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帝王切開術後のMRSA感染症で重度後遺障害が残存したケース

産科・婦人科最終判決平成15年10月7日 東京地方裁判所 判決概要妊娠26週、双胎および頸管無力症、高位破水と診断されて大学病院産婦人科へ入院となった25歳女性。感染兆候がみられたため抗菌薬の投与下に、妊娠28週で帝王切開施行。術後39℃以上の発熱があり抗菌薬を変更したが、術後5日目に容態が急変し、集中治療室へ搬送し気管内挿管を行った。羊水の培養検査でMRSA(+)のためアルベカシン(商品名:ハベカシン)を開始したものの、術後6日目に心肺停止、MRSA感染症による多臓器不全と診断された。バンコマイシン®投与を含む集中治療によって全身状態は改善したが、低酸素脳症から寝たきり状態となった。詳細な経過患者情報25歳女性、2回目の妊娠、某大学病院産婦人科に通院経過平成8年6月19日妊娠26週検診で双胎および頸管無力症と診断され同日入院となる。高位破水、子宮収縮がみられ、CRP上昇、白血球増加などの所見から子宮内細菌感染を疑う。6月20日羊水移行性の高い抗菌薬セフォタキシム(同:セフォタックス)を開始。6月28日頸管無力症で子宮口が開大したため、シロッカー頸管縫縮術施行。6月30日感染徴候の悪化を認め、原因菌を同定しないままセフォタックス®をイミペネム・シラスタチン(同:チエナム)に変更(帝王切開が行われた7月12日まで)。7月1日子宮口からカテーテルを挿入して羊水を採取し細菌培養検査を行うが、このときはMRSA(-)。7月10日体温36.5℃、脈拍84回/分、白血球12,300、CRP 0.3以下膣内に貯留していた羊水を含む分泌物を細菌培養検査へ提出。7月11日(木)脈拍102回/分、CRP 0.9。7月12日(金)緊急帝王切開手術施行。検査室では7月10日に提出した検体の細菌分離、純培養を終了。白血球10,800、脈拍96回/分、CRP 0.7、体温37.3~38.3℃。術後にチエナム®からアスポキシシリン(同:ドイル)に変更(7月12日~7月15日まで)。第3世代セフェム系抗菌薬であるセフォタックス®やチエナム®などかなり強い抗菌薬の使用をやめて、ドイル®を使用し感染状態の変化を見きわめることを目的とした。7月13日(土)病院休診日(検査室は当直体制)。脈拍80回/分、体温36.5~37.6℃、顔面紅潮あり。7月14日(日)検査室では菌の同定・感受性検査施行。前日には部分的であった発疹が全身へ拡大、白血球20,600、CRP 24.1へと急上昇。BUN 24.8mg/dL、Cr 1.3mg/dLと腎機能の軽度低下。発疹および発熱は抗菌薬によるアレルギーを疑い、ドイル®を中止してホスホマイシン(同:ホスミシン)、チエナム®、セフジニル(同:セフゾン)に変更。血液培養では陰性。このときは普通に話ができる状態であった。7月15日(月)検査室では夕刻の段階でMRSAを確認し感受性テストも終了。白血球24,000、CRP 24、血小板73,000、DICを疑いガベキサートメシル(同:エフオーワイ)投与開始。夜の段階で羊水の細菌培養検査結果が病棟に届くが、担当医には知らされなかった。7月17日(水)白血球34,600、CRP 30.4、血圧80/40mmHg、体温37.7~37.9℃、朝から換気不全、意識レベルの低下などがみられARDSと診断し、気管内挿管などを行いつつICUに入室。この直前に羊水細菌培養検査でMRSA(+)を知り、ARDSはMRSAによる感染症(敗血症)に伴うものと考え、パニペネム・ベタミプロン(同:カルベニン)、免疫グロブリン、MRSAに対しハベカシン®を投与。AST、ALT、LDH、アミラーゼ、BUN、Crなどの上昇が認められMOFと診断。7月18日03:00突然心停止となり、ただちに心肺蘇生を開始して心拍は再開した。ところが低酸素脳症による昏睡状態へと陥る。白血球31,700、CRP 1509:30ハベカシン®に代えてバンコマイシン®の投与を開始。8月5日腹部CTでダグラス窩に膿瘍形成。8月6日切開排膿ドレナージを施行。その後感染症状は軽快。8月23日MRSAは完全に消滅。平成9年1月18日症状固定:言葉を発することはなく、意思の疎通はできず、排便・排尿はオムツ管理で、常時要介護の状態となる。当事者の主張患者側(原告)の主張7月14日に39℃に近い高熱と悪寒、脈拍も86回/分、全身に細菌感染徴候がみられたので、遅くとも7月15日(月)には羊水の細菌培養検査を問い合わせるか、急がせる義務があり、遅くとも7月16日(火)正午までには感受性判定の結果が得られ、その段階から抗MRSA薬バンコマイシン®を早期に適量投与することができたはずである。ところがバンコマイシン®の投与を開始したのは7月18日午前9:30と2日も遅れた。もっとも早くて7月14日、遅くて7月16日夕刻までにMRSA感染症治療としてバンコマイシン®の投与を開始していれば、7月18日の心停止を回避できた可能性は十二分にある。病院側(被告)の主張出産の2週間前から破水した長期破水例のため、感染症のことは当然念頭にあり、毎日CRP、白血球数を検査し、帝王切開手術後も引き続き感染症を念頭において対応していた。しかし、急激に容態が悪くなったのは7月16日の夜からである。患者側は7月10日に採取した羊水の細菌培養検査結果の報告を急がせるべきであったと主張するが、7月16日午後6:30の呼吸苦出現までは感染症はそれほど重症ではなく、検査結果を急がせるような状況にはない。細菌培養の検体提出後、菌の同定、感受性の試験まで行うには5日間は要するが、本件では7月13日、7月14日と土日の当直体制であったため、結果的に報告まで7日かかったことはやむを得ない。担当医は7月16日夜に病棟に届いていた羊水の細菌培養検査結果MRSA(+)を、翌7月17日朝に知ったが、その時点でうっ血性心不全、意識低下と病態急変し、ICU(集中治療室)への収容、気管内挿管、人工換気などに忙殺された。そして、同日午後5:00に抗MRSA薬ハベカシン®を投与し、さらに翌18日からはバンコマイシン®を投与した。したがって、MRSAに対する薬剤投与が遅れたということはない。MRSAを知ってからハベカシン®を投与するまでの約6時間は緊迫した全身状態への対応に追われていた。仮に羊水培養検査結果の報告が届いた7月16日夜にハベカシン®またはバンコマイシン®を投与したとしても、すでにDIC、ARDSがみられ、MOFが進行している病態の下で、薬効の発現に2日ないし4日を要するとされていることを考えると、その後の病態を改善できたかは不明で心停止を回避することはできなかった。裁判所の判断被告病院における細菌培養の検査体制について羊水を分離培養するために要した時間は48時間。自動細菌検査システムVITEK® SYSTEMによれば、MRSA(グラム陽性菌=GpC)の同定に要する時間は4~18時間、感受性試験に要する時間は3~10時間、検査の結果が判明するのに通常要する期間は5日程度であった。被告病院では検査結果が判明したら、検査伝票が検査部にある各科のボックスに入れられ、各科の看護補助員が随時回収し、各科の病棟事務員に渡し、病棟事務員から各担当医師に渡されるという方法がとられている。院内感染対策委員会において策定したMRSA院内感染予防対策マニュアルによれば、MRSA陽性の患者が発生した場合、検査部は主治医へ連絡する、主治医および婦長は関係する職員に情報を伝達するものとされていた。ARDS、DIC、MOFに陥った原因、時期について7月14日(日)には39.8℃、翌7月15日(月)にも39℃の発熱、脈拍数120回/分とSIRSの基準4項目のうち2項目以上を満たし、白血球20,600、CRP 24.1などの所見から、7月15日午前9:00の段階でSIRS、セプシス(敗血症)の状態にあった。原因菌として、7月10日に採取した羊水の細菌培養検査、7月12日の帝王切開手術当日に採取された咽頭、便、胎脂からもMRSAが検出されていること、入院後から帝王切開手術までの間、スペクトラムが広く、抗菌力の強い抗菌薬チエナム®やセフォタックス®が継続使用され、菌交代現象が生じる可能性があったこと、抗菌薬ドイル®、チエナム®が無効であったことなどから、セプシスの原因菌はMRSAである。MRSA感染症治療としてバンコマイシン®をどの時点で投与する義務があったか細菌培養に提出された羊水の検体は、7月10日(水)に採取され、7月12日(金)の午後には分離培養は完了、7月15日(月)に細菌同定、感受性検査を開始、7月16日夕刻にはその結果を報告し合計7日間を要した。細菌検査の結果が判明するのに通常の5日ではなく7日も要したのは、被告病院において土曜・日曜が休診日であったという、人の生命・身体に関する医療とはまったく次元を異にする偶然的な事情によるものであった。一方術後患者は、ショック症状やMOFを経て死亡する場合もあり、早期治療を開始すればするほど治療効果は高くなり、通常の黄色ブドウ球菌感染の治療中に抗菌薬が効かなくなってきた場合は、MRSAと診断される前でも有効な抗菌薬に変更する必要がある。被告病院は高度医療の推進を標榜し、これを期待される医科系総合大学の附属病院であり、病院としてMRSA感染症対策を行っていた。仮に菌の同定を7月13日の作業開始時間である午前9:00から開始したとしても、遅くとも、細菌の同定その後の感受性の判定結果を、その28時間後の7月14日(日)午後1:00には培養検査結果を終了させておく義務があった。その結果、各科の看護補助員が出勤しているはずの7月15日(月)午前9:00頃には細菌培養検査結果の伝票を看護補助員が回収し各科の病棟事務員に渡され、担当医は遅くとも7月15日(月)午前中にはMRSA感染症を知り得たはずである。そして、MRSA感染症治療として被告病院が投与すべきであった抗菌薬は、各種感受性検査からバンコマイシン®であったので、遅くとも7月15日午後7:00頃にはバンコマイシン®を投与する義務があった。ところが、被告病院が実際にバンコマイシン®を投与したのは7月18日午前9:30であり大幅に遅れた。重症敗血症の時点でバンコマイシン®を投与した場合と敗血症性ショックを生じた後にバンコマイシン®を投与した場合について比較すると、重症敗血症の場合の死亡率は約10~20%にとどまるのに対し、敗血症性ショックの場合のそれは約46~60%と、その死亡率は高い。7月15日午後7:00頃の時点では、MRSAを原因菌とするセプシスあるいはそれに引き続いて敗血症に陥っているにとどまっている段階であり、まだ敗血症性ショックには至っていなかったので、遅くとも7月15日午後7:00頃バンコマイシン®を投与していれば、ARDSやDICを発症し、MOF状態となり、心停止により低酸素脳症に陥るという結果を回避することができた高度の蓋然性が認められる。原告側1億5,752万円(プラス死亡するまで1日介護料17,000円)の請求に対し、1億389万円(プラス死亡するまで1日介護料15,000円)の判決考察この判決は、われわれ医師にとってはきわめて不条理な内容であり、まさに唖然とする思いです。病態の進行が急激で治療が後手後手とはなりましたが、あとから振り返っても診療上の明らかな過失はみいだせないと思います。にもかかわらず、結果が悪かったというだけで、すべての責任を医師に押しつけたこの裁判官は、まるで時代のヒーローとでも思っているのでしょうか。この患者さんは出産の2週間前から破水した長期破水例であり、当然のことながら担当医師は感染症に対して慎重に対応し、初期から強力な抗菌薬を使用しました。にもかかわらず敗血症性ショックとなり、低酸素脳症から寝たきり状態となってしまったのは、大変残念ではあります。しかし、経過中にきちんと血液検査、細菌培養を行い、はっきりとした細菌は同定されなかったものの、さまざまな抗菌薬を投与するなど、その都度、そのときに考えられる最良の対応を行っていたことがわかります。けっして怠慢であったとか、大事な所見を見落としていたわけではありません。もう一度振り返ると、平成8年6月19日妊娠26週、高位破水。6月20日セフォタックス®開始。6月30日セフォタックス®をチエナム®に変更。7月1日羊水培養、MRSA(-)7月10日羊水培養提出。7月12日緊急帝王切開、チエナム®をドイル®に変更。7月13日休診日(検査室は当直体制)。7月14日休診日(検査室は当直体制)。 裁判所は検体提出の5日後、日曜日の13:00には感受性検査が終了できたであろうと認定。7月15日検査室で菌の同定・感受性検査施行。 抗菌薬のアレルギーを考えてドイル®を中止、ホスミシン®、チエナム®、セフゾン®に変更。 裁判所は7月15日の朝にはMRSA(+)がわかりバンコマイシン®投与可能と認定。7月16日夜にMRSA(+)の結果が病棟に届く。7月17日容態急変で集中治療室へ。羊水細菌培養検査でMRSA(+)を知り夕方からハベカシン®開始。7月18日ハベカシン®に代えてバンコマイシン®の投与を開始。われわれ医療従事者であれば、細菌培養にはある程度時間がかかることを知っていますから、結果が出次第、担当医師に連絡するように依頼はしても、培養の作業時間を短縮させたり、土日まで担当者を呼び出して感受性検査を急ぐことなどしないと思います。ましてや、土日の当直検査技師は緊急を要する血液検査、尿検査、髄液検査、輸血のクロスマッチなどに追われ、しかもすべての検査技師が培養検査に習熟しているわけでもありません。ここに裁判官の大きな誤解があり、培養検査というのを細菌感染症に対する万能かつ唯一無二の手段と考えて、土日であろうとも培養結果を出すため対応すべきものと勝手に思いこみ、「細菌検査の結果が判明するのに通常の5日ではなく7日も要したのは、被告病院において土曜・日曜が休診日であったという、人の生命・身体に関する医療とはまったく次元を異にする偶然的な事情によるものでけしからん」という判決文を書きました。たしかに、培養検査は治療上きわめて重要であるのはいうまでもありませんが、抗菌薬使用下では細菌が生えてこないことも多く、原因菌不明のまま抗菌薬を投与することもしばしばあります。ここで裁判官はさらに無謀なことを判決文に書いています。「術後患者は、ショック症状やMOFを経て死亡する場合もあり、早期治療を開始すればするほど治療効果は高くなり、通常の黄色ブドウ球菌感染の治療中に抗菌薬が効かなくなってきた場合は、MRSAと診断される前でも有効な抗菌薬に変更する必要がある!」と明言しています。この意味するところは、通常の抗菌薬を使っても発熱が続く患者には予防的にMRSAに効く抗菌薬を使え、ということでしょうか?今回の症例はMRSAが判明するまでは、細菌感染が疑われるものの発熱原因が特定されない、いわば「不明熱」であって、けっして「通常の黄色ブドウ球菌感染の治療中」ではありませんでした。そのため担当医師は抗菌薬(ドイル®)によるアレルギーも考えて抗菌薬を別のものに変更しています。このような不明熱のケースに、予防的にバンコマイシン®を投与しなければならないというのは、結果を知ったあとだからこそいえる行き過ぎの考え方だと思います。ところが「公平な判断を下す」はずの裁判官たちは、ほかにも多数の裁判事例を抱えて多忙らしく、誤解や勉強不足による間違った判決文を書いても、あとから非難を受ける立場には置かれません。そのため、結果責任は医師に押しつければよいという、「一歩踏み込んだ判断」を自負する傾向が非常に強くなっていると思います。残念ながら、このような由々しき風潮を改善するのは非常に難しく、われわれにできることは自己防衛的な対策を講じることくらいでしょう。今回のように、土日をはさんだ細菌培養検査にはどうしても結果が出るまでに時間がかかります。この点はやむを得ないのですが、被告病院の感染症対策マニュアルにも書いてあるとおり、「MRSA(+)の患者が発生した場合、検査部は主治医へ連絡する、主治医および婦長は関係する職員に情報を伝達する」という原則を常に遵守することが大事だと思います。本件では、7月16日夕刻の段階でMRSA(+)が判明しましたが、検査部から担当医師へダイレクトな連絡はありませんでした。通常のルートに乗って、7月16日夜には検査結果を記した伝票が病棟まで届きましたが、その結果を担当医師が確認したのは翌朝11:00頃であり、12時間以上のロスがあったことになります。このような院内体制については改善の余地がありますので、スタッフ同士の院内コミュニケーションを十分にはかることがいかに重要であるか、改めて痛感させられるケースです。産科・婦人科

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ICUの耐性菌感染率、手袋とガウン常用を義務づけても低下せず/JAMA

 ICUにおいて、患者と接する際には常に手袋とガウンを着用することを義務づけても、処置や手術時に着用する通常ケアの場合と比べて、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の感染率について有意な差は認められなかったことが、米国・メリーランド大学のAnthony D. Harris氏らによる無作為化試験の結果、報告された。これまでICUでのユニバーサルな対応が耐性菌の感染を抑制するかどうかは不明であったという。JAMA誌2013年10月16日号掲載の報告より。通常ケアとユニバーサルな着用義務づけ介入とを多施設で比較検討 試験は、ICUにおいて、全患者に対して手袋とガウンの着用を義務づける介入が、通常ケアと比較してMRSAやVREの感染を抑制するかを評価することを目的とした。2012年1月4日~2012年10月4日の間、全米20病院のICUにて行われたクラスター無作為化試験であった。 介入群では、医療従事者は全員、ICUに入室する際に、接触する患者を問わず手袋とガウンを着用することが要求された。 主要アウトカムは、MRSAまたはVREの感染率で、入院時およびICU退出時のサーベイランス培養に基づいて評価した。副次アウトカムとして、VRE、MRSAそれぞれの感染率、医療従事者が入室した回数、手指消毒コンプライアンス、医療従事者が関連した感染、有害イベントなども評価した。MRSA感染率単独では減少みられたが、限定的な結果とみるべき 試験期間中の患者2万6,180例から、主要アウトカムの解析に9万2,241件のスワブが集まった。 介入群の感染率は、ベースライン時1,000患者・日当たり21.35(95%信頼区間[CI]:17.57~25.94)から、試験期間中は同16.91(同:14.09~20.28)に低下していた。一方、対照群も、同19.02(同:14.20~25.49)から16.29(同13.48~19.68)に低下しており、両群に統計的な有意差は認められなかった(1,000患者・日当たりの感染格差:-1.71、95%CI:-6.15~2.73、p=0.57)。 また、副次アウトカムでは、VRE感染率は差がみられなかったが(格差:0.89、95%CI:-4.27~6.04、p=0.70)、MRSA感染率はわずかに減少がみられたが有意差はなかった(同:-2.98、-5.58~-0.38、p=0.46)。 介入群では、医療従事者の入室回数が有意に減り(1時間につき4.28回vs.5.24回、格差:-0.96、95%CI:-1.71~-0.21、p=0.02)、入退室時の手指消毒コンプライアンス率が上昇した(78.3%vs.62.9%、格差:15.4%、95%CI:8.99~21.8、p=0.02)。しかし、有害イベントへの統計的に有意な効果はみられなかった(有害イベント発生率は1,000患者・日当たり58.7件vs. 74.4件、格差:-15.7、95%CI:-40.7~9.2、p=0.24)。 著者は、「ICUにおいて手袋とガウンの常用が通常ケアと比べて、主要アウトカムのMRSAまたはVRE感染率の差には結びつかなかった。MRSA単独では感染率の低下がみられたが、有害イベント発生率には差はみられず、これらの結果は限定的なものであり、さらなる検証が求められる」と結論している。

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Dr.岩田の感染症アップグレードBEYOND

第5回「尿路感染を舐めていないか?」第6回「解剖学(アナトミー)で考えるSSTI、骨・関節の感染症」第7回「スピードで勝負する髄膜炎」第8回「実は難しくない院内感染症」第9回「僕たちはそこで何ができるのか?被災地での感染症対策」 第5回「尿路感染を舐めていないか?」尿路感染は「難しくない」と思っている先生方はとても多いのですが、実はそこに落とし穴があります。尿路感染だと思って治療していたら実は○○だった…、という例には枚挙にいとまがありません。特にベテランの先生ほど、このピットフォールには陥りがちなのです。また、尿路感染=ニューキノロンという考え方も誤りです。実際、岩田先生のプラクティスで尿路感染にニューキノロンが使われることはほとんどありません。では、どうしたらいいのでしょうか?この回を見てしっかり学んでください。第6回「解剖学(アナトミー)で考えるSSTI、骨・関節の感染症」日常診療でもしばしば遭遇する、皮膚や軟部組織の感染症SSTI(Skin and Soft Tissue Infection)、骨、関節の感染症。実は、内科系のドクターはこれらが苦手な方が多いといいます。それは、感染した部位を外科的な視点で解剖学的に見ることが必要だから。単に、「腕」「足」の関節ではなく、その詳しい場所と、組織を特定しなければいけません。また、SSTIによく使われる第三世代セファロスポリンは明らかな誤用です。診断と治療の正しいアプローチを詳しく解説します。第7回「スピードで勝負する髄膜炎」頻度は高くないが、細菌性であれば命に関わる髄膜炎。全ての医師が少なくとも診断のプロセスを理解しておきたい疾患です。スクリーニング、腰椎穿刺、CT、抗菌薬の選択・投与、ステロイド使用の流れを覚えましょう。原因微生物も典型的なものだけでなく例外的な微生物に注意を払う必要があります。スピードを要求される対応のノウハウを身に付けましょう。第8回「実は難しくない院内感染症」入院中の患者さんが熱発した!担当医にとってこれほど気分の悪いことはありません。分からない原因、悩む抗菌薬の選択、耐性菌の不安。しかし岩田先生は、「外来の発熱患者さんに比べれば何百倍も簡単」と一刀両断。なぜなら、実は、感染症以外の鑑別を含めても、考えられる原因は数えるほどしかなく、それらを「ひとつずつ丁寧に精査していけば良い」だけのことだからです。院内感染症に使われる、カルバペネム、バンコマイシン、ピペラシリンといった広域抗菌薬についての誤用、誤解も明快に解説します。耐性菌に対する考え方もしっかり身に付けましょう。第9回「僕たちはそこで何ができるのか?被災地での感染症対策」2011年3月11日以来、岩田先生の医療に対する考え方は大きく変わったといいます。未曾有の大災害に対し、医師一人がいかに無力であるかを思い知り、しかし、それでもなお、何か出来ることがあるはずと、模索する日々。今回は、被災地での岩田先生自らの経験を踏まえて、避難所での感染症対策を解説します。非常時に感染症医として、医師として何が出来るか。それは、決して災害が起ってからだけの問題ではなく、常日頃のあなたの診療においても、考え、実践すべきことなのです。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(61)〕 他人の糞便注入によるクロストリジウム・ディフィシル腸炎の治療に、明白な有効性を証明!

 近年、抗菌薬投与に伴うクロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)腸炎が欧米で流行し、binary toxin産生やニューキノロン耐性株による、重篤例・再燃例の増加が注目されている。本邦では、このような強毒株の流行はみられないものの、C.ディフィシル腸炎自体は広くみられており、院内感染対策上の重要な課題と捉えられている。 本症は、投与された抗菌薬により腸管内の正常細菌叢が抑制され、毒素産生性のC.ディフィシルが異常増殖して発症するものであり、重症例では偽膜性大腸炎の形をとる。C.ディフィシルは、遺伝子レベルで少数存在する例を含めれば、過半数の人の腸管に常在するが、病院や高齢者施設では、芽胞汚染による院内感染の事例も知られている。本症の治療には、C.ディフィシルに抗菌力を示すバンコマイシンやメトロニダゾールを投与すれば良いのだが、これらは栄養型には抗菌力を示すが、芽胞化して生き残るため、バンコマイシン治療を終えると芽胞から出芽し、再燃してくる。また、乾燥や消毒剤にも抵抗性の芽胞が病院を汚染し、二次感染を引き起こす事例も知られている。 C.ディフィシルは、正常な菌叢においては、乳酸菌やバクテロイデス、ユウバクテリウムなどの優勢菌に競りまけて、辛うじて細々と生きている。バンコマイシンを含め、抗菌薬を投与すると、これらの優勢菌種は大幅に減少し、C.ディフィシルなどの耐性化しやすい菌種が異常増殖するのである。すなわち、常在菌を復活させてC.ディフィシルを相対的に少数勢力に追い込むことが、永続的治癒には必要である。これまで、種々のプロバイオティクスが、常在菌の正常化、C.ディフィシル腸炎の再燃予防に試みられてきたが、必ずしもエビデンスのある結果は得られていない。 他人の常在菌を移植することが、最も手っ取り早く常在菌を復活させ、腸炎の治癒に導けるはずだと多くの専門家は予想してきた。しかし、他人の糞便を注腸することには患者さん自身に相当な心理的抵抗があり、また、移植による別の病原体による感染も危惧され、実際に行うことはかなり困難であった。1958年以来、85症例が散発的に報告され、75~85%の有効性が報告されてきているが、比較試験でのまとまった成績は報告されていなかった。 今回報告された論文は、2008~2010年にアムステルダムのAcademic Medical Centerが計画し、ドナーグループと移植細菌叢液を準備し、オランダ国内の病院に呼びかけて行った“open label randomized trial comparing donor feces infusion to 14days of vancomycin treatment for recurrent C.difficile infection”の報告である。 本試験では患者を以下の3 群に割り付けた。(1)バンコマイシン(500mg 1日4回、4日間)に続き、4Lのマクロゴールで腸洗浄後、糞便菌叢移植(2)14日間のバンコマイシン治療(3)14日間のバンコマイシン治療後、腸洗浄 除外規定(原疾患による予後3ヵ月以内、重症例など)に当てはまらない、承諾の得られた患者を、コンピューターで患者背景に偏りがないようにrandomに割り付けている。オランダの周到な実験計画による研究の報告である。すなわち、多くの感染因子の陰性を確認したドナーグループを編成し、ドナーの糞便採取直後に糞便溶液(多数の生きた嫌気性菌菌液)をセンターで調整し、6時間以内に該当病院に輸送して、十二指腸内に管で注入する方法である。C.ディフィシル腸炎の再燃であることが立証された例にバンコマイシンによる栄養型の除菌を行ったうえで、移植を行っている。比較対照群として、バンコマイシン投与のみの症例、バンコマイシン投与後腸洗浄例を用意しているが、効果に有意差が出るためには、各群最小40例必要と見なし、計140症例について試験が計画された。エンドポイントは再燃の有無であり、腸内フローラの経時的定量培養、血液検査も計画されている。 これだけの周到な準備のうえ、比較試験は開始されたが、各群十数例の検討を行い、糞便移植群で93.8%、対照群で23.1~30.8%という歴然とした有効率の差が観察された時点で、コントロール群に対する倫理性が問題とされ、比較試験は42/120例行ったところで中止された。また、コントロール群の希望者には糞便移植を行い、良好な成績を得ている。副反応としては、投与初日の下痢が目立つだけで、重篤なものはなかった。また、糞便菌叢の検討により、ドナーと同様な菌叢の定着が確認されている。 有効性が証明できず、非劣性を証明することにきゅうきゅうとしてきた中で、夢のような話である。プロトコール、付随資料も公表されており、試験の全容がよく理解できる重要な論文である。■「糞便移植」関連記事糞便移植は潰瘍性大腸炎の新たな治療となるか/Lancet

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クロストリジウム・ディフィシル感染症再発に健康なドナー便の注入が有効/NEJM

 クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)感染症再発後の治療について、ドナー便の十二指腸注入が、バンコマイシン治療よりも有意に効果が高いことが示された。オランダ・アムステルダム大学のEls van Nood氏らが、C.ディフィシル感染症の再発患者について行った無作為化試験の結果で、初回便注入による下痢症状消失の割合は8割以上であったという。C.ディフィシル感染症再発の治療は困難で、抗菌薬治療の失敗率が高い。NEJM誌2013年1月31日号(オンライン版2013年1月16日号)掲載報告より。ドナー便注入群、抗菌薬単独治療群、抗菌薬治療+腸洗浄群の3群を比較 研究グループは、抗菌薬治療完了後にC.ディフィシル感染症の再発が認められた43人を無作為に、(1)バンコマイシンの短期投与(500mg経口投与、1日4回、4日間)に続き、腸洗浄の後、健康なドナー便を経鼻十二指腸管注入する群(17人)、(2)標準的バンコマイシン投与群(13人、500mg経口投与、1日4回、14日間)、(3)標準的バンコマイシン投与と腸洗浄を行う群(13人)に割り付け検討した。 主要エンドポイントは、10週間後の下痢症状の消失(C.ディフィシル感染症の再発が認められない)とした。16人中13人が、ドナー便初回注入後に下痢症状消失 試験を終了したのは、41人だった。 便注入群16人のうち13人(81%)で、初回注入後にC.ディフィシル感染症関連の下痢症状が消失した。同群残り3人のうち2人は、2回目の便注入(別のドナー便)後に同症状が消失した。 バンコマイシン投与群では単独投与群13人のうち4人(31%)と、バンコマイシン+腸洗浄群13人中3人(23%)だった(いずれも便注入群との比較でp<0.001)。 有害事象発生率については、ドナー便注入群で注入を行った当日に、軽度下痢症状と腹部痙攣が認められたが、その他についてはいずれの群とも同程度だった。 ドナー便注入群の注入後の便は、細菌が多様となり、健康なドナーと同程度となっていた。クテロイデス種とクロストリジウムクラスターIV、XIVaが増加し、プロテオバクテリア種が減少していた。

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クロストリジウム・ディフィシル感染症治療薬「フィダキソマイシン」 アステラスが日本で独占的開発・販売へ

アステラス製薬は30日、米国のバイオ医薬品会社オプティマー社(英名:Optimer Pharmaceuticals, Inc.)と、同社のクロストリジウム・ディフィシル感染症治療薬である「Fidaxomicin(フィダキソマイシン)」について、日本における独占的開発・販売契約を2012年3月29日(米国時間)に締結したと発表した。「フィダキソマイシン」はオプティマー社が開発した新規の作用機序と選択的な抗菌スペクトルを有する経口の大環状抗菌剤で、同社の欧州子会社であるアステラス ファーマ ヨーロッパ Ltd.が、2011年2月に欧州、中東、アフリカ、独立国家共同体(CIS)の地域における本剤の独占販売権を、オプティマー社より取得している。欧州においては、「DIFICLIR」という製品名で販売の準備段階にあるという。また、日本国内においては同剤の開発は行われていないが、今後、同社が開発を進めていくとのこと。なお、欧米で実施されたクロストリジウム・ディフィシル感染症患者を対象とした第III相臨床試験において、同剤はバンコマイシンと同等の臨床治療効果が確認されているという。また、バンコマイシンに対して統計学的に有意に優れた総合治療効果と再発抑制効果があることも認められているとのこと。詳細はプレスリリースへhttp://www.astellas.com/jp/corporate/news/detail/post-141.html

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ICUにおける耐性菌伝播を減らすには?

 MRSAとバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は、医療施設における感染症の主要な要因であり、これら細菌に起因する感染症は通常、患者の粘膜や皮膚などへの保菌(colonization)後に発症がみられ、保菌は医療従事者の手指や汚染媒介物などを介した患者から患者への間接的な伝播や、保菌医療従事者からのダイレクトな伝播によって発生することが知られる。米国・メイヨークリニックのW. Charles Huskins氏らICUにおける耐性菌伝播を減らす戦略研究グループは、MRSA、VREの伝播リスクが最も大きいICUにおいては、積極的監視培養やバリア・プリコーション(ガウン、手袋着用による)の徹底により、ICUにおけるMRSA、VREの保菌・感染発生率を低下すると仮定し、それら介入効果を検討する無作為化試験を実施した。NEJM誌2011年4月14日号掲載より。MRSA、VREの保菌および感染発生率を介入群と対照群で比較 研究グループは、MRSAやVREの保菌に対する監視培養とバリア・プリコーション徹底(介入)の効果について、ICU成人患者におけるMRSA、VREの保菌・感染発生率を通常実践(対照)との比較で検討することで評価するクラスター無作為化試験を行った。 介入群に割り付けられたのは10ヵ所のICUで、対照群には8ヵ所のICUが割り付けられた。 監視培養(MRSAは鼻腔内検査、VREは便・肛囲スワブ)は、被験者全員に行った。ただしその結果報告は、介入ICU群にのみ行われた。 また介入ICU群で、MRSAやVREの保菌または感染が認められた患者は、コンタクト・プリコーション(接触感染に注意する)・ケア群に割り付け、その他すべての患者は、退院もしくは入院時に獲得した監視培養の結果が陰性と報告されるまで、ユニバーサル・グロービング(手袋着用の徹底)群に割り付けた。 介入による伝播減少の効果は認められず、医療従事者のプリコーション実行が低い 介入は6ヵ月間行われた。その間に、介入ICU群には5,434例が、対照ICU群には3,705例が入院した。 ICU入室患者にMRSA、VREの保菌または感染を認めバリア・プリコーションに割り付けた頻度は、対照ICU群(中央値38%)よりも介入ICU群(中央値92%)のほうが高かった(P<0.001)。しかし、介入ICU群の保菌または感染患者が、コンタクト・プリコーションに割り付けられた頻度は51%、ユニバーサル・グロービングに割り付けられた頻度は43%だった。 また介入ICU群における医療従事者の、滅菌手袋・ガウンテクニック・手指衛生の実行頻度は、要求レベルよりも低いものだった。コンタクト・プリコーション群に割り付けられた患者への滅菌手袋の実行頻度は中央値82%、ガウンテクニックは同77%、手指衛生は同69%で、またユニバーサル・グロービング群患者への滅菌手袋実行は同72%、手指衛生は同62%だった。 介入ICU群と対照ICU群で、MRSAまたはVREの保菌または感染イベント発生リスクに有意差は認められなかった。基線補正後の、MRSAまたはVREの保菌・感染イベントの平均(±SE)発生率は、1,000患者・日当たり、介入ICU群40.4±3.3、対照ICU群35.6±3.7だった(P=0.35)。 Huskins氏は、「介入による伝播減少の効果は認められなかった。そもそも医療従事者によるバリア・プリコーションの実行が要求されたものよりも低かった」と結論。医療施設における伝播減少を確実のものとするには、隔離プリコーションの徹底が重要であり、身体部位の保菌密度を減らしたり環境汚染を減らす追加介入が必要かもしれないとまとめている。

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C. difficile感染再発を抑制する新たな治療法

 Clostridium difficile(C. difficile)感染の再発に対して、抗C. difficileモノクローナル抗体(CDA1+CDB1)が有効であることが報告された。米国Medarex社のIsrael Lowy氏ら研究グループが行った第II相無作為化試験の結果、抗菌薬投与中の患者への追加投与で再発の有意な減少が確認されたという。C. difficileは通常は病原性を有さないが、抗菌薬投与による腸内細菌叢の乱れによってトキシンの産生が誘発され、下痢症や大腸炎の病原菌となる。ここ10年ほど欧米では、広域スペクトラム抗菌薬使用の広がりがC. difficile疫学を変えたと言われるほど、毒性が強いC. difficile(BI/NAP1/027株)の出現、治療失敗や感染症再発の増大、および顕著な死亡率増加がみられるようになり問題になっている。NEJM誌2010年1月21日号掲載より。抗菌薬に完全ヒトモノクローナル抗体を追加投与第II相試験は無作為化二重盲検プラセボ対照で行われた。症候性のC. difficile感染でメトロニダゾール(商品名:フラジール)かバンコマイシンを投与されていた患者に対し、抗C. difficileモノクローナル抗体(CDA1+CDB1)かプラセボを、10mg/kg体重、単回静注した。2006年7月から2008年4月の間に、米国およびカナダの30施設で、18歳以上の患者200例が登録。モノクローナル抗体投与群は101例、プラセボ投与群は99例だった。主要転帰は、モノクローナル抗体かプラセボを投与後84日以内に、検査で確認された感染再発とした。再発率は、抗体群7%、プラセボ群25%C. difficile感染再発率は、抗体群7%、プラセボ群25%で、モノクローナル抗体投与群の方が低かった(P

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