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胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」【下平博士のDIノート】第14回

胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」今回は、「抗トキソプラズマ原虫薬スピラマイシン(商品名:スピラマイシン錠150万単位)」を紹介します。本剤は、妊娠中にトキソプラズマに初感染した妊婦が服用することで、胎児の先天性トキソプラズマ症の発症を抑制します。<効能・効果>本剤は先天性トキソプラズマ症の発症抑制の適応で、2018年7月2日に承認され、2018年9月25日より販売されています。トキソプラズマのタンパク合成を阻害することで、増殖抑制効果を示します。<用法・用量>通常、妊婦に1回2錠(スピラマイシンとして300万国際単位)を1日3回経口投与します。抗体検査や問診などにより妊娠成立後のトキソプラズマ初感染が疑われる場合に使用します。<患者さんへの指導例>1.妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合に、胎児が感染することで発症する恐れのある「先天性トキソプラズマ症」を防ぐための薬です。2.胎児への感染が確認されないうちは、分娩まで続けて服用します。3.薬によって腸内細菌のバランスが崩れると、便が緩くなったり、おなかが痛くなったりすることがあります。4.高熱、激しい腹痛を伴う血便、めまい、動悸、胸痛などの症状がありましたら、服用をやめてすぐに医師の診察を受けてください。5.母乳中に移行することが報告されているため、本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>トキソプラズマは人畜共通の寄生原虫であり、猫を終宿主としますが、豚、牛、鶏、羊、馬などのほか、食肉用の動物以外も含めて、ほぼすべての哺乳類や鳥類に感染します。ヒトへの主な感染経路としては、加熱不十分な食肉、猫の糞便や洗浄不十分な野菜などによって、トキソプラズマ原虫を経口的に摂取することが挙げられます。また、園芸などの土いじりや砂場遊びが原因になることも考えられます。通常、健康な成人がトキソプラズマに感染した場合、風邪様の症状が出現することもありますが、多くの場合は無症状のまま潜伏感染に移行します。しかし、妊婦がトキソプラズマに初感染すると、胎盤を介して胎児に感染し、先天性トキソプラズマ症を発症する可能性があります。先天性トキソプラズマ症は流産・死産の原因になったり、生まれた子供に水頭症、網脈絡膜炎による視力障害、脳内石灰化、精神・運動機能障害などといった重大な臨床症状が認められたりすることがあるため、胎児への感染を抑制する必要があります。本剤は、抗菌活性に加え、抗トキソプラズマ活性を有する16員環のマクロライド系抗菌薬で、海外の診療ガイドラインではトキソプラズマに初感染した妊婦に対し、本剤が標準的治療薬として推奨されています。しかし、わが国ではこれまでトキソプラズマを適応症として承認されている薬剤はなかったため、日本産科婦人科学会より開発の要望がなされていました。本剤の抗原虫作用はトキソプラズマに対する増殖抑制であり、感染後早期に服用を開始することで、垂直感染が約60%低下するという報告があります。ただし、殺原虫効果はないため、胎児への感染が疑われる場合には、本剤の投与・継続の適否について慎重に検討する必要があります。実際には先天性トキソプラズマ症で生まれてくる児はわずかですが、加熱不十分な食肉を食べること、素手での飼い猫の糞便の処理や土いじりは、トキソプラズマ感染を引き起こすリスクがあることを薬剤師も再認識し、妊娠中または妊娠を予定している患者さんに対して調理方法や手袋の着用、十分な手洗いなどの注意喚起を行えるとよいでしょう。

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第12回 びまん性汎細気管支炎にマクロライド系抗菌薬が長期投与されるのはなぜ?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 抗菌薬は必要なときに短期間処方されるのが一般的ですが、例外もあります。その代表的なものが、マクロライド系抗菌薬の長期投与です。COPDや非嚢胞性線維症性の気管支拡張に対して行われることも多い治療法ですが、今回はびまん性汎細気管支炎(Diffuse panbronchiolitis:DPB)に対するマクロライドの少量長期療法について紹介します。DPBは呼吸細気管支と呼ばれる細い気管支を中心に慢性炎症が起こり、咳や痰、呼吸困難が生じる疾患で、ほとんどの場合で慢性副鼻腔炎(蓄膿症)を合併するのが特徴的です1)。日本人を含む東アジア人に多く、男女差はなく、40~50代が好発年齢です2)。もともとは未治療の場合、診断から5年以内に約50%が死亡するというきわめて予後の悪い疾患でしたが3)、マクロライドの少量長期療法が行われるようになって死亡率が急速に低下しました4)。日本発の治療法で、その効果が判明したのは1980年代になってのことです。それでは、数ある抗菌薬の中でもなぜマクロライド系抗菌薬がDPBに有効なのでしょうか。その説明として考えられているのが、その抗炎症作用です。抗菌作用も期待できるとは思われますが、DPBにおける投与量は通常よりも少なく、一般的な重感染症最小発育阻止濃度を下回っているので、主に抗炎症作用を期待しての治療なのでしょう。抗炎症作用といっても多くの説があり、バイオフィルム形成、免疫調整、肺胞マクロファージによる食作用の亢進作用などが知られています。一般にマクロライド系抗菌薬は、肺胞マクロファージによって細胞内に濃縮されやすく、血清濃度よりもクラリスロマイシンで約400倍、アジスロマイシンで約800倍高いレベルになるとされていて、これが比較的低用量で奏効する理由と考えられています5)。コクランのシステマティックレビューにおいてもDPBに対するマクロライド少量長期療法の効果が検証されています6)。システマティックレビューといっても、レビューへの組み入れ基準は「DPBに対するマクロライドの効果と安全性を検討したランダム化比較試験(RCT)ないし準ランダム化比較試験」で、RCTではない観察研究や対照群のない研究が除かれた結果、最終的に残ったRCTは1件だけでした。その内容は、20~70歳(平均年齢50歳)のDPB患者19例のうち12例をエリスロマイシン600mg/日の長期投与群、7例を無治療群に割り付けて比較したというものです。エリスロマイシン群の全例において、CT画像はベースラインからの改善がみられた一方、対照群では71.4%が悪化、28.6%が変化なしという結果でした。レビュー内でエビデンスの質は低いとされていますが、予後の悪い疾患でこれほどの差が出ていることは注目に値するのではないでしょうか。14員環、15員環なら有効性は高いが、16員環は無効エリスロマイシン以外の長期療法についても紹介しましょう。10例のDPB患者を組み入れ、クラリスロマイシン200mg/日で4年間治療したオープンラベルの研究です。肺機能検査などの項目は、ほとんどの被験者で6ヵ月以内に有意な改善がみられています。また、重大な副作用は認められず、長期間安全に服用できることが示唆されました7)。エリスロマイシンやクラリスロマイシンは14員環のマクロライドですが、15員環のアジスロマイシンにおいてもDPBに対する効果を検討した試験があります。51例のDPB患者を対象とした研究では、アジスロマイシン500mg/日を静注で1~2週間投与した後、1日1回経口服用で3ヵ月継続し、さらに週に3回経口服用を6~12ヵ月継続したところ、臨床的治癒は27.5%、改善は70.6%で、5年生存率は94.1%でした8)。また、別の研究では、アジスロマイシンを60例の患者に250mg/日を週2日3ヵ月間投与したところ、多くの被験者で喀痰量および呼吸困難が減少し、有効率は84.6%でした9)。なお、16員環を有するマクロライド(ジョサマイシンなど)はDPBに無効と考えられており、ガイドラインにおいても推奨されていません2)。長期療法と言われると気になるのはどのくらい長期かということですが、その最適な期間は明確には定まっていないようです。紹介してきた臨床試験においては、ほとんどの患者さんにおいて最低6ヵ月程度は継続され、大部分は治療開始2年後までには中止に至っています。基本的には、臨床症状、X線写真所見、および肺機能測定値が改善または安定するまでということになるようです。もちろん中止後も、呼吸困難、咳、痰の程度についてモニタリングすることが望ましく、再び気管支拡張症や副鼻腔炎のような徴候が出た場合には治療が再開される可能性があることには留意しておくとよいでしょう。また、マクロライド系抗菌薬にはモチリン様作用が知られているので、低用量であっても下痢が生じる可能性があります。モチリンは消化管の蠕動運動を活発にするホルモンですが、マクロライドも同様に消化管運動を活発にすることが報告されています10)。したがって、腸内細菌叢のバランスが崩れるという以外の理由で下痢や腹痛が生じることがあり、とくに服用当日など早期に生じる下痢はこの作用による可能性が高いとされています。便秘の方には逆によいケースもあるかもしれませんが、服薬指導時に説明しておくほうが安心かと思います。1)日本呼吸器学会 びまん性汎細気管支炎2)JAID/JSC感染症治療ガイドライン―呼吸器感染症―3)Kudoh S, et al. Clin Chest Med. 2012;33:297-305.4)Kudoh S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1998;157(6 Pt 1):1829-1832.5)Steel HC, et al. Mediators Inflamm. 2012;584262.6)Lin X, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;1:CD007716.7)Kadota J, et al. Respir Med. 2003;97:844-850.8)Li H. et al. Intern Med. 2011;50:1663-1669.9)小林 宏行ほか. 感染症学雑誌. 1995;69:711-722.10)Broad J, et al. Br J Pharmacol. 2013;168:1859-1867.

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第15回 内科からのエリスロマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Campylobacter coli属・・・11名全員Salmonella Enteritidis(サルモネラ・エンテリティディス)・・・1名Escherichia coli(大腸菌)・・・1名Arcobacter属・・・1名Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)・・・1名腹痛、下痢、鶏肉から 奥村雪男さん(薬局)カンピロバクター属が原因菌と予想されます。下痢と腹痛から市中腸管感染症で、加熱不十分の鶏肉を食べたこと、検査はおそらくグラム染色だったのではないでしょうか。カンピロバクターのグラム染色での感度は30%程度のようですが、特異度が高いので確定診断に至ったのだと考えます。カンピロバクターは一般的には補液などの対症療法で自然軽快することがほとんどとされていますが、早期治療による菌の排出期間短縮と症状軽減があったとの報告があります1)。キノロン系薬剤への耐性化が進んでいるため、マクロライド系薬剤が第一選択であり、下記が推奨されています1)。クラリスロマイシン経口 1回200mg 1日2回 3~5日間アジスロマイシン経口 1回500mg 1日1回 3~5日間エリスロマイシン経口 1回200mg 1日4回 3~5日間Q2 患者さんに確認することは?どのような検査をしたか わらび餅さん(病院)できればどのような検査をしたか聞きます。培養ではっきり菌を特定するには、通常は数日かかるからです。下痢と腹痛が主訴ですが、可能なら血便など重症だと判断する情報があるのか聞きたいです。潰瘍性大腸炎の可能性も? 中堅薬剤師さん(薬局)併用薬と副作用歴です。また、可能であれば潰瘍性大腸炎の除外診断を医師がしているかどうかも確認したいです。今回は検査結果があるので可能性はあまりないと思いますが、開業医が第六感で「感染性腸炎」と誤診し、潰瘍性大腸炎が重症化することが非常に多い、と広域病院の消化器科医の講演を聞いたことがあります。必要に応じて、潰瘍性大腸炎の可能性も考慮して対応することが重要だと考えます。併用薬について 荒川隆之さん(病院)併用薬を必ず確認します。エリスロマイシンはCYP3A4で代謝される薬剤と併用した場合、併用薬の代謝が阻害され血中濃度が上昇する可能性があります。また、P糖タンパクを介して排出される薬剤と併用した場合、併用薬剤の排出が阻害され血中濃度が上昇する可能性があります。ピモジドなどの併用禁忌の確認 奥村雪男さん(薬局)エリスロマイシンはマクロライド系抗菌薬の中でもCYP3A4 阻害作用が強いので、ピモジドなどの併用禁忌薬剤を服用していないか確認します。マクロライド系抗菌薬のCYP3A4阻害様式はMBI(Mechanical based inhibition)で、服用開始から数日程度で阻害作用が最大になり、服用終了から数日程度で阻害作用は消失すると考えられます2)。そのため、服薬終了後も併用薬に注意が必要です。自炊かどうか 児玉暁人さん(病院)可能なら鶏肉をどこで食べたか確認します。飲食店なのか自宅で自炊をしてなのか。一人暮らしで自炊しているのであれば、しっかり加熱する、二食肉は他の食品と調理器具や容器を分けて処理や保存を行う、食肉を取り扱った後は十分に手を洗ってから他の食品を取り扱う、食肉に触れた調理器具などは使用後洗浄・殺菌を行うなどのアドバイスができるかもしれません。Q3 疑義照会する?する・・・5人エリスロマイシンの用量 キャンプ人さん(病院)エリスロマイシンの1 回用量が多いように思うので、確認します。ガイドラインでは1回200mg 1日4回 3~5日間1)とされています。重症でなければ自然軽快する場合が多い 清水直明さん(病院)カンピロバクター腸炎の場合、重症でなければ抗菌薬の投与なしで自然に軽快する場合がほとんどです。処方医と信頼関係ができていれば、説明した上で「抗菌薬は不要かもしれません」と提案するでしょう。他剤への変更 JITHURYOUさん(病院)本症例は、重症感がなくカンピロバクター自体は自然軽快することが多いため、抗菌薬は不要ではないかと感じます。それでも医師が抗菌薬は必要だとするなら、現時点で消化器症状があるのでクラリスロマイシンに変更提案します。エリスロマイシンより消化器作用が少ないこと、添付文書上の適応のためです。併用薬がある場合には、相互作用の少ないアジスロマイシンに変更提案します。可能なら抗菌薬処方なしにもっていきたいです。しない・・・6人3日間投与は適切 中堅薬剤師さん(薬局)ガイドラインには、カンピロバクターは世界的にキノロン系薬の耐性化が進んでおり、マクロライドを第一選択にすると記載されています1)が、マクロライド耐性も問題化しつつあるようなので、まず3日間投与は適切ではないでしょうか。エンピリック処方かどうか わらび餅さん(病院)患者さんの聞き取りを踏まえ、カンピロバクターと予想した上でのエンピリック処方だと判断できれば、疑義照会しません。ただし、原因菌と特定されていればエリスロマイシンの用法を確認します。もし、アドヒアランスなどを考慮して用法を1日3回としていたら、アジスロマイシン1日1回でもよいのでは、と聞ければ聞きます。海外での使用例やPAE※も考慮 ふな3さん(薬局)エリスロマイシンは半減期が1.5時間程度と短めのため、1日3回ではちょっと不安ですが、カンピロバクターへの適応はないものの米国などでは1,000mg/2×などの処方もあるようです。PAEも期待できることから、疑義照会はしないと思います。※post-antibiotic effect。血中や組織中から抗菌薬が消失しても、一定期間、病原菌の増殖が抑制される効果1日3回が難しければ処方提案 児玉暁人さん(病院)エリスロマイシンの1回量が多く、回数も3回ですが、適宜増減の範囲内と考え、疑義照会はしません。ただし、1日3回の内服が難しそうであればクラリスロマイシン1回200mg 1日2回 3日分の処方提案をします。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?しっかり飲みきること キャンプ人さん(病院)指示されている期間しっかり服用することです。また、エリスロマイシンのモチリン様作用(消化管運動亢進作用)により、消化管の蠕動運動が活発になることを説明しておきます。服用時間について ふな3さん(薬局)1回目の分はすぐに飲み始めること。2回目は6時間程度あけて服用。1日3回、3日間飲みきることを伝えます。下痢についての説明 清水直明さん(病院)「今回、下痢止めは出されていませんが、下痢止めを服用しなくても数日で回復してくると思います。治りを遅くすることがあるので、市販の下痢止めは服用しないでください。」脱水に注意 JITHURYOUさん(病院)現時点で重症感はなさそうですが、水分補給して脱水に注意し、安静にするよう伝えます。はっきりと重症化しないとはいえませんが、年齢的に考えてみても整腸剤だけで経過観察でもよかったかもしれませんね。他院受診時にお薬手帳を持参 奥村雪男さん(薬局)今回の抗菌薬は服薬終了後も数日間程度飲み合わせに注意が必要なので、他院にかかる場合はお薬手帳を持参することを伝えます。Q5 その他、気付いたことは?ボツリヌス毒素の可能性も? ふな3さん(薬局)「古いパックの食品も疑われた」という言葉から、ボツリヌス毒素の疑いもあったのかもしれません。また、カンピロバクターからのギランバレー症候群の発症のリスクもあるため、下記のような症状が出たら、すぐに医師に連絡するよう伝えたいです。口内乾燥、嚥下困難、複視、視力低下(ボツリヌス中毒)四肢の脱力(ボツリヌス中毒、ギランバレー)エリスロマイシンの処方意図 柏木紀久さん(薬局)今回の症例はあまり抗菌薬の必要性を感じませんが、排菌の促進や消化管運動の促進を期待して3日分の処方かな?と思いました。ギランバレー症候群と菌血症 奥村雪男さん(薬局)カンピロバクター感染症の合併症に、ギランバレー症候群と菌血症が知られています。0.1%以下でギランバレー症候群の報告があり、感染後2~3週後に発症するようです3、4)。発症はまれなので不安をあおらないように伝えません。菌血症は1%程度に報告があり4)、高齢者に多いようです。若年では検査陽性になるころには自然治癒するようで、あまり心配ないかもしれませんが、知識として持っておく必要があると思います。後日談(担当した薬剤師から)調剤した日の閉局間際に「薬を飲んだら、余計にお腹の調子が悪くなりました。どうしたらいいですか?」と電話がかかってきました。実は、薬を渡すときにモチリン様作用の説明をするのを忘れていたことに気付きました。「原因の菌を退治するだけでなく、胃腸の動きを活発にさせる作用もあるお薬ですので、自然とその症状は治まります。菌の排出も早まりますので、辛抱して内服を続けてください」と返事をしました。無事治療が終了したのか、後日の来局はありませんでした。1)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―腸管感染症―. 一般社団法人日本感染症学会、2016.2)鈴木洋史監. これからの薬物相互作用マネジメント 臨床を変えるPISCSの基本と実践. 東京、じほう、2014.3)青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル. 第2 版. 東京、医学書院、2008.4)酒見英太監. ジェネラリストのための内科診断リファレンス. 第1版. 東京、医学書院、2014.[PharmaTribune 2017年6月号掲載]

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第13回 産婦人科からのクラリスロマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマチス)・・・全員Neisseria gonorrhoeae(淋菌)・・・9名クラミジアの可能性 奥村雪男さん(薬局)骨盤炎症性疾患(pelvic inflammatory disease;PID)の原因菌としては、クラミジア、淋菌、大腸菌などの好気性グラム陰性桿菌、Bacteroides 属やPeptostreptococcus 属といった嫌気性菌が想定されますが、今回マクロライド系のクラリスロマイシン(CAM)が選択されているので、診断された原因菌はクラミジアであると予想されます。「性感染症診断・治療ガイドライン2016」では、クラミジア感染症のPIDの治療薬として、CAM 200mg× 2 7 日間が、非妊婦では推奨レベルAとされています。Q2 患者さんに確認することは?アレルギー、併用薬と妊娠の有無 ふな3さん(薬局)CAMのアレルギー、併用薬を確認します。また、チェックすべき危険な疾患として子宮外妊娠が考えられるため、医師から妊娠の有無とその可能性を確認されたかも聞きたいです。産婦人科医からの処方であるため、子宮外妊娠の見落としはさすがにないかと思いますが、リスク管理上、医師がその可能性を確認したかだけは聞いておきたいと思います。パートナーの感染について 清水直明さん(病院)クラミジア感染は性感染症の中でも最も多く、男性・女性ともに無症状または無症候の保菌者が多数存在しています。万が一、患者さんの周囲(パートナー)に症状を呈する人がいれば一緒に治療することが必要ですが、たとえパートナーに症状がなくても治療が必要な場合もあるため、できるだけ受診を勧めてほしい、と伝えるべきだと思います。パートナーを含めて治療しないと、自分は治癒してもまた再感染を起こしてしまうからです。このことは既に医師から説明を受けているかもしれませんが、大事なことなので薬剤師からも伝えるべきだと思います。一方で、妊娠している可能性があるかどうかも服薬指導する上で必要な情報ではありますが、CAMは妊婦でも比較的安全とされていますので、今回はあえて確認しないかもしれません。免疫抑制薬にも注意 児玉暁人さん(病院)あまり遭遇しないかもしれませんが、シクロスポリンやタクロリムスなどの血中濃度のコントロールを必要とする薬剤を服用しているかどうかも聞きます。シクロスポリンやタクロリムスは、CAMとの併用で血中濃度が変化する可能性があるからです。薬剤以外の質問はデリケートなことなので聞きにくいですね。患者さんが話しにくそうなら女性薬剤師に対応してもらう 荒川隆之さん(病院)パートナーの治療についても確認したいところですが、言いにくそうとのことなので、職場に女性薬剤師がいれば、その人に尋ねてもらうかもしれません。再受診について 中西剛明さん(薬局)まず、男性薬剤師が説明をしてもよいかを事前に聞いた上で、再受診するよう指導されているか、専門医に受診するよう指導されているかを確認します。Q3 疑義照会する?しない・・・10人ガイドラインとは異なるが ふな3さん(薬局)「性感染症診断・治療ガイドライン2016」では、CAMは7日間投与となっており、10日間の処方はやや長めかと思いますが、次回受診タイミングなども考慮して、特に疑義照会はしません。する・・・1人CAMの投与期間 JITHURYOUさん(病院)特にしなくてよいかもしれませんが、あえて言うなら、通常ガイドラインで7日間とされているCAMの投与期間を確認します。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?自己中断せずしっかり飲み切ること 中堅薬剤師さん(薬局)処方分は飲み切ることを説明します。副作用がひどく継続困難なときは、自己中断せずに医師に相談するよう助言します。症状がひどくなったら再受診を キャンプ人さん(病院)しっかり服用することの大切さと、下腹部痛がひどくなった場合はすぐに受診する点を説明します。治りきらない場合のリスクも説明 清水直明さん(病院)「指示された通りしっかり服用しないと、治り切らない場合があります。もしも、治り切らないまま放置すると、卵管通過障害を起こしたり、異常妊娠や不妊症の原因になりうるため、指示通りきちんと服用するようにしてください。また、次回の受診が指示されているなら、(治療効果判定のため)必ず受診するようにしてください。」他の医療機関の受診時の注意点 わらび餅さん(病院)相互作用についてチェックが必要なので、服用中に他の医療機関にかかる場合は、CAMを服用していることを必ず申し出るように伝えます。結膜炎への注意喚起 柏木紀久さん(薬局)「クラミジアの場合、手指を介して結膜炎を起こすこともあるので分泌物に触れた手で目などをこすったりしないようにしてください。」まだ25 歳で将来の妊娠のことを考えると、クラミジアによる卵管狭窄など、不妊の恐れもあり「服用後にちゃんと治癒しているかどうかを再診して確認してもらうようにしてください」とも伝えます。飲み忘れた場合の対処法 中西剛明さん(薬局)飲み忘れに気が付いたら、すぐに服用するように指導します。次回の服薬時間が迫っていても、服用するように指導します。市販薬を勝手に服用しないように JITHURYOUさん(病院)CAMはガイドラインでは投与期間が7日間なので、その時点で再診の予定があるのかを確認します。パートナーが受診・治療をしていなければ、受診するように話します。痛み止めの市販薬などを勝手に服用しないように説明します。既に医師から説明を受けているかもしれませんが、自己判断で服薬をやめたりしてきちんと治療を完遂しないと、クラミジアが残存し将来の不妊や流産、早産の危険性が高くなることや、仮に妊娠していた場合には産道感染のリスクが高まることも伝えます。Q5 その他、気付いたことは?アドヒアランスを考慮 児玉暁人さん(病院)アドヒアランスという点ではアジスロマイシン1,000mgの単回もありかなと思いました。踏み込んだ質問は難しい 柏木紀久さん(薬局)性的パートナーの有無、特定パートナー以外との性交渉、コンドーム使用の有無などの聴取は女性でも男性でも難しいと思いますが、女性薬剤師に交代することも考慮します。薬剤師の患者さん対応について わらび餅さん(病院)抗菌薬とは論点が違いますが、対応するのが女性薬剤師であっても、こういった処方や患者さんの対応に神経を使うのは男性と変わらないと思います。私が何歳であっても、相手が何歳でも。初対面の患者と考えると、誰であってもコミュニケーション取るのは難しいかと。私は病院勤務のため、産婦人科や性感染症科のクリニックの処方箋を多く応需している薬剤師の意見を聞いてみたいです。患者さんにどんなことを聞くのか、どのように聞き出すのか、どこまで指導するのか。このような処方のときには女性薬剤師が対応する、性感染症の男性患者だったら男性薬剤師が対応するなど、ルール決めをしている薬局はあるのでしょうか。個人的には、そのようなルール決めをしてしまったら業務が回らないし、薬剤師のレベルアップにはならないのですべきではないと思いますが、そういう配慮が必要なのでしょうか?女性薬剤師でも普通に前立線がんや精巣がんを扱う泌尿器科担当になりますし、男性薬剤師が卵巣がんや子宮がん、子宮脱など扱う婦人科も担当するのですが、以前、授乳しているところに出くわすとバツが悪いという理由で、産科病棟の担当を拒否する男性薬剤師がいたことに違和感を感じたことを思い出しました。「医師から十分な説明は受けていますか?」「何か聞いておきたいことはありますか?」 中堅薬剤師さん(薬局)私は泌尿器の処方箋を応需する薬局で数年、1人薬剤師として勤務したことがあり、若い女性の性感染症にも関わったことがあります。 女性患者さんだと確かに対応には困るのですが、「医師から十分な説明は受けていますか?」「何か聞いておきたいことはありますか?」の2点はどの患者さんにも聞いていました。聞きたい、知りたいということであれば、「男性の私が対応しても大丈夫ですか?」と確認し、必要な説明、助言をしていました。男性患者さんの場合は、ストレートに(配慮しながら)説明していました。ただ、女性事務員には距離をあえて置いてもらい、プライバシーには配慮していましたね。わらび餅さんが言う通り、薬剤師は患者さんの性別を問わず、全ての投薬ができるように努力することは大切だと思います。後日談(担当した薬剤師から)ちょうど2週後に再来局。薬の飲み忘れがあり、今日まで薬が残っていたとのこと。医師には怒られはしなかったが、治療が成功しないかもしれないと言われ心配になりました、と聞き取りました。念のためなのか、今度はミノサイクリン錠100mg 1 回1 錠 1 日1 回 朝食後 10 日分の処方が出ていました。これで治療は完結したのでしょうか、以降の来局はありませんでした。[PharmaTribune 2017年4月号掲載]

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第12回 内科からのホスホマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Salmonella enterica(サルモネラ)・・・10名Campylobacter(カンピロバクター)・・・9名Escherichia coli(大腸菌)・・・8名ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルスなどのウイルス・・・4名大腸菌へのホスホマイシン投与 奥村雪男さん(薬局)ひどい下痢・腹痛、食事内容から、細菌性腸炎の可能性があります。起因菌は疫学的にはカンピロバクター、サルモネラ、下痢原性大腸菌の場合が多いですが、ユッケは通常生の牛肉を使用していること、ホスホマイシンが選択されていることから、大腸菌が最も疑われている、もしくは警戒しているかも知れません。「JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015─腸管感染症─」では、成人の細菌性腸炎のエンピリックセラピーとして、第一選択にはレボフロキサシン、シプロフロキサシンといったキノロン系抗菌薬、アレルギーがある場合の第二選択としてアジスロマイシンやセフトリアキソンが挙げられています。O157 などの腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli ; EHEC)の場合、溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome ;HUS)※発症が問題となりますが、「発症から2日以内のホスホマイシンの使用はHUSの発症リスク低下と関連していた(補正後オッズ比0.15, 95%CI 0.03~0.78)」という報告1)があり、処方の際、それを意識されたのかも知れません。※ベロ(志賀)毒素を産生するO157などのEHEC感染をきっかけに、下痢症状を伴った溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全を主な症状とする可能性は低いがノロウイルスかも JITHURYOUさん(病院)O111、O157などのEHEC、カンピロバクター、サルモネラ、貝類等を食している可能性を否定できないので、可能性は低いですがノロウイルス、ロタウイルスも考えられます。大腸菌がもっとも疑わしい 荒川隆之さん(病院)生肉による食中毒と思われるので、大腸菌やカンピロバクター、サルモネラなどが原因菌として考えられます。ただ、サルモネラの場合はニューキノロン系抗菌薬、カンピロバクターの場合はマクロライド系抗菌薬が第一選択となります。今回の症例はホスホマイシンを使用していることから、大腸菌が最も疑わしいかと思います。Q2 患者さんに確認することは?副作用歴、併用薬、採便をしたか 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬関連の副作用歴、併用薬と、採便をしたかどうかを確認します。基礎疾患の有無 奥村雪男さん(薬局)薬(特にキノロン系抗菌薬)のアレルギーがあるか確認します。重症化のリスク因子となる免疫不全などの基礎疾患の有無も確認します。経過をもう一度確認 キャンプ人さん(病院)単なる胃腸炎の可能性もあるかもしれないので症状発現までの時間を確認します。便の培養結果はどうだったか。ノロウイルスの迅速結果はどうだったか(自費なので行わない施設もあるかもしれません)。便の色 柏木紀久さん(薬局)併用薬、便の色や状態(血が混じっているかどうか)、尿は出ているか、また尿の色などの状態はどうか、嘔吐や発熱はあるか、水分は摂取できているか。食事は摂れるか 中西剛明さん(薬局)食事の摂取が可能かどうか聞きます。用法に関連するからです。家族の情報も聞き出す わらび餅さん(病院)妻と子供の症状を尋ねます。患者と同じか、いつからか、血便や腹痛の場所、発熱の有無など患者や家族の症状詳細を聞き、家族としての原因菌や重症度の評価をします。また、妻や子供は現在、何の点滴をしているか、家族に処方箋は出たのかも確認したいです。脱水状態 JITHURYOUさん(病院)利尿薬やSGLT2阻害薬の併用確認をすることは重要だと思います。感染性胃腸炎では脱水により急性腎障害リスクが高くなり、これらの薬剤はもともとの薬理作用からそのリスクを助長する可能性があります。もしこれらの薬剤を使用していたら、一時休薬する必要性があると思います。他にも休薬すべき糖尿病治療薬はありますが、とりわけ脱水という視点で言うとこれらの薬剤になります。本症例では、現在意識清明で、脱水としても重症感はないのですが、ツルゴール反応※や尿量など確認したいと思います。※ ツルゴールとは皮膚の緊張のことで、前腕あるいは胸骨上の皮膚をつまみ上げて放し、2秒以内に皮膚が元の状態に戻れば正常と判断し、2秒以上かかるようであれば脱水症の可能性がある。Q3 疑義照会する?する・・・6人ホスホマイシンの使用量 荒川隆之さん(病院)ホスホマイシンの使用量が少ないので疑義照会します。ただEHECの場合、抗菌薬使用により菌の毒素放出が亢進されHUS発症の危険性が増すとの報告もあるので、使用量を加減しているのかもしれません。海外においては、EHECの場合に抗菌薬の使用を推奨しないことが多いのですが、国内ではホスホマイシンが有効であったとの報告1)もあり、議論の残るところです。腎障害を考慮しての減量の場合もあるかもしれませんが、もともと経口では血中濃度が上がりにくい抗菌薬ですので、ある程度ならば通常用量でよいと考えています。医師の処方意図、真意を探ることも意識して疑義照会を行います。用法の提案も 中西剛明さん(薬局)抗菌薬が必要か確認します。うっかり投与すると菌の破壊で毒素放出量が増加し、HUSを発症するかもしれないからです。個人的には、ホスホマイシンは使用しない方が安心できます。ホスホマイシンを投与するなら、食事を取れない可能性を考慮して、用法は食後ではなく、8時間ごとを提案します。抗菌薬は必要? JITHURYOUさんホスホマイシン投与量1.5g/日と投与期間について疑義照会します。仮にEHECとしても、抗菌薬治療に対しては要・不要双方の見解があります。本症例は、救急外来で点滴後に朝一番の来局ということもあり、重症感があまり感じられないこと、ホスホマイシン投与量が絶対的に少ないことなどを勘案すると、抗菌薬自体不要ではないのでしょうか。仮に必要だとして、このままホスホマイシンを続けるのか、JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015では1日2gとなっていること、第一選択薬であるニューキノロン系抗菌薬にしないのかを確認したいです。抗菌作用以外の効果(HUS予防や炎症性サイトカイン抑制)を狙っているのかも併せて確認したいです。しない・・・4人EHECの可能性の場合もあるので現状で様子見 清水直明さん(病院)疑義照会はしません。入院はしていないようなので、症状は軽症~中等症だと想定すると、カンピロバクター属菌、サルモネラ属菌やノロウイルス・サポウイルスなどのウイルス性の場合、抗菌薬投与は不要であると思います。しかしながら、万が一、O157を代表とするEHECの可能性がある場合には、HUSや脳炎などを併発して重篤化することが多いので、ホスホマイシンの投与で様子を見てもいいと思います。ただし、EHECに対する抗菌薬投与の是非については、専門家の間でも意見が分かれているようです。投与量はやや少なめですが、腸管内での作用を期待しており、ホスホマイシンのバイオアベイラビリティは比較的低く(吸収率は12%)、腸管内に高濃度でとどまるのでそのままとします。用量で迷うが・・・ ふな3さん(薬局)ホスホマイシンの量が少ない(2~3g/日が適当)と思います。微妙な量なので、疑義照会をするか非常に悩ましいところです。ホスホマイシンの有効性については議論があるところなので、疑義照会はしないと思います。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?抗菌薬の服用タイミング、抗菌薬を飲みきる 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬は食後である必要はなく、食事できない場合でも、普段の食事の時間に合わせて服用してよいことを伝えます。採便をしたことが分かれば、ホスホマイシンはつなぎの治療であることを説明します。もし採便しておらず、再受診指示もないのであれば、自ら再受診した方がよいと助言します。再受診の目安 柏木紀久さん(薬局)注意してもらうのは脱水と二次感染、EHECだった場合はHUSへの移行が心配です。また、「血尿、浮腫、貧血、痙攣などが出たら再度受診してください」とも伝えます。下痢止めは使用しないこと 清水直明さん(病院)「指示された通りに正しく最後まで服用してください。ただし、服用の途中であっても、便に血が混じってきたり、意識障害など普段と違った様子が見られた場合は、すぐに救急外来を受診してください。市販の下痢止めは症状を悪化させることがあるので、使用しないでください。」水分補給と二次感染予防 ふな3さん(薬局)「食欲がなく食事が取れなくても、1日3回5日分、しっかり飲みきってください。下痢によって脱水症状が心配されますので、経口補水液などで、しっかり水分補給をしてください。(外出先での排便により感染を広げる可能性があるので)下痢が治まるまでは、自宅で過ごすようにしてください。自宅に他の同居家族がいる場合には、ドアノブ・便器の消毒やタオルの共用を避けるなど注意してください。」Q5 その他、気付いたことは?検査結果までのつなぎ 中堅薬剤師さん(薬局)経験上ですが、開業医は便検査結果が出るまでの「つなぎ」として、ホスホマイシンを数日分処方することがあります。本症例でも、夜間救急で対応した医師も専門ではなく、便検査もできないため、同じような意図で対応したのではないか、と推測します。重篤化のリスクと再受診について 荒川隆之さん(病院)小児ではないので可能性は低いと思うのですが、EHECでは、5~10%の患者さんでHUSを起こし重篤化することが知られているため、元気がない、尿量が少ない、浮腫、出血斑、頭痛、傾眠傾向などの症状が見られた場合にはすぐに受診するように伝えます。時間経過の重要性 キャンプ人さん(病院)菌やウイルスにより潜伏期間が異なるため、丁寧に時間経過を聞くことが大切だと思います。原因菌や経過は分からないことが多い わらび餅さん(病院)実際、このような腸管感染の原因菌は培養提出しないとはっきりせず、ほとんどの場合分からないままです。すぐに元気になってほしいと願うばかりで、正しい選択だったのか経過の確認も難しいです。とりあえず抗菌薬? JITHURYOUさん(病院)本症例は軽症である可能性があり、前述したように抗菌薬投与が必須ではないと考えることもできます。水分を取っても吐くような状況であれば、点滴が必要となります。対症的に五苓散(柴苓湯)などの併用の提案も考慮したいです。ひどい下痢ということから、整腸剤も最大投与量を提案したいです。また考えたくないのですが、夜間診療ということで「とりあえず抗菌薬を処方しておけばなんとかなる」という考えもあったかもしれません。後日談(担当した薬剤師から)用量について疑義照会をしましたが、処方医が外部の非常勤の医師で、既に当直を終えて帰宅しており、回答が得られませんでした。本来は、疑義が解決していないのでこのまま調剤してはいけないのですが、カルテを確認してもらい、特に不自然な点もないことから、急性疾患の患者を待たせることはできないという状況もあり、やむなくそのまま調剤しました。1回きりの来局で、その後の経過は不明です。1)Clin Nephrol 1999; 52(6): 357-362. PMID:10604643

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第11回 内科クリニックからのミノサイクリン、レボフロキサシンの処方 (後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3疑義照会する?Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?抗菌薬を飲みきる キャンプ人さん(病院)母子ともに、指示された期間きちんと服用するように説明します。服用時の注意や改善しない場合の対処 清水直明さん(病院)レボフロキサシンもしくはミノサイクリンの処方が確定している場合の説明例です。「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)とともに服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」「3日ほど服用しても全く症状が改善しないか、悪化したと感じる時は、服用の途中でも一度ご相談ください」「ミノサイクリンを服用中は、めまい感があらわれることがあるので、車の運転など危険を伴う機械の操作、高所での作業などは行わないでください」「ミノサイクリンは、もしも食道にくっついてそこで溶けてしまうと食道に潰瘍ができることがありますので、多めの水でしっかり服用してください」尿の色 奥村雪男さん(薬局)ミノサイクリンは尿が青~緑に着色する場合があるので、あらかじめ伝えておいた方が無難だと思います。カルシウムと難溶性のキレートを形成するので、牛乳はミノマイシン服用後2時間程度あけて摂取するように、とも説明した方がよいでしょう。解熱鎮痛薬との併用について ふな3さん(薬局)母については、ひどいめまいや悪心・食欲不振が出た場合には、医師に相談するよう伝えます。子には抗菌薬を飲みきることと、服用期間に発熱・頭痛等が起きた場合、一部のNSAIDs で痙攣が誘発される可能性があるので、自己判断でのNSAIDsの使用を控え、重い症状であれば医師に相談するよう伝えます。飲み忘れた場合の対処 中西剛明さん(薬局)母には頭痛、めまい、倦怠感が起こる可能性について伝えます。おそらくすぐに良くなると思われるが、これらが起きたとしても途中で服用を中止しないこと、倦怠感の場合は、薬剤性肝障害の可能性もあるので受診をするように説明をしておきます。また、朝は乳製品の摂取をできるだけ控えることを伝えます。食道刺激作用があるため、服用後すぐに横にならないように、とも伝えます。子には短期間であれば関節障害の発症は心配いらないものの、アキレス腱などの腱断裂の危険があるので、治療中は激しい運動を避けるように説明します。また、朝の服用となっていますが、飲み忘れたときはすぐに飲むことと、夕から寝る前にかけて服用すると不眠や悪夢を経験する可能性があることを付け加えます。Q5 その他、気付いたことは?肺炎マイコプラズマの治療方針 奥村雪男さん(薬局)15歳以下の小児の場合日本マイコプラズマ学会の「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」では、マイコプラズマ感染症で、「マクロライド系薬が無効の肺炎には、使用する必要があると判断される場合は、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮する。ただし、8歳未満には、テトラサイクリン系薬剤は原則禁忌である」とされています。マクロライドが無効との判断は、服用2~3日で解熱しなかった場合でなされるようです。必要があると判断された場合と言うのは、年齢や流行状況、重症感で判断されるのではないかと思います。ちなみに、マクロライドで症状の改善が無い場合の耐性率は90%以上、一方でマクロライドの前投与がない場合の耐性率は50%以下に留まるとの報告があります(IASR Vol.33 p.267-268:2012年10月号)。他の医療機関で治療を受けていたとの事から、すでにクラリスロマイシンなどのマクロライドを服用していたのかも知れません。小児呼吸器感染症ガイドライン2011では、全身状態が良好で、チアノーゼがなく、呼吸数正常、努力呼吸なし、胸部X線陰影が片側の1/3以下、胸水なし、SpO2>96%、循環不全なし、人工呼吸器管理不要の全てを満たす場合、外来でフォロー出来る軽症と判断するようです。治療期間は、「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」に従うと、トスフロキサシン、テトラサイクリンの場合7~14日とされるようです。5日間はやや短く、治療への反応を見ているのかも知れません。成人の場合次に母親の方ですが、親子で同じような症状であり、息子さんからの感染が考えられます。「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」によれば、成人のマクロライド耐性マイコプラズマの第1選択はテトラサイクリンとされます。成人に対するマイコプラズマ肺炎の適切な治療期間についてはエビデンスに乏しいが、エキスパートオピニオンとして7~10日間が適当であると考えられるとしています。学校で広まっている可能性も キャンプ人さん(病院)乾いた咳はマイコプラズマ肺炎の初期症状でもあり、きちんと抗菌薬を服用すること。そして他の部員にも広がっている可能性があり、学校保健法を考慮して出席停止になる可能性もあることを伝えます。小児へのミノサイクリン投与について 中西剛明さん(薬局)本来は「肺炎の場合に抗菌薬を使う」が原則ですから、肺炎に至っていたのかどうかが気になるところです。おそらく、前医でマクロライドの投薬を受けてきたのでしょう。マイコプラズマは免疫系から逃れて増殖するので、免疫に作用するミノサイクリンは、最小発育阻止濃度(MIC)はマクロライド系抗菌薬に劣るものの、十分な効果が期待できます。小児の場合、1回の服用で歯の黄染の痕跡が残るとされているので、ミノサイクリンはできるだけ避けた方がよいと考えます。ニューキノロン系抗菌薬とのリスクとベネフィットのバランスを考えると、禁忌とはいえ、必要なこともあると思います。この症例ではレボフロキサシンが選択されていますが、本当は適応症を持っているトスフロキサシンの方がよいでしょう。ニューキノロン系抗菌薬は耐性ができやすいので、できるだけ避けたいですね。鎮咳薬は必要? 中堅薬剤師さん(薬局)母子ともにデキストロメトルファン2週間の処方は、必要なのかな? と思いました。咳喘息もあるようなら、吸入薬を導入するほうがよい気がします。子に抗菌薬は不要では JITHURYOUさん(病院)子は解熱しており、レボフロキサシンが必要か疑問です。必要な場合も当然あるとは思いますが、アキレス腱炎や断裂、また動物レベルで関節異常の副作用の報告があり、成長期の子供に使用が必要か吟味することを考えました。仮に肺炎マイコプラズマによる呼吸器感染であるならば、咳の症状は強いかもしれませんが解熱していること、改善しても咳症状のみ遷延することがあるからです。結核菌を考慮すると、症状をマスクするので菌の同定がされていないうちに投与することはリスクが高いのではないのかと考えました。加えて、マスク着用、水分補給をして安静を心がけることも指導したいです。後日談2週後の時点では来局なし。3 週間後、母にだけ「麦門冬湯9g 分3 毎食前 7日分」が処方された。抗菌薬の処方はなかった。聞き取りの結果、「割と早く咳は楽にはなった、咳は続くが特に抗菌薬によるトラブルはなかった」とのことだった。[PharmaTribune 2017年2月号掲載]

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第10回 内科クリニックからのミノサイクリン、レボフロキサシンの処方(前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Mycoplasma pneumoniae(肺炎マイコプラズマ)・・・全員Bordetella pertussis(百日咳菌)・・・6名Chlamydophila pneumoniae(クラミジア・ニューモニエ)・・・4名Mycobacterium tuberculosis(結核菌)・・・3名マクロライド耐性の肺炎マイコプラズマ 奥村雪男さん(薬局)母子ともに急性の乾性咳嗽のみで他に目立った症状がないこと、およびテトラサイクリン、ニューキノロン系抗菌薬が選択されていることから、肺炎マイコプラズマ感染症、それもマクロライド耐性株による市中肺炎を想定しているのではないかと思います。「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」によれば、成人のマクロライド耐性マイコプラズマの第1選択はテトラサイクリンとされています。マイコプラズマと百日咳 中堅薬剤師さん(薬局)母子ともマイコプラズマか百日咳と予想します。しつこい乾性咳嗽(鎮咳薬が2週間も処方されていることから想像)もこれらの感染症の典型的症状だと思います。結核の可能性も わらび餅さん(病院)百日咳も考えましたが、普通に予防接種しているはずの13 歳がなる可能性は低いのではないでしょうか。症状からは結核も考えられますが、病歴など情報収集がもっと必要です。百日咳以外の可能性も? 清水直明さん(病院)発熱がなく2週間以上続く「カハっと乾いた咳」、「一度咳をし出すとなかなか止まらない」状態は、発作性けいれん性の咳嗽と考えられ、百日咳に特徴的な所見だと考えます。母親を含めた周囲の方にも咳嗽が見られることから、周囲への感染性が高い病原体であると予想されます。百日咳は基本再生産数(R0)※が16~21とされており、周囲へ感染させる確率がかなり高い疾患です。成人の百日咳の症状は小児ほど典型的ではないので、whoop(ゼーゼーとした息)が見られないのかもしれません。また、14日以上咳が続く成人の10~20%は百日咳だとも言われています。ただし、百日咳以外にもアデノウイルス、マイコプラズマ、クラミジアなどでも同様の症状が見られることがあるので、百日咳菌を含めたこれらが原因微生物の可能性が高いと予想します。※免疫を持たない人の集団の中に、感染者が1人入ったときに、何人感染するかを表した数で、この数値が高いほど感染力が高い。R0<1であれば、流行は自然と消失する。なお、インフルエンザはR0が2~3とされている。Q2 患者さんに確認することは?アレルギーやこれまでの投与歴など JITHURYOUさん(病院)母子ともにアトピー体質など含めたアレルギー、この処方に至るまでの投薬歴、ピロリ除菌中など含めた基礎疾患の有無、併用薬(間質性肺炎のリスク除外も含めて)、鳥接触歴を確認します。さらに、母親には妊娠の有無、子供には基礎疾患(喘息など)の有無、症状はいつからか、運動時など息苦しさや倦怠感の増強などがないかも合わせて確認します。併用薬・サプリメントについて  柏木紀久さん(薬局)車の運転や機械作業などをすることがあるか。ミノサイクリンやレボフロキサシンとの相互作用のあるサプリメントを含めた鉄、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの含有薬品の使用も確認します。結核の検査 ふな3さん(薬局)母には結核の検査を受けたか、結果確認の受診はいつかを聞きます。子にはNSAIDs などレボフロキサシンの併用注意薬の服用の有無、てんかん、痙攣などの既往、アレルギーを確認します。お薬手帳の確認 わらび餅さん(病院)母は前医での処方が何だったのか、お薬手帳などで確認したいです。Q3 疑義照会する?母の処方について疑義照会する・・・2人子の処方について疑義照会する・・・全員ミノサイクリンの用法 キャンプ人さん(病院)ミノサイクリンの副作用によるめまい感があるので、起床時から夕食後または眠前へ用法の変更を依頼します。疑義照会しない 中堅薬剤師さん(薬局)母については、第1選択はマクロライド系抗菌薬ですが、おそらく他で処方されて改善がないので第2 選択のミノサイクリンになったのでしょう。というわけで、疑義照会はしません。ミノサイクリン起床時服用の理由 ふな3さん(薬局)疑義照会はしません。ミノサイクリンが起床時となっているのは、相互作用が懸念される鉄剤や酸化マグネシウムを併用中などの理由があるのかもしれません。食事による相互作用も考えられるため、併用薬がなかったとしても、起床時で問題ないと思います。ミノサイクリンのあまりみない用法 中西剛明さん(薬局)母に関しては、疑義照会しません。初回200mgの用法は最近見かけませんが、PK-PD理論からしても、時間依存型、濃度依存型、どちらにも区分できない薬剤ですので、問題はないと考えます。加えて、2回目の服用法が添付文書通りなので、計算ずくの処方と考えます。起床時の服用も見かけませんが、食道刺激性があること、食物、特に乳製品との相互作用があることから、この服用法も理にかなっていると思います。レボフロキサシンは小児で禁忌 児玉暁人さん(病院)13歳は小児で禁忌にあたるので、レボフロキサシンについて疑義照会します。代替薬としてトスフロキサシン、ミノサイクリンがありますので、あえてレボフロキサシンでなくてもよいかと思います。キノロン系抗菌薬は切り札 キャンプ人さん(病院)最近の服用歴を確認して、前治療がなければマクロライド系抗菌薬がガイドラインなどで推奨されていることを伝えます。小児肺炎の各種原因菌の耐性化が進んでおり、レボフロキサシンはこれらの原因菌に対して良好な抗菌活性を示すため、キノロン系抗菌薬は小児(15 歳まで)では切り札としていることも伝えます。マクロライド系抗菌薬かミノサイクリンを提案 荒川隆之さん(病院)子に対して、医師がマイコプラズマを想定しているならクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬、マクロライド耐性を危惧しているなら、母親と同じくミノサイクリンを提案します。ミノサイクリンの場合、歯牙着色などもあり8 才未満は特に注意なのですが、お子さんは13才ですので選択肢になると考えます。そもそも抗菌薬は必要か JITHURYOUさん(病院)子の抗菌薬投与の必要性を確認します。必要なら小児の適応があるノルフロキサシンやトスフロキサシンなどへの変更を提案します。咳自体はQOLを下げ、体力を消耗し飛沫感染リスクを上げることに加え、患者が投与を希望することがあり、心情的に鎮咳薬の必要性を感じます。効果不十分なら他の鎮咳薬も提案します。子の服薬アドヒアランスについて わらび餅さん(病院)体重56kgと言っても、まだ13歳。レボフロキサシンは禁忌であることを問い合わせる必要があります。処方医は一般内科なので、小児禁忌であることを知らないケースは有り得ます。ついでに、なぜ母と子で抗菌薬の選択が異なるのか、医師からその意図をききだしたいです。母の前医での処方がマクロライド系抗菌薬だったら、その効果不良(耐性)のためだと納得できます。子供だけがキノロン系抗菌薬になったのは、1日1回の服用で済むため、アドヒアランスを考慮しての選択かと思いました。学童が1日2~3回飲むのは、難しいこともありますが、母子でミノマイシンにしても1日2回になるだけで、アドヒアランスは維持できるものと思います。あくまで第1選択はマクロライド系抗菌薬 清水直明さん(病院)母と子は基本的に同じ病原体によって症状が出ていると考えられるので、同一の抗菌薬で様子を見てもよいのではないでしょうか。ミノサイクリン、レボフロキサシンともにマイコプラズマ、クラミジアなどの非定型菌にも効果があると思いますが、百日咳菌をカバーしていないので、これらをカバーするマクロライド系抗菌薬であるクラリスロマイシンやアジスロマイシンなどへの変更を打診します。マイコプラズマのマクロライド耐性化が問題になっていますが、それでも第1選択薬はマクロライド系抗菌薬です。13歳の小児にレボフロキサシン投与は添付文書上、禁忌とされていますが、アメリカでは安全かつ有効な他の選択肢がない場合、小児に対しても使用されているようです。前治療が不明なので何とも言えませんが、他の医療機関でマクロライド系抗菌薬の投与を「適正に」受けていたとすると、第2選択肢としてミノサイクリン、レボフロキサシン(15歳以上)が選択されることは妥当かもしれません。他の医療機関でマクロライド系抗菌薬の投与を「不適切に」(過少な投与量・投与期間)受けていたとすると、十分な投与量・投与期間で仕切り直してもよいのではないでしょうか。後編では、抗菌薬について患者さんに説明することは?、その他気付いたことを聞きます。

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第8回 内科クリニックからのクラリスロマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?マイコプラズマ・・・7名百日咳菌・・・6名コロナウイルス、アデノウイルスなどのウイルス・・・3名結核菌・・・2名肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)・・・6名モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)・・・2名インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)・・・1名遷延性の咳嗽 清水直明さん(病院)3週間続く咳嗽であることから、遷延性の咳嗽だと思います。そうなると感染症から始まったとしても最初の原因菌は分からず、ウイルスもしくは非定型菌※による軽い感冒から始まったことも予想されるでしょう。他に、成人であっても百日咳の可能性も高いと思われます。その場合、抗菌薬はクラリスロマイシン(以下、CAM)でよいでしょう。初発がウイルスや非定型菌であったとしても、二次性に細菌感染を起こして急性気管支炎となっているかもしれません。その場合は、Streptococcus pneumoniae、Haemophilus influenzae、Moraxella catarrhalisなどが原因菌として想定されます。このようなときにグラム染色を行うことができると、抗菌薬選択の参考になります。※非定型菌は一般の細菌とは異なり、βラクタム系抗菌薬が無効で、培養や染色は困難なことが多い。マイコプラズマ、肺炎クラミジア、レジオネラなどがある。結核の可能性も 児玉暁人さん(病院)長引く咳とのことで、マイコプラズマや百日咳菌を疑います。患者背景が年齢しか分かりませんが、見逃すと怖いので念のため結核も考慮します。細菌感染症ではないのでは? 中西剛明さん(薬局)同居家族で最近かかった感染症があるかどうかを確認します。それで思い当たるところがなければ、まず、ウイルスかマイコプラズマを考えます。肺炎の所見もないので、肺炎球菌、インフルエンザやアデノウイルスなどは除外します。百日咳は成人の発症頻度が低いので、流行が確認されていなければ除外します。RSウイルスやコロナウイルス、エコーウイルスあたりはありうると考えます。ただ、咳の続く疾患が感染症とは限らず、ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物(シムビコート®)が処方されているので、この段階では「細菌感染症ではないのでは?」が有力と考えます。Q2 患者さんに何を確認する?薬物相互作用 ふな3さん(薬局)CAMは、重大な相互作用が多い薬剤なので、併用薬を確認します。禁忌ではありませんが、タダラフィル(シアリス®)などは患者さんにとっても話しにくい薬なので、それとなく確認します。喫煙の有無と、アレルギー歴(特にハウスダストなどの通年性アレルギー)についても確認したいです。自覚していないことも考慮  児玉暁人さん(病院)やはり併用薬の確認ですね。スボレキサント錠(ベルソムラ®)やC型肝炎治療薬のアナスプレビルカプセル(スンベプラ®)は、この年齢でも服用している可能性があります。ピロリ菌の除菌など、パック製剤だと本人がCAM服用を自覚していないことも考えられるので、重複投与があるかどうかを確認します。シムビコート®は咳喘息も疑っての処方だと思います。感染性、非感染性のどちらもカバーし、β2刺激薬を配合したシムビコート®は吸入後に症状緩和を実感しやすく、患者さんのQOLに配慮されているのではないでしょうか。過去に喘息の既往はないか、シムビコート®は使い切りで終了なのか気になります。最近の抗菌薬服用歴 キャンプ人さん(病院)アレルギー歴、最近の抗菌薬服用歴、生活歴(ペットなども含める)を確認します。受診するまでの症状確認とACE阻害薬 柏木紀久さん(薬局)この3週間の間に先行して発熱などの感冒症状があったか、ACE阻害薬(副作用に咳嗽がある)の服用、喫煙、胸焼けなどの確認。Q3 抗菌薬の使用で思い浮かんだことは?咳喘息ならば・・・ 清水直明さん(病院)痰のからまない乾性咳嗽であれば、咳喘息の可能性が出てきます。そのために、シムビコート®が併用されていると思われ、それで改善されれば咳喘息の可能性が高くなります。咳喘息に対しては必ずしも抗菌薬が必要とは思いませんが、今の状態では感染症を完全には否定できないので、まずは今回の治療で反応を見たいと医師は考えていると思います。抗菌薬の低感受性に注意 JITHURYOUさん(病院)CAMは、抗菌作用以外の作用もあります。画像上、肺炎はないということですが、呼吸器細菌感染症としては肺炎球菌、インフルエンザ菌を想定しないといけないので、それらの菌に対する抗菌薬の低感受性に注意しなければなりません。さらに溶連菌、Moraxella catarrhalisなども考慮します。抗菌薬の漫然とした投与に注意 わらび餅さん(病院)痰培養は提出されていないようなので、原因菌を特定できるか分かりません。CAM耐性菌も以前より高頻度になっているので、漫然と投与されないように投与は必要最低限を維持することが大切だと思います。再診時の処方が非常に気になります。CAMの用量 柏木紀久さん(薬局)副鼻腔気管支症候群ならCAMは半量での処方もあると思いますが、1週間後の再診で、かつ感染性咳嗽の可能性を考えると400mg/日で構わないと思います。しっかりとした診断を 荒川隆之さん(病院)長引く咳の原因としては、咳喘息や後鼻漏、胃食道逆流、百日咳、結核、心不全、COPD、ACE阻害薬などの薬剤性の咳など多くありますが、抗菌薬が必要なケースは少ないです。もし百日咳であったとしても、感染性は3週間程度でなくなることが多く、1~2カ月程度続く慢性咳嗽に対してむやみに抗菌薬を使うべきではないと考えます。慢性咳嗽の原因の1つに結核があります。ニューキノロン系抗菌薬は結核にも効果があり、症状が少し改善することがありますが、結核は複数の抗菌薬を組み合わせて、長い期間治療が必要な疾患です。そのため、むやみにニューキノロン系抗菌薬を投与すると、少しだけ症状がよくなる、服用が終わると悪くなる、を繰り返し、結核の発見が遅れる可能性が出てくるのです。結核は空気感染しますので、発見が遅れるということは、それだけ他の人にうつしてしまう機会が増えてしまいます。また、結核診断前にニューキノロン系抗菌薬を投与した場合、患者自身の死亡リスクが高まるといった報告もあります(van der Heijden YF, et al. Int J Tuberc Lung Dis 2012;16(9): 1162-1167.)。慢性咳嗽においてニューキノロン系抗菌薬を使用する場合は、結核を除外してから使用すべきだと考えます。まずはしっかりした診断が大事です。Q4 その他、気付いたことは?QOLのための鎮咳薬 JITHURYOUさん(病院)小児ではないので可能性は低いですが、百日咳だとするとカタル期※1でマクロライドを使用します。ただ、経過として3週間過ぎていることと、シムビコート®が処方されているので、カタル期ではない可能性が高いです。咳自体は自衛反射で、あまり抑えることに意味がないと言われていますが、本症例では咳が持続して夜間も眠れないことや季肋部※2の痛みなどの可能性もあるので、患者QOLを上げるために、対症療法的にデキストロメトルファンが処方されたと考えます。※1 咳や鼻水、咽頭痛などの諸症状が起きている期間※2 上腹部で左右の肋骨弓下の部分鎮咳薬の連用について 中堅薬剤師さん(薬局)原疾患を放置したまま、安易に鎮咳薬で症状を改善させることは推奨されていません1)。また、麦門冬湯は「乾性咳嗽の非特異的治療」のエビデンスが認められている2)ので、医師に提案したいです。なお、遷延性咳嗽の原因は、アレルギー、感染症、逆流性食道炎が主であり、まれに薬剤性(副作用)や心疾患などの要因があると考えています。話は変わりますが、開業医の適当な抗菌薬処方はずっと気になっています。特にキノロン系抗菌薬を安易に使いすぎです。高齢のワルファリン服用患者にモキシフロキサシンをフルドーズしようとした例もありました。医師の意図 中西剛明さん(薬局)自身の体験から、マイコプラズマの残存する咳についてはステロイドの吸入が効果的なことがあると実感しています。アレルギーがなかったとしても、マイコプラズマ学会のガイドラインにあるように、最終手段としてのステロイド投与(ガイドラインでは体重当たり1mg/kgのプレドニゾロンの点滴ですが)は一考の余地があります。また、マイコプラズマ学会のガイドラインにも記載がありますが、このケースがマイコプラズマであれば、マクロライド系抗菌薬の効果判定をするため、3日後に再受診の必要があるので3日分の処方で十分なはずです。ステロイド吸入が適切かどうか議論のあるところですが、シムビコート®を処方するくらいですから医師は気管支喘息ということで治療をしたのだと考えます。Q5 患者さんに何を説明する?抗菌薬の患者さんに対する説明例 清水直明さん(病院)「咳で悪さをしているばい菌を殺す薬です。ただし、必ずしもばい菌が悪さをしているとは限りません。この薬(CAM)には、抗菌作用の他にも気道の状態を調節する作用もあるので、7日分しっかり飲み切ってください。」CAMの副作用 キャンプ人さん(病院)処方された期間はきちんと内服すること、副作用の下痢などの消化器症状、味覚異常が出るかもしれないこと。抗菌薬を飲み切る 中堅薬剤師さん(薬局)治療の中心になるので、CAMだけは飲み切るよう指示します。また、副作用が出た際、継続の可否を主治医に確認するよう話します。別の医療機関にかかるときの注意 ふな3さん(薬局)CAMを飲み忘れた場合は、食後でなくてよいので継続するよう説明します。また、別の医師にかかる場合は、必ずCAMを服用していることを話すよう伝えます。後日談本症例の患者は、1週間後の再診時、血液検査の結果に異常は見られなかったが、ハウスダストのアレルギーがあることが分かり、アレルギー性咳嗽(咳喘息)と診断された。初診後3日ほどで、咳は改善したそうだ。医師からはシムビコート®の吸入を続けるよう指示があり、新たな処方はなされなかった。もし咳が再発したら受診するよう言われているという。1)井端英憲、他.処方Q&A100 呼吸器疾患.東京、南山堂、2013.2)日本呼吸器学会.咳嗽に関するガイドライン第2版.[PharmaTribune 2016年11月号掲載]

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第6回 内科からのオーグメンチン・クラリスロマイシンの処方 (後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1処方箋を見て、思いつく症状・疾患名は?Q2患者さんに確認することは?Q3 患者さんに何を伝える?副作用と再受診 キャンプ人ペニシリン系の副作用である下痢、発疹、クラリスロマイシンの副作用である下痢について説明します。また、原因菌が不明なので、出張中もきちんと薬を飲んで再度病院へ受診して点滴するように説明します。抗菌薬を決まった時間に服用 奥村雪男オーグメンチン®配合錠に含まれるアモキシシリンがペニシリン系で時間依存であることから、飲み忘れなく定時に服用することが大事であることを説明します。他院受診時に服薬状況を伝えることとアセトアミノフェンの服用方法 ふな3出張先などで体調が急変した場合に備えて、必ずおくすり手帳(もしくは薬情)を携帯して、これらの薬剤を服用していることを受診先でも伝えるように説明します。また、アセトアミノフェンの量が多めなので、高熱や寒気がひどくなければ、1回300mg 1錠でも効果は得られることと、1回2錠で服用する場合にはできれば6時間、最低4時間をあけて、1日2回までの服用にとどめるよう伝えます。飲酒や喫煙を控える JITHURYOU薬剤と同時に飲酒することはもちろん、飲酒も控える(特にアセトアミノフェンと飲酒は代謝が促進され、肝毒性のリスクが上昇する)ことを伝えます。仕事が多忙のようですが、安静にして外出は控えたほうが良いです。咳嗽が誘発されるので当然喫煙は控えるよう伝えます。他者にうつさないように わらび餅仕事を続けるとのことなので、他者にうつさぬよう感染対策(マスクや手洗い、消毒など)をお願いします。原因菌がはっきりしていないので、良くなっても途中で服薬を中断せず、3日以内に再受診するよう説明します。治癒傾向 中西剛明治療の経過で、食欲不振、横になるより起きていたほうが楽、という状況が改善されない場合は「無効」「悪化」を疑わなくてはいけません。眠ることができるようになった、食欲が回復してきたら治癒傾向ですよ、とお話しします。Q4 疑義照会をする?しない?疑義照会するオーグメンチン®配合錠の規格 奥村雪男添付文書上のオーグメンチン®配合錠の用法用量は「1回375mg 分3~4 6~8時間」なので、念のためオーグメンチン®配合錠の規格が125RSでなく250RSで良いか確認します。ただし、原因菌としてペニシリン耐性肺炎球菌を想定して、アモキシシリンを高用量で処方した可能性を踏まえておきます。CYP3A4を基質とする併用禁忌の薬剤を服用していて中止できない場合は、マクロライド系でCYP3A4阻害作用の弱いアジスロマイシンへの変更を提案します。消化器系の副作用予防を考慮 清水直明オーグメンチン®配合錠250RS 6錠/日は添付文書の年齢、症状により適宜増減の範囲内、アモキシシリンは1,500mgと高用量で、S. pneumoniaeを念頭においた細菌性肺炎の治療としては妥当と考えます。ただし、オーグメンチン®配合錠250RSでアモキシシリンを1,500mg投与しようとすると、必然的にクラブラン酸の量も多くなり、消化器系の副作用が出やすくなると思います。小児用ではクラブラン酸の比率を下げた製剤がありますが、成人用ではありません。そのため、オーグメンチン®配合錠250RS 3錠/日+アモキシシリン錠250mg 3錠/日を組み合わせて投与する方が、消化器系副作用の可能性は低くできると思うので疑義照会します(大部分のM. catarrhalisや一部のH. influenzae、あるいは一部の口腔内常在菌は、β-ラクタマーゼを産生しアモキシシリンを不活化する可能性があり、β-ラクタマーゼ阻害薬の配合剤が治療には適しているとされているので、あえてオーグメンチン®配合錠とアモキシシリンの組み合わせを提案します)。クラリスロマイシンについては、非定型肺炎も視野に入れて併用されていますが、M. pneumoniaeについてはマクロライド耐性株が非常に増加しています。しかし、そのような中でもM. pneumoniaeに対しての第1選択はクラリスロマイシンなどのマクロライド系薬であり4)、初期治療としては妥当と考えます。細菌性肺炎であったとしても、マクロライド系薬の新作用※3を期待して併用することで、症状改善を早めることができる可能性があるため併用する意義があると思います。※3 クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬は、抗菌作用の他に、免疫炎症細胞を介する抗炎症作用、気道上皮細胞における粘液分泌調整作用、バイオフィルム破壊作用などをもつことが明らかになっている。保険で査定されないように 中西剛明抗菌薬の2種併用のため、疑義照会をします。医師から見ると「不勉強な薬剤師だ」と勘違いされてしまうかもしれませんが、抗菌薬の併用療法は根拠がない場合、査定の対象になることがあり、過去査定された経験があります。そのため「併用の必要性を理解している」上での問い合わせをします。耐性乳酸菌製剤の追加 中堅薬剤師過去に抗菌薬でおなかが緩くなって飲めなかったことがある場合は、耐性乳酸菌製剤の追加を依頼します。併用禁忌に注意 児玉暁人クラリスロマイシンとの併用禁忌薬を服用していれば、疑義照会をします。クラリスロマイシンの処方日数 ふな3セフトリアキソンを点滴していることから,処方医は細菌性肺炎を想定しつつも「成人市中肺炎診療ガイドライン」から非定型肺炎の疑いも排除できないため、クラリスロマイシンを追加したと考えました。セフトリアキソン単剤では、万一、混合感染であった場合に非定型肺炎の原因菌が増殖しやすい環境になってしまうことが懸念されるため、治療初期からクラリスロマイシンとの併用が望ましいと考えられるので、クラリスロマイシンの処方を4日に増やして、今日からの服用にしなくて良いのか確認します。基礎疾患の有無を確認してから 柏木紀久細菌性肺炎で原因菌が不明の場合を考え、まず「成人市中肺炎診療ガイドライン」に沿って基礎疾患の有無を確認します<表3> 。軽症基礎疾患がある場合のβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンは常用量と考えられるので、軽度基礎疾患が確認できた場合にはオーグメンチン®配合錠が高用量で良いのか確認します。膿や痰などの培養検査の有無の確認。検査をしていなければ検査依頼をします。基礎疾患がない場合では、細菌性肺炎を考えつつも出張などで他者へ感染させる可能性を考慮して、非定型肺炎や混合感染を完全には排除せずクラリスロマイシンも処方したのでは、などと考えますが、念のためクラリスロマイシンの処方意図を確認します。疑義照会をしないガイドラインに記載有り キャンプ人特にしません。非定型肺炎との鑑別がつかない場合は、「JAID/JSC感染症治療ガイド2014」2)にも同用量の記載があります。協力メンバーの意見をまとめました疑義照会については・・・ 疑義照会をする オーグメンチン®配合錠の消化器系の副作用予防・・・3名抗菌薬の2種併用について・・・2名オーグメンチン®配合錠の規格の確認・・・1名耐性乳酸菌製剤の追加依頼・・・1名併用禁忌薬について・・・1名クラリスロマイシンの処方日数・・・1名基礎疾患に基づいて疑義照会・・・1名 疑義照会をしない 2名1)日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会. 成人市中肺炎診療ガイドライン. 東京、 日本呼吸器学会、 2007.2)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会. JAID/JSC感染症治療ガイド2014. 東京, 一般社団法人日本感染症学会, 2015.3)日本結核病学会. 結核診療ガイドライン 改訂第3版. 東京, 南江堂, 2015.4)「 肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療方針」策定委員会. 肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針. 東京, 日本マイコプラズマ学会, 2014.

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ペニシリンアレルギー、MRSAやC. difficileリスク増大と関連/BMJ

 「ペニシリンアレルギー」の記録はMRSAおよびC. difficileのリスク増大と関連しており、その背景にβラクタム系代替抗菌薬の使用増加が関与していることを、米国・マサチューセッツ総合病院のKimberly G. Blumenthal氏らが明らかにした。ペニシリンアレルギーは、薬物アレルギーでは最もよくみられ、患者の約10%を占めると報告されている。アレルギーに関する記録は処方行動に影響を及ぼすが、「ペニシリンアレルギー」と記録にあっても、必ずしもアレルギーすなわち、即時型過敏反応とは限らない。先行研究では、特定の抗菌薬の使用がMRSAおよびC. difficileのリスクを増大していることが判明しており、研究グループは、ペニシリンアレルギーとMRSAおよびC. difficile発生の関連を調べた。BMJ誌2018年6月27日号掲載の報告。ペニシリンアレルギーの記録に注目し、MRSAやC. difficile発生との関連を調査 検討は集団ベースマッチドコホート研究にて、英国の一般医が関与するHealth Improvement Networkに、1995~2015年に登録された、MRSAおよびC. difficileの既往がない成人30万1,399例を対象に行われた。対象のうち6万4,141例がペニシリンアレルギーを有しており、年齢、性別、登録時期で適合した23万7,258例が比較対照群として設定された。 主要アウトカムは、MRSAおよびC. difficileの発生リスク。副次アウトカムは、βラクタム系抗菌薬およびβラクタム系代替抗菌薬の使用であった。背景に、βラクタム系代替抗菌薬の使用増加 平均追跡期間6.0年において、MRSA発生は1,365例(ペニシリンアレルギー群442例、対照群923例)、C. difficile発生は1,688例(それぞれ442例、1,246例)。ペニシリンアレルギー患者のMRSA発生に関する補正後ハザード比(HR)は1.69(95%信頼区間[CI]:1.51~1.90)、C. difficile発生については1.26(1.12~1.40)であった。 ペニシリンアレルギー患者の各抗菌薬使用に関する補正後発生率比は、マクロライド系使用では4.15(4.12~4.17)、クリンダマイシン使用3.89(3.66~4.12)、フルオロキノロン系使用2.10(2.08~2.13)であった。βラクタム系代替抗菌薬の使用増加によって、MRSAは約55%、C. difficileは約35%、それぞれリスクが増大したことが示唆された。 著者は今回の結果を受けて、「ペニシリンアレルギーへの系統的な対処が、ペニシリンアレルギー患者におけるMRSAおよびC. difficile発生を抑制するための、重大なパブリックヘルス戦略になる」と述べている。

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第2回 「抜歯したら抗菌薬」は本当に必須か【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 先日、歯科医師の友人から、抜歯後に抗菌薬を処方しなかったことで薬剤師からクレームを受けた、という話を聞きました。次のような経緯だったようです。・某日午前、ある女性患者さんの上顎第3大臼歯(親知らず)の残根を抜歯し、術後疼痛対策としてアセトアミノフェンを処方したが、抗菌薬は処方しなかった。・同日夕方、救急外来にこの女性患者さんの旦那さんである薬剤師からクレームの電話が入り、「抜歯したのになぜ抗菌薬を処方しないのか」と言われた。はたして抜歯をする際は感染症を予防するための抗菌薬は必須なのでしょうか。今回は、抜歯時の抗菌薬の有用性について検討したコクランのシステマティックレビューを紹介します。Antibiotics to prevent complications following tooth extractions.Lodi G, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012;11:CD003811.論文では、「抜歯処置を受ける患者さんが、術前あるいは術後に抗菌薬を服用すると、抗菌薬なしまたはプラセボ服用に比べて、感染症の発生リスクが下がるか」という疑問が検討されています。本論文で組み入れられた研究では、主にアモキシシリン(±クラブラン酸)、エリスロマイシン、クリンダマイシンなどが投与されています。なお、日本感染症学会、日本化学療法学会による「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016―歯性感染症―」でも、歯性感染症ではペニシリン系、リンコマイシン系、マクロライド系などが推奨されています。日本ではルーティンで第3世代セフェム系薬を処方する歯科医師が多いと感じていますが、これらは必ずしも歯性感染症に適するわけではないですし、概して吸収率も高くはありません。抗菌薬を服用すると12例中1例で感染予防さて、システマティックレビューの評価ポイントはいくつかあります。過去の研究を網羅的に集めているか、集めた研究の評価が適切になされているか、それらの研究の異質性は検討されたか、出版バイアスはないか、情報は適切に統合されたか、などの点を確認することが大切です。本論文では1948年~2012年1月25日までにMEDLINE、EMBASE、CENTRAL、CHSSSといったデータベースに登録されている関連論文を網羅的に集めています。集められた試験のデザインはランダム化比較試験で、うち1件はインターバルが6週間以上のクロスオーバーランダム化比較試験です。クロスオーバーは同じ被験者がウォッシュアウト期間を十分に設けた後に、異なる介入を受けることを意味します。そう何回も抜歯をやるの? という疑問もあるかもしれませんが、スプリットマウスデザインという、同一被験者の口内の左右では条件差がさほどないことを利用して、左右の歯でウォッシュアウト期間をおいて抜歯を行ったものと考えられます。出版バイアスの有無はファンネルプロットを用いて検討されていますが、術後および術前・術後におけるプロットが少ないため判定がやや難しいところです。なお、コクランのハンドブックによれば、一般的にプロットの数が10個以下だとファンネルプロットの左右対称性から出版バイアスを見極めることは難しいとされています。集められた各研究の評価は、2人のレビュアーにより独立して行われ、解釈に食い違いが生じた場合には議論のうえで合意を形成しているため、一定の客観性があると考えてよさそうです。なお、レビュアー名を検索したところ、両名とも歯科医師のようです。最終的に、集められた研究のうち、18件(患者合計2,456例)の研究が採用され、15件がメタ解析されています。システマティックレビューの結果は、通常Summary of Findings(SoF)テーブルとフォレストプロットにまとめられているので、ここを真っ先に見るとよいでしょう。エンドポイントに関する結果を紹介します。抗菌薬を投与した場合、プラセボと比較して抜歯後の局所感染症を約70%減らす(相対リスク:0.29、95%信頼区間:0.16〜0.50)とあり、エビデンスの質としては中程度の確信となっています(p<0.0001)。これは、約12例で抗菌薬を服用すれば、1例は感染症を予防できるという割合です。痛み、発熱、腫れには有意差はありませんでした。有害事象に関しては、抗菌薬投与でほぼ倍増(相対リスク:1.98、95%信頼区間:1.10~3.59)しますが、軽度かつ一時的ということ以外の具体的な内容は本文献ではわかりません。抗菌薬の必要性は侵襲性の程度や患者要因で変わりうるシステマティックレビューは既存の知見を網羅的に集めて質的評価を行い、統計学的に統合することから、しばしばエビデンスの最高峰に位置付けられますが、統合することで対象患者などの細かいニュアンスが省略されるため、その結果を応用する際は外的妥当性を十分に考えねばなりません。本結果を素直に解釈すれば、感染予防のベネフィットがややあるものの、抜歯処置の侵襲性の程度や感染症リスクによっては抗菌薬が処方されないことも十分考えられます。もし服用を検討するのであれば、アレルギーや副作用歴がない限りはペニシリン系やクリンダマイシンなどが比較的妥当な選択となりそうです。現実には下痢の頻度や抗菌薬アレルギーのリスク、冒頭の例であれば歯科医師と患者の関係なども抗菌薬が必要かどうかの考慮事項となりうるでしょう。いずれにせよ、短絡的に抜歯=抗菌薬と断定するのではなく、患者の状態や歯科医師の意図をくみ取ったうえで適切なアクションをとりたいものです。画像を拡大するAntibiotics to prevent complications following tooth extractions.Lodi G, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012;11:CD003811.

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抗微生物薬適正使用の手引き改正へ向けて

 2018年5月14日、第4回の抗微生物薬適正使用(AMS)等に関する作業部会(座長:大曲 貴夫氏[国立国際医療研究センター病院国際感染症センター長])が、厚生労働省で開催され、「抗微生物薬適正使用の手引き」の改正の方向性の確認、改正内容の検討が行われた。今後、数度の部会での検討を経たうえで、薬剤耐性(AMR)に関する小委員会および厚生科学審議会感染症部会で審議、発表される。なお、発表時期は未定。「抗微生物薬適正使用の手引き」改正では学童期以下の小児に焦点 「抗微生物薬適正使用の手引き 第1版」は、抗微生物薬の適正使用を推進するために学童期以降の急性気道感染症と急性下痢症を対象に、2017年6月に発表・発行された。発行後、さらなる抗微生物薬の適正使用推進のため、扱うべき領域拡大の必要性が求められ、学童期未満の小児を対象とした「抗微生物薬適正使用の手引き」の改正が行われている。 今回示された改正案では、「1.小児における急性気道感染症の特徴と注意点」「2.小児の急性気道感染症各論」「3.小児の急性下痢症」の3点が示され、個別の検討が行われた。急性気道感染症と急性下痢症を詳細に記載 「抗微生物薬適正使用の手引き」改正案の「1.小児における急性気道感染症の特徴と注意点」では、小児の急性気道感染症で多くを占める感冒、咽頭炎、クループ、気管支炎などを取り上げるとともに、A群連鎖球菌による咽頭炎、細菌性副鼻腔炎などとの鑑別の重要性、リスクを加味した年齢ごとの診療の必要性、治療薬の小児特有の副作用について記載されている。 とくに小児特有の副作用については、10種類ほど治療薬が列挙され、たとえばST合剤では新生児に核黄疸のリスクがあること、マクロライド系抗菌薬では肥厚性幽門狭窄症のリスクが上がることなどが述べられている。 「2.小児の急性気道感染症各論」では、感冒・急性鼻副鼻腔炎、急性咽頭炎、クループ症候群、急性気管支炎、急性細気管支炎を取り上げ、個々の病態、疫学、診断と鑑別、抗菌薬治療、患児および保護者への説明などが記載されている。 「3.小児の急性下痢症」では、2.と同様に下痢症の病態、疫学、診断と鑑別、抗菌薬治療、患児および保護者への説明を述べるとともに、そのほとんどがウイルスが原因であるとし、とくに小児では原因診断よりも緊急度の判断が重要とされ、脱水への対応についても多く記述されている。 部会では「抗微生物薬適正使用の手引き」改正案に対し、「ワクチンの有効性の記載」「治療薬の商品名の記載」「中耳炎の追加」「記載方法の定式化」「非専門医ができる診療法の記載」「具体性のある表記」などの意見や提案がなされ、今後これらを踏まえて修正、議論を行っていく。

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小児の急性上気道感染症への抗菌薬、広域 vs.狭域/JAMA

 小児の急性気道感染症において、広域抗菌薬(アモキシシリン-クラブラン酸、セファロスポリン系、マクロライド系薬)の投与と狭域抗菌薬(アモキシシリン、ペニシリン)の投与は、臨床的アウトカムや大部分の患者中心アウトカムについて同等であることが示された。一方で有害事象の発生頻度は、広域抗菌薬群が狭域抗菌薬群よりも高率だった。米国・フィラデルフィア小児病院のJeffrey S. Gerber氏らが、3万例超の小児を対象にした後ろ向きコホート試験と、約2,500例の小児を対象とした前向きコホート試験を行って明らかにしたもので、著者は「今回の結果は、大部分の小児の急性気道感染症に対しては、狭域抗菌薬を使用することを支持するものだ」とまとめている。JAMA誌2017年12月19日号掲載の報告。生後6ヵ月~12歳の小児を対象に試験 研究グループは、米国ペンシルベニア州とニュージャージー州の小児プライマリケアネットワークに参画する診療所31ヵ所を通じて、2015年1月~2016年4月に急性気道感染症の診断を受け経口抗菌薬を投与した生後6ヵ月~12歳の小児を対象に、臨床的アウトカムを検証する後ろ向きコホート試験と、患者評価のアウトカムを検証する前向きコホート試験をそれぞれ行った。広域抗菌薬と狭域抗菌薬のアウトカムについて比較した。 後ろ向きコホート試験では、主要アウトカムは診断後14日間の治療失敗と有害事象だった。前向きコホート試験では、主要アウトカムは生活の質(QOL)、その他の患者評価のアウトカム、患者報告の有害事象だった。 両コホート試験について、層別解析や傾向スコアマッチング解析を行い、医療者による交絡因子や患者個人の背景による交絡因子をそれぞれ補正した。患者報告QOL、広域抗菌薬群でわずかに低スコア 後ろ向きコホート試験の被験者数は3万159例で、そのうち1万9,179例が急性中耳炎、6,746例がA群レンサ球菌性咽頭炎、4,234例が急性副鼻腔炎だった。このうち、広域抗菌薬を投与されたのは、14%(4,307例)だった。治療失敗率は、広域抗菌薬群3.4%、狭域抗菌薬群3.1%と同等だった(完全マッチング解析によるリスク差:0.3%、95%信頼区間[CI]:-0.4~0.9)。 前向きコホート試験の被験者は2,472例で、うち1,100例が急性中耳炎、705例がA群レンサ球菌性咽頭炎、667例が急性副鼻腔炎だった。広域抗菌薬を投与されたのは35%(868例)だった。小児患者のQOLについて、狭域抗菌薬群の平均スコアが91.5点だったのに対し、広域抗菌薬群では90.2点と、わずかに低かった(同リスク差:-1.4%、95%CI:-2.4~-0.4)。一方、その他の患者評価のアウトカムについては、両群で同等だった。 医療者が報告した有害事象の発生率は、狭域抗菌薬群2.7%に対し広域抗菌薬群は3.7%と高率だった(同リスク差:1.1%、95%CI:0.4~1.8)。患者が報告した有害事象の発生率も、狭域抗菌薬群25.1%に対し広域抗菌薬群は35.6%と高率だった(同リスク差:12.2%、95%CI:7.3~17.2)。

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新型インフルエンザ対策の最前線

 2017年11月5日、厚生労働省は都内において、「新型インフルエンザ対策に関する研修」を開催した。当日は、新型インフルエンザの疫学、治療ガイドライン、感染対策、行政の動向について4名の演者による講演が行われた。急がれるH7N9ワクチン はじめに「鳥インフルエンザの疫学について」をテーマに小田切 孝人氏(国立感染研インフルエンザウイルス研究センター WHOインフルエンザ協力センター センター長)が、鳥インフルエンザの動向、最新の知見を解説した。 インフルエンザAタイプは人獣共通感染症であり、野生のツルやカモなどの水禽類が宿主となっている。このタイプは、ヒト、トリ、ブタ間でも感染し、現在トリではH5N1、H5N6、H7N9、H9N2が、ブタではH1N2v、H3N2vがヒトに感染することがわかっている。とくに患者数が多かったH5N1は、その数が減少する傾向にあるものの、高病原性ゆえに致命率は53%と高いという。 問題は、突然変異によるパンデミックポテンシャルをウイルスが持っていることであり、トリがこうしたウイルスを獲得していないかどうか、常に監視する必要があると警告する。 ワクチンについては、世界保健機関(WHO)がインフルエンザウイルスのリスト化とワクチン株の保存を行い、日本、米国、英国の施設で新型インフルエンザワクチン製造株を作製・提供を実施しており、中国でも開発中であるという。 その中国では、2013年より鳥インフルエンザ H7N9が流行。2017年8月31日時点で、1,531例の感染例(うち死亡604例)と高い致命率(39.5%)が報告された。また、旅行など人の移動が感染拡大を助長したこと、高齢者の感染例が多いことも報告された(H5N1は青年に多かった)。 H7N9は、飛沫感染する例も動物実験で報告され、ワクチンの開発が急がれているが、予防接種の免疫獲得が低いことや免疫細胞に認識されないなどの問題があり、現在も研究が続けられている。 最後に、日本で中国のようなアウトブレイクが起きるかどうかについて、「わが国の検疫対応をみると発生しないだろう」と現状からの予測を語り、レクチャーを終えた。新型インフルエンザには抗ウイルス薬の使用をためらわない 次に川名 明彦氏(防衛医科大学校 感染症・呼吸器内科 教授)が、「成人の新型インフルエンザ治療ガイドライン改訂の方向性について」をテーマに解説を行った。 2014年3月に現在の治療ガイドラインが発行され、現在は改訂(第2版)の最終段階であり、12月中には最新のガイドラインが発行されるとの見通しを述べた。 ガイドラインで示される治療の範囲は、入院診療の治療がメインとなり、とくに意識障害、肺炎の有無別による治療にページが割かれるという。また、予想される新型インフルエンザの臨床像は、過去のインフルエンザの事例、鳥インフルエンザの重症例、季節性インフルエンザの重症例などから検討され、インフルエンザ肺炎の中でも原発性、混合性、二次性の大きく3つに分けた治療が記されるという。 現在、日本で使用できる抗ウイルス薬には、オセルタミビル(商品名:タミフル)、ザナミビル(同:リレンザ)、ラニナミビル(同:イナビル)、ペラミビル(同:ラピアクタ)の4種がある。治療では、米国疾病管理予防センター(CDC)の原則に沿い、早期投与が勧められているほか、入院患者、2歳以下の小児、65歳以上の高齢者、循環器や代謝異常などの既往症、免疫抑制状態、妊婦(出産後2週間以内も含む)、病的肥満(BMI 40以上)、長期療養施設に入所など、ハイリスク患者には可能な限り早期に投与するとしている。 症状が、軽症、中等症、肺炎合併がない場合の新型インフルエンザの治療では、季節性インフルエンザと同じ治療としつつ、肺炎を合併した場合は、できるだけ早く抗ウイルス薬の投与を示している。とくに重症例ではペラミビルの選択、増量や投与期間の延長、ファビピラビル(同:アビガン)との併用も考慮するとしている(ただしファビピラビルは妊婦または妊娠している可能性のある婦人へは投与しない)。 新型インフルエンザ肺炎への細菌感染の合併例については、頻度の高いものとして肺炎球菌、黄色ブドウ球菌などのウイルス細菌混合性肺炎と、緑膿菌、アシネトバクターなどの二次性細菌性肺炎を挙げ、入院を要する症例ではただちに抗菌薬療法を開始する。そして抗菌薬の選択はガイドラインを参考に行い、病原体確定後に、より適切な抗菌薬へde-escalationすることとしている。その他の薬物療法として副腎皮質ステロイド薬は、ウイルス性肺炎では喘息合併に限り重症化を抑制するほか、細菌性肺炎では敗血症性ショック時の相対的副腎不全に低容量で有効とされている。また、マクロライド系薬は、細菌性肺炎の重症化例で予後を改善するとの報告がある。 肺炎時の呼吸管理では、人工呼吸を躊躇しないで使用するほか、悪化または改善がみられない場合は、特殊な人工呼吸法(ECMO)の導入やより専門的な施設への転送をするとしている。 インフルエンザ肺炎の重症度評価では、PSI、A-DROP、CURB-65などの市中肺炎の重症度評価法よりも、重症度が過小評価されることに注意が必要と指摘する。 最後に、川名氏は「“新型インフルエンザ”の病態は未知であるが、病原性の高いインフルエンザの出現を想定し、準備する必要がある。ガイドラインも、出現時にはウイルスの特徴に応じてただちに再検討する必要がある」とまとめ、レクチャーを終えた。感染対策は手指衛生と予防接種が大事 次に加藤 康幸氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター国際感染症対策室 医長)が、「感染対策について」をテーマに解説を行った。 インフルエンザの院内感染の特性は、新型も季節性も、新生児、骨髄移植患者、長期療養型病棟で致死率の高い流行を起こすことがあり、医療従事者においては患者からの感染と患者の感染源になるという2つのリスクがあると説明する。そして、新型インフルエンザ流行時には、感染被害の軽減と封じ込めの同時進行が必要であり、過去の拡大例を検証すると、医療従事者から患者への飛沫感染対策は重要であるという。 そして、医療機関における具体的な感染対策としては、「感染源対策」「患者・職員の健康管理」「感染経路の遮断」の3つが必要とされ、CDCの推奨でも予防接種、患者との接触を減らす、標準予防策の順守、飛沫予防策の順守、訪問者の制限なども掲げられ、実践されることが期待される。 とくに飛沫感染対策・咳エチケットとして、医療機関の入口での注意の掲示、1m以上の距離を隔てた待合用の座席、待合室の手近な場所への手指衛生設備の設置などが必要となる。同様に、医療スタッフへの指導では、個人防護具(手袋、ガウン、シールド付きサージカルマスクなど)の装着・脱着の研修は有効であるという。 最後に加藤氏は「院内感染対策では、手指衛生と(患者、医療従事者の)予防接種の2つが有効とされている。新型インフルエンザの対策も、季節性インフルエンザの延長にあると考え、流行に備えてもらいたい」と語り、解説を終えた。新型インフルエンザではWeb情報も活用を! 最後に、厚生労働省の海老名 英治氏(健康局結核感染症課 新型インフルエンザ対策推進室 室長)が「行政動向について」をテーマに、新型インフルエンザ対策の法令、ワクチンの備えに関して説明を行った。 新型インフルエンザへの対策は、水際での侵入阻止と早期封じ込めによる感染拡大の抑制と流行規模の平坦化、それと同時にワクチンの開発、生産、接種によって流行のピークを下げること、医療への負荷を減らすことであるという。 2012年5月に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が公布され(施行は2013年6月)、流行時の各種対策の法的根拠が明確化された。具体的には、体制整備として国・地方公共団体の行動計画や訓練、国民への啓発のほか、流行発生時の対策本部の設置、特定接種の指定などが決められ、「新型インフルエンザ等緊急事態」発生の際の措置では、外出自粛要請、興行場等の制限などの要請・指示、住民への予防接種の実施、医療提供体制の確保、緊急物資の運送の要請・指示などの規定が挙げられる。 また、国のインフルエンザ対策として、時間軸で海外発生期、国内発生早期、国内感染期、小康期の4つに区切り、各段階で(1)実施体制、(2)サーベイランス・情報収集、(3)情報提供・共有が行われると説明を行った。 現行の被害想定はいずれも最大数で、罹患者を人口の25%、医療機関受診者を約2,500万人、入院者を約200万人、死亡者を約64万人、欠勤者を従業員の約40%とし、抗インフルエンザウイルス薬の備蓄は人口の45%を目標としている(2017年7月時点の有識者会議で、全人口の25%が罹患するとして再検討されている)。また、「これら抗ウイルス薬の備蓄方針、季節性インフルエンザとの同時流行時の規模や重症患者への倍量・倍期間治療、予防投与についても、省内の厚生科学審議会で継続的に審議されている」と説明する。 最後に海老名氏は、「審議会などの新しい情報も厚生労働省のウェブサイトなどを通じて日々発信しているので、新型インフルエンザの対策ではこれらも参考に準備をしていただきたい」と述べ、説明を終えた。■参考厚生労働省 インフルエンザ(総合ページ)内閣官房 新型インフルエンザ等対策厚生労働省 セミナー当日の配布資料

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コントロール不良の喘息にあの抗菌薬が有用?/Lancet

 中~高用量の吸入ステロイド+長時間作用型気管支拡張薬服用ではコントロール不良の喘息成人患者に対し、マクロライド系抗菌薬の経口アジスロマイシンの追加投与は、喘息増悪リスクを約4割減少し、喘息関連QOLも改善することが示された。オーストラリア・Hunter Medical Research InstituteのPeter G. Gibson氏らが、420例を対象に行った48週間にわたる無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果で、著者は「アジスロマイシンは喘息コントロールの追加療法として有用と思われる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2017年7月4日号掲載の報告。アジスロマイシン500mg、週3回48週間投与 研究グループは2009年6月12日~2015年1月31日にかけて、吸入ステロイドや長時間作用型気管支拡張薬の服用にもかかわらず喘息症状が認められる、18歳以上の患者420例を対象に、経口アジスロマイシンの追加で喘息増悪の頻度が減少可能かを調べる試験を行った。被験者は、聴覚障害や補正QT間隔延長が認められない場合を適格とした。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはアジスロマイシン500mgを(213例)、もう一方にはプラセボを(207例)、それぞれ週3回48週間投与した。試験を行った医療センターと喫煙歴について、層別化も行った。 主要評価項目は、48週間の中等度~重度の喘息増悪の頻度、および喘息症状関連の生活の質(QOL)で、intention-to-treatにてデータを分析・評価した。喘息増悪1回以上の発症率も減少 喘息増悪の発現頻度は、プラセボ群が1.86/人年だったのに対し、アジスロマイシン群は1.07/人年と、約4割低かった(罹患率比:0.59、95%信頼区間[CI]:0.47~0.74、p<0.0001)。 また、試験期間中に1回以上の増悪が発現した患者の割合も、アジスロマイシン群で有意に低率で、プラセボ群61%(207例中127例)だったのに対し、アジスロマイシン群は44%(213例中94例)だった(p<0.0001)。さらに、アジスロマイシン群はプラセボ群に比べ、喘息関連QOLも有意に改善し、喘息QOL質問票(AQLQ)スコアの補正後平均値格差は0.36(95%CI:0.21~0.52、p=0.001)だった。 なお、下痢の発症がプラセボ群19%に対し、アジスロマイシン群で34%と有意に高率に認められた(p=0.001)。

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未就学児への不適切な抗菌薬処方、小児科以外で多い

 未就学児の上気道感染症(URI)への抗菌薬処方に関する、全国の診療報酬請求データベースを用いた京都大学の吉田 都美氏らの後ろ向き研究から、非細菌性URIへの不適切な抗菌薬処方が、年齢の上昇、男児、施設の特性、小児科以外の診療科、時間外診療に関連することがわかった。Journal of public health誌オンライン版2017年4月27日号に掲載。 著者らは、わが国における2005年1月~2014年9月の診療報酬請求データベースから、外来での抗菌薬処方を特定し、各被験者の出生時から6歳までの処方パターンを調べた。また、ロジスティック回帰分析により、不適切な抗菌薬処方に関連する因子のオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・データベースにおいて小児が15万5,556人、うち男児が51.6%、女児が48.4%であった。・コホートの66.4%に抗菌薬が処方されており、第3世代セファロスポリンが最も多く(38.3%)、次いでマクロライド系(25.8%)、ペニシリン系(16.0%)であった。・非細菌性URIへの抗菌薬処方は、男児(OR:1.06、95%CI:1.05~1.07)、施設規模、小児科以外の診療科(OR:2.11、95%CI:2.08~2.14)、時間外診療(OR:1.64、95%CI:1.61~1.68)と関連していた。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第36回

第36回:急性副鼻腔炎に対する抗菌薬投与は、発症7~10日以内で症状改善しない場合に考慮する監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 急性副鼻腔炎とは「急性に発症し、罹病期間が1カ月以内と短く、鼻閉、鼻漏、後鼻漏、咳嗽を認め、頭痛、頬部痛、顔面圧迫感などを伴う疾患」と定義されている1)。原因としてはウイルス性、細菌性が挙げられるが、最近はアレルギー性鼻副鼻腔炎も増加している2)。このため抗菌薬投与が効果を示す細菌性副鼻腔炎か否かを鑑別する必要があるが、実臨床で正確に判断することは難しい。日本鼻科学会からは、重症度スコアと、小児および成人の重症度別治療アルゴリズムが提唱されている3)。 これによると、軽症の場合は小児、成人いずれの場合においても抗菌薬は使用せず、5日間の経過観察を行い、症状が改善しない場合にはAMPCなどの抗菌薬を考慮することになっている。したがって、急性副鼻腔炎に対しては、ルーチンで抗菌薬を処方せず、適正な使用が求められる。 以下、American Family Physician 2016年7月15日号より4)急性副鼻腔炎は、外来診療におけるcommon diseaseの一つである。多くの場合は、ウイルス性上気道炎が原因である。臨床所見だけでは、抗菌薬が効く細菌性副鼻腔炎かどうかの判断は難しい。次の4項目の所見がある場合は、細菌性副鼻腔炎の可能性が高まる。症状の再燃膿性鼻汁血沈1時間値>10mm鼻腔内の膿汁貯留ガイドラインによって違いはあるものの、7~10日間以内に副鼻腔炎症状が改善しない場合や、症状が増悪する場合は抗菌薬療法を考慮する。抗菌薬療法の第1選択は、AMPC(商品名:サワシリン)500mg 8時間毎、またはAMPC/CVA(同:オーグメンチン)500mg/125mg 8時間毎の5~10日間投与である。レスピラトリーキノロン(LVFX、MFLX)は、βラクタム系抗菌薬と比較して有益性は示されておらず、さまざまな副作用リスクを伴っているため、第1選択として推奨されていない。マクロライド系、ST合剤、第2世代および第3世代セファロスポリン系は、S.pneumoniaeやH. influenzaeに効かないことが多いため、初期治療として推奨されていない。最近のガイドラインでは、上気道症状を認めてから7~10日間の経過観察を推奨している。鎮痛薬、鼻腔内ステロイド投与、生食による鼻腔内洗浄による治療効果のエビデンスは乏しい。また、合併症のない急性副鼻腔炎の診断に対する放射線画像検査は推奨されない。治療反応性が乏しい症例では、合併症や解剖学的異常の有無について単純CTが有用である。十分に内科的治療を行っているにもかかわらず、症状が遷延する場合や、まれな合併症が疑われる場合は、耳鼻科への紹介が必要。専門医にコンサルトすべき一覧閉塞を引き起こすような解剖学的異常眼窩蜂窩織炎や骨膜下膿瘍、眼窩膿瘍、意識障害、髄膜炎、静脈洞血栓症、頭蓋内膿瘍、Pottʼs puffy tumorなどの合併症状を呈している(Pottʼs puffy tumorは1768年にSir Percival Pottが提唱した疾患概念で、前頭骨骨髄炎が原因で骨外に1つ以上の膿瘍を形成した状態をいう)アレルギー性鼻炎に対する免疫療法の評価頻回再発例(年3~4回の再発)真菌性副鼻腔炎、肉芽腫性疾患、悪性新生物の疑い免疫不全患者院内感染39度以上の発熱が続く重症感染症抗菌薬療法を延長投与したにもかかわらず治療効果がみられない場合非典型的な起炎菌、抗菌薬抵抗性起炎菌が検出された場合※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 日本鼻科学会編:急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年版 2) Suzuki K, Baba S: Local use of antibiotics for paranasal sinusitis. In: Proceedings of the XII international symposium of infection and allergy of the nose. Am J Rhinol 1994; 8: 306-307 3) 日本鼻科学会編:急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年版(追補版). 4) Aring AM,et al. Am Fam Physician. 2016;94:97-105

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乳児期に抗菌薬投与すると幼児期に太るのか/JAMA

 生後6ヵ月以内の抗菌薬使用は、7歳までの体重増と統計的に有意な関連はみられないことが、米国・フィラデルフィア小児病院のJeffrey S. Gerber氏らが行った後ろ向き縦断研究の結果、示された。マウスを用いた動物実験では、誕生後早期の抗菌薬使用は、腸内細菌叢を乱し炭水化物・脂質の代謝を変化させ肥満と関連することが示されている。一方、ヒトの乳児期抗菌薬使用と幼少期体重増との関連を検討した研究では、相反する報告が寄せられている。JAMA誌2016年3月22・29日号掲載の報告。6ヵ月以内の抗菌薬使用と、6ヵ月齢~7歳までの体重変化の関連を主要評価 研究グループは、ペンシルベニア州、ニュージャージー州、デラウェア州にわたる30の小児プライマリケア診療所のネットワークから、人種や社会経済的背景が多様な20万例超の小児を集めて、後ろ向きに、単生児縦断研究および適合双生児による縦断研究を行った。 被験者は、2001年11月1日~11年12月31日に、在胎期間35週以上で、出生時体重2,000g以上または在胎期間基準体重の5パーセンタイル以上で誕生し、生後14日以内に予防接種・健康診査を受け1歳までにさらに少なくとも2回受診している小児であった。複合的慢性症状がある児、長期に抗菌薬を投与もしくは複数の全身性コルチコステロイド処方を受ける児は除外した。 検討には、単生児3万8,522例と、抗菌薬使用が不一致の双生児92例(46組)を包含。フォローアップの最終データ日は12年12月31日であった。 主要アウトカムは、生後6ヵ月間で全身性抗菌薬を使用した児の、月齢6ヵ月から7歳までの予防接種・健診時に測定した体重とした。乳児期抗菌薬使用と幼少期体重変化に有意な関連なし 単生児群は女児が50%、平均出生時体重は3.4kgであり、生後6ヵ月間の抗菌薬使用例は5,287例(14%)であった。使用時の平均年齢は4.3ヵ月であった。使用例の24%が広域スペクトラム抗菌薬、5%がマクロライド系抗菌薬の投与で、大半(79%)が1コースのみの投与であった。また、あらゆる抗菌薬の使用は、月齢24ヵ月では67%に増加しており、52%が広域スペクトラム、19%がマクロライド系であった。 解析の結果、生後6ヵ月の抗菌薬使用は体重変化率と、統計的に有意な関連はなかった(0.7%、95%信頼区間[CI]:-0.1~1.5、p=0.07)。2~5歳の体重変化率に相当する推定体重増は0.05kg(95%CI:-0.004~0.11)であった。サブ解析で、抗菌薬の投与コース数の違い(1、2、≧3コース)や種類別(狭域スペクトラム、広域スペクトラム、マクロライド系)にみた場合も、使用と体重変化に有意な関連はみられなかった。 双生児は女児38%、平均出生時体重2.8kgで、抗菌薬使用時の平均年齢は4.5ヵ月であった。 解析の結果、生後6ヵ月の抗菌薬使用と、体重変化の差と関連はみられなかった(使用双生児群と非使用双生児群の年当たりの差:-0.09kg、95%CI:-0.26~0.08、p=0.30)。 著者は、「低年齢の健康児では、抗菌薬使用を制限する多くの理由があるが、その1つに体重増は該当しないようだ」と述べている。

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嚢胞性線維症〔CF : cystic fibrosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義嚢胞性線維症(cystic fibrosis:CF)は、欧米白人の出生2,000~3,000人に1人と、比較的高い頻度で認められる常染色体劣性遺伝性疾患であるが、日本人にはきわめてまれとされている。1938年にAndersonにより、膵外分泌腺機能異常を伴う疾患として初めて報告されて以来、現在では全身の外分泌腺上皮のCl-移送機能障害による多臓器疾患として理解されている。近年のCFに関する遺伝子研究の進歩により、第7染色体長腕にあるDNAフラグメントの異常(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator:CFTR遺伝子変異)がCFの病因であることがわかってきた。このCFTR遺伝子変異は、世界中で400種類以上報告されており、△F508変異(エクソン10上の3塩基欠失によるCFTR第508番アミノ酸であるフェニルアラニンの欠失)が、欧米白人におけるCF症例の約70%に認められている。■ 疫学かつては東洋人と黒人にはCFはみられないと考えられていたが、現在では約10万人に1人と推測されている。わが国では厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班によってCFの実態調査が行われ、1952年にわが国での第1例の報告以来、1980年の集計で46例が報告された。その後、当教室における1993年までの集計によって、104例(男57例、女47例)のCF患者の報告を認めている。単純に計算すると、わが国におけるCF患者の頻度は出生68万人に1人の割合となるが、CFに対する関心が高まったことなどから、1980年以降の頻度は出生35万人に1人の割合となり、確定診断に至らなかった例や未報告例などを考慮すると、真の頻度はさらに高いものと思われる。また、2009年の全国調査では、過去10年間の患者数は44例程度と報告されている。日本人CF症例の遺伝子解析の検討は少なく、王らは3例のCF患児に、花城らはCF患児1例にそれぞれ△F508変異の有無を検索したが、この変異は認められなかった。また、古味らは、△F508変異に加えてCFTR遺伝子のエクソン11に存在するG542X、G551D、およびR553X変異の有無も検索したが、いずれの変異も認められなかった。筆者らは、NIH(米国国立衛生研究所)のgenctic research groupとの共同研究により5例のCF患者およびその家族の遺伝子解析を行い、興味ある知見を得ている。すなわち全例において、△F508変異をはじめとする16種類の既知のCFTR遺伝子変異は認められなかったが、single stand conformational polymorphism analysisにより4例においてDNAシークエンスの変異を認めた(表1)。この変異が未知のCFTR遺伝子変異であるのか、あるいはCFTR遺伝子とは関係しないpolymorphismであるのかの検討が必要である。画像を拡大する■ 病因1985年にWainwrightらによって、第7染色体上に存在することが確認されたCF遺伝子が、1989年にMichigan-Toronto groupの共同研究により初めて単離され、CFTRと命名された。RiordanらによりクローニングされたCFTR遺伝子は、長さ250kbの巨大な遺伝子で、1,480個のアミノ酸からなる膜貫通蛋白をコードしている(図1)。翻訳されたCFTR蛋白の構造は、2つの膜貫通部(membrane spanning domain)、2つのATP結合構造(nucleotide binding fold:NBF 1、NBF 2)、および調節ドメイン(regulatory domain)の5つの機能ドメインからなっている。1991年にはRichらの研究により、CFTR蛋白自身がCl-チャンネルであることが証明され、最近では、NBF1とNBF2がCl-チャンネルの活性化制御に異なる機能を持つことが報告されている。このCFTR遺伝子の変異がイオンチャンネルの機能異常を生じ、細胞における水・電解質輸送異常という基本病態を形成していると考えられている。CFTR遺伝子のmRNA転写は、肝臓、汗腺、肺、消化器などの分泌および非分泌上皮から検出されている。CFTR遺伝子変異のなかで過半数を占める主要な変異が、CF患者汗腺のCFTR遺伝子のクローニングにより同定された△F508変異である。この△F508変異は欧米白人におけるCF症例の約80%に認められているが、そのほかにも、400種類以上の変異が報告されており、これらの変異の発生頻度および分布は人種や地域によって異なっている(表2)。△F508変異の頻度は、北欧米諸国では70~80%と高く、南欧諸国では30~50%と低いが、東洋人ではまだ報告されていない。画像を拡大する画像を拡大する■ 症状最も早期に認められ、かつ非常に重要な症状として、胎便性イレウスによる腸閉塞症状が挙げられる。粘稠度の高い胎便が小腸を閉塞してイレウスを惹起する。生後48時間以内に腹部膨満、胆汁性嘔吐を呈し、下腹部に胎便による腫瘤を触れることがある。腸管の狭窄や閉塞がみられることもある。わが国におけるCF症例の集計では、27.9%が胎便性イレウスで発症している(表3)。膵外分泌不全症状は約80%の症例で認められ、年齢とともに症状の変化をみることもある。食欲は旺盛であるが、膵リパーゼの分泌不全による脂肪吸収不全のため多量の腐敗臭を有する脂肪便を排泄し、栄養不良による発育障害を来してくる。低蛋白血症による浮腫、ビタミンK欠乏による出血傾向、低カルシウム血症によるテタニーなどの合併症を認める場合もある。粘稠な分泌物の気管および気管支内貯留と、それに伴うブドウ球菌や緑膿菌などの感染により、多くは乳児期から気管支炎、肺炎症状を反復して認めるようになる。咳嗽、喘鳴、発熱、呼吸困難などの症状が進行性にみられ、気管支拡張症、無気肺、肺気腫などの閉塞機転に伴う病変が進展し慢性呼吸不全に陥り、これが主な死亡原因となる。胸郭の変形、バチ状指、チアノーゼなども認められる。CF患者では汗の電解質、とくにCl濃度が異常に高く、多量の発汗によって電解質の喪失を来し、発熱や虚脱などの“heat prostration”と呼ばれる症状を呈することが知られている。その他の症状として、閉塞性黄疸、胆汁性肝硬変、耐糖能異常、副鼻腔炎症状などをはじめとする種々の合併症状が報告されている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ CFの一般的な診断法表4にわが国のCF患者104例における確定診断時の年齢分布を示した。全症例の半数以上である64例(61.5%)が1歳までにCFと診断されており、新生児期にCFと診断された30例(28.8%)のうち29例が胎便性イレウスにて発症した症例であった。したがって、胎便性イレウス症候群では、常にCFの存在を念頭におき、メコニウム病(meconium ileus without CF)との鑑別を行っていく必要がある。CFの診断には、汗の電解質濃度の測定が必須であり、Cl濃度が60mEq/L以上であればCFが疑われる。Pilocarpine iontophoresis刺激による汗の採取法が推奨されているが、測定誤差が生じやすく、複数回測定する必要がある。当教室では米国Wescor社製の発汗刺激装置および汗採取コイルを使用し、ほとんど誤差なく簡便に汗の電解質濃度を測定している。CFを診断するうえで、膵外分泌機能不全の存在も重要であり、その診断は、脂肪便の有無、便中キモトリプシン活性の測定、PFD試験やセクレチン試験などによって行っていく。X線検査により、気管支拡張症、無気肺、肺気腫などの肺病変の診断を行う。画像を拡大する■ CFのマス・スクリーニング欧米において、1973年ごろよりCFの新生児マス・スクリーニングが試みられるようになり、1981年にCrossleyらが乾燥濾紙血のトリプシン濃度をradioimmunoassayにて測定して以来、CFの新生児マス・スクリーニング法として、乾燥濾紙血のトリプシン濃度を測定する方法が広く用いられるようになった。さらに1987年にはBowlingらが、より簡便で安価なトリプシノーゲン濃度を測定し、感度および特異性の点からもCFの新生児マス・スクリーニング法として非常に有用であると報告している。筆者らも、わが国におけるCFの発生率を調査する目的で東京都予防医学協会の協力を得て、CFの新生児マス・スクリーニングを行った。方法は、先天性代謝異常症の新生児マス・スクリーニング用の血液乾燥濾紙を使用し、Trypsinogen Neoscreen Enzyme Immunoassay Kitにて血中トリプシノーゲン値を測定した。結果は、3万2,000例のトリプシノーゲン値は、31.8±8.9ng/mLであり、Bowlingらが示した本測定法におけるカットオフポイントである140ng/mLを超えた症例はなかった(図2)。画像を拡大する■ CFの遺伝子診断CFの原因遺伝子が特定されたことにより、遺伝子診断への期待が高まったが、CF遺伝子の変異は人種や地域によってまちまちであり、本症の遺伝子診断は足踏み状態であると言わざるを得ない。欧米白人では、△F508変異をはじめとするいくつかの頻度の高い変異が知られており、これらの検索はCFの診断に大いに役立っている。しかしながら、わが国のCF症例における共通のCF遺伝子の変異は、まだ特定されておらず、PCR-SSCP解析と直接塩基配列解析を用いて遺伝子変異を明らかにすることが必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 対症療法新生児期にみられる胎便性イレウスに対しては、ガストログラフィンによる浣腸療法などが試みられるが、多くは外科手術が必要となる。膵外分泌不全による消化吸収障害に対しては、膵酵素剤の大量投与を行う。しかし近年、膵酵素剤の大量投与による結腸の炎症性狭窄の報告も散見され、注意が必要である。胃酸により失活しない腸溶剤がより効果的である。栄養障害に対しては高蛋白、高カロリー食を与え、症例の脂肪に対する耐性に応じた脂肪摂取量を決めていく。中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は、膵酵素を必要とせずに吸収されるため、カロリー補給には有用である。必須脂肪酸欠乏症に対しては、定期的な脂肪乳剤の経静脈投与が必要である。脂溶性ビタミン類の吸収障害もみられるため、十分量のビタミンを投与する。呼吸器感染に対しては、気道内分泌物の排除を目的としてpostural drainageと理学訓練(physiotherapy)を行い、吸入療法および粘液溶解薬や気管支拡張薬などの投与も併せて行っていく。感染の原因菌としてはブドウ球菌と緑膿菌が一般的であるが、検出菌の感受性テストの結果に基づいて投与する抗菌薬の種類を決定していく。1~2ヵ月ごとに定期的に入院させ、2~3剤の抗菌薬の積極的な予防投与も行われている。抗菌作用、抗炎症作用、線毛運動改善作用などを期待してマクロライド系抗菌薬の長期投与も行われている。肺機能を改善する組み換えヒトDNaseの吸入療法や気道上皮細胞のNa+の再吸収を抑制するためのアミロイド、さらに気道上皮細胞からのCl-分泌促進のためのヌクレオチド吸入療法などが、近年試みられている。4 今後の展望まずは早期に診断して、適切な治療や管理を行うことが大切であり、その意味から早期診断のための汗のCl-濃度を測定する方法の普及が望まれる。さらに遺伝子検索を行うにあたっての労力と費用の負担が軽減されることが必要と思われる。適切な治療を行うためには、今後も肺や膵臓および肝臓の機能を改善させたり、呼吸器感染症を予防する新薬の開発が望まれる。さらに遺伝子治療や肺・肝臓移植が可能となり、生存年数が欧米並みに30歳を超えるようになることを期待したい。5 主たる診療科小児科、小児外科、呼吸器内科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報第4回膵嚢胞線維症全国疫学調査 一次調査の集計(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業)難病情報センター:膵嚢胞線維症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報難病患者支援の会(内閣府認定NPO法人、腎移植や肝移植などの情報提供)Japan Cystic Fibrosis Network:JCFN(嚢胞性線維症患者と家族の会)1)成瀬達ほか.第4回膵嚢胞線維症全国疫学調査.厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「難治性膵疾患に関する調査研究」平成21年度 総括・分担研究報告書. 2010; 297-304.2)Flume PA, et al. Am J Respir Care Med. 2007; 176: 957-969.3)清水俊明ほか.小児科診療.1997; 60: 1176-1182.4)清水俊明ほか.小児科. 1987; 28: 1625-1626.5)Wainwright BJ, et al. Nature. 1985; 318: 384-385.公開履歴初回2013年08月15日更新2015年12月15日

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眼由来でも黄色ブドウ球菌分離株の多くが多剤耐性、メチシリン耐性が蔓延

 米国・マウントサイナイ医科大学のPenny A. Asbell氏らは、ARMOR研究の最初の5年間に採取された眼由来臨床分離株の耐性率と傾向について調査した。ARMOR研究は、眼感染症の病原体に関する唯一の抗生物質耐性サーベイランスプログラムである。その結果、黄色ブドウ球菌分離株は多くが多剤耐性を示し、メチシリン耐性が蔓延していることを明らかにした。眼以外の感染症由来黄色ブドウ球菌株で報告されている耐性傾向と一致しており、5年間で、眼由来臨床分離株の耐性率は増加していなかったという。著者らは、「眼由来臨床分離株の継続的な調査は、眼感染症の経験的治療に用いる局所抗菌薬の選択に重要な情報を提供する」と述べている。JAMA Ophthalmology誌オンライン版2015年10月22日号の掲載報告。 2009年1月1日~13年12月31日の5年間に、眼由来臨床分離株(黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)、肺炎レンサ球菌、インフルエンザ菌および緑膿菌)を集め、2015年1月16日~5月15日に中央の施設にて抗生物質耐性について分析した。 米国臨床検査標準委員会(CLSI)のガイドラインに基づく微量液体希釈法で、各種抗生物質に対する最小発育阻止濃度(MIC)を測定し、ブレイクポイントに基づき感受性、中間、耐性で表記した。 主な結果は以下のとおり。・72施設から眼由来臨床分離株計3,237株が集まった(黄色ブドウ球菌1,169株、CoNS 992株、肺炎レンサ球菌330株、インフルエンザ菌357株、緑膿菌389株)。・メチシリン耐性は、黄色ブドウ球菌493株(42.2%、95%信頼区間[CI]:39.3~45.1%)、CoNS 493株(49.7%、95%CI:46.5~52.9%)で確認された。・メチシリン耐性分離株は、フルオロキノロン系、アミノグリコシドおよびマクロライド系抗生物質に対しても同時に耐性を示す可能性が高かった(p<0.001)。・3種類以上の抗生物質に耐性の多剤耐性菌は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌が493株中428株(86.8%)、メチシリン耐性CoNSが493株中381株(77.3%)であった。・すべての黄色ブドウ球菌分離株は、バンコマイシン感受性であった。・肺炎レンサ球菌はアジスロマイシン耐性株が最も多く(330株中113株、34.2%)、一方、緑膿菌およびインフルエンザ菌は検査した抗生物質に対する耐性は低かった。・米国南部で分離された高齢患者由来の黄色ブドウ球菌株は、メチシリン耐性株が多かった(p<0.001)。・5年間で、黄色ブドウ球菌株のメチシリン耐性は増加しなかった。一方、CoNS株およびメチシリン耐性CoNS株のシプロフロキサシン耐性、ならびにCoNS株のトブラマイシン耐性はわずかに減少した(p≦0.03)。

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