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<先週の動き>1.乳腺外科医事件で無罪判決、医師は司法とメディアに憤りを表明/東京高裁2.全国6割の病院が赤字経営、病院団体が診療報酬改定の見直しを要請3.医師国試合格率92.3%、女性割合が過去最高-新卒100%は4校/厚労省4.電子カルテ情報共有サービス始動、2025年度本格運用へ/厚労省5.急増する訪問看護、請求適正化へ指導体制を強化/厚労省6.病床適正化進む長崎、大学病院が1割削減しハイケアユニットを新設/長崎大1.乳腺外科医事件で無罪判決、医師は司法とメディアに憤りを表明/東京高裁2025年3月12日、東京高裁は、手術後に女性患者に対する準強制わいせつ罪を問う事件で、被告である乳腺外科医師に対し、2度目の無罪判決を言い渡した。この判決は、同医師が2016年に女性の胸をなめたとされる事件に関するもので、東京地裁と高裁の1・2審判決を踏襲し、検察の控訴を棄却した。同医師は、逮捕から6年以上を経て、ようやく無罪判決を得た。事件の背景には、女性患者が麻酔から覚醒する際に発生したせん妄による幻覚の可能性が指摘されている。東京高裁は、この幻覚が被害を訴える証拠として否定できないことを認めた。また、DNA鑑定に関しても、唾液の付着に関する疑念があり、医師がわいせつ行為を行った証明は不十分とされた。これにより、無罪判決が支持された。同医師は、判決後に記者会見を開き、警察や検察の過剰な信頼と誤った決定が、自らの生活と家族に与えた影響を強く批判した。弁護団は、無罪判決が遅すぎることを指摘し、医師の無罪確定までの苦悩を強調した。また、医師の間で職業的な萎縮が広がり、とくに乳腺外科を避ける傾向が強まる中、患者への影響を懸念する意見も出された。今回の法的な遅延は、裁判所が適切に判断を下さなかったことが原因であり、無罪判決を再度上訴できる現行制度に対する疑問も提起された。とくに、無罪判決後の検察の控訴が理不尽であり、米英のように無罪判決に対して控訴を許可しない制度の導入が必要だとする意見もみられた。参考1)乳腺外科医に再び無罪判決 「患者の胸なめたと断定できず」 東京高裁、差し戻し審(産経新聞)2)無罪の乳腺外科医「長かった」「強い憤り」 事件で「医師萎縮」の指摘も(産経新聞)3)ふたたび「無罪」になった乳腺外科医、捜査機関やマスコミに憤り「生活や仕事そして家族を奪われた」(弁護士ドットコム)4)乳腺外科医事件に再び無罪判決 弁護団は「遅すぎる」と批判 「長くて辛い日々だった」と医師(ジャーナリスト・江川紹子)2.全国6割の病院が赤字経営、病院団体が診療報酬改定の見直しを要請昨年春の診療報酬改定後、全国の病院の経営が急速に悪化し、6割以上が赤字に陥っていることが明らかになった。日本医師会と6つの病院団体が実施した調査によると、2024年6~11月までの経常利益が赤字の病院は61.2%に達し、前年同期比で10.4ポイント増加。補助金を除いた医業利益でも69.0%が赤字となり、前年から4.2ポイント悪化した。経営悪化の主因は、物価や人件費の上昇に診療報酬が追いついていないことだ。調査では、水道光熱費が前年同期比3.1%増、院内清掃などの委託費が4.2%増と報告された。給与費も2.7%増加しており、多くの病院が経費の増加に対応しきれず、経営難に陥っている。とくに、病床利用率が90%を超えなければ黒字化できない病院もあり、持続的な医療提供が困難な状況。この危機的状況を受け、日本医師会と6つの病院団体は3月12日、合同声明を発表し、診療報酬の見直しを政府に求めた。2026年度の診療報酬改定に向けて、物価や賃金の上昇を反映できる仕組みを導入する必要があると主張。補助金による短期的な支援にとどまらず、中長期的な医療費の適正配分を求めた。日本医療法人協会の太田 圭洋副会長は「病床を満床にしなければ経営が成り立たないのは異常な状況。地域の病院が突然閉鎖する危機が迫っている」と警鐘を鳴らした。また、全国自治体病院協議会の野村 幸博副会長は「公立病院では人事院勧告による賃上げが求められ、さらに経営が厳しくなっている」と述べ、自治体病院の窮状を訴えた。調査では、2024年6~11月の医業収益が前年同期比1.9%増加している一方で、給与費や光熱費の増加がそれを上回り、多くの病院が赤字に転落していることが判明。このままでは、地域医療の維持が困難になると懸念されている。病院団体は、診療報酬を適正に改定し、賃金や物価の変動に即応できる仕組みを導入することが不可欠だと指摘。日本医師会の松本 吉郎会長は「このままでは、ある日突然病院が地域から消えてしまう。国民の命と健康を守るため、診療報酬の見直しは急務だ」と強調した。今回の調査結果を受け、政府・与党内でも支援策の検討が進むとみられるが、財政的な制約の中でどのような対策を講じるかが課題である。地域医療崩壊を防ぐため、迅速かつ具体的な対応が求められている。参考1)【緊急調査】2024年度診療報酬改定後の病院経営状況調査の結果等について(日本医師会)2)“全国6割以上の病院が赤字” 調査団体「地域医療は崩壊寸前」(NHK)3)「地域から医療機関なくなる」と医師会が危機感…病院の6割超が赤字、診療報酬改定で経営難(読売新聞)4)2024年度改定後、病床利用率上昇も医業利益率と経常利益率は悪化(日経ヘルスケア)5)日医と6病院団体が声明 26年度診療報酬改定「物価・賃金上昇対応の仕組みを」地域医療崩壊に危機感(ミクスオンライン)3.医師国試合格率92.3%、女性割合が過去最高-新卒100%は4校/厚労省厚生労働省は3月14日、第119回医師国家試験の合格状況を発表した。受験者1万282人に対し、合格者は9,486人で、合格率は92.3%だった。前年の92.4%から0.1ポイント減少したものの、過去10年で2番目に高い合格率となった。新卒者の合格者数は9,029人、合格率は95.0%で、2年連続で9,000人を上回った。男女別の合格率は、男性が91.8%、女性が93.1%と、女性の合格率が上回った。合格者に占める女性の割合は36.3%と過去最多を記録した。学校別では、国際医療福祉大学医学部が新卒・既卒ともに合格率100.0%を達成した。新卒合格率100.0%は、同大学のほか、福井大学医学部、金沢大学医薬保健学域、三重大学医学部の計4校だった。一方、同日に発表された第118回歯科医師国家試験の合格率は70.3%で、前年の66.1%から4.2ポイント増加した。参考1)第119回医師国家試験の合格発表について(厚労省)2)医師国家試験、合格率92.3% 新卒合格者は2年連続で9千人上回る(CB news)3)医師国家試験2025、国際医療福祉大100%合格…学校別合格率(リセマム)4.電子カルテ情報共有サービス始動、2025年度本格運用へ/厚労省厚生労働省は健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療等情報利活用ワーキンググループ」を3月13日に開催し、電子カルテ情報共有サービスについて2025年度中の本格運用を目指し、モデル事業が開始することとした。まず、愛知県の藤田医科大学病院を中心に試験運用が始まり、全国の医療機関や患者が電子カルテ情報を共有できる仕組みが構築される。モデル事業では、運用上の課題を明確化し、とくに「病名」情報の取り扱いについて慎重にルールを策定する必要がある。患者が自身のカルテ情報を閲覧できる一方で、未告知や診断過程の誤解を防ぐための設定が求められている。これに伴い、医療現場の負担や患者との信頼関係の維持を考慮し、慎重な運用が必要とされる。また、患者の同意に関する法的根拠が未確立であるため、現段階では個人情報保護法に基づき、医療機関と支払基金間の委託契約を通じて対応することになった。さらに、情報共有の推進と並行し、サイバーセキュリティ対策の強化も求められており、来年度の対策チェックリストが策定された。モデル事業の結果を踏まえた運用ルールの確立が、全国展開の成功の鍵となる。拙速な導入は、医療現場や患者の不安を招き、DX推進の障害になりかねないため、慎重かつ丁寧な議論が求められる。参考1)第24回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)2)電子カルテ情報共有サービスの検討事項について(同)3)電子カルテ情報共有サービスのモデル事業、まず藤田医大病院中心に開始、「病名」の取り扱いルールなども検討-医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)5.急増する訪問看護、請求適正化へ指導体制を強化/厚労省厚生労働省は、3月12日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)において、訪問看護ステーションの監視体制を強化する方針を発表した。広域で運営する事業者や診療報酬の高額請求を行う事業所を対象に指導を強化し、4月以降に新たな指導の枠組みを導入する。背景には、訪問看護の急増と、それに伴う高額請求の増加がある。厚労省によると、訪問看護ステーションの数は直近5年間で約1.5倍に増加。とくに、年間請求額が2億5千万円以上の事業所は12.8倍に急増した。また、1件当たりの請求額が50万円以上の事業所も7倍に増えている。これらの増加に対し、厚労省は「不適切な請求が行われている可能性がある」とし、監査体制の強化に踏み切った。新たな指導体制では、地方厚生局と都道府県に加え、厚労省本省も関与。これにより、複数都道府県で運営される大規模事業者への監査を強化する。さらに、請求額の多い事業所を選定し、適正な請求方法を指導する。また、eラーニングによる集団指導を検討し、訪問看護ステーション全体の適正化を図る。訪問看護は、重度患者の在宅療養支援など重要な役割を担う。その一方で、末期がん患者向けの高額報酬を悪用し、必要以上の訪問回数を請求するケースも指摘されている。厚労省は「利用者の状態に応じた適正なサービス提供を促すため、新たな監査体制を整備する」としている。参考1)訪問看護ステーションの指導監査について(厚労省)2)厚労省、訪問看護の指導監査強化 広域や高額請求の事業者が対象(共同通信)3)訪問看護の「指導」を強化へ 高額請求、不適切なケースも 厚労省(朝日新聞)4)高額請求の訪看事業所に「教育的指導」へ 来年度の早期から 厚労省(CB news)6.病床適正化進む長崎、大学病院が1割削減しハイケアユニットを新設/長崎大長崎大学病院(長崎市)は、4月1日より一般病床を現在の827床から98床削減し、729床とする方針を発表した。新型コロナウイルス感染症拡大以降、同院の入院患者数は4年間で2万5千人以上減少し、病床の稼働率も低下。さらに、県の地域医療構想では2025年度における長崎地区の高度急性期病床数が651床と推計され、同病院を含む5医療機関の予定病床数908床を大幅に上回ることから、病床数の適正化が求められていた。また、病院経営の効率化も背景にある。文部科学省によると、大学病院が100床規模で病床を削減するのは全国的にも極めて珍しいが、病床削減による補助金の活用により経営改善も視野に入れている。病床削減と同時に、同院では集中治療室(ICU)と一般病床の中間に位置する「ハイケアユニット(HCU)」8床を新設。急変のリスクが高い患者を受け入れ、より手厚い医療提供を行う体制を整える。また、削減後のスペースを活用し、理学療法士らを増員し、超急性期のリハビリテーション強化を進める方針だ。長崎市内では、長崎みなとメディカルセンターも、2月に30床の削減を実施するなど、地域の医療機関で病床適正化が進んでいる。県医療政策課は「地域の病床数は十分に確保されており、大きな問題はない」としているが、今後も少子高齢化による医療需要の変化に応じた病院経営の見直しが求められる。参考1)長崎大学病院 需要の低下で98床削減へ 経営改善の狙いも(NHK)2)長崎大学病院 一般病床を1割削減…来月から「機能適正化」、患者数減少など背景(長崎新聞)3)長崎大学病院も来月から病床を1割超削減 メディカルセンターに続き…原因は?(長崎文化放送)