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マイクロプラスチック・ナノプラスチックに関する記念碑的研究(解説:野間重孝氏)

 環境問題がさまざまな方向から論じられるようになって久しい。しかし、いわゆる公害問題のように、原因・原因物質と結果として出現する疾病との関係が明らかであるような場合を除けば、環境内に伏在する危険因子・物質と疾病との相関が、疫学的に明快に究明された例はなかったといってよい。 この研究は、マイクロプラスチック・ナノプラスチック(MNP)と心血管イベントの関係を疫学的な見地から明らかにした世界初の研究であるばかりでなく、環境問題の研究としても、まさしく記念碑的な研究であると位置付けられるものではないかと思う。ディスカッションの中で研究グループは、「われわれの結果は因果関係を証明するものではないことに注意することが重要である」と語っているが、これはMNPが心血管イベントを引き起こすメカニズムが明らかになっていないということを言っているのであって、彼らの疫学的手法は完璧なものであったと言ってよいと思う。今、バトンは疾病研究者たちにタッチされたのであって、これから細胞内組織研究部門から、このメカニズムについての究明的な研究が発表されるのが待たれるところである。 以上、この論文の評としては十分なのではないかと思うが、この論文評は広くいろいろな方々に読んでいただくことを目的としているので、背景となる知識を評者なりに整理しておきたい。上記の評で十分に興味が持てたという方は、まず原文を読んでいただきたい。大変によくまとまっており、読みやすい論文である。 まず当たり前のことだが、プラスチックとは何なのか。JISでは「必須の構成成分として高重合体を含みかつ完成製品への加工のある段階で流れによって形を与え得る材料」となっているが、普通はこれでは何だかわからないので業界の定義を使おう。「主に石油に由来する高分子物質(主に合成樹脂)を主原料とした可塑性の物質」となる。 マイクロプラスチックとは100μm~5mmの大きさのプラスチックの破片をいう。これは一次マイクロプラスチックと二次マイクロプラスチックに分類される。一次マイクロプラスチックとは主に洗顔料や歯磨き粉などの製品に配合された微小なプラスチックをいい、海洋中の化学物質を吸収し、プランクトンや魚に摂取されやすいという。二次マイクロプラスチックとは元々大きく作られたプラスチック製品が自然破壊で破壊・分解されて小さくなったもので、最終的には目に見えないマイクロサイズになったものを指す。この破壊過程には紫外線が関係していると考えられている。ナノプラスチックとは一般に1nm~1μmの範囲のものを指す。いずれもが海洋汚染の原因として近年問題にされている。より小さいものほど生物体内に取り込まれやすく、その影響も大きいのではないかと考えられている。 国連環境計画(UNEP)、国連の持続可能な開発目標(SDGs)、食糧農業機関(FAO)などが、さまざまな発信を行っていることはご存じの方も多いと思う。ただ知っておかなければならないのは、プラスチックの製造は少なくとも2050年ごろまでは持続するであろうということと、われわれ人類はMNPを処理する完全な方法をいまだ確立していないこと、また一部のプラスチックはリサイクルが不可能であるといったことだろう。 MNPが問題にされるようになったのは、比較的最近のことだといえる。魚や貝などの海洋生物からMNPが検出されたのは2000年代初めの出来事だ。2019年になってマイクロプラスチックが魚の消化管や魚介類の体組織中から見つかり、環境問題として注目されるようになった。ナノプラスチックが問題になるのは、この時期からだと考えればよいので、こちらはまだ10数年の歴史しかないといえる。その後研究は急速に進み、人間でも腸管・肝臓・血液・脳など、さまざまな組織中からMNPが検出された。 本論文中で、何故この研究グループが肝臓や血球ではなく心血管イベントを題材として取り上げたかは書かれていない。しかし、無症候性頸動脈疾患患者から採取したプラーク標本のなんと58.4%からMNPが検出されたとなれば、やはりこの予後を解析することにより、その影響を検討してみようというのは自然な発想だったのではないかと思う。そしてエンドポイントが複合エンドポイントであったとはいえ、ハザード比が4.53だったというのは研究者である本人たちが一番驚いたのではないだろうか。 この研究はそもそも、プラーク中からどのくらいのMNPが検出されるのだろうという素朴な疑問に始まり、その驚きからその経過を疫学的に追ってみようという行動が生まれ、結果として驚くような結論に至ったという、研究としてはきわめてオーソドックスな過程を踏んでいる。こういったごく素直な疑問から発した研究が、大きな発見につながるという典型例ではないかと思う。しかし読者の皆さん、皆さんがこの文章を読みながら何気なく口にしているミネラルウォーター、実はMNPがたっぷり含まれているのかもしれないんですよ。知らないって恐いですよね。

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第90回 小林製薬の「紅麹」製品自主回収、シトリニンが原因?

ベニコウジカビ(Wikipediaより)2024年3月22日、小林製薬は「紅麹原料(自社製造)の成分分析を行った結果、一部の紅麹原料に当社の意図しない成分が含まれている可能性が判明した」と発表しました1)。2024年3月27日時点の報道によると、小林製薬の紅麹製品を摂取し、腎疾患等を発症した患者の死亡が2件、入院症例は106件となっています。紅麹は、マイコトキシンの1種であるシトリニンによる健康障害が知られており、10年前にはすでにヨーロッパで規制されています2~4)。スイスでは2014年に、紅麹を成分に含む食品の売買は違法であると注意喚起されています。紅麹は現在も着色料や発酵食品などに使用されており、血清コレステロール値や血圧を下げる機能が知られています。しかし、紅麹が発酵した場合、マイコトキシンであるシトリニンが生成され、加熱しても腎障害につながる毒性が消えないため、これをいかに制御するかが課題でした。小林製薬も過去ヨーロッパで取り沙汰された紅麹の腎障害については、当然認識していました。次世代シークエンサーを使って紅麹菌3種類の全ゲノム解析を行った結果、日本で主に使われているMonascus pilosusにシトリニンが生成できないという論文が公開され5)、今回自主回収に踏み切った製品にも当然シトリニン非産生株が用いられています。――とはいえ、紅麹が腎疾患を起こしているという疑いが出て自主回収に踏み切っているわけですから、これらの製品がシトリニンを産生しているかどうか、その他健康被害を起こす物質が検出されるかどうかが注目されています。小林製薬は、過去1年間に製造した紅麹原料合計18.5トンのうち、すでに16.1トンは子会社から取引先へ販売済みであるとしています。小林製薬は、すべての紅麹原料を使用した製品の販売を停止するよう求め、回収措置を進めています。3月25日、小林製薬の株価は値幅いっぱいまで急落しました。海外で以前に問題となった紅麹関連の腎障害がここに再び現れた場合、消費者およびステークホルダーへの詳細な説明が不可欠となるでしょう。参考文献・参考サイト1)小林製薬:紅麹関連製品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ2)内閣府食品安全委員会:スイス連邦食品安全獣医局(BLV)、紅麹を成分に含む食品の売買は違法と注意喚起3)内閣府食品安全委員会:フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)、紅麹を有効成分とするサプリメントを服用する前に必ず医師に相談するよう注意喚起4)内閣府食品安全委員会:欧州連合(EU)、紅麹由来のサプリメント中のかび毒シトリニンの基準値を設定5)Higa Y, et al. BMC Genomics. 2020 Oct 1;21(1):679.

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ナイアシンの取り過ぎは心臓に悪影響

 ナイアシンは必須ビタミンB群の一つだが、取り過ぎは心臓に良くないようだ。何百万人もの米国人が口にする多くの食品に含まれるナイアシンの過剰摂取が炎症を引き起こし、血管にダメージを与える可能性のあることが、米クリーブランド・クリニック、ラーナー研究所の心血管・代謝科学主任研究員であるStanley Hazen氏らの研究で示唆された。この研究結果は、「Nature Medicine」2月19日号に掲載された。 Hazen氏は、「ナイアシンの過剰摂取により心血管疾患の発症リスクが高まる可能性が示された以上、平均的な人はナイアシンのサプリメントの摂取を控えるべきだ」とNBCニュースに対して語った。 米メイヨークリニックによれば、ナイアシンの推奨摂取量は男性で1日16mg、妊娠していない女性では1日14mgである。米国では、穀物やシリアルにナイアシンが強化され始めた1940年代以来、その摂取量が増加している。Hazen氏によると、食品にナイアシンを強化する動きは、ナイアシンが不足するとペラグラと呼ばれる致命的な疾患を引き起こす可能性があることを示唆した研究を受けて助長されたと説明する。皮肉なことに、ナイアシンのサプリメントは、かつてはコレステロール値を改善するために医師によって処方されていた。 本研究には関与していない、米ヴァンダービルト大学医療センター循環器内科のAmanda Doran氏は、ナイアシンが心血管疾患リスクを高める可能性があることを知って驚いたと話す。同氏はNBCニュースに対し、「ナイアシンに炎症促進作用があると予想していた人はいないのではないかと思う」と語り、「この研究結果は、臨床データ、遺伝子データ、マウス実験を組み合わせて多角的に検討して導き出されたものであり、説得力がある」と述べている。 Hazen氏らはまず、心血管疾患の評価のために心臓病センターを訪れた患者1,162人(女性422人)の空腹時血漿のメタボロミクス解析を行った。その結果、ナイアシンの代謝産物である2PY(N1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド)と4PY(N1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミド)の血中濃度が主要心血管イベント(MACE)の発生と関連していることが明らかになった。この結果は、米国人2,331人とヨーロッパ人832人から成る2つの検証コホートでも確認された。また、遺伝子変異体rs10496731は2PYおよび4PYレベルと有意に関連しており、さらに、この変異と血漿中の血管細胞接着分子(VCAM-1)である可溶性VCAM-1(sVCAM-1)レベルが関連することも示された。 マウスを用いた実験からは、生理学的レベルの4PYの投与によりVCAM-1の発現が促進されるとともに、血管内皮における白血球の付着が増加し、炎症が亢進していることが示唆された。このような変化は、2PYの投与では確認されなかった。 米マウントサイナイ・ヘルスシステム代謝・脂質部門でディレクターを務めるRobert Rosenson氏は、この結果は「魅力的」で「重要だ」とし、「食品業界がパンのような製品にナイアシンを大量に添加するのをやめることを期待している。これは、体に良いとされるものの取り過ぎが、かえって悪影響を及ぼすことの一例だ」とNBCニュースに語った。 Rosenson氏は、「この結果は、ナイアシンの食事からの摂取推奨量にも影響を与える可能性がある」との見方を示す。一方、前述のDoran氏は、「この結果は、血管の炎症を抑える新たな方法の開発につながる可能性もある」との見方を示し、「大きな可能性を秘めた、ワクワクするような結果だ」と話している。

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高アルカリ水での尿路結石再発予防は困難

 「アルカリ水」として販売されている飲料を、尿路結石の予防目的で飲んだとしても、効果を得られる可能性は低いのではないかとする論文が発表された。それらの飲料に含まれているアルカリ成分は少なすぎて、尿のpHレベルに影響を与えるほどではないという。米カリフォルニア大学アーバイン校のRoshan Patel氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of Urology」に2月1日掲載された。研究グループによると、アルカリ水よりもむしろオレンジジュースの方が良い選択肢である可能性があるとのことだ。 Patel氏らは論文中に研究の背景として、「高pH水」とも呼ばれるアルカリ水への人気の高まりを指摘している。水道水のpHは7.5程度だが、アルカリ水はそれより高い。尿路結石は再発しやすい疾患であり、再発予防には尿のpHを上げることが重要で、その方法として薬物治療としてはクエン酸カリウムが処方される。しかしクエン酸カリウムの錠剤はサイズが大きく、毎日複数回飲む必要があるため、服用したがらない患者も少なくない。このような人たちの間で、アルカリ水への尿路結石再発予防効果への期待が広がっているのだという。 そこでPatel氏らは、米国で市販されている5種類のアルカリ水のpHを測定した。また、尿のpHを上昇させる可能性のある、ほかの飲料や食品についても、公表されているデータの検討を行った。 検討の結果、5種類のアルカリ水のpHは、9.69~10.15の範囲であり、アルカリ含有量は1L当たり、わずか0.1mEqだった。研究者によると、この量は体内で代謝産物として生成される酸が1日に約40~100mEqであることに比べると、「取るに足りない」レベルだという。また、ある製品には、少量のクエン酸塩が含まれていたが、製品ラベルにはそのことが記載されていなかった。Patel氏は、「アルカリ水のpHは水道水よりも高いが、アルカリ含有量は無視できる程度のものだ。このことは、腎臓やその他の部位にできる尿路結石の発生に影響を与えるほど、尿のpHを上げることができないことを示唆している」と、大学発のリリースの中で述べている。 対照的に、尿のpHを上昇させる可能性のある市販製品が見つかった。例えば、オレンジジュースの中にはアルカリ含有量が1L当たり最大15mEqに達する製品があり、費用対効果の高い予防手段となる可能性が認められた。もう一つの低コストで効果的な選択肢は、料理に「膨らし粉」として用いられる重曹(重炭酸ナトリウム)が挙げられる。ただし、重曹についてはナトリウムが含まれているため、研究者らは「健康上の懸念がある」と指摘している。 これらの結果を基にPatel氏は、「われわれの報告は、アルカリ水ではない一部の市販飲料や食品が尿路結石の再発予防に役立つ可能性を示している」と述べている。ただし、「得られたデータは研究室内での解析結果であり、実際に尿のpHを上昇させるための最良の方法は、臨床試験により確認する必要がある」とのことだ。

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第201回 避難所のトイレ問題、医療者からの提言求む!

先日、ついに能登半島最深部の珠洲市に入った。ペーパードライバーの私は公共交通機関を使うしかなく、北陸鉄道が運行する特急バスで珠洲市を目指した。このバスは3月15日までは北陸鉄道の計らいにより無料。座席以上の乗車希望者がいた場合は現地の被災者と親族が優先乗車する。私が金沢駅で乗り込んだ時は、幸い乗車希望者が座席数を下回っており、難なく乗車することができた。通常、金沢駅から珠洲市役所までは2時間半程度で到着するが、道路事情や途中の停車バス停の関係などで約4時間かかった。現地は被災から2ヵ月を経過した今も大部分の地域で断水が続いている。私はとある場所に間借りで寝起きをさせてもらったが、2泊3日の滞在中の寝床は床にアルミホイル製ブランケット2枚を敷き布団と掛け布団代わりにして過ごした。その割に6時間はきっちり眠ったが…。食事は持ち込んだインスタント麺とパック入りご飯、補助食品のカロリーメイトが中心。上下水道が使えない断水状態のため、排水をすることができずにインスタント麺の汁はすべて飲み干しである。以前書いたことがあるかもしれないが、私はインスタント食品の中ではカップ焼きそばが大好きな人間だが、湯切り前提のカップ焼きそばを断水地域で食べるなどもってのほかである。これらの食品は飲料のお茶などとともに大部分は東京から最も大きなレジ袋に入れて持ち込んだ。金沢での現地調達も可能だが、東京のほうが安価なディスカウントストアを知っているという貧乏根性が働いてしまったのだ。ちなみにインスタント麺の汁飲み干しも前提に摂取水分量は1日2Lと計算して飲料も持ち込んだ。ほぼ完璧に計算したつもりだったが、その想定はやや狂った。何かというと、歯磨きの口すすぎの水が計算から漏れていたのである。おかげで最初の晩は、歯磨き後の口すすぎをペットボトルの緑茶でやる羽目になった(2日目は取材していた支援チームが大量に保有していた500mLのペットボトル入りミネラルウォーターを分けてもらったが)。さて、上下水道が機能していないのに歯磨きの口すすぎの水はどこに掃きだしていたのかとなるが、それはやむなく洗面所で吐き出すしかなかった。私が滞在していた場所には各種支援チームも滞在していたが、周囲もそうだった。これ以外に滞在先でやむなく排水となっていたものがある。まず、男子トイレの小便用器である。小便用器に用を足した後は、目の前に置かれた2Lサイズのペットボトルに入った水を便器にかけて流す決まりになっていた。また、その後の手洗いもトイレの洗面台に設置された、折り畳み式ポリ容器のコックをひねり、中から出てくる水で洗うため、洗面台の排水管に流すしかなかったのである。ちなみに、トイレについては滞在先の敷地内に3台のトイレ専用車も設置されていたが、滞在者数に対して数が少なく、周囲の住民も利用するため、常に利用できるわけではなかった。そして男性の大便用のほうは、建物のトイレ内に設置された簡易トイレに専用のビニール袋を1回ごとにセットし、用を足し終わると凝固剤を加えて密封したうえでトイレ内の大型ポリ容器に捨てる。女性の場合は大小便ともに男性の大便用と同じような使用・処理方法となる。大型ポリ容器内には予め大きな黒いポリ袋が設置されているため、用を足した後に各人が捨てた排泄物は、2時間おきに建物内のトイレ清掃担当班が口を縛って、屋外の廃棄物置き場に運搬していた。ある時、この作業の様子を撮影していると、「ちょっと持ってみます?」と担当班の人から廃棄物置き場運搬前の黒いポリ袋を渡されたが、軽量のダンベルよりは明らかに重かった。「思ったより重いですね」とダンベルを持ち上げる動作のように上げ下ろししてみたが、中は排泄物だと思い直してすぐに相手に戻した。念のために付け加えておくと、当然ながら現地では基本的に入浴はできない。なぜこんなことを書いたかというと、実は思っているほど現地の断水に伴う状況が伝わっていないこと、さらに公衆衛生の観点からもこの点は伝えておかねばと思ったからである。医学的にも重要な避難所のトイレ問題実は東日本大震災の時も感じたことだが、断水が続く地域でのトイレ問題は深刻である。そもそもトイレが仮設、かつこれに加えてぱっと見で汚いと感じると、排泄を控えようとする人は少なくない。そうなると飲食を控えることに行き着きがちだ。これ自体が健康問題に直結することを考えれば、たかがトイレとは言えないはず。とくに排泄の場合、必然的に小便の頻度が多くなるので、このような状況では水分摂取を控えがちになる。これは心血管系疾患を基礎疾患として有することが多い高齢者では時に致命的になる。しかし、いくら医療従事者が「水分摂取を過度に控えないように」と忠告しても、トイレがこの状況では「糠に釘」状態になってしまう。そして東日本大震災での取材経験も踏まえると、同じ断水地域でも市町村、あるいは避難所単位での「トイレガチャ」がある。端的に言うと、こうした仮設トイレは提供する企業、支援自治体によってかなりスペックに差がある。たとえば、珠洲市に先立って私が訪問していた輪島市門前町のある避難所では、屋外に工事現場にあるような仮設トイレが設置されていた。このトイレを実際に使ってみたが、内部は洋式で恐ろしく狭い。トイレの扉には男性の小便も便座に座ってするように注意書きが貼ってあったが、内部に正面から入って扉を閉めた後に便座に座ろうとすると、方向転換に苦労するほどの狭さなのだ。しかも屋外なので、トイレの床は利用者の靴底に付着した泥などで汚れている。ここでは予め小便の場合は何も流さず、大便の場合は用を足し終わった後、屋外に設置されたビニールプールから桶で水を掬って、再びトイレに戻って流すように指示されていた。小と大で対応をわけているのは、仮設トイレの排泄物タンクの容量をひっ迫させないためだろう。実際、私は小便で使ったが流さなくて済む反面、便器底部のタンクにつながる蓋が小便の重みで何度もバタンバタンと音を立てるのは正直気分が良いものではなかった。さらに言えば、この蓋の動作で体感はしていなくとも小便を含む飛沫が、自分の内股などに付いている可能性はある。さらに大便に関して言えば、現地で活動していた女性薬剤師が後日、「水を汲みに行って流しに戻るということは、大便をしたということが周囲にわかってしまいますよね。あれで私はなかなか用が足せず、数日間は便秘気味になりました」と語ったことでハッとした。この「トイレガチャ」は被災者の健康問題まで発展した場合、そのツケを払わされる当事者には間違いなく医療従事者も含まれる。その意味では各自治体の災害対応・訓練などに関わっている医療従事者の皆さんには、平時から災害時のトイレ問題を今まで以上に心を配って検討しておいてほしいと思っている次第だ。

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“抗加齢医学”の実学創造~北里 柴三郎博士の思いを継いで~

第24回日本抗加齢医学会総会が2024年5月31日(金)~6月2日(日)の3日間、熊本城ホールにて開催される。今回のテーマは『実学創造~老化制御の一新紀元』。大会長である尾池 雄一氏(熊本大学大学院生命科学研究部分子遺伝学講座 教授/熊本大学医学部長)に本総会に込める思いや注目演題について話を聞いた。予防医学の父、北里 柴三郎氏の精神を引き継ぐ2024年は新日本銀行券が発行されますが、新たな千円札紙幣の顔となる北里 柴三郎博士の生誕の地がこの熊本です。私自身も博士のモットーである『“実学の精神”をもって社会に貢献』にならい、これまで当たり前のように受け入れてきた年齢を重ねることで発症リスクが高まる脳・心血管疾患、悪性腫瘍など加齢関連疾患の発症を”抗加齢医学”の実践により予防するための研究を進めてきました。その思いを詰め込み、本学会総会初となる地方都市開催の実現とともに、北里 柴三郎博士の玄孫にあたる北里 英郎氏による講演「近代医学の父、予防医学の礎を築いた北里 柴三郎博士の功績」ほか、北里 柴三郎博士の意思、精神を引き継ぎ、抗加齢医学の実学創造に挑む関連演題をお届けします。また、会長企画シンポジウムでは、1)コホート研究から健康長寿の鍵を紐解く、2)ミトコンドリア研究から老化制御の実学創造/ミトコンドリア先制医療、3)Inflammagingから老化に迫る、4)老化を予測・制御する最先端研究といったテーマで各々の領域でご活躍されているの方々にご講演いただく予定です。また、『生物はなぜ死ぬのか』の著者で知られる小林 武彦氏(東京大学定量生命科学研究所附属生命動態研究センター 教授)、新たな年齢指標「epigenetic clock(生物学的年齢)」を開発したSteve Horvath氏(米国・カルフォルニア大学)、世界的なエイジング医学ジャーナルnpj Aging編集長のMarco Demaria氏(オランダ・フローニンゲン大学医療センター)を海外からお招きし、抗加齢医学におけるグローバルな話題も提供いたします。予防医学に光明、ミトコンドリア研究が熱い! 私は病的な老化を制御・予防する観点から主に2つの柱で研究を進めております。一つがミトコンドリア機能制御の解明と抗加齢医学への応用です。ヒトの細胞は一人あたりに約200種類、数十兆個が存在していますが、各々の細胞が正常に機能するにはエネルギーが不可欠です。ここで重要なのがミトコンドリアであり、ほぼすべての細胞においてエネルギーを生成する発電所的な役割を果たしているわけです。しかし、このミトコンドリアの機能が異常を示せば細胞レベルで異常がみられるようになり、また、機能異常が進むと、酸化ストレスとも呼ばれる活性酸素(ROS)が細胞内で産生されて体内の老化が一気に加速してしまいます。つまり、ミトコンドリアの機能をいかに正常に保つかが非常に重要課題であることから、さまざまな研究が進められており、近年ミトコンドリアだけにフォーカスした国際シンポジウムが頻繁に開催されたり、CellやNatureといった世界のトップ科学雑誌に新たな研究成果が立て続けに掲載されたりするなど、とても競争が激しくホットな領域なのです。たとえば、“細胞内小器官“であるミトコンドリアが、隣接する細胞間や遠隔の細胞間でやりとりされ、お互いの細胞機能に関わり老化に影響を与えることや、ミトコンドリアの機能に重要なミトコンドリアを構成するタンパク質の合成が活性化されていることが長寿に重要であることなど解明されており、ミトコンドリアを標的とした薬剤やサプリメントの開発など、抗加齢医学への応用が着実に進められています。そこで、皆さまにミトコンドリア研究の今を知ってもらうために、会長企画シンポジウムとしてご用意いたしました。老化に抗う時代の到来か!?もう一つの研究の柱が炎症老化(Inflrammaging)です。これは炎症を意味するinflammationと老化を意味するagingを組み合わせた造語で、老化に伴う慢性炎症のことです。炎症自体は感染や組織損傷への防御反応で、その多くは改善すれば自然と収まるものなので、悪いものではありません。しかしこれまでも、何らかの原因で炎症が遷延し慢性炎症を惹起し、がん化などに繋がることは注目されていました。しかし近年、老化した個体の中で変化し生じるさまざまな機構により慢性炎症が生じ、細胞/臓器/身体の機能低下をもたらし、老化表現型の出現および加齢関連疾患の発症・進展に寄与していることが明らかとなってきました。上述のミトコンドリアの変化も老化に伴う慢性炎症の原因の一つです。現在の老化予防としては老化細胞を除去(セノリシス)する方法や、それとは別に老化細胞のinflammagingなど老化を促進する特徴的な機能を阻害するセノモルフィックな戦略が注目され、既に米国を中心にヒトでの臨床研究が進んでおります。われわれもまた抗老化医学の実学創造の柱としてinflammagingの解明とその制御に挑んでおり、会長企画シンポジウムでもこの話題を盛り込みました。このほか、さまざまな視点から抗加齢に着目した教育講演やシンポジウム、日本血管生物医学会、日本肝臓学会、健康食品産業協議会などとの共催シンポジウム、2025年に向けた大阪万博や世界長寿サミットに関するセッションなどを取り揃え、どんな専門分野の医師、医療関係者も楽しめる総会となっています。ぜひ現地にて皆さまのご参加をお待ちしております。

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普段から活発な高齢者、新型コロナ発症や入院リスク低い

 健康のための身体活動(PA)は、心血管疾患(CVD)、がん、2型糖尿病やその他の慢性疾患の予防や軽減に有効とされているが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症や入院のリスク低下と関連することが、米国・ハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のDennis Munoz-Vergara氏らの研究により明らかになった。JAMA Network Open誌2024年2月13日に掲載の報告。 本研究では、COVID-19パンデミック以前から実施されている米国成人を対象とした次の3件のRCTのコホートが利用された。(1)CVDとがんの予防におけるココアサプリメントとマルチビタミンに関するRCT、65歳以上の女性と60歳以上の男性2万1,442人、(2)CVDとがんの予防におけるビタミンDとオメガ3脂肪酸に関するRCT、55歳以上の女性と50歳以上の男性2万5,871人、(3)女性への低用量アスピリンとビタミンEに関するRCT、45歳以上の女性3万9,876人。 本研究の主要アウトカムは、COVID-19の発症および入院とした。2020年5月~2022年5月の期間において、参加者はCOVID-19検査結果が1回以上陽性か、COVID-19と診断されたか、COVID-19で入院したかを回答した。PAは、パンデミック以前の週当たり代謝当量時間(MET)で、非活動的な群(0~3.5)、不十分に活動的な群(3.5超~7.5未満)、十分に活動的な群(7.5以上)の3群に分類した。人口統計学的要因、BMI、生活様式、合併症、使用した薬剤で調整後、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19による入院について、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて非活動的な群とほかの2群とのオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・6万1,557人(平均年齢75.7歳[SD 6.4]、女性70.7%)が回答した。そのうち20.2%は非活動的、11.4%は不十分に活動的、68.5%は十分に活動的だった。・2022年5月までに、COVID-19の確定症例は5,890例、うち入院が626例だった。・非活動的な群と比較して、不十分に活動的な群は感染リスク(OR:0.96、95%CI:0.86~1.06)または入院リスク(OR:0.98、95%CI:0.76~1.28)に有意な減少はみられなかった。・一方、非活動的な群と比較して、十分に活動的な群は感染リスク(OR:0.90、95%CI:0.84~0.97)および入院リスク(OR:0.73、95%CI:0.60~0.90)に有意な減少がみられた。・サブグループ解析では、PAとSARS-CoV-2感染との関連は性別によって異なり、十分に活動的な女性のみが感染リスクが低下している傾向があった(OR:0.87、95%CI:0.79~0.95、相互作用p=0.04)。男性では関連がなかった。・新型コロナワクチン接種状況で調整後に解析した場合も、非活動的な群と比較して不十分に活動的な群は、感染と入院のORはほとんど変化しなかった。・新型コロナワクチンは、PAレベルに関係なく感染と入院のリスクを大幅に減少させた。感染リスクはOR:0.55、95%CI:0.50〜0.61、p<0.001、入院リスクはOR:0.37、95%CI:0.30~0.47、p<0.001。

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週3個以上の卵が脂肪性肝疾患と高血圧を予防?

 卵の摂取が脂肪性肝疾患(steatotic liver disease)と高血圧症に対する保護的な効果を示し、週3個以上の摂取でそれらの発症リスクがより低くなることを、イタリア・Saverio de BellisのRossella Tatoli氏らが明らかにした。Nutrients誌2024年1月31日号掲載の報告。 卵にはミネラルやビタミンなどの豊富な栄養素が含まれているが、コレステロール含有量も卵黄1個当たり180~225mgと多いため、しばしば生活習慣病の“悪者”扱いされることがある。しかし、これまで卵の摂取と疾患、とくに脂肪性肝疾患のリスクとの関連を調査した研究は乏しく、さらにその結果には一貫性がない。そこで、研究グループは、脂肪性肝疾患や高血圧症の発症リスクに対する卵摂取の影響を調査した。 研究グループは、南イタリアの胆石症に関する多施設コホート研究であるMICOLプロジェクト(2017年開始)から60歳以上の908人を抽出して解析した。脂肪性肝疾患と高血圧症の有無によって、(1)脂肪性肝疾患なし/高血圧症なし、(2)脂肪性肝疾患なし/高血圧症あり、(3)脂肪性肝疾患あり/高血圧症なし、(4)脂肪性肝疾患あり/高血圧症ありの4つのグループに分類し、卵の摂取量との関連を調査した。 主な結果は以下のとおり。●脂肪性肝疾患なし/高血圧なしは236例(平均年齢61.3歳、男性49.2%)、脂肪性肝疾患なし/高血圧症ありは176例(70.5歳、50.0%)、脂肪性肝疾患あり/高血圧症なしは209例(61.7歳、60.3%)、脂肪性肝疾患あり/高血圧症ありは287例(69.2歳、57.1%)であった。●1日当たりおよび1週間当たりの卵摂取量は、脂肪性肝疾患なし/高血圧なしのグループで最も多かった。●1週間当たり3個以上の卵の摂取は、脂肪性肝疾患なし/高血圧症あり、脂肪性肝疾患あり/高血圧症ありとなるリスクを有意に低減させた。リスク比(95%信頼区間)とp値は以下のとおり。・脂肪性肝疾患なし/高血圧症あり:0.21(0.07~0.62)、0.005・脂肪性肝疾患あり/高血圧症なし:0.73(0.36~1.47)、0.38・脂肪性肝疾患あり/高血圧症あり:0.34(0.15~0.73)、0.006●この関連は、年齢、性別、1日の摂取カロリーで調整した後も同様であった。

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ED治療薬、心臓病の薬との組み合わせは危険な場合も

 心疾患の治療目的で硝酸薬を使用中の男性が、バイアグラ(一般名シルデナフィルクエン酸塩)やシアリス(一般名タダラフィル)といった勃起障害(ED)治療薬を併用すると、死亡リスクや心筋梗塞、心不全などのリスクが高まる可能性が、新たな研究で示された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のDaniel Peter Andersson氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」1月23日号に掲載された。Andersson氏は「医師が、心血管疾患のある男性からED治療薬の処方を求められることが増えつつある」とした上で、「硝酸薬を使用している患者がED治療薬を併用することで、ネガティブな健康アウトカムのリスクが高まる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。 バイアグラやシアリスなどのED治療薬はPDE5阻害薬と呼ばれ、動脈を広げて陰茎への血流を増加させる働きがある。また、硝酸薬にも血管を拡張する作用があり、狭心症による胸痛の治療や心不全の症状を緩和するために使用される。 PDE5阻害薬と硝酸薬はいずれも血圧低下の原因となり得るため、ガイドラインでは、これらを併用すべきではないとの推奨が示されている。それにもかかわらず、実際にはPDE5阻害薬と硝酸薬の両方が処方されている患者の数は増加しつつある。しかし、これらを併用した場合にどのような影響があるのかについてのリアルワールド(実臨床)のデータはほとんどない。 Andersson氏らは、2006年から2013年の間に心筋梗塞を発症するか血行再建術を受け、硝酸薬が最大18カ月の間隔を空けて2回以上処方されていた18歳以上の患者6万1,487人(平均年齢69.5±12.2歳)を選び出し、その医療記録を分析した。硝酸薬の2回目の処方前6カ月間にPDE5阻害薬が処方されていた患者は除外された。対象者のうち5,710人(9%)にはED治療薬としてPDE5阻害薬も処方されていた。追跡期間中央値は5.9年だった。 解析の結果、硝酸薬とPDE5阻害薬の両方が処方されていた男性では、硝酸薬のみが処方されていた男性に比べて、全死亡リスクが39%、心血管疾患による死亡リスクが34%、心血管疾患以外の原因による死亡リスクが40%、心筋梗塞リスクが72%、心不全リスクが67%、冠動脈血行再建術を受けるリスクが95%、主要心血管イベントの発生リスクが70%高いことが示された。ただし、硝酸薬とPDE5阻害薬の両方が処方された男性でも、PDE5阻害薬の使用開始から28日以内では、死亡や心筋梗塞、心不全といったイベントの発生数は少なく、即時性の高いリスクは低~中程度であることが示されたとAndersson氏らは説明している。 Andersson氏は、「われわれの目標は、硝酸薬による治療を受けている患者にPDE5阻害薬を処方する前に、患者中心の視点で慎重に考慮する必要性を明確に示すことだ」と米国心臓病学会(ACC)のニュースリリースで述べている。その上で、「ED治療薬が心血管疾患のある男性に与える影響は現時点では不明瞭だが、今回の結果は、この影響に関するさらなる研究を正当化するものだ」としている。 一方、米ベイラー大学心臓病学教授のGlenn Levine氏は付随論評で「体調管理が行き届いている軽度の狭心症の男性であれば、ED治療薬はそれなりに安全だ。しかし、硝酸薬の継続的な処方が必要な状態でED治療薬を併用するのは、賢明とは言えない」との見解を示している。同氏は、「EDと冠動脈疾患の組み合わせは高頻度に見られる不幸な組み合わせだ。しかし、適切な予防策とケアを行うことで、これらは何年にもわたって共存できる」と述べている。

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フィネレノンの効果の多くはアルブミン尿抑制作用が媒介

 非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるフィネレノンによる腎転帰および心血管転帰改善効果の多くは、アルブミン尿抑制作用が媒介した結果であることを示唆するデータが報告された。米インディアナ大学のRajiv Agarwal氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に12月5日掲載された。 フィネレノンは、慢性腎臓病(CKD)患者や2型糖尿病患者のアルブミン尿抑制という他覚所見の改善とともに、心腎イベント発生リスクを低下させ、転帰を改善し得ることが報告されている。ただし、心腎イベント抑制効果に対して、アルブミン尿抑制作用がどの程度関与しているのかは明らかにされていない。Agarwal氏らは、同薬の第3相臨床試験として実施された2件の研究のプールされたデータを用いた媒介分析を行い、この点を検討した。 解析対象研究には、48カ国のCKDまたは2型糖尿病患者1万2,512人が組み込まれ、フィネレノン群とプラセボ群に1対1で割り付けられていた。ベースラインにおいて、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)は中央値514mg/gCrだった。介入から4カ月間でのUACRの対数変換値(log UACR)の低下幅によってアルブミン尿抑制作用を評価し、介入後4年間での心腎イベントリスクに対する影響を定量化した。関連性を解析した心腎イベントは、複合腎関連イベント(血清クレアチニンの倍化、腎不全、腎関連死)、および複合心血管イベント(非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心不全入院、心血管死)とした。 介入後にUACRが30%以上低下した患者は、フィネレノン群3,338人(53.2%)、プラセボ群1,684人(27.0%)だった。UACRを連続変数とする媒介分析の結果、複合腎関連イベント抑制効果の84%、複合心血管イベント抑制効果の37%は、UACRの低下が媒介したと計算された。また、UACR低下幅30%以上/未満で二分して施行した媒介分析では、同順に64%、26%がUACR低下によって媒介されたと計算された。なお、UACRの30%の低下は、末期腎不全リスクを有意に抑制するための一つの目安となることが報告されている。 以上より論文の結論は、「CKDまたは2型糖尿病の患者に対するフィネレノンを用いた早期介入による腎転帰改善効果の多くは、アルブミン尿抑制作用によって媒介されており、心血管転機改善効果に対するアルブミン尿抑制作用の媒介効果は中程度と言える」と総括されている。なお、「この結果を、アルブミン尿抑制作用を有する他の薬剤に外挿することはできない」との留意事項が付け加えられている。 また著者らは、「われわれの研究結果は、CKD患者や2型糖尿病患者に対する治療開始後にUACRをモニタリングすることの重要性を強調している。UACRの変化は早期介入効果のサロゲートマーカーであって、腎臓および心血管に対する将来的なメリットを評価し、長期予後の予測に利用できる可能性がある」とも述べている。 なお、本研究にはフィネレノンの製造元であるバイエル社が資金を提供した。

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フレイル、「やせが多い」「タンパク質摂取が重要」は誤解?

 人生100年時代といわれ、90歳を迎える人の割合は女性では約50%ともされている。そのなかで、老衰が死因の第3位となっており1)、老衰の予防が重要となっている。また、要介護状態への移行の原因の約80%はフレイルであり、フレイルの予防が注目されている。 そこで、2024年1月26日(腸内フローラの日)に、青森県りんご対策協議会が「いま注目の“健康・長寿”における食と腸内細菌の役割 腸内細菌叢におけるりんごの生体調節機能に関する研究報告」と題したイベントを開催した。そのなかで、内藤 裕二氏(京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授)が「京丹後長寿研究から見えてきたフレイルの現状~食と腸内細菌の役割~」をテーマに、日本有数の長寿地域とされる京丹後市で実施している京丹後長寿コホート研究から得られた最新知見を紹介した。フレイルの4つのリスク因子、やせではなく肥満がリスク 内藤氏はフレイルのリスク因子は、大きく分けて4つあることを紹介した。1つ目は「代謝」で、糖尿病や高血圧症、がんの既往歴、肥満などが含まれる。実際に、京丹後市のフレイルの人にはやせている人はほとんどいないとのことである。2つ目は「睡眠」で、睡眠時間ではなく睡眠の質が重要とのことだ。3つ目は「運動」で、日常的な身体活動度の低さがリスク因子になっているという。4つ目は「環境」で、これには食事、薬剤、居住地などが含まれる。このなかで、内藤氏は運動と食事の重要性を強調した。高タンパク質食はフレイルの予防にならない!? 厚生労働省が公開している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、65歳以上の高齢者のフレイルやサルコペニアの発症予防には、少なくとも1g/kg/日以上のタンパク質摂取が望ましいとしている2)。しかし、内藤氏はこれだけでは不十分であると指摘した。高齢者の高タンパク質食は、サルコペニアの発症予防にならないどころか発症のリスクとなっているという報告もあり3)、単純にタンパク質を多く摂取すればよいわけではないことを強調した。フレイル予防に有用な栄養素とは? 内藤氏は、京丹後長寿コホート研究でフレイルと非フレイルを比較した結果を報告した(未発表データ)。3大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)について検討した結果、フレイルの有無によって脂質や炭水化物の摂取量には差がなく、タンパク質についても植物性タンパク質がフレイル群でわずかに少ないのみであった。しかし、6大栄養素(3大栄養素+ミネラル、ビタミン、食物繊維)に範囲を広げて比較すると、フレイル群はカリウムやマグネシウム、ビタミンB群、食物繊維の摂取が少なかった。また、食物繊維を多く含む食品のなかで、その他野菜(非緑黄色野菜)や豆類の摂取がフレイル群で少なかったことも明らかになった。 京丹後長寿コホート研究では、食物繊維の摂取が腸内細菌叢にも影響することもわかってきた。食物繊維の摂取と酪酸産生菌として知られるEubacterium eligensの量に相関が認められたのである。Eubacterium eligensの誘導に重要な食物繊維はペクチンであり4)、内藤氏は「りんごにはペクチンが多く含まれており、フレイル群で不足していたカリウムやマグネシウムも多く含まれているので、フレイル予防に役立つのではないか」と述べた。 食物繊維について、現在の日本人の食事摂取基準2)では成人男性(18~64歳)は21g/日以上、15~64歳の女性は18g/日以上が摂取目標値とされている。しかし、最新の世界保健機関(WHO)の基準では、10歳以上の男女は天然由来の食物繊維を25g/日摂取することが推奨されているため5)、内藤氏は「日本が世界基準に遅れをとっていることを認識してほしい」と述べた。

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妊娠中期のEPA/DHA摂取量が少ないと低出生体重児の割合が高い

 日本人女性では、妊娠中期の食事やサプリメントから摂取するエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)といったn-3系脂肪酸の摂取量が少ないと、低出生体重(low birth weight;LBW)児の割合が高いという研究結果を、山形大学大学院看護学専攻の藤田愛氏、吉村桃果氏らの研究グループが「Nutrients」に11月18日発表した。妊娠中期までのn-3系脂肪酸の摂取不足は、LBWの危険因子の一つだとしている。 これまでの研究から、妊娠中の母親の栄養不足はLBWの危険因子であり、中でも食事中のEPAやDHA不足はLBWリスクの上昇と関連することが報告されている。ただし、これまでの解析では、EPA、DHAの摂取量は食事からのものに限られており、サプリメントによる摂取量は考慮されていなかった。そこで、研究グループは、The Japan Pregnancy Eating and Activity Cohort Study(J-PEACH Study、代表:春名めぐみ氏)の一環として、妊娠中期(妊娠14~27週)におけるEPA/DHAの摂取量とLBWとの関連を検討する前向きコホート研究を実施した。 J-PEACH Studyは、妊娠中の食事摂取や身体活動などのライフスタイルと、妊娠中および産後1年間の健康状態との関連を明らかにすることを目的とした多施設共同の前向きコホート研究だ。今回は、2020年2月から10月までに、J-PEACH Studyに参加した504人の妊婦から収集した妊娠中期(妊娠14~27週)と分娩時のデータを用いて分析した。 研究では、まず、参加者に2種類の質問票に回答してもらった。一つは、簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)を用いて58種類の食品や飲料の摂取量を尋ね、EPA/DHAの摂取量を算出した。もう一つは、自記式質問票を用いて、過去1カ月以内のDHAおよび/またはEPAサプリメントの摂取頻度(毎日、週に5~6回、3~4回、1~2回、時々、まったく摂取しない)を尋ねた。さらに、医療記録から、分娩時のアウトカムに関する情報を得た。参加者を、食事とサプリメントからのEPA/DHA総摂取量に基づき、低摂取群(172.3mg未満)、中摂取群(172.3mg以上374.9mg未満)、高摂取群(374.9mg以上)の3つに分けた上で、EPA/DHA摂取量とLBWとの関連を分析した。 分娩時の母親の平均年齢は34.2歳、妊娠中の体重増加は平均9.9kg、妊娠週数は平均38.9週だった。生まれた児は男児が47.0%、平均出生体重は3068.6gで、33人(うち男児8人)はLBW(2500g未満)だった。解析の結果、妊娠中期のEPA/DAH総摂取量が低い群ではLBW児の割合が高かった(P=0.04)。LBW児の割合には、男児、女児ともに有意な傾向は認められなかった。 以上の結果を踏まえ、研究グループは「妊娠中期までにn-3系脂肪酸の摂取量が少ない妊婦では、LBW児の割合が高くなる可能性がある。妊娠後期に十分量のEPAとDHAを胎児に移行するためにも、妊娠中期のうちにこれらを十分に摂取し、蓄積しておくことが重要ではないか」と強調。「そのためには、少なくとも妊娠中期までには食習慣を改善し、EPAやDHAなどの必要な栄養素を自ら摂取できるようにするため、妊婦一人ひとりの生活習慣や考え方に合わせた栄養指導を行うことが必要だ」と述べている。

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糖尿病患者、カルシウムサプリ常用でCVDリスク増

 カルシウムは、骨の組成に重要であり、カルシウム補助食品やサプリメントは骨粗鬆症性骨折予防などに広く用いられている。一方で、カルシウムサプリ摂取が血中カルシウム濃度を急激に上昇させ、心血管系に有害となる可能性がある。とくに心血管疾患(CVD)のリスクが高く、カルシウム代謝が低下していることが多い糖尿病患者における安全性の懸念が提起されている。中国・武漢のTongji Medical CollegeのZixin Qiu氏らによる、糖尿病患者におけるカルシウムサプリ摂取の安全性をみた研究結果がDiabetes Care誌2024年2月号に掲載された。 研究者らはUKバイオバンクに登録された43万4,374人(うち糖尿病患者2万1,676例)を主要解析対象とし、カルシウムサプリの使用と糖尿病の状態との相互作用を検証した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・43万4,374人中2万9,360人(6.8%)がベースライン時に習慣的なカルシウムサプリ使用を報告した。糖尿病患者と非患者でサプリの使用率に有意差はなかった。・追跡期間中央値8.1年および11.2年の間に、それぞれ2万6,374件のCVDイベントおよび2万526件の死亡(うち4,007件がCVD)が記録された。・多変量調整後、糖尿病患者においては、習慣的なカルシウムサプリの使用はCVD発症(HR:1.34、95%CI:1.14~1.57)、CVD死亡(HR:1.67、95%CI:1.19~2.33)、全死亡(HR:1.44、95%CI:1.20~1.72)の高リスクと有意に関連していた。一方、糖尿病のない参加者では有意な関連はみられなかった。・CVDイベントおよび死亡のリスクに関して、習慣的なカルシウムサプリの使用と糖尿病の状態との間には有意な乗法的、相加的な相互作用が認められた。一方、食事または血清カルシウムと糖尿病の状態との間には有意な相互作用はみられなかった。 研究者らは、カルシウムサプリの習慣的使用は、糖尿病患者におけるCVDイベントおよび死亡の高リスクと有意に関連していた。糖尿病患者においては、カルシウムサプリの潜在的な有害作用と考えられる有益性とのバランスをとるためにさらなる研究が必要である、としている。

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膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法【見落とさない!がんの心毒性】第28回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別60代・女性既往歴虫垂炎術後服用歴テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワン配合OD錠T20)(2錠分2 朝夕食後)、クエン酸第一鉄Na錠50mg(1錠分1 朝食後)、ランソプラゾールOD錠15(1錠分1 朝食後)喫煙歴なし現病歴X年10月に食欲不振と食後嘔吐を主訴に消化器内科を受診した。腹部骨盤部造影CTで十二指腸水平脚の圧排を伴う膵鈎部がんおよび多発肝転移を認め、上部消化管内視鏡で十二指腸水平脚に腫瘍の直接浸潤に伴う潰瘍性病変を認めた(写真1、2)。画像を拡大する進行膵鈎部がん(T4,N1,M1 StageIVb)と診断し、十二指腸ステントを挿入し、同年11月に化学療法(ゲムシタビン[GEM]単剤)を開始した。その後、食欲は改善し、同年12月に退院した。外来で同化学療法計4クールを施行したが、X+1年3月にはPD判定となり、同月よりTS-1単剤での化学療法に変更となった(Performance Status[PS]3)。同年5月に、突然の呼吸困難を主訴に救急外来を受診し、バイタルは体温36.5℃、脈拍数111/分、血圧93/56mmHg、SpO2 94%(室内気)で、左下腿浮腫を認めた。血液検査でDダイマー46μg/mL、BNP 217pg/mLと上昇し、心エコー図検査で右室拡大によるD-shapeを認めた。造影CTで両側肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)、両下肢深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)と診断し、入院となった(写真3)。画像を拡大する循環器内科と連携し、入院時Hb 8.3mg/dLと貧血を認めたことから、出血リスクを考慮し、未分画ヘパリン10,000単位/日の低用量で抗凝固療法を開始した。入院2日目に明らかな吐下血は認めなかったものの、Hb 6.7mg/dLと貧血の悪化を認めた。【問題】下記のうち、この患者の静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)管理の方針や膵がん患者に合併するVTEに関する文章として正しいものはどれか。a.日本において膵がん患者におけるVTE予防目的に、低分子ヘパリン(LMWH)皮下注や直接経口抗凝固薬(DOAC)の予防投与が保険承認されている。b.本症例におけるVTEの初期治療として、DOAC単剤による抗凝固療法がより適切である。c.本症例では抗凝固療法の開始後、貧血の悪化を認めたが、明らかな出血事象が確認されない限り、抗凝固療法は継続すべきである。d.進行膵がんは診断後、3ヵ月以内のVTE発症が多く、定期的なDダイマー測定がVTEの診断に有用である。まとめ膵がん患者では予防的抗凝固療法による生存期間延長の利益について、一定の見解は得られていない。自施設の日本人の膵がん患者432名を対象とした検討では、膵がん診断後の生存期間は、VTE群と非VTE群で有意差はなかった。膵がん自体の予後が不良で、VTEの発症は予後悪化に寄与しない可能性がある5)。しかし、VTEはひとたび発症すると致命的な病態となり得ることや、他臓器のがんではVTE発症により生存期間が短縮するという研究が多いため、今後、膵がん治療・患者管理の進歩により、VTE発症の生命予後への影響が明確化する可能性ある。1)Khorana AA, et al. Cancer. 2013;119:648-655.2)Schunemann HJ, et al. Lancet Haematol. 2020;7:e746-755.3)Wang Y, et al. Hematology. 2020;25:63-70.4)Maraveyas A, et al. Eur J Cancer. 2012;48:1283-1292.5)Suzuki T, et al. Clin Appl Thromb Hemost. 2021;27:1-6.講師紹介

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黒砂糖、がん発症を抑制か~J-MICC研究

 黒砂糖にはミネラル、ポリフェノール、ポリコサノールが多く含まれているが、黒砂糖が健康に役立つと評価した疫学研究はほとんどない。今回、鹿児島大学の宮本 楓氏らが、長寿者の割合が比較的高く黒砂糖をおやつにしている奄美群島の住民を対象としたコホート研究を実施したところ、黒砂糖摂取ががん全体、胃がん、乳がんの発症リスク低下と関連することが示された。Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition誌2023月12月号に掲載。 本研究は日本多施設共同コホート研究(J-MICC研究)の一環で、黒砂糖摂取と死亡リスクおよびがん発症率の関連を明らかにするために実施された。奄美の一般住民から参加者を募集し、5,004人(男性2,057人、女性2,947人)が参加した。追跡期間中央値13.4年の間に274例が死亡、338例でがんが発症した。糖関連およびその他の変数を調整後、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間を推定した。黒砂糖の摂取頻度により低摂取群(週1回未満)、中摂取群(週1~6回)、高摂取群(1日1回以上)に分け、低摂取群を基準とした中摂取群、高摂取群の各HRとその傾向を評価した。 主な結果は以下のとおり。・交絡因子調整後、男女におけるがん全体と胃がん、女性における乳がんについて、黒砂糖の中摂取群と高摂取群のHRが低く、HRの低下傾向(がん全体:傾向のp=0.001、胃がん:傾向のp=0.017、乳がん:傾向のp=0.035)が認められた。・肺がんは非喫煙者および元喫煙者のみHRの低下傾向がみられた(傾向のp=0.039)。・全死亡、がん死亡、心血管疾患死亡におけるHRの低下は明らかではなかった。

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わさびは高齢者の記憶力を向上させる

 わさびには記憶力を高める効果がある可能性が、健康な少人数のボランティアを対象とした日本の研究で示唆された。論文の筆頭著者である、人間環境大学総合心理学部教授の野内類氏は、「わさびが健康に良いことは、先行の動物実験で明らかになっていた。それでも、今回の研究で示されたわさびの記憶力向上効果の大きさには、本当に驚かされた」と述べている。野内氏と東北大学加齢医学研究所教授の川島隆太氏を中心とする研究グループによるこの研究結果は、「Nutrients」に10月30日掲載された。 この研究では、健康なボランティア72人(平均年齢65.43歳、女性53人)を対象に二重盲検化ランダム化比較試験を実施し、わさびに含まれている抗酸化・抗炎症化合物であるヘキサラファン(6-MSITC)の摂取が認知機能に与える影響について検討した。対象者は、12週間にわたってヘキサラファン0.8mgを含有するわさび抽出物のサプリメントを摂取する群(ヘキサラファン群)とプラセボを摂取する群(プラセボ群)にランダムに割り付けられた。介入前と介入後に対象者の認知機能(実行能力、エピソード記憶、処理速度、作業記憶、注意力)の評価を行った。 解析の結果、ヘキサラファン群ではプラセボ群と比べて、エピソード記憶と作業記憶の成績が有意に向上していることが明らかになった。これら2つ以外の認知機能については、プラセボ群との間に有意な差は認められなかった。野内氏は、「わさび抽出物のサプリメントを投与された対象者は、高齢者の記憶に関する主な問題である顔と名前の関連付けにおいて、より良好なパフォーマンスを見せた」と具体的な説明を加えている。 では、なぜわさびを摂取すると記憶力が向上するのだろうか。野内氏らは、ヘキサラファンには、記憶を司る脳の海馬領域の炎症を抑制し酸化レベルを低下させる作用があるのではないかと推論している。 野内氏は、脳の健康を保つための方法とされる地中海食、運動療法、音楽療法などは離脱率が高いことから、わさびに注目したと話す。同氏は、わさびを高齢者でも摂取しやすいサプリメントにすることで、毎日の摂取が容易になり、かつ生姜やウコンなど他の抗炎症スパイスよりも効果を見込めると考えたという。 研究グループは、他の年齢層にもわさびを摂取させ、認知症患者の記憶力低下を遅らせることができるかどうかを調べる予定であると述べている。 なお、本研究には、わさび商品を製造する金印株式会社が資金を提供したが、研究グループは、同社が研究自体には関与していないと述べている。

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プロテインサプリの生殖機能への影響、ほとんどの男性は認識せず

 体づくりのためにプロテインサプリメント(以下、プロテインサプリ)を摂取している男性の多くは、このサプリが生殖機能に悪影響を及ぼす可能性について認識していないことが、英バーミンガム大学のMeurig Gallagher氏らの調査から明らかになった。こうしたサプリには、生殖機能に影響を及ぼす可能性がある女性ホルモンのエストロゲンが高用量含まれている。しかし調査からは、ジムに通う男性の約5人に4人(79%)がフィットネス計画の一つとしてホエイプロテインや大豆プロテインなどのサプリを摂取しており、また、プロテインサプリの摂取が生殖機能に与える影響について考えたことがある男性はわずか14%にとどまることが示された。詳細は、「Reproductive BioMedicine」に10月18日掲載された。 Gallagher氏は、「女性ホルモンの過剰摂取は、男性の精子の量や質に問題を生じさせる可能性がある」と指摘。また、市販されている多くのプロテインサプリには、アナボリックステロイドが含まれているため、プロテインサプリを使用している男性は、意図せず自分にステロイドを投与している可能性があることも付け加えている。アナボリックステロイドは、精子の数の減少や精巣の縮小、勃起障害をはじめとするさまざまな問題を引き起こし得るという。 Gallagher氏らは今回、153人の男女(男性71人、女性82人、145人が18〜25歳)から得られたオンライン調査の回答を用いて、ジム通いに関わる因子と男性の生殖機能との関連を検討した。これらの男女のうち、男性の79%(56人)、女性の56%(46人)がプロテインサプリを使用したことがあるか、現在使用していると回答していた。また、プロテインサプリ使用者が挙げたサプリの使用目的として最も多かったのは筋肉増強(男性95%、女性65%)であり、次に多かったのは栄養補給(男性41%、女性37%)であった。 質問項目の中の「自分の生殖機能について考えたことがある」に対して「とても当てはまる/当てはまる」と答えた男性は52%に上った。しかし、「ジム通いやプロテインサプリの摂取が男性の生殖機能に及ぼす影響について考えたことがある」に対して「とても当てはまる/当てはまる」と回答したのはわずか14%にとどまっていた。また、「現時点では、ジム通いやプロテインサプリの使用により得られるメリットは生殖機能への影響よりも重要だ」に対して「とても当てはまる/当てはまる」と回答した男性の割合は28%、「全く当てはまらない/当てはまらない」と回答した男性の割合は38%だった。さらに、75%の男性は、アナボリックステロイドの使用が生殖機能に影響を及ぼすことを認識していたが、プロテインサプリの摂取が有害となり得ることを知っていた人はわずか11%であった。 論文の共著者である、バーミンガム大学生殖生物科学教授のJackson Brown氏は、「男性は、きっかけがあれば自分の生殖機能に関心を持つが、自発的にそのことを考えたりはしないことが分かった。この背景には、社会全体が依然として生殖機能を『女性の問題』と捉え、男性の生殖機能は生涯にわたって変化しないと誤解していることが関係していると考えられる」と同大学のニュースリリースで述べている。Gallagher氏も、「世界保健機関(WHO)によると、世界で6人に1人が不妊症の問題を抱えており、この問題に対する懸念は高まりつつある。しかし、こうした不妊症の症例の半数は男性に要因があるという事実は十分に認識されていない」と指摘する。 ただしBrown氏は、「今回の研究結果は、体づくりに励んでいる人がジム通いをやめるべきであることを意味するものではない」と強調している。同氏は、「この研究結果を、健康的になること、あるいは運動することを否定する理由の一つと捉えるべきではない。重要なのは、プロテインであれビタミン剤であれ、自分が摂取しているサプリについて自ら学ぶようにすべきだということだ」と話している。

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下痢症状とは

患者さん、その症状は下痢 ですよ!下痢とは「水分を多く含む液状またはそれに近い糞便を排泄する状態。排便回数あるいは排便量の増加を伴う場合が多い」症状のこと。持続期間が2週間以内は急性下痢、4週間以上は慢性下痢と区別される。以下、該当する項目はありませんか?□排便回数がいつもより多い□便の量がいつもより多い□しぶり腹(便意切迫)がある□便の色がいつもと違う□最近飲み始めた薬・サプリメントがある □アルコールを飲んだ後だ□人工甘味料(キシリトール…)を含む食品をたくさん食べた◆単なる下痢ではないのは…・就寝中に起こる下痢:重大な疾患が原因のことが多い・大腸がん:下痢になることがある・下痢に加え、以下の症状/病歴を伴う場合は受診が必要です発熱(38.5℃超)、血便、口渇、ひどい腹痛、免疫力が低下、高齢者(70歳超)、衛生状態が悪い外国から帰国出典:日本臨床検査医学会(下痢)、外来を愉しむ攻める問診、MSDマニュアルプロフェッショナル版監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2【「実践的」臨床研究入門】第39回

C(比較対照)をおかなければ因果関係(影響や効果など)はわからないまずは、よくある? CMのお話です。 ◯◯サプリメントを飲み続けてやせた人の経験談をもとに、◯◯サプリメントを飲んだ! やせた! ◯◯サプリメントはダイエットに効いた!? 「※個人の感想です」誰もが「眉唾」な話、と思うのではないでしょうか。なぜなら、ダイエットに成功したのは、サプリメント(だけ)ではなく、食事制限や運動などによる効果の結果かもしれないからです。このような3段論法まがいの誤った論理展開を、(雨乞い)3「た」論法、と呼びます。これは、東京医科歯科大学名誉教授(臨床薬理学・生物統計学)であられた故佐久間 昭先生が著書で述べられた、以下の文章に由来するようです。雨乞いの太鼓を叩いた、雨が降った、故に雨乞いの太鼓が雨を降らせた?雨乞いの太鼓は雨が降るまで続けられるでしょうし、降り止まない雨はありませんよね。したがって、雨乞いの太鼓と降雨に因果関係があると言うのは問題がある、とすることには異論はないでしょう。臨床現場における薬剤などの治療効果判定でも同じです。なんらかの疾患(症状)に、ある薬剤を投与し、効果? がみられたケースだけを取り上げて、単純に「使った、治った、効いた」とするのも、また3「た」論法です。C(比較対照)をおかなければ、E(曝露要因)もしくはI(介入)とO(アウトカム)との関連や因果関係(影響や効果)は検証できないのです。それでは、理想的なCとはどのようなものでしょうか。理想的なC、比較対照群とは、臨床研究でOとの関連や因果関係(影響や効果)を検証したいEもしくはI以外の「背景要因」がまったく同じ集団、となります。「背景要因」は測定可能なものと測定できないものに分けられます。測定可能な背景要因には、臨床研究論文のTabel 1.でよく記述されている以下のような要因が挙げられます。年齢、性別、併存疾患、BMI、各種検査所見、等々一方、背景要因には、日常臨床では測定不可能なものも多々あります。たとえば、以下のような要因です。遺伝的背景、生活習慣、社会経済因子、等々理想的なC、比較対照群を設定するためには「ドラえもん」のひみつ道具のひとつである「コピーロボット」が必要だよね、と筆者はよく説明しています。「コピーロボット」はその鼻を押すことで、押した人間(動物)とそっくりなコピーとなるロボットです。「ドラえもん」どんぴしゃり世代の筆者にとっては、わかり易い説明だと思っているのですが、最近の若い方にはピンとこないかもしれません…。今のところ「コピーロボット」が存在しないこの世の中では、同じ個人が「同時にあるE」もしくは「Iがあった場合となかった場合」を比較することはできません(反事実モデル)。ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)では、ランダム(無作為)割付により、IとCの間の背景要因が測定可能なものだけでなく測定不可能なものも均衡化することが期待され、反事実モデルを推定しているのです(連載第6回参照)。われわれが計画しているのは観察研究のひとつである(後ろ向き)コホート研究です(連載第37回参照)。観察研究でも、皆さんが大好きな多変量解析やマッチングなどの手法を用いてRCTと同様に、反事実モデルの推定を試みています。言い換えると、多変量解析モデルなどの統計学的手法を用いて、いわゆる「交絡因子」を制御し、EとOとの関連や因果関係を検証しているのです。次回からは、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、具体的な統計解析手法についても解説していきます。

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毎日のナッツ摂取は男性の生殖能力を上げる効果があるのか

 ナッツ類には、オメガ3系多価不飽和脂肪酸、食物繊維、ビタミン、ミネラル、ポリフェノールが豊富に含まれているため、定期的な摂取は健康に良いとされている。では、ナッツは生殖機能の改善にも貢献するのであろうか。オーストラリア・モナシュ大学栄養・栄養摂取・食物学科のBarbara R. Cardoso氏らの研究グループは、ナッツ類の摂取と生殖能力の系統的レビューおよびメタ解析を行った。その結果、栄養学的にナッツの摂取が生殖能力を高めることが示唆された。Advances in Nutrition誌オンライン版2023年11月17日号に掲載。毎日60gのナッツ摂取で男性の精子の運動率が増加 本研究は、Ovid MEDLINE、Embase、CINAHL、Scopusを2023年6月30日まで検索。対象とした論文は、生殖可能年齢(18~49歳)の男女を対象とした介入研究または観察研究で、食事からのナッツ摂取(最低3ヵ月)が妊孕性に関連する転帰に及ぼす影響・関連を評価したもの。 ナッツ類の摂取と生殖能力の系統的レビューおよびメタ解析を行った主な結果は以下のとおり。・健康な男性における精子の総運動率、活力、形態、濃度に対するナッツ摂取のプール効果推定値を算出するために、ランダム効果メタ解析を実施した。・875例(男性646例、女性229例)が参加した4件の研究がこのレビューに含まれた。・健康な男性223例が参加した2件のランダム化比較試験のメタ解析では、60g/日以上のナッツの摂取は対照群と比較して精子の運動率、活力、形態を増加させるが、精子濃度には影響を及ぼさないことが示された。・非ランダム化研究では、食事からのナッツ摂取と男性における従来の精子パラメーター、あるいは生殖補助医療を受けている男女における胚着床、臨床妊娠、生児出生との関連は報告されていない。 本研究では、健康な男性において、欧米式の食事の一部として毎日少なくとも60gのナッツを摂取することが、男性の受胎可能性の予測因子である精子パラメーターを改善することを示していた。ナッツ摂取は、その栄養学的内容から生殖を成功に導く可能性があることが示唆された。

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