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COPDの3大症状

気になる「せき」・「たん」・「息切れ」はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)かもしれません「せき」が続く「たん」が出る「息切れ」がする日本呼吸器学会COPDガイドライン第4版作成委員会編. COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版.メディカルレビュー社;2013.Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第5回

第5回:頻度の多い中耳炎...いま一度おさらいを 急性中耳炎は、急性に発症した中耳の感染症で、耳痛・発熱・耳漏を伴うことがあります。小児に多い疾患ですが、時折、成人でも認めます。日本では、小児急性中耳炎診療ガイドライン2013年版1)が発表されています。このガイドラインは、臨床症状と鼓膜所見をスコア化し、重症度によって治療を選択します。臨床現場では、軽症や中等症の症例に対し、当初より広域の抗菌薬を使用されているケースが散見されます。耐性菌の増加、多剤耐性菌の出現を考えると、適切な抗菌薬治療が望ましいと思います。 以下、American Family Physician 2013年10月1日号2)より中耳炎1.概要急性中耳炎は、急性発症、中耳浸出液の存在、中耳の炎症所見、痛み、イライラ、発熱などの徴候によって診断され、通常、ウイルス性上気道感染に伴うエウスタキオ管機能不全の合併症である。2.症状・徴候中耳浸出液の存在、耳痛、イライラ、発熱 など3.診断アメリカ小児科学会によると、急性中耳炎の診断は、耳鏡所見に伴うクライテリアに基づいて行う。鼓膜の中等症~重症の腫脹と外耳道由来ではない急性発症の耳漏、48時間以内の発症の耳痛を伴う鼓膜のマイルドな腫脹や紅斑が、診断に必要である(Evidence rating C)。また、小児の場合、中耳の浸出液を認めない場合は、診断されるべきではない。4.急性中耳炎の治療方針1)初期症状に対して:診察所見や徴候に基づいて診断を行う。・痛み止め(アセトアミノフェン)を処方。・耳漏や重症なサインや徴候のある6ヵ月以上の小児は、抗菌薬治療10日間施行。・重症なサインや徴候のない、両側性の急性中耳炎ある6~23ヵ月の小児は、抗菌薬治療10日間施行。・重症なサインや徴候のない、片側性の急性中耳炎ある6~23ヵ月の小児は、経過観察もしくは、抗菌薬治療10日間施行。・重症なサインや徴候のない2歳以上の小児は、経過観察もしくは、抗菌薬治療5~7日間施行。2)持続的な症状がある場合 :・中耳炎のサインを繰り返し診察。・中耳炎が、まだあれば、抗菌薬治療を始めるか、抗菌薬を変更。・適切な抗菌薬治療を行っても、症状が持続する場合、セフトリアキソンの筋肉注射やクリンダマイシン、鼓膜切開を考慮。 3)抗菌薬の選択 : 初期治療として、アモキシシリン(80-90mg/kg/日)分2もしくは、アモキシシリン・クラブラン酸(90mg/kg/日のアモキシシリン、6.4mg/kg/日のクラブラン酸)分2を内服。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 日本耳科学会、日本小児耳鼻咽喉科学会、日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会編.小児急性中耳炎診療ガイドライン 2013年版.金原出版;2013. 2) Harmes KM, et al. Am Fam Physician. 2013;88:435-440.

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アブレーションは発作性心房細動の第一選択になりうるか/JAMA

 未治療の発作性心房細動(AF)患者に対する高周波アブレーションvs. 抗不整脈薬治療について検討した結果、高周波アブレーションのほうが2年時点の心房性頻脈性不整脈の発生率が低かったことが、カナダ・マックマスター大学のCarlos A. Morillo氏らによる無作為化試験の結果、示された。現行ガイドラインでは、発作性AFの第一選択治療は抗不整脈薬治療が推奨され再発減少に有効である一方で、高周波アブレーションは抗不整脈薬治療に失敗した場合の第二選択治療として推奨されている。しかしながら先行研究では、第一選択治療としての位置づけをさらに検討すべきであることを示唆する報告がなされていた。JAMA誌2014年2月19日号掲載の報告より。欧米16施設、127例を対象に無作為化試験 研究グループは、抗不整脈薬未治療の発作性AF患者における第一選択治療として、高周波アブレーションが抗不整脈薬治療よりも優れるかを検討する第二次Radiofrequency Ablation vs Antiar- rhythmic Drugs for Atrial Fibrillation Treatment(RAAFT-2)試験を行った。 ヨーロッパと北米16の医療施設で被験者登録を行い(2006年7月27日~2010年1月29日)、127例の患者が無作為化を受け、抗不整脈薬治療群に61例が、高アブレーション群に66例が割り付けられ、無作為化後90日間のブランク期間を含む24ヵ月間のフォローアップを受けた(最終フォローアップは2012年2月16日)。 主要アウトカムは、ブランク期間を除く治療後21ヵ月間に記録された、30秒以上の初回心房性頻脈性不整脈発生(定期あるいは非定期に行った心電図、ホルター心電図、トランステレフォニックモニター、リズムストリップ法で確認)までの期間であった。副次アウトカムには、症候性の心房性頻脈性不整脈の再発とEQ-5D法によるQOL評価などが含まれた。治療後の初回心房性頻脈性不整脈発生、アブレーション群のHRは0.56 結果、主要有効性アウトカムの発生は、抗不整脈薬群44例(72.1%)、アブレーション群36例(54.5%)だった(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.35~0.90、p=0.02)。 副次アウトカムについては、症候性AF、心房粗動、心房性頻脈の再発がみられたのは、抗不整脈薬群59%、アブレーション群47%であった(HR:0.56、95%CI、0.33~0.95、p=0.03)。 死亡または脳卒中は、いずれの群でも報告されなかったが、アブレーション群で4例の心タンポナーデが報告された。 なお標準治療(抗不整脈薬)群のうち26例(43%)が、1年後にアブレーションを受けている。 QOLは試験開始時、両群とも中等度に損なわれていたが、1年後のフォローアップ時には改善がみられた。ただし、両群間に有意差は認められなかった。

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エキスパートに聞く!「睡眠障害」Q&A Part2

睡眠薬の増量・減量のタイミング、治療効果判定で注意すべきポイントは?不眠症が慢性化すると、患者さんは不眠による日中の生活の質の低下を強く自覚するようになる。こうしたつらさから抜け出したいと望むあまり、不眠症にかかる以前に増して長く深く眠りたいと望むようになる。このため、寝床で眠れないでいた時間を補おうとだんだんと早く就床したり、遅くまで起床しないで過ごしたりするようになる。これにより、寝床で過ごす時間が長くなってくる。実質的に一晩に眠ることのできる生理的睡眠時間は成人で7時間、高齢になると6時間程度であるが、不眠症の患者さんは、だんだん早寝遅起きとなり寝床で8時間以上過ごしている場合が多い。こうなると、いくら薬剤を投与しても生理的睡眠時間を超えて眠らせることはきわめて困難になる。通常の問診で、何時間眠れているかについては尋ねるが、就床時刻や起床時刻について明確に尋ねない場合が多く、寝床で長く過ごしていることについては見過ごされがちである。寝床で過ごす時間が生理的な睡眠時間を超えていると、いくら薬剤を投与しても不眠は改善しない。徐々に薬剤が増えていき、多剤大量投与に結びつきやすい。このため、寝床で過ごす時間を、7時間以内に適切化しながら薬物療法を行う。このような治療を行っても、寝付けない、夜中に目が覚めるといった場合に、初めて睡眠薬の増量を考える。ただし、薬剤を増やす前に、睡眠習慣を守っているかを再度確認したい。生活習慣を適正化しながら薬物療法を行い、服薬していれば毎晩安定して眠ることができるようになることが第一の目標である。こうした安心感ができ、睡眠に対するこだわりがとれてきたら、徐々に減量していく。その際に、これまでの睡眠薬による睡眠時間分は差し引いて就床時刻と起床時刻を設定することがポイントである。たとえば、65歳以上の患者さんが睡眠薬を使用して7時間眠っていたとする。この年代の生理的夜間睡眠量はおよそ6時間であるため、1時間分は睡眠薬で眠らされていると考える。減量の前に、30分早起きすることで、寝床で過ごす時間を30分短くし、一方で薬剤投与量を半分にする。減量により患者さんが不安になることもあるため、徐々に減量することにより、この不安を軽減する。こうして、寝床で過ごす時間を適正化しながら、減量していくことが重要である。子供(思春期)の睡眠障害や、薬物療法の工夫について教えてください。子供(思春期)の不眠では成人とは異なり、遅い時刻まで寝つけず、いったん眠るとなかなか起床できないというパターンになりやすい。背景には、体内時計の遅れがあり、睡眠相後退型の概日リズム睡眠障害と呼ばれる。何とか眠らせることができれば起床もできるようになるのではと考えやすいが、睡眠薬で早くから眠らせても、起床困難は改善しないことが多い。こうした場合には、朝起きる時刻を少しずつ早くしていくことで、次第に夜に寝つく時刻が早くなっていくというように考えて治療に当たると良い。朝少しでも早く起こして、日光を浴びるように指導を行う。その際、起床時刻を早くするには時間がかかることを考慮し、1週間に30分から1時間を目標に起床時刻を早めていくとよい。体内時計がずれていることが原因なので、薬物療法を行う際は、鎮静系の薬剤で無理に眠らせるべきではない。メラトニン受容体作動薬のような薬剤を少量、少し早めの時刻に投与する。眠らせるというよりは、時差ボケを治すイメージで体内時計のずれを解消する。緊張して眠れないというケースでは、通常の睡眠薬の投与も考慮することがある。ただし、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系ともに、服用後になかなか眠れないでいるときに感情が不安定になることもあるので、用量設定と投与時刻に注意する必要がある。近年の検討で、非ベンゾジアゼピン系の薬剤が有効であるという報告もある。なお、不眠の背景には、思春期の精神疾患が隠れている場合もあるので、注意しながら観察し、可能性が疑われる場合は専門医に相談していただきたい。自己判断で薬を勝手にやめてしまう患者さんへの対応を教えてください。こういった患者さんは、連続的に服用すると “癖になる”と思い、少し眠ることができると次の晩は服薬をしない等のようになることが多い。服薬しているときは眠ることができるが、自己判断で薬を中断すると、薬を飲んでいない不安から緊張が高まりかえって眠れない。このようなことが繰り返されると、“やはり薬がやめられなくなるのではないか”と思い込むようになる。まず、このようなケースの治療の第一ステップとしては、“睡眠薬が1錠あれば安心して生活できる”と実感してもらうことである。先に述べたように、安心できるようになれば、次は半錠にし、最後は薬がなくても眠れるようにする、といった手順を根気よく患者さんに説明・指導していくことが望ましい。近年の報告では、適切な量を適切な生活習慣の中で服薬していれば、依存が起こる可能性は低いと報告されている。睡眠薬を次々に希望する患者さんへの対応を教えてください。こういった患者さんは、薬物に対する依存ではなく、誤った睡眠習慣が原因となっている場合が多い。不眠で苦しんでいるうちに、とにかく長時間眠らなくてはと考え、“早寝遅起き”になる人が多い。しかし、極端に長く床に入っているとかえって睡眠は浅くなり熟眠感が低下する。このような状態では、どんな睡眠薬を用いても熟眠感は得られない。かといって、患者が満足するよう、希望する睡眠時間を担保できる用量の睡眠薬を用いると、翌日の持ち越し効果により、日中のQOLが低下する。したがって、このようなケースでは生活指導をしながら、薬の減量や、現在の薬で満足できるよう指導する。それが難しい場合は精神科の医師への紹介を考慮する。なお、薬が効かないという患者さんの中には、本当に睡眠薬が効かない睡眠障害も隠れているということを念頭に置く必要がある。頻度として高いのは、レストレスレッグス症候群である。患者さんが下肢の異常感覚を自覚していないことや、眠れないために異常感覚が生じていると誤解していることもあるので、医師から積極的に症状を確認することが必要である。レストレスレッグス症候群の治療には、睡眠薬ではなくドパミン作動薬やGABA誘導体)などを用いる。また、周期性四肢運動障害による脚のぴくつきが原因で、睡眠が浅くなったり夜中に起きたりする場合もある。さらに、睡眠時無呼吸症候群やうつ病の可能性もある。これらは、早めに専門的な治療を行えば改善するので、疑わしいケースは専門医へ紹介していただきたい。《 内山 真氏 著書 》『睡眠のはなし(中公新書2014)』 『不眠症診療&マネジメントマニュアル(メディカ出版2013)』 『睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版(じほう2012)』 『別冊NHK きょうの健康 睡眠の病気(NHK出版2012)』 ※エキスパートに聞く!「睡眠障害」Q&A Part1はこちら

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ムコ多糖症II型〔MPS II : Mucopolysaccharidosis II〕

ムコ多糖症II型のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義ムコ多糖症(Mucopolysaccharidosis: MPS)は、細胞内小器官のリソゾーム内でムコ多糖の一種であるグリコサミノグリカン(GAG)を加水分解する酵素の異常により、リソゾーム内にGAGが蓄積し、種々の臨床症状を引き起こす先天代謝異常症である。ムコ多糖症II型(MPSII型)は、1917年にCharles A. Hunterにより報告されハンター症候群と呼ばれていたが、1973年Bachらにより欠損酵素がイズロン酸-2-スルファターゼ(Iduronate-2-sulfatase)であることが明らかとなり、さらに1990年にはWilsonらにより本酵素がクローニングされ、遺伝子配列が明らかとなった。MPSII型は、リソゾーム酵素の1つであるイズロン酸-2-スルファターゼの異常によりリソゾーム内にGAGの一種であるデルマタン硫酸とヘパラン硫酸が異常に蓄積するため、慢性で進行性の多様な臨床症状を呈する。MPSII型は他のムコ多糖症と異なりX染色体潜性(劣性)遺伝形式をとる。■ 疫学MPSの頻度は人種により異なり、欧米では2万4,000人に1人と多いが、わが国では5~6万人に1人とされる。しかし日本、韓国などの東アジアでは、II型が多く、その頻度はMPSの過半数を占める。■ 病因リソゾーム酵素の1つである、イズロン酸-2-スルファターゼをコードする遺伝子の変異に基づく遺伝性の疾患で、この酵素の欠損はリソゾーム内にGAGの一種であるデルマタン硫酸とヘパラン硫酸が異常に蓄積するため、MPSII型でもI型と同様、慢性で進行性の多様な臨床症状を呈する。デルマタン硫酸の蓄積は骨の変形に関与し、ヘパラン硫酸の蓄積は精神運動発達遅滞の原因となることはI型と同様である。■ 症状画像を拡大するリソゾームはほとんどすべての細胞に存在するため、障害も多臓器に及び、I型のハーラー症候群に類似した症状であるが、角膜混濁はなく皮膚に特徴的丘疹を認めることが多い。新生児期からヘルニアや蒙古斑の多発が認められる。その後、ガルゴイ様と呼ばれる粗な顔貌、関節拘縮、骨変形、肝脾腫、心弁膜症、精神運動発達遅滞、網膜変性、滲出性中耳炎、難聴、閉塞性呼吸障害、低身長などが出現する。重症型では、6ヵ月頃から胸腰椎移行部の突出が出現するが、関節拘縮は明らかではなく、3歳頃までは過成長(+2SD)が続く。それ以後、身長は横ばいとなり、関節拘縮が始まり、軽症型でも学童期までに気づかれるようになる。眼窩が浅く遠視となり、眼圧が上昇する症例では網膜変性が認められることもあるが、角膜混濁は来さない。■ 予後無治療の場合、重症型では小児期に死亡することが多いが、治療法の進歩により、生命予後はかなり改善している。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断1)胸部X線正面画像:肋骨のオール状変形が認められる。2)腰部X線側面画像:上部腰椎の卵形化、下部腰椎の椎体の下部が前方に突出する所見が認められる。3)手のX線画像:指の骨の弾丸状変形が認められる。4)頭部CT:水頭症5)眼科受診:角膜混濁は認めないが、眼圧の上昇による緑内障や網膜変性を引き起こすことがある。6)耳鼻科受診:滲出性中耳炎■ 生化学診断:尿中ムコ多糖分析1)尿中GAG定量値が高値である。2)GAG分画:デルマタン硫酸とヘパラン硫酸の増加が認められる。■ 酵素診断:イズロン酸-2-スルファターゼ活性の測定白血球のイズロン酸-2-スルファターゼ活性の低下を認める。■ 遺伝子診断確定診断に必須の検査ではないが、保因者診断や出生前診断には有用である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 対症療法1)中耳炎・難聴:鼓膜チューブ挿入や補聴器など耳鼻科的処置を行う。2)緑内障・網膜変性:眼圧を下げる眼科的処置を行う。3)骨変形:整形外科的手術を行う。4)睡眠時無呼吸:耳鼻咽喉科的手術や経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)を行う。5)心弁膜症:弁置換術など心臓外科的手術を行う。6)水頭症:シャント術など脳外科的手術を行う。■ 造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation:HSCT)1)移植によるリスクがかなり軽減しているため、最も勧められる治療法である。2)肝脾腫の縮小、関節拘縮の軽度改善、心弁膜症の進行抑制、粘膜の肥厚の改善などが認められるが、骨変形や精神発達の退行を防ぐことは難しい。3)酵素補充療法の治療効果が減弱するような重症型症例では、早期の造血幹細胞移植を積極的に考慮すべきである。■ 酵素補充療法(Enzyme replacement therapy:ERT)1)遺伝子組み換えにより人工的に合成されたイズロン酸-2-スルファターゼ酵素を静脈内、あるいは脳室内に注射により補充する治療法で、以下の3製剤が薬価収載されている。(1)イデュルスルファーゼ(商品名:エラプレース)毎週点滴静注により酵素補充を行うが、血液脳関門(BBB)により酵素が中枢神経系に到達できないため中枢神経障害に対する効果は望めない。(2)イデュルスルファーゼベータ(同:ヒュンタラーゼ)4週に1回脳室内投与により髄液中に直接酵素補充を行うことで中枢神経症状の進行を抑制する効果が期待できる。この治療にはOmmayaリザーバーを頭皮下に設置し、脳室内にカテーテルを留置する外科的処置が必要である。また、脳以外の組織については(1)のイデュルスルファーゼの毎週点滴静注を併用する必要がある。造血幹細胞移植と併用することで中枢神経症状の治療効果を補強することが推奨されている。(3)パビナフスプアルファ(同:イズカーゴ)毎週点滴静注により酵素補充を行うBBB通過型酵素製剤である。トランスフェリンが脳内に取り込まれる経路を利用し、トランスフェリン受容体抗体と薬剤を融合させることでBBBを通過し脳内に酵素が届くため全身症状に加え中枢神経系に対する効果が望める。2)診断後すぐに治療が開始できるため、HSCTを施行するまでの繋ぎの治療として有効であるとされてきたが、HSCTよりも中枢神経系に対する効果が期待できる製剤が開発されたことによりERTが継続されるようになっている。3)血流が豊富な組織:粘膜の肥厚の改善による呼吸状態の改善、肝臓や脾臓の縮小、皮膚・関節拘縮の軽減などの効果が認められる。4)血流が豊富でない組織:骨の改善は困難である。5)酵素製剤の効果を減弱させるような高い抗体産生を認める症例では、早期の造血幹細胞移植を積極的に考慮すべきである。4 今後の展望リソゾーム酵素は、作られた細胞からいったん分泌され、血流により全身の臓器に運ばれた後、各臓器組織に取り込まれリソゾームに移行し、作用する性質がある。このため、移植された細胞から分泌された正常な酵素、あるいは人工的に作られた酵素を点滴で血液中に注入すると、各臓器組織に取り込まれて症状の改善が認められる。しかし、この治療法は各臓器組織における血流に依存するため、血流の豊富でない骨などの重要な臓器での症状の改善が認められない問題点がある。今後、これらの臓器組織への移行を改善した酵素製剤の開発が期待される。5 主たる診療科先天代謝異常症であるため、主たる診療科は小児科であるが、全身の臓器に異常が生じるため、該当するいくつかの診療科と並行して受診と治療が必要である。また、20歳を超えた成人症例には、小児科の入院は難しいため、必要となる診療科に入院し、小児科が共同で観察することが重要である。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 76 ムコ多糖症II型(医療従事者向けのまとまった情報)ムコ多糖症Pro(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本ムコ多糖症患者家族の会(患者とその家族の会)LysoLife ムコ多糖症(患者とその家族向けの情報)1)先天代謝異常学会編集. ムコ多糖症(MPS)II型 診療ガイドライン2019. 診断と治療社;2019.2)日本造血細胞移植学会編集. 造血細胞移植ガイドライン 先天代謝異常症(第2版). 日本造血細胞移植学会発行;2019.3)厚生労働省難治性疾患頭政策研究事業編集. 診断の手引きに準拠したムコ多糖症診療マニュアル. 診断と治療社;2016.4)折居忠夫総監修. ムコ多糖症UPDATE. イーエヌメディックス;2011.公開履歴初回2014年2月20日更新2024年6月19日

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今後の喘息治療では何が求められるのか

 2014年1月27日(月)、東京都千代田区でグラクソ・スミスクライン株式会社により、気管支喘息治療剤「レルベア エリプタ」(一般名:ビランテロールトリフェニル酢酸塩/フルチカゾンフランカルボン酸エステル)のメディアセミナーが開催された。本剤は昨年12月9日に発売された新規のICS/LABA製剤である。当日は3つの講演が行われた。 【なぜレルベアが患者にとって重要か】 はじめに、同社呼吸器事業本部長であるエリック・デュベイ氏より、レルベアの患者さんへのベネフィットを中心とした講演が行われた。  デュベイ氏は、レルベアは1日1回1吸入で喘息症状に対する有効性(FEV1改善、QOLの向上など)が期待できるICS/LABAであること、また吸入デバイス(エリプタ)についても、より使いやすいよう開発されているため服薬アドヒアランス向上が期待できることを述べた。さらに、安全性のプロファイルについても、同社よりすでに発売されている1日2回吸入のICS/LABA製剤であるアドエアと同等であるという。【喘息患者の現状とガイドライン治療目標との間に大きな開き】 続いて、国際医療福祉大学 臨床医学研究センター教授/山王病院アレルギー内科教授である足立 満氏により「喘息治療 最新の実態と課題」と題する講演が行われた。 足立氏は、喘息の治療薬は、1990年代初頭を境に気道の狭窄に対する気管支拡張薬主体の治療薬から気道の慢性炎症に対する抗炎症薬主体の治療薬にシフトした、と述べた。これらを背景に喘息死は年々減少しているが、喘息治療の目標である「健常人と変わらない日常生活が送れるようにする」という点については十分といえないのが現状だという。事実、AIRJ(全国喘息患者電話実態調査)2011の結果から、喘息患者の実際のコントロール状態と治療目標との間には大きな開きがあることがわかっている1)。 さらに足立氏は、喘息治療における課題として治療継続率の低さを挙げた。この主な原因として「自己判断による中止」、「服薬を忘れる」、「服薬の手間」などがある。服薬については、喘息患者の多くが1日1回の吸入が治療を望んでいる現状がある。また、高齢化の進む今、より簡便なデバイスが求められるようになっているため、「レルベア」は1日1回1吸入、より使いやすい吸入デバイスであるという点で、治療継続率の向上が期待できるという。【レルベアの登場で今後の喘息治療はどう変わるのか】 最後に、広島アレルギー呼吸器クリニックの保澤 総一郎氏により「治験・患者アンケートからみる今後の喘息治療への期待」として講演が行われた。 保澤氏によると、喘息悪化の原因はさまざまだが、喘息症状により気道収縮を繰り返すと気道のリモデリングが起こり、難治化するという。その点、ICS/LABAは気道リモデリング抑制効果が期待できると述べた。レルベアのICSであるフルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF)は吸入ステロイド薬のなかで、最もグルココルチコイド受容体親和性を示し、強い抗炎症効果がある。加えて、グルココルチコイド受容体の核内移行作用も長時間持続することから、持続的な抗炎症効果が期待できるという。 保澤氏は足立氏同様、服薬アドヒアランスを喘息治療における課題としている。実際、保澤氏のクリニックで行われた調査では、1日1回1吸入を支持する患者は8割以上に上っている。    保澤氏は、レルベアが1日1回1吸入であることに加え、朝・夜いずれの服用においても呼吸機能改善効果が24時間維持され、安全性にも影響が認められなかったことから、喘息の服薬アドヒアランス向上への期待感を示した。そのうえで、より良い喘息治療の実現を目指すにあたってレルベアは有用な選択肢となりうると締めくくっている。1)足立満ほか. アレルギー・免疫. 2012; 19: 1562-1570.

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ブプレノルフィン経皮吸収型製剤、慢性腰痛患者の日常生活動作も改善

 ブプレノルフィン経皮吸収型製剤(BTDS、商品名:ノルスパンテープ)は、日常生活動作(ADL)に支障を来す中等度~重度の慢性腰痛に対して鎮痛効果を示すことが知られている。米国・Optum社のKate Miller氏らは、臨床試験成績の事後解析により、同製剤が鎮痛のみならず睡眠や腰痛に関連したADLの実行能力をも改善することを明らかにした。Clinical Journal of Pain誌オンライン版2014年1月3日の掲載報告。 研究グループは、腰痛と関連があるADLの実行能力に対するBTDS治療の影響を検討する目的で、中等度~重度の慢性腰痛を有するオピオイド未使用患者を対象とした12週間の多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検試験のデータを用い、ADLについて解析した。 ADLの評価項目は、国際生活機能分類(ICF)の腰痛コアセットに含まれ、臨床試験で用いられた患者報告に基づくアウトカム尺度の項目に関連した23項目とし、ロジスティック回帰モデルにより各ADL実行能力のベースラインに対する投与12週後のオッズ比(OR)を求めた。 主な結果は以下のとおり。・BTDS群では睡眠、持ち上げること、腰を曲げること、仕事をすることに関する10項目のORに統計学的有意性が認められ、プラセボ群に比べBTDS群でADL実行能力が大きいことが示された。・これら10項目の実行能力は、ベースラインに比べBTDS投与12週後に1.9~2.4倍となった(1.9:仕事遂行に身体的健康に関連した制限がない、2.4:疼痛に妨げられずに眠ることができる)。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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うつ病患者とかかりつけ医、認識のギャップが浮き彫りに

 米国・コロラド大学のRobert D Keeley氏らは、うつ病診療におけるプライマリ・ケア医と患者の認識について質的研究を行った。その結果、患者がうつ病であることを受け入れ、治療を求めることについて感じているスティグマを、医師は過小評価する傾向にあること、また患者は十分に時間をかけて医師とディスカッションすることを望んでいるのに対して、医師は長時間のディスカッションが患者にとって不利益をもたらすと考えているなど、医師と患者の認識の相違が浮き彫りになったことを報告した。BMC Family Practice誌オンライン版2014年1月15日号の掲載報告。 米国では、プライマリ・ケアにおける診療を“Patient-Centered Medical Homes(PCMH)”、すなわち患者中心型医療に変えるための努力が、プライマリ・ケアでの診療改善の焦点となっている。しかし、PCMHをめぐる技術革新や通信インフラの発展にもかかわらず、患者の認識を踏まえた前向きな診療に対する理解と促進が十分に進んでいないのが現状である。そこでKeeley氏らは、プライマリ・ケアでのうつ病診療に際し、患者の体験、期待、嗜好などについて、医師と患者の認識の差を検討した。地方および都会の小~中規模のプライマリ・ケア4施設が参加し、うつ病性障害患者30例を抱えるプライマリ・ケア医6名にインタビューを行った。 主な結果は以下のとおり。・満足のいくうつ病ケアには、以下の3つの過程があることが示唆された。(1)砕けてしまったものをつなぐ。(2)個々の患者のうつ病に対する理解を探る。(3)現在のうつ状態と将来のエピソードを防止するための、独自の治療空間をつくる。・患者がうつ病を受容し、治療を求めることをスティグマであるとみていることについて、医師は過小評価する傾向にあった。・患者は、自分の思いに共感を示し、耳を傾けてくれる医師を好むが、一方で医師は、長々と患者と話すことで“パンドラの箱”を開けてしまうことや、診察時間が長くなってしまうことを懸念していた。・うつ病により身体に現れた症状が、患者自身のうつ病の苦悩の理解を妨げるという点に関しては、医師も患者も同意見であった。・医師らは、ガイドラインに基づくうつ病のためのアプローチ以外のいくつかの治療手段を支持するとした。また、患者らが述べている多面的なサポートについても表面的には理解を示した。・プライマリ・ケアのプロセスとアウトカムの改善にあたっては、患者の体験、期待および嗜好を理解し、評価する能力の向上が要求されることが示唆された。・今後の研究で、うつ病ケアにおけるスティグマ、ならびに受診時にうつ病に関するディスカッションに費やす時間について、医師と患者の認識の相違にまつわる検討が進められる必要がある。・うつ病などの慢性疾患のケアとアウトカムの改善にあたっては、プライマリ・ケア医が患者独自の“治療空間”を理解し、サポートすることが求められる。関連医療ニュース うつ病や不安症の患者は慢性疾患リスクが高い 抗うつ薬による治療は適切に行われているのか?:京都大学 うつ病の寛解、5つの症状で予測可能:慶應義塾大学

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睡眠障害に関するアンケート

対象ケアネット会員の内科、精神科・心療内科医師方法インターネット調査実施期間2013年12月19日回収200名(内科医師100名、精神科・心療内科医師100名)Q.「睡眠薬の適切な使用と休薬のための診療ガイドライン」(厚生労働省・日本睡眠学会)をご存じですか?また、どのように扱われていますか?Q.レストレスレッグス症候群をご存じですか?また、どのように対応していますか?2013年12月ケアネット調べ

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イブプロフェン塩速効性製剤vs.標準製剤

 Cochraneレビューにおいて、速やかに吸収されるイブプロフェン塩(速効性製剤)は遊離酸形態のイブプロフェン(標準製剤)より優れた鎮痛効果を発揮することが示唆されている。英国・オックスフォード大学のR. Andrew Moore氏らは,イブプロフェンの各種経口製剤の薬物動態および臨床効果についてシステマティックレビューを行い、速効性製剤は有害事象の発現を増加させることなく速やかに吸収され、優れた鎮痛効果を発揮することをあらためて示した。鎮痛薬にとって製剤学は重要と考えられるとまとめている。PAIN誌2014年1月号(オンライン版2013年8月21日号)の掲載報告。 本レビューでは、イブプロフェン速効性製剤の利点を調べることを目的に、PubMedにて「イブプロフェン」「リジン」「アルギニン」「ナトリウム」「液剤」「可溶性」「発泡性」「薬物動態」などをキーワードにして論文検索が行われた。 薬物動態に関するレビューには30試験、被験者1,015例、臨床効果に関するレビューには被験者1万例以上のデータが組み込まれた。 主な結果は以下のとおり。・最大血漿中濃度中央値の到達時間は、標準製剤より速効性製剤は約50分も早かった(標準製剤:90分、アルギニン塩、リジン塩およびナトリウム塩製剤:29~35分)・間接比較および直接比較のいずれにおいても、速効性製剤は標準製剤より鎮痛効果が有意に優れ再投与も少なかった。・歯痛に関する研究では、鎮痛作用の発現は速効性製剤200mg(治療必要数[NNT]:2.1、95%信頼区間[CI]:1.9~2.4)と標準製剤400 mg(NNT:2.4、95%CI:2.2~2.5)が同程度で、投与後60分以内の疼痛強度の低下と投与後6時間の有効性に強い相関がみられた。・投与後初期の疼痛強度の速やかな低下は、再投与の減少と関連していた。 ・速効性製剤で有害事象を報告した患者の割合は、標準製剤より高くなかった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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第22回 添付文書を味方につけた裁判例。医師vs.審査委員会

■今回のテーマのポイント1.腎疾患で一番訴訟が多い疾患は腎不全であり、争点としては、感染症および透析導入の遅れが多い2.添付文書に従った薬剤の使用は、保険診療上適正な診療といえる3.添付文書の内容に解釈の余地がある場合には、ガイドラインなどを参照し判断する事件の概要原告は、慢性腎不全患者に対する人工透析を専門に行っている医療法人社団AクリニックおよびAクリニックの開設者であるX医師です。X医師は、人工透析施行中の腎性貧血患者に対し、ヘモグロビン濃度12.0g/dLを超えた場合には、休薬または減薬をするという方針で、エリスロポエチン製剤を投与していました。エリスロポエチン製剤の添付文書には、【使用上の注意】として、「a 本剤の投与は貧血症に伴う日常生活活動の支障が認められる腎性貧血患者に限定すること。なお、投与対象はヘモグロビン濃度で10g/dl(ヘマトクリット値で30パーセント)未満を目安とする。b 本剤投与中はヘモグロビン濃度あるいはヘマトクリット値を定期的(投与初期には週1回、維持投与期には2週に1回程度)に観察し、必要以上の造血(ヘモグロビン濃度で12g/dl以上、あるいはヘマトクリット値で36パーセント以上を目安とする)にならないように十分注意すること。必要以上の造血を認めた場合は、休薬するなど適切な処置をとること」と記載されていました。X医師は、被告である神奈川県国民健康保険診療報酬審査委員会(以下「審査委員会」と略します)に対し、診療報酬の支払請求をしたところ、審査委員会は、ヘモグロビン濃度10.0g/dLを超えた投与について、「過剰と認められるもの」または「その他不適当または不必要と認められるもの」を減額事由として減額査定をしました。これに対し、原告は、再審査部会に再審査を申し立てたところ、一部の投与単位数および投与回数については増額査定がなされたものの、約237万円分につき、査定が維持されました。そこで、XおよびAクリニックは、神奈川県国民健康保険診療報酬審査委員会に対し、慰謝料を含め287万円の支払いを求める訴訟を提起しました。事件の判決原告の勝訴国民健康保険法40条1項は、保険医療機関等が国民健康保険の療養の給付を担当する場合の準則については厚生労働省令である療養担当規則の例によるものと定めていることから、委任の本旨に従った適正な療養の給付がなされたか否かについては、第1次的には保険医療機関等の行った医療行為が療養担当規則に適合しているか否かが判断基準となる。しかし、療養担当規則は、投薬については、その20条で、「投薬は、必要があると認められる場合に行う」とか、「同一の投薬は、みだりに反覆せず、症状の経過に応じて投薬の内容を変更する等の考慮をしなければならない」等のごく概括的な基準を定めるのみであるから、エリスロポエチン製剤のような個々の薬剤の投与が適正な療養の給付にあたるか否かの判断の具体的な基準とはなり得ない。他方、医薬品は、薬事法に定める製造承認を受けて薬価基準に収載されることによって保険診療上の医薬品としての取扱いを受けるものであるが、このような医薬品については、当該医薬品の適用を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために、薬事法52条により、その医薬品の添付文書に「用法、用量その他使用及び取扱い上の必要な注意」を記載すべきものとされており、この添付文書の記載が個別具体的な薬剤毎の投与の際の基準となるものであるから、保険医療機関等がこの添付文書の記載に従った投与をしたのであれば適正な療養の給付を行ったものといえる。もっとも、さまざまに異なる症状や身体条件の患者を扱う医療行為の性質上、このような添付文書の記載も、薬剤の用法、用量等を一義的・固定的な基準で定めるのではなく、使用する医師に一定の裁量的判断の余地を残した記載となっている場合も多く、また、ときには添付文書の記載自体が必ずしも明確でないために異なった解釈が生じうることもあるが、このような場合には、実際の臨床の場における標準的な取扱いや医学的知見も参酌しながら、当該薬剤の投与が添付文書の記載する用法、用量等の基準に従った適正な療養の給付といえるか否かを判断することとならざるを得ない。本件においては、原告らがエリスロポエチン製剤を添付文書の記載する用法、用量その他の基準に従って透析施行中の腎性貧血患者に投与したのであれば、適正な療養の給付を行ったものと認められ、原告らは、被告に対し、診療報酬の支払を請求することができるものというべきである。・・・・・(中略)・・・・・添付文書は、「使用上の注意」として、「本剤投与中はヘモグロビン濃度あるいはヘマトクリット値を定期的に観察し、必要以上の造血(ヘモグロビン濃度で12g/dl以上、あるいはヘマトクリット値で36パーセント以上を目安とする)にならないように十分注意すること。必要以上の造血を認めた場合は、休薬するなど適切な処置をとること」と記載しており、投薬開始後の患者についてはヘモグロビン濃度が10g/dlを超えた検査値となることを当然の前提とする記載内容となっている上、必要以上の造血とはヘモグロビン濃度で12g/dl以上(ヘマトクリット値で36パーセント以上)が目安となることを明示している。・・・・・(中略)・・・・・また、全国の透析治療に携わる医師らで構成される日本透析医会の作成した保険診療マニュアル(平成10年改訂版)(甲第55)でも、「腎性貧血の治療は透析患者の全身倦怠等の症状を著しく改善するだけでなく死亡のリスクを低下させるためにも大切であり、ヘマトクリット値30ないし35パーセント程度を目標にエリスロポエチン製剤等を用いて治療する」旨が記載されており、保険診療においても改善目標値がヘマトクリット値で35パーセント程度まで及びうることが前提とされている。・・・・・(中略)・・・・・以上のとおりであるから、添付文書はエリスロポエチン製剤の投与による腎性貧血の治療の結果ヘモグロビン濃度が12g/dl(ヘマトクリット値で36パーセント)程度に至ることを想定しており、被告主張のように、ヘモグロビン濃度が10g/dl(ヘマトクリット値で30パーセント)を超えたからといって、直ちに原則として投与対象から除外されたり、維持投与量に限定されたりするものとはいえない。保険医療機関等としては、必要以上の造血であるヘモグロビン濃度12g/dl(ヘマトクリット値で36パーセント)以上にならないように注意しつつ、上記のような患者の症状や生活状況等を考慮して添付文書所定の投与量の範囲内で投与し、定期的に行った検査の値がヘモグロビン濃度12g/dl(ヘマトクリット値で36パーセント)以上となった場合には休薬その他の適切な処置をとっていれば、エリスロポエチン製剤を添付文書の記載する用法、用量その他の基準に従って投与したものということができ、適正な療養の給付を行ったものと認められる。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(横浜地判平成15年2月26日判時1828号81頁)ポイント解説■腎疾患の訴訟の現状今回は、腎疾患です。腎疾患で最も訴訟となっているのは腎不全です(表1)。腎不全に関する訴訟で最も多く争点となっているのは、感染症治療に関してであり、2番目に多い争点が透析導入の遅れとなっています(表2)。■診療報酬の審査と添付文書今回紹介した判例は、腎不全に関する訴訟ではありますが、医療過誤訴訟ではなく、診療報酬の審査に関する事案となっています。医療機関が、保険診療を行った場合、診療報酬の一部(現役世代は3割)を患者本人より受け取り、残余については、保険者である健康保険組合などに対し、診療報酬明細書(レセプト)を提出し、診療報酬の支払いを請求することとなります。保険医療機関より提出されたレセプトは、健康保険組合から審査および支払に関する事務を委託された国民健康保険団体連合会において、支払を行うか否か審査されます。支払いの可否は、保険医療機関および保険医療養担当規則(以下「療担規則」と略します)に基づいて判断されるのですが、本判決にも示されているように、療担規則は、「投薬は、必要があると認められる場合に行う」とか、「同一の投薬は、みだりに反覆せず、症状の経過に応じて投薬の内容を変更する等の考慮をしなければならない」など、抽象的な文言で書かれていますので、個別具体的な判断基準とはなり難いといえます。本判決の1つ目のポイントは、添付文書に従った薬剤の使用は、療担規則上、適正といえるとしたことです。第12回で解説したように、添付文書に違反した場合には、過失が推定される(最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁)こととなりますが、その反面、添付文書に従った薬剤の使用をしている限りにおいては、療担規則上適正と判断されるのですから、当然、医療行為としても適法であるということになります。本判決の2つ目のポイントは、添付文書の解釈に幅がある(グレーゾーン)場合には、実臨床の場での標準的な取扱いや医学的知見を参酌して、添付文書の解釈を行うと示したことです。そして、実臨床の場での標準的な取扱いを判断するにあたっては、学会が作成したガイドラインが大きな役割を担うこととなります。上記2つのポイントをまとめると(表3)のようになります。添付文書も、ガイドラインもそれぞれ一長一短の面があることは事実ですが、少なくとも標準的な治療については、しっかりとしたガイドラインを作成していくことは、医師自身の適法行為の予見可能性を高めるすなわち、実際に診療している際に、自身がこれから行おうとする医療行為が適法か否かを予想できるようになることに加え、本判決で示されたように、診療報酬請求においても有用といえますので積極的に推進されるべきと考えます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)横浜地判平成15年2月26日 判時1828号81頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。最判平成8年1月23日 民集50号1巻1頁

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痩身クリームの効果は-0.46cm

 イタリア・ミラノ大学のF. Turati氏らは、塗るだけでセルライトを減らす(cellulite reduction)効果をうたうコスメ製品について、システマティックレビューとメタ解析を行った。同製品の有効性を調べたオリジナル研究論文は、過去10年間で急速に増加したが、これまでシステマティックレビューとメタ解析は行われていなかった。検討の結果、有効性は大腿囲減少についてわずかに認められるとする知見が得られたことを報告した。Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology誌2014年1月号の掲載報告。 研究グループは、PRISMAガイドラインを適用しているヒトに対するin vivo のシステマティックレビューを行った。また、メタ解析的アプローチを用いて、1アーム10例以上の被験者を組み込み、転帰尺度として大腿囲減少を用いていた対照試験から痩身クリームの全体的な有効性を推算した。 主な結果は以下のとおり。・Medline、Embaseにより2012年8月までに発表された論文から適格試験を検索した。・結果、オリジナル試験は21件であった。全試験が臨床試験であり、大半は女性だけを対象としており、67%は患者内試験として設計されたものであった。・検証されていた痩身クリーム製品の約半数は、キサンテン、ハーブあるいはレチノイドのうち1種類の活性成分を含むだけのものであった。・その他の試験では、痩身クリームをより複雑な手法で検証していたが、試験対象の大部分がキサンテンを含むものであった。・メタ解析の適格基準を満たした対照試験は計7件であった。・治療群と対照群間の大腿囲減少のプール平均差は、-0.46cm(95%信頼区間[CI]:-0.85~-0.08)であった。試験間の不均一性は有意であった(p<0.001)。・以上を踏まえて著者は、「本稿は、セルライトを減らすというコスメ製品の有効性について、科学的エビデンスの系統的な評価を示すとともに、大腿囲減少の効果がわずかにあることを支持するものである」とまとめている。

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良質な有害事象報告は、システマティックレビューといえども半分程度/BMJ

 システマティックレビューの有害事象報告の質は不十分であると、カナダ・アルバータ大学のLiliane Zorzela氏らが報告した。309本の有害事象を評価していたシステマティックレビューまたはメタ解析論文をシステマティックレビューした結果、その多くで有害事象の定義が不明瞭であったり、介入の有害事象を評価する際にリスク因子や追跡期間を考慮していないものがみられ、良好と呼べるレビュー論文は約半数であったという。BMJ誌オンライン版2014年1月8日号掲載の報告より。主要アウトカムに有害事象を含むシステマティックレビュー論文を評価 研究グループは本検討において、システマティックレビューにおける有害事象報告の質を調べ、有害性レビュー報告に関するガイドラインの必要性を確定することを目的とした。 Cochrane Database of Systematic Reviews(CDSR)、Database of Abstracts of Reviews of Effects (DARE)をソースに、2008年1月~2011年4月に発表された、主要アウトカムに有害事象を含むシステマティックレビュー論文を検索した。 有害事象の定義は、あらゆる医療介入と関連した有害反応、危害、または合併症などとした。なお、介入の安全性プロファイルの調査を主要目的に含んでいた論文も検討対象とした。 各レビュー論文の有害事象報告の質を測定するために、37項目のリストを開発して評価を行った。良質なレビュー論文の割合は0.56 4,644本のレビュー論文が検索され、そのうち309本のシステマティックレビューまたはメタ解析論文が有害事象を主要評価に含んでいた。CDSRから選定された論文が13本、DAREからの論文が296本だった。 2008年から2010-11年の間の報告の質の差は、短期間の評価であるが有意な差はみられなかった(p=0.079)。 タイトルで有害事象に言及しているレビュー論文は半数に満たなかった(言及レビュー論文が占める割合:0.46、95%信頼区間[CI]:0.40~0.52)。 DAREからの選定レビュー論文のうち、約3分の1(0.26、95%CI:0.22~0.31)は有害事象の定義が明確でなく、方法論を含む試験デザイン選択の指定がなされていなかった。 約半数のレビュー論文(170本)が、介入の有害事象を評価する際に、患者のリスク因子や追跡期間を考慮していなかった。手術・手技などに関連した合併症のレビュー論文は67本あったが、介入者の有資格を報告していたのは4本のみであった。 全体として、良質なレビュー論文の割合は0.56(95%CI:0.55~0.57)であった。各年でみると、2008年0.55(同:0.53~0.57)、2009年0.55(0.54~0.57)、2010-11年0.57(0.55~0.58)だった。 これらの結果を踏まえて著者は、「システマティックレビューの有害事象報告を改善することは、介入をバランスよく評価するためのステップとして重要である」と述べている。

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変性椎間板の有病率、50歳以上で90%超:Wakayama Spine Study

 これまで、一般地域住民を対象に全脊柱レベルでMRIを撮像し変性椎間板の分布や有病率などについて調べた報告はなかった。和歌山県立医科大学の寺口 真年氏、同講師・橋爪 洋氏、同主任教授・吉田 宗人氏らは、初めてこの課題に取り組み、その結果、変性椎間板の有病率は非常に高く、頚椎、胸椎および腰椎の各部位で椎間板変性はそれぞれC5/6、T6/7およびL4/5に最も多く分布していることを明らかにした。今回の知見は、椎間板変性の原因やメカニズムを解明するうえで有益な情報になると考えられる。Osteoarthritis and Cartilage誌2014年1月号(オンライン版2013年12月5日号)の掲載報告。 研究グループは、MRIを用い全脊柱における変性椎間板の分布と有病率、ならびにその関連因子などについて調べた。 対象は、Wakayama Spine Studyに参加した21~97歳の一般住民975例(男性:324例、平均67.2歳/女性:651例、平均66.6歳)である。 MRIのT2強調矢状断面像をPfirrmann分類に従って評価し、グレード4および5を「椎間板変性あり」として、頚椎、胸椎、腰椎および全脊柱における変性椎間板の有病率を算出するとともに、症状ならびに関連因子について解析した。 主な結果は以下のとおり。・全脊柱における変性椎間板有病率は、50歳未満で男性71%、女性77%、50歳以上では男女ともに90%超であった。・各部位における変性椎間板の有病率は 、頚椎ではC5/6(男性:51.5%、女性:46%)、胸椎ではT6/7(男性:32.4%、女性:37.7%)、腰椎ではL4/5(男性:69.1% 、女性:75.8%)が最も高かった。・すべての部位で、年齢および肥満が変性椎間板の存在と関連していた。・腰痛は、腰椎において変性椎間板の存在と関連していた。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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手首骨折直後の激しい痛みは複合性局所疼痛症候群発症のレッドフラッグか?

 複合性局所疼痛症候群(CRPS)は手首骨折後にみられることがあるが、その発生頻度等は報告によって大きく異なっている。南オーストラリア大学のG. Lorimer Moseley氏らは大規模な前向きコホート研究を行い、手首を骨折し非手術療法で管理された患者の26例に1例がCRPSを発症し、骨折後早期の疼痛が強いとCRPSの発症リスクが増大することを明らかにした。同氏は、骨折後2日間の疼痛が平均してどのくらいかを患者に質問し、0~10の数値化スケールで5以上の場合はCRPSの警告ととらえるべき、とまとめている。Journal of Pain誌2014年1月号(オンライン版2013年11月21日号)の掲載報告。 研究グループは、骨折クリニック3施設を受診した手首骨折受傷患者計1,549例を1施設にて非手術療法により管理し、骨折後1週間以内と、4ヵ月後に評価した。 疼痛強度には0~10の数値的評価スケール(NRS)を、CRPSの診断には既存の基準を用いた。 主な結果は以下のとおり。・手首骨折4ヵ月後におけるCRPSの発生率は3.8%(95%信頼区間:2.9~4.8%)であった。・4つの臨床評価(pain、reaction time、dysynchiria、swelling)に基づいた予測モデルは、骨折後にCRPSを発症するであろう患者(C index:0.99)と、発症しないであろう患者を明確に識別した。・疼痛強度のみの評価でも、ほぼ同程度に識別可能であった(C index:0.98)。・非手術療法で管理された手首骨折患者26例に1例が、CRPSを呈した。・骨折後2日間の疼痛スケールが5/10以上の場合は、CRPSのレッドフラッグと考えるべきである。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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シリコンによる補強が椎体圧迫骨折の二次骨折リスクを軽減

 骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対し、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)というアクリル樹脂を用いた椎骨補強による治療が広く行われているが、合併症として処置部に隣接する椎骨の二次骨折が知られている。この二次骨折は、椎骨と比較してPMMAの剛性が高いことによると考えられることから、骨に近い生体力学的特性を有しているシリコンがPMMAの代替として期待されている。ドイツ・ミュンスター大学病院のTobias L. Schulte氏らは、初めてシリコンとPMMAを用いた椎体補強時の剛性を比較し、シリコンにより二次骨折のリスクが軽減される可能性があることを示唆した。シリコンによる椎骨補強は骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対する治療の選択肢となりうるとまとめている。European Spine Journal誌2013年12月号(オンライン版2013年7月24日号)の掲載報告。 研究グループは、本検討でPMMAあるいはシリコンで補強した椎骨の生体力学的な違い、とくに剛性を調べることを目的とした。 検討には、骨粗鬆症であるが圧迫骨折がないことを確認した40体のヒトの脊椎(T10-L5)を用い、標準的な方法で楔状骨折を作成し、4群に分けてPMMAまたはシリコンを各々2つの充填率(16%および35%)で椎体に注入した。 次いで、無処置椎体、充填椎体および周期的負荷を与えた充填椎体について、低負荷時(100~500 N)の剛性を測定した。また、充填椎体に破断強度の20~65パーセントの高負荷(5,000サイクル=0.5Hz)を与えた場合の剛性を測定した。 主な結果は以下のとおり。・低負荷時剛性は、無処置椎体に比べ周期的負荷処置後にPMMA充填椎体で増加(充填率35%群で115%、16%群で110%)、シリコン充填椎体で低下した(それぞれ87%および82%)。・高負荷時剛性は、無処置椎体に比べPMMA充填率35%群で361%、16%群で304%、シリコン充填率35%群で243%、16%群で222%であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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腰椎固定術の手術時間の長さは術後合併症のリスク増加と関連

 腰椎固定術は慢性腰痛などの治療に広く用いられている。これまでさまざまな外科分野で手術時間の長さが、術後合併症発生率および死亡率の増加と相関することが示されているが、腰椎手術において検討した大規模研究はなかった。米国・ロザリンド・フランクリン医科大学のBobby D Kim氏らは、データベースを用いた後ろ向き研究により、腰椎手術においても手術時間の増加が多彩な合併症と関連していることを明らかにした。「手術時間は腰椎固定術の質の重要な評価尺度であり、患者の予後改善には手術時間を短縮する戦略と手術時間の長さと関連する危険因子を同定するさらなる研究が必要だ」とまとめている。Spine誌オンライン版2013年12月20日の掲載報告。 研究チームは、単一レベルの腰椎固定術の予後に対する手術時間の影響を調べることを目的に、米国外科学会の手術の質改善プログラム(ACS-NSQIP)データベースを用い、2006~2011年に腰椎固定術を受けた全患者の手術時間、術後30日の合併症発生率および死亡率を解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は4,588例で、平均手術時間は197±105分であった。 ・多変量ロジスティック回帰分析の結果、手術時間の増加は全合併症(オッズ比[OR]:2.09~5.73)、内科的合併症(OR:2.18~6.21)、外科的合併症(OR:1.65~2.90)、表層の手術部位感染(SSI)(OR:2.65~3.97)および術後輸血(OR:3.25~12.19)のリスク増加と関連した。・5時間を超える手術時間は再手術(OR:2.17)、臓器/腔SSI(OR:9.72)、敗血症/敗血症性ショック(OR:4.41)、創傷離開(OR:10.98)、および深部静脈血栓症(OR:17.22)のリスク増加と関連した。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」・腰痛診療の変化を考える~腰痛診療ガイドライン発行一年を経て~・知っておいて損はない運動器慢性痛の知識・身体の痛みは心の痛みで増幅される。知っておいて損はない痛みの知識

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よいメタ解析、悪いメタ解析?(コメンテーター:後藤 信哉 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(171)より-

心房細動の脳卒中予防の適応取得を目指した、いわゆる新規経口抗凝固薬の開発試験の結果が出揃った。最後に残っていたのはTIMI groupの主導するENGAGE-TIMI 48試験であった。試験対象となったエドキサバンは、日本の第一三共の薬剤であったが、試験は実績のあるTIMI groupに持って行かれてしまった。ENGAGE TIMI 48試験は2013年11月のAHAにおいて発表された。それまでTIMI group以外のものは試験結果にアクセスすることはできない。最後に残った心房細動の脳卒中予防試験の結果を抱えているTIMI groupは、新規経口抗凝固薬の臨床試験の情報について昨年の11月まで圧倒的に有利な状況にあった。 その有利な地位を利用して「心房細動の脳卒中予防の第三相開発」の結果をメタ解析したのが本論文である。2013年11月には世界の全ての人がENGAGE TIMI 48試験の結果にアクセスできるようになったとはいえ、その前から結果をみて準備をしていたTIMI groupの優位性は明らかである。この論文は「メタ解析」ではあるが、筆者の目にはよいメタ解析には見えない。 イベント発症リスクの低減した現在、数万例の症例を薬剤Aと薬剤Bに割り振って「薬剤Aと薬剤Bには差異がない」という臨床的仮説を検証するランダム化比較試験の困難性は増している。この困難なランダム化比較試験を10年後に行なっても、第三相試験の治験として行なっても、医師主導研究で行なっても、高齢の症例に行なっても、腎障害の症例に行なっても、日本で行なっても、金持ちに行なっても、一貫性があるか否かを検証する「メタ解析」は筆者の目にはよいメタ解析である。 1996年にAntiplatelet Trialistsにより、2002年、2007年にAntithrombotic Trialistsにより施行されたアスピリンの試験のメタ解析は「よいメタ解析」の代表である。Ruffらのメタ解析は、新薬の認可承認を得るために開発企業が必死の修飾を行なった薬剤開発の「第三相」試験のメタ解析である。過去の標準治療(ワルファリン)と新薬の有効性、安全性を比較した各試験は、当局の審査に耐えることを主目的に、各国毎に治験慣れした特殊な施設から登録された症例により構成されている。 「メタ解析」しても対象症例の一般性は広まらない。むしろ、各試験と真実の世界の差異を増幅してしまう。Ruffらは本メタ解析の限界を十分に理解しているので、論文の結論を「Our findings offer clinicians a more comprehensive picture of the new oral anticoagulants as a therapeutic option to reduce the risk of stroke in this patient population」としている。決して、本メタ解析により個別の第三相試験以上のインパクトが生まれたとは主張していない。読者も限界を理解して本メタ解析を読むべきである。Ruffらは、同時期に心房細動を合併したアテローム血栓症のサブ解析を発表しており、臨床家にはこちらの方が参考になる(Ruff CT, et al. Int J Cardiol. 2014; 170 : 413-418)。 Evidence Based Medicineの世界は人工的な世界である。筆者のように20年以上医者をやっている専門家の見解よりも、ランダム化比較試験の結果に科学性があるとする。1つのランダム化比較試験の結果よりも、複数のランダム化比較試験の結果のエビデンスレベルが高いと規定してある。この人工的な世界のルールに基づいて「診療ガイドライン」が作成され、初学者は「診療ガイドライン」に基づいた医療を質の高い医療と判断する。専門家の見解よりも「ランダム化比較試験の結果に基づいた医療」が「質が高い」のは、最初に定義したEvidence Based Medicineの世界に限局される。 実診療の世界では、ランダム化比較試験の集積に基づいて行なう医療と、経験を積んだ臨床医の判断に基づいた医療のアウトカムに差があるか否かは誰も知らない。Evidence Based Medicineの世界は、民主主義の議会で多数派が作る法律により支配される世界に類似している。人間の営む社会であれば、人工的な法律を仮に正しいとしても大きな矛盾はないかも知れないが、医学、医療は詳細、微細な自然現象の観察から真実を見いだす自然科学の領域である。Evidence Based Medicineの世界はそれなりに完結した論理体系ではあるが、その世界の常識は、必ずしも真実の世界の常識ではないことに注意しよう。 本メタ解析はメタ解析ではあるが、Evidence Based Medicineの骨子を決めたときに想定した、独立した多くの研究のメタ解析ではない。同一クラスの薬剤が同時期に開発、認可承認されるケースが増えている。開発品の、開発試験の「メタ解析」をエビデンスレベルの高い「メタ解析」と混同しないようにしよう。

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アリピプラゾールは急性躁病治療のファーストラインになりうるか

 急性躁病のファーストライン治療は薬物療法であり、まず初めに興奮、攻撃性、危険な行動を迅速にコントロールすることが目的とされている。非定型抗精神病薬アリピプラゾールは、躁病治療において、単独また他剤との併用いずれもが行われている。また、英国精神薬理学会(British Association of Psychopharmacology)のガイドラインでは、単独療法プラセボ対照試験において、アリピプラゾールを含む非定型抗精神病薬は急性躁病また混合性エピソードに有効であることが示唆されたとしている。そこで、英国・Oxford Health NHS Foundation TrustのRachel Brown氏らは、急性躁病症状または混合性エピソードの軽減について、アリピプラゾールの単独または他の抗躁薬との併用治療の有効性と忍容性を評価するとともに、プラセボまたは他剤との比較を行った。Cochrane Database Systematic Reviewsオンライン版2013年12月17日号の掲載報告。 研究グループは、急性躁病症状または混合性エピソードの軽減について、アリピプラゾールの単独または他の抗躁薬との併用治療の有効性と忍容性を評価するとともに、プラセボまたは他剤との比較を行った。また、アリピプラゾール治療に対する受容性、有害反応、またアリピプラゾール治療患者における全死亡率なども調べた。 評価は、Cochrane Depression, Anxiety and Neurosis Group's Specialised Registerにて2013年7月末以前に発表された文献を検索して行った。また、Bristol-Myers Squibb臨床試験レジスタ、WHO試験ポータル、ClinicalTrials.gov(2013年8月まで)の検索も行った。文献の適格基準は、急性躁病もしくは混合性エピソードの治療において、アリピプラゾールをプラセボあるいは他剤と比較した無作為化試験とした。2人のレビュワーがそれぞれ、有害事象など試験報告データを抽出し、バイアスを評価した。欠落データについては、医薬品製造会社または文献執筆者に問い合わせを行った。 主な結果は以下のとおり。・レビューには、10試験(被験者3,340例)のデータが組み込まれた。・7試験(2,239例)が、アリピプラゾール単独療法とプラセボを比較したものであった。そのうち2試験が3比較アームを含んだ試験で、1試験はリチウムを(485例)、もう1つはハロペリドール(480例)を用いていた。・2試験は、アリピプラゾールを、バルプロ酸またはリチウムもしくはプラセボに追加した場合を比較したものであった(754例)。1試験は、アリピプラゾールとハロペリドールを比較したものであった(347例)。・全体のバイアスリスクは不明であった。また、大半の試験で被験者の脱落率が高く(8試験の各介入において20%超)、相対的な有効性の推定に影響がある可能性があった。・以上を前提とした解析の結果、アリピプラゾールは、プラセボと比べて、成人と小児・若者の躁症状の軽減に有効であることを示すエビデンス(格差はわずか)が認められた。軽減効果は、3週、4週時点でみられ6週時点ではみられなかった(Young Mania Rating Scale[YMRS]の3週時点のランダム効果による平均差[MD]:-3.66、95%信頼区間[CI]:-5.82~-2.05、6試験・1,819例、エビデンスの質:中程度)。・アリピプラゾールと他剤療法との比較は3試験(1試験は、成人対象のリチウム投与、2試験はハロペリドール)であった。躁症状の軽減について、アリピプラゾールと他剤療法との統計的な有意差は、3週時点(3週時点のランダム効果のYMRS MD:0.07、95%CI:-1.24~1.37、3試験・972例、エビデンスの質:中程度)、および12週までのいかなる時点においても示されなかった。・プラセボと比較して、アリピプラゾールは、運動障害をより多く引き起こしていた(Simpson Angus Scale[SAS]、Barnes Akathisia Scale[BAS]の測定と、参加者が報告したアカシジアによる、エビデンスの質:高度)。抗コリン作用性の薬物による治療を必要としていた患者で、より多く認められた(ランダム効果によるリスク比:3.28、95%CI:1.82~5.91、2試験:730例、エビデンスの質:高度)。・また、アリピプラゾール服用群は、胃腸障害(悪心[エビデンスの質:高度]、便秘)が多く、小児・若者でプロラクチン値の正常下限値以下への低下がみられた。・アリピプラゾールとその他治療とを比較した運動障害との関連に関するメタ解析には有意な不均一性があり、多くはリチウムとハロペリドールのさまざまな副作用プロファイルによるものであった。・3週間時点のメタ解析は、データ不足のためできなかった。しかし12週時点の解析において、ハロペリドールはアリピプラゾールよりも、有意に運動障害の発生が多かったことが、SAS、BASとAbnormal Involuntary Movement Scale(AIMS)、被験者報告のアカシジアの測定によって認められた。・一方12週時点までに、アリピプラゾールとリチウムとの差について、被験者報告のアカンジア(RR:2.97、95%CI:1.37~6.43、1試験・313例)を除き、SAS、BAS、AIMSに関しては研究者による報告はなかった。関連医療ニュース バイポーラの躁症状に対するアリピプラゾールの位置付けは? アリピプラゾールが有用な双極性障害の患者像とは? うつ病の5人に1人が双極性障害、躁症状どう見つける?

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小児の原発性多汗症におけるイオントフォレーシス療法は有用?

 小児の原発性多汗症における水道水イオントフォレーシス(イオン導入)療法の有効性と安全性が、トルコのSeval Dogruk Kacar氏らにより調査・報告された。その結果、イオントフォレーシス療法は、有効性および信頼性において小児の原発性掌蹠多汗症、原発性腋窩多汗症に有用な治療であることが示された。これまで、小児におけるイオントフォレーシス療法の有効性について調査した研究は限られていた。 なお、日本においても水道水イオントフォレーシス療法は、原発性局所多汗症診療ガイドラインにより推奨されている。Cutaneous and Ocular Toxicology誌オンライン版2014年1月9日掲載の報告。 調査は、イオントフォレーシス療法を施行する18歳未満の原発性掌蹠多汗症患者21例を対象に、レトロスペクティブに実施された。多汗の程度は、VAS(視覚的評価スケール:visual analogue scale)を用いて評価され、0が症状の継続、10が症状の消失とされた。評価には、カルテより収集した臨床データと患者が回答したアンケートを用いた。 主な結果は以下のとおり。・水道水イオントフォレーシス療法を週5回の施行から開始し、5週目に週1回の施行に減少させた。さらに、維持療法として週1回の施行を6週間実施することが推奨された。・19例の被験者が所定の21回の施行を完遂した。・施行15回目のVAS中央値は5.89±1.49、治療終了時点では6.36±2.06であった。・7例では、治療終了後3ヵ月が経過しても多汗症が抑制された。・VASによる治療満足度の中央値は4.95±2.38であった(0が不満足、10が大いに満足)。・副作用の忍容性は良好であった。・イオントフォレーシス療法は、小児の原発性掌蹠多汗症、原発性腋窩多汗症に有用な治療法である。しかし、最大限の効果を得るためのセッション間隔やプロトコルについての解は得られていない。

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