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ヘテロ型家族性高Chol血症、PCSK9阻害薬追加で改善/Lancet

 ヘテロ型家族性高コレステロール血症(FH)の治療において、PCSK9阻害薬エボロクマブ(AMG 145)の追加により、LDLコレステロール(LDL-C)が迅速かつ大幅に低減することが、南アフリカ共和国・Witwatersrand大学のFrederick J Raal氏らが行ったRUTHERFORD-2試験で示された。本症はLDL-Cの代謝に関与する主要蛋白をコードする遺伝子の変異に起因し、細胞内へのLDL-C取り込み低下、血漿LDL-C濃度上昇、若年性心血管疾患の発症を特徴とする。強化スタチン治療、エゼチミブ併用の有無にかかわらず、多くの患者がLDL-Cの推奨目標値に到達しないという。エボロクマブを含むPCSK9阻害薬の第I/II相試験では、既存のコレステロール低下薬との併用でさらに55~60%の低下効果が確認されていた。Lancet誌オンライン版2014年10月2日号掲載の報告。2種類の用量を4群の無作為化試験で評価 RUTHERFORD-2試験は、ヘテロ型FH患者に対するエボロクマブ治療のLDL-C低下効果を検討する二重盲検プラセボ対照無作為化試験。対象は、年齢18~80歳、Simon Broome基準で本症と診断され、4週以上のスタチン継続投与を受け、空腹時LDL-Cが2.6mmol/L(100mg/dL)以上の患者であった。エゼチミブ、レジン、スタノール、ナイアシンの併用が許容された。 被験者は、エボロクマブ140mgを2週ごとに皮下投与する群、同420mgを1ヵ月ごとに皮下投与する群、プラセボを2週ごとおよび1ヵ月ごとに皮下投与する群に、2対2対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 投与頻度が同じ治療群内(2つの2週投与群、2つの1ヵ月投与群)では、患者、試験関係者、担当医、試験資金を拠出したアムジェン社の担当者には治療割り付け情報がマスクされた。主要評価項目は、LDL-Cのベースラインから12週までの変化率および10週と12週における平均値の変化率の複合エンドポイントとした。 2013年2月7日~12月19日までに、オーストラリア、アジア、ヨーロッパ、ニュージーランド、北米、南アフリカの39施設から331例が登録され、エボロクマブ140mg/2週群に111例、プラセボ/2週群に55例、420mg/月群に110例、プラセボ/月群には55例が割り付けられた。治療開始前に脱落した2例(2週投与群の1例ずつ)を除く329例が解析の対象となった。1.8mmol/L(70mg/dL)未満を達成した患者が60%以上に ベースラインの全体の平均年齢は51歳、女性が42%、白人が89%で、冠動脈疾患患者が31%含まれ、LDL-Cの平均値は4.0mmol/L(154mg/dL)であった。全例がスタチン治療を受け、そのうち強化スタチン治療が87%で実施され、エゼチミブの併用は62%で行われていた。 エボロクマブの両用量群ともに、12週時のLDL-Cがプラセボ群に比べ有意に低下した(2週投与群が59.2%の低下、1ヵ月投与群は61.3%の低下、いずれもp<0.0001)。10週と12週時のLDL-Cの平均値にも、同様の有意な改善効果が認められた(それぞれ60.2%、65.6%の低下、いずれもp<0.0001)。 2つの用量のエボロクマブ群はいずれも忍容性が良好で、有害事象の発現率はプラセボ群と同等であった。プラセボ群よりもエボロクマブ群で頻度の高い有害事象のうち、最も高頻度にみられたのは鼻咽頭炎(9%[19例]vs. 5%[5例])であり、次いで筋肉関連有害事象(5%[10例]vs. 1%[1例])であった。 著者は、「エボロクマブの低用量2週投与、高用量1ヵ月投与は、ともに良好な忍容性を示し、いずれも3ヵ月でプラセボに比べLDLコレステロールの約60%の低下をもたらした。また、低用量群の68%、高用量群の63%が1.8mmol/L(70mg/dL)未満を達成した」とまとめ、「これは、治療によってLDLコレステロールが健常者と同程度にまで改善したことを意味する。エボロクマブの効果は、本症の遺伝子変異とは関連しないことが示唆される」と指摘している。

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HARP-2試験:期待されていたスタチン、空振り(解説:倉原 優 氏)-262

スタチンがARDSの発症リスクを下げるのではないかと唱える研究者も少なからずいる。そのため、現在も世界各国でスタチンの研究が行われている。 スタチンが持つ抗炎症作用が注目され、数年前からあらゆる疾患においてトピックになった1)。 たとえば、私は呼吸器内科医でありCOPDを多数診療するが、COPD急性増悪の予防にも有効ではないかと考える医師も多かった。私が記憶する限りは、COPDの世界では5~6年前からスタチンが取り上げられる機会が増えてきた2)。分野を問わず、ビタミンDとスタチンの論文をやたら目にするようになったのだ。しかしながら、スタチンにはCOPD急性増悪を予防するパワーがないことがその後判明した3)。 そして、同時期に報告されたARDSに対するロスバスタチンのSAILS試験。この試験の結果も同様で、ロスバスタチンは敗血症に関連したARDSの予後を改善しなかった4)。 これらのNew England Journal of Medicine の臨床試験は、スタチンの抗炎症作用がCOPDやARDSに効く可能性があるとした複数の試験の結果をしっかりと検証することが目的だった。そのため、New England Journal of Medicineは論説の中で、世間で取り沙汰されているトピックが本当に正しいかどうか確認するために必要な試験だったと述べている5)。 今回のHARP-2試験も大方の予想通りの結果で、シンバスタチンは臨床アウトカムの改善をもたらさないことが明らかになった。ゆえに、現時点ではARDSに対するスタチンのルーチンの投与には臨床的な利益はないと考えられる。これでARDSに対するスタチンの過熱もいったんは収束するだろうか。

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ホモ型家族性高Chol血症、PCSK9阻害薬で改善/Lancet

 新規開発中のコレステロール低下薬エボロクマブ(AMG 145)について、ホモ接合型家族性高コレステロール血症でスタチン療法などの継続的な脂質低下療法を受けている患者に投与することで、LDLコレステロール(LDL-C)値が約3割低下することが示された。南アフリカ共和国・Witwatersrand大学のFrederick J Raal氏らが第III相無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果、報告した。エボロクマブは、LDL-Cの能力を低下する前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を阻害する。Lancet誌オンライン版2014年10月2日号掲載の報告。エボロクマブを4週間ごと12週投与 試験は、北米、欧州、中東、南アフリカの10ヵ国17ヵ所の医療機関を通じて行われ、12歳以上のホモ接合型家族性高コレステロール血症の患者を対象とした。被験者は、スタチン療法(全患者が受けていた)などの脂質低下療法を4週間以上受けており、LDL吸着療法を受けていた患者は登録時に除外された。 被験者を無作為に2対1の割合で2群に分け、エボロクマブ 420mgまたはプラセボを、それぞれ4週間ごと12週にわたり皮下注で投与した。無作為化は、LDL-C値11mmol/L未満または以上で分類して行った。 主要エンドポイントは、12週時点におけるLDL-C値のベースラインからの変化だった。12週時点のLDL-C、エボロクマブ群でプラセボ群より30.9%減少 試験適格患者は50例、そのうち49例が試験を終了した(そのうちエボロクマブ群は33例)。 12週間時点のエボロクマブ群のLDL-C値は、プラセボ群に比べ30.9%減少した(95%信頼区間:-43.9~-18.0%、p<0.0001)。 治療下で発生した有害事象は、プラセボ群10例(63%)、エボロクマブ群12例(36%)だった。また、重大有害事象の発生や抗エボロクマブ抗体の発現は認められなかった。

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急性呼吸促迫症候群へのスタチンの効果/NEJM

 急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療において、シンバスタチンは臨床転帰の改善をもたらさないことが、英国・クイーンズ大学ベルファストのDaniel F McAuley氏らIrish Critical Care Trials Groupが行ったHARP-2試験で示された。ARDSでは、肺胞障害を引き起こすコントロール不良な炎症性反応が認められ、豊富なタンパク質を含む肺浮腫液の肺胞腔内への滲出により呼吸不全を来す。スタチンは、HMG-CoA還元酵素を阻害することで、ARDSの発症に関与する複数の機序を修飾することが示され、動物実験やin vitro試験、さらにヒトの第II相試験においてARDSの治療に有効である可能性が示唆されている。NEJM誌2014年9月30日号掲載の報告。人工呼吸器非装着日数をプラセボ対照無作為化試験で評価 HARP-2試験は、シンバスタチンはその病因によらずARDS患者の臨床転帰を改善するとの仮説の検証を目的とする、多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験。対象は、気管挿管および人工呼吸器が装着された発症後48時間以内のARDS患者であった。 被験者は、シンバスタチン80mg/日(経腸投与)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、最長28日の治療が行われた。主要評価項目は第28日までの人工呼吸器非装着日数、副次評価項目は第28日までの肺を除く臓器不全のない日数、死亡、安全性であった。 2010年12月21日~2014年3月13日までに、英国およびアイルランドの40施設のICUから540例が登録された。シンバスタチン群に259例、プラセボ群には281例が割り付けられ、それぞれ258例、279例が解析の対象となった。人工呼吸器非装着日数:12.6 vs. 11.5日 シンバスタチン群は、平均年齢53.2歳、男性52.9%で、ARDSの原因は肺炎62.2%、敗血症40.9%であり、プラセボ群はそれぞれ54.4歳、60.7%、55.0%、42.1%であった。動脈酸素分圧(PaO2)/吸入酸素濃度(FiO2)比(123.0 vs. 132.4mmHg、p=0.049)を除き、背景因子は両群間でバランスがとれていた。 人工呼吸器の平均非装着日数はシンバスタチン群が12.6日、プラセボ群は11.5日(p=0.21)であり、両群で同等であった。また、無臓器不全日数はそれぞれ19.4日、17.8日(p=0.11)、28日死亡率は22.0%、26.8%(p=0.23)であり、いずれも両群間に差を認めなかった。 有害事象の多くがクレアチンキナーゼ値や肝アミノトランスフェラーゼ値の上昇であった。治療関連有害事象の発現率はプラセボ群よりもシンバスタチン群で高かったが、重篤な有害事象(死亡などの試験の転帰を除く)の発現状況は両群で同等であった。 著者は、「シンバスタチンによる有害事象は最小限であったが、臨床転帰は改善されなかった」とまとめ、「敗血症関連ARDSに対するロスバスタチンの有用性を検討したSAILS試験でも、臨床転帰の改善は得られなかったことから、病因にかかわらずARDSに対するスタチンのルーチン投与にはほとんど意義はないと考えられる」と指摘している。

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喫煙が低EPA/AA比と関連:日本の2型糖尿病患者

 喫煙は、50歳以上の日本人2型糖尿病患者において、EPA/AA比(エイコサペンタエン酸/アラキドン酸比)に影響を与える可能性があることが、自治医科大学の岡田 健太氏らによる研究で明らかになった。2型糖尿病患者に禁煙を促すことが、心血管疾患発症の抑制につながるかもしれない。Diabetology & metabolic syndrome誌2014年8月13日号の報告。 低EPA/AA比は、心血管疾患のリスク因子であると考えられている。また、喫煙は、高齢者においてもなお心血管疾患のリスク因子となる。そのため、本研究では、高齢の2型糖尿病患者において、EPA/AA比と喫煙状況との関連を調査した。 対象は、EPAやAAを含有する薬物治療を行っていない50歳以上の2型糖尿病188例(男性114例、女性74例/ 平均65.0±7.5歳)。喫煙状況、糖尿病の状態、EPAおよびAAを含む血液データの観点から検討した。 主な結果は以下のとおり。・喫煙者は49例(男性43例、女性6例/ 平均62.4±7.3歳)、非喫煙者は139例(男性71例、女性68例/平均65.9±7.4歳)であった。・喫煙者は、高血圧、神経障害、HbA1c高値、HDLコレステロール低値の割合が、非喫煙者と比較して有意に高かった。・AA値、DHA値、EPA値は、喫煙者と非喫煙者で有意差は認められなかった。・喫煙者は非喫煙者と比較して、EPA/AA比が有意に低かった(平均0.29 vs 0.39、p<0.01)。この関連は多変数(年齢、性別、BMI、高血圧、HbA1c値、インスリン療法、合併症、脂質、スタチン治療)で調整後も有意なままであった。

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スタチンと糖尿病リスク増大の関連判明/Lancet

 スタチンによる2型糖尿病リスクの増大について、同薬による3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA還元酵素(HMGCR)阻害の関与が明らかにされた。英国・ロンドン大学のDaniel I Swerdlow氏らが、遺伝子解析と無作為化試験のデータを分析した結果、無作為化試験のスタチン治療とHMGCR遺伝子におけるSNPについていずれも、体重増加および2型糖尿病の高リスクとの関連が確認された。著者は、「体重増加は、2型糖尿病の最も強いリスク因子であるインスリン抵抗性と関連する。そのことがスタチン治療患者における2型糖尿病の高リスクを、部分的であるが説明するものとなるかもしれない」とまとめている。Lancet誌オンライン版2014年9月24日号掲載の報告より。遺伝子解析試験と無作為化試験のデータを分析 検討は、スタチンによるHMGCR阻害の指標として、HMGCR遺伝子のSNPである、rs17238484(主要解析の対象)とrs12916(サブ解析対象)を調べて行われた。これらの変異型と脂質値、血糖値、インスリン濃度との関連、また体重、腹囲、さらに2型糖尿病の有病率と発生率を調べた。 試験特異的な影響については、それぞれのLDL低下アレルのコピー値を算出し、メタ解析によってプールして検討した。同所見について、2型糖尿病新規発症のメタ解析結果と、スタチン薬の無作為化試験からの体重変化データの結果とを比較した。各無作為化試験のスタチンの影響は、メタ解析で評価した。スタチンの作用と、体重増、2型糖尿病リスク増を示す関連が明らかに 遺伝子解析試験からは、43試験22万3,464例分のデータを入手した。 rs17238484-Gアレルの存在は、LDLコレステロール値の低下(平均0.06mmol/L)、より高値の体重(同:0.30kg)、腹囲(同:0.32cm)、インスリン濃度(1.62%)、血糖値(0.23%)と関連していた。 同様に、rs12916 SNPも、LDLコレステロール値、体重、腹囲への影響が認められた。 また、rs17238484-Gアレルは、2型糖尿病の高リスクとの関連も認められた(オッズ比[OR]/アレル:1.02、95%信頼区間[CI]:1.00~1.05)。rs12916-Tアレルでも同関連が認められた(同:1.06、1.03~1.09)。 無作為化試験試験からは12万9,170例分のデータを入手した。 結果、スタチン治療と、追跡期間1年時点でのLDLコレステロール値0.92mmol/Lの低下、および追跡期間平均4.2年時点で体重0.24kgの増加との関連(全試験対象の分析において)が認められた(体重増は、プラセボvs. 標準ケア対照試験では0.33kg、強化療法vs. 通常用量試験では-0.15kg)。また、2型糖尿病新規発症のオッズ比増大も認められた(全試験OR:1.12、プラセボvs. 標準ケア対照試験では同:1.11、強化療法vs. 通常用量試験では同:1.12)。

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Vol. 2 No. 4 オメガ3系多価不飽和脂肪酸製剤の臨床応用 そのエビデンスと各種ガイドラインにおける位置づけ

田中 知明 氏千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学 千葉大学医学部附属病院糖尿病・内分泌代謝内科はじめにグリーンランドや千葉県下でのエイコサペンタエン酸(EPA)の有効性を明らかにした疫学調査をきっかけに、わが国では魚油をエチルエステル化した高純度EPA製剤が開発され、1990年には「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛および冷感の改善」、1994年には「高脂血症」に対する医療用医薬品として臨床の現場に登場した。さらに、欧州、米国などで「高トリグリセライド血症」の効能・効果を有する医薬品として承認されていた高濃度オメガ3製剤(主成分としてEPA・DHAを含有)も2013年に国内で承認され、日常臨床に広く普及しつつある。これらオメガ3製剤の臨床応用におけるエビデンスとしては、高純度EPA製剤の冠動脈疾患に対する発症予防効果を検証した日本人対象の大規模臨床試験JELIS1)に加えて、Circulation、Lancetに報告されたイタリアのGISSI-Prevenzione Trial、GISSI-HF Trialなど、多くのエビデンスが蓄積されている。そこで、本稿ではオメガ3系多価不飽和脂肪酸製剤の臨床応用の骨格となる重要な大規模臨床試験とそのメタ解析におけるエビデンスを解説し、EPA製剤の各種ガイドラインにおける位置づけについて概説する。EPA製剤が推奨される各種ガイドライン本邦においてEPAに関してその臨床的有用性が明記されている各ガイドラインについて、表にまとめる。これまでの大規模臨床試験のエビデンス基づき、現在では『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』、『循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)』、『心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版)』、『脳卒中治療ガイドライン2009』の4種類のガイドラインに医療医薬品としての有用性が推奨グレードとともに記載されている。以下に具体的内容とエビデンスグレードを記す。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』の第7章「治療法 B 薬物療法におけるステートメント」として、「高リスクの高LDL-C(low density lipoprotein cholesterol)血症においては、スタチン投与に加えてEPAの投与を考慮する」とされている。推奨レベルIIa、エビデンスレベルAである。『循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)』の「Ⅲ. 各疾患における抗凝固・抗血小板療法 11 心血管疾患高リスク症例の一次予防」においては、「高リスクの脂質異常症におけるエイコサペント酸エチル投与の考慮」が記載され、クラス1のエビデンスレベルとして推奨されている。『心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版)』における「II. 薬物療法 3 脂質異常症改善薬」の項目では、「2. 高LDLコレステロール血症にはスタチンに加え高純度EPA製剤も考慮する」と記載され、エビデンスグレードはBである。『脳卒中治療ガイドライン2009』における「Ⅱ. 脳梗塞・TIA 4-1. 脳梗塞再発予防 (3)脂質異常症」の項目の中で、「3. 低用量スタチン系薬剤で脂質異常症を治療中の患者において、EPA製剤の併用が脳卒中再発予防に有用である」と記載されている。エビデンスグレードはBである。高濃度オメガ3製剤(EPA+DHA)に関しては、欧州(ノルウェー)では1994年に、アメリカでは2004年に使用されるようになっていたが、日本では2013年から使われるようになった。したがって、国内では高純度EPA製剤が主流であった過去の経緯から、各ガイドラインにおける記載は高純度EPA製剤のみなのが現状である。海外ガイドラインにおけるオメガ3系脂肪酸の臨床的位置づけとして、欧州・米国ではEPA・DHA製剤が中心であり、脂質異常症の管理および心不全の治療ガイドラインにおいて推奨されている(推奨レベルIIb、エビデンスレベルB)。今後、本邦においてもエビデンスのさらなる蓄積とガイドラインにおける位置づけが新たに追加されることが期待される。表 各種ガイドラインにおける脂質異常症治療薬の記載画像を拡大するJELISの概要と1次予防・2次予防サブ解析JELISは、日本人を対象に実臨床に近い条件の下で実施された前向き大規模臨床試験であり、各ガイドライン記載の根拠となる重要なエビデンスである1)。JELISは、日本人の脂質異常症患者(総コレステロール250mg/dl以上)において40~75歳の男性と、閉経後~75歳の女性18,645人(冠動脈疾患の1次予防14,981例、2次予防3,664例)を対象としている。プラバスタチン10mg/日またはシンバスタチン5mg/日を基本として、1.8gの高純度EPA製剤の投与群と非投与群を無作為に割り付けて、5年間の追跡調査し、主要冠動脈イベント(致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、心臓突然死、心血管再建術、新規狭心症の発症、不安定狭心症)について検討を行った試験である。その結果、主要冠動脈イベントを19%低下させ、EPA投与群では対象群に比べ虚血性心疾患の発症リスク比(95% CI)が0.81(0.68-0.96)であり、非致死性では0.81(0.68-0.96)と有意であった(本誌p.23図を参照)。興味深いことに、血清脂質変化を検討すると、EPA群と対象群においてLDLコレステロールの変化率に有意差を認めなかった。このことから、高純度EPA製剤の心血管イベント抑制効果は、LDLコレステロール値以外による機序が大きいと考えられている。<JELIS 1次予防サブ解析>冠動脈疾患の既往がない1次予防サブ解析(14,981例)では、主要冠動脈イベントの発生はEPA投与群で18%減少するものの、有意差を認めなかった。肥満・高TG (triglyceride)血症・低HDL(high density lipoprotein)血症・糖尿病・高血圧を、冠動脈イベントリスク因子としてそれらの重積と冠動脈イベント発生を検討した結果、対照群/EPA群の両者において発症率の上昇を認め、EPA群で抑制している傾向が見られた2)。また、登録時のTG値とHDL値の組み合わせで4群に分けて、冠動脈イベント発症リスクを比較検討した結果、高TG/低HDL-C血症群ではTG/HDL-C正常群に比較して、冠動脈イベント発生リスクはEPA投与群で53%もの低下を示し、高リスク群での抗動脈硬化作用による心血管イベントの発症抑制が期待されている1, 2)。<JELIS 2次予防サブ解析>冠動脈疾患の既往がある患者(3,664例)の2次予防サブ解析では、EPA投与群で23%のイベント発症抑制効果を認めた3)。インターベンション施行症例や心筋梗塞既往症例においても、EPA投与群でそれぞれ35%、27%のイベント発症の抑制を認めた3)。これらの結果は、高純度EPA製剤の投与はインターベンション施行例や心筋梗塞既往例の2次予防薬としての有用性を示している。血漿EPAとアラキドン酸(AA)の比の変化を観察すると、試験開始時に両群共にEPA/AA比は0.6であったのに対して、EPA投与群では1年後に1.3まで上昇していた3)。試験終了時のEPA/AA比と冠動脈イベント再発の関連性を解析した結果、EPA/AA比が高いほど、イベント発生の相対リスクが低下していることが明らかとなった。<JELIS脳卒中サブ解析>JELIS試験においては、2次評価項目として脳卒中(脳血栓、脳塞栓、判別不能の脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳出血、くも膜下出血)の発症が検討された。患者背景として、脳卒中の既往はEPA群で485例(5%)であり、対照群で457例(5%)に認められ、その内訳は閉塞性脳血管障害がそれぞれ74%、75%で、両群間に有意差を認めなかった4)。脳卒中の1次予防に関しては、対照群およびEPA投与群ともに、脳卒中発症頻度が低かったため、両群間に明らかな差を認めなかった。実際、対照群における脳卒中累積発症率が5年間で1.3%ととても低値であったことが大きな要因と考えられている。また、JELIS以外に国内で施行された冠動脈疾患や脳卒中の既往のない高コレステロール患者を対象としたMEGA試験では、プラバスタチンの投与で有意に発症を抑制したことが報告されている。つまり、JELISにおけるスタチン投与の背景がすでに脳卒中発症をかなり予防していたことが推察され、EPAの有用性を否定するものではない結果といえよう。脳卒中既往歴のある2次予防については、EPA投与群において20%の有意な脳卒中発症抑制効果(発症リスク比0.80、95% CI:0.64-0.997)が認められた4)。この脳卒中発症抑制に関しては、number to treat(NNT=疫学の指標の1つで、エンドポイントに到達する患者を1人減らすために何人の患者の治療を必要とするかを表したもの)は27であった。興味深いことに、同時期に欧米で施行されたSPARCL試験5)では、アトルバスタチンの5年間の投与による脳卒中2次予防効果のNNTは46であり、高用量スタチンより優れた結果を示唆するものであった。単純比較はできないが、EPA製剤(スタチン併用)の脳卒中2次予防効果における臨床的有用性を示すと考えられている。登録時のHDL-C値と脳卒中発症の関係を解析した結果、対照群ではHDL-C値が低いことに相関して脳卒中再発率が有意に増加するが、EPA投与群ではHDL-C値と独立して脳卒中再発予防効果を認めた。また臨床的なポイントとして、JELISにおける脳卒中の疾患別検討では、EPA効果がより高い群として脳梗塞、特に脳血栓症の抑制が明らかであった。またEPA服薬良好群では、36%の顕著な再発低下(5年間のNNTは16)を示した6)。EPAの特徴の1つである血小板凝集抑制作用を介したアテローム血栓予防効果が大きな役割を果たしている可能性が高い。GISSI-Prevenzione Trial7)と海外のエビデンスイタリアで行われたGISSI-Prevenzione Trialは、急性心筋梗塞発症後3か月以内の高リスク患者11,324症例を対象とした2次予防試験であり、オメガ3系多価不飽和脂肪酸1g/日のカプセルと抗酸化作用を持つビタミンE 300mg/日を内服する群を、オメガ3系多価不飽和脂肪酸のみ内服する群、ビタミンEのみ内服する群、両方内服する群、両方内服しない群に分けて3.5年間介入し検討を行った試験である7)。その結果、オメガ3系多価不飽和脂肪酸を内服している群は対象群に比べ、全死亡の相対リスク(95% CI)が0.80(0.67-0.94)と低下を認め、特に突然死においては0.55(0.40-0.76)と大きく抑制され、突然死においては治療開始後早期の120日ですでに有意な相対リスクの低下(0.47(0.22-0.99)、p=0.048)が認められた(本誌p.24図を参照)7)。また、心不全患者を対象に行ったGISSI-HF Trialでも、オメガ3系多価不飽和脂肪酸の投与は、有意に心血管イベントの発症を抑制した8)。コホート試験である13試験を用いて、魚摂取・魚食頻度と冠動脈疾患による死亡率との関連について検討した結果(222,364症例のメタ解析)、魚摂取は冠動脈疾患による死亡率を有意に低下させることが明らかとなった9)。さらに、脂質低下療法に関する97ランダム化大規模臨床試験のメタ解析の結果から、スタチンとオメガ3系多価不飽和脂肪酸製剤は、心臓死および総死亡のイベントリスクを低下させることが示された10)。これらのエビデンスから、ハイリスクの脂質異常患者に対してスタチンにEPA製剤を加えることで、さらなる心血管イベント抑制効果が期待できると考えられる。おわりに高純度EPA製剤は、心血管イベントおよび脳血管イベントの1次予防・2次予防戦略を考えるうえで重要な薬剤であることはいうまでもない。大規模臨床試験のエビデンスをベースとした各ガイドラインを見てわかるように、脂質異常症のゴールデンスタンダードであるスタチンに加えて、EPA製剤の併用効果が証明され、臨床的意義づけが確立している。JELISによる日本人のエビデンスに裏づけされた内科的戦略の1つとして、心血管・脳血管イベントのハイリスク症例やスタチン投与による脂質管理下でもイベント発生を抑制できない症例に対して、積極的な使用が推奨される。またEPA・DHA製剤についても、ようやく国内で使用することができるようになった。日本人のエビデンスはまだ十分ではなく、ガイドラインにおける位置づけは現時点では明確ではないが、欧米におけるエビデンスと使用経験から本邦でも十分に期待できるものと思われる。EPA製剤との違いや臨床的使い分けなど、今後のさらなるエビデンスの蓄積が必要であろう。文献1)Yokoyama M et al. Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis. Lancet 2007; 369: 1090-1098.2)Saito Y et al. Effect of EPA on coronary artery disease in hypercholesterolemic patients with multiple risk factors: sub-analysis of primary prevention cases from the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS). Atherosclerosis 2008; 200: 135-140.3)Matsuzaki M et al. Incremental effect of eicosapentaenoic acid on cardiovascular events in statin-treated patients with coronary artery disease. Circ J 2009; 73: 1283-1290.4)Tanaka K et al. Reduction in the recurrence of stroke by eicosapentaenoic acid for hypercholesterolemic patients : subanalysis of the JELIS trial. Stroke 2008; 39: 2052-2058.5)Amarenco P et al. High-dose atrovastatin after stroke or transient ischemic attack. N Engl J Med 2006; 355: 549-559.6)田中耕太郎ほか. 高コレステロール血症患者の脳卒中発症に対するEPAの効果-JELISサブ解析結果. 脳卒中2007; 29: 762-766.7)Marchioli R et al. Early protection against sudden death by n-3 polyunsaturated fatty acids after myocardial infarction: time-course analysis of the results of the Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell'Infarto Miocardico (GISSI)-Prevenzione. Circulation 2002; 105: 1897-1903.8)Gissi HFI et al. Effect of n-3 polyunsaturated fatty acids in patients with chronic heart failure (the GISSI-HF trial): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2008; 372: 1223-1230.9)He K et al. Accumulated evidence on fish oil consumption and coronary heart disease mortality : a meta-analysis of cohort studies. Circulation 2004; 109: 2705-2711.10)Studer M et al. Effect of different antilipidemic agents and diets on mortality : a systematic review. Arch Intern Med 2005; 165: 725-730.

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スタチンと神経障害性疼痛の関係は?

 神経障害性疼痛は体性感覚神経系の障害に起因しているが、最近、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の関与が注目されている。インド・パンジャブ大学のShrutya Bhalla氏らは、スタチンと神経障害性疼痛に関する研究についてレビューを行い、臨床研究と基礎研究で相反する作用が報告されていることを示した。すなわち、興味深いことにスタチンには神経障害性疼痛の誘起と緩和という2つの役割があるという。著者らはその背後にあるメカニズムを説明し、2つの役割を理解するためにはさらなる研究が必要であるとまとめている。Journal of Pain誌オンライン版2014年7月30日号の掲載報告。 スタチンは、HMG-CoA還元酵素を阻害することによりコレステロール生合成における律速段階を阻害する。最近の研究では、スタチンがコレステロール低下作用に加え多面的な効果(pleiotropic action)を有することが示されていた。 研究グループは、神経障害性疼痛に対するスタチンの作用に関する研究をレビューした。 主な所見は以下のとおり。・基礎研究では、スタチンが神経障害の動物モデルにおいて神経障害性疼痛を減弱させることが示唆されている。・そのメカニズムとしては、抗炎症作用、抗酸化作用および神経調節作用などコレステロール非依存性作用が考えられている。・臨床研究では、スタチンの投与によって神経障害性疼痛が引き起こされることが示唆されており、コレステロール低下作用が神経障害性疼痛の誘因となる可能性が考えられた。

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Vol. 2 No. 4 オメガ3系多価不飽和脂肪酸の作用機序 動脈硬化抑制の多面的作用を考える

佐田 政隆 氏徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部はじめにオメガ3系多価不飽和脂肪酸が動脈硬化性疾患の罹病率、死亡率を低下させることは、疫学ならびに前向き臨床研究で明らかとなった。また、オメガ3系多価不飽和脂肪酸がいかにして動脈硬化を予防するかについても、さまざまな研究が行われてきた。本稿では、オメガ3系多価不飽和脂肪酸の多面的な薬理作用に関して、特に動脈硬化予防の観点から概説したい。オメガ3系多価不飽和脂肪酸による心血管イベント抑制オメガ3系多価不飽和脂肪酸が動脈硬化を抑制する機序については、さまざまな研究が行われてきた。急性心筋梗塞の発症原因として、軽度な狭窄しかきたさない動脈硬化病変の破裂やびらんに起因する急性血栓性閉塞が注目されている。破綻した病変では、脂質コアの増大、被膜の菲薄化、平滑筋細胞数の減少、凝固能の亢進、コラーゲン含有量の減少、炎症細胞浸潤、タンパク分解酵素の発現亢進、プラーク内血管新生などが認められる。最近の分子生物学的研究から、オメガ3系脂肪酸が血管内皮細胞、炎症細胞、血小板に対して多面的作用を及ぼし、病変形成とプラークの不安定化を抑制して、プラーク破綻ならびにそれに引き続いて生ずる血栓性閉塞を予防している機序が解明されてきている。オメガ3系多価不飽和脂肪酸による内皮機能の改善オメガ3系多価不飽和脂肪酸の血管内皮機能改善効果は広く知られている。血管内皮細胞は、血管壁の管腔側を覆う一層の細胞群である。かつては単なる血液と血管壁との境界として考えられていたが、その後、多彩な生理的な機能を有することが明らかにされた。その代表的な機能には、抗血栓作用、血管透過性の制御、さらに血管緊張度や内腔径の調節作用がある。血管内皮細胞は、一酸化窒素(NO)をはじめとする血管拡張物質やエンドセリンなどの血管収縮物質を分泌し、血管の恒常性維持に大きな役割を果たす。生活習慣病は、この内皮機能を障害することによって動脈硬化発症の契機になると考えられている。各種の動脈硬化危険因子は、血管機能を障害することが知られている。現在、いろいろな血管機能検査が開発されてきているが、その中でも、血管内皮機能検査は動脈硬化性の早期の変化を検出するのに有用である。冠動脈疾患患者を対象にして、オメガ3系多価不飽和脂肪酸6週間投与の前後に前腕血流を測定した臨床研究が報告されている。オメガ3系多価不飽和脂肪酸の長期投与により前腕血流の増加がみられ、この効果は、L-NMMAを用いて一酸化窒素合成酵素(NOS)を阻害することでキャンセルされた。EPAの長期投与により内皮機能が改善し、NO産生が亢進したと考えられる1)。オメガ3系不飽和脂肪酸が内皮機能を改善する機序に関しては、内皮型NO合成酵素(eNOS)のタンパクレベルならびに活性が増加することが報告されている(本誌p.14図を参照)2)。また、培養内皮細胞を用いた検討では、オメガ3系多価不飽和脂肪酸によってeNOSが細胞膜のカベオラから解離し、細胞質に移行することでCa2+非依存性に活性化され、NO産生を亢進させると報告されている3)。オメガ3系多価不飽和脂肪酸による抗血小板作用プラークが破綻して血栓性閉塞が生ずると急性心筋梗塞が発症する。オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、この血栓形成の足場となる血小板凝集を抑制することにより血栓形成を抑制し、心血管イベントの発生抑制に寄与すると考えられる。Ex vivoにおいて、コラーゲンならびにADPによって誘発される血小板凝集をオメガ3系脂肪酸は抑制する。オメガ3系多価不飽和脂肪酸単独でも血小板凝集能を抑制するが、クロピドグレルなどのチエノピリジン系薬剤に対する上乗せ効果も認められている。注目すべきことには、オメガ3系不飽和脂肪酸は、単独投与ならびにチエノピリジン系薬剤との併用において、出血時間を延長させることがなかったと報告されている。出血の危険性を増加させることなく、血小板凝集を抑制することができることになり、オメガ3系多価不飽和脂肪酸は臨床的に大変有用であると考えられる。オメガ3系多価不飽和脂肪酸による抗血小板作用の機序としては、トロンボキサンA2 (TXA2)の産生抑制が報告されている。血小板内でオメガ6系多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸からTXA2が生成され、血小板内のCa2+濃度が上昇することで凝集することが知られている。アスピリンの抗血小板作用は、TXA2の産生に関与するシクロオキシゲナーゼ(COX)を抑制することによる。オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、アラキドン酸と競合することでTXA2の産生を減少させ、抗血小板機能を発揮すると考えられている。オメガ3系脂肪酸による抗炎症作用オメガ3系多価不飽和脂肪酸が、マクロファージの内皮細胞への接着やローリングを抑制し、抗炎症作用を有することは広く知られている4)。その分子機序としては、VCAM-1、ICAM-1、E-selectinなどの接着因子4)やIL-1、IL-8などのケモカインの発現を低下させることが報告されている。近年、オメガ3系多価不飽和脂肪酸の抗炎症効果の機序としては、いろいろな分子機構が報告されている。オメガ6系多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸は、炎症惹起物質として知られるTXA2や、ロイコトリエンB4(LTB4)などの脂質メディエーターに変換される。一方、オメガ3系多価不飽和脂肪酸からは、TXA2の代わりにTXA3、LTB4の代わりにLTB5が産生される。TXA3やLTB5は、生理活性をほとんど有さないことが報告されている。また、オメガ3系多価不飽和脂肪酸からは、抗血小板作用、血管拡張作用を有するプロスタサイクリン(PGI)2の代わりにPGI3が生成されるが、PGI3はPGI2と同等の生理活性作用を有している(図)。また最近では、脂肪酸代謝物の包括的メタボローム解析から、オメガ3系不飽和脂肪酸由来の、新しい抗炎症性脂質メディエーターも同定されている。オメガ3系不飽和脂肪酸に、チトクロームP450あるいはメチル化されたCOX-2が作用することで生成される18R-HEPEに、5-リポキシゲナーゼが働くとレゾルビンEが生成する5)。レゾルビンEは強力な抗炎症作用を発揮する5)。オメガ3系多価不飽和脂肪酸からは、この他にもレゾルビンDやプロテクチンDなどの抗炎症性の生理活性物質が生成される。これらの物質は急性炎症の収束への関与が示唆されており、オメガ3系不飽和脂肪酸の多彩な動脈硬化抑制作用に関与している可能性が示唆されている。Peroxisome proliferator-activated receptor(PPAR)αは、炎症のさまざまなシグナル伝達との相互作用により炎症反応を調節している核内受容体であるが、EPAは血管内皮細胞やマクロファージのPPARαの発現や活性を強めているという報告がある6)。野生型のマウスでは、EPAが血管内皮においてNF-κBの活性を抑制したが、PPARα欠損マウスではこの現象は認められなかったという7)。さらに最近では、各種脂肪酸が細胞膜表面の受容体のリガンドとして特異的に作用することも報告されている。GPR120では、オメガ3系多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)を含む長鎖脂肪酸がアゴニストとして作用し、腸管細胞からインクレチンの1つであるglucagon-like peptide(GLP)-1の分泌を促すことが報告されている8)。GLP-1は膵臓からグルカゴンの分泌を抑制し、インスリンの分泌を促進して血糖値の上昇を抑制するほか、心血管系などにさまざまな生理作用を持つことで、最近特に注目されている。また、マクロファージや脂肪細胞におけるGPR120の新たな作用が報告され、オメガ3系脂肪酸による抗炎症作用機序の一端が明らかになった9)。マクロファージ細胞株RAW264.7にもGPR120の発現が認められ、GPRアゴニスト(GW9508)、あるいはDHAによる刺激をしたところ、lipopolysaccharide(LPS)依存性の炎症性サイトカイン分泌が有意に抑制された9)。この作用機序として、GPR120に結合するβ-arrestin-2を介するシグナルが、LPS受容体TLR4による炎症性シグナルを阻害することが報告されている。GPR120欠損マウスの腹腔内脂肪組織から単離した間質性血管分画では、野生型と比較して、オメガ3系多価不飽和脂肪酸による炎症性サイトカイン分泌抑制作用が著しく減弱していた。生体内でも同様のことが起こっており、炎症性マクロファージの活性抑制作用によって、インスリン抵抗性改善につながることが示唆された9)。また、オメガ3系多価不飽和脂肪酸によって、脂肪細胞からアディポネクチンの分泌が増加するという報告もある10)。アディポネクチンには、抗炎症作用やインスリン感受性改善作用が報告されており、オメガ3系多価不飽和脂肪酸による血中アディポネクチン上昇も、生体における抗炎症効果に反映しているのかもしれない。図 プロスタノイドの代謝経路細胞膜からアラキドン酸が切り出され、プロスタノイドと総称される、プロスタグランジンやロイコトリエンといった生理活性物質が生成される。オメガ3系不飽和脂肪酸は、TXA2の代わりに活性の少ないTXA3、LTB4の代わりにLTB5に変換される。血管拡張作用や抗炎症効果を持つPGI2の代わりにPGI3が作成されるが、PGI3はPGI2と同等の強い活性を有している。画像を拡大する抗動脈硬化作用われわれは高純度EPAが動脈硬化モデルマウスであるApoE欠損マウスならびにLDL受容体欠損マウスで、動脈硬化の進展を抑制することを報告した4)。高純度EPAの投与により大動脈壁の動脈硬化領域が減少し(本誌p.18図3を参照)、プラークの質が変化した。プラークの不安定性を規定する重要な因子の1つは、プラークの表面を覆う線維性被膜の厚さであり、線維性被膜の菲薄化がプラークの破綻につながる。線維性被膜は、EPA群で対照群に比べ有意に肥厚し、マクロファージの浸潤はEPA群で対照群に比べ有意に低下した。またSirius-red染色では、対照群に比べてEPA群では動脈硬化病変のコラーゲン含有量が有意に増加し、プラークの安定化に寄与していることが示された(本誌p.18図4を参照)。その機序として、EPAを前投与した細胞では、VCAM-1、ICAM-1などの接着因子の発現が抑制された。また、プラークの不安定化に寄与すると考えられるマクロファージからのMMP-2、MMP-9の発現はオメガ3系不飽和脂肪酸によって抑制された4)。さらに、ヒトの頸動脈プラークの内膜切除標本を組織学的に解析した研究でも、オメガ3系多価不飽和脂肪酸の投与によって、動脈病変が安定化することが示されている11, 12)。おわりにオメガ3系多価不飽和脂肪酸は、このように多岐にわたって心血管系に望ましい効果をもたらす。スタチンやレニン・アンジオテンシン系抑制薬の2次予防、1次予防効果は確立しているが、その抑制効果には限界があり、現在“残余リスク”として問題になっており、適切な追加治療法を見いだす必要がある。今後は、血中LDL濃度、HbA1c、血圧などと並んで血中オメガ3系多価不飽和脂肪酸濃度が測定されて、低い人には有効な補充療法が行われる時代が到来するかもしれない。食品から補充しなくても、高純度製剤が医薬品として処方されることは大変ありがたい。オメガ3系不飽和脂肪酸の薬理作用をよく理解して、必要な症例に有効な処方がなされ、イベント抑制につながることが期待される。文献1)Tagawa H et al. Long-term treatment with eicosapentaenoic acid augments both nitric oxide-mediated and non-nitric oxide-mediated endothelium-dependent forearm vasodilatation in patients with coronary artery disease. J Cardiovasc Pharmacol 1999; 33: 633-640.2)Chen J et al. Omega-3 fatty acids prevent pressure overload-induced cardiac fibrosis through activation of cyclic gmp/protein kinase g signaling in cardiac fibroblasts. Circulation 2011;123: 584-593.3)Omura M et al. Eicosapentaenoic acid (epa)induces ca(2+)-independent activation and translocation of endothelial nitric oxide synthase and endothelium-dependent vasorelaxation. FEBS Lett 2001; 487: 361-366.4)Matsumoto M et al. Orally administered eicosapentaenoic acid reduces and stabilizes atherosclerotic lesions in apoe-deficient mice.Atherosclerosis 2008; 197: 524-533.5)Arita M et al. Stereochemical assignment,antiinflammatory properties, and receptor for the omega-3 lipid mediator resolvin e1. J Exp Med 2005; 201: 713-722.6)Michaud SE, Renier G. Direct regulatory effect of fatty acids on macrophage lipoprotein lipase:Potential role of ppars. Diabetes 2001; 50: 660-666.7)Mishra A et al. Oxidized omega-3 fatty acids inhibit nf-kappab activation via a pparalphadependent pathway. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2004; 24: 1621-1627.8)Hirasawa A et al. Free fatty acids regulate gut incretin glucagon-like peptide-1 secretion through gpr120. Nat Med 2005; 11: 90-94.9)Oh DY et al. Gpr120 is an omega-3 fatty acid receptor mediating potent anti-inflammatory and insulin-sensitizing effects. Cell 2010; 142: 687-698.10)Itoh M et al. Increased adiponectin secretion by highly purified eicosapentaenoic acid in rodent models of obesity and human obese subjects.Arterioscler Thromb Vasc Biol 2007; 27: 1918-1925.11)Cawood AL et al. Eicosapentaenoic acid (epa)from highly concentrated n-3 fatty acid ethyl esters is incorporated into advanced atherosclerotic plaques and higher plaque epa is associated with decreased plaque inflammation and increased stability. Atherosclerosis 2010;212: 252-259.12)Thies F et al. Association of n-3 polyunsaturated fatty acids with stability of atherosclerotic plaques: A randomised controlled trial. Lancet 2003; 361: 477-485.

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認知症にイチョウ葉エキス、本当に有効なのか

 認知障害および認知症に対するイチョウ葉エキスの有益性および有害事象については、長年にわたって議論の的となっている。中国海洋大学のMeng-Shan Tan氏らは、認知障害および認知症に対しイチョウ葉エキス(EGb761)の有効性および有害性についてシステマティックレビューとメタ解析を行った。その結果、同240mg/日の22~26週投与により、認知、機能、行動の低下および全般的な低下を、阻止あるいは遅らせうることが、とくに神経精神症状を伴う患者で示されたと報告した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2014年8月11日号の掲載報告。 2014年3月の時点でMEDLINE、EMBASE、Cochraneなどの関連データベースを、EGb761に関する無作為化試験(認知障害および認知症患者への治療として検討)を適格として検索し、評価した。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たした試験は、9件であった。試験期間は、22~26週間で、合計2,561例の患者が含まれていた。・メタ解析の結果、認知に関する変化スコアの加重平均差は、プラセボと比較してEGb761群で良好であった(-2.86、95%信頼区間[CI]:-3.18~-2.54)。・また、日常生活動作(ADL)に関する変化スコアの標準平均差も、同様にEGb761群で良好であった(-0.36、95%CI:-0.44~-0.28)。・Clinicians' Global Impression of Change(CGIC)尺度に関するプラセボとのPeto法オッズ比(OR)は、統計的に有意な差がみられた(OR 1.88、95%CI:1.54~2.29)。・これらすべての有益性は、主にEGb761用量が240mg/日で認められた。・神経精神症状を伴う患者のサブグループ解析では、全体グループと比べてEGb761の240mg/日投与は、認知機能、ADL、CGICおよび神経精神症状の改善が、統計的に優れていることが示された。・アルツハイマー型認知症群の解析では、全体グループと比べて主なアウトカムはほとんど同等で統計的な優越性はみられなかった。・安全性のデータから、EGb761の安全性について重大な懸念はないことが示された。関連医療ニュース 認知症にスタチンは有用か 認知症予防効果を降圧薬に期待してよいのか 統合失調症の認知機能改善に抗認知症薬は有用か  担当者へのご意見箱はこちら

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Vol. 2 No. 4 オメガ3系多価不飽和脂肪酸と心血管イベント 臨床的側面からその意義を考える

木島 康文 氏岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学はじめに動脈硬化プラークに蓄積しているのはコレステロールである。コレステロールの中でも特に低比重リポ蛋白コレステロール(low density lipoprotein cholesterol:LDL-C)と心血管疾患との関連性については広く認知されており、それに対して、スタチンの投与は、心血管イベントの1次予防、2次予防、ハイリスク群に対する投与のいずれにおいても20~30%の相対リスク減少をもたらす1)。では、これで十分かといえば、残りの70%を超える症例がスタチンを投与されているにもかかわらず、心血管イベントを起こしていることになる。すなわち、スタチン単独療法には限界があることを示しており、近年“残余リスク”として注目されている。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』では心血管リスク因子がない患者群に対して、リスクの高い患者群ではより低いLDL-Cの目標値が設定されている。これはLDL-Cの“質”がリスク因子の影響を受けることを意味している。つまり、これからは心血管リスク因子としての脂質においてはLDL-Cの量とともにリポ蛋白の“質”により注目すべきといえる。リポ蛋白の“質”に影響を及ぼす残余リスクに、多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)のバランス異常がある。具体的には、アラキドン酸(arachidonic acid:AA)に対するエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid:EPA)の相対的低下に代表される、オメガ6系PUFAとオメガ3系PUFAのバランス異常である。オメガ3系PUFAの代表的なものとして魚介由来のEPAやドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)と植物由来のα-リノレン酸(alpha-linolenic acid:ALA)がある。これらオメガ3系PUFAには中性脂肪低下作用だけでなく、血小板凝集抑制作用、抗炎症作用、プラーク安定化作用、抗不整脈作用、自律神経調節作用などの多面的効果を有し、これらの効果を介し心血管系に保護的に働くと考えられる。本稿ではオメガ3系PUFAと心血管イベントとの関係について臨床的側面を中心に述べる。オメガ3系PUFAと心血管イベントの関係:その根拠は?オメガ3系脂肪酸の最初のエビデンスは疫学調査によるものである。1970年代に、デンマーク領グリーンランドのイヌイットでは、デンマークの白人に比し、心筋梗塞・狭心症による死亡率が有意に低いことが報告された(白人34.7% vs. イヌイット5.3%)2)。食事内容を比較すると、総摂取エネルギーに対する脂肪の割合はいずれも約40%であったが、白人は主に牛や豚から、イヌイットは主に魚や(魚を大量に摂取する)アザラシから脂肪を摂取していた3)。また、血清コレステロールエステル中にイヌイットではEPAが15.4%存在し、AAが0%であったのに対し、白人ではそれぞれ0%、4.4%と著しい差を認めた。これにより、虚血性心疾患による死亡には脂肪の“質”が関与していることが示唆され、オメガ3系PUFAの心血管イベント抑制効果が注目されることとなった。1985年に、オランダの50~69歳男性852人を20年間追跡し、30g/日以上の魚介を食べる人はまったく食べない人と比べて虚血性心疾患による死亡が約半分であったことが報告された4)。その後、アメリカの40~55歳の健常男性を追跡調査した結果では、35g/日以上の魚介類摂取を行っている場合には心筋梗塞による死亡の相対危険率は0.56で、冠動脈疾患全体では0.62と、魚介類摂取による死亡抑制効果が認められた5)。また、アメリカのPhysicians' Health Studyにおいて、40~80歳までの医師20,551人を対象として最長17年間追跡調査した報告では、週1回以上の魚介類摂取習慣と心臓突然死との関連性が認められた。そして、実際の血清サンプル脂肪酸解析から突然死群のオメガ3系PUFAが対照群と比べて有意に低値であることも報告された6)。そのほかにも、イギリスにおける心筋梗塞後患者の追跡比較試験では、魚介類摂取指導がある群ではない群と比較して総死亡、虚血性心疾患死が有意に少なくなっていたことも報告されている7)。一方、日本人の冠動脈疾患の発症率は欧米に比し低いものの、近年その増加が指摘されている。国民1人当たりの魚介類消費量と男性における冠動脈疾患による死亡率を国別に比較すると、魚介類消費量と冠動脈疾患死の間には明らかな負の相関が認められる。欧米に比べて日本人の魚介類の摂取量は多く、冠動脈疾患の死亡率は低い。このことより、魚介類の摂取量が多いから日本人は冠動脈疾患が少ないものと考えられてきた。近年、日本人が摂取する脂肪の割合は増加しており、増加した脂肪の多くがオメガ6系PUFAに属する動物性油や植物性油である。それに対し、魚介由来のオメガ3系PUFAの摂取量は低下してきている。つまり、本邦における脂肪酸摂取の“質”は近年変わりつつあるといえる。本邦における総脂肪に対するEPAの推定比と脳梗塞あるいは虚血性心疾患による死亡率の経年的変化をみると、1950年代から総脂肪に対するEPAの推定比が低下するとともに、脳梗塞あるいは虚血性心疾患による死亡が増加している8)。これは、オメガ3系PUFAの摂取の減少が動脈硬化性疾患の増加に関与していることを示唆する所見と考えられる。実際に本邦のJapan Public Health Center-Based(JPHC)Study CohortⅠでは、40~59歳までの一般人41,578人を対象として約11年間の追跡調査を行っているが、魚介摂取量に準じて分割された5つの集団において、最も摂取量の多い群では最も少ない群に比べて冠動脈疾患のリスクが37%、心筋梗塞のリスクが56%低値であったと報告された(本誌p.10図を参照)9)。オメガ3系PUFAによる心血管イベントの抑制効果:その効果は?オメガ3系PUFAによる大規模な介入研究としては、これまで2つの報告がなされている。イタリアのGISSI-Prevenzione Trialでは、3か月以内に心筋梗塞に罹患した男性11,324人を対象とし、1g/日のオメガ3系PUFA(EPA+DHA)摂取群、ビタミンE摂取群、両者の摂取群、対照群の4群に分けて約3.5年間追跡調査したところ、オメガ3系PUFA摂取群では対照群に比べ、心血管死亡が30%、総死亡が20%の相対的低下を認め、併用群でも同様であったことが報告された10)。その後の再解析で、オメガ3系PUFAの総死亡や突然死、心血管死の抑制効果が比較的早期から認められる可能性が報告された(本誌p.11図aを参照)11)。一方本邦では、1996年から日本人の高脂血症患者における高純度EPA製剤による冠動脈イベントの発生抑制効果を検討するため、世界初の大規模無作為比較試験JELIS (Japan EPA Lipid Intervention Study)が実施された。JELISでは、高コレステロール患者18,654例(総コレステロール≧250mg/dL、男性:40~75歳、女性:閉経後~75歳)を対象に、スタチン単独投与群(対照群)とスタチンに高純度EPA製剤1.8g/日を追加投与した群(EPA群)で、約5年間、主要冠動脈イベントの発症を比較検討した。その結果、EPA群では対照群と比較して、主要冠動脈イベントが19%抑制され、特に2次予防における抑制効果が認められた(本誌p.11図bを参照)12)。次に、JELISの1次予防サブ解析の結果によると、中性脂肪(triglyceride:TG)≧150mg/dLかつ高比重リポ蛋白コレステロール(high density lipoprotein cholesterol:HDL-C)<40mg/dLの高リスク群では、正常群に比し主要冠動脈イベント発症は有意に高く、この患者群では、EPAの追加投与により主要冠動脈イベント発症が53%抑制された(本誌p.12図aを参照)13)。2次予防のサブ解析では、心筋梗塞の既往かつ冠動脈インターベンション施行例では、EPA群において主要冠動脈イベント発症が41%抑制されることが報告され14)、この患者群における高純度EPA製剤の積極的投与を支持する結果であった。ほかにも、サブ解析の結果、脳梗塞再発予防や末梢動脈疾患の冠動脈イベント予防に有効であることが示されている15, 16)。オメガ3系PUFAを臨床に生かす:その対象は?オメガ3系PUFAが心血管イベントに対する抑制効果を有することはわかってきたといえるが、それではどのような患者群で強い抑制効果が見込めるのだろうか?EPA/AA比を指標として、オメガ3系PUFAが不足している患者に投与しようと考えるのは妥当なことといえる。JELIS脂肪酸サブ解析で、EPA/AA比をもとに冠動脈イベント発生リスクを検討した結果では、EPA/AA比が0.5以上の高値群では低値群に比べて冠動脈イベントリスクに有意差を認めなかった。これに対して、0.75以上の高値群では低値群に比べ冠動脈イベントリスクに有意差が認められた17)。このことから、EPA/AA比0.75以上の維持が心血管イベント抑制につながる可能性が示唆されたといえる。また、JELISの1次予防サブ解析では、高TGおよび低HDL-C群でその他の群に比べイベント発生率が高いことが明らかとなった。そして、この群においてEPAの冠動脈イベントの抑制効果が強く現れていた(本誌p.12図aを参照)。また、このJELISの糖代謝異常に注目したサブ解析でも、糖代謝異常を有する患者群では血糖の正常患者群に比べて冠動脈イベント発生率が高かった。また、この糖代謝異常群においては、HbA1c値やLDL-C値によらず、EPA群のイベント発生リスクが対照群に比べて22%抑制されたことも報告された(本誌p.12図bを参照)18)。つまり、これらはdiabetic dyslipidemiaとも称されるインスリン抵抗性を基盤とした脂質異常をきたしている患者群が、EPA投与のよい適応となる可能性を示しているともいえる。オメガ3系PUFAは各ガイドラインに記載もあるが、高リスク症例の心血管イベントの抑制に有用であるとされている。つまりは、LDL-Cの量を十分に低下させてもイベントを抑制できないような残余リスクが問題となる高リスク症例に対して、リポ蛋白の“質”を改善することでイベント抑制効果がより顕著に発揮されるといえるのではないだろうか。おわりに魚介類摂取およびオメガ3系PUFAと心血管イベントとの関連性についてはほぼ確立されているものの、日本人が伝統的に欧米人と比べ魚介摂取量が多いことを考慮すると、欧米の研究結果をそのまま日本人にあてはめることには抵抗を感じる方も少なくないだろう。JELISは、欧米人よりも一般的にEPA/AA比が高い日本人においてもオメガ3系PUFAが心血管イベントをさらに抑制する可能性を示したといえる。メタボリックシンドロームの増加などが進む本邦において、diabetic dyslipidemiaの増加は今後も予想されている。若者の魚離れが重なることで、脂肪酸の“質”の根幹をなす魚介由来のオメガ3系PUFAの重要性は日本人においてもさらに増し、循環器領域の臨床に携わる医師にとってこの領域の知識は必須となるものと考えられる。不整脈や心不全などオメガ3系PUFAとの関連性が議論されている循環器領域も含めて、今後さらなるエビデンスの確立が期待される。文献1)Alagona P. Beyond LDL cholesterol: the role of elevated triglycerides and low HDL cholesterol in residual CVD risk remaining after statin therapy. Am J Manag Care 2009; 15: S65-73.2)Dyerberg J et al. A hypothesis on the development of acute myocardial infarction in Greenlanders. Scand J Clin Lab Invest Suppl 1982; 161: 7–13.3)Bang HO et al. The composition of the Eskimo food in north western Greenland. Am J Clin Nutr 1980; 33: 785-807.4)Kromhout D et al. The inverse relation between fish consumption and 20-year mortality from coronary heart disease. N Engl J Med 1985; 312:1205-1209.5)Daviglus ML et al. Fish consumption and the 30 year risk of fatal myocardial infarction. N Engl J Med 1997; 336: 1046-1053.6)Albert CM et al. Blood levels of long-chain n-3 fatty acids and the risk of sudden death. N Engl J Med 2002; 346: 1113-1118.7)Burr ML et al. Effects of changes in fat, fish, and fibre intakes on death and myocardial reinfarction: diet and reinfarction trial (DART). Lancet 1989; 2: 757-761.8)厚生統計協会: 国民衛生の動向, 厚生の指標. 1989; 36: 48.9)Iso H et al. Intake of fish and n3 fatty acids and risk of coronary heart disease among Japanese:the Japan Public Health Center-Based (JPHC)Study CohortⅠ. Circulation 2006; 113: 195-202.10)GISSI-Prevenzione Investigators. Dietary supplementation with n-3 polyunsaturated fatty acids and vitamin E after myocardial infarction:results of the GISSI-Prevenzione trial. Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto miocardico. Lancet 1999; 354: 447-455.11)Marchioli R et al. Early protection against sudden death by n-3 polyunsaturated fatty acids after myocardial infarction: time-course analysis of the results of the Gruppo Italiano per Io Studio della Sopravvivenza nell’Infarto Miocardico (GISSI) -Prevenzione. Circulation 2002; 105: 1897-1903.12)Yokoyama M et al. Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomized open-label, blinded endpoint analysis. Lancet 2007; 369: 1090-1098.13)Saito Y et al. Effects of EPA on coronary artery disease in hypercholesterolemic patients with multiple risk factors: sub-analysis of primary prevention cases from the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS). Atherosclerosis 2008;200: 135-140.14)Matsuzaki M et al. Incremental effects of eicosapentaenoic acid on cardiovascular events in statin-treated patients with coronary artery disease. Circ J 2009; 73: 1283-1290.15)Tanaka K et al. Reduction in the recurrence of stroke by eicosapentaenoic acid for hypercholesterolemic patients: subanalysis of the JELIS trial. Stroke 2008; 39: 2052-2058.16)Ishikawa Y et al. Preventive ef fects of eicosapentaenoic acid on coronary artery disease in patients with peripheral artery disease. Circ J 2010; 74: 1451-1457.17)Itakura H et al. Relationships between plasma fatty acid composition and coronary artery disease. J Atheroscler Thromb 2011; 18: 99-107.18)Oikawa S et al. Suppressive effect of EPA on the incidence of coronary events in hypercholesterolemia with impaired glucose metabolism: Sub-analysis of the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS). Atherosclerosis 2009; 206: 535-539.

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大腸がん診断後のスタチンで生存延長

 英国・クイーンズ大学ベルファストのChris R Cardwell氏らは、大規模な大腸がん患者のコホートにおいて、大腸がん診断後のスタチン使用が大腸がん特異的死亡リスクを低下させるかどうかを調査した。その結果、大腸がん診断後のスタチン使用が生存期間延長に関連することが示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2014年8月4日号に掲載。 著者らは、National Cancer Data Repository(英国のがん登録データ)から、1998年~2009年に新たにステージI~III大腸がんと診断された患者7,657例を同定した。さらにこのコホートを、処方箋記録を提供する臨床試験研究データベースと国家統計局の死亡データ(2012年まで)に結合し、大腸がん特異的死亡1,647例を同定した。なお、診断後のスタチン使用によるがん特異的死亡のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)の算出、および潜在的交絡因子に対するHRの調整のために、時間依存Cox回帰モデルを使用した。 主な結果は以下のとおり。・大腸がん診断後のスタチン使用は、大腸がん特異的死亡率減少と関連していた(完全調整HR:0.71、95%CI:0.61~0.84)。・スタチン使用量と大腸がん特異的死亡率に関連が認められ、1年以上のスタチンを使用している大腸がん患者では、より顕著な減少が認められた(調整HR:0.64、95%CI:0.53~0.79)。・大腸がん診断後のスタチン使用患者において、全死因死亡率の減少が認められた(完全調整HR:0.75、95%CI:0.66~0.84)。

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スタチン時代にHDL上昇薬は必要か/BMJ

 スタチン治療中の患者に対し、HDL値の上昇効果があるナイアシン、フィブラート系薬、コレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害薬の併用はいずれも、全死因死亡、冠動脈疾患死、また心筋梗塞や脳卒中を減少しないことが示された。英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのDaniel Keene氏らが患者11万7,411例のデータを含む無作為化試験をメタ解析し報告した。「観察研究では、HDL上昇と心血管アウトカム改善の相関性が示されているが、スタチンが広く使用されるようになった現在では、HDL値を上昇するこれら3つの薬剤の有益性を裏付ける試験はなかった」とまとめている。BMJ誌オンライン版2014年7月18日号掲載の報告より。スタチン治療有無を問わず、HDL値上昇薬の心血管アウトカムへの効果をメタ解析 研究グループは、HDL値上昇のために用いられるナイアシン、フィブラート系薬、CETP阻害薬の3つの薬剤の心血管イベントへの有益性をメタ解析にて評価した。 2013年5月時点で、Medlineなどのデータベースを検索し、試験発表の有無、また対照群のスタチン治療の有無を問わず(すなわちスタチン発売前の試験も含む)、これら3つの薬剤について比較検討した無作為化試験を特定した。 主要アウトカムは、intention to treat解析ベースでの全死因死亡とし、副次アウトカムは、冠動脈疾患死、非致死的心筋梗塞・脳卒中、および重大有害事象報告とした。スタチンがなかった時代の試験結果と有意な差 検索により、39試験、11万7,411例の無作為化試験データを特定した。全介入でHDL値の上昇がみられた。 解析の結果、ナイアシン(オッズ比[OR]:1.03、95%信頼区間[CI]:0.92~1.15、p=0.59)、フィブラート系薬(同:0.98、0.89~1.08、p=0.66)、CETP阻害薬(同:1.16、0.93~1.44、p=0.19)ともに、全死因死亡への効果は認められなかった。 また、冠動脈疾患死についてもナイアシン(同:0.93、0.76~1.12、p=0.44)、フィブラート系薬(同:0.92、0.81~1.04、p=0.19)、CETP阻害薬(同:1.00、0.80~1.24、p=0.99)ともに効果は認められず、脳卒中アウトカムについても同様であった[ナイアシン(同:0.96、0.75~1.22、p=0.72)、フィブラート系薬(同:1.01、0.90~1.13、p=0.84)、CETP阻害薬(同:1.14、0.90~1.45、p=0.29)]。 非致死的心筋梗塞について、スタチン治療を受けていなかった患者の試験において、ナイアシンと有意な減少の関連がみられたが(同:0.69、0.56~0.85、p=0.0004)、スタチン治療を受けていた患者の試験では効果は有意ではなかった(同:0.96、0.85~1.09、p=0.52)。また、これらサブグループ間には有意差がみられた(p=0.007)。 非致死的心筋梗塞に関する同様の傾向は、フィブラート系薬でもみられた。スタチン非服用群のORは0.78(95%CI:0.71~0.86、p<0.001)、全員または一部服用群のORは0.83(同:0.69~1.01、p=0.07)であった。サブグループ間の差は有意ではなかった(p=0.58)。

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ランレオチド 腸膵NETのPFS延長/NEJM

 転移性腸膵神経内分泌腫瘍に対し、ソマトスタチンアナログ製剤のランレオチドは無増悪生存期間を有意に延長したことが、英国のロイヤル・フリー病院Martyn E. Caplin氏らによる国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、報告された。ソマトスタチンアナログ製剤は、神経内分泌腫瘍でホルモン過剰分泌関連症状の治療に用いられることが多い(日本では、商品名ソマチュリンが先端巨大症・下垂体性巨人症を適応症として承認されている)。しかし、その抗腫瘍効果のデータは限定的なものであった。神経内分泌腫瘍は稀少な疾患で、米国における年間発生例は10万人に5例の頻度であるという。NEJM誌2014年7月17日号掲載の報告より。無増悪生存期間を主要エンドポイントにランレオチドvs. プラセボを検討 試験は、進行した高分化型または中分化型で非機能性、グレード1または2(腫瘍増殖指数[Ki-67抗原染色による]<10%)のソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍を有する患者を対象に行った。腫瘍は膵臓、中腸または後腸由来、もしくは原発不明であった。 研究グループは患者を無作為に、ランレオチドの徐放性水性ゲル製剤Autogel(米国でデポ剤として知られる)120mgもしくはプラセボを投与する群に割り付け、28日間に1回投与を96週間(24ヵ月間、最大24回投与)にわたって行った。 主要エンドポイントは無増悪生存期間で、増悪(固形がん効果判定基準[RECIST] ver.1.0による)または死亡までの期間と定義した。副次エンドポイントは、全生存期間、QOL(欧州がん研究・治療機構[EORTC]質問票QLQ-C30およびQLQ-GI.NET21で評価)、安全性などであった。ランレオチド群の進行または死亡のハザード比0.47 試験には、2006年6月~2013年4月に14ヵ国(欧州12ヵ国、米国、インド)48施設(2次、3次医療施設)で204例が登録された。被験者は、ランレオチド群に101例、プラセボ群に103例が無作為に割り付けられた。大半の患者(96%)は、無作為化前3~6ヵ月において腫瘍の進行はみられなかった。なお、33%の患者が肝腫瘍量が25%超だった。 試験薬曝露期間の中央値は、ランレオチド群24.0ヵ月、プラセボ群15.0ヵ月であった。 増悪が認められたのはプラセボ群58例、ランレオチド群30例、死亡はそれぞれ2例ずつで、主要エンドポイントの無増悪生存期間は、ランレオチド群がプラセボ群と比べて有意に延長した(中央値未到達vs. 18ヵ月、層別化log-rank検定のp<0.001、進行または死亡のハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.30~0.73)。 24ヵ月時点の推定無増悪生存率は、ランレオチド群65.1%(95%CI:54.0~74.1%)、プラセボ群33.0%(同:23.0~43.3%)であった。 事前規定のサブグループ(腫瘍部位別、グレード別、肝腫瘍量別)の治療効果は、信頼区間が広範であった小規模のサブグループを除けば、全体集団の治療効果とおおむね一致していた。 QOLや全生存については、治療群間で有意差はみられなかった。 最も頻度が高かった治療関連の有害事象は、下痢であった(ランレオチド群26% vs.プラセボ群9%)。

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認知症にスタチンは有用か

 アルツハイマー病(AD)や血管性認知症(VaD)へのスタチン治療は、比較的未開拓の領域である。先行文献において、ADではβ-アミロイド(Aβ)が細胞外プラークとして沈着し、Aβ生成はコレステロールに依存することが確認されている。また、VaDの病因に高コレステロール血症が関与していることも知られている。そこで、英国・Belfast Health and Social Care TrustのBernadette McGuinness氏らは、認知症に対するスタチン治療の有益性について、システマティックレビューとメタ解析により検討を行った。Cochrane Database Systematic Review誌オンライン版2014年7月8日号の掲載報告。 研究グループは、スタチンがコレステロールを低下させることから、ADやVaDの治療において有効であることが期待できるとして、臨床的有効性および安全性を評価した。今回の検討では、ADおよびVaDの治療におけるスタチンの効果が、コレステロール値、ApoE遺伝子型、認知レベルに左右されるかどうかを評価した。2014年1月20日時点で、ALOIS、Cochrane Dementia and Cognitive Improvement GroupのSpecialized Register、Cochrane Library、MEDLINEなどを検索。認知症と診断された人に6ヵ月以上スタチンを投与していた二重盲検無作為化臨床比較試験を適格とした。2名の著者がそれぞれデータの抽出と評価を行い、研究グループは必要に応じてデータをプールしメタ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・検索で特定したのは、4試験(被験者1,154例、年齢50~90歳)であった。著者らは、全試験のバイアスリスクは低いと評価した。・全被験者が、標準的な診断基準によりADがほぼ確実もしく疑いがあった(possible/ probable AD)。また、これらは、ほとんどの被験者でコリンエステラーゼ阻害因子に基づき確認されていた。・全試験が、ADAS-Cogのベースライン時からの変化を主要アウトカムとしていた。プールデータ解析の結果、ADAS-Cogへのスタチンによる有意な有益性は認められなかった(平均差:-0.26、95%信頼区間[CI]:-1.05~0.52、p=0.51)。・また、全試験で、MMSEのベースライン時からの変化が報告されていた。プールデータ解析の結果、MMSEへのスタチンによる有意な有益性はみられなかった(平均差:-0.32、95%CI:-0.71~0.06、p=0.10)。・治療関連の有害事象は、3試験で報告されていた。プールデータ解析の結果、スタチンとプラセボで有意差はみられなかった(オッズ比:1.09、95%CI:0.58~2.06、p=0.78)。・スタチンとプラセボとの間に、行動、全体的機能やADLに有意差はみられなかった。・VaDの治療におけるスタチンの役割について評価した試験は見つからなかった。関連医療ニュース スタチン使用で認知症入院リスク減少 アルツハイマーの予防にスタチン 認知症予防効果を降圧薬に期待してよいのか

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事例13 検査-シスタチンCの査定【斬らレセプト】

解説事例のD007「35」シスタチンCが、C査定(医学的理由による不適当:支払基金)となった。同検査の算定のための留意事項には、「尿素窒素又はクレアチニンにより腎機能の低下が疑われた場合に、3月に1回に限り算定できる」とある。病名を見ると慢性腎不全が確定している。このことから査定の理由は、シスタチンCの適応がないためであったことがわかる。事例の原因は、慢性腎不全といっても腎機能が残っているのではないかとの期待から検査を行ったものであった。しかし、シスタチンCは、腎機能の低下の疑いに対する検査であるので、適用外となるのである。同様に、「糖尿病性腎症」など腎機能の低下が確定している場合には、査定対象となるので留意をお願いしたい。

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PCSK9阻害薬は新たなコレステロール治療薬となりうるのか?(解説:平山 篤志 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(216)より-

LDLコレステロール(LDL-C)が心血管イベントの重要なリスクファクターであること、そしてスタチンによるLDL-C値の低下に伴いイベントの発生率が減少したことで、ASCVD(Atherosclerotic Cardiovascular Disease)においてLDL-C値をより低くコントロールすることが目標とされた。 しかし、スタチンを使用しても管理目標値に到達できない患者群があり、これまでは治療薬としてエゼチミブが併用されていたが、それでも不十分であった。 エボロクマブはLDL-C受容体の分解を促進する蛋白であるPCSK9を阻害することで、スタチンの効果を増強しLDL-Cをさらに著明に低下させることを実現した抗体薬である。本薬の使用で、通常の治療に加えて平均57%、LDL-Cを低下させることがDESCARTES試験として発表された。この試験は、スタチンでは明らかにできなかった新たな世界を広げるエボロクマブの可能性を示している。 LDL-Cの低下のエビデンスはすべてスタチンを用いた試験に基づいていることから、AHA/ACCの今回改訂されたガイドラインでは、LDL-Cの管理目標値を設定せず、高用量のスタチンを使用するだけでよいとされた。エボロクマブは、スタチン以外にLDL-Cを低下させることを可能にした薬剤である。スタチンを用いないLDL-Cの低下によりイベントが減少するかを検証できるようになった。 また、スタチン単独ではLDL-C値を70mg/dL以下にすることが困難であったために、さらなる低下がイベントを減少させるのかが明らかでなかった。エボロクマブは、このようなLDL-Cと心血管イベントとの関連についての科学的な疑問を解決できる可能性のある薬剤である。 今後、イベントを検証するFOURIER試験が計画されている。LDL-Cに関する残された謎が解明され、多くのASCVD患者にとってこの薬剤が福音をもたらすのかどうか、2019年の結果に注目したい。

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高力価スタチンが糖尿病発症リスクを増大させる/BMJ

 心血管疾患の二次予防治療としてのスタチン治療について、高力価スタチンのほうが低力価のものよりも、糖尿病の新規発症リスクが中程度だが増大することが報告された。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のColin R Dormuth氏らによる多施設共同観察研究の結果で、「臨床医は二次予防として高力価スタチンを使用する場合は、このリスクについて考慮すべきである」と提言している。スタチンが糖尿病の新規発症リスクを増大することは、先行研究のメタ解析で示されていたが(オッズ比1.09)、高力価vs. 低力価の比較によるリスク増大については確定していなかった。BMJ誌オンライン版2014年5月29日号掲載の報告より。40歳以上13万6,966例について、2年間服用中の発症率を比較 研究グループは共通分析プロトコルを用いて、8本の住民ベースコホート試験およびメタ解析を行った。試験データは、カナダの6行政区および2つの国際データベース(英国、米国)から組み込まれ、被験者は1997年1月1日~2011年3月31日に、新規にスタチン治療を開始した40歳以上の患者合計13万6,966例だった。 各コホート患者は、重大心血管イベントまたは処置のための入院治療後に新規にスタチンを処方された。これら患者についてコホート内症例対照分析にて、高力価スタチン使用患者と低力価スタチン使用患者の糖尿病発症を比較。条件付きロジスティック回帰分析にて、高力価vs. 低力価スタチン薬について服用期間別(2年以下、120日以下、120日超~365日以下、365日超~730日以下)に、糖尿病の新規発症率を算出し、メタ解析的手法にて全試験地点にわたる同発症への影響について評価した。 主要評価項目は、糖尿病新規発症による入院、またはインスリンあるいは経口血糖降下薬の処方とした。高力価のほうが1.15倍増大、リスクが最も高いのは処方開始4ヵ月間 スタチン使用開始2年以内の糖尿病発症率は、カナダ6行政区では2.12~3.40/100患者であった。米国データベースでは2.99/100患者、英国データベースでは1.95/100患者で、総計では13万6,966例のうち3,629例で糖尿病新規発症がみられた。 服用期間別の分析で、2年以内の糖尿病の新規発症率は、高力価スタチンのほうが低力価スタチンと比べて、有意に増大したことが観察された(率比1.15:95%信頼区間[CI]:1.05~1.26、p=0.003)。 その他の期間別では、120日(4ヵ月)以下が率比1.26(95%CI:1.07~1.47、p=0.004)と最も高かった。120日超~365日以下は1.19(同:1.02~1.38、p=0.03)、365日超~730日以下は1.08(同:0.93~1.25、p=0.33)だった。

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心血管疾患高リスク患者への合剤治療、リスク因子の改善はわずか/BMJ

 プライマリ・ケアにおける心血管疾患リスクの高い患者の治療について、推奨されている抗血小板薬、スタチン、降圧薬すべてを組み合わせた固定用量配合剤の利用は、アドヒアランスを改善したが、血圧やコレステロールなどリスク因子の改善はわずかで統計的有意差はみられなかったことが報告された。ニュージーランド・オークランド大学のVanessa Selak氏らによる非盲検無作為化試験IMPACTの結果で、配合剤に対する受容性は一般医(GP)、患者ともに高かったが、一方で投与の中断率が高かったことも報告されている。BMJ誌オンライン版2014年5月27日号掲載の報告より。一般医54人を介して患者513例を対象に、12ヵ月間の配合剤治療vs.通常ケア IMPACT(IMProving Adherence using Combination Therapy)試験は2010年7月~2013年8月に、ニュージーランドのオークランドおよびワイカト地方の一般医54人と、その患者で抗血小板薬、スタチンおよび2種以上の降圧薬治療が推奨されていた心血管疾患リスクの高い(5年リスク15%以上)513例の成人(うち257例は先住民のマオリ)を対象に行われた。 患者は、通常ケアを継続する群と固定用量配合剤治療を受ける群に無作為に割り付けられ12ヵ月間追跡を受けた。配合剤は、アスピリン75mg+シンバスタチン40mg+リシノプリル10mgに、アテノロール50mgまたはヒドロクロロチアジド12.5mgのいずれかを組み合わせた2バージョンがあった。一般医が4種の推奨薬について処方を行い、市中の薬局で調剤が行われ患者に投与された。 主要アウトカムは、12ヵ月時点の患者自身の報告による配合剤治療のアドヒアランス、および血圧、LDL-C値のベースライン時からの平均変化値とした。配合剤群のアドヒアランスは有意に改善したが 12ヵ月の追跡期間を完了したのは、497例(97%)だった。 4種の推奨薬はすべて、通常ケア群よりも配合剤群でアドヒアランスが有意に高かった。アドヒアランス率は81%vs. 46%、相対リスクは1.75(95%信頼区間[CI]:1.52~2.03、p<0.001)で、治療必要数(NNT)は2.9(同:2.3~3.7)だった。 12ヵ月時点の各推奨薬タイプ別アドヒアランスは両群ともに高率だったが、相対的には配合剤群が有意に高率であった。すなわち抗血小板薬は93%vs. 83%(p<0.001)、スタチン94%vs. 89%(p=0.06)、合剤降圧薬89%vs. 59%(p<0.001)、あらゆる降圧薬96%vs. 91%(p=0.02)であった。 これら自己報告のアドヒアランスに関する傾向は、調剤データと一致しており、4種の推奨薬すべての調剤率は、配合剤群79%、通常ケア群47%で、相対リスクは1.67(95%CI:1.44~1.93、p<0.001)だった。 一方で12ヵ月間のリスク因子のコントロール改善については、両群間で統計的な有意差はみられなかった。配合剤群と通常ケア群を比較した変化の差は、収縮期血圧は-2.2mmHg(-4.5 vs.-2.3、95%CI:-5.6~1.2、p=0.21)、拡張期血圧は-1.2mmHg(-2.1 vs.-0.9、同:-3.2~0.8、p=0.22)、LDL-C値は-0.05mmol/L(-0.20 vs.-0.15、-0.17~0.08、p=0.46)だった。 また、心血管イベントの発生数は、配合剤群16例vs. 通常ケア群18例(p=0.73)、また重症有害事象の発生数は99例vs. 93例(p=0.56)でいずれも発現頻度は同程度であった。 配合剤群患者の一般医の89%(227/256例)が試験後サーベイを受けた。固定用量配合剤治療戦略について聞いた結果、同治療開始については91%(206/227例)、血圧コントロールについては82%(180/220例)、コレステロールコントロールは78%(170/218例)、忍容性81%(181/223例)、ローカルガイドラインに従う処方については84%(185/219例)が、「満足」または「とても満足」と回答した。 一方、12ヵ月時点で患者に対して行った服用の簡便性に関する質問の結果(簡便、とても簡便との回答)は、固定用量配合剤群91%(224/246例)、通常ケア群86%(212/246例)で有意差がみられた(p=0.09)。しかし、配合剤群では94例(37%)が投与を中断しており、その理由として最も多かったのは副作用(54/75例、72%)だった。 両群間では、12ヵ月時点でその他脂質の変化、EuroQol-5Dの差、アドヒアランスに対する障害の差についても有意な差はみられていない。

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認知症発症リスクと心臓疾患との関係

 複数の心血管リスク因子が、認知症やアルツハイマー型認知症(AD)のリスクを増大することが知られるが、心臓疾患が及ぼす影響については不明なままであった。東フィンランド大学のMinna Rusanen氏らによる住民ベースのコホート研究の結果、高齢期の心臓疾患は、その後の認知症やADリスクを増大することが明らかにされた。結果を受けて著者は、「心臓疾患の予防と効果的な治療は、脳の健康や認知機能維持の観点からも重要であると考えられる」とまとめている。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2014年5月13日号の掲載報告。 研究グループは、認知症やADの長期リスクについて、中高年期の心房細動(AF)、心不全(HF)、冠動脈疾患(CAD)との関連を調べるため、住民ベースのコホート研究CAIDE(Cardiovascular Risk Factors, Aging and Dementia)のデータを分析した。CAIDEには、4期(1972、1977、1982、1987年)にわたって無作為に選択された住民合計2,000例が参加。被験者は、25年超後の1998年と2005~2008年の2期に追跡調査を受けていた。 主な結果は以下のとおり。・研究参加者2,000例のうち1回以上の追跡調査を受けていたのは、1,510例(75.5%)であった。そのうち認知症との診断を受けていたのは、127例(8.4%)であった。・全因子補正後の分析の結果、高齢期のAFは、認知症(ハザード比[HR]:2.61、95%信頼区間[CI]:1.05~6.47、p=0.039)、AD(同:2.54、1.04~6.16、p=0.040)の独立リスク因子であった。・アポリポ蛋白E(APOE)ε4を有していない人では、同関連はより強かった。・高齢期HFについても同様にリスクを増大する傾向がみられた。CADではみられなかった。・中年期診断の心臓疾患は、その後の認知症やADリスク増大と関連していなかった。関連医療ニュース 高齢者への向精神薬投与、認知症発症リスクと強く関連 認知症予防効果を降圧薬に期待してよいのか スタチン使用で認知症入院リスク減少

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