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フリードライヒ運動失調症に次世代ニコチンアミドが有望/Lancet

 脊髄小脳変性症に類するフリードライヒ運動失調症に対して、ヒストン脱アセチル阻害薬ニコチンアミド(ビタミンB3)の高用量投与が有望であることが報告された。フリードライヒ運動失調症は遺伝性の進行性変性障害で、フラタキシン(FXN)タンパク質の変異に起因する。FXN遺伝子のイントロン1内に存在するGAAのリピートが伸長することで、ヘテロクロマチン形成と遺伝子転写のサイレンシングに結びつくが、前臨床においてニコチンアミドが、ヘテロクロマチン形成を再構築し、FXN発現を上方制御することが示されていた。それらを踏まえて英国・ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのVincenzo Libri氏らは、フリードライヒ運動失調症へのニコチンアミドの有効性と安全性を評価する探索的非盲検用量増加試験を行った。Lancet誌オンライン版2014年5月1日号掲載の報告より。エピジェネティクスおよび神経学的な有効性と安全性を評価 試験は、男女18歳以上のフリードライヒ運動失調症患者に対する、高用量ニコチンアミドのエピジェネティクスおよび神経学的な有効性と安全性を評価することを目的に、3相にわたって行われた。フェーズ1では、0、2、4、6、7、8g/日の経口ニコチンアミドを単回投与し、投与後24時間にわたって観察。フェーズ2では、2~8g/日を5日間連続投与し、フェーズ3ではフェーズ2までに判明した各患者の1日最大投与量を8週間にわたって投与した。 主要アウトカムは、FXN発現の上方制御とした。また、安全性と忍容性について評価し、FXN遺伝子座のクロマチン構造の変化を調べ、さらにニコチンアミド治療の効果について運動失調症の臨床尺度を用いた評価も行った。用量依存的にエピジェネティクスな変化をもたらすことを確認 結果、ニコチンアミドの忍容性は概して良好であった。主要有害事象は悪心で、大半が軽度であり、用量依存的にみられ、自然にあるいは用量減量後、嘔吐薬を服用後に消失した。 フェーズ1の結果では、ベースライン時から投与後8時間までに、用量依存的にFXNタンパク質量が増大する変化がみられた(p=0.0004)。ベイズ解析により、3.8gで1.5倍、7.5gで倍量に増大するとの予測が示された。 フェーズ2、3の結果からは、1日投与量3.5~6gが持続的かつ有意にFXN発現の上方制御に結びつくことが示された(p<0.0001)。また、FXN遺伝子座のヘテロクロマチンも減少していた。 なお、臨床尺度による有意な変化はみられなかった。

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肝硬変患者の経過観察を十分に行わず肝細胞がんを発見できなかったケース

消化器最終判決判例タイムズ 783号180-190頁概要12年以上にわたって開業医のもとに通院し、糖尿病、肝硬変などの治療を受けていた55歳の男性。ここ1年近く、特段の訴えや所見もないために肝機能検査および腫瘍マーカーのチェックはしていなかった。ところが久しぶりに施行した肝機能検査・腫瘍マーカーが異常高値を示し、CT検査を受けたところ肝左葉全体を埋め尽くす肝細胞がんが発見された。急遽入院治療を受けたが、異常に気づいてから3ヵ月後に死亡した。詳細な経過患者情報55歳男性経過1973年 糖尿病にて総合病院に45日間入院。9月3日当該診療所初診。診断は糖尿病、肝不全。1982年5月26日全身倦怠感、体重減少(61→51kg)を主訴に総合病院外来受診。6月1日精査治療目的で入院となり、肝シンチ、腹部エコー、上部消化管造影、血液検査、尿検査などの結果、糖尿病、胆石症、肝硬変、慢性膵炎と診断された。7月10日肝臓の腹腔鏡検査を予定したが、度々無断外出したり、窃盗容疑で逮捕されるなどの問題があり、強制退院となった。9月6日診療所の通院を月1~4回の割合で再開。その間ほぼ継続してキシリトール(商品名:キシリット)、肝庇護薬グリチルリチン・グリシン・システイン(同:ケベラS)、ビタミン複合剤(同:ネオラミン3B)、ビタミンB12などの点滴とフルスルチアミン(同:アリナミンF)、血糖降下薬ゴンダフォン®、ビタミンB12(同:メチコバール、バンコミン)などの投薬を続ける。食事指導(お酒飲んだら命ないで)や生活指導を実施。ただし、肝細胞がんと診断されるまでのカルテには、検査指示および処方の記載のみで、診察内容(腹水の有無、肝臓触知の結果など)の記載はほとんどなく、1982年9月6日から1986年2月19日までの3年5ヵ月にわたって腹部超音波、腹部CT、肝シンチなどの検査は1回も実施せず。1982年~1984年肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)、AFP測定を不定期に行う。1984年9月4日AFP(-):異常高値となるまでの最終検査。1985年 高血糖(379-473)、貧血(Hb 10.5)がみられたが、特段治療せず。1986年2月15日γ-GTP 414と高値を示したため、肝細胞がんをはじめて疑う。2月19日1年5ヵ月ぶりで行ったAFP測定にて638と異常高値のため、総合病院にCT撮影を依頼。腹水があり、肝左葉はほぼ全体が肝細胞がんに置き変わっていた。門脈左枝から本幹に腫瘍血栓があり、予後は非常に不良であるとの所見であった。2月21日家族に対し、「肝細胞がんに罹患しており、長くもっても7ヵ月、早ければ3ヵ月の余命である」ことを告知し、同日以降、抗がん剤であるリフリール®やウロキナーゼを点滴で投与した。2月25日当該診療所を離れ総合病院に入院し、肝細胞がんの治療を受けた。5月17日肝硬変症を原因とする肝細胞がんにより死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.早期発見義務違反1982年9月6日から肝硬変の診断のもとに通院を再開し、肝細胞がん併発の危険性が大きかったのに、1986年2月まで長期間検査をしなかった2.説明義務違反1986年に手遅れとなるまで、肝臓の障害について説明せず、適切な治療を受ける機会を喪失させた3.全身状態管理義務違反1985年中の出血を疑わせる兆候や高血糖状態があったのに、これらを看過したこのような義務違反がなければ、死亡することはなかったか、仮に死を免れなかったとしても少なくとも5年間の延命の可能性があった。病院側(被告)の主張過重な仕事と不規則な生活を続け、入院勧告にも応じなかったことが問題である。1985年中に肝細胞がんを発見できたとしても、もはや切除は不可能であったから、死亡は不可避であった。裁判所の判断説明義務違反医師は肝硬変に罹患していたことを説明し、安静を指示していたことが認められるため、その違反はないとした。全身状態管理違反血糖値の変化は生活の乱れによる可能性も高く、必ずしも投薬によって対処しなければならない状況にあったか否かは明らかではないし、出血の点についても、肝硬変の悪化にどのような影響を与えたのか不明であるため、その違反があるとは認められない。早期発見義務肝硬変があり肝細胞がんに移行する可能性の高い症例では、平均的開業医として6ヵ月に1回程度は肝機能検査、AFP検査、腹部超音波検査を実施するべきであったのに、これを怠った早期発見義務違反がある。しかし、肝細胞がんが半年早く発見され、その時点でとりうる治療手段が講じられたとしても、生存可能期間は1~2年程度であったため、医師が検査を怠ったことと死亡との間には因果関係はない。つまり、検査義務違反がなく早期に肝細胞がんに対する治療が実施されていれば、実際の死期よりもさらに相当期間、生命を保持し得たものと推認することができるため、延命利益が侵害されたと判断された。1,000万円の請求に対し、240万円の支払命令考察今回のケースでは、12年以上にわたってある開業医のところへ定期的に通院していた患者さんが、必要な検査が行われず肝細胞がんの発見が遅れたために、「延命利益を侵害された」と判断されました。今までの裁判では、医師の注意義務違反と患者との死亡との因果関係があるような場合に損害賠償(医療過誤)として支払いが命じられていましたが、最近になって、死亡に対して明確に因果関係がないと判断されても、医師の注意義務違反が原因で延命が侵害されたことを理由として、慰謝料という形で医師に支払いを命じるケースが増加しています。本件でも、「平均的開業医」として当然行うべき種々の検査を実施しなかったことによって、肝細胞がんの発見が遅れたことは認めたものの、肝細胞がんという病気の性質上、根治は難しいと判断され、たとえきちんと検査を実施していても死亡は避けられなかったと判断しています。つまり、適切な時期に適切な検査を定期的に実施し、患者の容態を把握しているかという点が問題視されました。肝細胞がんは年々増加してきており、臓器別死亡数でみると男性で第3位、女性で第4位となっています。なかでも肝細胞がんの約93%が肝炎ウイルス(HCV抗体陽性、HBs抗原陽性)を成因としています。また、原発性肝がんの剖検例611例中、84%が肝硬変症を合併していたという報告もあり、肝硬変患者を外来で経過観察する時には、肝細胞がんの発症を常に念頭におきながら、診察、検査を進めなくてはいけません。消化器

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統合失調症の新たなバイオマーカー:順天堂大学

 順天堂大学の勝田 成昌氏らは、急性期統合失調症患者における末梢血のカルボニルストレスマーカー測定の意義について、横断および縦断的研究にて検討した。これまで、慢性統合失調症患者について横断研究による同検討は行われており、末梢カルボニルストレスマーカーの変化、すなわち血清ペントシジンが高値であることはカルボニルストレスが蓄積されていることを示し、またピリドキサール(ビタミンB6)が低値であることはカルボニル化合物活性の緩和を示すことが知られていた。しかし、そうした変化について縦断的な検討はされていなかった。Schizophrenia Bulletin誌オンライン版2014年1月21日号の掲載報告。 本検討は、日本人急性期統合失調症患者を対象に、カルボニルストレスマーカーが統合失調症の臨床経過のバイオマーカーとして有用であるかについて、横断および縦断的研究にて明らかにすることが目的であった。 主な結果は以下のとおり。・137例の患者が登録され、53例について急性期から寛解期まで経過観察した。・急性期において一部の患者(14例、10.2%)で、血清ペントシジン値が極度に高値であった。・同値は、症状の重症度とは関連していなかったが、抗精神病薬の用量総計と関連していた。・ピリドキサール値は、統合失調症では低値であり、臨床経過とともに増加がみられた。・また、同値が臨床経過とともに減少した18例は、減少値が大きいほど症状改善が乏しいことが認められた。・以上のように、一部の患者におけるペントシジン値の極端な高値は、抗精神病薬の1日服薬量が高値であることによって引き起こされた可能性があった。一方で、ピリドキサール値は統合失調症では低値であり、臨床経過とともに増加した。臨床経過中にピリドキサール値が低下した患者では、症状の改善が乏しかった。・カルボニルストレスマーカーは、統合失調症患者において治療のためのバイオマーカーとなる可能性が示唆された。関連医療ニュース 統合失調症の診断・治療に期待!新たなバイオマーカー 統合失調症の発症は予測できるか、ポイントは下垂体:富山大学 統合失調症患者の再発を予測することは可能か?

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胃酸分泌抑制薬によるビタミンB12欠乏症の危険性(コメンテーター:上村 直実 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(168)より-

本論文では、米国の大手保険会社に加入している330万人のデータベースを用いて、1997年~2011年にビタミンB12欠乏症の診断を受けた2万5,956例をCase群、同疾患と診断されていない者から、性・年齢および人種をマッチさせた18万4,199例をControl群として、両群におけるプロトンポンプ阻害薬(PPI)とH2ブロッカー(H2RA)の処方状況を比較検討した。 その結果、2年以上PPIの処方を受けていた者はCase群3,120例(12.0%)・Control群1万3,210例(7.2%)であり、H2RAの処方はCase群1,087例(4.2%)・Control群5,897例(3.2%)であった。 この解析から、PPIまたはH2RAを2年以上内服すると、ビタミンB12欠乏症の発症リスクが、PPIで1.65倍(95%CI:1.58~1.73)、H2RAで1.25倍(同:1.17~1.34)に増大する可能性が示唆されている。 最近、海外から大規模データベースを用いたCase-Controlやコホート研究が盛んに報告されている。大規模データベースを用いた研究の利点はサンプルサイズが大きい点であるが、逆に個々の症例に関する詳細な情報が乏しいものも散見される。本研究でも、ビタミンB12に関する血液検査の頻度がControl群に比べてCase群で多いバイアスも否定できない。また、ビタミンB12の血中濃度に影響する多くの因子を含む多変量解析も必要であろう。 したがって、本研究結果の解釈は『胃酸分泌抑制薬を長期に用いる際にはビタミンB12の欠乏症に注意するように!』が妥当と思われる。日本でもNational Data Baseが待望されているが、今後大規模データベースを用いた臨床研究を行う際には、研究デザイン、対象の取り方、方法の精度および解析方法に、細心の注意が必要である。

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胃酸分泌抑制薬の長期服用、ビタミンB12欠乏症リスク増大/JAMA

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)の長期服用は、ビタミンB12欠乏症の発症リスクを、1.25~1.65倍に増大することが明らかになった。米国の大手保険会社・カイザーパーマネンテのJameson R. Lam氏らが、同社保険プランの加入者データを用い、ビタミンB12欠乏症の診断を受けた約2万6,000例とその対照群について行った症例対照試験の結果、報告した。結果を受けて著者は、「胃酸分泌抑制薬を処方する際は、リスクとベネフィットのバランスを考慮すべきであることが示唆された」とまとめている。JAMA誌2013年12月11日号掲載の報告より。ビタミンB12欠乏症の約2万6,000例と対照群約18万4,000例を比較 研究グループは、米国の保険プラン「北カリフォルニア・カイザーパーマネンテ」の加入者のうち、1997~2011年にビタミンB12欠乏症の診断を受けた2万5,956例について、同診断を受けなかった18万4,199例を比較する症例対照研究を行った。ビタミンB12欠乏症と、それ以前のPPI、H2RAの処方との関連について分析を行った。 分析には、薬剤処方、臨床検査、診断のそれぞれデータベースを使用した。ビタミンB12欠乏症リスク、2年以上PPI処方で1.65倍、同H2RA処方で1.25倍 その結果、ビタミンB12欠乏症と診断された人のうち、2年以上PPIの処方を受けていた人は3,120例(12.0%)、同H2RAの処方を受けていた人(PPI処方はなし)は1,087例(4.2%)だった。いずれも受けていなかった人は、2万1,749例(83.8%)だった。 一方、ビタミンB12欠乏症の診断を受けていなかった人で、2年以上PPIの処方を受けていた人は1万3,210例(7.2%)、同H2RAの処方を受けていた人は5,897例(3.2%)だった。いずれも受けていなかった人は16万5,092例(89.6%)。 2年以上PPIまたはH2RAの処方を受けていた人は、いずれもビタミンB12欠乏症リスクの増大が認められた。オッズ比は、PPI群が1.65(95%信頼区間:1.58~1.73)、H2RA群は1.25(同:1.17~1.34)だった。 また、PPIの処方が1.5錠/日超の人は、0.75錠/日未満の人に比べ同リスクが高く、オッズ比は1.95(同:1.77~2.15、p=0.007)だった。 著者は、「胃酸分泌抑制薬服用の既往および現在使用は、ビタミンB12欠乏症と有意な関連があった」と結論し、そのうえで「この結果は、胃酸分泌抑制薬の処方についてリスクとベネフィットのバランスを考慮すべきであることを示唆するものである」と述べている。

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うつ病患者の食事療法、ポイントは「トリプトファン摂取」

 うつ病では悲哀感、希望喪失、易刺激性、身体機能障害などの特徴がみられ、数週間にわたり重症の症状を呈する。また、気分変調症は軽度の抑うつ気分が漫然と続いた状態である。うつ病の治療には、精神療法、薬物療法、光線療法などがあるが、これまでの臨床的および経験的エビデンスから、適切な食事が抑うつ症状を軽減しうることが示唆されている。オランダ領アンティル・Saint James School of MedicineのFaisal Shabbir氏らは、食事が抑うつに及ぼす影響について考察した。神経伝達物質であるセロトニンの低下はうつ病の一因であるが、セロトニンの前駆体であるトリプトファンを多く含む食事の摂取が抑うつ症状の軽減に有用であることを示唆した。Neurochemistry international誌オンライン版2013年1月7日号の報告。トリプトファンの含有量が少ない食事を摂取しているとうつに陥る可能性 トリプトファンを多く含む食事が抑うつ症状の軽減に有用であることを示唆した主な知見は以下のとおり。・脳内で合成される神経伝達物質のセロトニン(5-HT)は、気分緩和、満足感、睡眠の調節などに重要な役割を果たしている。5-HTを多く含む果物や野菜があるが、血液脳関門の存在により5-HTは中枢神経系に容易に到達できない。しかしながら、5-HTの前駆体であるトリプトファンは容易に血液脳関門を通過できる。・トリプトファンは、ビタミンB6誘導体であるピリドキサールリン酸存在下で、トリプトファンハイドロキシダーゼおよび5-HTPデカルボキシラーゼにより5-HTに変換される。・タンパク質の多い食品であっても、必須アミノ酸は体内でつくることができないため、トリプトファンの含有量が少ない食事を摂取しているとうつに陥る可能性がある。・たとえば月経前後の女性、心的外傷後ストレス障害、慢性疼痛、がん、てんかん、パーキンソン病、アルツハイマー病、統合失調症、薬物依存など、うつに陥りやすい状況にある患者ではトリプトファンを多く含む食事の摂取が重要である。・中枢神経におけるトリプトファンのバイオアベイラビリティは炭水化物の欲求に関連するが、炭水化物を多く含む食事はインスリン反応の引き金となりトリプトファンのバイオアベイラビリティを高める。・セロトニン再取り込み阻害薬は(SSRI)は、抑うつ症状を呈する肥満患者に処方されるが、これらの患者ではセロトニン濃度が厳格に調節されず、モノアミンオキシダーゼ阻害薬と併用した際には生命を脅かす有害事象が発現する可能性がある。しかし、トリプトファンを多く含む適切な食事を摂取することでセロトニン合成が調節されうる。・以上より、さまざまな神経変性疾患で観察される抑うつ症状に対し、セロトニン神経伝達を助ける上でトリプトファンを多く含む食事とビタミンB6は臨床的に重要と言える。ただし、うつに対するセロトニン神経伝達を修飾する薬理学的介入は、従来と変わらず臨床的に重要な事項である。また、うつの病態にはその他にもいくつかの分子メカニズムが関わっている可能性がある。関連医療ニュース ・うつ病予防に「脂肪酸」摂取が有効? ・うつ病補助療法に有効なのは?「EPA vs DHA」 ・認知症の進行予防に有効か?「ビタミンE」

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HAARTを受けているHIV患者、マルチビタミン高用量服用にメリットみられず

 多剤併用抗レトロウイルス療法(HAART)を受けているHIV患者で、マルチビタミンサプリメントを併用する場合の高用量と標準量とを比較した結果、高用量服用により疾患進行および死亡が抑制されることはなく、むしろアラニントランスアミナーゼ(ALT)が増加してしまう可能性が示された。米国・ハーバード公衆衛生大学院のSheila Isanaka氏らが、タンザニアで行った約3,400例を対象とする無作為化二重盲検対照試験の結果、報告した。先行研究ではHAARTを受けていないHIV患者で、微量栄養素がCD4細胞数を増加し、疾患進行と死亡を抑制したことが報告されていたが、HAARTを受けている場合のサプリメント服用の安全性および有効性については検証されていなかった。JAMA誌2012年10月17日号掲載より。高用量群でALT上昇がみられ、試験は早期に終了 研究グループは、マルチビタミンサプリメントの高用量服用は、標準量服用と比べてHIV進行や死亡のリスクを低下し、免疫学的、ウイルス学的、栄養学的な指標を改善すると仮定して検証試験を行った。 試験は、タンザニアの7つのクリニックで2006年11月~2008年11月の24ヵ月間にわたって、HAARTを開始した3,418例を対象として行われた。 マルチビタミンサプリメントは、ビタミンB6、B12、C、Eなどを含む経口剤で、毎日服用した。 主要評価項目は、HIVのあらゆる要因での疾患進行または死亡とした。 試験は2009年3月に、高用量群でALT値増大のエビデンスにより早期に終了となった。高用量群と標準量群のリスク比、HIV進行および死亡については1.00 試験中止時点で3,418例が試験に登録(追跡期間中央値15ヵ月)しており、疾患死高イベントが認められたのは2,374例、死亡は453例観察された(複合イベント合計2,460件)。 標準用量群と比べて高用量群のHIV進行および死亡の抑制は認められなかった。 高用量群のHIV進行および死亡の絶対リスクは72%、標準群も72%だった[リスク比(RR):1.00、95%信頼区間(CI):0.96~1.04]。 高用量服用によるCD4細胞数や血漿中ウイルス量、BMI、ヘモグロビン濃度への効果はみられなかった。一方で、高用量群では標準量群に比べてALTの有意な上昇がみられた(>40 IU/L上昇のRR:1.44、95%CI:1.11~1.87、p=0.006)。

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精神疾患の治療開発-今、見逃せない新たな取り組み

「精神疾患の治療開発」のスタディ・グループでは、従来のパラダイムにとらわれず新しい発想で効果的な精神疾患の治療開発を目指している。第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会にて、橋本恵理氏(札幌医科大学医学部神経精神医学講座)の司会のもと、4名が新しい精神疾患の治療の取り組みについて紹介した。PAK阻害薬によるグルタミン酸シグナルの阻害林(高木)朗子氏(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター構造生理学部門)は、グルタミン酸シグナルの阻害によるシナプス保護の観点から新薬開発の可能性を紹介した。大脳皮質の70%のシナプスが樹状突起棘(スパイン)であり、そのほとんどがグルタミン酸作動性シナプスである。死後脳の剖検から、統合失調症患者では背外側前頭前野や聴覚野、海馬台ではスパイン密度が減少しており、また多くの統合失調症関連遺伝子がグルタミン酸作動性シナプスに局在していることが報告されている。記憶や認知、適応をもたらす細胞基盤はシナプスの可塑性であり、シナプスの機能はその形態と著しく相関しているため、形態(サイズ)から機能を評価することができる。林氏らはDISC1遺伝子をノックアウトすることによりスパインサイズが減少し、NMDA受容体によるRac1/PAK1シグナル伝達経路が過剰に活性化されることを明らかにした(Hayashi-Takagi A, et al. Nat Neurosci. 2010; 13: 327-332)。次いで林氏らは、PAK阻害薬のスパインに対する効果を検討したところ、PAK阻害薬はDISCノックダウンによるスパイン消滅を予防し、スパインサイズを回復することが示された(Hayashi-Takagi A投稿中)。さらに、PAK阻害薬の他の機能に及ぼす影響についても検討を進めている。また、統合失調症患者では発症前後で前頭野皮質が強い収縮を示し(Sun D, et al. Schizophr Res. 2009; 108: 85-92)、疾患の進行過程でグルタミン酸レベルが低下することが知られている(Theberge J, et al. Br J Psychiatry. 2007;191:325-334)。林氏は最後に、マウスで脳のスパインの形態変化を顕微鏡下で直接観察するというin vivoスパインイメージングの動物モデルの開発について紹介した。精神疾患の炎症モデルからみたミノサイクリンの治療への応用統合失調症患者では炎症性サイトカインの亢進が認められ、神経炎症機序が関与していることが指摘されている(Meyer U. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2011 Nov 15, Epub)。また、中枢神経系の炎症の機序にはミクログリアが深く関わり、発症から5年以内の統合失調症患者ではミクログリア活性化が認められる(van Berckel BN, Biol Psychiatry. 2008;64:820-822)。橋本謙二氏(千葉大学社会精神保健教育研究センター病態解析研究部門)は、第二世代抗生物質製剤であるミノサイクリンが、ミクログリアの活性化を強力に抑制することに着目し、統合失調症治療への応用について紹介した。統合失調症のマウスモデルでミノサイクリンの効果を検討したところ、ジソシルピンにより惹起されるプレパルスインヒビション(PPI)の障害や、フェンサイクリジンによる統合失調症様の認知機能障害を抑制することが示された。さらに橋本氏は、ミノサイクリンが脳神経にアミロイドβ蛋白を蓄積させるγセクレターゼの活性をコントロールする5-リポキシゲナーゼを阻害し、アルツハイマー型認知症の発症を抑制する可能性にも言及した(Hashimoto K. Ann Neurol. 2011; 69: 739)。カルボニルストレスの代謝制御による統合失調症の治療酸化ストレスが加わるとカルボニル化合物であるメチルグリオキサール(MG)が生成し、このMGを消去するために、グリオキシラーゼ(GLO)解毒回路が働く。この解毒回路にもれたMGはメイラード反応によって終末糖化産物(AGEs)となる。AGEsはビタミンB6(カルボニル・スカベンジャー)により補足されて分解される。AGEsが体内に蓄積する状態をカルボニルストレスといい、動脈硬化の進展や糖尿病合併症との関連で着目されていたが、糸川昌成氏(東京都医学総合研究所精神行動医学研究分野)らは、この病態を標的とした統合失調症の新しい治療の可能性を紹介した。糸川氏らは、統合失調症患者で解毒酵素のGOL1にフレームシフト変異を発見し、その患者ではAGEsの蓄積と、それに伴うビタミンB6の枯渇が認められたことから、統合失調症患者のなかで、AGEs蓄積と関連した「カルボニルストレス性統合失調症」の存在を明らかにした(Arai M, et al. Arch Gen Psychiatry. 2010; 67: 589-597)。AGEsの蓄積は統合失調症のリスクを25倍上昇させ、ビタミンB6欠乏は10倍リスクを上昇させることが示されている。さらに、AGEs蓄積は統合失調症の重症度とも相関していた。そこで糸川氏らは、治療により症状が改善した統合失調症患者ではAGEsも低下すると推測して検討したところ、外来患者では入院患者に比べてAGEsが有意に低く、AGEsの低下が退院につながることがわかった。さらに糸川氏らは、ビタミンB6欠乏のあるカルボニルストレス性統合失調症患者にビタミンB6を補充することにより症状の改善が得られないか検討を重ねている。ビタミンB6はピリドキサミン、ピリドキサール、ピリドキシンの3種類の化学物質の混合体であり、このうちAGEs解毒作用を有するのはピリドキサミンのみである。糸川氏らはまず、健常者24名を対象に第I相試験を行ったところ、ピリドキサミン1,800mg/日の投与量で有効血中濃度に達し、有害事象は認めなかった。この成績に基づいて、統合失調症患者を対象とした医師主導第II相試験が進行中である。GLO1遺伝子にフレームシフトをもつ患者では発症前からAGEsが高い可能性があり、糸川氏らはそのような患者には発症前からピリドキサミンを投与してAGEs蓄積を抑制するという、統合失調症の発症予防を視野にいれた治療法も検討中である。神経幹細胞移植を用いた再生医療的アプローチの可能性鵜飼渉氏(札幌医科大学医学部神経精神医学講座)は、治療抵抗性または難治性の統合失調症やうつ病、胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)などの治療として、神経幹細胞を経静脈的に投与する再生医療的な取り組みを紹介した。実験方法は、妊娠期のマウスにPoly(I:C)(TLR3リガンド)を投与して生まれた統合失調症のモデルマウスを用い、生後1ヶ月時に神経幹細胞を経静脈的に投与し、6ヵ月時にその行動の評価および脳の剖検を行った。その結果、神経幹細胞移植群では、新奇オブジェクトの探索時間を有意に延長し、記憶学習や認知機能の障害が抑制された。また、社会性の評価において神経幹細胞移植群では能動的な社会的行動の減少が抑制されることも示された。一方、FASDモデルラットでは神経幹細胞移植により、強制水泳試験における無動時間の延長を抑制して、うつ状態の改善にも効果がみられた。札幌医科大学ではすでに、12名(男性9名、女性3名)の脳梗塞患者を対象として自己骨髄間葉系幹細胞を静脈内投与する治療が試みられており、移植をきっかけに脳卒中スコアが改善し回復スピードが加速することや、MRIで脳梗塞病変の縮小が確認されている(Honmou O, et al. Brain. 2011; 134: 1790-1807)。鵜飼氏らは、治療抵抗性難治性うつ病患者を対象とした本治療法の精神疾患への臨床応用を検討している。神経幹細胞移植のメカニズムとして、短期的にはサイトカインを介した神経栄養因子増強作用や抗炎症作用、血管新生作用が考えられ、また長期的には神経新生の増加がもたらされるとしている。鵜飼氏らは、細胞電気生理学的解析やシナプス機能・構造学的解析、オプトジェネティクス解析など最先端の手法を用いて、神経幹細胞移植の効果について解析を進めている。関連リンク

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ビタミンB類、ω-3脂肪酸は、心血管疾患を予防しない:SU. FOL. OM3試験

 虚血性心疾患や虚血性脳卒中の既往歴を有する患者における心血管疾患の予防では、ビタミンB類やオメガ(ω)-3脂肪酸を含むサプリメントのルーチンな使用は推奨されないことが、フランス・パリ第13大学衛生医学研究所(INSERM)のPilar Galan氏らが実施した「SU. FOL. OM3」試験で示された。心血管疾患の発症は、ビタミンB類(葉酸、ビタミンB6)やω-3多価不飽和脂肪酸の摂取あるいはその血漿濃度と逆相関を示すことが観察試験で報告されている。しかし、無作為化試験ではビタミンB類の血管疾患に対する有意な作用は確認できず、ω-3多価不飽和脂肪酸の臨床試験では相反する結果が得られているという。BMJ誌2011年1月1日号(オンライン版2010年11月29日号)掲載の報告。サプリメント摂取による2次予防効果を評価するプラセボ対照試験 研究グループは、虚血性心疾患あるいは虚血性脳卒中の既往歴を有する患者に対するサプリメントとしてのビタミンB類およびω-3脂肪酸の、心血管イベント予防効果を評価する二重盲検無作為化プラセボ対照試験を行った。 フランスの257施設417名の循環器、神経科などの医師のネットワークを介して、45~80歳の心筋梗塞、不安定狭心症、虚血性脳卒中の既往歴を有する患者2,501例が登録された。 これらの患者が、5-メチルテトラヒドロ葉酸(560μg)、ビタミンB6(3mg)、ビタミンB12(20μg)を含むサプリメントを毎日摂取する群(622例)、ω-3脂肪酸(600mg中にエイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸を2対1の割合で含有)を含むサプリメントを毎日摂取する群(633例)、双方を摂取する群(620例)、プラセボ群(626例)に無作為に割り付けられた。 摂取期間中央値は4.7年であった。主要評価項目は主な心血管イベントであり、非致死的心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡の複合エンドポイントと定義した。いずれのサプリも、主要評価項目にプラセボ群との差を認めず ビタミンB類群は、血漿ホモシステイン濃度がプラセボ群に比べ19%低下したが、重篤な血管イベントの発症頻度には差を認めなかった(ハザード比:0.90、95%信頼区間:0.66~1.23、p=0.50)。 ω-3脂肪酸群は、血漿ω-3脂肪酸濃度がプラセボ群に比し37%増加したが、重篤な血管イベントの発症頻度は同等であった(ハザード比:1.08、95%信頼区間:0.79~1.47、p=0.64)。 著者は、「虚血性心疾患や虚血性脳卒中の既往歴を有する患者の心血管疾患の予防において、ビタミンB類やω-3脂肪酸を含むサプリメントのルーチンな使用は推奨されない」と結論し、「特に、初回イベントの急性期が経過した後にサプリメントを開始する際、これらは使用すべきでない」としている。

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講師 斎藤充先生「骨粗鬆症治療「50%の壁」を打破する「骨質マーカー」」

日本整形外科学会認定専門医、日本骨粗鬆症学会評議員など多数の学会所属、役員・評議員を務める。骨質研究会世話人。日本における骨粗鬆症関連研究では多くの研究奨励賞受賞、主にコラーゲンと骨質関連の基礎研究および臨床研究を得意とする関節外科医。高齢化の波で患者は増加、治療は「50%の壁」に阻まれている骨粗鬆症の患者さんは現在約1,100万人いるといわれています。60歳以上では約半数の方に症状が見受けられます。私は外来で400人くらいの患者さんを診ていますが、その他、郊外型の病院でも約400人の患者さんを受け持っています。しかし、約1,100万人のうち15%ほどの患者さんしか治療されておらず、残りの約85%は骨折しやすい状況にあるのにもかかわらず治療されていません。医師の骨粗鬆症に対する認識不足と、高齢者の急増も相まって、治療が追いついていないのが現状です。高齢者は骨粗鬆症がきっかけで寝たきりになる確率が高く、同時に死亡の危険性が高まるため治療すべき疾患であり、高齢者医療の大きな問題の一つになっています。骨粗鬆症による骨折を起こされた方は、骨折のない方に比べて、死亡のリスクは8倍も上昇します。これまで、骨粗鬆症の治療にあたっては、骨密度を高める薬剤の処方のみで、他にこれといった治療が施されていませんでした。しかし、骨密度が改善したにもかかわらず新たに骨折を起こしてしまう方が少なくありません。これが「治療効果の50%の壁」です。人間にいろいろなタイプの人がいるように、骨粗鬆症にもいろいろなタイプがあり、その人に合う治療を考えなくてはいけません。そのような理解を踏まえて、私たちの研究により骨の強さは、骨密度すなわちカルシウムの量の問題だけで説明できないことがわかってきたのです。私たちはここから骨の量や密度だけではなく、「骨の質」が重要ということを発見しました。私は、整形外科の長年の診療経験の中で、手術で骨を触りすべての患者さんは個々に違う骨を持っていることを実感しました。人間の体の中で、骨だけを治療しても何の解決にもつながらないのです。臨床医は、現場で患者さんを直接診察し、治療して疑問点を基礎研究に展開し、その原因を突き止めることができます。骨粗鬆症は3つのタイプに区別される骨の強さは骨密度だけではないということは、整形外科医には一般的に知られていましたが、今まで骨の質、またその質を具体的に評価するものさしがありませんでした。私は、整形外科医として、骨や血管・軟骨・腱といった組織を支えるコラーゲンの研究をしていました。コラーゲンに分子レベルで過剰な老化産物が蓄積している患者さんは、骨にカルシウムが蓄積されていても、骨や血管がもろく、骨折や動脈硬化を同時に発症することを見出しました。そこで、遺伝子の研究と並び蛋白質の老化について世界初となる分析装置を独自に開発・研究し、骨の質を評価するマーカー「骨質マーカー」を作り上げました。骨質マーカーはコラーゲンの老化産物そのものを測定、患者さんの全身のコラーゲンの老化状態を判別します。コラーゲンは、鉄筋コンクリートの鉄筋、骨密度はコンクリートに相当するため、錆びの程度を骨質マーカーで評価することで患者さんの体質に合ったテーラーメイド治療ができます。骨質マーカーで判別できる骨粗鬆症の患者さんの3つのタイプI、「骨質劣化型」……骨密度が高く骨質が悪いII、「低骨密度型」……骨密度が低く骨質が良いIII、「低骨密度+骨質劣化型」……骨密度・骨質ともに低い「骨密度が高く骨質の良い人」に比べて、Iのタイプでは1.5倍、IIでは3.6倍、IIIのタイプは7.2倍も骨折の危険性が高くなることが判明しています。糖尿病、高血圧、動脈硬化、腎機能障害、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの患者さんは、全身性のコラーゲンに過剰老化が生じるため、骨のコラーゲンの錆びにより、骨密度が高くても骨質劣化型骨粗鬆症と診断できます。骨密度を高める薬剤以外に、骨質を改善するエストロゲン受容体モジュレーター(SERMs)や、各種ビタミン類(ビタミンB群、葉酸、ビタミンK・D)の併用も、骨密度と骨質を同時に改善できます。SERMsとの併用は一般的には行われないため、保険適応のあるビタミン剤を併用するのがよいでしょう。骨質の良悪は、血液・尿検査で、血中のホモシステインという悪玉アミノ酸の測定、コラーゲンの老化産物(ペントシジン)の測定による2つの評価が有効です。「骨質マーカー」は、誰も研究していなかった分野から生まれた私には中学・高校とサッカーのインターハイ・国体の選手として活躍した経験があります。そのため、自然とスポーツ医学を勉強したいと考えるようになりました。当時、慈恵医大はスポーツ医学に関して他大学より一歩リードしていたという理由から入学を決断しました。しかし、スポーツ医学を学ぶ前に運動器疾患の基礎となる整形外科を学ばなくてはいけませんでした。整形外科医として学んでいる間に、世間は高齢化と共ともに骨粗鬆症患者が急増、手術執刀で様々なタイプの骨を観察することにより、骨の強さは量や密度ではなく、質が重要であると実感しました。同時に、何が原因で骨質が悪くなり骨折するのかと疑問が湧いてきたのです。そこで、手術治療で患者さんの骨を触り、元々骨がもろい人、堅い人もいる骨の体質に注目しました。病態の解明のため患者さんの骨にどんな違いがあるのかと漠然と考えていました。そんな時、コラーゲンの研究を多く手がけた教授から、昔行っていたコラーゲンの研究を引き継ぐようにいわれましたが、ゲノム・遺伝子研究が全盛の時代、コラーゲンと蛋白質の研究にはまったく興味を持てませんでした。師に従い研究を始めましたが、コラーゲンの研究は楽ではなかったので、独自に分析装置を開発しました。この分析装置の開発がきっかけとなり今日の骨質低下の機序の解明からバイオマーカーの発見に至ったわけです。世界中の研究者は、手間のかかるコラーゲンの研究には手を出さずキットさえあればできる遺伝子解析に没頭していた当時からすると、私としては、まさか15年後にこんな発見に繋がるとは夢にも思いませんでした。私は、臨床医として患者さんの治療、日々実験を続けるうちに、コラーゲンの老化が進行しやすい患者さんは、骨密度が高くても骨折や動脈硬化を同時に発症することに気づきました。そして,コラーゲンの過剰老化こそ、骨質低下の本体であることを突き止めました。長年の無駄に思える実験や臨床経験は、今思えば何一つ無駄ではありませんでした。「無駄こそ大事な引き出し」で、今では世界のライバル達から、どのような質問をされても誰にも負けない豊富な引き出しのおかげで返答し戦うことができます。私は、この臨床を行いながら行う基礎研究という日本独自のスタイルは、世界と戦うためにも良いシステムだと思っています。臨床研究の発表、研究が世界で認知されるためには誰も注目していなかった骨質とコラーゲンの密接な関係と体全体の老化が、世間で話題になり始めたころ、この臨床研究の分野で分子レベルから患者さんの臨床データまで持っていたのは私だけでした。その圧倒的な引き出しの数は世界のどのチームにも負けませんでした。そして、世界中の研究者たちが、ポストゲノムの時代に突入し、ようやく蛋白質の研究に目を向け出したころ、我々のデータの正当性が次々と世界から追認され、妥当性が証明されました。せっかくのデータを埋もれさせないために、私はその成果を世界の研究者に知ってもらう手立てとして、必死に英文の研究論文を執筆していきました。ある欧米の教授に「世界と戦うためには、同じサッカー場に入らなくてはいけない。そのために日々、スパイクを磨き、技術を磨け。今、君はそのすべてを備えた。自信を持ってフィールドに入ってきなさい。Trust your Brain !!」と。海外留学の経験のない私でも、英語論文を発表することで、世界はよい仕事には正しい評価をしてくれるのだと思いました。今では、骨研究の名だたる英文雑誌から総説執筆の依頼を受けるなど、オピニオンリーダーになることができました。十数年、地道に頑張ってきたことが報われた、と感じています。最先端のことも大切ですが、地道に継続することが大事でしょう。現在、研究で発見した基礎的、臨床的事実は、診療ガイドラインに盛り込まれるようになり、臨床に役立つ基礎研究ができたと自負しています。今後の骨粗鬆症の治療において、骨質マーカーの測定が一般的になり、適切な治療をされてない患者さんがいなくなることを祈ります。臨床研究は目の前にあるもの、標準は世界へ地道で長い研究生活でしたが、数年前まで研究はあまり楽しいとは思えませんでした。世間に認知されるために様々な臨床的事実を把握し、基礎研究で解明できないかを自分で考えてきました。私の研究はすべてを自分たちで行っています。町工場ともいえるような時間と手間が他の研究チームと比べて数倍かかり、決して楽ではありません。データを取り、積み重ねていくことで、知られていた理論を提唱づけることができ、社会的にも認知されるわけです。しかし、これは臨床医だからできることですね。海外留学をして論文を書き、華々しくこれから活躍したいという方もおられると思います。しかし、長くは続かず消えていく方も多く見てきました。また、先端医療など新しいことに飛びつきたくなる時が必ずありますが、そうではない研究課題でも、どこかに宝は隠れているものです。私の場合、研究が進むにつれ、知識という引き出しが多くなり、いつの間にか、どんな質問、疑問にも答えられるようになっている自分に気が付くことができました。どんな研究でも地道に頑張っていれば、必ず花が開き患者さんのためになるでしょう。いくら有名な先生のもとで研究室の一つの歯車の一つとして動いて立派な論文を作成したとしても、その後の自分自身のアイデアで研究が立案できるか、それを世界というフィールドにもっていけるかが大切なのです。良いアイデアを持ち研究を続けていくことができるのかにかかっています。情熱を注げるもの、テーマに出会えた時、患者さんの治療に生かすことができるのなら医師として研究者として幸せだと思います。そして、世間で認知され、国内からそれは世界へと道が続いていきます。あなたの目の前には研究すべきテーマ、やらなければいけないことがあるかもしれません。それが面白いと思えば、人に伝えることも容易になり、プレゼンもきっとうまくなります。自分の分野が明確化し、その分野での自分の地位を築くことにつながるでしょう。質問と回答を公開中!

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血中ホモシステインの低減、主要冠動脈イベントや脳卒中リスク減少につながらず

血中ホモシステインの低減は、主要な血管・冠動脈イベント、脳卒中や非冠動脈血管再生のリスク減少には、結びつかないようだ。がん発症との関連も認められなかったという。これまでの観察研究から、血管疾患を発症した人の血中ホモシステイン値は、そうでない人に比べ、高いことは知られていたが、この点が心血管疾患の原因となるかどうかは不明だった。英国オクスフォード大学のJane M. Armitage氏ら研究グループが、心筋梗塞歴のある1万2,000人超について、二重盲無作為化プラセボ対照試験を行って明らかにしたもので、JAMA誌2010年6月23/30日号で発表した。葉酸2mg+ビタミンB12 1mgを毎日投与研究グループSEARCH(Study of the Effectiveness of Additional Reductions in Cholesterol and Homocysteine)は1998~2008年にかけて、英国の病院を通じ、非致死の心筋梗塞を発症した1万2,064人を対象に試験を行った。同グループは被験者を無作為に二群に分け、一方には葉酸2mgとビタミンB12 1mgを毎日(ビタミン群)、もう一方にはプラセボを投与した。主要評価項目は、初回主血管イベントの発生、主冠動脈イベントの発生(冠動脈死、心筋梗塞、冠動脈血管再生のいずれか)、致死・非致死の脳卒中、非冠動脈血管再生だった。追跡期間の平均値は、6.7年(標準偏差:1.5)だった。イベント発生、死亡率、がん発症率などいずれも両群で有意差なしビタミン群のホモシステイン減少幅の平均値は、3.8μmol/L(28%)だった。追跡期間中の主血管イベント発生は、ビタミン群が6,033人中1,537人(25.5%)、プラセボ群が6,031人中1,493人(24.8%)と、有意差はみられなかった(リスク比:1.04、95%信頼区間:0.97~1.12、p=0.28)。主冠動脈イベントについても、ビタミン群が1,229人(20.4%)に対しプラセボ群が1,185人(19.6%)と、有意差はなかった(リスク比:1.05、同:0.97~1.13)。さらに脳卒中についても、それぞれ269人(4.5%)と265人(4.4%)でリスク比は1.02(同:0.86~1.21)、非冠動脈血管再生もそれぞれ178人(3.0%)と152人(2.5%)でリスク比は1.18(同:0.95~1.46)と、両群で有意差はなかった。さらに、血管疾患が原因の死亡[ビタミン群578人(9.6%)対プラセボ群559人(9.3%)]、非血管疾患が原因の死亡[同405人(6.7%)対392人(6.5%)]、がん発症率[同678人(11.2%)対639人(10.6%)]についても、それぞれ両群で有意差はなかった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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血中ビタミンB6とメチオニン値が高濃度だと、肺がんリスクは大幅減少

血中ビタミンB6とメチオニン値が高濃度だと、低濃度の人に比べ、肺がん発症リスクはおよそ半減するようだ。フランスInternational Agency for Research on CancerのMattias Johansson氏らが行ったケースコントロール試験で明らかになったもので、JAMA誌2010年6月16日号で発表した。これまで、ビタミンBのがん発症予防に関する研究は、主に葉酸塩値の大腸がん発症予防効果について行われ、ハイリスク集団についてその抑制効果を前向きに示すことはできなかったという。肺がん発症の約900人とコントロール群約1,800人を分析同研究グループは、1992~2000年にかけて、10ヵ国51万9,978人を対象に行った前向きコホート試験、European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition(EPIC)のうち、血液採取データがある38万5,747人について追跡した。結果、2006年までに肺がんを発症した人は899人いた。そのコントロール群として、国や性別、誕生日、血液採取日をマッチングした1,770人を選び、両群の血中の4種のビタミンB(B2、B6、葉酸塩のB9、B12)とメチオニン、ホモシステイン濃度を調べ、肺がん発症率との関連を分析した。ビタミンB6濃度の最高四分位範囲の肺がん発症リスク、最低四分位範囲の0.44倍、メチオニンは同0.52倍喫煙の有無を補正した上で、血中ビタミンB6濃度が最も高い四分位範囲の最も低い同範囲に対する、肺がん発症に関するオッズ比は、0.44(95%信頼区間:0.33~0.60、傾向に関するp

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2型糖尿病でメトホルミン服用患者、ビタミンB12値の管理が強く勧められる

2型糖尿病患者へのメトホルミン長期投与は、ビタミンB12欠乏症のリスクを増大すると、オランダ・Academic Medical Center眼科部門のJolien de Jager氏らが、無作為化プラセボ対照試験を行い明らかにした。「ビタミン12欠乏症は予防可能で、試験の結果は、ビタミンB12値の定期的な測定が強く考慮されなければならないことを示唆するもの」と結論している。BMJ誌2010年5月29日号(オンライン版2010年5月10日号)掲載より。無作為化プラセボ対照試験で、メトホルミン長期投与の提供を検証Jager氏らは、2型糖尿病でインスリン治療を受けている患者で、メトホルミン(商品名:メトグルコ、メルビンほか)長期投与によるビタミンB12欠乏症(150pmol/L未満)、ビタミンB12不足(150~220pmol/L)の発症率の影響と、血中葉酸濃度、血中ホモシステイン濃度について検討を行った。被験者は、オランダの3つの非大学病院外来クリニックから、390例が集められ、メトホルミン850mgを1日3回服用群と、プラセボ服用群に無作為化され、4.3年治療を受けた。主要評価項目は、基線から4、17、30、43、52ヵ月時点の、ビタミンB12、葉酸、ホモシステインの各変化%値とした。4.3年でビタミンB12は19%低下プラセボ群と比べてメトホルミン治療群は、ビタミンB12、葉酸の低下との関連が認められた。平均低下%値は、ビタミンB12が-19%(95%信頼区間:-24~-14、P

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糖尿病性腎症への高用量ビタミンB投与、尿細管濾過率低下、血管イベントリスクも増加

高用量ビタミンBを投与した糖尿病性腎症患者群は、非投与群に比べ、3年後の尿細管濾過率の低下幅が増大、血管イベントリスクも増加することが明らかになった。カナダ・西オンタリオ大学腎臓病部門のAndrew A. House氏らが、200人超を対象に行った試験の結果報告したもので、JAMA誌2010年4月28日号で発表した。糖尿病性腎症238人を無作為化、36ヵ月後に放射性核種を用い尿細管濾過率変化を測定同氏らは、2001年5月~2007年7月にかけて、カナダ国内5ヵ所の大学付属メディカルセンターで、合わせて238人の糖尿病性腎症が認められる1型および2型糖尿病患者について、無作為化プラセボ対照二重盲検試験「DIVINe」(Diabetic Intervention with Vitamins to Improve Nephropathy)を行った。研究グループは被験者を2群に分け、一方には葉酸(2.5mg/日)、ビタミンB6(25mg/日)、ビタミンB12(1mg/日)を、もう一方の群にはプラセボを投与した。第1エンドポイントは、試験開始時点と36ヵ月後の放射性核種を用いて測定した尿細管濾過率の変化だった。濾過率減少幅はビタミンB群で大、血管イベントリスクはビタミンB群が2倍追跡期間の平均値は31.9(標準偏差:14.4)ヵ月だった。36ヵ月後の放射性核種による尿細管濾過率の試験開始時点に比べた減少幅は、ビタミンB群では平均16.5(標準偏差:1.7)mL/min/1.73m2で、プラセボ群の平均10.7(標準偏差:1.7)mL/min/1.73m2に比べ有意に大きかった(格差平均:-5.8、95%信頼区間:-10.6~-1.1、p=0.02)。心筋梗塞、脳卒中、血管再生術、総死亡を合わせた統合イベント発生率は、ビタミンB群がプラセボ群の約2倍だった(ハザード比:2.0、95%信頼区間:1.0~4.0、p=0.04)。36ヵ月後の血漿総ホモシステイン値は、ビタミンB群の方が平均2.2(標準偏差:0.4)μmol/Lで、プラセボ群の平均2.6(標準偏差:0.4)μmol/Lより低かった(格差平均:-4.8、95%信頼区間:-6.1~-3.7、p<0.001)。なお透析実施率については、両群で有意差はなかった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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葉酸、ビタミンB12の摂取はがん・総死亡率などを増加:ノルウェー虚血性心疾患患者調査

 ノルウェーの虚血性心疾患患者を対象に行った調査で、葉酸とビタミンB12の摂取ががんの発症率・死亡率と、総死亡率の増加につながることが報告された。これまでの研究で、葉酸摂取と大腸がんリスク増加との関連は示されていたが、他のがんとの関連は明らかにされていない。報告はノルウェーHaukeland大学病院心臓病部門のMarta Ebbing氏らの調べによるもので、JAMA誌2009年11月18日号で発表された。なおノルウェーでは、葉酸を強化した食品は販売されていないという。葉酸投与を受けた人の葉酸血中濃度は6倍に 研究グループは、1998~2005年にかけて行われたビタミンB摂取を伴うがん治療の影響を評価した2つの無作為化プラセボ対照二重盲検試験について、分析を行った。被験者は、葉酸(0.8mg/日)とビタミンB12(0.4mg/日)とビタミンB6(40mg/日)を投与された人が1,708人、葉酸(0.8mg/日)とビタミンB12(0.4mg/日)投与が1,703人、ビタミンB6(40mg/日)のみ投与が1,705人、プラセボ群が1,721人だった。結果、試験期間中に葉酸を投与された被験者の血中葉酸値の中央値は、6倍に増大した。葉酸+ビタミンB12を投与した群の肺がん罹患率が増加 中央値39ヵ月の治療期間と、同38ヵ月の観察期間の後、がんの診断を受けたのは、葉酸+ビタミンB12を投与した2つの群の341人(10.0%)だったのに対し、葉酸を投与しなかった2つの群では288人(8.4%)に留まった(ハザード比:1.21、95%信頼区間:1.03~1.41、p=0.02)。 がんで死亡した人は、葉酸+ビタミンB12を投与した2群の136人(4.0%)に対し、葉酸を投与しなかった2群では100人(2.9%)だった(ハザード比:1.38、同:1.07~1.79、p=0.01)。 総死亡率について見てみると、葉酸+ビタミンB12を投与した2群のうち死亡したのは548人(16.1%)だったのに対し、葉酸を投与しなかった2群では473人(13.8%)だった(ハザード比:1.18、同:1.04~1.33、p=0.01)。 こうした結果の主な原因は、葉酸+ビタミンB12を投与した群の肺がん罹患率の増加だった。なお、ビタミンB6群については、がんアウトカムや死亡率に有意な差は見られなかった。

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ペメトレキセドによる維持療法、進行非小細胞肺がんに対する有用性を確認

進行非小細胞肺がんに対するペメトレキセド(商品名:アリムタ)による維持療法は良好な耐用性を示し、プラセボに比べ無進行生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に改善することが、ルーマニアIon Chiricutaがん研究所のTudor Ciuleanu氏らが実施した無作為化第III相試験で明らかとなった。ペメトレキセドは葉酸代謝拮抗薬であり、欧米ではシスプラチンとの併用で悪性胸膜中皮腫の1次治療として、単剤で非扁平上皮型の進行非小細胞肺がんの2次治療として、またシスプラチンとの併用で非扁平上皮型の進行非小細胞肺がんの1次治療として承認されている。本試験は2009年米国臨床腫瘍学会(ASCO)で最終報告が行われ、注目を集めた。Lancet誌2009年10月24日号(オンライン版2009年9月20日号)掲載の報告。20ヵ国83施設が参加した二重盲検無作為化第III相試験研究グループは、進行非小細胞肺がんに対するペメトレキセドを用いた維持療法の有効性および安全性を評価する二重盲検無作為化第III相試験を行った。20ヵ国83施設から、1次治療としてプラチナ製剤ベースの2剤併用療法を4コース施行後に増悪が見られなかったIIIB/IV期病変を有する663例が登録された。これらの患者が、21日を1コースとしてペメトレキセド500mg/m2(第1日)+対症療法(BSC)を施行する群(441例)あるいはプラセボ+BSCを施行する群(222例)に無作為に割り付けられた。治療は病勢が進行する(PD)まで継続することとした。患者と研究者には治療の割り付け情報は知らされなかった。全例にビタミンB12、葉酸、デキサメタゾンが投与された。主要評価項目はPFS、副次評価項目はOSとし、intention-to-treat解析を行った。PFSが1.7ヵ月、OSは2.8ヵ月延長、特に非扁平上皮がんで優れる無作為割り付けされた全例が解析の対象となった。PFSは、ペメトレキセド群が4.3ヵ月と、プラセボ群の2.6ヵ月に比べ有意に優れた(ハザード比:0.50、p<0.0001)。OSはそれぞれ13.4ヵ月、10.6ヵ月であり、ペメトレキセド群で有意に延長した(ハザード比:0.79、p=0.012)。薬剤関連毒性による治療中止率は、ペメトレキセド群が5%(21/441例)と、プラセボ群の1%(3/222例)に比べ多かった。薬剤関連のgrade 3以上の毒性は、それぞれ16%(70/441例)、4%(9/222例)であり、ペメトレキセド群で有意に頻度が高かった(p<0.0001)。特に、ペメトレキセド群で疲労感[5%(22/441例) vs. 1%(1/222)、p=0.001]と好中球減少[3%(13/441例) vs. 0%、p=0.006]が有意に高頻度に見られた。ペメトレキセドによる治療関連死は認めなかった。治療中止後の後治療としての全身療法の施行率は、ペメトレキセド群が51%(227/441例)と、プラセボ群の67%(149/222例)に比べ有意に低かった(p=0.0001)。著者は、「進行非小細胞肺がんに対するペメトレキセドによる維持療法は良好な耐用性を示し、プラセボに比べPFS、OSを有意に改善した」と結論している。また、組織型によるサブ解析では扁平上皮がんに比べ非扁平上皮がん(特に腺がん)でPFS、OSが有意に優れたことをふまえ、「本療法は、初回導入療法後に病勢が進行しなかった非扁平上皮型の進行非小細胞肺がんに対する新たな治療選択肢となるだろう」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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ビタミンEには心血管イベントの予防効果はない

 アスピリン、抗酸化サプリメントを、単独もしくは組み合わせて服用しても、心血管イベントの減少には結びつかないことが報告された。スコットランドの16病院・188開業医グループが参加して行われたPOPADAD試験(prevention of progression of arterial disease and diabetes trial)からの報告。BMJ誌2008年11月1日号(オンライン版2008年10月16日号)にて掲載された。糖尿病患者1,276例を2×2無作為化 POPADAD試験は多施設共同無作為化二重盲検2×2プラセボ対照試験で、「1型もしくは2型糖尿病」「40歳以上」「上腕血流比0.99未満」「無症候性末梢動脈疾患」に該当する患者1,276例が参加し行われた。 被験者は、「アスピリン100mg/日+抗酸化サプリ」(320例)、「アスピリン100mg/日+プラセボ」(318例)、「プラセボ+抗酸化サプリ」(320例)、「プラセボ+プラセボ」(318例)のいずれかに割り付けられ、プライマリエンドポイントは(1)虚血性心疾患あるいは脳卒中による死亡、無症候性心筋梗塞あるいは脳卒中、虚血による上下肢切断、(2)虚血性心疾患あるいは脳卒中による死亡、の2階層を指標に評価が行われた。 投与された抗酸化サプリメントは、ビタミンE 200mg、ビタミンC 100mg、ビタミンB6 25mg、亜鉛10mg、ニコチンアミド10mg、脂質9.4mg、ナトリウム0.8mgを成分とする。アスピリン、抗酸化サプリの単独・組み合わせいずれも効果を見いだせず 主要イベントの発生は、アスピリン投与群で18.2%(116/638例)、非アスピリン投与群では18.3%(117/638)、両群間のハザード比は0.98倍(95%信頼区間:0.76~1.26)だった。虚血性心疾患あるいは脳卒中による死亡は、アスピリン投与群6.7%(43/638例)、非アスピリン投与群5.5%(35/638)、ハザード比は1.23倍(0.79~1.93)。 一方、抗酸化サプリ投与群間では、投与群18.3%(117/640例)、非投与群18.2%(116/636例)で、ハザード比は1.03倍(95%信頼区間:0.79~1.33)。虚血性心疾患あるいは脳卒中による死亡は、投与群6.6%(42/640例)、非投与群5.7%(36/636例)で、ハザード比は1.21倍(0.78~1.89)であった。 本試験では、アスピリンと抗酸化サプリの相互作用を示すエビデンスを見出すこともできなかった。研究グループは、「糖尿病患者の心血管イベント発症および死亡の一次予防としてのアスピリン、抗酸化サプリ服用を推奨するエビデンスを本試験では得られなかった」と結論している。

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ビタミンBはアルツハイマー病の認知低下抑制の効果なし

アルツハイマー病(AD)ではホモシステインの血中濃度が高まり、高ホモシステイン血症が血管や神経に毒性に作用し発病に至る可能性がある。しかしホモシステイン濃度は、葉酸とビタミンB6、B12の高用量サプリメント投与で低下させることができる。このため、アメリカ・アルツハイマー病協同研究グループ(Alzheimer Disease Cooperative Study Group)のPaul S. Aisen氏(カリフォルニア大学サン・ディエゴ校)らは、AD治療におけるビタミンB群サプリメントの有効性と安全性を検証していたが、「認知機能の低下を遅らせる効果はない」と報告した。JAMA誌2008年10月15日号より。中軽度AD 患者409例を18ヵ月間試験し効果を比較本研究は2003年2月20日~2006年12月15日にかけて、全米で行われた多施設共同無作為化二重盲検臨床試験で、AD患者601例をスクリーニングし、認知機能検査(MMSE)スコアが14~26の中程度から軽度の409例を、全体の60%は高用量サプリメント処方群(葉酸塩を5mg/d、ビタミンB6を25mg/d、ビタミンB12を1mg/d)、残る40%はプラセボ処方群に無作為に割り付けた。投与期間は18ヵ月。主要評価項目は、アルツハイマー病評価尺度(ADAS-cog)の認知サブスケールの変化とした。ホモシステイン濃度は低下するが認知機能は改善せず試験を完了できたのは合計340例(高用量処方群202例とプラセボ群138例)だった。ビタミンB群のサプリメント投与はホモシステイン濃度の低下に効果的[平均値(SD)比較:高用量処方群-2.42(3.35) vs. プラセボ群-0.86(2.59)、P<0.001]だったにもかかわらず、主要な認知尺度である18ヵ月後のADAS-cogスコアの変化率には、何の有益効果も認められなかった。高用量処方群:0.401ポイント/月 vs. プラセボ群:0.372ポイント/月(P=0.52、比率差の95%信頼区間:-0.060~0.12、intention-to-treat解析の一般化方程式モデルに基づく)。副次的尺度にも、いかなる効果も認められなかった。うつ病を含む有害事象は、ビタミン・サプリメント処方群で、より多く観察された。これら結果からAisen氏は「高用量ビタミンB群サプリメントの処方計画は、中程度から軽度のアルツハイマー病の認知機能低下を遅らせる効果はない」と結論付けている。(朝田哲明:医療ライター)

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冠動脈疾患患者の2次予防にビタミンBは無効

総ホモシステイン濃度と心血管疾患とのリスクの関連性は観察研究によって報告されている。血漿総ホモシステイン濃度は、葉酸+ビタミンB12の内服によって低下させることができるが、Haukeland大学病院心臓疾患部門(ノルウェー)のMarta Ebbing氏らは、冠状動脈疾患もしくは大動脈弁狭窄症患者の2次予防として、葉酸+ビタミンB12の服用効果と、葉酸+ビタミンB6の服薬効果を、無作為化試験で比較評価した。JAMA誌2008年8月20日号より。冠動脈造影を受けた3,096例を群無作為化二重盲検対照試験1999~2006年に、ノルウェー西部の2つの大学病院で行われた無作為化二重盲検対照試験で、参加者は冠動脈造影を受けた計3,096例の成人(女性20.5%、平均年齢61.7歳)。基線で、59.3%が2種または3種の血管疾患があった。83.7%は安定性狭心症があり、14.9%が急性冠動脈症候群を有していた。22通りの要因を有する参加者は、「葉酸(0.8mg)+ビタミンB12(0.4mg)+ビタミンB6(40mg)」(n=772)、「葉酸+ビタミンB12」(n=772)、「ビタミンB6単独投与」(n=772)、「プラセボ投与」(n=780)の4つの経口投与群のうちの1つにランダムに割り当てられた。主要エンドポイントは、全死因、非致死性の急性心筋梗塞、不安定狭心症による緊急入院、非致死性の脳梗塞の複合とした。葉酸効果は認められるがビタミンB効果は確認できなかった「葉酸+ビタミンB12」を受けていた群では、服用1年後の血漿総ホモシステイン濃度の平均値は30%減少していた。本試験は、同時期に行われたNorwegian trialで介入による有害事象の報告がされたため早期に終了され、追跡調査は38ヵ月間だった。その間に主要エンドポイントが確認された参加者は計442例(13.7%)。このうち219例(14.2%)が「葉酸+ビタミンB12」の投与を受けており、203例(13.1%)がそれらの投与を受けていなかった。ハザード比は1.09(95%信頼区間:0.90~1.32、P=0.36)。また「ビタミンB6」の投与を受けていたのは200例(13.0%)、受けていなかったのは222例(14.3%)。ハザード比は0.90(0.74~1.09、P=0.28)だった。これら結果からEbbing氏は、「本試験では、葉酸+ビタミンB12あるいは+ビタミンB6の総死亡率、心血管イベントへの治療効果の違いを見いだすことはできなかった。我々の調査結果では、冠動脈疾患患者の2次予防にビタミンBを用いることを支持しない」と結論している。(朝田哲明:医療ライター)

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血漿ホモシステイン濃度低下は慢性腎臓病と末期腎不全の死亡率低下に有効か

血漿ホモシステイン濃度の上昇が死亡率と血管疾患の危険因子であることは慢性腎臓病患者の観察研究で明らかになっている。ホモシステイン濃度を下げる葉酸とビタミンB群の投与が、慢性腎臓病と末期腎不全患者の予後を改善するか否かをテーマに無作為化対照試験が実施され、その結果がJAMA誌9月12日号に掲載された。葉酸40mg、ビタミンB6100mgなどを毎日投与高用量葉酸とビタミンB群の毎日投与が慢性腎臓病患者の死亡率を減少させるかどうかを判定するため、Rex L. Jamison氏らのグループは米国退役軍人省医療センターの36病院で二重盲検無作為化対照試験(2001~2006年)を行った。追跡期間の中央値は 3.2年、21歳以上の進行性慢性腎臓病(推算クレアチニンクリアランス30mL/分以下、n=1,305)あるいは末期腎不全(n=751)で、かつ高ホモシステインレベル(15μmol/L)の患者計2,056例。参加者は葉酸40mg、ピリドキシン塩酸塩(ビタミンB6)100mg、シアノコバラミン(ビタミンB12)2mgを含むカプセルまたはプラセボを毎日投与された。主要評価項目は全原因死亡率。第2評価項目は心筋梗塞、脳卒中、下肢の全部または一部の切断、そしてこれら3つと複合死亡率、透析開始までの期間と血液透析患者の動静脈アクセスの血栓症に至る期間とした。生存率、血管系疾患発病率減少のいずれも効果なし平均のホモシステイン濃度は、ビタミン投与群が24.0μmol/L、プラセボ投与群は24.2μmol/L。3ヵ月で、ビタミン投与群は 6.3μmol/L(25.8%、P<0.001)、プラセボ投与群は0.4μmol/L(1.7%、P=0.14)低下したが、死亡率に明らかな影響はなかった(ビタミン投与群448対プラセボ投与群436、ハザード比:1.04、95%信頼区間:0.91-1.18)。第2 評価項目または有害事象においても明らかな影響は示されなかった。心筋梗塞はビタミン投与群129例対プラセボ群150例(同0.86、0.67- 1.08)、脳卒中はビタミン群37対プラセボ群41(同0.90、0.58-1.40)、そして下肢切断はビタミン群60対プラセボ群53だった(同 1.14、0.79-1.64)。さらに、死亡率を加えた心筋梗塞、脳卒中、切断の複合、透析に至る期間(P=0.38)と、血液透析患者の血栓症に至る期間(P=0.97)は、ビタミン群とプラセボ群で違いがなかった。これらから、高用量葉酸とビタミンB群の投与は生存率の向上、あるいは進行性慢性腎臓病と末期腎不全患者の血管疾患の発病率低下のいずれにも効果がなかったと結論づけている。(朝田哲明:医療ライター)

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