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「カイジ」と「アカギ」(後編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】

今回のキーワードカジノを含む統合型リゾート(IR)行動経済学システム化報酬予測ニアミス効果損失回避欲求自助グループ(GA)なぜギャンブルは「ある」の? -ギャンブル脳ギャンブルをするのは男性が多いという理由について、因果関係、上下関係、契約関係を重視するという男性ならではのシステム化の心理があることが分かりました。それでは、そもそもなぜギャンブルは「ある」のでしょうか?その答えは、原始の時代に生きるか死ぬかの「ギャンブル」をして生き抜く遺伝子が現代の私たち(特に男性)に引き継がれているからです。これは、ギャンブル脳と呼ばれています。そして、これによって日常生活に支障を来している場合が、ギャンブル依存症と言えます。また、ギャンブル脳を含め人の心理行動と経済活動の関係を研究するのが、行動経済学です。ここから、このギャンブル脳を、3つの要素に分けて、その進化心理学的な起源を探ります。そして、その行動経済学的な応用を紹介しましょう。(1)「想像するだけでワクワクする」a. 報酬予測1つ目は、「想像するだけでワクワクする」という報酬予測(動機付けサリエンス)です。これが、心を奪われるという心理につながっていきます(渇望)。例えば、「勝った時の興奮が忘れられない」「あのスリルをもう一度味わいたい」「ルーレットが回っている瞬間が最も興奮する」という気持ちです。これは、ギャンブルに限らず、例えば「旅行は計画している時が一番楽しい」「遠足の前日は眠れない」など、初めてで不確定ですが、楽しいことが予測される非日常の直前の心理が当てはまるでしょう。この報酬予測の心理を引き出すには、すでにその快感(報酬)の体験をしていることが前提です。この点で、パチンコや競馬などと違い、宝くじにおいては、基本的に勝ちの快感の体験を味わうことはできません。よって、その代わりに、宝くじの当選額を億単位まで増額し射幸心を煽った上で、当選の疑似体験をCMで植え付けることが盛んに行われます。実際に、サルによる動物実験でも実証されていますが、確実な報酬よりも、不確実な報酬の「待ち時間」に、最も脳内で快楽物質(ドパミン)が放出されていることが分かっています。そして、この不確実で大きな報酬の繰り返しによって、「待ち時間」の快楽物質(ドパミン)の放出がより早く、より多くなっていきます。逆に言えば、「待ち時間」のあとの実際の快感(報酬)は、「待ち時間」の最中の快感(報酬)よりも相対的に目減りしていきます。簡単に言えば、実際に勝った喜びの快感が麻痺していき、「もっともっと」という心理が強まっていきます(耐性)。さらに、この相対的な快感の目減りにより、日常生活で他の喜びも麻痺していきます。ちなみに、パーキンソン病の患者が治療薬であるドパミン刺激薬を内服すると、8%がギャンブル依存症になることがアメリカでは報告されています。また、ドパミン部分作動薬のアリピプラゾールによってギャンブル行動が悪化したケースも報告されています。同じように、注意欠如・多動性障害(ADHD)の治療薬である精神刺激薬のメチルフェニデートも、ギャンブル行動の悪化が懸念されます。そもそも、ADHDの特徴である衝動性は、ギャンブル障害のリスク因子でもあります。b. 強めるのはこの報酬予測をより強めるには、自分がギャンブルの過程にかかわることです(直接介入効果)。例えば、スロットマシンで、3つ数字が揃うのを何もせずにじっと待っているよりも、スロットのスタートとストップのタイミングを決められるようにした方が、よりのめり込んでしまいます。また、パチンコの出玉率は、台ごとに1段階から6段階までの設定が可能で、「勝ちやすい台」「負けが込む台」という偶発性がわざと演出されています。台選びによって少しでも勝敗を左右させる余地があると、まるであたかも自分の運命を自分で選んでいる感覚になるからです。競馬予想で言えば、馬や騎手の過去の成績や現在の状態の下調べを入念にすればするほど、予想への思い入れが強くなり、期待感が増していく心理が当てはまります。よって、勝負の結果にそのまま関与できる賭け麻雀、賭けポーカー、賭けゴルフなどは、より依存性が強いギャンブルであり、ほとんど全ての国で禁止されています。c. 進化心理学的な起源原始の時代、生きるか死ぬかの最中、獲物が罠にかかる直前、獲物を仕留めようとする直前に、より興奮する種がより生き残ったのでしょう。なぜなら、その「待ち時間」に仕留めた時の喜びをすでに噛みしめていた方が、より粘るからです。農耕牧畜の安定した文明社会では、そのような生きるか死ぬかの状況はなくなりました。しかし、その興奮を求める心理は残ったままなのでした。まさに「ハンターの血」が騒ぐとも言うべき狩猟本能です。原始時代の狩猟採集社会では、獲物はとても希少で限られていました。ところが、現代のギャンブル産業では、あたかも無限の「獲物」があるかのように演出できるようになりました。そんな中、「ハンター」の心理が過剰になり、制御ができなくなった状態が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用この報酬予測の心理は、ギャンブル産業だけでなく、ビジネスの様々な場面で応用されています。例えば、それはあえて行列をつくり並ばせることです。飲食店に「行列のできる~」という触れ込みで駆け付ける人は、待っている間に、すでに想像してその味を噛みしめて、期待感を高めています。遊園地のアトラクションで並ぶ人は、その待ち時間が長ければ長いほど、その価値があると思い込んでいきます。高級デパートの買い物を楽しむ人は、あえて少ない支払い担当の店員がいる売り場で待たされてじらされたり、あえて支払いの手続きが多かったりすると、お買い上げの瞬間のテンションを上げていきます。ちなみに、このテンションの欲求が病みつきになったのが、オニオマニア(買い物依存症)です。また、部下とのコミュニケーションの場面などで、褒めるべき時に、毎回正確に褒めるよりも、何回かに1回はあえて褒めない方が、逆に褒められたい気持ちを煽ることができます。ただし、これを連発すると、気分屋に思われて、信頼関係がうまく築けなくなる危険性があります。また、これを依存的で自尊心の低い人に悪用すると、マインドコントロールに陥る危険性があります。動機付け(報酬予測)を高める直接介入効果としては、あえて選ばせる、あえて言わせることです。例えば、プレゼンテーションをする時に、選択式のクイズを設けたり、参加者にどんどん質問したり、どんどん意見を言わせたり、グループワークを取り入れて発表してもらったりするなどの参加型にした方が、より満足度(報酬)が高くなります。禁煙外来やアルコール依存症外来でも、説教や非難によって患者を受け身にさせるよりも、本人に禁煙や断酒のメリット(報酬)を考えてもらい、本人からその決意を引き出すかかわり方が効果的であることが分かります。(2)「あと少しだったのに」a. ニアミス効果2つ目は、「あと少しだったのに」というニアミス効果です。これが、「惜しい」「次こそは」「もう1回」という心理につながっていきます。実際に、ケンブリッジ大学の心理実験では、スロットマシンの「当たり」の時と同じように、「僅差のハズレ」の時も脳の報酬系の活動が高くなることが実証されています。ご褒美は、少なすぎる状況では、もちろん快感は得られにくく、やめてしまいます。逆に、多すぎる状況では、快感が鈍って飽きてきます。つまり、時々の少し足りない状況で、「もっと」という興奮が高まり、熱中するというわけです。これは、すでにパチスロ業界では応用されているようです。例えば、「7-7-7」のように同じ数字が3つ揃えば大当たりですが、あえて「7-7-6」「7-7-8」が出る頻度を30%程度に設定すると、客をその台に引き留めやすくなると言われています。当たり率は、不正がないように機器の1つ1つが厳密に審査されていますが、ハズレの数字の何が出るかの操作をするのはグレーゾーンのようです。確率論的に考えると、僅差の数字の揃いであっても、バラバラの数字の揃いであっても、ハズレはハズレであり、次に当たりが出る確率が上がることは全くないです。宝くじでも、分かりやすく応用されています。それが前後賞です。これは良心的です。ただ、例えば「6億円が出やすい土曜日」「この店で6億円の当たりが出ました」とまことしやかに宣伝されるのはどうでしょうか?「じゃあ、この曜日のこの店ならもしかして・・・」とつい思ってしまうでしょうか? これは、事実には違いないでしょうが、よくよく考えると、実はとても滑稽な宣伝文句です。なぜなら、単純な確率論なので、その事実に基づいて宝くじを買った人の当たる確率が上がることは全くないからです。そして、逆に確率が上がるとしたら、公営ギャンブルで不正が働いているわけで大問題になってしまうからです。b. 強めるのはこのニアミス効果をより強めるには、ギャンブルを何度もやりやすい状況をつくることです。例えば、カジノでは、アルコールは無料で、窓がなく昼か夜か分からず、音響効果も加わり、陶酔空間を演出させています。また、ラスベガスやマカオでは、カジノ直結の高級ホテルを格安にして、レストラン、バー、プール、エステ、劇場、遊園地、ショッピングモールなどありとあらゆる施設を気軽に利用できるようにして、お祭り気分を味わわせます。さらには、上客にはカジノまでの往復の航空チケットを無料にすることもあります。これらは、「コンプ」(complimentary)と呼ばれています。直訳すると「褒め言葉」となりますが、まさに、このようなおもてなしで気持ち良くなってもらって、カジノでたくさんお金を落としてもらうのです。そして、カジノの売り上げによって、他の不採算の施設費をカバーします。これが、カジノを含む統合型リゾート(IR)というビジネスモデルのからくりです。c. 進化心理学的な起源原始の時代、獲物を惜しくも捕り損なった時、その直後にもう一踏ん張りして、その瞬間に全てを賭ける種が生き残ったでしょう。なぜなら、獲物も追われ続けて疲れているので、次に仕留められる確率が上がるからです。しかし、現代に行われるギャンブルでは、「獲物」を仕留める確率は、当然のことながら一定です。パチンコやスロットもコンピュータで正確に制御されており、毎回完全にリセットされます。そして、この心理が発揮されることを逆手に取って、あたかもあと少しで「獲物」が仕留められるかのように演出できるようになりました。そんな中、「ハンター」の心理が過剰になり、制御できなくなった状態が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用このニアミス効果や「コンプ」(おもてなし効果)は、ギャンブル産業だけでなく、コミュニケーションの場面でも応用できます。例えば、部下を叱る時に、「仕事ができていない」「きみはだめだ」と言うよりも、「あともうちょっとで完璧な仕事ができたのに」「きみは惜しい」と言う方が、仕事への意欲を引き出せます。逆に、褒める時に、「完璧な仕事ができた」「きみはすごい」と言うよりも、「良い仕事をした」「だけどここがクリアできたら完璧だった」と言う方が、仕事への意欲を維持させます。つまり、赤点で全く褒めないのではなく、満点で全く叱らないのでもなく、どちらにしても90点程度の「惜しい」という評価をすることが有効であるというわけです。また、女性が男性からデートのお誘いを受ける時に、快諾するよりも、思わせぶりにしつつもなかなかOKを出さない方が、男性のテンションを上げ、女性への好意を増すでしょう。これは、男性が「女性を口説き落とすことに喜びを感じる」という心理も納得がいきます。さらに、「コンプ」の発想を理解すれば、どんな相手とも日々気持ち良くさせる声かけをして気に入ってもらえている方が、コミュニケーションがスムーズになると分かるでしょう。(3)「損を取り返したい」a. 損失回避欲求3つ目は、「損を取り返したい」という損失回避欲求です。前回紹介したカイジの仲間の坂崎のように、「負けた分を取り返す」ためにさらにギャンブルに深追いする心理です(負け追い行動)。もともと人間の脳は利得よりも損失に大きな反応を示し、その反応の大きさ(価値)は金額に正比例せずに緩やかに頭打ちになっていくことが分かっています(グラフ1、プロスペクト理論)。つまり、得するより損することに敏感で、さらなる大損よりも現在の損に囚われてしまいやすいということです。b. 強めるのはこの損失回避欲求をより強めるには、時間の経過によって先々の利得の価値が下がって、目先の報酬の価値が上回ることです(遅延報酬割引)。例えば、真面目にこつこつ働いて借金を返して、将来に確実にすっきりするよりも、不確実なギャンブルに賭けて手っ取り早く借金をチャラにして今すっきりしたいという心理です。そう思うのは、ギャンブルの繰り返しによる脳への影響として、理性的な報酬回路(前頭葉)よりも、衝動的な報酬回路(扁桃体)の働きが優位になってしまうからです。先ほどの報酬予測の説明でも触れましたが、ギャンブルの繰り返しによって、報酬が得られるかもしれない「待ち時間」への快感が鋭くなり、逆に、実際のその報酬や日常生活での他の報酬への快感は鈍くなります。さらには、最近の脳画像研究では、報酬だけでなく、罰にも鈍くなることが分かっています。よって、この快感への鈍さを代償するためにますますやり続け、ますます高額の賭け金を出すと同時に、負け(罰)をますます顧みなくなります。つまり、ギャンブルによる先々の大きな損には目が向きにくくなり、目先の損得にばかり目が行き、「一発逆転」や「一か八か」という心理で、より短絡的になっていくのです。c. 進化心理学的な起源原始の時代は、いつもその日暮らしです。「今ここで」という状況でぎりぎりで生きていました。このような極限状況の中、得るよりも失うことに敏感な種が生き残るでしょう。なぜなら、たくさん食料を得ても、冷蔵庫がないので、保存はできずに腐らせてしまうだけだからです。逆に、少しでも奪われたり腐らせたりして食料を失えば、その直後に自分や家族の飢餓の苦しみや死が待っています。借金のようにどこかから借りてくることはできません。つまり、食料をたくさん得れば得るほど、正比例して幸せというわけではないでしょう。逆に、食料を失えば失うほど、正比例して不幸せ(恐怖)というわけでもないでしょう。そもそも食料はたくさんあるわけではないので、失った食料が多かろうと少なかろうと飢餓の苦しみや死には変わりがないからです。こうした種の生き残りが現在の私たちです。よって、現代の「食料」であるお金の価値は、正比例せずに緩やかに頭打ちになるというわけです。実際に、収入と満足度の関係性がそうです。しかし、現代の文明社会では、ギャンブルで負ければ、限りなく「食料」を失うことができます。しかし、その損失に正比例して苦痛を感じるわけではありません。借金をして一時しのぎをすることもできます。つまり、現代の「食料」を量産できる貨幣と借金の制度による文明社会で、「ハンター」が、損を取り返そうとし続けた結果が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用この損失回避欲求の心理は、ギャンブルだけでなく、ビジネスの様々なところで応用されています。例えば、宣伝文句では、「買ったらお得」よりも「買わなきゃ損」の方がインパクトがあります。人は、「得しますよ」と言われるより「損しますよ」と言われる方が耳を傾けます。本日限定のオマケを付けるという商法は、オマケを付けるという点では得ですが、明日に買えばオマケが付かないという点で損であり、とても有効です。子どものしつけや教育にしても健康検診にしても、「放っておくと取り返しのつかないことになります」と言われると、半分脅しのようにも聞こえるくらい効果があります。さらに、依存症の治療でも応用できそうです。例えば、禁煙促進の研究報告では、禁煙が継続できたら単純に報酬をあげるよりも、失敗したら罰金を課す方式を追加したところ、禁煙成功率が有意にあがったということです。ギャンブル依存症にはどうすれば良いの?これまで、ギャンブルの起源を、進化心理学的に解き明かしてきました。それでは、ギャンブル依存症にはどうすれば良いでしょうか?このギャンブル対策への答えも進化心理学的な視点で考えてみましょう。そもそも生物の原始的な行動パターンは、接近か回避です(図1)。食料や生殖のパートナーへの接近を動機付けるのが快感や快楽です(ドパミン)。その一方、天敵や危険な状況からの回避を動機付けるのが不安や恐怖です(ノルアドレナリン)。快感になる状況を想像して快感になることが報酬予測(動機付けサリエンス)です。その一方、不安になる状況を想像して不安になることを予期不安と言います。過剰な予期不安がパニック障害の症状の1つとして治療介入が必要であると理解できるように、過剰な報酬予測はギャンブル依存症の症状の1つとして治療介入が必要であると言えます。つまり、パニック障害と同じように、ギャンブル依存症は病気であり、単純に自己責任として切り捨てるべきではないということです。つまり、ギャンブル依存症の治療には、本人と社会の両方に責任があります。この点を踏まえると、最も重要なポイントは、できるだけギャンブルには、個人として近付かない、社会として近付かせないということです。これは、ギャンブルに限らず、アルコールや薬物など依存症の治療の全般に言えることでもあります。それでは、ここから、個人と社会の2つの視点で、その治療や対策を考えてみましょう。(1)個人―ギャンブルに近付かない個人の視点として、ギャンブルに近付かないために、主に3つの取り組みが有効です。1つ目は、ギャンブルを断つ決意をして、ギャンブル関連の情報を身近に触れない取り組みを自らすることです。例えば、ギャンブルについての雑誌、スポーツ紙、テレビ番組を見ないことです。パチンコや競馬場などの近くは避けて通ることです。2つ目は、ギャンブルに近付かない代わりに、別のより健康的な「ギャンブル」に近付く、つまり目を向けることです。例えば、それは、新しい仕事であったり、新しい人間関係です。3つ目は、近付かない状態を維持するために、自助グループ(GA)に参加し続けることです。これはアルコール依存症の自助グループ(AA)と同じように、自分と同じ仲間とつながっていることは、ギャンブルに近付くことを引き留めます。ちなみに、ギャンブル依存症への治療薬としては、日本では保険適応外ですが、ナルトレキソン(オピオイド拮抗薬)があります。ちょうどアルコール依存症への治療薬として2013年に日本で発売開始されたアカンプロサートと同じ抗渇望薬に当たります。(2)社会社会の視点として、ギャンブルに近付かせないための最も手っ取り早い方法は、全面禁止です。これは、文明社会が始まった古代から、その当時の統治者が行ってきた長い歴史があります。しかし、この問題点は、けっきょく隠れてやる人々が現れ、それにまつわるトラブルが繰り返され、取り締まりきれないということです。私たちは、その現実を歴史から学ばなければなりません。よって、落としどころは、ギャンブルを娯楽としてある程度認めつつも、厳しい制限をかけることです。その制限とは、主に3つの取り組みがあげられます。これは、個人の対策の何倍にも増して有効で重要なことです。1つ目は、ギャンブルへの行動コストを上げることです。行動コストとは、行動をするために、時間、労力、金銭などのかかる費用(コスト)です。一番分かりやすいのは、場所制限です。ギャンブルができる場所が限られている、または遠くて気軽には足を運べないという場所が望ましいです。また、ギャンブル産業への入場料の徴収も有効です。実際に、海外のカジノでは自国民が入場する場合にのみ入場料を徴収して、あえて敷居を高くして、ギャンブル依存症の対策をしています。時間制限も有効です。これは、営業時間をもともと健康的な活動時間帯の9時から5時までに限定することです。逆に、判断力が鈍る夜間にはギャンブルをさせないことです。2つ目は、ギャンブル行動の見える化です。見える化とは、その名の通り、ギャンブルをどれだけしているか本人に見えるようにすることです。そのためにも、まず個人のギャンブルを管理するため、「タスポ」(タバコ購入のための成人識別ICカード)よりもさらに厳格な身分証明書の発行が必要です。年齢制限はもちろんのこと、損失合計金額などの表示による注意喚起が有効です。また、損失金額が加速している場合は、ギャンブル依存症のリスクを警告して、ギャンブル専門の医療機関や自助グループ(GA)の紹介をすることも有効です(責任ギャンブル施策)。さらに、本人の届け出によって、ギャンブルができないようにするシステムも有効です(自己排除システム)。これは、ちょうどアルコール依存症の人が、お酒を飲むと気持ち悪くなる抗酒剤をあえて内服し続けることに似ています。3つ目は、手がかり刺激を制限することです。手がかり刺激とは、ギャンブルを想像してしまうようなきっかけの刺激です。ちなみに、ギャンブルの手がかり刺激への反応は、最近の脳画像研究によっても裏付けられています。例えば、パチンコ、宝くじ、競馬などのCMや雑誌・新聞の宣伝が分かりやすいでしょう。これほど多くのギャンブルの宣伝が日本では当たり前のようにされているのは世界的に見れば異常です。駅前にだいたい1つはある、ど派手で目立つパチンコ店もそうです。また、手がかり刺激への反応性をそもそも高めないために、未成年にはなるべく触れさせないことも有効です。なぜなら、ギャンブルも、アルコールやタバコと同じように、発達段階の未成年の脳への刺激(嗜癖性)が特に強いからです。海外では、映画の喫煙シーンがR指定になるくらいです。 最後に、ギャンブルとは?カイジの仲間の坂崎が大負けからの大当たりで大逆転になりそうでならないシーン。その瞬間に、彼は「溶ける溶ける…!」「限りなく続く射精のような…この感覚っ…!」「ある意味桃源郷…!」と叫びます。快感と恐怖が入り交じり、完全にシビれてしまいます。ここで気付かされるのは、坂崎が最高の快感を得たその場所は、本当の「桃源郷」ではなく、生死のかかったギャンブルという修羅場であったということです。本来、快感や快楽は桃源郷にあり、不安や恐怖は修羅場にあると私たちは思いがちです。しかし、これまでのギャンブル脳の心理をよく理解すれば、実は、最高の快感は桃源郷にはありません。なぜなら、桃源郷では、全てが理想的に満たされ続けており、快感(ドパミン分泌)が鈍っているからです。簡単に言うと、桃源郷には、その状態に飽きてしまって、わくわくはありません。もちろん、修羅場では、全く満たされていないため、快感(ドパミン分泌)はほとんどありません。つまり、最高の快感は、桃源郷に苦労して向かっている修羅場の中でこそ感じるものであるということです。それが、生きている実感であり、生きる原動力です。原始の時代と違い、現代は「ギャンブル」のような生活をしなくても無難に生きていけるようになりました。そうなるとそこは、桃源郷でも修羅場でもない退屈なところです。何もしなければ、わくわくして生きている実感はないでしょう。つまり、その実感を得るためには、私たちはそれぞれの「桃源郷」を目指して、必死に「修羅場」をかいくぐることをあえてすることが必要になります。ギャンブルの心理の本質を理解した時、私たちは、「カイジ」や「アカギ」から、ギャンブルのマイナス面だけでなく、生き方としてのプラス面も含めて、より多くのことを学ぶことができるのではないでしょうか? 1)福本伸行:人生を逆転する名言集、竹書房、20092)松本俊彦ほか:物質使用障害とアディクション 臨床ハンドブック、星和書店、20133)臨床精神医学、行動嗜癖とその近縁疾患、アークメディア、2016年12月号4)蒲生裕司・宮岡等編:こころの科学「依存と嗜癖」、日本評論社、2015年7月号5)帚木蓬生:ギャンブル依存症国家・日本、光文社新書、20146)岡本卓、和田秀樹:依存症の科学、化学同人、2016

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ハンチントン病〔HD:Huntington’s disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義舞踏病は中世ヨーロッパにおいて知られ、19世紀前半いくつかの遺伝性の舞踏病についての報告があるが、1872年のGeorge Huntingtonの報告を基に、疾病単位として確立され、ハンチントン舞踏病といわれるようになった。舞踏病は疾患の一面を示しているにすぎないので、現在は「ハンチントン病」という。ハンチンチン遺伝子(HTT)のCAGリピートの異常伸長による常染色体優性遺伝形式を取る、遺伝性の中枢神経変性疾患で、舞踏運動などの運動障害、認知機能障害、精神障害を呈し、進行性である。■ 疫学日本、東アジアでは比較的まれであるが、北ヨーロッパ(広義)やその地域からの移民では頻度が高い。わが国における有病率は人口10万人対0.6人程度、ヨーロッパ、北米およびオーストラリアからの報告のメタ解析では、人口10万人対5.7人と推計されている。■ 遺伝・病因常染色体優性遺伝を呈し、ほとんどの患者は変異アレルと正常アレルとのヘテロ接合体であるが、きわめてまれに変異アレルのホモ接合体(または複合へテロ接合体)例もある。両者は臨床的(表現型)には差はない。孤発例については、家族歴が不明のためか他疾患と考えられ、新生突然変異はほとんどないと考えられていたが、従来考えられていたよりは新生突然変異は少なくない。病因となるハンチンチン遺伝子(HTT)エクソン1のCAGリピートは、不安定で伸長しやすく、患者ではCAGリピートの繰り返し回数は36回以上である。ただし、36回から39回は不完全浸透で、発症するとは限らない。40回以上では、年齢依存的に発症率が異なるが、最終的には80歳代までにはほぼ100%発症する(完全浸透)。CAGリピートに関連して、2つの特徴が挙げられる。第1にCAGリピートの繰り返し回数が多いほど、発症年齢は若く、CAGリピートと発症年齢との間には負の相関が認められる。第2に親から子に遺伝する際に、繰り返し回数は多くなりやすく、とくに男親から遺伝する場合にその傾向は顕著である。小児発症例の男親が、後から発症することがある。すなわち、世代を経るごとに発症年齢が若年化し、重症化する遺伝学的表現促進現象が認められる。■ 病態・病理他のポリグルタミン病と共通する、異常伸長したポリグルタミン鎖を持つハンチンチンタンパク質による獲得毒性による機序と、ハンチンチンタンパク質の生理的な機能・局在などに関連した異常によるのが、大局的な分子病態と考えられる。ハンチンチンの生理的機能は十分には解明されていないが、ノックアウトマウスではホモ個体は致死的である。分子病態の全体像は完全には明らかにはされていないが、これまで、(1) 転写調節の異常、(2) アンチセンスRNAの関与、(3) タンパク質凝集、(4) ユビキチン-プロテアソーム系の異常、(5) オートファジーの異常、(6) アポトーシスの異常、(7) 軸索輸送の異常、(8) 成長因子の異常、(9) 繊毛形成障害、(10) ミトコンドリア機能障害、(11) 酸化ストレス、(12) 興奮性毒性など、さまざまな異常、病態への関与が報告されている。これらですべてかどうかは必ずしも明らかではないが、報告の多くはそれぞれ病態の一面を反映しているものと推察される。病理学的には、神経細胞の変性脱落を生じるが、その変化は線条体に顕著で、中型有棘神経細胞の脱落が特徴的である。進行に伴い、線条体は萎縮する。病理変化は、尾側から吻側へ、背側から腹側へ、内側から外側へ進行する。病理学的変化は、大脳皮質にも及び大脳全体が萎縮する。ポリグルタミン鎖を含む凝集体が核内封入体として認められる。■ 症状発症は小児期~80歳代まで幅広く、平均は40歳代で、30~60歳代に発症することが多い。20歳以下の発症は若年型といわれる。症状としては、運動症状、精神症状、認知症に大別される。運動症状は、舞踏運動が特徴的である。非典型的な不随意運動を認めることもある。また、小児などでは、筋強剛(固縮)などのパーキンソン症状を呈する(Westphal型)。精神症状としては、うつ、自殺企図を認め、また統合失調症との鑑別を要することもある。認知症としては、皮質下認知症を呈する。■ 予後緩徐進行性の経過で、臥床状態となり15~30年で合併症にて死亡する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断のポイント診断に当たっては、家族歴が重要であり、確定診断されている家族歴のある場合には、診断は比較的容易である。ただし、家族歴がないからといって診断は除外できない。臨床症状、一般的検査で、特異的なものはない。■ 画像診断画像診断においては、CTおよびMRIで、尾状核ないし線条体の萎縮、脳室の拡大が疾患の進行に伴って認められ、進行例では、大脳皮質の萎縮も認める。尾状核の萎縮は水平断より冠状断(前額断)画像がみやすい。発症前ないし発症極初期においては、形態画像の異常は捉えにくいが、SPECTやPETによる機能画像検査において、尾状核の機能低下が捉えられる。■ 遺伝子診断遺伝子診断は、ハンチンチン遺伝子(HTT)のCAGリピートの異常伸長の有無による。遺伝子診断にて、確定診断および除外診断が可能である。■ 鑑別診断遺伝性、非遺伝性の舞踏運動などの不随意運動を呈する疾患、精神科疾患などが鑑別疾患として挙げられる。■ 臨床評価スケールUHDRS (Unified Huntington’s Disease Rating Scale)BOSH (The Behavior Observation Scale Huntington)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 対症療法発症予防、進行抑制などの根本的治療法は実現していない。症状に対する対症療法が主である。運動症状、舞踏運動に対して、テトラペナジン(商品名: コレアジン)が有効で、保険収載されている。精神症状に対しては、当該症状に対する抗精神病薬(向精神薬)、抗うつ薬などが用いられる。認知症に対する有効な治療薬は知られていない。■ 介護、支援制度など1)指定難病「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」の対象で、医療費助成対象疾病である。2)介護保険「介護保険法」の被保険者の対象は65歳以上で、第2号被保険者に該当する疾患には含まれない。認知症がある場合は、初老期における認知症として40~64歳でも対象となる。3)身体障害「身体障害者福祉法」に基づいて、運動障害の程度に応じて、肢体不自由による身体障害者手帳の交付の対象となる。4)精神障害者精神障害を来している場合には、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」による精神障害保健福祉手帳の交付の対象となりうる。■ 遺伝カウンセリング遺伝性疾患であり、婚姻、妊娠、発症前診断、出生前診断など、さまざまな臨床遺伝医学的課題、血縁者・家族に関連した問題がある。専門的には、臨床遺伝専門医などに紹介することが勧められる。4 今後の展望1993年に、原因遺伝子とその突然変異が報告され、以降、根本的に有効な治療法を目指したさまざまなレベルの研究が欧米を中心に行われている。臨床治験の行われた薬物もあるが、現在までのところ、発症の予防ないし遅延や進行の抑制を可能とする治療法は実現していない。研究の進展によって、これらが現実となることが望まれる。5 主たる診療科主たる診療科:神経内科(および小児神経科)精神症状の顕著な場合:精神科発症前診断や遺伝カウンセリングなど:遺伝診療科や遺伝子診療部門6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター ハンチントン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Online Mendelian Inheritance in Man (OMIM) Huntington disease (英語)(医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews Huntington chorea/ハンチントン病原文(英語)日本語版 (医療従事者向けのまとまった情報)The Centre for Molecular Medicine and Therapeutics ハンチントン病の有病率(英語)(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本ハンチントン病ネットワーク(JHDN)(患者とその家族向けの情報)1)Huntington G. Medical and Surgical Report. 1872;26:317-321.2)The Huntington’s Disease Collaborative Research Group. Cell. 1993;72:971-983.3)William J. Weiner MD, Eduardo Tolosa MD, editor. Handbook of Clinical Neurology Volume 100. Hyperkinetic Movement Disorders.Elsevier(NE);2011.4)Bates G, Tabrizi S, & Jones L, editor. Huntington’s disease.4th ed. Oxford University Press(UK);2014.5)金澤一郎. ハンチントン病を追って 臨床から遺伝子治療まで. 科学技術振興機構;2006.6)後藤 順. 神経症候群(第2版)II.日本臨牀; 2014. p.163-168.7)Pringsheim T, et al. Mov Disord. 2012;27:1083-1091.8)Huntington Study Group. Mov Disord. 1996;11:136-142.9)Timman R, et al. Cogn Behav Neurol. 2005;18:215-222.公開履歴初回2017年02月07日

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幹線道路の近くに住む人は認知症リスクが高い/Lancet

 幹線道路から<50mに住む人は、300m超離れた場所に住む人に比べ、認知症発症リスクが高く、幹線道路から離れるにつれて、同リスクの増加幅は有意に減少することが示された。一方、そうした関連は、パーキンソン病、多発性硬化症はみられなかったという。カナダ・Public Health OntarioのHong Chen氏らが住民ベースのコホート試験の結果、明らかにしたもので、Lancet誌オンライン版2017年1月4日号で発表した。認知症、多発性硬化症、パーキンソン病について関連を検証 研究グループは、2001年4月時点でカナダ・オンタリオ州に居住する20~50歳(被験者数約440万人、多発性硬化症コホート)と55~85歳(被験者数220万人、認知症・パーキンソン病コホート)の2つの住民ベースコホートを対象に試験を行った。被験者はいずれもカナダで生まれ、オンタリオ州に5年以上住む人で、ベースラインで多発性硬化症、認知症、パーキンソン病といった神経性疾患を発症していない人だった。 被験者について、郵便番号を基に試験開始5年前の1996年時点で、幹線道路にどれほど近接して居住していたかを調べた。多発性硬化症、認知症、パーキンソン病の発症については、地域の医療管理データで確認した。 幹線道路への近接居住とこれら疾患の罹患率との関連について、Cox比例ハザードモデルを用いて分析した。なお、糖尿病、脳損傷、居住地域の所得などについて補正を行った。大都市在住の幹線道路から<50m内居住、認知症リスクは1.12倍に その結果、2001~12年に各疾患を発症した人は認知症が24万3,611人、パーキンソン病は3万1,577人、多発性硬化症は9,247人だった。 幹線道路への近接居住との関連性は、パーキンソン病、多発性硬化症については認められなかった。 認知症発症については、幹線道路から<50m内に住む人の、同発症に関する補正後ハザード比は、300m超離れた場所に住む人に対して、1.07(95%信頼区間[CI]:1.06~1.08)、50~100mでは1.04(同:1.02~1.05)、101~200mでは1.02(同:1.01~1.03)、201~300mでは1.00(同:0.99~1.01)と有意な関連が認められた(傾向p=0.0349)。 なかでも、幹線道路近接居住と認知症発症について、大都市在住(幹線道路から50m内に住む人のハザード比:1.12、同:1.10~1.14)と、引っ越し経験なし(同ハザード比:1.12、同:1.10~1.14)で強い関連が認められた。

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~プライマリ・ケアの疑問~ Dr.前野のスペシャリストにQ!【神経内科編】

第1回 【認知症】アルツハイマー型とレビー小体型の違いは? 第2回 【認知症】どの薬をいつまで処方する? 第3回 【パーキンソン病】必ず押さえるパーキンソン病 診断のポイント第4回 【パーキンソン病】どの薬剤を選ぶ? 効果判定の指標は何? 第5回 【脳卒中】プライマリ・ケアで行うべき初期対応は? 第6回 【脳梗塞】知っておくべき抗血小板薬の使い方 第7回 【不随意運動】診方と伝え方 第8回 【めまい】中枢性を疑うポイントは? 第9回 【てんかん】間違えやすい疾患との鑑別のコツは? 第10回 【てんかん】どの薬剤を使い、いつ減量を考慮する? 第11回 【一次性頭痛】鑑別に役立つ質問は? 第12回 【一次性頭痛】治療戦略の組み立て方 第13回 【二次性頭痛】危険な頭痛を見分けるには? 第14回 【末梢神経障害】見つけるべきはギランバレー症候群だけじゃない 第15回 【しびれ】紹介すべきか経過観察かを見分ける 第16回 【神経難病】早期発見するための観察、問診の秘訣 「いつまで認知症治療薬を使うのか?」「振戦はカルテにどう表現したら伝わる?」「身体所見の取り方にコツはあるのか?」などの神経内科の診療に関わる疑問や悩みをプライマリ・ケア医視点で前野哲博氏が厳選。神経内科のスペシャリスト井口正寛氏が、日常診療に役立つノウハウを交えてズバリ解決します!第1回【認知症】アルツハイマー型とレビー小体型の違いは?認知症の代表的な病型、アルツハイマー型とレビー小体型の違いを知っておくことは認知症診療の要です。今回はズバリ、この2つを含む代表的な4つのタイプの違いをコンパクトに解説。また早期発見のコツについてもレクチャーします。第2回【認知症】どの薬をいつまで処方する?認知症治療薬のスタンダードはコリンエステラーゼ阻害薬。ではどのように効果を判定して、いつまで薬を服用させるべきか?対症療法だからこそ気を付けるべきことを、スペシャリストからじっくり伺います。第3回【パーキンソン病】必ず押さえるパーキンソン病 診断のポイントパーキンソン病は珍しくない変性疾患ですが、その診断には、その他のパーキンソン症候群との鑑別が必須です。短い診察時間でも鑑別を進められるよう、要所に絞って特徴を捉えたいところ。今回は身体診察の実演も加えてパーキンソン病診断のキーポイントを解説します!第4回【パーキンソン病】どの薬剤を選ぶ? 効果判定の指標は何? これを押さえればパーキンソン病治療で迷わなくなる!専門医が実践する治療の原則を伝授します。L-ドパとドパミンアゴニストはどう使い分けるのか、パーキンソン病治療で必ず直面するウェアリング・オフにどう対応するか、具体的な処方術は必見です!第5回【脳卒中】プライマリ・ケアで行うべき初期対応は? とっさの判断が予後を左右する脳卒中。超急性期治療には、適応できれば予後が格段によい治療法も普及し、スクリーニングと早期発見の重要性は高まるばかりです。ウォークインで来院しても、油断できないTIAのリスクをどう評価するかもプライマリケアで必須のポイント。今回はとっさに使える簡便な評価スケールと初期対応を伝授します!第6回【脳梗塞】知っておくべき抗血小板薬の使い方 今回は、最新の脳梗塞治療フローを解説。急性期から慢性期まで、プライマリケア医が知っておくべきポイントを伝授します。抗血小板薬の使い分けは必要?診療で気を付けるべき点は?アスピリンを予防投与に効果はある?など、脳梗塞治療に関する疑問をまとめて井口先生と解決します!第7回【不随意運動】診方と伝え方 不随意運動は分類が多くて苦手と感じる先生に朗報です!カルテの書き方だけでなく、本態性振戦とパーキンソン病の鑑別や分類ごとに具体的な処方術まで伝授。不随意運動診療のポイントを凝縮した10分は必見です!第8回【めまい】中枢性を疑うポイントは? めまいは不定愁訴のようであっても、脳梗塞など中枢性疾患を確実に除外しなければ安心できません。中枢性めまいを見落とさずに診断するには?今回は、末梢性めまいの特徴と、中枢性めまいを疑ったときの身体診察について解説。プライマリケアで継続治療していいめまいと紹介すべき中枢性の鑑別ポイントを伝授します。第9回【てんかん】間違えやすい疾患との鑑別のコツは? てんかん診断は患者さんの生活を大きく変えてしまいます。正確に疑うために、まずは除外すべき疾患を押さえましょう。専門医はどんな対応を行っているのか、そして、プライマリケア医に求められることを解説します。運転免許の更新や停止については日常診療で接するプライマリケア医に必須の情報ですから必ず確認しておきましょう。第10回【てんかん】どの薬剤を使い、いつ減量を考慮する? てんかんの診断と薬剤の決定は基本的に専門医が行いますが、最新の治療戦略と薬剤選択を理解しておくことは、プライマリケア医にとっても有用です。薬物療法開始のタイミングや減量を考慮する時期、頻用される薬剤とその副作用など、てんかん治療の要所を解説します。重積発作への対処は、4ステップのシンプルな対応フローを伝授!いざというときも慌てず対応できるよう、確実に覚えておきましょう!第11回【一次性頭痛】鑑別に役立つ質問は? 片頭痛や緊張型頭痛などの、非器質性頭痛をどう鑑別するか。典型的な特徴に当てはまらない場合でも、問診で見分けられるポイントは意外と多いのです。部位、発症年齢、症状の程度や随伴症状など、鑑別の手がかりを6つの項目に分けて解説します。第12回【一次性頭痛】治療戦略の組み立て方 片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、それぞれに治療薬は何を使う?トリプタン製剤の使い分け、片頭痛予防薬の選択基準、慢性の緊張型頭痛に用いるべき薬剤などを明解に解説します。治療が難しい群発頭痛では、専門医が重視する生活指導内容も伝授します。第13回【二次性頭痛】危険な頭痛を見分けるには? 頭痛のレッドフラッグは6個。まずこれを冒頭で確認してください。とくに危険性の高い細菌性髄膜炎を疑う条件を紹介し、その他の髄膜炎との鑑別・治療の違いも解説。くも膜下出血の病像と、とくに注意すべき特徴、専門医に送る前にすべきことを伝授します。第14回【末梢神経障害】見つけるべきはギランバレー症候群だけじゃない 末梢神経障害というと、ギランバレー症候群を気にするプライマリケアの先生も多いですが、実はそれ以上に気を付けて発見してほしい疾患があります。膨大な鑑別疾患から気を付けるべき疾患を見分けるコツを伝授します。そのプロセスはシンプルかつ明快。今日から使えるスペシャリストの診断方法を番組でご確認ください!第15回【しびれ】紹介すべきか経過観察かを見分ける しびれはよくある訴えですが、稀にすぐに専門医に紹介すべき例が隠れています。この両者を見分ける条件を伝授。原因部位を3つに分類して数多い鑑別疾患をクリアに整理します。日頃から診る機会の多い中でも、レッドフラッグを見落とさず発見するワザを身に付けてください。第16回【神経難病】早期発見するための観察、問診の秘訣遭遇することはめったにない一方、見落としたくないのが神経難病。プライマリケアの現場でどんなことに気を付ければ、発見の糸口になるのでしょうか。異変に気付くためにスペシャリストは何に注目して診察を進めているか解説します。診察の時系列に沿って専門医の思考回路をたどることで、観察のポイントを押さえましょう!

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進行期パーキンソン病への期待の一手

 10月27日、アッヴィ合同会社は、進行期パーキンソン病治療薬レポドパ、カルビドパ水和物(商品名:デュオドーパ配合経腸用液)の発売を受け、都内でプレスセミナーを開催した。セミナーでは、パーキンソン病診療の現状のほか、患者さんが疾患による日常生活の不便さや将来への不安などを語った。高齢化社会とパーキンソン病 はじめに服部 信孝氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 教授)が、「進行期のパーキンソン病の治療と展望」をテーマに講演を行った。 2017年で症状報告から200年になるパーキンソン病は、進行性の神経変性疾患である。疫学では1,000人当たり1~1.5人と推定され(国内患者数約15万人)、高齢になるほどその割合は上がり、10%が遺伝型と推定されるが、ほとんどが孤発型である。主な症状としては、振戦、筋固縮、姿勢反射障害がみられ、とくに無動や動作の緩慢は本症に特徴的であるという。進行すると著しく患者さんのADLやQOLを悪化させるために、超高齢化社会のわが国では、根絶が焦眉の急となっている。パーキンソン病の診療 発症は、遺伝子、加齢、環境(たとえば農薬や頭部外傷)、生活因子が作用する多因子疾患と考えられている。また、本症の自然史としては、前駆症状に睡眠障害、自律神経症状、うつ・不安、嗅覚障害、疲労感などがみられるという。 治療では、ノルアドレナリン補充薬やMAO-B阻害薬、抗コリン薬などさまざまな治療薬が使用できるが、主にLドーパが使用される。しかし、Lドーパは半減期が短く、運動合併症状が出現しやすい点が指摘されている。また、パーキンソン病が進行すると、wearing-off と呼ばれる「オフ」状態と「オン」状態が交互に出現するようになり、「オフ」状態ではより動きが緩慢に、より強いこわばりが見られ、動作が困難となる。その結果、従来の経口薬では、胃や小腸での吸収が遅れ、有効血中濃度に薬剤がとどまらないために症状の改善ができないことが課題となっている。病状が進行したら次の手は こうした進行期での経口治療薬の課題を解決するために開発されたのが、デュオドーパ配合経腸用液である。 パーキンソン病の日内変動(wearing-off 現象)の改善に向け、患者さんに胃ろうを増設することで、専用ポンプとチューブを用い、持続的に薬剤の投与を行う。これにより「オフ」時間を減少させることが期待できるという。 デュオドーパ配合経腸用液の12週間投与の安全性、有効性などを評価した承認時試験(進行期のパーキンソン病患者31例)では、次のとおり報告されている。・12週時の標準化した1日当たりの平均オフ時間の変化では、平均オフ時間がベースライン7.37時間であるのに対し、本剤では2.72時間だった。・12週時の標準化した1日当たりの平均オン時間の変化では、ジスキネジア(不随意運動)ありの場合、平均オン時間がベースラインで1.12時間あるのに対し、本剤では0.12時間だった。ジスキネジアなしの場合、平均オン時間がベースラインで7.52時間であるのに対し、本剤では13.10時間だった。・52週経過後のオフ時間に対する評価では、標準化した1日当たりの平均オフ時間がベースライン7.40時間であるのに対し、本症では3.12時間だった。 報告された副作用としては、胃ろう増設に関するものが多く、切開部痛、過剰肉芽組織、腹痛などがあったほか、機器の不具合(ポンプの異常やチューブの不具合)もレポートされている。 服部氏は、最後に「直接空腸に薬剤を届けることで、進行期パーキンソン病の運動症状に効果が期待される。また、長期のフォローアップでも安定した効果があり、薬剤を微調整できることが最大のメリットだと考えている。適応としては脳深部刺激療法より広く、機器の操作ができる認知能力があれば、パーキンソン病に見られる軽度認知機能障害(MCI)の患者さんにも適応可能である。今後は、使用経験を重ねることで患者クラスターを明確にするとともに、神経内科、消化器内科、外科との連携ができる組織作りが不可欠になる」と本剤への期待を語った。(ケアネット 稲川 進)関連サイト アッヴィ合同会社 製品情報 デュオドーパ

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線条体黒質変性症〔SND: striatonigral degeneration〕

1 疾患概要■ 概念・定義線条体黒質変性症(striatonigral degeneration: SND)は、歴史的には1961年、1964年にAdamsらによる記載が最初とされる1)。現在は多系統萎縮症(multiple system atrophy: MSA)の中でパーキンソン症状を主徴とする病型とされている。したがって臨床的にはMSA-P(MSA with predominant parkinsonism)とほぼ同義と考えてよい。病理学的には主として黒質一線条体系の神経細胞脱落とグリア増生、オリゴデンドロサイト内にα-シヌクレイン(α-synuclein)陽性のグリア細胞質内封入体(glial cytoplasmic inclusion: GCI)が見られる(図1)。なお、MSA-C(MSA with predominant cerebellar ataxia)とMSA-Pは病因や治療などに共通した部分が多いので、「オリーブ橋小脳萎縮症」の項目も合わせて参照して頂きたい。画像を拡大する■ 疫学平成26年度のMSA患者数は、全国で1万3,000人弱であるが、そのうち約30%がMSA-Pであると考えられている。欧米では、この比率が逆転し、MSA-PのほうがMSA-Cよりも多い2,3)。このことは神経病理学的にも裏付けられており、英国人MSA患者では被殻、淡蒼球の病変の頻度が日本人MSA患者より有意に高い一方で、橋の病変の頻度は日本人MSA患者で有意に高いことが知られている4)。■ 病因いまだ十分には解明されていない。α-シヌクレイン陽性GCIの存在からMSAはパーキンソン病やレビー小体型認知症とともにα-synucleinopathyと総称されるが、MSAにおいてα-シヌクレインの異常が第一義的な意義を持つかどうかは不明である。ただ、α-シヌクレイン遺伝子多型がMSAの易罹患性要因であること5)やα-シヌクレイン過剰発現マウスモデルではMSA類似の病理所見が再現されること6,7)などα-シヌクレインがMSAの病態に深く関与することは疑う余地がない。MSAはほとんどが孤発性であるが、ごくまれに家系内に複数の発症者(同胞発症)が見られることがある。このようなMSA多発家系の大規模ゲノム解析から、COQ2遺伝子の機能障害性変異がMSAの発症に関連することが報告されている8)。COQ2はミトコンドリア電子伝達系において電子の運搬に関わるコエンザイムQ10の合成に関わる酵素である。このことから一部のMSAの発症の要因として、ミトコンドリアにおけるATP合成の低下、活性酸素種の除去能低下が関与する可能性が示唆されている。■ 症状MSA-Pの発症はMSA-Cと有意差はなく、50歳代が多い2,3,9,10)。通常、パーキンソン症状が前景に出て、かつ経過を通して病像の中核を成す。GilmanのMSA診断基準(ほぼ確実例)でも示されているように自律神経症状(排尿障害、起立性低血圧、便秘、陰萎など)は必発である11)。加えて小脳失調症状、錐体路症状を種々の程度に伴う。MSA-Pのパーキンソン症状は、基本的にパーキンソン病で見られるのと同じであるが、レボドパ薬に対する反応が不良で進行が速い。また、通常、パーキンソン病に特徴的な丸薬丸め運動様の安静時振戦は見られず、動作性振戦が多い。また、パーキンソン病に比べて体幹動揺が強く転倒しやすいとされる12)。パーキンソン病と同様に、パーキンソニズムの程度にはしばしば左右非対称が見られる。小脳症状は体幹失調と失調性構音障害が主体となり、四肢の失調や眼球運動異常は少ない13)。後述するようにMSA-Pでは比較的早期から姿勢異常や嚥下障害を伴うことも特徴である。なお、MSAの臨床的な重症度の評価尺度として、UMSARS(unified MSA rating scale)が汎用されている。■ 予後国内外の多数例のMSA患者の検討によれば、発症からの生存期間(中央値)はおよそ9~10年と推察される3,9)。The European MSA Study Groupの報告では、MSAの予後不良を予測させる因子として、評価時点でのパーキンソン症状と神経因性膀胱の存在を指摘している3)。この結果はMSA-CよりもMSA-Pのほうが予後不良であることを示唆するが、日本人患者の多数例の検討では、両者の生存期間には有意な差はなかったとされている9)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)GilmanらのMSA診断基準(ほぼ確実例)は別稿の「オリーブ橋小脳萎縮症」で示したとおりである。MSA-P疑い例を示唆する所見として、運動症状発現から3年以内の姿勢保持障害、5年以内の嚥下障害が付加的に記載されている11)。診断に際しては、これらの臨床所見に加えて、頭部画像診断が重要である(図2)。MRIでは被殻外側部の線状高信号(hyperintense lateral putaminal rim)が、パーキンソン症状に対応する病変とされる。画像を拡大する57歳女性(probable MSA-P、発症から約1年)の頭部MRI(A、B)。臨床的には左優位のパーキンソニズム、起立性低血圧、過活動性膀胱、便秘を認めた。MRIでは右優位に被殻外側の線状の高信号(hyperintense lateral putaminal rim)が見られ(A; 矢印)、被殻の萎縮も右優位である(B; 矢印)。A:T2強調像、B:FLAIR像68歳女性(probable MSA-P、発症から約7年)の頭部MRI(C~F)。臨床的には寡動、右優位の筋固縮が目立ち、ほぼ臥床状態で自力での起立・歩行は不可、発語・嚥下困難も見られた。T2強調像(C)にて淡い橋十字サイン(hot cross bun sign)が見られる。また、両側被殻の鉄沈着はT2強調像(D)、T2*像(E)、磁化率強調像(SWI)(F)の順に明瞭となっている。MSA-Pの場合、鑑別上、最も問題になるのは、パーキンソン病、あるいは進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症などのパーキンソン症候群である。GilmanらはMSAを示唆する特徴として表のような症状・所見(red flags)を挙げているが11)、これらはMSA-Pとパーキンソン病を鑑別するには有用とされる。表 MSAを支持する特徴(red flags)と支持しない特徴11)■ 支持する特徴(red flags)口顔面ジストニア過度の頸部前屈高度の脊柱前屈・側屈手足の拘縮吸気性のため息高度の発声障害高度の構音障害新たに出現した、あるいは増強したいびき手足の冷感病的笑い、あるいは病的泣きジャーク様、ミオクローヌス様の姿勢時・動作時振戦■ 支持しない特徴古典的な丸薬丸め様の安静時振戦臨床的に明らかな末梢神経障害幻覚(非薬剤性)75歳以上の発症小脳失調、あるいはパーキンソニズムの家族歴認知症(DSM-IVに基づく)多発性硬化症を示唆する白質病変上記では認知症はMSAを“支持しない特徴”とされるが、近年は明らかな認知症を伴ったMSA症例が報告されている14,15)。パーキンソン病とMSAを含む他のパーキンソン症候群の鑑別に123I-meta-iodobenzylguanidine(123I-MIBG)心筋シンチグラフィーの有用性が示されている16)。一般にMSA-Pではパーキンソン病やレビー小体型認知症ほど心筋への集積低下が顕著ではない。10の研究論文のメタ解析によれば、123I-MIBGによりパーキンソン病とMSA(MSA-P、MSA-C両方を含む)は感度90.2%、特異度81.9%で鑑別可能とされている16)。一方、Kikuchiらは、とくに初期のパーキンソン病とMSA-Pでは123I-MIBG心筋シンチでの鑑別は難しいこと、においスティックによる嗅覚検査が両者の鑑別に有用であることを示している17)。ドパミントランスポーター(DAT)スキャンでは、両側被殻の集積低下を示すが(しばしば左右差が見られる)、パーキンソン病との鑑別は困難である。また、Wangらは、MRIの磁化率強調像(susceptibility weighted image: SWI)による被殻の鉄含量の評価はMSA-Pとパーキンソン病の鑑別に有用であることを指摘している18)。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)有効な原因療法は確立されていない。MSA-Cと同様に、個々の患者の病状に応じた対症療法が基本となる。対症療法としては、薬物治療と非薬物治療に大別される。レボドパ薬に多少反応を示すことがあるので、とくに病初期には十分な抗パーキンソン病薬治療を試みる。■ 薬物治療1)小脳失調症状プロチレリン酒石酸塩水和物(商品名: ヒルトニン注射液)や、タルチレリン水和物(同:セレジスト)が使用される。2)自律神経症状主な治療対象は排尿障害(神経因性膀胱)、起立性低血圧、便秘などである。MSAの神経因性膀胱では排出障害(低活動型)による尿勢低下、残尿、尿閉、溢流性尿失禁、および蓄尿障害(過活動型)による頻尿、切迫性尿失禁のいずれもが見られる。排出障害に対する基本薬は、α1受容体遮断薬であるウラピジル(同: エブランチル)やコリン作動薬であるベタネコール塩化物(同: ベサコリン)などである。蓄尿障害に対しては、抗コリン薬が第1選択である。抗コリン薬としてはプロピベリン塩酸塩(同:バップフォー)、オキシブチニン塩酸塩(同:ポラキス)、コハク酸ソリフェナシン(同:ベシケア)などがある。起立性低血圧には、ドロキシドパ(同:ドプス)やアメジニウムメチル硫酸塩(同:リズミック)などが使用される。3)パーキンソン症状パーキンソン病に準じてレボドパ薬やドパミンアゴニストなどが使用される。4)錐体路症状痙縮が強い症例では、抗痙縮薬が適応となる。エペリゾン塩酸塩(同:ミオナール)、チザニジン塩酸塩(同:テルネリン)、バクロフェン(同:リオレサール、ギャバロン)などである。■ 非薬物治療患者の病期や重症度に応じたリハビリテーションが推奨される(リハビリテーションについては、後述の「SCD・MSAネット」の「リハビリのツボ」を参照)。上気道閉塞による呼吸障害に対して、気管切開や非侵襲的陽圧換気療法が施行される。ただし、非侵襲的陽圧換気療法によりfloppy epiglottisが出現し(喉頭蓋が咽頭後壁に倒れ込む)、上気道閉塞がかえって増悪することがあるため注意が必要である19)。さらにMSAの呼吸障害は中枢性(呼吸中枢の障害)の場合があるので、治療法の選択においては、病態を十分に見極める必要がある。4 今後の展望選択的セロトニン再取り込み阻害薬である塩酸セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)やパロキセチン塩酸塩水和物(同:パキシル)、抗結核薬リファンピシン、抗菌薬ミノサイクリン、モノアミンオキシダーゼ阻害薬ラサジリン、ノルアドレナリン前駆体ドロキシドパ、免疫グロブリン静注療法、あるいは自己骨髄由来の間葉系幹細胞移植など、さまざまな治療手段の有効性が培養細胞レベル、あるいはモデル動物レベルにおいて示唆され、実際に一部はMSA患者を対象にした臨床試験が行われている20,21)。これらのうちリファンピシン、ラサジリン、リチウムについては、MSA患者での有用性が証明されなかった21)。また、MSA多発家系におけるCOQ2変異の同定、さらにはCOQ2変異ホモ接合患者の剖検脳におけるコエンザイムQ10含量の著減を受けて、MSA患者に対する治療として、コエンザイムQ10大量投与療法に期待が寄せられている。5 主たる診療科神経内科、泌尿器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 線条体黒質変性症SCD・MSAネット 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の総合情報サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会(患者とその家族の会)1)高橋昭. 東女医大誌.1993;63:108-115.2)Köllensperger M, et al. Mov Disord.2010;25:2604-2612.3)Wenning GK, et al. Lancet Neurol.2013;12:264-274.4)Ozawa T, et al. J Parkinsons Dis.2012;2:7-18.5)Scholz SW, et al. Ann Neurol.2009;65:610-614.6)Yazawa I, et al. Neuron.2005;45:847-859.7)Shults CW et al. J Neurosci.2005;25:10689-10699.8)Multiple-System Atrophy Research Collaboration. New Engl J Med.2013;369:233-244.9)Watanabe H, et al. Brain.2002;125:1070-1083.10)Yabe I, et al. J Neurol Sci.2006;249:115-121.11)Gilman S, et al. Neurology.2008;71:670-676.12)Wüllner U, et al. J Neural Transm.2007;114:1161-1165.13)Anderson T, et al. Mov Disord.2008;23:977-984.14)Kawai Y, et al. Neurology. 2008;70:1390-1396.15)Kitayama M, et al. Eur J Neurol.2009:16:589-594.16)Orimo S, et al. Parkinson Relat Disord.2012;18:494-500.17)Kikuchi A, et al. Parkinson Relat Disord.2011;17:698-700.18)Wang Y, et al. Am J Neuroradiol.2012;33:266-273.19)磯崎英治. 神経進歩.2006;50:409-419.20)Palma JA, et al. Clin Auton Res.2015;25:37-45.21)Poewe W, et al. Mov Disord.2015;30:1528-1538.公開履歴初回2015年04月23日更新2016年11月01日

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バーチャル映像を見ながらのトレッドミルで転倒が減少/Lancet

 トレッドミルにバーチャルリアリティ(VR)を組み合わせた介入が高齢者の転倒リスク防止に有用であることを、イスラエル・テルアビブ大学のAnat Mirelman氏らが、トレッドミル単独と比較した無作為化比較試験の結果、報告した。転倒リスクは、加齢に伴う運動機能と認知機能低下の進展に伴い増大する。これまでに多くの転倒予防の介入が提案されているが、運動・認知の両機能をターゲットとした統合的アプローチのものはなかった。Lancet誌オンライン版2016年8月11日号掲載の報告。トレッドミル単独と比較、6週間介入後6ヵ月間の転倒発生を評価 研究グループは、安全に歩行するための認識的側面と機動性の両者をターゲットとした、トレッドミルトレーニングと非没入型VRを組み合わせた介入が、トレッドミルトレーニング単独よりも転倒が減少すると仮定し検証試験を行った。 5ヵ国(ベルギー、イスラエル、イタリア、オランダ、英国)の5つの臨床施設で実施。60~90歳、転倒の高リスク(試験前の半年間で2回以上の転倒あり)、および多様な運動的および認識的側面を有する被験者を集めて、コンピュータ無作為化法で2群に割り付けた。そのうち一方にはトレッドミル+VR介入を、もう一方にはトレッドミルのみ介入を、いずれも週3回、6週間行った。1セッションは約45分で、患者個々の能力に合わせて構造化された介入が行われた。割り付けでは患者特性(原因不明の転倒歴あり、軽度認知障害、パーキンソン病)と性別のサブグループに、試験施設ごとにも層別化。グループ割り付けは介入に関わらない第3者によって行われた。 VRシステムは、モーションキャプチャーカメラとコンピュータシミュレーション映像から成り、被験者はモーションキャプチャーカメラを装着してトレッドミル歩行を、眼前の大型画面に映し出された映像を見ながら行う。とくに高齢者の転倒リスク軽減を目的に、障壁、複数の経路、また継続的な歩行調整を要する気を逸らせるものといった実在するチャレンジグなものが投影された。 主要アウトカムは、介入終了後6ヵ月間の転倒発生率。評価は修正intention-to-treat集団で行った。組み合わせ群の単独群に対する転倒発生率比は0.58 2013年1月6日~2015年4月3日の間に、302例がトレッドミル+VRの組み合わせ群(154例)、トレッドミル単独群(148例)に無作為に割り付けられた。事前規定の修正intention-to-treat解析には、282例(93%、組み合わせ群146例、単独群136例)のデータが包含された。両群被験者の特性は類似しており、年齢中央値は74.0歳と73.0歳、男性67%と62%、教育年数中央値は両群13.0年、MMSEスコア(30点満点)中央値28.0と28.5、処方薬数中央値5.0と6.0などであった。 介入前の転倒発生率は、両群で類似しており、6ヵ月間で組み合わせ群10.7(SD 35.6)回、単独群11.9(39.5)回であった。 しかし介入後6ヵ月間は、組み合わせ群の発生が6.00(95%信頼区間[CI]:4.36~8.25)回と有意に減少した(介入前比較のp<0.0001)。一方、単独群の発生は8.27(5.55~12.31)回と有意には減少しなかった(同p=0.49)。 介入後6ヵ月間の両群の転倒発生率を比較したところ、組み合わせ群のほうが有意に低率であった(発生率比:0.58、95%CI:0.36~0.96、p=0.033)。 サブグループでみると、原因不明の転倒歴あり群(組み合わせ群57例、単独群52例)の介入後6ヵ月間の転倒発生は5.10 vs.0.89回(p=0.10)、軽度認知障害群(23例、20例)では2.35 vs.1.28回(p=0.99)、パーキンソン病群(66例、64例)は8.06 vs.16.48回(p=0.01)であった。 安全性の評価は治療割付がされた全患者を対象に行われた。介入関連の有害事象について報告はなかった。

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広汎性発達障害に日本で使用されている薬剤は:東北大学

 日本において、広汎性発達障害(PDD)に適応を有する薬剤は、ピモジドだけである。いくつかの抗精神病薬は、日本でも適応外で使用されているが、これら薬剤の処方および使用に関する詳細は不明な点が多い。東北大学の佐藤 倫広氏らは、日本のPDD児における薬物治療の実態を明らかにするため調査を行った。World journal of pediatrics誌オンライン版2016年6月10日号の報告。 2005~10年に新規でPDD(ICD-10:F84)と診断された18歳未満の小児3,276例のデータを、日本医療データセンターの請求データより抽出した。処方率は、それぞれの薬剤が処方されたPDD患者の割合とした。 主な結果は以下のとおり。・2010年以前には、ATC分類で神経系に属する薬剤のうち、非定型抗精神病薬、他の抗精神病薬、精神刺激薬、他のすべての中枢神経系作用薬、抗けいれん薬、非バルビツール酸系薬、パーキンソン病/症候群薬の処方が有意に増加していた(trend p≦0.02)。・リスペリドンの処方率は一貫して増加しており、2010年には6.9%に達していた(trend p<0.0001)。これは、調査対象の抗精神病薬のうち最も高かった。・アリピプラゾールの処方率も増加しており、2010年には1.9%に達していた(trend p<0.0001)。・ピモジドの処方率には変化がなく、2010年は0.4%と低率であった。 著者らは「ピモジドと比較し、リスペリドン、アリピプラゾール、他の向精神薬の処方率が増加している。日本人小児に対するこれら薬物の安全性データは十分でないため、今後の安全性評価が必要とされる」としている。関連医療ニュース 自閉症、広汎性発達障害の興奮性に非定型抗精神病薬使用は有用か? 抗精神病薬の適応外処方、年代別の傾向を調査 非定型抗精神病薬、小児への適応外使用の現状

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ニーマン・ピック病C型〔NPC : Niemann-Pick disease type C〕

1 疾患概要■ 概念・定義1, 2)ニーマン・ピック病は、多様な臨床症状と発病時期を示すがスフィンゴミエリンの蓄積する疾患として、1961年CrockerによりA型からD型に分類された。A型とB型はライソゾーム内の酸性スフィンゴミエリナーゼ遺伝子の欠陥による常染色体性劣性遺伝性疾患で、ニーマン・ピック病C型は細胞内脂質輸送に関与する分子の欠陥で起こる常染色体性劣性遺伝性疾患である。D型は、カナダのNova Scotia地方に集積するG992W変異を特徴とする若年型のC型である。■ 疫学C型の頻度は人種差がないといわれ、出生10~12万人に1人といわれている。発病時期は新生児期から成人期までと幅が広い。2015年12月の時点で日本では34例の患者の生存が確認されている。同時点での人口8,170万人のドイツでは101人、人口6,500万人の英国では86例で、人口比からすると日本では現在確認されている数の約5倍の患者が存在する可能性がある。■ 病因遺伝的原因は、細胞内脂質輸送小胞の膜タンパク質であるNPC1タンパク質をコードするNPC1遺伝子、またはライソゾーム内の可溶性たんぱく質でライソゾーム内のコレステロールと結合し、NPC1タンパク質に引き渡す機能を持つNPC2タンパク質をコードするNPC2遺伝子の欠陥による。その結果、細胞内の脂質輸送の障害を生じ、ライソゾーム/後期エンドソームにスフィンゴミエリン、コレステロールや糖脂質などの蓄積を起こし、内臓症状や神経症状を引き起こす。95%の患者はNPC1遺伝子変異による。NPC2遺伝子変異によるものは5%以下であり、わが国ではNPC2変異による患者はみつかっていない。■ 症状1)周産期型出生後まもなくから数週で、肝脾腫を伴う遷延性新生児胆汁うっ滞型の黄疸がみられる。通常は生後2~4ヵ月で改善するが、10%くらいでは、肝不全に移行し、6ヵ月までに死亡する例がある。2)乳児早期型生後間もなくか1ヵ月までに肝脾腫が気付かれ、6~8ヵ月頃に発達の遅れと筋緊張低下がみられる。1~2歳で発達の遅れが明らかになり、運動機能の退行、痙性麻痺が出現する。歩行を獲得できる例は少ない。眼球運動の異常は認められないことが多い。5歳以降まで生存することはまれである。3)乳児後期型通常は3~5歳ごろ、失調による転びやすさ、歩行障害で気付かれ、笑うと力が抜けるカタプレキシーが認められることが多い。神経症状が出る前に肝脾腫を指摘されていることがある。また、検査に協力できる場合には、垂直性核上性注視麻痺を認めることもある。知的な退行、けいれんを合併する。けいれんはコントロールしづらいこともある。その後、嚥下障害、構音障害、知的障害が進行し、痙性麻痺が進行して寝たきりになる。早期に嚥下障害が起こりやすく、胃瘻、気管切開を行うことが多い。7~15歳で死亡することが多い。わが国ではこの乳児後期型が比較的多い。また、この型では早期にまばたきが消失し、眼球の乾燥を防ぐケアが必要となる。4)若年型軽度の脾腫を乳幼児期に指摘されていることがあるが、神経症状が出現する6~15歳には脾腫を認めないこともある。書字困難や集中力の低下などによる学習面の困難さに気付かれ、発達障害や学習障害と診断されることもある。垂直性核上性注視麻痺はほとんどの例で認められ、初発症状のこともある。カタプレキシーを認めることもある。不器用さ、学習の困難さに続き、失調による歩行の不安定さがみられる。歩行が可能な時期に嚥下障害によるむせやすさ、構語障害を認めることが多く、発語が少なくなる。ジストニア、けいれんがみられることが多く、進行すると痙性麻痺を合併する。30歳かそれ以上まで生存することが多い。わが国でも比較的多く認められる。5)成人型成人になって神経症状がなく、脾腫のみで診断される例もまれながら存在するが、通常は脾腫はみられないことが多い。妄想、幻視、幻聴などの精神症状、攻撃性やひきこもりなどの行動異常を示すことが多い。精神症状や行動異常がみられ、数年後に小脳失調(76%)、垂直性核上性注視麻痺(75%)、構語障害(63%)、認知障害(61%)、運動障害(58%)、脾腫(54%)、精神症状(45%)、嚥下障害(37%)などがみられる。運動障害はジストニア、コレア(舞踏病)、パーキンソン症候群などを認める。■ 予後乳児早期型は5歳前後、乳児後期型は7~15歳、若年型は30~40歳、成人型は中年までの寿命といわれているが、気管切開、喉頭気管分離術などによる誤嚥性肺炎の防止と良好なケアで寿命は延長している。また、2012年に承認になったミグルスタット(商品名: ブレーザベス)によって予後が大きく変化する可能性がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ニーマン・ピック病C型の診断の補助のためにSuspicion Indexが開発されている。これらはC型とフィリピン染色で確定した71例、フィリピン染色が陰性であった64例、少なくとも症状が1つある対照群81例について、内臓症状、神経症状、精神症状について検討し、特異性の高い症状に高いスコアを与えたスクリーニングのための指標である。この指標は便利であるが、4歳以下で神経症状の出現の少ない例では誤診する可能性のあることに注意して使用していただきたい。現在、4歳以下で使えるSuspicion Indexが開発されつつある。このSuspicion Indexは、(http://www.npc-si.jp/public/)にアクセスして使用でき、評価が可能である。一般血液生化学で特異な異常所見はない。骨髄に泡沫細胞の出現をみることが多い。皮膚の培養線維芽細胞のフィリピン染色によって、細胞内の遊離型コレステロールの蓄積を明らかにすることで診断する。LDLコレステロールが多く含まれる血清(培地)を用いることが重要である。成人型では蓄積が少なく、明らかな蓄積があるようにみえない場合もあり注意が必要である。骨髄の泡沫細胞にも遊離型コレステロールの蓄積があり、フィリピン染色で遊離型コレステロールの蓄積が確認できれば診断できる。線維芽細胞のフィリピン染色は、秋田大学医学部附属病院小児科(担当:高橋 勉、tomy@med.akita-u.ac.jp)、大阪大学大学院医学系研究科生育小児科学(担当:酒井 規夫、norio@ped.med.osaka-u.ac.jp)、鳥取大学医学部附属病院脱神経小児科(担当:成田 綾、aya.luce@nifty.com)で対応が可能である。確定診断のためにはNPC1遺伝子、NPC2遺伝子の変異を同定する。95%以上の患者はNPC1遺伝子に変異があり、NPC2遺伝子に変異のある患者のわが国での報告はまだない。NPC1/NPC2遺伝子解析は鳥取大学生命機能研究支援エンター(担当:難波 栄二、ngmc@med.tottori-u.ac.jp)で対応が可能である。近年、遊離型コレステロールが非酵素反応で形成される酸化型ステロール(7-ケトコレステロール、コレスタン-3β、5α、6βトリオール)が、C型の血清で特異的に上昇していることが知られ、迅速な診断ができるようになっている1、2)。わが国では、一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療センター(担当者:藤崎 美和、衞藤 義勝、sentanken@mt.strins.or.jp、電話044-322-0654 電子音後、内線2758)で測定可能であり、連絡して承諾が得られるようであれば、凍結血清1~2mLを送る。さらに尿に異常な胆汁酸が出現することが東北大学医学部附属病院薬剤部から報告され9)、この異常も診断的価値が高い特異的な検査の可能性があり、現在精度の検証が進められている。診断的価値が高いと考えられる場合、また精度の検証のためにも、東北大学医学部附属病院へ連絡(担当者:前川 正充、m-maekawa@hosp.tohoku.ac.jp)して、凍結尿5mLを送っていただきたい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ミグルスタット の治療効果C型の肝臓や脾臓には、遊離型コレステロール、スフィンゴミエリン、糖脂質(グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド)、遊離スフィンゴシン、スフィンガニンが蓄積している。一方、脳では、コレステロールやスフィンゴミエリンの蓄積はほとんどなく、スフィンゴ糖脂質、とくにガングリオシッドGM2とGM3の蓄積が顕著である。このような背景から、グルコシルセラミド合成酵素の阻害剤であるn-butyl-deoxynojirimycin(ミグルスタット)を用いてグルコシルセラミド合成を可逆的に阻害し、中枢神経系のグルコシルセラミドを基質とする糖脂質の合成を減少させることで、治療効果があることが動物で確認された。さらに若年型と成人型のC型患者で、嚥下障害と眼球運動が改善することが報告され、2009年EUで、2012年わが国でC型の神経症状の治療薬として承認された。ミグルスタットは、乳児後期型、若年型、成人型の嚥下機能の改善・安定化に効果があり、誤嚥を少なくし、乳児後期型から成人型C型の延命効果に大きく影響することが報告されている。また、若年型のカタプレキシーや乳児後期型の発達の改善がみられ、歩行機能、上肢機能、言語機能、核上性注視麻痺の安定化がみられることが報告されている。乳児早期型では、神経症状の出現前の早い時期に治療を開始すると効果がある可能性が指摘されているが、乳児後期型、若年型、成人型の神経症状の安定化に比較して効果が乏しい。また、脾腫や肝腫大などの内臓症状には、効果がないと報告されている。ミグルスタットの副作用として、下痢、鼓腸、腹痛などの消化器症状が、とくに治療開始後の数週間に多いと報告されている。この副作用はミグルスタットによる二糖分解酵素の阻害によって、炭水化物の分解・吸収が障害され、浸透圧性下痢、結腸発酵の結果起こると考えられている。ほとんどの場合ミグルスタット継続中に軽快することが多く、ロペラミド塩酸塩(商品名:ロペミンほか)によく反応する。また、食事中の二糖(ショ糖、乳糖、麦芽糖)の摂取を減らすことでミグルスタットの副作用を減らすことができる。さらには、ミグルスタットを少量から開始して、増量していくことで副作用を軽減できる。■ ニーマン・ピック病C型患者のその他の治療について2)C型のモデルマウスでは、細菌内毒素受容体Toll様受容体4の恒常的活性化によって、IL-6やIL-8が過剰に産生され、脳内の炎症反応が起こり、IL-6を遺伝的に抑制することで、マウスの寿命が延長することが示唆されている5)。また、モデルマウスに非ステロイド性抗炎症薬を投与すると神経症状の発症が遅延し、寿命が延長することが報告されており6)、C型患者で細菌感染を予防し、感染時の早期の抗菌薬投与と抗炎症薬の投与によって炎症を抑えることが勧められる。また、教科書には記載されていないが、C型患者では早期に瞬目反射が減弱・消失し、まばたきが減少し、この結果眼球が乾燥する。この瞬目反射の異常に対するミグルスタットの効果は不明である。C型患者のケアにあたっては、瞬目反射の減弱に注意し、減弱がある場合には、眼球の乾燥を防ぐために点眼薬を使用することが大切である。4 今後の展望シクロデキストリンは、細胞内コレステロール輸送を改善し、遊離型コレステロールの蓄積を軽減させると、静脈投与での効果が報告されている3)。シクロデキストリンは、髄液の移行が乏しく、人道的使用で髄注を行っている家族もあるが、今後アメリカを中心に臨床試験が行われる可能性がある。また、組み換えヒト熱ショックタンパク質70がニーマン・ピック病C型治療薬として開発されている。そのほか、FDAで承認された薬剤のなかでヒストン脱アセチル化阻害剤(トリコスタチンやLBH589)が、細胞レベルでコレステロールの蓄積を軽減させること4, 7)や筋小胞体からCaの遊離を抑制し、筋弛緩剤として用いられているダントロレンが変異したNPCタンパク質を安定化する8)ことなどが報告され、ミグルスタット以外の治療薬の臨床試験が始まる可能性が高い。5 主たる診療科小児科(小児神経科)、神経内科、精神科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患克服事業 ライソゾーム病(ファブリー病を含む)に関する調査研究班 ライソゾーム病に関して(各論)ニーマン・ピック病C型(医療従事者向けのまとまった情報)鳥取大学医学部N教授Website(ニーマン・ピック病C型の研究情報を多数記載。医療従事者向けのまとまった情報)NP-C Suspicion Index ツール(NPCを疑う症状のスコア化ができる。提供: アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社)The NPC-info.com Information for healthcare professionals に入り、Symptoms of niemann pick type C diseaseにて動画公開(ニーマン・ピック病C型に特徴的な症状のビデオ視聴が可能。提供: アクテリオン株式会社)患者会情報ニーマン・ピック病C型患者家族の会(患者とその患者家族の情報)1)大野耕策(編). ニーマン・ピック病C型の診断と治療.医薬ジャーナル社;2015.2)Vanier MT. Orphanet J Rare Dis.2010;5:16.3)Matsuo M, et al. Mol Genet Metab.2013;108:76-81.4)Pipalia NH, et al. Proc Natl Acad Sci USA.2011;108:5620-5625.5)Suzuki M, et al. J Neurosci.2007;27:1879-1891.6)Smith D, et al. Neurobiol Dis.2009;36:242-251.7)Maceyka M, et al. FEBS J.2013;280:6367-6372.8)Yu T, et al. Hum Mol Genet.2012;21:3205-3214.9)Maekawa M, et al. Steroids.2013;78:967-972.公開履歴初回2013年10月10日更新2016年04月19日

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パーキンソン病治療はどう変わっていくか

 パーキンソン病は「予後が悪い」と説明する医師もいる。しかし、パーキンソン病の予後は決して悪くなく、さらに最近の治療法の進歩によってより良い方向へ変化しつつある。 2016年4月6日、アッヴィ合同会社主催のプレスセミナー「パーキンソン病治療の現状と将来への期待」が行われた。講師は順天堂大学脳神経内科 服部 信孝氏と、全国パーキンソン病友の会常務理事の高本 久氏だ。パーキンソン病治療は今どのような課題があり、今後どう変わっていくのか。セミナーの内容から解説していく。パーキンソン病治療の抱える課題 パーキンソン病の主症状は「手足のふるえ」「筋肉のこわばり」「動作の鈍化」「バランスが取りづらさ」といった運動症状である。一方で、パーキンソン病では「便秘」「睡眠障害」「抑うつ」「関節の変性」「嗅覚障害」といった症状もみられ、これらは非運動症状と呼ばれる。非運動症状は、患者にとってパーキンソン病の症状だとわかりにくいことがある。そのため、受診先に内科・精神科・整形外科を選んでしまい、5~6年間も適切な診断・治療を受けられない患者もいるという。このような患者を「正しい受診先へと導く」ことは今後の大きな課題である。 また、治療法についても課題が挙げられる。全国パーキンソン病友の会が行ったアンケートでは、半分以上の患者が現在の治療に満足しておらず、とくに重症例ではその割合が多い(図1)。また、新しい治療法に対する意識についての質問では、90%以上の患者が「新しい治療法を試したい」という意向を示した(図2)。このことから、パーキンソン病の患者、とくに重症例の患者ではより良い治療法へのニーズが高いという現状がうかがえる。  図1画像を拡大する  図2画像を拡大するパーキンソン病治療はどう変わっていくのか では、今後どのような治療法が期待されているか。現在、薬物治療の中心はL-dopa内服療法であり、多くの患者が症状の改善を実感している。しかし、薬剤が過剰であると「ジスキネジア※1」に、薬剤が効かない・不足していると「オフ※2」になってしまうこと、そして「薬が適切に効いている時間(オン※3)」は病状の進行につれて狭まっていくことが問題になっている。そのためジスキネジアやオフ時間が出にくい薬物療法、または薬物療法以外の治療法に期待が集まっている。 ジスキネジアやオフ時間が出にくいと期待される治療法が「持続性ドパミン刺激療法」だ。ドパミン刺激が持続的になされ、ドパミンの血中濃度が安定することでジスキネジア、wearing off※4といった運動合併症を緩和・発現防止すると考えられている。現在、日本ではレボドパ/カルビドパ合剤を、携帯型注入ポンプ・チューブを介して直接的に十二指腸へ投与する「持続的十二指腸内投与」の治療薬の承認申請も進んでいる。また、薬物療法で症状の改善に限界がある場合には、「脳深部刺激療法」が治療選択肢となる。脳深部に電極を、胸部に小型刺激電源を埋め込み、両者をリード線でつないで脳の奥深くに電流を持続的に流し刺激を与える。この治療法によりジスキネジアやwearing-offの改善が期待でき、薬剤増量が困難な患者における有用な一手となりうる。 「持続的十二指腸内投与」、「脳深部刺激療法」は双方ともパーキンソン病患者のより良い症状改善につながる治療法であるが、手術が必要になるなど、患者と医師にとってはややハードルが高いといえる。服部氏は「海外では治療効果が優先されるが、日本では安全性が重要視される。これらの治療法を行う際、患者や医師のフォローをどのように充実させていくかが課題だ」と述べた。  また、その他の新規治療法として「水素水飲用」「COQ10服用」によるUPDRS※5の改善といったトピックスが注目を浴び、研究が進められている。(図3参照)  図3画像を拡大する パーキンソン病は症状が進行すると非常に多くの薬剤を服薬する必要があり、患者に大きな負担がかかる。また高齢化社会に伴い、パーキンソン病患者は増加すると予想されている。患者により良い治療の選択肢を提案していくためにも、新規治療法の研究には関心が高まっていくだろう。※1 ジスキネジア:体や手足がくねくねと勝手に動くなどの症状(不随意運動)※2 オフ:薬の効果が切れている時間※3 オン:薬が適切に効いている時間※4 wearing off:薬剤の薬効時間が短縮して、薬剤服用前に症状が悪化する現象※5 UPDRS:パーキンソン病統一スケール(Unified Parkinoson's Disease Rating Scale)、パーキンソン病の重症度を点数で表す指標

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パーキンソン病の男女比、加齢でどう変わる?

 男性は女性に比べ、高齢になるほどパーキンソン病を発症しやすいことが明らかとなった。パーキンソン病は女性よりも男性で1.5倍発症しやすいが、男女における発症率の差が年齢によって変化するかどうかはわかっていなかった。そこでフランス・健康監視研究所のMoisan F氏は国民健康保険データからの調査と、22件のコホート研究のメタ解析によって、パーキンソン病の有病率と発症率における男女比率を調査した。その結果、80歳を超える場合では女性よりも男性で発症率が1.6倍以上高まり、年齢に伴い男性の発症率がより高くなることを明らかにした。J Neurol Neurosurg Psychiatry誌オンライン版12月23日号の掲載報告。 研究グループはフランスの国民健康保険のデータを用い、14万9,672のパーキンソン病有症例(女性率50%)と2万5,438の発症例(女性率49%)を抽出した。抽出した症例に対してポアソン回帰分析を用い、有病率と発症率における男女比を全体/年齢別で算出した。 また、22のパーキンソン病に関するコホート研究(1万4,126例、女性率46%)をメタ解析し、年齢と有病率・発症率における男女比の関係を調べた。 主な結果は以下のとおり。・国民健康保険データから識別した症例において、年齢調整有病率・発症率は、女性よりも男性で高かった(男性:有病率=2.865、発症率=0.490、女性:有病率=1.934、発症率=0.328[単位:1000人年])・全体として、男性は女性と比較して有病率が1.48倍(95%CI:1.45~1.51, p<0.001)、発症率が1.49倍(95%CI:1.41~1.57、p<0.001)であった。・男女比はそれぞれ10歳ごとに、有病率で0.05、発症率で0.14増加した。・50歳未満の男女では発症率は大きく変わらず(男女比 <1.2、p>0.20)、80歳を超える場合では女性よりも男性で発症率が1.6倍以上高かった(p trend <0.001)。・コホート研究のメタ解析では、年齢に伴い女性よりも男性で発症率が高くなることが示された(10年ごとに0.26 倍、p trend=0.005)。 研究グループは「男女比が年齢の上昇とともに高まることは、年齢に伴ってパーキンソン病の病因が変化することを示唆している。この結果は、パーキンソン病の病因研究に新たな知見を与え得るだろう」と結論付けている。

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各認知症と尿酸との関連を分析

 血清尿酸(sUA)レベルと認知障害および認知症は関連しうる。この関連性は、認知症のサブタイプによってさまざまで、とくに脳血管性認知症(VaD)とアルツハイマー病(AD)やパーキンソン病関連認知症(PDD)との間では異なる。英国・グラスゴー大学のAamir A Khan氏らは、システマティックレビューとメタ解析により、sUAと認知障害および認知症との関連についてのすべての公開データを統合することを目的とし、検討を行った。Age (Dordrecht, Netherlands)誌2016年2月号(オンライン版2016年1月28日号)の報告。 検討には、sUAと任意の認知機能測定または認知症の臨床診断との関連を評価した研究が含まれた。AD、VaD、PDD、軽度認知障害(MCI)および混合型または未分化の患者によるサブグループ分析を事前に定義した。許可が得られたデータについて、バイアスリスクと一般化可能性を検討し、研究全般における関連性のプールされた基準を評価するため、メタ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・4,811件中、46件(1万6,688例)が選択基準を満たした。・対照と比較して、認知症の患者ではsUAが低かった(SDM:-0.33 [95%CI])。・AD(SDM:0.33[95%CI])とPDD(SDM:-0.67 [95%CI])では、認知症サブタイプとの関連性が明確に認められたがが、混合型(SDM:0.19 [95%CI])とVaD(SDM:-0.05 [95%CI])では認められなかった。・Mini-Mental State Examination(MMSE)とsUAレベルとの関連性は、PDD患者(summary r:0.16、p=0.003)を除き、関連が認められなかった(summary r:0.08、p=0.27)。 結果を踏まえ、著者らは「本結論は、臨床的な不均一性と試験のバイアスリスクにより限定的である」としたうえで、「sUAと認知症および認知障害との関連は、すべての認知症グループで一貫しているわけではなく、とくにVaD患者では他のサブタイプと異なる場合がある」とまとめている。関連医療ニュース レビー小体型認知症、認知機能と脳萎縮の関連:大阪市立大学 レビー小体型認知症、パーキンソン診断に有用な方法は 抗認知症薬は何ヵ月効果が持続するか:国内長期大規模研究

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ウィルソン病〔Wilson disease〕

1 疾患概要■ 定義肝臓およびさまざまな臓器に銅が蓄積し、臓器障害を来す常染色体劣性遺伝性の先天性銅代謝異常症である。■ 疫学わが国での発症頻度は約3万5千人に1人、保因者は約120人に1人とされている。■ 病因・病態本症は、銅輸送ATPase(ATP7B)の遺伝子異常症で、ATP7Bが機能しないために発症する。ATP7B遺伝子の変異は症例によりさまざまで、300以上の変異が報告されている。正常では、ATP7Bは肝細胞から血液および胆汁への銅分泌を司どっており、血液中への銅分泌のほとんどは、セルロプラスミンとして分泌されている。ATP7Bが機能しない本症では、肝臓に銅が蓄積し、肝障害を来す。同時に血清セルロプラスミンおよび血清銅値が低下する。さらに肝臓に蓄積した銅は、オーバーフローし、血液中に出てセルロプラスミン非結合銅(アルブミンやアミノ酸に結合しており、一般に「フリー銅」といわれている)として増加し、増加したフリー銅が脳、腎臓などに蓄積し、臓器障害を来すとされている(図1)。画像を拡大する■ 症状・分類5歳以上のすべての年齢で発症する。40~50歳で発症する例もある。神経型は肝型に比較して、発症年齢は遅く、発症は8歳以上である。ウィルソン病は、症状・所見により、肝型(肝障害のみ)、肝神経型(肝機能異常と神経障害)、神経型(肝機能は異常がなく、神経・精神症状のみ)、溶血発作型、その他に分類される。本症での肝障害は非常に多彩で、たまたま行った検査で血清トランスアミナーゼ(ALT、AST)高値により発見される例(発症前)から、慢性肝炎、急性肝炎、劇症型肝炎、肝硬変などで発症する例がある。神経症状の特徴はパーキンソン病様である。神経型でも肝臓に銅は蓄積しているが、一般肝機能検査値としては異常がみられないだけである。肝機能異常が認められなくても、表1の神経・精神症状の患者では、本症の鑑別のために血清セルロプラスミンと銅を調べるべきである。画像を拡大する神経・精神症状は多彩で、しばしば診断が遅れる。本症患者で当初はパーキンソン病、うつ病、総合失調症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、パラノイア症候群(偏執病)などと誤診されていた例が報告されている。表1の「その他の症状」が初発症状を示す患者もいる。したがって、表1の症状・所見の患者で原因不明の場合は、本症を鑑別する必要がある。■ 予後本症に対する治療を行わないと、病状は進行する。肝型では、肝硬変、肝不全になり致命的になる。肝細胞がんを発症することもある。神経型では病状が進行してから治療を開始した場合、治療効果は非常に悪く、神経症状の改善がみられない場合もある。また、改善も非常に緩慢であることが多い。劇症型肝炎や溶血発作型では、迅速に対応しなければ致命的になる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断に有効な検査を表2に示す。また、診断のフローチャートを図2に示す。表2の補足に示すように、診断が困難な場合がある。現在、遺伝子診断はオーファンネットジャパンに相談すれば実施してくれる。画像を拡大する症状から本症を鑑別する場合、まずは血清セルロプラスミンと銅を測定する。さらに尿中銅排泄量およびペニシラミン負荷試験で診断基準を満たせば、本症と診断できる。遺伝子変異が同定されれば確定診断できるが、臨床症状・検査所見で本症と診断できる患者でも変異が同定されない場合がある。確定診断に最も有効な検査は肝銅濃度高値である。しかし、劇症肝不全で肝細胞が著しく壊死している場合は、銅濃度は高くならないことがある。患者が診断されたら、家族検索を行い、発症前の患者を診断することも必要である。鑑別診断としては、肝型では、慢性肝炎、急性肝炎、劇症型肝炎、肝硬変、自己免疫性肝炎などが挙げられる。神経型はパーキンソン病、うつ病、総合失調症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、パラノイア症候群(偏執病)などである。また、関節症状では関節リウマチ、心筋肥大では心筋症、血尿が初発症状では腎炎との鑑別が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)本症の治療薬として、キレート薬(トリエンチン、ペニシラミン)、亜鉛製剤がある(表3)。また、治療の時期により初期治療と維持治療に分けて考える。初期治療は、治療開始後数ヵ月で体内に蓄積した銅を排泄する時期でキレート薬を使用し、その後は維持治療として銅が蓄積しないように行う治療で、亜鉛製剤のみでよいとされている。画像を拡大する肝型では、トリエンチンまたはペニシラミンで開始する。神経型では、キレート薬、とくにペニシラミンは使用初期に神経症状を悪化させる率が高い。したがって神経型では、亜鉛製剤またはトリエンチンで治療を行うのが望ましい。ウィルソン病は、早期に診断し治療を開始することが重要である。とくに神経型では、症状が進行すると予後は不良である。早期に治療を開始すれば、症状は消失し、通常生活が可能である。しかし、怠薬し、急激な症状悪化を来す例が問題になっている。治療中は怠薬しないように支援することも大切である。劇症型肝炎、溶血発作型では、肝移植が適応になる。2010年現在、わが国での本症患者の肝移植数は累計で109例である。肝移植後は、本症の治療は不要である。発症前患者でも治療を行う。患者が妊娠した場合も治療は継続する。亜鉛製剤で治療を行っている場合は、妊娠前と同量または75mg/日にする。キレート薬の場合は、妊娠後期には、妊娠前の50~75%に減量する。4 今後の展望1)本症は症状が多彩であるために、しばしば誤診されていたり、診断までに年月がかかる例がある。発症前にマススクリーニングで、スクリーニングされる方法の開発と体制が構築されることが望まれる。2)神経型では、キレート薬治療で治療初期に症状が悪化する例が多い。神経型本症患者の神経症状の悪化を来さないテトラチオモリブデートが、米国で治験をされているが、まだ承認されていない。3)欧米では、本症の診断治療ガイドラインが発表されている。わが国では、2015年に「ウィルソン病診療指針」が発表された。5 主たる診療科小児科、神経内科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報ウィルソン病友の会1)Roberts EA, et al. Hepatology. 2008; 47: 2089-2111.2)Kodama H, et al. Brain & Development.2011; 33: 243-251.3)European Association for the Study of the Liver. J Hepatology. 2012; 56: 671-685.4)Kodama H, et al. Current Drug Metabolism.2012; 13: 237-250.5)日本小児栄養消化器肝臓学会、他. 小児の栄養消化器肝臓病診療ガイドライン・指針.診断と治療社;2015.p.122-180.公開履歴初回2013年05月30日更新2016年02月02日

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未治療小児患者への抗精神病薬投与、その影響は

 未治療の小児および未成年者における抗精神病薬の神経学的有害事象への影響について調べた結果、リスペリドンはジスキネジアおよびパーキンソニズムの出現リスクが高いこと、一方でクエチアピンは神経学的有害事象が少ない抗精神病薬であることが明らかにされた。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学のMargarita Garcia-Amador氏らが、平均年齢14.4歳の265例について調べ報告した。また、遅発性ジスキネジアリスク増について、低年齢、精神疾患、治療が予測因子であることも報告した。結果を踏まえて著者らは、「抗精神病薬は、未治療および未治療に類する小児集団の神経学的有害事象を増加する。慎重にモニタリングする必要がある」と述べている。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2015年12月号の掲載報告。 研究グループは、未治療(および未治療に類する)小児および未成年者を対象とした抗精神病薬治療の1年間の多施設共同観察研究を行い、抗精神病薬の神経学的有害事象への影響について、人口統計学的、臨床的、治療的要因を評価した。最も使用されている3種の抗精神病薬を投与した被験者サブサンプルと、抗精神病薬未治の被験者サブサンプルを用いて2つのサブ解析を実施した。総ジスキネジアスコア(DyskinesiaS)、総パーキンソンスコア(ParkinsonS)、総UKU-認知機能スコアを算出して評価。また、ロジスティック回帰法で、Schooler-Kaine基準判定後に定義された遅発性ジスキネジアのリスク因子を分析した。 主な結果は以下のとおり。・登録された被験者は、DSN-4のさまざまな第1軸疾患患者265例(平均年齢14.4[SD:2.9]歳)であった。・観察期間1年において、DyskinesiaS(p<0.001)およびParkinsonS(p<0.001)の増加を認めた。・リスペリドンはクエチアピンに比べ、DyskinesiaSの増加と関連していた(p<0.001)。・クエチアピンと比べて、リスペリドン(p<0.001)、オランザピン(p=0.02)のParkinsonS増加が有意に高かった。・総UKU認識スコアは、観察期間中に低下した。・抗精神病薬未治療患者の解析においても、有意な結果が得られた。・観察期間中に15例(5.8%)がSchooler-Kane基準を満たす遅発性ジスキネジアDを呈した。・観察期間中の遅発性ジスキネジアと関連していたのは、低年齢、精神症状歴、高い累積曝露期間であった。関連医療ニュース 小児への抗精神病薬使用で推奨される血糖検査、その実施率は 非定型抗精神病薬、小児への適応外使用の現状 青年期統合失調症の早期寛解にアリピプラゾールは有用か?  担当者へのご意見箱はこちら

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パーキンソン病への免荷歩行リハビリ どれほど有効?

 パーキンソン病患者のリハビリテーションの1つとして、機械で足元にかかる重みを軽減した状態で流れるベルトの上を歩行する「部分免荷トレッドミル歩行訓練(PWSTT)」がある。PWSTTのパーキンソン病患者における有用性はこれまで検討されてきたが、運動を行わない場合や、従来の歩行訓練を行った場合と比較した検証はない。このことから、米国イリノイ大学のMohan Ganesan氏らは前向きに研究を行い、運動を行わない群、従来の歩行訓練を行った群と比較して、PWSTを行った群で歩行能力指標が有意に改善することを明らかにした。Archives of physical medicine and rehabilitation誌2015年9月号掲載の報告。 研究グループは、安定量のドパミン受容体作動薬を使用中の特発性パーキンソン病患者60例(平均年齢58歳[SD 15±8.7])を、「歩行訓練を行わない群」「従来の歩行訓練群」「PWSTT群」(各群n=20)の3群に無作為に割り付けた。歩行訓練はどちらも1日30分、週4日間、4週間実施した。主要アウトカムは臨床的重症度と歩行能力指標とした。臨床的重症度はパーキンソン病統一スケール(UPDRS)とそのサブスコアで測定した。歩行能力指標は歩く速度・左右のステップの長さとその変動係数であり、2分間のトレッドミル歩行と10m歩行テストより測定・算出された。アウトカムは、ベースライン時および2週、4週時に評価した。 主な結果は以下のとおり。・「従来の歩行訓練群」と「PWSTT群」では、4週間の歩行訓練により、UPDRS総スコアの有意な改善が見られた。(ベースライン時 vs.4週時 各々p=0.03、p<0.001)・「PWSTT群」は、ベースラインと比較して、4週時においてすべてのUPDRSサブスコア、すべての歩行能力指標で有意な改善を示した。・「PWSTT群」は、「従来の歩行訓練群」と比較して、4週時にすべての歩行能力指標を有意に改善した。 研究グループは、「PWSTTは、パーキンソン病患者における臨床および歩行能力のアウトカムを改善するための有望な介入ツールだ」と結論付けている。

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非精神科医のための、高齢者のうつの特徴と治療法(解説:岡村 毅 氏)-436

 本論文は、高齢者のうつ病治療において治療抵抗性の場合に、抗うつ薬に加えてアリピプラゾールを加える増強療法が、効果に優れ、忍容性も良好であることを示したものである。 明日からの臨床に役立つ、きわめて臨床的な論文だ。では、どう役に立つのかを精神科以外の方々にわかりやすく説明してみたい。 現在、わが国の高齢者は人口の25%を超え、今後40%にまで上昇する。高齢期は、喪失体験、体の病気、社会的役割の変化(多くは減少する)が一般に多くみられ、心理的苦悩は大きい。さらに、単身独居高齢者が増えている。苦悩を緩衝するのは家族や仲間やコミュニティであるが、そういった機会がない高齢者も多い。加えて、高齢期の経済格差は苛烈であり、経済苦を抱える方は多い。うつ病になりやすいのである(細かいことであるが本研究では60歳以上を高齢者としているが、ご承知のとおり、わが国では65歳以上を高齢者とする)。 調査によれば、わが国でうつ病の方がまず受診するのは、精神科・心療内科ではなく、多くの場合内科である。プライマリケアを担う皆さまの外来には、多くの高齢のうつ病の方が受診していることであろうし、今後も増え続けるであろう。 ここから先は、精神科特有のおしゃべりに聞こえるかもしれないが、「こころ」という見えないものを対象とし、また「ことば」で多くが表出される内的世界を、やはり「ことば」で捉えなければならないという精神科特有の事情をご理解いただきたい。さて、高齢期のうつ病はいくつか特徴があるとされてきた。 なかでも、高齢期の焦燥うつ病(agitated depression)はしばしば言及される概念である。うつ病とは元気がなくなり思考が制止した状態と思っている方もいるかもしれないが、焦燥感に苛まれながら多くのことばを語る患者さんもいる。彼らの思考は制止していない、ただ1ヵ所をぐるぐると巡っているだけである。これをうつ状態と躁状態の混合状態と考えた、いにしえの人々もいた。この考え方は、実はうつ病と思っている病態の多くに躁が隠れている(Bipolar spectrum)という、近年の考え方に合致するものであり、精神疾患の分類とは何かという根源的問題を提起する。 おしゃべりが過ぎたので臨床に戻ると、焦燥が非常に強い高齢者のうつは、治療に抵抗性であることが多く、まずは落ち着かねば基本中の基本である休養すら取れないため、抗うつ薬の次に(抗うつ薬内部のクラス変更や抗うつ薬併用ではなく)抗精神病薬による増強療法を選択することが多い。個人的には、SSRIなどで焦燥が賦活されて大変つらい思いをされていた高齢者の方を紹介され、抗精神病薬を少量導入したところ、劇的に改善したという経験は多い。ただし、抗精神病薬の有害事象(パーキンソン症状など)は高齢者には出現しやすいので、専門医でなければ使用を躊躇してしまうかもしれない。パーキンソン症状の少ないクエチアピンという手もあるが、代謝系の副作用が問題になる。 よって今回の報告は、このような方にアリピプラゾールを使うときのリスクベネフィットの評価において、非常に大きな臨床的意思決定の基盤をもたらしてくれた。明日からの臨床に役立つであろう。 さて、おしゃべりに戻ろう。本報告では焦燥うつ病という概念は出てこない。最近のうつ病一般の分類においては「軽症」、「中等・重症だが(妄想などの)精神病症状はない」、「中等・重症で精神病症状を伴う」とすることが支配的で、焦燥うつ病や躁うつ混合状態などは一般的でなく、エビデンスとする(社会に還元する)にはこの思考に乗らねばならない。しかし、実地臨床においては焦燥うつ病は使える概念であり、専門医以上の精神科医は皆知っている概念である。 説明は以上であるが、伝わったであろうか。精神科医はついおしゃべりが過ぎる傾向があるが、私のつたないコラムで、精神科の臨床が一方で最新のエビデンスに目を配りつつ、一方では現在支配的ではない思想も知識として知っていなければならず、また最終的には目の前の個人の固有のQOLを目指すものである、という感じでやっていますということが伝われば本望である。

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レビー小体病変を伴うアルツハイマー病、その特徴は

 遅発性アルツハイマー病(AD)では、しばしばレビー小体病変が認められる。韓国・仁済大学校医科大学のEun Joo Chung氏らは、レビー小体病変の存在がADの臨床表現型や症状進行に影響を及ぼすかどうかを検討する目的で、レトロスペクティブな病理学的コホート研究を行った。その結果、AD病変とレビー小体病変の両方を有する患者とAD病変のみの患者とでは臨床表現型が異なり、両者を識別できることが明らかとなった。著者らは、「ADにおけるレビー小体の頻度やレビー小体とAPOEε4アレルとの関係から、ADとレビー小体の病理学的なメカニズムは共通していることが示唆される」とまとめている。JAMA Neurology誌オンライン版2015年5月18日号の掲載報告。 研究グループは、米国・国立老化研究所とレーガン研究所による神経病理学的診断基準で、ADである可能性が高い(または中間)の基準を満たした531例の剖検例について、死亡前2年以内の臨床評価と剖検により得られた神経病理学的評価を解析した。主な結果は以下のとおり。・死亡年齢(平均[SD])は、レビー小体を伴うAD(LB併存AD)患者が、レビー小体を伴わないAD(非併存AD)患者より、統計学的に有意に低かった(77.9 [9.5]歳vs. 80.2 [11.1]歳、p=0.01)。・認知症発症年齢(平均[SD])も、LB併存AD患者が非併存AD患者より有意に低かった(70.0 [9.9]歳vs. 72.2 [12.3]歳、p=0.03)。・女性より男性のほうが、LB併存AD患者が多かった(p=0.01)。・1つ以上のAPOEε4アレル保有者の割合は、LB併存AD患者が非併存AD患者より有意に高かった(p=0.03)。・Neuropsychiatric Inventory Questionnaireスコア(平均[SD])は、年齢、性別、教育、老人斑/拡散斑の頻度、神経原線維変化ステージで補正後も、LB併存AD患者(6.59 [1.44]、95%信頼区間[CI]:3.75~9.42)が、非併存AD患者(5.49[1.39]、同:2.76~8.23)より有意に高かった(p=0.04)。・同様にパーキンソン病統一スケール(UPDRS)の運動スコアも、LB併存AD患者(0.81 [0.18]、95%CI:0.45~1.17)が、非併存AD患者(0.54 [0.18]、同:0.19~0.88)より有意に高かった(p<0.001)。関連医療ニュース 認知症、アルツハイマー型とレビー小体型の見分け方:金沢大学 レビー小体型認知症、パーキンソン診断に有用な方法は せん妄はレビー小体型認知症のサイン

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パーキンソン病はスマホで検出可能

 パーキンソン病は専門医による診断が不可欠であるが、これまで専門医の診断をサポートする遠隔非侵襲的客観テストはほとんどなかった。そこで英国・アストン大学のS Arora氏らは、スマートフォンを用いたパーキンソン病診断の有用性についてパイロットスタディを行った。その結果、スマートフォンを用いてパーキンソン病の症状を評価することは可能であり、診断サポートツールとして潜在的な価値があることがわかった。Parkinsonism & Related Disorders誌オンライン版2015年3月7日号の掲載報告。 本試験の対象者は、パーキンソン病患者10例と対照群10例。被験者は統一パーキンソン病評価尺度(UPDRS)を含めたベースライン評価をクリニックで行い、声・姿勢・歩行・指タッピング・反応時間を測定するためのスマートフォンアプリが入ったアンドロイド携帯を支給された。 被験者はスマートフォンを自宅に持ち帰り、1日4回5つのタスクを1ヵ月間実施した。試験期間中、週に1回パーキンソン病の専門医による遠隔医療が行われ、固縮とバランス評価を除いたUPDRSが評価された。5つのタスクの記録について統計的分析を行い、1)パーキンソン病の有無が判別可能か、2)UPDRSの運動領域の変化を予測できるか、を検討した。 主な結果は以下のとおり。・20例の参加者は試験期間中(平均34.4日)、自宅や地域で1日平均2.7回テストを行った(遵守率68.9%)。・5つのタスクの解析結果は、パーキンソン病患者と対照群とで異なっていた。・パーキンソン病の検出感度は96.2%(標準偏差[SD]:2%)、特異度は96.9%(SD:1.9%)であった。・UPDRS(範囲:11~34)の運動領域の変化予測における平均誤差は1.26(SD:0.16)であった。

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山中伸弥氏が語るiPS細胞研究の発展と課題

 2015年3月19日、日本再生医療学会にて、京都大学 iPS細胞研究所(Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University、以下CiRA)の山中 伸弥氏が「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」と題して講演した。進むiPS細胞再生医療 理化学研究所などのiPS細胞を使った加齢黄斑変性患者を対象とした臨床研究が承認され、iPS細胞研究の医療応用に向けて大きな一歩を踏み出した。CiRAでもいくつもの研究が進んでいる。パーキンソン病:ドパミン産生神経細胞の高純度の作製に成功し、現在サルのパーキンソン病モデルを用いて効果と安全性を検証中である。良好な結果であることから、年内に臨床研究の申請へと進める予定である。iPS細胞による輸血:血小板の元である巨核球、赤血球前駆細胞作製に成功。とくに血小板は大量培養のシステムを確立している。早い段階で臨床研究に入ると予想される。血小板も赤血球も放射線を当てることができ、増殖性の残っている細胞はすべて殺せるため安全性を確保できるという。本邦は急速な高齢化により今後10年以内に献血だけでは輸血が補えなくなると予想される。このように献血を補うアプローチは喫緊の課題だ。糖尿病:2次元カルチャーと3次元カルチャーでアプローチしている。2次元カルチャーでは、すでにiPS細胞からインスリン産生細胞の作製に成功している。マウスへの移植で血中のヒトC-ペプチドが増加することも確認されている。将来糖尿病の再生医療を実現。また3次元カルチャーでは、iPS細胞から膵臓を丸ごとつくることを目指す。現在、膵臓のオルガノイド作製に成功しており、今後の発展に期待がかかる。心筋再生治療:大阪大学では、すでに骨格筋芽細胞シートで重症心不全に対する良好な成績をあげているが、iPS細胞由来の心筋細胞シートについても大阪大学との共同研究で、作製に成功。動物での改善が示されている。さらに、心筋細胞シートに加え、心筋、内皮細胞、血管壁細胞で構成された心臓細胞シートの作製に成功。こちらも動物モデルで有意な心機能の改善が確認されている。心臓移植の待機中に亡くなる方も少なくない。そのような患者の延命につながると期待される。関節疾患:関節軟部疾患に対する再生医療アプローチを行っており、ヒトiPS細胞からの軟骨細胞作製に成功している。iPS細胞由来の軟骨細胞の移植により外傷等比較的欠損が小さい症例への治療に期待がかかる。筋ジストロフィー:筋ジストロフィー患者由来のiPS細胞から骨格筋幹細胞を作製し、この細胞を筋ジストロフィーモデルの免疫不全マウスへ移植することで病態の再現に成功。今後臨床応用を目指す。iPS細胞によるがん免疫の若返り:T細胞などの免疫細胞はがん細胞を攻撃するが、加齢に伴い免疫細胞は疲弊し、がん細胞の増殖転移が進む。そこで、がん細胞を攻撃する特定のT細胞を採取し、その細胞からiPS細胞を誘導・増殖させ、攻撃特性を持ったT細胞を再び作製することに成功している。がんに対する将来の治療として期待される。再生医療用iPS細胞ストック 倫理問題、費用、時間など多くの面で自家移植には限界がある。iPS細胞による再生医療を実現するためには、他家移植が主流となる。CiRAではiPS細胞をストックする計画を進めている。京大病院のiPS外来では患者の診察とともにiPS細胞ドナー候補ボランティアから献血を行っている。採取した血液はCiRA内のCPCに持ち込まれ、iPS細胞の樹立を行っている。  しかしながら、拒絶反応を減らすためにはHLAの一致が必要。HLAは膨大なバリエーションがあり、一致する確率はきわめて低い。効率よく一致させるためには、HLAホモドナーからの細胞作製が必須だ。日本人で最頻度のHLAタイプのホモドナー1人からiPS細胞をつくると、日本人の20%をカバーできる。違うホモで作製すると80%、140人で95%がカバーできる。最初の目標は日本人の50%のカバーだという。とはいえ、数十人のホモドナーを見つけるには数十万人を調べる必要がある。そのため、臍帯血バンク、日本赤十字社、骨髄バンクといったHLAの情報を管理している外部との連携を進めている。医療応用に必要な人材の確保 iPS細胞の研究には研究者だけでなく、優秀な技術員、規制専門家、契約専門家、知財専門家、広報専門家、事務職員など多くの人材が必要である。一方、国立大学の定員ポストは研究員のみである。実際のCiRAでは300人以上が雇用されているが、無期雇用は1割で、残りの9割は有期雇用である。これは国立大学の研究機関に共通する課題であり、安定雇用に活用できる運営費交付金の割合を増やすよう要望している。 とはいえ、米国では州からの援助は予算の5%。残りの95%はトップがさまざまなスポンサーから集め、安定的な雇用を確保している。そのため、CiRAもiPS細胞基金を立ち上げ、山中氏自ら活動し、研究者の長期雇用、研究環境改善、若手研究者教育に資金を募っているという。iPS細胞研究基金HP

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