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スタチンは感染症リスクを低減しない

オランダ・ユトレヒト大学のHester L van den Hoek氏らは、「スタチンは感染症リスクを低減する」との仮説を検証するためのメタ解析を行い、これを支持するエビデンスは得られなかったことを、BMJ誌2011年12月17日号(オンライン版2011年11月29日号)で報告した。スタチンは心血管疾患の予防や治療に広く用いられているが、抗炎症作用や免疫調整作用も有することが知られている。スタチン服用者は感染リスクが低下していることが、いくつかの観察試験で報告されているが、これらの試験のデータはバイアスを完全には排除しきれないという。観察試験データを検証するためのメタ解析研究グループは、観察試験で報告されているスタチンの感染リスク低下作用を検証するために、プラセボ対照無作為化試験の系統的なレビューとメタ解析を行った。データベース(Medline、Embase、Cochrane Library)を用いて、2011年3月10日までに報告されたスタチンのプラセボ対照無作為化試験(100例以上を登録、フォローアップ期間1年以上)を検索し、感染および感染症関連死亡に関するデータを抽出した。感染症罹患および関連死の相対リスクに有意差なし11試験に参加した3万947例のデータが得られた。治療期間中に4,655例が感染症を発症し、その内訳はスタチン群が2,368例、プラセボ群は2,287例であった。メタ解析では、スタチンの感染症リスクの抑制効果は認めず(相対リスク:1.00、95%信頼区間:0.96~1.05)、感染症関連死亡の低下効果も確認されなかった(同:0.97、0.83~1.13)。著者は、「これらの知見は、スタチンが感染症リスクを低減するとの仮説を支持しない」と結論し、「大規模なプラセボ対照試験で良好な効果のエビデンスが得られなかったため、観察試験で報告されたスタチンの感染症抑制効果の可能性は低くなった」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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強化スタチン治療中患者に対するナイアシン併用の付加効果は?:AIM-HIGH

アテローム硬化性心血管疾患を有するLDLコレステロール値が70mg/dL未満の患者に対して、スタチン治療に加えてナイアシンを併用投与した結果、HDLコレステロール値とトリグリセリド値は有意に改善されたが、臨床的ベネフィットの増加は認められなかったことが明らかにされた。心血管疾患を有する患者は、スタチン療法でLDL目標値が達成されても心血管リスクは残存する。一方で、シンバスタチンと拡張徐放性ナイアシン併用との検討で、シンバスタチン単独よりも併用投与のほうがHDL値を上げるのに優れることは知られるが、そのような残存リスク低減に優れるかどうかは明らかになっていなかった。報告は、米国・バッファロー大学のWilliam E. Boden氏ら「AIM-HIGH」試験グループの検討によるもので、NEJM誌2011年12月15日号(オンライン版2011年11月15日)にて掲載された。3,414例を対象にプラセボ対照無作為化試験 AIM-HIGH試験は、被験者3,414例を、徐放性ナイアシン1,500~2,000mg/日投与群(1,718例)、またはプラセボ投与群(1,696例)に無作為に割り付け行われた。被験者全員、LDL値40~80mg/dLを維持するため、必要に応じてシンバスタチン40~80mg/日と、エゼチミブ(10mg/日)を投与された。主要エンドポイントは、冠動脈疾患による死亡・非致死的心筋梗塞・脳梗塞・急性冠症候群による入院・症状に応じた冠動脈または脳の血行再建の複合の初発イベントとした。HDL値、TG値は有意に改善したが本治験は平均追跡期間3年を経た時点で、有効性に欠けるとして中止された。解析の結果、2年時点で、ナイアシン治療によってHDL値は中央値35mg/dLから42mg/dLまで有意に上昇し、トリグリセリド値は164mgから122mg/dLまで低下し、LDL値は74mg/dLから62mg/dLまで低下した。一方で、主要エンドポイントの発生は、ナイアシン群で282例(16.4%)、プラセボ群で274例(16.2%)で発生し、ハザード比は1.02(95%信頼区間:0.87~1.21)で有意差は認められなかった(P=0.79)。(朝田哲明:医療ライター)

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スタチンは治療終了後も長期に効果が持続:HPSの長期追跡結果

長期(5年)のシンバスタチン(商品名:リポバスなど)治療によるLDLコレステロール低下療法は、血管イベントの絶対低下率を改善し、そのベネフィットは治療終了後も少なくとも5年間は新たなリスクをもたらすことなく持続することが、イギリスで実施されたHeart Protection Study(HPS)の長期追跡の結果から明らかとなった。HPSや他の大規模臨床試験の結果により、スタチンは5年間の治療でLDLコレステロールを1mmol/L低下させ、高齢患者や低脂質値患者を含む広範な集団の血管死、血管疾患を約25%低減することが示されている。一方、疫学試験の長期的観察では特定のがんや非血管死、非血管疾患の罹患率が上昇することが指摘され、5年以上のスタチン治療により発がんや他の有害事象が増加する可能性が示唆されている。Lancet誌2011年12月10日号(オンライン版2011年11月23日号)掲載の報告。追跡期間を延長してスタチン治療終了後の長期的効果を評価HPSは、スタチンによるLDLコレステロール低下療法の長期的な有効性と安全性の評価を目的に追跡期間が延長されており、今回、研究グループは試験中および治療終了後の原因別の死亡と主要な疾患の罹患状況について報告した。血管および非血管アウトカムが高リスクの2万536例が、シンバスタチン40mg/日(1万269例)あるいはプラセボ(1万267例)を5年間投与する群に無作為に割り付けられた。試験中の平均追跡期間は5.3年(SD 1.2)、治療終了後生存例の試験開始からの平均追跡期間は11年(SD 0.6)であった。主要評価項目は、無作為割り付け後の初回大血管イベントとした。ベネフィットは治療終了後も長期に継続、発がんリスクに差はない試験開始時に登録された2万536例のうち、治療終了後の延長追跡の開始時点で1万7,519例(シンバスタチン群:8,863例、プラセボ群:8,656例)が生存していた。ベースラインのLDLコレステロールは両群とも3.4mmol/Lで、試験中にシンバスタチン群は2.3mmol/Lまで低下し、プラセボ群は3.3mmol/Lであった。試験中の初回大血管イベントの発生率はシンバスタチン群が21.0%と、プラセボ群の26.4%に比べ有意に23%低下した(95%信頼区間:19~28、p<0.0001)。1年目こそ有意差を認めなかったが、2年目以降は毎年、有意な差がみられた。治療終了以降の延長追跡期間中(スタチンの使用状況と脂質値は両群で同等)は、血管イベント(リスク比:0.95、95%信頼区間:0.89~1.02)および血管死(同:0.98、0.90~1.07)の低下率には両群間でそれ以上の差は認めなかった。試験中と治療終了後の追跡期間を合わせると、すべてのがんの発生(リスク比:0.98、95%信頼区間:0.92~1.05)、特定の部位のがんの発生、がんによる死亡(同:1.01、0.92~1.11)、非血管疾患が原因の死亡(同:0.96、0.89~1.03)に有意な差はなかった。著者は、「長期のスタチン治療によるLDLコレステロール低下療法は、血管イベントの絶対低下率をさらに改善し、そのベネフィットは治療終了後も、少なくとも5年間は新たなリスクをもたらすことなく持続した」と結論し、「これらの知見は、スタチン治療の迅速な開始と長期的な継続について、いっそうの支持を与えるものだ」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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冠動脈疾患に対するアトルバスタチン、ロスバスタチン高用量投与の効果

冠動脈疾患患者に対しアトルバスタチン(商品名:リピトールなど)80mg/日、またはロスバスタチン(同:クレストール)40mg/日を104週間投与する強化スタチン療法は、いずれも病変部の冠動脈硬化を有意に退縮することが示された。アテローム容積率(PAV)の減少幅が両群で同等だった。米国・クリーブランドクリニックのStephen J. Nicholls氏らが、1,000人超について行った試験で明らかにしたもので、NEJM誌2011年12月1月号(オンライン版2011年11月15日)で発表した。スタチン治療の低比重リポ蛋白(LDL)コレステロールを低下させる能力に比例して、有害な心血管転帰が減少し冠動脈硬化の進展が抑制されることは知られている。しかしこれまで、強化スタチン療法による病変の退縮効果を検討した試験や、最大投与量同士を直接比較する試験は、ほとんど行われていなかった。アテローム容積率、両群ともに1~1.2%減少研究グループは、冠動脈疾患患者1,039人を対象に、アトルバスタチン80mg/日、またはロスバスタチン40mg/日を104週間投与し、治療前後に血管内超音波検査を行い、冠動脈アテローム性硬化症の進行について比較した。結果、アトルバスタチン群のLDLコレステロール値は70.2mg/dLだったのに対し、ロスバスタチン群では62.6mg/dLと、有意に低かった(p<0.001)。HDLコレステロール値も、アトルバスタチン群の48.6mg/dLに対しロスバスタチン群では50.4mg/dLと、有意に高かった(p=0.01)。104週間後の主要有効性エンドポイントのアテローム体積率(PAV)の変化の中央値は、アトルバスタチン群で-0.99%(95%信頼区間:-1.19~-0.63)、ロスバスタチン群で-1.22%(同:-1.52~-0.90)で、両群で有意差はなかった(p=0.17)。副次有効性エンドポイントの標準化総アテローム容積率(TAV)の変化の中央値については、ロスバスタチン群で-6.39mm3(同:-7.52~-5.12)と、アトルバスタチン群の-4.42 mm3(同:-5.98~-3.26)に比べ、有意に減少幅が大きかった(p=0.01)。両群の6~7割で冠動脈硬化の退縮また両群ともに、多くの患者で冠動脈アテローム性硬化症の退縮が認められ、PAVが減少した人の割合はアトルバスタチン群で63.2%、ロスバスタチン群で68.5%だった(p=0.07)。TAVが減少した人の割合はロスバスタチン群のほうが多く、それぞれ64.7%と71.3%だった(p=0.02)。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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無作為化試験の結果から個人の治療効果を予測し治療するほうが実質的ベネフィットが大きい

無作為化試験のデータを基にした個人の治療効果予測は可能であり、その効果予測に基づき個々人の治療を行うことは実質的なベネフィットをもたらすとの報告が、BMJ誌2011年10月22日号(オンライン版2011年10月3日号)で発表された。オランダ・ユトレヒト大学医療センターのJohannes A N Dorresteijn氏らが、一例としてJUPITER試験[ロスバスタチン(商品名:クレストール)投与による心血管疾患予防に関する試験]のデータを基に、新たに開発した予測モデルなどを用いて治療効果を予測し、それに基づく治療を行った場合の実質的なベネフィットを評価した結果による。LDL3.4mmol/L未満、高感度CRP2.0mg/L以上の健康な人を対象に比較試験は、JUPITER試験の被験者で、LDL-C値が3.4mmol/L未満でCRP値が2.0mmol/L以上の、健康な男女1万7,802人を対象とした。被験者のロスバスタチンによる心血管疾患予防効果(心筋梗塞、脳卒中、動脈系血管再生、不安定狭心症による入院、心血管系が原因の死亡)について、フラミンガム・リスクスコア、レイノルド・リスクスコア、そして新たに開発した予測モデルの3通りの方法で予測し、比較した。各モデルの絶対リスク低下の中央値は3.9~4.4%ロスバスタチン治療による10年間の心血管疾患絶対リスク低下の中央値は、フラミンガム・リスクスコアで4.4%(四分位範囲:2.6~7.0)、レイノルド・リスクスコアで4.2%(同:2.5~7.1)、新たな予測モデルでは3.9%(同:2.5~6.1)だった。こうした予測に基づく個別治療は、全対象者について治療の是非を決めることよりも、治療によるネット効果は大きく、その場合の治療決定閾値は2~7%だった。10年間に1件の心血管疾患を予防するために必要な積極的に治療する件数(number willing to treat ;NWT)は15~50だった。(當麻 あづさ:医療ジャーナリスト)

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慢性疾患患者、入院やICU入室で薬物療法の中断1.18倍~1.86倍にわたる:カナダ

慢性疾患で服薬中の患者について、入院やICU入室によってそれら薬物療法の、意図的ではないものの中断が起きる可能性が高いことが明らかにされた。そのリスクはICU入室後のほうが、より高いことも示された。カナダ・St Michael's HospitalのChaim M. Bell氏らが報告したもので、JAMA誌2011年8月24日号で発表した。「ICU入室群」「ICU入室なし・入院群」「非入院群」の5つの薬物療法中断について検証Bell氏らは、1997~2009年のカナダ・オンタリオ州の入院・外来全処方の管理記録を用いて、入院またはICU入室の結果、意図的ではない薬物療法の中断が起きた可能性の割合について評価する住民ベースコホート試験を行った。対象被験者は、66歳以上の39万6,380例。エビデンスベースがある5群の長期処方のうち1つ以上を服用していた患者であった。5群は、(1)スタチン、(2)抗血小板薬/抗凝固薬、(3)レボチロキシン、(4)呼吸器疾患吸入薬、(5)胃酸分泌抑制薬。薬物療法の中断発生率の検討は、「ICU入室群」「ICU入室なし・入院群」「非入院群(対照群)」の3群を対象とし、オッズ比を算出して人口統計学的因子・臨床因子・医療サービス利用で補正し評価を行った。主要評価項目は、薬物療法の中断発生で、退院後90日以内で処方の更新ができていなかったこととした。ICU入室群の中断は非入院群に比べ1.48倍~2.31倍にわたる結果、被験者のうち入院群(18万7,912例)のほうが対照群(20万8,468例)よりも、意図的ではない薬物療法の中断を受けやすいことが明らかになった。補正後オッズ比(AOR)をみると、レボチロキシン中断の1.18倍(95%信頼区間:1.14~1.23)[入院群(n=6,831)12.3%に対し対照群(n=7,114)11.0%]から、抗血小板薬/抗凝固薬中断の1.86倍(同:1.77~1.97)[入院群(n=5,564)19.4%に対し対照群(n=2,535)11.8%]までにわたっていた。またICU入室群のAORは、スタチン中断の1.48倍(同:1.39~1.57)[ICU入室群(n=1,484)14.6%]から、抗血小板薬/抗凝固薬中断の2.31倍(同:2.07~2.57)[ICU入室群(n=522)22.8%]までにわたっていた。ICU入室は、ICU入室なし・入院と比べると薬物療法群5群のうち4群で過剰リスクをもたらすことが認められた。薬物療法中断となった患者を1年間フォローアップした結果、副次複合評価項目とした死亡・ER受診・入院のAROが、スタチン療法群1.07倍(95%信頼区間:1.03~1.11)、抗血小板薬/抗凝固薬群1.10倍(同:1.03~1.16)であった。(武藤まき:医療ライター)

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心血管イベントリスクの予測、冠動脈カルシウムスコアが高感度CRPよりも有用

心臓CTで検出される冠動脈カルシウム(CAC)スコアが、高感度C反応性蛋白(CRP)値と比べて、スタチン治療のベネフィットが最大あるいは最小と予想される人を特定するのに有用であることが報告された。米国・ジョンズ・ホプキンスCiccarone心臓病予防センターのMichael J Blaha氏らが、多人種アテローム性動脈硬化症試験(MESA)から、JUPITER試験適格条件を満たした被験者950例を対象とした住民ベースコホート試験の結果による。Lancet誌2011年8月20日号掲載報告より。冠動脈カルシウムスコアと高感度CRPとの予測能を比較rosuvastatin治療を受けている人を対象としたJUPITER試験では、心血管イベントの絶対リスクが低下した人として示されたのは、LDL-C値130mg/dL(3.37mmol/L)未満、高感度CRP値2mg/L以上の人に限定されていた。Blaha氏らは、同条件の被験者を対象に、CACスコアのほうがリスク階層化に優れるかを検討。MESA被験者のうちJUPITER試験適格条件を満たした2,083例を試験ベースコホートとし(平均年齢67歳、女性40%)、そのうち高感度CRP値2mg/L以上の950例(MESA JUPITER population)を対象とした試験を行った。被験者をCACスコア(0、1~100、>100)にて階層化後、冠動脈心疾患と心血管疾患のイベント発生率、多変量補正ハザード比を比較し、また、JUPITER試験で示されたベネフィットを適用した各CAC階層群の5年NNT(治療必要数)を算出した。追跡期間は5.8年(IQR:5.7~5.9)。各CACスコア階層群は、0群444例(47%)、1~100群267例(28%)、>100群239例(25%)だった。心血管イベントの関連、冠動脈カルシウムスコアとは有意だが高感度CRPとは関連示さず結果、全心血管イベントの74%は、スコア>100群での発生だった。スコア0群での冠動脈心疾患発生率は1,000人・年当たり0.8、心血管疾患は同3.7、だったのに対し、スコア>100群ではそれぞれ20.2、26.4であった。5年NNTは、冠動脈心疾患についてはスコア0群549、スコア1~100群94、スコア>100群24、心血管疾患についてはそれぞれ124、54、19だった。高感度CRP値2mg/L未満群を含む試験ベースコホート(2,083例)において、CACスコア検出群の補正後ハザード比(高感度CRP値2mg/L未満群を1とする)は、冠動脈心疾患は4.29(95%信頼区間:1.99~9.25、p<0.0001)、心血管疾患は2.57(同:1.48~4.48、p=0.001)でスコアと疾患との関連が有意だった。一方高感度CRP値(2mg/L以上)の同値は、それぞれ0.90(p=0.69)、1.08(p=0.73)で関連が有意ではなかった。Blaha氏は、「測定可能なアテローム性動脈硬化症を有する人に治療をフォーカスすることで、医療資源のより適正な供給が可能となるだろう」と結論している。

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慢性腎臓病に対するLDL-C低下療法、動脈硬化イベントを低減

シンバスタチン(商品名:リポバスなど)と小腸コレステロールトランスポーター阻害薬エゼチミブ(同:ゼチーア)の併用療法は、慢性腎臓病を有する広範な患者において、高い安全性を保持しつつ主なアテローム性動脈硬化イベントを有意に抑制することが、Colin Baigent氏らが行ったSHARP試験で示され、Lancet誌2011年6月25日号(オンライン版2011年6月9日号)で報告された。慢性腎臓病は心血管疾患のリスクを増大させるが、その予防についてはほとんど検討されていない。スタチンを用いたLDLコレステロール(LDL-C)低下療法は、非腎臓病患者では心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈血行再建術施行のリスクを低減させるが、中等度~重度の腎臓病がみられる患者に対する効果は明らかではないという。腎臓病患者におけるアテローム性動脈硬化イベント抑制効果を評価する無作為化プラセボ対照試験SHARP(Study of Heart and Renal Protection)試験は、中等度~重度腎臓病を有する患者に対するシンバスタチン+エゼチミブの有効性と安全性を評価する二重盲検無作為化プラセボ対照試験。対象は、40歳以上の心筋梗塞や冠動脈血行再建術の既往歴のない慢性腎臓病患者で、シンバスタチン20mg/日+エゼチミブ10mg/日を投与する群あるいはプラセボ群に無作為化に割り付けられた。事前に規定された主要評価項目は、主なアテローム性動脈硬化イベント(非致死的心筋梗塞/冠動脈心疾患死、非出血性脳卒中、動脈の血行再建術施行)の初発とし、intention to treat解析を行った。平均LDL-Cが0.85mmol/L低下、動脈硬化イベントは17%低下2003年8月~2006年8月までに9,270例(透析患者3,023例を含む)が登録され、シンバスタチン+エゼチミブ群に4,650例が、プラセボ群には4,620例が割り付けられた。フォローアップ期間中央値4.9年の時点で、平均LDL-C値はシンバスタチン+エゼチミブ群がプラセボ群よりも0.85mmol/L低下[SE:0.02、服薬コンプライアンス(遵守率≧80%)達成者:約3分の2]し、主なアテローム性動脈硬化イベントの発生率は17%低下した[11.3%(526/4,650例) vs. 13.4%(619/4,620例)、発生率比(RR):0.83、95%信頼区間(CI):0.74~0.94、log-rank検定:p=0.0021]。非致死的心筋梗塞/冠動脈心疾患死の発生率には差はみられなかった[4.6%(213/4,650例) vs. 5.0%(230/4,620例)、RR:0.92、95%CI:0.76~1.11、p=0.37]が、非出血性脳卒中[2.8%(131/4,650例) vs. 3.8%(174/4,620例)、RR:0.75、95%CI:0.60~0.94、p=0.01]および動脈の血行再建術施行率[6.1%(284/4,650例) vs. 7.6%(352/4,620例)、RR:0.79、95%CI:0.68~0.93、p=0.0036]は、シンバスタチン+エゼチニブ群で有意に低下した。LDL-C値低下のサブグループ解析では、主なアテローム性動脈硬化イベントの発生について有意なエビデンスは得られず、透析施行例および非施行例でも同等であった。ミオパチーの発生率は、シンバスタチン+エゼチニブ群0.2%(9/4,650例)、プラセボ群0.1%(5/4,620例)と、きわめて低頻度であった。肝炎[0.5%(21/4,650例) vs. 0.4%(18/4,620例)]、胆石[2.3%(106/4,650例) vs. 2.3%(106/4,620例)]、がん[9.4%(438/4,650例) vs. 9.5%(439/4,620例)、p=0.89]、非血管性の原因による死亡[14.4%(668/4,650例) vs. 13.2%(612/4,620例)、p=0.13]の発生率についても両群間に差はなかった。著者は、「シンバスタチン20mg/日+エゼチミブ10mg/日は、進行性の慢性腎臓病を有する広範な患者において、高い安全性を保持しつつ主なアテローム性動脈硬化イベントの発生率を有意に抑制した」と結論し、「腎臓病のない集団と同様に、LDL-C値低下の絶対値に基づくイベント低下率は年齢、性別、糖尿病、血管疾患の既往、脂質プロフィールにかかわらず同等であったことから、SHARP試験の結果は慢性腎臓病のほとんどの患者に適応可能と考えられる」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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STEMI患者、エビデンス治療の導入率増加に伴い死亡率低下

1996~2007年にかけて、ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)患者に対するエビデンスに基づく治療の導入率が上がるに従い、院内死亡率や30日・1年死亡率が低下していたことが明らかにされた。スウェーデン・カロリンスカ大学病院循環器部門のTomas Jernberg氏らが、同期間にSTEMIの診断を受け治療・転帰などを追跡された「RIKS-HIA」研究登録患者6万人超について調査し明らかにしたもので、JAMA誌2011年4月27日号で発表した。エビデンスベースやガイドライン推奨の新しい治療の実施状況や実生活レベルへの回復生存との関連についての情報は限られている。再灌流、PCI、血行再建術の実施率、いずれも増大研究グループは、1つの国で12年間以上追跡された連続患者の新しい治療導入率と短期・長期生存との関連を明らかにすることを目的に、1996~2007年にかけて、スウェーデンの病院で初めてSTEMIの診断を受け、基線特徴、治療、アウトカムについて記録された「RIKS-HIA(Register of Information and Knowledge about Swedish Heart Intensive Care Admission)」の参加者6万1,238人について、薬物療法、侵襲性処置、死亡の割合を推定し評価した。被験者の年齢中央値は、1996~1997年の71歳から、2006~2007年の69歳へと徐々に若年化していた。男女比は試験期間中を通じて有意な変化はなく、女性が34~35%であった。エビデンスベースの治療導入率は、再灌流が66%から79%へ、プライマリ経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が12%から61%へ、血行再建術は10%から84%へと、いずれも有意に増加した(いずれもp<0.001)。スタチンやACEなどの薬剤投与率も増大、死亡率は院内・30日・1年ともに低下薬剤投与についても、アスピリン、クロピドグレル、β遮断薬、スタチン、ACE阻害薬の投与率がいずれも増加していた。具体的には、クロピドグレルは0%から82%へ、スタチンは23%から83%へ、ACE阻害薬もしくはARBは39%から69%へと、それぞれ投与率が増加した(いずれもp<0.001)。同期間の推定死亡率についてみてみると、院内死亡率は12.5%から7.2%へ、30日死亡率は15.0%から8.6%へ、1年死亡率は21.0%から13.3%へと、それぞれ有意な低下が認められた(いずれもp<0.001)。補正後、長期にわたる標準死亡率の一貫した低下傾向も認められ、12年生存解析の結果、死亡率は経年的に低下していることが確認された。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

530.

CKDの死亡・末期腎不全リスク、クレアチニンにシスタチンCとACRの追加で予測能向上

慢性腎臓病(CKD)患者の死亡・末期腎不全リスクの予測について、クレアチニン値にシスタチンCと尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)の測定値を加えることで、より精度が向上することが明らかになった。米国・サンフランシスコ退役軍人医療センターのCarmen A. Peralta氏らが、2万6,000人超を対象に行った前向きコホート試験「REGARDS」から明らかにしたもので、JAMA誌2011年4月20日号(オンライン版2011年4月11日号)で発表した。3種バイオマーカーで、被験者を8群に分類「REGARDS」試験(Reasons for Geographic and Racial Differences in Stroke)は、2003年1月~2010年6月にかけて、45歳以上の2万6,643人が参加し行われた。研究グループは被験者を、クレアチニン値による推定糸球体濾過量(eGFR、カットオフ値:60mL/分/1.73m2)、シスタチンC値によるeGFR(カットオフ値:60mL/分/1.73m2)、ACR値(カットオフ値:30mg/g)によって、8群のCKD診断群(いずれのマーカーでもCKDと認められない、クレアチニン値のみでCKDと診断、クレアチニン値とACR値でCKDと診断など)に分類し検討した。主要アウトカムは、総死亡率と末期腎不全発症率。被験者の平均年齢は65歳、うち黒人が40%、54%が女性で、追跡期間の中央値は4.6年だった。追跡期間中の死亡は1,940人、末期腎不全と診断された人は177人だった。3種の値で診断された群はクレアチニン値単独での診断に比べ、死亡リスク5.6倍死亡リスクについて各群の比較を行った結果、クレアチニン値のみによってCKDと診断された群との比較で、クレアチニン値とACR値によって同診断を受けた人のハザード比は3.3(95%信頼区間:2.0~5.6)、クレアチニン値とシスタチンC値により同診断を受けた群のハザード比は3.2(同:2.2~4.7)、クレアチニン値、シスタチンC値、ACR値のすべてにより診断された群は5.6(同:3.9~8.2)だった。クレアチニン値単独ではCKDと診断されなかった人のうち、3,863人(16%)は、シスタチンC値またはACR値によりCKDであることが認められた。いずれのバイオマーカーでもCKDにあてはまらなかった人との比較で、ACR値単独でCKDと認められた人のハザード比は1.7(同:1.4~1.9)、シスタチンC値単独では2.2(同:1.9~2.7)、シスタチンC値とACR値の両方では3.0(同:2.4~3.7)だった。末期腎不全の発症リスクは、クレアチニン値のみでCKDと診断された群では0.33/1000人・年だったのに対し、すべてのバイオマーカーで診断された群では34.1/1000人・年だった。リスクが2番目に高かったのは、クレアチニン値では見逃されたがシスタチンC値とACR値の両方で診断された人だった(6.4/1000人・年、95%信頼区間:3.6~11.3)。クレアチニンとACR値補正後モデルにシスタチンC値を加えた後のネット再分類改善率(NRI)は、死亡13.3%(p<0.001)、末期腎不全6.4%(p<0.001)だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

531.

スタチンによる血管疾患の1次予防の費用対効果:オランダの調査

プライマリ・ケアにおける血管疾患の1次予防としてのスタチン治療は、低リスク集団では費用対効果がよくないことが、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのJP Greving氏らの検討で示された。スタチンは、心血管疾患のない集団における心血管/脳血管イベントのリスクを低減することが示されているが、スタチン治療の絶対的なベネフィットを規定するのは、個々のリスク因子よりもむしろ全体としての血管疾患イベントのリスクと考えられている。また、日常診療におけるスタチン服用のアドヒアランスは十分とは言えず、これが費用対効果を損なっている可能性もあるという。BMJ誌2011年4月9日号(オンライン版2011年3月30日号)掲載の報告。低用量スタチンの費用対効果をMarkovモデルで検討研究グループは、血管疾患の1次予防における低用量スタチンの費用対効果を、直近の薬価、服薬アドヒアランス不良(臨床効果は低いがコストは維持)、JUPITER試験(スタチンの1次予防効果に関する最新の大規模臨床試験)の結果を踏まえて検討した。オランダのプライマリ・ケアのデータを用い、血管疾患の既往歴のない45~75歳の健常者の仮説母集団において、10年以内に血管疾患(心筋梗塞、脳卒中)を発症するリスク(10年血管リスク)を、低用量スタチン(連日)群と無治療群で比較した。費用対効果の解析にはMarkovモデルを用いた。パラメータの不確実性については、Monte Carloシミュレーション(1,000回反復)を用いた確率的感度分析を行った。主要評価項目は、10年間の致死的および非致死的な血管疾患の発生、質調整生存年(QALY)、コスト、増分費用対効果比であった。10年血管リスクが低くなるにしたがって費用対効果が低下する傾向無治療に比べ10年間のスタチン治療のコスト/QALYは、10年血管リスクが10%の55歳男性では約3万5,000ユーロ(ほぼ3万ポンド、4万9,000ドルに相当)であった。全般に、増分費用対効果比は血管疾患リスクの増大とともに改善し、55歳男性では、10年血管リスクが25%の場合の約5,000ユーロから、リスク5%の場合の約12万5,000ユーロまでの幅が認められた。また、増分費用対効果比は加齢とともにわずかに低下する傾向がみられた。感度分析では、得られた結果はスタチン治療のコスト、スタチンの有効性、アドヒアランス不良、連日服用の不効用性、モデルの計画対象期間(time horizon)に対し高い感度を示した。著者は、「日常診療では、血管疾患のリスクが低い集団(10年血管リスク<5%)に対する1次予防としてのスタチン治療は、ジェネリック薬のコストが低いにもかかわらず費用対効果がよくないと考えられた」と結論し、「1次予防におけるスタチン使用の費用対効果のいっそうの改善には、スタチン服用のアドヒアランスの向上が求められる」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

532.

スタチンは心房細動を抑制するか?

短期的な試験で示唆されたスタチンの心房細動に対する抑制効果は、長期的な大規模試験の包括的なレビューの結果では支持されないことが、イギリス・オックスフォード大学のKazem Rahimi氏らの検討で明らかにされた。心房細動は最も高頻度にみられる不整脈の一病型であり、加齢とともに増加することが示されている。多くの国では平均余命が延長し、その結果として心不全の発症率が上昇するため、今後、心房細動による世界的な疾病負担が増大する可能性が高い。心臓手術例や除細動施行例に限定されたエビデンスではあるが、スタチンはこれらの患者における心房細動のリスクを3分の1以上も低減する可能性があるという。BMJ誌2011年3月26日号(オンライン版2011年3月16日号)掲載の報告。既報および未報の無作為化対照比較試験のメタ解析研究グループは、スタチンによる心房細動のリスク低減効果を評価するために、既報および未報の無作為化対照比較試験のメタ解析を行った。データベース(Medline、Embase、Cochrane’s CENTRAL)を検索して2010年10月までに報告された試験を抽出した。未報の長期試験のデータは、研究者と連絡を取って入手した。解析の対象は、スタチン投与群と非投与群、あるいはスタチン高用量投与群と標準用量投与群を比較した無作為化対照試験とし、長期試験の場合は100例以上を対象に6ヵ月以上のフォローアップを行った試験とした。現時点では推奨されないが、さらなる検討も既報の13件の短期試験のデータ(4,414例、659イベント)を解析したところ、スタチン治療により心房細動の発症率が39%低下した(オッズ比:0.61、95%信頼区間:0.51~0.74、p<0.001)が、これらの試験間には有意な不均一性(heterogeneity)が認められた(p<0.001)。一方、スタチンと対照を比較した22件の長期大規模試験(10万5,791例、2,535イベント)では、スタチン治療によって心房細動の発症率が低下することはなかった(オッズ比:0.95、95%信頼区間:0.88~1.03、p=0.24、不均一性:p=0.40)(差の検定:p<0.001)。7件の高用量群と標準用量群を比較した、より長期の試験(2万8,964例、1,419イベント)においても、スタチンによる心房細動のリスク低減効果のエビデンスは示されなかった(オッズ比:1.00、95%信頼区間:0.90~1.12、p=0.99、不均一性:p=0.05)。著者は、「既報の短期的な試験で示唆されたスタチンの心房細動に対する抑制効果は、より大規模な既報および未報の試験の包括的なレビューでは支持されなかったため、現時点ではスタチンは心房細動の予防には推奨されない」と結論したうえで、「これらの知見は、一部の患者でみられたスタチンの心房細動抑制効果を排除するものではなく、今後、よくデザインされた無作為化試験を行って検証する価値がある」としている。(菅野守:医学ライター)

533.

2002~2009年における米国・カナダでのフィブラート系薬剤の処方傾向

2002~2009年の米国およびカナダにおけるフィブラート系薬剤の処方傾向を調べた結果、米国では特にフェノフィブラート(商品名:リピディル、トライコアなど)を中心に大きく増大したことが認められ、カナダでは約20%と安定的推移を示していたことが報告された。米国Western University of Health SciencesのCynthia A. Jackevicius氏らの観察コホート試験による。Jackevicius氏らは、フェノフィブラート+スタチン療法を評価したACCORD試験でネガティブな結果が公表されて以降、フィブラート系薬剤の使用に関する関心が高まっていること、また臨床的ベネフィットのエビデンスはgemfibrozilやクロフィブラートなど従前薬に傾いているという背景を踏まえ本調査を行った。JAMA誌2011年3月23/30日合併号掲載より。2009年10万人当たりフィブラート系薬剤処方数、米国は730件、カナダは474件同研究グループは、2002年1月~2009年12月の間のフィブラート系薬剤の処方傾向について、IMS Healthデータベースを元に調査を行った。有効性の違い、ブランド品対後発品、米国とカナダの経済状況の違いなどとの関連を調べた。その結果、米国のフィブラート系薬剤処方数は、10万人当たり2002年1月の336件から2009年12月の同730件へと増加しており、その増加幅は117.1(95%信頼区間:116.0~117.9)%だった。一方カナダでは、同402件から474件への増加で、増加幅は18.1(同:17.9~18.3)%だった(P<0.001)。米国ではブランド品優位だがカナダでは後発品が優勢、消費額は米国がカナダの3倍なかでもフェノフィブラートの処方については、米国では10万人当たり2002年1月の150件から2009年12月の同440件に増加し、その増加幅は159.3(同:157.7~161.0)%で、フィブラート系薬剤に占める割合は同期間で47.9%から65.2%に増大していた。カナダにおいては、同321件から429件へとコンスタントな増加であった。また、両国のフェノフィブラートの2008年におけるブランド品対後発品の割合をみたところ、米国では1対0.09であったのに対し、カナダでは1対1.89と後発品処方がブランド品処方を上回っていた。そうしたこともあり、人口10万人・1ヵ月当たりのフェノフィブラートの消費額は、米国では2002年の1万1,535ドルから2009年の4万4,975ドルへと大幅に増大したのに対し、カナダでは同期間で1万7,695ドルから1万6,112ドルへと減少していた。フィブラート系薬剤全体では、2009年の人口10万人当たりの米国での消費額はカナダの3倍であった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

534.

CRP濃度は、スタチンの血管ベネフィットに影響しない:HPS試験サブ解析

ベースラインのC反応性蛋白(CRP)濃度はシンバスタチン(商品名:リポバスなど)治療の血管ベネフィットに影響を及ぼさないことが、Heart Protection Study(HPS)の研究グループが行ったサブグループ解析で示された。CRP濃度に基づく炎症状態はスタチン治療の血管保護効果に影響を及ぼすことが示唆されている。特に、CRP濃度が高い患者はスタチンのベネフィットがより高く、CRPとLDLコレステロール値がいずれも低値の場合は、スタチンは無効との見解もあるという。Lancet誌2011年2月5日号(オンライン版2011年1月28日号)掲載の報告。約2万人をCRP濃度で6群に分類HPS試験は、血管イベントの発生リスクが高い患者に対するスタチン治療の有用性を評価するプラセボ対照無作為化試験。今回、研究グループは、スタチン治療の効果はベースラインのCRP濃度によって異なるとの仮説を検証するサブグループ解析を行った。1994~1997年までにイギリスの69施設から冠動脈疾患、冠動脈以外の血管の閉塞性疾患、糖尿病、降圧薬治療の既往歴のある40~80歳の2万536人が登録され、平均5年間シンバスタチン40mg/日を投与する群(1万269例)あるいはプラセボ群(1万267例)に無作為に割り付けられた。患者は、ベースラインのCRP濃度によって6つの群(<1.25、1.25~1.99、2.00~2.99、3.00~4.99、5.00~7.99、≧8.00mg/L)に分類された。主要評価項目は、重篤な血管イベント(冠動脈死、心筋梗塞、脳卒中、血行再建術の複合エンドポイント)であった。CRP濃度が最低のグループでもスタチン群が有意に良好無作為割り付け後の重篤な血管イベントの発生率は、シンバスタチン群が19.8%(2,033例)と、プラセボ群の25.2%(2,585例)に比べ相対的に24%(95%信頼区間:19~28)低下した。ベースラインのCRP濃度に比例して複合エンドポイントおよび個々の構成因子の低下率が変化するとのエビデンスは得られなかった(傾向検定:p=0.41)。ベースラインのCRP濃度が<1.25mg/Lの患者においても、重篤な血管イベントはシンバスタチン群[14.1%(239例)]がプラセボ群[19.4%(329例)]よりも有意に29%(99%信頼区間:12~43、p<0.0001)低下した。ベースラインのLDLコレステロール値とCRP濃度の高低の組み合わせで定義された4つのサブグループ間で、相対リスク低下率の不均一性に有意な差を認めなかった(p=0.72)。特に、低LDLコレステロール値/低CRP濃度のグループでは、シンバスタチン群[15.6%(295例)]がプラセボ群[20.9%(400例)]に比べ有意に27%(99%信頼区間:11~40、p<0.0001)低下した。著者は、「この大規模無作為化試験のエビデンスは、ベースラインのCRP濃度がスタチン治療による血管ベネフィットに実質的な影響を及ぼすとの仮説を支持しない」と結論し、「この知見は他のスタチンにも広範に一般化可能と推察される」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

535.

脂質モニタリングによる服薬不履行の検出

コレステロール値のモニタリングは、プラバスタチン(商品名:メバロチンなど)治療における完全服薬不履行(complete non-adherence)の検出にある程度は有効だが、部分的服薬不履行(partial non-adherence)の検出能は劣ることが、オーストラリア・シドニー大学のKaty J L Bell氏らの検討で示された。脂質低下薬の服薬遵守(adherence)には患者間にばらつきがみられる。ガイドラインでは、コレステロール値をモニターすることで服薬不履行を評価するよう勧告しているが、脂質モニタリングによる服薬不履行の検出能は不明だという。BMJ誌2011年1月29日号(オンライン版2011年1月21日号)掲載の報告。LIPID試験のデータを用いた解析研究グループは、脂質低下薬治療の服薬不履行の検出におけるコレステロール値モニタリングの正確度(accuracy)を評価するために、服薬不履行に関する三つの評価項目(治療中止、プラセボ群への割り付け、処方薬の服薬率80%未満)を用いて、LIPID(long term intervention with pravastatin in ischaemic disease)試験のコレステロール値に関する2回目の解析を行った。オーストラリアとニュージーランドで実施されたLIPID試験は、冠動脈心疾患の既往歴を有し、総コレステロール値が4.0~7.0mmol/L(≒154.8~270.9mg/dL)の9,014人を対象にプラバスタチン40mg/日とプラセボの有用性を比較する無作為化試験。今回の解析の主要評価項目は、コレステロール値のモニタリングによる服薬不履行検出の感度、特異度、受信者動作特性(ROC)曲線下面積(AUC)、検査後確率であった。あくまで補助データとして考慮すべきコレステロール値のモニタリングにより、完全服薬不履行がある程度は検出可能であった。治療開始1年の時点で、完全服薬不履行者の50%(1,957/3,937人)、服薬遵守者の6%(253/3,944人)においてLDLコレステロール値が上昇しており、中等度の正確度が得られた(AUC:0.89)。一方、部分的服薬不履行の検出能は低かった。治療1年後にLDLコレステロール値の上昇がみられたのは、部分的服薬不履行者の16%(34/213人)、服薬遵守者では4%(155/3,585人)にすぎず、正確度は劣っていた(AUC:0.65)。服薬不履行の典型的な検査前確率が低(25%)~高(75%)の範囲であったのに対し、脂質測定後の検査後確率については不確定性が持続することが示された。すなわち、LDLコレステロール値に変化がみられない場合、完全服薬不履行者の検査後確率は67~95%で、部分的服薬不履行者では48~89%であった。LDLコレステロール値が1.0mmol/L(≒38.7mg/dL)低下した場合は、完全服薬不履行者の検査後確率は7~40%、部分的服薬不履行者では21~71%であった。著者は、「LDLコレステロール値(あるいは総コレステロール値)のモニタリングは、プラバスタチン治療における完全服薬不履行あるいは服薬中止の検出に中等度の有効性を示したが、部分的服薬不履行の検出能は劣っていた」と結論し、「モニタリングの結果は、患者の服薬遵守状況を慎重に検討する際の補助データとしてのみ考慮すべきであろう」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

536.

心血管疾患の生涯リスクを予測する新たなQRISKモデル

新たに開発されたQRISKの心血管疾患に関する生涯リスクスコア(http://www.qrisk.org/lifetime/)は、従来のQRISKモデルの10年リスクスコアでは確認し得ない、より若い年齢層における高リスク例の同定を可能にすることが、イギリス・Nottingham大学プライマリ・ケア科のJulia Hippisley-Cox氏らの検討で示された。QRISK2などのリスク予測アルゴリズムは、通常、心血管疾患の10年絶対リスク≧20%の場合に高リスク例と判定しているが、この20%という閾値では、若年者のうち10年絶対リスクは低いものの相対的に高リスクな例を見逃す懸念がある。生涯リスクによる予測は、特に若年例についてより多くの情報をもたらし、マネジメントの決定やライフスタイルの改善に役立つ可能性があるという。BMJ誌2011年1月8日号(オンライン版2010年12月9日号)掲載の報告。ルーチンのプライマリ・ケア・データを用いた前向きコホート試験研究グループは、心血管疾患の生涯リスクを予測する新たなQRISKモデルを開発し、その妥当性を検証、評価するためのプロスペクティブなコホート試験を実施した。解析には、イングランドとウェールズの一般医(GP)563名からルーチンに登録されたQResearchデータベースのプライマリ・ケア・データを用いた。対象は、1994年1月1日~2010年4月30日までに登録された30~84歳の患者で、心血管疾患の既往歴がなく、スタチンの処方歴がない例とした(導出コホート:234万3,759例、検証コホート:126万7,159例 )。生涯リスクの推算に用いた因子は、喫煙状況、人種、収縮期血圧、総コレステロール/HDLコレステロール比、BMI、冠動脈心疾患の家族歴(60歳未満で発症した一親等内の親族の有無)、Townsend貧困スコア、治療中の高血圧、関節リウマチ、慢性腎疾患、2型糖尿病、心房細動であった。生涯リスクに基づく介入が有益か否かは、さらなる検討を要する検証コホート126万7,159例のデータセットの解析では、生涯リスクが50パーセンタイルの場合の心血管疾患の生涯リスクは31%であり、75パーセンタイルの場合は39%、90パーセンタイルでは50%、95パーセンタイルでは57%であった。検証コホートにおいて生涯リスクモデルあるいは10年リスクモデルのいずれかでリスクが最上位の10%に相当すると判定された例のうち、双方のモデルのどちらもが高リスクと判定した例は14.5%(1万8,385例)にすぎなかった。10年リスクモデルで高リスクと判定された例に比べ、生涯リスクモデルで高リスクと判定された患者は、より若く、少数民族に属する例が多く、冠動脈心疾患の家族歴を有する傾向が強かった。著者は、「新たなQRISKの生涯リスクスコアを用いれば、QRISKモデルの10年リスクスコアでは確認し得ない、より若い年齢層における高リスク例の同定が可能になる」と結論する一方で、「より若い年代でのライフスタイルへの介入は有益な可能性があるが、65歳未満ではその恩恵は小さく、薬物による介入には薬物そのもののリスクが伴う。今後、生涯リスクスコアに基づく介入の費用効果や、このアプローチが許容可能か否かにつき、詳細な検討を行う必要がある」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

537.

スタチンの肝機能異常の改善効果が明らかに:GREACE試験事後解析

スタチン治療は、軽度~中等度の肝機能異常患者に対して安全に施行可能で、検査値を改善し心血管疾患罹患率を低下させることが、ギリシャのテッサロニキ・アリストテレス大学Hippokration病院のVasilios G Athyros氏らによるGREACE試験の事後解析で明らかとなった。非アルコール性脂肪肝によると考えられる肝機能異常は、欧米人や日本人の約33%にみられると推定され、スタチンはこのような患者の肝機能や心血管イベントの改善に有効な可能性が示唆されている。Lancet誌2010年12月4日号(オンライン版2010年11月24日号)掲載の報告。スタチン治療例と非治療例で初回再発リスクの低下効果を評価研究グループは、肝機能検査異常患者に対するスタチン治療の安全性と有効性の評価を目的に、Greek Atorvastatin and Coronary Heart Disease Evaluation(GREACE)試験の事後解析を行った。GREACE試験は、75歳未満、LDLコレステロール>2.6mmol/L、トリグリセリド<4.5mmol/Lの冠動脈心疾患患者1,600例を対象に、テッサロニキ・アリストテレス大学ヒポクラテス病院で実施されたスタチン治療と通常治療(スタチンを含む場合あり)を比較するプロスペクティブな無作為化試験であった。今回の事後解析の主要評価項目は、肝機能異常患者のうちスタチン治療を受けなかった症例に対する、中等度の肝機能異常(血清ALT値、AST値が正常上限値の3倍未満までと定義)を有し、スタチン治療を受けた患者の初回再発心血管イベントのリスク低下効果とした。このリスク低下は、スタチン治療例と非治療例における肝機能正常例の割合で評価した。スタチン治療により心血管イベントの相対リスクが68%低下ベースラインにおいて非アルコール性脂肪肝によると考えられる中等度の肝機能異常を呈した患者437例のうち、スタチン治療(主にアトルバスタチン〈商品名:リピトール〉24mg/日)を受けた群(227例)は検査値が改善した(p<0.0001)のに対し、スタチン治療を受けなかった群(210例)はALT値/AST値がさらに上昇した。心血管イベントは、スタチン治療群の10%(22/227例)で発生(3.2イベント/100人・年)したのに対し、非スタチン治療群では30%(63/210例)に認められ(10.0イベント/100人・年)、スタチン治療による相対リスク低下率は68%であった(p<0.0001)。この肝機能異常患者における心血管疾患に関するベネフィットは、肝機能が正常な患者に比べて大きかった(p=0.0074)。肝機能正常者の心血管イベント発生率は、スタチン治療群14%(90/653例、4.6イベント/100人・年)に対し、非スタチン治療群23%(117/510例、7.6イベント/100人・年)、相対リスク低下率は39%であった(p<0.0001)。スタチン治療群(880例)のうち、肝臓関連の有害事象で治療を中止したのは7例(<1%)であった。著者は、「非アルコール性脂肪肝によると考えられる軽度~中等度の肝機能異常患者に対するスタチン治療は安全に施行可能であり、検査値を改善し心血管疾患罹患率を低下させる」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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心筋梗塞既往例に対する強化LDL-C低下療法の有効性と安全性:約1万2,000例の解析

心筋梗塞の既往歴を有する患者に対する高用量スタチンによる強化LDLコレステロール(LDL-C)低下療法は、通常用量に比べLDL-Cを低下させ、重篤な血管イベントも抑制することが、Study of the Effectiveness of Additional Reductions in Cholesterol and Homocysteine (SEARCH)共同研究グループが行った無作為化試験で示された。スタチン療法の大規模な無作為化対照比較試験では、LDL-C値が平均未満の患者でもLDL-C低下療法による閉塞性血管イベントのリスク低下がみられ、リスクの低下度はLDL-C低下の程度と相関することが示されている。この知見から、LDL-C低下療法をより強化すれば、さらに大きなベネフィットがもたらされることが示唆されていた。Lancet誌2010年11月13日号(オンライン版2010年11月9日号)掲載の報告。心筋梗塞既往例約1万2,000例で、スタチン高用量群と通常用量群を比較SEARCH共同研究グループは、心血管リスクが高い患者における強化スタチン療法の有効性と安全性の確立を目的に、二重盲検無作為化試験を実施した。対象は、心筋梗塞の既往歴のある18~80歳の患者1万2,064例で、スタチン療法を受けているか、その適応が明らかである症例であった。すでにスタチン療法を受けている場合は総コレステロール値が少なくとも3.5mmol/Lとなるように、受けていない場合は4.5mmol/Lとなるよう治療が行われた。患者は、シンバスタチン(商品名:リポバスなど)80mg/日あるいは20mg/日を投与する群に無作為に割り付けられ、フォローアップ期間が終了するまで2、4、8、12ヵ月後、その後は6ヵ月ごとに検査が行われた。主要評価項目は、重篤な血管イベント(冠動脈死、心筋梗塞、脳卒中、動脈血行再建術)とし、intention-to-treat解析を行った。ミオパチーが増加したものの、安全に施行可能高用量(80mg/日)群に6,031例が、通常用量(20mg/日)群には6,033例が割り付けられた。平均フォローアップ期間6.7(SD 1.5)年の間に、通常用量群に比べ高用量群でLDL-C値が平均0.35(SE 0.01)mmol/L低下した。重篤な血管イベントの発現率は、高用量群が24.5%(1,477/6,031例)、通常用量群は25.7%(1,553/6,033例)と、高用量群で6%低下したが有意な差は認めなかった(リスク比:0.94、95%信頼区間:0.88~1.01、p=0.10)。出血性脳卒中(高用量群 vs, 通常用量群:0.4% vs. 0.4%)、血管死(9.4% vs. 9.5%)、非血管死(6.6% vs. 6.6%)の発現率には明らかな差を認めなかった。ミオパチーは、通常用量群では2例(0.03%)にみられたのに対し、高用量群では53例(0.9%)で発現した。著者は、「通常用量群に比べ高用量群でLDL-Cが0.35mmol/L低下し、重篤な血管イベントが6%抑制されたが、これは既報の知見と一致する。ミオパチーが増加したものの、強化LDL-C低下療法は他の薬物療法と安全に併用可能と考えられる」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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強化LDL-C低下療法の心血管イベント抑制効果:約17万例のメタ解析

スタチンによる強化LDLコレステロール(LDL-C)低下療法は安全に施行可能で、1.0mmol/L(38.7mg/dL)低下で重篤な血管イベントの年間発生率を5分の1以下にまで抑制することが、Cholesterol Treatment Trialists’(CTT)共同研究グループによるメタ解析で明らかとなった。標準的スタチン療法によるLDL-C低下療法は、広範な心血管疾患において閉塞性血管イベントのリスクを低減することが示されている。また、観察研究ではコレステロール値が低いほど冠動脈疾患のリスクが低下することも示されており、LDL-Cをさらに低下させることで、より大きなリスクの低下が得られる可能性が示唆されていた。Lancet誌2010年11月13日号(オンライン版11月9日号)掲載の報告。26試験を対象に強化スタチン療法の平均リスク低下率を評価CTT共同研究グループは、スタチンを用いた強化LDL-C低下療法の安全性および有効性を評価する目的で、26の無作為化試験に参加した約17万例の個々のデータに基づくメタ解析を行った。解析の対象は、参加者1,000例以上、治療期間2年以上の無作為化試験で、高用量と低用量の強化スタチン群を比較した試験(5試験、3万9,612例、フォローアップ期間中央値5.1年)および標準的スタチン群と対照群とを比較した試験(21試験、12万9,526例、フォローアップ期間中央値4.8年)であった。それぞれのタイプの試験群ごとに、1年後における平均リスク低下率とともにLDL-Cの1.0mmol/L(38.7mg/dL)低下による平均リスク低下率を算出した。LDL-Cの閾値はなく、低下させるほど予後が良好な可能性2種類の用量の強化スタチン療法の比較試験では、1年後のLDL-C値は、高用量群が低用量群に比べ0.51mmol/L低下していた。低用量強化スタチン群に比べ、高用量強化スタチン群では重篤な血管イベントのリスクが15%低下し、有意な差が認められた(95%信頼区間:11~18%、p<0.0001)。なかでも、冠動脈死/非致死的心筋梗塞のリスクが13%(同:7~19%、p<0.0001)、冠動脈血行再建術のリスクは19%(同:15~24%、p<0.0001)、虚血性脳卒中リスクは16%(同:5~26%、p=0.005)低下した。2種類の用量の強化スタチン療法の比較試験におけるLDL-C 1.0mmol/L低下によるリスク低下は、標準的スタチンと対照の比較試験の場合と同等であった。二つのタイプの試験を合わせると、LDL-C 1.0mmol/L低下による重篤な血管イベントの低下率はあらゆるタイプの症例で類似しており、低用量強化スタチン群や対照群よりも高用量強化スタチン群や標準的スタチン群で有意に低下していた[発生率比(RR):0.78、95%信頼区間:0.76~0.80、p<0.0001]。全26試験を合わせると、低用量強化スタチン群や対照群に比べ高用量強化スタチン群や標準的スタチン群で、LDL-C 1.0mmol/L低下による全死因死亡率が10%低下し(RR:0.90、95%信頼区間:0.87~0.93、p<0.0001)、特に冠動脈心疾患死(同:0.80、99%信頼区間:0.74~0.87、p<0.0001)や他の心臓に起因する死亡(同:0.89、同:0.81~0.98、p=0.002)の有意な低下の影響が大きく、脳卒中死(同:0.96、95%信頼区間:0.84~1.09、p=0.5)や他の血管に起因する死亡(同:0.98、99%信頼区間0.81~1.18、p=0.8)の影響は認めなかった。LDL-C低値の場合でも、高用量強化スタチン群や標準的スタチン群と低用量強化スタチン群や対照群の間で、がんや他の非血管系の原因による死亡(RR:0.97、95%信頼区間:0.92~1.03、p=0.3)、発がん率(同:1.00、同:0.96~1.04、p=0.9)には有意な差は認められなかった。著者は、「スタチンによる強化LDL-C低下療法は安全に施行可能で、心臓発作、血行再建術、虚血性脳卒中の発生率のさらなる低減効果をもたらし、1.0mmol/L低下による重篤な血管イベントの年間発生率を5分の1以下にまで抑制する」と結論し、「LDL-Cの閾値のエビデンスはないが、2~3mmol/Lを低下させることで約40~50%のリスク低下が得られる可能性がある」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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HDL-C低値は、心血管疾患の治療ターゲットか?:JUPITER試験サブ解析

HDLコレステロール(HDL-C)値の測定は、初回心血管疾患のリスクの評価には有用だが、HDL-C値はスタチン治療でLDL-Cが著明に低下した患者の残存血管リスクの予測因子ではないことが、アメリカ・ブリガム&ウィメンズ病院のPaul M Ridker氏らが行ったJUPITER試験のサブ解析で明らかとなった。HDL-C値は心血管イベントの発症と逆相関を示す。スタチンは心血管疾患の治療薬として確立されているが、スタチン治療を行ってもなお残存する血管リスクはHDL-C値が低いことである程度説明でき、HDL-Cの不足は治療ターゲットとなる可能性が指摘されている。Lancet誌2010年7月31日号(オンライン版2010年7月22日号)掲載の報告。JUPITER試験のエンドポイントを、HDL-C値の四分位に分けて解析研究グループは、高用量スタチン治療でLDL-C値が著明に低下した患者においても、HDL-C値と心血管イベントの発症とは逆相関の関係を示すかについて解析を行った。JUPITER試験の対象は心血管疾患の既往歴のない非糖尿病の成人で、ベースライン時のLDL-C値<3.37mmol/L、高感度C反応性蛋白(hs-CRP)値≧2mg/Lの者であった。これらの参加者が、ロスバスタチン20mg/日を投与する群あるいはプラセボ群に無作為に割り付けられた。今回の解析では、対象をHDL-C値とアポリポ蛋白A1値の四分位に分けて、JUPITER試験の主要評価項目である非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院、冠動脈血行再建術、心血管死について評価した。ロスバスタチン群では、HDL-C値と血管リスクは関連しない17,802例を対象とした主解析では、エンドポイントの発現率はロスバスタチン群がプラセボ群に比べ44%低下した(p<0.0001)。プラセボ群[8,901例(50%)、治療時のLDL-C中央値2.80mmol/L]では、HDL-C値と血管リスクはベースライン時(四分位の最低値群に対する最高値群のハザード比:0.54、95%信頼区間:0.35~0.83、p=0.0039)および治療時(同:0.55、同:0.35~0.87、p=0.0047)ともに有意な逆相関を示した。これに対し、ロスバスタチン群[8,900例(50%)、治療時のLDL-C中央値1.42mmol/L]では、HDL-C値と血管リスクはベースライン時(四分位の最低値群に対する最高値群のハザード比:1.12、95%信頼区間:0.62~2.03、p=0.82)および治療時(同:1.03、同:0.57~1.87、p=0.97)ともに有意な関連はなかった。アポリポ蛋白A1値は、プラセボ群ではエンドポイントの発現率と強い相関を示したのに対し、ロスバスタチン群では関連はほとんど認めなかった。著者は、「HDL-C値の測定は初回心血管疾患のリスクの評価には有用であるが、HDL-C値はスタチン治療でLDL-Cが著明に低下した患者の残存血管リスクの予測因子ではない」と結論したうえで、「現在までのところ、この仮説を支持する有望なデータはないが、コレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害薬などには可能性が残っているため、無作為化試験で検証する必要があるだろう」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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