サイト内検索|page:7

検索結果 合計:679件 表示位置:121 - 140

121.

未治療の転移のある膵管腺がん患者におけるNALIRIFOX対nab-パクリタキセルおよびゲムシタビン―無作為化非盲検第III相試験(解説:上村直実氏)

 膵がんは消化器領域で最も予後が悪く、罹患者数と死亡者数が増加している唯一の悪性腫瘍である。治癒可能なStage0/Iの初期段階で早期発見されるのは全体の2〜3%にすぎず、大半は外科的切除不能の進行がんで診断される。さらに、手術可能な段階で発見され治癒切除術が施行された場合であっても、再発が多く術後の5年生存率は20%程度であり、遠隔転移を認める場合はわずか2%以下とされている。したがって、現時点では、根治可能な初期がんの早期発見と切除不能膵がんに対する有効な化学療法の開発が喫緊の課題となっている。 切除不能膵がん(遠隔転移例ないしは切除不能局所進行がん)に対する化学療法について、西欧諸国ではNALIRIFOX療法(ナノリポソーム型イリノテカン+オキサリプラチン+ロイコボリン+5-FU)とゲムシタビン+nab-パクリタキセル併用療法(Gem+nab-P)の両者が、化学療法の第一選択として推奨されつつある。今回、この2つの化学療法レジメンを直接比較した無作為化非盲検第III相試験「NAPOLI 3」の結果が、2023年9月のLANCET誌オンライン版に報告された。 日本を含まない世界18ヵ国で施行された国際共同試験であるNAPOLI 3は、切除不能膵がんの一次治療として2つの併用化学療法レジメンを直接比較するために施行された、無作為化オープンラベルの第III相試験である。試験の結果、NALIRIFOX群がGem+nab-P群よりも全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することが示された。この結果、欧米では、遠隔転移例を中心とする切除不能膵がんに対する化学療法の第一選択はNALIRIFOX療法となる可能性が高い。 日本における臨床試験の成績では、欧米と異なり、ゲムシタビン+パクリタキセル併用療法は今回のOSを大きく上回る延命効果を示している。現在もmodified FOLFIRINOX療法とGem+nab-P併用療法の比較試験が行われている最中である。さらに西欧諸国と異なる点として、切除可能膵がんの術前・術後の補助療法に有用性を示しているS-1を組み込んだレジメンやゲノム医療の導入も期待され、今後、日本人を対象とした新たなエビデンスが作られることが待望される。 一方、初期がんの早期発見に関しては、広島県尾道市を中心として一般実地医家と専門施設で膵がん対策チームを作った「尾道方式」が次第に全国へ広まりつつある段階である。さらに、最近、がんの特異的遺伝子発現パターンをターゲットとした診断キットの開発が進んでおり、切除可能な膵がん(Stage0/I/II)を数多く発見できる体制が期待される。 最後に、わが国におけるがん関連臨床試験の対象年齢は18歳から75歳としているものが多かったが、がん患者は75歳以上の高齢者が多いことを反映して、最近は今回の論文と同様に、年齢の上限をなくしたものが見られることは臨床現場にとって喜ばしい変化である。

122.

小児低悪性度神経膠腫の1次治療、ダブラフェニブ+トラメチニブが有効か/NEJM

 BRAF V600変異陽性の小児低悪性度神経膠腫患者の1次治療において、標準化学療法と比較してダブラフェニブ(BRAF V600変異を標的とする選択的阻害薬)とトラメチニブ(MEK1/2阻害薬)の併用は、奏効割合と無増悪生存期間(PFS)が有意に優れ、安全性プロファイルも良好であることが、カナダ・トロント大学のEric Bouffet氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2023年9月21日号で報告された。20ヵ国の無作為化第II相試験 本研究は、日本を含む20ヵ国58施設で実施された非盲検無作為化第II相試験であり、2018年9月~2020年12月の期間に参加者の無作為化を行った(Novartisの助成を受けた)。 対象は、年齢1~17歳で、BRAF V600変異陽性の低悪性度神経膠腫と診断され、Response Assessment in Neuro-Oncology(RANO)の判定基準を用いた中央判定で測定可能病変を確認した未治療の患者であった。 これらの患者を、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法または標準化学療法(カルボプラチン+ビンクリスチン)を施行する群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、RANO判定基準による全奏効(完全奏効+部分奏効)であった。 110例を登録し、ダブラフェニブ+トラメチニブ群に73例(年齢中央値10歳[範囲:1~17]、男児40%)、化学療法群に37例(8歳[1~17]、41%)を割り付けた。早期のBRAF V600変異の分子検査が重要 追跡期間中央値18.9ヵ月の時点で、全奏効が得られた患者の割合は、化学療法群が11%(4/37例、完全奏効1例)であったのに対し、ダブラフェニブ+トラメチニブ群は47%(34/73例、完全奏効2例)と有意に優れた(リスク比:4.31、95%信頼区間[CI]:1.70~11.20、p<0.001)。 臨床的有用率(完全奏効+部分奏効+24週以上持続する安定)は、化学療法群の46%(17/37例)に比べ、ダブラフェニブ+トラメチニブ群は86%(63/73例)であり、有意に良好だった(リスク比:1.88、95%CI:1.30~2.70、p<0.001)。また、奏効期間中央値は、ダブラフェニブ+トラメチニブ群が20.3ヵ月(95%CI:12.0~評価不能[NE])、化学療法群はNE(6.6~NE)であった。 PFS中央値も、ダブラフェニブ+トラメチニブ群で有意に延長した(20.1ヵ月vs.7.4ヵ月、ハザード比[HR]:0.31、95%CI:0.17~0.55、p<0.001)。1年無増悪生存率は、ダブラフェニブ+トラメチニブ群が67%(95%CI:53~77)、化学療法群は26%(95%CI:10~46)だった。 Grade3以上の有害事象の発生率は、ダブラフェニブ+トラメチニブ群で低かった(47% vs.94%)。化学療法群に比べダブラフェニブ+トラメチニブ群で頻度の高かった有害事象として、発熱(68% vs.18%)、頭痛(47% vs.27%)がみられた。また、用量調節または投与中断の原因となった有害事象の頻度は両群で同程度だった(79% vs.79%)。 著者は、「全体として、これらの知見は、小児の低悪性度神経膠腫におけるBRAF V600 変異の有無を判定するための早期の分子検査の価値を示すものである」としている。

123.

小細胞肺がん、アテゾリズマブ+化学療法の5年生存率(IMpower133/IMbrella A)

 進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)に対するアテゾリズマブ+化学療法の1次治療による5年生存率は12%であると示された。 世界肺癌学会(WCLC2023)で、米国・ジョージタウン大学のStephen V. Liu氏らが発表した、第III相IMpower133試験と第IV相IMbrella A試験の統合解析で明らかになった。小細胞肺がんに対する免疫治療の長期生存データが示されたのは初めて。 既報では、化学療法単独治療によるES-SCLCの5年全生存(OS)率は約2%、OS中央値は約12ヵ月である1)。 IMbrella A試験は、オープンラベル非無作為化多施設長期観察試験。対象は、IMpower133試験におけるアテリズマブ+化学療法(カルボプラチン+エトポシド)群の中で、アテゾリズマブ継続または生存追跡が行われていた患者18例。 主な結果は以下のとおり。・患者の年齢中央値は60.5歳、65歳未満が77.8%であった。・アテゾリズマブ+化学療法群の観察期間中央値は59.4ヵ月であった。・IMpower133試験におけるOS中央値は、アテゾリズマブ+化学療法群12.3ヵ月、化学療法群10.3ヵ月であった。・IMbrella A試験におけるアテゾリズマブ+化学療法群の3年OS率は16%、5年OS率は12%であった。・IMbrella A試験でみられた重篤な有害事象は3例で下痢、肺炎、気胸であった。注目すべき有害事象(AE of special interest)として、Grade2の甲状腺機能低下症が1例発現している。 発表者は、アテゾリズマブ+化学療法のES-SCLCに対する5年の持続的な生存ベネフィットが示された、と述べている。

124.

転移のある膵がん1次治療、NALIRIFOXがOS・PFS改善(NAPOLI-3)/Lancet

 米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のZev A. Wainberg氏らは、欧州、北米、南米、アジア、オーストラリアの18ヵ国187施設で実施した無作為化非盲検第III相試験「NAPOLI 3試験」の結果、転移のある膵管腺がん(mPDAC)の1次治療としてNALIRIFOX(ナノリポソーム型イリノテカン+フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)はnab-パクリタキセル+ゲムシタビンと比較し、全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことを報告した。膵管腺がんは依然として、生命予後が最も不良の悪性腫瘍の1つであり、治療選択肢はほとんどないとされている。Lancet誌オンライン版2023年9月11日号掲載の報告。NALIRIFOX群vs.nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群で評価 研究グループは、未治療のmPDACで18歳以上のECOG PS 0~1の患者を、地域(北米vs.東アジアvs.その他の地域)、PS(0 vs.1)、肝転移(ありvs.なし)で層別化し、NALIRIFOX群またはnab-パクリタキセル+ゲムシタビン群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 NALIRIFOX群では、28日を1サイクルとして1日目と15日目に、ナノリポソーム型イリノテカン50mg/m2、フルオロウラシル2,400mg/m2、ロイコボリン400mg/m2およびオキサリプラチン60mg/m2を46時間以上かけて持続点滴静注した。nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群では、28日を1サイクルとして1日目、8日目および15日目に、nab-パクリタキセル125mg/m2とゲムシタビン1,000mg/m2を静脈内投与した。 主要評価項目は、intention-to-treat集団におけるOSで、両群において少なくとも543件のイベントが観察された時点で評価した。副次評価項目はPFSなどであった。また、試験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者を解析対象として安全性を評価した。 2020年2月19日~2021年8月17日の期間に、計770例が無作為に割り付けられた(NALIRIFOX群383例、nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群387例)。NALIRIFOX群でOSが有意に延長 追跡期間中央値16.1ヵ月(四分位範囲[IQR]:13.4~19.1)において、OS中央値はNALIRIFOX群11.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.0~12.1)、nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群9.2ヵ月(8.3~10.6)であった(ハザード比[HR]:0.83、95%CI:0.70~0.99、p=0.036)。12ヵ月OS率は、NALIRIFOX群45.6%(95%CI:40.5~50.5)、nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群39.5%(34.6~44.4)であり、18ヵ月OS率はそれぞれ26.2%(20.9~31.7)、19.3%(14.8~24.2)であった。 また、副次評価項目であるPFSは、NALIRIFOX群7.4ヵ月(95%CI:6.0~7.7)、nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群5.6ヵ月(5.3~5.8)であった(HR:0.69、95%CI:0.58~0.83、p<0.0001)。 治療関連死は、NALIRIFOX群で6例(2%)、nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群で8例(2%)であった。

125.

既治療のHR+/HER2-転移乳がんへのSG、OSを改善(TROPiCS-02)/Lancet

 sacituzumab govitecan(SG)は、ヒト化抗Trop-2モノクローナル抗体と、トポイソメラーゼ阻害薬イリノテカンの活性代謝産物SN-38を結合した抗体薬物複合体。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のHope S. Rugo氏らは、「TROPiCS-02試験」において、既治療のホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)の切除不能な局所再発または転移のある乳がんの治療では、本薬は標準的な化学療法と比較して、全生存期間(OS)を有意に延長し、管理可能な安全性プロファイルを有することを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年8月23日号で報告された。9ヵ国の非盲検無作為化第III相試験 TROPiCS-02試験は、北米と欧州の9ヵ国91施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2019年5月~2021年4月に患者を登録した(Gilead Sciencesの助成を受けた)。 対象は、HR+/HER2-の切除不能な局所再発または転移のある乳がんで、内分泌療法、タキサン系薬剤、CDK4/6阻害薬による治療を1つ以上受け、転移病変に対し2~4レジメンの化学療法を受けており、年齢18歳以上で全身状態が良好な(ECOG PS 0/1)患者であった。 被験者を、sacituzumab govitecan(10mg/kg、21日ごとに1日目と8日目)または化学療法の静脈内投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。化学療法群は、担当医の選択でエリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビンのいずれかの単剤投与を受けた。 主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS、すでに発表済みで、本論では報告がない)で、主な副次評価項目はOS、客観的奏効率(ORR)、患者報告アウトカムであった。 543例を登録し、sacituzumab govitecan群に272例(年齢中央値57歳[四分位範囲[IQR]:49~65]、男性2例)、化学療法群に271例(55歳[48~63]、3例)を割り付けた。全体の進行病変に対する化学療法のレジメン数中央値は3(IQR:2~3)で、86%が6ヵ月以上にわたり転移病変に対する内分泌療法を受けていた。ORR、全般的健康感/QOLも良好 追跡期間中央値12.5ヵ月(IQR:6.4~18.8)の時点で390例が死亡した。OS中央値は、化学療法群が11.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.1~12.7)であったのに対し、sacituzumab govitecan群は14.4ヵ月(13.0~15.7)と有意に改善した(ハザード比[HR]:0.79、95%CI:0.65~0.96、p=0.020)。生存に関するsacituzumab govitecan群の有益性は、Trop-2の発現レベルに基づくサブグループのすべてで認められた。 また、ORRは、化学療法群の14%(部分奏効38例)と比較して、sacituzumab govitecan群は21%(完全奏効2例、部分奏効55例)と有意に優れた(オッズ比[OR]:1.63、95%CI:1.03~2.56、p=0.035)。奏効期間中央値は、sacituzumab govitecan群が8.1ヵ月、化学療法群は5.6ヵ月だった。 全般的健康感(global health status)/QOLが悪化するまでの期間は、化学療法群が3.0ヵ月であったのに対し、sacituzumab govitecan群は4.3ヵ月であり、有意に良好であった(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.0059)。また、倦怠感が悪化するまでの期間も、sacituzumab govitecan群で有意に長かった(2.2ヵ月 vs.1.4ヵ月、HR:0.73、95%CI:0.60~0.89、p=0.0021)。 sacituzumab govitecanの安全性プロファイルは、先行研究との一貫性が認められた。sacituzumab govitecan群の1例で、治療関連の致死的有害事象(好中球減少性大腸炎に起因する敗血症性ショック)が発現した。 著者は、「これらのデータは、前治療歴を有する内分泌療法抵抗性のHR+/HER2-の転移乳がんの新たな治療選択肢としてのsacituzumab govitecanを支持するものである」としている。なお、sacituzumab govitecanは、米国では2023年2月、EUでは2023年7月に、内分泌療法ベースの治療と転移病変に対する2つ以上の全身療法を受けたHR+/HER2-の切除不能な局所再発または転移のある乳がんの治療法として承認されている。

126.

HER2+転移乳がん1次治療、抗HER2療法に抗がん剤は必要か(PERNETTA試験)

 HER2陽性の転移を有する乳がん(MBC)に対する1次治療は、ペルツズマブ+トラスツズマブ+タキサン系抗がん剤の併用療法が推奨されているが、即時に化学療法を行わないペルツズマブ+トラスツズマブのみであっても有効性が示されている。そこで、スイス・Cantonal Hospital St GallenのJens Huober氏らが化学療法を併用した場合としなかった場合の全生存(OS)率や安全性などの検討を行った結果、化学療法併用群のほうが無増悪生存期間(PFS)は長いものの、2年OS率は同等であったことを明らかにした。JAMA Oncology誌2023年8月10日号掲載の報告。 本試験は、フランス27施設、スイス20施設、オランダ9施設、ドイツ1施設で実施された多施設共同無作為化オープンラベル第II相試験の2次解析。HER2陽性のMBC患者210例を、ペルツズマブ+トラスツズマブ投与群(PT群)とペルツズマブ+トラスツズマブ+パクリタキセルまたはビノレルビン投与群(化学療法併用群)に無作為に割り付けた。両群ともに病勢進行時は2次治療としてトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)による治療を実施した。評価項目は、2年OS率、1次治療のPFS、2次治療のPFS、QOLであった。 募集は2013年5月3日~2016年1月4日に行われ、2020年5月26日に試験が終了した。データは2020年12月18日~2022年5月10日に解析された。 主な結果は以下のとおり。・解析対象210例の年齢中央値は58歳(範囲:26~85)であった。・2年OS率は、PT群79.0%(90%信頼区間[CI]:71.4~85.4)、化学療法併用群78.1%(90%CI:70.4~84.5)であった。・1次治療のPFS中央値は、PT群8.4ヵ月(95%CI:7.9~12.0)、化学療法併用群23.3ヵ月(95%CI:18.9~33.1)であった。・HER2高発現集団とHER2低発現集団でOSおよびPFSに顕著な差はみられなかった。・有害事象はPT群のほうが少なかった。・ベースラインからのQOLの改善はPT群でわずかに認められ、化学療法併用群では変化はなかった。 これらの結果より、研究グループは「化学療法を併用しない抗HER2療法は、一部のHER2陽性MBC患者の1次治療のオプションとなる可能性がある」とまとめた。

127.

ASCO2023 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2023 ASCO Annual Meeting2023年の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023)は6月2日から6日にかけてシカゴを舞台に開催されました。今年の泌尿器がん領域のScientific Programは、前立腺がん領域においてmCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験結果が多く発表されていたのが印象的でした。そのほか、尿路上皮がん領域では周術期化学療法としてのdd-MVAC、FGFR変異陽性例におけるerdafitinib、膀胱全摘における拡大リンパ節郭清の意義に関する重要なデータが発表されました。腎がんでも免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のリチャレンジに焦点を当てた、他に類を見ない試験の結果が発表され注目を集めました。そのうちのいくつかを紹介いたします。CAPTURE試験(Abstract # 5003)mCRPC患者の最大30%でDNA損傷修復(DDR)遺伝子の病的変異が観察されます。BRCA2の変異はmCRPCを含むさまざまな前立腺がんの段階において一貫して不良な生存転帰と関連しているだけでなく、PARP阻害薬の効果予測因子となることも知られています。一方で、ほかの生殖細胞系列DDR変異の予後因子としての意義は未解明の部分も多く残されています。本試験は、mCRPCの1次治療としてドセタキセル、カバジタキセル、酢酸アビラテロン/プレドニゾン、またはエンザルタミドの投与を受けた患者の前向き観察研究PROCUREに登録されているmCRPC患者を対象として行われました。ATM、BRCA1/2、BRIP1、CDK12、CHECK2、FANCA、HDAC2、PALB2、RAD51B、およびRAD54Lを含むDDR遺伝子の生殖細胞系列変異および体細胞変異(腫瘍FFPE検体を使用)を解析し、画像上無増悪生存期間(rPFS)、2次治療を含めた無増悪生存期間(PFS2)、および全生存期間(OS)との関連が検証されました。遺伝子変異は、変異遺伝子のカテゴリー(BRCA1/2>HRR non-BRCA>non-HRR)、生殖細胞系列・体細胞変異の別(Germline>Somatic>None)、片アレル・両アレルの別(Bi-allelic>Mono-allelic>None)に基づき階層的に分類されました。解析の結果、BRCA1/2変異患者はHRR non-BRCA変異患者およびnon-HRR変異患者と比較して、2次治療を受けた割合が高いということがわかりました(92%、79%、79%)。にもかかわらず、BRCA1/2変異患者はHRR non-BRCA変異患者およびnon-HRR変異患者と比較してrPFS、PFS2、OSが不良でした。BRCA1/2変異患者に限定した探索的サブグループ解析では、BRCA1/2変異のタイプ(生殖細胞系列変異か体細胞変異か、片アレルか両アレルか)と腫瘍学的転帰(rPFS、PFS2、およびOS)の間に有意な関連は見られませんでした。1次治療として新規ARシグナル阻害薬またはタキサンのいずれかを投与されたmCRPC患者では、ほかのDDR遺伝子と比較してBRCA1/2変異がrPFS、PFS2、OSの短縮と関連していました。BRCA1/2変異陽性患者の不良な転帰は、変異のタイプにかかわらず観察され、また治療への曝露が低いことが原因ではないことが示唆されました。これらの結果は進行前立腺がんの治療において、とくにBRCA1/2の生殖細胞系列および体細胞変異をスクリーニングすることの重要性を示しています。TALAPRO-2試験(Abstract # 5004)TALAPRO-2試験(NCT03395197)は、mCRPC患者の1次治療としてtalazoparib+エンザルタミドとプラセボ+エンザルタミドの併用を評価した第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、患者はtalazoparib 0.5mgを1日1回(標準の1.0mgから減量)+エンザルタミド160mgを1日1回投与する群と、プラセボ+エンザルタミドを投与する群に1:1で無作為に割り付けられました。TALAPRO-2は、PROpelと同様に「オールカマー」のバイオマーカー未選択コホート(HRR遺伝子の変異ステータスにかかわらず組み入れ)を対象とした試験として注目を集めました。バイオマーカー未選択コホート(コホート1、805例)の主解析の結果はすでに報告されており(Agarwal N, et al. Lancet. 2023 Jun 2. [Epub ahead of print])、talazoparib+エンザルタミド併用群のrPFSは、プラセボ+エンザルタミド群と比較して有意に良好でした(中央値:未到達vs.22ヵ月、HR:0.63、95%CI:0.51~0.78、p<0.001)。今回は、コホート1におけるHRR遺伝子変異陽性患者(169例)に、新たにリクルートしたHRR遺伝子変異陽性患者(230例)を加えたコホート2(399例)のデータが公表されました。コホート2もコホート1と同様、talazoparib+エンザルタミド群とプラセボ+エンザルタミド群とに1:1で無作為に割り付けられました。変異HRR遺伝子の内訳は、BRCA2(34%)が最多で、ATM(20~24%)、CDK12(18~20%)がこれに続きました。観察期間中央値16.8~17.5ヵ月の時点で、talazoparib+エンザルタミドの併用はrPFSの有意な改善と関連しており、rPFS中央値は介入群では未達だったのに対し、プラセボ+エンザルタミド群では13.8ヵ月でした(HR:0.45、95%CI:0.33~0.81、p<0.0001)。変異HRR遺伝子に基づくサブグループ解析では、rPFSの有意な延長は BRCA(とくにBRCA2)変異患者に限定されており、PALB2、CDK12、ATM、およびそのほかのHRR遺伝子変異患者ではrPFSの有意な改善は見られないことが本試験でも示されました。PROpel試験のPROデータ(Abstract # 5012)PROpel試験(NCT03732820)はmCRPCに対する1次治療としての、アビラテロン+オラパリブとアビラテロン+プラセボを比較した第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、患者はHRR遺伝子の変異ステータスに関係なく登録され、アビラテロン(1,000mgを1日1回、プレドニゾン/プレドニゾロンを併用)に加えて、オラパリブ(300mgを1日2回)またはプラセボのいずれかを投与する群に無作為(1:1)に割り付けられました。主要評価項目であるrPFSに関しては、オラパリブ+アビラテロン群がプラセボ+アビラテロン群と比べて有意に良好でした(中央値:24.8ヵ月vs.16.6ヵ月、HR:0.66、95%CI:0.54~0.81、p<0.001)。rPFSの延長はHRR遺伝子の変異ステータスに関係なく観察されましたが、効果の大きさはHRR変異陽性患者(HR:0.50、95%CI:0.34~0.73)では、HRR変異陰性患者(HR:0.76、95%CI:0.60~0.97)と比べて高いことが示されました。OSに関しては現在のところ有意差を認めていません。初回の報告ではFACT-Pで評価された健康関連QOL(HRQOL)に有意差はありませんでしたが、今回最終解析時点におけるHRQOLデータが報告されました。本報告でもFACT-Pで評価されたHRQOLに有意差は認められませんでした。また、BPI-SFで評価された疼痛スコアの平均、悪化までの期間も両群間に有意差を認めませんでした。さらに、初回の骨関連有害事象までの期間や麻薬系鎮痛薬使用までの期間にも有意差を認めませんでした。結論として、アビラテロン単独と比較して、アビラテロン+オラパリブの併用はHRQ OL転帰の悪化とは関連していないことが示唆されました。TALAPRO-2試験のPROデータ(Abstract # 5013)上述のTALAPRO-2試験(NCT03395197)のコホート2の腫瘍学的アウトカムの報告に続いて、Patient Reported Outcome(PRO)の結果も発表されました。PROはEORTC QLQ-C30とその前立腺がんモジュールQLQ-PR25を用いて、ベースラインからrPFSに到達するまで4週間ごと(54週以降は8週ごと)に評価されました(BPI-SFおよびEQ-5D-5Lも使用されたようですが、今回は報告されませんでした)。個々のドメインスコアのベースラインからの平均変化および臨床的に意味のある(10ポイント以上) 悪化までの時間(TTD)が解析されました。その結果、EORTC QLQ-C30における全般的なQOLを示すGHS/QOLスコアのTTDはプラセボ+エンザルタミド群と比較して、talazoparib+エンザルタミド群で有意に長くなりました(HR:0.78、95%CI:0.62~0.99、p=0.038)。ベースラインからのGHS/QOLスコアの推定平均変化も同様にtalazoparib+エンザルタミド群で有意に良好でしたが、その差は臨床的に意味のあるものではありませんでした。さらに、両群間で身体面、役割面、感情面、認知面、社会面の各機能スケールに有意な差は観察されませんでした。また、個々の症状スケールにも臨床的に意味のある差異は認められませんでした。プラセボ+エンザルタミドと比較して、talazoparib+エンザルタミドの併用は、全体的な健康状態とQOLの改善に関連している可能性がありますが、その差は臨床的に意味のあるものではないことが示されました。ここ数年で、mCRPCにおける1st-line治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験に関する報告が相次いでいます。今回紹介したPROpel(アビラテロン+オラパリブ)、TALAPRO-2(talazoparib+エンザルタミド)のほかに、MAGNITUDE試験(ニラパリブ+アビラテロン)の中間解析結果も公表されています(Chi KN, et al. J Clin Oncol. 2023;41:3339-3351.、Chi KN, et al. Ann Oncol. 2023 Jun 1. [Epub ahead of print])。これらの新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用療法が、mCRPCにおいてHRR遺伝子の変異ステータスにかかわらずベネフィットをもたらすのかどうかが最大の焦点と言えますが、現在のところ共通して言えるのは、(1)いずれの併用療法においても効果の大きさは、BRCA2-associated mCRPC>all HRR-deficient mCRPC>unselected mCRPC>non-HRR-altered mCRPCの順に大きいこと。(2)現在のところベネフィットが示されているのはrPFSまでで、OSではベネフィットが示されていないこと。(3)新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用は新規ARシグナル阻害薬単剤と比べて、QOL悪化までの期間を延長すること。(4)新規ARシグナル阻害薬+PARP阻害薬と新規ARシグナル阻害薬+プラセボの各群間のQOLスコアに、有意差あるいは臨床的に意味のある差は報告されていないこと。などです。(1)からは、併用療法をHRR遺伝子の変異ステータスにかかわらず(つまり「オールカマー」に)適応した場合、その効果はその集団に占めるHRR遺伝子(とくにBRCA2)変異陽性症例の占める割合によって影響を受けることを意味します。このことはHRR遺伝子(あるいはBRCA2)変異の頻度が低いといわれている日本人集団への適応を考える際に重要です。(2)と併せて、本治療が本邦で承認される場合、どのような条件が付くことになるのか注視したいと思います。(3)はrPFSの延長と無関係ではないと思われますが、OSのベネフィットが示されない状況で、rPFS延長の意義を高めるデータではあります。少なくとも(4)からは、mCRPC患者が同様のHRQOLを維持しながら、新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用療法を継続可能であることを示していると言えるでしょう。GETUG/AFU V05 VESPER試験(Abstract # LBA4507)GETUG/AFU V05 VESPER試験(NCT01812369)は筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)に対する周術期化学療法として、dd-MVACとGCを比較する試験で、すでにdd-MVACがGCと比較して3年のPFSを改善することが報告されています。2013年2月から2018年2月まで、フランスの28施設で500例が無作為に割り付けられ、3週間ごとに4サイクルのGC、または2週間ごとに6サイクルのdd-MVACのいずれかを手術前(術前補助療法群)または手術後(補助療法群)に受けました。今回は5年のOSを含む最終解析の結果が報告されました。OSはdd-MVAC群で改善され(64% vs.56%、HR:0.77、95%CI:0.58~1.03、p=0.078)、疾患特異的生存期間(DSS)も改善しました(72% vs.59%、HR:0.63、95%CI:0.46~0.86、p=0.004)。とくにネオアジュバント群においてdd-MVACはGCよりも有意に優れていました(OS:66% vs.57%、HR:0.71、95% CI:0.52~0.97、p=0.032、DSS:75% vs.60%、HR:0.56、95%CI:0.39~0.80、p=0.001)。MIBCの周術期化学療法において、dd-MVACはGCに比べてOS、DSSを有意に改善することが示されました。今後、本邦でも標準治療となっていくかどうか動向が注目されます。THOR試験(Abstract # LBA4619)FGFR変異は転移性尿路上皮がん患者の約20%で観察され、ドライバー変異として機能していると考えられています。THOR試験(NCT03390504)は、プラチナ含有化学療法および抗PD-(L)1治療後に進行した、FGFR3/2変異を有する局所進行性または転移性尿路上皮がん患者を対象とし、erdafitinibと化学療法を比較するランダム化第III相試験でした。266例の患者が無作為化され、そのうち136例がerdafitinib、130例が化学療法を受けました。今回は、追跡期間の中央値15.9ヵ月時点での主要評価項目のOSのデータが発表されました。erdafitinibは化学療法と比較してOSを有意に延長し、死亡リスクを減少させました(12.1ヵ月vs.7.8ヵ月、HR:0.64、95%CI:0.47~0.88)。さらに、erdafitinibと化学療法によるOSのベネフィットは、サブグループ全体で一貫して観察されました。さらに、客観的奏効率(ORR)はerdafitinibのほうが有意に良好でした(45.6% vs.11.5%、相対リスク:3.94、95%CI:2.37~6.57、p<0.001)。安全性に関しても新たな懸念は見いだされませんでした。erdafitinibはプラチナ含有化学療法および抗PD-(L)1治療後に進行した、FGFR3/2 変異を有する局所進行性または転移性尿路上皮がん患者における標準治療になりうると考えられます。SWOG S1011試験(Abstract # 4508)MIBCに対する膀胱全摘除術(RC)におけるリンパ節郭清の範囲に関する前向き試験であるSWOG S1011(NCT01224665)の結果が報告されました。詳細は別項に譲りますが、主要評価項目であるDFS、副次評価項目であるOSともに両群間に有意差を認めませんでした。この結果は数年前に報告された同様の試験であるLEA AUO AB 25/02試験(NCT01215071、Gschwend JE, et al. Eur Urol. 2019;75:604-611.)と同様でしたが、サンプルサイズ、観察期間などの不足から検出力が不足しているとの指摘(Lerner SP, et al. Eur Urol. 2019;75:612-614.)もあり、今後より大規模なデータベース研究や長期フォローアップの結果が待たれます。いずれにせよ、RCにおける拡大郭清がDFS、OSに与える影響はそれほど大きくはないということが示唆されました。CONTACT-03試験(Abstract # LBA4500)CONTACT-03試験(NCT04338269)は、ICI治療中または治療後に進行した、切除不能または転移性の淡明細胞型または非淡明細胞型RCC患者を対象とし、アテゾリズマブ(1,200mg IV q3w)とカボザンチニブ(60mg 経口 qd)の併用またはカボザンチニブ単独の治療に1:1に無作為に割り付けました。RECIST 1.1に基づくPFSおよびOSが主要評価項目でした。552例が無作為化され、263例がアテゾリズマブ+カボザンチニブ群に、259例がカボザンチニブ単独群に割り付けられました。観察期間の中央値15.2ヵ月の時点で、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群にOS、PFSに関するベネフィットは認められませんでした。Grade3/4の有害事象は、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群の68%(177/262)およびカボザンチニブ単独群の62%(158/256)で報告されました。Grade5のAEは6%と4%で発生しました。治療中止につながる有害事象は、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群で16%、カボザンチニブ単独群では4%で発生しました。本試験は、ICI治療中あるいは治療後に進行した腎がん患者に対してカボザンチニブにアテゾリズマブを追加しても臨床転帰は改善されず、毒性が増加するという残念な結果に終わりましたが、ICIのリチャレンジを検証する初のランダム化第III相試験として注目度も高く、論文はLancet誌に掲載されています(Pal SK, et al. Lancet. 2023;402:185-195.)。おわりに本年のASCO Annual Meetingでは、泌尿器腫瘍各領域で今後の治療の在り方に重要な示唆を与える報告が多数見られました。前立腺がん領域では、mCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験以外にも、mCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬と放射線治療および化学療法の併用に関するPEACE-1試験の放射線治療のベネフィットに関するデータも公表されました。総じて、ここ10年で開発されてきた治療法の併用による治療強度の増強に関する研究が多かったように思います。これらの治療は、対象患者、治療レジメンともに、さらなる最適化が必要と考えられます。今後の動向にも注目していきたいと思います。

128.

StageIII NSCLC、周術期ニボルマブ上乗せで生存改善(NADIM II)/NEJM

 切除可能なStageIIIA/IIIBの非小細胞肺がん(NSCLC)における術前補助療法について、ニボルマブ+化学療法は化学療法のみの場合と比べ、病理学的完全奏効(CR)の割合は有意に高率(相対リスク5.34)で、生存延長にも結び付くことが示された。スペイン・Puerta de Hierro-Majadahonda大学病院のMariano Provencio氏らが、非盲検第II相無作為化比較試験の結果を報告した。NSCLC患者の約20%がStageIIIを占める。これら患者の最も至適な治療についてコンセンサスが得られていなかった。NEJM誌オンライン版2023年6月28日号掲載の報告。病理学的CR、PFS、OSなどを検証 研究グループは、切除可能なStageIIIA/IIIBのNSCLCの患者を無作為に2群に分け、一方には術前補助療法としてニボルマブ+プラチナ製剤ベースの化学療法(実験群)を、もう一方には、同様の化学療法のみを行い(対照群)、両群ともにその後手術を実施した。実験群でR0切除を受けた被験者に対しては、術後6ヵ月間、ニボルマブ補助療法を行った。 主要評価項目は、病理学的CR(切除した肺・リンパ節残存腫瘍0%)だった。副次評価項目は、24ヵ月時点の無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)で安全性も評価した。2年推定PFSは実験群67.2%、対照群40.9% 86例が無作為化され、実験群は57例、対照群は29例だった。病理学的CRが認められたのは、実験群37%、対照群7%だった(相対リスク:5.34、95%信頼区間[CI]:1.34~21.23、p=0.02)。手術を受けたのは、実験群93%、対照群69%だった(相対リスク:1.35、95%CI:1.05~1.74)。 24ヵ月時点のKaplan-Meier法による推定PFSは、実験群67.2%、対照群40.9%で、実験群で有意に高率だった(病勢進行・再発・死亡ハザード比[HR]:0.47、95%CI:0.25~0.88)。同様のOSは、実験群85.0%、対照群63.6%だった(死亡HR:0.43、95%CI:0.19~0.98)。 Grade3または4の有害事象の発生は、実験群11例(19%、何例かは両グレードを報告)、対照群3例(10%)だった。

129.

ASCO2023 レポート 消化器がん

レポーター紹介本年も世界最大級の腫瘍学学会の1つであるASCO2023が、6月2日から6日に現地米国シカゴとオンラインのハイブリッドで開催された。消化器がんの注目演題について、いくつか取り上げていきたい。ATTRACTION-5: A phase 3 study of nivolumab plus chemotherapy as postoperative adjuvant treatment for pathological stage III (pStage III) gastric or gastroesophageal junction (G/GEJ) cancer. #4000本試験は胃切除術+D2郭清以上の手術を受けたStageIIIの胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する術後治療として、化学療法に対するニボルマブの上乗せを検証した第III相試験であり、本邦の静岡県立がんセンターの寺島先生より報告された。主要評価項目は中央判定の無再発生存期間、副次評価項目は研究者判定の無再発生存期間、全生存期間(OS)および安全性であった。日本、韓国、台湾、中国の東アジアの4ヵ国から755例が登録され、377例が化学療法+ニボルマブ群に、378例が化学療法群に登録された。患者背景は65歳以上が約40%、男性が約70%、PS0が約80%、StageIIIA〜Cが3分の1ずつ、胃全摘が43%、病理diffuse typeが56%、日本からの登録が48%あった。化学療法の内訳はS-1が35%でcapeOXが65%、PD-L1発現(腫瘍における発現)は1%以上が10%程度で、両群の患者背景に偏りは認められなかった。主要評価項目である中央判定の3年無再発生存率は、化学療法+ニボルマブ群で68.4%、化学療法群で65.3%と統計学的な有意差を認めなかった(HR:0.90、95%CI:0.69〜1.18、p=0.4363)。サブグループ解析ではニボルマブの上乗せ効果はPS0、食道胃接合部/噴門部、StageIIIA/IIIB、intestinal typeおよびS-1群で乏しい傾向があった。副次評価項目である研究者判定の3年無再発生存率は64.9% vs.59.3%(HR:0.87、95%CI:0.69〜1.11)、3年生存率が81.5%vs.78.0%(HR:0.88、95%CI:0.66〜1.17)であった。新規の有害事象は認められなかった。Perioperative PD-1 antibody toripalimab plus SOX or XELOX chemotherapy versus SOX or XELOX alone for locally advanced gastric or gastro-oesophageal junction cancer: Results from a prospective, randomized, open-label, phase II trial.  #4001前述のATTRACTION-5試験に続き、中国から周術期化学療法における抗PD-1抗体薬の上乗せを探索したランダム化第II相試験が報告された。本研究ではcT3a-4aでN因子陽性かつM0の胃がんおよび食道胃接合部がんを対象にして、SOXもしくはcapeOXに抗PD-1抗体薬であるtoripalimabを上乗せする試験であった。通常治療群は術前治療としてcapeOX/SOXを3コース、術後にcapeOX/SOXを5コース行った。試験治療群は周術期capeOX/SOXにtoripalimabを上乗せした後に、6ヵ月間toripalimab単剤が継続された。主要評価項目はtumor regression grade rate(TRG rate)でTRG0(腫瘍細胞なし)もしくはTRG1(1細胞もしくは小グループの腫瘍細胞残存)の割合であり、副次評価項目は原発巣の病理学的完全奏効率、完全切除率、無再発生存率、event free survival、全生存期間および安全性であった。各群54例、108例が登録され、今回、主要評価項目のTRG rateと安全性が報告された。化学療法+toripalimab群と化学療法群の割合は、食道胃接合部がんでは31%と37%、diffuse typeでは33%と37%、cT3では39%と31%、cN3では22%と11%、SOX治療群では61%と46%であった。TRG rateは試験治療群44%、通常治療群20%であり、試験治療群で統計学的に有意な改善を認めた(p=0.01)。また、化学療法+toripalimab群でのTRG rateの上乗せは、腫瘍部位や病理Lauren分類にかかわらず認められた。術後の病理学的評価を見ると、ypT0~2の割合は、化学療法+toripalimab群46%、化学療法群22%と、化学療法+toripalimab群で良い傾向を認めたが、yp0~1の割合は57% vs.59%と大きな差は認められなかった。周術期合併症や治療強度は両群に有意差はなかった。有害事象について見ると、免疫関連有害事象は化学療法群に比べ、化学療法+toripalimab群で多く認めたが(全Gradeでは13% vs.2%、Grade3以上では2% vs.0%)、重篤な治療関連有害事象に関しては大きな差がなかった(Grade3/4で36% vs.30%)。胃がんにおける今学会の注目演題は周術期の試験である。ATTRACTION-5は胃がんにおいて最も注目されていた発表だったが、StageIII胃がんにおける術後化学療法へのニボルマブの上乗せ効果は認められなかった。現在、周術期の免疫チェックポイント阻害薬の併用療法は多数行われている。この試験では、術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬toripalimabの上乗せによって、TRG rateは改善を認めた。しかし本研究はまだ観察期間が短く、無再発生存期間や全生存期間のデータはない。欧米では周術期のFLOT療法にアテゾリズマブの上乗せを検証するDANTE試験、FLOT療法にデュルバルマブの上乗せを検証するMATTERHORN試験などが行われている。DANTE試験は2022年のASCOで中間解析が報告され、副次評価項目であるTRG rateはPD-L1がCPSで高値の群やMSI-High集団で、アテゾリズマブの上乗せ効果が強く認められた。またMSI-Highの胃がんの術前治療としてイピリムマブ+ニボルマブの有効性を探索した第II相試験(GERCOR NEONIPIGA)も行われており、pCR率58.6%、TRG1は73%で認められている。今回の両研究ではバイオマーカー解析の結果はないため、今後の解析が待たれる。また、周術期化学療法へのペムブロリズマブの上乗せ効果を検証するKEYNOTE-585試験において、病理学的完全奏効率は有意に改善したものの、主要評価項目であるevent free survivalは統計学的有意な改善が示されなかったことが、MSD社のプレスリリースで報告された。現在進行中の試験も、いまだ全生存期間や無再発生存期間のデータはないため、今後、周術期治療の免疫チェックポイント阻害薬が胃がん患者の本当の予後改善につながるのかも含め、いずれの試験においても慎重な検討が必要であると考えられる。Liposomal irinotecan + 5-fluorouracil/leucovorin + oxaliplatin (NALIRIFOX) versus nab-paclitaxel + gemcitabine in treatment-naive patients with metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma (mPDAC): 12- and 18-month survival rates from the phase 3 NAPOLI 3 trial. #40062023年のASCO-GI で発表されたNAPOLI-3試験において、リポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナート療法のNALIRIFOX療法は、主要評価項目の全生存期間中央値11.1ヵ月vs.9.2ヵ月と、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)療法に対する統計学的に有意な改善が報告された。今回、追加解析の結果がASCO2023で報告された。主要評価項目である全生存期間は11.1ヵ月vs.9.2ヵ月(HR:0.83、p=0.04)であり、12ヵ月生存率は45.6% vs.39.5%、18ヵ月生存率は26.2% vs.19.3%と、いずれもNALIRIFOX群で良好な結果であった。事前に設定されたサブグループ解析結果も報告され、PS、肝転移の有無、年齢にかかわらず無増悪生存期間と全生存期間の双方でNALIRIFOX療法の有効性が示された。重篤な有害事象については骨髄抑制には大きな差はないものの、Grade3/4の有害事象で下痢(20.3% vs.4.5%)、嘔気(11.9% vs.2.6%)、低K血症(15.1% vs.4.0%)などがNALIRIFOX群で多い傾向であった。本研究よりNALIRIFOX療法はGnP療法への優越性が示されているが、ディスカッサントも触れていたように、有効性はFOLFIRINOX療法の第III相PRODIGE/ACCORD試験と同等で(全生存期間11.1ヵ月、12ヵ月生存率48.4%および18ヵ月生存率18.6%)、下痢はNALIRIFOXでより高率であった。NALIRIFOX療法の有効性と安全性に関する本邦のデータはないが、使用対象は全身状態良好な症例になると思われる。本邦における現状を考えると、全身状態の良好な膵がん症例にはGnP療法およびFOLFIRINOX療法(もしくはリポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナート)を使い切る戦略を考慮することが肝要と考える。NALIRIFOX療法については、今後、QOLやバイオマーカー解析の結果も待たれる。Tucatinib and trastuzumab for previously treated HER2-positive metastatic biliary tract cancer (SGNTUC-019): A phase 2 basket study.  #4007Results from the pivotal phase (Ph) 2b HERIZON-BTC-01 study: Zanidatamab in previously-treated HER2-amplified biliary tract cancer (BTC).  #4008今回、HER2陽性の胆道がんに対して2つの研究が発表された。1つ目のSGNTUC-019試験は、国立がん研究センター東病院の中村先生より報告された。本研究は、HER2陽性例に対するHER2 チロシンキナーゼ高選択的経口阻害薬であるtucatinibとトラスツズマブの併用療法の有効性を探索する、臓器横断的なバスケット試験(第II相試験)における胆道がんコホートの報告である。対象は、抗HER2療法の既往がない1レジメン以上の全身化学療法を受けた、病理組織でIHC/FISHでHER2陽性症例もしくは組織か血液におけるNGS検査でHER2増幅を認めた症例であり、30例が登録された。奏効率は46.7%、病勢制御率は76.7%、無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月で、全生存期間中央値は15.5ヵ月であった。主なGrade3以上の有害事象は嘔気、食欲不振および胆管炎であった。zanidatamabはHER2タンパクの細胞外ドメインであるECD2とECD4の2ヵ所に結合するbispecific antibodyで、前臨床研究ではトラスツズマブとペムブロリズマブの併用療法よりも期待される有効性を示した。HERIZON-BTC-01試験はゲムシタビンを含むレジメンに不応となり、中央判定で組織学的にHER2陽性と判定された胆管がんを対象にzanidatamabの有用性を探索した第II相試験である。80例が登録され、奏効率は41.3%、病勢制御率は68.8%、無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月であった。主なGrade3以上の有害事象は下痢、心機能低下および貧血であった。HER2高発現の胆道がんは5~30%程度といわれており、注目される治療標的の1つである。バスケット型試験であるMyPathway試験のHER2陽性胆道がんコホートでは、ペルツズマブ+トラスツズマブで奏効率が23.1%と報告されている。また、昨年のASCO2022では、本邦からトラスツズマブ デルクステカンの第II相試験(HERB試験)も報告され、奏効率は36.4%であった。今回の新たな2つの治療もHER2陽性例に対し有用性を示したことから、胆道がんにおける抗HER2療法の一日も早い臨床導入が期待される。PROSPECT: A randomized phase III trial of neoadjuvant chemoradiation versus neoadjuvant FOLFOX chemotherapy with selective use of chemoradiation, followed by total mesorectal excision (TME) for treatment of locally advanced rectal cancer (LARC) (Alliance N1048). #LBA2ASCO2023消化器がんにおける、唯一のplenary session発表である。欧米では遠隔転移を伴わない進行直腸がんに対する標準治療は、術前化学放射線療法、Total Mesorectal Excision(TME:直腸間膜全切除)を伴う手術、そして術後補助化学療法である。しかし、術前化学放射線療法に伴う晩期毒性(腸管・膀胱・性機能障害、骨盤骨折、2次発がんなど)も問題となっていた。今回、cT2でN因子陽性もしくはcT3の直腸がんに対する術前治療として、骨盤内化学放射線療法(50.4Gy)群に対するFOLFOX±選択的化学放射線療法群の非劣性を検証するランダム化第III相試験(PROSPECT試験)が報告された。主要評価項目は無再発生存期間、副次評価項目は局所再発率、全生存期間、R0切除率、病理学的完全奏効率、PROによる毒性、QOLであった。非劣性マージンは片側α0.049、power85%で、1.29と設定された。対象群では術前化学放射線療法後に手術と術後補助化学療法が施行された。試験治療群では、FOLFOX6サイクル施行後20%以上の腫瘍縮小が得られた症例には、手術と術後化学療法が、腫瘍縮小20%未満およびFOLFOX不耐例には、術前化学放射線療法が施行され、その後手術と術後補助化学療法が行われた。FOLFOX±選択的化学放射線療法群に585例、化学放射線療法群に543例が登録された。患者背景に大きな偏りはなく、術前MRI施行例は84%、cT3N(+)症例が約50%、肛門縁から腫瘍までの距離は中央値で8cmであった。5年無再発生存率はFOLFOX±選択的化学放射線療法群で80.8%、化学放射線療法群で78.6%であり、非劣性マージンの1.29を95%信頼区間の上限が超えず、統計学的有意に非劣性が証明された(HR:0.92、95%CI:0.74〜1.14)。また、年齢とN因子の有無で調整しても同様に非劣性が証明された。局所再発なしに5年生存した症例の割合は、FOLFOX±選択的化学放射線療法群で98.2%、化学放射線療法群で98.4%、5年生存率は89.5%と90.2%であった。病理学的完全奏効率はFOLFOX±選択的化学放射線療法群で22%、術前化学放射線療法群で24%であった。術後化学療法も両群とも約80%で施行された。また、FOLFOX±選択的化学放射線療法で化学放射線療法を受けた症例は9%であった。術前治療における毒性は、FOLFOX±選択的化学放射線療法群で倦怠、嘔気、食欲不振などが多く、化学放射線療法群では下痢が多かった。QOLに関する有意差はなく、腸管機能や性機能に関してはFOLFOX±選択的化学放射線療法群で良好であった。以上の結果より、cT2N(+)、cT3N(-)、cT3N(+)症例に対してFOLFOX±選択的化学放射線療法は治療選択肢の1つとなりうると報告された。今回の報告では、FOLFOX±選択的化学放射線療法群では、約90%の症例で術前化学放射線療法を回避できた。腸管機能や性機能への影響も軽減されている。本研究の適格基準を満たす直腸がんの術前治療として、FOLFOX±選択的化学放射線療法は治療選択肢となりうる。ただ、cT4症例、リンパ節転移が本試験の基準より高度であるなど、さらに進行した局所直腸がんでの有効性は明らかではない。より進行した局所進行直腸がんに対しては放射線療法も含めたTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)が注目されている。本邦でも、T3〜4/N(-)もしくはTanyN(+)の局所進行直腸がんに対して、short courseの放射線治療(5Gy×5回)からcapeOXを行う群とcapeOXIRIを行う群を比較するランダム化第III相試験(ENSEMBLE試験)が進行している。TNTでは、化学療法と放射線療法を組み合わせて行うことにより手術を避けるNon Operative Management(NOM)も注目されており、局所進行直腸がんに対する、さらなる治療開発が期待される。Efficacy of panitumumab in patients with left-sided disease, MSS/MSI-L, and RAS/BRAF WT: A biomarker study of the phase III PARADIGM trial. #3508最後に、本邦で行われたPARADIGM試験のバイオマーカー解析について報告する。RAS/BRAFのみならずMSIのステータスも含めて解析された結果であり、より実臨床に近い対象に絞った報告であった。MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異を認める症例は、左側で10.3%、右側で43.2%と、右側で多く認められ、治療開始前のctDNAのBRAF V600E変異も左側4.3%、右側31.3%と、右側で多く認められた。左側のMSSかつRAS/BRAF変異野生型の全生存期間は、FOLFOX+パニツムマブ群40.6ヵ月に対しFOLFOX+ベバシズマブ群34.8ヵ月と、パニツムマブ群で良好であったが、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では15.4ヵ月 vs.25.2ヵ月と、ベバシズマブ群で良好であった。右側でもMSSかつRAS/BRAF野生型では全生存期間37.9ヵ月 vs.30.9ヵ月および奏効率70.7% vs.63.6%とパニツムマブ群で良好であったが、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では全生存期間13.7ヵ月 vs.17.9ヵ月および奏効率37.8% vs.69.4%と、ベバシズマブ群で良好であった。PFSも左側、右側にかかわらず、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型ではベバシズマブ群で良好な傾向があった。奏効率もMSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では左側、右側にかかわらず、ベバシズマブ群で統計学的有意に高かった。本結果より、抗EGFR抗体薬を使用する前にRAS/BRAF変異のみならずMSIを測定することが重要であることが示唆される。また本研究を含め複数の研究で、組織検査のRASは野生型であっても、ctDNAでRAS変異を認める症例が10%程度存在することが示唆され、このような症例では抗EGFR抗体薬の効果が乏しいことが、PARADIGM試験を含め報告されている。将来的には組織だけでなく、ctDNAによるゲノム検査が治療前に行えるようになることが期待される。

130.

既治療のKRAS G12C変異大腸がんに対するソトラシブ+パニツムマブ+FOLFIRIの安全性と有効性(CodeBreaK 101)/ASCO2023

 既治療の転移のあるKRAS G12C変異陽性の大腸がん(mCRC)に、ソトラシブとパニツムマブ、FOLFIRIレジメンの併用が有効である可能性が明らかとなった。CodeBreaK 101サブプロトコールHの結果として、米国・MDアンダーソンがんセンターのDavid S. Hong氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で発表した。 CodeBreaK 101サブプロトコールHは、多施設共同のオープンラベル第Ib相試験。今回は、用量探索コホート(6例)と拡大コホート(40例)を合わせた全体成績が解析された。・対象:1ライン以上の治療歴があるKRAS G12C変異陽性のmCRC 46例・介入:ソトラシブ960mg/日+パニツムマブ6mg/kg 2週ごと+FOLFIRI 2週ごと・評価項目:[主要評価項目]安全性および忍容性[副次評価項目]奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、奏効までの期間(TTR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、薬物動態 主な結果は以下のとおり。・用量探索コホートと拡大コホートを合わせた、ソトラシブ+パニツムマブ+FOLFIRIによる治療関連有害事象(TRAE)は全Gradeで96%、重篤なものは4%に発現し、死亡例はなかった。これらの有害事象は既知のものと一貫していた。・ソトラシブとイリノテカンの薬物動態に関し、臨床的に意味のある相互作用は確認されなかった。・用量探索コホートと拡大コホートを合わせた併用レジメンのORRは55%、DCRは93%であった。有効性は、前治療のライン数やイリノテカンベースの治療の有無に関係なく示された。・ソトラシブ960mg/日、パニツムマブ6mg/kg 2週ごと、FOLFIRI 2週ごとは、第II相推奨用量であることが示された。 ソトラシブ、パニツムマブ、FOLFIRI療法の組み合わせは、5-FUやイリノテカンの前治療にかかわらず、既治療のKRAS G12C変異陽性mCRCに対する優れた有効性を示すことが示唆された。

131.

de novo StageIV乳がんの初期薬物療法、サブタイプ・薬剤別の効果(JCOG1017副次的解析)/日本乳癌学会

 治療歴のない(de novo)StageIV乳がんに対する初期薬物療法の効果は術後再発乳がんより良好とされるが、その効果について詳細なデータはない。今回、JCOG1017(薬物療法非抵抗性StageIV乳がんに対する原発巣切除の意義に関するランダム化比較試験)の副次的解析として、de novo StageIV乳がんに対する初期薬物療法の効果と効果予測因子を検討した結果、サブタイプにより治療効果が異なり、とくにPgR、HER2発現の有無および内臓転移の状況が影響している可能性が示唆された。岡山大学の枝園 忠彦氏が第31回日本乳癌学会学術総会で発表した。 JCOG1017では、1次登録されたde novo StageIV乳がん患者に対し、サブタイプと転移の状況に応じて、以下のいずれかの初期薬物療法を約3ヵ月実施している。(1)ホルモン療法:ER+かつ生命を脅かす転移なし(2)weekly パクリタキセル(PTX)療法:ER-/HER2-または生命を脅かす転移あり(3)トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル(HPD)療法またはトラスツズマブ+パクリタキセル(HPTX)療法:ER-/HER2+またはER+/HER2+かつ生命を脅かす転移あり 本解析では、レジメンごとの薬物療法の開始3ヵ月後の治療効果(non-PD割合、奏効割合)、初期薬物療法の効果予測因子を検討した。 主な結果は以下のとおり。・約3ヵ月の初期薬物療法を受けた569例におけるnon-PD割合は77.2%で、閉経後およびPgR+で効果が高かった。サブタイプ別にみると、トリプルネガティブ(TN)を基準としたオッズ比(OR)は、ER+/HER2-が0.434(p=0.0439)、ER-/HER2+が3.374(p=0.0201)、ER+/HER2+が0.345(p=0.0153)であった。・薬剤別のnon-PD割合は、ホルモン療法では、タモキシフェン+LH-RHが68.2%、レトロゾールが75.2%、全体では72.8%であり、内臓転移なし、PgR+、HER2-で効果が高かった。weekly PTX療法では76.1%で、有意な効果予測因子はなかった。HPD療法/HPTX療法では92.7%で、内臓転移ありで効果が高かった。・569例における奏効割合(CR+PR)は29.0%で、内臓転移ありで効果が高かった。サブタイプ別にみると、TNを基準としたORは、ER+/HER2-が0.368(p=0.0121)、ER-/HER2+が6.499(p<0.0001)、ER+/HER2+が1.428(p=0.3793)であった。・薬剤別の奏効割合は、ホルモン療法では、タモキシフェン+LH-RHが10.9%、レトロゾールが12.0%、全体では11.6%で、有意な効果予測因子はなかった。weekly PTX療法では36.4%で、有意な効果予測因子はなかった。HPD療法/HPTX療法では81.8%で、内臓転移ありで効果が高かった。・原発巣と転移巣のcCR割合は、ホルモン療法とweekly PTX療法ではほぼゼロであったが、HPD療法/HPTX療法では原発巣で16.4%、転移巣で11.8%であった。 本解析の結果から、枝園氏は「サブタイプによって初期薬物療法の治療効果および効果予測因子は異なっていた。PgR、HER2発現の有無および内臓転移の状況が治療効果に影響している可能性があり、これらを考慮した治療戦略構築が必要」とし、「とくにER+/HER2+ではホルモン療法単独の効果は低く、初期薬物療法から分子標的薬の併用が必要」と考察を述べた。

132.

mCRPCの1次治療、エンザルタミド+talazoparibでrPFS改善/Lancet

 転移のある去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者の1次治療において、PARP阻害薬talazoparibとアンドロゲン受容体阻害薬エンザルタミドとの併用療法は、標準治療のエンザルタミド単独療法と比較し、臨床的に意味のある統計学的に有意な画像上の無増悪生存期間(rPFS)の改善をもたらしたことが示された。米国・ユタ大学のNeeraj Agarwal氏らが、26ヵ国(北米、欧州、イスラエル、南米、南アフリカ、アジア太平洋地域)の223施設で実施した第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「TALAPRO-2試験」の結果を報告した。PARPとアンドロゲン受容体活性の両方を阻害することは、相同組換え修復(HRR)に関与するDNA損傷修復遺伝子変異の有無にかかわらず、抗腫瘍効果が得られる可能性があった。Lancet誌オンライン版2023年6月4日号掲載の報告。talazoparib+エンザルタミドvs.エンザルタミド単独、rPFSで有効性を比較検証 研究グループは、アンドロゲン除去療法中で無症候性または症状の軽い18歳以上(日本では20歳以上)で、ECOG PSが0/1、全身療法未治療のmCRPC患者を登録し、talazoparib(0.5mgを1日1回経口投与)+エンザルタミド(160mgを1日1回経口投与)群(talazoparib群)、またはプラセボ+エンザルタミド(同上)群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化は、HRR遺伝子変異の状態(欠損vs.非欠損または不明)、去勢感受性前立腺がんに対するドセタキセルまたは新規ホルモン療法(アビラテロンまたはorteronel)の治療歴(ありvs.なし)で層別化された。 また、無作為化前に、腫瘍組織または/および血液検体を採取し、HRR遺伝子変異について前向きに評価した。 主要評価項目は、intention-to-treat集団における盲検下独立中央判定(BICR)による画像上のrPFSで、安全性については少なくとも1回試験薬の投与を受けた全患者で評価した。rPFS中央値は、talazoparib併用群では未到達、プラセボ群では21.9ヵ月 2019年1月7日~2020年9月17日に、805例が登録され無作為化された(talazoparib群402例、プラセボ群403例)。全例で腫瘍組織検査が行われ、HRR遺伝子変異あり(HRR欠損)が169例(21%)、HRR遺伝子変異なしまたは不明が636例(79%)であった。 rPFSの追跡期間中央値は、talazoparib群24.9ヵ月(四分位範囲[IQR]:21.9~30.2)、プラセボ群24.6ヵ月(14.4~30.2)であった。予定された主要解析時点で、rPFS中央値はtalazoparib群未達(95%信頼区間[CI]:27.5ヵ月~未達)、プラセボ群21.9ヵ月(16.6~25.1)で、ハザード比(HR)は0.63(95%CI:0.51~0.78、p<0.0001)であり、talazoparib群で画像上の進行または死亡のリスクが37%低下した。 talazoparib群における主な治療関連有害事象は、貧血、好中球減少症、疲労であった。Grade3/4の有害事象は貧血(185/398例、46%)が最も多かったが、用量減量により改善し、貧血によりtalazoparibを中止した患者は398例中33例(8%)のみであった。治療に関連した死亡は、プラセボ群でのみ2例(<1%)報告された。 著者は、「最終的な全生存期間のデータと追加の長期安全性追跡調査により、HRR遺伝子変異の有無にかかわらないtalazoparib併用の臨床的有用性がさらに明確になるだろう」とまとめている。

133.

高齢NSCLCのICI治療に化学療法の併用は必要か?(NEJ057)/ASCO2023

 75歳以上の非小細胞肺がん(NSCLC)患者における、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と化学療法の併用の有効性と安全性は明らかになっていない。そこで、日本国内の58施設における75歳以上の進行・再発NSCLC患者を対象とした後ろ向きコホート研究(NEJ057)が実施された。その結果、ICIと化学療法の併用はICI単剤と比較して、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を改善せず、Grade3以上の免疫関連有害事象(irAE)の発現率を増加させた。本研究結果は、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)において、植松 真生氏(がん・感染症センター 都立駒込病院)が発表した。・試験デザイン:多施設(58施設)後ろ向きコホート研究・対象:未治療の75歳以上の進行・再発NSCLC患者のうち、ICI+化学療法、ICI単剤、プラチナダブレット、単剤化学療法のいずれかで治療を開始した1,245例(初回治療に分子標的薬を使用した患者とEGFR・ALK遺伝子変異を有する患者は除外)・評価項目:レジメン別にみたOSとPFS、PD-L1発現状況別にみたOSとPFS(傾向スコアマッチングを実施)、安全性 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、年齢中央値78歳(範囲:75~95歳)、男性78%、ECOG PS 0または1が84%、PD-L1陰性(Tumor Proportion Score[TPS]1%未満)/低発現(TPS 1~49%)/高発現(TPS 50%以上)/不明がそれぞれ22%/31%/33%/14%であった。・レジメンの割合は、ICI+化学療法28%、ICI単剤34%、プラチナダブレット25%、単剤化学療法12%であった。・レジメン別にみたOS中央値は、ICI+化学療法群20.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:17.1~23.6)、ICI単剤群19.8ヵ月(95%CI:16.5~23.8)、プラチナダブレット群12.8ヵ月(95%CI:10.7~15.6)、単剤化学療法群9.5ヵ月(95%CI:7.4~13.4)であった。・レジメン別にみたPFS中央値は、ICI+化学療法群7.7ヵ月(95%CI:6.5~8.7)、ICI単剤群7.7ヵ月(95%CI:6.6~8.8)、プラチナダブレット群5.4ヵ月(95%CI:4.8~5.7)、単剤化学療法群3.4ヵ月(95%CI:2.6~4.0)であった。・傾向スコアマッチング後のPD-L1発現状況別にみたOSについて、ICI単剤群に対するICI+化学療法群のハザード比[HR]は、PD-L1陽性(TPS 1%以上)が0.98(95%CI:0.67~1.42)、PD-L1低発現(TPS 1~49%)が1.11(95%CI:0.65~1.91)、PD-L1高発現(TPS 50%以上)が0.92(95%CI:0.55~1.56)であり、いずれのサブグループにおいても有意差は認められなかった。・PD-L1発現状況別にみたPFSについて、ICI単剤群に対するICI+化学療法群のHRは、PD-L1陽性(TPS 1%以上)が0.92(95%CI:0.67~1.25)、PD-L1低発現(TPS 1~49%)が1.22(95%CI:0.71~1.91)、PD-L1高発現(TPS 50%以上)が0.86(95%CI:0.56~1.31)であり、いずれのサブグループにおいても有意差は認められなかった。・Grade3以上のirAEは、ICI+化学療法群24.3%(86例)、ICI単剤群17.9%(76例)に認められ、ICI+化学療法群が有意に高率であった(p=0.03)。・肺臓炎の発現率(全Grade)は、ICI+化学療法群23.4%(83例)、ICI単剤群15.6%(66例)に認められ、ICI+化学療法群が有意に高率であった(p=0.006)。・ステロイドを必要としたirAEは、ICI+化学療法群32.5%(115例)、ICI単剤群24.7%(105例)に認められ、ICI+化学療法群が有意に高率であった(p=0.02)。 植松氏は、「リアルワールドにおいて、ICIと化学療法の併用はICI単剤と比較して、高齢NSCLC患者の生存成績を改善せず、Grade3以上のirAEの発現率を増加させた。本結果から、PD-L1陽性の高齢NSCLC患者には、ICI単剤での投与が推奨される可能性がある」とまとめた。

134.

進行NSCLC、腫瘍治療電場療法を標準治療に上乗せでOS改善(LUNAR)/ASCO2023

 腫瘍治療電場(TTフィールド)療法は、さまざまな機序で非侵襲的にがん細胞を死滅させる治療法で、すでに膠芽腫および悪性胸膜中皮腫に対する治療として、米国食品医薬品局(FDA)により承認されている(本邦では、膠芽腫について薬事承認を取得[保険適用は初発膠芽腫のみ])。非小細胞肺がん(NSCLC)については、前臨床モデルで免疫チェックポイント阻害薬(ICI)やタキサン系抗がん剤の効果を増強することが報告されている1-3)。そこで、転移を有するNSCLC患者を対象に、TTフィールド療法の標準治療への上乗せ効果を検証する海外第III相試験「LUNAR試験」が実施された。その結果、TTフィールド療法の上乗せにより、全生存期間(OS)が有意に改善した。本結果について、米国・エモリー大学Winship Cancer InstituteのTiciana Leal氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で発表した。・試験デザイン:海外第III相無作為化比較試験・対象:プラチナ製剤で治療中または治療後に進行が認められた、転移を有する22歳以上のNSCLC患者276例・試験群(TTフィールド+標準治療群):TTフィールド療法(150kHzを1日18時間以上)+標準治療(ICI[ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブのいずれか]またはドセタキセルを治験担当医師が選択) 137例・対照群(標準治療群):上記と同様の標準治療 139例・評価項目:[主要評価項目]OS(TTフィールド+標準治療群vs.標準治療群)[主要な副次評価項目]OS(TTフィールド+ICI群vs.ICI群、TTフィールド+ドセタキセル群vs.ドセタキセル群)[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、組織型別のOS、組織型別のPFS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の患者背景は、年齢中央値64歳(範囲:22~86歳)、男性が65%、ECOG PS 0/1が96%、前治療のライン数1が89%、ICIによる前治療歴ありが31%であった。・ITT集団におけるOS中央値は、標準治療群が9.9ヵ月であったのに対し、TTフィールド+標準治療群は13.2ヵ月であり、TTフィールド+標準治療群で有意に改善した(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.56~0.98、p=0.035)。1年OS率はそれぞれ42%、53%、3年OS率はそれぞれ7%、18%であった。・ICIによる治療を受けたサブグループにおけるOS中央値は、ICI群が10.8ヵ月であったのに対し、TTフィールド+ICI群は18.5ヵ月であり、TTフィールド+ICI群で有意に改善した(HR:0.63、95%CI:0.41~0.96、p=0.03)。・ドセタキセルによる治療を受けたサブグループにおけるOS中央値は、ドセタキセル群が8.7ヵ月、TTフィールド+ドセタキセル群が11.1ヵ月であり、有意差は認められなかった(HR:0.81、95%CI:0.55~1.19、p=0.28)。・組織型別のOS中央値は、非扁平上皮NSCLCで標準治療群が9.9ヵ月、TTフィールド+標準治療群が12.6ヵ月であった(HR:0.80、95%CI:0.54~1.16、p=0.28)。扁平上皮NSCLCでは、それぞれ10.1ヵ月、13.9ヵ月であった(HR:0.67、95%CI:0.44~1.01、p=0.05)。・ITT集団におけるPFS中央値は、標準治療群が4.1ヵ月、TTフィールド+標準治療群が4.8ヵ月であり、有意差は認められなかった(HR:0.85、95%CI:0.67~1.11、p=0.23)。・ITT集団におけるORRは、標準治療群が17%、TTフィールド+標準治療群が20%であり、有意差は認められなかった(p=0.5)。完全奏効(CR)は標準治療群が1例であったのに対し、TTフィールド+標準治療群が4例であった。・有害事象は、標準治療群の91%、TTフィールド+標準治療群の97%に発現した。皮膚炎がそれぞれ2%、43%に発現し、TTフィールド+標準治療群で多かったが、Grade3以上のものはそれぞれ0%、2%であった。肺臓炎や免疫関連有害事象の発現率は両群に差がみられなかった。TTフィールド療法に関連があると判断された有害事象に、Grade4以上のものはなかった。 本結果についてLeal氏は、「TTフィールド療法は第III相試験(LUNAR試験)において主要評価項目を達成した。TTフィールド療法は、プラチナ製剤で治療中または治療後に進行が認められた転移を有するNSCLCに対する標準治療の選択肢として考慮されるべきである」とまとめた。また、未治療の進行NSCLC患者を対象としたTTフィールド療法の標準治療への上乗せ効果を検討する試験も進行中とのことである。

135.

HER2+早期乳がん、化学療法なしのde-escalationで3年iDFS良好(PHERGain)/ASCO2023

 HER2+早期乳がん患者を対象とした第II相PHERGain試験において、化学療法を含まないトラスツズマブ+ペルツズマブ(PH)併用療法の3年無浸潤疾患生存(iDFS)率は、ドセタキセル+カルボプラチン+トラスツズマブ+ペルツズマブ(TCHP)併用療法と同等で、とくに18F-FDG PET/CT(以下「PET」)を指標とした反応例かつ病理学的完全奏効(pCR)例(一度も化学療法を行わない群)では98.8%と最も高かったことを、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で、スペイン・International Breast Cancer CenterのJavier Cortes氏が発表した。 本試験の先行解析において、HER2+早期乳がん患者の術前治療としてトラスツズマブ+ペルツズマブ併用のpCR率が37.9%であったことが、2021年のLancet Oncology誌に掲載されている。今回は、手術を受けた患者を対象に、3年iDFS率の結果が発表された(データカットオフ:2023年2月24日)。PET反応例の判断基準はベースラインのSUVmax値から40%以上の減少であった。・対象:腫瘍径が1.5cm以上で、初回治療としてトラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を受けたStageI~IIIAのHR+早期乳がん患者・試験群(PH群):PHを2サイクル→PET→PET反応例はPHを6サイクル/無反応例はTCHPを6サイクル→手術→pCR例はPHを10サイクル/非pCR例はTCHPを6サイクルとPHを4サイクル/PET無反応例はPHを10サイクル 285例・対照群(TCHP群):TCHPを2サイクル→PET→TCHPを4サイクル→手術→PHを12サイクル 71例・評価項目:[主要評価項目]試験群におけるPET反応例のpCR(ypT0/isN0)、試験群における3年iDFS[副次評価項目]全患者のpCR、対照群における3年iDFS、遠隔無病生存期間(DDFS)、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間(OS)、安全性 など 主な結果は以下のとおり。・2017年6月26日~2019年4月24日に、356例をPH群とTCHP群に4:1の割合で無作為に割り付けた。追跡期間中央値は3.5年(範囲:0~5.3)で、手術を受けたのはTCHP群63例(88.7%)、PH群267例(93.7%)であった。・PH群のPET反応例は79.6%(227例)、PET無反応例は20.4%(58例)であった。pCR率は37.9%であった(95%信頼区間[CI]:31.6~44.5、p<0.001)。・3年iDFS率は、TCHP群が98.3%、PH群全体が95.4%、PH群のPET反応例かつpCR例が98.8%であった。iDFSイベントは、PH群全体で4.5%、PH群のPET反応例かつpCR例で1.2%に生じた。・3年DDFS率は、TCHP群が98.3%、PH群全体が96.5%、PH群のPET反応例かつpCR例が100%であった。・3年EFS率は、TCHP群が98.4%、PH群全体が93.5%、PH群のPET反応例かつpCR例が98.8%であった。・3年OS率は、TCHP群が98.4%、PH群全体が98.5%、PH群のPET反応例かつpCR例が100%であった。・Grade3以上の治療関連有害事象および重篤な有害事象の発現は、TCHP群が61.8%/27.9%、PH群全体が32.9%/13.8%、PH群のPET反応例かつpCR例が1.2%/0%であった。治療に関連する死亡例はなく、予期しない安全性上の所見は認められなかった。 これらの結果より、Cortes氏は「本試験において、PH群の3年iDFS率は95.4%で、とくにPET反応例かつpCR例では98.8%であった。多くのHER2+早期乳がん患者が、化学療法を含まないトラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)で治療できる可能性がある」とまとめた。

136.

がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?【見落とさない!がんの心毒性】第21回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別30代・男性主訴右下腿の腫脹・疼痛現病歴とくに既往症はなく、生来健康であった。陰嚢腫大を契機に右精巣腫瘍を指摘された。高位精巣摘除術で非セミノーマの診断となり、術後の血液検査で腫瘍マーカーの上昇(LDH、hCG-β、AFP)と、造影CT検査で領域リンパ節と傍大動脈リンパ節の多発転移(最大径4cm)、多発肺転移(最大径3cm)を指摘された。右精巣腫瘍(胚細胞腫瘍・非セミノーマ)、TNM分類はT2N2M1aS1、ステージIIIA、IGCCC分類の予後良好群と診断された。化学療法は腫瘍内科医が担当することとなった。腫瘍内科医は症例患者のステージ、リスク分類から、標準治療であるBEP療法 (ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン) 3コースを行う方針とした。BEP療法2コース後、腫瘍マーカーは正常範囲内まで改善したが、発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)や消化器毒性、倦怠感など化学療法に伴う有害事象があり、入院中も臥床時間が長い傾向にあった。1コース目でFNを発症したため、2コース目は二次予防的にG-CSF製剤を使用した。3コース目開始前日に右下腿の腫脹・疼痛の訴えがあり、血液検査を実施したところD-dimerが9.5μg/mLと高値であった。右下腿の腓腹筋の把握痛を認めたため、腫瘍内科医は深部静脈血栓症(DVT:deep vein thrombosis)を疑い下肢静脈超音波検査を行ったところ、右大腿〜膝窩静脈に比較的新鮮と思われる血栓(中枢型DVT)を認めた。バイタルサインに問題はなく、呼吸困難や胸痛の訴えはなかったが、造影CT画像検査で左右の肺動脈に塞栓がみられ、肺塞栓症(PE:pulmonary embolism)も合併していることがわかった。多発リンパ節転移、多発肺転移は化学療法導入前より縮小傾向にあり、リンパ節転移はいずれも短径1cm未満、肺転移も長径2cm未満となっており、化学療法は奏効していると思われた。【問題1】本症例の患者がDVT/PEを発症した原因や誘因について、正しいと思われる選択肢を3つ選んでください。a.長期臥床や骨盤リンパ節転移による下肢静脈の圧排による血流停滞が血栓形成の誘因となった。b.シスプラチンは一般的に血栓塞栓症のリスクが高い抗がん剤とされている。c.ブレオマイシンは一般的に血栓塞栓症のリスクが高い抗がん剤とされている。d.固形がんにおける化学療法中のDVTの発症頻度はがん種によって差があり、胚細胞腫瘍は比較的リスクが高いがん種である。e.化学療法による有害事象対策のための支持療法に使用する薬剤は血栓塞栓症のリスクにはならない。腫瘍内科医は本症例の患者におけるDVT/PEの治療について、循環器内科医にコンサルトした。心電図検査、心臓超音波検査で右室負荷所見は認めず、循環動態は保たれていると判断した。腫瘍内科医と循環器医で協議し、治療方針について検討を行った。【問題2】本症例の治療方針について、不適切な選択肢を1つ選んでください。a.腎機能や体重を確認し、経口薬であるDOACs(direct oral anticoagulants)でDVT/PEの治療を開始した。b.抗凝固薬を開始してもDVTが軽快せず、PEが悪化した場合に致死的になるリスクが高いと思われる場合はIVCフィルターを検討する方針とした。c.腫瘍マーカーの値やCTの結果から、胚細胞腫瘍の病勢はコントロールできているため、DVT/PEの治療を優先し、血栓・塞栓が画像上完全に消失したことを確認してから化学療法を再開する方針とした。d.化学療法がDVT/PEの誘因になった可能性は否定できないが、抗凝固薬を開始してDVT/PEの明らかな増悪がなければBEP療法の3コース目は減量せずに実施する方針とした。e.化学療法後に残存腫瘍に対する外科的切除術を行う可能性があるため、DVT/PEの治療状況や心機能の評価は循環器内科医が併診しながら慎重に経過を観察した。<Take home message>血管新生阻害薬やHER2阻害薬などの分子標的薬、または免疫チェックポイント阻害薬における循環器領域の有害事象が腫瘍循環器領域でのトピックになっているが、いわゆる抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)でも腫瘍循環器的プロブレムがみられることがある。それぞれの薬剤における頻度・致死性の高い有害事象を理解することは、腫瘍内科医、循環器内科医の双方にとって重要である。腫瘍内科医は「がんの治療は詳しいが、循環器の治療はよくわからない」。一方で、循環器内科医は「循環器の治療は詳しいが、がんの治療はよくわからない」。腫瘍内科医と循環器内科医が密に連携し、それぞれの専門領域の観点からベストと思われる対応を目指すことが、腫瘍循環器的プロブレムのより良い管理にとって必要である。1)Seng S, et al. J Clin Oncol. 2012;30:4416-4426.2)Oppelt P, et al. Vasc Med. 2015;20:153-161.3)Piketty AC, et al. Br J Cancer. 2005;93:909-914.4)Lauritsen J, et al. J Clin Oncol. 2020;38:584-592.5)Haddad TC, et al. Thromb Res. 2006;118:555-568.6)Khorana AA, et al. Cancer. 2005;104:2822-2829.7)Raskob GE, et al. N Engl J Med. 2018;378:615-624.8)Agnelli G, et al. N Engl J Med. 2020;382:1599-1607.9)Young AM, et al. J Clin Oncol. 2018;36:2017-2023.10)Empowering urologists to provide the best possible care:Testicular Cancer11)Motzer RJ, et al. Cancer. 1990;66:857-861. 12)Mulder FI, et al. Blood. 2021;137:1959-1969.講師紹介

137.

HER2低発現進行乳がんへのT-DXd、ER低発現でもPFS・OS延長(DESTINY-Breast04)/ESMO BREAST 2023

 第III相DESTINY-Breast04試験のサブグループ解析の結果、HER2低発現(IHC法でER陽性細胞が1~10%)で、エストロゲン受容体(ER)低発現の切除不能または転移のある乳がん患者(MBC)において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が医師選択化学療法(TPC)よりも無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を有意に改善し、その結果はER陰性(IHC法でER陽性細胞が0%)患者と同様であったことを、英国・エディンバラ大学のDavid A. Cameron氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。 ASCO2022のプレナリーセッションで、HER2低発現のMBC患者に対するDESTINY-Breast04試験の結果が報告されており、ホルモン受容体(HR)の発現状況にかかわらずT-DXd群ではPFSおよびOSが有意に延長したことが示されている。今回のサブグループ解析では、ER低発現の患者における有効性と安全性の探索的解析が行われた(データカットオフ:2022年1月11日)。<DESTINY-Breast04試験 サブグループ解析>・対象:1~2ラインの化学療法歴があり、HER2低発現(IHCスコア1+またはIHCスコア2+かつISH-)のMBC患者110例(ER陰性[0%]58例、ER低発現[1~10%]52例)・試験群(T-DXd群):T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 75例・対照群(TPC群):カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、nab-パクリタキセルから選択 35例・評価項目:[主要評価項目]HR陽性患者の盲検下独立中央評価委員会(BICR)によるPFS[副次評価項目]全患者のBICRによるPFS、HR陽性患者および全患者のOSなど 主な結果は以下のとおり。●サブグループ解析には110例が組み込まれた(括弧内は順に年齢中央値、化学療法歴が1ラインの割合、CDK4/6阻害薬による治療歴ありの割合)。- ER陰性:T-DXd群40例(58.9歳、40.0%、5.0%)、TPC群18例(55.9歳、27.8%、0%)- ER低発現:T-DXd群35例(57.6歳、60.0%、62.9%)、TPC群17例(47.1%、52.9%)●PFS中央値は、T-DXd群がTPC群よりも良好であった。- ER陰性:T-DXd群8.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.3~11.7)vs.TPC群2.9ヵ月(95%CI:1.4~5.1)、ハザード比[HR]:0.46(95%CI:0.24~0.89)- ER低発現:T-DXd群8.4ヵ月(95%CI:5.6~12.2)vs.TPC群2.6ヵ月(95%CI:1.2~4.6)、HR:0.24(95%CI:0.12~0.48)●OS中央値も、T-DXd群ではTPC群よりも良好であった。- ER陰性:T-DXd群18.2ヵ月(95%CI:13.6~NE)vs.TPC群8.3ヵ月(95%CI:5.6~20.6)、HR:0.48(95%CI:0.24~0.95)- ER低発現:T-DXd群20.0ヵ月(95%CI:13.5~NE)vs.TPC群10.2ヵ月(95%CI:7.8~14.5)、HR:0.35(95%CI:0.16~0.75)●確定奏効率も、T-DXd群ではTPC群よりも良好であった。- ER陰性:T-DXd群50.0%(95%CI:33.8~66.2)vs.TPC群16.7%(95%CI:3.6~41.4)- ER低発現:T-DXd群57.1%(95%CI:39.4~73.7)vs.TPC群5.9%(95%CI:0.1~28.7)●T-DXd群においてGradeを問わず多く発現した治療関連有害事象(TRAE)は、悪心(77.3%)、嘔吐(40.0%)、疲労(37.3%)、食欲低下(34.7%)、脱毛(33.3%)、便秘(33.3%)、貧血(30.7%)、下痢(29.3%)、トランスアミナーゼ値上昇(26.7%)などで、これまで得られていた結果と一致していた。Grade3以上のTRAEは、T-DXd群では53.3%(40例)、TPC群では75.0%(24例)に生じた。

138.

早期TN乳がん、術前後のアテゾリズマブ追加でEFS・DFS・OS改善(IMpassion031)/ESMO BREAST 2023

 未治療の早期トリプルネガティブ(TN)乳がんにおける術前化学療法へのアテゾリズマブ追加および術後のアテゾリズマブ投与の有用性を検討した第III相IMpassion031試験の最終解析で、副次評価項目である無イベント生存期間(EFS)、無病生存期間(DFS)、全生存期間(OS)の改善が示された。また探索的解析から、手術時に病理学的完全奏効(pCR)が得られた患者は予後良好なこと、pCRが得られず血中循環腫瘍DNA(ctDNA)が残存していた患者は予後不良なことが示された。ブラジル・Hospital Sao Lucas da PUCRSのCarlos H. Barrios氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。 本試験の主要評価項目であるpCR率については、PD-L1の有無(SP142によるIC:1%未満vs.1%以上)にかかわらず、アテゾリズマブ群が57.6%とプラセボ群(41.1%)に比べて有意に(p=0.0044)改善したことが報告されている。今回は、副次評価項目であるEFS、DFS、OS、安全性について最後の患者登録から3年後の最終解析と探索的バイオマーカー解析について報告された。・対象:原発巣が2cmを超える未治療のStageII~IIIの早期TN乳がん患者333例・試験群(アテゾリズマブ群、165例):術前にアテゾリズマブ(840mg、2週ごと)+nab-パクリタキセル(毎週)12週間投与後、アテゾリズマブ+ドキソルビシン+シクロホスファミド(2週ごと)8週間投与。術後、アテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと)を11サイクル実施・対照群(プラセボ群、168例):術前にプラセボ+nab-パクリタキセル12週間投与後、プラセボ+ドキソルビシン+シクロホスファミド8週間投与し手術を実施(両群ともpCR未達の患者は、術後補助化学療法を許容) 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値40ヵ月前後(アテゾリズマブ群40.3ヵ月、プラセボ群39.4ヵ月)における最終解析において、pCRが得られず術後補助化学療法を受けたのは、アテゾリズマブ群70例中14例(20%)、プラセボ群99例中33例(33%)であった。・ITT集団におけるEFSのハザード比(HR)は0.76(95%信頼区間[CI]:0.47~1.21)で、PD-L1陽性(IC 1%以上)の患者では0.56(同:0.26~1.20)であった。・DFSのHRは0.76(95%CI:0.44~1.30)で、PD-L1患者では0.57(同:0.23~1.43)であった。・OSのHRは0.56(95%CI:0.30~1.04)で、PD-L1陽性患者では0.71(同:0.26~1.91)であった。・pCR状況別のEFSの探索的解析では、pCRが得られた患者では両群共に長期のEFSが良好であったが、pCRが得られなかった患者では両群共にEFSが不良で、pCRが長期予後を大きく左右していた。・アテゾリズマブにおける新たな安全性シグナルや治療関連死はみられなかった。・ctDNAにおける探索的解析によると、ctDNA陽性率はベースラインの94%から手術時に12%と減少し、ctDNA消失率はアテゾリズマブ群89%、プラセボ群86%と両群で同様だった。消失しなかった患者はpCRが得られなかった。・手術時にpCRが得られずctDNAが陽性だった患者はDFS、OSが不良だったが、アテゾリズマブ群でOSの数値的な改善がみられた(HR:0.31、95%CI:0.03~2.67)。 Barrios氏は「早期TN乳がんに対して、術前化学療法へのアテゾリズマブ追加で有意なpCRベネフィットが得られ、EFS、DFS、OSの改善につながった」とした。

139.

間質性肺炎合併肺癌の薬物療法、改訂GLの推奨は?/日本呼吸器学会

 間質性肺炎(IP)には肺癌が合併することが多く、IP合併肺癌に対する治療は急性増悪を引き起こすことが問題になる。近年、肺癌の薬物療法は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が主流となり、IP合併肺癌に対する薬物療法について、さまざまな検討がなされている。2023年4月に改訂された特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)では、これらのエビデンスを基に、合併肺癌に関して新たに3つのCQ(クリニカルクエスチョン)が設定され、合計6つとなった。合併肺癌に関するCQと関連するエビデンスについて、岸 一馬氏(東邦大学医学部内科学講座 呼吸器内科学分野 教授)が第63回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。改訂GLの合併肺癌に関するCQと推奨 特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)は、慢性期、急性増悪、合併肺癌、肺高血圧症、進行期の5つのセクションで構成され、今回から肺高血圧症と進行期が追加された。合併肺癌に関するCQは3つ追加された(CQ20-1、20-2、21)1)。 IP合併肺癌のCQとポイントは以下のとおり。CQ17:IPF(特発性肺線維症)を含むIP合併肺癌患者に外科治療は推奨されるか? 方向性:行うことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある) 推奨の強さ:2(弱) エビデンスの強さ:C(低) 本邦において、IP合併例肺癌手術例の予後を調べた研究では、StageIAであっても5年生存率が59%にとどまっていたことが報告されている2)。その理由として、術後急性増悪による死亡の多さがある。IP合併肺癌1,763例を対象とした後ろ向き研究では、急性増悪が9.3%に発現し、死亡率は43.9%であった3)。術後急性増悪のリスク因子からリスク予測モデルが作成され、その有用性を検討した前向きコホート研究REVEAL-IP Studyが実施された。その結果、術後急性増悪は1,094例中71例(6.5%)に発現し、そのうち39.4%が死亡したが、後ろ向き研究時よりも改善傾向にあった。CQ18:IPFを含むIP合併肺癌患者に術後急性増悪の予防投薬は推奨されるか? 方向性:行わないことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある) 推奨の強さ:2(弱) エビデンスの強さ:C(低) 本邦において、ステロイドなどの術前予防投薬を行っても術後急性増悪の発現率は低下しないことが報告されている3)。その後、少数例の検討ではあるがピルフェニドンが術後急性増悪の発現リスクを低下させることが報告され、現在IPF合併肺癌患者を対象として周術期ピルフェニドン治療の有用性を検討する無作為化比較試験が実施されている4)。CQ19:IPFを含むIP合併肺癌患者に細胞傷害性抗がん薬は推奨されるか? 方向性:行うことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある) 推奨の強さ:2(弱) エビデンスの強さ:C(低) 本邦において、IP合併非小細胞肺癌(NSCLC)に対する初回化学療法の前向き試験が複数実施されており、急性増悪の頻度は12%以内で、近年は全生存期間中央値(MST)が15ヵ月を超えている。また、2022年12月には、化学療法とBest Supportive Care(BSC)を後ろ向きに比較した研究結果が報告された。傾向スコアマッチングを行っても、化学療法群はBSC群と比較して全生存期間(OS)が有意に延長した5)。CQ20-1:IPFを含むIP合併肺癌患者に血管新生阻害に関与する分子標的治療薬は推奨されるか? 方向性:行うことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある) 推奨の強さ:2 エビデンスの強さ:D(非常に低) エビデンスは少ないものの、化学療法にベバシズマブを上乗せしても急性増悪の発現は増加せず、無増悪生存期間(PFS)を延長する傾向が報告されている。また、推奨の決定に関するシステマティックレビューには含まれなかったが、世界で初めてIPF合併NSCLCを対象にニンテダニブの化学療法への上乗せ効果を検討した国内第III相無作為化比較試験(J-SONIC試験)の結果が本邦から報告された。主要評価項目の無イベント生存率(EFS)について、化学療法+ニンテダニブ群は化学療法群と比較して有意差は認められなかったが、奏効率(ORR)は化学療法群が56.0%であったのに対し、化学療法+ニンテダニブ群は69.0%と有意に高かった(p<0.05)。また、PFSについて、中央値は化学療法群が5.5ヵ月であったのに対し、化学療法+ニンテダニブ群は6.2ヵ月であり、有意に延長した(ハザード比:0.68、95%信頼区間[CI]:0.50~0.92)。OSについては、全体では両群間に有意差はなかったが、非扁平上皮NSCLC、GAP StageIのサブグループにおいて、化学療法+ニンテダニブ群が有意に改善した。急性増悪の頻度は、化学療法群1.6%、化学療法+ニンテダニブ群4.1%、全体でも2.9%と低かった6)。CQ20-2:IPFを含むIP合併肺癌患者にドライバー遺伝子変異に対する分子標的治療薬は推奨されるか? 方向性:行わないことを提案または推奨 推奨の強さ:現段階では結論付けない エビデンスの強さ:D(非常に低) 推奨の強さについて、現段階では結論付けないとされた。これについては、パネル委員の全員が投与しないことを提案または推奨したが、一定の基準に達しなかったため、推奨の強さは決定されなかった。このような推奨となった一因として、日本人の肺癌患者を対象としてゲフィチニブと化学療法を比較した試験において、ゲフィチニブ群で間質性肺疾患(ILD)の頻度が高く(ゲフィチニブ群4.0%、化学療法群2.1%、オッズ比[OR]:3.2)、ILDによる死亡率が30%を超えたことなどが挙げられる7)。CQ21:IPFを含むIP合併肺癌患者に免疫チェックポイント阻害薬は推奨されるか? 方向性:行わないことを提案(一部の患者には合理的でない可能性がある) 推奨の強さ:2 エビデンスの強さ:D(非常に低) IP合併肺癌に対するICIの効果を検討したメタ解析の結果が報告されている。10試験(ILDのある患者179例)が対象となり、そのうち8試験が本邦の報告であった。ORRについて、ILDのある群(34%)はILDのない群(24%)と比較して有意に良好であった(OR:1.99、95%CI:1.31~3.00)。一方、ILDのある群は免疫関連有害事象(irAE)の発現率が有意に高率であった(OR:3.23、95%CI:2.06~5.06)。ICIによる肺臓炎についても、ILDのある群(全Grade:27%、Grade3以上:15%)はILDのない群(同10%、4%)と比較して有意に高率であった(OR:2.91、95%CI:1.47~5.74)8)。また、びまん性肺疾患に関する調査研究班は、IP合併肺癌におけるICIの薬剤性肺障害に関する後ろ向き研究を実施した。その結果、200例が対象となり、薬剤性肺障害は30.5%に認められた(Grade3以上:15.5%、Grade5:4.5%)。多変量解析の結果、重篤な薬剤性肺障害の危険因子として、IPFあり、IP診断時のSP-D(肺サーファクタントプロテインD)値高値、ICI投与前のCRP値高値が同定された。また、irAEが発現した患者はPFSとOSが有意に良好であり、IP非合併NSCLCにおける過去の報告と一致していた。IP合併肺癌に関する現状のまとめ 岸氏は、IP合併肺癌に関する現状について、以下のようにまとめた。・日本からIP合併肺癌に関するステートメントと特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)が発刊された。・IP合併肺癌の発生予防、治療による急性増悪に関して抗線維化薬の有用性が報告された。・IP合併進行NSCLCに対してカルボプラチン+タキサン、小細胞肺癌(SCLC)に対してプラチナ製剤+エトポシドは標準治療と考えられる。・IP合併肺癌に対するICIにより約30%に薬剤性肺障害が生じるが、比較的良好な治療成績が報告されている。・IP合併肺癌の治療は、リスクとベネフィットを慎重に検討し、患者の希望も踏まえて決定することが重要である。特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)編集:「特発性肺線維症の治療ガイドライン」作成委員会定価:3,300円(税込)発行年月:2023年4月判型:A4頁数:140頁■参考文献1)「特発性肺線維症の治療ガイドライン」作成委員会編集. 特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版). 南江堂;20232)Sato T, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2015;149:64-70.3)Sato T, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2014;147:1604-1611.4)Sakairi Y, et al. J Thorac Dis. 2023;15:1489-1493.5)Miyamoto A, et al. Respir Investig. 2023;61:284-295.6)Otsubo K, et al. Eur Respir J. 2022;60:2200380.7)Kudoh S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2008;177:1348-1357.8)Zhang M, et al. Chest. 2022;161:1675-1686.

140.

進行TN乳がんへのペムブロリズマブ+化療、臨床的有用性が得られ化療中止した例やimAE発現例でも有効(KEYNOTE-355)/ESMO BREAST 2023

 手術不能な局所再発または転移・再発トリプルネガティブ(TN)乳がんの1次治療においてペムブロリズマブ+化学療法をプラセボ+化学療法と比較した第III相KEYNOTE-355試験の探索的解析の結果、ペムブロリズマブ+化学療法により臨床的有用性が得られた患者でペムブロリズマブの最終投与前に化学療法を中止した患者、また免疫介在性有害事象(imAE)発現患者において、CPSにかかわらず、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が改善したことが示された。米国・UCSF Helen Diller Family Comprehensive Cancer Center のHope S. Rugo氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。 本試験では、PD-L1 CPS 10以上の患者において、ペムブロリズマブ+化学療法により統計学的に有意かつ臨床的に意味のあるPFSとOSの改善が示されたことが報告されている。今回は、ペムブロリズマブ+化学療法を受け完全奏効(CR)もしくは部分奏効(PR)を達成または病勢安定(SD)を24週以上持続した患者、すなわち臨床的有用性が得られた患者のうちペムブロリズマブ最終投与前21日より前に化学療法を中止した患者におけるPFSとOSを評価した。さらに、ペムブロリズマブ+化学療法を受けた患者でimAEが1件以上発現した患者においても評価した。・対象:PD-L1陽性の手術不能な局所再発もしくは転移・再発TN乳がん(ECOG PS 0/1)・試験群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+化学療法(ナブパクリタキセルパクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンのうちいずれか)・対照群:プラセボ+化学療法 今回の探索的解析における主な結果は以下のとおり。・2021年6月15日のデータカットオフ時点で、ペムブロリズマブ+化学療法の治療を受け臨床的有用性が得られた患者において、ペムブロリズマブ投与中止前に化学療法を中止した患者および全体でのペムブロリズマブ投与期間中央値、化学療法期間中央値、PFS中央値、OS中央値は、順に以下のとおりで、CPSに関係なくPFS、OSとも上回っていた。- 治療を受けた全患者 化学療法中止例(92例):14.1ヵ月 6.0ヵ月 14.5ヵ月 32.9ヵ月 全体(317例)     : 9.4ヵ月 7.9ヵ月 11.6ヵ月 26.4ヵ月- CPS 1以上の患者 化学療法中止例(70例):15.3ヵ月 5.9ヵ月 18.7ヵ月 34.5ヵ月 全体(249例)     : 9.4ヵ月 8.2ヵ月 11.7ヵ月 26.6ヵ月- CPS 10以上の患者 化学療法中止例(46例):20.8ヵ月 6.8ヵ月 36.7ヵ月 未到達 全体(143例)     :11.1ヵ月 8.5ヵ月 14.4ヵ月 34.4ヵ月・imAE発現患者および全体におけるペムブロリズマブ投与期間中央値、化学療法期間中央値、PFS中央値、OS中央値は、順に以下のとおりで、imAE発現患者でPFS、OSとも上回っていた。- 治療を受けた全患者 imAE発現例(149例):8.8ヵ月 7.2ヵ月 9.7ヵ月 23.9ヵ月 全体(562例)    :5.6ヵ月 5.1ヵ月 7.5ヵ月 17.2ヵ月- CPS 1以上の患者 imAE発現例(109例):8.8ヵ月 7.3ヵ月 9.8ヵ月 26.3ヵ月 全体(421例)    :5.9ヵ月 5.1ヵ月 7.6ヵ月 17.6ヵ月- CPS 10以上の患者 imAE発現例(64例):10.4ヵ月 8.4ヵ月 11.8ヵ月 35.6ヵ月 全体(219例)   : 7.6ヵ月 5.8ヵ月  9.7ヵ月 22.8ヵ月 今回の解析から、ペムブロリズマブ+化学療法で臨床的有用性が得られた患者において、PD-L1発現レベルにかかわらず、化学療法中止後もペムブロリズマブは有用であることが示唆された。この結果から、Rugo氏は「臨床的有用性が得られて化学療法を中止した患者において、ペムブロリズマブ継続が適している」とした。

検索結果 合計:679件 表示位置:121 - 140