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アルコール使用障害の治療に関するメタ解析に驚く話(コメンテーター:岡村 毅 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(210)より-

一般的な研修コースを歩んだ精神科医師は、さまざまな症例の経験を経て、順調に行けば卒後5年強で精神保健指定医となる(近年は専門医制度も確立したが、私の頃は整備がなされていなかった)。 指定医になるには、治療論や法的側面などを緻密に書かないと落とされてしまう症例レポートの提出が義務付けられており、「依存症」も課題の一つだった。多くの同僚は、症例に遭遇する確率が高いこともありアルコール依存症でレポートを書いたもので、研修コースにはアルコール病棟のある病院が多く含まれていた。 正直に告白すると、私はアルコール依存症のマネジメントはあまり得意ではなかった。アルコール依存症のレポートでは、意識清明となった患者に対してあらためて断酒意欲を確認し、ピア・サポートなどの助けも借りながらアルコールの有害性を学習し、断酒意欲を強化し、断酒維持に向かって伴走する、というような入院、退院、外来治療の経過を書くことが求められていたと記憶している。そこでは薬物治療の出る幕はあまりなく、あくまで離脱や二次的不眠等の対症療法であった。あるいは抗酒薬(飲酒してしまうと不快感が生じる物質を本人納得のもとに使用する)というものもある。 しかし、そもそもアルコールは日本中どこでも売っていて、いわゆる違法薬物ではない。アルコールで人生が破綻した悲惨なケースをたくさん見てきたし、破綻したからアルコールに走ったというケースも多々あった。そういう人が死ぬ思いで断酒しているのに、数十メートルも歩けば簡単に手に入る状況というのも理不尽にも思えて、真にアルコールの弊害を解決したければ国家として禁酒をしたほうがいいのではないか、などと考えもした。 また、アルコール依存の人は内科治療が必要な割にはずいぶん縁遠い人生を歩むことが多い(真面目に治療を受けなかったりするため)が、人生の最終局面では肝硬変と静脈瘤破裂で一瞬だけ内科の患者さんになっていたりする。「私は無力だ」そう思ったので得意ではなかったのだろう。これを読んでご不快に感じられた依存症の専門家がおられたら、専門外の人間の浅い理解と嗤っていただきたい。 いずれにせよ、アルコール依存症の症例レポートを書くためというのもあり、不思議な穏やかさと仲間意識の混在する梅雨どきのアルコール専門病棟にてしばらく働いたことを思い出した。 なんだかまったりしたエッセイになってしまったが、本論文を読んで、まずは外来でのアルコール使用障害(AUD)治療における薬物治療のメタ解析であることに驚いた。前述のような私の経験(入院中心の心理教育)とは、ずいぶんと距離がある。 本論文の考察において、「米国でもプライマリ・ケア医はAUDの治療には障壁があり専門機関に紹介する傾向があった」、「しかしプライマリ・ケアの段階での治療をすることが望まれる」と書いてあり、すわAUD治療のノーマライゼーションかと驚く。もっともAUDの1/3以下しか治療を受けていない、10%以下しか薬物治療を受けていない、とも記載されているので理念の表明なのだろう。時代の潮流を見極める必要がある。 次に、エビデンスがあるAUDの外来薬物療法が確立したことは素晴らしいことであるが、医学モデルが問題解決に必要十分と早とちりしないことも重要である。 極端な例だが、アルコール問題のあるホームレスの人には、治療を受けるならば居住施設に入ってもらうという姿勢よりも、治療を受ける受けないにかかわらず、まずは住居を提供することで、結果的に生活が安定しアルコールの問題も減るのではないかと考えられないだろうか? 実際、そのような報告がJAMAでなされている(Larimer ME, et al. JAMA. 2009 ;301(13):1349-1357.)。 私は本論文を批判しているのではなく、筆者らはこんなことは当然承知のうえだ。考察では、疫学研究ではさまざまな因子が飲酒に関連することに言及しているし、プライマリ・ケアでAUDの治療をするためにはメンタルヘルスの専門家との連携が鍵となることを公平に記載している。 いずれにしろ、この論文は新しい時代の羅針盤となるべき重要な論文かもしれない。2013年からアカンプロサートは本邦でも発売されている。多くの方が救われることを心から願う。 なお、最新の米国精神医学会の診断マニュアル(DSM-5)からはアルコール依存症と乱用という2分法は消滅してしまい、アルコール使用障害(AUD)という概念が使われている。

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アカンプロサートとナルトレキソンのアルコール依存症治療の減酒効果/JAMA

 外来でのアルコール依存症治療について、アカンプロサート(商品名:レグテクト)と経口ナルトレキソン(国内未承認)は、いずれも同等に再飲酒を防止する効果があることを、米国・ノースカロライナ大学のDaniel E. Jonas氏らが、システマティックレビューとメタ解析の結果、報告した。アルコール依存症に対する薬物治療はあまり行われておらず、減酒薬治療を受けている人に限ってみれば10%未満であるという。研究グループは、大規模な報告例をレビューし、米国FDAおよびその他が承認する薬物療法の有効性、健康アウトカムの改善や有害事象について明らかにするため本検討を行った。JAMA誌2014年5月14日号の掲載報告。アカンプロサート、ナルトレキソンまたは両者を評価した試験が大半 研究グループは、PubMed、Cochrane Library、PsycINFO、CINAHL、EMBASE、FDAウェブサイト、臨床試験レジストリを介して、1970年1月1日~2014年3月1日の報告論文を検索。2名のレビュワーが、試験期間が12週間以上で適格アウトカムを報告していた無作為化試験、および健康アウトカムや有害事象を報告していた直接比較の前向きコホート試験を適格とし、論文の選択を行った。 メタ解析はランダム効果モデルを用いて行い、有益性に関する必要治療数(NNT)または有害性に関する必要治療数(NNH)を算出し、アルコール消費(あらゆる再飲酒、大量飲酒に回帰、飲酒日数など)、健康アウトカムのアクシデント(自動車衝突事故、外傷、QOL、機能性、死亡)、有害事象について評価した。 検索の結果、無作為化試験122本、コホート試験1本(計2万2,803例)を解析に組み込んだ。大半が、アカンプロサート(27試験、7,519例)、ナルトレキソン(53試験、9,140例)または両者を評価した試験だった。アカンプロサートと経口ナルトレキソンは同等の減酒効果 あらゆる再飲酒防止のNNTは、アカンプロサートは12(95%信頼区間[CI]:8~26、リスク差[RD]:-0.09、95%CI:-0.14~-0.04)、経口ナルトレキソン(50mg/日)は20(同:11~500、-0.05、-0.10~-0.002)だった。 大量飲酒回帰防止のNNTは、アカンプロサートでは改善との関連は認められなかった。経口ナルトレキソン(50mg/日)は12(同:8~26、-0.09、-0.13~-0.04)だった。 アカンプロサートとナルトレキソンの比較試験のメタ解析からは、あらゆる再飲酒(RD:0.02、95%CI:-0.03~0.08)、大量飲酒回帰(同:0.01、-0.05~0.06)について、両者間の統計的な有意差はみられなかった。 ナルトレキソン注射薬のメタ解析では、あらゆる再飲酒(同:-0.04、-0.10~0.03)、大量飲酒回帰(同:-0.01、-0.14~0.13)との関連はみられなかったが、大量飲酒日数短縮との関連はみられた(加重平均差[WMD]:-4.6%、95%CI:-8.5~-0.56%)。 一方、適応外薬では、ナルメフェン(国内未承認)とトピラマート(抗てんかん薬として商品名:トピナ)で中程度のエビデンスが認められた。ナルメフェンは、1ヵ月当たりの大量飲酒日数(WMD:-2.0、95%CI:-3.0~-1.0)、1日当たりの飲酒(同:-1.02、-1.77~-0.28)について、トピラマートは、%でみた大量飲酒日数(同:-9.0%、-15.3~-2.7%)、1日当たりの飲酒(同:-1.0、-1.6~-0.48)について効果がみられた。 ナルトレキソンとナルメフェンの、有害事象による試験中止のNNHは、48(95%CI:30~112)、12(同:7~50)であった。なおアカンプロサート、トピラマートでは、リスクについて有意な増大はみられなかった。 結果を踏まえて著者は、「アカンプロサートと経口ナルトレキソンは、減酒との関連が認められ、それらはアルコール依存症患者の飲酒アウトカム改善に最善のエビデンスを有していた。直接比較試験では、両者に有意な差はみられなかった」と述べ、「適応外薬では、ナルメフェンとトピラマートに若干だが改善と関連する中程度のエビデンスがみられた」とまとめ、投薬頻度や予想される有害事象および治療の有効性などの要因は薬物治療の選択においてガイドとなるだろうとまとめている。

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学生の飲酒節制、ネット介入の効果なし/JAMA

 大学生を対象としたインターネットによるアルコール使用障害の特定と介入プログラムは、飲酒頻度や総飲酒量、学業問題や気晴らし飲酒、深酒について、改善効果を認めなかったことが明らかにされた。一方で、典型的な行事における飲酒量については、介入プログラムにより有意に減少したという。オーストラリア・ニューカッスル大学のKypros Kypri氏らが、約1万5,000人の大学生を対象に行った試験で明らかにした。先行研究では、健常者の飲酒、とくに若い人の飲酒は、グローバルな疾患負荷に結びつくこと、またシステマティックレビューではインターネットによるスクリーニングと介入は有効であることが示唆されていた。JAMA誌2014年3月26日号掲載の報告より。AUDIT-Cスコア4以上の被験者を無作為化 試験はニュージーランド7校の大学生、合わせて1万4,991人を対象に行われた二重盲検並行群間比較の無作為化試験だった。研究グループは2010年4~5月にかけて、アルコール使用障害特定の3項目からなる「簡易版AUDIT-C」へのリンクアドレスを含む電子メールを送信した。被験者の年齢は17~24歳だった。 回答の得られた5,135人のうち、AUDIT-Cスコアが4以上だった3,422人を無作為に2群に分け、一方の群にはAUDITテストの追加質問やLeeds依存に関する質問票(LDQ)調査を行い、その結果についての評価と、リスクを減らす方法、血中アルコール濃度のピーク値、アルコール依存症などについてフィードバックする介入を行った。もう一方は対照群として、スクリーニング試験のみを実施した。典型的行事における飲酒量のみ介入群で有意に中央値1杯減少 5ヵ月後、典型的な行事における飲酒量や飲酒頻度など、6項目について両群を比較した。その結果、有意な差(p値の閾値0.0083)がみられたのは、典型的な行事における飲酒量についてで、対照群は中央値が5杯(四分位範囲:2~8)だったのに対し、介入群では4杯(同:2~8)と有意な減少がみられた(リスク比:0.93、99.17%信頼区間[CI]:0.86~1.00、p=0.005)。 一方で、飲酒頻度(p=0.08)や総飲酒量(p=0.33)については、両群で有意差はみられなかった。また、学業問題スコアの改善(p=0.14)、気晴らし飲酒(p=0.04)や深酒(p=0.03)のリスク改善についても、介入による有意な効果は認められなかった。

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救急搬送患者に対する抗精神病薬の使用状況は

 最近の専門ガイドラインでは、救急部門(ED)に搬送されてきた激しい興奮を呈する患者へのファーストライン治療として、第二世代抗精神病薬(SGA)の経口投与が推奨されているが、現実的にはほとんど投与は行われておらず、処方の増加もみられないことが判明した。また投与されている場合は通常は経口投与で、しばしばベンゾジアゼピン系薬の併用投与を受けており、アルコール依存症患者への処方頻度が最も高かったことも明らかになった。米国・UC San Diego Health SystemのMichael P. Wilson氏らが報告した。Journal of Emergency Medicine誌オンライン版2014年3月21日号の掲載報告。 これまでEDにおいて、どのような薬物投与が行われているのか、SGAがどれくらい処方されているのかは不明であった。研究グループは、1)患者特性、ベンゾジアゼピン系の併用投与を調べ、またSGAの使用についてハロペリドールまたはドロペリドールの使用と比較すること、2)ED患者へのSGA処方率の経時的変化を調べた。2つの大学EDを2004~2011年に受診した患者コホートを後ろ向きに分析した。コホートの患者は、アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン(国内未発売)の処方を受けていた。記述的分析法にて年齢、性別、ハロペリドール/ドロペリドールなど第一世代抗精神病薬(FGA)の使用、ベンゾジアゼピン系薬併用使用の割合を比較。線形回帰分析法にてSGA処方が時間とともに増大しているかを調べた。 主な結果は以下のとおり。・試験期間中にEDを受診しSGA処方を受けていた記録は、患者1,680例、1,779件であった。・EDでSGA処方を受けた患者の大半は、経口投与であった(93%)。・ベンゾジアゼピン系薬の併用は、受診者の21%でみられた。また受診者の21%がアルコールに関連した患者であった。・EDにおけるSGA使用の割合は、時間とともに増加はしていなかった。関連医療ニュース 統合失調症の再入院、救急受診を減らすには 急性期精神疾患に対するベンゾジアゼピン系薬剤の使用をどう考える 自閉症、広汎性発達障害の興奮性に非定型抗精神病薬使用は有用か?

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アルコール依存症に介入療法は有効か?/JAMA

 アルコールおよび薬物依存症患者に対し、医療・福祉サービスを調整・包括して提供する慢性疾患ケア管理(chronic care management:CCM)の有効性について検討した結果、通常プライマリ・ケアによるサービス提供と比べて、12ヵ月時点の離脱率に有意差はみられなかったことが報告された。米国・ボストン医療センターのRichard Saitz氏らが、無作為化試験「AHEAD」を行い報告した。依存症患者は、健康問題を抱え高度な医療を受けていたり、併存症を有している頻度が高いが、多くの場合、質の低い治療を受けているとされる。CCMは、同患者への治療およびアウトカムを改善するアプローチとして提唱された。JAMA誌2013年9月18日号掲載の報告より。563例をCCM群と通常プライマリ・ケア群に無作為化 AHEAD(Addiction Health Evaluation and Disease Management)試験は、ボストンの病院ベースのプライマリ・ケア診療所で、AHEADクリニックを設定して行われた。被験者は、2006年9月~2008年9月の間に、独立した宿泊設備がある依存症治療ユニットおよび都市部にある教育病院、募集広告によって集められた。2,731例がスクリーニングに参加し、563例が無作為化を受けてCCM群(282例)または非CCM(通常プライマリ・ケア、281例、対照)群に割り付けられた。 CCM群は、プライマリ・ケア医間の調整を図った横断的な治療、依存症克服のための動機付けの強化療法、再発予防カウンセリング、オンサイトでの併存症治療、依存症治療、精神科治療、社会福祉支援および照会などを含めた介入を受けた。 対照群は、プライマリ・ケアの面談を受け、カウンセリングを自ら手配するため電話番号を記した治療ソースのリストを受け取るという介入であった。 主要アウトカムは、オピオイド、興奮剤、大量飲酒について自己申告に基づく離脱状況であった。オピオイド、興奮剤、大量飲酒の12ヵ月時点の離脱率はCCM群44%、対照群42% 被験者563例のうち95%が、12ヵ月間の追跡調査を完了した。 同時点でオピオイド、興奮剤、大量飲酒について離脱を自己申告した割合は、CCM群44%、対照群42%で有意差はみられなかった(補正後オッズ比:0.84、95%信頼区間[CI]:0.65~1.10、p=0.21)。 副次アウトカムとして評価した、依存症重症度、健康関連QOL、薬物問題についても有意差はみられなかった。 また、被験者をアルコール依存症群、薬物依存症群とサブグループで評価した場合においても、アルコール依存症群のCCMにより飲酒問題が減少したという有意な効果はみられなかった(12ヵ月時点の平均スコア:10対13、発生率比:0.85、95%CI:0.72~1.00、p=0.48)。 上記の結果について著者は、「アルコールおよびその他薬物依存症患者へのCCMは通常プライマリ・ケアと同等で、12ヵ月間の自己申告に基づく離脱率を増加しなかった。より強化した介入または長期の介入が有効かについてさらなる調査が必要である」とまとめている。

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統合失調症患者、合併症別の死亡率を調査

 統合失調症は、重大な併存疾患と死亡を伴う主要な精神病性障害で、2型糖尿病および糖尿病合併症に罹患しやすいとされる。しかし、併存疾患が統合失調症患者の超過死亡につながるという一貫したエビデンスはほとんどない。そこで、ドイツ・ボン大学のDieter Schoepf氏らは、一般病院の入院患者を対象とし、統合失調症の有無により併存疾患による負担や院内死亡率に差異があるかどうかを調べる12年間の追跡研究を行った。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2013年8月13日号の掲載報告。統合失調症の併存疾患の大半は糖尿病合併症またはその他の環境因子に関与 対象は、2000年1月1日から2012年6月末までにマンチェスターにある3つのNHS一般病院に入院した成人統合失調症患者1,418例であった。1%以上の発現がみられたすべての併存疾患について、年齢、性別を適合させたコントロール1万4,180例と比較検討した。多変量ロジスティック回帰解析により、リスク因子(例:院内死亡の予測因子としての併存疾患など)を特定した。 統合失調症の併存疾患を比較検討した主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者はコントロールに比べ緊急入院の割合が高く(69.8 vs. 43.0%)、平均入院期間が長く(8.1 vs. 3.4日)、入院回数が多く(11.5 vs. 6.3回)、生存期間が短く(1,895 vs. 2,161日)、死亡率は約2倍であった(18.0 vs. 9.7%)。 ・統合失調症患者では、うつ病、2型糖尿病、アルコール依存症、喘息、COPDに罹患していることが多く、併存疾患としては23種類も多かった。また、これらの大半は糖尿病合併症またはその他の環境因子に関与していた。・これに対し、高血圧、白内障、狭心症、脂質異常症は統合失調症患者のほうが少なかった。・統合失調症患者の死亡例において、併存疾患として最も多かったのは2型糖尿病で、入院中の死亡の31.4%を占めていた(試験期間中、2型糖尿病を併発している統合失調症患者の生存率はわずか14.4%であった)。・統合失調症患者においては、アルコール性肝疾患(OR:10.3)、パーキンソン病(OR:5.0)、1型糖尿病 (OR:3.8)、非特異的な腎不全(OR:3.5)、虚血性脳卒中(OR:3.3)、肺炎(OR:3.0)、鉄欠乏性貧血(OR:2.8)、COPD(OR:2.8)、気管支炎(OR:2.6)などが院内死亡の予測因子であることが示された。・コントロールとの比較において、統合失調症患者の高い死亡率に関連していた併存疾患はパーキンソン病のみであった。パーキンソン病以外の併存疾患に関しては、統合失調症の有無による死亡への影響に有意差は認められなかった。・統合失調症患者の死亡例255例におけるパーキンソン病の頻度は5.5%、試験期間中に生存していた1,163例におけるパーキンソン病の頻度は0.8%と、統合失調症患者の死亡例で有意に多かった(OR:5.0)。・また、統合失調症死亡例はコントロール死亡例に比べ、錐体外路症状の頻度が有意に高かった(5.5 vs. 1.5%)。・12年間の追跡調査により、統合失調症患者はコントロールに比べて多大な身体的負担を有しており、このことが不良な予後と関連していることが判明した。・以上のことから、統合失調症において、2型糖尿病および呼吸器感染症を伴うCOPDの最適なモニタリングと管理は、鉄欠乏性貧血、糖尿病細小血管障害、糖尿病大血管障害、アルコール性肝疾患、錐体外路症状の的確な発見ならびに管理と同様に細心の注意を払う必要がある。関連医療ニュース 検証!抗精神病薬使用に関連する急性高血糖症のリスク 抗精神病薬によるプロラクチン濃度上昇と関連する鉄欠乏状態 抗精神病薬と抗コリン薬の併用、心機能に及ぼす影響

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PTSDを伴うアルコール依存症への組み合わせ治療の効果/JAMA

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)を伴うアルコール依存症の治療について、ナルトレキソン(国内未承認)投与によりアルコール摂取(日単位)を減じられることが、米国・ペンシルベニア大学のEdna B Foa氏らによる無作為化試験の結果、明らかになった。その際、PTSDの認知行動療法の一つである持続エクスポージャー(Prolonged Exposure:PE)療法を同時に行っても、アルコール摂取の助長にはつながらないことも示された。アルコール依存症とPTSDは併存している割合が高いが、その最良の治療方法についてはほとんど明らかになっていない。アルコール依存症でPTSDを伴う患者は治療抵抗性が認められ、一方でPTSDのためのPE療法は、アルコール摂取を助長する可能性が懸念されていた。JAMA誌2013年8月7日号掲載の報告より。ナルトレキソン、PE療法または支援カウンセリングの有効性を検討 アルコール依存症治療の先行研究では、PTSD患者は除外されることが一般的で(PTSD治療のベネフィットをアルコール依存症治療が損なう可能性への懸念などから)、除外されない場合もその症状改善が治療目標にされることはなかったという。 研究グループは、米国でアルコール依存症のエビデンスのある治療として承認されているナルトレキソン投与と、PTSDのエビデンスのある治療であるPE療法の、単独または組み合わせ、およびPE療法の代わりに支援カウンセリングを組み合わせた場合の有効性について単盲検無作為化試験にて検討した。 試験は、ペンシルベニア大学とペンシルベニア退役軍人局にて行われた。被験者登録は2001年2月8日に開始され、2009年6月25日に終了し、2010年8月12日にデータの収集を完了した。 被験者はアルコール依存症でPTSDを伴う165例で、(1)PE療法(90分間セッションを12週連続、その後隔週で6回)+ナルトレキソン(100mg/日)(40例)、(2)PE療法+プラセボ経口薬(40例)、(3)支援カウンセリング+ナルトレキソン(100mg/日)(42例)、(4)支援カウンセリング+プラセボ経口薬(43例)に無作為に割り付けられた。なお支援カウンセリング(30~45分間セッション18回)は全患者に行われた。 主要評価項目は、アルコール摂取日の割合についてはTimeline Follow-Back Interview法で、PTSD重症度についてはPTSD Symptom Severity Interview法で、また飲酒渇望についてはPenn Alcohol Craving Scaleで評価し検討した。評価は治療前(0週)、治療後(24週)、治療中断後6ヵ月(52週)に行った。PE療法有効性の統計的有意差はないが、同治療群の飲酒反復は最小 全4治療群の被験者はいずれも、アルコール摂取日の割合が大きく減少した。各群の変化の平均値は、(1)群-63.9%(95%信頼区間[CI]:-73.6~-54.2%)、(2)群-63.9%(同:-73.9~-53.8%)、(3)群-69.9%(同:-78.7~-61.2%)、(4)群-61.0%(同:-68.9~-53.0%)だった。 なかでも、ナルトレキソン投与を受けた患者のほうが、プラセボ投与を受けた患者よりも有意にアルコール摂取日の割合が低かった(平均差:7.93%、p=0.08)。 一方、PTSDの減少も全4治療群でみられたが、こちらについてはPE療法の有効性について統計的有意差はみられなかった。 治療終了後6ヵ月時点のアルコール摂取日の割合は、全4治療群とも増加していた。そのなかで、PE療法群の増加が最小だった。

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だめんず・うぉ~か~【共依存】

「放っとけないわ!」みなさんは、困っている人を見かけると、「放っとけないわ!」と居ても立ってもいられなくなりますか?「だからこそ、医療現場で働いているんだ」とお答えする人もいるでしょうか?困っている人を助けたいという純粋な気持ちはもちろん良いことです。ただ、逆に、その気持ちが強すぎて、やりすぎてしまい、結果的に相手も自分もだめにしてしまうことはないでしょうか?今回は、このような「世話焼き」「抱え込み」の心理をテーマにして、2006年のテレビドラマ「だめんず・うぉ~か~」を取り上げました。ドキュメンタリーマンガのテレビドラマ化で、コミカルな展開と、リアルな気持ちが絶妙に描かれています。「だめんず」とは、様々なダメ男たちを総称した造語で、「だめんず・うぉ~か~」は、ダメ男たちを渡り歩くダメ女という意味です。もともとは、雑誌「Men's Walker」を文字っているようです。ドラマでは、「だめんず」っぷりを発揮するダメ男たちがメインで紹介されています。浮気男、マザコン男、優柔不断男、嘘つき男、借金男、暴力男、ナルシスト男、見栄っ張り男、没落男など様々です。ここでは、そんなダメ男たちにどうしてもハマってしまう「だめんず・うぉ~か~」であるダメ女たちの心理にスポットライトを当ててみたいと思います。そして、メンタルヘルスの視点から、より良いコミュニケーションのコツについて、みなさんといっしょに掘り下げていきたいと思います。まりあ―どうしてもダメ男を放っとけない主人公のまりあは、大手商社に勤めるベテラン美人秘書です。気立てもよく、仕事もできて、魅力的です。女性にも優しく、みんなの頼れる姉的存在でもあります。しかし、今まで彼女が恋に落ちた相手は、何人もの放っておけないダメ男たちばかりでした。これだけ痛い経験を積んで懲りているだけに、彼女は、ダメ男を見抜く鋭い目を持っています。後輩のナツが、ダメ男に騙されそうになるたびに、「あんな男、やめなさいよ」とお節介も言います。そして、ナツからは「放っといてください」と毎回、嫌な顔をされますが、そのアドバイスがことごとく当たってしまうのです。そんなまりあは、逆に、しっかり者で真面目なIT社長にプロポーズされた時には戸惑ってしまいます。「分かっているんだけど、ときめかない」「だめなのは、男の方じゃなくて、その(ダメな)男を選んでしまう私」と自覚もしています。こうして、まりあは、どうしてもダメ男を放っとけない世話焼きな「だめんず・うぉ~か~」なのでした。友子―1人のダメ男を一途に支え続けるまりあの同期で心許せる友人の友子も、「だめんず・うぉ~か~」です。彼女には、小説家を目指す無職の恋人がいます。彼は言います。「おれさあ、絶対ベストセラー作家になって友子を楽にさせてやるから」と。一見すると好青年ですが、実は、大嘘つきで、二股や三股は当たり前の浮気男でした。そんな彼のことを友子はよく分かっています。そして、嘘がばれるたびに激怒もしますが、彼は「嘘をつくつもりはない」「ただ人を喜ばせたい、面白がらせたいだけなんだよ」と言い、開き直ります。友子は、そんな彼と決して別れようとはしません。それどころか、友子はまりあに打ち明けます。「彼は私がいないとだめなの」「肝腎なことが本当なら、小さな嘘はいいの」と。「肝腎なこと」とは、「おまえのことが一番大切なんだよ」「生涯ずっといっしょにいたいんだよ」との彼の言葉ですが、それすら嘘かもしれないのに、友子は、ダメ男を一途に支える「だめんずうぉ~か~」なのでした。ナツ―イケメンやセレブという外見に気を取られすぎまりあの後輩のナツは、セレブなイケメンとの結婚を目指して、日々、合コンを繰り返しています。とても堅実です。しかし、彼女は、相手がセレブでイケメンという条件をひとたびクリアすると、その男性たちの誘いにすぐに飛び乗ってしまい、自分を売り込もうとするばかりに、自分を安売りしてしまいます。大会社の御曹司からは、「(愛人として)日陰の女になってくれ」と言われて、一瞬、まんざらでもないと思ってしまってもいます。自分の思い描くうわべの幸せに必死すぎるのでした。ナツは、イケメンやセレブという外見に気を取られすぎて、優しさや真面目さや我慢強さなどの男性の内面性が自分に合うかあまり目を向けていません。この心理は、見栄っ張りでケチな金持ち男と結婚したゆり子(まりあの元同級生)や、イケメンで気位が高い没落男を見捨てない久美(まりあの同僚)にも当てはまります。「だめんずうぉ~か~」には、ナツやゆり子や久美のような体裁重視タイプと、まりあや友子のような母性本能タイプの2タイプに分けられそうです(表1)。体裁重視タイプの心理は分かりやすいのですが、母性本能タイプの心理は、実は、対人援助職に就く私たちの心理とも関係が深いので、もっと掘り下げていきましょう。体裁重視タイプ母性本能タイプ(=共依存)特徴相手の外見や経済力にこだわる相手をどうしても放っておけない例ナツゆり子久美まりあ友子共依存―依存されることに依存する母性本能とは、そもそも自分の子どもをどんなことがあっても守ろうとする母親の本能です。この本能は、対人関係における心理として、男女問わず、多かれ少なかれ見られます。特に、まりあのように責任感のあるしっかり者は、そのしっかりしている能力を発揮したいだけに、周りに守るべきダメな人がいてくれる必要があるわけです。そして、ダメな人を放っておけない、自分を頼ってくれるダメな人を探し求めてしまいます。これは、「世話焼き」「お節介」でもあります。やりすぎてしまうと、相手をさらにダメにしてしまう恐れがあります。これは、必要とされることを必要とする、言い換えれば、依存されることに依存する関係性の依存(共依存)です。ややこしい言い回しですが、これは、アルコールや薬物などの物質の依存とは違うタイプの依存です。ダメ男がダメ男として生き続けていけるわけは、ダメ男を好んで支え続ける共依存の女性たちがいるからこそなのです。もちろん、この心理は、人それぞれの相性により、良くも悪くも二面性があります(表2)。困った面良い面「お節介」「ありがた迷惑」「過保護」「過干渉」「押しつけがましい」「甘やかし」「恐妻家」「独占欲」「自己犠牲」「悲劇のヒロイン」「世話焼き」「面倒見がいい」「尽くす」「献身的」「優しい」「世話女房」「一心同体」「チャリティー精神」支援が支配へ―支えたい気持ちが手なずけたい欲望へ最強の「だめんず・うぉ~か~である友子は、まりあにダメ男と別れられない理由を漏らします。「彼、私とだけは別れたくないって言ってくれたの「私のことが一番だって」「そんなこと言ってくれる人、他にいないもんと。とても興味深いセリフです。ここから分かることは、友子には劣等感があることです(低い自己評価)。そして、「あたしくらい彼を信じてあげないと彼ダメダメになっちゃうからね」とも言います。彼女は、ダメ男を支えることで自尊心を取り戻し、自分だけはこの人を救えるという優越感に浸ろうとしているのでした(救世主コンプレックス)。さらに、友子の「彼は私がいないとダメなの(何もできない)という独占的な支援の心理は、「私がいないと彼には何もさせない」という支配の心理(独占欲)にすり替わる重たさや危うさがあります。つまり、支えたい気持ちは、「飼い主」として手なずけたい欲望へと変わりうるのです。この共依存の根っこにある母性本能は、良くも悪くも相手を子ども扱いして、下手をすればペット扱いしてしまい、相手の自立を大きく阻んでしまう恐さがあると言えます。このような共依存の危うさが典型的に見られるのが、アルコール依存症の夫のお世話をし続ける妻の心理です。どんなに夫が酔っ払って、夜中に騒いだり暴れたりして近所迷惑をかけても、妻が代わりに謝罪行脚をして夫の尻拭いをしてしまうのです。妻は謝罪をすることで「悲劇のヒロイン」である自分に酔ってしまうという一面もあり、夫は夫で事の深刻さに気付かず、ますますアルコール依存症が重症になってしまい、やがては夫婦共倒れとなるのです。また、近年、社会問題となっている引きこもりも、支援する過保護な親がいてこそ成り立つ共依存の心理が潜んでいると言えます。共依存の源(1)―機能不全家族それでは、まりあや友子は、なぜ共依存的な性格なのでしょうか?性格は、もともとその人が持っている素質(個体因子)に加えて、その人の生い立ちや家族背景(環境因子)が大きく影響します。ドラマでは、単に母性本能が強い性格として描かれているだけで、彼女たちの生い立ちや家族背景は触れられていません。しかし、実際には、共依存的な性格の源は、幼少期の家族関係がうまく行かず、家族同士の心理的距離が不安定な家庭環境(機能不全家族)に遡ることができます(表3)。まず特徴的なのは、父親が、単身赴任、仕事の多忙、離婚、愛人問題などにより、本来の役割を果たしていない状況です(父性欠如)。すると、もともと父性の特徴である「ものごとはこういうもんなんだ」という規範的な視点(客観化)や、「ここまでは良いが、それ以上は良くない」という冷静な線引きの感覚(限界設定)が育まれにくくなります。もう1つの特徴は、父親がいない分、相対的にも母親が子どもにべったりしてしまうことです(母性過剰)。父親が、いなかったり問題を抱えている状況で、母親は神経質になり、その不安な気持ちの矛先を子どもに向けてしまい、口出しが多くなっていきます(母子密着)。このような母親に育てられた子どもは、やはり同じように過干渉なコミュニケーションスタイルを受け継いでいき(家族文化)、社会生活においても、その心の間合い(心理的距離)は、どうしても接近してしまい、一定に保つことが難しくなってしまうのです。父性欠如母性過剰特徴単身赴任、仕事の多忙、離婚、愛人問題、アルコール依存症、DV(家庭内暴力)など母子密着→過保護、過干渉子どもへの影響限界設定が育まれにくい。母親と同じく過干渉になり、心理的距離が取りにくい。共依存の源(2)―アダルトチルドレンさらには、父親がアルコール依存症やDV(家庭内暴力)で、共依存的な母親がその状況に耐えている家庭環境であれば、子どもは、小さいながらその状況に適応していくために物分かりがよくなっていき(代償性過剰発達)、事態を丸く収めようと、騒ぐ父親をかばったり、殴られる母親を守ったりして、大人びた「良い子」を演じていきます(アダルトチルドレン)。そして、やがては、ダメな父親がいるという引け目(劣等感)を持ったしっかり者になっていくのです。このしっかり者は、しっかり者ぶりを発揮したいために、選ぶ職業は、医療、福祉、教育などの対人援助職であることが多いです。これは、まさに対人援助職に就いている私たちの心理に重なるかもしれません。さらに、選ぶパートナーは、特に女性の場合、母性本能をくすぐる男性や手のかかりそうなやんちゃで危険な香りのする男性になってしまいがちなのです。そして、結果的に、皮肉にも、選んだパートナーがダメな父親と重なってしまい、こうして歴史は繰り返されていくのです(世代間連鎖)。実際に、特に女性の看護師さんが結婚した男性は、年下が多いこと、アルコールやギャンブルなどの問題を抱えている人が多い印象があります。コミュニケーションのコツ(1)―限界設定恋人からどんなにひどい目に遭っても、友子はけっきょく許してしまうのに対して、まりあはビンタをして関係を終わらせようとする違いがあります。まりあのように、これ以上は許せないという見極めや線引きをすること(限界設定)は、特にダメ男に対して大切なことです。まりあの限界設定が甘いところは、まりあがプロポーズを断った相手が、その後に宿なしになり困っていたら、居候をさせてしまうことです。助けることに関しては、距離を置かなければならない相手であっても全力投球をして、結果的に相手を苦しめてしまうのでした。「同情と愛情がごっちゃ」と突っ込まれてもいます(表4)。母親が子どもを大切に思う気持ちに限界はありません。多くの母親が、自分が死んでも子どもを守ると言い切るでしょう。これが、まさしく母性です。相手が子どもなら、もちろんこれは大切なことですが、相手がもういい大人の場合はどうでしょうか?対人援助職の私たちが、困っている人をどこまで支えるかという見極めや線引きをすることは、実は、大きな課題です。なぜなら、私たちは、人助けしたくてこの仕事をしているわけですから。ついついいろいろやってあげたいという「母性本能」を発揮してしまい、良かれとやったことが裏目に出てしまいがちでもあるのです。私たちは、どこまでできるか、つまり、できることとできないことの線引きがブレないように、自分自身のやっていることを意識して(セルフモニタリング)、定期的に職場の仲間たちと足並みを揃えること(客観化)が大切であると言えます。コミュニケーションのコツ(2)―心理的距離エンディングで、まりあは言います。「たとえ選んだのがダメな男でも、愛して寄り添って、一緒に生きていける相手ならそれでいい」と。周りにどんなにダメ出しをされても、自分が相手を許せて幸せなら、確かにそれがその人の価値観であり、生き様と言えます。ただ、問題は、ダメな男がどの程度ダメなのかということです。それを見極めるためには、ほど良い心の間合い(心理的距離)を保つ必要があることです。相手のことで頭がいっぱいになり、近付きすぎてべったりとなってしまったら、相手がどんどん調子に乗っていく姿も、自分がどんどんボロボロになっていく姿もよく見えなくなってしまうからです。ある関連の本には、「(ダメな)男は変わらない。変えられるのは自分の選択だけだ」「危険な男(=ダメな男)と付き合う女性は、(運の悪い)犠牲者ではなく、志願者だ」という言葉があります。「だめんず・うぉ~か~」たちは、「だめんず・うぉ~か~」である理由を単に男運や「男を見る目がない」という能力のせいにするのではなく、あえてダメな男を嗅ぎ分けて選んでしまう自分自身の心のあり方に目を向ける必要があります。このドラマから学べること―「だめんず・め~か~」にならないために私たちは、「だめんず・うぉ~か~ならぬ、「だめんず・め~か~」にもなりうる潜在能力を秘めた対人援助職に就いています。このドラマから学べることは、困っている人を目の前にして、自分はどこまで助けられるか、相手にとって果たして良いことかなどを見極め、線引きをして(限界設定)、ほど良い心の間合い(心理的距離)を保つことです。パートナーシップにおいても、対人援助職においても、自分が無理していないか、相手にとってやりすぎじゃないかという視点を持って、自分自身や相手との関係を見つめ直すことは、より良い人間関係を築く上でとても大切なことではないでしょうか?1)「だめんずうぉ~か~」1巻~19巻(扶桑社) 倉田真由美2)「その男とつきあってはいけない! (飛鳥新社) サンドラ・L・ブラウン3)「共依存」(朝日文庫新刊) 信田さよ子4)「共依存―自己喪失の病 (中央法規出版) 吉岡隆5)「依存症の真相」(ヴォイス) 星野仁彦

110.

ドラえもん【注意欠如・多動性障害(ADHD)】

「うっかりしてた!」みなさんは、「うっかりしてた!」とヒヤっとしたことはありませんか?うっかりミス、いわゆるヒヤリ・ハットです。病院では、誤薬が一番多いヒヤリ・ハットのようです。どうして私たちはうっかりしてしまうのか?どうしてうっかりの程度は人によって違うのか?そして、うっかりを減らすにはどうすればいいのか?今回、これらの疑問を、国民的人気アニメ番組「ドラえもん」でおなじみの、ジャイアンとのび太のキャラクターをモデルにして、みなさんといっしょに考えていきたいと思います。ジャイアンとのび太に共通する特性ジャイアンは「ガキ大将」で「悪ガキ」です。一方、のび太は、「グズでノロマ」で「弱虫」です。この2人の関係は、いじめっ子といじめられっ子として描かれることが多く、一見すると真反対のキャラクターです。しかし、よくよくこの2人を見て行くと、ある共通した特性や行動のパターンが浮き上がってきます。そして、このパターンは、スネ夫やしずかちゃんなどの他のキャラクターにはっきりとみられないものです。そのポイントは3つです。まず、2人とも、特にジャイアンは、気が早いということです(衝動性)。ジャイアンは、怒りっぽく、喧嘩っ早いです。一方、のび太は、早とちりや言ってはいけないことをボロリと漏らす失言癖があります。第2に、2人とも気が多いということです(多動性)。気の多さは、気の早さが繰り返される落ち着きのなさから来ていると言えます。2人とも、せっかちで、飽きっぽいです。第3に、2人とも、特にのび太は、気が散りやすいということです(不注意)。気の散りやすさは、気の早さや気の多さの裏返しとも言えます。つまり、気が早くて気が多いからこそ、その分、気が散りやすいとも言えます。ジャイアンものび太も要領(順序立て)は悪く、忘れものが多く、授業中に集中して聞いていないことが多いです。そして、先生の言い付けに従うのも苦手で、学校のテストも低い点数が多いです。特に、のび太はぼんやりしがちなため、ドジでおっちょこちょいです。そして、うっかり口を滑らすのは、先ほどの失言癖につながっていきます注意欠如・多動性障害(ADHD)気が早い(衝動性)、気が多い(多動性)、気が散りやすい(不注意)という3つの特性によって、学校や家庭などでの日常生活においてとても困ることが小学校低学年(7歳)までにみられ、続いている場合は、注意欠如・多動性障害(ADHD)と呼ばれます(表1)。ジャイアンは衝動性の傾向が強く(多動性―衝動性優勢型)、のび太は不注意の傾向が強いようです(不注意優勢型)。しかし、この2人の程度は、薬などの積極的な治療が必要な障害と呼べるほどのレベルではなさそうです。また、この特性の傾向の子どもたちの多くは、成長するにつれて、目立たなくなることが多いです。ただ、中には、不注意の特性が大人になっても、残っている場合があります。大事なのは、私たちがこの特性をより良く知ることで、この特性と上手に付き合っていくためのヒントを探ることができるのではないかということです。表1 ADHDの診断基準(DSM-IV)混合型不注意優勢型多動性―衝動性優勢型症状(>6/9項目)が半年以上持続不注意多動性衝動性1. 不注意な間違い2. 集中困難3. 聞こえない4. 指示に従えない5. 順序立てが困難6. 課題への回避7. 物を失くしやすい8. 気が散りやすい9. 忘れっぽい1. 座位で手足を動かす(もじもじ)2. 座っていられない3. 走り回る4. 静かに遊べない5. じっとしていない6. しゃべりすぎる7. 食いぎみ(出し抜け)に答える8. 順番が待てない9. 話の遮り、割り込み7歳(小学校低学年)以前に存在2つ以上の状況(例、学校、家庭、病院、職場など)で存在ADHD特性の二面性―困った面と魅力この特性の困った面は、裏を返せば、魅力にもなります(表2)。どう見えるかは、その時代や文化など周りの状況との折り合いで変わってきます。例えば、日常の世界でのジャイアンとのび太は、困ったキャラとして目に映ることが多いですが、大長編映画で冒険する時のジャイアンとのび太はどうでしょう?この2人は、とても熱血で勇敢でフットワークが軽いのです。そして、決断力があり、リーダーシップをとっています。これは、気の早さ(衝動性)や気の多さ(多動性)の特性から来ています。ADHDの秘めたエネルギーです。何ごともそつなくこなすスネ夫や穏やかで大人しいしずかちゃんにはないものです。平和な日常の世界で、ジャイアンが、ムシャクシャしているという理由だけでのび太やスネ夫に八つ当たりするのは困ります。しかし、場面場面をよくよく見ると、例えば、少女マンガを読んで号泣するなど感受性豊かな面もあります(衝動性)。また、のび太の散漫さ(不注意)は、計算問題などの課題をこなすことには向いていません。しかし、緻密さが求められない伸び伸びとした状況では、大らかで癒し系であるとも言えます。表2 ADHDの特性の二面性困った面魅力ジャイアン気が早い(衝動性)怒りっぽいけんかっ早い(暴力)早とちり失言癖衝動買い熱血勇敢、豪快、大胆アイデアマンチャレンジ精神フロンティア(開拓)精神気が多い(多動性)落着きがないせっかち飽きっぽい、移り気エネルギッシュフットワ-クが軽い新し物好きのび太気が散りやすい(不注意)集中力がない、散漫忘れっぽいドジ、おっちょこちょいおっとり、お淑やか大らか、癒し系おとぼけキャラADHDの特性の原因―生物学的因子それでは、気が早い、気が多い、気が散りやすいというADHDの特性の原因は何なんでしょうか?それは、一言で言えば、脳の発達の偏りです。その詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、脳内の神経伝達物質のアンバランスなどが明らかになってきています。そして、さらにその原因に関しては、遺伝、胎生期の母体の喫煙、周生期の合併症などの生物学的因子が報告されています。未来のジャイアンの息子・ヤサシとのび太の息子・ノビスケは、それぞれの父親のキャラから逆転しているのも、遺伝の要素の示唆に富みます。ADHDの特性のメカニズム私たちの目や耳に入っていく情報は、インプットされる段階で、脳によって無意識的に必要なものと必要でないものに強弱を付けられています。この情報量の調整によって、仕事、勉強、日常生活で、一定時間の適度な集中力を発揮することができます。ところが、この調整がうまくいかないと、目や耳に入っていく全ての情報、特に欲求の対象に脳が飛び付いてしまうのです。そして、頭の中では、必要な情報が不要な情報に埋もれてしまい、逆に、頭がパンクして全く尻込んでしまうのです。学校から帰り、宿題に取り組んでいるのび太は、階下のママの「おやつよ」との声や、ジャイアンとスネ夫の「野球に行こうぜ」との誘いに、すぐに気が散ってしまうのです。また、欲求は、怒りや喜びなどの感情に密接につながっているので、ジャイアンが情に熱いのも納得がいきます。ADHDの特性を例えるなら、アクセルが効きすぎる車です。アクセルが効きすぎる分、ブレーキやハンドルは消耗し、しかも燃費が悪く燃料切れですぐに止まってしまいます。この車にとっては、特にこまめなアクセルとブレーキのバランスやハンドル裁きを使い分けることが必要な小道や路地、つまり複雑な情報処理が求められる現代社会を「走り抜く」のはとても大変なことなのです。環境調整―かかわり方のコツ、構造化、視覚化ADHDの特性は、ちょうど足の速い人も遅い人もいるのと同じように、その人のユニークさとも言えます。彼らがうまくいかないのは、単に努力が足りないのではなく、ぴったり合った取り組み(環境調整)が足りないのです。例えるなら、このユニークな「車」には、特別な「ナビ」(かかわり方のコツ)、こまめな「交通整理」(構造化)、そして目に見える「交通標識」(視覚化)が必要だということです。(1)ジャイアン(多動性―衝動性優勢型)の母ちゃんへのアドバイスジャイアンは、店番や配達をサボったり、弱い者いじめをしたり、リサイタルで近所に迷惑をかけたりしています。これらが見つかると、ジャイアンの母ちゃんは、ゲンコツや平手打ちなどの体罰を加えて叱りつけます。ジャイアンが唯一、心の底から恐れている存在です。このかかわり方はジャイアンの乱暴さ(衝動性)の抑えになっているように描かれていますが、果たしてそうでしょうか?実は、皮肉にも、このかかわり方が衝動性をより強めている可能性があります。「悪い子は叩いていい」という学習をしてしまい、「叩かれる子は叩く子になる」リスクを大いにはらんでいます(モデリング)。1. かかわり方のコツジャイアンの母ちゃんへのアドバイスとして、まず、かかわり方のコツは、怒りなどのネガティブな感情ではなく、愛情深さや改善される喜びなどのポジティブな感情を前面に出すことです。例えば、騒々しい時は「うるさい!」と一喝するのではなく、「声のボリュームを8から5に下げると嬉しい」と具体的に肯定的に伝えることです。2. 視覚化と構造化そして、やって良いことと悪いことの線引きのルールを目に見える形にすることです(視覚的構造化)。外食や遊園地にいっしょに行くなどのご褒美リストや「がんばり表」をリビングや本人の部屋の壁に貼り、ご褒美を目指して毎日達成するとポイントが加算されるというポイント制(トークンエコノミー)を導入します(行動療法)。例えるなら、目の前に常にニンジンをぶら下げている馬の状況を作るのです(動機付け)。もちろん好ましい行動は褒めますが、逆に、好ましくない行動をした時は、まず、ポイントが加算されないことへの残念さを指摘することです。その他、トイレ掃除、お小遣いの減額、行動の制限などのペナルティを設けること、さらには一定期間、無視することがあげられます。大事なのは、好ましくない時の対応がどんなことであるかをあらかじめ本人に伝え、親もルールに従っていることを示すことです。また、有り余るエネルギー(多動性)をうまく発散させるために、地域のスポーツクラブなどに積極的に参加させることです(転換)。また、手足のもじもじ(多動性)は、貧乏揺すり、ペン回し、テーブルの指叩きなどのより受け入れられる「癖」に転換していくこともできます(代償行為)。さらに、例えば、靴の中での靴底への足指叩きなど見えないところへの転換はなお適応的であると言えます。(2)のび太(不注意優勢型)のママへのアドバイスのび太は、いつも部屋で昼寝をして、なかなか勉強をしません。そんなのび太がテストで0点を取ってくると、のび太のママは、のび太を毎回ガミガミと叱りつけています。ママはどうやら「叱ると子どもは勉強する」「勉強するまで叱り続けるべきである」という信念(スキーマ)を持っているようです。いわゆる古典的な教育ママのモデルです。しかし、残念なことに、叱られるのび太は進歩していません。と同時に、叱るママも進歩していないのです。「同じことを繰り返している」と繰り返し叱ること自体、皮肉にも「同じことを繰り返している」と言えます。のび太は懲りていないわけですが、同時に、実はママも懲りていないのでした。1. かかわり方のコツのび太のママへのアドバイスは、「叱り方」、つまり、かかわり方を変えることです。まず、目に付くのが、ママは、「勉強しなさい!」「早くやりなさい!」と口うるさく勤勉さを強調しますが、自分はいつも居間でテレビを見ていて勤勉ではありません(ダブルスタンダード)。もちろんママは主婦業を立派にこなしてはいるのですが、何かに打ち込むという勤勉さのモデルを、のび太に目に見える形で示すことが効果的です(視覚化)。例えば、ママは、日課の家事だけでなく、趣味ややりたいことの目標を掲げ、それに向かって努力している背中をさりげなく見せることです。2. 構造化ジャイアンへの枠組みと同じように、のび太にも生活の枠組みを目に見える形にすることが大切です(視覚的構造化)。これは私たちの生活にもそのまま応用できます。特に、最初に触れたヒヤリ・ハットを防止するためのヒントになる取り組み(環境調整)です。a. 時間の構造化まず、日課表や時間割によって、やるべき定時を決めることです(時間の構造化)。例えば、宿題をやる時間を決めます。その内容は、飽きないようにバリエーションで小分けにして、その間のこまめな休憩時間も決めます。そして、カウントダウンしていくキッチンタイマーを目の前にして、集中力が途切れないようにします。また、部屋を散らかしやすいなら、1日5分のお掃除タイムを決めます。アポのある日は、段取りの予定を決めます。例えば、遅刻予防のためには、決められた15分前の時間を自分の予定表に設定します。その予定表を見るのを忘れるのを防ぐため、予定表を見る時間も決めます。例えば、毎食後などです。また、付箋などのリマインダー、携帯電話のタイマー機能や「秘書アプリ」も最近は大いに活用できます。b. 場所の構造化部屋を散らかさないためには、物のあるべき定位置を決めることです(場所の構造化)。部屋の散らかりは、物の置き場所が決まっていないという頭の中の散らかり具合を映し出しています。例えば、物を使ったら、必ず定位置に戻す習慣を付けることです。また、書類などの大切なものがなくならないように、大切なものを置く場所を決めます。こまかく整理できるように、小箱も有効に活用できます。冷蔵庫の中も定位置を決めれば、無暗に突っ込まなくなります。定位置には、文字や絵で示しておけば、意識付けが高まります(視覚的構造化)。また、集中力を高める理想的な作業環境を知っておくことも重要です。実は、のび太の部屋は、最も気が散りやすい学習環境のモデルなのです。3つのポイントがあげられます。まず、机が窓に向いていることです。窓から見える人や鳥など動いているものに目を奪われがちになります。窓は、視界に入りにくい位置にあるのが理想的です。2つ目は、ドアが視界に入らない点です。ママにいつ覗かれるかと気になってしまう可能性があります。ドアは、視界に入る位置にあるのが理想的です。3つ目は、背後に空間がある点です。そこでドラえもんがどら焼きを食べていれば、どうでしょう?人は本能的に背後が壁だと落ち着きますので、背後は、壁であるのが理想的です。3. 視覚化ご褒美リスト、がんばり表、親の背中、付箋などのリマインダーなど、目に見える形にして、目に付きやすくすることについては、すでに触れてきました(視覚化)。さらに、部屋の片付けのポイントとして、大きな棚を買わないことです。大きな棚は、散らかったものを詰め込んで見えなくしているだけになります。ちょうど、部屋が片付いていない時にお客さんが来たら、散らかったものを一気に押入れに押し込んだり、一か所に寄せて大きな布を被せるのと同じです。これは、片付けたのではなく、隠しただけなのです。視覚化の真逆の行動です。つまり、ポイントは、散らかった様子を自分に見える形にして、お掃除のやる気を高めることです。のび太が0点の答案を隠さないのと同じくらい大切なことと言えます。(3)2人の母へのアドバイス1. リスクこのままジャイアンとのび太が中学生になったらどうなるでしょうか?マンガやアニメで、大学生や大人の彼らは描かれていますが、中学生や高校生の多感な思春期の彼らは描かれていません。これは、ADHDの特性のあるキャラクターを描いたドラえもんの「ブラックボックス」と言えます。ジャイアンの「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」という身勝手さは、このままだと対人トラブルや反社会的な行動を生み出すリスクがあります(素行障害、反社会性パーソナリティ)。その時は、もはや体格的に母親の力では抑えが効きません。一方、のび太は、「のび太のくせに(生意気だぞ)」と言われ続けて、「どうせぼくなんて」「ぼくは何をやってもだめなんだ」と自信をなくし(低い自己評価)、そこに目を付けられて、ますますいじめのターゲットにされるかもしれません。自信のなさは、対人関係を回避しようとする引きこもりを生み出すリスクがあります(回避性パーソナリティ)。つまり、ADHDの特性は、これ自体は個性なのですが、性格(パーソナリティ)を形作るうえで大きな影響を与えやすいということです。そして、一番重要なことは、この性格は、育む環境によって、魅力にもリスクにもなりうるということです。ADHDの特性によるリスクは、例えるなら、高血圧のリスクです。高血圧は、これ自体は困りませんが、心臓病(虚血性心疾患)や脳卒中(脳血管障害)などのリスクがあります。これと同じように、ADHDの特性は反社会性や回避性のパーソナリティのリスクがあるのです。2. 自尊心と他人への敬意を高める高血圧の人が心臓病や脳卒中を予防するためには、食事療法や運動療法、深刻な場合は薬物療法が必要です。これと同じように、ADHDの特性のある子が、より社会に合わせられ、個性を発揮するためには、その方向付けがとても大切であるということが分かります。そのポイントは、自分を大切にする心(自尊心)と他人を大切にする心(敬意)ことです。そのためには、先ほど触れたかかわり方のコツを踏まえて、彼らが小さな成功体験を積み重ねていくことです。例えば、本人の「良いところリスト」を作って、貼るのも良いでしょう。ジャイアンの母ちゃんは、ジャイアンが店を手伝っていることを当たり前だと思わず、感謝することをお勧めしたいです。すると、ジャイアンは、自尊心が満たされていることにより、他人への感謝や敬意を示すことのできる大人に育っていきます。のび太のママは、のび太の特技であるあやとりや射撃のセンスを勉強に役立たないくだらないことだと思わず、好ましい評価をして、親子でいっしょに大会や集まりに参加することをお勧めしたいところです。体罰を加えたり、ガミガミ叱るのは、自尊心が低く、他人への敬意も払えない子を育て上げるハイリスクの教育ママのモデルと言えます。ここから、親もADHDの特性をよく知って、自分も他人も大切にできる心を育むかかわり方を勉強する必要があることが分かります(ペアレントトレーニング)。表3 環境調整かかわり方のコツ構造化視覚化ジャイアン(多動性―衝動性優勢型)×体罰を加える◎ポジティブな感情を出す◎スポーツで発散する×隠す◎目に見える形にする◎目に付きやすくする◎具体的、肯定的に伝える◎良いところリストを作る◎ご褒美リスト、がんばり表を作るのび太(不注意優勢型)△ガミガミ叱る◎親が努力している背中を見せる◎定時、定位置、予定を決める◎小分けにする◎バリエーションを付ける(4)ドラえもんモデル―自尊心を高め教訓を導くジャイアンとのび太の未来にリスクがある中、登場するのがドラえもんです。秘密道具を出すドラえもんののび太へのかかわり方は、さきほど触れたジャイアンの母ちゃんやのび太のママとは対照的です。秘密道具は、のび太の望みを次々と叶えていると思われがちですが、実はそうでもありません。例えば、ドラえもんは、非常識なリクエストにはきっぱりダメと言い、聞き入れません。ドラえもんなりに何の秘密道具を出すかの基準がはっきりとあるのです。その基準から、どうやら、主に2つのメッセージ性がありそうです。1つ目は、自信を引き出し、自尊心を高めることです。例えば、「コンピューターペンシル」や「暗記パン」によって、勉強ができるという爽快感や達成感を味わい、成功体験を積み重ねていくことは、「自分はできる」という自信や「次はこうなりたい」というビジョンを引き出してくれます。道具は、単にのび太を助けているのではなく、のび太を前向きにさせる後押しをしているのです。2つ目は、道具を使うことによって教訓を得ることです。例えば、秘密道具によって、初めは問題が解決したかに見えて期待を抱かせますが、やがて、のび太が使い方を間違ったり、「絶妙」なタイミングで道具が壊れる展開が待っていることです。そして、最後に、ドラえもんが「道具に頼るからだ」と戒めるストーリーのオチです。のび太だけでなく、見ている私たちが気付くのは、道具を使うことは根本的な問題の解決になっていないこと、そして問題はやはり自分で取り組むのが大切であるということです。自尊心を高め教訓を導くこのドラえもんモデルは、いつもそばにいて支え続けるという母性的な面と、あるべき倫理観を示す父性的な面をバランス良く兼ね備えており、のび太の成長に欠かせない存在です。ADHDの特性の起源そもそも、なぜこのようなADHDの特性が多かれ少なかれ私たちに存在するのでしょうか?進化心理学的に考えれば、普遍的に存在することには、必ずそこに理由がありそうです。その理由とは、もともと人間は、ADHDの特性を持っていたのではないかとういことです。太古の昔から、人間を含む生き物は、食うか食われるかの生存競争から、早い動きに自動的に注意を向ける能力が進化しました(衝動性)。その反面、明らかに遅い動きに注意を向ける能力は、生存競争において必要がないため、進化しませんでした(チェンジ・ブラインドネス)。例えば、テレビのバラエティで、ある映像でどこが徐々に変化しているかを言い当てるクイズは、まさにこの遅い動きへの注意の能力が試されています。そして、このクイズは、きっとADHDの特性の強い人には苦手でしょう。さらに、人間の狩猟採集社会の時代では、夜中に寝ている時でも、獲物がさっとそばを横切れば、すかさず仕留める必要があります(衝動性)。また、飢餓が続けば、獲物や果実を求めて遠出をして動き回ります(多動性)。そんな勇敢であると同時にある程度向こう見ずな遺伝子を持つ種族が生き延び、子孫を残してきたのでした(適者生存)。ところが、1万年前、ほぼ同時期に農耕と牧畜が始まったことにより、社会構造が大きく変わりました。それは、狩猟採集社会から農耕牧畜社会への移り変わりです。狩猟民族の持つ瞬間的な高い集中力(瞬発性)よりも、新しく生まれた農耕民族が持つ持続的な一定の集中力(安定性)、つまりADHDの特性の少なさに価値が置かれるようになりました。ADHDの特性をより分かりやすくするために大胆に言うと、人類は、ぱっと応じるガツガツタイプとじっくり粘るコツコツタイプの2タイプに分けることができるということです。例えるなら、イソップ童話に登場する「兎と亀」です(表3)。国ごとのADHDの特性の程度の違いのわけ世界的に見ると、日本は、ADHDの子どもが少ないです。これはなぜでしょうか?1つの理由としては、日本は国土が狭い島国であったことです。この狭さ(狭小性)と出にくさ(閉鎖性)により、ADHDの特性は発揮されず、この血筋があまり増えなかったことが考えられます。もう1つの理由は、江戸時代に発展した形式を重んじる文化的な枠組みです。それまでの戦国時代は、ADHDの特性の強い戦国武将たちがしのぎを削っていました。特に織田信長は、ADHDの特性が強く、戦で先頭を切り、情報戦略を張り巡らし、時代を先駆ける型破りな革命児でした。現代の私たちも好きな人は多いです。しかし、結果的に、ADHDの特性の少ない徳川家康が天下統一を果たしてしまいました。信長と家康のADHDの特性の違いは対照的です。それは、「泣かぬなら殺してしまえ」と「泣くまで待とう」とそれぞれ対照的に読まれたホトトギスの俳句が物語っています。家康によって、鎖国が推し進められ、長らく平和な世の中が続きました。武士道や茶道などあらゆる形式が重んじられました。このような形式の重んじられた安定した封建社会は、ADHDの特性の少ない人たちが活躍するのに有利です。その一方、ADHDの特性の強い人たちにとっては、幼少期からの枠組みの強い環境がルールを守ることを根付かせて、ADHDの特性を目立たなくさせてきたのでしょう。幕末の激動の時代にようやくADHDの特性を発揮できる状況がやってきました。そして、その時に活躍したのが、ADHDの特性のとても強い坂本龍馬でした。彼は、気性が激しいことでも有名ですが、発想の転換が早く、行動力があり、時代を先駆けることができたのでした。一方、現代のアメリカ合衆国は、ADHDの子どもが多いとの統計があります。この理由は、そもそも彼らの祖先は、冒険心を持って新大陸を目指して集まった人たち、つまり、ADHDの特性の強い人たちだからではないかと思われます。だからこそ、同時に、アメリカ合衆国は、特許数が世界一です。彼らには、ADHDの特性の強いアイデアマンが多いのです。ジョブマッチング(表4)―ADHDの良さを引き出すそして今、新たな時代がやってきています。情報革命が起こり、情報が錯綜する中、国際的な競争力、発想力、行動力が問われる時代です。同時に、お財布携帯、統一化した交通カード、スケジュール管理、検索などのITによるシステム化により、生活スタイルがシンプルになり、ADHDの特性の強い人にも生きやすい時代になってきました。以前よりもシンプルで激動の「大草原」を、この「アクセル」の効きすぎる車は、きっと真っ先に駆け抜けていくでしょう。そのために、私たちはADHDの特性をよく知り、リスクをうまくカバーしつつ、その特性に合った職場環境を見いだす必要があります(ジョブマッチング)。例えば、ジャイアンの夢は、家業の雑貨店から「ゴウダショッピングモール」という自分の名を冠した大型百貨店を世界展開することです。いかにもジャイアンらしいアイデアです。実際に、未来のジャイアンは、「スーパー・ジャイアンズ」というスーパーマーケットを起業しています。ADHDの特性を生かして、起業家としての能力を発揮したのでした。しかし、ADHDの特性のリスクを考えれば、経営は優秀な部下に任せて、ジャイアンはあくまで次の起業に力を注ぐべきだということです。また、ADHDの特性の強い営業マンは、顧客の懐に飛び込むのがうまいのです。衝動性が積極性や仕事の早さとして生かされています。しかし、よくありがちな失敗は、アフターケアを疎かにするということです。よって、会社組織の取り組みとしては、アフターケアには、ADHDの特性の少ない別の担当者を向かわせるというチーム体制を敷くことです。さらに、とてもADHDの特性の強い人は、冒険家に向いています。冒険は、目的がシンプルで、達成されたら終わりというように期間が限定されています。彼らは、多動性や衝動性から、積極的な行動がパターン化して、刺激を求めやすくなっているのです。例えば、死ぬかもしれないけど、エベレストに登ることです。あえて危険な目に身をさらす冒険家の心理状態です(リスクテイカー)。これは、あえて遅刻ぎりぎりに到着するなど遅刻常習犯の心理でもあります。よって、厳しいノルマや規律を求められる学校や会社にはあまり向かないことになります。そして、方向付けが間違えば、その衝動性から、アルコール依存症や薬物依存症になりやすいリスクも潜んでいます。また、医療職において、ADHDの特性を発揮する場は、高い集中力やスピードが求められる救急や夜間当直と言えます。表4 ジョブマッチンングガツガツタイプ(狩猟採集民族)コツコツタイプ(農耕牧畜民族)ADHD特性多い(強い)少ない(弱い)モデル兎織田信長、坂本龍馬亀徳川家康特徴瞬間的な高い集中力(ぱっと応じる瞬発性)持続的な一定の集中力(じっくり粘る安定性)例一般職起業家、冒険家クリエーター、商品開発漁業、スポーツマン経営者、管理職公務員、サラリーマン農業、牧畜医療職急性疾患、救命救急緊急手術、精神科救急夜間当直慢性疾患精神疾患リハビリテーション薬物療法―「ドラえもん薬(ぐすり)」前半で触れたADHDの診断基準を満たしている場合、薬物療法を行います。その効果は、薬による一定の刺激覚醒により集中力を持続させ、学校や家庭での生活を維持していきます。これと同じように、ドラえもんの存在は、ワクワクする体験や冒険を通してのび太を適度に刺激している点で、「ドラえもん薬(ぐすり)」という一種の薬物療法とも言えそうです。では、私たちにとっての「ドラえもん薬」とは何でしょうか?それは、ワクワク感という心の覚醒を持続するために、日々の仕事や日常生活の中での夢や目標に向かって突き進んでいくことそのものです。ここに、最初に触れた「うっかりを減らすにはどうすればいいのか?」という疑問に対しての答えが見えてきます。1つの答えは、のび太のママへのアドバイスでもある作業の枠組みでした(構造化)。それは、定時、定位置、予定を決めるなど作業やチェックをシンプルに目に見える形にすることです。これに加えて、はっきりしてきたもう1つの答えは、仕事や日常生活の夢や目標を自ら意識付けて、日々の生活を生き生きと生きる心意気であると言えます。この自らへの刺激によって、のび太がしずかちゃんと結婚するという夢を叶えるように、私たちも人生をより豊かに歩んでいくことができるのではないでしょうか?1)「注意欠如・多動性障害―ADHD―診断・治療ガイドライン」(じほう) 齊藤万比古 20082)「ADHDのび太ジャイアン症候群」(主婦の友社) 司馬理英子 20083)「他人とうまくいかないのは、発達障害だから?」(PHP研究所) 姜昌勲 20124)「『のび太』という生き方」(アスコム) 横山泰行 2004

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以前のように働きたい、でもどうすればいい?  -東京都世田谷区と精神科医がうつ病患者さんの就労を支援-

近年、うつ病患者数の急増が注目されている。その中でも、働き盛りの世代のうつ病は単なる疾患の問題にとどまらず、経済的な損失の観点からも大きな社会問題として指摘されている。そのような中、東京都世田谷区では精神科医や心理士らと共に、うつ病に悩む区民の就労を支援するため、2008年からうつ病に関する講演会や就労支援講座を実施してきた。同企画の3年目となる今年は、5月17日(月)に世田谷区役所第3庁舎ブライトホールにて、区民約100名を集めた講演会が開催された。そこで、同企画の立ち上げから参加し、講演会の講師を務めている仮屋暢聡氏(まいんずたわーメンタルクリニック〔渋谷区〕)に同企画の趣旨と今後の展望についてお話を伺った。行政との二人三脚で始まったうつ病患者さんの就労支援世田谷区の東京都立松沢病院、東京都健康局の精神保健福祉課長などの経歴を持つ仮屋氏は、地域活動の一環として十数年、同区の保健所に様々な支援をしてきた。このような経緯を経て、世田谷区の保健所からうつ病患者さんの就労支援の相談を受けたのが3年前に遡る。「本企画を立ち上げた3年前は、なかなか復職できずに会社を辞めてしまう患者さんも多く、患者さんの家族からも『どのように患者さんを支えてよいかわからない』という悩みを多く聞いていた」と仮屋氏は振り返る。うつ病に対する認識が広がりつつあるものの、3年前はうつ病に対する認識はまだまだ低く、相談できるところがないような状況だった。そこで、その対策として立ち上げたのがこの企画だ。患者さんやご家族が本当に知りたいことに応える講演会の内容は、“うつ病とは何か?”という全般的な話を一通り説明した上で、今、うつ病で何が問題になっているのかなどの視点や、うつ病に対して自分の臨床経験が深まっていくからこそできる話も織り交ぜ、毎年少しずつ話を変える工夫をしている。現在、インターネットやメディアからの情報で、一般の人たちもうつ病について大まかには知られるようになってきた。しかし、「うつ病は治るのか、いつ治るのか」「どこに受診すればいいのか」「どのような治療法があるのか」「薬はどの程度効くのか」「家族はどうしたらいいのか」など、まだまだうつ病患者さんやご家族ではわからないことが多いと、仮屋氏は指摘する。仮屋氏は、今回の講演会においてうつ病と神経の関連についても言及し、今回はうつ病によって引き起こされる体の変化についても触れた。実際のデータも見せ、自律神経の亢進が身体に及ぼす影響を説明した。そして、「打たれ弱いから、心が弱いからうつ病になったのではない」「何かのショックによってうつ病になったのではない」ことを今回の講演会で最も強調した。仮屋氏は「心を抽象的に捉えてしまうとどうしてもわかりにくくなってしまうが、目に見える形で提示するとうつ病患者さんの理解が得られる」と、講演会の手応えをしっかり感じていた。本企画は、仮屋氏によるうつ病患者さんへの疾患の説明にとどまらない。別の日程で、うつ病患者さんのご家族に対しても、個別にご家族の悩みを聞き、どうしたらよいか相談に乗る機会を設けた。さらに、うつ病患者さんの就労のためのセミナーも用意している。「頑張ったらいけない」ことが、いけないこと?うつ病患者に対して「頑張り過ぎない」「頑張ったらいけない」とよく言われる。この点について逆説的に「頑張らなければならない時は頑張らなければならないのだから、「どういう部分を頑張ればよいのか」「どういう部分は頑張ってはいけないのか」と説明すると患者さんもご家族の方もよくわかってくださる」と、うつ病患者さんに対する対処方法も披露した。聴講者も最後までしっかり聞き入り、「よくわかった」と感想を話していたという。全国に先駆けた世田谷区の取り組み仮屋氏は「うつ病患者さん本人やご家族へのうつ病の講演はあるが、うつ病患者さんの就労支援や患者さん本人のスキルアップのためのセミナーまでやっているところは全国でも少ないのではないか」という。 自治体ができることには限度があるが、「その中でも、少しでも本企画のような動きが広まってくれることを世田谷区も期待している」とのことだ。就労を希望するうつ病患者さんは、一体何に困っている?「今のうつ病患者さんの就労の問題は、就労のための実際のやり方がわからないということ。だから本企画では、私が講演会でうつ病の疾患や治療、対応、家族の基本的な考え方などについて話し、精神保健福祉士やケースワーカーの人たちがセミナーで就労支援の制度の大枠、たとえば障害基礎年金や傷病手当金、失業保険など制度について大まかに説明している。」と、仮屋氏は本企画の特徴を述べた。「世田谷区でもこの事業を毎年総括し、成果がよければまたこの形で続けていくことになるかもしれない」と今後の見解も示した。世田谷区内へ、そして全国へ。 うつ病患者の就労支援は広まるか?仮屋氏は「本企画は世田谷区内の小さいエリアへの展開も考えられる。世田谷区は5つくらいの地区に分かれるので、区が実施した企画が、より小さい地区においても細かくフォローされていくことを実現したいと考えているようだ」と、今後の発展の可能性があることを示唆した。また、これらの成果を、「公衆衛生学会や保健師の学会などで発表できれば、他の地区にも波及して様々な方法が検討され全国に広まっていく。世田谷区がそのような雛形作りになればいい」と仮屋氏は語った。過去世田谷区では、今回のうつ病同様に、全国に先駆けて虐待やアルコール依存症対策などについても取組んできた歴史がある。結果として、この動きは全国に広まっていった。このような世田谷区の特徴を仮屋氏は「世田谷区は80万人という人口を抱えており、いろんな資源もある。区長も積極的にこのような事業に力を入れているという伝統がある。逆にいえば、世田谷区は恵まれているのかもしれない」と説明する。うつ病対策の主力は「コ・メディカル」?もう一つ、仮屋氏が熱い視線を送っているのがコ・メディカルだ。仮屋氏によれば、「世田谷区は心の問題、たとえばアルコール依存症などは今でもコ・メディカルの方々が、「家族が変われば患者さんも変わるのではないか」「コ・メディカルがこの問題に自発的に取り組むことでさらに成果が上がるのではないか」と考え、患者さんの家族に対するアプローチを開始して成果を上げている。このような医師以外のコ・メディカルの運動が、実は地方のような医師が少ない地域でもうつも防げるのではないか。」とコ・メディカルの活動に大きな期待を寄せている。「実際に地方では、臨床に対するアプローチとして、医師がすべてできない部分を保健師などがフォローしていくというように進んでいるようだ」と地方のうつ病診療にまで話が及んだ。最後に仮屋氏は「精神科医も含め医師は不足している。コ・メディカルや職場の産業医、一般の内科医などいろんな職域が上手く連携し、うつ病患者を早期に発見して早期にアプローチしていくということが必要なのだろう。精神科医の仕事として、そういった人たちに対して教育していくということも重要だ」と言葉を結んだ。(ケアネット 高橋 洋明)

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外傷性脳障害後の1年間、患者の半分以上が大うつ病性障害を発症

外傷性脳障害を負った人の半数以上が、その後1年間に大うつ病性障害(MDD)を発症していることがわかった。なかでも、障害を負った時点やそれ以前にMDD歴のある人が、障害後の発症リスクが高かった。米国ワシントン大学リハビリテーション部門のCharles H. Bombardier氏らが、外傷性脳障害を負った500人超について調べ明らかにしたもので、JAMA誌2010年5月19日号で発表した。53.1%がMDD発症、事故当時MDDの人はリスクが1.6倍同氏らは、2001年6月~2005年3月にかけて、中等度から重度の外傷性脳障害で入院した559人について、事故発生後1、6、8、10、12ヵ月時点に、それぞれ電話によるインタビューを行った。その結果、いずれかの調査でMDDの症状が認められたのは、全体の53.1%にあたる297人に上った。MDD発症率は、事故1ヵ月後が31%、同6ヵ月後が21%だった。なかでも、事故当時にMDDを有していた人は、事故後1年間の同発症リスクが大きく、リスク比は1.62(95%信頼区間:1.37~1.91)だった。事故当時はMDDを有していなかったが、それ以前にMDD歴のある人の同リスク比も高く、1.54(同:1.31~1.82)だった。MDD発症者の不安障害リスクはそうでない人の約9倍また、年齢が60歳以上だと、18~29歳に比べ、事故後1年間のMDD発症リスクは小さく、リスク比は0.61(同:0.44~0.83)だった。一方、アルコール依存症歴のある人の同リスクは大きく、リスク比は1.34(同:1.14~1.57)だった。事故後1年間にMDDを発症した人の不安障害の発症率は60%で、MDDを発症しなかった人の同7%に比べ、リスク比は8.77倍(同:5.56~13.83)にも上った。なお、MDDを発症した人のうち、抗うつ薬の処方やカウンセリングを受けたのは、44%にとどまっていた。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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中国における最新の精神疾患有病率の実態が明らかに

2001~2005年の中国の18歳以上人口における精神疾患の有病率は17.5%で、受診率は5%に過ぎず、WHOの世界疾病負担の調査との間に実質的な乖離があることが、北京Hui Long Guan病院自殺予防研究訓練センターWHO共同研究部のMichael R Phillips氏らの検討で明らかとなった。中国などの中所得国では、健康障害の最も重大な原因は男女ともに神経精神病学的な病態であるが、精神疾患の有病率や治療法、関連障害に関する質の高い固有のデータがないことが、精神健康サービス拡充の努力の妨げとなってきたという。Lancet誌2009年6月13日号掲載の報告。約6万人を抽出、1万6,577人をSCID-Iで診断研究グループは、2001~2005年に中国の4つの省で実施された一連の疫学研究に基づき中国における精神疾患の現況について解析した。多段層化無作為抽出法(multistage stratified random sampling method)を用いて1次サンプル地域(都市部96地区、地方267地区)を決定し、18歳以上の1億1,300万人が抽出された。これには中国の成人の12%が含まれる。サンプル地区において単純無作為選択法(simple random selection method)で抽出された6万3千4人が、精神健康調査票(General Health Questionnaire; GHQ)によるスクリーニングを受けた。選ばれた1万6,577人が、精神科医によってDSM-IV 1軸障害の構造化臨床面接法(Structured Clinical Interview for Diagnostic and Statistical Manual (DSM)-IV axis I disorders; SCID-I)の中国版による診断を受けた。その国固有の詳細な精神疾患の状況分析が必要過去1ヵ月における精神疾患の補正後有病率は17.5%(95%信頼区間:16.6~18.5%)であった。気分障害が6.1%(5.7~6.6%)、不安障害が5.6%(5.0~6.3%)、薬物濫用障害が5.9%(5.3~6.5%)、精神病性障害が1.0%(0.8~1.1%)に見られた。気分障害と不安障害の有病率は男性よりも女性で高く、40歳未満よりも40歳以上の年齢で高かった。アルコール使用障害の有病率は男性が女性の48倍も高かった。抑うつ障害やアルコール依存症は都市部よりも地方で多い傾向が見られた。診断が可能であった精神病患者のうち、24%が当該疾患による中等度~重度の身体障害を有していた。専門的な支援を求めたことがあるのは8%、精神科専門医を受診したことがあるのは5%であった。著者は、「今回の結果と、WHOの世界疾病負担(global burden of disease)の解析で推算された中国における精神疾患の有病率、身体障害率、治療を受けている患者の割合には実質的な乖離が見られた」と結論し、「低~中所得国では、精神健康サービスの拡充を図る前に、その国固有の詳細な精神疾患の状況分析を行う必要性に留意すべき」としている。(菅野守:医学ライター)

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アルコール性急性膵炎の治療に有効なターゲットを特定

独立行政法人理化学研究所は16日、英国・リバプール大学と共同で、アルコール誘発性の急性膵臓炎(膵炎)の発症初期に「イノシトール三リン酸受容体(IP3レセプター)」がかかわっていることを発見したと発表した。急性膵炎の主な発症原因として、アルコール依存症の患者に多く見られるアルコールの多量摂取が挙げられる。膵臓を構成する細胞内で消化酵素が異常に活性化すると、膵臓を部分的に消化してしまい、その損傷によって炎症を起こして、急性膵炎を発症させる。これまでの研究から、膵臓内の酸素濃度が低下する際にアルコールと脂質を材料として脂肪酸エチルエステル(FAEE)という化合物が作られることが知られている。この時、FAEEは膵臓細胞内のカルシウム濃度を過剰に上昇させ、トリプシンなどの消化酵素を活性化させると考えられている。膵炎発症のきっかけとなる細胞内のカルシウム濃度上昇の第一段階は、アルコールの刺激によって、細胞内のカルシウム貯蔵庫に貯蔵されているカルシウムが細胞質へと放出されることで始まる。研究グループは、FAEE量が増大すると、カルシウムが特異的なカルシウム貯蔵庫から2型、3型IP3レセプターを通って細胞質に放出されることを見いだした。さらに、理研グループが作製した2型、3型IP3レセプターを欠損するノックアウトマウスの膵臓細胞でFAEEによる毒性の減少が認められたことから、アルコールによる過剰なカルシウム上昇と消化酵素の活性化に、2型、3型IP3レセプターが重要な役割を果たすことが決定的となったという。本研究は、米国の科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』6月15日の週にオンライン掲載される。詳細はプレスリリースへhttp://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2009/090616/detail.html

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イラク、アフガン従軍兵のアルコール問題

ベトナム戦争や湾岸戦争時も報告された、兵士の除隊後の高率なアルコール依存症発症等については、現戦争のイラク戦争やアフガニスタン侵攻に関しても報告されているが、兵役と重篤なアルコール依存症発症との関連リスクについてより詳細な調査を行っていた、米国国防総省ナバル・ヘルス・リサーチセンター(サンディエゴ州)のIsabel G. Jacobson氏らによって、「予備・州兵とより若い軍人でリスクが高い」と報告された。JAMA誌2008年8月13日号より。戦闘曝露から後方支援の兵士まで4万8,481例を対象に兵役後のアルコール依存症といっても、兵役に就いたことがきっかけで新規に発症したパターン、もともと抱えていたアルコール関連の問題(大量飲酒、不節制飲酒)が戦闘曝露によるPTSDなどで制御不能となっているパターンなどが考えられることから、本研究では、それらを明らかにすることが主眼とされた。研究対象は、イラク戦争およびアフガニスタン侵攻に賛意を示す軍人によって、飲酒量やアルコール問題について前向きに記載された「Millennium Cohort Study」の参加者。基線値データ(2001年7月~2003年6月、7万7,047例)と、追跡アンケート調査(2004年6月~2006年2月、5万5,021例、追跡反応率=71.4%)の両方に該当した者が選定された。解析は除外基準適用後4万8,481人の参加者を含んで行われた(軍人;n=2万6,613、予備・州兵;n=2万1,868)。このうち戦闘に曝露されたのは5,510例、されなかったのは5,661例、3万7,310例は戦地に配属されていない。戦闘曝露の予備・州兵で各種アルコール問題の有病率が有意に高い戦闘曝露群のうち、予備・州兵の基線有病率は、「毎週飲酒の習慣性」9.0%、「不節制飲酒」53.6%、「全アルコール問題」15.2%だった。それぞれ、引き続いての有病率は、12.5%、53.0%と11.9%。新規の発症率は、8.8%、25.6%、7.1%であった。軍人では新規の発症率は、6.0%、26.6%、4.8%。戦地配属されていない群との比較で、戦地配属され戦闘曝露が報告された予備・州兵には、各種の問題がより有意に高い可能性が確認された。「毎週飲酒の習慣性」のオッズ比は1.63(95%信頼区間:1.36~1.96)、「不節制飲酒」1.46(1.24~1.71)、「全アルコール問題」1.63(1.33~2.01)。またコホートのうち最も若い年齢階層の兵士が、すべてのアルコール関連のアウトカムで最も高いリスクに位置していた。(朝田哲明:医療ライター)

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バクロフェンはアルコール性肝硬変患者の断酒推進に有効だ

アルコール性肝硬変患者の最も効果的な治療は「断酒」である。ここ数十年の間に、断酒や飲酒再発予防への作用効果が期待される薬がいくつか登場しているが、薬剤性肝障害などを引き起こす可能性が高いことから、薬理学的試験でアルコール性肝硬変患者の飲酒に関しては決まって対象外とされている。ローマ・カトリック大学内科のGiovanni Addolorato氏らは、γアミノ酪酸(GABA:脳や脊髄に存在するアミノ酸の一種で主要な神経伝達物質)受容体作用薬で、日本では抗痙縮薬として保険収載されているバクロフェンの、アルコール性肝硬変患者の断酒効果と安全性について臨床試験を行った。LANCET誌12月8日号より。低肝代謝に着目、プラセボ対照無作為化試験バクロフェンに着目した背景としてAddolorato氏らは、肝代謝が15%と低く大半が腎から排出される点、またアルコール依存症患者あるいは中枢神経疾患患者でいずれも副作用としての肝障害が報告されていないことを挙げている。治験は2003年10月~2006年11月の間にローマ・カトリック大学内科に紹介されてきたアルコール性肝硬変患者148例を対象に行われた。このうち84例を、経口バクロフェン投与群またはプラセボ投与群に無作為に割り付け、12週間投与が行われた。主要評価項目は、断酒を成し遂げ維持できている患者の比率。断酒できた患者総数と断酒継続期間の結果を、外来来診時に評価する方法で行われた。飲酒再発とは、最低1ヵ月の間に、1日4杯以上飲酒もしくは週に14杯以上飲酒した場合と定義された。断酒率71% vs 29%、継続期間は62.8日 vs 30.8日断酒を成し遂げ維持できていた患者は、バクロフェン投与群71%(30/42例)、プラセボ投与群は29%(12/42例)で、オッズ比は6.3(95%信頼区間:2.4-16.1、p=0.0001)。脱落者(治療打ち切り)数は、バクロフェン投与群14%(6/42例)に対しプラセボ投与群は31%(13/42例)だった(p=0.12)。断酒継続期間は、バクロフェン投与群の平均値は62.8日(SE 5.4)で、プラセボ投与群の30.8日(SE 5.5)に比べ約2倍だった(p=0.001)。肝性の副作用は記録されていない。以上からAddolorato氏らは、「バクロフェンは、アルコール性肝硬変患者の断酒推進に有効だ。薬剤として十分通用し、治療において重大な効果を発揮するだろう」と結論づけている。

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