1.
注意欠如・多動症(ADHD)の薬物療法は、コア症状だけでなく自殺行動、物質乱用、交通事故、犯罪行為の発生を有意に低減することが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のLe Zhang氏らの調査で示された。ADHDの治療において、薬物療法はコア症状の軽減に有効であることが無作為化対照比較試験で示されているが、自殺行動や物質乱用などの、より広範で重要な臨床アウトカムに関するエビデンスは十分でないという。研究の成果は、BMJ誌2025年8月13日号に掲載された。5つのアウトカムをtarget trial emulation研究で評価 研究グループは、経験者との協議の下で、ADHDの影響を受ける人々の現実的なニーズに合わせて選出した5つのアウトカムに関して、薬物療法の有効性を評価する目的で、target trial emulation研究を行った(Swedish Research Council for Health, Working Life and Welfareなどの助成を受けた)。 スウェーデン居住者で、2007年1月1日~2018年12月31日に、年齢6~64歳でADHDの初回診断を受けた患者を対象とし、2年間追跡した。診断から3ヵ月以内に薬物療法を開始し、追跡期間中も処方薬の使用を継続した群(開始群)と、薬物療法を開始しなかった群(非開始群)を比較した。 研究期間中に同国でADHDの治療薬として承認を受けていたのは、アンフェタミン、デキサンフェタミン、リスデキサンフェタミン、メチルフェニデート(以上、中枢神経刺激薬)、アトモキセチン、グアンファシン(以上、中枢神経非刺激薬)の6剤であった。 主要アウトカムとして、ADHDの診断から2年間における5つのアウトカム(自殺行動、物質乱用、不慮のけが、交通事故、犯罪行為)の初発および再発イベントの発生を評価した。同国で刑事責任能力および運転能力が問われる最低年齢は15歳であることから、交通事故と犯罪行為の評価は15~64歳のサブコホートで行った。イベント既往歴を有する患者で、より良好な結果 ADHD患者14万8,581例(年齢中央値17.4歳[四分位範囲:11.6~29.1]、女性41.3%)を解析の対象とした。このうち8万4,282例(56.7%)が薬物療法を開始し、開始時に最も多く処方されたのはメチルフェニデート(7万4,515例[88.4%])で、次いでアトモキセチン(6,676例[7.9%])、リスデキサンフェタミン(2,749例[3.3%])の順だった。 ADHDの薬物療法により、5つのアウトカムのうち次の4つで初発率の有意な改善を認めた。自殺行動(1,000人年当たりの重み付け発生率:開始群14.5 vs.非開始群16.9、補正後発生率比:0.83[95%信頼区間[CI]:0.78~0.88])、物質乱用(58.7 vs.69.1、0.85[0.83~0.87])、交通事故(24.0 vs.27.5、0.88[0.82~0.94])、犯罪行為(65.1 vs.76.1、0.87[0.83~0.90])。一方、不慮のけが(88.5 vs.90.1、0.98[0.96~1.01])には、両群間に有意差はみられなかった。 過去に5つのアウトカムのイベント既往歴のない患者では、薬物療法により自殺行動(発生率比:0.87[95%CI:0.79~0.95])、交通事故(0.91[0.83~0.99])の発生率が有意に改善した。これに対し、イベントの既往歴を有する患者では、薬物療法により5項目すべてが、より顕著かつ有意に改善し、発生率比の範囲は自殺行動の0.79(95%CI:0.72~0.86)から不慮のけがの0.97(0.93~1.00)にわたっていた。再発への効果が顕著、刺激薬でより良好な結果 再発率は、以下のとおり、5つのアウトカムのすべてで薬物療法により有意に改善した。自殺行動(1,000人年当たりの重み付け発生率:開始群22.7 vs.非開始群24.3、補正後発生率比:0.85[95%CI:0.77~0.93])、物質乱用(166.1 vs.201.5、0.75[0.72~0.78])、不慮のけが(119.4 vs.122.8、0.96[0.92~0.99])、交通事故(31.6 vs.37.2、0.84[0.76~0.91])、犯罪行為(111.3 vs.143.4、0.75[0.71~0.79])。 また、中枢神経非刺激薬と比較して中枢神経刺激薬は、初発率および再発率とも5つのアウトカムのすべてで有意に良好であった。初発率の発生率比の範囲は、物質乱用の0.74(95%CI:0.72~0.76)から不慮のけがの0.95(0.93~0.98)まで、再発率の発生率比の範囲は、犯罪行為の0.71(0.69~0.73)から不慮のけがの0.97(0.95~0.99)までだった。 著者は、「この全国的な登録データを用いたtarget trial emulation研究は、実臨床の患者を反映したエビデンスをもたらすものである」「これらの知見は、ADHD患者全体において、広範な臨床アウトカムに対するADHD治療薬の有益な効果を示している」「本研究は、現在の無作為化比較試験では捉えきれていない、有益性に関する重要な情報を提供する」としている。