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強度を徐々に上げる歩行運動は脳卒中後の患者の転帰を向上させる

 脳卒中後の標準的なリハビリテーションに1日30分の強度を徐々に上げる歩行運動(以下、漸増負荷歩行運動)を加えることで、退院時の患者の生活の質(QOL)と運動能力が著しく改善したとする研究結果が報告された。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)理学療法学教授のJanice Eng氏らによるこの研究は、米国脳卒中学会(ASA)の国際脳卒中会議(ISC 2025、2月5〜7日、米ロサンゼルス)で発表された。Eng氏は、「ガイドラインでは、脳卒中後には体系的なリハビリテーション(以下、リハビリ)や運動療法を段階的に進めることを推奨しているものの、十分な強度を持つこうしたアプローチがリハビリプログラムに広く採用されているとは言えない」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースで述べている。 この研究は、カナダの12カ所の病院でリハビリ中の脳卒中患者306人を対象に実施された。試験参加者は、平均で1カ月前に脳梗塞または出血性脳卒中を発症し、リハビリのために入院しており、その時点で標準的な6分間歩行テストで歩くことができた距離は平均152mであった。 参加者は、標準的な理学療法を受ける群(162人)と新しいプロトコルに基づく理学療法を受ける群(144人)にランダムに割り付けられた。新しいプロトコルは、週5日、最低30分の理学療法セッションにおいて、中強度の運動強度を維持しながら2,000歩を歩くことを目標とするもので、強度は、参加者の最初の状態に基づき段階的に上げられた。参加者には心拍数と歩数を測定できる腕時計型の活動量計(ウェアラブルデバイス)を装着させ、それにより運動強度を評価した。運動能力、認知機能、QOLは、研究開始時と退院時(約4週間後)に評価された。 その結果、新しいプロトコルに基づく理学療法を受けた参加者では、標準的な理学療法を受けた参加者に比べて、退院時の6分間歩行テストで歩くことのできた距離が平均43.6m長いことが明らかになった。また、新しいプロトコルに基づく理学療法を受けた参加者では、QOL、バランス能力、可動性、歩行速度についても有意な向上を示した。 Eng氏は、「体系的な漸増負荷歩行運動は、ウェアラブルデバイスの助けを借りることで安全な強度を維持しやすくなる。安全な強度の維持は脳の治癒力と適応力である神経可塑性にとって極めて重要な要素だ」と話す。同氏は、「脳卒中後の数カ月は、脳の変化を最も期待できる時期だ。本研究結果は、この初期のリハビリ段階において、好ましい結果を示すことができた」と話している。 Eng氏はまた、この研究は、脳卒中患者のリハビリにおける歩行運動の利点を示しただけでなく、脳卒中治療ユニットが、新しい運動を既存のプログラムに簡単に組み込めることも示していると指摘する。同氏は、「われわれの研究は、実臨床の非常に成功した実験と言える」と語っている。 一方、この研究をレビューした米ジョンズ・ホプキンス大学理学療法・リハビリテーション科准教授のPreeti Raghavan氏は、「この研究は、脳卒中後の脳の可塑性が最も高い重要な時期に、入院リハビリ病棟で、新たなプロトコルを既存のプログラムに組み込むことが可能なことを示している」と述べ、「このプロトコルにより、患者の持久力が高まり、脳卒中後の障害が軽減された。これは脳卒中後の回復にとって非常に前向きなデータだ」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第234回 乳腺外科医事件で無罪判決、医師は司法とメディアに憤りを表明/東京高裁

<先週の動き>1.乳腺外科医事件で無罪判決、医師は司法とメディアに憤りを表明/東京高裁2.全国6割の病院が赤字経営、病院団体が診療報酬改定の見直しを要請3.医師国試合格率92.3%、女性割合が過去最高-新卒100%は4校/厚労省4.電子カルテ情報共有サービス始動、2025年度本格運用へ/厚労省5.急増する訪問看護、請求適正化へ指導体制を強化/厚労省6.病床適正化進む長崎、大学病院が1割削減しハイケアユニットを新設/長崎大1.乳腺外科医事件で無罪判決、医師は司法とメディアに憤りを表明/東京高裁2025年3月12日、東京高裁は、手術後に女性患者に対する準強制わいせつ罪を問う事件で、被告である乳腺外科医師に対し、2度目の無罪判決を言い渡した。この判決は、同医師が2016年に女性の胸をなめたとされる事件に関するもので、東京地裁と高裁の1・2審判決を踏襲し、検察の控訴を棄却した。同医師は、逮捕から6年以上を経て、ようやく無罪判決を得た。事件の背景には、女性患者が麻酔から覚醒する際に発生したせん妄による幻覚の可能性が指摘されている。東京高裁は、この幻覚が被害を訴える証拠として否定できないことを認めた。また、DNA鑑定に関しても、唾液の付着に関する疑念があり、医師がわいせつ行為を行った証明は不十分とされた。これにより、無罪判決が支持された。同医師は、判決後に記者会見を開き、警察や検察の過剰な信頼と誤った決定が、自らの生活と家族に与えた影響を強く批判した。弁護団は、無罪判決が遅すぎることを指摘し、医師の無罪確定までの苦悩を強調した。また、医師の間で職業的な萎縮が広がり、とくに乳腺外科を避ける傾向が強まる中、患者への影響を懸念する意見も出された。今回の法的な遅延は、裁判所が適切に判断を下さなかったことが原因であり、無罪判決を再度上訴できる現行制度に対する疑問も提起された。とくに、無罪判決後の検察の控訴が理不尽であり、米英のように無罪判決に対して控訴を許可しない制度の導入が必要だとする意見もみられた。参考1)乳腺外科医に再び無罪判決 「患者の胸なめたと断定できず」 東京高裁、差し戻し審(産経新聞)2)無罪の乳腺外科医「長かった」「強い憤り」 事件で「医師萎縮」の指摘も(産経新聞)3)ふたたび「無罪」になった乳腺外科医、捜査機関やマスコミに憤り「生活や仕事そして家族を奪われた」(弁護士ドットコム)4)乳腺外科医事件に再び無罪判決 弁護団は「遅すぎる」と批判 「長くて辛い日々だった」と医師(ジャーナリスト・江川紹子)2.全国6割の病院が赤字経営、病院団体が診療報酬改定の見直しを要請昨年春の診療報酬改定後、全国の病院の経営が急速に悪化し、6割以上が赤字に陥っていることが明らかになった。日本医師会と6つの病院団体が実施した調査によると、2024年6~11月までの経常利益が赤字の病院は61.2%に達し、前年同期比で10.4ポイント増加。補助金を除いた医業利益でも69.0%が赤字となり、前年から4.2ポイント悪化した。経営悪化の主因は、物価や人件費の上昇に診療報酬が追いついていないことだ。調査では、水道光熱費が前年同期比3.1%増、院内清掃などの委託費が4.2%増と報告された。給与費も2.7%増加しており、多くの病院が経費の増加に対応しきれず、経営難に陥っている。とくに、病床利用率が90%を超えなければ黒字化できない病院もあり、持続的な医療提供が困難な状況。この危機的状況を受け、日本医師会と6つの病院団体は3月12日、合同声明を発表し、診療報酬の見直しを政府に求めた。2026年度の診療報酬改定に向けて、物価や賃金の上昇を反映できる仕組みを導入する必要があると主張。補助金による短期的な支援にとどまらず、中長期的な医療費の適正配分を求めた。日本医療法人協会の太田 圭洋副会長は「病床を満床にしなければ経営が成り立たないのは異常な状況。地域の病院が突然閉鎖する危機が迫っている」と警鐘を鳴らした。また、全国自治体病院協議会の野村 幸博副会長は「公立病院では人事院勧告による賃上げが求められ、さらに経営が厳しくなっている」と述べ、自治体病院の窮状を訴えた。調査では、2024年6~11月の医業収益が前年同期比1.9%増加している一方で、給与費や光熱費の増加がそれを上回り、多くの病院が赤字に転落していることが判明。このままでは、地域医療の維持が困難になると懸念されている。病院団体は、診療報酬を適正に改定し、賃金や物価の変動に即応できる仕組みを導入することが不可欠だと指摘。日本医師会の松本 吉郎会長は「このままでは、ある日突然病院が地域から消えてしまう。国民の命と健康を守るため、診療報酬の見直しは急務だ」と強調した。今回の調査結果を受け、政府・与党内でも支援策の検討が進むとみられるが、財政的な制約の中でどのような対策を講じるかが課題である。地域医療崩壊を防ぐため、迅速かつ具体的な対応が求められている。参考1)【緊急調査】2024年度診療報酬改定後の病院経営状況調査の結果等について(日本医師会)2)“全国6割以上の病院が赤字” 調査団体「地域医療は崩壊寸前」(NHK)3)「地域から医療機関なくなる」と医師会が危機感…病院の6割超が赤字、診療報酬改定で経営難(読売新聞)4)2024年度改定後、病床利用率上昇も医業利益率と経常利益率は悪化(日経ヘルスケア)5)日医と6病院団体が声明 26年度診療報酬改定「物価・賃金上昇対応の仕組みを」地域医療崩壊に危機感(ミクスオンライン)3.医師国試合格率92.3%、女性割合が過去最高-新卒100%は4校/厚労省厚生労働省は3月14日、第119回医師国家試験の合格状況を発表した。受験者1万282人に対し、合格者は9,486人で、合格率は92.3%だった。前年の92.4%から0.1ポイント減少したものの、過去10年で2番目に高い合格率となった。新卒者の合格者数は9,029人、合格率は95.0%で、2年連続で9,000人を上回った。男女別の合格率は、男性が91.8%、女性が93.1%と、女性の合格率が上回った。合格者に占める女性の割合は36.3%と過去最多を記録した。学校別では、国際医療福祉大学医学部が新卒・既卒ともに合格率100.0%を達成した。新卒合格率100.0%は、同大学のほか、福井大学医学部、金沢大学医薬保健学域、三重大学医学部の計4校だった。一方、同日に発表された第118回歯科医師国家試験の合格率は70.3%で、前年の66.1%から4.2ポイント増加した。参考1)第119回医師国家試験の合格発表について(厚労省)2)医師国家試験、合格率92.3% 新卒合格者は2年連続で9千人上回る(CB news)3)医師国家試験2025、国際医療福祉大100%合格…学校別合格率(リセマム)4.電子カルテ情報共有サービス始動、2025年度本格運用へ/厚労省厚生労働省は健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療等情報利活用ワーキンググループ」を3月13日に開催し、電子カルテ情報共有サービスについて2025年度中の本格運用を目指し、モデル事業が開始することとした。まず、愛知県の藤田医科大学病院を中心に試験運用が始まり、全国の医療機関や患者が電子カルテ情報を共有できる仕組みが構築される。モデル事業では、運用上の課題を明確化し、とくに「病名」情報の取り扱いについて慎重にルールを策定する必要がある。患者が自身のカルテ情報を閲覧できる一方で、未告知や診断過程の誤解を防ぐための設定が求められている。これに伴い、医療現場の負担や患者との信頼関係の維持を考慮し、慎重な運用が必要とされる。また、患者の同意に関する法的根拠が未確立であるため、現段階では個人情報保護法に基づき、医療機関と支払基金間の委託契約を通じて対応することになった。さらに、情報共有の推進と並行し、サイバーセキュリティ対策の強化も求められており、来年度の対策チェックリストが策定された。モデル事業の結果を踏まえた運用ルールの確立が、全国展開の成功の鍵となる。拙速な導入は、医療現場や患者の不安を招き、DX推進の障害になりかねないため、慎重かつ丁寧な議論が求められる。参考1)第24回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)2)電子カルテ情報共有サービスの検討事項について(同)3)電子カルテ情報共有サービスのモデル事業、まず藤田医大病院中心に開始、「病名」の取り扱いルールなども検討-医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)5.急増する訪問看護、請求適正化へ指導体制を強化/厚労省厚生労働省は、3月12日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)において、訪問看護ステーションの監視体制を強化する方針を発表した。広域で運営する事業者や診療報酬の高額請求を行う事業所を対象に指導を強化し、4月以降に新たな指導の枠組みを導入する。背景には、訪問看護の急増と、それに伴う高額請求の増加がある。厚労省によると、訪問看護ステーションの数は直近5年間で約1.5倍に増加。とくに、年間請求額が2億5千万円以上の事業所は12.8倍に急増した。また、1件当たりの請求額が50万円以上の事業所も7倍に増えている。これらの増加に対し、厚労省は「不適切な請求が行われている可能性がある」とし、監査体制の強化に踏み切った。新たな指導体制では、地方厚生局と都道府県に加え、厚労省本省も関与。これにより、複数都道府県で運営される大規模事業者への監査を強化する。さらに、請求額の多い事業所を選定し、適正な請求方法を指導する。また、eラーニングによる集団指導を検討し、訪問看護ステーション全体の適正化を図る。訪問看護は、重度患者の在宅療養支援など重要な役割を担う。その一方で、末期がん患者向けの高額報酬を悪用し、必要以上の訪問回数を請求するケースも指摘されている。厚労省は「利用者の状態に応じた適正なサービス提供を促すため、新たな監査体制を整備する」としている。参考1)訪問看護ステーションの指導監査について(厚労省)2)厚労省、訪問看護の指導監査強化 広域や高額請求の事業者が対象(共同通信)3)訪問看護の「指導」を強化へ 高額請求、不適切なケースも 厚労省(朝日新聞)4)高額請求の訪看事業所に「教育的指導」へ 来年度の早期から 厚労省(CB news)6.病床適正化進む長崎、大学病院が1割削減しハイケアユニットを新設/長崎大長崎大学病院(長崎市)は、4月1日より一般病床を現在の827床から98床削減し、729床とする方針を発表した。新型コロナウイルス感染症拡大以降、同院の入院患者数は4年間で2万5千人以上減少し、病床の稼働率も低下。さらに、県の地域医療構想では2025年度における長崎地区の高度急性期病床数が651床と推計され、同病院を含む5医療機関の予定病床数908床を大幅に上回ることから、病床数の適正化が求められていた。また、病院経営の効率化も背景にある。文部科学省によると、大学病院が100床規模で病床を削減するのは全国的にも極めて珍しいが、病床削減による補助金の活用により経営改善も視野に入れている。病床削減と同時に、同院では集中治療室(ICU)と一般病床の中間に位置する「ハイケアユニット(HCU)」8床を新設。急変のリスクが高い患者を受け入れ、より手厚い医療提供を行う体制を整える。また、削減後のスペースを活用し、理学療法士らを増員し、超急性期のリハビリテーション強化を進める方針だ。長崎市内では、長崎みなとメディカルセンターも、2月に30床の削減を実施するなど、地域の医療機関で病床適正化が進んでいる。県医療政策課は「地域の病床数は十分に確保されており、大きな問題はない」としているが、今後も少子高齢化による医療需要の変化に応じた病院経営の見直しが求められる。参考1)長崎大学病院 需要の低下で98床削減へ 経営改善の狙いも(NHK)2)長崎大学病院 一般病床を1割削減…来月から「機能適正化」、患者数減少など背景(長崎新聞)3)長崎大学病院も来月から病床を1割超削減 メディカルセンターに続き…原因は?(長崎文化放送)

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PADISガイドライン改訂で「不安」が新たな焦点に【論文から学ぶ看護の新常識】第6回

PADISガイドライン改訂で「不安」が新たな焦点に米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine[SCCM])は2025年2月21日、『フォーカスアップデート版 集中治療室における成人患者の痛み、不安、不穏/鎮静、せん妄、不動、睡眠障害の予防および管理のための臨床診療ガイドライン』を公開した。本ガイドラインは、2018年に発表された『集中治療室における成人患者の痛み、不穏/鎮静、せん妄、不動、睡眠障害の予防および管理のための臨床ガイドライン』(通称PADISガイドライン)のフォーカスアップデート版であり、新たに「不安」が主要領域として追加された。フォーカスアップデート版 集中治療室における成人患者の痛み、不安、不穏/鎮静、せん妄、不動、睡眠障害の予防および管理のための臨床診療ガイドライン本ガイドラインは、2018年版『集中治療室における成人患者の痛み,不穏/鎮静,せん妄,不 動,睡眠障害の予防および管理のための臨床ガイドライン』を改訂、発展させることを目的として、成人ICU患者に関する5つの主要領域、不安(新規トピック)、不穏/鎮静、せん妄、不動、睡眠障害に焦点を当てて作成された。主な改定点は下記の通り。2018年版 PADISガイドラインの内容は()内に記載。1.ICU入室中の成人患者の不安治療にベンゾジアゼピンを使用することに関して、推奨を行うのに十分なエビデンスが存在しない。(2018年版:この領域についての推奨なし)2.ICU入室中の人工呼吸器管理下の成人患者において、浅い鎮静および/またはせん妄の軽減が最優先される場合は、プロポフォールよりもデクスメデトミジンの使用を推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性:中等度)。(2018年版:人工呼吸器管理下の成人患者の鎮静には、ベンゾジアゼピンよりもプロポフォールまたはデクスメデトミジンの使用を推奨する[条件付き推奨、エビデンスの質:低い])3.ICU入室中の成人患者のせん妄治療において、通常のケアよりも抗精神病薬を使用することの是非について推奨を行うことはできない(条件付き推奨、エビデンスの確実性:低い)。(2018年版:せん妄の治療にハロペリドールまたは非定型抗精神病薬を日常的に使用しないことを推奨する [条件付き推奨、エビデンスの質:低い])4.ICU入室中の成人患者に対しては、通常のモビライゼーション/リハビリテーションよりも強化されたモビライゼーション/リハビリテーションを行うことを推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性:中等度)。(2018年版:重症の成人患者に対してリハビリテーションまたはモビライゼーションを実施することを推奨する[条件付き推奨、エビデンスの質:低い])5.ICU入室中の成人患者に対しては、メラトニンを投与することを推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性:低い)。(2018年版:重症の成人患者の睡眠改善に対するメラトニンの使用については、推奨を行わない[推奨なし、エビデンスの質:非常に低い])PADISガイドラインは、痛み(Pain)、鎮静(Agitation/Sedation)、せん妄(Delirium, Immobility)、睡眠障害(Sleep)の頭文字をとった名称であり、これらの症状への推奨される治療やケアなどを包括的に示したガイドラインです。今回、2018年に発表されたPADISガイドラインのフォーカスアップデート版が発表されました。今回のアップデートでは、とくに、これまでせん妄と混同されがちだった「不安」を新たに焦点化した点が大きな変化といえます。海外ではICU入室中の不安を訴える患者にベンゾジアゼピンが一般的に使用されるケースがあるようですが、明確なエビデンスはなく推奨は行われていません。ただし、入室前から慢性的に不安症状がありベンゾジアゼピンを服用している患者に対しては、継続を検討する余地があると示されました。不安の評価には、痛みの評価で使われる「Face Scale」と同様の絵を用いた「Faces Anxiety Scale」などが推奨されています。患者自身が表情のイラストを見て不安度を評価できるため、日本の医療現場でもすぐに応用できるでしょう。薬物療法はまだ確立していない部分がありそうですが、音楽療法やバーチャルリアリティ(VR)など一部の非薬理学的アプローチは推奨されており、患者さんの好みに合った音楽を流すなどの工夫は有効かもしれません。また、睡眠管理ではメラトニン投与が条件付きで推奨され、生理的な睡眠リズムの補完が重要なテーマとなっています。さらにリハビリテーションでは、早期離床だけでなく、より強化されたリハビリプログラムの導入も提案されており、ICU退室後の身体機能回復やQOL向上に寄与すると期待されています。今後のスタンダードなケア・治療の一つになる可能性があるため、興味のある方はぜひ詳しい内容にも目を通してみることをおすすめします。論文はこちらLewis K, et al. Crit Care Med. 2025;53(3):e711-e727.

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3月は心筋梗塞・脳梗塞に要注意!?医療ビッグデータで患者推移が明らかに/MDV

 メディカル・データ・ビジョンは、自社の保有する国内最大規模の診療データベースを用いて急性心筋梗塞と脳梗塞に関するデータを抽出し、それぞれの患者数の月別推移、10歳刻みの男女別患者数、65歳以上/未満の男女別併発疾患患者比率を公表した。調査期間は2019年4月~2024年3月で、その期間のデータがそろっていた377施設を対象とした。2~3月に急増、慢性疾患を併存する患者は要注意 本データを用いて急性心筋梗塞と脳梗塞の患者数と季節性について検証したところ、2019年度が最も高い水準で推移しており、以降の年度はやや低下傾向にあるものの、季節的な変動は共通し、冬季では2~3月に急増する傾向がみられた。「急性心筋梗塞」「脳梗塞」それぞれの患者数月別推移を見る※2020年5月の患者数の落ち込みは、コロナ禍による救急医療の逼迫や、医療機関の受け入れ制限による診断・治療の機会の減少が影響している可能性があるという。 また、65歳以上の心筋梗塞ならびに脳梗塞患者の併存疾患として、男女ともに高血圧症、食道炎を伴う胃食道逆流症、便秘、高脂血症があり、高血圧症については男女ともに6割を超えていた。 この結果を踏まえ、加藤 祐子氏(心臓血管研究所付属病院循環器内科 心不全担当部長/心臓リハビリテーション科担当部長)は、「寒暖差による血圧変動に加え、年度末のストレスや生活リズムの乱れが影響を与えている可能性がある」と指摘。「寒暖差は自律神経のバランスを乱しやすく、血管を収縮させ、血液粘稠度が高くなるなどの変化を起こしやすいと考えられる。冬場は身体活動が低下している人も多い」と説明した。また、自律神経のバランスを保ち、急な気温変化にも堪えない体をつくり、心筋梗塞や脳梗塞の最大のリスクである高血圧のコントロールのためにも、「毎日合計30分はすたすた歩き、収縮期血圧120mmHg未満(リラックスした状態で測定)を目指しましょう」とコメントを寄せている。

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冷水浸漬はある程度の効果をもたらす可能性あり

 激しい運動後の回復方法として冷水シャワーやアイスバスが流行しているが、実際に効果はあるのだろうか? 新たなエビデンスレビューで、その流行を裏付ける科学的根拠のあることが示された。南オーストラリア大学でヘルス・アンド・ヒューマンパフォーマンスを研究するTara Cain氏らによるレビューから、冷水浸漬(cold-water immersion)により、ストレスが軽減し、睡眠の質が改善し、QOLが向上する可能性のあることが示された。ただし、その効果は長続きしないことが多かったという。この研究の詳細は、「PLOS One」に1月29日掲載された。 冷水浸漬とは、10〜15℃の水に身体の一部または全体を浸すことである。Cain氏らは今回のレビューで、「冷水シャワーやアイスバスなどにより15℃以下の水に30秒以上、最低でも胸部まで浸す」という条件を満たした冷水浸漬に関する11件のランダム化比較試験のデータを統合して解析し、冷水浸漬が心理的・身体的・認知的側面に与える影響を評価した。これらの研究には、18歳以上の成人が合計3,177人参加していた。冷水浸漬の効果については、心理的側面として精神的ウェルビーイング、抑うつ、不安、気分、認知的側面として集中力、覚醒度、フォーカスする力、身体的側面として睡眠の質、ストレス、疲労感、活力、皮膚の健康、免疫機能、炎症を評価した。 メタアナリシスを行うのに十分なデータがそろっていたのは、炎症、ストレス、免疫機能についてのみであった。解析の結果、冷水浸漬は、直後および1時間後に炎症を有意に亢進させることが確認された。この現象について、論文の上席著者で南オーストラリア大学のBen Singh氏は、「冷水浸漬直後の炎症の亢進は、ストレス要因としての冷たさに対する身体反応だ。これは身体の適応や回復を助けるものであり、運動が筋肉を強化する前に筋肉にダメージを与えるのと似ている。そのため、短期的な効果しかなくてもアスリートが冷水浸漬を利用する理由となっている」と説明する。 ただし、このような炎症反応があることを考慮すると、心臓病や高血圧、糖尿病などの健康問題を抱えている人は、冷水浸漬を行う前に医師に相談した方が良い可能性がある。「基礎疾患を持つ人が冷水浸漬を行う場合、炎症が健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、特に注意が必要だ」とSingh氏は言う。 一方、ストレスについては、冷水浸漬の12時間後に有意なストレス軽減が確認されたが、直後、1時間後、24時間後、48時間後では有意な変化は認められなかった。免疫機能については、冷水浸漬の直後でも1時間後でも、有意な変化は認められなかった。 アウトカムに関する報告が単一の研究に限られていたり、評価時点が研究間で大きく異なっていたりするなど、メタアナリシスには適さないアウトカムについては、ナラティブシンセシス(記述的統合)の手法を用いて検討した。その結果、ある研究において、1カ月間にわたり30秒、60秒、90秒のいずれかの時間で冷水シャワーを浴びた参加者ではQOLのスコアの中央値がわずかに高かったことが示された。しかし、Cain氏によると、「この効果も、3カ月後には消失していた」という。この研究では、冷水シャワーを習慣的に浴びた参加者で、対照群よりも病欠の頻度が29%低いことも示された。また、別の研究では、運動後の冷水浸漬で睡眠の質が改善する可能性が示唆されていた。ただ、「それらのデータは男性に限定されたものであったため、より範囲を広げて適用するには限界があった」とCain氏は付け加えている。 Cain氏は、「本研究では、冷水浸漬の効果が時間とともに変化することを確認した。例えば、冷水浸漬によってストレスレベルは低下し得るが、それが持続するのは冷水浸漬後12時間程度に過ぎない」と述べる。同氏は、「現時点で、冷水浸漬によって最大の効果を得られるのはどのような人なのか、あるいはその理想的なアプローチはどのようなものなのかを正確に示した質の高い研究が十分にあるとは言えない」と指摘し、「その効果の持続性と実際の適用について解明を進めるためには、より多様な集団を対象に長期的な研究を行う必要がある」と述べている。

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50代の半数がフレイルに相当!早めの対策が重要/ツムラ

 2月1日は「フレイルの日」。ツムラはこの日に先立つ1月30日に「50歳からのフレイルアクション」プロジェクトの発足を発表し、フレイル対策の重要性を啓発するメディア発表会を開催した。セミナーでは東京都健康長寿医療センターの秋下 雅弘氏がフレイルの基本概念と対策の重要性について講演し、ツムラのコーポレート・コミュニケーション室長・北村 誠氏がプロジェクト概要を説明、そしてタレントの山口 もえ氏を交えてトークディスカッションを行った。秋下氏の講演「中年世代から大切なフレイル対策-ライフコースアプローチの観点から」の概要を紹介する。 平均寿命が延伸するとともに、日常生活に制限なく生活できる年齢である「健康寿命」や身体的・精神的・社会的に良好な状態を示す「ウェルビーイング」の重要性が高まっている。これを阻害する要因の1つである「フレイル」とは、歳とともに体力・気力が低下した、いわば健康と要介護の間の状態を指す。 フレイルの症状には、筋力が低下して転びやすくなるといった「身体的な問題」、もの忘れや気分の落ち込みが続くといった「心理・認知的な問題」、社会交流の減少や経済的な困窮といった「社会的な問題」という3つの要素がある。これらは別々に存在しているわけではなく、知恵の輪のように複雑に絡まり合っている。「加齢によるもの」と説明すると不可逆的なものと捉えられることが多いが、適切な対策を講じることで健康な状態に戻ることが可能という点が重要だ。 今回、ツムラは40~69歳の男女を対象に、厚生労働省が作成した「基本チェックリスト」に基づいてアンケート調査を行った1)。結果としては、50代の回答者の半数以上がフレイル相当で、前段階のプレフレイル相当を合わせると該当者は約9割に上った。このチェックリストは高齢者を対象としたもので、該当者がそのままフレイルというわけではないが、対策をせずにそのまま年齢を重ねれば確実にフレイルとなる可能性が高い予備軍だ。実際、フレイル/プレフレイル該当者のうち、約9割が「対策を行っていない」と回答した。50代は働き盛りで「自分はまだまだ大丈夫」という意識があるうえ、ポストコロナでのリモート生活の影響で運動量が減っているという要因もありそうだ。 フレイル対策はシンプルだ。栄養、運動、社会参加が3つの基本となる。栄養は朝昼夜の食事をバランス良く食べ、とくにタンパク質とビタミンDを意識的に摂取し、口腔衛生を保つこと。運動はウォーキングのような有酸素運動と筋トレのようなレジスタンス運動を併用して継続すること。社会参加は休日の外出や趣味や習い事などで人とのつながりを持つことが重要だ。患者説明用スライド「フレイルの定義と対策」※ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘氏講演資料より 50代は筋力、筋肉量は減少してくるものの、通常はまだ生活に影響するほどではない。また、職場の健康診断もメタボリックシンドロームなどの生活習慣病による心血管病の予防と、がんの早期発見に重点が置かれ、フレイルなど高齢期の問題まで行き届いているとは言えない。しかし、50代という変化の大きな時期に何も対策を講じないでいると、60~70代でさらに筋肉は減少し、少しの動作や生活にも影響が出るようになり、また気分的にも行動変化に結び付けるのが難しい、まさに取り返しのつかない状況に陥るリスクがある。ライフコースアプローチの観点からも50代であればまだ十分に加齢変化を止め、あるいは回復までも期待できる。「まだ間に合う」という意味で、ぜひ50代からフレイル対策をはじめてほしい。 秋下氏は医師へのメッセージとしては、「体調不良を訴える中高年の診察時には、フレイルを気に留め、上記の栄養、運動、社会参加についてのアドバイスをしてほしい。また疲れやすさや気持ちの落ち込みといったよくある訴えの裏に、がんなどの疾患が潜んでいることもある。よくある主訴の背後にあるものを見逃さず、必要に応じて専門医につないでほしい」とした。フレイルのチェック方法患者説明用スライド「フレイルのチェックリスト」※ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘氏講演資料より1)基本チェックリスト/厚生労働省7項目25の質問からなるチェックリストで、介護支援事業者が高齢者を対象に生活機能評価を行うために作成されたもの。2)J-CHS基準のチェックリスト国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが、J-CHS基準を一部改訂したもの。3)5項目のフレイルチェックJ-CHS基準をもとに秋下氏が監修し、よりわかりやすい表現にしたフレイルチェックリスト。5項目のうち1つでも該当するとフレイルの可能性がある。4)ペットボトルチェック筋力低下を測る1つの目安が握力とされており、男性は28kg以下、女性は18kg以下だとフレイルの可能性があると言われている。女性の握力目安と同じ程度とされているのがペットボトルのふたを開ける動作で、身近にチェックできる方法の1つ。一般的な「側腹つまみ」で開けられなかったら要注意。

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フレイルのチェックリスト

心身の状態をチェックするさまざまな方法基本チェックリスト(厚生労働省) 8項目以上該当でフレイル 4~7該当でプレフレイルツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会 秋下 雅弘先生講演資料より心身の状態をチェックするさまざまな方法フレイルの評価方法(J-CHS基準*一部改訂)3項目以上に該当: フレイル、 1~2項目に該当: プレフレイル、 該当なし: ロバスト(健常)(Satake S, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020; 20(10): 992-993. )ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会 秋下 雅弘先生講演資料よりより簡単にセルフチェックできる方法1つでも該当するとフレイルの可能性あり世界的にCHS基準(The Cardiovascular Health Study)が使われています。日本の医療機関ではこの基準を改変した「日本版CHS基準(J-CHS基準)」を用いてチェックが行われます。本サイトでは、J-CHS基準をもとに、より身近な事例へ一部表現を変更しております。(監修医師:秋下雅弘先生)ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会 秋下 雅弘先生講演資料よりペットボトルチェックフレイルの兆候が無いか、簡単にチェックできる方法の1つフレイルの1症状である筋力低下の目安として握力を ペットボトルのふたを開けるという動作 で確認できるチェック方法筋力低下をはかる一つの目安が握力といわれており、男性は28kg以下、女性は18kg以下(J-CHS基準よりだとフレイルの可能性があるといわれています。https://www.jstage.jst.go.jp/article/pttochigicon/26/0/26_051/_pdf/-char/ja)ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会秋下 雅弘先生講演資料より

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有給休暇取得率の高い診療科は?/医師1,000人アンケート

 有給休暇は一定の条件を満たしたすべての労働者に付与されるもので、医師も例外ではない。しかし、緊急性の高い患者のケアや医師不足などにより、医師の労働環境は有給休暇が取得しやすい状況ではないケースも多いと考えられる。今回CareNet.comでは会員医師約1,000人を対象に、有給休暇の取得状況や2024年4月の働き方改革の影響などについてアンケートを実施した(2025年1月23~24日実施)。2024年度の平均有給休暇取得日数は7.6日 2024年度の有給休暇の取得日数(予定含む)は、平均で7.6日、最も多かったのは5~9日(40.7%)との回答で、7.5%の医師は0日と回答した。厚生労働省による「令和6年就労条件総合調査」1)では、調査対象の全産業における平均取得日数は11.0日と報告されており、医師の取得日数は全体平均と比較して少ないことがうかがえる。 平均取得日数を年代別にみると、20代(7.0日)と30代(6.9日)でやや少ない傾向がみられたものの、40~60代では8.0~8.2日で、年代による大きな差はみられなかった。診療科別にみると、10日以上と回答した医師がリハビリテーション科、精神科で50%以上を占めた一方、呼吸器外科、血液内科では20%以下に留まった。平均有給休暇取得率が最も高かったのは皮膚科で71.8% 全体の平均有給休暇取得率(取得日数/付与日数)は59.3%で、上述の厚生労働省調査では65.3%であり、医師の取得率は6%低い結果となった。年代別にみると40代が最も高く(61.3%)、60代が最も低かった(56.6%)。診療科別にみると、皮膚科(71.8%)、リハビリテーション科、精神科(ともに67.2%)などで高かった一方、総合診療科、救急科、呼吸器外科、血液内科では50%を下回った。 有給休暇の最長連続取得日数について聞いた結果、2~4日との回答が39.9%と最も多く、連続取得なしとの回答も36.0%を占めた。自由記述欄では、「土日に絡めて取得したがる者が増え、争奪戦になっている」「内科管理があるため、なかなか長期間とりにくい」「いまだに長期休暇を取得できない体制だし、雰囲気もある」などの声が寄せられた。医師の働き方改革による影響、半数が「変化なし」3割は「取得しやすくなった」 2024年4月の医師の働き方改革施行以降、有給休暇取得状況に変化はあったかどうかを聞いた結果(複数回答)、54.9%が「変化なし」と回答した一方、29.1%は「有給休暇が取得しやすくなった」と回答した。また、「勤務間インターバル確保や代償休息のための有給休暇消化が発生するようになった」(8.9%)、「有給休暇取得者が増加し希望日に取れない/取りにくくなった」(4.6%)、「実働のある有給休暇消化が発生するようになった」(3.9%)などの回答もみられた。 自由記述欄では、「気兼ねなく取得できる環境になってきた」など状況の改善を示唆するコメントがあった一方、「宿日直許可制度が始まってから、休めない当直なのに休んでいる扱いとなり、有給も取りづらい」「働き方改革の影響で給料が減るため、それを補うため有給休暇を利用して他院にパートに行かなければならなくなった」といった声も聞かれている。 このほか、地方別にみた平均有給休暇取得率、有給休暇の主な過ごし方などのアンケート結果の詳細を以下のページにて公開している。『医師の有給休暇取得事情』

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タンパク質などの“酸性食品”が要介護リスクに影響か

 2050年までに介護を必要とする高齢者は現在の4倍にまで増加すると言われており、高齢者に対する介護の必要性を低減させる取り組みが喫緊の課題とされている。そのような状況を踏まえ、今回、国立長寿医療研究センターの木下 かほり氏らが酸性食品(タンパク質やリンを多く含むもの)がもたらすdisability(要介護状態)の発生率を調査した結果、食事性酸負荷が高い(=酸性食品の摂取量が高い)ほど、高齢女性では要介護状態の発生率が増加したことを明らかにした。代謝性アシドーシスが筋肉の異化を亢進させることは既知であり、酸性食品が高齢者の筋肉減少を助長させる可能性があったものの、要介護状態発生との関連性はこれまで不明であった。The Journal of Frailty & Aging誌2025年2月号掲載の報告。 研究者らは、ベースラインで要介護状態ではない愛知県東浦町に居住している75歳以上の1,704例を対象に縦断的研究を実施した。ベースライン時点での食事性酸負荷は、食事中の栄養素*の組み合わせによって定義される値の1つとされ、尿の酸性度を反映する潜在的腎臓酸負荷(Potential Renal Acid Load:PRAL)を使用して評価した**。また、参加者はPRALに基づき3グループに分類された(T1を基準としてT1~T3)。主要評価項目は、追跡期間1年間での新たな要介護状態の発生率で、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)は、年齢、BMI、生活歴、喫煙、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、エネルギー摂取量、アルコール摂取量を調整した後、多重ロジスティック回帰分析で算出された。なお、PRAL の影響は性別に特異的であると報告されているため、男女それぞれの分析が行われた。*酸性栄養素としてタンパク質・リンを、アルカリ性栄養素としてカリウム・カルシウム・マグネシウムをPRAL算出に用いる**この値が高いほど、より酸性に傾きやすい食事であることを示す 主な結果は以下のとおり。・対象者1,704例の年齢範囲は75~98歳で、女性は890例(52.2%)だった。・T1、T2、T3グループのPRAL(mEq/日)範囲は、男性では-64.51~0.21、0.27~11.34、11.41~61.00、女性ではそれぞれ-61.22~-3.84、-3.75~5.89、5.90~38.68であった。・体重1kg当たりのタンパク質摂取量は、男女共にT1からT3グループにかけて有意に増加し、動物性タンパク質比率もこれらのグループ間で有意に増加した。・対照的に、野菜と果物の摂取量は、T1からT3グループにかけて有意に減少した。・要介護状態は男性44例(5.7%)、女性71例(8.7%)に発生した。・T2およびT3の要介護状態のOR(95%CI)は、男性で0.79(0.35~1.76)および0.81(0.37~1.79)、女性で1.10(0.57~2.13)および1.96(1.06~3.61)であった。 木下氏らは「今後の研究でPRALの効果に関する性差を調査する必要があるが、要介護状態を予防するために高タンパク質の摂取を必要とする高齢者にとっては、タンパク質を豊富に含む食品に加えて、野菜や果物を多く含む食事が重要な食事戦略となる可能性がある」としている。

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「プレハビリテーション」は有効か?~メタ解析/BMJ

 運動、栄養ならびに運動を含む多要素的な手術前のリハビリテーション(プレハビリテーション)は、手術を受ける成人患者に有用で、ネットワークメタ解析およびコンポーネントネットワークメタ解析において一貫した意味のある効果推定値が得られたことを、カナダ・オタワ大学のDaniel I. McIsaac氏らが報告した。著者は、「これらプレハビリテーションを臨床ケアにおいて考慮すべきであることが示唆された。一方で、プレハビリテーションの有効性をより確実にするためには、優先度の高いアウトカムに関して適切な検出力のあるバイアスリスクが低い多施設共同試験が必要である」とまとめている。BMJ誌2025年1月22日号掲載の報告。無作為化比較試験のネットワークおよびコンポーネントネットワークメタ解析を実施 研究グループは、手術を受けた成人患者の術後合併症、入院期間、健康関連QOLおよび身体回復に及ぼす相対的な有効性を推定する目的で、無作為化比較試験のシステマティックレビューとネットワークメタ解析およびコンポーネントネットワークメタ解析を行った。 Medline、Embase、PsycINFO、CINAHL、Cochrane Library、Web of Scienceを2022年3月1日に検索し、2023年10月25日に再検索して対象研究を特定した。対象研究の選択基準は、待機的手術を受ける18歳以上の成人を対象にプレハビリテーション群と対照(通常ケア、標準ケア)群を比較した無作為化試験で、重要なアウトカムを報告しているものとし、術前のリスク因子管理(禁煙、貧血治療など)を単独で評価した研究や、プレハビリテーションの期間が7日未満の研究などは除外した。 評価者2人がそれぞれ対象研究を特定し、1人がデータ抽出を、他の1人が検証を行った後、研究リーダー1人と他の評価者1人がコクランバイアスリスクツールを用いてバイアスリスクを評価した。 治療レベルでの各アウトカムに関するエビデンスの確実性は、CINeMA(Confidence in Network Meta-Analysis)を用いて評価した。多要素介入は、合併症、入院期間、健康関連QOL、術後の身体的回復を改善 186件の無作為化比較試験(被験者計1万5,684例)が解析対象となった。 ランダム効果ネットワークメタ解析の結果、通常ケアと比較して以下のプレハビリテーションは合併症を減少させる可能性が高かった。・運動単独(オッズ比:0.50[95%信頼区間[CI]:0.39~0.64]、エビデンスの確実性:非常に低い)・栄養単独(0.62[0.50~0.77]、非常に低い)・運動+栄養+心理社会的ケアの併用(0.64[0.45~0.92]、非常に低い) また、次のプレハビリテーションは、通常ケアと比較して入院期間を短縮する可能性が高かった。・運動+心理社会的ケアの併用(-2.44日[95%CI:-3.85~-1.04]、非常に低い)・運動+栄養の併用(-1.22日[-2.54~0.10]、中程度)・運動単独(-0.93日[-1.27~-0.58]、非常に低い)・栄養単独(-0.99日[-1.49~-0.48]、非常に低い) 健康関連QOLおよび身体的回復の改善に有効だったのは、運動+栄養+心理社会的ケアの併用で、Short Form(SF)-36 の身体項目スコアの平均群間差は3.48(95%CI:0.82~6.14、エビデンスの確実性:非常に低い)、6分間歩行テストでの距離の平均群間差は43.43m(95%CI:5.96~80.91、エビデンスの確実性:非常に低い)であった。 コンポーネントネットワークメタ解析の結果、運動と栄養はすべての重要なアウトカムを改善する可能性が最も高かった。すべてのアウトカムに関するすべての比較のエビデンスの確実性は、試験レベルのバイアスリスクと不正確さのため、一般的に低いまたは非常に低いであったが、バイアスリスクが高い試験を除外した場合、運動と栄養のプレハビリテーションの有効性の確実性は高かった。

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変形性膝関節症の新たな検査法を開発

 変形性膝関節症(OA)は、関節内の軟骨が劣化して骨同士が擦れ合うことで生じる。しかし、OAは軟骨の劣化が進行した末期段階で診断されることが多いため、それが軟骨の摩耗により生じたOA(一次性OA)なのか、あるいは炎症性疾患により生じた炎症性関節炎なのかを判断するのは難しいとされる。こうした中、関節内の潤滑液に含まれる2種類の成分を指標として用いた新たな検査法により、これら2種類の関節炎を正確に区別できる可能性のあることが明らかになった。米Zimmer Biomet社の一部門であるCD DiagnosticsのDaniel Keter氏らによるこの研究結果は、「Journal of Orthopaedic Research」に12月18日掲載された。 研究グループによると、米国では60歳以上の成人の最大15%がOAに罹患しており、人口の高齢化や肥満などのリスク因子の増加により、OAの蔓延はさらに進むことが予想されているという。 これまでの研究では、OA患者の患側の関節滑液では、軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP)と呼ばれる非コラーゲン性糖タンパク質の値が上昇していることが明らかにされている。しかし、COMP濃度だけを頼りに一次性OAと炎症性関節炎を区別することはできない。 今回の研究でKeter氏らは、COMP濃度に加え、インターロイキン-8(IL-8)と呼ばれる炎症性化学物質の濃度を組み合わせたアルゴリズムを構築し、これにより一次性OAと炎症性関節炎を区別できるかを検討した。COMPは軟骨が破壊されるときに放出されるため、一次性OA患者の関節滑液中では濃度が高くなる傾向がある。一方、IL-8の濃度は、OAでは低いが関節リウマチなどの炎症性疾患では高くなることが知られている。 COMP濃度およびCOMPとIL-8の濃度比率の臨床的基準値を設定し、171例の膝関節滑液標本を用いてアルゴリズムの性能を評価した。その結果、このアルゴリズムは、感度87.0%、特異度88.9%という高い精度で一次性OAと炎症性関節炎を区別することが示された。 こうした結果を受けて研究グループは、「一次性OAを他の炎症性関節炎と区別することは、OAの正確で的を絞った治療を可能にする、より優れた診断に貢献する」と結論付けている。またKeter氏は、「この検査は、OAの客観的な診断に対するアンメットニーズに対応し、臨床上の意思決定と患者の転帰改善に寄与する」と述べている。 ただし研究グループは、「この検査が広く使用されるようになる前に、その有効性を検証する必要がある」と述べている。

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12万例超の手術で使われた心房細動の新アブレーション/ボストン・サイエンティフィック

 ボストン・サイエンティフィック ジャパンは、心房細動(AF)の新たな治療法として期待されるFARAPULSE パルスフィールドアブレーション(PFA)システムを11月1日より全国で発売したのに合わせ、メディアセミナーを開催した。 AFの有病率は2030年には100万例を超えると予想され、わが国の医療現場でも迅速な治療が急務となっている。今回発売されたFARAPULSE PFAシステムは、肺静脈の出口にカテーテルで電場(パルスフィールド)を形成して電気的に隔離することで、心房への異常な電気信号を遮断し、AFを治療するもの。PFA治療は、心筋が他の臓器よりも障害閾値が低いことを応用し、心筋だけを選択的に焼灼する電場を起こすことが期待されている。これにより、現在、標準的治療となっている熱アブレーション治療で課題となっていた食道損傷や肺静脈狭窄、さらには横隔神経の持続的な障害などの合併症リスクを低減することが期待されている。 本システムは、2021年の欧州での発売以来、これまで世界65ヵ国で承認・使用されており、12万5,000例を超える臨床使用実績を持ち、120以上の査読付き論文で有効性、安全性が示されている。また、手技時間の短縮にも貢献し、医療機関での効率改善と患者の負担軽減が期待されている。同システムは2024年9月26日に薬事承認を取得している。手技時間の短縮で医師も患者も負担が軽減できる 「心房細動アブレーションのGame Changer PFAへの期待」をテーマに、里見 和浩氏(東京医科大学病院 主任教授 病院長特別補佐 不整脈センター/心臓リハビリテーションセンターセンター長)が、実臨床での本システムの有用性などについて説明を行った。 はじめにAFの病態や症状について説明。AFは頻度の高い不整脈であり、1分間に300回以上(通常は60~100回)心房が異常に早く、震えるように動く。患者は、男性のほうが少し多く、高齢者に多い。 症状としては、頻脈にともなう症状で「心臓のどきどき」、「息苦しさ」、「階段がきつい」などがあるが、無症候のケースもある。AFの合併症としては、心不全や血栓ができやすく、脳梗塞になりやすいこと(とくに脳梗塞の3割が心房細動の血栓)である。 AFの検査としては、12誘導などの心電図、心臓エコー、心臓へのCT/MRIなどの検査があり、現在は薬物、カテーテルアブレーション、外科手術の3つの治療法がある。 AFの原因となる部位の9割が肺静脈であり、この治療がスタートとなる。とくにカテーテルアブレーションが9万例施行されているが、そのうちの約7万例がAFであり、今後も増加が予想されている。 今、カテーテルアブレーションでは、熱を使わない新しいエネルギーで心筋組織を選択的に焼灼できるFARAPULSE PFAシステムが登場し、使用できるようになった。実臨床では、手技時間が短く、だいたい30~60分で手技が終わり、長期間その治療効果は維持される。循環器内科や心臓血管外科を志望する医師が減少し、人員が満たない中で手技や手術の時間の短縮は、患者にも医師にもメリットがあると期待を寄せた。全世界で約12万例超の有効性、安全性を実現したFARAPULSE PFAシステム 「FARAPULSE パルスフィールドアブレーションシステムの概要」をテーマに同社のEP PFAマーケティングの伊藤 彰彦氏が、システムの内容について説明した。 FARAPULSE PFAシステム(以下「同システム」と略す)は、短時間に電圧をかけパルス電界を形成することで標的部位の細胞に細孔を形成し、細胞に内容物がこの細孔から排出されることで、非熱的に細胞死を引き起こして治療する。従来の熱アブレーションと比較し、心筋組織に選択的に影響を与え、近接組織への影響を避けることができるメリットがある。 パルスフィールド アブレーションは、熱アブレーションと同等の有効性、安全性を保ちながら、従来のアブレーションで懸念される食道関連合併症や肺静脈狭窄、持続的横隔神経障害のリスクを低減し、より効率的な治療を提供することが期待されている。また、同システムは、すでに12万5,000例の実臨床経験において、有効性、安全性、効果の持続性を確認しており、独特な形状(最大花が咲いたような姿)をしたカテーテルはさまざまな患者の解剖に対応する。シンプルかつスムーズな手技ワークフローは、迅速かつ再現性の高い手技を提供する。 同システムの製品構成は3つから成り、カテーテルは手元で先端部が可変でき、360度アブレーションができる。スティーラブルシースは目的部位へ簡単に誘導することができ、ジェネレータはシンプルな構造で操作も単純化されている。 最期に臨床試験で実施された“ADVENT Study”について説明した。本試験は、発作性AFにおける同システムの有効性と安全性を高周波アブレーション(RFA)/クライオバルーンアブレーション(CBA)と直接比較した無作為化臨床試験で、同システム群305例とRFA/CBA群302例(RFA群167例/CBA群135例)を検討した。その結果、安全性、有効性ともにRFA/CBA群と比較し、非劣性だったことが検証され、手技時間、左房滞在時間、アブレーション時間ともに同システム群のほうが短時間だったが、透視時はRFA/CBA群のほうが短かったことを説明し、終了した。

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運動による脳の活性化は翌日まで続く

 運動による脳の機能に対する急性効果は、従来考えられていたよりも長く続く可能性を示唆するデータが報告された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のMikaela Bloomberg氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に12月10日掲載された。 これまでに、運動後の数分から数時間ほどの間、認知機能に対する急性効果が生じることが報告されてきている。しかし、その効果が運動を行った翌日まで持続するのか、また、睡眠不足などの影響はあるのかという点はよく分かっていない。Bloomberg氏らは、加速度計を用いて身体活動量や睡眠時間、睡眠の質を把握し、翌日の認知機能との関連性を検討した。 研究参加者は、認知機能障害や認知症の兆候のない50~83歳の成人76人で、8日間にわたり加速度計を装着して生活。注意力、記憶力、精神運動速度(思考・判断およびそれに基づく身体反応の速さ)などの認知機能を評価するためのテストが毎日実施された。加速度計のデータは、中~高強度身体活動(MVPA)、軽強度身体活動、座位行動、睡眠時間、レム睡眠(脳は覚醒状態に近く、体動はほとんどない睡眠)、徐波睡眠(深い睡眠である一方、体動が生じることもある睡眠)の時間の把握に用いられた。 解析の結果、前日のMVPAの時間が30分長いと、エピソード記憶(ある出来事とその時間や場所の記憶)のスコア(P=0.03)と作業記憶(何かの作業をするための短期的な記憶)のスコアが(P=0.01)有意に高いという関連が認められた。反対に、座位行動時間が30分長いと、作業記憶スコアが有意に低下していた(P=0.03)。前夜の睡眠時間や睡眠の質を調整しても、これらの結果は変わらなかった。 他方、前日のMVPAの時間とは関係なく、前夜の睡眠時間が6時間以上の場合、6時間未満と比較してエピソード記憶のスコアが有意に高く(P=0.008)、精神運動速度が有意に速い(P=0.03)という関連が観察された。また、前夜のレム睡眠が30分長いごとに注意力スコアが有意に高く(P=0.04)、徐波睡眠が30分長いごとにエピソード記憶スコアが高い(P=0.008)という関連も認められた。 MVPAの具体的な運動としては、Bloomberg氏によると、「心拍数が上がるような運動のことであり、早歩き、ダンス、階段を上がることなど」であって、「計画的な運動である必要はない」という。そして同氏は、「われわれの研究は、このようなMVPAの認知機能に対する効果発現時間はこれまで考えられていたよりも長く、運動後の数時間だけでなく翌日まで続く可能性があることを示唆している」と述べている。 この関連のメカニズムについて論文には、「運動は脳への血流を増加させ、さまざまな認知機能をサポートする神経伝達物質の放出を刺激することで、脳を活性化させることが知られている。神経伝達物質に対する影響は運動後少なくとも数時間は持続することが報告されているが、運動に伴う他の影響は、より長期間持続するのではないか」という考察が加えられている。ただし、論文の上席著者であるUCLのAndrew Steptoe氏は、「本研究のみでは、運動による脳に対する急性効果が、脳の長期的な健康に寄与するかどうかは分からない。運動が認知機能の低下を遅らせ、認知症のリスクを抑制する可能性を示唆するエビデンスは少なくないが、いまだ議論の余地が残されている」と、慎重な姿勢を取っている。

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スポーツの「観戦」にも有意な健康効果―日本人対象の縦断的研究

 スポーツを「する」のではなく、「見る(観戦する)」ことも、健康増進につながることを示した、国内での縦断的研究の結果が報告された。観戦頻度の高い人は1年後のメンタルヘルスや生活習慣の指標が良好だったという。ただし、テレビなどのメディアでの観戦では、一部の身体疾患のリスクが上昇する可能性も示唆されたとのことだ。公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏らの研究によるもので、詳細は「Preventive Medicine」12月号に掲載された。 スポーツを含む身体活動を実践することの健康効果については、膨大なエビデンスの裏付けがある。しかし、スポーツを観戦することが健康に与える影響については、因果関係の証明にはならない横断研究の報告があるものの、因果関係を検討可能な長期間の縦断研究は過去に行われていない。これを背景として川上氏らは、健診受診者対象の前向きコホート研究「明治安田ライフスタイル研究(MYLSスタディ)」のデータを用いた縦断的解析を行った。 この研究の解析対象は、2017~2019年度にMYLSスタディに参加した6,327人。主な特徴は、平均年齢50.7歳、女性48.9%、既婚者71.8%、大学卒以上81.7%であり、27.8%が週に1日以上、メディアでスポーツの試合を観戦し、21.7%は年に2日以上、現地で直接観戦していた。 ベースライン時点から1年後、身体的な健康や生活習慣、幸福感などに関する20項目のアウトカムを評価。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、教育歴、就労状況、婚姻状況、独居/同居、暮らし向き、高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症・睡眠障害に対する処方薬数)を調整後、以下のような関連が明らかになった。 まず、現地でのスポーツ観戦が過去1年間に1日もなかった群(65.5%)に比較して、2日以上観戦していた群(21.7%)は、中等度の心理的ストレスを抱えるリスクが17%低く(リスク比〔RR〕0.83〔95%信頼区間0.72~0.95〕)、重度の心理的ストレスの該当者も有意に少なかった(オッズ比0.43〔同0.23~0.79〕)。 また、現地での観戦頻度が高いほど心理的ストレスを抱えるリスクが低下するという関連が認められた(傾向性P値が中等度ストレスについては0.011、重度ストレスは0.016)。同様に、現地で観戦した人は脂質異常症のリスクが低く(1年間に2日以上観戦でRR0.89〔0.79~1.00〕、傾向性P=0.049)、さらに生活習慣の改善に前向きであった(行動変容ステージが前熟考期であることのRRが0.77〔0.64~0.93〕、傾向性P=0.005)。 次に、メディアでの観戦が過去1カ月間に1日もなかった群(41.6%)に比較して、週に1日以上観戦していた群(27.8%)は、身体活動不足であることが少なく(RR0.94〔0.88~1.00〕、傾向性P=0.038)、朝食欠食が少なく(RR0.85〔0.75~0.96〕、傾向性P=0.008)、幸福感が高かった(RR1.08〔1.00~1.17〕、傾向性P=0.048)。 ただし、メディアでの観戦は、BMIの上昇(β=0.03〔0.00~0.05〕、傾向性P=0.025)のほか、高血圧(RR1.09〔1.01~1.19〕、傾向性P=0.026)や糖尿病(RR1.16〔1.02~1.31〕、傾向性P=0.018)のリスク上昇と関連していた。 著者らは本研究を「スポーツ観戦の頻度と健康状態などとの関連を、大規模かつ縦断的に解析した初めての研究」と位置づけ、「現地観戦でもメディアでの観戦でも、スポーツを見ることでメンタルヘルスや生活習慣が良好になる可能性が示された。一方で、メディアでの観戦には肥満や生活習慣病のリスクが潜んでいることも示唆された」と総括している。なお、メディア観戦がいくつかのアウトカムに負の影響を及ぼし得る点については、「座ったままで飲食をしながら観戦するという、いわゆる“カウチポテト”になりやすいことの影響も考えられる」と考察している。

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Long COVIDの神経症状は高齢者よりも若・中年層に現れやすい

 新たな研究によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状(long COVID)のうち、重篤な神経症状は、高齢者よりも若年層や中年層の人に現れやすいことが明らかになった。米ノースウェスタン・メディスン総合COVID-19センターの共同所長を務めるIgor Koralnik氏らによるこの研究結果は、「Annals of Neurology」に11月22日掲載された。 Long COVIDの神経症状は、頭痛、しびれやうずき、嗅覚障害や味覚障害、目のかすみ、抑うつ、不安、不眠、倦怠感、認知機能の低下などである。論文の上席著者であるKoralnik氏は、「COVID-19による死亡者数は減少し続けているが、人々は依然としてウイルスに繰り返し感染し、その過程でlong COVIDを発症する可能性がある」と指摘する。同氏は、「long COVIDは、患者の生活の質(QOL)に変化を引き起こしている。ワクチン接種や追加接種を受けている人でも、COVID-19患者の約30%にlong COVIDの何らかの症状が現れる」と話す。 今回の研究では、2020年3月から2023年3月の間にノースウェスタンメモリアルホスピタルのNeuro-COVID-19クリニックを受診し、新型コロナウイルス検査で陽性が判明した最初の1,300人(COVID-19による入院歴のある患者200人、入院歴のない患者1,100人)を対象に、COVID-19の重症度(入院歴の有無)によるlong COVIDの神経症状の違いを検討した。対象患者は、若年層(18〜44歳)、中年層(45〜64歳)、高齢者(65歳以上)に分類された。 COVID-19の発症から10カ月後の時点で、若年層と中年層では、高齢者に比べてlong COVIDの神経症状の発生率が高く、症状の負担も大きいことが明らかになった。また、入院歴のない患者群では、若年層と中年層で高齢者に比べて、主観的な倦怠感や睡眠障害のスコアが高く、これらの層はQOLへの障害をより強く感じていることが浮き彫りになった。さらに、入院歴のない患者群では、認知機能(実行機能や作業記憶)のスコアが最も低かったのは若年層であることも判明した。一方、入院歴のある患者群では、認知機能の一部(実行機能)に統計学的に有意に近い年齢による差が認められたものの、QOLには年齢による有意な差は確認されなかった。 Koralnik氏は、「long COVIDは、社会の労働力、生産性、革新の多くを担う働き盛りの若年成人に特に大きな影響を及ぼし、健康上の問題や障害を引き起こしている」と述べ、「これは社会全体にとって厳しい状況だ」との見方を示している。 さらにKoralnik氏は、「この研究は、long COVIDに苦しむあらゆる年齢の人々に対し、症状を緩和し、QOLを向上させるために必要な治療とリハビリテーションのサービスを提供すべきことの重要性を浮き彫りにするものだ」と米ノースウェスタン大学のニュースリリースで述べている。

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095)老後に必要なものは…〇〇?【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

老後に必要なものは…〇〇?ゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆皮膚科外来はお子さんから高齢の方まで、幅広い年齢層の患者さんが受診されます。私の勤務する病院は比較的、年齢層が高めで、高齢の方のお相手をする機会に恵まれております。一口に高齢者と言っても、年代からADL、キャラクターまで、本当に人それぞれ。私個人の印象としては、60~70代はまだまだ元気で、お仕事も現役だったり、趣味にいそしまれている方が多い年代。80歳前後から少しずつ、受け答えの反応に不安を覚えるようになり、動作がゆっくりになり、以前よりも活気がへったなと感じるように。90代で元気にしっかりとお一人さま受診される方はめずらしく、一人でこられる方でも杖や歩行器を使われている方が多くなります。高齢でもなお、受け答えがしっかりしており、動作もシャンとしている方々に共通しているのが、身のまわりのことを自分でされているということ。一人暮らしの方もいれば、同居でも二世帯のような形で独立して生活している方もいます。頭も体もしっかりしているからこそ、そうした日常動作も問題なく行えるのでしょうが、「『日々のことを自分でする』意識が大切なのかもしれない」と思う次第です。椅子からの立ち上がりや、診察台への歩行など、診察室の中だけでみても、筋力が必要とされる動作の連続です。病院への移動も含めて、「日常を支える『筋肉』って大事だな」と改めて感じます。当たり前のことかもしれませんが、使わないとすぐに衰えてしまうのが筋肉というもの。私も20km走をサボるとすぐに骨格筋率が下がるので、「筋肉は維持が大事、使ってなんぼ」と思って生きています。人生何が起こるかわかりませんが、「可能な限り生涯現役でいきたいな」と思うのでした。それでは、また次の連載で。

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