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ED治療薬、心臓病の薬との組み合わせは危険な場合も

 心疾患の治療目的で硝酸薬を使用中の男性が、バイアグラ(一般名シルデナフィルクエン酸塩)やシアリス(一般名タダラフィル)といった勃起障害(ED)治療薬を併用すると、死亡リスクや心筋梗塞、心不全などのリスクが高まる可能性が、新たな研究で示された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のDaniel Peter Andersson氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」1月23日号に掲載された。Andersson氏は「医師が、心血管疾患のある男性からED治療薬の処方を求められることが増えつつある」とした上で、「硝酸薬を使用している患者がED治療薬を併用することで、ネガティブな健康アウトカムのリスクが高まる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。 バイアグラやシアリスなどのED治療薬はPDE5阻害薬と呼ばれ、動脈を広げて陰茎への血流を増加させる働きがある。また、硝酸薬にも血管を拡張する作用があり、狭心症による胸痛の治療や心不全の症状を緩和するために使用される。 PDE5阻害薬と硝酸薬はいずれも血圧低下の原因となり得るため、ガイドラインでは、これらを併用すべきではないとの推奨が示されている。それにもかかわらず、実際にはPDE5阻害薬と硝酸薬の両方が処方されている患者の数は増加しつつある。しかし、これらを併用した場合にどのような影響があるのかについてのリアルワールド(実臨床)のデータはほとんどない。 Andersson氏らは、2006年から2013年の間に心筋梗塞を発症するか血行再建術を受け、硝酸薬が最大18カ月の間隔を空けて2回以上処方されていた18歳以上の患者6万1,487人(平均年齢69.5±12.2歳)を選び出し、その医療記録を分析した。硝酸薬の2回目の処方前6カ月間にPDE5阻害薬が処方されていた患者は除外された。対象者のうち5,710人(9%)にはED治療薬としてPDE5阻害薬も処方されていた。追跡期間中央値は5.9年だった。 解析の結果、硝酸薬とPDE5阻害薬の両方が処方されていた男性では、硝酸薬のみが処方されていた男性に比べて、全死亡リスクが39%、心血管疾患による死亡リスクが34%、心血管疾患以外の原因による死亡リスクが40%、心筋梗塞リスクが72%、心不全リスクが67%、冠動脈血行再建術を受けるリスクが95%、主要心血管イベントの発生リスクが70%高いことが示された。ただし、硝酸薬とPDE5阻害薬の両方が処方された男性でも、PDE5阻害薬の使用開始から28日以内では、死亡や心筋梗塞、心不全といったイベントの発生数は少なく、即時性の高いリスクは低~中程度であることが示されたとAndersson氏らは説明している。 Andersson氏は、「われわれの目標は、硝酸薬による治療を受けている患者にPDE5阻害薬を処方する前に、患者中心の視点で慎重に考慮する必要性を明確に示すことだ」と米国心臓病学会(ACC)のニュースリリースで述べている。その上で、「ED治療薬が心血管疾患のある男性に与える影響は現時点では不明瞭だが、今回の結果は、この影響に関するさらなる研究を正当化するものだ」としている。 一方、米ベイラー大学心臓病学教授のGlenn Levine氏は付随論評で「体調管理が行き届いている軽度の狭心症の男性であれば、ED治療薬はそれなりに安全だ。しかし、硝酸薬の継続的な処方が必要な状態でED治療薬を併用するのは、賢明とは言えない」との見解を示している。同氏は、「EDと冠動脈疾患の組み合わせは高頻度に見られる不幸な組み合わせだ。しかし、適切な予防策とケアを行うことで、これらは何年にもわたって共存できる」と述べている。

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乳がん検診、異型検出後の罹患リスクは?/BMJ

 乳がん検診で異型を伴う病変が検出された場合、その後の短期間において、マンモグラフィ検査を毎年行うことは有益ではないことが、英国・ウォーリック大学のKaroline Freeman氏らによる検討で示された。悪性か否かが不明の異型を伴う乳房病変が検出された場合、乳がんの長期リスクが3~4倍増加する可能性が示されている。英国、欧州、米国のガイドラインでは、異型部位を吸引式乳房組織生検(VAB)または手術で切除し、画像サーベイランスを行うことが推奨されている。しかし、画像サーベイランスを5年間にわたり毎年行うことについてはエビデンスがなく、期間、頻度、妥当性が議論の的となっていた。なお、今回の結果について著者は、「長期的リスクについてさらなるエビデンスが必要である」と述べている。BMJ誌2024年2月1日号掲載の報告。上皮異型が診断された女性3,238例のその後の乳がん例数・種類を調査 研究グループは、検診での異型検出後の乳がん発症例数と種類について調べるため、英国で3年に1回の検診での検出が予測される例数(女性1,000人当たり11.3例)と比較した。 イングランドのSloane Atypia Projectの前向きコホートを対象とした観察研究を実施した。同コホートには、英国の国民保健サービス(NHS)乳がん検診プログラムで診断された異型が含まれており、English Cancer RegistryおよびMortality and Birth Information Systemとリンクしていることから、その後の乳がんおよび死亡に関する情報を得ることができる。 解析には、2003年4月1日~2018年6月30日に上皮異型と診断された女性3,238例が含まれた。 主要アウトカムは、異型診断後1年、3年、6年後に検出された浸潤性乳がんの例数と種類で、異型の種類、年齢、診断暦年別に解析した。マンモと生検の技術的変化で、異型のリスク特定が可能に? 異型検出は、2010年の119例から、デジタルマンモグラフィ導入後の2015年には502例と4倍に増加していた。 2018年12月までの追跡期間中(異型診断後の1万9,088人年)に、女性141例が乳がんを発症した。異型が検出された女性1,000人当たりの浸潤性乳がんの累積発症率は、異型検出後1年時点で0.95(95%信頼区間[CI]:0.28~2.69)、3年時点で14.2(10.3~19.1)、6年時点で45.0(36.3~55.1)だった。異型検出がより直近の時期だった女性ほど、その後3年以内にがんが検出された割合は低かった。 浸潤性乳がん検出(女性1,000人当たり)は、2013~18年は6.0(95%CI:3.1~10.9)であったのに対し、2003~07年は24.3(13.7~40.1)、2008~12年は24.6(14.9~38.3)だった。浸潤性乳がんのグレード、大きさ、リンパ節転移は、一般の検診集団で検出されたがんと同等(同側および対側がんの例数も同等)だった。 結果を踏まえて著者は、「多くの異型はリスク因子ではあるが、短期的には、手術が必要となる浸潤性乳がんの前兆ではないと思われた」とし、「異型検出がより直近の女性ほど、その後にがんが検出される割合が低かったのは、過剰診断に相当する可能性が高い異型を検出するマンモグラフィや生検の技術的変化と関連していると思われる」と述べている。

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第181回 医療DXで未来が変わる、マイナ保険証の利用率が鍵に

今回は、「まとめる月曜日」の特別編として、「マイナ保険証」に焦点をあて、今後の展望や医療機関ができること、やるべき対応について、井上 雅博氏に寄稿いただきました。マイナ保険証とは政府は団塊の世代が、すべて75歳以上の後期高齢者になる2025年までに、それぞれの地域で地域包括ケアの充実や病床再編を進めています。さらに新型コロナウイルス感染拡大が収束した今、医療分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めようとしています。今後迎える超高齢社会で、労働人口の減少に伴う労働力不足に対応しつつ、医療・介護サービスの効率化と質の向上の実現を目指しています。これらの基盤整備推進を行う上で、医療・介護分野で患者情報やさまざまな医療情報を共有する仕組みを進化させることを目的として、電子カルテの共有サービスを2025年4月に開始することを決定しています。その鍵となるのがマイナンバーカードと保険証の機能を統合した「マイナ保険証」です。医療DX推進本部が目指すもの政府は、2022(令和4)年10月の閣議決定で、医療分野でのDXを通して、サービスの効率化・質の向上を実現する基盤整備を推進するため、内閣に医療DX推進本部を設置しました。合わせて医療DX推進本部が推進する施策として、(1)「全国医療情報プラットフォームの創設」、(2)「電子カルテ情報の標準化など」、(3)「診療報酬改定DX」の3つの柱が発表されました。この中で3番の「診療報酬改定DX」は、2年ごとの診療報酬改定で発生する電子カルテの更新作業の負担を軽減するデジタル人材の有効活用やシステム費用の低減を目指していますが、1番大切な項目は「全国医療情報プラットフォームの創設」であり、オンラインによる資格確認システムのネットワークの拡充を行い、レセプト・特定健診などの情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテの医療・介護全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームを創設することを目指しています。厚生労働省は、「健康・医療・介護情報利活用検討会」の医療等情報利活用ワーキンググループにおいて、医療や介護情報共有のための「電子カルテ情報共有サービス」について議論を進めており、本格的な稼働は2025年4月からとなっています。このサービスにより、患者さんが自分の病態を把握し、医師からアドバイスを受けたり、患者さんが他院を受診する際に医療者に情報を共有する、救急搬送時に医療機関に情報を提供することが可能となるように、電子カルテベンダーに対しても具体的な技術解説書のほか、実現に向けた工程表なども公表されています。電子カルテの情報共有で、臨床現場が変化する2025年4月に「電子カルテ情報共有サービス」が立ち上がると、マイナ保険証を介して診療現場では、お薬手帳の処方の情報以外に健診データ、病名、アレルギー歴、感染症、紹介状、入院サマリーを含む「3文書6情報」が共有されるようになります。これらについて具体的に説明します。3文書には、[1]健康診断結果報告書[2]診療情報提供書[3]退院時サマリーが含まれており、他の医療機関で入院治療を行った場合、その治療内容なども把握できるようになります。また、6情報に含まれるのは、患者さんの(1)傷病名(2)アレルギー(3)感染症(4)薬剤禁忌(5)検査(救急、生活習慣病)(6)処方(処方は文書抽出のみ)です。これらの情報は、医療機関を受診した患者さんの同意があれば、マイナ保険証を介して24時間以内は患者さん情報が閲覧可能になり、他院での病名、処方内容などもすべて把握できるようになります。今後、紹介状の内容やお薬手帳の内容を基に診察していた一人一人の医師にとって、患者さんの予診や問診以外で得られる情報が増えることになり、自院で行う検査や処方について、共有情報に基づいて行うことが必須となります。もちろん、情報セキュリティについて、医療機関側には適切な情報管理や、医療情報システムの運用や安全管理が課せられることになります。このため医療機関が扱う個人情報保護については2023年5月に出された「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」に準拠した対応が、すべての医療機関に求められることになります。このガイドラインが対象とする医療機関とは、病院だけではなく、一般診療所、歯科診療所、助産所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業者なども含まれており、病院の電子カルテだけではないため、すべての医療従事者にはこのガイドラインへの対応が求められます。なお、電子カルテ情報共有サービスを用いることが不可能な場合(相手先が電子カルテ情報共有サービスを導入していない場合)は、これまで通り紙運用となりますが、多くの連携医療機関を抱える基幹病院は基本的に「電子カルテ情報共有サービス」で対応することが予想されるため、診療所レベルでも対応が必要となるでしょう。退院サマリーの早期作成が求められるように一部の高度急性期病院(湘南鎌倉総合病院など)では、「患者の退院時に退院サマリーが完成してからでないと退院許可ができない」という方式をとっている医療機関もあると聞きますが、退院時に紹介状を作成して紹介先に受診をする場合は、今後はマイナ保険証を利用して「退院サマリー」の添付が可能となります。現在、退院患者の退院サマリーについて、退院後14日以内に記載された割合が9割以上あることが診療録管理体制加算1で求められており、診療録管理体制加算がDPC病院の要件であるため、多くの急性期病院では退院サマリーの2週間以内の完成が求められています。また、卒後臨床研修評価機構(略称:JCEP)の認定を受けた臨床研修指定病院においては、退院時サマリーの作成率は、退院後1週間以内100%を常に目指すことが必要とされています。高度急性期の医療機関では、退院時までのすべてのサマリー完成は困難だと考えます。しかし、退院後に他の医療機関に紹介受診となった場合、退院時サマリー添付は必須とはなってはいませんが、診療情報提供書を「電子カルテ情報共有サービス」に保存するタイミングが退院時であることを考えると、退院サマリーについても同様の運用が今後想定されます。このため、今まで以上に勤務医は入院時から退院を意識した退院サマリーの作成が必要になると考えられます(具体的な運用方法は「医療DXについて(その3)」を参照ください)。鍵となるのはマイナ保険証の利用率厚労省は、マイナンバーカードと健康保険証との一体化をデジタル庁とともに取り組んでいますが、マイナンバーカードを発行しただけでは利用できず、マイナンバーカードの健康保険証利用の申込みが必要となります。さらに前述の「電子カルテ情報共有サービス」を利用して医療の効率化を図るためには、マイナ保険証を持参してもらわなければならないため、発行数ではなく利用率を引き上げる政策が必要となりました。これらについて、厚労省は、医療機関や薬局への支援策の詳しい運用を関係団体などにマイナ保険証の利用促進に関する通知をしました。通知によれば、「現行の健康保険証の発行については、2024(令和6)年12月2日に終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する、そして、マイナ保険証の利用促進のため、国が先頭に立って、医療機関・薬局、保険者、経済界が一丸となり、より多くの国民の皆様にマイナ保険証を利用し、メリットを実感してもらえるように、あらゆる手段を通じてマイナ保険証の利用促進を行っていく…」とあり、実際に利用率が上昇した医療機関には「支援金」が交付されるような仕組みまで創設しています。このほか、生活保護における医療扶助のオンライン資格確認の運用開始も今年の3月1日から開始されるなど、徐々に現場でも利用されるようなサービスの充実がはかられています。また、今年1月の能登半島地震では、マイナンバーカードを持参しなくても、本人の同意の下、薬剤情報・診療情報・特定健診など情報の閲覧が可能な措置(災害時モード)を実施することで、患者さんの薬剤情報などの閲覧により、診療に役立ったように具体的な事例でメリットを提示したり、ポスターを作成したり、啓発用の漫画を公開するなど、厚労省のプロモーションは強化されています。現在、マイナ保険証の利用率が全国で4~5%と低迷していますが、今年1~5月、6~11月の前半、後半でそれぞれ利用率の上昇率に対して2回の支援金が交付されるという前代未聞のキャンペーンが行われ、医療機関による患者さんへの働きかけが強化されると予想されます。今後、医療機関側に求められるマイナ保険証への対応はさまざまな場面で混乱する可能性もありますが、医療DXの対応で避けられない部分もあり、できるだけ政府の目指す21世紀型の医療・介護連携のために対応に乗り出すことが必要と思われます。参考1)マイナ保険証、利用増に応じて支援金 厚労省が詳しい運用を通知(CB news)2)マイナ保険証支援金セミナー&診療報酬のプチお知らせ[動画](厚労省)3)マイナ保険証利用促進のための医療機関等への補助等の支援策について(同)4)電子カルテ情報共有サービスにおける運用について(同)5)医療DXの推進に関する工程表について(同)6)医療扶助のオンライン資格確認(同)7)マイナンバーカードの保険証利用でみんなにいいことたくさん!!(同)8)電子カルテ情報共有サービス-医療機関等向け総合ポータル(社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会)

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日本未承認の肺塞栓症へのカテーテル治療、t-PAより有効か?【臨床留学通信 from NY】第56回

第56回:肺塞栓症へのカテーテル治療、t-PAより有効か?現在私はMontefiore Medical Centerで3年目の循環器フェローとして働いていますが、同時にJacobi Medical Centerのカテーテル室もカバーし、心臓冠動脈カテーテル治療と、主に下肢血管等の末梢血管治療を行っています。2018年の渡米前まで心臓カテーテル治療を主に行っていましたが、さすがに5年も間が空いてしまったため、手先の感覚を戻すのに四苦八苦している日々です。末梢血管治療の中には肺塞栓症へのカテーテル治療が含まれています。ここは米国、BMIが高い人も多く、人種の特性によるのか血栓性が強いため、肺塞栓症を診療することは日常茶飯事です。日本では認可されていませんが1)、重症肺塞栓症に対して、米国で認可されている24Frの大口径デバイスでの血栓吸引(FlowTriever)2)、もしくはカテーテルによる超音波補助血栓溶解療法(EKOS)3)があります。そしてガイドライン上では、ショックバイタルの肺塞栓症例に関してt-PA(tissue plasminogen activator:血栓溶解療法)以外にカテーテル治療を考慮するということになっており、pulmonary embolism response team(PERT)との連携が重要とされています。多くの病院では外科手術的な血栓摘除術を行うことが難しいため、カテーテル治療医の判断となることが多いと思います。とはいうものの、BMI 50くらいの患者さんに、静脈とはいえ24Frの大きなカテーテルを挿入するのはそれなりに大変です。ショックバイタルもしくは心肺停止後にすでにt-PAが投与されていて、それでもショックバイタルが遷延したため、やむなく大口径デバイスを挿入して血栓吸引を施行することも場合によってはあります。ただし、実はこの領域は大規模なRCTがないため、はっきりと結論付けられてはいませんが、われわれが以前に行ったメタ解析においてはカテーテル治療の有用性が示唆されています4)。この領域の患者さんのアウトカム改善につながるような追加の研究ができないかと、日々模索中です。参考1)早期導入を要望する医療機器等に関する要望書 INDIGO Aspiration System2)Acute Pulmonary Embolism treated with Inari FlowTriever system in Hospital Santa Cruz Lisbon, Portugal. radcliffe cardiology. 2023 Jul 12.3)EKOS Endovascular System:Boston Scientific4)Ishisaka Y, Kuno T, et al. Comparison of interventions for intermediate to high-risk pulmonary embolism: A network meta-analysis. Catheter Cardiovasc Interv. 2023;102:249-265.

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双極性障害患者における摂食障害の有病率

 摂食障害と双極性障害は症状が類似しており、摂食行動や感情制御に根付いた特定の類似点が認められる。摂食障害と双極性障害の併存に関する研究は増えているものの、両疾患の同時進行に関する科学的データは十分に体系化されていない。ロシア・V.M. Bekhterev National Medical Research Center for Psychiatry and NeurologyのYana V. Yakovleva氏らは、双極I型およびII型障害患者におけるさまざまなタイプの摂食障害の有病率について、性別および両疾患の同時進行の臨床的特徴を考慮したうえで、スコーピングレビューを実施した。Consortium Psychiatricum誌2023年7月10日号の報告。 スコーピングレビューのためのPRISMAガイドラインに従い分析を行った。研究の検索にはMEDLINEデータベースを用いた。双極性障害および摂食障害と診断された患者に焦点を当てた研究を分析に含めた。摂食障害および双極性障害の診断の検証には、DSM-IV、DSM-5またはICD-10を用いた。レビュー結果の要約には、記述的分析法を用いた。 主な結果は以下のとおり。・レビューには、41件の研究を含めた。・双極性障害患者における摂食障害の生涯有病率は2.2~31.1%、摂食障害患者における双極性障害の有病率は11.3~68.1%であった。・双極II型障害および女性において、摂食障害の有病率が高かった。・双極性障害患者における摂食障害の併存は、気分障害の早期発症、抑うつエピソードの増加、自殺企図、強迫症および不安症、依存症、各種代謝障害の併存率の増加と関連が認められた。 著者らは、「研究結果により違いがあるものの、摂食障害と双極性障害の併存率は非常に高いことが示唆された。双極性障害患者における摂食障害のスクリーニングまたはその逆のスクリーニングは、正確な診断や最も効果的な治療法を選択するうえで重要である」とし、「性別に応じた、さまざまな摂食障害と双極性障害との併存パターンについては、今後さらなる研究が必要である」とまとめている。

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論文での生成AI使用、投稿雑誌のガイドライン整備状況は?/BMJ

 著者による生成人工知能(generative artificial intelligence:生成AI)の使用に関して、一部の大手出版社や雑誌によるガイドラインが不足しており、ガイドラインを提示していても許容される生成AIの使用やその開示方法は大きく異なり、出版社と提携雑誌間でガイドラインの不均一性が存在している場合があるという。米国・南カルフォルニア大学のConner Ganjavi氏らが、学術出版社および科学雑誌による著者に対する生成AI使用のガイダンスの範囲と内容を明らかにすることを目的に、横断的な計量書誌学的研究を行った結果を報告した。2022年後半以降、ChatGPTを含む生成AIツールが学術論文や研究で広く利用されるようになり、出版社、雑誌、監督官庁のメンバーを含む出版エコシステム(publishing ecosystem)の関係者は、この新しいテクノロジーを監視し、安全に使用する方法について議論をしている。著者は、「標準化の欠如は、著者への負担につながり、規制の効果を限定的なものとする可能性がある。生成AIの人気が拡大し続ける中、研究成果の科学的誠実性を確保し続けるためにも標準化されたガイドラインが必要となる」とまとめている。BMJ誌2024年1月31日号掲載の報告。各公式ウェブサイトで生成AIに関するガイドラインを計量書誌学的に調査 研究グループは、テーマ、言語、発行国に関係なく、最大手の学術出版社上位100社と高ランクの科学雑誌上位100誌を対象として、各社の公式ウェブサイトを手作業で検索し、生成AIに基づくものも含めて広く生成AIツールに関する著者ガイダンスを調査した。 出版社はポートフォリオ内の雑誌の総数によって特定し、学術誌は雑誌の生産性と影響力の指標として、Hirsch index(H index)を用いるSCimago journal rank(SJR)によって特定した。各社の公式ウェブサイトについて、2023年5月19~20日にスクリーニングを行い、同年10月8~9日に検索を更新した。 主要アウトカムは、上位100の学術出版社および科学雑誌の公式ウェブサイトに掲載されている生成AIガイドラインの内容、および出版社とその提携雑誌間のガイダンスの一貫性とした。ガイドラインの記載は、上位100の学術出版社で24%、科学雑誌で87% 上位100の学術出版社のうち、生成AIの使用に関するガイダンスを提示していたのは24%で、そのうちの15社(63%)は上位25社に含まれていた。また、上位100の科学雑誌のうち、生成AIに関するガイダンスを提示していたのは87%であった。 ガイドラインを設けている出版社と雑誌のうち、著者として生成AIを含めることを禁止しているのは、それぞれ96%、98%であった。原稿作成における生成AIの使用を明確に禁止している雑誌は1誌(1%)のみで、出版社2社(8%)と雑誌19誌(22%)は執筆過程にのみガイドラインが適用されるとしていた。 生成AIの使用を開示する場合、出版社の75%、雑誌の43%が特定の開示基準を定めていたが、生成AIの使用を開示する場所は、方法あるいは謝辞、カバーレター、新しいセクションなど、さまざまであった。 雑誌と出版社間で共有されている生成AIガイドラインへのアクセス方法についても、ばらつきがあることが確認された。12誌の生成AIガイドラインは、出版社が作成したガイドラインとは相反するものであった。トップ医学雑誌(medical journals)が作成したガイドラインは、学究的な雑誌(academic journals)のガイドラインとほぼ類似していた。

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ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対する次世代治療薬repotrectinib(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 ROS1融合遺伝子は非小細胞肺がんの約2%に認められるドライバー遺伝子変異である。現在、本邦でもROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対し、クリゾチニブおよびエヌトレクチニブが承認されている。「PROFILE 1001試験」においてROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対してクリゾチニブはORR 72%、PFS中央値19.2ヵ月、OS中央値51.4ヵ月という有効性を示した(Shaw AT, et al. N Engl J Med. 2014;371:1963-1971. , Shaw AT, et al. Ann Oncol. 2019;30:1121-1126.)。また同じくROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対するエヌトレクチニブ単剤療法を評価した「ALKA-372-001試験」と「STARTRK-1試験」「STARTRK-2試験」の3つの臨床試験の統合解析では、ORR 77%、PFS中央値19.0ヵ月という結果が示された。いずれも『肺癌診療ガイドライン2023年版』では推奨度「1C」という位置付けとなっている。 ただし、現在承認されているROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対する治療薬は、耐性の出現や脳転移での再発の頻度が高いことが知られている。今回紹介するrepotrectinibはROS1のトロポミオシン受容体キナーゼ(TRK)A/B/Cを選択的に阻害する低分子チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)である。repotrectinibは過去の臨床試験において、ROS1 G2032Rなどの耐性変異を含むROS1融合遺伝子陽性肺がんに対する活性が示された次世代のROS1-TKIとされている。 今回行われた「TRIDENT-1試験」の第I相試験の結果に基づき、repotrectinibの推奨用量は160mg、1日1回を14日間投与後、15日目以降は160mg、1日2回投与とされた。ROS1-TKI未治療の拡大コホート1に含まれた71例では、奏効率79%、PFS中央値35.7ヵ月と高い効果が示された。また化学療法治療歴がなくROS1-TKIで1種類の治療歴のある56例の拡大コホート4でも、奏効率38%、PFS中央値9.0ヵ月と期待される結果が示された。ベースラインに脳転移がない症例における、頭蓋内の12ヵ月時点でのPFS率は拡大コホート1で91%、拡大コホート4で82%と高い効果が示された。また、第II相試験の用量で治療された426例のうち、頻度の高い有害事象はめまい、味覚障害、異常感覚であり、Grade3以上の有害事象は29%であったと報告された。治療中止に至った有害事象は3%となっている。 第III相試験が行われたわけではないので、純粋に比べることはできないが、この「TRIDENT-1試験」の結果からは次世代ROS1-TKIであるrepotrectinibは既存の治療薬と並べても、奏効率も無増悪生存期間も期待できることがわかる。とくに拡大コホート4で行われたROS1-TKIが1種類使用された症例群においても奏効率38%、PFS 9.0ヵ月というのは有望である。既存のROS1-TKIでも制御が難しい脳転移に対しても、高い頭蓋内PFS率が示されたことも心強い結果であり、早期の承認が望まれる。 ただ、本研究に使用されたROS1融合遺伝子の検索は「Guardant360 CDx」あるいは「GeneseeqLite circulating tumor DNA-based assays」に基づいている。本邦の医療機関では一般的に扱っていない検査キットであり、今後、このrepotrectinibが実臨床で活用されるためにはコンパニオン診断の問題が出てくるのであろう。

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ERCP後膵炎の予防におけるインドメタシン坐剤の役割は?(解説:上村直実氏)

 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は、胆道および膵臓疾患にとって重要な診断法・治療法である。厚生労働省の2007年から2011年のアンケート調査によると、ERCP後の膵炎発症頻度は0.96%、重症例は0.12%と報告されており、重症膵炎の発症頻度は低いが、一度生ずると患者負担が大きいため膵炎の予防法が課題となっている。今回、米国とカナダで行われた無作為化非劣性試験の結果、ERCP後膵炎の高危険群における膵炎の予防に関して、欧米の標準治療である非ステロイド性抗炎症薬インドメタシン直腸投与+予防的膵管ステント留置の併用と比較して、インドメタシン単独投与は予防効果が劣ることが2024年1月のLancet誌に掲載された。 わが国のERCP後膵炎ガイドラインを見ると、膵炎高危険群に対する予防策として最も強く推奨されているのは一時的膵管ステント留置であるが、本邦では、治療目的以外の予防的膵管ステントとしての保険適用を取得していないことが大きな課題となっている。一方、インドメタシンなどNSAIDsの抗炎症作用が膵炎の発生を抑えることができる可能性と多くの臨床試験の結果から「ERCPの検査前もしくは直後の直腸内投与」が提案されているが、膵管ステント留置とNSAIDs併用に関するエビデンスが不足していることから両者の併用に関する記載はない。わが国の胆膵内視鏡診療は世界でも最高峰のレベルと思われるが、この分野で日本発のレベルの高いエビデンスが輩出されることが期待される。 わが国の臨床研究における大きな問題は、エビデンスレベルの高い研究デザインでの臨床試験を施行するための財源や人材も含めた体制がきわめて不十分な点である。一般の臨床現場において、欧米と異なる国民皆保険制度により最善と思われる診療を享受できることから、プラセボを用いた臨床試験や新たな薬剤を用いた臨床研究を施行する場合、被験者としてエントリーしてもらうこと自体が困難であることが多く、今後、レベルの高い臨床研究を推進するために産官学で協力した体制の確立が必要であろう。

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第180回 ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省

<先週の動き>1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省厚生労働省は、1月31日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開催し、2024年度の診療報酬改定で急性期一般入院料1の平均在院日数を現行の18日から16日に短縮することを決定した。この決定は診療側と支払側の意見は大きく分かれていたため、公益裁定により行われた。これまで厚労省が進めてきた病床機能分化推進を目的としている。また、重症度や医療・看護必要度の基準も見直され、とくにB項目は廃止される方向で固まった。今回の改定では、急性期入院治療が必要な患者の集約化を進め、医療資源の適切な配分を促すために行われる。公益委員は、地域包括医療病棟の新設や入院基本料の見直しを踏まえ、該当患者割合の基準を高く設定することが将来の医療ニーズに応える上で重要だと指摘した。一方、診療側は、新型コロナウイルス感染症の特例終了後の経営の厳しさを理由に、平均在院日数の基準変更に反対し、影響の小さい見直しを求めた。また、支払側は、急性期病床の適切な集約を進めるために、より厳しい基準の採用と該当患者割合の引き上げを主張した。最終的に、公益裁定により平均在院日数の「16日以内」への短縮と、重症度・医療看護必要度の基準見直しが決定された。今回の改定により、地域医療の質の向上と効率化を目指し、急性期病床の機能分化と連携強化を推進することが望まれている。参考1)中医協 個別改定項目(その2)について(厚労省)2)1月31日の中医協の公益裁定で決定 急性期一般入院料1の平均在院日数は「16日」に短縮(日経ヘルスケア)3)24年度診療報酬改定 急性期の機能分化推進へ 急性期一般入院料1の平均在院日数「16日」に短縮(ミクスオンライン)2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁新型コロナウイルス感染症の長期化により、わが国の救急医療体制が逼迫していることが総務省消防庁の2023年版「救急・救助の現況」から明らかになった。救急出動件数と搬送人数は共に増加傾向にあり、救急車の要請から病院受け入れまでの時間が延長し、搬送先病院をみつけるまでの照会件数も増加している。この状況は、救急現場の負担増加とともに、国民の健康や生命に重大な影響を及ぼす可能性がある。2022年中の救急出動件数は723万2,118件で前年比16.7%の増加、搬送人員は621万9,299人で13.2%増加した。搬送は救急自動車が大部分を占め、消防防災ヘリによる搬送もわずかに増加していた。救急出動の主な原因は急病で、とりわけ呼吸器系、消化器系、心疾患、脳疾患のケースが多くみられた。また、軽症者の割合も増加しており、救急搬送の要請が重症患者や重篤患者に限定されるべきであるとの国民意識のシフトが必要とされている。救急搬送の過程で、119番通報から救急自動車が現場に到着するまでの時間は全国平均で10.3分、病院に収容されるまでの時間は47.2分となり、コロナ禍の影響で時間が延伸している。医療機関への受け入れ照会回数の増加や、搬送先病院のみつけにくさは、コロナ禍における救急医療提供体制の逼迫を示している。この状況に対応するため、厚生労働省は発熱外来や相談体制の強化、かかりつけ医を持つことの重要性を自治体に要請している。また、救急隊による応急処置の重要性が高まっており、医師の現場出動も広がっている。さらに、救急救命士が、病院前で重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置を救急外来でも実施できるよう法律改正が行われている。参考1)新型コロナ感染症の影響で救急医療体制が逼迫、搬送件数増・病院受け入れまでの時間延伸・照会件数増などが顕著―総務省消防庁(Gem Med)2)「令和5年版 救急・救助の現況」(総務省消防庁)3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省厚生労働省は、2024年4月より製薬会社による医師への研究資金提供に関する規制を強化する。製薬会社が、自社製品の臨床研究を大学病院などで行う医師に対して提供する資金の公表を義務付ける臨床研究法の施行規則を改正することにより、透明性を高めることを目的としている。改正後は、製薬企業が提供する研究資金のほか、医師への接待費用や説明会、講演会にかかった費用と件数も公表対象となる。これにより、医師が所属する大学などへの寄付金、講演会の講師謝金、原稿執筆料に加え、これまで公表対象外だった接待費用なども含めた透明性の確保が図られる。今回の規制強化は、高血圧治療薬「ディオバン」を巡る臨床研究データ改ざん事件を受けて制定され、2018年に施行された臨床研究法に基づくもの。この法律は、製薬会社から研究を実施する大学側に寄付金が提供されていた事実を背景に、研究の透明性を高めることを目的としている。また、日本製薬工業協会は、2011年に「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」を策定し、2022年にも改定している。このガイドラインでは、製薬企業と医療機関、医療関係者の産学連携における透明性と信頼性の向上を目指し、製薬企業の活動が倫理的かつ誠実なものとして信頼されるための取り組みを強調している。臨床研究法との関係においても、ガイドラインは臨床研究に関連する資金提供の情報公開を義務付け、国民の信頼確保に寄与することを目指している。今回の規制強化により、製薬企業と医療機関の資金提供について透明性を高め、医療機関・医療関係者が特定の企業・製品に深く関与することによる利益相反の問題を解消し、患者の健康を最優先にした倫理的かつ誠実な医療の提供を目指している。参考1)医師への接待費、公表義務化へ…研究資金提供の製薬会社に対し4月から(読売新聞)2)企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドラインについて(日本製薬工業協会)4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省糖尿病治療薬をダイエット目的で使用する不適切な医療広告が増加している問題に対し、厚生労働省は医療広告ガイドラインの見直しを行うことを決めた。とくに、GLP-1受容体作動薬を「ダイエット薬」として処方する事例が問題視され、関係学会から有効性や安全性が確認されていないとの警鐘が鳴らされている。GLP-1受容体作動薬は、食欲や胃の動きを抑える効果があるため、糖尿病治療以外にもダイエット目的で使用されている。厚労省は、1月29日に医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、未承認の医薬品や医療機器を自由診療で使用する場合、公的な救済制度の対象外であることを明示するなど、ガイドラインの「限定解除要件」に新たに項目を追加する方針を明らかにした。また、美容医療サービスなどの自由診療でのインフォームド・コンセントの留意事項も見直される。ダイエット目的での不適切な医療広告によって、糖尿病患者が必要とする薬が手に入らない事態を引き起こしており、健康被害の報告も増加している。ダイエット目的で使用した場合の副作用には、吐き気、気分の低下、頭痛、胃のむかつきなどがあり、使用者からは苦しんだとの声が上がっている。厚労省は、不適切な医療広告に対処する都道府県に対して、実施手順書のひな形を提供し、指導、対応を促す方針。さらにネットパトロール事業を通じて違反が確認された医療機関には通知され、多くは6ヵ月以内に改善されているが、一部では改善が遅れているケースもあるため、厳格な対応が求められており、医療広告に関する全国統一ルールの検討や、医療機関のウェブサイトだけでなく、SNSや広告への対処も検討されている。また、一般国民への正しい情報提供と理解促進の強化が必要とされている。参考1)第2回 医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会(厚労省)2)医療広告ガイドライン改正へ 厚労省「未承認薬は救済制度の対象外」明示、限定解除要件に(CB news)3)「糖尿病治療薬を用いたダイエット」などで不適切医療広告が目に余る、不適切広告への対応を厳格化せよ-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)4)「糖尿病治療薬」“ダイエット目的”での使用相次ぎ健康被害が続出 薬不足で糖尿病患者が薬を手にできないケースも…(FNNプライムオンライン)5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省2024年12月に現行の健康保険証が廃止され、マイナ保険証への完全移行が予定されている。この移行に向けて、厚生労働省は医療機関や薬局に対してマイナ保険証の利用促進策を通知した。支援策には、利用促進、顔認証付きカードリーダーの増設、再来受付機・レセプトコンピューターの改修コストの補助が含まれる。利用促進に関しては、利用率の上昇に応じて1件当たり最大120円の支援金が提供される予定。具体例として、国家公務員の利用率は4.36%と低迷し、とくに防衛省では2.50%と最も低い利用率を記録している。同様に電子処方箋の普及も伸び悩んでおり、導入率は約6%に留まっている。これには、システム導入費の負担が大きな障壁となっていることが原因の1つとされている。さらに、マイナ保険証の導入に対する現場の反発も広がっている。大阪府保険医協会のアンケートでは、回答した医療機関の約7割が現行の保険証の存続を支持しており、マイナ保険証の利用に際してのトラブルも多く報告されている。医療現場からは、マイナ保険証の導入による受付業務の負担増や患者の待ち時間の増加が懸念されている。政府はマイナ保険証の利用促進とデジタル化の推進を図っているが、現場の声や患者の不安に十分考慮した取り組みが求められる。専門家は、マイナ保険証のメリットが十分に理解されていない現状を指摘し、デジタル化に適応できない人たちへの配慮や現場の声を反映したスケジュールの見直しが必要だと提言している。参考1)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)2)マイナ保険証、利用増に応じて支援金 厚労省が詳しい運用を通知(CB news)3)マイナ保険証、国家公務員も利用低迷 昨年11月は4.36%(朝日新聞)4)「トラブル多い」「利用は少ない」 マイナ保険証、広まる現場の反発(同)6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取鳥取県立中央病院の救命救急センターの医師が、消防の救急救命士に対してパワーハラスメント行為を行っていた問題について、病院は6件のパワハラ、またはパワハラの恐れがある行為を認めた。これに対し、12件はパワハラには当たらないと判断された。問題の行為には、救急救命士への高圧的な口調での対応や、一方的に電話を切るなどの行為が含まれている。病院側は、救急救命士からの医療行為に必要な指示を出すよう要請されたにもかかわらず、指示を拒否したり、救急救命士の発言が終わる前に電話を切ったりするなど、救急救命士を指導したいという思いが行き過ぎた行為があったと認めた。この問題について、病院長は記者会見を開き、パワーハラスメントに該当する言動があったことを発表し、今後は研修会などを通じて医師と救急救命士との信頼関係の醸成を図ると述べた。同病院は、消防局に対して謝罪し、関係回復に努めるとしている。また、県病院局はハラスメント防止委員会を立ち上げ、医師らの処分を検討する方針を示している。参考1)県立中央病院医師の救急救命士へのパワハラ6件と発表(NHK)2)救命士に電話ガチャ切りパワハラ 鳥取県立中央病院の救急医(産経新聞)3)「それってぼくが助言しなきゃいけないことですか」「一方的に電話を切られた」医師から救急隊員へのパワハラさらに判明 鳥取県立中央病院(山陰放送)

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何はさておき記述統計 その1【「実践的」臨床研究入門】第40回

いきなり!多変量解析?臨床研究における統計解析というと、みなさんはいきなり多変量解析を行ったり、臨床研究といえば多変量解析というようなイメージを持っていないでしょうか。重回帰分析、ロジスティック回帰分析、Cox回帰分析などの多変量解析のさまざまな手法を用いたことがある方や、学会などでこれらの統計解析手法を聞いたこと、論文で目にしたことがある方は多いでしょう。しかし、統計解析手法を正しく選択するためには、変数やアウトカム指標の型をよく知ることが必要となります。また、いきなり多変量解析に飛びつく前に、まずは変数やアウトカム指標の型を意識して正しく記述すること(記述統計)が重要です。今回からは、具体的な統計解析手法について、筆者らが行い英文論文化された臨床研究の実例などを引用して解説します。また、架空の臨床シナリオを元に立案したClinical Question(CQ)とResearch Question(RQ)に基づいた仮想データ・セットを用いて、統計解析の実際についても実践的に説明したいと思います。まずはここで、これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQの研究デザイン、セッティング、およびPECOについて整理します。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうかD(研究デザイン):(後ろ向き)コホート研究S(セッティング):単施設外来P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者組み入れ基準:診療ガイドライン1)で定義されるCKD患者除外基準:ネフローゼ症候群、透析導入(または腎移植)された患者E(曝露要因):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満C(比較対照):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上*外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いてMaroniの式より算出O(アウトカム):1)末期腎不全(慢性透析療法への導入もしくは先行的腎移植)*打ち切り(末期腎不全発症前の死亡、転院、研究参加同意撤回などによる研究からの離脱)2)糸球体濾過量(GFR)低下速度われわれのRQのプライマリアウトカムは末期腎不全であり、アウトカム指標はその発生率となります。発生率は下記の計算式で求められるのでした(連載第37回参照)。発生率=一定の観察期間内のアウトカム発生数÷at risk集団の観察期間の合計実際の臨床研究論文では、発生率は人年法という手法を用いて、1,000人を1年間観察すると(1,000人年)何件アウトカム(イベント)が発生したか、という形式で記述されることが多いです。以下に、筆者らが2023年に出版した臨床研究論文2)の実際の記述を示します。CKD患者において血清鉄代謝マーカーの1つであるトランスフェリン飽和度(TSAT)レベルと心血管疾患(CVD)およびうっ血性心不全(CHF)の発生リスクの関連を検討した論文です。Resultsの”Incidence of outcome measures"という小見出しで以下のように記載しました。"Supplementary Fig. S1 shows the incidence rates of CVD and CHF events based on serum TSAT levels. The overall incidence rates of CVD and CHF in the analysed participants were 26.7 and 12.0 events/1000 person-year, respectively. Participants with TSAT 40% (17.2 and 6.2 events/1000 person-year, respectively)."「補足図S1は、血清TSAT値に基づくCVDおよびCHFイベントの発生率を示している。全解析対象者におけるCVDおよびCHFの発生率は、それぞれ26.7および12.0イベント/1,000人年であった。TSATが20%未満の参加者でCVDおよびCHFの発生率が最も高かった(それぞれ33.9と16.5イベント/1,000人年)。一方、CVDとCHFの発症率はTSATが40%以上の患者で最も低かった(それぞれ17.2および6.2イベント/1,000人年)。(筆者による意訳)」この論文記載のポイントは、血清TSAT値20%未満(診療ガイドライン3)で鉄補充療法開始が推奨される基準値)のCKD患者において、CVDおよびCHFの発症率が最も高い、という記述統計の結果がまず示されたということです。次回からは仮想データ・セットを用いて、具体的な統計解析方法についても解説をしていきます。1)日本腎臓学会編集. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社;2023.2)Hasegawa T, et al. Nephrol Dial Transplant. 2023;38:2713-2722.3)日本透析医学会編集.2015 年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン.

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ようやくドイツで災害医療向けのガイドラインが完成【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第33回

2024年、日本は大変なスタートとなってしまいました。連日、能登半島地震の被害状況がメディアで報道され、痛ましい映像が流されている状況です。毎年50億円くらいの予算を投じて作成されている地震ハザードマップでは、能登半島はむしろ「安全」な地域になっていました。と、言いますか新潟県中越地震(2004年)、熊本地震(2016年)のときもハザードマップでは、危険が低い地域になっていたと思います。うーん、どうやら地震の予測はまだまだ難しそうです。日本に住んでいる限りは、本当に明日はわが身と思っておかなければいけないことを痛感しています。災害の多い日本は、災害派遣医療チーム(DMAT:Disaster Medical Assistance Team)をはじめてとして、災害医療のレベルが本当に高いですよね。大きな災害のたびに、何かしらの課題が指摘されて、次にはちゃんと修正されています。避けることができない災害なら、被害を最小限にするための努力を諦めない、そういった強い意志を感じます。自然災害が少ないドイツもやっと救急医療の整備を始めたドイツはほとんど地震がありません。近年は気候変動による河川の氾濫など、自然災害は増加傾向にありますが、わが国と比べると自然災害の頻度は低くなっています。実はドイツには救急に関して専門医制度が確立しておらず、大きな病院でも救急部門がありません。救急に関して遅れている国と言えます。救急認定医みたいな制度がありますが、医師会が実施している講習会を受けて、ちょっと実習するだけで取れるみたいです。以前、実習をさせてもらっていた開業医の先生が取っていましたが、「結局、救急のことはよく知らない」と言っているレベルでした。そんなドイツですが、最近、麻酔科学会と集中治療学会が中心となって、28個の学会が共同して災害医療のガイドラインの作成が行われました。ドイツの「災害医療のプレホスピタルガイドライン」です。画像を拡大する右上に作成日が書かれていますが、「2023年4月」と本当に最近作成されています。これまでなかったことにも驚きです。どちらかと言えば内容は自然災害よりもバイオテロなどへ意識を向けている印象となっています。自然災害が少ない代わりに、戦争や大規模テロのリスクが高いとされるヨーロッパ。一口に「災害医療」と言っても、国によってニーズがまちまちであることを感じます。

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便通異常症 慢性便秘(5)小腸閉塞の診断に有用な身体所見【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q103

便通異常症 慢性便秘(5)小腸閉塞の診断に有用な身体所見Q103『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』では器質性便秘症を鑑別するための身体所見も紹介されている。

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肥満の変形性関節症患者での減量は「ゆるやかに」が重要

 肥満症治療薬を使って体重を徐々に落とすことは変形性関節症(osteoarthritis;OA)患者の延命に役立つことが、新たな研究で明らかになった。ただし、急速な減量は、生存率の改善には寄与しないばかりか、場合によっては心血管疾患のリスクをわずかに上昇させる可能性も示された。中南大学(中国)のJie Wei氏らによるこの研究の詳細は、「Arthritis & Rheumatology」に12月6日掲載された。 肥満は関節炎の悪化要因である上に、早期死亡のリスク因子でもある。現行のガイドラインでは、過体重や肥満の変形性膝関節症/変形性股関節症の患者に対しては減量が推奨されているが、OA患者での減量と死亡との関連に関するデータは少ない。 そこでWei氏らは今回、過体重や肥満の変形性膝関節症/変形性股関節症患者6,524人(平均年齢60.9歳、女性70.2%、平均BMI 38.1)を対象に、肥満症治療薬による1年間の体重減少と全死亡率やその他の疾患との関連を検討した。対象患者のデータは、ウゴービやZepbound(ゼップバウンド)のような肥満症治療薬が登場する前の2000年1月1日から2022年3月31日の間に収集されたものであり、患者は肥満症治療薬としてオルリスタット(5,916人)、シブトラミン(488人)、rimonabant(リモナバント、120人)を服用していた。 5年間の追跡期間中の全死亡率は、1年の間に体重が増加したか変化のなかった人で5.3%、体重減少が緩徐〜中等度(2〜10%の減少)だった人で4.0%、急速(10%以上の減少)だった人で5.4%であった。体重が増加したか変化のなかった人を基準とした場合の全死亡のハザード比は、「緩徐〜中等度」の人では0.72(95%信頼区間0.56〜0.92)と有意に減少していたが、「急速」の人では0.99(0.67〜1.44)と有意ではなかった。さらに、「緩徐〜中等度」と「急速」のいずれの群でも、体重の減少に伴い、高血圧、2型糖尿病、静脈血栓塞栓症のリスクが低下するという減量の保護効果が認められた。しかし、体重減少が急速だった人では、心血管疾患のリスクについては、統計的に有意ではないものの上昇が認められた。一方、がんリスクについては、どちらの群でも有意な関連は認められなかった。 では、なぜ急速に減量した人でのみ、心血管疾患のリスク増加が認められたのだろうか。研究グループによると、先行研究では、急速な減量は心臓にダメージを与える可能性のあるタンパク質や電解質、微量栄養素の欠乏といった不健康な状態に関係することが示されているという。 研究グループは、本研究から学ぶべき重要ポイントとして、「肥満症治療薬によるゆるやかな減量は、過体重や肥満のOA患者の全体的なウェルネスを改善させる可能性がある」とまとめている。また、「今回の結果は、ゆるやかな減量を推奨している、肥満症治療の世界的なガイドラインと一致するものだ」と述べている。

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心臓カテーテル検査前に絶食は必要か

 鎮静下で実施する心臓カテーテル検査では、検査前に長時間、絶食する必要はない可能性が、新たな研究で示唆された。米パークビュー心臓研究所の看護部長であるCarri Woods氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Critical Care」に1月1日掲載された。 心臓カテーテル検査は、カテーテルと呼ばれる細い管を血管から心臓まで通して心臓の圧を測定したり、心臓の機能や血管の状態を調べるための検査である。この検査を受ける患者は通常、検査前の午前0時以降は何も口にしないように言われる。Woods氏は、「麻酔ガイドラインでは何十年も前から、意識下鎮静法を要する処置では、処置を受ける全ての患者に6時間以上の絶食を求めてきた」と説明する。絶食は患者に、不快感やイライラ感、脱水、喉の渇きと空腹感の増加、低血糖症などの悪影響をもたらす。しかし、低度から中等度のリスクの患者に対する心臓カテーテル検査で絶食が必要なことを裏付けるエビデンスはない。 今回の研究では、同心臓研究所で待機的心臓カテーテル検査を受ける197人の成人患者を対象に、検査前の絶食の必要性が検討された。対象者は、検査前に心臓に良い食事(脂肪やコレステロール、ナトリウムの含有量が低く酸性食品の少ない食事)を摂取してもよい群(食事摂取群、100人)と、検査前の深夜以降は飲食物を何も口にしない群(絶食群、97人)にランダムに割り付けられた。絶食群は、薬を飲む際には少量の水を飲むことができた。食事摂取群と絶食群との間で検査の安全性を比較するとともに、検査に対する患者の快適さや満足度についても評価した。 処置後に肺炎、低血糖、誤嚥が生じたり気管挿管が必要になった患者はいなかった。また、血糖値、胃腸の問題、疲労度、抗血小板薬の投与量も両群間で同等であった。その一方で、絶食群に比べて食事摂取群では、処置前の食事に関する満足度が有意に高く、また、処置前後で喉の渇きや空腹感を覚えた人も少なかった。 こうした結果を受けてWoods氏は、「われわれが得た結果は、心臓カテーテル検査を受ける全ての患者に絶食が必要なわけではないことや、検査においては患者の満足度を第一に考えても安全性は確保されることを示している」とパークビュー心臓研究所のニュースリリースで述べている。 この研究結果を受けて、同心臓研究所では、意識下鎮静前の患者にも食事を摂取させるように心臓外科手術のプロトコルを更新したという。

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花粉症重症化を防いで経済損失をなくす/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

 花粉飛散が気になる季節となった。今後10年を見据えた花粉症への取り組みについて、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(理事長:村上 信五氏)は、都内で「花粉症重症化ゼロ作戦」をテーマにメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、花粉症重症化の身体的、経済的、社会的弊害と鼻アレルギー診療ガイドラインの改訂内容、花粉症重症化ゼロ作戦の概要などがレクチャーされた。アレルギー性鼻炎の経済的損失は年19万円 はじめに村上氏が挨拶し、花粉症は現在10人に4人が発症する国民病であること、低年齢での発症が増加していること、花粉症により経済的損失も多大であることなどを語り、同学会が取り組む「花粉症重症化ゼロ作戦」の概要を説明した。 続いて岡野 光博氏(国際医療福祉大学耳鼻咽喉科学 教授)が「花粉症重症化の意味するもの」をテーマに花粉症による社会・患者の損失について説明した。 2023年に政府は花粉症は国民病として関係閣僚会議を立ち上げ「発生源対策」「飛散対策」「発症等対策」の3本柱で対策を施行することを決定した。具体的には、診療ガイドラインの改訂や舌下免疫療法(SLIT)の推進、リフィル処方箋の活用推進などが予定されている。 花粉症の主な症状である鼻、眼、全身、のど症状について述べ、1日にくしゃみと鼻かみが各11回以上、鼻閉による口呼吸が1日のうちでかなりを占める場合は「重症」と評価し、花粉症が重症化するとQOLが著しく悪化すると説明した。QOLの評価指標であるEQ-5D-5Lを用いた値では、重症花粉症のQOLは糖尿病や骨折、乾癬よりも悪いことが報告された。一例としてアレルギー性鼻炎(AR)の研究ではあるが、重症化が患者の健康状態と労働生産性に重大な影響を与え、とくに労働生産性についてみると平均収入日額で1万5,048円、労働時間で年12.74時間、経済的損失で年19万1,783円と見込まれるとする報告を紹介した1)。 また、重症スギ花粉症患者では、抗ヒスタミン薬と鼻噴霧用ステロイド薬の標準治療を受けていても症状ピーク期には労働や勉強の能率が約35~60%低下するという報告もあり、社会に影響を与える事態を避けるためにも花粉症重症化には対策をするべきと説明を終えた。オマリズマブなどの作用機序の図など追加 大久保 公裕氏(日本医科大学耳鼻咽喉科学 教授)が、「鼻アレルギー診療ガイドラインの改訂点:最新の治療を教えます」をテーマに今年発行が予定されているガイドラインの内容を説明した。 本ガイドラインは、1993年に初版が発行され、不定期ではあるが最新の診療エビデンスを加え改訂され、最新版は改訂第10版となる。 今版では次の内容の改訂が主に予定されている。【第1章 定義・分類】・鼻炎を「感染性」「アレルギー性」「非アレルギー性」に分類・LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎を追加 【第2章 疫学】・スギ花粉症の有病率は38.8%・マスクが発症予防になる可能性の示唆【第3章 発症のメカニズム】・前段階として感作と鼻粘膜の過敏性亢進が重要・ARはタイプ2炎症【第4章 検査・診断法】・典型的な症状と鼻粘膜所見で臨床的にARと診断し早期治療開始・皮膚テストに際し各種薬剤の中止期間を提示【第5章 治療】・各治療薬の作用機序図、免疫療法の作用機序図、スギSLITの効果を追加 この中で大久保氏は、とくに治療について厚く触れ、治療目標として「症状がないか軽度、日常生活に支障がない」「症状が安定し、急性の増悪がない」「抗原誘発反応がないか軽度」の状態に患者をもっていくことが必要と語った。また、ARの治療アドヒアランスについて、患者の69%が不良であり、その一因として抗ヒスタミン薬の眠気などの作用を上げ、理想的な抗ヒスタミン薬の要件として「速効性、効果持続」「眠気など副作用が少ない」「安全で長期間投与」「1日1~2回」などを提示した。また、重症花粉症では、抗ヒトIgE抗体オマリズマブについて、症状ピーク時に有意に鼻症状のスコアを改善したことを紹介した2)。 そのほか、アレルゲン免疫療法について、症状を改善し、薬用量が減少しうること、全身的・包括的な臨床効果が期待できること、治療終了後にも効果が期待できることを示し、スギSLITについて、3年継続することで治療終了後2年間の効果持続があったことなどを説明した3)。しかし、SLITでは、即効性がなく、長期治療が必要であること、不安定喘息などには禁忌であること、アナフィラキシーの副反応など注意が必要と短所も示した。 最後に治療法の選択を示し、「主治医とよく相談し、自分に合った治療法を決めて欲しい」と述べ、レクチャーを終えた。花粉症重症化の知識を啓発してゼロにする 川島 佳代子氏(大阪はびきの医療センター 耳鼻咽喉・頭頸部外科 主任部長)が、「花粉症重症化ゼロ作戦2024:我々がこの春の花粉症で行うべきこと」をテーマに今年から始まる「花粉症重症化ゼロ作戦」について説明を行った。 先述のように花粉症では重症患者が多く、間接費用も含めると経済損失など多大な額に上るほか、患者個人にも就業や学業で大きな負担を強いるものとなっている。また、患者もありふれた疾患ゆえに自己流の対処を行っているケースが多く、重症であっても適切な治療がなされていないこともあり、こうしたことが社会的損失を起こす一因となっている。こうした背景から、学会として花粉症の正しい病態、治療について発信することが重要との認識に立ち、今回の取り組みが行われることになったと説明した。 花粉症重症化ゼロ作戦2024の診療の柱としては、・初期療法の重要性を周知・重症化したら併用療法や抗IgE抗体療法にスイッチ・根本治療としてアレルゲン免疫療法などを説明し、実践などが掲げられている。 今後、この取り組みのために特設サイトが開設され、「花粉症重症化とは」「重症化度チェック」「患者の声」などのコンテンツ公開が予定され、市民講座やポスター掲示、地元医師会との連携などを実施、2030年までには目標として「花粉症の重症化ゼロを目指す」と説明を終えた。

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医療者へのワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第6回

はじめここでは特定のワクチンではなく、医療機関で働く医療者に対して接種が推奨されるワクチンを一括して扱う。本稿の対象は、医療機関で働き患者と対面での接触がある職員(医師、看護師、各種技師、受付事務員など)に加え、医療現場で実習を行う医療系学生(医学生、看護学生など)である。以降は、まとめて「医療職員」と記載する。医療職員は、常にさまざまな病原体にさらされている。伝染性疾患の患者は、そうと知らずに治療を求めて病院を訪れるし、易感染性状態にある免疫弱者も同じ空間に密集しうる。これら両者に対応する医療職員も、また、常に病原微生物に曝露されている。したがって、医療職員が感染すると、自身が感染症患者になるだけでなく、無関係な来院者や入院患者へ2次感染を起こす原因にもなりうる。これを回避するためにワクチンがある(ワクチンで予防できる)感染症(VPD)については最大限に対策する必要がある。以上の観点から、対象となるのは以下のVPDとなる。1.空気感染もしくは飛沫感染するVPD2.接触感染または針刺しが原因となるVPD3.一部の医療従事者で必要となるVPD4.曝露後対応を要するVPDワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)1.空気感染もしくは飛沫感染するVPD1)麻疹、風疹、ムンプス、水痘(1)いずれも代表的なVPDで、飛沫やエアロゾルによる強烈な感染力がある。ムンプス以外は定期接種に指定されているが、海外からの持ち込みなどもあり根絶には程遠い状況にある。(2)近年は医学部などの卒前教育課程でワクチン接種が推奨される医療系学生も増えてきたが、記録の確認は確実に行っておく必要がある。医療資格を持たない事務系職員も忘れずに対応する必要がある。2)季節性インフルエンザ(1)インフルエンザウイルスによる流行性感冒。A型とB型があり、それぞれ流行の度に表面抗原も微妙に異なる。(2)わが国では晩秋から春にかけて流行することが多いが、沖縄を含む熱帯地方では年間を通じて循環している。海外との往来や温暖化により、流行時期は増えている。(3)感染既往やワクチン接種による免疫は発症を予防するほど十分でないため、ワクチンを接種しても罹患するなど個人レベルでは恩恵を実感しにくいが、集団としてはワクチン接種率が高いほど疾病負荷が減るため有益性がある。3)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)2019年末から世界的パンデミックを起こしたコロナウイルス。2023年現在はオミクロン株派生型が主流で、軽症にとどまることが多いもののエアロゾル感染を起こすため強い感染力がある。4)百日咳(1)飛沫により感染する細菌感染症。成人が感染すると乾性咳が長く続き、新生児が感染すると致死的な経過を取ることがある。以上から、新生児と接触がある成人に免疫付与するコクーニング(cocooning)による新生児感染予防が推奨されている。2.接触感染または針刺しが原因となるVPD1)B型肝炎(1)ヒトのあらゆる体液(汗を除く)から感染するウイルス性疾患で、15年以上の経過で肝硬変や続発する肝がんの原因となる。(2)世界保健機関(WHO)が1992年からuniversal vaccinationキャンペーンを展開して感染抑制が進んだ地域も多い中、わが国は定期接種化が2016年と世界的には後発であり、高齢者の陽性キャリアはいまだ多い。3.一部の医療者のみ考慮の対象となるVPD1)破傷風(1)土中の芽胞菌である破傷風菌が損傷皮膚に感染して起こす疾患で、発症後の死亡率は30%と高い。肉眼で確認できない微細な損傷でも感染が成立する。(2)屋外で転倒する可能性を考えれば全住民に免疫付与が望まれるが、医療機関での業務として考えた場合、土壌に触れる業務がある職員(清掃職員、園芸療法に関わる者など)で接種完遂が求められる。2)髄膜炎菌(1)飛沫感染によって細菌性髄膜炎を起こす。集団生活や人の密集状態で、時に集団発生することが知られている。(2)救急外来や病理検査室のように、曝露を受ける可能性が高い部署では職員に対して接種を勧める。4.曝露後対応を要するVPD(曝露後緊急接種に用いる)1)MR、水痘(1)麻疹と水痘への曝露があった場合、すみやかに追加接種(72時間以内だが早いほど良い)することで、免疫がなくても高い発症阻止効果が期待できる。(2)風疹とムンプスでは曝露後接種の有効性は示されていないが、曝露の時点でワクチン接種歴が明らかでなければ将来利益も考慮して接種を推奨する。2)HBV(B型肝炎ウイルス)(1)接種未完了者がHBV陽性体液に曝露された場合、免疫グロブリンに加えてHBVワクチン1シリーズ(3回)接種を開始することで感染を予防できる可能性がある。3)破傷風(1)屋外での外傷により発症リスクが懸念される場合、追加接種を行う。医療職員が未接種である可能性は低いが、その場合は免疫グロブリン投与も必要となる。ワクチンの概要(効果、副反応、生または不活化、定期または任意・接種方法)1)MR、ムンプス、水痘(1)上記いずれも生ワクチンであり、MRと水痘は現在国の定期接種となっているが、1回接種だった時代もあり、接種回数が不足している可能性がある。2)季節性インフルエンザ(1)4価の不活化ワクチン(A型2価+B型2価)が最も一般的。成人はシーズン前に1回接種。(2)上記の通り、個々人の発症や重症化を予防する効果は高くないが、集団発生の確率を減らすことで疾病負荷を軽減するために接種が推奨される。3)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)パンデミック対策として各種ワクチンが緊急開発・供給された中、初めて実臨床使用されたmRNAワクチンが、現時点までもっとも安全かつ有効なワクチンである。(2)2023年現在、野生株とオミクロン株の2価ワクチンが流通している。(3)伝統的なワクチンに比べて発熱や疼痛などが強い傾向はあるものの、重篤な副反応はとくに多いとはいえず、安全性は他のワクチンと大差はない。4)百日咳、破傷風(1)3種または4種混合として定期接種化されている不活化ワクチン。(2)免疫能を維持するために10年ごとの追加接種が望ましいとされているが、追加分は定期接種に設定されていないため、可能なら医療機関で職員の接種時期を把握しておき、接種を知らせたい。接種のスケジュールや接種時の工夫いずれのワクチンについても、接種歴を確実に記録し、必要な追加接種が遅れずに実施できるように努める。1)MR、ムンプス、水痘(1)「生後1年以降に2回の接種」が完遂の条件。間隔が長くても問題ない。(2)上記を満たさない・記録が確認できない場合は、不足分を接種する。(3)2回接種が必要な場合、1ヵ月以上時間を空ける。(4)混合ワクチンにより3回以上の接種となる成分があっても問題ない。(5)接種前後での抗体検査は必要ない。2)百日咳、破傷風(1)小児期の基礎免疫が完遂している場合、沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(商品名:トリビック)を1回接種する。(2)小児期の基礎免疫が不明なら、基礎免疫として0、1、2ヵ月で3回接種する。(3)破傷風の単独ワクチンを接種していても、百日咳の免疫付与が必要ならトリビックを接種して良い。3)季節性インフルエンザ(1)一般的な4価の不活化ワクチンは、流行前に1回接種する。(2)添付文書上は皮下注とされているが、効果や副作用の観点からは筋注が望ましいため、実臨床では「深い皮下注」を心がけると良い。4)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)院内感染対策の一環として、医療職員は都度すみやかに接種を行うことが望ましい。日常診療で役立つ接種ポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫など)業務上の必要性から職員へ接種を勧める観点から、以下の点に留意したい。職種により事前の説明を調整する接種費用は医療機関が負担する接種記録は人事記録として保管する妊娠や治療などが接種不可の理由になることから、ワクチン接種情報はプライバシー保護の対象として対応する。たとえば、「集団一斉接種をしない」、「接種対象者名簿を公開しない」など。年次健康診断や新人オリエンテーションと一緒に接種するなど、業務への影響を最小限に抑える工夫をする曝露後接種の取り扱いは、あらかじめ院内感染予防マニュアルに手順を明記しておく。そうすることで、発生報告からワクチン接種まで迅速に処理され接種時期を逃さない。参考となるサイト環境感染学会医療者のためのワクチンガイドライン 第2版/第3版こどもとおとなのワクチンサイト講師紹介

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サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023)レポート

レポーター紹介新年早々暗いニュースが続いた2024年であるが、毎年恒例のSan Antonio Breast Cancer Symposiumレポートをお送りする。2023年12月5日から12月9日まで5日間にわたり、SABCS2023がハイブリッド形式で実施された。COVID - 19が5類となりさまざまな制約がなくなったこともあってか、日本からも多くの乳がん専門医が参加していた。私も現地で参加、発表させていただいた。学会外での会議や勉強会なども以前と同様実施されていた。以前との違いは、会議なども基本はハイブリッドで行われるようになったことであろうか。集合形式は活発なディスカッションができるものの、どうしても都合がつかない場合もある。ハイブリッド形式が会議を最大限に充実させる形式なのかもしれない。SABCS2023では日常臨床にインパクトを与える、あるいは今後の治療開発において重要な試験がいくつも発表された。多くの演題の中から、転移乳がんに対する演題を4つ紹介する。MONARCH3試験MONARCH3試験は、閉経後ホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)転移乳がんの1次治療におけるアロマターゼ阻害薬へのアベマシクリブの有効性を評価した試験である。アベマシクリブの上乗せは無増悪生存期間(PFS)を統計学的有意に延長し、すでに実臨床では1次治療でも積極的に使用されている。今回は待望の全生存期間(OS)の結果が公表された。ITT集団におけるOS中央値は、アベマシクリブ群で66.8ヵ月、プラセボ群で53.7ヵ月(ハザード比[HR]:0.804、95%信頼区間[CI]:0.637~1.015、p=0.0664)であり、p値は有意水準である0.034を上回り統計学的有意差は証明されなかった。内臓転移を有するサブグループにおけるOS中央値は、アベマシクリブ群で63.7ヵ月、プラセボ群で48.8ヵ月(HR:0.758、95%CI:0.558~1.030、p=0.0757)であり、こちらも統計学的有意差は示されなかった。数値としてアベマシクリブ群でOSが有効である期待は残されるものの、有意差がつかなかったということはかなり大きな衝撃であった。なお、後治療としてパルボシクリブを実施した患者はアベマシクリブ群で8%、プラセボ群で25%であり、この差がOSにどの程度インパクトを与えたかは今後の詳細な解析に期待したい。この結果により、世界的に広く用いられているパルボシクリブ、アベマシクリブ、ribociclibのうち、1次治療におけるOSがポジティブなのはribociclibだけとなった。すなわち、日本で処方可能なパルボシクリブ、アベマシクリブはいずれもOSにおけるベネフィットを示せなかったことになる。ただ、だからといってCDK4/6阻害薬をより後ろの治療で用いるべきものになるかというと、そうではない。alpelisib、capivasertibなどSERDとの併用で用いられる別の機序の分子標的薬、あるいはPADA-1試験のような、1次治療、2次治療でCDK4/6阻害薬をbeyondで用いる戦略など、2次治療にCDK4/6阻害薬を“とっておく”と実施できなくなる治療/治療戦略が多数開発されている。現在行われている試験の多くもCDK4/6阻害薬を原則として1次治療で用いることが前提となっており、HR+HER2-転移乳がんの治療シークエンスを考えるうえで、1次治療におけるCDK4/6阻害薬の併用は変わらずスタンダードであると言えよう。INAVO120試験INAVO120試験はPIK3CA変異のあるHR+HER2-転移乳がんの2次治療において、フルベストラント+パルボシクリブによる治療にPI3K阻害薬であるinavolisibを併用することの有効性を評価した第III相試験である。本試験でPIK3CA変異はctDNAの中央判定もしくは各施設における組織/ctDNAの評価によって定義されていた。主要評価項目はPFSが設定された。325例がinavolisib群とプラセボ群に1:1に割り付けられた。両群間のバランスはよく、95%以上の症例で内臓転移を有した。主要評価項目のPFSはinavolisib群15.0ヵ月、プラセボ群7.3ヵ月(HR:0.43、95%CI:0.32~0.59、p<0.0001)とinavolisib群で有意に長かった。OSはHR:0.64、95%CI:0.43~0.97、p=0.0338とinavolisib群で良好な傾向を認めたが、中間解析に割り当てられた有意水準は超えなかった。G3以上の有害事象としては血小板減少(14.3% vs.4.3%)、口内炎(5.6% vs.0%)、貧血(6.2% vs.1.9%)、高血糖(5.6% vs.0%)、下痢(3.6% vs.16.0%)とinavolisib群で血液毒性、非血液毒性のいずれも増加した。 HR+HER2-乳がんの治療を考えるうえで、3剤併用療法が良いのか、2剤までの併用をシークエンスで使用していくのか、なかなか悩ましいところであるが、OSを延長する可能性が示されたことは大きなインパクトであった。これまでに実施された、あるいは現在進行中の2次治療以降の併用試験などの結果も踏まえた治療シークエンスの議論が必要であろう。また、残念ながら本剤は現在のところ国内では開発されていない。HER2CLIMB-02試験HER2CLIMB-02試験は、すでにHER2陽性(HER2+)転移乳がんの3次治療においてトラスツズマブ+カペシタビンとの併用の有効性が示されているtucatinibの、T-DM1との併用の有効性を検証した第III相試験である。トラスツズマブならびにタキサンによる治療歴のあるHER2+転移乳がん460例が、tucatinib群とプラセボ群に1:1に割り付けられた。主要評価項目はPFSであった。転移乳がんに対する前治療歴が1ラインの症例が64%、ペルツズマブの投与歴のある症例が約90%であった。主要評価項目のPFSはtucatinib群で9.5ヵ月、プラセボ群では7.4ヵ月(HR:0.76、95%CI:0.61~0.95、p=0.0163)とtucatinib群で有意に長かった。奏効割合は42.0% vs.36.1%とtucatinib群で良い傾向を認めた。tucatinibは脳転移に対する有効性が示されているが(HER2CLIMB試験)、本試験の脳転移を有する症例に対するPFSは7.8ヵ月vs.5.7ヵ月(HR:0.64、95%CI:0.46~0.89)とtucatinib群で良好な可能性が示された。OSはHR:1.23とtucatinib群で良い可能性は示されなかった。G3以上の有害事象の中で重要なものはAST増加(16.5% vs. 2.6%)、ALT増加(16.5% vs.2.6%)、倦怠感(6.1% vs.3.0%)、下痢(4.8% vs.0.9%)、悪心(3.5% vs.2.1%)などであった。tucatinibはT-DM1との併用における有効性を示したわけであるが、今後この試験結果を基にT-DM1+tucatinibがよりアップフロントに用いられるかというと疑問が残る。T-DXdの2次治療における有効性を証明したDESTINY Breast-03試験では、T-DXdのPFS中央値は28.8ヵ月である。試験間の比較で治療の優劣は付けられないが、かといってT-DXdよりもT-DM1+tucatinibを優先するのは難しい。今後はT-DXdによる治療歴のある患者に対するT-DM1+tucatinibのデータを創出することが必要であろう。JCOG1607試験JCOG1607 HERB TEA試験は、JCOGで行われた高齢者HER2+転移乳がん1次治療における、T-DM1のペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセル(HPD)療法への非劣性を検証した第III相試験である。不肖下村が、今回から新設されたRapid Fire Mini Oral Sessionで(なんとメイン会場で)発表させていただいた。本試験は、65歳以上の高齢者HER2+転移乳がんを対象に、OSを主要評価項目として実施された。250例の予定登録数で行われたが、148例が登録された時点で実施された1回目の中間解析で、OSハザード比の点推定値が非劣性マージンの1.35を超えたため無効中止となった。患者背景は両群間でバランスが取れており、年齢の中央値は71歳ならびに72歳、75歳以上が約35%を占めた。PS 0が75%、HR+が約半数、初発StageIVが65%、脳転移を有する症例はまれであり、内臓転移は65%に認められた。主要評価項目のOSは両群ともに中央値に到達しなかったが、HR:1.263、95%CI:0.677~2.357、p=0.95322とT-DM1のHPD療法に対する非劣性は示されなかった。PFSはHPD療法で15.6ヵ月、T-DM1で11.3ヵ月(HR:0.358、 95%CI:0.907~2.033、p=0.1236)とHPDで良い傾向を認めた。有害事象はG3以上がHPD療法で多く(56.8% vs.34.7%)、HPD療法では白血球減少(26.0% vs.0%)、好中球減少(30.1% vs. 0%)、倦怠感(21.6% vs.5.6%)、下痢(12.2% vs.0%)、食欲低下(10.8% vs.8.3%)が多く、T-DM1療法では血小板減少(0% vs.16.7%)、AST増加(0% vs.15.3%)、ALT増加(2.7% vs.16.7%)が多かった。本試験は高齢者に対するless toxicな治療の開発を期待して開始したが、高齢者においてもpivotal studyで示された標準治療を実施すべきという結論となった。一方、高齢者は年齢のみで定義される均一な集団ではなく、ASCOガイドラインなどで示されているように、高齢者機能評価などを適切に実施したうえで治療方針を決めていくことが重要である。今後より詳細な結果を発表していきたい。

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「GLP-1受容体作動薬ダイエット」に興味を持った患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第43回

■外来NGワード「あなたには使えません」(保険適用について説明せず)「この薬を使えば、痩せますよ!」(食事と運動療法について説明せず)■解説最近、「GLP-1ダイエット」という言葉が注目を集めています。SNSでは、単品ダイエット、脂肪燃焼スープ、食事時間制限、レモンコーヒーなどとともに、「GLP-1ダイエット」というワードが頻繁に検索されています。GLP-1受容体作動薬は、血糖依存的にインスリン分泌を促進し、グルカゴン抑制や胃内容物排出遅延を介して血糖改善作用を発揮するだけでなく、食欲抑制を通じて減量効果も期待されます。肥満症を対象とした「セマグルチド(商品名:ウゴービ皮下注)」の適応は、高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病を有し、かつ食事療法や運動療法が不十分な場合、かつBMIが27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害がある、またはBMIが35以上の患者に限定されています。ところが、「GLP-1ダイエット」では、「初診からオンラインで診察可能、自宅で手軽に実施でき、食事制限や運動不要で、太りにくい体質になる」などといった宣伝文句が並んでいます。一部には自己調整可能な投与量を強調するものも見受けられます。そのうえ、自由診療であるので価格が高額である一方で、副作用については詳細な説明が不足しています。その結果、副作用が発生した場合には、保険診療の医療機関を受診する必要が生じます。そして、自由診療においてGLP-1受容体作動薬が処方されることで、本来必要な糖尿病患者への供給が追いつかないとの指摘もあります。また、自由診療で処方された患者は、適切なライフスタイルの改善方法について充分な説明がなされていないため、薬を中止した際のリバウンドを心配しています。こうした「GLP-1ダイエット」の問題点について適切に理解し、説明することが重要です。■患者さんとの会話でロールプレイ患者この間、SNSを検索していたら、「GLP-1ダイエット」というのがでてきたのですが、どうですか?(糖尿病がない肥満者)医師最近、美容の世界や個人輸入している人もいるそうですね。患者痩せるんですか?医師正しく使えばね。ただし、自己流は禁物です。患者副作用はありますか?医師もちろん。薬ですから、副作用はありますよ。吐き気や嘔吐、胃腸障害など…。あと、専門家の指導のもとで薬の量を調整しないと、低血糖などで救急搬送された例もあるそうですよ。患者えっ、それ怖いですね。医師それに、薬を止めたら、体重がリバウンドするかもしれませんからね。患者確かに、ただ単に薬を飲むだけじゃ、痩せないということですね。医師そうです。こういった肥満症治療薬は食事療法と運動療法の補助として使います。そうすることがリバウンド予防になります。患者食事と運動はどんなことに気を付けたらいいですか?(興味深々)■医師へのお勧めの言葉「ただ、薬を飲むだけでは痩せることはできませんし、止めたらリバウンドは必至です。肥満症治療薬は食事療法と運動療法の補助として使います。その方が、最小限の薬になって副作用も少ないですし、薬を止めた際にもリバウンド予防につながります」 1)Ansari H UI H, et al. Endocr Pract. 2023:23;758-759.Endocr Pract. 2023 Nov 27.[Epub ahead of print]2)日本肥満学会、肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント3)最適使用推進ガイドラインセマグルチド(遺伝子組換え)

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鎮咳薬不足、増えた手間や処方優先患者は?/医師1,000人アンケート

 後発医薬品メーカーの不祥事などで医薬品供給不安が続いているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの流行が鎮咳薬不足に追い打ちをかけている。昨年9月には厚生労働省が異例とも言える「鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」1)の通知を出し、処方医にも協力を仰いだことは記憶に新しい。あれから3ヵ月が経ち、医師の業務負担や処方動向に変化はあったのだろうか。今回、処方控えを余儀なくされていることで生じる業務負担や処方を優先する患者の選び方などを可視化すべく、『鎮咳薬の供給不足における処方状況』について、会員医師1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)にアンケート調査を行った。最も入手困難な薬剤、昨夏から変わらず まず、鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の在庫逼迫状況の理解について、勤務先の病床数を問わず全体の95%の医師が現況を認識していた。なお、処方逼迫について知らないと答えた割合が高かったのは200床以上の施設に勤務する医師(8%)であった。 次に入手困難な医薬品について、昨年8~9月に日本医師会がアンケート調査を行っており、それによると、院内処方において入手困難な医薬品名2,096品目の上位抜粋30品目のうち9品目が鎮咳薬/鎮咳・去痰薬であった2)。これを踏まえ、本アンケートでは鎮咳薬/鎮咳・去痰薬に絞り、実際に処方制限している医薬品について質問した。その結果、最も処方制限している医薬品には、やはりデキストロメトルファン(商品名:メジコン)が挙がり、続いて、チペピジンヒベンズ酸塩(同:アスベリン)、ジメモルファンリン酸塩(同:アストミンほか)などが挙げられた。この結果は1~19床を除く施設で同様の結果であった。処方が優先される患者、ガイドラインの推奨とマッチ? 鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の処方が必要な患者について、2019年に改訂・発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2019』によると、“可能な限り見極めた原因疾患や病態に応じた特異的治療(末梢に作用する鎮咳薬や喀痰調整薬など)が大切”とし、中枢性鎮咳薬(麻薬性:コデインリン酸塩水和物ほか、非麻薬性:デキストロメトルファン、チペピジンヒベンズ酸塩ほか)の処方にはいくつか問題点があることを注意喚起しながらも、“患者の消耗やQOL低下をもたらす病的な咳の制御は重要であり、進行肺がんなど基礎疾患の有効な治療がない状況では非特異的治療は必要であるが3)、少なくとも外来レベルでは初診時からの中枢性鎮咳薬の使用は明らかな上気道炎~感染後咳嗽や、胸痛・肋骨骨折・咳失神などの合併症を伴う乾性咳嗽例に留めることが望ましい”と記している。よって、「高齢者」「疾患リスクの高い患者」への適切な処方が望まれるものの、不足している中枢性鎮咳薬を処方する患者の見極めが非常に重要だ。以下には、参考までにガイドラインのステートメントを示す。<ガイドラインでの咳嗽治療薬におけるステートメント>◆FAQ*1:咳嗽治療薬の分類と基本事項は 咳嗽治療薬は中枢性鎮咳薬(麻薬性・非麻薬性)と末梢性鎮咳薬に分類される。疾患特異的な治療薬はすべて末梢性に作用する。可能な限り原因疾患を見極め、原因に応じた特異的治療を行うことが大切である。中枢性鎮咳薬の使用はできる限り控える。*frequently asked question◆FAQ2:咳嗽治療の現状は さまざまなエビデンスが年々増加しているものの、咳が主要評価項目でなかったり評価方法に問題がある研究が多い。多種多様の治療薬選択における標準化はいまだ十分ではなく、臨床現場での有用性を念頭に本ガイドラインの改訂に至った。 では、処方の実際はどうか。本アンケート結果によると、20床未満の場合、2023年7月以前では「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「咳があるすべての患者」「処方を希望する患者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方が多く、希望患者への処方が高リスク患者へのそれよりも上回っていた。しかし、12月時点では、「喘息などを有する高リスク患者」「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「処方を希望する患者」「咳があるすべての患者」と処方を優先する順番が変わり、希望患者への処方を制限する動きがみられた。一方、20床以上においては2023年7月以前では「高齢者」「咳が3週間以上続く患者」「処方を希望する患者」の順で多かったが、12月時点では、「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方患者が多かった。このことからも、高齢者よりも咳が3週間以上続く患者(遷延性咳嗽~慢性咳嗽)に処方される傾向にあることが明らかになった。鎮咳薬不足による手間、1位は疑義照会対応 供給不足による業務負担や処方変化については、疑義照会件数の増加(20床未満:48%、20床以上:54%)、長期処方の制限(同:43%、同:40%)、患者説明・クレーム対応の増加(同29%、同17%)の順で医師の手間が増えたことが明らかになり、実践していることとして「患者に処方できない旨を説明」が最多、次いで「長期処方を控える」「処方すべき患者の優先順位を設けた」などの対応を行っていることがわかった。また、アンケートには「無駄な薬を出さなくて済むので、処方箋が一枚で収まるようになった(60代、内科)」など、このような状況を好機に捉える声もいくつか寄せられた。アンケートの詳細は以下にて公開中『鎮咳薬の供給不足における処方状況』<アンケート概要>目的:製造販売業者からの限定出荷が生じているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザ等の感染症拡大に伴い、鎮咳薬などの在庫不足がさらに懸念されることから、医師の認識について調査した。対象:ケアネット会員医師 1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)調査日:2023年12月15日方法:インターネット

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