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第2世代ハイドロゲルコイルの実力は? プラチナコイルとの比較

 脳動脈瘤に対するハイドロゲルコイルを用いた血管内塞栓術は、プラチナコイルに比べ再開通率こそ低いものの (HELPS試験)、使い勝手は必ずしも良くなかったという。第2世代ハイドロゲルコイルは操作性が改善されているとされるが、再開通率は同じように良好だろうか―。2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)では、この点を検討すべく行われたランダム化試験 “HEAT”が報告された。その結果、第2世代ハイドロゲルコイルも再開通率はプラチナコイルより低く、有害事象には差がないことが明らかになった。7日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、Bernard R. Bendok氏(メイヨー・クリニック、米国)が報告した。1次評価項目ではハイドロゲルコイル群が有意に低値 HEAT試験の対象は、径:3~14ミリメートルの動脈瘤を認めた18~75歳の600例である。Hunt and Hess分類のGrade IV以上の例は除外されている。 年齢中央値は57歳、約80%を女性が占めた。また約70%が非破裂瘤だった。 これら600例は、プラチナコイル群(303例)と第2世代のハイドロゲルコイル群(297例)にランダム化され、オープンラベルで追跡された。評価項目を画像所見から解析するのは、割り付け群を盲検化された研究者である。 その結果、1次評価項目である18~24ヵ月後の再開通率(Raymondスコア評価)は、プラチナコイル群の15.4%に対し、ハイドロゲルコイル群では4.4%で、有意に低値となった(p<0.001)。この傾向は、非破裂瘤、破裂瘤を問わず認められた。 Meyer’sスケールを用いて評価しても同様で、ハイドロゲルコイル群の再開通率は13%と、プラチナコイル群の27%よりも有意に低かった(p<0.001)。なお、再開通を「major」(Meyer’sスケール3以上)と「minor」(同1〜2)に分けて比較したところ、ハイドロゲルコイル群では「major」再開通が有意に減少しただけでなく(12.8% vs.20.7%、p=0.016)、「minor」再開通も有意に抑制されていた(1% vs.5%、p=0.004)。complete occlusion例の推移 興味深いのは、“complete occlusion”を認めた例の推移である。留置直後の割合は、プラチナコイル群が28%と、ハイドロゲルコイル群の18%に比べ有意に高値だったものの、留置12~24ヵ月後にはプラチナコイル群の51%を、ハイドロゲルコイル群が68%と上回っていた(p値不明)。 コイル・手技関連の有害事象に群間差はなく、死亡率もプラチナコイル群:3%、ハイドロゲルコイル群:2%で差はなかった。また修正Rankinスケールの分布も、両群で同様だった。QOLは両群とも有意に改善し、群間差は認められなかった。 本試験は、MicroVentionから資金提供を受けた米国・ノースウェスタン大学とメイヨー・クリニックにより、両施設の独立した指揮下で行われた。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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脳梗塞急性期:早期積極降圧による転帰改善は認められないが検討の余地あり ENCHANTED試験

 現在、米国脳卒中協会ガイドライン、日本高血圧学会ガイドラインはいずれも、tPA静注が考慮される脳梗塞例の急性期血圧が「185/110mmHg」を超える場合、「180/105mmHg未満」への降圧を推奨している。しかしこの推奨はランダム化試験に基づくものではなく、至適降圧目標値は明らかでない。2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)では、この点を検討するランダム化試験が報告された。収縮期血圧(SBP)降圧目標を「1時間以内に130~140mmHg」とする早期積極降圧と、ガイドライン推奨の「180mmHg未満」を比較したENCHANTED試験である。その結果、早期積極降圧による「90日後の機能的自立度有意改善」は認められなかった。ただし、本試験の結果をもって「早期積極降圧」の有用性が完全に否定されたわけではないようだ。7日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、Craig Anderson氏(ニューサウスウェールズ大学、オーストラリア)とTom Robinson氏(レスター大学、英国)が報告した。早期積極降圧群とガイドライン順守降圧群を比較するも、想定した血圧差は得られず ENCHANTED試験の対象は、tPAの適応があり、脳梗塞発症から4.5時間未満で、SBP「150~185mmHg」だった2,196例である。74%がアジアからの登録だった(中国のみで65%)。平均年齢は67歳、NIHSS中央値はおよそ8。アテローム血栓性が45%弱、小血管病変が約30%を占めた。 これら2,196例は、「1時間以内にSBP:130〜140mmHgまで低下させ、72時間後まで維持」する「早期積極」降圧群(1,072例)と、ガイドラインに従い「SBP<180mmHg」へ低下する「ガイドライン順守」降圧群(1,108例)にランダム化され、オープンラベルで追跡された。 血圧は、ランダム化時に165mmHgだったSBPが、「早期積極」群で1時間後には146mmHgまでしか下がらなかったものの、24時間後に139mmHgまで低下した。一方「ガイドライン順守」群でも、1時間後には153mmHg、24時間後には144mmHgと、研究者が想定していた以上の降圧が認められた。ランダム化後24時間のSBP平均値は、「早期積極」群:144mmHg、「ガイドライン順守」群:150mmHg(p<0.0001)とその差は6mmHgしかなかった。1次評価項目では両群間に有意差を認めず その結果、1次評価項目である「90日後の修正ランキンスケール(mRS)」は、ITT解析、プロトコール順守解析のいずれにおいても、両群間に有意差を認めなかった。年齢、性別、人種、ランダム化時のSBP(166mmHgの上下)やNIHSS、脳梗塞病型などで分けたサブグループ解析でも、この結果は一貫していた。 ただし、頭蓋内出血のリスクは、「早期積極」群(14.8%)で「ガイドライン順守」群(18.7%)に比べ、有意に低くなっていた(オッズ比[OR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.60~0.94)。医師が「重篤な有害事象」と認識した頭蓋内出血も同様である(OR:0.59、95%CI:0.42~0.82)。なお、脳出血のORは0.79(95%CI:0.62~1.00)だった。 出血以外の有害事象は、群間に有意差を認めなかった。また、90日間死亡率は「早期積極」群:9%、「ガイドライン順守」群:8%だった。新たなランダム化試験を計画中 Robinson氏は、本試験の結果から、現行ガイドラインの大幅な変更を必要とするエビデンスは得られなかったと結論する一方、本試験の問題点として、1)両群の血圧差が小さかった、2)血管内治療の施行率が低かった、などを挙げ、至適降圧目標についてはさらなる検討が必要だと述べた。現在、大血管閉塞/血管内治療例のみを対象としたENCHANTED2試験を計画中だという。 本試験は、主としてオーストラリア政府機関と英国慈善団体から資金が提供され、そのほか、ブラジル政府機関、韓国政府機関、ならびにTakedaからも資金提供を受けた。 本研究は報告と同時に、Lancet誌にオンライン公開された。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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脳卒中後の至適降圧目標は「130/80mmHg未満」か:日本発RESPECT試験・メタ解析

 脳卒中後の血圧管理は、PROGRESS研究後付解析から「低いほど再発リスクが減る」との報告がある一方、PRoFESS試験の後付解析は「Jカーブ」の存在を指摘しており、至適降圧目標は明らかでない。 この点を解明すべく欧州では中国と共同でESH-CHL-SHOT試験が行われているが、それに先駆け、2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)のLate Breaking Clinical Trialsセッション(7日)において、わが国で行われたRESPECT試験が、北川 一夫氏(東京女子医科大学・教授)によって報告された。 登録症例数が当初計画を大幅に下回ったため、「通常」降圧に比べ、「積極」降圧による有意な脳卒中再発抑制は認められなかったものの、すでに報告されている類似試験とのメタ解析では、「積極」降圧の有用性が示された。通常降圧群と積極降圧群の脳卒中再発率の比較 RESPECT試験の対象は、脳卒中発症後30日~3年が経過し、血圧が「130~180/80~110mmHg」だった1,280例である。降圧薬服用の有無は問わない。当初は5,000例を登録予定だった(中間解析後、2,000例に変更)。 平均年齢は67歳、登録時の血圧平均値は145/84mmHgだった。初発脳卒中の病型は、脳梗塞が85%、脳出血が15%である。スタチン服用率は約35%のみだったが、抗血小板薬は約7割が服用していた。 これら1,280例は「140/90mmHg未満」を降圧目標とする「通常」降圧群(630例)と、「120/80mmHg未満」とする「積極」降圧群(633例)にランダム化され、非盲検下で平均3.9年間追跡された(心筋梗塞既往例、慢性腎臓病例、糖尿病例は「通常」群でも降圧目標は130/80mmHg未満)。 ランダム化1年後までに血圧は、通常群:132.0/77.5mmHg、積極群:123.7/72.8mmHgへ低下した。メタ解析では積極降圧で脳卒中再発率の低下が示される その結果、1次評価項目である「脳卒中再発」は、通常群の2.26%/年に対し、積極群では1.65%/年と低値になったが、有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.49~1.11)。ただし脳出血のみで比較すると、通常群(0.46%/年)に比べ、積極群(0.04%/年)でリスクは有意に低下していた(HR:0.09、95%CI:0.01~0.70)。 重篤な有害事象は、両群間に有意差を認めたものはなかった。 この結果を踏まえ北川氏は、すでに公表されている、脳卒中発症後の通常降圧と積極降圧を比較した3つのランダム化試験(SPS3、PAST-BP、PODCAST)とRESPECTを併せてメタ解析した(4,895例中636例で再発)。すると積極降圧群における、脳卒中再発リスクの有意な低下が認められた(HR:0.78、95%CI:0.64~0.96)。 RESPECT以外の上記3試験では積極降圧群のSBP目標値が「125~130mmHg未満」だったため、エビデンスは脳卒中後の降圧目標として「130/80mmHg未満」を支持していると北川氏は結論した。 本試験の資金は「自己調達」と報告されている(UMIN000002851)。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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無症候性の頸動脈高度狭窄例に対するCASで、CEAと転帰の差を認めず:CREST/ACTⅠメタ解析

 米国では、頸動脈インターベンションの最大の適応は無症候性の高度狭窄だという。しかし、米国脳卒中学会など関連14学会による2011年版ガイドラインでは、外科高リスク例を除き、無症候性頸動脈高度狭窄例に対しては、頸動脈ステント留置術(CAS)よりも頸動脈内膜剥離術(CEA)が推奨されている。 しかし同ガイドライン策定後、CREST試験とACTI試験という2つの大規模ランダム化試験において、末梢塞栓保護下CASは、死亡・脳卒中・心筋梗塞抑制に関し、CEAに対する非劣性が示された。 2019年2月6~8日に、米国・ハワイにて開催された国際脳卒中会議(ISC)では、これら2試験の個別患者データをメタ解析した結果が報告され、CAS施行後の転帰はさまざまな評価項目においてCEAと有意差がないと確認された。7日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、Jon Matsumura氏(ウィスコンシン大学、米国)が報告した。評価項目を事前設定のうえ、個別患者データを用いてメタ解析 本メタ解析は両試験の研究者が合意のもと、あらかじめ評価項目を定めたうえで(後述)、個々の患者データを用いて行われた。ACTⅠ試験では80歳以上が除外されていたため、CREST試験参加2,502例中試験開始時に80歳未満だった1,091例と、ACTⅠ試験に参加した1,453例が、今回のメタ解析の対象となった。 試験開始時における、CAS群(1,637例)とCEA群(907例)の患者背景は、CAS群で喫煙者が有意に多い(25.6% vs.21.8%、p=0.033)以外、有意差はなかった。平均年齢は68歳で、65歳以上が約70%を占めている。1次評価項目でCASとCEAに有意差は認められず これらをメタ解析した結果、本解析の1次評価項目とされた「周術期の死亡・脳卒中・心筋梗塞、ランダム化後4年間の同側性脳卒中」(CREST試験と同様)の発生率は、CAS群:5.3%、CEA群:5.1%となり、有意差を認めなかった(p=0.91)。ただしその内訳は、脳卒中(CAS群:2.7% vs.CEA群:1.5%)と死亡(同、0.1% vs.0.2%)、4年間同側性脳卒中(同、2.3% vs.2.2%)には群間差を認めなかったものの(いずれもNS)、心筋梗塞に限ればCAS群が0.6%と、CEA群の1.7%に比べ有意に低値となっていた(p=0.01)。 次に、2次評価項目とされたランダム化後4年間の「脳卒中非発生生存率」だが、同様に、CAS群:93.2%、CEA群:95.1%で有意差はなかった(p=0.10)。「全生存率」で比較しても同様だった(CAS群:91% vs.CEA群:90.2%、p=0.923)。 本メタ解析は、デバイス製造・販売会社からのサポートは受けていない。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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ISC 2019 速報

ISC(国際脳卒中学会議)が、米国・ハワイにて2月6~8日に開催されました。Late-Breakingの発表を含めた主要トピックスの中から、事前投票で先生方からの人気の高かった上位6演題のハイライト記事をお届けします。ISC 2019注目演題一覧※(掲載予定)の演題は変更となる場合がございます。2月6日発表演題Dual Antiplatelet Therapy Using Cilostazol for Secondary Stroke Prevention in High-risk Patients: The Cilostazol Stroke Prevention Study for Antiplatelet Combination (CSPS.com)高リスク患者における二次性脳卒中予防のためのDAPT:抗血小板薬併用療法のシロスタゾールによる脳卒中予防試験(CSPS.com)について2月7日発表演題Treatment of Carotid Stenosis in Asymptomatic, Non-Octogenarian, Standard Risk Patients with Stenting versus Endarterectomy: A Pooled Analysis of the CREST and ACT I Trials無症候性の標準リスク患者の頸動脈狭窄症治療における治療ステント留置術と動脈内膜摘出術の比較:CRESTおよびACT I試験の統合解析A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control in Patients with a History of Stroke: The Recurrent Stroke Prevention Clinical Outcome (RESPECT) Study脳卒中歴のある患者における集中的血圧コントロールと標準的血圧コントロールの無作為化試験:再発性脳卒中予防臨床転帰(RESPECT)研究Main Results of the Enhanced Control of Hypertension and Thrombolysis Stroke Study (enchanted) of the Early Intensive Blood Pressure Control After thrombolysis急性期脳梗塞例に対する、SBP「<130-140mmHg」と「<180mmHg」による、90日後の「死亡・要介助」への影響を比較するRCTThe New Generation Hydrogel Endovascular Aneurysm Treatment Trial (HEAT): Final Results新世代ハイドロゲル血管内動脈瘤治療試験(HEAT):最終結果MISTIE III Surgical Results: Efficiency of Hemorrhage Removal Determines mRSMISTIE III手術成績:非外傷性頭蓋内出血に対する、低侵襲手術がmRSに与えた影響J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とはJ-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用、日本人脳梗塞の出血リスクを増やさず再発抑制:CSPS.com試験

 虚血性脳血管障害に対する長期の抗血小板薬2剤併用は、脳卒中を抑制せず大出血リスクを増やすとされている。これは大規模試験MATCH、CHARISMAサブスタディ、SPS3で得られた知見に基づく。 しかし、これらのランダム化試験で検討されたのは、いずれもアスピリンとクロピドグレルの併用だった。ではCSPS 2試験においてアスピリンよりも出血リスクが有意に低かった、シロスタゾールを用いた併用ではどうだろう――。この問いに答えるべく、わが国で行われたのが、ランダム化非盲検試験CSPS.comである。その結果、アスピリン、クロピドグレル単剤に比べ、それらへのシロスタゾール併用は、重篤な出血リスクを増やすことなく、脳梗塞を有意に抑制することが明らかになった。2019年2月6~8日に、米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)初日のOpening Main Eventにおいて、豊田 一則氏(国立循環器病研究センター病院・副院長)が報告した。アスピリンまたはクロピドグレル単剤服用の脳梗塞再発高リスク例が対象 CSPS.com試験の対象は、非心原性脳梗塞発症から8~180日以内で、アスピリンまたはクロピドグレル単剤を服用していた、脳梗塞再発高リスク例である。「再発高リスク」は、「頭蓋内主幹動脈、あるいは頭蓋外動脈に50%以上の狭窄」または「2つ以上の虚血性イベント危険因子」を有する場合とされた。なお、心不全や狭心症、血小板減少症を認める例などは除外されている。 これらは、アスピリン単剤(81または100mg/日)あるいはクロピドグレル単剤(50または75mg/日)を服用する単剤群と、それらにシロスタゾールを加えた併用群にランダム化され、盲検化されず追跡された。当初は4,000例を登録する予定だったが、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群の有用性が明らかになったため早期中止となり、「単剤」群:947例と「併用」群:932例の比較となった。 平均年齢は70歳。全例日本人で、女性が約30%を占めた。高血圧合併例が85%近くを占めたが、血圧は「135mmHg強/80mmHg弱」にコントロールされていた。また、5%強に虚血性心疾患の既往を認め、30%弱が喫煙者だった。 再発高リスクの内訳は、頭蓋内主幹動脈狭窄が30%弱、頭蓋外動脈狭窄が15%弱となっていた。シロスタゾール併用群では脳梗塞再発率が有意に低下 19ヵ月(中央値)の追跡期間中、1次評価項目である「脳梗塞再発率」は、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群で2.2%/年であり、単剤群の4.5%/年よりも有意に低値となった(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.31~0.76、ITT解析)。脳梗塞に、症状が24時間継続しなかった一過性脳虚血発作(TIA)を加えても同様で、併用群におけるHRは0.50の有意な低値だった(95%CI:0.33~0.76)。 一方、「脳出血の発生率」は併用群で0.4%、単剤群は0.5%で、リスクに有意差はなかった(HR:0.77、95%CI:0.24~2.42)。 また解析した16のサブグループのいずれにおいても、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用に伴う「脳梗塞再発減少」は一貫していた。 一方、安全性評価項目の1つであるGUSTO基準の「重大・生命を脅かす出血発生率」は、併用群が0.6%/年、単剤群で0.9%/年となり、有意差は認められなかった(HR:0.66、95%CI:0.27~1.60)。頭蓋内出血も同様で、有意差はなかった(併用群:0.6%/年vs.単剤群:0.9%/年、HR:0.66、95%CI:0.27~1.60)。  「有害事象発現率」は、アスピリンまたはクロピドグレルへのシロスタゾール併用群で有意に高かった(27.4% vs.23.1%、p=0.038)。とくに心臓関係の有害事象で、増加が著明だった(8.4% vs.1.8%。p<0.001)。 一方「重篤な有害事象」に限れば、発現率は併用群のほうが低かった(9.3% vs.15.0%、p<0.001)。大きな差を認めたのは、神経系(4.7% vs.8.3%、p=0.002)と消化器系0.2% vs.1.2%、p=0.022)である。 なお併用群ではおよそ5分の1が、試験開始半年以内に試験薬服用を中止していた。主な理由は頭痛と頻脈だった。 本試験は、循環器病研究振興財団と大塚製薬株式会社の資金提供を受けて行われた。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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頭蓋結合双生児の分離成功は早期着手がカギ/NEJM

 頭蓋結合双生児は、まれな先天異常であり、上矢状静脈洞を共有する完全癒合の双生児は合併症や死亡の割合が高いとされる。米国・ペンシルベニア大学のGregory G. Heuer氏らは、集学的チームにより、生後10ヵ月の完全癒合頭蓋結合双生児(女児)の外科的分離に成功した。詳細な症例報告が、NEJM誌2019年1月24日号に短報として掲載された。分離手術では、3次元プリンターを用いたコンピュータ支援によるデザインとモデリング、特別仕様のデバイス、術中ナビゲーション技術が使用された。これらの技術は、早期の分離を可能にし、若い脳の再生能を生かすことにつながったという。妊娠11週時に診断、脳実質の癒合はないが、上矢状静脈洞を共有 症例は、妊娠11週時に超音波画像所見で頭蓋癒合と診断された。胎児のMRIでは、頭蓋冠の部分的な癒合がみられたが、脳実質の癒合は認めなかった。神経外科医、形成外科医、麻酔科医、神経放射線科医、専門看護師から成る集学的チームが組織された。 出生後(妊娠30週4日)、頭蓋骨上前部の癒合が確認され、脳実質に癒合はないもののinterdigitationが認められた。血管は、双生児の間で上矢状静脈洞水平部が共有され、静脈血が交換されていた。Stone and Goodrich systemに基づき、癒合はtotal angular fusionと判定された。 コンピュータ支援によるデザインおよびモデリングにより、3次元プリントモデルが生成された。この際、共有されている硬膜静脈洞の解剖学的構造にとくに注意が払われた。 癒合した頭蓋骨を分離するために、頭蓋骨切除術とともに骨延長術(distraction osteogenesis)が行われた。分離された頭蓋骨を、徐々に延長するための外付けのデバイスを新たに作製し、生後3ヵ月時に双方の頭部に装着した(1日2.1mmずつ、3週間かけて延長)。延長の後、外付けの圧迫デバイスを用いて、軟部組織の減量が行われた。これにより、共有領域の外周が40cmから28cmに短縮した。生後7ヵ月時には、最終的な分離と頭皮の縫合に向けて、皮膚被覆を増大させるために、癒合部の頭皮と前額部に皮下組織の拡張器が装着され、分離手術までの3ヵ月間留置された。今後、頭蓋骨欠損へのインプラント移植を予定 最終的な分離手術は、生後10ヵ月時に、2段階で行われた。各段階とも、正中矢状面で分離が行われた。術中に遭遇する可能性のある危険な静脈構造のマップを得るために、コンピュータ支援のナビゲーションを使用した。 初回の頭部半球の分離は、合併症もなく、出血は最小限で4時間以内に終了した。対側半球の分離は、共有された上矢状静脈洞があるため手技が複雑で、終了まで約11時間を要した。術後の脳腫脹が検出できるように、いくつかの領域に同種皮膚組織片を移植した。 術後、2人は集中治療室に移され、てんかん治療や創傷の修復術を受けた。状態が安定した時点で、最初の誕生日後まもなく、外来リハビリテーションを受けるために退院した。1人は分離手術後4ヵ月、もう1人は約5ヵ月での退院であった。 分離手術後9ヵ月(生後19ヵ月)の3次元再構成CTでは、双方に頭蓋骨欠損がみられ、脳軟化症の所見が認められた。水頭症や頭蓋内圧の上昇はみられなかった。2人は、4~5歳時に、頭蓋骨欠損を再建する人工頭蓋骨インプラントの移植を受けるために、3次元モデリングの画像検査が行われる予定である。 分離手術後11ヵ月(生後21ヵ月)の時点で、1人は体重が30パーセンタイル、身長は14パーセンタイルに達し、もう1人はそれぞれ55パーセンタイル、14パーセンタイルであった。 著者は、「今回のアプローチは、これまでの頭蓋結合双生児分離手術の死亡率を低下させるために、双生児が若年のうちに早期に行うことを意図した」とし、「この症例に用いた技術や戦略は、リスクのバランス調整に有用であり、早期の分離手術を成功に導いた」と考察している。

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RDday事務局手記~RDD2019にかける思い~

Rare Disease Day(世界希少・難治性疾患の日、以下RDD)は、より良い診断や治療による希少・難治性疾患の患者さんの生活の質(QOL)の向上を目指して、スウェーデンで2008年から始まった活動で、毎年2月末日に開催されています。2018年までに延べ100ヵ国にて開催され、希少疾患領域における世界最大の社会啓発イベントに成長しました。日本では2010年以降毎年開催されており、前回のRDD2018は過去最大の国内39ヵ所で実施されました。公認開催主催者は地域難病連や患者会にとどまらず、支援者組織や社会福祉関連組織、大学や病院、リハビリテーションセンターといったさまざまな当該領域関連組織が担っています。全国各地のRDDが最終的には同じゴールを目指し、社会に向けた発信を続けることこそ大きな意味があると考えています。10度目の日本開催となるRDD2019は、これからも共に歩む、という気持ちを込めて「きょうも、あしたも、そのさきも」をテーマとしました。2019年2月を中心に開催される全国の公認開催情報はRDD JAPANウェブサイトに掲載されています。RDD JAPAN:https://rddjapan.info/2019/

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足関節骨折のギプス固定、3週間に短縮可/BMJ

 安定型足関節外果単独骨折(Weber分類タイプB)の治療において、ギプスまたは装具による3週間固定の有効性は、従来の6週間ギプス固定と比較して非劣性であることが認められ、最適固定期間は6週から3週へ安全に短縮できる可能性が示唆された。フィンランド・オウル大学病院のTero Kortekangas氏らが、多施設共同無作為化非劣性臨床試験の結果を報告した。安定型Weber分類タイプB腓骨骨折は、最も多い足関節骨折で、膝下に6週間ギプスをすることで非観血的に治療することができる。この治療戦略の臨床アウトカムは一般的に良好であることが示されているが、長期にわたるギプス固定は有害事象のリスク増加と関連しており、ギプス固定の至適期間に関する質の高いエビデンスは不足していた。BMJ誌2019年1月23日号掲載の報告。約250例で6週間ギプス固定とギプスまたは装具による3週間固定を比較 研究グループは、2012年12月22日~2015年6月6日の期間で、フィンランドの主要外傷センター2施設において、静止X線写真により足関節外果(腓骨)単独骨折(Weber分類タイプB)を認めた16歳以上の患者247例を登録。患者を6週間ギプスで固定する(6週ギプス)群84例、3週間ギプスで固定する(3週ギプス)群83例、または3週間装具で固定する(3週装具)群80例に1対1対1の割合で無作為に割り付け、52週間追跡した(追跡調査最終日2016年6月6日)。 主要評価項目は、52週時のOlerud-Molander Ankle Score(OMAS:0~100点、スコアが高いほど転帰良好で症状が少ないことを示す)で、非劣性マージンは-8.8点と定義した。副次評価項目は、足関節機能、疼痛、QOL、足関節の動き、X線写真で、6週、12週、52週時に評価した。ギプスまたは装具を用いた3週間固定、6週間ギプス固定に対して非劣性 無作為化された247例中、212例(86%)が試験を完遂した。52週時のOMAS(平均±SD)は、6週ギプス群87.6±18.3点、3週ギプス群91.7±12.9点、3週装具群89.8±18.4点であり、52週時の群間差は、3週ギプス群vs.6週ギプス群で3.6点(95%信頼区間[CI]:-1.9~9.1、p=0.20)、3週装具群vs.6週ギプス群1.7点(95%CI:-4.0~7.3、p=0.56)であった。いずれの比較においても、95%CIの下限値は事前に定義した非劣性マージン-8.8点を上回り、非劣性が認められた。 群間で統計的有意差が確認されたのは副次評価項目のみで、有害事象については6週ギプス群と比較し両3週固定群で足関節底屈および深部静脈血栓症の発症がわずかに改善した。

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アキレス腱断裂、手術・非手術とも再断裂リスクは低い/BMJ

 アキレス腱断裂の手術療法は、非手術療法に比べ、再断裂のリスクが有意に低いもののその差は小さく(リスク差:1.6%)、他の合併症のリスクが高い(リスク差:3.3%)ことが、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのYassine Ochen氏らの検討で示された。アキレス腱断裂は遭遇する頻度が高く、最近の研究では発生率の増加が報告されている。観察研究を含まない無作為化対照比較試験のみのメタ解析では、手術療法は非手術療法に比べ、再断裂リスクが有意に低い(リスク差:5~7%)が、他の合併症のリスクは16~21%高いとされる。BMJ誌2019年1月7日号(クリスマス特集号)掲載の報告。観察研究を加えたメタ解析 研究グループは、アキレス腱断裂の手術療法と非手術療法における再断裂、合併症、機能的アウトカムを比較する目的で、文献を系統的レビューし、メタ解析を行った(研究助成は受けていない)。 手術療法には低侵襲修復術、観血的修復術が、非手術療法にはキャスト固定、機能装具が含まれた。アキレス腱断裂以外の合併症は、創感染、腓腹神経損傷、深部静脈血栓症、肺塞栓症などであった。 医学関連データベース(2018年4月25日現在)を用いて、アキレス腱断裂の手術療法と非手術療法を比較した無作為化対照比較試験および観察研究を選出した。データの抽出は、4人のレビュアーが2人1組で、所定のデータ抽出ファイルを用いて別個に行った。アウトカムは変量効果モデルを用いて統合し、リスク差、リスク比、平均差と、その95%信頼区間(CI)を算出した。再断裂率:全体重負荷では手術が良好、加速的リハビリでは差なし 29件の研究に参加した1万5,862例が解析に含まれた。無作為化対照比較試験が10件(944例[6%])、観察研究が19件(1万4,918[94%])で、手術療法が9,375例、非手術療法は6,487例であった。全体の加重平均年齢は41歳(範囲:17~86)、男性が74%で、フォローアップ期間の範囲は10~95ヵ月だった。 再断裂率(29件[100%]で検討)は、手術群が2.3%と、非手術群の3.9%に比べ有意に低かった(リスク差:1.6%、リスク比:0.43、95%CI:0.31~0.60、p<0.001、I2=22%)。 合併症の発生率(26件[90%]で検討)は、手術群は4.9%であり、非手術群の1.6%に比し有意に高かった(リスク差:3.3%、リスク比:2.76、95%CI:1.84~4.13、p<0.001、I2=45%)。合併症発生率の差の主な原因は、手術群で創傷/皮膚感染症の発生率が2.8%と高いことであった(非手術群は0.02%)。非手術群で最も頻度の高い合併症は深部静脈血栓症(1.2%)だった(手術群は1.0%)。 スポーツ復帰までの平均期間(4件[14%]で検討)にはばらつきがみられ、手術群で6~9ヵ月、非手術群では6~8ヵ月の幅があり、メタ解析におけるデータの統合はできなかった。また、仕事復帰までの期間(9件[31%]で検討、そのうち6件は情報が不十分のため3件のデータを統合)にも、両群間に差を認めなかった。 全体重負荷による再断裂率は、早期(4週以内、9件[31%]で検討、リスク比:0.49、95%CI:0.26~0.93、p=0.03、I2=9%)および後期(5週以降、15件[52%]で検討、0.33、0.21~0.50、p<0.001、I2=0%)のいずれもが、手術群で有意に良好であった。 早期可動域訓練による加速的リハビリテーション時の再断裂率(6件[21%]で検討)は、手術群と非手術群に差を認めなかった(リスク比:0.60、95%CI:0.26~1.37、p=0.23、I2=0%)。 統合効果推定値に関して、無作為化対照比較試験と観察研究の間に差はみられなかった。 著者は、「アキレス腱断裂の管理の最終的な決定は、個々の患者に特異的な因子および共同意思決定(shared decision making)に基づいて行う必要がある」と指摘し、「本レビューは、手術療法後の客観的アウトカムの評価のメタ解析では、質の高い観察研究を加えることの潜在的な便益を強調するものである」としている。

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第21回 在宅医療の本質を3つのキーワードで理解しよう【週刊・川添ラヂオ】

動画解説今回は地域包括ケアシリーズの第2弾として、在宅医療の本質を考えるための3つのキーワードであるリハ、ICF(国際生活機能分類)、CGA(高齢者総合機能評価)についてお話しします。リハを単なる身体機能訓練だと思っていませんか?リハビリテーションの本来の意味は「その人らしい人生を再構築すること」。それを実現するためにチームで患者さんの生活状況、症状を正しく評価することが大切です。

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【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(5)

「わずかn=61で有意差が出るとは。信じられなかった」。JCHO東京新宿メディカルセンター 脳神経外科 主任部長 今井 英明氏のこの一言でインタビューは始まった。慢性期の外傷性脳損傷(TBI)患者に対する第II相STEMTRA試験で、骨髄由来の間葉系幹細胞から作成した再生細胞薬であるSB623が、運動機能改善に有意な改善を示した。この試験結果がどのようなことを意味するのか、試験開始時からこの治験に関わる今井氏に聞いた。頭部外傷後遺症の問題解決は世の中の要請わが国の慢性期TBIの状況、問題点はどのようなものでしょうか。わが国の頭部外傷受傷者は年間4万人、その3割は退院時に重度障害を後遺していると推測されます。片麻痺、高次脳機能障害、重症の場合は寝たきりとなりますが、慢性期の治療薬はなく、リハビリによる運動機能改善しか手段がありません。とはいえ、わが国では、リハビリテーションをいつまでも受けられるわけではなく、施設や自宅で無治療のまま過ごしている患者さんも少なくないと考えられます。この治験の開始がマスコミで取り上げられた途端に、脳梗塞などの後遺症で苦しむ全国の患者さんからの問い合わせが引きも切らなくなりました。後遺症に苦しむ患者さんがどれだけ多く、これは世の中の要請であると実感しました。この厳しい状況の試験でポジティブな結果が出たのは脅威STEMTRA試験の概要は?STEMTRA試験は、慢性のTBI患者に対するSB623細胞の効果と安全性を評価するため日米で行われた第II相試験です。世界27施設、そのうち日本では5施設で実施され、最終的には世界で61例が登録されました。試験は二重盲検で、定位脳手術でSB623を投与する実薬群に加え、対照群として偽手術群を設定しているエビデンスレベルの高い試験です。わが国では、当時私が在籍していた東京大学において1例目の手術を実施しました。この試験のプロトコールは非常に厳密です。また、盲検性の維持も非常に厳密で、手術に関わる治療者(脳外科医)と評価者は別人です。つまり、患者だけでなく評価者も割り付けを知らず、評価にバイアスがかからない状況なのです。この試験の結果には、どのような意義があるのでしょうか。この試験では、適格基準の範囲内であるものの、傷害部位や重症度なども多様であり、薬の投与部位も治験担当医の裁量に任されている多様性のある集団です。均一なかつ多数の対象でやっても結果が出ない試験が多い中、このようなばらつきの大きい集団で、かつn数の少ない試験で統計学的に有意な結果はまず出ないだろうと、当初は主張していました。しかし、ご存じのとおり、試験結果は有意にポジティブでした。わずか61のn数で、しかもヘテロな集団で有意差が出たのは、驚くべきことです。この厳しい状況を凌駕するほどのパワーが出たということで、夢のようなことが起きたと考えています。STEMTRA試験の概要運動機能障害を伴う慢性期の外傷性脳損傷患者に対するSB623細胞の効果を評価する日米第II相プラセボ対照二重盲検比較試験。対象:受傷後1年以上経過した運動障害を有する外傷性脳損傷患者。GOS-E(The Extended Glasgow Outcome Scale[拡張グラスゴー転帰尺度])3~6(中等度~重度障害)など。試験薬:SB623(それぞれ、2.5×106、5.0×106、10.0×106)を定位脳手術で投与対照:偽手術主要有効性評価項目:Fugl-Meyer Motor Scale4群(偽手術群、SB623 2.5×106群、SB623 5.0×106群、SB623 10.0×106群)に1:1:1:1で無作為割り付け。投与部位と刺入経路は治験担当医の裁量で、運動神経経路の損傷部位に最も近い投与部位を選択。主要有効性評価項目結果:24週時点のFugl-Meyer Motor Scaleのベースラインからの改善量は、SB623投与群の8.7点、コントロール群2.4点で、SB623群で統計学的有意に改善。SB623治療群ではFugl-Meyer Motor Scaleが8.7点改善していますが、どの程度のものなのでしょうか。ワンランク改善するという感覚です。たとえば、車いすでの生活がギリギリできる患者さんが、なんとか杖で歩行可能になる。ドラマのような劇的な変化とは言えませんが、自然経過の中では改善は望めない患者さんに対しての結果であり、患者さんにとっては非常に大きな改善だと言えます。どのようなメカニズムでこの改善効果が表れるのでしょうか。運動機能障害があるということは、運動野の細胞体から伸びる軸索の束、錐体路などと言いますが、そこが傷害されていることです。傷害があった軸索を目標にSB623細胞を移植するのですが、切断された軸索がつながるとは考えられません。あくまで推測ですが、非臨床試験の結果などから考えると、移植細胞が新たな構造を作るのではなく、この細胞から栄養因子(サイトカイン)が分泌され、傷ついた細胞を修復し機能を改善することで、電気信号が正確に筋肉に伝達されるようになった可能性があります。患者さんが「希望を持って生きる」が現実にSTEMTRA試験の結果から、TBIに対する細胞治療は実現に近づいたといえますか。SB623は他家移植細胞なので、ストックして必要時にいつでも使えます。他家移植で問題となる免疫応答もほとんどなく、免疫抑制剤を使用する必要がありません。また、安全性も高く、細胞による副作用も認められていません。今回、バイアスがかからない状況での試験でポジティブな結果が出たという事実は誰も否定できないことだと思います。今後、条件付承認を経て、その後リアルワールドで評価される日も遠くはないでしょう。夢のようなことが現実に迫っていると思います。慢性期TBIをはじめ、脳神経分野の細胞治療には、どのような可能性があるでしょうか。慢性期TBIに関しては、今後の解析から、SB623に対して、効果のある人、効果のある投与部位などが明らかになってくると思います。今回は運動機能の改善を評価していますが、それと連動して、知的機能も上がっていくことが考えられ、高次脳機能障害への発展も十分ありえると思います。また、TBIだけでなく、脳梗塞、脳出血への応用も可能だと思います。大脳白質の軸索障害という病態と考えると、これらの疾患の病態生理に違いはありません。今回のSTEMTRA試験の対象は外傷性ですが、外傷による軸索切断よりむしろ、外傷による血腫で圧迫された虚血傷害の患者さんがほとんどでした。今回の治験で、患者さんが“希望を持って生きる”ということが最も重要だということを勉強させていただきました。今回のこの厳密な第II相試験でのポジティブな結果は、現在の医学では現状維持が精一杯という患者さんにとって、明らかに福音となるのでしょう。“希望を持って生きる”ということが、現実味を帯びてきたと言えます。

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第5回 東京医科歯科大学「がんを考える」市民公開講座【ご案内】

 東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター、同院消化器化学療法外科、同大学院臨床腫瘍学分野、同大学院未来がん医療プロフェッショナル養成プランは、2019年1月13日(日)に、第5回「がんを考える」市民公開講座を開催する。本講座は、同院が地域がん診療連携拠点病院の活動の一環として、がんに関するさまざまなテーマで開催する公開講座の5回目となる。今回は『がん治療とQOL(生活の質)』をテーマに、がん治療中のQOLの維持に積極的に取り組む意味や、QOLの維持に役立つ情報を広く知ってもらうための内容となっており、各種ブース展示や体験コーナーなど、楽しく学べる企画が多数予定されている。 開催概要は以下のとおり。【日時】2019年1月13日(日)《ブース展示》12:00~17:00《セミナー》13:00~16:40【場所】東京医科歯科大学 M&Dタワー2F 鈴木章夫記念講堂〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45現地キャンパスマップはこちら【参加費】無料(※参加申し込み不要)【テーマ】がん治療とQOL(生活の質)【予定内容】《セミナー》13:00~16:40 鈴木章夫記念講堂 司会:石黒 めぐみ氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 消化器化学療法外科)13:00~13:05 開会挨拶 三宅 智氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター/緩和ケア科)13:05~13:25 講演1 知ってますか? がん治療とQOLの関係 石川 敏昭氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 消化器化学療法外科)13:25~13:55 講演2 がん患者さんのための栄養・食事の工夫 有本 正子氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 臨床栄養部)13:55~14:25 講演3  摂食嚥下(食べる・飲み込む機能)の大切さ 中川 量晴氏(東京医科歯科大学歯学部附属病院 摂食嚥下リハビリテーション外来)14:25~14:55 講演4 「がんのリハビリテーション」ってどんなもの? 何のため? 酒井 朋子氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 リハビリテーション部)14:55~15:15 休憩15:15~15:35 医科歯科大のがん治療 update(1) 「遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)外来」がスタートしました 大島 乃里子氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 周産・女性診療科)15:35~15:55 医科歯科大のがん治療 update(2) もっと知ってほしい!「緩和ケア病棟」のこと 三宅 智氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター/緩和ケア科)15:55~16:35 パネルディスカッション がん治療とQOL 座長:植竹 宏之氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 消化器化学療法外科)16:35~16:40 閉会挨拶 川﨑 つま子氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 看護部長)《ブース展示》 12:00~17:00 講堂前ホワイエ■がんと栄養・食事 (東京医科歯科大学医学部附属病院 臨床栄養部)■お口の楽しみ、支えます (東京医科歯科大学歯学部 口腔保健学科)■「がんのリハビリテーション」ってどんなもの? (東京医科歯科大学医学部附属病院 リハビリテーション部)■「がんゲノム医療」ってなに? (東京医科歯科大学医学部附属病院 がんゲノム診療科)■ウィッグ・メイクを楽しもう! (アプラン東京義髪整形/マーシュ・フィールド)■術後の補正下着・パッドのご紹介 (株式会社ワコール リマンマ)■抗がん剤治療の味方「CVポート」ってどんなもの? (株式会社メディコン)■がん患者さんの家計・お仕事に関するご相談 (特定非営利活動法人 がんと暮らしを考える会)■がん患者と家族へのピアサポートの紹介 (特定非営利活動法人 がん患者団体支援機構)■リレー・フォー・ライフ・ジャパン(RFLJ)のご紹介 (RFLJ御茶ノ水実行委員会)■その情報、図書館で調べられます (東京都立中央図書館/東京医科歯科大学医学部附属病院 がん相談支援センター)■看護師よろずミニ相談 (東京医科歯科大学医学部附属病院 専門・認定看護師チーム)■「もっと知ってほしい」シリーズ冊子 (認定NPO法人 キャンサーネットジャパン)【お問い合わせ先】東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45TEL:03-5803-4886(平日 9:00~16:30)【共催】東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター東京医科歯科大学医学部附属病院 消化器化学療法外科東京医科歯科大学大学院 臨床腫瘍学分野東京医科歯科大学大学院 未来がん医療プロフェッショナル養成プラン【協力】認定NPO法人キャンサーネットジャパン【後援】東京医科歯科大学医師会東京都医師会/東京都/文京区第5回 東京医科歯科大学「がんを考える」市民公開講座 詳細はこちら

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サルコペニア嚥下障害は誤嚥性肺炎などの入院が引き金に

 元気だったはずの高齢者が、入院後に低栄養で寝たきりになるのはなぜか。2018年11月10、11日の2日間、第5回日本サルコペニア・フレイル学会大会が開催された。2日目に行われた「栄養の視点からみたサルコペニア・フレイル対策」のシンポジウムでは、若林 秀隆氏(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科)が「栄養の視点からみたサルコペニアの摂食嚥下障害対策」について講演した。誤嚥性肺炎で救急搬送されサルコペニアの嚥下障害になる “嚥下障害があり、食べられないから低栄養になる”という流れはごく普通である。若林氏は、「低栄養があると嚥下障害を来すことがあり、これはリハビリテーションだけでは改善することができない。つまり、栄養改善が要」と、本来とは逆ともとれる低栄養のメカニズムについて解説した。 若林氏によると、一見、元気な老人でも実はサルコペニアを発症している可能性があるという。たとえば、喉のフレイル(嚥下障害ではないが正常より衰えている状態)が原因となり、誤嚥性肺炎を発症。その後、救急搬送され寝たきりや嚥下障害になる場合がある。この原因について同氏は、「急性期病院で誤嚥性肺炎を発症すると“根拠のない安静”や“禁食”がオーダされやすい」と、嚥下、腸管や心臓機能などの適切な評価がなされていない点を指摘。さらに、「病院内での不適切な安静臥床と栄養管理や肺炎の急性炎症による筋肉の分解でサルコペニアを生じる結果、これまで外出や食事が可能であった方でも寝たきりや嚥下障害となる」と、入院後の管理体制を問題視した。サルコペニアによる嚥下障害の定義とは 同氏らを含む4学会(日本サルコペニア・フレイル学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会)は、サルコペニアによる嚥下障害を立証し、メカニズム、診断、治療、今後の展望に関する統一的見解を提言するために、ポジションペーパーを作成している1)。 この合同学会において、サルコペニアによる嚥下障害を以下のように定義している。1)全身の筋肉と嚥下関連筋の両者にサルコペニアを認める2)脳卒中など明らかな摂食嚥下障害の原因疾患が存在し、その疾患による摂食嚥下障害と考えられる場合は除外する3)神経筋疾患による筋肉量減少や筋力低下、そして摂食嚥下障害はサルコペニアの摂食嚥下障害には含めない ポジションペーパーに採用された研究の一部には、今年発表された基礎研究も含まれる。これによると、誤嚥性肺炎では舌や横隔膜で筋分解が亢進し、筋萎縮が生じることが示された2)。これについて同氏は、「人間でも同様のメカニズムにおいて呼吸筋、全身の骨格筋、嚥下筋の筋萎縮が引き起こされ、最終的に寝たきりに至るのでは」と、研究結果を踏まえた人体への影響を説明。さらに、同氏が行った嚥下関連筋のレジスタンストレーニングに関するRCT3)を示し、摂食嚥下障害の原因がサルコペニアの場合、栄養改善を行いながらレジスタンストレーニングを行うと改善しやすい傾向であることを解説した。急性期病院患者のサルコペニア嚥下障害の有病割合は32% 急性期病院の実態として、嚥下リハ患者のサルコペニア有病割合は49%を占め、患者の2人に1人がサルコペニアであることが判明している4)。さらに、患者全体ではサルコペニア嚥下障害の有病割合は32%と、3人に1人はサルコペニアの嚥下障害を有し、急性期病院で起こりがちな、“とりあえず安静”、“とりあえず禁食”、“とりあえず水電解質輸液のみ”によって引き起こされている。これを『医原性サルコペニア』と呼び、同氏は「サルコペニアによる嚥下障害の患者は、他の嚥下障害よりも予後が悪いため予防が重要」と予防の大切さを訴えた5)。サルコペニアによる摂食嚥下障害の予防・治療へ攻めの栄養管理 今後の展望として、サルコペニアによる摂食嚥下障害の予防、治療への介入研究、管理栄養士の積極的な介入を必要が必要であると述べ、それに有用な“攻めの栄養管理“を以下のように提唱した。・(痩せている)実体重の場合:エネルギー必要量=エネルギー消費量±蓄積量(200~750kcal/day)・理想体重の場合:35kcal/kg/day 最後に同氏は、「サルコペニアは地域での予防、軽微な状態で発見し介入することが重要」と述べ、リハ栄養診断やゴール設定など、リハ栄養における5つのステップ5)の活用を求めた。■参考1)Fujishima I, et al. Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int, in press2)Komatsu R, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2018;9:643-653.3)Wakabayashi H, et al. Nutrition. 2018;48:111-116.4)Wakabayashi H, et al. J Nutr Health Aging. 2018 Oct 16.5) Nagano A, et al. Rehabilitation nutrition for iatrogenic sarcopenia and sarcopenic dysphagia. J Nutr Health Aging, in press■関連記事初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊高齢者のフレイル予防には口腔ケアと食環境整備を「食べる」ことは高齢者には大問題

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医師が選んだ"2018年の漢字"TOP5! 【CareNet.com会員アンケート結果発表】

毎年恒例、12月の発表に向けて日本漢字能力検定協会が募集している「今年の漢字」。CareNet.comでは、一足早く会員の先生方に今年の漢字を選んでいただきました。「今年1年の世相を漢字1文字で表すとしたら、何を思い浮かべますか?」という質問に対し、ダントツで選ばれたのは、自然災害を連想させる「災」でした。それでは、「2018年の漢字」トップ5を発表します。発表にあたって、今年はケアネットの新入社員が筆を執りました。書を持つ5人も新入社員です。1位災第1位は群を抜いて多かった「災」2018年は、豪雪に始まり、各地での地震、西日本豪雨、酷暑、台風被害など、さまざまな自然災害が記憶に残る1年でした。なかには、被災した方からのコメントもあり、これを機に、医療現場や家庭での対応策を見直すべきなのかもしれません。 「災」を選んだ理由(コメント抜粋)今年は、地震、台風、土砂崩れなど自然災害が多かった。(60代 内科医/兵庫県)西日本豪雨災害にショックを受けたのと、他にも日本各地で地震、台風など多くの災害があった年だと思うから。(50代 内科医/広島県)今年1年、西日本豪雨、北海道地震、台風など自然災害続きで多くの方が被害に遭われた。そのことを忘れたくはないので。(50代 血液内科/福岡県)まさか自分も被災者になるとは思わなかった。(40代 内科/広島県)2位変昨年初登場し、今年は第2位にランクアップ。年号が変わることを筆頭にした国内の変化、トランプ大統領の動向など世界の変化、そして異常気象やプライベートの環境変化など、さまざまな「変」に対するコメントが寄せられました。平成が終わり、次の年号は何に決まるのでしょうか。 「変」を選んだ理由(コメント抜粋)いろいろと変化が大きかった。世界も安定しておらず、紛争、米国のトランプ大統領など、変化が大きかった。(60代 内科/新潟県)豪雪、猛暑などの気候等も含め「今までの常識だけでは対応できない」ことによく遭遇したという意味で。自身が臨機応変に対応できればという願いも込めて選びました。(50代 内科/福井県)初の米朝首脳会談、築地市場移転、平成最後の年など、変化する世の中であったから。(40代 消化器内科/福岡県)3位嘘第3位は4年ぶりに再登場の「嘘」。政治、マスコミ、教育、メーカーにおける虚偽に関するコメントが多く寄せられました。とくに、東京医大の入試減点問題は印象に残る先生も多かったのではないでしょうか。 「嘘」を選んだ理由(コメント抜粋)政治家の虚偽発言や、フェイクニュースの話題が多かった。(60代 神経内科/東京都)入試不正が印象に残ったから。(30代 精神科/福島県)日本をはじめ各国の指導者が平気で嘘をつき過ぎる。官僚や一流企業・大学も改竄、隠蔽、不正のオンパレード。(50代 皮膚科/東京都)4位乱第4位の「乱」は4年連続のランクイン。国内だけでなく、世界情勢も含めて「乱れている」「混乱している」という印象が強いようです。なかには、渋谷でのハロウィン騒ぎを連想させるコメントもありました。 「乱」を選んだ理由(コメント抜粋)今の世の中あらゆるものが乱れている。(60代 外科/大分県)天災や不祥事などいろいろな騒動が目に付いたから。(30代 循環器内科/福岡県)天候、気象、災害、犯罪、秩序、政治などすべての分野で常識から外れた、乱れた出来事が多過ぎたから。(50代 総合診療科/青森県)5位暑第5位は、初登場の「暑」。7月半ばから8月にかけては気温40度超えの観測地点数が過去最多となり、各地で熱中症患者が多発しました。東京オリンピックに向けた暑さ対策も検討されており、納得のランクインです。 「暑」を選んだ理由(コメント抜粋)今年の夏が非常に暑かったから。(50代 泌尿器科/岐阜県)とにかく猛暑だった。(60代 リハビリテーション科/熊本県)猛暑で大変だった。(40代 小児科/静岡県)アンケート概要アンケート名 :『2018年を総まとめ!今年の漢字と印象に残ったニュースをお聞かせください』実施日    :2018年11月8日~15日調査方法   :インターネット対象     :CareNet.com会員医師有効回答数  :526件

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統合失調症に関する10年間の調査~実臨床のためのレビューとレコメンド

 フランス・パリ・エスト・クレテイユ大学のF. Schurhoff氏らは、統合失調症専門家のための学術研究センター(FondaMental Academic Center of Expertise for Schizophrenia:FACE-SZ)グループによる最初の10年間のコホート研究について報告を行った。L'Encephale誌オンライン版2018年10月13日号の報告。 FACE-SZでは、700以上のコミュニティで安定している患者を募集し、現在まで評価を行っている。対象者は、平均年齢32歳、男性の割合75%、平均罹病期間11年、平均発症年齢21歳、統合失調症の平均未治療期間1.5年、喫煙者55%であった。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者におけるメタボリックシンドロームの有病率は、一般集団と比較し2倍であり、正しい評価や治療が行われていなかった。・ベンゾジアゼピン使用患者および慢性低悪性度末梢炎症患者において、認知機能低下が認められた。・うつ病の合併は、対象患者の約20%で認められた。・うつ病は、QOL低下や統合失調症の喫煙者におけるニコチン依存症の増加と関連が認められた。・うつ病および陰性症状の改善は、統合失調症患者のQOL改善のための最も効果的な治療戦略であると考えられる。・大麻使用患者および発症年齢が19歳未満の患者では、統合失調症の未治療期間が長くなる傾向が認められた。・治療開始後、主観的にネガティブの印象を報告した患者では、錐体外路症状や体重増加などの客観的な副作用とは無関係に、治療に対するアドヒアランスが低下した。・アカシジアは、統合失調症の18%で認められ、これは抗精神病薬の多剤併用と関連が認められた。 結果を踏まえ、臨床ケアを行う際の、著者らのレコメンドは以下のとおりである。・統合失調症の早期診断は、青年および大麻使用者でとくに強化すべきである。・すべての患者において、治療開始時および安定後に総合的な神経心理学的評価を行わなければならない。・代謝パラメータや生活習慣(食生活や身体活動)の改善を強化すべきである。・ベンゾジアゼピンおよび抗精神病薬の多剤併用については、ベネフィット/リスク比を定期的に再評価し、できるだけ早い段階で是正すべきである。・うつ病の改善は、統合失調症のQOLを大幅に改善する可能性があるため、うつ病の診断、治療を行うべきである。・認知リハビリテーション療法や抗炎症戦略は、より治療戦略に組み込むべきである。■関連記事統合失調症患者の死亡率に関する30年間のフォローアップ調査初回エピソード統合失調症患者における抗精神病薬治療中止に関する20年間のフォローアップ研究統合失調症患者の強制入院と再入院リスクとの関連~7年間のレトロスペクティブコホート研究

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高齢者が筋肉をつける毎日の食事とは

 現在わが国では、高齢者の寝たきり防止と健康寿命をいかに延伸させるかが、喫緊の課題となっている。いわゆるフレイルやサルコペニアの予防と筋力の維持は重要事項であるが、それには毎日の食事が大切な要素となる。 2018年10月31日、味の素株式会社は、都内で「シニアの筋肉づくり最前線 ~栄養バランスの良い食事とロイシン高配合必須アミノ酸による新提案~」をテーマにメディアセミナーを開催した。セミナーでは、栄養学、運動生理学のエキスパートのほか、料理家の浜内 千波氏も登壇し、考案した料理とそのレシピを説明した。高齢者の筋肉の維持と増加に必要なたんぱく質の量 はじめに「筋肉づくりの観点から見た日本人のたんぱく質摂取の現状と課題」をテーマに、高田 和子氏(国立健康・栄養研究所 栄養ガイドライン研究室長)が、サルコペニアを予防する1日のたんぱく質必要摂取量を解説した。 「国民健康・栄養調査(2012年版)」を資料に説明。筋肉の維持と増加のためには成人1日あたり体重1kgにつき1.0~1.2gのたんぱく質が必要であり、健康な高齢者でも同じ量が、慢性疾患のある高齢者では1.2~1.5gが必要であるとされる。また、「サルコぺニア診療ガイドライン 2017」(日本サルコペニア・フレイル学会 編)では、1日1kgあたり1.0g以上のたんぱく質摂取が強く推奨され、同様に「フレイル診療ガイドライン 2018年版」(日本老年医学会、長寿医療研究センター 発行)では、栄養状態はフレイルと関係し、微量栄養や血清ビタミンD低値はリスクとなると記載されている。実際摂取量を計測した研究では、高齢になればなるほどたんぱく質必要量の1.2gに満たない割合が男女ともに増え、また、いずれの年代でも女性では朝・昼食では基準値以下であることが判明したという。 サルコペニアに着目したアミノ酸の摂取推奨量では、たんぱく質25~30g摂取時にロイシンが2.5~2.8g含まれると、たんぱく質同化の閾値が高くなるという報告があり、「必須アミノ酸混合物を食事に追加するとよい」と提案を行った。その一方で、日本人のロイシン摂取量の研究では、男女ともに全年代の半数近くが1日必要量が摂取できていなかったという1)。 以上から同氏は、高齢者は筋肉をつける「たんぱく質の摂取量をもう少し増やす必要があり、各食事での摂取量や質も考慮する必要がある。日本人の適量については、今後さらなる研究が必要」と課題を呈示し、説明を終えた。高齢者はレジスタンス運動後の必須アミノ酸で筋肉を増やす 次に藤田 聡氏(立命館大学スポーツ健康科学部 教授)を講師に迎え、「必須アミノ酸ロイシンと運動による筋肉づくり」をテーマにレクチャーが行われた。 加齢に伴い骨格筋量は減少し、60代からその減少は加速する。減少を抑えるためには、筋肉量の維持・増大が必要であり、食事で良質なたんぱく質を摂取する必要がある。その際、たんぱく質を筋肉に合成するスイッチとして、アミノ酸が不可欠となる。このアミノ酸の中でもロイシンは重要であり、空腹時でも筋肉合成をオンにする作用があることが報告されている。また、ロイシン濃度は筋肉の合成量に比例して影響するとされているが、高齢者になるとロイシンに抵抗性が発生するため、筋肉の合成がうまくいかず徐々に筋肉が減少するという2)。そのため高齢者では、ロイシンをはじめとするアミノ酸摂取を強化し、食事から摂る必要があると指摘した。 筋肉の合成につき、たとえば筋トレなどのレジスタンス運動後は、筋たんぱく質の合成が急激に刺激されることがわかっており、とくに単回のレジスタンス運動でも、運動後その合成効果は2日間持続することが報告されている。 同氏は、最後にアドバイスとして「高齢者は、スクワットなどの手軽なレジスタンス運動後に必須アミノ酸を摂取することで、筋肉の合成を促進させ、フレイルやサルコペニアの予防に役立てることができる」と述べ、レクチャーを終えた。高齢者はたんぱく質が少ない傾向にあり栄養が偏りがち つづいて高田氏、藤田氏に加え、料理研究家の浜内 千波氏、同社取締役の木村 毅氏も加わり、「筋肉づくりに大切なたんぱく質がしっかり摂れる、簡単で美味しい食事とロイシン高配合必須アミノ酸の活用のススメ」をテーマに意見交換が行われた。発言では「高齢者では肉魚が少ない傾向にあり栄養が偏りがち」「朝食が簡単すぎ、少食すぎるのは問題」「できれば毎食5g程度のたんぱく質が必要」「肉や魚だけでなく、乳製品や大豆製品からもたんぱく質は摂れるので、飽きない献立作りが必要」など、日ごろから高齢者が筋肉をつける食事で注意すべきポイントが語られた。 また、よい食生活の合言葉である「さ(魚)あ(油)に(肉)ぎ(牛乳)や(野菜)か(海藻)い(イモ)た(卵)だ(大豆)く(果物)」(東京都健康長寿医療センター研究所が開発した食品摂取多様性スコアを基に作成されたロコモチャレンジ! 推進協議会考案)をテーマに考案されたレシピが、浜内氏より発表された。料理の特徴として、栄養バランスはもちろん、減塩、血糖値の維持、咀嚼のくせ付けなどに注意を払い作成されたという。 最後に一言として、高田氏は「たんぱく質の摂取の研究はこれからの課題。毎食少しの工夫でうまく摂ってほしい」、藤田氏は「筋肉量が多い人ほど病気の予後が良い。良質なたんぱく質の摂取を意識し筋肉を維持してほしい」、浜内氏は「食事が体を作る。今のライフスタイルに合わせて。食事にも気をかけてほしい」、最後に木村氏は「栄養バランスといいメニューをどう提供するか。健康長寿の延伸に資する製品を提供していきたい」とそれぞれ述べ、終了した。

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特発性肺線維症〔IPF : idiopathic pulmonary fibrosis〕

特発性肺線維症特発性肺線維症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義間質性肺炎は、肺の間質と呼ばれる肺胞(隔)壁などに傷害と炎症が生じ、不可逆的な線維化を起こす疾患群である。この間質性肺炎には、薬剤性、膠原病性、大量の粉塵吸入など原因が明らかなものと、原因が不明な特発性間質性肺炎とがある。主な特発性間質性肺炎は7つの病型に分類されているが、そのうち患者数が最も多く、かつ予後不良の中心的疾患が特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)である。IPFは慢性、進行性の疾患であり、高度の線維化が肺底部、肺の末梢領域から肺全体へ広がって、不可逆性の蜂巣肺と呼ばれる病変を形成する、きわめて予後不良の疾患である。IPFの病理組織像はusual interstitial pneumonia (UIP)と呼ばれている所見である。従来、有効な治療法のない疾患であったが、近年、2つの抗線維化薬が治療薬として注目されている。■ 疫学近年まで特発性間質性肺炎、IPFの患者数についての正確な調査は行われておらず、まったく不明であったが、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究班」により2008年以来、北海道において詳細な疫学研究が行われ、実態が明らかにされてきた。これによると、特発性間質性肺炎の有病率は10万人あたり10.0人であり、日本全体では少なくとも約1万3千人の患者数となり、その多くがIPFであることから、少なくみても1万数千人以上のIPF患者が日本には存在すると考えられる。■ 病因定義で述べたように、IPFの原因は不明であるが、リスク・ファクターとして喫煙、職場の粉塵(とくに金属粉塵)、ウィルスなどが考えられている。家族性で遺伝的素因が強くうかがわれる例もある。■ 症状IPFはゆっくりと進行する疾患であるが、個々の患者によって比較的急速に進行する例もある。主な症状は労作時の呼吸困難とさまざまな程度の乾性咳嗽である。労作時の息切れは、来院する6ヵ月~数年前から存在しており、聴診ではほとんどの例で、背部下肺野に捻髪音(fine crackle)を聴取する。半分~1/3の例で「ばち指」を認める。進行し末期に至ると、肺性心、末梢性浮腫、チアノーゼなどがみられてくる。■ 分類背景因子として、粉塵吸入の目立つ例、C型肝炎例、糖尿病合併例、膠原病が疑われる症状のある例、過敏性肺炎との鑑別が難しい例、家族性の例などさまざまなサブタイプの存在するheterogeneousな疾患といえる。近年、欧米からの指摘により日本でも再注目されているのが、上肺に気腫が存在し、下肺に線維化がある「気腫合併肺線維症」(CPFE:combined pulmonary fibrosis and emphysema)である。本病態は喫煙と強い関係があり、呼吸機能上、気腫と線維化が相殺されて、1秒率 (FEV1/FVC)は一見正常に近いが、肺拡散能が低下しているという特徴を有する。本病態では、肺がんの高率合併や症例によっては強い肺高血圧症を合併することからも注意が必要である。分類ではないが、IPFの病態としてきわめて重要なものに「急性増悪」と肺がん合併がある。急性増悪を一旦起こすと、死亡率約80%ともいわれ、きわめて予後不良である。■ 予後IPFはきわめて予後不良の疾患で、わが国のある調査では、初診時を起点とした平均生存期間は約5年であった。また、欧米での診断確定後の平均生存期間は28~52ヵ月とされる。しかしながら、IPFの予後にはきわめて多様性があり、数ヵ月で急性増悪などにより死亡する例から10数年以上生存する例までさまざまである。ただ、全体的にはきわめて予後不良の疾患であることは間違いのないところである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)IPFの診断については基本的には図1の「IPF診断のフローチャート」に沿って行われる。まず、原因の明らかな他の間質性肺疾患を除外し、つぎにHRCT所見で典型的なUIPパターン(表1)を示す場合には、臨床的にIPFと確定診断される。外科的肺生検が実施された例では、HRCT所見と病理所見の組み合わせで判断していく(表2)。HRCTで典型的なUIPパターンを示さない場合でもpossible UIPパターンで、臨床経過がIPFに合致するような肺機能低下を示す(disease behavior)例ではIPFと臨床診断されることも可能である。こういった診断の際には間質性肺疾患の診断経験を十分に積んだ呼吸器専門医、画像診断医、病理診断医がMDD(multi-disciplinary discussion:多職種による合議)を行い、総合的に判断していくことがIPFの正確な診断に重要とされている。血液検査所見としては、従来LDHのみであったが、近年、新しい間質性肺炎マーカーとしてKL-6、SP-D、SP-Aが導入された。これらは、診断と共に活動度の判定にも有用である。呼吸機能としては、通常肺活量(VC)や全肺気量(TLC)の低下がみられ、拘束性換気障害のパターンを示し、また同時に肺拡散能の低下も認められる。ただし、気腫合併肺線維症ではこの限りではないことは前述した。IPFとの鑑別が必要な主な疾患として、表3のようなものがあげられる。画像を拡大する■MDD(multidisciplinary discussion)の取り扱いMDD:下記のとおり、呼吸器内科医、画像診断医、病理診断医が総合的に診断するMDD-A:画像上他疾患が考えられる場合、気管支鏡検査あるいは外科的肺生検で他疾患が見込まれる場合MDD-B:外科的肺生検は積極的UIP診断の根拠になる場合が多いため、患者のリスクを勘案の上、可能な限り施行するMDD-C:IPF症例で非典型的な画像(蜂巣肺が不鮮明など)を約半数で認めるため、呼吸機能の低下など、進行経過(behavior)を総合して臨床的IPFと判断する症例があるMDD-D:病理検査のない場合の適格性を検討する各MDDにおいて最終診断が変わりうる可能性がある画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療今まで、IPFの生存率や健康関連QOLに対して明らかな有効性が証明された薬物治療法はなかったが、2008年に新しく上市された抗線維化薬ピルフェニドン(商品名:ピレスパ)、さらに2015年に上市されたニンテダニブ(同:オフェブ)が大きく注目されている。IPFは治癒が期待できない難治性疾患であるため、その治療目標は改善ではなく、むしろ悪化防止(現状維持)が現実的である。予後不良因子である急性増悪の予防(感冒・心不全などの予防、無理をしないなど)、合併症の肺がん、肺高血圧症の早期発見と対応が求められる。後述する薬剤治療に関しても、治療効果と副作用を考えて選択することが重要である。次に、薬剤治療について述べる。1)N-アセチルシステイン(NAC:N-acetylcysteine)は、グルタチオンの前駆物質であり、抗酸化作用を有すると共に、活性酸素のスカベンジャー作用、炎症性サイトカイン産生の抑制作用などがある。IPFの病変部ではグルタチオンが減少し、レドックスバランスの不均衡が生じていることからも、NACの有用性が考えられる。NACの経口薬については欧州を中心とした臨床試験において効果が示されていたが、近年PANTHER試験で経口薬は無効とされた。しかし、日本ではNACはすでに吸入薬の形で去痰薬として長い歴史がある。吸入薬の形によるNACのIPFに対する検証がわが国でも厚生労働省の研究班を中心に行われ、一定の効果が示されている。NACの利点は副作用が少ない点であるが、吸入療法のため、アドヒアランスに欠点がある。吸入薬のNACについては、抗線維化薬との併用を含めさらに検討が必要である。2)抗線維化薬ピルフェニドンピルフェニドンは米国で創薬された薬剤であり、TNF-αなどの炎症性サイトカイン抑制、線維芽細胞のコラーゲン産生抑制といった抗炎症、抗線維化作用を有する薬剤である。わが国において軽症および中等症のIPFを対象とした第II相試験が行われ、歩行時低酸素血症の改善、呼吸機能の悪化抑制が認められた。さらに第III相試験が行われ、%VC悪化の有意な抑制、無増悪生存期間の改善が認められ、2008年12月に世界初の抗線維化薬として市販された。副作用として当初は光線過敏症が注目されていたが、実際に使用してみるとむしろ問題になるのは胃腸障害である。その後の研究でピルフェニドンはIPF患者のVC/FVCの低下を抑制し、無増悪生存期間の延長、6分間歩行距離の低下抑制を示した。とくに軽症例においてVC低下抑制、無増悪生存期間の延長が際立っていた。いくつかのトライアルの統合解析において、ピルフェニドンはIPF患者の全死亡率、疾患関連死亡率の低下を示したという。3)抗線維化薬ニンテダニブニンテダニブは、ベーリンガーインゲルハイム社によって開発された経口薬である。肺の線維化に関係する3つの分子、VEGF受容体、PDGF受容体、FGF受容体を阻害する低分子トリプリチロキンシナーゼ阻害薬である。わが国では2015年に第2の抗線維化薬として承認され市販された。ニンテダニブは全世界的規模のトライアルにおいてIPF患者の呼吸機能の年間低下率を約50%抑制した。主な副作用は下痢であり、その他肝機能障害などがみられる。4)ステロイド、免疫抑制剤これらの抗炎症薬のIPFに対する効果は基本的に否定されているが、IPFの終末期など症例によっては一定の効果をみる場合もある。また、急性増悪の際の治療としては、頻用されている。その他、進行例では在宅酸素療法が行われ、呼吸リハビリテーションも重要である。進行例で基準を満たせば肺移植の適応でもある。4 今後の展望前述の2つの抗線維化薬に対して、今後どのような重症度から投与するのか、長期の安全性、2つの薬の使い分けまたは併用の可能性などの多くの明らかにすべき課題がある。5 主たる診療科呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性間質性肺炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本呼吸器学会(医療従事者向けのまとまった情報)1)日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編. 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き.改訂第3版:南江堂;2016.2)「びまん性肺疾患に関する調査研究」班特発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会編. 特発性肺線維症の治療ガイドライン2017. 南江堂;2017.3)杉山幸比古編.特発性肺線維症(IPF) 改訂版.医薬ジャーナル社;2013.4)杉山幸比古編、特発性間質性肺炎の治療と管理.克誠堂出版;2013.公開履歴初回2013年02月28日更新2018年11月13日

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重症頭部外傷患者の長期予後の現状/脳神経外科学会

 重症頭部外傷患者においては、急性期からの回復後も、身体や精神に生じた重篤な後遺症に伴い、社会復帰や社会参加が困難となることが多い。通常、救命にかかわった者と経過観察を行う者が異なるため、患者の長期予後を完全に追跡できることは少ないと考えられる。 横浜市立大学附属市民総合医療センター高度救命救急センター/脳神経外科 濱田 幸一氏らは、重症頭部外傷症例の患者が円滑に社会参加できるための対策をたてることを目的に、これらの患者の長期予後についての観察研究を行い、その結果を日本脳神経外科学会 第77回学術総会で発表した。 研究は、同院の高度救命救急センター退院後、2017年12月31日までに5年以上経過観察し得た23症例を対象に、診療録を用い後ろ向きに行われた。調査項目は、対象患者の年齢、性別、後遺した障害の内容、外来診療継続理由(けいれん発作、高次脳機能障害、運動障害など)。高次脳機能障害は遂行機能障害、社会的行動障害、抑うつに分けて調査した。 主な結果は以下のとおり。  ・平均年齢36.0歳、追跡期間は3,056日であった。  ・後遺障害の内訳は、治療用器材挿入5例、身体機能障害7例、高次脳機能障害   14例、けいれん発作7例であった。  ・高次脳機能障害の内訳は、記銘力障害、遂行機能障害がともに14例で、記銘力   障害が遂行機能障害につながっている例が多くみられた。そのほか、注意障害   (12例)、社会的行動障害、易怒性(ともに11例)などが多くみられた。  ・診療中断例は2例であった。  ・転帰は、「完全復職」が10例、「作業所(に留まることなった)・   転校(が必要となった)」10例、「失業・退学(となった)」3例であった。 後遺症を伴う頭部外傷患者の適切なフォローには、作業所や学校、患者・患者家族の会、ケースワーカーなどの包括的なケアが重要だと考えられる。実臨床では、外来経過観察時における、けいれん発作の対応、挿入器材のメンテナンスなど脳外科医としての業務に留まらず、精神障害者手帳の作成、リハビリテーション施設への依頼、作業所・就学先との連携などを求められることもある。また、遂行機能障害ではリハビリテーション科の介入が、社会的行動障害では精神科の介入が必要となる。 今後は、重症頭部外傷患者の多彩な病態への個別対応が実現できるよう、多職種間連携を行い、地域包括ケアシステムとも連動させていく仕組みを構築し継続していく必要がある。

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【GET!ザ・トレンド】吸入指導をクラウドで管理 地域連携で喘息死ゼロへ

1990年代後半から、喘息死は減少を続けていたが、昨年増加に転じた。原因の詳細は不明だが、吸入薬を正確に使用できていない可能性が指摘されている。喘息死ゼロへ向けた取り組みと最新の医薬連携システムについて、目的と意義を大林 浩幸氏に聞いた。無駄をなくした医療で患者の健康を守る大林氏が院長を務める東濃中央クリニック(岐阜県瑞浪市)では、呼吸器内科、アレルギー科、消化器内科、老年内科、リハビリテーション科を標榜診療科とし、地域の住人から頼られる病院として献身的に診療を行っている。同氏は、「精度の高い診断と厳選された少数の薬による『的を射抜く』治療を心掛けており、患者さんを薬漬けにしないことで、患者さんの満足度の向上と医療経済の貢献を目指している」と診療への心意気を語った。アカデミー設立により、吸入指導から地域医療連携を進める体制づくり同氏は、薬剤師の知識の均てん化と指導力の底上げを目的に、薬剤師を主体として、2013年に一般社団法人 吸入療法アカデミーを設立した。吸入薬は喘息治療のfirst lineに位置付けられているが、吸入薬にはそれぞれ専用のデバイスがあり、正しい吸入ができていない実態に現場では多く直面するという。いかに優れた薬剤であっても、患者自身が適切に吸入できなければ、期待する治療効果は得られない。そのため、このアカデミーでは、各地域の薬剤師会と協力し、すべての吸入薬・デバイスに対し、的確な吸入指導ができる薬剤師の養成を行い、地域内のどの薬局に処方箋が持ち込まれても、均一で良質な患者吸入指導ができる体制整備を目指した活動を展開している。同氏は、吸入デバイスの誤操作をピットホールと呼び、「ピットホールの原因の多くは、加齢現象、癖、個性(利き手)、性格、生活スタイルなど患者さん側に起因するもの」と述べる。適切な吸入薬の効果を得るため、これらを医療者側でクローズアップさせる必要がある。また、同氏は「患者さんが正しく操作できるところではなく、できないことを見るのが大切。医療者側が、陥りやすいピットホールを学習・共有しておくことで、患者さんの吸入状況が医師にも伝わりやすくなり、地域医療連携にもつながる」と強調する。基盤ができたところで、吸入カルテシステムの開発同氏は、吸入療法アカデミーにおいて、吸入指導における医療連携クラウド(吸入カルテシステム)の開発を、權 寧博氏(日本大学医学部内科学系 呼吸器内科学分野 教授)らのシステムを基盤に進めてきた。このクラウドサービスは、日本大学工学部電気工学科の「戸田研究室」が協力し、医療者の利便性も盛り込み開発された。iOS・Android端末、PCなどがあればどこでも対応でき、従来の紙・FAXによるやり取りでの不便さが解消され、即時対応が可能という大きなメリットがある。セキュリティについても考慮されており、患者情報は診察券・カルテ番号で照合、識別するため、第三者に個人が特定される危険を防いでいる。システムの流れは、吸収指導が必要な患者に吸入薬が処方されたとき、クラウドに登録された医師が、本システムで吸入指導の依頼書を作成する。処方箋などで指導依頼を受けた薬剤師は、指定されたIDでアクセスすることで、指導前に患者情報を医師と共有することができる。指導を終えた薬剤師は、フィードバックとして報告書を作成する。医師・薬剤師が、吸入指導時の問題点、指導後の経過や患者の生活面、性格面についてなどを即時的に共有できるため、患者個人に寄り添った継続的な指導が期待される。また、病棟などの看護師が吸入指導を行う場面も考慮し、本システムには看護師の枠も設けられている。システムの概要スライドを拡大するスライドを拡大するシステムの流れ(システムは現在改訂中)1.医師が吸入薬の処方時に、吸入指導依頼書を作成する。依頼書はすべてクリック選択で作成することができる。下部には同意書が付いており、その場で患者の同意を確認する。2.吸入指導依頼書を受け取った薬剤師・看護師は、システムにログインして依頼内容を確認し、吸入指導を行う。3.吸入指導を行った薬剤師・看護師は、吸入指導の結果と医師への伝言(画面上部)(画面下部)などをシステム上で報告(クリックのみで報告書の作成も可能)する。特記事項があれば、記入することもできる。4.医師は、リアルタイムで報告書を確認し、次回の診察・処方に役立てることができる。※リンクで画面イメージをご確認いただけます大林氏の喘息死ゼロへ向けた取り組み

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