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脳卒中リハビリテーション、レボドパ追加は有効か/JAMA

 レボドパは、脳卒中発症後の運動機能の回復を促進する可能性が示唆されているが、有効性に関するエビデンスは肯定・否定が混在するにもかかわらず、脳卒中リハビリテーションに補完的に使用されているという。スイス・バーゼル大学のStefan T. Engelter氏らの研究チームは「ESTREL試験」において、急性期脳卒中患者に対する入院リハビリテーションでは、標準的リハビリテーションにプラセボを加えた場合と比較してレボドパの追加は、3ヵ月後の運動機能の改善をもたらさないことを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年9月22日号で発表された。スイスの研究者主導型無作為化試験 ESTREL試験は、スイスの13の脳卒中施設と11のリハビリテーション施設の共同による研究者主導型の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(スイス国立科学財団[SNSF]の助成を受けた)。 2019年6月~2024年8月に、急性期(発症から7日以内)の虚血性または出血性の脳卒中で、臨床的に意義のある片麻痺(米国国立衛生研究所脳卒中スケール[NIHSS]の上肢運動、下肢運動、四肢運動失調のスコアの合計が3点以上)を有する患者610例を登録した。 被験者を、課題指向型訓練に基づく標準化されたリハビリテーションに加え、レボドパ100mg/カルビドパ25mg(307例)またはプラセボ(303例)を1日3回、39日間、経口投与する群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは3ヵ月後の時点でのFugl-Meyerアセスメント(FMA)総スコア(0~100点、点数が低いほど運動機能が劣る)中央値であった。 ベースラインの全体の年齢中央値は73歳(四分位範囲[IQR]:64~82)、女性が252例(41.3%)で、NIHSSスコア中央値は7点(IQR:5~10)、FMA総スコア中央値は34点(IQR:14~54)であった。3ヵ月後のFMA総スコアに差はない 3ヵ月後までに死亡した28例を除く582例(95.4%、レボドパ群296例、プラセボ群286例)を主解析の対象とした。主要アウトカムである3ヵ月後の時点でのFMA総スコア中央値は、レボドパ群が68点(IQR:42~85)、プラセボ群は64点(44~83)と両群間に有意差はなく(ベースラインのFMA総スコアで補正した両群間のFMA総スコアの平均差:-0.90点、95%信頼区間[CI]:-3.78~1.98、p=0.54)、レボドパ/カルビドパ追加による運動機能の改善は認めなかった。 副次アウトカム(3ヵ月後の患者報告アウトカム測定情報システム[PROMIS]-29のスコア、PROMIS-10のスコア、FMAの上肢および下肢スコア、NIHSSスコア、修正Rankin尺度スコアなど)についても、いずれの項目にも両群間に有意差はなかった。感染症の頻度が高い 重篤な有害事象は177例に255件発現した(レボドパ群126件、プラセボ群129件)。最も頻度の高い重篤な有害事象は両群とも感染症であった(同55件、44件)。 事前に規定されたとくに注目すべき有害事象は115例に146件発現した(レボドパ群79件、プラセボ群67件)。このうち最も頻度が高かったのはレボドパ群で錯乱(12件)、プラセボ群では幻覚(10件)だった。 著者は、「これらの結果は、最近のメタ解析で示唆されたレボドパによる有益な運動機能回復の増強効果という見解に反しており、脳卒中リハビリテーションの補強を目的としたレボドパの使用を支持しない」としている。

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第262回 風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO

<先週の動き> 1.風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO 2.全国で「マイナ救急」導入、救急現場で医療情報を共有可能に/消防庁 3.分娩可能な病院は1,245施設に、34年連続減少/厚労省 4.高額レセプトの件数が過去最高に、健康保険組合は半数近くが赤字/健保連 5.アセトアミノフェンと自閉症 トランプ大統領の発表で懸念拡大/米国 6.救急搬送に選定療養費 軽症患者が2割減、救急車の適正利用進む/茨城・松阪 1.風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO厚生労働省は9月26日、「わが国が風疹の『排除状態』にあると世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局から認定を受けた」と発表した。「排除」とは、国内に定着した風疹ウイルスによる感染が3年間確認されないことを指し、わが国では2020年3月を最後に土着株の感染例が報告されていなかった。風疹は、発熱や発疹を引き起こす感染症で、妊婦が感染すると先天性風疹症候群を発症した子供が生まれるリスクがある。国内では2013年に約1万4千人が感染し、2018~19年にも流行が発生。過去には妊婦の感染により、45例の先天性風疹症候群が報告されていた。流行の中心は予防接種の機会がなかった40~50代の男性であり、国は2019年度からこの世代を対象に無料の抗体検査とワクチン接種を実施した。その結果、2021年以降は年間感染者数が10人前後に抑えられ、感染拡大は収束した。今回の認定はこうした取り組みの成果を示すもので、厚労省は「引き続き適切な監視体制を維持し、ワクチン接種を推進する」としている。一方で、海外からの輸入例は依然としてリスクが残る。今後も免疫のない世代や妊婦への周知徹底が課題となる。風疹排除はわが国の公衆衛生政策の大きな成果だが、維持のためには医療現場と行政が協力し続ける必要がある。 参考 1) 世界保健機関西太平洋地域事務局により日本の風しんの排除が認定されました(厚労省) 2) 風疹の土着ウイルス、日本は「排除状態」とWHO認定…2020年を最後に確認されず(読売新聞) 3) WHO 日本を風疹が流行していない地域を示す「排除」状態に認定(NHK) 4) 日本は風疹「排除状態」、WHO認定 土着株の感染例確認されず(朝日新聞) 2.全国で「マイナ救急」導入、救急現場で医療情報を共有可能に/消防庁救急現場での情報確認を迅速化する「マイナ救急」が、10月1日から全国の消防本部で導入される。マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」を活用し、救急隊員が、患者の受診歴や処方薬情報を即時に確認できる仕組みである。患者本人や家族が説明できない状況でも、カードリーダーで情報を読み取り、オンライン資格確認システムに接続して必要な医療情報を閲覧できるようになる。これにより、救急隊は持病や服薬を把握した上で適切な搬送先を選定し、受け入れ先の医療機関では治療準備を事前に進めることが可能となる。患者が意識不明の場合には、例外的に同意なしで情報参照が認められる。2024年5月から実施された実証事業では、救急隊員から「服薬歴の把握が容易になり、搬送判断に役立つ」との評価が寄せられた。わが国では高齢化に伴い、多疾患併存やポリファーマシーの患者が増加している。救急現場での服薬歴不明は治療遅延や薬剤相互作用のリスクにつながるため、本制度は臨床現場の安全性向上に資する。その一方で、救急時に確実に活用するためには、患者自身がマイナ保険証を常時携帯することが前提となる。厚生労働省と消防庁は「とくに高齢者や持病のある方は日頃から携帯してほしい」と呼びかけている。マイナ保険証の登録件数は、2025年7月末時点で約8,500万件に達しているが、依然として所持率や利用登録の偏りは残る。医師にとっては、救急現場から搬送される患者情報がより早く共有されることで、初期対応の迅速化や医療安全の強化が期待される。他方、情報取得の精度やシステム障害時の対応など、運用上の課題にも注意が必要となる。「マイナ救急」は、地域を越えて情報を共有し、救急医療の質を底上げする国家的インフラの一環であり、今後の運用実績を踏まえ、医療DXの具体的成果として浸透するかが注目される。 参考 1) あなたの命を守る「マイナ救急」(総務省) 2) 救急搬送時、マイナ保険証活用 隊員が受診歴など把握し適切対応(共同通信) 3) 「マイナ救急」10月から全国で 受診歴や服用薬、現場で確認(時事通信) 3.分娩可能な病院は1,245施設に、34年連続減少/厚労省厚生労働省が公表した「令和6年医療施設(動態)調査・病院報告」によれば、2024年10月1日現在、全国の一般病院で産婦人科や産科を掲げる施設は計1,245施設となり、前年より9施設減、34年連続の減少で統計開始以来の最少を更新した。小児科を有する一般病院も2,427施設と29施設減少し、31年連続の減少となった。全国的に病院数そのものが減少傾向にあり、とくに周産期・小児医療を担う診療科の縮小は地域医療体制に大きな影響を及ぼすとみられる。調査全体では、全国の医療施設総数は18万2,026施設で、うち活動中は17万9,645施設。病院は8,060施設で前年比62施設の減、一般病院は7,003施設と62施設の減、診療所は10万5,207施設で微増、歯科診療所は6万6,378施設で440施設の減となった。病床数でも全体で約1万4,663床減少し、とくに療養病床と一般病床が減少した。病院標榜科の内訳をみると、内科(92.9%)、リハビリテーション科(80.5%)、整形外科(69.1%)が多い一方で、小児科は34.7%、産婦人科15.0%、産科2.8%にとどまる。産婦人科と産科を合わせた比率は17.8%であり、地域により分娩を担う施設が極端に限られる状況が続いている。また、病院報告では、1日当たりの外来患者数が前年比1.7%減の121万2,243人と減少した一方、在院患者数は113万3,196人で0.8%増加し、平均在院日数は25.6日と0.7日短縮した。医療需要は依然高水準である一方で、入院期間短縮と医療資源の集約化が進む姿が浮かんだ。今回の結果は、産科・小児科医師の偏在や医師不足が長期的に続いている現実を裏付けるものであり、医師にとっては、地域における出産・小児救急の受け皿が細り続ける中で、救急搬送の広域化や勤務負担の増大が避けられない。各地域での分娩体制再編や周産期医療ネットワーク強化の重要性が一層高まっている。 参考 1) 令和6年医療施設(動態)調査・病院報告の概況(厚労省) 2) 産婦人科・産科が最少更新 34年連続、厚労省調査(東京新聞) 3) 産婦人科・産科がある病院1,245施設に、34年連続の減少で最少を更新 厚労省調査(産経新聞) 4.高額レセプトの件数が過去最高に、健康保険組合は半数近くが赤字/健保連健康保険組合連合会(健保連)は9月25日、「令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要」を発表した。1ヵ月の医療費が1,000万円を超える件数は2,328件(前年度比+8%)で10年連続の最多更新となり、過去10年で6倍超に増加した。上位疾患の約8割は悪性腫瘍で、CAR-T療法や遺伝子治療薬などの登場が背景にある。最高額は約1億6,900万円で、単回投与型の薬剤を用いた希少疾患治療が占めた。これらの薬剤は患者に新たな治療選択肢を提供し、長期生存やQOL改善につながる一方で、健保組合の財政に直結する。健保連の制度により高額事例は共同で負担される仕組みだが、件数増加は拠出金を押し上げ、結果として保険料率や現役世代の負担増につながる。実際に2024年度の平均保険料率は9.31%と過去最高となり、1/4の組合は「解散ライン」とされる10%を超えた。臨床現場にとっても影響は現実に及ぶ。新規薬剤を希望する患者からの説明要請が増えており、医師は「なぜこの薬が高額なのか」「自分に適応があるのか」「高額療養費制度でどこまで自己負担が軽減されるのか」といった質問に直面している。加えて、長期投与が前提となる免疫療法や分子標的薬では、累積コストや再投与リスクについても説明が欠かせない。患者や家族が治療継続の是非を判断する際、経済的側面を含めた十分な情報提供が求められる。今後は、がん免疫治療の投与拡大、希少疾患への新規遺伝子治療薬導入などにより、高額レセプトはさらに増加すると予測される。薬価改定で一定の調整は行われるが、医療費全体に占める薬剤費の比重は確実に高まり、制度改革や患者負担の見直し議論は避けられない。現場の医師には、エビデンスに基づく適正使用とともに、経済的影響を含めた説明責任がより重くのしかかる局面にある。 参考 1) 令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要(健保連) 2) 高額レセプト10年連続で最多更新 24年度は2,328件 健保連(CB news) 3) 「1,000万円以上」の高額医療8%増 費用対効果の検証不可欠(日経新聞) 4) 綱渡りの健康保険 組合の4分の1、保険料率10%の「解散水準」に(同) 5) 健保1,378組合の半数近く赤字、保険料率が過去最高の月収9.3%…1人あたりの年間保険料54万146円(読売新聞) 6) 健保連 昨年度決算見込み 全体は黒字も 半数近くの組合が赤字(NHK) 5.アセトアミノフェンと自閉症 トランプ大統領の発表で懸念拡大/米国米国トランプ大統領は9月22日、解熱鎮痛薬アセトアミノフェン(パラセタモール)が「妊婦で自閉スペクトラム症(ASD)リスクを大幅に上げる」として服用自粛を促した。これに対し、わが国の自閉スペクトラム学会は「十分な科学的根拠に基づく主張とは言い難い」と懸念を表明している。米国産科婦人科学会(ACOG)も「妊娠中に最も安全な第一選択肢」と反論。WHO、EU医薬品庁、英国規制当局はいずれも「一貫した関連は確認されていない」とし、現行推奨の変更不要とした。一方、米国の現政権は葉酸関連製剤ロイコボリンのASD治療薬化にも言及したが、大規模試験の根拠は乏しい。わが国の医療現場にも余波は広がり、妊婦・家族からの不安相談が増加する懸念や、自己判断での服用中止による解熱の遅延、SNS起点の誤情報拡散が想定されている。妊娠中の高熱は、胎児に不利益を与え得るため、わが国の実務ではアセトアミノフェンは適応・用量を守り「必要最小量・最短期間」で使用するのが原則となっている。他剤(NSAIDs)は妊娠後期で禁忌・慎重投与が多く、安易な切り替えは避けるべきとされる。診療現場では、現時点で因果を支持する一貫した証拠はないこと、高熱の速やかな改善の利点、自己中断せず受診・相談すること、市販薬も含む総服薬量の確認を丁寧に説明することが求められる。ASDの有病増加には、診断基準変更やスクリーニング拡充も影響し、単一因子で説明できない点もあり、過度な警告は受療行動を阻害し得る。医師には、ガイドラインや専門学会の公的見解に基づく対応が求められる。 参考 1) 自閉症の原因と治療に関するアメリカ政府の発表に関する声明(自閉スペクトラム学会) 2) WHO アセトアミノフェンと自閉症「関連性は確認されず」(NHK) 3) トランプ政権“妊婦が鎮痛解熱剤 自閉症リスク高” 学会が反対(同) 4) トランプ氏「妊婦の鎮痛剤、自閉症リスク増」主張に日本の学会が懸念(日経新聞) 5) 解熱剤と自閉症の関連主張 トランプ大統領に批判集中(共同通信) 6) 「鎮痛剤が自閉症に関係」 トランプ政権が注意喚起へ(時事通信) 6.救急搬送に選定療養費 軽症患者が2割減、救急車の適正利用進む/茨城・松阪救急搬送の「選定療養費」徴収を導入した2つの自治体で、適正利用の進展が確認された。三重県松阪地区では、2024年6月~2025年5月に基幹3病院で入院に至らなかった救急搬送患者の一部から7,700円の徴収を開始した。1年間の救急出動は1万4,184件で前年同期比-10.2%、搬送件数も-10.6%。軽症率は55.4%から50.0%へ-5.4ポイント、1日50件以上の多発日は86から36日へ減少した。搬送1万4,786人(乳幼児193人を含む)のうち帰宅は7,585人(51.3%)、徴収は1,467人(全体の9.9%)。疼痛・打撲・めまいなどが多かった。並行して1次救急(休日・夜間応急診療所)受診が31%、救急相談ダイヤル利用が34%増え、受診先の振り分けが進んだ。茨城県の検証(2025年6~8月)でも、対象22病院の徴収率は3.3%(673/20,707)と限定的ながら、県全体の救急搬送は-8.3%、うち軽症などは-19.0%、中等症以上は+1.7%と、救急資源の選別利用が進んだ。近隣5県より減少幅が大きく、呼び控えによる重症化や大きなトラブルの報告は認められなかった。なお、電話相談で「出動推奨」だった例は徴収対象外とし、誤徴収は月1件程度で返金対応としている。現場の医師は、徴収対象と除外基準の周知徹底、乳幼児や高齢者などへの配慮のほか、1次救急・電話相談との連携による適正振り分け、会計時の説明の一貫性などが課題となる。今後は「安易な利用抑制」と「必要時にためらわず利用できる安心感」の両立を、医師と行政が協働して救急現場に反映させることが問われている。 参考 1) 救急搬送における選定療養費の徴収に関する検証の結果について(概要版)(茨城県) 2) 一次二次救急医療体制あり方検討について(第四次報告)(松阪市) 3) 軽症者の救急搬送19%減 茨城県が「選定療養費制度」を検証(毎日新聞) 4) 選定療養費 軽症搬送、前年比2割減 6~8月 茨城県調査「一定の効果」(茨城新聞) 5) 救急搬送の一部患者から費用徴収、出動件数は1年間で10.2%減 松阪市「適正利用が進んだ」(中日新聞) 6) 救急車「有料化」で出動数1割減 「持続可能な医療に寄与」と松阪市(朝日新聞)

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フレイル高齢者における心リハの新展開(解説:野間重孝氏)

 心筋梗塞後の心臓リハビリテーション(心リハ)は、これまで多数の臨床試験やメタアナリシスによりその有効性が検証されてきた。従来の複数の研究において、運動耐容能や生活の質の改善に加えて、全死亡や心血管死の低下といった予後改善効果も報告されている。しかし、その対象は比較的若年で活動的な患者が中心であり、フレイルや身体機能低下を伴う高齢者に関するエビデンスは乏しかった。実臨床においてはむしろこの層の患者が多いにもかかわらず、十分に検討されてこなかった点は大きな課題であった。 今回報告された研究は、この空白を埋めることを目的として実施された多施設ランダム化比較試験である。対象は心筋梗塞発症後1ヵ月以内の高齢患者で、Short Physical Performance Battery(SPPB)4~9点という身体機能低下を有する集団に限定された。介入は危険因子管理、栄養指導、運動訓練を組み合わせた多領域的プログラムであり、通常診療と比較された。その結果、1年後の主要複合エンドポイント(心血管死または心血管再入院)は介入群で有意に低下し(12.6%vs.20.6%、ハザード比:0.57、95%信頼区間:0.36~0.89)、とくに再入院抑制の効果が顕著であった。重大な有害事象は報告されず、高齢の虚弱患者に対しても安全に実施可能であることが示された。 本研究は、これまで臨床試験の対象から外れがちであった虚弱高齢者を明確に取り上げ、SPPBという客観的評価指標により対象を定義した点に新規性を有する。また、心血管死や再入院といった臨床的に重みのあるエンドポイントを主要評価項目としたことで、介入の実際的価値を直接的に検証することができた。さらに、介入が運動療法のみならず栄養指導や危険因子管理を包含した多領域的アプローチとして構築されていたことは、現場のチーム医療の在り方を反映するものであるといえる。 もっとも、解釈に当たってはいくつかの留意点もある。介入の性質上、二重盲検化は不可能であり、再入院というアウトカムには患者や医療者の行動変容が影響した可能性が否定できない。さらに、本論文における統計学的有意差は、生命予後の改善ではなく再入院抑制に主として由来していた。したがって、心リハが虚弱高齢者の生命予後を延長するかどうかについては、依然として結論を得るには至っていない。また、複合的介入であったため、各要素の寄与度を明確に区別することはできなかった。さらに、対象は中等度の機能低下群に限られ、認知症や重度の多重障害を有する患者は除外されていた。このため、より重度の虚弱例や複雑な併存症を持つ患者への一般化には慎重さが求められる。さらに、追跡期間は1年間にとどまっており、長期的な生命予後やADL維持への効果は今後の課題として残されている。 従来の研究は比較的活動的な患者を対象に死亡率の低下を示してきたが、本研究は虚弱高齢者を対象に、生命予後の改善は示されなかったものの、短期的な再入院抑制という付加的な側面での有用性を明らかにした点には意義がある。すなわち、心リハは「元気な患者に限られた介入」ではなく、虚弱で機能低下を有する患者にも適用すべき治療戦略であることを示唆している。ただし、生命予後改善や長期転帰に関しては依然として検証を要し、本研究は重要な一歩を提示したものの決定的なエビデンスには至っていないといえよう。

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第261回 診療所の4割が赤字転落、26年度改定で大幅引き上げを/日医

<先週の動き> 1.診療所の4割が赤字転落、26年度改定で大幅引き上げを/日医 2.スマホ保険証スタート 利用率は2割、医療DX加算に反映へ/厚労省 3.サイバー攻撃増加で、電子カルテ共有サービスを基幹インフラに追加へ/厚労省 4.特定機能病院に新基準、総合診療や形成外科を必須領域に追加/厚労省 5.美容医療の立入検査が本格化、診療録不備・誇大広告は処分対象に/厚労省 6.元理事長を提訴 背任起訴受け2.5億円請求、ガバナンス再建へ/東京女子医大 1.診療所の4割が赤字転落、26年度改定で大幅引き上げを/日医日本医師会が9月17日に公表した緊急調査で、2024年度に医療法人立診療所の約4割が赤字経営に陥った実態が明らかになった。医業利益が赤字の診療所は45.2%、経常利益赤字は39.2%で、いずれも前年の2023年度から大幅に増加。医業利益率の平均は6.7%から3.2%へ、経常利益率は8.2%から4.2%へと半減した。中央値はさらに低く、実際の経営状況は平均値以上に厳しいことが浮き彫りとなった。調査は日医会員の診療所の院長など約7万2,000人を対象に実施し、1万1,103施設の有効回答を得た。その結果、物価高騰や人件費上昇に加え、新型コロナ関連補助金や診療報酬特例措置の廃止が収益悪化の主因とされた。医業収益は2.3%減少、費用は1.4%増加し、給与費や医薬品費・材料費が重くのしかかった。診療科別では内科、小児科、耳鼻咽喉科など感染症対応を担ってきた分野で、とくに利益率の低下が顕著となった。直近に決算を迎えた診療所ほど利益率が低下しており、2025年度には赤字診療所が5割に達する恐れが指摘された。さらに、「近い将来廃業を検討」との回答は13.8%に上り、地域医療体制維持への深刻な影響が懸念されている。経営課題として「物価高騰・人件費上昇」(76%)、「患者単価減少」(60.6%)、「受診率低下」などが挙げられ、設備老朽化も41.3%が回答した。松本 吉郎会長は会見で「このままでは診療所の事業継続や承継が困難となり、地域医療の基盤が失われかねない」と危機感を表明。2026年度診療報酬改定での大幅引き上げに加え、補正予算による緊急支援や期中改定の必要性を強く訴えた。また、人件費の高騰が経営を直撃している現状に触れ、「人件費率が高い医療機関に十分な手当てを行わなければ地域医療が崩壊する」と警鐘を鳴らした。 参考 1) 「令和7年 診療所の緊急経営調査」結果について(日医) 2) 医療法人診療所の利益率最頻値は「0~2%未満」、日医が実態調査(日経メディカル) 3) 診療所の4割赤字、医師会長「地域医療継続できなくなる恐れ」…診療報酬引き上げや経営支援を要望(読売新聞) 4) 日医が緊急調査 医療法人の診療所4割赤字、廃業懸念も14% 松本会長「26年度改定大幅アップを」(ミクスオンライン) 5) 診療所の4割が赤字経営 日本医師会「極めて厳しい状況」(毎日新聞) 6) 診療所の4割が経常赤字に 利益率は半減、特例廃止で医業収益も大幅減 日医(CB news) 2.スマホ保険証スタート 利用率は2割、医療DX加算に反映へ/厚労省厚生労働省は9月19日、スマートフォンを健康保険証として利用できる「スマホ保険証」の本格運用を開始した。マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の機能をスマホに搭載し、医療機関や薬局に設置されたカードリーダーにかざすことで本人確認と資格確認が可能となる仕組みである。患者の利便性向上や医療DXの推進が狙いとされ、医療DX推進体制整備加算の算定要件における「マイナ保険証利用率」にも反映されることが示された。12月適用分から支払基金による集計に反映される予定。その一方で、全国の対応状況は限定的であり、22万超の医療機関・薬局のうち、対応できる施設は約4万7,000ヵ所にとどまり、全体の2割程度となっている。厚労省は8月末から導入費用の半額補助を行っているが、9月18日時点で約1万5,000施設が補助を利用しているものの、依然として普及は道半ばとなっている。厚労省は、対応施設が少ないために現場の混乱を避ける目的で、暫定的に「スマホ画面の目視確認」を認めている。患者がスマホ保険証のみを持参し、リーダー未設置の医療機関を受診した場合、その場でマイナポータルにログインし、資格情報を画面表示すれば、窓口職員が目視で確認し、通常の自己負担割合で診療を受けられる仕組み。従来の健康保険証が失効した後も、資格確認書や一部の暫定措置により受診が可能とされる。一方で、制度移行期には患者や医療機関双方に戸惑いも多い。カードリーダーの故障や暗証番号の失念、高齢者や障害者の利用困難など実務上の課題も残る。さらに、マイナ保険証を利用しない場合は、資格確認書の自動交付が行われるが、患者の理解不足や情報不足によるトラブルも想定される。福岡 資麿厚生労働大臣は「患者の利便性向上が期待される」と述べつつ、事前に受診先が対応しているか確認するよう呼びかけている。厚労省は対応施設にステッカーを配布し、今後はホームページで一覧を公表する予定。 参考 1) スマホ保険証、医療DX加算の利用率に反映 12月適用分から 厚労省(CB news) 2) スマホ保険証、全国4.7万医療機関・薬局で運用開始 対応2割どまり(日経新聞) 3) “スマホ保険証” きょう運用開始 利用可能な施設は一部に限定(NHK) 4) 「スマホ保険証」スタートしたけど「目視OK」のアナログ運用 デジタル対応できる医療機関がたった2割で(東京新聞) 3.サイバー攻撃増加で、電子カルテ共有サービスを基幹インフラに追加へ/厚労省厚生労働省は9月19日、医療分野を「基幹インフラ制度」の対象に追加する方針を社会保障審議会の医療部会に示した。近年、医療機関や関連システムへのサイバー攻撃が増加する中、地域医療の安定的提供を守る「最後の砦」を確保する観点から、医療分野の対応強化が狙いとなっている。基幹インフラ制度は経済安全保障推進法に基づき、電気・ガス・通信など国民生活に不可欠な分野を対象に、重要設備の導入時に事前の国審査を義務付ける仕組み。2023年11月の法施行を経て、2024年5月に運用が始まり、現在15分野が指定されている。政府は2024年の「骨太の方針」で医療分野の追加を検討する方針を示しており、今回の提案はその具体化となる。厚労省案では、社会保険診療報酬支払基金を基幹インフラ事業者に指定し、同基金が運用する電子カルテ情報共有サービス、電子処方箋管理サービス、オンライン資格確認システムなどを特定重要設備として事前審査の対象に加える。また、救命救急や災害医療を担う高度医療機関も制度対象とする方向も示している。特定重要設備の導入にあたっては、事前に届け出て厚労相による30日間の審査を受けることになり、国外からの妨害リスクが高い場合には、国が勧告や命令を行うことができる。一方で、制度対象となる医療機関の経費など負担増の懸念も委員から指摘された。公定価格で診療報酬が定められているため、他の産業分野のようにコストを価格に転嫁できないことから、十分な配慮を求める声もあがっている。厚労省は今後、有識者会議と並行して、対象医療機関の範囲や特定重要設備の具体像を検討していく見通しである。今回の制度追加は、医療のDX化が進む中で不可欠なインフラを守り、サイバー攻撃や災害時にも持続可能な地域医療を確保することを目的としている。法改正を視野に議論が進められることで、医療機関のセキュリティ対策と財政的支援の両立が今後の焦点となる。 参考 1) 基幹インフラ制度への医療分野の追加について(厚労省) 2) 電子カルテ共有、経済安保「基幹インフラ」に 妨害防止へ厚労省案(日経新聞) 3) 「基幹インフラ制度」への医療分野の追加検討へ 特定重要設備の導入に届け出必要 厚労省(CB news) 4.特定機能病院に新基準、総合診療や形成外科を必須領域に追加/厚労省厚生労働省は9月18日、「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」を開き、特定機能病院の承認要件を大幅に見直す方針を示した。大学病院本院に求める「基礎的基準」のうち診療科については、現行の16領域に加え、形成外科、病理診断科、臨床検査科、リハビリテーション科、総合診療の5領域を新たに必須とする。病理・臨床検査・総合診療は、部門で実質的に診療を担っていれば設置とみなし、専門医配置の基準にも算入される。教育面では、これらを含む全19領域で専門研修プログラムの基幹施設となることが求められる。看護師・薬剤師の実習受け入れも義務化され、地域医療機関への教育機会提供が明文化された。研究では、従来の「年間70本以上の査読付き英文論文」に加え、Academic Research Organization(ARO)など研究支援組織の設置が必要となる。そのほか、地域医療への貢献も強化され、大学病院本院から半年以上派遣された医師を常勤換算で評価し、派遣元で3年以上勤務した医師が対象となる。分院やサテライトへの派遣は原則除外となるが、医師少数区域であれば算入可能とする。2027(令和9)年度からは派遣医師の名簿作成と毎年の報告が義務付けられる。医療安全も重点項目とされ、重大事象を「A類型」「B類型」に分け、全例の報告・検証を義務化する。管理者の介入権限や医療安全管理責任者の要件を厳格化し、監査委員会には特定機能病院の実務経験者を必須とした。さらに相互ピアレビューを通じた継続的改善が求められる。既存の病院が新基準を満たせない場合は旧基準での存続を認め、ナショナルセンターについては一部基準を代替する。厚労省は今回の見直しを通じ、特定機能病院を「地域・研究・教育の拠点」と再定義し、医師偏在の是正や2040年の人口減少社会を見据えた体制整備を進める考えを示している。 参考 1) 第27回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会(厚労省) 2) 特定機能病院に設置求める基本診療科の案示す 総合診療など5領域を追加 厚労省(CB news) 3) 特定機能病院の新基準に「薬剤師の育成」厚労省、大学病院本院やNC対象(じほう) 5.美容医療の立入検査が本格化、診療録不備・誇大広告は処分対象に/厚労省厚生労働省は、美容医療を巡る健康被害・相談の増加を受け、違法の疑いがある行為を明示し、保健所の立入検査や是正命令につなげやすくする解釈通知を発出した。通知では、(1)無資格カウンセラーなどが個別状況に応じ治療方針を提案・決定すること、脱毛・アートメイク・HIFUなどの医行為を行うことを医師法17条違反と整理し、形式が「料金説明」であっても実質が医学的判断なら違反、(2)医師の指示なく看護師のみで診察・処置・治療方針決定を行うことは医師法17条・保助看法37条違反の可能性、(3)メールやチャットのみの「無診察」診断・処方はオンライン診療指針に反し医師法20条違反の恐れ、(4)診療録の未作成・不備は医師法24条違反で罰則対象と具体例付きで示した。加えて、管理者の不在・安全管理体制(指針・研修・薬機/医機安全管理)の欠落、広告の虚偽・誇大・比較優良、「No.1」表示や術前後写真の不適正な掲出、自由診療情報の不備などについて医療法違反の手順・対応期限の考え方を提示した。保健所は医療法25条に基づく立入検査・報告徴収・是正命令、違反時の業務停止・許可取消までを段階的に行使でき、刑事罰の対象となる事案は警察・消費者庁と連携して告発可能とした。自由診療で実態が見えにくい領域に法的根拠を与え、現場の執行力を高める狙いである。各医療機関は、委任・説明・広告・記録・オンライン診療運用の全工程を点検し、院内規程と研修の即時是正、カウンセリング工程の医師介入・記録化、広告物の総点検を急ぐ必要がある。 参考 1) 違法美容医療、厚労省指導強化へ 相談増で保健所立ち入り事例示す(共同通信) 2) 美容医療、違法疑い事例明示 無資格者関与やメール診断など指導強化(日経新聞) 3) 美容医療に関する取扱いについて(厚労省) 6.元理事長を提訴 背任起訴受け2.5億円請求、ガバナンス再建へ/東京女子医大東京女子医科大学(東京都新宿区)は9月17日、背任罪で起訴されている岩本 絹子元理事長に対し、約2億5,290万円の損害賠償を求める民事訴訟を東京地裁に提起したと発表した。提訴は8月12日付。大学は2024年8月に公表した第三者委員会報告書で、業務委託費や出向者人件費に関する不正支出の疑い、権限集中によるガバナンス不全を指摘されていた。責任追及委員会による調査で、元理事長に善管注意義務違反が認められると判断し、今回の提訴に至った。岩本元理事長は、2018~21年に河田町キャンパスの新校舎建設や付属病院移転に伴う工事を巡り不正な支出を行い、大学に計約2億8,000万円の損害を与えたとして、2025年1月に逮捕、2月に起訴され、大学は昨年8月に同氏を解任している。今回の訴訟について大学は、「専横体制を招いたガバナンス機能不全の責任を明確化する」とコメント。責任追及委員会は今後も調査を続け、他の案件についても提訴などを検討するとしている。また、大学は、専横体制下で損なわれた教職員の心理的安全性を回復するため「心理的安全性確保の宣言」を策定し、組織再建とガバナンス再構築に取り組む姿勢を強調した。清水 治理事長は声明で「新生東京女子医科大学に向け、全教職員のコンプライアンス意識を高め、健全な運営を実現する」と表明。大学は法的責任追及と並行して、透明性と信頼回復を重視した改革を進める方針を打ち出している。 参考 1) 元理事長に対する責任追及の訴えの提起について(東京女子医大) 2) 東京女子医大、元理事長を提訴(朝日新聞) 3) 東京女子医大、岩本元理事長を提訴 「不正で損害」2億円請求(日経新聞) 4) 東京女子医大が岩本絹子元理事長を提訴 「不正支出で損害」2億5000万円請求(産経新聞)

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英語で「骨粗鬆症」、医学用語と患者さんへの言い換え法は?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第33回

医学用語紹介:骨粗鬆症 osteoporosis「骨粗鬆症」について説明する際、患者さんにosteoporosisと言って通じなかった場合、何と言い換えればよいでしょうか? 現場の実感として、osteoporosisはそのままで通じる方もそれなりにいる印象ですが、当然通じないケースもあり、この場合には言い換えが必要になります。講師紹介

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心筋梗塞後の高齢患者、多領域リハビリで予後改善/NEJM

 心筋梗塞で入院し退院後1ヵ月時点の受診時評価で身体機能が低下した65歳以上の高齢患者において、多領域(multidomain)リハビリテーションによる介入は通常ケアと比較し、1年以内の心血管死または心血管疾患による予定外入院(複合アウトカム)の発生を有意に減少させた。イタリア・フェラーラ大学病院のElisabetta Tonet氏らが、同国で行われた研究者主導の多施設共同優越性試験「Physical Activity Intervention in Elderly Patients with Myocardial Infarction trial:PIpELINe試験」の結果を報告した。心筋梗塞後に身体機能が低下した65歳以上の高齢患者に対する、リハビリテーション介入の有益性は明らかになっていなかった。NEJM誌2025年9月11日号掲載の報告。心筋梗塞で入院、退院後1ヵ月時点のSPPBスコア4~9の65歳以上が対象 研究グループは、ST上昇型または非ST上昇型心筋梗塞で入院し、冠動脈血行再建が成功裏に行われた65歳以上の患者のうち、退院後1ヵ月時点のShort Physical Performance Battery(SPPB)スコアが4~9の患者を、介入群と対照群に2対1の割合で無作為に割り付けた。 介入群では、心血管リスク因子の管理(禁煙、血圧・脂質・血糖コントロール)、食事指導、運動トレーニング(退院後30日ごとに3回、その後は90日ごとに3回、計6回の監督下個別セッション、ならびに自宅での個別運動処方)が行われた。 対照群では、退院1ヵ月後に30分の対面カウンセリング(食事・禁煙・身体活動に関する教育資料付き)を1回のみ実施した。 主要アウトカムは、1年以内の心血管死または心血管疾患による予定外の入院の複合とした。多領域リハビリテーション介入で1年後の複合アウトカム43%減少 2020年3月27日~2023年11月30日に計512例が無作為化された(介入群342例、対照群170例)。患者背景は、年齢中央値が80歳、女性が36%であった。 主要アウトカムのイベントは、介入群で43例(12.6%)、対照群で35例(20.6%)に発生した(ハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.36~0.89、p=0.01)。 心血管死は介入群で14例(4.1%)、対照群で10例(5.9%)(HR:0.69、95%CI:0.31~1.55)に、心血管疾患による予定外の入院はそれぞれ31例(9.1%)、30例(17.6%)(0.48、0.29~0.79)に発生した。 介入に関連する重篤な有害事象は認められなかった。

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「また、にしない。まだ、にしない。」認知症早期対応のための合言葉を発表/リリー

 近年、認知症基本法の施行や、アルツハイマー病(AD)疾患修飾薬の登場などを背景として認知症診療は大きな転換期を迎え、かつての「症状が進行した後のケア」から、「MCI(軽度認知障害)を含む早期段階からの介入」へと、臨床現場の役割は大きく変化しつつある。こうした中、認知症月間である9月10日に、日本イーライリリーの主催で「『認知症に早めに対応するための合言葉』および『MCI/認知症当事者等への意識調査』に関するメディア発表会」が開催された。 本セミナーでは、古和 久朋氏(神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域 教授)が、「MCIまたは認知症当事者・家族および一般生活者を対象に実施した意識調査」で明らかになった実態を踏まえ、認知症に早期に対応する重要性について解説し、続いて、井原 涼子氏(東京都健康長寿医療センター 健康長寿イノベーションセンター 臨床開発ユニット長)が、臨床現場での経験を踏まえ、このたび発表された合言葉「また、にしない。まだ、にしない。」の考案経緯について語った。早期受診の重要性、当事者と一般生活者の認識のギャップ 古和氏が監修した今回の意識調査は、MCIまたはアルツハイマー型認知症と診断された55~79歳の当事者とその家族190人、および20~79歳の一般生活者1,053人を対象に、2025年6月に実施された。 本調査の主な結果を古和氏は以下のように挙げた。・MCI/軽度認知症の当事者・家族の92%が「自分のことは自分でできる」または「誰かが支援すれば自立できる」と回答し、診断後も自立した生活をおおむね維持できていることが示された。また、45%が趣味や仕事を含めて生活を維持できていると回答した。・認知症を疑ったタイミングについて、認知症中等度以上の当事者・家族の34%(最多値)が「仕事や家事のミスが増え、同僚・家族には認知機能低下がわかる」段階であったのに対し、MCI/軽度認知症の当事者・家族の34%(最多値)が、「たまにものを置き忘れる、有名人の名前が出てこない」というより早期の段階で積極的に疑っていた。・「もの忘れ」の違和感で受診するタイミングについて、「すぐに」または「しばらく続いたら」受診すると回答したのは、MCI/軽度認知症の当事者・家族では77%だったのに対して、一般生活者では48%と低かった。もの忘れ以外の健康全般の違和感で受診するタイミングは、MCI/軽度認知症の当事者・家族では75%、一般生活者でも67%と高い水準であり、一般生活者の認知症・もの忘れに関する危機感の低さが顕著に表れた。・MCI/軽度認知症の当事者・家族の76%が、早い段階で受診できてよかったと回答した。 古和氏は本結果について、MCI/認知症の早期の気付き・対応は、当事者が「自分らしい暮らし」を維持する可能性を高める重要な要素であり、ちょっとしたもの忘れを自覚したり周囲の人が気付いたら、年のせい・気のせいにしたりせず、早めに受診することが「当たり前」となる社会を作っていくことが、認知症共生社会を目指すうえでも重要だとまとめた。40%以上が「初診の遅れ」で治療の好機を逃す 続いて登壇した井原氏は、同意識調査の結果において、臨床現場の厳しい現実を示すデータとして、MCIまたはアルツハイマー型認知症当事者・家族が、症状の異変に気付いてから初診までに1年以上を要した人が41%に上ることを提示した。井原氏は「認知症の新薬は早期のほうが効果が高いこともあり、より良い医療を提供したい思いからも早期受診をしてほしい」と述べた。認知症早期発見・対応のための新たな「合言葉」 MCI/認知症に関する異変を感じたとき、受診が面倒、あるいは、認知症と診断されてしまうのが怖いという思いから、多くの人が相談をためらい、そのまま放置してしまう現状に対して、そのような認知症のイメージを変え、誰もが早めの一歩を踏み出せるように、新たな合言葉が考案された。【認知症に早めに対応するための合言葉】『また、にしない。まだ、にしない。』“また”疲れのせい、にしない。“また”年のせい、にしない。“まだ”早い、と思わない。“まだ”大丈夫、と思わない。ご自身も、ご家族も、このように“また”、“まだ”、と気のせいにしないでください。 井原氏は、合言葉の考案プロセスについて、当事者・家族、専門医、賛同企業が協力し、多様な観点を取り入れた「インクルーシブデザイン」の手法を採用し、一般の人にもより浸透しやすい言葉になるように配慮されていることを説明した。 当事者や家族が異変を感じても、「また疲れのせい」「また年のせい」として自身を納得させて受診を先延ばしすることが問題の中心にあり、それに直接働きかけることを意図して、この合言葉が考案されている。井原氏は、誰にでもMCI/認知症の当事者になる可能性があり、それを皆が意識することで「早期の気付き・早期対応が当たり前の社会」の実現につなげていきたいと語った。また、プライマリケア医は患者が訴える些細な変化を「年のせい」と見過ごすことなく、必要に応じて検査や専門医への紹介につなげる初期対応の重要性を訴えた。絶望ではなく、希望と準備へつなげる 講演後のトークセッションでは、古和氏、井原氏に加え、花俣 ふみ代氏(認知症の人と家族の会 副代表理事/介護福祉士)、平井 正明氏(同会理事/当事者)、俳優の高畑 淳子氏が登壇した。 高畑氏は、昨年亡くなった自身の母親の認知症のサインとして「お皿がヌメヌメしていた」「几帳面な母なのに部屋が埃っぽく汚れていた」という、見過ごされがちなADL低下の具体例を挙げた。当時は母が「心臓が苦しい」と訴えていたためその受診を優先したが、今振り返るとアルツハイマー病の受診は後回しにしてしまっていたと語った。さらに、「ほかの病気は人間ドックで早期発見することが『良いこと』と認識されているのに、認知症にはその感覚が浸透していない」と指摘した。 56歳でMCIと診断された平井氏は、当事者同士で交流を持ち活動する中で、「もっと早く気付いていれば、と後悔する人がほとんど」であり、早く向き合うことで、仕事や生活を維持する環境を整えられるなど、後の人生にとって大きなプラスとなると、早期診断の重要性を語った。 支援者の花俣氏は、受診が遅れる根本的な原因として、社会に根強く残る「認知症に対する偏見や誤解」を挙げた。「認知症になったら終わり」というイメージが、本人や家族が現実から目をそむけ、受診を先送りさせてしまう。診断後の孤立を防ぎ、支援の輪につながることこそが、早期診断の最大のメリットであると強調した。【調査概要】調査主体:日本イーライリリー株式会社実査:株式会社メディリード調査手法:インターネット調査調査地域:日本全国実施期間:2025年6月13日~6月24日調査対象:【MCIまたは認知症の当事者・家族】55~79歳のMCIまたは認知症(アルツハイマー型/アルツハイマー病による認知症)と診断されている当事者もしくは家族【一般生活者】20~79歳有効回答数:MCIまたは認知症当事者・家族190人(うち、MCIまたは軽度認知症は94人)、一般生活者1,053人監修:神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域 教授 同認知症予防推進センター長 古和 久朋氏

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慢性流涎治療にA型ボツリヌス毒素が登場/帝人ファーマ

 パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの日常症状として「流涎(よだれ)」が患者のQOLを低下させるために問題となっている。これまで、この流涎に効果的な治療法が少なかったが、2025年6月、帝人ファーマは、インコボツリヌストキシンA(商品名:ゼオマイン筋注用)について、慢性流涎の効能または効果の追加承認を取得した。そこで、同社はインコボツリヌストキシンAの追加承認について、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、パーキンソン病などの疾患と流涎の関係や治療薬の効果、投与での注意点などが解説された。 同社では、「成人の流涎は、一般にあまり知られていない症状であり、患者さんに届いていない可能性もあるので、医療機関に相談をしてもらうように啓発していきたい」と抱負を語った。医師の関心も低い慢性流涎 セミナーでは、「おとなのよだれ 慢性流涎とは ~その困りごとと本邦初の治療薬~」をテーマに服部 信孝氏(順天堂大学医学部神経学講座 特任教授/順天堂大学 学長補佐)が、慢性流涎の疾患概要、患者の声、新しい治療法、今後の展望などについて講演した。 唾液は、通常耳下腺から65%、顎下腺から23%が分泌されている。1日の分泌量は1~1.5L分泌されるが、無意識に飲み込んでいるために口からあふれることはない。しかし、パーキンソン病(症候群)、ALS、筋ジストロフィー、脳性麻痺などの患者では、唾液が意図せずに慢性的に口からあふれ出ることがある。これを「慢性流涎」という。 わが国の推定患者は最大で約38万例と推定され、脳神経内科などでは診療機会が多い。とくにパーキンソン病では、進行期(診断後10~15年)に出現することが知られている。 慢性流涎は、大量のティッシュやハンカチなどの消費、衣服や寝具の汚れや肌荒れなど、患者・家族のQOLを著しく低下させるだけでなく、社会的孤立を招き、介護者の負担も増加させる。 「全国パーキンソン病友の会」が行ったアンケート調査(回答:4,173例)によると回答者の約65%が「流涎を問題」と回答していた。具体的な問題点として患者からは「他人との会話でよだれが垂れる」「デスクワークで机などが汚れる」「他人の目が気になる」などの声が寄せられ、患者家族からは「着替えの最中にも服が汚れる」「頻繁な寝具の交換が大変」などの声が寄せられた。同じく欧州のパーキンソン病患者382例に行ったアンケートでは、88%が「流涎」を経験し、そのうちの45%は医療ケアチームに相談していなかった。患者などからみた医療従事者の慢性流涎に対する関心度では、5点満点で老年科(1.9)、耳鼻咽喉科(1.6)、脳神経内科(1.5)の順で高かったが、全体の関心が薄いことがうかがえた。患者さんのQOLを改善する新しい流涎治療 流涎の治療は、嚥下障害などの危険性がある場合や本症のために社会的・日常的に制限がある場合に、患者などから要望があれば開始される。 治療では、(1)リハビリテーション治療(言語訓練・嚥下訓練)、(2)放射線治療・外科治療、(3)薬物治療が行われている。(1)リハビリテーション治療(言語訓練・嚥下訓練)では、言語聴覚士が行う構音訓練や嚥下訓練などが行われるが、長期的な効果についてはいまだ不明である。(2)放射線治療・外科治療は、リハビリテーションや薬物療法で流涎がコントロールできない場合に行われる。放射線治療は効果の持続期間が数ヵ月~5年とさまざまである。外科治療は、顎下腺または耳下腺の摘出または結紮などの手術が行われるが、その数は少ない。(3)薬物治療では、抗コリン薬の投与ができるが、幻覚・幻聴など精神症状、尿閉などの副作用のためにほぼ投与されていない(2025年6月時点で保険適用なし)。また、ボツリヌス毒素製剤は、唾液腺に約4ヵ月に1回、ボツリヌス毒素を唾液腺に注射することで唾液の量を減らす治療法であり、今回追加承認された製剤である。 ボツリヌス毒素製剤は、現在、上下肢の痙縮、斜視などの10以上の適応で承認されている製剤であり、本症では、アセチルコリン放出を阻害することで副交感神経へのシグナルを抑え、唾液の分泌を減少させる。投与ではエコー下で確認しながら、左右の顎下腺・耳下腺4ヵ所に、約4ヵ月に1回の間隔で注射する。 投与後の注意点としては、唾液の量が減ることでの口渇感や喉へのつかえ感が約1~5%で現れることが報告されている。また、投与にあたっては、口腔内の衛生の保持が重要であるほか、重症筋無力症などの全身性の筋肉脱力疾患の患者や過去に同じ薬剤でアレルギー症状のあった患者には使用はできない。そのほか、すでに唾液分泌抑制作用の薬剤を使用している人、妊婦・授乳中の人には注意が必要とされている。 服部氏は最後に「医師などから流涎患者への積極的な声かけと新しい治療薬での治療を期待したい」と述べ、講演を終えた。

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大脳皮質基底核変性症〔CBD:corticobasal degeneration〕

1 疾患概要■ 定義大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration:CBD)は、進行性に運動症状および皮質症状を呈するまれな神経変性疾患である。病理学的には4リピートタウ(4R tau)の異常蓄積を特徴とするタウオパチーに分類され、進行性核上性麻痺(PSP)と並ぶ代表的な非アルツハイマー型タウオパチーである。1968年にRebeizらが初めて報告し、当初は“corticodentatonigral degeneration with neuronal achromasia”と呼ばれたが、1989年にGibbらにより現在の病理診断名であるCBDの呼称が確立された。臨床的には非対称性のパーキンソニズムと皮質徴候を呈するが、この臨床像はCBD以外の病理を背景にすることも多く、臨床診断名としては「大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome:CBS)」が用いられる。■ 疫学CBDは稀少疾患であり、わが国での有病率は10万人当たり約9人程度と報告されている。発症年齢は70歳代が中心で、性差については明確な傾向は認められていない。リスク因子としては、同じ4リピートが蓄積するタウオパチーであるPSPと共通するものとしてMAPT遺伝子やMOBP遺伝子が疾患感受性遺伝子として同定されているほか、CBDに特異的なものとしてInc-KIF13B-1遺伝子やSOS1遺伝子などCBDに特異的な遺伝的要因も報告されている。環境要因に関しては明らかになっていない。■ 病因CBDはタウ蛋白異常蓄積を主体とする神経変性疾患である。4R tauが神経細胞やグリア細胞に異常沈着し、神経原線維変化やアストロサイトの変性を引き起こす。とくにCBDに特徴的なのはアストロサイトの変化で、astrocytic plaqueの形成が診断上重要な所見とされる。神経細胞では神経原線維変化は少なく、プレタングル(神経原線維変化が起こる前の段階の状態)が主体である。病変分布は前頭葉・頭頂葉皮質に目立ち、しばしば左右非対称性を示す点が特徴である。クライオ電子顕微鏡にて、タウ蛋白は4層の折り畳み構造をしていることが判明した。■ 症状CBDは多彩な臨床症状を呈するが、典型例では左右非対称性の運動緩慢、固縮、ジストニア、ミオクローヌスなどの錐体外路徴候に加え、失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候などの大脳皮質徴候を示す。症状が一側から始まり、徐々に対側にも及ぶ点がCBDの重要な特徴である。認知機能障害や言語障害、行動異常も出現し得る。また、嚥下障害、構音障害など球症状も進行に伴って出現する。進行はパーキンソン病より速く、レボドパへの反応性は乏しい(表)。表 大脳皮質基底核変性症と進行性核上性麻痺の比較画像を拡大する■ 分類CBDの臨床病型は多彩であり、最も頻度の高いのはCBSであるが、全体の約40%にとどまる。その他の主要な臨床型として、PSP様症候群(Progressive Supranuclear Palsy Syndrome:PSPS)前頭葉性行動・空間症候群(frontal behavioral-spatial syndrome:FBS)非流暢/失文法型原発性進行性失語(Nonfluent/Agrammatic variant of Primary Progressive Aphasia:naPPA)アルツハイマー病様認知症が知られている。ただし、アルツハイマー病様認知症は、アルツハイマー病との鑑別が難しいため、Armstrongらによる臨床診断基準には含まれていない。また、まれに後部皮質萎縮症やレビー小体型認知症に類似した臨床像を呈する例もある。■ 予後CBDは進行性の神経変性疾患であり、発症から平均10年程度で高度機能障害に至る。多くの症例では、運動症状と認知機能障害が並行して進行し、日常生活動作は急速に低下する。レボドパなど抗パーキンソン病薬は無効あるいは効果が一時的であり、根本的治療法は存在しない。2 診断CBDの臨床診断は困難である。2013年にArmstrongらによる臨床診断基準が作成され、CBSのみならずFBS、naPPA、PSPSなど多様な臨床表現型を対象としている。ただし感度・特異度はいまだ十分でなく、臨床診断のみで確定することは難しい。画像検査では左右非対称の前頭葉・頭頂葉萎縮を認めることがあり、頭部MRIが有用である。脳血流SPECTやFDG-PETが補助的に用いられる。近年では脳脊髄液(CSF)や血液バイオマーカー、タウPETを用いた研究が進められているが、確立した診断法はまだ存在しない。最終的な確定診断は、病理診断に依存する。鑑別すべき疾患としてはPSP、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、自己免疫性パーキンソニズム(IgLON5抗体関連疾患など)がある。とくにPSPとの鑑別は臨床的に最も問題となる。CBDは難病法に基づく指定難病(指定難病7)に指定されており、厚生労働省が定める診断基準を満たした場合に医療費助成が受けられる。3 治療現在、CBDに対する根本的治療は存在しない。治療は対症的であり、薬物療法とリハビリテーションが中心となる。運動症状に対してはレボドパを試みるが、効果は限定的で持続しないことが多い。ジストニアやミオクローヌスに対しては抗てんかん薬や筋弛緩薬が用いられることがある。非流暢性失語や行動障害には言語療法、作業療法、心理社会的介入が重要である。嚥下障害が進行すれば栄養管理や誤嚥予防が不可欠となる。根本的治療としては、タウを標的とした分子標的薬の開発が進行している。抗タウ抗体(tilavonemab、gosuranemab)はPSPで第II相試験が行われたが有効性を示せなかったため、現在はタウの中間ドメインを標的とする抗体や、タウ蓄積を抑制する低分子医薬品の臨床試験が進められている。また、RNA干渉や遺伝子治療など革新的治療法も研究段階にある。CBD単独を対象とした臨床試験はあまり行われていない。4 今後の展望CBDは病理学的に定義される疾患であるため、臨床的に早期診断することはきわめて難しい。したがって、画像や体液バイオマーカーの確立が喫緊の課題である。近年の研究では、血漿やCSFにおけるリン酸化タウ(p-tau)や神経フィラメント軽鎖(NfL)が候補とされ、タウPETによる分布解析も進められている。また、わが国におけるJ-VAC研究により、CBS症例から病理診断を予測する臨床特徴の抽出が試みられており、PSPとの鑑別に一定の知見が得られている。さらにタウを標的とした疾患修飾療法の開発が進んでおり、将来的にはCBDの進行抑制が可能になることが期待される。そのためにも、早期の症例登録と臨床試験参加が重要である。5 主たる診療科脳神経内科、リハビリテーション科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 大脳皮質基底核変性症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働科学研究費補助金事業 神経変性疾患領域の基盤的調査研究班 『CBD診療マニュアル2022』(医療従事者向けのまとまった情報)Aiba I, et al. Brain Commun. 2023;5:fcad296.公開履歴初回2025年9月11日

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システム統合型の転倒予防プログラムは高齢者に有効か/JAMA

 世界的に高齢化が急速に進む中、医療資源に乏しい地域に居住する高齢者における効果的な転倒予防戦略のエビデンスは十分ではないとされる。中国・Harbin Medical UniversityのJunyi Peng氏らは、同国農村部の転倒リスクがある高齢者において、プライマリヘルスケアのシステムに組み込まれた転倒予防プログラムの有効性を評価する、12ヵ月間の実践的な非盲検クラスター無作為化並行群間比較試験「FAMILY試験」を実施し、転倒のリスクが有意に低減したことを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年8月25日号で報告された。128の農村で、バランス・機能訓練の転倒予防効果を評価 本研究は、2023年9月19日~11月15日に中国の4省128農村で被験者を登録して行われた(Harbin Medical Universityなどの助成を受けた)。これらの農村を、プライマリヘルスケアのシステムに統合された転倒予防介入として、参加者にバランス・機能訓練と地域参加型の健康教育を行う群(介入群)、または地域の積極的な関与がない通常ケアとして健康教育のみを行う群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 解析には、年齢60歳以上で、過去12ヵ月間に少なくとも1回の転倒を経験、または転倒の懸念があると自己報告した2,610例(介入群[64農村]1,311例、対照群[64農村]1,299例)が含まれた。平均追跡期間は、介入群358.4(SD 31.5)日、対照群357.7(31.1)日であった。ベースラインの参加者全体の年齢中央値は70.0歳(四分位範囲:66.4~74.2)で、1,553例(59.5%)が女性だった。1年1回以上の転倒報告が有意に少ない 主要アウトカムである、介入後12ヵ月間に少なくとも1回の転倒を報告した参加者の割合は、対照群が38.3%(497/1,298例)であったのに対し、介入群は29.7%(388/1,308例)と有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.67[95%信頼区間[CI]:0.48~0.91、p=0.01)。 6つの副次アウトカムのうち、次の5つは対照群に比べ介入群で有意に良好であった。(1)1人年当たりの平均転倒件数:介入群0.8(SD 2.4)件vs.対照群1.4(3.5)件、率比(RR):0.66(95%CI:0.46~0.94)、p=0.02 (2)転倒による身体の損傷:15.2%vs.21.6%、OR:0.65(95%CI:0.48~0.88)、p=0.005 (3)30秒椅子立ち上がりテスト(CST:≦12回で転倒リスク上昇):10.4(SD 3.8)回vs.9.9(4.0)回、RR:1.06(1.02~1.09)、p=0.003 (4)4段階バランステスト(FSBT:徐々に難しくなる4つの姿勢をそれぞれ10秒ずつ保持。臨床的に意義のある最小差[MCID]の設定はない)のすべてを完遂した参加者の割合:33.7%vs.26.5%、OR:1.49(95%CI:1.20~1.84)、p<0.001 (5)QOL(平均EQ-5D-5Lスコア):0.89(SD 0.19)点vs.0.85(0.22)点、β:0.03(95%CI:0.02~0.05)、p<0.001 ただし、(3)30秒CSTは、MCID(2回)を満たさなかった。(5)QOL(平均EQ-5D-5Lスコア)は、高齢者の転倒予防のMCID(0.03点)を満たした。TUGテストには差がない もう1つの副次アウトカムであるTimed Up and Go(TUG)テスト(椅子から立ち上がって10フィート[3メートル]歩き、向き直って椅子に戻り座る一連の動作。所要時間≧13.5秒で転倒リスク上昇)では、機能的移動能力を評価した。平均所要時間は、介入群13.3(SD 4.6)秒、対照群13.2(5.6)秒(β:0.18[95%CI:-0.26~0.62]、p=0.42)であり、両群間に差を認めなかった(MCIDは2秒の短縮)。 著者は、「プライマリヘルスケアシステムへの転倒予防プログラムの統合が、中国農村部の高齢者の自己報告による転倒のリスクを有意に低減することが明らかとなった」「このバランス訓練と機能訓練、さらに地域参加型の健康教育から成る介入は、人口の高齢化と医療資源の制約の両方に直面する低・中所得国で拡大する可能性がある」としている。

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継続のコツ ~筋トレ編~【Dr. 中島の 新・徒然草】(596)

五百九十六の段 継続のコツ ~筋トレ編~朝夕が多少は過ごしやすくなりました。せっかくなので、日が落ちてから外を歩いています。当然ながら汗だくになりますが、それがまた気持ちいい。家に帰ったら服を洗濯機に放り込んでシャワーを浴びるのが快感です。その後は冷房の利いた部屋で、麦茶を飲みながら一休み!さて、私自身は健康のために歩くだけでなく筋トレもやっています。といってもいわゆる自重筋トレを家でやるという簡単なもの。やっているのはスクワット、かかと上げ、腕立て伏せ、腿上げの4種類。最近になって「何をやるか」よりも「どうやって続けるか」が大切ではないかと思うようになりました。これは筋トレのみならず、英会話とか、医学の勉強とか、何でも同じことですね。じゃあ、どうすれば毎日続けることができるのか。あるいは、どうしたら毎日できるようになったのか。私自身のいくつかの工夫をお話ししたいと思います。●小分けにするスクワットでも腿上げでも、まとめてやるよりも1日分を2回とか3回に小分けする。そうすると、4種類やっても1回が5分程度なので簡単。始めるときの心理的障壁も低くて済みます。●腿上げからやる4種類の筋トレのうち、1番手軽なのは腿上げなので、これから始めています。その次に腕立て伏せ、かかと上げ、スクワットの順番が良さそう。腿上げとスクワットは使う筋肉が似ているので、連続してやるのはいささか厳しい。やはり最初と最後にもっていくほうが楽です。●朝にやる誰でも朝起きた時はエネルギーが余っています。だから歯を磨く時に、ついでにやっています。●2回目も朝にやる1回目を起床直後にやっても、まだエネルギーが余っています。だから2回目は30分~1時間後くらいにやるといいですね。一応、2回やったら1日のノルマ終了です。●3回目は昼か夜にやるすでに1日のノルマを終了しているので、3回目はやらなくてもOK。でも、もしやるとしたら昼か夜です。紆余曲折はありましたが、そんな風に筋トレをやってきて何ヵ月か経ちました。年のせいか、筋肉モリモリになるということはありません。が、多少は体重が減りました。あとは、長年悩まされてきた腰痛が改善しました。それに、歩く時のバランスが多少はマシになったかな。気分も明るく、前向きになった気がします。何事も根性で乗り切ろうとするのは無茶というもの。淡々と継続できる方法を見つけるべきかと思います。もっと若い時に気付いておけよ!そんなツッコミを自分に入れつつ、これからも筋トレに励みたいと思います。最後に1句 スクワット 小分けで続ける 秋の空次回は「継続のコツ ~英会話編~」を語りましょう。

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遅発型ポンペ病の新規併用療法薬「ポムビリティ点滴静注用105mg」【最新!DI情報】第46回

遅発型ポンペ病の新規併用療法薬「ポムビリティ点滴静注用105mg」今回は、ポンペ病治療薬「シパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(商品名:ポムビリティ点滴静注用105mg、製造販売元:アミカス・セラピューティクス)」を紹介します。ポンペ病の筋組織に蓄積するグリコーゲンを減少させる作用を有する薬剤であり、成人の遅発型ポンペ病の新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>遅発型ポンペ病に対するミグルスタットとの併用療法の適応で、製造販売承認を2025年6月24日に取得し、8月27日より発売されています。<用法・用量>ミグルスタットとの併用において、通常、体重40kg以上の成人にはシパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)として、1回体重1kg当たり20mgを隔週点滴静脈内投与します。なお、ミグルスタットを投与してから1時間後に本剤の投与を開始します。<安全性>重大な副作用として、infusion reaction(23.5%)、アナフィラキシー(1.2%)があります。その他の副作用として、頭痛(5%以上10%未満)、浮動性めまい、味覚不全、片頭痛、平衡障害、認知障害、錯感覚、傾眠、振戦、頻脈、悪夢、潮紅、高血圧、呼吸困難、腹部膨満、下痢、腹痛、鼓腸、食道痙攣、そう痒症、発疹、蕁麻疹、紅斑性皮疹、筋痙縮、筋力低下、筋骨格硬直、筋肉痛、発熱、悪寒、胸部不快感、顔面痛、疲労、注入部位腫脹、倦怠感、疼痛、血中尿素増加、体温変動、リンパ球数減少、眼瞼痙攣、皮膚擦過傷(1%以上5%未満)があります。急性呼吸器疾患のある患者、または心機能もしくは呼吸機能が低下している患者に本剤を投与する場合、症状の急性増悪が起こる可能性があるので、患者の状態を十分に観察し、必要に応じて適切な処置が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、遺伝子組換えポンペ病治療剤と呼ばれる薬です。ミグルスタット(オプフォルダカプセル65mg)と併用されます。2.体内で不足している酵素(酸性アルファグルコシダーゼ)を補充してライソゾーム中のグリコーゲンを分解します。<ここがポイント!>ポンペ病(Pompe disease)はライソゾーム病の一種であり、酸性アルファグルコシダーゼ(GAA)の遺伝子変異により発症する先天性代謝異常症です。GAAはライソゾーム内でグリコーゲンを分解する酵素であり、欠損または活性低下により、骨格筋、肝臓、心筋などにグリコーゲンが異常に蓄積します。その結果、筋力低下、肝腫大、心筋症などの症状を引き起こします。ポンペ病は、発症時期によって幼児型と遅発型(小児型および成人型)に分類されます。乳児型は完全酵素欠損であり、自然経過では呼吸不全や心不全により、多くの場合、1歳未満で死に至ります。一方、患者の大多数を占める遅発型は、発症年齢が幅広く、残存酵素活性(正常の40%未満)を有しています。遅発型の主な症状は、近位筋筋力や呼吸筋筋力の低下であり、心機能低下はまれです。治療には、酵素欠乏状態を改善するために、アルグルコシダーゼアルファやアバルグルコシダーゼアルファを用いた酵素補充療法(ERT)が行われます。ERTの導入により、ポンペ病の治療は飛躍的に進歩し、患者のQOLは大きく向上しましたが、効果不十分な症例も報告されており、とくに筋肉への標的指向性特性の改善が求められていました。本剤は、既存のアルグルコシダーゼアルファと同様にヒトGAAの遺伝子組換え製剤ですが、ライソゾームへの送達効率を高めるための改良がなされています。ライソゾーム移行に必要な天然構造であるマンノース-6-リン酸(M6P)を多く含んでおり、とくにカチオン非依存性マンノース-6-リン酸受容体(CI-MPR)への結合親和性を高めるため、2ヵ所がリン酸化されたビスマンノース-6-リン酸(bis-M6P)を有する糖鎖が付加されています。この構造により、投与直後の酵素濃度が低い骨格筋においても、酵素の細胞内取込みおよびライソゾームへの送達(標的指向性)が改善されています。なお、本剤はミグルスタットとの併用が必須です。ミグルスタットは本剤の血中の安定性を高め、酵素活性の低下を防ぐことで治療効果を維持します。遅発型ポンペ病患者を対象としたATB200-03試験において、6分間歩行距離(6MWD)の52週でのベースラインからの変化量(外れ値の患者を除いたITT-OBS集団)の平均値±SDは、本剤+ミグルスタット併用群では20.6±42.3m、アルグルコシダーゼアルファ/プラセボ群では8.02±40.6mであり、本併用群では52週までの6MWDの経時的改善がみられました。MMRM(Mixed-effect model for repeated measures)から得られた最小二乗平均値の群間差は14.2m(95%信頼区間:-2.60~31.0)でした(p=0.097、名目上のp値)。

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歩き方を少し変えることで膝の痛みが大幅に軽減するかも?

 歩くときの爪先の角度を個別に修正することで、変形性膝関節症の痛みを大幅に軽減できる可能性のあることが新たな研究で示された。また、この治療アプローチにより膝にかかる負荷が軽減され、変形性膝関節症の進行を遅らせることができる可能性があることも示唆されたという。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医科大学のValentina Mazzoli氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Rheumatology」に8月12日掲載された。 Mazzoli氏は、「この研究結果は、膝関節への負荷を減らす上で最適な爪先の角度を見つけるのを手助けすることが、初期の変形性膝関節症に対処するための容易で安価な方法となり得ることを示唆している」と述べている。同氏はさらに、「この治療戦略を用いることで、患者の鎮痛薬への依存が軽減され、膝関節置換術が必要となるまでの時間を延長できる可能性がある」とNYUのニュースリリースの中で付け加えている。 この研究では、症状のある18歳以上の内側型変形性膝関節症患者68人(平均年齢64.4歳、女性60%)を対象にランダム化比較試験を実施し、膝関節の内側にかかる負荷を最大限に減らすために爪先の角度を調整する個別化介入が疾患の進行抑制に役立つのかが検討された。試験参加者のトレッドミルでの歩行データを用いてコンピュータープログラムが歩行パターンをシミュレーションし、膝にかかる最大負荷が計算された。介入群は、膝への負荷が最大限減ると考えられる爪先の角度(爪先を5°または10°内向きまたは外向きに調整する)で歩くことを、対照群は普段通りの自然な爪先の角度の維持を目標に、それぞれ最大6回の歩行訓練を受けた。主要評価項目は、1年後の内側膝関節の痛み(数値で評価)と膝関節内転モーメントのピーク値(膝にかかる負荷の指標)とした。 その結果、1年後の膝関節の痛みは、介入群で対照群に比べて有意に減少したことが示された(群間差−1.2点、P=0.0013)。研究グループは、介入群での痛みの減少は、10段階の疼痛スケールによる評価で2.5点であったとし、「これは非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)やアセトアミノフェンなどの市販の鎮痛薬の効果と同等だ」と述べている。また、膝関節内転モーメントのピーク値(体重と身長で標準化した指標で評価)も有意に減少していた(群間差−0.26、P=0.0001)。 Mazzoli氏は、「これらの結果は、変形性膝関節症に対しては、画一的なアプローチを取るのではなく、患者ごとに最適化した治療が重要であることを浮き彫りにしている。個別化戦略は一見困難に思えるかもしれないが、最近では人工知能(AI)が進歩して、さまざまな身体部位の動きを検知できるようになってきた。これにより、これまで以上に容易かつ迅速に個別化治療を行える可能性がある」と述べている。研究グループによると、スマートフォンの動画を使って膝関節への負荷を推定するAIソフトウェアが利用可能になり、医師が特殊な実験設備を使わずに歩行分析を行えるようになっていると話している。 研究グループは、これらのAIツールが実際に変形性膝関節症患者にとって最適な歩き方を特定するのに役立つかどうかを検証する予定であるという。また、研究対象を肥満患者にも拡大する予定だとしている。

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成人遅発型ポンペ病に2種類併用の治療薬を発売/アミカス

 アミカス・セラピューティクスは、成人遅発型ポンぺ病を対象とする新規併用療法の治療薬であるシパグルコシダーゼ アルファ(商品名:ポムビリティ)とミグルスタット(同:オプフォルダ)を8月27日に発売した。 ポンぺ病(糖原病II型)は、ライソゾーム内のグリコーゲンの分解に関与する酵素である酸性α-グルコシダーゼ(GAA)をエンコードする遺伝子の突然変異によって起こる希少疾病。この酵素の機能障害により、ライソゾーム内にグリコーゲンが蓄積し、細胞機能の障害が進行し、筋力、運動および肺機能が低下する。患者は、全世界で5,000~1万人と推定され、わが国では約130人とされている。 今回発売されるシパグルコシダーゼ アルファは、点滴静注剤であり、遺伝子組換えヒト酸性α-グルコシダーゼ製剤となる。マンノース-6-リン酸受容体への結合親和性が高い糖鎖を付加することで、細胞への酵素の取り込みの促進が期待される。また、ミグルスタットは経口剤であり、中性環境の血中で不活化されやすいシパグルコシダーゼ アルファを安定化させ、活性を維持させた状態で血中に長くとどまることを可能にする。これにより、シパグルコシダーゼ アルファ単剤と比較し、細胞への取り込み量を増加させることが期待される。 両剤の併用により、細胞内への酵素取り込み効率と標的組織への到達性の向上が見込まれ、とくに筋組織においてポンぺ病の主要な貯蔵物質であるグリコーゲンを減少させる作用が期待されている。【シパグルコシダーゼ アルファ製品概要】一般名:シパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)販売名:ポムビリティ点滴静注用105mg効能または効果:遅発型ポンペ病に対するミグルスタットとの併用療法用法および用量:ミグルスタットとの併用において、通常、体重40kg以上の成人にはシパグルコシダーゼ アルファとして、1回体重1kg当たり20mgを隔週点滴静脈内投与する。薬価:20万4,251円薬価収載日:2025年8月14日発売日:2025年8月27日製造販売元:アミカス・セラピューティクス【ミグルスタット製品概要】一般名:ミグルスタット販売名:オプフォルダカプセル65mg効能または効果:遅発型ポンペ病に対するシパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)との併用療法用法および用量:シパグルコシダーゼ アルファとの併用において、通常、成人にはミグルスタットとして体重40kg以上50kg未満の場合は1回195mg、体重50kg以上の場合は1回260mgを隔週経口投与する。なお、食事の前後2時間は投与を避けること。薬価:6,038.2円薬価収載日:2025年8月14日発売日:2025年8月27日製造販売元:アミカス・セラピューティクス

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英語で「人差し指」ってどう言う?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第30回

医学用語紹介:手の指 digits手の指のことを医学用語では親指から順番に“1st digit”(第1指)~“5th digit”(第5指)といいますが、患者さんにこれらの呼び名が通じなかった場合、何と言い換えればいいでしょうか?講師紹介

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運動ベースの心臓リハビリは心房細動患者にも有効

 医師は、心筋梗塞や心不全を発症した患者にしばしば運動ベースの心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)を処方する。新たな研究で、そのような心臓リハビリプログラムは心房細動(AF)と呼ばれる一般的な不整脈を有する患者にも適しており、症状の改善にも役立つ可能性のあることが示された。英リバプール心臓血管科学センターのBenjamin Buckley氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に7月29日掲載された。 運動ベースの心臓リハビリには、運動トレーニングに加えて、個別化された生活習慣リスクの管理、心理社会的介入、医学的リスク管理、健康行動に関する教育が含まれている。こうしたリハビリは、心筋梗塞を起こした患者や心不全と診断された患者、あるいは冠動脈ステント留置術を受けた患者に用いられるが、AF患者に適しているかどうかは不明なため、国際的なAF治療ガイドラインには含まれていない。 AFは、心房が機能不全を起こしてけいれんするように震えることで心拍リズムが乱れる疾患であり、動悸、胸痛、疲労、めまい、息切れなどの症状を引き起こす。AFがあると、脳卒中の原因となる血栓も形成されやすくなる。現行のAFに対する治療法は、薬物療法とアブレーションと呼ばれる電気治療である。AFは心筋梗塞や心不全と同時に起こることが多いが、運動ベースの心臓リハビリがAFを引き起こすのか否かは不明である。 Buckley氏らは今回、CENTRALやMEDLINEなどの論文データベースと臨床試験登録情報を用いて、AF患者に対する運動ベースの心臓リハビリの効果を、運動をしない場合と比較したランダム化比較試験を20件(対象者の総計2,039人)抽出し、メタアナリシスを実施した。平均追跡期間は11カ月であった。心臓リハビリプログラムのほとんどは中強度の運動(通常は有酸素運動)を取り入れており、実施期間は8週間から24週間で、1セッション当たりの時間は15〜90分だった。  解析の結果、全死因死亡は、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で8.3%、リハビリを受けなかった群で6.0%(相対リスク1.06、95%信頼区間〔CI〕0.76〜1.48)、有害事象の発生率はそれぞれ2.9%と4.1%(同1.30、0.66〜2.56)であり、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。一方、AFの症状の重症度(平均差−1.61、95%CI −3.06〜−0.16)、AFの負担(同−1.61、−2.76〜−0.45)、発生頻度(同−0.57、−1.07〜−0.07)、持続時間(同−0.58、−1.14〜−0.03)、再発(相対リスク0.68、95%CI 0.53〜0.89)、運動能力(最大酸素摂取量;平均差3.18、95%CI 1.05〜5.31mL/kg/分)については、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で有意な改善が認められた。さらに、健康関連の生活の質(QOL)の精神的側面も向上した。  こうした結果を受けて研究グループは、「AFの治療ガイドラインには、薬物療法やアブレーション療法との併用で運動ベースの心臓リハビリを推奨する内容を盛り込み、この最新のエビデンスを反映させるべきだ」と述べている。 付随論評の著者である英ロンドン心臓血管細胞科学研究所のSarandeep Marwaha氏とSanjay Sharma氏は、「本研究結果は、運動ベースの心臓リハビリがAF患者に大きな利益をもたらすことを裏付ける説得力あるエビデンスである。特に基礎疾患のあるAF患者は、運動がAFを誘発するのではないかと不安を抱くことがあり、医師も、運動とAF発生との関連が不確実であることから運動の指導や処方を軽視しがちだ。しかし、AF患者における中等度の運動を評価するほとんどの研究は、有害事象のリスクが非常に低く、安全性を実証している」と述べている。

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脳に歯が生えていた1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第288回

脳に歯が生えていた1例今回取り上げるのは、BMJ Case Reportsに掲載された、アイルランドのコーク大学病院からの症例報告です。O'Grady J, et al. 'Teeth in the brain' - a case of giant intracranial mature cystic teratoma. BMJ Case Rep. 2012;2012:bcr0320126130.患者は16歳の女性で、3年間にわたって「片頭痛」と診断されていた頭痛の既往がありました。今回、側頭後頭部の頭痛が急激に悪化し、嘔吐、めまい、見当識障害を伴って受診。その後、意識消失、眼球上転、四肢の痙攣、尿失禁を呈したということです。この時点で、単なる片頭痛ではないことは明らかですよね。興味深いのは、神経学的検査では明らかな異常所見を認めなかったことです。GCS 15/15で、視野や視力、眼底所見も正常。認知機能検査も正常範囲でした。ただし、年齢に比して身長が低いという所見がありました。CTでは、5.6×9.3cmの巨大な正中脳室内病変が描出されました。部分的に石灰化し、主に脂肪成分からなる病変で、水頭症を合併していました。どうやら、石灰化部分は病変内に歯があることを示していました。脳に、歯。MRIでは、破裂したデルモイド嚢胞として矛盾しない画像でした。デルモイド嚢胞は、妊娠中に皮膚組織の原基が迷入することで発生し、毛髪、皮脂腺、汗腺などの皮膚付属物を含みます。歯も例外ではありません。経胼胝体アプローチで開頭術が施行され、デルモイド嚢胞の減量術が行われました。術中所見では、確かに石灰化した塊の中に歯が確認できたということです。軟らかい内容物は除去できましたが、石灰化部分は脳組織との癒着が強固で残存させざるを得ませんでした。退院時は、移動に介助が必要で、日常生活動作にも支障があり、短期記憶障害と軽度の失語症状を認めていました。MMSEは24/30でした。リハビリテーションの効果もあり、6ヵ月後には短期記憶は改善し、失語症状も著明に改善していました。自立歩行も可能となり、MMSEは28/30まで改善しました。理学療法士と作業療法士の介入により、全体的な術後状態は良好に経過したということです。若年者の慢性頭痛においても、器質的疾患の可能性を常に念頭に置く必要があります。3年間「片頭痛」として経過観察されていましたが、結果的に巨大な頭蓋内腫瘍が存在していたのですから。

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患者の“〇〇〇〇”で見極める、尿失禁、介入のタイミング【こんなときどうする?高齢者診療】第13回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。今回は高齢者診療で大切にしたい『5つのM』のうち、“身体機能(Mobility)”に関するテーマとして、尿失禁を取り上げます。まず考えてみましょう。この2つの症例、どちらに介入が必要でしょうか?症例A85歳女性 ADL自立。認知機能正常。独居。今までなかった外出中の尿漏れを訴えて来院。症例B75歳女性 進行したアルツハイマー型認知症。夫・子どもたちによる在宅介護。3年前から尿失禁あり。本人は尿漏れに気付くが不快感はない様子。ベッド・床・衣服などを工夫しシーツや衣類の取り換え回数は最小限で済んでいる。皮膚荒れはなく、家族も尿失禁のケアに慣れたといっている。2つ目のM-身体機能の中で、尿失禁はきわめて重要な項目です。答えを急がず、まずは尿失禁の重要性とアセスメントのポイントを確認していきましょう。尿失禁、軽視してはいけない3つの理由尿失禁は「自分の意思とは関係なく、または意思に反して尿が漏れること」です。高齢者診療において、尿失禁に注目すべき理由は以下の3つです。ひとつめは、高い頻度です。尿失禁は排泄機能障害のなかで最もコモンで、65歳以上の女性では約30~50%が何らかの形で尿失禁を経験しているといわれています。ふたつめは、患者のQOLに与える深刻な影響です。例えばADLが自立している高齢者では、尿失禁を心配して外出が億劫になると、活動量の低下につながります。抑うつを助長したり、転倒リスクを高めたりする可能性もあります。認知症患者では、尿失禁による不快感をうまく言葉で表現できないため、不穏やせん妄につながることもあります。最後に、見落とされやすい失禁症状です。医師が診察で聞きそびれていることが多く、簡易高齢者アセスメント「DEEP-IN」では、“失禁(Incontinence)”が独立した評価項目となっています。効果的な問診のコツ:ノーマライゼーションの視点と失禁の時間軸尿失禁について話しにくいと感じる患者・聞きにくいと感じる医療者双方のハードルを下げるコツは、「誰にでも起こりうること」として扱うノーマライゼーションの視点を持つことです。問診にノーマライゼーションを取り入れると「尿漏れは若い方にもとても多いのですが、相談する機会がなく困っている方がたくさんいるようです。たとえば○○さんもお困りのことはありますか?」のようになります。このように聞くことで、本人の自尊感情への配慮も可能になります。失禁があることが問診で明らかになったら、次に重要なのは時間軸の把握です。聴取時は以下の分類を意識しましょう。新規発症の尿失禁長期継続している慢性の尿失禁急性増悪した慢性の尿失禁例えば、1日1~2回程度だった尿失禁が急に回数増加した場合、背後に特定の原因があることを疑う必要があります。治療可能な尿失禁を見逃さない:DIAPPERS鑑別高齢者の新しい症状は、まず薬の副作用を疑う。この原則は尿失禁でも同様です。薬剤以外の原因も含めて、以下の鑑別疾患をチェックしましょう。尿失禁の鑑別疾患 DIAPPERS画像を拡大する介入の見極めは、患者・家族が「ごきげん」かどうかDIAPPERSによる急性原因を除外しても尿失禁が続く場合、あるいは原因が除去できない場合に介入するかどうかを決めるポイントは、患者・家族・介護者が「ごきげんかどうか」です。ここで冒頭のクイズの答えに移りましょう。ここまで読んでくださった皆さんは、冒頭のクイズの回答がおわかりですね。Bの患者は“ごきげん”に過ごせているため、積極的な介入は不要と考えることができるのです。もちろん長期に繰り返す尿失禁では、陰部の清潔が保てなくなることや、褥瘡リスクが増加してしまうことがあるため、継続的なモニタリングは必要です。しかし、尿失禁があっても患者や周囲の人の負担が許容範囲に収まるようであれば、「無理に介入をする必要がない場合もある」という視点を持つことで、失禁診療の幅が広がります。一方、Aの患者は、尿漏れが主訴に挙がっている時点でごきげんではありません。DIAPPERSのような鑑別疾患の除外あるいは介入からはじめ、それでも尿失禁が続く場合は失禁があっても「ごきげん」でいられるようなケアを考えることが治療になります。その場合は、ごきげんでいられるために何が必要かをすり合わせるために、何がその方にとって大切なのか、耐えられること、耐えられないことといった、価値観や優先順位(Matters Most)を丁寧に聞き取ることから始めましょう。 ※今回のトピックは、2022年6月度、2023年度3月度、2024年4月度の講義・ディスカッションをまとめたものです。より詳しい解説、実際のケースディスカッション、Dr.樋口との質疑応答は、CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でご覧いただけます。

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