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遠隔血行動態モニタリングシステムは心不全患者のEFに関係なく入院を減少させ、QOLを改善する(解説:原田和昌氏)

 心不全患者のセルフケアは大きな問題である。心不全は高齢化の進行により増加し、多くの医療資源を必要とする。そのため、専門看護師が頻回に患者に電話連絡したり、心不全患者の各種パラメータを遠隔モニタリングしたりすることで、心不全の入院を防止したり、QOLを改善したり、死亡率を低下させたりすることが可能であるかという検討が以前より行われてきた。 遠隔モニタリングは何をモニタリングするか、侵襲的か非侵襲的か、どういったシステム構築でだれがモニタリングするか、警告値が出たときのアルゴリズムはどうするか、さらには警告値を見逃したり、発見が遅れたときの免責などが問題になる。したがって、遠隔モニタリング群がシステムとして、対照群よりも優れていることが臨床試験で証明されてガイドラインにて推奨され、各国の医療システムの償還の枠組みに載る、という手順を踏むことが必要となる。 肺動脈圧を持続的にモニタリングする遠隔血行動態モニタリングを用いたランダム化試験は、これまでにCHAMPION試験とGUIDE-HF試験の2つがある。前者は心不全入院歴のあるNYHAIII度の550例(EFは問わない)をランダム化し、6ヵ月で28%の入院の減少を得た。一方、後者は心不全入院歴のあるNT-proBNPが上昇したNYHAII~IV度の1,000例をランダム化したものであるが、HFrEF患者が中心であったとかCOVID-19などの関係もあり、はっきりした有効性を示すことができなかった。 MONITOR-HF試験は、オランダの25の施設が参加した非盲検無作為化試験であり、心不全入院歴のあるNYHAIII度の慢性心不全患者(EFは問わない)が、ARNIやSGLT2阻害薬を含む標準治療に加えて血行動態モニタリング(CardioMEMS-HFシステム、Abbott Laboratories)を行う群、または標準治療のみを受ける群(対照群)に無作為に割り付けられた。遠隔血行動態モニタリングは、QOLの実質的な改善をもたらし、心不全による入院を減少させた。 心不全の急性増悪は、臨床的うっ血すなわち徴候と症状の悪化の結果起こるが、徴候と症状が出現する前に血行動態的うっ血が出現すると考えられる。CardioMEMS-HFシステムはセンサーを肺動脈内に侵襲的に留置するシステムで、肺動脈圧を持続的にモニタリングすることで血行動態的うっ血を検出し、投薬量(主に利尿薬)の微調整によって心不全患者のうっ血状態の調整を行う。大事なのは、容量過多のときは利尿薬を増量するが、容量減少のときは利尿薬を減量する指示を適切に出すことである。さまざまな侵襲的、非侵襲的モニタリングシステムが開発されているが、最低でも利尿薬の微調整(増減)が可能な程度のクォリティが必要となる。 患者が間欠的にクイーンサイズ枕大の測定機器に寝転ぶと、測定された肺動脈圧が医療者のWEB画面に送信される。このデータを見て、投薬量の調整を患者に電話で指示するという仕組みである。論文には、「Clelandらによると、心不全を極めるにはうっ血を極めることである」とあるが、数多くの患者のWEB画面に対応する必要のある医療者の対応は、おそらくある程度決まったアルゴリズムに従うことになるであろう。 この研究は、今の時代において心不全診療における病院システムの負担を減らすためにもっと積極的にe-health、デジタル技術、遠隔モニタリングを活用することが必要であることを示すものである。しかし、どういったシステム構築でだれがモニタリングするか、異常値が出たときの指示のアルゴリズム、異常値を見逃したり、発見が遅れたときの法的問題などが、各国の医療システムに適応する際の共通の課題であると考えられる。

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患者・市民のための膵がん診療ガイド 2023年版

膵がん診療のやさしい解説書、3年ぶりの改訂!膵がん患者さんとそのご家族に常に寄り添い、強力にサポートできる書籍となるよう、膵がん診療に携わる先生方、患者団体・市民の代表の方々によって全面的に改訂されました。遺伝子・バイオマーカーなど、膵がん診療における最新情報、便利な用語集・薬剤一覧を盛り込んで全体の構成を一新。診断直後や治療中など、さまざまな場面で生じる疑問にお答えしています。膵がんを正しく知る・理解するのに最適の1冊です!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    患者・市民のための膵がん診療ガイド 2023年版 第4版定価2,640円(税込)判型B5判頁数264頁・カラー図数:48枚発行2023年5月編集日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会電子版でご購入の場合はこちら

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TTP診療ガイド2023改訂のポイント~Minds方式の診療ガイドラインを視野に

「血液凝固異常症等に関する研究班」TTPグループの専門家によるコンセンサスとして2017年に作成され、2020年に部分改訂された、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診療ガイドライン、『血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド2023』が7月に公開された。2023年版では、Minds方式の診療ガイドラインを視野に、リツキシマブに対してclinical question(CQ)が設定され、エビデンスや推奨が掲載された。主な改訂ポイント・リツキシマブの推奨内容の追加・変更とCQの掲載・カプラシズマブが後天性TTP治療の第一選択に・抗血小板薬、FFP輸注に関する記述を追加・FrenchスコアとPLASMICスコアに関する記述を追加・増悪因子に関する記述を追加リツキシマブを後天性TTPの急性期、寛解期にも推奨 難治例を中心に広く使用されているリツキシマブであるが、2023年版では、後天性TTPの急性期に投与を考慮しても良い(保険適用外、推奨度2B)としている。ただし、とくに初回投与時のインフュージョンリアクションに注意が必要としている。また、難治例、早期再発例(推奨度1B)や寛解期(保険適用外)でのリツキシマブ使用についての記載も追加された。再発・難治例では、治療の効果と安全性が確認されており、国内で保険適用もあることから推奨するとし、後天性TTPの寛解期では、ADAMTS13活性が10%未満に著減した場合、再発予防にリツキシマブの投与を検討しても良いとした。リツキシマブの使用に関するCQを掲載 上述のとおり、2023年版ではリツキシマブの使用に関する記載が大幅に追加されたが、さらに巻末には、リツキシマブの急性期、難治例・早期再発例、寛解期における使用に関するCQも掲載されている。これらのCQに対するAnswerおよび解説を作成するに当たり、エビデンス収集のため、2022年1月7日時点で過去10年間にPubMedに登録されたTTPに関するリツキシマブの英語論文の精査が行われた。各CQに対する解説では、国際血栓止血学会TTPガイドライン2020などのガイドラインや臨床試験、システマティックレビュー、症例報告の有効性に関する報告を詳細に紹介したうえで、各CQに対し以下のAnswerを記載している。・後天性TTPの急性期に、リツキシマブ投与を考慮しても良い(推奨度2B)(保険適用外)・後天性TTPの再発・難治例にリツキシマブ投与を推奨する(推奨度1B)・後天性TTPの寛解期にADAMTS13活性が10%未満に著減した場合、再発予防にリツキシマブの投与を検討しても良い(推奨度2B)(保険適用外)カプラシズマブが後天性TTP治療の第一選択として記載 2023年版では、カプラシズマブが2022年9月に日本でも販売承認されたことが報告された。本ガイドでは、カプラシズマブを推奨度1Aの後天性TTP急性期の治療としている。投与30日以降もADAMTS13活性が10%を超えない場合は、追加で28日間継続可能であること、ADAMTS13活性著減を確認する前に開始可能であるが、活性が10%以上でTTPが否定された場合は速やかに中止すべきであることが述べられている。その他の治療に関する改訂ポイント(抗血小板薬、FFP輸注) 急性期の治療として用いられる抗血小板薬(推奨度2B)については、血小板とvon Willebrand因子(VWF)を中心とした血小板血栓によってTTPが発症することからTTP治療に有効である可能性があるとしたが、急性期での使用により出血症状が認められたとの報告、チクロピジンやクロピドグレルの使用はTTP患者では避けられていること、アスピリンとカプラシズマブの併用は出血症状を助長する可能性があり避けるべきである等の内容が加えられた。先天性TTPの治療へのFFP輸注の使用(推奨度1B)の記載についても追加がなされた。国際血栓止血学会のTTPガイドラィンで推奨する用量(10~15mL/kg、1~3週ごと)は日本人には量が多く困難な場合があることや、長期的な臓器障害の予防に必要なFFPの量は現状では明らかではない等の内容が加えられた。TTPの診断に関する改訂ポイント ADAMTS13検査やインヒビター検査は結果が得られるまで時間がかかり、TTP治療の早期開始の妨げになっている。そこで、2023年版では、ADAMTS13活性著減の予想に用いられる、FrenchスコアとPLASMICスコアに関する記述が追加された。これら2つのスコアリングシステムについて、ADAMTS13活性著減を予測するが、血栓性微小血管症(TMA)が疑われる症例においてのみ用いられるべきことを明示した。増悪因子に関する記述を追加 2023年版では、TTP発作を誘発する因子についての項目が加えられた。増悪因子として、出生直後の動脈管の開存、ウイルス/細菌感染症、妊娠およびアルコール多飲などが知られており、妊娠期にはFFP定期輸注を行うことが、妊娠管理に不可欠と考えられるとした。

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ASCO2023 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介ここ数年、ASCO annual conferenceにおいて高齢がん患者に関するpivotal trialが次々と発表され、老年腫瘍の領域を大いに盛り上げている。これに伴い、高齢者機能評価(Geriatric Assessment)という用語が市民権を得てきたように感じる。今年のASCOでは、高齢者機能評価を単に実施するのではなく、その結果をどのように使うべきかを問うような試験が多かったように思う。その中から、興味深い研究を抜粋して紹介する。『高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療』の費用対効果分析(THE 5C STUDYの副次的解析: #120121))THE 5C STUDYは、ASCO 2021 annual conferenceで発表されたランダム化比較試験である2)。70歳以上の高齢がん患者を対象として、標準診療である「通常の診療(Standard of Care:SOC)」と比較して、試験診療である「高齢者機能評価を実施し、通常の腫瘍学的な治療に加えて老年医学の訓練を受けたチームによるサポートを行う診療(Geriatric Assessment and Management:GAM)」が、健康関連の生活の質(EORTC QLQ-C30のGlobal health status)において、優越性を示すか否かを検証したランダム化比較試験である。残念ながら、QOLスコアの変化は両群で差がなくnegative trialであった。今回、事前に設定されていた費用対効果分析の結果が公表された。カナダの8つの病院から350例の参加者が登録され、SOC群に177例、GAM群に173例が割り付けられた。EQ-5D-5Lは、登録時、登録6ヵ月後、9ヵ月後、12ヵ月後に評価され、医療費(入院費、救急外来受診費、検査や手技の費用、化学療法や放射線治療の費用、在宅診療の費用、保険外医療費)は患者の医療費用ノートなるものから抽出された。Primary endpointは増分純金銭便益(incremental monetary benefit:INMB)とした(INMB=(λ*ΔQALY)−ΔCosts、閾値は5万ドル)。結果として、患者当たりの総医療費は、SOC群で4万5,342ドル、GAM群で4万8,396ドルであった。全適格患者におけるINMBはマイナス(-3,962ドル、95%CI:-7,117ドル~-794ドル)であり、SOCと比較してGAMの費用対効果は不良という結果であった。サブグループ解析では、根治目的の治療をする集団におけるINMBはプラス(+4,639ドル、95%CI:61ドル~8,607ドル)、緩和目的の治療をする集団におけるINMBはマイナス(−13,307ドル、95%CI:-18,063ドル~-8,264ドル)であった。以上から、根治目的の治療をする集団においては、SOCと比較してGAMの費用対効果は良好であったと結論付けている。「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の費用対効果分析を行った初めての試験である。個人的な意見だが、とても勇気のある研究だと思う。これまで、高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療の有用性を評価するランダム化比較試験の結果が複数公表されており、NCCNガイドラインなどの老年腫瘍ガイドラインでもこれが推奨されている。つまり、老年腫瘍の領域において、高齢者機能評価を実施すること、また高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療を浸透させることは、暗黙の了解であった。しかし、このタイミングでGAMの費用対効果分析を実施するあたり、THE 5C STUDYの研究代表者であるM. Putsは物事を客観的に見ることができる研究者であることがわかる(高齢者機能評価を浸透することに尽力している研究者でもある)。本研究では、根治目的の治療を実施する場合はGAMの費用対効果が悪いこと、緩和目的の治療を実施する場合はGAMの費用対効果が良いことが示された。もちろん費用対効果分析の研究にはlimitationが付き物であり、またサブグループ解析の結果をそのまま受け入れるべきではないが、この結果はある程度は臨床的にも理解可能である。すなわち、根治を目的とする治療ができるような高齢者は早期がんかつ元気であることが想定され、この集団はGAMに鋭敏に反応するかもしれない。たとえば、手術や根治的(化学)放射線治療などの根治を目的とする治療を実施する場合、早期のリハビリ(術前リハビリを含む)や栄養管理などはADLの自立に役立つだろうし、有害事象の予防・早期発見に役立つだろう。一方、緩和を目的とする治療を実施するような高齢者は進行がんかつフレイルな高齢者あることが想定され、この集団はGAMをしても反応が鈍いのかもしれない。GAMには人材や時間という医療資源もかかるため、GAMを導入する場合、優先順位は手術などを受ける患者から、という議論をする際の参考資料になりうる結果である。老年科医によるコーチングの有用性を評価した多施設ランダム化比較試験(G-oncoCOACH study: #120003))明鏡国語辞典によると、「コーチング」とは、「(1)教えること。指導・助言すること。(2)コーチが対話などのコミュニケーションによって対象者から目的達成のために必要となる能力を引き出す指導法。」とある。G-oncoCOACH studyは、「G(Geriatrician、老年科医)」が「oncoCOACH(腫瘍学も含めたコーチング)」することの有用性を検証したランダム化比較試験である。本試験はベルギーの2施設で実施された。主な適格規準は、70歳以上、固形腫瘍の診断を受け、がん薬物治療が予定されており(術前補助化学療法、術後補助化学療法は問わず、また分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬も対象)、余命6ヵ月以上と予測されている集団であった。登録後は、高齢者機能評価によるベースライン評価ができた患者のみが、標準診療群(腫瘍科医が主導して患者指導[コーチング]する診療)と試験診療群(老年科医が主導して患者指導[コーチング]する診療)にランダム化された。具体的には、標準診療群では、登録時に実施された高齢者機能評価の結果と非常に簡素なケアプランが提示されるのみで、それを実践するか否かは腫瘍科医に委ねられていた。一方、試験診療群では、登録時に実施された高齢者機能評価の結果と非常に詳細なケアプランが提示され、また老年科医チームによる集中的な患者指導、綿密なフォローアップにより、ケアプランを診療に実装し、再評価および継続できるようなサポートが徹底された。primary endpointはEORTC QLQ-C30のGlobal health status(GHS)。登録時から登録6ヵ月時点での臨床的に意味のある差を10ポイントと定義し、α5%(両側)、検出力80%とした場合の必要登録患者数は195例。ベースラインからの差として、3ヵ月、6ヵ月のデータを基に、6ヵ月時点の両群の最小二乗平均値を推定し、その群間差をベースラインの因子を含めて調整したうえでprimary endpointが解析された。結果として、背景因子で調整した登録時から登録6ヵ月後のGHSの変化は、標準診療群で-8.2ポイント、試験診療群で+4.5ポイントであり、その差は12.8ポイントであった(95%CI:6.7~18.8、p<0.0001)。この結果から、高齢がん患者の診療において、老年科医が患者指導(コーチング)をする診療を推奨すると結論付けている。いくら高齢者機能評価を実施して、それに対するケアプランを提示しても、それが実践されていなかったり継続的なサポートがなされていなかったりすれば意味がないだろう、という考えの下に行われた研究である。つまり、「腫瘍科医による患者指導(コーチング)」 vs.「老年科医による患者指導(コーチング)」を比較した試験ではあるが、その実、「ケアプランの実践と、その後のサポートを徹底するか否か」を評価している試験である。実際、本試験が実施されたベルギーでは、ケアプランを策定しても、それを日常診療に使用する腫瘍科医は46%程度と低いものだったようである。腫瘍科医に任せると完全にはケアプランが実践されないが、老年科医に任せればケアプランが実践され、継続性もサポートされるだろうということである(筆者が研究代表者から個人的に聞いた内容も含まれる)。結果、高齢者機能評価は単に実施するだけでは十分ではなく、その使い方に精通した医療者(本試験の場合は老年科医)がリーディングするのが良いというものであった。本邦には、がん治療に精通した老年科医が少ないため、現時点では「老年科医による患者指導(コーチング)」を取り入れるのは難しいだろう。しかし、腫瘍科医では想像できないような老年科医の「コツ」なるものがあるのは容易に想像できる。老年腫瘍を発展するために老年科医の存在は必須であり、老年科医らとの協働は引き続き進めてゆくべきであろう。日本発の高齢者機能評価+介入のクラスターランダム化比較試験(ENSURE-GA study: #4094))非小細胞肺がん患者を対象とした、高齢者機能評価+介入の有用性を患者満足度で評価した日本発のクラスターランダム化比較試験*である。*地域や施設を1つのまとまり(クラスター)としてランダム化する研究デザイン主な適格規準は、75歳以上、非小細胞肺がんの診断を受けている、根治的治療ができない、PS 0〜3、初回化学療法未実施、登録時の高齢者機能評価で脆弱性を有するとされた患者であった。本試験は、病床数とがん診療連携拠点病院の指定の有無および施設の所在地域で層別化し、同層の中で「施設」のランダム化が行われた。標準診療群は「通常の診療(高齢者機能評価の結果は医療者に伝えない)」、試験診療群は「高齢者機能評価の結果に基づき脆弱な部分をサポートする診療」である。primary endpointは、治療開始「前」の患者満足度(HCCQ質問指標で評価:35点満点[点数が高いほど満足度が高い])。必要患者登録数は1,020例であった。結果、治療開始「前」の患者満足度は、標準診療群で29.1ポイント、試験診療群で29.9ポイントであった(p<0.003)。米国の老年腫瘍学の大家にS. Mohileがいる。本試験は、彼女が2020年にJAMA oncologyに公表した試験の日本版である(がん種のみ異なる)5)。Mohileらの試験と同じとはいえ、「患者」ではなく「施設」をランダム化(クラスターランダム化)したところが本試験の特徴である。通常のランダム化、すなわち「患者」をランダム化する場合、同じ施設、同じ主治医が、異なる群に割り付けられた患者を診療する可能性がある。薬物療法の試験であれば、またprimary endpointが全生存期間などの客観的な指標であれば、この設定でも問題ないだろう。しかし、本試験のように、高齢者機能評価を実施するか否かを評価するような試験、また、primary endpointが主観的な指標である場合は、この設定だと問題が生じる可能性がある。すなわち、通常の「患者」をランダム化するデザインにすると、ある登録患者で高齢者機能評価の有用性を実感した医療者がいた場合、次の登録患者が標準診療群だとしても臨床的に高齢者機能評価を実施してしまうことはありうる(その逆もありうる)。そうなると、両群で同じことをしていることになり、その群間差は薄まってしまうのである。これを解決するのが「施設」のランダム化、すなわちクラスターランダム化であるが、その方法が煩雑であること、サンプルサイズが増えてしまうことなどから、それほど日本では一般的ではない6)。しかし、本試験では、クラスターランダム化デザインを選択したことにより、その科学性が高まったといえる。一方、primary endpointを治療開始「前」の患者満足度(HCCQ質問指標)としたことについては疑問が残る。Mohileらの試験でもprimary endpointを治療開始「前」の患者満足度にすることの是非は問われたが、老年腫瘍の黎明期でもあり、高齢者機能評価のエビデンスを蓄積するためにやむを得ないと考えていた。しかし、時代は変わり、高齢者機能評価のエビデンスが蓄積されつつある現在で、primary endpointを治療開始「前」の患者満足度にすることの意義は変わってくる。登録から治療開始前までに高齢者機能評価を実施し、それについてサポートを受けられるのであれば、患者の満足度が高いことは自明であろう。また、本試験では、HCCQの群間差は0.8ポイントであるが、この差が臨床的に意味のある差か否かは不明である。さらに、ポスターに掲載されているFigureを見る限り、登録3ヵ月後のHCCQは両群で差がないように見える。しかし、本邦から1,000例を超す老年腫瘍のクラスターランダム化比較試験が発表されたことは称賛に値する。参考1)Cost-utility of geriatric assessment in older adults with cancer: Results from the 5C trial2)Impact of Geriatric Assessment and Management on Quality of Life, Unplanned Hospitalizations, Toxicity, and Survival for Older Adults With Cancer: The Randomized 5C Trial3)A multicenter randomized controlled trial (RCT) for the effectiveness of Comprehensive Geriatric Assessment (CGA) with extensive patient coaching on quality of life (QoL) in older patients with solid tumors receiving systemic therapy: G-oncoCOACH study4)Satisfaction in older patients by geriatric assessment using a novel tablet-based questionnaire system: A cluster-randomized, phase III trial of patients with non-small-cell lung cancer (ENSURE-GA study; NEJ041/CS-Lung001)5)Communication With Older Patients With Cancer Using Geriatric Assessment: A Cluster-Randomized Clinical Trial From the National Cancer Institute Community Oncology Research Program6)小山田 隼佑. “クラスター RCT”. 医学界新聞. 2019-07-01. (参照2023-07-03)

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『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』改訂のポイント/日本腎臓学会

 6月9日~11日に開催された第66回日本腎臓学会学術総会で、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』が発表された。ガイドラインの改訂に伴い、「ここが変わった!CKD診療ガイドライン2023」と題して6名の演者より各章の改訂ポイントが語られた。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」第1~3章の改訂ポイント第1章 CKD診断とその臨床的意義/小杉 智規氏(名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科学)・実臨床ではeGFR 5mL/分/1.73m2程度で透析が導入されていることから、CKD(慢性腎臓病)ステージG5※の定義が「末期腎不全(ESKD)」から「高度低下~末期腎不全」へ変更された。・国際的に用いられているeGFRの推算式(MDRD式、CKD-EPI式)と区別するため、日本人におけるeGFRの推算式は「JSN eGFR」と表記する。・一定の腎機能低下(1~3年間で血清Cr値の倍化、eGFR 40%もしくは30%の低下)や、5.0mL/分/1.73m2/年を超えるeGFRの低下はCKDの進行、予後予測因子となる。※GFR<15mL/分/1.73m2第2章 高血圧・CVD(心不全)/中川 直樹氏(旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野)・蛋白尿のある糖尿病合併CKD患者においては、ACE阻害薬/ARBの腎保護に関するエビデンスが存在するが、蛋白尿のないCKD患者においては、糖尿病合併の有無にかかわらず、ACE阻害薬/ARBの優位性を示す十分なエビデンスがない。したがって、ACE阻害薬/ARBの投与は糖尿病合併の有無ではなく、蛋白尿の有無を参考に検討する。・CKDステージG4※、G5における心不全治療薬の推奨クラスおよびエビデンスレベルが『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では次のとおり明記された。ACE阻害薬/ARB:2C、β遮断薬:2B、MRA:なしC、SGLT2阻害薬:2C、ARNI:2C、イバブラジン:なしD。※eGFR 15~29mL/分/1.73m2第3章 高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症/大島 恵氏(金沢大学大学院 腎臓内科学)・2018年版では「腎硬化症・腎動脈狭窄症」としていたが、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では「高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症」としている。高血圧性腎硬化症とは、持続した高血圧により生じた腎臓の病変である。・片側性腎動脈狭窄を伴うCKDに対する降圧薬として、RA系阻害薬はそのほかの降圧薬に比べて末期腎不全への進展、死亡リスクを抑制する可能性がある。ただし、急性腎障害発症のリスクがあるため注意が必要である。・動脈硬化性腎動脈狭窄症を伴うCKDに対しては、合併症のリスクを考慮し、血行再建術は一般的には行わない。ただし、治療抵抗性高血圧などを伴う場合には考慮してもよい。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」で腎性貧血を伴う患者のHb目標値が改定第4章 糖尿病性腎臓病/和田 淳氏(岡山大学 腎・免疫・内分泌代謝内科学)・尿アルブミンが増加すると末期腎不全・透析導入のリスクが有意に増加することから、糖尿病性腎臓病(DKD)患者では定期的な尿アルブミン測定が強く推奨される。・DKDの進展予防という観点では、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬の使用について十分なエビデンスはない。体液過剰が示唆されるDKD患者ではループ利尿薬、尿アルブミンの改善が必要なDKD患者ではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が推奨される。・糖尿病患者においては、DKDの発症、アルブミン尿の進行抑制が期待されるため集約的治療が推奨される。・DKD患者に対しては、腎予後の改善と心血管疾患発症抑制が期待されるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。第9章 腎性貧血/田中 哲洋氏(東北大学大学院医学系研究科 腎・膠原病・内分泌内科学分野)・PREDICT試験、RADIANCE-CKD Studyの結果を踏まえて、腎性貧血を伴うCKD患者での赤血球造血刺激因子製剤(ESA)治療における適切なHb目標値が改定された。『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、Hb13g/dL以上を目指さないこと、目標Hbの下限値は10g/dLを目安とし、個々の症例のQOLや背景因子、病態に応じて判断することが提案されている。・「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(2020年9月29日版)」に関する記載が追記された。2022年11月、ロキサデュスタットの添付文書が改訂され、重要な基本的注意および重大な副作用として中枢性甲状腺機能低下症が追加されたことから、本剤投与中は定期的に甲状腺機能検査を行うなどの注意が必要である。第11章 薬物治療/深水 圭氏(久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門)・球形吸着炭は末期腎不全への進展、死亡の抑制効果について明確ではないが、とくにCKDステージが進行する前の症例では、腎機能低下速度を遅延させる可能性がある。・代謝性アシドーシスを伴うCKDステージG3※~G5の患者では、炭酸水素ナトリウム投与により腎機能低下を抑制できる可能性があるが、浮腫悪化には注意が必要である。・糖尿病非合併のCKD患者において、蛋白尿を有する場合、腎機能低下の進展抑制、心血管疾患イベントおよび死亡の発生抑制が期待できるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。・CKDステージG4、G5の患者では、RA系阻害薬の中止により生命予後を悪化させる可能性があることから、使用中のRA系阻害薬を一律には中止しないことが提案されている。※eGFR 30~59mL/分/1.73m2 なお、同学会から、より実臨床に即したガイドラインとして、「CKD診療ガイド2024」が発刊される予定である。

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トランスジェンダーは自殺死が多いか/JAMA

 トランスジェンダーの人々は自殺企図や死亡のリスクが高い可能性が示唆されている。デンマーク・Mental Health Centre CopenhagenのAnnette Erlangsen氏らは、今回、トランスジェンダーは非トランスジェンダーと比較して、最近42年間における自殺企図、自殺による死亡、自殺と関連のない死亡、あらゆる原因による死亡のいずれもが、有意に高頻度であることを示した。研究の成果は、JAMA誌2023年6月27日号で報告された。デンマークの後ろ向きコホート研究 研究グループは、デンマークにおけるトランスジェンダーの自殺企図、死亡の頻度を評価する目的で、全国規模の登録ベースの後ろ向きコホート研究を行った(Danish Health Foundationの助成を受けた)。 対象は、デンマークで生まれで、1980年1月1日~2021年12月31日に同国に居住していた15歳以上。トランスジェンダーを自認する人々の確認は、全国の病院記録と法的な性別変更の行政記録で行った。 全国入院・死因登録のデータを用いて、1980~2021年の自殺企図、自殺死(自殺既遂)、自殺以外による死亡、全死因死亡を同定した。暦年、出生時に割り当てられた性別、年齢で調整し、トランスジェンダーと非トランスジェンダーにおけるこれらのアウトカムの補正後発生率比(aIRR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 665万7,456人(出生時に割り当てられた性別は男女とも50.0%ずつ)が解析に含まれ、フォローアップ期間は1億7,102万3,873人年であった。このうち3,759人(0.06%)がトランスジェンダーと判定され、判定時の年齢中央値は22歳(四分位範囲[IQR]:18~31)だった。1,975人(52.5%)は出生時に男性、1,784人(47.5%)は女性に割り当てられていた。42年で企図、死亡は低下したが、aIRRは有意に高い 自殺企図は、トランスジェンダー群では92件(初回自殺企図年齢中央値27歳[IQR:19~40])、非トランスジェンダー群では11万9,093件(36歳[23~50])発生した。10万人年当たりの標準化自殺企図率は、トランスジェンダー群が498件、非トランスジェンダー群は71件で、10万人年当たりの標準化発生率の差は428件(95%CI:393~463)であり、aIRRは7.7(95%CI:5.9~10.2)とトランスジェンダー群で自殺企図率が有意に高かった。 また、10万人当たりの標準化自殺死亡率は、トランスジェンダー群が75件、非トランスジェンダー群は21件であり、aIRRは3.5(95%CI:2.0~6.3)とトランスジェンダー群で自殺死亡率が有意に高かった。 10万人年当たりの標準化非自殺性死亡率は、トランスジェンダー群が2,380件、非トランスジェンダー群は1,310件(aIRR:1.9、95%CI:1.6~2.2)、10万人年当たりの標準化全死因死亡率はそれぞれ2,559件、1,331件(2.0、1.7~2.4)であり、いずれもトランスジェンダー群で有意に高率だった。 42年の対象期間中に、自殺企図と死亡の割合は低下したにもかかわらず、いずれのアウトカムも最近のaIRRが有意に高く、2021年のaIRRは自殺企図が6.6(95%CI:4.5~9.5)、自殺死亡が2.8(1.3~5.9)、非自殺性死亡が1.7(1.5~2.1)、全死因死亡が1.7(1.4~2.1)と、いずれもトランスジェンダー群で高かった。これは、トランスジェンダーでは自殺企図と死亡のリスクが継続的に高いことを反映している。 著者は、「トランスジェンダーは、いじめ、差別、排除、偏見といった形で、トランスであることに関する組織的な否定にさらされる可能性があり、少なくとも部分的には、このようなマイノリティストレスの結果として、疎外感や内面化されたスティグマ、精神衛生上の問題、ひいては自殺行動につながる可能性がある」と指摘し、「トランスジェンダーの自殺を減らすための取り組みが求められ、これには個人的な苦悩がある場合に助けを求めるよう促すといった直接的な対策が含まれるほか、医療専門家による研修や最善の診療ガイドラインの実施、性別にとらわれない公衆浴場や更衣室の普及といった、構造的な差別を減らすための一般的な対策も提言されている」としている。

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リアルワールドエビデンス、高カリウム血症が心腎疾患患者の転帰におよぼす影響/AZ

 AstraZeneca(英国、CEO:Pascal Soriot氏)は、同社のリアルワールドエビデンス(RWE)に基づくZORA研究(以下、本研究)の解析から、高カリウム血症を発症している患者において、レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系阻害薬(RAASi)の投与量減量または中止による影響が示されたと発表した。 イタリアのミラノで開催された欧州腎臓学会(ERA)2023総会で発表された本研究の解析の1つより、慢性腎臓病(CKD)および/または心不全(HF)を患う心腎疾患患者におけるRAASi治療の継続を提案する複数のガイドラインがある一方で、米国および日本の臨床現場では、高カリウム血症発症後にRAASi治療の中止が依然行われていることが示された。また、RAASi治療を中止した患者のうち、6ヵ月以内に再開した割合は、米国では10~15%、日本では6~8%で、RAASi治療を再開した少ない患者の中で、米国および日本ともにその17~37%の患者において投与量が25%を超えて減量されていた。 本研究における別の解析では、スウェーデン(6,998例)と日本(2,092例)の心腎疾患患者において、高カリウム血症発症後にRAASi治療を中断した場合、発症から6ヵ月までと発症の6ヵ月前までを比べると、スウェーデンでは18.2日、日本では17.9日、全原因の入院日数が増加することが明らかになった。一方、高カリウム血症発症から6ヵ月後までRAASi治療を維持した患者の入院日数の増加は、スウェーデンと日本でそれぞれ9.4日と8.5日であり、CKDおよびHF関連の原因による入院日数についても同様の傾向が観察された。 今回発表された2つの解析は、BMC Nephrology誌に掲載された本研究結果に基づいており、この論文では米国および日本のCKDまたはHF患者において、高カリウム血症に関連してRAASi治療を中止または漸減した患者では、RAASi治療を維持または漸増した患者と比較して、心腎イベントのリスクが高いことが明らかになった。 UCLA Healthの腎臓内科主任であるAnjay Rastogi氏は、「心腎疾患患者には、心疾患のリスクや入院率の上昇につながる高カリウム血症の管理という深刻なアンメットニーズがある。今回発表されたリアルワールドデータにより、心腎疾患患者においてRAASi治療がガイドラインで推奨されているにもかかわらず、高カリウム血症の発症によって投与量の減量が一般的に行われていることが示された。ガイドラインに基づいてRAASi治療を受けているCKDやHFの患者において、とくに、この慢性病態をよりよく管理できる可能性のあるカリウム吸着薬などの治療選択肢がある場合には、高カリウム血症の発症によってRAASi治療が妨げられるべきではない」と述べた。 また、同社のエグゼクティブバイスプレジデント兼バイオファーマビジネスユニットの責任者であるRuud Dobber氏は、「ガイドラインに沿ったRAASi治療を行わなかった場合、心腎疾患患者の転帰に影響をもたらす可能性がある。しかし、今回の知見は、これらの患者が高カリウム血症の発症によってRAASi治療を中止した場合、RAASi治療を再開することはまれであり、再開を可能にするためには高カリウム血症管理におけるプラクティスチェンジが急務であることを浮き彫りにしている。私たちは、高カリウム血症に対する治療を通じてこの疾患を改善し、よりよく心腎保護の機会を患者に届けられるよう、一層広く医療従事者と協力していく」としている。

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がん医療におけるコミュニケーションのガイドライン【非専門医のための緩和ケアTips】第55回

第55回 がん医療におけるコミュニケーションのガイドライン緩和ケアの臨床を構成する要素のうち、かなりの部分を占めるのがコミュニケーションです。大きなテーマとしては「病名告知などの悪い知らせをどう伝えるか」というものがありますし、日々の業務では「さりげない言葉掛けがケアにつながる」ことを実感します。コミュニケーションの重要性は誰しも認めるところですが、自分でスキルアップするのが難しい分野でもあります。今日の質問緩和ケアに取り組んでいて、日々難しく感じるのがコミュニケーションです。自分なりに工夫はしてきたのですが、系統的に勉強したことがありません。臨床に即した、参考になるものはないでしょうか?最近は医学部教育においてもコミュニケーションについて学ぶ機会が増えているようですが、やはり臨床経験を通じて学ぶことが多いのは、この領域です。一方、ある程度経験を積むとフィードバックをくれる人がいなくなり、独り善がりになりがちな部分でもあります。そんなときに参考になるのが、『がん医療における患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン2022年版』です。日本サイコオンコロジー学会と日本がんサポーティブケア学会が編集し、2022年に初めて出版されました。「コミュニケーションにもガイドラインがあるの?」と思った方がいるかもしれません。緩和ケアの分野ではコミュニケーションに関する研究は重要で、コミュニケーション技法の開発も行われています。このガイドラインでは、臨床疑問(CQ)に対する推奨がエビデンスと共に明示されています。がん診療におけるコミュニケーションにおけるCQとは、どのようなものがあるのでしょうか? ガイドラインから一部を抜粋してみましょう。根治不能のがん患者に対して抗がん治療の話をするのに、「根治不能である」ことを患者が認識できるようはっきりと伝えることは推奨されるか?進行・再発がん患者に、予測される余命を伝えることは推奨されるか?医師ががんに関連する重要な話し合いのコミュニケーション技術研修(CST)を受けることは推奨されるか?こういったCQに対し、現状のエビデンスの紹介と、それに基づく推奨が示されます。遭遇するであろう難しい状況に対するCQから、コミュニケーション技術に対する教育・研修の効果に関するCQまで、幅広く扱われています。がん疾患を持つ患者さんを対象としていますが、非がん疾患の患者さんのケアにも使える部分が大きいと思います。気になった方はぜひ手に取ってみてください。今回のTips今回のTips患者コミュニケーションに悩んだら、ガイドラインを見てみましょう。

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軽症脳梗塞、4.5時間以内DAPT vs.アルテプラーゼ/JAMA

 日常生活や仕事上の障害につながらない(非障害性)軽症脳梗塞患者において、発症後4.5時間以内の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)は90日後の機能的アウトカムに関して、アルテプラーゼ静注に対して非劣性であることが示された。中国・General Hospital of Northern Theatre CommandのHui-Sheng Chen氏らが、多施設共同無作為化非盲検評価者盲検非劣性試験「Antiplatelet vs R-tPA for Acute Mild Ischemic Stroke study:ARAMIS試験」の結果を報告した。軽症脳梗塞患者において、静脈内血栓溶解療法の使用が増加しているが、軽症非障害性脳梗塞患者における有用性は不明であった。JAMA誌2023年6月27日号掲載の報告。中国38施設で760例を、DAPT群とアルテプラーゼ群に無作為化 研究グループは中国の38施設において、18歳以上で発症後4.5時間以内、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)スコア(範囲:0~42)が5以下およびNIHSSのいくつかの主要項目スコアが1以下、かつ無作為化時に意識項目スコアが0の軽症非障害性の急性脳梗塞患者を、DAPT群またはアルテプラーゼ群に1対1の割合で無作為に割り付け、追跡評価した。 DAPT群では、クロピドグレルを1日目に300mg負荷投与、その後75mgを1日1回12(±2)日間投与+アスピリンを1日目に100mg、その後100mgを12(±2)日間、以降90日目まではガイドラインに基づいた抗血小板薬単剤療法またはDAPTを行った。 アルテプラーゼ群では、ガイドラインに従いアルテプラーゼ0.9mg/kg、最大90mgを静脈内投与し、その24時間後からガイドラインに基づいた抗血小板療法を行った。 主要エンドポイントは、無作為化され1回以上の有効性評価を受けた全患者(full analysis set:FAS)における90日時点の修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0~6)が0~1で定義される優れた機能的アウトカムで、DAPT群のアルテプラーゼ群に対する非劣性マージンは群間リスク差の片側97.5%信頼区間(CI)下限値が-4.5%とした。 安全性エンドポイントは、90日間の症候性頭蓋内出血およびあらゆる出血とした。 2018年10月~2022年4月に760例がDAPT群(393例)またはアルテプラーゼ群(367例)に無作為化された。最終追跡調査日は2022年7月18日であった。mRSスコア0~1のアウトカム達成、DAPTの非劣性を確認 無作為化された適格患者760例(年齢中央値64歳[四分位範囲[IQR]:57~71]、女性223例[31.0%]、NIHSSスコア中央値2[IQR:1~3])で、同意撤回者などを除く719例(94.6%)が試験を完遂した。 90日時点で優れた機能的アウトカムを達成したのは、DAPT群93.8%(369例中346例)、アルテプラーゼ群91.4%(350例中320例)で、両群のリスク差は2.3%(95%CI:-1.5~6.2)、粗相対リスクは1.38(95%CI:0.81~2.32)であった。片側97.5%CI(両側95%CI)の補正前下限値は-1.5%で、非劣性マージン-4.5%を上回っていた(非劣性のp<0.001)。 90日時点での症候性頭蓋内出血の発現は、DAPT群で371例中1例(0.3%)、アルテプラーゼ群で351例中3例(0.9%)であった。

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新たなCT技術で高リスク患者での冠動脈疾患の診断精度が向上

 超高精細CTによる冠動脈の血管造影検査(UHR CCTA)により、重度の冠動脈石灰化があったりステントを留置している高リスク患者でも冠動脈疾患を正確に診断できることが新たな研究で示された。フライブルク大学(ドイツ)のMuhammad Hagar氏らによるこの研究結果は、「Radiology」に6月20日掲載された。 冠動脈疾患は、狭心症、心筋梗塞の総称であり、冠動脈の内壁にコレステロールなどが蓄積することで血管が狭まって血流が悪くなり、心筋への血液供給が不足したり途絶えたりすることで生じる。静脈から造影剤を注入して、冠動脈内に脂肪やカルシウムの沈着がないかなどをCTで確認する非侵襲的なCCTAは、冠動脈疾患のリスクが低度から中等度の患者では、同疾患の除外診断に極めて有効な手段だ。しかし、冠動脈の石灰化が進んでいたり、すでにステントを留置していることの多い高リスク患者に対するCCTAの場合には、石灰化が実際以上に広範囲に描写されることがあり、それが閉塞やプラークの過大評価、偽陽性判定の多発につながる。「その結果、患者に、本来は不必要で多くの場合は侵襲的な検査が行われることになる。このため、現行のガイドラインでは、高リスク患者に対するCCTAの使用は推奨されていない」とHagar氏は説明する。 今回の研究は、こうしたCCTAの欠点を克服できる可能性が期待されている、フォトンカウンティング検出器を搭載した次世代CTによる冠動脈の血管造影検査(UHR CCTA)の臨床上の有効性を検討したもの。フォトンカウンティング検出器はX線の最小単位であるフォトン(光子)を個々に検出し、そのエネルギーレベルを測定できるため、従来のCTよりも高精細でコントラスト表現の豊かな画像を取得することができる。 研究対象者は、重度の大動脈弁狭窄症を有し、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)のためのCT検査が必要な68人(平均年齢81±7歳、男性32人、女性36人)。全対象者に、UHR CCTAが実施された。これらの対象者は、臨床上のルーチンとして侵襲的冠動脈造影(ICA)も受けていた。 その結果、UHR CCTAで取得した画像の総合画質スコアは、1を「非常に優れている」とする5点満点で1.5点(中央値)と高いことが示された。次に、ICAを参照基準として、UHR CCTAによる冠動脈疾患の検出能をROC曲線下面積(AUC)で検討したところ、狭窄が50%以上の冠動脈疾患検出のAUCは、対象者レベルで0.93、血管レベルで0.94、血管セグメントレベルで0.92と算出された。また、UHR CCTAの狭窄が50%以上の冠動脈疾患検出に対する感度、特異度、精度は、対象者レベルで96%、84%、88%、血管レベルで89%、91%、91%、血管セグメントレベルで77%、95%、95%であった。こうした結果から、研究グループは、UHR CCTAは冠動脈疾患の高リスク患者においても同疾患を正確に診断できることが示されたと結論付けている。 Hagar氏は、「フォトンカウンティング検出器の技術開発により、非侵襲的CCTAにより恩恵を受けることができる患者を大幅に増やせる可能性がある」と述べ、「これは、患者や画像診断業界にとって素晴らしいニュースだ」と喜びを表す。 ただし、UHR CCTAは、解像度を向上させるためにより多くの光子を放出するため、従来のCTスキャナーよりも放射線被曝量が増加するという問題がある。とはいえ、この技術はまだまだ初期段階にあり、放射線被曝量を減らすための方法の開発も進められているとHagar氏は説明する。 Hagar氏は、「現状では、この技術による検査を行う対象は、ベネフィットがリスクを上回る冠動脈疾患の高リスク患者に限定すべきだ。だが、この技術は今後10年以内にもっと普及する可能性がある」との期待を示す。そして、「30年前のマルチスライスCTが登場したときと同様に、フォトンカウンティングCTは次世代のCTスキャナーの始まりだと私は確信している。今後の展開が楽しみだ」と話している。

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多遺伝子リスクスコアと冠動脈石灰化スコアを比較することは適当なのか?(解説:野間重孝氏)

 pooled cohort equations(PCE)はACC/AHA心血管ガイドラインの一部門であるリスク評価作業部会によって開発されたもので、2013年のガイドラインにおいて、これを使用して一次治療においてアテローム性動脈硬化性心血管病のリスクが高いと判断された患者(7.5%以上)に対する高強度、中強度のスタチンレジメンが推奨され話題となった。現在PCEを計算するためのサイトが公開されているので、興味のある方は開いてみることをお勧めする(https://globalrph.com/medcalcs/pooled-cohort-2018-revised-10-year-risk/)。わが国であまり用いられないのは国情の相違によるものだろうが、米国ではPCE計算に用いられていない付加的指標を組み合わせることにより、精度の向上が議論されることが多く、現在その対象として注目されているのが冠動脈石灰化スコア(CACS)と多遺伝子リスクスコアだと考えて論文を読んでいただけると理解しやすいのではないかと思う。 「多遺伝子リスクスコア」とは一体何なのか、と疑問を持たれている方も多いのではないかと思う。少々極端なたとえになるが、臨床医ならばだれしも初診患者の診察をする際に家族歴を尋ねるのではないだろうか。また、少し年配の方で疫学に関係したことのある方なら、心筋症の家族歴の調査にかなりの時間を費やした経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思う。そこに2003年、ヒトゲノムが解読されるという大事件が起こったのである。その発症に遺伝が関係すると考えられる疾患の基礎研究で、研究方法がゲノム解析に向かって大きく舵を切られたことが容易に理解されるだろう。 一部のがんや難病では単一のドライバー遺伝子変異もしくは原因遺伝子によって説明できることがあるが、糖尿病・心筋梗塞・喘息・関節リウマチ・アルツハイマー認知症etc.など多くの問題疾患はいずれも多因子疾患であり、多数の遺伝的バリアントによって構成される多遺伝子モデル(ポリジェニック・モデル)に従うと考えられる。間接的、網羅的ゲノム解析であるSNPアレイを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)により、この15年ほどの間に多くの多因子疾患の遺伝性を明らかにされた。さらに近年、数万人を超える大規模なGWASによって、非常に多数の遺伝因子を用いて多遺伝子モデルに従う予測スコア、すなわちいわゆる多遺伝子スコア(ポリジェニック・スコア)が構築され、医療への応用可能性を論じることが可能となってきた。しかしその一方で問題点や限界も明らかになってきており、直接的な臨床応用にはまだ限界があることを考えておかなければならない。また、GWASは主に欧州系の白人を対象に研究された経緯から、他の人種にどのように応用できるかには検討の余地がある。本研究で取り上げられた2つの大規模臨床モデルがいずれも欧州系白人を対象としているのは、このような理由によるものと考えられる。 一方冠動脈石灰化スコア(CACS)は造影剤を用いない心電図同期CTで計測可能な指標で、冠動脈全体の石灰化プラークの程度について石灰化の量にCT値で重み付けすることにより求められ、現在冠動脈全体の動脈硬化負荷の代替指標として確立しているといえる。しかし心筋梗塞や不安定狭心症は必ずしも高度狭窄から起こるわけではなく、プラークの不安定性を評価する指標も必要となる。CCTAでもプラークの不安定性を示す指標がいくつか知られているが、臨床応用にはまだ研究の余地があるといえる。とはいえ、FFR-CTまで含め、冠動脈CT検査は直接的な臨床応用が可能である点がゲノム解析にはない利点であることは確かだといえる。実際ゲノム解析には大変な手間・費用が掛かり、その将来性を否定するものではないが、現段階においてはその臨床応用範囲が、まだ限定的であることは否定できないだろう。 なお、多遺伝子リスクスコアがPCEに加えられることによって予想確度が上がるか否かについては2020年の段階で意見が分かれており、いずれもジャーナル四天王で取り上げられているのでご参考願いたい (「多遺伝子リスクスコアの追加、CADリスク予測をやや改善/JAMA」、「CHD予測モデルにおける多遺伝子リスクスコアの価値とは/JAMA」)。 今回の研究はさまざまな議論を踏まえ、多遺伝子リスクスコアを加えること、CACSを加えることのいずれがPCE予測値をより改善するかを検討したものである。結果は多遺伝子リスクスコア、CACSそれぞれ単独では冠動脈疾患発生を有意に予測したが、PCEに多遺伝子リスクスコアを加えても予測確度は上昇しなかった。一方CACSを加えることによりPCEの予測確度は有意に上昇した。 この研究の結論はそれ自体としては大変わかりやすいものなのだが、そもそも多遺伝子リスクスコアとCACSを同じ土俵で比較することが適当なのか、という疑問が残る。何故なら多遺伝子リスクスコアは原因・素因というべきであり、CACSはいわば結果であるからだ。素因と現にそこに起こっている現象とでは意味が違うのではないだろうか。こうした批判は関係する後天的な因子の果たす役割の大きい生活習慣病を考える場合、重要な視点なのではないかと思う。普段ゲノム研究を覗く機会の少ないものとしては大変勉強になる論文ではあったが、そんな素朴な疑問が残った。

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男性性腺機能低下症、テストステロン補充で心血管リスクは?/NEJM

 性腺機能低下症の中高年男性で、心血管疾患を有するか、そのリスクが高い集団において、テストステロン(ゲル剤)補充療法は、心血管系の複合リスクがプラセボに対し非劣性で、有害事象の発現率は全般に低いことが、米国・クリーブランドクリニックのA Michael Lincoff氏らが実施した「TRAVERSE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年6月16日号に掲載された。米国の無作為化プラセボ対照非劣性試験 TRAVERSE試験は、米国の316施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照非劣性第IV相試験であり、2018年5月23日に患者の登録が開始された(AbbVieなどの助成を受けた)。 対象は、年齢45~80歳、心血管疾患を有するかそのリスクが高く、性腺機能低下症の症状がみられ、2回の検査で空腹時テストステロン値が300ng/dL未満の男性であった。 被験者は、1.62%テストステロンゲルまたはプラセボゲルを毎日経皮的に投与する群に、無作為に割り付けられた。 心血管系の安全性の主要エンドポイントは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合であった。ハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)の上限値が1.5未満の場合に非劣性と判定された。感度分析でも非劣性を示す 最大の解析対象集団5,204例のうち、2,601例(平均[±SD]年齢63.3±7.9歳、血清テストステロン中央値227ng/dL)がテストステロン群に、2,603例(63.3±7.9歳、227ng/dL)はプラセボ群に割り付けられた。平均(±SD)投与期間は、テストステロン群が21.8±14.2ヵ月、プラセボ群は21.6±14.0ヵ月、平均フォローアップ期間はそれぞれ33.1±12.0ヵ月、32.9±12.1ヵ月であった。 心血管系の安全性の主要エンドポイントは、テストステロン群が2,596例中182例(7.0%)、プラセボ群は2,602例中190例(7.3%)で発生し(HR:0.96、95%CI:0.78~1.17、非劣性のp<0.001)、テストステロン群のプラセボ群に対する非劣性が示された。 また、主要感度分析(最終投与から365日以降に発生したイベントのデータは打ち切り)では、主要エンドポイントはテストステロン群が154例(5.9%)、プラセボ群は152例(5.8%)で発生し(HR:1.02、95%CI:0.81~1.27、非劣性のp<0.001)、非劣性が確認された。 心血管系の副次複合エンドポイント(主要エンドポイント+冠動脈血行再建[PCIまたはCABG])の発生は、テストステロン群が269例(10.4%)、プラセボ群は264例(10.1%)であり、臨床的に意義のある明らかな差は認められなかった(HR:1.02、95%CI:0.86~1.21)。主要エンドポイントの各項目の発生率は、いずれも両群で同程度であった。 前立腺がんが、テストステロン群の12例(0.5%)、プラセボ群の11例(0.4%)で発現した(p=0.87)。前立腺特異抗原(PSA)のベースラインからの上昇は、テストステロン群のほうが大きかった(0.20±0.61ng/mL vs.0.08±0.90ng/mL、p<0.001)。また、テストステロン群では、心房細動(3.5% vs.2.4%、p=0.02)、急性腎障害(2.3% vs.1.5%、p=0.04)のほか、肺塞栓症(0.9% vs.0.5%)の発生率が高かった。 著者は、「メタ解析では、静脈血栓塞栓イベントとテストステロンには関連がないことが示されているが、今回の知見は、過去に血栓塞栓イベントを発症した男性ではテストステロンは慎重に使用すべきとする現行の診療ガイドラインを支持するものであった」としている。

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高齢者糖尿病診療ガイドライン2023、薬物療法のエビデンス増え7年ぶりに改訂

 日本老年医学会・日本糖尿病学会の合同編集である『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』が5月に発刊された。2017年時にはなかった高齢者糖尿病における認知症、サルコペニア、併存疾患、糖尿病治療薬などのエビデンスが集積したことで7年ぶりの改訂に至った。今回、日本老年医学会の編集委員を務めた荒木 厚氏(東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科)に『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』の改訂点について話を聞いた。 高齢者糖尿病とは、「65歳以上の糖尿病」と定義されるが、医学的な観点や治療、介護上でとくに注意すべき糖尿病高齢者として「75歳以上の高齢者と、身体機能や認知機能の低下がある65~74歳の糖尿病」と、より具体的な定義付けもなされている。高齢者糖尿病診療ガイドライン2023の改訂ポイント6点 日本老年医学会、日本糖尿病学会の両学会は上記のような高齢者糖尿病患者における「低血糖による弊害」「認知症などの併存疾患の影響」などの課題解決のために2015年に合同委員会を設立、その2年後に高齢者糖尿病診療ガイドライン2017年版を発刊した。当時は治療薬のエビデンスなどが乏しかったが、国内外の新しいエビデンスが集積したこと、新薬が登場したこと、そして併存疾患に対する対策や治療目的が明確になったことから、今回6年ぶりの発刊となった。そのような背景のある『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』について、荒木氏は改訂ポイント6点を示した。<注目すべき6つのポイント>1)2017年時点では得られていなかった認知症、フレイル、サルコペニア、悪性腫瘍、心不全などの併存疾患やmultimorbidityに関するエビデンスが記載されている、Question・CQ(Clinical Question)に反映2)血糖コントロール目標を設定するためのカテゴリー分類を行うことができる認知・生活機能質問票(DASC-21)を掲載[p.228付録3]3)運動療法が糖尿病のみならず認知機能やフレイルにも良い影響を与える4)薬物療法ではSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の心血管疾患や腎イベントに対するリスク低減効果に関するエビデンスも集積5)2型糖尿病患者の注射のアドヒアランス低下の対策として、インスリン治療の単純化を記載6)社会サポート制度の活用 このほか、「高齢者糖尿病患者の背景・特徴については第I章に、治療については第IX章p.151~170に掲載されているので一読してほしい」とし、「治療の基本的な内容は『糖尿病治療ガイド2022-2023』にのっとっているので、両書を併せて読むことが理解につながる」とも話した。インスリン治療の単純化はアドヒアランス向上だけでなく、低血糖を減らす 高齢者の場合、腎・肝機能低下による薬剤の排泄・代謝遅延から有害事象を来しやすい。そのため低血糖をはじめ、これまで注意点が強調されることが多かった。一方で、高齢者糖尿病ではポリファーマシーになりやすく、さらに認知機能障害のため服薬アドヒアランスの低下を来しやすい。そのため減薬だけでなく、複雑な処方をシンプルにする“治療の単純化”を行うことが必要になる。2型糖尿病のインスリン治療においても注射のアドヒアランス低下の対策としてインスリン治療の単純化を行う研究が行われている。 これについて同氏は「たとえば、インスリン注射を1日複数回注射している2型糖尿病患者の場合、メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬などを追加することでインスリン投与回数を1日1回の持効型インスリンのみにすることが治療の単純化となる。このインスリン治療の単純化は、注射回数を1回にしても血糖コントロールは変わらない、もしくは改善し、インスリンの単位数が減ることで低血糖が減ることも報告されてきているため、インスリン治療の単純化は低血糖回避という観点からも有用であると考える。また、複数回のインスリン注射を週1回のGLP-1受容体作動薬やインスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤に変更にすることも治療の単純化となり、低血糖を減らすことが可能となる」とコメント。「これは高齢者のインスリン治療法の大きな進歩」だとも述べ、また、「絶食の不要な経口のGLP-1受容体作動薬において種々の製剤が開発中であり、今後のインスリン治療の単純化にも役立つ可能性がある」ともコメントした。高齢者糖尿病診療ガイドラインにSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬のCQ追加SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は心・腎イベントに関するCQが『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』に新たに盛り込まれた。―――CQ IX-2:高齢者糖尿病でSGLT2阻害薬は心血管イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。CQ IX-3:高齢者糖尿病でSGLT2阻害薬は複合腎イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。CQ X-1:高齢者糖尿病でGLP-1受容体作動薬は心血管イベントを抑制する【推奨グレードA】。CQ X-2:高齢者糖尿病でGLP-1受容体作動薬は複合腎イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。――― これについて「高齢者糖尿病においてもSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の使用は心・腎イベントのリスクや心不全による再入院リスクを低減させるエビデンスがあり、additional benefitがあることが明らかになった。したがって、この両剤はこれらの心・腎に対するベネフィットと副作用のリスクのバランスを考慮しながら使用する必要がある」と同氏はコメントした。高齢者糖尿病診療ガイドライン2023でマルチコンポーネント運動を推奨 高齢者糖尿病でも若年者同様に運動療法は推奨され、血糖コントロールのみならず脂質異常症、高血圧、生命予後などの改善に有効とされ、『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』でも推奨されている。また、糖尿病のない患者と比べ筋量が減少しやすいため、サルコペニア予防としても重要な位置付けにある。今回、有酸素運動・レジスタンス運動・バランス運動・ストレッチングを組み合わせたマルチコンポーネント運動も推奨されている。ただし、高齢者糖尿病患者が行う際には、年齢や合併症、併存疾患、生活スタイルに合わせることがポイントである。 最後に同氏は、地域社会で高齢者糖尿病患者を支えることが今後より一層求められる時代になることから、『社会サポート制度』(p.217)についても言及し、「認知症然り、糖尿病でも地域で生活を続けていけるように、各自治体で高齢者糖尿病のQOLに寄り添うサービスが設けられている場合がある。たとえば、デイケア、通いの場、訪問看護、訪問栄養指導、訪問薬剤指導がそうであるが、そのようなサービスの存在に踏み込んだことも、本改訂での大きな特徴とも言える」と話した。

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よくわかる睡眠時無呼吸の診かた,考えかた

睡眠時無呼吸の知識を系統立ててやさしく解説、正しく理解し実践力に繋がる入門書睡眠時無呼吸の知識を、最新のガイドライン・エビデンスを踏まえて解説。Part1から順番に通読すれば、基礎となる確固たる土台ができあがり、その上により深い知識を身に付けられるように工夫されています。すでに診療やケアに携わっている医療者の方については、気になるPartから読み進めても構いません。曖昧であった知識がクリアに整理され、実践に使えるものに進化するでしょう。睡眠時無呼吸の対応に自信がつく、頼れる1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    よくわかる睡眠時無呼吸の診かた,考えかた定価6,050円(税込)判型A5判頁数332頁発行2023年6月著者富田 康弘電子版でご購入の場合はこちら

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脳卒中既往のある心不全患者の心血管リスク、HFrEFとHFpEFで検討

 左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)と左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の患者における脳卒中既往と心血管イベント(心血管死/心不全入院/脳卒中/心筋梗塞)発生率を調べたところ、左室駆出率にかかわらず、脳卒中既往のある患者はない患者に比べて心血管イベントリスクが高いことが示された。英国・グラスゴー大学のMingming Yang氏らが、European Heart Journal誌オンライン版2023年6月26日号で報告。 本研究は、HFrEFとHFpEFの患者が登録されていた7つの臨床試験のメタ解析である。 主な結果は以下のとおり。・脳卒中既往があったのは、HFrEF患者2万159例中1,683例(8.3%)、HFpEF患者1万3,252例中1,287例(9.7%)であった。・左室駆出率に関係なく、脳卒中既往のある患者は血管合併症が多く、心不全も悪化していた。・HFrEF患者では、心血管死/心不全入院/脳卒中/心筋梗塞の複合アウトカム発生率は、脳卒中既往ありで100人年当たり18.23(95%信頼区間[CI]:16.81~19.77)に対し、既往なしで13.12(95%CI:12.77~13.48)であった(ハザード比[HR]:1.37、95%CI:1.26~1.49、p<0.001)。・HFpEF患者では、複合アウトカム発生率は、脳卒中既往ありで100人年当たり14.16(95%CI:12.96~15.48)に対し、既往なしで9.37(95%CI:9.06~9.70)であった(HR:1.49、95%CI:1.36~1.64、p<0.001)。・脳卒中既往ありの患者では、複合アウトカムの各項目の頻度が高く、またその後の脳卒中リスクは2倍だった。・脳卒中既往ありの患者は、心房細動患者の30%が抗凝固療法を受けておらず、動脈疾患患者の29%がスタチンを服用していなかった。また、HFrEF患者の17%、HFpEF患者の38%が収縮期血圧をコントロールされていなかった(140mmHg以上)。 著者らは、「脳卒中既往のある心不全患者は心血管イベントリスクが高く、ガイドライン推奨の治療を行っていない患者をターゲットにすることが、この高リスク集団の予後を改善する方法かもしれない」と考察している。

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院外心停止後のPaCO2目標値、軽度高値vs.正常/NEJM

 院外心停止後に蘇生された昏睡患者において、目標PaCO2値を軽度高値とする治療(targeted mild hypercapnia)が正常値とする治療(targeted normocapnia)と比較して、6ヵ月後の良好な神経学的アウトカムに結びつかなかったことが示された。オーストラリア・Austin HospitalのGlenn Eastwood氏らが、17ヵ国63施設のICUが参加した医師主導の評価者盲検無作為化非盲検試験「Targeted Therapeutic Mild Hypercapnia after Resuscitated Cardiac Arrest trial:TAME試験」の結果を報告した。ガイドラインでは、院外心停止後に蘇生した昏睡状態の成人患者に対して、正常PaCO2値を治療目標とすることが推奨されているが、軽度高値とするほうが脳血流を増加させ神経学的アウトカムを改善する可能性が示唆されていた。NEJM誌オンライン版2023年6月15日号掲載の報告。50~55mmHg vs.35~45mmHg、6ヵ月後のアウトカムを比較 研究グループは、心原性と推定されるかまたは原因不明の院外心停止後に蘇生しICUに入室した昏睡状態の成人患者を、軽度高値群(目標PaCO2値:50~55mmHg)または正常値群(35~45mmHg)に1対1の割合で無作為に割り付け、無作為化から24時間それぞれの目標値を維持した。 主要アウトカムは、6ヵ月後のGlasgow Outcome Scale-Extended(GOS-E)(スコア範囲:1[死亡]~8、スコアが高いほど神経学的アウトカムが良好であることを示す)による評価で、5点以上(中等度以下の障害を示す)で定義された良好な神経学的アウトカムとし、盲検下で評価した。 副次アウトカムは、6ヵ月以内の死亡および修正Rankinスケール(mRS)(スコア範囲:1[障害なし]~6[死亡])で評価した6ヵ月後の機能的アウトカム不良(mRSスコア:4~6)などであった。1,548例が解析対象、主要アウトカムの有意差なし 2018年3月~2021年9月の期間に1,700例が登録され、847例(49.8%)が軽度高値群、853例(50.2%)が正常値群に割り付けられた。合計24例が同意撤回となり、1,676例中1,548例で主要アウトカムのデータが得られた。 6ヵ月後の良好な神経学的アウトカムを認めた患者は、軽度高値群764例中332例(43.5%)、正常値群で784例中350例(44.6%)であった(相対リスク:0.98、95%信頼区間[CI]:0.87~1.11、p=0.76)。 副次アウトカムである無作為化後6ヵ月以内の死亡は、軽度高値群816例中393例(48.2%)、正常値群832例中382例(45.9%)で報告された(相対リスク1.05、95%CI:0.94~1.16)。有害事象の発現率は、両群間で有意差はなかった。

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薬剤師の復職支援や地域出身者枠で「偏在」が改善? 【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第112回

医療職に就きたい理由として、「日本各地でニーズがある」というのがよく挙げられます。家族の転勤で地方に付いていった薬剤師が再就職に困ったという話はあまり聞きませんし、とある地域では薬剤師が離職したという情報が流れると、次から次へと「うちで働きませんか?」と誘われるそうです。一方で、都内においては中途採用で不採用となることも多く、転職が厳しくなっているといううわさを聞きます。このような「薬剤師の偏在」について対策が取られるようです。厚生労働省は、来年度からスタートする第8次医療計画作成指針に薬剤師確保策が盛り込まれたことから、都道府県が薬剤師確保の取り組みを推進できるよう薬剤師確保計画ガイドラインを作成し、6月9日付で各都道府県に通知した。医療計画の1計画期間が6年間とされているが、薬剤師の偏在状況の変化を踏まえ計画の見直しを行う機会を設ける観点から、薬剤師確保計画の計画期間は、原則3年間とする。薬剤師確保計画の目標年次を2036年とした。(2023年6月14日付 薬事日報)この第8次医療計画作成指針において、看護師と薬剤師の不足に対する対策が盛り込まれました。第8次医療計画は、2024~29年までの6年間の計画ですが、今回の偏在対策については、2計画期間である2036年までの12年間を偏在の是正を達成する期間としています。今回、薬剤師確保計画ガイドラインに規定する偏在指標を算定し、薬剤師少数区域・薬剤師多数区域を設定しました。地域ごとの薬剤師数の比較には、従来は人口10万人当たりの薬剤師数が一般的に用いられてきましたが、それでは実態を反映できないなどの理由から、病院と薬局の区別、薬剤師の勤務形態なども考慮して新たな偏在度合いを示す指標が導入されました。それにより、より小さな範囲においてその偏在が明らかとなり、「地方の病院で薬剤師が大幅に不足している」という実態が浮き彫りになってきました。ではどうするのか、という点ですが、「ガイドラインで示す薬剤師確保計画の考え方や構造を参考に、各都道府県が地域の実情に応じた実効性のある計画を策定できるよう支援する」とされています。具体的には、上記の新たな算出方法によって導き出された薬剤師が不足している場所を「薬剤師少数スポット」として薬剤師少数区域と同様に取り扱い、復職支援やその地域出身者枠の設定、出身者へのアプローチ、学生への啓発などが案として挙げられています。薬剤師が不足している実態がより細かい範囲で把握できるという点はよいとして、その後の偏在対策が大手薬局チェーンにかなうとは思えないというのが正直なところです。これから具体的に計画が練られていくようですが、なかなか厳しそうな気配がするのは私だけでしょうか…。将来的には薬剤師が過剰になると予想されていることを踏まえ、文部科学省は2025年度以降の6年制薬学部の新設・定員増を原則として認めない方針を決めました。しかし、薬剤師不足の都道府県は例外的に新設・定員増を認める方針です。とは言え、薬剤師を志す人にも希望の進学先や勤務地があり、本当に薬剤師の偏在を解決しようとすると、もっと抜本的な改革が必要かもしれません。地方で働く薬剤師や医療者にはとても重要な問題でしょう。今後の動きを見守りたいと思います。

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僧帽弁形成術、小切開vs.胸骨正中切開/JAMA

 僧帽弁形成術において、術後12週時の身体機能の回復に関して、小開胸術の胸骨切開術に対する優越性は示されなかった。弁修復率および安全性については両手術で同等であることが確認された。英国・South Tees Hospitals NHS Foundation TrustのEnoch F. Akowuah氏らが、実用的多施設共同無作為化優越性試験の結果を報告した。変性による僧帽弁逆流を有する患者における、胸腔鏡下小開胸vs.胸骨正中切開の僧帽弁形成術の安全性と有効性は不明であった。JAMA誌2023年6月13日号掲載の報告。小開胸術と胸骨切開術に無作為化、術後12週時のSF-36身体機能スコアを比較 研究グループは、英国の3次医療機関10施設において、変性による僧帽弁逆流を有し僧帽弁形成術を受ける成人患者を、小開胸術群または胸骨切開術群に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。手術は専門医が行い、評価は割り付けを盲検化された独立した研究者が行った。 主要アウトカムは、術後12週時の身体機能およびそれに伴う日常活動への復帰で、SF-36身体機能スコアのTスコアのベースラインからの変化量として測定した。副次評価項目は、1年後までのSF-36身体機能スコア、6週時および12週時の手首装着型加速度計による身体活動および睡眠、12週後および1年後の経胸壁心エコーによる残存僧帽弁逆流、1年後までのEQ-5D-5Lで評価したQOLとした。また、安全性評価項目は、術後12週までの術後合併症、ならびに術後1年までの死亡、僧帽弁再手術および心不全による入院の複合とした。SF-36身体機能スコアの変化量に群間差なし 2016年11月~2021年1月に1,167例がスクリーニングを受け、330例が無作為化され(平均年齢67歳、女性100例[30%])、小開胸術群に166例、胸骨切開術群に164例が割り付けられた。このうち309例が手術を受け、294例で主要アウトカムに関するデータを得られた。 術後12週時のSF-36身体機能スコアのTスコアの変化量平均値は、小開胸術群7.62(95%信頼区間[CI]:5.49~9.78)、胸骨切開術群7.20(同:5.04~9.35)で、平均群間差は0.68(同:-1.89~3.26)であり、胸骨切開術に対する小開胸術の優越性は認められなかった。 残存僧帽弁逆流がない、または軽度の患者割合は、術後12週時で小開胸術群95%、胸骨切開術群96%と両群で類似しており、1年後では両群とも92%で群間差は認められなかった。 安全性については、術後1年時の複合アウトカムの発生は、小開胸術群5.4%(166例中9例)、胸骨切開術群6.1%(163例中10例)であった。 著者は、「今回の結果は、共同意思決定(shared decision-making)および治療ガイドラインへ、エビデンスのある情報を提供するものである」とまとめている。

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