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低侵襲血腫除去+血栓溶解、脳内出血の予後を改善するか/Lancet

 30mL以上の脳内出血の治療において、MISTIEと呼ばれる画像ガイド下経カテーテル血腫除去術後に血栓溶解療法を行うアプローチは、標準治療と比較して1年後の機能的アウトカムを改善しないことが、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のDaniel F. Hanley氏らが行ったMISTIE III試験で示された。研究の成果は、Lancet誌2019年3月9日号に掲載された。テント上脳出血による急性脳卒中は、合併症や死亡のリスクが高い。本症への開頭術による血腫除去は有益でないことが、大規模な無作為化試験で示されている。約500例対象に試験、1年後のmRSスコアを評価 研究グループは、低侵襲性の経カテーテル血腫除去術後に血栓溶解療法を行うアプローチ(MISTIE)の、脳内出血患者の機能的アウトカムの改善効果を検証する目的で、非盲検エンドポイント盲検無作為化対照比較第III相試験を行った(米国国立神経疾患・脳卒中研究所とGenentech社の助成による)。 対象は、年齢18歳以上の非外傷性テント上脳内出血(30mL以上)の患者であった。被験者は、血腫の大きさ15mL以下を目標に画像ガイド下MISTIEを施行する群、または標準治療群に無作為に割り付けられた。MISTIEの血栓溶解療法は、アルテプラーゼ1.0mgを8時間ごとに最大9回投与することとした。 主要アウトカムは良好な機能的アウトカムとし、365日時の修正Rankinスケール(mRS)のスコアが0~3と定義され(事前に規定されたベースラインの共変量で補正)、修正intention to treat(mITT)解析が行われた。 2013年12月~2017年8月の期間に、北米、欧州、オーストラリア、アジアの78施設で506例が登録され、499例(MISTIE群:250例、標準治療群:249例)がmITT解析に含まれた。365日mRS 0~3達成率:45% vs.41% ベースラインの全体の年齢中央値は62歳(IQR:52~71)、61%が男性であった。血腫の部位は、大脳基底核が307例(62%)、lobar regionが192例(38%)で、脳内の血腫量は41.8mL(IQR:30.8~54.5)であり、グラスゴー昏睡尺度(GCS)スコアは10(8~13)、NIH脳卒中尺度(NIHSS)は19(15~23)だった。 mITT解析による365日時のmRS 0~3の達成率は、MISTIE群が45%、標準治療群は41%と、両群間に有意な差を認めなかった(補正リスク差:4%、95%信頼区間[CI]:-4~12、p=0.33)。 7日時の死亡率は、MISTIE群が1%(2/255例)、標準治療群は4%(10/251例)であり(p=0.02)、30日時はそれぞれ9%(24例)、15%(37例)であった(p=0.07)。 症候性脳出血(MISTIE群2% vs.標準治療群1%、p=0.33)および脳細菌感染(1% vs.0%、p=0.16)の発生はいずれも同等であったが、無症候性脳出血はMISTIE群で有意に多かった(32% vs.8%、p<0.0001)。また、30日時までに1件以上の重篤な有害事象が発現した患者は、それぞれ30%(76例)、33%(84例)であり、件数は126件、142件と、有意な差がみられた(p=0.012)。 著者は、「これらの知見は、血腫量15mL以下の達成に、より重点を置いたうえで、MISTIE技術のさらなる検討を求めるものである」としている。

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日本人の食事摂取基準2020年版、フレイルが追加/厚労省

 2019年3月22日、厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の報告書とりまとめを了承した。昨年4月より策定検討会にて議論が重ねられた今回の食事摂取基準は、2020年~2024年までの使用が予定されている。策定検討会の構成員には、日本糖尿病学会の理事を務める宇都宮 一典氏や日本腎臓学会理事長の柏原 直樹氏らが含まれている。日本人の食事摂取基準(2020年版)の主な改定ポイントは? 日本人の食事摂取基準(2020年版)の改定では、2015年版をベースとしつつ、『社会生活を営むために必要な機能の維持および向上』を策定方針とし、これまでの生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病)の重症化予防に加え、高齢者の低栄養・フレイル防止を視野に入れて検討がなされた。主な改定点として、・高齢者を65~74歳、75歳以上の2つに区分・生活習慣病における発症予防の観点からナトリウムの目標量引き下げ・重症化予防を目的としてナトリウム量やコレステロール量を新たに記載・フレイル予防の観点から高齢者のタンパク質の目標量を見直しなどが挙げられる。日本人の食事摂取基準(2020年版)、まずは総論を読むべし 報告書やガイドラインなどを活用する際には、まず、総論にしっかり目を通してから、各論や数値を理解することが求められる。しかし、メディアなどは総論を理解しないまま数値のみを抜粋して取り上げ、問題となることがしばしばあるという。これに対し、策定検討会のメンバーらは「各分野のポイントが総論だけに記載されていると、それが読まれずに数値のみが独り歩きし、歪んだ情報が流布されるのではないか」と懸念。これを受け、日本人の食事摂取基準(2020年版)の総論には、“同じ指標であっても、栄養素の間でその設定方法および活用方法が異なる場合があるので注意を要する”と記載し、総論以外にも各項目の目標量などがどのように概算されたのかがわかるように『各論』を設ける。メンバーらは「各指標の定義や注意点はすべて総論で述べられているため、これらを熟知したうえで各論を理解し、活用することが重要である」と、活用方法を強調した。 以下に日本人の食事摂取基準(2020年版)の各論で取り上げられる具体的な内容を抜粋する。タンパク質:高齢者におけるフレイルの発症予防を目的とした量を算定することは難しいため、少なくとも推奨量以上とし、高齢者については摂取実態とタンパク質の栄養素としての重要性を鑑みて、ほかの年齢区分よりも引き上げた。また、耐容上限量は、最も関連が深いと考えられる腎機能への影響を考慮すべきではあるが、基準を設定し得る明確な根拠となる報告が十分ではないことから、設定しなかった。脂質:コレステロールは、体内でも合成される。そのために目標量を設定することは難しいが、脂質異常症および循環器疾患予防の観点から過剰摂取とならないように算定が必要である。一方、脂質異常症の重症化予防の目的からは、200mg/日未満に留めることが望ましい。炭水化物:炭水化物の目標量は、炭水化物(とくに糖質)がエネルギー源として重要な役割を担っていることから、アルコールを含む合計量として、タンパク質および脂質の残余として目標量(範囲)を設定した。ただし、食物繊維の摂取量が少なくならないように、炭水化物の質に留意が必要である。脂溶性ビタミン:ビタミンDは、多くの日本人で欠乏または不足している可能性があるが、摂取量の日間変動が非常に大きく、摂取量の約8割が魚介類に由来し、日照でも産生されるという点で、必要量を算出するのが難しい。このため、ビタミンDの必要量として、アメリカ・カナダの食事摂取基準で示されている推奨量から日照による産生量を差し引いた上で、摂取実態を踏まえた目安量を設定した。ビタミンDは日照により産生されるため、フレイル予防を図る者を含めて全年齢区分を通じて可能な範囲内での適度な日照を心がけるとともに、ビタミンDの摂取については、日照時間を考慮に入れることが重要である。日本人の食事摂取基準(2020年版)改定の後には高齢化問題が深刻さを増す 日本では、2020年の栄養サミット(東京)開催を皮切りに、第22回国際栄養学会議(東京)や第8回アジア栄養士会議(横浜)などの国際的な栄養学会の開催が控えている。また、日本人の食事摂取基準(2020年版)改定の後には団塊世代が75歳以上になるなど、高齢化問題が深刻さを増していく。 このような背景を踏まえながら1年間にも及ぶ検討を振り返り、佐々木 敏氏(ワーキンググループ長、東京大学大学院医学系研究科教授)は、「理解なくして活用なし。つまり、どう活用するかではなく、どう理解するかのための普及教育が大事。食事摂取基準ばかりがほかの食事のガイドラインよりエビデンスレベルが上がると、使いづらくなるのではないか。そうならないためにも、ほかのレベルを上げて食事摂取基準との繋がり・連携を強化するのが次のステージ」とコメントした。また、摂取基準の利用拡大を求めた意見もみられ、「もっと疾患を広げるべき。次回の改定では、心不全やCOPDも栄養が大事な要素なので入れていったほうがいい。今回の改定では悪性腫瘍が入っていないが、がんとともに長生きする時代なので、実際の現場に合わせると病気を抱えている方を栄養の面でサポートすることも重要(名古屋大学大学院医学系研究科教授 葛谷 雅文氏)」、「保健指導の対象となる高血糖の方と糖尿病患者の食事療法のギャップが、少し埋まるのではと期待している。若年女性のやせ、骨粗鬆症も栄養が非常に影響する疾患なので、次の版では目を向けていけるといい(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授 勝川 史憲氏)」、など、期待や2025年以降の改定に対して思いを寄せた。座長の伊藤 貞嘉氏(東北大学大学院医学系研究科教授)は、「構成員のアクティブな発言によって良い会・良いものができた」と、安堵の表情を浮かべた。 なお、厚労省による報告書(案)については3月末、パブリックコメントは2019年度早期に公表を予定している。

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医療者と患者とメーカーの結束が創薬へ

 2月27日、ファイザー株式会社は、「世界希少・難治性疾患の日」に合わせ、「希少・難治性疾患を取り巻く現状と課題 筋ジストロフィー治療の展望・患者さんの体験談を交えて」をテーマにプレスセミナーを開催した。セミナーでは、筋ジストロフィーの概要や希少疾病患者の声が届けられた。希少疾病の解決に必要なエンパワーメント はじめに「筋ジストロフィーの現実と未来」をテーマに小牧 宏文氏(国立精神・神経医療研究センター 病院臨床研究推進部長)が、筋ジストロフィーの中でも予後が悪い、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに焦点をあて講演を行った。 神経筋疾患の多くは進行性で、遺伝子変異に由来し、脊髄前角、末梢神経、神経筋接合部、骨格筋などに影響を及ぼし、さまざまな運動機能を奪う疾患である。最近では、脊柱固定術など対症療法の進歩、人工呼吸器など医療機器の向上もあり、平均死亡年齢は17歳(1976年)から30歳以上(2006年)に伸びている。また、主な死因でみても1980年代では呼吸不全、心不全の順位だったものが、現在では心不全が1位となるなど変化をみせているという。 筋ジストロフィーは、骨格筋だけでなく、呼吸筋、心筋、平滑筋、咀嚼、骨格などに関係する全身性疾患であり、診断から治療、そして予後のフォローまで包括的な診療体制が必要となる。そのため小児科にとどまらず、脳神経内科、整形外科、リハビリテーション科など多領域にわたる連携が必要であり、自然歴を踏まえた定期検査、そして患者のケアを積み重ねていくプロアクティブケア(先回りの医療)が必要と語る。 同時に、治療薬の開発も大切で、そのためには各診療科が連携し、患者の早期発見、臨床研究の実施と個々の患者から得られる臨床データや患者の声を蓄積・シェアし、治療研究に関わることで、その結果を分かちあう仕組み作りが大切だと提案する。そして、この医薬品開発について、期限が限られた大きな目標と捉え、集団で取り組むプロジェクトと説明。成果を出すためにも医療者、患者、企業、公的機関がエンパワーメントを持って取り組むことが期待されると展望を語り、講演を終えた。患者の声を社会に届ける仲立ちに つぎに遠位型ミオパチーという希少疾病患者として織田 友理子氏(NPO法人PADM[遠位型ミオパチー患者会] 代表)が車椅子で登壇し、「超希少疾病とともに歩んだ10年」と題し講演が行われた。講演では、本症の確定診断がついた後、患者の要望などを社会に届けるべく患者会を発足させたこと、治療薬創薬に製薬メーカーへ患者の声を届けるためにNPOを立ち上げるとともに、Webサイト「車椅子ウォーカー」を開設し、同じ境遇の患者がより外へ気軽に出られるように情報提供を行っていることなどを語った。最後に同氏は「自分が今できることは患者として話すことである。患者が個々に持っている、それぞれの幸せが実現できるように、今後も“RDD JAPAN 2019”のような場で病気のこと、患者のことが社会に伝えられるように活動を続けていきたい」と抱負を語った。■参考RDD JAPAN 2019NPO法人PADM車椅子ウォーカー■関連記事希少疾病・難治性疾患特集デュシェンヌ型筋ジストロフィー

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骨粗鬆症の再骨折リスクを抑える新たな一手

 50歳以上では、骨粗鬆症により、女性の3人に1人、男性の5人に1人が脆弱性骨折を起こすといわれ、さらに、一度骨折した患者の再骨折リスクは大きく上昇する。高齢者の骨折は、患者・家族にとってだけでなく、社会にとっても大きな負担となるが、治療率は20%程度と決して高くない。 2019年3月14日、国内初のヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤である骨粗鬆症治療薬ロモソズマブ(商品名:イベニティ)が発売されたことを機に、アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社がセミナーを開催した。そこで、松本 俊夫氏(徳島大学 藤井節郎記念医科学センター 顧問)、宮内 章光氏(医療法人 宮内内科クリニック 理事長)、浜谷 越郎氏(同社 研究開発本部 シニアメディカルアドバイザー)の3名が「骨粗鬆症治療における課題と治療成績向上に向けて」をテーマに講演を行った。骨折リスクに合わせて治療薬を使い分ける 松本氏は、現状の骨粗鬆症治療にはアンメットニーズが存在するとして、以下の3つを提示した。1.治療目標を達成できる患者数は限定的である2.部位によっては治療による骨強度改善が不十分な場合もある3.再骨折の頻度が最も高い骨折後2年以内におけるリスク低減が実現しにくい とくに3について、骨折した1年後の再骨折リスクは通常の5.3倍にもなるといわれるが、従来の治療では効果の発現に時間を要するため、対策が間に合っていない可能性が指摘された。 ロモソズマブは、骨の構造的劣化などを来さず骨量を増加させる作用を持つため、再骨折リスクが高い患者でも、骨折後1~2年以内の骨強度改善が期待されている。 治療薬の使い分けについて「既存骨折がない低骨折リスクの場合には従来の治療を、既存骨折があるなど高骨折リスクを持つ場合にはロモソズマブを使用後に骨吸収抑制剤を使用するなど、患者さんの状況に合わせて選択できる」との考えを述べた。主な臨床試験成績(FRAME試験、ARCH試験) 次に、宮内氏によって、ロモソズマブの国際多施設共同第III相臨床試験データが紹介された。FRAME試験では、55~90歳の閉経後骨粗鬆症患者7,180例(うち日本人492例)を対象に、新規椎体骨折の発生率が評価された。その結果、ロモソズマブを12ヵ月間皮下投与することで、新規椎体骨折の相対リスクはプラセボと比較して73%低下した。また、その後の骨吸収抑制剤(デノスマブ)による継続治療を行うことで、有意な相対リスクの低下は24ヵ月時点でも75%と維持された。 標準治療(アレンドロネート)と比較したARCH試験では、55~90歳の閉経後骨粗鬆症患者4,093例を対象に、ロモソズマブを12ヵ月間皮下投与後アレンドロネートを12ヵ月経口投与した場合と、アレンドロネートを単剤投与した場合を比較した。その結果、24ヵ月時点の新規椎体骨折、主要解析時点の非椎体骨折および大腿骨近位部骨折において相対リスクはいずれも低下し、有意差が認められた。 FRAME試験の日本人集団において、海外データと有効性、安全性は同等であったが、国内におけるデータは必ずしも十分でないため、副作用などについては今後時間をかけて検証していく必要がある。「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」の基準 最後に、浜谷氏がロモソズマブの製品特性について解説した。ロモソズマブの標的であるスクレロスチンは、骨芽細胞による骨形成を抑制し、破骨細胞による骨吸収を促進する糖タンパク質である。これを阻害することで、骨形成促進と骨吸収抑制の2つの作用(デュアルエフェクト)により骨強度を改善すると考えられている。 ロモソズマブの効能・効果は「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」であり、使用に当たっては、WHOにおける重症骨粗鬆症の定義(骨密度値が-2.5SD以下で1個以上の脆弱性骨折を有する)や、原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)で、“骨折の危険性の高い骨粗鬆症を単一の危険因子で規定できるもの”として示されている(1)腰椎骨密度が-3.3SD未満、(2)既存椎体骨折の数が2個以上、(3)既存椎体骨折の半定量評価法によるグレード3などを目安に、適切な症例を判断することが望ましいとされる。 同氏は「従来は、進行を遅らせる治療が主体だった。しかし、ロモソズマブは、1年という短期間で著明な骨量の増加と骨構造の改善が期待できる。骨形成促進剤であるロモソズマブを最初に12ヵ月間投与した後、適切な骨吸収抑制剤を継続することで、その後も骨量・骨強度を維持できるため、これまでの治療パラダイムが大きく変わる可能性がある」と期待を語った。

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6年ぶりの改訂!『頭部外傷治療・管理のガイドライン(第4版)』発表

 3月8日、第42回日本脳神経外傷学会において、6年ぶりの改訂となる『頭部外傷治療・管理のガイドライン(第4版)』(委員長:冨永 悌二氏[東北大学病院副病院長]、委員57名)の概要が、刈部 博氏(仙台市立病院脳神経外科部長)から発表された。なお、本ガイドラインの出版は、本年秋を予定している。頭部外傷診療現場の変化にガイドラインが対応 現在、頭部外傷の診療現場は、初期診療~後療法~社会復帰支援といった一連の診療が求められるとともに、初期診療に救急医や研修医が占める割合が増加するなど大きな変化が起こっている。この状況に対応するため、新たな『頭部外傷治療・管理のガイドライン』では、画像診断、凝固障害、多発外傷、高次脳機能障害および早期リハビリテーションの項目を充実することに力が注がれた。ガイドラインの対象が広がり、タイトルも「頭部外傷」に変更 以前に比べ、頭部外傷患者として、高齢者軽症例や抗血栓薬使用例が増加していることも大きな変化である。それを受け、新たな『頭部外傷治療・管理のガイドライン』では、対象患者が広がった。具体的には、従来は「成人頭部外傷の中等症・重症」であったが、新ガイドラインではさらに「軽症・中等症からの重症化例」が追加された。 また、対象患者の広がりに合わせてガイドラインのタイトルも従来の「重症頭部外傷」から「頭部外傷」に変更された。新ガイドラインは新たに「頭部外傷における凝固障害」の項目が追加 新たな『頭部外傷治療・管理のガイドライン』は、項目が大きく増え、全12項目、補追4項目から成る。前回に比べ「小児頭部外傷」「高齢者頭部外傷」「スポーツ頭部外傷」「外傷に伴う高次脳機能障害」「外傷に伴う低髄液圧症候群」の項目が充実し、新たに「頭部外傷における凝固障害」「早期リハビリテーション」「外傷急性期の精神障害」「多発外傷」の項目が作られた。 また、推奨グレード、エビデンスレベル、600超の引用文献が明記された点も大きな変更点である。

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心不全にスタチンを推奨できない理由

 心不全患者の浮腫が改善、体重が減少して一安心…と思ったら、実は低栄養に陥っていた。そんな経験をお持ちではないだろうか? 心不全における体重管理の落とし穴について、心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント策定委員のメンバーである、鈴木 規雄氏(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院循環器内科)が「臨床現場における心臓悪液質に対するアプローチ」と題し、第34回日本静脈経腸栄養学会学術集会(2019年2月14日)で講演した。静かに忍び寄る心臓悪液質とは 心臓悪液質とは、心不全において負の窒素・エネルギーバランスが生じ、骨格筋の減少を伴った体重減少をきたす予後不良の病態である。この患者割合についての日本人データは乏しいが、欧州臨床栄養代謝学会議(ESPEN)のガイドラインによると、世界ではNYHAII~IV分類の12~16%に存在していると言われている。同氏が自施設の2018年外来心不全患者における心臓悪液質の有症率を調べたところ「14%という結果。これはESPENガイドラインとほぼ一致する数値。つまり心不全患者の10人に1人が予後不良患者に該当する」と述べ、「このような患者の8割強はフレイルや低栄養を呈している」と現況を危惧した。 さらに、500日の生命予後を全死亡と心不全による複合アウトカムで調べたところ、心臓悪液質患者のハザード比は3.74と圧倒的に予後が悪く、「独立した危険因子であることが証明された」と心臓悪液質を有するリスクを強調した。心臓悪液質をどのように疑うのか 心臓悪液質の診断基準は存在するものの、これを簡便に用いることは非常に難しい。同氏らは、栄養やフレイルで用いられる指標から逆算することを試みたところ、アルブミンや体重などを含むGNRI(Cut off 95.3)、体重減少率の一部がオーバーラップするMNA-SF(簡易栄養状態評価表、Cut off 9)や基本チェックリスクスコア(Cut off 12)の3つの指標が強く関連したという。そのため、「これらのCut off値に引っ掛かる患者は悪液質を疑う」と、診療時の介入方法を説明した。心臓悪液質は“浮腫”の存在が厄介 がん悪液質とは異なり、“浮腫”の存在が厄介な心臓悪液質。これは、うっ血性心不全による変化の一つとして腸管浮腫が出現し、さらには腸管浮腫も心不全の増悪や心臓悪液質の進行を助長する 、という相互関係による影響と考えられている。この心不全で生じる腸管浮腫が、バリア機能を破綻しリポポリサッカライド(LPS)産生を招いているという。一方で、LPSにはコレステロールに結合する機序も考えられており、「LPSが炎症性サイトカインを惹起するレセプターに結合する前にコレステロールと結合してしまえば、悪液質の進行が抑えられる」と同氏は提唱した。心不全患者にはスタチンを推奨しない理由 心不全における総コレステロールと予後の解析1)では、コレステロール値が高い患者の予後が良いと示されたほか、心不全で問題となる左室収縮能が低下した例での血清コレステロール低値や心筋梗塞患者の低栄養によるLDL-C低値では予後が不良であることも報告2)されている。また、心不全ではうっ血(後方障害)のほかに、血液の拍出量低下(前方障害)が問題になるが、腸管血流低下によってもLPS上昇が引き起こされる。これを踏まえ同氏は、「血流障害は炎症を上げるだけではなく、LPSの濃度の上昇も示している。そして、左室駆出率が低い患者のようなLPSが上がりやすい病態でコレステロールが低いと、LPSの上昇により圧倒的に予後が悪いことを、われわれの研究結果から確認している」と、同氏は心不全患者へスタチンが推奨できない理由を腸内浮腫の観点から説明「“不要な”スタチン内服を避けることが望まれる」ことを強調し、「ただし、脂質異常を呈する場合や冠血管疾患管理に重点を置く必要があるなど、服用のメリットが高い症例にはスタチンが必要」と付け加えた。 最後に同氏は、「アメリカの心不全ガイドラインでは、心不全治療薬としてのスタチンの積極的な使用はClassIII(望まれていない)、日本でも心不全の治療に対するエビデンスはないので、使用しないことが言われている。そして、βブロッカーやACE阻害薬の導入率が上昇したことで体重が増加するようになったことは良いが、それは、心不全の改善により結果的に体重増加が得られたことを示し、栄養改善によるものではない。心臓悪液質の患者の体重を増やすことだけが治療目的ではない」と締めくくった。■参考1)Rauchhaus, M et al. J Am Coll Cardiol 2003; 42: 1933-1940.2)Ya-WenLu, et al. Clin Nutr. 2018;18:32479-3278.日本心不全学会:心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント日本循環器学会:「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」

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外傷性脳損傷に対するSB623の第II相試験の結果を米国脳神経外科学会で発表/サンバイオ

 サンバイオ株式会社およびその子会社である SanBio, Inc.は、2019年3月6日、現地時間 2019 年4月13日~17日に米国サンディエゴで行われる米国脳神経外科学会(American Association of Neurological Surgeons)の年次総会にて、同グループが日米グローバルで行ったSB623の外傷性脳損傷を対象にした第II相試験(STEMTRA試験)の結果を発表する予定であると発表した。 STEMTRA試験は、2018年4月に被験者(61名)の組み入れを完了し、同年11月に「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成」という良好な結果を得た。これをもって、日本の慢性期外傷性脳損傷プログラムにおいては、国内の再生医療等製品に対する条件および期限付承認制度を活用し、2020年1月期(2019年2月~2020年1月)中に、再生医療等製品としての製造販売の承認申請を目指している。■関連記事【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(5)

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加齢で脆くなる運動器、血管の抗加齢

 2月18日、日本抗加齢医学会(理事長:堀江 重郎)はメディアセミナーを都内で開催した。今回で4回目を迎える本セミナーでは、泌尿器、内分泌、運動器、脳血管の領域から抗加齢の研究者が登壇し、最新の知見を解説した。年をとったら骨密度測定でロコモの予防 「知っておきたい運動器にかかわる抗加齢王道のポイント」をテーマに運動器について、石橋 英明氏(伊奈病院整形外科)が説明を行った。 厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2016)によると、65歳以上の高齢者で介護が必要となる原因は、骨折・転倒によるものが約12%、また全体で関節疾患も含めると約5分の1が運動器疾患に関係するという。とくに、高齢者で問題となるのは、気付きにくい錐体(圧迫)骨折であり、外来でのFOSTAスコアを実施した結果「25歳時から4cm以上も身長が低下した人では、注意を払う必要がある」と指摘した。また、「骨粗鬆症治療薬のアレンドロン酸、リセドロン酸、デノスマブによる大腿骨近位部骨折の予防効果も、近年報告されていることから、積極的な治療介入が望ましい」と同氏は語る。 そして、「50代以降で骨の検査をしたことがない人」「体重が少ない人」など6つの条件に当てはまる人には、「骨粗鬆症の早期発見のためにも、骨密度検査を受けさせたほうがよい」と提案する。また、筋力は「加齢、疾患、不動、低栄養」を原因に減少し、40歳以降では1年間に0.5~1%減少すると、筋力低下についても注意喚起。この状態が続けばサルコぺニアに進展する恐れがあり、予防のため週2~3回の適度な運動とタンパク質などの必須栄養の摂取を推奨した。 そのほかロコモティブシンドローム防止のため日本整形外科学会が推奨するロコモーショントレーニング(スクワット、片脚立ち運動など)は、運動機能の維持・改善になり、実際に石橋氏らの研究(伊奈STUDY)1)でも、運動機能の向上、転倒防止に効果があったことを報告し、レクチャーを終えた。血管からみた認知症予防の最前線 同学会の専門分科会である脳血管抗加齢研究会から森下 竜一氏(同会世話人代表、大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学寄付講座 教授)が、「血管からみるアンチエイジング」をテーマに、血管の抗加齢や認知症診断の最新研究について説明した。 はじめに最近のトピックスである食後高脂血症(食後中性脂肪血症)について触れ、多くの人々が6時間後に中性脂肪がピークとなるため1日の大部分を食後状態で過ごす中で、食後の中性脂肪値を抑制することが重要だと指摘する。実際、食後高脂血症は動脈硬化を促進し、心血管疾患のリスク因子となる研究報告2)もある。また、即席めんやファストフードに多く含まれる酸化コレステロールについて、これらはとくに肥満者や糖尿病患者には酸化コレステロールの血中濃度を上昇させ、動脈硬化に拍車をかけると警鐘を鳴らしたほか、食事後の短時間にだけ、人知れず血糖値が急上昇し、やがてまた正常値に戻る「血糖値スパイク」にも言及。こうした急激な血糖値の変動が高インスリン血症をまねき、過剰なインスリン放出が認知症の原因とされるアミロイドβを蓄積させると指摘する。 そして、認知症については、軽度認知障害(MCI)の段階で発見、早期治療介入により予防する重要性を強調した。その一方で、認知症の評価法について現在使用されている簡易認知機能検査(MMSE)、アルツハイマー病評価スケール(ADAS)などでは、検査に時間要すだけでなく、被験者の心理的ストレス、検査者の習熟度のばらつきなどが問題であり、スクリーニングレベルで使用できる簡便性がないと指摘する。そこで、森下氏らは、被験者の目線を赤外線で追うGazefinder(JCVKENWOOD社)を使用した視線検出技術を利用する簡易認知機能評価法の研究を実施しているという。最後に同氏は「今までの認知症の評価法のデメリットを克服できる評価法を作り、疾患の早期発見・予防に努めたい」と展望を述べ、講演を終えた。■参考文献1)新井智之、ほか. 第2回日本予防理学療法学会学術集会.2015.2) Iso H, et al. Am J Epidemiol. 2001;153:490-499.■参考脳心血管抗加齢研究会日本抗加齢医学会

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がんマネジメントに有用な栄養療法とは?

 2019年2月14、15日の2日間にわたり、第34回日本静脈経腸栄養学会学術集会が開催された。1日目のシンポジウム3「がんと栄養療法の実際-エビデンス?日常診療?」(司会:比企 直樹氏、鍋谷 圭宏氏)では、岡本 浩一氏(金沢大学消化器・腫瘍・再生外科)が「食道がん化学療法におけるCAWLと有害事象対策としての栄養支持療法」について講演。自施設での食道がん化学療法におけるがん関連体重減少(CAWL)・治療関連サルコペニア対策としての栄養支持療法について報告した。がん患者、体重減少の2つの理由 がん患者における体重減少の原因は主に2つに分類することができる。まず、がん誘発性体重減少(CIWL)。これは、がん細胞から分泌される炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-α)やホルモンによる代謝異常、タンパク質分解誘導因子(PIF)の増加が影響しているため、従来管理での改善や維持は、現段階でエビデンスが乏しい。一方、もう1つのCAWLは、消化管の狭窄や閉塞による通過障害、がん治療の有害事象(AE)に起因する体重減少のため、「タンパク質やエネルギーの補給、AE対策によって改善が可能」と岡本氏は述べた。化学療法前にサルコペニアを意識する 抗がん剤の投与量決定に重要となる体表面積を求めるには、体重が必要となる。「この時に筋肉量まで考慮しないと、AE発現率に影響が生じる恐れがある」と同氏はコメント。実際、筋肉量が少ない患者における化学療法では、AEが高率に発現するとの報告*もあり、この事象が原因でサルコペニアの増悪にまで発展してしまうのである。これは、抗がん剤治療によって小腸などの消化管でグルタミン消費量が増加すると、骨格筋分解によってグルタミンが消費され、筋タンパク分解・筋萎縮亢進に至るためである。よって、筋肉量の少ない患者では、「AE発現リスクが高くなるため、治療開始前に患者のサルコペニア有無を認識しておく必要がある」と、同氏は語った。 同氏らの施設では、食道がん患者の化学療法マネジメントとして、栄養バンドル療法(Oral cryotherapy、予防的G-CSF投与、Pharmaconutritionの概念に基づいた栄養補助)を実施し、対策に取り組んでいる。サルコペニアへの対応が長期予後に影響 同氏の施設では食道がん術前・導入化学療法として、2008年よりcStage II以上のSCCに対してFP療法(Day1:CDDP 80mg/m2、Day1~5:5-FU 800mg/m2)を、2012年よりcStage III以上のSCCに対してDCF療法(Day1:DTX 60mg/m2、CDDP 60mg/m2、Day1~5:5-FU 800mg/m2)を実施している。 これらの治療を施行した食道がん患者176例を対象とし、栄養バンドル療法に含まれる栄養剤の有用性を検討するために、2011年3月~2018年7月の期間、HMB・アルギニン・グルタミン配合飲料(以下、配合飲料)非投与群(76例)と配合飲料投与群(100例)に割り付け、後ろ向き研究を実施。方法は2012年5月以降、化学療法開始7日以上前より1日2包を経口もしくは経管投与とし、評価項目はAE発生率、重症度、腸腰筋面積、栄養学的指標の変化とした。その結果、DCF療法を行った配合飲料非投与群(15例)vs.配合飲料投与群(81例)で、総合効果判定PR以上:20% vs.54.3%(p=0.023)、腫瘍縮小割合:-11% vs.29.4%(p=0.065)と改善。同氏は「有意差はつかなかったものの、AEの軽減と奏効率の向上が望める」とし、腸腰筋面積の減少を有意に抑制(-5.2% vs.2.8%、p<0.001)したことを踏まえ、「サルコペニアの予防・治療の介入に有用であった」とコメントした。 また、3年生存率は26.7% vs.46.7%(p=0.098)と、サルコペニア対策が長期予後にも密接に関連していることが裏付けられる結果となった。 化学療法時の栄養バンドル療法導入を振り返り、同氏は「サルコペニアと体重減少の改善を図りながら、化学療法をより安全に行うことが可能となった。この方法によりCAWLやサルコペニアのみならず、QOL、さらなる奏効率向上も期待できる」と締めくくった。■参考*Prado CM, et al.Clin Cancer Res. 2007;13:3264-3268

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会員医師の約6割が医師不足・偏在を実感(会員医師アンケート調査報告)

CareNet.comでは、過日、会員医師の方々に「現在・将来の医師不足、偏在について」をテーマにアンケートへのご協力をお願いしました。今回、その結果がまとまりましたので報告いたします。2019年2月20日にCareNet.comの会員医師を対象にインターネット上でアンケートを実施、回答者総数は340名でした。結果概要医師不足・偏在を実感している会員医師は約6割Q1 今回発表された医師不足や偏在、将来の推計の数字は実感できますか。(回答は1つ)1 実感できる2 実感できない「医師の都会志向」「医局人事」など複雑に絡み合う理由Q2で「実感できる」・「実感できない」の具体的理由についてお聞きしたところ、「実感できる」と回答した会員医師のコメントでは「医師の都会志向」、「へき地人口のさらなる減少」、「医局人事が厳しい」などのコメントがあった。また、「実感できない」と回答した会員医師のコメントでは、「医師の絶対数よりも偏在」、「厚生労働省の統計への信頼性」、「医師の頭数ではなく緊急対応の有無」などのコメントが寄せられた。Q2 「Q1」の回答の理由をお聞かせください。「1 実感できる」回答のコメント(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承ください)●地域偏在の問題都市部への集中、へき地医療の衰退医師の将来設計が都会志向地方に医師が残らず、内科志望者も激減都会での勤務を希望する医師が多いという実感地方中核都市でさえ医師が不足している東京への一極集中が問題医師不足地域で勤務しているが、医師1人に対する負担は東京での勤務時とは比べものにならないくらい大変●診療科偏在の問題主要診療科のなり手が減ってきた外科、小児科、産婦人科では医師不足が進むと思う外科や産婦人科の医師がどんどん疲弊している新専門医制度により、さらに内科系が減る可能性近隣の産科が閉院している診療科によって忙しさが違いすぎる内科、とくに循環器、糖尿病内分泌、脳神経内科の医師が少ないように感じる当地域ではマイナー科も不足し、皮膚科受診をする際は予約が3日後になっている近隣の小児科開業医の高齢化が顕著休日、夜間の救急体制では、顕著に医師数が不足当直勤務後に引き続き勤務する先生方が多い都心部では、皮膚科や耳鼻科が非常に多い印象●医学教育、行政の問題医局人事が大変厳しい将来の見通しが立っていたのに、厚生労働省の対応が遅すぎる自分の医療圏では公的病院の医師がどんどん辞めていくどこの医療機関も医師確保に苦労している地域枠で入学した医師はまず不足地域で働くべき身近で医療崩壊が起こっている若い医師の派遣がない●医療そのものの問題医師の就業環境が劣悪すぎるしばらくは高齢者が増加するため、医師が必要になるのは明らか医師の絶対数がやはり不足「2 実感できない」回答のコメント偏在は実感できるが、医師の絶対数が不足しているとは思えない医療の現場で感じる実感と違うが、将来は不足すると思う医師の不足よりも、フリーアクセスや自己負担が少ないことによる過剰受診が問題表面上の数字よりも医師の雑用や勤務内容などの改善が先だと考える厚生労働省の統計はうのみにできない人口過疎地に医療だけ充実させても解決にはならない人口そのものも偏在があるのではないか医師不足県にいるが、実際周囲で医師が不足しているとの声は聞かれない産婦人科や小児科は頭数ではなく、当直や緊急対応ができるか否かが問題コンビニ出店並のクリニック密集地域に住んでいるので実感がない意外にも「内科」も医師不足Q3で「医師不足だと思う診療科」を尋ねたところ、多い順番で「産婦人科」(175)、「外科」(155)、「小児科」(139)、「内科」(136)、「救急科」(119)の順だった。「内科」の回答が多かった点、ひと頃問題になった「麻酔科」を挙げる会員医師が少なかった点から現場のニーズが垣間見られた。Q3 現在、医師が不足していると思う診療科をお選びください。(回答はいくつでも)1 内科2 小児科3 皮膚科4 精神科5 外科6 整形外科7 産婦人科8 眼科9 耳鼻咽喉科10 泌尿器科11 脳神経外科12 放射線科13 麻酔科14 病理科15 救急科16 形成外科17 リハビリテーション科18 その他19 不足していると思う診療科はない画像を拡大する必ずしも医師数増加だけでない解決策もあるQ4で「医師不足・偏在」への解決策について尋ねたところ、多い順に「病院・診療所・クリニックの適正配置」(155)、「診療報酬で地域差を設ける」(119)、「医師の就業の流動性」(107)の順だった。医師への待遇改善と偏在をなくすことで解決できる内容が多くを占めた。また、「8 その他」へ寄せられた提言として、「医師免許の全国区と地域区の2本立て化」、「女性医師の待遇改善」、「患者数の多い診療科の報酬減」、「患者の受診への意識改革と啓発」などの声が寄せられた。Q4 医師不足や偏在の解決には何が必要だと思われますか。(回答はいくつでも)1 医学部の定員増員2 医師の就業の流動性3 専門医制度の改革4 病院・診療所・クリニックの適正配置5 患者の診療抑制の実施6 診療報酬で地域差を設ける7 外国人医師や医師以外の医療者の活用8 その他画像を拡大する「8 その他」で寄せられたコメント(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承ください)●医師や専門医資格への提言地方に魅力ある教育病院を設置し、若手医師を勤務させる地方医師の専門医更新の免除医師国家試験の合格基準を2段階とし、上位は全国区免許、下位は医師不足県限定免許とする。診療実績で全国区免許へ格上げする女性医師の待遇を改善する医師不足が指摘されている診療科へ進む医師へのメリットを増やす勤務医の所得を増やす医学部の地域合格枠の拡大と地域義務年限の引き上げ医師のボランティア的な仕事に対しての十分な報酬適切な人材を医師にすること●医療制度や診療報酬への提言地域枠への補助金制度を直接医師に支払う急性期病院の内科・外科の診療報酬を上げる患者数が多い診療科の診療報酬を削減する開業医を減らす方策、たとえば勤務医の給与控除を増やす医局制度の復活と強制的な医師のローテーション応召義務の廃止都会の大学医学部の統廃合または自治医大化医師の強制配置●社会への提言医師法など時代に合わせたフレキシブルな改正患者の受診への意識改革と啓発アンケート概要内容「現在・将来の医師不足、偏在についてお聞かせください」実施日2019年2月20日調査方法インターネット対象ケアネット会員医師340名アンケート調査にご協力いただき、ありがとうございました。関連記事推計1万6,226人の内科医が2030年に不足16県が医師少数、改正医療法で是正となるか?

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強直性脊椎炎に新たな治療薬

 2019年1月30日、ノバルティスファーマ株式会社は、同社が製造販売(共同販売:マルホ株式会社)するセクキヌマブ(商品名:コセンティクス)が、昨年12月21日に指定難病である強直性脊椎炎への効能効果の追加承認を取得したことから都内でメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、強直性脊椎炎の概要のほか、患者を交えてパネルディスカッションが行われ、医療者、患者双方から診療の課題などが語られた。強直性脊椎炎の付着部炎症への治療に注目 はじめに「強直性脊椎炎(AS)の病態と新たな治療選択肢~IL-17阻害薬~」をテーマに亀田 秀人氏(東邦大学医学部 内科学講座 膠原病学分野 教授)を講師に迎え、ASの診療概要とセクキヌマブの効果について解説が行われた。 ASは、脊椎関節炎の中でも体軸関節の炎症が主体となる代表疾患であり、リウマチなどと比較しても、若年での発症が多いとされている。また、「本症はHLA-B24の白血球の型が関係していると推定され、この陽性者はわが国で3万人程度と推計されているが、本症の指定難病受給者証所持者は3千人程度にとどまっている。陽性者イコール発症するわけではないが、見過ごされている患者もいる」と亀田氏は指摘する。 診断では、1984年の改訂ニューヨーク基準が使用され、3つの臨床基準とX線検査基準とでASを確定診断する1)。日常診療では、炎症性背部痛とくに腰痛の兆候が重要所見であり、画像診断ではX線とMRIで行うが、MRIの方が仙腸骨の描出が優れていると診断でのポイントを語った。また、ASでは腱や靭帯の付着部の炎症が起こるとされ、痛みを伴い、患者のQOLを著しく低下させ、こうした痛みの管理も必要とされる。 ASの治療目標としては、根治療法が現在ない以上、疾患との共生にむけ、「病状のコントロール、構造破壊の予防、身体機能の正常化を通じて、健康に関連したQOLと社会参加を最大にする」ことが挙げられる。 治療では、薬物療法と運動・理学療法が主体となり、痛みにはNSAIDsが、体軸の炎症には生物学的製剤であるTNF阻害薬などが使用される。また、患者には、疾患への教育と運動の励行、そして、禁煙なども指導される。 とくに薬物療法では、付着部炎症への治療が注目され、IL-17Aが炎症反応に関与する免疫応答に関わることから抗IL-17A抗体製剤の開発が行われてきた。開発されたセクキヌマブは、当初、乾癬の適応から始まり、海外と国内で2つの第III相二重盲検比較試験(MEASURE1およびMEASURE2)が行われ、今回適応に強直性脊椎炎が追加された。 MEASURE1は、活動性AS患者を対象に有効性と安全性を評価する2年間の多施設共同、ランダム化、プラセボ対照、第III相臨床試験。主要評価項目は、ASAS20反応基準で20%以上の改善を達成した患者の割合を指標とし、16週時点のプラセボに対するセクキヌマブの優越性を評価(プラセボ群に割付けられた患者は、16週時点のASAS20反応率に基づき、非反応例は16週、反応例は24週目にセクキヌマブ75mgまたは150mg投与に再割付)。 その結果、16週の時点での ASAS20達成率は,セクキヌマブ皮下投与 150mg群、75mg群、プラセボ群でそれぞれ 61%、60%、29%であった(P<0.001)ほか、患者の約80%で、208週間の治療を通して投与開始時と比較し、脊椎にX線像上の骨所見の進行を示されないことが示唆された(modified Stoke Ankylosing Spondylitis Spinal Score[mSASSS]X線評価尺度を指標)。安全性は良好で、重篤な有害事象では心筋梗塞、胆石症、腹部リンパ節膨脹などが報告されたが、薬剤と関連する死亡例は報告されなかった。また、MEASURE2もASAS20反応基準で20%以上の改善率、安全性ともにほぼ同様の結果が得られ、薬剤に起因する死亡例はなかった。 以上から、亀田氏は「ASは早期診断が難しい脊椎関節炎であり、画像検査の適切な活用が重要となる」と語るとともに、ASの病態では付着部炎が中心的な役割を果たしていることを指摘し、「付着部炎を誘導するIL-17Aを阻害するセクキヌマブのような新しい生物学的製剤は治療への有用性が高い」と述べ、講演を終えた。強直性脊椎炎への関心が高まることを期待 続いて町 亞聖氏をファシリテーターに、強直性脊椎炎患者の銭谷 有基氏、多田 久里守氏(順天堂大学 膠原病・リウマチ内科学 准教授)の3人が登壇し、同社が2018年9月に行ったアンケート調査結果などを基にパネルディスカッションが行われた。 はじめにアンケート調査結果が多田氏から報告され、7割以上の患者が確定診断まで2ヵ所以上の複数医療機関を受診していること、誤診として「ヘルニア」「腰痛症」などが多いこと、半数以上の患者が医師に症状を伝えるうえで(症状が一定化しないため)言葉にするのが難しいと感じていること、また半数の患者がASと診断されてほっとしていることなどが報告された(回答者はASと診断された男女103例/インターネット調査)。 この内容を受けて多田氏は「X線に変化が出づらく診断がつかないのが問題で、腰の痛みが指標となる。特徴的な腰痛と眼病変、皮膚の痛みから本症を疑うことができるかがカギとなる。患者は、痛みの量化、場所、表現の難しさから発信が難しいと思われるので『痛み日記』などをつけることで医療者に身体の状態を理解してもらう工夫ができる」と診療でのポイントを述べた。 また、強直性脊椎炎患者である銭谷氏からは、患者の思いとして周囲の友人や関係者へ自分の痛みを理解してもらうのが難しかったことで、精神的につらい思いをしたこと、患者・患者家族がよく病気を理解することが大切であることなどが語られた。 最後に多田氏からは「ASの診断ができるように医療者への啓発が大事。セクキヌマブの登場で本症への関心が高くなればと思う。誤診や過重診断がないように、迷ったら専門医へ紹介していただきたい」とコメントし、銭谷氏は「痛みと付き合っていき、同じ患者のために何かできればと思う」と抱負を述べ、パネルディスカッションを終えた。■参考文献1)van der Linden S, et al. Arthritis Rheum .1984;27:361-368.

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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は、運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムを呈し、緩徐に進行する神経変性疾患である。■ 疫学アルツハイマー病の次に頻度の高い神経変性疾患であり、平成26年に行われた厚生労働省の調査では、男性6万2千人、女性10万1千人の合計16万3千人と報告されている。65歳以上の患者数が13万8千人と全体の約85%を占め(有病率は1.5%以上)、加齢に伴い発症率が上昇する(ただし、若年性PDも存在しており、決して高齢者だけの疾患ではない)。症状は進行性で、歩行障害などの運動機能低下に伴い医療・介護を要し、社会的・経済的損失は著しい。超高齢社会から人生100年時代を迎えるにあたり、PD患者数は増え続けることが予想されており、本疾患の克服は一億総活躍社会を目指すわが国にとって喫緊の課題と言える。■ 病因これまでの研究により遺伝的因子と環境因子の関与、あるいはその相互作用で発症することが示唆されている。全体の約90%が孤発性であるが、10%程度に家族性PDを認める。1997年に初めてα-synucleinが家族性PDの原因遺伝子として同定され、その後当科から報告されたparkin、CHCHD2遺伝子を含め、これまでPARK23まで遺伝子座が、遺伝子については17原因遺伝子が同定されている。詳細はガイドラインなどを参照にしていただきたい。家族性PDの原因遺伝子が、同時に孤発性PDの感受性遺伝子となることが報告され、孤発性PDの発症に遺伝子が関与していることが明らかとなった。これら遺伝子の研究から、ミトコンドリア機能障害、神経炎症、タンパク分解障害、リソソーム障害、α-synucleinの沈着などがPDの発症に関与することがわかっている。環境因子では、性差、タバコ、カフェインの消費量などが重要な環境因子として検討されている。他にも農薬、職業、血清尿酸値、抗炎症薬の使用、頭部外傷の既往、運動など多くの因子がリスクとして報告されている。■ 病理PDの病理学的特徴は、中脳黒質の神経細胞脱落とレビー小体(Lewy body)の出現である。PDでは黒質緻密層のメラニン色素を持った黒質ドパミン神経細胞が脱落するため、肉眼でも黒質の黒い色調が失われる(図1-A、B)。レビー小体は、HE染色でエオジン好性に染まる封入体で、神経細胞内にみられる(図1-C、D)。レビー小体は脳幹の中脳黒質(ドパミン神経細胞)だけではなく、橋上部背側の青斑核(ノルアドレナリン神経細胞)、迷走神経背側運動核、脳幹に分布する縫線核(セロトニン神経細胞)、前脳基底部無名質にあるマイネルト基底核(コリン作動性神経)、大脳皮質だけではなく、嗅球、交感神経心臓枝の節後線維、消化管のアウエルバッハ神経叢、マイスナー神経叢にも認められる。脳幹の中脳黒質の障害はPDの運動障害を説明し、その他の脳幹の核、大脳皮質、嗅覚路、末梢の自律神経障害は非運動症状(うつ症状、不眠、認知症、嗅覚障害、起立性低血圧、便秘など)の責任病変である。PDのhallmarkであるレビー小体が全身の神経系から同定されることはPDが、多系統変性疾患でありかつ全身疾患であることを示しており、アルツハイマー病とはこの点で大きく異なる。家族性PDの原因遺伝子としてα-synuclein遺伝子(SNCA遺伝子)が同定された後に、レビー小体の主要構成成分が、α-synuclein蛋白であることがわかり、この遺伝子とその遺伝子産物がPDの病態に深く関わっていることが明らかとなった。図1 パーキンソン病における中脳黒質の神経脱落とレビー小体画像を拡大する■ 症状1)運動症状運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムは、左右差が認められることが多く、優位側は初期から進行期まで不変であることが多い。初期から仮面様顔貌、小字症、箸の使いづらさなどの巧緻運動障害、腕振りの減少、小声などを認める。進行すると、姿勢保持障害・加速歩行・後方突進・すくみ足(最初の一歩が出ない、歩行時に足が地面に張り付いて離れなくなる)などを観察し、歩行時の易転倒性の原因となる。多くの症例で、進行期にはL-ドパの効果持続時間が短くなるウェアリングオフ現象を認める。そのためL-ドパを増量したり、頻回に内服する必要があるが、その一方でL-ドパ誘発性の不随意運動であるジスキネジア(体をくねらせるような動き。オフ時に認める振戦とは異なる)を認めるようになる。嚥下障害が進行すると、誤嚥性肺炎を来すことがある。2)非運動症状ほとんどの患者で非運動症状が認められ、前述の病理学的な神経変性、レビー小体の広がりが多彩な非運動症状の出現に関与している。非運動症状は、運動症状とは独立してQOLの低下を来す。非運動症状は、以下のように多彩であるが、睡眠障害、精神症状、自立神経症状、感覚障害の4つが柱となっている。(1)睡眠障害不眠、レム睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorders:RBD)、日中過眠、突発性睡眠、下肢静止不能症候群(むずむず足症候群:restless legs syndrome)など(2)精神・認知・行動障害気分障害(うつ、不安、アパシー=無感情・意欲の低下、アンヘドニア=快感の消失・喜びが得られるような事柄への興味の喪失)、幻覚・妄想、認知機能障害、行動障害(衝動制御障害=病的賭博、性欲亢進、買い物依存、過食)など(3)自律神経症状消化管運動障害(便秘など)、排尿障害、起立性低血圧、発汗障害、性機能障害(勃起障害など)、流涎など(4)感覚障害嗅覚障害、痛み、視覚異常など(5)その他の非運動症状体重減少、疲労など嗅覚障害、RBD、便秘、気分障害は、PDの前駆症状(prodromal symptom)として重要な非運動症状であり、とくに嗅覚障害とRBDは後述するInternational Parkinson and Movement Disorder Society(MDS)の診断基準にもsupportive criteria(支持的基準)として記載されている。■ 分類病期についてはHoehn-Yahrの重症度分類が用いられる(表1)。表1 Hoehn-Yahr分類画像を拡大する■ 予後現在、PDの平均寿命は、全体の平均とほとんど変わらないレベルまで良くなっている一方で、健康寿命については十分満足のいくものとは言い難い。転倒による骨折をしないことがPDの経過に重要であり、誤嚥性肺炎などの感染症は生命予後にとって重要である。2 診断■ 診断基準2015年MDSよりPDの新たな診断基準が提唱され、さらにわが国の『パーキンソン病診療ガイドライン2018』により和訳・抜粋されたものを示す。これによるとまずパーキンソニズムとして運動緩慢(無動)がみられることが必須であり、加えて静止時振戦か筋強剛のどちらか1つ以上がみられるものと定義された。姿勢保持障害は、診断基準からは削除された。パーキンソン病の診断基準(MDS)■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。

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低侵襲血腫除去は保存的治療を上回るか:ランダム化試験 "MISTIE III"

 現在、欧州脳卒中協会(ESO)ガイドラインは、非外傷性の頭蓋内出血に対するルーチンな外科的介入を推奨していない。支持するエビデンスが存在しないためだという。しかし2016年に報告されたMISTIE(Minimally Invasive Surgery Plus rt-PA for Intracerebral Hemorrhage Evacuation)II試験を含むランダム化試験のメタ解析からは、保存的治療を上回る機能自立度改善作用が示唆されている。そのような状況下、2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)では、頭蓋内出血例に対する、低侵襲手術を用いた血腫除去術と保存的療法の機能自立度改善作用を直接比較したランダム化試験“MISTIE III”が報告された。両治療間に改善作用の有意差は認めなかったが、血腫縮小に奏効した例では保存的治療に勝る改善作用が示唆される結果となった。7日のMain Eventセッションにて、Daniel F. Hanley氏(ジョンズ・ホプキンス大学、米国)とIssam A. Awad氏(シカゴ大学、米国)が報告した。 MISTIE III試験の対象は、発症後12~72時間で「修正Rankinスケール(mRS)≦1」、かつ「>30mLの血腫」を認めた頭蓋内出血499例である。アジアを含む全世界74施設で登録された。平均年齢は62歳、61%が男性だった。 これら499例は、「MISTIE治療」群(250例)と「標準治療」群(249例)にランダム化された。「MISTIE治療」群では、最低限の開頭下で、CTガイドにより経カテーテル的に血腫を除去し、その後、tPA洗浄を行った。血腫除去の目標は「≦15mL」である。 追跡はオープンラベルで行われたが、有用性評価者は治療群を盲検化されていた。1年間の死亡リスクはMISTIE治療群で有意に低い その結果、1次評価項目である「1年後mRS:0~3」の割合に、両群間で有意差は認められなかった。2次評価項目である「拡張グラスゴー転帰尺度」にも、有意差はなかった。ただし1年間の死亡リスクは、「MISTIE治療」群で有意に低くなっていた(ハザード比:0.67、95%信頼区間[CI]:0.45~0.98)。 安全性については、「30日間死亡」「72時間以内症候性脳出血」「脳感染症」のいずれも、両群間に有意差はなかった。ただし、72時間以内の無症候性脳出血は、「MISTIE治療」群で有意に多かった(32% vs.8%、P<0.0001)。一方、全重篤有害事象の発現数は、「MISTIE治療」群で126であり、「標準治療」群の142に比べ有意(p=0.012)に低値となっていた。血腫除去良好群ではより良い成績を示す さて、本試験参加医師中、試験前にMISTIE治療を経験していたのは12%にすぎなかった。そのため、血腫除去の成績には相当のバラツキが生じ、目標である「血腫≦15mL」が達成できていたのは59%(146例)のみだった。 そこで血腫を「≦15mL」まで縮小できた例のみで比較してみたところ、「1年後mRS:0~3」の割合は「MISTIE治療」群で「標準治療」群に比べ10.5%、有意(p=0.03)に高値となっていた(オッズ比[OR]:2.02、95%CI:1.05~3.89)。 また、血腫除去率が70%以上になると「1年後mRS:0〜3」達成率が大幅に改善する傾向が認められたため、「MISTIE治療」群の「血腫除去率≧70%」例のみで検討すると、「1年後mRS:0~3」のORは2.05(95%CI:1.09~3.85)で、「標準治療」群に比べ有意に高くなっていた。 Hanley氏報告の主要結果は報告当日Lancet誌にオンライン公開され、Awad氏が担当した血腫除去成績と転帰の関係はNeurosurgery誌に掲載予定である。 本試験はNational Institute of Neurological Disorders and Stroke and Genentechから資金提供を受け行われた。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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第2世代ハイドロゲルコイルの実力は? プラチナコイルとの比較

 脳動脈瘤に対するハイドロゲルコイルを用いた血管内塞栓術は、プラチナコイルに比べ再開通率こそ低いものの (HELPS試験)、使い勝手は必ずしも良くなかったという。第2世代ハイドロゲルコイルは操作性が改善されているとされるが、再開通率は同じように良好だろうか―。2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)では、この点を検討すべく行われたランダム化試験 “HEAT”が報告された。その結果、第2世代ハイドロゲルコイルも再開通率はプラチナコイルより低く、有害事象には差がないことが明らかになった。7日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、Bernard R. Bendok氏(メイヨー・クリニック、米国)が報告した。1次評価項目ではハイドロゲルコイル群が有意に低値 HEAT試験の対象は、径:3~14ミリメートルの動脈瘤を認めた18~75歳の600例である。Hunt and Hess分類のGrade IV以上の例は除外されている。 年齢中央値は57歳、約80%を女性が占めた。また約70%が非破裂瘤だった。 これら600例は、プラチナコイル群(303例)と第2世代のハイドロゲルコイル群(297例)にランダム化され、オープンラベルで追跡された。評価項目を画像所見から解析するのは、割り付け群を盲検化された研究者である。 その結果、1次評価項目である18~24ヵ月後の再開通率(Raymondスコア評価)は、プラチナコイル群の15.4%に対し、ハイドロゲルコイル群では4.4%で、有意に低値となった(p<0.001)。この傾向は、非破裂瘤、破裂瘤を問わず認められた。 Meyer’sスケールを用いて評価しても同様で、ハイドロゲルコイル群の再開通率は13%と、プラチナコイル群の27%よりも有意に低かった(p<0.001)。なお、再開通を「major」(Meyer’sスケール3以上)と「minor」(同1〜2)に分けて比較したところ、ハイドロゲルコイル群では「major」再開通が有意に減少しただけでなく(12.8% vs.20.7%、p=0.016)、「minor」再開通も有意に抑制されていた(1% vs.5%、p=0.004)。complete occlusion例の推移 興味深いのは、“complete occlusion”を認めた例の推移である。留置直後の割合は、プラチナコイル群が28%と、ハイドロゲルコイル群の18%に比べ有意に高値だったものの、留置12~24ヵ月後にはプラチナコイル群の51%を、ハイドロゲルコイル群が68%と上回っていた(p値不明)。 コイル・手技関連の有害事象に群間差はなく、死亡率もプラチナコイル群:3%、ハイドロゲルコイル群:2%で差はなかった。また修正Rankinスケールの分布も、両群で同様だった。QOLは両群とも有意に改善し、群間差は認められなかった。 本試験は、MicroVentionから資金提供を受けた米国・ノースウェスタン大学とメイヨー・クリニックにより、両施設の独立した指揮下で行われた。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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脳梗塞急性期:早期積極降圧による転帰改善は認められないが検討の余地あり ENCHANTED試験

 現在、米国脳卒中協会ガイドライン、日本高血圧学会ガイドラインはいずれも、tPA静注が考慮される脳梗塞例の急性期血圧が「185/110mmHg」を超える場合、「180/105mmHg未満」への降圧を推奨している。しかしこの推奨はランダム化試験に基づくものではなく、至適降圧目標値は明らかでない。2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)では、この点を検討するランダム化試験が報告された。収縮期血圧(SBP)降圧目標を「1時間以内に130~140mmHg」とする早期積極降圧と、ガイドライン推奨の「180mmHg未満」を比較したENCHANTED試験である。その結果、早期積極降圧による「90日後の機能的自立度有意改善」は認められなかった。ただし、本試験の結果をもって「早期積極降圧」の有用性が完全に否定されたわけではないようだ。7日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、Craig Anderson氏(ニューサウスウェールズ大学、オーストラリア)とTom Robinson氏(レスター大学、英国)が報告した。早期積極降圧群とガイドライン順守降圧群を比較するも、想定した血圧差は得られず ENCHANTED試験の対象は、tPAの適応があり、脳梗塞発症から4.5時間未満で、SBP「150~185mmHg」だった2,196例である。74%がアジアからの登録だった(中国のみで65%)。平均年齢は67歳、NIHSS中央値はおよそ8。アテローム血栓性が45%弱、小血管病変が約30%を占めた。 これら2,196例は、「1時間以内にSBP:130〜140mmHgまで低下させ、72時間後まで維持」する「早期積極」降圧群(1,072例)と、ガイドラインに従い「SBP<180mmHg」へ低下する「ガイドライン順守」降圧群(1,108例)にランダム化され、オープンラベルで追跡された。 血圧は、ランダム化時に165mmHgだったSBPが、「早期積極」群で1時間後には146mmHgまでしか下がらなかったものの、24時間後に139mmHgまで低下した。一方「ガイドライン順守」群でも、1時間後には153mmHg、24時間後には144mmHgと、研究者が想定していた以上の降圧が認められた。ランダム化後24時間のSBP平均値は、「早期積極」群:144mmHg、「ガイドライン順守」群:150mmHg(p<0.0001)とその差は6mmHgしかなかった。1次評価項目では両群間に有意差を認めず その結果、1次評価項目である「90日後の修正ランキンスケール(mRS)」は、ITT解析、プロトコール順守解析のいずれにおいても、両群間に有意差を認めなかった。年齢、性別、人種、ランダム化時のSBP(166mmHgの上下)やNIHSS、脳梗塞病型などで分けたサブグループ解析でも、この結果は一貫していた。 ただし、頭蓋内出血のリスクは、「早期積極」群(14.8%)で「ガイドライン順守」群(18.7%)に比べ、有意に低くなっていた(オッズ比[OR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.60~0.94)。医師が「重篤な有害事象」と認識した頭蓋内出血も同様である(OR:0.59、95%CI:0.42~0.82)。なお、脳出血のORは0.79(95%CI:0.62~1.00)だった。 出血以外の有害事象は、群間に有意差を認めなかった。また、90日間死亡率は「早期積極」群:9%、「ガイドライン順守」群:8%だった。新たなランダム化試験を計画中 Robinson氏は、本試験の結果から、現行ガイドラインの大幅な変更を必要とするエビデンスは得られなかったと結論する一方、本試験の問題点として、1)両群の血圧差が小さかった、2)血管内治療の施行率が低かった、などを挙げ、至適降圧目標についてはさらなる検討が必要だと述べた。現在、大血管閉塞/血管内治療例のみを対象としたENCHANTED2試験を計画中だという。 本試験は、主としてオーストラリア政府機関と英国慈善団体から資金が提供され、そのほか、ブラジル政府機関、韓国政府機関、ならびにTakedaからも資金提供を受けた。 本研究は報告と同時に、Lancet誌にオンライン公開された。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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脳卒中後の至適降圧目標は「130/80mmHg未満」か:日本発RESPECT試験・メタ解析

 脳卒中後の血圧管理は、PROGRESS研究後付解析から「低いほど再発リスクが減る」との報告がある一方、PRoFESS試験の後付解析は「Jカーブ」の存在を指摘しており、至適降圧目標は明らかでない。 この点を解明すべく欧州では中国と共同でESH-CHL-SHOT試験が行われているが、それに先駆け、2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)のLate Breaking Clinical Trialsセッション(7日)において、わが国で行われたRESPECT試験が、北川 一夫氏(東京女子医科大学・教授)によって報告された。 登録症例数が当初計画を大幅に下回ったため、「通常」降圧に比べ、「積極」降圧による有意な脳卒中再発抑制は認められなかったものの、すでに報告されている類似試験とのメタ解析では、「積極」降圧の有用性が示された。通常降圧群と積極降圧群の脳卒中再発率の比較 RESPECT試験の対象は、脳卒中発症後30日~3年が経過し、血圧が「130~180/80~110mmHg」だった1,280例である。降圧薬服用の有無は問わない。当初は5,000例を登録予定だった(中間解析後、2,000例に変更)。 平均年齢は67歳、登録時の血圧平均値は145/84mmHgだった。初発脳卒中の病型は、脳梗塞が85%、脳出血が15%である。スタチン服用率は約35%のみだったが、抗血小板薬は約7割が服用していた。 これら1,280例は「140/90mmHg未満」を降圧目標とする「通常」降圧群(630例)と、「120/80mmHg未満」とする「積極」降圧群(633例)にランダム化され、非盲検下で平均3.9年間追跡された(心筋梗塞既往例、慢性腎臓病例、糖尿病例は「通常」群でも降圧目標は130/80mmHg未満)。 ランダム化1年後までに血圧は、通常群:132.0/77.5mmHg、積極群:123.7/72.8mmHgへ低下した。メタ解析では積極降圧で脳卒中再発率の低下が示される その結果、1次評価項目である「脳卒中再発」は、通常群の2.26%/年に対し、積極群では1.65%/年と低値になったが、有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.49~1.11)。ただし脳出血のみで比較すると、通常群(0.46%/年)に比べ、積極群(0.04%/年)でリスクは有意に低下していた(HR:0.09、95%CI:0.01~0.70)。 重篤な有害事象は、両群間に有意差を認めたものはなかった。 この結果を踏まえ北川氏は、すでに公表されている、脳卒中発症後の通常降圧と積極降圧を比較した3つのランダム化試験(SPS3、PAST-BP、PODCAST)とRESPECTを併せてメタ解析した(4,895例中636例で再発)。すると積極降圧群における、脳卒中再発リスクの有意な低下が認められた(HR:0.78、95%CI:0.64~0.96)。 RESPECT以外の上記3試験では積極降圧群のSBP目標値が「125~130mmHg未満」だったため、エビデンスは脳卒中後の降圧目標として「130/80mmHg未満」を支持していると北川氏は結論した。 本試験の資金は「自己調達」と報告されている(UMIN000002851)。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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無症候性の頸動脈高度狭窄例に対するCASで、CEAと転帰の差を認めず:CREST/ACTⅠメタ解析

 米国では、頸動脈インターベンションの最大の適応は無症候性の高度狭窄だという。しかし、米国脳卒中学会など関連14学会による2011年版ガイドラインでは、外科高リスク例を除き、無症候性頸動脈高度狭窄例に対しては、頸動脈ステント留置術(CAS)よりも頸動脈内膜剥離術(CEA)が推奨されている。 しかし同ガイドライン策定後、CREST試験とACTI試験という2つの大規模ランダム化試験において、末梢塞栓保護下CASは、死亡・脳卒中・心筋梗塞抑制に関し、CEAに対する非劣性が示された。 2019年2月6~8日に、米国・ハワイにて開催された国際脳卒中会議(ISC)では、これら2試験の個別患者データをメタ解析した結果が報告され、CAS施行後の転帰はさまざまな評価項目においてCEAと有意差がないと確認された。7日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、Jon Matsumura氏(ウィスコンシン大学、米国)が報告した。評価項目を事前設定のうえ、個別患者データを用いてメタ解析 本メタ解析は両試験の研究者が合意のもと、あらかじめ評価項目を定めたうえで(後述)、個々の患者データを用いて行われた。ACTⅠ試験では80歳以上が除外されていたため、CREST試験参加2,502例中試験開始時に80歳未満だった1,091例と、ACTⅠ試験に参加した1,453例が、今回のメタ解析の対象となった。 試験開始時における、CAS群(1,637例)とCEA群(907例)の患者背景は、CAS群で喫煙者が有意に多い(25.6% vs.21.8%、p=0.033)以外、有意差はなかった。平均年齢は68歳で、65歳以上が約70%を占めている。1次評価項目でCASとCEAに有意差は認められず これらをメタ解析した結果、本解析の1次評価項目とされた「周術期の死亡・脳卒中・心筋梗塞、ランダム化後4年間の同側性脳卒中」(CREST試験と同様)の発生率は、CAS群:5.3%、CEA群:5.1%となり、有意差を認めなかった(p=0.91)。ただしその内訳は、脳卒中(CAS群:2.7% vs.CEA群:1.5%)と死亡(同、0.1% vs.0.2%)、4年間同側性脳卒中(同、2.3% vs.2.2%)には群間差を認めなかったものの(いずれもNS)、心筋梗塞に限ればCAS群が0.6%と、CEA群の1.7%に比べ有意に低値となっていた(p=0.01)。 次に、2次評価項目とされたランダム化後4年間の「脳卒中非発生生存率」だが、同様に、CAS群:93.2%、CEA群:95.1%で有意差はなかった(p=0.10)。「全生存率」で比較しても同様だった(CAS群:91% vs.CEA群:90.2%、p=0.923)。 本メタ解析は、デバイス製造・販売会社からのサポートは受けていない。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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ISC 2019 速報

ISC(国際脳卒中学会議)が、米国・ハワイにて2月6~8日に開催されました。Late-Breakingの発表を含めた主要トピックスの中から、事前投票で先生方からの人気の高かった上位6演題のハイライト記事をお届けします。ISC 2019注目演題一覧※(掲載予定)の演題は変更となる場合がございます。2月6日発表演題Dual Antiplatelet Therapy Using Cilostazol for Secondary Stroke Prevention in High-risk Patients: The Cilostazol Stroke Prevention Study for Antiplatelet Combination (CSPS.com)高リスク患者における二次性脳卒中予防のためのDAPT:抗血小板薬併用療法のシロスタゾールによる脳卒中予防試験(CSPS.com)について2月7日発表演題Treatment of Carotid Stenosis in Asymptomatic, Non-Octogenarian, Standard Risk Patients with Stenting versus Endarterectomy: A Pooled Analysis of the CREST and ACT I Trials無症候性の標準リスク患者の頸動脈狭窄症治療における治療ステント留置術と動脈内膜摘出術の比較:CRESTおよびACT I試験の統合解析A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control in Patients with a History of Stroke: The Recurrent Stroke Prevention Clinical Outcome (RESPECT) Study脳卒中歴のある患者における集中的血圧コントロールと標準的血圧コントロールの無作為化試験:再発性脳卒中予防臨床転帰(RESPECT)研究Main Results of the Enhanced Control of Hypertension and Thrombolysis Stroke Study (enchanted) of the Early Intensive Blood Pressure Control After thrombolysis急性期脳梗塞例に対する、SBP「<130-140mmHg」と「<180mmHg」による、90日後の「死亡・要介助」への影響を比較するRCTThe New Generation Hydrogel Endovascular Aneurysm Treatment Trial (HEAT): Final Results新世代ハイドロゲル血管内動脈瘤治療試験(HEAT):最終結果MISTIE III Surgical Results: Efficiency of Hemorrhage Removal Determines mRSMISTIE III手術成績:非外傷性頭蓋内出血に対する、低侵襲手術がmRSに与えた影響J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とはJ-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用、日本人脳梗塞の出血リスクを増やさず再発抑制:CSPS.com試験

 虚血性脳血管障害に対する長期の抗血小板薬2剤併用は、脳卒中を抑制せず大出血リスクを増やすとされている。これは大規模試験MATCH、CHARISMAサブスタディ、SPS3で得られた知見に基づく。 しかし、これらのランダム化試験で検討されたのは、いずれもアスピリンとクロピドグレルの併用だった。ではCSPS 2試験においてアスピリンよりも出血リスクが有意に低かった、シロスタゾールを用いた併用ではどうだろう――。この問いに答えるべく、わが国で行われたのが、ランダム化非盲検試験CSPS.comである。その結果、アスピリン、クロピドグレル単剤に比べ、それらへのシロスタゾール併用は、重篤な出血リスクを増やすことなく、脳梗塞を有意に抑制することが明らかになった。2019年2月6~8日に、米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)初日のOpening Main Eventにおいて、豊田 一則氏(国立循環器病研究センター病院・副院長)が報告した。アスピリンまたはクロピドグレル単剤服用の脳梗塞再発高リスク例が対象 CSPS.com試験の対象は、非心原性脳梗塞発症から8~180日以内で、アスピリンまたはクロピドグレル単剤を服用していた、脳梗塞再発高リスク例である。「再発高リスク」は、「頭蓋内主幹動脈、あるいは頭蓋外動脈に50%以上の狭窄」または「2つ以上の虚血性イベント危険因子」を有する場合とされた。なお、心不全や狭心症、血小板減少症を認める例などは除外されている。 これらは、アスピリン単剤(81または100mg/日)あるいはクロピドグレル単剤(50または75mg/日)を服用する単剤群と、それらにシロスタゾールを加えた併用群にランダム化され、盲検化されず追跡された。当初は4,000例を登録する予定だったが、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群の有用性が明らかになったため早期中止となり、「単剤」群:947例と「併用」群:932例の比較となった。 平均年齢は70歳。全例日本人で、女性が約30%を占めた。高血圧合併例が85%近くを占めたが、血圧は「135mmHg強/80mmHg弱」にコントロールされていた。また、5%強に虚血性心疾患の既往を認め、30%弱が喫煙者だった。 再発高リスクの内訳は、頭蓋内主幹動脈狭窄が30%弱、頭蓋外動脈狭窄が15%弱となっていた。シロスタゾール併用群では脳梗塞再発率が有意に低下 19ヵ月(中央値)の追跡期間中、1次評価項目である「脳梗塞再発率」は、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群で2.2%/年であり、単剤群の4.5%/年よりも有意に低値となった(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.31~0.76、ITT解析)。脳梗塞に、症状が24時間継続しなかった一過性脳虚血発作(TIA)を加えても同様で、併用群におけるHRは0.50の有意な低値だった(95%CI:0.33~0.76)。 一方、「脳出血の発生率」は併用群で0.4%、単剤群は0.5%で、リスクに有意差はなかった(HR:0.77、95%CI:0.24~2.42)。 また解析した16のサブグループのいずれにおいても、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用に伴う「脳梗塞再発減少」は一貫していた。 一方、安全性評価項目の1つであるGUSTO基準の「重大・生命を脅かす出血発生率」は、併用群が0.6%/年、単剤群で0.9%/年となり、有意差は認められなかった(HR:0.66、95%CI:0.27~1.60)。頭蓋内出血も同様で、有意差はなかった(併用群:0.6%/年vs.単剤群:0.9%/年、HR:0.66、95%CI:0.27~1.60)。  「有害事象発現率」は、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群で有意に高かった(27.4% vs.23.1%、p=0.038)。とくに心臓関係の有害事象で、増加が著明だった(8.4% vs.1.8%。p<0.001)。 一方「重篤な有害事象」に限れば、発現率は併用群のほうが低かった(9.3% vs.15.0%、p<0.001)。大きな差を認めたのは、神経系(4.7% vs.8.3%、p=0.002)と消化器系0.2% vs.1.2%、p=0.022)である。 なお併用群ではおよそ5分の1が、試験開始半年以内に試験薬服用を中止していた。主な理由は頭痛と頻脈だった。 本試験は、循環器病研究振興財団と大塚製薬株式会社の資金提供を受けて行われた。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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頭蓋結合双生児の分離成功は早期着手がカギ/NEJM

 頭蓋結合双生児は、まれな先天異常であり、上矢状静脈洞を共有する完全癒合の双生児は合併症や死亡の割合が高いとされる。米国・ペンシルベニア大学のGregory G. Heuer氏らは、集学的チームにより、生後10ヵ月の完全癒合頭蓋結合双生児(女児)の外科的分離に成功した。詳細な症例報告が、NEJM誌2019年1月24日号に短報として掲載された。分離手術では、3次元プリンターを用いたコンピュータ支援によるデザインとモデリング、特別仕様のデバイス、術中ナビゲーション技術が使用された。これらの技術は、早期の分離を可能にし、若い脳の再生能を生かすことにつながったという。妊娠11週時に診断、脳実質の癒合はないが、上矢状静脈洞を共有 症例は、妊娠11週時に超音波画像所見で頭蓋癒合と診断された。胎児のMRIでは、頭蓋冠の部分的な癒合がみられたが、脳実質の癒合は認めなかった。神経外科医、形成外科医、麻酔科医、神経放射線科医、専門看護師から成る集学的チームが組織された。 出生後(妊娠30週4日)、頭蓋骨上前部の癒合が確認され、脳実質に癒合はないもののinterdigitationが認められた。血管は、双生児の間で上矢状静脈洞水平部が共有され、静脈血が交換されていた。Stone and Goodrich systemに基づき、癒合はtotal angular fusionと判定された。 コンピュータ支援によるデザインおよびモデリングにより、3次元プリントモデルが生成された。この際、共有されている硬膜静脈洞の解剖学的構造にとくに注意が払われた。 癒合した頭蓋骨を分離するために、頭蓋骨切除術とともに骨延長術(distraction osteogenesis)が行われた。分離された頭蓋骨を、徐々に延長するための外付けのデバイスを新たに作製し、生後3ヵ月時に双方の頭部に装着した(1日2.1mmずつ、3週間かけて延長)。延長の後、外付けの圧迫デバイスを用いて、軟部組織の減量が行われた。これにより、共有領域の外周が40cmから28cmに短縮した。生後7ヵ月時には、最終的な分離と頭皮の縫合に向けて、皮膚被覆を増大させるために、癒合部の頭皮と前額部に皮下組織の拡張器が装着され、分離手術までの3ヵ月間留置された。今後、頭蓋骨欠損へのインプラント移植を予定 最終的な分離手術は、生後10ヵ月時に、2段階で行われた。各段階とも、正中矢状面で分離が行われた。術中に遭遇する可能性のある危険な静脈構造のマップを得るために、コンピュータ支援のナビゲーションを使用した。 初回の頭部半球の分離は、合併症もなく、出血は最小限で4時間以内に終了した。対側半球の分離は、共有された上矢状静脈洞があるため手技が複雑で、終了まで約11時間を要した。術後の脳腫脹が検出できるように、いくつかの領域に同種皮膚組織片を移植した。 術後、2人は集中治療室に移され、てんかん治療や創傷の修復術を受けた。状態が安定した時点で、最初の誕生日後まもなく、外来リハビリテーションを受けるために退院した。1人は分離手術後4ヵ月、もう1人は約5ヵ月での退院であった。 分離手術後9ヵ月(生後19ヵ月)の3次元再構成CTでは、双方に頭蓋骨欠損がみられ、脳軟化症の所見が認められた。水頭症や頭蓋内圧の上昇はみられなかった。2人は、4~5歳時に、頭蓋骨欠損を再建する人工頭蓋骨インプラントの移植を受けるために、3次元モデリングの画像検査が行われる予定である。 分離手術後11ヵ月(生後21ヵ月)の時点で、1人は体重が30パーセンタイル、身長は14パーセンタイルに達し、もう1人はそれぞれ55パーセンタイル、14パーセンタイルであった。 著者は、「今回のアプローチは、これまでの頭蓋結合双生児分離手術の死亡率を低下させるために、双生児が若年のうちに早期に行うことを意図した」とし、「この症例に用いた技術や戦略は、リスクのバランス調整に有用であり、早期の分離手術を成功に導いた」と考察している。

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