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バベシア症に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。さて、前回は誰も興味がないと思われる超マニアックなバベシア症について語りました。しかしッ! 日本の医療従事者もバベシア症について知っておかなければならない時代が来ているのですッ!突然ですが、症例提示をしてよろしいでしょうか?原因不明の溶血の正体は何?症例:40歳日本人男性主訴:発熱、溶血現病歴:X年1月31日39℃台の発熱が出現2月2日ヘモグロビン尿が出現2月6日溶血性貧血の診断でA病院にてヒドロコルチゾン900mg/日の点滴と赤血球輸血を施行3月20日退院3月29日再びヘモグロビン尿が出現4月3日再入院しヒドロコルチゾン900mg/日を再開。溶血は改善したが原因精査のためB病院転院既往歴:出血性胃潰瘍でX-1年12月28日(A病院入院約1ヵ月前)に入院。赤血球10単位、FFP3単位の輸血を施行節足動物曝露:なし身体所見:体温 36.8℃、脈拍90/分、血圧152/84mmHg眼球結膜に黄疸あり、眼瞼結膜に貧血あり、表在リンパ節を触知せず、心肺異常なし、腹部圧痛なし、肝脾を触知せず、下肢に軽度の浮腫を認める血液検査:WBC 14,100/µL、RBC 1.87×106/µL、Hb 6.5g/dL、Ht 19.8%、Plt 25×104/µL、BUN 20mg/dL、Cre 0.68mg/dL、TP 5.7g/dL、Alb 2.9g/dL、T-BiL 1.6mg/dL、GOT 89IU/L、GPT 51IU/L、LDH 4,266IU/L、CRP 1.37mg/dL、Na 139mEq/L、K 4.1mEq/L、CL 106mEq/L尿検査:尿蛋白(+)、尿潜血(4+)、尿糖(-)症例患者の感染ルートはどこださて、この原因不明の溶血(再生不良性貧血として治療したが再燃)と、2ヵ月の経過で続く発熱、体重減少の症例…診断は何だと思いますでしょうか? まあ、ここまで来といてバベシア症じゃなかったら怒られると思うんですが、そうです、バベシア症なんです!日本人ですよ? 海外渡航歴なしですよ? 本症例は日本国内発の初のバベシア症症例です1)。末梢血ギムザ染色を行い、図のような赤血球内に寄生するバベシア原虫の所見が得られ確定診断に至っています。画像を拡大するこの患者さんはマダニからの感染ではなく、出血性胃潰瘍のため輸血をした際にバベシア症に感染したと考えられています。この供血者についても判明しており、海外渡航歴のない方による供血だったそうです。つまり、日本国内でもバベシア症に感染する可能性があるのですッ!国内に潜むバベシア症このわが国初のバベシア症が報告された兵庫県2)だけでなく、北海道、千葉県、島根県、徳島県などでもこのB.microti様原虫(Babesia microti-like parasites)を持つ野生動物が見つかっており、ヤマトマダニからも分離されています3)。あー、ちゃばい。つまり、すでに日本のマダニだの野生動物だのは、バベシア原虫を持っているということです。いつ感染してもおかしくないって話です。でも、すでにマダニや動物が持っているなら、1例だけじゃなくもっとたくさんの症例が報告されていても、おかしくないはずですよね。そうなんです。もっと患者がいてもいいのに(よかないけど)、報告されていないんです。しかし、興味深い論文がありますのでご紹介します。千葉県の房総半島で1,335人のボランティアの方から採血をしたところ、その1.3%でバベシア原虫に対する抗体が陽性だったというのですッ4)! そう、われわれは気付かないうちにバベシアに感染しているのかもしれないのですッ!というわけで、必ずしも日本では診ることがないとも言い切れないバベシア症についてお話いたしました。国内第2例目を診断するのは、あなたかもしれないッ!次回は「先進国イタリアでまさかのマラリア流行かッ!?」というお話をいたします。1)松井利充ほか. 臨床血液. 2000;41:628-634.2)Saito-Ito A, et al. J Clin Microbiol. 2004;42:2268-2270.3)Tsuji M, et al. J Clin Microbiol. 2001;39:4316-4322.4)Arai S, et al. J Vet Med Sci. 2003;65:335-340.

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バベシア症に気を付けろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。さて、これまで「次はバベシア症です」と言ってもう1年半くらい引っ張ってきましたが(まあ私の原稿が遅いからというのもありますが)、今回ようやくバベシア症についてご紹介するときが来ましたッ! たぶん誰も興味ないと思いますが、バベシア症についてご紹介したいと思います!次回あらためてお話しいたしますが、日本国内ではまったく関係ない感染症、というわけではありませんので、少しでも知っておくと将来役立つ可能性が無きにしもあらずですッ!バベシア症の原因は“マダニ”まずバベシア症とは何か、ということですが赤血球内に寄生するバベシア原虫によるマダニ媒介感染症です。「赤血球内に寄生する」というと、マラリア原虫が思い浮かびますが、実際臨床像もマラリアによく似ています。名前の由来は、1888年に畜牛のヘモグロビン尿症の原因を診断したハンガリー人の病理学者・微生物学者であるVictor Babesの名をとって「バベシア症」と名付けられたとのことです。「ふーん」って感じですよね。初のヒト感染症はバベシア症発見から半世紀後に、クロアチア人で脾摘された牛飼いがB. divergensに感染した事例が報告されています。その後、アメリカ合衆国のナンタケット島で健康な成人のバベシア症患者が続き、バベシア症は「ナンタケット熱」と呼ばれたということで「ナンタケット島でアウトブレイクとはなんてこっとだ(ダジャレ)!」って感じですよね。うんうん。バベシア症の流行地域と感染経路さて、バベシア症を引き起こすバベシア原虫は100種類以上いますが、ヒトに感染するのは数種類のみであるとされています。アメリカで流行しているバベシア症の原因はBabesia microtiという種類であり、ヨーロッパではB. divergensという原虫によるバベシア症が報告されています。ちなみに媒介するマダニは、アメリカではシカダニ(Ixodes scapularis)、ヨーロッパではリシヌスマダニ(Ixodes ricinus)が知られています。また、バベシア症の流行地域、原虫種類および媒介するマダニの状況はこのサイトの図の通りです。マダニを介したヒトへの感染経路は図1のように、まず、1年目の春に成虫が卵を産み、夏になると幼虫となります。幼虫がバベシア原虫に感染したげっ歯類などを吸血すると、この際に幼虫はバベシア原虫を保有するようになります。翌年の春に幼虫は若虫となり、ヒトを吸血することでヒトがバベシア症になります。あるいは秋以降に成虫となったマダニがヒトを吸血してもヒトに感染します。画像を拡大するマラリアとの鑑別方法と診療バベシア症の臨床像ですが、非常にスペクトラムが広く、無症候性寄生虫血症から超重症まで広い臨床像を呈します。重症度は主に宿主の免疫により、「脾摘や脾臓低形成が最大の重症化リスクファクター」と言われていますが、その他にも新生児、高齢者、免疫抑制薬投与患者、臓器移植患者などもリスクとなるとされます。入院が必要な重症例では、死亡率6~9%、免疫不全患者では21%と報告されています。結構怖い病気ですね。潜伏期は感染したダニに噛まれてから1~4週で、発熱、頭痛、悪寒、咽頭痛、嘔吐、眼球結膜充血、体重減少などの臨床症状がみられ、身体所見では脾腫、黄疸、肝腫大、血液検査所見では軽度~中等度の溶血性貧血、血小板減少などが認められるそうです。この辺はガチでマラリアに似ていますね。診断もマラリアと同様に末梢血のギムザ染色で診断できます。他にも抗体検査やPCR検査でも診断できるようです。図2はバベシア症患者の血液のギムザ染色像です。画像を拡大する赤血球の中に輪っかのようなものがいるのが、おわかりでしょうか。これがバベシア原虫です。1つの赤血球内に複数の原虫がいるものもあります。これまたマラリアにおけるギムザ染色像と非常によく似ていますが、(1)バベシア原虫は赤血球外にもいることがある、(2)バベシア原虫はリングフォームの大きさがバラバラで多形性である、(3)バベシア原虫にはガメトサイトがない、(4)バベシア原虫にはhemozoinがない、という点がマラリア原虫との鑑別ポイントになります。いや~マニアックですねえ。治療では、「2つあるレジメンのうちいずれかで7~10日治療する」ということになっています。1つは、ニューモシスチス肺炎の治療や予防で使用することのあるアトバコンにアジスロマイシンを加えたレジメン、2つ目はマラリアの治療薬であるキニーネにクリンダマイシンを加えたレジメンです。一般的には1つ目のレジメンの方が、副作用での中断が少ないと言われています。また、重症(寄生率10%以上、重度の貧血、多臓器不全)では血漿交換療法をすることがあります。免疫不全患者では、持続寄生虫血症や再燃が起こりうるとされ、その場合は6週間(塗抹陰性化して2週間以上)の治療が必要となります。ということで、ここまでバベシア症の一般的な知識についてご紹介してきました。「日本で診療しているぶんには、まったく関係ないな!」と思われたかもしれませんが…実は日本国内でもバベシア症に感染するリスクがあるのですッ!次回は「日本におけるバベシア症」という、個人的に激アツ、沸騰中のお話をさせていただきますッ!1)Vannier E,et al. N Engl J Med. 2012;366:2397-2407.

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三日熱マラリアの再発予防にtafenoquine単回投与は有効か?/NEJM

 三日熱マラリア原虫(P.vivax)マラリアの患者に対し、tafenoquineの単回投与は、再発予防に関して、プリマキン14日間投与に対する非劣性は示されなかった。グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)活性が正常値の患者において、ヘモグロビン値低下の有意差は認められなかった。ペルー・Peruana Cayetano Heredia大学のA. Llanos-Cuentas氏らが行った、第III相二重盲検ダブルダミー無作為化試験の結果で、著者は「tafenoquineはP.vivaxマラリアの根治治療(radical cure)に有効ではあるが、プリマキンに対する非劣性は示されなかった」とまとめている。tafenoquineの単回投与は、“根治治療”と称されるP.vivax血症と休眠体の消失により、再発予防と関連することが示されていた。NEJM誌2019年1月17日号掲載の報告。tafenoquine単回投与vs.プリマキン14日間投与 研究グループは、2015年4月30日~2016年11月4日に、ペルー、ブラジル、コロンビア、ベトナム、タイの病院または診療所7施設を通じて、P.vivax血症が確認された患者251例を対象に試験を行った。被験者は、G6PD活性が正常値、または中等度G6PD欠損症が認められた女性患者だった。 被験者を無作為に2対1の2群に分け、一方にはtafenoquine 300mg単回投与、もう一方にはプリマキン15mgを1日1回14日間投与した。被験者全員に、クロロキンを治療初日から3日間投与した。追跡期間は180日。 主要安全性評価項目は、プロトコールで規定したヘモグロビン値の低下(ベースラインから3.0g/dL超または30%以上の低下、または6.0g/dL未満への低下)とした。 主要有効性評価項目は、6ヵ月時点でP.vivax血症再発が認められないこととした。同評価は、本試験とtafenoquineとプリマキンを検討したその他の第III相試験を含むper-protocol集団で計画された患者レベルのメタ解析(治験実施計画書に適合した対象集団についての解析)において評価し、非劣性マージンは再発のオッズ比1.45(tafenoquine vs.プリマキン)とした。tafenoquine vs.プリマキンの再発オッズ比は1.81 プロトコール定義によるヘモグロビン値の低下が認められたのは、tafenoquine群166例中4例(2.4%、95%信頼区間[CI]:0.9~6.0)、プリマキン群85例中1例(1.2%、同:0.2~6.4)で、群間差は1.2ポイント(95%CI:-4.2~5.0)だった。 患者レベルのメタ解析の結果で、6ヵ月時点での無再発患者の割合は、tafenoquine群(426例)は67.0%(95%CI:61.0~72.3)、プリマキン群(214例)は72.8%(同:65.6~78.8)だった。tafenoquine vs.プリマキンの再発オッズ比は、1.81(95%CI:0.82~3.96)で、tafenoquineのプリマキンに対する非劣性は示されなかった。 なお著者は、本試験では中等度G6PD欠損症の適格患者が1例のみだったため、安全性の評価は限定的であると述べている。

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第18回 救急科からのノルフロキサシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?赤痢菌※・・・9名下痢原性大腸菌・・・7名カンピロバクター・・・7名サルモネラ・・・7名赤痢アメーバ・・・6名腸炎ビブリオ・・・3名ノロウイルス、ロタウイルス・・・3名チフス・・・2名※細菌性赤痢の原因菌で、潜伏期1~5日(通常1~3日)で発症し、全身の倦怠感、悪寒を伴う急激な発熱、水様性下痢を呈する。発熱は1~2日続き、腹痛、しぶり腹(テネスムス)、膿粘血便などの症状が現れる。全数報告対象(3類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない1)。抗菌薬から考える 奥村雪男さん(薬局)途上国旅行中に生じる下痢は、非常に多くの微生物が関与します2)。推奨される治療については、ガイドライン3)を参照すると、赤痢アメーバ腸炎、ランブル鞭毛虫症(ジアルジア症)であればメトロニダゾールを使用するクリプトスポリジウム症は免疫能が正常であれば自然治癒が見込めるサイクロスポーラ感染症ではST合剤を使用する以上から、現時点では原虫症は鑑別の上位にないように思います。また、腸管出血性大腸菌(EHEC)以外の下痢原性大腸菌は、経過観察か補液で自然軽快することがほとんどEHECでは早期にレボフロキサシンの投与を考慮するカンピロバクターは自然治癒するサルモネラは、健常者の軽症~中等症において抗菌薬の投与は推奨されていない細菌性赤痢の第一選択はレボフロキサシン、シプロフロキサシンである以上から、現時点で想定されている原因菌は、前述の原虫以外の細菌およびロタウイルスと考えます。旅行者下痢症は、特にempiric therapyを考慮するケースとされ、第一選択としてレボフロキサシン、 シプロフロキサシンが挙げられています。潜伏期間を考慮 清水直明さん(病院)現地で何かに感染したとすると、比較的潜伏期間が短い感染症を考える必要があります。厚生労働省検疫所(FORTH)によれば、フィリピンでは1 年を通じて、腸チフス(潜伏期間:1~3週)、アメーバ赤痢(2~4週)、細菌性赤痢(1~5日)、A型肝炎(2~7週)などのリスクがありますが、症状および潜伏期間から、この中で細菌性赤痢が最も当てはまります。カンピロバクター(2~4日)、サルモネラ(12~72時間)などもありえそうですが、重症度を考慮して、まずは細菌性赤痢を念頭に置いた治療で様子を見るということだと思います。処方内容、渡航先、症状を踏まえる ふな3さん(薬局)腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、サルモネラ、コレラ、赤痢菌などを想定した処方ではないかと思います。ただし、あくまで「処方から」予想される原因菌であって、渡航先と症状からは、ロタウイルス、ノロウイルス、赤痢アメーバなども考えられます。Q2 患者さんに確認することは?副作用歴と止瀉薬について 中堅薬剤師さん(薬局)副作用歴、止瀉薬の所持を必ず確認します。可能であれば、症状変化の詳細も聞いてみたいです。アレルギーや金属イオンを含む薬剤 奥村雪男さん(薬局)ニューキノロン系抗菌薬に対するアレルギーがないか確認します。酸化マグネシウムや鉄剤などの金属イオンを含む薬剤やサプリメントは、ノルフロキサシンの吸収を低下させてしまうため(併用注意記載あり)、確認します。現地での食事状況 JITHURYOUさん(病院)PPIやステロイドを服用している場合は、感染しやすくなっている可能性があります。水分や食事(薬剤)が取れるか? 発熱は? 点滴したかも確認します。赤痢菌は水系感染で、現地で水道の水などは飲んでいないと思いますが、氷でも感染する場合があります。水で汚染されている可能性がある果物類の他、魚介類や熱が十分に通っていない食材などを摂取したかも確認したいです。渡航先、渡航期間を医師に話したか ふな3さん(薬局)渡航先・渡航期間を医師に話したか、必ず確認します。渡航歴を伝えない患者、聞かない医師もいるからです。感染者が家族・職場などにいると、感染拡大する可能性もあります。できれば、菌の同定検査をしたか、同行者に同様の症状がないかも聞きたいです。食欲と水分補給について 清水直明さん(病院)「食欲はありますか? 水分は取れそうですか?」もしも食欲がなくて水分・電解質が十分取れない状況ならば、脱水を引き起こす危険性があるため、点滴などの処置が必要になるかもしれません。ロコア®テープにも注意 児玉暁人さん(病院)併用禁忌確認のため、フロベン®(フルルビプロフェン)の内服をしていないか、ロコア®テープ(エスフルルビプロフェン)を使用中でないか確認します。ロコア®テープは貼付薬ながら血中濃度が上昇するため、併用禁忌にノルフロキサシンの記載があります。Q3 疑義照会する?する・・・4人なぜノルフロキサシン? 清水直明さん(病院)細菌性赤痢であればキノロン系抗菌薬が第一選択になりますが、今どき、腸管感染症に対してノルフロキサシンを使うのかなと感じます。なぜレボフロキサシンやシプロフロキサシンではなく、ノルフロキサシンなのか聞いてみたいです。抗菌薬の用量 JITHURYOUさん(病院)ノルフロキサシンの投与量が少ないです。添付文書では腸チフスの場合、1回400mg 1日3回投与14日間とされています(症状から腸チフスではないようにも思いますが、可能性はあります)。整腸剤の変更 キャンプ人さん(病院)ラックビー®微粒Nはキノロン服用時の乳酸菌製剤としては効果が減弱するため、ミヤBM®への変更を依頼します。想定している原因菌について 荒川隆之さん(病院)ラックビー®微粒Nはキノロン系抗菌薬で失活する恐れがありますので、ビオスリー®などへの変更を提案します。提案するときに、医師が想定している原因菌についても同時に確認すると思います。また、旅行者下痢症は通常3~5日で回復しますので、投与期間は5日で妥当と考えます。しない・・・6人やや用量は少ないが・・・ 中堅薬剤師さん(薬局)JAID/JSC 感染症治療ガイドライン―腸管感染症―2015によれば、ノルフロキサシンの投与は1回2~4mg/kg、1日3回とされていて、22歳だと1回100mgはやや少ない気がしますが、疑義照会まではしないです。耐性乳酸菌に変える必要はない 中西剛明さん(薬局)疑義照会しません。エンテロノン® -Rなどの耐性乳酸菌を使う必要はないと思います。耐性乳酸菌を使うと、併用できる抗菌薬にノルフロキサシンが入っていないので、保険で査定されてしまう恐れがあります。ちなみに、乳酸菌製剤は死菌で十分効果があるという説もあります。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?光線過敏の副作用について 中堅薬剤師さん(薬局)具合が悪いので外で紫外線を浴びることは少ないかもしれませんが、ノルフロキサシンによる光線過敏の可能性を話しておきます。止瀉薬は使わないこと、水分は経口補水液を少量ずつ摂取することなども説明します。服用方法についての説明例 ふな3さん(薬局)「抗菌薬は5日間飲みきってください。8時間ごととなっていますが、生活パターン上、服薬が難しいようなら、7~9時間の間隔であれば大丈夫です。食前・食後でも大丈夫ですが、カルシウムなどのミネラルを摂取すると薬の吸収が悪くなることがあるので、カルシウムやマグネシウムなどのサプリメントなどは控えてください。飲み忘れた場合は、すぐに1回分を飲んで、できるだけ1日3回の服用を続けてください」「帰宅後、激しい嘔吐、発熱、強い腹痛、血便、便意があるのに便がほとんど出ない状態を繰り返す(しぶり腹)など体調変化があった場合、また、3日以上経過しても症状が改善しない場合は、すぐに再受診してください」抗菌薬の服用前後2時間は牛乳などを避ける 清水直明さん(病院)「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬、貧血の薬(鉄剤)と一緒に服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間は、それらの摂取を避けるようにしてください。」家族の感染対策 キャンプ人さん(病院)家族などの同居者にも、感染対策するよう指導します。服用時間について わらび餅さん(病院)症状がひどいうちは食事が取れないだろうと考えて、用法を8時間ごととしたのだろうと思います。ですが、厳密に8時間ごととする必要はなく、内服は多少時間がずれても構わないことを伝えます。Q5 その他、気付いたことは?脱水予防 JITHURYOUさん(病院)とにかく脱水予防が必要です。吐き気などで経口できない場合は、補液がファーストだと考えます。抗菌薬はセフトリアキソンなどでしょうか。経口可能であればニューキノロン系抗菌薬、特にレボフロキサシンなどがよいと思いますが、耐性化が進んでいるのでアジスロマイシンなども候補とします。原因菌の特定は重要であり、報告義務のある赤痢菌、コレラの検出であれば、その消失を確認しないといけない旨を伝えます。寄生虫検査は複数回行われる場合があり、周囲のへの感染予防も必要です。腸炎ビブリオの可能性 ふな3さん(薬局)なぜレボフロキサシンではなく、わざわざノルフロキサシンを選んだのか気になります。レボフロキサシンとノルフロキサシンを比較すると、レボフロキサシンでは適応菌種として腸炎ビブリオが含まれていないので(キノロン系抗菌薬ではノルフロキサシンのみに適応あり)、ひょっとしたら腸炎ビブリオが最も疑われているのかもしれない、と思います。注)添付文書上、適応菌種には記載されていないが、JAID/JSCガイドライン2015―腸管感染症―において、レボフロキサシンは腸炎ビブリオに第一選択(ただし重症例に対して)になっている。後日談(担当した薬剤師から)患者は医学生で、熱帯医療のサークルでフィリピンに滞在していたそうです。今回は4回目の渡航で、赤痢を警戒し、食事や水には非常に気を使っていたとのことです。赤痢アメーバは内視鏡で否定され、検査結果は腸炎ビブリオで、ブドウ球菌の毒素も絡んでいる可能性もあるとのことでした。帰国前に魚料理を食べており、これが原因かもしれないということでした。1)NIID 国立感染症研究所.細菌性赤痢とは.2)青木眞.レジデントのための感染症マニュアル.第2版.東京、医学書院、2008.3)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015‒腸管感染症‒.一般社団法人日本感染症学会、2016.[PharmaTribune 2017年8月号掲載]

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胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」【下平博士のDIノート】第14回

胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」今回は、「抗トキソプラズマ原虫薬スピラマイシン(商品名:スピラマイシン錠150万単位)」を紹介します。本剤は、妊娠中にトキソプラズマに初感染した妊婦が服用することで、胎児の先天性トキソプラズマ症の発症を抑制します。<効能・効果>本剤は先天性トキソプラズマ症の発症抑制の適応で、2018年7月2日に承認され、2018年9月25日より販売されています。トキソプラズマのタンパク合成を阻害することで、増殖抑制効果を示します。<用法・用量>通常、妊婦に1回2錠(スピラマイシンとして300万国際単位)を1日3回経口投与します。抗体検査や問診などにより妊娠成立後のトキソプラズマ初感染が疑われる場合に使用します。<患者さんへの指導例>1.妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合に、胎児が感染することで発症する恐れのある「先天性トキソプラズマ症」を防ぐための薬です。2.胎児への感染が確認されないうちは、分娩まで続けて服用します。3.薬によって腸内細菌のバランスが崩れると、便が緩くなったり、おなかが痛くなったりすることがあります。4.高熱、激しい腹痛を伴う血便、めまい、動悸、胸痛などの症状がありましたら、服用をやめてすぐに医師の診察を受けてください。5.母乳中に移行することが報告されているため、本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>トキソプラズマは人畜共通の寄生原虫であり、猫を終宿主としますが、豚、牛、鶏、羊、馬などのほか、食肉用の動物以外も含めて、ほぼすべての哺乳類や鳥類に感染します。ヒトへの主な感染経路としては、加熱不十分な食肉、猫の糞便や洗浄不十分な野菜などによって、トキソプラズマ原虫を経口的に摂取することが挙げられます。また、園芸などの土いじりや砂場遊びが原因になることも考えられます。通常、健康な成人がトキソプラズマに感染した場合、風邪様の症状が出現することもありますが、多くの場合は無症状のまま潜伏感染に移行します。しかし、妊婦がトキソプラズマに初感染すると、胎盤を介して胎児に感染し、先天性トキソプラズマ症を発症する可能性があります。先天性トキソプラズマ症は流産・死産の原因になったり、生まれた子供に水頭症、網脈絡膜炎による視力障害、脳内石灰化、精神・運動機能障害などといった重大な臨床症状が認められたりすることがあるため、胎児への感染を抑制する必要があります。本剤は、抗菌活性に加え、抗トキソプラズマ活性を有する16員環のマクロライド系抗菌薬で、海外の診療ガイドラインではトキソプラズマに初感染した妊婦に対し、本剤が標準的治療薬として推奨されています。しかし、わが国ではこれまでトキソプラズマを適応症として承認されている薬剤はなかったため、日本産科婦人科学会より開発の要望がなされていました。本剤の抗原虫作用はトキソプラズマに対する増殖抑制であり、感染後早期に服用を開始することで、垂直感染が約60%低下するという報告があります。ただし、殺原虫効果はないため、胎児への感染が疑われる場合には、本剤の投与・継続の適否について慎重に検討する必要があります。実際には先天性トキソプラズマ症で生まれてくる児はわずかですが、加熱不十分な食肉を食べること、素手での飼い猫の糞便の処理や土いじりは、トキソプラズマ感染を引き起こすリスクがあることを薬剤師も再認識し、妊娠中または妊娠を予定している患者さんに対して調理方法や手袋の着用、十分な手洗いなどの注意喚起を行えるとよいでしょう。

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マラリア感染、殺虫剤抵抗性媒介蚊脅威に2つの対策/Lancet

 マラリア対策は、広範囲にわたる殺虫剤抵抗性マラリア媒介蚊の存在によって、進展が脅威にさらされている。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のNatacha Protopopoff氏らは、近年開発された2つのマラリア媒介蚊の対策製品である、共力剤ピペロニルブトキシド(PBO)含有長期残効性殺虫剤ネットと、殺虫剤ピリミホス-メチルの長時間屋内残留タイプの噴霧製品を評価する検討を行った。いずれも、標準的な長期残効性殺虫剤ネットと比べて、ピレスロイド系薬抵抗性媒介蚊によるマラリアが流行している地域で、マラリア伝播コントロールの改善が示されたという。Lancet誌オンライン版2018年4月11日号掲載の報告。クラスター無作為化対照試験で有効性を評価 研究グループは、PBO長期残効性殺虫剤ネットと標準的長期残効性殺虫剤ネットの単独介入の効果を比較し、また、ピリミホス-メチル屋内残留噴霧を組み合わせた場合の効果について、2×2要因デザインを用いた4群クラスター無作為化対照試験を行った。 タンザニア北西部にあるカゲラ州の40村から48集団を集めて、「標準的長期残効性殺虫剤ネット群」「PBO長期残効性殺虫剤ネット群」「標準的長期残効性殺虫剤ネット群+屋内残留噴霧群」「PBO長期残効性殺虫剤ネット+屋内残留噴霧群」の4群に無作為に割り付けた。標準ネットとPBOネットは2015年に配布、噴霧は2015年に1回だけ実施した。住民と血液検体を採取した現地調査スタッフには、受け取ったネットのタイプは知らされなかった。 主要評価項目は、生後6ヵ月~14歳の小児のマラリア感染症有病率で、介入後4、9、16、21ヵ月時点に断面サーベイを行い評価した。屋内残留噴霧の評価のエンドポイントは9ヵ月時点、PBOネットについては21ヵ月時点であった。マラリア感染症の有病率、両製品の単独使用で標準的ネット使用よりも有意に低下 1万560世帯のうち7,184(68.0%)世帯が、介入後調査対象に選択された。また、4回のサーベイの適格児1万7,377例のうち1万5,469例(89.0%)がintention-to-treat解析に包含された。 2つの噴霧群に割り付けられた878世帯のうち、827世帯(94%)が噴霧を受けた。長期残効性殺虫剤ネットの使用は全体で、1年後の時点では住民1万5,341/1万9,852例(77.3%)だったが、2年目は1万2,503/2万1,105例(59.2%)に減少していた。 9ヵ月時点のマラリア感染症有病率について、PBO長期残効性殺虫剤ネットを受け取った2群は、標準的長期残効性殺虫剤ネットを受け取った2群よりも有意に低率であった(531/1,852児[29%]vs.767/1,809児[42%]、オッズ比[OR]:0.37、95%信頼区間[CI]:0.21~0.65、p=0.0011)。 同一の評価時点で、屋内残留噴霧を受けた2群は、同噴霧を受けなかった群と比べて、マラリア感染症有病率が有意に低率であった(508/1,846児[28%]vs.790/1,815児[44%]、OR:0.33、95%CI:0.19~0.55、p<0.0001)。PBO長期残効性殺虫剤ネットと屋内残留噴霧の間には、組み合わせた場合に冗長性(redundancy)が示され、両者間の相互作用のエビデンスが認められた(OR:2.43、95%CI:1.19~4.97、p=0.0158)。 PBO長期残効性殺虫剤ネットの効果は21ヵ月後も持続しており、標準的長期残効性殺虫剤ネット群よりも、マラリア感染症有病率が有意に低率であった(865/1,930児[45%]vs.1,255/2,034児[62%]、OR:0.40、95%CI:0.20~0.81、p=0.0122)。 結果を踏まえて、WHOは現在、PBO長期残効性殺虫剤ネットの適用範囲拡大を推奨しているという。なお、PBO長期残効性殺虫剤ネット+ピリミホス-メチル屋内残留噴霧は、PBO長期残効性殺虫剤ネット単独の場合や、標準的長期残効性殺虫剤ネット+屋内残留噴霧と比べて、付加的なベネフィットは得られなかったという。

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ラッサ熱に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。ラッサ熱を疑ったら、次の対応は?前回は私のリハビリも兼ねてラッサ熱の疫学、臨床症状などについて、いつにも増してまったりとご紹介させていただきました。今回は国内における診断、治療、そして日本での報告、さらには現在のナイジェリアでのアウトブレイクについてご紹介いたします。まず、国内での診断についてです。前回も触れましたように、ラッサ熱は一類感染症に指定されていますので、ラッサ熱が疑われる事例では日本全国約50施設ある特定感染症指定医療機関または第一種感染症指定医療機関で診療することになっております。だいたい各都道府県に1施設はあります。東京なんか、わが国立国際医療研究センター以外にも、都立墨東病院、都立駒込病院、荏原病院、自衛隊病院と5つもの施設がひしめく激戦区です(まあ別に戦ってないんですが)。ではどのような場合に、こうした病院に搬送することになるのでしょうか。名著といわれている『輸入感染症A to Z』に記載のあるとおり、輸入感染症の診断の基本は「渡航地・潜伏期・曝露歴」の3つが重要です。渡航地:ラッサ熱の流行地域(リベリア、ギニア、シエラレオネ、ナイジェリア    など)に渡航後潜伏期:渡航後3週間以内に発症した曝露歴:マストミスとの接触歴のある症例このような症例を診た場合に、ただちに管轄の保健所に連絡して指示を仰いでください。このうち必ずしもすべてが該当しない場合も、疑わしければ保健所に相談するのが無難です。さて、これらの感染症指定医療機関で行われる診療についてです。診断は血清を用いたPCRまたは抗体検査です。検査自体は普通ですね。しかし、これらは当然ながら普通に院内の検査室ではできませんので、国立感染症研究所(村山庁舎)などで検査を行うことになります。ラッサ熱の治療薬リバビリン一般的にウイルス性出血熱の治療として有効な薬剤はほぼなく、対症療法を行うというのが原則なのですが、ラッサ熱に関してはリバビリン(商品名:レベトール、コペガス)の有効性が証明されています。リバビリンですよ、リバビリン。C型肝炎の治療薬で一世を風靡した(かどうかは知りませんが)あのリバビリンです。眉唾かと思われるかもしれませんが、実際にラッサ熱にリバビリンが有効であるとする報告は数十年前から存在します。抗RNA ウイルス薬の1つであるリバビリンは、in vitroでラッサウイルスの増殖を抑制し、発症早期に投与されれば治療効果が期待できるとされます。絶対に覚えなくてもいいと思いますが、一応書いておきますとリバビリンの静注投与は、初めに32mg/kg/doseで投与し、次いで16mg/kg/doseを6時間毎に4日間、さらに8mg/kg/doseを8時間毎に6日間投与します。ラッサ熱なんて診ることはないから、知らなくてもいいだろうと思われる読者諸氏も多いことと思います。実際そのとおりかもしれませんが、他のウイルス性出血熱に比べるとラッサ熱を診る可能性の方は少し高いかもしれません。ラッサ熱の輸入例(流行地域で感染し非流行地域で診断された事例)は約30例もあり、これはウイルス性出血熱の中では圧倒的に多い症例数です。大半がヨーロッパでの報告ですが、アメリカでも報告があります。そして…なんと日本でも報告例があるのですッ!! いや、マジで。冗談ではなく。国内例、あるんですよ、ラッサ熱。意外と知られていない事実ですが、過去に日本はウイルス性出血熱を実は経験しているのですッ!31年前に日本でラッサ熱!?そう、あれは1987年のこと…(といっても僕が小学生の頃ですのでまったく知りませんが)。シエラレオネに水道関係の仕事で訪れていた40代の男性が、帰国後に発熱、筋肉痛、頭痛などの症状で東京大学医科学研究所附属病院を受診しました。来院時の血液検査では、白血球・血小板の減少と肝機能異常がみられ、マラリアが疑われましたが末梢血ギムザ染色は陰性。しばらく様子が見られていましたが、激しい下痢などの症状を経て、入院1ヵ月後に自然軽快したとのことです。原因がわからずいろんな検査が行われた結果、最終的にラッサ熱の抗体が陽性となり本症と診断された、とのことです。この事例から約30年が経っていますが、ウイルス性出血熱はけっして対岸の火事ではないということがわかる教訓的な一例です、はい。詳しく知りたい方は、倉田 毅先生(元 国立感染症研究所所長)の興味深いお話が過去の『週刊 医学界新聞』に掲載されておりますのでご参照ください。 ナイジェリアの現在の様子最後にアウトブレイク情報ですが、前回も触れたように現在ナイジェリアでは、ラッサ熱が大流行しています。ちょっと最近なかったレベルの大流行です。2018年1月から現在までに1,000例を超える疑い例と、90例を超える死亡者が報告されています。図1がナイジェリア国内での流行状況ですが、とくにEdo州、 Ondo州、 Ebonyi州といった地域で症例が多く報告されています。画像を拡大するまた、図2はラッサ熱の流行曲線ですが、2018年2月下旬~3月上旬くらいが症例数のピークとなっています。一見すると流行は終息に向かっているようにも見えますが、まだまだダラダラ報告が続いており予断を許さない状況です。ナイジェリア帰国後の発熱では頭の片隅にラッサ熱を置いておきましょう!画像を拡大するというわけで、前回から2回にわたってラッサ熱についてご紹介いたしました。ウイルス性出血熱の中では、日本に入ってくる可能性が比較的高い感染症ですので、概要は知っておいてもよろしいかと思います。さて、次回こそはようやくホントに「バベシア症」についてご紹介したいと思いますッ!1)国際感染症センター 国際感染症対策室 Resource内「ウイルス性出血熱診療の手引き2017」2)Nigeria CDC. An update of Lassa fever outbreak in Nigeria.

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全身性エリテマトーデス〔SLE:Systemic Lupus Erythematosus〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は、自己免疫異常を基盤として発症し、多彩な自己抗体の産生により多臓器に障害を来す全身性炎症性疾患で、再燃と寛解を繰り返しながら病像が完成される。全身に多彩な病変を呈しうるが、個々人によって障害臓器やその程度が異なるため、それぞれに応じた管理と治療が必要となる。■ 疫学本疾患は指定難病に指定されており、令和元年(2019年)度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は6万1,835件であり、計算上の有病率は10万人中50人である。男女比は1対9で女性に多く、発症年齢は10~30代で大半を占める。■ 病因発症要因として、遺伝的背景要因に加えて、感染症や紫外線などの環境要因が引き金となり、発症することが考えられているが、不明点が多い。その病態は、抗dsDNA抗体を主体とする多彩な自己抗体の出現に加え、多岐にわたる免疫異常によって形成される。自然免疫と獲得免疫それぞれの段階で異常が指摘されており、樹状細胞・マクロファージを含めた貪食能を持つ抗原提示細胞、各種T細胞、B細胞、サイトカインなどの異常が病態に関与している。体内の細胞は常に破壊と産生を繰り返しているが、前述の引き金などを契機に体内の核酸物質が蓄積することで、異常な免疫反応が惹起され、自己抗体が産生され免疫複合体が形成される。そして、それらが各臓器に蓄積し、さらなる炎症・自己免疫を引き起こし、病態が形成されていく。■ 症状障害臓器に応じた症状が、同時もしくは経過中に異なる時期に出現しうる。初発症状として最も頻度が高いものは、発熱、関節症状、皮膚粘膜症状である。全身倦怠感やリンパ節腫脹を伴う。関節痛(関節炎)は通常骨破壊を伴わない。皮膚粘膜症状として、日光過敏症や露光部に一致した頬部紅斑のほかに、手指や四肢体幹部に多彩な皮疹を呈し、脱毛、口腔内潰瘍などを呈する。その他、レイノー現象、腎炎に関連した浮腫、肺病変や血管病変と関連した労作時呼吸困難、肺胞出血に伴う血痰、漿膜炎と関連した胸痛・腹痛、神経精神症状など、さまざまな症状を呈しうる。■ 分類SLEは障害臓器と重症度により治療内容が異なる。とくに重要臓器として、腎臓、中枢神経、肺を侵すものが挙げられ、生命および機能予後が著しく障害される可能性が高い障害である。ループス腎炎は組織学的に分類されており、International Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が用いられている。神経精神ループス(Neuropsychiatric SLE:NPSLE)では大きく中枢神経病変と末梢神経病変に分類され、それぞれの中でさらに詳細な臨床分類がなされる。■ 予後生命予後は、1950年代は5年生存率がおよそ50%であったが、2007年のわが国の報告では10年生存率がおよそ90%、20年生存率はおよそ75%である1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見として、抗核抗体、抗(ds)DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、β2GPⅠ依存性抗カルジオリピン抗体など)が陽性となる。また、血清補体低値、免疫複合体高値、白血球減少(リンパ球減少)、血小板減少、溶血性貧血、直接クームス陽性を呈する。ループス腎炎合併の場合はeGFR低下、蛋白尿、赤血球尿、白血球尿、細胞性円柱が出現しうる。SLEの診断では1997年の米国リウマチ学会分類基準2)および2012年のSystemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類基準3)を参考に、他疾患との鑑別を行い、総合的に判断する(表1、2)。2019年に欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会が合同で作成した新しい分類基準4)が提唱された。今後はわが国においても本基準の検証を元に診療に用いられることが考えられる。画像を拡大する表2 Systemic Lupus International Collaborating Clinics 2012分類基準画像を拡大するループス腎炎が疑われる場合は、積極的に腎生検を行い、ISN/RPS分類による病型分類を行う。50~60%のNPSLEはSLE診断時か1年以内に発症する。感染症、代謝性疾患、薬剤性を除外する必要がある。髄液細胞数、蛋白の増加、糖の低下、髄液IL-6濃度高値であることがある。MRI、脳血流シンチ、脳波で鑑別を進める。貧血の進行を伴う呼吸困難、両側肺びまん性浸潤影あるいは斑状陰影を認めた場合は肺胞出血を考慮する。全身症状、リンパ節腫脹、関節炎を呈する鑑別疾患は、パルボウイルス、EBV、HIVを含むウイルス感染症、結核、悪性リンパ腫、血管炎症候群、他の膠原病および類縁疾患が挙がるが、感染症を契機に発症や再燃をすることや、他の膠原病を合併することもしばしばある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SLEの基本的な治療薬はステロイド、免疫抑制薬、抗マラリア薬であるが、近年は生物学的製剤が承認され、複数の分子標的治療が世界的に試みられている。ステロイドおよび免疫抑制薬の選択と使用量については、障害臓器の種類と重症度(疾患活動性)、病型分類、合併症の有無によって異なる。治療の際には、(1)SLEのどの障害臓器を標的として治療をするのか、(2)何を治療指標として経過をみるのか、(3)出現しうる合併症は何かを明確にしながら進めていくことが重要である。SLEの治療選択については、『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』の記載にある通り、重要臓器障害があり、生命や機能的予後を脅かす場合は、ステロイド大量投与に加えて免疫抑制薬の併用が基本となる5)(図)。ステロイドは強力かつ有効な免疫抑制薬でありSLE治療の中心となっているが、免疫抑制薬と併用することで予後が改善される。ステロイドの使用量は治療標的臓器と重症度による。ステロイドパルス療法とは、メチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール)250~1,000mg/日を3日間点滴投与、大量ステロイドとはプレドニゾロン換算で30~100mg/日を点滴もしくは経口投与、中等量とは同じく7.5~30mg/日、少量とは7.5mg/日以下が目安となるが、体重により異なる6)(表3)。ステロイドの副作用はさまざまなものがあり、投与量と投与期間に依存して必発である。したがって、副作用予防と管理を適切に行う必要がある。また、大量のステロイドを長期に投与することは副作用の観点から行わず、再燃に注意しながら漸減する必要がある。画像を拡大する画像を拡大する寛解導入療法として用いられる免疫抑制薬は、シクロホスファミド(同:エンドキサン)とミコフェノール酸モフェチル(同:セルセプト)が主体となる(ループス腎炎の治療については別項参照)。治療抵抗性の場合、免疫抑制薬を変更するなど治療標的を変更しながら進めていく。病態や障害臓器の程度により、カルシニューリン阻害薬のシクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)、タクロリムス(同:プログラフ)やアザチオプリン(同:イムラン、アザニン)も用いられる。症例に応じてそれぞれの有効性と副作用の特徴を考慮しながら選択する(表4)。画像を拡大するリツキシマブは、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)および欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)/欧州腎臓学会-欧州透析移植学会(European Renal Association – European Dialysis and Transplant Association:ERA-EDTA)の推奨7,8)においては、既存の治療に抵抗性の場合に選択肢となりうるが、重症感染症や進行性多巣性白質脳症の注意は必要と考えられる。わが国ではネフローゼ症候群に対しては保険承認されているが、SLEそのものに対する保険適用はない。可溶型Bリンパ球刺激因子(B Lymphocyte Stimulator:BLyS)を中和する完全ヒト型モノクローナル抗体であるベリムマブ(同:ベンリスタ)は、既存治療で効果不十分のSLEに対する治療薬として、2017年にわが国で保険承認され、治療選択肢の1つとなっている9)。本稿執筆時点では、筋骨格系や皮膚病変にとくに有効であり、ステロイド減量効果、再燃抑制、障害蓄積の抑制に有効と考えられている。ループス腎炎に対しては一定の有効性を示す報告10)が出てきており、適切な症例選択が望まれる。NPSLEでの有効性はわかっていない。ヒドロキシクロロキン(同:プラケニル)は海外では古くから使用されていたが、わが国では2015年7月に適用承認された。全身症状、皮疹、関節炎などにとくに有効であり、SLEの予後改善、腎炎の再燃予防を示唆する報告がある。短期的には薬疹、長期的には網膜症などの副作用に注意を要し、治療開始前と開始後の定期的な眼科受診が必要である。アニフロルマブ(同:サフネロー)はSLE病態に関与しているI型インターフェロンα受容体のサブユニット1に対する抗体製剤であり、2021年9月にわが国でSLEの適応が承認された。臨床症状の改善、ステロイド減量効果が示された。一方で、アニフロルマブはウイルス感染制御に関与するインターフェロンシグナル伝達を阻害するため、感染症の発現リスクが増加する可能性が考えられている。執筆時点では全例市販後調査が行われており、日本リウマチ学会より適正使用の手引きが公開されている。実臨床での有効性と安全性が今後検証される。SLEの病態は複雑であり、臨床所見も多岐にわたるため、複数の診療科との連携を図りながら各々の臓器障害に対する治療および合併症に対して、妊娠や出産、授乳に対する配慮を含めて、個々に応じた管理が必要である。4 今後の展望本稿執筆時点では、世界でおよそ30種類もの新規治療薬の第II/III相臨床試験が進行中である。とくにB細胞、T細胞、共刺激経路、サイトカイン、細胞内シグナル伝達経路を標的とした分子標的治療薬が評価中である。また、異なる作用機序の薬剤を組み合わせる試みもなされている。SLEは集団としてヘテロであることから、適切な評価のためのアウトカムの設定方法や薬剤ごとのバイオマーカーの探索が同時に行われている。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、皮膚科、腎臓内科、その他、障害臓器や治療合併症に応じて多くの診療科との連携が必要となる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 全身性エリテマトーデス(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者とその家族の会)1)Funauchi M, et al. Rheumatol Int. 2007;27:243-249.2)Hochberg MC, et al. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.3)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686.4)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.5)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班),日本リウマチ学会(編):全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019.南山堂,2019.6)Buttgereit F, et al. Ann Rheum Dis. 2002;61:718-722.7)Hahn BH, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64:797-808.8)Bertsias GK, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1771-1782.9)Furie R, et al. Arthritis Rheum. 2011;63:3918-3930.10)Furie R, et al. N Engl J Med. 2020;383:1117-1128.公開履歴初回2018年04月10日更新2022年02月25日

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ラッサ熱に気を付けろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。いやー、しかしまったりとし過ぎましたね…。もう前回から4ヵ月も経っちゃってるし。隔週連載とか言ってたのに年3回ペースですね。でも、ほら、なんつーか、スランプなんですよ。もう納得できる原稿が書けないっつーか。イチローだってさすがに打率が1割切ったら引退するでしょ? もうオレもケアネット引退しようかなって思ってたんですよ。引退する前に解雇されそうなんですけどね。そもそも連載は新興再興感染症の連載なんですけどね、皆さん、ぶっちゃけ新興再興感染症に興味ありますか? ないでしょ。どうせビットコインとか加計学園とかのほうが興味あるでしょ。そんなこんなでスランプにあえいでいたらさ…嫁が励ましてくれるんですよ。いいから書けって。面白くなくてもいいから書けって。いい嫁でしょ? とにかく書きなさいって言うんですよ。んで金を稼げって。住宅ローン組んだばっかりだろうがって、言うわけですよ。途中から「あ、これ励ましじゃないな」って気付いたんですけどね。まぁとにかく原稿を書いてローンを返済しろ、と。世知辛いですな。私が「スランプで原稿書けないんで、その代わり当直バイトするんで勘弁してください」って言ったら、「じゃあ当直中に原稿書け」って。天才かよって思いましたね。その手があったか!って、一挙両得じゃんって。そういうわけで、今まさに言われるまま、当直中に原稿を書いている私であります。エボラ出血熱とシンクロする流行地域そんなことで、今日は「ラッサ熱」の話でいいですか。前回、次はバベシアって言ったんですが、どうせ誰もバベシアとか興味ないし。だって今、ラッサ熱がナイジェリアでアウトブレイクしてるんですよ。2013~14年のエボラのような危機が訪れるのか、今まさにその瀬戸際にいるのですッ! そんな感じでムリヤリ自分のテンションを高めながらラッサ熱を紹介していきますッ!と思ったら、看護師さんに呼ばれたんでちょっといってきます。そのまま待っててください。…すいません、おまたせしました。すっかりテンション下がっちゃいましたね。まぁいいか。ラッサ熱について紹介していきますね。ラッサ熱って病気を聞かれたことはありますでしょうか。ラッサ熱はアレナウイルス科ラッサウイルスによる感染症で、エボラ出血熱などと同じ、いわゆるウイルス性出血熱の1つです。日本では一類感染症に指定されています。つまり、ラッサ熱が疑われる患者がいた場合、ただちに保健所に連絡して、日本に約50施設ある特定または第一種感染症指定医療機関に搬送する必要があります。皆さま自身の身を守るためには、不要な曝露は避け、保健所の指示を仰いでください。自然宿主はマストミス(Mastomys natalensis)という野ネズミです。マストミスのフリー素材がありませんでしたので、代わりに図1に「かわいいフリー素材集 いらすとや」の野ネズミのイラストを貼っておきますね(いらねーっつーの)。「マストミス」でググってみると写真がいっぱい出てきますので、参考にしてください。図1 野ネズミ(マストミスもだいたいこんな感じ)画像を拡大するヒトはこのラッサウイルスに感染したマストミスに咬まれたり、尿や便などに接触したり、エアロゾル化した排泄物を吸引したり、あるいは食べたりすることによってラッサ熱に感染します。ラッサ熱の発生地域は、このマストミス分布と一致しているといわれています。また、ラッサ熱はウイルス性出血熱ですので、エボラ出血熱と同様にヒト-ヒト感染が起こりえます。ラッサ熱患者の血液、吐しゃ物、便などに曝露することによって感染することがあります。したがって、われわれ医療従事者は、とくにハイリスクということになります。診療に当たっては適切な標準防護具を装着するようにしなければなりませんし、日本では特定または第一種感染症指定医療機関で診療することとなっております。図2はラッサ熱の流行地域ですが、いわゆる西アフリカと呼ばれる地域の中でも、とくに赤道に近い国々ということになります。注意すべきポイントとしては、2013~14年にエボラ出血熱が流行したギニア、リベリア、シエラレオネもこのラッサ熱の流行地域になっていることです。すなわちッ! これらの国から帰国後にウイルス性出血熱が疑われる場合には、ラッサ熱だけでなくエボラ出血熱も考慮すべしッ! ということです。実際にはマラリアが多い地域ですので、まずはマラリアの除外が重要です。図2 ラッサ熱の流行地域画像を拡大する青色:ラッサ熱の症例やアウトブレイクが報告されている地域緑色:ラッサ熱の症例報告や抗体陽性者が見つかっている地域灰色:ラッサ熱の流行状況が不明な地域(文献2より引用)8割の患者は自然軽快するけれど…さて、臨床症状についてですが、ラッサ熱というと超ヤバい感染症のように思われますが、まぁ実際超ヤバい感染症なんですけど、エボラ出血熱と比較するともう少しマイルドな感染症だと考えられています。潜伏期は1~3週くらいで発症しますが、およそ8割の感染者は微熱、頭痛、倦怠感くらいで自然に軽快すると考えられています。そして、残りの2割は下痢・嘔吐・腹痛などの消化器症状、咽頭痛や咳嗽などの呼吸器症状、鼻出血や吐血・下血などの出血症状を呈します。重症例では多臓器不全で死に至ります。ラッサ熱患者全体の死亡率は1%程度ですが、入院するような重症例では死亡率は15~30%にもなります。エボラ出血熱は発症者がほぼ全員重症化し、30~40%が死亡していますので対照的ですね。血液検査上は他のウイルス性出血熱と同様に、白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇、凝固系異常、腎機能障害などがみられます。お~っと、危ない! もうそろそろドクターストップがかかりそうなんで、次回でいいですか。原稿は3,000字を超えるな、超える場合はコピペを多用しろって主治医に言われてますから。まぁ、主治医って私自身なんですけどね。まだスランプ中ですから、ゆっくりいきましょうよ。おかげさまでリハビリができましたので、次はさすがに4ヵ月は空けないと思います。次回は、日本国内での診断、治療として唯一報告されたウイルス性出血熱であるラッサ熱の輸入例について、また、ナイジェリアでの流行状況についてもご紹介したいと思います!1)Fisher-Hoch SP, et al. BMJ. 1995;311:857-859.2)Centers for Disease Control and Prevention . Lassa Fever Outbreak Distribution Map.

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循環器内科 米国臨床留学記 第19回

第19回 点滴に1日数百万円!? 拝金主義にまつわるアメリカのダークサイド先日、1本の電話が薬剤部からかかってきました。「この薬は一晩で数百万以上かかるのですぐにやめてほしい」。日本でもよく使用している薬だったので、まさに寝耳に水でした。その薬とは、イソプロテレノールという点滴です。日本ではプロタノールとして販売されています。事の成り行きはこうです。心拍数30前後の洞不全症候群の患者が入院してきました。心拍数が継続的に30以下になり、めまいを訴えたため、日本でもよく使用していたイソプロテレノールの点滴静脈注射を開始しました。患者の心拍は上昇し、朝まで問題なく経過したのですが、翌日の昼になり薬剤部から上記の苦情が入り、ドパミンに切り替えました。なぜ、そんな値段になるのか半信半疑で計算してみました。イソプロテレノールを、体重50Kgの患者に対し0.2μg/kg/min(最大投与速度)で1日使用したとすると、1時間当たり0.6mg必要となり、0.2mg入りのバイアルが3A必要となります。日本では、1バイアル226円ですから、時間当たり678円となります。これを一晩12時間使用しても8,136円です。ところがアメリカでは、0.2mg/mLの1mLの価格が1,766ドル(20万円!!)で、日本の約1,000倍近い値段です(「UpToDate」記載の価格による)。したがって、12時間使用すると確かに6万3,576ドル (724万円)となります。薬剤部と製薬会社との交渉で多少ディスカウントがあるようですが、それでも数百万はかかります。数年前までは1A当たり 44.5ドルで、現在の日本の価格の4倍程度でした。ところが、Marathon Pharmaceuticals社が権利を買収し、218.3ドルまで値段を釣り上げます。さらに、この会社はValeant Pharmaceuticals社に買収されます。この会社はなんと1A当たりの値段を1,200ドルまで値上げします。つまり、たった数年の間に30倍にまで値段が上昇したわけです。実は、このことは米国不整脈学会(HRS)でも問題視されています。HRSはロビー活動を行い、製薬会社に対し、必要な薬を常識的な価格で供給するよう働きかけています。ご存じかも知れませんが、このようなことは、他の薬でも起きています。少し前の話になりますが、コルヒチンもその一つです。古代ギリシャ時代から3,000年以上も使用されているコルヒチンですが、1ドル10セント程度だったのが、突然5ドルに値段が引き上げられました(詳細は、Aaron Kesselheim医師によるNew England Journal of Medicineの論文をご参照ください)。日本でもニュースになっていましたが、マラリアやトキソプラズマ症などの寄生虫感染症治療薬であるダラプリム(商品名:ピリメタミン)もその一つです。Turing Pharmaceuticalsという2015年に新しく作られた製薬会社は、ダラプリムの権利を買い占めます。その後、1錠当たり13.5ドルだったダラプリムは、一晩で750ドル、50倍以上に釣り上げられました。Martin ShkreliというCEOは批判を浴びますが、「Aston Martinを自転車の値段で売っている会社があれば、その会社を買収し、Toyotaの値段をつける。これが罪になるとは思えない」と主張しています。彼は投資家であり、最初からこのスキームで売り上げを上げるために会社を買収しているわけですから、悪いとも思っていないでしょう。消費者から反感を買ったMartin Shkreliは、結局、証券取引にまつわる詐欺容疑で逮捕され、CEOを辞めることになりました。Turing社も一度は値下げをすると発表しましたが、いまだに1錠750ドルのままです。日本と違い、米国では製薬会社が薬剤の値段を自由に決められます。複数の製薬会社が同じ薬剤を製造しているのなら、競争原理が働くため問題はありませんが、これらの会社はそういった複数の会社を買収することで、その薬の販売権利を独占します。そのようなCEOや会社は、いかにお金を稼ぐかしか考えていませんから、患者や国にどのような負担が増えるかは気にしていません。悲しいことですが、これが米国の拝金主義の現実です。医師としては、使用する前に薬の値段をチェックすればよかったと反省しています。拝金主義者の常識はずれな値段決定と比べると、厚生労働省が価格を決定する日本のような価格統制のほうが好ましいように感じます。【訂正のお知らせ】本文内に誤りがあったため、一部訂正いたしました(2017年5月23日)。

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ノバルティスが新たな抗マラリア薬を発売

 ノバルティス ファーマ株式会社(代表取締役社長:ダーク・コッシャ)は2017年3月7日、マラリア治療薬としてアルテメテル/ルメファントリン(商品名:リアメット配合錠)を発売した。 アルテメテル/ルメファントリンは、ヨモギ属植物(artemisia annua)の抽出化合であるアルテミシニン誘導体と作用機序の異なる薬剤を組み合わせた併用療法(artemisinin-based combination therapy、以下、ACT)の配合剤。WHOのマラリア治療ガイドラインでは、マラリアの治療薬としてACTが推奨されており、とくに重症化しやすい「合併症のない急性熱帯熱マラリア」の治療には第1選択薬に位置付けられている。 アルテメテル/ルメファントリンは代表的なACT薬剤として、米国や英国を含む60以上の国または地域で承認されている。これまで日本においては、熱帯病治療薬研究班が輸入し、本研究班に所属する医療機関で使用されてきた。このような状況において、熱帯病治療薬研究班より「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬」として開発要望があっため、厚生労働省から開発要請を受け、2016年12月19日付でマラリアの治療薬として製造販売承認を取得した。マラリアについて 感染の予防や制御などの対策が進み、感染者数および死亡者数は減少しているものの、マラリアは現在でも世界最大の感染症の1つである。アフリカ、アジア、オセアニア、および中南米など、熱帯、亜熱帯地域を中心に約100の国または地域で流行し、年間2億人以上が新たに感染し、43万8,000人が死亡している。現在、日本で報告されるマラリア患者は、すべて外国に渡航した際の感染者。最近の国内の年間患者数は50~70人で推移している。ノバルティス ファーマ株式会社のプレスリリースはこちら

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世界の平均寿命、35年で約10年延長:GBD2015/Lancet

 1980年から35年間に、世界の年齢別死亡率は着実に改善し、この進展パターンは過去10年間持続しており、多くの国では当初の予測よりも迅速であったが、期待余命が短縮し、いくつかの死因の年齢標準化死亡率が上昇した国もあることが、米国・ワシントン大学のChristopher J L Murray氏らが実施したGlobal Burden of Disease Study 2015(GBD 2015)で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌2016年10月8日号に掲載された。生存期間を改善し、寿命を延長するには、その時々の地域の死亡率や傾向に関する頑健なエビデンスが求められる。GBD 2015は、195の国と領地における1980~2015年の全死因死亡および249項目の原因別死亡を包括的に評価する世界的な調査である。新たな解析法による検討、GATHERに準拠 研究グループは、GBD 2013およびGBD 2010のために開発された解析法の改良版を用いて、年齢、性、地理、年代別の全死因死亡率を推算した(ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成による)。 GBD 2015では、エボラウイルス病を含む8つの死因が新たに加えられた。ほとんどの死因の予測値を生成するCause of Death Ensemble Model(CODEm)のほか、6つのモデリング法を用いて、原因別死亡率の評価を行った。 「保健推計報告の正確性、透明性のためのガイドライン(Guidelines for Accurate and Transparent Health Estimates Reporting; GATHER)」に準拠し、データ源とともに、解析過程の各段階を記述した。出生時期待余命が61.7歳から71.8歳へ、死亡数が増加し年齢標準化死亡率は低下 世界的な出生時の期待余命(寿命)は、1980年の61.7歳から、2015年には71.8歳に延長した。サハラ以南のアフリカ諸国では、2005年から2015年に期待余命が大幅に延長した国があり、HIV/AIDSによる大規模な生命の喪失の時代からの回復が認められた。 同時に、とくに戦争や対人暴力により死亡率が上昇した国など、期待余命が停滞または短縮した地域も多かった。シリアでは、2005年から2015年に期待余命が11.3年短縮し、62.6歳にまで低下した。 2005年から2015年に、全死亡数は4%増加したが、年齢標準化死亡率は17.0%低下しており、この間の人口増加と年齢構成の転換が示された。この結果は、全死亡数が14.1%増加したのに対し年齢標準化死亡率が13.1%低下した非感染性疾患(NCD)と類似していた。このパターンは、いくつかのがん種、虚血性心疾患、肝硬変、アルツハイマー病、その他の認知症にみられた。 これに対し、感染性疾患、妊産婦、新生児、栄養障害による全死亡数および年齢標準化死亡率は、いずれも2005年から2015年に有意に低下しており、その主な要因はHIV/AIDS(年齢標準化死亡率の低下率:42.1%)、マラリア(同:43.1%)、早産による新生児合併症(同:29.8%)、妊産婦の疾患(同:29.1%)による死亡率の低下であった。また、外傷による年齢標準化死亡率は、この間に有意に低下したが、例外として、とくに中東地域では対人暴力や戦争による外傷で多くの人命が失われた。 2015年における5歳以下の下痢による死亡の主な原因はロタウイルス性腸炎であり、下気道感染症による死亡の主原因は肺炎球菌性肺炎であったが、病原体別死亡率は地域によってばらつきがみられた。 全体として、人口増加、高齢化、年齢標準化死亡率の変化の影響は、死因ごとに実質的に異なっていた。SDIによるYLLの予測値と実測値 原因別死亡率と社会人口学的指標(SDI:学歴、出生率、1人当たりの所得に基づくサマリー指標)の関連の解析では、SDIの上昇にともなって、死因や年齢の構成が規則的に変化することが示された。 若年死亡率(損失生存年数[YLL]の指標)の国別のパターンには、SDIのみに基づくYLLの予測値との間にずれがあり、国や地域によって高度に不均一なパターンが明確に認められた。ほとんどの地域では、YLL増加の主要な原因は虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病であったが、多くの場合、地域内のSDIに基づくYLLの実測値と予測値の比には、顕著な不一致が認められた。 サハラ以南のアフリカのすべての国では、感染性疾患、妊産婦、新生児、栄養障害がほとんどのYLLの原因であり、依然としてマラリアやHIV/AIDSが早期死亡の主要原因の国では、YLLの実測値が予測値をはるかに超えていた。 著者は、「年齢標準化死亡率は改善したが、人口増加や高齢化が進んだため、多くの国でNCDによる死亡数が増加しており、これが保健システムへの需要の増加を招いている」とまとめ、「これらの知見は、SDIに基づく死亡のパターンを、より深く研究するための参考になるだろう」としている。

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亜急性硬化性全脳炎〔SSPE : subacute sclerosing panencephalitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis: SSPE)は、1934年Dawsonにより急速進行する脳炎として初めて報告された。この疾患は、麻疹に感染してから数年の潜伏期間を経て発症する。発病後は数ヵ月から数年の経過(亜急性)で神経症状が進行し、病巣の性状はグリオーシス(硬化)であり、全脳を侵すことにより、亜急性硬化性全脳炎と呼ばれる。このように潜伏期間が長く、緩徐に進行するウイルス感染を遅発性ウイルス感染と呼び、ほかにはJCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)が知られている。根本的治療法は確立されておらず、現在でも予後不良の疾患である。■ 疫学わが国での発症者は、麻疹ワクチンが普及する以前は年間10~15人程度であったが、麻疹ワクチン普及後は減少し、現在は年間5~10人程度となっている。男女比は2 : 1でやや男性に多く、潜伏期間、症状の発症とも女性と比較すると長く、遅くなっている。SSPEの発症年齢は平均12歳で、20代をピークに10~30歳代で96%を占める。麻疹ワクチンによるSSPEの発症は認められておらず、SSPE発症には直接的な麻疹ウイルス(MV)感染が必要であるため、発症予防には麻疹への感染予防が重要であるが、わが国では他の先進国に比べて麻疹ワクチンの接種率が低く、接種率向上が必要である。■ 病因SSPEの発症のメカニズムは現在まで十分には判明していないが、発症に関与する要因として、ウイルス側のものと宿主側のものが考えられている。1)ウイルス側の要因MVの変異株(SSPEウイルスと呼ぶ)が、中枢神経に持続感染することで起こる。SSPEウイルスは野生のMVと比較すると、M遺伝子やF遺伝子の変異が生じている。M遺伝子は、ウイルス粒子形成とカプシドからの粒子の遊離に重要なMタンパク質をコードし、Mタンパク質機能不全のため、SSPEウイルスは、感染性ウイルス粒子を産生できない。そのため隣接する細胞同士を融合させながら、感染を拡大していく。F遺伝子は、エンベロープ融合に関与するFタンパク質をコードし、一般にはSSPEウイルスはFタンパク質の膜融合が亢進しており、神経親和性が高くなっている。2)宿主側の要因幼少期にMV初感染を受けると免疫系や中枢神経系が十分に発達していないため、MVの脳内での持続感染が起こりやすく、SSPE発症リスクが上がる。ほかにSSPE発症に関わる遺伝的要因として、これまでにIL-4遺伝子多型とMxA遺伝子多型が報告されている。IL-4は、ヘルパーT細胞のTh1/Th2バランスをTh2(抗体産生)側に傾けるサイトカインで、SSPE患者ではIL-4産生が多いタイプの遺伝子多型を持つことが多いために、IL-4産生が亢進してTh2側に傾き、細胞傷害性T細胞の活性が抑えられて、MVの持続感染が起こりやすくなっていると考えられている。また、SSPE患者はインターフェロンによって誘導され、細胞内でのウイルス増殖を抑える機能を持つ、MxAの産生が多くなる遺伝子多型を持つことも知られている。MxA産生が多いと、中枢神経系のMV増殖が抑制され、MVに感染した神経細胞が免疫系から認識されにくくなり、中枢神経系での持続感染が起こりやすくなると考えられている。■ 症状と特徴初発症状として、学校の成績低下、記憶力低下、行動の異常、性格の変化があり、その後、歩行障害、ミオクローヌス、痙攣、自律神経症状、筋固縮を来し、最終的には無言・無動となり、死に至ることが多い。これらの症状の分類には、Jabbourが提唱した臨床病期分類が一般的に用いられる。■ Jabbourの分類第1期精神神経症状性格変化(無関心、反抗的)、学力低下、行動異常など第2期痙攣および運動徴候痙攣のタイプは全身強直発作、失神発作、複雑部分発作など運動徴候として運動機能低下、不随意運動(SSPEに特徴的な四肢の屈曲や進展を反復するミオクローヌス)第3期昏睡に至る意識障害の進行、筋緊張の亢進、球症状の出現による経口摂取困難、自律神経症状など第4期無言無動、ミオクローヌス消失全経過は通常数年だが、数ヵ月以内に死に至る急性型(約10%)、数年以上の経過を示す慢性型(約10%)がある。■ 予後SSPE症例は、無治療の場合は約80%が亜急性の経過をたどり、約1~3年の経過で第1期から第4期の順に進行し死亡する。約10%は発症後急速に進行し、3ヵ月以内に死亡する。また、残り約10%の進行は緩徐で、約4年以上生存する。無治療で寛解する症例や、寛解と増悪を繰り返す症例も報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は、臨床症状を軸に血液、髄液、脳波、画像検査を統合して行う。■ 特徴的な検査所見1)麻疹抗体価血清および髄液の麻疹抗体価が上昇する。髄液麻疹抗体価の上昇はSSPEに特異的であり、検出されれば診断的意義が高い。SSPE患者の抗体価は異常高値が特徴とされたが、最近では、軽度上昇にとどまる症例も多く、注意が必要である。また、抗体価の推移と臨床経過は必ずしも一致しない。2)髄液検査多くの場合は細胞数・糖・蛋白とも正常だが、細胞数・蛋白が軽度上昇することもある。また、髄液IgGおよびIgG indexの上昇も認める。3)脳波検査Jabbour2期から3期にかけて、左右同期性または非同期性で3~20秒間隔で出現する周期性同期性高振幅徐波をほとんどの症例で認めるが、Jabbour4期になると消失する(図)。画像を拡大する4)画像検査MRIは、疾患の推移を評価するのに有用である。画像変化は臨床病期とは一致せず、主に罹患期間に依存する。病初期のMRI所見では、正常または後頭葉の皮質・皮質下に非対称なT2強調画像での高信号の病変を認める。病期の進行とともに脳萎縮が進行し、側脳室周囲に対称性の白質病変が出現・拡大する。5)病理病理所見の特徴は、灰白質と白質の両方が障害される全脳炎であることと、線維性グリオーシスにより硬化性変化を示すことである。組織学的には、軟膜と血管周囲の炎症細胞浸潤、グリア細胞の増生、ニューロンの脱落および神経原線維変化の形成、脱髄などの所見がみられる。炎症所見は、発症からの経過が長いほど乏しくなる。麻疹ウイルス感染に関連した所見として、核内および細胞質の封入体を認める。■ 鑑別診断SSPEは急速に進行する認知症、ミオクローヌス、痙攣などを来す疾患の一部であり、ADEM(acute disseminated encephalomyelitis)、亜急性および慢性脳炎、脳腫瘍、多発性硬化症、代謝性白質脳症、進行性ミオクローヌスてんかんなどが鑑別に挙がる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ イノシンプラノベクスイノシンプラノベクス(商品名: イソプリノシン)は、抗ウイルス作用と免疫賦活作用を併せ持つ薬剤で、保険適用薬として認可されている。通常50~100mg/kg/日を3~4回に分割し、経口的に投与する。これにより生存期間の延長が得られるとされている。副作用として、血中および尿中の尿酸値の上昇(18.8%)があり、注意を要する。■ インターフェロン(IFN)インターフェロンは、ウイルス増殖阻害作用を持つ薬剤であり、IFNα、IFNγともに保険適用薬として認可されている。イノシンプラノベクスとの併用により有効であったとの報告例を多数認める。通常100~300万単位を週1~3回、脳室内に直接投与する。副作用として一過性の発熱をほぼ全例で認める。頻度は低いが、アレルギー反応を来す症例も認める。イノシンプラノベクス経口投与とIFN髄腔内または脳室内投与を併用するのが一般的で、有効性は言われているものの進行を阻止した例はまれであり、治療効果として不十分と考えられている。■ リバビリン近年、研究的治療(保険適用外)として、リバビリンの髄腔内または脳室内投与療法が試みられている。リバビリンは、広い抗ウイルススペクトラムを有する薬剤であり、麻疹(SSPE)ウイルスに対しても優れた抗ウイルス効果を示す。直接脳室内に投与することで、髄液中のリバビリン濃度はウイルス増殖を完全に抑制する濃度に維持され、重篤な副作用を認めず、少数例ではあるが臨床的有効性が報告されている。しかし、病初期(Jabbour2期)に投与した症例においては、臨床症状に明らかな改善を認めたとする報告が多く、病期の進行した症例(Jabbour3期)では改善効果に乏しかったとする報告が多い。以上のことから、リバビリン療法は、リバビリンがウイルスの増殖を抑制して病期の進行を抑制する治療法であり、進行した神経障害を改善させるものではないと考えられている。■ 対症療法上記の治療のほかには対症療法として、ミオクローヌスのコントロールや呼吸管理、血圧コントロールなどの対症療法を行っていく必要がある。4 今後の展望SSPEの重症度の評価として、新たにトリプトファン代謝の主要経路であるキヌレニン経路の代謝産物の髄液中濃度について検討されている。SSPE群では対象例と比較し、髄液中のキノリン酸濃度が有意に高値であり、病期の進行とともに増加が認められている。代謝産物であるキノリン酸の増加はキヌレニン経路の活性化が示唆され、その活性化はSSPEにおける変異型麻疹ウイルスの持続感染に関与している可能性がある。さらにキノリン酸は NMDA型グルタミン酸受容体アゴニストとして興奮性神経毒性を持つため、SSPEにおける神経症状との関係が示唆されている。また、前述したが、研究的治療としてリバビリン髄腔内または脳室内投与が有望である可能性が考えられている。具体的な投与方法として、リバビリン1mg/kg/回、1日2回、5日間投与から開始し、1回量、投与回数を調整し、髄液リバビリン濃度を目標濃度(50~200μg/mL)にする。投与量が決定したら、5日間投与・9日間休薬を12クール(6ヵ月)継続するものとなっている。効果としては、国内で詳細に調査された9例において、治療前後の臨床スコアの平均は前が52.9、後が51.0であり、治療前後で有意差は認めなかった。しかし、イノシンプラノベクスとIFNの併用療法を施行された48症例では治療前後の臨床スコアは前が54.3、後が61.1と悪化を認めており、リバビリン脳室内投与群のほうが優る結果となっている。しかしSSPEは、症例により異なる経過をたどり、その経過も長いため、多数例の調査を行ったうえでの慎重な判断が必要である。5 主たる診療科神経内科および小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 亜急性硬化性全脳炎(一般利用者向けと医療従事者むけのまとまった情報)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班(医療従事者向けの情報)患者会情報SSPE青空の会(SSPE患者とその家族の会)1)厚生労働省難治性疾患克服研究事業 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班. 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)診療ガイドライン(案)2)平成27年度(2015年度)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班 総括研究報告書3)Gutierrez J, et al. Dev Med Child Neurol.2010;52:901-907.公開履歴初回2014年05月19日更新2016年09月20日

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疑わしきは、まず渡航歴の聴取

 7月14日、国立国際医療研究センター病院/国際感染症センターは、蚊媒介感染症の1つである「黄熱」についてのメディアセミナーを同院で開催した、セミナーでは、流行状況、予防、診療の観点から解説が行われた。ゼロではない、黄熱持ち込みの可能性 はじめに、石金 正裕氏(同院国際感染症センター)が、「現在の流行状況:リスク評価」をテーマに説明を行った。 黄熱は、フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスを原因とし、ネッタイシマカによって媒介・伝播される感染症である。そのため体液などを介したヒトヒト直接感染はないとされる。 主にアフリカ、南アメリカ地域で流行し、世界保健機関(WHO)の推計では、全世界の年間患者数は8万4,000人~17万人(うち死亡者は最大6万人)と推定されている。 感染後の潜伏期は3~6日、多くの場合は無症状であるが、頭痛、発熱、筋肉痛、嘔吐などの症状を呈し、重症化すると複数臓器からの出血、黄疸などを来すという(重症化した場合の致命率は20~50%)。多くの場合、症状発現後3~4日程度で回復するが、一部は重症化する。診断は、ウイルスの遺伝子または抗体のPCR法での検査による。現在、有効な治療薬はなく、輸液や頭痛、発熱などの対症療法が行われるが、黄熱ワクチンによる予防はできる。 アフリカ南西部のアンゴラでは、30年ぶりの黄熱のアウトブレイクが報告され、周辺地域への感染拡大が懸念されるとともに、流行地域である中南米のリオデジャネイロ(ブラジル)でのオリンピック開催に伴う、感染拡大も懸念されている。 媒介する蚊の性質の違いや他国の輸入例での感染不拡大をみると、輸入例を端緒として国内感染が起こる可能性は低いとしながらも、「わが国に持ち込まれる可能性はゼロではないため、引き続き流行地域渡航時のワクチン接種と防蚊対策は重要であり、医療者は患者さんへの渡航歴の聴取など漏らさず行ってほしい」と注意を促した。 なお、わが国では、第2次世界大戦以降、輸入例も含め報告例は1例もなく、現在4類感染症に指定されている。健康な旅行はワクチン接種から 次に竹下 望氏(同院国際感染症センター)が、「日本に黄熱を持ち込ませないために」と題して、黄熱ワクチンと防蚊対策に重点をおいて解説を行った。 黄熱の予防ワクチンは、1回接種で、0.5mLを皮下注射で接種し、生涯免疫が獲得できるとされている。国際保健規則(IHR)では、生後9ヵ月以上の渡航者が黄熱流行地域に渡航する際、その国や地域ごとに予防接種の推奨または義務付けがされている(接種後28日間は他のワクチン接種ができなくなるので注意)。 ワクチンの接種では、生後9ヵ月未満の子供、アレルギーを既往に持つ人(とくに卵)、免疫低下と診断され持病のある人、免疫抑制の治療中の人、胸腺不全/胸腺切除術を受けた人は、禁忌とされている(渡航時は禁忌証明書の発行が必要)。また、妊婦、授乳婦、免疫低下の疾患(たとえばHIVなど)を持病に持つ人、60歳以上の高齢者は、慎重な判断が必要とされている。 予想される副反応は、軽微なもので発熱、倦怠、接種部位の発赤、痒みなどがあり、約5~10日ほど続く。重度な副反応としては、重いアレルギー反応(5万人に約1人)、神経障害(12万人に約1人)、内臓障害(25万人に1人)が確認されている。ワクチンの接種は、全国20ヵ所の検疫所関連機関、2ヵ所の日本検疫衛生協会診療所、国立国際医療センター、東京医科大学病院などで受けることができる。 リオデジャネイロへの渡航については、沿岸部に1週間程度の滞在ならワクチンの接種は必要ないものの、アマゾン川上流域やイグアスなどに行く場合は接種を考慮したほうがよい。滞在中は防蚊対策(露出の少ない服装、虫よけ薬の塗布など)をしっかり行うこと、A型肝炎、破傷風などにも注意することが必要だという。 最後に「健康な旅行のための10か条」として、予防接種のほかに、渡航前に旅行医学の専門医に相談する、常備薬や服用薬の準備、旅行者保険への加入、現地での事故に注意する、性交渉ではコンドームを装着、安全な水・食糧の確認、日光曝露への対応、不必要に動物に近づかないなどの注意を喚起した。「旅行先で感染し、国内に持ち込ませないためにも、適切な時期にワクチンなどを接種することで予防計画を立てて旅をしてほしい」とレクチャーを終えた。黄熱との鑑別はどうするか 最後に大曲 貴夫氏(同院国際感染症センター長)が、「黄熱をうたがった場合の対応」として医師などが診断で気を付けるべきポイントを解説した。 黄熱の臨床所見は、先述のもの以外に仙腰痛、下肢関節痛、食欲不振など非特異的な症状がみられ、とくに病初期にはマラリアと酷似しており鑑別は難しいという。また、マラリアだけでなく、デング熱、チクングニア熱、ワイル病、回帰熱、ウイルス性肝炎、リフトバレー熱、Q熱、腸チフスなどの疾患とも症状が似ている。何よりも、外来ではまず「渡航歴」を聴くことが重要で、これで診断疾患を絞ることもできるので、疑わしい場合は問診で患者さんに確認することが大切だという。また、診断に迷ったら、専門医に相談することも重要で、日本感染症学会サイトの専門医を活用することもできる。 最後に、「患者が入院したときの対応として、『患者さんの体液、とくに血液に直接触れない』、『針刺し事故を起こさない』を順守し、感染防止を徹底してほしい」とレクチャーを終えた1)。厚生労働省検疫所-FORTH 黄熱について

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脱ワクチン後進国を目指して

 「ワクチンの日(7月6日)」を記念し、在日米国商工会議所(ACCJ)は、7月11日に「日本の予防接種率向上に向けた課題と取組み」をテーマに、都内で講演会を開催した。講演会では、ワクチン接種に関するわが国の課題や、世界的なワクチン開発の動向などが広く語られた。なぜ、ワクチンのベネフィットは報道されない!? はじめに、森内 浩幸氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 新興感染症病態制御学系専攻 感染分子病態学講座 感染病態制御学分野 教授)が、わが国のワクチン接種の現状と、とくにHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンをめぐる諸課題について解説した。 日本では、1990年代頃よりワクチンの副反応への懸念などから接種率が向上せず、ワクチン後進国として位置してきた。しかし、2008年から小児領域でHib(インフルエンザ)ワクチンが任意接種となり、以降、米国とのギャップを埋めるべくHPV1ワクチン、PCV7(肺炎球菌)ワクチンなど接種できる種類が増やされ、定期・任意接種と幅広く接種できるようになった。しかし、ここに来て、HPVワクチンについて副反応、副作用が広く報道され、その接種が定期接種から任意接種となったことを受けて、現在では接種がほとんど行われていない状況だという。 ワクチンのリスクについて米国では、子供に重症アレルギー反応を起こす確率は100万分の1とされている。これは落雷に遭う(1万2,000分の1)、億万長者になる(76万6,000分の1)確率よりも低いとされているが、マスコミは、このまれなケースを取り上げて報道していることが多いと指摘する。また、HPVワクチンに関しては、世界保健機関(WHO)からの勧告や関連学会からの声明、全国の地域での独自調査報告など、さまざまな科学的な検証が行われ、ワクチンの有用性が示されているにもかかわらず、依然としてベネフィットに関する報道は少ないという。 今後も検証が必要だが、HPVワクチンの不定愁訴では、接種と因果関係のないものが散見され、明確に接種を中止すべきエビデンスがない以上、接種しないことで起こる将来の子宮頸がん(毎年約3,000人の患者が死亡)や性感染症でQOLを損なう患者が増えることに憂慮すべきという。 最後に、森内氏は「WHOなどの基準からすれば、わが国は今でもワクチン後進国であり、定期接種に向けてさらに働きかけを行う必要がある。また、疾病予防が評価対象とされていないことも問題ではないか」と課題を提起し、講演を終えた。医療費を抑えるならワクチンは武器になる 続いて、マイケル・マレット氏(サノフィ株式会社サノフィパスツールワクチンビジネスユニット執行役員/ジェネラルマネジャー)が、ワクチンメーカーの視点から開発の現状と今後の展開について講演を行った。 ジェンナーの天然痘ワクチンから始まる開発の歴史を振り返り、ワクチンの効果について、ポリオを根絶しつつあることを一例に挙げて説明した。 次に、ワクチン接種の経済的ベネフィットとして、コスト効果が高いことを挙げた。ワクチン接種により、重症化による医療費増大、疾病による経済損失リスクなどを避けることができるという。また、日本のような超高齢社会では、医療コストが増大する中、予防接種により少しでもその上昇を抑えることが重要であると指摘した。さらに、日本では小児・成人ワクチン接種が増加しているが、まだ未導入のワクチンもあり、早急な導入を望むとも述べた。 世界的なワクチン開発の現状をみると、前臨床試験でジカウイルス感染症が、I/II相試験でノロウイルス、C型肝炎、III相試験でマラリア、エボラ出血熱、承認段階ではデング熱などの開発が進められている。そのうえで、大切なことは、完成したワクチンが確実に患者さんの元に届くことであり、新しいワクチンの供給には約3年が必要となることから、ワクチンがスムーズに安定供給されるために、今後も政府・産業・医療のパートナーシップが不可欠となる、と見解を述べた。 最後に「現在、ワクチンは20疾患で供給され、毎年600万人の命を救っている。これは公衆衛生上の大成果であり、今後も社会貢献のために産業、学術が手を取り合って開発・供給を行っていく」と講演を終えた。

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ウイルス性肝炎の世界疾病負担、約20年間で上昇/Lancet

 ウイルス性肝炎は、世界的に死亡と障害の主な原因となっており、結核、AIDS、マラリア等の感染症と異なり、ウイルス性肝炎による絶対的負担と相対的順位は、1990年に比べ2013年は上昇していた。米国・ワシントン大学のJefferey D Stanaway氏らが、世界疾病負担(Global Burden of Disease:GBD)研究のデータを用い、1990~2013年のウイルス性肝炎の疾病負担を推定した結果、報告した。検討は、ウイルス性肝炎に対するワクチンや治療が進歩してきていることを背景に、介入戦略を世界的に周知するためには、疾病負担に対する理解の改善が必要として行われた。結果を踏まえて著者は、「ウイルス性肝炎による健康損失は大きく、有効なワクチンや治療の入手が、公衆衛生を改善する重要な機会となることを示唆している」と述べている。Lancet誌オンライン版2016年7月6日号掲載の報告。急性ウイルス性肝炎、肝硬変と肝がんの罹患率と死亡率を評価 研究グループは、GBDのデータを用い1990~2013年における、重要な4つの肝炎ウイルス(HAV、HBV、HCV、HEV)による急性ウイルス性肝炎の罹患率と死亡率、ならびにHBVとHCVによるウイルス性肝炎に起因した肝硬変および肝がんの罹患率と死亡率を、年齢・性別・国別に算出した。 方法としては、急性肝炎については自然経過モデルを、肝硬変・肝がんについてはGBD 2013の死因集合モデルを用いて死亡率を推定するとともに、メタ回帰モデルを用いて全肝硬変有病率および全肝がん有病率、ならびに各原因別の肝硬変および肝がんの割合を推定した。その後、原因別有病率(全有病率と特定の原因別の割合の積)を算出した。障害調整生存年(DALY)は、損失生存年数(YLL)と障害生存年数(YLD)の合計とした。ウイルス性肝炎に起因する死亡数は世界で63%増加 世界のウイルス性肝炎による死亡数は、1990年の89万人(95%不確定性区間[UI]: 86~94万)から2013年は145万人(134~154万)に増加した。同様にYLLは、3,100万年(2,960~3,260万)から4,160万年(3,910~4,470万)へ、YLDは65万年(45~89万)から87万年(61~118万)へ、DALYは3,170万年(3,020~3,330万)から4,250万年(3,990万~4,560万)に上昇した。 ウイルス性肝炎は、1990年では主要死因の第10位(95%UI:10~12位)であったのに対して、2013年では第7位(95%UI:7~8位)であった。 2013年にウイルス性肝炎に起因する死亡が最も多かったのは、アジア東部および南部で、ウイルス性肝炎関連死亡の96%(95%UI:94~97)をHBVとHCVが占めていた。この2つのウイルスの割合はほぼ同等で(HBV 47%[95%UI:45~49] vs.HCV 48%[46~50])であった。 ウイルス性肝炎による死亡数は、結核、AIDS、マラリアの年間死亡数と同等以上であった。

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黄熱に気を付けろッ!その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第20回となる今回は、蚊媒介感染症の古参、黄熱ですッ! 黄熱といえば誰もが一度はその病名を聞いたことがあるでしょう。英語で言うと“イエロー・フィーバー”という、まるでルー大柴のようなノリですが、実際そうなんだから仕方ありません。その黄熱が、今世界を騒がせているのですッ!そもそも黄熱ってどういう病気?黄熱という感染症は超有名ですが、おそらく黄熱の患者さんを実際に診られたことのある臨床医は、日本にはほとんどいないのではないでしょうか。自称・希少感染症ハンターの忽那も、黄熱の患者さんは診たことはありません。黄熱は、今世間を騒がせているデングウイルスやジカウイルスと同じ、フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスによる感染症です。黄熱もデング熱やジカ熱と同じくシマカ(ネッタイシマカやヒトスジシマカ)によって媒介されます。黄熱という名前は、感染すると黄色くなる、すなわち黄疸を呈することが由来です。しかし、黄熱に感染しても必ずしも黄疸を呈するわけではなく、黄熱患者の約85%は非特異的な発熱(頭痛、関節痛、嘔気、下痢など)を呈し、1週間以内に改善します。この辺は同じフラビウイルスであるデング熱に似ていますね。しかし、残りの約15%の患者が黄疸、腎不全、出血症状などを呈する重症型に移行するとされています。重症型に移行した患者の20~50%が死亡するとされています。黄熱、恐るべしッ!黄熱の流行地域は限られている黄熱がアウトブレイクしている地域は、アフリカと南米の一部に限られています。図1が黄熱の流行地域です。アフリカはサハラ以南と呼ばれる地域(マラリアと流行地域が重複しています)、図2の南米では内陸側のアマゾン川流域の地域です1)。南米よりもアフリカのほうが、感染者数が圧倒的に多く、アフリカでは年間13万人が感染し7万8千人が亡くなっていると推計されています2)。今回アウトブレイクが起こっているのは、アフリカのアンゴラという国です。3月30日までの時点で1,794人が黄熱と診断され、そのうち198人が亡くなっています3)。感染者が最も多く出ているのは首都のルアンダです。これまで黄熱の輸入例というのは10例程度しか報告されていなかったのですが、今回のアウトブレイクではすでに中国で6例、ケニアで2例、モーリタニアで1例の輸入例が報告されているのですッ! かつてない規模ッ! そしてさらには、コンゴ民主共和国でも疑い例を含めて151人の感染者と21人の死亡者が出ています。画像を拡大する画像を拡大する日本に黄熱患者が発生する可能性は!?さて、中国で輸入例が出ているので、日本にも輸入例が発生する可能性はあるのでしょうか? 可能性があるかないかということになると「ある」ということになりますが、決してその確率は高くはないと思われます。通常、アンゴラやコンゴ民主共和国に入国する際には、黄熱ワクチンの接種証明書の提示が求められますので、日本人が渡航する前には黄熱ワクチンを接種しているはずです(ごく一部の人は、免疫不全を理由に黄熱ワクチンを接種せずに、禁忌証明書を持って入国しているかもしれません)。ですので、日本人が現地で黄熱に感染して、黄熱ウイルスを持ち帰る可能性はきわめて低いと思われます(アンゴラで黄熱に感染した中国人は、なぜか黄熱ワクチンの接種歴がない人が大半とのことで…どうやってアンゴラに入国したんでしょうね…)。しかし、アンゴラやコンゴ民主共和国の人が日本に来て黄熱を発症する、という可能性はあるかもしれません。アンゴラ、コンゴ民主共和国渡航後に発熱を呈する患者さんに遭遇したら、とくに外国人では黄熱を想起するようにしましょう。ちなみに黄熱ウイルスはヒトスジシマカでも媒介されるので、ひとたび黄熱ウイルスが夏季に日本に持ち込まれれば、日本国内で流行する可能性はなくはありません。しかし、これまで黄熱の流行地域はこの数十年ほとんど変化がなく、その他の地域で流行したことがありません。同じフラビウイルスであるデングウイルスやジカウイルスが、これだけ流行地域を広げまくっているのに対して、なぜ黄熱は流行地域が広がらないのか不思議ではありますが、渡航者のワクチン接種などが関係しているのかもしれません。というわけで、アンゴラやコンゴ民主共和国に渡航する際は、普段にも増して黄熱ワクチン接種を推奨し(というか接種しないと入国できないんですけどね)、免疫不全のためにどうしても接種できないという方には、防蚊対策(チクングニア熱に気を付けろッ! その2参照)を徹底してもらうよう懇切丁寧に説明をしましょう。1)Yellow Book. Chapter 3 Infectious Diseases Related to Travel. Yellow Fever. Centers for Disease Control and Prevention. (accessed 2016-04-14).2)Garske T, et al. PLoS Med.2014;11:e1001638.3)Epidemiological update: outbreak of yellow fever in Angola 01 Apr 2016. European Centre for Disease Prevention and Control. (accessed 2016-04-14).4)Yellow Fever-Democratic Republic of the Congo. Disease Outbreak News 11 April 2016. World Health Organization. (accessed 2016-04-14).

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サルマラリアに気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第19回となる今回は、前回のジカウイルス感染症との蚊つながりで、マラリアについてご紹介いたします。マラリアは古典?「おいおい、マラリアなんて超古典的な感染症じゃねえかよ、どこが新興再興感染症なんだよ」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、今回取り上げるのはそのマラリア原虫の中でも、最近注目を集めているサルマラリアの1つPlasmodium knowlesiというものです(このP.knowlesi以外にもサルに感染するマラリアはたくさんあり、それらをひっくるめていわゆる「サルマラリア」と呼びます)。マラリアは、結核とHIVに並ぶ世界3大感染症の1つであり、今もアフリカを中心に2億人を越える感染者を出しています1)。その大半が熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum)または三日熱マラリア(Plasmodium vivax)によるものであり、残りの数%が四日熱マラリア(Plasmodium malariae)と卵形マラリア(Plasmodium ovale)によるものです。しかし、これまで4種類とされてきたヒトに感染するマラリア原虫に第5の刺客が登場したのですッ! それがP.knowlesiなのですッ! ちなみに“knowlesi”の発音ですが、「ノウレジ」と言う人もいますが、通は「ノウザイ」と発音するようです。“Dengue”を「デング」と呼ぶか、「デンギー」と呼ぶかと同じで、まあどっちでもいいかと思いますが。知っておきたいP.knowlesiの発生地域P.knowlesiは、アカゲザルやカニクイザルなどのサルを固有の宿主とするマラリア原虫の1種で、1965年にマレーシアでヒトへの自然感染例が初めて報告されましたが、ヒトに感染するのはきわめてまれな感染症であると考えられていました。しかし、マレーシアでこれまで四日熱マラリアと診断されていた症例の大部分が、実はどうやらP.knowlesi感染症であったことが近年明らかとなり、現在ではP.knowlesiはマレーシアの他、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、インドネシア、シンガポールなど東南アジアの森林地帯に分布していることがわかっています(図1)2)。すでに日本でも1例の輸入例が報告されています。これは国立国際医療研究センターで診断された症例で、私も診療に加わらせていただいた症例です3)。画像を拡大するP.knowlesiの症状と診断P.knowlesiの臨床症状は、他のマラリアと同じく非特異的な発熱であり、発熱以外には頭痛、関節痛、筋肉痛、下痢などの症状を呈することがあります。卵形マラリアや三日熱マラリアは48時間、四日熱マラリアは72時間周期の発熱を呈することがありますが、P.knowlesiは24時間周期といわれています。これはマラリア原虫の体内での分裂周期が、この時間だから周期的な発熱になるわけですが、発症してしばらくは原虫の周期がそろわず、かならずしも周期的な発熱にならないこともしばしばです。周期性が出てくるのはだいたい発症から5~7日くらいとされています4)。マラリア原虫種の鑑別には、ギムザ染色による顕微鏡検査がゴールドスタンダードです。たとえば図2がP.knowlesiのギムザ染色での所見です。画像を拡大する感染赤血球の大きさが変化していないので熱帯熱マラリアか四日熱マラリアかP.knowlesiかということがわかりますし、環状体が少し変形しているので後期栄養体かな? とかまではわかりますが、P.knowlesiは後期栄養体の帯状体が四日熱マラリア原虫と類似していたり、早期栄養体の環状体が熱帯熱マラリア原虫との鑑別を要することもあるため、なかなかギムザ染色だけでは原虫種まではわかりません。確定診断のためにはPCR検査を依頼することが、望ましいとされます(マラリア原虫のPCR検査は、国立国際医療研究センター研究所 マラリア研究部で行うことができます)。P.knowlesiの治療と発熱渡航者に気を付けろP.knowlesi感染症はほとんどが軽症~中等症ですが、まれに重症化する症例が報告されており、注意が必要です。P.knowlesi感染症の治療としては、海外ではクロロキンが第1選択薬として使用されていますが、わが国ではクロロキンは使用できないため、本症例ではメフロキン(商品名:メファキン)またはアトバコン・プログアニル(同:マラロン)を使用することになります。ただし、重症例では他のマラリア原虫種同様、アーテミシニン併用療法による治療が推奨されます。幸いなことにアーテメーター・ルメファントリン合剤(同:リアメット)が国内でも承認されましたので、もうすぐ使用できるようになります。また、P.knowlesiは休眠体をつくらないため、プリマキンによる根治療法を行う必要はありません。P.knowlesi常在地から帰国後の発熱患者に血液塗抹標本で、四日熱マラリア原虫に似た原虫を認めたら、P.knowlesi感染症を疑うようにしましょう!次回は最近あまり注目されていないけれど、地味に感染者を出している「H7N9インフルエンザ」についてご紹介いたしますッ!1)World Health Organization. World Malaria Report 2015.(参照 2016.3.23).2)Singh B, et al. Clin Microbiol Rev. 2013;26:165-184.3)Tanizaki R, et al. Malar J. 2013;12:128.4)Taylor T, et al. Hunter's Tropical Medicine and Emerging Infectious Diseases. 9th ed. Philadelphia:Saunders Elsevier;2012. p.696-717.

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