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多発性硬化症〔MS:multiple sclerosis〕

1 疾患概要■ 定義多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は、脳・脊髄・視神経からなる中枢神経系に炎症性脱髄が生じる慢性疾患である。病変は時間的多発性(再発)と空間的多発性(中枢神経系のさまざまな場所に病変が生じる)であることを特徴とする。自己免疫機序が病態の中心であると考えられているが、近年は神経変性機序の関与も推定されている。■ 疫学MSは若年成人に多く、20~40代で発症することが多い。女性に多く、高緯度地域で発症率が高い(わが国では北海道に多く、沖縄では少ない)。世界中で約300万人の患者が存在すると推定されている。従来は欧米に多い疾患とされてきたが、近年はアジア地域でも患者数が増加しており、わが国でも有病率は上昇している。診断技術の進歩に加え、環境因子の変化が背景にあると考えられている。■ 病因MSは遺伝的要因と環境因子が組み合わさって発症する多因子疾患である。特定の免疫関連遺伝子が発症リスクに関与する一方で、遺伝要因のみで発症が決まるわけではない。環境因子としては、ビタミンD不足、喫煙、肥満などが知られている。近年、Epstein-Barr virus(EBV)感染がMS発症と強く関連することが示され、免疫異常を引き起こす重要な因子と考えられている。■ 症状MSの症状は多彩であり、病変部位によって異なる。代表的な症状には、視力低下や眼痛(視神経炎)、手足のしびれや脱力、歩行障害、ふらつき、排尿障害などがある。また、易疲労感、疼痛、抑うつ、集中力低下など、外見からわかりにくい症状も多く、患者の日常生活や就労に大きな影響を与える。これらは看護師や薬剤師が関わるケアの場面でとくに重要な視点である。■ 分類MSは臨床経過により以下に分類される。1)再発寛解型(RRMS)再発と寛解を繰り返しながら少しずつ後遺症が蓄積する病型で、最も頻度が高い2)2次進行型(SPMS)RRMSの経過の後に、徐々に再発とは無関係の障害進行(progression independent of relapse activities:PIRA)が生じるようになった病型3)1次進行型(PPMS)発症初期からPIRAを認める病型、まれである以上の病型の理解は、治療方針を考えるうえで重要である。■ 予後現在は治療薬の進歩により、MSの長期予後は大きく改善している。しかし、PIRAの治療は開発途上にあるために、早期診断と治療介入が予後改善には重要である。近年は、治療初期から高い有効性を有する薬剤を導入する“early high-efficacy treatment(eHET)”の考え方が広まっている1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSの診断は除外診断が基本である。とくに視神経脊髄炎スペクトラム障害やMOG抗体関連疾患は臨床像が類似するため、鑑別が重要である。ほかにも鑑別すべき疾患は多岐にわたり、悪性リンパ腫などの腫瘍性疾患、脳血管障害、膠原病、神経サルコイドーシスや神経ベーチェット病といった炎症性疾患、感染症(梅毒、進行性多巣性白質脳症など)、さらに頸椎症性脊髄症や脊髄空洞症などの脊髄疾患、ミトコンドリア病、HTLV-1関連脊髄症(HAM)、脊髄小脳変性症などが挙げられる。診断には臨床経過、MRI検査、脳脊髄液検査を総合的に評価するMcDonald診断基準が用いられる。本基準の本質は「炎症性脱髄病変が時間的・空間的に多発していること」を確認する点にある。2024年改訂では早期診断を支援する内容が加えられたが、診断はあくまで臨床判断を補助するものであり、慎重な運用が求められる2)。3 治療MSの治療は、再発時に行う急性期治療と、再発や進行を予防する病態修飾療法に大別される。急性期には副腎皮質ステロイドの大量静注療法(ステロイドパルス療法)が行われる。効果が不十分な場合には血漿交換療法が選択されることもある。再発や障害進行を抑えるため、維持期には病態修飾薬が使用される。近年では有効性の高い薬剤が増えており、早期から治療を開始することの重要性が強調されている。わが国で承認されている主要な病態修飾薬を表にまとめる。服薬管理、副作用モニタリング、多職種による支援が治療継続に不可欠である。表 MSの主要な病態修飾薬画像を拡大する4 今後の展望現在、新しい作用機序をもつ治療薬や、より精度の高い画像診断・血液バイオマーカーの研究が進行している。また、EBVを標的とした治療やワクチン研究も注目されており、将来的には個別化医療の実現が期待される。近年、MSの診療は、再発抑制を主目的とした治療から、PIRAの抑制を含む長期的な機能予後改善を目指す方向へと大きく変化している。この流れの中で、治療および診断の両面で新たなアプローチが研究・開発されている。治療分野では、Bruton型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬が新たな病態修飾療法として注目されている。BTK阻害薬は、B細胞の活性化や抗原提示機能を抑制するだけでなく、中枢神経内のミクログリア活性化を抑制する作用を併せ持つ点が特徴である。現在、RRMSに加え、SPMSやPPMSを対象とした第III相臨床試験が進行中であり、既存治療では十分に抑制できなかった進行性病態への効果が期待されている。とくに、PIRAに対する治療選択肢としての位置付けが注目されている。診断分野においては、疾患特異性や病勢評価を高める新たなバイオマーカーの研究が進展している。MRIでは、central vein sign(CVS)やparamagnetic rim lesion(PRL)といった所見が、MSに特徴的な病態を反映する補助的画像指標として注目されている。これらは鑑別診断や慢性活動性病巣の評価に有用である可能性が示されている。一方、体液バイオマーカーとしては、血清・髄液中の神経フィラメント軽鎖(NfL)やκフリーライトチェーン(κFLC)が、疾患活動性や予後予測の指標として臨床応用に近付いている。今後は、これらの新規治療薬および診断技術を組み合わせることで、疾患活動性・進行リスクに基づく層別化医療や個別化治療がより現実的になると考えられる。MS診療は、再発を抑制する医療から、長期的な障害蓄積を最小限に抑える医療へと進化しており、今後も基礎研究と臨床研究の橋渡しが重要となる。5 主たる診療科主な診療科は脳神経内科であるが、眼科、泌尿器科、リハビリテーション科、精神科などとの連携が重要である。看護師・薬剤師を含めた多職種チーム医療が不可欠である。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト診療、研究に関する情報難病情報センター 多発性硬化症/視神経脊髄炎  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本神経学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)医薬品医療機器総合機構(PMDA)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)MSキャビン(MSCABIN)(多発性硬化症の総合情報サイト:情報共有、患者・支援者向け知識ベース)MS International Federation(国際疫学、研究動向、教育・啓発リソースなど医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本多発性硬化症協会(患者とその家族および支援者の会)1)Rotstein D, et al. Nat Rev Neurol. 2019;15:287-300.2)Montalban X, et al. Lancet Neurol. 2025;24:850-865.公開履歴初回2026年2月20日

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タンジール病〔Tangier disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義タンジール病は、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白(アポ)A-I濃度が著しく低下し、オレンジ色の咽頭扁桃腫大、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害などの種々の臓器にコレステロールエステルが蓄積することに伴う臨床症状を特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。なお、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。1961年に米国バージニア州タンジール島の5歳の少年から摘出されたオレンジ色の異常扁桃の病理所見で、多数の泡沫細胞が存在し、この少年と姉の血清HDL-Cが極端な低値を示すことが、Fredricksonらによって報告され「タンジール病」と命名された1)。アポA-Iによる細胞からのコレステロール引き抜きに関与するATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常に起因する極めてまれな疾患で、早発性冠動脈疾患を来すため早期診断が重要である。■ 疫学極めてまれな難病で、世界全体でこれまで約130例程度しか報告がなく2)、有病率はおよそ100万分の1と推定されている。わが国でも報告例は十数家系程度であるが、未診断例も存在する可能性がある。HDL-C値の下位1%未満の集団の10%にABCA1変異が同定されている。■ 病因ABCA1遺伝子は染色体9q31に位置し、その機能喪失型変異によりタンジール病が生じる3)。ABCA1は細胞膜上のコレステロール輸送体で、血中の遊離アポA-IがABCA1に結合し、ABCA1は細胞内から余剰のコレステロールとリン脂質を細胞外へ排出し、アポA-Iに受け渡し、原始HDLである円盤状のpreβ-HDL粒子を形成する役割を担う。本症では、ABCA1の機能喪失によりpreβ-HDL粒子が形成されず、HDL産生が著しく低下する。また、細胞内からのコレステロール搬出が障害された結果、コレステロールエステルが網内系、皮膚、粘膜、末梢神経のシュワン細胞などの細胞内に異常蓄積し、多臓器で泡沫細胞が出現して機能障害や細胞死を引き起こす。骨髄、肝、脾、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞が認められ、その結果種々の症状を来す。■ 症状1)臓器腫大と機能障害コレステロールエステルの異常沈着は全身の網内系臓器や粘膜に及ぶため、多彩な臓器腫大・障害が生じる。主な所見は以下のとおりである。(1)オレンジ色扁桃腫大:扁桃は分葉・腫大し、明らかなオレンジ色または黄~灰色の表面を持つ。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認められる(図1)。(2)肝脾腫:肝腫大は約3分の1に認めるが、肝機能障害は通常軽微である。脾腫は約半数で認められ、軽度の血小板低下症と網状赤血球増加を伴う。脾臓・肝臓への脂質沈着により腹部膨満や肝脾腫が身体診察で認められる。(3)その他臓器へのコレステロールエステル蓄積:リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などで、組織学的には泡沫細胞浸潤として確認される。大腸粘膜沈着に起因する難治性の慢性下痢を呈したまれな症例もある。(4)眼病変:角膜へのコレステロール沈着により角膜混濁(角膜の乳白色の濁り)を来す。多くは軽度で視力障害は生じないが、進行すると視力低下を来す可能性がある。網膜にも色素変性様所見(斑点状の色素沈着)が報告されている。(5)血液・骨髄:血中HDL欠損に伴い赤血球形態異常(棘状赤血球や口裂赤血球など)が報告されており、軽度の溶血性貧血を伴う例もある。骨髄生検では泡沫化マクロファージの貯留像を認める。図1 タンジール病患者のオレンジ色扁桃A:舌扁桃 B:咽頭扁桃(文献2より引用)画像を拡大する2)末梢神経障害軽度から重症までさまざまな末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害または混合障害が、一過性または持続性に出現する。小児~若年期から発症し、シュワン細胞内へのコレステロール沈着により髄鞘脱落を起こし、多彩な神経症候を呈する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。3)早発性の動脈硬化性疾患タンジール病(ABCA1遺伝子変異ホモ接合体)中の20%で狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病変の症状が認められる。さらに35~65歳の本症患者では約44%と対照群(男性6.5%、女性3.2%)と比較すると著しく高頻度である。ただ、ABCA1のミスセンス変異の機能障害の違いにより、動脈硬化の程度は個々の症例により異なる。したがって、各患者での動脈硬化のリスク評価と画像診断が必要である。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による冠動脈の観察で、強度のびまん性の石灰化病変を認めた報告4)や、全身性の重症の動脈硬化病変を合併した症例の報告2)がある。4)耐糖能異常・2型糖尿病膵β細胞におけるABCA1欠損はインスリン分泌障害を引き起こすことが示されており、本症の患者で耐糖能異常や2型糖尿病を合併しやすい一因と考えられる。ABCA1欠損により、膵島(とくにβ細胞)へのコレステロール蓄積によるインスリン初期分泌能低下が機序と考えられる5)。耐糖能異常や2型糖尿病の管理は心血管リスク低減のためにも重要である。■ 予後タンジール病そのものは先天的代謝異常であり、生涯にわたりHDL欠損状態が続くため、長期療養と経過観察が必要である。適切な管理により小児~成人期まで比較的良好に経過する症例もあるが、若年~中年期での冠動脈疾患発症や脳卒中により生命予後が短縮するケースもある。予後改善には動脈硬化性合併症の予防と早期介入が最も重要であり、患者のQOL維持のためには症状コントロールと包括的なリスク管理を続ける必要がある。とくに、狭心症、心筋梗塞などの早発性冠動脈疾患の発症に留意し、定期的な動脈硬化性疾患のチェックが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査血液検査で脾機能亢進による血小板減少症(巨大血小板性血小板低下症)や溶血性貧血(間接ビリルビンや網状赤血球増加)が見られることがある。空腹時血糖上昇、経口糖負荷試験(OGTT)で耐糖能異常やインスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価し、インスリン初期分泌低下が認められることがある。■ 特殊検査1)脂質検査タンジール病(変異ABCA1遺伝子ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)患者では、血中HDL-Cは通常5mg/dL以下(同定された症例の平均3±3mg/dL)と正常の約6%に低下しており、アポA-I値も10mg/dL以下に低下する。LDLコレステロール(LDL-C)も平均正常値の約37%に低下している。これはABCA1欠損により末梢から肝へのコレステロール逆転送が低下し、肝細胞のコレステロール不足からLDL受容体発現が亢進してLDL-Cが低下するためと考えられる。軽度の高TG血症を認めることが多く、TGに富むレムナントリポ蛋白の増加を認める。近年の研究で、ABCA1欠損が肝臓由来のangiopoietin-like protein 3(ANGPTL3)の分泌増加を招き、これが本症患者でみられる高TG血症に関与する可能性が報告されている。一方、変異ABCA1遺伝子ヘテロ接合体(キャリア)では血中HDL-CおよびアポA-I値は正常者の約50%程度に低下する。2)眼科検査コレステロール蓄積による角膜混濁を認めることがあり、眼科で角膜検査が必須である。3)耳鼻科検査本症に特徴的なオレンジ色の扁桃腫大を認めることがあり、耳鼻科での目視検査が必要となる。幼少~青年期に扁桃の著明な腫大と黄色~橙色調への変色がしばしば最初の兆候として現れる。扁桃は分葉状に肥大し、独特のオレンジ~黄灰色を呈するため「オレンジ色扁桃」と呼ばれる。小児期に反復する扁桃炎や扁桃摘出術の既往を有する患者も少なくない。4)画像・生検所見腹部超音波検査で肝脾腫を検査する。オレンジ色扁桃や肝脾腫、角膜混濁などの身体所見から本症を疑った場合、組織生検で泡沫細胞沈着を確認する。とくに直腸粘膜生検は侵襲が比較的低く有用とされ、粘膜固有層にコレステロールエステルを蓄積して泡沫化したマクロファージの集積像が認められれば支持所見となる。同様の所見は骨髄、生検可能な皮膚、肝・脾、生検可能なリンパ節などでも検出される。5)神経内科的検査末梢神経障害精査のため神経伝導速度や筋電図検査で神経障害の分布・程度を評価する。6)早発性動脈硬化性疾患の有無の評価早発性動脈硬化性疾患の有無の精査のため、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、頸動脈エコーや冠動脈CTスキャン検査などで、動脈硬化病変のスクリーニングを行う。無症状でも思春期以降は定期的に心血管評価を実施し、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。家族内発症が疑われる場合は保因者(ヘテロ接合体)に対する脂質検査によるスクリーニングも重要である。■ 確定診断遺伝子診断でABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)遺伝子変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合体)を認める。常染色体優性遺伝でHDL-Cが著減するfamilial HDL deficiency(ABCA1遺伝子変異のヘテロ接合体やアポA-I遺伝子変異で起こり、早発冠動脈疾患を合併し、タンジール病のような全身性のコレステロール沈着[オレンジ扁桃・肝脾腫・神経障害]は伴わない)との鑑別が必要である。以下に、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」による本症の診断基準を示す。難病情報センターのホームページ「タンジール病」より引用した(2026年1月20日)。最新の情報については、当該ホームページまたは厚生労働省「原発性脂質異常症に関する調査研究班」のホームページで確認いただきたい。【タンジール病の診断基準】Definite、Probableを対象とする。A.必須項目1)血清HDLコレステロールが25mg/dL未満2)血中アポA-I濃度20mg/dL未満B.症状1.オレンジ色の特徴的な扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.動脈硬化性心血管病変C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、アポリポタンパクA-I欠損症、二次性低HDLコレステロール血症*1*1:外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む)HDL-C<25mg/dLの場合、低HDL-C血症の診断フローチャート(図2)6)に従って、二次性低HDL血症を除外し、他の原発性低HDL血症である、古典的LCAT欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する(表)6)。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが20mg/dL未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。D.遺伝子検査ABCA1遺伝子変異の同定。ABCA1遺伝子解析が2021年4月に保険収載されている。<診断のカテゴリー>Definite必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。Probable必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。図2 遺伝性HDL欠損症の診断フローチャート(文献6より引用)表 遺伝性HDL欠損症の臨床所見の比較(文献6より引用)画像を拡大する3 治療HDL-C低値そのものを直接是正する薬剤は存在しない。また、現在のところ、遺伝子治療によるABCA1の補充などの根本的な治療はなく、臨床で利用可能な特異的治療薬は存在しない。過去にナイアシン(ニコチン酸)薬やフィブラート系薬がHDL-C上昇の目的で試みられたが、タンジール病ではABCA1欠損が根本原因のため薬物でのHDL-C正常化は困難であり、有効性を支持する明確なエビデンスはない。粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が問題となるので、心血管リスクを下げる目的でHDL-Cを可能な範囲で増加させるための生活習慣の改善が推奨される。具体的には、有酸素運動、適正体重の維持、禁煙に加え、食事では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える(地中海食的なアプローチ)ことなどが推奨される。これらによりHDL-Cが僅かに上昇し得るほか、末梢神経症状の改善が報告されている。高TG血症を伴う場合にはフィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(商品名:パルモディア)や魚油製剤の使用を検討する。本症の血清LDL-C値は一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはそのほかの薬でLDL-C値を低下させる。治療目標は症状軽減と動脈硬化危険因子の管理に置かれ、高血圧があれば厳格な降圧、喫煙者には禁煙指導を行い、すべての心血管リスク因子を包括的に管理する。血糖コントロールのための食事・運動療法(必要に応じ経口血糖降下薬やインスリンなど)も糖尿病合併例では重要となる。さらに、合併する早発性動脈硬化性疾患の早期発見と治療も行う。一方、タンジール病に伴う各臓器・組織の症状には、必要に応じて対症的・外科的介入を行う場合がある。扁桃肥大による呼吸・嚥下障害や反復炎症がある場合、扁桃摘出術を検討する。オレンジ色扁桃そのものは病的ではないが、大きさにより気道狭窄や感染温床となる場合がある。角膜混濁が進行し、視力障害を来した場合には角膜移植が考慮されるが、タンジール病の角膜混濁は軽度で視機能に問題はない例が多く、定期フォローに留めることもある。末梢神経障害に対してはリハビリテーションと支持療法を行う。筋力低下や足下垂に対しては装具装着(足関節装具など)や理学療法による歩行補助を行う。痛みやしびれが強い場合は、プレガバリンやデュロキセチンといった神経障害性疼痛の薬物療法を用いることもあるが、エビデンスは症例報告レベルである。なお、本症は2015年から「指定難病 261」として、医療費給付の対象となっている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)将来的な治療法として遺伝子治療が期待されている。たとえば、肝臓におけるABCA1発現をウイルスベクターなどで補充し、HDL産生を回復させる試みが提案されている。ただし、HDL代謝は全身の細胞で営まれるため、肝細胞への遺伝子導入だけでどこまで臨床効果が得られるかは不明である。また、アポA-Iや合成HDLの補充療法、肝X受容体(LXR)作動薬による残存ABCA1の発現誘導なども理論上考えられるが、いずれも現時点では成功していない。総じて現時点では対症療法と合併症予防が中心であり、新規治療法の実現には今後の研究の進歩が必要である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科) 患者の予後は主に動脈硬化性疾患の発症に左右されるため、長期的には主に循環器内科で心血管イベント予防に重点を置きつつ、管理を行う。神経障害やその他臓器合併症への対策を継続するために多職種チーム医療が重要であり、循環器内科医、脳神経内科医、眼科医、消化器科医、遺伝カウンセラーなどが連携して患者を包括的にケアする。また、定期フォローアップでは以下の点に留意する。1)早発性動脈硬化性疾患のモニタリング若年期より定期的な循環器内科的評価を行う。具体的には詳細な問診・診察に加え、必要に応じて心電図や心エコー、運動負荷試験、頸動脈エコー、冠動脈CTなどで無症候性の動脈硬化病変のスクリーニングを行う。血清脂質、血糖、血圧、喫煙の有無のチェックも継続し、LDL-C、TGや血圧が管理目標を逸脱していれば治療を行う。2)末梢神経障害の管理神経症状は進行したり寛解したりするため、脳神経内科医による神経学的評価を定期的に行い、筋力低下や感覚障害の変化をモニタリングする。必要に応じてリハビリ計画を見直し、装具の調整や痛みのコントロールを図る。重度の神経障害に対しては日常生活動作のサポート(理学療法士・作業療法士の介入、補助具導入など)も検討する。3)眼合併症の管理眼科検査を定期施行し、角膜混濁の進展や視力変化を評価する。角膜混濁による視力障害が生じれば眼科的介入のタイミングを検討する。4)脾腫・感染症対策脾摘を施行した場合は感染症予防を徹底する。脾腫を温存している場合も、脾臓破裂を防ぐため、激しいスポーツ時のプロテクター装着や事故防止策について指導する。5)家族検査とカウンセリング患者の血縁者に対しては遺伝カウンセリングを提供し、希望があれば保因者検査(ABCA1遺伝子検査や脂質検査)を実施する。ヘテロ接合体では動脈硬化リスクがやや高い可能性もあるため、生活習慣指導を行う。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター タンジール病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版 「低脂血症の診断と治療」 日本動脈硬化学会(2023年6月30日発行)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学医学部附属病院循環器内科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)りんくう総合医療センター循環器内科  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Fredrickson DS, et al. Ann Intern Med. 1961;55:1016-1031. 2) Muratsu J, et al. J Atheroscler Thromb. 2018;25:1076-1085. 3) Brooks-Wilson A, et al. Nat Genet. 1999;22:336-345. 4) Komuro R, et al. Circulation. 2000;101:2446-2448. 5) Koseki M, et al. J Atheroscler Thromb. 2009;16:292-296. 6) 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版. 低脂血症の診断と治療. 日本動脈硬化学会. 2023. 公開履歴初回2026年2月16日

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医学英語で「歩行異常」はどう言う?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第50回

医学用語紹介:歩行異常 abnormal gait今回は「歩行異常」について説明します。医療現場ではabnormal gaitやgait abnormalityがよく使われますが、患者さんとの会話ではどのような一般的な英語表現を使えばよいでしょうか?講師紹介

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非糖尿病PADへのメトホルミン、歩行能力を改善せず/JAMA

 非糖尿病の末梢動脈疾患(非糖尿病PAD)患者において、メトホルミンの投与はプラセボと比較して、追跡6ヵ月時点の6分間歩行距離に関する評価において改善は認められなかったことが、米国・ノースウェスタン大学のMary M. McDermott氏らが行った無作為化二重盲検試験「PERMET試験」の結果で示された。PAD患者の歩行能力を改善する効果が示されている治療法はほとんどない。メトホルミンは、入手がしやすく安価な2型糖尿病の治療薬だが、AMP活性化プロテインキナーゼの活性化、酸化ストレスの軽減、血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性化など多面的な作用を有することで知られている。著者は、「今回示された結果は、メトホルミンはPAD患者の歩行能力を改善しないことを裏付けるものであった」とまとめている。JAMA誌2026年2月3日号掲載の報告。6分間歩行距離の6ヵ月間の変化量を対プラセボで評価 PERMET試験は、米国4施設で被験者を募り実施され、2017年5月23日に登録を開始し、2025年2月17日に終了した。最終追跡調査は2025年8月19日。 被験者は、50歳以上のPAD患者(包含基準:ABIが両足とも0.90以下など。除外基準:GFR≦45のCKD、糖尿病など)であった。 資金の制限により、登録された被験者は202例(目標212例の95%)であった。 被験者は、メトホルミン群(1錠[500mg]を1日2回で開始、2週間後から2錠を1日2回、97例)またはプラセボ群(105例)に無作為化され、6ヵ月間治療を受けた。副作用が発現した場合は、症状が許容範囲になるまたは消失するまで服用量が減らされた。被験者は、服用量を日誌に記録するよう指導され、3ヵ月後の受診時に服薬アドヒアランスの評価(服薬日誌と薬瓶の回収)が行われた。また、評価後に残り3ヵ月分の錠剤が渡された。 主要アウトカムは6分間歩行距離の6ヵ月間の変化量(臨床的に重要な最小変化量:8~20m)。副次アウトカムは、トレッドミルでの最大歩行時間、トレッドミルでの無痛歩行時間、歩行障害質問票(Walking Impairment Questionnaire)の距離および速度のスコア、SF36身体機能スコア、および上腕動脈FMDなどであった。各評価項目の結果は、試験施設とベースライン値で補正された。6ヵ月間の変化量はメトホルミン群-5.4m、プラセボ群-5.3m 無作為化された202例(平均年齢69.6[SD 8.4]歳、女性56例[28%]、黒人79例[39%])のうち、179例(89%)が6ヵ月の追跡調査を完了した。 メトホルミン投与群において、プラセボ群と比較して6分間歩行距離に関する有意な改善は認められなかった。メトホルミン投与群の6分間歩行距離は358.6mから353.2mへの変化で(群内変化量:-5.4m)、プラセボ群は同359.8mから354.5m(-5.3m)であった(補正後群間差:1.1m、95%信頼区間:-16.3~18.6、p=0.90)。 副次アウトカムについてもいずれも、プラセボと比較してメトホルミン群で有意な改善は示されなかった。 最も多くみられた重篤な有害事象は、心血管イベントであった(メトホルミン群3.1%、プラセボ群1.9%)。最も多くみられた非重篤な有害事象は、消化不良/胃もたれ(メトホルミン群64.9%、プラセボ群40.6%)および頭痛(メトホルミン群37.2%、プラセボ群49.5%)であった。

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変形性膝関節症、膝装具の追加で患者報告アウトカムが改善/BMJ

 変形性膝関節症の患者では、助言・書面情報・運動指導による介入と比較して、これに膝装具の装着とアドヒアランス介入を追加すると、6ヵ月時の患者報告アウトカムがわずかながら有意に改善するが、12ヵ月後には有意差は消失し、有害事象の多くは軽微で予期されたものであることが、英国・Keele UniversityのMelanie A. Holden氏らが実施した「PROP OA試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2026年1月26日号に掲載された。イングランドの無作為化対照比較優越性試験 PROP OA試験は、イングランドの4つの地域で実施した無作為化対照比較優越性試験(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術評価プログラムなどの助成を受けた)。 2019年11月~2022年9月に参加者を募集した。年齢45歳以上の症状を伴う変形性膝関節症の患者466例(平均年齢64[SD 9]歳、女性213例[46%])を対象とした。 これらの患者を、助言・書面情報・運動指導(AIE)による介入を受ける群(AIE群:229例)、またはAIEにコンパートメント側特異的膝装具とアドヒアランス介入を追加する群(AIE+B群:237例)に無作為に割り付けた。 介入は、標準化された訓練を受けた18人の理学療法士(経験年数中央値10年[範囲:1~36])が行った。AIEは1回の対面相談で実施した。AIE+B群の患者は、変形性膝関節症の主要部位の位置に応じて、膝蓋大腿関節用、脛骨大腿関節の負荷軽減用、中立位安定化用のいずれかの膝装具を装着し、2週間のフォローアップ相談が提供された。装具装着のアドヒアランスを支援するために、的を絞ったテキストリマインダーを用いた簡略な動機付け面接を行った。 主要アウトカムは、無作為化から6ヵ月の時点におけるKnee Osteoarthritis Outcomes Score(KOOS)-5(0~100点、痛み、他の症状、日常生活動作、スポーツ・レクリエーション活動、膝関連QOL)で評価した複合的な患者報告アウトカムとした。6ヵ月時の痛みおよび日常生活動作の改善が良好 追跡期間中は、3ヵ月後に401例(86%)、6ヵ月後に394例(85%)、12ヵ月後に370例(79%)から解析可能なデータを得た。 6ヵ月の時点で、AIE群に比べAIE+B群でKOOS-5の改善効果が大きかった(補正後平均群間差:3.39、95%信頼区間[CI]:0.96~5.82、効果量:0.24)。3ヵ月時も、同様の結果であった(3.67、1.47~5.87、0.26)。一方、12ヵ月時は、AIE+B群で改善効果が大きかったものの、その程度は減衰しており、有意差は消失していた(2.67、-0.24~5.57、0.19)。 また、KOOS-5のサブスケールでは、AIE+B群で6ヵ月時の痛み(補正後平均群間差:6.13、95%CI:3.36~8.91、効果量:0.39)および日常生活動作(5.24、2.47~8.02、0.28)の改善効果が優れた。この効果は、12ヵ月時にも維持されていた(痛み[4.76、1.48~8.04、0.30]、日常生活動作[3.60、0.30~6.89、0.19])。ほとんどの有害事象は予期されたもの 両群とも、予期せぬ重篤な有害反応は認めなかった。ほとんどの有害事象は予期されたものであり、全体の発生件数は両群間に大きな差はなかった(6ヵ月時の自己報告による有害事象件数:AIE+B群87件、AIE群113件)。 AIE+B群で最も頻度の高かった予期された有害事象は皮膚刺激および発赤で、最大で20%の患者に発現した。これに対し、水疱および皮膚損傷の発生率は最大で4%と低かった。 著者は、「この安全で受容性の高い介入は、変形性膝関節症の有効な治療法となる可能性がある」「効果量から判断すると、膝装具装着の有益性は3ヵ月および6ヵ月の時点で小さく、12ヵ月の時点では非常に小さかった」「事前に定義したKOOS-5の臨床的に意義のある最小差(MCD)である8点は、達成されなかった」としている。

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第299回 いよいよ明後日投票日、今回の各党の医療・社会保障政策は?~野党各党編

INDEX国民民主党日本共産党れいわ新選組減税日本・ゆうこく連合参政党日本保守党社民党チームみらいさて2026年2月8日投開票の衆院選に関連し、前回は与党の自民党、日本維新の会、最大野党の中道改革連合が掲げる医療・社会保障政策を取り上げた。今回は残る野党各党を取り上げる。国民民主党まずは昨今、議席増を続け野党内でも台風の目になりつつある同党は、5つの大きな政策を掲げ、そのもとで中項目(<>内)、さらに小項目(数字項目)を置き、小項目の下にさらにナンバリングした政策各論を提示している。その中身は以下に要約・列挙した。詳細は以下のとおり1.手取りを増やす<1.令和の所得倍増計画>1「消費」の拡大(1)介護職員、看護師、保育士等の給料倍増(介護職員、看護師、保育士等の給料、10年で倍増。処遇改善加算等を対象者に直接給付)(4)社会保険料軽減策の導入(社会保険料還付制度の導入、130万円の壁突破助成金の創設、社会保険料に上乗せされる「子ども・子育て支援金」の廃止)2「中小企業・非正規賃上げ応援10策」1)社会保険料負担軽減(中小・中堅企業の新規正規雇用の増加に伴う社会保険料の事業主負担の半分相当を助成)3.「人づくり」こそ国づくり<5.出産・子育て支援策の拡充と所得制限撤廃>8妊娠・出産に係る公費支援(不妊治療への公的支援やノンメディカルな卵子凍結の助成拡充、小児、若年性がん治療薬の妊孕性温存療法[精子・卵子保存]を保険適用、安全な無痛分娩を受けられる体制整備)9日本型ネウボラの創設(保健師・医師などによる妊娠時から高校卒業までの「伴走型支援」を制度化)<6.子どもの安全と福祉の確保>2子どもの死亡検証(チャイルドデスレビュー)の導入3ヤングケアラー対策(ヤングケアラー支援法の施行状況の検証、実態調査の定期的実施、実態調査に基づく効果的な支援の方法の調査研究)11介護と仕事の両立支援(ビジネスケアラー対策)12ダブルケアラー対策(ダブルケアラー支援法の制定)<10.現役世代と次世代の負担適正化と医療・介護の質向上を両立させる社会保障制度の確立>1年齢ではなく能力に応じた負担(後期高齢者の医療費自己負担の原則2割化、現役並所得者3割。現役並所得の判断基準での金融所得、金融資産等の保有状況を反映)2高齢者医療制度への公費投入増3科学的根拠に基づいた保険給付範囲の見直し(OTC類似薬の医療保険対象見直し、保険外併用療養費制度の弾力化)4ヘルスリテラシー教育の推進5セルフメディケーションの推進(医療用成分のスイッチOTC化推進、検査薬OTC化、リフィル処方箋普及)6中間年薬価改定の廃止(経済成長率を踏まえた新たな薬価改定ルールの策定、中央社会保険医療協議会への医薬品関連業種の代表者の追加)7予防医療・リハビリテーション(認知症・フレイルの予防、リハビリテーションの充実による健康寿命の延伸)8医療提供体制の充実、医療の質と効率の改善(1)医療従事者の負担軽減と働き方改革(医師・看護師・薬剤師等が実施可能な行為や役割の見直し、女性医療従事者の就業継続・再就職支援)(2)地域医療体制の見直しと機能強化(医師の地域偏在や診療科偏在の是正に資する診療報酬評価、かかりつけ医[日本版GP]・かかりつけ薬局[日本版CPCF]制度の導入、人頭払制度、薬剤師の職能活用、地域フォーミュラリー[医薬品の使用指針]の推進)(3)医療DXの推進(オンライン診療、標準型電子カルテ、電子処方箋の普及の推進、「全国医療情報プラットフォーム」の整備を通じた医療情報の共有化)9終末期医療の見直し10介護サービス・認知症対策の充実(訪問介護の基本報酬を引き上げ、全介護職員の賃金を引き上げ、介護福祉士の上位資格「地域包括ケア士(仮称)」の制度化)11介護研修費用の一部補助12介護福祉士国家試験に外国人人材向けの母国語併記13ケアマネジャー研修の負担の軽減(ケアマネジャー研修内容・体制の全国一律化)<12.ジェンダー後進国脱却、多様性社会実現>1生理、更年期障害政策(「生理の貧困」に対応した生理用品の無償配布)4.自分の国は「自分で守る」<1.防災・減災対策強化>4熱中症対策(公共施設、商業施設等の冷房設備を備えた「クーリングシェルター」の指定促進と周知、熱中症警戒アラートのわかりやすい発信と高齢者などへの周知)<3.「総合的な経済安全保障」の強化>1国内調達の拡充(1)国民の命と生活を守る医薬品や医療機器の安定供給確保(革新的新薬へのアクセス確保とドラッグラグ・ドラッグロス改善のため、欧米と比較して相対的に低い新薬収載時の価格算定方式を見直し、特許期間中の薬価維持制度、市場拡大再算定制度の市販後にイノベーションを再評価できる仕組みへ、共連れルール廃止、供給不安に陥っている医薬品について増産支援、不採算に陥ることのない薬価下支え制度、急激な物価高騰に対応できる制度の構築、医薬品メーカーの生産・在庫・出荷状況等を一元管理するデータベース構築)(2)イノベーション創出環境の整備(医薬品や医療機器での「社会課題(公的医療介護費、生産性損失)の解決につながるイノベーション」や「世界に先駆けて生み出されたイノベーション」、「医療の質の向上や医療の効率化に資するイノベーション」を積極的に評価、創薬エコシステム・イノベーション拠点を構築、医薬品や医療機器のイノベーションを促進に向けた各種法規制の国際的調和の推進、質の高い効率的な医療の提供と医薬品や医療機器の研究開発の効率化に向けた「仮名加工医療情報」の二次利用にかかる法整備、臨床試験等に活用しうるデータの標準化と信頼性確保等の推進、フェムテック関連医療機器や医薬部外品の届出、認証の円滑化) 以前から指摘していることだが、同党の医療・社会保障政策は与野党すべてを見回しても、もっとも充実していると言っていい。そして今回の内容は昨年の参院選時のものとまったく同じである。まあ、作り込んでいるがゆえに今さら変更の必要はないということなのだろう。日本共産党現存する日本最古の政党(1922年結党)である同党だが、今回公表された医療・社会保障政策は、かなり数が多い。以下に列挙する(歯科は除く)。詳細は以下のとおり患者負担増や保険料の負担増を起こさないための国費投入・国庫負担の引き上げを行い、診療報酬のさらなる増額・改善を進め、医療従事者の賃上げを実現「地域医療構想」による病床削減、強引な病院統廃合の阻止医師養成数の削減計画を中止し、「臨時増員措置」を継続するなど医師の計画的増員を推進病院の勤務医などの時間外労働上限を引き下げ看護師の計画的な増員を推進OTC類似薬の「特別料金」徴収の阻止70歳以上の窓口負担を一律1割に引き下げ、軽減・無料化を推進1兆円の公費投入増で国保料を協会けんぽの保険料並みへ保険料の「均等割」「平等割」を廃止。「所得割」の保険料率の引き下げ、低所得世帯に重い「資産割」改善生活困窮者の国保料を免除し国庫で補填「国保の都道府県化」による国保料引き上げに反対保険料滞納者への支援なしの10割負担(特別療養費の支給)の中止保険料滞納者の生活相談による収納活動へ転換保険料・窓口負担の軽減障害者、高齢者などの医療費無料化(現物給付)を行う自治体への国保の国庫負担を減額制度の中止国保法第44条の規定にもとづく、生活困窮者の窓口負担(一部負担金)の減免を積極的に推進国保組合が行う独自給付への国庫補助削減を止めて拡充へ18歳までの医療費無料化現役世代の窓口負担の2割への引き下げ高額療養費制度の改善・拡充後期高齢者医療制度の保険料・窓口負担の引き上げを中止。制度を廃止高齢者医療への国庫負担を増額し、現役世代の支援金負担、高齢者の保険料負担を軽減マイナ保険証の強制をやめて健康保険証を存続資格確認書はマイナ保険証の有無に関係なく国民全員に交付不具合続出のマイナカードによるオンライン資格確認の中止・見直し「子ども・子育て納付金」の廃止高額療養費制度の患者負担増案の“復活”を許さず、制度の改善高額療養費制度の負担限度額の上限を引き下げ、「1%」の定率部分を廃止高額療養費限度額の設定を“月ごと”から“治療ごと”に変更世帯の所得区分ごとに年間を通じた高額療養費負担上限額を設定3疾患(血友病、HIV、人工透析の腎臓病)限定の「高額長期疾病にかかわる高額療養費の支給特例」を拡大し、療養が長期にわたる場合に対応した「長期療養費給付制度(仮称)」を創設新型コロナ感染症の抗ウイルス薬などに公費補助の仕組みを設定し、患者の自己負担を、インフルエンザのタミフル並みに新型コロナワクチン接種の経済負担軽減の仕組みを創設新型コロナワクチン接種後の有害事象の原因を徹底究明と接種と症状との因果関係の認定に至らなかった事例も含めた幅広い補償・救済コロナ感染者や疑いのある人に対する十分な検査と治療の体制整備(救急・入院の拡充など「コロナ以外」の医療の逼迫が起こらないようにする体制の強化、高齢者・障害者施設、医療機関などにおける検査等の防護措置の実施を国が支援)国の負担で肺・心臓の長期的障害や筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)など、「コロナ後遺症」の治療・研究、患者への生活支援を推進コロナ危機の教訓を踏まえ感染症病床の2倍化、保健所の箇所・職員数の大幅増、集中治療室(ICU)設置を支援する制度の創設ワクチンや治療薬の研究・開発に対する財政支援、水際・検疫体制の抜本的な強化新興・再興感染症の発生・拡大に備える検査・医療体制を拡充し、体制・人員・資器材等を確保教育・保健の連携による性に関わる正しい知識の普及と予防法の周知、検査体制の強化、一般医療機関への情報提供による性感染症の予防・早期発見・治療の実現安全性・有効性が確認されたワクチンの公費接種事業を推進。ワクチン接種後に有害事象が起こった事例の原因の徹底究明と調査、被害者の治療・補償・救済を、国の責任で推進。医療費適正化計画の撤廃混合診療、保険外治療の拡大の阻止差額ベッド料などの自費負担を廃止株式会社による医療経営解禁を阻止協会けんぽへの国庫補助を法定上限の「20%」に引き上げ、労働者・中小企業の負担軽減にむけた、国の支援を強化国民の健診データ・情報の営利企業に引き渡しに反対薬価構造を根本的に見直し新薬などの高薬価是正で得られた財源を医療の充実や医療従事者の処遇改善などへ必須医薬品の安定供給を確保するため、後発品(長期収載品)の薬価を採算のとれる水準にするよう見直し。同時にメーカーに責任を課し、委託生産の規制強化や、原薬の国産化を推進無料低額診療への支援を強化し、薬剤費への制度適用を目指す医薬品・医療機器に偏った報酬評価のあり方を見直し、医療従事者の労働を適正に評価する診療報酬に改革「包括払い(定額制)」の導入・拡大に反対初・再診料、入院基本料の引き上げ標準算定日数を超えたリハビリを「保険外併用療養」とする制限を廃止人工透析「夜間・休日加算」を患者負担の軽減とともに適切な水準へ引き上げ出産一時金のさらなる増額と出産費用の無償化助産師の養成数を増やし、助産院へ公的支援助産院を地域の周産期医療ネットワークに位置付け、助産師と産科医の連携を国の責任で推進通常分娩の保険適用・窓口無料化の実現時は助産師による出産、妊産婦へのケアや各種指導なども産科医療機関との連携など安全確保を前提に保険適用医療事故の検証を行う調査機関に関する制度の改善産科医療補償制度の抜本的見直しを進めつつ、無過失補償制度を創設患者の権利を明記し、医療行政全般に患者の声を反映する仕組みをつくる「医療基本法」の制定現行の「診療明細書の発行」を見直し国の責任で、がんの専門医の配置や専門医療機関の設置を推進未承認抗がん剤の治験の迅速化とすみやかな保険適用、研究予算の抜本増、専門医の育成、がん検診への国の支援の復活など、総合的がん対策を推進保険診療には「ゼロ税率」を適用し、医薬品などにかかった消費税を還付社会保険診療報酬に係る事業税の非課税措置、医療機関の概算控除の特例の継続・存続救急・救命体制への国の補助を2倍化。新しい国の補助制度をつくり、ICU病床(HCUを含む)の2倍化救急隊員の抜本増、ドクターヘリの充実、地域医療の再生とあわせた救急・搬送体制の整備・拡充国の責任で小児救急体制を整備し、新生児特定集中治療室(NICU)の増設はり・きゅうの保険適用の改善・拡充在宅医療・介護における駐車問題の解決 いやはや、今回の同党の政策の多いこと多いこと。ただし、率直に言えば既存政策への「反対」「撤廃」「中止」などの文言が多く、実現の可能性について、私個人は相当疑問符が付く。もっとも、どの政党も提案していない新型コロナワクチンの定期接種に関する接種費用補助は目を引く。この辺は他党に見習ってもらいたいものである。れいわ新選組ご存じ山本 太郎氏を代表とする同党だが、山本氏が「多発性骨髄腫の一歩手前」と公表し議員辞職。そして最近は共同代表の大石 あきこ氏が代わりにメディアに登場している。同党のマニフェストでは5つの大項目を掲げ、その下に具体的な政策を標榜している。以下、要約・列挙する。詳細は以下のとおり03.社会保険料は国のお金で引き下げる後期高齢者医療制度は廃止し、全額国費負担介護保険の国負担割合を50%以上に引き上げ04.生きててよかったと思える国~今すぐできる少子高齢化対策~介護・保育の月給10万円アップ民間事業者が少ない地域で介護士を公務員化し「公務員ヘルパー」を復活介護保険の利用者負担を一律1割。低所得者の利用料免除・減免を制度化要支援1、2のホームヘルプ、デイサービス利用の保険給付復活介護保険サービスを趣味など生活の充実にも利用可能に 上記以外にも「国立病院、公立病院の統廃合、病床の削減(地域医療構想)の中止」「マイナンバーカード廃止」「健康保険証の復活」などがあるが、基本的に同党も2025年の参院選と政策に変更はない。減税日本・ゆうこく連合衆院解散直前の立憲民主党と公明党の新党結成に反発した立憲民主党の原口 一博氏(元総務相)と、日本保守党を離党し、衆院内会派で「減税保守こども」を結成していた河村 たかし氏(元名古屋市長)、竹上 裕子氏、平岩 征樹氏、参政党を離党した鈴木 敦氏が参加して、原口・河村両氏が共同代表で結成した。当初5人の国会議員がいることで、政党要件を満たしたが、最終的には鈴木氏が出馬を見送ったため、現状は4人。今回は4つの大きなスローガンを公約として発表している。その中の1つ「三、日本救世【命・安全・教育】国民の命を利権から守り抜き、次世代へ豊かな国土を引き継ぎます」の項で以下のような公約を掲げている。詳細は以下のとおり命を守る決断:新型コロナワクチン(遺伝子製剤)の接種を直ちに中止し、被害の実態解明と全ての被害者の救済を最優先医療・福祉の最適化:ICTを活用した「かかりつけ医制度」の導入により、過剰医療や医療過誤を是正。難病・障害者基本法の改正により合理的配慮を徹底 2番目はまだしも、1番目ははっきり言っていただけない。ご存じのように共同代表の原口氏は、mRNAワクチンについて、かなり出所不明な情報を発信するワクチン懐疑派。このためmRNAワクチンの製造・販売元の1社であるMeiji Seikaファルマから、名誉棄損による損害賠償請求訴訟を起こされている。参政党さて、前回の参議院選も含め昨今の選挙では、国民民主党とともに議席を伸ばしている同党。以前も取り上げたように、失礼ながらややトンデモ政策が多いのだが、今回はどうだろう?今回は3つの柱と9の政策(<>内)を掲げ、9つの政策の下に詳細な説明も加わっているほか、分野別の詳細政策も掲げている。詳細は以下のとおり1の柱 日本人を豊かにする~経済・産業・移民~<政策1“集めて配る”より、まず減税>消費税減税と社会保険料軽減で国民負担率上限35%実現2の柱 日本人を守り抜く〜食と健康・一次産業〜<政策6 安心医療で健康国家>診療・介護・障害福祉報酬を抜本的に引き上げ、基礎年金の受給額の底上げ医療・介護・福祉従事者の賃金アップと過重労働の改善健康維持・重症化予防に取り組む人へのインセンティブ付与新型コロナ対応を検証し、実効的な感染症対策を再構築以下は「健康・医療」の分野別政策守る医療、正す医療。現場を救い、制度を持続させる仕組みを再構築診療・介護・障害福祉報酬(各サービスの公定価格)を抜本的に引き上げ、医療・介護・福祉従事者の賃金をアップし、過重労働を改善不必要な重複検査や過剰な治療・投薬等については、医学的妥当性を重視し、適正化かかりつけ医機能を重視し、継続的な健康管理や相談に取り組む医療機関を評価する報酬体系を検討OTC医薬品で対応可能な軽症疾患はセルフケアを基本とし、安易な処方を抑制(重症化や合併症のリスクが高い疾病での必要な治療・投薬を妨げるものではない)フリーアクセスで、いつでも何回でもどの医療機関でも受診ができる仕組みを見直す医療DXを活用し、業務効率化や研究開発に繋げる予防医療の推進により、医療費適正化と地域経済活性化を両立科学的根拠が確立した予防医療・重症化予防を段階的に保険対象へ生活習慣病、フレイル、認知症等について、予防・再発防止に取り組んだ医療機関を評価する制度を導入健康診断、重症化予防、生活習慣改善等により、医療費適正化に貢献した方を評価する仕組みを導入。評価に応じて、国内旅行クーポンや地域消費につながるインセンティブ制度を検討。新型コロナ対応とmRNAワクチン施策の検証~次なる感染症に備えるための、責任ある再構築政府で新型コロナ対応およびmRNAワクチン施策全体について、独立性・透明性を確保した検証実施を求め、検証結果を国民に分かりやすく公表mRNAワクチンは短期的な効果だけでなく、中長期的影響を見据えた安全性評価と治験・調査を徹底新型コロナウイルスを含む新興感染症でウイルスの発生経緯・拡大要因・対応について、政府が専門的かつ独立性の高い検証を実施WHOなど国際機関の情報や勧告などは、日本の実情に即して妥当性を科学的に評価し、主体的に判断できる体制を整備。国際機関の判断が日本の状況に適さないと合理的に判断される場合は、国内専門機関の評価を優先できる制度設計高リスク病原体を扱う国内研究施設について、立地、管理、運用に関する安全基準を厳格化し、事故・流出リスクを最小化科学的根拠の明確な提示と、国民一人ひとりの自己決定権を最優先とするワクチン政策ワクチン接種は、年齢・基礎疾患・重症化リスクを踏まえた任意接種を原則効果と副反応などのリスクについて、国民に分かりやすく情報提供接種後の健康影響について、中長期的な追跡調査と結果の公表を実施医師による副反応報告と健康被害救済制度への協力体制を強化がん・難病の“治療と生活”を国の責任でしっかり守る総合支援がん・難病に関し、国の責任で「治療と生活」を守る。診断の遅れ、手続きの壁、医療格差、地域格差をゼロへがん・難病の患者が抱える就労・学業・介護・移動・家族負担を含む「生活困難」に対し、医療にとどまらず、福祉・労働・教育・地域政策を束ねて一体で実装治療法の確立と新薬開発支援を拡充し、実用化までの期間短縮。そのための研究投資とデータ基盤整備を推進有効性が確認されたがん検診の費用補助等により、受診率を全国的に引き上げ老老介護やヤングケアラーを地域全体で支える仕組みを構築介護を社会の基盤へ:地域包括ケア強化と年金改革で老後不安を解消「65歳以上を高齢者」の定義の見直し介護報酬を引き上げ老老介護や介護離職を防ぎ、制度と地域で支える仕組み作り加算の申請手続きなど、行政が現場に要求する過剰な負荷を減らし、DX化も推進介護・医療・住まい等を包括的に捉えて、地域で密に連携する仕組み作りフレイル・認知症予防への積極的取組、地域の居場所・見守りを国が支援本人が望んでいない終末期における過度な延命治療を見直す本人の意思を尊重し、医師の法的リスクを回避するための尊厳死法制を整備人生会議(ACP)、事前指示書、生命維持治療に関する医師の指示書(POLST)の普及と制度的位置づけの明確化緩和ケア、在宅看取り、ホスピス等、尊厳を保持した医療の拡充終末期の延命措置医療費の負担の在り方の見直し さてざっと見まわすと、以前に本連載で批判的に捉えた予防医療のインセンティブ(Go Toトラベル)やすべてのワクチンを任意接種にするなど、まるで米国・保健福祉長官ケネディ氏のような政策が目につく。一方、がん・難病でのデータ基盤整備や介護での加算申請手続きの軽減などは玄人的な政策がある点も目を引く。誰かが入れ知恵したのだろうか?日本保守党移民反対を前面に打ち出す同党の医療・社会保障政策は結党以来、まったく変更はなく以下の2点である。詳細は以下のとおり移民政策の是正―国益を念頭に置いた政策へ健康保険法・年金法改正(外国人の健康保険・年金を別立てに)教育と福祉出産育児一時金の引き上げ(国籍条項をつける) そもそもシングルイシューの政党と言ってもよく、有体に言えば、少なくとも現時点では社会保障政策自体にそれほど強い関心はないのだろう。社民党旧日本社会党を源流とし、社会民主党、社民党と名称を変えてきた同党だが、最盛期の日本社会党時代に衆院で166議席も有していた議席は今やゼロ。参院で2議席のみである。今回は「社民党8つの提言」の中で「最低保障年金制度の樹立で老後の安心を!介護と医療の負担を軽減!」を掲げ、以下のような政策を提唱している。詳細は以下のとおり介護報酬を引き上げ、介護従事者の待遇を改善して人手不足を解消。混合介護と自由診療を規制高額医療費や一般用医薬品(OTC)医薬品の自己負担増に反対マイナ保険証の取得強制に反対し、紙の健康保険証を継続国公立病院の統廃合を認めない 今回唱えている政策は、ほとんどが前回の参院選時に掲げていたもの。唯一異なる点があるとするならば、「混合介護」と表現している介護の保険外サービス利用と自由診療の規制の点である。チームみらいAI研究者だった安野 貴博氏が創設した新党で、昨年の参院選では安野氏自身が比例で1議席を獲得して政党要件を満たした。2024年東京都知事選挙に立候補した時に本連載でも本人に取材し、安野氏の政策はアジャイルな設計で、有権者からの意見を受け付け柔軟に変化することがわかった。そのため、ここに記述したものも投票日までに変更されている可能性がある。政策は大きく3つの大項目で構成され、その下にテーマ(<>内)、さらに個別政策という構成。以下、要約・抜粋する。詳細は以下のとおり(2)「今」の生活をしっかり支援<経済財政・社会保障>現役世代の社会保険料負担を軽減し、フェアな税・社会保障制度を目指す「税収」(1)現役世代の過度な負担を回避し、国民全体で支えられる方法を検討(2)入国税や非居住外国人に対する固定資産税の引上げ、外国人旅行者の消費税免税制度の見直しなど日本の生活者に影響の小さい歳入源の拡充も検討「支出」影響が大きい方への配慮を行いながら、医療費の自己負担割合の一律3割を目指す。 加えて、「医療」パートに示す制度改革に取り組む<医療>1.医療の有効性・重要度に応じたきめ細やかな自己負担へ高額医療費制度の上限の拙速な引き上げを見直し中長期的に診療行為のエビデンス、費用対効果や重症度に基づく自己負担割合の複数段階化を検討電子レセプトに連携し窓口で即時に自己負担額が算出できるAI、システムの開発を支援。医療DXを推進する支援の枠組みも整備2.治療成果に報いる医療アウトカム評価制度の導入「どれだけ診療が行われたか」だけでなく、「どれだけ良くなったか」にも報いる医療制度への転換を目指し、成果連動型の診療報酬制度を導入(治療の効果が高い医療機関に対しての報酬加算、患者に対しての還元を設計し、医療機関・患者の双方に動機づけを行う)診療データを匿名化し、全国医療データベース(NDB)で一元管理。AIを活用した公平で迅速な評価を行う仕組みを整備(電子カルテの標準化、相互運用性の確保を推進。診療記録や検査結果をデータ化して治療成果を判定、成果加算が自動的に反映される仕組みを設計。アウトカム評価指標の提出、確認が行われることで医療機関の負担が増えないよう、民間企業と連携した電子カルテの解析システムの開発を促進)3.オンライン診療/処方受け取り方法を充実し、通院のない受診を実現オンライン診療普及のための診療報酬、インセンティブの設計(オンライン診療を普及促進の診療報酬の加算を検討)安全性を担保するためのガイドライン整備(本人確認、重症化時のバックアップ体制など、オンライン診療を安全に行い、標準的なサービスを担保するための規定を整備)薬の受け取りまでオンラインで完結するための枠組みの整備(自動運転やドローンでの配送物流コストの診療報酬での手当を検討)4.画像診断AIで見逃しリスクと医師不足の解消を同時にシステム導入費の補助による画像解析システムの導入診断AIへの加算を制定し継続利用を促進。AI画像解析の成果について評価を実施人とAIが協働する医療のルール整備<福祉>5.福祉・介護従事者の処遇改善・テクノロジーによる業務負担軽減を推進障害福祉・介護従事者の給与水準を全産業平均に近づける賃上げ方策の検討テクノロジー活用推進、福祉・介護従事者の待遇改善を目的とした基本報酬改定の検討生産性向上推進体制加算の拡充とテクノロジー活用を標準とした新たな報酬類型を創設施設類型を中心に進められている生産性向上推進体制加算の適用を在宅系サービスへ拡大福祉・介護職員等処遇改善加算による賃上げ効果を向上のため、テクノロジー活用と経営改善による利益を福祉・介護職員へ還元する制度の改定 さて比較的AIに懐疑的な人は、これらを見て「テクノロジーで解決できるほど医療は簡単ではない」と言うかもしれない。ただ、ここで提言されている政策をよく読めば、実はテクノロジー一辺倒ではないことがわかるのではないだろうか?たとえば、医療者が嫌うであろう診療報酬のアウトカム評価も何を行ったかの実績評価との併用で語っている。また、ここでは私が要約したが、実はチームみらいのホームページに行くと、それぞれの政策を掲げるテーマの背景まで深く分析している。私見を言えば、既存政党は長らく政治に関わりながら、こうした背景分析をきちんとしているだろうか?ここまで超長文、かつかなり駆け足で各党の政策を紹介した。このように駆け足になったのはひとえに戦後最短の選挙期間というのが最大の理由であるため、ご容赦願いたい。さて8日の投開票結果はいかに?

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キャリア中断後に見つけた 総合診療能力で専門性を強化する新しい診療スタイル【ReGeneral インタビュー】第4回

キャリア中断後に見つけた 総合診療能力で専門性を強化する新しい診療スタイル「医師という仕事が好きです。総合診療の入り口を担いながら、専門的なことももっと学んで、糖尿病や内分泌疾患を中心にコモンディジーズや救急初期対応ができるようになりたい」そう語るのは、総合医育成プログラム修了生の帆秋 理笑子氏。糖尿病内科専攻後、家庭の事情で約7年間のブランクを経て、再び糖尿病を中心にした診療スタイルに戻るまでの道のりで出会ったのが、総合診療でした。専門性を高めることと総合診療がどのように関連するのかを聞きました。プライマリ・ケア認定医取得を機に、専門キャリアを再設計――現在どのような診療をされているか教えてください。流動的ですが、糖尿病内科7割、一般内科3割くらいで診療をしています。約1年前に今の勤務先に赴任した当時は、糖尿病診療よりも誤嚥性肺炎などを診ることが多かったのですが、だんだんと引継ぎと新患どちらも増えて、現在は糖尿病を中心に内科診療を行っています。前職は大分県内の同じような中核病院で働いていましたが、糖尿病専門医を取得したいという思いがあり、研修施設である今の職場に移りました。2023年にプライマリ・ケア認定医を取得したことが、このキャリアチェンジを実行する自信にも武器にもなりました。――2023年に認定医取得とのことですが、プログラムはいつ・どのような経緯で受講されたのですか。受講は2021年からです。きっかけは2016年に常勤で診療を再開したことです。卒後数年してから、糖尿病内科を専攻していましたが、9年目くらいから臨床から離れた期間が7年ほどあり、最初は老健施設から仕事を再開して徐々に体力面と治療のアップデートを行いました。前職の病院で糖尿病を診ながら一般内科診療も始め、地域医療でさまざまな役割を担ううちに、「ジェネラルに診られるようになりたい、総合診療のトレーニングを受けたい」と強く思うようになりました。そこで、2019年に勇気を出して大分大学総合診療科に研修希望で見学に伺い、このプログラムを教えていただきました。私の話に耳を傾けてくれた先生方に今でもとても感謝しています。当時は東京に行って受講する形式で費用も高くて諦めていましたが、2021年にオンライン化されて「ああ、これなら家でもできる。チャンスだ!」と思って参加を決めました。2023年に認定医を取得した後も受講を続けています。大人の学び直し 安心して飛び込める環境――印象的な講義はありましたか。診療実践コースでは、整形外科、循環器内科が印象的でした。整形外科では、脊髄からの神経支配域を身振り手振りや語呂合わせで教えてくれたのをよく覚えています。また骨折の写真や整形外科的診察の動画をたくさん使って説明してくださったのが面白くて理解しやすかったです。循環器では、日常診療で使える心電図の読み方や高血圧の診療、胸痛への対応などをざっくばらんに教えていただきました。循環器は興味があっても苦手に感じていた分野なので、動画を何度も見返して勉強した分、印象が強いですね。ノンテクニカルスキルコースでは、ミーティング・ファシリテーションの講義が記憶に残っています。ここで会議やグループ活動の舵取りの手法を学びました。板書の効果や、会議に応じた机や椅子の並べ方、アイデアを広げてからまとめる方法など、これまで無意識に行っていたことも、意識を向けると意味があると知りました。――受講中に苦労した点はありますか。糖尿病や、それに関連する腎臓や認知症の講義は安心して受けられましたが、あまり馴染みのない科、たとえばマイナーエマージェンシーや救急、耳鼻科の講義を受けるときは、自信がなく不安が大きかったです。実際に受講してみると、講師の先生方はとても優しく熱心でしたし、講義のやり方も工夫されていて新鮮でした。また、事務局が手厚くサポートして心理的安全性をしっかり担保してくれたのが大きな支えになりました。オンラインですので、受講中に画面がフリーズしてしまうことも何度かありましたが、講義によっては復習用動画を作って何度も視聴できるような環境を整えられていて、聴き取れなかった部分は後から補うことができました。――心理的安全が保たれた。それはどんなサポートだったのですか。たとえば、質問のときです。質問するのは意外と難しいんです。自分がよく知っている疾患なら「いい質問だね」と言ってもらいやすいですが、詳しくない分野だと的外れになりがちです。講師からしたらわけがわからない質問かも…と不安になることもありました。実際、一度スルーされたのかな?と思った瞬間もあります。ですが、運営の先生方が参加者全員の質問をリストアップして、どんな質問も漏れなくすべて扱ってもらえる仕組みになっていました。それから、最初の受講時に「ほかの人の発言を否定しないでください」というアナウンスもありました。この声掛けがあったので、自分の意見を批判されることはあっても、否定されない。これが安心感につながって、得意ではない診療科の授業にも思い切って飛び込むことができましたし、質問やグループ内での発言を行うことができました。――ご自身の診療にこのプログラムはどう役立っていますか。最近の出来事だと、糖尿病性の足壊疽を診るとき、皮膚科の褥瘡の講義で学んだ内容がとても役立っています。壊疽も褥瘡も血流障害が関係していることが多く、評価や薬の選択がリンクしていて、受けてよかったなと思う瞬間でした。それから、腎臓内科の講義を受けたことで、糖尿病診療の中で腎臓を診るときに、薬をいつまで継続すべきかといった、細かい判断がしやすくなりました。糖尿病の合併症で腎機能が悪化して透析になる方も多いですから、お互いの専門領域に関わる聞きづらい質問ができたのは、このプログラムならではかもしれません。専門医がその疾患をよく理解していることは確かですが、付随するさまざまな問題や合併症の管理に他科の医師の協力は必要不可欠です。その時に、こうして他科の医師の考え方を知ったおかげで、コミュニケーションを取りやすくなりました。糖尿病という疾患を診るときの視野が広がりましたし、自分の専門性を高める上でも、何をもっと勉強しなければならないのかが少しずつ見えてきた気がします。ほかにも一般内科の診療を行う上でリハビリテーションの必要性は年々高まっていると感じていたため、リハビリの講義で、リスク管理や障害の診断とADLの評価法などを学び、疾患と生活を結びつける上でとても役立っています。――他科の先生から刺激を受けたという点で、印象に残っていることはありますか。行動変容1)という診療実践コースの授業のグループワークが印象に残っています。行動変容というと、問診で情報を引き出して患者さんが生活習慣を修正できるように導くといった、糖尿病内科で日頃からやっていることがテーマになります。正直、自分は得意だと思っていました。でも、同じグループのある先生の問診に目を見張りました。外科出身で、今は開業して一般内科を診ているこの先生は、私よりずっと上手だったんです。本当に驚きました。糖尿病内科では診察に追われて、ついイエス・ノーで答えられるクローズドクエスチョンで聞いてしまうことが多いのですが、その先生はオープンクエスチョンをとても上手に使って、患者役の方から自然に話を引き出していました。その姿を見て、私ももっと頑張ろうとやる気になりましたし、負けられないという刺激にもなりました。他科の先生が自分より上手だと落ち込むこともできますけど、前向きに捉える方がいいですよね。いろんな先生のやり方を、自分が奮起する材料にできるといいなと思っています。総合診療能力を活かして専門性も磨く、新しい働き方――専門性を磨きたいと思う人にとっても、総合診療能力は必要でしょうか。わたしはそう思います。総合診療の必要性を感じて大分大学総合診療科を見学したとき、自分の進みたい方向をもう一度深く考えました。そこでクリアになったのは、私は専門の糖尿病と隣接する内分泌の診療の幅を広げながら、同時に一般内科の初期対応やマネジメントといった“総合診療の入り口”をマスターしたいという希望でした。さまざまな専門性・働き方の先生方を尊重し、そこから真摯に学び、力を借りながら、自分が決めた進路を進みたいと思ったんです。一方で専門だけでは対応しきれない現実も理解しています。患者さんの多くは高齢で、認知症や肺炎や骨折など複数の疾患があり、生活や家族の問題も絡んでいます。都会なら各診療科に回せるかもしれませんが、地方や個人病院では難しい。だから、専門的な治療だけでなく、専門と専門の間をつなぐマネジメントや初期対応は、どの科の専門医にも必要なのではないかと思います。総合診療的なアプローチを学ぶことは、専門診療の視野が広がる、地域のニーズに応えられることでキャリアの選択肢が増えるという2つの点で、専門性を高めたいと思う人にも価値があると思います。大人になってからの学習ですから、習ったことすべてをすぐに活用・実践できるというような大きな期待は持たずに、経験を積みながら少しずつできることを増やしていくくらいの気楽な気持ちで始めてもよいのではないでしょうか。――今後の展望は?総合診療の基本的なことを今以上にできるようになりながら、糖尿病と内分泌の専門的な診療を深めていくのが個人的な夢です。 人間は忘れる生き物だと痛感しているので、この先も反復学習と実臨床での実践を続けて、総合医育成プログラムの内容をしっかりできるようになりたい。そして専門以外でも得意な分野が生まれてくるといいなと思っています。私自身はプログラムを受けていてもできていないことが多々あります。でも全部を自分で賄えなくても、このプログラムで学んだエッセンスを活かしながら他の人の力を借りて、少しでもよい方向に診療を進めていき、自分の夢が実現するように頑張っていきたいと思っています。――同じように専門性を大切にしながら、総合診療にも興味を持たれた方にメッセージを。私は約7年のブランクを経て、再び臨床に戻る決断をしてからの一歩一歩が、このプログラムとの出会いにつながりました。時間はかかりましたが、希望していた糖尿病診療を増やすことができ、プログラムでの学びは一般内科や救急だけでなく、自分の専門にも新しい発見をもたらしています。努力しても診療がうまくいかず落ち込む日もあれば、うれしくて喜びを感じる瞬間もあります。一喜一憂の毎日ですが、やりがいがあり、この仕事が好きです。プログラムに参加して、恥をかくのは確かに嫌です。ただ自分のやりたいことに挑戦しないと失敗もないけれど進歩もありません。挑戦して、そこから学べることはありますし、次につなげていくこともできます。そして何より、医師になってある程度経験を積んでから、もう一度、大人の学び直しをできることがすごく楽しいです。このプログラムは、授業料を払い土日を費やしてでも学びたいと思っている、年齢も専攻科も異なるさまざまな背景を背負った全国のやる気に満ちた医師仲間と知りあうことができ、切磋琢磨しながら学べる貴重な場です。事務局のサポートも手厚く、先生方も熱心です。また私のように診療の第一線から離れた医師が復職する上でも大きな助けになってくれると思います。取り組み方次第で道は開けます。もし迷っているなら、ぜひ思い切ってチャレンジしてみてください。 引用 1) 行動変容:喫煙・食事・運動に関する患者の行動変容を支援する面接技法を学び、準備段階の評価や効果的な対話を通じて生活習慣改善を促す力を養うことを目的としたセッション

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パートナーとの親密な関係性は心疾患患者の回復を促す

 心臓は、特にバレンタインデーの時期になると「愛」と結び付けて語られることが多いが、実際、両者の関連は思っている以上に深いかもしれない。新たな研究で、愛するパートナーの支えは、心筋梗塞や心不全などの心疾患による緊急事態を経験した人の回復を大きく改善する可能性のあることが示された。オタワ心臓研究所(カナダ)のHeather Tulloch氏らによるこの研究結果は、「Canadian Journal of Cardiology」に12月15日掲載された。 この結果を踏まえ、研究グループは、心臓リハビリテーションプログラムには、患者の心臓の健康を支える役割を果たしてくれる親密なパートナーを含めるべきだと提言している。Tulloch氏は、「患者の健康行動やメンタルヘルス、さらに心血管アウトカムの改善を促すには、心臓の治療に加え、関係性を育むことが重要だ。それにより、回復中の患者の情緒的・社会的適応が強化され、最終的にはより良い健康行動につながる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 本研究では、心疾患患者1,444人(男性77%)とそのパートナーを対象とした過去の16件のランダム化比較試験を対象に、患者とパートナーの双方が関与するカップルベースの介入が修正可能な心血管リスク因子、心血管疾患アウトカム、メンタルヘルス、および関係性の質に及ぼす影響を評価した。介入では、心臓の健康に良い食事を用意したり、定期的な運動を促したり、処方薬を確実に服用するようにするなど、心疾患患者を支える上でパートナーが果たす重要な役割に焦点が当てられていた。 解析の結果、レビュー対象となった研究の77%において、パートナーが介入に参加し支援することで、患者の健康行動が改善していた。一方、心血管アウトカムについては、血中脂質濃度や医療の利用など一部の指標に改善が認められたものの、結果は一貫していなかった。また、メンタルヘルスに対する効果も結果は一貫していなかった。さらに、関係性の質について評価していた研究は3件のみで、有意な改善は確認されなかった。 Tulloch氏は、「心疾患がきっかけで絆が深まるカップルもいるが、多くの場合、それは2人の関係性にとっても、当事者それぞれにとっても大きな試練になる。われわれは長年、心疾患は患者にだけ起こる問題ではなく、カップルに生じる問題であることを学んできた」と話している。 研究グループは、カップル参加型の心臓リハビリテーションプログラムについて、さらなる研究が必要だと結論付けている。Tulloch氏は、「カップルが心疾患により良く対処し、心身と関係性の双方の健康を高めるために、パートナーを能動的な参加者として含め、患者とそのパートナーの関係性の中で生じている問題に実質的に対処する介入を開発・検証する必要がある」と述べている。

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拡張型心筋症患者に対する早期心リハの有用性、傾向スコアマッチングを用いた全国規模解析

 拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM)は、心臓の筋肉が弱まり、心臓が拡張して十分に血液を送り出せなくなる病気で、心不全の主要な原因の一つとされる。このDCM患者に対し、入院早期から心臓リハビリテーション(心リハ)を開始すると、90日死亡率が有意に低下することが、日本の全国入院データベースを用いた研究で明らかになった。解析では、早期に心リハを始めた患者群では早期から心リハを受けなかった群と比べて90日以内の死亡リスクが低く、退院時の日常生活動作(ADL)もやや高値であったという。研究は大阪大学/奈良県立医科大学の安福祐一氏らによるもので、詳細は10月24日付で「Scientific Reports」に掲載された。 DCMは、心筋の収縮低下と左室拡張を特徴とし、一部の患者は慢性心不全や急性増悪を繰り返す進行性心筋疾患である。心リハは、機能回復や再入院予防を目的として行われる運動療法や生活指導などを含んだ包括的な治療プログラムであり、急性心不全患者への早期導入も行われている。しかし、DCM患者に対する早期心リハの有効性を検証した報告は限られており、十分なエビデンスは得られていない。本研究では、日本の全国入院データベースを用い、症候性心不全を呈するDCM患者における早期心リハ開始と90日以内の死亡率との関連について検討した。 本研究では、2010年7月1日から2020年3月31日までのDPCデータベースから、DCMおよび心不全(NYHA心機能分類II~IV度)と診断された患者を解析対象とした。患者は入院後3日以内に心リハを開始したかどうかに基づき、早期心リハ群と遅延または非心リハ群に分類した。主要評価項目は入院後90日以内の死亡率とし、副次評価項目は退院時のADLスコアと在院日数とした。欠測値は多重代入法を用いて統計的に補完し、患者背景や2015年度病床機能報告から取得した入院施設の医療機能の違い等を調整するため1対1の傾向スコアマッチングを行った。 本研究では、早期心リハ群3,130名および遅延または非心リハ群2万7,166名の計3万296名を適格患者と判定した。遅延または非心リハ群のうち7,340名(27%)が入院後3日目以降に心リハを受けていた。1対1の傾向スコアマッチングを行った結果、最終的に各群3,129名(計6,258名)が解析対象となった。 多重代入および傾向スコアマッチングの結果、入院後90日以内の死亡率は遅延または非心リハ群に比べて早期心リハ群で有意に低かった(オッズ比:0.70、95%信頼区間〔CI〕:0.53~0.93、P値=0.01)。また、早期心リハ群では退院時ADLスコアも若干高かった(平均差〔Average Treatment Effect on the Treated;ATT〕:0.43、95%CI:0.08~0.78、P値=0.02)が、在院日数には有意な差は認められなかった(ATT:−2.1日、95%CI:−4.7~0.5日、P値=0.11)。 著者らは、「今回の研究の意義は、これまで世界的にもエビデンスが乏しかったDCM患者に対する早期心リハの短期予後(90日以内の死亡率)に対する効果を明らかにした点にある。今後は、本研究で得られた結果の背景にある生理学的メカニズムや、特に有効であった心リハの具体的なプログラム、個々の患者属性の違いにより生じる心リハの効果の異質性等を解明し、より個別化された効果的な心リハプログラムを開発する必要がある」と述べた。 なお本研究の限界点として、DPCデータベースに含まれる指標の制約により、心エコーや生理学的検査等の交絡因子の調整が制限されたこと、心リハの具体的なプログラムの差異による影響の違いについて検討していないこと、詳細な身体・精神機能や入院中の有害事象に対する早期心リハの影響について検討していないこと等が挙げられる。

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第276回 訪問看護に激震? 28億円不正請求問題で厚生労働省が「全国一斉調査」開始へ

2026年が明けました。医療業界では医療法改正などで、新しい動きが見えてきました。そのなかで、メディアによって問題が深刻化していることが明らかになった訪問看護ステーションの話題を年の初めに考えてみたいと思います。近年、末期がんや難病患者の受け皿として急増した「サービス付き高齢者向け住宅」(以下「サ高住」と略します)。病院からの早期退院を促す国の政策と、在宅での看取りニーズが合致し、一見すると社会課題の解決に寄与するビジネスモデルとして急成長を遂げました。しかし、その裏側では、診療報酬・介護報酬を組織的に搾取する「闇」が広がっていたことが、相次ぐ内部告発と特別調査委員会の報告によって白日の下にさらされました。今回は、「PDハウス」を運営していた最大手のサンウェルズや「医心館」のアンビスホールディングス、精神科の訪問看護最大手ファーストナースを巡る不正請求の実態と、それを受けた厚生労働省の「全国一斉調査」および「個別指導の厳格化」についてまとめ、今後の厚労省による調査が訪問看護およびサ高住に与える影響について考察してみたいと思います。利益至上主義が生んだ「不正請求」の実態2025年2月に東証プライム上場のサンウェルズが発表した特別調査委員会の報告書は、業界に大きな衝撃を与えました。不正請求の試算額は、総額約28億4,700万円に上り、ほぼすべての施設で組織的な不正・過剰請求が認定されました。主な不正・過剰請求の手法として、「短時間訪問」の偽装と「同行者不在」の加算請求が挙げられていました。「短時間訪問」の偽装としては、実際には数秒~数分の安否確認や投薬、あるいは睡眠センサーの画面確認のみであるにもかかわらず、診療報酬の算定要件である「30分以上の訪問」を行ったと虚偽の記録を作成していたものです。その件数は17万件を超えています。また、「同行者不在」の請求でも、実際には1人で訪問しているにもかかわらず、複数名で訪問したと偽り、加算報酬を不当に得ていました。さらに入居者の病態に関わらず、最初から「1日3回・毎日」の訪問看護を行うことが標準化され、マニュアルで「必須記載」と指示を行い、1人当たりの月間診療報酬の「合格ライン」を81万円に設定するなど、医療の必要性ではなく「売上目標」から逆算したオペレーションが常態化していました。こうした実態は最大手の「医心館(アンビスホールディングス)」でも指摘され、特別調査委員会の報告では、組織的不正は否定しつつも、実態のない請求が約6,300万円分判明しています。さらに特掲診療料の施設基準等別表第7や同第8に基づく訪問看護の特例を用いて、医療保険で算定できる患者を集め、収益性を高く維持していました。厚労省による訪問看護「全国一斉調査」と選定基準の明確化こうした事態を重くみた厚労省は、この2026年1月より健康保険法に基づき訪問看護ステーションに対する「全国一斉調査」を開始します。医療機関などに対する全国規模の同時調査は、訪問看護の分野では極めて異例の措置です。指導・監督の厳格化(通知のポイント)「令和7年度に実施する指定訪問看護事業者等に対する共同指導に係る取扱いについて」および関連事務連絡によれば、厚労省は指導対象の選定基準を明確化しています。訪問看護レセプト1件当たりの平均額が都道府県平均を超え、かつ全ステーションの上位1%に含まれる事業所を「都道府県個別指導」の対象として優先的に選定するよう指示しています。さらに情報提供(内部告発)への対応として、不正請求や過剰訪問に関する具体的な情報提供があった場合、これを最優先で指導対象とします。不当事項が確認された場合、原則として指導月から1年以上遡って報酬の自主返還を求めます。また、中央社会保険医療協議会(中医協)では、同一建物内の多数の患者に対する頻回訪問について、報酬を引き下げる方向で検討が進んでいます。今後の訪問看護・サ高住への影響と考察今回の一連の騒動と規制強化によって、今後の在宅医療・介護のあり方を劇的に変える可能性があります。これまで、サ高住や有料老人ホームに訪問看護ステーションを併設し、入居者を「自社サービス」で囲い込んで報酬を最大化するモデルは、過剰利潤を追求しやすい収益性の高いビジネスでした。しかし、今後は「1件当たりの単価」が高い事業所が自動的に指導対象となるため、不必要な過剰サービスを提供して請求する事業者ついては、返還リスクと社会的信用の失墜により淘汰されることになります。訪問看護の実施には、必ず医師の「訪問看護指示書」が必要です。報道によると、一部のホスピス住宅では「末期がん」でない患者に末期がんの診断を付けたり、不必要な頻回訪問の指示を出したりする医師の存在が指摘されています。厚労省の調査では、当然ながら「指示を出した医師」の判断も検証対象となります。医学的妥当性を欠く指示を出し続けた医師は、不適切な請求を助長したとして、行政指導や免許に関わる責任を問われるリスクが生じます。このほか、不正に得た高額な報酬を原資として、訪問看護ステーション側が地域の急性期病院から看護師を「高給」で引き抜いていた実態も明らかになりました。規制強化によって事業者の収益が適正化されれば、こうした高額な給与提示は困難になります。地域医療全体としては、偏在していた看護師が本来必要とされる現場に戻るポジティブな側面もありますが、その一方で、経営基盤の弱い中小のサービス事業者にとっては、さらなる採用難につながる恐れもあります。「適切な事業者」の選定が求められる退院支援さらに病院側にも影響が出ることになります。病院のソーシャルワーカーや勤務医は、これまで患者の転院・退院先としてホスピス型住宅を依頼する際、「空きがあるから」という理由だけで紹介することができなくなります。「外部のサービスを排除して囲い込みをしていないか」、あるいは医療機関側に「訪問看護指示書の記載」について要求が多くはないかといったチェックが必要になります。性善説の終焉と「説明責任」の時代へ訪問看護のシステムは、長らく「性善説」に基づいて運用されてきました。しかし、今回のサンウェルズ事件を契機に、その信頼は崩れ去り、今後は、記録や不適切な算定を防止するために医療・介護DXといったITテクノロジー(GPSや入退室ログなど)で監視する仕組みが標準化されるでしょう。医師にとって重要なのは、訪問看護が「なぜ頻回の訪問が必要なのか」を患者の病態に基づいて医学的にいつでも説明できることです。訪問看護事業者や訪問サービス事業者の意見に引きずられた訪問診療や訪問看護は、もはや「隠し通せる時代」ではありません。地域医療の崩壊を防ぐためには、不正を排除し、真に手厚い看取りを必要とする患者に資源を集中させる健全な市場環境の再構築が急務となります。 参考報道 1) 訪問看護、1月全国調査へ 厚労省、不正請求問題で(共同通信) 2) 看護師たちの勇気の告発がついに国を動かした ホスピス住宅と精神科の訪問看護、国が全国一斉に不正調査へ(共同通信) 3) 指定訪問看護事業者等に対する高額を理由とする都道府県個別指導の取扱いについて/令和7年度に実施する指定訪問看護事業者等に対する共同指導に係る取扱いについて(厚労省) 4) 老人ホーム会社、診療報酬28億円不正請求疑い 高額紹介料支払いも(朝日新聞) 5) 特別調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ(サンウェルズ社) 6) 訪問看護の最大手、過剰請求か 精神科「あやめ」が全社的に(共同通信) 7) 訪問看護における「別表7」を徹底解説(カーネル)

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「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」改訂のポイント

 2025年6月、日本認知症学会、日本老年精神医学会、日本神経学会、日本精神神経学会、日本老年医学会、日本神経治療学会の監修により、「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」が公表された1)。2016年の第2版公表から9年ぶりとなる今回の改訂では、最新のエビデンスと新規薬剤の登場を踏まえた、より実践的な治療アルゴリズムが示されている。 本稿では、本ガイドラインのワーキンググループの主任研究者を務めた筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学 教授の新井 哲明氏による解説を基に、改訂のポイントと臨床における留意点をまとめる。地域医療におけるBPSD対応の切実なニーズ 認知症患者数は2025年に約471万例、2060年には約645万例に達すると推計されている2)。認知症患者の60〜90%が最低1つは経験するとされるBPSD(行動・心理症状)は、患者本人のQOL低下や早期の施設入所リスクを高めるだけでなく、とくにBPSDにおける過活動・攻撃的行動は、介護者への負担増大により不適切なケアを誘発する「悪循環」を招く最大の要因となっている。 認知症におけるBPSD(行動・心理症状)は、心理症状として、抑うつ、不安、焦燥、無気力・無関心、妄想などがあり、行動症状として、興奮、大声を出す、叩くなどの攻撃的な行動、同じ行動を繰り返す常同行動、徘徊などがある。 この悪循環を防ぐためには、BPSDへの早期かつ適切な介入が不可欠である。地域での支援体制が不可欠であり、とくにかかりつけ医の役割が大きく、早期発見や家族支援、地域包括支援センターや専門医との連携を通じて、認知症の人と家族を支える役割が求められている。 新井氏が紹介した、かかりつけ医200人(内科、精神科、脳神経内科、脳神経外科、老年科)を対象としたアンケート調査では、以下の実態が明らかになった。・処方実態:非専門医であっても約8割がBPSDに対して抗精神病薬を処方している。・処方理由:「危険度が高い時」「介護負担が高い時」が主な理由となっている。・66%の医師が従来のガイドライン(第2版)を活用(参照・利用)している。 この結果は、地域医療の現場においてBPSDへの薬物療法がすでに広く行われていることを示唆しており、より安全で適正な使用指針の普及が急務であった。ガイドライン第3版:BPSDへの対応の原則 今回のガイドライン改訂(第3版)は、新規薬剤の登場やエビデンスの蓄積を反映し、より実践的なアルゴリズムへと刷新された。BPSDへの対応においては、まず以下の原則を順守することが重要となる。 原則として、「緊急性が高く速やかな薬物治療の開始を要するような精神症状が認められた場合には、認知症疾患医療センターを含めた認知症専門医がいる医療機関に紹介する」とされている。たとえば、重度のうつ状態、他者に危害を加える可能性が非常に高い妄想、自分自身や他者を危険にさらす原因となる攻撃性などがそれに相当する。 かかりつけ医・認知症サポート医で対応する場合は以下を考慮する。・せん妄の除外・BPSD様症状を引き起こし得る病態の鑑別:感染症、脱水、便秘、疼痛など・BPSD様症状を引き起こし得る薬剤の除外・レビー小体型認知症の可能性:幻視や妄想、抗精神病薬への過敏性に注意が必要 上記のとおり病態を把握した後、環境調整、ケアの変更、リハビリテーションの利用など、非薬物的介入を優先する。症状が改善しない場合にのみ薬物療法を検討する。薬物治療を開始する際は、低用量で開始する。 向精神薬を使用する場合には、本人・家族との共同意思決定(SDM:Shared Decision Making)のプロセスを経ることが明記された。本人の意思が確認できる場合は、アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)などによる話し合いを尊重し、本人の理解が不十分な場合や意思が確認できない場合は、家族などと繰り返し話し合い、本人の推定意思と最善利益を踏まえて方針を決定する。向精神薬の使用中は常に減量・中止を念頭に置き、長期使用は避ける、などが明記されている。5つのカテゴリー分類とアルゴリズムの明確化 第2版からの大きな変更点として、BPSDの症状分類が整理された。「過食・異食・徘徊・介護の抵抗」といった薬剤効果が乏しい症状は独立カテゴリーから外れた(非薬物的対応を推奨)。症状は以下の5つに分類され、それぞれの対応方針がアルゴリズムで示されている。・幻覚・妄想:まずメマンチンや抑肝散の投与を検討する。これらにより標的症状が改善せず緊急性が高い場合、抗精神病薬の投与を検討する。レビー小体型認知症にみられる幻視には、まずコリンエステラーゼ阻害薬を投与することが望ましい。・易刺激性・焦燥性興奮(アジテーション):アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動または攻撃的言動に対しては、ブレクスピプラゾールが保険適用を有する。・不安・抑うつ:抗うつ薬やタンドスピロン、抑肝散、クエチアピンの使用を検討する。・アパシー:非薬物的介入が基本だが、コリンエステラーゼ阻害薬が有効なことがある。・睡眠障害:睡眠衛生指導や睡眠覚醒リズムの確立のための環境調整を行った上で、病態に応じてオレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬、抗うつ薬(トラゾドン)の使用を検討する。 BPSDに対する薬剤開始後は、副作用のモニタリングを行った後、患者本人の苦痛や介護者/家族の負担が軽減したかどうかを評価する。NPI-Q(Neuropsychiatric Inventory - Questionnaire)を用いて効果の定量的な評価を行うことが望ましい。抗精神病薬の適正使用と各薬剤の臨床的位置づけ とくに介護負担の大きい易刺激性・焦燥性興奮(アジテーション)について、アルツハイマー型と診断された患者には、非薬物的介入が無効な場合、ブレクスピプラゾールのみ保険適用となっている。 クエチアピン、ハロペリドール、ペロスピロン、リスペリドンに関しては、原則として、器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認めるとの通達がある(2011年9月28日、厚生労働省保険局医療課長、保医発0928第1号、社会保険診療報酬支払基金、第9次審査情報提供)。このうち、ハロペリドールは錐体外路系副作用が強いことから、パーキンソン病、レビー小体型認知症には使用禁忌である。 チアプリドは、脳梗塞後遺症に伴う精神興奮・徘徊・せん妄に保険適用があるため、血管性認知症患者における易刺激性・焦燥性興奮に対して使用を考慮してもよい。 睡眠障害に対しては、睡眠薬の項の記載に従った薬剤選択を行い、それでも改善のない場合は、クエチアピンの使用を考慮してもよい。レビー小体型認知症の幻覚・妄想、易刺激性・焦燥性興奮、不安・抑うつ、睡眠障害に対しても、クエチアピンの使用を考慮してもよいと記載されている。 本ガイドラインでは、抗精神病薬の副作用についても詳細に記載されている。留意点として以下のような項目が記載されている。・抗精神病薬の併用(2剤以上)は避ける。・2週間くらいの時間をかけて薬効を評価する。・常に減量・中止が可能かを検討し、長期使用は避ける。抗精神病薬でBPSDが軽快した場合には、投与開始4ヵ月以内に減量・中止を試みる。ブレクスピプラゾールへの期待 2024年9月、ブレクスピプラゾールは「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する過活動又は攻撃的言動」に対し、国内で初めて効能・効果を取得した。・対象:易刺激性・焦燥性興奮といった内的な不穏を背景とする攻撃的言動に適応となる。単なる徘徊や、これらを伴わない幻覚・妄想は適応外である。・有効性:国内第II/III相試験(BRIDGE試験)において、CMAIスコア(アジテーション指標)を有意に改善させた。・安全性:錐体外路症状などの副作用リスクは比較的低いとされるが、他の抗精神病薬と同様に、傾眠、運動緩慢、流涎過多などへの注意は必要である。 本ガイドライン改訂を受けて、大塚製薬主催で6月23日に開催されたプレスセミナーにて、新井氏は自ら経験した症例として「夫婦間で、妻の妄想から暴言・暴力に発展したケース」を紹介した。ブレクスピプラゾールの投与によって症状が落ち着き、夫婦関係も良好になったことを挙げ、本剤が患者の在宅生活の継続に寄与する可能性を示唆した。 新井氏は、「ガイドラインが改訂され、治療アルゴリズムや薬剤の位置づけが明確化された。これらの情報が広くかかりつけ医・認知症サポート医に普及することで、より適切なBPSD診療が実現し、本人のQOL向上や介護負担の軽減といった社会的課題の解決につながることが期待される」と結んだ。

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第295回 「効果が乏しい医療」に新たに「腰痛症(神経障害性疼痛を除く)に対するプレガバリン」追加、近い将来査定の対象に

「神経障害性疼痛ではない腰痛には効かない」と国が判定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、茨城県桜川市で有機農業を営む大学の先輩宅へ農作業の支援に行ってきました。筑波大学近くの公園で落ち葉を拾い集め、軽トラックに乗せて農園まで運び、腐葉土にする準備を行いました。落ち葉を竹製の手箕(てみ)で拾い集めるという単純な作業です。しかし、落ち葉を拾う時の中腰の姿勢はつらく、目一杯落ち葉を詰めたネットの袋は15~20kgほどの重さになります。中高年にとってこうした冬の屋外での農作業は、腰痛悪化やぎっくり腰再発などと隣合わせで、それなりのリスクを伴うものです。とは言え、参加者全員なんとか無事に20袋ばかりの落ち葉を拾い集めることができ、ご褒美に茨城・大洗沖で採れたアンコウの鍋をご馳走してもらいました。さて今回はプレガバリンの話題を取り上げます。厚生労働省は11月27日に開いた社会保障審議会医療保険部会で、「効果が乏しい医療」に神経障害性疼痛ではない「非神経障害性腰痛症」に対するプレガバリン(商品名:リリカなど)の処方を追加する案を出し、同部会は了承しました。また、医療費の適正化に向け、「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」を今後も探して評価を検討していく方針も示されました。とくに整形外科で多用されており、私もかつて「四十肩」の治療で、NSAIDsに追加する形で処方されたこともあるプレガバリンですが、「神経障害性疼痛ではない腰痛には効かない」と国が判定を下したわけで、現場の診療に少なからぬ影響が出そうです。「十分な効果があるというエビデンスがない医療といったものを保険対象から外すという見直しも図っていくべき」と医療保険部会「効果が乏しい医療」とは、2023年に策定された2024~29年度の第4期医療費適正化計画の中で「新たな目標の設定」として盛り込まれた「医療資源の効果的・効率的な活用」で挙げられた「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」のことを指します。同計画策定時、「効果が乏しい医療」としては「急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方」が挙げられていました。その後、医療保険部会では「無価値医療、すなわち効果があるというエビデンスが十分ない医療や、低価値医療、これは仮に効果があるというエビデンスがあったとしても、その効果が小さく、つまり十分な効果があるというエビデンスがない医療といったものを保険対象から外すという見直しも図っていくべき」といった意見が出され、さらなる探索・検討が行われてきました。その結果、今回、「腰痛症(神経障害性疼痛を除く)に対するプレガバリン」が新たに追加されることになったわけです。今後、効果が乏しい医薬品として都道府県が患者や医師への周知を行うことになります。2028年度診療報酬改定での取り扱いについて中医協で審議予定医療保険部会に出された厚労省の資料には、「プレガバリン(商品名 リリカ錠)の効果・効能は神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛。薬理作用はカルシウムチャネルα2δ遮断薬。神経障害性疼痛では有効なケースもあるが、非神経障害性腰痛では効果が限定的。めまい・眠気などの副作用が比較的多い薬と一般的に言われている。先行研究では、腰痛に対するプレガバリン処方が効果が乏しい医療として指摘されている」とその理由が書かれています。この決定がすぐさま「保険診療での査定」につながるわけではありませんが、今後、関係学会と調整後、次々期、2028年度診療報酬改定での取り扱いについて中央社会保険医療協議会で審議が行われ、審議結果に即した診療報酬上の対応が決定されることになります。将来的には神経障害性疼痛ではない腰痛症には処方できなくなると考えられます。なお、医療費適正化計画基本方針は次のように変更されます(下線部追記)。第1 都道府県医療費適正化計画の作成に当たって指針となるべき基本的な事項一 全般的な事項(略)二 計画の内容に関する基本的事項1 (略)2  医療の効率的な提供の推進に関する目標に関する事項(1)~(2)(略)(3)急性気道感染症及び急性下痢症の患者に対する抗菌薬の処方、神経障害性疼痛を除く腰痛症の患者に対するプレガバリンの処方といった効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療や白内障手術及び化学療法の外来での実施状況などの医療資源の投入量に地域差がある医療については、個別の診療行為としては医師の判断に基づき必要な場合があることに留意しつつ、地域ごとに関係者が地域の実情を把握するとともに、医療資源の効果的かつ効率的な活用に向けて必要な取組について検討し、実施していくことが重要である。(略)プレガバリンの年間薬剤費は約60億円との推計、その半分の30億円が削減目標日経メディカルなどの報道によれば、プレガバリンの年間薬剤費は約60億円と推計されており、その半分の30億円が削減目標になる見込みだそうです。第4期医療費適正化計画(2024~29年度)では、急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方の適正化で約270億円、入院で行う白内障手術や化学療法の適正化で約106億円の削減を見込んでおり、プレガバリンの削減分はそれに加わる形となります。プレガバリンは、日本ではごく軽症の痛みに対しても多く処方されている薬です。神経障害性疼痛の薬となっていますが、そんなことお構いなく、整形外科などで漫然と投与されている印象です。私自身、近所の整形外科で「四十肩」に処方されたときは驚きました。「効くのかな」と思い数日飲んでみたのですが、顕著なふらつきが出て、怖くなって止めました。その後、「四十肩」は3ヵ月余りで自然と治りました。国は「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」を今後も探し出し、医療費適正化計画にも盛り込んでいく計画とのことですが、プレガバリンは、その副作用から転倒骨折や交通事故の危険性も高く、もっと早くに”適正化”が行われてしかるべきだった気がします。「効果が乏しい医療」のさらなる探索と検討に期待したいと思います。参考1)第4期医療費適正化計画における医療資源の効果的・効率的な活用について/厚生労働省

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第294回 改正医療法やっと成立、医療機関の集約化、統合・再編、病床削減さらに加速へ 「地域医療構想の見直し」8つのポイント

「医療法等の一部を改正する法律」遅れに遅れてやっとの成立こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLB各チームの補強が佳境を迎えています。ポスティングでの移籍を目指すヤクルト・村上 宗隆内野手と巨人・岡本 和真内野手はまだ決まっていませんが、それに先駆ける形で大物の移籍が続々と決まっています。12月9日(現地時間)には、昨シーズンまでニューヨーク・メッツに在籍していたエドウィン・ディアス投手のロサンゼルス・ドジャースへの移籍が報道されました。ディアス投手と言えば、高らかなトランペットの登場曲、「Narco」でも有名なクローザーです。気分が滅入って仕事から逃げたい時に聴くとやる気が出てくる、あの曲「Narco」をドジャーススタジアムでも聴くことができるのでしょうか。今からとても楽しみです。さて、医師偏在対策、病床削減支援、医療DXの推進などを柱とする「医療法等の一部を改正する法律」が、2025年12月5日の参議院本会議で可決・成立しました。本連載(第265回 “米騒動”で農水相更迭、年金法案修正、医療法改正案成立困難を招いた厚労相の責任は?)でも書いてきたように、法案が国会に提出されてから実に10ヵ月、遅れに遅れてやっとの成立です。最重要政策「地域医療構想の見直し」を盛り込んだ医療法の改正「医療法等の一部を改正する法律」は2026年4月1日以降に順次施行されます。「等」と銘打たれているように、複数の医療関連法令をまとめた一括法です。柱は「地域医療構想の見直し」「医師偏在是正に向けた総合的な対策」「医療DXの推進」の3つとなります。一般マスコミの中にはキャッチーな「医師偏在是正」を前面に押し出した記事もありますが、やはり今回の最重要政策は「地域医療構想の見直し」を盛り込んだ医療法の改正だと言えます。「地域医療構想の見直し」は、これまでの地域医療構想の目標年であった2025年が到来したことを受け、2040年を目標年とする「新たな地域医療構想」を作るための政策です。85歳以上人口の増加や、各地での人口減少がさらに進む2040年とその先を見据え、すべての地域・世代の人々が適切に医療・介護サービスを受けながら生活できるための医療提供体制の構築を目的としています。以下に「地域医療構想の見直し」の主なポイントをまとめてみました。1)病床の機能分化だけでなく、外来・在宅、介護との連携、人材確保等の計画も「新たな地域医療構想」の目標年が2040年とされたのは、「団塊ジュニア世代」が全員65歳以上となり、高齢者人口がピークを迎える年と推計されていること、85歳以上の高齢者が大幅に増加し、救急医療や在宅医療、介護との連携といった多様で複雑な医療ニーズが急増すること、日本全体で人口減少が進み、医療従事者を含む働き手の確保が困難になる見込みであることなどが理由です。そうした理由から、これまでの地域医療構想は主に入院医療(病床数の調整、病床の機能分化など)が主体でしたが、「新たな地域医療構想」では「治す医療」と「治し支える医療」の役割分担の明確化とともに、外来医療・在宅医療、介護との連携、人材確保等の計画も含めた、より包括的で地域完結型の医療・介護体制の構築を目指すことになります。2)医療法の規定で「地域医療構想」が「医療計画」よりも上位の概念にこれまで「地域医療構想」は、「医療計画」の記載事項の1つに過ぎませんでした。しかし、今回の法改正で「地域医療構想」が「医療計画」の上位概念に位置付けられることになりました。今後は地域医療構想で地域の医療提供体制全体の将来ビジョン・方向性を定め、それに則って医療機関の分化・連携、病床の機能分化・連携等を進めていくことになります。都道府県が6年ごとに定める「医療計画」は、地域医療構想の具体的な実行計画という位置付けとなり、5疾病・6事業、在宅医療、外来医療、医師確保、医師以外の医療従事者の確保等について、中長期的な計画を立てて進めていくことになります。3)基準病床数は「新たな地域医療構想」における将来(2040年)の病床必要量の範囲内に「医療計画」との関係では、「医療計画」における許可病床の上限数(基準病床数)を、「新たな地域医療構想」における将来(2040年)の病床必要量の範囲内に収めることになります。特定の医療機関の増床計画により、地域の総病床数が必要病床数を上回ってしまう場合は、地域医療構想調整会議で了承が得られた場合に限り増床が許可されます。4)病床機能の区分、「回復期」は「包括期」に名称変更病床機能の区分については、現行の「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」という4区分は基本変わりませんが、「回復期」という名称は「包括期」に変更されます。これは、今後増加する高齢者救急等の受け皿として、急性期と回復期の両方の機能を併せ持つ病床が必要との考えからです。「包括期」の機能は、「高齢者救急等を受け入れ、入院早期からの治療とともに、リハビリテーション・栄養・口腔管理の一体的取り組み等を推進し、早期の在宅復帰等を包括的に提供する機能、急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能」と定義されており、従来の「回復期=リハビリテーション」という考え方から大きく変わり、単なる回復期にとどまらず、軽症の急性期患者も対象とし、医療・リハビリ・退院支援を一体的に行う新しい病床機能になります。5)新たに「医療機関機能報告」の制度が創設「新たな地域医療構想」では、医療機関機能に着目して地域医療構想を策定・推進することになっており、それに伴って新たに「医療機関機能報告」の制度が創設されます。「医療機関機能報告」とは、地域(二次医療圏等を基礎とした構想区域)ごとに確保すべき医療機関機能として高齢者救急・地域急性期機能在宅医療等連携機能急性期拠点機能専門等機能より広域な観点で確保すべき医療機関機能として医育及び広域診療機能をそれぞれ位置付け、各医療機関(病床機能報告の対象となる医療機関)が定期的にどのような医療機関機能を有しているかを報告する制度です。なお、1医療機関がさまざまな医療機関機能を担い、1医療機関が報告する医療機関機能は複数になることも想定されています。具体的な「医療機関機能報告」の報告項目、報告方法等の詳細については、これから策定されるガイドラインで明らかにされる予定です。ところで、「医療機関機能報告」の中で「急性期拠点機能」に入るのが「がん診療連携拠点病院等」です。国は、がん診療連携拠点病院等についても連携・再編・集約等を進める考えです。「新たな地域医療構想」における議論では、がん医療を含む急性期医療について、「地域ごとに必要な連携・再編・集約を進め、二次救急医療施設も含めた医療機関において一定の症例数を集約して対応する地域の拠点として対応できる医療機関を確保することが求められる」としています。6)人口規模が小さ過ぎる構想区域は合併、大き過ぎる構想区域は分割「新たな地域医療構想」では、構想区域の考え方も柔軟になります。構想区域については引き続き2次医療圏を基本としつつ、人口規模が20万人未満や100万人以上の構想区域など、医療需要の変化や医療従事者の確保、医療機関の維持、アクセスなどの観点から課題がある場合には、必要に応じて構想区域を見直すことが適当とされました。人口規模が小さ過ぎる構想区域は合併、大き過ぎる構想区域は分割できるようになります。構想区域の具体的な設定方法については、今後策定されるガイドラインにその詳細が盛り込まれる予定です。7)精神医療も地域医療構想で位置付けこれまで地域医療構想の対象外だった精神医療が「新たな地域医療構想」では新しく位置付けられます。精神医療はこれまで、精神障害者の退院促進、地域移行・地域生活支援といった施策を推進することで、「入院医療中心から地域生活中心へ」という精神保健医療福祉施策の基本的方策の実現が図られてきました。今後、2040年頃を見据えると、高齢化の進展等に伴い、精神医療についても入院患者数の減少、病床利用率の低下などが見込まれます。そのため、一般病床と同様、精神科病床についても適正化を進めるとともに、急性期、回復期といった精神病床の機能分化・連携や、救急医療を含む一般医療との連携体制の強化、外来・在宅医療提供体制の整備が行われます。具体的には、2040年頃の精神病床数の必要量を推計した上で、計画的かつ効率的に地域の精神病床等の適正化・機能分化を進めていくことや、一般病床と同様、病床機能報告の対象に精神病床も追加することなどが予定されています。8)病床数の削減を支援する事業を都道府県が実施できるように病床数の削減を支援する事業等が法律で規定され、病床削減への公的支援が明文化されました。都道府県は、医療機関が経営安定のため緊急に病床数を削減する場合に支援事業を実施でき、国が予算の範囲内で費用を補助することができるようになります。これは、自民、日本維新の会、公明の3党合意を踏まえ、当初の法案に衆議院厚生労働委員会で修正・追加された内容です。2025年度補正予算では約3,490億円の「病床数適正化緊急支援基金」を創設し、稼働病床1床当たり410万円、非稼働病床では205万円を支給することになっています。これまでの補助分と合わせ、最大約11万床の削減が想定され、削減後は基準病床数も原則引き下げられます。自らの医療機関がどのような医療機関機能を担っていけるのか、担っていきたいのかの検討を以上述べてきたように、一般病床が主な対象だった地域医療構想が、外来・在宅、介護との連携、人材確保等の計画も含めたより包括的な“構想” へとバージョンアップします。地域医療構想は、医療機関の集約化、統合・再編、病床削減を強力に推し進める強力なツールになったといえます。個々の医療機関の経営者(とそこで働く医師)は、自らの医療機関が現状どのような医療機関機能を担っているのか、そして2040年に向けてどのような医療機関機能を担っていけるのか、あるいはいきたいのかを早急に検討し、医療機関機能報告制度の開始に向け、その準備を進めておく必要があるでしょう。

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第92回 コルモゴロフ・スミルノフ検定とは?【統計のそこが知りたい!】

第92回 コルモゴロフ・スミルノフ検定とは?コルモゴロフ・スミルノフ検定(Kolmogorov-Smirnov test)には1標本と2標本の2種類ありますが、本稿では「2標本コルモゴロフ・スミルノフ検定」を解説します。2標本コルモゴロフ・スミルノフ検定とは、カテゴリーデータの場合は選択肢が同じ、数量データの場合は階級幅が同じである2つの項目の度数分布について、確率分布の相違を検定する方法です。■コルモゴロフ・スミルノフ検定を使うにあたっての注意点階級幅(数量データ)が同じ2つの項目の比較には、母平均の比較と確率分布の比較があります。この検定は確率分布の比較であって、母平均の比較ではありません。検定結果がp<0.05だからといって2項目の母平均に有意差があるとはいえません。適合度の検定は次の手順によって行います。(1)帰無仮説を立てる2つの項目の度数分布について確率分布は同じ(2)対立仮説を立てる2つの項目の度数分布について確率分布は異なる(3)両側検定・片側検定がある(4)検定統計量を算出する(5)2標本に累積相対度数を作成し、各カテゴリーについて差を求め、その最大値をDとするただし、n1、n2は2項目のサンプルサイズ(6)p値を算出するn1≧40、n2≧40のとき、検定統計量はカイ2乗分布に従う。p値は、カイ2乗分布において両側検定は検定統計量の上側確率の2倍、片側検定は上側確率である。p値<有意水準0.05→対立仮説がいえるp値≧有意水準0.05→対立仮説がいえないn1≧40、n2≧40の場合、コルモゴロフ・スミルノフの検定表より、n、有意水準0.05に対応する値を求める。求められた値と検定統計量の比較で有意差判定する。■コルモゴロフ・スミルノフ検定の結果具体例を基に説明します。膝痛の軽減を目的としたリハビリテーションプログラムを受けた男女100人ずつに、このリハビリテーションプログラムがどの程度好きかを5段階評価で聞きました。表1に男性100人、女性100人の回答結果を集計し、図1に度数分布と確率分布を求めました。その上で、このリハビリテーションプログラムの好き嫌いが男女で異なるかを調べてみました。表1 事例の男女別回答集計表図1 事例の検定結果p値<0.05より、このリハビリテーションプログラムの好き嫌いの確率分布は男性と女性で異なるといえます。■コルモゴロフ・スミルノフ検定の計算方法1)検定統計量の計算方法男性の相対度数と累積相対度数を算出する女性の相対度数と累積相対度数を算出する男性累積相対度数と女性累積相対度数の差分を求める(表2)表2 男女別累積相対度数の差分差分の最大値をDとする。D=0.2検定統計量を算出する。2)p値の計算方法検定統計量はカイ2乗分布に従う。p値は、カイ2乗分布において検定統計量の上側確率の2倍である。カイ2乗分布の上側確率はExcelの関数で求めることができます(図2)。図2 カイ2乗分布の上側確率のExcel関数式このように、2標本コルモゴロフ・スミルノフ検定は、医療データの分布を比較するための強力な統計ツールです。本手法を正しく理解し適用することで、臨床試験結果の解釈がより信頼性の高いものとなります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第21回 カイ2乗検定とは? その1第23回 仮説検定における2つの間違い 第一種の誤りとは?第31回 検定の落とし穴とは?第75回 確率分布とは?「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定 セクション1

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50代半ばで精神科から一転・総合診療でへき地へ【ReGeneral インタビュー】第2回

50代半ばで精神科から一転・総合診療でへき地へ精神科医として、大学教授として、文筆家として幅広く活動してきた中塚尚子氏。ペンネーム「香山リカ」の名でご存じの方も多いでしょう。いま中塚氏は、北海道勇払郡むかわ町穂別診療所で総合診療の現場に立っています。そこは医師2名、19床のへき地診療所。なぜ大胆なキャリアチェンジを選んだのか。総合医育成プログラムでどのように学び、現場で何を感じているのか。背景とリアルを伺います。「このままでいいのか?」―50代・趣味の延長から学び直しへ――執筆や大学での講義など多方面でご活躍の中で、へき地での総合診療に転向したきっかけを教えてください。精神科の外来で患者さんと話していると、50代半ばに差し掛かるころに「このままでいいのか」と人生を振り返る方が少なくありません。私は立教大学での教育と週2回の精神科外来を長く続けていました。どちらもやりがいがあって楽しかった。それが50代中ごろになって、患者さんたちと同じように「このまま同じ道を歩き続けていいのか」と思ったんです。自分にもこの問いがやってくるのかと本当に驚きでした。そんなとき、北海道の空港で偶然再会したのが、東京医大の同級生です。公衆衛生の分野で活躍していた彼が、いまは北海道オホーツク海沿岸のへき地で診療していると聞いて、「そんな転身ができるのか!」という驚きが心に残りました。――この出来事はいつ頃の話ですか。2016年頃です。このときはまだ、大学教員定年後の選択肢の一つくらいの考えでした。ただ、私が卒業した時代は今のような初期臨床研修はなく、大学教員になってからの臨床は外来だけ。精神科以外のことはほとんど知らず、全身管理や入院医療からは20年以上離れていたのが実情です。将来へき地で働きたいと思っても、準備なしで無理なのは明らかでしょう。だから、少しでも準備をと思いながらも、趣味や現実逃避に近い気持ちでプライマリ・ケアの本を手に取り始めました。どこでどう学ぶ? ―断られ続けた先に――そこからどのように具体的な学び直しに動き始めたのですか。ちょうど翌年、立教大学で1年間のサバティカル(研究休暇)にあたりました。臨床や介護の事情で海外留学は難しかったこともあって、総合診療の求人がある病院に片端から連絡してみました。総合診療の現場を体験してみたくて。結果は…散々です。理由は年齢や勤務日数などさまざまでしたが、すべて断られたときは落ち込みました。現実は厳しいと諦めかけたときに見つけたのが、母校・東京医大病院総合診療科の募集です。「他科出身でこれからプライマリ・ケアを学びたい医師も歓迎」とあり、連絡すると「週1〜2回でも自分のペースでどうぞ」と本当に快く受け入れてくださいました。外来で患者さんを受け持ってほかの先生に相談しながら診療する形で、ひやひやしながらも現場に立たせてもらいました。診療してみると何が自分に足りないかが明らかになって、体系的に学びたいという気持ちが高まりました。そうして総合医育成プログラムを受講しはじめたのが2020年です。――大学教員・精神科外来・総合診療の外来と三足のわらじでの参加だったのですね。そうです。1年間の研究休暇が終わって、東京医大での外来は週に半日。土曜日は精神科外来、日曜日は大学の入試業務などが重なります。プログラムに出席できたのは限られた日程しかなく、受けたい科目と時間が合わず歯がゆい思いもしました。講師の先生方のご負担は相当だったと思いますが、土日中心の運営だったからこそ参加できたことに感謝しています。「ここまではプライマリ・ケアで、ここからは専門医に」―線引きを知る安心感――受講中に苦労したことはありますか。正直、医学的な知識は知らないことが多すぎて、「こんなにたくさんのことを知らないと総合診療はできないのか」と何度も落ち込みました。事前に視聴する動画講義には確認テストがあるのですが、不正解のバツ印を画面で見るのは結構ショックでした。当時は教員としてテストを出すほうで、自分がテストを受けるのは学生以来ですから!とはいえ、大学と違って知識を整理するためテストなので、これで落第になるわけではないのは救いです。――印象的だった講義はありますか。耳鼻科の講義です。広島で開業されている講師の先生が「ここまではプライマリで診てください。ここからは専門医に紹介してください」と、総合診療で診る範囲と専門医へ紹介すべきときの線引きを明確に示してくださって、とてもほっとしたことを覚えています。「すべてを知らなくてもいい」とその領域の専門家に言ってもらえることは、大きな安心につながり、総合診療へ踏み出す背中を強く押してくれました。それから、ノンテクニカルスキルコースのひとつとして受けたMBTI(性格タイプ別コミュニケーション)1)も印象に残っています。単なる性格テストだろうと侮っていましたが、ユング心理学に基づく理論だと知って、若い頃読んだユングの著作をもう一度勉強し直したいと思いました。意外な発見で嬉しかったですね。得意を活かし、苦手は支え合う ―グループで学ぶ楽しさ――プログラムを受ける中で楽しかったことは。ブレイクアウトルームでの交流が本当に楽しかったです。同期型学習当日は、世代も専門も違う医師たちが、オンラインで全国から集まります。自然に助け合う空気があって、たとえば循環器のセッションで心電図を読むグループワークでは、循環器が専門の先生が率先して噛み砕いて教えてくれました。テーマが変われば別の専門の先生が手を挙げて助けてくれる。「わからない」と言っても軽蔑されない。休みを使ってでも学びたいという共通の動機が、お互いに得意なことを惜しみなく分かち合う雰囲気を支えていたように思います。グループで話すことが学び続ける励みになりましたし、実際に総合診療に進むようになったのも、自己紹介やここに来た経緯などを皆さんと話していたことが大きかったです。――プログラムの改善点はありますか。修了後も学び続けられる仕組みがあると心強いですね。正直なところ、日本プライマリ・ケア連合学会の勉強会までは手が回っていません。OB・OG向けの中級編として、単発でいいので、知識のアップデートをできるとありがたいです。修了生たちのクローズドな場で、現場で困ったことやこうやって乗り越えたというような話ができたら、知識面でも心理的な面でもサポートになるのではないかと思います。いざ実地で診療を開始 ー専門性は活かせるのか? 精神科の強みと悩み――2022年4月の赴任からもうすぐ4年、総合医として働いてみてご感想はいかがですか。60歳を過ぎて総合診療を始めたので、最低限のことを知って飛び込んでいる感じです。総合診療なので当たり前ですが、循環器疾患の患者さんを診察して体系的に考えたいと思っても、次に来るのは糖尿病の方、その次は転んで足を骨折した方、そのあとには不眠を訴える方―まったく違う問題を抱える患者さんが次々にやってきます。その場その場の対応で手一杯になってしまうこともあります。プログラムのテキストを振り返りたい気持ちはあっても余裕がないまま、気がついたら年月が経っているというのが正直なところです。――精神科のバックグラウンドは総合診療でどのように役立っていますか。 精神科医はとにかく話を聞くことからしか始められません。血圧に問題がある患者さんの診察でも、自然と仕事や家族、毎日の生活について伺うので、患者さんは「こんなことまで先生に話していいの?」と驚かれることもあります。かっこつけた言い方をするなら、全人的医療に近づけるのは精神科出身の強みだと思います。一方で、身体医学と精神医学を統合して見ることの難しさもあります。どちらかが前に出すぎてしまい、バランスを取ることが今も課題です。自分一人で完璧にバランスを取るのはまだ修行中で、周囲の助けに本当に支えられています。――周囲からはどのようなサポートを受けていますか。所長は総合診療専門医で、10年以上ここで診療している方です。私より3歳ほど年下ですが、頼って何でも聞いてしまっています。彼は私の診療をさりげなく見守り、気付いたことを「こうしたほうがいいんじゃない?」と助言してくれます。私もわからないことがあれば恥も外聞もなく、うるさいくらい質問しています。プライドも何もなく質問できる性格が役に立ったと思いますし、それを受け止めてもらえるのが本当にありがたいです。患者さんとの信頼関係が作れているのも大きな支えです。たとえば、万一検査を忘れてしまったとき、正直にお伝えして「もう一度来ていただけますか?」とお願いすると、午前に来た方が午後に「いいよ」と再来してくださることも珍しくありません。患者さんが近隣に住んでいる地域医療の強みだとも思います。へき地医療は苦労か?それとも癒しか?――地域で働くことのよさは何でしょうか。患者さん・地域の方との関係性でしょうか。患者さんは医師不足を理解していらして、「よく来てくれたね」「困ったことはない?」と気遣ってくれるほどです。怒られるどころか、甘やかされているように感じることもあります。身を粉にして苦労をする覚悟で来たのに、逆に患者さんや地域の人たちに癒されながら診療しています。都会で疲れを感じている医師は皆、へき地で働いたらいいのにと思うくらいです。この地域の医療の課題は。今、医師は所長と私の2人体制で、看護師、技師、リハビリテーション職、薬剤師、事務、介護やケアマネジャーまでそろって理想的に回っています。ただ、どの職種も1~2人しかいません。誰かが欠ければ一気に崩れる脆弱性があります。所長も60歳を超え、私は2026年3月で定年になります。定年後も一年更新の再雇用制度で続ける予定でいますが、スタッフも高齢化していて、病気や退職が重なればガラガラと崩れてしまう。誰かが欠けたとき、一時的に苫小牧や札幌から応援があっても常勤で長く働く人はほぼ来ません。継続性の担保は、ここだけでなく全国で共通する構造的な課題だと思います。専門医をやりきった世代こそ、新しい役割を――人生の意味を問い直すとき、医師のアドバンテージは。「もう一度、聴診器を」というコピーを見たとき2)、医師の原点に戻ろうとシニア医に促す秀逸なコピーだと思いました。最初にお話ししたように50代以降に「この先どうしよう」と悩む人は本当に多い。そんな中、医師は専門を変えるだけで、もう一度だれかの役に立てる。これは大きな強みです。専門医をやりきり、子育ても終えた世代に「最後は地域のために人助けしませんか」と伝えたい。外科の先生なら手術で無理ができなくなる年齢から総合診療に移ってもいい。農作業がしたくて地方に来る医師がいるように、趣味と仕事を組み合わせることもできます。一生都会を離れるのは難しいとしても、3~4年のローテーションで人が回って地域に貢献するモデルがあれば、医師も地域ももっと柔軟に動けると思います。完璧を目指さなくていい まずは総合診療の地図を手に入れる――総合医育成プログラムを受けようと思う方へメッセージを。精神科の経験しかなかった私には難しい内容もあり、「これは私にはとてもできない」「無理だ」と心が折れることもありました。でも、そこで選別されるわけではありません。このプログラムは「私がまったく知らなかったこの領域にはこういう疾患があり、こういう問題がある」と、総合的に診るための見取り図を手に入れるものだと思うのです。当然、見取り図を手に入れる段階ですべてが身に付くわけはありません。実践の場でテキストを見返し、周りの助けを借りて、少しずつ身に付けていけばいい。まずは受けてみてください。世界旅行をするような感覚で、総合診療の扉を開けてみることをお勧めします。 引用 1) Myers-Briggs Type Indicatorの略称。ユングのタイプ論をもとにして開発された自己分析メソッドを活用した、 性格タイプ別コミュニケーションに関する研修。 2) 2016年、へき地医療に興味をもった中塚氏が偶然見つけた、地域医療研究会が主催する「医師研修プログラム」に関するリポート冒頭のキャッチコピー。 中塚氏は著書の中で以下のように述懐している。 「このリポートのタイトルは「『もう一度聴診器を』、第二の人生にへき地医療」。へき地医療への転身を考え始めた私に、これ以上“刺さるタイトル”もないだろう。ダイエットを始めた人が「『もう一度Mサイズを』、落ちない脂肪にこのサプリ」という広告を目にしたようなものだ」(香山リカ.精神科医はへき地医療で“使いもの”になるのか?.星和書店;2024.p28.)

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ヌシネルセンの高用量処方はSMA患者のQOLをさらに改善する/バイオジェン

 バイオジェン・ジャパンは、2025年9月19日に脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬ヌシネルセン(商品名:スピンラザ)の高用量投与レジメンでの剤型(28mg製剤、50mg製剤)について、新用量医薬品/剤形追加の承認を取得した。わが国は世界初の両剤型の承認・販売国となり、この承認を受け、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、SMAの疾患概要、治療の変遷、患者のニーズなどに関する講演などが行われた。高用量ヌシネルセンで筋力維持などができる可能性へ 「脊髄性筋萎縮症の治療 スピンラザ高用量投与を迎えて」をテーマに、長年本疾患の研究に携わってきた齋藤 加代子 氏(東京女子医科大学名誉教授/瀬川記念小児神経学クリニック)が、SMAの疾患概要と治療の課題などを解説した。 SMAは、脊髄における前角細胞(運動神経細胞)の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病であり、発症年齢などの区分により0~IV型まで5つの型がある。 わが国の発生率は出生1万人当たり0.51例、有病率は人口10万人当たり1例とされ、8割以上の患者が2歳までに発症しているために新生児マススクリーニングが早期発見のために重要と齋藤氏は指摘する1)。 SMAの治療で使用されるヌシネルセンは、体内で生成される完全長Survival Motor Neuron(SMN)タンパクの量を継続的に増やすことで、運動ニューロン喪失の根本原因を標的にするアンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)であり、運動ニューロンが存在する中枢神経系に直接投与される。 治療では開始時期により運動機能の改善効果もみられ2)、早期診断と早期治療が重要であり、現在では国の実証事業として新生児のマススクリーニング検査がほぼ全国で行われている。 こうした診療環境の中でSMAの全病型で最も多く報告されたアンメットニーズは「筋力の改善」であり、「呼吸機能と球機能(bulbar function)に関する項目(呼吸機能の改善、嚥下機能の改善など)では、I/II型のほうがIII型よりも重要である可能性が高い」と報告されている3)。また、PK/PDモデルを用いた予測では、脳脊髄液中のヌシネルセン濃度に対しニューロフィラメントの減少をはじめとする用量依存的な治療反応が示唆されていたことから高用量製剤の開発が待たれている。 そこで、高用量製剤の製品化に向け50/28mgの有効性および安全性を検討するため、3部構成のDEVOTE試験が行われた。とくにパートBでは、未治療の乳児型SMA患者(75例)および乳児型以外のSMA患者(25例)について国際共同第III相、二重盲検、並行群間比較試験が行われた。 その結果、乳児型SMA患者におけるフィラデルフィア小児病院乳児神経筋疾患検査(CHOP INTEND)総スコアについて183日目のベースラインからの変化量の最小二乗(LS)平均値は、50/28mg群15.1(95%信頼区間:12.4~17.8)、マッチングシャム処置群ー11.1(95%信頼区間:ー15.9~ー6.2)であり、LS平均値の差は26.2(95%信頼区間:20.7~31.7、p<0.0001、共分散分析および多重補完法)であったことから、優越性が検証された。 乳児型SMA患者における死亡または永続的換気までの期間について、カプランマイヤー法に基づいた期間の中央値は、50/28mg群では推定できず、12/12mg群で24.7週(95%信頼区間:14.4~NA、名目上のp=0.2775、罹患期間で層別したlog rank検定)だった。 302日目における乳児神経学的検査(HINE)第1項 哺乳/嚥下能力の低下がみられた患者の割合は、50/28mg群で6%(2/35例)、12/12mg群で33%(4/12例)であり、改善がみられた患者の割合は、50/28mg群で26%(9/35例)、12/12mg群で8%(1/12例)だった。 パートCでは日本人を含む乳児型SMA患者(2例)および乳児型以外のSMA患者18歳未満(14例)と18歳以上(24例)について、302日目における拡大Hammersmith運動機能評価スケール(HFMSE)、上肢機能モジュール改訂版(RULM)のベースラインからの変化量について評価がなされ、その結果変化量の平均値(標準誤差)は、HFMSEで1.8点(3.99点)、RULMで1.2点(2.14点)だった。 安全性は、50/28mg群では3/50例(6.0%)、12/12mg群では1/25例(4.0%)に副作用が認められ、貧血や発熱、不快などの発現が報告された一方で、本試験での死亡および投与中止に至った副作用は認められなかった。 齋藤氏はまとめとして、SMAにおいて疾患修飾治療薬3種の臨床試験が成功して実臨床で使える時代となったこと、発症抑制のための新生児マススクリーニングを拡充・推進する方針で実証事業開始されたことに触れ、最後に「ヌシネルセン高用量投与という新たな時代が今始まった」と期待を寄せた。患者の希望は「筋力アップ」 続いて「SMA家族の会」の理事長である大山 有子氏が、患者・患者家族のリアルな声と「SMA患者さん治療ニーズに関する調査結果」をテーマに講演を行った。 自身の子供がSMAI型であり、子供の日常生活を疾患介護の苦労とともに画像・動画で説明し、ヌシネルセンなどの治療薬の乳幼児期における劇的な症状改善の効果を紹介した。 次に家族会とバイオジェンが共同で行った患者・患者家族などへのアンケート内容を説明した。アンケートは、2025年9月3~14日にかけてSMA患者21人、介護者63人(計84人)に行ったもの。・「薬による治療」は96%が受けており、「治療でできるようになったこと」は「座位」、「寝返り」などの回答が多かった。・「リハビリテーション」については、「病院で実施」が69%、「自宅で実施」が76%だった。・「患者がもっとできるようになりたいこと」では、「トイレ」、「移動」などの回答が多く、「そのために必要な機能」について、「筋力」、「体幹」などの回答が多かった。

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個別化プレハビリテーションで手術アウトカムが改善

 大きな手術を控えている場合、手術そのものや術後のリハビリテーション(以下、リハビリ)に備えてエネルギーを温存する必要があると考える人は少なくないだろう。こうした考えは十分理解できるものだが、実際には、術前から開始するリハビリであるプレハビリテーションに参加した方が良い状態につながることが、米スタンフォード大学麻酔科学・周術期医学・疼痛医学教授のBrice Gaudilliere氏らが実施した臨床試験で明らかにされた。同試験では、マンツーマンでのプレハビリテーションが最も効果的であることが示されたという。詳細は、「JAMA Surgery」に11月12日掲載された。 この臨床試験では、待機的大手術を控えた患者58人(年齢中央値57歳、女性57%)を、個別化したプレハビリテーションを受ける群と標準的なプレハビリテーションを受ける群(対照群)にランダムに割り付けて、術前の身体機能、認知機能、免疫機能、および術後の合併症を比較した。対照群には運動指導、栄養やストレス軽減に関する助言、アプリによる認知トレーニングが提供された。一方、個別化プレハビリテーション群は、リモートで理学療法士と医師が1回ずつマンツーマンで実施する週2回のコーチングを受けた。プレハビリテーション群が受けた助言の内容は対照群と類似していたが、例えば、患者の自宅のキッチンにある食材の写真や動画を見た上で栄養に関するアドバイスや健康的なレシピを提供するなど、個々の患者の能力や進捗に合わせて個別化された。 最終的に両群とも27人が試験を完了した。プレハビリテーション群では、手術前の身体的および精神的な状態を測定する全ての検査で有意な改善が見られた。また、術後の回復につながる免疫システムにも変化が認められ、特定の免疫細胞の過剰反応が起きにくくなり、手術前の基礎的な炎症レベルも低下していた。さらに、術後に重大な合併症が発生した患者の数も、対照群では11人であったのに対し、プレハビリテーション群では4人にとどまっていた。 Gaudilliere氏は、「これまでの研究から、手術後に感染症を起こしやすい人は、手術前から自然免疫応答が過剰で、過度の炎症状態にあることが明らかになっていた」と話す。過剰に活性化した免疫細胞は、逆説的に病原体への免疫反応を低下させてしまうことがあるという。同氏は、「プレハビリテーションとは、手術という大きな負担に備えて、身体的な回復力だけでなく免疫機能や神経認知機能、さらには心理的側面を整えるためのトレーニングのようなものと捉えることができる」とニュースリリースの中で説明している。 研究グループによると、正しい食生活と運動、十分な睡眠といった身体的および精神的な健康状態を向上させる生活習慣は、大手術が人体に与える大きな負荷に耐える助けになる。共著者の1人であるスタンフォード大学外科准教授のCindy Kin氏は、「全くトレーニングをせずにマラソンをする人はいない」とニュースリリースの中で話す。しかし、「現実には、手術前に大きな生活習慣の改善を行う患者は多くない」と研究グループは指摘している。Gaudilliere氏は、「医師から推奨されているにもかかわらず、実際にこうしたプレハビリテーションプログラムに参加して遵守してもらうのは極めて難しい」と言う。 研究グループは、次の課題は個別化されたプレハビリテーションが最も効果的な患者の特徴を明らかにすることであるとの見解を示している。その結果が明らかになるまでは、手術を控えた患者はどんなことでも良いので栄養、運動、睡眠を改善する小さな行動変容に取り組むと良いとKin氏は助言している。

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