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メチルマロン酸血症〔Methylmalonic acidemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義メチルマロン酸血症は常染色体劣性遺伝形式をとる有機酸代謝異常症である。メチルマロニルCoAムターゼという酵素の活性が低いために、身体が特定のアミノ酸(イソロイシン、バリン、スレオニン、メチオニン)や奇数鎖脂肪酸、コレステロールを適切に処理できず、メチルマロン酸をはじめとする中間代謝産物が蓄積し、代謝性アシドーシスを伴うさまざまな症状を呈する疾患である。■ 疫学わが国における新生児マススクリーニングの試験研究(1997~2012年、被検者数195万人)では、本症は11万人に1人の発症頻度だった。これは有機酸代謝異常症の中ではプロピオン酸血症(5万人に1人)に次ぐ頻度だったが、プロピオン酸血症患者の中には少なくとても小児期にはほぼ無症状の最軽症型が多く含まれるため、臨床的に問題となる有機酸代謝異常症の中では本症が最多の疾患である。■ 病因メチルマロニルCoAを異化する際に必要なメチルマロニルCoAムターゼの活性低下が原因である。先天的にメチルマロニルCoAムターゼの活性が低値の場合と、補酵素であるコバラミン(ビタミンB12)の代謝に異常がある場合に分けられる。いずれの場合も常染色体劣性遺伝形式をとる。■ 症状1)代謝不全発作疾患のコントロールが良好であれば無症状だが、感染症罹患・経口摂取不良、タンパク質過剰摂取時に代謝不全発作を起こしうる。活気不良、哺乳・食事摂取不良、嘔気・嘔吐、筋緊張低下、呼吸障害(多呼吸・努力呼吸・無呼吸)、意識障害といった症状が数時間~数日単位で進行し、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスや高アンモニア血症を伴う。2)中枢神経症状急性代謝不全により高アンモニア脳症や低酸素性虚血性脳症を来すと、重度の神経学的後遺症(精神運動発達遅滞、てんかん、筋緊張亢進など)を残しうる。大脳基底核病変により不随意運動が生じることもある。急性の代謝不全発作を起こさずとも、慢性進行性に上記の症状が出現することがある。3)嘔気・嘔吐メチルマロン酸血症の患者は、臨床的に明らかな代謝不全とは言えない場合でも嘔気・嘔吐の症状を呈することが多い。4)腎機能障害尿細管間質の慢性的な障害により腎機能が徐々に低下し、腎不全に至る例が存在する。正確な発症年齢や合併率はまだ明らかではないが、メチルマロン酸血症のサブタイプにより発症頻度が異なるとの報告がある。この腎機能障害は肝移植を受けた症例でも進行することが知られている。5)その他汎血球減少や視神経委縮、拡張型・肥大型心筋症、膵炎の合併報告がある。■ 分類1)分子遺伝学的分類Mut0:メチルマロニルCoAムターゼの残存酵素活性が測定感度以下の症例Mut-:メチルマロニルCoAムターゼの残存酵素活性が測定可能な症例cblA、cblB、cblD-variant2:コバラミンの代謝異常によるメチルマロン酸単独の増加(なお、cblC、cblE、cblF、cblGはホモシステイン増加を伴う)2)臨床的分類(1)発症前型新生児マススクリーニングにより代謝不全発作を起こす前に診断された症例。(2)急性発症型哺乳によるタンパク負荷が始まる新生児期と、食事間隔が空き、感染症罹患が増える乳幼児期に多い。前者はMut0の症例が多く、新生児マススクリーニングの結果が出る前に発症することもある。(3)遅発型成長発達遅延や食思不振、反復性嘔吐が徐々に進行する症例。小さな代謝発作を周期性嘔吐症や胃腸炎と診断されていることがある。経過中に重篤な代謝不全発作を起こすこともある。■ 予後代謝不全発作により脳症を併発した場合は重度の神経学的後遺症を残すことが少なくない。肝移植を受けた症例の多くで症状の改善が報告されているが、代謝不全発作や中枢神経症状の進行を完全に抑えられるわけではない。また、肝移植実施の有無に関わらず腎機能障害は進行し、腎移植が必要になることがある。移植の有無に関わらず、ほぼ全例でタンパク質摂取制限またはビタミン剤などの内服が生涯必要となる。代謝不全を可能な限り回避することが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 新生児マススクリーニング新生児マススクリーニングでC3またはC3/C2高値(C5-OH増加なし)を指摘された場合は、メチルマロン酸血症あるいはプロピオン酸血症を疑って精密検査を開始する。新生児マススクリーニングで指摘された時点で代謝不全になりかけている症例も存在するため、診断を詰めることよりも、まずは急性期治療が必要な状態かどうかを判断することが重要である。メチルマロン酸血症とプロピオン酸血症は、診察と一般検査のみで鑑別することは困難であり、急性期治療がほぼ同じであるため、初期治療の際に診断がついていなくても構わない。■ 外来で代謝疾患を疑う場合メチルマロン酸血症は、新生児マススクリーニングの結果が出る前に症状を呈する症例や、新生児マススクリーニングでは発見できない例が存在するため、新生児マススクリーニングで異常が無かったとしても本疾患を否定することはできない。感染症や絶食後の急激な全身状態の増悪、not doing well、努力呼吸、意識障害、けいれん、筋緊張低下といった病歴の患者を診察する際には、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症、尿路サイクル異常症、ミトコンドリア異常症を念頭に置く必要がある。メチルマロン酸血症はその重要な鑑別診断である。1)問診と診察新生児期には哺乳量と体重増加量、嘔気・嘔吐、活気不良、傾眠傾向、努力呼吸(呻吟やクスマウル呼吸、多呼吸など)といった症状が、生後数日の時点から増悪傾向にないかを特に注意する。メチルマロン酸血症などの有機酸代謝異常症は、胎児期には母親が代謝を担ってくれるため無症状で、出生後哺乳によるタンパク負荷が始まってから症状が出現する。そのため、生直後は元気だったが徐々に活気不良となった、という病歴の方が有機酸代謝異常症らしい。乳幼児期以降では、離乳食が進み食事間隔が空いたときや感染症(特に胃腸炎)に罹患したときに急性代謝発作を起こしやすい。また、代謝不全による慢性の食思不振や反復する嘔気・嘔吐を、周期性嘔吐症やケトン性低血糖症と診断されていることがある。いずれの場合もアニオンギャップ陽性の代謝性アシドーシスを起こし、糖入りの点滴で症状が軽快するため原疾患に気付きにくい。検査ではアンモニアの測定や尿中有機酸分析が鑑別に有用である。2)検査メチルマロン酸血症の鑑別に必要な検査尿中有機酸分析(最低0.5mL、-20℃冷凍)、血漿アミノ酸分析39種類(血漿0.5mL、-20℃冷凍)、血漿総ホモシステイン(0.3mL冷蔵)、ビタミンB12(血清0.6mL冷蔵)、アシルカルニチン分析(ろ紙血最低1スポット、常温乾燥、乾燥後-20℃冷凍保存可)状態の評価に必要な検査血液ガス分析、アンモニア、一般生化学検査、血糖(血液ガス分析で代用可能)、血液像、尿定性(pH、ケトン体)※乳酸・ピルビン酸、遊離脂肪酸、血中ケトン体分画、頭部MRIも全身状態の評価や他の代謝異常疾患を鑑別する際に有用な検査である。3)鑑別(図)メチルマロン酸血症と確定した後は、ビタミンB12を内服させて反応性を評価する。病型診断にはメチルマロニルCoAムターゼ活性測定と遺伝子検査が有用である。図 メチルマロン酸血症の鑑別診断フローチャート画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 慢性期の管理母乳や調整粉乳に特殊ミルク(商品名:雪印S-22、S-23)を一定の割合で混合し、自然タンパクを制限しつつ必要なカロリーを確保する。薬物療法としてはメチルマロニルCoAムターゼの補酵素であるビタミンB12や、有機酸の排泄促進目的でL-カルニチンを使用する。乳酸高値の場合はビタミンCを併用することもある。メトロニダゾールやラクツロースによる腸内細菌のプロピオン酸産生抑制も有効である。経口摂取が困難な場合は経管栄養を併用する。これらの治療を行っても代謝発作を起こすリスクが高い場合は肝移植を検討する。学童期以降に問題となりやすい腎機能低下に対して腎移植が必要になることもある。■ 代謝不全発作時基本的には他の有機酸代謝異常症の代謝不全と同じ対応でよい。急性期にはタンパク質摂取を中止し、異化抑制のためブドウ糖液で十分なエネルギーを確保する。ビタミンB12とL-カルニチンの投与も行う。高アンモニア血症に対して、急性期であればカルグルミン酸も有効である。循環・呼吸不全を安定化させても代謝性アシドーシスによるアシデミア(pH5 主たる診療科小児科、神経内科、移植外科、肝臓内科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター メチルマロン酸血症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾患情報センター メチルマロン酸血症(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年03月16日

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H. pylori除菌と栄養補助、胃がん抑制に効果/BMJ

 2週間のHelicobacter pylori除菌治療と7年間のビタミンまたはニンニクの補助食品による3つの介入は、それぞれ22年以上にわたり胃がんによる死亡のリスクを有意に改善し、除菌とビタミン補助は胃がんの発生も抑制することが、中国・Peking University Cancer Hospital and InstituteのWen-Qing Li氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年9月11日号に掲載された。H. pylori感染は胃がんの確立されたリスク因子であり、その除菌は胃がんの予防戦略となりうる。一方、胃がんの予防におけるH. pylori除菌治療の効果の持続期間や、関連のあるすべての有益な作用および有害な作用を知るには、長期の追跡調査を要する。胃がんに及ぼす栄養補助食品の効果の評価にも長期の調査が必要とされている。中国の地域住民を対象とする要因デザインの無作為化試験 研究グループは、H. pylori除菌および栄養補助による胃がんの予防効果を評価する目的で、プラセボ対照無作為化試験を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 対象は、中国山東省臨ク県の胃がんリスクが高い地域の住民3,365例であった。このうち、H. pylori抗体が血清学的陽性の2,258例は、2×2×2要因デザインにより、H. pylori除菌、ビタミン補助、ニンニク補助、それぞれのプラセボに無作為に割り付けられた。また、H. pylori抗体が血清学的陰性の1,107例は、2×2要因デザインにより、ビタミン補助、ニンニク補助、それぞれのプラセボに無作為に割り付けられた。 H. pylori除菌治療では、アモキシシリン+オメプラゾールが2週間投与された。ビタミン補助はビタミンC、Eとセレニウムが、ニンニク補助はニンニク抽出物とニンニク油が、7.3年間投与された(1995~2003年)。 主要アウトカムは、2017年まで定期的に行われた胃内視鏡検査で同定された胃がんの累積発生率と、死亡証明書と病院記録で確定された胃がんによる死亡とした。副次アウトカムは、胃がん以外のがんや心血管疾患などの他の原因による死亡であった。H. pylori除菌の効果は、比較的早期に発現 1995~2017年の期間(フォローアップ期間22.3年)に、151例の胃がんが発生し、94例が胃がんで死亡した。このうちベースラインでH. pylori陽性であったのは、それぞれ119例(79%)および76例(81%)だった。 H. pylori除菌治療による胃がん発生の保護効果は介入後22年間持続した(オッズ比[OR]:0.48、95%信頼区間[CI]:0.32~0.71、p<0.001)。また、ビタミン補助により、胃がん発生は有意に減少したが(0.64、0.46~0.91、p=0.01)、ニンニク補助に有意な保護効果は認められなかった(0.81、0.57~1.13、p=0.22)。 3つの介入はいずれも、胃がんによる死亡を有意に抑制した(H. pylori除菌治療の完全補正後ハザード比[HR]:0.62、95%CI:0.39~0.99、p=0.05、ビタミン補助の完全補正後HR:0.48、0.31~0.75、p=0.001、ニンニク補助の完全補正後HR:0.66、0.43~1.00、p=0.05)。 胃がんの発生と死亡の双方に及ぼすH. pylori除菌治療の効果と、胃がんによる死亡に及ぼすビタミン補助の効果は比較的早期に認められたが、胃がんの発生に及ぼすビタミン補助とニンニク補助の効果の発現には時間を要した。 全死因死亡に関しては、H. pylori除菌とニンニク補助は影響を及ぼさず、ビタミン補助は改善の傾向が認められたものの有意な差はなかった(HR:0.87、95%CI:0.76~1.01、p=0.07)。また、3つの介入と、他のがん種および心血管疾患の間には、統計学的に有意な関連はみられなかった。 著者は、「これらの知見は胃がん予防の潜在的な機会をもたらすが、ビタミン補助とニンニク補助の良好な効果を確定し、H. pylori除菌治療とビタミン、ニンニク補助に関する可能性のあるリスクを特定するには、さらに規模の大きな介入試験を要する」としている。

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間質性膀胱炎(ハンナ型)〔IC:interstitial cystitis with Hunner lesions〕

1 疾患概要■ 概念・定義間質性膀胱炎(interstitial cystitis:IC)という名称は、1887年に膀胱壁に炎症と潰瘍を有する膀胱疾患を報告したSkeneによって最初に用いられた。そして1915年、Hunnerが、その膀胱鏡所見と組織所見の詳細を報告したことから、ハンナ潰瘍(Hunner's ulcer)と呼ばれるようになった。しかし、ハンナ潰瘍と呼ばれた病変は、胃潰瘍などで想像する潰瘍とは異なるため(詳細は「2 診断-検査」の項参照)、潰瘍という先入観で膀胱鏡を行うと見逃すことも少なくなく、現在はハンナ病変(Hunner's lesion)と呼ぶことになった。以前は米国・国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases:NIDDK)による診断基準(1999年)が用いられたが、これは臨床研究のための診断基準で厳し過ぎた。『間質性膀胱炎診療ガイドライン 第2版』では、「膀胱の疼痛、不快感、圧迫感と他の下部尿路症状を伴い、混同しうる疾患がない状態」の総称を間質性膀胱炎/膀胱痛症候群(interstitial cystitis/bladder pain syndrome:IC/BPS)とし、このうち膀胱内にハンナ病変のあるものを、「IC/BPS ハンナ病変あり(IC/BPS with Hunner lesion)」、それ以外を「IC/BPS ハンナ病変なし(IC/BPS without Hunner lesion)」とすることとした。これまでは、ハンナ病変はないが点状出血を認めるIC/BPSを非ハンナ型ICとしていたが、これもIC/BPSハンナ病変なしに含まれることになる。要は、ハンナ病変が確認されたIC/BPSのみが「間質性膀胱炎」であり、ハンナ病変がなければ、点状出血はあってもなくても「膀胱痛症候群」となる。本症の名称については、前述の経緯も含め変遷があるが、本稿では「間質性膀胱炎(ハンナ型)」の疾患名で説明をしていく。■ 疫学過去のICに関する疫学調査の対象はIC/BPS全体であり、0.01~2.3%の範囲である。疾患に対する認知度が低いために、疫学調査の結果が低くなっている可能性がある。2014年に行ったわが国での疫学調査では、治療中のIC患者数は約4,500人(0.004%:全人口の10万人当たり4.5人)であった。性差は、女性が男性の約5倍とされる。■ 病因尿路上皮機能不全として、グリコサミノグリカン層(glycosaminoglycan:GAG layer)異常が考えられている。GAG層の障害は、尿路上皮の防御因子の破綻となり、尿が膀胱壁へ浸潤して粘膜下の神経線維がカリウムなどの尿中物質からの影響を受けやすくなり、疼痛や頻尿を引き起こすと考えられる。しかし、GAG層が障害される原因は解明されていない。このほか、細胞間接着異常、上皮代謝障害、尿路上皮に対する自己免疫が推測されている。また、肥満細胞の活性化によりサイトカインなどの炎症性メディエータが放出され、疼痛、頻尿、浮腫、線維化、粘膜固有層内の血管新生などが引き起こされるとされる。これら以外にも免疫性炎症、神経原性炎症、侵害刺激系の機能亢進、尿中毒性物質、微生物感染など、複数の因子が関与していると考えられている。■ 症状IC/BPSの主な症状には、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿意亢進、膀胱不快感、膀胱痛などがある。尿道、膣、外陰部痛、性交痛などを訴えることもある。不快感や疼痛は膀胱が充満するに従い増強し、そのためにトイレにいかなければならず、排尿後には軽減・消失する場合が多い。■ 分類膀胱鏡にてハンナ病変が確認されたIC/BPSに限り「IC/BPS ハンナ病変あり」とし、ハンナ病変がないIC/BPSは「IC/BPS ハンナ病変なし」と分類する。「IC/BPS ハンナ病変あり」は、間質性膀胱炎(ハンナ型)として2015年1月1日に難病指定された。■ 予後良性疾患であるので生命への影響はない。1回の経尿道的ハンナ病変切除・焼灼術で症状改善が生涯持続することもあるが、繰り返しの手術を必要とし、疼痛コントロールがつかなかったり、自然経過あるいは手術の影響によって膀胱が萎縮したりして、膀胱摘出術が必要となることもまれにある。症例によって経過はさまざまである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断のフローは、『間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン』(2019/6発刊)に詳しく紹介されているので参照いただきたい。本稿では、エッセンスだけにとどめる。■ 検査1)症状IC/BPSを疑う症状があることが、最も重要である(「1 疾患概要-症状」の項参照)。2)排尿記録排尿時刻と1回排尿量を24時間連続して記録する。蓄尿時膀胱・尿道部痛または不快感により頻尿となるため、1回排尿量が低下し、排尿回数が増加している症例が多い。多くの場合、夜間も日中同様に頻尿である。3)尿検査多くの場合、尿所見は異常を認めない。赤血球や白血球を認める場合は感染や尿路上皮がんとの鑑別を行う必要がある。4)膀胱鏡ハンナ病変(図)を認める。ハンナ病変とは、膀胱粘膜の欠損とその周囲が毛細血管の増生によりピンク色に見えるビロード状の隆起で、しばしば瘢痕形成を伴う。表面にフィブリンや組織片の付着が認められることがある。膀胱拡張に伴い病変が亀裂を起こし、裂け、そこから五月雨状あるいは滝状に出血するため、拡張前に観察する必要がある。図 IC/BPSハンナ病変ありの膀胱鏡所見画像を拡大する■ 鑑別診断過活動膀胱、細菌性膀胱炎、慢性前立腺炎、心因性頻尿との鑑別を要するが、子宮内膜症との鑑別はともに慢性骨盤痛症候群であるから非常に難しい。しかし、最も注意すべきは膀胱がん、とくに上皮内がんである。膀胱鏡所見も、瘢痕を伴わないハンナ病変は、膀胱上皮内がんとよく似ており鑑別を要する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)病因が確定されていないため根治的な治療はなく、対症療法のみである。また、IC/BPS ハンナ病変あり/なしを区別した論文は少ない。なお、わが国で保険収載されている治療は「膀胱水圧拡張術」だけである。■ 保存的治療患者の多くが食事療法を実行しており、米国の患者会である“Interstitial Cystitis Association”によればコーヒー、紅茶、チョコレート、アルコール、トマト、柑橘類、香辛料、ビタミンCが、多くのIC/BPS患者にとって症状を増悪させる飲食物とされている。症状を悪化させる食品は、個人によっても異なる。膀胱訓練は決まった方法はないものの有効との報告がある。■ 内服薬治療三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(商品名:トリプタノール)は、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを抑制して中枢神経の痛み刺激の伝達を抑えるほか、ヒスタミンH1受容体をブロックして肥満細胞の活動を抑制するなどの作用機序があると考えられ、有効性の証拠がある。トラマドール(同:トラマール)、抗けいれん薬であるガバペンチン(同:ガバペン)も神経因性疼痛に対するある程度の有効性があるとされる。また、肥満細胞の活性化抑制を目的として、スプラタスト(同:アイピーディ)、ロイコトリエン受容体拮抗薬のモンテルカスト(同:キプレス、シングレア)がある程度有効である。免疫抑制薬のシクロスポリンA、タクロリムス、プレドニゾロンはある程度の有効性はあるが、長期使用による副作用に十分注意が必要であり、安易な使用はしない。このほかNSAIDs、選択的COX-2阻害薬、尿のアルカリ化のためのクエン酸もある程度の有効性がある。■ 膀胱内注入療法ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO)は炎症抑制、筋弛緩、鎮痛、コラーゲンの分解、肥満細胞の脱顆粒などの作用があるとされ、IC/BPSに有効性のエビデンスがある。ハンナ病変ありのIC/BPSには効果があるとの報告もある。わが国では、現在臨床試験中である。ヘパリン、ヒアルロン酸はGAG層の欠損を補うことにより症状を緩和すると考えられ、IC/BPSに対してある程度の有効性のエビデンスがある。リドカインは短時間で疼痛の軽減が得られるが、その効果は短期間である。ボツリヌス毒素の膀胱壁内(粘膜下)注入、ステロイドのハンナ病変および辺縁部膀胱壁内注入も、ある程度の有効性のエビデンスがある。■ 手術療法膀胱水圧拡張術が、古くからIC/BPSの診断および治療の目的で行われてきた。有効性のエビデンスは低く、奏効率は約50%、奏効期間は6ヵ月未満との報告が多い。IC/BPSハンナ病変ありには、経尿道的ハンナ病変切除・焼灼術が推奨される。反復治療を要することが多いが、症状緩和には有効である。膀胱全摘出術や膀胱部分切除術+膀胱拡大術は、他の治療がすべて失敗した場合にのみ施行されるべきである。ただし、膀胱全摘出術後も疼痛が残存することがある。4 今後の展望これまではIC/BPS ハンナ病変あり/なしを区別、同定して行われた研究は少ない。世界的に「IC/BPSハンナ病変あり」は1つの疾患として、他のIC/BPSとは分けて考えるという方向になった。以前の非ハンナ型ICを含む「IC/BPSハンナ病変なし」は、heterogeneousな疾患の集合であり、これから「IC/BPSハンナ病変あり」(ハンナ型IC)を分けることによって、薬の開発も行われやすく、薬の効果評価も明確なものになると期待される。5 主たる診療科泌尿器科膀胱水圧拡張術を保険診療として行うためには、施設基準が必要である。間質性膀胱炎(ハンナ型)(「IC/BPSハンナ病変あり」のこと)は、難病指定医により申請が可能である。日本間質性膀胱炎研究会ホームページに掲載されている「診療に応じる医師」が参考になるが、このリストは医師からの自己申告に基づくものであり、診療内容は個々の医師により異なる。日本排尿機能学会認定医のような、排尿障害に関する専門医が望ましい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本間質性膀胱炎研究会(Society of Interstitial Cystitis of Japan:SICJ)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 間質性膀胱炎(ハンナ型)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本間質性膀胱炎研究会 ガイドライン作成委員会 編集. 間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン. リッチヒルメディカル;2019. 2)Hanno PM,et al. J Urol. 1999;161:553-557.3)Yamada Y,et al. Transl Androl Urol. 2015;4:486-490.4)Tomoe H. Transl Androl Urol. 2015;4:600-604.5)Tomoe H, et al. Arab Journal of Urol. 2019;17:77-81.6)Whitmore KE, et al. Int J Urol. 2019;26:26-34.公開履歴初回2019年7月9日

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第11回 風邪を予防する5ヵ条【実践型!食事指導スライド】

第11回 風邪を予防する5ヵ条医療者向けワンポイント解説風邪やインフルエンザについての流行時期や感染経路などがニュースになる時期です。食生活への意識は、これらに対する予防効果として期待できますし、体調管理にもつながります。そこで、風邪を予防するための5つのポイントをまとめました。1)喉などの粘膜を保護するためにビタミンAを摂取するビタミンAは、体内で免疫機能、視覚、生殖、細胞情報伝達に関与している栄養素です。皮膚や粘膜の保護、健康を維持する働きがあるため、ウイルスや菌の予防に対しても効果があると考えられています。ビタミンAは2種類あり、肉や魚、乳製品、卵などに含まれるレチノールなどの既成ビタミンAと、野菜や果物などに含まれるβ−カロテンなどのプロビタミンAカロテノイドがあります。多く含まれる食品として、牛乳やチーズなどの乳製品、緑黄色野菜(色の濃い野菜:ニンジン、パセリ、ほうれん草、春菊、ブロッコリー、水菜など)があります。脂溶性ビタミンなので、「油で炒める」、「ドレッシングをかける」、「肉や魚と一緒に食べる」ことで効率的な吸収が期待できます。2)免疫を高めるためにビタミンDを摂取するビタミンDは、骨を丈夫にする働き、免疫機能を調整する働きがあり、ウイルスや菌などに対して予防効果が期待されています。ビタミンDは、サケ、イワシ、サバなどの魚類、キクラゲ、干し椎茸などのキノコ類に多く含まれます。なかでも、イワシ缶やサバ缶は手軽にとれる食品です。また、キクラゲや干し椎茸を意識して料理に加えるのも良いでしょう。ビタミンDは、太陽光に含まれる紫外線を浴びることで、皮膚で生合成されるビタミンです。しかし、最近では、日焼け止めクリーム、UVカットガラスの普及に伴い、30歳以上の約半数がビタミンD不足の状態であるという報告もあります。また、冬場は日照時間も少なくなるため、食べ物からのビタミンD摂取を意識することが大切です。3)果物や葉物野菜からビタミンCを摂取するビタミンCは、コラーゲンの生成、抗酸化作用、栄養素の吸収など様々な働きがあるため、免疫力を高め、風邪予防に対しても効果が期待されます。ただし、一度に大量摂取しても、尿へ排泄されてしまいます。こまめに摂取しましょう。ビタミンCは、レモンやオレンジ、みかんなどの果物からの摂取が一般的ですが、実は野菜に多く含まれ、赤ピーマン、かいわれ大根、カリフラワー、ミニトマト、キャベツなどに豊富に含まれます。熱に弱く、水溶性ビタミンのため、生での摂取が効率的です。ただし、オレンジジュースなどの大量摂取は、ビタミンCよりも糖の摂取過多が懸念されるので、野菜からのビタミンC摂取をすすめすると良いでしょう。4)のど飴や温かい飲み物で口の乾燥を予防する冬は、室内、野外ともに乾燥していることがほとんどです。乾燥により粘膜が乾燥すると、ウイルスや菌が侵入しやすくなるため、口腔内の保湿が重要です。口の中にのど飴などを入れておくと、唾液が出て乾燥予防になります。温かい飲み物は、水分補給によりカラダ全体の乾燥を予防するだけではなく、カラダを直接温め、胃腸の動きを活性化し、代謝を高める働きが期待できます。5)肉や魚などのタンパク質を摂取して体力を増強する免疫力を高めるためには、体力の増強が大切です。肉や魚をはじめとする動物性タンパク質は、筋肉になりやすく、日常的に意識して摂取することが大切です。大豆製品などの植物性タンパク質は、脂質が少なく、食欲がないときにも摂取しやすい良質なタンパク源です。しっかりと噛んで食べることは、胃腸への負担を減らし、消化の助けになります。また、噛むことは副交感神経を刺激します。副交感神経が優位になると、リンパ球が増え、免疫力の強化も期待できます。

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第10回 カラダを温める食べ方【実践型!食事指導スライド】

第10回 カラダを温める食べ方医療者向けワンポイント解説カラダを温めることは、寒い冬の中で快適に毎日を送るための重要なポイントです。血流が悪くなると、代謝量が落ちる原因になるばかりか、冷えることで、「外出が億劫になる」「部屋の中でじっとして動かない」など活動量も落ちていきます。その結果、体重増加や食べ過ぎなどにつながってしまいます。また、カラダが冷えると筋肉も固くなり、けがや転倒のきっかけにもなります。寒い冬こそ代謝量や活動量が上がるよう、カラダを温める食べ方を意識してもらいましょう。以下ポイントについて解説をします。■ポイント1:肉や魚を食べる食事を摂取すると、消化の際に熱が産み出され、その一部が体熱となって消費されます。その結果、食事の後はカラダが温かくなり、安静時においても代謝量が増えます。これを『食事誘発性熱産生』(DIT:Diet Induced Thermogenesis)と言います。栄養素によって、このエネルギー量は異なり、タンパク質のみ摂取の場合は、摂取エネルギーの約30%、糖質のみ摂取では約6%、脂質のみ摂取では約4%と言われています。つまり、肉や魚、卵、大豆製品といったタンパク質の摂取は、ほかの栄養素と比べてカラダを温める働きが強いと言えます。また、筋肉量を増やすと体温はより高まるので、タンパク質の中でも脂肪が少なく、筋肉を作るのに適した栄養成分で組成されているヒレ肉や赤身肉、魚、卵などを、毎食意識して食べてもらうのが良いでしょう。■ポイント2:温かい汁物を食べる温かい汁物や食物の摂取には、カラダを直接温める働きがあります。とくに汁物など液状のものは、喉から胃に流れる過程で温かさを長く感じることができます。また、胃は冷たいものが入ると収縮し、動きが緩慢になりますが、温められることで動きが活発になり、消化促進にもつながります。■ポイント3:ショウガを食べるショウガの成分には6-ジンゲロール、6-ショウガオール、ジンゲロンなどがあります。生の状態で多く含まれる6-ジンゲロールを加熱または乾燥させることで、6-ショウガオールへ変化します。6-ショウガオールは内側からカラダを温める働きがあるので、スープや味噌汁など汁物や炒め物に加えるなどの加熱調理による食べ方を意識すると、より効果的です。また、残ったショウガをスライスして、乾燥させておくと無駄なく利用できるのでおすすめです。■ポイント4:辛い料理を食べるカプサイシンは、末梢血管を広げ、血流を改善する働きが期待できます。血流がスムーズになることで、指先やつま先など末端の循環を高め、酸素や栄養素の運搬を促し、カラダを温める働きがあります。辛い料理を食べることも良いですが、苦手な方は、炒め物や煮物に輪切り唐辛子を少し加える、うどんなどに七味唐辛子や一味唐辛子をふるなど、一手間加えてみることもおすすめです。■ポイント5:生野菜より茹で野菜野菜は水分を多く含むため、生野菜の多量摂取は、冷たい水分を摂取し、カラダを冷やす要因となります。「生野菜を食べないと、ビタミンやミネラルが摂取できない」と考える方も多いですが、茹で野菜でもビタミンやミネラルは摂取できます。生野菜から流出するのは水溶性のビタミンやミネラルの一部であり、すべてがなくなるわけではありません。刻んで水につけた葉物からは、ビタミンCが約50%減少するというデータもありますが、50%は残存します。生野菜はかさがあるため、サラダでは大量に食べるのは難しいです。しかし、茹でることで、かさが減り、一度に食べられる量が増えるので、かえって効率的にビタミンやミネラルが摂取できます。また、ビタミンやミネラルの流出を減らすには、生で食べる場合は“洗ってから切る”、加熱して食べる場合は“茹でてから切る”がポイントです。カラダを温めることは、環境整備や運動だけでなく、食事でも対策ができます。『寒い時期こそ、カラダを温めることを意識し、活動量を上げましょう』と、患者さんにお伝えすると良いでしょう。

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第9回 レボチロキシンは朝食後投与では吸収が低い?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 レボチロキシンは甲状腺機能低下症、甲状腺腫や甲状腺がん術後療法などで、長期間ないし一生涯服用する患者さんも少なくありません。経験上、用法や相互作用についての質問を受けることが多い薬でもあります。相互作用については、カルシウム製剤、スクラルファート、水酸化アルミニウム、鉄剤、コレスチラミン、酸化マグネシウムなどの制酸剤やコーヒー1)などレボチロキシンの吸収を低下させるものから、ビタミンC2)などの吸収を亢進させるものまで多くの変動要因が知られており、注意を払っている薬剤師も多いかと思います。用法については、添付文書には1日1回の服用とだけ記載があり、インタビューフォームを見ても食事・併用薬の影響について該当資料なしとの記載になっていて、判断に迷うシーンもあります。本邦の添付文書に用法記載がなければ海外(米国やカナダ)の添付文書を見るのも一案なので、総合医薬品データベースのLexicomp Onlineで調べてみると、「朝空腹時少なくとも朝食の30~60分前もしくは夜最後の食事の3~4時間後服用」の記載があり、日本と異なっています。そこで今回は、レボチロキシンの用法について検討した論文を紹介しましょう。Timing of levothyroxine administration affects serum thyrotropin concentration.Bach-Huynh TG, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2009;94:3905-3912.1つ目は、レボチロキシンの用法や食事の有無が血清甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度に及ぼす影響を調査した研究です。レボチロキシンを75μg以上服用している18~75歳の患者が組み入れられ、甲状腺機能低下症42例、甲状腺がん23例の計65例(女性50例、男性15例)が試験を完遂しています。患者は、(1)夜間絶食かつ朝食の1時間以上前の起床時、(2)その日の最後の食事より2時間以上後の就寝前、(3)朝食後20分以内、という3つの用法をくまなく組み合わせた6パターンのうち1つに割り当てられ、1~8週目、9~16週目、17~24週目の8週間ずつクロスオーバーしました。プライマリアウトカムは8週間レジメンにおける絶食時の血清TSH濃度とその他2つの用法時の血清TSH濃度の差です。結果、絶食時服用のTSHの血中濃度はもっとも低く1.06±1.23mIU/Lであり、就寝前服用では2.19±2.66mIU/L、朝食後服用では2.93±3.29mIU/Lと有意に高くなっていました。TSHの血中濃度が低いほど甲状腺ホルモンが多いということなので、空腹時服用のほうがレボチロキシンの吸収がよいことがわかります。論文でも、食後服用では血清TSH濃度がより高く、変動しやすいため、ターゲットレンジに入れたい場合は絶食時が勧められることが示唆されています。夜間かつ空腹でレボチロキシンは効果最大それでは、同じ空腹時であれば朝と夜ではどちらがよいのでしょうか。それを比較した研究もあります。Effects of evening vs morning levothyroxine intake: a randomized double-blind crossover trial.Bolk N, et al. Arch Intern Med. 2010;170:1996-2003.この文献のBackgroundには、レボチロキシンは約70~80%が小腸で吸収されるので、食物や他の薬剤による腸内吸収阻害を防ぐために、朝食前に服用するのがよいというコンセンサスが得られている、と書かれています。ただ、筆者の少ない経験則では朝食後処方を見掛ける機会が多く、起床時処方は少数であると感じています。朝食後は飲み忘れにくいですし、処方オーダー上の用法選択で選びやすいためかもしれません。本試験の目的は、就寝前服用では朝服用よりも甲状腺ホルモン値が改善するかどうかという検証です。18歳以上で、レボチロキシン治療を少なくとも6ヵ月以上受けている原発性甲状腺機能低下のある105例の被験者を対象に、ダブルブラインドのクロスオーバー試験を行っています。患者はレボチロキシンまたはプラセボを入れたカプセルを朝と就寝前に1カプセルずつ12週間服用し、朝夜のカプセルを入れ替えてさらに12週間服用しました。プライマリアウトカムとして、それぞれ12週間服用時における甲状腺ホルモンの数値の変化、セカンダリアウトカムとしてクレアチニン、脂質、BMI、脈拍、QOL(生活の質)が設定されています。90例が試験を完遂し、解析に組み入れられました。平均TSH濃度は、最初に朝にレボチロキシンを服用した群では12週時点の2.66(標準偏差:2.53)mIU/Lから24週時点の1.74(同:2.43)mIU/Lに減少している一方で、最初に就寝前にレボチロキシンを服用した群では12週時点の2.36(同:2.55)mIU/Lから24週時点の3.86(同:4.02)mIU/Lに増加しています。また、平均FT4(遊離サイロキシン)値は、最初に朝にレボチロキシンを服用した群では12週時点の1.48(同:0.24)ng/dLから24週時点の1.59(同:0.33)ng/dLに増加していて、最初に就寝前にレボチロキシンを服用した群では、12週時点の1.54(同:0.28)ng/dLから24週時点の1.51(同:0.20)ng/dLに減少しています。つまり、就寝前のレボチロキシン服用でFT4の増加という直接的な治療効果とTSHの低下に寄与していると考えられます。総T3(トリヨードサイロニン)値の変化は、FT4の変化と同じ傾向でした。なお、セカンダリエンドポイントとして解析されたクレアチニン、脂質、BMI、脈拍、QOLに関しては有意な差がありませんでした。甲状腺機能の検査値基準と意味を理解していないとややわかりづらい部分もありますが、以上の研究を踏まえレボチロキシンについてのポイントを抽出すると、下記のことがいえそうです。・レボチロキシンは食事により吸収が低下するため、空腹時服用が有利・活性の低いT4から活性の高いT3への変換は夜間に亢進する・夜間は腸の運動が緩やかで腸壁にレボチロキシンがさらされる時間が延長し、吸収がよくなる・夜間に胃酸分泌が亢進し、酸性環境により吸収が促されるこれらのことから、就寝前も選択肢としてよいものと思われます。就寝前にすれば朝食を遅らせる必要がないため、都合がいい患者さんもいるでしょう。セカンダリアウトカムに差がなく、半減期も長いことから臨床上食後が明確にいけないといえるほどのエビデンスではありませんが、効果や生活リズムなどに不満がある場合は、医師に確認のうえ、用法の選択肢を提示してみるのもよいかもしれません。1)Almandoz JP, et al. Med Clin North Am. 2012;96:203-221.2)Jubiz W, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:E1031-E1034.3)チラーヂンS錠 添付文書(2015年1月改訂 第12版)4)チラーヂンS錠 インタビューフォーム(2015年10月改訂 第10版)5)Bach-Huynh TG, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2009;94:3905-3912.6)Bolk N, et al. Arch Intern Med. 2010;170:1996-2003.

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第3回 「ベジファースト」の第一歩【実践型!食事指導スライド】

第3回 「ベジファースト」の第一歩医療者向けワンポイント解説野菜の摂取量は日々不足しています。『健康日本21』でも1日の野菜の摂取目標量を350gと定めていますが、実際に摂取できている方は少ないのが現実です。『平成28年 国民健康・栄養調査』の結果では、「野菜摂取量の平均値は 276.5g(男性:283.7g、女性:270.5g)であり、この10年間で有意に減少している」と報告されています。最近では、「ベジファースト」という言葉が患者さんの間にも浸透してきています。これは言葉通り、「食事の最初に野菜を食べる」ということです。これによって以下の3つが期待できます。(1)ビタミンやミネラルなどの栄養素の補給緑黄色野菜に含まれる、抗酸化ビタミンであるβ-カロテン(ビタミンA)やビタミンE、ビタミンCをはじめ、ナトリウムの排泄作用があるカリウム、ミネラルが摂取できます。(2)血糖値の上昇緩和と脂質の吸収阻害食物繊維は、水溶性と不溶性の2種類があり、水溶性食物繊維の摂取は糖の吸収を緩やかにし、血糖値の急上昇の抑制や脂質の吸収阻害に効果的です。また、不溶性食物繊維は、腸内の善玉菌を増やす働きに効果が期待できます。(3)料理のカサや噛みごたえが増加低カロリーである野菜は、カロリーや脂質などを気にせず、料理のボリュームや噛みごたえを増やすことができます。これにより食べ過ぎを予防する働きがあります。しかし、糖尿病患者さんに「野菜を食べましょう」と伝えた場合、実行するハードルが高いと感じる方が多くいます。原因としては、(1)野菜を切るのが面倒くさい、切れない、(2)外食で野菜(サラダ)を頼むと食費がかさむ、(3)野菜が苦手、が挙げられますが、今回は、(1)(2)のハードルを下げるコツを紹介します。(1)「そのまま野菜」を持ち歩くプチトマトやキュウリなどの野菜は、洗ったらそのまま食べることができる「そのまま野菜」です。コンビニやスーパーでも手軽に手に入り、価格も安定しているため、こうした野菜を冷蔵庫にストックしておくことや、外出先で購入することをオススメします。(2)「カット野菜」を手軽にオン!カット野菜は、「栄養価がないのでは?」と懸念される方もいますが、各社のデータによるとビタミンやミネラルの残存率も比較的高いと報告されています。何より、食物繊維は残っているので、「『繊維』を食べる」「ボリュームを増やす」と考えると食べるメリットが出てくると思います。また、価格が安定しているため、購入しやすいのが特徴です。カップラーメンや即席スープに入れる際は、袋を開けて電子レンジで1分ほど加熱することで、ボリュームが抑えられ、たっぷりと入れることができます。(3)「男前サラダ」を作る患者さんの中には、「皿も包丁もまな板も使いたくない」という方がいます。職場などで野菜を安く食べたい場合、カット野菜にドレッシングをかけ、そのまま食べることも良いと思います。しかし、せっかくなので、栄養補給を考慮し、ナッツやサラダチキン、ゆで卵などを投入してみましょう。たんぱく質やビタミンなどが補給できるサラダが作れます。さらに、オリーブオイルを加えることで、余計な塩分を抑えることも可能です。こうした野菜の食べ方は、栄養バランスが全て整うとは言い切れませんが、野菜を食べる習慣を促す第一歩になります。

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脳卒中リスク、ビタミンC摂取と反比例

 日本人における食事での抗酸化ビタミンの摂取と脳卒中発症の関連についてJPHC研究(Japan Public Health Center-based Prospective Study、主任研究者:津金昌一郎氏)で検討したところ、非喫煙者においてビタミンC摂取と脳卒中全体および脳梗塞発症との逆相関が認められた。European journal of clinical nutrition誌オンライン版2017年7月12日号に掲載。 本研究は、45~74歳の8万2,044人の日本人男女に対し、1995~1997年に食事摂取頻度調査票を用いて調査した。2009年末までの98万3,857人年の追跡期間中、脳卒中全体では3,541人、脳梗塞は2,138人に発症した。 主な結果は以下のとおり。・心血管リスク因子および選択された生活習慣因子の調整後、食事によるα-カロチン、β-カロチン、α-トコフェロール、ビタミンCの摂取量と脳卒中全体および脳梗塞の発症との間に逆相関はみられなかった。・現在の喫煙状況で層別化したところ、非喫煙者では食事によるビタミンC摂取量と脳卒中全体の発症とに逆相関がみられたが、喫煙者ではみられなかった。ビタミンC摂取の最低五分位に対する最高五分位の多変量ハザード比は以下のとおり。 非喫煙者:0.81(95%CI:0.68~0.96、傾向のp=0.03) 喫煙者 :1.03(95%CI:0.84~1.25、傾向のp=0.55)・脳梗塞については、非喫煙者の多変量ハザード比は0.76(95%CI:0.60~0.96、傾向のp=0.02)、喫煙者では1.00(95%CI:0.78~1.28、傾向のp=0.61)であった。

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ビタミンC摂取で白内障が予防できる?

 核白内障は、老人性白内障の最も一般的な病型で、年齢のほかに喫煙、酸化ストレスおよび食物性抗酸化物質の摂取がその形成に関与している。英国のキングス・カレッジ・ロンドンのEkaterina Yonova-Doing氏らは、核白内障の進行における遺伝因子と微量栄養素の影響を調べる前向きコホート研究を行った。結果、10年間での遺伝率(遺伝因子の影響度合いの指標)は35%であり、環境要因の影響のほうが大きいことを明らかにした。とくに、食物中のビタミンCは白内障の進行を抑制するという。Ophthalmology誌オンライン版2016年3月15日号の掲載報告。ビタミンCは核白内障の進行に対して予防的効果がある 研究グループは、TwinsUKコホートの白人女性双生児2,054例を対象に、白内障と食事について断面調査を行った。また、このうち324例(一卵性双生児151例、二卵性双生児173例)は、白内障の進行についても追跡調査を行った。 核白内障は、Scheimpflug画像から得られた核密度の定量測定にて診断し、食事に関しては「欧州におけるがんと栄養に関する前向き調査(EPIC)食物摂取頻度調査票」を用いた。 構造方程式双生児モデリングを用いて最尤法により遺伝率を推定するとともに、線形および多項式回帰分析を用いて、核白内障の変化と微量栄養素との関連を評価した。追跡調査期間は平均9.4年、主要評価項目は核白内障の進行であった。 核白内障の変化と微量栄養素との関連を評価した主な結果は以下のとおり。・最も適切なモデルにおいて、核白内障進行の遺伝率は35%と推定され、残りの65%は個々の環境要因が関与していることが示唆された。・食事中のビタミンCは、ベースライン時の核白内障および核白内障の進行のいずれに対しても予防的効果があることが認められた(それぞれβ=-0.0002、p=0.01およびβ=-0.001、p=0.03)。・マンガンおよび微量栄養素のサプリメント摂取は、ベースライン時の核白内障に対してのみ予防的効果がみられた(それぞれβ=-0.009、p=0.03およびβ=-0.03、p=0.01)。

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マスコミでも話題のスーパーフルーツ「キウイ」 ~その魅力とチカラ~

11月7日、8日と東京と大阪で開かれた「糖質管理セミナー」の様子をお届けします。マスコミでもスーパーフルーツとしてたびたび取り上げられる「キウイ」。ニュージーランドへ現地視察までしてきた管理栄養士がその本質と魅力を解説します。1:日本人の果物摂取量と課題日本人の果物摂取量は、世界174カ国中129位!世界平均よりも、アジア平均よりもさらに低い状況です。家計調査によると、デザートの中でも果物は特に低い支出になっています。これは食の多様化や個食化の影響が、強く表れていそうです。スライド1を拡大するしかし、果物の摂取が健康維持増進に対してさまざまな良い影響を与えているというのも事実。だからこそ、国では健康日本21、食生活指針、食事バランスガイドを通じて、果物を積極的に食べることを推奨しています。ところが「野菜は350gそのうち緑黄色野菜は120g」と野菜の摂取は具体的に提示しているのに対し、果物は「1日200g」だけ。果物の質は問われていません。超高齢社会の我が国では、「新型栄養失調」と呼ばれる低栄養の問題があります。食事量が減る高齢者の場合は「何を食べるか」という、食事の質が問われている時代。果物の摂取にも、質が重要です。2:スーパーフルーツとしてマスコミでも取り上げられるキウイ下の図は果物の栄養素の凝縮具合を示したものです。スライド2を拡大する栄養素充足率スコアとは、果物の重量100g(可食部)に含まれる17種類の栄養素※1の、「日本人の食事摂取基準 2015年度版」における1日当たりの摂取基準(30~49歳女性での推奨量、目標量、目安量)に対する割合を算出し、その平均値をとったものです。※1 17種類の栄養素:たんぱく質、食物繊維、カルシウム、鉄、マグネシウム、カリウム、亜鉛、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、ビタミンA、ビタミンEこれによると、日本人がよく食べているバナナやミカンよりもキウイの充足率が優れていることがわかります。これが、キウイが「高栄養密度フルーツ」「スーパーフルーツ」と言われてマスコミなどでも多く取り上げられる理由です。緑色の果肉のキウイフルーツ(緑肉種)には日本人に不足しがちな食物繊維が豊富に(可食部100gあたり3g ゼスプリインターナショナル調べ)含まれています。野菜からだけではなく、果物や穀類からも食物繊維を摂取することで、目標摂取量に近づけることができます。またゴールドキウイ(黄肉種)1個にはレモン(果汁換算)8個分のビタミンCが含まれており、果物の中ではトップクラスです。さらにビタミンEも同時に摂取できるなど、キウイはバランスよくさまざまな栄養素を含んでいます。食が細くなり、効率よく栄養素を摂取する必要がある高齢者にも適した果物と言えそうです。スライド3を拡大する◆キウイは、低GI食品キウイのGI値は、グリーンキウイ(緑肉種)が39、ゴールドキウイ(黄肉種)が38※2と一般的に低GIといわれる分類に属しています。※2 Rush & Drummond, 2009 and Chen, Wu, Weng and Liu, 2011 より約15の臨床研究データの平均より算出。ウェイトコントロールが必要な糖尿病患者さんの場合は、カロリーだけを制限すると、食事量の不足から空腹感が強くなりストレスの原因になってしまいます。また、世間で流行している極度の糖質制限では、穀類を減らすことで、ただでさえ不足気味の食物繊維がさらに不足する傾向もあります。そのような時は穀類の適量摂取とあわせてGI値の低い果物がオススメ。果物は水分や食物繊維が多く、お腹の中で満足感を得られる上に、天然の甘味が楽しめます。栄養バランスのとれた果物を食事指導の現場でも活用していきましょう。注記:キウイにはアクチニジンというたんぱく質分解酵素が含まれています。アクチニジンはお肉などのたんぱく質の消化を助ける働きがある一方で食物アレルギーのアレルゲンでもあります。アレルギーが心配な人は、医療機関へご相談ください。◆注目!!日本食品成分表 七訂(2015年版)に「キウイ(黄肉種)」が追加!2015年版に改定される日本標準食品成分表に、「キウイ(黄肉種)」が掲載されることになりました。キウイは、1年を通じて流通している数少ない果物の1つです。緑肉種・黄肉種、それぞれの栄養の特徴をいかして、食事指導や給食の現場でご活用ください。提供:かわるProセミナー事務局関連リンク食品交換表改定ポイントにおける糖質管理と果物の位置づけ

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栄養サプリメントは認知機能に影響せず/JAMA

 米国立眼研究所(NEI)のEmily Y. Chew氏らは、加齢黄斑変性(AMD)を有する高齢者を対象とした試験(AREDS2)被験者について、栄養サプリメント[長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)やルテイン/ゼアキサンチンを含む]の認知機能への効果について評価を行った。その結果、プラセボと比較してスコアの年次変化に統計的に有意な差は認められなかったことを報告した。これまで観察的研究データにおいて、食事による飽和脂肪酸の高摂取と野菜の低摂取がアルツハイマー型認知症のリスク増大と関連する可能性が示唆されており、研究グループは今回、本検討を行った。JAMA誌2015年8月25日号掲載の報告より。LCPUFAやルテイン/ゼアキサンチンの効果を検証 AREDS2は二重盲検無作為化試験で、米国の82の大学および地域医療センターの網膜専門医により2006年10月~2012年12月に、被験者の登録と観察が行われた。被験者は、後期AMD発症リスクを有する患者であった。 5年にわたる試験期間中、年次ごとの眼科検診に加えて、ベースラインと2年ごとに、訓練を受けたスタッフにより電話を介して複数の認知機能テストが行われた。 被験者は要因配置割り付けにより、LCPUFA(1g)またはルテイン(10mg)/ゼアキサンチン(2mg)を投与、もしくはプラセボを投与され、また全員にビタミンC、E、βカロチン、亜鉛のさまざまな組み合わせ投与が行われた。 主要アウトカムは、一連の認知機能テストで確認された複合スコアの、ベースラインからの年次変化であった。ベースラインで年齢、性別、人種、高血圧の既往歴、教育レベル、認知機能スコア、うつ病スコアで補正を行い、治療群と非治療群の複合スコアの差を評価した。複合スコアは、全テストのスコアを提示したもので、範囲は-22~17であり、高スコアほど認知機能は良好であることを示した。プラセボと比較し認知機能スコアの年次変化に有意差なし AREDS2被験者4,203例のうち3,741例(89%)が、付属の認知機能試験に同意し、そのうち93.6%(3,501/3,741例)が各種の認知機能テストを受けた。被験者の平均年齢(SD)は72.7(7.7)歳、57.5%が女性であった。 結果、サプリメント投与群と非投与群でスコア変化について統計的に有意な差はみられなかった。認知機能複合スコアの年次変化は、LCPUFA投与群-0.19(99%信頼区間[CI]:-0.25~-0.13) vs.非投与群-0.18(同:-0.24~-0.12)で、年次差は-0.03(同:-0.20~0.13)であった(p=0.63)。同様の結果が、ルテイン/ゼアキサンチン投与群(-0.18、-0.24~-0.11) vs.非投与群(-0.19、-0.25~-0.13)でもみられた(年次差:0.03、99%CI:-0.14~0.19、p=0.66)。 また、LCPUFA投与とルテイン/ゼアキサンチン投与の相互作用に関する分析でも、有意な差はみられなかった。

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ビタミンC、Eの摂り過ぎは、むしろ変形性膝関節症リスクを増大

 先行研究により、ビタミンCとビタミンEは変形性膝関節症(膝OA)の発症を抑制することが示唆されていた。しかし、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のRamani Krishna Chaganti氏らが多施設共同変形性関節症研究(Multicenter Osteoarthritis Study:MOST)の参加者を対象にコホート内ケースコントロール研究を行った結果、ビタミンCおよびビタミンEの血中濃度高値は膝OAの発症を抑制しないどころか発症リスクの増加と関連していたことを報告した。Osteoarthritis and Cartilage誌2014年2月号(オンライン版2013年11月28日号)の掲載報告。 研究グループは、MOST研究に登録された膝OA患者またはそのリスクが高い50~79歳の男女3,026例を対象に、X線検査で確認される膝OA(X線膝OA)の発症とビタミンCおよびビタミンEの血中濃度との関連を調べた。 膝OA発症例は、研究開始時に脛骨大腿関節(TF)または膝蓋大腿関節(PF)のOA症状がなく、30ヵ月の観察期間中にTFやPF(両方もしくはどちらか)のOAを発症した症例と定義した。 研究開始時に、血漿中ビタミンC濃度および血清中ビタミンE(α-トコフェロール)濃度を測定した。 主な結果は以下のとおり。・研究開始時にX線膝OAがなくビタミンC値が最高三分位群は、同最低三分位群と比較してX線膝OAの発症率が高かった(補正後オッズ比[OR]:2.20、95%信頼区間[CI]:1.12~4.33、p=0.021)。・ビタミンE値についても、同様の結果であった(補正後OR:1.89、96%CI:1.02~3.50、p=0.042)。・ビタミンC三分位値およびビタミンE三分位値は、X線膝OAの発症と関連があることが認められた(それぞれの傾向p=0.019、0.030)。

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若年男性のうつ病予防、抗酸化物質が豊富な食事を取るべき

 男子大学生を対象としたケースコントロール研究の結果、うつ病の学生は果物、マメ科植物、ナッツ・種子類、ビタミンC、βカロテン、ルテインなど抗酸化物質を含む食事の摂取が、健常人と比較して少ないことが明らかになったという。イラン・Jundishapur University of Medical SciencesのMohammad Prohan氏らが、うつ病患者にみられる酸化ストレスや炎症の亢進が食事に起因しているか否かを明らかにすることを目的に検討を行い報告した。Redox Report誌オンライン版2014年2月14日号の掲載報告。 うつ病症例における食事と血清中の抗酸化状態との関連を評価することを目的としたケースコントロール研究は、男子大学生60例(うつ病と診断された30例とマッチさせた健常対照30例)を対象に行われた。ベックうつ病自己評価尺度II(BDI-II)を用いて大うつ病性障害(MDD)の診断を行い、食事の状況については、半定量的食物摂取頻度調査票と2日間24時間の食事内容を思い出してもらうことで評価した。さらに、血清総抗酸化能(TAC)および高感度C反応性蛋白(hs-CRP)濃度を測定した。 主な結果は以下のとおり。・MDD群は対照群に比べ、果物(p<0.05)、マメ科植物(p<0.001)、ナッツ・種子類(p=0.003)、ビタミンC(p=0.005)、βカロテン(p<0.001)、ルテインおよびゼアキサンチン(p=0.006)の摂取が少なかった。・うつ病群は対照群に比べ、血清TAC濃度が低かった(p<0.05)。・血清hs-CRP濃度および食事中TACレベルに、2群間で有意差は認められなかった。・うつ病の学生は抗酸化物質を含む食事の摂取が有意に少なかったが、食事中TACおよび血清hs-CRP濃度においては健常人と有意な差は認められなかった。抗酸化物質を豊富に含む食事の摂取が、男子学生に奨励される。■関連記事日本人のうつ病予防に期待、葉酸の摂取量を増やすべき1日1杯のワインがうつ病を予防少し歩くだけでもうつ病は予防できる

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統合失調症患者への抗精神病薬追加投与、うまくいくポイントは

 統合失調症に対する抗精神病薬の治療効果を妨げる要因として脂質代謝と酸化還元レギュレーションが関係する可能性が示唆されている。ノルウェー・Diakonhjemmet病院のH Bentsen氏らは、急性エピソード統合失調症患者に、抗精神病薬を追加投与する場合、ω-3脂肪酸とビタミンE+Cの両剤を追加することが安全であるという研究結果を報告した。どちらか単剤の追加からはベネフィットは得られず、血中多価不飽和脂肪酸(PUFA)値が低い患者では精神病性症状が誘発されることが示された。Translational Psychiatry誌オンライン版2013年12月17日号の掲載報告。 研究グループは、抗精神病薬にω-3脂肪酸おまたはビタミンE+C(あるいはその両方)を追加投与した場合の臨床効果について調べた。検討に当たっては、ベースライン時のPUFA値が低値の患者では、追加投与でより多くのベネフィットが得られると仮定した。 試験は、多施設共同の無作為化二重盲検プラセボ対照2×2要因配置にて、ノルウェーの精神医療施設に入院した統合失調症または関連する精神疾患を有する18~39歳の連続患者を対象に行われた。被験者には、抗精神病薬とは別に1日2回2剤ずつ、実薬またはプラセボの、EPAカプセル(2g/日)とビタミンE(364mg/日)+ビタミンC(1,000mg/日)が16週間にわたって与えられた。追加投与する薬剤により被験者は、EPAとビタミン剤いずれもプラセボ(グループ1)、EPAは実薬(グループ2)、ビタミン剤は実薬(グループ3)、両剤とも実薬(グループ4)に分類された。主要評価項目は、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の総スコアとサブスケールスコアで、線形混合モデルにより分析した。 主な結果は以下のとおり。・被験者数は99例であった。そのうち97例が、ベースライン時の血中PUFA値が測定されていた。・EPAとビタミン剤が単剤追加投与されたグループ2とグループ3は、脱落者の割合が高かった。一方、両剤を追加投与したグループ4の脱落率は、両剤プラセボのグループ1と変わらなかった。・ベースライン時PUFAが低値の患者では、EPAのみ追加した場合に、PANSS総スコア(Cohen's d=0.29、p=0.03)、精神病性症状(d=0.40、p=0.003)、とくに被害妄想(d=0.48、p=0.0004)が悪化した。・また同じくPUFA低値の患者においてビタミン剤のみ追加した場合では、精神病性症状(d=0.37、p=0.005)、とくに被害妄想(d=0.47、p=0.0005)の悪化がみられた。・一方、ビタミン剤とEPAの両剤を追加した場合は、精神疾患への有害な影響の中和がみられた(相互作用のd=0.31、p=0.02)。・ベースライン時PUFAが高値の患者では、試験薬の有意な影響がPANSS尺度ではみられなかった。関連医療ニュース 日本の統合失調症入院患者は低栄養状態:新潟大学 うつ病補助療法に有効なのは?「EPA vs DHA」 統合失調症患者の脳組織喪失に関わる脂肪酸、薬剤間でも違いが

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果物や野菜の摂取量と乳がんリスクの関連~日本人女性での前向き研究

 果物や野菜の乳がんリスクへの影響について、日本人での疫学データは少ない。東京保健医療大学の鈴木 礼子氏らは、日本人女性4万7,289人における果物や野菜の摂取量と乳がん罹患リスクの関連を評価した。その結果、果物・野菜全体の摂取量と乳がんリスクとの間に全体的な関連はないが、閉経前女性においてアブラナ科の野菜の摂取量が乳がんリスク低下と有意に関連していたことを報告した。Cancer Causes Control誌オンライン版2013年10月4日号に掲載。 本研究は人口ベースの前向きコホート研究で、食事評価は食物摂取頻度調査票を用いた。相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)をCox比例ハザード回帰モデルにより算出した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間10.2年の間に、452人が新たに乳がんと診断された。・女性全体および閉経後女性において、果物・野菜全体、アブラナ科の野菜、緑色葉野菜、黄色野菜、トマト加工品の摂取量について、乳がんリスクとの関連は認められなかった。・アブラナ科の野菜の摂取量は、閉経前女性の乳がんリスクの有意な減少と関連し(多変量RR Q4vs.Q1:0.64、95%CI:0.38~1.10、傾向のp=0.046)、エストロゲン受容体陽性およびプロゲステロン受容体陽性の乳がんとわずかな逆相関が認められた(100g増加あたりのRR=0.64、95%CI:0.41~1.00)。・女性全体および閉経前女性において、果物全体および柑橘類の摂取量と乳がんリスクには正の相関が認められた。しかし、果物におけるこれらの相関はビタミンC摂取量の調整により減少した。

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疫学研究は交絡との戦い(コメンテーター:景山 茂 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(134)より-

疫学研究に交絡因子はつきもので、結果の解釈は困難なことが多い。本研究では、考えられる交絡因子は調整しているが、それでもなお補正できない因子が存在するかもしれないことには留意が必要である。 そもそも、2型糖尿病の発症を抑制するとされたブルーベリーを好んで食べる人と、抑制効果のないとされたプルーン、メロン、オレンジ、イチゴを好む人との間に、2型糖尿病発症に影響し得る要因があるかもしれないことは否定しえない。ブルーベリー含有成分の何が効果を発揮しているのか さて、3つのコホート研究すべてに共通して2型糖尿病発症を抑制したのはブルーベリーのみである。これが交絡によるものでなく真実を物語っているのであれば、その原因を考える必要がある。ブルーベリーに多く含まれる物質に何らかの作用があるのかもしれない。 食品は医薬品と異なり、作用はあってもmildである。このため、期間の限られた介入試験によって2型糖尿病の発症を抑制するとされた果物の作用を検討することは困難である。本研究は果物の選択に影響を与える程のものではないであろう。果物はビタミンCやカリウムを含有することが多い。また、本論文でも論じられているように、アントシアニン、レスベラトロールなど、さまざまな物質を含んでいる。しかし、果物は基本的には美味しいから食べるのであって、薬理作用を期待するものではないであろう。果物とジュースは同一には論じられない 果物の一部には2型糖尿病の発症抑制効果が認められたが、ジュースにはその効果がみられなかった。ジュースには甘味料が添加されていることがあり、ジュースでは食物繊維が少ないのではないだろうか。どのようなジュースかを限定しなければ、果物との比較は困難である。

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エキスパートQ&A

プライマリ・ケア医はどの範囲まで、がん患者さんを診るべきなのでしょうか?プライマリ・ケア医の定義がなかなか難しいところですが、地域の開業医の先生方であれ病院勤務の一般内科の先生方であれ、がん患者さんを診るべきだと思います。サブスペシャリティががんとは無関係の領域(循環器、神経、内分泌、腎臓、膠原病、感染症など)であったとしても同じことです。理由は単純です。患者さんは多いのに診る医者が少ないからです。がんは日本人の2人に1人が罹患し、3人に1人が亡くなるという非常にコモンな病気です。がん患者の診療において、専門医数(全国でがん薬物療法専門医<1000人、緩和医療専門医<100人)が少ないなどインフラの問題もありますが、一番大きい問題は患者さん側と医師側が日本のがん医療や一般診療に対してそれぞれが持つ固定観念だと思います。患者さん側は「大きな病院で専門医の先生にずっと診てもらわないと心配だ」、医師側は「がん診療は高度に専門化していて難しい。患者や家族の対応にもストレスを感じることが多い。治らずに亡くなっていく患者を診るのもつらいし、しんどい」といった気持ちがお互いにあるのではないでしょうか。これを少しずつでも変えていかないことには、がん対策基本法の理念である「すべてのがん患者さんに等しく適切な医療を提供する」を実現することは困難だと思います。がん診療はやりがいがあります。患者さんにとって一度は死を意識せざるを得ない疾患ですから、その患者さんや家族との対応の中で自分なりのさまざまな思索を巡らすことになります。また、自分や家族も将来罹患する可能性が高い疾患を目の前の患者さんを通じて経験し、人間の永遠のテーマである「生と死」について深く考えることができるのです。プライマリ・ケア医にできる身体的なケアにはどのようなものがあるでしょうか?がん患者さんの何を診るかについては議論のあるところですが、患者さんのQOL維持・向上のため少なくとも支持療法(緩和医療)についてはカバーすべきと考えています。支持療法の範囲は広く、緊急事態(オンコロジック・エマージェンシー)への対応、疼痛を含む症状コントロール、がん治療による有害事象対策、栄養療法、リハビリ、無再発患者の定期的フォロー(再発の有無、二次がんのチェック、骨粗鬆症、不妊、一般内科的マネジメント)などプライマリ・ケア医であればある程度対応可能な分野と考えています。抗がん薬治療はご自身のサブスペシャリティと、置かれている環境(開業医か病院勤務医か、地方か都市部か)で異なると思いますが、開業医の先生方が抗がん薬治療を扱うのは現状ではなかなか難しいかもしれません。基幹病院への紹介の仕方や、うまく機能しているシステムがあれば教えていただけますか?具体的に機能しているシステムはわかりませんが、病病連携や病診連携において大切なのはやはり「顔の見える関係」です。紙だけのやり取りでは関係が希薄になりがちですので、研究会等で基幹病院の先生と会って良い関係を築くことが重要ですし、いろいろな情報や知識も得られると思います。また紹介患者さんが基幹病院に入院したら、その病院に会いに行くことも重要だと思います。患者さんが喜ぶのはもちろん、基幹病院の医療スタッフも信頼を寄せますので、患者さんを逆紹介していただきやすくなると思います。可能であれば、基幹病院、地域の開業医、訪問看護ステーション、ケアマネージャーなどで症例を通じた多職種カンファレンスを開くのもよいと思います。日常診療でがんを早期発見するためには、どこに気を付ければよいですか?有症状か無症状かで考え方が異なります。有症状の場合、そのがんはすでに早期がんである確率は低いので、ご質問そのものに対する回答にはなっていませんが、個人的には以下のような症状があった場合には、がんを疑うことにしています。すなわち、体重減少、リンパ節腫脹、原因不明で夜間に増悪する腰痛・背部痛、不明熱、嚥下困難、下血・血便・タール便、黄疸、血痰、血尿などです。また過去のがんの既往があれば、より検査閾値を下げて精密検査を進めることになると思います。無症状のがんを診断するためには、基本的にはがん検診を定期的に受けていただくことだと思います。私はがん以外で診ている患者さんに「がんについては検診を受けてください。残念ながら、あなたががんになっていないかどうかについてまでは診られていないのです」と説明しています。高血圧や糖尿病で診ている患者さんでも、患者さん側からすればがんも含めて診てもらっていると思っている方がいらっしゃいます。しかし、がんでない患者さん全員にがんが無いかどうかを診ていくのは大変だと思います。ただ、がん検診については注意すべき点があります。がん検診は早期発見のみを目的にしているのではなく、早期発見を通じてがんによる死亡を減らすことを目標としていますし、その点についてある程度コンセンサスがあるがん種についてがん検診が行われているのです。したがって、がん検診の内容に満足できない患者さんには、賛否両論あるにせよ、人間ドックを受けていただく以外にないと考えています。また、がんをスクリーニングする方法としての腫瘍マーカー測定は勧められません。スクリーニングには高い感度が求められますが、腫瘍マーカーで感度の高い検査はないからです(PSAは前立腺がんのスクリーニングには適していますが、早期診断することで死亡割合を低下させるかどうかが専門家の間で見解が異なるため現時点でがん検診に用いられてはいません)。症状もないのに患者さんの希望のみで、安易に腫瘍マーカーを測定し少しでも異常があった場合には、患者側も医師側も必要以上にがんを心配することになってしまいます。健診受診を促していますが、嫌がる人が多いです。どうすべきでしょうか?どうして嫌がるのかその理由によると思います。がんが見つかるのが怖いのか、それともがんになっても構わないし、早期発見が重要と考えていないなど、いろいろ理由があると思います。まずは患者さんの考え方を十分に把握することから始めてみてはいかがでしょう。CKDにおける抗がん治療の注意点を教えてください。腎障害の程度や、抗がん薬が腎排泄か肝代謝・肝排泄かなどによって、投与量は変わってきますので一般化できません。また、透析患者さんの場合はまた別の因子(透析性、分布容積、蛋白結合率、投与するタイミングなど)を考慮する必要が出てきます。詳しくは各抗がん薬の添付文書をご覧ください。高齢患者さんの治療に関する注意点を教えてください。一般的に抗がん治療の治療目標は二つあります。すなわち、生存期間の延長とQOLの改善・維持です。高齢患者さんの場合、抗がん治療により得られるメリットは非高齢患者さんのそれに比して小さくなります。つまり、生存期間の延長も小さくなるでしょうし、QOLも低下する可能性が十分あります。大切なことは、何を治療目標にして個々の患者さんを治療しているのかについて主治医と患者さん・家族が十分話し合い、認識を共有しておくことだと思います。個々の抗がん治療(手術、抗がん薬、放射線)の注意点については紙面の関係でここでは割愛します。食欲不振に対する対処法を教えてください。食欲不振の原因によります。原疾患によるものか、抗がん薬治療によるものか、あるいはうつ病などの内因性精神疾患によるものか、など多岐にわたります。認知症患者におけるがん治療について教えてください。がん治療に関して、その患者さんに自己意思決定能力があるかどうかが最大の問題になります。認知症のために本人に意思決定ができない場合は、家族や友人などに代理意思決定をしていただく必要があります。その際に大切なのは、代理者の意向ではなく、患者さん本人の意思を代弁する(または推定する)ことです。あくまでも患者さんが主体です。また、認知症患者の抗がん治療自体も難しいものになります。認知症の患者さんは脳の脆弱性のため、せん妄を起こしやすく、脳以外の身体の脆弱性も伴っていることが多いことから、その他の合併症(肺炎など)も起こしやすいのです。前立腺がんにおける高濃度ビタミンCの有用性について教えてくださいマルチビタミン(ビタミンCを含む)とミネラル補充療法の前立腺がん発症や進行予防との関連についてはメタ解析により現時点では否定されています(Stratton J,et al. Family Practice. 2011; 28:243–252)。上部消化管検診においてペプシノゲンがBaや内視鏡に代行できるという考え方はもう一般的になっているのでしょうか?日本のガイドラインでは現時点においても胃透視を推奨しており、ペプシノゲンはピロリ抗体や胃内視鏡と共に胃透視に比べてエビデンスレベルは下位に位置づけられています(Hamashima C, et al. Jpn J Clin Oncol 2008;38(4)259–267)。したがって、一般的にペプシノゲン測定はほかの検査の代用にはならないと考えられます。ただ、ABC検診と言って、血液検査でH. pylori感染とペプシノゲン値を調べ、胃がんのリスク評価を行う検診があり、リスクに応じて胃内視鏡検査による胃がんのスクリーニングを推奨する動きもあります。

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加齢黄斑変性に対するルテイン+ゼアキサンチン、オメガ3脂肪酸の効果は?/JAMA

 米国NIHのEmily Y. ChewらAge-Related Eye Disease Study(AREDS)2の研究グループは、経口サプリメント(抗酸化ビタミンCとE、βカロチンと亜鉛を含む:AREDS製剤)に加えて、ルテイン+ゼアキサンチン(カロチノイド)、ω-3長鎖不飽和脂肪酸(ドコサヘキサエン酸[DHA]+エイコサペンタエン酸[EPA])、あるいは両方を加えることで、加齢黄斑変性(AMD)の発症リスクがさらに低下するのか無作為化試験を行った。先行研究において、AREDS製剤の連日服用により、5年で25%、AMD発症リスクを抑制したことが示されていた。一方、観察研究のデータで、ルテイン+ゼアキサンチン、DHA+EPA、またはその両方を増強した食事の摂取と、AMD発症リスク低下との関連が示されており、これらをAREDS製剤に加えることの効果が検討された。JAMA誌2013年5月15日号(オンライン版2013年5月5日号)掲載の報告より。50~85歳の4,203例を対象に無作為化試験 研究グループは、(1)AREDS製剤単独と比べて、ルテイン+ゼアキサンチン、DHA+EPAをそれぞれ、または両方を加えることで、AMDの発症リスクがさらに低下するのか、さらに(2)AREDS製剤からβカロチンを除いた場合あるいは亜鉛量を低下した場合、またはその両方を行った場合の効果を調べること、を目的とし、第3相の2×2多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験を行った。 2006~2012年にかけて、50~85歳の、両眼に大型のドルーゼンがみられる、あるいは単眼に大型のドルーゼンがみられ他眼に進行期のAMDがみられる、進行期のAMDとなるリスクを有した4,203例を登録した。 被験者は、ルテイン(10mg)+ゼアキサンチン(2mg)、DHA(350mg)+EPA(650mg)、ルテイン+ゼアキサンチンとDHA+EPA、またはプラセボを投与されるよう無作為化された。さらに全員にAREDS製剤を受けたかについて質問し、βカロチン除去と低亜鉛のいずれかまたは両方を含めたAREDS製剤の4つの選択肢を含めた2回目の無作為化を行った。 主要評価項目は、単眼ごとのAMDの進行とした。各成分とも進行期のAMDへの進展を抑制せず 追跡期間中央値5年の間に、進行期AMDへの進展(AMD発症)は1,940眼(1,608例)で認められた。5年間でAMD発症が認められた割合(Kaplan-Meier分析による)は、プラセボ群31%(493眼・406例)、ルテイン+ゼアキサンチン群29%(468眼・399例)、DHA+EPA群31%(507眼・416例)、ルテイン+ゼアキサンチン+DHA+EPA群30%(472眼・387例)だった。 主要解析でのプラセボとの比較において、AMD発症が統計学的に有意に減少したことは実証されなかった(ルテイン+ゼアキサンチンのハザード比[HR]:0.90、p=0.12/DHA+EPAのHR:0.97、p=0.70、ルテイン+ゼアキサンチン+DHA+EPAのHR:0.89、p=0.10)。 AMD発症について、βカロチン除去または低亜鉛の効果も明らかにならなかった。 しかし、主に元喫煙者における肺がんの頻度が、βカロチン摂取群がβカロチン非摂取と比べて多かった[23(2.0%)対11(0.9%)、名目上のp=0.04]ことが示されたことが注目された。 これらの結果から研究グループは、「主要な解析において、AREDS製剤に対して、ルテイン+ゼアキサンチン、DHA+EPAまたはその両方の追加摂取が、進行期のAMD発症リスクをさらに抑制することはなかった」と結論。そのうえで、「元喫煙者は肺がんの潜在的発病率が高いことから、カロチンのリスクを考慮すると、代替としてルテイン+ゼアキサンチンをAREDS製剤に含めるべきか、さらに研究する必要がある」とまとめている。

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重症患者へのグルタミン早期投与、死亡率が増加/NEJM

 集中治療室(ICU)に入室した多臓器不全を呈する重症患者では、グルタミンの早期投与によりむしろ死亡率が上昇し、抗酸化薬の投与は臨床転帰に影響を及ぼさないことが、カナダ・キングストン総合病院のDaren Heyland氏らの検討で示された。重篤な病態にある患者は多大な酸化ストレスを受けており、グルタミンや抗酸化物質の投与により死亡率が抑制される可能性が指摘されているが、これまでに得られたデータは相反するものだという。NEJM誌2013年4月18日号掲載の報告。2×2ファクトリアル試験で有効性を評価 研究グループは、重症患者に対する早期のグルタミンや抗酸化物質(セレニウム、亜鉛、βカロチン、ビタミンE、ビタミンC)の投与の有効性を評価するために、2×2ファクトリアルデザインの二重盲検無作為化試験を実施した。 対象は、機械的換気を受けてICUに入室中で、複数の臓器不全を呈する患者とした。これらの患者が、グルタミン群、抗酸化薬群、グルタミン+抗酸化薬群、プラセボ群のいずれかに無作為に割り付けられた。投与はICU入室後24時間以内に開始され、静脈内投与と経腸投与が行われた。 主要評価項目は28日死亡率とした。中間解析が計画されたため、最終解析のp値が0.044未満の場合に統計学的に有意と判定することとした。28日死亡率:グルタミン投与群32.4% vs 非投与群27.2%、院内死亡率:37.2 vs 31.0% 2005年4月~2011年12月までに、カナダ、米国、欧州の40のICUから1,223例の多臓器不全患者が登録され、そのうち1,218例が評価可能であった。 グルタミン群に301例(平均年齢62.5歳、女性36.5%)、抗酸化薬群に307例(63.6歳、42.3%)、グルタミン+抗酸化薬群に310例(64.3歳、41.9%)、プラセボ群には300例(62.8歳、40.7%)が割り付けられた。 28日死亡率は、グルタミン投与群(611例)が非投与群(607例)に比べ高い傾向が認められた(32.4 vs 27.2%、調整オッズ比[OR]:1.28、95%信頼区間[CI]:1.00~1.64、p=0.05)。 院内死亡率(37.2 vs 31.0%、p=0.02)および6ヵ月死亡率(43.7 vs 37.2%、p=0.02)は、グルタミン投与群が非投与群よりも有意に高かった。グルタミンの投与は臓器不全や感染性合併症の発生率には影響を及ぼさなかった。 抗酸化薬投与群(617例)と非投与群(601例)の間に28日死亡率の差は認めず(30.8 vs 28.8%、調整OR:1.09、95%CI:0.86~1.40、p=0.48)、いずれの副次的評価項目についても差はみられなかった。 重篤な有害事象の報告は52件(46例)あり、そのうち試験薬との関連が疑われるのは4件で、発現率には群間で差がなかった(p=0.83)。尿素>50mmol/Lの頻度が、グルタミン投与群で有意に高かった(13.4 vs 4.0%、p<0.001)。 著者は、「多臓器不全を呈する重症患者に対するグルタミンの早期投与は死亡率を上昇させ、抗酸化薬は臨床転帰に影響を及ぼさなかった」と結論し、「種々のサブグループに関する解析を行ったが、グルタミンが有効な患者は同定できなかった。グルタミンの有害性のメカニズムは不明である」としている。

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