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これからの心不全治療、認識新たに【東大心不全】

高齢化に伴い急増する心不全。今後も、より大きな問題となる心不全に、どう対応していくべきか。東京大学循環器内科学 教授 小室一成氏に聞いた。わが国の心不全の現状について教えてください。画像を拡大する画像を拡大する日本の心不全患者数は、現在、推計100万人。その数は2030年まで増え続け、130万人を超えるといわれています。増加は日本だけでなく、米国、欧州などの先進諸国やアジア、アフリカ諸国でもみられます。理由は高齢化です。心不全の発症は高齢者、とくに65歳を超えると急増します。わが国は高齢化が最も進んでいますので、心不全が今後大きな問題になることは間違いないといえます。わが国の心不全治療の現状について教えていただけますか。心不全の治療は、あらゆる疾患の中で最も確立されています。心不全リスク群であるステージAおよびBでは、器質的心疾患の発症・進展予防を、症候性の心不全であるステージCでは、症状コントロールを行います。とくに、ACE、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、心不全に対する複数の大規模臨床試験によって、生存予後を20~30%改善するというエビデンスがあります。また、最重症のステージDでは、適応があれば、心臓移植となりますが、わが国はこの分野でも成績は良好で、海外の心移植後5年生存率が8割程度なのに対し、日本では9割を超えます。さらに、移植待機中のLVAD治療についても良好な結果を示しています。しかし、問題点もあります。薬剤は有効であるものの、すべて対症療法です。移植についても、わが国ではドナーが少なく、移植までの待機期間は平均3年。世界でも飛び抜けて長いといえます。この待機期間は今後さらに伸びると予想され、ドナーを増やすよう活動していく必要があると思っています。学会としての取り組みについて教えていただけますか。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する一昨年(2016年)、日本循環器学会と脳卒中学会を中心に「脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画」を作成しました。“健康寿命の延伸”と“5年で5%の死亡率減少”を大目標とし、5戦略(医療体制の充実、人材育成、予防・国民への啓発、登録事業の促進、臨床・基礎研究の強化)と3疾患を定めました。3疾患は脳卒中、血管病、そして、現在、循環器疾患の死亡で最も多い心不全です。心不全における5戦略、1つ目は医療体制の構築です。心不全患者さんの多くは、入院治療により改善して退院しますが、退院後の生活習慣、服薬指導が重要なのです。これを怠ると、急性増悪を繰り返しながら悪化し、最終的に命を落とすことになります。これを防ぐためには、専門病院から慢性期、在宅までの診療をシームレスに行える、心不全を念頭に置いた医療体制を作ることが必要です。2つ目は人材育成です。このように心不全は退院後が非常に重要なので、患者さんと密接な関係にある、実地医家の医師やメディカルスタッフの人材育成が重要になります。画像を拡大する3つ目は、予防・国民への啓発です。心不全は重症度に応じて4つの予防チャンスがあります。塩分・脂質過多、喫煙、多量飲酒、運動不足といった生活習慣の改善による0次予防。肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常の改善による心臓病にならないための、ハイリスク群の1次予防。そして、心不全の早期治療と再発予防による2~3次予防。最後は突然死の予防です。しかし、このチャンスも、患者さんに“心不全は予防できる”、ということをご理解いただかないと活かせません。そのために、アニメキャラクター「ハットリシンゾウ」を啓発大使とし、「シン・シン(心臓・身体)健康プロジェクト」を展開しています。そこでは、一般の方にわかりにくかった心不全の定義を「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」とし、疾患としての認知促進を図っています。4つ目は登録事業の促進です。前述のとおり、日本の心不全患者数は100万人とされますが、この数字は新潟県佐渡市の統計から推計したものです。正確な統計ではありません。心不全患者がわが国に何人おり、どのような治療が行われていて、どのような地域差があるのか、こういった実態をレジストリで明らかにすることを考えています。5つ目は基礎研究です。これも前述のとおり、心不全の治療薬は有効であるものの、対症療法です。心不全発症の分子機序を解明して、それに基づいた新薬や新デバイスの開発をしないと、急増する心不全を減らすことはできません。そのためにも、メカニズムを明らかにする基礎研究が重要だと考えています。今年(2018年)の日本循環器学会学術集会で、「急性・慢性心不全診療ガイドライン」の改訂が発表されました。今回のガイドラインの大きな改訂ポイントは、急性と慢性の統合、ステージングの明確化、予防の重要性の強調です。急性と慢性を統合した理由は、急性心不全の多くは慢性心不全の増悪であるからです。心不全では、急性期に入院し、回復して退院しますが、その状態は慢性心不全の継続です。状態は入院前よりも悪化しています。それが理解されないと、入退院の繰り返しにつながります。今回のガイドラインでは、症状とリスク因子などを示し、患者さん自身が、どのステージングにおり、何をすべきか一目でわかるように工夫しています。東京大学での取り組みについて教えていただけますか。わが国の心臓移植は、東京大学、大阪大学、国立循環器病研究センターの3施設で8割、東京大学では、全国の4分の1を担っています。また、東京大学は交通の便が良いこともあり、遠方からも多くの心不全患者さんが受診されます。そのような中、2017年12月、新病棟に高度心不全治療センターを開所しました。同センターでは、移植待機、移植後など多くの重症心不全患者さんを、心臓外科と循環器内科がワンフロアで診療しています。場合によっては、3~4年入院して移植を待つこともあるため、快適な病室やリハビリテーション設備に工夫を凝らしています。また、東京大学では、循環器内科と心臓外科が一体となって、心不全を含めたあらゆる循環器疾患の最後の砦になるため、ほかの施設では治療できない重症患者さんを引き受けて治療しています。多くの施設から相談を受けますが、必要があれば、施設に伺って患者さんを拝見させていただきますし、場合によっては当院への入院を勧めています。最後に先生方にメッセージをお願いします。大学・大病院では心不全の急性増悪患者さんを診療します。それらの患者さんの多くは退院されますが、2度と急性増悪しないことが、最も重要です。とはいえ、退院していったケースは、大学や大病院では十分に管理できません。患者さんと密接な関係にある実地医家の方々に、患者さんの日常生活や服薬などを注意していただくことで、初めて急性増悪が防げるのです。このように、心不全治療は、専門施設と実地医家が連携を深め、一体となって行う必要があります。実地医家の先生方にも心不全をご理解いただき、共に診療にあたっていただければと思います。講師紹介

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第2回 意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+意識障害のアプローチ意識障害は非常にコモンな症候であり、救急外来ではもちろんのこと、その他一般の外来であってもしばしば遭遇します。発熱や腹痛など他の症候で来院した患者であっても、意識障害を認める場合には必ずプロブレムリストに挙げて鑑別をする癖をもちましょう。意識はバイタルサインの中でも呼吸数と並んで非常に重要なバイタルサインであるばかりでなく、軽視されがちなバイタルサインの1つです。何となくおかしいというのも立派な意識障害でしたね。救急の現場では、人材や検査などの資源が限られるだけでなく、早期に判断することが必要です。じっくり考えている時間がないのです。そのため、意識障害、意識消失、ショックなどの頻度や緊急性が高い症候に関しては、症候ごとの軸となるアプローチ法を身に付けておく必要があります。もちろん、経験を重ね、最短距離でベストなアプローチをとることができれば良いですが、さまざまな制約がある場面では難しいものです。みなさんも意識障害患者を診る際に手順はあると思うのですが、まだアプローチ方法が確立していない、もしくは自身のアプローチ方法に自信がない方は参考にしてみてください。アプローチ方法の確立:10’s Rule1)私は表1の様な手順で意識障害患者に対応しています。坂本originalなものではありません。ごく当たり前のアプローチです。ですが、この当たり前のアプローチが意外と確立されておらず、しばしば診断が遅れてしまっている事例が少なくありません。「低血糖を否定する前に頭部CTを撮影」「髄膜炎を見逃してしまった」「飲酒患者の原因をアルコール中毒以外に考えなかった」などなど、みなさんも経験があるのではないでしょうか。画像を拡大する●Rule1 ABCの安定が最優先!意識障害であろうとなかろうと、バイタルサインの異常は早期に察知し、介入する必要があります。原因がわかっても救命できなければ意味がありません。バイタルサインでは、血圧や脈拍も重要ですが、呼吸数を意識する癖を持つと重症患者のトリアージに有効です。頻呼吸や徐呼吸、死戦期呼吸は要注意です。心停止患者に対するアプローチにおいても、反応を確認した後にさらに確認するバイタルサインは呼吸です。反応がなく、呼吸が正常でなければ胸骨圧迫開始でしたね。今後取り上げる予定の敗血症の診断基準に用いる「quick SOFA(qSOFA)」にも、意識、呼吸が含まれています。「意識障害患者ではまず『呼吸』に着目」、これを意識しておきましょう。気管挿管の適応血圧が低ければ輸液、場合によっては輸血、昇圧剤や止血処置が必要です。C(Circulation)の異常は、血圧や脈拍など、モニターに表示される数値で把握できるため、誰もが異変に気付き、対応することは難しくありません。それに対して、A(Airway)、B(Breathing)に対しては、SpO2のみで判断しがちですが、そうではありません。SpO2が95%と保たれていても、前述のとおり、呼吸回数が多い場合、換気が不十分な場合(CO2の貯留が認められる場合)、重度の意識障害を認める場合、ショックの場合には、確実な気道確保のために気管挿管が必要です。消化管出血に伴う出血性ショックでは、緊急上部内視鏡を行うこともありますが、その際にはCの改善に従事できるように、気管挿管を行い、AとBは安定させて内視鏡処置に専念する必要性を考える癖を持つようにしましょう。緊急内視鏡症例全例に気管挿管を行うわけではありませんが、SpO2が保たれているからといって内視鏡を行い、再吐血や不穏による誤嚥などによってAとBの異常が起こりうることは知っておきましょう。●Rule2 Vital signs、病歴、身体所見が超重要! 外傷検索、AMPLE聴取も忘れずに!症例の患者は、突然発症の右上下肢麻痺であり、誰もが脳卒中を考えるでしょう。それではvital signsは脳卒中に矛盾ないでしょうか。脳卒中に代表される頭蓋内疾患による意識障害では、通常血圧は高くなります(表2)2)。これは、脳卒中に伴う脳圧の亢進に対して、体血圧を上昇させ脳血流を維持しようとする生体の反応によるものです。つまり、脳卒中様症状を認めた場合に、血圧が高ければ「脳卒中らしい」ということです。さらに瞳孔の左右差や共同偏視を認めれば、より疑いは強くなります。画像を拡大する頸部の診察を忘れずに!意識障害患者は、「路上で倒れていた」「卒倒した」などの病歴から外傷を伴うことが少なくありません。その際、頭部外傷は気にすることはできても、頸部の病変を見逃してしまうことがあります。頸椎損傷など、頸の外傷は不用意な頸部の観察で症状を悪化させてしまうこともあるため、後頸部の圧痛は必ず確認すること、また意識障害のために評価が困難な場合には否定されるまで頸を保護するようにしましょう。画像を拡大する意識障害の鑑別では、既往歴や内服薬は大きく影響します。糖尿病治療中であれば低血糖や高血糖、心房細動の既往があれば心原性脳塞栓症、肝硬変を認めれば肝性脳症などなど。また、内服薬の影響は常に考え、お薬手帳を確認するだけでなく、漢方やサプリメント、家族や友人の薬を内服していないかまで確認しましょう3)。●Rule3 鑑別疾患の基本をmasterせよ!救急外来など初診時には、(1)緊急性、(2)簡便性、(3)検査前確率の3点に意識して鑑別を進めていきましょう。意識障害の原因はAIUEOTIPS(表4)です。表4はCarpenterの分類に大動脈解離(Aortic Dissection)、ビタミン欠乏(Supplement)を追加しています。頭に入れておきましょう。画像を拡大する●Rule4 意識障害と意識消失を明確に区別せよ!意識障害ではなく意識消失(失神や痙攣)の場合には、鑑別診断が異なるためアプローチが異なります。これは、今後のシリーズで詳細を述べる予定です。ここでは1つだけおさえておきましょう。それは、意識状態は「普段と比較する」ということです。高齢者が多いわが国では、認知症や脳卒中後の影響で普段から意思疎通が困難な場合も少なくありません。必ず普段の意識状態を知る人からの情報を確認し、意識障害の有無を把握しましょう。前述の「Rule4つ」は順番というよりも同時に確認していきます。かかりつけの患者さんであれば、来院前に内服薬や既往を確認しつつ、病歴から◯◯らしいかを意識しておきましょう。ここで、実際に前掲の症例を考えてみましょう。突然発症の右上下肢麻痺であり、3/JCSと明らかな意識障害を認めます(普段は見当識障害など特記異常はないことを確認)。血圧が普段と比較し高く、脈拍も心房細動を示唆する不整を認めます。ここまでの情報がそろえば、この患者さんの診断は脳卒中、とくに左大脳半球領域の脳梗塞で間違いなしですね?!実際にこの症例では、頭部CT、MRIとMRAを撮影したところ左中大脳動脈領域の急性期心原性脳塞栓症でした。診断は容易に思えるかもしれませんが、迅速かつ正確な診断を限られた時間の中で行うことは決して簡単ではありません。次回は、10’s Ruleの後半を、陥りやすいpitfallsを交えながら解説します。お楽しみに!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)Ikeda M, et al. BMJ. 2002;325:800.3)坂本壮ほか. 月刊薬事. 2017;59:148-156.コラム(2) 相談できるか否か、それが問題だ!「報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)」が大事! この単語はみなさん聞いたことがあると思います。何か困ったことやトラブルに巻き込まれそうになったときは、自身で抱え込まずに、上司や同僚などに声をかけ、対応するのが良いことは誰もが納得するところです。それでは、この3つのうち最も大切なのはどれでしょうか。すべて大事なのですが、とくに「相談」は大事です。報告や連絡は事後であることが多いのに対して、相談はまさに困っているときにできるからです。言われてみると当たり前ですが、学年が上がるにつれて、また忙しくなるにつれて相談せずに自己解決し、後で後悔してしまうことが多いのではないでしょうか。「こんなことで相談したら情けないか…」「まぁ大丈夫だろう」「あの先生に前に相談したときに怒られたし…」など理由は多々あるかもしれませんが、医師の役目は患者さんの症状の改善であって、自分の評価を上げることではありません。原因検索や対応に悩んだら相談すること、指導医など相談される立場の医師は、相談されやすい環境作り、振る舞いを意識しましょう(私もこの部分は実践できているとは言えず、書きながら反省しています)。(次回は6月27日の予定)

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第1回 外食で陥りがちな“1人前”の落とし穴【実践型!食事指導スライド】

第1回 外食で陥りがちな“1人前”の落とし穴医療者向けワンポイント解説その1杯、本当に「1人前」ですか?普段の食生活で、問題となってくるのが主食です。主食量を意識することで、カロリーや糖質量などに大きく違いが出てくるため、栄養指導などでも、主食量についての分量をお話しする機会も多くあります。1回量を考えて食べている糖尿病患者さんも多くいますが、そんな患者さんたちでも気付かない落とし穴、「自分の1人前と外食での一人前の違い」があります。一般的に、自宅などで食べる1人前に比べ、外食で提供される「1人前」は圧倒的に量が多くなっています。とくに主食(米飯、麺類、パン類)は顕著です。患者さんの多くは、その落とし穴に気付かず、当たり前のように1人前として食べてしまい、知らないうちにバランスを崩している場合があります。また、外食での量の誘惑に負けてしまい、「ちょっと多いかな…」と思いつつ、食べる量が増えてしまうこともあります。今回は、外食の中でも丼物、うどん、そばといった単品で急いで食べるメニューに特化し、外食の主食量を調べました。牛丼並は、店によって320g、230gと設定が異なりますが、いずれにしても確実に家で食べる1膳(約150g、3単位)よりも多くなります。うどんやそばの場合も同様です。こうした丼物、麺類は「急いで食べる」シチュエーションで選ぶことが多いため、普段よりも多くの量を食べても満足感が低いことが多く、さらに「大盛り」を求める場合もあります。これを防ぐ最大の方法は、「ゆっくり食べること」なのですが、それを伝えても実行できない患者さんのほうが多いのが実情です。ここで食行動変化を起こさせるポイントは、「トッピングをすること」です。トッピングとしては、低カロリーでビタミンやミネラル食物繊維を含むネギやほうれん草、わかめ類、タンパク質が豊富な卵などがお薦めです。ご飯や麺の量を増やすのではなく、トッピングをすることで栄養バランスが整うほか、噛みごたえや食感の変化が生まれ、満足度を高めることができます。外食が多い患者さんには、「外食での主食は多く摂取しがちであること」「せめて主食量だけは、家で食べている量を思い出して調整すること」「丼や麺類は、トッピングをすること」をポイントに指導されると、食行動が変わりやすくなります。

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心不全ガイドラインを統合·改訂(後編)~日本循環器学会/日本心不全学会

 3月24日、日本循環器学会/日本心不全学会が、新たな心不全診療ガイドラインを公表した。本ガイドラインの主要な改訂ポイントを2回にわたってお伝えする。今回は後編。(前編はこちら)新たな心不全ガイドラインは診断フローチャートを簡略化 慢性心不全診断のフローチャートは、2010年版ガイドラインから大幅に簡略化された。基本的には欧州心臓病学会(ESC)の2016年版ガイドライン(Ponikowski P, et al. Eur Heart J.2016;37:2129-2200)を下敷きとしながらも、わが国の実態を踏まえ、画像診断を重視するチャートになっている。急性心不全治療のフローチャートも新規作成 「時間経過と病態を踏まえた急性心不全治療フローチャート」や、「重症心不全に対する補助人口心臓治療のアルゴリズム」の作成、「併存症の病態と治療」に関する記載の充実も新たな心不全診療ガイドラインの主要な改訂ポイントのひとつである。併存症は、心房細動、心室不整脈、徐脈性不整脈、冠動脈疾患、弁膜症、高血圧、糖尿病、CKD・心腎症候群、高尿酸血症・痛風、COPD・喘息、貧血、睡眠呼吸障害について記載されている。心不全合併高血圧には、4種薬剤が推奨クラスI、エビデンスレベルA 新たな心不全診療ガイドラインでは、高血圧を合併したHFrEFに対する薬物治療は、ACE阻害薬、ARB(ACE阻害薬に忍容性のない患者に対する投与)、β遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)の[推奨クラス、エビデンスレベル]が[I、A]、利尿薬が同上[I、B]、カルシウム拮抗薬が同上[IIa、B]とされた。なお、長時間作用型のジヒドロピリジン系以外のカルシウム拮抗薬は陰性変力作用のため使用を避けるべきと注記されている。 高血圧を合併したHFpEFに対する治療は、適切な血圧管理が同上[I、B]、基礎疾患の探索と治療が同上[I、C]とされた。心不全合併糖尿病には、包括的アプローチとSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジン)を推奨 心不全を合併した糖尿病に対する治療は、食事や運動など一般的な生活習慣の改善も含めた包括的アプローチが同上[I、A]、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジン)が同上[IIa、A]、チアゾリジン薬が同上[III、A]とされた。CKD合併心不全は、CKDステージで推奨レベルが異なる CKD合併心不全に対する薬物治療は、CKDステージ3とステージ4~5に分けて記載されている。 CKDステージ3においては、β遮断薬、ACE阻害薬、MRAが同上[I、A]、ARBが同上[I、B]、ループ利尿薬が同上[I、C]となっている。CKDステージ4~5においては、β遮断薬が同上[IIa、B]、ACE阻害薬が同上[IIb、B]、ARB、MRAが同上[IIb、C]、ループ利尿薬が同上[IIa、C]とされた。新たな心不全ガイドラインでは血清尿酸値にも注目 心不全を伴う高尿酸血症の管理においては、血清尿酸値の心不全の予後マーカーとしての利用が[IIa、B]、心不全患者における高尿酸血症への治療介入が[IIb、B]とされた。国内未承認の治療法も参考までに紹介 海外ではすでに臨床応用されているにもかかわらず、国内では未承認の治療薬やデバイスがある。ARB/NEP阻害薬(ARNI)や、Ifチャネル阻害薬などだ。これらの薬剤は「今後期待される治療」という章で、開発中の治療と並び紹介されている。

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APROCCHSS試験-敗血症性ショックに対するステロイド2剤併用(解説:小金丸博氏)-831

 敗血症性ショック患者に対するステロイドの有効性を検討した研究(APROCCHSS)がNEJMで発表された。過去に発表された研究では、「死亡率を改善する」と結論付けた研究(Ger-Inf-051))もあれば、「死亡率を改善しない」と結論付けた研究(CORTICUS22)、HYPRESS3)、ADRENAL4))もあり、有効性に関して一致した見解は得られていなかった。 本研究は、敗血症性ショックに対するヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与の有効性を検討した多施設共同二重盲検ランダム化比較試験である。敗血症性ショックでICUへ入室した患者のうち、SOFAスコア3点、4点の重篤な臓器障害を2つ以上有し、ノルエピネフリンなどの血管作動薬を0.25μg/kg/min以上投与が必要な患者を対象とした。研究開始時は、活性化プロテインCとヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンの2×2要因デザインで患者を組み込んでいたが、活性化プロテインCは試験途中で市場から撤退したため、その後はステロイド投与群とプラセボ投与群の2群で試験を継続した。その結果、プライマリアウトカムである90日死亡率はヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群で43.0%、プラセボ投与群で49.1%であり、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった(p=0.03)。また、セカンダリアウトカムであるICU退室時死亡率、退院時死亡率、180日死亡率もヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった。 本論文の考察の中で、敗血症性ショックに対するステロイドの有効性に関する見解が一致しない理由が2つ挙げられている。1つは、投与するステロイドの種類の違いである。ステロイドの有効性を示したAPROCCHSSとGer-Inf-05では、ヒドロコルチゾンにミネラルコルチコイドであるフルドロコルチゾンが併用投与されている。フルドロコルチゾンを投与することによってアドレナリン作動薬の反応改善が期待できるとされており、アドレナリン作動薬が必要な敗血症性ショックに対して有効性を示した可能性がある。2つ目は、患者重症度の違いである。本試験では高用量の血管作動薬投与が必要な患者が対象となっており、プラセボ投与群の90日死亡率は49.1%と高率だった(ADRENALのプラセボ投与群の90日死亡率は28.8%)。重篤な敗血症性ショック患者に対してステロイド投与が有効である可能性がある。現行の敗血症ガイドラインでは、十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態が安定しない患者に対してはステロイド投与が推奨されており、重症敗血症例に対してステロイドを投与することは妥当性があると考える。

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高齢者のCaやビタミンD補給、骨折を予防せず/JAMA

 自宅で生活する高齢者について、カルシウム、ビタミンD、またはその両方を含むサプリメントの使用は、プラセボや無治療と比較して骨折リスクの低下と関連しないことが、中国・天津病院のJia-Guo Zhao氏らによるシステマティックレビューとメタ解析の結果で明らかにされた。骨粗鬆症関連の骨折による社会的および経済的負荷が世界的に増加しており、骨折を予防することは公衆衛生上の大きな目標であるが、カルシウム、ビタミンDまたはそれらの併用と、高齢者における骨折の発生との関連性については、これまで一貫した結果が得られていなかった。著者は、「施設外で暮らす一般地域住民である高齢者に対し、こうしたサプリメントの定期的な使用は支持されない」と結論付けている。JAMA誌2017年12月26日号掲載の報告。カルシウム/ビタミンDとプラセボ/無治療を比較した無作為化試験についてメタ解析 研究グループは、PubMed、Cochrane Library、Embaseを用い、「カルシウム」「ビタミンD」「骨折」のキーワードで2016年12月24日までに発表された論文を系統的に検索し、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。 組み込まれた研究は、50歳以上の地域在住高齢者を対象とした、カルシウム・ビタミンD・カルシウム+ビタミンD併用サプリメントとプラセボまたは無治療とで骨折の発生を比較した無作為化臨床試験。なお、新たに公表された無作為化試験の追加検索を、2012年7月16日~2017年7月16日の期間で実施した。 2人の独立した研究者がデータを抽出し、研究の質を評価した。メタ解析では、ランダム効果モデルを用いてリスク比(RR)、絶対リスク差(ARD)、95%信頼区間(CI)を算出した。 主要評価項目は股関節骨折で、副次評価項目は非脊椎骨折、脊椎骨折および全骨折であった。カルシウム、ビタミンD、またはその併用は、骨折リスクと関連なし 33件の無作為化試験(計5万1,145例)が、基準を満たし組み入れられた。プラセボ/無治療と比較し、カルシウム/ビタミンD使用と股関節骨折リスクとの有意な関連は認められなかった。カルシウム使用群のRR:1.53(95%CI:0.97~2.42)、ARD:0.01(95%CI:0.00~0.01)、ビタミンD使用群のRR:1.21(95%CI:0.99~1.47)、ARD:0.00(95%CI:-0.00~0.01)。 同様に、カルシウム+ビタミンD併用群も股関節骨折リスクと関連していなかった(RR:1.09[95%CI:0.85~1.39]、ARD:0.00[95%CI:-0.00~0.00])。また、カルシウム、ビタミンD、またはカルシウム+ビタミンD併用は、非脊椎骨折、脊椎骨折または全骨折の発生とも有意な関連は確認されなかった。 サブグループ解析の結果、これらの結果は、カルシウム/ビタミンDの用量、性別、骨折歴、食事からのカルシウム摂取量、ベースライン時の血清25-ヒドロキシビタミンD濃度にかかわらず一貫していることが示された。

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ビタミンDはがんを予防するのか?/BMJ

 ビタミンDの血中濃度とがんリスクに因果関係は存在するのか。ギリシャ・University of IoanninaのVasiliki I Dimitrakopoulou氏らは、同関連を明らかにするため、大規模遺伝子疫学ネットワークのデータを用いたメンデルランダム化試験にて検討を行った。その結果、評価を行った7種のがんいずれについても、線形の因果関係を示すエビデンスはほとんどなかったという。ただし、臨床的に意味のある効果の関連を、完全に否定はできなかった。BMJ誌2017年10月31日号掲載の報告。大規模遺伝子疫学ネットワークを用いて、7種のがんについて関連を評価 検討は、がんにおける遺伝的関連とメカニズム(Genetic Associations and Mechanisms in Oncology:GAME-ON)、大腸がんの遺伝的研究・疫学コンソーシアム(Genetic and Epidemiology of Colorectal Cancer Consortium:GECCO)、前立腺がんのゲノム変異に関する研究グループ(Prostate Cancer Association Group to Investigate Cancer Associated Alterations in the Genome:PRACTICAL)とMR-Baseプラットホームを通じて、がん患者7万563例とその対照8万4,418例のデータを入手し評価を行った。 がん患者の内訳は、前立腺がん2万2,898例、乳がん1万5,748例、肺がん1万2,537例、大腸がん1万1,488例、卵巣がん4,369例、膵臓がん1,896例、神経芽細胞腫1,627例であった。 ビタミンDと関連する4つの一塩基遺伝子多型(rs2282679、rs10741657、rs12785878、rs6013897)を用いて、血中25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)のマルチ多型スコアを定義し評価した。 主要アウトカムは、大腸がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、神経芽細胞腫の発生リスクで、逆分散法を用いて特異的多型との関連を評価した。尤度ベースアプローチでの評価も行った。副次アウトカムは、性別、解剖学的部位、ステージ、組織像によるがんサブタイプに基づく評価であった。関連を示すエビデンスはほとんどない 7種のがんおよびそのサブタイプすべてにおいて、25(OH)Dマルチ多型スコアとの関連を示すエビデンスは、ほとんどなかった。 具体的に、25(OH)D濃度を定義した遺伝子の25nmol/L上昇当たりにおけるオッズ比は、大腸がん0.92(95%信頼区間:0.76~1.10)、乳がん1.05(0.89~1.24)、前立腺がん0.89(0.77~1.02)、肺がん1.03(0.87~1.23)であった。この結果は、その他2つの解析アプローチの結果と一致していた。なお、試験の相対的効果サイズの検出力は中程度であった(たとえば、大部分の主要がんアウトカムについて、25(OH)Dの25nmol/L低下当たりのオッズ比は1.20~1.25であった)。 著者は、「これらの結果は、既報文献と合わせて、がん予防戦略として、ビタミンD不足の広範な集団スクリーニングとその後の広範にわたるビタミンDサプリメントの推奨をすべきではないとのエビデンスを提供するものであった」とまとめている。

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原因は何?食欲不振から始まる「負の連鎖」

 食欲の秋と形容されるこの季節。食べたいと思えるのは、味覚や嗅覚で「おいしい」と感じられてこそだが、その味覚に異常を来す原因の1つが亜鉛の不足によるもの。今月4日、都内で開催されたセミナー「食欲の秋に考える、味覚異常や食欲不振からおこる負の連鎖―亜鉛不足からはじまるフレイルへの道―」(ノーベルファーマ株式会社主催)では、この点に着目して、2人の専門家が講演を行った。このうち、味覚異常に特化した外来診療に携わる任 智美氏(兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科)は、「高齢者においては、薬剤性の味覚障害が多いのが特徴。患者さんが最も自覚しやすい不調であり、亜鉛補充で好転するケースも多いので、丁寧に訴えを聞いて、解決に導いてほしい」と述べた。亜鉛摂取が難しい現代日本の食事情 セミナーでは始めに、更年期の患者を中心とした診療に当たる平澤 精一氏(マイシティクリニック院長)が、現代人が陥る栄養不足、なかでも亜鉛不足が引き起こす不定愁訴などについて解説した。 亜鉛は、人体に必要な5大栄養素の1つであるミネラルの一種で、細胞代謝を促すため、小児の発育はもとより、皮膚や毛髪、爪の健康維持、アルコール分解促進、肝機能保護などに欠かせないのは周知のことだろう。こうしたさまざまな作用の1つに、味覚の維持が含まれている。昔ながらのベーシックな日本食には亜鉛が豊富な食品が多く使われていたため、取り立てて亜鉛不足が指摘されることはなかったが、加工食品の摂取頻度が高く、土壌の質的変化による食材自体の貧弱化が進む現代においては、食生活次第で容易に亜鉛不足に陥るという。 厚生労働省が示す「日本人の食事摂取基準 2015年版」において、亜鉛の1日の必要量として推奨されているのは、成人男性10mg、成人女性8mg、妊婦10mg、授乳婦11mgであるが、例えば、亜鉛が豊富に含まれている食材として挙げられる牡蠣でも5粒(60g)で亜鉛含有量7.9mgであり、日常的に食卓に上がる白米(茶碗1杯)や木綿豆腐(半丁)で0.9mg、納豆(1パック)で0.8mg程度なので、推奨量を達成するにはかなり意識的な心がけが必要だ。一方で、不足栄養素を市販のサプリメントで補う人も多いが、過度の摂取は逆に慢性的亜鉛過剰症を引き起こし、貧血や免疫障害のほか、過剰症によってもやはり味覚・嗅覚低下といった症状を来すのだという。こうした観点から、「安易なセルフメディケーションが危険なこともある」と平澤氏は指摘する。「味覚異常は日々の食事で自覚しやすい不調のサイン」 続いて登壇した任氏は、味覚外来を訪れる患者の中でも割合の多い高齢者に焦点を当て、さまざまな症例を挙げながら味覚障害の原因分析などについて解説した。この中で、65歳以上の高齢者における味覚障害の原因を分類したところ、もっとも多いのが「特発性・亜鉛欠乏症」で、次いで「心因性」なのはほかの世代と同じ傾向だが、ほかの世代と異なるのは「薬剤性」の多さである。この薬剤性味覚障害の機序として挙げられるのは、(1)唾液分泌能の低下、(2)口内炎による粘膜障害性、(3)神経毒性、(4)味細胞障害、(5)薬物自体、または代謝物の唾液分泌、(6)亜鉛キレート作用による亜鉛排泄亢進、である。任氏によると、亜鉛製剤による補充療法や補中益気湯などの漢方による治療により、味覚外来を訪れる患者の7割以上が治癒に至るものの、「原因薬剤については、添付文書に掲載されていても原因とは限らず、また記載がないから原因ではないとも言えないので注意が必要である」と指摘する。 本セミナーで両氏が詳説した味覚障害は、それ自体が生命に直結するものではないが、健康的な生活の根幹にかかわる食事を十分に楽しめないことは、食事にまつわる生活習慣の変調(個食や孤食が増えるなど)のみならず、鬱傾向や筋力低下、フレイル、さらには要介護へとつながる悪循環の発端になりうる点は見逃せない。一方で、日々の食事で自覚できる自身の不調のサインが味覚異常である。任氏は、「家庭にある砂糖や食塩など、はっきりと甘い・辛いが認識できる調味料を舐めてみるだけでも確かめられる。患者自身で不調を自覚してもらい、それをかかりつけ医が丁寧にすくい上げてほしい」と述べた。

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妊婦のマルチビタミン摂取、児のASDリスク減/BMJ

 妊娠中のマルチビタミン・サプリメントの摂取は、出産児の知的障害を伴う自閉症スペクトル障害(ASD)と、逆相関となる可能性が示された。米国・ドレクセル大学のElizabeth A. DeVilbiss氏らが、スウェーデン・ストックホルムの登録住民をベースにした前向き観察コホート研究の結果を報告した。著者は、「母体栄養と自閉症発症への影響を、さらに詳しく調査することが推奨される」とまとめている。母体のマルチビタミン、鉄分または葉酸のサプリメント摂取が、出産児のASDを予防するかについて、これまでの観察研究では一貫したエビデンスは得られていない。ASDの原因は知的障害の有無によって異なるが、認知機能レベルをベースに栄養サプリメントとASDの関連を調べた研究は、ほとんどなかった。BMJ誌2017年10月4日号掲載の報告。マルチビタミン、鉄分、葉酸サプリの摂取とASDとの関連を調査 研究グループは、住民レジスターから試験サンプルとして、1996~2007年に生まれた4~15歳の子供とその母親のペア27万3,107例を特定し、2011年12月31日まで追跡調査を行った。被験者の母親は、妊娠中の初回受診時に、マルチビタミン、鉄分、葉酸のサプリメントの摂取について報告していた。 主要評価項目は、2011年12月31日までのレジスターデータで確認された、知的障害の有無を問わずASDと診断された子供の割合で、多変量ロジスティック回帰分析にてオッズ比を算出して栄養サプリメントとASDの関連を評価した。兄弟姉妹および傾向スコア適合群を対照とする検討も行った。鉄分または葉酸サプリメントの摂取では逆相関の関連は認められず 知的障害を伴うASDの有病率は、母体マルチビタミン摂取群0.26%(158/6万1,934例)、栄養サプリメント非摂取群0.48%(430/9万480例)であった。 栄養サプリメント非摂取群との比較において、母体マルチビタミン摂取群は鉄分や葉酸の追加摂取を問わず、知的障害を伴うASDのオッズ比が低かった(オッズ比:0.69、95%信頼区間[CI]:0.57~0.84)。同様の結果は、傾向スコア適合対照群でも認められた(0.68、0.54~0.86)。兄弟姉妹対照群においても認められたが(0.77、0.52~1.15)、信頼区間値が1.0を超えており統計的に有意ではなかった。 鉄分または葉酸サプリメントの摂取では、ASD有病率と逆相関を示す、一貫したエビデンスはみられなかった。

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わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問15

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問15 重回帰式で求められた回帰係数の解釈は?前回は、重回帰分析の際の説明変数の選び方についてご説明しました。今回は、重回帰式で求められた回帰係数を、どのように解釈すればよいのかについてご説明いたします。回帰係数は、実績値と理論値をできるだけ近くする値であることを述べました。ところが、回帰係数の役割はそれだけではなく、それぞれの説明変数の目的変数に及ぼす貢献度も導いてくれます。■回帰係数を解釈するまず、回帰係数にはデータ単位があり、目的変数のデータ単位と同じになることを知っておいてください。「サプリメントXの売上事例」の重回帰式を再掲します。売上額=0.00786×広告費+0.539×店員数+1.1481.148を「定数項」といいます。回帰係数は売上額のデータ単位が1千万円なので、回帰係数は次のようになります。広告費の回帰係数 0.00786(千万円)→ 7.86万円店員数の回帰係数 0.539 (千万円)→ 539万円定数項      1.148 (千万円)→1,148万円広告費のデータ単位は「1万円」、店員数のデータ単位は「1人」でした。つまり、上記の回帰係数から、広告費を1万円使うと売上額が7.86万円、店員数を1人投入すると売上額が539万円増えることがわかります。このように、回帰係数から「説明変数の目的変数に対する貢献度」がわかります。※貢献度:説明変数のデータ単位当たりの売上額表1の定数項1,148万円は、広告費を0、店員数を0としたときの売上額です。表1 説明変数の目的変数に対する貢献度■標準回帰係数で重要度を把握する「サプリメントXの売上事例」の重回帰式を再掲します。売上額=0.00786×広告費+0.539×店員数+1.148ここで、回帰係数の値は店員数のほうが広告費より大きいので、売上額を高めるのに重要な要因は「店員数のほうである」といってよいでしょうか?結論は「いえない!」です。では、この理由を次で確かめてみましょう。表2は、「サプリメントXの売上事例」で、売上額と店員数のデータ単位はそのままで、広告費のデータ単位を「万円」から「百万円」にして重回帰分析を行った結果です。表2 広告費の単位を「百万円」に変更した重回帰式表3は、広告費の単位を「万円」に戻した「サプリメントXの売上事例」データと重回帰式です。表3 広告費の単位を「1万円」に戻した重回帰式上記の表2と表3のデータは同じものなのに、広告費のデータ表記の仕方を変えただけで、広告費の回帰係数は異なる値となりました。このことから、「説明変数間の回帰係数を比較し、値の大小で重要度を見ることはできない」といえます。回帰係数は、説明変数の売上貢献度を把握できますが、説明変数間の重要度の比較には適用できません。上記の2つのケースについて、広告費の売上貢献度を調べてみます。表2 広告費のデータ単位が百万円のときに見込める売上額は、0.786(千万円)より786万円です。表3 広告費のデータ単位が1万円のときに見込める売上額は、0.00786(千万円)より7.86万円です。「データ単位1万円→売上貢献度7.86万円」と「データ単位百万円→売上貢献度786万円」は同じ意味で、データ表記を変えても売上貢献度は同じとなります。■標準回帰係数説明変数のデータ単位の取り方によって回帰係数の値は変わるので、回帰係数の大小を比較しても、どの説明変数が重要なのかを明らかにすることはできません。データ単位が同じならば、係数を大きい順に並べて、大きい説明変数ほど重要であるといえます。したがって、各説明変数のデータ単位が異なっていれば、データ単位を同じにして重回帰分析を行い、回帰係数を求めればよいのです。基準値あるいは偏差値によってデータ単位をそろえることができます。表4で「サプリメントXの売上事例」データの基準値と偏差値を求めてみます。表4 サプリメントXの売上事例データの基準値と偏差値基準値のデータに重回帰分析を行います。売上額=0.687×広告費+0.449×店員数+0.000※定数項は0になります。※重回帰分析を偏差値で行っても、回帰係数は基準値で求めた値と同じです。データの単位をそろえたので、説明変数間の回帰係数は比較できます。売上額との関係(影響度)において、具体的には、売上をアップするための要因または売上を予測するための要因として、広告費のほうが店員数より重要であるといえます。基準化したデータに重回帰分析を行い、求められた回帰係数を「標準回帰係数」といいます。標準回帰係数は、データを基準値にして重回帰分析を行うという面倒なことをせずに求めることができます。※偏差平方和は質問9 その2を参照「サプリメントXの売上事例」の標準回帰係数は次のようになります。この結果から、売上をアップするための要因または売上を予測するための要因としては、広告費のほうが店員数より重要だといえます。次回は、重回帰分析が変数相互の影響を除去した真の関係を見いだすことができる、とても便利なツールであることをご説明いたします。今回のポイント1)重回帰式の回帰係数は、それぞれの説明変数の目的変数に及ぼす貢献度を導いてくれる!2)回帰係数にはデータ単位があり、目的変数のデータ単位と同じになる!3)回帰係数の値からどの説明変数が重要な要因であるとはいえない!4)基準化したデータに、重回帰分析を行い求められた回帰係数である標準回帰係数の値からであれば、どの説明変数が重要な要因であるといえる!インデックスページへ戻る

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わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問14

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問14 重回帰分析の説明変数の選び方は?前回は、重回帰分析で求められた重回帰式(モデル式)の予測精度について、説明しました。今回は、重回帰分析の際の説明変数の選び方について、説明していきます。重回帰分析の説明変数は何でもよいということではありません。説明変数の選び方にはルールがあります。そのルールについて説明します。■選択肢が3つ以上のカテゴリーデータではできない説明変数に適用できるデータは数量データです。「年齢」、「朝食習慣の有無」、「飲むお酒の種類」から「体脂肪率」の値を予測したいと思います。次の表1のデータが重回帰分析に適用できるかどうかを考えてみてください。表1 年齢などの条件から体脂肪値を予測できるか?「朝食を食べる習慣の有無」、「普段よく飲むお酒の種類」は、カテゴリーデータなので重回帰分析は適用できません。ただし、カテゴリー数が2つの場合は、「朝食習慣あり→1/朝食習慣なし→0」として、数量データとして扱えます(「朝食習慣なし→1/朝食習慣あり→0」でも扱えます)。すべての説明変数を使いたい場合、年齢を40代以下、50代、60代以上の分類(カテゴリー)に変換すると、説明変数は全部カテゴリーとなるので数量化1類で解析できます。※数量化1類はこのサイトを参照※目的変数が数量データ、説明変数が数量データとカテゴリーデータが混在している場合、拡張型数量化1類が適用できます(このサイトを参照)■データがすべて同じ値の説明変数は、重回帰分析に適用できないアンケート調査で段階評価(1.良い/2.どちらともいえない/3.悪い)を用いた場合などで、回答者全員が「2.どちらともいえない」に回答する、といったことがたまにあります。この場合、この変数のデータはすべて「2」となり、この変数は重回帰分析に使えません。データがすべて同じだと標準偏差が0になるので、重回帰分析を行う前に標準偏差を計算してチェックしてください。■説明変数の個数は「個体数-1」より少なくなければならない説明変数の数をq、個体数をnとしたとき、重回帰分析では次の式を満足させなければなりません。q<n-1先ほどの体脂肪率のデータで説明変数を「年齢」、「朝食習慣の有無」とした場合、重回帰分析が適用できるかを調べてみます。n-1は4で、q=2なので、q<n-1が成立し、重回帰分析が適用できます。この例においてはnが3以下だと重回帰分析は行えません。■数値以外のデータがある個体は分析から除外されるブランク、記号、文字などの数値以外のデータがある個体は分析から除外されます。表2のデータの個体数は8人ですが、数値以外のデータがある個体数は4人存在するので、解析に適用できるデータは右表となります。表2 解析に適用できるデータ、できないデータ■将来設定ができない説明変数は?今、ドラッグストアのサプリメントXの売上予測を行うために、広告費、店員数、他社競合商品の売上額を説明変数にとり、重回帰分析を行い、重回帰式を求めました。さっそくこの式を用いて、来年度の売上予測を行うことにしました。ところが、広告費、店員数については来年度の設定ができたものの、競合商品の売上額が来年どうなるのかわからず、先へ進むことができませんでした。このような結果を避けるために、重回帰分析を予測に使う場合、将来設定ができない説明変数は用いないのが一般的です。ただし、「競合商品の売上額がいくらまで上がると、わが社の売上額がこれだけ下がる」といったシミュレーション分析を行う場合は、将来設定ができない説明変数を意図的に用いることもあります。次回は、重回帰式で求められた回帰係数をどのように解釈すればよいのかについて、説明いたします。今回のポイント1)重回帰分析の説明変数は選択肢が3つ以上のカテゴリーデータではできない!2)データがすべて同じ値の説明変数は、重回帰分析に適用できない!3)説明変数の個数は「個体数-1」より少なくなければならない!4)数値以外のデータがある個体は分析から除外される!5)将来設定ができない説明変数は用いないのが一般的!インデックスページへ戻る

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わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問13

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問13 重回帰式(モデル式)の予測精度は?前回から重回帰分析についての説明を開始しています。今回は重回帰分析で求められた重回帰式(モデル式)の予測精度について説明します。■残差前回の質問12の事例(ドラッグストアのサプリメントXの売上)で求めた重回帰式です。売上額=0.00786×広告費+0.539×店員数+1.148表1の重回帰分析では、左辺の売上額を実績値、右辺の計算値を理論値といいます。表1 前回の事例の重回帰式からみた売上額予想そして、表2のように「実績値」と「理論値」だけ抽出し、「残差」の欄を追加してみました。表2 事例の実績値、理論値、残差図1では実績値から理論値を引いた値である残差を示しています。図1 各年の売上額の残差■決定係数により予測精度を調べる重回帰分析は、実績値と理論値とが近くなるように重回帰式の係数を見つける手法であることを述べました。それでは、重回帰分析を適用すれば、どんな場合でも実績値と理論値が近くなるのでしょうか。結論からいうと、用いる説明変数が目的変数に関係のないものばかりであれば、理論値を実績値に近づけることはできません。「サプリメントXの売上事例」のデータを図2に示す相関図で表してみると、広告費が大きければ売上額が大きくなり、両者に高い相関があることがわかります。同様に店員数と売上額の相関図から、両者の間にも高い相関があることがわかります。図2 事例の売上の相関図※相関図、相関係数 ⇒ 質問10 その1このように、売上額と相関の高い説明変数を用いたので、実績値と理論値とは近づいたのです。仮に、売上額と相関がないと考えられる店員の平均体重や平均身長だけを説明変数にしたら、実績値と理論値とは近づきません。上手な説明変数の選択方法は後ほど説明することにして、ここでは、説明変数の選択が良ければ実績値と理論値が近づき、重回帰分析を首尾よく終了できることを理解してください。実績値と理論値が近くなるほど、「分析の精度」が良い、あるいは重回帰式の当てはまり具合が良いともいえます。予測は重回帰式を使って行うので、精度の悪い重回帰式では予測ができないということになります。分析の精度を1つの数値で表すことができれば、この尺度を用いて、求められた重回帰式が予測に使えるかどうかを判断することができます。では、「サプリメントXの売上事例」での分析精度を調べてみましょう。■残差平方和表3に「ドラッグストアのサプリメントXの売上事例」の残差と残差の2乗を示します。表3 売上事例の残差平方和残差が小さいほど分析精度が良いことは、おわかりいただけたと思います。次に、残差の合計を計算してみます。残差の合計は0になります。この例だけではなく、どのような場合も0になります。したがって残差の合計は、分析の精度を知る尺度としては使えません。そこで、統計学でよく使うテクニックですが、残差の2乗を計算し、これを合計してみます。この値を「残差平方和」といい、Seで表します。残差平方和Seは2.06で、0ではありません。したがってSeが分析の精度を知る尺度として使えそうです。次に表4で、「サプリメントXの売上事例」の「偏差平方和」を求めてみます。※偏差平方和 ⇒ 第3回 理解しておきたい検定 セクション3 データのバラツキを調べる標準偏差表4 事例の売上の偏差平方和■決定係数表4の売上額の偏差平方和は56です。偏差平方和をSyyで表します。Syyに対するSeの割合を求め、これを1から引いた値をR2とします。R2を「決定係数」といいます。表5のように当てはまり具合が最も悪い場合は、すべての営業所において理論値が目的変数の平均値と等しくなるときです。このとき、Se=Syyとなり、上式よりR2=0となります。表5 当てはまり具合の最も悪い場合表6のように当てはまり具合が最も良い場合は、すべての営業所において、理論値が実績値と等しくなるときで、Se=0となります。このとき、R2は上式より1となります。表6 当てはまり具合のもっとも良い場合今まで述べてきたことからおわかりのように、決定係数R2は分析の精度を表す尺度となります。「サプリメントXの売上事例」について、決定係数を求めてみます。「ドラッグストアのサプリメントXの売上事例」の実績値と理論値の単相関係数(この値を「重相関係数」という)を算出するとr=0.98です。 r2を計算すると0.96になり、R2=0.96に一致します。よく「決定係数はいくつ以上あれば良いか」と質問されますが、残念ながらいくつ以上あれば良いという統計的基準はありません。この基準は、分析者が経験的な判断から決めることになります。ちなみに筆者は、次のように決めていますが、皆さんはいかがでしょうか。決定係数(R2)重相関係数(r)・分析の精度が非常に良い……  0.8以上……  0.9以上・分析の精度が良い……  0.5以上……  0.7以上・分析の精度が良くない……  0.5未満……  0.7未満次回は、重回帰分析を行うときの説明変数の選び方について説明します。今回のポイント1)重回帰分析で算出した理論値、そして残差で個体を評価することができる!2)重回帰分析では、実績値と理論値が近くなるほど、「分析の精度」が良い、あるいは重回帰式の「当てはまり具合」が良い!3)重回帰式(モデル式)の決定係数はR2の値でみる!インデックスページへ戻る

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遺伝素因の血清Ca上昇で冠動脈疾患リスク増/JAMA

 遺伝子変異による血清カルシウム濃度上昇が、冠動脈疾患/心筋梗塞のリスク増加と関連していることが明らかとなった。ただし、冠動脈疾患と生涯にわたる遺伝子曝露による血清カルシウム濃度上昇との関連が、カルシウム補助食品(サプリメント)による短期~中期的なカルシウム補給との関連にもつながるかどうかは不明である。スウェーデン・カロリンスカ研究所のSusanna C. Larsson氏らが、血清カルシウム濃度上昇に関連する遺伝子変異と、冠動脈疾患/心筋梗塞のリスクとの間の潜在的な因果関係をメンデルランダム化解析により検証し、報告した。先行の観察研究において、血清カルシウムは心血管疾患と関連していることが認められており、無作為化試験でも血清カルシウム濃度を上昇させるサプリメントが心血管イベント、とくに心筋梗塞のリスクを増加させる可能性が示唆されていた。JAMA誌2017年7月25日号掲載の報告。GWASでカルシウム濃度関連SNPを特定し、冠動脈疾患との関連を解析 研究グループは、血清カルシウム濃度に関するゲノムワイド関連解析(GWAS)のメタ解析(最大6万1,079例)および、1948年より世界中の人口集団から収集された基準となる時点のデータがある冠動脈疾患/心筋梗塞患者と非患者(対照)を含む冠動脈疾患国際コンソーシアム(CARDIoGRAMplusC4D)の1,000ゲノムに基づくGWASメタ解析(最大18万4,305例)から特定された一塩基遺伝子多型(SNP)に関する要約統計量を用いて解析を行った。 各SNPと冠動脈疾患/心筋梗塞との関連は血清カルシウムとの関連によって重み付けをし、逆分散法により重み付けしたメタ解析を用いて推定値を統合した。遺伝的リスクスコアは、血清カルシウム濃度上昇と関連する遺伝子変異に基づいた。 主要評価項目は、冠動脈疾患および心筋梗塞のオッズ比であった。血清カルシウム濃度上昇に関連する6つのSNPが冠動脈疾患のリスク増加に関与 メンデルランダム化解析の対象となった18万4,305例(冠動脈疾患患者6万801例[心筋梗塞が約70%]、対照12万3,504例)において、潜在的交絡因子との多面的関連がなく血清カルシウム濃度と関連する6つのSNPが特定された。それらが、血清カルシウム濃度に関する遺伝子変異の約0.8%を占めていた。 逆分散法によるメタ解析(前述の6つのSNPの統合)の結果、遺伝的に予測される血清カルシウム濃度の0.5mg/dL上昇(約1SD)につき、冠動脈疾患のリスクは1.25倍(95%信頼区間[CI]:1.08~1.45、p=0.003)、心筋梗塞は1.24倍(95%CI:1.05~1.46、p=0.009)となることが示された。

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幼児へのビタミンDはかぜ予防に有用か?/JAMA

 健康な1~5歳児に、毎日のビタミンDサプリメントを2,000IU投与しても、同400IUの投与と比較して、冬期の上気道感染症は減らないことが、カナダ・セント・マイケルズ病院のMary Aglipay氏らによる無作為化試験の結果、示された。これまでの疫学的研究で、血清25-ヒドロキシビタミンDの低値とウイルス性上気道感染症の高リスクとの関連を支持するデータが示されていたが、冬期のビタミンD補給が小児のリスクを軽減するかについては明らかになっていなかった。結果を踏まえて著者は「ウイルス性上気道感染症予防を目的とした、小児における日常的な高用量ビタミンD補給は支持されない」とまとめている。JAMA誌2017年7月18日号掲載の報告。冬期の最低4ヵ月間、高用量(2,000IU) vs.標準用量(400IU)投与で評価 検討は、オンタリオ州トロント市(北緯43度に位置)で、複数のプライマリケアが参加する研究ネットワーク「TARGet Kids!」に登録された1~5歳児を対象とし、2011年9月13日~2015年6月30日に行われた。 研究グループは参加児703例を、2,000IU/日のビタミンDサプリメントを受ける群(高用量群349例)または同400IU/日を受ける群(標準用量群354例)に無作為に割り付けて追跡した。サプリメントの投与は保護者の管理の下、登録(9~11月)からフォローアップ(翌年4~5月)の間、冬期(9月~翌年5月)の最低4ヵ月間に行われた。 主要アウトカムは、冬期の間に、保護者によって採取された鼻腔用スワブ検体によりラボで確認されたウイルス性上気道感染症例とした。副次アウトカムは、インフルエンザ感染症、非インフルエンザ感染症、保護者報告による上気道疾患、初回上気道感染症までの期間、試験終了時の血清25-ヒドロキシビタミンD値であった。上気道感染症発症に有意差なし、初回発症までの期間も有意差みられず 無作為化を受けた703例(平均年齢2.7歳、男児57.7%)のうち、試験を完遂したのは699例(99.4%)であった。 小児1例当たりに確認された上気道感染症の報告数は、高用量群1.05回(95%信頼区間[CI]:0.91~1.19)、標準用量群1.03回(同:0.90~1.16)で、両群間に統計的有意差はみられなかった(発症率比[RR]:0.97、95%CI:0.80~1.16)。 初回上気道感染症までの期間についても、統計的有意差は示されなかった。具体的な同期間は、高用量群は3.95ヵ月(95%CI:3.02~5.95)、標準用量群3.29ヵ月(同:2.66~4.14)。また、保護者報告による上気道疾患についても有意差はなかった(高用量群625件 vs.標準用量群600件、発症RR:1.01、95%CI:0.88~1.16)。 試験終了時の血清25-ヒドロキシビタミンD値は、高用量群48.7ng/mL(95%CI:46.9~50.5)、標準用量群は36.8ng/mL(同:35.4~38.2)であった。

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わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問12

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問12 重回帰分析とは?質問11では多変量解析で取り扱うデータや解析の種類と解析手法名について、説明してきました。今回からは、医学統計でもよく用いられる重回帰分析について説明いたします。医学的な事例だと難しくなりがちですので、一般的でなじみやすい事例(質問11その1で取り上げたテーマ)で説明していきます。■解決したいテーマ●テーマドラッグストアでサプリメントなど、ある商品の売上をアップさせたいとき、どうすればよいでしょう表1は、あるドラッグストアのサプリメントXの売上額と広告費と店員数を示したものです。表のデータを見ると、投入する広告費や店員数が多かった年はサプリメントXの売上額も大きく、投入量が少ない年は売上額も小さくなっていることがわかります。この傾向を踏まえて、2017年の広告費を1,300万円、店員数を14人としたとき、売上額がどれほどになるかを予測したいと思います。表1 年別のサプリメントXの売上額/広告費/店員数この目的を解決してくれるのが重回帰分析です。予測したい変数、この事例ではサプリメントXの売上額を「目的変数(従属変数)」といいます。目的変数に影響を及ぼす変数、この事例では広告費と店員数を「説明変数(独立変数)」といいます。重回帰分析で適用できるデータは、目的変数、説明変数どちらも「数量データ」です。重回帰分析は、目的変数と説明変数の関係を「関係式」で表します。重回帰分析における関係式を「重回帰式」といいます(「モデル式」ともいいます)。この例の重回帰式は、次のようになります。売上額=0.00786×広告費+0.539×店員数+1.148重回帰分析はこの重回帰式を用いて、次の事柄を明らかにする解析手法です。(1)予測値の算出(2)関係式に用いた説明変数の目的変数に対する貢献度■回帰係数の算出の考え方重回帰式の係数を回帰係数といいます。まず初めに回帰係数が、どのような考え方で求められているかを説明します。回帰係数の算出方法を解説する前に、次のクイズにお答えください。いかがでしょうか。答えはいくつでもありますね。たとえば、ア=0.005、イ=0.3、ウ=3.7とすればが成立します。では、続けて次のクイズにお答えください。表2 年別のサプリメントXの売上額の年差分上の表2のように左辺(売上額)から右辺を引いた差分で一致度をみると、2011年と2012年はほぼ一致していますが、他の年の差分が1.0以上もあり、一致していません。ですから残念ながら、この答えは正解といえません。ご覧のように、手計算でこのクイズを解くのは大変です。これを解決してくれるのが重回帰分析なのです。それでは、重回帰分析が導いてくれた重回帰式に広告費と店員数を表3に代入してみます。求められた値(左辺)と売上額(右辺)との差分を調べてみましょう。※差分:左辺から右辺を引いた絶対値(マイナスはプラスにした値)です。※一致:差分が1.0未満の場合は一致していると考え「○」、1.0以上の場合を「×」としました。売上額=0.00786×広告費+0.539×店員数+1.148表3 重回帰式に広告費と定員数を代入左辺と右辺とはぴったり一致しませんが、どの年についてもほぼ近い値になっています。重回帰分析では、左辺の売上額を「実績値」、右辺の計算値を「理論値」といいます。重回帰分析は、実績値と理論値ができるだけ近くなるように、重回帰式の係数を見つける解析手法です。次回は、重回帰分析で求められた重回帰式(モデル式)の予測精度について説明していきます。今回のポイント1)重回帰分析で適用できるデータは、目的変数、説明変数どちらも数量データ!2)重回帰分析は、重回帰式(モデル式)を用いて、(1)予測値の算出、(2)関係式に用いた説明変数の目的変数に対する貢献度、を明らかにする解析手法!3)重回帰分析は、実績値と理論値ができるだけ近くなるように、重回帰式の係数を見つける解析手法!インデックスページへ戻る

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心不全の突然死、科学的根拠に基づく薬物療法で減少/NEJM

 収縮能が低下した心不全の外来患者では、突然死の発生率が経時的に大きく低下していることが、英国心臓財団グラスゴー心血管研究センターのLi Shen氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、NEJM誌2017年7月6日号に掲載された。ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬などの登場以降、科学的根拠に基づく薬物療法の使用が増えるに従って、収縮能が低下した症候性心不全患者の突然死のリスクは、経時的に低下している可能性が指摘されているが、その詳細の調査は十分ではないという。駆出率≦40%の症候性心不全患者約4万例を解析 研究グループは、駆出率≦40%の症候性心不全患者(NYHAクラスII~IV)を対象に、過去20年間に実施され、1,000例以上を登録した臨床試験の参加者(植込み型除細動器[ICD]装着例は除外)のデータを解析した(中国国家留学基金管理委員会と英国グラスゴー大学の助成による)。 重み付き多変量回帰を用いて、突然死の発生率の経時的な動向の検討を行った。また、Cox回帰モデルを用いて、各試験の突然死の補正ハザード比(HR)を算出した。突然死の累積発生率は、無作為化後の複数の時点(30、60、90、180日、1、2、3年)で、心不全の診断から無作為化までの期間別(≦3ヵ月、3~6ヵ月、6~12ヵ月、1~2年、2~5年、>5年)に評価した。 1995~2014年に実施された12件の臨床試験の参加者4万195例が、解析の対象となった。突然死は3,583例(8.9%)で発生した。突然死のリスクが19年間で44%低下 ベースラインの全体の平均年齢は65歳で、77%が男性であった。95%がNYHAクラスII/IIIの患者で、駆出率の平均値は28%(試験ごとの平均値の範囲:23~32%)、心不全の原因の62%が虚血性であった。 ACE阻害薬とARBは90%以上の患者が使用していた(ACE阻害薬非使用例を対象とした1試験を除く)。一般的な傾向として、より最近の試験ほど、β遮断薬とミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の使用例が多かった。 突然死を起こした患者は起こさなかった患者と比較して、高齢、男性、低い駆出率、高い心拍数、重い心不全症状、心不全の原因が虚血性、既往歴に心筋梗塞、糖尿病、腎機能障害、といった患者が多かった。また、突然死を起こした患者は、冠動脈血行再建術施行例が少なかった。 突然死の年間発生率は、最初期の試験(1998年に終了)の6.5%から、最近の試験(2014年に終了)の3.3%まで、経時的に低下した(傾向検定:p=0.02)。試験全体の突然死のリスクは、19年間で44%低下した(HR:0.56、95%信頼区間[CI]:0.33~0.93、p=0.03)。 無作為化後90日時の突然死の累積発生率は、最初期の試験が2.4%、最近の試験は1.0%であった。概して、180日時の突然死の累積発生率は90日時の約2倍となり、最近の試験になるほど、同様の傾向を示しつつ発生率が低下した。また、心不全の診断後の経過が短い患者は、長い患者と比較して、突然死の発生率は高くなかった。 駆出率別の解析では、どのサブグループも、試験全体と同様に突然死発生率が低下する傾向がみられ、駆出率が低いサブグループで突然死が多かった。 著者は、「これらの知見は、突然死に対するエビデンスに基づく薬物療法の蓄積されたベネフィットと一致する」としている。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第37回

第37回:潜在性甲状腺機能亢進症はどのような時に治療すべきか?監修:表題翻訳プロジェクト監訳チーム TSH、Free T4を臨床の場や人間ドックで測定することはよくありますが、FreeT4が正常、TSHが基準値より低値を示す場合があり、稀に潜在性甲状腺機能亢進の状態を認める患者と遭遇することがあるかと思います。こういった場合にどのようなリスクを考え、どのような患者に対して治療や専門家への相談を行うべきでしょうか。今回の記事では、潜在性甲状腺機能亢進症に対する米国甲状腺学会の治療方針について紹介したいと思います。 以下、American Family Physician 2017年6月1日号より1) より<潜在性甲状腺機能亢進症とは>潜在性甲状腺機能亢進症はFreeT4とT3値が正常であるが、TSHが低値または検出されない状態と定義される。潜在性甲状腺機能亢進症はTSH値で2つのカテゴリーに分類される。1)TSH値が低値だが検出される(たいていは0.1~0.4mlU/L)2)TSH値が0.1mlU/L以下である潜在性甲状腺機能亢進症は、内因性に過剰に甲状腺ホルモンが作られたり、甲状腺がんを抑制するために甲状腺ホルモンの内服を行っていたり、甲状腺機能低下症の患者に対し過剰に甲状腺ホルモン補充療法を行った結果生じる。内因性の潜在性機能亢進症の最も頻度の高い原因としては、Graves(Basedow)病、中毒性甲状腺結節、中毒性多結節性甲状腺腫(プランマー病)が挙げられる。一時的な甲状腺TSHの抑制の原因としては、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、産後甲状腺炎が挙げられる。潜在性甲状腺機能亢進症の最も多い原因は、甲状腺ホルモン補充療法によるものである。低TSHが、潜在性甲状腺機能亢進症によるものか、その他の甲状腺の機能亢進と関係しない原因によるものかを病歴などから鑑別する必要があり、その他の原因としては、ドパミンやグルココルチコイドの使用、Sick Euthyroid Syndrome(低T3症候群)、TSH産生下垂体腺腫などが挙げられる。<どのような影響があるのか?>これまでの研究では、潜在性甲状腺機能亢進症と心血管系イベントや骨折のリスクについての関係性が示唆されている。最新の研究では、TSH値が0.1以下の潜在性甲状腺機能亢進症の患者で、とくに高齢者における心血管系イベントや骨折のリスクに対してのエビデンスが明らかとなってきている。<心血管系への影響>平均心拍数の増加、心房細動と心不全のリスク、心左室の腫瘤形成、拡張不全、心拍数の変動性を減少させる。とくに65歳以上の患者において、Euthyroidの患者と比較すると、潜在性甲状腺機能亢進症の患者は心血管系のイベントが多くなる。<骨・ミネラルの代謝への影響>すべての甲状腺機能亢進を来す病態において、骨代謝回転の増加や、骨密度(とくに皮質骨)の減少を認め、骨折のリスクとなることが明らかとなっている。<いつ治療を考慮するべきか?>米国甲状腺学会では、以下のような推奨を出している。治療を行うべき場合TSH値が持続的に0.1mlU/L未満の患者の中で、1)年齢が65歳以上の場合2)65歳未満においては、心疾患・骨粗鬆症の既往や、甲状腺機能亢進による症状を有する場合3)65歳未満、閉経後でエストロゲンやビスホスホネートの内服がない場合治療を考慮すべき場合TSH値が持続的に0.1mlU/L未満の患者の中で、1)TSH値が0.1~0.4mlU/Lである65歳以上の患者2)TSH値が0.1mlU/L未満で無症状の65歳未満の患者3)TSH値が0.1~0.4mlU/Lで無症状だが心疾患の既往がある、または甲状腺機能亢進による症状が存在する65歳未満の患者4)TSH値が0.1~0.4mlU/Lで無症状の閉経後女性で、エストロゲンやビスホスホネートの内服のない65歳未満の患者※本内容にはプライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、 詳細に関しては原著に当たることを推奨いたします。 1) DONANGELO I,et al. Am Fam Physician. 2017;95:710-716

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わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問11(その1)

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問11 多変量解析とは何か?(その1)質問9、質問10で多変量解析を学ぶ前のおさらいをしてきました。今回からいよいよ医学統計でよく用いられる多変量解析についてご説明します。医学や薬学で用いられるデータは、人間や動物といった多種多様なものが複雑に絡み合って得られるものがたくさんあり、多くの種類(3つ以上)のデータ、つまり、多変量データと考えられます。そのため医学や薬学の研究では、多変量解析を適用すべき場面がしばしばあるのです。■解決したいテーマ多変量解析とは何かを知ってもらうために、多変量解析で解決できるテーマを3つほど取り上げてみましょう。医学的な事例だと難しくなりがちですので、一般的でなじみやすい事例で説明していきます。●テーマ1ドラッグストアでサプリメントなど、ある商品の売上をアップさせたいとき、どうすればよいでしょういろいろなアイデアがあると思います。チラシを印刷して店の近隣エリアにある住宅のポストに投函するとか、タウン誌に広告を出すなど広告費を増やして、どんどん宣伝するというのも1つの方法でしょう。また、店舗アルバイトの人員を増やすことで売上アップを狙うのもよいかもしれません。もちろん、単に広告費を増額して、あるいは店員の数を増やして売上を伸ばすというだけのアイデアが採用されるほど、ドラッグストアの本部は甘くはありません。しかし、あなたが、「広告費やアルバイト店員数の売上に対する影響度」、具体的には「広告費を1万円使えば、売上がどれほど増えるかといった広告費の売上への貢献度」などを数値に表し、売上を予測できたとすれば、あなたのアイデアはすぐにGoサインが出るでしょう。それでは、売上に対する影響度、貢献度はどのように数値化し、予測値をどのように算出すればよいでしょうか。●テーマ2人間ドックでの患者さんへの簡単な問診票の回答結果から、ある疾患に罹患している可能性を診断する仕掛けはどのようになっているのでしょう最近、食欲がない、軽い腹痛など調子が優れないと感じているときに、毎年の定期健診で受診している人間ドックにいきました。さっそく簡単な問診票が渡され、その質問に答えたところ、人間ドックの担当医から、「がんの疑いがあるので精密検査が必要です」と診断されました。どうすれば、簡単なアンケートだけで、こんな大胆な診断ができるのでしょうか。できるとすれば、どんな方法で行っているのでしょうか。●テーマ3大学受験の前に学科の得意・不得意によって、文系クラスか理系クラスかを決める仕掛けはどのようになっているのでしょう皆様の中にもこのような経験をされた方がいるかもしれません。高校2年から3年に進級するとき、学科の得意・不得意によって文系クラスか理系クラスかを決められてしまうケースがあります。英語や国語の点数が高いから文系、数学や物理の点数が高いから理系と決められるのは、納得がいきません。なぜなら、英語には文法があり理系能力も要求されます。また数学には文章問題があり、文系能力も要求されるからです。「英語の得点のうち80%が文系能力、20%が理系能力」、「数学の得点のうち10%が文系能力、90%が理系能力」といったことが解析で導き出せないものでしょうか。もし、このようなことが数値化できれば、真の文系能力、理系能力がわかりますね。■多変量解析で解決するテーマ1~3について、多変量解析はどのような考え方で解決しているかを解説します。●テーマ1ドラッグストアでサプリメントなど、ある商品の売上をアップさせたいとき、どうすればよいでしょう予測したいサプリメントXの売上金額、広告費、店員数のデータを直近の6年間について調べ、表1としてパソコン(Excel)に入力し、多変量解析のソフトで処理します。多変量解析は、いろいろな数値を算出します。広告費を1万円使用したとき売上は8万円アップ、店員1人を投入すると売上は539万円アップするといった売上貢献度を算出します。広告費、店員数を0としたときの最少売上を算出します。その値は1,148万円です。2017年の広告費は1,300万円、店員数は14人です。表1 事例の売上金額、広告費、店員数などのデータ(1)広告費1万円に対する売上貢献度は8万円なので、2017年の広告費による売上は、広告費1,300万円に売上貢献度8万円を掛けた値である1億400万円だといえます。(2)店員数1人に対する売上貢献度は539万円なので、2017年の店員による売上は、店員数14人に売上貢献度539万円を掛けた値である7,546万円だといえます。(3)何もしなくても見込める最少売上は1,148万円です。図に示した1億400万円、7,546万円、1,148万円を加算することによって、2017年の売上ポテンシャル(予測値)は1億9,094万円となります。図 2017年の売上ポテンシャル(予測値)2017年は、広告費を1,300万円、販売員数を14人投入すれば、サプリメントXは1億9,094万円の売上を見込めるということがわかりました。●テーマ2人間ドックでの患者さんへの簡単な問診票の回答結果から、ある疾患に罹患している可能性を診断する仕掛けはどのようになっているのでしょうすでに確認されているがん患者のグループと、健康な人のグループとの問診票のアンケート回答結果から診断を行います。診断は、アンケートに回答してもらった、喫煙の有無、飲酒の有無などで行います。がんの有無と各質問項目との相関関係を調べ、がんであるかどうかを判別する関係式を作ります。がん判別得点=a1×質問(1)+a2×質問(2)+…+定数ここで示したa1、a2は、各質問ががん判定にとってどのくらい大事なのかを表した数値と考えてください。この関係式をパソコンにセットします。あとは人間ドックに来院した人の問診票の結果をパソコンに入力すると、その回答は関係式にインプットされ、がんの有無を調べる得点が計算されます。この値が「+」であればがんの可能性あり、「-」であれば可能性なしということになります。●テーマ3大学受験の前に学科の得意・不得意によって、文系クラスか理系クラスかを決める仕掛けはどのようになっているのでしょう表2で各科目の文系能力へのウエイトのa1、a2、…を求めます。同様に理系能力のウエイトb1、b2、…を求めます。表2 文系、理系ウエイトの算出生徒の各科目の得点をx1、x2、…とします。文系能力、理系能力は、次の関係式によって求められます。文系能力得点=a1x1+a2x2+a3x3+a4x4+a5x5理系能力得点=b1x1+b2x2+b3x3+b4x4+b5x5表3に、ある生徒の5科目が次の得点であるときの文系能力得点、理系能力得点を求めます。表3 ある生徒は文系か、理系か文系能力得点=0.8×80十0.1×50+0.9×90+0.3×60+0.4×70      =64+5+81+18+28=196 平均39.2理系能力得点=0.2×80+0.9×50+0.1×90+0.7×60+0.6×70      =16+45+9+42+42=154 平均30.8よって、この生徒の平均点は70点、そのうち文系能力は39.2点、理系能力は30.8点と求められ、文系能力のほうが高いことがわかりました。以上、解決方法を述べました。すべてのテーマに共通して言えることがあります。どのテーマも関係式(モデル式ともいう)を作り、この関係式を用いて解決しているということです。この関係式を作ること、すなわち「関係式に用いる係数を求めること」が、多変量解析の役割なのです。多変量解析の応用範囲は広く、最初の出発点は心理学でしたが、現在では、変数間の関係を取り扱うのであれば、あらゆる分野に応用されています。その分野は、人類学から、考古学、物理学、経済学、教育学、気象学、家政学、社会学までと多岐にわたり、研究所、行政省庁、企業、そしてマーケティング業務などと多様なシチュエーションで活用されています。どのジャンル、テーマも多変量解析を適用して解決する場合、関係式を用いています。ここまで、多変量解析とは何かを知ってもらうために、一般的でなじみやすい事例で説明しました。次回は、多変量解析で取り扱うデータや、解析の種類および解析手法名について説明していきます。今回のポイント1)多変量解析は関係式(モデル式)を作り、その関係式を使って、課題を解決する!2)多変量解析の役割は、この関係式に用いる係数を求めること!3)多変量解析の応用範囲は広く、変数間の関係を取り扱う場合であれば、医学はもちろんその他のあらゆる分野で応用されている!インデックスページへ戻る

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亜鉛欠乏症のあなどれない影響

 2017年4月26日、都内においてノーベルファーマ株式会社は、「見落とされがちな『亜鉛不足』の最新治療~日本初となる低亜鉛血症治療薬の登場~」と題してプレスセミナーを開催した。セミナーでは、2008年に承認された同社の酢酸亜鉛水和物(商品名:ノベルジン)が2017年3月に低亜鉛血症にも追加承認されたことから、小児に多い亜鉛欠乏症の概要を小児科専門医の視点から、そして、亜鉛が肝疾患に与える影響について消化器専門医の視点から講演が行われた。亜鉛欠乏症はサプリメントでは補えない はじめに「けっして稀ではない亜鉛欠乏」と題し児玉浩子氏(帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科 学科長・教授/帝京大学医学部小児科)が、亜鉛欠乏症の概要を説明した。 亜鉛は、人にとり必須微量ミネラルであり、成人男性なら約2gが体内に存在、各種酵素の形成や造血機能、皮膚代謝、味覚維持などの働きを担っている。亜鉛が欠乏すると、皮膚炎や脱毛、貧血、味覚障害、下痢、食欲低下、骨粗鬆症などの症状がみられ、性腺機能低下やとくに小児であれば発育障害を引き起こす。 「こうした身近にあるはずの亜鉛欠乏について、一般臨床ではあまり知られておらず、主な教科書や論文でも本症の症状が鑑別診断の対象とされていない。そのため、多くの場合、医療現場で見逃されている可能性がある」と児玉氏は指摘する。 「亜鉛欠乏症の診断指針」では、一定の症状(たとえば皮膚炎、口内炎、食欲低下、発育障害、易感染性、味覚障害など)があり、血清アルカリホスファターゼ(ALP)が低値で、症状の原因となる他の疾患が否定され、血清亜鉛値が60μg/dL未満で、亜鉛補充により症状が改善する場合を本症と確定診断する。 そして、亜鉛欠乏症と診断された場合、食事療法やサプリメントの摂取では改善しないことが多く、亜鉛製剤による治療が必要となる。亜鉛欠乏症の治療薬であるノベルジンを使用する際は、患者の病状や血清亜鉛値を参考としながら、成人および体重30kg以上の小児ならば1回25~50mgを開始用量としつつ、1日2回食後に経口投与する(最大150mg/日)。体重30kg未満の小児(なお、新生児は、現在臨床試験中)であれば1回25mgを開始用量とし、1日1回食後に経口投与する(最大75mg/日)。また、投与時に気を付けたい有害事象としては、嘔気、腹痛などの消化器症状、銅欠乏による貧血、白血球減少がある。いずれも重篤なものではないが、投与中は定期的血清亜鉛値の測定とこれによる減量と中止、必要な銅や鉄の補充を行う必要がある。 最後に児玉氏は「小児で食欲不振、低身長があれば亜鉛不足が推定される。また、成人であれば味覚異常、脱毛、貧血、長期の薬剤使用などがあれば亜鉛欠乏症を疑うサインとなる。日常診療でも本症を思い浮かべてもらい、疑ったら血清亜鉛値を検査するなど診療に生かしてもらいたい」と思いを語った。亜鉛欠乏が肝疾患に与える影響 次に片山和宏氏(大阪国際がんセンター 副院長/臨床研究センター長 肝胆膵内科)が、「亜鉛と肝疾患」をテーマに亜鉛欠乏が肝疾患に与える影響について解説した。 亜鉛には、タンパク合成を行う重要な働きがあり、欠乏すると肝臓の代謝不良から慢性肝疾患へ至るとされている。実際、亜鉛が不足し、肝臓でタンパク質の代謝が鈍るとアンモニアの処理ができず、肝性脳症になることが知られている。 そこで、片山氏が肝硬変患者の亜鉛欠乏の度合いを調べた研究では、血中アルブミン濃度が3.5g/dLまで下がると亜鉛欠乏(<70μg/dL)率は約90%になったという。また、肝硬変のタンパク代謝(アルブミン)と生命予後の関係の調査では、タンパク質合成がうまく働かず血中アルブミン濃度が下がると3.5g/dLを境に5年生存率にも大きく影響する。 そのほか、C型肝炎患者に亜鉛製剤投与の長期間経過観察(2,500日超)では、亜鉛濃度が80μg/dL以上維持できた場合、有意に発がん率が少なかったこと、動物モデルではあるが亜鉛投与で肝臓の線維化が抑制されたことなどが報告された。 臨床現場で使用されている「肝硬変診療ガイドライン2015(栄養編)」の中では、亜鉛補充は「中等度のエビデンス」とされ、亜鉛の必要性は認識されているもののエビデンスレベルが低く、今後エビデンスの集積が待たれるという。 最後に片山氏は「次回の改訂では、ガイドラインの栄養療法の項目で、エネルギー低栄養を認めたら低亜鉛血症への診療へと移る項目ができることを期待したい」と抱負を述べ、レクチャーを終えた。

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