創薬や副作用の早期把握などに活用することが期待されている。また、個人情報保護のため新たな制度が導入され、元の医療情報から患者本人を直接特定できないように、個人情報の保護と情報漏えいの防止強化にも取り組むことになる。(参考)「次世代医療基盤法」とは(内閣府)精緻な医療データを製薬利用へ 法改正、個人情報は配慮(日経新聞)医療データ活用へ 改正次世代医療基盤法 参院本会議で成立(NHK)世代医療基盤法の見直し(経団連)

243.

第160回 インフルの集団感染、新型コロナの教訓はいずこに!?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の教訓は生かされていないのか? 宮崎県でのインフルエンザ集団発生の報道を知って、そう思った。1つの高校で教職員・生徒を合わせて491人ものインフルエンザの感染者が発生したとの一報を目にした時は、正直「冗談だろう? もしかして新型コロナと間違えた?」と思った。集団発生が起きた高校の生徒数はわからないが、宮崎県内の高校のデータを参照すると、全日制高校の生徒数は最大規模でも約1,600人。多くは700~900人規模かそれ以下である。ざっくり計算をすると、集団発生が起きた高校では2~4人に1人がインフルエンザに感染したことになる。となると基本再生産数が約2のインフルエンザではなく、5以上と報告されているオミクロン株による新型コロナではないかと考えてしまったのだが、この時期の呼吸器感染症ではPCR検査による鑑別はしているはずで、やはりインフルエンザということなのだろう。ただ、立ち止まって考えてみれば、不思議はないのかもしれない。まず、報道されているように、きっかけはどうやら体育祭のようだ。前回の記事でも触れたように、文部科学省が4月1日から「学校での教職員・生徒のマスク着用を原則不要」と通知した中、体育祭では教職員・生徒の多くがマスクを外していた可能性がある。その環境で人と人とが密着しやすい体育祭を行えば、集団発生が起こりやすいのは確かだ。ここであえて言及すると、この高校の体育祭で教職員・生徒の多くが実際にマスク非着用だったとしても、私はこれを批判するつもりはない。とはいえ、近年、1つの学校で短期間にこれだけのインフルエンザ患者が発生したケースは、少なくとも私個人は記憶にない。そしてここまでの集団発生の主たる原因は、マスク非着用での体育祭実施よりも、コロナ禍でインフルエンザの流行がかなり抑えられた結果、多くの人でインフルエンザに対して免疫が失われていたからではないだろうか。これに高校生がインフルエンザワクチンの定期接種の対象者ではないこと、仮に昨秋以降にワクチン接種をした人がいたとしても季節外れで効力が失われていることを考え併せると、今回の集団発生はおおむね説明がつくのかもしれない。では、ここからは私がこの事例でどんな「教訓」が生かされていないと考えているかに話の軸を移していきたい。ここでは釈迦に説法となるが、改めてインフルエンザの特徴を整理しよう。潜伏期間は1~3日無症候割合は10%ほどで、こうしたケースではウイルス量は低い感染力(ウイルス排出量)のピークは発症後この特徴を踏まえれば、今回の集団発生は、他者への感染が起きやすい環境と集団免疫の喪失に加え、この教職員・生徒の中に症状があるのに体育祭に参加した人がいるということだ。まさに私が指摘したいのはこの点である。コロナ禍を通じて、繰り返し叫ばれたのは「風邪様症状のある人は外出を控えて」というメッセージだ。コロナ禍当初には、OTCの風邪薬のCMで有名だった「風邪でも絶対休めないあなたへ」というキャッチコピーもついに消えた(このコピーについては2016年から問題が指摘されていたが、変更されたのは2020年3月ごろ。当該製薬企業は「TVCMの放映期間ならびにキャンペーンが終了したため修正した」と説明している)。残念ながら、今回の集団発生ではこのメッセージが守られていなかった可能性があると考えざるを得ない。集団発生の時期は新型コロナの感染症法上「5類化」後であり、この高校では久々の体育祭だったかもしれない。ならば教職員・生徒共に無理を押してでも参加したい気持ちがあったのだろうと想像する。しかし、ちょっとした“油断”がこれだけの事態を招いてしまう。今はコロナ禍を経た過渡期だが、同時にこれまでに得た教訓を踏まえ、社会がより良い方向に定着していくための重要な時期でもある。たとえば、コロナ禍で得られた重要な教訓・経験の1つはリモート化・オンライン化である。これを活用して体育祭の実況中継によるハイブリット開催も可能だったはず。数少ない貴重なイベントだからこそ、体調不良の教職員・生徒が少しでも安心して休め、かつ疎外感を抱かないようそこまで配慮しても良かったのではと思う。しかも、以前よりもこうしたことは低コストでできる。もちろん現場で参加する高揚感や充実感にはかなわないのは確かだが、そうしたサポートがないより遥かにマシなはず。そして社会がコロナ禍明けで「湧いている」ようにも見える今こそ、コロナ禍の教訓をいかに社会に定着させるかを改めて再認識する必要がある。そのためには途方もない地味な努力の継続が求められるだろう。たとえば「風邪様症状のある人は家で休もう」と言い続けることはその1つだ。これはある種、医療関係者だけでなく社会全体にとって「苦痛」な作業となる。しかし、これをあきらめたら、私たちは新型コロナに真の敗北を喫することになる。

244.

ユニバーサルインフルエンザワクチンの開発に向けて一歩前進

 あらゆるインフルエンザウイルスに有効な「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の開発に向けて、研究が前進している。ユニバーサルインフルエンザワクチンは、将来のインフルエンザのパンデミックと戦う武器になる可能性を秘めている。米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)ワクチン研究センターのSarah Andrews氏らは、第1相臨床試験において、実験段階にあるインフルエンザワクチンによってさまざまな種類のA型インフルエンザウイルス株に対して交差反応性を示す抗体が誘導されたことを確認。その詳細を、「Science Translational Medicine」4月19日号に発表した。 A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面のヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれるタンパク質の抗原性の違いを基に、いくつかの亜型に分類されている。一方、B型インフルエンザウイルスには亜型はないが、HAの抗原性の違いから2種類の系統に分けられている。現在使用されているインフルエンザワクチンは、A型ウイルスの2種類の亜型と、B型ウイルスの2系統のウイルスの計4種類に対して効果のあるワクチンだ。ワクチンには、弱毒化あるいは不活化されたインフルエンザウイルスのHAが複数種類含まれている。HAの構造は頭部とステム(茎)領域に分けられ、インフルエンザワクチンを接種したり、インフルエンザウイルスに感染したりすると、免疫システムがHAの頭部に対する抗体を作る。しかし、HAの頭部は抗原変異を起こしやすい。そのため、そのシーズンに主に流行すると予測される4種類のウイルス株を選び出し、それらを用いたワクチンをシーズンごとに製造する必要がある。 これに対してHAのステム領域は、さまざまなインフルエンザウイルス株の間で比較的安定的に保存されている。ただ、Andrews氏によると、人間の免疫反応はHAのステム領域には向かわず、頭部を標的にするようになっているという。そこで、同氏らはHA頭部の可変領域を切り落として免疫システムの攻撃が頭部に向かわないよう設計した蓋のようなものに付け替え、「免疫システムにはステム領域のみが見えるようにした」ワクチンを開発した。 ヒトを対象とした初の臨床試験において、Andrews氏らはこの頭部の欠落したHAを用いたワクチン(H1ssF)を52人の健康な成人に投与した。ワクチンは、20μgを1回(5人)、または60μgを2回(47人)の2パターンで投与され、60μgのワクチンを接種する群では35人(74%)が2回の接種を完了した。 その結果、ワクチンを接種した人の19%(10人)が注射部位の痛みまたは頭痛といった通常のインフルエンザワクチンでも生じる副作用を経験したのみであり、ワクチンは安全であると考えられた。免疫反応に関しては、A型インフルエンザウイルス株に対してワクチン接種により幅広い抗体反応が示され、接種から1年後もA型インフルエンザウイルス株に対する中和抗体が維持されていることが確認された。ただし、ワクチンはA型インフルエンザウイルス株のHAを用いたものであるため、B型インフルエンザウイルスに対する抗体反応は確認されなかったが、「これは予測されていた結果であった」とAndrews氏は説明している。 研究グループは、この段階の臨床試験で望み通りの成果が得られたという点では、希望の持てる結果であると話している。ただしAndrews氏は、実際にこのワクチンが人々をインフルエンザから守ることができるかどうかについては、現時点では不明だとしている。また、今後の研究が全て順調に進んだとしても、ワクチンの実用化には5~10年はかかると予測している。 米ワイル・コーネル大学医科大学院准教授で米国感染症学会(IDSA)のスポークスパーソンでもあるMirella Salvatore氏は、Andrews氏らのワクチンが今回、初期試験をクリアしたと指摘。「ユニバーサルインフルエンザワクチンは、シーズンごとに流行株を予測する必要性をなくすだけでなく、今後起こり得るインフルエンザのパンデミックから人々を守ることができる可能性を秘めている」と今後の展開に期待を寄せている。

245.

第45回 麻疹の接種歴も抗体価も知らぬ医師

茨城県と東京都で成人麻疹8年前から日本は麻疹排除状態になり、麻疹はどちらかといえば輸入感染症としての側面を持つようになっています。茨城県でインドから持ち込まれた麻疹ウイルスに感染した事例が報告され、これと疫学的リンクがある2例が東京都でも発生したことが報道されました。新幹線のグリーン車で感染したらしいので、学会などで移動が増えているこの時期、医師の皆さんもご注意ください。接種歴を知らない医療従事者私は感染制御チームに所属しているので、麻疹の接種歴や抗体価のデータをどのように管理すればよいか日々試行錯誤しているのですが、医療従事者の中には、自分が麻疹にかかったことがあるかどうか・ワクチンを接種したことがあるかどうか・抗体価は十分あるかどうか、知らない人が結構います。意識が高い人は、印刷したデータをネームプレートに入れています。病院実習のときにワクチン接種歴を聞かれて、不十分と判断された大学では接種をすすめていたでしょう。しかし、それすらも記憶にない医師が結構多くて、びっくりします。家族が妊娠したときに、風疹については少し興味を持ってくれる人が多いようですが、麻疹はあまり興味を持たれません。混合ワクチンを接種している世代が増えてきましたが、私のように中途半端な世代もまだまだ多いと思います(表)。アフターコロナで流行国へ渡航することが増えると、麻疹ワクチンを1回のみで接種している人たちが感染するパターンが増えてくるかもしれません。画像を拡大する表. 麻疹ワクチン接種歴(筆者作成1))麻疹には特異的な治療法がなく、対症療法が中心になります。そのため、できるだけ感染しないようワクチンによる予防が重要になります。麻疹による死亡のほとんどは肺炎か脳炎です。まずは接種歴と抗体価の把握をワクチン接種歴や、麻疹・風疹・水痘・流行性耳下腺炎の抗体価については、ご自身で把握しておくことが望ましいですが、とくに医局人事で病院を転々とする人は、途中でデータが紛失してしまうこともあるため注意してください。参考文献・参考サイト1)一般社団法人日本ワクチン産業協会. 予防接種に関するQ&A集

246.

コロナワクチンの有効性、40試験のメタ解析結果

 将来の第9波到来を見越した新型コロナ対策として、これまでのブースター接種のタイミングや接種用量などを評価しておく必要がある。伊・Fondazione Bruno Kessler(FBK)のFrancesco Menegale氏らはワクチンの有効性(VE)の経時的変化を数学的に説明できれば、流行時に応用できる可能性があると考え、新型コロナウイルスのデルタ株およびオミクロン株に対するVEとして、VEの半減期や効果減退率に関する調査を実施した。その結果、ワクチン初回接種とブースター接種後の時間経過とともにVEが急速に低下することを示唆した。JAMA Network Open誌2023年5月3日号掲載の報告。 本研究では論文検索データベースとしてPubMedとWeb of Scienceを使用。検索開始から2022年10月19日までの期間に、新型コロナウイルス感染や症候性疾患に対する経時的なVEの推定値を報告した論文からプレプリントまでを抽出してシステマティックレビューならびにメタ解析を行った。なお、各論文で使用されていた主なワクチンはBNT162b2(ファイザー社/ビオンテック社)、mRNA-1273(モデルナ社)だった。 主な結果は以下のとおり。・検索した結果、799件の論文、査読付きジャーナルに掲載された149件のレビュー、35件のプレプリントが該当し、そのうちの40件が分析に使用された。・オミクロン株感染と症候性疾患に対するワクチン初回接種のVEに関する推定値は、最終投与から6ヵ月で20%未満だった。・ブースター接種は、初回接種の投与直後に得られたレベルに匹敵するまでにVEを回復させた。しかし、ブースター接種9ヵ月後のオミクロン株に対するVEは、感染症および症候性疾患に対して30%未満だった。・症候性感染に対するVEが半減するのは、デルタ株では316日(95%信頼区間[CI]:240~470日)、オミクロン株では87日(95%CI:67~129日)と推定された。・また、VEを若年層(18歳未満)と高齢者(60歳以上)で比較したところ、推定値での差はみられなかった(39.2%[95%CI:34.0~44.4] vs.38.7%[95%CI:14.4~63.1])。 研究者らは「本結果は、将来のワクチン接種プログラムの適切な目標とタイミング構築に役立つ可能性がある」としている。

247.

世界初のRSVワクチン承認/FDA

 グラクソ・スミスクライン/GSKは、2023年5月3日、RSウイルス(RSV)ワクチン「Arexvy」について、60歳以上におけるRSVに関連する下気道疾患の予防を目的として米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得したことを発表した。本承認は、60歳以上を対象とした第III相試験「AReSVi-006試験」の結果に基づくもの。RSVは、米国において65歳以上の年間約17万7千例の入院、約1万4千例の死亡を引き起こしていると推定されている。日本においては、60歳以上の年間約6万3千例の入院、約4千例の死亡を引き起こしていると推定されている。 AReSVi-006試験は、60歳以上の2万4,966例を対象とした国際共同プラセボ対照第III相試験。本試験において、ワクチンのRSVに関連する下気道疾患に対する統計学的有意かつ臨床的に重要な有効性(82.6%)が示され、主要評価項目が達成された。また、特定の心肺系疾患や内分泌代謝系疾患など、注目すべき併存疾患を有する高齢者での有効性は94.6%であった。RSVに関連する重症下気道疾患に対する有効性は94.1%であった。また、安全性についても良好な安全性プロファイルを示した。多く認められた有害事象は、注射部位疼痛、疲労、筋肉痛、頭痛、関節痛であった。これらはおおむね軽度から中等度であり、一過性であった。 今回、FDAの承認を取得したRSVワクチン「Arexvy」は、RSVの宿主細胞との膜融合に関与するfusion(F)タンパク質について、立体構造を安定させた組換え膜融合前(prefusion)Fタンパク質とGSK独自のAS01Eアジュバントを組み合わせて作製されたワクチンである。米国での発売開始は、2023~24年のRSV流行シーズン前を見込んでいるとのこと。

248.

第159回 5類移行でマスク着脱議論が再び炎上、それって誰の何のため?

5月8日から、ついに新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は、感染症法上の5類扱いとなった。とは言っても、多くの一般人にとっては5月7日と5月8日で一気にガラリと生活が変わるわけではないだろう。ただ、接客が伴う各種業界ではこの日を機に以下のようにさまざまな変化が起こることが報じられている。『ローソン店員のマスク着用は「任意」に、一方で高島屋は「継続」 新型コロナ「5類」変更でも分かれる対応』(TBS)『「3年間お世話になりました」処分か保管?アクリル板どうする「5類移行」正式決定』(テレビ朝日)こうした身近な変化から、多くの人はいわゆる「コロナ禍」という言葉が有していた深刻さから徐々に解放されていくのだろう。そんな最中、国内でホテルリゾート業を営む星野リゾート代表取締役社長の星野 佳路氏は、5月8日から同社従業員が一斉にマスクを外すとTwitterで宣言し、いわゆる炎上案件になったことを一部の人はご存じかと思う。このツイートは文字通り読むと、従業員に一斉にマスク外しを指示したようにも読めてしまうのだが、ほかの記事を読むと、どうやら完全一律というわけではなさそうである。そんな最中、SNSで知人がある投稿をしていたのに目が留まってしまった。彼はこの星野リゾートの件をフックに「これでもマスクを外せない人は、一生顔を隠して生きていくの?」という記述とともに、学校で教職員や来訪する保護者のマスク外しが進んでおらず、これでは同調圧力で子供は外せないだろうという趣旨の書き込みをしていた。さらに「『外すのも付けるのも自由』なんて言うのは無責任の極み」ともダメ押しで記述していた。「大人が外せなければ、子供は…」のくだりは概ね同意はできるが、そのほかに関しては、私個人としてはなかなか賛同できず、ついコメント欄に書き込みし、数日間にわたって応酬となった。最終的には互いに穏便なところに落ち着いたが、改めて思ったのはこの問題の根深さである。この3年間、新型コロナに関しては嵐のように大量のニュースが流れた。その時々で伝わった情報を理解しつつも、状況が頻繁に変化するため、多くの人が混乱しただろう。私なりにいまだに残るこのウイルスの厄介さを箇条書きにすると以下のようになる。感染力が既存の感染症の中でもかなり高いほうに分類される重症化・死亡リスクが集団によって大きく異なる短期間で感染の主流をなすウイルス株(変異株)が入れ替わったウイルス株の入れ替わりとともにワクチンの効果が変動した(とくにオミクロン株出現以降)感染力のピークが発症前にあるなかでも最後の性質は、今回のユニバーサル・マスク対策の根拠となっている。また、日常会話の飛沫で容易に感染してしまうことから、人との接触を避けることが対策の核となり、飲食業を中心に一部の業態が深刻なダメージを被った。ちなみに前述の知人も飲食業ではないが、深刻なダメージを食らった業種の人である。その意味で社会の中でもコロナ禍に対する「恨み」にはかなりの濃淡がある。一方、感染症法上の5類になったところでウイルスそのものは根絶されたわけでも何でもなく、重症化・死亡リスクの高い人たちは依然として一定の警戒が必要である。その結果、そうした人の中にはなかなかマスクを手放せない人もいる。これらを総合すると、新型コロナを巡る問題はどうしても社会の分断を招きやすい性質を有してしまう。私自身は以前、屋内も含めたマスク着用を“個人の判断”とした政府の宣言に対し、その伝え方には一言モノ申したが、宣言そのものについてはまったくその通りだと思っている。いわずもがな、個々人の置かれた環境や保有するリスク因子はかなり異なるからだ。前述の知人の主張をざっくりまとめると、子供がマスクを外しやすくなるように、この5類化を機に学校では教職員や来訪する保護者は半ば強制的かつ一律的にマスクを外すことを求めている(少なくとも私はそう受け取って応酬した)。しかし、これはかなり困難な話だ。学校にも一定数はいるはずの重症化・死亡リスクの高い人に対し、公権力はリスクが上昇する方向への行動変容を強いることはできないからだ。文部科学省の都道府県・指定都市教育委員会の教育長などへの通知でも原則は「マスクの着用を求めないことを基本とする」としつつも、「基礎疾患があるなど様々な事情により、感染不安を抱き、マスクの着用を希望したり、健康上の理由によりマスクを着用できない児童生徒もいることなどから、学校や教職員がマスクの着脱を強いることのないようにすること」と付記している。もっとも知人が指摘する大人が醸し出してしまう「同調圧力」もまったくわからないわけではない。ただ、学校の場合、もう一つの難しい問題は、基本的に年功序列システムが維持されている組織であること。何かというと、学校長が比較的高齢であるため新型コロナでの重症化・死亡リスクが高い集団に分類される可能性が高く、トップがマスクを外しにくい可能性も少なくないからだ。いずれにせよ新型コロナに関して現時点の知見が維持される限り、私自身の主張が今後も大きく変わることはない。一方、一律的に常時マスクを外して元の生活にシンプルに戻りたいと考える人の気持ちもわからないわけではない。多分、今後は医療従事者の皆さんもこうした一般人の思いと医学・公衆衛生学的な知見が軽く火花を散らす局面にたびたび遭遇するだろう。これは「コロナ禍」ならぬ「ポスト・コロナ禍」とも言うべきだろうか?

249.

第44回 WHO緊急事態宣言解除、「コロナ禍終了」でOK?

緊急事態宣言が解除コロナ禍3年経って、ようやくWHOの緊急事態宣言が解除されました。感染症としての動向・予防策・治療の予測が可能となり、また以前ほど肺への毒性が強くないということで、国際的に脅威として対応し続けるよりもウィズコロナを選択するという意味合いが含まれています。しかし、「もう怖い感染症ではない」と誤認を招くのではないかという懸念もあります。実際、WHOは緊急事態宣言の解除に当たって注意を付記しています。それは以下のようなものです。「“The worst thing any country could do now is to use this news as a reason to let down its guard, to dismantle the systems it has built, or to send the message to its people that COVID19 is nothing to worry about”(今、どの国も一番やってはいけないことは、このニュースを理由に警戒を解き、構築したシステムを解いて、国民にCOVID-19は心配ないとメッセージを送ることだ)」"The worst thing any country could do now is to use this news as a reason to let down its guard, to dismantle the systems it has built, or to send the message to its people that #COVID19 is nothing to worry about"-@DrTedros— World Health Organization (WHO) (@WHO) May 5, 2023 日本では結構「緊急事態宣言が終了」というニュースが好意的に報道されたため、「5類」移行期とぴったりマッチしたこともあり、「もう大丈夫」という希望を持った人が多いと思います。ウィズコロナを続けていく上で、感染したら大変なことになるという警戒は以前ほど必要ありませんが、「一気に感染対策をゼロに」という時代が戻ってきたわけではありません。「希望は持ってよいが、油断はできない」というのがWHOの本音でしょう。日本は、欧米と違って非常に低い致死率でCOVID-19を抑えることができました。これはひとえに、日本国民の感染予防意識の高さと医療アクセスの良さによるものだろうと思っています。しかしその反作用として、苦しめられたという思いを持っている国民が多いのも事実です。患者数が増えれば、同じような医療逼迫を繰り返すことになる構図は変わりませんが、もはやそれは「禍」ではなく、1つの日常と受け取られることになるのかもしれません。医療従事者の努力私たち医療従事者は、まさに力戦奮闘、よく頑張りました。不気味な肺炎を起こす感染症には、二度と遭遇したくありません。「“At one level, this is a moment for celebration. We have arrived at this moment thanks to the incredible skill and selfless dedication of health and care workers; The innovation of vaccine researchers and developers; The tough decisions governments have had to make in the face of changing evidence; And the sacrifices that all of us have made as individuals, families, and communities to keep ourselves and each other safe”(ある意味、祝福の瞬間です。私たちがこの瞬間に立つことができたのは、医療・介護従事者の驚くべき技術と献身のおかげです。ワクチンの研究者や開発者の革新性、変化するエビデンスに直面しながらも政府が下した難しい決断、そして、私たち全員が、自身とお互いの安全を守るために、個人として・家族として・コミュニティとして、犠牲を払ってきたことによるものです)」"At one level, this is a moment for celebration.We have arrived at this moment thanks to the incredible skill and selfless dedication of health and care workers;The innovation of vaccine researchers and developers;The tough decisions governments have had to make in the face…— World Health Organization (WHO) (@WHO) May 5, 2023 コロナ禍を締めくくって感傷的になっているさなか、第9波がやってきてまた国内が混乱するということもあるかもしれません。感染対策も一気にゼロというわけではないため、各医療機関で少しずつ引き算していく苦労がしばらくは続くでしょう。とりあえず、情報発信する側に立ってきた人間として、コロナ禍はできるだけ後世に伝えていきたいと思っています。

250.

第160回 岡山大教授の論文不正、懲戒解雇で決着も論文撤回にはまだ応じず

コロナは文字通り“普通の風邪”へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月8日、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが「5類」に移行しました。これに伴い、3年3ヵ月余りにわたって設置されていた政府の対策本部も廃止されました。また、WHOのテドロス事務局長は5月5日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症をめぐる世界の状況について、2020年1月に発表した「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を宣言しました。これで、新型コロナウイルス感染症の流行はほぼ“終息”し、文字通り“普通の風邪”となったと言えるでしょう。ただ、日本においてこの3年間で浮き彫りになった医療提供体制や医療連携の課題がすべて解決したとは到底言えません。“喉元過ぎれば熱さを忘れる“ではないですが、次のパンデミックにおいても同じような失敗、ドタバタを繰り返さぬよう、政府や医療関係者にはこの3年間の徹底した検証とパンデミック対策の更新を行ってほしいと思います。ところで、WHOのデータによれば、これまでに世界人口(約80億人)の1%弱が新型コロナウイルス感染症に感染(診断された確定例の累積)し、0.1%弱が死亡したと報告されています(途上国などを考慮すると、実際はより多くが感染し、0.25%超が死亡したとの見方もあります)。今から100年前、世界的大流行を引き起こしたA/H1N1型のスペインインフルエンザ(いわゆるスペイン風邪)では、1918〜1920年の3年間に3度の流行の波が押し寄せたと言われています。そして、当時の世界人口(18億〜20億人と推定)の25〜30%が感染し、2〜5%が死亡したと推計されています。当時は、抗生物質やワクチンはおろか、インフルエンザウイルスの存在すらわかっておらず、医学・医療のレベルも低かったので、全人口に対する死亡率の差はこんなものだろうと思われますが、終息までに同じく約3年かかっている点がとても興味深いです。どれだけ医学が進歩しても、「新興感染症によるパンデミックの終息には3年はかかる」ということなのでしょうか。誰かにこの謎を解き明かしてもらいたいと思います。岡山大、細胞生理学分野の教授を懲戒解雇さて今回は、岡山大学医学部での論文不正について書きます。岡山大学・学術研究院医歯薬学域の神谷 厚範教授(医学部・細胞生理学分野)が2019年7月にnature neuroscience電子版に発表したがん治療に関する論文1)に実験に使ったマウスの数などの捏造や画像の使い回しが113ヵ所確認も確認された問題で、同大は4月17日、神谷教授を懲戒解雇処分とした、と発表しました(処分は4月14日付)。AMEDもプレスリリース、全国紙も大きく報道した研究この事件、たびたび発覚する医学部や生命科学系の研究者による論文不正ではあるのですが、2019年に発表したのがnature neuroscienceという一流誌であったため、研究資金を提供した日本のAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)も論文掲載当時、「がんに自律神経が影響することを発見!がんの神経医療の開発へ」と題するプレスリリース(最近までAMEDのサイトに掲載されていましたが4月27日に取り下げられました)を出し、全国紙やNHKもその成果を大きく報道しました。そうした経緯もあってか今回の懲戒解雇を報道したメディアの数も心なしか多かった印象です。研究成果を“誤報”したことへのメディア自身の反省もあったのかもしれません。全国紙各紙は、今回の懲戒解雇報道の末尾に2019年の記事を取り消す旨を記しています。たとえば読売新聞は「2019年7月9日の朝刊社会面で、神谷教授らによる論文について『乳がん 交感神経で悪化?』の見出しで報じました。岡山大などが論文不正を認定し、日本医療研究開発機構も研究費の一部返還と、神谷教授に対する新たな研究申請の停止を決めたことから、記事と見出しを取り消します」と記しました。交感神経の働きを止めるとがんの進行も抑えられることを、マウスを使って確認神谷元教授が発表した論文は、交感神経をがんの中で活発に働かせたところ腫瘍が大きくなるなどがんが進行し、交感神経の働きを止めるとがんの進行も抑えられることを乳がんのマウスを使った実験で確認した、という内容でした。マウスにヒトの乳がん組織を移植し、乳がん組織内の交感神経を刺激し続けると、60日後、刺激しないマウスと比較して刺激したマウスのがんの面積は2倍近く大きくなり、転移数も多かったそうです。一方、遺伝子治療で交感神経の活性化を止めると、60日経ってもがんの大きさはほとんど変化せず、転移もなかったとのことです。当時の朝日新聞の記事によれば、神谷元教授は「不安や怒りなどをうまくコントロールし、交感神経を刺激し過ぎないようにすることで、良い影響を与えられるかも知れない」と話していました。AMEDに論文に関する匿名の告発が届き不正発覚「精神の状態ががんの転移にも影響する…」。一般人にも極めてわかりやすいロジックゆえ、マスコミも飛びつきやすかったこの研究ですが、2020年9月にAMEDに対し同論文に関する匿名の告発があったことで事態は急転します。告発を受け取ったAMEDは、元教授が論文の実験を行った前任地、国立循環器病研究センターと岡山大に研究不正の予備調査実施の要請を行いました。翌2021年には、それぞれで調査委員会が立ち上げられ、本格的な調査がスタートしました。国立循環器病研究センターの調査報告書2)は2023年3月2日に、岡山大学の調査報告書3)は3月24日にそれぞれ公表されました。実験に用いたとするマウス、ラットの数と実際に使用できた数が大きく乖離それらの調査結果によれば、論文ではマウス914匹、ラット368匹を実験に用いたとしていましたが、神谷元教授が購入するなどして実際に使用できたとみられるのはそれぞれ72匹、35匹しかいなかったとのことです。こうした動物の使用数に関する捏造が108ヵ所に上り、「論文の実験は不可能」と結論付けています。ほかにも実験結果を示す画像5ヵ所の捏造も認定されました。たとえば自律神経の操作でマウスのがんの増殖が抑制されたとした実験では「0日目」と「60日目」の画像がいずれも同じ日に撮影されていました。調査報告書は、露光時間を変えることで見かけ上、がんの大きさを調整したとみられるとしています。調査委員会の調べに対し、神谷元教授は「2018年6月の大阪府北部地震でハードディスクが落下して故障し、データを失った」として実験データを提供しませんでした。捏造の指摘についても「マウスは再利用していた」「画像の取り違いがあった」などと説明し、不正を認めていないとのことです。岡山大が懲戒免職という重い処分を下したのに対し、AMEDは神谷元教授が論文執筆時に所属していた国立循環器病研究センターに対し、研究費の一部約11万8,000円の返還を求めました。AMEDによると、神谷教授が同センターで研究所室長などとして活動していた2015~2018年度、計約4,700万円の研究資金を提供。このうち、不正が確認された論文に直接関係する費用として、英文の校正費(2017年度)について返還を求めたとのことです。同センターは返還に応じる方針です。研究所時代の成果を引っさげ、教授に就任神谷元教授は1994年に浜松医科大学医学部卒業、2000年に名古屋大学大学院医学系研究科博士課程を修了しています。名古屋大学環境医学研究所助手を経て2002年より国立循環器病研究センター研究所・循環動態機能部室員となり、2017年には同循環モデル解析研究室長となっています。同研究所時代の研究成果を引っさげ、2018年に岡山大学の教授に就任しました。2019年にnature neuroscienceに発表した論文は、国立循環器病研究センター研究所の室長時代に行った実験によって得られた成果を発表したものであり、そのためもあって、同センターによる調査報告書は50ページ(岡山大学は10ページ)と長く、不正の背景や原因をより詳しく分析した内容となっています。研究姿勢が「科学者としてあるべき真摯さや誠実な姿勢からかけ離れたものであった」その中で、論文不正の社会的影響については、「論文I(nature neuroscience掲載の論文)については、2019年7月5日に岡山大学をはじめ5機関の連名で記者発表され、複数の新聞で報道されるとともに、元室長により複数回学会等で発表されている。また、元室長により、この論文と関連する別の研究が開始されている。加えて、この論文の被引用回数は2022 年8月4日現在で100回を超えており、すでに相当数の論文で引用がなされている状況である。掲載された『Nature Neuroscience』は、影響力の大きな科学雑誌であり、この論文を基に、新たな研究を着想している研究者がいることも十分に想定される。以上より、患者を対象とした新たな臨床研究等がスタートしているような状況でないものの、このような論文において、極めて不適切な研究が行われた事実が当該分野の研究の進展に与える悪影響は大きいと言わざるを得ない」と書いています。さらに、発生要因については、「今回の事案が発生した要因として、まず、元室長の研究に対する姿勢が、科学者としてあるべき真摯さや誠実な姿勢からかけ離れたものであった点を挙げざるを得ない。科学者として当然に備えるべき『科学界に対して真正なる結果を報告する』という意識、倫理観が欠如していたことが、今回の事案が引き起こされた最大の要因と言える。科学雑誌では、科学的根拠となる実験手法を正確に記載して、再検証ができるようにすることが求められているが、元室長による論文の記載は、それとはかけ離れたものであった」と、元室長個人の研究者としての姿勢を厳しく糾弾しています。さらに、「元室長が、調査の過程において、科学者が第三者的な立場から本実験結果を評価する上で考えもしない独自の主張を繰り返すとともに、『共著者や学術誌の査読者と編集者も気付かずに、そのまま出版されてしまいました』と他に責任を転嫁するような主張を行い、また、『大量の図の中においてこのエラーに気付くのは困難でした』と、図表が大量であれば、過失が許されるかのような主張をしたことも、上記の意識の欠如を裏付けるものである」とも書いています。2020年には別の国立循環器病研究センター室長による論文不正もそれにしても、論文不正が発覚すると、研究が行われた前職・元職の研究所や大学だけではなく、現職の職場でも調査を行わなければならないので大変です。今回は、国立循環器病研究センターの調査委員会は5人、岡山大の調査委員会では7人が調査を担当しています。数本の論文の捏造や改ざんのためにそれだけの時間と労力(外部有識者には費用も)が割かれたわけです。大変な無駄遣いと言えるでしょう。そう言えば、国立循環器病研究センターの論文不正としては、2020年8月にも別の事案が発覚し(「第22回 大阪大論文不正事件の“ナゾ” NHKスペシャル「人体」でも取り上げられた臨床研究の行方は?」参照)、大きなニュースになりました。この時も、同センターで室長を務めていた医師が発表した論文5本に捏造・改ざんが確認されています。論文を量産することでどこかの大学教授のポストをなんとか狙いたい“室長”という微妙な地位が、不正に走らせる一因となっているのでしょうか。なお、nature neuroscienceの論文について、岡山大は撤回するよう神谷元教授に対して勧告を行いましたが、まだ撤回は行われていません。参考1)Kamiya A, et al. Nat Neurosci. 2019;22:1289-1305.2)研究活動の不正行為に関する調査結果報告書/国立循環器病研究センター3)研究活動の不正行為及び倫理指針不適合に関する調査結果報告について/岡山大学

251.

コロナとインフルの死亡リスク、最新研究では差が縮まる

 COVID-19を季節性インフルエンザと比較した場合、死亡リスクの差はどのくらいか。COVID-19パンデミックの初年度、米国の2つの研究では、COVID-19で入院した人は、季節性インフルエンザで入院した人と比べ、30日死亡リスクが約5倍になることが示唆されている1)2)。その後、COVID-19の臨床ケア、集団免疫など、多くの変化があり、この数字は変化した可能性がある。 米国・VAセントルイス・ヘルスケアシステムのYan Xie氏らは、2022~23年の秋から冬にかけ、年齢、ワクチン接種状況、COVID-19感染状況などに分類したうえで、COVID-19が季節性インフルエンザと比較して死亡リスクが高いことに変わりはないかどうかを評価した。JAMA Network Open誌2023年4月6日号リサーチレターの報告。 分類した要素は以下のとおり。・年齢(65歳以下と65歳超)・COVID-19ワクチン接種状況(未接種、1~2回接種、ブースター接種)・COVID-19感染状況(初感染、再感染)・外来でのCOVID-19抗ウイルス治療歴(あり、なし)。ニルマトレルビル/リトナビル、モルヌピラビル、レムデシビルのいずれかを含む。 米国退役軍人省(VA)の電子健康データベースを使用し、2022年10月1日~2023年1月31日に、SARS-CoV-2またはインフルエンザの検査結果が陽性で、COVID-19または季節性インフルエンザの入院診断を受けた2日前~10日後の間に、少なくとも1回の入院記録がある人を登録した。両方の感染症で入院した143例は除外した。コホートは死亡、入院後30日、または2023年3月2日まで追跡調査された。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19による入院は8,996例(30日以内の死亡538例[5.98%])、季節性インフルエンザによる入院は2,403例(死亡76例[3.16%])だった。・30日後死亡率は、COVID-19で5.97%、インフルエンザで3.75%、超過死亡率は2.23%(95%信頼区間[CI]:1.32~3.13%)であった。インフルエンザによる入院と比較して、COVID-19による入院は高い死亡リスクと関連していた(ハザード比:1.61[95%CI:1.29~2.02])。・死亡リスクは、COVID-19ワクチンの接種回数が多いほど減少した(未接種と接種の関連はp=0.009、未接種とブースター接種の関連はp<0.001)。ほかのサブグループでは、統計的に有意な差はみられなかった。 研究者らは「COVID-19とインフルエンザの間の死亡率の差はパンデミックの初期から減少しているようで、COVID-19で入院した人の死亡率は2020年に17~21%だったのが本研究では6%弱、インフルエンザで入院した人の死亡率は2020年に3.8%だったのが、本研究では3.7%だった。COVID-19で入院した人の死亡率が低下したのは、SARS-CoV-2変異株の影響、ワクチン接種や過去の感染による免疫レベルの向上、臨床ケアの改善によるものと思われる。また、死亡リスクの増加は、ワクチン接種者またはブースター接種者と比較してワクチン未接種者でより大きかった。この結果は、COVID-19による死亡リスクを低減するためのワクチン接種の重要性を強調している」としている。

252.

医療者へのBCGワクチン、新型コロナの予防効果なし/NEJM

 オーストラリア・メルボルン大学のLaure F. Pittet氏らが、オーストラリア、オランダ、スペイン、英国およびブラジルで実施した医療従事者を対象とする無作為化二重盲検プラセボ対照試験「BCG Vaccination to Reduce the Impact of COVID-19 in Healthcare Workers:BRACE試験」の結果をプラセボと比較すると、BCGワクチン接種による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスク低下は認められなかった。BCGワクチンには、免疫調節のオフターゲット効果があり、COVID-19に対する保護作用があると仮定されていた。NEJM誌2023年4月27日号掲載の報告。医療従事者を対象、BCGワクチン接種後のCOVID-19発症と重症化をプラセボと比較 研究グループは2020年5月14日~2021年4月1日に、医療従事者をBCG-Denmarkワクチン接種群またはプラセボ(生理食塩水投与)群に無作為に割り付け追跡調査した。被験者の適格基準は、SARS-CoV-2感染歴、COVID-19ワクチン接種歴、過去1年以内のBCGワクチン接種歴、過去1ヵ月以内の他の弱毒生ワクチンの接種歴がないこととした。 主要アウトカムは、無作為化後6ヵ月時までの症候性COVID-19および重症COVID-19の発生で、ベースラインでSARS-CoV-2検査が陰性の参加者(修正intention-to-treat[ITT]集団)を解析対象とした。 3,988例が無作為化された時点で、COVID-19ワクチンが利用可能となり、計画されたサンプル数に達する前に募集中止となった。追跡調査は6ヵ月、またはCOVID-19ワクチン初回接種またはCOVID-19を発症したか確認できない場合は打ち切られた。BCGワクチン接種で6ヵ月以内のCOVID-19リスクは低下せず 無作為化された3,988例中、14.1%がベースライン時にSARS-CoV-2血清陽性であり、修正ITT集団は84.9%(BCG群1,703例、プラセボ群1,683例)であった。 無作為化後6ヵ月間に症候性COVID-19はBCG群で132例(補正後推定リスク:14.7%)、プラセボ群で106例(12.3%)発生した(群間差:2.4ポイント、95%信頼区間[CI]:-0.7~5.5、p=0.13)。また、重症COVID-19は、BCG群で75例(補正後推定リスク:7.6%)、プラセボ群61例(6.5%)発生した(群間差:1.1ポイント、95%CI:-1.2~3.5、p=0.34)。 本試験で定義された重症COVID-19を満たした症例の大多数は、入院はしていなかったが、少なくとも連続3日間就労不可能であった。保守的ではない打ち切りルールを用いた補足分析および感度分析では、リスク差は類似していたが、信頼区間の幅はより狭まった。COVID-19による入院は、各群5例であった(プラセボ群で1例死亡)。 プラセボ群と比較した、BCG群のあらゆるCOVID-19エピソードのハザード比は1.23(95%CI:0.96~1.59)であった。 安全性の懸念は特定されなかった。

253.

第146回 テドロス氏、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表/WHO

<先週の動き>1.テドロス氏、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表/WHO2.第8次医療計画、医師偏在の解消のため医師確保計画を強化へ/厚労省3.健康保険法改正でかかりつけ医機能は強化されるか?/内閣府4.2024年診療報酬・介護報酬改定に向けた議論開始/厚労省5.医師偏在対策、新規開業希望者や金融機関にも外来医師偏在指標の明示へ/厚労省6.介護ロボットで介護サービスの生産性向上と人手不足解消を/厚労省1.テドロス氏、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表/WHO世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、5月5日に「新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を終了する」と発表した。この宣言は、ワクチンの普及により死者数が大幅に減少したことに基づくもので、約3年3ヵ月の期間を経て終了となった。ただし、ワクチン接種などの感染対策を通じたウイルスとの共存が今後の課題とされており、専門家からは、緊急事態宣言の解除により各国の対策が緩む可能性や、新たな変異株の出現による感染者や死者の増加リスクに注意が必要との懸念も示されている。WHOはこれまでに計7回の緊急事態宣言を行っており、今回の終了宣言により世界中で新型コロナウイルスの位置付けは変わる。WHOの集計によれば、新型コロナによる死者数は5月初めの時点で700万人弱とされ、実際、少なく見積もっても2,000万人の死亡推定がなされるなど、今後もウイルスの変異や感染の動向に対する警戒が必要となる。(参考)WHOテドロス氏「悲劇繰り返さぬよう」 コロナ緊急事態宣言終了(毎日新聞)WHO、新型コロナ緊急事態の終了を宣言 テドロス事務局長が表明(朝日新聞)WHOの緊急事態宣言とは コロナ以外も、計7回(同)WHO、新型コロナ緊急事態宣言終了を発表 3年3カ月(日経新聞)2.第8次医療計画、医師偏在の解消のため医師確保計画を強化へ/厚労省厚生労働省は、2024年度から第8次医療計画が開始されことに先立ち「第8次医療計画等に関する検討会」を開催し、2022年12月に意見の取りまとめを行った。これを基に3月31日に「医師確保計画策定ガイドライン及び外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」に付随する「医師確保計画策定ガイドライン」と「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を改定した。医療計画に「医師確保計画」が含まれているのは、医師の偏在により医療計画が進捗しないため、2019年度に医療計画に新たに「医師確保計画」として3次医療圏間および2次医療圏間の偏在是正による医師確保対策などを定め、2020年度から取り組みが行われてきた。しかし、2020年度以降も「医師偏在」が進行しているとして、第8次医療計画では「医師確保計画」をさらに強化し、厚生労働省では2036年までに医師偏在是正の達成を目指している。医師偏在格差の是正の取り組みについて、各都道府県が2次医療圏を、医師多数区域(医師偏在指標に照らし上位3分の1)、中間の区域、医師少数区域(同下位3分の1)に3区分に分類する。そして、上位の医師多数区域と中間区域について、医師偏在の助長を回避するため、目標医師数は、原則として、計画開始時の医師数を設定上限数として、格差是正のため、医師多数区域では、圏域外からの医師確保は行わず、逆に医師少数区域に医師を派遣するように求め、中間の区域では、圏域内に「医師少数スポット(限定的ながら医師が少ない地域)」がある場合は他の2次医療圏からの医師派遣を受ける、医師少数区域医師多数の区域(他の2次医療圏)から医師派遣などを受けるなどで、医師確保計画の効果の測定・評価を行っていく。今回の計画策定では、2024年4月に施行される「医師に対する時間外・休日労働時間の上限規制」を踏まえて、「医師の働き方改革」と「地域医療構想」「医師確保」の取り組みを一体的に推進することになる。(参考)医師確保計画策定ガイドライン~第8次(前期)~(厚労省)医師偏在指標について(同)医師確保計画の見直しに向けた意見のとりまとめ(同)第8次医療計画等に関する意見のとりまとめ(同)2024年度から強力に「医師偏在解消」を推進!地域の「すべての開業医」に夜間・休日対応など要請-厚労省(Gem Med)3.健康保険法改正でかかりつけ医機能は強化されるか?/内閣府子育て支援策を含む「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」は、衆議院で賛成多数で可決され、現在参議院で審議が行われている。この法案は、全世代型社会保障構築会議のこれまでの議論を取りまとめ、昨年12月16日に全世代型社会保障構築会議報告書の形で内閣府に提出された内容を反映しており、岸田総理が異次元の少子化対策を打ち出したこども・子育て支援の拡充のほか、高齢者医療を全世代で公平に支え合うことを目的に高齢者医療制度の見直し、医療保険制度の基盤強化のほか、かかりつけ医機能の4つが含まれている。通常国会への同改正法案の提出後の2月24日に第13回全世代型社会保障構築会議が開催された。元厚生労働省の香取 照幸氏から「全世代型社会保障構築会議報告書の内容と法案との対比~報告書の内容はどこまで法案に反映されているか~」という資料が提出、議論された。この中で、かかりつけ医機能につき、かかりつけ医については「患者による選択」がコンセンサスであることが確認された。また、今回の法案の「かかりつけ医機能の定義」や「かかりつけ医機能報告の対象は慢性疾患を有する高齢者に限定」されていることが問題であり、かかりつけ医機能はネットワークで実装することやそのための医療情報基盤の整備については不明のままであるなど問題点を指摘した香取氏は、「今回の制度改正はあくまで『かかりつけ医機能が発揮される制度整備』の第一歩であるとして、引き続き必要な制度整備・政策遂行に尽力してほしい」と意見を述べた。今後、本法案の国会可決後に、厚生労働省は具体化に向け、各方面から意見を集め、令和7年4月にかりつけ医機能報告制度は創設される予定。(参考)全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案について(内閣府)第13回 全世代型社会保障構築会議(同)第13回 全世代型社会保障構築会議 議事録(同)全世代型社会保障構築会議報告書(同)全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案(医療法改正部分)について(同)4.2024年診療報酬・介護報酬改定に向けた議論開始/厚労省2年に1度の診療報酬改定と3年に1度の介護報酬改定が同時になる2024年春。同時改定に向けた議論が厚生労働省で始まっている。厚生労働省は、中央社会保険医療協議会と社会保障審議会・介護給付費分科会の主要メンバーを交えた令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会を今年の3月から開始している。3月15日に開催された第1回では、地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害福祉サービスの連携やリハビリテーション、要介護者などの高齢者に対応した急性期入院医療について話し合われた。この中で従来から求められてきた「医療・介護」の連携だけでなく、「医療・介護と障害福祉サービスとの連携」まで踏み込んだ形で議論が行われており、入院前からの情報連携や、医療や介護職とケアマネジャーとの情報提供の強化によりケアの継続性・連続性を担保する仕組みの強化が必要といった意見も出されている。また、4月19日に開催された第2回では、高齢者施設・障害者施設などにおける医療、認知症について話し合われ、急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきといった意見のほか、感染対策向上加算の合同カンファレンスに介護施設の参加を求める意見などが出されている。今後は5月に、「人生の最終段階における医療・介護や訪問看護など」をテーマに第3回が開催される予定。これらの意見を基に来年度の診療報酬改定、介護報酬改定に向けた具体的な政策が盛り込まれていくとみられる。2024年はほかにも医療介護総合確保方針、第8次医療計画、介護保険事業(支援)計画、医療保険制度改革などの医療と介護に関わる関連制度の一体改革にとって大きな節目であることから、今後の医療および介護サービスの提供体制の確保に向けさまざま視点から、大規模な改正が見込まれ、医療・介護現場において対応が求められる。(参考)令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第1回)令和5年3月15日(厚労省)令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第2回)令和5年4月19日(同)感染対策向上加算の要件である合同カンファレンス、介護施設等の参加も求めてはどうか-中医協・介護給付費分科会の意見交換(1)(Gem Med)急性期入院医療でも「身体拘束ゼロ」を目指すべきで、認知症対応力向上や情報連携推進が必須要素-中医協・介護給付費分科会の意見交換(2)(同)要介護高齢者の急性期入院医療、介護・リハ体制が充実した地域包括ケア病棟等中心に提供すべきでは-中医協・介護給付費分科会の意見交換(同)5.医師偏在対策、新規開業希望者や金融機関にも外来医師偏在指標の明示へ/厚労省厚生労働省は、3月31日に「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を公表した。この中で診療所医師数が一定程度充足している地域について、外来医師偏在指標の値が全2次医療圏の中で上位33.3%に該当する2次医療圏を「外来医師多数区域」と設定し、新規開業希望者に対して外来医師の偏在の状況を理解した上で開業について判断を促すため、外来医師多数区域については都道府県のホームページに掲載するなど工夫をするほか、医療機関のマッピングのデータなども参考資料として提供する。また、これらのデータは資金調達を支援する金融機関や開業支援を行っている医薬品卸売販売業者、医療機器販売業者、薬局にもアクセスが可能となるようにする。さらに「外来医師多数区域」での新規開業希望者に対して、地域で不足する外来医療機能を担うことを求めるため、新規開業者の届出様式には、地域で不足する外来医療機能を担っていくことに合意する記載欄を設け、2次医療圏ごとに設けられる協議の場(地域医療構想調整会議などが想定されている)において合意の状況を確認する。また、新規開業希望者が求めに応じない場合には協議の場への出席を求めるとともに、協議結果などを住民などに対して公表することになる。この第8次(前期)外来医療計画に基づく、外来医師の偏在解消の取組みは2024年度から各都道府県で開始される見込み。(参考)外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン~第8次(前期)~(厚労省)外来医師偏在指標(2019年)(同)外来医師偏在の解消に加え、「かかりつけ医機能の明確化、機能を発揮できる方策」の検討も進める-第8次医療計画検討会(1)(Gem Med)6.介護ロボットやICTの導入で介護サービスの生産性向上/厚労省厚生労働省は、4月27日に社会保障審議会・介護給付費分科会を開催し、テクノロジー活用などによる生産性向上の取り組みに係る効果検証について議論を行った。この中で、介護ロボットやICT機器、介護助手の導入により、「介護サービスの質を下げずに介護従事者の負担を軽減できる」という可能性の実証研究が示された。介護ニーズの増加と現役世代人口の減少により、介護従事者の人手不足が深刻化しており、介護サービス事業者からは人員配置基準の緩和を求める意見が上がってきているが、介護施設の規模なども考慮して、人員配置基準の緩和には慎重に検討する必要があるとした。厚生労働省は、今回の検証結果や議論を含めて、来年春の介護報酬改定の参考にするとみられる。(参考)第216回 社会保障審議会介護給付費分科会(厚労省)テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について(同)介護施設での見守り機器など活用、効果実証 厚労省(CB news)介護ロボット・助手等導入で「質を下げずに介護従事者の負担軽減」が可能、人員配置基準緩和は慎重に-社保審・介護給付費分科会(2)(Gem Med)

254.

モルヌピラビル、高リスクコロナ患者の後遺症リスク低減/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染し、重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に進行する危険因子を少なくとも1つ有する患者において、感染後5日以内のモルヌピラビル投与は無治療と比較し、ワクチン接種歴や感染歴にかかわらず、急性期以降の罹患後症状(いわゆる後遺症)(post-acute sequelae of SARS-CoV-2:PASC)のリスク低下と関連していた。米国・VA Saint Louis Health Care SystemのYan Xie氏らが、退役軍人医療データベースを用いたコホート研究で明らかにした。著者は、「COVID-19の重症化リスクが高い患者では、SARS-CoV-2感染後5日以内のモルヌピラビル投与がPASCのリスクを低下する有効なアプローチとなりうる」とまとめている。BMJ誌2023年4月25日号掲載の報告。検査陽性後30日以降の死亡、入院、PASCについて無治療と比較 研究グループは、退役軍人医療データベースを用い、2022年1月5日~2023年1月15日の間にSARS-CoV-2陽性と判定され、重症化リスク(年齢>60歳、BMI>30、がん、心血管疾患、慢性腎疾患、慢性肺疾患、糖尿病、免疫機能障害)を1つ以上有し、陽性判定後30日間生存していた患者のうち、陽性判定後5日以内にモルヌピラビルを投与された患者(モルヌピラビル群)1万1,472例と、陽性判定後30日以内にCOVID-19に対する抗ウイルス薬または抗体治療を受けなかった患者(無治療群)21万7,814例、合計22万9,286例を特定し解析した。 評価項目は、急性期以降の死亡、急性期以降の入院、および急性期以降の死亡または入院の複合である。また、事前に規定した13のPASC(虚血性心疾患発症、不整脈、深部静脈血栓症、肺塞栓症、疲労・倦怠感、肝疾患、急性腎障害、筋肉痛、糖尿病、神経認知障害、自律神経失調症、息切れ、咳)の発症リスクも検討した。すべての急性期以降のアウトカムは、最初のSARS-CoV-2陽性判定後30日から2023年2月15日(追跡調査終了日)まで調査した。 相対スケール(相対リスク[RR]またはハザード比[HR])および絶対スケール(180日後の絶対リスク減少)のリスクが推定された。陽性後5日以内での投与で、急性期以降の死亡、入院、PASCのリスク低下 無治療群と比較してモルヌピラビル群では、PASCのリスク低下(RR:0.86、95%信頼区間[CI]:0.83~0.89、180日後の絶対リスク低下:2.97%、95%CI:2.31~3.60)、急性期以降死亡のリスク低下(HR:0.62、95%CI:0.52~0.74、180日後の絶対リスク低下:0.87%、95%CI:0.62~1.13)、急性期以降入院のリスク低下(HR:0.86、95%CI:0.80~0.93、180日後の絶対リスク低下:1.32%、95%CI:0.72~1.92)が認められた。 モルヌピラビルは、13のPASCのうち、不整脈、肺塞栓症、深部静脈血栓症、疲労・倦怠感、肝疾患、急性腎障害、筋肉痛、神経認知障害の8つのリスク低下と関連していた。また、サブグループ解析の結果、COVID-19ワクチン未接種者、1回または2回のワクチン接種者、ブースター接種者、SARS-CoV-2初感染者および再感染者のいずれにおいても、モルヌピラビル群でPASCのリスク低下が示された。

255.

今後もマスクをする人は約4割/アイスタット

 2023年5月8日より新型コロナウイルス感染症の感染法上の位置付けが、2類から5類へ移行することで施策が大きく変わる。今後、一般市民は新型コロナウイルス感染症にどのように対応していくのか。マスクの着用は個人の自由になるが、はたしてどのように考えているのか。株式会社アイスタットは4月13日に「今後のマスク着用&コロナワクチン接種」に関するアンケートを行った。 アンケート調査は、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員20~59歳の有職者300人が対象。調査概要形式 Webアンケート形式調査日 2023年4月13日回答者 セルフ型アンケートツールFreeasyに登録している20歳~59歳・有職者の会員300人調査機関 株式会社アイスタットアンケート概要・現在、「脱マスク」の人は1割未満、「マスク依存」の人は4割近く。・気温・湿度が高い季節が到来しても「脱マスク」の人は1割未満。現在と変わらず。 その一方、「マスク依存」の人は約4割から約2割に減少。・他人がマスクをしていなことにイラっとする人は2割近く。・コロナワクチン接種を「受けたことがない人」は、マスクを「常につけている」が最多。・ワクチン接種が有料化になった場合、接種意向率は約2割。・コロナ予防対策率は約7割近く。ただし、同社前回調査(2020年11月)より12%減少。・現在のコロナ予防対策の第1位は「手洗い」、第2位は「マスク着用」、密対策は減少。・コロナ禍で定着した予防対策、今後も継続して欲しいものは「ワクチン無料化」が最多。・コロナに感染することが怖い人は4割、同社前回調査(2020年5月)の8割から半減。約4割の回答者が「マスクをはずせるシーンでもはずさない」と回答 質問1で「政府が示したマスクの着用が必要のない場面で、現在マスクをはずしているか」(単回答)を聞いたところ、「常につけている」「状況に応じて着脱しているが、はずす比率は以前と変わらない」が共に38.0%で最も多く、「状況に応じて着脱しているが、はずす比率の方が高い」が18.7%、「常にはずしている」が5.3%の順で多かった。回答者の属性別で「常につけている」と回答した人は、「20・30代」「女性」「四国・中国・九州地方・沖縄」に多かった。一方、「常にはずしている」と回答した人は、「20・30代」「男性」「関東地方」に多かった。 質問2で「政府が示したマスクの着用が必要のない場面で、今後マスクをはずすか」(単回答)を聞いたところ、「状況に応じて着脱するが、はずす比率は現在と変わらない」が36.3%、「状況に応じて着脱するが、はずす比率は現在より高い」が32.0%、「常につけている」が23.7%、「常にはずす」が8.0%の順で多かった。また、「現在」と「今後」の全体のマスク着用動向では、気温、湿度が高い季節が到来しても脱マスクの人は1割未満で、「現在」と変わらず低く、今後の熱中症のリスクが懸念される結果だった。 質問3で「他人がマスクをしていないことにイラっとするか」(単回答)を聞いたところ、「そう思わない」が49.7%、「どちらでもない」が31.3%、「そう思う」が19.0%の順で多かった。参考までに「そう思う」と回答した人の特徴を調べてみると、「現在、マスクを常につけている」「コロナワクチン4回目・5回目接種完了」「コロナに感染したことがある」を回答した人ほど多かった。 質問4で「コロナワクチン予防接種回数」(単回答)を聞いたところ、「4回目・5回目接種完了」と回答した人は4割、一方、何らかの理由でワクチン接種を途中で見送った「1回目・2回目・3回目接種完了」と回答した人は4割、「受けたことがない」と回答した人は2割だった。参考に「マスク着用状況」との関連で調べてみると、「4回目・5回目接種完了」と回答した人は「状況に応じて着脱」が最も多く、「受けたことがない」を回答した人は「常につけている」が最も多かった。 質問5で「今後のコロナワクチン予防接種意向」(単回答)を聞いたところ、「無料化なら状況をみて接種」が32.0%、「有料化、無料化に関わらず接種しない」が30.3%、「無料化なら必ず接種」が20.3%、「有料化でも状況をみて接種」が14.7%、「有料化でも必ず接種」が2.7%の順で多かった。今後も続けて欲しい施策の最多は「ワクチン接種の無料化」で43% 質問6で「新型コロナウイルス予防対策の実施」(単回答)を聞いたところ、「やや対策を実施している」が44.0%、「きちんと対策を実施している」が23.7%、「どちらでもない」が18.0%の順で多かった。「きちんと対策」「やや対策」を足し合わせた「実施している」の割合をみると67.7%となり、約7割近くの人が何らかの予防対策を実施していることが明らかとなった。 質問7で「現在、日常生活で注意して行っていること」(複数回答)を聞いたところ、「手洗い」が80.0%、「マスク着用」が71.3%、「アルコール・エタノール消毒の利用」「うがい」が共に52.3%と多かった。参考に過去の同社調査(2020年5月)と比較すると、今回はすべての内容で予防対策の実施割合が減少した。減少した対策の第1位は48%減の「不要な外出を控える」、第2位は31%減の「集会・イベントに参加しない」、第3位は29.3%減の「人混みを避ける・時差通勤」だった。 質問8で「コロナ禍予防対策で定着したもので、今後も継続して欲しいと思うもの」(複数回答)を聞いたところ、「ワクチン予防接種の希望者は無料化」が43%、「入店時のアルコール除菌」が32%、「マスク着用の推奨」が23.7%の順で多かった。参考に年代別では、20代で「テレワーク」「黙食」「リモート会議」が多く、40代で「正面・側面にアクリル板」「マスク着用の推奨」「ビュッフェの手袋」が多く、50代で「入店時のアルコール除菌」「コロナワクチン予防接種の希望者は無料化」「注文用のタブレット」「時差出勤」が多かった。 質問9で「(コロナ禍と日常生活で)自身があてはまるもの」(複数回答)を聞いたところ、「コロナに感染することが怖い・不安」が40.3%で最も多かった。過去の同社調査(2020年5月)と比較すると、「怖い」の割合が81%から40.3%と半減していた。

256.

乳がんに関わる質問にChatGPTは正確にアドバイスできるのか

 話題の対話型人工知能(AI)サービス「チャットGPT(ChatGPT)」は、乳がんに関わる質問の多くに信頼性のある回答を示せるが、まだ医師の代わりになる段階には至っていないことが、新たな研究で示された。米メリーランド大学放射線診断学・核医学助教のPaul Yi氏らが実施した研究で、詳細は「Radiology」に4月4日掲載された。 Yi氏らは、ChatGPTの最大の弱点として、ChatGPTから得られる情報が必ずしも信頼できるものではないこと、あるいはごく限られた部分の情報であることを挙げている。また、それを理由に、少なくとも現時点では、健康・医療に関する質問は人間の医師に対してすべきだとの見解を示している。 ChatGPTはAI技術を用いたチャットボット(自動会話プログラム)で、人間同士の会話のように、どんな質問を投げかけてもすぐさま回答が生成される。こうした回答は、ChatGPTが事前学習した膨大な量のデータに基づくもので、学習データには、インターネットで収集された情報も含まれる。UBSインベストメント・バンクによると、ChatGPTの月間ユーザー数は、2022年11月の公開からわずか2カ月で1億人に達したという。また、ChatGPTがSAT(米国の大学適性試験)で高得点を獲得したことや、米国の医師国家試験で合格ラインを超えたことも大きく報道された。 今回の研究では、乳がんの予防やスクリーニングに関するよくある25個の質問をChatGPTに問いかけた。質問はそれぞれ3回ずつ行い、それに対する回答の違いがどのようなものかを調べた。その結果、25個中22個(88%)の質問に対しては、ChatGPTから適切な回答が示されたが、残る3個の質問に対する回答は信頼性の低いものだった。例えば、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種の前後にマンモグラフィ検診を予定しておくべきか」という質問に対して、ChatGPTは最新の情報ではなく古い情報に基づく回答を示した。その他の2個の質問では、同じ質問に対する3回の回答内容が一貫していなかった。 ChatGPTがGoogle検索あるいは実際の医師と比べて優れているのかどうかについては不明だが、Yi氏はその精度について「とても素晴らしい」と評価する。その一方で同氏は、健康・医学に関する話題では、「たとえ10%の誤答率でも害をもたらす可能性はある」と指摘し、「ChatGPTには限界がある」との見方を示している。また、さまざまなデータを即座に組み合わせてチャットに落とし込む機能は、ChatGPTの魅力の一つであるが、質問が複雑だと、限定的な範囲の情報に基づく、偏った内容の回答になり得るというマイナス面にも言及している。例えば今回の研究でも、乳がんスクリーニングについて質問した際のChatGPTの回答は、米国がん協会(ACS)の推奨のみに基づいており、異なる推奨を示した団体を含めてACS以外の医学関連の団体や学会の情報は含まれていなかった。 さらにYi氏は、ChatGPTの一般的なユーザーは、補足の質問をするための知識を持ち合わせていなかったり、回答が正確かどうかをチェックする方法が分からなかったりする可能性があると指摘。従来のインターネット検索と比べて会話形式でやり取りできる点はChatGPTのメリットで、会話風であるがためにかなり「説得力がある」が、他のあらゆる新しい技術と同様、「全てを信用すべきではない」と主張している。 この研究には関与していない米テンプル大学フォックスビジネススクールのSubodha Kumar氏は、今後もChatGPTはより多くのデータを収集し続けるが、そうしたデータにはユーザーが提供するものも含まれることになるため、「ChatGPTが示す回答の精度は向上するどころか悪化する可能性もある」と指摘している。その上で、「質問のテーマが健康・医療に関わる事柄である場合には危険性もある」と懸念を示し、「一般的な消費者には、健康・医療に関わる情報を収集する目的でのChatGPTの使用は勧められない」と話している。

257.

第43回 重症コロナのステロイドパルス、正しかった?

呼吸不全が多発したアルファ株・デルタ株オミクロン株になってから、めっきり減った重症のCOVID-19。ちらほら当院にもまだ入院が続いていますが、軽症例がほとんどであり、中等症I・IIはおろか、重症例は非常にレアな疾患となってしまいました。新型コロナワクチン接種率が高いだけでなく、既感染率が高いこと、ウイルスが変異したことが病毒性に大きな影響を及ぼしているとされています。さて、私の勤務する大阪府ではアルファ株の第4波のときが最も呼吸不全例が多い状況で、入院してくる症例のほとんどが中等症IIというありさまでした。戦乱のようなコロナ禍では、当院では稼働病床60床のうち30床がARDSという状況で、悪化を待っていられないという症例にステロイドを多用していたのも事実です。酸素不要で入院したのに短期間で呼吸不全になるケースが本当に多く、ほかに有効な手がありませんでした。ステロイドパルス療法は正しかったかそんな重症COVID-19に対して本当にステロイドパルス療法はよかったのかどうか、大阪大学の社会医学講座公衆衛生学を中心としたグループによる、日本全国のCOVID-19入院患者約6万7,000例の医療データの分析結果が報告されました1)。私たちが苦労したアルファ株・デルタ株の時期も含まれています。結果、重症例におけるステロイドパルス療法(1日当たりのメチルプレドニゾロン500mg以上)は、低用量ステロイドやステロイド非使用例と比較すると、院内死亡リスク低下と関連していることが示されました。反面、比較的軽症患者に対するステロイドパルス療法は死亡リスクを増加してしまうということも本研究で明らかにされています。子細なデータをみると、メチルプレドニゾロン40mg/日でさえも死亡リスクの上昇に関連しているので、気管挿管を必要としない症例では全身性ステロイド投与はかなり慎重になったほうがよいということになります。ステロイドパルス療法というのは、諸外国ではメチルプレドニゾロン250mg/日程度を指すことが多いと思いますが2)、日本の場合1,000mg/日とかなり多い量を投与することがあります。ウイルス性肺炎でステロイド受容体を飽和する以上の用量が本当に必要なのかどうか、国内外でもう少し腹を割った議論が必要と考えています。参考文献・参考サイト1)Moromizato T, et al. Intravenous methylprednisolone pulse therapy and the risk of in-hospital mortality among acute COVID-19 patients: Nationwide clinical cohort study. Crit Care. 2023 Feb 8;27(1):53.2)Edalatifard M, et al. Intravenous methylprednisolone pulse as a treatment for hospitalised severe COVID-19 patients: results from a randomised controlled clinical trial. Eur Respir J. 2020 Dec 24;56(6):2002808.

258.

コロナワクチン接種スケジュールを簡略化、初回接種に2価を承認/FDA

 米国食品医薬品局(FDA)は4月18日付のリリースにて、モデルナおよびファイザーの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)2価mRNAワクチンの緊急使用許可(EUA)を修正し、より簡略化した接種スケジュールを発表した。これにより、ワクチン未接種者や生後6ヵ月以上の小児に対し、オミクロン株BA.4/BA.5対応2価ワクチンの初回接種の使用許可などが決定された。また、今回の修正に伴い、モデルナおよびファイザーの従来型の1価ワクチンは、米国での使用許可が取り消された。 発表の主な内容は以下のとおり。・1価ワクチンを接種済みで、まだ2価ワクチンを接種したことがない人のほとんどは、2価ワクチンを1回追加接種することができる。・すでに2価ワクチンを接種した人のほとんどが、次の接種を受ける資格がなくなる。今後の接種については、FDAが6月に開催する諮問会議にて2023年秋以降の接種方針を決定する予定。・2価ワクチンを1回接種した65歳以上の人は、最初の2価ワクチン接種から少なくとも4ヵ月後に1回の追加接種を受けることができる。・2価ワクチンを接種済みの特定の免疫不全者のほとんどは、2価ワクチンを接種してから少なくとも2ヵ月後に、2価ワクチンを1回追加接種できる。医療者の判断で、さらに追加接種することも可能。ただし、生後6ヵ月~4歳までの免疫不全者の場合、追加接種の適応は以前に接種したワクチンの種類によって異なる。・現在までワクチン未接種の人は、従来型の1価ワクチンを複数回接種するのではなく、2価ワクチンを1回接種することができる。・ワクチン未接種の生後6ヵ月~5歳の小児は、モデルナの2価ワクチン(生後6ヵ月~5歳用)を2回接種するか、ファイザーの2価ワクチン(生後6ヵ月~4歳用)を3回接種できる。5歳の小児は、モデルナの2価ワクチンを2回接種するか、ファイザーの2価ワクチンを1回接種できる。・1価ワクチンを1回、2回、または3回接種した生後6ヵ月~5歳の小児は、2価ワクチンを接種できるが、接種する回数はワクチンの種類や接種歴により異なる。

259.

日本におけるオミクロン対応2価ワクチンの有効性~多施設共同研究/感染症学会・化学療法学会

 2021年7月より新型コロナワクチンの有効性を長期的に評価するために開始された多施設共同サーベイランス研究「VERSUS study [Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2]」1)の最新の結果について、4月28~30日に開催された第97回日本感染症学会総会・学術講演会/第71回日本化学療法学会学術集会合同学会にて、長崎大学の前田 遥氏が発表した。本結果により、国内の高齢者に対するオミクロン対応2価ワクチンの発症予防および入院予防の有効性が、国内の若年者および欧米のデータよりも高いことが示唆された。 本発表では、2022年9月末に国内で接種開始されたBA.1対応、および10月中旬に開始されたBA.4/5対応のモデルナ製またはファイザー製のオミクロン対応2価ワクチンの有効性について、2022年10月1日~2023年2月28日の期間における研究結果が報告された。オミクロン対応2価ワクチンの発症予防と入院予防に対する有効性をtest-negative designを用いた症例対照研究で評価した。発症予防の有効性については、全国10都府県15施設にて、新型コロナウイルス感染症を疑う症状で受診し、新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上が対象となった。入院予防の有効性については、9都府県11施設にて、呼吸器感染症を疑う症状が2つ以上、または肺炎像を認め入院し、新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上が対象となった。 主な結果は以下のとおり。【発症予防における有効性】・解析対象者は7,347例で、検査陽性3,304例、検査陰性4,043例。年齢中央値43歳(四分位範囲[IQR]:29~61)、男性3,410例(46.4%)、基礎疾患を有する人が1,969例(26.8%)であった。・対象者のワクチン接種歴は、ワクチン未接種10.0%、従来型ワクチンのみ接種(2回以上)46.2%、オミクロン対応2価ワクチン接種(14日以上経過)9.8%であった。・発症予防における未接種者と比較した場合のオミクロン対応2価ワクチンの有効性は、16~64歳では54.7%(95%信頼区間[CI]:40.3~65.6)、65歳以上では75.2%(54.4~86.5)であった。・発症予防におけるオミクロン対応2価ワクチンの相対的な有効性は、16~64歳において、従来型ワクチンのみ接種者(接種後4~6ヵ月経過)と比較した場合は27.2%(95%CI:3.1~45.3)、従来型ワクチンのみ接種者(接種後7ヵ月以上経過)と比較した場合は36.1%(18.6~49.9)、65歳以上において従来型ワクチンのみ接種者と比較した場合は34.0%(0.3~56.3)であった。【入院予防における有効性】・解析対象者は1,017例で、検査陽性306例、検査陰性711例。年齢中央値82歳(IQR:73~89)、男性617例(60.7%)、基礎疾患を有する人が753例(74.0%)であった。解析対象者の約90%が65歳以上であった。・対象者のワクチン接種歴は、ワクチン未接種11.9%、従来型ワクチンのみ接種(2回以上)30.1%、オミクロン対応2価ワクチン接種(14日以上経過)10.7%であった。・入院予防における未接種者と比較した場合のオミクロン対応2価ワクチン有効性は84.9%(95%CI:65.7~93.3)であった。・入院予防におけるオミクロン対応2価ワクチンの相対的な有効性は、従来型ワクチンのみ接種者(接種後4~6ヵ月経過)と比較した場合は50.4%(95%CI:-18.4~79.2)、従来型ワクチンのみ接種者(接種後7ヵ月以上経過)と比較した場合は57.4%(-3.3~82.4)であった。 前田氏は、本結果は米国や英国の報告と比較して、未接種者と比較したオミクロン対応2価ワクチンの有効性に関して、16~64歳の発症予防の有効性はほぼ同等であるが、高齢者の発症予防および入院予防の有効性はより高値であったとし、その要因として、国内の高齢者は、若者や欧米人よりも感染による抗体保有率が低いことが影響している可能性を指摘した。国内のデータは欧米と異なる可能性が示唆されるため、引き続き国内での検証が重要だとしている。

260.

新型コロナ5類移行、今後の対応5点を発表/厚労省

 厚生労働省は4月27日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、5月8日より、感染症法上の位置づけを「新型インフルエンザ等感染症」から「5類感染症」に移行することを正式に決定したことを発表した。本決定は、国内におけるオミクロン株XBB.1.5系統やXBB.1.9系統の増加の動きはあるものの、重症度の上昇を示す知見は確認されていないことや、現時点での病床使用率や重症病床使用率は全国的に低い水準にあることが確認されたことに基づいている。5類移行により、これまでの法律に基づき行政が要請・関与する仕組みから、個人の選択を尊重し、国民の自主的な取り組みを基本とする対応に転換する。 今後の対応については、これまでに段階的に発表されたものも含め、以下の5点にまとめられた。(1)発生動向の把握 患者の発生動向の把握については、医療機関から法律に基づく届け出等の全数報告がなくなることに伴い、これまでのような感染者数や死亡者数等の毎日の公表はなくなる。位置づけ変更後は、感染症法に基づく定点医療機関による新規感染者数の報告が基本となり、前週月曜日から日曜日までの患者数を毎週金曜日に公表する。初回の公表は5月19日の予定。それまでの期間も途切れることなく発生動向を把握するため、G-MISを用いた新規入院者数や病床の状況等の把握・監視を継続する。これに加えて、血清疫学調査(抗体保有率調査)や下水サーベイランス研究等を含め、重層的な確認を行っていく。位置づけの変更により検疫法の適用は終了し、空港ではゲノムサーベイランスを継続していく。(2)医療提供体制 医療提供体制については、医療機関における感染対策の見直し、設備整備や個人防護具の確保への支援などによりこれまで対応してきた医療機関に引き続き対応を求めるとともに、新たな医療機関に参画を促す取り組みを重点的に進める。入院措置を原則とした行政の関与を前提とした限られた医療機関による特別な対応から、幅広い医療機関による自律的な対応に移行していく。 都道府県より提出された9月末までの移行計画の集計によると、直近のオミクロン株の流行時における最大入院者数約5万3千人を踏まえ、約8,400施設の医療機関において最大で約5万8千人の入院患者の受け入れ体制を確認している。うち、確保病床を有する医療機関での重症/中等症IIの患者の受け入れは約2万3千人(最大約3万1千床)、軽症/中等症Iの患者では、受け入れ経験がある医療機関で約3万人、受け入れ経験がない医療機関で約4千人となっている。 入院調整については、行政による入院調整の対象を重症患者や医療機関間での調整が困難となった患者などとし、原則として医療機関間で調整を行うこととする。調整は医療機関間で共有するITシステムや、妊産婦や小児などのための既存の連携の仕組みを活用する。(3)新型コロナウイルス感染症の患者等への対応 感染症法に基づく入院措置・勧告、外出自粛要請といった私権制限がなくなる。これに伴い医療費や検査費用の1~3割が自己負担となる。位置づけ変更による急激な負担増を避ける観点から、入院医療費や新型コロナ治療薬の費用は期限を区切り軽減する(現時点では9月末まで)。入院医療費は原則2万円、新型コロナ治療薬は全額補助。受診相談機能や宿泊療養施設の一部は期限を区切り継続される。外出を控えるかどうかは、ウイルスの排出期間や外出を控えることが推奨される期間(発症後5日間)を参考に個人で判断する。(4)基本的な感染対策 マスクの着用をはじめとする基本的な感染対策については、個人や事業者の判断に委ねることを基本とする。入場時の検温やパーティションの設置なども政府として一律に求めることはせず、対策を行った場合の効果など情報提供を進めていく。感染対策の実施に当たっては、感染対策上の必要性に加え、経済的・社会的合理性や、持続可能性の観点も考慮して、改めて感染対策の検討をお願いする。(5)新型コロナワクチン 新型コロナワクチンについて、特例臨時接種として、引き続き自己負担なく接種を実施する。追加接種の対象となるすべての人を対象に9月を目途に接種を開始する予定だが、高齢者など重症化リスクの高い人には5月8日から接種を実施する。 なお、今後、オミクロン株とは大きく病原性が異なる変異株が出現するなど、科学的な前提が異なる状況になれば、ただちに対応を見直すとしている。 新型コロナの罹患後症状(いわゆる後遺症)については、オミクロン株については従来の株に比べ罹患後症状患者の割合は下がっているという研究結果も示されている一方、流行の規模は大きくなってきている。罹患後症状を診療している医療機関を4月28日までに各都道府県のウェブサイトに掲載するよう依頼し、厚労省で5月初頭に取りまとめて公表される予定。さらに5月8日から、これらの医療機関において罹患後症状の診療報酬上特例的な評価を設けるとしている。

検索結果 合計:2020件 表示位置:241 - 260