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運動ベースの心臓リハビリは心房細動患者にも有効

 医師は、心筋梗塞や心不全を発症した患者にしばしば運動ベースの心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)を処方する。新たな研究で、そのような心臓リハビリプログラムは心房細動(AF)と呼ばれる一般的な不整脈を有する患者にも適しており、症状の改善にも役立つ可能性のあることが示された。英リバプール心臓血管科学センターのBenjamin Buckley氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に7月29日掲載された。 運動ベースの心臓リハビリには、運動トレーニングに加えて、個別化された生活習慣リスクの管理、心理社会的介入、医学的リスク管理、健康行動に関する教育が含まれている。こうしたリハビリは、心筋梗塞を起こした患者や心不全と診断された患者、あるいは冠動脈ステント留置術を受けた患者に用いられるが、AF患者に適しているかどうかは不明なため、国際的なAF治療ガイドラインには含まれていない。 AFは、心房が機能不全を起こしてけいれんするように震えることで心拍リズムが乱れる疾患であり、動悸、胸痛、疲労、めまい、息切れなどの症状を引き起こす。AFがあると、脳卒中の原因となる血栓も形成されやすくなる。現行のAFに対する治療法は、薬物療法とアブレーションと呼ばれる電気治療である。AFは心筋梗塞や心不全と同時に起こることが多いが、運動ベースの心臓リハビリがAFを引き起こすのか否かは不明である。 Buckley氏らは今回、CENTRALやMEDLINEなどの論文データベースと臨床試験登録情報を用いて、AF患者に対する運動ベースの心臓リハビリの効果を、運動をしない場合と比較したランダム化比較試験を20件(対象者の総計2,039人)抽出し、メタアナリシスを実施した。平均追跡期間は11カ月であった。心臓リハビリプログラムのほとんどは中強度の運動(通常は有酸素運動)を取り入れており、実施期間は8週間から24週間で、1セッション当たりの時間は15〜90分だった。  解析の結果、全死因死亡は、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で8.3%、リハビリを受けなかった群で6.0%(相対リスク1.06、95%信頼区間〔CI〕0.76〜1.48)、有害事象の発生率はそれぞれ2.9%と4.1%(同1.30、0.66〜2.56)であり、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。一方、AFの症状の重症度(平均差−1.61、95%CI −3.06〜−0.16)、AFの負担(同−1.61、−2.76〜−0.45)、発生頻度(同−0.57、−1.07〜−0.07)、持続時間(同−0.58、−1.14〜−0.03)、再発(相対リスク0.68、95%CI 0.53〜0.89)、運動能力(最大酸素摂取量;平均差3.18、95%CI 1.05〜5.31mL/kg/分)については、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で有意な改善が認められた。さらに、健康関連の生活の質(QOL)の精神的側面も向上した。  こうした結果を受けて研究グループは、「AFの治療ガイドラインには、薬物療法やアブレーション療法との併用で運動ベースの心臓リハビリを推奨する内容を盛り込み、この最新のエビデンスを反映させるべきだ」と述べている。 付随論評の著者である英ロンドン心臓血管細胞科学研究所のSarandeep Marwaha氏とSanjay Sharma氏は、「本研究結果は、運動ベースの心臓リハビリがAF患者に大きな利益をもたらすことを裏付ける説得力あるエビデンスである。特に基礎疾患のあるAF患者は、運動がAFを誘発するのではないかと不安を抱くことがあり、医師も、運動とAF発生との関連が不確実であることから運動の指導や処方を軽視しがちだ。しかし、AF患者における中等度の運動を評価するほとんどの研究は、有害事象のリスクが非常に低く、安全性を実証している」と述べている。

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脳に歯が生えていた1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第288回

脳に歯が生えていた1例今回取り上げるのは、BMJ Case Reportsに掲載された、アイルランドのコーク大学病院からの症例報告です。O'Grady J, et al. 'Teeth in the brain' - a case of giant intracranial mature cystic teratoma. BMJ Case Rep. 2012;2012:bcr0320126130.患者は16歳の女性で、3年間にわたって「片頭痛」と診断されていた頭痛の既往がありました。今回、側頭後頭部の頭痛が急激に悪化し、嘔吐、めまい、見当識障害を伴って受診。その後、意識消失、眼球上転、四肢の痙攣、尿失禁を呈したということです。この時点で、単なる片頭痛ではないことは明らかですよね。興味深いのは、神経学的検査では明らかな異常所見を認めなかったことです。GCS 15/15で、視野や視力、眼底所見も正常。認知機能検査も正常範囲でした。ただし、年齢に比して身長が低いという所見がありました。CTでは、5.6×9.3cmの巨大な正中脳室内病変が描出されました。部分的に石灰化し、主に脂肪成分からなる病変で、水頭症を合併していました。どうやら、石灰化部分は病変内に歯があることを示していました。脳に、歯。MRIでは、破裂したデルモイド嚢胞として矛盾しない画像でした。デルモイド嚢胞は、妊娠中に皮膚組織の原基が迷入することで発生し、毛髪、皮脂腺、汗腺などの皮膚付属物を含みます。歯も例外ではありません。経胼胝体アプローチで開頭術が施行され、デルモイド嚢胞の減量術が行われました。術中所見では、確かに石灰化した塊の中に歯が確認できたということです。軟らかい内容物は除去できましたが、石灰化部分は脳組織との癒着が強固で残存させざるを得ませんでした。退院時は、移動に介助が必要で、日常生活動作にも支障があり、短期記憶障害と軽度の失語症状を認めていました。MMSEは24/30でした。リハビリテーションの効果もあり、6ヵ月後には短期記憶は改善し、失語症状も著明に改善していました。自立歩行も可能となり、MMSEは28/30まで改善しました。理学療法士と作業療法士の介入により、全体的な術後状態は良好に経過したということです。若年者の慢性頭痛においても、器質的疾患の可能性を常に念頭に置く必要があります。3年間「片頭痛」として経過観察されていましたが、結果的に巨大な頭蓋内腫瘍が存在していたのですから。

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患者の“〇〇〇〇”で見極める、尿失禁、介入のタイミング【こんなときどうする?高齢者診療】第13回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。今回は高齢者診療で大切にしたい『5つのM』のうち、“身体機能(Mobility)”に関するテーマとして、尿失禁を取り上げます。まず考えてみましょう。この2つの症例、どちらに介入が必要でしょうか?症例A85歳女性 ADL自立。認知機能正常。独居。今までなかった外出中の尿漏れを訴えて来院。症例B75歳女性 進行したアルツハイマー型認知症。夫・子どもたちによる在宅介護。3年前から尿失禁あり。本人は尿漏れに気付くが不快感はない様子。ベッド・床・衣服などを工夫しシーツや衣類の取り換え回数は最小限で済んでいる。皮膚荒れはなく、家族も尿失禁のケアに慣れたといっている。2つ目のM-身体機能の中で、尿失禁はきわめて重要な項目です。答えを急がず、まずは尿失禁の重要性とアセスメントのポイントを確認していきましょう。尿失禁、軽視してはいけない3つの理由尿失禁は「自分の意思とは関係なく、または意思に反して尿が漏れること」です。高齢者診療において、尿失禁に注目すべき理由は以下の3つです。ひとつめは、高い頻度です。尿失禁は排泄機能障害のなかで最もコモンで、65歳以上の女性では約30~50%が何らかの形で尿失禁を経験しているといわれています。ふたつめは、患者のQOLに与える深刻な影響です。例えばADLが自立している高齢者では、尿失禁を心配して外出が億劫になると、活動量の低下につながります。抑うつを助長したり、転倒リスクを高めたりする可能性もあります。認知症患者では、尿失禁による不快感をうまく言葉で表現できないため、不穏やせん妄につながることもあります。最後に、見落とされやすい失禁症状です。医師が診察で聞きそびれていることが多く、簡易高齢者アセスメント「DEEP-IN」では、“失禁(Incontinence)”が独立した評価項目となっています。効果的な問診のコツ:ノーマライゼーションの視点と失禁の時間軸尿失禁について話しにくいと感じる患者・聞きにくいと感じる医療者双方のハードルを下げるコツは、「誰にでも起こりうること」として扱うノーマライゼーションの視点を持つことです。問診にノーマライゼーションを取り入れると「尿漏れは若い方にもとても多いのですが、相談する機会がなく困っている方がたくさんいるようです。たとえば○○さんもお困りのことはありますか?」のようになります。このように聞くことで、本人の自尊感情への配慮も可能になります。失禁があることが問診で明らかになったら、次に重要なのは時間軸の把握です。聴取時は以下の分類を意識しましょう。新規発症の尿失禁長期継続している慢性の尿失禁急性増悪した慢性の尿失禁例えば、1日1~2回程度だった尿失禁が急に回数増加した場合、背後に特定の原因があることを疑う必要があります。治療可能な尿失禁を見逃さない:DIAPPERS鑑別高齢者の新しい症状は、まず薬の副作用を疑う。この原則は尿失禁でも同様です。薬剤以外の原因も含めて、以下の鑑別疾患をチェックしましょう。尿失禁の鑑別疾患 DIAPPERS画像を拡大する介入の見極めは、患者・家族が「ごきげん」かどうかDIAPPERSによる急性原因を除外しても尿失禁が続く場合、あるいは原因が除去できない場合に介入するかどうかを決めるポイントは、患者・家族・介護者が「ごきげんかどうか」です。ここで冒頭のクイズの答えに移りましょう。ここまで読んでくださった皆さんは、冒頭のクイズの回答がおわかりですね。Bの患者は“ごきげん”に過ごせているため、積極的な介入は不要と考えることができるのです。もちろん長期に繰り返す尿失禁では、陰部の清潔が保てなくなることや、褥瘡リスクが増加してしまうことがあるため、継続的なモニタリングは必要です。しかし、尿失禁があっても患者や周囲の人の負担が許容範囲に収まるようであれば、「無理に介入をする必要がない場合もある」という視点を持つことで、失禁診療の幅が広がります。一方、Aの患者は、尿漏れが主訴に挙がっている時点でごきげんではありません。DIAPPERSのような鑑別疾患の除外あるいは介入からはじめ、それでも尿失禁が続く場合は失禁があっても「ごきげん」でいられるようなケアを考えることが治療になります。その場合は、ごきげんでいられるために何が必要かをすり合わせるために、何がその方にとって大切なのか、耐えられること、耐えられないことといった、価値観や優先順位(Matters Most)を丁寧に聞き取ることから始めましょう。 ※今回のトピックは、2022年6月度、2023年度3月度、2024年4月度の講義・ディスカッションをまとめたものです。より詳しい解説、実際のケースディスカッション、Dr.樋口との質疑応答は、CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でご覧いただけます。

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腰痛の重症度に意外な因子が関連~日本人データ

 主要な生活習慣関連因子と腰痛の重症度・慢性度との関連について、藤田医科大学の川端 走野氏らが日本の成人の全国代表サンプルで調査したところ、脂質異常症が腰痛重症度に関連し、喫煙が腰痛の重症度および慢性度の両方に関連していることが示された。PLoS One誌2025年7月30日号に掲載。 本研究では、無作為に抽出した20~90歳の日本人5,000人を対象に全国横断調査を実施。2,188人から有効回答を得た。現在の腰痛の有無、腰痛の重症度(痛みなし/軽度または中等度/重度)、慢性腰痛の有無により層別解析を行った。主な生活習慣関連因子は、BMI、飲酒、喫煙、運動習慣、併存疾患(脂質異常症、糖尿病、高血圧)、体型に関する自己イメージなどで、多変量ロジスティック回帰分析により各因子との関連の有無を評価した。 主な結果は以下のとおり。・現在腰痛ありは、BMI(オッズ比[OR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.00~1.07)、飲酒(OR:1.37、95%CI:1.04~1.80)、喫煙(OR:1.63、95%CI:1.21~2.20)、脂質異常症(OR:1.51、95%CI:1.06~2.13)と関連していた。・腰痛の重症度は、喫煙(OR:1.77、95%CI:1.19~2.64)、運動不足(OR:1.55、95%CI:1.10~2.15)、脂質異常症(OR:1.64、95%CI:1.06~2.55)と関連していた。・慢性腰痛ありは、喫煙(OR:1.70、95%CI:1.23~2.34)のみ有意に関連していた。

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バイオニック膝関節を用いた義足で下肢切断患者の動きが改善

 「より良く、より強く、より速く」。これはテレビドラマシリーズ『600万ドルの男(Six Million Dollar Man)』に登場するバイオニック・マンのキャッチフレーズだが、近い将来、足を膝上で切断した人にも同じ言葉が当てはまるようになるかもしれない。米マサチューセッツ工科大学(MIT)K. Lisa Yangバイオニクス・センター共同ディレクターのHugh Herr氏らが、オッセオインテグレーテッド・メカノニューロナル人工装具(OMP)と呼ばれるバイオニック膝関節を用いた義足(以下、バイオニック義足)によって切断患者の歩行速度が向上し、階段の昇降も楽になり、障害物をうまく避けられるようになったとする研究結果を、「Science」に7月10日発表した。 Herr氏らによると、一般的な切断例に対して作られる義足は、切断された足の残存部分に差し込むソケットを備えている。それに対し、このバイオニック義足は骨に直接固定され、神経系によって直接制御される組織統合型の人工装具であり、ユーザーの筋肉や骨組織と一体化することで、より高い安定性と動作のコントロール性の向上を実現させるという。実際、このバイオニック義足を装着した2人の被験者は、「義足が自分の体の一部であるかのように感じた」と話したという。 このバイオニック義足は、切断部位に残された大腿骨にチタン製の棒状のロッドを挿入することで、従来の義足よりも優れた機械的制御と荷重支持が可能になる。論文の筆頭著者であるMITのTony Shu氏は、「われわれの義足は、荷重に耐える構造と考えられている骨格に直接荷重をかけるようになっている。これに対し、従来のソケット式の義足は不快感を伴いやすく、皮膚感染を引き起こしやすい」とニュースリリースの中で述べている。 埋め込まれたロッドには、切断された足に残存する筋肉から情報を収集するためのワイヤーと電極も組み込まれている。収集されたデータはロボット制御装置に送られ、ユーザーが意図した通りに義足を動かすために必要なトルク(回転力)の計算に用いられるという。Shu氏は、「身体とデバイス間の情報伝達と機械的な接続を向上させるために、全てのパーツが連携して動くようになっている」と言う。 今回、男女2人の被験者が、切断部位の主動筋と拮抗筋を人工的に連結し、残存神経をこれらの筋に接合させる手術(agonist-antagonist myoneuronal interface;AMI)を受け、バイオニック義足を装着。この2人の運動機能の改善状況を、AMIは受けたがバイオニック義足は装着していない8人と、AMIとバイオニック義足装着のいずれも受けていない7人の計15人の改善状況と比較した。 その結果、AMIを受けバイオニック義足を装着した2人では、AMIは受けたがバイオニック義足は装着していない被験者や、従来型の義足を装着した被験者と比べて、歩く、指定角度まで膝を曲げる、階段を上る、障害物をまたぐといった動作がより優れていたことが示された。 Herr氏は、「ロボット義足のAIシステムの精度をどんなに高めても、ユーザーにとっては外部装置のようにしか感じられなかった。しかし、この組織統合型のアプローチでは、ユーザーに『どこまでがあなたの体ですか?』と尋ねた場合、統合が進んでいれば進んでいるほど、ユーザーが『義足も自分の一部だ』と回答する可能性が高まるのだ」と述べている。 なお、OMPシステムが米食品医薬品局(FDA)の承認を得るためにはより大規模な臨床試験が必要であり、承認までには5年程度かかる可能性があるとHerr氏は話している。

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具体的な食事・運動プログラムとは【脂肪肝のミカタ】第8回

具体的な食事・運動プログラムとはQ. 食事・運動療法は具体的にどのようにすればよいか?食事療法に関しては、欧州・米国共にガイドラインで、過度な糖質制限食よりも地中海食等のバランスの良い食事が提案されている。炭水化物や飽和脂肪酸を控え、食物線維と不飽和脂肪酸を豊富に含む食事が提案されている1)。地中海食は低糖質食と比べて無理のない減量に繋がったことが2年間の研究で示されている(図1)2)。バランスが良い食事という意味では、日本食もエビデンスはまだ十分ではないが検討に値する。運動療法に関しては、欧州のガイドラインでは、中等度の運動強度で週に150分以上、高度の運動強度で週に75分以上の運動療法を推奨している。(図1)低糖質食と地中海食における体重の推移画像を拡大するQ. 食事・運動療法入院プログラムとは?虎の門病院は、リハビリテーション部と栄養部の協力のもとに、個別化医療を視野に入れた多職種連携に基づく6日間の入院プログラムを行っている(脂肪肝改善入院)。運動療法は、理学療法士から運動強度4~5METsの有酸素運動(20~30分/日)と筋力トレーニング(15~20 分/日)の指導を連日行っている。食事療法は管理栄養士の指導下に、食事エネルギー量/日として25~30kcal/kg×標準体重、エネルギー産生栄養素比率(%)は蛋白質:脂質:糖質が15~17:25:58~60となるよう提供している。これまで、平均年齢68歳、延1,300例のSLD患者に入院加療を行ってきた。治療開始後6ヵ月時点の体重は低下、肝機能や糖脂質代謝は改善、心血管リスクスコアも改善している(図2)3)。最近では、6ヵ月毎定期的に入院を繰り返すことで、2年経過時点の肝機能が改善、維持されることを確認している。(図2)虎の門病院で脂肪肝改善入院を行った症例の6ヵ月時点の肝機能推移画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) Shai I, et al. N Engl J Med. 2008;359:229-241. 3) Akuta N, et al. Hepatol Res. 2023;53:607-617.

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第272回 希少疾患の専門医が抱える本当の課題~患者レジストリ維持の難しさ

昨今、「希少疾患」という単語を耳にする機会は増えた。そもそも希少疾患の定義は、国によってもまちまちと言われるが、概して言えば患者数が人口1万人当たり1~5人未満の疾患を指すと言われる。また、日本国内の制度で言うと、こうした希少疾患の治療薬は、通称オーファン・ドラッグと言われ、患者数が少ないために製薬企業が開発に二の足を踏むことを考慮し、オーファン・ドラッグとして指定を受けると公的研究開発援助を受けられる制度が存在する。同制度での指定基準は国内患者数が5万人未満である。この希少疾患に関する情報に触れる機会が増えたのは、製薬企業の新薬研究開発の方向性が徐々にこの領域に向いているからである。背景には、これまで多くの製薬企業の研究開発に注力してきたメガマーケットの生活習慣病領域でそのターゲット枯渇がある。そして希少疾患への注目が集まり始まるとともに新たに指摘されるようになったのが、「診断ラグ」。希少疾患は、患者数・専門医がともに少なく、多くは病態解明が途上にあるため、患者が自覚症状を認めてもなかなか確定診断に至らない現象である。そして取材する私たちも希少疾患の情報に触れる機会が増えながらも、ごく一般論的なことしか知らないのが現状だ。正直、わかるようなわからないようなモヤモヤ感をこの数年ずっと抱え続けてきた。そこで思い切って希少疾患の診療の最前線にいる専門医にその実態を聞いてみることにした。話を聞いたのは聖マリアンナ医科大学脳神経内科学 主任教授の山野 嘉久氏。山野氏が専門とするのは国の指定難病にもなっている「HTLV-1関連脊髄症(HAM)」。HTLV-1はヒトT細胞白血病ウイルス1型のことで、九州地方にキャリアが集中している。HAMはHTLV-1キャリアの約0.3%が発症すると言われ、全国に約3,000人の患者がいると報告されている。HAMはHTLV-1感染をベースに脊髄で炎症が起こる疾患で、初期症状は▽足がもつれる▽走ると転びやすい▽両足につっぱり感がある▽両足にしびれ感がある▽尿意があってもなかなか尿が出にくい▽残尿感がある▽夜間頻尿、など。急速に進行すると、最終的には自力歩行が困難になる。現在、HAMに特異的な治療薬はなく、主たる治療は脊髄の炎症をステロイドにより抑えるぐらいだ。以下、山野氏とのやり取りを一問一答でお伝えしたい。INDEX―まずHAMの診断では、どれほど困難が伴うのか教えてください―確定診断までの期間がこの20年ほどで半分に短縮されています―それでも初発から確定診断まで2~3年を要するのですね―山野先生の前任地・鹿児島はHAMが発見された地域で、患者さんが多いと言われています―関東に赴任してHAM診療の地域差を感じますか?―ガイドラインができたのはいつですか?―HAMの早期段階の症状から考えれば、事実上のゲートキーパーは整形外科、泌尿器科あるいは一般内科の開業医になると思われます―では、診断ラグや治療の均てん化を考えた場合、現状の医療体制をどう運用すれば最も望ましいとお考えでしょう?―そのうえで非専門の医療機関・医師が希少疾患を見つけ出すとしたら何が必要でしょう―もっとも日本国内では開業医の電子カルテ導入率も最大60%程度と言われ、必ずしもデジタル化は進んでいません― 一方、希少疾患全体で見ると、新薬開発は活発化していますが、従来の大型市場だった生活習慣病領域で新薬開発ターゲットが枯渇したことも影響していると思われますか―その意味で国の希少疾患の研究に対する支援についてどのようにお考えでしょう?―まずHAMの診断では、どれほど困難が伴うのか教えてくださいHAMでは疾患と症状が1対1で対応しておらず、複数の症状が重なり、かつ症状や進行に個人差があります。このような状況だと、医療に不案内な患者さんはそもそもどの診療科を受診するべきかがわからないという問題が生じます。高齢の患者さんでありがちな事例を挙げると、まず歩行障害や下肢のしびれを発症すると、老化のせいにし、医療機関は受診せず、鍼灸院に通い始めます。それでも症状が改善しなければ整形外科を受診します。また、排尿障害が主たる患者さんは最終的に泌尿器科に辿り着きます。しかし、半ば当然のごとく受診段階で患者さんも医師もHAMという疾患は想定していません。結果としてなかなか症状が改善せず、医療機関を何軒か渡り歩き、最終的に運よく診断がつくのが実際です。私たちはHAMの患者さんの症状や検査結果などの臨床情報や、血液や髄液などの生体試料を収集し、今後の医学研究や創薬へ活用する患者レジストリ「HAMねっと」を運営していますが、そのデータで見ると1990年代は初発から確定診断まで平均7~8年を要していました。それが2010年代には2~3年に短縮されています。―確定診断までの期間がこの20年ほどで半分に短縮されています2008年にHAMが国の指定難病となったこと、前述の「HAMねっと」の充実、専門医による全国の診療ネットワーク構築など、さまざまな周辺環境が整備され、それとともに啓発活動が進展してきたことなど複合的な要素があると考えています。―それでも初発から確定診断まで2~3年を要するのですねまさに今日受診された患者さんでもそれを経験したばかりです。他県の大学病院で診断がつき、治療方針決定のため紹介を受けた患者さんですが、2018年に排尿障害、2020年から歩行障害が認められ、車いすで来院されました。この患者さんは2年程前に脊髄小脳変性症との診断を受けていました。HAMは脊髄が主に障害されますが、実は亜型として小脳でも炎症を起こす方がいます。こうした症例は数多く診療している専門医でなければ気付けないものです。こういうピットホールがあるのだと改めて実感したばかりです。―山野先生の前任地・鹿児島はHAMが発見された地域で、患者さんが多いと言われていますおっしゃる通りで、加えて神経内科医が多い地域でもあるため、大学病院ではHAMの患者さんを診療した経験のある医師が少なくありません。そうした医師が県内各地の病院に赴任しているので、HAMの初期症状と同じ症状の患者さんが来院すると、HAMを半ば無意識に疑う癖がほかの地域よりも付いています。そのため確定診断までの期間が短いと思います。―関東に赴任してHAM診療の地域差を感じますか?2006年に赴任しましたが、当初はかなり感じました。具体例を挙げると、診断ラグよりも治療ラグです。HAMの患者さんの約2割は急速に進行しますが、一般的な教科書的記述では徐々に進行する病気とされています。その結果、HAMと診断された患者さんが、どんどん歩けなくなってきていると訴えても、主治医がゆっくり進行する病気だから気にしないよう指示し、リハビリ療法が行われていた患者さんを診察したことがあります。この患者さんは髄液検査で脊髄炎症レベルが非常に高く、進行が早いケースで早急にステロイド治療を施行すべきでした。また、逆に炎症がほとんどなく、極めて進行が緩やかなタイプにもかかわらず大量のステロイドが投与され、ステロイドせん妄などの副作用に苦しんでいる事例もありました。当時は診療ガイドラインもない状態だったのですが、このように診断ラグを乗り越えながら、鹿児島などで行われていた標準治療の恩恵を受けていない患者さんを目の当たりにすることが多かったのをよく覚えています。HAMの患者数は神経内科専門医よりはるかに少ない、つまりHAMを一度も診療したことがない神経内科専門医もいます。そのような中で確定診断に至る難易度が高いうえに、適切な情報が不足している結果として主治医によって治療に差があるのは、患者さん、医師の双方にとって不幸なことです。だからこそ絶対にガイドラインを作らなければならないと思いました。―ガイドラインができたのはいつですか?2019年1)とかなり最近です。2016年から3年間かけて作成しました。実はガイドライン作成自体は、エビデンスが少ないことに加え、ガイドラインという響きが法的拘束力を想起させるなどの誤解から反対意見もありました。実際のガイドラインではエビデンスに基づき、わかっていることわかっていないことを正確に記述し、現時点で専門家が最低限推奨した治療を記述し、医師の裁量権を拘束するものでもないということまで明記しました。―HAMの早期段階の症状から考えれば、事実上のゲートキーパーは整形外科、泌尿器科あるいは一般内科の開業医になると思われます一般内科医の場合、日常診療では新型コロナウイルス感染症を含む各種呼吸器感染症全般、腹痛など多様な疾患を診療している中に神経疾患と思しき患者さんも来院している状況です。その中でHAMの患者さんが来院したとしても、限られた診療時間でHAMを思い浮かべることはかなり困難です。最終的には自分の範囲で手に負えるか、負えないかという線引きで判断し、手に負えないと判断した患者さんを大学病院などに紹介するのが限界だと思います。―では、診断ラグや治療の均てん化を考えた場合、現状の医療体制をどう運用すれば最も望ましいとお考えでしょう?希少疾患の場合、数少ない患者さんが全国に点在し、疾患によっては専門医が全国に数人しかいないこともあります。極論すれば、現状では専門医がいる地域の患者さんだけが専門的医療の恩恵を受けやすい状況とも言えます。その意味でまず優先すべきは、各都道府県に希少疾患を診療する拠点を整備することです。そのことを体現しているのが、2018年から整備が始まった難病診療連携拠点病院の仕組みです。一方で希少疾患に関しては、従来から専門医が軸になったネットワークが存在します。手前味噌ですが、先ほどお話しした「HAMねっと」もその1つです。HAMの場合、確定診断に必要な検査のうちいくつかは保険適用外のため、全国各地にある「HAMねっと」参加医療機関では研究費を利用し、これらの検査を無料で実施できる体制があります。現状の参加医療機関は県によっては1件あるかないかの状況ですが、それでも40都道府県をカバーできるところまで広げることができました。ただ、前述した難病診療連携拠点病院と「HAMねっと」参加医療機関は必ずしも一致していません。その意味では希少疾患専門医、国の研究班、難病診療連携拠点病院がより緊密に連携する体制構築を目指していくことがさらに重要なステップです。このように受け皿を整備すれば、ゲートキーパーである開業医の先生方も診断がつきにくい患者をどこに紹介すればよいかが可視化されます。それなしに「ぜひ患者さんを見つけてください」と疾患啓蒙だけをしても、疑わしい患者の発見後、どうしたらいいかわからず、現場に変な混乱を招くリスクもあると思います。―そのうえで非専門の医療機関・医師が希少疾患を見つけ出すとしたら何が必要でしょうやはり昨今の技術革新である人工知能(AI)を利用した診断支援ツールの実用化が進めば、非常に有益なことは間違いないと思います。そもそもAIには人間のような思い込みがありませんから、たとえば脊髄障害があることがわかれば、自動検索で病名候補がまんべんなく上がってくるというシンプルな仕組みだけで見逃しが減ると思います。そのようになれば、迅速に専門医に紹介される希少疾患患者さんも増えていくでしょう。―もっとも日本国内では開業医の電子カルテ導入率も最大60%程度と言われ、必ずしもデジタル化は進んでいません国がどこまで医療DXを推進しようとしているかは、率直に言って私にはわかりません。ただ、医療DXが進展しやすい土俵・環境を作る責任は国にあると思います。その意味では先進国の中で日本がやや奥手となっている医療機関同士での患者情報共有の国際標準規格「FHIR」の導入推進が非常に重要です。それなしでAIによる診断支援ツールの普及は難しいとすら言えます。また、こうした診断支援ツールの開発では、開発者がきちんとメリットを得られるルール作りも必要でしょう。― 一方、希少疾患全体で見ると、新薬開発は活発化していますが、従来の大型市場だった生活習慣病領域で新薬開発ターゲットが枯渇したことも影響していると思われますか 率直に言って、希少疾患領域に関わっていると今でも太陽の当たる場所ではないと思うことはあります(笑)。その意味で新薬開発が進んでこなかった背景には技術的な問題とともに企業側の収益性に対する考えはあったと思います。もっとも昨今では技術革新により新規化合物デザインも進化し、希少疾患でも遺伝子へのアプローチも含め新たな創薬ターゲットが解明されつつあります。その意味ではむしろ新薬開発も今後は希少疾患の時代となり、30年後くらいは多くの製薬企業が希少疾患治療薬で収益を上げる時代が到来しているのではないかと予想しています。HAMについて言えば、いまだ特異的治療薬はありませんが、もし新薬が登場すれば診断ラグもさらに短縮されると思います。やはり治療薬があると医師側の意識が変わります。端的に言えば「より良い治療があるのだから、より早く診断をつけよう」というインセンティブが働くからです。そして、先程来同じことを言ってしまうようですが、やはりこの点でも、新薬開発が進む方向への誘導や希少疾患の新薬開発の重要性に対する国民の理解促進のために、国のサポートは重要だと思うのです。―その意味で国の希少疾患の研究に対する支援についてどのようにお考えでしょう?そもそも希少疾患は数多くあるため、公的研究費の獲得は競争的になりがちです。一般論では投じられる資金が多いほど、病態解明や新規治療開発は進展しやすいとは思いますが、ただ湯水のように資金を投じればよいかと言えばそうではありません。あくまで私見ですが、日本での希少疾患研究支援は、有力な治療法候補が登場した際の実用化に向けた支援枠組みは整いつつあると思っています。反面、基盤的な部分、HAMの例で言えば、患者レジストリ構築のような部分への支援は弱いと考えています。私たちは臨床データを電子的に管理すると同時に患者検体もバンキングしています。これらがあって初めてゲノム解析などによって病態解明や治療法開発の研究が可能になるからです。つまり患者レジストリは研究者にとって一丁目一番地なのです。しかし、その構築と維持は非常にお金がかかります。一例を挙げれば、「HAMねっと」で検体保管に要している液体窒素代は年間約500万円です。しかも、患者レジストリの構築と維持の作業からは直接成果が得られるわけではないのです。このために製薬企業などの民間企業が資金を拠出することは考えにくいです。結局、私も当初は外来終了後にポチポチとExcelの表を作成し、検体を遠心分離機にかけるという作業をやっていました。こうした患者レジストリを国によるコストや労力の支援で構築できるようになれば、多くの希少疾患でレジストリが生み出され、日本が世界に誇る財産にもなり得ます。もっとも先程来、「国」に頼り過ぎているきらいもあるので、国だけでなく企業、患者さんとも共同でこうした基盤を育てていく活動が必要なのではないかと考えています。恥ずかしながら、診断ラグのみならず治療ラグが存在すること、患者レジストリ構築の苦労やその重要性などについては私にとっては目からウロコだった。山野氏への取材を通じ、私個人はこの希少疾患問題をかなり狭くきれいごとの一般論で捉えていたと反省しきりである。 1) 日本神経学会:HTLV-1関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン2019

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ふくらはぎが細くなったら筋量減少のサインかも?

 骨格筋量の減少は中年期から始まり、加齢とともに進行する。筋量の低下は、高齢者における転倒やさまざまな疾患の発症リスクにつながるため、早期の発見と予防が重要である。今回、ふくらはぎ周囲長の変化で筋量の変化を簡易評価できるとする研究結果が報告された。年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化は筋量の変化と正の相関を示したという。研究は公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏、早稲田大学スポーツ科学学術院の谷澤薫平氏らによるもので、詳細は「Clinical Nutrition ESPEN」に5月28日掲載された。 ふくらはぎ周囲長は高齢者の栄養状態や骨格筋量の簡便な指標とされているが、その変化と筋量変化との関連を直接検討した縦断研究は存在しない。そこで著者らは、日本人成人を対象に、2回のコホート研究のデータを用いて両者の関連を検証する縦断研究を行った。 解析対象は、2015年3月から2024年9月の間に計2回のWASEDA’S Health Studyに参加した40~87歳の日本人成人227名(男性149名、女性78名)とした。ふくらはぎ周囲長は立位で左右それぞれ2回ずつ計測し、その平均値を解析に用いた。また専用機器(二重エネルギーX線吸収測定法)を用いて両腕両脚の筋量(四肢筋量)を測定し、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量の変化の関係を解析した。ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化との相関を評価するため、ピアソンの相関係数を算出した。さらに、年齢および肥満の影響を評価するため、対象者を年齢(中年〔60歳未満〕と高齢〔60歳以上〕)および体脂肪率(非肥満と肥満)で二分し、サブグループ解析を行った。 解析対象の平均年齢は男性が55±10歳、女性が51±7歳で、平均追跡期間は8.0±0.4年だった。ベースラインから追跡期間終了までのふくらはぎ周囲長と四肢筋量の平均変化量は、それぞれ-0.1±1.2cmと-0.7±1.0kgだった。ふくらはぎ周囲長と四肢筋量の変化量は男性および女性の両方で正の相関を示した(それぞれ相関係数r=0.71)。主要解析と同様に、年齢および肥満に基づくサブグループ解析においても、ふくらはぎ周囲長と四肢筋量との間に正の相関が示された(中年、高齢、非肥満、および肥満成人でそれぞれr=0.70、0.67、0.69、および0.72)。 本研究について著者らは、「本研究は、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量変化の関連を世界で初めて縦断的に示した研究である。年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化には正の相関が確認された。ふくらはぎ周囲長のモニタリングにより、誰でも簡便に筋量の減少に気づける可能性が示唆され、サルコペニアの早期発見・予防につながる。筋量や筋力の低下はQOLの低下を招くが、年齢を問わず改善は可能であり、本研究は健康寿命の延伸に大きく貢献する知見となるだろう」と述べている。 本研究の限界については、解析対象が早稲田大学の卒業生とその配偶者に限られており、人口全体を代表していない可能性があること、サブグループ解析においては対象数が少なかったことなどを挙げている。

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高齢の日本人男性で腸内細菌叢がサルコペニアと相関か

 我々の腸内には、約1,000種類・100兆個にも及ぶ細菌が存在している。これらの細菌は、それぞれ独自のテリトリーを維持しながら腸内細菌叢(GM)という集団を形成している。近年では、GMが全身疾患と関連していることが明らかになってきた。今回、日本の高齢者を対象とした研究において、男性サルコペニア(SA)患者では、非SA患者に比べてGMのα多様性が有意に低下しβ多様性にも有意な違いを認めることが報告された。研究は順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター消化器内科の浅岡大介氏らによるもので、詳細は「Nutrients」に5月21日掲載された。 SAは、加齢に伴い骨格筋量、筋力、身体機能が低下する病気だ。SAを患う患者は転倒、入院、死亡のリスクが高まるため、早期発見と適切な介入が不可欠となる。また、近年、SAの発症にはGMが関与することが示唆されている。GMの細菌構成が乱れた状態(ディスバイオシス)では、腸管透過性が亢進し、いわゆる「リーキーガット(腸管壁侵漏)」による炎症が引き起こされ、結果としてSAの進行につながっている可能性がある。日本人は独特な食習慣の影響で、他の集団とは著しく異なるGMプロファイルを持つことが知られている。しかし、特に高齢の日本人集団におけるGMとSAの関係については、まだ十分に解明されていない。このような背景から著者らは、アジアにおけるSA診断基準としては2019年に改訂された最新のアジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)2019基準で診断された高齢者のSAとGMプロファイルとの関係を検討した。 本研究では、2022年6月から2023年1月にかけて、順天堂東京江東高齢者医療センター消化器内科に外来通院していた65歳以上の患者から採取した便検体を用い、前向きの横断研究を実施した。SAはAWGS2019診断基準に基づき、握力、歩行速度、DXA法による骨格筋量指数(SMI)に基づき診断された。GMプロファイルは16S rRNA遺伝子シーケンス解析を用いて解析し、(1)SAに関するGMのα多様性(個体内のGMでどの種がどの位均等に存在しているか)・β多様性(個体間のGMでどれ位多様性が異なるか)・性差、(2)SAに関連する腸内細菌属の占有率や検出率、(3)SMI、握力、歩行速度と腸内細菌属との相関を調査した。 本研究の最終的な解析対象は356名(男性144名、女性212名)であり、このうちSAは50名(男性35名、女性15名)含まれた。β多様性は男女間で有意に異なっていたため、性別によるサブグループ解析を実施した。その結果、男性のSA群ではα多様性のいくつかの指標が低かった(ディスバイオシスの状態)。男性のGMのβ多様性は、SA群と非SA群で有意な違いが認められた。一方で女性の場合は、α多様性およびβ多様性のいずれにも有意な違いは認められなかった。 次に、SAに関連する腸内細菌属の占有率を調べたところ、6種の細菌属(Eubacterium I、Fusicatenibacter、Holdemanella、Unclassified Lachnospira、Enterococcus H、Bariatricus)の腸内占有率が男性のSA群で低いことが明らかになった。一方で、女性のSA群と非SA群の細菌構成比に明らかな違いは認められなかった。スピアマンの順位相関係数を用いて、これらの細菌属と筋力に関連する指標との相関を調べたところ、男性の検体において、Unclassified Lachnospiraは握力と、FusicatenibacterおよびEnterococcus Hは握力および歩行速度との間に有意な正の相関を示した。HoldemanellaはSMIと正の相関を示していた。しかし、女性の検体ではこれらの菌属とSMI、握力または歩行速度との間に有意な相関は認められなかった。 本研究について著者らは、「本研究は、日本で初めて臨床において高齢者集団のGM組成とAWGS2019診断基準で診断されたSAとの関連を調査した研究である。今回の結果から、高齢の日本人男性において、GMの組成がSAと関連することが示された。これは、日本の高齢男性におけるSA予防のために、腸内細菌をターゲットとした戦略が有効である可能性を示唆している」と述べている。

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VR活用リハビリは脳卒中患者の腕の機能回復に有用

 脳卒中患者のリハビリテーション(以下、リハビリ)におけるVR(仮想現実、バーチャルリアリティ)の活用は、代替療法に比べて腕の動きの改善にわずかに役立つ可能性があることが、新たな研究により明らかになった。英フリンダース大学看護・健康科学部のKate Laver氏らによるこの研究の詳細は、「Cochrane Database of Systematic reviews」に6月20日掲載された。 研究グループは、「VRは、患者が受けるリハビリの量を増やすことでその効果を高める手段として有望である可能性が示された」と話す。またLaver氏は、「治療に費やす時間を増やすと、脳卒中後の転帰が改善することは知られている。VRを活用すれば、臨床医が監督をしなくても治療の量が増えるため、比較的安価で魅力的な方法となり得る」と述べている。 脳卒中に対するVRを活用したリハビリ(以下、VR活用リハビリ)の効果についてのレビューは、2011年と2015〜2017年にも実施されている。今回のレビューでは、新たに発表された119件の研究を追加した、計190件のランダム化比較試験(RCT)のデータ(対象者の総計7,188人)を対象にしたもの。RCTの多くは小規模で、対象者の数が50人以上のRCTはわずか36件(29%)だった。また、RCTで使用されていたVR技術は、既製のゲームシステムなど、基本的な、あるいは低コストのものだった。 その結果、VR活用リハビリは、代替療法と比べて腕の機能と活動性の回復に対する効果がわずかに高いことが示された(標準化平均差0.20、95%信頼区間0.12〜0.28、67件の研究)。歩行速度に対しては、VR活用リハビリはほとんどまたは全く影響しないことが示唆されたが、エビデンスの確実性は極めて低かった(10件の研究)。さらに、代替療法と比較して、VR活用リハビリはバランス感覚の向上にわずかに有益な可能性があり(同0.26、0.12~0.40、24件の研究)、活動制限を軽減する可能性があるが(同0.21、0.11~0.32、33件の研究)、生活の質(QOL)への影響はほとんど、またはまったくない可能性が示唆された(同0.11、−0.02~0.24、16件の研究)。VR活用リハビリの安全性については、ごく少数の患者に痛みや頭痛、めまいなどが生じたが、概ね安全であることが示唆された。 研究グループは、「現在のVR活用リハビリプログラムのほとんどは、着替えや調理といった機能的能力の回復を助けることではなく動作訓練に重点を置いているため、脳卒中経験者の機能回復を支援するという本来の可能性を生かしきれていない」との見方を示す。Laver氏は、「VR技術は、スーパーマーケットでの買い物や道路の横断など、現実の環境をシミュレートできる可能性を秘めている。つまり、現実世界では安全に実践できないタスクを試すことができるということだ」と話す。その上で同氏は、「研究者らは、さらなる研究により、より洗練された機能重視の治療法を開発する余地が十分にある」と付け加えている。

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薬に頼らず膝の痛みを軽減するには装具がベスト

 ズキズキとした膝の痛みに悩まされている高齢者は少なくないが、薬を使わずに変形性膝関節症(KOA)を治療する確実な方法は数多くあることが、新たなエビデンスレビューで示された。膝装具、水治療法、運動のいずれもがKOAの痛みを効果的に緩和することが示されたという。内江第一人民病院(中国)のYuan Luo氏らによるこの研究の詳細は、「PLOS One」に6月18日掲載された。 Luo氏らは、「これらの治療選択肢は、一般的な鎮痛薬で生じ得る胃腸や心血管などのリスクを伴うことなく痛みを軽減し、関節の可動性を向上させる。患者と臨床医は、これらのエビデンスに基づいた選択肢を優先すべきだ」と述べている。 研究の背景情報によると、60歳以上の10%以上がKOAに罹患している。そのため、特に副作用のない、シンプルで安価な治療法が求められている。 この研究では、9,644人を対象とした139件のランダム化比較試験(RCT)のデータを統合し、薬物を使用しない12種類のKOAの治療法を比較した。12種類の治療法とは、低出力レーザー療法、高強度レーザー療法、経皮的電気神経刺激療法、干渉波電流刺激、短波ジアテルミー、超音波療法、外側ウェッジインソール、膝装具、運動、水治療法、キネシオテーピング、および体外衝撃波療法であった。 解析の結果、WOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)で評価した疼痛スコアの軽減効果が最も高かったのは膝装具であり、運動、高強度レーザー療法がそれに続いた。最も効果が低かったのは超音波療法であった。一方、膝関節の機能の評価で最も効果的だったのも膝装具で、最も効果が低かったのは超音波であった。剛性スコアに関しては、膝装具の有効性が最も高く、運動と水治療法が続いた。WOMAC総スコアに関しては、水治療法が最良の治療法である可能性が最も高く、運動療法と高強度レーザー療法が続いた。最も効果が低かったのは短波ジアテルミーであった。これらの結果に基づき、膝装具が最も効果的だと判断された。 研究グループは、KOAに対する運動療法の選択肢は、「多様であり、有酸素運動と心身運動が痛みと機能に最も大きな効果を示し、筋力強化と柔軟性・技能訓練がそれに次ぐ最良の選択肢であった」と記している。 また研究グループは、「約1万人の患者を対象とした分析により、膝装具や水中運動などのシンプルで手軽な治療法が、超音波などのハイテクな治療法よりも効果的であることが明らかになった。この結果は、より安全かつ低コストな介入に重点を置いた臨床ガイドラインの改訂につながる可能性がある」と述べている。

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けいれんや痛み、麻痺の治療に新たな電極パッドが有用か

 背中に貼り付けたグリッド電極が近い将来、痛みやけいれん、麻痺の治療に役立つ可能性のあることが、新たな研究で示された。この電極を通じて皮膚の上から低電圧の電気刺激を与えることで、脊髄内の神経の機能を短期間、変化させることができたという。米テキサス大学(UT)サウスウェスタン医療センター物理療法学・リハビリテーション医学教授のYasin Dhaher氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Neural Engineering」に4月7日掲載された。 論文の上席著者であるDhaher氏は、体の外側に設置した電極を使って脊髄神経の興奮性を調整できるこの方法は、「侵襲的な脊髄刺激療法を受けられない患者や希望しない患者にとって、有望な代替手段になり得る」とUTのニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、これまでの研究では、体内に埋め込むタイプの電極が脊髄損傷患者の立つ能力や歩く能力の回復を促すなど、麻痺の治療で大きな可能性を持っていることが示されてきた。こうした埋め込み型デバイスは電気で脊髄神経を刺激することで作用するが、埋め込むにはリスクのある手術が必要となり、回復にも時間がかかるという。一方、皮膚に貼り付けた電極で電気刺激を与える試みも以前から行われてきたが、貼り付けた電極パッドが背中全体に電流を広く分散させてしまい、十分な刺激を脊髄に届けられなかったため、効果は限定的であったとDhaher氏らは述べている。 今回報告された新たなアプローチでは、電流を脊髄に対して直線または斜め方向に流せるような配置で4インチ(約10cm)四方の電極パッドを作った。脊髄神経はさまざまな方向に走っているため、このような配置にすることで電気パルスをさまざまな神経の走行パターンに合わせやすくなるとDhaher氏らは考えたのだ。 Dhaher氏らは、健康な17人を対象に胸郭下部の椎骨(T10-T11)の皮膚の上にこの電極パッドを配置して効果を調べた。この部分は、足首を引き上げるなどの足関節の動きに関与する筋肉である前脛骨筋を制御している。実験では、スマートフォンの懐中電灯を点灯させるのに必要な電力の約半分に相当する40mAの低電流を20分間流した。 その結果、この電圧は前脛骨筋を収縮させるほどの刺激にはならないものの、神経細胞の興奮性を変化させることは確認された。その後、最長で30分間、神経の興奮性が低下し、被験者はそれまでよりも足首を曲げるのが難しくなったと感じたという。また、電流を脊髄に対して斜めに流したときの方が、直線的に流したときよりも抑制作用が強くなったこともDhaher氏らは報告している。こうした抑制作用は、筋肉のけいれんの治療や痛みのシグナルの軽減に役立つ可能性があると同氏らは説明している。 一方で、この新たな電極パッドは神経の興奮性を高めるような電気パルスを送ることもできる可能性があり、それによって筋肉をより動かしやすくする効果も期待されている。例えば、足首を曲げる動きを改善するために同じ神経群を刺激することで、歩行時に足のつま先を引きずってしまう「下垂足」と呼ばれる症状の治療に役立つ可能性があるという。 Dhaher氏らはこの新たなデザインの電極パッドについて特許を出願済みであり、今後もその潜在的な使用法について研究を続けていく予定だとしている。

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術後大腸がん患者への運動療法、DFSとOSを改善/NEJM

 前臨床研究および観察研究では、運動が大腸がんを含むがんのアウトカムを改善する可能性が示唆されている。カナダ・アルバータ大学のKerry S. Courneya氏らCHALLENGE Investigatorsは「CHALLENGE試験」において、大腸がんに対する術後補助化学療法終了から6ヵ月以内に開始した3年間の構造化された運動プログラムは、これを行わない場合と比較して、無病生存期間(DFS)を有意に改善し、全生存期間(OS)の有意な延長をもたらすことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月1日号に掲載された。運動の有効性を評価する国際的な無作為化第III相試験 CHALLENGE試験は、カナダとオーストラリアを主とする55施設で実施した無作為化第III相試験であり、2009~24年に参加者を登録した(Canadian Cancer Societyなどの助成を受けた)。 StageIIIまたは高リスクのStageIIの大腸腺がんで、切除術を受け、過去2~6ヵ月の間に術後補助化学療法を完了し、中等度から高強度の身体活動の時間が週に150分相当未満の患者を対象とした。 被験者を、標準的なサーベイランスに加え身体活動と健康的な栄養摂取を奨励する健康教育資料の提供のみを受ける群、または健康教育資料+3年間の構造化運動プログラムを受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目はITT集団におけるDFSとし、無作為化の時点から大腸がんの再発(局所または遠隔)、新規の原発がん、2次がん、全死因死亡のいずれか最初に発現したイベントまでの期間と定義した。5年DFS率は80.3%vs.73.9%、8年OS率は90.3%vs.83.2% 889例を登録し、運動群に445例、健康教育群に444例を割り付けた。全体の年齢中央値は61歳(範囲19~84)、51%が女性で、90%の病変がStageIII、61%が術後補助化学療法としてFOLFOX(フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)を受けていた。ベースラインで、患者報告による中等度から高強度の身体活動の代謝当量(MET)は週に11.5MET・時で、予測最大酸素摂取量は毎分体重1kg当たり30.7mLであり、6分間歩行距離は530mであった。 追跡期間中央値7.9年の時点で、DFSイベントは224例(運動群93例、健康教育群131例)で発現した。DFS中央値は、健康教育群に比べ運動群で有意に延長し(ハザード比[HR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.55~0.94]、p=0.02)、年間イベント発生率は運動群3.7%、健康教育群5.4%であった。また、5年DFS率は、運動群80.3%、健康教育群73.9%だった(群間差:6.4%ポイント[95%CI:0.6~12.2])。 DFSの結果は、健康教育群よりも運動群でOS中央値が長いことを裏付けるものであり(HR:0.63[95%CI:0.43~0.94])、年間死亡率は運動群1.4%、健康教育群2.3%であった。また、8年OS率は、運動群90.3%、健康教育群83.2%だった(群間差:7.1%ポイント[95%CI:1.8~12.3])運動介入による有害事象は10% 36-Item Short Form Survey(SF-36)の身体機能のサブスケールの評価では、ベースラインから6ヵ月(7.1 vs.1.3)、1年(6.8 vs.3.3)、1.5年(7.2 vs.2.4)、2年(6.1 vs.2.6)、3年(6.1 vs.3.0)のいずれの時点においても、健康教育群に比べ運動群で改善度が大きかった。 介入期間中の有害事象は、運動群の351例(82.0%)、健康教育群の352例(76.4%)で発現した。筋骨格系の有害事象は、運動群で79例(18.5%)、健康教育群で53例(11.5%)に発現し、運動群の79例中8例(10%)は運動による介入に関連すると判定された。Grade3以上の有害事象は、運動群で66例(15.4%)、健康教育群で42例(9.1%)に認めた。 著者は、「運動による無病生存期間の改善は、主に肝の遠隔再発(3.6%vs.6.5%)と新規原発がん(5.2%vs.9.7%)の発生が低率であったことに起因しており、運動はさまざまなメカニズムを介して大腸がんの微小転移を効果的に治療し、2次がんを予防する可能性が示唆される」「運動群では、ベースラインから週当たり約10MET・時の中等度から高強度の身体活動の増加という目標を達成し、この増分は約45~60分の速歩を週に3~4回、または約25~30分のジョギングを週に3~4回追加することに相当する」「本試験の結果は、構造化運動プログラムのがんの標準治療への組み込みを支持するものだが、知識だけでは患者の行動やアウトカムを変えることは困難であるため、意味のある運動の増加を達成するには医療システムによる行動支援プログラムへの投資が求められるだろう」としている。

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第248回 骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府

<先週の動き> 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府政府は、医療費削減の一環として「OTC類似薬(市販薬と成分・効果が類似する医療用医薬品)」の保険適用見直しを検討しており、6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」にその方針が盛り込まれた。自民・公明・日本維新の会の3党が合意し、社会保障費抑制と現役世代の保険料軽減を目的としている。見直し対象は、花粉症薬や解熱鎮痛薬、保湿剤、湿布などで、最大で7,000品目とされる。仮に保険給付から除外されれば、患者の自己負担は数千円~数万円単位で跳ね上がる。とくに慢性疾患や難病患者、小児、在宅患者への影響が懸念されている。日本医師会の松本 吉郎会長は18日の記者会見で、「医療提供が可能な都市部と異なり、へき地では市販薬へのアクセスも困難。経済性を優先しすぎれば、患者負担が重くなり、国民皆保険制度の根幹が揺らぐ」と指摘。医療機関での診療や処方の自由度が制限されることにも懸念を示した。また、現場の開業医からも、「処方薬が保険適用外となれば、治療選択肢が狭まり、医師としての判断が制限される」「市販薬への誘導が誤用や副作用を招きかねない」との声が上がっている。とくに皮膚疾患やアレルギー疾患、疼痛管理においては、治療の中核となる薬剤が影響を受けるとされる。6月18日には、難病患者の家族らが約8万5千筆の署名とともに厚生労働省に保険適用継続を要望。厚労省は「具体的な除外品目は未定で、医療への配慮を踏まえて議論する」としているが、今後の制度設計次第で現場への影響は甚大となる可能性がある。次期診療報酬改定との整合性も含め、制度の動向を注視しつつ、患者支援の観点から声を上げていくことが求められる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針2025(内閣府) 2) 市販薬と効果似た薬の保険外し、患者に懸念 医療費節約で自公維合意(日経新聞) 3) 日医会長、3党合意のOTC類似薬見直しに懸念 骨太方針は高評価、次期診療報酬改定に期待(CB news) 4) 「命に関わる」保湿剤・抗アレルギー薬などの“OTC類似薬”保険適用の継続を求め…難病患者ら「8.5万筆」署名を厚労省に提出(弁護士JPニュース) 5) 「OTC類似薬」保険適用の継続を 難病患者家族が厚労省に要望書(NHK) 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など新型コロナウイルス感染症におけるワクチン接種の効果と課題が、複数の研究から改めて浮き彫りになっている。東京大学の古瀬 祐気教授らの推計によれば、2021年に国内で行われたワクチン接種がなければ、死者数は実際より2万人以上増えていたとされる。ワクチン接種の開始が3ヵ月遅れた場合、約2万人の追加死亡が生じた可能性があり、接種のタイミングが公衆衛生に与える影響の大きさが示された。一方、接種を妨げた要因として「誤情報」と「孤独感」の影響が注目されている。同チームの調査では、誤情報を信じた未接種者が接種していれば、431人の死亡を回避できたとの推計もなされている。さらに、東京科学大学らの研究では、若年層のワクチン忌避行動に「孤独感」が強く影響していたことが判明した。都内の大学生を対象とした調査では、孤独を感じる学生は、感じない学生と比べてワクチンをためらう傾向が約2倍に上った。社会的孤立(接触頻度)とは異なり、孤独感という主観的要因がワクチン行動に与える心理的影響が独立して存在することが示された。東京都健康長寿医療センターの研究でも、「孤独感」はコロナ重症化リスクを2倍以上高めるとの結果が示されており、孤独感が接種率の低下だけでなく、重症化リスクの増大にも寄与している可能性がある。今後の感染症対策では、誤情報対策だけでなく、心の健康や社会的つながりを強化する施策が、接種率の向上および重症化予防の両面において重要になると考えられる。次のパンデミックに備えるためにも、若年層に対する心理的支援や信頼形成のアプローチが不可欠である。 参考 1) 若年層のワクチン忌避、社会的孤立より“孤独感”が影響(東京科学大学) 2) ワクチン接種をためらう若者 孤独感が影響 東京科学大など調査(毎日新聞) 3) 接種遅れればコロナ死者2万人増 21年、東京大推計(共同通信) 4) 「孤独感」はコロナ感染症の重症化リスクを高める、今後の感染症対策では「心の健康維持・促進策」も重要-都健康長寿医療センター研究所(Gem Med) 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協厚生労働省は、6月18日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、2026年度の診療報酬改定に向け、「かかりつけ医機能」の診療報酬評価の見直しについて検討した。今年の医療法改正により医療機関機能(高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、急性期拠点機能など)報告制度が始まったことを踏まえ、「機能強化加算」や地域包括診療料などの体制評価が現状に即しているかが問われている。厚労省は6月に開かれた「入院・外来医療等の調査・評価分科会」で、医療機関が報告する「介護サービス連携」「服薬の一元管理」などの機能は診療報酬で評価されているが、「一次診療への対応可能疾患」など一部機能は報酬上の裏付けがない点を指摘。これに対し支払側委員からは、既存加算は制度趣旨に適さず、17領域40疾患への対応や時間外診療など実態に即した再評価を求める声が上がった。また、診療側からは、看護師やリハ職の配置要件など「人員基準ありきの報酬」が現場に過度な負担を強いており、患者アウトカムや診療プロセスを評価軸とすべきとの意見も強調された。とりわけリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は基準が厳しく、取得率が1割未満に止まっている現状が報告された。今後の改定論議では、「構造(ストラクチャー)」評価から「プロセス」「アウトカム」重視への段階的な移行とともに、新たな地域医療構想や外来機能報告制度との整合性が問われる。かかりつけ医機能の再定義とそれを支える診療報酬のあり方は、地域包括ケア時代における制度の根幹をなす論点となる。 参考 1) 第609回 中央社会保険医療協議会 総会(厚労省) 2) 「かかりつけ医機能」の診療報酬見直しへ 機能強化加算など、法改正や高齢化踏まえ(CB news) 3) 診療側委員「人員配置の要件厳し過ぎ」プロセス・アウトカム重視を主張(同) 4) 2026年度診療報酬改定、「人員配置中心の診療報酬評価」から「プロセス、アウトカムを重視した診療報酬評価」へ段階移行せよ-中医協(Gem Med) 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省2025年4月時点でオンライン診療を厚生労働省に届け出た医療機関数が1万3,357施設に達し、前年より2,250件増加したことが厚労省の報告で明らかになった。届け出数は、初診からのオンライン診療が恒久化された2022年以降増加傾向にあり、対面診療全体に占める割合も2022年の0.036%から2023年は0.063%に上昇した。厚労省の分析によれば、オンライン再診では精神疾患の割合が高く、2024年7月の算定データでは「適応障害」が最多で8,003回(9.1%)、次いで高血圧症や気管支喘息、うつ病などが続いた。とくに対面診療が5割未満の施設では、再診での適応障害(22.2%)やうつ病、不眠症など精神科領域の算定が顕著だった。この結果から中央社会保険医療協議会(中医協)の分科会では、「オンラインと対面での診療内容の差異を調査すべき」との指摘もあった。こうした中、日本医師会は6月18日、「公益的なオンライン診療を推進する協議会」を発足。郵便局などを活用した地域支援型の導入モデルを想定し、医療関係4団体や自治体、関係省庁、郵政グループとともに初会合を行った。松本 吉郎会長は「利便性や効率性のみに偏らず、安全性と医療的妥当性を担保した導入が不可欠」と強調し、とくに医療アクセスに困難を抱える地域、在宅医療、災害・感染症時の手段としての有効性に言及した。郵便局のインフラを活用した実証事業も一部地域で始動しており、診療報酬制度の課題、患者負担への配慮、医師会・自治体との連携が今後の焦点となる。 参考 1) オンライン診療に1.3万施設届け出 厚労省調べ、4月時点(日経新聞) 2) オンライン再診、精神疾患の割合が高く 厚労省調べ(CB news) 3) オンライン診療で医産官学の協議会発足 郵便局など活用で連携を強化(同) 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省厚生労働省は6月19日、医療療養病床から介護施設などへの転換を支援する「病床転換助成事業」の今後の在り方について、社会保障審議会・医療保険部会で実態調査結果を報告した。2008年度に開始され、これまでに7,465床の転換に活用されたが、今後の活用予定医療機関は2025年度末時点で1.4%、2027年度末でも3.0%に止まり、活用実績も病院7.3%、有床診療所3.7%と低迷している。事業延長については委員の間で意見が分かれ、健康保険組合連合会の佐野 雅宏委員らは既存支援策との重複や利用率の低さを理由に廃止を主張。一方、日本医師会の城守 国斗委員は、申請手続きの煩雑さや認可の遅れがネックとなっていると指摘し、当面の延長と支援対象の拡大を提案した。今後、厚労省は部会の意見を整理し、年度内に方針を提示する見通し。地域医療の再編を進める上で、同事業の位置付けと実効性が改めて問われている。 参考 1) 病床転換助成事業について(厚労省) 2) 病床転換の助成事業、活用予定の医療機関1-3% 事業の延長に賛否 医療保険部会(CB news) 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省痩身やリフトアップ目的で人気を集めるHIFU(高密度焦点式超音波)による美容医療で、違法施術により重篤な被害を受けた事例が再び注目を集めている。2021年に東京都内のエステサロンで医師免許のない施術者からHIFUを受け、重度のやけどを負った女性が損害賠償を求め提訴。2025年6月、エステ側が謝罪し、解決金を支払う形で和解が成立した。厚生労働省は2024年6月、「HIFU施術は医師による医療行為であり、非医師が行うことは医師法違反」と明確化したにもかかわらず、違法施術による健康被害は依然として後を絶たない。美容医療に起因する健康被害の相談件数は2023年度に822件と、5年前の1.7倍に増加。熱傷、重度の形態異常、皮膚壊死などの深刻な合併症が報告されている。こうした背景から、東京・新宿の春山記念病院では、美容医療トラブル専門の救急外来を本格的に開始。美容クリニックと施術情報の事前共有を行うなど、連携体制を整備している。厚労省も、美容医療を提供する医療機関に対し、合併症時の対応マニュアル整備や他院との連携構築、相談窓口の報告を義務化する方向で検討を進めている。医師が美容医療に携わる場合は、医療行為の厳密な定義のもと、適切な説明責任とアフターフォロー体制の構築が不可欠である。また、美容分野に参入する無資格者の排除に加え、トラブル患者の受け皿となる救急医療体制との連携も、今後の制度整備における重要課題となる。 参考 1) 「やせる」美容医療でやけど、エステ店側と和解 被害「氷山の一角」(朝日新聞) 2) 医師以外の「ハイフ施術」でやけど エステサロンと被害女性が和解(毎日新聞) 3) “美容施術 HIFUでやけど” 会社が謝罪し解決金で和解成立(NHK) 4) 美容医療トラブルに特化した救急外来が本格開始 東京 新宿(同)

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英語で「肉離れ」は?馴染のある動詞を使って表現!【患者と医療者で!使い分け★英単語】第23回

医学用語紹介:肉離れ muscle strain「肉離れ」のことを英語でmuscle strainといいますが、肉離れについて説明する際、患者さんにstrainと言っても通じなかった場合、何と言い換えればいいでしょうか?講師紹介

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2025年版 心不全診療ガイドライン改訂のポイント(後編)【心不全診療Up to Date 2】第2回

2025年版 心不全診療ガイドライン改訂のポイント(後編)Key Point予防と早期介入の重視:心不全リスク段階(ステージA)に慢性腎臓病(CKD)を追加し、発症前の予防的アプローチを強化薬物療法の進展:SGLT2阻害薬が左室駆出率を問わず基盤治療薬となり、HFpEF/HFmrEFや肥満合併例への新薬(フィネレノン、インクレチン関連薬など)推奨を追加包括的・患者中心ケアへの転換:地域連携・多職種連携、急性期からのリハビリテーション、患者報告アウトカム評価、併存症管理を強化し、より統合的なケアモデルを推進前回は、改訂の背景、心不全の定義の変更、薬物治療について解説した。今回は、新規疾患概念とその治療や評価法にフォーカスして改訂ポイントを紹介する。4. 原疾患(心筋症)に対する新たな治療心不全の原因となる特定の心筋症に対して、近年の治療の進歩を反映した新たな推奨が追加された。とくに、肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy:HCM)、心アミロイドーシス、心臓サルコイドーシスに関する記載が更新されている1)。肥大型心筋症(HCM)症候性(NYHAクラスII/III)の閉塞性HCM(HOCM)に対して、心筋ミオシン阻害薬であるマバカムテンが新たな治療選択肢として推奨された。日本循環器学会(JCS)からはマバカムテンの適正使用に関するステートメントも発表されており、投与対象(LVEF≥55~60%、有意な左室流出路圧較差)、注意事項(二次性心筋症除外など)、投与中のモニタリング(LVEF低下時の休薬基準など)、併用薬(β遮断薬またはCa拮抗薬との併用が原則)、処方医・施設の要件が詳細に規定されている。マバカムテンはHCMの病態生理に直接作用する薬剤であり、その導入には厳格な管理体制が求められる。トランスサイレチン型心アミロイドーシス (ATTR-CM)ATTR-CMに対する新たな治療薬として、ブトリシラン(RNA干渉薬)およびアコラミジス(TTR安定化薬)の推奨が追加された。これらの推奨は、HELIOS-B試験(ブトリシラン)2)やATTRibute-CM試験(アコラミジス)3)などの臨床試験結果に基づいたものである。これらの新しい治療法の登場は、特定の心筋症に対して、その根底にある分子病理に直接介入する標的療法の時代の到来を告げるものである。マバカムテンはHCMにおけるサルコメアの過収縮を、ブトリシランはTTR蛋白の産生を抑制し、アコラミジスはTTR蛋白を安定化させる。これらは、従来の対症療法的な心不全管理を超え、疾患修飾効果が期待される治療法であり、精密医療(Precision Medicine)の進展を象徴している。この進展は、心不全の原因精査(特定の心筋症の鑑別診断)の重要性を高めるとともに、これらの新規治療薬の適正使用とモニタリングに関する専門知識を有する医師や施設の役割を増大させる。遺伝学的検査の役割も今後増す可能性がある。表2:特定の心筋症に対する新規標的治療薬(2025年版ガイドライン追記)画像を拡大する5. 特殊病態・新規疾患概念心不全の多様な側面に対応するため、特定の病態や新しい疾患概念に関する記述が新たに追加、または拡充された1)。心房心筋症心房自体の構造的、機能的、電気的リモデリングが心不全(とくにHFpEF)や脳卒中のリスクとなる病態概念であるため追加中性脂肪蓄積心筋血管症細胞内の中性脂肪分解異常により心筋や血管に中性脂肪が蓄積する稀な疾患概念であり、診断基準を含めて新たに記載高齢者/フレイル高齢心不全患者、とくにフレイルを合併する患者の評価や管理に関する配慮が追加腫瘍循環器学がん治療(化学療法、放射線療法など)に伴う心血管合併症や、がんサバイバーにおける心不全管理に関する記述が追加これらの項目の追加は、心不全が単一の疾患ではなく、多様な原因や背景因子、そして特定の患者集団における固有の課題を持つことを反映している。6. 診断・評価法の強化心不全の診断精度向上と、より包括的な患者評価を目指し、新たな診断・評価法に関する推奨が追加された。遺伝学的検査特定の遺伝性心筋症や不整脈が疑われる場合など、適切な状況下での遺伝学的検査の実施に関する推奨とフローチャートが追加ADL/QOL/PRO評価日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)、生活の質(QOL)、患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcomes:PROs)の評価が、単なる生活支援の指標としてだけでなく、予後予測因子としても重要であることが位置付けられた。Barthel Index、Katz Index(ADL評価)、Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire(KCCQ)、Minnesota Living with Heart Failure Questionnaire(MLHFQ[PRO評価の1つ])などの具体的な評価ツールの活用を推奨リスクスコア予後予測のためのリスクスコアの活用に関する項目が追加BNP/NT-proBNPスクリーニングステージAからステージBへの進展リスク評価のためのBNP/NT-proBNP測定を推奨これらの診断・評価法の強化は、従来の心機能評価(LVEF、バイオマーカーなど)に加え、遺伝的背景、実際の生活機能、そして患者自身の主観的な評価を取り入れた、より多面的で患者中心の評価へと向かう流れを示している。とくにADL、QOL、PROの重視は、心不全治療の目標が単なる生命予後の改善だけでなく、患者がより良い生活を送れるように支援することにある、という考え方を反映している。臨床医は、これらの評価法を日常診療に組み込み、より個別化された治療計画の立案や予後予測に役立てることが求められる。7. 社会的側面への対応:地域連携・包括ケアの新設心不全患者の療養生活を社会全体で支える視点の重要性が増していることを受け、「地域連携・地域包括ケア」に関する章が新たに設けられた。これは今回の改訂における大きな特徴の1つである。この章では、病院完結型医療から地域完結型医療への移行を促すため、以下のような多岐にわたる内容が盛り込まれている。多職種連携医師、看護師(とくに心不全療養指導士1))、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、栄養士、ソーシャルワーカーなど、多様な専門職が連携し、患者中心のケアを提供する体制の重要性を強調4)。地域連携病院、診療所(かかりつけ医)、訪問看護ステーション、薬局、介護施設、行政などが緊密に連携し、情報共有や役割分担を通じて、切れ目のないケアを提供するネットワーク構築の必要性を明示4)。デジタルヘルス・遠隔モニタリングスマートフォンアプリ、ウェアラブルデバイス、植込み型デバイスなどを活用した遠隔モニタリングやオンライン診療が、患者の状態のリアルタイム把握、早期介入、再入院予防、治療の最適化、医療アクセス向上に貢献する可能性のあるツールとして正式に位置付け1)社会復帰・就労支援患者の社会生活への復帰や就労継続を支援するための情報提供や体制整備の必要性についても言及この新設された章は、心不全管理が単なる医学的治療に留まらず、患者の生活全体を地域社会の中で包括的に支えるシステムを構築する必要があるという、パラダイムシフトを明確に示している。これは、心不全を慢性疾患として捉え、急性期治療後の長期的な安定維持とQOL向上には、医療、介護、福祉、そしてテクノロジーが一体となった支援体制が不可欠であるとの認識に基づいている。8. 急性非代償性心不全の管理急性非代償性心不全(Acute Decompensated Heart Failure:ADHF)の病態評価と治療に関して、より精緻な管理を目指すための改訂が行われた。WHFとDHFの定義追加心不全の悪化に関する用語として、心不全増悪(Worsening Heart Failure:WHF)と非代償状態(Decompensation:DHF)の定義が明確化。WHF既知の心不全患者において、症状や徴候が悪化する状態。LVEF低下やBNP上昇などの客観的所見を伴う場合もある。慢性心不全の進行や治療反応性の低下を示唆する。DHF慢性的に代償が保たれていた心不全が、何らかの誘因により急激に代償不全に陥り、体液貯留や低心拍出症状が顕在化する状態。緊急治療を要することが多い。ADHFは、このDHFの中でもとくに緊急性の高い重症病態(呼吸不全、ショックなど)を指す。移行期管理の推奨追加ADHFによる入院治療後、安定した代償状態へと移行する期間(移行期)の管理に関する知見と推奨が新たに追加。とくに、退院後90日間は再入院リスクが非常に高い「脆弱期(vulnerable phase)」と定義され、この期間における多職種による集中的な介入(心臓リハビリテーション、服薬指導、栄養指導、訪問看護、ICT活用など)の重要性を強調する。これらの改訂は、急性増悪時の病態をより正確に把握し(WHF/DHF/ADHFの区別)、とくに退院後の不安定な時期(脆弱期)における管理を強化することで、再入院を防ぎ、長期的な予後改善を目指す戦略を明確にしている。これは、急性期治療の成功を入院中だけでなく、退院後のシームレスなケアへと繋げることの重要性を示唆しており、後述する急性期リハビリテーションや前述の地域連携・多職種連携の強化と密接に関連している。臨床現場では、標準化された定義に基づいた病態評価と、脆弱期に焦点を当てた構造化された退院後支援プログラムの導入が求められる。9. 急性期リハビリテーションの推奨強化心不全診療におけるリハビリテーションの重要性が再認識され、とくに急性期からの早期介入に関する包括的な記述と推奨が大幅に強化された。早期介入の意義入院早期からの運動療法を含む心臓リハビリテーションが、「切れ目のないケア」の中核として位置付けられた。ACTIVE-ADHF試験などの国内エビデンスも引用され4)、早期介入が運動耐容能、ADL、認知機能、QOLの改善に寄与し、予後を改善する可能性が示されている。この改訂は、リハビリテーションを、従来の外来での安定期患者向けサービスという位置付けから、急性期入院時から開始されるべき心不全治療の不可欠な構成要素へと転換させるものである。心不全による身体機能低下やフレイルの進行を早期から抑制し、円滑な在宅復帰と地域での活動性維持を支援する上で、リハビリテーション専門職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)の役割が極めて重要であることを示している。今後は、急性期医療チームへのリハビリテーション専門職の積極的な参画、早期離床・運動療法プロトコルの標準化、そして退院後の継続的なリハビリテーション提供体制(遠隔リハビリ含む)の整備が課題となる。10. 併存症管理の重点化心不全患者においては多くの併存疾患が存在し、それらが予後やQOLに大きな影響を与えることから、主要な併存症の管理に関する記載と推奨が強化された。とくに重要視される併存症として、以下のものが挙げられ、それぞれの管理戦略に関する最新の知見が盛り込まれている。慢性腎臓病(CKD)・心腎症候群心不全とCKDは密接に関連し、相互に悪影響を及ぼす。腎機能に応じた薬物療法(用量調節)の必要性とともに、SGLT2阻害薬やフィネレノンなど心腎保護効果を有する薬剤の積極的な活用を推奨。肥満とくにHFpEFにおいて、肥満は重要な治療ターゲットであり、GLP-1受容体作動薬などの抗肥満薬が症状改善に寄与する可能性が示唆。糖尿病SGLT2阻害薬は心不全と糖尿病の両方に有効な治療選択肢である。GLP-1受容体作動薬も考慮される。血糖管理だけでなく、心血管リスク低減を考慮した薬剤選択が重要となる。高カリウム血症RAS阻害薬やMRA使用時に問題となりうるため、モニタリングと管理(食事指導、カリウム吸着薬など)に関する注意喚起がなされている。貧血・鉄欠乏鉄欠乏は心不全症状や運動耐容能低下に関与し、診断と治療(経静脈的鉄補充療法など)が推奨される。抑うつ・認知機能障害・精神心理的問題これらの精神神経系の併存症はQOL低下やアドヒアランス不良につながるため、スクリーニングと適切な介入(精神科医との連携含む)の重要性が指摘されている。おわりに2025年版心不全診療ガイドラインは、近年のエビデンスに基づき、多岐にわたる重要な改訂が行われた。とくに、心不全発症前のリスク段階(ステージA/B)からの予防的介入、CKDの重要性の強調、LVEFによらずSGLT2阻害薬が基盤治療薬となったこと、特定の心筋症に対する分子標的治療の導入、急性期から慢性期、在宅までを見据えたシームレスなケア体制(急性期リハビリテーション、移行期管理、地域連携、多職種連携、デジタルヘルス活用)の重視、そして併存症や患者報告アウトカム(PRO)を含めた包括的・患者中心の管理へのシフトは、本ガイドラインの根幹をなす変化点と言える。全体として、本ガイドラインは、心不全診療を、より早期からの予防に重点を置き、エビデンスに基づいた薬物療法を最適化しつつ、リハビリテーション、併存症管理、患者のQOLや社会的側面にも配慮した、包括的かつ統合的なモデルへと導くものである。本邦の高齢化社会という背景を踏まえ、実臨床に即した指針を提供することを目指している。心不全管理は日進月歩であり、今後も新たなエビデンスの創出が期待される。臨床現場の医療従事者各位におかれては、本ガイドラインの詳細を熟読・理解し、日々の診療にこれらの新たな知見を効果的に取り入れることで、本邦における心不全患者の予後とQOLのさらなる向上に貢献されることを期待したい。 1) Kitai T, et al. Circ J. 2025 Mar 28. [Epub ahead of print] 2) Fontana M, et al. N Engl J Med. 2025;392:33-44. 3) Gillmore JD, et al. N Engl J Med. 2024;390:132-142. 4) Kamiya K, et al. JACC Heart Fail. 2025;13:912-922.

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6月5日 ロコモ予防の日【今日は何の日?】

【6月5日 ロコモ予防の日】〔由来〕「ロ(6)コ(5)モ」と「ろ(6)うご(5)」(老後)と読む語呂合わせから、ロコモティブ・シンドロームの認知度を高め、その予防に関する正しい理解を広めることを目的に「ロコモティブ・シンドローム予防推進委員会」が制定。関連コンテンツ医療・介護施設従事者のための転倒・転落事故へのアプローチ ~転倒・転落事故のメカニズム、予防、事故後フォローのすべて~7つの“ロコモチェック”【Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集】“ロコトレ”とは?【Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集】これから、ロコモ対策、何をやる【Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集】20代より身長4cm以上低下、椎体骨折を疑う/日本整形外科学会

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