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いつもより多めの運動で記憶向上が翌日まで保たれる運動後に認知機能が向上することが実験環境における先立つ試験で示されています。しかしその効果がどれぐらい続くのかはわかっていませんでした。英国の50~83歳の男女76人の日常を調べた新たな試験結果1,2)によると、運動がもたらす記憶の向上はどうやら24時間は続くようです。試験に参加した76人には加速度計(活動量計)を8日間着用してもらい、その記録から運動、座っている時間、睡眠時間やその特徴が調べられました。また、被験者は注意、記憶、精神運動速度(察知と反応の速さ)などの認知機能検査を毎日受けました。社会経済的特徴や生活習慣などを考慮して解析したところ、早歩き、ダンス、階段のぼりなどの心拍数を上げるそこそこ~きつめの運動をいつもより長くすると、翌日の作業記憶(一時的な記憶)やエピソード記憶(過去の経験を思い出すこと)が向上していました。また、より長い(6時間以上)睡眠明けの日はエピソード記憶がより良く、精神運動速度がより速まっていました。一方、座っていることの害がご多分に漏れず示されました。今回の試験ではより長く座って過ごすことと翌日の作業記憶が鈍ることが関連しました。加速度計を装着してもらっている期間に認知機能検査を毎日実施するという、これまでにない類いの試みであることが今回の試験の主な強みであると著者は言っています。そのおかげで、実験環境ではない日常生活における身体活動が翌日の認知機能へ及ぼす影響を明確にすることができました。試験の欠点は、認知障害や認知症ではなく、認知機能が損なわれていない人のみを募ったことです。ゆえに、認知症などの神経認知疾患を有する人が今回と同様の結果を示すかどうかは不明です。また、被験者は非常に活動的だったので、あまり体を動かさない人に今回の結果が当てはまるかも不明です。これまで、運動に伴うしばらくの認知改善は、認知機能に寄与する脳の成分の放出や血流を運動が促すことによるものと考えられてきました。一般的にそのような効果は運動後せいぜい数時間しか続かないようです。しかし運動が引き出す変化には1~2日間(24~48時間)続くものもあるようです。たとえば運動後の気分改善が24時間後に消滅していなかったことが示されています3)。別の試験では記憶維持のfMRI指標の向上が運動後48時間保たれていました4)。そういう長持ちな効果が今回の試験で判明した利点を生み出しているようです。体をよく動かす生活習慣を、それができるようによく眠って保ちつつ歳をとることの大切さを今回の試験結果は示しています5)。参考1)Bloomberg M, et al. Int J Behav Nutr Phys Act. 2024;21:133.2)Short-term cognitive boost from exercise may last for 24 hours / UCL 3)Maroulakis E, et al. Percept Mot Skills. 1993;76:795-801.4)van Dongen EV, et al. Curr Biol. 2016;26:1722-1727.5)Commentary: Exercise boosts memory for up to 24 hours after a workout ‐ new research / UCL