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第250回 「脳外科医 竹田くん」の作者声明文と“フジテレビの第三者委員会設置で改めて考える、医療界の第三者機関、医療事故調査・支援センターが抱える“アキレス腱”(後編)

「一連の医療事故の真相が究明されないまま事件の記憶が風化すれば、また新たな犠牲者が生まれてしまう」と「脳外科医 竹田くん」作者こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。前回は、中居 正広氏の女性とのトラブルにフジテレビの幹部社員が関与していたとされる報道や、同社が日弁連のガイドラインに沿った第三者委員会を立ち上げたことに関連して、組織で起こったさまざまな問題に“第三者”が入って調査・報告をする意味やその危うさについて書きました。今回は医療の世界での第三者委員会について書くつもりだったのですが、それに関連した興味深いニュースが入ってきました。手術などでミスを繰り返す外科医を描きネットで公開、話題を集めた漫画「脳外科医 竹田くん」の作者が2月5日、同漫画のサイトで声明文を発表し、「私(漫画作者)は、赤穂市民病院 脳神経外科で2019年から2020年にかけて複数発生した医療事故のうち、2020年1月22日に起きた医療過誤の被害者の親族です」と自身の背景を明らかにしたのです1)。声明文では、「当時、私は一連の医療事故や脳神経外科の内情について、当事者や関係者の方々から直接、あるいは間接的に情報を取得することができる立場にあり、およそ現実とは思えないような異常な事実経緯を詳細に記録し、それらの情報を題材に『脳外科医 竹田くん』を描きました」と漫画を描くに至った経緯を綴るとともに、「この漫画自体はフィクション(架空世界で展開される物語)ではあるものの、医療事故、及び医療事故にまつわるエピソードは、赤穂市民病院の医療事故事件と病院内のトラブルをモチーフにしています」とした上で、「なぜ同一医師による医療事故が多発してしまったのか、なぜ検証が適切に行われなかったのか、なぜ学会から認定停止処分を受けたのか、といった物語のテーマを読者にわかりやすく伝えるために設定を単純化したり、比喩的表現を用いることはあったとしても、実際の医療事故を重く見せる目的での誇張や改変、特定の人物を殊更に悪者に仕立て上げるなどといった悪意のある脚色や誇張は一切行っておりません」と書いています。そして、制作の動機として、赤穂市民病院で多数の医療事故が起こっていたにもかかわらず、「病院は混乱し、対応に追われ、医療事故についての適切な検証や調査を行おうとしない様子を目の当たりにしました。2022年6月にようやく病院記者会見が開かれましたが、その内容は真相究明とはほど遠いものでした。私は、一連の医療事故の真相が究明されないまま事件の記憶が風化すれば、また新たな犠牲者が生まれてしまうのではないか、といった強い危機感を抱き、葛藤の末、どうにかしてこの問題を社会に伝えたいと考えるようになりました」と、病院の事故対応のひどさを挙げています。「脳外科医 竹田くん」のモデルとされた兵庫県・赤穂市民病院の元勤務医、松井 宏樹被告(46)は昨年12月27日、神戸地検姫路支部が業務上過失傷害罪で在宅起訴しています(「第246回 美容外科医献体写真をSNS投稿、“脳外科医竹田くん”のモデルが書類送検、年末の2つの出来事から考える医師のプロフェッショナル・オートノミー」参照)。声明文では、松井被告が2023年10月に漫画の作者を特定するための発信者情報開示請求を申し立てていたことも明かしています。この請求は受理され、2024年7月に情報が開示されたとのことです。ただ、その後、松井被告サイドからの損害賠償請求は行われていないそうです。「脳外科医 竹田くん」は、日本の医療事故調査の制度が患者本位とは到底言えず、仕組み自体が破綻している実態を描いた漫画だったわけです。ゆるく「大甘」だった市立大津市民病院の医師大量退職に関連して組織された調査委員会さて、前回の続きです。東京女子医大第三者委員会は元理事長を追い詰め、退任、逮捕へとつながりました。この第三者委員会は、4人の弁護士で組織、調査補助者として80人近くの弁護士、公認会計士などを専任し、調査に当たらせました。調査期間は2024年4月10日~7月31日、委員会は実に36回開催され、当の元理事長には5回のヒアリングを行っていました。まあ、それだけ徹底的に調査をすれば、経営者の犯罪まがいの行為や欠点、組織のガバナンス上の問題点も浮き彫りになろうと納得するのですが、逆に宝塚劇団並みにゆるい調査と感じたのは、私も取材した滋賀県の地方独立行政法人・市立大津市民病院の医師大量退職に関連して組織された調査委員会です。2022年、同病院では京都大学からの派遣医師を中心に医師の大量退職が起こりました。その原因は元理事長のパワハラだったのではないかという点について、同病院が組織した第三者委員会が調査をしたのですが、結果は「退職を求めるにあたって人格を否定するような言動や、過度に威圧的な言動がなされたとは認められず、『パワーハラスメント』に該当するような言動は認められない」というものでした(「第103回 大津市民病院の医師大量退職事件、「パワハラなし」、理事長引責辞任でひとまず幕引き」参照)。調べてみると、この第三者委員会の正式名称は「地方独立行政法人・市立大津市民病院内部統制第三者調査委員会」であり、基本的に内部組織でした。表面上、第三者の弁護士に調査を依頼したという体になってはいますが、日弁連のガイドラインに沿った第三者委員会ではありません。調査が「大甘」な内容になるのは必然だったとも言えます。余談ですが、当時、私はこの報告書要旨を入手しようと同病院に問い合わせをしたのですが、「市の記者クラブに入っている社しか渡せない」との返事で、二重に呆れた記憶があります(後日、別ルートから入手)。そのあたりは、今回フジテレビが最初の記者会見で出席者を絞ったこととも共通する、記者クラブという悪しき慣習とも言えます。「報告や調査を行うケースに該当するかどうかは医療機関の院長等の判断」とする現行の医療事故調査制度を日弁連も問題視ということで、医療の世界で第三者委員会等が設置されるのは、主に経営者の犯罪まがいの不正やパワハラなどが表沙汰になった時に限られます。実質的に医療機関で最もトラブル数が多いと考えられる医療事故については、医療事故で患者が死亡した場合、第三者機関である医療事故調査・支援センターに報告することや、原因を調査することなどが医療法で義務付けられています。目的は再発防止や医療の質の向上であり、責任追及ではないとしています。とは言え、報告や調査を行うケースに該当するかは医療機関の院長等の判断に任されています。そうした、医師に“甘い”とも言える運用ルールが、過誤や事故の隠蔽につながっていることが問題視されています。遺族団体も、事故と疑われる事案を医療機関がセンターに届け出ず、遺族が届け出を求めても応じない事例が相次いでいると指摘しています。2023年末までの実績では、600床以上の大病院のうち複数回報告したことがある施設が6割だった一方、1回も報告したことがない施設が2割を占めたそうです。本連載でも、「第199回 脳神経外科の度重なる医療過誤を黙殺してきた京都第一赤十字病院、背後にまたまたあの医大の影(前編)」や「第220回 名古屋第二日赤の研修医“誤診”報道に医療界が反発、日赤本社の医療事故に対する鈍感さ、隠蔽体質も影響か(前編)」などで、全国の医療機関で一向に改善されることのない隠蔽体質について度々書いてきました。医療事故調査・支援センターは「第三者機関」とはなっていますが、その「第三者機関」に行く前に隠蔽されてしまう事案が後を絶たないのです。日本弁護士連合会もこうした状況を問題視、2022年には制度の改善を求める意見書をまとめています。そこでは、1)遺族から相談されたセンターは必要と判断したら医療機関に調査を促し、開始されない時はセンターが調査できる制度の創設、2)調査する医療機関への財政支援、3)医師らの過失の有無に関係なく補償する無過失補償制度の創設、などを求めています。今回、東京女子医大やフジテレビの第三者委員会が世間で話題になったことで、「隠蔽、もみ消しは悪」が社会通念としてこれまで以上に定着していくに違いありません。また、「脳外科医 竹田くん」の作者が、医療事故被害者の親族であると明らかにしたことも、医療事故調査の仕組みの改革を後押しするでしょう。作者は声明文で、「医療事故が闇に葬られていくプロセスを克明に描くことで、救済を受けることもなく苦しんでいる人々が数多く存在しているという社会問題に目を向けていただきたかった」と書いています。医療事故の調査について、制度の“アキレス腱”とも言える「報告や調査を行うケースに該当するかどうかは医療機関の院長等の判断」というルールが早急に見直され、隠蔽されず(できず)、第三者によって正当に審査され、報告される仕組みへと変わっていくことを期待します。参考1)脳外科医 竹田くん

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スタチンと認知症リスクに関するメタ分析、最も顕著な予防作用が示された薬剤は

 世界の認知症患者数は、5,500万例に達するといわれており、2050年までに3倍に増加すると推定されている。心血管系への効果を期待し広く用いられているスタチンには、神経保護作用があるとされているが、認知症リスクに対する影響については、相反する結果が報告されている。ブラジル・アマゾナス連邦大学のFernando Luiz Westphal Filho氏らは、スタチンと認知症リスクとの関連を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Alzheimer's & Dementia誌2025年1月16日号の報告。 PRISMAガイドラインに基づきシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。関連する研究を、PubMed、Embase、Cochraneより検索した。性別、スタチンの種類、糖尿病の有無によるサブグループ解析を実施し、認知症、アルツハイマー病、脳血管認知症リスクを評価した。 主な内容は以下のとおり。・55件の研究、700万例超の観察研究をメタ解析に含めた。・スタチン使用は、非使用と比較し、認知症リスクが有意に低かった(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.82〜0.91、p<0.001)。・アルツハイマー病(HR:0.82、95%CI:0.74〜0.90、p<0.001)および脳血管認知症(HR:0.89、95%CI:0.77〜1.02、p=0.093)のリスク低下も認められた。・サブグループ解析では、2型糖尿病患者、3年以上スタチンを使用している患者、最大の保護作用が認められたアジア人集団において、認知症リスクが有意に低下していることが明らかとなった。【2型糖尿病患者】HR:0.87、95%CI:0.85〜0.89、p<0.001【3年以上スタチンを使用している患者】HR:0.37、95%CI:0.30〜0.46、p<0.001【最大の保護作用が認められたアジア人集団】HR:0.84、95%CI:0.80〜0.88・すべての原因による認知症に対し最も顕著な予防作用を示したスタチンは、ロスバスタチン(HR:0.72、95%CI:0.60〜0.88)であった。 著者らは「認知症予防に対するスタチンの神経保護作用の可能性が示唆された。観察研究の限界はあるものの、大規模データセットおよび詳細なサブグループ解析により、結果の信頼性は高まった。これらの結果を確認し、臨床ガイドラインを啓発するためにも、今後のランダム化臨床試験が求められる」としている。

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リファンピシン耐性/キノロン感受性結核に有効な経口レジメンは?/NEJM

 リファンピシン耐性でフルオロキノロン感受性の結核患者の治療において、3つの経口レジメン(BCLLfxZ、BLMZ、BDLLfxZ)の短期投与が標準治療に対し非劣性で、Grade3以上の有害事象の頻度はレジメン間で同程度であることが、フランス・ソルボンヌ大学のLorenzo Guglielmetti氏らが実施した「endTB試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年1月30日号に掲載された。7ヵ国の第III相対照比較非劣性試験 endTB試験は、7ヵ国(ジョージア、インド、カザフスタン、レソト、パキスタン、ペルー、南アフリカ共和国)の12施設で実施した第III相非盲検対照比較非劣性試験であり、2017年2月~2021年10月の期間に参加者のスクリーニングと無作為化を行った(Unitaidの助成を受けた)。 年齢15歳以上のリファンピシン耐性でフルオロキノロン感受性の結核患者を、ベダキリン(B)、デラマニド(D)、リネゾリド(L)、レボフロキサシン(Lfx)またはモキシフロキサシン(M)、クロファジミン(C)、ピラジナミド(Z)から成る5つの併用レジメン(BLMZ、BCLLfxZ、BDLLfxZ、DCLLfxZ、DCMZ)または標準治療レジメン(WHOガイドラインに準拠)の6つの治療群に無作為に割り付けた。5つの併用レジメンは9ヵ月間投与した。 主要エンドポイントは73週目の良好なアウトカムとし、不良なアウトカムがなく、65~73週における連続2回の喀痰培養陰性または良好な細菌学的、臨床的、X線画像上の変化と定義した。不良なアウトカムには、死亡(死因は問わない)、5つの併用レジメンのうち1剤または標準治療レジメンのうち2剤の置き換えまたは追加、リファンピシン耐性結核に対する新たな治療の開始などが含まれた。非劣性マージンは-12%ポイントとした。per-protocol集団ではDCMZ群の非劣性確認できず 754例を無作為化し、このうち699例が修正ITT解析、562例がper-protocol解析の対象となった。修正ITT集団の内訳は、BLMZ群118例(年齢中央値31歳、女性34.7%)、BCLLfxZ群115例(38歳、32.2%)、BDLLfxZ群122例(32歳、45.1%)、DCLLfxZ群118例(30歳、32.2%)、DCMZ群107例(32歳、42.1%)、標準治療群119例(31歳、40.3%)であった。 修正ITT解析では、良好なアウトカムの全体の達成率は84.5%(591/699例)で、標準治療群では80.7%(96/119例)であった。修正ITT集団で非劣性が確認された新規レジメンは次の4つで、標準治療群とのリスク差はBCLLfxZ群で9.8%ポイント(95%信頼区間[CI]:0.9~18.7)、BLMZ群で8.3%ポイント(-0.8~17.4)、BDLLfxZ群で4.6%ポイント(-4.9~14.1)、DCMZ群で2.5%ポイント(-7.5~12.5)であった。DCLLfxZ群では非劣性が示されなかった。 per-protocol集団における良好なアウトカムの全体の達成率は95.9%であった。標準治療群とのリスク差はDCMZ群を除いて同程度で、DCMZ群では非劣性を確認できなかった。重篤な有害事象の頻度も同程度 Grade3以上の有害事象は全体の59.2%(441/745例)で発現し、6つのレジメンで54.8~62.7%の範囲であった。重篤な有害事象は、全体の15.2%(113例)に認め、6つのレジメンで13.1~16.7%の範囲と同程度だった。また、とくに注目すべき有害事象のうちGrade3以上の肝毒性イベント(ALTまたはAST上昇)は、全体で11.7%(87例)、標準治療群では7.1%(9例)にみられた。 著者は、「これらの結果は、リファンピシン耐性結核の成人および小児患者の治療における効果的で簡便な経口薬治療に関して、明るい展望をもたらすものである」としている。

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腰痛の軽減方法、最も効果的なのは生活習慣の是正かも

 腰痛を改善するには、従来の治療法を試すよりも不健康な生活習慣を見直す方が大きな改善効果を見込める可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。腰痛持ちの患者のうち、生活習慣指導を受けた患者は標準的なケアを受けた患者に比べて、腰痛により日常生活が障害される程度が軽減し、生活の質(QOL)が向上したという。シドニー大学(オーストラリア)のChristopher Williams氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に1月10日掲載された。 Williams氏は、「腰痛を治すには、腰以外の部分にも焦点を当てる必要がある。われわれの体は機械ではなく、複雑な生態系(エコシステム)のようなもので、多くの要因が相互に影響し合うことで、どのように機能し感じるかが決まる。腰痛もそれと同じだ」と話す。 この研究では、活動制限を伴う慢性腰痛を持ち、1つ以上の生活習慣リスク(過体重、不適切な食生活、身体活動不足、喫煙)を有する346人(平均年齢50.2歳、女性55%)を対象に、研究グループが考案した健康的な生活習慣プログラム(Healthy Lifestyle Program;HeLP)の腰痛軽減効果が、ガイドラインに則った標準的なケアとの比較で検討された。HeLPは、ガイドラインに基づくケアに加え、健康的な生活習慣についての教育(冊子やウェブポータルへのアクセス)やサポート(理学療法士や栄養士とのセッション、電話での健康指導)などを提供する包括的なプログラムである。 試験参加者は、HeLPを受ける群(介入群、174人)と、ガイドラインに基づく理学療法ケアを受ける群(対照群、172人)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、介入開始から26週間後の腰痛による生活機能障害の程度とし、Roland-Morris Disability Questionnaire(RMDQ)を用いて評価した。RMDQスコアは0〜24点で算出され、高スコアほど障害が大きいことを意味する。また、副次評価項目は、体重、痛みの強度、QOL、喫煙状況とした。 ベースライン時のRMDQスコアは、介入群で14.7点、対照群で14.0点であった。しかし26週間後の評価では、介入群のスコアが対照群に比べて有意に改善し、両群のスコアの平均差は−1.3点(95%信頼区間〔CI〕−2.5〜−0.2、P=0.03)であった。HeLPの効果は、プログラムを忠実に守った参加者においてより顕著に現れた。また、介入群では対照群に比べて、体重減少が大きく(平均差−1.6kg、95%CI −3.2~−0.0、P=0.049)、QOL(SF Health Surveyの下位尺度である身体機能の評価スコア)の改善がより大きかった(同1.8点、0.1~3.4、P=0.04)。 こうした結果を受けてWilliams氏は、「腰痛がなかなか治らない人は、脊椎に何が起こっているかのみに焦点を当てるのではなく、さまざまな健康要因を考慮した総合的なケアを受けるべきだ」と述べ、「われわれはこのメッセージを積極的に広めるべきだ」と付言している。 研究グループは、この研究が腰痛に関する将来の診療ガイドラインに影響を与えることを期待していると述べている。また、Williams氏は、「腰痛を治療する臨床医は、患者の日常生活に対するサポートを日々の診療の中にどのように取り入れるかを考えるべきだ。その方法に『正しい』や『間違っている』はないが、最も大切にすべきことは、患者が、『自分の意見が尊重されている』、『意思決定に参加している』と感じることだ」と話している。

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体重減少には週何分くらいの有酸素運動が必要か

 ダイエットではどのくらいの時間、有酸素運動をすれば痩せることができるだろうか。この疑問について、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンの公衆衛生学部疫学・生物統計学科のAhmad Jayedi氏らの研究グループは有酸素運動と脂肪率の指標との用量反応関係を明らかにするために文献の系統的レビューと用量反応のメタ解析を行った。その結果、週30分の有酸素運動は、成人の体重または肥満者の体重、ウエスト周囲径および体脂肪値の緩やかな減少と関連していることが明らかになった。この結果はJAMA Network Open誌2024年12月26日号に掲載された。痩せるには週30分の有酸素運動でも効果あり 研究グループは、2024年4月30日までのPubMed、Scopus、Cochrane Central Register of Controlled Trialsなどの文献から介入期間が8週間以上の無作為化臨床試験で、成人の過体重または肥満者に対する観察の下での有酸素運動の効果を評価したものについて検討し、PRISMAのガイドラインに従った。データ抽出は2人のレビュアーからなる2つのチームが、それぞれ独立して重複して実施。ランダム効果メタ解析を行い、週30分の有酸素運動ごとの平均差と95%信頼区間(CI)を推定し、曲線的な関連性の形状を明らかにした。 主要アウトカムは体重、ウエスト周囲径、体脂肪などであり、エビデンスの確実性は、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)ツールを用いて、非常に低いものから高い確実性までの範囲で評価した。 主な結果は以下のとおり。・成人の過体重または肥満者の合計6,880例(女性4,199例[61%]、平均年齢±SD:46±13歳)について、116の無作為化臨床試験を検討。・有酸素運動を週30分行うごとに、体重は0.52kg(95%CI:-0.61~-0.44、109試験、GRADE中)、ウエスト周囲径は0.56cm減少(95%CI:-0.67~-0.45、62試験、GRADE高)、体脂肪率は0.37%減少(95%CI:-0.43~-0.31、65試験、GRADE中)していたほか、内臓脂肪組織(平均差:-1.60cm2、95%CI:-2.12~-1.07、26試験、GRADE高)と皮下脂肪組織(平均差:-1.37cm2、95%CI:-1.82~-0.92、27試験、GRADE中)も同様の結果だった。・有酸素運動は、生活の質(QOL)の身体的側面(標準化平均差[SMD]:1.69SD、95%CI:1.18~2.20)および精神的側面(SMD:0.74SD、95%CI:0.29~1.19)の緩やかな増加と関連した(参加者80例の試験1件、GRADE低)。・軽度~中等度の有害事象のほとんどは筋骨格系の症状で、わずかながら事象の増加と関連していた(リスク差は参加者100例当たり2件増加、95%CI:1~2、GRADE低)。・用量反応メタ解析により、体重、ウエスト周囲径および体脂肪の測定値は、有酸素運動の継続時間が週300分まで増加することで、直線的または単調に減少することが示された。・中等度~強度の有酸素運動を週150分継続することで、ウエスト周囲径および体脂肪について臨床的に著明な減少がもたらされた。 これらの結果から研究グループは、「週30分の有酸素運動への取り組みは、成人の過体重または肥満者における体重、ウエスト周囲径および体脂肪測定の緩やかな減少と関連していた。その一方で、臨床的に著明な減少を達成するためには、中等度以上の強度で週150分を超える有酸素運動が必要かもしれない」と結論付けている。

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医師介入が死亡率に影響?がん患者診療のための栄養治療ガイドライン発刊

 日本人がん患者の栄養管理は、2022年より周術期栄養管理加算や外来栄養食事指導料が算定できるようになったことで、その管理体制は改善傾向にある。しかし、栄養治療が必要な患者に十分届いているとは言い難く、適切な栄養管理によってより良い予後をもたらすことが日本栄養治療学会(JSPEN)としての喫緊の課題になっている。そんな最中、2024年10月に『がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版 総論編』が発刊されたため、作成ワーキンググループのガイドライン委員会前委員長である小谷 穣治氏(神戸大学大学院医学研究科外科系講座 災害・救急医学分野 教授)にがん患者の栄養管理の実際やガイドラインで押さえておくべき内容について話を聞いた。がん患者への栄養管理の意味 がん患者の場合、がんの病状変化や治療により経口摂取に支障が生じ、体重減少を伴う低栄養に陥りやすくなるため、「食事摂取量を改善させる」「代謝障害を抑制する」「筋肉量と身体活動を増加させる」ことを目的として栄養治療が行われる。 国内におけるがん治療に対する栄養治療は、食道癌診療ガイドラインや膵癌診療ガイドラインなど臓器別のガイドラインではすでに示されているが、海外にならって臓器横断的な視点と多職種連携を重要視したガイドラインを作成するべく、今回、JSPENがその役割を担った。本書では、重要臨床課題として「周術期のがん患者には、どのような栄養治療が適切か?」「放射線療法を受けるがん患者には、どのような栄養治療が適切か?」といった事柄をピックアップし、Minds*方式で作成された4つのClinical Question(CQ)を設定している。本書の大部分を占める背景知識では現況のエビデンス解説が行われ、患者団体から集まった疑問に答えるコラムが加わったことも特徴である。*厚生労働省委託業務EBM普及推進事業、Medical Information Distribution Service なお、がん患者に対する栄養治療が「がん」を増殖させるという解釈は、臨床的に明らかな知見ではないため、“栄養治療を適切に行うべき”と本書に記されている。医師に求められる栄養治療 医師が栄養治療に介入するタイミングについて、p.39~40に記された医師の役割の項目を踏まえ、小谷氏は「(1)診断時、(2)治療開始前、(3)治療中、(4)治療終了後[入院期間中、退院後]と分けることができるが、どの段階でも介入が不足しているのではないか。とくに治療開始前の介入は、予後が改善されるエビデンスが多数あるにもかかわらず(p.34~35参照)、介入しきれていない印象を持っている。ただし、入院治療が始まる前から食欲低下による痩せが認められる場合には、微量元素やビタミン類を含めた血液検査がなされるなどの介入ができていると見受けられる」とコメントした。 介入するうえでの臨床疑問はCQで示されており、CQ1-1(頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、術前の一般的な栄養治療を行うことは推奨されるか?[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:弱い])については、日本外科感染症学会が編集する『消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン』のCQ3-4(頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、術前の一般的な栄養治療[経口・経腸栄養、静脈栄養]を行うことは推奨されるか?)と同様に術前介入について言及している。これに対し同氏は「両者に目を通す際、日本外科感染症学会で評価されたアウトカムはSSI※であり、本ガイドラインでの評価アウトカム(術後合併症数、術後死亡率、術後在院日数など)とは異なることに注意が必要」と述べた。※Surgical Site Infectionの略、手術部位感染 また、CQ1-2(頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、周術期に免疫栄養療法を行うことは推奨されるか?[推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性:中程度])で触れられている免疫栄養療法については、「アルギニン、n3系脂肪酸、グルタミンが用いられるが、成分ごとに比較した評価はなく、どの成分が術後合併症の発生率低下や費用対効果として推奨されるのかは不明」と説明しながら、「今回の益と害のバランス評価において、免疫栄養療法を実施することによって術後合併症が22%減少、術後在院日数が1.52日短縮することが示された。また、術後の免疫栄養療法では術後の非感染性合併症も減少する可能性が示された(p.135)」と説明した。<目次>―――――――――――――――――――第1章:本ガイドラインの基本理念・概要第2章:背景知識 1. がん資料における代謝・栄養学 2. 栄養評価と治療の実際 3. 特定の患者カテゴリーへの介入第3章:臨床疑問 CQ1-1:頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、術前の一般的な栄養治療(経口・経腸栄養、静脈栄養)を行うことは推奨されるか? CQ1-2:頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、周術期に免疫栄養療法を行うことは推奨されるか? CQ2:成人の根治目的の癌治療を終了したがん罹患経験者(再発を経験した者を除く)に対して、栄養治療を行うことは推奨されるか? CQ3:根治不能な進行性・再発性がんに罹患し、抗がん薬治療に不応・不耐となった成人患者に対して、管理栄養士などによる栄養カウンセリングを行うことは推奨されるか?第4章:コラム――――――――――――――――――― 最後に同氏は、「現代は2人に1人はがんになると言われているが、もともとがん患者は栄養不良のことが多い。また、その栄養不良ががんを悪化させ、栄養不良そのもので亡くなるケースもある。周術期や治療前にすでに栄養状態が悪くなっている場合もあることから、栄養管理の重要性を理解するためにも、がんに関わる医療者全員に本書を読んでいただきたい」と締めくくった。

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日本における妊娠中の抗うつ薬継続投与、約10年の変化は

 近年、複数の日本の学会より周産期の抗うつ薬治療に関する治療ガイドラインが発表されており、最新の動向や妊娠中の抗うつ薬継続投与を評価し、出産前抗うつ薬処方を最適化することが重要であると考えられる。東北大学の石川 智史氏らは、日本での2012〜23年における妊娠中の抗うつ薬処方の変化を評価した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2025年1月10日号の報告。 対象は、2012〜23年に日本で出産した女性。妊娠中の抗うつ薬処方率、傾向、継続性について、大規模行政レセプトデータを用いて評価した。年次変化は、出産時女性の年齢に合わせて調整された多変量ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・出産時の平均年齢が32.5歳であった女性17万9,797例のうち、妊娠中に抗うつ薬を処方されていた女性は1,870例(1.04%)。・抗うつ薬処方率は、2012年の0.63%から2023年の1.67%へと増加していた(p<0.0001)。・妊娠初期に抗うつ薬が処方されていた女性1,730例(0.96%)のうち、妊娠中に抗うつ薬処方を継続していた女性は670例(38.7%)であり、抗うつ薬継続率は2012年の19.51%から2023年の50.70%へと有意な増加が認められた(p<0.0001)。・妊娠中に最も処方されていた抗うつ薬クラスは、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であり(0.74%)、なかでもセルトラリン(0.33%)およびエスシタロプラム(0.23%)の有意な増加が認められた。 著者らは「今回の評価には、妊娠中絶または死産に至った女性に対する抗うつ薬処方は評価されていない」としながらも「妊娠中の抗うつ薬処方および処方継続が一般的になっていることを考慮すると、妊娠前のケアおよび共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)の促進を含め、ガイドラインの内容が専門医および出産年齢女性により広まることが求められる」と結論付けている。

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第249回 フジテレビの第三者委員会設置で改めて考える、医療界の第三者機関、医療事故調査・支援センターが抱える”アキレス腱”(前編)

東京女子医大への私学助成金、全額不交付が決定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先月の本連載、「第247回 どこか似ているフジテレビと女子医大、大学に約1億1,700万円の損害を与えた背任の疑いで女子医大元理事長逮捕、特定機能病院の再承認も遠のいた病床利用50%の医科大学に未来はあるか?」で書いた、フジテレビと東京女子医大、ともに大きな動きがありました。まず、東京女子医大ですが、1月30日、日本私立学校振興・共済事業団は2024年度分の同大学への私学助成金を全額不交付にすると決めました。2023年度は約20億円が支給されていましたので、大学運営に及ぼす影響は甚大と考えられます。また、元理事長が所得税法違反罪で有罪判決を受けた事件やアメリカンフットボール部での違反薬物問題などで不交付が続いていた日本大学も2024年度の全額不交付が決定しています(同大への直近の交付額は2020年度で約90億円)。そして、2月3日には、東京女子医大の元理事長、岩本 絹子容疑者が再逮捕されました。理由は、別の新病棟建築工事でも報酬など約1億7,000万円を不当に支払わせたという背任容疑です。フジテレビも「日弁連ガイドラインに沿った第三者委員会」に調査を委ねる一方、フジテレビは中居 正広氏の女性とのトラブルに編成局の幹部社員が関与していたとされる報道や、ガバナンスが問題となっています。社会からのさまざまな批判などを背景に企業のCM見合わせが起こる中、1月23日、同社は日本弁護士連合会(日弁連)のガイドラインに沿った第三者委員会を設置し、調査を全面的に委ねることを決めました。さらに1月27日には出席メディアの制限をしない2回目の記者会見を開きました。10時間を超える2回目の記者会見のグダグダ振りは、改めてフジテレビにおけるガバナンス不在を世間に知らしめることとなりました。とは言え、当初フジテレビ側が言っていた「第三者の弁護士を中心とする調査委員会」という曖昧かつ会社寄りの組織から、完全に独立した「日弁連ガイドラインに沿った第三者委員会」に調査が委ねられた点は評価できるでしょう。もっともなぜ最初からそうしなかったか、とも思いますが。これによって、中居氏の女性とのトラブル(人権侵害があったと報道されています)の概要や、誰が誘ったのか、フジテレビ社員の関与の度合い、事件後も中居氏の番組を続けたフジテレビにおいてどんな経営判断がなされていたか、経営陣の責任なども明らかにされると思われます。ちなみに、この第三者委員会の委員長を務めるのは、東京女子医大の第三者委員会の副委員長を務めた竹内 朗弁護士です。第三者委員会による調査・報告のプロ中のプロがこの問題に対処することになったわけで、その報告が待たれるところです。内部関係者も入れた“なんちゃって第三者委員会”は企業・組織寄りの報告になりがちさて、日弁連のガイドラインにおいて第三者委員会は当該企業・組織などと利害関係がなく完全に独立した委員のみで構成し、調査で判明した事実やその評価については経営陣に不利となる場合でも報告書に記載すると定めています。また、報告書の内容を提出前に当該企業・組織に開示しないともされています1)。つまり、問題を起こした企業・組織にまったく忖度することなく、調査を進め、報告・提言ができるわけで、極めて独立性が高い調査組織です。記憶に新しいところでは、旧ジャニーズ事務所のジャニー喜多川氏による性加害問題を調査した外部専門家による再発防止特別チームがあります。同チームは日弁連のガイドラインに沿って組織されていました。この問題については、2023年、同チームが多数の被害者へのヒアリングを実施し、同氏が「性加害を長期にわたり繰り返していたことが認められる」と認定しました。この調査結果をきっかけにジャニーズ事務所は、社名変更、補償問題の検討に入ることになりました。一方で、内部関係者も入れた中途半端な“なんちゃって第三者委員会”は、企業・組織寄りの報告になりがちでトラブルをさらに混乱させてしまうケースが少なくありません。その典型例は2023年に発覚した宝塚歌劇団におけるパワハラ問題でしょう。劇団員の自殺は上級生からのパワハラが原因ではなかったか等について調査した弁護士チームは、同劇団主導で組織されたものでした。当初、弁護士チームがまとめた報告書ではパワハラの認定をしていませんでした。その後、さまざまな批判が巻き起こり、再調査が行われ、最終的に劇団側がパワハラを認め謝罪するという展開になりました。元理事長のさまざまな所業を暴き、退任、逮捕へとつながった東京女子医大第三者委員会では、医療の世界における第三者委員会はどうでしょう。記憶に新しいのは、東京女子医大の元理事長を追い詰めた東京女子医大第三者委員会です。その報告書の内容については、本連載の「第226回 東京女子医大 第三者委員会報告書を読む(前編)『金銭に対する強い執着心』のワンマン理事長、『いずれ辞任するが、今ではない』と最後に抗うも解任」、「第227回 同(後編)『“マイクロマネジメント”』と評された岩本氏が招いた『どん底のどん底』より深い“底”」で詳しく書きました。この報告書は、元理事長の医科大学トップとしてあるまじき、さまざまな所業を暴き、結果として退任、逮捕へとつながりました。しかし一方で、「大甘」な第三者委員会もあります。その一例が、私も取材した滋賀県の地方独立行政法人・市立大津市民病院の医師大量退職に関連して組織された調査委員会です。(この項続く)参考1)企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン/日本弁護士連合会

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高齢者の卵摂取、多くても少なくてもダメ?

 卵の摂取量と70歳以上の高齢者の全死因死亡および死因別死亡との関連性を前向きに調査した結果、卵をまったく/まれにしか摂取しない群に比べて、週に1~6回摂取する群では全死因死亡および心血管疾患(CVD)死亡のリスクが低減したが、毎日摂取する群ではこの潜在的な有益性は認められなかったことを、オーストラリア・モナッシュ大学のHolly Wild氏らが明らかにした。Nutrients誌2025年1月17日号掲載の報告。 卵摂取と健康との関係は広く研究されているが、その結果はしばしば矛盾しており、さらに65歳以上の高齢者におけるエビデンスは限られている。卵にはタンパク質のほか、ビタミンやミネラルなども豊富に含まれており、高齢者の重要な栄養供給源であることから、研究グループは卵摂取と高齢者の死亡との関連性を評価するために前向きコホート研究を実施した。 本研究では、オーストラリア居住者を対象とした高齢化に関する縦断コホート研究「ALSOP試験」の参加者である70歳以上の8,756例のデータを用いた。過去1年間の卵の摂取量を食物摂取頻度調査(FFQ)で聴取し、「まったく摂取しない/まれに摂取(月に0~2回)」、「毎週摂取(週に1~6回)」、「毎日摂取(毎日~1日に数回)」の3つのカテゴリーで解析した。卵摂取と死亡との関連をCox比例ハザード回帰分析により評価した。 主な結果は以下のとおり。●解析対象8,756例の年齢中央値は76.9±5.5歳、女性が54.0%であった。卵を毎日摂取していたのは2.6%、毎週摂取していたのは73.2%、まったく/まれにしか摂取していなかったのは24.2%であった。●追跡期間中央値5.9年で1,034例の全死因死亡(11.8%)が記録された。がん死亡は453例(5.2%)、CVD死亡は292例(3.3%)であった。●卵を毎週摂取する群では、まったく/まれにしか摂取しない群と比較して、全死因死亡リスクが15%低く、CVD死亡リスクが29%低かった。がん死亡では有意な関連は認められなかった。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 -全死因死亡のHR:0.85、95%CI:0.74~0.98 -CVD死亡のHR:0.71、95%CI:0.54~0.91 -がん死亡のHR:0.93、95%CI:0.76~1.16●卵を毎日摂取する群では、まったく/まれにしか摂取しない群よりもいずれのリスクも高い傾向にあったが、有意な関連は認められなかった。 -全死因死亡のHR:1.20、95%CI:0.85~1.71 -CVD死亡のHR:1.43、95%CI:0.79~2.58 -がん死亡のHR:1.36、95%CI:0.82~2.27 研究グループは「これらの知見は、高齢者のためのエビデンスに基づいた食事ガイドラインの作成に有益であると考えられるが、関連性の根底にあるメカニズムをより理解するためにはさらなる縦断的研究が必要である」とまとめた。

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飲酒は健康リスクに影響

 米国保健福祉省(HHS)は1月14日に発表した報告書の草案の中で、飲酒は早期死亡リスクを高める可能性があることを警告した。報告書によると、「米国では男女ともに1週間当たり7杯(米国の基準飲酒量〔ドリンク〕であるアルコール14g相当を1杯と表記)以上の摂取で1,000人中1人が飲酒に起因した死亡のリスクを負い、このリスクは1週間当たりの飲酒量が9杯以上になると100人中1人に高まる」という。 この報告書の目的は、健康リスクを最小限に抑えるための1週間当たりの飲酒量の基準値に関するエビデンスを得ることであった。ただし草案では、研究結果は要約されているが飲酒量に関する具体的な勧告は含まれていない。現行の米国のガイドラインでは、飲酒量に関して、男性は1日当たり2杯、女性は1杯を超えた量を飲むべきではないとの推奨が示されている。しかし、今回の報告書では、この基準を満たす量であってもリスクのある可能性が示唆されている。 この報告書は、飲酒と健康の関係に関する2つの補足文書のうちの1つで、HHSと米国農務省(USDA)が共同で『米国人のための食事ガイドライン(Dietary Guidelines for Americans)2025-2030年版』を作成する際の参考情報となるものだ。報告書では、飲酒が特定の傷病にどのように影響しているのかについて調査した結果がまとめられている。以下はその一部だ。・がん:非飲酒者と比べると、1日1杯の飲酒でも食道がんリスクが男性で51%、女性で37%、肝硬変リスクはそれぞれ37%と133%上昇する。・外傷:1日1杯の飲酒時のリスク(相対リスク1.29)と比べて、1日3杯の飲酒により不慮の外傷のリスクは男女ともに68%程度増加する。・肝疾患:日常的な飲酒は肝疾患のリスクを有意に高め、特に、C型肝炎などの基礎疾患がある人ではリスク上昇が顕著である。 また、これまでの研究では、少量の飲酒が特定の脳卒中リスクを低下させる可能性が示唆されていたが、今回の報告書では1日わずか2杯の飲酒でそのような効果は消失することが明らかにされた。 米国の食事ガイドラインは、公衆衛生政策や食品および飲料の表示に影響を与える。専門家によれば、今回の調査結果は将来的にアルコールに関する勧告の厳格化につながる可能性があるという。カナダ物質使用障害研究所(CISUR)の所長で報告書の著者の一人であるTimothy Naimi氏は、研究で長期的な影響を測定する方法には限界があるため、今回の報告書では飲酒の危険性が過小評価されている可能性があると指摘。「多くの人々が『適度(moderate)』と考える量の飲酒は、実際には中程度のリスクを伴う場合があり、あるいは健康リスクという意味では中程度以上である可能性もある」と結論付けている。 一方で、この報告書に対する反発も見られる。アルコール生産者の団体である米国スピリッツ協会(DISCUS)は、先ごろ発表した声明で、「今回の報告書は、欠陥のある、不透明で前例のないプロセスを経て作られたものであり、バイアスと利益相反に満ちている。未成年者の飲酒防止に関する省庁間調整委員会(ICCPUD)の6人の委員のうち数名は国際的な反アルコール啓発団体に所属しており、委員会はそれらの啓発団体とつながりのある人々と緊密に協力している。議会はICCPUDや同委員会の活動のために資金を承認あるいは計上したことはなく、議会や産業界からの数多くの書簡で、このプロセスに対する深刻な懸念が表明されている」と主張している。

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がん診断前の定期的な身体活動はがんの進行や死亡リスクを低下させる?

 がんと診断される前に運動を定期的に行っていた人では、がんとの闘いに成功する可能性が高まるようだ。がんの診断前に、たとえ低水準でも身体活動を行っていた人では、がんの進行リスクや全死亡リスクが低下する可能性のあることが明らかになった。ウィットウォーターズランド大学(南アフリカ)のJon Patricios氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に1月7日掲載された。 研究グループによると、運動ががんによる死亡のリスク低下に重要な役割を果たしていることに関しては説得力のあるエビデンスがあるものの、がんの進行に対する影響については決定的なエビデンスがない。 この点を明らかにするためにPatricios氏らは今回、南アフリカで最大の医療保険制度であるDHMS(Discovery Health Medical Scheme)のデータを用いて、2007年から2022年の間にステージ1のがんと診断された患者2万8,248人を対象に、がんの進行および全死亡と診断前の身体活動との関連を検討した。がん種で最も多かったのは乳がん(22.5%)と前立腺がん(21.4%)であった。フィットネスデバイスのデータやジムでの運動記録などから、がんの診断前12カ月間の対象者の身体活動レベルを調べ、身体活動なし(62%)、低水準の身体活動量(中強度以上の身体活動を週平均60分未満、13%)、中〜高水準の身体活動量(中強度以上の身体活動を週平均60分以上、25%)の3群に分類した。 解析の結果、中〜高水準の身体活動量の群では、がんの進行率と全死亡率の低いことが明らかになった。がん進行のリスクは、身体活動なしの群と比べて、低水準の身体活動量の群では16%(ハザード比0.84、95%信頼区間0.79〜0.89)、中〜高水準の身体活動量の群では27%(同0.73、0.70〜0.77)、全死亡リスクはそれぞれ33%(同0.67、0.61〜0.74)と47%(同0.53、0.50〜0.58)低かった。 診断から2年後にがんの進行が認められなかった対象者の割合は、身体活動なしの群で74%、低水準の身体活動量の群で78%、中〜高水準の身体活動量の群で80%であった。同割合は、3年後ではそれぞれ71%、75%、78%、5年後では66%、70%、73%であった。全死亡についても同様のパターンが認められ、2年後に生存していた対象者の割合は、91%、94%、95%、3年後では88%、92%、94%、5年後では84%、90%、91%であった。 Patricios氏らは、「身体活動は、がんと診断された人に対して、がんの進行と全死亡の観点で大きなベネフィットをもたらすと考えられる」と結論付けている。また、研究グループは、身体活動には自然免疫力を強化して、体ががんと闘う準備を整える効果があるのではないかと推測している。身体活動はまた、体内のエストロゲンとテストステロンのバランスやレベルの調整を改善することで、乳がんや前立腺がんなどのホルモンが原因のがんの進行リスクを低下させる可能性も考えられるという。 本研究結果に基づき研究グループは、「がんが依然として公衆衛生上の重大な課題である現状を踏まえると、身体活動の促進は、がんの進行だけでなく、その予防と管理においても重要なベネフィットをもたらす可能性がある」と指摘。「公衆衛生ガイドラインは、がんを予防するだけでなく、がんの進行リスクを軽減するためにも身体活動の実施を奨励すべきだ」と提言している。

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