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砂糖入りのコーヒーも死亡リスクを下げる可能性

 コーヒーに少量の砂糖を入れて飲む習慣も、健康にとってプラスに働く可能性を示唆する研究結果が報告された。南方医科大学(中国)のChen Mao氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に5月31日掲載された。 これまでの観察研究から、コーヒーを摂取するという習慣が死亡リスクの低さに関連していることが示唆されている。ただし、それらの研究はコーヒーをブラックで飲むか、砂糖を入れて飲むかといった区別をしておらず、砂糖を入れて飲むと健康へのプラスの影響が相殺される可能性も考えられる。そこでMao氏らは、英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UKバイオバンク」を用いてこの点を検討した。 ベースラインで心血管疾患やがんのない17万1,616人(平均年齢55.6歳±7.9歳)を対象として、2009年から2018年まで追跡。ブラックコーヒー、砂糖または人工甘味料を添加したコーヒーの摂取量を、自己申告に基づき把握。全死亡、がん死、心血管死のリスクを比較した。中央値7.0年の追跡で3,177人の死亡が記録されていた(がん死1,725人、心血管死628人)。 1日当たりのブラックコーヒーの摂取量が、0~1.5杯、1.5杯超~2.5杯、2.5杯超~3.5杯、3.5杯超~4.5杯、4.5杯超の群に分け、交絡因子を調整後に、コーヒーを飲まない群を基準として全死亡リスクを比較。すると、前記の順にハザード比は0.79、0.84、0.71、0.71、0.77となり、全群とも有意に低リスクであることが示された。砂糖入りコーヒーの場合のハザード比は同順に、0.91、0.69、0.72、0.79、1.05であり、1.5杯超~2.5杯と2.5杯超~3.5杯の群は有意なリスク低下が観察され、その他の群は非有意だった。がん死や心血管死についても、全死亡とほぼ同様の関連が認められた。人工甘味料入りのコーヒーについては、死亡リスクとの関連に一貫性がなかった。 ジャーナルの副編集長であるChristina Wee氏は、本論文に対する付随論評の中で、「少量の砂糖をコーヒーに加え、甘くして飲んだとしても潜在的に有益であり、少なくとも有害ではないようだ」と述べている。 ただし、キャラメルマキアートのように多量の砂糖を使って良いわけではない。Wee氏や米クリーブランド・クリニックのAnthony DiMarino氏によると、コーヒー1杯に対して小さじ1杯の砂糖までが適量だという。「小さじ1杯の砂糖は16kcal程度であり、追加されるエネルギー量として、それほど多いものではない。それに対してキャラメルマキアートのようなコーヒー飲料では、砂糖と脂肪から数百kcalが追加される」とDiMarino氏は説明する。 DiMarino氏によると、「コーヒーには1,000種類近くの植物性化合物が含まれているが、そのほとんどはまだ研究されていない。しかし、健康に不可欠なビタミンB群、カリウムなどの栄養素や、がんのリスク低減につながる複数の抗炎症物質が含まれている」とのことだ。また、覚醒や記憶、精神機能を改善する作用が示されており、「われわれが物事に気づきやすくなり、間違いを減らすのに役立つのではないか」という。 さらにWee氏は、コーヒーにクロロゲン酸が含まれていることを指摘する。クロロゲン酸は血液の凝固能を抑える作用があり、血栓による心臓発作や脳卒中のリスクを抑制する可能性があるとのことだ。これらに加えて米マウントサイナイ・モーニングサイドのAlan Rozanski氏は、「コーヒーは腸の健康を改善したり、過剰な脂肪蓄積を抑制して、肝臓を保護するといった経路を介しても、死亡リスクを下げるのではないか」と話す。 一方、Wee氏は「コーヒーに含まれるカフェインについて懸念する医師は少なくない」と述べる。カフェインは心拍数を上げたり、代謝を変化させる可能性がある。この点について同氏は、「常識的な摂取量であれば害はないと考えられる。とは言え、コーヒー嫌いな人が、今回の報告を根拠としてコーヒーを飲み始めるべきかどうかについては、何とも言えない」と語っている。

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第28回 原因は1つとは限らない【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)検査で異常値をみつけたからといって今回の原因とは限らない。2)検査で異常が認められないからといって異常なしとは限らない。3)症状を説明し得るか、結論付ける前に再考を!【症例】81歳男性。意識障害自宅で反応が乏しいところを仕事から帰宅した息子が発見し救急要請。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧148/81mmHg脈拍92回/分(整)呼吸18回/分SpO295%(RA)体温36.1℃瞳孔4/3.5 +/+既往歴認知症、高血圧、脂質異常症、便秘、不眠内服薬ドネペジル塩酸塩、トリクロルメチアジド、アトルバスタチンカルシウム水和物、酸化マグネシウム、ゾルピデム酒石酸塩所見顔面の麻痺ははっきりしないが、左上肢の運動障害あり検査の異常が今回の原因とは限らない採血、心電図、X線、CTなどの検査を行い異常がみつかることは、よくあります。特に高齢者の場合にはその頻度は高く、むしろまったく検査に異常が認められないことの方が多いでしょう。しかし、異常を認めるからといって今回の主訴の要因かというとそんなことはありません。腎機能障害、肝機能障害、貧血、電解質異常、中には急を要する場合もありますが、症状とは関係なく検査の異常が認められることはよくあるものです。そのため、検査結果は常に病歴や身体所見、バイタルサインを考慮した結果の解釈が重要です。以前から数値や所見が変わっていなければ、基本的には今回の症状とは関係ないことが多いですよね。慢性腎臓病患者のCr、Hb、心筋梗塞の既往のある患者の心電図など、けっして正常値でありません。急性の変化か否かが、1つのポイントとなりますので、以前の検査結果と比較することを徹底しましょう。検査で異常が認められないから原因ではないとは限らないコロナ禍となり早2年が経過しました。抗原検査、PCRなど何回施行したか覚えていないほど、皆さんも検査の機会があったと思います。抗原陰性だからコロナではない、PCR陰性だからコロナではない、そんなことないことは皆さんもよく理解していると思います。頭痛患者で頭部CTが陰性だからクモ膜下出血ではない、肺炎疑い患者でX線所見陰性だから肺炎ではない、CRPが陰性だから重篤な病気は否定的、CO中毒疑い患者の一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)が正常値だからCO中毒ではないなど、例を挙げたらきりがありません。皆さんも自身で施行した検査結果で異常の1つや2つ、経験ありますよね?!原因が1つとは限らない今回の症例の原因、皆さんは何だと思いますか? もちろんこれだけでは原因の特定は難しいかもしれませんが、高齢男性の急性経過の意識障害で麻痺もあるとなると脳梗塞や脳出血などの脳卒中が考えやすいと思います。低血糖や大動脈解離、痙攣なども“stroke mimics”の代表であるため考えますが、例えばMRI検査を実施し、画像所見が光っていたらどうでしょうか? MRIで高信号な部分があるのであれば、「原因は脳梗塞で決まり」。それでよいのでしょうか?脳梗塞の病巣から症状が完全に説明できる場合にはOKですが、「この病巣で意識障害来すかな…」「こんな症状でるのかなぁ…」こんなことってありますよね。このような場合には必ず「こんなこともあるのだろう」と思考停止するのではなく、他に症状を説明し得る原因があるのではないかと再考する必要があります。この患者さんの場合には、脳梗塞に加え低栄養状態に伴うビタミン欠乏、ゾルピデム酒石酸塩による薬剤性などの影響も考えられました。ビタミンB1欠乏に伴うウェルニッケ脳症は他疾患に合併することはけっして珍しくありません1)。また、高齢者の場合には「くすりもりすく」と考え、常に薬剤の影響を考える必要があります。きちんと薬は飲んでいるのに…患者さんが訴える症状が、内服している薬剤によるものであると疑うのは、どんなときでしょうか?新規の薬剤が導入され、その後からの症状であれば疑うことは簡単です。また、用法、用量を誤って内服してしまった場合なども、その情報が得られれば薬剤性を疑うのは容易ですよね。意外と見落とされがちなのが、腎機能や肝機能の悪化に伴う薬効の増強や電解質異常などです。フレイルの高齢者は大抵の場合、食事摂取量が減少しています。数日の単位では大きな変化はなくても、数ヵ月の単位でみると体重も減少し、食事だけでなく水分の摂取も減少していることがほとんどです。そのような場合に、「ご飯は食べてますか?」と聞くだけでは不十分で、具体的に「何をどれだけ食べているのか」「数ヵ月、半年前と比較してどの程度食事摂取量や体重が変化したか」を確認するとよいでしょう。「ご飯は食べてます」という本人や家族の返答をそのまま鵜呑みにするのではなく、具体的に確認することをお勧めします。骨粗鬆症に対するビタミンD製剤による高Ca血症、利尿薬内服に伴う脚気心、眠剤など、ありとあらゆる薬の血中濃度が増加することに伴う、さまざまな症状が引き起こされかねません。薬の変更、追加がなくても「くすりもりすく」を常に意識しておきましょう。最後に高齢者は複数の基礎疾患を併せ持ち、多数の薬剤を内服しています。そのような患者が急性疾患に罹患すると検査の異常は複数存在するでしょう。時には検査が優先される場面もあるとは思いますが、常にその変化がいつからのものなのか、症状を説明しうるものなのか、いちいち考え検査結果を解釈するようにしましょう。1)Leon G. Clinicians Who Miss Wernicke Encephalopathy Are Frequently Called Defendants. Toxicology Rounds. Emergency Medicine News. 2019;41:p.14.

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口の中が燃えるように痛い!?口腔内灼熱症候群(BMS)【知って得する!?医療略語】第7回

第7回 口の中が燃えるように痛い!?口腔内灼熱症候群(BMS)最近、口の中が燃えるように痛い病気があると聞きました。本当にそんな病気があるのですか?そうなんです、本当にあるんです!文字通り、口の中の灼熱感を特徴とする口腔内灼熱症候群(BMS)という疾患があります。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】BMS【日本語】口腔内灼熱症候群【英字】burning mouth syndrome【分野】脳神経【診療科】耳鼻科・歯科口腔外科・疼痛治療科・心療内科【関連】一次性BMS・二次性BMS・舌痛症※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。口腔内のヒリヒリ、ピリピリした不快な灼熱感を訴える患者さんは、口腔内灼熱症候群(BMS:Burning mouth syndrome)を想定する必要があるかもしれません。恥ずかしながら、筆者が最近まで知らずに過ごしてしまった疾患の1つです。BMSは、幅広い診療科の医師が遭遇する可能性があるため、今回紹介いたします。BMSは国際頭痛分類第3版において、「3ヵ月を超えて、かつ1日2時間を超えて連日再発を繰り返す、口腔内の灼熱感または異常感覚で、臨床的に明らかな原因病巣を認めないもの」と定義されており、口腔粘膜は外見上正常、感覚検査を含めた臨床診察は正常とされています。BMSの原因は、歯科処置や口内炎などの局所的異常が原因とされていますが、発症契機が不明な場合も多いようです。また、BMSは心理社会課題や精神疾患の合併が多いことを指摘する研究報告がある一方、BMS患者の舌生検で粘膜上皮の神経線維に器質的変化を認めたことが報告され、近年はfMRIによる研究も進められています。さらに近年、BMSは一次性BMSと二次性BMSに区別される傾向にあります。二次性BMSの原因は、全身疾患と局所疾患に分類され、全身疾患に伴う二次性BMSの基礎疾患には薬剤誘発性、貧血(Plummer Vinson症候群)、シェーグレン症候群、糖尿病が挙げられており、BMS患者の診療では、血液検査による貧血、ビタミンB12、葉酸、微量金属(亜鉛・銅)のスクリーンニングの必要性が指摘されています。なお、BMSの口腔内疼痛症状は、日内変動も報告され午前より午後に強くなる傾向があるそうです。筆者が遭遇したBMS患者さんも同様の傾向が見られ、灼熱感を和らげるため冷水の多飲がみられたことを付記します。近年、増加傾向が指摘されているBMS。お時間が許せば、以下の論文をご一読ください。1)羽藤 裕之他. 1次性burning mouth syndrome患者の臨床的検討. 日口内誌. 2020;26:8-15.2)山村 幸江. 口腔灼熱症候群・舌痛症の診療. 耳鼻臨床. 2018;111:148-149.3)任 智美. 舌痛症の取り扱い. 日耳鼻. 2016. 119-144.4)日本頭痛学会:国際頭痛分類第3版(第3部)

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円錐角膜〔keratoconus〕

1 疾患概要■ 定義円錐角膜は、進行性の両眼角膜中央部もしくは下方の菲薄化と突出を来す疾患であり、近視化と不正乱視による視力低下を来す。■ 疫学円錐角膜の発症頻度は、450〜2,000人に1人とされてきた。しかし、診断技術の進歩により、軽症の円錐角膜の検出頻度が上がっている。屈折矯正外来を訪れる患者のうち円錐角膜または円錐角膜疑い患者は5%前後にみられる。また、難波らの調査からは、疑い例も含めると日本人の約100人に1人程度の有病率であるという結果が報告されていることから、軽症例も含めると従来考えられているよりも罹患人口が多い可能性が高い。性差については報告により異なるが、わが国では男性に多いという報告が多数ある。■ 病因明らかな病因はいまだに不明である。数多くの遺伝子変異が報告されているが、実際に遺伝的素因が明らかな例はあまり多くない。ダウン症候群やレーバー先天盲、エーラス・ダンロス症候群、マルファン症候群などでは円錐角膜の発症率が高いことが知られている。その他リスクファクターとしては、アトピーなどのアレルギー眼疾患、頻繁に目をこする、などが挙げられる。■ 症状軽度の症例では自覚症状はほとんどない場合もあるが、中等度以上になると近視性乱視と不正乱視が出現する。そのために眼鏡矯正視力が不良になりハードコンタクトレンズによる矯正が必要になる。ほとんどの場合両眼性に生じるが、程度に左右差があることも多い。■ 分類角膜の突出部位別の分類としては、以下のものがある。Nipple角膜中央の狭い範囲(5ミリ以下)に突出がみられるもの。Oval     突出部位が中央やや下方にみられるもの。最も頻度が高い。Globus突出部位が角膜の4分の3の範囲に及ぶもの。また、重症度分類としては、Amsler分類(表)が古くから用いられているが、測定機器の進歩によって、細隙灯顕微鏡で検出できない初期の変化が捉えられるようになってきたために、見直す必要がある。表 Amsler-Krumeich分類画像を拡大する■ 予後円錐角膜の多くは思春期から青年期にかけて発症し、その後加齢とともに進行するが、中年以降になると進行速度が緩やかになってやがて停止する。しかしながら、進行の有無やスピードには個人差が大きく、近年の報告によれば30歳以降でも進行する症例もみられることが明らかになっている。経過中に、デスメ膜破裂を来す場合がある。局所的な実質の浮腫と、それに伴う急速な視力低下と軽度の眼痛を認める(急性水腫:図1)。浮腫は自然に軽快するが、実質瘢痕を残すと視力が回復せずに角膜移植が必要となることもあるので、急性水腫を来さないような治療方針を建てることが重要となる。図1 急性水腫の前眼部所見急激に発症する角膜中央部の浮腫で、スリットランプでしばしば実質の裂隙とデスメ膜の断裂を認める。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)円錐角膜の診断には、正確な視力検査、自覚的屈折検査と角膜形状解析検査を行う必要がある。細隙顕微鏡での異常所見としては、角膜中央〜Vogt’s striae(角膜実質の線状の皺壁:図2)、Fleisher ring(突出部の周辺に認められるリング状のヘモジデリン沈着)、上皮化の瘢痕などが挙げられ、主として中等症以上で初めて認められる。図2 Vogt’s striae突出部に生じる細かい実質の皺壁。初期の円錐角膜の診断には、角膜トポグラフィー(形状解析検査)が有用であり、角膜中央から下方の前方突出が特徴的である(図3)。図3 典型的な円錐角膜の角膜トポグラフィー像下方角膜曲率の急峻化を認める。近年では、多くの機器で円錐角膜のスクリーニングプログラムが搭載されている。より初期の診断には、角膜前面だけではなく後面も評価でき、角膜厚の分布も検出できる角膜トモグラフィー(断層撮影)の感度が高い。さらに、角膜形状でなく生体力学的特性を調べる検査の有用性も報告されている。鑑別疾患としては、円錐角膜よりも周辺部角膜の菲薄化と突出を来たすペルーシド角膜辺縁変性が挙げられる。円錐角膜よりも発症が遅く進行が停止するまでの期間も長い。その他、レーシックなどの角膜屈折矯正手術後の角膜拡張症(エクタジア)も円錐角膜と同様の所見を呈する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)円錐角膜の治療は、視力矯正と進行予防の2つの目的があり、前者はさらに保存的治療と外科的治療に分かれる。■ 視力矯正1)保存的治療軽度の場合は眼鏡やソフトコンタクトレンズも用いられるが、一般的には酸素透過性ハードコンタクトレンズによる矯正が中心となる。角膜突出の程度が強くなると、多段階のベースカーブを有する円錐角膜用のハードコンタクトレンズが必要となる場合もある。ハードコンタクトレンズに伴う異物感が強い場合は、ソフトコンタクトレンズの上にハードコンタクトレンズを乗せる“piggy-back”とよばれる装用法や、中心部がハードレンズで周辺部がソフトレンズのハイブリッドレンズ、あるいは強膜レンズが用いられることもある。2)外科的治療軽度の非進行例については、有水晶体眼内レンズによる近視・乱視の矯正も試みられている。近年、角膜実質の混濁をともなわない例については、角膜実質にPMMA製のリングを入れる「角膜内リング」も一部で行われるようになった(国内未承認)。これによって角膜形状の改善とハードコンタクトレンズ装用感の向上が得られる場合がある。保存的治療で充分な視力矯正が得られない場合、角膜移植が1つの選択となりうる。かつては角膜全層を移植する「全層角膜移植」が広く行われたが、術後合併症への対策が欠かせないという欠点があり、それを補うために角膜実質をデスメ膜の直上まで切除して移植する「深層層状角膜移植」が行われているが、手術手技が難しいという欠点を持つ。■ 進行抑制約20年前から、「角膜クロスリンキング」という円錐角膜の進行抑制を目的とした治療が、諸外国で広く行われるようになった(国内未承認)。角膜実質内にリボフラビン(ビタミンB12)を浸透させた後に、紫外線を照射することで角膜実質のコラーゲン線維の架橋を促して強度を向上させる。これまでの研究で、円錐角膜の進行抑制が大半の例で得られ、若干の形状改善効果もあることが報告されている。進行抑制が得られれば、角膜移植などの外科的治療を受けずに済む可能性が高く、患者の生活の質の向上に役立つ。4 今後の展望上に挙げた治療法のいくつかは保険未収載であったり、機器の承認が取れていないため、治療は多くの場合が自費診療として行われる。特に角膜クロスリンキングは、疾患の進行抑制を効率で得られるために患者のQOLを長期にわたって改善できることが海外で報告されており、わが国でも早急に実施体制が整うことが求められる。また、多くの円錐角膜患者にとってハードコンタクトレンズは生活に欠かせないが、市町村によってはその購入に対する補助がなされないなど、患者負担が大きいことが問題となっている。5 主たる診療科眼科。しかし多くの例では、眼鏡店やコンタクトレンズ販売店、あるいは屈折矯正手術施行施設を訪れることも多く、これらの施設で適切に円錐角膜の診断をつけることが重要である。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報円錐角膜研究会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)National Keratoconus Foundation(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Amsler M. Ophtalmologica. 1946;111:96–101.公開履歴初回2023年3月8日

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標準薬ながら血糖降下薬を超えるメトホルミンの可能性【令和時代の糖尿病診療】第5回

第5回 標準薬ながら血糖降下薬を超えるメトホルミンの可能性今回のテーマであるビグアナイド(BG)薬は、「ウィキペディア(Wikipedia)」に民間薬から糖尿病治療薬となるまでの歴史が記されているように、なんと60年以上も前から使われている薬剤である。一時、乳酸アシドーシスへの懸念から使用量が減ったものの、今や2型糖尿病治療において全世界が認めるスタンダード薬であることは周知の事実である。そこで、メトホルミンの治療における重要性と作用のポイント、その多面性から血糖降下薬を超える“Beyond Glucose”の可能性もご紹介しようかと思う。なお、ビグアナイドにはフェンフォルミン、メトホルミン、ブホルミンとあるが、ここから先は主に使用されているメトホルミンについて述べる。作用機序から考えるその多面性まず、メトホルミンについて端的にまとめると、糖尿病治療ガイド2020-20211)の中ではインスリン分泌非促進系に分類され、主な作用は肝臓での糖新生抑制である。低血糖のリスクは低く、体重への影響はなしと記載されている。そして主要なエビデンスとしては、肥満の2型糖尿病患者に対する大血管症抑制効果が示されている。主な副作用は胃腸障害、乳酸アシドーシス、ビタミンB12低下などが知られる。作用機序は、肝臓の糖新生抑制だけを見ても、古典的な糖新生遺伝子抑制に加え、アデニル酸シクラーゼ抑制、グリセロリン酸シャトル抑制、中枢神経性肝糖産生制御、腸内細菌叢の変化、アミノ酸異化遺伝子抑制などの多面的な血糖降下機序がわかっている2)。ほかにも、メトホルミンはAMPキナーゼの活性化を介した多面的作用を併せ持ち、用量依存的な効果が期待される(下図)。図1:用量を増やすとAMPキナーゼの活性化が促進され、作用が増強する1990年代になって、世界的にビグアナイド薬が見直され、メトホルミンの大規模臨床試験が欧米で実施された。その結果、これまで汎用されてきたSU薬と比較しても体重増加が認められず、インスリン抵抗性を改善するなどのメリットが明らかになった。これにより、わが国においても(遅ればせながら)2010年にメトホルミンの最高用量が750mgから2,250mgまで拡大されたという経緯がある。メトホルミンの作用ポイントと今後の可能性それでは、メトホルミンにおける(1)多面的な血糖降下作用(2)脂質代謝への影響(3)心血管イベントの抑制作用の3点について、用量依存的効果も踏まえてみてみよう。(1)多面的な血糖降下作用メトホルミンもほかの血糖降下薬と同様に、投与開始時のHbA1cが高いほど大きい改善効果が期待でき、肥満・非肥満によって血糖降下作用に違いはみられない。用量による作用としては、750mg/日で効果不十分な場合、1,500mg/日に増量することでHbA1cと空腹時血糖値の有意な低下が認められ、それでも不十分な場合に2,250mg/日まで増量することでHbA1cのさらなる低下が認められている(下図)。また、体重への影響はなしと先述したが、1,500mg/日以上使用することにより、約0.9kgの減量効果があるとされている。図2:1,500mg/日での効果不十分例の2,250mg/日への増量効果画像を拡大するさらには高用量(1,500mg以上)の場合、小腸上部で吸収しきれなかったメトホルミンが回腸下部へ移行・停滞し、便への糖排泄量が増加するといわれており、小腸下部での作用も注目されている。これは、メトホルミンの胆汁酸トランスポーター(ASBT)阻害作用により再吸収されなかった胆汁酸が、下部消化管のL細胞の受容体に結合し、GLP-1分泌を促進させるというものである(下図)3)。図3:メトホルミンによるGLP-1分泌促進機構(仮説)画像を拡大するまた、in vitroではあるが、膵β細胞に作用することでGLP-1・GIP受容体の遺伝子発現亢進をもたらす可能性が示唆されている4)。よって、体重増加を来しにくく、インクレチン作用への相加効果が期待できるメトホルミンとインクレチン製剤(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)の併用は相性が良いといわれている。(2)脂質代謝への影響あまり知られていない(気に留められていない?)脂質代謝への影響だが、メトホルミンは肝臓、骨格筋、脂肪組織においてインスリン抵抗性を改善し、遊離脂肪酸を低下させる。また、肝臓においてAMPキナーゼの活性化を介して脂肪酸酸化を亢進し、脂肪酸合成を低下させることによりVLDLを低下させるという報告がある5)。下に示すとおり、国内の臨床試験でSU薬にメトホルミンを追加投与した結果、総コレステロール(TC)、LDLコレステロール(LDL-C)、トリグリセリド(TG)が低下したが、有意差は1,500mg/日投与群のみで750mg/日ではみられない。糖尿病専門医以外の多くの先生方は500~1,000mg/日までの使用が多いであろうことから、この恩恵を受けられていない可能性も考えられる。図4:TC、LDL-C、TGは、1,500mg/日投与群で有意な低下がみられる画像を拡大する(3)心血管イベントの抑制作用メトホルミンの心血管イベントを減らすエビデンスは、肥満2型糖尿病患者に対する一次予防を検討した大規模臨床試験UKPDS 346)と、動脈硬化リスクを有する2型糖尿病患者に対する二次予防を検討したREARCHレジストリー研究7)で示されている。これは、体重増加を来さずにインスリン抵抗性を改善し、さらに血管内皮機能やリポ蛋白代謝、酸化ストレスの改善を介して、糖尿病起因の催血栓作用を抑制するためと考えられている8)。ここまで主たる3点について述べたが、ほかにもAMPKの活性化によるがんリスク低減や、がん細胞を除去するT細胞の活性化、そして糖尿病予備軍から糖尿病への移行を減らしたり、サルコペニアに対して保護的に働く可能性などを示す報告もある。さらに、最近ではメトホルミンが「便の中にブドウ糖を排泄させる」作用を持つことも報告9)されており、腸がメトホルミンの血糖降下作用の多くを担っている可能性も出てきている。しかし、どんな薬物治療にも限界がある。使用に当たっては、日本糖尿病学会からの「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」に従った処方をお願いしたい。今や医学生でも知っている乳酸アシドーシスのリスクだが、過去の事例を見ると、禁忌や慎重投与が守られなかった例がほとんどだ。なお、投与量や投与期間に一定の傾向は認められず、低用量の症例や投与開始直後、あるいは数年後に発現した症例も報告されている。乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴としては、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)、2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態、3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、4.高齢者とあるが、まずは経口摂取が困難で脱水が懸念される場合や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし、以上1~4の事項に留意する。とくに腎機能障害患者については、2019年6月の添付文書改訂でeGFRごとの最高用量の目安が示され、禁忌はeGFRが30未満の場合となっているため注意していただきたい。図5:腎機能(eGFR)によるメトホルミン最高投与量の目安画像を拡大するBasal drug of Glucose control&Beyond Glucose、それがBG薬まとめとして、最近の世界動向をみてみよう。米国糖尿病学会(ADA)は昨年12月、「糖尿病の標準治療2022(Standards of Medical Care in Diabetes-2022)」を発表した。同文書は米国における糖尿病の診療ガイドラインと位置付けられており、新しいエビデンスを踏まえて毎年改訂されている。この2022年版では、ついにメトホルミンが2型糖尿病に対する(唯一の)第一選択薬の座から降り、アテローム動脈硬化性疾患(ASCVD)の合併といった患者要因に応じて第一選択薬を判断することになった。これまでは2型糖尿病治療薬の中で、禁忌でなく忍容性がある限りメトホルミンが第一選択薬として強く推奨されてきたが、今回の改訂で「第一選択となる治療は、基本的にはメトホルミンと包括的な生活習慣改善が含まれるが、患者の合併症や患者中心の医療に関わる要因、治療上の必要性によって判断する」という推奨に変更された。メトホルミンが第一選択薬にならないのは、ASCVDの既往または高リスク状態、心不全、慢性腎臓病(CKD)を合併している場合だ。具体的な薬物選択のアルゴリズムは、「HbA1cの現在値や目標値、メトホルミン投与の有無にかかわらず、ASCVDに対する有効性が確認されたGLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬を選択する」とされ、考え方の骨子は2021年版から変わっていない。もちろん、日本糖尿病学会の推奨は現時点で以前と変わらないことも付け加えておく。メトホルミンが、これからもまだまだ使用され続ける息の長い良薬であろうことは間違いない。ぜひ、Recommendationに忠実に従った上で、用量依存性のメリットも感じていただきたい。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.2)松岡 敦子,廣田 勇士,小川 渉. PHARMA MEDICA. 2017;35:Page:37-41.3)草鹿 育代,長坂 昌一郎. Diabetes Frontier. 2012;23:47-52.4)Cho YM, et al. Diabetologia. 2011;54:219-222.5)河盛隆造編. 見直されたビグアナイド〈メトホルミン〉改訂版. フジメディカル出版;2009.6)UKPDS Group. Lancet. 1998;352:854-865.7)Roussel R, et al. Arch Intern Med. 2010;170:1892-1899.8)Kipichnikov D, et al. Ann Intern Med. 2002;137:25-33.9)Yasuko Morita, et.al. Diabetes Care. 2020;43:1796-1802.

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見逃してはならない“しびれ”とその部位は?【Dr.山中の攻める!問診3step】第9回

第9回 見逃してはならない“しびれ”とその部位は?―Key Point―しびれは重大な疾患の一つの症状のことがあるしびれの分布や部位から原因疾患を絞り込むことができる頻度が高い疾患は、症状の特徴を覚えておくと診断が容易である症例:68歳 女性主訴)右胸痛、呼吸苦現病歴)7日前、突然左指と左口唇がしびれたが数分で改善した。脳MRI検査を受けたが異常なし。昨夕から徐々に右胸痛と右背部痛が出現。体動時と深呼吸時に痛みは増悪。動くと息切れあり。本日、外出時に痛みの増悪を認め来院した。既往歴)COPD薬剤歴)なし社会歴)たばこ:20歳から45歳まで30本/日アルコール:飲まない経過)左指と左口唇のしびれからは視床の病変が連想される(手口感覚症候群)。視床では口唇と手指の感覚領域が近接して存在する息をすると胸が痛むという症状は胸膜に病変が及んでいることを示唆する胸部レントゲン写真で異常陰影を認めたので、胸部CT検査を行い原発性肺がん(S4) と右第7肋骨骨転移の診断となった肺がんのため過凝固となり手口感覚症候群を起こしたと考えられた◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!高齢者はしびれをよく訴える多発神経障害は臨床で遭遇する頻度が高い多発性単神経障害なら原因疾患を絞り込みやすい【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】見逃してはならないしびれかを考察する1)手口感覚症候群(視床の出血/梗塞)指先がしびれている時には、口もしびれていないか必ず確かめるWallenberg症候群(延髄外側症候群)病側の顔面温痛覚低下(V)+構音障害/嚥下障害(IX、X) + ホルネル症候群 + 小脳失調、反対側の体幹/上下肢の温痛覚低下(外側脊髄視床路)Guillain-Barre症候群数日から数週間で急速に進行する。カンピロバクター感染症による下痢が先行することがある。症状は下肢から始まる左右対称性弛緩麻痺、呼吸筋麻痺、自律神経障害(血圧変動、頻脈、徐脈)。感覚障害はなくてもよい。閉鎖孔ヘルニア患側大腿内側から下腿の痛み/しびれ(Howship-Romberg兆候)、やせ型の高齢女性に多いNumb chin syndrome顎がしびれる。悪性リンパ腫/乳がん/前立腺がんが三叉神経(V3下顎神経)に浸潤【STEP2-2】しびれの分布から考える多発神経障害(polyneuropathy)2)神経線維の長い足底から上方にしびれが進行。左右対称性<主な原因>DANG THERAPIST(ひどい療法士)*以下の各頭文字を表しているDM(糖尿病)Alcohol(飲酒)Nutritional(ビタミンB12、銅欠乏)Guillain-Barre(ギランバレー症候群)Toxic(中毒:重金属、薬剤)Hereditary(Charcot-Marie-Tooth)Renal(尿毒症)Amyloidosis(アミロイドーシス)Porphyria(ポルフィリン症)Infection(感染症:HIV、ライム病)Systemic(全身性:血管炎、サルコイドーシス、シェーグレン症候群)Tumor(腫瘍随伴症候群)多発性単神経障害(mononeuritis multiplex)いろいろな部位の単神経障害が左右非対称に進行糖尿病、血管炎、膠原病(SLE、関節リウマチ)、HIV【STEP3】部位から原因を鑑別する■母指~環指橈側のしびれ(正中神経支配)手根管症候群(最も頻度の高い末梢性絞扼神経障害)夜間に増悪、手を振ると軽快、リスクファクターは手を使う職業、甲状腺機能低下症、糖尿病、関節リウマチ、アミロイドーシス、末端肥大症、妊娠。猿手■環指尺側と小指のしびれ(尺骨神経支配)肘部管症候群変形性関節症、ガングリオン、スポーツ、小児期の骨折による外反肘が原因。鷲手変形■手背母指と示指のしびれ(橈骨神経支配)橈骨神経麻痺飲酒後に肘掛け椅子で寝て上腕内側を圧迫。下垂手■上肢のしびれ…頸椎症による神経障害3)神経根症頸部~肩甲骨部の痛み、デルマトームに沿った根性疼痛(しびれだけなら脊髄症)脊髄症手のしびれで発症し、手指が器用に動かせなくなる。10秒テスト: 手掌を下にしてできるだけ速く、グーとパーを繰り返す。10秒間で正常者では25~30回できる。胸郭出口症候群上肢のしびれ、肩/上肢/肩甲骨周囲の痛み、腕神経叢の障害■大腿外側のしびれ大腿外側皮神経痛体重増加、妊娠、きついベルトが原因。股関節の伸展/深い屈曲で症状増悪■腰痛+殿部や膝より末梢の下肢に放散痛3)椎間板ヘルニアSLR(straight leg raising)test陽性(感度80%、特異度40%)。95%はL5とS1の根が関与。膝蓋腱反射低下(L4)足関節/母趾背屈力低下(L5)アキレス腱反射低下/つま先立ちができない(S1)■下腿外側~足背のしびれ総腓骨神経麻痺右下肢外側腓骨頭での圧迫。外傷やギプス固定が原因。下垂足のため鶏様歩行■足底~つま先のしびれ足根管症候群内果後方の足根管で脛骨神経を圧迫閉塞性動脈硬化症下肢のしびれや痛み、冷感、間欠性跛行(休息で改善)ABI(ankle-brachial index)1.3<治療>原疾患の治療を行う。 <参考文献>1)塩尻俊明.非専門医が診る しびれ. 羊土社. 2018.2)Mansoor AM. Frameworks for Internal Medicine. 2019. p525-539.3)仲田和正. 手・足・腰診療スキルアップ. シービーアール. 2004.

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第27回 有名だけれども意外と見落とされがちな意識障害の原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)意識障害の原因は主軸を持って対応を!2)忘れがちな意識障害の原因を把握し対応を!【症例】62歳男性。意識障害仕事場の敷地内で倒れていた。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO295%(RA)体温36.0℃瞳孔4/4 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なし所見麻痺の評価は困難だが、明らかな左右差なし意識障害の原因は?1)救急外来では意識障害患者にしばしば遭遇します。以前に取り上げた意識障害のアプローチに準じて対応しますが、今回の原因は何らしいでしょうか。意識障害というとどうしても頭蓋内疾患を考えがちですが、一般的に頭蓋内疾患が原因の意識障害では血圧は高くなるため、この時点で明らかな麻痺も認めないことから脳卒中は積極的には疑いません。クモ膜下出血の多くは左右差を認めないため、突然発症であった場合には注意が必要ですけどね。それでは原因は何でしょうか?意識障害の原因は多岐に渡り、“AIUEOTIPS”などの語呂合わせで覚えている人も多いのではないでしょうか。急性発症の意識障害であれば、低血糖を除外し、その後頭部CTを検査するというのは一般的な流れかと思います。診療の場において頻度は異なりますが、救急外来を受診する患者では感染症、脳卒中、痙攣、薬剤性、外傷が多く、その他、血糖異常やアルコール、電解質異常などもそれなりに経験します。今回はその中でも見逃しがちな意識障害の原因を見逃される理由と併せて整理しておきましょう。細菌性髄膜炎2)頻度として高くはありませんが、病態として敗血症が考えられる状況においては常に考える必要があります。見逃してしまう理由は、そもそも鑑別に挙げることができない、鑑別に挙げても発熱がない、項部硬直を認めないなどから除外してしまう、その他腰椎穿刺は施行したものの細胞数の上昇を認めなかったため除外してしまったなどが一般的でしょう。ワクチンの普及によって、以前と比較し細菌性髄膜炎は減少傾向にあるものの、毎年私の施設でも数例を経験します。忘れた頃にやってくる疾患といったイメージでしょうか。救急外来では、qSOFA陽性患者では鑑別に挙げ、他のフォーカスが明らかでない場合には積極的に腰椎穿刺を施行し、たとえ細胞数が上昇していなくてもグラム染色所見や培養結果で根拠を持って否定できるまでは、細菌性髄膜炎として対応するようにしています。髄膜刺激徴候は重要ですが、ケルニッヒ徴候やブルジンスキー徴候など特異度が比較的高い所見はあるものの、感度が高い身体所見は存在しないことに注意が必要です(項部硬直は感度46.1%、特異度71.3%)。単一の指標ではなく、総合的な判断が必要であるため、髄膜刺激徴候は1つ1つ確認しますが、結果の解釈を誤らないようにしましょう。細菌性髄膜炎は内科的エマージェンシー疾患であり、安易な除外は禁物です。レジオネラ症(legionellosis)「レジオネラ肺炎」。誰もが聞いたことがある病気ですが、早期に疑い適切な介入を行うことは簡単なようで難しいものです。呼吸困難を主訴に来院し、低酸素血症を認め、X線検査所見では明らかな肺炎像、尿中抗原を提出して陽性、このような状況であれば誰もが考えると思いますが、実臨床はそんなに甘くはありません。肺炎球菌と並んで重症肺炎の代表的な菌であるため、早期発見、早期治療介入が重要ですが、入り口を把握し疑うポイントを知らなければ対応できません。レジオネラ肺炎を見逃してしまう理由もまた同様であり、そもそも鑑別に挙がらない、疑ったものの温泉入浴などの感染経路がなく否定してしまった、尿中抗原陰性を理由に除外してしまったなどが挙げられます。市中肺炎患者に対して肺炎球菌をカバーしない人はいないと思いますが、意外とレジオネラは忘れ去られています。セフトリアキソン(CTRX)やアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)などの抗菌薬は、しばしば救急外来で投与されますが、これらはレジオネラに対しては無効ですよね。重症肺炎、喀痰グラム染色で起因菌が見当たらない、紹介症例などでCTRXなどβラクタム系抗菌薬が無効な場合には積極的にレジオネラ肺炎を疑う必要があります。難しいのは入り口が肺炎を示唆する症状ではない場合です。レジオネラ症の初期に認めうる肺外症状を頭に入れておきましょう(表)。これらを認める場合、他に説明しうる原因があれば過度にレジオネラを考える必要はありませんが、そうではない場合、「もしかしてレジオネラ?!」と考え、改めて病歴や身体所見をとるとヒントが隠れているかもしれません。また、意識すれば発熱の割に脈拍の上昇が認められない比較的徐脈にも気付くかもしれません。尿中抗原は診断に多々利用されていますが、これも注意が必要です。特異度は比較的高いとされますが、偽陽性の問題もあります。また、感度は決して高くないため陰性であっても否定できません。(1)重症肺炎、(2)βラクタム系抗菌薬が効かない肺炎、(3)グラム染色で有意な菌が認められない場合、(4)肺外症状を認める場合、(5)比較的徐脈を認める場合、このような場合にはレジオネラを意識して対応するようにしています。表 レジオネラ肺炎の肺外症状画像を拡大するウェルニッケ脳症4)アルコール多飲患者では鑑別に挙げ対応することが多いと思いますが、それ以外の場合には忘れがちです。フレイル患者など低栄養の患者さんでは常に考えるべき疾患であると思います。ウェルニッケ脳症が見逃されがちな5つの誤解があります。それは、「(1)非常にまれである、(2)慢性アルコール患者のみに起こる、(3)3徴(意識障害、眼球運動障害、歩行失調)が揃っていなければならない、(4)チアミンを静注するとアナフィラキシーのリスクが高い、(5)他の診断があれば除外できる」です。正確な頻度は不明であるものの、私たちが行わなければならないのはウェルニッケ脳症を診断すること以上に治療介入のタイミングを逃さないことです。意識障害患者に対するビタミンB1の投与は経静脈的に行いますが、迷ったら投与するようにしましょう。典型的な症状が揃うまで待っていてはいけません。重要なこととして(5)の他の診断があれば除外できるという誤解です。フレイル患者が脳梗塞を起こした場合、肺炎を起こした場合、その場合にビタミンB1が欠乏している(しかけている)ことも考え対応するようにしましょう。意識すると撮影した脳梗塞のMRIに典型的な所見が映っているかもしれませんよ。今回の症例の最終診断は「レジオネラ肺炎」でした。診断へのアプローチは紙面の都合上割愛しますが、意識障害のアプローチは主軸を持ちつつ、そのアプローチで見逃しがちな点を把握し、対応することが重要です。私は重度の意識障害患者に対するアプローチ方法を決め、そこから目の前の患者さんでは必要のない項目を引く形で対応しています。これもあれもと足し算で対応すると忘れたり、後手に回ることがありますからね。1)坂本 壮、安藤 裕貴著. 意識障害。あなたも名医!. 日本医事新報社;2019.2)Akaishi T, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:193-198.3)Cunha BA. Infect Dis Clin North Am. 2010;24:73-105.4)坂本 壮 編著. 救急外来、ここだけの話. 医学書院;2021.

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『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版』が発刊

 日本がんサポーティブケア学会が作成した『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版』が10月20日に発刊した。外見(アピアランス)に関する課題は2018年の第3期がん対策推進基本計画でも取り上げられ、がんサバイバーが増える昨今ではがん治療を円滑に遂行するためにも、治療を担う医師に対してもアピアランス問題の取り扱い方が求められる。今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂は、分子標的薬治療や頭皮冷却法などに関する重要な臨床課題の新たな研究知見が蓄積されたことを踏まえており、患者ががん治療に伴う外見変化で悩みを抱えた際、医療者として質の高い治療・整容を提供するのに有用な一冊となっている。 がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版は、これまで“がん患者に対するアピアランスの手引き 2016年版”として公開してきたものをMinds診療ガイドライン作成マニュアル2017に準拠し作成、ガイドラインに格上げされたものだが、この作成委員長を務めた野澤 桂子氏(目白大学看護学部 看護学科/国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター)に注目すべき点やアピアランスケアにおける患者への寄り添い方について伺った。アピアランスケアガイドラインと医学的エビデンス 今回、がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版を発刊するにあたり、野澤氏は「僅少の研究からエビデンスとなるものを抽出し推奨度を決定するのは困難を極めた。さらに、下痢や発熱などの副作用と異なり、直接は命に関わらない外見の副作用に対するケアを患者QOLと医学的エビデンスとのバランスの中でどうアピアランスケアガイドラインに反映させるか、今回の課題だった」と言及した。その一方で、エビデンスを重視し過ぎる医療者に危機感も感じたという。「支持療法の評価を、がん治療の効果を評価するのとまったく同じ手法で評価する必要がどこまであるのだろうか。ハードルが高すぎて、同じ労力なら支持療法より治療法の研究をしようとする研究者も増えるかも知れない」とし、「医療者は、ゼロリスクにするために少しでも危険を避けようとするが、たとえば、日用整容品の注意事項に書かれている“病中病後の使用はお控えください”という言葉もがん患者のエビデンスがあるとは限らない」と指摘した。また、「炎症や肌荒れがなく患者さんの希望があれば挑戦してほしい。医療者は、患者さんがその挑戦のメリットデメリットを判断できるような情報を提供することが重要」と説明した。アピアランスケアガイドラインが医療者のエビデンス呪縛を解く また、同氏は医療者のアピアランスケアの現状について「医療者は根拠なく患者さんの生活を限定させるような指導を行うべきではない。人間は息をするためだけに生きているのではない。その人らしく豊かに過ごすための時間にできなければ、患者さんにとって意味がないともいえる」と強調した。 そんな野澤氏も以前はざ瘡様皮疹が出現した患者さんには、当時言われていたように、症状の悪化を懸念してフルメイクではなくポイントメイクを推奨していた。しかし、ある患者さんの一言でケアの在り方を見直したのだという。“ポイントメイクでは隠したいブツブツが隠せない。私は可愛いおばあちゃんと言われることが生きがいだったのに、これでは孫に会えない。効いてる限り死ぬまで使う薬なのに、そもそも生きている意味がないじゃない”と患者さんに迫られた経験談を話し、「その時にケアに対する認識の転換期を迎えた。アピアランスケアがほかの副作用対策と異なるのは、“命に直接関わらない”ということ。ケアに挑戦して何かあってもそれに対する対策はある。重要なのは、患者さんが納得した選択ができること、その人らしさを表現できることではないか」と語った。がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版はある意味、医療者のエビデンス呪縛を解くための指南書の役割もあるのだろう。アピアランスケアガイドライン、治療に応じた患者管理がスムーズに 今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂では、各章の項目がひと目でわかる「項目一覧」というページが追加されている。ここでは分類(症状や部位)、番号(BQ:background question、CQ:clinical question、FQ:future research question)の項目分類が一覧になっており、研究の状況がわかると同時に、気になるページにすぐたどり着くようになっている。また、各章に総論が設けられており、治療ごとの現状など、本書の読者の理解が促される仕様になっている。たとえば、化学療法編では、「レジメン別脱毛の頻度」や「レジメン別の手足症候群の頻度」が表として掲載され副作用の発現率に注目することで、実際の治療に応じた患者管理がしやすくなっている。 各章の変更点については、5月に開催された日本がんサポーティブケア学会の特別シンポジウム『アピアランスケア研究の現状と課題~アピアランスケアガイドライン2021最新版を作成して~』にて、作成委員会の各領域リーダーらがトピックを解説。そこで挙げられた注目すべき点やアピアランスケアガイドラインの改訂にて変更されたquestionを以下に示す。<アピアランスケアガイドライン項目ごとの追加・改訂点>―――治療編(化学療法)・CQ1:化学療法誘発脱毛の予防や重症度軽減に頭皮クーリングシステムは勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→周術期化学療法を行う乳がん患者限定。また、レジメンごとの脱毛治療の成功・不成功を踏まえた上で患者指導やケアが必要とされる。・CQ8:化学療法による手足症候群の予防や重症度の軽減に保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:D[とても弱い]、合意率:94%)・CQ10:化学療法による手足症候群の予防や発現を遅らせる目的で、ビタミンB6を投与することは勧められるか(推奨の強さ:3、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:94%)治療編(分子標的療法)・CQ17:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防あるいは治療に対してテトラサイクリン系抗菌薬の内服は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→皮膚障害のなかで代表的なのが「ざ瘡様皮疹」だが、無菌性であることが特徴。テトラサイクリン系は抗菌作用のみならず抗炎症作用を持ち合わせており、この効果を期待して使用される。・FQ16:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して過酸化ベンゾイルゲルの外用は勧められるか。治療編(放射線療法)・CQ28:放射線治療による皮膚有害事象に対して保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[弱]、合意率:乳がん-100%、頭頸部-94%)→強度変調放射線治療(IMRT)の普及に伴い、線量に関する規定が削除され、“70Gy相当”の文言が削除された。・FQ31:軟膏等外用薬を塗布したまま放射線治療を受けてもよいか日常整容編スキンケア(洗顔やひげ剃りなど)、カモフラージュとしてのメイクやつけまつげに関する項目は漠然としていたので今回は項目より削除。また、手術瘢痕へのテーピングについてはカモフラージュという表現から“顕著化を防ぐ方法”に変更されている。・BQ32:化学療法中の患者に対して、安全な洗髪等の日常的ヘアケア方法は何か→頭皮を清潔→決まった回数は存在せず、臭いや痒みに応じてでも構わない。シャンプーも指定品があるわけではないので患者の嗜好に応じたものをアドバイスする。・BQ37:がん薬物療法中の患者に対して勧められる紫外線防御方法は何か→前回あまり触れられていなかった衣服について盛り込まれた。・FQ42:乳房再建術後に使用が勧められる下着はあるか――― 今回は43項目(FQ:19、CQ:10、BQ:14)が出来上がったものの、患者の生命に直接関わるわけではない点がボトルネックとなりエビデンスレベルの高い研究が今後望まれる。次回の課題として「研究の蓄積、免疫チェックポイント阻害剤の皮膚障害に関する項目が盛り込まれること」と同氏は話した。アピアランスケア実践でがん患者を治療ストレスから開放 アピアランスケアを実践することは患者の自己表現を容認するものであり、治療効果ひいては生存率にもかかわってくるのではないだろうか。同氏は「患者さんにはもっと安心して治療をしてもらいたい。今は外見の副作用コントロールのための休薬・減量のスキルも進歩してきており、不安なことはケア方法含めて医療者に聞いて欲しい。そして、医療者はエビデンスをベースとしつつも、個々に応じた対応を心がけることが必要」と締めくくった。

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認知症予防に対するビタミンB摂取~メタ解析

 ホモシステインレベルの上昇は、認知症のリスク因子として確立されているが、ビタミンBを介したホモシステインレベルの低下が認知機能改善につながるかは、よくわかっていない。中国・首都医科大学のZhibin Wang氏らは、ビタミンBの摂取が認知機能低下や認知症発症リスクを減少させるかについて、調査を行った。Nutrition Reviews誌オンライン版2021年8月25日号の報告。 2020年3月1日までに公表された文献をPubMed、EMBASE、Cochrane Library、Web of Scienceよりシステマティックに検索した。ビタミンB摂取による認知機能低下への影響を調査したランダム化臨床試験(RCT)、食事によるビタミンB摂取と認知症発症リスクに関するコホート研究、ビタミンBとホモシステインレベルの違いを比較した横断的研究を含めた。2人のレビュアーが独立してデータを抽出し、研究の質を評価した。不均一性の程度に応じてランダム効果モデルまたは固定効果モデルを用いて、平均差(MD)、ハザード比(HR)、オッズ比(OR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・95件の研究(RCT:25件、コホート研究:20件、横断的研究:50件)より4万6,175例をメタ解析に含めた。・メタ解析では、ビタミンB摂取がミニメンタルステート検査スコアの改善(6,155例、MD:0.14、95%CI:0.04~0.23)、プラセボと比較した認知機能低下の有意な遅延(4,211例、MD:0.16、95%CI:0.05~0.26)が認められた。・ビタミンB介入期間が12ヵ月を超える群では、プラセボと比較し、認知機能低下の減少が認められた(3,814例、MD:0.15、95%CI:0.05~0.26)。この関連は、より短い介入期間では認められなかった(806例、MD:0.18、95%CI:-0.25~0.61)。・認知症でない人では、ビタミンB摂取により、プラセボと比較し、認知機能低下の遅延が認められたが(3,431例、MD:0.15、95%CI:0.04~0.25)、認知症患者では認められなかった(642例、MD:0.20、95%CI:-0.35~0.75)。・葉酸レベルの低さ(B12、B6欠乏ではない)は、認知症リスク(6,654例、OR:1.76、95%CI:1.24~2.50)や認知機能低下(4,336例、OR:1.26、95%CI:1.02~1.55)と有意に関連していた。・ホモシステインレベルの高さは、認知症リスク(1万2,665例、OR:2.09、95%CI:1.60~2.74)や認知機能低下(6,149例、OR:1.19、95%CI:1.05~1.34)と有意に関連していた。・50歳以上の認知症でない人において、葉酸摂取量の多さと認知症リスクの有意な減少との関連が認められた(1万3,529例、HR:0.61、95%CI:0.47~0.78)。一方、B12またはB6摂取量の多さと認知症リスクの低さとの関連は認められなかった。 著者らは「ビタミンB摂取は認知機能低下の遅延と関連していることが示唆された。とくに、早期介入と長期介入でその影響は顕著であった。また、認知症でない高齢者において、食事による葉酸摂取の多さは、認知症リスクの低下と関連していることも示唆された」とし「高齢化社会を迎えている各国では認知症患者が増加していることから、認知症リスクを有する人に対し適切なビタミンB摂取を推進するような公衆衛生対策の導入を検討すべきであろう」としている。

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ビタミンBと認知症リスクに関する性差~日本のメモリークリニック外来患者での調査

 認知症や認知機能障害は、重大な社会的および医学的な問題の1つである。ビタミンBと認知機能低下には明確な関係が認められるが、男女間の差に関しては、十分な評価が行われていない。昭和大学の三木 綾子氏らは、性別によるビタミンB1またはB12と認知症との関連を調査した。Frontiers in Aging Neuroscience誌2021年4月9日号の報告。 2016年3月~2019年3月に昭和大学病院のメモリークリニック外来を受診した188例を対象に、性別によるビタミンB1またはB12と認知症との関連を調査した。認知機能の評価には、ミニメンタルステート検査(MMSE)日本語版、改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)を用いた。ビタミンレベルを測定するため、血液検査を実施した。ロジスティック回帰分析を用いて、認知症のオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。ビタミンレベルに応じて3つに分類した。 主な結果は以下のとおり。・ビタミンレベルが高い女性と比較し、ビタミンレベルが低い女性では、認知症(MMSEスコア23以下)のORの有意な増加が確認された。 【ビタミンB1】OR:3.73、95%CI:1.52~9.16 【ビタミンB12】OR:2.97、95%CI:1.22~7.28・対照的に、男性ではビタミンレベルと認知症との有意な関連は認められなかった。・認知症の定義に、HDS-R(スコア20以下)を用いた場合でも、同様であった。 著者らは「認知症発症を予防するうえで、女性ではビタミンB1摂取が有効である可能性が示唆された。ビタミンレベルの低下が認知障害の前後いずれで起こるのか、高ビタミンレベルを維持すれば認知機能の悪化や認知症発症を予防できるかを明らかにするためには、今後の縦断的研究が必要とされる」としている。

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その胸やけ症状、本当に胸焼け?【Dr.山中の攻める!問診3step】第2回

第2回 その胸やけ症状、本当に胸焼け?―Key Point―悪性腫瘍を疑う症状や所見(red flag sign)がないか確認機能性ディスペプシアの診断基準を満たすか検討ピロリ検査が陽性なら除菌。陰性ならプロトンポンプ阻害薬を処方する同僚医師から30代前半の女性の診察を頼まれました。食後の胃もたれと軽い嘔気が1年以上続いているようです。胃カメラでは異常がなく、ヘリコバクター・ピロリ菌感染症もありません。プロトンポンプ阻害薬(PPI)を処方しましたが、あまり効果がありません。「機能性ディスペプシア」と思われました。原因がわからないまま症状が続くことが、とても辛かったようです。2週間に一度、外来に来ていただき訴えに共感しながら傾聴するよう心がけました。この連載では、患者の訴える症状が危険性のある疾患を示唆するかどうかを一緒に考えていきます。◆今回おさえておくべき症状はコチラ!【悪性腫瘍を疑うred flag sign】予期せぬ体重減少、嚥下障害、吐気/嘔吐、黒色便、貧血、血小板増多、胃がんの家族歴、治療に反応しないディスペプシア。日本では胃がんの発生が多いので、症状がなくても1~2年に1度の胃カメラが薦められている。【STEP1】患者の症状に関する勘違いを修正しよう!患者が症状を勘違いしていること、よくありますよね。【STEP2】ディスペプシアを起こす原因を探る1)逆流性食道炎消化性潰瘍ヘリコバクター・ピロリ菌感染症胃がん胃不全麻痺セリアック病クローン病膵炎膵がん胆石心筋梗塞糖尿病副腎不全など原因がわからないものを機能性ディスペプシア(FD:functional dyspepsia)と呼ぶ薬剤内服歴を確認することが重要。とくにNSAIDs、アスピリン、鉄剤、抗菌薬、レボドパ、ピル、ビスフォスフォネート製剤はよくディスペプシアを起こす胃カメラで見つかる疾患の頻度1)>70%は異常なし → 機能性ディスペプシア<10%は消化性潰瘍<1%が上部消化管悪性腫瘍【機能性ディスペプシア の診断基準 RomeIV】下記のいずれかの症状が6ヵ月以上前からあり、最近3ヵ月持続しているつらいと感じる食後のもたれ感つらいと感じる摂食早期の飽満感つらいと感じる心窩部痛つらいと感じる心窩部灼熱感かつ、症状を説明しうる器質的疾患はない。食後愁訴症候群(PDS:postprandial distress syndrome)と心窩部痛症候群 (EPS:epigastric pain syndrome)に分類される機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群はよく合併する2)【STEP3】治療とその注意点をおさえる2)red flag signがなければ、胃カメラは行わずピロリ菌検査を行う。陽性だったら除菌する。陰性だったらPPI(プロトンポンプ阻害薬)を4~8週間投与する。無効なら少量の三環系抗うつ薬を考慮する日本人の60歳以上では、50%以上はヘリコバクター・ピロリに感染しているピロリ菌感染症は消化性潰瘍、胃がん、胃リンパ腫と関係がある。PPIの機能性ディスペプシアに対するNNT(number needed to treat、治療必要数)は133)であるPPIの副作用4)で最も多いのは下痢と頭痛。 PPIの種類を変えると下痢は良くなることがある。このほか、市中肺炎、急性の腸管感染症、Clostridium difficile感染症、急性間質性腎炎、顕微鏡的大腸炎、骨粗鬆症、ビタミンB12欠乏症を増加させるので注意。ビスフォスフォネート製剤はよくディスペプシアを起こすばかりか、食道潰瘍や胃潰瘍も起こすので要注意。もし、ビスフォスフォネート製剤を飲んでいるならば中止する禁煙やアルコールの減量を薦める消化管運動機能改善薬であるアコチアミドも臨床試験で有効性が示されている漢方では六君子湯や半夏厚朴湯が効果ありと言われている<参考文献・資料>1)Talley NL, et al. N Engl J Med.2015;373:1853-1863.2)Goldman L, et al. Goldman-Cecil Medicine. 2020;856-8573)Pinto-Sanchez MI, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Nov 21;11:CD011194.4)上田剛士著. 日常診療に潜む クスリのリスク.医学書院.p93-99. 2017.日本消化器学会編.機能性消化管疾患診療ガイドライン.2014―機能性ディスペプシア(FD)

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血清葉酸レベルと統合失調症の性別に基づく関連性

 血清葉酸濃度に性差があることはよく知られているが、血清葉酸レベルと統合失調症の関連性を性別に基づいて調査した研究はこれまでなかった。徳島大学の富岡 有紀子氏らは、日本人を対象に、性別で層別化した統合失調症患者と精神疾患でない健康な対照者における血清葉酸レベルの違いを調査した。以前の研究データを用いて、血清葉酸レベル、血漿総ホモシステイン(tHcy)、血清ビタミンB6(ピリドキサール)レベルとの関係も調査した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2020年5月23日号の報告。 統合失調症患者482例および精神疾患でない健康な対照者1,350例の血清葉酸濃度を測定した。性差に基づく両群間の血清葉酸レベルの違いを調査するため、共分散分析を用いた。葉酸、 tHcy、ビタミンB6レベルとの関係を評価するため、スピアマンの順位相関係数を用いた。 主な結果は以下のとおり。・対照群では、男性よりも女性において、血清葉酸濃度が高かった。・統合失調症群では、男女ともに血清葉酸レベルが低かった。・血清葉酸レベルとtHcyとの逆相関、血清葉酸レベルとビタミンB6との弱い正の相関が認められた。 著者らは「性別に関係なく、低血清葉酸レベルと統合失調症が関連していることから、統合失調症治療において、葉酸の投与が有益であると考えられる。血清葉酸レベルが低い統合失調症患者に対して葉酸の投与を行うことで、高tHcyおよび低ビタミンB6レベルが改善する可能性がある」としている。

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「アリナミンF」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第4回

第4回 「アリナミンF」の名称の由来は?販売名5mgアリナミン®F糖衣錠25mgアリナミン®F糖衣錠50mgアリナミン®F糖衣錠※注射剤は内服薬のインタビューフォームと異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名)5mgアリナミンF糖衣錠フルスルチアミン(JAN)25mg・50mgアリナミンF糖衣錠フルスルチアミン塩酸塩(JAN)効能又は効果○ビタミンB1欠乏症の予防及び治療○ビタミンB1の需要が増大し、食事からの摂取が不十分な際の補給(消耗性疾患、甲状腺 機能亢進症、妊産婦、授乳婦、はげしい肉体労働等)○ウェルニッケ脳症○脚気衝心○下記疾患のうちビタミンB1の欠乏又は代謝障害が関与すると推定される場合神経痛筋肉痛、関節痛末梢神経炎、末梢神経麻痺心筋代謝障害便秘等の胃腸運動機能障害術後腸管麻痺ビタミン B1欠乏症の予防及び治療、ビタミン B1の需要が増大し、食事からの摂取が不十分な際の補給、ウェルニッケ脳症、脚気衝心以外の効能・効果に対して、効果がないのに月余にわたって漫然と使用すべきでない。用法及び用量5mgアリナミンF糖衣錠通常、成人には1日量1〜6錠(フルスルチアミンとして5〜30mg)を1回1〜2錠ずつ、 1日1〜3回に分けて食後直ちに経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。25mgアリナミンF糖衣錠通常、成人には1日量1〜4錠(フルスルチアミンとして25〜100mg)を1日1〜3回に分けて食後直ちに経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。50mgアリナミンF糖衣錠通常、成人には1日量1〜2錠(フルスルチアミンとして50〜100mg)を1日1〜2回に分けて食後直ちに経口投与する。 なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由該当しない※本内容は2020年6月17日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2016年10月改訂(改訂第3版)医薬品インタビューフォーム「5mgアリナミン®F糖衣錠、25mg・50mgアリナミン®F糖衣錠」2)武田テバ薬品:製品情報一覧

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ホモシスチン尿症〔homocystinuria〕

1 疾患概要■ 概念・定義ホモシスチン尿症は先天性アミノ酸代謝異常症の一種であり、メチオニンの代謝産物であるホモシステインが血中に蓄積することにより発症する1)。図にメチオニンの代謝経路を示す。メチオニンは、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼによりS-アデノシルメチオニン(SAM)に変換、さらに脱メチル化することでS-アデノシルホモシステイン(SAH)が生成される。SAHが加水分解されるとホモシステインが生成される。ホモシステインはシスタチオニンβ合成酵素(CBS)によりシスタチオニン合成されるだけでなく、メチオニン合成酵素(MS)、もしくはベタインホモシステインによる再メチル化経路をたどり、メチオニンに変換される。CBSの異常は、ホモシスチン尿症I型もしくは古典的ホモシスチン尿症と称され、血中ホモシステイン値、メチオニン値が高値となる。II型はMSの補酵素である細胞内コバラミン(ビタミンB12、Cb1)の代謝異常、III型はN5、N10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)の障害による葉酸代謝異常であり、II型、III型ともに再メチル化によるメチオニン合成が障害されるため、メチオニン値が低下し、ホモシステイン増加する。ホモシスチン尿症I型は頻度が最も多いとされており、新生児マススクリーニングではメチオニン増加を指標としてスクリーニングが行われている。図 メチオニン代謝経路画像を拡大する■ 疫学CBS欠損症は常染色体劣性遺伝を呈する疾患であり、発症頻度は1,800~90万人に1人と推測されているが、わが国での患者発見頻度は、約80万人に1人である1,2)。■ 病因CBSの活性低下によりホモシステインが蓄積すると、ホモシステインは酸化されて二量体であるホモシスチンが尿中に排泄される。また、蓄積したホモシステインはメチオニンへと再メチル化が促され、血中メチオニンが上昇し、シスタチオニンとシステインが欠乏する。ホモシステインはチオール基を介して生体内の種々のタンパクとも結合する。その過程で生成されるスーパーオキサイドなどにより、血管内皮細胞障害を来すと考えられている。また、ホモシステインがフィブリリンの機能を障害するため、マルファン症候群様の、眼症状や骨格異常を発現すると考えられている1)。■ 症状古典的ホモシスチン尿症の臨床症状は骨格系の異常、眼症状、中枢神経症状、血管系の障が認められる1)。1)中枢神経系異常知的障害、てんかん、精神症状(パーソナリティ障害、不安、抑うつなど)2)骨格異常骨粗鬆症、高身長、くも状指、側弯症、鳩胸、凹足、外反膝(マルファン症候群様体型)3)眼症状水晶体亜脱臼に伴う近視(無治療では10歳までに80%以上の症例で水晶体亜脱臼を呈する)、緑内障4)血管系障害冠動脈血栓症、肺塞栓、脳血栓塞栓症、大動脈解離血栓症■ 分類CBSはビタミンB6(ピリドキシン)を補酵素とする。CBS欠損症には大量のビタミンB6投与により血中メチオニン、ホモシステインが低下するビタミンB6反応型と、低下しないビタミンB6不応型がある。欧米白人ではビタミンB6反応型が約半数を占めるが、日本人ではまれである1)。■ 予後早期に治療導入され、適切にコントロールが行われた症例では、全般的に予後良好とされているが、長期的予後は明らかにされていない。ビタミンB6不応型において無治療の場合には、生命予後は著明に悪化する。ビタミンB6反応型の生命予後は明らかになってない3)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)一般血液検査・尿検査では特徴的な所見は認めない。以下の診断の根拠となる特殊検査のうち、血中メチオニン高値(1.2mg/dL〔80μmol/L〕)以上、かつ総ホモシステイン基準値(60μmol/L)以上を満たせば、CBS欠損症の確定診断とする1)。■ 診断の根拠となる特殊検査1)血中メチオニン高値:1.2mg/dL(80μmol/L)以上〔基準値:0.3~0.6mg/dL(20~40μmol/L)〕2)高ホモシステイン血症:60μmol/L以上(基準値:15μmol/L以下)3)尿中ホモシスチン排泄:基準値が検出されない。4)線維芽細胞、あるいはリンパ芽球でのCBS活性低下5)遺伝子解析:CBS遺伝子の両アレルに病因として病原性変異を認める。■ 鑑別診断臨床症状からはマルファン症候群や血栓性疾患との鑑別が必要である3)。生化学的検査所見からの診断を以下に示す、メチオニン高値、またはホモシステイン高値を来す疾患が鑑別に挙がる1)。1)高メチオニン血症を来す疾患(1)メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ欠損症(2)シトリン欠損症(3)新生児肝炎などの肝機能異常2)高ホモシステイン血症(広義の「ホモシスチン尿症」)を来す疾患(1)メチオニン合成酵素欠損症(2)MTHFR欠損症(ホモシスチン尿症II型)(3)ホモシスチン尿症を伴うメチルマロン酸血症(コバラミン代謝異常症C型など)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ホモシスチン尿症の治療目標は、臨床症状の緩和や発症リスクを減らすために、血中ホモシステイン値を正常範囲でコントロールすることである。■ 食事療法メチオニンの摂取制限を実施し、血中メチオニン濃度を1mg/dL(67μmol/L)以下に保つようにする。ヨーロッパのガイドラインにおいては、ビタミンB6反応性ホモシスチン尿症では、総ホモシステイン<50μmol/Lを目標とすることが推奨されている3)。新生児・乳児期には許容量かつ必要量のメチオニンを母乳、一般粉乳、離乳食などから摂取し、不足分のカロリー、必須アミノ酸などは治療乳メチオニン除去粉乳(商品名:雪印S-26)から補給する1)。幼年期以降の献立は、食事療法ガイドブック(特殊ミルク事務局のホームページより入手可能)を参考にする1)。血中ホモシステイン値のコントロールが不良(100μmol/L以上)の場合には、血栓塞栓症のリスクが高まるため、厳格な食事療法を継続する必要性がある。■ L-シスチン補充ホモシステインの下流にあるL-シスチンを補充する。メチオニン除去乳(同:雪印S-26)にはL-シスチンが添加されている。市販されているL-シスチンのサプリメントを併用することもある1)。■ ビタミンB6大量投与ビタミンB6反応型か否かの確認は、ホモシスチン尿症の確定診断後、まず低メチオニン・高シスチン食事療法を行い、生後6ヵ月時に検査を行う。入院のうえ、食事を普通食にした後に、ピリドキシン40mg/kg/日を10日間経口投与する。血中メチオニン、ホモシスチン値の低下が認められた場合には投与量を漸減し、有効最小必要量を定め継続投与する。反応がなければ食事療法を再開し、体重が12.5kgに達する2~3歳時に再度ピリドキシン500mg/日の経口投与を10日間試みる1)。ビタミンB6反応型では、CBS活性を上昇させるためにピリドキシンの大量投与(30~40mg/kg/日)を併用する。ビタミンB6を併用することで食事療法の緩和が可能であることが多い。■ ベタインベタイン(同:サイスタダン)は再メチル化の代替経路を促進し、過剰なホモシステインをメチオニンへと変換し、血中ホモシステイン値を低下させることができる。ベタインの投与量は11歳以上には1回3g、11歳未満では50mg/kg/日を1日2回経口投与する。ただしベタイン単独でホモシステイン値を50μmol/L以下にコントロールすることは困難であり、食事療法との併用が必要である。ベタイン投与により血中メチオニン上昇を伴う脳浮腫が報告されており、メチオニン値が15mg/dL(1,000μmol/L)を超える場合には、ベタインや自然蛋白摂取量を減量する1)。■ 葉酸、ビタミンB12CBS欠損症では、血中葉酸、ビタミンB12が低下する場合があり、適宜補充する。4 今後の展望CBS欠損症の新規治療法として、ケミカルシャペロン療法の検討がなされている4)。また酵素補充療法の治験が欧米で進行中であり、結果が待たれる。5 主たる診療科小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報先天代謝異常学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特殊ミルク事務局(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本先天代謝異常学会 編集. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019.2019.p.35-42.2)Jean-Marie Saudubray, et al. Inborn Metabolic Diseases Diagnosis and Treatment 6th Ed.Springer-verlag.;2016.p.314-316.3)Morris AA, et al. J Inherit Metab Dis. 2017;40:49-74.4)Melenovska P, et al. J Inherit Metab Dis. 2015;38:287-294.公開履歴初回2020年05月12日

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非典型溶血性尿毒症症候群〔aHUS :atypical hemolytic uremic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義非典型尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、補体制御異常に伴い血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)を呈する疾患である。TMAは、1)微小血管症性溶血性貧血、2)消費性血小板減少、3)微小血管内血小板血栓による臓器機能障害、を特徴とする病態である。■ 疫学欧州の疫学データでは、成人における発症頻度は毎年100万人に2~3人、小児では100万人に7人程度とされる。わが国での新規発症は年間100~200例程度と考えられている。わが国の遺伝子解析結果では、C3変異例の割合が高く(約30%)、欧米で多いとされるCFH遺伝子変異の割合は低い(約10%)。■ 病因病因は大きく、先天性、後天性、その他に分かれる。1)先天性aHUS遺伝子変異による補体制御因子の機能喪失あるいは補体活性化因子の機能獲得により補体第2経路が過剰に活性化されることで血管内皮細胞や血小板表面の活性化をもたらし微小血栓が産生されaHUSが発症する(表1)。機能喪失の例として、H因子(CFH)、I因子(CFI)、CD46(membrane cofactor protein:MCP)、トロンボモジュリン(THBD)の変異、機能獲得の例として補体C3、B因子(CFB)の変異が挙げられる。補体制御系ではないが、diacylglycerol kinase ε(DGKE)やプラスミノーゲン(PLG)遺伝子の変異も先天性のaHUSに含めることが多い。表1 aHUSの原因別の治療反応性と予後画像を拡大する2)後天性aHUS抗H因子抗体の出現が挙げられる。CFHの機能障害により補体第2経路が過剰に活性化する。抗H因子抗体陽性者の多くにCFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされている。3)その他現時点では原因が特定できないaHUSが40%程度存在する。■ 症状溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害による症状を認める。具体的には血小板減少による出血斑(紫斑)などの出血症状や溶血性貧血による全身倦怠感、息切れ、高度の腎不全による浮腫、乏尿などである。発熱、精神神経症状、高血圧、心不全、消化器症状などを認めることもある。下痢があってもaHUSが否定されるわけではないことに注意を要する。aHUSの発症には多くの場合、感染症、妊娠、がん、加齢など補体の活性化につながるイベントが観察される。わが国の疫学調査でも、75%の症例で感染症を始めとする何らかの契機が確認されている。■ 予後一般に、MCP変異例は軽症で予後良好、CFHの変異例は重症で予後不良、C3変異例はその中間程度と言われている(表1)。海外データではaHUS全体における慢性腎不全に至る確率、つまり腎死亡率は約50%と報告されている。わが国の疫学データではaHUSの総死亡率は5.4%、腎死亡率は15%と比較的良好であった。特に、わが国に多いC3 p.I1157T変異例および抗CFH抗体陽性例の予後は良いとされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ TMA分類の概念TMAの3徴候を認める患者のうち、STEC-HUS、TTP、二次性TMA(代謝異常症、感染症、薬剤性、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、HELLP症候群、移植後などによるTMA)を除いたものを臨床的aHUSと診断する(図1)。図1 aHUS定義の概念図画像を拡大する■ 診断手順と鑑別診断フローチャート(図2)に従い鑑別診断を進めていく。図2 TMA鑑別と治療のフローチャート画像を拡大する1)TMAの診断aHUS診断におけるTMAの3徴候は、下記のとおり。(1)微小血管症性溶血性貧血:ヘモグロビン(Hb) 10g/dL未満血中 Hb値のみで判断するのではなく、血清LDHの上昇、血清ハプトグロビンの著減(多くは検出感度以下)、末梢血塗沫標本での破砕赤血球の存在をもとに微小血管症性溶血の有無を確認する。なお、破砕赤血球を検出しない場合もある。(2)血小板減少:血小板(platelets:PLT)15万/μL未満(3)急性腎障害(acute kidney injury:AKI):小児例では年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5倍以上(血清クレアチニンは、日本小児腎臓病学会の基準値を用いる)。成人例では、sCrの基礎値から1.5 倍以上の上昇または尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続のいずれかを満たすものをAKIと診断する。2)TMA類似疾患との鑑別溶血性貧血を来す疾患として自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が鑑別に挙がる。AIHAでは直接クームス試験が陽性となる。消費性血小板減少を来す疾患としては、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を鑑別する。PT、APTT、FDP、Dダイマー、フィブリノーゲンなどを測定する。TMAでは原則として凝固異常はみられないが、DICでは著明な凝固系異常を呈する。また、DICは通常感染症やがんなどの基礎疾患に伴い発症する。3)STEC-HUSとの鑑別食事歴と下痢・血便の有無を問診する。STEC-HUSは、通常血液成分が多い重度の血便を伴う。超音波検査では結腸壁の著明な肥厚とエコー輝度の上昇が特徴的である。便培養検査、便中の志賀毒素直接検出検査、血清の大腸菌O157LPS抗体検査が有用である。小児では、STEC-HUSがTMA全体の約90%を占めることから、生後6ヵ月以降で、重度の血便を主体とした典型的な消化器症状を伴う症例では、最初に考える。逆に生後6ヵ月までの乳児にTMAをみた場合はaHUSを強く疑う。小児のSTEC-HUSの1%に補体関連遺伝子変異が認められると報告されている点に注意が必要である。詳細は、HUSガイドラインを参照。4)TTPとの鑑別血漿を採取し、ADAMTS13活性を測定する。10%未満であればTTPと診断できる。aHUS、STEC-HUS、二次性TMAなどでもADAMTS13活性の軽度低下を認めることがあるが、一般に20%以下にはならない。aHUSにおける臓器障害は急性腎障害(AKI)が最も多いのに対して、TTPでは精神神経症状を認めることが多い。TTPでも血尿、蛋白尿を認めることがあるが、腎不全に至る例はまれである。5)二次性TMAとの鑑別TMAを来す基礎疾患を有する二次性TMAの除外を行った患者が、臨床的にaHUSと診断される。aHUS確定診断のための遺伝子診断は時間を要するため、多くの症例で急性期には臨床的に判断する。表2に示す二次性TMAの主たる原因を記す。可能であれば、原因除去あるいは原疾患の治療を優先する。コバラミン代謝異常症は特に生後6ヵ月未満で考慮すべき病態である。生後1年以内に、哺乳不良、嘔吐、成長発育不良、活気低下、筋緊張低下、痙攣などを契機に発見される例が多いが、成人例もある。ビタミンB12、血漿ホモシスチン、血漿メチルマロン酸、尿中メチルマロン酸などを測定する。乳幼児の侵襲性肺炎球菌感染症がTMAを呈することがある。直接Coombs試験が約90%の症例で陽性を示す。肺炎球菌が産生するニューラミニダーゼによって露出するThomsen-Friedenreich (T)抗原に対する抗T-IgM抗体が血漿中に存在するため、血漿投与により病状が悪化する危険性がある。新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法や血漿輸注などの血漿治療は行わない。妊娠関連のTMAのうち、HELLP症候群(妊娠高血圧症に合併する溶血性貧血、肝障害、血小板減少)や子癇(妊娠中の高血圧症と痙攣)は分娩により速やかに軽快する。妊娠関連TMAは常位胎盤早期剥離に伴うDICとの鑑別も重要である。TTPは妊娠中の発症が多く,aHUSは分娩後の発症が多い。腎移植後に発症するTMAは、原疾患がaHUSで腎不全に陥った症例におけるaHUSの再発、腎移植後に新規で発症したaHUS、臓器移植に伴う急性抗体関連型拒絶反応が疑われる。aHUSが疑われる腎不全患者に腎移植を検討する場合は、あらかじめ遺伝子検査を行っておく。表2 二次性TMAの主たる原因a)妊娠関連TMAHELLP症候群子癪先天性または後天性TTPb)薬剤関連TMA抗血小板剤(チクロビジン、クロピドグレルなど)カルシニューリンインヒビターmTOR阻害剤抗悪性腫瘍剤(マイトマイシン、ゲムシタビンなど)経口避妊薬キニンc)移植後TMA固形臓器移植同種骨髄幹細胞移植d)その他コパラミン代謝異常症手術・外傷感染症(肺炎球菌、百日咳、インフルエンザ、HIV、水痘など)肺高血圧症悪性高血圧進行がん播種性血管内凝固症候群自己免疫疾患(SLE、抗リン脂質抗体症候群、強皮症、血管炎など)(芦田明ほか.日本アフェレシス学会雑誌.2015;34:40-47.より引用・改変)6)家族歴の聴取家族にTMA(aHUSやTTP)と診断された者や原因不明の腎不全を呈した者がいる場合、aHUSを疑う。ただし、aHUS原因遺伝子変異があっても発症するのは全体で50%程度とされている。よって家族性に遺伝子変異があっても家族歴がはっきりしない例も多い。さらに孤発例も存在する。7)治療反応性による診断の再検討aHUSは 75%の症例で感染症など何らかの疾患を契機に発症する。二次性TMAの原因となる疾患がaHUSを惹起することもある。実臨床においては二次性TMAとaHUSの鑑別はしばしば困難である。2次性TMAと考えられていた症例の中で、遺伝子検査によりaHUSと診断が変更されることは少なくない。いったんaHUSあるいは二次性TMAと診断しても、治療反応性や臨床経過により診断を再検討することが肝要である(図2)。■ 検査1)一般検査血算、破砕赤血球の有無、LDH、ハプログロビン、血清クレアチニン、各種凝固系検査でTMAを診断する。ADAMTS13-活性検査は保険適用となっている。STEC-HUSの鑑別を要する場合は便培養、便中志賀毒素検査、血清大腸菌O157LPS抗体検査を行う。一般の補体検査としてC3、C4を測定する。C3低値、C4正常は補体第2経路の活性化を示唆するが、aHUS全体の50%程度でしか認められない。2)補体関連特殊検査現在、全国aHUSレジストリー研究において、次に記す検査を実施している。ヒツジ赤血球を用いた溶血試験CFH遺伝子異常、抗CFH抗体陽性例において高頻度に陽性となる。比較的短期間で結果が得られる。診断のフローとしては、臨床的にaHUSが疑ったら溶血試験を実施する(図2)。抗CFH抗体検査:ELISA法にてCFH抗体を測定する。抗CFH抗体出現には、CFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされているため、遺伝子検査も並行して実施する。CFHR 領域は、多彩な遺伝子異常が報告されているが、相同性が高いことから遺伝子検査が困難な領域である。その他aHUSレジストリー研究では、血中のB因子活性化産物、可溶性C5b-9をはじめとする補体関連分子を測定しているが、その診断的意義は現時点で明確ではない。*問い合わせ先を下に記す。aHUSレジストリー事務局(名古屋大学 腎臓内科:ahus-office@med.nagoya-u.ac.jp)まで■ 遺伝子診断2020年4月からaHUSの診断のための補体関連因子の遺伝子検査が保険適用となった。既知の遺伝子として知られているC3、CFB、CFH、CFI、MCP(CD46)、THBD、diacylglycerol kinase ε(DGKE)を検査する。臨床的にaHUSと診断された患者の約60%にこれらの遺伝子変異を認める。さらに詳細な遺伝子解析についての相談は、上記のaHUSレジストリー事務局で受け付けている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)aHUSが疑われる患者は、血漿交換治療や血液透析が可能な専門施設に転送して治療を行う。TMA を呈し、STEC-HUS や血漿治療を行わない侵襲性肺炎球菌感染症などが否定的である場合には、速やかに血漿交換治療を開始する。輸液療法・輸血・血圧管理・急性腎障害に対する支持療法や血液透析など総合的な全身管理も重要である。1)血漿交換・血漿輸注血漿療法は1970年代後半から導入され、aHUS患者の死亡率は50%から25%にまで低下した。血漿交換を行う場合は3日間連日で施行し、その後は反応を見ながら徐々に間隔を開けていく。血漿交換を行うことが難しい身体の小さい患児では血漿輸注が施行されることもある。血漿輸注や血漿交換により、aHUS の約70%が血液学的寛解に至る。しかし、長期的には TMA の再発、腎不全の進行、死亡のリスクは依然として高い。血漿交換が無効である場合には、aHUSではなく二次性TMAの可能性も考える。2)エクリズマブ(抗補体C5ヒト化モノクローナル抗体、商品名:ソリリス)成人では、STEC-HUS、TTP、二次性 TMA 鑑別の検査を行いつつ、わが国では同時に溶血試験を行う。溶血試験陽性あるいは臨床的にaHUSと診断されたら、エクリズマブの投与を検討する。小児においては、成人と比較して二次性 TMA の割合が低く、血漿交換や血漿輸注のためのカテーテル挿入による合併症が多いことなどから、臨床的にaHUS と診断された時点で早期にエクリズマブ投与の開始を検討する。aHUSであれば1週間以内、遅くとも4週間までには治療効果が見られることが多い。効果がみられない場合は、二次性TMAである可能性を考え、診断を再検討する(図2)。遺伝子検査の結果、比較的軽症とされるMCP変異あるいはC3 p.I1157T変異では、エクリズマブの中止が検討される。予後不良とされるCFH変異では、エクリズマブは継続投与される。※エクリズマブ使用時の注意エクリズマブ使用時には髄膜炎菌感染症対策が必須である。莢膜多糖体を形成する細菌の殺菌には補体活性化が重要であり、エクリズマブ使用下での髄膜炎菌感染症による死亡例も報告されている。そのため、緊急投与時を除きエクリズマブ投与開始2週間前までに髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨される。髄膜炎菌ワクチン接種、抗菌薬予防投与ともに髄膜炎菌感染症の全症例を予防することはできないことに留意すべきである。具体的なワクチン接種や抗菌薬による予防および治療法については、日本腎臓学会の「ソリリス使用時の注意・対応事項」を参照されたい。3)免疫抑制治療抗CFH抗体陽性例に対しては、血漿治療と免疫抑制薬・ステロイドを併用する。臓器障害を伴ったaHUSの場合にはエクリズマブの使用も考慮される。抗CFH抗体価が低下したら、エクリズマブの中止を検討する。4 今後の展望■ aHUSの診断2020年4月からaHUSの遺伝子解析が保険収載された。aHUSの診断にとっては大きな進展である。しかし、aHUSの診断・治療・臨床経過には依然不明な点が多い。aHUSレジストリー研究の成果がaHUS診療の向上につながることが期待される。■ 新規治療薬アレクシオンファーマ合同会社は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH) の治療薬として、長時間作用型抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤ラブリズマブ(商品名:ユルトミリス)を上市した。エクリズマブは2週間間隔の投与が必要であるが、ラブリズマブは8週間隔投与で維持可能である。今後、aHUSへも適応が広がる見込みである。中外製薬株式会社は抗C5リサイクリング抗体SKY59の開発を進めている。現在のところ対象疾患はPNHとなっている。5 主たる診療科腎臓内科、小児科、血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診療ガイド 2015(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 非典型溶血性尿毒症症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)aHUSレジストリー事務局ホームページ(名古屋大学腎臓内科ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Fujisawa M, et al. Clin and Experimental Nephrology. 2018;22:1088–1099.2)Goodship TH, et al. Kidney Int. 2017;91:539.3)Aigner C, et al. Clin Kidney J. 2019;12:333.4)Lee H,et al. Korean J Intern Med. 2020;35:25-40.5)Kato H, et al. Clin Exp Nephrol. 2016;20:536-543.公開履歴初回2020年04月14日

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疲れを巡る最新研究(後編)…身体の疲れ?精神疾患?PCR検査で判別する時代に

講師紹介前編へストレスが疲労感を減らす!?近藤講演などで驚かれるのが、「ストレスが疲労感を減らしている」とお話ししたときです。確かにストレスには「疲労を増す」イメージがあるので、意外な感じがすると思います。ここでは、ストレスと呼ばれているものを、その原因である「ストレッサー」とその結果生じる身体の反応「ストレス応答」という2つに分けて考えてみましょう。脳がストレスの原因となるストレッサーを感知すると、脳の視床下部が反応し、副腎からコルチゾールとアドレナリンが出ます。これがストレス応答です。コルチゾールには抗炎症作用があって疲労感の原因である炎症性サイトカインの産生を抑えます。一方のアドレナリンには興奮作用があり、この2つの物質が作用する結果として、疲労感が減ります。つまり、疲労感は身体に「休め」というブレーキをかける役割を担い、ストレス応答は「行け」とアクセルを踏む役割を担うことで、両者がバランスを取っているのです(図4)。皆さんもあまりにも仕事が忙しいと、逆にしばらく疲れを感じなかった、という経験をされたことがあるのではないでしょうか。これは、仕事のプレッシャーがストレッサーとなってストレス応答を誘導し、疲労感を抑制してしまっている状態だと考えられます。画像を拡大するやりがちな「かえってマイナス」の疲労回復法近藤しかし、視床下部や副腎は消耗しやすい組織です。使い続けるうちにコルチゾールが減少して疲労抑制効果がなくなり、強い疲労感が前面に出てきます。ここで気を付けたいのは身体の疲労がマックスなのに疲労感をあまり感じない状態でいるため、「ストレスを解消しなきゃ」と考えて、さらに身体に負担をかける行動をとってしまうことです。具体的には、強度のスポーツ、長い入浴など、身体に負担をかける行為が挙げられます。このようなストレス解消法は、身体の疲労がある場合は避けたほうがよいのです。お薦めは、散歩や軽めの運動、音楽を聴く、きれいな景色を見るなど、「身体に負担をかけないストレス解消法」です。一方、「病的疲労」といって、身体がまったく疲れていないのに、脳が疲労感を持つケースもあります。これはうつ病などの中枢神経疾患が原因で起こる場合が多く、労働や運動で生じる身体の疲労とは異なる治療が必要となります。「身体の疲労」と「病的疲労」の見分け方近藤では、どうやって身体の疲労と病的疲労を見分ければよいのでしょう?また、ヘルペスの話に戻りましょう。前回、リン酸化した疲労因子が増えてタンパク質を合成できなくなり、臓器の働きが低下したり機能障害が起きたりすることが身体の疲れの原因、と説明しました。疲労因子が増加すればHHV-6やHHV-7の再活性化が起こり、唾液中に大量のウイルスが放出されます。つまり、「唾液中のHHV-6やHHV-7が増加していれば、身体が疲れている証拠」だといえるわけです。実際、労働時間の異なるヒトの唾液を採取し、ヒトヘルペスウイルス(HHV-6、HHV-7)を測定して比較したところ、「週40時間以上労働している人」(身体が疲労している人)は40時間未満労働している人(健康な人)に比べて、大幅に唾液中のウイルス量が多いことがわかりました。一方で、うつ病や筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群など、「身体の疲労」以外の要因から疲労感を訴えるケースでは、ウイルス量は健康な人と比べて同じかむしろ減る傾向がありました。つまり、「強い疲れ」という主訴の患者のHHV-6やHHV-7の量を検査することで、内科的治療がよいのか精神科的疾患や神経内科的疾患を考慮すべきなのかが、すぐに判断できるというわけです(図5)。画像を拡大するこの検査は、新型コロナウイルスで有名になったPCR検査です。HHV-6/HHV-7のPCR検査は保険適用外であり、まだ限られた医療機関でしか扱っていませんが、医療者の皆さんの関心の高まりと今後の広がりを期待しています。地味だけど確実な「疲労回復法」はこれ近藤「いろいろ言ってるけれど、結局どうやったら疲れはとれるの?」というのが皆さんの最も知りたいことかと思います。疲労の原因となる疲労因子はリン酸化したelF2αでした。このリン酸化をリセットして正常な状態に戻す「eIF2α脱リン酸化酵素」というものがあります。疲労因子に対して「疲労回復因子」と呼んでいます。疲労回復因子は、軽い運動によって誘導されます。また、疲労回復因子の誘導を助ける食品は、納豆・チーズ・玄米・大麦・玉ネギ・カレーに使うターメリックなどが挙げられます。また、ビタミンB1が不足すると疲労回復因子が誘導されにくくなります。これらの共通点は「抗酸化作用が強くない」こと。いわゆる「疲労回復」のイメージがあるニンニク・ウナギ・赤身肉などはこの抗酸化作用が強いので、前回にお話ししたように疲労感をとるだけの「見せかけの疲労回復」になる可能性があるのです。「疲労回復因子(eIF2α脱リン酸化酵素)」の誘導を助ける食品をしっかり摂取して、軽い運動をし、ストレスを軽減するためのリラックス法を行うというのが、地味ながらも正しい疲労回復法だと考えられます。医療者の皆さんも疲労とその機序を知り、患者さんや皆さん自身の診療やケアに、ぜひ役立ててください。書籍紹介『疲労ちゃんとストレスさん』にしかわたく(漫画・原作)・近藤一博(監修・原作)河出書房新社近藤氏の長年の研究成果と疲労に関する複雑な仕組みを、漫画家のにしかわ氏がストーリー&漫画化。疲労がどのように起きるのか、どのように回復するのか、擬人化されたキャラクターたちでわかりやすく解説した一冊。

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がん患者が過剰摂取しやすいサプリメントは?

 多くのがん患者は、がん診断後に栄養補助食品を使い始める傾向にある。そのため、がんではない人と比べ、どのような栄養補助食品が、がんサバイバーの総栄養摂取量に寄与しているかを検証する必要がある。今回、米国・タフツ大学のMengxi Du氏らは「がんではない人と比較した結果、がんサバイバーへの栄養補助食品の普及率は高く、使用量も多い。しかし、食品からの栄養摂取量は少ない」ことを明らかにした。研究者らは、「がんサバイバーは食品からの栄養摂取が不十分である。栄養補助食品の短期~長期的使用による健康への影響について、とくに高用量の摂取では、がんサバイバー間でさらに評価する必要がある」としている。Journal of Nutrition誌オンライン版2020年2月26日号掲載の報告。 研究者らは、がんサバイバーの総栄養摂取量のうち栄養補助食品から摂取されている栄養素を調べ、がんではない人との総栄養摂取量を比較する目的で、2003~16年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した成人がんサバイバー2,772人と、がんではない3万1,310人を調査。栄養補助食品の普及率、用量および使用理由について評価した。 主な結果は以下のとおり。・がんサバイバーとがんではない人の栄養補助食品の普及率は70.4% vs.51.2%と、がんサバイバーで高かった。同じく、マルチビタミン/ミネラルの普及率は48.9% vs.36.6%で、ビタミン系11種類、ミネラル系8種類の使用の多さが報告された。・全体的に、がんサバイバーは栄養補助食品からの栄養摂取量が有意に多く、大部分の栄養素は食品からは取れていなかった。・がんサバイバーは、がんではない人と比較して食品からの栄養摂取量が少ないため、葉酸、ビタミンB6、ナイアシン、カルシウム、銅、リンの摂取量が不十分な人の割合が高かった(総栄養摂取量<平均必要量[EAR:Estimated Average Requirement]または栄養所要量[AI:Adequate Intake])。・その一方で、がんサバイバーはビタミンD、ビタミンB6、ナイアシン、カルシウム、マグネシウムおよび亜鉛を栄養補助食品から多く取っていることから、これらを過剰摂取(総栄養摂取量≧許容上限摂取量[UL:tolerable upper intake level])している割合も高かった。・栄養補助食品を摂取するほぼ半数(46.1%)は、管理栄養士・栄養士に相談せずに独自に摂取していた。

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メチルマロン酸血症〔Methylmalonic acidemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義メチルマロン酸血症は常染色体劣性遺伝形式をとる有機酸代謝異常症である。メチルマロニルCoAムターゼという酵素の活性が低いために、身体が特定のアミノ酸(イソロイシン、バリン、スレオニン、メチオニン)や奇数鎖脂肪酸、コレステロールを適切に処理できず、メチルマロン酸をはじめとする中間代謝産物が蓄積し、代謝性アシドーシスを伴うさまざまな症状を呈する疾患である。■ 疫学わが国における新生児マススクリーニングの試験研究(1997~2012年、被検者数195万人)では、本症は11万人に1人の発症頻度だった。これは有機酸代謝異常症の中ではプロピオン酸血症(5万人に1人)に次ぐ頻度だったが、プロピオン酸血症患者の中には少なくとても小児期にはほぼ無症状の最軽症型が多く含まれるため、臨床的に問題となる有機酸代謝異常症の中では本症が最多の疾患である。■ 病因メチルマロニルCoAを異化する際に必要なメチルマロニルCoAムターゼの活性低下が原因である。先天的にメチルマロニルCoAムターゼの活性が低値の場合と、補酵素であるコバラミン(ビタミンB12)の代謝に異常がある場合に分けられる。いずれの場合も常染色体劣性遺伝形式をとる。■ 症状1)代謝不全発作疾患のコントロールが良好であれば無症状だが、感染症罹患・経口摂取不良、タンパク質過剰摂取時に代謝不全発作を起こしうる。活気不良、哺乳・食事摂取不良、嘔気・嘔吐、筋緊張低下、呼吸障害(多呼吸・努力呼吸・無呼吸)、意識障害といった症状が数時間~数日単位で進行し、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスや高アンモニア血症を伴う。2)中枢神経症状急性代謝不全により高アンモニア脳症や低酸素性虚血性脳症を来すと、重度の神経学的後遺症(精神運動発達遅滞、てんかん、筋緊張亢進など)を残しうる。大脳基底核病変により不随意運動が生じることもある。急性の代謝不全発作を起こさずとも、慢性進行性に上記の症状が出現することがある。3)嘔気・嘔吐メチルマロン酸血症の患者は、臨床的に明らかな代謝不全とは言えない場合でも嘔気・嘔吐の症状を呈することが多い。4)腎機能障害尿細管間質の慢性的な障害により腎機能が徐々に低下し、腎不全に至る例が存在する。正確な発症年齢や合併率はまだ明らかではないが、メチルマロン酸血症のサブタイプにより発症頻度が異なるとの報告がある。この腎機能障害は肝移植を受けた症例でも進行することが知られている。5)その他汎血球減少や視神経委縮、拡張型・肥大型心筋症、膵炎の合併報告がある。■ 分類1)分子遺伝学的分類Mut0:メチルマロニルCoAムターゼの残存酵素活性が測定感度以下の症例Mut-:メチルマロニルCoAムターゼの残存酵素活性が測定可能な症例cblA、cblB、cblD-variant2:コバラミンの代謝異常によるメチルマロン酸単独の増加(なお、cblC、cblE、cblF、cblGはホモシステイン増加を伴う)2)臨床的分類(1)発症前型新生児マススクリーニングにより代謝不全発作を起こす前に診断された症例。(2)急性発症型哺乳によるタンパク負荷が始まる新生児期と、食事間隔が空き、感染症罹患が増える乳幼児期に多い。前者はMut0の症例が多く、新生児マススクリーニングの結果が出る前に発症することもある。(3)遅発型成長発達遅延や食思不振、反復性嘔吐が徐々に進行する症例。小さな代謝発作を周期性嘔吐症や胃腸炎と診断されていることがある。経過中に重篤な代謝不全発作を起こすこともある。■ 予後代謝不全発作により脳症を併発した場合は重度の神経学的後遺症を残すことが少なくない。肝移植を受けた症例の多くで症状の改善が報告されているが、代謝不全発作や中枢神経症状の進行を完全に抑えられるわけではない。また、肝移植実施の有無に関わらず腎機能障害は進行し、腎移植が必要になることがある。移植の有無に関わらず、ほぼ全例でタンパク質摂取制限またはビタミン剤などの内服が生涯必要となる。代謝不全を可能な限り回避することが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 新生児マススクリーニング新生児マススクリーニングでC3またはC3/C2高値(C5-OH増加なし)を指摘された場合は、メチルマロン酸血症あるいはプロピオン酸血症を疑って精密検査を開始する。新生児マススクリーニングで指摘された時点で代謝不全になりかけている症例も存在するため、診断を詰めることよりも、まずは急性期治療が必要な状態かどうかを判断することが重要である。メチルマロン酸血症とプロピオン酸血症は、診察と一般検査のみで鑑別することは困難であり、急性期治療がほぼ同じであるため、初期治療の際に診断がついていなくても構わない。■ 外来で代謝疾患を疑う場合メチルマロン酸血症は、新生児マススクリーニングの結果が出る前に症状を呈する症例や、新生児マススクリーニングでは発見できない例が存在するため、新生児マススクリーニングで異常が無かったとしても本疾患を否定することはできない。感染症や絶食後の急激な全身状態の増悪、not doing well、努力呼吸、意識障害、けいれん、筋緊張低下といった病歴の患者を診察する際には、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症、尿路サイクル異常症、ミトコンドリア異常症を念頭に置く必要がある。メチルマロン酸血症はその重要な鑑別診断である。1)問診と診察新生児期には哺乳量と体重増加量、嘔気・嘔吐、活気不良、傾眠傾向、努力呼吸(呻吟やクスマウル呼吸、多呼吸など)といった症状が、生後数日の時点から増悪傾向にないかを特に注意する。メチルマロン酸血症などの有機酸代謝異常症は、胎児期には母親が代謝を担ってくれるため無症状で、出生後哺乳によるタンパク負荷が始まってから症状が出現する。そのため、生直後は元気だったが徐々に活気不良となった、という病歴の方が有機酸代謝異常症らしい。乳幼児期以降では、離乳食が進み食事間隔が空いたときや感染症(特に胃腸炎)に罹患したときに急性代謝発作を起こしやすい。また、代謝不全による慢性の食思不振や反復する嘔気・嘔吐を、周期性嘔吐症やケトン性低血糖症と診断されていることがある。いずれの場合もアニオンギャップ陽性の代謝性アシドーシスを起こし、糖入りの点滴で症状が軽快するため原疾患に気付きにくい。検査ではアンモニアの測定や尿中有機酸分析が鑑別に有用である。2)検査メチルマロン酸血症の鑑別に必要な検査尿中有機酸分析(最低0.5mL、-20℃冷凍)、血漿アミノ酸分析39種類(血漿0.5mL、-20℃冷凍)、血漿総ホモシステイン(0.3mL冷蔵)、ビタミンB12(血清0.6mL冷蔵)、アシルカルニチン分析(ろ紙血最低1スポット、常温乾燥、乾燥後-20℃冷凍保存可)状態の評価に必要な検査血液ガス分析、アンモニア、一般生化学検査、血糖(血液ガス分析で代用可能)、血液像、尿定性(pH、ケトン体)※乳酸・ピルビン酸、遊離脂肪酸、血中ケトン体分画、頭部MRIも全身状態の評価や他の代謝異常疾患を鑑別する際に有用な検査である。3)鑑別(図)メチルマロン酸血症と確定した後は、ビタミンB12を内服させて反応性を評価する。病型診断にはメチルマロニルCoAムターゼ活性測定と遺伝子検査が有用である。図 メチルマロン酸血症の鑑別診断フローチャート画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 慢性期の管理母乳や調整粉乳に特殊ミルク(商品名:雪印S-22、S-23)を一定の割合で混合し、自然タンパクを制限しつつ必要なカロリーを確保する。薬物療法としてはメチルマロニルCoAムターゼの補酵素であるビタミンB12や、有機酸の排泄促進目的でL-カルニチンを使用する。乳酸高値の場合はビタミンCを併用することもある。メトロニダゾールやラクツロースによる腸内細菌のプロピオン酸産生抑制も有効である。経口摂取が困難な場合は経管栄養を併用する。これらの治療を行っても代謝発作を起こすリスクが高い場合は肝移植を検討する。学童期以降に問題となりやすい腎機能低下に対して腎移植が必要になることもある。■ 代謝不全発作時基本的には他の有機酸代謝異常症の代謝不全と同じ対応でよい。急性期にはタンパク質摂取を中止し、異化抑制のためブドウ糖液で十分なエネルギーを確保する。ビタミンB12とL-カルニチンの投与も行う。高アンモニア血症に対して、急性期であればカルグルミン酸も有効である。循環・呼吸不全を安定化させても代謝性アシドーシスによるアシデミア(pH5 主たる診療科小児科、神経内科、移植外科、肝臓内科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター メチルマロン酸血症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾患情報センター メチルマロン酸血症(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年03月16日

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肝型・筋型糖原病

1 疾患概要■ 概念・定義グリコーゲン代謝経路の解糖系酵素の欠損による(表1、図)。「糖原病」は歴史的にはグリコーゲンが臓器に蓄積し腫大することから命名されたが、グリコーゲンの臓器蓄積は病型によって程度がさまざまであり、「糖原病」と呼ぶよりも「グリコーゲン代謝異常症」と呼ぶのが妥当であるが、本稿では従来使われている診断名を踏襲する。表1 糖原病の分類と一般的な特徴の一覧画像を拡大する図 解糖系代謝マップ画像を拡大する■ 疫学わが国における本症の発生頻度は不明であるが、肝型糖原病は約1:2万人と考えられている。最も多い病型はIX型で、その他ではI、II、III、V、VI型が多く、この6病型で全糖原病の約90%を占める。■ 病因・病態(表2)現在までに16種類の病型が知られている。解糖の目的は(1)ATPを産生、(2)グルコースを産生することであり解糖経路の障害により前者の障害は主に筋型で「エネルギー供給障害型」、後者の障害は主に肝型で「グルコース供給障害型」とに分けられる。表2 基本的な糖原病の病態生理画像を拡大する■ 症状・検査所見・治療酵素発現の臓器特異性により、一般的には症状の出方から肝型、筋型、肝筋型と大別する(表1)。本稿では糖原病の約90%を占める6病型を中心に概略を述べる。1)糖原病I型(フォン・ギールケ病)Ia型(グルコース-6-ホスファターゼ欠損)、Ib型(グルコース-6-P-トランスロカーゼ欠損)がある。Ia型が80~90%、Ib型が10~20%を占める。Ia型とIb型の症状は類似するが、Ib型では好中球減少、易感染性、炎症性腸疾患などを伴う。著明な肝腫大が認められるが脾腫は認めない。頬部がふっくらし、人形様顔貌を示す。成長障害がみられ、低身長となる。2次性の病態として血小板機能の障害による鼻出血、頬部のクモ様毛細血管拡張、高脂血症による黄色腫、高尿酸血症による痛風、尿酸結石もみられる。成人では肝腺腫およびその悪性化、 腎不全などの合併症が問題となる。糖新生、解糖の両経路からのグルコース産生が障害されるため、低血糖の程度は糖原病の中では強い。低血糖に伴い高乳酸血症、代謝性アシドーシスなども増悪する。低血糖の予防が重要で、血糖のコントロールを良好にすることで2次的な代謝異常、成長障害の改善が期待できる。頻回食が基本であるが糖原病治療乳(昼間用および夜間用)が開発されているので乳幼児期には有用である。未調理コーンスターチ療法と組み合わせることで一定の血糖維持が期待できる。Ib型の好中球減少に対してはG-CSFを用いる。高尿酸血症に対してはアロプリノールを用いる。成人になり多発性の肝腺種、悪性化を伴っているもの、内科的に代謝異常のコントロールが困難なものに対しては、肝移植が適応とされているが長期予後は不明である。2)糖原病II型(ポンペ病)発症時期により乳児型、遅発型に分けられる。乳児型は生後早期に筋緊張低下、巨舌、心拡大、肝種大がみられる。1歳前後で心不全、呼吸不全で死亡する。心電図ではPR短縮、QRSの増高、心肥大がみられる。胸部X線では著明な心拡大、心エコーでは両心室壁と心室中隔が肥厚し、左室流出路の閉塞を来す場合もある。遅発型では幼児期から成人期に主に筋力低下で発症する。心筋、肝臓の罹患は認めないか、あっても軽度である。肢帯型筋ジストロフィーと症状が類似することがあり、肢帯型筋ジストロフィーの診断症例の中に一定程度混在していると推測されている。遅発型では四肢筋力低下に比較して不釣合いに呼吸障害を強く認める例もある。治療では酵素補充療法の導入により乳児型の生命予後は劇的に改善した。本症のスクリーニングは乾燥ろ紙血を用いた簡便な検査が提供されている。3)糖原病III型(フォーブ-スコーリー病)脱分枝酵素の欠損により、分枝が多く残存したlimit dextrineが蓄積する。肝筋型のIIIa型(約85%)と肝型のIIIb型(約15%)がある。乳幼児期に肝種大、低血糖で気付かれる。I型に比較すると低血糖は軽症で、思春期以降改善する。一部肝障害が遷延し、肝硬変や肝線腫その悪性化なども報告されている。IIIa型では筋力低下、心筋障害進行する症例もあり、定期的な心機能のチェックが必要である。近年IIIa型では修正Atkins法による低炭水化物、高蛋白、高脂肪食が試され心筋障害の改善が認められている。4)糖原病V型(マッカードル病)典型例では運動時の筋痛、筋硬直、横紋筋融解症などである。まれに発症時期が乳児の例や、無症状例があり中高年では筋力低下例もある。阻血下(または非阻血下)前腕運動負荷試験では乳酸の上昇が認められない (表3)。横紋筋融解症を来さないように日常の生活指導が大切である。なお、日本人の本症の一部ではビタミンB6が有効である。表3 前腕阻血(非阻血)運動負荷試験の評価画像を拡大する5)糖原病VI型(ハーズ病)乳幼児期に低血糖、肝種大、成長障害で気付かれる。症状は年齢と共に次第に軽快していく。6)糖原病IX型ホスホリラーゼキナーゼ(PhK)は4種類のサブユニット(α、β、γ、δ)からなり(表4)、肝型(IXa、IXc)、筋型(IXd)、肝筋型(IXb)がある。最も頻度の多いIXaの予後は良好で成長と共に肝種大、低血糖などの症状は軽快する。IXcは低血糖症状も強く、後に肝硬変に進行したり、肝腺腫の報告もある。表4 糖原病IX型の亜型とその詳細画像を拡大する■ 分類1)欠損酵素による病型分類(ローマ字表記)16病型があり、基本的には報告年代順にローマ数字で命名されてきた(表1)。2)症状から見た分類肝腫大、低血糖を呈する肝型、筋力低下、運動不耐、筋硬直、横紋筋融解症などの筋症状を示す筋型、両方の症状を持つ肝筋型がある(表1の症状参照)。■ 予後I型は成人期になると、肝腫瘍、腎不全、高尿酸血症など、多臓器の障害がみられてくる。II型では特に乳児型で心不全、呼吸障害のため死に至る。遅発型では四肢筋に比較して不釣り合いな呼吸障害が認められるのが特徴である。IIIa型では肥大型心筋症により、心不全が進行する例がある。V型の典型例では筋負荷による横紋筋融解症を予防することが有用である。VI型、IX型は一般に予後は良好であるが、一部肝線維化などがみられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 肝型糖原病の診断1)Fernandesの負荷テスト(表5)肝型糖原病の病型鑑別の負荷テストである。負荷物はブドウ糖、ガラクトース、グルカゴン(空腹時、および食後2時間)で行われるが、酵素診断、遺伝子診断と併用することですべての負荷が必須ではない。特にガラクトース、グルカゴン負荷はI型では異常な高乳酸血症を引き起こし、酸血症になる例も報告されているため「新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019」では推奨されていない。表5 肝型糖原病・病型診断:Fernandesの負荷テスト画像を拡大する2)画像検査超音波検査で輝度上昇のため、脂肪肝と診断されることが多い。肝臓CTでは信号強度の上昇がみられることから脂肪肝とは区別ができる。3)好発遺伝子変異の検索日本人Ia型患者では、好発変異c.648G>Tが90%以上の患者にみられる。また、Ib型ではp.Trp118Argが約半数にみられる。4)肝生検肝型では肝組織に正常あるいは異常グリコーゲンが蓄積するため著明なPAS染色性と、肝細胞のバルーニングが認められる。また、ジアスターゼによりPAS陽性物質が消化されない場合は糖原病IV型が疑われる。5)酵素診断表1にある検体で酵素診断は可能である。■ 筋型糖原病の診断1)阻血下(または非阻血下)前腕運動負荷試験(表3)運動負荷後に血中乳酸の上昇を認めない(ただし0型、II型、IV型、IXd型を除く)。負荷試験後の筋硬直・筋痛などの苦痛を考慮して最近では非阻血下での運動負荷試験も行われている。2)血清creatine kinase (CK)筋型糖原病では程度の差はあるがCKは上昇していることが多い。一時的なCKの上昇かどうかを判断するために、2週間後以降に再検する。3)好発遺伝子変異を持つ筋型糖原病原病V型(マッカードル病)では日本人患者の約50%にp.Phe710delが認められる。4)筋生検筋型糖原病では筋組織に程度の差はあるがグリコーゲンの増加が認められる。なかでもIIIa型の肝筋型(コーリー病)では筋組織に空胞が多発している(Vacuolar Myopathy)。5)酵素診断生検筋組織を用いた酵素診断が確定診断となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)症状で先述したが基本的には、肝型糖原病では低血糖の予防、筋型糖原病では横紋筋融解症の予防が重要である。4 今後の展望糖原病は古典的な代謝異常症であるが、近年多彩な臨床症状や新たな知見も報告され、併せて病態解明の進歩とともに病態に即した治療法の開発が進んでいる。5 主たる診療科糖原病は先天性の疾患であり、特に肝型は小児期に発見されることが多く、小児科が主たる診療科となる。筋型はその症状から学童期~成人期に診断されることから小児科、神経内科が主たる診療科となる。いずれにせよ適切な時期でのトランジションも課題となる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 筋型糖原病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 肝型糖原病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)杉江秀夫(総編集). 代謝性ミオパチー.診断と治療社. 2014.p.31-83.2)日本先天代謝異常学会(編集). 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019. 診断と治療社.2019.p.181-199.3)矢崎義雄(総編集). 内科学 11版.朝倉書店.2017.公開履歴初回2020年03月16日

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プロピオン酸血症〔PA:Propionic acidemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義生体内で生じる各種の不揮発酸が代謝障害によって蓄積し、代謝性アシドーシスを主徴とする各種の症状・異常所見を呈する疾患群を「有機酸代謝異常症」と総称する。主な疾患は、分枝鎖アミノ酸の代謝経路上に多く、中でもプロピオン酸血症(Propionic acidemia:PA)は最も代表的なものである。本疾患では、3-ヒドロキシプロピオン酸、メチルクエン酸などの短鎖カルボン酸が体液中に蓄積し、典型的には重篤な代謝性アシドーシスを主徴とする急性脳症様の症状で発症するほか、各種臓器に慢性進行性の病的変化をもたらす。■ 疫学新生児マススクリーニング試験研究(1997~2012年、被検者数195万人)による国内での罹患頻度は約45,000人に1人と、高頻度に発見された。ただし、これには後述する「最軽症型」が多く含まれ、典型的な症状を示す患者の頻度は約40万人に1人と推計されている。■ 病因(図)バリン・イソロイシン代謝経路上の酵素「プロピオニオニル-CoAカルボキシラーゼ(PCC)」の活性低下に起因する、常染色体劣性遺伝性疾患(OMIM#606054)である。PCCはミトコンドリア基質に発現しており、αサブユニットとβサブユニットからなる多量体である。各サブユニットは、それぞれPCCA遺伝子(MIM*232000、局在13q32.3)とPCCB遺伝子(MIM*232050、局在3q22.3)にコードされている。図 プロピオン酸血症に関連する代謝経路画像を拡大する■ 症状典型的には新生児期から乳児期にかけて、重度の代謝性アシドーシスと高アンモニア血症が出現し、哺乳不良、嘔吐、呼吸障害、筋緊張低下などから、けいれんや嗜眠~昏睡など急性脳症の症状へ進展する。初発時以降も同様の急性増悪を繰り返しやすく、特に感染症罹患が契機となることが多い。コントロール困難例では、経口摂取不良が続き、身体発育が遅延する。1)中枢神経障害急性代謝不全の後遺症として、もしくは代謝異常が慢性的に中枢神経系に及ぼす影響によって、全般的な精神運動発達遅滞を呈することが多い。急性増悪を契機に、あるいは明らかな誘因なく、両側大脳基底核病変(梗塞様病変)を生じて不随意運動が出現することもある。2)心臓病変急性代謝不全による発症歴の有無に関わらず、心筋症や不整脈を併発しうる。心筋症は拡張型の報告が多いが、肥大型の報告もある。不整脈はQT延長が本疾患に特徴的である。3)その他汎血球減少、免疫不全、視神経萎縮、感音性難聴、膵炎などが報告されている。■ 分類1)発症前型新生児マススクリーニングで発見される無症状例を指す。そのうち多数を占めるPCCB p.Y435C変異のホモ接合体は、特段の症状を発症しないと目されており、「最軽症型」と呼ばれる。2)急性発症型呼吸障害、多呼吸、意識障害などで急性に発症し、代謝性アシドーシス、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、高乳酸血症などの検査異常を呈する症例を指す。3)慢性進行型乳幼児期からの食思不振、反復性嘔吐などが認められ、身体発育や精神運動発達に遅延が現れる症例を指すが、経過中に急性症状を呈しうる。■ 予後新生児期発症の重症例は、急性期死亡ないし重篤な障害を遺すことが少なくない。遅発例も急性発症時の症状が軽いとは限らず、治療が遅れれば後遺症の危険が高くなる。また、急性代謝不全の有無に関わらず、心筋症、QT延長などの心臓合併症が出現・進行する可能性があり、特に心筋症は慢性期死亡の主要な原因に挙げられている。一方、新生児マススクリーニングで発見された87例(最長20歳まで)の予後調査では、患者の大半が少なくとも1アレルにPCCB p.Y435C変異を有しており、疾患との関連が明らかな症状の回答はなかった。したがって、この群の予後は総じて良好と思われるが、より長期的な評価(特に心臓への影響)には、さらに経過観察を続ける必要がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1)一般血液・尿検査急性期には、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスをはじめ、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、汎血球減少などが認められる。高乳酸血症や血清アミノトランスフェラーゼ(AST・ALT)、クレアチニンキナーゼの上昇を伴うことも多い。2)タンデム質量分析法(タンデムマス、MS/MS)による血中アシルカルニチン分析プロピオニルカルニチン(C3)の増加を認め、アセチルカルニチン(C2)との比(C3/C2)の上昇を伴う。これはメチルマロン酸血症と共通の所見であり、鑑別には尿中有機酸分析が必要である。C3/C2の上昇を伴わない場合は、異化亢進状態(=アセチルCoA増加)に伴う非特異的変化と考えられる。3)ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC/MS)による尿中有機酸分析診断確定に最も重要な検査で、3-ヒドロキシプロピオン酸・プロピオニルグリシン・メチルクエン酸の排泄が増加する。メチルマロン酸血症との鑑別には、メチルマロン酸の排泄増加が伴わないことを確認する。4)PCC酵素活性測定白血球や皮膚線維芽細胞の破砕液を粗酵素源として測定可能であり、低下していれば確定所見となるが、実施しているのは一部の研究機関に限られる。5)遺伝子解析PCCA、PCCBのいずれにも病因となる変異が報告されている。遺伝学的検査料の算定対象である。※ 2)、3)は「先天性代謝異常症検査」として保険診療項目に収載されている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性代謝不全の治療タンパク摂取を中止し、輸液にて80kcal/kg/日以上を確保する。有機酸の排泄促進に静注用L-カルニチンを投与する。未診断の段階では、ビタミンB12反応性メチルマロン酸血症の可能性に対するヒドロキソコバラミン(商品名:フレスミンS)またはシアノコバラミン(同:同名、ビタミンB12ほか)の投与をはじめ、チアミン(同:塩酸チアミン、メタボリンほか)、リボフラビン(同:強力ビスラーゼ、ハイボンほか)、ビオチン(同:同名)などの各種水溶性ビタミン剤も投与しておく。高アンモニア血症を認める場合は、安息香酸ナトリウムやカルグルミン酸を投与する。速やかに改善しない場合は、持続血液透析(CHD)または持続血液透析濾過(CHDF)を開始するか、実施可能施設へ転送する。■ 亜急性期〜慢性期の治療急性期所見の改善を評価しつつ、治療開始から24~36時間以内にアミノ酸輸液を開始する。経口摂取・経管栄養が可能になれば、母乳や育児用調製粉乳などへ変更し、自然タンパク摂取量を漸増する。必要エネルギーおよびタンパク量の不足分は、イソロイシン・バリン・メチオニン・スレオニン・グリシン除去粉乳(同:雪印S-22)で補う。薬物療法としては、L-カルニチン補充を続けるほか、腸内細菌によるプロピオン酸産生の抑制にメトロニダゾールやラクツロースを投与する。■ 肝移植・腎移植早期発症の重症例を中心に生体肝移植の実施例が増えている。食欲改善、食事療法緩和、救急受診・入院の大幅な減少などの効果が認められているが、移植後に急性代謝不全や中枢神経病変の進行などを認めた事例の報告もある。4 今後の展望新生児マススクリーニングによる発症前診断・治療開始による発症予防と予後改善が期待されているが、「最軽症型」が多発する一方で、最重症例の発症にはスクリーニングが間に合わないなど、その効果・有用性には限界も看取されている。また、臨床像が類似する尿素サイクル異常症では、肝移植によって根治的効果を得られるが、本疾患では中枢神経障害などに対する効果は十分ではない。これらの課題を克服する新規治療法としては、遺伝子治療の実用化が期待される。5 主たる診療科小児科・新生児科が診療に当たるが、急性期の治療は、先天代謝異常症専門医の下、小児の血液浄化療法に豊富な経験を有する医療機関で実施することが望ましい。成人期に移行した患者については、症状・病変に応じて内分泌代謝内科、神経内科、循環器内科などで対応しながら、小児科が並診する形が考えられる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本マススクリーニング学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)タンデムマス・スクリーニング普及協会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)先天代謝異常症患者登録制度JaSMIn(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)島根大学医学部小児科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)福井大学医学部小児科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター研究所マススクリーニング研究室(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報有機酸・脂肪酸代謝異常症の患者家族会「ひだまりたんぽぽ」(患者とその家族および支援者の会)1)日本先天代謝異常学会編集. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン. 診断と治療社;2019.2)山口清次編集. よくわかる新生児マススクリーニングガイドブック. 診断と治療社; 2019.公開履歴初回2020年03月02日

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