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スタチン投与対象者はガイドラインごとに大きく異なる/JAMA

 臨床ガイドラインによって、スタチン投与の対象となる人は大きく異なることが判明した。2013年に発表された新たな米国心臓病学会と米国心臓協会(ACC/AHA)ガイドラインを順守した場合には、55歳以上男性コホートの約96%に相当する一方で、従来の米国高脂血症治療ガイドライン(Adult Treatment Panel III:ATP III)に則した場合は、スタチン投与の対象者は男性の52%に留まるという。オランダ・エラスムス大学医療センターのMaryam Kavousi氏らが、約5,000例のコホート試験を基に分析して明らかにした。JAMA誌2014年4月9日号掲載の報告より。「Rotterdam Study」の被験者4,854例を対象に各臨床ガイドラインを適用 研究グループは、オランダのロッテルダム在住の55歳以上に行った住民ベースの前向きコホート試験「Rotterdam Study」の被験者4,854例を対象に、各臨床ガイドラインを適用した場合のスタチン投与対象者を割り出すなどの検討を行った。被験者の平均年齢は、65.5歳(SD 5.2)だった。 結果、同集団に対してACC/AHAガイドラインを順守した場合、スタチン投与の対象となったのは男性の96.4%(1,825例)と女性の65.8%(1,523例)だった。 一方、ATP IIIガイドラインを適用した場合、男性52.0%(985例)、女性35.5%(821例)に、欧州心臓病学会(ESC)ガイドラインでは、66.1%(1,253例)、39.1%(906例)と、いずれもACC/AHAガイドラインとの間に大きな格差があった。3種ガイドラインのリスクモデル、イベント発生を過剰予測 また、ACC/AHAリスクモデルでは、男性の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)イベント発生率の予測値は21.5%だったのに対し、実際の累積ASCVDイベント発生率は12.7%、女性ではそれぞれ11.6%と7.9%と、予測値が実測値を上回っていた。ATP IIIモデル、ESCモデルでも、冠動脈性心疾患(CHD)やアテローム動脈硬化性心血管疾患(CVD)死亡イベントについて、同様の過大予測が認められた。 ACC/AHAリスクモデルのASCVDに関するC統計量は、男性が0.67、女性が0.68だった。ATP IIIモデルのCHDに関するC統計量は、それぞれ0.67と0.69、ESCモデルのCVD死亡に関するC統計量は、それぞれ0.76と0.77と、いずれも改善の余地があったという。

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ギラン・バレー症候群〔GBS : Guillain-Barre syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ギラン・バレー症候群(Guillain-Barre syndrome: GBS)は急性発症の四肢筋力低下を主徴とする単相性の末梢神経障害である。多くの症例で呼吸器系、消化器系などの先行感染を有し、自己免疫機序によって発症する。■ 疫学頻度は人口10万人当たり年間1~2人前後であり、男女比は約3 : 2で男性に多い。平均年齢は40歳前後であるが、あらゆる年齢層にみられる。■ 病因GBSの病因には液性免疫・細胞性免疫、感染因子・宿主因子が複合的に関与していると考えられている。GBS患者の急性期血清では、50~60%にヒト末梢神経に存在するさまざまな糖脂質に対する抗体が検出される。中性糖脂質であるガラクトセレブロシドや、シアル酸を有するスフィンゴ糖脂質であるガングリオシドのGD1bやGM1などで免疫され、血中に抗体の上昇を認めた動物では、補体の活性化などを介して、末梢神経障害を生じることから、これらの抗体の病態への直接的関与が示唆されている。GBS患者では先行感染を有することが多いが、先行感染因子として同定されたものとしてはCampylobacter jejuni、Mycoplasma pneumoniae、サイトメガロウィルス(CMV)、EBウィルスなどが知られている。なかでもC. jejuni やM. pneumoniaeの菌体外膜には末梢神経構成成分の糖脂質と分子相同性を有する糖鎖が発現しているため、感染による免疫反応により糖鎖に対する抗体が産生され、自己抗体として働いて本症候群が発症するという、分子相同性機序が考えられている。C. jejuniやM. pneumoniaeの感染者の一部にしかGBSを発症しないことから、宿主側の免疫遺伝学的背景も発症には関与していると考えられている。■ 症状先行感染の後に、四肢の進行性筋力低下を呈する。運動麻痺が優位であるが、感覚障害もみられることが多く、さまざまな脳神経障害(顔面神経麻痺、眼筋麻痺、嚥下・構音障害など)や、洞性頻脈や徐脈、起立性低血圧、神経因性膀胱などの自律神経障害もみられる。通常1~2週間で症状が完成し、4週間を超えて症状が増悪することのない単相性の経過をとるが、ピーク時には寝たきりになるケースも多く、呼吸筋麻痺を来す重症例もみられる。■ 分類非典型的な臨床症状を有したり、障害の分布が特異なものが特殊病型として認識されている。急性発症の外眼筋麻痺・運動失調・腱反射消失を3主徴とするFisher症候群がGBSの亜型として広く知られている。ほぼ運動障害のみの純粋運動型(pure motor GBS)や、感覚障害のみを呈する純粋感覚型(pure sensory GBS)、運動失調症状のみを呈する運動失調型(ataxic GBS)、深部感覚障害による運動失調が前景に立つ病型(sensory-ataxic GBS)、球麻痺を伴い上肢および上肢帯に筋力低下が限局する咽頭頸上腕型(pharyngeal-cervical-brachial [ PCB ] variant of GBS)や、上肢のみ脱力を呈する上肢型、下肢のみの脱力を来す下肢型、脳神経障害のみを来す多発脳神経麻痺(multiple cranial neuritis)などが知られている。急性に自律神経障害を来す急性汎自律神経異常症(acute pandysautonomia)もGBSの亜型と捉える考えもある。■ 予後多くの症例で数ヵ月以内に社会復帰が可能であるが、なかには重篤な後遺症を残す例も存在する。死亡例も数%あり、2~5%で再発がみられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)典型的な経過、症状を呈する症例では病歴と臨床症候のみから診断が可能であるが、種々の検査を施行し、他疾患を除外することが大切である。電気生理学的検査では、神経伝導検査(nerve conduction study : NCS) においてH波・F波の消失・潜時延長、遠位潜時の延長、複合筋活動電位振幅の低下、伝導ブロックなどが高率に認められる。脳脊髄液検査では、細胞数は上昇せず蛋白レベルが上昇する「蛋白細胞解離」を認める。NCS、脳脊髄検査いずれにおいても、発症早期では異常を示さないことがあり、初回の検査で異常がないことをもってGBSの診断を否定的に考えるべきではない。経過をみて再検査を施行することも必要である。過半数の症例で、さまざまな糖脂質に対する抗体や、単独の糖脂質ではなく2種類の分子が形成する複合体に反応する抗体の上昇がみられる1)。発症初期より陽性となることが多く、初期診断において有用である。これらの抗体は、先行感染因子のもつ糖鎖に対する免疫反応の結果として産生されることが多く、標的抗原の局在部位を選択的に障害して、独特の臨床病型を来すと考えられる。IgG GD1a/GD1b複合体、GD1b/GT1b複合体に特異的に反応する抗体は人工呼吸器装着の必要な重症例に多いことが報告されており、臨床経過観察に重要な指標といえる。表に抗糖脂質(ガングリオシド)抗体および抗糖脂質複合体抗体と関連が報告されている臨床的特徴を示す。画像を拡大する鑑別疾患としては、血管炎性ニューロパチー、サルコイドニューロパチー、膠原病に伴うニューロパチー、ライム病、神経痛性筋萎縮症、傍腫瘍性ニューロパチー、悪性リンパ腫に伴うニューロパチーなどの各種末梢神経障害、脊髄・脊髄根を圧迫する頸椎症性脊髄症や椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、重症筋無力症、周期性四肢麻痺、転換性障害(ヒステリーなど)など急性~亜急性に筋力低下を来す疾患が挙げられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)急性期治療として免疫療法が有効である。免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)と血液浄化療法のいずれかを第一選択とする。高齢者、小児、心血管系の自律神経障害を有する例、全身感染症合併例ではIVIgが、IgA欠損症や血栓、塞栓症の危険の高い例などでは血漿交換が選択される。そうした要因がない場合では、身体への負担の少なさや、特別な設備を必要としないことからIVIgが施行されることが多い。IVIgと血液浄化療法では有効性に差を認めない。いずれの治療も発症から2週間以内に治療が開始された場合に、効果が高いとされている。4 今後の展望GBSでは発症早期に正確に診断し、急性期に適切な治療を開始することが重要であり、急性期の診断技術の向上が期待される。血中抗糖脂質抗体は急性期に陽性となるため、急性期診断では、抗体の検出率の向上が大事な役割となる。糖脂質にリン脂質を混合することにより抗体が検出可能となることがあり、これらの手法を用いることにより検出率が向上する。今後も抗体検出率の向上や新たな抗体の発見が予想される。また、少数ではあるが、重症例や難治例、後遺症が残るケースが存在する。重症例や難治例を予測することにより、さらに強い治療を施行したり、人工呼吸器装着へのリスク管理も可能となると考えられる。予後予測因子としてmodified Erasmus GBS Outcome Score (mEGOS) 2)やErasmus GBS Respiratory Insufficiency Score (EGRIS) 3)が発表され、また、前述のように陽性となる糖脂質(ガングリオシド)抗体によっても人工呼吸器装着が必要な症例の予測に使える可能性がある。治療に関しては、明確なエビデンスは得られていないが、IVIgとステロイドの併用がIVIg単独治療よりも有効であることを示唆する報告がある。神経障害に関与する補体系を抑制する治療の開発も考えられる。また、Naチャネル阻害薬(flecainide acetate)の軸索変性の保護作用の報告や、シクロオキシゲナーゼ2阻害薬(celecoxib)による炎症細胞浸潤の抑制が報告されており、これらの新規治療薬の有効性のさらなる検討が待たれる。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Kaida K, et al. J Neuroimmunol. 2010 ; 223 : 5-12.2)Walgaard C, et al. Neurology. 2011 ; 76 : 968-975.3)Walgaard C, et al. Ann Neurol. 2010 ; 67 : 781-787.日本神経学会監修.「ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン」作成委員会編. ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン2013. 南江堂; 2013

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救急搬送患者に対する抗精神病薬の使用状況は

 最近の専門ガイドラインでは、救急部門(ED)に搬送されてきた激しい興奮を呈する患者へのファーストライン治療として、第二世代抗精神病薬(SGA)の経口投与が推奨されているが、現実的にはほとんど投与は行われておらず、処方の増加もみられないことが判明した。また投与されている場合は通常は経口投与で、しばしばベンゾジアゼピン系薬の併用投与を受けており、アルコール依存症患者への処方頻度が最も高かったことも明らかになった。米国・UC San Diego Health SystemのMichael P. Wilson氏らが報告した。Journal of Emergency Medicine誌オンライン版2014年3月21日号の掲載報告。 これまでEDにおいて、どのような薬物投与が行われているのか、SGAがどれくらい処方されているのかは不明であった。研究グループは、1)患者特性、ベンゾジアゼピン系の併用投与を調べ、またSGAの使用についてハロペリドールまたはドロペリドールの使用と比較すること、2)ED患者へのSGA処方率の経時的変化を調べた。2つの大学EDを2004~2011年に受診した患者コホートを後ろ向きに分析した。コホートの患者は、アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン(国内未発売)の処方を受けていた。記述的分析法にて年齢、性別、ハロペリドール/ドロペリドールなど第一世代抗精神病薬(FGA)の使用、ベンゾジアゼピン系薬併用使用の割合を比較。線形回帰分析法にてSGA処方が時間とともに増大しているかを調べた。 主な結果は以下のとおり。・試験期間中にEDを受診しSGA処方を受けていた記録は、患者1,680例、1,779件であった。・EDでSGA処方を受けた患者の大半は、経口投与であった(93%)。・ベンゾジアゼピン系薬の併用は、受診者の21%でみられた。また受診者の21%がアルコールに関連した患者であった。・EDにおけるSGA使用の割合は、時間とともに増加はしていなかった。関連医療ニュース 統合失調症の再入院、救急受診を減らすには 急性期精神疾患に対するベンゾジアゼピン系薬剤の使用をどう考える 自閉症、広汎性発達障害の興奮性に非定型抗精神病薬使用は有用か?

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初発の心血管疾患の予測にHbA1c値は寄与しない/JAMA

 従来の心血管リスク因子にHbA1c値の情報を加えても、初発の心血管疾患(CVD)リスク予測改善にはほとんど寄与しないことが判明した。英国・ケンブリッジ大学のJohn Danesh氏らEmerging Risk Factors Collaborationが、73件の前向き試験に参加したCVDまたは糖尿病歴のない被験者約30万人のデータを分析した結果、明らかになった。高血糖と高率のCVD発生との関連性から、初発のCVDイベント予測のためにその測定を推奨する動きがある。一方で、ACC/AHAが2013年に改訂した心血管リスク評価に関するガイドラインでは推奨がされていないなど、HbA1c値測定に対する評価は定まっていなかった。JAMA誌2014年3月26日号掲載の報告より。従来の心血管リスク因子にHbA1c情報を加えた場合のリスク予測改善を検討 本検討は、従来の心血管リスク因子にHbA1c値の情報(<4.5、4.5~<5、5~<5.5、5.5~<6、6~<6.5、≧6.5%)を加えることで、糖尿病非既往の中高年における初発のCVDアウトカム予測を改善するのかについて確定することが目的だった。また、HbA1c値測定と、その他によく行われている血糖値測定(空腹時、ランダム測定、またはブドウ糖負荷試験)との比較も行われた。 研究グループは、73件の前向き試験に参加した、ベースライン時には糖尿病またはCVDが非既往であった29万4,998例のデータを分析した。従来リスク因子だけ(年齢、性別、喫煙状況、収縮期血圧値、総またはHDLコレステロールなど)とHbA1cなど血糖値情報を加えた場合のCVDリスク予測モデルを作成し、アウトカムのリスク層別化(C統計値)および10年リスク予測(低:5%未満、中:5~7.5%未満、高:7.5%以上)の再分類(ネット再分類改善)について検討した。他の血糖値測定法と比べても、リスク予測改善は同程度かより良好 全被験者のベースライン時の平均年齢は58歳(SD 9)、49%が女性、86%がヨーロッパまたは北米の住民であり、HbA1c平均値は5.37%(SD 0.54)であった。 追跡期間中央値9.9年(四分位範囲:7.6~13.2)で記録された致死的・非致死的CVDの発生は、2万840例(冠動脈心疾患1万3,237例、脳卒中7,603例)だった。 従来の心血管リスク因子補正後分析において、HbA1c値とCVDリスクとの関連性は、ほぼJカーブの関連が認められた。また同関連性は、総コレステロール、トリグリセリド、またはeGFR値で補正後のみわずかに変化がみられ、HDLコレステロール、C反応性蛋白で補正後は減弱が認められた。 CVDリスク予測モデルのC統計値は、従来の心血管リスク因子のみでは0.7434(95%信頼区間[CI]:0.7350~0.7517)だった。HbA1cに関する情報を追加した場合のC統計値の変化は0.0018(95%CI:0.0003~0.0033)で、10年リスク予測分類のネット再分類改善は0.42(同:-0.63~1.48)だった。 なおCVDリスクの予測にHbA1c情報を加えた場合の改善は、その他の血糖値測定法における情報を加えた場合と比べて、同程度かより良好ではあった。

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バレット食道のがん進行リスク、高周波アブレーションで抑制/JAMA

 軽度異形成を伴うバレット食道に対する高周波アブレーションは、腫瘍への進行リスクを抑制することが、オランダ・アムステルダム大学のK. Nadine Phoa氏らが行った追跡期間3年の無作為化試験の結果、報告された。過去30年で食道腺がんの発生率は6倍増大しており、西側諸国において最も急速に増大したがんとなっているという。食道腺がんのリスクは、軽度異形成を伴うバレット食道により増大するが、大半のガイドラインは、同患者における腫瘍への進行について内視鏡検査(6~12ヵ月ごと)でのモニタリングを勧めている。Phoa氏らは、内視鏡サーベイランスとの比較で内視鏡的高アブレーションが同患者における腫瘍への進行リスクを抑制するかを検討した。JAMA誌2014年3月26日号掲載の報告より。内視鏡サーベイランス群との比較で3年間にわたる無作為化試験 試験は2007年6月~2011年6月にかけて、ヨーロッパ9地点で136例の患者を登録して行われた多施設共同無作為化試験であった。試験適格患者は無作為に、内視鏡的高アブレーション群(焼灼群、68例)または内視鏡サーベイランス群(対照群、68例)に割り付けられた。アブレーション手技は、バルーンデバイスで食道の円周を焼灼または局所デバイスでターゲット部位を焼灼する方法で行われた。 患者は、2013年5月まで追跡を受け、主要アウトカムは、無作為化後3年間の追跡期間中における高度異形成または腺がんへの進行だった。副次アウトカムは、異形成と腸上皮化生の根治、および有害事象であった。腫瘍への進行リスク25.0%抑制、異形成根治率は92.6%、腸上皮化生根治率88.2% 結果、焼灼により、高度異形成または腺がんへの進行リスクは25.0%抑制された(焼灼群1.5% vs. 対照群26.5%、95%信頼区間[CI]:14.1~35.9%、p<0.001)。腺がんへの進行リスクの抑制は7.4%だった(同:1.5% vs. 8.8%、95%CI:0~14.7%、p=0.03)。 焼灼群の患者では、異形成の根治率は92.6%、腸上皮化生の根治率は88.2%だった。一方、対照群はそれぞれ27.9%、0.0%だった(p<0.001)。 また、焼灼群の治療関連の有害事象の発生率は19.1%だった(p<0.001)。最も頻度の高かった有害事象は食道狭窄で、焼灼群8例(11.8%)でみられた。しかし全例が内視鏡的拡張(手技の中央値1回)によって解決した。 本試験は、主要アウトカムおよび安全性に関する焼灼群の優越性により早期に中断された。

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河川や水道水で抗うつ薬検出:東ヨーロッパ

 抗うつ薬は低濃度曝露であっても、脊椎動物・無脊椎動物のいずれにおいても中枢系および末梢神経系を通じてホメオスタシスを妨げ、水生生物に若干の有害作用をもたらす可能性がある。これまで東ヨーロッパの河川または水道水における、抗うつ薬の存在に関する報告はなかったことから、ポーランド・ワルシャワ大学のJoanna Giebultowicz氏らは、21種の抗うつ薬の出現について、ポーランドの主要河川であるヴィスワ川の特異的地点と、ワルシャワ近郊の小さな川であるウトラタ川、そしてワルシャワの水道水について調べた。その結果、河川からは21種のうち11種が、水道水からは同5種が検出されたことなどを報告した。本調査は、東ヨーロッパの水資源中の抗うつ薬の含有状況についての最初の調査報告であった。Ecotoxicology and Environmental Safety誌オンライン版2014年3月14日号の掲載報告。 月に2回の頻度で検体を集め、固相抽出(SPE)法、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)、多重反応モニタリング(MRM)を用いて分析した。ポーランドにおける抗うつ薬の環境リスクアセスメントは、NFZ(Narodowy Fundusz Zdrowia国民保健サービス)の年報データ(医薬品の償還に関する)を基礎として推定し、ターゲット医薬品の環境中濃度(PEC)の予測値と、実測濃度(MEC)を比較した。また、抗うつ薬の環境リスクアセスメントに関するEMEA/CHMPガイドラインの適用についても考察した。 主な結果は以下のとおり。・モクロベミドやトラゾドンといった抗うつ薬が環境中に存在するかが調べられたのは本検討が初めてであった。・モクロベミド、ベンラファキシン、シタロプラムの検出濃度が最も高かった。・河川からは21種のうち11種の抗うつ薬が検出された。・最も高い濃度の抗うつ薬が観察されたのは、小さい川であるウトラタ川であった。・水道水では、シタロプラム(痕跡量:最高1.5ng/L)、ミアンセリン(最高0.9ng/L)、セルトラリン(<3.1ng/L)、モクロベミド(最高0.3ng/L)、ベンラファキシン(最高1.9ng/L)の5種の抗うつ薬だけが検出された。・一方で、このことは飲用水処理施設での不十分な除去状況を浮き彫りにした。・飲用水および水資源中における抗うつ薬の検出は、長期にわたる低曝露が起きていることを示唆するものであり、とくに、医薬品間の相互作用が起きている可能性があることを示すものであった。関連医療ニュース 難治性うつ病に対する効果的な治療は何か 双極性障害に抗うつ薬は使うべきでないのか 認知症患者の調子のよい日/ 悪い日、決め手となるのは

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米成人の半数がスタチン治療を受ける時代に?/NEJM

 米国心臓病学会および米国心臓協会(ACC/AHA)は昨年11月、関連するガイドラインを改訂したが、デューク大学臨床研究所のMichael J. Pencina氏らは、その影響について調べた。結果、スタチン治療が適格となる患者が1,280万人増大し、米国成人(40~75歳)の約半数(48.6%)5,600万人がスタチン治療対象者となることが推算されたという。増大者のうち大半は心血管疾患を有さない高齢者であった。NEJM誌オンライン版2014年3月19日号掲載の報告より。ACC/AHA新ガイドラインの影響を調査 新ガイドラインでは、心血管疾患既往成人についてはコレステロール値を問わず治療を推奨することが示されている。また、一次予防については、LDL値190mg/dL以上の患者についてスタチン治療を推奨することに加えて、70mg/dL以上で糖尿病または心血管疾患10年リスク7.5%以上のすべての成人にスタチン治療を推奨することが盛り込まれた。 Pencina氏らは、全米健康・栄養調査(NHANES)のデータを用いて、脂質異常症治療のサポートガイドラインとして推奨されてきたthe Third Adult Treatment Panel(ATP III)との比較で、新ガイドラインをベースとした場合の、スタチン治療推奨が適格となる米国成人数を推算することを試みた。 具体的には、2005~2010年のNHANESデータと、40~75歳の米国成人1億1,540万人を推定のベースに用いて調べた。スタチン治療適格者、以前より1,280万人増加し米成人の48.6%と推算 結果、スタチン治療適格となる米国成人は、ATP IIIガイドラインでは4,320万人(37.5%)であったが、新ガイドラインでは5,600万人(48.6%)に増大することが示唆された。増大者1,280万人のうち大半(1,040万人)は、心血管疾患を有さない成人だった。 また、心血管疾患を有さずスタチン治療を受けていない60~75歳の高齢者において、スタチン治療適格となる割合は、男性についてはATP IIIでの30.4%から新ガイドラインでは87.4%に、女性については21.2%から53.6%にそれぞれ増加することが示唆された。これらの増大をもたらす要因は、主として治療推奨の層別化要因としての「心血管イベント10年リスク」が単独で盛り込まれたことによるものであった。 新たなスタチン治療適格者は、女性よりも男性が多く、血圧が高めだがLDL値が顕著に低いという特徴が浮かび上がった。 ATP IIIガイドラインと比較して、新ガイドラインは、より高齢で、将来心血管イベントを有する可能性が高いが(感度が高い人)、同時に将来心血管イベントが起きる可能性が低い(特異度が低い)人も多数含まれることが示唆された。

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妊婦の禁煙にニコチンパッチは有効か?/BMJ

 ヘビースモーカーの妊婦に対するニコチンパッチを用いた禁煙補助療法は、禁煙率の達成および出生児の体重増のいずれにも寄与しなかったことが報告された。フランス・パリ第6大学(ピエール・エ・マリー・キュリー)のIvan Berlin氏らが402例を対象に行った多施設共同無作為化プラセボ対照試験の結果、判明した。ガイドラインでは、ニコチン置換療法(NTR)の一般集団に対する優れた安全性と有効性を踏まえて、妊婦の喫煙者への禁煙介入にNTRを追加することを提案している。しかし、そのエビデンスとして確定的なものは示されていなかった。BMJ誌オンライン版2014年3月11日号掲載の報告より。妊婦の喫煙者402例を対象に無作為化プラセボ対照試験 研究グループは、妊婦の喫煙者に対する16時間のニコチンパッチ療法の有効性を調べるため、2007年10月~2013年1月にかけてフランス国内23の産科施設において、Study of Nicotine Patch in Pregnancy(SNIPP)試験を行った。ニコチンパッチ投与量は、各自の唾液コチニン量(潜在的範囲:10~30mg/日)でニコチン置換率100%となるよう調整して投与した。 試験には18歳以上で妊娠12~20週の喫煙妊婦(5本以上/日)476例がスクリーニングを受け、適格基準を満たした402例を無作為に2群に割り付け、一方にはニコチンパッチを(203例)、もう一方にはプラセボパッチを投与した(199例)。各群とも、禁煙開始日から出産まで介入が続けられた。 被験者は、月1回評価を受け、禁煙行動に関するサポートを受けた。主要アウトカムは、禁煙開始日から出産までの完全禁煙(自己申告の呼気CO濃度8ppm以下)、および出生児体重だった。副次アウトカムには、各評価時点の禁煙率、禁煙脱落(2、3回ふかす程度の喫煙)または再喫煙までの期間、分娩および出生児の特徴などを含んだ。禁煙達成率、出生児体重に有意差みられず 出生児に関するデータは、各群192例で得られた。全データの解析は、intention to treatにて行われた。 結果、完全禁煙の達成率は、ニコチンパッチ群5.5%(11例)、プラセボパッチ群で5.1%(10例)で有意差はみられなかった(オッズ比[OR]:1.08、95%信頼区間[CI]:0.45~2.60)。 禁煙開始日以降、再喫煙日までの中央値は、両群とも15日(四分位範囲:ニコチンパッチ群13~18日、プラセボ群13~20日)だった。 追跡期間中の各評価時点の喫煙達成率は、ニコチンパッチ群は8~12.5%、プラセボ群は8~9.5%で統計的有意差は認められなかった。 パッチ貼付の自己申告のコンプライアンス率(1,016例の受診時評価)は、ニコチンパッチ群85%(四分位範囲:56~99%)、プラセボ群83%(同:56~95%)であった(p=0.39)。 平均出生児体重は、ニコチンパッチ群3,065g(SE 44g)、プラセボ群3,015g(同44g)で有意差はみられなかった(p=0.41)。 拡張期血圧がニコチンパッチ群のほうがプラセボ群よりも有意に高いことが認められた(p=0.01)。ニコチンパッチ群では、0.02mmHg/日(SE 0.009mmHg)の上昇がみられたが、プラセボ群では上昇はみられず、最後の評価時点の分娩前測定値は、ニコチンパッチ群70mmHg(四分位範囲:60~80mmHg)、プラセボパッチ群62mmHg(同:60~70mmHg)だった(p=0.02)。 重大有害イベントの発生頻度は、両群で同程度だったが、主に皮膚に関連した非重大有害反応の頻度がニコチンパッチ群で多かった。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第6回

第6回:無症状の成人における顕微鏡的血尿へのアプローチ 健診において尿試験紙検査は広く行われており、その際に無症候性血尿が認められることはよくあります。血尿の定義は、尿沈渣で赤血球5個/HPF以上とする事が多いです。これは日本の人口からの試算で、500万人近くになります。顕微鏡的血尿の頻度は加齢とともに増加し、男性より女性に多くみられます1)。尿潜血陽性時のアプローチについては悩ましいことが多いですが、患者と相談しつつ精査していくことになります。 以下、本文 American Family Physician 2013年12月1日号2)より顕微鏡的血尿1.背景2011年のUSPSTFによれば、無症状の成人に対しての膀胱がんスクリーニングに十分なエビデンスは認められない。しかし、健診では2%~31%に偶発的な血尿が認められており、エビデンスに則ったアプローチがプライマリ・ケア領域で求められている。大半の患者で原因が不明な事が多い一方、顕微鏡的血尿患者の5%、肉眼的血尿患者の30~40%までに悪性疾患が認められる。(表1) 【表1:顕微鏡的血尿の一般的な頻度】 不明 43~69% 尿路感染症 4~22% 前立腺肥大症 10~13% 尿路結石 4~5% 膀胱がん 2~4% 腎嚢胞性疾患 2~3% 腎臓病 2~3% 腎がん <1% 前立腺がん <1% 尿路狭窄性疾患 <1% 2.手順 1)尿試験紙検査が陽性で尿沈渣は陰性の患者では、6週あけて3回尿沈渣を行い、3回とも陰性であれば、追加の検査は不要である。 2)1回でも陽性であれば、尿路感染症や他の良性疾患(激しい運動、月経、最近の泌尿器科処置など)がないかを確認する。感染症治療後6週あけて、あるいは良性疾患の要因がなくなってから少なくとも48時間あけて、尿沈渣を再検、陰性なら追加検査は不要である。 3)これが陽性で、蛋白尿、赤血球円柱など腎疾患の可能性があれば、腎臓内科へ紹介する。腎疾患の可能性が低ければ、悪性腫瘍のリスクを評価し(表2)、初期評価として、病歴と身体所見、とくに血圧測定と腎機能評価を行う。また女性では内診を考慮し、男性には直腸診を行う。 【表2:危険因子】 35歳以上(日本のガイドラインでは40歳以上) 鎮痛薬の乱用 化学物質や染料への曝露 男性 喫煙者(既往も含む) 以下の既往 慢性的な体内異物留置 慢性的な尿路感染症 既知の発がん性物質や化学療法薬への曝露 肉眼的血尿 排尿時刺激症状 骨盤照射 泌尿器科疾患 3.画像診断【上部尿路評価】尿路造影CTは1回の検査で優れた診断的情報を提供する(感度91~100%、特異度94~97%)。腎機能低下例では、逆行性腎盂造影に単純CTまたは腎臓エコーを組み合わせて評価する(感度97%、特異度93%)。【下部尿路評価】リスク(表2)がある無症候性血尿患者には、年齢によらず膀胱鏡がすすめられる。尿細胞診は、膀胱がんに関して膀胱鏡に比べて感度が低く(48% vs. 87%)、リスクがない場合に、AUAガイドラインにおけるルーチン評価としてはもはや推奨されていない。4.フォローアップ適切な検査でも原因不明の場合には、尿検査を年1回、最低2年間行い、2回とも陰性であれば将来の悪性リスクは1%未満である。血尿が持続する場合は、3~5年以内に精査を繰り返すべきである。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 日本腎臓学会ほか. 血尿診断ガイドライン2013 2) Victoria J.Sharp,et al. Am Fam Physician. 2013;88:747-754.

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Vol. 2 No. 2 transcatheter aortic valve implantation(TAVI)現状と将来への展望

林田 健太郎 氏慶應義塾大学医学部循環器内科はじめに経カテーテル的大動脈弁留置術 (transcatheter aortic valve implantation:TAVI)は、周術期リスクが高く外科的大動脈弁置換術(surgical aortic valve replacement:SAVR)の適応とならない患者群、もしくは高リスクな患者群に対して、より低侵襲な治療として開発されてきた。2002年にフランスのRouen大学循環器内科のCribier教授によって第1例が施行されて以後1)、2007年にヨーロッパでCEマーク取得、2011年にはEdwards社のSapien valveがアメリカでFDA認可を受けている。現在までにヨーロッパ、アメリカを中心に世界中で7万例以上が治療されており、世界的に急速に進歩、普及しつつある治療法である。現在ヨーロッパでは2種類のTAVIデバイスが商業的に使用可能である(本誌p.16図を参照)。フランスでは2010年にすでにTAVIの保険償還がされており、現在では33施設がTAVI施行施設として認可を受けている。またTAVI症例はnational registryに全例登録が義務づけられている2)。TAVIにおける周術期死亡率の低下TAVIの歴史は合併症の歴史であるといっても過言ではない。2006、2007年のTAVIプログラム開始当初は多くの重篤な合併症を認め、低侵襲な経大腿動脈TAV(I TF -TAVI)においても20%を超える30日死亡率を認めていた。しかし、年月とともに術者・施設としての経験の増加、知見の蓄積、さらにデバイスの改良により徐々に合併症発生率は低下し、それに伴って死亡率は低下していった(図1)。特に最近では、transfemoral approachにおいては30日死亡率が5%以下まで低下しており、この数字が今後日本におけるTAVI導入においてわれわれが目指していく基準になっていくであろう。それではどのように合併症を減らしていくのか?図1 30日死亡率の推移(Institut Cardiovasculaire Paris Sudにおけるデータ)画像を拡大する2006年のTAVI開始当初は非常に高い周術期死亡率であったが、その後経験の蓄積やデバイスの改良により、現在では5%程度まで低下している。欧米のデータをいかに日本の患者さんに応用するか?私がヨーロッパにいる間は、日本の患者さんに対していかに安全にTAVIを導入するかということを常に考えて研究を行っていた。フランスにいながらにして体の小さな日本人におけるTAV Iの結果をいかにsimulateするかというのが課題であったが、われわれは体表面積(BSA)をフランスにおけるTAVIコホートの中央値である1.75をcutpointとし、small body size群とlarge body size群に分けて比較を行った(表1)。するとsmall body size群では有意に大動脈弁輪径が小さく(21.3±1.58 vs. 22.8±1.86mm, p< 0.01)、大腿動脈径も小さかった(7.59±1.06 vs. 8.29±1.34mm, p<0.01)。それに伴って弁輪破裂も増加する傾向があり(2.3 vs. 0.5%, p=0.11)、重大な血管合併症(major vascular complication)も増加した(13.0% vs. 4.3%, p<0.01)3)。われわれはsmall body size群で十分日本人のデータを代表できるのではと考えていたが、2012年の日本循環器学会で発表された日本人初のEdwards Sapien XTを用いたTAVIのtrialであるPREVAIL Japanのデータを見ると、われわれの想像をはるかに超え、日本人の平均BSAは1.4±0.14m2であり、われわれのコホートにおけるsmall body size群(1.59±0.11m2)よりさらに小さく、それに伴って大動脈弁輪径も小さかった(表1)。幸いPREVAIL Japanでは弁輪破裂は1例のみに認められ、また重大な血管合併症は6.3%であった。今後日本においてTAVIが普及していく過程において、体格の小さい日本人特有の合併症を予防することがたいへん重要であると考えられる。ではどのようにこのような合併症を低減していくことができるのか?表1 small body size群とlarge body size群の比較画像を拡大する大動脈弁輪径の計測の重要性まず弁輪破裂(もしくはdevice landing zone rupture)は心タンポナーデにより瞬時に血行動態の破綻をきたすため、致死率の高いたいへん重篤な合併症である(図2)4, 5)。Sapien valveでより頻度が高いが、CoreValveでも理論上は前拡張や後拡張時に起きうるため注意が必要である。TAVIにおいては外科手術と異なり直接sizerをあてて計測することができないため、事前に画像診断による詳細な弁輪径やバルサルバ洞径の計測、石灰化の評価とそれに最適なデバイス選択が必要である。この合併症を恐れるがあまり小さめのサイズの弁を選択すると、逆にparavalvular leakが生じやすくなり、30日死亡率6)、1年死亡率7)を増加させることが報告されている。さらには近年、中等度のみならず軽度(mild)のparavalvular leakも予後を悪化させる可能性が示唆されており8)、われわれも同様の結果を得ている(本誌p.19図を参照)9)。弁輪の正確な計測には、その構造の理解が重要である。弁輪ははっきりとした構造物ではなく、3枚の弁尖の最下部からなる平面における“virtual ring”で構成される部分であり(本誌p.19図を参照)、正円ではなく楕円であることが知られている(図3左)。この3次元構造の把握には2Dエコーに比べCTが適しているという報告があり10-12)、エコーに比べTAVIにおける後拡張の頻度を低下させたり13)、弁周囲逆流を減少させたりする14, 15)ことが報告されている。われわれもCT画像における弁輪面積より算出される幾何平均を平均弁輪径として使用し(図3右)、弁逆流量の低下を達成している16)。3Dエコーは3次元構造の把握には優れているものの、低い解像度、石灰化などによるアーティファクトの影響が除外しきれないため、現在のところ弁輪計測のモダリティとしてはガイドライン上勧められていないが17)、造影剤を必要としないなどのメリットもあり、今後の発展が期待される。図2 Sapien XT valve 留置後弁輪破裂を認めた1例画像を拡大する急速に進行する心タンポナーデに対し心嚢穿刺を行い、救命しえた1例。大動脈造影上左冠動脈主幹部の直下にcontrast protrusionを認め、弁輪破裂と考えられた。図3 CTにおける弁輪径の計測画像を拡大する大動脈弁輪は、ほとんどの症例において正円ではなく楕円である。この症例の場合、短径24.2mm、長径31.7mm、長径弁輪面積より幾何平均(geometric mean)は26.7mmと算出される。血管アクセスの評価TAVIにおいてmajor vascular complicationは周術期死亡リスクを増加させることが示唆されており18, 19)、特に骨動脈破裂は急速に出血性ショックをきたし致命的であるため、血管アクセスの評価もたいへん重要である。ほとんどの施設ではより低侵襲な大腿動脈アプローチ(transfemoral approach)が第一選択とされるが、腸骨大腿動脈アクセスの血管径や性状が適さない、もしくは大動脈にmobile plaqueが認められるなどの要因があると、その他のalternative approach、例えば心尖部アプローチ(transapical approach)、鎖骨下アプローチ(transsubclavian approach)などが適応となる。われわれはmajor vascular complicationの予測因子として、経験、大腿動脈の石灰化とともにシース外径と大腿動脈内径の比(sheath to femoral artery ratio:SFAR)を同定しており(本誌p.20表を参照)19)、そのSFARのcut pointは1.05であった(本誌p.20図を参照)。大腿動脈が石灰化していない場合は1.1であり、石灰化があると1.0まで低下していた。つまり、大腿動脈の石灰化がなければシース外径は大腿動脈内径より少し大きくなっても問題ないが、石灰化がある場合は、シース外径は大腿動脈内径を超えないほうがよいと考えられる。後にバンクーバーからも同様の報告がされており、われわれの知見を裏づけている20)。heart team approachの重要性以上、弁輪径の評価と血管アクセスなどの患者スクリーニングについて述べてきたが、いずれも画像診断が主であり、imaging specialistと働くことはたいへん重要である。またTAVIにおいては、デバイス自体がいまだ発展途上でサイズも大きく(18Frほど)、また治療対象となる患者群が非常に高齢・高リスクであることから、一度合併症が生じるとたいへん重篤になりやすく致命的であるため、PCI以上に外科医のバックアップが重要かつ必須である。特にearly experienceでは重篤な合併症が起きやすいため、経験の豊富な術者の指導のもと、チームとしての経験を重ねていくべきである。またエコー、CTなどイメージング専門医、外科医、麻酔科医との緊密な連携に基づいた集学的な“heart team approach”がたいへん重要である。TAVIのSAVR件数に与える影響2004年から2012年までの、MassyにおけるSAVRとTAVI件数の推移を図4に示す。TAVI導入以前は年間SAVRが180例ほどであったが、2006年に導入後急速に増加し、2011年には350例以上と倍増している。このように、TAVIは従来の外科によるSAVRを脅かすものではなく、今まで治療できなかった患者群が治療対象となる、まさに内科・外科両者にとって“win-win”の手技である。またSAVRに対するTAVI件数の割合も増加しており、2011年にはSAVRの半分ほどに達している。現時点では弁の耐用年数などまだ明らかになっていない点があるものの、TAVIの重要性は急激に増加している。TAVIは内科・外科が“heart team”として共同してあたる手技であり、冠動脈疾患の歴史を繰り返すことなく、われわれの手で両者にとっての共存の場にしていくことが重要であろう。図4 Institut Cardiovasculaire Paris SudにおけるTAVI導入後の外科的大動脈弁置換術とTAVI症例数の推移画像を拡大するTAVI導入後、外科的大動脈弁置換術の症例数は倍増している。将来への展望筆者が2009年から3年間留学していたフランスのMassyという町にあるInstitut Cardiovasculaire Paris Sud(ICPS)という心臓血管センターでは2006年よりTAVIを開始している。当初は22-24Frの大口径シースを用いた大腿動脈アクセスに対し外科的なcutdownを用いていたが、2008年からは穿刺と止血デバイス(Prostar XL)を用いた“true percutaneous approach”に完全移行している(図5)。 また2009年からは挿管せず全例局所麻酔と軽いセデーションのみでTF -TAVIを行っており、現在は“true percutaneous approach”と局所麻酔の両方を併せた“Minimally invasive TF -TAVI”として、良好な成績を収めている21)。このように局所麻酔とセデーションを用い、穿刺と止血デバイスを用いた“true percutaneous approach”は、経験を積めば安全で、高齢でリスクの高い大動脈弁狭窄症患者に対し、非常に低侵襲に大動脈弁を留置することができるたいへん有用な方法である。離床も早く、合併症がない場合の平均入院期間は1週間以下であるため、従来のSAVRに比べ大幅に入院期間を短縮でき、ADLを損なう可能性も低い。手技自体も、穿刺、止血デバイスを用いることから合併症がなければ1時間以内で終了し、通常の冠動脈インターベンション(PCI)のイメージと近くなっている。しかし、経験の初期は全TAVIチームメンバーのlearning curveを早く上げることが先決であり、無理をして最初から導入する必要はないが、次世代TAVIデバイスであるEdwards Sapien 3は14Frシースであるため、この方法が将来主流となってくる可能性が高い。筆者が2010年に参加したスイスで行われているCoreValveのtraining courseでは止血デバイスの使用法が講習に含まれており、特に超高齢者におけるメリットは大きく、今後日本でもわれわれが目指していくべき方向である。今年2013年でfirst in man1)からいまだ11年というたいへん新しい手技であり、弁の耐久性など長期成績が未確定であるものの、今後急速に普及しうる手技である。日本においてはEdwards Lifesciences社のSapien XTを用いたPREVAIL Japan trialが終了し、早ければ2013年度中にも同社のTAVIデバイスの保険償還が見込まれている。また現在、Medtronic社のCoreValveも治験が終了しようとしており、高リスクな高齢者に対するより低侵襲な大動脈弁治療のために、早期に使用可能となることが望まれる。現在ヨーロッパを中心とした海外では、Sapien、CoreValveなどの第1世代デバイスの弱点を改良した、もしくはまったく新しいコンセプトの第2世代デバイスが続々と誕生し、使用されつつある。いくつかのデバイスはすでにCEマークを取得しているか、もしくはCEマーク取得のためのトライアル中であり、今後急速に発展しうるたいへん楽しみな分野である。図5 18Fr大口径シースに対する止血デバイス(Prostar XL)を用いたtrue percutaneous approach画像を拡大するA:造影ガイド下に総大腿動脈を穿刺する。B:シース挿入前に止血デバイス(Prostar XL)を用い、糸をかける(preclosure technique)。C:弁留置後シース抜去と同時にknotを締めていく。D:非常に小さな傷しか残らず終了。おわりに本稿ではTAVIの現状と将来への展望について概説した。TAVI適応となるような高リスクの患者群ではminor mistakeがmajor problemとなりうるため、綿密なスクリーニングと経験のあるインターベンション専門医による丁寧な手技による合併症の予防がたいへん重要である。また、ヨーロッパではすでに2007年にCEマークが取得され、多くの症例が治療されているが、いまだこの分野の知識の発展は激しく日進月歩であり、解明すべき点が多く残っている。日本におけるTAVI導入はデバイスラグの問題もあり遅れているが、すでに世界で得られている知見を生かし、また日本人特有の繊細なスクリーニング、手技により必ず世界に誇る成績を発信し、リードすることができると確信している。そのためには“Team Japan”として一丸となってデータを発信していくための準備が必要であろう。文献1)Cribier A et al. Percutaneous transcatheter implantation of an aortic valve prosthesis for calcific aortic stenosis: first human case description. Circulation 2002; 106: 3006-3008. 2)Gilard M et al. Registry of transcatheter aorticvalve implantation in high-risk patients. N Engl J Med 2012; 366: 1705-1715. 3)Watanabe Y et al. Transcatheter aortic valve implantation in patients with small body size. Cathether Cardiovasc Interv (in press). 4)Pasic M et al. Rupture of the device landing zone during transcatheter aortic valve implantation: a life-threatening but treatable complication. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 424-432. 5)Hayashida K et al. Successful management of annulus rupture in transcatheter aortic valve implantation. JACC Cardiovasc Interv 2013; 6: 90-91. 6)Abdel-Wahab M et al. Aortic regurgitation after transcatheter aortic valve implantation: incidence and early outcome. Results from the German transcatheter aortic valve interventions registry. Heart 2011; 97: 899-906. 7)Tamburino C et al. Incidence and predictors of early and late mortality after transcatheter aortic valve implantation in 663 patients with severe aortic stenosis. Circulation 2011; 123: 299-308. 8)Kodali SK et al. Two-year outcomes after transcatheter or surgical aortic-valve replacement. N En gl J Me d 2 012; 36 6: 1686-1695. 9)Hayashida K et al. Impact of post-procedural aortic regurgitation on mortality after transcatheter aortic valve implantation. JACC Cardiovasc Interv 2012 (in press). 10)Schultz CJ et al. Cardiac CT: necessary for precise sizing for transcatheter aortic implantation. EuroIntervention 2010; 6 Suppl G: G6-G13. 11)Messika-Zeitoun D et al. Multimodal assessment of the aortic annulus diameter: implications for transcatheter aortic valve implantation. J Am Coll Cardiol 2010; 55: 186-194. 12)Piazza N et al. Anatomy of the aortic valvar complex and its implications for transcatheter implantation of the aortic valve. Circ Cardiovasc Interv 2008; 1: 74-81. 13)Schultz C et al. Aortic annulus dimensions and leaflet calcification from contrast MSCT predict the need for balloon post-dilatation after TAVI with the Medtronic CoreValve prosthesis. EuroIntervention 2011; 7: 564-572. 14)Willson AB et al. 3-Dimensional aortic annular assessment by multidetector computed tomography predicts moderate or severe paravalvular regurgitation after transcatheter aortic valve replacement a multicenter retrospective analysis. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 1287-1294. 15)Jilaihawi H et al. Cross-sectional computed tomographic assessment improves accuracy of aortic annular sizing for transcatheter aortic valve replacement and reduces the incidence of paravalvular aortic regurgitation. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 1275-1286. 16)Hayashida K et al. Impact of CT-guided valve sizing on post-procedural aortic regurgitation in transcatheter aortic valve implantation. EuroIntervention 2012; 8: 546-555. 17)Zamorano JL et al. EAE/ASE recommendations for the use of echocardiography in new transcatheter interventions for valvular heart disease. Eur Heart J 2011; 32: 2189-2214. 18)Genereux P et al. Vascular complications after transcatheter aortic valve replacement: insights from the PARTNER (Placement of AoRTic TraNscathetER Valve) trial. J Am Coll Cardiol 2012; 60: 1043-1052. 19)Hayashida K et al. Transfemoral aortic valve implantation: new criteria to predict vascular complications. J Am Coll Cardiol Intv 2011; 4: 851-858. 20)Toggweiler S et al. Percutaneous aortic valve replacement: vascular outcomes with a fully percutaneous procedure. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 113-118. 21)Hayashida K et al. True percutaneous approach for transfemoral aortic valve implantation using the Prostar XL device: impact of learning curve on vascular complications. JACC Cardiovasc Interv 2012; 5: 207-214.

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メタ解析の新たな問題/BMJ

 ネットワークメタ解析からの所見報告は、記述方法が不均一であることが、フランス・オテル=デュー病院のAida Bafeta氏らによる系統的レビューの結果、報告された。著者は、背景には報告要項に関するコンセンサス不足があるのではないかとして、執筆者および読者がネットワークメタ解析の報告を批判的に検証できるよう、報告書に関するガイドライン整備の必要性を提言した。ネットワークメタ解析の所見については、臨床医および担当医がどう解釈をしたらよいのか困難な場合がある。また、報告書式の不備が解析に影響をもたらす可能性や、臨床研究者をミスリードする可能性もあることから本検討は行われた。BMJ誌オンライン版2014年3月11日号掲載の報告より。報告の記述方法がどのような状況かを系統的レビュー ネットワークメタ解析報告の方法論に関する系統的レビューは、Cochrane Database、Database of Abstracts of Reviews of Effects、Medline、Embaseをデータソースに、各ソースの提供開始~2012年7月12日を文献検索範囲として行われた。 無作為化試験で3つ以上の介入方法の臨床的効果を比較しているすべてのネットワークメタ解析を適格とし(オープンループ型で3つの介入をメタ解析しているものは除外)、報告方法と結果について評価した。具体的には、ネットワークに関する説明(介入数、直接比較、無作為化試験、各比較群の患者について)および効果サイズ(直接的エビデンス、間接的エビデンス、ネットワークメタ解析について)の複合アウトカムを評価した。ネットワークまたは効果サイズに関する説明、98%に不備 レビューには121本のネットワークメタ解析が包含された。うち55本は総合誌で発表されたものであり、また48本が1つ以上の民間事業体から資金提供を受けたものであった。 分析の結果、100本(83%)において、ネットワークおよびそのジオメトリー(ネットワーク図)に関する説明が報告されていなかった。また効果サイズは、直接的エビデンスについては48本(40%)、間接的エビデンスは108本(89%)、ネットワークメタ解析については43本(36%)で報告されていた。 介入に関するランク付けをしていたのは52本あったが、うち43本はランク付けの不確実性について報告がなかった。 全体として119本(98%)が、ネットワークまたは効果サイズ(直接的エビデンス、間接的エビデンス、ネットワークメタ解析)の説明が報告されていなかった。 以上の所見は、ジャーナルのタイプ、資金調達ソースを問わず認められたという。

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非小細胞肺がんの予後は術前化学療法により改善するか(コメンテーター:小林 英夫 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(187)より-

全世界で毎年150万人の新規肺がんが診断され、その8割は非小細胞肺がん(NSCLCs)で、切除だけで完治が期待できる症例は20~25%程度である。術前化学療法は腫瘍径や転移巣の縮小効果を期待できる一方で、手術を遅らせ、がんの進行により切除不能になってしまうことも時にありうる。 これまで、術前化学療法が予後改善に結びつくことを期待し、多くの臨床試験が実施されてきたが、いまだ最終的な結論には至っていない。その理由の一つは、非小細胞肺がんの多様性・不均一性にある。 今回紹介したLancetの論文はシステマティックレビューとメタ解析を用い、術前化学療法が予後を改善するという結果だが、結語ではNSCLCsにおいて術前化学療法を導入することが望ましい、ないし導入すべき、という記載でなく、valid optionとの表現がなされている。 2014年に日本肺癌学会肺癌診療ガイドライン改訂版が発刊予定なので、日本の現況と比較し、概説する。 本論文で取り上げた対象報告は1965年以降の発刊が対象だが、当然ながら1990年代以降の成績が主体となっている。一言で術前化学療法と一括しているが、術後化学療法導入例や放射線療法実施例も混在しており、純粋に術前化学療法単独の比較解析ではない。 また背景因子が、臨床病期はIBが最多、次いでIIB、IIIAであること、扁平上皮がんが最多で腺がんの2倍弱、男性が8割、60歳以下が4割、などは日本の現状と大きく異なることに留意する必要がある。本邦での切除対象非小細胞肺がんは臨床病期IA、IBが主で、腺がんが多く、男性が6割、切除症例の8割弱は60歳以上、と背景因子が異なる。 日本肺癌学会のガイドラインでは、非小細胞肺がんの術前治療として、I-IIIAに術前プラチナ併用化学療法を考慮してもよい、一部のIIIA(N2)に対して術前化学放射線療法を考慮してもよい、との見解が発表予定である。裏付けとなる検索対象論文は2編しか同一ではないものの、結語は大筋類似している。 結論として術前化学療法の意義は存在すると考えられるものの、実地医療では症例ごとの治療選択において、各臨床病期別での成績が求められる。臨床病期を評価するうえでcT3における不均一性の認識も重要である。現在のT3には胸壁、横隔膜、心嚢などへの浸潤と、腫瘍先進部、無気肺などいくつかのカテゴリーが混在し、予後の不均一性が問題であるので、新たなT3基準が検討されており、UICCのTNM分類も近々に新分類が発表予定である。 メタ解析により総括的な術前化学療法の価値が認められても、次の段階として非小細胞肺がんの病期別・層別化成績、そして最終段階としての個別化医療の選択基準が解明されて初めて臨床に還元できる研究となる。本邦の実地臨床ではI期症例の術前化学療法はごく少数でのみ導入されている。II期でも臨床試験以外で積極的に導入する施設は決して多いものではない。臨床病期をさらに層別化したうえで、術前化学療法の意義を明らかにできる報告の登場が待たれる。

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第23回 非専門医に求められる医療水準の範囲

■今回のテーマのポイント1.神経疾患で一番訴訟が多い疾患は脳梗塞であり、争点としては、治療の遅れおよび診断の遅れが多い2.非専門科に求められる医療水準は、専門科において求められる水準よりも低い3.ただ、非専門科においても一般医学書程度の知識は要求される事件の概要X(71歳、女性)は、高血圧症などにてY病院循環器科外来(A医師)を受診していました。また、平成20年11月に追突事故に遭い、同事故の影響で左手指にしびれがでたこと、そのためリハビリ中であることをA医師に伝えていました。平成21年3月3日午後9時頃、持ち帰り用の食品を受け取るため、自宅付近の居酒屋を訪れ、代金を支払おうと財布から硬貨を取り出そうとしたところ、左手から硬貨を落とし、それを拾おうとしてはまた落としてしまいました。居酒屋の経営者夫妻は、Xのその様子および、Xの顔面の片側が垂れ下がっていたのをみて、同店で以前、脳梗塞を発症した客の様子と似ていたことから、救急車を要請しました。居酒屋に到着した救急隊員は、Xの状況について、椅子に座っており、意識清明、顔色正常、呼吸正常であること、歩行不能であったが、他自覚症状もなく、四肢のしびれや麻痺もなく、頭痛、嘔気、めまいもないことから、TIA(一過性脳虚血発作)疑いとしてかかりつけのY病院に受け入れ依頼をしました。Y病院受診時のXは、意識清明で、血圧166/110、歩行障害はなく、腱反射、瞳孔反射ともに正常でした。当直のB医師(消化器外科医)は、当時、TIAには意識障害があると思っていたため、XはTIAではないと判断し、ちょうど翌日、A医師の外来受診予定であったことから、夜間で十分な検査ができないので、翌日検査を受けるように伝え、異常時は再診するように伝えた上、Xを帰宅させました。翌4日、A医師が診察したところ、バレー徴候もなく、フィンガー・トゥ・ノーズテストも異常所見はなく、また、心音、呼吸音に問題はなく、末梢浮腫も認めませんでした。脳梗塞の診断のため、頭部MRI、MRAおよびDWI(拡散強調画像)を施行しましたが、陳旧性脳梗塞を認めるものの、新鮮な脳血管障害は認められませんでした。A医師が現症状を尋ねたところ、Xは「どうもありません。」と答えたことから、前日に原告が小銭を取りこぼしたのは、平成20年11月の追突事故による左手指のしびれのためと考え、従前の処方のみで経過観察としました。ところが、Xは、3月18日早朝、自宅で倒れているところを家族に発見され、Z病院に救急搬送されたところ、脳梗塞と診断されました。Z病院にて治療およびリハビリテーションを行ったものの、Xには、中等度の感覚性失語、右片麻痺により、要介護3級の状態となりました。そこで、Xは、Y病院に対し、遅くとも3月4日の段階でTIAと診断し、抗凝固療法などを行うべきであったとして、約8,050万円の支払いを求める訴訟を提起しました。事件の判決■原告一部勝訴(440万円)被告は、当時の医療水準では、非専門医療機関、非専門医に対しては、適切な問診を行い、TIA又はその疑いがあることを診断する義務があるというレベルまでは要求できないと主張し、P医師(被告側鑑定医)は、おおむね以下の内容の意見を述べている。各ガイドラインは、専門医及び一般内科医用とされているが、まず専門医の脳卒中治療を標準化し、それから一般内科医へ広がっていくように期待されているものであり、非専門医は通常見ないものであり、本件当時は、上記ガイドライン2009は出ておらず、もし出ていたとしても、非専門医がこれを知らなくても全くおかしなことではない。平成23年3月に一般内科医を対象としたアンケートでも、上記ガイドラインを読んだのは4分の1以下というのが実情である。TIAは、非専門医に正確に理解されておらず、非専門医の「TIA疑い」と診断した患者の多くはTIAではなく、実際にTIAであったケースは1割以下である。今日においても、非専門医が、単なる失神をTIAだと誤解している例がある。TIAの定義や診断については、専門医の間でもコンセンサスは得られていない。TIAにおける脳梗塞発症リスクの指標にABCD2スコアがあるが、今日においても非専門医には浸透していない。そのため、本件当時、非専門医がこれを知らなくても全く不思議なことではなく、不勉強だということでもない。しかしながら、P医師の上記意見は、次のとおり、いずれも採用できない。前記認定の一般的知見は、ガイドライン2009を待つまでもなく、今日の診断指針、メルクマニュアル等の極めて一般的な文献に基づいて認定し得るものであって、ガイドラインに関するP医師の意見はその前提を欠くものである。また、医療水準は医師の注意義務の基準となるものであって、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではない(最高裁判所平成8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁参照)。一般的な医学書にはTIAに関する記載がある以上、その記載程度の知識は非専門医でも得ておくべきであるから、そのような知識の獲得を怠り、TIAに関する間違った認識の下に行った診療行為は、他にも、TIAである旨の誤診が多く見られたり、単なる失神をTIAだと誤解した例があったからといって正当化されるものではない。さらに、被告は、TIAの定義や診断については専門医の間でもコンセンサスが得られておらず、また、ABCD2スコアは非専門医には浸透していないともいうが、定義について、専門家の間に、異論があるとしても、前記認定の一般的知見に基づく定義等は、平成2年以来、一般的に承認されているものであり、前記認定を妨げるものではない。また、ABCD2スコアは、TIAから脳梗塞発症のリスクを予測するための指標であり、TIA又はその疑いがあるか否かの診断に影響するものではない。以上によれば、P医師の上記意見によっても、医療水準についての前記判断は左右されないというべきであり、このような見解に沿った被告の前記主張は採用できない。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(福岡地判平成24年3月27日判時2157号68頁)ポイント解説■神経疾患の訴訟の現状今回は、神経疾患です。神経疾患で最も訴訟となっているのは脳梗塞です(表1)。脳梗塞に対し、近年、抗凝固療法(血栓溶解療法)が行われるようになったことから、診断・治療の遅れによって予後に大きな変化が生じうるようになりました。その結果、表2をみていただければわかるように、昨今、訴訟となる事例が増加しており、争点も診断の遅れ、治療の遅れが中心となっています。ただ、訴訟となり始めたのが最近であることからか、原告勝訴率は低く、今回紹介した事例においても、原告勝訴はしていますが、認容額は請求額の5.5%ほどであり、実質的には原告敗訴ともいえる内容となっています。医療の進歩により、訴訟が増加することは皮肉ではありますが、その一方で現在の裁判所は慎重な判断をしているといえそうです。■非専門科に求められる医療水準今回の事例で問題となったのは、非専門科の医師にどこまでの医療水準が求められるかという点です。夜間、患者を診察したのが消化器外科医(B医師)で、翌朝外来にて診察したのが循環器内科医(A医師)であり、両者とも神経内科を専門としていません。そして、ともにTIAに関する認識が乏しかったため、抗凝固療法を行わず、かといって神経内科を受診させることもしませんでした。民事医療訴訟における過失とは、第1回で解説したように、「人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのであるが(最判昭和36年2月16日民集15巻2号244頁)、具体的な個々の案件において、債務不履行又は不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である(最判昭和57年3月30日民集135号563頁)。そして、この臨床医学の実践における医療水準は、全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく、診療に当たった当該医師の専門分野、所属する診療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものであるが(最判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁)、医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない」(最判平成8年1月23日民集50巻1号1頁)を指します。したがって、非専門科に求められる医療水準は、「専門科に求められる医療水準よりは低いのですが、かといって平均的医師が行っている医療慣行と常に一致するわけではなく、より高い水準が求められることもある」ということになります。本件訴訟において、被告側は非専門科におけるTIAの認識、診断の難しさを主張しましたが、判決では、一般医学書に記載されている程度の疾患概念の理解については、非専門科にも求められるとしました。本判決およびその他の判例からみた非専門科に求められる具体的な医療水準としては、「最新のガイドラインの内容を熟知することまでは必要ないが、一般的な医学書程度の知識は非専門科でも得ておくべきである」とする傾向があります(図)。非専門科においてまで高度な医療水準が求められるとなると、救急医療の崩壊を導くことは、2000年代の苦い経験です。ただ、その一方で、非専門科とはいえ、プロフェッションである医師に対し、一定程度の水準は求められるのは当然といえます。常に刷新し続ける医療において、この微妙なさじ加減につき、個別具体的な事例を通じて司法と医療の相互理解を継続していくことが、何より肝要と思われます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)最高裁判所平成8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁福岡地判平成24年3月27日判時2157号68頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。最判昭和36年2月16日民集15巻2号244頁最判昭和57年3月30日民集135号563頁最判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁

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大腸がん手術後の患者さんへの説明

手術のあと大腸がんの手術を受けられた方へ編著:東京医科歯科大学大学院 応用腫瘍学 助教 石黒 めぐみ氏監修:東京医科歯科大学大学院 腫瘍外科学 教授 杉原 健一氏Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.あなたの受けた手術手術を行った日手術で切除した範囲年月日術式名(受けた手術の名称)きずお腹の創Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.2病理検査の結果深達度□□□□□□大腸癌取扱い規約【第8版】←粘膜大腸(断面)←粘膜下層Tis(粘膜まで)T1(粘膜下層まで)T2(固有筋層まで)T3(漿膜下層まで)T4a(漿膜に露出)T4b(ほかの臓器に浸潤)←固有筋層←漿膜下層←漿膜リンパ節リンパ節転移□ なし□ あり ➡個(□N1 □N2 □N3)以上の結果を総合するとあなたの大腸がんの病理学的進行度(ステージ)はほかの臓器への転移0□ 術前の検査では認めていません□ ほかの臓器への転移が疑われます➡(臓器)ⅠⅡⅢaⅢbⅣと診断されます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.3【参考】大腸がんの進行度(ステージ)ステージ0粘膜・がんが粘膜の中にとどまっているステージⅠ・がんが粘膜下層あるいは固有筋層までにとどまっている・リンパ節転移がないステージⅡ粘膜下層固有筋層・がんが固有筋層を超えている・リンパ節転移がない漿膜下層漿膜・リンパ節転移があるステージⅢステージⅣⅢa:リンパ節転移が1~3個Ⅲb:リンパ節転移が4個以上・ほかの臓器への転移や腹膜播種がある肝転移Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.リンパ節転移肺転移早期がん進行がん腹膜播種4今後の治療について☑:あなたに当てはまるもの① 大腸がんの「再発」とは?② 大腸がん手術後の定期検査③ 術後補助化学療法④ 一時的人工肛門の閉鎖⑤その他のがんの検診についてCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.5①大腸がんの「再発」とは?a)大腸がんの「再発」とは?・手術でがんをすべて取りきったと思っても一定の割合で再発が起こります。大腸から離れた場所に❝飛び火❞した目に見えない大きさのがん徐々に増えてきて画像に写る大きさのしこりになったもの1cmくらい手術前手術後Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.再発6①大腸がんの「再発」とは?b)大腸がんの再発率・手術のときのステージが進んでいるほど再発する確率(再発率)は高くなります。(%)5030.8%43.240再発率302010013.3%3.7%2.712.124.3結腸がん直腸がん16.75.7ステージⅠステージⅡステージⅢ大腸癌研究会・プロジェクト研究 1991~1996年症例大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.7【参考】大腸がんの5年生存率(%)10094.091.68084.877.760.0604018.8200ステージ0ステージⅠステージⅡ ステージⅢa ステージⅢb ステージⅣ大腸癌研究会・大腸癌全国登録 2000~2004年症例大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.8①大腸がんの「再発」とは?c)大腸がんの主な再発形式・大腸がんの再発には、以下のようなものがあります。遠隔再発ほかの臓器に再発・肝再発腹膜再発吻合部再発(腹膜播種)お腹の中(腹腔内)に種をまいたように散らばって再発腸をつなぎ合わせた部分に再発局所再発・肺再発もともとがんがあった周囲に再発・その他:脳や骨などCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.9②大腸がん手術後の定期検査a)定期検査はなぜ必要?・大腸がんの再発は、手術で取りきれれば治る可能性があります。・再発が起こっていないかどうかをチェックするために手術後には定期的な検査が大切です。・手術のあと、5年間は定期検査を行います。大腸がんの再発のうち、96%が手術後5年以内に起こります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.10②大腸がん手術後の定期検査b)定期検査のスケジュール(例)・以下のようなスケジュールに従って定期検査を行います。※ステージや患者さんのからだの状態によって多少異なります。1年2年問診・診察3ヵ月ごと直腸指診【直腸がん】3ヵ月ごと4年5年6ヵ月ごと腫瘍マーカー3年胸部・腹部CT6ヵ月ごと6ヵ月ごと骨盤CT【直腸がん】6ヵ月ごと6ヵ月ごと大腸内視鏡検査1~2年ごと大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.11③術後補助化学療法a)術後補助化学療法とは?・からだの中に残っているかもしれない見えないがん細胞を攻撃し、再発を防ぐ あるいは 再発を遅らせることを目的として、手術のあとに行う抗がん剤治療のことを「術後補助化学療法」といいます。【術後補助化学療法の対象となる患者さん】・ステージⅢの患者さん・ステージⅡのうち再発する危険性が高いと思われる患者さん・原則として術後1~2ヵ月を目安に開始し、6ヵ月行います。・通常は2~3週おきの外来通院で治療します。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.12③術後補助化学療法b)術後補助化学療法で使用されるレジメン・大腸がんの術後補助化学療法で使用されるレジメンには、以下のようなものがあります。※レジメンとは、使用する薬剤とその組み合わせ、投与する量やスケジュールなど治療の「レシピ」のようなものです。レジメン剤型投与方法投与スケジュール・5-FU+LV療法注射薬2時間かけて点滴週1回×6回その後2週間休む・UFT+LV療法飲み薬内服(1日3回)4週間内服その後1週間休む・カペシタビン療法飲み薬内服(1日2回)2週間内服その後1週間休む・FOLFOX療法注射薬48時間かけて点滴2週間おき・CapeOX療法飲み薬+注射薬点滴は約2時間カペシタビンは内服(1日2回)点滴+2週間内服その後1週間休むCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.13④一時的人工肛門の閉鎖・今回の手術では、以下のような目的で、一時的な人工肛門を造設しました。□腸のつなぎ目を安静に保ち、縫合不全*を予防するため。□ 術後、縫合不全*が起こったため。*縫合不全:腸のつなぎ目がほころびること・腸のつなぎ目が落ち着いたころを見計らって人工肛門を閉鎖する(もとに戻す)手術を行います。・1~2時間程度の手術です。・今回の手術と同様、全身麻酔で行います。・おおよその入院期間:日程度・手術を行う時期の目安:年お腹の壁(腹壁)月ころCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.口側の腸管皮膚筋層腹膜肛門側の腸管14⑤その他のがんの検診についてa)ほかの臓器のがんの検診について・大腸がんにかかったあとも、ほかの臓器のがんにかかる可能性があります。※大腸がん手術後の患者さんがほかの臓器のがんにかかる頻度は1~5%と報告されています。・大腸がんの手術後には、再発のチェックを目的とした定期検査を行いますが、ほかの臓器のがんの検査としては必ずしも十分ではありません。・自治体などで実施されるがん検診は、積極的に受けましょう。大腸がん手術後の定期検査では見つかりにくいがん・胃がん・食道がん・乳がん・子宮がん・前立腺がん大腸がん手術後の定期検査で見つかりやすいがん・肺がんCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.・肝臓がん15⑤その他のがんの検診についてb)別の大腸がんができる可能性があります・大腸がんの手術を受けたあとも、大腸の別の部分に別の大腸がん/大腸ポリープができる可能性があります。※大腸がん手術後の患者さんで、大腸の別の部分に別の大腸がんができる頻度は1~3%と報告されています。これは一般集団に比べておよそ1.5倍高い頻度です。・5年間の「手術後の定期検査」が終了したあとも、2~3年に1回の大腸内視鏡検査を受けることが勧められます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.16退院後の生活について① 退院後の食生活② 退院後の日常生活③ 退院後の仕事復帰④ 退院後のスポーツやレジャーCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.17①退院後の食生活・原則として食事の内容に制限はありません。・「ゆっくり、よく噛んで、腹八分目」を心がけましょう。【食事のとり方の基本】➊ 規則正しく食事をとりましょう。➋ ゆっくり、よくかんで食べましょう。➌ 一度にたくさん食べすぎないようにしましょう。➍ バランスよく、消化の良いものを中心にとりましょう。➎ 水分をしっかりとりましょう。➏ アルコールはほどほどに。➐ 腸閉塞のサインを知っておきましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.詳しくは24ページ18【参考】一度にたくさん食べ過ぎるとよくない食品・原則として食事の内容に制限はありません。・ただし、以下のような消化されにくい食べ物を一度にたくさん食べると、つまったり流れにくくなったりして、腸閉塞を起こすことがあります。詳しくは24ページ食べ方や調理法を工夫して適量を食べるようにしましょうこんぶ・わかめなどの海藻類ごぼう・れんこんなど繊維質の根菜類きのこ類こんにゃく・よく噛む・こまかく刻む(繊維と垂直に切る)・やわらかく煮込む などまめ類Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.19②退院後の日常生活・退院後2ヵ月ほどはあまり無理をしないほうがよいですが自分の体力の回復に合わせて、徐々に行動範囲を広げていきましょう。・適度に体を動かしましょう。きずおとなしくして創を大事にしていたからといって、きず創の治りやがんの治りがよいわけではありません。適度な運動は体力や筋力を回復させ、胃腸の活動を活発にします。血行をよくし、手術の傷跡の治りもよくします。・まずは散歩や、軽い家事などがよいでしょう。疲れ具合に応じて、出かける時間や距離、作業の量や程度を増やしたりしてみましょう。病院への通院もよいリハビリになります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.20③退院後の仕事復帰・デスクワーク中心の仕事であれば、手術後1ヵ月程度・からだを動かす仕事であれば、手術後2~3ヵ月程度が復帰の目安です。・軽めの仕事から徐々に始めていくのがよいでしょう。いきなりもとの仕事の内容・量を目指すのではなく、時短勤務や、一時的に仕事の内容を変更すること(外回り→内勤)なども考慮しましょう。・ご家族や職場の人たちのサポートが心身ともに大切です。ひとりで悩まずに、周りの人たちと協力して、手術後の回復期を乗り切りましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.21④退院後のスポーツやレジャー・体を鍛え上げるような激しい運動をする必要はありません。自分の体力に合わせて、好きな運動を生活に取り入れて楽しみましょう。・お腹に力が入るような運動は、手術後2~3ヵ月は控えましょう。腹筋運動、重いものを持ち上げる、ゴルフ、相撲、柔道など。腹壁瘢痕ヘルニアの原因になることがあります。詳しくは25ページ2~3ヵ月は…・もちろん旅行だって楽しめます。とくに制限はありません。はじめのうちはあまり無理のない範囲で楽しみましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.22今後起こりうる手術の影響☑:あなたに当てはまるもの① 腸閉塞(イレウス)② 腹壁瘢痕ヘルニア③ 排便習慣の変化□【結腸がん】□【直腸がん】□【人工肛門】④ 排尿機能障害【直腸がん】⑤ 性機能障害【直腸がん】Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.23①腸閉塞(イレウス)・お腹の手術を受けた後は、癒着などにより、何らかのきっかけで便の通りが突然悪くなることがあります。これを「腸閉塞(イレウス)」といいます。便やガス(おなら)の出が悪くなり、お腹が張ったり、お腹が痛くなったり、嘔吐したりします。・軽い場合は食事をしばらくお休みすれば改善します。それで改善しない場合は、鼻から管を入れて腸の内容物を吸い出したり、手術が必要になる場合もあります。軽いお腹の張りを感じても、便やガス(おなら)が出ている場合は、食事の量を減らして様子を見てください。強い腹痛、嘔吐、排便・排ガスがない などがある場合は、飲食はせずに、ただちに病院に連絡してください。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.24②腹壁瘢痕ヘルニア・お腹の壁(腹筋)を縫い合わせた部分のうち、筋肉に弱いところがあると、そこから腸がお腹の外に脱出することがあります。これを「腹壁瘢痕ヘルニア」といいます。皮膚筋層腹膜小腸・大腸きずお腹に力を入れたり長時間立っていたりすると、お腹の創の付近がポコッと盛り上がり、押すとペコペコします。あおむけに寝たり、お腹の力を抜くことによって、簡単に腸がお腹の中に戻る場合は、日常生活に支障がなければ、治療を急ぐ必要はありません。脱出した腸がねじれて血行が悪くなったりした場合には、強い痛みが起こります。この場合はただちに手術が必要ですので、すぐに病院に連絡してください。・腹壁瘢痕ヘルニアを予防するため、✔ 手術後2~3ヵ月は、腹圧のかかる作業は避けてください。腹筋運動、重いものを持ち上げる、ゴルフ、相撲、柔道など。✔ 太りすぎないように気を付けてください。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.25③排便習慣の変化【結腸がん】・結腸がんの手術では、日常生活に支障が出るような変化はほとんどありません。手術後2~3ヵ月は、やや便通が落ち着かないと感じることもあると思います。時間の経過とともに、少しずつ落ち着いてくるのが一般的です。規則正しい食生活が大切です。とくに朝食はきちんととりましょう。散歩などの適度な運動も効果的です。・便秘・下痢が続くなど、便通にお悩みのときは主治医に相談してください。便を柔らかくする薬や下痢止めなど、いろいろなお薬で改善する場合があります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.26③排便習慣の変化【直腸がん】・直腸がんの手術では、肛門が残っても、直腸の大部分が切り取られているので、十分に便をためられないために、以下のような排便習慣の変化が見られます。・便の回数が増える・残便感がある・便意をがまんできない・寝ている間やお腹に力を入れたときに便やガスが漏れてしまう※程度には個人差があります。・半年~1年くらいの経過で、徐々に改善してきます。・排便のパターンをつかんで、上手に付き合っていきましょう。対策・夜間や外出時の漏れが心配な場合は、生理用品や尿取りパットを使う。(トイレットペーパーはお尻が荒れてしまうので避ける!)・外出直前の食事は避ける。・駅や外出先では、あらかじめトイレの場所を確認しておく。・シャワートイレがおすすめ(携帯用のものもあります)。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.27③排便習慣の変化【人工肛門】・人工肛門に関する悩みやトラブルがあるときは、「ストーマ外来」で専門の医師・看護師に相談してみましょう。【ストーマ外来のリスト】「日本創傷・オストミー・失禁管理学会」ホームページhttp://www.etwoc.org/stoma.html・人工肛門・人工膀胱をもつ患者さんの会もあります。「日本オストミー協会」ホームページ http://www.joa-net.org/日常生活に役立つさまざまな情報が得られます。・永久人工肛門になった患者さんでは、「直腸膀胱機能障害」(通常は4級)として身体障害者手帳を取得できます。・装具の給付、税の控除などのサービスを受けることができます。・患者さん自身(またはご家族)による申請が必要です。・申請以降に助成が開始されるので、早めに申請の手続きを。・詳しくは、市区町村の福祉担当窓口や、病院の社会福祉士(ソーシャルワーカー)に問い合わせてみましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.28④排尿機能障害【直腸がん】・手術操作による一時的な自律神経のダメージや、がんを取りきるために一部の自律神経を切除したことにより排尿機能に障害が出ることがあります。尿道括約筋対策膀胱● 膀胱のセンサーの障害・尿意がよくわからない・膀胱に尿がたまりすぎてあふれる● 膀胱が収縮する機能の障害・膀胱の壁が固くなって伸びが悪い→あまり尿をためられずにあふれてしまう・押し出す力が弱く、“残尿”が増える・尿意がなくても、一定の時間ごとにトイレに行く。・男性の小用も座ってゆっくりと。・排尿時に下腹部を圧迫する(手で押す+前かがみ)。・症状に応じたお薬で症状が改善する場合があります。・自己導尿(自分で尿道に管を入れて尿を出す)Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.泌尿器科の医師に相談29⑤性機能障害【直腸がん】・手術操作による一時的な自律神経のダメージや、がんを取りきるために一部の自律神経を切除したことにより性機能に障害が出ることがあります。下大静脈腹部大動脈上下腹神経叢下腹神経骨盤神経叢(下下腹神経叢)骨盤内臓神経(勃起神経)直腸への神経枝膀胱への神経枝【男性の場合】・勃起障害・射精障害※女性の場合の性機能への影響はよくわかっていません。・手術の影響による症状です。恥ずかしがらずに主治医に相談しましょう。対策・お薬で改善する場合があります。・専門の医師への相談もできます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.泌尿器科の医師に相談30

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COPDの3大症状

気になる「せき」・「たん」・「息切れ」はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)かもしれません「せき」が続く「たん」が出る「息切れ」がする日本呼吸器学会COPDガイドライン第4版作成委員会編. COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版.メディカルレビュー社;2013.Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第5回

第5回:頻度の多い中耳炎...いま一度おさらいを 急性中耳炎は、急性に発症した中耳の感染症で、耳痛・発熱・耳漏を伴うことがあります。小児に多い疾患ですが、時折、成人でも認めます。日本では、小児急性中耳炎診療ガイドライン2013年版1)が発表されています。このガイドラインは、臨床症状と鼓膜所見をスコア化し、重症度によって治療を選択します。臨床現場では、軽症や中等症の症例に対し、当初より広域の抗菌薬を使用されているケースが散見されます。耐性菌の増加、多剤耐性菌の出現を考えると、適切な抗菌薬治療が望ましいと思います。 以下、American Family Physician 2013年10月1日号2)より中耳炎1.概要急性中耳炎は、急性発症、中耳浸出液の存在、中耳の炎症所見、痛み、イライラ、発熱などの徴候によって診断され、通常、ウイルス性上気道感染に伴うエウスタキオ管機能不全の合併症である。2.症状・徴候中耳浸出液の存在、耳痛、イライラ、発熱 など3.診断アメリカ小児科学会によると、急性中耳炎の診断は、耳鏡所見に伴うクライテリアに基づいて行う。鼓膜の中等症~重症の腫脹と外耳道由来ではない急性発症の耳漏、48時間以内の発症の耳痛を伴う鼓膜のマイルドな腫脹や紅斑が、診断に必要である(Evidence rating C)。また、小児の場合、中耳の浸出液を認めない場合は、診断されるべきではない。4.急性中耳炎の治療方針1)初期症状に対して:診察所見や徴候に基づいて診断を行う。・痛み止め(アセトアミノフェン)を処方。・耳漏や重症なサインや徴候のある6ヵ月以上の小児は、抗菌薬治療10日間施行。・重症なサインや徴候のない、両側性の急性中耳炎ある6~23ヵ月の小児は、抗菌薬治療10日間施行。・重症なサインや徴候のない、片側性の急性中耳炎ある6~23ヵ月の小児は、経過観察もしくは、抗菌薬治療10日間施行。・重症なサインや徴候のない2歳以上の小児は、経過観察もしくは、抗菌薬治療5~7日間施行。2)持続的な症状がある場合 :・中耳炎のサインを繰り返し診察。・中耳炎が、まだあれば、抗菌薬治療を始めるか、抗菌薬を変更。・適切な抗菌薬治療を行っても、症状が持続する場合、セフトリアキソンの筋肉注射やクリンダマイシン、鼓膜切開を考慮。 3)抗菌薬の選択 : 初期治療として、アモキシシリン(80-90mg/kg/日)分2もしくは、アモキシシリン・クラブラン酸(90mg/kg/日のアモキシシリン、6.4mg/kg/日のクラブラン酸)分2を内服。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 日本耳科学会、日本小児耳鼻咽喉科学会、日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会編.小児急性中耳炎診療ガイドライン 2013年版.金原出版;2013. 2) Harmes KM, et al. Am Fam Physician. 2013;88:435-440.

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アブレーションは発作性心房細動の第一選択になりうるか/JAMA

 未治療の発作性心房細動(AF)患者に対する高周波アブレーションvs. 抗不整脈薬治療について検討した結果、高周波アブレーションのほうが2年時点の心房性頻脈性不整脈の発生率が低かったことが、カナダ・マックマスター大学のCarlos A. Morillo氏らによる無作為化試験の結果、示された。現行ガイドラインでは、発作性AFの第一選択治療は抗不整脈薬治療が推奨され再発減少に有効である一方で、高周波アブレーションは抗不整脈薬治療に失敗した場合の第二選択治療として推奨されている。しかしながら先行研究では、第一選択治療としての位置づけをさらに検討すべきであることを示唆する報告がなされていた。JAMA誌2014年2月19日号掲載の報告より。欧米16施設、127例を対象に無作為化試験 研究グループは、抗不整脈薬未治療の発作性AF患者における第一選択治療として、高周波アブレーションが抗不整脈薬治療よりも優れるかを検討する第二次Radiofrequency Ablation vs Antiar- rhythmic Drugs for Atrial Fibrillation Treatment(RAAFT-2)試験を行った。 ヨーロッパと北米16の医療施設で被験者登録を行い(2006年7月27日~2010年1月29日)、127例の患者が無作為化を受け、抗不整脈薬治療群に61例が、高アブレーション群に66例が割り付けられ、無作為化後90日間のブランク期間を含む24ヵ月間のフォローアップを受けた(最終フォローアップは2012年2月16日)。 主要アウトカムは、ブランク期間を除く治療後21ヵ月間に記録された、30秒以上の初回心房性頻脈性不整脈発生(定期あるいは非定期に行った心電図、ホルター心電図、トランステレフォニックモニター、リズムストリップ法で確認)までの期間であった。副次アウトカムには、症候性の心房性頻脈性不整脈の再発とEQ-5D法によるQOL評価などが含まれた。治療後の初回心房性頻脈性不整脈発生、アブレーション群のHRは0.56 結果、主要有効性アウトカムの発生は、抗不整脈薬群44例(72.1%)、アブレーション群36例(54.5%)だった(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.35~0.90、p=0.02)。 副次アウトカムについては、症候性AF、心房粗動、心房性頻脈の再発がみられたのは、抗不整脈薬群59%、アブレーション群47%であった(HR:0.56、95%CI、0.33~0.95、p=0.03)。 死亡または脳卒中は、いずれの群でも報告されなかったが、アブレーション群で4例の心タンポナーデが報告された。 なお標準治療(抗不整脈薬)群のうち26例(43%)が、1年後にアブレーションを受けている。 QOLは試験開始時、両群とも中等度に損なわれていたが、1年後のフォローアップ時には改善がみられた。ただし、両群間に有意差は認められなかった。

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エキスパートに聞く!「睡眠障害」Q&A Part2

睡眠薬の増量・減量のタイミング、治療効果判定で注意すべきポイントは?不眠症が慢性化すると、患者さんは不眠による日中の生活の質の低下を強く自覚するようになる。こうしたつらさから抜け出したいと望むあまり、不眠症にかかる以前に増して長く深く眠りたいと望むようになる。このため、寝床で眠れないでいた時間を補おうとだんだんと早く就床したり、遅くまで起床しないで過ごしたりするようになる。これにより、寝床で過ごす時間が長くなってくる。実質的に一晩に眠ることのできる生理的睡眠時間は成人で7時間、高齢になると6時間程度であるが、不眠症の患者さんは、だんだん早寝遅起きとなり寝床で8時間以上過ごしている場合が多い。こうなると、いくら薬剤を投与しても生理的睡眠時間を超えて眠らせることはきわめて困難になる。通常の問診で、何時間眠れているかについては尋ねるが、就床時刻や起床時刻について明確に尋ねない場合が多く、寝床で長く過ごしていることについては見過ごされがちである。寝床で過ごす時間が生理的な睡眠時間を超えていると、いくら薬剤を投与しても不眠は改善しない。徐々に薬剤が増えていき、多剤大量投与に結びつきやすい。このため、寝床で過ごす時間を、7時間以内に適切化しながら薬物療法を行う。このような治療を行っても、寝付けない、夜中に目が覚めるといった場合に、初めて睡眠薬の増量を考える。ただし、薬剤を増やす前に、睡眠習慣を守っているかを再度確認したい。生活習慣を適正化しながら薬物療法を行い、服薬していれば毎晩安定して眠ることができるようになることが第一の目標である。こうした安心感ができ、睡眠に対するこだわりがとれてきたら、徐々に減量していく。その際に、これまでの睡眠薬による睡眠時間分は差し引いて就床時刻と起床時刻を設定することがポイントである。たとえば、65歳以上の患者さんが睡眠薬を使用して7時間眠っていたとする。この年代の生理的夜間睡眠量はおよそ6時間であるため、1時間分は睡眠薬で眠らされていると考える。減量の前に、30分早起きすることで、寝床で過ごす時間を30分短くし、一方で薬剤投与量を半分にする。減量により患者さんが不安になることもあるため、徐々に減量することにより、この不安を軽減する。こうして、寝床で過ごす時間を適正化しながら、減量していくことが重要である。子供(思春期)の睡眠障害や、薬物療法の工夫について教えてください。子供(思春期)の不眠では成人とは異なり、遅い時刻まで寝つけず、いったん眠るとなかなか起床できないというパターンになりやすい。背景には、体内時計の遅れがあり、睡眠相後退型の概日リズム睡眠障害と呼ばれる。何とか眠らせることができれば起床もできるようになるのではと考えやすいが、睡眠薬で早くから眠らせても、起床困難は改善しないことが多い。こうした場合には、朝起きる時刻を少しずつ早くしていくことで、次第に夜に寝つく時刻が早くなっていくというように考えて治療に当たると良い。朝少しでも早く起こして、日光を浴びるように指導を行う。その際、起床時刻を早くするには時間がかかることを考慮し、1週間に30分から1時間を目標に起床時刻を早めていくとよい。体内時計がずれていることが原因なので、薬物療法を行う際は、鎮静系の薬剤で無理に眠らせるべきではない。メラトニン受容体作動薬のような薬剤を少量、少し早めの時刻に投与する。眠らせるというよりは、時差ボケを治すイメージで体内時計のずれを解消する。緊張して眠れないというケースでは、通常の睡眠薬の投与も考慮することがある。ただし、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系ともに、服用後になかなか眠れないでいるときに感情が不安定になることもあるので、用量設定と投与時刻に注意する必要がある。近年の検討で、非ベンゾジアゼピン系の薬剤が有効であるという報告もある。なお、不眠の背景には、思春期の精神疾患が隠れている場合もあるので、注意しながら観察し、可能性が疑われる場合は専門医に相談していただきたい。自己判断で薬を勝手にやめてしまう患者さんへの対応を教えてください。こういった患者さんは、連続的に服用すると “癖になる”と思い、少し眠ることができると次の晩は服薬をしない等のようになることが多い。服薬しているときは眠ることができるが、自己判断で薬を中断すると、薬を飲んでいない不安から緊張が高まりかえって眠れない。このようなことが繰り返されると、“やはり薬がやめられなくなるのではないか”と思い込むようになる。まず、このようなケースの治療の第一ステップとしては、“睡眠薬が1錠あれば安心して生活できる”と実感してもらうことである。先に述べたように、安心できるようになれば、次は半錠にし、最後は薬がなくても眠れるようにする、といった手順を根気よく患者さんに説明・指導していくことが望ましい。近年の報告では、適切な量を適切な生活習慣の中で服薬していれば、依存が起こる可能性は低いと報告されている。睡眠薬を次々に希望する患者さんへの対応を教えてください。こういった患者さんは、薬物に対する依存ではなく、誤った睡眠習慣が原因となっている場合が多い。不眠で苦しんでいるうちに、とにかく長時間眠らなくてはと考え、“早寝遅起き”になる人が多い。しかし、極端に長く床に入っているとかえって睡眠は浅くなり熟眠感が低下する。このような状態では、どんな睡眠薬を用いても熟眠感は得られない。かといって、患者が満足するよう、希望する睡眠時間を担保できる用量の睡眠薬を用いると、翌日の持ち越し効果により、日中のQOLが低下する。したがって、このようなケースでは生活指導をしながら、薬の減量や、現在の薬で満足できるよう指導する。それが難しい場合は精神科の医師への紹介を考慮する。なお、薬が効かないという患者さんの中には、本当に睡眠薬が効かない睡眠障害も隠れているということを念頭に置く必要がある。頻度として高いのは、レストレスレッグス症候群である。患者さんが下肢の異常感覚を自覚していないことや、眠れないために異常感覚が生じていると誤解していることもあるので、医師から積極的に症状を確認することが必要である。レストレスレッグス症候群の治療には、睡眠薬ではなくドパミン作動薬やGABA誘導体)などを用いる。また、周期性四肢運動障害による脚のぴくつきが原因で、睡眠が浅くなったり夜中に起きたりする場合もある。さらに、睡眠時無呼吸症候群やうつ病の可能性もある。これらは、早めに専門的な治療を行えば改善するので、疑わしいケースは専門医へ紹介していただきたい。《 内山 真氏 著書 》『睡眠のはなし(中公新書2014)』 『不眠症診療&マネジメントマニュアル(メディカ出版2013)』 『睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版(じほう2012)』 『別冊NHK きょうの健康 睡眠の病気(NHK出版2012)』 ※エキスパートに聞く!「睡眠障害」Q&A Part1はこちら

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ムコ多糖症II型〔MPS II : Mucopolysaccharidosis II〕

ムコ多糖症II型のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義ムコ多糖症(Mucopolysaccharidosis: MPS)は、細胞内小器官のリソゾーム内でムコ多糖の一種であるグリコサミノグリカン(GAG)を加水分解する酵素の異常により、リソゾーム内にGAGが蓄積し、種々の臨床症状を引き起こす先天代謝異常症である。ムコ多糖症II型(MPSII型)は、1917年にCharles A. Hunterにより報告されハンター症候群と呼ばれていたが、1973年Bachらにより欠損酵素がイズロン酸-2-スルファターゼ(Iduronate-2-sulfatase)であることが明らかとなり、さらに1990年にはWilsonらにより本酵素がクローニングされ、遺伝子配列が明らかとなった。MPSII型は、リソゾーム酵素の1つであるイズロン酸-2-スルファターゼの異常によりリソゾーム内にGAGの一種であるデルマタン硫酸とヘパラン硫酸が異常に蓄積するため、慢性で進行性の多様な臨床症状を呈する。MPSII型は他のムコ多糖症と異なりX染色体潜性(劣性)遺伝形式をとる。■ 疫学MPSの頻度は人種により異なり、欧米では2万4,000人に1人と多いが、わが国では5~6万人に1人とされる。しかし日本、韓国などの東アジアでは、II型が多く、その頻度はMPSの過半数を占める。■ 病因リソゾーム酵素の1つである、イズロン酸-2-スルファターゼをコードする遺伝子の変異に基づく遺伝性の疾患で、この酵素の欠損はリソゾーム内にGAGの一種であるデルマタン硫酸とヘパラン硫酸が異常に蓄積するため、MPSII型でもI型と同様、慢性で進行性の多様な臨床症状を呈する。デルマタン硫酸の蓄積は骨の変形に関与し、ヘパラン硫酸の蓄積は精神運動発達遅滞の原因となることはI型と同様である。■ 症状画像を拡大するリソゾームはほとんどすべての細胞に存在するため、障害も多臓器に及び、I型のハーラー症候群に類似した症状であるが、角膜混濁はなく皮膚に特徴的丘疹を認めることが多い。新生児期からヘルニアや蒙古斑の多発が認められる。その後、ガルゴイ様と呼ばれる粗な顔貌、関節拘縮、骨変形、肝脾腫、心弁膜症、精神運動発達遅滞、網膜変性、滲出性中耳炎、難聴、閉塞性呼吸障害、低身長などが出現する。重症型では、6ヵ月頃から胸腰椎移行部の突出が出現するが、関節拘縮は明らかではなく、3歳頃までは過成長(+2SD)が続く。それ以後、身長は横ばいとなり、関節拘縮が始まり、軽症型でも学童期までに気づかれるようになる。眼窩が浅く遠視となり、眼圧が上昇する症例では網膜変性が認められることもあるが、角膜混濁は来さない。■ 予後無治療の場合、重症型では小児期に死亡することが多いが、治療法の進歩により、生命予後はかなり改善している。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断1)胸部X線正面画像:肋骨のオール状変形が認められる。2)腰部X線側面画像:上部腰椎の卵形化、下部腰椎の椎体の下部が前方に突出する所見が認められる。3)手のX線画像:指の骨の弾丸状変形が認められる。4)頭部CT:水頭症5)眼科受診:角膜混濁は認めないが、眼圧の上昇による緑内障や網膜変性を引き起こすことがある。6)耳鼻科受診:滲出性中耳炎■ 生化学診断:尿中ムコ多糖分析1)尿中GAG定量値が高値である。2)GAG分画:デルマタン硫酸とヘパラン硫酸の増加が認められる。■ 酵素診断:イズロン酸-2-スルファターゼ活性の測定白血球のイズロン酸-2-スルファターゼ活性の低下を認める。■ 遺伝子診断確定診断に必須の検査ではないが、保因者診断や出生前診断には有用である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 対症療法1)中耳炎・難聴:鼓膜チューブ挿入や補聴器など耳鼻科的処置を行う。2)緑内障・網膜変性:眼圧を下げる眼科的処置を行う。3)骨変形:整形外科的手術を行う。4)睡眠時無呼吸:耳鼻咽喉科的手術や経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)を行う。5)心弁膜症:弁置換術など心臓外科的手術を行う。6)水頭症:シャント術など脳外科的手術を行う。■ 造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation:HSCT)1)移植によるリスクがかなり軽減しているため、最も勧められる治療法である。2)肝脾腫の縮小、関節拘縮の軽度改善、心弁膜症の進行抑制、粘膜の肥厚の改善などが認められるが、骨変形や精神発達の退行を防ぐことは難しい。3)酵素補充療法の治療効果が減弱するような重症型症例では、早期の造血幹細胞移植を積極的に考慮すべきである。■ 酵素補充療法(Enzyme replacement therapy:ERT)1)遺伝子組み換えにより人工的に合成されたイズロン酸-2-スルファターゼ酵素を静脈内、あるいは脳室内に注射により補充する治療法で、以下の3製剤が薬価収載されている。(1)イデュルスルファーゼ(商品名:エラプレース)毎週点滴静注により酵素補充を行うが、血液脳関門(BBB)により酵素が中枢神経系に到達できないため中枢神経障害に対する効果は望めない。(2)イデュルスルファーゼベータ(同:ヒュンタラーゼ)4週に1回脳室内投与により髄液中に直接酵素補充を行うことで中枢神経症状の進行を抑制する効果が期待できる。この治療にはOmmayaリザーバーを頭皮下に設置し、脳室内にカテーテルを留置する外科的処置が必要である。また、脳以外の組織については(1)のイデュルスルファーゼの毎週点滴静注を併用する必要がある。造血幹細胞移植と併用することで中枢神経症状の治療効果を補強することが推奨されている。(3)パビナフスプアルファ(同:イズカーゴ)毎週点滴静注により酵素補充を行うBBB通過型酵素製剤である。トランスフェリンが脳内に取り込まれる経路を利用し、トランスフェリン受容体抗体と薬剤を融合させることでBBBを通過し脳内に酵素が届くため全身症状に加え中枢神経系に対する効果が望める。2)診断後すぐに治療が開始できるため、HSCTを施行するまでの繋ぎの治療として有効であるとされてきたが、HSCTよりも中枢神経系に対する効果が期待できる製剤が開発されたことによりERTが継続されるようになっている。3)血流が豊富な組織:粘膜の肥厚の改善による呼吸状態の改善、肝臓や脾臓の縮小、皮膚・関節拘縮の軽減などの効果が認められる。4)血流が豊富でない組織:骨の改善は困難である。5)酵素製剤の効果を減弱させるような高い抗体産生を認める症例では、早期の造血幹細胞移植を積極的に考慮すべきである。4 今後の展望リソゾーム酵素は、作られた細胞からいったん分泌され、血流により全身の臓器に運ばれた後、各臓器組織に取り込まれリソゾームに移行し、作用する性質がある。このため、移植された細胞から分泌された正常な酵素、あるいは人工的に作られた酵素を点滴で血液中に注入すると、各臓器組織に取り込まれて症状の改善が認められる。しかし、この治療法は各臓器組織における血流に依存するため、血流の豊富でない骨などの重要な臓器での症状の改善が認められない問題点がある。今後、これらの臓器組織への移行を改善した酵素製剤の開発が期待される。5 主たる診療科先天代謝異常症であるため、主たる診療科は小児科であるが、全身の臓器に異常が生じるため、該当するいくつかの診療科と並行して受診と治療が必要である。また、20歳を超えた成人症例には、小児科の入院は難しいため、必要となる診療科に入院し、小児科が共同で観察することが重要である。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 76 ムコ多糖症II型(医療従事者向けのまとまった情報)ムコ多糖症Pro(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本ムコ多糖症患者家族の会(患者とその家族の会)LysoLife ムコ多糖症(患者とその家族向けの情報)1)先天代謝異常学会編集. ムコ多糖症(MPS)II型 診療ガイドライン2019. 診断と治療社;2019.2)日本造血細胞移植学会編集. 造血細胞移植ガイドライン 先天代謝異常症(第2版). 日本造血細胞移植学会発行;2019.3)厚生労働省難治性疾患頭政策研究事業編集. 診断の手引きに準拠したムコ多糖症診療マニュアル. 診断と治療社;2016.4)折居忠夫総監修. ムコ多糖症UPDATE. イーエヌメディックス;2011.公開履歴初回2014年2月20日更新2024年6月19日

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