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『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版』が発刊

 日本がんサポーティブケア学会が作成した『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版』が10月20日に発刊した。外見(アピアランス)に関する課題は2018年の第3期がん対策推進基本計画でも取り上げられ、がんサバイバーが増える昨今ではがん治療を円滑に遂行するためにも、治療を担う医師に対してもアピアランス問題の取り扱い方が求められる。今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂は、分子標的薬治療や頭皮冷却法などに関する重要な臨床課題の新たな研究知見が蓄積されたことを踏まえており、患者ががん治療に伴う外見変化で悩みを抱えた際、医療者として質の高い治療・整容を提供するのに有用な一冊となっている。 がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版は、これまで“がん患者に対するアピアランスの手引き 2016年版”として公開してきたものをMinds診療ガイドライン作成マニュアル2017に準拠し作成、ガイドラインに格上げされたものだが、この作成委員長を務めた野澤 桂子氏(目白大学看護学部 看護学科/国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター)に注目すべき点やアピアランスケアにおける患者への寄り添い方について伺った。アピアランスケアガイドラインと医学的エビデンス 今回、がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版を発刊するにあたり、野澤氏は「僅少の研究からエビデンスとなるものを抽出し推奨度を決定するのは困難を極めた。さらに、下痢や発熱などの副作用と異なり、直接は命に関わらない外見の副作用に対するケアを患者QOLと医学的エビデンスとのバランスの中でどうアピアランスケアガイドラインに反映させるか、今回の課題だった」と言及した。その一方で、エビデンスを重視し過ぎる医療者に危機感も感じたという。「支持療法の評価を、がん治療の効果を評価するのとまったく同じ手法で評価する必要がどこまであるのだろうか。ハードルが高すぎて、同じ労力なら支持療法より治療法の研究をしようとする研究者も増えるかも知れない」とし、「医療者は、ゼロリスクにするために少しでも危険を避けようとするが、たとえば、日用整容品の注意事項に書かれている“病中病後の使用はお控えください”という言葉もがん患者のエビデンスがあるとは限らない」と指摘した。また、「炎症や肌荒れがなく患者さんの希望があれば挑戦してほしい。医療者は、患者さんがその挑戦のメリットデメリットを判断できるような情報を提供することが重要」と説明した。アピアランスケアガイドラインが医療者のエビデンス呪縛を解く また、同氏は医療者のアピアランスケアの現状について「医療者は根拠なく患者さんの生活を限定させるような指導を行うべきではない。人間は息をするためだけに生きているのではない。その人らしく豊かに過ごすための時間にできなければ、患者さんにとって意味がないともいえる」と強調した。 そんな野澤氏も以前はざ瘡様皮疹が出現した患者さんには、当時言われていたように、症状の悪化を懸念してフルメイクではなくポイントメイクを推奨していた。しかし、ある患者さんの一言でケアの在り方を見直したのだという。“ポイントメイクでは隠したいブツブツが隠せない。私は可愛いおばあちゃんと言われることが生きがいだったのに、これでは孫に会えない。効いてる限り死ぬまで使う薬なのに、そもそも生きている意味がないじゃない”と患者さんに迫られた経験談を話し、「その時にケアに対する認識の転換期を迎えた。アピアランスケアがほかの副作用対策と異なるのは、“命に直接関わらない”ということ。ケアに挑戦して何かあってもそれに対する対策はある。重要なのは、患者さんが納得した選択ができること、その人らしさを表現できることではないか」と語った。がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版はある意味、医療者のエビデンス呪縛を解くための指南書の役割もあるのだろう。アピアランスケアガイドライン、治療に応じた患者管理がスムーズに 今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂では、各章の項目がひと目でわかる「項目一覧」というページが追加されている。ここでは分類(症状や部位)、番号(BQ:background question、CQ:clinical question、FQ:future research question)の項目分類が一覧になっており、研究の状況がわかると同時に、気になるページにすぐたどり着くようになっている。また、各章に総論が設けられており、治療ごとの現状など、本書の読者の理解が促される仕様になっている。たとえば、化学療法編では、「レジメン別脱毛の頻度」や「レジメン別の手足症候群の頻度」が表として掲載され副作用の発現率に注目することで、実際の治療に応じた患者管理がしやすくなっている。 各章の変更点については、5月に開催された日本がんサポーティブケア学会の特別シンポジウム『アピアランスケア研究の現状と課題~アピアランスケアガイドライン2021最新版を作成して~』にて、作成委員会の各領域リーダーらがトピックを解説。そこで挙げられた注目すべき点やアピアランスケアガイドラインの改訂にて変更されたquestionを以下に示す。<アピアランスケアガイドライン項目ごとの追加・改訂点>―――治療編(化学療法)・CQ1:化学療法誘発脱毛の予防や重症度軽減に頭皮クーリングシステムは勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→周術期化学療法を行う乳がん患者限定。また、レジメンごとの脱毛治療の成功・不成功を踏まえた上で患者指導やケアが必要とされる。・CQ8:化学療法による手足症候群の予防や重症度の軽減に保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:D[とても弱い]、合意率:94%)・CQ10:化学療法による手足症候群の予防や発現を遅らせる目的で、ビタミンB6を投与することは勧められるか(推奨の強さ:3、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:94%)治療編(分子標的療法)・CQ17:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防あるいは治療に対してテトラサイクリン系抗菌薬の内服は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→皮膚障害のなかで代表的なのが「ざ瘡様皮疹」だが、無菌性であることが特徴。テトラサイクリン系は抗菌作用のみならず抗炎症作用を持ち合わせており、この効果を期待して使用される。・FQ16:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して過酸化ベンゾイルゲルの外用は勧められるか。治療編(放射線療法)・CQ28:放射線治療による皮膚有害事象に対して保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[弱]、合意率:乳がん-100%、頭頸部-94%)→強度変調放射線治療(IMRT)の普及に伴い、線量に関する規定が削除され、“70Gy相当”の文言が削除された。・FQ31:軟膏等外用薬を塗布したまま放射線治療を受けてもよいか日常整容編スキンケア(洗顔やひげ剃りなど)、カモフラージュとしてのメイクやつけまつげに関する項目は漠然としていたので今回は項目より削除。また、手術瘢痕へのテーピングについてはカモフラージュという表現から“顕著化を防ぐ方法”に変更されている。・BQ32:化学療法中の患者に対して、安全な洗髪等の日常的ヘアケア方法は何か→頭皮を清潔→決まった回数は存在せず、臭いや痒みに応じてでも構わない。シャンプーも指定品があるわけではないので患者の嗜好に応じたものをアドバイスする。・BQ37:がん薬物療法中の患者に対して勧められる紫外線防御方法は何か→前回あまり触れられていなかった衣服について盛り込まれた。・FQ42:乳房再建術後に使用が勧められる下着はあるか――― 今回は43項目(FQ:19、CQ:10、BQ:14)が出来上がったものの、患者の生命に直接関わるわけではない点がボトルネックとなりエビデンスレベルの高い研究が今後望まれる。次回の課題として「研究の蓄積、免疫チェックポイント阻害剤の皮膚障害に関する項目が盛り込まれること」と同氏は話した。アピアランスケア実践でがん患者を治療ストレスから開放 アピアランスケアを実践することは患者の自己表現を容認するものであり、治療効果ひいては生存率にもかかわってくるのではないだろうか。同氏は「患者さんにはもっと安心して治療をしてもらいたい。今は外見の副作用コントロールのための休薬・減量のスキルも進歩してきており、不安なことはケア方法含めて医療者に聞いて欲しい。そして、医療者はエビデンスをベースとしつつも、個々に応じた対応を心がけることが必要」と締めくくった。

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介護施設の入居者、乳製品増量で骨折、転倒が減少/BMJ

 高齢者介護施設の入居者では、乳製品を用いてカルシウムとタンパク質の摂取量を増量する栄養学的介入は、転倒や骨折のリスクの抑制に有効で、容易に利用できる方法であることが、オーストラリア・メルボルン大学のSandra Iuliano氏らの調査で示された。死亡率の改善は認められなかった。研究の成果は、BMJ誌2021年10月21日号で報告された。オーストラリアの介護施設のクラスター無作為化試験 本研究は、ビタミンDの摂取量は十分だが、カルシウムの平均摂取量が600mg/日で、タンパク質の摂取量が1g/kg体重/日未満の高齢者介護施設入居者における、乳製品による栄養学的介入の骨折予防効果と安全性の評価を目的とする2年間のクラスター無作為化対照比較試験であり、2013年12月~2016年8月の期間に参加施設と参加者の募集が行われた(Dairy Australiaなどの助成を受けた)。 この試験には、オーストラリアの主に歩行可能な高齢者が居住する60の認定介護施設が参加し、介入群に30施設、対照群に30施設が無作為に割り付けられた。参加者は、7,195例(平均年齢86.0[SD 8.2]歳、女性4,920例[68%])だった。 介入群では、牛乳(250mL)、ヨーグルト(100g)またはチーズ(20g)が増量され、これによりカルシウムの平均摂取量が562(SD 166)mg/日、タンパク質の平均摂取量が12(6)g/日増え、摂取量の合計はそれぞれ1,142(353)mg/日および69(15)g/日(1.1g/kg体重)となった。介入により、乳製品の摂取量が2.0サービングから3.5サービングに増加した。対照群は通常の食事を維持し、カルシウムの摂取量は700(247)mg/日、タンパク質の摂取量は58(14)g/日(0.9g/kg体重)だった。骨折が33%、転倒は11%のリスク低下 56施設(介入群27施設、対照群29施設)のデータが解析に含まれた。参加者は、介入群が3,301例、対照群は3,894例であった。追跡期間中のエネルギー摂取量は両群で差はなく、各群内で有意な変動はなかった。骨折が324件(大腿骨近位部骨折135件)、転倒が4,302件、死亡が1,974件発生した。 2年間で、介入群は対照群に比べ、骨折リスクが33%低下し(121件[3.7%]vs.203件[5.2%]、ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.48~0.93、p=0.02)、大腿骨近位部骨折のリスクは46%減少した(42件[1.3%]vs.93件[2.4%]、0.54、0.35~0.83、p=0.005)。また、転倒のリスクは介入群で11%抑制された(1,879件[57%]vs.2,423件[62%]、0.89、0.78~0.98、p=0.04)。 5ヵ月の時点で、全骨折(p=0.002)および大腿骨近位部骨折(p=0.02)のリスクに有意な差がみられ、いずれも介入群で良好であった。また、3ヵ月の時点で、転倒(p=0.04)のリスクに有意差が認められ、介入群で優れた。1件を除き、骨折の原因はすべて転倒であった。 死亡には両群間に差はなかった(900件[27%]vs.1,074件[28%]、HR:1.01、95%CI:0.43~3.08)。予防治療を要した参加者の数は、全骨折が52件、大腿骨近位部骨折が82件、転倒は17件だった。 著者は、「この栄養学的介入は、入居者の好みに合わせて個別に行われ、既存の献立に通常の小売り用の牛乳、ヨーグルト、チーズを組み合わせた給食サービスを活用して行われたが、円滑な運用が可能であった。この介入は、高齢者介護施設における骨折予防のための公衆衛生対策として広く利用でき、より広範な地域社会でも使用できる可能性がある」としている。

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新型コロナへのイベルメクチン使用、中毒症状の報告が急増

 腸管糞線虫症または疥癬の経口治療薬のイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)を新型コロナウイルス治療薬として使用することに対し、製薬メーカーや米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)などから、安全性と有効性を支持するデータはなく使用を推奨しない旨の声明が重ねて出されている。さらに、イベルメクチン服用後の中毒症状を訴えて医療機関を受診する人が急増しているとの報告が、NEJM誌オンライン版2021年10月20日号「CORRESPONDENCE」に掲載された。イベルメクチンの不適切使用は重篤な副作用を引き起こす可能性 この報告は米国・ポートランドのオレゴン健康科学大学のCourtney Temple氏らによるもの。米国では獣医によるイベルメクチン使用が増加しており、人に対する処方数もパンデミック前の24倍になっており、2021年8月の処方数は前月比4倍と急増している。 オレゴン州のOregon Poison Centerは、専門的な訓練を受けた看護師、薬剤師、医師が常駐する電話相談センターであり、オレゴン・アラスカ・グアム州において、一般市民への治療アドバイスや患者をケアする医療従事者への包括的な治療相談を行っている。同センターには、最近、COVID-19に関連したイベルメクチン暴露に関する問い合わせが増えている。 イベルメクチンに関する通報の全通報に対する割合は、2020年には月0.25件だったが、2021年1月~7月までは月0.86件に増加し、2021年8月にセンターは21件の通報を受けた(毒物曝露に関する全通報数は2020年と2021年で大きな差はなかった)。 8月のイベルメクチンに関する通報21例のうち11例が男性で、大半が60歳以上だった(年齢中央値64、範囲20~81)。約半数(11例)はCOVID-19の予防目的で、残り10例は治療目的でイベルメクチンを使用していた。3例は医師または獣医師から処方を受け、17例は獣医師用の製剤を購入して使用していた(残り1例の入手先は未確認)。 大半の人は初回の大量かつ単回の投与後2時間以内に症状が発現した。6例では、1日おきまたは週2回の服用を数日から数週間繰り返した後、症状が徐々に現れた。1例は治療または予防目的でビタミンDも併せて摂取していた。 動物用医薬品の使用者は、1.87%ペーストで6.8mg~125mg、1%溶液で20~50mgのイベルメクチンを使用していた。人用錠剤の使用者は、予防目的で1回21mgを週2回使用していた。 通報した21例中6例がイベルメクチン使用による中毒症状で入院したが、処方により入手した 3例を含め、6例全員が予防目的の使用だった。4例は集中治療室で治療を受けたが、死亡例はなかった。症状は、胃腸障害が4例、錯乱が3例、運動失調と脱力が2例、低血圧が2例、痙攣が1例だった。入院しなかった人の多くは、胃腸障害、めまい、錯乱、視覚症状、発疹などの症状を報告した。 著者らは、これらの症例は、錯乱、運動失調、痙攣、低血圧などの重篤なエピソードを含むイベルメクチンの潜在的な毒性作用と不適切な使用が増加していることを表しており、COVID-19の治療や予防を目的としてイベルメクチンを使用することを支持する十分な証拠はなく、不適切な使用や薬物相互作用の発生は、入院を必要とする重篤な副作用を引き起こす可能性がある、と警告している。

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切り傷の縫合処置(表皮縫合)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第7回

第7回 切り傷の縫合処置(表皮縫合)《解説》今回は、仕上げの表皮縫合を説明します。ついにキズモンスターをやっつけるぞ!最後に表皮縫合:目的は段差の修正!真皮縫合が終了した時点で創縁は寄っているため、表皮縫合では少しズレている創縁を揃えるように行います。きつく結紮する必要はありません。針糸は角針、非吸収性のモノフィラメント糸を使うことが多いです。太さは真皮縫合と同じか少し細くてもよいです。真皮縫合と同様に、針は皮膚に直角に刺入しますが、その際しっかり皮膚を外反させる必要があります。持針器を持つ手もクイッとしっかり返しましょう!ここまで説明したのは、一般的によく使われる「単純縫合」についてです。縫合の方法にはほかにも種類があり、緊張のかかり方や角質の厚さ等で選択します。水平マットレス縫合:手掌部など硬い皮膚の縫合に使用垂直マットレス縫合:創縁を確実に合わせたい場合に使用また、3つの創縁を寄せるときに使う「三点縫合法」という方法もあります。知っていると便利です!さて、縫合についての基本は確認できましたか。正しい道具と針糸、少しのコツを知るだけで、キズモンスターの発生をかなりの確率で防ぐことができます! 一緒に頑張りましょう!!参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.2)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.3)上田 晃一 編. PEPARS(ペパーズ)88 コツがわかる!形成外科の基本手技―後期臨床研修医・外科系医師のために―. 全日本病院出版会;2014.4)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

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切り傷の縫合処置(皮下縫合・真皮縫合)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第6回

第6回 切り傷の縫合処置(皮下縫合・真皮縫合)《解説》さて、道具も準備できたことですし、いよいよ縫合処置に入りましょう。まずは皮下縫合:目的は死腔をなくすこと!皮下縫合では、真皮縫合より太い糸(3-0か4-0)、大きな針を選ぶことが多いです。脂肪組織は脆弱で組織を大きくつかまないとすぐに裂けてしまうため、3−5号の針(できれば丸針)、持針器もマチュー型のようにしっかり把持できるものがいいです。糸について、皮下縫合では吸収糸を主に使いますが、感染リスクが低いのはモノフィラメント糸、組織の緊張が強い場合に緩まず縫合しやすいのはマルチフィラメント糸です。しかし実際のところ、外来での縫合処置のために道具をたくさん用意することは難しく、真皮縫合と皮下縫合で同じ縫合糸や針を使うことが多いです(よって、へガール型持針器とモノフィラメント縫合糸がよく使われます)。ポイントとしては、組織が裂けやすいので適切な力加減で縫合すること。きつく結び過ぎると血行障害を起こし、脂肪壊死から融解が起こってしまいます。死腔がなくなる程度の結紮に留め、死腔の残存が懸念される場合はドレナージ吸引装置(通称:サクションドレーン)などの使用を検討しましょう。※吸引圧で死腔がなくなるため、皮下縫合の必要もなくなり有用ですが、通院での処置が困難次に真皮縫合:目的は減張!真皮縫合では、通常吸収性のモノフィラメント合成糸や非吸収性のナイロン糸が使われます。術後6週間がコラーゲン形成のピークであり、この時点までしっかり抗張力(糸の張力)が保たれていることが大切です。吸収糸は時間の経過とともに抗張力が減少していきますし、表皮縫合の抜糸後にも緊張がかかり傷の幅が徐々に開くので、傷の程度に応じて糸の種類を選択しましょう。また、真皮の浅い部分に糸をかけると後で露出してくることもあるので注意が必要です。真皮は組織が強固で硬いので、針は角針を用いることが多いです。一般的には針付き縫合糸(針と糸がくっ付いているもの)を使用します。外来の縫合では、針と糸が別々の弾機針などはほぼ使いません。また、意外に教わる機会がありませんが、糸の太さは体幹・四肢では5−0、顔面では5−0から6−0が目安です。針も小さいので、持針器はへガール型や丹下式を用います。鑷子も小さめのもの(アドソンなど)や、外反しやすいスキンフックが使いやすいです。針を刺す前に皮膚を外反させるのは重要ですが、その際に皮膚をガッチリつかまないようにしましょう。参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.2)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.3)上田 晃一 編. PEPARS(ペパーズ)88 コツがわかる!形成外科の基本手技―後期臨床研修医・外科系医師のために―. 全日本病院出版会;2014.4)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

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認知症予防に対するビタミンB摂取~メタ解析

 ホモシステインレベルの上昇は、認知症のリスク因子として確立されているが、ビタミンBを介したホモシステインレベルの低下が認知機能改善につながるかは、よくわかっていない。中国・首都医科大学のZhibin Wang氏らは、ビタミンBの摂取が認知機能低下や認知症発症リスクを減少させるかについて、調査を行った。Nutrition Reviews誌オンライン版2021年8月25日号の報告。 2020年3月1日までに公表された文献をPubMed、EMBASE、Cochrane Library、Web of Scienceよりシステマティックに検索した。ビタミンB摂取による認知機能低下への影響を調査したランダム化臨床試験(RCT)、食事によるビタミンB摂取と認知症発症リスクに関するコホート研究、ビタミンBとホモシステインレベルの違いを比較した横断的研究を含めた。2人のレビュアーが独立してデータを抽出し、研究の質を評価した。不均一性の程度に応じてランダム効果モデルまたは固定効果モデルを用いて、平均差(MD)、ハザード比(HR)、オッズ比(OR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・95件の研究(RCT:25件、コホート研究:20件、横断的研究:50件)より4万6,175例をメタ解析に含めた。・メタ解析では、ビタミンB摂取がミニメンタルステート検査スコアの改善(6,155例、MD:0.14、95%CI:0.04~0.23)、プラセボと比較した認知機能低下の有意な遅延(4,211例、MD:0.16、95%CI:0.05~0.26)が認められた。・ビタミンB介入期間が12ヵ月を超える群では、プラセボと比較し、認知機能低下の減少が認められた(3,814例、MD:0.15、95%CI:0.05~0.26)。この関連は、より短い介入期間では認められなかった(806例、MD:0.18、95%CI:-0.25~0.61)。・認知症でない人では、ビタミンB摂取により、プラセボと比較し、認知機能低下の遅延が認められたが(3,431例、MD:0.15、95%CI:0.04~0.25)、認知症患者では認められなかった(642例、MD:0.20、95%CI:-0.35~0.75)。・葉酸レベルの低さ(B12、B6欠乏ではない)は、認知症リスク(6,654例、OR:1.76、95%CI:1.24~2.50)や認知機能低下(4,336例、OR:1.26、95%CI:1.02~1.55)と有意に関連していた。・ホモシステインレベルの高さは、認知症リスク(1万2,665例、OR:2.09、95%CI:1.60~2.74)や認知機能低下(6,149例、OR:1.19、95%CI:1.05~1.34)と有意に関連していた。・50歳以上の認知症でない人において、葉酸摂取量の多さと認知症リスクの有意な減少との関連が認められた(1万3,529例、HR:0.61、95%CI:0.47~0.78)。一方、B12またはB6摂取量の多さと認知症リスクの低さとの関連は認められなかった。 著者らは「ビタミンB摂取は認知機能低下の遅延と関連していることが示唆された。とくに、早期介入と長期介入でその影響は顕著であった。また、認知症でない高齢者において、食事による葉酸摂取の多さは、認知症リスクの低下と関連していることも示唆された」とし「高齢化社会を迎えている各国では認知症患者が増加していることから、認知症リスクを有する人に対し適切なビタミンB摂取を推進するような公衆衛生対策の導入を検討すべきであろう」としている。

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エドキサバン、TAVR後の心房細動でビタミンK拮抗薬に非劣性/NEJM

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)の成功後に心房細動がみられる患者(主に慢性心房細動)の治療において、経口直接第Xa因子阻害薬エドキサバンは、ビタミンK拮抗薬に対し有効性の主要アウトカムが非劣性であるが、優越性は不明であり、消化管出血が多いことが、オランダ・エラスムス大学医療センターのNicolas M. Van Mieghem氏らが実施した「ENVISAGE-TAVI AF試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月28日号で報告された。14ヵ国173施設の非盲検無作為化試験 本研究は、日本を含む14ヵ国173施設が参加した非盲検無作為化試験であり、2017年4月~2020年1月の期間に参加者の登録が行われた(Daiichi Sankyoの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、重症大動脈弁狭窄症に対するTAVRが成功した後に、30秒以上持続する慢性または初発の心房細動がみられる患者であった。被験者は、エドキサバン(60mgまたは30mg、1日1回)またはビタミンK拮抗薬(ワルファリン、フェンプロクモン、アセノクマロール、フルインジオン)の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要アウトカムは、臨床的な有害イベント(全死因死亡、心筋梗塞、虚血性脳卒中、全身性血栓塞栓症、人工弁血栓症、大出血)の複合とされた。安全性の主要アウトカムは大出血であった。アウトカムの判定者には、割り付け情報が知らされなかった。 階層的検定計画に基づき、有効性および安全性の主要アウトカムの非劣性検定が連続的に行われた。ハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)の上限値が1.38を超えない場合に、エドキサバンの非劣性が確定された。大出血に関してエドキサバンの非劣性と優越性が確認された場合に、引き続き有効性の優越性検定を行うこととされた。有効性の主要アウトカム:100人年当たり17.3 vs.16.5 1,426例が登録され、エドキサバン群とビタミンK拮抗薬群に713例ずつが割り付けられた。全体の平均年齢は82.1歳、47.4%が女性であった。99%でTAVR施行前から心房細動がみられ、初発心房細動は15例のみだった。試験期間中に、エドキサバン群の30.2%(215例)、ビタミンK拮抗薬群の40.5%(289例)が投与を中止した。 有効性の主要アウトカムは、エドキサバン群の170例(17.3/100人年)、ビタミンK拮抗薬群の157例(16.5/100人年)で認められ(HR:1.05、95%CI:0.85~1.31、非劣性検定のp=0.01)、エドキサバン群のビタミンK拮抗薬群に対する非劣性が確定された。 大出血は、エドキサバン群の98例(9.7/100人年)、ビタミンK拮抗薬群の68例(7.0/100人年)でみられ(HR:1.40、95%CI:1.03~1.91、非劣性検定のp=0.93)、非劣性は確認されなかった。この差の原因は、主にエドキサバン群で消化管の大出血が多いためであった(56例[5.4/100人年]vs.27例[2.7/100人年]、HR:2.03、95%CI:1.28~3.22)。プロトンポンプ阻害薬が投与されていた患者の割合は、両群で同程度だった(71.7%、69.0%)。 この段階で、階層的検定が不成功となったため、エドキサバン群の優越性に関する正式な検定は行われなかった。 100人年当たりでみた全死因死亡の発生は、エドキサバン群が7.8、ビタミンK拮抗薬群は同9.1(HR:0.86、95%CI:0.64~1.15)であり、虚血性脳卒中はそれぞれ2.1および2.8(0.75、0.43~1.30)、心筋梗塞は1.1、0.7(1.65、0.65~4.14)、全身性血栓塞栓症は0.2、0.3(ハザード比は算出していない)であった。人工弁血栓症は両群で発現しなかった。また、100人年当たりでみた全死因死亡または脳卒中の発生は、エドキサバン群が10.0、ビタミンK拮抗薬群は11.7(HR:0.85、95%CI:0.66~1.11)だった。 著者は、「ビタミンK拮抗薬群では、投与中止例の割合が高かったことなどが、出血のアウトカムに影響を及ぼした可能性がある」としている。

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切り傷の縫合処置(手術器具、糸、針の選択)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第5回

第5回 切り傷の縫合処置(手術器具、糸、針の選択)《解説》お待たせしていましたが、今回は、縫合の主役である手術器具の選択について、知っておくべきポイントを説明していきます。形成外科の縫合で使われる器械は、外科系の他科よりも繊細で細かい操作が可能なものが多いです。とはいっても、人によって好みが分かれるので、一例として参考にしていただければと思います。(1)器械の選択持針器(じしんき)へガール型、マチュー型などがあります。通常、形成外科では3−0~7−0といった細手の針付き縫合糸を使用することが多く、繊細な操作がしやすいへガール型を使います。一方、これより太く、大きな針を使う縫合糸や、弾機針(針の根元が糸を通しやすい構造になっているもの)に絹糸などを掛けて使用する場合は、マチュー型を使用します。大きな針を繊細なヘガール型でつかむと器具が傷むので注意しましょう。鑷子、スキンフック形成外科では、先が細くなっている鑷子(セッシ、ピンセット)の中でも小さいものを使います。マッカンドー、アドソン、ビショップハーモンの3種類が代表的で、大きさで適切なものを選んでいきます。それぞれ、先端部に「鈎(こう)」がついている有鈎と、ついていない無鈎があります。ほかに、形成外科や皮膚科は、スキンフックもよく使います。どれを使うにせよ、組織をがっちりつかんではいけません! 皮膚の縫合、剥離に用いる鑷子は、好みにもよりますが、「有鈎」が多いです。皮膚を直接つかむのではなく、漫画の図のように皮下組織をつかみます。または、スキンフック(有鈎)の鈎を引っ掛けて使います。剪刀やメスも必要に応じて使用しますが、ここでの説明は省きます(解説は別の回で行う予定です)。そのほか、縫合セットには筋鈎やモスキート鉗子、メッツェンバウム剪刀などもあると安心です。(2)縫合糸の選択縫合糸の種類について、大きく分けると吸収糸と非吸収糸に分けられます。天然素材(わが国では絹糸のみ)か合成素材かでも分かれますが、外来で取り扱う創傷の縫合においては、ほぼ合成繊維の糸しか使いません。また、それぞれモノフィラメント(単繊維糸)とマルチフィラメント(多繊維の撚糸)があります。図1:縫合糸の種類非吸収性縫合糸:治癒後の抜糸が必要なので、表皮組織を中心に使用モノフィラメントの成分としては、ナイロン、ポリプロピレン、ポリブテステル、ポリフッ化ビニリデンなど(商品名:エチロン、ノバフィル、プロリーンなど)がありますが、ポリアミド系のナイロンは使用頻度が高く、多くの病院に置いてあると思います。マルチフィラメントの成分にはナイロンとポリエステル(同:サージロン、ベアブレードなど)があります。吸収性縫合糸:生体内で加水分解を受けて吸収されるため、主に真皮・皮下組織に使用モノフィラメントの成分としては、ポリジオキサノン、ポリグリコネート、ポリグレカプロン25など(商品名:PDSII、マクソン、モノクリルなど)、マルチフィラメントの成分は、ポリグラクチン910やラクトマー9-1など(同:バイクリル、ポリゾーブなど)が使われています。より吸収時間が短くなるように加工されている製品もあります。種類によって、強度持続時間や吸収日数が異なるので、必要に応じて選びます。たとえば、頬部の真皮縫合は6-0吸収性合成モノフィラメント糸、表皮縫合は7-0非吸収性合成モノフィラメント糸など。強度が持続するものは傷痕を小さくし、創部がきれいになるメリットがありますが、細菌感染などによる縫合糸膿瘍のリスクもあるので、メリット・デメリットのバランスを考えて選びましょう。(3)針の選択針の形状(と、使用する糸の太さ)は、図のようにパッケージに表示されています。形成外科では、皮膚表面や軟部組織を扱うことが多いです。皮膚の縫合では糸付きの角針、とくに逆三角形の3/8円の弱彎針がよく使われます。深部の縫合になると1/2円の強彎または5/8円の強強彎が便利です。裂けてしまいそうな組織、たとえば口腔内の粘膜などには丸針を使うこともあります。図2:縫合針の分類そのほか、糸を切るための糸切りばさみ(眼科用セーレ、太めの糸であればクーパー)、出血などを拭く滅菌ガーゼなども忘れずに準備しましょう。また、今回紹介した内容は、あくまでも縫合をするために必要な最低限のセットなので、デブリードマンなど追加の処置をする場合は、道具も適宜追加してください。参考1)McCarthy J.G. Introduction to plastic surgery. Plastic Surgery. Vol 1. Philadelphia:W. B. Saunders Co.;1990.p.42-53.2)小林 寛伊. 縫合材料の歴史と問題点. 医科器械学雑誌. 1975;45:627−634.3)日本医療用縫合糸協会ホームページ4)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.5)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.6)上田 晃一 編. PEPARS(ペパーズ)88 コツがわかる!形成外科の基本手技―後期臨床研修医・外科系医師のために―. 全日本病院出版会;2014.

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先生!その縫合の目的は何ですか?~縫合の歴史と目的~【漫画でわかる創傷治療のコツ】第4回

第4回 先生!その縫合の目的は何ですか?~縫合の歴史と目的~《解説》さて、前回から切り傷の縫合処置について解説していますが、まずは準備段階として、創部確認~局所麻酔~消毒を中心にお話ししました。今回は、実際の縫合処置に入る前のアイスブレイクとして、縫合処置の歴史と目的を確認しておきましょう。そもそも、縫合は何のために行われるのでしょうか? 創面積の縮小が1つの目的ではありますが、組織の欠損が大きくなければ、縫合しなくても適切な軟膏処置などで傷自体は治ります。縫合するということは、組織の一部が血行不良となるので、誤った処置はむしろ創縁の壊死や創離開の原因となり、治癒が遅くなることさえあるのです。では、わざわざ異物である縫合糸を使って縫合する理由は何でしょうか。縫合は、大きく分けると、皮膚表面を縫う縫合と皮下(真皮も含む)を縫う縫合の2つがあります。これらの縫合によって、創傷の一次治癒を達成できるだけでなく、最小の瘢痕形成にとどめられるという利点があります。切り傷によって、本来の生体構造にはない空間(死腔)ができると、そこに浸出液や壊死組織がたまって感染源になってしまいます。感染すると傷の治りが遅れ、一次治癒が阻害されて傷痕が残ります。つまり、適切な縫合処置をすることで、傷の治りが良く(早く)なるだけでなく、傷自体も小さくすることができるのです!次回は、実際の縫合処置を行うために用意する道具(器械、糸、針)について説明します!参考1)McCarthy J.G. Introduction to plastic surgery. Plastic Surgery. Vol 1. Philadelphia: W. B. Saunders Co.;1990.p.42-53.2)小林寛伊. 縫合材料の歴史と問題点. 医科器械学雑誌. 1975;45:627−634.3)日本医療用縫合糸協会ホームページ

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乾癬治療の生物学的製剤、重篤感染症リスクの違いは?

 乾癬治療の生物学的製剤と重篤感染症リスクについて、生物学的製剤を選択する際に有用な研究報告が、フランス医薬品・保健製品安全庁(ANSM)のLaetitia Penso氏らによる中等症~重症の乾癬患者を対象としたコホート研究で示された。 エタネルセプト新規使用者を比較対照とした重篤感染症リスクは、インフリキシマブ、アダリムマブでは高い一方、ウステキヌマブでは低かった。またIL-17およびIL-23阻害薬やアプレミラストでは重篤感染症リスクの増大は認められなかったものの、非ステロイド性抗炎症薬や全身性コルチコステロイドとの併用によって増大したという。著者らは、「さらなる観察研究で、最新の薬剤に関する結果を確認する必要がある」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2021年7月21日号掲載の報告。 研究グループは、フランス国民の約99%をカバーする国民健康データシステム(National Health Data System)のデータを用いて、エタネルセプトを比較対照薬として、乾癬治療に使用される生物学的製剤およびアプレミラストの重篤感染症のリスクを評価するコホート研究を行った。 2008年1月1日~2019年5月31日にデータベースに登録された、2年以内に2つ以上の局所ビタミンD誘導体の処方を受けた成人乾癬患者を適格と定義し、試験対象集団には、生物学的製剤またはアプレミラストの新規使用者(すなわち前年に生物学的製剤またはアプレミラストの処方がなかった)を包含した。HIV感染症やがん、移植、または重篤感染症の既往者は除外した。フォローアップ終了は2020年1月31日であった。 主要エンドポイントは重篤感染症の発生で、傾向スコア加重Cox比例ハザード回帰モデルを用いたtime-to-event解析で、加重ハザード比(wHR)と95%信頼区間(CI)を算出して評価した。 主な結果は以下のとおり。・生物学的製剤の新規使用者計4万4,239例が特定された。平均年齢は48.4(SD 13.8)歳、男性が2万2,866例(51.7%)、追跡期間中央値は12ヵ月(四分位範囲:7~24)だった。・計2万9,618例(66.9%)が初回に腫瘍壊死因子阻害薬を、6,658例(15.0%)がIL-12/23阻害薬を、4,093(9.3%)がIL-17阻害薬を、526例(1.2%)がIL-23阻害薬を、そして3,344例(7.6%)がアプレミラストの処方を受けた。・重篤感染症の発生は計1,656件で、全体の粗発生率は1,000人年当たり25.0(95%CI:23.8~26.2)だった。・最も頻度の高い重篤感染症は消化管感染症であった(645例・38.9%)。・時間依存共変数を調整後、重篤感染症のリスクはエタネルセプトの新規使用者と比べて、アダリムマブ(wHR:1.22、95%CI:1.07~1.38)またはインフリキシマブ(1.79、1.49~2.16)の新規使用者では増大した。・同様の評価で、ウステキヌマブの新規使用者では低下した(wHR:0.79、95%CI:0.67~0.94)。・同様の検討で、IL-17およびIL-23阻害薬グセルクマブまたはアプレミラストの新規使用者では、増大は認めらなかった。・重篤感染症リスクは、非ステロイド性抗炎症薬または全身性コルチコステロイドの併用で増大することが認められた。

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ビタミンBと認知症リスクに関する性差~日本のメモリークリニック外来患者での調査

 認知症や認知機能障害は、重大な社会的および医学的な問題の1つである。ビタミンBと認知機能低下には明確な関係が認められるが、男女間の差に関しては、十分な評価が行われていない。昭和大学の三木 綾子氏らは、性別によるビタミンB1またはB12と認知症との関連を調査した。Frontiers in Aging Neuroscience誌2021年4月9日号の報告。 2016年3月~2019年3月に昭和大学病院のメモリークリニック外来を受診した188例を対象に、性別によるビタミンB1またはB12と認知症との関連を調査した。認知機能の評価には、ミニメンタルステート検査(MMSE)日本語版、改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)を用いた。ビタミンレベルを測定するため、血液検査を実施した。ロジスティック回帰分析を用いて、認知症のオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。ビタミンレベルに応じて3つに分類した。 主な結果は以下のとおり。・ビタミンレベルが高い女性と比較し、ビタミンレベルが低い女性では、認知症(MMSEスコア23以下)のORの有意な増加が確認された。 【ビタミンB1】OR:3.73、95%CI:1.52~9.16 【ビタミンB12】OR:2.97、95%CI:1.22~7.28・対照的に、男性ではビタミンレベルと認知症との有意な関連は認められなかった。・認知症の定義に、HDS-R(スコア20以下)を用いた場合でも、同様であった。 著者らは「認知症発症を予防するうえで、女性ではビタミンB1摂取が有効である可能性が示唆された。ビタミンレベルの低下が認知障害の前後いずれで起こるのか、高ビタミンレベルを維持すれば認知機能の悪化や認知症発症を予防できるかを明らかにするためには、今後の縦断的研究が必要とされる」としている。

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切り傷の縫合処置(創部確認~局所麻酔~消毒)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第3回

第3回 切り傷の縫合処置(創部確認~局所麻酔~消毒)《解説》前回は、擦過傷(擦り傷)についての基礎的な解説をしました。今回は、切創の縫合処置について、基本的なことを何回かに分けて説明していこうと思います。※咬傷などの術後感染が懸念される場合については、また別途解説予定です。けがから8時間以内の切り傷は一次縫合の適応受傷後8時間以内で汚染が少ないと考えられる切創であれば、縫合処置で一次治癒(切り傷がそのままくっついて、傷痕が少なく治る状態)を目指しましょう。その場で縫合を行うかの判断は、創の部位、汚染の有無、基礎疾患などを考慮し、リスクを患者さんにしっかり説明したうえで行います。どうしても迷って決断できない場合や、縫合の手技が難しいと考えた場合は、洗浄と軟膏処置のみ行い、できるだけ早めの形成外科受診を促してください。それでは、実際の処置の流れを説明します。(1)創部の確認まずは、創を簡単に確認しましょう。顔面は、眼瞼や耳介、鼻など特徴的な形態の部位が多く、また口唇の赤唇と白唇といった解剖学的に境界線を有する組織もあるため、ランドマークは先にマーキングしておきましょう。後ほどの処置で、局所麻酔薬による腫脹やエピネフリンによる血管収縮で境界がわからなくなってしまうことがあります。(2)洗浄:必要に応じて局所麻酔と組み合わせる前回取り上げた擦過傷と同様に、洗浄が大切です! 切創の場合、洗浄前に縫合処置の必要性が高そうだと判断できるならば、先に局所麻酔をしておくと、創部を観察しやすくなるのでおすすめです。とくに小児の場合は、表面麻酔をしてから局所浸潤麻酔をすると、麻酔時の痛みも軽減できます。洗浄の方法については、前回の記事も参考にしてください。(3)局所麻酔皮膚表面の外傷に対して主に使用するのは、表面麻酔、浸潤麻酔、伝達麻酔です(ほかに、脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔などがあります)。外来で最も一般的なのは局所浸潤麻酔で、薬剤を皮下や粘膜下に直接注射して浸潤させる方法です。表に、よく使用する局所麻酔薬をまとめました。pKaは作用発現の速さ、分配係数は効果の強さ、蛋白結合率は作用時間の長さと関連しています。たとえば、リドカインだと数分で麻酔が効いてきて、1〜1.5時間(エピネフリン添加であれば2時間)作用が持続しますよ!表:よく使用する局所麻酔薬と各指標なお、麻酔にはリスクが伴うことも念頭に置いておきましょう。薬剤の血中濃度が高くなり過ぎると、中枢神経や心筋のナトリウムチャネル遮断が起こり、中毒症状(めまい、舌のしびれ、耳鳴り、多弁、興奮状態、意識障害、痙攣、昏睡、呼吸停止、循環虚脱)が発現する恐れがあります。麻酔前に同意書を書いていただく際などに、再度リスクについての説明をしておきましょう。禁忌や慎重投与(陰茎、指鼻などの末端部位)でなければ、1%エピネフリン含有リドカインを使うことが多いです。エピネフリンは血管収縮の作用があり止血効果、麻酔薬作用時間の延長効果があります。しかし、動悸頻脈を引き起こすことがあるので注意しましょう。《麻酔時の痛みが出やすいタイミングと対処法》注射薬や洗浄時に皮膚が切れるとき⇒表面麻酔を併用し、30Gなどの細い注射針を使用しましょう。薬剤が浸潤するとき⇒最初は狭い範囲に注射を行い、薬剤をゆっくり注入(slow injection)して、薬が浸潤したところから徐々に広げていきましょう。pH調整(炭酸水素ナトリウム注射液を約10%混ぜるなど)も有効です。極量とは:これを超える量は局所麻酔薬中毒を誘発する危険性が高く、使用してはならない量。極量の半分を超える用量を目安に注意を要します。例)リドカイン1%の極量は5mg/kg(体重50kgの場合25mL) エピネフリン含有リドカイン1%の極量は7mg/kg(同上35mL)(4)その他の麻酔方法:ブロック麻酔指や顔でも、範囲が大きい場合はブロック麻酔を使うと便利です。《指ブロック麻酔》エピネフリンを添加していない麻酔薬を用いることが多いです。指の神経は、漫画にも示した図のように手背側では伸筋腱の両側面の皮下を走行しており、手掌側ではMP関節(指の付け根)の付近で二つに分かれて屈筋腱の両側を走行しています。そのため、指間部で背側2ヵ所、掌側2ヵ所に麻酔薬を注入します。《顔面のブロック麻酔》鼻などはかなり痛みが強い部位なので、顔の神経ブロックを併用すると薬剤の注入時も疼痛が軽減できます。眼窩上神経は三叉神経第1枝の抹消枝であり、眉毛部や前額部の痛みに適応、眼窩下神経は三叉神経第2枝領域であり、下眼瞼や上口唇、鼻腔領域の痛みに適応します。また、オトガイ神経ブロックは、下口唇や頤部の痛みに適応します。切創ではとくに、創部の除痛をしっかり行って洗浄しましょう。砂や小石などの異物はすべて取り除きます。この時に、損傷の深さはどのくらいなのか(たとえば、皮下組織までにとどまっているのか、筋層まで断裂しているのか、腱や神経、主要な血管の損傷がないかなど)を再確認しましょう。(5)消毒、ドレーピング縫合前準備の仕上げとして、縫合する範囲とその周囲を消毒しましょう。顔面にエタノールは、目や粘膜の刺激になるので絶対にやめてくださいね!外来なら、クロルヘキシジン0.05%やポビドンヨードなどが置いてあると思います。ポビドンヨードは術野に色が付いてしまうので、状況によって使い分けてくださいね。今回は、縫合前の準備についてまとめました。次回は、縫合に使用する道具の選択や使い方について解説していく予定です!参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.2)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.3)土肥 修司ほか編. イラストでわかる麻酔科必須テクニック. 羊土社;2019.4)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.5)岡崎 睦 編. PEPARS(ペパーズ)127 How to局所麻酔&伝達麻酔. 全日本病院出版会;2017.6)一般社団法人 日本創傷外科学会ホームページ

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第24回 高齢糖尿病患者のサルコペニア、介入タイミングと方法は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第24回 高齢糖尿病患者のサルコペニア、介入タイミングと方法は?Q1 評価法と介入の判断、目標設定の考え方について教えてください2019年にアジアのワーキンググループにおいて、サルコペニアの診断基準の変更がありました1)。これによると、一般の診療所におけるサルコペニアの簡単なスクリーニングと評価法が示されています。すなわち、下腿周囲長が短いもの、SARC-Fと呼ばれる簡単な10点満点の質問で4点以上のもの、あるいはその両者をあわせたSARC-Calfと呼ばれるスコアが高値のものは評価の対象となります。評価としては握力または5回椅子立ち上がりテストを行い、前者では男性<28kg、女性<18kg、後者では12秒以上かかるものはサルコペニアの可能性ありとして介入をはじめてよいとされています。本来サルコペニアの確定診断には筋量測定が必要ですが、これにはDXA法やバイオインピーダンス法といった特殊な装置が必要であり一般診療所では行いにくいこと、さらに身体機能として示されてきた歩行速度も実地では実施が困難であるため、より簡便な握力と椅子立ち上がりで評価できるようになりました。なお、近年筋量より筋力のほうが予後をよく反映するとする報告がみられています。これらの指標(下腿周囲長、握力、椅子立ち上がり)の維持・向上を目標とするわけですが、筋量の増加は効果が認めにくい一方で、筋力や身体機能の改善はその後の機能予後の改善やフレイルの予防に重要です。さらに、トレーニングの内容にもよりますが、握力よりも下肢筋力や下肢運動機能のほうが効果が出やすいようです2)。したがって、クリニックにおいては、椅子立ち上がりテストを定期的に行って、時間の短縮を確認することが治療効果の評価に有効ではないかと思います。改善が認められたら努力を賞賛し、さらに0.5~1秒短い目標時間を設定する、とすればモチベーションも維持できるのではないかと思います。Q2 食事療法・タンパク質量の設定について、具体的な考え方は?日本人の食事摂取基準(2020年版)では、フレイルおよびサルコペニアの発症予防を目的とした場合、65 歳以上では少なくとも1.0g/kg体重/日以上のタンパク質を摂取することを推奨していますので3)、1日およそ60g以上, 1食当たり20g以上となります。低栄養が疑われるものではさらに多くの摂取が推奨されます。魚、鶏ささみ肉、牛赤身肉など油脂が少ない肉は100g当たり約20gのタンパク質を含みますが、バラ肉などの油脂が多い肉や加工肉では含量が少なくなるため注意が必要です(表)。画像を拡大するタンパク質を十分摂取するには、まず3食食べ欠食しないこと、それぞれにタンパク質を含む主菜をとることが重要です。主食を増やさず油脂の多い肉を避けるよう指導すれば体重はさほど増加しないと考えられますし、多少の増加は許容しています。肉がとりにくい人は、大豆製品や乳製品を利用しますが、20gのタンパク質を豆腐からとるには300g(1丁)が必要であり、やはり肉、魚の摂取を勧めたいところです。また単品料理よりもグラタン、クリームシチュー、ピカタなどにすることで乳製品や卵のタンパク質を追加したり、みそ汁に豆腐や油揚げを入れるなどの工夫も有効ですが、脂質や塩分の増加には注意します。麺類をとる時などは、卵、ツナ缶、納豆などをトッピングしたり、冷奴など一品追加するようにします。ビタミンDもタンパク質合成に重要ですが、きのこ類の他、イワシ、サンマ、サケなどの魚類に豊富に含まれるため、魚を1日1食とるように勧めます。腎機能低下例にもタンパク質摂取を勧めるべきかには議論があります。慢性腎臓病(CKD)ではタンパク制限が末期腎不全への進行を防止するとするエビデンスがある一方、サルコペニアを合併した高齢者では死亡リスクが高いが高齢CKDではタンパク制限が死亡率上昇につながることも報告されています。したがって、2019年に日本腎臓学会が公表した「サルコペニア・フレイルを合併した 保存期 CKD の食事療法の提言」では、末期腎不全への進行予防を重視するか、死亡リスクを重視するかで摂取量を柔軟に設定することとしています5)。すなわち死亡リスクが高いと考えられる例、サルコペニアが重度と考えられる例ではタンパク質の摂取制限を緩めることを考えますが、それでもCKD4-5期ではタンパク0.8g/kg体重/日を上限とするとしています。Q3 運動療法・筋肉量を増やすための指導法についてサルコペニアの予防・治療にはレジスタンス運動を含む運動が重要です。強度については、高齢者においては、低強度であっても反復して行うことによって筋力や筋量の向上が期待できるという報告があります6)。実際に高齢者が定期的にジム通いして高強度の運動を継続することは難しく、自宅で自重や簡単な器具(ゴムチューブ)などを用いた運動が適当であり、継続もしやすいと考えられます。たとえば中腰のスクワットや座位でのももあげ、つまさきあげ、かかとあげだけなどでも効果が期待できます。そのうえで、本人が「楽」と感じるレベルから「ややきつい」レベルにあげていくとよいでしょう。歩行などの有酸素運動やバランス運動、柔軟性運動を組み合わせた多要素の運動も勧められますが(図)、バランス運動の施行時には転倒に注意が必要です。また当然ながら十分なタンパク質摂取をあわせて指導することが重要です。画像を拡大する運動には継続も必要ですが、意欲を保つのは容易ではありません。運動を開始、継続してもらうには具体的な目標を設定することと、毎日記録をつけてもらうことが大切です。歩数計をもたせて目標を設定し記録してもらいます。また、たとえばいくつかの運動の画を書いた簡単なカードを作成して渡し(Webにもいろいろヒントがあります)、行ったらマルをつけて提出してもらいます。それに対し必ずコメントをし(がんばりました、もう一息など)新しい記録紙を渡して、少し高い目標を患者さんと一緒に設定します。昔ラジオ体操のカードにはんこを押してもらった、あの感覚です。どうしても意欲が乏しいときは、場合によってはご家族も巻き込んで一緒に運動するようお願いしています。また、前述のようにたびたび椅子立ち上がりや握力などの検査を行い、結果をフィードバックして効果を実感してもらうことがモチベーション維持に大切であると考えます。Q4 サルコペニア傾向ないしやせ型の高齢糖尿病患者さんにSGLT2阻害薬を使ってよいでしょうか?最近日本人2型糖尿病患者へのSGLT2阻害薬の投与の体組成への影響の違いを検討した研究の65~74歳のサブ解析において、SGLT2阻害薬はメトホルミンと比較して筋量や筋力の低下をきたさなかったと報告されましたが7)、BMI≧22、平均BMI 27とやや肥満で筋量や筋力も保たれているものを対象としており、75歳以上の患者ややせた患者の筋量や筋力への影響は明らかではありません。日本糖尿病学会が策定・公表している「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」でも、75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳でサルコペニアなどの老年症候群のある場合の投与は注意して慎重に行う、とされており8)、やはりこれらの患者ではなるべく使用を避け、使用する場合はタンパク質摂取と運動が十分に行われていることを確認することが重要です。さらに定期的に体重、筋力や運動機能をフォローし、明らかな低下がみられた時には中止を検討すべきと考えられます。1)Chen LK, et al, J Am Med Dir Assoc 2020 ;21: 300-307.2)Makizako H et al, J. Clin. Med. 2020, 9, 1386.3)厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版) 」4)文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂) 」5)日本腎臓学会「サルコペニア・フレイルを合併した 保存期 CKD の食事療法の提言」6)山田実. 日老医誌 2019;56:217-226.7)Koshizaka M, et al, Diabetes Ther 2021; 12: 183-196.8)日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」2020

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痒みの悩みは軽そうでじつは重い問題/マルホ

 マルホ株式会社は、同社の実施した「頭皮トラブルを抱える生活者実態調査の結果」がまとまったことから「頭部の皮膚炎特有の悩みがもたらすQOL への影響と治療法の広がり」をテーマにWEB上でメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、調査結果の概要とともに最新の頭部皮膚炎の治療法などの説明が行われた。頭皮トラブルで通院が必要とだと考えていない人が47% はじめに「頭皮トラブルを抱える患者の実態とQOLへの影響」をテーマに江藤 隆史氏(あたご皮フ科 副院長)が講演を行った。 頭皮のトラブルの原因となる疾患では、「アトピー性皮膚炎」、「脂漏性皮膚炎」、「接触皮膚炎」などが挙げられる。とくにアトピー性皮膚炎では、42%の患者が頭部・顔面・頸部に病変を有し、34%は頭部湿疹を有するとの報告もある。 今回の「頭皮トラブルを抱える生活者実態調査」は、全国の頭皮トラブルを抱える16~69歳の男女1,200名を対象にインターネットで行われた。 調査結果によると「頭皮トラブルを抱える人の割合」は20.7%で、人口割合に換算すると約1,700万人が同様の悩みを抱えていると推定される。 主な頭皮トラブルの症状は、「痒みのみ」(29.4%)が一番多く、つぎに「痒みとフケ」(15.8%)、「痒みとフケとぶつぶつ・炎症・赤み」(15.0%)が上位を占めた。 「悩んでいる期間」に注目してみると、たとえば回答数が1番多い「痒み」について回答者の59.6%が1年以上前から悩んでおり、解決策を見出せないという。 この「痒みの影響」について、とくに頭皮の痒みについての回答では、「気が付くとずっとかいている」と回答した人が36.9%、「眠れない、または眠りが浅い」と「じっとしていられない」が同数で22.6%の順で多く、日常生活で不便な生活をもたらす結果となっていることがわかった。また、関連として「フケ」について聞いたところ、「いつも洋服の肩口にフケが積もっている」が37.5%、「かみの毛に白く浮いているのが目立つ」が35.3%、「フケのために掃除が必要」が22.7%の順で多く、「頭皮の悩み」が「どのような精神的影響を与えているか」を聞いたところ「周囲の目が気になる」(24.0%)、「頭皮が気になり、集中できない」(21.4%)、「すべてに消極的になる」(15.8%)の順で回答が多かった。 こうした頭皮のトラブルへの対処について現在行っていることは「市販のシャンプーやコンディショナーをしっかり洗い流す」(41.8%)、「市販のシャンプーを変える」(33.9%)、「髪、頭皮の洗い方を変える」(27.8%)の順で多く、「病院に通う」は12.7%と医療機関に通院する人は少なく、また、「何も行っていない」という人も27.6%と多かった。「医療機関に通ったことがない」その理由としては、「通院するほどの症状ではないから」(47.0%)、「お金がかかってしまいそうだから」(34.6%)、「病気だと思っていないから」(30.4%)の順で多かった。 これらの調査から頭皮トラブルがある人は長期間悩みを抱えながらも、諦めている人が多く、そのトラブルゆえにQOLが低下している人が多いことが判明した。 江藤氏は、頭皮などのトラブルを放置したときの問題点として「症状の悪化」、「治療経過の悪化」、「脱毛や難治化」などを挙げ、「気になる症状があれば早めに皮膚科を受診して、正しい診断と治療を受けてほしい」と語り、説明を終えた。頭皮トラブルをシャンプーで治療する 次に五十嵐 敦之氏(NTT東日本関東病院 皮膚科部長)が、「頭部の痒み/湿疹・皮膚炎の治療法の広がり ~実臨床における最新トピックス~」をテーマに頭皮トラブルの診療について説明した。 頭部の痒み、フケなどを有する主な皮膚疾患としては、乾癬、湿疹・皮膚炎が代表であり、とくに皮膚炎では刺激物質との対応が明確な接触皮膚炎、光接触皮膚炎と刺激物質との対応が不明確なアトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹などがある。 たとえばアトピー性皮膚炎では、成長するにつれて軽快傾向を示すが最近では成人でも症状が残る例も増えている。一般的に痒みが強く、屈曲部、上肢、頭部、頸部、顔面などに多く発症する。そして、頭皮に長期にわたり持続すると、炎症性障害が毛球部にまで波及し、まれに休止期性脱毛に進展する。 こうした皮膚疾患には、ステロイド外用薬や抗ヒスタミンなどの内服薬が治療で使われ、アトピー性皮膚炎では免疫抑制剤や保湿剤が、脂漏性皮膚炎では抗真菌剤、非ステロイド性抗炎症剤外用薬、尿素外用薬、ビタミン剤なども治療で使用されている。同時にアトピー性皮膚炎では服や洗濯への配慮が、脂漏性皮膚炎ではストレス軽減、食事、嗜好品など日常生活での注意も必要とされている。 外用薬では、患者アンケートなどから「べたつき」「塗りにくさ」「垂れる」などの不満の声も聞かれ、患者の希望やライフスタイルの合わせた薬剤や剤形を選択しての治療が望まれている。 こうした声に対応するかたちで最近では、シャンプー剤による頭部の疾患(尋常性乾癬、湿疹・皮膚炎)に有用な治療法としてステロイドシャンプーによる“Short contact therapy”が保険適用となり、治療の幅は拡大している。 五十嵐氏も最後に「頭皮のトラブルはQOLに影響するため、気になる症状があれば、早めの皮膚科受診をしてほしい」と専門医への診療を促し、説明を終えた。

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擦り傷の治療(洗浄、異物除去、被覆材の選択)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第2回

第2回 擦り傷の治療(洗浄、異物除去、被覆材の選択)《解説》創傷には、急性創傷(外傷など)と慢性創傷(褥瘡など)がありますが、今回は急性創傷の中から、擦過傷(さっかしょう)をテーマに取り上げました。主な外傷は、ほかに切創(せっそう)、裂挫創(れつざそう)、刺創(しそう)、咬傷(こうしょう)などがあります。擦過傷とは、いわゆる擦り傷のことで、道路や塀などに擦り付けられ、皮膚が擦りむけた状態の創傷です。損傷自体は浅く、真皮層などに留まることが多いです(皮下組織まで達している場合は、擦過創になります)。通常、軽度の場合は自然治癒しますが、傷に土や砂などが入り込んだまま上皮化すると、外傷性刺青といって皮膚に異物の色が残ってしまうことがあるため、初期治療で異物を取り除くことが非常に大事です。それでは、実際の処置の流れを説明していきます。(1)洗浄擦過傷に限らず、外傷の処置はまず汚染を取り除くこと、つまり洗浄が第一です。創部の直接消毒は創傷治癒を邪魔してしまうので、現在ではほとんどの場合推奨されません。洗浄水は、基本的に水道水でよい1)ですが、深部組織の場合は生理食塩水のほうがよいです。汚染が強い場合には、せっけんも使用可。十分な水で洗浄し、創部に付着している細菌を減らすことが大事です。洗浄はスタッフにも手伝ってもらいましょう。剃毛は、はさみなどで処置の妨げになる部分を取り除く程度の最低限で構いません。疼痛が強い場合は、創部の麻酔を考慮します。《局所麻酔の方法》表面麻酔  患部に麻酔クリームを塗ってラップをのせ、10~30分置く。例)リドカイン・プロピトカイン配合クリーム(商品名:エムラクリーム)、リドカイン塩酸塩ゼリー(同:キシロカインゼリー)など局所浸潤麻酔患部付近の皮内に穿刺して丘疹を作り、そこから広げて麻酔薬を浸潤させる。27~30Gのできるだけ細い針を使用。注入後、3~5分待つ。例)1%エピネフリン含有リドカインなど(2)異物除去次に、異物を徹底的に取り除きます。病院ではガーゼ、滅菌した歯ブラシなどを使用します。取れないものは異物セッシなどを使用することもあります。ここで少しでも異物が残ってしまうと、外傷性刺青の要因となります。周辺組織が壊死している場合は、壊死組織を除去しますが、判断が難しい場合は形成外科にそのまま引き渡していいと思います(原則翌日の対応をお願いします!)。(3)創傷被覆洗浄・異物除去が終わったら、創傷が治る環境にしましょう!一概にどの方法がよいとは言えない部分もありますが、基本として、湿潤環境を整えて創傷治癒を促すことが大切です。湿潤環境とは:創面を乾燥させず、浸出液が適度に保たれた状態。浸出液には創傷治癒に必要な因子が含まれるため、それを保持することで上皮化が早くなります。昔の創傷処置は、感染を恐れて創部を乾燥させていました。以下に、漫画で紹介した被覆材のメリット・デメリットを示します。湿潤環境の形成を目的とした製品もあります。アルギン酸塩+フィルム◎浸出液・血液などの吸収力が高く、止血促進効果がある。△剥がす時に張り付いて取れにくい(貼付時に創面が乾いていたら生理食塩水で湿らせる)。白色ワセリン+ガーゼ◎どこの病院でも取り扱っており、安価。△乾燥し過ぎる傾向にあり、剥がす時に痛みが出ることも。ハイドロコロイド(材)など◎防水性が高く、湿潤環境を保持でき、痛みも少ないため小児に使いやすい。△感染徴候がある場合や浸出液が多い創には向かない。高価で交換時期の判断が難しい。(◎:メリット/△:デメリット)いずれにせよ、専門外で対応する場合は、後日専門医に創部をチェックしてもらう前提で選びましょう。できるだけ近日中(翌日か数日以内)に、形成外科を受診してもらうようにしてください!自宅処置については、交換時にしっかり流水で洗浄してもらうことを指導します。なお、交換時期については自己判断が難しい場合もあり、形成外科では基本的に通院してもらっています。傷が治ってきたら、傷跡をできるだけきれいに治すために、上皮化後の遮光、保湿など、上皮化後に行う後療法の指導も行います。参考1)Fernandez R, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Feb 15.2)波利井清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.3)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

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その胸やけ症状、本当に胸焼け?【Dr.山中の攻める!問診3step】第2回

第2回 その胸やけ症状、本当に胸焼け?―Key Point―悪性腫瘍を疑う症状や所見(red flag sign)がないか確認機能性ディスペプシアの診断基準を満たすか検討ピロリ検査が陽性なら除菌。陰性ならプロトンポンプ阻害薬を処方する同僚医師から30代前半の女性の診察を頼まれました。食後の胃もたれと軽い嘔気が1年以上続いているようです。胃カメラでは異常がなく、ヘリコバクター・ピロリ菌感染症もありません。プロトンポンプ阻害薬(PPI)を処方しましたが、あまり効果がありません。「機能性ディスペプシア」と思われました。原因がわからないまま症状が続くことが、とても辛かったようです。2週間に一度、外来に来ていただき訴えに共感しながら傾聴するよう心がけました。この連載では、患者の訴える症状が危険性のある疾患を示唆するかどうかを一緒に考えていきます。◆今回おさえておくべき症状はコチラ!【悪性腫瘍を疑うred flag sign】予期せぬ体重減少、嚥下障害、吐気/嘔吐、黒色便、貧血、血小板増多、胃がんの家族歴、治療に反応しないディスペプシア。日本では胃がんの発生が多いので、症状がなくても1~2年に1度の胃カメラが薦められている。【STEP1】患者の症状に関する勘違いを修正しよう!患者が症状を勘違いしていること、よくありますよね。【STEP2】ディスペプシアを起こす原因を探る1)逆流性食道炎消化性潰瘍ヘリコバクター・ピロリ菌感染症胃がん胃不全麻痺セリアック病クローン病膵炎膵がん胆石心筋梗塞糖尿病副腎不全など原因がわからないものを機能性ディスペプシア(FD:functional dyspepsia)と呼ぶ薬剤内服歴を確認することが重要。とくにNSAIDs、アスピリン、鉄剤、抗菌薬、レボドパ、ピル、ビスフォスフォネート製剤はよくディスペプシアを起こす胃カメラで見つかる疾患の頻度1)>70%は異常なし → 機能性ディスペプシア<10%は消化性潰瘍<1%が上部消化管悪性腫瘍【機能性ディスペプシア の診断基準 RomeIV】下記のいずれかの症状が6ヵ月以上前からあり、最近3ヵ月持続しているつらいと感じる食後のもたれ感つらいと感じる摂食早期の飽満感つらいと感じる心窩部痛つらいと感じる心窩部灼熱感かつ、症状を説明しうる器質的疾患はない。食後愁訴症候群(PDS:postprandial distress syndrome)と心窩部痛症候群 (EPS:epigastric pain syndrome)に分類される機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群はよく合併する2)【STEP3】治療とその注意点をおさえる2)red flag signがなければ、胃カメラは行わずピロリ菌検査を行う。陽性だったら除菌する。陰性だったらPPI(プロトンポンプ阻害薬)を4~8週間投与する。無効なら少量の三環系抗うつ薬を考慮する日本人の60歳以上では、50%以上はヘリコバクター・ピロリに感染しているピロリ菌感染症は消化性潰瘍、胃がん、胃リンパ腫と関係がある。PPIの機能性ディスペプシアに対するNNT(number needed to treat、治療必要数)は133)であるPPIの副作用4)で最も多いのは下痢と頭痛。 PPIの種類を変えると下痢は良くなることがある。このほか、市中肺炎、急性の腸管感染症、Clostridium difficile感染症、急性間質性腎炎、顕微鏡的大腸炎、骨粗鬆症、ビタミンB12欠乏症を増加させるので注意。ビスフォスフォネート製剤はよくディスペプシアを起こすばかりか、食道潰瘍や胃潰瘍も起こすので要注意。もし、ビスフォスフォネート製剤を飲んでいるならば中止する禁煙やアルコールの減量を薦める消化管運動機能改善薬であるアコチアミドも臨床試験で有効性が示されている漢方では六君子湯や半夏厚朴湯が効果ありと言われている<参考文献・資料>1)Talley NL, et al. N Engl J Med.2015;373:1853-1863.2)Goldman L, et al. Goldman-Cecil Medicine. 2020;856-8573)Pinto-Sanchez MI, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Nov 21;11:CD011194.4)上田剛士著. 日常診療に潜む クスリのリスク.医学書院.p93-99. 2017.日本消化器学会編.機能性消化管疾患診療ガイドライン.2014―機能性ディスペプシア(FD)

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第23回 高齢糖尿病患者の骨折リスク、骨粗鬆症にどう対応する?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第23回 高齢糖尿病患者の骨折リスク、骨粗鬆症にどう対応する?Q1 糖尿病患者で骨折リスクが高くなる要因は?糖尿病患者では、糖尿病のない人と比べて骨折のリスクが高くなります。インスリン作用不足や糖化最終産物の蓄積による骨質の低下や、バランス感覚の悪化や視力低下による易転倒性などが要因として考えられています。血糖コントロール不良で推移している人は骨粗鬆症を併発しやすくなります。HbA1c値が7.5~8.0%以上のコントロール不良の糖尿病患者では、HbA1c値が7.5%未満のコントロール良好群と比較して骨折のリスクが1.6倍上昇していました。インスリン使用者では1.8倍上昇していたと報告されています1)。HbA1c 値が7.5%以上のコントロール不良の状態で、腎症や網膜症などの合併症を有し、さらにインスリン治療を必要とする糖尿病患者では骨折リスクが上昇すると考えられ、骨粗鬆症の検査を行うことが推奨されます。Q2 どのように骨折リスクを判定しますか?自分でできる骨折リスクの判定方法として、FRAX®(fracture risk assessment tool)があります(表)。この評価法は、2008年2月にWHO(世界保健機関)が発表しました。インターネットでアクセスし、指定された質問項目に答えると自動的に算出されます。今後10年以内に骨粗鬆症による主要骨折を起こす可能性が15%以上の場合には、リスク大と判断し薬物治療の開始が推奨されます。この評価法は40~90歳の方を対象としていますが、75歳以上の方は、年齢のみで高リスクと判断されてしまうため、参考程度とします。なお、罹病期間が5~10年の2型糖尿病患者では、実際の骨粗鬆症性骨折の発生はFRAX®値の1.2倍、10年以上の罹病期間を有する場合には1.5倍を呈していました。大腿骨近位部骨折の発症は5年未満でも1.4倍、10年以上では2.1倍と報告されています2)。罹病期間の長い2型糖尿病患者は、FRAX®で算出された骨折リスクよりもさらに骨折しやすいと考えられます。画像を拡大するQ3 どのように骨粗鬆症を診断しますか?骨粗鬆症の診断には骨密度検査が必須であり、さらに測定部位と方法が重要です。通常は大腿骨近位部(頚部または全体)と腰椎(L2-L4)の骨密度をDXA法(dual-energy X-ray absorptiometry)で測定して判断します。しかし、DXA装置を有する医療機関は限られており、手軽に計測できない場合も多いです。そのため、手を用いたMD(microdensitometry)法や、踵で測定する定量的超音波測定法、小型のDXA装置で橈骨のみ測定する検査などが利用されています。ただしこれらはあくまでもスクリーニング検査であり、実際の体幹部DXAでの診断と乖離を認める場合も少なくありません。リスクを要する患者さんに対しまずは簡易的な検査を行い、異常を指摘された場合にさらなる精査としてDXAを施行することが望ましいでしょう。治療効果の判定は、6ヵ月~1年に一度、体幹部DXAによる骨密度測定を施行します。機種により若干の誤差が生じるため、同一の装置・機種で追跡し、同一部位による判定が望ましいです。高齢糖尿病患者では動脈硬化による腹部大動脈の石灰化や椎体の変形等が椎体骨密度に反映されてしまい、実際より高い骨密度の計測値を示すことがあるため、DXAを施行すると同時に椎体のX線撮像を行うことも重要です。無症状の新規椎体骨折、いわゆる「いつのまにか骨折」の出現がないか確認することも必要です。Q4 どのように骨粗鬆症の薬物療法の開始を判断し、治療薬を選択しますか? 糖尿病患者において骨折予防のための薬物治療を開始する場合は、原発性骨粗鬆症に対する薬物治療開始基準(図)を参考にします。骨折の既往が無くても、1)大腿骨近位部骨折の家族歴を有すること、2)FRAX®での10年以内の骨折(主要骨折)確率が15%以上であることの2項目を満たす時には薬物治療開始が推奨されます。これに加え、「糖尿病の罹病期間が長く、HbA1c 値が7.5%以上のコントロール不良の状態を呈し、インスリン治療を必要とする場合」は薬物治療の開始を考慮して良いと考えます。画像を拡大するポリファーマシーの患者さんに骨粗鬆症治療薬を追加する場合には、慎重に検討する必要があります。ADLが低下し寝たきり状態の方や、認知症の合併により服薬管理が困難な方は、原則として新規導入を見合わせています。ただし、ADLが良好ならば、年齢に関係なく、転倒や骨折のリスクが高い場合は積極的に骨粗鬆症治療を行うべきと考えます。1年に一度のビスホスホネート注射製剤や、6ヵ月に一度の抗RANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)抗体製剤などの導入は、ポリファーマシー対策にもなります。なお、ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤等は、腎機能低下例や透析施行例では使用できない場合があるため、薬剤開始前に腎機能評価を行います。高齢者糖尿病の腎機能評価は、筋肉量の影響を受けにくい血清シスタチンC値を参考にします。シスタチンC値>1.5 mg/Lを呈する場合は、ビスホスホネート製剤の新規導入は原則禁忌と考えています。その場合には選択的エストロゲン受容体調節薬(SERMs:Selective Estrogen Receptor Modulators)等の使用を検討します。活性型ビタミンD3製剤は、転倒予防効果が期待できる上、比較的管理しやすいため広く使用されています。既存骨折を認めずADLの良好な方であれば良い適応と考えられますが、腎機能の低下した患者さんでは用量の調整が必要です。尿中Ca/Cr比>0.3の場合には減量を考慮します。スポット尿で簡単に計測できるため、6ヵ月に一度程度確認することを推奨しています。ビスホスホネート製剤の長期臨床投与成績を示した報告では、6~9年程度継続しても安全性には問題がないとされています3, 4)。しかし、ビスホスホネート製剤による骨密度増加効果は、腰椎では長期に持続するものの、大腿骨近位部では3~5年でプラトーに達すると言われています。そのため、まずは5年くらい経過観察し、加療中に大腿骨近位部骨折や椎体骨折などを来たした時や、骨量の増加が期待できない時は抗RANKL抗体製剤などへの変更を考えるのが良いでしょう。一方、アメリカのガイドラインでは、既存の骨折がなく大腿骨近位部の骨密度が骨粗鬆症領域を脱した場合には、ビスホスホネート製剤を休薬して経過観察し、2~3年毎に再評価するよう提示しています5)。骨吸収抑制薬のビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤などは、長期使用によって顎骨壊死や非定型骨折のリスクが増加することが指摘されています。ただし骨粗鬆症に対する経口ビスホスホネート治療に関連する顎骨壊死の発生率は1年間で人口10万人当たり0.2人程度とも言われます。しかも口腔衛生管理を適切に行うことで発症を予防できます。抜歯やインプラントなど顎骨に直接影響を及ぼす処置をする場合には、処置前後2~3ヵ月休薬して様子を見ます。非定型骨折は、ビスホスホネート製剤の使用にてその発症の相対リスクが上昇するといわれています。しかし、非定型骨折の頻度は、大腿骨近位部骨折の1%程度にとどまり、その絶対リスクはビスホスホネート製剤投与に伴う大腿骨近位部骨折およびその他の骨折リスクの減少と比較して、非常に小さいとも報告されています6)。薬物使用による骨折発症予防のベネフィットと、有害事象発症のリスクのバランスを考えながら、個々の患者さんにとって適正な治療方針を選択すべきと考えます。1)Schneider AL, et al. Diabetes Care 2013; 36: 1153-1158.2)Leslie WD, et al. J Bone Miner Res 2018; 33: 1923-1930.3)Eriksen EF, et al. Bone 2014; 58: 126-135.4)Black DM, et al. J Bone Miner Res 2015; 30: 934-944.5)Alder RA, et al. J Bone Miner Res 2016; 31: 16-35.6)Black DM, et al. N Eng J Med 2020; 383: 743-753.

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あらゆる“傷”のプロフェッショナルといえば?【漫画でわかる創傷治療のコツ】第1回

第1回 あらゆる“傷”のプロフェッショナルといえば?こんにちは! 田舎の病院で形成外科医をしている「びたみん」と申します。形成外科というと、学生時代にそこまで詳しく習う機会もなく、国家試験にもほとんど出てこず、あまりぴんとこない人も多いかもしれません。しかしながら、医療現場では決して珍しくない外傷や褥瘡に対し、プロフェッショナルとして対応している診療科です!外来で、外傷の初期対応に困ったことはありませんか? 後医への引き継ぎは問題なかったでしょうか? 本連載では、マイナーなようで実は基本手技のノウハウが満載の形成外科知識を中心に、知って役立つ創傷治療のコツを、オリジナルキャラクターの「肉芽ちゃん」と共に紹介していきたいと思います。次回は、小児の擦り傷処置について解説する予定です。

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アジア人がん関連VTE、NOAC vs.低分子ヘパリン

 これまで不明であった、アジア人のがん関連静脈血栓塞栓症(VTE)に対する非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)と低分子ヘパリン(LMWH)の臨床的有益性は、同等であることが示された。台湾・長庚大学のDong-Yi Chen氏らが、台湾のデータベースを用いたコホート研究により、実臨床下でがん関連VTE患者におけるVTE再発および大出血のリスクはNOACとLMWHで同等であり、さらにNOACでは胃腸出血のリスクが有意に低いことを明らかにした。なお著者は、「今回の解析結果を確認するためには、前向き研究が必要である」としている。JAMA Network Open誌2021年2月1日号掲載の報告。 研究グループは、台湾の多施設電子カルテデータベースであるChang Gung Research Databaseを用い、2012年1月1日~2019年1月31日に新たに診断されたがん関連VTE患者1,109例を特定し解析した。 主要評価項目は、VTE/肺塞栓症(PE)再発または大出血。対象患者を、インデックス日(NOACまたはLMWHの最初の処方日)から初回イベント発生、1年間、死亡または追跡終了(2019年1月)のいずれか早い時点まで追跡した。Cox比例ハザードモデルを用い、NOAC(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ダビガトラン)またはLMWHのエノキサパリン投与におけるVTE再発または大出血のリスクを比較。加えて、死亡を競合リスクと見なしたFine-Gray部分分布ハザードモデルを用いた解析も行った。 解析は、2019年3月~2020年12月に実施された。 主な結果は以下のとおり。・1,109例の患者背景は、女性578例(52.1%)、インデックス日の平均年齢66.0歳、NOAC投与が529例(47.7%)、エノキサパリン投与が580例(52.3%)であった。・VTE再発または大出血は、NOAC群75例(14.1%)、エノキサパリン群101例(17.4%)に認められた(加重ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.56~1.07、p=0.11)。・両群で、12ヵ月時点でのVTE再発(HR:0.62、95%CI:0.39~1.01、p=0.05)ならびに大出血(HR:0.80、95%CI:0.52~1.24、p=0.32)のリスクも同様であった。・ただし、NOAC群はエノキサパリン群と比較して、胃腸出血のリスクが有意に低かった(10例[1.9%]vs.41例[7.1%]、HR:0.29、95%CI:0.15~0.59、p<0.001)。・主要評価項目の結果はいずれも、競合リスク解析と一致していた(VTE再発のHR:0.68[95%CI:0.45~1.01、p=0.05]、大出血のHR:0.77[95%CI:0.51~1.16、p=0.21])。

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