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新たな薬剤、デバイスが続々登場する心不全治療(後編)【東大心不全】

急増する心不全。そのような中、新たな薬剤やデバイスが数多く開発されている。これら新しい手段が治療の局面をどう変えていくのか、東京大学循環器内科 金子 英弘氏に聞いた。前編はこちらからデバイス治療についてはどのような進歩があるのでしょうか。デバイスによる治療でも薬剤と同様に病因に応じて治療を使い分けなければならないのは同様です。その観点から最近着目されているのは、日本人の心不全患者さんの病因として弁膜症が多いと指摘されていることです。これまでに日本人の心不全の約2割、報告によって3割は弁膜症が原因と報告されています。また、弁膜症が本来の原因でなくても、虚血性心筋症や拡張型心筋症では、左室のリモデリングが進行することで僧帽弁の弁輪が拡大した結果、機能性僧帽閉鎖不全症をきたし、さらに予後を悪化させることが知られています。このように考えると日本人の心不全患者では、かなり多くの割合で、心不全の原因として、あるいは心不全の合併症として、弁膜症が関わってくると言えます。心不全の原因として頻度の高い弁膜症は、大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症です。これらに対して、弁形成や弁置換手術ができれば最良ですが、実際には心機能の著しい悪化や高齢などの事情で手術ができない患者さんも少なくありません。この場合、大動脈弁狭窄症では経カテーテル的大動脈弁留置術(Transcatheter Aortic Valve Implantation:TAVI)の適応となり、カテーテルで新しい人工大動脈弁(生体弁)を植え込むことになります。日本では2013年10月に始まり、すでに1万件以上の実績があります。MitraClip治療を行う金子英弘氏。新規デバイス治療は心不全の有力な治療選択肢として期待が集まる。僧帽弁閉鎖不全症では、2018年4月から日本でMitraClip NTシステムが使用できるようになりました。これは僧帽弁の前尖と後尖をつなぎ合わせて僧帽弁の逆流を少なくするカテーテル治療です。僧帽弁閉鎖不全を減らす効果は外科手術には劣るものの、開胸や人工心肺を必要としない低侵襲治療で、心不全の症状改善は外科手術と同等であることが示されています。すでに全世界では7万件の実績がある治療です。また、HFpEFでは、新たな心房間シャントデバイスによる治療が注目を集めています。これは心房中隔に穴を開け、左心房から右心房に圧を逃がすデバイスです。2017年の米国心臓協会(American Heart Association:AHA)学術集会ではこのデバイス留置により、労作時の肺動脈喫入圧が対照群と比べて有意に低下すると報告され、現在大規模な試験が行われています。心不全では治療のみならずモニタリングでもさまざまなデバイスが使用されていますが、この点では注目すべきものはありますか。その点で興味深いのは米国FDAにより初めて承認された心不全モニタリングシステムのCardioMEMS HFシステムです。これは肺動脈の先にセンサーを留置し、患者さんがシステムのボタンを押すだけで、肺動脈圧のトレンドが医療機関に転送されるシステムです。スワンガンツカテーテルを常時留置しているような状態と考えれば良いかもしれません。CardioMEMSに関しては、これを使用した群と使用しなかった群を比較した「CHAMPION」試験が行われ、6ヵ月間の比較期間で使用群では心不全関連の入院リスクが28%、有意に低下したと報告されています。まだ、生命予後を改善するとの確固たるエビデンスまではありませんが、日本国内で心不全の患者さんが増加し、患者さんも通院にすら苦労するケースもある中では非常に有用ではないかと考えています。非専門の先生方に伝えたいメッセージがあればお話しください。心不全の患者さんは現在増加の一途をたどっています。今回のガイドラインで示された心不全の進展ステージAやBの患者さんまで含めると、国内の心不全患者さんあるいは心不全のハイリスクと考えられる患者さんは200万人超になるとの推測もあるほどです。しかし、日本循環器学会が認定する循環器専門医は現在全国で1万5,000人弱です。したがって、すべての心不全患者さんの治療を循環器専門医のみで完結するというのはきわめて困難です。近年では内科医、外科医、コメディカルなどの多職種が連携して心不全の治療に取り組むハートチームの重要性が強調されています。しかしながら、多くの場合、ハートチームは個々の医療機関内での連携です。今回、お話ししたような現状を考えれば、今後重要になるのはそれぞれの地域でハートチームを形成することです。つまり各地域で、心不全の診断や先進的治療を行う専門施設、多くの心不全患者さんの入院や心臓リハビリを行う中規模病院、開業医の先生方やコメディカルによる連携です。その中で開業医の先生方には、心不全の進展ステージでA、Bに分類される患者さんの早期発見やリスク管理、たとえ心不全を発症してステージCに移行しても適切な治療により症状が安定化した患者さんの受け入れ先としての役割を担っていただければと考えています。心不全においてはリハビリテーションも重要な治療になりますし、ステージDとなった患者さんに対する緩和医療も地域の先生方に是非とも取り組んでいただきたい分野だと考えております。そのためにも、今回述べたように、心不全の各ステージにおいて数々の有効な治療法があることをご理解いただければと考えています。前編はこちらから講師紹介

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ゲームリハビリ論文:任天堂 vs.マイクロソフト【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第121回

ゲームリハビリ論文:任天堂 vs.マイクロソフト いらすとやより使用 Nintendo Switchが発売されて久しいですが、医学論文の世界では、「Nintendo」といえばまだWiiなのです。神経筋疾患に対してゲームによるリハビリテーションの報告が相次いでいますが、今回はWiiとXboxを比較した論文を紹介しましょう。任天堂 vs.マイクロソフトの構図です。 Alves MLM, et al.Nintendo WiiTM Versus Xbox KinectTM for Assisting People With Parkinson's Disease.Percept Mot Skills. 2018;125:546-565.ゲームリハビリの対象疾患としてパーキンソン病がよく取り上げられます。ある程度機能障害が限定的で、進行する速度も比較的穏やかであるため、小規模な介入試験で評価しやすいというのがその理由かなと思っています。この研究は、パーキンソン病のリハビリの一環として、任天堂のWiiとマイクロソフトのXbox Kinectの有効性を疑似実験(quasi-experiment)で比較したものです。27人のパーキンソン病患者さんを、Wii群、Xbox群、コントロール群の3つに9人ずつ割り付けて、10セッションのゲームプレイを行いました(コントロール群はセッション介入なし)。その結果、任天堂のWiiに割り付けられたパーキンソン病患者さんだけで、有意に歩行テスト、不安レベル、記憶力などが改善したそうです。ゲームをまったくしていないコントロール群では、こうした改善はみられませんでした。9人ずつの小規模な検討ですし、使うソフトによっても結果が左右されそうに思うので、任天堂が勝ちかどうかはまだわかりません。しかし、時代はもうWiiからSwitchに移っているので、そろそろ医学論文でもSwitchの検討を始めていただきたいところです。

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高齢者の疼痛管理に必要なものとは?

 2018年7月19日より3日間開催された日本ペインクリニック学会 第52回大会(学会長:井関 雅子/テーマ「あなたの想いが未来のペインクリニックを創る」)のジョイント基調講演で「高齢者の疼痛管理に必要なものとは何か?」をテーマに、川井 康嗣氏(仙台ペインクリニック石巻分院 院長)が講演を行った。本稿ではこの講演の概要をお届けする。被災地特有の運動器障害と疼痛 川井氏は、東日本大震災の被災地である石巻・東松島地区で、約4年前からペインクリニックに従事し、主に高齢者の非がん性の痛みのマネジメントを行っている。 高齢者の「痛み」の多くは、加齢によるロコモティブシンドロームなどから起こる運動器障害の痛みであり、腰痛、関節痛および骨粗鬆症・脊椎椎体骨折などの整形外科疾患の痛みが多い。とくに石巻では、現在も狭小な仮設住宅に住む高齢者も多く、不良な生活環境が運動器の痛みの原因になっていることが推察される。また、震災で地域コミュニティが崩壊したこともあり、「生きがいを感じる場所の喪失は日常生活の不活発化~不動化をもたらし、患者に与えている影響は震災後7年を経過した現在でも大きい」と同氏は被災地の現状を語った。こうした高齢患者には良質の鎮痛とともに、不動化を予防するマネジメントが求められる。 不動化が生じている高齢患者の診療では、痛みが改善しても不動化が改善しない場合があり、その中には単なる運動不足ではない、いわゆる「生活不活発病」の症例があるという。これは、生活環境や人間関係の激変・喪失を契機に心身の機能が低下する状態であり、全国の他の被災地でも同様なことが生じているのではないかと危惧している。こうした症例では、「運動器の器質的なアプローチでは不十分であり、心理・社会的アセスメントと地域コミュニティ対策が求められる」と同氏は指摘する。老化の痛みのマネジメント 高齢者の運動アドヒアランスを維持するためには、1~2種類の体操に限定して指示することや、寝たきりが予防できる歩数として1日最低2,000歩以上は歩行するような提案(理想は速歩き20分を含む8,000歩/日:青柳幸利 The Nakanojo Studyより)、積極的な介護保険の申請と利用の推奨などを行う必要がある。また同時に、「医療者からは高齢患者に社会的な関わりを持たせるための工夫(男性ではスポーツ、ゲームなど競争要素のあるもの、女性では人間交流の点で利点の多い運動や趣味を中心に)を来院時に持ち掛けることも運動機能の維持に有益ではないか」と同氏は提案する。今後、こうした運動へのモチーベーションの提供のため、「同世代のサークル募集の張り紙や運動仲間のお誘いポスターを院内に掲示するなどの工夫をしたい」とも話す。 そのほか、高齢者では、退行変性(老化)の痛みを老化ではなく疾患と捉え、治癒を目指して闘っている姿がしばしば見られる。このような症例では、自己の老化を受け入れ、それをマネジメントしていくため、医療者からの丁寧な説明が必要だという。同氏は「医療者は、こうした患者に安易に鎮痛薬を処方するのではなく、薬物療法と同時に、投薬の意義についての教育も重要」と語る。高齢者の薬物療法はチームプレイで当たる 疼痛の薬物治療について、高齢者では出来る限りNSAIDsは慎重に使用し、アセトアミノフェンから使用することが望ましい。最近では、神経障害性疼痛に対する治療薬やオピオイド鎮痛薬が発売され、患者の選択肢は飛躍的に拡大した。しかし、忍容性の低い高齢者では、「細心の薬剤選択と用量調整(マルチモーダル鎮痛法や“start low, go slow”など)や副作用対策が必要となる。そのほか、薬物療法に神経ブロック療法を組み合わせることで、さらに良質な鎮痛が期待できる」と語る。 また、「高齢者では服薬アドヒアランスを維持することが重要で、看護師や薬剤師などを中心としたチームアプローチによって、患者に治療薬の説明や薬物療法の意義についての教育や副作用の相談や対処、残薬の確認などを行う必要がある。そのためにも日ごろから薬剤について学習会などを通じて、医療チーム全体で知識のアップデートを行うことが大事だ」と同氏は提案する。 最後に、「高齢者の疼痛管理では、鎮痛や不動化予防などの目標に加え、生きる自信を与えながら、人生のゴールに向かって苦痛や不安に寄り添う姿勢が求められる。今後も、高齢者が困ったときに、気軽に立ち寄れるようなクリニックを目指し診療を行っていく」と思いを語り、講演を終えた。■参考日本ペインクリニック学会 第52回大会■関連記事診療よろず相談TV シーズンII第21回「腰痛」回答者:福島県立医科大学 医学部 整形外科学講座 教授 紺野 愼一氏

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肩インピンジメント症候群への鏡視下肩峰下除圧術は有効か/BMJ

 鏡視下肩峰下除圧術(arthroscopic subacromial decompression:ASD)は、最も一般的に行われている肩関節手術であり、肩インピンジメント症候群の治療にも用いられる。フィンランド・ヘルシンキ大学病院のMika Paavola氏らは、肩インピンジメント症候群へのASDは、プラセボとしての外科的介入を上回るベネフィットはもたらさないことを無作為化試験(FIMPACT試験)で示し、BMJ誌2018年7月19日号で報告した。最近の3つの系統的レビューでは、肩峰下除圧術の効果は運動療法を凌駕しないと報告されているが、ASDの有効性の評価には、適切な盲検化のために、手術をプラセボとした比較が求められるという。2年後の肩痛の改善度を3群で比較 本研究は、ASDの有用性を、プラセボとしての外科的介入および非手術的選択肢としての運動療法と比較する多施設共同二重盲検無作為化試験である(Sigrid Juselius Foundationなどの助成による)。 2005年2月1日~2015年6月25日の期間に、フィンランドの3つの公立病院に肩インピンジメント症候群の症状がみられる患者(35~65歳)が登録された。被験者(210例)は、手術を行う群(139例)または運動療法を行う群(71例)に無作為に割り付けられた。次いで、手術群は、診断的関節鏡検査(DA)を受けた後、さらにASDを施行する群(59例)またはそれ以上の外科的介入は行わない群(プラセボ群:63例)に無作為に割り付けられた。2年間のフォローアップが行われた。 運動療法群では、標準化されたプロトコールを用いた運動療法が、無作為化から2週間以内に開始された。DA群では、全身麻酔下で、肩甲上腕関節と肩峰下腔の関節鏡検査が行われた。ASD群では、DAを施行後に、肩峰下滑液包切除と、肩峰の骨棘および肩峰下面前外側の突出の切除が行われた。 主要アウトカムは、24ヵ月時の安静時および上肢挙上動作時の肩痛(視覚アナログスケール[VAS]:0[痛みなし]~100[極度の痛み]点)。肩痛VASの、臨床的に意義のある最小変化量の閾値は15点とした。2つの手術群で著明な効果、バイアスの可能性も ベースラインの平均年齢は、ASD群(59例)が50.5歳、DA群(63例)が50.8歳、運動療法群(71例)は50.4歳で、女性がそれぞれ71%、73%、66%を占めた。安静時VASの平均スコアは、41.3点、41.6点、41.7点、上肢動作時VASの平均スコアは、71.2点、72.3点、72.4点だった。 intention to treat解析では、ベースラインから24ヵ月時までに、ASD群、DA群ともに2つの主要アウトカムが著明に改善した(ASD群は安静時の肩痛VASが36.0点、上肢動作時の肩痛VASが55.4点に低下、DA群はそれぞれ31.4点、47.5点に低下)。肩痛VASの群間差(ASD群-DA群)は、安静時が-4.6点(95%信頼区間[CI]:-11.3~2.1、p=0.18)、上肢動作時は-9.0点(-18.1~0.2、p=0.054)と、いずれも有意差を認めなかった。 副次評価項目(Constant-Murleyスコア、Simple shoulder testスコア、15Dスコアなど)は、いずれもASD群とDA群に有意な差はみられなかった。 ASD群と運動療法群の比較では、ベースラインから24ヵ月時までに、両群とも2つの主要アウトカムが著明に改善し、肩痛VASの群間差(ASD群-運動療法群)は、安静時が-7.5点(95%CI:-14.0~-1.0、p=0.023)、上肢動作時は-12.0(-20.9~-3.2、p=0.008)であり、いずれもASD群の効果が有意に優れたが、両群間の平均差は事前に規定された臨床的に意義のある最小変化量を上回らなかった。 注意すべき点として、ASD群と運動療法群の比較では、非盲検による交絡だけでなく、2回目の無作為化の前にDAの結果などに基づき、手術群から予後不良の可能性が高い患者17例(12%)が除外されたが、運動療法群ではこれに相当する除外は行われておらず、結果としてASD群に有利となるバイアスが生じた可能性がある。 著者は、「ASDとDAは、いずれも痛みおよび機能的アウトカムを著明に改善し、有害事象の発生にも差はなかったが、ASDにはDAを超える効果を認めなかった」とまとめ、「これらの知見は、実臨床における肩インピンジメント症候群への肩峰下除圧術の施行を支持しない」と結論している。

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黄色靭帯骨化症〔OLF:ossification of ligamentum flavum〕

1 疾患概要■ 概念・定義脊柱は、脊椎骨が椎間板と椎間関節を介して上下に積み重なって構成されている。前縦靭帯と後縦靭帯が、頸椎から腰椎まで連続して脊椎骨と椎間板を連結し、前後左右にずれることを防いでいる。黄色靭帯は脊柱管内の椎弓の前面にあって、1椎間ごとに上下の脊椎骨を連結する。このうち、黄色靭帯および後縦靭帯が骨化すると、脊髄を圧迫して麻痺の原因となる。無症候性の骨化も多く、画像上骨化を認めるだけでは疾患として認めないという考え方もある。■ 疫学黄色靱帯骨化症(ossification of ligamentum flavum:OLF)は、全脊柱に発生するが、頸椎では組織学的には靱帯骨化症と異なり、靭帯内に石灰が沈着する石灰化症であることが多い。骨化の存在証明には単純X線所見による診断は不正確で、CT検査が必要である。MRI検査では脊髄の圧迫の有無を確認できるが、骨化か石灰化かの区別はしにくい。15歳より高年齢の患者で、撮影済みの胸部CT所見3,013例(男性1,752例、女性1,261例)を調査した結果では、胸椎の黄色靭帯骨化症は1,094例2,051椎間に認められた1)。平均年齢は66歳で、男性の38%、女性の34%に当たり、30歳以後はすべての年代で30~40%の頻度でみられた。また、高位別には第4胸椎/第5胸椎間と第10胸椎/第11胸椎間の二峰性のピークをなす。ただし、これは黄色靭帯骨化が胸椎にみられる頻度を示した研究であり、症状の有無は不明である。厚生労働省の特定疾患の登録者は、平成28年には5,290人であり、頸椎後縦靭帯骨化症の38,039人よりもかなり少ない。■ 病因脊柱靱帯骨化症の一部分症であり、厳密な原因は不明である。遺伝的な背景を持つ全身的な靭帯骨化傾向に、局所的かつ動的な機械的ストレスが加わって生じると考えられている。発症年齢は比較的高齢者に多いが、胸腰椎移行部に投球動作によってストレスが加わりやすい野球のピッチャーでは比較的若年の発症が認められる。病理学的には正常で80%の弾性線維と20%の膠原線維から構成される黄色靭帯において、膠原線維比率が増加し、軟骨組織の出現を認める。軟骨組織は周囲基質の石灰化を伴い、次第に骨化を形成するという内軟骨性骨化を来す。ただ、一部には膜性骨化を認めることもある2)。一方、黄色靭帯石灰化症は、変性した弾性線維内にピロリン酸カルシウムやハイドロキシアパタイトの結晶が腫瘤状に沈着して、脊髄・馬尾障害を生じる病態である3)。■ 症状頸椎黄色靭帯石灰化症や胸椎黄色靭帯骨化症では脊髄障害が出現する。初発症状として上下肢のしびれ、感覚障害のほか、脱力感、痛み、局所痛などが出現する。進行すると下肢のしびれや痙性、筋力低下などによる歩行障害が生じ、日常生活に障害を来す。麻痺が高度になれば横断性脊髄麻痺となり、膀胱直腸障害も出現する。腰椎でも黄色靭帯骨化症が発生すれば、腰部脊柱管狭窄症による間欠跛行と同じように、歩行による下肢痛やしびれの増強がみられる。神経学的には頸椎や胸椎の脊髄障害では下肢腱反射の亢進と感覚障害が生じるが、筋力は比較的保たれることが多い。胸腰椎移行部の脊髄円錐付近で脊髄が圧迫されると、腱反射低下や膀胱直腸障害、筋萎縮を来すことがある。■ 分類骨化は、横断面では多くの場合にはもとの黄色靭帯の表面に沿って発生し、脊柱管を狭める(図1)。まれに正中部にも発生する。矢状面(側面)では黄色靭帯骨化は脊柱管内に大きく突出し、脊髄圧迫を来す(図2)。現時点ではコンセンサスを得ている形態分類はない。画像を拡大する画像を拡大する■ 予後いったん脊髄症状が出現すると自然回復の可能性は低く、進行性に悪化する。転倒などの軽微な外傷で、急に麻痺の発生や増悪を来すことがあり、早急に手術を行う必要がある。しかし、神経症状なしに、たまたま見つかった骨化は経過を観察してもよい。予防手術は一般的に行われることはなく、手術は下肢神経症状が出たときに考慮する。ただし、症状がなくても脊柱靱帯骨化症の一部分の病気と考えられるので頸椎、胸椎、腰椎の画像検査が勧められる。骨化症が存在することが判明すれば、定期的な画像検査を行ったほうがよい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)指定難病としての診断基準は次のとおりである。診断基準黄色靱帯骨化症1.主要項目1) 自覚症状ならびに身体所見(1)四肢・躯幹のしびれ、痛み、感覚障害(2)四肢・躯幹の運動障害(3)膀胱直腸障害(4)脊柱の可動域制限(5)四肢の腱反射異常(6)四肢の病的反射2) 血液・生化学検査所見一般に異常を認めない。3) 画像所見(1)単純X線側面像で、椎間孔後縁に嘴状・塊状に突出する黄色靱帯の骨化像がみられる。(2)CT脊柱管内に黄色靭帯の骨化がみられる。(3)MRI靱帯骨化巣による脊髄圧迫がみられる。2.鑑別診断強直性脊椎炎、変形性脊椎症、強直性脊椎骨増殖症、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、脊柱奇形、脊椎・脊髄腫瘍、運動ニューロン疾患、痙性脊髄麻痺(家族性痙性対麻痺)、多発ニューロパチー、脊髄炎、末梢神経障害、筋疾患、脊髄小脳変性症、脳血管障害、その他。3.診断画像所見に加え、1.に示した自覚症状ならびに身体所見が認められ、それが靱帯骨化と因果関係があるとされる場合、本症と診断する。4.特定疾患治療研究事業の対象範囲下記の(1)、(2)の項目を満たすものを認定対象とする。(1)画像所見で黄色靭帯骨化が証明され、しかもそれが神経障害の原因となって、日常生活上支障となる著しい運動機能障害を伴うもの。(2)運動機能障害は、日本整形外科学会頸部脊椎症性脊髄症治療成績判定基準(表)の上肢運動機能 Iと下肢運動機能 IIで評価・認定する。頸髄症:I 上肢運動機能、II 下肢運動機能のいずれかが2点以下(ただし、I、IIの合計点が7点でも手術治療を行う場合は認める)胸髄症あるいは腰髄症:II 下肢運動の評価項目が2点以下(ただし、3点でも手術治療を行う場合は認める)表 日本整形外科学会頸部脊椎症性脊椎症治療成績判定基準(抜粋)I 上肢運動機能0.箸又はスプーンのいずれを用いても自力では食事をすることができない。1.スプーンを用いて自力で食事ができるが、箸ではできない。2.不自由ではあるが、箸を用いて食事ができる。3.箸を用いて日常食事をしているが、ぎこちない。4.正常注1きき手でない側については、ひもむすび、ボタンかけなどを参考とする。注2スプーンは市販品を指し、固定用バンド、特殊なグリップなどを使用しない場合をいう。II 下肢運動機能0.歩行できない1.平地でも杖又は支持を必要とする。2.地では杖又は支持を必要としないが、階段ではこれらを要する。3.平地・階段ともに杖又は支持を必要としないが、ぎこちない。4.正常注1平地とは、室内又はよく舗装された平坦な道路を指す。注2支持とは、人による介助、手すり、つかまり歩行の支えなどをいう。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)症状が局所痛など軽い場合は、薬物療法などで経過をみるが、脊髄症状が明らかな症例には手術を勧める。椎弓を切除して骨化を摘出することで、神経組織の圧迫を解除する。骨化を摘出することで椎間関節が失われる場合には、後方固定術を追加する。4 今後の展望後縦靭帯骨化症に関しては、疾患関連遺伝子に関する研究が進んでいるが、黄色靭帯骨化症に限定した遺伝的研究はない。今後は、関連遺伝子の機能解析を進めることにより、骨化形成を阻害する薬剤の開発が望まれる。5 主たる診療科脊椎脊髄病に精通した整形外科または脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 黄色靭帯骨化症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本整形外科学会 後縦靱帯骨化症・黄色靭帯骨化症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Mori K, et al. Spine. 2014;39:394-399.2)吉田宗人. 脊椎脊髄. 1998;11:491-497.3)山室健一ほか. 脊椎脊髄. 2007;20:125-130.公開履歴初回2018年07月10日

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経済レベルの異なる国々における脳卒中診療パターンと転帰(中川原譲二氏)-883

 低・中所得国では脳卒中が人々にもたらす影響にはばらつきがある。高所得国では、脳卒中の診療と転帰における改善が報告されているが、低・中所得国での診療の状況と転帰についてはほとんど知られていない。著者ら(英国・グラスゴー大学のPeter Langhorne氏ら)は、経済レベルの異なる国々における実施可能な診療のパターンと患者転帰との関係を比較検討した。32ヵ国、142ヵ所の医療機関が参加した観察研究 研究グループは2007年1月11日~2015年8月8日にかけて、32ヵ国142ヵ所の医療機関を通じて、「INTERSTROKE」研究に参加した1万3,447例の脳卒中患者を対象に、診療の違い(用いられた治療と医療機関へのアクセス)のパターンと効果について検討を行った。また、研究に参加した施設に対して、患者データに加え、健康管理や脳卒中の診療設備に関する情報を調査票により収集した。患者層特性と診療区分に対して単変量・多変量解析を行い、利用できる医療機関、提供された治療と、1ヵ月時点の患者転帰との関連を分析した。脳卒中ケアユニットでの治療や適切な抗血小板療法は、転帰を改善 被験者のうち、すべての情報を得られたのは1万2,342例(92%)だった(28ヵ国108病院)。そのうち、高所得国の被験者は2,576例(10ヵ国38病院)、低・中所得国は9,766例(18ヵ国70病院)だった。低・中所得国の患者は高所得国に比べ、重篤な脳卒中や脳内出血が多く、診療へのアクセスが不十分で、検査や治療の利用が少なかった(p<0.0001)。また、低・中所得国の転帰不良は、患者層特性の違いのみによるものだった。一方、所得に関係なくすべての国において、脳卒中ケアユニットへのアクセスが、検査や治療の利用の改善、リハビリテーション・サービスへのアクセス、重症度によらない生存率の改善と関連していた(オッズ比[OR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.14~1.44、p<0.0001)。それらは、患者層特性や診療の他の評価法とも独立していた。また、急性期の抗血小板療法は、患者層や診療の特性にかかわらず、生存率を改善した(OR:1.39、95%CI:1.12~1.72)。低・中所得国では、診療とその提供体制の改善が不可欠 以上から、低・中所得国では、エビデンスに基づく治療や診断、および脳卒中ケアユニットが、まれにしか活用されていないことが明らかにされた。一方で、脳卒中ケアユニットへのアクセスや抗血小板療法の適切な使用は、転帰の改善と関連していることも示された。したがって、低・中所得国では、診療とその提供体制の改善が、転帰の改善に不可欠であると解釈される。高所得国に恥じない脳卒中診療提供体制の構築が課題 脳卒中診療では、診療提供体制の改善が、転帰の改善に不可欠であることは、低・中所得国に限らず、高所得国であるわが国においても、当てはまる。わが国で2005年に一般臨床での使用が承認された急性期脳梗塞に対するt-PA静注療法は、診療施設における脳卒中ケアユニットの運用と一体のものとして導入された。また、近年エビデンスが確立した急性期脳梗塞に対する血管内治療手技による血栓回収療法についても、各診療圏内に血管内治療手技が24時間提供できる診療体制の構築がなければ、当該診療圏全体としての脳卒中の転帰の改善には、結び付かない。わが国においては、高所得国に恥じない脳卒中の診療体制の構築が課題である。

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ウエアラブル技術と遠隔コーチングを用いた家庭での運動療法は、末梢動脈疾患患者の6分間歩行距離を延ばさなかった(解説:佐田政隆氏)-872

 現在、循環器疾患患者の生命予後、生活の質を改善するうえで、心臓リハビリテーションが非常に注目されている。末梢動脈疾患患者においても、監視下の運動療法が歩行距離を延ばすことが報告され、ガイドラインでも推奨されている。しかし、そのためには頻回に医療機関に通院しないといけないが、それは遠方在住者や末梢動脈疾患患者にとってはしばしば困難なことである。 一方、家庭で運動療法が継続できれば、便利であり、現実的である。しかし、患者に家庭での運動療法を勧めても、実際には、1人もしくは家族のサポート下ではなかなかできずに、せっかく入院中に改善した心肺機能が、退院後、家庭に戻って低下していることを、心臓リハビリテーションの診療でよく経験する。 そこで、本研究では、現在話題のウエアラブル技術と電話によるコーチングによって、家庭での運動療法が効果的に行えるかどうかを調べている。200例の末梢動脈疾患患者を2群に分けた。99例は運動介入群で、最初の1ヵ月間は週1回の頻度で計4回、メディカルセンターで運動指導を受け、その後、ウエアラブル活動モニターを装着して家庭で歩行訓練を継続した。その間、週1回~月1回の頻度で電話によるコーチングを受けた。残りの101例はそのような介入を受けず通常ケア群であった。主要評価項目である9ヵ月後の6分間歩行距離の変化は、介入群が5.5mだったのに対し、通常ケアのほうは14.4mであり、介入による改善効果は認められなかった。9ヵ月後のPROMISの痛みの影響に関するスコアは、介入群で逆に悪化した。 介入群で良い結果が得られなかった原因としては、やはり、電話によるカウンセリング下の家庭での運動療法が、メディカルセンターでの直接顔を合わせた、手取り足取りの監視下運動ほど効果的でなかったためと思われる。今後、ICTの活用やより高度なウエアラブル装置の開発により、遠隔からの運動指導が効果的に行えるシステムの確立が期待される。

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奥多摩で考える地域医療の将来と展望

 2018年5月19日、西多摩三師会と奥多摩町は「『健康長寿な地域づくりフォーラム』in 奥多摩」を共同で開催した。このフォーラムは、日本の縮図である西多摩地域で、地域の自然・文化・産業・医療資源を生かした「活力ある健康長寿地域づくり」をテーマに、観光・食などのリラクゼーションや健診・運動・湯治・リハビリなどを組み合わせた「ヘルスケアツーリズム」について議論するもの。当日は、西多摩地域の医療者、行政関係者、議会関係者など多数が参集した。本稿では講演の概要をお伝えする(写真は、左上:阿岸 祐幸氏、右上:伴 正海氏、下:武見 敬三氏)。奥多摩で「ヘルスリゾート」 はじめに「観光・湯治・医療資源を生かした健康増進地域づくりに向けて~西多摩ヘルスリゾート構想の可能性~」をテーマに、阿岸 祐幸氏(北海道大学名誉教授)が、奥多摩の自然をドイツやスイスの高原地帯になぞらえ、「ヘルスリゾート」の提案を行った。 自然環境(山、川、海、温泉など)は、健康に良い影響を与える。たとえば温泉について、奥多摩の温泉は、強いアルカリ性泉であり、肌に良い影響を与えるという。欧州では、温泉は「テルメ」と呼ばれ、温泉に付属した療養所は「メディカル・テルメ」と言い、医療の一翼を担うものとして広く利用されている。 また、都心からほどほどの距離にある奥多摩は、気候(転地)療法にも利用でき、「この環境が治癒の促進や健康の増進に役立つ可能性がある」と期待を膨らませた。また、奥多摩の豊富な森林も鎮静殺菌作用があるとされる「森林浴」の効能を高め、「多摩の植生を利用した科学的な遊歩道の設置などが期待できる」とも語る。 そして、同氏は、奥多摩に自然を活用した健康保養地として「Natural capital health resort」の設置を提唱した。「奥多摩地域以外からの療養者はもちろん、地域住民には地域包括ケアシステムへ温泉などの地元の資源を取りこむことで、生活支援や介護などともリンクさせる取り組みができる」と展望を語った。地域医療でできること、できないことの見極め 次に「住民が生きて逝くための地域包括ケアシステムづくりについて~高知のへき地や行政での6年間と国での2年間を踏まえて~」をテーマに伴 正海氏(医師・元厚生労働省 医政局地域医療計画課 医師確保等地域医療対策室)が、地域医療の展望について講演を行った。 伴氏は、地域医療の研修として6年間を過ごした国保梼原病院を例に説明。梼原町の取り組みとして、町立病院と保健福祉支援センターを同じ建物に収容することで、住民を24時間フォローする仕組みやへき地の医療・介護の成功例を紹介した。 たとえば初期認知症の患者であれば、医療者がそのきざしを覚知した時点で、介護の専門職へフォローを依頼することができ、症状が進行した場合、その逆もできることで迅速に、手厚い医療を提供することができるという。 次に「少産多死の時代」の医療について言及し、「今後は『死なせない医療』から『支え看取りの医療』への転換が必要であり、患者の社会背景をくんだ医療・介護の導入のために、地域の役割が大事になる」と語った。そのために地域でできること、できないことの議論と合意の形成が必要になると示唆した。 最後に多摩地域について触れ、「多摩は『地域が医師を育てる場』として最良の場所である。住民が医療者を育てるために教える、体験させるなど医療者を育成し、地域全体が納得する医療を作っていってもらいたい」と思いを語った。労働人口減少の将来の地域の在り方 次に「活力ある健康長寿地域づくりに向けて~西多摩モデルへの期待と行政のリーダーシップ~」をテーマに武見 敬三氏(参議院議員)が、医療、医療経済について解説を行った。 今後の人口動態について厚生労働省などの資料を基に解説。「今後3年間は谷間として一時的に75歳以上上昇率は減る一方で、その後一気に団塊の世代が増加するので上昇率は上がる。その間に国として、どのような政策提言、実行ができるかが試されている」と問題点を示した。 労働人口の減少はこれから全国的な事象であり、「アジア健康構想」の例に代表されるように、アジアの諸国から介護の担い手としての労働者の確保や健康寿命延伸への取り組みにより解決が望まれている。また、社会保険についても「国家財政上の見地から今後は、さまざまなデータベースを作成・活用し、費用対効果の分析を行い、支出を見直すことも国民に理解いただきたい。また、高齢者が活躍できる場を作ることで、働けるうちは元気に働いてもらいたい」と説明を行った。 最後に多摩地区の現状と将来に触れ、「極端に就業人口が少なくなる問題に直面している」と指摘し、医療介護の財政上の問題、住民負担の増大などに対し、地域包括ケアの充実などを活用することで上手に対応してもらいたい。行政と住民がよく話し合い、方針を決め、絶え間なく地域の活性化がされることを期待する」と述べ、講演を終えた。

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「パーキンソン病診療ガイドライン」7年ぶりに改訂

 2011年以来の改訂版となる「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」が5月15日に発行された。今回のガイドライン改訂では、パーキンソン病診療における最も重要な臨床課題として「早期パーキンソン病治療」と「運動合併症治療」を設定し、GRADEシステムに基づいてエビデンスレベルと推奨レベルの2軸による治療の推奨度が示された。「Minds診療ガイドライン作成の手引き(2014年版)」に準拠して作成され、治療だけでなく診断基準や病因、画像所見などについても幅広く解説されていることから、「治療ガイドライン」から「診療ガイドライン」に名称を変更している。 「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」は日本神経学会を中心に、日本神経治療学会、日本脳神経外科学会、日本定位・機能神経外科学会、日本リハビリテーション医学会の協力のもとで作成された。また、看護師や薬剤師、患者らが参加するパネル会議を開催し、多職種による議論を経たうえで、推奨文の内容が決定されている。パーキンソン病診療ガイドラインはGRADEシステムに基づく2つのCQと50のQ&Aで構成 「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」は、各抗パーキンソン病薬、手術療法やリハビリテーションについてそれぞれ有効性と安全性をまとめた第I編、早期および進行期の2つのCQについて推奨度、治療アルゴリズムを示した第II編、診断・治療における50の臨床課題についてQ&A方式でまとめた第III編で構成される。 第I編では、ドパミンアゴニスト徐放剤、アポモルヒネ皮下注射、イストラデフィリン、L-ドパ持続経腸療法など、前版「パーキンソン病治療ガイドライン2011」発行後の新しい治療法について情報が追加された。第II編では、「CQ1:早期パーキンソン病の治療はどのように行うべきか」、「CQ2:運動合併症に対する治療について」の2つのCQを設定。CQに対する推奨文には、1(強い:確実に行うことが強く推奨される場合)もしくは2(弱い:条件を選べば推奨できる場合)の推奨レベル、およびA~Dの4段階(最も高いものがA)のエビデンスレベルが明記されている。 第III編は、「パーキンソン病治療ガイドライン2011」における第II編の内容を改訂したもの。重要ではあるが、エビデンスが少ない臨床課題として、GRADEシステムに基づくCQとは区別する意味で、「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」ではQ&Aとしてまとめられている。パーキンソン病診療ガイドラインでは早期はL-ドパを中心にドパミンアゴニストもしくはMAOB阻害薬 以下、「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」での大きな改訂点である、第II編の2つのCQの概要を紹介する。■早期パーキンソン病は、診断後できるだけ早期に薬物療法を開始すべきか[CQ1-1] 推奨:特別の理由のない限りにおいて、診断後できるだけ早期に治療開始することを 提案する(2C:弱い推奨/エビデンスの質「低」) 付帯事項:早期介入による不利益に関する十分なエビデンスがないことから、治療を 開始する際は効果と副作用、コストなどのバランスを十分考慮する。■早期パーキンソン病の治療はL-ドパとL-ドパ以外の薬物療法(ドパミンアゴニストおよびMAOB阻害薬)のどちらで開始すべきか[CQ1-2] 推奨:運動障害により生活に支障をきたす場合、早期パーキンソン病の治療はL-ドパで 開始することを提案する(2C) 付帯事項:運動合併症リスクが高いと推定される場合はドパミンアゴニストもしくは MAOB阻害薬を考慮する。抗コリン薬やアマンタジンも選択肢となりえるが十分な根拠 がない。パーキンソン病診療ガイドラインでは進行期にどの治療法をアドオンするか推奨度を明示 「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」のCQ2では、ウェアリングオフ(L-ドパを1日3回投与しても、薬の内服時間に関連した効果減弱がある)を呈する進行期パーキンソン病患者に追加する治療法について、それぞれ推奨度が示された。各推奨度と、付帯事項の概要については以下の通り。■ドパミンアゴニスト[CQ2-1] 推奨度:2A 付帯事項:60代前半対象のエビデンスに基づくため、高齢者への使用には注意を要 する。L-ドパとの併用によるオフ時間の短縮効果、L-ドパ減量効果、UPDRS partIII スコアの改善効果があり、副作用の発現に注意しながら使用することを提案する。■ドパミン付随薬・COMT阻害薬[CQ2-2-1] 推奨度:2B 付帯事項:なし・MAOB阻害薬[CQ2-2-2] 推奨度:2C 付帯事項:セレギリンのRCTが少なく、ラサギリンについては現時点で本邦における エビデンスが公開されていない・イストラデフィリン[CQ2-2-3]、ゾニサミド[CQ2-2-4] 推奨度:2C 付帯事項:本邦のみでの承認薬剤のため、海外での評価が定まっていない点に注意が 必要■脳深部刺激療法 推奨度:2 C 付帯事項:オフ時の運動症状改善、L-ドパ換算用量の減量効果があるが、認知 機能への影響のほか、合併症も起こりうるため、慎重に適応を判断する なお、「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」のCQ1およびCQ2では、それぞれ章末に資料として、推奨度をもとにした治療アルゴリズムがフロー図の形で示されている。

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脳卒中ケアユニット、所得・重症度によらず生存率を改善/Lancet

 低・中所得国では、脳卒中のエビデンスベースの治療や診断、および脳卒中ケアユニットが、一般的に活用されていないことが明らかにされた。一方で、脳卒中ケアユニットへのアクセスや抗血小板療法の適切な使用は、早期回復と関連していることも示された。英国・グラスゴー大学のPeter Langhorne氏らが、32ヵ国・約1万3,000例の脳卒中患者を対象に行った観察試験で明らかにしたもので、Lancet誌2018年5月19日号で発表した。これまで、低・中所得国では脳卒中が人々にもたらず影響にばらつきがあることが示唆されていた。高所得国では、脳卒中のケアとアウトカムは改善が報告されているが、低・中所得国の診療状況およびアウトカムは明らかになっていなかった。32ヵ国、142ヵ所の医療機関を通じて観察試験 研究グループは2007年1月11日~2015年8月8日にかけて、32ヵ国142ヵ所の医療機関を通じて、「INTERSTROKE」試験に参加した1万3,447例の脳卒中患者を対象に観察試験を行った。 患者データに加え、試験に参加した病院に対して、医療・脳卒中に関連したサービスの情報を調査票により収集した。 単変量・多変量解析を行い、提供された医療サービスや治療と、1ヵ月時点の患者アウトカムとの関連を分析した。脳卒中ケアユニットへのアクセス、無重度依存生存率を約3割増大 被験者のうち、すべての情報を得られたのは1万2,342例(92%)だった(28ヵ国108病院)。そのうち、高所得国の被験者は2,576例(10ヵ国38病院)、低・中所得国は9,766例(18ヵ国70病院)だった。 低・中所得国の患者は高所得国に比べ、重篤な脳卒中や脳内出血が多く、医療サービスへのアクセスが乏しく、検査や治療の活用が少なかった(p<0.0001)。また、アウトカム不良は、患者特性の違いのみによるものだった。 一方、所得に関係なくすべての国において、脳卒中ケアユニットへのアクセスが、検査や治療の活用、リハビリテーション・サービスへのアクセス、重症度に依らない生存率の改善と関連していた(オッズ比[OR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.14~1.44、p<0.0001)。また、急性期の抗血小板療法は、患者特性や医療サービスにかかわらず、生存率を改善した(OR:1.39、95%CI:1.12~1.72)。 これらを踏まえて著者は「低・中所得国では、医療および医療提供体制の改善が、アウトカムの改善に不可欠である」と述べている。

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これからの心不全治療、認識新たに【東大心不全】

高齢化に伴い急増する心不全。今後も、より大きな問題となる心不全に、どう対応していくべきか。東京大学循環器内科学 教授 小室一成氏に聞いた。わが国の心不全の現状について教えてください。画像を拡大する画像を拡大する日本の心不全患者数は、現在、推計100万人。その数は2030年まで増え続け、130万人を超えるといわれています。増加は日本だけでなく、米国、欧州などの先進諸国やアジア、アフリカ諸国でもみられます。理由は高齢化です。心不全の発症は高齢者、とくに65歳を超えると急増します。わが国は高齢化が最も進んでいますので、心不全が今後大きな問題になることは間違いないといえます。わが国の心不全治療の現状について教えていただけますか。心不全の治療は、あらゆる疾患の中で最も確立されています。心不全リスク群であるステージAおよびBでは、器質的心疾患の発症・進展予防を、症候性の心不全であるステージCでは、症状コントロールを行います。とくに、ACE、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、心不全に対する複数の大規模臨床試験によって、生存予後を20~30%改善するというエビデンスがあります。また、最重症のステージDでは、適応があれば、心臓移植となりますが、わが国はこの分野でも成績は良好で、海外の心移植後5年生存率が8割程度なのに対し、日本では9割を超えます。さらに、移植待機中のLVAD治療についても良好な結果を示しています。しかし、問題点もあります。薬剤は有効であるものの、すべて対症療法です。移植についても、わが国ではドナーが少なく、移植までの待機期間は平均3年。世界でも飛び抜けて長いといえます。この待機期間は今後さらに伸びると予想され、ドナーを増やすよう活動していく必要があると思っています。学会としての取り組みについて教えていただけますか。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する一昨年(2016年)、日本循環器学会と脳卒中学会を中心に「脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画」を作成しました。“健康寿命の延伸”と“5年で5%の死亡率減少”を大目標とし、5戦略(医療体制の充実、人材育成、予防・国民への啓発、登録事業の促進、臨床・基礎研究の強化)と3疾患を定めました。3疾患は脳卒中、血管病、そして、現在、循環器疾患の死亡で最も多い心不全です。心不全における5戦略、1つ目は医療体制の構築です。心不全患者さんの多くは、入院治療により改善して退院しますが、退院後の生活習慣、服薬指導が重要なのです。これを怠ると、急性増悪を繰り返しながら悪化し、最終的に命を落とすことになります。これを防ぐためには、専門病院から慢性期、在宅までの診療をシームレスに行える、心不全を念頭に置いた医療体制を作ることが必要です。2つ目は人材育成です。このように心不全は退院後が非常に重要なので、患者さんと密接な関係にある、実地医家の医師やメディカルスタッフの人材育成が重要になります。画像を拡大する3つ目は、予防・国民への啓発です。心不全は重症度に応じて4つの予防チャンスがあります。塩分・脂質過多、喫煙、多量飲酒、運動不足といった生活習慣の改善による0次予防。肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常の改善による心臓病にならないための、ハイリスク群の1次予防。そして、心不全の早期治療と再発予防による2~3次予防。最後は突然死の予防です。しかし、このチャンスも、患者さんに“心不全は予防できる”、ということをご理解いただかないと活かせません。そのために、アニメキャラクター「ハットリシンゾウ」を啓発大使とし、「シン・シン(心臓・身体)健康プロジェクト」を展開しています。そこでは、一般の方にわかりにくかった心不全の定義を「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」とし、疾患としての認知促進を図っています。4つ目は登録事業の促進です。前述のとおり、日本の心不全患者数は100万人とされますが、この数字は新潟県佐渡市の統計から推計したものです。正確な統計ではありません。心不全患者がわが国に何人おり、どのような治療が行われていて、どのような地域差があるのか、こういった実態をレジストリで明らかにすることを考えています。5つ目は基礎研究です。これも前述のとおり、心不全の治療薬は有効であるものの、対症療法です。心不全発症の分子機序を解明して、それに基づいた新薬や新デバイスの開発をしないと、急増する心不全を減らすことはできません。そのためにも、メカニズムを明らかにする基礎研究が重要だと考えています。今年(2018年)の日本循環器学会学術集会で、「急性・慢性心不全診療ガイドライン」の改訂が発表されました。今回のガイドラインの大きな改訂ポイントは、急性と慢性の統合、ステージングの明確化、予防の重要性の強調です。急性と慢性を統合した理由は、急性心不全の多くは慢性心不全の増悪であるからです。心不全では、急性期に入院し、回復して退院しますが、その状態は慢性心不全の継続です。状態は入院前よりも悪化しています。それが理解されないと、入退院の繰り返しにつながります。今回のガイドラインでは、症状とリスク因子などを示し、患者さん自身が、どのステージングにおり、何をすべきか一目でわかるように工夫しています。東京大学での取り組みについて教えていただけますか。わが国の心臓移植は、東京大学、大阪大学、国立循環器病研究センターの3施設で8割、東京大学では、全国の4分の1を担っています。また、東京大学は交通の便が良いこともあり、遠方からも多くの心不全患者さんが受診されます。そのような中、2017年12月、新病棟に高度心不全治療センターを開所しました。同センターでは、移植待機、移植後など多くの重症心不全患者さんを、心臓外科と循環器内科がワンフロアで診療しています。場合によっては、3~4年入院して移植を待つこともあるため、快適な病室やリハビリテーション設備に工夫を凝らしています。また、東京大学では、循環器内科と心臓外科が一体となって、心不全を含めたあらゆる循環器疾患の最後の砦になるため、ほかの施設では治療できない重症患者さんを引き受けて治療しています。多くの施設から相談を受けますが、必要があれば、施設に伺って患者さんを拝見させていただきますし、場合によっては当院への入院を勧めています。最後に先生方にメッセージをお願いします。大学・大病院では心不全の急性増悪患者さんを診療します。それらの患者さんの多くは退院されますが、2度と急性増悪しないことが、最も重要です。とはいえ、退院していったケースは、大学や大病院では十分に管理できません。患者さんと密接な関係にある実地医家の方々に、患者さんの日常生活や服薬などを注意していただくことで、初めて急性増悪が防げるのです。このように、心不全治療は、専門施設と実地医家が連携を深め、一体となって行う必要があります。実地医家の先生方にも心不全をご理解いただき、共に診療にあたっていただければと思います。講師紹介

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慢性疼痛治療ガイドラインが発刊

 2018年3月、痛みに関連する7学会のメンバーが結集し作り上げた「慢性疼痛治療ガイドライン」(監修:厚生労働行政推進調査事業費補助金慢性の痛み政策研究事業「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」研究班、編集:慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ*)が発刊された。*ペインコンソーシアム(日本運動器疼痛学会、日本口腔顔面痛学会、日本疼痛学会、日本ペインクリニック学会、日本ペインリハビリテーション学会、日本慢性疼痛学会、日本腰痛学会)より選出された委員により構成慢性疼痛に対する施策はエアポケットとなっていた これまで、種々の疾患(がん、生活習慣病、感染症、精神疾患、難病など)への対策が日本政府により行われてきたが、慢性疼痛に対する施策は、エアポケットのように抜け落ちていた。しかし、最近、慢性疼痛に対する施策も国の事業として進められるようになり、前述の研究班とワーキンググループにより、All Japanの慢性疼痛治療ガイドラインが策定された。慢性疼痛治療ガイドラインは、全6章、51CQから成る 慢性疼痛治療ガイドラインは、全6章(総論、薬物療法、インターベンショナル治療、心理的アプローチ、リハビリテーション、集学的治療)から成り、全51個のクリニカルクエスチョン(CQ)が設定されている。慢性疼痛治療ガイドラインのエビデンスレベルは4段階で評価 慢性疼痛治療ガイドラインのCQに対するAnswerの部分には、推奨度およびエビデンスレベルが記されている。推奨度は、「1:する(しない)ことを強く推奨する」「2:する(しない)ことを弱く推奨する(提案する)」の2通りで提示されている。エビデンスレベルは、「A(強):効果の推定値に強く確信がある」「B(中):効果の推定値に中程度の確信がある」「C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である」「D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない」と規定された。慢性疼痛とは 慢性疼痛は、国際疼痛学会(IASP)で「治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛み」とされている。 慢性疼痛には「侵害受容性」「神経障害性」「心理社会的」などの要因があるが、これらは密接に関連している場合が多く、痛み以外に多彩な症状・徴候を伴っていることも多い。そのため、慢性疼痛治療ガイドラインでは、慢性疼痛の診断において最も重要なことは、正確な病態把握とされた。また、慢性疼痛の治療は、痛みの軽減が目標の1つであるが第一目標ではなく、作用をできるだけ少なくしながら痛みの管理を行い、QOLやADLを向上させることが重要であると記載されている。慢性疼痛治療ガイドラインには薬物療法の推奨度を詳細に記載 慢性疼痛治療ガイドラインでは、薬物療法の項に最も多くの紙面が割かれている。なお、本ガイドラインでは、「医療者は各項の推奨度のレベルのみを一読するのではなく、CQの本文、要約、解説を十分に読み込んだ上での試行・処方などを検討するようにお願いしたい」「一部、現在(平成30年3月現在)の保険診療上適応のない薬物や手技もあるが、薬物療法においては、添付文書などを熟読の上、治療に当たることが望ましい」と記載されている。 主な薬剤の推奨度、エビデンス総体の総括は以下のとおり。●非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)運動器疼痛:1A(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:2D(使用しないことを弱く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:2B(使用することを弱く推奨する)線維筋痛症:2C(使用しないことを弱く推奨する)●アセトアミノフェン運動器疼痛:1A(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:2D(使用しないことを弱く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:1A(使用することを強く推奨する)線維筋痛症:2C(使用することを弱く推奨する)●プレガバリン運動器疼痛:2C(使用することを弱く推奨する)神経障害性疼痛:1A(使用することを強く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:2C(使用することを弱く推奨する)線維筋痛症:1A(使用することを強く推奨する)●デュロキセチン運動器疼痛:1A(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:1A(使用することを強く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:2C(使用することを弱く推奨する)線維筋痛症:1A(使用することを強く推奨する)●抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬物)運動器疼痛:2C(使用することを弱く推奨する)(エチゾラム)神経障害性疼痛:2C(使用することを弱く推奨する)(クロナゼパム)頭痛・口腔顔面痛:2B(使用することを弱く推奨する)           (緊張型頭痛:エチゾラム、アルプラゾラム)           (口腔顔面痛:ジアゼパム、クロナゼパム)線維筋痛症:2C(使用することを弱く推奨する)●トラマドール運動器疼痛:1B(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:1B(使用することを強く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:推奨度なし線維筋痛症:2C(使用することを弱く推奨する)慢性疼痛治療ガイドラインには心理療法・集学的療法の推奨度も記載 心理療法として取り上げられた心理教育、行動療法、認知行動療法、マインドフルネス、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、慢性疼痛治療ガイドラインではいずれも推奨度1(行うことを強く推奨する)とされている。また、最近話題の集学的治療や集団認知行動療法(集団教育行動指導)も慢性疼痛治療ガイドラインでは推奨度1(施行することを強く推奨する)とされ、その重要性が示されている。

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身体能力低下の悪循環を断つ診療

 2018年4月19~21日の3日間、第104回 日本消化器病学会総会(会長 小池 和彦氏[東京大学医学部消化器内科 教授])が、「深化する多様性~消化器病学の未来を描く~」をテーマに、都内の京王プラザホテルにおいて開催された。期間中、消化器領域の最新の知見が、シンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップなどで講演された。 本稿では、その中で総会2日目に行われた招請講演の概要をお届けする。フレイル、サルコペニアに共通するのは「筋力と身体機能の低下」 招請講演は、肝疾患におけるサルコペニアとの関連から「フレイル・サルコペニアと慢性疾患管理」をテーマに、秋下 雅弘氏(東京大学大学院医学系研究科 加齢医学 教授)を講師に迎えて行われた。 はじめに高齢者の亡くなる状態を概括、いわゆるピンピンコロリは1割程度であり、残りの高齢者は運動機能の低下により、寝たきりなどの介護状態で亡くなっていると述べ、その運動機能の低下にフレイルと(主に一次性)サルコペニアが関係していると指摘した。 フレイルは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表し、要介護状態に至る前段階として位置付けられている(ただし、可逆性はあるとされる)。また、サルコペニアは「高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下」と定義される。両病態はお互いに包含するものであり、とくに筋力と身体機能の低下は重複する。フレイル、サルコペニアは世界初のガイドラインなどで診療 診療については、『フレイル診療ガイド 2018年版』と『サルコペニア診療ガイドライン 2017年版』が世界で初めて刊行され、詳しく解説されている(消化器領域では『肝疾患におけるサルコペニアの判定基準』により二次性サルコペニアの診療が行われている)。 フレイルの診断は、現在統一された基準はなく、一例として身体的フレイルの代表的な診断法と位置付けられている“Cardiovascular Health Study基準”(CHS基準)を修正した日本版CHS(J-CHS)基準が提唱され、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動の5項目のうち3つ以上の該当でフレイルと判定される。スクリーニングでは、質問形式で要介護認定ともシンクロする「簡易フレイルインデックス」など使いやすいものが開発されている。 一方、サルコペニアも同様に統一基準はないが、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によってアジア人向けの診断基準が作られ、年齢、握力、歩行速度、筋肉量により診断されるが、歩行速度など、わが国の実情に合わない点もあり注意が必要という(先の二次性サルコペニアの診断ではCT画像所見による筋肉量の測定がある)。 また、両病態とも筋肉量の測定など容易ではないが、外来で簡単にできる「指輪っかテスト」なども開発され、利用されている。 治療に関しては両病態ともに、レジスタンス運動を追加した運動療法や、十分な栄養を摂る栄養療法が行われる。詳細は先述のガイドラインなどに譲るが、「タンパク質」の摂取を例に一部を概略的に示すと、慢性腎不全の患者では腎臓機能維持の都合上、タンパク質の摂取が制限されるが、その制限が過ぎるとサルコペニアに進んでしまう。そのため、透析に進展させない程度のタンパク質の摂取を許すなど、患者のリスクとベネフィットを比較、検討して決めることが重要という。薬剤が6種類を超えるとハイリスク 続いて「ポリファーマシー」に触れ、ポリファーマシーはフレイルの危険因子であり、薬剤数が6種類を超えるとハイリスクになると指摘する(5種類以上で転倒のリスクが増す)。また、6種類以上の服用はサルコペニアの発症を1.6倍高めるというKashiwa studyの報告を示すとともに、広島県呉市のレセプト報告を例に85~89歳が一番多くの薬を服用している実態を紹介した。 消化器領域につき、「食欲低下」では非ステロイド性抗炎症薬、アスピリン、緩下薬などが、「便秘」では睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、三環系抗うつ薬などが、「ふらつき・転倒」では降圧薬、睡眠薬・抗不安薬、三環系抗うつ薬などが関係すると考えられ、「高齢者への処方時は、優先順位を決めて処方し、非専門領域についても注意してほしい」と語った。とくに「便秘」は抗コリン薬が原因になることが多いという。また、「GERD」についてはH2ブロッカーが認知機能を低下させる恐れがあるため注意が必要であり、第1選択薬のPPIでも漫然とした長期使用は避けるなど、必要に応じた使い方が望ましいという。 まとめとして、高齢者の生活改善では「規則正しい食事」「排泄機能の維持」「適切な睡眠習慣」が大切で、とくに「食事は服薬のアドヒアランス維持のためにも気を付けてもらいたい」とその重要性を指摘した。最後に秋下氏は「フレイル、サルコペニアは、身体的な負の悪循環を形成することを理解してもらいたい」と述べ、レクチャーを終えた。■参考第104回 日本消化器病学会総会■関連記事ニュース 初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊

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多発性硬化症の症状は個人差が大きく確定診断まで約3年を待つ

 2018年3月29日、バイオジェン・ジャパン株式会社とエーザイ株式会社は、多発性硬化症に関するメディアセミナーを都内で共同開催した。セミナーでは、女性に多い本症について、疾患概要だけでなく、女性視点から闘病への悩みなども取り上げられた。多発性硬化症は全国で約2万人が苦しむ難病 セミナーでは、清水 優子氏(東京女子医科大学病院 神経内科 准教授)を講師に迎え、「多発性硬化症の治療選択-女性患者のアンメットニーズとライフステージ」をテーマに講演が行われた。 多発性硬化症は、中枢神経系の自己免疫性脱髄疾患であり、ミエリン(髄鞘)が障害されることで、視力障害や運動麻痺、排尿障害、感覚障害など、さまざまな症状を引き起こす。多発性硬化症の症状出現の仕方・時間は、患者の個人差も大きく、診断に苦慮する難病である。なお、多発性硬化症の診断では、一般的な問診・検査に加え、MRI検査により、ほぼ確定診断が行われる。主な診療は、神経内科が担当するが、眼科、整形外科、一般内科で気付かれる例も多いという。 多発性硬化症の発症年齢は20~30代にあり、患者は女性に多い。発症原因は不明で、わが国では患者数が年々増加しており2015年度で1万9,389例の患者が登録されている(特定疾患医療受給者証交付件数)。また、多発性硬化症の特徴として、治療が奏効しても再燃と寛解を繰り返し、徐々に症状の重症度が上がっていき(発症初期から進行性の経過をとる一次性進行型はまれ)、進行型の予測も難しいという。多発性硬化症の症状を疑ったらMRI検査へ 多発性硬化症の治療では、初発から再発寛解までの時間が、治療のゴールデンタイムと言われる。この時間に確定診断が行われ、きちんとした治療が行われるかどうかで予後が変わるという。しかしながら、初発の症状では、多発性硬化症と診断される例が少なく、確定診断まで平均3.7年かかるという報告もある(バイオジェン・ジャパンと全国多発性硬化症友の会との合同アンケート調査より)。「初発症状である温度変化による症状の悪化(ウートフ現象)、手足の突っ張り感、脱力、過労やストレス、風邪などの易感染、出産後3ヵ月間などの主訴から診断初期で、いかに本症を思い浮かべ、MRIなどの検査に送ることができるかが、治療を左右する」と清水氏は指摘する。 急性期、慢性期、再発防止の3期に分けて多発性硬化症の治療薬は使われる。急性期ではステロイド・パルス療法、血液浄化療法が、慢性期では対症療法、リハビリテーションが、再発防止ではインターフェロンβ1a/b、グラチラマー、フマル酸ジメチル、フィンゴリモド、ナタリズマブが、個々の患者病態に合わせて選択されている。しかし、完全寛解まで至る治療薬は現在ない。多発性硬化症患者の妊娠・出産の悩みに応える 続いて多発性硬化症の女性患者の出産、妊娠について解説を行った。多発性硬化症の発症時期は、こうしたイベントと重なることが多く、女性患者にとっては切実な問題だという。実際、妊娠、出産に関しては、病態が管理できているのであれば、いずれも問題はないという。ただ、妊娠中は免疫寛容が母体に働くために多発性硬化症の症状は安定または軽くなるものの、「出産後早期は、再発リスクがあり、注意が必要だ」と同氏は述べる。また、生まれてくる胎児への影響はなく、授乳も多発性硬化症の再発リスクにもならないが、「不妊治療については、悪化させる報告もあるので、妊娠を希望する場合、病態の安定化が重要だ」と同氏は指摘する。多発性硬化症の症状に周囲の理解が大事 女性患者の就労に関しては、脱力、しびれ感、目のかすみなどの症状が、外観から理解されにくく、誤解を受けやすいことから悩みを抱えている現状が紹介された。先に紹介したアンケート調査を引用し、「疾患により仕事内容の変更・異動、転職・退職を経験したことがあるか?」(n=210)との問いに複数回答ながら「退職」(34.3%)、仕事内容の変更(21.9%)、「就職をあきらめた」(19.5%)の順で回答が寄せられ、就労の難しさをうかがわせた。体が思うように動かない、多発性硬化症の症状の説明が周囲に難しいなどの理由により仕事に就きたいが就労できない状況が、さらに経済状態を悪化させ不安感を増大させるなどして、女性患者を負のスパイラルに陥らせていることを指摘した。 最後に清水氏は「女性にとって多発性硬化症の罹患年齢は、働き盛り、妊娠・出産の世代に重なる。そのため医療者をはじめとする一般社会の理解がないと、これらの問題解決は難しい。多発性硬化症の社会認識と理解・啓発、就労関係の整備が実現され、患者の社会貢献ができることを望む」と期待を述べ、レクチャーを終えた。

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心不全ガイドラインを統合·改訂(前編)~日本循環器学会/日本心不全学会

 3月24日、日本循環器学会/日本心不全学会から新たな心不全診療ガイドラインが公表された。本ガイドラインは、11学会(日本循環器学会、日本心不全学会、日本胸部外科学会、日本高血圧学会、日本心エコー図学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本心臓リハビリテーション学会、日本超音波医学会、日本糖尿病学会、日本不整脈心電学会)、班員31名、協力員25名、外部評価員6名という巨大な組織により策定されたものである。 公表を受け、日本循環器学会学術集会(3月23~25日、大阪)では、ガイドライン作成班による報告セッションが組まれ、班長を務めた筒井裕之氏(九州大学)が説明した。講演内容を含め、本ガイドラインの主要な改訂ポイントを2回にわたってお伝えする。心不全の定義を明確化 まず、これまで不明確であった心不全の定義が明確化された。新しい定義は「なんらかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」というものである。 加えて、非医療従事者向けの定義も書き込まれた。「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」というものである。心不全という疾患は不可逆性に進行し、命に関わる状態である点が明記されている。進行過程を4つのステージに区分。ステージごとの治療最適化を目指す 心不全が進行性の疾患である点も強調され、発症前から治療抵抗性に至るまでの過程が「A」から「D」の4ステージに分けられた(A:器質的心疾患がなく危険因子のあるステージ、B:器質的心疾患があるステージ、C:心不全症候のある(既往も含む)心不全ステージ、D:治療抵抗性心不全ステージ)。2001年に、米国ガイドラインが導入した捉え方である(Yancy CW, et al. Circulation.2013;128:e240)。また、ステージごとに治療目標が設定された。これにより、ステージごとに適切な治療が提供されることが期待されている。心不全発症前から積極介入。「予防」に注力 前回ガイドラインとの最大の違いは、まだ心不全を発症していないステージ「A」と「B」が治療対象となっている点である。心疾患危険因子のみを有する「ステージA」では、それら危険因子の管理により、心不全発症のリスク因子である器質的心疾患発症の「予防」を図り、虚血性心疾患や左室肥大など器質的病変が生じている「ステージB」では、心不全発症の「予防」が推奨されている。 このように新ガイドラインは、心不全の「発症予防」にも力をいれている。「心不全予防」という章も、「心不全治療の基本方針」の前に新設された。その中には、高血圧、冠動脈疾患、肥満・糖尿病、喫煙、アルコール、身体活動・運動の項が設定され、心血管病既往のある2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジン)が推奨クラスI、エビデンスレベルAとして推奨された理由が特筆されている。薬剤治療はEFの高低で3類型に分けて整理 心不全に対する治療の考え方も、大きく変わった。「ステージC」心不全例に対しては、左室収縮能(EF)に応じた治療の選択が推奨されるようになった。EF「40%未満」の「HFrEF」、「40-50」の「HFmrEF」、「50以上」の「HFpEF」ごとに治療方針は異なる(なお心不全の「分類」の項では、この3類型に、HFrEFから治療によりEFが40%以上に回復した「HFpEF improved、HFrecEF」という類型を加えた4類型が示されている)。 もっともHFpEFとHFmrEFに関しては、現時点では予後改善の確たるエビデンスがない。そのため、HFpEFに対しては「心不全症状を軽減させることを目的とした負荷軽減療法、心不全増悪に結びつく併存症に対する治療」が基本とされ、HFmrEFについては「この領域の心不全例でのデータはまだ確実なものがなく、今後の検討を要する」と記載するに留まっている。「緩和ケア」を初めて明記·詳述 心不全発症例に対する「緩和ケア」の推奨も、今回改訂の大きな目玉である。この「緩和ケア」に関し筒井氏は、同日夕方に行われたガイドライン記者会見において、「心不全患者への緩和ケアは終末期医療に限定されない」点を強調した。緩和ケアは「ステージC」の段階から推奨されている。つまり、病状末期の「ステージD」に限定されていない。これは心不全の進展はさまざまな因子に影響を受けるため個人差が大きく、「終末期」がいつ訪れるか予知が困難なためである。この点は、経過の予想が比較的容易ながん治療と大きく異なる。そのため心不全では、発症直後から緩和ケアを行うべきだというのが、新ガイドラインの立場である。

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健康状態に関係なく余暇身体活動で死亡率低下~アジア50万人調査

 余暇身体活動(LTPA)と死亡リスクの関連を評価する研究は、ほとんど欧州系の健康人で実施されている。今回、米国・Vanderbilt-Ingram Cancer CenterのYing Liu氏らが東アジアの健康人および慢性疾患患者のコホートで調査を実施し、アジアの中高齢者において、定期的なLTPAが健康状態にかかわらず死亡率低下と関連していることが示唆された。International journal of epidemiology誌オンライン版2018年2月27日号に掲載。 本研究では、アジアコホートコンソーシアムに含まれる9件の前向きコホートに参加した東アジアの46万7,729人でプール解析を行い、LTPAと全死因および原因別死亡率の関連を調べた。年齢、性別、教育、婚姻状況、喫煙状況の調整後、Cox比例ハザード回帰を用いてLTPAに関連するハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間の13.6年に、6万5,858人の死亡が確認された。・LTPAが1時間/週未満の人と比較したところ、LTPA量と全死因および原因別死亡率との間に逆相関が認められた(傾向のp<0.001)。・逆相関は、心血管疾患による死亡、がん以外による死亡で強かった。・LTPAと全死因死亡率との逆相関については、重度でしばしば生命を脅かす疾患である、がん、脳卒中、冠動脈疾患の患者(低LTPAに対する高LTPAのHR:0.81、95%CI:0.73~0.89)と、糖尿病や高血圧などのその他慢性疾患患者(低LTPAに対する高LTPAのHR:0.86、95%CI:0.80~0.93)で認められた。・性別、BMI、喫煙状況による明らかな修飾効果は確認されなかった。

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ミトコンドリア病〔mitochondrial disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義ミトコンドリア病は、ヒトのエネルギー代謝の中核として働く細胞内小器官ミトコンドリアの機能不全により、十分なATPを生成できずに種々の症状を呈する症候群の総称である。ミトコンドリアの機能不全を来す病因として、電子伝達系酵素、それを修飾する核遺伝子群、ピルビン酸代謝、TCAサイクル関連代謝、脂肪酸代謝、核酸代謝、コエンザイムQ10代謝、ATP転送系、フリーラジカルのスカベンジャー機構、栄養不良による補酵素の欠乏、薬物・毒物による中毒などが挙げられる。■ 疫学ミトコンドリア病の有病率は、小児においては10万人当たり5~15人、成人ではミトコンドリアDNA異常症は10万人当たり9.6人、核DNA異常症は10万人当たり2.9人と推計されている1)。一方、ミトコンドリア脳筋症(MELAS)で報告されたミトコンドリアDNAのA3243G変異の保因者は、健常人口10万人当たり236人という報告があり2)、少なくとも出生10万人当たり20人がミトコンドリア病と推計されている。■ 病因ミトコンドリアは、真核細胞のエネルギー産生を担うのみではなく、脂質、ステロイド、鉄および鉄・硫黄クラスターの合成・代謝などの細胞内代謝やアポトーシス・カルシウムシグナリングなどの細胞応答など、多彩な機能を持つオルガネラであり、核と異なる独自のDNA(ミトコンドリアDNA:mtDNA)を持っている。しかし、このmtDNAにコードされているのは13種類の呼吸鎖サブユニットのみであり、これ以外はすべて核DNA(nDNA)にコードされている。ミトコンドリアに局在する呼吸鎖複合体は、電子伝達系酵素IからIV(電子伝達系酵素)とATPase(複合体V)を指し、複合体IIを除き、mtDNAとnDNAの共同支配である。これらタンパク複合体サブユニットの構造遺伝子以外に、その発現調節に関わる多くの核の因子(アッセンブリー、発現、安定化、転送、ヘム形成、コエンザイムQ10生合成関連)が明らかになってきた。また、ミトコンドリアの形態形成機構が明らかになり、関連するヒトの病気が見つかってきた。ミトコンドリア呼吸鎖と酵素欠損に関連したミトコンドリア病の原因を、ミトコンドリアDNA遺伝子異常(図1)、核DNA遺伝子異常(図2)に分けて示す。図1 ミトコンドリアDNAとミトコンドリア病で報告された遺伝子異常画像を拡大する図2 ミトコンドリア病で報告された核DNAの遺伝子異常画像を拡大する■ 症状本症では、あらゆる遺伝様式、症状、罹患臓器・組織、重症度の組み合わせも取り得る点を認識することが重要である(図3)。エネルギーをたくさん必要とする臓器の症状が出やすい。しかし、本症は多臓器症状が出ることもあれば、単独の臓器障害の場合もあり、しかも、その程度が軽症から重症まで症例ごとに症状が異なる点が、本症の診断を難しくしている。画像を拡大する■ 分類表にミトコンドリア病の分類を示す。ミトコンドリア病の分類は、I 臨床病型による分類、II 生化学的分類、III 遺伝子異常による分類の3種に分かれている。それぞれ、オーバーラップすることが知られているが、歴史的にこの分類が現在も使用されている。表 ミトコンドリア病の分類I 臨床病型による分類1.MELAS:mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes2.CPEO/KSS:chronic progressive external ophthalmoplegia / Kearns Sayre syndrome3.Leigh脳症   MILS:maternally inherited Leigh syndrome   核遺伝子異常によるLeigh脳症4.MERRF:myoclonus epilepsy with ragged-red fibers5.NARP:Neurogenic atrophy with retinitis pigmentosa6.Leber遺伝性視神経萎縮症7.MNGIE:mitochondrial neurogastrointestinal encephalopathy syndrome8.Pearson骨髄膵症候群9.MLASA:mitochondrial myopathy and sideroblastic anemia10.ミトコンドリアミオパチー11.先天性高乳酸血症12.母系遺伝を示す糖尿病13.Wolfram症候群(DiDmoad症候群)14.autosomal dominant optic atrophy15.Charcot-Marie-Tooth type 2A16.Barth症候群 II 生化学的分類1.基質の転送障害1)carnitine palmitoyltransferase I、II欠損症2)全身型カルニチン欠乏症3)organic cation transporter2欠損症4)carnitine acylcarnitine translocase欠損症5)DDP1欠損症2.基質の利用障害1)ピルビン酸代謝   Pyruvate carboxylase欠損症   PDHC欠損症2)脂肪酸β酸化障害3)TCAサイクル関連代謝   succinate dehydrogenase欠損症   fumarase欠損症   α−ketoglutarate dehydrogenase欠損症4)酸化的リン酸化共役の異常   Luft病5)電子伝達系酵素の異常   複合体I欠損症   複合体II欠損症   複合体III欠損症   複合体IV欠損症   複合体V欠損症   複数の複合体欠損症6)核酸代謝7)ATP転送8)フリーラジカルのスカベンジャー9)栄養不良による補酵素の欠乏10)薬物・毒物による中毒III 遺伝子異常による分類1.mtDNAの異常1)量的異常(mtDNA欠乏)   薬剤性(抗ウイルス剤による2次的減少)   γDNApolymerase阻害   核酸合成障害   遺伝性(以下の項目参照)2)質的異常   単一欠失/重複   多重欠失(以下の項目参照)   ミトコンドリアリボソームRNAの点変異   ミトコンドリア転移RNAの点変異   ミトコンドリアタンパクコード領域の点変異2.核DNAの異常1)酵素タンパクの構成遺伝子の変異   電子伝達系酵素サブユニットの核の遺伝子変異2)分子集合に影響を与える遺伝子の異常   (SCO1、SCO2、COX10、COX15、B17.2L、BSL1L、Surf1、LRPPRC、ATPAF2など)3)ミトコンドリアへの転送に関わる遺伝子の異常   (DDP1、OCTN2、CPT I、 CPT II、Acyl CoA synthetase)4)mtDNAの維持・複製に関わる遺伝子の異常   (TP、dGK、POLG、ANT1、C10ORF2、ECGF1、TK2、SUCLA2など)5)mitochondrial fusion に関わる遺伝子の異常   (OPA1、MFN2)6)ミトコンドリアタンパク合成   (EFG1)7)鉄恒常性   (FRDA、ABC7)8)分子シャペロン   (SPG7)9)ミトコンドリアの保全   (OPA1、MFN2、G4.5、RMRP)10)ミトコンドリアでの代謝酵素欠損   (PDHA1、ETHE1)■ 予後臨床試験で効果が証明された薬物治療は、いまだ存在しない。2012年に発表されたわが国のコホート研究では、一番症例数の多いMELASは、発症して平均7年で死亡している。また、その内訳は、小児型MELASで発症後平均6年、成人型MELASでは発症後平均10年で死亡している。そのほか、小児期に発症するLeigh脳症では、明確な疫学研究はないものの、発症年齢が低ければ低いほど早期に死亡することが知られている。いずれにしても、慢性進行性に経過する難病で、多くは寝たきりとなり、心不全、腎不全、多臓器不全に至り死亡する重篤な疾患である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)従来、用いられてきた診断までの方法を図4に示す。臨床症状からどの病気にも当てはまらない場合は、必ずミトコンドリア病もその鑑別に挙げることが大切である。代謝性アシドーシスも本症でよくみられる所見であり、アニオンギャップが20以上開大すれば、アシドーシスの存在を疑う。乳酸とピルビン酸のモル比(L/P比)が15以上(正常では10)、ケトン体比(3-hydroxybutyrate/acetoacetate:正常では33))が正常より増加していれば、1次的な欠損がミトコンドリアマトリックスの酸化還元電位の異常と推測できる。頭部単純CT検査では、脳の萎縮や大脳基底核の両側対称性石灰化などが判明することが多く、その場合、代謝性アシドーシスの存在を疑う根拠となる。頭部MRI検査では、脳卒中様発作を起こす病型であれば、T1で低吸収域、T2、Flairで高吸収域の異常所見がみられる。MELASでは、異常画像は血管支配領域に合致せず、時間的・空間的に出現・消失を繰り返す。脳卒中様発作のオンセットの判断は、DWI・ADC・T2所見を比較することで推測できる。MRSでの乳酸の解析は、高乳酸髄液症の程度および病巣判断に有用である。また、脳血流を定量的に判定できるSPM-SPECT解析は、機能的脳画像として病巣診断、血管性認知症、脳血流の不均衡分布の判断に有用である。画像を拡大する■ 筋生検最も診断に有用な特殊検査は、筋生検である。筋病理では、Gomori trichrome変法染色で、増生した異常ミトコンドリアが赤ぼろ線維(RRF:ragged-red fiber)として確認でき、ミトコンドリアを特異的に染色するコハク酸脱水素酵素(SDH)の活性染色でも濃染する。RRFがなくても、チトクロームC酸化酵素(COX)染色で染色性を欠く線維やSDHの活性染色で動脈壁の濃染(SSV:SDH reactive vessels)を認めた場合、本症を疑う根拠となる。■ 生化学的検査生検筋、生検肝、もしくは培養皮膚線維芽細胞からミトコンドリアを分離して、酸素消費速度や呼吸鎖活性、blue-native gelによる呼吸鎖酵素タンパクの質および量の推定を行い、生化学的に呼吸鎖異常を検証する。場合によっては、組織内のカルニチン、コエンザイムQ10、脂肪酸の組成分析の必要性も出てくる。大切なことは、ミトコンドリア機能のどの部分の、質的もしくは量的異常かを同定することである。この作業の精度により、その後の遺伝子解析手法への最短の道筋が立てられる。■ 遺伝子検査ミトコンドリア病の遺伝子検索は、mtDNAの検索に加えて新たに判明したnDNAの検索も行わなければいけない。疾患頻度の多いmtDNAの異常症の検出には、体細胞の分布から考え、非侵襲的検査法としては、尿細管剥奪上皮を用いた変異解析が最も有用である。尿での変異率は、骨格筋や心筋、神経組織との相関が非常に高い。一方、ほかの得られやすい臓器としては、血液(白血球)、毛根、爪、口腔内上皮細胞なども有用であるが、尿細管剥奪上皮と比較すると変異率として最大30~40%ほどの低下がみられる。mtDNAの異常症を疑った場合、生涯を通じて再生できない臓器もしくは罹患臓器由来の検体を、遺伝子検査の基本とすることが望ましい。■ 乳酸・ピルビン酸、バイオマーカー(GDF15)の測定従来、乳酸・ピルビン酸がミトコンドリア病のバイオマーカーとして用いられてきた。しかし、これらは常に高値とは限らず、血液では正常でも、髄液で高値をとる場合も多い。さらに、乳幼児期の採血では、採血時の駆血操作で2次的に高乳酸値を呈することもあり(採血条件に由来する高乳酸血症)、その場合は、高アラニン血症の有無で高乳酸血症の存在を鑑別しなければならない。そこで、最近見いだされ、その有用性が検証されたバイオマーカーが「GDF15」である。このマーカーは、感度、特異度ともに98%と、あらゆるMELASの診断に現在最も有用と考えられている3)。最新の診断アルゴリズムを図5に示す4)。従来用いられていた乳酸、ピルビン酸、L/P比、CKと比較しても、最も臨床的に有用である。さらに、GDF15は髄液にも反映しており、この点で髄液には分泌されないFGF21に比較して、より有用性が高い。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)本症に対する薬物治療の開発は、多くの国で臨床試験として行われているが、2018年2月1日時点で、臨床試験で有効性を証明された薬剤は世界に存在しない。欧州では、Leber遺伝性視神経萎縮症に対して限定的にidebenone(商品名:Raxone)が、米国では余命3ヵ月と宣告されたLeigh脳症に対するvatiquinone(EPI-743)がcompassionate useとして使用されている。わが国では、MELASに対して、脳卒中様発作時のL-アルギニン(同:アルギU)の静注および発作緩解期の内服が、MELASの生存予後を大きく改善しており、適応症の申請を準備している。4 今後の展望創薬事業として、MELASに対するタウリン療法、Leigh脳症に対する5-ALAおよびEPI-743の臨床試験が終了しており、現在、MELAS/MELA Leigh脳症に対するピルビン酸療法が臨床試験中である。また、創薬シーズとして5-MAやTUDCAなどの候補薬も存在しており、今後有効性を検証するための臨床試験が組まれる予定である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科)本症は臨床的に非常に多様性を有し、発症年齢も小児から成人、罹患臓器も神経、筋、循環器、腎臓、内分泌など広範にわたる。診療科としては、小児科、小児神経科、神経内科、循環器内科、腎臓内科、耳鼻咽喉科、眼科、精神科、老年科、リハビリテーション科など多岐にわたり、最終的には療養、療育施設やリハビリ施設の紹介も必要となる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾患情報センター ミトコンドリア病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ミトコンドリア病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報:障害者手帳[肢体不自由、聴覚、視覚、心臓、腎臓、精神]、介護申請など)患者会情報日本ミトコンドリア学会ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報:ドクター相談室、患者家族の交流の場・談話室など)ミトコンドリア病患者・家族の会(MCM家族の会)(ミトコンドリア病患者とその家族および支援者の会)1)Gorman GS, et al. Ann Neurol. 2015;77:753-759.2)Manwaring N, et al. Mitochondrion. 2007;7:230-233.3)Yatsuga S, et al. Ann Neurol. 2015;78:814-823.4)Gorman GS, et al. Nat Rev Dis Primers. 2016;2:16080.公開履歴初回2018年3月13日

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重度のストレスやうつ病からの復職に効果的なリハビリは

 うつ病やストレスに関連する精神疾患による世界的な負担は大きく、効果的なリハビリテーションが必要とされている。自然療法のリハビリテーションは、精神疾患患者の復職への手助けとなる可能性がある。スウェーデン農業科学大学のPatrik Grahn氏らは、長期的な重度のストレスやうつ病を有する患者群を対象に、自然療法のリハビリテーションプログラムの期間が、プログラム開始1年後のアウトカムに対し、どのような影響を及ぼすかについて調査した。International journal of environmental research and public health誌オンライン版2017年10月27日号の報告。 8、12、24週のリハビリテーションの結果を比較するため、プロスペクティブ準実験的研究を行った。参加者106例を対象に、特別に設計されたリハビリガーデンにおいて多様式なチームによるリハビリテーションを実施した。復職に関するデータは、介入前および開始1年後に収集した。また、自己評価による職業能力、個人管理、連帯感についてのデータを収集した。 主な結果は以下のとおり。・介入1年後にフルタイムまたはパートタイムの復職または職業訓練などに参加した患者は、68%であった。・リハビリテーション期間の長かった参加者では、職業能力に関してより良い結果が得られ、介入1年後のフルタイムまたはパートタイムの賃金労働をこなせる可能性が高かった。 著者らは「リハビリガーデンにおけるより長いリハビリテーション期間は、賃金労働へ復職する可能性を高める」としている。■関連記事職場ストレイン、うつ病発症と本当に関連しているのか職業性ストレス対策、自身の気質認識がポイント:大阪市立大たった2つの質問で、うつ病スクリーニングが可能

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低酸素血症のない脳卒中急性期患者に酸素投与は推奨できない(解説:内山真一郎氏)-754

 低酸素は、脳卒中発症後数日間にはよく起こるが、間欠的なことが多く、気づかれないこともある。酸素補給は低酸素や脳卒中症状悪化を予防しうるので、回復を改善する可能性がある。本研究は、通常の予防的な低用量の酸素補給が90日後の死亡と後遺症を減らすかどうか、またもしそうなら低酸素がもっとも多く起こり、酸素投与がリハビリテーションの邪魔をしない、夜間だけの酸素補給が持続的な補給よりいいのかを評価することを目的として行われた。 この単盲検の無作為化臨床試験には英国の136施設から、酸素療法の明らかな適応や禁忌のない、入院後24時間以内の8,003例の成人の急性脳卒中患者が登録された。患者は、72時間の持続的な酸素、3夜の夜間酸素、対照(臨床的に適応がある場合に限り酸素)のいずれかに1 vs.1 vs.1で無作為割り付けされた。酸素は、ベースラインの酸素飽和度が93%以下なら3L/min、94%以上あれば2L/minがnasal tubeから投与された。一次評価項目は、郵送の質問票による90日後の改変ランキン尺度スコアであった。 結果は、転帰良好の非補正オッズ比が、酸素 vs.対照で0.97(95%信頼区間:0.89~1.05、p値=0.47)、持続酸素 vs.夜間酸素で1.03(95%信頼区間:0.93~1.13、p値=0.61)であり、いずれも有意差がなかった。非低酸素の急性脳卒中患者では、低用量の酸素補給は3ヵ月後の死亡や後遺症を減らさなかったので推奨できないというのが結論である。

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