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地域一般住民におけるフレイルな高齢者に対する多因子介入が運動機能障害を予防する(解説:石川讓治氏)

 日本老年医学会から提唱されたステートメントでは、Frailtyとは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念であるとされている。わが国においてはフレイルと表現され、要介護状態や寝たきりになる前段階であるだけでなく、健康な状態に戻る可逆性を含んだ状態であると考えられている。フレイルの原因は多面的であり、運動、栄養改善、社会的なサポート、患者教育、ポリファーマシー対策といった多因子介入が必要であるとされているが、加齢という最大のフレイルのリスク要因が進行性であるため、フレイルの要介護状態への進行の抑制は困難を要する場合も多い。 SPRINTT projectは、欧州の11ヵ国16地域における1,519人の一般住民(70歳以上)を対象として、SPPBスコア3~9点、四肢骨格筋量低下、400m歩行機能などから身体的フレイルやサルコペニアと見なされた759人に対して、多因子介入(中等度の身体活動をセンターにおいて1週間に2回および家庭において週に4回、身体活動量の測定、栄養に関するカウンセリング)を行った群とコントロール群(1ヵ月に1回の健康的な老化に関する教育)を比較した。1次評価項目は運動機能低下(400mを15分未満で歩行困難)、副次評価項目は運動機能低下持続(400m歩行機能、身体機能、筋力、四肢骨格筋量の24~36ヵ月後の変化)であった。1次評価項目はSPPBスコア3~7の対象者において評価され、追跡期間中に身体機能低下は多因子介入群で46.8%、コントロール群で52.7%に発症し、多因子介入によって22%(p=0.005)の有意なリスク低下が認められた。運動機能低下持続は多因子介入群で21.0%、コントロール群で25.0%に認められ、多因子介入によって21%のリスク低下が認められる傾向があった(p=0.06)。 本研究の結果は、フレイルやサルコペニアを有する地域一般住民に対する多因子介入の有用性を示したものであり、地方自治体などが行っている“通いの場”、“集いの場”などでの運動教室や栄養教室をサポートするエビデンスになると思われる。またデイサービスなどの老人福祉施設においても、本研究の介入方法は参考になると思われる。比較的健康であると思われた地域一般住民のデータにおいても、約3年の間に対象者の約半数が運動機能低下を来しており、心不全(7.2%)、がん(13.4%)、糖尿病(22.4)など併存疾患の多いことが驚きであった。現在、病院に通院中で何らかの疾患を要するフレイル患者の場合、6ヵ月以上の慢性期リハビリ介入は、医療保険診療では困難な場合が多い。そのため、病院通院中の患者でありながら、フレイルに対する多因子介入は老人保健施設にお願いせざるを得ない状況がある。病院でフレイル患者を診療する医師としては、医療機関においても慢性期リハビリが継続できるような医療保険システムの構築を願っている。 本研究において、運動機能低下の発症がコックスハザードモデルで評価されているが、登録時はフレイルで、運動機能低下の発症後に、多因子介入で健常に戻った場合でも、運動機能低下発症ありと評価されていることに多少の違和感がある。フレイルは可逆性のある状態であるにもかかわらず、解析上はあたかもエンドポイントであるかのように評価されている。定義上、フレイルは可逆性で、要介護状態は非可逆の要素が多いとされているが、日常臨床では可逆性と非可逆の境界を見極めるのは困難な場合が多い。身体機能低下は悪化と改善を繰り返しながら、徐々に要介護状態へ進行していく。本研究の運動機能低下は、400m歩行が15分以内に困難な状態として定義されているが、これをもって運動機能低下(不可逆なポイント)と定義していいのかどうかも疑問が残った。日常臨床上における要介護状態は、介護保険制度の要介護度を用いて判断される場合が多いが、基本的ADLの低下をもって判断され、本研究の運動機能低下の判定基準とは異なることに注意が必要である。

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虚弱高齢者への運動+栄養介入、運動障害の発生を約2割減/BMJ

 身体的フレイルおよびサルコペニアが認められるShort Physical Performance Battery(SPPB)スコアが3~9の70歳以上に対し、中等度身体的アクティビティ指導(対面週2回、家庭で週4回以下)と個別栄養カウンセリングを実施することで、運動障害の発生が減少したことが示された。イタリア・Fondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli IRCCSのRoberto Bernabei氏らが、技術的サポートと栄養カウンセリングによる身体活動ベースの多面的介入が、身体的フレイルとサルコペニアが認められる高齢者の運動障害を予防するかを確認するため検討した無作為化試験「SPRINTT project」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「身体的フレイルとサルコペニアは、虚弱高齢者の可動性を維持するターゲットになりうることが示された」とまとめている。BMJ誌2022年5月11日号掲載の報告。SPPBスコア3~9、400m自力歩行可能な70歳以上を対象に試験 研究グループは2016年1月~2019年10月31日に、欧州11ヵ国、16ヵ所の医療機関を通じて、身体的フレイルとサルコペニアを有し、SPPBスコアが3~9、除脂肪体重が低く、400mの自力歩行が可能で、地域に居住する70歳以上の男女1,519例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方(介入群)には中等度身体アクティビティを試験センターで週2回、家庭で週4回まで実施。身体アクティビティは、アクチメトリ(活動量)データを用いて個別に調節した。また、個別に栄養カウンセリングも行った。もう一方(対照群)には、月1回、健康的なエイジングに関する教育を行った。介入と追跡は最長36ヵ月にわたった。 主要アウトカムは運動障害で、15分未満での400m自力歩行不可で定義された。事前に規定した副次アウトカムは、運動障害の持続(400m自力歩行が2回連続で不可)、ベースラインから24ヵ月および36ヵ月時点の身体機能・筋力・除脂肪体重の変化などだった。 主要比較は、ベースラインSPPBスコアが3~7の1,205例を対象に行い、SPPBスコアが8/9の被験者314例については探索的目的で別に解析を行った。運動障害発生率は介入群46.8%、対照群52.7%でハザード比0.78 被験者1,519例(うち女性1,088例)の平均年齢は78.9歳(SD 5.8)、平均追跡期間は26.4ヵ月(9.5)だった。 SPPBスコア3~7の被験者における運動障害の発生は、介入群283/605例(46.8%)、対照群316/600例(52.7%)だった(ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.67~0.92、p=0.005)。運動障害の持続が認められたのは、介入群127/605例(21.0%)、対照群150/600例(25.0%)だった(HR:0.79、95%CI:0.62~1.01、p=0.06)。 24ヵ月時点および36ヵ月時点でのSPPBスコアの群間差も、それぞれ0.8ポイント(95%CI:0.5~1.1、p<0.001)、1.0ポイント(0.5~1.6、p<0.001)といずれも介入群を支持する結果が示された。 24ヵ月時点の握力低下は、介入群の女性で対照群よりも有意に小さいことが示された(0.9kg、95%CI:0.1~1.6、p=0.028)。 除脂肪体重の減少は、24ヵ月時点で介入群が対照群よりも0.24kg少なく(95%CI:0.10~0.39、p<0.001)、36ヵ月時点では0.49kg少なかった(0.26~0.73、p<0.001)。 重篤な有害事象は、介入群237/605例(39.2%)、対照群216/600例(36.0%)報告された(リスク比:1.09、95%CI:0.94~1.26)。 なお、SPPBスコア8/9の被験者では、運動障害の発生は介入群46/155例(29.7%)、対照群38/159例(23.9%)だった(HR:1.25、95%CI:0.79~1.95、p=0.34)。

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英語で「食上げ」は?【1分★医療英語】第29回

第29回 英語で「食上げ」は?Mr. Smith is tolerating well with clear liquid diet.(スミスさんは水分を問題なく飲めているようです)Great. Let’s advance his diet from clear to full liquid diet.(いいですね。水分からペースト食に食上げしましょう)《例文1》Please advance diet as tolerated.(問題ない範囲で食上げしてください)《例文2》Let’s hold off on advancing his diet until we get the barium swallow results.(バリウム造影検査の結果が返ってくるまで、食上げはやめておきましょう)《解説》「食上げ」は、病院の中ではよく用いるものの、英会話スクールなどではなかなか出合うことのない表現だと思います。「食上げを行う」は“advance diet”と言いますので、丸ごと覚えてしまいましょう。また、流動食は“liquid diet”、軟菜食は“soft diet”、常食は“regular diet”と言います。“clear liquid”と“full liquid”の違いは、前者が水やスープ、後者がペースト食のようなものです。米国の病院では、三分粥、五分粥、全粥のような段階的に水分が減るお粥はありませんので、これに対応する英語はありません。ただし、普通のお粥は出す病院もあり、これは“congee”と呼ばれます。日本語の「漢字」に発音が近いので、渡米して間もないころ、「漢字?」と思わず聞き返してしまったことがありました。ちなみに「漢字」の英単語は“chinese character”です。また、“advance diet”という表現と一緒に“as tolerated”という表現もよく用います。「耐えられる範囲で」という意味で、食上げだけでなく、安静度やリハビリテーションのオーダーの際にも用いられる表現ですので、併せて覚えておくとよいでしょう。講師紹介

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事例050 骨粗鬆症治療のイベニティ皮下注で査定【斬らレセプト シーズン2】

解説骨粗鬆症の患者にロモソズマブ(商品名:イベニティ皮下注)(以下「同注射薬」)を2筒皮下注射したところ、皮下注射の手技料がB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)にて査定となりました。レセプトには注射部位の記入を求められていません。また、初回の投与であるため、通知にある再投与開始時の理由をコメント記載する場合には該当しませんでした。査定理由を調べるために、カルテを確認しました。前月に同注射薬投与の是非を判定するための検査が行われていました。皮下注射は部位を変えて2ヵ所に注入したことも記載されていました。不備はありません。再度、増減点票を確かめると、他にも同注射薬に皮下注射手技料に査定があることに気付きました。調べてみると同注射薬を投与している患者すべてにおいて、皮下注射手技料が1回に査定となっていました。同注射薬の添付文書をみると、「1回当たり210mgを皮下注射する」とあります。同注射薬1筒105mgを2本使用することになります。総量の指定があるために、「皮下注射手技料は1回しか認めない」と審査基準が変更されたようです。医師と会計担当者には、皮下注射手技は1回のみの算定となったことを伝え、レセプトチェックシステムの改修を行い査定対策としました。

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修復不能な腱板断裂、肩峰下バルーンスペーサーは無効/Lancet

 修復不能な肩腱板断裂に対し、関節鏡視下デブリドマンと比較しInSpaceバルーン(米国Stryker製)の有効性は認められなかったことが、英国・ウォーリック大学のAndrew Metcalfe氏らが英国の24施設で実施したアダプティブ群逐次デザインの無作為化二重盲検比較試験「START:REACTS試験」の結果、示された。InSpaceデバイスは、2010年にCEマークを取得し、2021年7月に米国食品医薬品局(FDA)で承認されるまで、米国以外では約2万9,000件の手術で用いられていた。しかし、InSpaceデバイスの有効性については、初期の小規模なケースシリーズで有望な結果が報告されていたものの、いくつかの研究では好ましくない結果や炎症・疼痛がみられる症例について報告され、無作為化試験のデータが必要とされていた。著者は今回の結果を受けて、「われわれは修復不能な腱板断裂の治療としてInSpaceバルーンを推奨しない」と結論づけている。Lancet誌オンライン版2022年4月21日号掲載の報告。12ヵ月後の肩スコアをデブリドマンのみとInSpaceバルーン留置併用で比較 研究グループは、保存療法の効果がなく手術の適応となる症状を有する修復不能な腱板断裂の成人患者を、上腕二頭筋腱切除を伴う肩峰下腔の関節鏡視下デブリドマンのみ(デブリドマン単独群)、またはInSpaceバルーン留置を併用したデブリドマン(デバイス群)の2群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化は、術中、肩の断裂と周辺構造の評価後に適格性を決定し(医師が腱板断裂を修復できると判断した場合は試験から除外)、断裂サイズを測定した後、中央ウェブシステムにアクセスすることで実施された。 患者および評価者は割り付けに関して盲検化された。盲検化は、両群とも手術の切開部を同じとし、手術記録の盲検性を保持し、治療群にかかわらず一貫したリハビリテーションプログラムを提供することで達成された。 主要評価項目は、12ヵ月時の肩スコア(Oxford Shoulder Score[OSS]、範囲:0~48[48が最良])である。 なお、本試験は2回の中間解析が計画されていたが、最初の中間解析で事前に規定された無益性の基準を満たしたため、2020年7月30日に募集と無作為化が中止された。デブリドマンのみがInSpaceバルーン留置併用より有効 2018年6月1日~2020年7月30日の期間に、385例の適格性が評価され、適格と判断され試験参加に同意を得られた患者のうち117例が治療群に割り付けられた(デブリドマン単独群61例、デバイス群56例)。43%が女性、57%が男性であり、患者背景は両群で類似していた。 12ヵ月時の主要評価項目のデータは117例中114例(97%)から得られた。 12ヵ月時の平均(±SD)OSSは、デブリドマン単独群(59例)が34.3±11.1、デバイス群(55例)が30.3±10.9であった。適応的デザインで補正した平均群間差は、-4.2(95%信頼区間[CI]:-8.2~-0.26、p=0.037)であり、デブリドマン単独群が優れていた。 有害事象に関しては、両群間で差はなかった。

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コロナ罹患後症状マネジメント第1版発表、暫定版を改訂/厚労省

 厚生労働省は、2021年12月に公開した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(暫定版)」を改訂、新たに「新型コロナウイルス感染症(COVID19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1版)」を4月28日に発表し、全国の自治体や関係機関などに周知を行った。 今回の改訂では、神経症状と精神症状はそれぞれ別の章とし、皮膚症状の章を新設したほか、各章が共有の小項目の見出しとなった。また、内容としてかかりつけ医などがどの範囲まで対応し経過観察するのか、どのタイミングで専門医・拠点病院の受診を勧めるのかなどについて、各症状(呼吸器、循環器、嗅覚・味覚、神経、精神、痛み、皮膚ごと、また、小児への対応、さまざまな症状に対するリハビリテーション)について記載を行った。 なお、本別冊(第1版)は、2022年4月現在の情報を基に作成しており、今後の知見に応じて、内容に修正が必要となる場合がある。厚生労働省、国立感染症研究所などのホームページから常に最新の情報を得る必要があるとしている。■目次と主な改訂点1)罹患後症状・代表的な罹患後症状の図を追加・今後の課題の内容を大きく改訂2)罹患後症状を訴える患者へのアプローチ・CDCの見解などを追加3)呼吸器症状へのアプローチ※以下の各診療領域のアプローチでは共通項目として「1.はじめに」、「2.科学的知見」、「3.症状へのアプローチ」、「4.フォローアップすべき所見・症状」、「5.プライマリケアのおけるマネジメント」、「6.専門医・拠点病院への紹介の目安・タイミング」、「7.専門医・拠点病院でのマネジメント」に内容が整理され、表記されている。4)循環器症状へのアプローチ5)嗅覚・味覚症状へのアプローチ6)神経症状へのアプローチ・COVID-19罹患後に遷延する症状の表を追加・診療フローチャートの図を追加・難治性症例の追加7)精神症状へのアプローチ8)“痛み”へのアプローチ・SARS-CoV-2感染による疼痛発症機序と考えられるメカニズムを追加・筋痛、関節痛などの症状の変化の図を追加9)皮膚症状へのアプローチ(新設)・診療のフローチャートを掲載・COVID-19関連皮膚症状の臨床的特徴、病理組織学的所見、全身症状の重症度、治療法の選択についてのまとめ一覧を掲載10)小児へのアプローチ・診療のフローチャートを追加11)罹患後症状に対するリハビリテーション・診療のフローチャートを追加12)罹患後症状と産業医学的アプローチ・具体的な事例4つを追加

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事例049 骨粗鬆症治療のプラリア皮下注で査定【斬らレセプト シーズン2】

解説骨粗鬆症の患者に行ったデノスマブ(商品名:プラリア皮下注)60mg(以下「同注射」)が、B事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)にて査定となりました。1筒当たりの薬価が高額のためにカルテを確認しました。カルテの前回受診日には、「次回来院予定は、6ヵ月後」と患者に説明したことが記載されていました。今回は、そろそろ6ヵ月となるからと来院された模様です。医師は、「実際には5ヵ月と少しの来院であるが、おおむね6ヵ月となるために注射は可能」と判断して実施されていました。レセプトには、前回と今回の注射施行日が記載されています。その他のコメントは記載がありませんでした。同注射の添付文書には、「骨粗鬆症の患者には60mg1筒を6ヵ月に1回、皮下注射する」と記載されています。審査支払機関では期間制限のある投与に対しては厳密に審査がなされます。このような事例では、計算時やレセプト点検時における対応ができません。大きな金額の査定につながることになります。査定対策として医師には、投与期間に期限のある薬剤に対しては患者に再度の来院を依頼していただき、医学的にやむを得ず期限を外れて必要と判断された場合には、カルテとレセプトにその旨を記載していただくことをお願いしました。

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COVID-19患者のリハビリテーション治療とその効果/厚生労働省

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により入院し、体力が落ちた中で患者のリハビリテーションはいつから開始するべきか、またその効果はどうなのだろう。 日本リハビリテーション医学会(理事長:久保 俊一)では、理事長声明を公開し、「新型コロナウイルス感染症の入院患者さんは狭い病室内への隔離によって運動量や活動量が低下しやすいために、隔離期間中であっても、発症早期から機能維持を目標とした適切なリハビリテーション治療を可能な限り実施していただきますよう、各医療機関での積極的な取り組みをお願いいたします。また、新型コロナウイルス感染症から回復した患者さんを受け入れる後方支援医療機関あるいは介護施設等でのリハビリテーション医療の継続とリハビリテーションマネジメントの実施を決して疎かにされませんようにお願いいたします」と早期からのリハビリテーション導入を推奨している。 また、4月13日に厚生労働省で開催された新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで「COVID-19感染患者に対するリハビリテーション治療」が報告されている。 この報告は、田島 文博氏(日本リハビリテーション医学会副理事長/和歌山県立医科大学リハビリテーション医学講座 教授)が自施設の取り組みも含め発表したものである。新型コロナウイルス感染症患者、リハビリで運動機能維持 COVID-19感染症患者に対するリハビリテーション医療の必要性として、2020年4月に全米保健機構(PAHO)が「COVID-19感染症患者には感染予防を徹底した上で、積極的なリハビリテーション治療が必要である。患者の活動性を低下させず、治療効果を最大限に引き出し、病床の有効利用と社会的資源の活用に繋がる」と提唱したこと、同年5月に日本リハビリテーション医学会の理事長声明で「急性期の集中治療室(ICU)での肺炎患者から回復期の身体・精神機能低下に対するリハビリテーション治療までリハビリテーション医療は不可欠」と提言のあったことを示した。また、2022年2月に、日本リハビリテーション医学会は「感染対策指針(COVID-19含む)」を発表し、さらなる安全なリハビリテーション治療の導入を勧めたほか、上述の理事長声明が4月に出されたことを示した。新型コロナウイルス感染症入院早期からのリハビリで転帰も良好 田島氏の所属する和歌山県立医科大学では、ICUで人工呼吸器にて治療している重症患者に対してもリハビリテーション治療を行っている。重要なことは、「身体を起こすこと」と「運動すること」だという。これは軽症・中等症患者でも同じで、分院では屋外での訓練を含め、運動療法を主体としたリハビリテーション治療も実施している。また、高齢者でもリハビリテーション治療を行えば、隔離期間が終わると同時に退院できると報告している。 中等症・軽症コロナ病棟のリハビリテーション治療実績について、同大学リハビリテーション科では、すべての患者をリハビリテーション科医師が診察し、必要と判断した場合にリハビリテーション治療を処方している。コロナ患者には、感染対策の教育を十分に行った療法士を担当とし、同科医師の指示に基づく、可及的長時間高負荷の運動療法中心を実施している。 実際、オミクロン株流行期におけるリハビリテーション診療に現状について、70歳以上の高齢者では94人が入院し、そのうちの88人(93.6%)にリハビリテーション治療が実施された。88人の転帰では、死亡者はなく、自宅・施設退院は79人(89.8%)、転院は9人(10.2%)だった。なお、院内感染はなかった。新型コロナウイルス感染症患者にリハビリ医療を導入する取り組み 田島氏は新型コロナウイルス感染症患者へのリハビリテーション医療導入のメッセージとして次の3項目を掲げている。1)コロナ医療においても、急性期からリハビリテーション医療を理解した医師が診察し、感染対策を指導された療法士がリハビリテーション治療を行えば、運動機能の低下は防げること。2)コロナ患者に対するリハビリテーション治療では急性期からの座位・立位訓練と運動療法が必須であること。3)コロナ医療において、リハビリテーション治療対応が困難な場合、可及的速やかにリハビリテーション治療可能な医療機関などに転院させること。

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ストレートネック発生の原因は日常の姿勢から/アイスタット

 スマートフォンの普及は、私たちの生活に利便性をもたらした一方で、若年からの老眼やドライアイなど眼への悪影響、ストレートネック(スマホ首)の発生などを起こしている。一般的にこれらの影響、とくにストレートネックなどの発生割合はどの程度だろうか。ストレートネックを知らない人は約7割 株式会社アイスタットは、4月6日にアンケートを実施した。アンケートは、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員20~59歳の300人が対象。■調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2022年4月6日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~59歳/全国の有職者)を対象■アンケートの概要・ストレートネックを知らない人の割合は約7割近く。意外に浸透はしていない。・ストレートネックと思う人の割合は約4割、「20・30代」で多い。・ストレートネックで「ある人」と「そうでない人」の生活習慣の違い第1位は「猫背になりながらのデスクワーク」・猫背や反り腰の人ほど、ストレートネックになりやすい。・「身体が硬い」と「ストレートネック」の関連性はあるといえない。・「視力が落ちた、見えづらい」と「ストレートネック」の関連性はあるといえる。・日頃、悩んでいる症状で肩こり、首こりがある人ほど、ストレートネックである。ストレートネックの原因は日頃の生活習慣 質問1で「ストレートネックを知っているか」(単一回答)を聞いたところ、「初めて聞いた、知らない」が37.3%、「知っている」が33.0%、「聞いたことがあるが、内容まで知らない」が29.7%で多かった。大きくストレートネックの認知の有無別に分類すると「知っている」が33%、「知らない」が67%で、約7割近くの人が認知していなかった。性差では、「知っている」の回答について、女性(43.0%)の方が男性(28.0%)に比べてストレートネックの認知度が高く、女性の方が健康に強い関心をもつ傾向が表れた。 質問2で「ストレートネックの症状があると思うか」(単一回答)を聞いたところ、「あまりそう思わない」が34.3%、「全くそう思わない」が30.3%、「ややそう思う」が21.7%と多かった。年代別では、ストレートネックと思う人は「20・30代」に最も多く、すでに医療機関で「スマホ首」と診断された人も4.7%いた。 質問3で「日頃の生活習慣で、あてはまるものについて」(複数回答)を聞いたところ、「長時間のスマホやパソコン操作」が58.3%、「猫背になりながらのデスクワーク」が37.3%、「うつむいた姿勢での読書」が14.3%と多かった。一方で、「どれにもあてはまらない」が22.0%と回答数も多く、日常生活で必ずしも前傾姿勢をしている人が多いわけでもないことがわかった。また、ストレートネックの有無別では、アンケートで聞いたすべての生活習慣であてはまると回答した人は「ストレートネックである」の人ほど多かったことから、生活習慣がストレートネックの原因の一つとなっていることがうかがえた。 質問4で「自分は猫背あるいは反り腰だと思うか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらかといえばそう思う」が34.7%、「どちらかといえばそう思わない」が24.0%、「非常にそう思う」が22.3%と多かった。大きくわけると「そう思う」が57%、「そう思わない」が43%と、前傾姿勢を意識していた回答者が多かった。また、ストレートネック有無別にみると「猫背あるいは反り腰」を回答した人は「ストレートネックである」が78.3%、「そうでない」が45.4%で、「ストレートネックである」と回答した人の方が多かった。ストレートネックの原因、運動の有無と日常生活での姿勢が関係 質問5で「身体が硬い方(柔軟性がない方)だと思うか」(単一回答)を聞いたところ「非常にそう思う」と「どちらかといえばそう思う」が同数で34.7%、「どちらかといえばそう思わない」が17.7%と多かった。また、ストレートネック有無別にみると「身体が硬い」を回答した人は「ストレートネックである」が74.5%、「そうでない」が66.5%で、「ストレートネックである」と回答した人の方が多かった。  質問6で「最近、視力が落ちた、もしくは見えづらいと思うか」(単一回答)を聞いたところ「どちらかといえばそう思う」が38.3%、「非常にそう思う」が31.7%、「どちらかといえばそう思わない」が17.7%と多かった。また、ストレートネックの有無別にみると「見えづらい」と回答した人は「ストレートネックである」が79.2%、「そうでない」が64.9%で、「ストレートネックである」と回答した人の方が多かった。 質問7で「最近、選択肢の症状で悩んでいることはあるか」(複数回答)を聞いたところ、「肩こり」が42.7%、「首こり」が33.3%、「視力低下・疲れ目・ドライアイ」が29.7%の順で多かった。また、ストレートネックの有無別では、アンケートで聞いたすべての症状で、あてはまると回答した人は「ストレートネックである」の人ほど多かった。とくに、ストレートネックで「ある人」と「そうでない人」の主な違いは何かを調べたところ、両方の差分より、第1位は「肩こり」が33.2ポイント、第2位は「首こり」が28.7ポイント、第3位は「めまい・ふらつき・吐き気」が18.9ポイントで、肩こり、首こりの症状があると回答している人ほど、ストレートネックである傾向がみられた。 質問8で「日頃、行っていることはあるか」(複数回答)を聞いたところ、「ストレッチをする」が38.7%、「姿勢を正しくする」が22.7%、「あお向けで寝る」が14.7%の順で多かった一方で、「(選択肢の)どれにもあてはまらない」と回答した人も39.0%いた。また、ストレートネックで「ある人」と「そうでない人」の主な違いは何かを調べたところ、両者の差分より、第1位は「ストレッチをする」が17.5ポイント、第2位が「スマホの使用時に姿勢を注意する」の14.6ポイント、第3位が「姿勢を正しくする」の11.6ポイントだった。運動の有無、日常生活での姿勢がストレートネックの原因に大きく関係している可能性がうかがえた。

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末梢動脈疾患の在宅での歩行運動導入、歩行距離を改善/JAMA

 間欠性跛行を呈する末梢動脈疾患(PAD)成人患者において、在宅での歩行運動行動変容介入は通常ケアと比較し、3ヵ月時点での歩行距離を改善することが示された。英国・ロンドン大学のLindsay M. Bearne氏らが、多施設共同無作為化評価者盲検比較試験「Motivating Structured Walking Activity in People With Intermittent Claudication trial:MOSAIC試験」の結果を報告した。PAD患者に対し在宅での歩行運動介入が推奨されているが、その有効性に関するエビデンスはさまざまであった。JAMA誌2022年4月12日号掲載の報告。PAD患者190例、理学療法士による歩行運動行動変容介入の有効性を通常ケアと比較 研究グループは、2018年1月~2020年3月の期間に英国の病院6施設において、50歳以上の間欠性跛行を呈するPAD患者190例を、動機付けアプローチを用いるよう訓練を受けた理学療法士による歩行運動行動変容介入を受ける群(介入群)または通常ケア群に、1対1の割合で無作為に割り付け、6ヵ月間追跡した(最終追跡調査日は2020年9月8日)。評価者および統計解析者は、解析完了まで盲検化した。 主要評価項目は、3ヵ月後の6分間歩行距離(6MWT)(臨床的に意義のある最小変化量:8~20m)、副次評価項目は8項目で、そのうち3項目はWalking Estimated Limitation Calculated by History(WELCH)質問票(範囲:0[最も良好]~100)、簡易版疾患認識尺度(Brief Illness Perceptions Questionnaire:BIPQ)(範囲:0~80[80は疾患に対して否定的認識])、計画的行動理論(Theory of Planned Behavior)質問票(範囲:3~21[21が最高の態度、主観的規範、行動統制感、意図])であり、これらの尺度については臨床的に意義のある最小変化量は定義されなかった。3ヵ月後の6分間歩行距離、介入群で有意に改善 無作為化された190例(平均年齢 68歳、女性30%、白人79%、ベースラインの平均6MWT 361.0m)のうち、148例(78%)が3ヵ月間の追跡調査を完遂し、6MWTは介入群ではベースライン352.9mから3ヵ月後380.6mに増加したが、通常ケア群では369.8mから372.1 mへの変化にとどまった(変化量の補正後平均群間差:16.7m、95%信頼区間[CI]:4.2~29.2、p=0.009)。 副次評価項目8項目中、5項目は統計学的有意差が認められなかった。WELCHスコアの変化はベースライン→6ヵ月後で、介入群18.0→27.8、通常ケア群20.7→20.7(変化量の補正後平均群間差:7.4、95%CI:2.5~12.3、p=0.003)、BIPQスコアの変化は同様に介入群45.7→38.9、通常ケア群44.0→45.8(-6.6、-9.9~-3.4、p<0.001)、TPB質問票の構成項目である「態度」のスコアの変化は介入群14.7→15.4、通常ケア群14.6→13.9(1.4、0.3~2.5、p=0.02)であった。 重篤な有害事象は、介入群で13例、通常ケア群で3例報告されたが、すべて試験との関連性はない、または可能性は低いと判断された。

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医療マンガ大賞2021「たった一時間されど一時間」受賞者描き下ろし作品(ささき かずよ氏)

医療マンガ大賞2021「たった一時間されど一時間」受賞者描き下ろし作品(ささき かずよ氏)ケアネット部門受賞者・ささき かずよ(ぴよ)氏からのコメント治療の限界を感じたとき、家族に何をしてあげられるか。これは、闘病中の家族が向き合う切実な気持ちです。原作ではそんなご家族を支える支援者の心も感じたので、両方が伝わるように心がけて描きました。実際、命の瀬戸際で自宅へ帰ることは大変です。ご本人の意思確認が難しいこともあります。しかし、最期を自宅で迎えることは、ご本人の気持ちはもとより、見送るご家族を支えることにもつながるのではないでしょうか。正解の形はない中、そんな気持ちを少しでも伝えられたなら幸いです。この場をいただきありがとうございます。原作者様、ケアネット様、お読みいただいた皆様に感謝いたします。看護師/NHA認定トレーナーが看護・介護にNHAをお届けします!

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カムラティ・エンゲルマン病〔CED:Camurati-Engelmann Disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義カムラティ・エンゲルマン病は、進行性骨幹異形成症(progressive diaphyseal dysplasia)とも記載される常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる骨系統疾患である。本症は、1920年Cockayneによって初めて記載され、1922年Camuratiにより遺伝性であることが示唆された。1929年Engelmannにより、筋力低下と著明な骨幹異形成症を示す一例が報告され、本症の名前の由来となっている。現在では、過剰な膜内骨化による骨皮質の肥厚と長管骨骨幹部の紡錘形肥大、近位筋の筋力低下、四肢痛を特徴とする疾患としてカムラティ・エンゲルマン病(Camurati-Engelmann病:CED)の表記が広く用いられている。現在までに150例を超える症例報告がある。家系内解析では、表現型に大きな幅があることが知られている。■ 疫学筆者らが、2014年に行ったアンケート調査(国内医療機関[計2,531施設]に送付し、1,470施設から回答を得ることができた)では、16症例が報告された。このうち、13症例が新規だと考えられた。アンケートから推定された新規患者は30症例程度であり、既知の患者と合わせて60名程度のCED患者がいると考えられる。このアンケートでの患者の定義は、発症年齢は大半が幼児期であるが、その症状は幼児期と青年成人期で異なり、幼児期は、筋力低下、易疲労性を主徴とし、青年成人期は、骨幹の疼痛、めまい、難聴を主徴とするものを対象にし、2診断の項目で示すX線画像所見もしくは検査所見を持つものとしている。■ 病因筆者らは、このCEDの3世代にわたる大家系(21名)を見出し、その臨床表現型についての検討を行った。罹患者、非罹患者をX線学的に同定し、家系内連鎖解析を行った。これにより、疾患遺伝子が19番染色体長腕に位置するTGFB1遺伝子であることを突き止めた。しかしながら、この遺伝子にみられる変化は、TGFB1の構造遺伝子部分ではなく、関連蛋白(Latency associated protein:LAP)に存在する。当初の解析では、LAPドメインを不安定化する変異がTGFB1の遊離を促進することで成熟型TGFB1を増加させるものであると考えられていた。その後のシグナルペプチドでの変異やヒンジ以外の部分の変異での解析から、必ずしも成熟型TGFB1の増加必須なのではなく、情報伝達系として亢進する変異であれば、カムラティ・エンゲルマン病の表現型をとることが明らかになっている。■ 症状3主徴は、四肢の骨痛、筋力低下、易疲労感である。これらの3主徴の出現時期には、年齢依存性があることに注意が必要である。1)幼児期この時期の症状は、筋肉痛、筋力低下、歩行異常であり、骨痛を訴えることは少ない。2)思春期思春期前後から、運動後の骨痛や骨の自発痛が始まる。痛みの出現部位は、病変部である長幹骨の骨幹であることが多い。3主徴が整うのは思春期以後であることが多い。3主徴が整うころの体型としては、手足が長く筋肉の付きの悪い痩せ型であることが多く「マルファン様」と記載されることが多い。性別を問わず、思春期が遅れることも比較的よくみられる症状である。妊孕性に異常はみられない。3)成人期成人期以後は、上記の症状に加えて、頭蓋底の骨肥厚、骨硬化による症状が加わっていく。これには、神経孔の狭窄による神経麻痺などがあり、骨肥厚、骨硬化の進行により生じると考えられている。同様の病態生理から顔面神経マヒ、頭痛、うっ血乳頭、めまい、耳鳴、感音性難聴などの症状が生じうる。理由は不明であるが、女性患者の場合、妊娠によって四肢の疼痛が劇的に改善することが知られている。■ 予後妊孕性に問題はなく、生命予後が悪いという報告もない。しかしながら、頑固な耳鳴や日常生活に支障を来すほどの骨の自発痛は、患者を不安に陥れ精神的な不安定さを生じ、予期しない不幸な転帰をむかえることがあるので精神状態のフォローが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)疾患の診断には、上記の症状に加えて、X線画像所見が依然として最も価値があると考えられる。2014年の全国調査では、頭蓋骨側面、四肢長管骨X線画像所見もしくは骨シンチグラム画像所見で診断基準を設定して集計した。1)X線画像所見長幹骨骨幹の骨皮質の左右対称性の骨硬化像(*X線画像所見における頭蓋底の骨硬化像の有無は問わない)2)検査所見骨シンチグラムでの長幹骨骨幹の骨皮質の左右対称性とりこみ3)判定上記2項目のうち1項目を満たすもの図1 典型例頭蓋底の硬化像、頭蓋骨のびまん性の肥厚、長幹骨骨幹を中心とした硬化像。画像を拡大する図2 軽症例頭蓋底の硬化性変化はほとんどみられない。右尺骨近位部大腿骨遠位部の骨硬化、下腿の骨変化。画像を拡大する図3 典型例での99mTc-HMDP骨シンチグラフィー頭蓋底と長幹骨骨幹に左右対称的な取り込みを認める。画像を拡大する図1に典型例、図2に軽症例、図3には骨シンチグラフィーの所見を示す。X線画像所見では、軽症例で内骨膜中心の膜性骨化を示し、骨全体の変形は少ない。重症になるにつれ頭蓋底の骨硬化が進行し、外骨膜性の骨化が加わり骨の変形を来すのが観察できる。古典的には、赤沈の亢進、ALPの上昇の記載があるが、鑑別に用いることが可能なほどの診断的な意味はないと思われる。筆者らが経験した大家系においても、ALP、骨ALP、オステオカルシン、尿中デオキシピリジノリンなど汎用性の高い骨関連マーカーは、病気の存在、病勢と一致しない。また、この疾患の原因遺伝子であるTGFB1の血中濃度も病勢を反映するものではない。現在では、保険診療外ではあるがTGFB1遺伝子解析が可能となっており、機能亢進型の変異を検出することができれば診断を確定できるものと考えられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現在までの報告からは、ステロイドの有効性を指摘するものが多い。プレドニンとして平均0.6mg/kg/日から開始し漸減する方法が一般的である。筆者らは、初期の投与期間を限定して、低容量で長期間服用する方法をとっている。しかしながら、投与方法については、一定の見解が得られていない。疼痛に対する効果はみられるものの、一過性であり周期的に繰り返し投与が必要である。最近、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のステロイド治療で使用されるDeflazacortでの治療経験が報告されるようになっており、経過が注目される1999年ビスフォスファネート製剤の有効性が報告されたが、筆者らの症例では効果はなく、2005年には第1世代、第2世代ビスフォスファネート製剤の否定的な追試が発表された。最近、第3世代のビスフォスファネートであるゾレドロンでの治療経験の報告がみられるようになっており経過を注視する必要がある。また、原因遺伝子がTGFB1の機能亢進にあることから、マルファン症候群と同じくロサルタンの応用が報告されるようになった。低血圧を惹起しない小児領域での実用的な量は、0.6~1.4mg/kg/日とされている。これまでの報告では、病態が完成していない思春期前の小児での成績がよく、成人後では改善が認められないとするものが多い。4 今後の展望現在、本疾患は、小児慢性特定疾病ではあるものの、指定難病には指定されていない。また、治療については、新規開発薬剤の適応拡大などが必要である。そのためにも難病政策として小児慢性特定疾病指定と指定難病指定の一元化が望まれるところである。5 主たる診療科整形外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター カムラティ・エンゲルマン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2022年4月12日

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年代別身体活動の目安【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q10

年代別身体活動の目安Q10高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では高血圧予防としての運動習慣について、「健康づくりのための身体活動基準2013」の推奨内容が明記された。18~64歳、65歳以上それぞれにおける、推奨される運動強度と時間は?

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末梢動脈疾患ガイドライン、7年ぶりの改訂/日本循環器学会

 日本循環器学会と日本血管外科学会の合同ガイドライン『末梢動脈疾患ガイドライン(2022年改訂版)』が、7年ぶりの改訂となった。2度目の改訂となる今回は、末梢動脈疾患の疾病構造の変化と、それに伴う疾患概念の変遷、新たな診断アルゴリズムや分類法の登場、治療デバイスの進歩、患者背景にある生活習慣病管理やその治療薬の進歩などを踏まえた大幅な改訂となっている。第86回日本循環器学会学術集会(3月11~13日)で、末梢動脈疾患ガイドライン作成の合同研究班班長である東 信良氏(旭川医科大学外科学講座血管外科学分野)が、ガイドライン改訂のポイント、とくに第4章「慢性下肢動脈閉塞(下肢閉塞性動脈硬化症)」について重点的に解説した。末梢動脈疾患ガイドラインでは下肢閉塞性動脈疾患をLEADと区別 末梢動脈疾患ガイドラインで扱う末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease:PAD)は、冠動脈以外の末梢動脈である四肢動脈、頸動脈、腹部内臓動脈、腎動脈、および大動脈の閉塞性疾患を指す。同じくPADと称されている上下肢閉塞性動脈疾患(Peripheral Artery Disease:PAD)との混同を避けるため、末梢動脈疾患ガイドラインでは、下肢閉塞性動脈疾患についてはLEAD、上肢閉塞性動脈疾患についてはUEADと称し、区別している。 末梢動脈疾患ガイドラインは全20章で構成されており、各章・各節の冒頭で、診療の基本となるエッセンスや最も伝えたい概念を「ステートメント」として紹介している。また、Practical Question:PQとして、12個の臨床的話題を取り上げ、実臨床でいまだ明確な方針が示されていない臨床的課題について解説している。 PADの中で最も多くかつ重要な疾患がLEADである。LEADのリスクファクターや背景疾患の管理については、心血管イベントのリスクが高く、動脈硬化の4大因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙の管理が基本となる。末梢動脈疾患ガイドラインでは、とくに脂質異常症について厳しい管理を推奨している。本邦では、腎不全・透析もLEAD発症の独立した危険因子として非常に頻度が高いため、今回の末梢動脈疾患ガイドラインより新たに追加された。LEADの抗血栓療法については、前回のガイドラインに記載されていた抗血小板療法に加え、DOACの登場によって抗凝固療法の項目が新たに追加された。末梢動脈疾患ガイドラインではLEADの症候別アプローチを記載 LEADは、症状や虚血の程度により治療方針が大きく変化する。そのため、末梢動脈疾患ガイドラインでは、無症候性LEAD、間歇性跛行、包括的高度慢性下肢虚血(Chronic Limb-Threatening Ischemia:CLTI)の3つに分類し、診断・治療の症候別アプローチを記載している。【無症候性LEAD】・無症候性LEADは、総じて下肢の予後が良好であるが、潜在的重症下肢虚血が一部含まれるため注意が必要である。下肢動脈病変の予防的血行再建術を行うべきではない(推奨クラスIII Harm)としている。【間歇性跛行】・間歇性跛行を訴える患者には、鑑別診断も兼ねた詳細な問診と身体診察を行う。下肢虚血の程度や間歇性跛行の機序を総合的に判断することが重要になる。病変評価には足関節上腕血圧比(ABI)の測定を行い、安静時のABIに異常を認めない場合は運動後のABI測定も推奨されている。・間歇性跛行の治療について、血行再建の要否は、日常生活で歩行機能の改善を見込めるか、運動を制限する合併疾患(狭心症、心不全、慢性呼吸器障害、筋骨格系の制限や神経障害など)の有無を評価したうえで決定する。保存的治療が優先され、末梢動脈疾患ガイドラインではとくに、運動療法の推奨が詳細に記載されている。・動脈硬化リスクファクターの是正、薬物療法、運動療法の検討を実施していない間歇性跛行患者には血行再建術は推奨されない。しかし、必要であれば次のとおり血行再建術を施行する。大動脈腸骨動脈領域はEVTを第1選択とする。総大腿動脈病変は血栓内膜摘除を第1選択とする。大腿膝窩動脈病変領域は、25cm未満の短~中区域病変はEVT、長区域病変は外科的血行再建を第1選択とする。膝下動脈病変領域では、EVTは推奨されない(推奨クラスIII No benefit)、同様に、人工血管による大腿-下腿動脈バイパスも行うべきではない(推奨クラスIII Harm)としている。【CLTI】・包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)は、下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染などの肢切断リスクがあり、治療介入が必要な下肢を総称する概念だ。これまでは、「重症下肢虚血(Critical Limb Ischemia:CLI)」という用語が使われていたが、背景にある生活習慣病、とくに糖尿病や腎不全の増加といった疾病構造の変化から、高度虚血だけでなく、感染等が原因で肢切断になることもありうるため、近年の実臨床を反映したCLTIという用語が使われている。・CLTIの治療方針を決定する際は、全身のリスク評価、WIfI分類での局所評価、解剖学的評価の3点について、PLANコンセプトに基づくアルゴリズムで総合的に検討する。CLTIへの血行再建を施行する際は、全身リスクと創傷範囲の評価が重要だ。血行再建の推奨は次のとおり。総大腿動脈病変は血栓内膜摘除術を第1選択とする。下腿足部動脈病変は、2年以上の生命予後が期待され、使用可能な自家静脈がある場合は、自家静脈バイパスを行うとしている。・末梢動脈疾患ガイドラインの今回の改訂で、創傷治癒、リハビリテーション、大切断、血行再建術後の薬物療法、血行再建術後の予後と二次予防といった項目が新たに追加された。末梢動脈疾患ガイドラインに動脈硬化症以外のさまざまな疾患 末梢動脈疾患ガイドラインの第6~19章には、動脈硬化症以外の原因によるPADについて、診断や治療に関する解説がなされている。東氏は「欧米のガイドラインではあまり記載されていないものも多く含んでおり、PADには動脈硬化症以外のさまざまな病因・疾患が潜んでいることを今一度振り返っていただき、治療法を誤らないためにも、ぜひ参考にしていただきたい」と、末梢動脈疾患ガイドラインの第4章以外の章の重要性についても強調。 PADは、冠動脈疾患や脳血管疾患に比べてはるかに国民の認知度が低く、予防や早期発見が遅れている。そのため、一般市民への啓発を目的として、末梢動脈疾患ガイドラインには第20章「市民・患者への情報提供」が、今回の改訂で新たに設けられた。本章では、とくに生活習慣病に伴うLEADを中心に概説している。 東氏は、今回の末梢動脈疾患ガイドライン改訂の要点として「主軸は欧米のガイドラインと呼応するように改訂したが、本邦のエビデンスをより多く取り入れ、実情に合う治療方針を目指した。本ガイドラインの英語版も作成中で、とくに民族性や文化が似ているアジア諸国の診断に役立つことを期待している」と発表を締めくくった。

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新しい慢性めまい疾患「PPPD」とは?【知って得する!?医療略語】第8回

第8回 新しい慢性めまい疾患「PPPD」とは?新しいめまいの疾患概念が登場したって本当ですか?めまいに関して、持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)という疾患概念が確立し、耳鼻科系医学誌を中心に注目されています。そのため、複数の診療科が関与しうるPPPDは、多くの医師が知っておくと良いかもしれません。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】PPPD【日本語】持続性知覚性姿勢誘発めまい【英字】Persistent Postural-Perceptual Dizziness【分野】脳神経・心療内科【診療科】耳鼻科・精神科【関連】視覚起因性めまい VV(visual vertigo)恐怖性姿勢めまいPPV(phobic postural vertigo)空間と動きの不快感 SMD(space motion discomfort)慢性自覚性めまい CSD(chronic subjective dizziness)実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。めまいは多くの臨床医が遭遇する症状の1つですが、慢性的めまいに関して、近年注目されている『持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD:Persistent Postural-Perceptual Dizzines)』は、耳鼻科医のみならず内科、心療内科、精神科、リハビリ科など複数診療科の医師が関わる可能性のある疾患のため、取り上げたいと思います。PPPDは2017年にBarany学会から診断基準が提示された新しい慢性めまいの疾患です。診断基準は、日本語版が日本めまい平衡医学会から示されており、「3ヵ月以上持続する浮遊感」「不安定感」「非回転性めまい」を主訴に、体動や動く物体を見たとき、あるいは複雑な視覚パターンを見たときに増悪します。筆者が経験した患者2名は、縞模様の物をみると、明らかな症状の増悪があり、1名は前庭片頭痛が前駆していました。両名とも日常生活や仕事に大きな支障がありました。慢性めまいの39%がPPPDだったとする報告もあり、慢性めまいの鑑別として重要です。PPPDに特徴的な検査異常はなく、臨床症状と経過より診断します。PPPDの治療法は、抗うつ薬や抗不安薬による薬物治療と、認知行動療法・前庭リハビリテーションによる非薬物治療があります。PPPDを認識しておくことは有用だと思います。お時間が許せば、下の総説論文で詳細をご確認ください。1)堀井 新. 日耳鼻. 2020;123:170-172.2)五島 史行. 日耳鼻. 2021;124;1467-1471.

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リハビリテーションでの感染症対応の指針まとまる/日本リハビリテーション医学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防では、人と人との間に距離をとることが推奨されているが、理学療法や運動療法では患者の体を支えたりする必要もあり難しい。そのためCOVID-19に感染する、感染させるリスクが日常生活に比べて高くなる。 日本リハビリテーション医学会(理事長:久保 俊一氏[京都府立医科大学])は、2022年2月21日に「日本リハビリテーション医学会 感染対策指針 COVID-19含む」を制作、同学会のホームページで公開した。 本指針は、リハビリテーション診療患者と医療従事者の距離が近く、接している時間も長時間となることに鑑み、同学会診療ガイドライン委員会において、新興感染症などに対応した医療関連感染対策の指針が必要と判断され、策定が決定されたもの。COVID-19だけでないリハビリテーションでの感染症対策 主な内容は次の通り。1)平常時対応・(平常時の)標準予防策、経路別予防策は?・(平常時)の職員教育の方法は?2)新興・再興感染症・新興・再興感染症にはどのようなものがあり、どのような感染予防策が必要か?3)COVID-19蔓延期・地域での対応・入院リハビリテーションに際する対応は?・外来リハビリテーションに際する対応は?・訪問リハビリテーションに際する対応は?・通所リハビリテーションに際する対応は?・発熱や上気道症状などCOVID-19を疑う症状を呈している患者への対応は?・職員の健康管理はどのように行うか?・家族との面談方法は?・外部関係者との面会・手続きは?・その他の対応は?4)COVID-19確定症例との濃厚接触・COVID-19患者との濃厚接触の定義は?・濃厚接触者となった患者への対応は?・濃厚接触者となった職員の就業は?5)COVID-19確定症例の対応・COVID-19と診断された患者の訓練はどのように行うか?レッドゾーンの中でリハビリテーションを行う際の感染対策は?・COVID-19と診断された場合、特別な対策が必要な期間は? 同学会では、指針の利用にあたり「2021年12月での一般論をまとめたものであり、各医療機関内に設定されている感染対策指針がある場合には、そちらが優先される」としている。また、「医療関連感染対策の基本は、すべての職員が、すべての患者・利用者に対して基本的手順を確実に実施することにあり、医療機関ごとに設定された指針を熟知し、それを遵守することが必須である」とし、医療関連感染において、「リハビリテーション診療はハイリスク領域であり、そのことを十分に認識して診療にあたる必要で、医療関連感染対策の推進のため、本指針を役立てて欲しい」と記している。

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歳を取ると本当に筋肉痛は遅れてやってくるのか【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第206回

歳を取ると本当に筋肉痛は遅れてやってくるのかpixabayより使用筋肉痛には、「即発性」と「遅発性」の2種類があります。その名の通り、運動直後に起こるものが「即発性」で、翌日~翌々日にアイタタタタ…と出てくるのが「遅発性」です。私も、何度か子供の運動会ではりきって体を動かしたことがあるのですが、翌日ではなく翌々日に筋肉痛がやってくることがあります。専門用語でカッコよく書くと、遅発性筋痛(Delayed Onset Muscle Soreness:DOMS)と呼ぶのですが、ここでは筋痛ではなく筋肉痛と書かせていただきます。遅発性筋肉痛は、運動してから1~3日後に起こりますが、これは筋の微細な損傷によるものと思われています。筋の損傷がひどいほど強い筋肉痛が出るのかどうかは、まだよくわかっていません。筋線維には直接痛みを感じる神経があるわけではないので、筋肉周囲の炎症やむくみが広がって筋膜に達するまで時間がかかるため、遅れて筋肉痛がやってくるとされています。俗に、「歳を取ると筋肉痛が遅れてやってくる」と言われています。私も実際そう感じているのですが、実際のところはどうなのでしょうか?野坂和則. 遅発性筋肉痛のメカニズムと意義と予防・対処法. 上原記念生命科学財団研究報告集. 2006; 19: 77-79.野坂による研究では、18~22歳の被験者と60~70歳代被験者にダンベル運動をさせて、筋肉痛の発生を観察しています。これによれば、筋肉痛の発現タイミングに年齢による差はなかったとされています。しかし、若年者の遅発性筋肉痛については、幼稚園児や小学校低学年では遅発性筋肉痛が生じにくく、小学校高学年から生じやすくなることも明らかとなっています。片山憲史. 習慣と加齢による遅発性筋痛の発生パターンに関する磁気共鳴画像による検討. 明治鍼灸医学. 2004; 35: 11-20.一方、運動不足の人ではやはり遅れてやってくるという見解があります。片山の研究によれば、普段から運動をしていない人は、体育会系のクラブやサークル活動などで自己トレーニングを週3回以上継続している人と比較すると、年齢による影響を受けやすい(歳を取るほど遅発性筋痛が出やすい)と報告されています。つまり、「運動不足の人間は、歳を重ねるほど、その後強い筋肉痛を起こしやすい」ということが言えるのかもしれません。起こってしまった筋肉痛に対する治療としてはエビデンスの高いものはなく、よく行われている冷却やマッサージが有効とされています1)。本当に冷やすほうがよいのか、温めるのがよいかは論争が続いています2)。1)Nahon RL, et al. Physical therapy interventions for the treatment of delayed onset muscle soreness (DOMS): Systematic review and meta-analysis. Phys Ther Sport . 2021 Nov;52:1-12.2) Petrofsky J, et al. The Efficacy of Sustained Heat Treatment on Delayed-Onset Muscle Soreness. Clin J Sport Med. 2017 Jul;27(4):329-337.

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終末期でも「リハビリ」が大切な理由【非専門医のための緩和ケアTips】第22回

第22回 終末期でも「リハビリ」が大切な理由リハビリテーション(リハビリ)と聞くと、身体機能の改善・回復を目指して理学療法士(PT)や作業療法士(OT)、そして言語聴覚士(ST)といった専門職が取り組む光景を思い浮かべますよね。実はこのリハビリ、緩和ケア領域でも重要な役割を担っています。今日の質問通院が困難となって訪問診療を担当している患者さん。原疾患は肺がんで、労作時を中心に呼吸困難も出現しています。おそらく数ヵ月の予後かと思うのですが、心配した家族から「体力が低下しないよう訪問リハビリをしてほしい」という希望がありました。終末期のリハビリに意味はあるのでしょうか?終末期の患者さんに緩和ケアを提供する中でリハビリの重要性はあまり知られておらず、同じような質問をよく頂きます。多くの方がイメージするリハビリは、「身体機能の改善」を目標としたものでしょう。それも正しいのですが、それだけですと「終末期患者のリハビリ」はイメージしにくいかもしれません。こうした病状の患者さんは身体機能が徐々に低下していくのが前提ですから…。しかし、私が緩和ケアを実践していくうえでは、症例を選びながらリハビリをオーダーする機会が多く、在宅における指示を行うことも多くあります。呼吸困難は薬剤だけで改善することが難しく、症状に対する不安から動かなくなり、ますます廃用が進むケースが多くあります。在宅酸素のチューブなども動きの制限になります。このような背景から、ベッドの起床が大変であれば支えを入れ、トイレまでの移動が難しければ途中に休憩できる場所を設置するといった住環境に合わせた調整を行ったうえで、患者さんにはなるべく動くようにしてもらいます。さらに、呼吸が荒くなった時に、ゆっくりと呼吸をして息を整えるといった練習にも取り組んでもらいます。生活の中で症状が悪化しやすい場面に、リハビリのアプローチを活用するのです。リハビリ自体に価値を見いだす患者さんやご家族も多いと感じます。薬物療法は効果のある・なしで判断しますが、リハビリにはまた違った側面があります。リハビリの専門職は「次はこのやり方でやってみましょう」「一緒に取り組んでみませんか?」といったように、患者さんにさまざまな提案をします。そして、症状緩和だけでなく、生活上で困っていることの相談にも乗ります。こうしたアプローチは、患者さんに「私のことを大切に考えてくれている」という思いをもたらし、心理的な支援としても効果を発揮します。このようにリハビリは緩和ケアにおいても重要ですが、少し注意が必要です。PT・OT・STといった専門職にもそれぞれ得意・不得意があります。通常は元気がある患者さんに接しており、終末期の患者さんを担当した経験が少ない場合は、つらく感じることもあるようです。医師よりも患者さんとの距離が近いが故に、「あと、どれくらいだと思いますか?」といったプレッシャーのかかる対話を求められることもあります。私の工夫としては、緩和ケアの一環としてリハビリを依頼する際は、担当者と直接やりとりをして患者さんの状況やリハビリの意義をしっかり説明するようにしています。ぜひ、皆さんもリハビリを活用した緩和ケアに取り組んでください。今回のTips今回のTips緩和ケアにおいてもリハビリは重要な役割を持つ。リハビリの専門職とコミュニケーションをとって取り組もう。

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排泄リハビリテーション 理論と臨床 改訂第2版

排泄に関連するすべての領域を網羅した成書 待望の改訂第2版!排泄リハビリテーションとは、排泄障害をもつ人が排泄の自立やQOLの向上を目指すとともに、その人の社会的統合の達成を目的とするものである。これを進めるうえで必要となる解剖や生理、障害を引き起こす疾患などの知識はもとより、治療・ケア、社会環境や医療経済について、多くの最新情報をもとに解説をアップデートした。 改訂第2版にあたって1)新しいガイドラインに基づいた知見を詳述2)排泄にかかわる解剖と生理を分かりやすい図を用いて解説3)排泄障害をもつ人に対し、どのような検査・アセスメントを行い、どのように治療・ケアを行っていけばよいかを詳述4)排泄障害に用いる製品の最新の情報を網羅5)「脳腸相関」「ディスバイオーシス」「仙骨神経刺激療法」「がん終末期の排泄ケア」「多職種連携・病診連携」などを新項目として追加6)改訂しても価格は据え置きの定価9,680円!!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    排泄リハビリテーション 理論と臨床 改訂第2版定価9,680円(税込)判型B5判/並製頁数576頁発行2022年2月編集後藤 百万(独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院)本間 之夫(日本赤十字社医療センター)前田 耕太郎(藤田医科大学病院 国際医療センター)味村 俊樹(自治医科大学)

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席を譲りたくない人【Dr. 中島の 新・徒然草】(412)

四百十二の段 席を譲りたくない人大阪では第6波が大変な猛威をふるっています。高熱+咽頭痛の患者さんは、おそらくオミクロンなのでしょう。さて、今回は席を譲りたくない人のお話です。この女性は50代の患者なのですが、身体障害者手帳を取りたいので何とかならないか、と相談がありました。数年前にくも膜下出血の手術をして社会復帰したのですが、とくにどこも悪いところはなさそうです。でも御本人によれば、手術の後から立っているのが辛い、歩くのが苦しい、という症状があるのだとか。以前は駅から帰宅するときの坂が平気だったのに、今は休みながらでないと登れません。起立性低血圧だろうか、VPシャントの流れ過ぎだろうか、といろいろ検査したりしたのですが、とくにこれといった原因が見当たりません。患者「手術の後からこんなふうになってしまって」中島「でも、こちらに担ぎこまれたときは生きるか死ぬかの状態だったんですよ」患者「先生には感謝していますけど、手術してから調子悪いんです」中島「困ったなあ。そもそも何で身体障害者手帳が必要なんですか?」身体障害者1級や2級に該当するはずもなく、手帳を取ってもあまり御利益があるようには思えません。患者「私、電車で席を譲りたくないんですよ」中島「えっ?」患者「譲れと言われたときに身体障害者手帳を見せることができるでしょ」中島「いやいや、歩いているし働いているし、どう見ても非該当ですよ」驚いた理由もあったもんです。でも脳外科に通院している患者さんからはたまに聞く訴えですね、席を譲りたくないって。ところが、某整形外科クリニックで驚くべき診断がついたのです。強直性脊椎炎。脊椎が変形しているので立っているのが苦痛胸郭拡張制限があるので歩くと息が切れるなんとまあドンピシャの症状じゃん!患者「今考えたら30代から腰が痛かったです」中島「ホントですか」患者「寝てたら腰が痛くて、起きたら何ともなくなっていました」その症状、手術のだいぶ前からですよ。ともかく、某整形外科クリニックの計らいで身体障害者手帳とヘルプマークを取ることができました。ヘルプマークというのは赤の背景に白で十字とハートのついたもので、彼女は常時バッグに付けています。中島「ヘルプマークをつけていると違いますか?」患者「全然違います。皆、席を譲ってくれますし」すごい威力ですね。日本人というのは、「助けてくれ」という明確な意思表示さえあれば親切なのかも。逆に明確な意思表示がなければ、全員がもじもじしています。確かBLS (basic life support) の講習会でも、周囲の人たちに「あなたとあなた、手伝ってください!」と指示する場面があったはず。キチンと指名すれば、BLSでも手伝ってもらえる可能性がグッと上がるのではないかと思います。あれこれ考えさせられた外来診察でした。最後に1句春夕(しゅんせき)の 電車の中で 席譲る

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