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小児~成人期のnon-HDL-C高値、中年期の心血管イベントと関連/JAMA

 小児期から成人期まで、持続的な非HDLコレステロール(non-HDL-C)高値の脂質異常症を有する人は心血管イベントのリスクが高かったが、成人期までにnon-HDL-C値が改善した人は脂質異常症ではなかった人と心血管リスクは同程度であることが、オーストラリア・メルボルン大学のFeitong Wu氏らによる、International Childhood Cardiovascular Cohort(i3C)コンソーシアムの前向きコホート研究で示された。non-HDL-C上昇は小児によくみられ、成人期の心血管リスクを増大することが知られる。しかし、小児期のnon-HDL-C上昇が成人期までに改善することが臨床的な心血管リスクの低下と関連するかどうかは不明であった。著者は今回の結果から、「小児期のnon-HDL-C上昇を予防・軽減するための介入が、早発性心血管疾患の予防に役立つ可能性が示唆された」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年4月12日号掲載の報告。登録時3~19歳の約5千例、小児期と成人期のnon-HDL-C高値と40歳以降の心血管イベントの関連を解析 研究グループは、1970~96年にi3Cコンソーシアムの7件の前向きコホート(米国5件、フィンランド1件、オーストラリア1件)に登録された3~19歳の参加者4万2,324例のうち、小児期(3~19歳)および成人期(20~40歳)のnon-HDL-C値のデータがあり、所在または死因が確認でき、追跡終了時40歳以上であった5,121例を主解析の対象とした。除外基準にのっとり、オーストラリアのコホートは主解析から除外された。最終追跡調査は2019年に実施された。 主要アウトカムは、40歳以降の致死的および非致死的心血管イベント(2015~19年に調査)で、小児期および成人期のnon-HDL-C値の年齢・性特異的zスコア、および臨床ガイドライン推奨の脂質異常症カットオフ値によるカテゴリー別に関連を評価した。 解析対象5,121例は、non-HDL-C値測定のための初回受診時(ベースライン)の年齢中央値が10.7歳、女性60%、黒人15%であった。小児期のnon-HDL-C値zスコア1単位増加当たり心血管リスク1.4倍 40歳以降の平均追跡期間8.9年において、5,121例中147例に心血管イベントが発生した。小児期および成人期のnon-HDL-C値はいずれも心血管イベントのリスク上昇と関連しており、ハザード比(HR)はnon-HDL-C値zスコア1単位増加当たりそれぞれ1.42(95%信頼区間[CI]:1.18~1.70)、1.50(1.26~1.78)であった。 小児期non-HDL-C値の影響は、成人期non-HDL-C値で調整すると減弱したが(HR:1.12、95%CI:0.89~1.41)、成人期non-HDL-C値の影響は小児期non-HDL-C値で調整しても大きなままであった(HR:1.41、95%CI:1.14~1.74)。しかし、小児期から成人期のzスコアの変化で調整した場合、小児期non-HDL-C値の影響は大きなままであり(HR:1.58、95%CI:1.30~1.92)、zスコアの変化(増加)は独立した予測因子であった(HR:1.41、95%CI:1.14~1.74)。 小児期non-HDL-C値と小児期から成人期にかけての変化の両方がアウトカムと独立して関連していたことから、予防の観点からは小児期non-HDL-C値と成人期にかけての変化の両方が有益であることが示唆された。 小児期および成人期に持続的に正常なnon-HDL-C値(ガイドラインで推奨される範囲内)であった人と比較し、小児期から成人期にかけてnon-HDL-C高値の脂質異常症を発症した人は心血管リスクが有意に高く(HR:2.17、95%CI:1.00~4.69)、小児期から成人期まで持続的にnon-HDL-C高値の脂質異常症であった人はそのリスクがさらに倍増した(HR:5.17、95%CI:2.80~9.56)。小児期にnon-HDL-C高値の脂質異常症であったが成人期にはガイドラインで推奨される範囲内であった人では、有意なリスク上昇は認められなかった(HR:1.13、95%CI:0.50~2.56)。

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約90%の心血管疾患患者はナトリウムを摂取し過ぎ

 心血管疾患の治療にはナトリウムの摂取を控えることが重要であるが、ほとんどの心血管疾患患者は摂取量を制限できていないようだ。新たな研究で、心血管疾患患者は概して、推奨されている1日当たりのナトリウム摂取量の2倍以上を摂取していることが明らかになった。ナトリウムは、人間の健康に不可欠ではあるが、過剰摂取は血圧を上昇させ、血管にダメージを与え、心臓の働きを悪くする上に、体液の貯留を引き起こして心不全などの症状を悪化させ得ると研究グループは指摘している。米Piedmont Athens Regional病院のElsie Kodjoe氏らによるこの研究結果は、米国心臓病学会(ACC 24、4月6〜8日、米アトランタ)で発表された。 米国の食事ガイドラインでは、心血管疾患患者ではナトリウムの摂取量を1日1,500mg(食塩相当量3.81g)に、健康な人でもナトリウム摂取量を1日2,300mg(食塩相当量5.84g)未満に制限することを推奨している。 この研究では、2009年から2018年の間に国民健康栄養調査(NHANES)に参加した、心血管疾患(脳卒中、心筋梗塞、心不全、冠動脈疾患、狭心症)患者3,170人の食事データの分析が行われた。対象者は24時間の間に摂取した全てのものを報告していた。 その結果、対象者の89%が1日当たりの推奨量を上回る、1日当たり平均3,096mgのナトリウムを摂取しており、この値は、米疾病対策センター(CDC)が以前に報告した全国の平均摂取量(3,400mg/日)をわずかに下回るに過ぎなかった。収入-貧困比(IPR)の増加は1日当たり46mgのナトリウム摂取量の増加と有意に関連していたが、この関連は年齢、性別、人種、教育レベルで調整すると有意ではなくなった。 これらの結果についてKodjoe氏は、「心血管疾患患者の摂取量と全国平均との間でナトリウム摂取量の差が比較的小さかった。このことは、心血管疾患患者は一般の人と比べて摂取量を積極的に制限しているわけではないこと、また、心血管疾患患者に対して推奨されている摂取量の2倍以上を摂取していることを示唆している」と話している。 Kodjoe氏は、「スーパーマーケットで売られている食品やテイクアウトの食事に含まれるナトリウム量を推定するのは困難だ」と指摘する。さらに同氏は、「ナトリウム量を示す食品ラベルは、その量を推測する助けにはなる。しかし、低ナトリウム食の遵守は、遵守に対する強い動機があるはずの心血管疾患患者にとってさえも極めて困難だ」と話す。そして、「心血管疾患患者が食事療法のガイドラインを守りやすくするためには、一般の人々が食事中のナトリウムの量を推定できるような、より実用的な方法を見つける必要がある」と主張している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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日常診療に活かす 診療ガイドラインUP-TO-DATE 2024-2025

一瞬の迷いを確信へ ~これが日本の標準的治療~2010年の発行以来、多くの医療従事者に活用されている本書が2年ぶりに改訂しました。今版では日常診療で遭遇頻度の高い疾患を中心に19領域175疾患を取り上げ、各領域の第一人者が当該疾患に関連する複数の診療ガイドラインを精選し、そのポイントについて臨床知を加味して解説しています。本書は、(1)必要な情報をすぐに取り出せる紙面構成、(2)専門家の処方例を一目で把握、(3)標準的治療を最短距離でキャッチできます。巻頭企画では“社会健康医学”をテーマに専門家にご解説いただき、巻末付録では「おさえておきたい!希少疾患のガイドライン」を掲載し、ガイドラインの最新情報が入手できるようにまとめています。ぜひ診療ガイドラインを活かした質の高い医療の提供にお役立てください。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する日常診療に活かす 診療ガイドラインUP-TO-DATE 2024-2025定価13,200円(税込)判型A5判変型頁数1,120頁発行2024年2月監修門脇 孝、小室 一成、宮地 良樹ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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肺がん診療ガイドラインのトリセツ【DtoD ラヂオ ここが聞きたい!肺がん診療Up to Date】第5回

第5回:肺がん診療ガイドラインのトリセツパーソナリティ日本鋼管病院 呼吸器内科 部長 田中 希宇人 氏ゲスト藤田医科大学病院 呼吸器内科・アレルギー科 大矢 由子 氏参考1)日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン2023(オンライン版)関連サイト専門医が厳選した、肺がん論文・ニュース「Doctors'Picks」(医師限定サイト)講師紹介

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最新ガイドライン準拠 小児科診断・治療指針 改訂第3版

専門領域を踏破する小児科診療のスタンダードを強力アップデート専門分野エキスパート370名の編集・執筆による小児科主要領域350テーマから成る全訂版。他科に比べエビデンスが不足している場面に遭遇することが多い小児科診療で、ガイドラインによる科学的根拠と専門医の経験を融合させた実践的な診断・治療指針。医学・医療の進歩とともに細分化・複雑化する小児科専門30領域を正確かつ簡潔にまとめ、処方例・実践例を挙げて紹介。自施設で対応できることを見極め、他施設・他科と協働するための新しい知識とスキルを提供。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する最新ガイドライン準拠 小児科診断・治療指針 改訂第3版定価30,250円(税込)判型B5判(並製)頁数1,216頁(写真・図・表:1,200点)発行2024年4月総編集加藤 元博(東京大学 教授)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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肺炎診療GL改訂~NHCAPとHAPを再び分け、ウイルス性肺炎を追加/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版では、肺炎のカテゴリー分類を「市中肺炎(CAP)」と「院内肺炎(HAP)/医療介護関連肺炎(NHCAP)」の2つに分類したが、今回の改訂では、再び「CAP」「NHCAP」「HAP」の3つに分類された。その背景としては、NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なるため、NHCAPとHAPを1群にすると同じエンピリック治療が推奨され、NHCAPに不要な広域抗菌治療が行われやすくなることが挙げられた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を経て、ウイルス性肺炎の項目が設定された。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、進藤 有一郎氏(名古屋大学医学部附属病院 呼吸器内科)がNHCAPとHAPの診断・治療のポイントや薬剤耐性(AMR)対策の取り組みについて解説した。また、ウイルス性肺炎に関して宮下 修行氏(関西医科大学 内科学第一講座 呼吸器感染症・アレルギー科)が解説した。NHCAPとHAPは耐性菌のリスク因子が異なる NHCAPとHAPは「敗血症性ショックの有無の判断」「重症度の判断(NHCAPはA-DROPスコア、HAPはI-ROADスコアで評価)」「耐性菌リスクの判断」を行い、治療薬を決定していくという点は共通している。しかし、耐性菌のリスク因子は異なる。進藤氏は、「この違いをしっかりと認識してほしい」と語った。なお、それぞれの耐性菌リスク因子は以下のとおり。NHCAP:経腸栄養、免疫抑制状態、過去90日以内の抗菌薬使用歴、過去90日以内の入院歴、過去1年以内の耐性菌検出歴、低アルブミン血症、挿管による人工呼吸管理を要する(≒診断時に重度の呼吸不全がある)HAP:活動性の低下や歩行不能、慢性腎臓病(透析を含む)、過去90日以内の抗菌薬使用歴、ICUでの発症、敗血症/敗血症性ショック HAPでは、「重症度が低く、耐性菌リスクが低い(リスク因子が1つ以下)場合」は狭域抗菌治療、「重症度が高い、または耐性菌リスクが高い(リスク因子が2つ以上)場合」には広域抗菌治療を行う。NHCAPでは、外来の場合はCAPに準じた外来治療を行う。また、入院の場合も非重症で耐性菌リスク因子が2つ以下であれば、CAPと類似した狭域抗菌治療を行い、重症で耐性菌リスク因子が1つ以上あるか非重症で耐性菌リスク因子が3つ以上であれば広域抗菌治療を行うという流れとなった(詳細は本ガイドラインp.54図3、p.64図3を参照されたい)。不要な広域抗菌薬の使用は依然として多い 進藤氏は、名古屋大学などの14施設で実施した肺炎患者を対象とした前向き観察研究(J-CAPTAIN study)の結果を紹介した。本研究では、CAP患者をNon-COVID-19肺炎とCOVID-19肺炎に分けて検討した。その結果、Non-COVID-19肺炎患者(1,802例)の10%にCAP抗菌薬耐性菌(β-ラクタム系薬、マクロライド系薬、フルオロキノロン系薬のすべてに低感受性と定義)が検出された。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子としては、過去1年以内の耐性菌検出歴、気管支拡張を来す慢性肺疾患、経腸栄養、ADL不良、呼吸不全(PaO2/FiO2≦200)が挙げられた。これらの項目は本ガイドラインのシステマティックレビューの結果と類似していたと進藤氏は語った。 また、本研究においてNon-COVID-19肺炎患者では、CAP抗菌薬耐性菌の検出がなかった患者の29.2%に広域抗菌薬が使用されていたことを紹介した。AMR対策としては、このような患者における広域抗菌薬の使用を減らしていくことが重要となると進藤氏は指摘する。CAP抗菌薬耐性菌のリスク因子が0個であった患者は、Non-COVID-19肺炎の61.2%を占め、そのうち21.8%で広域抗菌薬が使用されていた結果から、進藤氏は「AMR対策上、耐性菌リスクのない症例では広域抗菌薬の使用を控えることが重要である」と強調した。ウイルス性肺炎は想定以上に多い? 2018~20年に九州の14施設で実施された観察研究では、CAP患者の23.3%にウイルスが検出されており2)、肺炎へのウイルスの関与が注目されている。そこで、宮下氏は本ガイドラインに新たに追加されたウイルス性肺炎について、その位置付けを紹介した。 CAPは、(1)CAPとNHCAPの鑑別→(2)敗血症の有無・重症度の判断(治療場所の決定)→(3)微生物学的検査→(4)マイコプラズマ肺炎・レジオネラ肺炎の推定→(5)抗菌薬の選択といった流れで診療が行われる。この流れに合わせて、ウイルス性肺炎の特徴を考察した。 COVID-19肺炎患者の1年後の身体機能をみると、CAPと比較してNHCAPで予後が不良である3)。したがって、宮下氏は「CAPとNHCAPでは予後がまったく異なるため、治療方針を大きく変えるべきであると考える」と述べた。 本ガイドラインでは、重症度の評価をもとに治療場所を決定するが、CAPで用いられるA-DROPスコアによる評価がCOVID-19肺炎においても有用であった。ただし、COVID-19(デルタ株以前)ではA-DROPスコア1点(中等症、外来治療が可能)であっても、R(呼吸状態)の項目が1点の場合は疾患進行のリスクが高いという研究結果4,5)を紹介し、注意を促した。 前版で細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別に用いられていた鑑別表は、細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別表(本ガイドラインp.32表4)に改められた。実際に、この鑑別表を非定型肺炎であるCOVID-19肺炎に当てはめると診断の感度は不十分であり、マイコプラズマ肺炎と細菌性肺炎の鑑別に用いるのが適切と考えられた。また、今回のガイドラインではレジオネラ診断予測スコアが掲載された(本ガイドラインp.33表5)。この診断スコアを用いた場合、COVID-19はいずれの株でもレジオネラ肺炎との鑑別が可能であった。 最後に、宮下氏はオミクロン株の流行後にCOVID-19肺炎において誤嚥性肺炎が増加し、誤嚥性肺炎を発症した患者の退院後の顕著な身体機能低下が認められていることに触れ、「早期診断・早期治療が重要であり、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンに加えて新型コロナワクチンによる予防も重要であると考えている」とまとめた。

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肺炎診療GL改訂~市中肺炎の改訂点は?/日本呼吸器学会

 2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』1)が発刊された。2017年版からの約7年ぶりの改訂となる。第64回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドライン関するセッションが開催され、岩永 直樹氏(長崎大学病院 呼吸器内科)が市中肺炎(CAP)に関する改訂のポイントを解説した。非定型肺炎の鑑別を大切にすることに変わりはない CAPへの初期の広域抗菌薬投与や抗MRSA薬のエンピリックな使用は予後を改善せず、むしろ有害であるという報告がある。そのため、エンピリックな耐性菌カバーは予後を改善しない可能性がある。そこで、今回のガイドラインでは、非定型肺炎の鑑別を大切にするという方針を前版から継承し、CAPのエンピリック治療薬の考え方を示している。そこでは、外来患者や一般病棟入院患者では抗緑膿菌薬や抗MRSA薬は使用せず、これらの薬剤は重症例や免疫不全例に検討することとしている(詳細は本ガイドラインp.34図4を参照されたい)。 近年、CAPではウイルスが検出されることが多いことも報告されている2)。そのような背景から、今後は同時多項目遺伝子検査の活用が重要となってくることが考えられる。そこで、今回のガイドラインでは、多項目遺伝子検査に関するクリニカルクエスチョン(CQ)が設定された。多項目遺伝子検査は従来法と比較して原因微生物の同定率が高く(67.5% vs.42.7%)、「行うことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」とされた(CQ19)。なお、多項目遺伝子検査の対象について、岩永氏は「主にCAPがターゲットとなると考えている。とくに免疫不全例では典型的な病像を呈さないことも多いため、これらの症例に有用性があるのではないか」と意見を述べた。CAPのCQとポイント CAPに関するCQとポイントは以下のとおり。・CAPの重症度評価の方法(CQ1) A-DROPスコアはCURB-65スコアやPSIスコアと同等の予測能を示した。A-DROPスコアによる評価は本邦でよく用いられており、簡便であることから「A-DROPスコアによる重症度評価を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・注射用抗菌薬から経口抗菌薬への変更(スイッチ療法)(CQ2) CAPに対するスイッチ療法は注射用抗菌薬の継続と比較して、同等の肺炎治癒率を示し、副作用発現頻度は有意差がないが減少傾向で、入院期間を有意に短縮した。また、医療費についてはシステマティックレビュー(SR)を実施していないが、3件の無作為化比較試験(RCT)においていずれも低下させる傾向にあった。以上から「スイッチ療法を行うことを強く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。・短期抗菌薬治療(CQ3) CAPのアジスロマイシンによる治療とアジスロマイシンを含まない治療のいずれにおいても、短期治療(1週間以内)は標準治療(1週間超)と比較して、死亡率と肺炎治癒率に差がなかった。また、肺炎再燃率や副作用発現率も同等であった。医療費についても、SRは実施していないが、3件のRCTではいずれも低下させる傾向にあった。以上から「初期治療が有効な場合には短期治療を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])」となった。ただし多くのRCTが軽症〜中等症を対象としており、重症例、集中治療を要する症例、高齢者などは注意が必要である。・β-ラクタム系薬へのマクロライド系薬の併用(CQ4) 重症例では、β-ラクタム系薬にマクロライド系薬を併用することで死亡率と肺炎治癒率の改善が認められた。1件の観察研究でコストは増加する傾向にあったが、耐性菌発生率は変化しなかった。非重症例では、併用療法により死亡率や肺炎治癒率、入院期間、耐性菌発生率のいずれも変化しなかった。また、1件の観察研究でコストは増加する傾向にあった。以上から、「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。・抗菌薬へのステロイドの併用(CQ5) 全身性ステロイド薬投与は重症例では死亡率を低下させ、非重症例では死亡率を低下させなかった。CAP全体では、併用により肺炎治癒率は変化せず、入院期間が短縮した。以上から、「重症例では併用することを弱く推奨する、非重症例では併用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])」となった。

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CPRはいつまで続けるべきか? In-Hospital CPA レジストリからの報告(解説:香坂俊氏)

 レジストリデータとは臨床的なデータベースのうちで「特定の手技・手術や疾患イベント[診断確定や入院等]を起点として収集されるもの」と自分は考えていますが、本研究はこの特性をフルに活かした形で、心肺蘇生(CPR)に関する重要な情報の提供を行っています。研究の内容を非常に短く要約すると、「CPR開始から32分が経過すると神経学的に予後が良好な退院率は1%未満となり、39分が経過すると生存退院率そのものが1%未満となる」ということになりますが、この研究の長所としては、1. ランダム化を行いえない領域での研究である(例. 蘇生の現場で30分でCPRを止めるかどうかのランダム化など、倫理的にはほぼありえない)2. 特定のカットオフを追うのではなく、CPR実施時間と予後がLinearな関係であることを示したうえで、リーズナブルな閾値を提示した3. 比較的周辺の条件がそろっており、Onset(発症起点)なども同定しやすい「院内」のイベントのみを扱った ということになります。逆に短所としては、これも後ろ向き研究である以上避けることができないことではあるのですが、・CPR実施側に代表性バイアスが介在している可能性がある ということが挙げられるかと思います。つまり、いつまでCPRを続けるのかというのは、かなり「不確か」な状況で判断せざるを得ないことが多く、施行者側で単純なルールに収束させてしまっている可能性があります(例. その施設で20分というカットオフが暗黙のうちに設定されていたとすると、20分以降の蘇生成功率というのは過小評価されている可能性がでてくる)。 こうした限界はありますが、現場感覚としても冒頭に挙げたようなカットオフは多くの方が首肯される範囲内に入ってくるのではないでしょうか。32分や39分というのは絶対的なラインではありませんが、今後診療ガイドライン等で現場での「参考値」として取り入れられてくる可能性は高いのではないかと思われます。

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日本における抗CGRP抗体の使用状況~日本頭痛学会会員オンライン調査

 抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)モノクローナル抗体は、片頭痛治療の選択肢を大きく変えた。しかし、日本ではCGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(1ヵ月当たりの片頭痛日数[MMD]が4日以上および予防的治療の失敗が1回以上)はよく知られているものの、抗CGRP抗体のリアルワールドでの使用および関連する頭痛ケアの状況については、よくわかっていない。慶應義塾大学の滝沢 翼氏らは、日本における抗CGRP抗体の使用経験および使用の意思決定について、調査を行った。The Journal of Headache and Pain誌2024年3月15日号の報告。 日本頭痛学会会員を対象にオンライン調査を実施し、抗CGRP抗体の使用経験およびその使用に関連する意思決定方法について調査した。 主な結果は以下のとおり。・回答者397例中320例が抗CGRP抗体を使用していた。・抗CGRP抗体を推奨するうえで、過去の予防的治療失敗回数の閾値は、2回(170例、54.5%)が最も多く、次いで1回(64例、20.5%)であった。・MMDの閾値は、4以上71例(22.8%)、6以上68例(21.8%)、8以上76例(24.4%)、10以上81例(26.0%)であった。・回答者は3ヵ月後に治療効果を評価する傾向があった(反復性片頭痛:217例、69.6%、慢性片頭痛:188例、60.3%)。・抗CGRP抗体のコストが処方制限の要因と考えられ、多くの回答者は、抗CGRP抗体に対するさまざまな要求(27.7%)、治療反応者が抗CGRP抗体を中止する最も多い理由(24.4%)を挙げていた。 著者らは、「日本において抗CGRP抗体は、多くの場合、予防的治療の失敗が2回以上、次いで1回以上であった。MMDは、ほとんどが4~10の範囲で使用されていた。また、抗CGRP抗体の使用に際しては、コストへの懸念が挙げられる」と報告した。

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リンパ浮腫診療ガイドライン 2024年版 第4版

質の高いリンパ浮腫診療を提供するために必読の1冊がん治療に伴い生じる続発性リンパ浮腫の診療ガイドライン、6年ぶりの改訂版。四肢の原発性リンパ浮腫に関するCQも含め計23のCQについて、科学的根拠をもとに診療指針をわかりやすく解説。推奨グレード表記がそぐわないCQでは、エビデンスグレード表記を使用した。より質の高いリンパ浮腫診療・ケアを患者に提供するために、リンパ浮腫診療に携わる医療者必携の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するリンパ浮腫診療ガイドライン 2024年版 第4版定価2,640円(税込)判型B5判頁数124頁(図数:6枚)発行2024年3月編集日本リンパ浮腫学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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喫煙と乳がんリスク~日本の9研究のプール解析

 喫煙と乳がんリスクは生物学的には相関することが妥当であるにもかかわらず、疫学研究では一貫していない。今回、岐阜大学の和田 恵子氏らが9つの前向き研究のプール解析を実施した結果、現喫煙者は50歳になる前に乳がんを発症するリスクが高く、とくに30歳になる前から喫煙するとリスクが高いことが示唆された。副流煙による受動喫煙との関連はみられなかったという。International Journal of Epidemiology誌2024年6月号に掲載。 本研究は、国立がん研究センターがん対策研究所の「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」の1つで、1984~94年に開始し8~22年間追跡した9つの前向きコホート研究(計16万6,611人)のプール解析である。喫煙および副流煙に関する情報はベースライン時の自記式質問票から入手した。個々の研究において現在または過去の能動喫煙および受動喫煙の状況別の乳がんの相対リスクを、潜在的交絡因子の調整後にCox回帰を用いて算出し、ランダム効果メタ解析を用いてハザード比(HR)を要約した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時点で閉経前だった6万441人中897人、閉経後だった10万6,170人中1,168人が追跡期間中に乳がんを発症した。・現喫煙者は喫煙未経験者より50歳になる前に乳がんを発症するリスクが高かった。・30歳より前に喫煙を開始した喫煙経験者と初産前に開始した喫煙経験者は、50歳以前に乳がんを発症するリスクが高かった。・成人期または小児期の副流煙曝露と乳がんとの関連はみられなかった。 本研究の結果、喫煙は閉経前の乳がんリスクを上げる可能性があり、人生の早期からの喫煙はとくに有害である可能性が示唆された。副流煙の影響については「さらなる調査が必要」とした。

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脳内出血24時間以内の低侵襲血腫除去術、180日アウトカム良好/NEJM

 急性期脳内出血後24時間以内に手術が可能だった患者において、低侵襲血腫除去術はガイドラインに基づく内科的管理に比べ、180日時点の機能的アウトカムが良好であることが示された。米国・エモリー大学のGustavo Pradilla氏らによる300例を対象とした多施設共同無作為化試験の結果で、著者らは「脳葉出血への介入が手術の効果に寄与しているものと思われる」と述べている。先行研究では、テント上脳内出血の外科的除去の試験は、概して機能への効果がないことが示されている。早期の低侵襲外科的除去により、内科的管理よりも良好なアウトカムが得られるかは明らかになっていなかった。NEJM誌2024年4月11日号掲載の報告。ガイドラインに基づく内科的管理と比較 研究グループは、急性期脳内出血患者を対象に、血腫の外科的除去と内科的管理のアウトカムを比較した。被験者は、脳葉出血または大脳基底核前部出血があり、血腫体積が30~80mL、最終健常確認時刻から24時間以内の患者だった。 被験者を1対1の割合で2群に無作為化し、一方の群には血腫の低侵襲外科的除去+ガイドラインに基づく内科的管理を(手術群)、もう一方の群にはガイドラインに基づく内科的管理のみを(対照群)、それぞれ行った。 有効性の主要エンドポイントは、180日時点の効用値加重修正Rankinスケール(UW-mRS、範囲:0~1、スコアが高いほどアウトカム良好、患者による評価)の平均スコアで、事前に規定した優越性の事後確率閾値は0.975以上だった。安全性の主要エンドポイントは、登録後30日以内の死亡だった。なお、本試験は出血部位に基づく登録基準の変更規則を設定して行われた。手術の優越性の事後確率は0.981、事前規定の閾値を超える 2016年12月1日~2022年8月24日に、計1万1,603例が適格性のスクリーニングを受け、米国内37施設から計300例(両群150例)が登録された(脳葉出血69.3%、大脳基底核前部出血30.7%)。175例の登録後に規則を変更し、以後は脳葉出血患者のみを登録した。両群の特性は類似しており、年齢中央値は手術群64歳、対照群62歳、女性は48%と52%、NIH脳卒中スケールのスコア中央値は16点と18点、無作為化時点のGCSスコア9~14点は83%と81%、血腫量中央値は54mLと55mL、また最終健常確認時刻から無作為化までの時間中央値は12.8時間と12.9時間だった。 180日時点のUW-mRS平均値は、手術群0.458、対照群0.374(群間差:0.084、95%ベイズ信用区間[CrI]:0.005~0.163)で、手術の優越性の事後確率は0.981と事前に規定した閾値を超えていた。群間差の平均値は、脳葉出血患者では0.127(95%ベイズCrI:0.035~0.219)、大脳基底核前部出血患者では-0.013(-0.147~0.116)だった。 30日以内に死亡した患者の割合は、手術群9.3%、対照群18.0%だった。手術群の5例(3.3%)で、術後の再出血と神経症状の悪化が認められた。

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診療ファシリテーターの介入、CKDや高血圧患者の入院は減少せず/NEJM

 腎機能障害をもたらす3疾患(慢性腎臓病[CKD]、2型糖尿病、高血圧)を有する患者のケアに対し、電子健康記録(electronic health record:EHR)に基づくアルゴリズムと、医療従事者を支援する診療ファシリテーターを導入する介入は、通常ケアと比較して、1年の時点での入院の減少に至らないことが、米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのMiguel A. Vazquez氏らが実施した「ICD-Pieces試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2024年4月4日号に掲載された。141のプライマリケア施設の実践的クラスター無作為化試験 ICD-Pieces試験は、米国の4つの大規模な保健システムに参加している141のプライマリケア施設で実施した実践的な非盲検クラスター無作為化試験であり、2016年7月~2019年6月に患者を募集した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。 対象は、年齢18~85歳のCKD、2型糖尿病、高血圧を有する患者であった。試験参加施設を、介入群または通常ケア群に無作為に割り付けた。介入群には、患者を同定するためのEHRに基づく個別のアルゴリズムと、医療従事者がガイドラインに基づく介入を行えるよう支援する診療ファシリテーターを導入した。 主要アウトカムは、1年後のあらゆる入院であった。副次アウトカムは、救急診療部の受診、再入院、心血管イベント、透析、死亡などとした。副次アウトカムの発生率は同程度 介入群に71施設の5,508例(平均年齢68.1[SD 10.4]歳、男性53.7%)、通常ケア群に70施設の5,492例(68.9[10.3]歳、53.7%)を割り付けた。 1年時の入院率は、介入群が20.7%(95%信頼区間[CI]:19.7~21.8、1,139/5,508例)、通常ケア群は21.1%(20.1~22.2、1,160/5,492例)であり、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:0.4ポイント、p=0.58)。 また、救急診療部受診(介入群24.3% vs.通常ケア群22.6%)、初回入院治療後の30日以内の再入院(37.7% vs.37.3%)、心血管イベント(18.5% vs.19.4%)、透析(0.7% vs.0.6%)、全死因死亡(2.3% vs.2.7%)のリスクも両群で同程度であった。有害事象も両群で同程度 有害事象の発生率は両群で同程度だった。最も頻度が高い有害事象は急性腎障害(介入群12.7% vs.通常ケア群11.3%)で、これ以外はいずれもまれであった。 著者は、「医療システム全体にエビデンスに基づくガイドラインを適用してアウトカムを改善するには、臨床意思決定支援などの別の技術が必要となる可能性がある」とし、「このようなツールを、現場での実践(boots on the ground)を行うファシリテーターと組み合わせれば、臨床医と患者がガイドラインに基づく治療を順守できるような支援が可能となるだろう。今後、エビデンスに基づくガイドラインの実践状況を改善し、この患者集団におけるガイドラインの有効性を評価するための研究が必要である」としている。

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PREVENT計算式で心血管疾患リスクを推定可能に

 「心血管疾患(CVD)イベントのリスク予測(Predicting Risk of CVD EVENTs;PREVENT)」方程式は、心不全を含むCVDのリスクを正確に推定できることが、「Circulation」に11月10日掲載のmethods paperおよび付随する科学的声明により報告された。この結果は、米国心臓協会の年次学術集会(AHA 2023、11月11~13日、米フィラデルフィア)でも同時発表された。 CVDの絶対リスクを評価する多変量リスク予測方程式の使用は、複数の一次予防ガイドラインにおいて現在推奨されているが、課題も多く存在する。米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のSadiya S. Khan氏らは、心血管・腎臓・代謝の3つの軸に関連する予測因子や、健康の社会的決定因子も考慮した新たな方程式が必要と考え、CVDの既往のない30~79歳の米国成人を対象としたPREVENT方程式を開発した。 主要アウトカムはCVD〔アテローム動脈硬化性CVD(ASCVD)および心不全(HF)〕で、予測因子は従来のリスク因子である喫煙、収縮期血圧、コレステロール、降圧薬・スタチン使用、糖尿病に加え、推算糸球体濾過量(eGFR)を用いた。モデルの導出は、コホート25件から得た個人レベルの対象者データ328万1,919人を対象とし、外部検証は、追加コホート21件の対象者333万85人を対象とした。モデルの開発では、年齢を尺度として使用し、非CVD死亡を競合リスクとして考慮した上で、男女別に予測因子とCVDとの関連を推定した。モデルの予測能はC統計量で評価し、較正は十分位数による観察リスクと予測リスクの傾きとして算出した。 対象者全体の平均年齢は53歳、女性56%で、平均4.8年間の追跡期間中に21万1,515件のCVD発症が確認された。外部検証の結果、PREVENTモデルはCVDリスク予測において、C統計量の中央値が女性で0.794、男性で0.757を達成した。較正曲線は女性で1.03、男性で0.94だった。ASCVDとHFを個別に予測するモデルにおいても、予測能と較正は同程度だった。選択可能な予測因子として、尿中アルブミン・クレアチニン比、HbA1c、社会的剥奪指数を追加したところ、モデルのCVD予測能はわずかながら有意に向上した(C統計量の差は女性で0.004、男性で0.005)。 Khan氏らは科学的声明の中で、PREVENT方程式の臨床的意義を説明している。この方程式を使用すれば、10年間および30年間におけるCVD(ASCVDとHF の複合)リスクを推定可能になることが重要という。方程式は男女別であり、予測因子としてeGFRを含み、人種を含んでいないことも特徴である。 Khan氏らは「PREVENT方程式は、CVDのリスク予測に心血管・腎臓・代謝に関わる健康因子と社会的因子を含めるための重要な第一歩である」と結論付けている。 なお、複数人の著者がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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日本人の喘息患者に睡眠時無呼吸が多く見られる

 日本人の喘息患者を対象に、閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea;OSA)の合併および臨床転帰を検討する研究が行われた。その結果、OSAの合併率は高く、特に重症OSAを有する人ほど喘息のコントロールや症状が悪いことが明らかとなった。これは川崎医科大学呼吸器内科学の小賀徹氏らによる研究結果であり、「Allergology International」に2月9日掲載された。著者らは、「喘息とOSAの合併は過小評価されている」として、臨床転帰を改善するためのOSAのスクリーニングを推奨している。 睡眠中に気道が閉塞することにより呼吸停止が起こるOSAでは、夜間のいびきや日中の眠気など、さまざまな症状が生じる。OSAのリスク因子の1つに肥満があるが、OSAは肥満のない人でも発症する。特に日本人は欧米人と比べてBMIが低いにもかかわらず、OSAの有病率は米国と日本で同程度と報告されている。 今回の研究は、2020年7月~2022年3月に、定期的に川崎医科大学附属病院を受診している喘息外来患者97人(平均年齢56.5±13.9歳、そのうち女性66人)を対象として行われた。患者は自宅での睡眠時の検査として携帯型モニターを装着。睡眠中の1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数から算出する呼吸イベント指数(respiratory event index;REI)により、OSAの有無や重症度が評価された。さらに、患者報告アウトカムとして、胃食道逆流症、日中の眠気や睡眠の質、喘息コントロール(Asthma Control Test;ACT)、咳嗽症状(Leicester Cough Questionnaire;LCQ)、呼吸器症状(COPD Assessment Test;CAT)、喘息の健康状態〔Asthma Health Questionnaire(AHQ)-33〕が評価された。 その結果、OSAなしの患者は19人(19.6%、平均41.3±13.9歳)、軽症OSAは40人(41.2%、59.0±12.0歳)、中等症OSAは24人(24.7%、61.8±10.7歳)、重症OSAは14人(14.4%、60.8±9.8歳)だった。患者の平均BMI(kg/m2)は、中等症OSA合併群で26.5±5.2、重症OSA合併群で27.8±4.4であり、OSAなし群の22.6±5.4と比べて有意に高かった。 国際的なガイドライン(Global Initiative for Asthma)に基づく喘息の治療ステップ(1~5)は、重症OSA合併群の方がOSAなし群と比べて有意に高かった(平均4.3±1.1対3.1±1.4)。しかし、肺機能やアレルギーの指標(FeNO、血清IgE、末梢血好酸球など)には、群間で有意な差は認められなかった。重症OSA合併群では、有意に喘息コントロールが悪く、症状・咳嗽も多く、健康状態も悪かった。 重症OSAと関連する因子を単変量ロジスティック回帰分析で検討すると、BMI、治療ステップと、患者報告アウトカムのうちACT、LCQ、CAT、AHQ-33の各スコアが有意な因子だった。次に多変量ロジスティック回帰を用いて、BMIを調整して解析した結果、治療ステップ、ACT、LCQ、CAT、AHQ-33は、BMIとは独立して、重症OSAの有意な予測因子であることが明らかとなった。 以上の結論として著者らは、「日本人の喘息患者において、中等症以上のOSAは多く見られた(39.1%)」と述べている。また、OSAのある人ほどBMIは高かったものの、重症OSAと喘息コントロールや症状・咳嗽・健康状態の悪化などとの関連は、BMIとは独立して有意であり、さらに、肺機能には群間で差がなかったことを挙げた上で、肥満や肺機能にとらわれず、喘息の患者報告アウトカムが不良であれば睡眠時無呼吸の評価を積極的に行うことの重要性を指摘している。

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本「ギネスブック」【2位じゃダメなんでしょうか?(「天才ビジネス」のからくり)】Part 1

今回のキーワード心の癖(認知バイアス)1位バイアス概念化自閉スペクトラム症統合失調症権威バイアスランキングビジネス比較癖皆さんは、世界一と聞くとワクワクしませんか? さまざまな世界一の記録を集めた本がギネスブック、現在の正式名は「ギネス世界記録」です。そして、これは独自のガイドラインに従って世界一の記録を認定する組織でもあります。それにしても、あの政治家の有名なセリフを借りれば…世界一になる理由は何があるんでしょうか?2位じゃダメなんでしょうか?今回は、ギネスブックを取り上げます。いつもと違い、シネマセラピーのスピンオフバージョン、「ビブリオセラピー」(読書療法)としてお送りします。この本を通して、私たちの心に潜む、1位に過剰な価値を付けたがる心理を掘り下げます。その心理を踏まえて、1位から「天才」を祭り上げる「天才ビジネス」のからくりにも迫ります。さらに、おまけとして、2位以降の順位付け(ランキング)も気になってしまう心理も掘り下げてみましょう。1番であることで過剰に価値が付けられるギネスブックでは、「最も」という言葉によって、大きさ、長さ、多さ、そして速さなどを主に認定しています。たとえば、これまで最も高い身長は272cmで、その人の写真を見たことがある人は多いでしょう。一方、2番目に身長が高い人は知らず、そこまで興味もありません。やはり、1番であることにとくに大きな注目が向きます。実際に、2番目はギネスブックに載りません。しかし、世界で何千番目であっても、日本で1番目となると、また気になります。私たちは、当たり前すぎてあまり気にも留めませんが、明らかに何かで1番であることで過剰に価値が付けられていることがわかります。これは、私たちの心の癖(認知バイアス)です。しかし、このバイアスには名前が見当たりません。近いバイアスとしては、権威によって価値が付けられる権威バイアスが挙げられます。しかし、このバイアスは1位だけでなく、2位以降の人たち、専門家、権力者にもかかり、概念として広いです。また、希で少ないことで価値が付けられる希少性バイアスが挙げられます。しかし、このバイアスは1番ではなくても、ただまれで少ない人や物にもかかり、概念としてやはり広いです。よって、より正確に言えば、「1位による権威と1位以上は1人だけという希少性の両方の要素を併せ持ったバイアス」です。ただ、長たらしいので、この記事では「1位バイアス」と名付けます。逆に価値を付けるために1番になるカテゴリーがつくられるギネスブックでは、走りながら手作業をするなど、2つの行動の組み合わせの「最も」も多数認定されています。また、「最も」多い人数でやる同じ行動も認定されています。さらに、16歳未満の「子供限定記録」の部門も新しくできています。あまりにも細分化されてしまい、「記録のための記録」になっているようにも見えてきます。つまり、もともとあるカテゴリーで1番であることに価値が付けられていたのに、逆に価値を付けるためにあえて1番になるカテゴリーがつくられるようになっています。すごいから1番なのではなく、1番だからすごい(はずだ)という認知的なすり替えが起きています。これは、世界的に有名なあるサッカー選手の名言にも通じます。それは、「強い者が勝つのではない。勝つ者が強いのだ」です。私たちは「強い者」(1番)につい目が行きがちだけど勝負の世界はわからないよというメッセージです。逆に、このような「1位バイアス」をうまく利用することもできます。たとえば、プロフィール紹介で、「大学で首席だった」はわかります。しかし、「全国模試で1位だった」は中身がよくわからないですが、何かすごそうと印象付けることができます。そもそもなんで1番であることで過剰に価値が付けられるの?それでは、そもそもなぜ1番であることで過剰に価値が付けられるのでしょうか? もちろん、特許や著作権などの権利を第一人者に与える法的な場合はわかります。しかし、そうじゃない場合はどうでしょうか?その答えは、脳の解釈装置が働くからです。これは、概念化と呼ばれています。私たちの脳は、社会生活を送る中、すべての体験をそのまま丸ごとは覚えきれません。そのため、ざっくりとしたイメージや言葉(概念)に置き換えています。進化心理学的に考えれば、原始の時代、たとえば「1番のしっかり者が長(おさ)」としてみんなが認めたわけですが、年を取ってしっかりしなくなっても「長(おさ)だから1番のしっかり者」とみんな思い込んでいたほうが、リーダーが簡単に交代せずに部族の上下関係が安定します。「1番助け合うから親友」として認めたわけですが、疎遠になっても「親友だから1番助け合う」と思い込んでいたほうが、協力関係が保てて人間関係が安定します。「1番すばらしい異性が自分の妻(夫)」として選んだわけですが、年月が経っても「自分の妻(夫)だから1番すばらしい」と思い込んでいたほうが、離婚せずに家族関係が安定します。このように解釈(概念化)に偏り(バイアス)があったほうが、部族としてより生き残り、夫婦としてより子孫を残したでしょう。このような「長(おさ)」「親友」「夫婦」などは概念であり、これが、「1位バイアス」という概念化の起源です。これは、「すごい」ということ(概念)にすごいと思うことです。ちょうど、逆の「ダメだ」ということにダメだと思うマイナス思考(回避性パーソナリティ)や、不安であることに不安に思う予期不安(パニック症)と同じ心理メカニズムです。なお、概念化の起源の詳細については、関連記事1をご覧ください。次のページへ >>

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メトホルミンのがんリスク低減、がん種別では?~166研究のメタ解析

 メトホルミンは、糖尿病管理のほかにがんリスクを低下させる可能性が報告されている。今回、米国・国立がん研究所(NCI)のLauren O'Connor氏らが、メトホルミン使用とがんリスクの関連を包括的系統的レビューとメタ解析により検討した。その結果、消化器がん、泌尿器がん、血液腫瘍のリスク低下との関連が示唆された。しかしながら、有意な出版バイアスがみられたことから信頼性には限界があるという。Journal of the National Cancer Institute誌2024年4月号に掲載。 本研究では、PubMed/MEDLINE、Embase、Cochrane Library、Web of Science、Scopusにおける開始から2023年3月7日までの研究の中から、メトホルミンが「使用歴あり」または「使用あり」に分類され、がんの診断をアウトカムとした研究を同定した。論文の質はNational Heart, Lung, and Blood Instituteのガイドラインを用いて評価し、出版バイアスはEgger検定、Begg検定、ファンネルプロットを用いて評価した。統合相対リスク(RR)推定値はランダム効果モデルを用いて算出し、感度分析は1つ抜き交差検証により行った。 主な結果は以下のとおり。・がん罹患情報を有する166研究をメタ解析に含めた。・症例対照研究(RR:0.55、95%信頼区間[CI]:0.30~0.80)および前向きコホート研究(RR:0.65、95%CI:0.37~0.93)において、メトホルミン使用によるがん全体のリスク低下が観察された。・がん種別のリスクについては、消化器がん(RR:0.79、95%CI:0.73~0.85)、泌尿器がん(RR:0.88、95%CI:0.78~0.99)、血液腫瘍(RR:0.87、95%CI:0.75~0.99)のリスク低下と関連していた。・統計学的に有意な出版バイアスがみられた(Egger p<0.001)。 本結果から、著者らは「メトホルミンは多くのがん種のリスク低下と関連している可能性があるが、異質性が高く、出版バイアスの恐れもあるため、これらの結果の信頼性には限界がある」とし、「がん予防におけるメトホルミンの有用性をよりよく理解するためには、非糖尿病集団での追加研究が必要である」とした。

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センチネルリンパ節転移乳がん、腋窩リンパ節郭清は省略可?/NEJM

 臨床的リンパ節転移陰性乳がんで、センチネルリンパ節に肉眼的転移を有する患者では、センチネルリンパ節生検のみを行い、完全腋窩リンパ節郭清を省略した場合、センチネルリンパ節生検+完全腋窩リンパ節郭清に対して、5年無再発生存(RFS)率が非劣性であることが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のJana de Bonifaceらが実施した「SENOMAC試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年4月4日号で報告された。5ヵ国の第III相無作為化非劣性試験 SENOMAC試験は、5ヵ国(スウェーデン、デンマーク、ドイツ、ギリシャ、イタリア)から67病院が参加した第III相無作為化非劣性試験であり、2015年1月~2021年12月に患者の登録を行った(Swedish Research Councilなどの助成を受けた)。 臨床的リンパ節転移陰性の原発性T1~T3乳がん(T1:腫瘍最大径≦20mm、T2:同 21~50mm、T3:同>50mm)で、センチネルリンパ節に肉眼的転移(転移巣の最大径>2mm)を1または2個有する患者を、センチネルリンパ節生検を行った後、完全腋窩リンパ節郭清を行う群(郭清群)、またはこれを省略する群(センチネルリンパ節生検単独群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。術後補助療法と放射線療法は、各国のガイドラインに準拠して実施した。 主要評価項目は全生存期間(OS)とした。今回の解析では、副次評価項目であるRFSのper-protocol解析と修正ITT解析のデータが提示された。再発または死亡のハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)の上限値が1.44未満の場合に、センチネルリンパ節生検単独群は非劣性と判定することとした。多くの患者が放射線療法と全身療法を受けた 登録患者2,766例のうち2,540例がper-protocol集団であり、センチネルリンパ節生検単独群が1,335例(年齢中央値61歳[範囲:20~94])、郭清群が1,205例(61歳[34~90])であった。リンパ節標的体積を含む領域の放射線療法は、センチネルリンパ節生検単独群の1,326例中1,192例(89.9%)、郭清群の1,197例中1,058例(88.4%)で行った。全体で、26例を除きいくつかの全身療法を受けていた。 追跡期間中央値は46.8ヵ月(範囲:1.5~94.5)であり、全体で191例(センチネルリンパ節生検単独群95例[7.1%]、郭清群96例[8.0%])が再発または死亡した。 per-protocol集団における推定5年RFS率は、センチネルリンパ節生検単独群が89.7%(95%CI:87.5~91.9)、郭清群は88.7%(86.3~91.1)であり、参加国を補正した再発または死亡のHRは0.89(0.66~1.19)と、95%CIの上限値が非劣性マージンを下回り、非劣性が示された(非劣性のp<0.001)。修正ITT集団でもほぼ同様の結果 修正ITT集団における5年RFS率の結果はper-protocol集団とほぼ同様であった(HR:0.89、95%CI:0.67~1.19)。 ほとんどのサブグループ(per-protocol集団)で、再発または死亡のHRはセンチネルリンパ節生検単独群で良好な傾向を認め、エストロゲン受容体陽性/HER2陽性の患者でとくに良好な傾向にあった(HR:0.26、95%CI:0.07~0.96)。男性は10例(0.4%)と少な過ぎたため、サブグループ解析はできなかった。 著者は、「本試験の結果は、この患者集団においては、完全腋窩リンパ節郭清を安全に省略できることを示す強固なエビデンスをもたらす」としている。

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「心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン」13年ぶりの改訂/日本循環器学会

 日本循環器学会、日本心臓病学会、日本小児循環器学会の合同ガイドライン『心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン』が、2011年以来の13年ぶりの改訂となった。3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会で、本ガイドラインの合同研究班班長である今井 靖氏(自治医科大学 臨床薬理学部門・循環器内科学部門 教授)が、ガイドライン改訂の要点を解説した。 本ガイドラインは2006年に初版が刊行され、2011年に改訂版が公表された。当時、遺伝子解析の大半は研究の範疇に属し、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に沿って実施されていた。その後、2021年の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」により、他の医学系研究指針と統合され、ヒト遺伝子情報が他の医学・生命科学の情報と同列に扱われるようになった。さらに最近では、診療として実施される遺伝学的検査が大幅に増加しており、がんなどの他の診療分野での遺伝学的検査の普及と並行し循環器疾患においても今後さらに適応が増加することは必至と考えられる。今回の改訂はこれらの状況を踏まえて行われた。 2024年改訂版では、総論において、遺伝学的検査の指針・目的、遺伝学的検査の方法・実施体制、診療・遺伝カウンセリング、周産期における対応・妊娠前のプレコンセプションケアについて追加した点が、前版と大きく異なると今井氏は述べた。 日常診療で遺伝学的検査を行う指針として、日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」や「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(2023年改訂)」に則している。また、遺伝学的検査によって得られる情報は、とくに慎重な配慮を要する個人情報であるため、個人情報保護法などの法令の趣旨に則するように記述・改訂されている。遺伝学情報の特徴 遺伝学情報には以下のような特徴があり、これらを理解したうえで患者に説明し理解を促すことが必要となる。・生涯変化しないこと。・血縁者間で一部共有されていること。・血縁関係にある親族の遺伝型や表現型が比較的正確な確率で予測できること。・非発症保因者(将来的に病的バリアント[変異]に起因する疾患を発症する可能性はほとんどないが、当該病的バリアント[変異]を有しており、次世代に伝える可能性のある者)の診断ができる場合があること。・発症する前に将来の発症の可能性についてほぼ確実に予測することができる場合があること。・出生前遺伝学的検査や着床前遺伝学的検査に利用できる場合があること。・不適切に扱われた場合には、被検者および被検者の血縁者に社会的不利益がもたらされる可能性があること。・曖昧性が内在していること(曖昧性とは、結果の病的意義の判断が変わりうること、症状、重症度などに個人差があること、調べた遺伝子が原因ではなく、未知の他の原因による可能性などがある)。遺伝学的検査の対象と目的 遺伝学的検査を行うためのワークフローとして、対象と目的の整合性を確認しておく必要がある。検査を受ける対象は、患者本人または血縁者、発症患者または非発症者の場合がある。また、遺伝学的検査を行う目的として、以下のものが挙げられている。・病因診断を目的とした原因の同定。・精微な層別化による疾患の病型分類。・分類された病型に基づく病態管理と治療法選択。・病態進展の理解と疾患予後の予測。・突然死を含む急性イベント発症の予防。・未発症者の発症予防や早期診断・早期介入。 遺伝学的検査の目的に応じた検査が重要となり、循環器診療部門と遺伝子医療部門が協同して実施する必要がある。検査を行う際の留意点として、検査対象者は通常は採血の負担しかないため身体的侵襲は少ないが、検査をしても異常が検出できないこともある。また、患者自身やその血縁者に遺伝子異常が見つかった場合、今後の病状が急激に悪化していくことなどのリスクを持ち合わせていることに対して、心理的負担を生じる可能性がある。一方で、早期の診断によって治療介入できる可能性もある。遺伝子解析の手法 遺伝子解析の手法として、次世代シーケンス(NGS)法が近年急速に進歩した。この技術により、候補となる遺伝子をまとめて解析するパネル解析や、全エクソーム解析法や全ゲノム解析法も可能となっている。また、小児を対象とした新生児マススクリーニングも先天性疾患の検出に有用なアプローチである。染色体異常については、染色体検査(G分染法)やFISH法によって確認することができる。 診療用に供する検体検査は、平成30年度改正医療法等に従い、保険診療での検査として行う場合(S006-4遺伝学的検査)は医療機関の検査部門、ブランチラボや衛生検査所で実施することとなった。これは研究所・大学の研究室などでのゲノム・遺伝子解析研究として実施されるものとは明確に区別することとなっている。保険収載されている遺伝子学的検査 現在、循環器領域で保険収載されている遺伝学的検査は、3,880点のものがFabry 病、Pompe病、家族性アミロイドーシス、5,000点のものが肥大型心筋症、家族性高コレステロール血症、CFC症候群、Costello症候群、Osler 病、先天性プロテインC欠乏症、先天性プロテインS欠乏症、先天性アンチトロンビン欠乏症、8,000点のものが先天性QT延長症候群、Noonan症候群、Marfan症候群、Loeys-Dietz症候群、家族性大動脈瘤・解離、EhlersDanlos 症候群(血管型)、Ehlers- Danlos症候群(古典型)、ミトコンドリア病となっている。遺伝カウンセリング 遺伝カウンセリングは、「疾患の遺伝学的関与について、その医学的影響、心理学的影響、および家族への影響を人々が理解し、それに適応していくことを助けるプロセス」と定義される。遺伝要因は不変であるため、自身のコントロールが及ばない。さらには、その遺伝要因によって、突然死などの重篤なものを含むさまざまな症状が、一般集団よりはるかに高い確率で起こりうるという脅威にさらされることとなる。そのような状況の患者や家族に生じうる、否認、怒り、疾患への脅威、コントロール感の喪失などのさまざまな心理的影響への対応が求められる。心理社会的課題に、患者や家族が対処する能力を身につけられるよう具体的な対処方法を提示するとともに、エンパワーメントや自己効力感の向上を目的に実施される。 遺伝カウンセリングのための専門職種である臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、遺伝看護認定看護師とともに循環器系の医師が協力して遺伝子検査を進め、より良い形で患者へ情報提供することが考えられる。遺伝カウンセリングについては、保険収載されている検査においてのみ診療報酬が設定されているため、未発症者の遺伝子解析や研究で行われる遺伝子解析に対してのカウンセリングは対象外となっている。このような点が今後改善されることを強く望むと今井氏は述べた。周産期の女性に対する対応 今井氏が今回のガイドラインでとくに力を入れた点として挙げたのが、周産期に対する対応である。若年の患者における先天性心疾患やQT延長症候群のような遺伝性疾患があるが、そのような女性患者の妊娠前の遺伝カウンセリングは重要で、思春期の段階から行っていく必要がある。妊娠出産に関する可能性や、次世代にどのように遺伝するかといったプレコンセプションケアも重視しなければならない。本ガイドラインでは、各疾患群の妊娠前遺伝カウンセリングをまとめている。今井氏によると、現在日本では思春期から20代の対象者について、カウンセリングが必ずしも十分にできていない状況にあるため、患者へのカウンセリングの可能性について検討してほしいと訴えた。疾患ごとに推奨事項を確認できる巻末付表 講演の後半では、疾患ごとにガイドラインに沿った解説がなされた。本ガイドラインの巻末付表に「循環器遺伝医療の実践」を設け、各疾患に関して、循環器遺伝医療における推奨事項を簡単に参照できるポケットガイドを付けている。この表では、疾患名、原因遺伝子、浸透率、推奨事項として発端者への介入や血縁者のスクリーニング・サーベイランス・介入が端的に示されている。 今井氏は最後に多遺伝子因子疾患について述べた。本ガイドラインでは単一遺伝子のみに言及してきたが、たとえば冠動脈疾患については、遺伝子の多型の組み合わせで示されるPolygenic risk score(多遺伝子リスクスコア)によって、低リスクと高リスクの集団の予測ができる。また、高遺伝リスク群であっても生活習慣リスクを低減することで、リスクを相殺する可能性も示されている。このような多遺伝子因子疾患の解析は、心房細動、血管炎、末梢動脈疾患にも応用可能とされ、今後の臨床利用が期待されるという。

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推奨レベル以下の身体活動でも脳卒中リスクは低下する

 少し体を動かすだけでも、カウチポテト族のように怠惰に過ごすよりは脳卒中の予防に役立つようだ。身体活動レベルがガイドラインで推奨されているレベルに達していなくても、運動をしない人に比べると脳卒中リスクは18%低下することが、新たな研究で示された。ラクイラ大学(イタリア)バイオテクノロジー・応用臨床科学分野のRaffaele Ornello氏らによるこの研究の詳細は、BMJ社発行の「Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry」に3月5日掲載された。 Ornello氏らは、論文データベースを用いて、余暇に行う身体活動(leisure-time physical activity;LTPA)と脳卒中リスクとの関連を、非活動的に過ごす場合との比較で検討した前向きコホート研究を検索して、15件を選び出した。これらの研究は、対象者の総計が75万2,050人、平均追跡期間は125.7±77.5カ月に上り、LTPAのレベルは3段階(身体活動なし、ガイドラインの推奨量以下、理想的)から5段階(身体活動なし、不十分、低度、中程度、強度)で分類されていた。 LTPAのレベルを3段階に分類して検討していた5件の研究データを統合して解析した結果、身体活動量がガイドラインの推奨レベル以下であっても、身体活動なしの場合に比べると脳卒中リスクが18%(相対リスク0.82、95%信頼区間0.75〜0.88)、運動量が理想的な場合では29%(同0.71、0.58〜0.86)、有意に低下することが明らかになった。このような低いLTPAレベルでの脳卒中リスクの有意な低減効果は、LTPAレベルを4段階に分類した研究を対象に解析しても(同0.73、0.62〜0.87)、5段階に分類した研究を対象に解析しても認められた(同0.71、0.58〜0.88)。 こうした結果についてOrnello氏は、「この研究結果が示唆しているのは、ガイドラインに基づくと低レベルや不十分と見なされるレベルの身体活動であっても、LTPAは脳卒中の予防に有効だということだ」と話す。この結果を踏まえて研究グループは、「最低限の量であっても、とにかく運動することを勧めるべきだ」と述べている。 研究グループはまた、「この研究結果は、2020年の世界保健機関(WHO)の身体活動に関するエビデンスに基づく勧告の重要な原則である、『ある程度の身体活動は、何もしないよりは良い』に沿うものだ」とBMJ社のニュースリリースの中で述べている。 なお、国際的なガイドラインでは、週に150分以上の中強度の身体活動、または週に75分以上の高強度の身体活動が推奨されている。米国心臓協会(AHA)によると、中強度の身体活動の例は、早歩き、水中エアロビクス、社交ダンス、ガーデニング、テニスのダブルス、気軽なサイクリングなど、高強度の身体活動の例は、ランニング、水泳、縄跳び、高速サイクリング、庭の雪かきや鍬を使った重労働などであるという。

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