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がん診療に携わるすべての人のレベルアップ目指しセミナー開催/TCOG

 東京がん化学療法研究会(TCOG)は、第25回臨床腫瘍夏期セミナーをオンラインで開催する。 同セミナーは、がん診療に携わる医師、薬剤師、看護師、臨床研究関係者、製薬会社、CROなどを対象に、治療の最新情報、臨床研究論文を理解するための医学統計などさまざまな悪性腫瘍の基礎知識から最新情報まで幅広く習得できるよう企画している。セミナー概要・日時:2025年7月18日(金)~19日(土)・開催形式:オンライン(ライブ配信、後日オンデマンド配信を予定)・定員:500人・参加費:15,000円(2日間)・主催・企画:特定非営利活動法人 東京がん化学療法研究会・後援:日本医師会、東京都医師会、東京都病院薬剤師会、日本薬剤師研修センター、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本産科婦人科学会、日本医療薬学会、日本がん看護学会、西日本がん研究機構、North East Japan Study Group・交付単位(予定):日本薬剤師研修センターによる単位(1日受講:3単位、2日受講:6単位)、日本医療薬学会 認定がん専門薬剤師・がん指導薬剤師認定単位(7/18受講:2単位、7/19受講:2単位)、日本看護協会 認定看護師・専門看護師:「研修プログラムへの参加」(参加証発行)、日本臨床腫瘍薬学会 外来がん治療認定薬剤師講習(研修)認定単位(1日受講:3単位、2日受講:6単位)プログラム(要約)7月18日(金)9:30~16:509:30~10:55【がん薬物療法 TOPICS】 胃がん化学療法、ASCOにおける肺癌最新の話題11:05~12:30【医学統計】 臨床研究のための統計学の基本知識、臨床に生かすために知っておきたい医学統計13:50~15:15【最新のがん薬物療法I】 膵がん・胆道がん、大腸がん化学療法 ガイドライン改定を踏まえて15:25~16:50【妊孕性と家族性腫瘍】 遺伝性腫瘍~遺伝学的診断と遺伝カウンセリング、CAYAがん患者等に対する妊孕性温存/がん・生殖医療の現状と課題7月19日(土)9:30~16:509:30~10:55【がんにおける新規抗体医薬】 二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)の特徴と臨床成績、抗体薬物複合体(ADC)11:05~12:30【TOPICS 2】 MRDが拓く癌治療の新しいストラテジー、ctDNAによるがん種横断的なMRD検査の時代へ13:50~15:15【最新のがん薬物療法II】 子宮頸がん・子宮体がん薬物療法のトピックス、泌尿器がんに対する薬物療法UpDate202515:15~16:50【緩和医療と支持療法】 骨転移の緩和ケア、コミュニケーション/遺族ケア/気持ちのつらさガイドラインのエッセンス申し込みはTCOG「臨床腫瘍夏期セミナー」ページから「臨床腫瘍夏期セミナー」プログラム

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好酸球数高値COPD、メポリズマブで中等度/重度の増悪低減/NEJM

 インターロイキン-5(IL-5)は好酸球性炎症において中心的な役割を担うサイトカインであり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の20~40%に好酸球性炎症を認める。メポリズマブはIL-5を標的とするヒト化モノクローナル抗体である。米国・ピッツバーグ大学のFrank C. Sciurba氏らMATINEE Study Investigatorsは、「MATINEE試験」において、好酸球数が高値のCOPD患者では、3剤併用吸入療法による基礎治療にプラセボを併用した場合と比較してメポリズマブの追加は、中等度または重度の増悪の年間発生率を有意に低下させ、増悪発生までの期間が長く、有害事象の発現率は同程度であることを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年5月1日号に掲載された。25ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 MATINEE試験は、血中好酸球数が高値で、増悪リスクのあるCOPD患者における3剤吸入療法へのメポリズマブ追加の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年10月~2023年8月に25ヵ国344施設で患者を募集した(新型コロナウイルス感染症のため2020年3月23日~6月9日まで募集を中断)(GSKの助成を受けた)。 スクリーニング時に年齢40歳以上で、少なくとも1年前にCOPDの診断を受け、増悪の既往歴を有し、3剤吸入療法(吸入ステロイド薬、長時間作用型β2刺激薬、長時間作用型抗コリン薬)を3ヵ月以上受け、血中好酸球数≧300/μLの患者804例(平均[±SD]年齢66.2[±8.0]歳、女性31%)を修正ITT集団として登録した。 被験者を、4週ごとにメポリズマブ(100mg)を皮下投与する群(403例)、またはプラセボ群(401例)に無作為に割り付け、52~104週間投与した。 主要エンドポイントは、中等度または重度の増悪の年間発生率であった。治療への反応性には差がない 重度増悪の既往歴はメポリズマブ群で22%、プラセボ群で19%の患者に認めた。全体の25%の患者が過去または現在、心疾患の診断を受けており、72%が心血管疾患のリスク因子を有していた。平均曝露期間は両群とも約15ヵ月だった。 中等度または重度の増悪の年間発生率は、プラセボ群が1.01件/年であったのに対し、メポリズマブ群は0.80件/年と有意に低かった(率比:0.79[95%信頼区間[CI]:0.66~0.94]、p=0.01)。 また、副次エンドポイントである中等度または重度の増悪の初回発生までの期間中央値(Kaplan-Meier法)は、プラセボ群の321日と比較して、メポリズマブ群は419日であり有意に長かった(ハザード比:0.77[95%CI:0.64~0.93]、p=0.009)。 治療への反応性(QOLの指標としてのCOPDアセスメントテスト[CAT:0~40点、高スコアほど健康状態が不良であることを示す]のスコアが、ベースラインから52週目までに2点以上低下した場合)を認めた患者の割合は、メポリズマブ群が41%、プラセボ群は46%であり(オッズ比:0.81[95%CI:0.60~1.09])、両群間に有意な差はなかったため、階層的検定に基づきこれ以降の副次エンドポイントの評価に関して統計学的検定を行わなかった。MACEは両群とも3例に発現 投与期間中およびその後に発現した有害事象の割合は、メポリズマブ群で75%、プラセボ群で77%であった。投与期間中に発生した重篤な有害事象・死亡の割合はそれぞれの群で25%および28%であり、投与期間中およびその後の死亡の割合は両群とも11%(3例)だった。投与期間中およびその後に発生した主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死性の心筋梗塞・脳卒中、致死性または非致死性の心筋梗塞・脳卒中)は、両群とも11%(3例)に認めた。 著者は、「これらの知見は、ガイドラインに基づく維持療法のみを受けている患者に対して、メポリズマブ治療は付加的な有益性をもたらすことを示している」「先行研究と本試験の結果を統合すると、選択されたCOPD患者における2型炎症を標的とする個別化治療の妥当性が支持される」「増悪関連のエンドポイントはメポリズマブ群で良好であったが、CAT、St. George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)、Evaluating Respiratory Symptoms in COPD(E-RS-COPD)、気管支拡張薬投与前のFEV1検査で評価した治療反応性は両群間に実質的な差を認めなかったことから、これらの原因を解明するための調査を要する」としている。

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DapaTAVI試験―構造的心疾患に対するSGLT2阻害薬の効果(解説:加藤貴雄氏)

 2025年ACCで発表されたDapaTAVI試験(Raposeiras-Roubin S, et al. N Engl J Med. 2025;392:1396-1405.)であるが、TAVI前に心不全および、中等度腎機能障害・糖尿病・左室駆出率低下のいずれかを持つ大動脈弁狭窄症患者が登録された試験である。左室駆出率<40%の患者は約18%で多くがHFmrEF/HFpEFの患者であり、平均年齢が82歳と高齢で、女性が約半数登録された。また、中等度~高度の左室肥大を伴う患者は約60%であった。 結果は、主要評価項目(全死亡または心不全増悪の複合エンドポイント)は、ダパグリフロジン追加群で有意に低い結果で、全死亡では有意な差がなく心不全増悪の差が主に結果に影響していた。主要な2次評価項目でも、心不全入院・心不全の緊急受診においてダパグリフロジン追加群で有意に低い結果であった。 試験結果を実臨床に生かすうえでのポイントは2点あり、1点目は、実臨床における大動脈弁狭窄症の患者層(高齢者・女性・左室肥大例)が登録され有効性を示した点である。安全性について、入院が必要もしくは敗血症につながる尿路感染症の頻度には差がなかったが、性器感染症・低血圧はダパグリフロジン追加群に多い結果であった点は、注意すべき点である。 2点目は、TAVI後の構造的異常として左室肥大がありNT-proBNPが5,300~6,300pg/mLと高い患者層で試験が開始され、心不全悪化を防止した点である。 SGLT2阻害薬は、心不全に対するガイドライン推奨薬の一角に位置付けられている薬剤であり、HFpEF/HFrEFに対する試験結果とも合致する。心不全の既往のある患者を除外した急性心筋梗塞患者対象のSGLT2阻害薬の試験(James S, et al. NEJM Evid. 2024;3:EVIDoa2300286., Butler J, et al. N Engl J Med. 2024;390:1455-1466.)では対照群も含めイベント率が低かった点を合わせて考えると、イベントを起こしやすい構造的心疾患を持つ、ハイリスクな患者へのしっかりとした薬剤の介入の必要性を示したと考えられる。

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次々と承認される抗アミロイド抗体、有効性に違いはあるか?

 近年、アルツハイマー病に対する抗アミロイド抗体の承認が加速している。しかし、抗アミロイド抗体の臨床的意義やリスク/ベネフィットプロファイルは、依然として明らかになっていない。他の治療法ではなく、抗アミロイド抗体を選択する根拠を確立するためにも、アルツハイマー病の異質性および抗アミロイド抗体の長期臨床データの不足は、課題である。スペイン・University of Castilla-La ManchaのDanko Jeremic氏らは、抗アミロイド抗体の有効性および安全性を評価し、比較するため、従来のペアワイズメタ解析ならびに第II相および第III相臨床試験の結果を用いたベイジアンネットワークメタ解析を実施した。また、本研究の目的を達成するため、研究者や臨床医が疾患進行や有害事象のベースラインリスクに関するさまざまな事前選択や仮定を組み込み、これらの治療法の相対的および絶対的なリスク/ベネフィットをリアルタイムに評価できる無料のWebアプリケーションAlzMeta.app 2.0を開発した。Journal of Medical Internet Research誌2025年4月7日号の報告。 PRISMA-NMAおよびGRADEガイドラインに従い、エビデンスの報告および確実性を評価した。2024年9月30日までに公表された臨床試験報告書は、PubMed、Google Scholar、臨床試験データベース(ClinicalTrials.govを含む)より検索した。孤発性アルツハイマー病患者数が20例未満、修正Jadadスコアが3未満の研究は分析から除外した。バイアスリスクの評価には、RoB-2ツールを用いた。相対リスク/ベネフィットは、リスク比および標準化平均差を算出し、すべてのアウトカムにおける信頼区間、信用区間、予測区間を算出した。有意な結果を得るため、介入効果は頻度主義およびベイズ主義の枠組みで順位付けし、その臨床的意義は、1,000人当たりの絶対リスク、広範な対照群に対する治療必要数(NNT)により評価した。 主な結果は以下のとおり。・2万1,236例を対象とした7つの治療法(バイアスリスクが低い、または多少の懸念のある研究26件)のうち、ドナネマブは、認知機能および機能的指標において最も高い評価を受けた。この評価は、aducanumabおよびレカネマブの約2倍の効果を示し、認知機能および機能の全般的な臨床的認知症尺度(CDR)ボックス合計スコアにおいて他の治療法よりも有意に有益であることが示唆された(NNT=10、95%信頼区間[CI]:8〜16)。・脳浮腫および微小出血については、ドナネマブ(NNT=8、95%CI:5~16)、aducanumab(NNT=10、95%CI: 6~17)、レカネマブ(NNT=14、95%CI:7~31)において臨床的に関連する脳浮腫リスクが認められ、ベネフィットを上回る可能性も示され、とくに注意が必要であることが明らかとなった。 著者らは「抗アミロイド抗体の中では、ドナネマブが最も有効であり、安全性プロファイルはaducanumabやレカネマブと同様であることが示された。しかし、より安全性の高い治療選択肢の必要性も浮き彫りとなった。これは、対象試験において頻繁な脳浮腫および微小出血による盲検化の解除ならびにCOVID-19パンデミックの影響により、潜在的なバイアスが生じている可能性がある」と結論付けている。

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ADHD治療薬は心臓の健康に有害か?

 注意欠如・多動症(ADHD)の治療薬が心臓の健康に悪影響を及ぼす可能性が心配されている。こうした中、英サウサンプトン大学小児・青少年精神医学部門のSamuele Cortese氏らが実施したシステマティックレビューとネットワークメタアナリシスにおいて、ADHD治療薬が収縮期血圧(SBP)や拡張期血圧(DBP)、脈拍に及ぼす影響はわずかであることが確認された。この研究の詳細は、「The Lancet Psychiatry」5月号に掲載された。 Cortese氏らは、12の電子データベースを用いて、ADHD治療薬に関する短期間のランダム化比較試験(RCT)を102件抽出し、結果を統合して、ADHD治療薬がDBP、SBP、脈拍に与える影響をプラセボや他の薬剤との比較で検討した。これらのRCTで対象とされていたADHD治療薬は、アンフェタミン、アトモキセチン、ブプロピオン、クロニジン、グアンファシン、リスデキサンフェタミン、メチルフェニデート、モダフィニル、ビロキサジンであった。追跡期間中央値は7週間で、参加者として小児・青少年1万3,315人(平均年齢11歳、男子73%)と成人9,387人(平均年齢35歳、男性57%)の計2万3,702人が含まれていた。 解析の結果、小児・青少年では、アンフェタミン、アトモキセチン、メチルフェニデート、ビロキサジンがSBPやDBP、脈拍の有意な上昇と関連することが示された。なかでも、アンフェタミンによるDBPの平均上昇量1.93mmHg(95%信頼区間0.74〜3.11)と、ビロキサジンによる脈拍の平均上昇量5.58回/分(同4.67〜6.49)は、いずれもエビデンスの質が「高」と評価された。 一方、成人では、アンフェタミン、リスデキサンフェタミン、メチルフェニデート、ビロキサジンが、SBPやDBP、脈拍の上昇と関連していたが、いずれの指標においてもエビデンスの質は「非常に低い」と評価された。 さらに、小児・青少年においても成人においても、SBP、DBP、脈拍の上昇について、メチルフェニデートやアンフェタミンなどの中枢神経刺激薬とアトモキセチンやビロキサジンなどの非中枢神経刺激薬との間に有意な差は認められなかった。 Cortese氏は、「他の研究では、ADHD治療薬の使用が死亡リスクを低下させ、学業成績の向上に寄与することが示されている。また、高血圧のリスクがわずかに増加する可能性は示唆されているが、他の心血管リスクの増加については報告されていない。総合的に見て、ADHD治療薬使用のリスクとベネフィットの比率は安心できるものだと言えるだろう」とサウサンプトン大学のニュースリリースで述べている。 一方、論文の筆頭著者であるサンパウロ大学(ブラジル)医学部のLuis Farhat氏は、「われわれの研究結果は、中枢神経刺激性であるか否かに関わりなくADHD治療薬使用者の血圧と脈拍を体系的にモニタリングする必要性を強調するものであり、将来の臨床ガイドラインに反映されるべきだ。中枢神経刺激薬だけが心血管系に悪影響を及ぼすと考えている医療従事者にとって、これが意味することは非常に大きいはずだ」と述べている。 研究グループは、さらなる研究でADHD治療薬の長期的な影響について理解を深める必要があるとしている。Cortese氏は、「現時点では、リスクの高い個人を特定することはできないが、精密医療のアプローチに基づく取り組みが将来的に重要な洞察をもたらすことを期待している」と述べている。

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ピロリ除菌後の胃がんリスクを予測するバイオマーカー~日本の前向き研究

 Helicobacter pylori(H. pylori)除菌後においても0.5~1.2%の人に原発性胃がんが発生する可能性がある。このような高リスクの集団を識別する新たなバイオマーカーとして、非悪性組織におけるepimutationの蓄積レベル(epimutation負荷)ががんリスクと関連していることが複数の横断的研究で報告されているが、前向き研究でリスク予測におけるDNAメチル化マーカーの有用性は確認されていない。今回、星薬科大学の山田 晴美氏らの研究により、epimutation負荷のDNAメチル化マーカーであるRIMS1がH. pylori除菌後の健康人における原発性胃がんリスクを正確に予測可能であることが示された。Gut誌オンライン版2025年4月15日号に掲載。 本研究では、H. pylori除菌後の健康人でopen typeの萎縮性胃炎を有する人を前向きに募集し、胃前庭部と胃体部の生検検体でマーカー遺伝子であるRIMS1のDNAメチル化レベルを測定した。主要評価項目は胃がん発生率で、主要な目的はメチル化レベルの最高四分位と最低四分位におけるハザード比の比較であった。副次的な目的は、2年に1回の内視鏡検診より年1回の検診から利益を得られる可能性のある人を特定するためにRIMS1メチル化レベルのカットオフ値の決定であった。メチル化レベルのカットオフ値は、NNS(number needed to screen)に対応する推定1年胃がん発生確率とした。 主な結果は以下のとおり。・1,624人の参加者が1回以上の内視鏡検査を受け、追跡期間中央値4.05年で27人に原発性胃がんが発生した。・RIMS1メチル化レベルの最高四分位群では10万人年当たり972.8人と、最低四分位群の127.1人年よりも発生率が高かった。・Cox回帰分析の結果、単変量ハザード比(HR)は7.7(95%信頼区間[CI]:1.8~33.7)、年齢・性別調整HRは5.7(同:1.3~25.5)であった。・超高リスク集団を特定するためのメチル化レベルのカットオフ値は、NNS1,000の場合は25.7%(年齢・性別調整HR:3.6、95%CI:1.7~7.7、p<0.001)であった。  本結果から、著者らは「DNAメチル化マーカーは、H. pylori除菌後に胃がん検診を免除できる人を特定できる可能性がある」とし、一方で「DNAメチル化マーカーによって特定された超高リスク集団は、現行のガイドラインのように2年に1回ではなく、毎年胃がん検診を受ける必要がある」としている。

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バーチャル救急診療サービス、AIの提案が医師を上回ることも

 シダーズ・サイナイ・コネクト(Cedars-Sinai Connect)は、自宅などから24時間いつでも医療専門家にアクセスできる、AI(人工知能)を活用したバーチャル救急診療サービスおよびプライマリケアサービスである。このような環境で診察を受けた患者に対し、医師とAIのどちらが正確な診断やより良い治療方針を提案できるのだろうか。新たな研究によると、医師とAIモデルにはそれぞれ異なる強みがあり、救急医療における一般的な訴えに関しては、AIの提案の方が人間の医師の提案よりも優れていたという。テルアビブ大学(イスラエル)経済学准教授のDan Zeltzer氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に4月4日掲載された。 シダーズ・サイナイ・コネクトでは、AIが構造化されたチャットで患者の問診を行い、十分な信頼度(AIが自身の予測について、どの程度正しいと確信しているかを数値化したもの)が得られた場合のみ、診断と治療に関する提案(処方箋、検査、紹介状)を提示する。研究グループによると、このAIは、医師が一生のうちに目にする量をはるかに超える量の高品質なリアルワールドデータを用いてトレーニングされたという。 今回の研究は、2024年6月12日から7月14日の間に、呼吸器・泌尿器・膣・目・歯の症状が現れていた成人患者に対して、AIが十分な信頼度を持って診断や治療の提案を行い、医師が実際に管理し、完全な医療記録が残っていた461件の診療を対象にしたもの。診断と治療方針に関して、AIによる最初の提案と医師による最終的な提案が一致していなかった全ての症例と一致していた症例について、家庭医療、内科、救急医療分野でそれぞれ少なくとも10年の経験を持つ4人の熟練した医師が「最適」「妥当」「不十分」「有害な可能性」の4段階で評価した。 その結果、262件の診療(56.8%)で、AIと医師の提案が一致していたことが明らかになった。重み付けされた461件の診療に対する評価で「最適」とされたのは、AIによる提案では77.1%であったのに対し、医師による提案では67.1%にとどまっていた。また、AIと医師の提案の質についての評価では、AIの方が優れていると評価されたのは20.8%に上ったのに対し、医師の方が優れていると評価されたのは11.3%にとどまっていた。残りの67.9%は同等の質と評価された。 こうした結果となった理由について研究グループは、「AIは診療ガイドラインに厳密に従うように設計されており、医師が見逃す可能性のある些細なことや医療記録のメモを拾うことができるためかもしれない」と考察している。 米Cedars-Sinai Division of Informaticsの共同ディレクターで本研究の上席著者であるJoshua Pevnick氏によると、AIは、例えば尿路感染症など救急医療現場でよく遭遇する訴えに対する初期の診断・治療方針については、人間の医師よりも高い評価を得ていた。一方、医師は、患者からより完全な病歴を聞き出し、それに応じて治療方針を適切に調整する傾向が認められたという。 こうしたことを踏まえて研究グループは、「人間の医師の指導下で責任を持ってAIを導入すれば、即座にセカンドオピニオンが提供されるようになるため、患者のケアを改善できる可能性がある」と結論付けている。

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昼夜を通して続く熱波は心疾患による死亡リスクを高める

 日中も夜間も高気温が続く熱波の間には、心疾患による死亡者数が増えることが新たな研究から明らかになった。特に、夜になっても暑さが和らぐことのない複合熱波と呼ばれる熱波での心疾患による死亡リスクは、日中の気温だけが大幅に上昇した場合よりもはるかに高かったという。復旦大学(中国)公共衛生学院教授のRenjie Chen氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」に4月8日掲載された。 Chen氏らは今回、2013年から2019年に中国本土で発生した2390万2,254件の心疾患による死亡データを解析し、気温との関係を調べた。熱波を、昼間のみの熱波、夜間のみの熱波、および昼夜を通して続く複合熱波に分類し、熱波による超過積算温度(excess cumulative temperatures in heatwaves;ECT-HW)と呼ばれる新しい指標を用いて死亡率を推定するとともに、従来の熱波指標を用いて推定した死亡率と比較した。ECT-HWは、熱波の有無だけを示す従来の指標とは異なり、熱波の強度(温度の上昇幅)、持続期間、および季節内での発生時期といった詳細な特性を捉えることが可能だという。 その結果、複合熱波の場合、心疾患による死亡リスクはECT-HWの全範囲において一貫して増加し、明確な閾値は確認されなかった。死亡のオッズ比は、複合熱波下では1.86と推定されたのに対し、夜間のみの熱波下では1.16、日中のみの熱波下では1.19と推定された。さらに、複合熱波下では、特に突然の心停止、心筋梗塞、心不全による死亡が多いことも示された。 ECT-HWと従来の指標のそれぞれを用いて熱波による心疾患の超過死亡数を推定したところ、複合熱波では、ECT-HWに基づく推定で4万1,869件(心疾患による死亡全体の1.75%)、従来の指標に基づく推定では2万7,036件、夜間のみの熱波ではそれぞれ9,092件(同0.38%)と2,871件、昼間のみの熱波ではそれぞれ9,809件(同0.41%)と4,785件であり、ECT-HWに基づく推定値の方が高いことが示された。 こうした解析結果は、都市部での冷却シェルターの整備や家庭での空調コントロールの改善など、持続的な暑さから人々を守るための取り組みの強化が必要であることを示していると研究グループは述べている。 Chen氏は、「気候変動によって複合熱波の頻度と強度が高まりつつあることを踏まえると、この研究結果は、リスクにさらされている人を守るための特定の疾患に応じた予防戦略と公衆衛生ガイドラインの改訂の必要性を明確に示したものだと言える」と指摘している。 研究グループは次の段階として、さまざまな気候変動のシナリオのもとで、熱波に関連した心疾患により死亡する可能性が高い人がどの程度いるのかを予測する予定だとしている。

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米国がん協会のガイドライン遵守はがんサバイバーの寿命を延ばす

 喫煙習慣のない肥満関連のがんサバイバーは、米国がん協会(ACS)が推奨する食事と身体活動に関するガイドラインを遵守することで死亡リスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。ACS疫学研究の主任科学者であるYing Wang氏らによるこの研究結果は、「Journal of the National Cancer Institute」に4月3日掲載された。 Wang氏は、「がんの診断がきっかけで、どうすれば生活習慣をより健康的にできるかを考える人は多い。多くのがんサバイバーは、長生きする可能性を高めるためにできる生活習慣の是正について知りたがっている」とACSのニュースリリースで述べている。 ACSは2022年にがんサバイバー向けの栄養と身体活動に関するガイドラインを改訂した。改訂ガイドラインでは、健康的な体重の維持、定期的な身体活動、健康的な食生活、飲酒の制限が強調されている。具体的な推奨事項は以下の通り。・毎週、中強度の身体活動を150~300分、または高強度の身体活動を70~150分、あるいはこれらを組み合わせて行うこと。・座って過ごす時間を減らすこと。・野菜、果物、全粒穀物を豊富に摂取すること。・赤肉や加工肉、甘い飲み物、高度に加工された食品、精製された穀物の摂取を制限するか、摂取しないこと。・飲酒量を制限、または禁酒すること。・健康的な体重を維持すること。 Wang氏らは今回、1992年に始まったがんリスクに関する長期研究(Cancer Prevention Study-II Nutrition Cohort)に参加した喫煙習慣のないがんサバイバー3,742人(平均年齢67.6歳)の生活習慣を分析し、ガイドラインの推奨事項の有効性を検討した。これらのがんサバイバーは、1992年から2002年の間に、胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆嚢がん、膵臓がん、乳がん、子宮がん、腎臓がん、甲状腺がん、神経系のがん、血液がんなどの肥満関連のがんの診断を受けていた。追跡は2020年まで行われた(追跡期間中央値15.6年)。がん診断後のBMI、身体活動、食生活、飲酒の4つの領域に関するガイドライン遵守度は、それぞれに0〜2点の合計0〜8点で評価された。 追跡期間中に2,430人が死亡していた。解析の結果、ガイドラインの遵守度のスコアが6〜8点だった人は、0〜3点だった人に比べて全死亡リスクが24%(ハザード比0.76、95%信頼区間0.68〜0.85)、心血管疾患による死亡リスクが33%(同0.67、0.54〜0.83)、がん特異的死亡リスクが21%(同0.79、0.64〜0.97)低いことが明らかになった。 領域別に見ると、BMIの遵守度が最も高い人(2点)では最も低い人(0点)に比べて、全死亡リスクが10%、心血管疾患による死亡リスクが27%低かったが、がん特異的死亡リスクについては統計学的に有意な差は認められなかった。同様に、身体活動の遵守度が最も高い人(2点)では最も低い人(0点)に比べて、全死亡リスクが22%、心血管疾患による死亡リスクが26%低かった。 Wang氏は、「これらの結果は、生活習慣を適切にすることが、がんサバイバーの生存に影響することを明示している」と述べている。

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週3の摂取エネルギー減、毎日のカロリー制限より効果大

 週7日のうち3日の摂取エネルギー量を8割減らし、残りの4日間は自由に摂取する「4:3断続的断食」という方法は、毎日の摂取エネルギー量を少しずつ減らすよりも、減量効果が大きいとする研究結果が報告された。米テネシー大学ノックスビル校のDanielle Ostendorf氏らの研究であり、詳細は「Annals of Internal Medicine」に4月1日掲載された。 Ostendorf氏は本研究の背景を、「毎日のカロリー制限を長期間続けるのは、多くの人にとって困難である」と説明。得られた結果を基に、「身体活動を組み込んだ総合的な減量プログラムの一環としての4:3断続的断食は、毎日のカロリー制限に比較して優れた減量効果をもたらし、新たな減量戦略となり得る」としている。 この研究は、BMIが27~46で年齢18~60歳の成人を対象とする、ランダム化比較試験として実施された。4:3の断続的断食(intermittent fasting)を行う「4:3IMF群」は、1週間のうち連続していない3日の摂取エネルギー量を80%制限し、残りの4日は自由摂取(制限なし)とした。一方、カロリー制限(daily caloric restriction)を連日行う「DCR群」は、1週間の総摂取エネルギー量が4:3IMF群と一致するように、毎日の摂取エネルギー量を34%カットすることとした。なお、両群ともに、グループ単位での行動変容サポートを受け、中強度の身体活動を週300分(米国の身体活動ガイドラインの推奨である150分の2倍)実施するよう指示された。 4:3IMF群84人、DCR群81人、計165人(ベースライン時点において、平均年齢42±9歳、女性73.9%、BMI34.1±4.4)のうち、125人が介入を終了した。ITT解析(介入意図からの逸脱や脱落も含めた事前割り付けどおりの解析)の結果、12カ月時点で4:3IMF群の減量幅はDCR群よりも有意に大きかった(平均差2.89kg〔95%信頼区間0.14~5.65kg〕、P=0.040)。 このほかにも、12カ月間で10%以上の減量を達成した割合は、DCR群は16%であったのに対して4:3IMF群は38%と多かった。また、DCR群は12カ月間の介入中に約30%が脱落したのに対して、4:3IMF群では19%と脱落が少なかった。さらに、4:3IMF群は全体的に摂取エネルギー量がより少なくなる傾向が見られ、血圧やコレステロール値、血糖値の改善も認められた。 研究者らは、「カロリー制限を毎日続けるのは難しく、その代替として断続的断食が注目を集めている。断続的断食の魅力は、カロリー計算が不要で、かつ摂取制限を連日続ける必要がないことだ。さらに、毎日のカロリー制限で生じることのある絶え間ない空腹感が、断続的断食では軽減される可能性がある」と話している。

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5月5日 熱中症対策の日【今日は何の日?】

【5月5日 熱中症対策の日】〔由来〕「立夏」(5月5日頃)の頃から熱中症患者の報道が出始めることから、早期の注意と熱中症予防にはこまめな水分補給が大切であることの啓発を目的に「熱中症ゼロへ」プロジェクト(日本気象協会)と日本コカ・コーラが共同で2014年に制定。関連コンテンツ熱中症、初動が大事!【救急診療の基礎知識】第226回 医療従事者の熱中症リスク、アンケートでみえてきたこと【バズった金曜日】番外編(1):熱中症の重症度分類【一目でわかる診療ビフォーアフター】3秒の自己診断でみつける脱水症【患者説明用スライド】最重症群「IV度」を追加、熱中症診療ガイドライン2024公開

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マバカムテンの適正使用に関するステートメントを公表/日本循環器学会

 日本循環器学会が閉塞性肥大型心筋症治療薬マバカムテンの適正使用に関するステートメント(第1版、2025年)を作成し、4月24日に同学会ホームページで公表した。マバカムテン(商品名:カムザイオス)は3月27日にブリストル マイヤーズ スクイブが製造販売承認を取得しており、年内の国内販売が見込まれている。 肥大型心筋症におけるマバカムテンの位置付けは、2025年3月に発刊された『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』の治療フローチャート(p.130)や推奨表(閉塞性肥大型心筋症の圧較差軽減のための治療薬の推奨とエビデンスレベル、p.131)にも、対象患者や処方目的などが明記されているが、投与対象者の選定や用量調整、中止/休薬の基準に注意を要することから、ステートメントにてマバカムテンを導入できる施設要件と医師要件が示された。<マバカムテンを安全に導入するための体制>1.施設要件以下の条件を満たす施設で導入および維持量が決定するまで管理を行うこと(1)日本循環器学会認定循環器研修施設(2)心臓超音波検査を専門とする循環器専門医が在籍する施設(日本心エコー図学会認定心エコー図専門医もしくは日本超音波医学会認定超音波専門医を持つ循環器専門医が在籍することが好ましい)で、心臓超音波検査を4週おきに行い、肥大型心筋症評価に必要な検査(左室駆出率および安静時およびバルサルバ負荷時の圧較差)を適切に実施できること(3)年間20例以上の肥大型心筋症患者を診療している施設(4)カムザイオスカプセル E-Learningを受講した医師が在籍していること2.医師要件以下の条件を満たす医師により導入および維持量が決定するまでの管理を行うこと(1)最新の診断基準に則り診断された肥大型心筋症患者を継続的に5例/年以上診療している医師(2)循環器専門医の資格を有していること(3)カムザイオスカプセル E-Learningを受講していること維持量が決定し、病状の安定している患者への継続処方については、患者さんの利便性を考慮して、後方病院(循環器研修関連施設もしくは循環器専門医資格を有する医師の在籍するクリニック、処方する医師はカムザイオスカプセル E-Learningを受講済みであることは必須)でも可である。また、増量中の処方も、通院が頻回になるため、後方病院(前記)でも可とする。しかし、増量、減量、中止の判断に重要な心エコー検査は、循環器研修施設で行う。維持量の変更もあるために、導入した施設は、可能なら定期的モニタリングと臨床経過の追跡調査が可能な状態を維持すること。

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無症候性細菌尿と尿路感染症の区別はどうする?【とことん極める!腎盂腎炎】第15回

無症候性細菌尿と尿路感染症の区別はどうする?Teaching point(1)無症候性細菌尿を有している患者は意外と多い(2)無症候性細菌尿は一部の例外を除けば治療不要である(3)無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別は難しいため総合内科医/総合診療医の腕の見せ所であるはじめに本連載をここまで読み進めた読者の方は、尿路感染症をマスターしつつあると思うが、そんな「尿路感染症マスター」でも無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別をすることは容易ではない。特殊なセッティングを除けば、そもそも無症状の患者の尿培養を採取することがないため、われわれは一般的に熱源精査の過程で無症候性細菌尿かどうかを判断しなければならないからである。尿路感染症は除外診断(第1回:問診参照)であるため、発熱患者が膿尿や細菌尿を呈していたとしても尿路感染症と安易に診断せず、ほかに熱源がないか病歴・身体所見をもとに検索し、場合によっては血液検査・画像検査を組み合わせて診断することが大切である。このように無症候性細菌尿と尿路感染症の区別は一筋縄ではいかないが、本項で無症候性細菌尿という概念について詳しく知り、その誤解をなくすことで、少しでも区別しやすくなっていただくことを目標とする。1.無症候性細菌尿とは無症候性細菌尿とはその名の通り、「尿路感染症の症状がないにもかかわらず細菌尿を呈している状態」である。米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America:IDSA)のガイドライン1)では105CFU/mLの細菌数が尿から検出されることが、細菌尿の条件として挙げられている(厳密にいえば、女性の場合は2回連続で検出されなければならない)。無症候性細菌尿を有している割合(表)は加齢とともに上昇し、女性の場合、閉経前は1〜5%と低値だが、閉経後は2.8〜8.6%、70歳以上に限定すると10.8〜16%、施設入所者に至っては25〜50%と非常に高値となる。男性の場合も同様で、若年の場合は極めてまれであるが、70歳以上に限定すると3.6〜19%、施設入所者では15〜50%となり、女性とほぼ同頻度となることが知られている1)。また糖尿病があると無症候性細菌尿を呈する頻度がさらに上昇するとされている。さらに膀胱留置カテーテルを使用中の場合、細菌尿を呈する割合は1日3〜5%ずつ上昇するため、1ヵ月間留置していると細菌尿はほぼ必発となることも知られている2)。表 無症候性細菌尿を有する頻度画像を拡大するつまり「何も症状はないがもともと細菌尿を有している患者」は意外と多いのである。熱源精査を行う際はこれを踏まえ、「もともと無症候性細菌尿を有していた人が何か別の感染症に罹患している」のか「膀胱刺激徴候やCVA叩打痛のない腎盂腎炎を発症している」のか毎回頭を悩ませなければならない。とくに入院中の高齢者に関しては、尿路感染症と診断されたうちの40%程度が不適切な診断だったという研究3)もあり、ここの区別は総合内科医/総合診療医の腕の見せ所といえる。2.無症候性細菌尿と尿検査結論からいうと、尿検査で無症候性細菌尿と尿路感染症を区別することはできない。「第5回:尿検体の迅速検査」に記載があるように、尿中白血球や尿中亜硝酸塩は尿中に白血球や腸内細菌が存在すれば陽性になるため、無症候性細菌尿であっても、尿路感染症であっても同じ結果になってしまうのである。亜硝酸塩が陽性とならない細菌(腸球菌など)の存在や亜硝酸塩の偽陽性(ビリルビン高値や試験紙の空気への曝露)にも注意が必要である。「膿尿もあれば無症候性細菌尿ではなく尿路感染症を疑う」という誤解も多いが、実際はそんなことはなく、たとえば糖尿病患者では無症候性細菌尿の80%で膿尿も認めていたという報告がある4)。つまり、尿路感染症ではなくとも膿尿や細菌尿を認めることがあり、それが尿路感染症の診断を難しくしているのである。高齢者の発熱で尿中白血球と尿中亜硝酸塩が陽性のため腎盂腎炎として治療開始されたが、総合内科/総合診療科入院後に偽痛風や蜂窩織炎と診断される…というパターンは比較的よく経験する。尿検査所見に飛びつき、思考停止になってしまわないように注意したい。3.無症候性細菌尿の治療の原則無症候性細菌尿の治療は原則として必要ない。抗菌薬適正使用の観点からも「かぜに抗菌薬を投与しない」の次に重要なのが「無症候性細菌尿は治療しない」であると考えられている5)。無症候性細菌尿を治療しても尿路感染症のリスクは減らすことができず、それどころか中長期的には尿路感染症のリスクが上昇するとされている6,7)。また下痢や皮疹などの副作用のリスクは当然上昇し、耐性菌の出現にも関与することが知られている1,7)。不必要どころか害になる可能性があるため、原則として無症候性細菌尿は治療しないということをぜひ覚えていただきたい。4.無症候性細菌尿の例外的な治療適応何事も原則を知ったうえで例外を知ることが大切である。この項では無症候性細菌尿でも治療すべき状況を概説する。<妊婦>妊婦が無症候性細菌尿を有する割合は2〜15%とされており8)、治療を行うことで腎盂腎炎への進展リスクや、低出生体重児のリスクが有意に低下することがわかっている9)。このため妊婦ではスクリーニングで無症候性細菌尿があった場合、例外的に治療をすべきとされている。抗菌薬は検出された菌の感受性をもとに決定すればよいが、ST合剤を避けてアモキシシリンやセファレキシンを選択するのが望ましいと考える。治療期間は4〜7日間が推奨されている1)。治療閾値は無症候性細菌尿の定義通り、尿培養から尿路感染症の起炎菌が105CFU/mL以上検出された場合となっているが、105CFU/mL未満でも治療している施設も往々にしてあると思われるためローカルルールを確認していただきたい。なお米国予防医学専門委員会(U.S. Preventive Services Task Force:USPSTF)は、妊婦の尿培養からGroup B Streptococcus(S. agalactiae)が検出された場合、S. agalactiaeの膣内定着が示唆され、胎児への感染を予防するため例外的に104CFU/mLでも治療適応としていることに注意が必要である10)。<泌尿器科処置前>厳密にいうと、「粘膜の損傷や出血を伴うような泌尿器科処置前」である。これは無症候性細菌尿の治療というより、術前の抗菌薬予防投与と考えたほうがイメージしやすいだろう。経尿道的前立腺切除術や経尿道的膀胱腫瘍切除術などの術前にスクリーニングを行い、無症候性細菌尿がある場合は術後感染症の予防のため治療が推奨されている。抗菌薬は検出された菌の感受性をもとに、できるだけ狭域なものを選択する。治療期間は術後創部感染の予防と同様に、手術の30〜60分前に初回投与し、当日で終了すればよい1)。なお膀胱鏡検査だけの場合や、膀胱がんに対するBCG注入療法のみの場合は粘膜の損傷や出血リスクが低く、感染予防効果が乏しいため無症候性細菌尿の治療は不要と考えられる1,11)。意外かもしれないが無症候性細菌尿の治療適応はこの2つだけである。厳密にいうと「腎移植直後の無症候性細菌尿の治療」などは意見が分かれるところであるが、少なくとも腎移植後2ヵ月以上経過した患者に対する無症候性細菌尿の治療効果はないとされる12)。さすがに腎移植後2ヵ月以内に患者を外来フォローすることはほぼないと思われるため、総合内科医/総合診療医が覚えておくべきなのは上述の2つだけであるといってよいだろう。5.無症候性細菌尿と尿路感染症の区別繰り返しになるが、熱源精査の過程で発見された無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別は一筋縄ではいかない。とくに後期高齢者ではもともと無症候性細菌尿を有している率が高くなり、認知症などがあれば真の尿路感染症のときでも発熱以外に症状が乏しいこともあるため、両者の区別がより一層難しくなる。区別に有用な単一の検査も存在しないため、病歴・身体所見・血液検査所見・画像所見などを組み合わせ総合的な評価を行う必要があるといえる。大切なことは尿路感染症と診断する前にほかの熱源をできるだけ否定するということである。無症候性細菌尿を治療してしまう動機としては以下13)のようなものがあげられている。(1)臨床像を考慮せず検査異常を治療するという誤った考え(2)過剰な不安や警戒心という心理的要因(3)適切な意思決定を妨げる組織文化(2)や(3)に関しては状態悪化時のバックアップ体制などにも左右されると考えられるため、個人でなく科全体や病院全体で取り組んでいかなければならないテーマだといえる。1)Nicolle LE, et al. Clin Infect Dis. 2019;68:1611-1615.2)Hooton TM, et al. Clin Infect Dis. 2010;50:625-663.3)Woodford HJ, George J. J Am Geriatr Soc. 2009;57:107-114.4)Zhanel GG, et al. Clin Infect Dis. 1995;21:316-322.5)Choosing Wisely. Infectious Diseases Society of America : Five Things Physicians and Patients Should Question. 2015.(Last reviewed 2021.)6)Zalmanovici Trestioreanu A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;4:CD009534.7)Cai T, et al. Clin Infect Dis. 55:771-777.8)Smaill FM, Vazquez JC. Cochrane Database Syst Rev. 2019;CD000490.9)Henderson JT, et al. JAMA. 2019;322:1195-1205.10)US Preventive Services Task Force. JAMA. 2019;322:1188-1194.11)Herr HW. BJU Int. 2012;110:E658-660.12)Coussement J, et al. Clin Microbiol Infect. 2021;27:398-405.13)Eyer MM, et al. J Hosp Infect. 2016;93:297-303.

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エサキセレノンは、高齢のコントロール不良高血圧患者にも有効(EXCITE-HTサブ解析)/日本循環器学会

 高血圧治療において、高齢者は食塩感受性の高さや低レニン活性などの特性から、一般的な降圧薬では血圧コントロールが難しいケースもある。『高血圧治療ガイドライン2019』では、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬が第一選択薬として推奨されているが、個々の患者に適した薬剤選択が重要である。このような背景のもと、自治医科大学の苅尾 七臣氏らの研究グループは、ARBまたはCa拮抗薬を投与されているコントロール不良の本態性高血圧患者を対象に、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のエサキセレノンと、サイアザイド系利尿薬であるトリクロルメチアジドとの降圧効果および安全性を比較する「EXCITE-HT試験」を実施した1~3)。その結果、エサキセレノンの降圧非劣性が示された。さらに、「EXCITE-HT試験」の対象者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分け、エサキセレノンの有効性と安全性を年齢別サブ解析として検証した4)。サブ解析の結果について、2025年3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会にて苅尾氏より発表された。 「EXCITE-HT試験」は、2022年12月~2023年9月に実施された多施設(54施設)無作為化非盲検並行群間比較試験である。対象者は、試験登録前に4週間以上、同一用量のARBあるいはCa拮抗薬の投与を受け、コントロール不良の20歳以上の本態性高血圧患者(早朝家庭血圧が収縮期血圧[SBP]125mmHg以上/拡張期血圧[DBP]75mmHg以上)。並存疾患として、脳血管疾患、タンパク尿陰性の慢性腎臓病(CKD)または75歳以上の患者は、SBP 135mmHg以上/DBP 85mmHg以上の患者を試験対象とした。 本サブグループ解析は、対象患者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分類した。エサキセレノン群は、電子添文に従って2.5mg/日(並存疾患を有する場合は1.25mg/日)で開始し、12週間投与した。投与量は、治療4週後または8週後に5mg/日まで患者の状態に合わせて徐々に増量可能とした。トリクロルメチアジド群は、電子添文または高血圧治療ガイドライン(推奨用量は1mg/日以下)を参考に投与を開始し、治療4週後または8週後に患者の状態に合わせて増量した。ARBあるいはCa拮抗薬は全期間を通じて一定用量で投与され、他の降圧薬の使用は禁止された。主要評価項目は、ベースラインから試験終了時までの早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量。副次的評価項目は、就寝前の家庭血圧、診察室血圧の変化量、ならびにベースラインから12週目までの尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)の変化率、およびNT-proBNP値の変化量。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインの患者特性【65歳未満の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(137例):137.9/90.2mmHg トリクロルメチアジド群(133例):136.9/90.1mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(158例):142.0/84.0mmHg トリクロルメチアジド群(157例):141.6/83.6mmHg・早朝家庭血圧は、すべてのサブグループにおいてベースラインから試験終了時までに有意に減少した。エサキセレノンはトリクロルメチアジドに対して、65歳未満では、SBPおよびDBP共に非劣性を示し、65歳以上では、SBPで優越性が認められ、DBPで非劣性を示した(非劣性マージン:SBP 3.9mmHg/DBP 2.1mmHg)。就寝前家庭血圧および診察室血圧でも同様の結果が示された。【65歳未満の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:-9.5/-5.7mmHg トリクロルメチアジド群:−8.2/−4.9mmHg 群間差:−1.3(95%信頼区間[CI]:−3.3~0.8)/−0.8(95%CI:−2.1~0.5)mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:−14.6/−7.2mmHg トリクロルメチアジド群:−11.5/−6.7mmHg 群間差:−3.0(95%CI:−4.9~−1.2)/−0.5(95%CI:−1.5~0.5)mmHg・両群でUACRおよびNT-proBNP値の有意な低下が認められた。【UACRの幾何平均による変化率】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-28.3%vs.−38.1% 65歳以上:-46.8%vs.-45.0%【NT-proBNP値の変化量】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-14.25±78.21 vs.-4.29±102.45pg/mL 65歳以上:-47.68±317.18 vs.-13.73±81.49pg/mL・有害事象の発現率および試験薬投与中止率は両群で同程度であった。 エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 有害事象:35.1%vs.37.6% 試験薬投与中止:1例(0.3%)vs.5例(1.7%)・血清カリウム値は、65歳未満および65歳以上共に、トリクロルメチアジド群と比較して、エサキセレノン群でやや高い傾向が示された。低カリウム血症の頻度は、エサキセレノン群のほうが低かった。【低カリウム血症(<3.5mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:4.4%vs.14.0% 65歳以上:1.9%vs.9.5%【高カリウム血症(≧5.0mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:2.2%vs.0.8% 65歳以上:1.9%vs.0.6% 苅尾氏は本結果について、「エサキセレノンはトリクロルメチアジドと比較して、患者の年齢に関わらず、血圧降下作用において非劣性を示し、血清カリウム値に与える影響も、年齢による違いは認められず、有効かつ安全な治療選択肢であることが示された。とくに高齢患者において、早朝家庭血圧を低下させる優れた効果が示された」と結論付けた。(ケアネット 古賀 公子)■参考文献はこちら1)Kario K, et al. J Clin Hypertens. 2023;25:861-867.2)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;47:2435-2446.3)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;48:506-518.4)Kario K, et al. Hypertens Res. 2025;48:1586-1598.そのほかのJCS2025記事はこちら

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撤回論文がメタ解析やガイドラインに及ぼす影響/BMJ

 撤回された臨床試験論文は、エビデンスの統合、臨床診療ガイドライン、エビデンスに基づく臨床診療を含むエビデンスエコシステムに大きな影響を与えることを、中国・Second Military Medical UniversityのChang Xu氏らが、前方引用検索に基づく後ろ向きコホート研究「VITALITY Study I」の結果で示した。エビデンスに基づく医療において、信頼できる意思決定は、信頼できるエビデンスエコシステムの確立に依存し、エビデンスの生成と統合はこのようなエコシステムの確立に重要な要素である。過去10年間で問題のある研究や撤回された研究の数が増加しており、科学研究のデータや結論の信頼性に対し深刻な懸念が高まっている。著者は、「エビデンスを生成、統合および利用する者はこの問題に注意する必要があり、このような潜在的な汚染(contamination)を容易に特定し是正できる実現可能なアプローチが必要である」とまとめている。BMJ誌2025年4月23日号掲載報告。Retraction Watchで撤回論文を特定、医療のエビデンスエコシステムに与える影響を検証 研究グループは、2024年11月5日にRetraction Watchデータベースを用いて何らかの理由で撤回されたヒトを対象とした無作為化比較試験を検索した。その後、Google ScholarおよびScopusを用いて前方引用検索を行い、撤回された臨床試験論文を定量的に組み込んだエビデンス統合研究(2024年11月21日時点)を特定した。 2つの研究者グループが独立してデータを抽出し、撤回された論文を除外した後にメタ解析の結果を更新した。 統合効果の方向性および/またはp値の有意性が変化したメタ解析の割合を推定するとともに、一般化線形混合モデルを用い組み入れられた研究数と影響との関連をオッズ比および95%信頼区間(CI)で示した。また、歪められたエビデンスが臨床診療ガイドラインに与える影響についても、引用文献検索に基づいて調査した。撤回論文で結論が歪められたエビデンスをガイドラインで利用 検索の結果、撤回された臨床試験論文1,330件と、それらを定量的に統合していたシステマティックレビュー847件が特定され、再現可能なメタ解析は合計3,902件であった。 クラスタリング効果を考慮した後、撤回された臨床試験論文を除外すると、統合効果の方向性の変化が8.4%(95%CI:6.8~10.1)、統計学的有意性の変化が16.0%(14.2~17.9)、方向性と有意性の両方の変化が3.9%(2.5~5.2)、効果量の50%以上の変化が15.7%(13.5~17.9)認められた。 組み入れられた研究数と結果への影響の間には明らかな非線形の相関が認められ、研究数が少ないほど影響が大きいことが示された(例:研究数が10件vs.20件以上で、方向性の変化のオッズ比は2.63[95%CI:1.29~5.38]、p<0.001)。 撤回された臨床試験論文によって結論が歪められていた68件のシステマティックレビューのエビデンスが、157のガイドラインで用いられていた。

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国内DOAC研究が色濃く反映!肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症ガイドライン改訂/日本循環器学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会の会期中に発刊され、本学術集会プログラム「ガイドラインに学ぶ2」において田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が改訂点を解説した。本稿では肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症の項について触れる。DOACの国内エビデンスの功績、ガイドラインへ反映 静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の治療には、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点が共通している。そのため、今回よりVTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起のために、「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合された。 肺血栓塞栓症(PTE)・深部静脈血栓症(DVT)のガイドライン改訂は2018年3月以来の7年ぶりで、当時は抗凝固療法におけるDOACのエビデンスが不足していたが、この7年の歳月を経て、DOACを用いたVTEの治療は飛躍的に進歩。DOAC単独での外来治療、誘因のないVTEや担がん患者の管理、長期治療などの国内の結果が明らかになり、改訂に大きく反映された。田村氏は、「本ガイドラインは、循環器専門医のみならず、呼吸器科、膠原病内科など多彩な診療科の協力の基に作成された。本領域は日本からのエビデンスが多いため、本邦独自の診断・治療アルゴリズムと推奨を検討した」とコメントした。VTE予後予測、PESIスコアや誘因因子評価を推奨 四肢の深筋膜より深部を走行する深部静脈に生じた血栓症を示すDVTと深部静脈血栓が遊離し肺動脈へ流入することで発症するPTEを、一連の疾患群と捉えてVTEと総称する。これらの予後に関しては推奨表2「VTEの予後に関する推奨とエビデンスレベル」(p.20)に示され、とくに急性期PTEでは治療方針の検討のために、近年普及している肺塞栓症重症度指数(PESI)ならびにsPESIを用いた患者層別化が推奨された(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。また、国内の観察研究JAVA(Japan VTE Treatment Registry)やCOMMAND VTE Registryに基づくVTE再発予後についてもガイドライン内に示されている(p.21-22)。前者の研究によると、ワルファリン治療中のVTE再発率は2.8例/100患者・年であったが、治療終了後には8.1例/100患者・年に増加したという。そして、後者の研究からは、VTE診断後1年時点での再発率は、一過性の誘因のある患者群では4.6%、誘因のない患者群では3.1%、活動性のがんの患者群では11.8%であることが明らかになった。PTE診断と治療、判断に悩む中リスク群を拾えるように 急性PTEの診断については、「低血圧やショックがみられる場合には早期にヘパリン投与を考慮する、検査前臨床的確率を推定する際にWellsスコアあるいはジュネーブスコアを用いる、ルールアウトにはDダイマー測定を行う、最終的な確定診断にゴールドスタンダードの造影CT検査/緊急時の心エコー評価、ECMO導入後診断は肺動脈造影も考慮する(p.32)」と述べた。重症度別治療戦略については、前ガイドラインで曖昧であった2つの指標を挙げ、「右心機能不全では(1)右室/左室比が0.9 or 1.0以上、(2)右室自由壁運動低下、(3)三尖弁逆流血流速上昇を、心臓バイオマーカーについてはトロポニンI/TやBNP/NT-proBNPの評価を明確化したことで、判断が難しい中リスク群における血栓溶解療法と抗凝固療法との切り分けができるフローを作成した(p.36)」と解説。治療開始後の血栓溶解療法に関する推奨においては、「循環動態の悪化徴候がみられた場合には、血栓溶解療法を考慮する」点が追記(p.39)されたことにも触れた。 PTEの治療については、DOAC3剤の大規模臨床試験によるエビデンスが多数そろったことでDOACによるVTE治療は推奨クラスI、エビデンスレベルAが示され(p.40)、「低リスク群で“入院理由がない、家族や社会的サポートがある、医療機関の受診が容易である”といった条件がそろえば、DOACによる外来治療も可能となったことも非常に大きな改訂点」と説明した。DVT治療、中枢型と末梢型でアプローチに違い DVTにおいてもPTE同様に検査前臨床的確率の推定や下肢静脈超音波検査/造影CT検査を実施するが、今回の改訂ポイントは「中枢性・末梢性で治療アプローチが異なる点を明確に定義した」ことだと同氏は説明。「中枢性DVTの場合は初期(0~7日)または維持治療期(8日~3ヵ月)に関しては、PTE同様にワルファリンとDOACの使用とともに、すべての中枢性DVTに対して、抗凝固薬の禁忌や継続困難な出血がない場合には少なくとも3ヵ月の抗凝固療法を行うことが推奨されている(いずれも推奨クラスI、エビデンスレベルA、p.47)。一方で、末梢型DVTにおいては、「画一的な抗凝固療法を推奨するものではなく、症候性で治療を行う場合には3ヵ月までの治療を原則とし、無症候性でも活動性がん合併の患者においてはリスクベネフィットを考慮しながらの抗凝固療法が推奨される(推奨クラスIIb、エビデンスレベルB)」と説明した。カテ治療、血栓溶解薬併用と非併用に大別 急性PTEに対するカテーテル治療は、末梢でのコントロールが難渋する例、国内でのデバイスラグなども考慮したうえで、血栓溶解薬併用と非併用に大別している。非併用について、「全身血栓溶解療法が禁忌、無効あるいは抗凝固療法禁忌の高リスクPTEに対し、熟練した術者、専門施設にて血栓溶解薬非併用カテーテル治療を行うことを考慮する。また、抗凝固療法により病態が悪化し、全身血栓溶解療法が禁忌の中リスク急性PTEに対し、熟練した術者、専門施設にて血栓溶解薬非併用カテーテル治療を行うことを考慮する(いずれも推奨クラスIIa、エビデンスレベルC)」と示されている。 このほか、冒頭で触れた慢性疾患への移行については「慢性期疾患患者が急性期VTEを発症することもあるが、PTEが血栓後症候群(PTS)へ、DVTがPTS(血栓後症候群)へ移行するリスクを念頭に治療を行い、発症3~6ヵ月後の評価の必要性を提示していること(推奨表3、p.22)が示された。またCOVID-19での血栓症として、中等症I以下では画一的な抗凝固療法は推奨しない(推奨表1:推奨クラスIII[No benefit]、エビデンスレベルB)ことについて触れた。 最後に同氏は「誘因のないVTEや持続性の誘因によるVTEに対する抗凝固療法の長期投与の際に、未承認ではあるが長期的なリスクベネフィットを考慮したDOACの減量投与などを、今後の課題として検討していきたい」とコメントした。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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第261回 ほぼほぼ生き残り確定の零売薬局(後編) 憲法違反の指摘や「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」導入の提案など零売規制への反対相次ぐ

衆議院厚生委員会の附帯決議で法律の方針が180度転換こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。前回、久しぶりに零売について書いたので、以前利用した零売薬局を久しぶりに訪れてみました(「第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)」参照)。以前と同様、腰痛用にロコアテープを購入、ついでに「零売薬局が規制でなくなる、と聞いたのですが?」と店頭の薬剤師(女性)に聞いてみました。すると、「そういう話は我々も聞いていますが、法律やルールに則ってやっていますので、なくならないと思います。実際、ニーズも高く都内の店舗もここ数年で増やしていますし」との答え。国会での細かな議論については知らないようでしたが、最前線の薬剤師に規制への危機感は感じられませんでした。さて、厚生労働省が今回の薬機法等改正法案で「原則禁止」にしようと目論んでいた零売が、衆議院厚生委員会において「セルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないよう」「国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう」といった附帯決議が採択されたことで法律の方針が180度転換、生き残りに向けて光が見えてきました。その背景にはいったい何があったのでしょうか。「法改正が将来にわたり違憲のそしりを受けないか慎重に審議すべき」と立民議員まず考えられるのは「憲法違反」の可能性です。前回書いたように、今年1月、零売規制が薬剤師の権利を侵害するなどとして、薬剤師らが国を相手取り訴訟を起こしました。原告の薬剤師の一人は記者会見で、裁判で「これまで国から出された通知には法的根拠がないことの確認を求める。さらに、零売の規制は憲法上の『職業選択の自由』や『表現の自由』を侵害し、国民の医薬品アクセスも阻害するものと主張」するとしていました。担当弁護士も「当該改正法が憲法違反に該当すると考える余地がある」と説明しました。また、4月11日付の薬事日報によれば、4月9日の衆院厚労委員会において立憲民主党の早稲田 夕季議員は、零売は「緊急時の手段として非常に有益で、法制化してまで対処する必要があるのか疑問」と訴えるとともに、零売に関する行政訴訟を5月に控えていることを踏まえ、「法改正が将来にわたり違憲のそしりを受けないか慎重に審議すべき」と話したそうです。こうした意見に対して、福岡 資麿厚生労働相は「緊急時等のやむを得ない場合に薬剤師と相談した上で、必要最小量の数量を販売する本来の趣旨に則って経営している薬局はこれまで通り継続できる。必要最小限かつ合理的な規制措置で行っていきたい」、「施行に向けて関係者の意見を聞きながら、省令やガイドライン等の策定により周知を図りたい」、「零売は国民の緊急時に医薬品へのアクセスを確保するために必要な制度だ。改正法が成立した際にはこの考えのもとで運用し、求められる対応も分かりやすい形で示したい」などと答えたとのことです。法案提出時の「原則禁止」の“勢い”が完全に削がれた答弁と言えます。うがった見方をすれば、法案提出後に内閣法制局に再確認して、「憲法違反」の可能性を指摘されたのかもしれません。厚労省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、いわゆる零売を公式に認めたのは2005年厚労省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、いわゆる零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。それ以前は法令上での明確な規定がなく、一部薬局では医療用医薬品の販売がごく普通に行われていました。零売を容認するきっかけとなったのが2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出しました。同年3月30日の厚労省から発出された「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号 厚生労働省医薬食品局長通知)は、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は、「処方せんに基づく薬剤の交付を原則」とするものであるが、「一般用医薬品」の販売による対応を考慮したにもかかわらず、「やむを得ず販売せざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で」、薬剤師が患者に対面販売できるとしました。零売に当たっては、1)必要最小限の数量に限定、2)調剤室での保管と分割、3)販売記録の作成、4)薬歴管理の実施、5)薬剤師による対面販売――の順守も求められることになりました。2005年4月施行の薬事法改正は、処方箋医薬品の零売を防ぐことも目的の一つでした。それまでの「要指示医薬品」と、全ての注射剤、麻薬、向精神薬など、医療用医薬の約半分以上が新たに「処方箋医薬品」に分類されたわけですが、逆に使用経験が豊富だったり副作用リスクが少なかったりなど、比較的安全性が高い残りの医薬品が「処方箋医薬品以外の医薬品」(ただし原則処方箋必要)に分類され、零売可能となったわけです。現在、日本で使われる医療用医薬品は約1万5,000種類あり、このうち半分の約7,500種類は処方箋なしでの零売が認められています。鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、便秘薬、ステロイド塗布剤、水虫薬など、コモンディジーズの薬剤が中心で、抗生剤や注射剤はありません。また、比較的新しい、薬効が強めの薬剤も含まれません(H2ブロッカーはあるがPPIはない等)。その後、通知によって不適切な広告・販売等で零売を行う薬局を牽制2005年の通知の内容は2014年3月18日に厚労省から発出された「薬局医薬品の取扱いについて」(薬食発0318第4号 厚生労働省医薬食品局長通知)に引き継がれました。しかし、本通知の趣旨を逸脱した不適切な広告・販売方法が散見されるとして、2022年8月5日、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号 厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)が発出され、「処方箋がなくても買える」、「病院や診療所に行かなくても買える」といった不適切な広告・販売方法等で零売を行う薬局を問題視、牽制してきました。その延長線にあるのが今回の薬機法等改正案というわけです。とはいうものの、そもそも明確な法規制がなく、昔から“既得権”として行われ、薬の販売方法として一定の役割を担っていた零売を、原則禁止としてしまうのは無理があるように感じます。厚労省もそのことは重々わかっていたからこそ、これまで法律ではなく通知による“緩い”コントロールに留めてきたのでしょう。重大な健康被害があったわけでもないのに、法規制は明らかに“行き過ぎ”の感は否めません。今年に入って零売規制への批判高まる零売生き残りの光が見えてきたもう一つの背景として考えられるのは、マスコミなど世間からの批判の声です。薬機法等改正案が国会に提出される直前の2月5日、日本総研は調査部主任研究員の成瀬 道紀氏によるレポート「零売規制の妥当性を問う」を公表しました。同レポートは、「零売は、病院や診療所を受診せずとも処方箋医薬品以外の医療用医薬品を入手でき、患者にとって利点がある。とりわけ、処方箋医薬品以外の医療用医薬品は、OTC医薬品(市販薬)よりも費用対効果が高い製品が多い」とそのメリットを説く一方、「零売は販売時に医師の関与がないため、薬剤師による患者指導が不十分な場合は、患者の健康に悪影響を与え得る懸念が指摘されている」と問題点にも言及、その上で、「今求められるのは、第1に、薬剤師の職能の尊重である。もちろん、薬剤師自身が自己変革に取り組む努力も不可欠である。第2に、医療用医薬品というわが国特有の区分を廃止してダブルスタンダードを解消し、処方箋医薬品以外の医薬品はOTC医薬品として薬局で薬剤師が堂々と販売できるようにすることである」と提言しました。ちなみに、日本総研の成瀬氏は3月13日に開かれた参議院予算委員会公聴会に公述人として出席、「零売の原則禁止は改正案から削除すべき項目であり、改正すべきは関連通知」と述べています。「零売という言葉は明治時代には存在し、当時は薬局間での薬の売買の方法だった」3月17日付の日本経済新聞朝刊も、「自分の病は自分でも診よう」と題する大林 尚編集委員の記事を掲載、処方箋医薬品以外の医療用医薬品(いわゆる現在、零売可能な医薬品)について、「7千種類の類似薬は原則、処方箋不要にしてOTC薬にひっくるめる」という成瀬氏の改革案を紹介しています。それによって、「患者は安くて効き目のよい薬を身近に入手できる。これは、類似薬を健康保険の適用から外す保険制度改革と表裏の関係にある。最大の効用は年間1兆円の保険医療費の節約だ。医師はその資格にふさわしい病の治療に専念し、患者は処方箋目的の『お薬受診』をやめる。医療機関に入る初診・再診料や処方箋料、また調剤薬局に取られる技術料のムダも省ける」と書くとともに、「ところが厚労省は供給側重視を鮮明にしている。類似薬に処方箋を求める規制について行政指導から法で縛る制度への格上げをもくろみ、今国会に関連法案を出した。与野党を問わず、政治家がこの規制強化の不合理さを主体的に理解すれば法案修正は可能である。硬い岩盤をうがつべく、立法府の力をみせてほしい」と、零売規制が時代に逆行した政策だと指摘しています。さらにAERA DIGITALも3月20日、「『零売薬局』なら処方箋ナシで『病院の薬』が買える ニーズがあるのになぜ『規制強化』が進むのか」と題する記事を配信しています。同記事は零売が規制強化に向かう現状をリポートするとともに、「零売という言葉は明治時代には存在し、当時は薬局間での薬の売買の方法だった」という歴史についても言及、金城学院大薬学部の大嶋 耐之教授の「昔の薬剤師は、街のお医者さん的な存在で、薬だけではなく病気や健康に関するさまざまな相談を聞いてアドバイスをしてくれた。利用者のセルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち、軽度な不調は自分で手当てすること)にも貢献していたんです。そうした関係が成り立っているなら、零売は『患者にとって良いこと』とも言えると思います」というコメントを紹介、「規制強化の動きの一方で、零売のメリットを訴える声もある。▽医療費削減につながる▽病院で処方される薬より安い場合があり、経済的負担が軽減する▽どうしても医療機関に行けないときに助けてもらえる、など」と零売擁護を訴えています。日本総研は「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」を提案こう見てくると、零売規制は、単に「薬局に処方箋医薬品以外の医療用医薬品を売らせるかどうか」という単純な問題ではなく、医師や薬剤師の役割分担、国民のセルフメディケーションの意識改革、無駄な医療費削減等にも関わる大きな問題だということがわかります。ことは、OTC類似薬の保険適用外しとも関連してきます。前述したように日本総研の成瀬氏は、レポート「零売規制の妥当性を問う」で医療用医薬品という日本特有の区分を廃止し、処方箋医薬品以外はOTC医薬品とする諸外国と同様のシンプルな制度とすることを提案、「医療用医薬品という区分が廃止され、ダブルスタンダードが解消されれば、零売という概念そのものがなくなる」と書いています。もっとも、それが実現した時に重要な役割を担うはずの薬剤師の団体、日本薬剤師会自体は薬機法等改正法案に賛成し、零売にも否定的で弱腰な点が気になりますが……。「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」は一見大胆なようですが、とても理にかなった提案だと思います。薬機法等改正案成立後の政省令や通知類、そして社会保障改革に関する自民党、公明党、日本維新の会の3党協議で検討が進められるOTC類似薬の保険外しなど(「第253回 石破首相・高額療養費に対する答弁大炎上で、制度見直しの“見直し”検討へ……。いよいよ始まる医療費大削減に向けたロシアン・ルーレット」参照)、医薬品を巡る今後の議論の行方に注目したいと思います。

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AYA世代がん治療後の妊孕性予測モデル構築に向け、クラウドファンディング実施/大阪急性期・総合医療センター

 「小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2024年12月改訂 第2版」の外部評価委員を務めた森重 健一郎氏(大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター生殖医療センター長)が、AYA世代の妊孕性予測ツールを開発する目的でクラウドファンディングを開始しており、5月16日まで寄付を募集している。AYA世代への妊孕性介入の課題 現在、国が進める「第4期がん対策推進基本計画」では目標3本柱として、1)がん予防、2)がん医療、3)がんとの共生を掲げており、2)がん医療のがん医療提供体制において妊孕性温存療法の対策の推進が触れられている。厚生労働省の「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」1)に携わる森重氏は、「がん医療の進歩により、AYA世代(思春期・若年成人、15~39歳)のがんサバイバー数は増加傾向にある。一方で、AYA世代の患者やその家族には、治療開始のタイミングで卵子の温存までは考えが及ばないことが多いため、医療者による妊孕性温存法の選択に関する情報提供が求められる。彼女らの将来の選択肢を残すためにも、AYA世代の罹患率が高い乳がん、造血器腫瘍、希少がんを扱う医療者への周知はもちろんだが、高齢化が進んだ地方ではAYA世代のがん患者への対応が不十分なところもあり、格差の解消が必要」とコメント。妊孕性温存法には患者の環境や年代に応じて3つの選択肢(胚[受精卵]凍結、未受精卵子凍結、卵巣組織凍結)があり、2021年4月より補助制度1)がスタートしている。生殖医療の対象要件をバイオマーカーで解決させたい この補助制度における対象者の選定については、ガイドライン第2版の内容が反映されているが、そこにはエビデンス不足による課題が残っていると同氏は話した。「米国臨床腫瘍学会や欧州臨床腫瘍学会のガイドラインに基づいて、国内のガイドライン第2版でも女性患者の場合“無月経の発生をもとに卵巣機能不全”と定義して対象患者の選定基準を設けているが、この根拠は薄弱で評価方法については検討の余地がある。対象患者の要件をより適正にするためには、卵巣機能低下を正確な指標で評価する必要がある」と述べ、「そこで、妊孕性の正確なパラメータとして有用とされる抗ミュラー管ホルモン(AMH)*を用いた前向きコホート研究を行い、そのための寄付を募集している」とクラウドファンディングを始めた経緯を説明した。研究実施体制としては、大阪府のみならず、全国のがん診療連携拠点病院やがん患者妊孕性温存治療費助成事業指定病院に協力を仰ぎ、森重氏らが研究統括として、データ管理や解析を担っている。*現在、既婚・パートナーがいる不妊症患者については保険適用だが、未婚のAYA世代には保険適用外。 クラウドファンディングで得られる寄付金は検査費用、データ分析や予測モデルの作成、Webツール開発などの費用の一部に充てる予定で、「AYA世代のがん患者さんが将来の赤ちゃんを諦めずに済むよう、妊孕性について十分納得してがん治療に取り組むことができるような社会創生のために研究を行っている。1人でも多くの方々にプロジェクトの意義を知ってもらい、参加いただきたい」と話した。【プロジェクト概要】・目標金額:650万円・募集期間:5月16日(金)午後11時まで・プロジェクトの目的:AYA世代女性がん患者の治療後の卵巣機能評価に関する前向きコホート研究を実施し、AMH、FSH(卵胞刺激ホルモン)、月経の有無などから判断される卵巣機能不全の予測モデルを構築し、補助医療の対象者の適正化などを図る・寄付金の使途:AMH/FSH/胞状卵胞数測定費用、データ分析、予測モデルの作成、Webツールの開発の費用、クラウドファンディング手数料など

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日本と海外の診療ガイドライン比較を効率化するプロンプト【誰でも使えるChatGPT】第3回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。前回は、ChatGPTを「病態把握と鑑別診断」のブレーンストーミング・パートナーとして活用するプロンプトをご紹介しました。患者さんの症状から考えられる疾患をリストアップさせ、見落としを防ぐ一助とする使い方でしたが、診断プロセスを検討する際のお役に立てたでしょうか。さて、シリーズ第3回となる今回は、診断後の「治療方針決定」に関わる場面での活用法です。とくに「日本と海外の診療ガイドラインの違い」を、効率的に把握するためのプロンプトをご紹介します。ご存じのとおり、多くの疾患には国内外で作成された診療ガイドラインが存在します。日本のガイドラインは、国内の保険制度や医療実態、日本人におけるエビデンスに基づいて最適化されていますが、一方で、海外のガイドライン、とくに欧米のものは、新薬の承認状況や治療アルゴリズムの考え方に違いが見られることがあります。最新の国際的な治療動向を把握し、自らの診療の参考にしたり、患者さんへの説明に役立てたりするためには、これらのガイドラインを比較検討することが非常に有益です。しかし、複数の言語で書かれた長大なガイドラインを読み込み、比較点を抽出するのは、多忙な日常診療の中ではなかなか骨の折れる作業ですよね。そこで役立つのが、今回のプロンプトです。関連サイトChatGPT(疾患名)における日本と海外(例:米国、欧州など)の診療ガイドラインを比較し、とくに治療法の推奨に関する主な相違点を解説してください。ここで(疾患名)には、比較したい具体的な疾患名、たとえば「アトピー性皮膚炎」や「尋常性乾癬」などを入力します。必要であれば、比較対象にしたい海外の地域(米国皮膚科学会[AAD]、欧州皮膚科学性病学会[EADV]など)を指定すると、より的確な情報が得られやすくなります。アトピー性皮膚炎における日本皮膚科学会の診療ガイドラインと、欧州皮膚科フォーラム(European Dermatology Forum)のガイドライン(またはAADガイドライン)を比較し、とくに中等症~重症例に対する全身療法の推奨(生物学的製剤やJAK阻害薬の位置付けなど)に関する主な相違点を簡潔に解説してください。ChatGPTからの回答例以下に、日本皮膚科学会(JDA)診療ガイドライン(2021年改訂)と、欧州皮膚科フォーラム(EDF 2022)および米国皮膚科学会(AAD 2023)の中等症~重症アトピー性皮膚炎に対する全身療法の位置付けを比較し、主な相違点を簡潔にまとめます。◆比較の焦点:中等症〜重症アトピー性皮膚炎の全身療法(生物学的製剤・JAK阻害薬)画像を拡大する◆解説・まとめ日本(JDA)は依然としてシクロスポリンを中心にした従来の免疫抑制薬を重視しつつ、デュピルマブやJAK阻害薬は新たな選択肢として位置付ける慎重な姿勢が見られます。欧州(EDF)はdupilumabを最も標準的な治療と認識しており、JAK阻害薬は代替的選択肢にとどまります。米国(AAD)はdupilumabとJAK阻害薬の両方を初回治療の選択肢としており、より柔軟な治療戦略を示しています。ご要望があれば、それぞれのガイドラインの具体的な記述や推奨グレードもご紹介いたします。その際は、お知らせください。このように、ChatGPTに尋ねることで、膨大なガイドラインの中から比較すべきポイントや主な違いを短時間でリストアップさせることが可能です。これにより、「どこに注目して原文を読み込むべきか」という当たりをつけることができます。ただし、今回も重要な注意点があります。1.情報の鮮度と正確性ChatGPTが参照しているガイドラインのバージョンが最新であるとは限りません。必ず、回答で示されたガイドライン名や発行年を確認し、必要であれば最新版の原文を参照してください。2.最終判断は医師自身でAIが示す比較・解説はあくまで「要約」や「たたき台」です。治療方針の最終決定は、必ず一次情報であるガイドライン本文や関連論文を確認し、個々の患者さんの状況に合わせて医師自身が行う必要があります。3.解釈のニュアンスガイドラインの推奨度(強く推奨、条件付き推奨など)の微妙なニュアンスは、AIの要約だけではつかみきれない場合があります。重要な判断に関わる場合は、原文での確認が不可欠です。このプロンプトは、国際的な標準治療や最新の考え方を効率的にキャッチアップし、日々の診療に深みを持たせるための「情報収集アシスタント」として活用できるでしょう。次回は、患者さんへの説明資料作成をサポートするプロンプトなど、また別の角度からの活用法をご紹介できればと考えています。どうぞお楽しみに。

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健康長寿を目指すなら、この食事がベスト

 高齢になっても健康を維持するためには、中年期にどのような食生活を送れば良いのだろうか。10万5,000人を超える男女を最長で30年間にわたって追跡し、8つのパターンの食事法について調べた研究からは、代替健康食指数(Alternative Healthy Eating Index;AHEI)が明確に優れていることが示された。コペンハーゲン大学(デンマーク)公衆衛生学准教授で、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の栄養学客員准教授でもあるMarta Guasch-Ferre氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に3月24日掲載された。 AHEIは2002年に、米国農務省(USDA)による米国の食事ガイドラインの遵守度の指標である健康食指数(Healthy Eating Index;HEI)の代替指標として、ハーバード大学の研究者らにより作成された。ハーバード大学によると、HEIとAHEIは似ているが、AHEIの方が慢性疾患のリスクを軽減することにより重点を置いた指標になっているという。AHEIの高い食事とは、果物や野菜、全粒穀物、ナッツ類、豆類、健康的な脂肪を豊富に摂取し、赤肉や加工肉、加糖飲料、塩分、精製穀物の摂取は控えた食事である。 今回の研究では、医療従事者を対象にした2つの長期研究(Nurses’ Health Study、Health Professionals Follow-Up Study)参加者(10万5,015人)が定期的に記入している、食事に関する質問票のデータを分析し、8種類の食事パターンへの遵守度が点数化された。8種類の食事パターンとは、1)AHEI、2)代替地中海食指数(Alternative Mediterranean Index;aMED)、3)DASH食(高血圧予防食)、4)MIND食(地中海食とDASH食を組み合わせた神経変性を遅らせるための食事)、5)健康的な植物性食品ベースの食事指数(Healthful Plant-Based Diet Index;hPDI)、6)プラネタリーヘルスダイエット指数(Planetary Health Diet Index;PHDI)、7)経験的炎症性食事パターン(Empirically Dietary Inflammatory Pattern;EDIP)、8)高インスリン血症のための経験的食事指標(Empirical Dietary Index for Hyperinsulinemia;EDIH)である。 論文の共著者であるハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のFrank Hu氏は、本研究について、「これまでの研究では、特定の疾患や寿命の観点から食事パターンの調査が行われてきた。これに対し、今回の研究では、『自立した生活や良好な生活の質(QOL)を保つ能力に食事がどのような影響を与えるのか』という疑問について、多面的な観点から検討した」と説明している。 30年間の追跡期間中、全参加者の9,771人(9.3%)が健康的に年を重ねていた。解析からは、全ての食事パターンにおいて、遵守度の高かった人は低かった人に比べて、70歳まで健康的に年を重ねているオッズが有意に高いことが明らかになった。その中でも、特に関連が強かったのはAHEIで、オッズ比は1.86(95%信頼区間1.71〜2.01)と算出された。年齢を75歳まで引き上げた場合でも、AHEI遵守度の高い人は低い人に比べて健康的に年を重ねているオッズが有意に高かった(オッズ比2.24、2.01〜2.50)。 Guasch-Ferre氏は、「この研究結果は、植物性食品が豊富で健康的な動物性食品も適度に取り入れた食事パターンが、全般的なヘルシーエイジング(健康的な加齢)を促す可能性があることを示している。また、今後の食事ガイドラインのあり方を検討する上でも、この研究結果が役立つ可能性がある」との見解をハーバード大学のニュースリリースで示している。 一方、論文の筆頭著者でモントリオール大学(カナダ)栄養学分野のAnne-Julie Tessier氏は、「今回の研究結果は、全ての人に適した食事療法は存在しないことを示している。健康的な食事は、個人のニーズや嗜好に合わせることができる」と同大学のニュースリリースの中で述べている。

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