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睡眠、不安、ビタミンDと周産期うつ病リスク

 周産期うつ病の頻度は高く、死亡率に影響を及ぼす疾患である。米国・サウスカロライナ医科大学のCourtney E. King氏らは、周産期うつ病リスクに影響を及ぼす修正可能な心理学的および生物学的因子を特定するため、検討を行った。その結果、妊娠初期の睡眠、不安および潜在的なビタミンD不足は、周産期うつ病リスクの増加と関連していることが示唆された。Reproductive Sciences誌オンライン版2022年3月29日号の報告。睡眠障害や不安症状、ビタミンD不足とうつ症状スコア 対象は、妊娠中の女性105人。妊娠8~12週および24~28週、産後6~8週および10~12週に、うつ症状、不安症状、睡眠障害の評価と血液検査を実施した。評価尺度として、うつ症状にはエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)、不安症状には全般不安症スコア(GAD)、睡眠障害にはピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いた。 妊娠中の女性105人にうつ症状、不安症状、睡眠障害の評価と血液検査を実施した主な結果は以下のとおり。・研究期間中にうつ病基準を満たした女性は、105例中35例(33.3%)であった。・妊娠8~12週にPSQIスコア(OR:1.17、95%CI:1.04~1.33)またはGADスコア(OR:1.33、95%CI:1.18~1.48)の上昇が認められた女性は、その後の評価でうつ症状スコアが上昇する可能性が高かった。・ビタミンDレベルが20ng/L以下の女性は、フォローアップ期間中にうつ症状スコアが上昇する可能性が高かったが、統計学的な有意差は認められなかった(OR:2.40、95%CI:0.92~6.27)。・産後の評価への参加率は低かった。・本研究の限界として、うつ症状、不安症状、睡眠障害の評価には、自己報告尺度を用いた点が挙げられる。 著者らは「妊娠中の睡眠や不安の問題を軽減させ、適切なビタミンDレベルを確保することを目的とした介入は、周産期うつ病リスクを減少させるために重要である」としている。

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Dr.田中和豊の血液検査指南 電解質編

第1回 総論1:生理学第2回 総論2:体液第3回 総論3:輸液第4回 総論4:尿第5回 総論5:酸塩基平衡の歴史第6回 総論6:酸塩基平衡障害の評価方法第7回 総論7:酸塩基平衡評価の実際第8回 各論1:高Na血症第9回 各論2:低Na血症第10回 各論3:K(カリウム)第11回 各論4:CaとP第12回 各論5:Mg、微量元素とビタミン 「Dr.田中和豊の血液検査指南」シリーズの第3弾となる電解質編は総論と各論の2部構成。 電解質総論では生理学、体液、輸液、尿、酸塩基平衡について、基礎となる部分を解説します。苦手な人も多い「電解質」。そんな方にも理解しやすいよう尿細管やイオンチャネル、煩雑な数式などはできるだけ使用せず、簡略化し、エッセンスだけを解説していきます。電解質各論では、Na、K、Ca、P、Mgなど血液検査でそれぞれの電解質の異常を診たときのDr.田中和豊式“鉄則”と“フローチャート”を示して電解質異常へのアプローチを徹底的にレクチャーします。医学生、臨床研修医は必見です!もう「電解質は苦手」とは言わせません!※この番組をご覧になる際に、「問題解決型救急初期検査 第2版(医学書院)」ご参考いただくと、より理解が深まります。書籍はこちら ↓【問題解決型救急初期検査 第2版(医学書院)】第1回 総論1:生理学Dr.田中和豊の血液検査指南の第3弾、電解質編がスタート。生理学からレクチャーしていきますが、その前に、苦手意識を持つ人も多い「電解質」。なぜ電解質がわからないのか を確認してみましょう。そこに苦手意識を解消するヒントが隠れているからです。生理学では、人間の細胞とその環境を理解するために、生命の誕生と進化についてお話します。その後、体液維持のメカニズム、浸透圧調節系、容量調節系についてわかりやすい図を用いて解説します。第2回 総論2:体液Dr.田中和豊の血液検査指南「電解質編」の第2回は「体液」を解説します。人体の60%を占める液体のうち、40%は細胞内液で20%が細胞外液です。そして、20%の細胞外液のうち、15%は細胞と細胞の間の細胞間質液で、残りの5%が血漿です。脱水症や電解質異常の場合、その体液分画の比率に異常が生じている可能性があります。そのような疾患の体液分画異常を推定するために用いられるのが体液評価の指標で、容量調節系であるNa平衡を評価する指標と浸透圧調節系である水平衡を評価する指標が存在します。これらの指標を使って、どのように体液を評価していくのか。Dr.田中和豊のわかりやすい解説で、理解を深めていきましょう! 第3回 総論3:輸液Dr.田中和豊の血液検査指南「電解質編」の第3回は「輸液」の解説です。「輸液」についてどう感じていますか?「計算が面倒」「時間がない」「なんとなく」などさまざまなご意見があるのではないでしょうか?この番組では、計算しなければならないという輸液に対する「強迫観念」を捨て、「おおざっぱ」な輸液方法をお教えします。第4回 総論4:尿前回の第3回では“輸液”で水分を“入れる”ことを確認しました。今回は“尿”、すなわち水分を“出す”、“出る”ことについて考えていきましょう。尿とは、水溶性老廃物を溶質、水を溶媒とする水溶液。しかし、単なる水溶液ではありません。人間が陸上で生きていくためには、人体の体液量と濃度を一定に調整することが必要なのです。そのため、生体は、尿の量と濃度をリアルタイムでコントロールして排出しているのです。それではその尿の量や濃度はどのようにコントロールされているのでしょうか。Dr.田中和豊がわかりやすく解説します。第5回 総論5:酸塩基平衡の歴史1884年に初めて化学上、「酸塩基」が定義されました。その後、生体における酸塩基平衡はCopenhagenアプローチ、Bostonアプローチ、Stewartアプローチなどさまざまな理論が展開されてきました。それはどのような考え方から生まれたのか、そしてその議論の決着は?Dr.田中和豊が酸塩基平衡の歴史を興味深く紐解いていきます。第6回 総論6:酸塩基平衡障害の評価方法今回は、酸塩基平衡の評価方法について確認していきましょう。前回で紹介したいくつかの評価方法の中でも、医師国家試験や内科専門医試験に出題されるのはBoston Approachによる酸塩基平衡の評価方法です。ですので、まずはこの評価方法を身に付けていきましょう。Dr.田中和豊公安の、人体の酸塩基平衡の状態を見立てた「酸塩基平衡の海」。これを基に考えていくことによって、そのときの人体の状況と、どのように治療すればよいのかなどが理解できるようになります。第7回 総論7:酸塩基平衡評価の実際総論編の最終回、酸塩基平衡障害の実際の症例を基に評価を行っていきます。これまでに出てきた酸塩基平衡の海や、Dr.田中和豊式チャートを使って評価を進めていきましょう。さらには、二次性反応の簡易判定法の計算式を語呂合わせで覚えるなど、実際の臨床の現場で役立つ内容となっています。また、総論の総まとめでは、これまで示してきた輸液・電解質・酸塩基平衡の三角形だけではなく、新たに六面体という考え方を示しています。ぜひご確認ください。第8回 各論1:高Na血症今回から、各論に入っていきます。電解質異常の緊急性を考えると、高K血症>高Ca血症>Na異常の順になりますが、番組では、Na→K→Ca/P→Mg/Zn/Cuの順に解説していきます。まずは高Na血症からです。高Na血症の定義、発生機序を理解することから。そのうえで、高Na血症の際、どのようにアプローチするのかをDr.田中和豊式フローチャートで確認しましょう。どのように治療するのか、輸液の選択、輸液量や速度の決め方についてもお教えします。Dr.田中和豊のシンプルでわかりやすい解説でしっかりと頭の中に入ってくることでしょう。第9回 各論2:低Na血症各論の第2回は低Na血症です。まずは、低Na血症の定義と、その症状を確認しましょう。そのうえで、どのように診断・治療していくのかをDr.田中和豊式フローチャートで確認し、実際の治療については症例も提示しながら解説します。輸液の種類は?量は?スピードは?それらをどのように決定していくのか、またそのほかにも3%食塩水の作り方など、臨床で迷うところをしっかりとカバーします。第10回 各論3:K(カリウム)今回はK(カリウム)についてみていきます。Kの基準値を覚えておくことは重要です。Kの値を見て、すぐに行動に移す必要があるからです。とくに高K血症は、電解質異常の中で一番緊急性が高いので、まずは治療を行います。慌てずにしっかりと対応できるよう、やるべきことを確認しておきましょう。低Na血症は、比較的緊急性は高くありませんが、原因探索を行い、適切な治療を行えるよう、Dr.田中和豊式フローチャートと鉄則で確認しましょう!第11回 各論4:CaとP各論の第4回目はCa(カルシウム)とP(リン)について解説します。CaとPはホルモンでコントロールされるため、腎臓内科ではなく、内分泌内科で扱われることが多い電解質です。ですが、CaやPの異常は日常的によく遭遇するため、専門領域に関係なく、すべての医師にとって知っておかなければならない電解質です。それぞれの基準値、定義などから実際の治療例までをDr.田中和豊がわかりやすく解説します。第12回 各論5:Mg、微量元素とビタミン電解質編の最終回は、マグネシウム、微量元素とビタミンについて確認していきます。マグネシウムはルーティーンの生化学検査ではチェックしません。しかしながら、Mg異常は全身の臓器にさまざまな症候を起こしえます。そのため、まずMg異常で起こる症候を知り、症候から異常を疑って検査することが重要です。微量元素とビタミンは、栄養の領域で、医師の仕事ではなく、栄養士の仕事という先入観がありませんか?しかし、実は栄養を改善するだけで多くの病態が改善します。不要な検査や薬物を削減するためにも、しっかりと確認しておきましょう。電解質はNa, K, Ca, Pだけではなく、Mg、そして微量元素とビタミンまで日常診療で注意することが、臨床力アップにつながります!

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NVAF患者における経皮的左心耳閉鎖術の有効性~初の全国規模データ(Terminator Registry)/日本循環器学会

 非弁膜症性心房細動(NVAF)患者において、長期的な抗凝固療法に代わる治療法として経皮的左心耳閉鎖術(LAAC)が世界的に行われている。ビタミンK拮抗薬と比較して、死亡率と出血イベントは有意に少なく、QOLは大きく改善されているが、欧米からのデータが中心で、日本におけるデータは十分ではない。第86回日本循環器学会学術集会(2022年3月11日~13日)で原 英彦氏(東邦大学医療センター大橋病院)が国内23施設による初の大規模観察研究TERMINATOR Registryから最初の集計結果を報告した。 2019年にLAAC用デバイス「WATCHMAN」が日本で承認され、現在はその後継となる新型デバイス「WATCHMAN FLX」が登場している。そこで本研究は、NVAFで血栓塞栓リスクの高い日本人患者を対象に、左心耳閉鎖デバイス(WATCHMAN generation-2.5、WATCHMAN FLX)によるLAACの長期実臨床成績を明らかにすることを目的に実施された。主要評価項目は死亡、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、後遺症を残す脳卒中、全身性塞栓症または開心術や重大な血管内インターベンションを要する左心耳閉鎖デバイスもしくは手技関連事象とされた。 主な結果は以下の通り。・2019年9月~2021年8月に各施設でLAACを受けた743例が対象。平均年齢:74.9(±8.8)歳、持続性/永続性心房細動:61.9%、平均CHA2DS2スコア:3.2(±1.2)、平均CHA2DS2-VAScスコア:4.7(±1.5)、平均HAS-BLEDスコア:3.4(±1.0)、Clinical Frailty Scale:3.4(±1.3)、DOACの不適切低用量処方が11.2%で確認された。・植込み成功率は98.9%、4.2%でデバイスリリースの基準であるPASSクライテリアを満たしていなかった。37.3%でpartial recaptureが行われた。・術後の有害事象については、心タンポナーデ:0.9%、心嚢液貯留:1.1%、デバイス脱落:0.2%、仮性動脈瘤:0.1%と全体的に低発生率だった。・デバイスごとの留置手技時間はWATCHMAN gen2.5:53±36分、WATCHMAN FLX:57±30分とほぼ同等で、両デバイスとも30mm以上のサイズが多く使用されていた。・死亡(原因不明)は0.9%、脳卒中は2.2%、出血イベントは5.7%、デバイス関連血栓(DRT)は2.8%で発生。ただし、DRTによる脳卒中はすべてmRS<2であった。・経口抗凝固薬の使用量は、退院時と比較し45日後には減少し、6ヵ月後にはさらに減少していた。 原氏は日本におけるLAACのリアルワールドデータは高い成功率を示し、6カ月間のフォローアップデータにおいてDRTなどの有害事象は他の研究と同等の低い発生率を示したとして、今後はより長期のフォローアップにより、この治療法が心房細動による心原性脳塞栓症を防ぎ、かつ出血イベントを減らすことができるかどうかを示していく必要があるとした。

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薬物性味覚障害マニュアルが11年ぶりに改定、注意すべき薬剤と対策は?/厚労省

 『重篤副作用疾患別対応マニュアル』は77項目に細分化され、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページに掲載されているが、今回、「薬物性味覚障害」の項が11年ぶりに改定された。薬剤性味覚障害は味覚障害の原因の約20%を占めていること、多くの薬剤の添付文書の副作用に記載されていることから、以下に示すような薬剤を服用中の患者の訴えには十分注意が必要である。<添付文書に口腔内苦味の記載がある薬剤の一例>・ニコチン(禁煙補助剤)・フルボキサミンマレイン酸塩(選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI])・ラベプラゾールナトリウム(PPI)・レバミピド(胃炎・胃潰瘍治療薬) ・レボフロキサシン水和物(ニューキノロン系抗菌薬)・炭酸リチウム(躁病・躁状態治療薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照<添付文書に味覚障害の記載がある薬剤の一例>・アロプリノール(キサンチンオキシダーゼ阻害薬・高尿酸血症治療薬)・ジクロフェナクナトリウム(フェニル酢酸系消炎鎮痛薬)・レトロゾール(アロマターゼ阻害薬・閉経後乳癌治療薬)・ロサルタンカリウム(アンギオテンシンII受容体拮抗薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照<添付文書に味覚異常の記載がある薬剤の一例>・アカルボース(α-グルコシダーゼ阻害薬)・アプレピタント(選択的NK1受容体拮抗型制吐薬)・イリノテカン塩酸塩水和物(I型DNAトポイソメラーゼ阻害型抗悪性腫瘍薬)・インスリンデグルデク[遺伝子組換え]・リラグルチド[遺伝子組換え](持効型溶解インスリンアナログ/ヒトGLP-1アナログ配合薬)・エルデカルシトール(活性型ビタミンD3)・オロパタジン塩酸塩(アレルギー性疾患治療薬)・チアマゾール(抗甲状腺薬)・テルビナフィン塩酸塩(アリルアミン系抗真菌薬)・バルサルタン(選択的AT1受容体遮断薬)・フェンタニル(経皮吸収型持続性疼痛治療薬)・ボリコナゾール(トリアゾール系抗真菌薬)・メトトレキサート(抗リウマチ薬/葉酸代謝拮抗薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照 上記のような薬剤を服用している患者が症状を訴えた場合、まずは(1)原因薬剤の中止・減量を行うが、原疾患の治療上、中止などの対応ができない場合、または味覚障害を起こす可能性のある薬剤を複数服用して特定が困難な場合もある。そのような場合でも(2)亜鉛剤の補給[低亜鉛血症がある場合、味蕾の再生促進を期待して補給]、(3)口腔乾燥の治療などで唾液分泌を促進させる、(4)口腔掃除とケアで対応することが必要で、とくに(1)(2)は重要度が高いと記載されている。<早期に認められる症状>薬物性味覚障害は高齢者に多く、複数の薬剤を服用しており、また発症までの時間や症状もまちまちで、初期の症状を捉えることは困難なことが多い。初期症状を含め、よく訴える症状に以下のようなものがある。 1:味(甘・塩・酸・苦)が感じにくい 2:食事が美味しくない3:食べ物の好みが変わった 4:金属味や渋味など、嫌な味がする 5:味のしないところがある 6:口が渇く<患者が訴えうる自覚症状>1:味覚減退:「味が薄くなった、味を感じにくい」2:味覚消失・無味症:「まったく味がしない」 3:解離性味覚障害:「甘みだけがわからない」4:異味症・錯味症:「しょう油が苦く感じる」 5:悪味症:「何を食べても嫌な味になる」6:味覚過敏:「味が濃く感じる」 7:自発性異常味覚:「口の中に何もないのに苦みや渋みを感じる」 8:片側性味覚障害:一側のみの味覚障害 本マニュアルには医師、薬剤師などの医療関係者による副作用の早期発見・早期対応に資するため、ポイントになる初期症状や好発時期、医療関係者の対応などが記載されている。 また、患者が読みやすいように、患者やその家族に知っておいてもらいたい副作用の概要、初期症状、早期発見・早期対応のポイントをできるだけわかりやすい言葉で記載してもいるので、ぜひ参考にしていただきたい。

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コロナ禍で医療従事者のビタミンD欠乏が顕著/国立成育医療研究センター

 日々の生活でビタミンDが不足すると免疫力を低下させる可能性があり、長期間の屋内生活での運動不足(骨刺激不足)では骨粗鬆症への影響も懸念される。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延する環境下で、医療従事者の長期間の屋内生活での影響はどのようなものがあるだろうか。 国立成育医療研究センター(理事長:五十嵐 隆氏)の「ナショナルセンター職員における新型コロナウイルス感染症の実態と要因に関する多施設共同観察研究」グループは、感染者の易感染性や重症化要因を評価する目的で、COVID-19患者受け入れ病院である同センターのハイリスク医療従事者361人(男性87人、女性274人)を対象に、2021年3月1日~5日に調査を行い、その結果を発表した。 調査の結果、対象者にはビタミンDの欠乏が顕著にみられた。そのため医療従事者だけでなく、長期間の屋内生活をしている方には、適度な日光浴もしくはビタミンDの補充(食事、サプリメント、薬剤)が重要である可能性が示唆された。屋内生活が長いときに意識したいビタミンDの摂取【背景・目的】 COVID-19の最大の特徴は、ウイルス側の感染性および病原性の変化に加え、感染者(ホスト側)の年齢や基礎疾患などによる病状の多様性にある。この点に着目し、ホスト側の易感染性もしくは重症化要因を評価するために、感染防御能力低下、動脈硬化、耐糖能異常、肝・腎機能障害、栄養低下、骨髄機能低下のスクリーニング調査を行った。【結果概要】 ・本調査で顕著に異常を認めたのはビタミンDであり、性別、年齢を問わず多くの研究参加者で不足していた。・COVID-19の防御対策や、医療従事による長期間の室内生活が紫外線吸収の低下を招いたことが原因の1つとして考えられる。・ビタミンDには多様な生理作用があり、細胞の分化・増殖や免疫機構、骨代謝と深くかかわっている。・ビタミンD不足においては、感染防御能力の低下に加え、骨代謝の低下と運動不足(骨刺激不足)による骨粗鬆症や、それに起因する骨折への注意が必要。【今後の展望・発表者のコメント】 ビタミンDを補充する方法はまちまちだが、日光(紫外線)曝露、経口摂取とそれに加え薬剤(活性型ビタミンD3製剤)の補充により免疫能力の改善、骨粗鬆症の予防が期待される。この調査は医療従事者を対象とした調査結果だが、コロナ禍で長期間の屋内生活をしている方は、適度の日光浴やビタミンDの補充を行い、ビタミンD不足を起因とする感染防御能力の低下、骨代謝の低下と運動不足による骨粗鬆症や、骨折への注意が必要と警鐘を鳴らしている。

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TAVR後の心房細動へのエドキサバン、日本人での解析(ENVISAGE-TAVI AF)/日本循環器学会

 経カテーテル大動脈弁留置術(TAVR)成功後の心房細動患者に対するエドキサバンとビタミンK拮抗薬の有効性と安全性を比較したENVISAGE-TAVI AF試験の日本人サブ解析の結果、臨床アウトカムにおけるエドキサバンとビタミンK拮抗薬の違いはごくわずかだったことを、帝京大学の渡邊 雄介氏が第86回日本循環器学会学術集会(2022年3月11~13日)のLate Breaking Clinical Trialsで報告した。 ENVISAGE-TAVI AF試験は、日本を含む14ヵ国173施設が参加した非盲検無作為化比較試験。TAVR成功後の心房細動患者においてエドキサバン(60mg/日もしくは30mg/日)とビタミンK拮抗薬の有効性と安全性を最大3年間比較した。有効性に関する主要アウトカムは有害臨床イベント(全死因死亡、心筋梗塞、虚血性脳卒中、全身性塞栓イベント、人工弁血栓症、大出血)の複合、安全性に関する主要アウトカムは大出血だった。全体集団ではエドキサバン群がビタミンK拮抗薬群に対し非劣性を示すこと、および大出血発生率が高いことが報告されているが、わが国ではTAVRを受ける患者は小柄な女性が多く、抗血栓療法による出血リスクに影響する可能性がある。そこで、日本人においても全体の結果と一致するか評価するべくサブ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・日本人患者は159例(エドキサバン群82例、ビタミンK拮抗薬群77例)で、エドキサバン群とビタミンK拮抗薬群における平均年齢は84.3±4.7歳と83.4±4.0歳、体重は53.8±10.1kgと53.1±10.3kg、BMIは22.1±3.4と22.3±3.2、投与量を減量した患者の割合は85.4%と85.7%であった。・有害臨床イベントの累積発生率は日本人集団のほうが全体集団より低かった。エドキサバンのビタミンK拮抗薬に対するハザード比(HR)は、全体集団が1.05(95%CI:0.85~1.31)、日本人集団が0.85(同:0.38~1.90)と同様だった。・大出血の累積発生率は全体集団と日本人集団で同程度だった。エドキサバンのビタミンK拮抗薬に対するHRは、全体で1.41(95%CI:1.03~1.91)、日本人集団で1.17(同:0.45~3.05)と日本人集団で若干低かった。・消化管の大出血は、全体集団ではエドキサバン群で多かったが(5.4%/人年vs.2.7%/人年、HR:2.03、95%CI:1.28~3.22)、日本人集団ではエドキサバン群3例(2.8%/人年)、ビタミンK拮抗薬群4例(4.1%/人年)だった。 これらの結果から、渡邊氏は「エドキサバンがTAVR施行後の日本人心房細動患者に対するビタミンK拮抗薬の代替治療となりうることが示唆される」とまとめた。

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口唇(口腔)のけがに対する縫合処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第9回

第9回 口唇(口腔)のけがに対する縫合処置《解説》図1今回は顔面外傷の中でも、口唇と口腔内の創傷についての対応を説明していきます。口唇は特殊な構造であり、外傷の際は適切な処置を施さないと傷跡が非常に目立ってしまう部位です。診察では、まず創部を観察しましょう。創傷の範囲、程度を推測するのに受傷機転は重要なので、処置の前に状況をしっかり聞き取ります。その上で、創がどんな状態か見て縫合が必要なのか判断します。知覚や表情に異常がないか(ある場合は顔面神経の損傷を疑う)を確認し、耳下腺管の損傷についても確認します(図1参照)。疑われる場合は造影が必要になることもあります。また、異物の有無も確認しましょう。場合によって単純X線、CT検査を検討します。口唇部の解剖と傷の程度による縫合処置口唇部の解剖の特徴としては、赤唇と白唇と呼ばれる皮膚と粘膜の境界があることと、遊離縁を形成し、皮膚・口輪筋の筋層・粘膜の3層構造になっていることです。(1)口唇の擦過創、浅いびらん口唇・口腔部に創傷被覆材は使いにくいため、白色ワセリンや口内炎用軟膏などの塗布で保存的に診ていけばよいです。(2)筋層に達する裂創口唇部の外傷の多くが外力と歯による損傷であり、筋層深くまでの損傷または貫通創であることが多いです。とくに口唇は遊離縁になっており組織欠損しやすい部分です。粘膜や舌は感染に強く治癒しやすい部位ではありますが、しっかり洗浄し縫合後も自宅で清潔に保ってもらうよう指示することが大切です。図2欠損がほぼない場合ズレないように縫合開始しましょう(基本は粘膜~筋層~皮膚の3層縫合)。糸は皮膚側6−0、角針の非吸収糸、粘膜側4−0、5−0、丸針の吸収糸などを選びます。エピネフリン入りの麻酔薬を注射すると、赤唇の赤みがなくなって境界がわからなくなるので先にマーキングしておくことが重要です!(図2参照)それでは、縫合を始めましょう!まずは口腔粘膜と赤唇(乾燥唇)の境界部を縫合します。次に、口輪筋の全層縫合を赤唇と白唇の境界部が一致するように行います。そして、赤唇と白唇の境界部に真皮縫合を行います。その後、赤唇と白唇の境界部から表皮縫合を開始します(できればルーペを使用)。最後に、口唇下縁が下垂しないよう粘膜部をラフに縫合します。組織欠損がある場合瘢痕が目立ちにくい縦方向に縫縮していくことが多いです。その際、白唇の長さが変化すると2次修正が困難になってしまいます。縫合に自信がない時は、洗浄・軟膏処置を行い、形成外科(または歯科口腔外科)外来へ依頼しましょう。(3)動物咬傷や高度な汚染創の場合洗浄、デブリードマンのみ、大まかな縫合にとどめて形成外科に紹介しましょう。最後に、後療法についても説明します。口唇周囲は摂食や発語で動きがある部位なので、瘢痕の炎症が遷延しやすく、肥厚性瘢痕やケロイドを起こしやすいです。トラニラスト内服や可能な範囲で傷を安静にするためのテーピングを行います。患者さんにはあらかじめ説明しておきましょう。参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書III 創傷外科. 克誠堂出版;2015.2)安瀬 正紀監修, 菅又 章編. 外傷形成外科―そのときあなたは対応できるか. 克誠堂出版;2007.3)Frank H. Netter著, 相磯貞和訳. ネッター解剖学アトラス 原著第4版. 南江堂;2007.

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口の中が燃えるように痛い!?口腔内灼熱症候群(BMS)【知って得する!?医療略語】第7回

第7回 口の中が燃えるように痛い!?口腔内灼熱症候群(BMS)最近、口の中が燃えるように痛い病気があると聞きました。本当にそんな病気があるのですか?そうなんです、本当にあるんです!文字通り、口の中の灼熱感を特徴とする口腔内灼熱症候群(BMS)という疾患があります。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】BMS【日本語】口腔内灼熱症候群【英字】burning mouth syndrome【分野】脳神経【診療科】耳鼻科・歯科口腔外科・疼痛治療科・心療内科【関連】一次性BMS・二次性BMS・舌痛症※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。口腔内のヒリヒリ、ピリピリした不快な灼熱感を訴える患者さんは、口腔内灼熱症候群(BMS:Burning mouth syndrome)を想定する必要があるかもしれません。恥ずかしながら、筆者が最近まで知らずに過ごしてしまった疾患の1つです。BMSは、幅広い診療科の医師が遭遇する可能性があるため、今回紹介いたします。BMSは国際頭痛分類第3版において、「3ヵ月を超えて、かつ1日2時間を超えて連日再発を繰り返す、口腔内の灼熱感または異常感覚で、臨床的に明らかな原因病巣を認めないもの」と定義されており、口腔粘膜は外見上正常、感覚検査を含めた臨床診察は正常とされています。BMSの原因は、歯科処置や口内炎などの局所的異常が原因とされていますが、発症契機が不明な場合も多いようです。また、BMSは心理社会課題や精神疾患の合併が多いことを指摘する研究報告がある一方、BMS患者の舌生検で粘膜上皮の神経線維に器質的変化を認めたことが報告され、近年はfMRIによる研究も進められています。さらに近年、BMSは一次性BMSと二次性BMSに区別される傾向にあります。二次性BMSの原因は、全身疾患と局所疾患に分類され、全身疾患に伴う二次性BMSの基礎疾患には薬剤誘発性、貧血(Plummer Vinson症候群)、シェーグレン症候群、糖尿病が挙げられており、BMS患者の診療では、血液検査による貧血、ビタミンB12、葉酸、微量金属(亜鉛・銅)のスクリーンニングの必要性が指摘されています。なお、BMSの口腔内疼痛症状は、日内変動も報告され午前より午後に強くなる傾向があるそうです。筆者が遭遇したBMS患者さんも同様の傾向が見られ、灼熱感を和らげるため冷水の多飲がみられたことを付記します。近年、増加傾向が指摘されているBMS。お時間が許せば、以下の論文をご一読ください。1)羽藤 裕之他. 1次性burning mouth syndrome患者の臨床的検討. 日口内誌. 2020;26:8-15.2)山村 幸江. 口腔灼熱症候群・舌痛症の診療. 耳鼻臨床. 2018;111:148-149.3)任 智美. 舌痛症の取り扱い. 日耳鼻. 2016. 119-144.4)日本頭痛学会:国際頭痛分類第3版(第3部)

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円錐角膜〔keratoconus〕

1 疾患概要■ 定義円錐角膜は、進行性の両眼角膜中央部もしくは下方の菲薄化と突出を来す疾患であり、近視化と不正乱視による視力低下を来す。■ 疫学円錐角膜の発症頻度は、450〜2,000人に1人とされてきた。しかし、診断技術の進歩により、軽症の円錐角膜の検出頻度が上がっている。屈折矯正外来を訪れる患者のうち円錐角膜または円錐角膜疑い患者は5%前後にみられる。また、難波らの調査からは、疑い例も含めると日本人の約100人に1人程度の有病率であるという結果が報告されていることから、軽症例も含めると従来考えられているよりも罹患人口が多い可能性が高い。性差については報告により異なるが、わが国では男性に多いという報告が多数ある。■ 病因明らかな病因はいまだに不明である。数多くの遺伝子変異が報告されているが、実際に遺伝的素因が明らかな例はあまり多くない。ダウン症候群やレーバー先天盲、エーラス・ダンロス症候群、マルファン症候群などでは円錐角膜の発症率が高いことが知られている。その他リスクファクターとしては、アトピーなどのアレルギー眼疾患、頻繁に目をこする、などが挙げられる。■ 症状軽度の症例では自覚症状はほとんどない場合もあるが、中等度以上になると近視性乱視と不正乱視が出現する。そのために眼鏡矯正視力が不良になりハードコンタクトレンズによる矯正が必要になる。ほとんどの場合両眼性に生じるが、程度に左右差があることも多い。■ 分類角膜の突出部位別の分類としては、以下のものがある。Nipple角膜中央の狭い範囲(5ミリ以下)に突出がみられるもの。Oval     突出部位が中央やや下方にみられるもの。最も頻度が高い。Globus突出部位が角膜の4分の3の範囲に及ぶもの。また、重症度分類としては、Amsler分類(表)が古くから用いられているが、測定機器の進歩によって、細隙灯顕微鏡で検出できない初期の変化が捉えられるようになってきたために、見直す必要がある。表 Amsler-Krumeich分類画像を拡大する■ 予後円錐角膜の多くは思春期から青年期にかけて発症し、その後加齢とともに進行するが、中年以降になると進行速度が緩やかになってやがて停止する。しかしながら、進行の有無やスピードには個人差が大きく、近年の報告によれば30歳以降でも進行する症例もみられることが明らかになっている。経過中に、デスメ膜破裂を来す場合がある。局所的な実質の浮腫と、それに伴う急速な視力低下と軽度の眼痛を認める(急性水腫:図1)。浮腫は自然に軽快するが、実質瘢痕を残すと視力が回復せずに角膜移植が必要となることもあるので、急性水腫を来さないような治療方針を建てることが重要となる。図1 急性水腫の前眼部所見急激に発症する角膜中央部の浮腫で、スリットランプでしばしば実質の裂隙とデスメ膜の断裂を認める。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)円錐角膜の診断には、正確な視力検査、自覚的屈折検査と角膜形状解析検査を行う必要がある。細隙顕微鏡での異常所見としては、角膜中央〜Vogt’s striae(角膜実質の線状の皺壁:図2)、Fleisher ring(突出部の周辺に認められるリング状のヘモジデリン沈着)、上皮化の瘢痕などが挙げられ、主として中等症以上で初めて認められる。図2 Vogt’s striae突出部に生じる細かい実質の皺壁。初期の円錐角膜の診断には、角膜トポグラフィー(形状解析検査)が有用であり、角膜中央から下方の前方突出が特徴的である(図3)。図3 典型的な円錐角膜の角膜トポグラフィー像下方角膜曲率の急峻化を認める。近年では、多くの機器で円錐角膜のスクリーニングプログラムが搭載されている。より初期の診断には、角膜前面だけではなく後面も評価でき、角膜厚の分布も検出できる角膜トモグラフィー(断層撮影)の感度が高い。さらに、角膜形状でなく生体力学的特性を調べる検査の有用性も報告されている。鑑別疾患としては、円錐角膜よりも周辺部角膜の菲薄化と突出を来たすペルーシド角膜辺縁変性が挙げられる。円錐角膜よりも発症が遅く進行が停止するまでの期間も長い。その他、レーシックなどの角膜屈折矯正手術後の角膜拡張症(エクタジア)も円錐角膜と同様の所見を呈する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)円錐角膜の治療は、視力矯正と進行予防の2つの目的があり、前者はさらに保存的治療と外科的治療に分かれる。■ 視力矯正1)保存的治療軽度の場合は眼鏡やソフトコンタクトレンズも用いられるが、一般的には酸素透過性ハードコンタクトレンズによる矯正が中心となる。角膜突出の程度が強くなると、多段階のベースカーブを有する円錐角膜用のハードコンタクトレンズが必要となる場合もある。ハードコンタクトレンズに伴う異物感が強い場合は、ソフトコンタクトレンズの上にハードコンタクトレンズを乗せる“piggy-back”とよばれる装用法や、中心部がハードレンズで周辺部がソフトレンズのハイブリッドレンズ、あるいは強膜レンズが用いられることもある。2)外科的治療軽度の非進行例については、有水晶体眼内レンズによる近視・乱視の矯正も試みられている。近年、角膜実質の混濁をともなわない例については、角膜実質にPMMA製のリングを入れる「角膜内リング」も一部で行われるようになった(国内未承認)。これによって角膜形状の改善とハードコンタクトレンズ装用感の向上が得られる場合がある。保存的治療で充分な視力矯正が得られない場合、角膜移植が1つの選択となりうる。かつては角膜全層を移植する「全層角膜移植」が広く行われたが、術後合併症への対策が欠かせないという欠点があり、それを補うために角膜実質をデスメ膜の直上まで切除して移植する「深層層状角膜移植」が行われているが、手術手技が難しいという欠点を持つ。■ 進行抑制約20年前から、「角膜クロスリンキング」という円錐角膜の進行抑制を目的とした治療が、諸外国で広く行われるようになった(国内未承認)。角膜実質内にリボフラビン(ビタミンB12)を浸透させた後に、紫外線を照射することで角膜実質のコラーゲン線維の架橋を促して強度を向上させる。これまでの研究で、円錐角膜の進行抑制が大半の例で得られ、若干の形状改善効果もあることが報告されている。進行抑制が得られれば、角膜移植などの外科的治療を受けずに済む可能性が高く、患者の生活の質の向上に役立つ。4 今後の展望上に挙げた治療法のいくつかは保険未収載であったり、機器の承認が取れていないため、治療は多くの場合が自費診療として行われる。特に角膜クロスリンキングは、疾患の進行抑制を効率で得られるために患者のQOLを長期にわたって改善できることが海外で報告されており、わが国でも早急に実施体制が整うことが求められる。また、多くの円錐角膜患者にとってハードコンタクトレンズは生活に欠かせないが、市町村によってはその購入に対する補助がなされないなど、患者負担が大きいことが問題となっている。5 主たる診療科眼科。しかし多くの例では、眼鏡店やコンタクトレンズ販売店、あるいは屈折矯正手術施行施設を訪れることも多く、これらの施設で適切に円錐角膜の診断をつけることが重要である。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報円錐角膜研究会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)National Keratoconus Foundation(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Amsler M. Ophtalmologica. 1946;111:96–101.公開履歴初回2023年3月8日

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硬化性萎縮性苔癬〔LSA:lichen sclerosus et atrophicus〕

1 疾患概要■ 概念・定義外陰部に好発する難治性炎症性疾患である。男性の陰茎部に生じるbalanitis xerotica obliterans、女性の外陰部にみられるkraurosis vulvaeやhypoplastic dystrophyと呼ばれる疾患も本症と同義である。■ 疫学性差は男女比が1:9と、圧倒的に女性の罹患者が多い。初経前と閉経後の2つの年齢層に発症のピークがある。男性例は30~50歳の壮年層に発症頻度が高い。■ 病因不明であるが、Borrelia burgdorferi感染の関与が示唆されたことはあるが、菌体が同定された報告は無く、現在では否定的と考えられている。■ 症状女性外陰部の病変は、象牙色調の浸潤を触れる硬化性または萎縮性の紅色局面が主体で、びらん、水疱、紫斑、出血を伴うことがある(図1)。図1 女性外陰部の硬化性苔癬大陰唇から膣口にびらん、苔癬化、脱色素斑が混在する。劇痒と形容される強い瘙痒感や、灼熱感を訴えることが多い。約3割で肛門周囲にも病変がみられ、外陰部から肛門周囲にかけて「8の字型」と称される連続病変を呈することがある(図2)。図2 外陰部から肛囲までの8の字病変肛門部では萎縮した白色調の病変が広がり、さまざまな程度で色素脱失や色素沈着が混在することが多い。同部の皮膚粘膜境界部に生じた場合には、尿道口や腟口部の狭窄を来たしうる。経過中に瘢痕を生じやすく、進展すると癒着による小陰唇の消失や陰核包皮の癒着・閉鎖、陰核の埋没などを来す。通常は腟や子宮頸部などの粘膜部位は侵さないが、辺縁の皮膚病変からびらん、亀裂、腟口部の狭窄が進展した場合には、自発痛や排尿痛、性交痛を生じることがある。その一方、高齢者では無症状の場合もあり、健診で初めて指摘されることもある。男性例は、成人では包皮、冠状溝、亀頭部、小児では通常包皮に生じる。女性例に比べて瘙痒が主症状になることは少なく、陰茎や肛囲の病変はまれである。高度の包茎や癒着による尿道口の狭小化のため、排尿異常を生じることがある。■ 分類性差を問わず、ほとんどが外陰部のみに限局する。外陰部以外の病変が併存することや、外陰部外のみの症例もあるが、諸外国と比べてわが国では極めてまれである。■ 予後長期の罹患に伴って上皮系悪性腫瘍(ほとんどが有棘細胞がん)が本症の5~11%で出現し、最も予後に影響する。また、溶血性貧血、白斑、自己免疫性水疱症のような自己免疫疾患や臓器特異的な自己抗体が検出される症例が、おのおの全体の2割と4割に合併することが知られており、予後に関わるものもある。中でも甲状腺疾患が12%、次いで白斑が6%と多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 諸検査1)皮膚生検と病理組織学的所見病理組織学的に不全角化を伴う過角化、毛孔性角栓を伴う様々な厚さの表皮肥厚や液状変性を認め、完成期には萎縮して表皮突起が平坦化する。直下の真皮浅層では、毛細血管拡張やリンパ球を主体とする炎症細胞浸潤に加え、膠原線維が均一化した無構造物「硝子様均質化(ヒアリン化, hyalinization)」が特徴的である(図3)。生検組織の蛍光抗体直接法では、免疫グロブリンや補体の沈着は通常認めない。図3 外陰部硬化性苔癬の病理組織像過角化、表皮突起の不規則化と消失、真皮上層の毛細血管拡張とヒアリン化、リンパ球浸潤を特徴とする。2)血液学的所見一般血液・生化学検査は正常であることが多く、本疾患の診断や病勢把握に有益な保険適応内のバイオマーカーは存在しない。上述のように、10~30%に自己免疫異常(抗甲状腺抗体、抗BP180抗体など)を認めることがある。■ 鑑別疾患外陰部カンジダ症を含む股部白癬、扁平苔癬、乳房外パジェット病、粘膜類天疱瘡、限局性強皮症(モルフェア)、白斑、円板状ループスエリテマトーデスなどを鑑別する必要がある。■ 合併症進行すると尿道狭窄や性交障害など、排尿や外陰部の機能障害を来すことがある。女性外陰部の硬化性苔癬では7~11%、また表皮が肥厚した病変では約30%に有棘細胞がんが出現するとの報告がある(図4)。図4 有棘細胞がんを合併した女性外陰部の硬化性苔癬右大陰唇から小陰唇の病変部内に隆起性の腫瘤を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療目標ほとんどの症例が難治であり、各種治療に難渋することが多い。長期にわたって症状のコントロールが不良な症例では局所発癌の頻度が高まるため、通常の治療に抵抗する場合は、まず症状の緩和とその維持を目指す。■ 治療内容1)初期治療局所へのステロイド外用剤が第1選択である。外陰部は他の部位と比べて薬の吸収率が良いものの(42倍 vs. 0.14~13倍:前腕内側の吸収率を1とした場合)、治療効果を優先して、欧米やわが国のガイドラインでは強めのステロイド外用剤の使用が推奨されている。掻爬行為によって症状が悪化するため、抗ヒスタミン薬などを併用して瘙痒のコントロールを行うこともある。2)治療後期症状が軽快したのちも無治療ではなく、保湿剤による外陰部の保護を継続することで、再燃やそのピークが抑えられる場合が多い。3)治療抵抗例保険適応外ではあるが、ステロイド外用に加えてタクロリムス含有軟膏の併用や、局所への光線療法が奏効する場合もある。男性の場合、既存の包茎が症状の遷延化を招くことが多いため、症状に応じて専門科への紹介を考慮する。4)合併症への治療硬化性苔癬における外科的治療は、悪性腫瘍合併例の病変部切除や尿道口狭窄例の尿道拡張術や尿道再建手術などに限って行う。4 今後の展望■ 治療外用療法が基本となるため、ステロイド以外の抗炎症作用ならびに免疫抑制効果をもつ外用剤が期待されている。上述したタクロリムス外用や活性型ビタミンD3外用剤、局所紫外線療法の奏効例が報告されている(本邦保険適用外)。全身療法ではシクロスポリンやバリシチニブ(JAK阻害薬)の内服が奏効した報告がある。■ 診断本症の確定診断には皮膚生検による病理組織所見の確認が必須であるが、女性の罹患者が多く、病変部がプライベートパーツであることから、生検が困難な症例も少なくない。患者血清中の細胞外基質extracellular matrix protein 1(ECM1)に対するIgG抗体を用いた血清診断が、非侵襲的かつ経過中の病勢の把握に有用バイオマーカーになる可能性が指摘されている。いまだ本抗体の病的意義は不明であり、今後の検討が待たれる。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本皮膚科学会 硬化性萎縮性苔癬 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン(医療従事者向けのまとまった情報)1)長谷川 稔ほか. 日皮会誌. 2016;126:2251-2257.2)強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン作成委員会.全身性強皮症・限局性強皮症・好酸球性筋膜炎・硬化性萎縮性苔癬の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン 2017. 金原出版;2017.3)Lewis FM, et al. Br J Dermatol. 2018;178:839-853.4)Kirtschig G, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2017;31:e81-e83.5)Oyama N, et al. Lancet. 2003;362:118-123.公開履歴初回2022年3月2日

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急性期脳梗塞へのアルテプラーゼ、発症前NOAC服用でもリスク増大なし/JAMA

 アルテプラーゼ静注治療を受けた急性虚血性脳卒中患者において、発症前7日以内の非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)服用者の頭蓋内出血リスクは、抗凝固薬非服用者と比べて大きく増大しないことが示された。米国・デューク大学のWayneho Kam氏らが、16万例超の患者を対象に行った後ろ向きコホート試験の結果を報告した。現行のガイドラインでは、急性虚血性脳卒中発症前にNOACを服用していた場合、原則的にはアルテプラーゼ静注を使用しないよう勧告されている。JAMA誌オンライン版2022年2月10日号掲載の報告。米国内1,752ヵ所の医療機関、約16万3,000例を対象に試験 研究グループは2015年4月~2020年3月に、脳卒中診療の質改善プログラム「Get With The Guidelines-Stroke」(GWTG-Stroke)に登録する米国内1,752ヵ所の医療機関で、急性虚血性脳卒中発症後4.5時間以内にアルテプラーゼ静注治療を受けた16万3,038例を対象に、後ろ向きコホート試験を行った。 被験者は、脳卒中発症前のNOAC服用者、抗凝固薬の非服用者であった。補完的に、抗凝固薬服用中に急性虚血性脳卒中や頭蓋内出血を発症した患者レジストリ「Addressing Real-world Anticoagulant Management Issues in Stroke」(ARAMIS)のデータも活用。脳卒中発症前NOAC服用患者への、アルテプラーゼ静注治療の安全性と機能性アウトカムについて、抗凝固薬の非服用者と比較した。 主要アウトカムは、アルテプラーゼ静注後36時間以内の症候性頭蓋内出血の発生だった。副次アウトカムは、院内死亡を含む安全性に関する4項目と、自宅への退院率を含む退院時に評価した機能性アウトカム7項目だった。症候性頭蓋内出血の発生率、NOAC服用群3.7%、抗凝固薬非服用群3.2% 被験者16万3,038例の年齢中央値は70歳(IQR:59~81)、女性は49.1%だった。このうち、脳卒中発症前のNOAC服用者(NOAC服用群)は2,207例(1.4%)、抗凝固薬の非服用者(非服用群)は16万831例(98.6%)だった。 NOAC服用群の年齢中央値は75歳(IQR:64~82)で、非服用群(同70歳、58~81)よりも高齢で、心血管系の併存疾患の罹患率が高く、脳卒中の程度もより重症だった(NIH脳卒中スケールの中央値、NOAC服用群:10[IQR:5~17]vs.非服用群:7[4~14])。 症候性頭蓋内出血の補正前発生率は、NOAC服用群3.7%(95%信頼区間[CI]:2.9~4.5)、非服用群3.2%(3.1~3.3)だった。ベースラインの臨床要因で補正後の症候性頭蓋内出血の発生リスクは、両群で同等だった(補正後オッズ比[OR]:0.88[95%CI:0.70~1.10]、補正後群間リスク差[RD]:-0.51%[95%CI:-1.36~0.34)。 副次アウトカムの安全性に関する項目は、院内死亡率(NOAC服用群6.3% vs.非服用群4.9%、補正後OR:0.84[95%CI:0.69~1.01]、補正後RD:-1.20%[-2.39~-0])を含めいずれも有意差はなかった。 機能性アウトカムについては、自宅への補正後退院率(NOAC服用群53.6% vs.非服用群45.9%、補正後OR:1.17[95%CI:1.06~1.29]、補正後RD:3.84%[1.46~6.22])など、7項目中4項目でNOAC服用群がより良好だった。

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標準薬ながら血糖降下薬を超えるメトホルミンの可能性【令和時代の糖尿病診療】第5回

第5回 標準薬ながら血糖降下薬を超えるメトホルミンの可能性今回のテーマであるビグアナイド(BG)薬は、「ウィキペディア(Wikipedia)」に民間薬から糖尿病治療薬となるまでの歴史が記されているように、なんと60年以上も前から使われている薬剤である。一時、乳酸アシドーシスへの懸念から使用量が減ったものの、今や2型糖尿病治療において全世界が認めるスタンダード薬であることは周知の事実である。そこで、メトホルミンの治療における重要性と作用のポイント、その多面性から血糖降下薬を超える“Beyond Glucose”の可能性もご紹介しようかと思う。なお、ビグアナイドにはフェンフォルミン、メトホルミン、ブホルミンとあるが、ここから先は主に使用されているメトホルミンについて述べる。作用機序から考えるその多面性まず、メトホルミンについて端的にまとめると、糖尿病治療ガイド2020-20211)の中ではインスリン分泌非促進系に分類され、主な作用は肝臓での糖新生抑制である。低血糖のリスクは低く、体重への影響はなしと記載されている。そして主要なエビデンスとしては、肥満の2型糖尿病患者に対する大血管症抑制効果が示されている。主な副作用は胃腸障害、乳酸アシドーシス、ビタミンB12低下などが知られる。作用機序は、肝臓の糖新生抑制だけを見ても、古典的な糖新生遺伝子抑制に加え、アデニル酸シクラーゼ抑制、グリセロリン酸シャトル抑制、中枢神経性肝糖産生制御、腸内細菌叢の変化、アミノ酸異化遺伝子抑制などの多面的な血糖降下機序がわかっている2)。ほかにも、メトホルミンはAMPキナーゼの活性化を介した多面的作用を併せ持ち、用量依存的な効果が期待される(下図)。図1:用量を増やすとAMPキナーゼの活性化が促進され、作用が増強する1990年代になって、世界的にビグアナイド薬が見直され、メトホルミンの大規模臨床試験が欧米で実施された。その結果、これまで汎用されてきたSU薬と比較しても体重増加が認められず、インスリン抵抗性を改善するなどのメリットが明らかになった。これにより、わが国においても(遅ればせながら)2010年にメトホルミンの最高用量が750mgから2,250mgまで拡大されたという経緯がある。メトホルミンの作用ポイントと今後の可能性それでは、メトホルミンにおける(1)多面的な血糖降下作用(2)脂質代謝への影響(3)心血管イベントの抑制作用の3点について、用量依存的効果も踏まえてみてみよう。(1)多面的な血糖降下作用メトホルミンもほかの血糖降下薬と同様に、投与開始時のHbA1cが高いほど大きい改善効果が期待でき、肥満・非肥満によって血糖降下作用に違いはみられない。用量による作用としては、750mg/日で効果不十分な場合、1,500mg/日に増量することでHbA1cと空腹時血糖値の有意な低下が認められ、それでも不十分な場合に2,250mg/日まで増量することでHbA1cのさらなる低下が認められている(下図)。また、体重への影響はなしと先述したが、1,500mg/日以上使用することにより、約0.9kgの減量効果があるとされている。図2:1,500mg/日での効果不十分例の2,250mg/日への増量効果画像を拡大するさらには高用量(1,500mg以上)の場合、小腸上部で吸収しきれなかったメトホルミンが回腸下部へ移行・停滞し、便への糖排泄量が増加するといわれており、小腸下部での作用も注目されている。これは、メトホルミンの胆汁酸トランスポーター(ASBT)阻害作用により再吸収されなかった胆汁酸が、下部消化管のL細胞の受容体に結合し、GLP-1分泌を促進させるというものである(下図)3)。図3:メトホルミンによるGLP-1分泌促進機構(仮説)画像を拡大するまた、in vitroではあるが、膵β細胞に作用することでGLP-1・GIP受容体の遺伝子発現亢進をもたらす可能性が示唆されている4)。よって、体重増加を来しにくく、インクレチン作用への相加効果が期待できるメトホルミンとインクレチン製剤(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)の併用は相性が良いといわれている。(2)脂質代謝への影響あまり知られていない(気に留められていない?)脂質代謝への影響だが、メトホルミンは肝臓、骨格筋、脂肪組織においてインスリン抵抗性を改善し、遊離脂肪酸を低下させる。また、肝臓においてAMPキナーゼの活性化を介して脂肪酸酸化を亢進し、脂肪酸合成を低下させることによりVLDLを低下させるという報告がある5)。下に示すとおり、国内の臨床試験でSU薬にメトホルミンを追加投与した結果、総コレステロール(TC)、LDLコレステロール(LDL-C)、トリグリセリド(TG)が低下したが、有意差は1,500mg/日投与群のみで750mg/日ではみられない。糖尿病専門医以外の多くの先生方は500~1,000mg/日までの使用が多いであろうことから、この恩恵を受けられていない可能性も考えられる。図4:TC、LDL-C、TGは、1,500mg/日投与群で有意な低下がみられる画像を拡大する(3)心血管イベントの抑制作用メトホルミンの心血管イベントを減らすエビデンスは、肥満2型糖尿病患者に対する一次予防を検討した大規模臨床試験UKPDS 346)と、動脈硬化リスクを有する2型糖尿病患者に対する二次予防を検討したREARCHレジストリー研究7)で示されている。これは、体重増加を来さずにインスリン抵抗性を改善し、さらに血管内皮機能やリポ蛋白代謝、酸化ストレスの改善を介して、糖尿病起因の催血栓作用を抑制するためと考えられている8)。ここまで主たる3点について述べたが、ほかにもAMPKの活性化によるがんリスク低減や、がん細胞を除去するT細胞の活性化、そして糖尿病予備軍から糖尿病への移行を減らしたり、サルコペニアに対して保護的に働く可能性などを示す報告もある。さらに、最近ではメトホルミンが「便の中にブドウ糖を排泄させる」作用を持つことも報告9)されており、腸がメトホルミンの血糖降下作用の多くを担っている可能性も出てきている。しかし、どんな薬物治療にも限界がある。使用に当たっては、日本糖尿病学会からの「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」に従った処方をお願いしたい。今や医学生でも知っている乳酸アシドーシスのリスクだが、過去の事例を見ると、禁忌や慎重投与が守られなかった例がほとんどだ。なお、投与量や投与期間に一定の傾向は認められず、低用量の症例や投与開始直後、あるいは数年後に発現した症例も報告されている。乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴としては、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)、2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態、3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、4.高齢者とあるが、まずは経口摂取が困難で脱水が懸念される場合や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし、以上1~4の事項に留意する。とくに腎機能障害患者については、2019年6月の添付文書改訂でeGFRごとの最高用量の目安が示され、禁忌はeGFRが30未満の場合となっているため注意していただきたい。図5:腎機能(eGFR)によるメトホルミン最高投与量の目安画像を拡大するBasal drug of Glucose control&Beyond Glucose、それがBG薬まとめとして、最近の世界動向をみてみよう。米国糖尿病学会(ADA)は昨年12月、「糖尿病の標準治療2022(Standards of Medical Care in Diabetes-2022)」を発表した。同文書は米国における糖尿病の診療ガイドラインと位置付けられており、新しいエビデンスを踏まえて毎年改訂されている。この2022年版では、ついにメトホルミンが2型糖尿病に対する(唯一の)第一選択薬の座から降り、アテローム動脈硬化性疾患(ASCVD)の合併といった患者要因に応じて第一選択薬を判断することになった。これまでは2型糖尿病治療薬の中で、禁忌でなく忍容性がある限りメトホルミンが第一選択薬として強く推奨されてきたが、今回の改訂で「第一選択となる治療は、基本的にはメトホルミンと包括的な生活習慣改善が含まれるが、患者の合併症や患者中心の医療に関わる要因、治療上の必要性によって判断する」という推奨に変更された。メトホルミンが第一選択薬にならないのは、ASCVDの既往または高リスク状態、心不全、慢性腎臓病(CKD)を合併している場合だ。具体的な薬物選択のアルゴリズムは、「HbA1cの現在値や目標値、メトホルミン投与の有無にかかわらず、ASCVDに対する有効性が確認されたGLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬を選択する」とされ、考え方の骨子は2021年版から変わっていない。もちろん、日本糖尿病学会の推奨は現時点で以前と変わらないことも付け加えておく。メトホルミンが、これからもまだまだ使用され続ける息の長い良薬であろうことは間違いない。ぜひ、Recommendationに忠実に従った上で、用量依存性のメリットも感じていただきたい。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.2)松岡 敦子,廣田 勇士,小川 渉. PHARMA MEDICA. 2017;35:Page:37-41.3)草鹿 育代,長坂 昌一郎. Diabetes Frontier. 2012;23:47-52.4)Cho YM, et al. Diabetologia. 2011;54:219-222.5)河盛隆造編. 見直されたビグアナイド〈メトホルミン〉改訂版. フジメディカル出版;2009.6)UKPDS Group. Lancet. 1998;352:854-865.7)Roussel R, et al. Arch Intern Med. 2010;170:1892-1899.8)Kipichnikov D, et al. Ann Intern Med. 2002;137:25-33.9)Yasuko Morita, et.al. Diabetes Care. 2020;43:1796-1802.

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5年間のビタミンD補給により自己免疫疾患のリスク低減/BMJ

 5年間のビタミンD補給により、オメガ3脂肪酸の追加の有無を問わず、自己免疫疾患の発生が22%減少し、オメガ3脂肪酸の補給では、ビタミンD追加の有無にかかわらず、統計学的有意差はないものの同疾患が15%減少することが、米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のJill Hahn氏らが行った「VITAL試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年1月26日号で報告された。米国のプラセボ対照無作為化試験 研究グループは、ビタミンDと海産動物由来の長鎖オメガ3脂肪酸は自己免疫疾患のリスクを低減するかを検証する目的で、2×2ファクトリアルデザインを用いた二重盲検プラセボ対照無作為化試験を行った(米国国立衛生研究所[NIH]の助成による)。 本試験には、2011年11月~2014年3月の期間に全米から2万5,871例(50歳以上の男性1万2,786例と55歳以上の女性1万3,085例)が登録され、2017年12月に5年間の介入が終了した。 参加者は、ビタミンD(コレカルシフェロール2,000 IU/日、1万2,927例)またはプラセボ(1万2,944例)、あるいはオメガ3脂肪酸(エイコサペンタエン酸460mgとドコサヘキサエン酸380mgを含む魚油カプセル1g/日、1万2,933例)またはプラセボ(1万2,938例)の補給を受ける群に無作為に割り付けられた。 追跡期間中央値は5.3年で、参加者はこの間に発生した新規の自己免疫疾患をすべて報告し、これらの疾患は医療記録の調査で確定された。 主要エンドポイントは、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、自己免疫性甲状腺疾患、乾癬を含むすべての自己免疫疾患の新規発生とされた。高度疑い例を加えると、オメガ3脂肪酸群でも有意にリスク低下 全体の平均年齢は67.1歳で、71%が非ヒスパニック系白人、20%が黒人で、9%はその他の人種/民族であった。4,555例(18%)が無作為化の前に1つ以上の自己免疫疾患を有していた。 ビタミンD群(ビタミンD+オメガ3脂肪酸とビタミンD単独)で123例、プラセボ群で155例が自己免疫疾患と確定され、ビタミンD群で自己免疫疾患のリスクが22%有意に低下した(補正後ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.61~0.99、p=0.05)。 また、オメガ3脂肪酸群(ビタミンD+オメガ3脂肪酸とオメガ3脂肪酸単独)で130例、プラセボ群で148例が自己免疫疾患と確定され、オメガ3脂肪酸群でリスクが15%低下したが、両群間に有意な差は認められなかった(補正後HR:0.85、95%CI:0.67~1.08、p=0.19)。 自己免疫疾患の確定例に高度疑い例を加えた解析では、自己免疫疾患の発生はビタミンD群で210例、プラセボ群で247例(補正後HR:0.85、95%CI:0.70~1.02、p=0.09)と有意差はなかったのに対し、オメガ3脂肪酸群は208例と、プラセボ群の249例(0.82、0.68~0.99、p=0.04)に比べリスクが有意に低下した。 参照群(ビタミンDのプラセボ+オメガ3脂肪酸のプラセボ)の自己免疫疾患確定88例と比較して、ビタミンD+オメガ3脂肪酸群では63例(補正後HR:0.69、95%CI:0.49~0.96、p=0.03)、ビタミンD単独群では60例(0.68、0.48~0.94、p=0.02)と、いずれもリスクが有意に低下したが、オメガ3脂肪酸単独群では67例(0.74、0.54~1.03、p=0.07)であり、わずかに有意差には達しなかった。 著者は、「ビタミンDとオメガ3脂肪酸は栄養補助食品として忍容性が高く、毒性もなく、ほかに自己免疫疾患の発生を抑制する効果的な治療法はないため、本試験の臨床的重要性は高いと考えられる」としている。

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新鮮なネタとしての魚:うつを予防するのは本当か(解説:岡村毅氏)

 魚を食べるとうつにならないというのは本当かという研究である。正確には魚などに多く含まれるオメガ3脂肪酸を多くとるとうつにならないかという研究である。1)魚は健康に良いとされている。2)魚を食べている人は健康そうである。知り合いのAさんもBさんも、ジャンクフードは食べずに日本食を好み、運動をし、そして魚をよく食べている。3)そこで手近な100人くらいの人を調査した。魚を食べているかと、健康状態を聞いた。そしたら魚を食べている人は確かに健康だった。うつも少ない。4)魚はうつを予防する。 …典型的な間違いである。 頑張って魚を食べている人は、健康に気を使っているだろうし、所得も高そうだし、余裕もありそうだ。こうした要因が介在しているから見かけの関係が見えてしまったにすぎない(交絡といいます)。 本当に効果があるのか調べるには、ある地点から前向きにオメガ3脂肪酸を摂取する群、しない群に分けて、その後のうつの発症を調べればよい。その結果は、何とオメガ3脂肪酸群の方がややうつが多かった。 本研究はVITALスタディ(Vitamin D and Omega-3 Trial)という大規模研究の一環である。わかったことは、ビタミンDもオメガ3脂肪酸も、心の健康には何ら効果がなさそうだということであった。 こう書くと、魚なんて食べても意味ないのだ、明日からはカップラーメンと酒だ、と早とちりする人がいるので、強く止めておきたい。要するに自分を大切にしている人は、食生活に気を付けているので健康だということにすぎない。一方で食生活に気を付けても、病気になるときはなることも忘れてはならない。機械じゃないんだ、人間だもの、と言うしかない。 運動とか、魚とか、野菜は健康に良いことは事実だが、それ自体がうつや認知症を予防することはない。同時に、自分のことを大切にして、自堕落な生活はやめた方がよくて(もちろん、したければしてもよい)、魚や野菜をきちんと食べて運動をしましょう、という当たり前の事実があるのだ。 ここで終わっては面白くないのでもう一歩話を進めよう。 人々は「〇〇を食べると病気にならない」という話が大好きである。私の専門分野でいうと、特定の油が認知症予防に効くという一時流行った説を吹き込まれて、高カロリーの油をたくさん摂取している人がたまにいた。「太りますよ、むしろ血管病変を介して認知症になりかねないです」と外来ではやんわりお伝えしている。そもそも〇〇を食べれば病気にならないなどというものは存在しない。していればみんなもう食べているだろう。人間は集団的には合理的な動きをするのだから。 一方で、そういうばかげた話を、怒りをもって眺めている専門家も多いが、それはそれで大人げないとも思う。みんなネタとして捉えて、おしゃべりをしているだけなのである。個人的な見解だが、テレビを真面目に信じている人は10%もいないのではないか? ハイデガーという哲学者は、人々は本質を忘れ(死を忘れ)おしゃべりをして過ごすものだと言ったが、典型的などうでもいいおしゃべりは「食べ物健康談義」であろう。だって誰も傷つけないし、ほどほど盛り上がるし、「某ワクチンが危険だ」みたいな陰謀論のようにどぎつくないから友達をなくすこともないだろう。 問題は本当に信じているごく一部の人だけだ。テレビや週刊誌のビジネスの邪魔はしたくはないが、まともな情報は公共的な組織に提供してほしいものだ。たとえば、厚生労働省は『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』という事業できちんとした情報を提供している。 とても参考になるので一読を勧める。

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原因はSAD?毎年秋から体調を崩す患者さん【知って得する!?医療略語】第3回

第3回 原因はSAD?毎年秋から体調を崩す患者さん季節の変化で気持ちが落ち込むことがあるって本当ですか?コム太君、そうなんです。近年、知られるようになってきましたが、「季節性感情障害(SAD)」という疾患概念があります。とくに日照時間が減り、寒くなる秋~冬に多い印象です。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】SAD【日本語】季節性感情障害・季節性気分障害【英字】seasonal affective disorder【分野】精神神経【診療科】精神科・内科・心療内科【関連】冬季うつ病・夏季うつ病実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。本シリーズでは皆様のお役に立つかもしれない医療略語をご紹介します。今回は『SAD』です。「だるい」「眠れない」「気力が出ない」「気が滅入る」「不安で仕方ない」ことを主訴に内科を受診される患者さんは少なくありません。各種検査をしても異常がなく、症状を一元的に説明できない不定愁訴の患者さんの中には、詳しくお話を伺うと、実は毎年、秋頃から体調が悪くなり始めることが分かります。症状出現が早い人は、夏の終わり頃から症状を自覚し始めます。そして、年末年始をピークに、春に近づくにつれて、知らず知らずのうちに症状が軽快していることが少なくありません。そんな患者さんにはSADの可能性があります。ご本人も季節的な気分障害を認識していないことが多く、冬季を過ぎると症状が改善する可能性をお伝えすると、それだけで安心される方も少なくありません。このSADですが、Rosenthal氏らが、以下の4項目を満たす疾患と定義しています1)。(1)RDC診断基準による大感情障害を有する(2)少なくとも2年以上連続して秋冬に発症し、春夏に寛解するうつ状態(3)他の精神障害を有さない(4)明確な心理・社会的要因を有しない外来レベルだけではなく、救急受診患者数を季節で検証した研究でも、冬季に増加する傾向が報告されています2)。SADの原因は、日照時間の減少、日照時間減少によるビタミンD低下、セロトニンへの影響、気温の低下など、諸説あります。ただ、臨床現場において、SADの概念があることを明確に認識しておくことは、患者さんへの症状推移の予測や治療方針の決定、病状説明に役立つかもしれません。1)Wehr TA, et al. Am J Psychiatry. 1989;146:829-839.2)大槻 秀樹ほか. 日本救急医学会. 2009;20:763-771.

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オメガ3サプリメントにうつ病予防効果はあるのか?/JAMA

 米国の50歳以上のうつ病リスクを有する集団において、海洋由来オメガ3脂肪酸(オメガ3)サプリメントの長期投与によりプラセボと比較し、うつ病または抑うつ症状の新規発症や再発リスクがわずかではあるが統計学的に有意に増加した一方で、気分スコアには差がないという複雑な結果となった。米国・マサチューセッツ総合病院のOlivia I. Okereke氏らが「VITAL-DEP試験」の結果を報告した。 オメガ3サプリメントは、うつ病の治療に用いられているが、一般成人のうつ病予防効果は不明であった。著者は、「今回の知見は、一般成人においてうつ病予防にオメガ3サプリメントの使用は支持されないことを示している」と結論づけている。なお、本研究は、米国の成人(男性50歳以上、女性55歳以上)2万5,871人を対象に、ビタミンD3とオメガ3脂肪酸の心血管疾患およびがんの一次予防効果を評価する無作為化臨床試験「VITAL試験」の補助的な試験で、ビタミンD3の結果はすでに報告されている。JAMA誌2021年12月21日号掲載の報告。うつ病イベントのリスクと、長期の気分スコアの変化を評価 研究グループは、2011年11月~2014年3月の期間に、うつ病の新規発症リスクを有する(うつ病の既往歴がない)1万6,657例と、うつ病の再発リスクがある(うつ病の既往歴はあるが、過去2年間は治療を受けていない)1,696例を、2×2ファクトリアルデザインにより、オメガ3群(エイコサペンタエン酸465mg、ドコサヘキサエン酸375mgを含む魚油1g/日)、ビタミンD3群(2,000IU/日)、オメガ3+ビタミンD3群、またはプラセボ群に無作為に割り付け、2017年12月31日まで投与した。 主要評価項目は、うつ病イベント(うつ病または臨床的に重要な抑うつ症状)のリスク(初発例と再発例の合計)、ならびに気分スコアの変化とした。うつ病イベントは、うつ病の診断、治療(投薬またはカウンセリング)、または定期的なアンケートでの臨床的に重要な抑うつ症状存在(8項目の患者の健康に関する質問票[PHQ-8]抑うつ尺度スコア≧10)の新規自己申告とした。また、気分スコアの変化はPHQ-8を用いて年6回のアンケートで確認し(範囲0~24、スコアが高いほど症状が重度)、臨床的に意義のある最小変化量は0.5点とした。オメガ3群、うつ病イベントリスクがハザード比1.13と有意に高い 1万8,353例(平均年齢67.5[SD 7.1]歳、女性49.2%)が無作為化され(オメガ3群9,171例、プラセボ群9,182例)、90.3%が試験を完遂した(試験終了時の生存者の93.5%)。治療期間中央値は5.3年であった。 オメガ3とビタミンDの交互作用検定の結果、交互作用は認められなかった(交互作用のp=0.14)。うつ病イベントのリスクは、オメガ3群(651件、13.9/1,000人年)がプラセボ群(583件、12.3/1,000人年)より有意に高かった(ハザード比 [HR]:1.13、95%信頼区間[CI]:1.01~1.26、p=0.03)。PHQ-8スコア変化量の平均差は0.03点(95%CI:-0.01~0.07、p=0.19)で、長期的な気分スコアの変化においてはオメガ3群とプラセボ群で有意差は認められなかった。 重篤または主な有害事象の発現率は、オメガ3群vs.プラセボ群で主要心血管イベント2.7% vs.2.9%、全死因死亡3.3% vs.3.1%、自殺0.02% vs.0.01%、消化管出血2.6% vs.2.7%、あざになりやすい24.8% vs.25.1%、胃不快感/胃痛35.2% vs.35.1%であった。

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頭皮の傷(裂創)の縫合処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第8回

第8回 頭皮の傷(裂創)の縫合処置外来で意外とよく見かける頭の傷。頭皮は血流が豊富なため傷が浅くても結構出血するので、外来に慌てて駆け込んでくる患者さんがよくいます。しかし、頭部は皮膚が厚く毛包脂腺系に富むので、全身の皮膚の中で最も良好な創傷治癒機転が働く部位でもあります。つまり治りやすいので、慌てず落ち着いて処置していきましょう!ただ、頭を打っている場合は頭蓋内病変も心配です。まずは頭部への衝撃による頭蓋内病変の有無を速やかに判定し、その疑いがあれば直ちに脳外科専門医に紹介をしましょう。外来では、それらを否定してから創部の処置を行います。次に、大まかに創部の状態をチェックして、縫合が必要かどうか、局所麻酔が必要かどうかを考えましょう。擦過傷であれば、第2回に解説した対応で問題ありません。皮膚や浅い皮下組織までの損傷なら、ちゃんと毛が生えます。頭皮の欠損が大きい場合は形成外科に紹介してくださいね。頭皮縫合のポイントは「帽状腱膜」の状態を見極めることさて、よくある頭部の外傷は裂創です。今回は頭皮裂創の縫合処置をメインに解説します。毎度のことですが、最初は局所麻酔と洗浄を行いましょう。創傷処置の基本は洗浄です! 剃毛は必要ありません!! もしどうしても剃毛する場合は、周囲5mm程度にしましょう。剃毛後は粘着テープで周囲の髪を除去します。挫滅した組織をトリミングする際は最小限にとどめ、楔状(右図参照)に行いましょう。洗浄と局所麻酔については前の記事(第2回、第3回)を参照してください。頭皮の縫合を行うに当たって、できれば見極めてほしいポイントが、「帽状腱膜まで切れているのかどうか?」です。処置方法は、帽状腱膜の処置が必要かどうかで大まかに分けられます。(1)帽状腱膜の状態を確認創部がどのくらいの深さか判定するためには、まず頭皮の解剖学を理解していないといけませんね。表皮から順にSCALPの頭文字になっています(下図参照)。皮膚~皮下組織~棒状腱膜は密に結合しているため、まとまって骨膜から剥がれて出血していることが多いです。帽状腱膜(下図参照)は、皮下組織より深層、骨膜上に存在しています。前方では前頭筋、後方では後頭筋、側方では上耳介筋、側頭筋膜にそれぞれ移行する横方向に強靭な線維性組織で、この表層に主要血管と神経が走行しています。そのため、帽状腱膜が損傷している場合は出血量が多いことがあるのです。帽状腱膜の縫合が必要な場合帽状腱膜が破れていたら、しっかり縫合することがその後の止血や瘢痕(はんこん)予防に重要となります。骨膜が見えている、もしくはすぐ硬い骨が触れるような場合、帽状腱膜が破れている可能性が高いです。太めのナイロン糸(4−0)でしっかり縫合しましょう。出血源となっていることも多いため、ここをしっかり縫合することである程度の出血をコントロールできるはずです。腱膜を寄せるのが緊張で難しい場合は、帽状腱膜下を少し剥離するとよいです。帽状腱膜の縫合が不要な場合比較的浅い傷で、毛包や脂肪層が見える範囲にとどまっている場合、出血は圧迫止血のみでコントロールできることが多いです。無闇に電気メスやバイポーラで止血すると毛包を傷つけてしまうので気を付けてください。縫合は、後に解説する表面縫合のみで対応します。(2)帽状腱膜がどれかわからなかったら…帽状腱膜は慣れていないと同定しづらいこともあります。その場合、皮膚から帽状腱膜まで大きく組織を取って縫合するやり方もあります。出血が多い場合は、このように大きく針糸をかけて強めに縫合します。残ってしまった瘢痕は髪の毛で隠せます。縫合の緊張が強過ぎて創縁が壊死してしまった場合は、抜糸後に軟膏処置などを行う必要があります。(3)頭皮の表面縫合について帽状腱膜の処置が終わったら、表皮を縫合しましょう。前回、頭皮に真皮縫合は必要ないと説明しました。真皮縫合を行うと、毛包を損傷し瘢痕性脱毛の原因となります。右図のように真皮浅層から中層を通すように表面縫合を行います。後に記載するステープラー縫合もいいと思います。(4)ステープラー縫合について毛包を損傷しにくいという点で、ステープラー縫合は頭皮の表面縫合に有用です。ただ、寝転がる際に当たる部分などは日常生活で患者さんが苦痛に感じることもあるので注意しましょう。小児の頭部裂創に対して皮膚接着剤を使う方法がある?泣き叫ぶ子供を押さえつけて局所麻酔して縫合して…とは非常に困難ですよね。そこで、止血ができた比較的浅い(皮下組織程度)裂創に対して、ダーマボンドを使う方法があります。創部を寄せるように髪の毛をくっつけるのです。もちろん、処置の前に創部をしっかり洗浄して水分は拭き取ること! ダーマボンドが傷に入らないよう、気をつけて行ってくださいね。参考1)Brosnahan J. Evid Based Nurs. 2003;6:17.2)夏井 睦. ドクター夏井の外傷治療裏マニュアル. 三輪書店;2007.3)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.4)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.5)横田 和典 編.PEPARS(ペパーズ)177 当直医マニュアル形成外科が教える外傷対応.全日本病院出版会;2021.6)山本 有平 編.PEPARS(ペパーズ)14 縫合の基本手技<増大号>.全日本病院出版会;2007.7)上田 晃一 編. PEPARS(ペパーズ)88 コツがわかる!形成外科の基本手技―後期臨床研修医・外科系医師のために―. 全日本病院出版会;2014.8)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

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見逃してはならない“しびれ”とその部位は?【Dr.山中の攻める!問診3step】第9回

第9回 見逃してはならない“しびれ”とその部位は?―Key Point―しびれは重大な疾患の一つの症状のことがあるしびれの分布や部位から原因疾患を絞り込むことができる頻度が高い疾患は、症状の特徴を覚えておくと診断が容易である症例:68歳 女性主訴)右胸痛、呼吸苦現病歴)7日前、突然左指と左口唇がしびれたが数分で改善した。脳MRI検査を受けたが異常なし。昨夕から徐々に右胸痛と右背部痛が出現。体動時と深呼吸時に痛みは増悪。動くと息切れあり。本日、外出時に痛みの増悪を認め来院した。既往歴)COPD薬剤歴)なし社会歴)たばこ:20歳から45歳まで30本/日アルコール:飲まない経過)左指と左口唇のしびれからは視床の病変が連想される(手口感覚症候群)。視床では口唇と手指の感覚領域が近接して存在する息をすると胸が痛むという症状は胸膜に病変が及んでいることを示唆する胸部レントゲン写真で異常陰影を認めたので、胸部CT検査を行い原発性肺がん(S4) と右第7肋骨骨転移の診断となった肺がんのため過凝固となり手口感覚症候群を起こしたと考えられた◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!高齢者はしびれをよく訴える多発神経障害は臨床で遭遇する頻度が高い多発性単神経障害なら原因疾患を絞り込みやすい【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】見逃してはならないしびれかを考察する1)手口感覚症候群(視床の出血/梗塞)指先がしびれている時には、口もしびれていないか必ず確かめるWallenberg症候群(延髄外側症候群)病側の顔面温痛覚低下(V)+構音障害/嚥下障害(IX、X) + ホルネル症候群 + 小脳失調、反対側の体幹/上下肢の温痛覚低下(外側脊髄視床路)Guillain-Barre症候群数日から数週間で急速に進行する。カンピロバクター感染症による下痢が先行することがある。症状は下肢から始まる左右対称性弛緩麻痺、呼吸筋麻痺、自律神経障害(血圧変動、頻脈、徐脈)。感覚障害はなくてもよい。閉鎖孔ヘルニア患側大腿内側から下腿の痛み/しびれ(Howship-Romberg兆候)、やせ型の高齢女性に多いNumb chin syndrome顎がしびれる。悪性リンパ腫/乳がん/前立腺がんが三叉神経(V3下顎神経)に浸潤【STEP2-2】しびれの分布から考える多発神経障害(polyneuropathy)2)神経線維の長い足底から上方にしびれが進行。左右対称性<主な原因>DANG THERAPIST(ひどい療法士)*以下の各頭文字を表しているDM(糖尿病)Alcohol(飲酒)Nutritional(ビタミンB12、銅欠乏)Guillain-Barre(ギランバレー症候群)Toxic(中毒:重金属、薬剤)Hereditary(Charcot-Marie-Tooth)Renal(尿毒症)Amyloidosis(アミロイドーシス)Porphyria(ポルフィリン症)Infection(感染症:HIV、ライム病)Systemic(全身性:血管炎、サルコイドーシス、シェーグレン症候群)Tumor(腫瘍随伴症候群)多発性単神経障害(mononeuritis multiplex)いろいろな部位の単神経障害が左右非対称に進行糖尿病、血管炎、膠原病(SLE、関節リウマチ)、HIV【STEP3】部位から原因を鑑別する■母指~環指橈側のしびれ(正中神経支配)手根管症候群(最も頻度の高い末梢性絞扼神経障害)夜間に増悪、手を振ると軽快、リスクファクターは手を使う職業、甲状腺機能低下症、糖尿病、関節リウマチ、アミロイドーシス、末端肥大症、妊娠。猿手■環指尺側と小指のしびれ(尺骨神経支配)肘部管症候群変形性関節症、ガングリオン、スポーツ、小児期の骨折による外反肘が原因。鷲手変形■手背母指と示指のしびれ(橈骨神経支配)橈骨神経麻痺飲酒後に肘掛け椅子で寝て上腕内側を圧迫。下垂手■上肢のしびれ…頸椎症による神経障害3)神経根症頸部~肩甲骨部の痛み、デルマトームに沿った根性疼痛(しびれだけなら脊髄症)脊髄症手のしびれで発症し、手指が器用に動かせなくなる。10秒テスト: 手掌を下にしてできるだけ速く、グーとパーを繰り返す。10秒間で正常者では25~30回できる。胸郭出口症候群上肢のしびれ、肩/上肢/肩甲骨周囲の痛み、腕神経叢の障害■大腿外側のしびれ大腿外側皮神経痛体重増加、妊娠、きついベルトが原因。股関節の伸展/深い屈曲で症状増悪■腰痛+殿部や膝より末梢の下肢に放散痛3)椎間板ヘルニアSLR(straight leg raising)test陽性(感度80%、特異度40%)。95%はL5とS1の根が関与。膝蓋腱反射低下(L4)足関節/母趾背屈力低下(L5)アキレス腱反射低下/つま先立ちができない(S1)■下腿外側~足背のしびれ総腓骨神経麻痺右下肢外側腓骨頭での圧迫。外傷やギプス固定が原因。下垂足のため鶏様歩行■足底~つま先のしびれ足根管症候群内果後方の足根管で脛骨神経を圧迫閉塞性動脈硬化症下肢のしびれや痛み、冷感、間欠性跛行(休息で改善)ABI(ankle-brachial index)1.3<治療>原疾患の治療を行う。 <参考文献>1)塩尻俊明.非専門医が診る しびれ. 羊土社. 2018.2)Mansoor AM. Frameworks for Internal Medicine. 2019. p525-539.3)仲田和正. 手・足・腰診療スキルアップ. シービーアール. 2004.

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腎不全患者の在宅中心静脈栄養の輸液設計を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第43回

 今回は、腎機能低下時の中心静脈栄養(以下、TPN)の設計についてです。腎機能低下時はタンパク質の利用制限があるため負荷量の制限が必要です。そのため、タンパク質の利用効率の指標であるNPC/N比(非タンパクカロリー/窒素比)を考慮して輸液設計を提案しました。患者情報80歳、男性(在宅)基礎疾患びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、前立腺がん(多発骨転移・リンパ節転移)、慢性心不全、心房細動、陳旧性脳梗塞、慢性腎不全、腹部大動脈瘤術後介護度要介護4服薬管理妻(点滴交換も妻が実施)介護状況毎週月曜日ルート交換、訪問看護処方内容 ※内服薬は誤嚥リスクのため中止1.エルネオパNF2号輸液 1,000mL 24時間投与2.フロセミド注20mg 1A 静脈注射本症例のポイントこの患者さんは、在宅医療で介入した当初よりBUN:49.8mg/dL、血清クレアチニン値:2.66mg/dLと高度の腎機能低下がありました。心不全もあるため水分量が多く、浮腫を繰り返して治療に難渋している状態でした。ある日、医師より電話連絡があり、「Alb値(1.9g/dL)、総タンパク(5.4g/dL)が低いので、がん末期で悪液質があることは承知のうえだが、栄養改善のために今の輸液内容にアミノ酸輸液を追加したいと考えているがどうか」と相談がありました。そこでポイントを整理することにしました。<NPC/N比(非タンパクカロリー/窒素比)>アミノ酸は十分な糖質や脂質を摂取できている状態ではタンパク合成に利用されるが、糖質や脂質が不足している状態ではエネルギーとして消費され、タンパク合成に利用されない。アミノ酸が効率よくタンパク質の合成に利用されるかどうかをみる指標としてNPC/N比が用いられる。NPC/N比=(総エネルギー量)-(タンパク質エネルギー量)/(タンパク質重量)÷6.25現行のエルネオパNF2号輸液1,000mLのNPC/N比は149で、腎不全時の推奨NPC/N比は300~500です。患者は腎不全があることからアミノ酸合成能力は低下しており、タンパク質の異化(分解)が亢進している状態と考えられます。タンパク質負荷が増加してアミノ酸利用能を超えると、BUN上昇から尿毒症や高NH3血症などが惹起される可能性が高くなります。輸液内容全体を見直して、アミノ酸利用効率の高い輸液設計が必要と考えました。処方提案と経過医師への折り返し電話の前に、トレーシングレポートで下記の輸液設計プランを送付しました。現在のエルネオパNF2号は電解質+糖質+アミノ酸+ビタミン剤+微量元素を含有した製剤であり、ここにアミノ酸輸液を上乗せするとさらにNPC/N比が低下します。そのため、電解質+糖質の製剤であるハイカリックRF輸液への変更を提案しました。ハイカリックRFの「RF」はRenal Failure(腎不全)の略で、腎不全患者用に調整された製剤です。また、本剤のみでは不足する成分もあるため、総合ビタミン剤や微量元素も追加し、アミノ酸輸液も腎不全用の低タンパク質製剤で個々に調整することが適当と考えました。提案内容1.ハイカリックRF輸液 500mL2.10%塩化ナトリウム注射液キット 20mL3.塩化カリウム注射液キット 20mEq4.高カロリー輸液用総合ビタミン剤キット 1キット5.腎不全用アミノ酸製剤(1-2)注射液200mL 2袋Total:1,094.4kcal、NPC/N比:312.5、水分量:900mL医師より上記の設計プランが承認され、投与内容を変更するよう指示がありました。変更対応後10日目に高Na血症(155mEq/L)が発現したことで10%塩化ナトリウム注射液キットが中止になりましたが、それ以外の輸液内容は継続となりました。その後、栄養評価に関する検査値の改善は認められませんでしたが、電解質も含めて悪化なく経過し、看取りまで点滴内容は継続となりました。日本静脈経腸栄養学会・大塚製薬工場. やさしく学ぶための輸液・栄養の第一歩 第4版.

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第27回 有名だけれども意外と見落とされがちな意識障害の原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)意識障害の原因は主軸を持って対応を!2)忘れがちな意識障害の原因を把握し対応を!【症例】62歳男性。意識障害仕事場の敷地内で倒れていた。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO295%(RA)体温36.0℃瞳孔4/4 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なし所見麻痺の評価は困難だが、明らかな左右差なし意識障害の原因は?1)救急外来では意識障害患者にしばしば遭遇します。以前に取り上げた意識障害のアプローチに準じて対応しますが、今回の原因は何らしいでしょうか。意識障害というとどうしても頭蓋内疾患を考えがちですが、一般的に頭蓋内疾患が原因の意識障害では血圧は高くなるため、この時点で明らかな麻痺も認めないことから脳卒中は積極的には疑いません。クモ膜下出血の多くは左右差を認めないため、突然発症であった場合には注意が必要ですけどね。それでは原因は何でしょうか?意識障害の原因は多岐に渡り、“AIUEOTIPS”などの語呂合わせで覚えている人も多いのではないでしょうか。急性発症の意識障害であれば、低血糖を除外し、その後頭部CTを検査するというのは一般的な流れかと思います。診療の場において頻度は異なりますが、救急外来を受診する患者では感染症、脳卒中、痙攣、薬剤性、外傷が多く、その他、血糖異常やアルコール、電解質異常などもそれなりに経験します。今回はその中でも見逃しがちな意識障害の原因を見逃される理由と併せて整理しておきましょう。細菌性髄膜炎2)頻度として高くはありませんが、病態として敗血症が考えられる状況においては常に考える必要があります。見逃してしまう理由は、そもそも鑑別に挙げることができない、鑑別に挙げても発熱がない、項部硬直を認めないなどから除外してしまう、その他腰椎穿刺は施行したものの細胞数の上昇を認めなかったため除外してしまったなどが一般的でしょう。ワクチンの普及によって、以前と比較し細菌性髄膜炎は減少傾向にあるものの、毎年私の施設でも数例を経験します。忘れた頃にやってくる疾患といったイメージでしょうか。救急外来では、qSOFA陽性患者では鑑別に挙げ、他のフォーカスが明らかでない場合には積極的に腰椎穿刺を施行し、たとえ細胞数が上昇していなくてもグラム染色所見や培養結果で根拠を持って否定できるまでは、細菌性髄膜炎として対応するようにしています。髄膜刺激徴候は重要ですが、ケルニッヒ徴候やブルジンスキー徴候など特異度が比較的高い所見はあるものの、感度が高い身体所見は存在しないことに注意が必要です(項部硬直は感度46.1%、特異度71.3%)。単一の指標ではなく、総合的な判断が必要であるため、髄膜刺激徴候は1つ1つ確認しますが、結果の解釈を誤らないようにしましょう。細菌性髄膜炎は内科的エマージェンシー疾患であり、安易な除外は禁物です。レジオネラ症(legionellosis)「レジオネラ肺炎」。誰もが聞いたことがある病気ですが、早期に疑い適切な介入を行うことは簡単なようで難しいものです。呼吸困難を主訴に来院し、低酸素血症を認め、X線検査所見では明らかな肺炎像、尿中抗原を提出して陽性、このような状況であれば誰もが考えると思いますが、実臨床はそんなに甘くはありません。肺炎球菌と並んで重症肺炎の代表的な菌であるため、早期発見、早期治療介入が重要ですが、入り口を把握し疑うポイントを知らなければ対応できません。レジオネラ肺炎を見逃してしまう理由もまた同様であり、そもそも鑑別に挙がらない、疑ったものの温泉入浴などの感染経路がなく否定してしまった、尿中抗原陰性を理由に除外してしまったなどが挙げられます。市中肺炎患者に対して肺炎球菌をカバーしない人はいないと思いますが、意外とレジオネラは忘れ去られています。セフトリアキソン(CTRX)やアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)などの抗菌薬は、しばしば救急外来で投与されますが、これらはレジオネラに対しては無効ですよね。重症肺炎、喀痰グラム染色で起因菌が見当たらない、紹介症例などでCTRXなどβラクタム系抗菌薬が無効な場合には積極的にレジオネラ肺炎を疑う必要があります。難しいのは入り口が肺炎を示唆する症状ではない場合です。レジオネラ症の初期に認めうる肺外症状を頭に入れておきましょう(表)。これらを認める場合、他に説明しうる原因があれば過度にレジオネラを考える必要はありませんが、そうではない場合、「もしかしてレジオネラ?!」と考え、改めて病歴や身体所見をとるとヒントが隠れているかもしれません。また、意識すれば発熱の割に脈拍の上昇が認められない比較的徐脈にも気付くかもしれません。尿中抗原は診断に多々利用されていますが、これも注意が必要です。特異度は比較的高いとされますが、偽陽性の問題もあります。また、感度は決して高くないため陰性であっても否定できません。(1)重症肺炎、(2)βラクタム系抗菌薬が効かない肺炎、(3)グラム染色で有意な菌が認められない場合、(4)肺外症状を認める場合、(5)比較的徐脈を認める場合、このような場合にはレジオネラを意識して対応するようにしています。表 レジオネラ肺炎の肺外症状画像を拡大するウェルニッケ脳症4)アルコール多飲患者では鑑別に挙げ対応することが多いと思いますが、それ以外の場合には忘れがちです。フレイル患者など低栄養の患者さんでは常に考えるべき疾患であると思います。ウェルニッケ脳症が見逃されがちな5つの誤解があります。それは、「(1)非常にまれである、(2)慢性アルコール患者のみに起こる、(3)3徴(意識障害、眼球運動障害、歩行失調)が揃っていなければならない、(4)チアミンを静注するとアナフィラキシーのリスクが高い、(5)他の診断があれば除外できる」です。正確な頻度は不明であるものの、私たちが行わなければならないのはウェルニッケ脳症を診断すること以上に治療介入のタイミングを逃さないことです。意識障害患者に対するビタミンB1の投与は経静脈的に行いますが、迷ったら投与するようにしましょう。典型的な症状が揃うまで待っていてはいけません。重要なこととして(5)の他の診断があれば除外できるという誤解です。フレイル患者が脳梗塞を起こした場合、肺炎を起こした場合、その場合にビタミンB1が欠乏している(しかけている)ことも考え対応するようにしましょう。意識すると撮影した脳梗塞のMRIに典型的な所見が映っているかもしれませんよ。今回の症例の最終診断は「レジオネラ肺炎」でした。診断へのアプローチは紙面の都合上割愛しますが、意識障害のアプローチは主軸を持ちつつ、そのアプローチで見逃しがちな点を把握し、対応することが重要です。私は重度の意識障害患者に対するアプローチ方法を決め、そこから目の前の患者さんでは必要のない項目を引く形で対応しています。これもあれもと足し算で対応すると忘れたり、後手に回ることがありますからね。1)坂本 壮、安藤 裕貴著. 意識障害。あなたも名医!. 日本医事新報社;2019.2)Akaishi T, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:193-198.3)Cunha BA. Infect Dis Clin North Am. 2010;24:73-105.4)坂本 壮 編著. 救急外来、ここだけの話. 医学書院;2021.

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